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食道静脈瘤に対する外科的治療の適応およ び効果に関する快討
日消外会誌 19(11)i2163∼ 2169,1986年 原 著 食道静脈瘤に対する外科的治療の適応および効果に関する快討 福岡大学医学部第 1外 科 鳥谷 裕 西田 哲 朗 真 栄城兼清 有 馬 純 孝 吉 村 茂 昭 志 村 秀 彦 多胡 卓 治 CLINICAL EVALUAT10N OF SURGICAL INDICAT10N AND EFFECT FOR ESOPHAGEAL VARICES Hiroshi TORIYA,Kensei MAESHIRO,Shigeaki YOSHIMURA, Tak可 iTAGO,Tetsuroh NISHIDA,Sulnitaka ARIMA and Hidehよ o SHIMURA First Department of Surgery,Fukuoka University School of WIedicine より ・ 食道静脈瘤の治療経験をもとに肝機能検査 臨床所見よりみた直違手術の安全域,内 視鏡所見 R 1 5 値< 3 5 % 夕 血清 みた直達手術 の効果, 食 道静脈瘤 の予後 に関す る検討 を行 った。そ の結果 I C C ‐ > 5 0 %,血 清 NH3値 < 間 2 . 5 m g / d l , 血清 p r O t h r o m b i n 時 a l b u m i n e 値> 3 . O g / d l , 血清 b i l i r u b i n<値 と思われた, mo1/′ 100″ , 難治性腹水 ・肝性脳症 を認めないな どが安全域決定 の重要 な指標 7 . 1 % の症例 で改善 ・ しては9 関 しては9 4 % , r e d c o 1 0 r s i g n に 術後内視鏡所見では, F f a c t o r に関 消失 した。 よ 5 年 生存率 は直達手術例 で6 8 . 1 % と, 非 手術例 に比べ 良好 な成績を得 たが, r a n d o m i s e d t r i a l に る今後 の検討 にて結論を出す必要 があると思われた. 道静脈瘤 の予後 索引用語 :経 腹的食道離断術,食 道静脈癌 の手術適応,食 道静脈瘤術後内視鏡所見,食 結 言 一 の 食道静脈 瘤 は肝硬変症 重大 な合併症 の つ で あ り,静 脈瘤 の破裂 は,肝 不全 ・肝癌併存 とな らんで肝 一 硬変症 の予後 を左右す る重要 な因子 の つで あ る。 近年,術 前 ・術中 。術後管理法 の向上 および,内 視 経回盲腸静脈 鏡的静脈瘤硬化療法 (以下 EISと 略す)。 的 または経皮経肝経門脈的静脈瘤塞栓術 (以下 T10ま たは PTOと 略す)な どの非観血 的療法 の進歩に伴 い, 食道静脈瘤 よりの出血防止 な らびに出血時の臨急止血 に関す る成績には長足 の進歩 がみ られ る。 しかし肝硬 変症 が基礎疾患 として存在 している以上,い かに有効 な止血法 が講 じられて もいったん吐血 した後 の予後 は 必ず しも良好 でない。 したが って食道静脈瘤 の治療 に 関 しては,出 血をいかに予預」し, よ り安全 かつ確実 な 治療法 を選択す るかが今後 の課題 であろ う。 <1986年3月12日受理>別 刷請求先 :鳥谷 裕 〒814-01 福岡市城南区七限 7-45-1 福 岡大学医 学部第 1外科 今回,わ れわれは治験例 を中心 に,外 科的治療 の安 全域 を設定すべ く,術 前状況 な らびに予後に関す る検 討 を行 い若子 の知見を得た ので,文 献的考察 を加 え報 告す る。 対 象 昭和49年10月より昭和59年9月 までの10年間に教室 で経験 した食道 ・胃静脈瘤 は78例であった。 この うち 除 いた71例の食道静脈瘤を対象 とし 胃静脈瘤 の 74/1を た。