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国籍不存在確認請求事件 昭和 31 年 7 月 18 日 事件番号
国籍不存在確認請求事件 昭和 31 年 7 月 18 日 事件番号:昭和 25(オ)206 最高裁判所 大法廷 裁判長裁判官:田中耕太郎 裁判官:栗山茂、真野毅、小谷勝重、島保、斎藤悠輔、岩松三郎、谷村唯一郎、小林俊三、 本村善太郎、入江俊郎、池田克、垂水克己 (裁判官・藤田八郎は、出張につき署名捺印することができない) 原審:東京高等裁判所 昭和 25 年 5 月 13 日 <主文> ・原判決を、破棄する。 ・本件を、東京高等裁判所に差し戻す。 <理由> ・上告人指定代理人・石井良三、同・堀内恒雄の「上告理由」について。 記録によれば、被上告人の本訴請求の趣旨は、 被上告人は、明治 39 年 3 月 1 日、岡山市において「英国人 F の長男」として生まれ、英国籍を取得し、 爾来、引き続き日本に居住するうち、昭和 16 年 12 月 8 日、太平洋戦争の勃発に遭い、 その本国である英国と、日本とが戦争状態にあった同 17 年 5 月頃、内務大臣に対し「帰化の申請」をし、 その翌 18 年 2 月 6 日、これに許可を与えられたものであるが、 この許可処分は、原判決事実摘示掲記の(一)の(イ)ないし(ホ)の五事由につき、法律上無効であり、 被上告人は、形式上「許可処分」があるにかかわらず、日本国籍を取得しなかったのであるから、 「その日本国籍を有しないこと」の確認を求めるというのであって、 これに対し、原判決は 「本件帰化申請、ならびにその許可処分のあった当時、施行されていた国籍法 (明治 32 年法律 66 号、以下「旧国籍法」という)7 条 2 項 5 号の規定によれば、 帰化の申請を許可せんとするには、その申請人が無国籍者であるか、または日本の国籍を取得することによって、 自動的に「従来その者の有した外国籍」を失うべきことを、必須の条件としている。 それは、旧国籍法を貫く「二重国籍禁止の精神」にもとづくものであって、 この条件の充足は、 「帰化申請に対する許可処分」の有効要件をなすものと解するのを、相当とする。 したがって、かかる条件を具備しない者の帰化申請を許容しても、 かかる許可処分は、その有効要件を欠き、法律上、当然無効と言わざるを得ない。 しかるに英国においては判例法上、戦時中、英国人が敵国に帰化しても、英国籍を失わないものとせられているのであるから、 太平洋戦争中になされた「本件帰化の許可処分」は、被上告人をして、英国籍を喪失せしめることなく、 したがって、前示「旧国籍法」7 条 2 項 5 号の要請する、その有効要件を欠缺することとなり、法律上、当然無効たるに帰着し、 被上告人は結局、日本国籍を取得し得なかったものである」旨判示して、 被上告人の本訴請求を、認容したのである。 しかし、 「旧国籍法」7 条 1 項によれば、「外国人は、内務大臣の許可を得て帰化をなすことを得」たのであり、 同条 2 項の規定は、この内務大臣のなすべき許可処分につき、通常の場合における帰化の条件を定めているのである。 すなわち内務大臣は、法律に別段の定めのない限り(同法 8 条、9 条、10 条、11 条、14 条等参照)、 「同条項 1 号ないし 5 号所定の条件」を具備するか否かを審査し、 その条件を具備すると認めた者に対してのみ、その帰化を許可すべきものであることは、 その法文に照らして明白である。 しかしながら、いったん内務大臣が「かかる条件を具備するもの」と認定して、その帰化申請を許可した以上、 仮にその認定に過誤があり、客観的には該条件を具備しない申請人に対して、帰化を許したこととなるような場合においても、 かかる瑕疵を理由として、取り消しの問題を生ずるか否かは、 格別、少なくともその許可処分を目して法律上「当然無効」となすべきいわれはない。 けだし、国家機関の公法的行為(行政処分)は、 それが、 「当該国家機関の権限に属する処分」としての外観的形式を具有する限り、 仮にその処分に関し、違法の点があったとしても、 その違法が重大、かつ明白である場合のほかは、これを法律上「当然無効」となすべきではないのであり、 そして、前示認定上の過誤のごときものが、ここにいわゆる「重大かつ明白なる違法」を言い得ないこと、もちろんだからである。 (まして、仮に「認定上の過誤あり」としても、外国判例法上の解釈問題を包含する「本件許可処分」については、 これを当然無効たらしむべき「明白な違法あり」となし得ないこと、一層明白であろう) 「旧国籍法」7 条 2 項 5 号の規定が、 「二重国籍の関係の発生」を抑制せんとする法意に出でたものであることは、多言を要しないところであるけれど、 同法は必ずしも「二重国籍の成立」を絶対的に排除していないことは、 同法 11 条の規定の存することによっても窺い得るのであるから、 「二重国籍関係の発生」を理由として、法律上単に並列的に掲記されているにすぎない「1 号ないし 5 号所定の条件」中、 特に「5 号掲記の条件」のみを捉えて、これを「許可処分の有効要件」と解することはできない。 それ故、原審が前説示のような見解に立って、たやすく被上告人の請求を認容したことは違法であり、 原判決は全部、破棄を免れない。 論旨は理由がある。 よって民訴法 407 条 1 項にしたがい、主文のとおり判決する。 この判決は、裁判官・田中耕太郎、同・栗山茂、同・小谷勝重、同・斎藤悠輔、同・谷村唯一郎、 同・本村善太郎の少数意見があるほか、その余の裁判官全員一致の意見である。 §§ ・裁判官・田中耕太郎、同・栗山茂、同・小谷勝重、同・斎藤悠輔、同・谷村唯一郎、同・本村善太郎の少数意見は、 次のとおりである。 ♦♦ 帰化の申請を許可せんとするには、「旧国籍法」7 条 2 項 5 号の規定により、 その申請人が無国籍者であるか、 または日本の国籍を取得することによって、自動的に「従来その者の有した外国籍」を失うべきことを、 許可処分の有効要件と解するを相当とする旨、 ならびに本件では、控訴人は、原判示のごとく英国籍を失うものではなく、 したがって右の有効要件を欠き、「帰化の許可は当然無効である」旨の原判決の判示は、正当であると考える。 ※漢字・ひらがな・カタカナ・英字・句読点・記号等は、当方で必要に応じて変更をしています。 ※文中に出てくる「判例の頁番号」や「法令の条・項・号」は原文どおりです。 ※誤字・脱字等ありましたらご一報ください。 かわすく工房