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翻訳論プロジェクト
ISBN 978-4-87762-173-5 SFC-RM2006-010 翻 訳 論 プ ロ ジ ェ ク ト2006年 度 論 文 集 A Search ‐Challenges into Language in Translation and Beyond Studies‐ 慶應義 塾大 学 霜 崎 研 究室 翻 訳 論 プ ロジェクト 2006年 度 論 文集 A Search into Language and Beyond -Challenges in Translation Studies- 2007年2月 慶應義塾大学 霜崎研究室 まえが き 本 論 文集 は 、政 策 ・メデ ィア研 究科 大 学 院 の 「 翻 訳 論 プ ロ ジ ェ ク ト」お よび 学部 の 「 翻訳分析 演 習 」 の2006年 度 の研 究成 果 を ま とめ た もの で あ る。 構 成 は 、 第1部(共 同研 究)と 、 第2部(個 人 研 究)か らな る。 第1部 分 析 演 習 で 取 り上 げ た サ ン=テ グ ジ ュペ リのLe Petit Princeと6名 で は 、今 年度 の 翻 訳 の翻 訳 者(内 藤 濯 ・山崎 庸 一郎 ・池 澤 夏 樹 ・藤 田尊 潮 ・河 野 万理 子)に よ る邦 訳6編 を言 語 資料 と して選 択 し、<誤 訳 と そ の周 辺 〉 を巡 って 、共 同研 究 を行 った 。翻 訳 者 は しば しば 「 演 奏 者 」に喩 え られ る こ とが あ る。 原 典 を解 釈 し、自分 の な か に構 築 した 作 品世 界 を 、別 の言 語 に転 換 す る作 業 に携 わ って い るわ け だ が 、特 に文 学 作 品 の翻 訳 に お い て は 、作 品 の意 味 世界 を移 行 す る のみ な らず 、作 品 の ス タイ ル ま で も翻 訳 す る こ とが要 求 され る。この 意 味 で は 翻 訳 者 は 単 な る 「 黒 子 」と して の存 在 で は な く、 「 演 奏 者 」 と して の存 在 と して力 量 を発 揮 す る こ とが 求 め られ る の で あ る。 こ うした 立 場 か ら、 翻 訳 者 が と もす る と標 準 か ら逸 脱 した翻 訳 を行 って い る と こ ろ に 、そ の個 性 が 現 れ て い るの で は な い か とい う想 定 の も とに 、い わ ゆ る誤 訳 も含 め て 、そ の 周 辺 を探 索 す る こ とに よっ て 、翻 訳 作 品 の 特 徴 を明 らか に し よ うと した もの で あ る。 第2部 は 個 人 研 究 の成 果 を ま とめ た もの で 、今 回 は4名 の執 筆 者 の 投稿 論 文 を掲 載 して い る。 菅原 論 文 「LePe ti t Princeと そ の 英 日訳 に お け る 『視 点 』 の考 察 」 で は 、原 典 に お け る視 点 の 取 り方 が 、英 訳 と邦 訳 にお い て どの よ うに再 構 成 され て い るの か を 検 証 した も ので あ る。松 本 論 文 「日本 語 にお け る無 生 物 主 語 を伴 う他 動詞 表 現 一 『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス』 を 中 心 に 一 」 は 、 森 鴎 外 の 作 品 を言 語 資 料 と し、無 生 物 主 語 の他 動 詞 構 文 の使 用状 況 を分 析 した も ので あ る。佐 伯 論文 「 『星 の 王 子 さ ま』 にお け る発 話 表 出方 法-邦 訳 と 日本 語 の 関 係 一 」は 、英 訳 と邦 訳 を言 語 資 料 と して 、発 話 表 出 理 論 に基 づ い て発 話 の分 析 を行 い 、邦訳 の特 徴 を 明 らか に しよ う と した もの で あ る。 葦 沢 論 文 「 『星 の 王子 さま 』 の 日英 訳 にお け る会 話 表 現 の研 究 」 は話 法 の 違 い か ら 見 た 日英 語 の特 徴 を探 っ た もの で あ る。 論 文 と して の完 成 度 は必 ず し も十 分 とは 言 え ない も のの 、 執 筆 者 が 言語 と翻 訳 の 問題 に真 摯 に 向 き 合 い 、考 察 した 結 果 を ま とめ上 げた 点 を評 価 して いた だ けれ ば 幸 い で あ る。ま た 、未 熟 さゆ え の 思 わ ぬ 思 い 違 い や 言 葉 足 らず の表 現 が含 ま れ て い る可 能 性 が 多 々 あ る が 、この 点 に つ い て は、 ご叱 正 を乞 う次 第 で あ る。 翻 訳 論 プ ロ ジ ェ ク トの論 文集 を過 去3年 にわ た り刊 行 して き たが 、今 回 で4冊 目の 論 文 集 と な る。編 集 に あた り、政 策 ・メデ ィア研 究 科 大 学 院 修 士 課 程2年 の菅 原 久佳 君 と松 本 裕 介 君 、総 合 政 策 学 部4年 の鈴 木 陽 子 君 の 尽 力 が あ っ た。 ここ に記 して 、感 謝 の 意 を 表 した い 。 2007年2月 霜崎 實 目次 まえ が き (i) 目次 (--) 第1部 共 同 研 究 Le Le Petit Princeの Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 と そ の 周 辺 佐伯 祥太 3 4 邦 訳 に お け る誤 訳 と そ の 周 辺 菅原 久佳 5 5 一 池 澤 訳 の特 徴 一 邦訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 葦沢 大 田訳 の特 徴 一 Princeの 邦訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 鈴木 陽子 3 8 Le-Petit 一 Princeの 3 7 Petit -藤 河野訳の特徴 一 個 人研究 Petit」Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 P O 2 1 松本 裕介 日本 語 に お け る 無 生 物 主 語 を 伴 う他 動 詞 表 現 一 菅原 久佳 QU 9 Le 松本 裕介 山 崎 訳 の 特 徴- Petit Princeの 第2部 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の 周 辺 橋 訳 の 特 徴- -Le、petit Princeの Le 霜崎 實 5 3 Petit 一 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 藤 訳 の 特 徴- -倉 Le 霜崎 實 イ ン トロ ダ ク シ ョ ン- -内 Le 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 PD 一 Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の 周 辺 -払 -Le Petit Petit Princeの 『ヰ タ ・セ ク ス ア リス 』 を 中 心 に- 佐伯 祥太 7 3 1 『星 の 王 子 さ ま 』 に お け る発 話 表 出 方 法 一 邦 訳 と 日本 語 の 関 係 一 葦沢 大 1 5 1 『星 の 王 子 さ ま 』 の 日英 訳 に お け る会 話 表 現 の 研 究 り引 6 1⊥ 目 次(英 文) 3 6 -⊥ あ とが き ・・1 共同研究 ∠ePetit Pri〃oθ の 邦 訳 に お け る 娯 訳 と そ の 周 辺 一 AStudy of Le」Pb漉 イントロダクション 一 肋ce and Introductory 霜崎 實 Its 15ranslation Problems: Remarks Minoru Shimozaki 義塾大学環境情報学部教授 慶應Professor, Faculty of Environmental Information, Keio University 1-研 究 の 概 要 と目的 サ ン=テ グ ジ ュペ リのLe Petit肋ceは 、 内 藤濯 訳 『星 の王 子 さ ま』 に よ って 長 い 間 日本 人 に親 しまれ て きた が 、2005年 に 日本 に お け る著作 権 保 護 期 間 が 切 れ た こ とで 、多 くの新 訳 が 続 々 と刊 行 され て い る。1こ の よ うな現 象 が 没 後61年 を経 て 日本 にお い て 出現 す る とは 、サ ン=テ グ ジ ュペ リも想 像 しな か っ た こ とだ ろ う。 この作 品 は 『聖 書』、『資 本 論 』 に次 ぐ世 界 のベ ス トセ ラ ー と言 われ て お り、多 く の言 語 に翻 訳 され て い る現 状 か ら推 察 す るに 、何 冊 か の新 訳 の刊 行 は 予 想 され た もの の 、こ こま で の出 版 ラ ッシ ュ に な る こ とは 出版 界 にお い て も特 筆 す べ き 出来 事 で あ ろ う。 本 研 究 は 、 こ うした 特異 と も言 え る事 態 を前 に して 、素 朴 な 疑 問 か ら出 発 した 。つ ま り、原 典 に対 して これ だ け 多 くの 翻 訳 作 品 を刊 行 す る価 値 は どこ に あ る の だ ろ うか 、 とい う疑 問 で あ る。 この疑 問 に 対 す る答 えは 、ま さ に翻 訳 作 品 の 多 様 性 に あ る に違 い な い。翻 訳 者 は 、 しば しば 「 黒 子 」に喩 え られ る こ とが あ る。つ ま り、原 典 の著 者 の よ うに、無 か ら有 を創 り出 す役 割 で は な く、 原 典 の 意 味 を汲 み 取 り、自 らの な か に構 築 した原 典 の作 品世 界 を別 の 言 語 を用 い て 再構 築 す る の が 翻 訳 者 の 役 割 だ と され て い る。 しか し、そ うは言 って も 、作 品 の 読 み 方 は 読者 の 数 だ け あ るわ け だ か ら、い か に 客 観性 を重 ん ず る翻 訳 者 で あ って も、完 全 に 「 黒 子 」 に徹 す る こ とな どで き よ うは ず が ない 。翻 訳 者 が 意 識 す る 、 しな い に 関わ らず 、作 品 の 読 み 取 りのプ ロセ ス にお いて 、翻 訳 者 の 個性 が 介在 す る。ま た 、別 の 言 語 を用 い て再 構 築 す る プ ロセ ス に お い て も、翻 訳 者 の個 性 が 介 在 す る こ とにな る。い わ ば 、原 典 は翻 訳 の プ ロ セ ス を通 じて 、二 重 の 意 味 にお い て 翻 訳 者 に よ る フ ィル ター にか け られ る こ とに な る 、と言 って も よい 。 こ うした翻 訳 の プ ロセ ス は 、と き に 作 曲 家 が 書 い た 楽 譜 とそ の演 奏 との 関係 に喩 え られ る こ とが あ るが 、この 喩 え は ま さに正 鵠 を射 た も の と言 え る。同 じ楽 譜 で あ って も、演 奏 家 が異 なれ ば別 の作 品 世界 が 生 れ るの と同 様 に、同 じ原 典 を翻 訳 した も ので あ っ て も、翻 訳 者 が 異 な れ ば あ る意 味 で 別 の作 品世 界 が生 れ る こ とに な る。 1 Le」Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 と そ の 周 辺-イ ン ト ロ ダ ク シ ョ ン- こ う した 考 え に基 づ き、 研 究会 で は英 訳3編 と邦 訳6編 を取 り上 げ 、作 品 の 間 に 見 られ る差 異 は どこ に あ る の か を研 究 して き た わ け で あ る。 翻 訳 者 は 自 らの表 現 の ス タイ ル を持 って お り、 そ れ は翻 訳 者 が原 典 を どの よ うに読 ん だ の か 、理 解 した の か の反 映 で も あ る。そ こで 、翻 訳 作 品 のス タイ ル を特 徴 づ け る言 語 的 要 素 を 特 定す る こ とに よっ て 、翻 訳 作 品 の ス タイ ル に お け る バ リ エ ー シ ョン を 明 らか にす る こ とを 目指 して研 究 を進 め て き た が 、そ の 際 に 、ど こま で く踏 み 込 ん だ 翻 訳 〉 を して い る の か が 、議 論 で 取 り上 げ られ る こ とが た び た び あ った 。 翻 訳 は 、原 典 の意 味 をそ こ な う こ とな く別 の言 語 に転 換 す る こ とを 目的 とす るが 、原 文 の 意 味 解 釈 は 固定 的 な も の で は な い 。 翻 訳 者 が 異 な れ ば 、 同 じ原 文 が 別 の言 語 表 現 に転 換 され るの は 、 例 外 で は な く、む しろ通 常 の 事 態 で あ る。翻 訳者 に は原 典 の 制 約 の なか に あ っ て も 、あ る程 度 の 表 現 の 自由 が許 容 され て い るわ け で 、そ の 自 由度 の なか で 自 らの力 量 を発 揮 す る こ と に な るの で あ る。 しか しな が ら、そ の 「自 由度 」 は必 ず しも無 限 に許 容 され る わ け で は な い と こ ろ に、翻 訳 の難 し さが あ る。あ る一 定 の線 を越 え て しま うと、そ れ は 「 翻 訳等 価 性 」(translation equivalent) の域 を 踏 み越 え、 「 誤 訳 」 の領 域 に入 り込 む こ とに な る。 しか し、 「 正訳」 と 「 誤 訳 」 は 、連 続 体 を な して い る も の で あ り、 とき にそ の判 断 は微 妙 で あ る。 多和 田(2006:171)は この 点 に 関連 して 次 の よ うに言 う。 基 本 的 に は 、 あ らゆ る翻 訳 は 「 誤 訳 」 で あ り、 あ らゆ る読 解 は 「 誤 読 」 な の か も しれ な い と思 って い ます 。 程 度 の差 は あ るで し ょ うが 、 そ れ が 基 本 的 に程 度 の 差 で あ る とい うこ とで 、 〈間 違 って い る 〉 〈正 しい 〉 とい う二極 に 分 け て 考 え る こ とは で きませ ん 。 わ れ わ れ は 、そ う した微 妙 な領 域 の な か に 、翻 訳 とい う言 語 転 換 の プ ロセ ス に 関す る難 し さ と面 白 さが存 在 して い る と考 え 、Le Petit Princeの 邦訳6点 に見 られ る誤 訳 とそ の周 辺 に つ い て 研 究 す る こ とに した。 明 らか な 「 誤 訳 」 に 限 定せ ず に、 「 誤 訳 」 とも 「 正 訳 」 とも い い が た い微 妙 な表 現 の世 界 に踏 み 込 む こ とに よっ て 、翻 訳 者 に許 容 され る 自由 度 と、そ こで発 揮 され る翻 訳 者 の創 造 性 に つ い て 考 察 して み た い 、 とい うのが 本 研 究 の 目的 で あ る。 また 、 この よ うな観 点 か ら 「 誤 訳 」を取 り上 げ る こ とに よ っ て 、翻 訳 分 析 の新 た な方 法 論 へ の展 望 が 開 け る こ と を期 待 した い。 2.言 語 資 料 と研 究 分担 本 研 究 にお い て 使 用 した 言 語 資 料 は 、以 下 の通 りで あ る。なお 、分析 の 対 象 と した 範 囲は 原 則 と して 、 第1章 か ら第10章 ま で と した 。 【原 典1 Saint-Exup駻y, Antoine de.1946/1999. Le Petit 2 Prince. Paris Gallimard. 【英 訳 】 Ol moans. by Woods, ②Trans. by ③Trans. by Katherine.1945. Cuffe, T.V.F.1995. Testot-Fe皿 The Little The、 臨 孟1θ 肋ce. ヱIrene.1995. The Prince. London William London:Penguin Little Heinemann Books Ltd.3 Lt(1 Prince. Lon don:Wordsw0rth 】、[T訳 】 と表 記 す る。 E ditions Limited. な お 、 論 文 で は 上 掲 の 英 訳 を 、 そ れ ぞ れ[W訳1、[C訳 【邦 訳 】(出 版 順) ① 内 藤 濯(訳)2000.『 星 の 王 子 さ ま 』 岩 波 書 店.2 ② 倉 橋 由 美 子(訳)2005.『 新訳 ③ 山 崎 庸 一 郎(訳)2005.『 小 さな 王 子 さま』 み す ず 書 房 ④ 池 澤 夏 樹(訳)2005.『 星 の 王 子 さ ま 』 集 英 社. ⑤ 藤 田 尊 湖(訳)2005.『 小 さ な 王 子 』(新 訳 『星 の 王 子 さ ま 』)八 坂 書 房 ⑥ 河 野 万 里 子(訳)2006.『 星 の 王 子 さ ま 』 宝 島 社. 星 の 王 子 さ ま 』(新 潮 文 庫)新 潮 社. なお 、研 究 担 当は 以 下 の通 りで あ る。 ① 内藤 濯(訳)『 星 の 王 子 さま 』 霜崎實 ② 倉 橋 由美 子(訳)『 新 訳 星 の王 子 さま』 松本裕介 ③ 山 崎 庸 一 郎(訳)『 小 さな王 子 さま』 佐伯祥太 ④ 池 澤 夏 樹(訳)『 星 の王 子 さま』 菅原久佳 ⑤ 藤 田尊 湖(訳)『 小 さな 王子 』 葦沢大 ⑥ 河 野 万 里子(訳)『 星 の 王 子 さま 』 鈴木陽子 【註 】 1.出 版順 に 列 挙 す る と以下 の通 り。内 藤 濯(岩 波 書 店)、 三 野 博 司(論 創 社)、 小 島 俊 明(中 央 公 論 新 社)、 倉 橋 由 美 子(宝 島 社)、 山 崎 庸 一 郎(み 社)、 藤 田 尊 潮(八 社)、 河 野 万 里 子(新 広(講 坂 書 房)、 辛 酸 な め 子(コ 潮 社)、 河 原 泰 則(春 談 社)、 石 原 理 通(石 2.1953年 に す ず 書 房)、 池 澤 夏 樹(集 英 社)、 川 上 勉 ・廿 樂 美 登 利(グ ア マ ガ ジ ン)、 石 井 洋 二 郎(筑 秋 社)、 谷 川 か お る(ポ ラフ 摩 書 房)、 稲 垣 直 樹(平 プ ラ 社)、 野 崎 歓(光 凡 文 社)、 三 田 誠 原 書 店) 「 岩 波 少 年 文 庫 」 の 一 冊 と して 刊 行 さ れ た が 、 本 研 究 で は2000年 に 刊 行 され た 新 版 を 使 用 した 。 3.本 研 究 で はKathe血e Eikoshaを Woods, trans.1966. The Little Prince. Ed. by Rikutaro Fukuda. 使 用 した 。 【参 考 文 献 】 多 和 田葉 子2006.「 あ る翻 訳 家 へ の 手紙 」岩 波 書 店 編集 部(編)『 翻 訳 家 の 仕 事 』 岩 波 書 店. 3 Tokyo: Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 イ ン トロ ダ ク シ ョ ン 4 Le Petit Princeの 一 AStudy of Le 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 内藤 訳の特徴 一 Petit肋oθand Focusing on 霜崎 實 Its Translation Problems: Naito's「hanslation Minoru Shimozaki 義塾大学環境情報学部教授 慶應 Professor, Faculty of Environmental Information, Keio University 1.は じめ に サ ン=テ グ ジ ュペ リのLe Petit Princeの で あ っ た。 と ころ が 、2005年 した 限 りで は17編 か ら2006年 邦 訳 と言 え ば 、つ い最 近 ま で 内藤 濯 訳 が 唯 一 の 邦訳 にか けて 新 しい翻 訳 が続 々 と刊 行 され 、筆 者 が確 認 の 邦 訳 が 存 在 す る。 多 くの 日本 人 の読 者 に とっ て 、 これ ま で 半世 紀 以 上 に わ た っ て 内藤 に よっ て解 釈 され 、 翻 訳 され た 『星 の 王 子 さま 』 を通 して 、サ ンニテ グ ジ ュペ リの作 品 世 界 と接 して きた わ けで あ るが 、現在 、他 の 邦訳 との比 較 対 照 に よっ て 内藤 訳 を 相 対化 す る こ とが は じめて 可 能 に な った と言 え る。 そ こで 、本 稿 で は 、内藤 訳 『星 の 王 子 さま 』の 言 語 世 界 が どの よ うな もの な のか を 、そ の表 現 の ス タ イ ル に着 目す る こ と に よ って そ の 一 端 を 明 らか に した い と考 え る。 本 稿 で は 内藤 訳 の表 現 ス タ イル の 特徴 を解 明 す べ く、倉 橋 由 美 子 ・山 崎庸 一郎 ・池澤 夏 樹 ・藤 田尊 潮 ・河 野 万 里子 に よ る邦 訳 を比 較 対 照 のた め に取 り上 げ る。 ま たKatherine Cuffe、 Irene Testot-Ferryに よ る英 訳3編 Wo0ds、 TEV も適 宜 参 照 す る。 本 稿 にお け る翻 訳 分 析 の 手 法 と し て は 、まず 、何 らか の意 味 で 内 藤 の解 釈 や 表 現 上 の嗜 好 性 が色 濃 く反 映 され て い る よ うな 表現 を 抽 出 し、そ れ を他 の訳 者 に よる表 現 と比 較対 照 す る こ とに よ って 、内藤 の表 現 ス タ イル の 一 端 を 解 明 して い き た い と考 え る。1ま た 、内藤 の解 釈 に問題 が あ る と思 わ れ る箇 所 につ い て も、若 干 の例 を取 り上 げ て誤 訳 とそ の周 辺 の 問題 につ い て も触 れ る。 以 上 が 本研 究 の 中 心 的 な課 題 で あ るが 、副 次 的 な課 題 と して 、英 訳 と邦 訳 を相 互 に比 較 す る こ とに よっ て 、日英 語 にお け る翻 訳 の バ リエ ー シ ョンの 問題 につ い て も考 察 す る。フ ラ ンス 語 で 書 か れ た 原 典 を、言 語 的 に近 い 関係 に あ る英 語 に翻 訳 す る場 合 と、遠 い 関係 にあ る 日本 語 に翻 訳 す る場 合 とで は 、 表 現 の多 様 性 の面 か ら どの よ うな違 い が存 在 す るの か を 検証 して い き た い。 以 下 、第2節 で は 時代 的 要 因 か ら内藤 訳 の 特 徴 を考 察 し、第3節 で は3.1語 彙 の選 択 、3.2音 声 重 視 の表 記 、3.3オ ノマ トペ の使 用 、3.4口 語 的 慣 用 句 の 使 用 とい った 観 点 か ら内藤 訳 に見 ら れ る 口語 的 ス タイ ル の特 徴 を 明 らか にす る。第4節 で は 、イ メー ジ喚 起 力 に富 ん だ表 現 につ い て 具 体 例 を挙 げ て論 じる。第5節 で は原 文 に捉 われ な い 内藤 訳 の特 徴 を 、5.1補 足説 明 の 多 用 、5.2 5 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 内 藤 訳 の 特 徴- 柔 軟 な発 想 、5.3構 造 的 な転 換 の観 点 か ら考 察 す る。第6節 で は 、内 藤 訳 を 中心 に誤 訳 とそ の周 辺 の 問題 を取 り上 げ る。最 後 に第7節 で は、内藤 訳 ス の 特徴 を総 括 した うえで 、英 訳 と邦 訳 の バ リエ ー シ ョン の違 い につ い て論 じ る。 2.時 代 的 要 因 に 基 づ く特 徴 内 藤 が サ ン=テ グ ジ ュ ペ リのLe の1冊 Petit Princeを と し て 刊 行 し た の は 、1953年 『星 の 王 子 さ ま 』 と題 し て 「 岩 波少 年 文 庫 」 の こ とで あ る。 戦後 間 も な く、 現 在 とは時 代 状 況 が ま っ た く異 な る な か で 翻 訳 され た わ け で あ る 。 当 時 の 日本 語 の 語 彙 、慣 用 表 現 、言 い 回 し は 、現 在 の も の と は 随 分 違 っ た も の で あ る こ と が 容 易 に 想 像 され る 。 加 え て1883年(明 内 藤 に と っ て 、 『星 の 王 子 さ ま 』 の 刊 行 は70歳 治16年)生 の と き の こ と で あ っ た 。 内 藤(2006:2)は まれ の 、 「の ん き 者 の 私 と して は 、我 な が らお ど ろ く ほ ど熱 が 入 っ た 。 作 の よ さが そ う し た こ と は 、言 う ま で も な い 。だ が そ の こ ろ 、年 の せ い か 、 い う と こ ろ の 童 心 の あ りか た を しか と つ か み た く な っ て い た こ と が 、 正 直 の と こ ろ 、 訳 業 の お も な 推 進 力 に な っ た 」 と述 懐 し て い る が 、 内 藤 に と っ て は 、 お そ ら く遥 か か な た に 過 ぎ 去 っ た 幼 年 時 代 の 自 分 を 思 い 返 し な が ら 、こ の 訳 業 に 取 り組 ん だ に 違 い な い。 こ う し た 翻 訳 の 時 代 的 要 因 と 内 藤 自 身 の 年 齢 的 要 因 も 関 係 し て 、現 在 か ら 見 る と 古 め か しい 印 象 を 与 え る 表 現 が 散 見 され る 。以 下 、そ の 代 表 的 な 例 を3つ 取 り上 げ る が 、他 の 訳 者 に よ る 翻 訳 と 比 較 す る こ と で 、内 藤 訳 の 表 現 特 性 を 浮 き 彫 り に して み た い 。 ま ず 、以 下 の 用 例 を 参 照 され た い。 (1) C原典1 [W訳 Un 】 boa Aboa c'est tr鑚 constrictor dangereux, et un is a very 駱hant dangerous c'est tr鑚 creature, and encombrant.(p.16) an elephant is very cumbersome . is very cumbersome . (p.13) [C訳 】 Boas [T訳 】 Aboa are very dangerous constrictor and is a very elephants are dangerous very creature cumbersome.(p.10) and an elephant (p.14) [内藤 訳] ウ ワ バ ミ っ て 、 と て も け ん の ん だ ろ う、 そ れ に ゾ ウな ん て 、 場 所 ふ さ ぎ で 、 し ょ う が な い な い じゃな い か 。 (p。13) [倉橋 訳】 こ う い う 蛇 は 危 険 だ よ 。 そ れ に 象 は 場 所 ば か り と る 。(pp 仙 崎 訳] ボ ア は と て も 危 険 だ し 、 ゾ ウ は ひ ど く 場 所 ふ さ ぎ な ん だ 。(p [池澤 訳1 ボ ア っ て 危 な い 動 物 だ し、 それ に ゾ ウは とて も場 所 を 取 るで しょ。 ぼ くの と こ ろは す ご く 小 さい ん だ 。 .14・15) .12) (p.13) [藤 田訳1 ボ ア は と て も き け ん な 生 き も の だ し 、 ゾ ウ は 大 き す ぎ る よ 。(p [河野 訳] ボ ア は す ご く 危 険 だ し 、 ゾ ウ は ち ょ っ と 大 き す ぎ る 。(p 6 .14) .16) 原 文 の"tr鑚 dangereux"に 対 応 す る 英 訳 に 着 目す る と 、3者 と も に 、"very dangerous"と い う訳 語 を 当 て て い る 。 英 訳 で は 翻 訳 上 の バ リエ ー シ ョ ン が ま っ た く 存 在 して い な い の に 対 し て 、 日本 語 訳 は 、 「と て も け ん の ん だ 」(内 藤 訳)、 「と て も危 険 だ 」(山 崎 訳)、 「危 な い 」(池 澤 訳)、 「す ご く危 険 だ 」(河 野 訳)と 多 様 性 に 富 ん で お り、 な か で も 内 藤 訳 の 「け ん の ん だ 」 は 時 代 性 が 感 じ られ る 点 で 際 立 っ て い る 。 (2) C原典1 C'est [W訳 】 ` ...It is very [C訳 】 It is very tedious work, [T訳] It is very tedious work un travail tr鑚 tedious ennuyeux, mais work,'the tr鑚 facile.(p.26) little prince but it is very but also very adde d,`but very easy.'ip.26) easy.(p.20) easy. gyp.26) [内藤 訳】 「… … 。 と て も め ん ど う く さ い 仕 事 だ け ど 、 な に 、 ぞ う さ も な い よ 」(p.28) 槍 橋 訳1 「… … 。 退 屈 な 仕 事 だ け ど 、 簡 単 な こ と さ 」(p.31) [山崎 訳1 「… … 。 と て も 退 屈 な 仕 事 だ け れ ど 、 ご く 簡 単 な 仕 事 だ よ 」(p.22) [池澤 訳] 「… … 。 手 間 は か か る け ど 、 別 に む ず か し い こ と じ ゃ な い よ 」(p.26) [藤 田訳 】 「… … 。 め ん ど う な 仕 事 だ け ど 、 で も 、 と て も か ん た ん な こ と だ よ 。」(p.27) [河野 訳1 「… … 。 お も し ろ く も な い 仕 事 だ け ど 、 と っ て も か ん た ん さ 」(p,30) 原 文 の"tr鑚 facile"の 英 訳 に 着 目す る と 、3者 が い ず れ も"very easy"と 同 調 して い る 。 日 本 語訳 でも、 「 簡 単 な こ と さ 」(倉 橋 訳)、 「ご く 簡 単 な 仕 事 だ よ 」(山 崎 訳)、 「と て も か ん た ん な こ と だ よ 」(藤 田訳)、 「と っ て も か ん た ん さ」(河 野 訳)な し い こ と じ ゃ な い よ 」(池 澤 訳)と ど は 、 素 直 な 訳 出 法 で あ る 。 「別 に 難 な る と 、や や 捻 っ た 感 じ を 伴 う が 、現 代 語 と して 自然 で あ る。 こ れ に 対 し て 、 「な に 、 ぞ う さ も な い よ 」(内 藤 訳)と な る と、お そ らく現 代 の若 者 の 間 で は め っ た に 使 わ れ な い だ ろ う。 「翻 訳 に は 賞 味 期 限 が あ る 」 と言 わ れ る こ と も あ る が 、 確 か に 時 代 的 要 因 は翻 訳 作 品 の 評 価 にお い て 重 要 な要 素 のひ とつ とな る。 (3) 原 典] J'aurais [W訳] Iought 【C訳] Ishould have judged [T訳 】 Ishould have based [内 藤 訳 】 あ の 花 の い う こ と な ん か 、 と り あ げ ず に 、す る こ と で 品 定 め し な け りゃ あ 、い け な か っ た ん だ。 d負1a to have iuger sur judged les actes by by mv deeds her deeds iudgement et non and not and sur by not upon les mots.(p.35) words. her deeds (p.39) words. and (p.31) not words.(p,38) (p.42) [倉橋 訳1 彼 女 の 言 葉 で は な く て 行 動 で 判 断 す る べ き だ っ た 。(p.48) [山崎 訳】 あ の 花 を 、 言 葉 で は な く 、 し て くれ た こ と で 判 断 し な く ち ゃ い け な か っ た ん だ 。 [池澤 訳】 言 葉 じ ゃ な く て 花 の ふ る ま い で 判 断 す れ ば よ か っ た の に 。(p.39) 7 (p.32) Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺-内 藤 訳 の特 徴 一 【 藤 田訳 】 こ と ば で は ん だ ん す る ん じ ゃ な く 、 お こ な い で は ん だ ん す る べ き だ っ た ん だ 。(p.42) [河野 訳1 こ と ば じ ゃ な く て 、 し て くれ た こ と で 、 あ の 花 を 見 るべ き だ っ た 。