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女子短大生の対人距離に関する親密性の要因の検討

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女子短大生の対人距離に関する親密性の要因の検討
甲子園短期大学紀要 34:1-7.2016.
女子短大生の対人距離に関する親密性の要因の検討
池 上 貴美子*
The Effect of Intimacy on Interpersonal Distance of Women’s Junior College Students.
Kimiko IKEGAMI*
Abstract
The purpose of this study was to investigate the effect of intimacy on interpersonal distance of women’s junior
college students in the three majors. Participants were asked by the projective measures to indicate the most
comfortable distance points in an interpersonal distance chart when talking to people of low level of intimacy(a
strange same aged male, a strange same aged female)and of high level of intimacy(her sweetheart, her best
friend, her father, her mother). Results revealed that, in the second graders, interpersonal distance score(IPD)
was significantly lower with her sweetheart≒her best friend ≪ her mother≒a strange same aged female ≪ her
father≒a strange same aged male. Interpersonal distance between a student and a person of high intimacy was
smaller than a person of low intimacy. Interpersonal distance between a student and her mother was smaller than
her father. Interpersonal distance between a student and a strange same aged female was smaller than a strange
same aged male. These results suggest that interpersonal distance is affected by intimacy and is also influenced
by the developmental change in the psychological weaning, outgrowing her dependence on her parents to deepen
association with her best friend or her sweetheart.
要 旨
本研究では3つの専攻に所属する女子短大生を対象に対人距離テストを行い、相手との親密性の要因について検
討した。対人距離テストは、投影的方法により、紙面上で、親密性の低い相手(同年齢の見知らぬ男性または女性)
、
または親密性の高い相手(恋人、親友、父親、母親)に対面して会話する場面で、相手と最も居心地の良い距離を
記してもらい、参加者自身と相手との間の距離を測定して対人距離スコアーとした。その結果、対人距離スコアー
は、Ⅱ回生においては、全体として、親密性の高い相手との距離が、親密性の低い相手との距離よりも小さく、相手
が恋人≒親友≪母親≒同年齢の女性≪父親≒同年齢の男性の順に有意に近く、親密性の要因の影響が明らかになっ
た。母親との対人距離は父親よりも近く、親密性が低い相手においても、女性との対人距離は男性よりも近かった。
これらの結果から、対人距離が親密性の要因に規定され、女子短大生が心理的離乳の過程において、親友や恋人に