直達手術例 は46例で,予 防 ・待期手術例 はおのお の22例ずつ と同数 であ り,緊急手術例 は 2例 であ った。 非手術例 は25例で,T107例 ,硬化療法 5例 ,Sengsta‐ B tubeと略す)挿 入 の Blakemore tube(以下 S‐ ken‐ み10例,食 道静脈瘤 以外 の疾患 に対す る手術施行例 4 例 (肝癌併存例 に対す る肝区域切除術 2例 ,胃 癌併存 に対す る胃全摘術 十傍食道血行郭清術 1例 ,胆 の う摘 ― 出術 1例 ),難治性腹水 に対す る腹腔 頸静脈 shunt手 V shuntと略す)5例 であった (表 1). 術 (以下 P‐ 対象症例 の基礎疾患 は,肝 硬変症62例(87%),特 発 2(2164) 食道静脈瘤に対する外科的治療の適応 および効果に関する検討 日 消外会誌 19巻 11号 表 1 食 道 ・胃静脈嬉 (78例,86治 療) 直違手術例 予 防 待繊 非 手 術 緊魚 1)予 防 ・ 待期手術後 1年 以上生存例 (以下耐術例 と 略す)26例 と,非 手術例 の うち入院 時す でに肝不全 の 例 P―V 也q郎 計 7(2〉 5 ( 1 ) 食遺静脈篇 日静 脈 殖 計 ( ):待 TIO:違 2)非 手術例 で初 回入院後 1年 以 内死亡例 7例 ,術後 1年 以内死亡例 ,術 後 1年 以後死亡例 4例 との検査値 の比較 機手術 お行 回結島 静旅 的傍脈窟 曇 &待 硬 化家法 :内 視鏡的 静脈妃 電化療 法 3)Chld分 S―B:Sengstaken― BLttrnore tabe挿 入 P一V:Peritonal、 Venou6 Shunt手続 4)直 達 手術症例 の術後 1カ 月 日内視鏡所 見 よ りみ た治療効果 表 2 食 道静脈瘤―術前診断 直違手術例 保 存療法視 他 手怖協戸 37 16 類 に従 い,術 後 1年 以上生存例 と手術適 応外症例 の比 較 他 OPc,直 連手 術以外 の手術 LC 状 態 に あ り病 状 の 改善 を認 め る こ とな く死 亡 した 症 例 ・肝癌併存例 。手術拒 否例 を除 いた15例 (以下手術 適応外症例 と略す)と の検査値 の比較 9 5)累 積生存率 に関す る検討 計 結 果 1)耐 術例 と手術適応外症例 との検査値 の比較検 討 62 IPL 6 0 o 6 CA■ 2 o o 2 CIL l o o 1 耐術例 の うち,予 防手術施行例 と待期手術施行例 と の 間 に は検 査値 上 の 有 意 差 は 認 め られ なか った 。 一 方,耐 術例全体 と手術適応外症例 との検査値 を比較す 計 る と ICG‐R15値は,34.7± 2.0%と 40.8±15.7%(p= LC:Liver Ctrrhosls 0.003),血 清 albumine値 は3.34±0.07g/dlと2.69士 IPH:IdiOpathic lbrtal Httcrtensi∞ 0,17g/dl(p=0.001),血 他 手術切r 計 は0.96土 清 総 bilirubin値 0.08mg/d】と2.24±0.40mg/di(p<0.01),血 清 NH3 値 は79.7±7.4″mo1/どと110.1±12.8μmo1/′ (p= 0 . 0 2 ) ,清血L D H 値 は3 4 9 2±2 u と 4 5 1 3±8 u . ( p = 0.02), 血 清 cholinesterase値 は0.52± 0.03ZpHと 0.34±0.04ZpH(p=0.02),難 治性腹水は耐術例 には 8 0 2 10 認 め られず 手術適応外症例 で は10例66.7%に 存 在 し 3 0 2 5 肝 癌 2 0 3 5 目 霜 1 0 2 3 慢性糸球体腎災 0 1 0 1 CAH i Chrmic Act市 e Hepatitis CIH:Chrttc lnactive Hemtitis 渡他手行にPeritolm―Vena1831■ mt手 術を合む 表 3 食 道静脈瘤―合併症 ・併存病変 直達手菊例 保 持親じ胡 猶 尿 病 胆養 ・ 肝内結石症 計 漂他 手 術 に P e r i t o l E c ― V e n O u s s h n t 手 術を合む 性門脈圧元進症 6例 (8%),慢 性肝炎 3例 (4%)で あ った (表 2), 合併症 。