(p.45) 原 文 下 線 部 の 動 詞"juger"に 対 す る 訳 語 と して は 、 倉 橋 訳 ・山 崎 訳 ・池 澤 訳 ・藤 田訳 に 見 ら れ る よ う に 、 「判 断 す る」 が 最 も 典 型 的 で あ る 。 敢 え て 典 型 か ら は ず れ た 動 詞 を 当 て る 試 み を し て い る の が 、 「見 る 」(河 野 訳)と 「品 定 め す る 」(内 藤 訳)で あ る。 一般 的 に内 藤 訳 は、 子 ども を 読 者 層 と し て 想 定 し た も の と評 され る こ と が 多 い が 、 こ の 用 例 に 限 っ て 言 え ば 、少 な く と も 現 代 の 子 ど も た ち に は 困 難 な 表 現 の 部 類 に 入 っ て しま うだ ろ う。 以 上 、 代 表 的 な 例 を3例 挙 げ た が 、 こ の他 に も 、 「 す る と 、 お と な た ち は 、 と ん き ょ うな 声 を だ し て 、 〈 な ん て り っ ぱ な 家 だ ろ う 〉 と い うの で す 。」(p.22)、 ぱ な 絵 を か か な い か と ぼ く に す す め ま した 。」(p.28)、 ら い で す 。」(p.28)な 「… … ふ ん ば つ して 、 一 つ 、 りっ 「口 は ば っ た い こ と を い う の は 、 ぼ く 、 き ど、 現 代 の 感 覚 か ら は や や 古 め か し い 響 き の す る言 い 回 し が 散 見 され る 。 こ う した 時 代 的 要 因 は 、 内 藤 訳 の 表 現 特 性 を 語 る 上 で 、 重 要 な 要 素 の ひ と つ と言 え る 。2 3.ロ 語 的 スタイル 内藤 訳 を特 徴 づ け る 大 き な 要 素 と して 、 そ の 口語 的 な ス タ イ ル が あ る。 も ちろ ん 、 『星 の 王 子 さま』は 、パ イ ロ ッ トが 一 人 称 で読 者 に話 しか け る とい う物 語 設 定 で あ るた め 、 口語 的 な語 り 口 調 を選 択 す る訳 者 が 多 い。 しか し、他 の翻 訳 と比 較 す る と、内藤 訳 で は 明 らか に独 特 の 口語 的言 い 回 しが 多 用 され て い る こ とが わ か る。 これ は 、内 藤 が 朗 読 運 動 に身 を入 れ てい た り音 楽 や 演 劇 へ の深 い 関 心 が あ っ た りした こ とか ら、人 間 の 声 とそ の リズ ム を重 要 視 す る よ うに な っ た こ と と 関係 して い る と思 われ る。3さ らに、 内藤 は 『星 の 王 子 さ ま』 を 「 声 の 文 学 」 と称 し、そ の た め に翻 訳 に お い て も 口述 筆 記 とい う方 法 を とっ た との こ とで あ る。4そ う した 翻 訳 姿 勢 か ら、『星 の 王 子 さま 』に お け る独 特 の 語 り口調 が 生れ た もの と思 わ れ るが 、 こ こで は、語 彙 の 選 択 、音 声 重 視 の 表 記 、オ ノマ トペ の使 用 、口語 的慣 用 句 の使 用 の観 点 か ら、内藤 訳 に 見 られ る 口語 的 ス タ イ ル の 一 端 を考 察 す る。 3.1語 彙 の 選 択 本 節 で は、語 彙 の 選 択 に焦 点 を絞 って 、内藤 訳 の 口語 的 言 い回 しに つ い て考 察 す る。以 下 、そ の こ とを示 す 典 型 的 な用 例 を2つ 取 り上 げ る。 (4) [原 典] J'aide s駻ieusesraisons de croireque la plan鑼e d'o l'ast駻o [W訳] venait le petitprince est de B 612. (pp.20-21) Ihave seriousreasontobelievethatthe planetfrom which the little princecame isthe asteroidknown as B-612. (p.19) 【C訳] Ihave good reasonto believethat the planetfrom which the little princecame isthe 8 asteroid [T訳 】 known as B 612. Ihave serious reason known as B-612. (p.14) to believe that the little prince's planet うの に は 、 ち ゃ ん と し た わ け が あ り ま す 。 [倉橋 訳 】 王 子 さ ま の 星 は 小 惑 星B-612だ だ と 思 っ て い る の で す が 、 そ う思 (p.20) と 思 う。 そ れ に は ち ゃ ん と し た 理 由 が あ る。(p.23) 仙 崎 訳 】 わ た し に は 、 小 さ な 王 子 さ ま の も と の 星 は 小 惑 星B612だ と信 じ る だ け の ち ゃ ん と し た 理 (p-17) ぼ く に は 、 王 子 さ ま が 来 た 星 がB612と [池澤 訳] the asteroid (p.20) [内藤 訳 】 ぼ く は 、 王 子 さ ま の ふ る さ と の 星 は 、 小 惑 星B・612番 由が あ ります 。 of origin was い う小 惑 星 だ と 信 じ る ち ゃ ん と した 理 由 が あ る 。 (p.19) 1藤田訳 】 わ た し は 、 王 子 さ ま が や っ て き た 星 は 、 小 惑 星B六 一 二 だ と思 っ て い る が 、 そ れ に は じ ゅ うぶ ん ま じ め な 理 由 が あ る ん だ 。(p.20) [河野 訳 】 王 子 さ ま が や っ て き た 星 は 、 小 惑 星B612だ る の だ。 ろ う と僕 は 思 う。 た し か な 理 由 が い くつ か あ (p.22) 上 例 の 下線 部 の言 い 回 しは 、原 典 お よび 英 訳 で は 定型 的 な表 現 で あ るが 、これ を そ の ま ま 日本 語 に翻 訳 す る と、か な り硬 直 した表 現 に な ら ざる を得 な い。そ こで どの訳 者 もそ れ な りに 工夫 す る こ とに よ っ て読 み や す さに 配 慮 した 表 現 を使 っ て い る。 と りわ け 内藤 訳 は 、 「… …そ う思 うの に は 、 ち ゃ ん と した わ け が あ りま す 」 と転 換 す る こ とで 、 きわ めて 自然 な表 現 と して い る。 「ち ゃ ん と」 の もつ 口語 的 な 響 き、そ して 「 理 由 」 とい う漢 語 を避 けて 「わ け」 と した と ころ に 内藤 訳 の特 徴 が 見事 に現 れ て い る。5 (5) [原典1 Elles ne 【W訳] They never say [C訳 】 Thev never sav:`..-Does 【T訳] They never say [内藤 訳 】 … … 〈チ ョウの 採 vous disent iamais:《 to `You,`... Does he to m;`... 集 《。..Est-ce qu'Ll collect Does he を す る 人?〉 「蝶 の コ レ ク シ ョ ン を す る 人?」 [倉橋 訳1 he collect butterflies?' butte㎡[ies?' collect 「チ ョ ウ の 標 本 を 集 め て い る?」 [池澤 訳] … … 「チ ョ ウ チ ョ を 採 集 す る 子?」 な ど とは 聞 か な い [河野 訳】 「蝶 never say to you"で あ り 、[C訳 (p.16) 、て ん で き か ず に 、… …(p.21) と か 、 そ ん な ふ う に は け っ し て 言 い ま せ ん 。(p.18) 「… … チ ョ ウ チ ョ を あ つ め た り し て い る の?」 disent (p.21) butterflies?'(pp.21-22) [藤 田訳] ne vous 》 な ど と は 絶 対 に 訊 か な い 。(p.24) … … 原 文 の 下 線 部"E皿es les papi皿ons?》 (pp.20-21) とか い うよ うな こ とは [山崎 訳 】 の コ レ ク シ ョ ン を し て る?」 CO■ectionne 。(p,21) な ん て ぜ っ た い き き や し な い 。(p と い っ た こ と は け っ し て 聞 か ず 、 … …(p jamais"の 英 訳 を 見 る と 、[W訳1[T訳 .21) .23) 】 は と も に 、"They 】 も これ に 近 い 。 これ に 対 し て 日 本 語 訳 は 、 訳 者 間 に お け る 差 9 Le Petit Princeの 邦訳 に お け る誤 訳 とそ の 周辺 一 内藤訳の特徴 一 異 が 大 きい が 、と りわ け 内藤 訳 と他 の 訳 の 違 い は 大 きい 。内藤 は否 定 を伴 う口語 的 な 副詞 「 てん で 」 を用 い て い る の に対 して 、他 の訳 者 の場 合 、 「 絶 対 に 」、 「けっ して 」 とい った 一 般 的 な副 詞 を使 用 して い る。ち な み に 、池 澤 訳 は否 定 を強 め る表 現 を敢 えて 用 いず に 、簡 潔 に訳 出 して い る が 、 これ は池 澤 訳 の特 徴 で もあ る。 3.2音 声 重 視 の 表 記 口語 表 現 独 特 の 語 彙 の 使 用 と 呼 応 す る よ うに 、内 藤 訳 で は 書 き 言 葉 で は 普 通 使 わ れ な い よ うな 表 記 法 が 使 わ れ て い る 場 合 も あ る 。 い わ ゆ る 「視 覚 方 言 」(eye(iialect)と 呼 ばれ る も の で 、 実 際 の 音 声 を 反 映 し た 表 記 法 で あ る 。例 え ば 、英 語 で 、"little"が"leetle"に 、"fe皿ow"が"feller" に な る よ う な も の で あ る が 、 日本 語 で は こ の 種 の 口語 的 変 種 が か な り 自 由 に使 え る 。 こ う した 表 記 法 を 採 用 し た ひ と つ の 理 由 は 、す で に 指 摘 し た よ うに 、内 藤 が 口述 筆 記 の 形 で 翻 訳 し た こ と と 関 係 し て い る も の と 思 わ れ る 。あ た か も 子 ど も に 語 りか け る よ うな 口調 で 翻 訳 を し て い っ た と す れ ば 、 そ れ が こ う し た 表 記 法 に 現 れ て い た と して も 不 思 議 で は な い 。 お そ ら く 内 藤 に と っ て は 、 『星 の 王 子 さ ま 』 は 子 ど も に と っ て の 読 み 物 と い うだ け で は な く 、大 人 が 子 ど も に 読 ん で 聞 か せ る こ と を 想 定 し た 作 品 と 言 え る の か も しれ な い 。 以 下 、 視 覚 方 言 の 例 を2例 取 り上 げ る。 (s> [原 典] Il suffirait de pouvoir aller en France en une minute pour assister au coucher du soleil. (p.29) [W訳] If you from [C訳 】 [T訳1 [内藤 訳 】 could France in one minute, you could go straight into the sunset, right noon.(p.29) If you One fly to could would get to France just have . (P.30) to in a twinkling, travel in one you minute could to watch France a sunset to be able right to now.(p.24) watch the sun で す か ら 、 一 分 間 で 、 フ ラ ン ス に い け さ え し た ら 、 日の 入 りが 、 ち ゃ 一 ん と見 られ る わ け で す 。 (p.32) 槍 橋 訳] だ か ら 一 分 間 で フ ラ ン ス に 行 け れ ば 、 日 没 が 見 ら れ る わ け だ 。(p.35) [山崎 訳] そ の 日 没 に 立 ち 会 う に は 、1分 [池澤 訳] 1分 [藤田訳1 だ か ら 一 分 間 で フ ラ ン ス に 行 く こ と が で き た ら 、 夕 日 を な が め る こ と が で き る 。(p.31) [河野 訳] だ か ら も し 一 分 で フ ラ ン ス ま で 行 け る な ら 、 そ れ で 夕 陽 が 見 ら れ る 。(p.34) 間 で フ ラ ン ス に い け れ ば い い ん で す 。(p.25) 間 で フ ラ ン ス に 行 く こ と が で き れ ば 、 夕 日 が 見 ら れ る 。(p.30) も ち ろん 、 「ち ゃ一 ん と」 に相 当す る表 現 が原 文 で 存在 して い るわ け で は な い か ら、 これ は 内 藤 に よ る工 夫 のひ とつ 見 る こ とが で き る。こ う した 副 詞 的 要 素 を付 加 す る こ とに よっ て 、聞 き 手 で あ る子 ども との距 離 を縮 め る心 理 的 効 果 を狙 っ て い る もの と思 わ れ る0上 例 に 見 る 限 り、内藤 以 外 の訳 で こ うした要 素 を付 加 した も の は 皆無 で あ る。6 10 (7) [原典 】 Le roid'ungestediscret d駸ignasaplan鑼e, lesautresplan鑼es etles騁oiles. (p.41) [W訳] The king made a gesture, which took in his planet, the other planets, and all the stars. the other planets, and all the stars. (p.45) [C訳] With a quiet gesture the king indicated his planet, (p.37) The [T訳 】 stars. king made a sweeping_gesture taking in his own planet, the other planets and the (p.44) [内藤 訳1 王 さ ま は 、 お つ に す ま し て 、 じ ぶ ん の 星 と ほ か の 星 を 、 ず う 一 っ と 指 さ し ま し た 。(p.51) 【 倉橋訳】 王 様 は控 え め な 身振 [山崎 訳1 王 さ ま は 、 さ り げ な い 身 ぶ り で 、 自 分 の 星 、 ほ か の 大 き い 星 や 小 さ い 星 を 指 さ し ま した 。 り で 自 分 の 惑 星 と ほ か の 惑 星 と そ の 他 の 星 を 指 差 し た 。(p.56) (p.38) [池澤 訳1 王 様 は 控 え め な 身 振 り で 自 分 の 惑 星 と 、 そ の 他 の 惑 星 や 恒 星 ぜ ん ぶ を 示 し た 。(p.46) [藤田 訳】 王 さ ま は 手 ぶ りで 、 自 分 の 小 さ な 星 を 示 し 、 そ れ か らす べ て の 小 惑 星 と ほ か の 星 々 を 韮匹 示 し た 。(p.51) 【 河 野 訳】 王 さ ま は さ り げ な い 身 ぶ り で 、 自 分 の 星 も 、 ほ か の 惑 星 も 恒 星 も 、 ぐ る り と ぜ ん ぶ を 丞L ヱ竺 。 (P.54) 原 文 の 下 線 部 分 に 対 す る 日本 語 訳 に 着 目す る と 、 内 藤 訳 で は 、単 に 「 星 を 指 さ し た 」 とす る の で は な く、 「 ず 一 っ と 」 と い っ た 副 詞 的 要 素 を 付 加 し て い る こ と に 注 意 さ れ た い0聞 子 ども が き手であ る 「 指 さ し」 の 動 作 を イ メ ー ジ す る こ と が 容 易 に な る こ と を 狙 っ た 翻 訳 で あ る。 「 指差 し た 」(倉 橋 訳)、 「 指 さ し ま した 」(山 崎 訳)、 「示 した 」(池 澤 訳)、 「 指 し示 し た 」(藤 田 訳)と 照 的 で あ る。 た だ し 、 「ぐ る り と … … 示 し た 」(河 野 訳)に は対 関 し て は 、擬 態 語 を 付 加 して い る 点 で は 内 藤 訳 と 共 通 して い る 。 3.3オ ノマ トペの 使 用 オ ノマ トペ の使 用 も 内藤 訳 を特 徴 づ け る要 素 の ひ とつ で あ る。も と も と 日本 語 は 人 間 の 感性 に 訴 え か け る機 能 性 が高 い言 語 で あ り、擬 音 語 ・擬 態 語 ・擬 情 語 とい っ た 一連 の オ ノマ トペ が豊 富 に存 在 す る。7こ の リソー ス を 『星 の 王 子 さま』の 翻 訳 に際 して最 も効果 的 に活 用 して い る の が 内藤 で あ り、 こ の点 にお い て も他 の訳 者 とは 対 照 的 で あ る。 以 下 は そ の例 で あ る。 (s> [原典 】 Les serpentsboas avalentleurproietoutenti鑽e, sans la m稍her.(p.11) [W訳] Boa constrictors sw allowtheirprey whole,without chewing it. (p.7) [C訳 】 Boa constrictors sw allowtheirprey whole,without chewing. (p.5) [T訳] Boa constrictors swallowtheirprey whole without chewing it...(p.9) 11 Le Petit Princeの [内藤 訳] 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 ー 内藤 訳 の特 徴 上 ウ ワ バ ミ とい う も の は 、 そ の え じ き を か ま ず に 、 ま る ご と 、 ペ ロ リ と の み こ む 。(p,7) [倉橋 訳 】 大 蛇 は 獲 物 を 噛 ま ず に 丸 呑 み に し 、 … … (p.7) [山崎 訳 】 ボ ア は 獲 物 を 噛 ま ず に 丸 ご と呑 み 込 む 。(p.7) [池澤 訳 】 ボ ア は 獲 物 を ぜ ん ぜ ん 噛 ま ず に 丸 呑 み に す る 。(p.7) 1藤田訳 】 ボ ア は か ま ず に え も の を 丸 の み に す る 。(p.6) [河野 訳 】 ボ ア は え も の を か ま ず に 、 ま る ご と飲 み こ み ま す 。 (p,7) 原 文 の 下 線 部 分 の 英 訳 を 見 る と 、 い ず れ も"swallow their pray whole"と 訳 出 され て お り 、 英 語 で は 表 現 の バ リエ ー シ ョ ン が 認 め られ な い 。 一 方 、 日本 語 訳 で は 、 「 丸 呑 み に す る 」、 「丸 ご と呑 み 込 む 」 と い っ た バ リエ ー シ ョ ン が 認 め られ る だ け で は な く 、表 記 法 に お い て も 、平 仮 名 表 記 と 漢 字 表 記 に よ っ て 多 様 性 の 幅 が 一 層 拡 大 し て い る 。 と り わ け 内 藤 訳 の 場 合 、 「ペ ロ リ と 」 の 付 加 に よ っ て 鮮 明 な イ メ ー ジ が 喚 起 され る 点 で 際 立 っ て い る 。 (9) [原典 】 [W訳1 [C訳] [T訳 】 ≪Celui-1瀑st trop vieux. `This one is too old `This one is too old `This one is too old Je veux un mouton qui vive longtemps.≫ (p.16) . I want a sheep that will live a long time.'(p.13) . Iwant a sheep who will live a long time.'(p.11) . Iwant a sheep that wi皿hve for a long t血e.'(p.15) [内藤 訳] 「こ れ 、 ヨ ボ ヨ ボ じ ゃ な い か 。 ぼ く 、 長 生 き す る ヒ ツ ジ が ほ し い ん だ よ 」(p.14) 槍 橋 訳] 「こ の 羊 は 年 を と り す ぎ て い る よ 。 ぼ く は 長 生 き す る 羊 が ほ し い ん だ 」(p.16) 【 山崎 訳】 「こ れ 、 年 を 取 り す ぎ て い る 。 長 く 生 き る ヒ ツ ジ が 欲 し い ん だ 」(p.12) [池澤 訳】 「こ れ は す ご く 年 寄 り の ヒ ツ ジ だ よ 。 ぼ く は こ れ か ら ず っ と 長 生 き す る の が 欲 し い ん だ 」 (p.13) 藤 田訳] 「こ れ じ ゃ 年 よ り す ぎ る 。 ぼ く は 長 生 き す る ヒ ツ ジ が ほ し い ん だ 。」(p.13) 【 河 野 訳] 「年 と り す ぎ て る よ 。 ぼ く 、 長 生 き す る ヒ ツ ジ が ほ し い ん だ 」(p ,15) 原 文 下 線 部 に 対 す る 英 訳 は 、"This one is too old。"と 完 全 に 一 致 して い る 。 一 方 、 日本 語 訳 で は 若 干 の バ リエ ー シ ョ ン が 観 察 され る が 、 と りわ け 内 藤 訳 に お い て は 、 「ヨ ボ ヨ ボ 」 と い っ た オ ノ マ トペ の 使 用 に よ っ て 、 「 年 と りす ぎ て い る 」 様 子 を 感 覚 的 に イ メ ー ジ す る こ とが で き る よ う な 工 夫 が な され て い る 。 (lo> [原 典 】 Le petit prince devina bien qu'elle n'騁ait pas trop modeste, mais elle騁ait si 駑ouvante!(p.33) [W訳] The little prince moving‐and could guess exciting‐she easily enough was!(p.36) 12 that she was not any too modestbut how [C訳] The she [T訳1 The little prince was! little soon guessed that this flower was none too not excessively modest‐but how thrilling (p.29) prince enchantine! had to admit that she was modest but she was so (p.36) [内藤 訳 】 王 子 さ ま は 、 こ の 花 、 あ ん ま り け ん そ ん で は な い な 、 と 、 た し か に 思 い は し ま し た が 、 で も 、 ホ ロ リ とす る ほ ど 美 しい 花 で した 。(p,39) [倉橋 訳] 王子 さま は 、彼 女 の こ とを それ ほ どお し とや か で は な い と思 っ た が 、 で も 目が く らむ ほ ど あ で や か だ っ た 。 (pp.44-45) [山崎 訳】 小 さ な 王 子 さ ま は 、 花 が あ ま り謙 遜 で な い こ と を 見 抜 き ま した 。 し か し、 うっ と り と せ ず に は い ら れ な い 花 だ っ た の で す! [池澤 訳] (p.30) こ の 花 が あ ま り謙 虚 な 性 格 で は な い こ と に 王 子 さ ま は 気 づ い た け れ ど 、そ れ も 無 理 は な い と 思 わ せ る ほ ど 彼 女 は 美 し か っ た!(p.36) [藤 田訳 】 王 子 さ ま は 、 こ の 花 は あ ま りお し とや か じ ゃ な い な 、 と は す ぐ に 気 づ い た け れ ど も 、 な ん と い っ て も 、 か の じ ょ は お ど ろ く ほ ど美 し か っ た ん だ! [河野 訳] (p.39) あ ん ま り控 え 目 じ ゃ な い ん だ な 、 と 王 子 さ ま は 気 が つ い た が 、そ れ に し て も 胸 を 打 た れ る 美 し さ だ っ た!(p.42) 原 文 の"駑ouv ante"(感 動 的 な)に 対 す る 英 訳 を 見 る と 、3訳 で は 、"moving"と"exciting"、[C訳]で は 、"thrihnぎ'、 と も に 工 夫 が 見 られ る 。[W訳 そ し て[T訳1で 】 は 、"enchanting"と い っ た 異 な っ た 形 容 詞 が 選 択 され て い る。 一 方 、 日本 語 訳 で は 、 「目 が く ら む ほ ど あ で や か 」(倉 橋 訳)、 「うっ と り とせ ず に は い ら れ な い 」(山 崎 訳)、 「お ど ろ く ほ ど美 し い 」 構 田 訳)、 「胸 を 打 た れ る 美 し さ」(河 野 訳)と い っ た 具合 に そ れ ぞ れ原 文 の 持 つ ニ ュア ンス を表 現 しよ うと工夫 を 凝 ら し て い る 。 こ こ で と り わ け 対 照 的 な の が 、 内 藤 訳 と 池 澤 訳 で あ る 。 池 澤 訳 で は 、 「こ の 花 が あ ま り謙 虚 な 性 格 で は な い こ と 」 に 関 連 づ け る こ と で 、 「そ れ も 無 理 は な い と思 わ せ る ほ ど彼 女 は 美 し か っ た 」 とす る 。 か な り理 知 的 な 訳 出 法 で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 内 藤 訳 は 、 「ホ ロ リ とす る ほ ど美 し い 花 で し た 」 と オ ノ マ トペ を 含 ん だ 表 現 を 巧 み に 用 い る こ と に よ り、読 者 の 感 性 に 訴 え る 方 法 を と っ て い る。8ど ち ら が 成 功 し て い る と は 一 概 に 断 定 で き な い が 、内 藤 訳 の 特 徴 が 浮 き 彫 り に され る用 例 で あ る こ と は 確 か で あ る 。 ま た こ の 他 に も 、"Les flueurs sont si contradictoires!"(p.35)に っ た ら 、 ほ ん と に と ん ち ん か ん な ん だ か ら。」(内 藤 訳)の 対 し て 、 「花 の す る こ と よ う に 、 も と も と オ ノ マ トペ に 起 源 を も つ 表 現 を 用 い て い る と こ ろ は 、 「花 の す る こ とは 矛 盾 だ ら け だ 。」(倉 橋 訳)、 「花 と い う の は と て も矛 盾 し た 性 格 だ か ら ね!」(池 (河 野 訳)と 澤 訳)、 「花 っ て 、 ほ ん と に 矛 盾 し て い る ん だ ね!」 対 照 的 で あ る。 子 ど も に とっ て は難 しい 「 矛 盾 」 と い う語 を 避 け つ つ 、 感 性 に 訴 え る 表 現 を 効 果 的 に 使 っ て い る と こ ろ に 内 藤 訳 の 特 徴 が 認 め られ る 。 13 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 内藤 訳 の特 徴 一 3.4ロ 語 的 慣 用 句 の 使 用 内 藤 訳 を 特 徴 づ け る も の と して 、慣 用 句 が 頻 繁 に 使 わ れ て い る こ と も 指 摘 して お か な け れ ば な ら な い 。 しか も か な り 口語 的 な 慣 用 句 が 使 わ れ て い る た め 、も と も と 日本 語 で 書 か れ た 作 品 で は な い か と思 わ せ る 箇 所 も あ る 。 慣 用 句 を 見 る 限 りで は 、 内 藤 訳 は 目標 言 語 志 向 性 (target-language orientation)が 性(source-language 高 い の に 対 して 、そ れ 以 外 の 翻 訳 に つ い て は 逆 に 起 点 言 語 志 向 orientation)が 高 い と言 え る。9こ の 点 で も、 内藤 訳 は他 の訳 とは 一 線 を 画 し た 翻 訳 手 法 に 基 づ い て い る 。 こ こ で は 、内 藤 訳 に お い て 使 わ れ て い る 日 本 語 の 慣 用 表 現 の 中 か ら 、3例 を 抽 出 し 、そ れ ら を 他 の 訳 文 と比 較 す る こ と に よ っ て 、 内 藤 訳 の 特 性 を 考 察 す る 。 ま ず 、 次 の 例 を 参 照 され た い 。 (il) [原典 】 Quand vous l'essentiel. [W訳 】 When you When 惣 [T訳] parlez d'un nouvel ami, elles ne vous questionnent jamais sur (p.21) tell questions [C訳] leur about you them that essential describe a you have made a new friend, they never ask you any matters.(p.20) new friend to them, they never ask you about the important …。 (P.16) When you talk to them about a new friend, they never ask about essential matters. (p.21) [内藤 訳 】 新 し くで きた 友 達 の 話 をす る と き 、 お とな の 人 は、 か ん じん か な めの こ とは き き ま せ ん。 (p.21) [倉橋 訳 】 新 し く で き た 友 人 の こ と を 話 す と き 、 大 人 は ほ ん と に 大 切 な こ と は 訊 か な い 。(p.24) [山崎 訳1 新 し い 友 だ ち の こ と を 話 し て あ げ て も 、 彼 ら は 肝 心 な こ とは け っ して た ず ね ま せ ん 。 (p.17-18) [池澤 訳] 新 し い 友 だ ち が で き た よ と 言 っ て も 、 大 人 は 大 事 な こ と は 何 も 聞 か な い 。(p.21) [藤田訳} た とえ ば あ た ら しい 友 だ ち の 話 を す る に して も、お とな た ち は け っ して い ち ば ん だ い じな -こ と を き き は し な い 。 [河野 訳 】 (pp.20-21) 新 しい 友 だ ちの こ とを 話 して も、 お とな は 、 い ちば ん た い せ つ な こ と は な い も聞 か な い 。 (p.23) 原 文 の"1'essentiel"に 対 す る 日本 語 訳 を 見 る と 、 こ こ で も 内 藤 訳 が そ の 特 異 性 に お い て 際 立 っ て い る と 言 え る 。 「ほ ん と に 大 切 な こ と」(倉 橋 訳)、 「肝 心 な こ と 」(山 崎 訳) 、 「大 事 な こ と 」 (池 澤 訳)、 「い ち ば ん だ い じ な こ と」(藤 田 訳)、 「い ち ば ん た い せ つ な こ と 」(河 野 訳)は すべ て 原 文 の 基 本 的 意 味 を 伝 え て は い る が 、 も う 一 歩 く 踏 み 込 ん だ 訳 〉 と は な っ て い な い の に 対 して 、 「か ん じん か な め の こ と 」(内 藤 訳)は 、 慣 用 句 を 用 い る こ と に よ り、 重 要 性 を 強 調 す る こ と に 成 功 して い る 。 14 (12) ..,,car 原 典] brusquement le petit prince m'interrogea, comme pris d'un doute grave:… (p.23) [W訳 For 】 the For, [C訳] little prince abruptly‐as ーfor suddenly [T訳1 【 内 藤 訳] askedme abruptly‐as if seize d by the grave little p血ce if seized doubts‐the questioned me by a grave little prince as if seized by doubt... demande (p.23) d...(p.18) a grave doubt:_ (p.24) とい うの は 、王 子 さ ま が 、ひ ど く心 配 そ うな顔 を して 、や ぶ か ら棒 に 、 こ う、ぼ く に きい た か ら で す 。