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自殺対策関係者マニュアル

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自殺対策関係者マニュアル
自殺対策関係者マニュアル
大切な 命守ろう 地域の輪
平成21年3月
広島県市長会
広島県町村会
表紙中央は「広島県自殺対策のシンボルマークと標語」です
はじめに
わが国では、平成 10 年に自殺者数が年間 3 万人を超え、その後も高い水準が続いています。広島県に
おいても、自殺者は 10 年連続で 600 人を超え、平成 19 年の自殺者数は 684 人と過去 2 番目に多い方が
自殺によって亡くなられています。
このような状況の中で、自殺者数の減少に向けた早急な取組みが重要となりますが、これまでは自殺
対策に対してネガティブな印象があり、積極的に対策がとられていなかったのが実情ではないでしょう
か。
内閣府が行った「自殺対策に関する意識調査」によれば、成人の 19%が「自殺をしたいと考えたこと
がある」との調査結果も出ています。自殺に至る背景にはそれぞれの理由があると思いますが、自殺は
決して「自らが望んで選択した死」ではなく、心理的に「追い込まれた末の死」であることは間違いあ
りません。
自殺対策の先進県といわれる秋田県では、継続的かつ強力な啓発活動の実施により、自殺者数を減少
に導いています。対策によってすべての自殺をなくすことはできませんが、未然に防止できる自殺はあ
り、自殺者数を減らすことはできるのです。
このマニュアルは、自殺対策の担当者はもちろんのこと、行政関係者の手引書となるよう、自殺対策
の基礎知識や対策のQ&Aをまとめたものです。社会全体で自殺にかかる問題に向き合い、そして手を
携えて自殺対策に取り組むことにより、自ら命を絶つ人が一人でも少なくなることを真に願います。そ
のためにこのマニュアルが少しでもお役に立てれば幸いです。
終わりに、このマニュアル作りにご尽力いただいた「自殺対策関係者マニュアル作成会議」委員の皆
様並びに関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。
平成 21 年 3 月
広島県市長会会長 五藤 康之
広島県町村会会長 吉田 隆行
目次
第1章
自殺対策に取り組むにあたって
1 自殺対策の基礎知識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(1) 自殺対策に取り組む理由
(2) 自殺対策に関する基本的知識
(3) 自殺対策の基本的考え方
2 自殺の実態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(1) わが国の実態
(2) 広島県の実態
(3) 参考となる資料
3 これまでの自殺対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(1) 海外の取組み
(2) わが国の取組み
(3) 広島県の取組み
第2章
自殺対策の実際 Q&A
1 自殺に至るステージと自殺対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Q1 自殺に至るメカニズムを教えてください。
Q2 地域での自殺対策はどのようなことが考えられますか?
Q3 地域の自殺対策の計画はどのように策定すればよいですか?
Q4 自殺の実態把握はどのように進めればよいですか?
Q5 地域の自殺対策の目標はどのように設定すればよいですか?
Q6 自殺対策の評価について教えてください。
コラム1 様々な『水際』での取組み ―危険な場所、薬品等の対策―
2 事前対応(プリベンション)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
Q7 健康づくりの中に「自殺予防」はどのように位置付けられていますか?
Q8 普及啓発活動の進め方を教えてください。
コラム2 三原市の取組み ―「こころ ネットみはら」―
Q9 うつ病などの精神疾患と自殺は関係がありますか?
Q10 自殺予防において、多重債務や失業等の生活・経済問題への取組みはどのようなことが考えられますか?
コラム3 秋田県内のモデル市町村での自殺予防の取組み
3 危機介入(インターベンション)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
Q11 自殺の危険因子にはどのようなものがありますか?
Q12 自殺のサインにはどのようなものがありますか?
Q13 地域におけるうつ病のスクリーニング(選別)について教えてください。
Q14 相談体制はどのように充実させるとよいですか?
Q15 「死にたい」と言われたら?
Q16 受療を拒否する場合はどうしたらよいですか?
コラム4 富士モデル事業 ―産業都市・富士市における働き盛り世代の自殺予防対策―
4 事後対応(ポストベンション)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
Q17 自殺未遂者への対応はどのようにすればよいですか?
Q18 自死遺族への支援はどのようにしたらよいですか?
Q19「分かち合い」について教えてください。
コラム5 広島県の自死遺族支援
5 関係機関の連携・資質の向上・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
Q20 地域の自殺対策連絡協議会の運営はどのようにすればよいですか?
コラム6 北広島町「心の健康づくり事業」の取組
Q21 医療機関との連携について教えてください。
Q22 職域との連携について教えてください。
Q23 介護現場との連携について教えてください。
Q24 教育関係機関との連携について教えてください。
Q25 地域でのリーダー育成はどのようにすればよいですか?
Q26 報道機関との連携について教えてください。
Q27 自殺対策従事者への心のケアはどのようにすればよいですか?
コラム7 府中市の取組み ―事業場のメンタルヘルスとの連携―
第3章
関連資料
1 自殺対策基本法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
2 マニュアル等一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
3 広島県の相談機関一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
4 自殺対策関係者マニュアル作成委員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
第1章
自殺対策に
取り組むにあたって
1
自殺対策の基礎知識
(1) 自殺対策に取り組む理由
かつて、わが国も含め多くの国では、自殺はあくまで個人の意思の問題で、社会や行政が関与
すべき問題とは考えられていませんでした。1980 年代には、高い自殺死亡率であった一部の地
域で、地元の保健、医療関係者や行政によって、自殺を減らそうとする試みが始められましたが、
他の地域に広がることはありませんでした。しかし、平成 10(1998)年以降、不況や雇用情勢
の悪化、産業構造や働き方の急激な変貌などを背景として、自殺者数が増加し、3 万人を突破。
さらに、その後の高止まりという現実が明らかになりました。
一方、厚生労働省の患者調査で精神障害による受療者数を見ると(図 1)
、平成 8(1996)年に
は 218.1 万人であったものが、9 年後の平成 17(2005)年には 302.8 万人となっており、さらに
図 2 でその内訳を見ていくと、うつ病圏の疾病(F3)が主として増加していることが分かります。
なお、診断分類の基準が異なるため、この図の中にはありませんが、平成 5(1993)年の精神障
害者数は 157 万人となっており、いかに近年の精神障害による受療者の増加が顕著であるかが分
かります。
図 1 精神障害による受療者数の推移
図 2 疾病別患者数の推移
(千人)
(万人)
3500
350
302.8
3000
300
258.4
585
2500
250
218.1
500
204.1
200
2000
外来患者数
924
466
424
267.5
150
223.9
185.2
1500
443
入院患者数
170
F3
うつ病圏
の疾病
441
757
100
1000
50
721
神経症圏
の疾病
711
734
666
統合失調
症圏の疾
病
その他
500
32.9
34.1
34.5
35.3
平成8年
平成11年
平成14年
平成17年
0
0
平成8年
平成11年
平成14年
平成17年
資料:厚生労働省患者調査
図 3 はしばしば引用される調査結果ですが、救急病院に搬送された自殺未遂者(死に至る可能
性の高い手段によるもの)においては、75%に精神疾患あるいはそれに類似の精神状態であった
ことが示され、さらに、この調査のデータに基づいて、既遂者における広義の精神障害への罹患
状況を推測すると、その半数近くがうつ病に罹患していると考えられます。また、図 4 ではうつ
病に罹患した人のうち 25%しか受療していないことが示されています。このように自殺の背景
になっている精神疾患として、うつ病が与える影響が最も大きいといわれていますが、少なくと
も保健福祉の領域では、これに対する施策が自殺を予防するうえでも大きな位置を占めていると
言えます。
1
図 3 自殺企図の背景となる精神障害1)
図4
うつ病患者の受療状況2)
精神科医受診
11.3%
両方受診
4.2%
一般医受診
9.6%
その他
10%
アルコール・
薬物依存症
等
18%
精神障害 無
25%
精神障害 有
75%
うつ病等
46%
統合失調症
等
26%
受診なし
75.4%
既遂者における広義の精神障害
自殺企図者の75%に精神障害
への罹患の推計
図 5 は自殺者と交通事故死者との比較ですが、自殺者が増加する中、交通事故死者は過去 19
年間で半減しています。平成 19(2007)年を見ると、自殺者は交通事故死者の約 5 倍となって
おり、いかに深刻な問題であるかが分かります。周知のように交通事故の減少は、運転者の自覚
だけではなく、通行の規制や信号の調整、交通取締り、あるいは車体の強度やエアバックなどの
技術の改善、救急医療の進歩、住民への普及啓発など多方面にわたる様々な対策、努力が影響し
ています。また、それにつぎ込まれている予算も少なくはありません。
図 5 自殺者と交通事故者の状況
単位:人
自殺による死亡は
交通事故死の約5倍です。
40000
35000
30000
25000
20000
自殺者数
交通事故死者数
15000
10000
5000
0
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
資料:人口動態統計・警察庁統計
2