併存病変 は24例 (33%)に 認め られ,糖 尿 病10711(14%),肝 癌 5例 (7%),胆 襲 ・肝内結石症 5例 (7%)の 順であ った (表 3)。 目的ならびに方法 各種検査結果の検討を行 うことによ り,直 達手術 の 適応 の指標を設定す ると同時 に,手 術効果に関す る検 討を行 い, よ り安全 かつ確実な治療方法を確立す るこ とを 目的 として,対 象症例71例に関 して次 の各項 目に つ き検討を加 えた。 (p<0.001),肝生脳症 は耐術例 には認め られず手術適 応外症例では 3例 。 20%に 存在 し (p<0.01)お のおの 有意差を認めた.ま た各検査項 目ご とに検索す ると, ICG‐ R15値45%以 上 の症例で直達手術施行例 は,55% を示 した 1911の みで術後41日目に肝不全にて死亡 して お り,術 後 1年 以上生存 した症例 は認 めていない。 ま た血 清 albunine値2.5g/dl以下,血 清総 bilirubin値 3.Omg/dl以上 で直 達 手術 を施行 した 症 例 は なか っ ti. ブ 保存的療法で コン トロールで きない難治性腹水,肝 性脳症を認めた症例で術後 1年 以上生存 した症例 もな か った。血 清 NH3値 ,血 清 LDH値 ,血 清 cholinester‐ ase値に関 しては統計学上有意差は認め るものの血 清 NH3値 100μ mo1/″以上,血 清 LDH値 450u以上,血 清 cholinesterase値 0,4zpH以 下 の症例で耐術例 も認 め られた (図 1). 手術適応外症例 の非手術理 由は表 6に 示す通 りで あ る。難治性腹水11例 (52%),低 albumine血症 ・ ICG‐ 3(2165) 1986年 11月 図 1 食 道静脈瘤一検査成績 o予 防手術例 dl 血清Alhmh 血 清総 B■irubin 血清 N軋 Fi 1 l1 5n こ 踊 I I ﹂ H・ 0 勾 1 ︱︱ 叫 ド U い case 15 1 巴P < 0 . 0 5 J P<0.001 0 lllttCholinesterase ユ Fi ド n=10 千 血 清 LDH ″I的1/1 150 軍 一 ・ 卜 ヽ ﹁ ・ 。 ﹁ ・ ヽ ﹁ ・ ︼ ・ ・ ・ ≡ ︵ 一 一 一 一 ヤ 一 す 一 一 一 一︱ n n 5 n=11 X手 術 適応外症 例 待機手術例 ● 腹 水 P<0.001 F F げ di Hi n=10 R15値45%以 上がそれぞれ 7例 (33%),栄 養不良 6例 (29%)な どが主た る理 由であ った。 術後 1年 2)非 手術例 で初回入院後 1年 以内死亡例 。 以内死亡例 ・術後 1年 以後死亡例の各検査値 の比較検 討 各群 の症例数 が少な く統計学的有意差 を検定す るに は至 らなかったが,各 群 の検査値 を比較す ると非手術 例 で 1年 以内死亡例 と術後 1年 以内死亡例 との間では 一 明 らかな差 は認 めなかった。 方,術 後 1年 以内死亡 例 と 1年 以後死 亡 例 との各検査値 の比較 で は,血 清 清総 alb―ine値は3.0±0.6g/dlと3.6±0.4g/dl, 血 bilimbin値 は2.5±1.2mg/dlと 0.9±0,3mg/dl,ICG― R 1 5 値は3 6 . 5 ±1 5 . 3 % と1 7 . 