心を準拠させながら、最も身近で親密であった両親への依存から脱して、分離し自立していく発達的変化に影響を受
ける様相が示唆された。
Key Words : psychological weaning, reference to a best friend or a sweetheart, separation from parents
キーワード:心理的離乳、恋人や親友への準拠、両親からの離脱
*
本学特任教授
論文(原著):2015年12月11日受付 2016年1月20日受理
―1―
男女とも魅力的でない人よりも魅力的な人との距離が
問 題
近かった。しかしながら女性参加者は魅力の要因より
我々は社会の中で様々な人と関わりながら生きてい
も、相手が同性か異性かという性の要因を優先した。
る。実際に他者と相互作用する日常場面において、人
また親密性の要因に関しては、親密度が高いほど対人
は相手により様々な距離に自分の位置を置く。例え
距離は近かった。特に女性参加者は親密度が高い場合
ば、親しく打ち解けた相手とは接近した位置で会話
には相手による性差が生じないが、親密度が低い場合
し、見知らぬ相手とは一定の距離を保ちながら関わっ
には男性の相手に対人距離を遠くした。女性にとって
ている。こういった現象について心理学者Sommer
見知らぬ男性は遠ざける対象となり、相手の性の要因
が優先された。
(1959)は個人空間と呼び、
「個人空間とは他者が侵入
することができないような、個人の身体を取り巻く目
ここで青年女性にとって、社会的要因と相手の性の
に見えない境界線で囲まれた領域であり、周囲の状況
要因との関連性が注目されるが、本研究でもこの点に
などにより伸縮する個人を取り巻く気泡のようなも
ついて取り上げることとする。すなわち、女子短大生
の」とし、この領域に侵入しようとする者があると強
にとって、親密度が低い相手においては相手の性の要
い情動が引き起こされることから、個人空間を個人の
因が優先され、男性が女性よりも遠いことが想定される。
内面との関連でとらえた。Little(1965)はこれを個人
また同様に、身近な家族である母親、父親も含めて、
間距離と呼んで「他者との相互交渉が大部分その中で
親友、恋人への対人距離を分析すると、男性参加者の
起こるような、直接個人を取り巻いている領域」と定
対人距離は親友と恋人に近く、母親と父親への対人距
義し、相手との心理的距離(相手に対する好意、なじ
離は遠かった。つまり男子大学生の主要な人間関係
みの程度)が小さければ、対人交渉場面で相手との間
は、父母から脱して親友・恋人という同輩の友人関係
に取られる物理的距離(対人距離)も小さくなること
へと移行していく。一方、女性参加者においては、父
を指摘した(田中, 1973)
。
親との対人距離は大きいが、親友・恋人・母親との対
青野(2003)は、個人が他者との間に確保し、他者が
人距離は小さかった。女子大学生においては、親友・
それ以上侵入すると不快感が起こるような空間あるい
恋人・母親が一つのまとまりを作り、父親とは対人距
は距離を、個人空間または対人距離と呼び、対人距離
離が離れていることが示された。青年女性においては
の規定因として、性・年齢・パーソナリティ・親密度・
青年男性よりも母親との距離は近いままであり、情緒
地位・物理的環境・人種・文化などをあげレヴューし
的結びつきが顕在していることが示唆された。このこ
ている。この中で性の要因に関して、女性の対人距離
とは青年女性が健全な母娘関係により、再度、性の同
は男性のそれよりも近く、男性-男性間の組み合わせ
一性を確認しながら、自己同一性獲得の作業にかかわ
の対人距離が最も遠いとされている(Gifford, 1982)。
ることが示唆された。ここに青年期における自己同一
これらの規定因の中で池上・喜多(2007)は共学の
性の獲得にあたって、男性と女性の作業の在り方の違
大学生を対象に、個人要因である参加者の性、相手の
いが浮かび上がる。本研究において、昨今の女子短大
年齢、性と、社会的要因としての魅力度と親密度の要
生における母親と父親との対人距離の取り方について
因について明らかにした。その結果、参加者の性の要
再び取り上げることとしよう。
因については、女性参加者の対人距離が男性参加者よ
さらに池上(2015)は対人距離に及ぼす個体要因と
り近く(小さく)、従来の研究を支持する方向となっ
しての相手の年齢と性の要因について検討し次のこと
た。相手の性については、男性参加者は相手が女性か
を明らかにした。
(1)女子短大生の対人距離は、相手
男性かで差がないが、女性参加者は相手が女性の場合