これに対し、自殺はどうでしょうか。交通事故のように多方面からの対策を講じることができ
れば、減らすことのできる可能性は十分あります。実際にフィンランドなどでは、国を挙げての
自殺対策により自殺死亡率を減少させることに成功しており、わが国においても、北東北や北陸
など一部の地域の先駆的な試みによって自殺者を減らしているという現状を見れば、これは社会
全体で取り組むべき課題であると言わねばなりません。自殺総合対策大綱にも示されているよう
に、人の命は何ものにも代えがたく、自殺は本人にとっての悲劇であるだけでなく、家族や周り
の人々に大きな悲しみと生活上の困難をもたらし、社会全体にとっても大きな損失となります。
したがって、市町においても強力な対策に取り組む必要があります。
(2) 自殺対策に関する基本的認識
平成 19(2007)年に示された自殺総合対策大綱 3)では、次の 3 つの基本的な認識が示されて
います。
�自殺は追い込まれた末の死�
外的な様々な要因とその人の条件などが複雑に関係し、自殺を図る直前の心の健康状態は、大
多数は、うつ病、アルコール依存症等の精神疾患を発症し、正常な判断を行うことができない状
態となっており、自殺以外の選択肢が考えられないなど、危機的な状態にまで追い込まれてしま
うという過程が考えられます。多くの自殺は、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、様々な
悩みにより心理的に「追い込まれた末の死」ということができます。
�自殺は防ぐことができる�
WHO(世界保健機関)が「自殺は、その多くが防ぐことのできる社会的な問題」であると明
言しているように、心理的な悩みを引き起こす様々な要因に対する社会の適切な介入により、ま
た、自殺に至る前のうつ病等の精神疾患に対する適切な治療により、多くの自殺は防ぐことがで
きます。
�自殺を考えている人は悩みを�え込みながらもサインを発している�
自殺者が多い中高年男性は、精神的な疾患に対する偏見や相談することへの抵抗感が強いよ
うです。また、自殺念慮をもっている人も揺れ動いており、不眠、原因不明の体調不良など自殺
の危険を示すサインを発しています。身近な人がこれらのサインに気づくことが自殺予防につな
がっていきます。
(3) 自殺対策の基本的考え方
自殺は、自ら選んだ死ではなく、追い込まれた末の死という認識を示しました。しかし、人が
追い詰められる過程は様々であり、介入はどの段階でも必要であり、可能です。平成 10(1998)
年の自殺死亡率の著しい増加が、当時の経済社会状況を背景としていたように、失業、倒産、多
重債務、長時間勤務などの社会的な要因は人の心のゆとりを失わせ、自殺の危険を高めます。こ
れらに対しては、保健行政の領域のみでなく、様々な社会的対策が求められます。
保健領域の自殺対策においても、基本的な二つの考え方があり、ひとつは「メディカル・モデ
ル」とよばれ、自殺に直結しかねない精神疾患の早期発見と適切な治療への導入を最も重要な課
題とする考え方です。もうひとつの「コミュニティ・モデル」とは健康な人を対象とした教育を
重視し、困ったときに助けを求めるのは適切な方法であることを啓発し、どこに助けを求めたら
3
よいか情報提供し、こころの病に対する偏見を取り除くなど、一般住民に広くこの問題に対する
考え方を普及啓発していくものです。これらは、どちらか一方に偏るのではなく両者に関連を持
たせて実施していくというのが基本的な考え方です。しかも、短期間ではなく、息の長い働きか
けが必要であるということが、先駆的な取組みの中で指摘されています。
メディカル・モデルとしてのうつ病対策について触れると、自殺に至る最終的な段階でうつ状
態に陥っている人が多いからうつ病対策を行うという考え方は間違いではありません。しかし、
これは、いわばサッカーに例えれば、味方ゴールに敵が迫っている状態であり、いかにゴールキ
ーパーの技術を向上させても防ぐには限界があります。うつに至るまでの様々な段階に対応でき
る対策が必要です。とりわけ市町においては、日常的な保健や福祉の相談において、疾患や障害
を抱える人々と接する機会も多いですが、彼らが自殺を考えるような状態にならないよう、また、
そのような状態になったとき早く気づける体制が大切です。
疾患や障害の問題だけではなく、地域の住民の中には、雇用や長時間労働の問題、多重債務や
連帯保証問題など、自殺との関連が深い課題を抱えている人々もいます。このような人々が自殺
につながるサインを出しているとき、早くそれに気づき、対応できる体制が必要です。そのため
に様々な手段で住民への普及啓発を行い、住民の感受性、意識を高めることが重要です。特に、
心理的に追い詰められた人、その中でも自ら他者に相談することの少ない中高年男性については、
周りを取り巻く人が気づき、相談行動に結び付けていくことが必要です。就業している中高年男
性の場合、一次的には産業保健が受け止めるべきですが、彼らを支える家族は地域の住民であり、
地域保健からのアプローチも大きな意味があります。また、地域で行われている様々な相談活動
については、それぞれの領域で機能は十分果たされているか、また、領域の異なる相談活動が自
殺問題について連携ができているかなど、常に検討しながら進める必要があります。
住民のこの問題に対する意識、感受性を高めることについては、自治体において様々な広報手
段を動員することは当然として、メディアの協力も考慮する必要があります。様々な自殺予防活
動に対する取材は、広く住民へこの問題に対する認識を浸透させるには有効です。一方でメディ
アの報道の仕方如何によっては、連鎖的な自殺の誘発や特定の地域の多発場所化など負の役割を
果たすこともあり、注意が必要です。秋田県で自殺対策が効果的に進められているのも、メディ
アを協力者として巻き込んでいったことが大きいと言われています。
また、自殺の原因究明のために使える資料として、これまでは、厚生労働省や警察庁のマクロ
的な統計資料だけでしたが、実際に起こった自殺事例の背景を詳細に調査検討することがどうし
ても必要です。このため、自殺予防総合対策センターでは、「心理学的剖検のデータベースを活
用した自殺の原因分析に関する研究」として遺族からの聞取り調査を全国各地で行おうとしてい
ます。しかし、自治体において、遺族から調査への協力を得るためには、遺族との日頃の相談関
係や支援の働きかけなどが大切です。
【文献】
1)飛鳥井望:自殺の危険因子としての精神障害 ―生命的危険性の高い企図手段をもちいた自殺失敗者の
診断学的検討―.精神神経誌 96,415-443,1994
2)川上憲人:心の健康問題と対策基盤の実態に関する研究.平成14年度厚生労働科学特別研究事業
3)内閣府:自殺総合対策大綱.2007: http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/sougou/taisaku/pdf/t.pdf
4
2
自殺の実態
(1) わが国の実態
図 6 自殺死亡率の推移
(人口10万対)
男性
45
40
35
30
総数
25
20
15
10
女性
5
0
1945(S20) 1950(S25) 1955(S30) 1960(S35) 1965(S40) 1970(S45) 1975(S50) 1980(S55) 1985(S60)
総数
男性
1990(H2)
1995(H7)
2000(H12) 2005(H17)
女性
資料:警察庁「自殺の概要」
図 6 は戦後のわが国の自殺死亡率の推移を示したものです。昭和 30 年代に最初の山がありま
す。この時代、わが国の自殺は若い年齢層と壮年期から高齢者にかけての層の二峰性であるとい
われていましたが、現在ではその特徴はなくなっています。その後、平成 10(1998)年に自殺
者が急増して 3 万人を超え、そのまま高い水準で推移しています。また、図 7 に示すように、平
成 10(1998)年の大幅な上昇の背景にあるのは、特に壮年期以降の自殺者数の上昇であること
が分かります。また、若年者は絶対数は少ないとはいえ、20 代、30 代の死因における自殺の割
合はきわめて高いことが知られています。
図 7 年齢階級別自殺死亡数の推移
図7 年齢階級別自殺死亡数の推移
(人)
12000
10000
8000
30歳未満
6000
30~49歳
50~64歳
4000
65歳以上
2000
資料:人口動態統計
0
1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
5
図 8 は自殺死亡率の国際比較を示しています。わが国は先進国の中では際立って高く、世界の
中でも高レベルのロシアやハンガリーに続いています。さらに、女性だけをみると、それらの国
より高いレベルであることが分かります。日本国内では、北東北 3 県等の高い県が目立つために、
平均以下の自治体には危機感が十分ではありませんが、国際比較をすると、日本全体が異常な高
水準であることが分かります。
図 8 国別男女別自殺死亡率(10 万対自殺者数)
70
男
女
60
50
1
0
万
対
40
30
20
10
ブ
ラ
ジ
ル
(
英 02
国 )
イ
(0
タ
中
リ 5)
国
ア
(9
(
9選 イ 03
ン
択 ド( )
さ
オ
98
ー れ
ス た地 )
トラ
リ 域)
ア
カ (0
3
ナ
ダ )
(0
ス
ウ 米国 4)
ェ
ー (0
デ 5)
ン
(
ドイ 0 2
)
ツ
フ
ラ (04
ポ ンス )
ー
(
ラ 05
ン
ド )
(0
フ 韓国 5)
ィン
(
ラ 06
ン
ド )
(0
ハ 日本 6)
ン
ガ (0 6
リ
ー )
ロ (0 5
シ
ア )
(0
5)
0
� �����
資料:WHOホームページ:http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide_rates/en/
(2) 広島県の実態
ア 自殺者数の推移
本県の自殺死亡者数は、
図9
自殺者と交通事故死者の状況(広島県)
平成 9(1997)年には 491 人
でしたが、平成 10(1998)年
には 701 人に急増し、それ
以後も高水準で推移してい
ます。
平成 20(2008)年 9 月に発
表された平成 19(2007)年
人口動態統計によると、県
内の自殺による死亡者数は
684 人で、前年(652 人)よ
り 32 人増加しました。この
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19
人数は、交通事故死亡者数
自殺死亡者数 513 481 491 701 658 605 623 627 650 640 623 652 684
の約 5 倍にあたります。
交通事故死数 296 266 238 245 222 270 251 202 187 189 187 165 132
資料:人口動態統計・広島県警統計
6
イ 自殺死亡率の推移
本県の平成 19(2007)年
図 10 自殺死亡率年次推移(人口 10 万対)
40
の人口 10 万対の自殺死亡
35
率は 24.1 で、全国平均の