2 ±7 . 0 % , 血 清 L D H 値 は で, 術 後 1 年 以内死亡例 と5 9 ±7 m o 1 / ′ 1 0 9 ±3 2 m o 1 / ′ では明 らかに異常値を示す傾向が強 か った。 また術後 1 年 以後死亡例では, 入 院 か ら手術 までの期間を通 じ て腹水 ・ 肝性脳症 な どを認めた症例 はなかった ( 図 2 ) . 3)Child分 類 よ りみた術後成績 予防 ・待期 ・緊急手術例 で術後 1年 以上生存例 と手 術適応外症例 との Child分類による相違 につ き検討 し た成績では,術 後 1年 以上生存例27例中 Child C群に 属す るものは 5例 ・18.5%と比較的少なかったが,手 術適応外症例 では14例13例 '92.9%を 占め大部分 の症 例 が重症例 で あ った。 また術後 1年 以上生存例 で, Child C群に属 して いた 5例 中 4例 は低 albumine血 症 (3例 は2.7g/dl,1例は2.9g/dl)の1項 目のみで, 他 の 1例 も栄養不良の 1項 目のみで Child C群に入れ られた症例 であったが,他 方手術適応外症例 で Child C群 に属 していた症例 では13例中11例と大部分 が 2項 目以上 の条件で Child C群に入れ られた症例 で あ った (表 4). 4)術 後内視鏡検査 による手術効果 の検討 教室で行 っている直達手術 々式 としては経腹的食道 一 離断術 が最 も 般的で あ る。その術式 としては,① 胃 4(2166) 食道静脈瘤 に対す る外科的治療 の適応 および効果に関する検討 日 消外会議 19巻 11号 ︲ 2 ・ m Tゃ上 〓 b ●8 o n u 図 r ︲ 4 ︲ ︲ T 上8 庫 ◆ 鯛 8 ● ゴ 〓 口 n TI Iム ▼ il i ● ● ● ● 0 0 0 4 3 2 Tl1 01 1上 OO O O lと T I I I エ 6 ・ 4 ・ 物勿 非手術例 口 1術 後 1年 以内死亡例 ■■ 術後 1年以後死亡例 2 ・ │ 0 ・ 4 2 4 ド 4 喜 0● ● ● n 6 i 〓 O O O O n 8 口非手術1年以内死亡例 O術 後 1鋤 60 ロロ ロ n ● ● ● ● n 4 m TA▼・ 〓 0 6 嗣 ・ は ず 中 一 m 4 ︲ . T 9 F 湘 4 潮 O 蜘 癬 汁 7ざ 脅 ロ Hepaplastin test 死亡例 ● 術後 1年以後死亡例 上部血 流 の完全遮 断 お よび傍食道静脈瘤 の十 分 な郭 清,特 に食道裂孔 と膵上縁を結 ぶ 胃後壁領域 の静脈瘤 および,食 道 ・胃接合部 よ り7∼10cm口 側 の傍食静脈 瘤を十分郭清する。②食道接合部より1∼2cm日 側 に て EEA自 動吻合器 (28mm径 )を用 い食道離断術を施 行する。③陣摘は原則として全例に施行する一― など を採用 している。 直達手術施行例46例のうち術後約 1カ 月日に内視鏡 検査を施行した34例につ き食道静脈瘤の消失状況を検 討す ると,F fctOrに関 しては32例・ 94.1%で 消失 また は疲痕を皇 し,red color signに 関 しては33例。 97.1% で消失, 1例 で減少を示 した (表5). 5)累 積生存率 に関す る検索 直達手術症例,非 手術症例を合わせた全症例 の 5年 生存率は53.8%,直 達手術症例の 5年 生存率は68.1% であった。 また直達手術症例の うち,い わゆる特発性 門脈圧元進症 々例を除 いた症例 の 5年 生存率は63.2% であ った (図3). 5(2167) 1986年11月 図 3 食 道静脈瘤 一生存 曲線 表 4 Child分 類 と予後一術後 1年 以上生存例 お よび 手術適応外症例― 殻 B A C 計 予 防 手 術 例 2 8 1 11 待 期 手 術 例 5 7 3 15 緊 急 手 術 例 0 0 1 1 手術適 応外症例 0 1 13 14 7 表 5 食 道静脈瘤. 