(p.25) [倉橋 訳] と い う の も 王 子 さ ま が ひ ど い 不 安 に 襲 わ れ て 、 塞 然 こ う 訊 い た の だ 。(p.28) [山崎 訳] 小 さな 王 子 さま が 、 重 大 な質 問 に と ら え られ た よ うに 、雑 わ た しに た ず ね た の で す 。 (p.20) [池澤 訳1 王 子 さま は 急 に 心 配 にな った み た い に 、 ぼ くに唐 突 に 聞 い た の だ [藤田訳] 王 子 さ ま は な に か しん こ く な 疑 問 を 感 じ た ら し く 、 出 しぬ け に わ た し に こ う た ず ね た 。 (p.23) (p.24) 【 河 野 訳】 不 意 に 王 子 さ ま が 、 心 配 で た ま ら な く な っ た よ う に 、 こ う 聞 い て き た の だ 。(p,27) 原 文 の"bmsquement"の 崎 訳)で 日本 語 訳 に 着 目す る 。 も っ と も 典 型 的 な 訳 は 、 「突 然 」(倉 橋 訳 、 山 あ ろ う。 「出 しぬ け に 」(藤 田訳)や 「不 意 に 」(河 野 訳)と す る の も定 型 的 な 訳 の 部 類 に 入 る が 、 慣 用 表 現 の 「や ぶ か ら棒 に 」 を 使 っ た 内 藤 訳 は こ こ で も 傑 出 し て い る 。 (13) [原典] ...et l'eau瀉oire [W訳] And I had [C訳 】 -and 【T訳】 .my the qui s'駱uisait me so little drinking-water low drinking reserves water craindre left that of drinking was faisait water running out le pire.(p.30) I had made fast and to fear me the fear I could the only worst.(p.30) worst,(p.25) fear the worst.(p.31) [内藤 訳】 そ れ に 、 飲 み 水 も 底 を つ い て い て 、 手 も 足 も で な い こ と に な り そ う だ っ た の で す 。(p.33) [倉橋 訳] … …飲 料 水 も底 をつ い て最 悪 の事 態 を 思 わせ た [山崎 訳] … … 尽 き か け て い た 飲 み 水 が 最 悪 の 事 態 を 恐 れ させ て い た か ら で す [池澤 訳] 飲 み 水 は 残 り少 な か っ た し 、 最 悪 の 事 態 も 覚 悟 1藤 田訳 】 そ れ に 、 の み 水 も も う な く な り か け て い た 。 わ た し は 、 さ い 悪 の じ た い も考 え て い た 。 。(p,38) 。(p,26) し な け れ ば な ら な い 。(p.31) (p.32) [河野 訳] 原 文 の"me … … 飲 み 水 も な くな りか け て い て faisait craindre le pire"は 、 最 悪 の 事 態 に お び え て も い た 。(pp.35-36) 、 【C訳 】 の"made me fear the worst"と 造 的 対 応 を 見 せ る 。 一 方 日本 語 訳 で は 、 倉 橋 訳 と 山 崎 訳 が"faisait"の 最 も近 い 構 使 役 性 を維 持 す る形 で 訳 出 し て い る の に 対 し て 、他 の 訳 者 は 他 動 性 を 弱 め る 方 向 で 訳 出 して い る 。こ の な か に あ っ て 、「手 15 Le Petlt Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 内藤 訳 の 特 徴 一 も 足 も で な い こ と に な り そ うだ っ た 」(内 藤 訳)は 、 他 の 訳 文 と 比 較 して 際 立 ち が 大 き い 。 こ の 他 に も 口語 的 な 慣 用 句 を 用 い た 例 と し て 、 原 文 で"_et de tr鑚 pr鑚 cette brindi皿e qui ne ressemblait ろ を 、 「そ して そ の 芽 は 、そ こ ら の 芽 と は as aux le petit prince autres あ る とこ 似 て も似 つ か な い 芽 な の で 、王 子 さ ま は 、そ の 芽 を 、 し じ ゅ う、 つ き っ き りで 見 ま も っ て い ま した 。」(内 藤 訳)と し て い る の が 、 「似 て い な い 」(倉 橋 訳)、 「ち が う」(山 崎 訳 、藤 田 訳 、 河 野 訳)、 「ま る で 違 う形 の 」(池 澤 訳)と 照 的 で あ る 。 ま た 、 原 文 の"Elle avait surveill brindilles ."(p.33)と choisissait avec soin ses couleurs な ろ う か と 、 念 に は 念 を い れ て い る の で す 。」(内 藤 訳)と い っ た訳 出 法 とは 対 ."(p.33)を 、 「ど ん な 色 に して い る の も 、 「 慎 重 に 」(倉 橋 訳)、 「念 入 り に 」(山 崎 訳 ・河 野 訳) 、 「よ く考 え て 」(池 澤 訳)、 「に ゅ うね ん に 」(藤 田 訳)と 比較 し て み る と、 慣 用 句 の使 用 が 際立 っ て い る こ とが わ か る。 4.イ メ-ジ 喚起 力 に富 ん だ表 現 内藤 訳 の 特徴 の ひ とつ は 、感 性 に 訴 え る よ うな 表 現 が 多 用 され て い る こ とで あ る。この 点 に つ い て は 、オ ノマ トペ の使 用 に 関連 してす で に指 摘 した と ころ で あ るが 、こ こで は原 文 に は存 在 し な い表 現 を付 加 す る こ とに よっ て イ メ ー ジ喚 起 力 を 高 め て い る用 例 を3つ 取 り上 げ る。ま ず 、以 下 の例 を参 照 され た い。 (14) [原典] ...alors elles seront convaincues, et elles vous laisseront tranquille avec leurs questions . (p.22) [W訳] .then they would [C訳] .then they wi皿be [T訳 】 .then they will [内藤 訳] … … とい え ば be convinced, convinced be convinced and , and and leave wi皿spare leave you you in you alone peace all from with their their questions .(p.21) questions,(p.17) their questions . (p.22) 、お とな の人 は 、 〈 な る ほ ど 〉 とい っ た顔 を して 、 それ き り、 な に もき か な くな る の です 。 (p.22) [倉橋 訳] … … とい え ば [山崎 訳] … … と言 え ば [池澤 訳] … … と言 えば 大 人 は拠 1藤 田訳] … … とい え ば [河野 訳] … … と言 っ た な ら 、 大 人 は 納 得 し て 、 そ れ 以 上 何 も訊 か な い だ ろ う。(p ,26) 、 彼 らも納 得 して 、 あ な た が た を質 問ぜ め に しな くな る で し ょ う 。(p.18) 、 そ れ 以 上 よ け い な こ と は 聞 か な い 。(p.21) 、 お と な た ち は な っ と く して 、 う る さ く 質 問 した り しな く な る 。(p 、蟹 .22) 」∠ ⊆、 あ と は あ れ こ れ 聞 か ず に ほ っ て お い て く れ る だ ろ う。 (p.24) 原 文 の"seront convaincues"の る も の の 、 共 通 し て"be には 英 訳 に 注 目 す る と 、 助 動 詞w0uldとw皿 convinced"と の選 択 の違 い は あ い う形 が 用 い ら れ て い る 。 日 本 語 訳 で も 同 様 に 、 基 本 的 「 納 得 す る」 と い う動 詞 を そ の 訳 語 に 当 て て い る が 、 た だ 内 藤 訳 の み が 、 「〈 な る ほ ど 〉 と い っ た顔 を して」 とあ り、 そ の 特 異性 を発 揮 して い る。 「 納 得 す る 」 の は そ も そ も 心 理 的 ・認 知 16 的行 為 で あ るか ら、第 三 者 が 直 接 感 知 で き る こ とで は ない 。ま してや 子 ど もの 読者 を想 定 す る と、 そ の よ うな 動 詞 を用 い る よ りも 、具体 的 に納 得 した とき の顔 の 表 情 を描 写 す る ほ うが 理 解 しや す くな る、 とい う配 慮 が 働 い た の か も しれ な い。 (15) [原典] Car ie n'aime pas Qu'on lisemon livre瀝a l馮鑽e.(p.22) [W訳] For l do not want [C訳 】 You see, I do not want [T訳] For l do [内 藤 訳] not anyone want to read my my book carelessly.ip.22) m story to be taken book to be read (p.17) lightly. carelessly. gyp.23) ね と い うの は 、 ぼ く は 、 こ の 本 を 、 寝 そ べ っ た りな ん か して 、 読 ん で も らい た く な い か ら で 二 重 二。 (p.23) [倉橋 訳1 実 の と こ ろ 、 私 は こ の 本 を 軽 く 見 られ た く な い 。(p.26) [山崎 訳 】 わ た し と し て は 、 こ の 本 を 軽 い 気 持 ち で 読 ん で も ら い た く は あ りま せ ん 。(p.18) [池澤 訳 】 ぼ くは この 本 を い い か げ ん に 読 ん で ほ し くな い。(p.22) [藤田訳] で も、 わ た しは 、 わ た しの本 を軽 い気 もち で 読 ん で は も らい た くな い ん だ 。(p,22) 【 河 野 訳1 と い う の も 、 僕 は 、 こ の 本 を 軽 々 し く 読 ま れ た く は な い か ら だ 。(p.25) 著 者 サ ン=テ グ ジ ュ ペ リ は 、『星 の 王 子 さ ま 』 を い い か げ ん に 読 ん で も らい た く は な い 、 と い っ た 意 味 合 い で こ の 文 を 書 い た で あ ろ うが 、 こ の 意 図 を 素 直 に 表 現 す る な ら ば 、 「軽 い 気 持 ち で 読 ん で も ら い た く な い 」(cf山 崎 訳 ・藤 田 訳 ・河 野 訳)と す れ ば十 分 で あ る。 しか し、 内藤 訳 の 場 合 、 さ ら に も う一 歩 踏 み 込 み 、 「寝 そ べ っ た り な ん か して 、 読 ん で も ら い た く な い 」 と あ る 。 こ う し た 内 藤 訳 に つ い て は 、簡 潔 で 的 確 な 訳 を 理 想 とす る 翻 訳 者 に と っ て は 、受 け入 れ が た い 翻 訳 の ス タ ン ス か も し れ な い が 、確 か に イ メ ー ジ 喚 起 力 に 富 ん だ 表 現 で あ る こ と は 事 実 と して 認 め ざ る を え な い だ ろ う。 (16) [原典 】 Alors [W訳] So je t穰onne I fumble comme along ci et comme軋, as best I tant bien can, now good, this and that, as best and to the que mal.(p.23) now bad, and I hope generally fair-to-middling.(p.22) [C訳] And so I fumble [T訳1 So [内藤 訳] そ う な る と 、 ぼ く は 、 闇 の な か を さ ぐ る よ う に して 、 ど うに か こ うに か 、 そ れ ら し い も の I eprsist by along, trial and waver error best of my I can.(p.18) ability.(p.23) に す る ほ か は あ り ま せ ん 。(p.24) [倉橋 訳1 私 は で き る 限 り あ れ こ れ や っ て み る し か な い 。(p.27) [山崎 訳] で す か ら 、 あ あ だ こ う だ と 、 ど う に か こ う に か 、 手 さ ぐ り で 描 い て い る の で す 。(p,19) 【 池 澤 訳】 だ か ら ぼ く は 手 探 り で い ろ い ろ や っ て み る こ と に し た 。(p.23) 17 Lv Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 内藤 訳 の特 徴 一 1藤 田 訳 】 そ うや っ て 、 あ れ や これ や た め し な が ら 、 ど うに か こ うに か 描 い て み た 。(p。23) [河野 訳 】 こ ん な ふ う 、 あ ん な ふ う と 、 ど うに か こ うに か や っ て み る。(p.26) こ こ で 、"t穰onner"(原 文 で は"tatonne")は 「 手 探 りす る 、 模 索 す る 、 試 行 錯 誤 す る 」 と い っ た 意 味 合 い の 動 詞 で あ る が 、 英 訳 で は これ を"fumble along"([W訳 】【C訳 】)と し た の は 、 い か にも 「 手 探 り」 の 状 態 が 含 意 さ れ て お り、 適 訳 で あ る 。 前 後 の 文 脈 を 考 慮 す る と 、 日本 語 訳 に お い て も概 ね そ の よ うな 含 意 が 訳 出 さ れ て い る と 思 わ れ る が 、 「闇 の な か を さ ぐ る よ うに して 」 と い う と こ ろ ま で 踏 み 込 ん だ 内 藤 訳 と 比 較 す る と、若 干 色 あ せ て 見 え て く る 。内 藤 訳 の イ メ ー ジ 喚 起 力 が 相 対 的 に 浮 き彫 り に さ れ て い る 例 で あ る 。 5.原 文 に捉 わ れ ない 訳 出 法 これ まで の 考 察 か らも推 測 で き る よ うに 、内藤 訳 を特徴 づ け る大 き な要 因 と して 、原 文 の 表 面 的 な 構 造 に捉 わ れ ない 訳 出法 が あ る。 こ こで は、補 足 説 明 の多 用 、柔 軟 な発 想 、構 造 的 な転 換 を 伴 う訳 出の 観 点 か ら、 こ の 問題 を考 え る。 5.1補 足 説 明の 多 用 内藤 訳 は 、基 本 的 に は子 ども を そ の読 者 と して想 定 して い る と思 われ る こ とか ら、原 文 をで き るだ け 噛み 砕 い て 、具 体 的 に訳 出 しよ う とす る翻 訳 姿 勢 が 見 られ る。そ の た めか 、 も とも と原 文 に は な い要 素 を付 加 す る こ とに よ って 、理 解 を容 易 な もの とす る工 夫 が 随 所 に 見 られ る。これ は 前 節 で 取 り扱 っ た イ メー ジ喚 起 力 と も密 接 に 関 係 す るが 、どの よ うな要 素 が付 加 され て い るの か とい う観 点 か らい くつ か の 具 体 例 を取 り上 げ て 考 察 す る。 (17) 原 典] J'ai donc 【W訳 】 So [C訳 】 Ihad [T訳] So 【 内藤 訳】 そ こ で 、 ぼ く は 、 し か た な し に 、べ つ に 職 then d珣hoisir I chose to choose I had un autre another et j'ai appris瀾iloter profession, and career, then, a different to choose m騁ier anotherjob and learned to pilot so I learned I learnt to pilot h0w des avions.(p.12) aeroplanes.(p.9) to且y aeroplanes. aemplanes. (p.7) (p.11) を え ら ん で 、飛 行 機 の 操 縦 を お ぼ えま した 。 (p.9) [倉橋 訳] そ こで 私 は絵 描 き 以 外 の職 業 を選 ぶ こ と に して 、飛 行 機 の操 縦 を覚 え た。 (p.9) 仙 崎 訳] こん な わ け で 、わ た しは別 の仕 事 を え らば な けれ ば な りま せ ん で した 。 そ こで 飛 行機 の 操 縦 を覚 えま した 。(p.8) 【 池 澤 訳 】 ぼ く は別 の 仕 事 を選 ぶ こ とに して 、飛 行 機 のパ イ ロ ッ トに な っ た。(p。8) [藤田訳 】 そ んな わ け で 、わ た し はほ か の 仕 事 を さが さ な けれ ば な らな く な り、飛 行 機 の そ う じゅ う を 教 わ っ た 。(p.8) 18 【 河 野 訳] こ う し て 、 ほ か の 職 業 を選 ば な く て は な らな くな っ た 僕 は 、や が て飛 行 機 の 操 縦 を 習 っ た 。(P.9) 絵 描 き に な る 道 を 諦 め ざ る を 得 な か っ た 結 果 と して 、別 の 職 業 を 選 ば な け れ ば な ら な い こ と に な っ た 、 と い っ た 意 味 合 い を 念 頭 に 置 い て 下 線 部 分 の 英 訳 に 着 目す る と 、[C訳 】[T訳1で had to choose"と 的 確 に 訳 出 さ れ て い る 。 一 方 、[W訳 は 、"I 】 で は 単 に 別 の 職 業 を 選 択 した こ と だ け が 淡 々 と語 られ て い る に 留 ま る 。日本 語 訳 で は 、山 崎 訳 ・藤 田 訳 ・河 野 訳 は[C訳][T訳1に 倉 橋 訳 ・池 澤 訳 は[W訳 近 く、 】 に 近 い 。 さ て 、 こ こで も 内 藤 訳 は 独 特 で あ る 。 「職 業 を え ら ん で 」 と 軽 く 訳 出 し て い る と こ ろ は[W訳 に よ っ て 、 原 文 の"」'ai donc 】 に 近 い よ うで あ る が 、実 は 「しか た な し に 」 を 付 加 す る こ と d珣hoisir"の 意 味 合 い を 的 確 に汲 ん で い る こ とが わ か る。 (18) 【 原 典】 Le 【W訳] The little prince never let go [C訳 】 The little prince never gave 【T訳1 The little prince never let go of a question [内藤 訳1 王 子 さ ま は 、 い ち ど 、 な に か き き だ す と 、 あ い て が 返 事 す る ま で あ き ら め ま せ ん 。(p.34) [倉橋 訳 】 王 子 さ ま は 一 度 訊 き は じ め る と 、 け っ し て 諦 め な い 。(p.38) 【山崎 訳] 小 さ な 王 子 さ ま は 、 い ち ど 質 問 し た ら け っ し て そ の 質 問 を あ き ら め ま せ ん で し た 。(p.26) [池澤 訳] 王 子 さ ま は1度 petit prince ne renon軋it jamais炒ne question, of a question, up on once a question he once once he une fois qu'il l'avait had he had asked had it. it. (p.30) (p.31) askedit. raised pos馥. (p.25) (p.31) 口 に し た 質 問 は 答 え が 得 ら れ る ま で 決 し て あ き ら め な か っ た 。(p.31) 1藤田訳 】 王 子 さ ま は い ち ど質 問 を は じ め た ら、 け っ して と ち ゅ うで あ き ら め る こ と は な か っ た。 (p.33) [河野 訳1 小 さ な 王 子 さ ま は 、 一 度 質 問 し た ら 、 け っ し て あ き ら め な い 。(p。36) 原 典 の 下 線 部 分 の 英 訳 に 着 目す る と、[W訳1と[T訳1は"never 訳 】 は"never gave up on a question"と let go of a question"、[C あ り 、 い ず れ も 大 同 小 異 で あ る 。 日本 語 訳 で は 、 付 加 的 要 素 を 伴 う内 藤 訳 と 山 崎 訳 を 除 く と 、他 は 「あ き ら め な か っ た 」 と い う点 の み が 言 語 化 され て い る 点 で 共 通 し て い る 。 も ち ろ ん こ れ で も 十 分 に 意 味 を 伝 え る こ と が で き る が 、 「あ い て が 返 事 す る ま で あ き ら め ま せ ん 」(内 藤 訳)、 「答 え が 得 られ る ま で 決 し て あ き ら め な か っ た 」(池 澤 訳) の よ うに 説 明 を 補 う こ と に よ っ て よ り 明 確 に な る 。 (19) [原 典 】 Ilavaitun brand aird'autorit (p.43) [W訳] He had a magnifienctairofauthority.(p.49) [C訳 】 [T訳 】 He had a wonderfulairof authority. (p.39) He had a magnificentairofauthority.(p.47) 19 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 と そ の 周 辺-内 藤 訳の特徴 上 [内藤 訳 】 王 さま は 、 どん な こ と も じぶ ん の 手 の うち に あ りそ うに 、 い ば っ た 顔 を して い ま した 。 (p.54) [倉橋 訳 】 王 様 は 大 い に 威 張 っ て い た 。 (p.61) 【 山崎 訳 】 彼 は 威 厳 あ る 偉 そ う な 態 度 を 見 せ て い ま し た 。(p.40) [池澤 訳l そ の 声 に は 威 厳 が あ っ た 。(p.50) l藤田訳 】 王 子 さ ま は 、 た い そ う け ん い を も っ て い る よ う な そ ぶ り だ っ た 。(p.55) [河野 訳 】 威 厳 あ る 堂 々 と した 様 子 だ っ た 。(p.59) これ ま で に も指 摘 して きた こ とで あ るが 、内藤 訳 に は く踏 み 込 ん だ 訳 〉が 散 見 され るが 、これ もそ の ひ とつ で あ る。原 文 の意 味 は 、英 訳 か らも うか が え る よ うに、要 は い か に も権 威 を もっ て い る か の よ うな雰 囲 気 を 漂 わ せ て い た 、 とい うこ とで あ るが 、内 藤 訳 のみ が 、 「どん な こ とも じ ぶ ん の 手 の うち に あ りそ うに、 い ば った 顔 を して い ま した 」(下 線 部 分 が 付 加 的 要 素)の よ うに 補 足 的 な修 飾 語句 を伴 っ て い る。こ こま で踏 み 込 む 必然 性 が あ るの か ど うか 、特 に若 干 の疑 問 が 残 るが 、単 に 「 い ば っ た顔 を して い ま した」 とす る こ とで は 、十 分 に意 味 が伝 わ らな い とい う判 断 が あ っ た もの と思 わ れ る。 5.2柔 軟 な 発想 これ ま で の 考 察 か ら も明 らか な よ うに 、内藤 訳 の特 徴 は原 文 の表 面 的 な統 語 構 造 に と らわ れ る こ とな く、そ の 奥 に あ る意 味 か ら出 発 して 日本 語 を紡 ぎだ して い る点 に あ る と言 え る。こ こで は 、 これ ま で の指 摘 と多 少 の 重複 が あ る こ と を恐 れ ず に、内藤 訳 を可 能 に した柔 軟 な発 想 を示 す 用 例 を取 り上 げ て考 察 を進 め る。 (20) [原典] J'aisaut駸ur mes pieds comme sij'avais騁馭rapp駱ar la foudre.(pp.13-14) [W訳 】 Ijumpedto [C訳] Ileapt [T訳] Ijumped 【 内藤 訳] ぼ く は 、 び っ く りぎ ょ うて ん し て 、 と び あ が りま し た 。 【 倉橋 訳] 私 は 雷 に で も 打 た れ た よ う に 飛 び 起 き た 。(p。12) [山崎 訳] わ た し は 雷 に 撃 た れ た み た い に 飛 び 上 が り ま し た 。(p.10) [池澤 訳 】 僕 は 雷 が 落 ち た み た い に 驚 い て 、 す ぐ に 立 ち 上 が っ た 。(p,10) [藤 田訳] わ た し は と つ ぜ ん 雷 に う た れ た よ う に 、 飛 び お き た 。(p.10) [河野訳 】 僕 は my to my up, 雷 feet, completely feet, completely completely thunderstruck.(p.10) thunderstruck.(p.8) thunderstruck.(p.12) (p.12) に で も 打 た れ た よ う に 、 跳 び あ が っ た 。(p,11) 原 典 の 下 線 部 の 英 訳 を 見 る と 、い ず れ も"completely 日本 語 訳 の 「雷 に で も う た れ た よ うに 」(倉 橋 訳)が 20 thunderstruck"と あ り全 く 同 形 で あ る 。 典 型 的 な 訳 で 、 山 崎 訳 ・藤 田 訳 ・河 野 訳 も 基 本 的 には 同 様 の 方 向性 で 訳 出 して い る。 池澤 訳 で は 「 雷 が 落 ち た み た い に驚 い て 」 と あ るが 、 実 際 に雷 に打 た れ た ら とび あが る ど ころ で は な い こ とを考 慮 した の か 、冷 静 な判 断 に基 づ く訳 で あ る。 一 方 、内藤 訳 は 、原 文 の字 句 か らは ま っ た く離 れ 、柔 軟 な発 想 の も とに 「 び っ く りぎ ょ う て ん して 」 と展 開 して い る。 これ は 、や は り読 者 と して子 ども を想 定 して い る こ とが 関係 して い るの か も しれ な い し、あ るい は 、で き るだ け話 し言 葉 に近 い 表 現 を使 うとい う一 貫 した 方 針 に よ る も のか も しれ ない 。 (21) [原典] ...elles [W訳] They would [C訳 】 The grown-ups will [T訳 】 ...they will shrugtheir [内藤 訳1 hausseront les騫aules shrug their merely et vous shoulders, and shrug their shoulders and traiteront treat d'enfant! you like shoulders, will treat a child.(p.21) and you (p.22) treat as ifyou you like were a child.(p.17) a child.(p.22) ・ な ど とい っ た ら、 お とな た ち は 、 あ きれ た顔 を して 、 〈ふ ん 、 きみ は子 ど もだ な 〉 と い う で し ょ う。(p.22) [倉橋 訳】 [山崎 訳] … … な ど と い っ た り した ら 、大 人 は 肩 を す ぼ め て 、ま る で 子 供 だ な 、と い う だ ろ う。(p.26) … … と 言 っ た と し て も 、 彼 ら は 肩 を す く め 、 あ な た が た を や っ ぱ り子 ど も だ と 言 う に ち が い あ り ま せ ん!(p.18) [池澤 訳】 [藤 田訳] ・と 言 っ て も 、 大 人 に は そ れ が ど ん な 家 か 想 像 で き な い 。(p.21) ・ ・ な ん て 、 お と な た ち に い っ て も 、 か た を す く め て 、 子 ど も あ つ か い され る だ け さ! (p.22) [河野 訳] … … と 言 っ て も 、 お と な た ち は 肩 を す く め て 、 あ な た を 子 ど も あ つ か い す る だ け だ ろ う! (p.24) 原 文 の 下 線 部 の 英 訳 を 見 る と 、 い ず れ も"would[wi田shrug their shoulders"と 訳 出 され て い る 。 日本 語 訳 に お い て も 、 内 藤 訳 と 池 澤 訳 を 除 い て 、「肩 を す ぼ め て 」(倉 橋 訳)、 「肩 を す く め 」 (山 崎 訳)、 「か た を す く め て 」(藤 田訳)、 「肩 を す く め て 」(河 野 訳)と 実 で あ る 。 し か し 、 そ も そ も 「肩 を す く め る 」 と"hausser shoulders")と い っ た 具 合 で 、原 文 に忠 les 6paules"(あ る い は"shrug で は 、 必 ず し も 意 味 が 同 じ と言 うわ け で は な い 。 小 林(1992:619)は で の 説 明 に 基 づ き 、 日本 語 の one's 『大 字 林 』 「 肩 を す く め る 」 は 、 「寒 く て 肩 を ち じ め る 」、 ま た は 「 肩 身 が狭 く 感 じ られ て 小 さ く な る 」 を 表 す と して い る。 最 近 で は 、 欧 米 文 化 の 影 響 でshmggingを する日 本 人 も 出 現 して い る が 、ま だ 日本 文 化 に 十 分 に 浸 透 して い る とは 言 い が た い 。 とす る と 、上 例 の 場 合 、 一 工 夫 が 必 要 に な る わ け で 、 池 澤 は 全 体 を 意 訳 す る こ と で 、 敢 え て 「肩 を す く め る 」 と い っ た 直 訳 を 回 避 し て い る 。 一 方 、内 藤 は 原 文 の 慣 用 表 現 に と らわ れ る こ と な く 、 「あ き れ た 顔 で 」 と訳 出 して い る 。 内 藤 は 自 ら の 翻 訳 作 法 を 「印 象 訳 」 と称 して い た よ うだ が 、原 文 が 一 読 者 と し て の 内 藤 に 与 え た 印 象 を し っ か り と受 け 止 め 、そ こ か ら新 た に 日本 語 の 表 現 を 探 り 出 す 姿 勢 が こ こ に も 現 れ て い る の で は な い だ ろ うか 。 21 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の 周辺 一 内藤 訳 の 特 徴 一 (22) 原 典】 Ainsi l'avait-elle bien vitetourment駱ar sa vanit騏n peu ombrageuse.(p.34) [W訳] So, too, she began very quickly to torment him with her vanitywhich was, if the truthbe known, a little difficult to dealwith. (p.36) [C訳1 From the beginning, then, she began to torment him with her somewhat touchy vanity. (p.29) [T訳 】 Thus it was that she began from the outset to torment him with her demanding vanity. (p.36) 【 内藤 訳】 花 は 、 咲 い た か と思 う とす ぐ 、 じぶ ん の 美 し さ を は な に か け て 、 王 子 さ ま を 苦 し め は じ め ま し た 。 (p.40) [倉橋 訳 】 花 は や が て そ の 厄 介 な 虚 栄 心 で 王 子 さ ま を 悩 ま す こ と に な っ た 。(p.45) 【山崎 訳1 こ う し て 花 は 、ち ょ っ と気 む ず か し い そ の 高 慢 さ か ら 、彼 を 苦 し め る こ と に な っ た の で す 。 (p.30) [池澤 訳 】 こ う し て す ぐ に 彼 女 は 猜 疑 心 と虚 栄 で 彼 を 悩 ま せ る よ うに な っ た 。