30
24.4 をわずかながら下回
25
っており、都道府県順位で
20
は高い方から第 28 位でし
15
た。
広島県
男(広島県)
女(広島県)
全国
男(全国)
女(全国)
10
5
0
H7
H8
H7
H9
H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19
広島県 17.8 16.7 17.0 24.3 22.8 21.0 21.7 21.8 22.6 22.2 21.9 22.7 24.1
全 国 17.2 17.8 18.8 25.4 25.0 24.1 23.3 23.8 25.5 23.7 24.2 23.7 24.4
資料:人口動態統計
ウ
男女別の構成比
自殺者の男女別の構成
図 11 自殺者の男女構成比の推移
自殺者の男女構成比の推移
比は、自殺者数急増以前か
100%
ら男性が 7 割前後を占め
80%
る状況が続いています。
女
男
60%
40%
20%
0%
H7
H8
H9
H10 H11 H12
H13 H14 H15 H16 H17
H18
資料:人口動態統計
エ 年齢階級別の自殺死亡率の傾向
平成 18(2006)年の人口
図 12 年齢階級別自殺死亡率(H18 広島県)
10 万人対比の自殺死亡率
年齢階級別自殺死亡率(H18広島県)
は、50 歳台が 34.3(男:
40
35
く、次いで 40 歳台の 34.1 30
(男:52.3、女:15.9)が 25
20
高い状況となっています。
15
10
5
0
80
歳
~
9歳
70
-7
9歳
60
-6
9歳
50
-5
9歳
40
-4
9歳
30
-3
9歳
20
-2
9歳
10
-1
0-
9歳
50.5、女:18.3)と最も高
資料:人口動態統計
7
オ 原因・動機別の自殺の状況
平成 19(2007)年の自殺者のうち、原因・動機を明らかに推定できた人の中に占める割合
を見ると、健康問題を原因・動機とした人が 65.0%と最も高く、次いで経済問題が 27.2%
と多くなっています。
図 13 原因・動機別自殺者の状況(H19 広島県)
(%)
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
学
校
問
題
男
女
問
題
そ
の
他
勤
務
問
題
家
庭
問
題
経
済
問
題
健
康
問
題
0.0
注:平成 19 年から自殺統計原
票が改正され、明らかに推
定できる原因・動機を 1 人
につき 3 つまで計上してい
るため、割合の合計は
100%とはならない。
資料:広島県警統計
(3) 参考となる資料
<自殺対策全般について>
○
内閣府自殺対策推進室
⇒
○
自殺予防総合対策センター「いきる」
⇒
○
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/
http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp
広島県(総合精神保健福祉センター)ホームページ「自殺対策について」
⇒
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/mhwc/kakushujouhou/jisatutaisaku.htm
<自殺に係る統計について>
○ 厚生労働省ホームページ(統計表データベース→人口動態統計)
⇒
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/IPPAN/ippan/scm_k_Ichiran
○ 自殺予防総合対策センター(自殺対策のための自殺死亡の地域統計)
⇒ http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/genjo/toukei/index.html
○ 警察庁ホームページ(統計→自殺の概要資料)
⇒
○
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm
広島県ホームページ(統計情報→平成 19 年人口動態統計)
⇒
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/page/1227580664796/index.html
<自死遺族支援について>
○
NPO法人自殺対策支援センターライフリンク
⇒
○
http://www.lifelink.or.jp/
自死遺族ケア団体全国ネット
⇒
http://carenet.michikusa.jp/
8
3
これまでの自殺対策
(1) 海外の取組み
諸外国の中で、1980 年代という比較的早い時期から系統的な自殺対策を行ったのは北欧のフ
ィンランドです。フィンランドの高い自殺死亡率についてはWHOからの指摘もありましたが、
1980 年になり、国家プロジェクトとして自殺対策の必要性が認識されるようになりました。厚
生大臣が精神科医のレンクビストを公衆衛生院に迎え、プロジェクトの総責任者としました。ま
ず、1987 年にフィンランドで起きた全自殺について心理学的剖検を行うこととしました。協力
に応じた遺族は 96%で、ここで約 1,400 名のベースラインデータを得ました。このように多数
を対象にした心理学的剖検を行い、自殺対策の有効なターゲットは何かを探り、その後、多方面
から自殺へのアプローチを行ないました。当初の目標は自殺率 20%の減少でしたが、ピークを
示した 1990 年の自殺死亡率 30/10 万に対し、2002 年には 30%もの減少をさせています。当初は
3 年のプロジェクトでしたが、その後延長され、10 年となり、外部評価に 2 年かけ、全体として、
12 年を要しています。このように、自殺対策は長期的な展望が必要であるということが重要な
教訓です。フィンランド以外にも系統的な自殺対策を行っている国はあり、紙面の都合ですべて
を紹介することはできませんが、この中でスウェーデンではソ連の崩壊などに影響された不況、
雇用情勢の悪化の時期にも自殺対策を行うことで自殺死亡率を減らしていることは注目すべき
です。
(2) わが国の取組み
平成10(1998)年以降の自殺対策の経緯を示したものが、表1です。
表1 自殺対策に関する最近の経緯
平成10(1998)年
自殺者数が3万人を超える
平成12(2000)年
健康日本21策定(平成22(2010)年までに自殺者数を2万2千人以下とすることを目標)
電通過労自殺事件において最高裁が労災と認める判断
平成13(2001)年度
自殺防止対策費の予算化(厚生労働省)
平成14(2002)年度
「自殺防止対策有識者懇談会」において提言取りまとめ(厚生労働省)
平成15(2003)年度
「うつ対策推進方策マニュアル」(都道府県・市町村職員)「うつ対応マニュアル」(保健医療従事
者)配布(厚生労働省)
平成16(2004)年10月
こころのバリアフリー宣言(厚生労働省)
平成17(2005)年 7月
「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」(参議院厚生労働委員会)
9月
自殺対策関係省庁連絡会議
12月 「自殺予防にむけての政府の総合的な対策について」取りまとめ(内閣府)
平成18(2006)年 6月
自殺対策基本法成立(10月施行)
10月 自殺予防総合対策センターの設置(厚生労働省)
平成19(2007)年 6月
自殺総合対策大綱策定(内閣府・閣議決定)
平成20(2008)年 3月
自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会報告書 (厚生労働省)
10月
自殺対策加速化プラン策定(内閣府)
自殺総合対策大綱一部改正(内閣府)
9
平成 16(2004)年度には、厚生労働省から「うつ対策推進方策マニュアル
村職員のために」、「うつ対応マニュアル
都道府県・市町
1)
保健医療従事者のために」 が作成配布され、平成
17(2005)年度には参議院厚生労働委員会における「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な
推進を求める決議」
(平成 17(2005)年 7 月 19 日)2)がなされ、これを受けて自殺対策関係省庁
連絡会議が設置(平成 17(2005)年 9 月 27 日)されました。平成 17(2005)年 12 月1日には
Web 上に「いきる」自殺予防対策支援ページ(内閣府)3)が開設されました。
また、平成18(2006)年3月31日には厚生労働省より、
「自殺予防に向けての総合的な対策の推
進について」4)が各都道府県、指定都市に通知されています。
平成18(2006)年10月には自殺対策基本法が施行されましたが、このなかで、自殺は個人の問
題ではなく社会全体の問題であると位置づけ、国、地方公共団体には、自殺対策を策定、実施す
る責務が課せられ、事業主にも労働者の心の健康を保持する等の措置を講ずる責務が課せられま
した。
平成 19(2007)年 6 月に閣議決定された自殺総合対策大綱 5)では「社会的要因を含む自殺の
原因・背景、自殺にいたる経過、自殺直前の心理状況等を多角的に把握し、自殺予防のための介
入のポイント等を明確化するため、いわゆる心理学的剖検の手法を用いた遺族等に対する面接調
査等を継続的に実施する」と明記されていますが、人口動態統計や警察庁統計などのマクロ統計
だけではきめの細かい自殺対策は立てられないということで、心理学的剖検の手法を取り入れた
自殺の原因分析が行われようとしており、本県においてもこれに協力する予定です。
地域で自殺対策として行われた活動のうち早い時期のものとしては、新潟県松之山町(現十日
町市)の活動が挙げられます。これは地元の大学、県、市町村の協力のもと、検診によるハイリ
スクの人々(特に高齢者)の発見とそのフォローが中心で、これに地域を対象とした様々な普及
啓発事業を組み合わせた対策でした。自殺予防活動前には434.6人/10万でしたが、自殺予防活動
後(昭和62~平成8(1987~1996)年)は123.1人/10万に減少しました。また、平成7(1995)年
には秋田県由利本荘市において、行政、地元の有識者を中心に「こころの健康づくりを考える会」
が結成され、一定の時期において起こった自殺について、遺族の訪問調査が行われました。
国や自治体の取り組みではありませんが、民間団体の「いのちの電話」は、昭和 46(1971)
年に東京「いのちの電話」が創設されて以来、全国で活動を広げています。平成 13(2001)年
からは厚生労働省の自殺予防活動の一環として補助金の交付を受けており、平成 19(2007)年
において全国 51 ヶ所で電話相談を行っています。
【文献】
1)厚生労働省:うつ対策推進方策マニュアル 都道府県、市町村職員のために. うつ対応マニュアル
保健医療従事者のために.2004:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5.
