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過去 11 年分の研究分野 - 神奈川大学理学部 情報科学科
日本教育工学会の発表論文の動向 ―過去 11 年分の研究分野、研究手法別の論文発表件数の調査― 理学部情報科学科 201203743 川尻 みほ 指導教員 桑原恒夫 1、はじめに 現在、インターネットやデジタル機器など情報技術 の発展で学校現場における情報化が進んでおり、学校 教育に情報機器や ICT 技術が必要不可欠になっている。 しかし、学校における電子黒板、コンピュータ等の設 備率、ICT による授業の実践はまだ低い。 そこで、学校教育において、今後情報化がどのよう に進むのかを学会の活動状況の側面から考察してみる ことにした。日本には教育に関する学会として、日本 教育工学会、日本教育心理学会、日本学校教育学会な ど教育に関するさまざまな学会が存在する。その中で 日本教育工学会は、情報技術と教育の関係について 様々な研究発表を行っている。そこで、本研究では日 ( ) 本教育工学会の発表論文 1 について調査する。 日本教育工学会の活動状況について過去の研究例で は、論文中に使われている用語によって論文を分類し ( ) た報告がある 2 。しかし、この報告では、その用語自 体の分類がされておらず、複数の視点を混在した分析 になっている。 そこで本研究では発表論文の内容を分析し、研究分 野と研究手法の 2 つの視点から論文の分類分けを行い、 その分類ごとの発表件数を計測し、どのような研究が 活発に行われているか調査した。 2、調査方法 日本教育工学会で発行された論文誌と研究報告集に 掲載された論文を調査した。調査対象期間は、2004 年 から 2014 年までの 11 年間とし、研究報告集は件数の み、論文誌は件数とともに内容や研究手法について分 析した。したがって、3.2、3.3 での分析はすべて論文 誌に掲載された論文だけを対象としている。 図 1 発表件数 3.2、研究分野別の分析 3.2.1、研究分野の同定 11 年間の論文誌の論文の内容を分析した結果、 “ICT・システム”、 “教師教育” 、 “教育評価”、 “授業研 究” 、“教材研究” 、“心理”の 6 つの研究分野別に分類 することが出来た。これらに属さない論文も数件あっ たが、それらは“その他”として分類した。 3.2.2、研究分野別の発表件数 11 年間の論文の研究分野は、発表件数順に“ICT・ システム”641 件(57.4%)、 “心理”297 件(26.6%)、 “授業研究”279 件 (25%) “ 、教材研究”196 件(17.5%) 、 “教育評価”112 件(10%)、 “教師教育”71 件(6.4%)、 “その他”4 件(0.4%)であった。 なお、1 つの論文が複数の分野に関係している場合は、 そのすべての研究分野でカウントした。 3、調査結果 3.1、発表件数の年次変化 過去 11 年間の論文誌と研究報告集に掲載された件数 を図 1 に示す。総件数は、論文誌 1117 件、研究報告集 1656 件であった。 論文誌は、2008 年まで変動があったものの、2009 年以降 100 件程度で一定になっている。研究報告集は、 2006~2007 年の間に急増加した後は、約 150~200 件 程度で一定になっている。また、研究報告集には、小 学校・中学校・高等学校の教員等からの投稿も行われ ている。 図2 3 つの研究分野の他分野との関係 3.2.3、3 つの研究分野の他分野との関係 分野別発表件数の上位 3 分野の論文が他分野とどう 関係性があるかを調査した。その結果を図 2 に示す。 “ICT・システム”の分野の論文は、単独で研究され ている割合が一番多いが、 “教材研究”、 “授業研究”と 関係した論文の件数も多い。 “心理”の分野の論文も単独研究の割合が一番多い が、 “ICT・システム”との関係した論文も多い。 “授業研究”の分野の論文は、 “ICT・システム”に 関係した論文の割合が一番多い。 このように“ICT・システム”が、他の分野との関連 においても核となっていることがわかった。 3.3、研究手法別の分析 3.3.1、研究手法の同定 11 年間の研究論文を研究手法別に分類した結果、 “開 発” 、“調査”、 “分析”、 “実践”の 4 つに分類すること が出来た。 3.3.2、研究手法別の発表件数 11 年間の論文の研究手法は、発表件数順に“分析” 1216 件(108.9%) 、 “実践”794 件(71.1%) 、 “調査” 579 件(51.9%)、 “開発”356 件(31.9%)であった。 なお、1 つの論文が複数の研究手法に関係している場 合は、そのすべての研究手法でカウントした。 3.3.3、研究手法別の研究分野との関係 研究手法と研究分野との関係を調査した。この結果 を図 3 に示す。 “開発”は、“ICT・システム”が半数以上を占めて いるが、 “教材研究”も多い。 “調査”は、 “心理”が一番多くなっている。その中 では、インタビュー法や質問紙法で学生等に調査しデ ータ化していた論文が多くあった。 “分析”は、 “ICT・システム”、 “心理” 、 “授業研究” の順に多くなっているが、他の研究手法に比べ分野別 の差が少ない。 “分析”は、 “開発”、 “調査” 、“実践” の研究と合わせて行われていることもあった。 “実践”は、上位 3 分野の割合が“開発”のそれと同 様の結果になっている。 4、考察・まとめ 2004 年から 2014 年の 11 年間の日本教育工学会にお ける研究論文を調査した。 発表件数は、近年、ほぼ一定の件数の論文が発表さ れていた。 研究分野別では、 “ICT・システム”、 “心理”、 “授業 研究”の研究分野を中心に研究が行われている。 研究分野別の関係性を見ると、 “ICT・システム”を 核に他分野と関わりを持って研究されていることが分 かった。 研究手法別では、 “分析”研究が一番多く行われてい るが、 “調査”と“分析” 、 “実践”と“分析”のように 複数の手法を利用した研究も多かった。 各研究手法と研究分野との関係性を見ると、 “開発” 、 “分析”、 “実践”においては“ICT・システム”との関 わりが大きく、 “調査”は“心理”との関わりが大きか った。 “開発”ではシステムとともに電子教材の開発に ついての論文、 “実践”では授業の中での電子教材や e ラーニングの実践についての論文が目立った。“調査” に関しては、児童生徒等にインタビュー形式で学習意 欲等を調査している論文が多く見られた。 これらの結果より、全般的に“ICT・システム”が中 心に研究されていたが、 “心理”などで“ICT・システ ム”と関連しない研究も一定の割合で存在した。 “ICT・ システム”と他の分野との関連した研究の中には、シ ステムを使って、児童・生徒の実態を調査する研究や、 授業におけるシステムの在り方の研究などの論文が多 く見受けられた。これらの研究は学校教育に関係して おり、今後学校教育でより一層教育の情報化が進んで いくことが期待される。 なお、本研究の報告内容には含めなかったが、2015 年に発表された論文誌も調査した。それも 2014 年まで の傾向と同様であり、これからもこのような傾向が続 くと予想される。 11 年間の研究論文を読む中で、大学生の講義の中で の研究、小学校・中学校の授業での実践研究、教育実 習生を対象にした研究等の割合が高かったように思わ れる。本研究で行った 2 つの視点に加え、受講生別に 分類する視点での分析も有用であるかもしれない。 5、参考文献 (1)日本教育工学会 論文誌 Vol.27,No.suppl~Vol.38,No.suppl (2)清水康敬 「教育工学 50 年の歩み」 電子情報通信学会誌 Vol.98,No.12,2015 図 3 研究手法別の研究分野との関係性