(p.37) [藤田訳 】 こ う して 、 ち ょっ と気 む ず か し くて うぬ ぼれ や の 花 は 、 じき に 王 子 さ ま の な や み の 種 に な った ん だ。 [河野 訳1 (pp.39-40) こ う し て 花 は す ぐ に 、や や 気 む ず か し い 見 栄 を は っ て は 、 王 子 さ ま を 困 らせ る よ う に な っ た。 (pp.42-43) 原 文 の 下 線 部 分 は 意 味 解 釈 に お い て 少 々 厄 介 な 要 素 を 含 ん で い る 。"vanit peu ombrageuse"(少 では し気 む ず か し い 、少 し猜 疑 心 の 強 い)が (虚 栄 心)を"un 後 置 修 飾 し て い る の だ が 、 日本 語 「気 む ず か し い 虚 栄 心 」 と し て も 「 猜 疑 心 の 強 い 虚 栄 心 」 と し て も 落 ち 着 き が 悪 い 。 「ち ょ っ と 気 む ず か しい そ の 高 慢 さ か ら 」(山 崎 訳)、 「や や 気 む ず か し い 見 栄 を は っ て 」(河 野 訳)も 同 様 で あ る 。 一 方 、 「猜 疑 心 と虚 栄 で 」(池 澤 訳)、 「ち ょ っ と 気 む ず か し く て うぬ ぼ れ や の 」(藤 田 訳)は 、修 飾 関 係 を 並 列 構 造 に 分 解 す る こ と で こ の 問 題 を 回 避 し て い る 。 「そ の 厄 介 な 虚 栄 心 で 」 (倉 橋 訳)は 、「 厄 介 な 」 と訳 出 す る こ と で 曖 昧 に ぼ か し て い る が 、 こ れ で は 十 分 に 原 文 の 意 味 を 伝 え 切 れ て い な い 。 さ て 、 内 藤 訳 は 、 「じ ぶ ん の 美 し さ を は な に か け て 」 と一 見 何 気 な く訳 出 し て い る 。 原 文 の 意 味 と 照 ら し合 わ せ て み る と 、確 か に 「虚 栄 心 」 の 意 味 合 い を 汲 み 取 っ て は い るが、 「 気 む ず か し い 」 の ニ ュ ア ン ス は 伝 え ら れ て い な い 。 に も か か わ らず 、 こ の よ うな 訳 を 選 択 し た 理 由 は 、お そ ら く想 定 され た 読 者 で あ る 子 ど も た ち へ の 配 慮 な の で は な か ろ うか 。こ こ で 、 内 藤 は 原 文 に は 存 在 し な い 言 葉 遊 び を して い る 点 に も 着 目 し た い 。 「は な 」 に 傍 点 を ふ る こ と に よ っ て 、「 花 」 と 「鼻 」 を 掛 け て い る の は 、読 者 に 対 す る サ ー ビ ス 精 神 の 現 れ な の か も しれ な い 。 5.3構 造 的 な転 換 を伴 う訳 出 5.2で 述 べ た こ と と関連 す るが 、 こ こで は 原 文 に捉 わ れ ない 翻 訳 作 法 のひ とつ と して 、統 語 的 22 な 構 造 転 換 に 焦 点 を 絞 っ て 、 内 藤 訳 の 特 徴 を 浮 き 彫 りに し て み た い 。Catford(1965)の 用 い る な ら ば 、Translation Shiftが 術語 を 関 与 して い る も の で あ る 。 (23) 【 原 典] Il avait n馮lig騁rois [W訳1 He neglected three little bushes... [C訳] He neglected three little bushes, 【T訳1 He had [内 藤 訳1 そ の 人 は 、 ま だ 小 さい か ら と い っ て 、 バ オ バ ブ の 木 を 三 本 ほ う り っ ぱ な しに して お い た も neglected の だ か ら… … [倉橋 訳 】 arbustes... three (p.26) (p.26) and guess little bushes... what happened... (p.28) (p.28) (p.32) こ の男 は 小 さい 木 を三 本 抜 か な い で お い た ん だ … … (p.22) [山崎 訳 】 3本 の 灌 木 を ほ った らか しに した と こ ろ… … [池澤 訳】 彼 が3本 (p.22) (p.26) の小 さな 木 を放 っ て お い た た めに … … 【 藤 田 訳] そ い つ 、 バ オバ ブの 芽 を三 本 もほ うっ て お い た もの だ か ら… … 【 河 野 訳] そ い つ 、 バ オバ ブ の小 さな木 を 三本 ほ っ て お い た か ら… … (p.27) (p.31) 原 文 の 下 線 部 分 に あ た る 英 訳 に 着 目す る と 、い ず れ も 構 造 的 同 一 性 を 保 ち つ つ 訳 出 され て い る 。 殊 に 、"trois arbustes"に つ い て は 、い ず れ も"three little bushes"と 固 定 的 に 訳 出 され て い る 。 これ に 対 して 、 日本 語 訳 で は 、数 量 詞 の 位 置 が 比 較 的 自 由 で あ る た め に 、 か な りの バ リエ ー シ ョ ン が 認 め られ る 。 し か し、 こ こ で 問 題 と した い の は 数 量 詞 の 位 置 で は な く 、"arbustes"の 「小 さ さ 」 を ど の よ う に 言 語 化 し て い る の か 、 と い う点 で あ る 。 小 さ さ を 明 示 し て い る の は 、 「小 さ い 木 」(倉 橋 訳)、 「 小 さ な 木 」(池 澤 訳)、 「バ オ バ ブ の 小 さ な 木 」(河 野 訳)、 そ して 内 藤 訳 で あ る 。 藤 田 は 「バ オ バ ブ の 芽 」 とす る こ と で 、お そ ら く小 さ さ は 含 意 さ れ た も の と判 断 し 、敢 え て 明 示 して は い な い。 ま た 、 山崎 も 「 灌 木 」 と い う こ と 以 外 に 特 に 言 及 し て い な い 。 さて 、 内 藤 訳 は 語 彙 の 選 択 の 点 で は 河 野 訳 に 近 い が 、 「ま だ 小 さ い か ら と い っ て 、 バ オ バ ブ の 木 を 三 本 ほ う り っ ぱ な し に し て お い た 」 の よ う に 構 造 的 転 換 を 図 る こ と に よ っ て 、 「小 さ い 」 と い う事 実 と 「ほ う り っ ぱ な しに して お い た 」 と の間 の論 理 関係 に焦 点 を 当 て て 訳 出 して い る点 が 異 色 で あ る。 (24) [原 典1 J'ai 【W訳 】 Ilearned appris ce d騁ail that new this new nouveau, detai le on quatri鑪e jour au matin, quand tu m'as dit...(p.28) the moming of the fburth day, when you said to me:_ the morning of the fourth day, when you said to me:_ fburth day, when you said to me:_ (p.28) [C訳 】 Ileamed deta且on (p.23) [T訳] Ilearnt that new detai on the morning (p.29) 23 of the Le Petit Princeの [内藤 調 邦 訳 に お け る 誤 訳 と そ の 周 辺-内 藤 訳の特徴 一 ぼ く は 四 日 め の 朝 、 あ な た が 、 ぼ く に こ うい っ た と き 、 こ の 、 い ま ま で 知 ら ず に い た こ と を 知 っ た の で す 。(p.31) [倉 橋 訳 】 四 日 目 の 朝 、 そ れ に つ い て 詳 し い こ と が わ か っ た の は き み が こ うい っ た と き の こ と だ っ た 。 (p.4) [山崎 訳1 わ た し が こ の 新 事 実 を 知 っ た の は 、4日 目 の 朝 、 き み が こ う言 っ た と き の こ と で し た 。 (p.24) [池澤 訳 】 4日 目 の 朝 、 き み が こ う言 っ た と き 、 ぼ く は こ の 新 しい 秘 密 を 知 っ た 1藤 田 訳] わ た し は 四 日 目 の 朝 、 く わ し い 話 を き い た 。(p.30) [河野 訳 】 こ の 新 しい 話 を 、 僕 は 四 日 目 の 朝 、 き み が こ う 言 っ た と き に 知 っ た 。(p 原 文 の 下 線 部 分 は 、 形 容 詞 の"nouveau"が"d騁ail"を 英 訳 で は 、 これ を 単 純 明 快 に"new deta丑"と (p .29) .33) 後 置 修 飾 して い る単純 な構 造 で あ る。 し て い る の も 当 然 す ぎ る く ら い で あ る。 日本 語 訳 に お い て は 、 「こ の 新 事 実 」(山 崎 訳)、 「こ の 新 しい 秘 密 」(池 澤 訳)、 「こ の新 し い 話 」(河 野 訳) の3つ が 構 造 的 に 原 文 お よ び 英 訳 に 近 い 。10ま わ し い 話 」(藤 田訳)に た 、 「そ れ に つ い て 詳 し い こ と」(倉 橋 訳)と 「く ついては、「 新 しい 」 と 明 示 して い な い も の の 、 文 脈 的 に は 含 意 され て い る と考 え られ る。 さ て 、 内 藤 訳 で は 、 こ こ で も構 造 的 転 換 を 図 っ て い る 。 「い ま ま で 知 らず に い た こ と」 の よ うに 「 知 ら な か っ た 」 と い う点 を 強 調 し 、 そ の 部 分 を 節 と して 展 開 した 上 で 、 そ れ を 名 詞 化 す る た め に 形 式 名 詞 「こ と」 を 置 い て い る 。 日本 語 で は 、 仏 語 や 英 語 の 名 詞 句 を 、 こ の よ う に 節 と し て 展 開 させ る こ と が し ば し ば 認 め られ る が 、6人 の 訳 者 の な か で は 、 と りわ け 内 藤 に お い て そ の 傾 向が 顕 著 で あ る。 (25) [原典] Ilne comprenaitpas cettedouceur calme.(p .36) [W訳1 He did not understandthisquietsweetness. (p.42) [C訳 】 He couldnot understandthissweet composure ofhers.(p.34) [T訳] He did not understand this quiet sweetness .(p.42) [内藤 訳] 花 が ど う し て 、 こ うお と な し く し て い る の か 、 わ け が わ か りま せ ん で し た 。(p ,46) 槍 橋 訳 】 花 が ど う し て こ ん な に お と な し く て や さ し い の か わ か ら な か っ た 。(p.51) [山崎 訳] 相 手 の 穏 や か な 優 し さ が 理 解 で き な か っ た の で す 。(p 馳 澤 訳] 花 の や さ し い 静 か な 口 調 が よ く わ か ら な か っ た 。(p.42) [藤 田訳] こ の しず か な や さ し さが 、 王 子 さ ま に は 理 解 が で き な か っ た ん だ 。(p [河野 訳] こ の お だ や か な 静 け さの 意 味 が 、 わ か ら な か っ た 。(p 原 文 の 下 線 部 分"cette を 形 容 詞"calme"(静 douceur calme"に ,34) ,47) 着 目 す る 。"douceur"(甘 か な 、 穏 や か な 、 落 ち 着 い た)が 24 .45) さ 、 優 し さ 、 穏 や か さ) 後 置 修 飾 して い る形 で あ る。 英 訳 で は 、 [W訳 】 と[T訳 】 が"this quiet sweetness"と 訳 出 して お り、構 文 的 な 対 応 関 係 が 明 確 で あ る 。 【C訳 】 で は 、 も と も と形 容 詞 で あ る"calme"を の 名 詞 句 の 中 核 を な す 名 詞"douceur"を 名 詞"composure"と 形 容 詞"sweet"で して 訳 出 し 、 も と も と こ 訳 出 し て い る 点 で は 、他 の2つ の訳 と は 異 な る 。 日本 語 訳 に 目 を 転 じ る と 、構 造 的 に 名 詞 句 と して 翻 訳 して い る も の と 、節 と し て 展 開 し て い る も の に 二 分 され る 。 「静 か な 優 し さ 」(山 崎 訳)と 「や さ しい 静 か な 口 調 」(池 澤 訳)、 「こ の しず か な や さ し さ 」(藤 田 訳)、 「こ の お だ や か な 静 け さ」(河 野 訳)が 前 者 で 、 「ど う し て 、 こ うお と な し く し て い る の か 」(内 藤 訳)、 「ど う して こ ん な に お と な し く し て や さ しい の か 」(倉 橋 訳)が 後 者 で あ る 。 た だ し、 内 藤 訳 で は"douceur ca】me"を 類 義 的 な もの と して捉 え て 「お と な し さ 」 に 融 合 させ て い る が 、 倉 橋 訳 で は 「お と な し く て や さ しい 」 と 訳 し分 け て い る 点 が 異 な る。 以 上 見 て き た こ と か ら 明 ら か な よ うに 、内 藤 訳 は 原 文 の 表 面 的 な 構 造 に 捉 わ れ る こ と な く 、そ の 背 後 に 存 在 す る 作 品 世 界 か ら 出 発 し て 、適 切 な こ と ば の 選 択 を 行 っ て い る と こ ろ に 大 き な 特 徴 が あ る と言 え る 。 こ の 点 に つ い て は 、 第7節 で も う一 度 触 れ る こ と に し た い 。 6.誤 訳 とその 周 辺 これ ま で の翻 訳 分 析 か ら も明 らか な よ うに、内藤 訳 は 、原 文 に捉 われ な い 一種 の 大 らか さの よ うな もの が感 じ られ る と ころ にそ の 大 き な特 徴 が あ る と言 え る。 しか し、そ の大 らか さの故 に 、 原 文 の 意 味 合 い を逸 脱 して い るの で は な い か と思 わ れ る箇 所 も散 見 され る。も ち ろん 、こ うした 用 例 に つ い て は 、訳 者 の 「 解 釈 」 を どの 程 度 許 容 す るか に よ って 、翻 訳 の評 価 も異 な っ て くる。 こ こで は 、筆 者 の主 観 的 な判 断 に 立 ち 、〈踏 み 込 み 〉の度 合 い が 一線 を越 え て い る と思 わ れ る も の を 取 り上 げ る こ と にす る。11 (26) [原典] Il fait tr鑚 [W訳] It is very cold where [C訳] It is very cold on [T訳] It is very cold here [内藤 訳] ★こ こ [倉橋 訳1 ★あ な た の 星 は な ん て 寒 い ん で し ょ う一 一 全 く ひ ど い も ん だ わ [山崎 訳1 ★あ な た の と こ ろ froid chez vous. you your C'est live. planet. where mal install (p.37) It lacks you (p.34) live. And conveniences. rather (p.30) uncomfortable.(p.37) 、 と て も 寒 い わ 。 星 の あ り 場 が わ る い ん で す わ ね 。(p,41) 、 と て も 寒 い わ 。 場 所 が 悪 い の ね 。(p.31) [池澤 訳】 あ な た の 星 っ て 、 ず い ぶ ん 寒 い わ 。 造 り が 悪 い の ね 。(p.37) [藤 田訳] ★あ な た の 星 は と て も 寒 い の よ [河野 訳】 あ な た の と こ ろ 、 と て も 寒 い わ 。 設 備 が 悪 い の ね 。(p.43) ま ず 、 原 文"C'est と も に 、"mal mal insta皿,e"(設 。(p.46) insta皿,e."の 。 い ち ど り が 悪 い ん で す わ ね 。(p,40) 英 訳 を 見 る と 、[W訳 備 が 悪 い)の 】 で は 省 略 さ れ て お り 、[C訳][T訳 直 訳 を 避 け つ つ 、 意 訳 し て い る 。 こ の 事 情 は1例 25 】 を 除 Lθ・ 島 協 乃 盟 αgの邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺-内 藤 訳 の特 徴 一 い て 日本 語 訳 で も同様 で あ る。 「 全 くひ どい もん で す わ ね 。」(倉 橋 訳)は 、 か な りぼ か した 翻 訳 で 、何 がひ どい の か 明示 され て い な い 。ま た 、星 の場 所 が悪 い と解 釈 して い る もの と して 、内 藤 訳 ・山 崎訳 ・藤 田訳 が あ るが 、 これ は 原 文 の 解 釈 と して は許 容 範 囲 を超 え て い る。一 方 、河 野 訳 の「 設 備 が 悪 い の ね 」は 一 見 無 理 が あ る よ うに思 われ る が 、 比 喩 的 に解 釈 す れ ば 理 解 可 能 で あ る。 これ を 「 造 りが 悪 い の ね 。」(池 澤 訳)と す る の は 、必 ず しも 的確 な 訳 で は な い か も しれ な い が 、 日本 語 と して の座 りが よい 。12 (27) 原 典】 Je croisqu'il rpoiita, pour son騅asion, d'une migration d'oiseaux sauva ers.(p.36) [W訳] Ibelieve that for his escape he took advantage of the migration of a flock of wild birds. (p.40) [C訳 】 Ibeli-eve that fbr his escape he took advanta e of a伍11t of mi ratin wild birds. (p.32) [T訳 】 Isuspectthatforhisescape,he took advantage ofthe migrationofwild birds. (p.39) [内藤 訳1 ★渡 り鳥 た ちが 、 ほ か の 星 に移 り住 む の を見 た 王 子 さま は 、 い い お りだ と思 っ て 、ふ る さ との星 を あ とに した の だ とぼ くは 思 い ます 。(p.44) 槍 橋訳】 ★王 子 さ ま はふ る さ との 星 か ら逃 げ 出 す こ と を 、 渡 り鳥 の 移 動 か ら思 いつ い た に ち が い な L、。 (P.49) [山崎 訳 】 星 を 出 る に あ た っ て 、小 さな 王 子 さま は 渡 り鳥 の移 住 を利 用 した の だ と思 い ま す 。(p.32) 【 池 澤 訳 】 脱 出 の 機 会 を 得 る た め に 王 子 さま は 野 生 の 鳥 の 渡 りを 利 用 した の だ ろ うと ぼ くは 思 う。 (p.40) [藤田訳] 王 子 さま は 星 か らに げ出 す の に 、 渡 り鳥 の 移 住 を うま く利 用 した の だ と、 わ た しは 思 う。 (p.43) 【 河 野 訳] 星 を 出 て い くの に 、 王子 さま は 渡 り鳥 の 旅 を利 用 した の だ と思 う。(p.46) 原 文 の意 図 は 、『星 の 王子 さま』 の イ ラ ス トに も あ る よ うに 、 渡 り鳥 に紐 を結 ん で 飛 ん で い く とい うイ メー ジで あ る。内藤 訳 と倉 橋 訳 を除 く と、どれ も こ う した解 釈 に基 づ い た訳 文 とな っ て い る。 「 渡 り鳥 の 移 動 か ら思 い つ い た 」(倉 橋 訳)で は 、実 際 に どの よ うな手 段 を使 っ て 星 か ら逃 げ 出 した の か が 不 明 で あ る。 ま た 、 「 渡 り鳥 た ち が 、 ほ か の 星 に移 り住 む の を見 た王 子 さま は 、 い い お りだ と思 っ て 、ふ る さ との星 を あ とに した 」(内 藤 訳)と い うの で は 、 実 際 に渡 り鳥 を利 用 して 星 か らの脱 出 を 図 っ た の か ど うか 不 明瞭 で あ る。こ こで も内 藤 訳 は 踏 み 込 み す ぎ て い る一 一 あ る いは 踏 み 込 み が足 りな い-よ うに思 われ る 。 ー 剣 訳 伽 原 脚 J'entrevisaussit tune luer,dans le myst鑽e de sa pr駸ence,...(p.18) At I caught that moment a Team of light in the impenetrable 26 mvstery of his presence... (p.16) [C訳] Suddenly I had a glimmer of understanding into the mystery of his presence here,... (pp.12-13) [T訳] Iimmediately perceived a ray oflightin the mystery of his presence...(p.17) [内藤 訳1 ★そ の とた ん 、王子 さま の 夢 の よ うな 姿 が 、ぼ うっ と光 っ た よ うな 気 が しま した。(p.17) 【 倉橋 訳】 王 子 さま の 不 思 議 な 出現 につ い て最 初 の 手 が か りを 得 た の は この と きだ った 。(p.19) [山崎 訳】 とた ん にわ た しは 、彼 が こ ん な と ころ に い る謎 を解 く糸 口が 見 つ か った よ うに思 い ま した 。 (p.14) [池澤 訳 】 そ の 時 、 ぼ く は 彼 が こ こ に い る と い う謎 に 一 す じの 光 が 射 した よ う に 思 っ た 。(p.16) [藤 田訳1 わ た しは 、王 子 さま とい うひ とのふ しぎ の ひ とつ が 明 らか にな った よ うに 思 っ た。(p.16) [河野 訳 】 僕 は 、は っ と した 。 なぜ 王子 さま が こ こに い るの か とい う謎 に、 ひ とす じの 光 が 差 した よ うだ っ た。 (p.18) 原 文 の 下 線 部 分 の翻 訳 に着 目す る と、 英 訳 で は どれ も解 釈 が一 致 してお り、 「 王 子 さま が こ こ に い る とい う謎 に対 して 光 が差 し込 ん だ 」とい うの が基 本 的 な 意 味 合 い で あ る。 日本 語 訳 にお い て も、微 妙 な ニ ュア ンス の違 い を考 慮 しな けれ ば 、内藤 訳 を 除 くす べ て の 訳 文 が この解 釈 を取 っ て い る。内藤 訳 は 、超 自然 的 な 王子 さま の存 在 の 不 思 議 さ を強 調 して い る が 、こ こで は 踏 み 込 み す ぎた き らい が あ る。 (29) [原 典] Il avait fait alors une grande d駑onstration de sa d馗ouverte炒n congres international d'astronomie.(p.21) 【W訳 】 On making his discovery, the astronomer had presented lt to the International Astronomical Congress, in a great demonstration.(p.19) [C訳 】 At the time, this astronomer made a grand presentation of his discovery before an International Congress of Astronomy.(p.14) [T訳 】 At the time, he organised a great demonstration of his discovery at an International Astronomical [内藤 訳 】 ★そ こ で Congress.(p.21) 、 そ の天 文 学 者 は 、 万 国 天 文 学 会 議 で 、 じぶ ん が 発 見 した 星 に つ い て 、 堂 々 と 証 明 し ま し た 。(p.20) 【 倉橋訳】 こ の 天 文 学 者 は 世 界 天 文 会 議 で 自 分 の 発 見 を 公 式 に 発 表 し た 。(p.23) [山崎 訳 】 そ の と き 彼 は 、 あ る 天 文 学 の 国 際 会 議 で 堂 々 と 自 分 の 発 見 を 発 表 し ま し た 。(p.17) [池澤 訳 】 自分 の 発 見 に つ い て こ の 天 文 学 者 は 国 際 天 文 学 会 で 堂 々 と発 表 し た 。 1藤 田訳 】 か れ は こ く さ い 天 文 学 会 で 、 自 分 の 発 見 を 大 々 的 に ア ピ ー ル し た 。(p.20) 【 河 野 訳] そ う し て そ の 天 文 学 者 は 、 国 際 天 文 学 会 議 で 、 自分 の 発 見 に つ い て りっ ぱ な 発 表 を お こ な っ た。 (p.22) 27 (p.19) Le Petit Ponceの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 内藤 訳 の特 徴 上 こ こ で 問 題 と な る の が 、 原 文 の 下 線 部 分 の うち"une 内藤以外 は grande 「 発 表 」 と解 釈 し て い る の に 対 し て 、 内 藤 訳 で は "d駑onstration"の 多 義 性 が 関係 して い る 問題 で あ るが d6monstrati0n"の 翻 訳 で あ る。 「証 明 」 と解 釈 して い る 。 こ れ は 、 文 脈 的 に は 前 者 を採 りた い 。 (30) [原 典 】 Heureusement peuple, 【W訳1 pour sous peine Fortunatel la reputation de mort, however fbr de the de l'ast駻o s'habi皿er re de B 612, un dictateur turc imposa灣on 'europ馥nne.(p.21) utation of Asteroid B-612, a Turkish dictator made a law that thissubjects,under pain of death, should change to European costume. (p.20) [C訳1 Fortunatel fbr the re utation of the Asteroid B612, a Turkish dictatorordered his subjects, on pain ofdeath,to convertto European dress. (pp.15-16) [T訳 】 Fortunatel European [内藤 訳 】 ★さ い わ い for the costume 、B・612番 re utation upon his of Asteroid subjects の 星 の 評 判 B・612, under pain however, a Turkisll dictator imposed of death.(p.21) を 傷 つ け ま い と い う の で 、 トル コ の あ る 王 さ ま が 、 ヨ ー ロ ッ パ 風 の 服 を 着 な い と 死 刑 に す る と い うお ふ れ を く だ し ま し た 。(p.21) [倉橋 訳 】 ★幸 い に もB・612の [山崎 訳1 ★さ い わ い 星 の評 判 は よ か っ た 。 トル コ の 独 裁 者 が 、 ヨー ロ ッ パ 風 の 服 を 着 な い と 死 刑 に す る と い うお ふ れ を 出 し 、 … … 、小 惑 星B612の (p.24) 評 判 の た め に 、 トル コ の ひ と りの 独 裁 者 が 、 国 民 に た い し て ヨ ー ロ ッ パ ふ う の 服 装 を す る よ う に 強 制 し 、違 反 す れ ば 死 刑 に 処 す る と い うお 触 れ を 出 しま し た 。(p,17) [池澤 訳] [藤田訳] や が て トル コ の 独 裁 者 が 、 ヨ ー ロ ッ パ 風 の 服 を 着 な い 者 は 死 刑 に す る と い う法 律 を 作 っ た の は 、 小 惑 星B612の 名 誉 の た め に 幸 運 だ っ た 。(p.20) ★で も 小 惑 星B612の うわ さ の お か げ で 、 トル コ の 王 さ ま は 、 ヨ ー ロ ッ パ 式 の 服 を き な け れ ば 死 刑 に す る と ひ と び と に 命 令 し た 。(p.20) めいよばんかい 【 河 野 訳 】 そ の後 、」・ 惑 星B612に おとず どくさいしゃ 、名 誉 挽 回 の 幸運 が 訪 れ た。 トル コの 独 裁 者 が 、 国 民 に ヨー ロ ッパ 風 の服 装 を 強 制 し、従 わ な けれ ば死 刑 と決 め た の だ。(p.22) 原 文 の下 線 部 の箇 所 の解 釈 が 問題 で あ る。こ こで 明 らか に原 文 を的 確 に解 釈 し、ま た 日本 語 に 移 し変 えて い るの は 、池 澤 訳 で あ る。ま た 、河 野訳 は若 干 の 意訳 を伴 っ て い るが 、基 本 的 に は 的 確 な解 釈 に基 づ い て い る も の と思 われ る。 「 幸 い に もB-612の は 意 味 を取 り違 えて い る よ うだ し、 「で も小 惑 星B612の 星 の評 判 は よか っ た 。」(倉 橋 訳) うわ さ のお か げで 」(藤 田訳)は 、 前 後 の 文 脈 を広 く考 慮 に入 れ れ ば 、これ で も意 味 は 通 じるが 、原 文 の解 釈 か らは外 れ す ぎ て い る。山 崎 訳 で は 、 「さい わ い 」 が 「 強制 し」 あ るい は 「 お触 れ を だ しま した 」 を修 飾 して い る点 で 、構 文 解 釈 上 は 内藤 訳 と同 じ方 向性 を 向 い た 訳 文 で あ る。も ち ろ ん これ で も 、原 文 の 意 味 か ら大 き く 28 踏 み 外 して い る こ とに は な らな い だ ろ うが 、や は り、踏 み 込 み の度 合 い が 一線 を越 えて い る よ う な 印象 を受 け る。 (31) Il commen軋 [原典 】 donc par les visiter pour y chercher une occupation et pour s'instruire. (p.38) 【W訳 】 He began, therefore, [C訳 】 So he started 【T訳 】 So he started by by by visiting visiting visiting them, in order these, to find some them to look for to add occupation an occupation to his and and knowledge.(p.43) to educate to add himself.(p.34) to his knowledge. (p.42) [内藤 訳 】 ★王 子 さ ま は 、 星 の 見 物 を は じ め ま し た 。 な に か 仕 事 を さ せ て も ら っ て 、 勉 強 し よ う とい うの で し た 。 (p.48) [倉橋 訳 】 ★そ こ で こ れ ら の 星 の 巡 歴 を 始 め た 。 勉 強 に 精 を 出 そ う と い う の だ っ た 。(p.53) [山崎 訳】 ★そ こ で 、 仕 事 を 探 し た り 見 聞 を ひ ろ め た りす る た め 、 ま ず 、 こ れ ら の 星 を 訪 ね る こ と に しま した。 [池澤 訳 】 (p,35) そ こ で 彼 は す べ き こ と を 見 つ け た り 見 聞 を ひ ろ め た り す る た め に 、 こ れ ら の 星 の1つ ず つ 訪 ね て み る こ と に し た 。(p.43) 1藤田訳1 ★王 子 さ ま は ま ず そ れ ら の 星 を お と ず れ [河野 訳 】 ★そ こ で そ れ ら の 星 を 訪 ね て こ こ で の問 題 は、原 文 中 の"une 、仕 事 を さ が し 、な に か 学 ぼ う と 考 え た ん だ 。