2)参議院厚生労働委員会:自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議.2005:
http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/measures/ketsugi.html
3)自殺予防総合対策センター「いきる」:http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/
4)厚生労働省通知:自殺予防に向けての総合的な対策の推進について.平成18年3月31日付:
http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/measures/060331.pdf
5) 内閣府:自殺総合対策大綱.2007: http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/sougou/taisaku/pdf/t.pdf
6) 自殺対策白書(平成19年版,平成20年版):
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/index-w.html
10
(3) 広島県の取組み
広島県における取組みとして、平成 16(2004)年に芸北地域保健対策協議会において北広島
町を中心に住民の抑うつ傾向の調査が行われ(40 歳以上 1,000 人、有効回答数 60.6%)
、41.4%
に抑うつ傾向を認め、40 歳代・高齢者・身近な相談相手の有無・悲しい出来事などの因子が関
連しているという結果を得ました。この調査結果をもとに、翌平成 17(2005)年には「中高年
うつ予防対策ハンドブック」1)を作成しています。
平成 19(2007)年 7 月には、広島県における総合的な自殺対策の推進を図ることを目的とし
て、
「広島県自殺対策連絡協議会」が設置されました。この構成メンバーは表 2 のとおりです。
また、より実務的なレベルで事業の企画評価をする「広島県自殺対策企画評価委員会」も設置さ
れています。
平成 20(2008)年 3 月には,広島県自殺対策推進計画(中間報告)2)が取りまとめられました。
この中で、自殺総合対策大綱の中で示された目標値を参考に、平成 27(2015)年度末までに自
殺者の急増前の水準(平成 5~9 年の平均値 16.8)
まで回復させることを目標値に掲げています。
表2 広島県自殺対策連絡協議会の構成
平成 19(2007)年設置
医療関係(医学部精神科、医学部救急医学、医師会、看護協会、精神科病院協会)
行政(県、市長会・町村会)
福祉関係(県社会福祉協議会、民生委員児童委員協議会、老人クラブ連合会)
産業・労働(商工会議所連合会、広島労働局、産業保健推進センター、連合広島)
警察、司法関係(広島県警、弁護士会)
教育関係(県教育委員会)
民間団体(いのちの電話、青少年育成広島県民会議)
また,平成 18(2006)年から、国立保健医療科学院における自殺対策企画研修への派遣が行
われ、さらに県地域保健対策協議会において、産業医などを対象としたうつ診療と自殺予防に関
する研修会が実施され、平成 19(2007)年度からの「こころの健康かかりつけ医研修」(一般医、
産業医を対象としたうつ診療と自殺予防に関する研修、平成 20(2008)年度には講義のみでな
く演習も加わっている)につながっています。地域の関係者の研修も平成 18(2006)年度から
行われ、平成 20(2008)年度には、保健所を中心に地域自殺対策連絡会議なども発足していま
す。
そのほか、県では平成 20(2008)年に「支え合おうこころの健康」「職場のうつ」「こどものう
つ」
「高齢者のうつ」
「女性のうつ」という 5 種類のリーフレット 3)を作成しています。
自殺の問題をタブー視したままで、対策は困難です。そのような意味で各自治体の首長の意識
は重要であり、
(財)広島県市町村振興協会(広島県市長会、町村会など共催)では平成 20(2008)
年 8 月 26 日に、秋田県における自殺対策の中心的存在である秋田大学の本橋教授を招いて「市
町トップセミナー」を開催しました。
また、遺族ケアも大きな課題であり、広島県では、平成 19(2007)年 12 月 11 日の東広島市
において行われたシンポジウムの後、参加された遺族に呼びかけ、平成 20(2008)年 3 月から
は、遺族と関係者を対象とした講演会を定期的に行い、遺族同士の分かち合いの会に発展させよ
うと援助を行っています。
11
【文献】
1)芸北地域保健対策協議会,広島県芸北地域保健所:中高年うつ予防対策ハンドブック,平成 18 年 3 月:
http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/torikumi/hirosima/hirosima1.pdf
2) 広島県自殺対策連絡協議会:広島県自殺対策推進計画(中間報告),平成 20 年 3 月:
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/mhwc/shiryoushithu/jisatutaisakusuishinkeikaku.htm
3)広島県:支え合おうこころの健康・職場のうつ・こどものうつ・高齢者のうつ・女性のうつ.2008:
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/mhwc/kakushujouhou/jisatutaisaku.htm#panfuretto
12
第2章
自殺対策の実際Q&A
1 自殺に至るステージと自殺対策
Q1 自殺に至るメカニズムを教えてください。
WHOは以前から自殺予防を重要な課題と位置づけており、様々な活動を行っています。その中
で、16,000 人あまりの自殺者を対象に、死の直前に何らかの精神障害に罹患していたかを、遺族な
ど周囲の人から詳細に聞き取る研究(心理学的剖検)が行われました。自殺直前には 9 割以上の方
が精神障害の状態にあり(図 14)
、その中で最
精神疾患と自殺 1)(WHO 2002)
図 14
も多いのがうつ病という結果となっています。
診断なし
わが国ではどのような経路で自殺に至るの
4.0%
かについては、これまで詳細な調査はなされて
いませんでしたが、最近になって、民間団体に
その他の
よる自殺者の遺族への聞取調査が始められ、そ
診断
2)
うつ病30.5%
22.3%
の中間報告が公表されました 。
それによると、
自殺の背景に潜む危機要因は様々ですが、ほと
んどの人が複数の要因を抱え、それらが連鎖し
パーソナリティ障害
あいながら追い込まれて行くことが描き出さ
12.3%
れました(図 15)
。
統合失調症 13.8%
アルコール・薬物依存
17.1%
図 15 自殺の危機経路
(自殺対策支援センターライフリンク:自殺実態白書 2008)
13
これらの危機要因の中でも最も自殺につながる可能性が高い要因が「うつ病」で、うつ病から自
殺への経路を絶つことが非常に重要と考えられています。このように、うつ病対策は自殺対策にお
いて大変重要なのですが、うつ病自体が様々な要因の積み重なりで起こっていることも多く、そう
いったケースでは保健・医療的な関わりのみでは不十分であり、様々な分野の機関が連携して問題
解決にあたる必要があります。
これらの知見を総合して非常に単純化して言うと、個人や身近な人の力だけでは解決が難しい危
機要因は、専門的な援助がなければ複合・深刻化してさらに解決が困難となり、そのような要因を
抱えた人の一部は何らかの精神障害を発症し、さらにその中の一部の人は自殺という行動に追い込
まれていくというメカニズムが考えられます。
自治体で自殺対策を推進する場合、こういった流れのすべての段階で対策を考えることができま
す。
「危機要因そのものを減らす対策」
、
「危機要因が生じた場合は適切な援助窓口につなげること
で早期に対応する対策」
、
「精神的健康を増進するための対策」
、
「精神障害に対する知識の普及に
より早期発見・早期治療を促す対策」
、
「自殺の手段へのアクセスを制限する対策」など精神保健分
野にとどまらない様々な対策を組み合わせて行うことが重要です。
【文献】
1)ジョゼ M ベルトローテ:自殺と精神障害、手段.自殺予防総合対策センターブックレットNo.1 各国
の実情にあった自殺予防対策を:9-10,2007
2)自殺対策支援センターライフリンク:自殺実態白書 2008 .
http://www.lifelink.or.jp/hp/whitepaper.html
14
Q2 地域の自殺対策はどのようなことが考えられますか?