が赤ちゃん、子ども、お年寄り(乳児、幼児、小学生、
は近いが、男性の場合は遠かった。つまり女性は相手
老人)には近く、思春期・青年期の人たち(中学生・高
の性によって対人距離に違いを示した。また相手の年
校生・同年齢)にはやがて距離を取り、中年には最も
齢の要因に関しては、参加者が男性女性とも、対人距
遠い。
(2)相手の性の要因に関しては、思春期以降の
離は、子ども<老人<中年の順となり、特に中年の男
異性(男性)の相手には、同性(女性)の相手よりも距
性には遠く、社会的地位をもつ者に対して距離を遠ざ
離を遠くした。しかし同年齢の女性には、小学生や老
けることが示唆された。
女に対すると同様に対人距離は近かった。思春期以降
次に、社会的要因としての魅力の要因については、
の異性の相手には性を意識し距離を遠くするが、同性
―2―
には異性に対する程の距離をとらなかったことから、
1.相手との親密性に関して、対人距離は女子短大生
相手の性の要因の影響は一様ではないことが示され
にとって親密性の高い親友や恋人には近く、親密性
た。
(3)学生が所属する専攻間の差に関して、Ⅱ回生
がかつては高かった母親や父親とはやがて距離をと
においては専攻間の有意差がみられ、幼児教育保育学
り、親密性の低い見知らぬ同年齢の女性や男性には
科の学生の対人距離は、介護福祉専攻の学生の対人距
遠い。
2.その中でも両親との対人距離は、父親との距離が
離よりも近かった。ただし、相手の年齢が乳児と老人
母親に対するよりも遠い。
には専攻間の差は無く、全専攻で乳児と老人には対人
距離は同じ様に近かった。全体的な専攻間の差はⅠ回
3.親密性の低い相手に関して、対人距離は見知らぬ
生には現れなかったので、その後の1年間の学修経験
同年齢の男性との距離が見知らぬ女性に対するより
がⅡ回生の結果に影響を及ぼしたことが推察された。
も遠い。
以上のことから、対人距離は相手の年齢(発達)に
4.対人距離における専攻間の差が現れれば、学修経
従って大きくなることが明らかになった。この結果は
験が影響を与えると想定されるが、専攻間の差が現
すでに青野(1979)や今川ら(2000)において示された
れなければ学修経験よりも社会的要因(親密性)の
方向を支持した。一方、自身の側においても、人の子
規定するものが大きいと言える。
は、乳幼児期、児童期を過ごし、思春期になって友人
目 的
(親友)や恋人と出会い、心が同輩に準拠しながら、母
親あるいは父親への依存を脱却し、親から分離して、
本研究では、女子短大生を対象として、投映法によ
自立していく過程を経ることが定式化されている。す
る対人距離テストを用いて対人距離を測定し、対人距
なわち幼い頃からの母親や父親との安心で親密な関係
離に及ぼす相手との親密性の要因について検討する。
を基盤として、やがて友人や恋人へと心が向けられ、
また、学生の属する専攻における学修経験が、対人距
準拠しながら自立への道を歩む過程が想定されている。
離のありかたに影響を及ぼすかについて専攻間の差と
そこで本研究では、社会的な相互作用を行う場面に
学年間の差を分析することにより明らかにする。
おける社会的関係の要因として、親密性の要因をとり
方 法
あげることとする。青野(1979)によれば、子どもは
成長するに伴い社会から依存的行動を抑制し、独立的
研究計画 参加者の専攻(3:生活環境、介護福祉、幼
に行動するよう期待されるため、徐々に対人距離は大
児教育保育)×相手との親密性(6)の二元配置の要因
きくなるとされる。そして親密度が髙いほど、また一
計画であり、専攻は参加者間要因、相手との親密性は
般に好意度、面識度が増せば、対人距離は小さくなる
参加者内要因で、従属変数は対人距離スコアーであった。
という一貫した結果が得られており、小学3年生にお
参加者 関西にある女子短期大学の学生113名であっ
いてすでに親密度が髙い相手との対人距離は小さいこ
た。この短期大学は2学科(生活環境学科、幼児教育保
とが知られている(Little, 1965)
。また、今川(1993)
育学科)
、2専攻(生活環境学科は生活環境専攻、介護
は親密性の要因について、一般に親密な相手になるほ
福祉専攻に分かれる)で構成されるが、本研究では分
ど、疎遠な関係にある人よりも対人距離が近いと報告
析上3専攻(生活環境、介護福祉、幼児教育保育)とし
している。
た。調査用紙の記入漏れ等がある者を除き分析された
以上より、本研究では、面識度の低い、疎遠な関係
参加者数は102名であり、これらの参加者の平均年齢
である、見知らぬ同年齢の男性または女性を親密性の
は19.07歳であった。
低い相手として設定する。一方、親密性が高い相手と