(p.47) 、 仕 事 を さ が し た り 見 聞 を 広 め た り す る こ と に し た 。(p.50) occupation"の 解 釈 で あ る。 これ を 「 仕 事 」 と解 釈 して い る の は、 内藤 訳 ・山崎 訳 ・藤 田訳 ・河 野 訳 で あ るが 、『星 の 王 子 さま 』 の 全 体 的 な物 語 の流 れ か ら 考 えて 、単 に 「 や る こ と、活動 」とい った 意 味 合 い で 解釈 す る ほ うが 自然 で あ ろ う。倉 橋 訳 で は 、 【W訳1と 同様 に 「 仕 事 」 の 部 分 は 削 除 して 翻 訳 して い る の で 、 問題 は 一応 回避 した形 に な っ て い る が 、や は り不十 分 で あ る。池 澤 訳 は 「 す べ き こ と」 と訳 出す る こ とで 、的確 に原 文 の意 味 を 捉 え て い る よ うに 思 う。 内藤 訳 の 『星 の 王 子 さま 』は 、他 の 邦 訳 に先駆 けて 刊行 され た とい うこ と も あ り、ま た 内藤 特 有の 「 印 象 訳 」の ゆ え に 、 さま ざま な 角度 か ら翻 訳 上疑 問 の 余 地 の あ る箇 所 や 明 らか に誤 解 に基 づ い た 箇 所 につ い て の指 摘 も行 われ て き た こ と と思 う。本 稿 では 、筆者 が 気 の っ い た 問 題 箇 所 の 一 部 を取 り上 げ て 、問題 の所 在 を 特 定 して きた が 、そ う した 問題 箇 所 と思 われ る と ころ に も、内 藤 流 の香 りが 感 じ られ る の は、 不 思 議 な感 覚 で あ る。 7.考 察 7.1内 藤 訳 の 特 徴 以 上 、原 典 、英 訳3編 、そ して 日本 語 訳6編 を相 互 に対 照 す る こ とに よ っ て 、内藤 訳 の 『星 の 王 子 さま』を 特徴 づ け る要 因 につ い て 、具 体 的 な 用 例 を 挙 げ なが ら考 察 を進 めて きた 。内藤 訳 が 29 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の 周 辺 は じめ て 出版 され た の が1953年 はす べ て2005年 か ら2006年 一 内藤 訳 の特 徴 一 で あ るの に対 して 、倉 橋 訳 ・山崎 訳 ・池 澤 訳 ・藤 田訳 ・河 野 訳 にか け て刊 行 され た もの で あ るか ら、 両者 には50年 余 の歳 月 が 介 在 して い る こ とに な る。 この 間 、日本 語 の 語 感 や 表 現 の多 様 性 も 大 き く変 化 して きた こ とは 間 違 い な い し、時 代 的 要 因が 内藤 訳 の特 徴 のひ とつ とな っ て い る こ とは 、本 稿 で 取 り上 げ た わ ず か な用 例 か ら も十分 に 窺 え る。しか し、そ う した 時 代 的 要 因 に起 因す る ス タ イ ル は 古 臭 い 印 象 を与 え が ち で は あ るが 、同時 に 内藤 訳 に あ っ て は 古典 的 な香 りを放 ち つ つ あ る よ うに も思 わ れ る。そ う した 時代 性 を感 じ させ る一 方 、内藤 訳 は現 代 で も十 分 に通 用 す る翻 訳 作 法 に厳 然 と して 裏 打 ち され て い る こ と も明 らか に な っ た こ と と思 わ れ る。 内藤 濯 の 息 子 で あ る内藤 初 穂 は 、『星 の王 子 とわた し』 の 「 解 説 」(pp.235-6)に お い て 、内藤 の翻 訳 姿勢 に つ い て 次 の よ うに 言 及 して い る。 父はかねがね 「 翻 訳 は 単 な る言 葉 の移 し替 え で は な い。 原 作 者 が思 い を こめ た言 葉 を 的確 な 日本 語 に あ らわ す の は い うま で もな い が 、原 作 の リズ ム を も 日本 語 に伝 え、声 を だ して 読 む に 耐 え る もの に仕 上 げ な け れ ば な らな い 」 とい っ て い た。 詩 や 演 劇 の翻 訳 を手 初 め に フ ラ ン ス 文学 に踏 み こん で い っ た 経 歴 が そ う させ た の だ ろ うが 、 そ の翻 訳 作 法 を父 は 「 印 象 訳 」 と呼 び 、 『ル ・プ チ ・プ ラ ン ス 』 の 翻 訳 に も適 用 した 。 翻 訳 は 、あ る言 語 で 書 か れ たテ ク ス トを で き る だ け意 味 の等 価 性 の原 則 を維 持 しなが ら別 の言 語 に移 し替 え るプ ロセ ス で あ るが 、こ の プ ロ セ スが 単 な る言 葉 の移 し替 え で は な い と喝破 した と ころ に、内藤 訳 の 真 髄 が あ るの で は ない だ ろ うか。お そ ら く、内藤 は原 典 の 『星 の 王 子 さま 』 を 何 度 とな く読 み 込 ん で い く こ と に よ って 、自分 の 内 的世 界 に お い て 内藤 流 の 『星 の 王子 さま 』の 世 界 を構築 した に違 い な い 。 しか も、この 世 界 にお い て 、内藤 は 王 子 さま の 心 情 を深 く理 解 しよ うと努 めた に相 違 な い 。 こ こで 、再 び 『星 の王 子 とわ た し』 の 「 解 説 」(p.241)の 文 章 を 引用 し たい。 も と も と 『星 の 王 子 さま 』 に は 、原 作者 サ ン ・テ グ ジュ ペ リの物 ご との本 質 を見 抜 く眼 が 凝 縮 され て い る。 そ う認 識 す る父 は、 サ ン ・テ グ ジ ュペ リとい う人 間 の 内 面 に も ぐ りこみ 、王 子 の 投 射 す る光 に 導 か れ な が ら内 面 の 旅 をつ づ け る。 こ う した 内 藤 の 姿 勢 が あ っ た か ら こそ 、 内 藤 訳 の 『星 の 王 子 さ ま 』 が 生 れ た わ け で あ り 、そ れ は 確 か に 言 葉 の 移 し替 え と い う メ カ ニ カ ル な 作 業 を は る か に 超 え た も の で あ る。ま さ に 内 藤 の 内 面 世 界 を 通 じて 、原 典 の 『星 の 王 子 さ ま 』が 解 釈 され 、吸 収 され 、内 藤 の 血 と な り 肉 と な っ た 上 で 、 再 び 日本 語 と い う新 た な 表 現 媒 体 を 得 て 生 み 出 され た の は 、内 藤 訳 の 『星 の 王 子 さ ま 』 な の で あ る 。彼 一 流 の 言 い 回 し は 、単 な る 言 葉 の 移 し替 え と は 無 縁 の も の で あ り 、彼 の 内 面 を 濾 過 し て 生 み 出 され た も の な の で あ る 。Nida(1964)は (dynamic equivalence)と 翻 訳 の あ る べ き 姿 と して 、 「ダ イ ナ ミ ッ ク な 等 価 性 」 い う概 念 を 提 示 し て い る が 、 これ こ そ 内 藤 が 『星 の 王 子 さま 』 の 翻 訳 30 実 践 を通 じて 求 め て い た 翻 訳 の 理 想 な の か も しれ な い。 翻 訳 は 、意 味 の等 価 性 を 追 求 して 言 語 の 転 換 を 図 るプ ロセ ス で あ るが 、と りわ け 文学 作 品 に お い て は 、意 味 の 問 題 と劣 らず 重 要 な要 素 と して ス タ イル の 問題 が あ る。敢 えて 極 論 を言 うな らば 、 意 味 を伝 え る こ と にお い て 成 功 した と して も 、ス タ イ ル を移 行 す る こ とにお いて 失 敗 す るな らば 、 文 学 作 品 の翻 訳 と して は 、 よい翻 訳 と して評 価 され る こ と は ない で あ ろ う。そ の 意 味 で 、文 学作 品 の翻 訳 は 究 極 的 に はス タイ ル の翻 訳 の 問題 に 帰結 す る よ うに も思 う。 こ うした観 点 か ら、本 研 究 を捉 え る と、 ス タイ ル を創 り出す 複 雑 な 要 因 の ほ ん の 一 部 を取 り上 げ た にす ぎ な い0例 え ば 、 平 仮 名 と漢 字 の使 い 分 け、ル ビの使 用 頻 度 、人称 詞 の使 い 方 、文 の長 さ、文 の構 造 、パ ラグ ラ フ の 分 け 方 、結 束 性 の 密 度 、冗長 度 、視 点 の 問題 な ど、本 稿 で は取 り上 げ な か っ た様 々 な 要 素 が 関 与 して い る と思 わ れ るが 、 こ う した観 点 か らの よ り包括 的 な 研 究 は 今 後 の 課 題 とな る。 た だ し、 こ こ で 指摘 して お きた い の は、こ う した 個 々 の要 素 とそ の組 み合 わせ が 、作 品全 体 の ス タイ ル を 決 定 す る極 め て 重 要 な要 因 とな る可 能 性 が あ る とい うこ とで あ る。 表 現 ス タイ ル を決 定 す る要 因 のひ とつ と して 考 え られ るの が 、 読 者 との 距離 感 の 取 り方 で あ る。 と りわ け 『星 の王 子 さま 』の よ うな一 人 称 語 りの作 品 の場 合 、語 り手 が読 者 に話 しか け る とい う 設 定 で 物語 が 進 ん で い くわ けで あ る か ら、どの程 度 読 者 の存 在 を身 近 に感 じて い るの か 、どの 程 度 読 者 に働 きか け よ う と してい る の か 、とい っ た意 味 で の翻 訳 者 の ス タ ンス は 、翻 訳 作 品 の ス タ イ ル を構 成 す る重 要 な要 因 とな る もの と考 え られ る。こ うした観 点 か ら見 る と、読 者 と して 子 ど も を想 定 し、子 ど もの感 性 と理 解 力 に配 慮 した表 現 を選 択 して い る 点 で 、内藤 訳 は読 者 との 距 離 が き わ め て 近 い と言 え る。 藤 田訳 も基 本 的 に は 同 じ路 線 に 沿 っ た 作 品 で あ る。 藤 田(2005: 135-36)は 、 以 下 の よ うに 翻 訳 動機 につ い て 語 って い る。 わ た しが この本 の 翻 訳 、出版 を思 い 立 った の は、 … … 最 近 、な にか とこ の本 が 「 お とな 」 の た め に あ る か の よ うにい われ す ぎ て い て 、 当の 子 ど もた ち が 置 き去 りに され て い る よ うな 印 象 を持 っ て い た か らです 。 サ ン=テ グ ジ ュペ リは 「子 ど もた ち 」 の た め に この本 を書 き ま した。 だ か ら、 ほん と うに 「 子 ど もた ち 」 が 読 ん で 、 よ くわ か る よ うな訳 が必 要 だ と思 っ た の です 。 これ と 対 照 的 な の が 倉 橋 訳 で 、 倉 橋(2005:152)は 読 者 と し て 大 人 を想 定 し て い る こ と を 以 下 の よ うに 明 言 して い る 。 世 の 中 に は、 「 童 話 」 と称 して 大 人 が子 供 向 き に 書 い た 不 思 議 な 作 品 が あ りま す が 、 これ は そ の種 の 童 話 で は あ りま せ ん 。 そ の こ とは 作 者 も最 初 に断 って い る とお りで 、子 供 の よ うに 見 え る 王子 さま が 主 人 公 だ と して も、 だ か ら子供 向 き の お 話 だ とい うこ と に は な らず 、 これ は あ くま で も 大人 が読 む た め の小 説(そ もそ も小 説 とは 大 人 の 読 み 物 で す)な の で す 。 私 もそ の つ も りで読 ん で 、 そ の つ も りで 訳 して い ま す。 同 じ作 品 を 読 ん で も訳 者 の理 解 の仕 方 が異 なれ ば 、当然 、読 者 の想 定 も異 な る。ま た 、読者 の 31 五θゐ 漉 乃 ゴhoθの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺-内 藤 訳 の特 徴- 想 定 が 異 な る とす れ ば 、翻 訳 作 品 の ス タ イル も異 な る。 とす れ ば、こ の よ うな観 点 か ら翻 訳 作 品 の 分析 をす る こ とは 、翻 訳 のバ リエ ー シ ョン を考 え る とき に重 要 な視 点 を提 供 して くれ る もの と 思 う。 7.2翻 訳 の バ リエ-シ ョン 最 後 に 、翻 訳 の バ リエ ー シ ョン とい う観 点 か ら、本 稿 で の観 察 を ま とめ て お き た い 。翻 訳 理 論 にお い て 、Baker(1993:243-4)は 翻 訳 テ ク ス トに は普 遍 的 な 言 語 的 特徴 が 存在 す る とい う仮 説 を提 示 して お り、 これ を 「 翻 訳 普 遍 性 」(Translation Universals)と 呼 ん で い る。 例 え ば 、原 典 と比 較 して 翻 訳 テ ク ス トは よ り明示 的 に な る傾 向 が強 い 、 曖 昧 な表 現 が 回避 され る傾 向 が 強 い 、 あ るい は標 準 化 され る傾 向 が強 い 、な ど とい っ た もの で あ る。しか も こ う した 「 翻 訳 普 遍 性 」は 、 起 点 言 語 と 目標 言 語 が どの よ うな言 語 で あ っ て も、一般 的 な 傾 向 と して 存 在 す る も の と され て い る。 「 翻 訳 普 遍 性 」 の 中 に翻 訳 のバ リエ ー シ ョ ンの 問題 が含 ま れ るか ど うか につ い て は今 後 の研 究 が 必 要 と され る が 、少 な く とも避 けて 通 る こ と ので きな い 問題 で は あ る。そ の 際 に 、本 研 究 は 考 察 す べ き重 要 な資 料 を提 供 して い る よ うに 思 われ る。本 稿 で は 、英 訳3編 お よび 邦 訳6編 を分 析 対 象 と した が 、翻 訳 の バ リエ ー シ ョン に 関 して は 、起 点 言 語 と 目標 言 語 の 関係 性 が極 め て重 要 な役 割 を果 たす 、とい うこ とが 示 唆 され た 。つ ま り、フ ラ ンス 語 と英 語 の よ うに言 語 的 に近 接 関 係 に あ る言 語 間 の翻 訳 の 場 合 、翻 訳 作 品 間 の バ リエ ー シ ョン は比 較 的 狭 い 範 囲 に 限 定 され る の に 対 して 、フ ラ ンス 語 と 日本 語 の よ うに言 語 的 に遠 い 関係 に あ る言 語 間 の翻 訳 の 場 合 、そ のバ リエ ー シ ョンに は か な り大 きな 幅 が 存 在 す る、 とい うこ とで あ る。 この よ うな事 実 を踏 ま え た 上 で 、 「 翻 訳 普遍 性 」 の有 効性 を今 後 さ らに 検 証 す る必 要性 が あ る こ と を指 摘 してお き た い。 8.お わ りに 本 稿 で は 、内藤 濯 訳 の 『星 の 王子 さま』 の ス タイ ル の 一端 を解 明す べ く、〈踏 み込 ん だ訳 〉 に 焦 点 を 当て て 、倉 橋 訳 ・山崎 訳 ・池澤 訳 ・藤 田訳 ・河 野訳 との 比較 対 照 分析 を行 った 。そ の 結 果 、 内藤 訳 には 時 代 的 要 因 に よ る特 徴 が 存 在 す る一 方 で 、 現 代 に十 分 に通 用 す る極 め て 柔 軟 か つ ダ イ ナ ミ ッ クな 翻 訳 手 法 を用 い て い る こ とが 明 らか に な った 。内藤 訳 の根 底 には 、起 点言 語 を通 じて 作 品 世 界 に 深 く浸透 した 上 で、い ざ翻 訳 す る段 にな る と、起 点言 語 の束 縛 か ら解 き放 た れ た 状 態 で 目標 言 語 に よ る新 た な翻 訳 作 品 の構 築 を試 み てい る姿 が 垣 間見 られ た よ うに 思 う。ま た 、今 回 は 、翻 訳 のバ リエ ー シ ョン とい う観 点 か ら、 フ ラ ンス語 か ら英 語 へ の 翻 訳(3編)と か ら 日本 語 へ の翻 訳(6編)の フ ラ ンス 語 観 察 を行 い 、 「 翻 訳 普 遍性 」 との 関連 に つ い て 考 察 を行 っ た。 こ う した観 点 か らの研 究 は ま だ十 分 に進 ん で い な い領 域 で あ る が ゆ え に 、 今 後 の発 展 が 大 い に期 待 され る と こ ろで あ る。 32 【註 】 * 本 稿 の 執 筆 に あ た り、 フ ラ ンス 語 の 解 釈 につ い て堀 茂 樹 氏(慶應 義 塾 大 学 総 合 政 策 学部 教授)の ご教 示 を受 けた 。 こ こに 記 して感 謝 の意 を表 します 。 1.本 稿 の な か で 、 しば しば 〈踏 み 込 ん だ 訳 〉 とい う言 い 方 をす る場 合 が あ る が 、 これ は 、 ま さに こ う し た 特 性 を もっ た 訳 を 指 して 使 う こ と とす る。 ま た 、 意 図的 で は な く踏 み 込 み 過 ぎ た 場 合 、つ ま り、い わ ゆ る誤 訳 の 問題 も こ う した観 点 か ら取 り上 げ る こ と とす る。 2. 内藤 初 穂(2006:387)で 、宮川 木 末 氏 が 興 味深 い 指 摘 を して い る。 以 下 引 用 す る。 「 濯 先 生 の 言葉 の 美 意 識 は 、 江 戸 時 代 か ら地 続 き だ と思 い ま す 。 明治 時 代 に概 念 の 言 葉 が み ん な漢 語 に され 、 漢語 が た く さん 作 られ ま した け れ ど、 先 生 は 、そ れ が 日本 語 と して な じま ない と感 じ られ た。」 3.詳 4. し くは 内 藤 初 穂(2006:377・8)を 参 照 の こ と。 口述 筆 記 に つ い て 、 内藤 初 穂(2006:379)の 解 説 は以 下 の通 り。 「… … 父 の 場 合 は、テ ー 一プ な しの完 全 な 口述 筆 記 で す 。 「 岩 波 少 年 文 庫 」 の 編 集 部 にい た か み さん が 、 お つ き あ い しま した。 まず 父 が一 節 ず つ フ ラ ンス 語 で 読 み 、そ れ を 日本 語 に した の をか み さ んが 書 き取 り、読 み あ げ る。(中 略)か み さん が 一 節 ず つ 読 み 終 わ る と 、父 は も う一 度 フラ ンス 語 の 原 文 を読 ん で 、気 に 入 らな い と こ ろ に赤 を入 れ さ せ る。 かみ さん を帰 した あ と も推 敲 をか さね た 。」 5. 「じ ゅ うぶ ん ま じめ な理 由 」(藤 田訳)と す るの は解 釈 上 、若 干 問 題 が あ る。 「 た しか な理 由 が い くつ か あ るの だ。」(河 野 訳)は 適 訳 とい え る。 6. 7.小 8. 後 に 詳 述す る よ うに 、 内 藤 訳 に は 、原 文 に は ない 付 加 的 要 素 が しば しば観 察 され る。 阪(1999)は 、 オ ノマ トペ がい か に感 性 の領 域 と結 び つ い て い る か を実 験 的 に検 証 して い る。 「ほ ろ り」 とい う擬 態 語 は 、 「 一 瞬 、深 く感 動 して 思 わず 涙 ぐむ よ うす 」(『学 研 国 語 大 辞 典 』)と 定 義 され て い る よ うに 、通 常 、涙 との 連 想 が強 い 。 しか し、天 沼(1980:367)の 定義で は、「 幾 分 アル コー ル 分 で酔 っ た り、何 か に よ って 感 情 が刺 激 され た り、 共 感 を覚 え た りす る様 子 」 とあ り、 必 ず し も涙 を伴 わ ない 状 況 で も使 われ る こ とが わ か る。 9.複 数 の翻 訳 作 品 を 目標 言 語 志 向性 と起 点 言 語 志 向性 の 尺 度 で評 価 す る試 み と して 、 霜 崎,他(2003)の 研 究 が あ る。 10.た だ し、池 澤 訳 にお い て は 、"d騁ail"を 「 秘 密 」 と訳 出す る こ とで 、 「 そ れ ま で 知 らな か っ た 」 とい う 意 味 が 含意 され て い る。 11.例 文 の頭 に付 した 星 印(つ は誤 訳 等 の 問題 を含 ん だ 訳 例 で あ る こ と を示 す 。 12.想 像 を逞 しく して こ の箇 所 の解 釈 を試 み る。 も とも と 『星 の 王 子 さ ま』 の 世 界 で の 「 星 」 は 家 ほ どの 大 き さだ とい う説 明(cf.第4章 の 冒頭)が あ る と ころ か らす る と、 お そ らくサ ン=テ グ ジ ュペ リの 発 想 は 、南 米 の サ ン=サ ル ヴ ァ ドル 出 身 の 妻 コ ンス ロが 、結婚 して 住 ん だ家 に つ い て この よ うな 不 満 を漏 ら して い た の で は な い か 、 と考 え る と納 得 しや す い。 「 星 」 の解 釈 に捉 わ れ る と、 「 設 備 が 悪 い 」 と解 す るの は 不 自然 だ が 、 著 者 が 「 家 」を 「 星 」 に 見立 て て い た と考 え る と、納 得 の い く解 釈 とな る。 33 Le Petit Princeの 邦訳 にお け る誤 訳 とそ の 周辺 一 内 藤 訳 の 特 徴- 【参 考 文 献 】 天 沼 寧1980.『 擬 音 語 ・擬 態 語 辞 典 』(第4版)東 ア ル ベ レ ス,RM.1998,『 Baker, Catford, Hatim, M サ ン=テ グ ジ ュ ペ リ』(中 村 三 郎 訳)水 1995."Corpora in Translation Re search."Target 7(2):223-44. J. C.1965. A Linguistic Basil.2001. 京 堂 出 版. Teaching 星 の 王 子 さ ま ク ラ ブ(編)2005.『 Studies:An 声社 . Overview 7乃θo呪70f 7抽 刀認θ翻oη,Oxford an d Researching上Translation. and Some University 加 藤 恭 子2000.『 「 星 の 王 子 さ ま 」 を フ ラ ン ス 語 で 読 む 』(ち く ま 学 芸 文 庫)筑 金 田 一 春 彦 ・池 田 弥 三 郎(編)1988.『 学研 国 語 大 辞 典 』(第2版)学 小 林 祐 子1992.『 し ぐ さ の 英 語 表 現 辞 典 』 研 究 社. 小 島 俊 明2006,『 星 の 王 子 さ ま の プ レ ゼ ン ト』(中 公 文 庫)中 サ ン=テ グ ジ ュ ペ リ,コ ン ス エ ロ ・ ド2000.『 Euge Limited , バ ラの 回想 摩 書 房. 習 研 究 社. 央 公 論 新 社. 夫 サ ン=テ グ ジ ュ ペ リ と の14年 』(香 川 由利 子 藝 春 秋. 星 の 王 子 と わ た し 』 丸 善 株 式 会 社. 内 藤 初 穂2006.『 Nida, Education 星 の 王 子 さ ま の 本 』 宝 島 社. 星 の 王 子 さま ☆ 学 』慶應 義 塾 大 学 出 版 会 。 内 藤 濯2006.『 for Future Press. Harlow:Pearson 片 木 智 年2005.『 訳)文 Suggestions ne 星 の 王 子 の 影 と か た ち と 』 筑 摩 書 房. A.1964. To ward an d Procedures 小 阪 直 行(編 著)1999.『 霜 崎 實,他2003.「 a In volvedzn Science Bible of Translating With 7}旧刀51θ虹η8, Leiden:E.J. Special Reference to Principles Bri皿. 感 性 の こ と ば を 研 究 す る 』 新 曜 社, 翻 訳 テ ク ス トに お け る 志 向 性 の 研 究 一F.S. 本 語 訳 を 資 料 と して 一 」 霜 崎 實(監 Fitzgerald,"Babylon 修)『 翻 訳 論 プ ロ ジ ェ ク ト2003年 湘 南 藤 沢 学 会. 34 Revisited"と その 日 度 論 文 集 』慶應 義 塾 大 学 乙ePetit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 -倉 AStudy 橋訳の特徴 一 of Lθ 」%が`肋oθand Focusing on 松 本 Its Tra皿slation Kurahashi's Translation 裕 介Yusuke 慶億義塾大学政策 ・ メデ ィア 研 究 科 Matsumoto Graduate Keio Problems: School Unive of Media and Govemance, rsity 1.は じめ に 翻 訳 者 に よっ て 訳 出 の傾 向 が異 な る とい うこ とは しば しば あ る。そ れ は 、翻 訳 が 、機 械 的 な 置 き換 え に よっ て 実 現 され る も ので は な く、 翻訳 者 の解 釈 に よ って 実 現 され る も の だ か らで あ る。 当然 、翻 訳 には 、翻 訳 者 の個 性 が如 実 に反 映 され る こ と とな る。 しか し、そ の個 性 は 、良 い 方 向 に も悪 い 方 向 に も働 く。原 典 の難 解 な 表 現 が 明 瞭 な も のへ と磨 き上 げ られ て い る場 合 な どは 前者 で あ る場 合 が 少 な くな い だ ろ うが 、 誤 訳 や 不 必 要 な創 作 に準 ず る も の の 大 多 数 は後 者 と言 え よ う0 本 稿 は 、倉 橋 由美 子 訳 『新 訳 ・星 の 王子 さま』 を 、原 典 及 び 英 訳3点 、 日本 語 訳5点 と比 較 し つ つ 、 先 に述 べた 「 後 者 」 の観 点 か ら、 「 王 子 さ ま」 の描 写 にお け る 曖 昧 さに着 目 して 分析 した もの で あ る。そ して 、それ らの議 論 を踏 ま えた 上 で 、翻 訳 に つ い て 考 察 を行 うこ と を 目的 と して い る。 なお 、分 析 範 囲 は 第10章 まで と した 。 な お 、本 稿 は 、あ くま で も、誤 訳 に焦 点 を 当 て つ つ 翻 訳 分 析 を行 い 、そ の結 果 を ま とめ た もの で あ り、倉 橋 氏 の 訳 を疑 め る こ と を 目的 と した わ け で は な い こ とを こ こで 断 っ て お く。 2.暖 昧 な 訳 に つ い て 「曖 昧 な 」 と い う言 葉 に は 、大 ま か に 二 つ の 意 味 が あ る 。 言 い 換 え る な らば 、"ambiguous"か "vague"か とい う こ とで あ る 。 本 稿 で は 、解 釈 可 能 性 が 複 数 あ る こ と を 示 す"ambiguous"の 味 で の 曖 昧 さ で は な く、 漠 然 と し て あ や ふ や で あ る こ と を 示 す"vague"の 意 意 味 で の 曖 昧 さに 焦 点 を 当 て な が ら分 析 を 進 め る 。 予 め これ を 断 っ て お く。 「王 子 さ ま 」の 描 写 に お け る 曖 昧 さ に 焦 点 を 当 て る 理 由 を 述 べ て お き た い 。極 め て 残 念 な こ と に 、 倉 橋 訳 は 、他 と比 べ て も相 当 に 誤 訳 が 多 い 。 ま た 、 先 の 意 味 で 曖 昧 な 訳 も 多 い 。 日本 語 と し て 不 自 然 な 箇 所 も あ る 。 これ ら を 全 て 扱 う こ と は 、 紙 幅 の 都 合 上 、 難 し い 。 そ こ で 、 『星 の 王 子 さ ま 』 に お い て 最 も 重 要 な キ ャ ラ ク タ ー の 一 人 で あ る 「王 子 さ ま 」 の 描 写 に の み 限 定 し た 。 35 Le Petit 2.1「 Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 倉 橋 訳 の特 徴 一 王 子 さ ま 」の 容 貌 以 下 で は 「王 子 さ ま 」 の 容 貌 に 関 す る 表 現 の 訳 を 分 析 す る 。 (1) 原 典 】 Alors vous r騅eill 【W訳] Thus imaginez ma surprise, au lever du jour, quand me(fr when I was le de petite voix m'a (p.13) you can imagine my amazement, at sunrise, awakened by an odd little voice.(p.10) 【C訳 】 So imagine my surprise [T訳] So you can imagine [倉橋 訳1 そ こ で 、夜 明 け に お か し な 小 さ な 声 で 目 が 覚 め た と き の 私 の 驚 き も想 像 し て も ら え る だ ろ my to be woken surprise at daybreak at sunrise when by a funny little voice saying...(p.8) an odd little voice woke me up.(p.12) う。(P.8) [内藤 訳 】 す る と 、 ど う で し ょ う 、お ど ろ い た こ と に 、夜 が あ け る と 、へ ん な 、小 さ な 声 が す る の で 、 ぼ く は 目 を さ ま し ま し た 。(p。10) [山崎 訳] で す か ら 、夜 明 け に 、 ふ し ぎ な 小 声 が わ た し を 目覚 め させ た と き の 驚 き は 想 像 し て い た だ け ま す ね 。(p.9) [池澤 訳] だ か ら 、夜 明 け に お か し な 声 が し て 目 が 覚 め た と き 、 ぼ く が ど ん な に び っ く り し た か 想 像 し て も ら い た い 。(p.10) 1藤 田訳 】 だ か ら 、 夜 明 け に 、 お か し な 子 ど も の 小 さ な 声 で 起 こ さ れ た と き の お ど ろ き と い っ た ら 、 想 像 で き る だ ろ う。(p.9) [河野 訳] だ か ら 、夜 明 け に 、小 さ な 変 わ っ た 声 で 起 こ され た と き に は 、ど ん な に 驚 い た こ と だ ろ う。 (p.11) 「 お か しな小 さな声 」自体 は他 の訳 者 と特 に変 わ らない が 、単 体 で は 決 して そ の乏 し さは 目立 た ない も の の、他 の 訳者 と比 較 して み る と、倉橋 訳 は最 も起 伏 に乏 しい こ とが分 か る。例 え ば 内藤 訳で は、「 す る と、 ど うで し ょ う、 お どろ い た こ とに … …」 と感 情 を 表す 表 現 が挿 入 され て い る た め に、強 い イ メ ー ジが 喚 起 され る。他 も山 崎訳 を 除 い て全 て 驚 きを何 らか の 形 で 修 飾 して い る (山崎 訳 は 「 小 声 が わ た しを 目覚 め させ た 」 と他 動詞 表現 に 転 換 す る こ とで 驚 き が表 現 され て い る)。倉 橋 訳 に は この よ うな修 飾 が見 られ な い。 これ で は 「 王 子 さま 」 の存 在 が あ ま り際 立 た な い よ うに思 わ れ る。 (2) 原 典】 Et j'aivu un petitbonhomme tout瀁ait extraordinairequi me consid駻aitgravement . (p.14) [W訳1 And I saw a most extraordinary small person, who stood there examining me with great seriousness.(p.10) 36 【C訳] And then I saw a most extraordinary little fellow, who stood there solemnly watching me.(p.8) [T訳 】 And I discovered an extraordinary little boy w atching me gravely.(p.12) [倉橋 訳1 す る と 、 奇 妙 な 小 さ な 人 物 が と て も 真 剣 に こ ち ら を 見 つ め て い る の だ っ た 。(p.10) [内藤 訳1 す る と 、 と て も よ うす の か わ っ た ぼ っ ち ゃ ん が 、 ま じ め く さ っ て 、 ぼ く を じ ろ じ ろ 見 て い る の で す 。(p.12) [山崎 訳] そ し て 、 ひ ど く 風 変 わ り な ひ と りの 坊 や が 真 顔 で わ た し を み つ め て い る の を 見 た の で す 。 (P.io) [池澤 訳] と て も 不 思 議 な 子 供 が 一 人 そ こ に い て 、 ぼ く の 方 を 真 剣 な 顔 で 見 て い た 。(p-10) 【 藤 田訳] ふ し ぎ な か っ こ うを し た 小 さ な 男 の 子 が じ っ と わ た しの 方 を 見 て い る ん だ 。(p.10) [河野 訳] す る と そ こ に は 、 と て も 不 思 議 な 雰 囲 気 の 小 さ な 男 の 子 が い て 、 い っ し ょ うけ ん め い こ ち ら を 見 つ め て い る で は な い か 。(P・11) 他 と比 較 して 、倉 橋 訳 は 、曖 昧 で あ る のみ な らず 、か な り外 れ た描 写 にな って い る よ うに思 わ れ る。 こ の 中で 最 も近 い の は池 澤 訳 で あ る が 、 「 奇 妙 な小 さな 人 物 」 と 「とて も不 思 議 な子 供 」 を 比 較 した とき 、 よ り適 切 に 「 王子 さま 」 を描 写 して い るの は 、 後 者 で あ ろ う。 (3) [原典] Mon ami sourit entiment avec indul ence:.(p.16) [W訳] My friend smiled entl [C訳] My friend smiled gently, [T訳] My friend said [倉橋 訳 】 男 の 子 は や さ し い 、 甘 い 笑 顔 を 見 せ た 。(p.12) [内藤 訳1 ぼ っ ち ゃ ん は 、 さ も 大 目 に 見 て く れ る よ う に や さ し く 、 に っ こ り し ま し た 。(p.14) [山崎 訳】 わ た しの 友 だ ち は、 お だ や か に 、寛 大 な ほ ほ え み を浮 かべ ま した。(p.12) [池澤 訳] す る とぼ くの 友 だ ち は笑 っ て 、 ぼ くを傷 つ け な い よ う気 を遣 い な が ら言 っ た一(p.13) 1藤田訳] わ た しの友 人 はや さ し く、 か ん だ い な よ うす で ほ ほ えん で い る。(p.13) [河野訳] 男 の 子 は 、 こ ち ら を 気 づ か う よ うに 、 に っ こ り す る と 、 や さ し く 言 っ た 。(pユ5) entl and and indul even entl.(p.13) indul indul egntly.(p.10) entl.(p,15) こ こ で も、倉 橋 訳 は 突 出 して 説 明不 足 で あ り、この 表 現 か らは曖 昧 なイ メー ジ しか 喚起 で き な い と思 われ る。後 に 登場 す る 「 バ ラ」 の描 写 に お い て も、同 じよ うに 「 甘 い 」 とい う語 彙 を用 い て お り、 これ が 更 に 曖 昧 さが 増 す 要 因 と な って い る(他 の訳 者 の場 合 は異 な る)。 (4) [原典] Il騁aitvraiment tr鑚irrit Ilsecouait au vent des cheveux tout dor鑚:...(p.30) 【W訳 】 He was rea■v very angry. He tossed his 37 Bolden curls in the breeze,(p.32) Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 一 倉橋訳の特徴 一 [C訳 】 He was truly [T訳 】 He was really [倉橋 訳】 王 子 さ ま は 本 気 で 腹 を 立 て て い た 。 そ し て 金 色 の 巻 き 毛 を 風 に な び か せ た 。(p.38) [内藤 訳1 王 子 さ ま は 、 こ ん ど は 、 ほ ん と う に 腹 を た て て い ま し た 。 そ し て 、 目 の さ め る よ うな 金 色 very angry. quite He angry. was He shaking shook his golden his golden locks locks in in the the breeze.(p.26) wind(p.32) の 髪 を 、 風 に ゆ す っ て い い ま し た 。(p.35) 【 山崎 訳】 ほ ん と う に 彼 は 、も の す ご く 怒 っ て い ま し た 。金 色 の 髪 を 風 に な び か せ て い ま し た 。(p.27) [池澤 訳】 彼 は ほ ん と うに 怒 っ て い た 。 金 色 の 髪 が 風 に な び い た 。(p.32) [藤田 訳】 王 子 さ ま は 、 ほ ん と うに い らだ っ て い た 。 金 色 の 髪 を 風 に な び か せ な が ら 、 こ うい っ た 。 (p.35) [河野 訳] 王 子 さま は 、本 気 で怒 っ て い た。 風 に む か って 金 色 に透 き とお る を 揺 ら し な が ら。 (pp.37-38) 「 本 気 で 腹 を立 て て いた 」 の部 分 は 問題 無 い。 しか し、 「 金 色 の巻 き 毛 を 風 にな び か せ た 」 は 、 「 王 子 さま」 が 巻 き毛 で あ る とは語 られ て い な い以 上 、 も はや 誤 訳 と言 っ て も良 い 。 2.2「王 子 さま」の 感情 以下で は 「 王子 さま 」の 感 情 に 関す る表 現 の訳 を分 析 す る。先 に扱 った容 貌 と厳 密 な差 異 を設 け て い るわ けで は な い こ とを予 め 断 って お く。 (5) [原 典1 Et [W訳] And il me in repeat answer alors, he tout doucement, repeated, very comme slowly, une as if he chose were tr鑚 s駻ieuse(p.14) sneaking of matter of erect consequence(p.12) [C訳 】 To which he merely repeated, very slowly, as thoueh it were a matter of erect consequence.(p.8) [T訳] Whereupon [倉橋 訳1 す る と そ の 子 は ひ ど く ゆ っ く り と 、 と て も 真 剣 に 繰 り 返 し た 。(p.11) [内藤 訳] す る と 、 ぼ っ ち ゃ ん は 、 と て も だ い じな こ と の よ うに 、 た い そ うゆ っ く り 、 く りか え し ま he repeated§g壇and g幽:(p,14) し た 。(p.12) 【山崎 訳 】 す る と 相 手 は 、 と て も 大 切 な こ と の よ う に 、 ゆ っ く り と 繰 り 返 し た の で す 。(p.10) [池澤 訳] そ れ に 対 し て 彼 は 、 と て も 重 要 な こ と を 告 げ る よ う に 静 か な 声 で 繰 り 返 し た 一(p,12) [藤 田訳 】 で も 、 そ の 子 は 、 こ ん ど は ゆ っ く り と 、 と て も だ い じ な こ と で も話 す よ うに こ うい っ た ん だ 。(P,12) [河野 訳】 で も そ の 子 は 、 な に か 重 大 な こ と の よ う に 、静 か な 声 で そ っ と く り 返 す だ け だ っ た 。(p.12) 「とて も真 剣 に繰 り返 した 」とい う訳 語 の選 択 に も 問題 が あ るよ うに 思 わ れ るが 、それ を抜 き に 38 し て も 、倉 橋 訳 は 最 も 曖 昧 で あ る 。 ま た 、 「 ひ ど くゆ っ く り と」 と 「 繰 り返 した 」 と い う こ と は 、 か な り奇 妙 で あ る(内 藤 訳 も や や 近 い)。 ご く普 通 に 考 え る な ら ば 、T訳 や 河 野 訳 や 池 澤 訳 が適 切 だ ろ う。 (6) [原典 】 Et le petit 【W訳 】 An d the prince eut little prince un tr鑚joli馗lat broke into de rire a lovelypeal qui m'irrita of laughter, beaucoup.(pp.17-18) which irritated me very much. (p.15) [C訳 】 And the little prince broke into a charming prince broke into a veal of laughter, which I found greatly irritating.(p.12) [T訳 】 And the little lovely peal of laughter wick annoyed my no end. (p.24) [倉橋 訳 】 王 子 さ ま は そ う い う と 、 頭 に く る ほ ど 楽 し そ う に 、 大 声 で 笑 っ た 。(p.16) [内藤 訳 】 王 子 さま は 、 そ うい っ て 、 たい そ うか わ い ら しい 声 で 笑 い ま した 。 笑 わ れ たぼ く は 、 と て も 腹 が 立 ち ま し た 。(p.17) [山崎 訳] そ して 小 さな 王 子 さま は とて もか わ い い 笑 い 声 を立 て ま した が 、そ の 笑 い 声 はわ た しに は 気 に入 り ま せ ん で し た 。(p.14) [池澤 訳】 そ う 言 っ て 王 子 さ ま が け ら け ら と 笑 っ た の で 、 ぼ く は 相 当 む っ と し た 。(p.17) [藤田 訳] 王 子 さ ま は と て もか わ い ら しい 笑 い 声 を上 げ た の で 、 わ た しは ち ょ っ とふ き げ ん に な っ た 。(p.16) [河野 訳】 そ う して 王 子 さま は 、 とて もか わ い い 声 で 笑 い だ した が 、僕 の ほ うはか な り腹 が 立 っ た。 (p.18) こ こ で も 同 様 で あ る 。 「楽 しそ う に 、 大 声 で 笑 っ た 」 は 曖 昧 模 糊 と して い る 上 に 、 か な り原 典 か ら離 れ て い る 。 ま た 、 「頭 に く る ほ ど」 だ け で は 誰 に と っ て 頭 に く る の か が わ か り づ ら く 、 表 現 が や や 不 自然 とな って しま っ て い る。 (7) 原 典1 Le 【W訳 】 The little prince w as now white [C訳] The little prince was now guite [T訳 】 The little prince was now pale [倉橋 訳 】 今 や 王 子 さ ま は 怒 り で 青 く な っ て い た 。(p.38) [内藤 訳 】 王 子 さ ま は 、 も う ま っ さ お に な っ て お こ っ て い ま し た 。(p.35) 仙 崎訳】 い ま や 小 さ な 王 子 さ ま は 、 怒 りの あ ま り ま っ 蒼 に な っ て い ま し た 。(p.27) [池澤 訳1 王 子 さ ま の 顔 は 怒 りで 青 ざ め て い た 。(p.33) petit prince騁ait maintenant tout with pale col鑽e.(p.31) raie.(p.32) p ale with with de anger.(p.26) anger.(p.32) 39 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 一 倉 橋 訳 の 特徴 一 1藤 田 訳 】 王 子 さ ま は 、 い ま や 、 い か り で 真 っ 青 に な っ て い た 。(p.35) [河野 訳 】 怒 りの あ ま り 、 王 子 さ ま は ま っ さ お に な っ て い た 。(p.38) 「 怒 りで 青 くな る」は 確 か に 日本 語 で も用 い られ る表 現 で あ り、 使 用 例 も存 在 して い る。しか し、 筆 者 の感 覚 で は 、あ ま り一 般 的 で は な い よ うに思 われ る。少 な く と も、 日常 的 に使 われ る よ うな 定 着 した感 情 表 現 で は な か ろ う。 実 際 、Googleに フ レー ズ 検 索 した と こ ろ、 前 者 は162件 12月18日 て 「 怒 りで赤 く」 と 「 怒 りで青 く」 の 両者 を で あ っ た の に対 して 、後 者 は12件 で あ っ た(2006年 … 現在)。前 者 は大 部 分 が 直 接 的 に怒 りを表 現 した も ので あ っ た が、後 者 の12件 に は外 国 語 の解 説 や 、フ ァ ン タ ジー 小 説 にお け る特 異 な キ ャ ラ ク タ ー 一の変 色 な ど直接 的 に怒 りを表 現 し た わ けで は な い も のが4件 含 まれ て い た。この よ うに 一般 的 で は な い 表現 で あ る に も関 わ らず 、 倉 橋 訳 で は あ ま りに説 明不 足 で本 当 に青 く変 色 して い るか の よ うな 印象 を受 け る。 「 真 っ青にな る」 や 「 青 ざ め る」 な ど の慣 用 句 を用 い る ほ うが適 切 だ ろ う。 2.3倉 橋 訳 の 特 徴 こ こま で の例 を見 た だ け で も、倉 橋 訳 にお け る 「 王 子 さま 」像 が 、か な り他 とは 異 な る こ と に 気 付 か され る はず で あ る。 これ を 個性 と取 る こ と も可能 か も しれ な い が 、や は り、ポ ジテ ィブ に 評 価 す る こ とは難 しい。 特 に 、本 来 表 現 され る べ き情 報 を 削 り取 っ て しま う行 為 は 、 「 大胆」で は な く(ちな み に、 倉 橋 訳 の オ ビに は 「"かつ て子 供 だ っ た"人 の た め に書 かれ た 永遠 の 名 作 。 そ の 『謎 』 を解 く最 も大 胆 な倉 橋 訳 、待 望 の 文 庫 化!」 とあ る)、む しろ、 単 な る 「 大 雑把 」 で あ る と思 わ れ る。 これ が 、物 語 の 主 要部 分 か ら外 れ る箇 所 で あれ ば理 解 で き るにせ よ、 「 王 子 さま 」 は 主 要 そ の も ので あ る以 上 、そ れ な りの描 写 が 必 要 に な るは ず で あ る。なお 、倉 橋 訳 の この 傾 向 は 「 王 子 さ ま」以 外 の描 写 に も見 出 す こ とが で き る。そ の た め、作 品 世 界 が 曖 昧 で ぼ や けた も の とな っ て しま って い る よ うに筆 者 に は感 じ られ る。 対 して 、内藤 訳 と池 澤 訳 は か な り充 実 して い る。内藤 訳 に は誤 訳 も少 な くな い が 、そ れ で も な お 独 特 の個 性 的 な表 現 で 「 王 子 さま 」が 描 か れ てい る。池 澤 訳 は 、誤 訳 が ほ とん ど全 く存在 せ ず 、 無 駄 の ない 簡 潔 な表 現 で 的確 に 「 王 子 さま 」が描 かれ て い る。倉 橋 訳 を この よ うに して 翻 訳 分 析 の 対 象 とす る こ とが 、他 の訳 者 を 際立 たせ る効 果 を も生 ん で い る こ とは 大 変興 味 深 い 。 3.お わ りに 最 後 に 、これ ま で の 議 論 を踏 ま えつ つ 、誤 訳 に焦 点 を 当 て な が ら、翻 訳 につ い て簡 単 に考 察 を 行 い た い。 翻 訳 に対 して も強 い 興 味 関 心 を抱 い て い た 三 島 由紀 夫 は 、『太 陽 と鉄 』 の 中で 「 現 実 と言 語 の 関係 とは 、エ ッチ ン グ にお い て 銅 を腐食 す る硝 酸 の関係 に等 しい 」 と述 べ た。 この 比 喩 を元 に考 え てみ る と、翻 訳 者 もま た 言 語 を 用 い た 表 現者 で あ る以 上 、 「 硝 酸 」 の使 用 に熟 達 して い な けれ ば な らな い こ とに な る。精 緻 な文 学 作 品 の翻 訳 とも なれ ば 尚更 で あ る。 も し使 用 を誤 れ ば 、あ る 特 定 の部 分 だ け で な く、そ の周 辺 を も台 無 しに して しま い 、修 正 不 可 能 な傷 を残 す こ とに な っ て 40 しま う。 この点 倉 橋 氏 は 、遺 憾 な が ら、傷 を 多 く残 しす ぎ て 、作 品 の質 感 が 大 き く損 な われ て い る よ うに 思 われ る。も っ とも 、この 点 に関 して は 、王子 さま の描 写 な らば挿 絵 が 理 解 の 助 け に な る だ ろ うし、描 写 を省 く こ とに よ りす っ き り と読 み や す くな る と肯 定 的 に評 価 す る こ と も可 能 で は あ るた め 、全 面 的 に倉 橋 氏 の方 針 が悪 い とい うこ とは で き な い。事 実 、イ ンター ネ ッ ト上 の 書 評 な どを概 観 す る と、 好 意 的 な 評 価 が 少 な くな い。 こ の こ とを こ こで付 記 してお く。 通 常 、翻訳 は原 典 よ りも長 く、説 明 的 にな る傾 向 が あ る と言 わ れ る。曖 昧 にぼ か す こ と は、 ど ち らか とい え ば例 外 的 な 事 象 で あ る。起 点 言 語 に特 有 な慣 習 な ど、対 象 言 語 に は全 く馴 染 み の 無 い もの を訳 す 際 に は確 か に有 効 な方 法 で あ ろ う。 しか し、本 稿 で これ まで 見 て きた よ うに 、決 し て そ の 必 要 が 無 い 箇 所 を 曖 昧 に訳 す の は 、例 外 の 中の 例 外 で あ る。本稿 は 限 定 した 範 囲 を扱 っ た が 、これ を広 げ て 、訳 者 の癖 を超 え た と ころ に あ る 「 何 か 」を 明 らか に して い く こ とが で きれ ば 、 更 に意 義深 く有用 な こ とが 見 出せ るか も しれ な い。 これ を今 後 の課 題 と した い。 【参 考 文 献 】 平 子 義 雄1999.『 K vecses, Z.2000. Cambridge 三 島 由 紀 夫1987.『 1959,『 大 堀 壽 夫(編)2004.『 翻 訳 の 原 理 一 異 文 化 を ど う訳 す か 』 大 修 館 書 店. Metaph or Cambridge an d Emotion:Language, University Press. 太 陽 と鉄 』 中 央 公 論 社. 文 章 読 本 』 中 央 公 論 社. 認 知 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン論 』 大 修 館 書 店. 41 Culture, and Body in Human Feeling. Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 倉橋訳の特徴 42 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 -山 AStudy 崎 訳 の特 徴 一 of」 乙θ 」%漉 肋 Focusing on α}and Its Translation Yamazaki's「 佐伯 祥太 Shots Problems: 恥anslation Saiki 慶億義塾大学総合政策学部 Faculty of Policy Management, Keio University 1.は じめ に フ ラ ン ス語 を原 典 とす る 『星 の王 子 さま』は 世 界 中 の様 々 な言 語 に よっ て 翻訳 され 、世 界 中 の 人 々 に親 しまれ て い る。 つ ま り、 『星 の王 子 さま』 の 中 に描 かれ る 「 世界 」 が 、 世 界 中で 幅 広 く 受 け入 れ られ て い るの で あ る。 しか し、 『星 の 王 子 さま』 を読 む 人 が皆 フ ラ ン ス 語 に精 通 して い るわ けで は ない 。 例 え ば 、 多 くの 日本 人 は 『星 の 王 子 さ ま』 を フ ラ ンス 語 で は な く 日本 語 で読 む 。つ ま り、世 界 中 の 人 々 が そ れ ぞれ 異 な る言 語 の 中で 『星 の王 子 さま』 と接 して い る の で あ る。 こ う した 意 味 で 考 え る と、『星 の 王 子 さま 』 の 「 世 界 」 を描 く上 で 、 目標 言 語 の 与 え る影 響 や 翻 訳 者 の 役 割 は極 め て重 要 で あ る とい え るの で は な い だ ろ うか 。 本 稿 で は、 日本 語 を 目標 言 語 と した 翻 訳 作 品 の一 つ で あ る 山崎 訳 に つ い て 、原 典 、邦 訳5点 、 英 訳3点 との比 較 を行 っ た 。 こ う した 比 較 に よ っ て 山崎 訳 の 特徴 を整 理 し、 山 崎 訳 に よ っ て描 か れ る 『星 の 王 子 さま』 の 「 世 界 」 につ い て の考 察 を行 う こ とが本 稿 の 目的 で あ る。 2.山 崎 訳 の特 徴 『星 の 王子 さま 』の 邦 訳 は 、数 が 多 く、それ ぞ れ 訳 者 の 個 性 が 現 れ た翻 訳 とな っ て い る。本 稿 で は 、 そ の 中 で も 山崎 訳 に着 目す る。 山崎 訳 を原 典 、英 訳3点 、 邦訳5点 と比 較 し、誤 訳 、 あ る い は 山 崎 の 踏 み 込 ん だ 解 釈 が な され た訳 な どを抽 出 ・分 析 す る。 この節 で は 、山 崎 訳 の 特 徴 的 な翻 訳 を(1)踏み 込 ん だ解 釈 、(2)因果 関係 、(3)言い過 ぎ、(4)焦点 、 (5)論理 構 造 、(6)関係 性 、(7)日本 語 の7つ の観 点 か ら整 理 、 分 析 す る。 2.1踏 み 込 んだ 解 釈 山 崎 訳 の 中 に は 、原 典 か ら読 み 取 れ る文 脈 に さ らに 山崎 独 自の解 釈 を加 え た 翻 訳 が 見 られ る。 (1)の例 は誤 訳 で は な い が 、(2)の例 は踏 み 込 ん だ解 釈 が誤 訳 とな っ て い る。 43 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 一 山崎訳の特徴 上 (1) 源 典】 Quand [W訳] When a mystery is too overpowering, [C訳 】 When a mystery is too overwhelming, [T訳 】 When a mystery is too overpowering, 【 山崎 訳 】 謎 め い た 印 象 が あ ま り に 強 す ぎ る と 、 言 う こ と を 聞 か ず に は い ら れ な い も の で す 。(p.10) [内藤 訳] ふ し ぎ な こ と も 、 あ ん ま り ふ し ぎ す ぎ る と 、 と て も い や と は い え な い も の で す 。(p.13) [倉橋 訳 】 あ ま り に も 不 思 議 な こ と に 出 会 う と 、 い や だ と は い え な く な る も の だ 。(p.14) [池澤 訳 】 あ ま り大 き な 謎 に 出 会 【 藤 田訳 】 あ ま りにい ん し ょ うの強 い ふ しぎ な こ とに 出会 う と、 ひ とはそ れ に さか らえ な い もの le myst鑽e est trop impressionnant, on one n'ose you dare one do not not dare pas d駸ob駟r.(p.14) disobey. dare not gyp.12) to question it.(p.8) disobey(p.14) う と 、 人 は あ え て そ れ に 逆 ら わ な い も の だ 。(p.12) だ が 、 そ の と き の わ た し も … …(p.12) [河野 訳1 不 思 議 な こ と で も 、 あ ま り に 心 を 打 た れ る と 、 人 は さ か ら わ な く な る も の だ 。(pp,13・14) こ こ で は 、英 訳 で"dare not_"と 翻 訳 され て い る箇 所 の 邦 訳 につ い て 検 討 す る。 この部 分 の 邦 訳 は 、山 崎 訳 の 「言 う こ と を 聞 か ず に は い られ な い 」、内 藤 訳 、倉 橋 訳 の 「 い や と は い え な い 」、 池 澤 訳 、藤 田訳 、 河 野 訳 の 「逆 ら わ な い 」 「さ か ら え な い 」 の3種 類 に 分 け られ る 。 ま ず 、 「い や と は い え な い 」 と 「逆 ら わ な い 」 「さ か ら え な い 」 は 表 現 の 差 異 は あ る が"dare not"と 極め て近 い 形 を 取 っ て い る。 そ れ に 対 し て 、山 崎 訳 は 一 定 の 解 釈 が 付 加 され て い る。少 し踏 み 込 ん だ 翻 訳 が な され て い る の で あ る。 「い や と は い え な い 」、 「逆 ら わ な い 」、 「さ か らえ な い 」 故 に 、 「言 う こ と を 聞 か ず に は い られ な い 」と い う状 況 に な っ て し ま う、と い う一 歩 踏 み 込 ん だ 解 釈 が 訳 者 に よ っ て な され て い る 。 (2) 原 典】 ≪Ga [W訳1 `That down't [C訳] `That won't 【T訳] `lt wouldn't ne fait rien, c'est matter matter matter tellement . Where where . Everything petit I live, I come , chez everything from is moi!≫(p.20) so it' small 44 is s so very where so sma皿!'(p.18) small!'(p.13) I live.'(p.18) [山崎 訳 】 ★ 「そ ん な こ と し た っ て 無 駄 だ よ 。 ぼ く の と こ ろ 、 す っ ご く小 さい ん だ か ら!」(p.16) [内藤 訳 】 「 だ い じ ょ うぶ な ん だ よ 。 ぼ く ん と こ 、 と っ て も ち っ ぽ け な ん だ も の 」(p.18) [倉橋 訳 】 「ど こ へ 行 っ た っ て い い さ。 ぼ く の 住 ん で る と こ ろ で は 何 も か も 小 さ い か ら 」(p.21) [池澤 訳] 「 別 に か ま わ な い よ。 ぼ く の と こ ろ は と っ て も 小 さ い ん だ か ら 」(p,18) [藤 田訳 】 「そ ん な こ と な ん で も な い よ 。 ぼ く ん と こ 、 と っ て も 小 さ い ん だ か ら。」(p,19) [河野 訳】 「だ い じ ょ うぶ な ん だ 。 ほ ん と うに 小 さ い か ら、 ぼ く の と こ ろ は!」(p.21) こ の部 分 の訳 は 、明 らか に 山崎 訳 だ け他 の訳 者 とは 異 な っ た 翻訳 に な っ て い る。山 崎訳 以外 の 翻 訳 の差 異 は表 現 の差 異 で あ るが 、山崎 訳 は 翻 訳 され て い る意 味 内容 が踏 み 込 ん だ もの とな っ て い る。 しか し、 こ こで の 山 崎 訳 は 踏 み 込 み が 誤 訳 に な っ て い る。 「 大 丈 夫 だ よ」 とい う表 現 と 「 無駄 だ よ 」 とい う表 現 で は 正 反 対 の 意 味 に な って しま う。 「 そ ん な こ と した っ て 無 駄 だ よ。」 とい う文 は 、「ヒツ ジ を逃 が した い 」とい う前 提 の も とで 解 釈 が 可 能 で あ る。 これ に 対 して、 「 大 丈 夫 だ よ。」 とい う文 は 、 「ヒツ ジを逃 が した くな い 」 とい う前 提 の も とで解 釈 が 可 能 で あ る。 故 に 、 山崎 訳 で は 、原 典 と意 味 内容 が 異 な っ て しま うので 、 誤 訳 で あ る。 2.2因 果 関係 原 典 に お け る因果 関係 が 翻 訳 に よ って 崩 れ て しま っ てい る箇 所 が 見受 け られ た。この 箇 所 は 山 崎 訳 だ け で は な く、 内藤 訳 、 倉 橋 訳 、 藤 田訳 も 同 じ箇 所 が 誤 訳 とな っ て い る。 (3) [原典 】 Heureusement peuple, [W訳l sous Fortunatel pour la r駱utation de l'ast駻o peine de however mort, de for the s'habi皿er re utation de B 612, un dictateur turc imposa灣on 'europ馥nne.(p.21) of Asteroid B・612, a Turkish dictator made a law that his subjects,under pain of death, should change to European costume.(p.20) [C訳 】 Fortunatel for the re utation of Asteroid B612, a Turkish dictator ordered his subjects,on pain of death, to convert to European dress.(pp.14-16) [T訳] Fortunatel fbr the re utation of Asteroid B・612, however, a Turkish European costume upon his subjectsunder pain of death.(p.21) 45 dictator imposed Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 [山崎 訳 】 ★さ い わ い 、 小 惑 星B612の 一 山崎 訳 の 特徴 一 評 判 の た め に 、 トル コ の ひ と りの 独 裁 者 が 、 国 民 に た い し て ヨ ー ロ ッパ ふ う の 服 装 を す る よ う に 強 制 し 、違 反 す れ ば 死 刑 に 処 す る と い うお 触 れ を 出 し ま した 。(p.17) 【内藤 訳 】 ★さ い わ い 、B-612番 の 星 の 評 判 を 傷 つ け ま い と い うの で 、 トル コ の あ る 王 さ ま が 、 ヨー ロ ッパ 風 の 服 を着 な い と死 刑 にす る とい うお ふ れ を だ しま した 。(p.21) 【 倉 橋 訳 】 ★幸 い に もB-612の 星 の 評 判 は よか っ た。 トル コの 独 裁 者 が 、ヨー ロ ッパ 風 の 服 を着 ない と死 刑 にす る とい うお ふ れ を 出 し、そ こ で例 の天 文学 者 は 、一 九 二 〇 年 に 、 しゃれ た スー ツ を着 て発 表 をや りなお した。(p.24) 【 池 澤 訳 】 や が て トル コの 独 裁 者 が 、 ヨー ロ ッパ 風 の 服 を 着 な い 者 は 死刑 に す る とい う法 律 を作 っ た の は、 小 惑 星B612の [藤 田訳1 ★で も小 惑 星B六 名 誉 の た め に 幸運 だ っ た。(p.20) 一 二 の うわ さの お か げ で 、 トル コの 王 さま は 、 ヨー ロ ッパ 式 の 服 を き な けれ ば死 刑 にす る とひ とび とに命 令 した。(p.20) [河野 訳 】 そ の 後 、小 惑 星B612に 、名 誉 挽 回 の 幸運 が 訪 れ た。 トル コの 独 裁 者 が 、 国 民 に ヨ・ 一 ロ ッパ 風 の 服 装 を 強 制 し、従 わ な けれ ば死 刑 と決 め た の だ。(p.22) この 箇 所 で の 山崎 訳 は、「 小 惑 星B612の 評 判 のた め に」、「トル コの独 裁 者 が お 触 れ を出 した 」 と記 述 され て い る。つ ま り、 トル コの独 裁 者 が お触 れ を出 した の は、小 惑 星B612の 評 判 を守 る た め とい う解 釈 が な され て い る。 しか し、3つ の英 訳 が 同 じ翻 訳 を して い る よ うに 、 トル コの 独 裁 者 が お 触 れ を出 した の は 、決 して小 惑 星B612の 評 判 を守 る た め で は な い 。偶 然 同 時 期 に トル コの独 裁者 に よっ て 出 され た お 触 れ が 、 小 惑 星B612の 名 誉 のた め に幸 運 だ っ た の で あ る。 この 箇 所 の 訳 は 、池 澤 訳 が 自然 で あ る。内藤 訳 、藤 田訳 に 関 して も、山 崎 訳 と同 じ誤 訳 が 見 ら れ る。 ま た 、 倉 橋 訳 で は 、 「B612の 評 判 は よか っ た 」 とい う記 述 が あ るが 、決 して そ の よ うな 内容 は原 典 に は 見 られ な い 。 