自殺対策基本法の基本理念(第 2 条)の中で、自殺対策は各段階に応じた効果的な施策が必要で
あるとされています。この各段階とは、事前対応(プリベンション:自殺の事前予防)
、危機介入
(インターベンション:自殺発生の危機への対応)
、事後対応(ポストベンション:自殺が発生し
た後又は自殺が未遂に終わったあとの事後対応)の 3 つ段階を示しています。また、自殺対策は、
様々な機関や団体の相互の密接な連携の下で実施されるべきであるとも示されています。この基本
理念にそって、地域で実施される自殺対策を次の表 3 に整理しました。
表 3 地域で実施される自殺対策
事前対応(プリベンション)
【第2章2(22 ページ~)参照】
危機介入(インターベンション)
【第2章3(29 ページ~)参照】
事後対応(ポストベンション)
【第2章4(44 ページ~)参照】
関係機関の連携・資質の向上
【第2章5(48 ページ~)参照】
危機的な状況に陥ることを未然に防ぎ、地域ぐるみで
自殺対策に取り組むためには、自殺やうつ病のみならず、
こころの健康についての正しい理解を促し、社会の偏見
を取り除くための啓発活動が必要です。啓発のためのリ
ーフレットを配布したり、講演会や健康教育を実施した
りすることなどが考えられます。
また、多重債務等の経済・生活問題など様々な背景の
解決が自殺を防ぐ有効な手段となる場合もあります。各
種の相談機関の広報やネットワーク作りも対策として考
えられます。
うつ病のスクリーニングなど、ハイリスク者を早期に
発見し、早期に相談や治療につなげていくことなどが考
えられます。また、家族や職場の人など身近な人が自殺
のサインに早く気付いて、専門家に相談することができ
るように促す対策も必要です。
並行して、自殺念慮のもとになる多種多様な要因の解
決も実施される必要があります。
自殺者の遺された親族等に対する支援の体制を充実さ
せること、自殺未遂者に対して継続的なフォローアップ
体制を地域で充実させることなどが考えられます。これ
らの対策は自殺の連鎖の防止、自殺の再発予防という観
点からも重要です。
自殺は様々な要因が関連して発生すると言われていま
す。そのため、自殺対策を進めていく上で、精神保健福
祉行政の分野だけではなく、様々な関係機関・団体等の
社会資源が連携し、地域特性に応じた組織を作ることが
不可欠です。また、ゲートキーパーも含め自殺対策に従
事する関係者の資質の向上のため、研修などによる知識
や技能の向上とともに、従事者のこころの健康を支援す
る体制も必要です。
15
Q3 地域の自殺対策の計画はどのように策定すればよいですか?
そのポイントを教えてください。
地域において自殺対策を進めるために自殺対策計画を策定しますが、大切なことは、まず「自分
の市町でなぜ自殺対策を進める必要があるのか」を第三者に明確に説明できるようにしておくこと
です。自殺対策の計画を策定した後は、自殺対策の目標を文章として明確化するとともに、自殺者
数や自殺死亡率の減少を数値目標として示すことも必要です。その目標を行政関係者、関係団体、
住民等に周知し、地域全体で情報を共有化し、共通の目標に向かって協働して取り組むことで、対
策をより効果的に進めることができます1)。
自殺対策基本法では、地方自治体の責務として「地域の状況に応じた施策の策定と実施」が規定
されており、次の 4 つの基本理念が挙げられています。自殺対策の計画策定にあたり念頭に置いて
おくとよいでしょう。
自殺対策基本法の基本理念
① 自殺の背景にはさまざまな社会的要因があり、社会的な取組みが必要
② 自殺は多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであり、精神保健的観点のみ
ならず、その実態に即した取組みが必要
③ 自殺の予防、発生危機への対応、発生後、未遂時など各段階に応じた対策が必要
④ 行政、医療機関、事業主、学校、民間団体等の密接な連携が必要
また、市町においても総合的な観点から施策展開を行うことが求められています。国及び地方自
治体が行うこととされている基本的施策は次の 9 項目です。
基本的施策の9項目
① 自殺防止等に関する調査研究、情報収集・提供等
② 教育・広報活動等を通じた国民理解の増進
③ 人材の確保・養成・資質向上
④ 職域、学校、地域等における心の健康保持に係る体制整備
⑤ 精神科医に受診しやすい環境整備、精神科医と他科医師との連携等の確保
⑥ 自殺の危険性が高い者の早期発見、相談など自殺発生回避のための体制整備
⑦ 自殺未遂者に対する支援
⑧ 親族等に対する支援
⑨ 民間団体の活動に対する支援
1 具体的な計画策定の順序2)
(1)地域課題の抽出
量的データ、質的データから得られる情報から総合的に現状を分析して、地域の優先度の高
い課題は何かを抽出します。統計データの分析やこれまで市町で実施してきた自殺に関連する
と考えられる各種対策の分析、日常活動を通じて聞こえてくる住民の声などからも現状把握し
ます。
(2)住民の心の健康(メンタルヘルス)に関する基礎調査
地域住民の心の健康状態がどのようなレベルにあるかを知ることは、対策の基礎資料を得
る意義もあり、計画を立てる上で基本となります。調査結果は結果報告会や健康教育の場な
16
どで住民に還元することで、住民のうつ病予防・自殺予防に関する関心を高めることができ
ます。
(3)自殺対策・心の健康づくりのための策定委員会の立上げ
自殺対策は、精神保健分野だけでなく、医療、福祉、教育、労働、多重債務や交通事故な
どと係わりの深い司法、消費生活など生活全般に関わる幅広い分野の関係者と連携しながら
計画策定を進めることが求められます。
この問題に関連すると思われる全ての部局と連絡調整をした上で、自殺対策・心の健康づく
り行動計画の企画立案を審議する策定委員会を設置します。この委員会には、住民参加の視点
から、公募により住民やNPO関係者に積極的に参加してもらうように努めましょう。
各地域では地域自殺対策連絡協議会などの名称で設立され、この策定委員会の機能を担って
いることが多い実態があります。
(4)大目標(ビジョン)と数値目標の設定
市町としてどのような大目標を示すかについて、原案づくりの段階で行政内部で十分議論
した上で、策定委員会において協議します。計画には将来にわたって測定可能な客観的な指
標を入れることが望ましいです。
(5)地域における保健・医療・福祉等関連する分野の人的・物的資源の把握
具体的に自殺対策を進めていく上で地域の活用可能な人的・物的な社会資源について広く
情報収集を行います。
(6)行動目標の設定
設定された大目標、数値目標を達成するために行わなければならない具体的な行動目標、
行動計画を設定します。
2 計画策定のポイント
自殺対策を実際に地域で展開するためには、次の点に留意して計画策定を行います。
計画策定に当たり留意すべき点2)
① 理念でなく、具体的に何を行うか(行動)を明示すること。
② 実行可能性があること。
③ 予算や財政的裏づけが得られる可能性があること。
④ 事業関係者の理解・コンセンサスが得られること。
⑤ 評価が可能であること。
自殺対策の実施に当たっては、次のような点を十分考慮して進める必要があり1)、3)、地域の
自殺対策の計画策定に当たっても同様のことが言えます。
(1) 自殺総合対策大綱に基づく総合的施策の展開
(2) 実態解明と中長期的な視点に立った施策の推進
(3) 施策の重点化
(4) 自殺の各段階に応じた取組みの推進
(5) 地方自治体のトップの理解
(6) 部局間・関係機関・団体との連携及び情報の共有
(7) 地域住民参加の促進
(8) プライバシー等への配慮
(9) 活用できる資源の把握と動員
(10) マスメディアの自主的な取組みへの期待
17
諸外国の例を見ても、自殺予防に即効性のある施策はないと言われています。自殺対策は、中長
期的視野に立って継続的に実施する必要があります。
また、関係者・団体の連携・協力のもとに地域の特性に応じた実効性の高い施策の推進が求めら
れています。
【文献】
1) 本橋豊:自殺対策ハンドブックQ&A.ぎょうせい, 2007
2) 本橋豊・渡邉直樹:自殺は予防できる.すぴか書房, 2005
3)自殺総合対策の在り方検討会:自殺総合対策の在り方検討会報告書「総合的な自殺対策の推進に関する提
言」
, 2007
Q4 自殺の実態把握はどのように進めればよいですか?