調査時期 2014年10月
して、親友、恋人を設定する。そして発達初期の乳幼
倫理的配慮 本研究は甲子園短期大学の倫理委員会に
児期から子ども時代に安全基盤となり子どもの心に健
よる審査を受け承認された(承認番号15-02)。参加者
全な依存性を育み、やがて心理的離乳を見守る存在で
に対する倫理的配慮として、調査の回答内容は、全体
ある母親と父親をも、親密性の高い相手として設定す
的な傾向を知るために統計的処理をすること、無記名
る。本研究において対人距離を測ることにより女子短
であり、個別に検討および公表することはなく、個人
大生の精神的成長の軌跡をみていくこととする。その
情報に抵触するものを含め回答内容は外部に漏れるこ
際、大まかには次の仮説が想定される。
とがないこと、分析が終了次第速やかに破棄されるこ
―3―
とを調査用紙の表紙に記載し、口頭でも説明した。
「日
結果と考察
常の会話場面についての調査」への協力に同意を得ら
【Ⅱ回生における親密性の影響】
れた学生を対象に、短期大学内の講義室において集団
調査を行った。
各学年における対人距離スコア-の平均値につい
調査の手続き・対人距離の測定 調査では、北川(1998)
て、参加者の専攻(3)×相手の親密性(6)の2要因分
の用いた投映法による対人距離テスト(interpersonal
散分析を行った。分散分析は桐木建始(2002)による。
distance chart)を行い、親密性の異なる6人物への対
その結果、Ⅱ回生においては、親密性の主効果が有意
人距離を測定した。親密性の異なる人物と対面し会話
(F(5,235)=19.871, p<.001)で、専攻×親密性の交互
する場面を描いたA4版用紙の平面図6枚と、
「表紙」と
作用が有意であった(F(10,235)=2.877, p<.005)
。し
「例」からなる計8頁の冊子を参加者に配り、表紙に書
かしながら専攻の主効果は有意ではなかった。各専攻
かれた次の教示を与えた。
「次のページからは、あな
における対人距離の特徴を示すため、以下、対人距離
たともう一人の人物が描かれています。その人物と会
スコア-をもって対人距離と記し、分析結果を示す。
話するときに最も適当だと思う距離に○印をつけてく
専攻×親密性の交互作用がみられたので、単純主効果
ださい。
」また、平面図下部の○印は参加者自身の頭部
の検定を行った結果、見知らぬ同年齢の男性に対して
を表し、上部○印は相手人物の頭部が描かれているこ
専攻間差がみられた(F(2,282)=3.435, p<.05)が、ラ
とを説明し、参加者が相手と会話するとき最も居心地
イアン法(以下同法)による多重比較では専攻間の有
の良い所に、両者の頭部を結ぶ中央の点線上に○印を
意差はみられなかった。次に各専攻において親密性に
描くことを求めた。参加者と相手人物の頭部は直径20
有意差があったので、各専攻の特徴を示す。
㎜の円で描かれており、その頭部と頭部の間隔距離は
生活環境専攻における親密性の単純主効果は有意
200㎜であった。平面図に記入された参加者の○印か
であり(F(5,235)=3.713, p<.005)、多重比較の結果、
ら相手人物の頭部○印の中心までの距離を測定し、こ
Fig.1に示すように、恋人や親友との対人距離が、見
れを対人距離スコアー(IPD;interpersonal distance
知らぬ同年齢の男性に対する対人距離よりも有意
score, 単位㎜)とした。これら6人物は無作為な順番に
に近かった(恋人≒親友≪同年男性、MSe=120.894,
配列された。
df=235, p=.05以下同様)
。介護福祉専攻においても単
相手との親密性 親密性の高い相手として、恋人、親
純主効果が有意で(F(5,235)=15.864, p<.001)、多重
友、父親、母親の4人を、親密性の低い相手として、見
比較の結果、恋人や親友や母親との対人距離は、見知
知らぬ同年齢の男性、見知らぬ同年齢の女性の2人を
らぬ同年齢の女性や、父親より有意に近く、同年齢の
設定し、合計6人を割り当てた。
見知らぬ男性に対しては最も遠かった(恋人≒親友≒
母親≪父親≒同年女性≪同年男性)
。これらの専攻に
おいては、恋人や親友との距離は
近く、見知らぬ同年齢男性には有
意に遠かった。
幼児教育保育専攻においても
親密性の単純主効果は有意で(F
(5,235)=6.047, p<.001)、 多 重 比
較の結果、恋人や親友との対人距
離は、母親や見知らぬ同年齢の女
性との対人距離より近く、見知ら
ぬ同年齢の男性や父親との対人距
離は有意に遠かった(恋人≒親友
≪母親≒同年女性≪父親≒同年男
性)