手術効果 (手術 1カ 月後内視鏡所 見) lmo lyr. 2 食道離断 衛 c-3全 症例 ― 手術症例 A― 保存的療法例 38観 (効 果 不 明 8例 ) 4幌 術前 術前 胃上部横断術 確 術後 RC 0 (効果不現 2例 ) 痕 噴門田目切険 4例 (効果不弱 2例 ) 切な治療法を選択す る必要がある。 1)手 術適応を含めた治療方法 の選択 に関 して 内視鏡所見 よ りみた出血 の危険性 に関 しては,食 道 静脈瘤 内視鏡所見記載基準 の 分類 に よる,red,color RC0 RCll 跡 術前 街前 能 綾 消 RC 0 RC0 RC ll 失 CV i Ca由 臨 Varices RC:Red Color Sign (土):減 少 表 6 食 道静脈瘤.非 手術症例 (適応外症例)手 術適 応外症例 =21例 畝 慨明朝 朝 卿 仰 卿 仰 卿 卿 的 街 ︼ 昭 6 9 0 3 4 0 ︲ ■ ︼ ・ ・ 崎 1 W 崎 1 2 ヰ ヰ 十 十 十 十 斗 = + や ヰ 考 察 食道静脈瘤 の治療 に際 しては,内 視鏡所見を基 に出 血の危険性をで きる限 り予知 しなが ら肝機能障害 の程 度 に応 じて,手 術療法,EIS,T10,PTOな どの うち適 認 め る症例や,占 居部 signおよび teleangiectasiaを 位 が Lsに およぶ症例,形 態上 F2,F3を呈す る症例 な ll り どでは出血率 が高 い こ とが指摘 されてお り ,特 に 静脈瘤 の重積像や,浅 在静脈瘤 の出現範囲が全周性 に お よび長軸方 向 に5cm以 上 に渡 るものではほ とん ど の症例 に出血の既往 が あるか,既 往 のない症例 で も全 例 6カ 月以内 に吐血 ・下 血 を来 した と報告 されて い c olor sign(十 ), る4)。 し たがって,Ls,F2∼ F3,red‐ の症例 に対 しては何 らかの治療 が必要 である。 さらに c olor sign(一 )の 静脈 教室では胆石症に Li,Fl,red‐ のみを 施行,経 過 瘤 を合併 した症例 に対 し胆襲摘出術 観察中術後 6カ 月 日に吐血 によ り死亡 した 1例 を経験 している。以上 より,出 血の予測は個 々の症例 に対 し ては不可能 と考 えて よく,食 道静脈瘤 が発見 されたな らこれに対 し何 らかの治療 により出血を防止 してお く か,ま たは 1∼ 2カ 月 ごとの頻回の内視鏡検査 に静脈 瘤 の変化を詳細 に追跡 して行 く必要 があろ う。 また, 関す る報告D的による 食道静脈瘤 の natural historyに と,非 吐血例 の 1年 生存率 が約50∼70%で あ るのに対 し,吐 血例の 1年 生存率 は10∼30%と 有意 に低 く,予 後 の点 か らも出血に対す る予防的処置並 びに静脈瘤 に 対す る詳細な追跡 の重要性が示唆 され よう. 次 に問題 となる点 は,肝 機能障害 の程度や全身状態 を十分把握 した上で,い かに安全かつ適確な治療方法 6(2168) 食道静脈瘤に対す る外科的治療の適応 および効果に関する検討 日 消外会議 19巻 11号 を選 択 す るか で あ る。 200でGOT<GPTな 近年 E I S ・T I O ・P T O 。などの技術的進歩 によ り外科 的治療を施行せず とも食道静脈瘤 の消失ない し一時的 る値 を とり活動性肝障害の可能 性 の あ る症 例 は 除外11)),血清 cholesterol値 ,血 清 cholinesterase値 ,血 清 NH3値 ,血 清 Fibrinogen値 , な出血防止が可能 となった。こ の方法 が普及すれば吐 血に対す る緊急手術を回避 し予後を向上 させ る要因に もなろ う。 