国では総合的な自殺対策を実施するため、自殺予防総合対策センターが平成 18(2006)年 10 月
に設置されました。自殺予防総合対策センターでは、最新の自殺の実態に関する情報、統計データ、
自殺予防教育、普及啓発教材として使用されている情報、各地域における自殺対策の実例、政策の
提案等を収集し、自殺対策に関連する情報を総合的に提供していますので、ホームページの活用を
お勧めします。
(8 ページ第 1 章 2 参照)
既存の統計資料の活用としては、厚生労働省から毎年公表される「人口動態統計(自殺者数、自
殺死亡率等)
」や警察庁から毎年公表される「自殺の概要資料(年齢別、職業別、原因・動機別自
殺者数等)
」などがあります。
(8 ページ第 1 章 2 参照)
広島県では昭和 47(1972)年を第1号として、以後毎年「人口動態統計年報」が発行されていま
す。この年報では、保健所、市町、保健医療圏ごとに性別死因別の死亡者数が掲載されていますの
で、市町行政施策の基礎資料として活用できます。なお、平成 19(2007)年人口動態統計年報第
36 号からは冊子ではなく、広島県ホームページへの掲載による公表のみとなっています。
(8 ペー
ジ第 1 章 2 参照)
市町の過去の自殺者数、性別、年齢別、地域別、職業別、配偶者の有無別、原因・動機別、手段
別等を把握できる範囲で、できるだけ詳細に分析して特徴や課題を把握します。過去の統計データ
を集計する際、市町村合併により広域になっている市町の場合は、合併前の市町村のデータを単純
に合計して素死亡率は計算できます。
自殺者数のみでなく、人口 10 万人に対する割合でみると、他の市町、県、全国との比較ができ
ます。人口の少ない市町では、単年だけの自殺死亡数のわずかな増減で経年変化をみると死亡率が
大きく変動します。つまり、偶然変動の影響によって数値が不安定になるため、自然死亡率を算出
して比較に用いることは適当でない場合が多くなります。そこで、3~5 年ごとにまとめて全国の平
均的市町村の率、数を加味して標準化死亡比(ベイズ推定値)で経年変化を見ていく方法もありま
す。自殺予防総合対策センターのホームページでは、各市区町村別の統計データが示されており、
ダウンロードも可能となっているので活用をお勧めします。
(8 ページ第 1 章 2 参照)
地域の実態把握の手段として、
「うつ病(抑うつ状態)自己評価尺度」1)もあります。健康ひろ
しま 21 広島二次保健医療圏域・芸北地域において、心の健康づくり対策を推進していく基礎資料
とするため、平成 16(2004)年に北広島町をモデル地区として、この尺度の一部を活用して実態調
査が実施されています 2)。地域の基礎調査に活用できる資料として、秋田県の自殺予防のための地
域診断事業のモデル市町村の地域診断結果をもとに、秋田大学医学部で開発された「心の健康づく
18
りに向けた地域診断のための簡易調査票」3)もあります。
また、自殺は倒産、失業、多重債務等の経済・生活問題の外、病気の悩み等の健康問題、介護・
看病疲れ等の家庭問題など様々な社会的要因と、その人の性格傾向、家族の状況、死生観などが複
雑に関係しており、これら社会要因については制度、慣行の見直しや相談・支援体制の整備という
社会的な取組みによって自殺を防ぐことが可能です。4)そのためには、それぞれの市町の状況や支
援体制についても把握する必要があります。
併せて国、県、他の自治体、関係機関の対策の内容や進捗状況についても、常に関心を払って情
報収集しておくことが大切です。
【文献】
1) 島悟:うつ病(抑うつ状態)自己評価尺度(日本語版).千葉テストセンター
2) 芸北地域保健対策協議会,広島県芸北地域保健所:中高年うつ予防対策ハンドブック,平成 18 年 3 月:
http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/torikumi/hirosima/hirosima1.pdf
3)本橋豊・渡邉直樹:自殺は予防できる.すぴか書房,2005
4)内閣府:自殺総合対策大綱.2007: http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/sougou/taisaku/pdf/t.pdf
Q5 地域の自殺対策の目標はどのように設定すればよいですか?
これまでの研究から、自殺対策は 10 年以上の長期的展望に立って進める必要があるという教訓
も示されており、市町においても例外ではありません。
国、県、市町それぞれが主体的に自殺対策を進めることで、当初の目標達成に向けて努力する必
要があります。また、自殺対策の点検・評価を行うとともに、国・県・関係団体の動向や市町の施
策の進捗状況等を踏まえ、必要に応じて目標の見直しをする必要があります。
国では、平成 12(2000)年に策定された「健康日本 21」
(21 世紀における国民健康づくり運動)
で、平成 22(2010)年度までに自殺者数を 22,000 人以下に減らすことが掲げられました。また、
平成 19(2007)年 6 月に閣議決定された自殺総合対策大綱では、平成 28(2016)
)年度までに、
平成 17(2005)年の自殺死亡率を 20%以上減少させることを目標としています。
広島県では、広島県自殺対策推進計画(中間報告)
(平成 20(2008)年 3 月)で、自殺による死
亡率(人口 10 万人対)の減少を目標とし、平成 27(2015)年度末までに自殺者の急増前の水準(平
成 5~9 年の平均値 16.8)まで回復させることを目標値に掲げています。1)
各市町においても、それぞれ地域の実態に応じて目標数値、施策目標を設定することが求められ
ます。自殺対策が進んでいると言われる北東北 3 県の自殺対策の目標を例示しますので、参考にし
てください。2)
秋田県(健康秋田 21)
大目標
・すべての県民が一体となって、家庭・学校・職場・地域の場において、個人の尊厳と
いのちの大切さを再認識しながら、すべての世代における自殺者を減少させます。
自殺者減少の数値目標
・ベースラインデータである 486 人を平成 22(2010)年には 330 人にする。
19
青森県(健康あおもり 21)
行動目標
・高齢者の自殺の多い地域において自殺予防活動を実施します。
・教育現場における精神保健の充実を図ります。
・職場の精神保健の充実を図ります。
・自殺者の遺族の心理的ケアを充実させ、自殺の要因等に関する把握に努めます。
数値目標
・策定時 479 人の自殺者数を平成 22(2010)年には 294 人に減少させる。
岩手県(健康いわて 21 プラン)
目標:こころの健康づくりを実行し、自殺を減らす。
具体的な数値目標
・自殺する人の減少
目標値:平成 22(2010)年度の全国値を目指す。
基準値:男性 31.6 人、女性 11.0 人(年齢調整死亡率 10 万人当たり)
(全国:男性 21.3 人、女性 9.3 人 厚生省統計情報部自殺死亡統計)
・1年間に自殺を考えたことのある人の減少
目標値:0.5%
基準値:1%(平成 11(1999)年県民生活習慣実態調査)
【文献】
1)広島県自殺対策連絡協議会:広島県自殺対策推進計画(中間報告). 2008
2)本橋豊:自殺対策ハンドブックQ&A.ぎょうせい, 2007
Q6 自殺対策の評価について教えてください。
一般に行政活動を評価するための指標として、総事業費(インプット)
、活動指標(アウトプ
ット)
、成果指標(アウトカム)の 3 つが多く利用されます。
インプットの評価は、直接的な予算のみならず、当該事業に費やされる人件費までを含んだ概念
として総事業費を捉えますが、新しく事業を開始したり見直したりする時には、費用対効果の面か
ら分析して事業の予算化を行うことが求められます。
アウトプットの評価は、最終的な成果(アウトカム)を導くための活動を量的に表現したもので、
事業目的を実現する手段として捉えます。具体的には、研修会や講演会の開催回数や参加者数、パ
ンフレットの種類や配布部数、相談会の開催回数、相談件数等があります。
アウトカムの評価は、本来の事業目的が達成された度合いを示すものです。具体的には、自殺者
数、自殺死亡率、住民の意識や行動の変化、研修や講演会のアンケートから分かる意識の変化等が
あります。
また、自殺対策の進展のプロセスは時期ごとに分けることができ、地域の段階・時期ごとにすべ
きことや重点を置くところが変わってくるため、現在どの段階にあるかを意識して対策を進めると
ともに、時期ごとに評価して対策の見直しをする必要があります。先進県の事例を見ても、それぞ
れの時期ごとに 2、3 年の期間を要しており、自殺対策は中長期的な見通しを持った取組みと評価
が必要です。
20
萌
芽
期
地 固 め 期
発
芽
期
→自殺対策の組織づくり、問題の明確化・共有化、政治的指導者の巻込み
→対策の具体化、目標の設定、啓発を中心とした取組み、地域ネットワーク
の構築、住民組織の活性化
→対策の総合化(多様な専門性の強化)
、連携の強化、効果の検証と評価
充実期・評価期 →評価を踏まえた対策の再検討、長期的視点に立った対策の継続性の確保
資料:本橋豊:第 1 回自殺総合対策企画研修資料「自殺対策の公衆衛生的アプローチ」
. 2007
�ラム1
様々な『水際』での取組み ���な場所、薬�等の対策�
自殺対策の『水際』で、様々な社会的な取組みがされています。
(1) 高層建築物等の屋上
建築基準法令に基づき、屋上からの転落防止等の安全確保のため、柵や金網等の設置を義務付け
られていますが、今後も特定行政庁を通じて、当該建築物の所有者等に対し、法令に基づく施設設
置・維持管理等を徹底していきます。
(国土交通省)
(2) 鉄道駅のプラットホーム
全ての駅利用者の安全性向上を図ることを目的に、線路への落下を防止するホームドア(可動式
ホーム柵を含む)の設置を促進しています。
(国土交通省)
(3) 毒薬・劇薬、毒物・劇物(農薬)
それぞれ、薬事法、毒物及び劇物取締法において、不適切な使用につながる流通を防止するため、
譲渡規制等を行っており、販売業者等に対し、引き続き規制の遵守の徹底を指導しています。
(厚生
労働省、農林水産省)
(4) 自殺の恐れのある家出人
保護者等から捜索願を受理した場合は、速やかに発見活動を開始し、当該家出人の発見に努めてい
ます。
(警察庁)
(5) 自殺者の多い場所
福井県東尋坊での自殺予防パトロール活動や、富士山麓青木ヶ原樹海に「借金の解決は、必ず出来
ます!私も助かりました。まずは相談しましょう。
(03-3255-2400)
」という看板を設置する活動など
が行われています。
(NPO法人心に響く文集・編集局、全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会)
【出典】
平成 19 年自殺対策白書:http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2007/pdf/index.html
21
2 事前対応(プリベンション)
Q7 健康づくりの中に「自殺予防」はどのように位置付けられていますか ?