。幼児教育保育学科において
は、恋人や女性(親友、母親、同
Figure 1 Ⅱ回生における対人距離(親密性の要因)
―4―
年齢女性)との対人距離が、男性
(1,360)=5.319, p<.05)、Ⅱ回生がⅠ回生よりも父親と
(父親、同年齢男性)との対人距離よりも近かったとい
える。
の対人距離が遠く(63.677mm>55.226mm)、発達とと
全体として、Ⅱ回生の対人距離における親密性の主
もに父親から遠ざかることが示された。また、単純主
効果が有意であったことから、親密性の高い恋人や親
効果の検定の結果、Ⅰ回生における親密性(F(5,300)
友には近いが、父親とは遠ざかり、親密性の低い見知
=16.501, p>.001)、およびⅡ回生における親密性(F
らぬ同年齢の男性には遠いことが明らかにされた。こ
(5,300)=14.375, p>.001)が有意で、多重比較の結果、
れらの中間の距離に母親や、見知らぬ同年齢の女性が
Ⅰ回生においては恋人や親友との対人距離が最も近
位置しているといえる。この結果から、青年女性が親
く、次に母親や同年齢の女性で、父親や見知らぬ同
友や恋人に心を準拠させながら両親への依存を脱して
年齢の男性への対人距離は遠かった(恋人≒親友≪母
いく過程が示唆された。特に父親に比して母親との対
親≒同年女性≪父親≒同年男性 MSe=126.306, df=300,
人距離は相対的に近く、母親からの保護を基盤にして
p=.05)
。Ⅱ回生においても、恋人や親友との対人距離
同時に女性としての性の同一性を確認する作業を行い
は、母親や見知らぬ同年齢の女性との対人距離より近
ながら、自己同一性を形成する途上にあることが示唆
く、父親や同年齢の男性との距離は遠かった(恋人≒
された。以上のように、交互作用から各専攻の特徴が
親友≪母親≒同年女性≪同年男性≒父親)
。特に父親
示唆されたが、専攻間差の主効果は有意ではなく、専
との対人距離はⅡ回生がⅠ回生より遠かった。
攻下での学修経験よりも社会的要因(親密性)が優先
しかしながら、生活環境専攻(F(1,15)=2.041, n.s.)
されることが示唆された。
と介護福祉専攻(F(1,15)=1.293, n.s.)においては、Ⅱ
回生がⅠ回生よりも対人距離は近いが、統計的な学年
【Ⅰ回生における親密性の影響】
差の主効果および交互作用は有意ではなく、学年に
Ⅰ回生の対人距離スコア-の平均値に関して、参
よる変化の過程は示されなかった。親密性の主効果は
加者の専攻(3)×相手との親密性(6)の2要因分散分
各 々F(5,75)=5.802,p<.001、F(5,75)=17.090,p<.001で
析 を 行 っ た。 そ の 結 果、 親 密 性(F(5,215)=17.809,
あった。
p<.001)の主効果が有意で、専攻×親密性の交互作用
全体的考察
に有意な傾向があった(F(10,215)=1.630, .05<p<.10)
が、専攻間の主効果は有意ではなかった。親密性の主
本研究から親密性の度合いが異なる相手に対する女
効果に関する多重比較の結果、恋人や親友や母親との
子短大生の対人距離のあり方が明らかになった。女子
対人距離は、見知らぬ同年齢の女性や父親よりも有意
短大生の対人距離は、全体として、親密性の高い恋人
に近く、同年齢の見知らぬ男性との距離は最も遠かっ
や親友には近く、親密性の低い見知らぬ男性には遠
た(恋人≒親友≒母親≪父親≒同年女性≪同年男性 く、母親や父親はその中間の距離にあり、仮説1は支持
MSe=141.250, df=215, p=.05)
。以上より、Ⅰ回生にお
される方向であった。
いては全体として恋人や親友という同輩に心が準拠
その中でも全体として父親との対人距離は母親との
し、また母親とも情緒的絆を保ち安定しながら、父親
対人距離よりも遠く、特に幼児教育保育専攻において
への依存を脱し、距離を置きながら分離していく様相
は父親との対人距離は母親に比べて有意に遠かった。
が示唆された。
さらに同専攻では父親との対人距離はⅠ回生に比して
Ⅱ回生が有意に遠くなった。以上から仮説2は支持さ
【学年による差】
れる方向であった。
発達過程を明らかにするために、学年による差を分
次に、親密性の低い同年齢の見知らぬ男性と女性で
析した。各専攻において参加者の学年(2:Ⅰ回生、Ⅱ
は、男性が女性よりも遠かったことから仮説3は支持
回生)×相手との親密性(6)の2要因分散分析を行っ
されたといえる。
た。その結果、幼児教育保育学科では、学年差の主効
全体として、女子短大生の対人距離は、恋人以外で
果はなかったが、親密性の主効果(F(5,300)=27.167,