一 般 に 出血 例 に対 して S ― B t u b e を使 用 した 際, 部分 thrOmboplastin時 間,antithrombin II11つ などの 検査値 お よび手掌紅斑 ・クモ状血管腫11),糖 尿病合併13) の有無な どの臨床症状を参考 として手術適応を決定す べ きであろ うと思われ る。 自験例 における非手術症例 2 4 ∼4 8 時間後 に止血効果 が得 られなければ緊急手術 に 踏み切 るべ きであ るのと従来考 えられて きたが, E I S の非手術理由は表 6に 示す通 りである。難治性腹水 の 存在,低 Albunin血 症,ICG―R15値45%,高 bilirubin を中心 とす る非手術療法 による一時的止血率 は諸家の 湾) によれば8 0 ∼9 0 % 以 上 と極 めて良好 で あ るの 報告6 鴻 に対 し, 緊 急手術 の死亡率 は約3 0 % 1 いと著 しく高 いの で, 非 手術療法を優先 して緊急手術 は可及的避けるべ きであろ うと思われる。 一方, 待 期及び予防的手術は , 肝 機能障害 に対す る 々 詳細 な検討, 手 術 式 の改良, 術 後管理法 の改善 が重 ね られ, その安全性 お よび確実性 は確立 されつつ ある。 種 々の肝機能検査所見を検討 したわれわれの成績か らすれば手術適応 の指標を次の ごとく置 くことがで き る。すなわち, ① C h i l d C 群に属す る症例 で も直達手術は可能で あるが, 難 治性腹 水 ・肝性脳症 ( 出血直後 に一時的 に 認 め られた症例 は除 く) を 認 め る症例 お よび, 血 清 Albumin値・ 血 清総 B i l i r u b i n ・ 値 栄養状態 の うち 2 項 目以上の条件 で C h i l d C 群と半J 定された症例に対 して は直違手術 は避 けるべ きである。 ② 術後 1 年以上の生存を得 るためには, 血 清 A l ・ b u m i n 値3 . O g / d l上 以, 血 清総 B i l i r u b i2n.値 5mg/dl 以 下,ICG‐Rls値35%以 下,血 清 PrOthrombin時 間 55%以 上,血 清 NH3値 100μ mo1/′以下,難 治性腹水, 肝性脳症を認めないなどの条件を満たす症例を選択す べ きである。 ③ 長期予後を期待す る上では,血清 Aiburnin値3.3 1.5mg/di以 下,ICG‐ R15 g/dl以上,血清総 Bllirubin値 値25%以 下,血 清 PrOthrombin時 間65%以 上,血 清 NH3値 80″mo1/′以下,血清 cholinesterase値 0 ,4zpH 以上,腹 水 ;肝性脳症を認 めないことな どの条件 につ き慎重 に検討す る必要 がある。 血症,肝 性脳症 の存在な どが非耐術例判定の根拠 と思 われたが,低 Albumin血 症,高 Bllirubin血 症,栄 養 不良単独で非 手術 となった症例 は な く,ICG‐R15値の みで非手術 となった症例 は59%を 示 した 1例 のみで あ った。一方,難 治性腹水,肝 性脳症および肝癌併存 症例では単独 で手術適応外 となった症例 もある。肝性 脳症に関 しては,吐 血後消化管内に血液が貯留 したた めに高度 の意識障害を合併 した様 な症例では手術 によ り十分救命 し うるともいわれの,必 ず しも手術適応外 となる項 目ではない と考 えられ るが,難 治性腹水や切 除不能肝癌を合併 した症例 に対す る直達手術 は禁忌 と 考 えるべ きであろ う。 以上 の観点 か ら手術適応 について検討 した結果,教 室 では耐術例 と判断 された症例 については経腹的食道 断術 と陣摘合併手術を施行 している。 