わが国の健康づくり対策は、第一次国民健康づくり対策(1978 年)から第二次(1988 年)を経て、
第三次対策として「21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本 21)」(2000 年)が定められまし
た。また「こころの健康」は第二次から休養の対策として取り組まれ、「健康日本 21」1)では健康づ
くり戦略として、
ヘルスプロモーションの視点で推進されました。
その中で9 項目の目標の中に 、
“休養・こころの健康づくり”として位置づけられ「こころの健康は、生活の質を大きく左右する
要素である。目標は、ストレスの低減、睡眠の確保及び自殺者の減少について設定する。
」として
います。自殺対策をおざなりにして社会の安全・安心はなく、公衆衛生の発展もありえません。健
全な社会の発展のための対策と考えます。
そこで、ヘルスプロモーションの考え方の 4 つの柱に沿って自殺予防の対策を考えてみます。
柱の1 「自殺予防の公共政策づくり」
(1)地方自治体の実態の統計的調査とその具体的な事例の把握。
(2)予防策として、地域における高危険群へのリスク支援と積極的生活支援対策づくり。例え
ば、多重債務等、その生活背景問題の把握と時期を逸しない支援や自殺多発地点の(ホット
スポット)対策実施等。
(3)保健福祉関係者にとどまらず、行政全般、関係する地域組織、個人などの多様な人達が、
こころの健康と自殺予防を理解するための多様な連携をはかり調停をする。
(4)実態把握等から基本計画を策定し、専門的支援者と組織を育成する。
柱の2 「自殺予防を支援する環境づくりと地域活動の強化」
(1)地域活動で、自殺をしなくても住める助け合いの街、明るい街づくりについて、ビジョン
の語り合いを実践する組織の育成。
(2)地域で、自由に自殺対策を考え、語ることのできる公的・私的仲間づくり。
(3)必要な時、必要な支援者が身近なところに存在する。(人材を育成のうえで)
(4)予約でなく、その時、相談できる場所、抵抗を感じない場所の確保。
(5)地域全体の問題として発展できるまでにしていく。コミュニティ自身の力量の強化。
柱の3 「こころの健康と自殺予防の個人技術の開発・強化」
(1)人生の各期にそった精神的健康増進教育の提供でこころの健康生活技術を高める。
(2)危機の理解と対処方法等を、地域・学校・職場で情報や知識を提供し、行動できるまで継
続的に指導する。危機にある人の行動改善とすべての人達の意識の改善を目指す。
(3)保健師活動等の援助は家庭訪問で支える手法を中心とする。
柱の4 「自殺予防のヘルスサービスの方向転換」
保健部門や臨床的、治療的責任やヘルスサービスの責任を越えて、保健部門と社会的、政
治的、経済的、物理的環境の構成部門等の広い支援対策と、従事者等への専門教育や訓練と
研究に関心を向けていく姿勢を継続して持つ努力が必須。
【文献】
1) 健康日本 21:http://www.kenkounippon21.gr.jp/
22
Q8 普及啓発活動の進め方を教えてください。
自殺対策において、普及啓発活動は大きな柱の一つです。普及啓発活動の目的は、自殺問題の正
しい理解の促進ですが、普及啓発活動が進むことによって、自殺問題に関する偏見が減り、
「自殺
対策は地域で取り組むべき課題である」との雰囲気の醸成や、悩みを抱えた人が相談窓口を利用し
やすくなるなどの効果が期待できます。
また、自殺問題をタブー視する社会の風潮は根強く存在し、時に自殺対策を進める際のハードル
になります。触れてはいけないという姿勢の中には、自殺者の遺族などに対する思いやりの気持が
あるのかもしれませんが、自殺対策の活動のプロセスを住民に見える形にする努力や、多くの住民
が参加できる工夫をし、自殺問題を取り上げた地道な普及啓発活動を継続し、タブー視を変えてい
く必要があります。
1 普及啓発活動の対象
自殺問題に関して地域の課題はいくつも考えられますが、地域の実情により、重点として取り
上げる課題が見えてくると思われます。その上で、まず何を普及啓発の対象とするかということ
を検討します。
○ 地域における自殺の現状や自殺問題の理解
○ 自殺を防ぐために必要なこと(自殺のサインと周囲の気づき、うつの理解、こころの健康
づくり、孤立を防ぐ地域づくりなど)
○ 様々な相談窓口の情報提供
○ 自殺者の遺族に対する支援について
2 普及啓発活動の手法
次に、どのような啓発活動の手法を用いるかについて検討します。
○ 講演会・研修会
住民を対象とした講演会や研修会は、最も一般的に使われる普及啓発活動で、短時間で密
度の濃い内容を伝えることができます。関係機関や住民も参画した企画運営の工夫や、紙芝
居や寸劇など平易で親しみやすい媒体の活用も効果的であると思われます。
○ リーフレット類の配布
自殺問題やうつ病などの精神疾患の基礎知識を分かりやすく解説したリーフレット類を
配布する方法もよく使われます。情報の伝播性は大きいのですが、関心のない人の目に触れ
る機会が少ないという難点があります。しかし、各種相談機関をクリアファイルに印刷して
保存されやすくしたり、時刻表に広告を掲載して目に留まりやすくしたり、マスコミやイン
ターネットを活用したりする工夫により、効果が上がると思われます。
○ 他の事業の中で取り上げる
自殺問題を中心に取り上げなくても、健康まつりなどのイベントや健康講座などで自殺問
題や精神疾患、メンタルヘルスについて取り上げたり、広報誌のスペースを少しこの問題に
割いたりという方法も、日頃は自殺問題に関する情報に積極的にアクセスしない人の目に触
れるという効果があると思われます。
国や他の地方公共団体が実施している普及啓発活動の実際やツールは、自殺予防総合対策セン
ターが開設している「いきる」1)や自殺対策白書2)に、自殺やうつに関するパンフレットなど
23
は、広島県立総合精神保健福祉センターのホームページ 3)に紹介されているので、参考にしてく
ださい。
【文献】
1)自殺予防総合対策センター「いきる」
:http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/torikumi.html
2)内閣府:自殺対策白書(平成 19 年版,平成 20 年版)
.2007,2008:
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/index-w.html
3)広島県立総合精神保健福祉センター:
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/mhwc/kakushujouhou/jisatutaisaku.htm
��� �
三原市の取組み ��こころ ネットみはら��
三原市では、医療保健福祉に関する機関(行政や市内医療機関や授産施設など)が連携・協働しなが
ら、
“誰もが自分らしく暮らせる街づくり”を推進していければという共通の思いから、平成 17(2005)
年度に精神保健福祉ネットワーク『こころ ネットみはら』が発足しました。
取組みとしては、①市民啓発 ②人材育成 ③当事者・家族支援を柱としています。
その中でも精神保健福祉の普及啓発事業につい
ては、ストレスやその対処法を含め、誰もがかかり
うる病』と身近な問題としてこころの健康や精神障
害を正しく理解してもらえるきっかけづくりとな
るよう企画しています。
うつ・自殺予防の取組みとしては、『こころ ネ
ットみはら』の事業として、平成 19(2007)年度は、
身近でどの年代にも起こりうる『うつ』を中心とし
たテーマを選び、身近にできる予防の方法や病気に
ついての講座を開催しました。すると、地域に潜在
している『うつ病』への関心の高さが明確になりま
した。そして、平成 20(2008)年度は、自殺予防週
間にあわせて広島県尾三地域保健所と共催で『自殺
予防対策講演会』を開催し、約 400 名の市民や支援
者の方が参加されました。
関係機関の協働と社会資源の幅広い参加による事業を展開することで、市民への周知をはじめ、相談
窓口などの社会資源の情報提供が効果的に図れています。また、困ったときの相談に結びつきやすい環
境の整備につながっています。その他、精神保健福祉事業での訪問や相談など個別の対応でも連携がと
りやすくなったという波及効果が広がりました。
今後も、関係機関とのネットワーク・つながりを大切にして、地域住民の参画や関係機関、特に学校
や職域との協働による啓発活動で予防や支援しあえる地域づくりにつなげていきたいです。
24
Q9 うつ病などの精神疾患と自殺は関係がありますか?