河 野 訳 は 、 誤 訳 で は ない 。 しか し、 「 小 惑 星B612の 評 判」 と 「 独 裁 者 の お触 れ 」の関係 性 が あい まい に な っ てい る。文脈 か ら、山 崎 訳 な ど と同 様 に 「 小 惑 星B612 の評 判 の た め に 」、「トル コ の独 裁 者 がお 触 れ を 出 した」 と解 釈 す る こ とも不 可 能 で は な い。 よっ て 、河 野訳 は誤 訳 で は な い が 、 読 者 に よ って解 釈 の 分 か れ る可 能 性 を含 む 訳 だ と言 え る。 2-3言 い 過 ぎ 英 訳 に お い て 否 定 が 用 い られ て い る箇 所 につ い て 検 討 した 。 山崎 訳 は、 英 訳3点 と比 較 す る とよ り強 い否 定 が用 い られ て い るの が 特徴 的 で あ る。 (4) 原 剣 Mais, bien s皞, nous qui comprenons la vie, nous nous 46 mopuons bien des num駻os! (p.22) [W訳 】 [C訳 】 [T訳 】 But Of certainly, course, But, for for we of course, us who who for those understand understand of us who life, figures are life, figures are understand life, we a matter quite ofindifference.(p.21) unimportant.(p.17) could not care less about figures. (p.22) [山崎 訳1 ★で も 、 も ち ろ ん 、 人 生 と い う も の が わ か っ て い る わ た し た ち は 、 番 号 な ん か ま っ た く軽 蔑 し て い ま す よ ね!(p.18) 【 内藤 訳 】 だ け れ ど 、ぼ く た ち に は 、も の そ の も の 、こ と そ の こ と が 、た い せ つ で す か ら 、 も ち ろ ん 、 番 号 な ん か 、 ど う で も い い の で す 。(p,22) [倉橋 訳 】 し か し 、 人 生 が わ か る 人 間 な ら 数 字 の こ と な ん か ど う で も よ か っ た だ ろ う 。(p.26) [池澤 訳】 だ け ど 、 ぼ く た ち み た い に 生 き る と い う こ と の 意 味 が わ か っ て い る 者 に は 、数 字 な ん て ど う で も い い 。(P.22) [藤 田訳】 ★で も 、 も ち ろ ん 、 人 生 が わ か っ て い るわ た した ち に とっ て は 、 番 号 な ん て く だ らな い も の さ!(p.22) [河野 訳1 で も 、僕 らは も ち ろ ん 、生 き る とい うの が ど うい う こ とか わ か っ て い る か ら、 番 号 な ん て か ま わ な い!(p,24) W訳 で は"indifference'℃ 訳 で は"unimportant"、T訳 で は 、"not care less about figures"と そ れ ぞ れ 翻 訳 され て い る 箇 所 に 対 応 す る 邦 訳 に つ い て こ こ で は 検 討 した い 。い ず れ の 英 訳 も 否 定 形 が 用 い ら れ て い る が 、 積 極 的 な 否 定 、 あ る い は 強 い 否 定 は な さ れ て い な い と解 釈 で き る。 つ ま り 、 内 藤 訳 、 倉 橋 訳 、 池 澤 訳 、 河 野 訳 の よ う に 、 「ど うで も よ い 」 「か ま わ な い 」 と い う類 の 消極 的 な 否 定 の翻 訳 が適 切 で あ る と考 え られ る。 し か し 、 山 崎 訳 は こ の 部 分 が 「軽 蔑 し て い る 」 と い う単 語 に よ っ て 翻 訳 さ れ て い る 。 原 典 か ら は こ こ ま で 強 い 否 定 は 読 み 取 れ な い の で は な い か 。 「ど うで も よ い 」 か ら と い っ て 、 「軽 蔑 す る 」 と は 限 らな い の で 、 こ の 表 現 は 言 い 過 ぎ に な っ て し ま う。 藤 田 訳 は 、 こ の 部 分 を 「く だ ら な い 」 と して お り、 「軽 蔑 す る 」 ほ ど強 い 否 定 で は な い が 、 「ど うで も よ い 」 「か ま わ な い 」 な ど と 比 べ る と や や 強 い 否 定 に な っ て い る。 2.4焦 点 原 典や英訳 において 「 友 だ ち 」に焦 点 の 当た って い る表 現 が 、邦 訳 にお い て はす べ て の 訳者 が 「ヒ ツ ジ」 に 焦点 を 当て て い る。 また 、 邦 訳6点 の 中 で も焦 点 の 当 て方 が 異 な っ て い る。 こ こ で 取 り上 げ た 例 は誤 訳 で は ない 。そ れ は 、 日本 語 の 特質 上 、原 典 や 英 訳 の 「 焦 点 」 を正 確 に翻 訳 47 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 山 崎 訳 の 特徴 一 す る こ と は 不 可 能 だ か ら で あ る 。 しか し 、(5)の 例 は フ ラ ン ス 語 、 英 語 、 日 本 語 の 特 徴 を 考 え る 上 で 非 常 に興 味 深 い 。 (5) 原 典】 Il y a six ans [W訳 】 Six years d駛瀲ue have mon already ami passed s'en est since my all饌vec friend son mouton.(p.22) went away from me, with his sheen. (p.22) [C訳] Already 【T訳】 Six [山崎 訳 】 あ の 友 だ ち が ヒ ツ ジ を 連 れ て い っ て し ま っ て か ら 、 も う6年 [内藤 訳] あ の 友 だ ち が ヒツ ジ をつ れ て six years years have have already passed elapsed since since my my friend went little friend away, along left me, with with his his sheep.(p.17) sheen.(p.23) が た ち ま し た 。(p.19) どこ か へ い っ て しま っ て か ら、 も う六 年 に もな ります 。 (p.23) 槍 橋 訳] あ の 友 だ ち が 羊 を連 れ て ど こか へ 行 って し ま っ てか らも う六 年 の 月 日が 過 ぎ た。(p.26) [池澤 訳] ぼ くの 友 だ ちが ヒ ツ ジ を連 れ て行 って しま って か ら も う6年 に な る。(p.22) [藤 田訳1 王 子 さ ま が ヒ ツ ジ と い っ し ょ に い な く な っ て しま っ て か ら、 も う六 年 に な る 。(p.23) [河野 訳] 僕 の 友 だ ち が ヒ ツ ジ と と も に 行 っ て し ま っ て か ら、 も う六 年 に も な る 。(p.25) この箇 所 で は 、 「 友 だ ち 」 と 「ヒ ツ ジ 」 の ど ち ら に よ り焦 点 が 当 た っ て い る か を 検 討 す る 。 ま ず 、W訳 、 C訳 、 T訳 に お い て 、 焦 点 が 当 た っ て い る の は 、"my friend"で あ る 。"sheep"に つ い て は 、 後 に 付 加 され る 形 式 を 取 っ て い る 。 これ は 、3つ の 英 訳 に 共 通 し て 言 え る 。 し か し、 邦 訳 に つ い て は い ず れ も 「ヒ ツ ジ 」 よ り も 「友 だ ち 」 の 方 に 焦 点 が 当 た っ て い る よ う に 解 釈 す る こ と は 困難 で あ る。 英 訳 と比 較 す る と 邦 訳 の 焦 点 は 「友 だ ち 」 よ り 「ヒ ツ ジ 」 に 当 た っ て い る 。 し か し 、 邦 訳6 点 の 中 で 焦 点 の 比 較 を 行 う と邦 訳 の 中 で も 焦 点 の 当 て 方 に 違 い が 見 られ る 。 山 崎 訳 に お い て は 、 「友 だ ち 」 よ りむ し ろ 、 「ヒ ツ ジ 」 が い な く な っ て し ま っ た こ と に 焦 点 が 当 た っ て い る よ う に 感 じ られ る 。 池 澤 訳 も 山 崎 訳 と 同 様 で あ る 。 ま た 、 「連 れ て い っ て 」 「連 れ て 行 っ て 」 とい う訳 が 両 者 に 見 られ る が 、 「連 れ て い く」 と い う動 詞 な の か 、2つ の 動詞 「連 れ て 」 と 「行 く」 が 並 置 され て い る の か に よ っ て も解 釈 は 異 な る 。 仮 に 、 「 連 れ て い く 」 と い う動 詞 と し て 使 わ れ て い る 場 合 、 焦 点 は 「友 だ ち 」 で は な く 「ヒ ツ ジ 」 に 当 た っ て い る と解 釈 で き る 。 内 藤 訳 と 倉 橋 訳 は 、 酷 似 して い る 。 「あ の 友 だ ち が 」 「ど こ か へ い っ て しま っ て か ら」 の 箇 所 が メ イ ン に な っ て い る の で 、 山 崎 訳 、 池 澤 訳 に 比 べ る と 「友 だ ち 」 に よ り焦 点 が 当 た っ て い る 。 藤 田 訳 、 河 野 訳 に つ い て は 、 「い っ し ょ に 」 「と も に 」 と い う副 詞 を 用 い て お り 、 内 藤 訳 、 倉 橋 訳 よ り も さ ら に 「友 だ ち 」 に 焦 点 を 当 て た 表 現 だ と 言 え る 。 邦 訳 間 で の 微 妙 な 差 は あ る も の の 、英 訳 と 邦 訳 を 対 照 した 場 合 、 英 訳 は 「ヒ ツ ジ 」 が 付 加 的 に 訳 さ れ て い る の に 対 し、 邦 訳 で は 、相 対 的 に 「ヒ ツ ジ 」 に 対 す る 焦 点 の 向 け られ 方 が 強 く な っ て い る 。英 語 の よ うに 、カ ン マ の あ と に 補 助 的 な 表 現 を 付 加 す る と い う 日本 語 表 現 が 存 在 して い な 48 い た め こ うした翻 訳 の差 異 が 見 られ る。した が っ て 、こ う した 焦 点 の 度合 い の差 を誤 訳 と して 指 摘 す るの は難 しい。 2.5論 理 構 造 (6)は、原 典 にお け る論 理 構 造 が 邦 訳 に正 確 に 反 映 され て い な い例 で あ る。 山崎 訳 は仮 定条 件 が正 し く表 現 され て い な い の で 誤 訳 だ と言 え る。 (s) Et si la plan鑼e est trop petite et si les baobabs [原典1 sont trop nombreux, ilsla font馗later. (pp.25-26) [W訳 】 And ifthe planet is too small, and the baobabs are too manu, they splitit in pieces... (p.26) [C訳] And ifthe lanet is too small and if the baobabs are too numerous, they will finally make the planet explode.(p.20) [T訳 】 And ifthe lanet is too _small and if there are too manu baobabs, the planet exploded. (p.26) [山崎 訳 】 ★あ げ く に は 、 そ の 星 が小 さす ぎた り、 バ オバ ブ の 数 が 多 す ぎた りす る と、 そ の 星 を破 裂 させ て し ま うの で す 。(pp.21・22) [内藤 訳1 星 が小 さす ぎ て 、バ オバ ブ が あ ま りた く さん あ りす ぎ る と、そ の た め に、 星 が破 裂 して し ま い ま す。 (p.28) [倉橋 訳 】 ★星 が小 さす ぎ る の で 、 バ オ バ ブ が繁 茂 す る と星 は破 裂 して ば らば らに な る。 [池澤 訳 】 小 さな 星 に バ オ バ ブ が あ ん ま りた く さん は び こる と、 星 は壊 れ て しま う。 [藤 田訳] (p.30) (p.26) 根 が 星 をつ らぬ い て 、 も し星 が とて も小 さか っ た り して 、バ オバ ブ が 多 か っ た りす る と、 バ オ バ ブ は 星 を は れ っ させ て し ま う こ と も あ る ん だ 。(p.27) [河野 訳] ★星 は と て も 小 さ い か ら 、 そ ん な バ オ バ ブ が 増 え す ぎ る と 、 つ い に は 、 破 裂 し て し ま う。 (p.30) 49 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 山崎 訳 の 特徴 一 3つ の英 訳 か ら分 か る よ うに 、 こ こで 書 か れ て い る の は 、 「も し、星 が小 さい 、 且 つ 、 バ オ バ ブ の数 が多 い 」場 合 に 星 が破 裂 す る と書 か れ て い る。つ ま り、「 星 が 小 さい」 こ と、 「 バ オバ ブ の 数 が 多 い」 こ との 両 方 が仮 定 と して示 され て い る。 山崎 訳 は 、 「 且 つ」 とい う条 件 が 書 かれ て い な い た め誤 訳 で あ る。 星 が小 さい だ け で は 、 星 は 破 裂 しない し、バ オバ ブ の数 が 多 い だ け で も星 は破 裂 しな い ので あ る。 また 、 も う1つ の 山 崎訳 の 特徴 と して 文頭 の 「あげ くに は」 が挙 げ られ る。 この表 現 は 他 の 邦 訳 者 は用 い て い な い。 英 訳 で は 、 この部 分 は"and"と 訳 され て い るが 、邦 訳 者 は ほ とん ど省 略 して い る。山 崎訳 は 「あ げ くに は」を 文頭 に 置 く こ と に よ って 文 全 体 の意 味が 分 か りに く くな っ て しま って い る。 (8)の例 で適 切 に表 現 され て い る の は 、 内 藤 訳 、池 澤 訳 で あ る。 英 訳 とま っ た く 同 じ仮 定 条 件 で 訳 され て い る。 倉 橋 訳 と河 野 訳 は 同 じ誤 訳 に な っ て い る。 「 星 が 小 さい 」 とい う一 つ 目の 条 件 が 、 仮 定条 件 で は な く事 実 で あ るか の よ うに書 か れ て い る。これ で は 、 原 典 の 伝 え て い る 内容 と異 な っ て しま う。 藤 田訳 は誤 訳 で あ る とは言 え な い が 、 「 根 が星 を つ らぬ い て 」 と 「も し星 が とて も小 さか っ た りして 、 バ オ バ ブ が 多 か っ た りす る と」 の順 序 に違 和 感 を 覚 え る。 ま た 、 「 た り」 の 日本 語 と し て の 用 法 に も不 自然 さを感 じる。 翻 訳 に よっ て 、こ う した 論 理 的 な 矛盾 が 生 じる と明 らか な誤 訳 に な っ て しま う。こ う した誤 訳 に つ い て は 目標 言 語 の特 質 の差 は あ ま り影 響 しない はず で あ る。 2.6関 係 性 (7)では 、 邦 訳 にお け る接 続 詞 の役 割 につ い て着 目す る。 そ れ ぞ れ の訳 者 に よ って 節 と節 の つ な ぎ方 が 異 な っ て い る。また 、そ う した 違 い が 登 場 人 物 の イ メー ジ に影 響 を与 え て い る の も非 常 に興 味 深 い。 (7) [原典1 Et elle,qui avait travaill饌vec tant de pr馗ision,dit en b稱llant...(p.33) 【W訳 】 And, [C訳 】 And afしer workin after labouring with all this ainstakin with such painstaking 50 recision, precision she yawned she merely and said: _.(p.35) said with a yawn: (p.28) [T訳 】 And havingworked so hard and taken such care, she yawned and said(p.36) [山崎 訳 】 そ して 花 は 、 そ ん な に 気 を 配 っ て努 力 して き た くせ に 、 あ くび を しな が ら言 い ま した。 (p.29) [内藤 訳1 な に ひ と つ 手 お ち な く け し ょ う を こ ら し た 花 は 、 あ く び を し な が ら い い ま し た 。(p.39) [倉橋 訳1 念 入 りに支 度 を整 え てか ら、花 は あ くび を しな が らい っ た 。(p.44) [池澤 訳1 彼 女 は 準 備 に と て も手 間 を か け て疲 れ た の か 、 あ くび を しな が ら言 った 一(p.36) [藤田 訳] 花 は 、 一 生 け ん め い じゅ ん び を して つ か れ て い た の か 、 あ くび を しな が ら こ うい っ た。 (p.38) [河野 訳】 そ う し て 、 す み ず み ま で 隙 の な い 装 い を 終 え た と い うの に 、 あ くび を し な が ら こ う言 っ た 。 (p.41) こ の部 分 は 、 「 花 の 化粧 」 と 「あ くび 」 の 関係 性 を 検討 した い 。 山崎 訳 に お い て は 、 両 者 に逆 接 の 関係 が あ る。 しか も、 「くせ に」 とい う表 現 を用 い る こ と に よ っ て 、 か な りネ ガ テ ィブ な印 象 を与 え て い る。 山崎 訳 に 近 い 翻 訳 と して は 、河 野 訳 が 挙 げ られ る。河 野 訳 で も、両者 に逆 接 の 関係 が あ る。た だ 、 「とい うの に 」 とい う表 現 は 、 山崎 訳 ほ どネ ガ テ ィブ な 意 味 は含 まれ て い ない 。 池 澤 訳 、藤 田訳 で は 、化 粧 の 「 疲れ 」が 「 あ くび 」 の原 因 にな っ て い る と解 釈 され る。 た だ 、 「 疲 れ た の か 」「 つ かれ て い た の か 」とい う表 現 か らは、100%の 原 因 と結 果 の 関係 は 見 られ ず 、 第 三 者 に よ る推 測 が 含 まれ て い る の も特 徴 的 だ。 内 藤 訳 、倉 橋 訳 につ い て は 、両 者 の 関 係 性 は薄 くな っ て い る。時 間的 に前 後 の 関係 で あ る とい う以 上 の 関係 性 は な い 。 山崎 訳 、河 野 訳 と池 澤 訳 、藤 田訳 を比 較 す る と、翻 訳者 の 「 花 」 に対 す る イ メ ー ジが か な り異 な っ て い る こ とが 分 か る。 山崎 訳 、河 野 訳 で は 、 「 花 」 は 思 い とは 裏 腹 な こ とを言 っ て い る印 象 を与 え る の に対 し、池 澤 訳 、藤 田訳 は 素 直 に感 情 を表 して い る 印象 を 与 え る。内 藤 訳 、倉 橋訳 は 、 「 花 」 のイ メ ー ジ に印 象 を及 ぼ す 表 現 に は な っ て い な い。 2.7日 本語 (8)の 山 崎 訳 は 決 し て 誤 訳 で は な い 。 む し ろ 、 最 も 語 義"donner"に 忠 実 な 翻 訳 で あ る と言 え る 。 しか し、 こ こ で の 山 崎 訳 は 他 の 邦 訳 者 と の 差 が 際 立 っ て い る 。 こ こ で は 、 目標 言 語 で あ る 日 本 語 の 使 い 方 に着 目 した。 51 Le、Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 上 山崎 訳 の 特 徴 一 (s> 原 典】 Il faut [W訳] One [C訳 】 exiger de chacun ce que must require from One must require of each [T訳 】 One must demand [山崎 訳】 だ れ に た い して も、 そ の ひ とが 与 え る こ とが で き る も の だ け を 求 め な けれ ば な らん 」 と、 each of each chacun one the what each and every peut duty donner, which is able one reprit each le roi.(p.42) one can to dive,'continued what he or she perform,(p.46) the is capable king.(p.38) of.(p.45) 王 さ ま は つ づ け ま し た 。(p.38) 【 内藤 訳 】 人 に は 、 め い め い 、 そ の 人 の で き る こ と を し て も ら わ な け り ゃ な ら ん 。(p.52) [倉橋 訳 】 人 に は そ の 人 に で き る こ と を し て も ら わ な け れ ば な ら ん 。(p.58) [池澤 訳 】 「そ う だ 。 余 は 臣 下 の そ れ ぞ れ に で き る こ と を 求 め な く て は な ら な い 」 と 王 様 は 言 っ た 。 (p.47) [藤田訳 】 「… … ひ と に は そ れ ぞ れ で き る こ と を 要 求 せ ね ば な ら ん 」(p.52) [河野訳1 「そ の と お り 。 人 に は そ れ ぞ れ 、 そ の 人 が で き る こ と を 求 め な く て は な ら ん 」 王 さ ま は 言 っ た 。(p,55) こ の 部 分 で は 山 崎 訳 だ け 、 他 の 邦 訳 と翻 訳 が 異 な っ て い る 。 他 の 五 者 の 翻 訳 に お い て 、 「そ の 人 の で き る こ と」 「そ れ ぞ れ の で き る こ と」 と な っ て い る 箇 所 が 、 山 崎 訳 で は 、 「そ の 人 が 与 え る こ とが で き る も のだ け を」 とな っ て お り、 「 与 え る 」 と い う動 詞 が 用 い られ て い る 。 山 崎 訳 と同 じ よ う な 翻 訳 と し て 、C訳 が 挙 げ られ る 。 C訳 に お い て も 、"give"と い う動 詞 が 用 い られ て い る。 こ こ で の 山 崎 訳 は 、誤 訳 だ と 断 定 す る こ と は で き な い 。 内 容 的 に 見 る と 、他 の 五 者 の 翻 訳 と一 致 し て い る と考 え る こ と も 可 能 だ か ら だ 。 し か し、 こ こ で 指 摘 した い の は 目標 言 語 で あ る 日本 語 の 問 題 で あ る 。 す ぐ 後 で 、 「求 め る 」 と い う動 詞 が 使 わ れ て お り、 「与 え る 」 と い う動 詞 と連 続 で 使 う と解 釈 が 難 し く な る 。 ま た 、 一 文 の 中 に 、 「だ れ 」 「そ の ひ と」 と い う代 名 詞 が 並 ん で 使 わ れ て い る た め 、 動 作 主 を 特 定 す る こ と も 難 し くな っ て い る 。 こ の 部 分 の 山 崎 訳 は 誤 訳 で は な い が 、 一度 読 ん だ だ けで は 理解 す るの が 困難 な文 で あ る と言 わ ざ る を得 な い。 3.お わ りに 以 上7項 目8例 に わ た っ て 、 山 崎訳 の 特徴 的 な翻 訳 を整 理 して きた 。 こ こ に挙 げた 例 を全 体 的 に捉 え る と山崎 訳 の特 徴 は 「 は っ き り した翻 訳 」 とい う言 葉 に集 約 で き るの か も しれ な い 。も ち ろ ん一 言 で 特 徴 を述 べ る の は あ ま りに 乱暴 で あ る が 、山崎 訳 の 「 は っ き り した翻 訳 」 とい う特 徴 は 上 に挙 げ たす べ て の例 に 共通 す る こ とで あ る。 つ ま り、 『星 の 王 子 さま 』 を読 者 と して解 釈 52 した 山崎 が 自信 を持 って 捉 え た 「 世界 」 を表 現 して い る と筆 者 は 感 じた 。 そ う した 「は っ き り した 翻 訳 」 は 、時 に は踏 み 込 み す ぎ 、言 い過 ぎ の よ うに感 じて しま うこ と が あ る。2.1踏 み 込 ん だ解 釈 、2.3言 い過 ぎ は そ の顕 著 な例 で あ る と言 え る。確 か に、 こ うした 例 は原 典 のテ ク ス トの意 味す る もの と異 な っ て しま うこ とが あ る。 しか し、そ うした例 をす べ て 誤 訳 と して片 付 け る べ き で は な い 。逆 に 、そ う した 例 に こそ 、翻 訳 者 の作 品世 界 に 対す る思 い入 れ を感 じ取 るべ き な の で は な い だ ろ うか 。 2.6関 係 性 の例 に 関 して は 、接 続 詞1つ か ら、訳 者 の登 場 人物 「 花 」に対 す る捉 え 方 を 知 る こ とが で き る非 常 に興 味深 い 例 で あ る。山 崎訳 は 登場 人物 や 場 面 に 近 い 距 離 を と り、個 々 の 人物 や 場 面 に対 す る訳 者 の解 釈 が 表 現 に現 れ て い る作 品で あ る。この よ うに考 え る と、『星 の 王 子 さま 』 を複 数 の 邦訳 で読 む とい う行 為 は 様 々 な 「 世 界 」 に触 れ る絶 好 の機 会 で も あ る。 『星 の 王子 さま 』 と 日本 人 の 間 に存 在 す る翻 訳 者 は 云 わ ば 両者 の 懸 け橋 で あ る。それ も、そ れ ぞれ が 個性 を 有 した 懸 け 橋 とな って い る。原 典 か ら乖離 した 翻 訳 を誤 訳 と して 、す な わ ち 、壊 れ た橋 と して 見 る こ と もで き る。 しか し、壊 れ た橋 を個 性 と して捉 え なお して 見 る こ と も、 『星 の 王 子 さま 』 の描 く 「 世 界 」 を理 解 す る手 掛 か りに な る の で は な い だ ろ うか。 【参 考 文 献 】 平 子 義雄1999.『 翻 訳 の 原 理 一 異 文 化 を ど う訳 す か 』 大 修 館 書 店. 53 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 山崎訳の特徴 54 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 -池 AStudy of 1ゑPb漉 澤訳 の 特徴 一 肋6θand Focusing on Its Translation Ikezawa's Translation 菅原 久 佳 Hisaka 慶應 義 塾 大 学 政 策 ・ メデ ィア 研 究 科 Graduate Keio Problems: Sugawara School of Media and Governance, University 1.は じめ に Ant0ine de Saint-Exup6ryのLe の 一 つ で あ る 。2005年 Petit Princeは 、 世 界 で 最 も読 み 親 し ま れ て い る 文 学 作 品 、 日本 で の 著 作 権 保 護 期 間 が 満 了 し た こ と に よ り、 以 後15以 が 出 版 され て い る(2006年11月 上の邦訳 現 在)。 翻 訳 分 析 を お こ な う上 で 、 これ は 真 に 稀 有 な 、 そ し て 幸 運 な こ と で あ る 。 本 研 究 会 で は 、2006年 前 期 に 、 英 訳3点 と 邦 訳6点 と を選 択 し、原 典 との 比 較 対 照 分 析 を お こ な っ て き た 。そ れ ぞ れ の 翻 訳 者 の 特 徴 が 明 確 に 見 え て き た い ま 、原 典 か ら の 乖 離 が どれ ほ ど あ り、 そ れ が も た らす も の が 何 か 、 と い う 点 に 着 目 し分 析 を 試 み る こ と に した 。 本 稿 で は 、 池 澤 夏 樹 に よ る 邦 訳 に 焦 点 を 当 て 、 そ の 特 徴 を 見 極 め る 。 以 下 、 第2節 誤 訳 に つ い て の 筆 者 の 主 張 を 簡 潔 に 、 第3節 において に お い て 池 澤 夏 樹 の 翻 訳 の 分 析 と 考 察 を 、 第4節 にお い て結 論 を述 べ る。 2.「 誤 訳 」に つ い て 誤 訳 と は 何 か 。 こ れ は 、翻 訳 と は 何 か 、 と い う問 い に 等 しい で あ ろ う。 狭 義 の 翻 訳 と は 、 い わ ゆ る 異 言 語 間 翻 訳 を 指 し 、た と え ば 「あ る言 語 で 表 現 さ れ た 文 章 の 内 容 を 他 の 言 語 に な お す こ と 」 (『 広 辞 苑 』1998)と 系 間 翻 訳 」(Jak0bson 定 義 され る 。 あ る い は 、 広 義 に は 、 「言 語 内 翻 訳 」、 「言 語 間 翻 訳 」、 「 記 号体 1959)の す べ て を 包 括 す る も の で あ る と い う考 え 方 も あ る 。 筆 者 は 、 後 者 の 立 場 を 取 り 、 以 前 、言 語 間 翻 訳 の 定 義 と して の 「言 葉 を 原 作 か ら 読 み 取 り、 母 語 に 移 植 す る こ と」(北 御 門1978)を 拡 大 し 、す べ て の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 して 「 翻 訳 は移 植 で あ る 」 と の 主 張 を お こ な っ た(菅 原2004a)。 さ らに、 「 翻 訳 」 と 「創 作 」 に 関 す る 多 和 田 葉 子 の 思 想 に 言 及 し 、 創 作 も ま た 翻 訳 で あ る と述 べ た(菅 原2004b)。 そ して こ こで は 、厳 密 に は 「翻 訳 は 創 作 を も 含 む 」 と い う考 え に 立 つ 。 こ の 概 念 に つ い て の 詳 述 は 別 の 機 会 に 譲 る が 、本 稿 の 前 提 と な っ て い る 「誤 訳 」に つ い て 要 点 を 述 べ る な ら ば 、「翻 訳 と は 創 作 を も含 む 概 念 で あ り、 正 訳 や 誤 訳 と い う括 り の 実 態 は 無 い に 等 しい 」、 と考 え る 。 異 言 語 間 で あ れ 同 言 語 間 で あ れ 、 表 現 さ れ た こ と が ら を 、個 人 が 自分 の 理 解 内 へ 持 ち 込 む 作 業 を お こ な う と き 、そ れ が 翻 訳 な の で あ 55 加 ∫b漉 翔hαgの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 上 池 澤 夏 樹 の 翻 訳 の特 徴 上 る。つ ま り、二 項 対 立 的 に あ る か の よ うな起 点 言 語 と 目標 言 語(同 言 語 で あれ ば 、発 信 者 の言 語 と受 信 者 の それ)と の 中間 地 帯 を彷 復 うこ とが 翻 訳(創 作 を含 む)な の で あ り、 そ こ には 無 限 の 広 が りが あ る。 逆 説 的 に言 うな らば 、 「 誤 訳 とい う荷 物 な しに旅 は で きな い 」、 「 訳 者 は絶 えず 決 断 を迫 られ 、一 つ 決 断 す る度 に少 し血 が流 れ る」(多 和 田2003)と い うこ とで あ ろ う。 こ の考 え方 に立 ち 、 池澤 の 邦訳 に つ い て分 析 ・考 察 した い。 3.池 澤 の 翻 訳 の 分 析 と考 察 ーLePetit Princeの 池 澤 に よ る翻 訳 は 、原 典 世 界 を うま く再 現 して い る印 象 が強 い。 他 の翻 訳 と の比 較 か ら見 て取 れ る 池澤 に よる翻 訳 の特 徴 を5種 類 に分 類 し、 以 下 に述 べ る。 なお 、結 論 的 な こ とに な るが 、 本 共 同研 究 の根 幹 に 関 わ る こ とで あ る た め 、次 の 点 を こ こで 述 べ て お きた い。 池 澤 に よ る翻 訳 に は 、ネ ガ テ ィブ な 意 味 で の誤 訳 は 見 出 す こ とが で きな か った 。代 わ りに 、そ の 巧 み さが浮 き 上が っ た。