2)手 術 々式,手 術効果に関 して 直達手術 は出血の防止並びに門脈圧元進症 に伴 う牌 機能元進症 の治療 の両者を 目的 として施行 され るべ き である。 出血防止のための血行郭清には 胃上部お よび傍食道 静脈瘤 の郭清を十分 に行 うこ とが重要 で あ る。磯部 ら10は経腹的食道離断後 の再発 につ き検討を加 え,再 発 には牌静脈 よ り立ち上 る無名静脈 が大 きく関与 して お り,同 時に牌温存例では,牌 臓 →後腹膜→横隔膜 → 食道入 田部へ の経路を とる血流 が存在す るため再発 が お こ りやす くなる ことを指摘 している。 また,胃 体上 部 ∼篭隆部 の血 行郭清後は同部の血流 が遅 くな り,血 流減少,圧 緩衝作用 などの現象 が現われ再発が少な く なると述べ ている。 したがって手術 々式 としては,腹 腔動脈幹 ・膵尾部最尾側端 。食道入 田部を結 が, 胃後 肝機能検査値 よ りみた手術適応 に関す る報告 は数多 ∼ く認め られ るがゆゆ 1。 ,そ の基準値に関す る見解 をま とめ ると,血 清 AlbuIIlin値 >3.Og/dl, 血 清総 Bilir‐ 壁後腹膜領域の血行郭清並 びに陣摘術 が必須条件であ 171.ま る19∼ た陣摘術 は,食 道静脈瘤症例の大部分が解 ubin値 <2.Omg/dl, ICG‐R15値<45%,ICG‐ K値 > 0.04,血 清 PrOthrOmbin時 間 >60∼ 70%,Hepaplas‐ 機能元進症 に由来す る著明な血小板減少症,自 血球減 少症を合併 してお り, これを治療す る意味で も必要 な tin 術式であると考 える。 教室で もこれ らの点 に留意 した術式を採用 し,直 達 t e s >t 5値0 % な ど が 主 な も の で, 血 清 t r a n _ s a m i n a s e( 値 P T > 1 0 0 1, い G O T > 2 0 0G・ または G P T > 7(2169) 11月 1986年 手術 の安全性 および食道静脈瘤 の消失 の両面 でほぼ満 足 で きる成績 が得 られて いる。 3)予 後 に関 して 食道静脈瘤 の予後 に関 しては,① 食道静脈瘤 の再発 の有無.② 累積生存率 2点 か ら検討を加 えるべ きであ ろ う。 食道静脈瘤 の再発 に関 しては,経 腹的食道離断術 十 牌摘術施行後約 6年 経過 した症例で,CB,Li,Fl,red‐ color sign(十)〔red wale marking(十 ),chery red spot(十)〕なる再発を認 め硬化療法 を施行 した症例を 1例 経験 しているが,他 の症例 は何れ も治療効果 は良 好 であ り追加治療を必要 とした再発症例 は経験 してい ない。 累積生存率 は前述 した とうりである.5年 生存率を み ると数字上は直達手術症例 において生存率 が高 かっ たが,直 達手術症pllに 関 しては,術 前す でに肝機能検 とな りうる症例,す なわ などの検討にて耐術例 査成績 ち肝機能障害 が軽度で全 身状態 も良好 な症例 のみが選 は種 々の因子 において背 択 されてお り,非 手術症Fllと の成績 か らのみで手 いるため 5年 生存率 を果にして 景 術を優先すべ きであると結論す るのは早計であろ う。 よ る今後 の検討 に期 したがって randonised trialに 待す る点が大 きい と思われた。 結 語 食道静脈瘤症例71例を もとに,手術適応,手術 々式 ・ 手術効果 に関す る臨床的検討を加 え若干 の知見を得 た ので報告 した。 1)食 道静脈瘤 の治療 に際 しては,内祝鏡所見 により 治療 の必要 な症例を選択 した上で,血 清 albunine値 2 .5mg/dl以下,ICG― 3.Og/dl以上,血清総 bilirubin値 R15分値35%以 下,血清 prOthrombin時間55%以 上,血 肝性脳 0.4ZpH以 上,難治性腹水 ・ 清 cholinesterase値 症を認 めないなどの条件 の もとに耐術例 の半J定を下す べ きで ある。 