自殺と精神疾患の関係について平成 14(2002)年にWHOが調査した結果、自殺直前には 9 割以
上の方が精神障害の状態にあったと報告されています。ところが精神科診断に該当するなかで実際
に精神科治療を受けていた人はわずか 2 割程度とされ、したがって精神障害を早期に発見して適切
な治療を行うことが自殺予防につながるとWHOは強調しています。
自殺と最も密接に関連する気分障害(うつ病・躁うつ病など)は、自殺した人の約 3 割に認めら
れます(13 ページ図 14 参照)
。WHOによる国際疾病分類ICD-10 に定められたうつ病エピソー
ドの診断基準は以下のとおりです。
(A) 典型的な症状
(1) 抑うつ気分
(2) 興味と喜びの喪失
(3) 易疲労感の増大や活動性の減少
(B) 一般的な症状
(4) 集中力と注意力の減退
(5) 自己評価と自信の低下
(6) 罪悪感と無価値感
(7) 将来に対する希望のない悲観的な見方
(8) 自傷あるいは自殺の観念や行為
(9) 睡眠障害
(10) 食欲不振
(通常、少なくとも2週間以上の持続)
軽症
中等度
重症
A項目
2つ以上
2つ以上
3つ
B項目
2つ以上
3つ以上
4つ以上
社会的活動
いくぶん困難
かなり困難
ほとんどできない
うつ病は、睡眠障害や食欲不振、疲れやすさなどの身体症状と興味・関心の減退や集中力の低下
などの精神症状の両方が認められます。症状の持続期間が長く、周囲によい状況があっても気分が
晴れないことや抑うつ的となった理由が周囲からは理解できにくいことなどが通常の憂うつとは
異なります。
わが国では特に 40-50 代の男性と高齢者の自殺率が高いと報告されており、その他にも発病初期
であることや、躁うつ病のうつ病相であること、アルコール乱用などの特徴を認める場合に自殺の
危険が高まるといわれています。
なかでもアルコール依存症を含むアルコール乱用との関連は注意を要します。うつ病患者が一時
的に気分を持ち上げようとして酒量が増えてしまうこと、またアルコール依存症の患者が様々な問
題を抱えるうちにうつ状態を呈することは珍しいことではありません。
ICD-10 に定められたアルコール依存症の診断基準は以下のとおりです。
過去1年間のある期間に、次の項目のうち3つ以上がともに存在した場合に診断する。
1. 飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感。
2. 飲酒の開始、終了、あるいは量に関して、飲酒行動を統制することが困難。
3. 飲酒を中止もしくは減量したときの生理的離脱状態。アルコールに特徴的な離脱症候群の出現や、離脱症状を軽減
するか避ける意図でアルコール(もしくは近縁の物質)を使用することが証拠となる。
4. はじめは少量で得られたアルコールの効果を得るために、飲酒量を増やさなければならないような耐性の証拠(耐
性のない使用者には耐えられないか、あるいは致死的な量を毎日摂取することがある)
。
5. 飲酒のために、それに代わる楽しみや興味を次第に無視するようになり、飲酒せざるを得ない時間や、その効果か
らの回復に要する時間が延長する。
6. 明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として飲酒する。たとえば、過度の飲酒による肝臓障害、
ある期間大量飲酒した結果としての抑うつ気分状態、アルコールに関連した認知機能の障害などの害。使用者がそ
の害の性質と大きさに気づいていることを(予測にしろ)確定するよう努力しなければならない。
25
アルコール依存症の診断にはあてはまらない場合でも、アルコールは酩酊によって衝動性を高ぶ
らせ、自殺行動を促します。自らの行動を制御できないような酩酊状態下で自殺行動に及ぶケース
も少なくないため、自殺念慮のあるうつ状態の人のアルコール摂取量が増えてきた場合には、自殺
の危険性が高い状態として十分に注意を払う必要があると考えられます。
なお、うつ病やアルコールに関する問題についての情報は以下のサイトなどで得ることができま
す。
<うつ病>
うつ・不安啓発委員会:http://www.utu-net.com/
<アルコール関連>
特定非営利活動法人 ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
:http://www.ask.or.jp/
独立行政法人国立病院機構 久里浜アルコール症センター:
http://www.kurihama-alcoholism-center.jp/index.html
赤城高原ホスピタル:http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/
【文献】
1) WHO : The ICD-10 Classification of Mental and Behavioral Disorders ; clinical descriptions and
diagnostic guidelines, World Health Organization, Geneva,1992 (融道男、中根允文、小宮山実監
訳: ICD-10 精神および行動の障害-臨床と診断ガイドライン-.医学書院,東京, 1993)
Q10 自殺予防において、多重債務や失業等の生活・経済問題への取組みは、どのようなことが
考えられますか。
自殺死亡率と失業率の間には相関関係がみられ、
平成 10(1998)年の自殺者数急増の局面において
も、失業者の増加率が高いという特徴がみられました。
図 16
自殺死亡率と失業率の推移
資料:厚生労働省「人口動態統計」及び総務省「労働力調査」
平成 19(2007)年の県内の自殺者の原因・動機においても、失業による生活苦や多重債務等の生
活・経済問題は、健康問題に次いで上位を占めています。
(8 ページ図 13 参照)
26
多重債務者等、負債や生活苦を抱えている人は、単に金銭的な問題だけではなく、13 ページの
図 15 にあるように、その原因や、そこから派生する様々な問題を抱えて、精神的に追い込まれた
状態に陥っていることも多いと考えられます。
そのため、相談者が多重債務等の問題を抱えていると分かった場合には、精神的な相談に応じ
るとともに、消費生活相談窓口や、相談者が必要としている支援(福祉、住宅、税務等)の相談窓口
につなぐ(単なる紹介ではなく、連絡して予約を取る)など、担当課や関係機関と相互に連携して
支援していくことが大切です。
(40 ページQ14,第3章3広島県の相談機関一覧参照)
また、連携を円滑に進めるためにも、庁内の関係部署や民間団体を含め、関係機関と顔の見え
るネットワークを構築しておくとよいでしょう。
(48 ページQ20 参照)
<多重債務って?>
多重債務とは、複数の借入先から返済能力を超えた借金をしている状態をいいます。
今ある借金を返すために他の金融機関から借金を繰り返すことにより、雪ダルマ式に借金
が増え続けて返済が困難になった多重債務者が、借金や取立てを苦にして自殺や夜逃げに追
い込まれることも少なくありません。
<多重債務者の数は?>
我が国の消費者金融の利用者は少なくとも 1,400 万人、そのうち多重債務者は 200 万人を
超える(総人口の 2.2%程度)と言われており、県内にも約 4 万 4 千人の多重債務者がいる
と推定されています。
<多重債務の解決方法は?>
多重債務の解決方法としては、次の 4 つの方法があります。どれを選択するかは、本人の
資産状況や給与所得があるかないか等によって異なります。
整理方法
概
要
裁判所を使わず、通常は弁護士等に依頼して、私的に直接債権者
任意整理
と和解交渉をして債務整理する。
簡易裁判所に調停を申し立て、調停委員のあっせんを受けなが
特定調停
ら、和解する。
地方裁判所に申し立て、一般的には財産を処分せずに、生活を立
個人版民事再生
て直す。
地方裁判所に破産を申し立て、全財産を処分することにより、残
自己破産
った借金の全ての免除を受けて生活を立て直す。
�参考�
広島県消費生活のホームページ(多重債務)
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/category/1220924504007/index.html
27
コラ�3
秋田県�のモ�ル市町村での自殺予防の取組み
秋田県では、自殺を「個人の問題」ではなく「社会の問題」ととらえ、同時に県民の重要な健康課
題として、その対策に取り組んでいます。
(1)合川町(現北秋田市);ヘルスプロモーションの理念に基づく活動の推進
秋田大学と連携して、質問紙票を用いた「うつスクリーニング」による二次予防的アプローチ
を行うとともに、地域住民の中から「ふれあい相談員」を育成し、住民相互のコミュニケーショ
ンを図るなど、一次予防的アプローチにも力を入れた取組みを進めています。
(2)中仙町(現大仙市);手探りの中で地域行動を強化
既存の事業である仲間づくり事業(グランドゴルフ大会、歩け歩け大会)や生きがいづくり事
業の一部を見直し、心の健康づくりという新たな視点を組み入れた事業として再構成しました。
町のワーキンググループ(健康部会)で自殺予防を取り上げ、町と住民が一体となって市民活
動団体「心といのちを考える会」を作り、主体的に活動を展開しています。
(3) 東由利町(現由利本荘市);働き盛りの年代の自殺予防に向けて
働き盛りの中高年と高齢者の双方を対象として行っています。地元医師、地域所管保健所、教
育長、警察、議会、民生児童委員、社会福祉協議会、農業委員、商工会や地域組織の代表者など
を構成メンバーとして「東由利町心の健康推進協議会」を設置し、自殺予防対策を町民自身の問
題として活動しています。
<出典>
・本橋 豊:市町村における自殺予防のための心の健康づくり行動計画策定ガイド.秋田大学医学部
社会環境医学講座健康増進医学分野(公衆衛生学),平成15年10月
・ 厚生労働省:うつ対策推進方策マニュアル ― 都道府県・市町村職員のために ―.平成16年1月
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