は、女性(親友、母親)が、男性(父親、見知らぬ同年
p>.001)と、 学 年 × 親 密 性 の 交 互 作 用(F(5,300)
齢の男性)よりも近く、青年女性が親友や母親との健
=3.710, p<.005)が有意であった。単純主効果の検定
全な情緒的基盤に支えられながら自己同一性形成の作
の結果、父親に対する対人距離の学年差が有意で(F
業に関わることが示唆された。
―5―
最後に、専攻間の差に関しては主効果としては現れ
察される。
なかったので、各専攻の学修経験よりも、社会的要因
以上、本研究において様々な親密性をもつ人との対
である親密性の要因が優先されることが示唆された。
人距離が分析された。この結果から女子短大生が同世
ただし交互作用が有意であり、各専攻の特徴が示された。
代の恋人や親友に心を準拠させながら、さらに言え
ここでさらに全体的傾向を見るために、池上(2015)
ば、母親との情緒的絆すなわち情緒的対象の恒常性を
の相手の年齢と性の要因によるⅡ回生の専攻別の対人
実感する中で、健全な依存を基盤として、女性として
距離と、本研究における親密性の要因を操作したⅡ
性の同一性を確認し、やがて両親から心理的離乳を遂
回生の対人距離をともに布置して示す。Fig.2から明
げ、自立し、自己同一性(自身が納得して生きる道)を
らかなように、女子短大生が親友や恋人に心を準拠
築いていく姿が浮き彫りにされたといえる。
させながら、母親や父親への依存から脱却し、分離し
謝 辞
て自立し個体化していく方向性が示唆される。また
親友や恋人との対人距離は、乳幼児との対人距離に近
本研究は、甲子園短期大学研究者倫理規定の承認を
く、いわば文化人類学者のHall,E.T.(1966)が人の空
受けました。倫理規定申請の手続きに当たり懇切なご
間利用の研究―プロクセミックス(proxemics)―の
教示をいただきました永藤清子先生、吉井隆先生に深
なかで示した、ごく親しい人との距離である密接距離
謝申し上げます。調査に快くご協力くださいました甲
(intimate distance)に相当することが明かとなった。
子園短期大学の学生の皆様、調査実施に暖かいご協力
青野(2003)によれば、Hall(1966)は日常生活での
とご教示をいただきました新宅賀洋先生、鍛治葉子先
距離帯を4種類に区別し、それぞれの距離帯に近接相
生、水野祐子先生に心より感謝申し上げます。
と遠方相を分けた。その第1が密接距離(0〜45㎝)で、
引用文献
そのうちの近接相は言葉を交わすよりも身体に触れた
り体温を感じたりする距離であり、重要なコミュニ
青野篤子 1979 対人距離に関する発達的研究 実験
ケーションを行うことができるとする。遠方相は手で
社会心理学研究, 19, 97-105.
相手の体に触れることができる距離であり、親しくな
青野篤子 2003 対人距離の性差に関する研究の展望
い人とこの距離になると不快感が生じるとされる。
-従属仮説の観点から 実験社会心理学研究, 42,
第2には親しい人との個体距離(personal distance)
、
201-218
第3に隣人やクラスメートとの間の社会距離(social
Gifford,R. 1982 Projected interpersonal distance and
distance)
、 第4に 演 説 や 講 義 の 場 面 で の 公 衆 距 離
orientation choices: Personality, sex, and social
(public distance)が区別されており、中年男性に対す
situation. Social psy.quartely, 45, 145-152.( 青 野,
る対人距離はこの公衆距離に位置づけられることが推
2003より)
Figure 2 Ⅱ回生の専攻別対人距離(相手の年齢・性・親密性の要因)
―6―
Hall, E.T. 1966 The hidden dimension. Garden City,
NJ:Doubledy Anchor.[日高敏隆・佐藤信行(訳)
1970 『かくれた次元』みすず書房]
池上貴美子 2015 女子短大生の対人距離に関する相
手の年齢と性の要因の検討 甲子園短期大学紀要
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性・年齢・魅力・親密度の要因の検討 金沢大学
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―7―
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