2)直 達手術 々式 において,術後 の静脈瘤 の消失 には ・ 特 に腹腔動脈幹 。肝尾部最尾側端 食道裂子しを結 ぶ 胃 後壁後腹膜領域 の血行郭清 を十分 に行 うことが重要 で あ る。 3)直 達手術後 の食道静脈瘤 の消失率 は,F factorに 関 しては94%が 消失 もしくは痕 跡 を示 し,red color signに関 しては97%が 消失を示 した。 4)累 積生存率 は全症例 では 5年 生存率53.8%,直達 手術例68.1%で あ ったが,直 達手術症例 の予後 が良好 よ る検 討 で あ る と結 論 す るには randomised trialに が必要 で あ る. 文 献 1)桜 本邦界,岡 田勝彦,安田正幸 ほか !食道静脈瘤 の 内視鏡的所見,Gastroenterol Endosc 24:1206 --1213, 1982 一 2)友 田 純 :食道静脈瘤 の臨床的検討 内視鏡所見 を 中 心 に。C a s t r o e n t e r o l E n d o s c --1352, 1982 3)杉 浦光雄,八木義弘,二川俊二ほか 1食道静脈瘤 の 手術適応 と所理.消 外 7:539-546,1984 4)熊 谷義也,幕内博康,三吉 博 ほか :食道静脈瘤 の 内視鏡像 と病期分類.消 外 7:529-536,1984 5)井 口 潔 ,橋 瓜 誠 !食道静脈瘤 の natural his‐ tory.消外 7:525-528,1984 6)桑 田圭司,岡本英三,豊坂昭弘ほか :手術適応 とそ の限界一食道静脈瘤-2.食 道静脈瘤直達手術 の 適応 と限界一静脈瘤基栓術 の成績 と関連 して。 日 臨外医会誌 43i612-615,1982 7)八 木義弘,杉 浦光雄 :肝障害例 の消化器系手術 一門脈圧元進症 に対する直達手術例 の検討。日 消 外会誌 15:706-711,1982 8)朱 明 義,岡本英三,柏谷充克 ほか t食道静脈瘤 に 対す る内視鏡的基栓療法 の検討.Gastroenterol Endosc 26 : 381--391, 1984 9)川 田裕一,中田一也,芳賀駿介ほか :内視鏡所見の 変化 よりみた食道静脈瘤硬化剤注入療法 の評価, Gastroenterol Endosc 26: 1474--1480, 1984 10)芦 田 寛 ,伊藤信義,石川羊男ほか i手術適応 とそ の限界一食道静脈瘤-6.食 道静脈瘤 の手術適応 と その限界. 日臨外医会議 431628-631,1982 11)丸 玉 求 ,日中恒夫,児玉 治 ほか !肝障害例 の消 化器系手術。 日消外会誌 15:680-685,1982 12)鬼 束惇義,後藤明彦,福田甚三ほか :食道離断術 の 手術適応一各因子 の score化による手術危険率の 推測―.外 科治療 43:604-608,1980 一 13)八 木義弘,杉 浦光雄 :手術適応 とその限界 食道 一 より みた食道静脈瘤直達 静脈瘤 .7.肝 機能検査 手術 の適応 とその限界。 日臨外医会誌 43:632 --636, 1982 14)佐 藤元通,李 正 男,久保 周 ほか :肝硬変 による 線溶学的検討。日 食道静脈瘤の手術危険度の凝固・ 臨外医会誌 45t253-257,1984 15)磯 部義憲,山田明義,高崎 建 ほか 1食道静脈瘤 に 対する経腹的食道離断術術後再発例 の経皮経肝的 問脈造影像 の検討.日臨外医会誌 45:992-997, 1984 1 6 ) 小林誠 一郎 t 経腹的食道離 断術. 消 外 5 : 1 8 2 2 --1834, 1982 一 17)遠 藤光夫,高 崎 健 :直達手術 の術式 と適応 食 道離断術 (経腹法)一.臨 外 371189-193,1982 24:13