よっ て 、以 下 に述 べ る こ とは 、池澤 に よ る邦 訳 の 「 際 立 ち」の箇 所 の数 々 で あ る こ とを最 初 に 断 っ てお く。ま た 、池 澤 以 外 の翻 訳 者 に よる翻 訳 に つ い て は 、そ れ らの咀 囑 不 足 や 不 自然 な訳 文 、あ るい は ま た い わ ゆ る一般 的 に 言 う 「 誤 訳 」 と呼 べ る もの が 多 々 見 受 け ら れ るが 、 第2節 で 述 べ た よ うな 「 誤 訳 」 に 関す る主 張 を理 由 に、 敢 え て これ ら を指 摘 す る こ と は しな い。 こ こで 、以 下 の 文 例 に 付 す 記 号 につ い て 説 明 す る。「_」:注 目箇 所、 「*」:誤 訳。 しか し、 上 述 した とお り、筆 者 に は 、誤 訳 ゾー ン を 引 く意 義 と勇 気 を感 じ得 な い た め 、本 稿 にお い ては 誤 訳 と して のマ ー キ ン グ はお こな っ て い な い。 3-1ダ ッシ ュ の 使 用 に よ る効 果 池 澤 は 、本 稿 が 対 象 と し た 第1章 か ら第10章 の 中 で 、42箇 所 に お い て 「 一 」を 用 い て い る 。 こ れ は 、 多 用 と 呼 べ る も の で あ り、 極 め て 特 徴 的 で あ る 。 原 典 で は 、 「:」が 用 い られ る 箇 所 の 一 部 で あ る 。1例 を次 に挙 げ る。 (1) 原 典】 On 【W訳 】 In the book it said_`...' (p.7) 【C訳 】 In the book it said三`...' (P.5) 【T訳] The 【 池澤訳】 本 に は こ う 書 い て あ っ た _「 [内藤 訳 】 そ の 本 に は 、 「… … 」 と 書 い て あ り ま し た 一(p.7) 【 倉橋訳】 そ の 本 に は 、 「… … 」 と 書 い て あ っ たL(p.7) [山崎 訳 】 そ の 本 に は こ う 書 い て あ り ま し た0 [藤 田訳 】 本 に は こ う 書 か れ て い たZ [河野 訳 】 本 に は 説 明 もあ った≦ 一 disait book dans le livre三 ≪,.,》 》 (P,11) stated_`...' (p.9) … …J(p.7) 「… … 」(p.7) 「… … 」、 と 。(p,6) 〈… … 〉(p.7) 56 池澤 が 「 一 」 を 用 い る 文 脈 は 、 文 例(1)や 後 述 す る3.2(5)に 見 られ る よ う な 「会 話(あ る い は 思 考)の 導 入 節 の 後 」 が 大 半 で あ り 、 「イ ラ ス トの 直 前 の 文 章 の 後 」 が 一 箇 所 見 受 け られ る(作 品 の 冒 頭 付 近)0原 典 に お け る す べ て の 「:」に 対 し て 「-」 を 用 い る の で は な く 、導 入 節 と会 話(あ る い は 思 考 、 あ る い は イ ラ ス ト)と の 間 に 時 間 的 ・心 理 的 距 離 を 置 き た い と き 、 こ の 符 号 を 用 い て い る よ うで あ る(3.3(6)参 照)。 そ し て 、 こ れ に よ り、 よ い 「間 」 が 生 ま れ 、 独 自 の テ ン ポ や ム ー ドを 作 り 出 して い る 。 3.2語 義 と文脈 を反 映 した訳 文(1)一 すっきりまとめ ることに よる効 果 池 澤 の訳 文 に は 、 原 典 に お け る語 義 や 文 脈 を実 に巧 み に反 映 して い る と考 え られ る もの が 多 く 見 られ る。この うち 、こ こで は まず 、す っ き りま とめ る こ とに よ る効 果 が 際 立 つ もの を挙 げ た い 。 (2) [原 典1 [W訳 】 《 《Tu vois bien.., `You yourself see `Surely [C訳] you ce n'est can ,'he see pas un mouton, said,`that for this yourself c'est un is not ‐that's b駘ier. a sheep. not Il a des This a sheep;it's cornes_》 is a ram. a ram. It has Look 》(p.16) horns.'(p.13) at his horns...' (P.io> `Don't 【T訳】 you see that is not a sheep , it is a ram. It has horns...' (p.15) [池澤 訳] 「わ か る で し ょ 、 こ れ は 普 通 の ヒ ツ ジ じ ゃ な く て 雄 ヒ ツ ジ だ よ ね 。 角 が あ る も の 」(p.13) 【 内藤 訳1 「そ う だ な … … こ れ 、あ た り ま え の ヒ ツ ジ じ ゃ な く っ て 、ツ ノ が 生 え て る も の … … 」(p.14) [倉橋 訳 】 「 旦 分 ヱ も一 これ は ぼ く の ほ しい 羊 じゃ な い 。 雄 の 羊 で し ょ。 だ っ て 角 が 生 え て る も の 」(p.15) 【山崎 訳] 「 わ か る よ ね … … こ れ は ヒ ツ ジ じ ゃ な い 籟 羅 だ 。 ほ ら、 鍔 が あ る … … 」(p.12) [藤 田訳 】 「ほ ら ね … … そ れ は ヒ ツ ジ じ ゃ な い よ 。 牡 ヒ ツ ジ だ よ 。 角 が あ る も の 。」(p.13) [河野 訳 】 「 ね え … … こ れ は ふ つ う の ヒ ツ ジ じ ゃ な く て 、牡 ヒ ツ ジ だ よ。角 が あ る で し ょ … … 」(pユ5) 原 典の 《 《11.i vois bien...》》は 、 英 語 に 直 訳 す る な ら 、"You see well..."で あ る。 池 澤 の 「わ か る で し ょ」 は 、 原 義 を 過 不 足 な く伝 え る ば か りか 、 文 脈 を も 損 ね な い 表 現 で あ る 。 つ ま り 、 こ の 発 話 の 前 で 、pilotはle pilotに petit princeと 対 し、 le petit princeは 衝 撃 的 な 出 会 い を す る わ け だ が 、不 時 着 して 困 慧 し て い る ヒ ツ ジ の 絵 を描 く よ う頼 む の で あ る 。 当 惑 しつ つ も 、 pilotは ヒ ツ ジ の 絵 を 描 く が 、le petit princeに よ り何 度 も却 下 され る。何 度 目 か の 絵 に 対 して 、le petit princeは avec indulgence:"(3.3「 、"M0n ami sourit gentiment, 説 明 を 付 加 す る こ と に よ る 効 果 」 の 文 例(6)で が 用 い られ て い る 。)で 語 義 と 文 脈 を 反 映 した 訳 文(2) 言 及 。 こ こ で も や は り 、3.1(1)同 記 述 され る よ うな 表 情 と心 境 か ら、 文 例(2)の の で あ る 。 し た が っ て 、 こ こ で は 、le petit princeの 様 の 「」 」 発 話 をお こな っ て い る 屈 託 の 無 さや 、 し か し 同 時 に 他 人 へ の 気 遣 い を も 加 味 し た 言 葉 遣 い が 適 用 さ れ ね ば な ら な い で あ ろ う。池 澤 の 「わ か る で し ょ 、」は 、le petit princeの 要 求 を譲 らな い 子 供 っ ぽ さ と、 同 時 に 大 人 を包 み 込 む 優 し さ、 さ らに は そ の 幻想 的 イ 57 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺-池 澤 夏 樹 の翻 訳 の 特徴 一 メー ジ を も醸 し出 して い る と言 え よ う。池澤 の翻 訳 に は 、この よ うにす っ き りま とめ た 訳 文 に よ り、 文 章世 界 を膨 らませ る もの が 多 く見 られ る。 次 に 、 前 後 の 文 脈 を活 か し、 原 典 にお け る文 を大 胆 に割 愛 し作 成 され た 訳 文 を 見 た い 。 (3) [原典 】 [W訳] [C訳 】 [T訳 】 ≪Alors, `So you `You toi aussi , too, too `So you come , then, too tu viens from come come du the from from ciel!De sky!Which the the quelle sky is your sky!Which . From plan鑼e planet?'(p.15) planet which es-tu?≫(p.18) are you from?'(p.12) planet?'(p.17) [池澤 訳 】 「き み も 空 か ら 来 た ん だ!き [内藤 訳] 「じ ゃ あ 、 き み も 、 天 か ら や っ て き た ん だ ね!ど [倉橋 訳 】 「じ ゃ あ 、 き み も 天 か ら や っ て き た ん だ ね 。 ど の 星 か ら 来 た の?」(p.19) [山崎 訳 】 「じ ゃ あ 、 あ な た も 空 か ら き た ん だ!ど [藤 田訳] 「そ れ じ ゃ 、 き み も 空 か ら き た ん だ ね!き [河野 訳】 「じ ゃ あ 、 き み も 空 か ら 来 た ん だ ね!ど 原 典 の"De quelle plan鑼e es-tu?"中 置 詞 で あ る 。 直 訳 す る な ら 、"From に 表 さ な か っ た の は 、池 澤 訳 とW訳 aussi tu viens み の 星 は ど れ?」(p.16) こ の 星 か ら き た の?」(p.14) み は ど の 星 か ら き た の?」(p.16) の 星 か ら?」(p.18) の"de"は which の 星 か ら き た の?」(P・17) 、英 語 の"from"で planet are you"で 置 き 換 え る こ と が で き る前 あ る 。 こ の"de"を 文 字 通 り訳 文 の み で あ る 。文 脈 を 見 る と 、こ の 発 話 の 前 半 に 、"Alors, toi du ciel!"が あ る 。 英 語 な ら 、"So, you yourself た と こ ろ か 。 池 澤 の 翻 訳 で は 、 「き み も 空 か ら来 た ん だ!」 also come from the sky!"と 言っ で あ る 。 つ ま り 、 「∼ か ら来 た 」と い う事 実 は こ こ で す で に 述 べ られ て お り、 池 澤 は 重 複 を避 け 、後 半 を 「き み の 星 は どれ?」 と訳 し た と考 え られ る。 余 剰 の 削 除 に よ り、 こ こ で も ま た 、 的 確 な 、 そ し て 発 話 が 表 現 す る 世 界 を さ ら に 広 げ る よ うな 効 果 が 出 て い る 。 同 様 の 手 法 で 、原 典 に お け る 完 全 文 を 、端 的 に 、 そ し て 過 不 足 な く 訳 文 化 した も の を 次 に 挙 げ る。 (4) L原典 】 Mais je ne suispas tout瀁ait certain de r騏ssir.(p.23) [W訳 】 But I am not at allsure of success.(p.22) 【C訳] But [T訳 】 But I am not at allsure of succeeding.(p.23) [池澤 訳1 で も 、 ち ゃ ん と描 け る か ど うか 。(p.22) 【 内藤 訳】 が 、 う ま く い く か ど うか と い う こ と に な る と 、 ど う も 邑捨 が も て ま せ ん 。(p.24) [倉橋 訳】 …… 仙 崎 訳】 で も うま く ゆ く 自信 は ま っ た く あ り ま せ ん 。(p.19) I am not at a皿sure of succeeding.(p.17) 、 うま く描 け る か ど うか 自 信 が な い 。(p.27) 58 協細 訳】 で も 、 う ま くい っ た か ど うか 自信 が な い 。(p.23) [河 野 訳] で も う ま く い く か ど うか は 、 あ ま り 邑鴇 が な い 。(p.26) 原 典 で は 、逆 説 の 接 続 詞 に始 ま り、主語 、否 定 辞 、動 詞 、 とい っ た 文 章構 造 を持 っ 一 文 とな って い る 。 池 澤 は 、 こ の 中 の"tout瀁ait certain de"の 部 分 を大 胆 に割 愛 して い る。 で は 、 文 意 が 伝 わ ら な い か と言 え ば 、そ の よ うな こ と は 全 く な い 。 そ れ ど こ ろ か 、何 が 削 除 さ れ た の か 一 瞬 迷 うほ ど 、 完 結 性 を 持 っ て い る と さ え 言 え る 。 文 脈 は ど うか 。 原 典 に お い て は(そ し て 池 澤 訳 に お い て も)、 比 較 的 長 い パ ラ グ ラ フ の 中 ほ ど に こ の 文 章 は 位 置 す る 。 こ の パ ラ グ ラ フ の 始 め で で 、 pilotは 、"Car je n'aime pas qu'on lise mon livre瀝a l馮鑽e."と 述 べ て い る 。 つ ま り、 「こ の 本 を い い か げ ん に 読 ん で も ら い た く な い 」 と 。 な ぜ な ら 、le petit princeが て か ら6年 が経 つ が 、彼 の こ とを忘 れ ない た め に この本 を 書 い て い るか らな ので あ る。 物 語 の 冒 頭 に お い て 、pilotは っ た 。 そ のpilotが に は 、"Un 大 人 た ち か ら絵 の 才 能 を 否 定 さ れ 、 以 後 、 ほ と ん ど 絵 を 描 く機 会 は な か 、le petit princeを りで あ る 。文 例(4)の possible."と い な く な って しま っ 忘 れ な い た め 、彼 の 肖像 を 描 く と 宣 言 す る の が こ の く だ 直 前 に 、"」'essaierai,bien s皞, de faire des portraits le plus ressemblants あ る よ う に 、 「で き る か ぎ り本 物 ど お り に描 く つ も りだ 。」 と の 覚 悟 が 記 され 、 直 後 dessin va, et l'autre ne ressemble plus."と あ り、 「1枚 は う ま く い っ て も 、 別 の1 枚 は 全 く似 な い か も しれ な い 。」 と 自信 の な さ を 露 呈 して い る 。 こ の 文 脈 に 沿 うに は 、 「こ の 本 を 読 む な ら真 剣 な 気 持 ち で 読 ん で も らい た い 。た い せ つ な 絵 を う ま く描 く つ も り だ が 、描 け な い 可 能 性 だ っ て あ る ん だ 」 と い うp且otの 複 雑 な 、 そ して 緊 張 感 を も備 え た 心 境 を描 写 しな けれ ば な ら な い だ ろ う。 池 澤 の 「ち ゃ ん と描 け る か ど うか 。」 と い う訳 文 は 、 「自 信 が な い 」 と い う文 言 を 敢 え て 取 り払 っ て お り、 こ れ に よ り、 逆 にpilotの ラ グ ラ フ 中 のp且otの 真 剣 さが浮 か び 上 が る。 同 時 に 、 長 いパ 思 考 内 容 が 、 過 剰 に 長 引 く こ と な く 、 文 章 間 に よ い リズ ム を 持 た せ て い る。 次 の 文 例 で は 、す っ き りま と め つ つ も 、 ダ ッ シ ュ を 使 用 し 、池 澤 の 翻 訳 技 法 が 多 重 に盛 り込 ま れ た もの とな って い る。 (5) [原 典 】 J'騁ais 【W訳 】 As into [C訳] Iwas [T訳] Iwas irrit駱ar for mv me, I was mon upset boulon et over that je r駱ondis bolt. n'importe And quoi≪...≫(p.30) I answered with the first thing that came head二`..-'(p.31) irritatedwith annoyed my about bolt, my bolt so I said and the first I answered thing with that the entered first my thine head`...'(p.25) that came to m mind`...'(p.31) [池 澤 訳1 ぼ く は ボ ル トの こ と で 頭 が い っ ぱ い だ っ た か ら 、 適 当 に 返 事 し た- [内 藤 訳 】 ぼ く は 、 ボ ー ル トの こ と で 、 気 が い ら い ら し て い た の で 、 な ん で も か ま わ ず 、 で た ら め に 答 え ま し た 。(p.34) 59 (p.31) Le・Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 一 池 澤 夏 樹 の翻 訳 の特 徴 一 [倉橋 訳】 私 は厄 介 な ボ ル トの こ とで い らい ら して い た の で 、ろ くに 考 え も しな い で 答 えた (p .38) 【 山崎 訳1 (該 当 す る 訳 文 無 し)(p.26) [藤田訳 】 わ た し は ボ ル トの こ と で い らい ら し て い た の で 、 て き と う に 、 い い か げ ん な 返 事 を した 。 (p.33) 【 河 野 訳] だ が 撰 は ボ ル トで い ら い ら し てL・た の で 、 て き と うに 答 え 鶴(P 原 典 の"n'importe qu0i"は .36) 、 決 ま り文 句 と し て は 、 「 何 で も 」、 「つ ま ら ぬ こ と 」 と い う意 味 を 持 つ 語 群 で あ る 。 こ の 三 語(短 縮 形 の た め 外 見 的 に は 二 語)の 感 覚 を ど の よ う に 移 行 す る の か 。 池 澤 は、 「 適 当 に(返 事 した)」 と、 ま さに 「三 字 」 で 表 現 し て い る 。(比 較 し他 の 訳 文 を 論 う意 図 は な い が 、河 野 が 「て き と う に 」 と して い る も の の 、 ひ らが な 表 記 の た め 、や や 引 き 締 ま りに 欠 け る 。ほ か の 訳 は 、あ ま り に 冗 長 で あ る 。そ し て 、そ の 簡 潔 性 を 緩 和 す る か の よ うに 、直 後 に は 「 一 」 で あ る 。原 典 を 軸 に 据 え た 上 で の 、言 語 か ら の 解 放 と は 、 こ う い う こ と を 指 す の で は な い だ ろ う か。 3.3語 義 と文脈 を反映 した訳 文(2)一 説 明 を付 加 す ることに よる効 果 前 項 にお い て は 、語 義 と文 脈 を反 映 した 訳 文 の うち、す っ き りま と め る こ と に よ る効 果 が 際 立 つ もの を挙 げ論 じた 。次 に 、説 明 を付加 す る こ とに よ る効 果 が 見 て取 れ る も の を 挙 げ る。文 例(6) の 池 澤 訳 で は 、原 文 にお け る副詞 句 を説 明 的 に 訳 しほ ど き、文 中 の ほ か の 箇所 の 訳 出 を やや 短 縮 して い る。 これ に よ り、 文 全 体 の意 味 合 い が 、 よ り繊 細 な心 墳 に至 り伝 え られ る。 (6) L原典] Mon ami [W訳] My friend smiled gently and [C訳 】 My friend smiled gently, even [T訳] My little friend 【 池 澤 訳] す る と ぼ く の 友 だ ち は 笑 っ て 、 ぼ く を 傷 つ け な い よ う気 を 遣 い な が ら 言 っ た 一(p [内藤 訳] ぼ っ ち ゃ ん は 、 さ も 大 目 に 見 て く れ る よ う に や さ し く 、 に っ こ り し ま し たO(p,14) 槍 橋 訳] 男 の 子 は や さ し い 、 甘 い 笑 顔 を 見 せ た0(p.15) [山崎 訳] わ た し の 友 だ ち は 、 お だ や か に 、 寛 大 な ほ ほ え み を 浮 か べ ま し た 0(p.12) 1藤 田訳] わ た し の 友 人 は や さ し く 、 か ん だ い な よ う す で ほ ほ え ん で い る0(p 【 河 野 訳] 男 の 子 は 、 こ ち ら を 気 づ か う よ う に 、 に っ こ り す る と 、 や さ し く 言 っ た 。(p.15) sourit gentiment, said avec gently indulgence(p indulgently.(p and .16) .13) indulgently.(p.10) indul egntly:(p .15) .13) ,13) と こ ろ で 、池 澤 に よ る 翻 訳 の 特 徴 は 、符 号 の 使 用 や 表 現 の 簡 潔 化 だ け で は な い 。 量 的 に は 少 な い が 、 て い ね い な 説 明 を 付 加 し、 文 意 の 紛 らわ し さ を 避 け る 工 夫 も 随 所 に 垣 間 見 られ る 。 文 例(6) は 、3.2「 語 義 と 文 脈 を 反 映 し た 訳 文(1)す っ き りま と め る こ と に よ る 効 果 」に お い て 、文 例(2) の 文 脈 に 言 及 し た 際 に 引 用 し た 部 分 で あ る 。 原 典 の"avec so indulgence"は 、 英 語 な ら 、"with indulgence"で あ ろ う。 英 訳 の 三 者 が 共 通 して 、"and る よ うに 、 直 前 の"sourit gentiment"で indulgently"と 副 詞 的 に訳 しほ どい て い 記 述 され る 、 le petit princeの 「 優 し く笑 っ た 」 とい う ニ ュ ア ン ス の 表 情 と行 動 の 両 方 を さ ら に 説 明 す る 記 述 の は ず で あ る 。池 澤 は 「ぼ く を 傷 つ け な い よ う気 を 遣 い な が ら言 っ た に 翻 訳 して い る 。pilotに 」 と表 現 し、 原 典 の"avec indulgence"を て い ね い に説 明 的 気 を 遣 っ た 理 由 が 直 接 的 に 記 さ れ る こ と に よ り、 読 者 は 文 意 の 紛 らわ し さ を感 じ る こ と な く読 む こ と が で き 、 同 時 に 、le petit princeの 子 供 っ ぽ さ(ヒ ツ ジの 絵 を描 く よ う執 拗 に 頼 む こ と)と 裏 腹 に 、他 者 へ の 思 い や り を備 え た キ ャ ラ ク タ ー と し て 理 解 す る の で あ る 。 文 例(6)全 体 を 再 度 眺 め る と、"sourit gentiment"に せ て お り、"gent血ent"に "sourit gentiment"を つ い て は、 「 笑 っ て 」 と簡 潔 に 済 ま 相 当 す る訳 語 を 排 除 して い る と言 え る。 池 澤 は 、 文脈 を 読 み 込 み 、 簡 潔に 、 一 方 、"and indulgently"を て い ね い に 訳 出 し た と 考 え られ る 。 次 に 、説 明 を 付 加 す る こ と に よ り、原 文 が 表 現 す る 世 界 を よ りわ か りや す く 伝 え て い る 訳 文 を 挙 げ る。 (7) [原典] J'avais ainsi appris 騁ait炯eine [W訳 」 Ihad thus prince 【C訳1 From scarcely [T訳] Thus scarcely [池澤 訳 】 seconde grande qu'une plus une learned came this a second from was I learned bigger I had than than こ う し て ぼ く は2番 て 、 ふ つ うの tr鑚 importante c'est que sa plan鑼e was that the planet he planet d'origine maison!(p.20) fact of great scarcely any second fact a importance larger than of great this planet the little came from was of orig血 a house!(p.18) importance the a house!(p.14) learned larger chose a second very important thing. T[hat his 胆 旦 a house.(p.20) 目 の 大 事 な こ と を 知 っ た 。 王 子 さ ま が い た 星 と い うの は とて も 小 さ く よ り ち ょ っ と 大 き い く ら い な の だ!(p.18) [内藤 訳 】 ぼ く は 、 こ う し て 、 も う一 つ 、 た い そ う だ い じ な こ と を 知 り ま し た 。 そ れ は 、 王 子 さ ま の ふ る さ と の 星 が 、 や っ と家 く ら い の 大 き さ だ と い う こ とで した 。(p.20) [倉橋 訳 】 こ う して 二つ 目の 大 事 な こ とが わ か っ た 。そ れ は王 子 さま の住 ん で い る 星 がや っ と家 ぐ ら い の大 き さだ とい うこ とだ っ た 。 (p,23) [山崎 訳] こ の よ うに して 、 わ た しは とて も重 要 な ふ た つ め の こ と を知 りま した。 つ ま り、彼 がや っ て き た 星 は1軒 の 家 とほ とん ど変 わ りな い 大 き さだ とい うこ とです!(p.16) [藤 田訳】 こ う し て わ た し は 二 番 目 に だ い じな こ と を 知 っ た ん だ 。 王 子 さ ま の 星 の 大 き さ は 、 ほ と ん ど 一 け ん の お うち く らい だ っ て い う こ と さ!(p.19) [河野 訳] こ うして僕 は 、 とて も重 要 な ふ た つ 目の こ とを知 った 。 王 子 さま の 叢赫 の 星 は 、=麺 家 よ りほ ん の 少 し 大 き い ぐ らい で し か な い 、 とい う こ と を!(pp.21-22) 原 文 の"騁ait瀾eine plus grande qu'une maison!"は 61 、 英 語 な ら 、"was scarcely any bigger Le Petit Princeの than 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 池 澤 夏 樹 の翻 訳 の 特 徴 上 a h0use!"と い うニ ュ ア ン ス で あ る 。 つ ま り、 「一 軒 の 家 よ り ほ ん の 少 し大 き い か ど うか と い う大 き さ 」 で あ り 、 「星 と し て の 小 さ さ 」 を 強 調 して い る の で あ る 。 池 澤 は 、 こ れ を 、 「と て も 小 さ く て 、 ふ つ う の 家 よ り ち ょ っ と 大 き い く ら い な の だ!」 小 さ く て 、」 と い う記 述 は 原 典 に は な い の だ が(そ と説 明 的 に 訳 出 し て い る 。 「とて も し て 他 の 訳 者 も そ こ ま で 付 記 して い な い が)、 こ れ を 付 加 せ ず 、 単 に 「家 よ り少 し大 き い 星 」 と い う の で は 、 か え っ て 焦 点 が ぼ や け 、 「な ぜ こ こ で 家 な の か 」 と 読 者 を 惑 わ す こ と に な り か ね な い 。 ま た 、 「ふ つ うの 家 よ り… … 」 と表 現 し た こ と に よ り、le petit princeが 住 む 星 が 、 読 者 が 想 像 し得 る標 準 的 な サ イ ズ の 家 ほ ど し か な い 、 と 明 確 に イ メ ー ジ で き る 。(「 一 軒 の 家 よ り 」 な ど と い う訳 文 で は 、 比 較 の し よ う も な い 。) 次 の 文 例 は 、原 文 の 簡 潔 さ と文 意 の 抽 象 性 の た め に 、理 解 が や や 困 難 で あ る。 し か し 、 池 澤 は 説 明 を 付 加 し平 易 な 語 句 を 用 い る こ と に よ り 、 わ か り易 い 訳 文 を 作 り上 げ て い る 。 (s> C原典 】 La lecon que je donnais en valaitla peine.(p.26) [W訳 】 The lesson which I pass on by this means is worth allthe trouble ithas cost me.(p.28) [C訳 】 The lesson I had to pass on was worth the trouble ithas costme.(p.22) [T訳] My 【 池 澤 訳] こ の 絵 に よ っ て 伝 え ら れ る こ と の 大 事 さ は 、 ぼ く の 努 力 に 見 合 う も の だ と思 う。(p.28> [内藤 訳] そ れ で も 、 こ の 教 訓 が む だ に な ら な い よ うで し た ら 、 ぼ く は 満 足 で す 。(p.29) 【 倉橋訳】 こ の 教 訓 は 生 き る こ と だ ろ う。(p.32) [山崎 訳] わ た しが 与 え る 教 訓 は 、 与 え るだ け の 価値 の あ る もの だ った の で す 。(p.22) 瞬i田訳 】 わ た し の ち ゅ う こ く は 、 一 生 け ん め い 描 く だ け の 価 値 が あ る と 思 うん だ 。(p.28) [河野 訳] こ の 忠 告 に 、 耳 を か た む け て 損 は な い 。(p.31) 原 典 の"La pass on was lesson le輟n was queje worth worth donnais the pain."で it.(p.28) en valait la peine."を 直 訳 的 に 英 語 に す る な ら 、"The lesson I あ ろ うか 。 や や 観 念 的 な 表 現 内 容 で あ る 。 何 を 伝 え よ う と し て い る の か 。 こ の 一 文 を 含 む 文 脈 を 見 よ う 。 こ の 少 し 前 の 部 分 で 、le petit princeはpilotに バ オ バ ブ の 話 を す る 。 す ぐ に 大 き く な っ て し ま う植 物 だ か ら 、 早 く 抜 い て し ま わ ね ば な ら な い と 。 そ し て 、 子 供 た ち が 理 解 す る よ う に 、 バ オ バ ブ の 絵 を 描 く よ うpilotに い たpilotは aux 、 珍 し く 大 声 を 上 げ 、子 供 た ち に 注 意 を 促 す の で あ る 。"Enfants!Faites ba0babs!"と travaill馗e 。 文 例(8)は dessin-1 "と 、 そ の 直 後 二 文 目 に 現 れ る 文 章 で あ る 。 間 に は"_,que い う く だ り が あ り 、pilotは あ る 。 つ ま り 、pilotは attention j'ai tant 、 子 供 た ち に バ オ バ ブ の 危 険 を 知 らせ ね ば と 思 い 、 「手 間 隙 か け て こ の 絵 を 描 い た 。」 と 話 す 。 そ し て 、"La la peine."で 言 う。 バ オ バ ブ の 絵 を 描 le輟n que je donnais en valait 、 「こ の 絵 を 描 く に あ た っ て は 、 た い へ ん な 労 苦 を 伴 っ た 。 し か し 、 こ れ に よ り 伝 え ら れ る こ と の 大 切 さ は 、 自 分 の 努 力 に 見 合 う も の で あ る 。」 と 述 べ る わ け で あ る 。 池 澤 は 、 「こ の 絵 に よ っ て 伝 え ら れ る こ と の 大 事 さ は 、 ぼ く の 努 力 に 見 合 う も の だ と 思 う 。」 と し 、"La le輟n queje donnais"を よ り 平 ら な 表 現 で 、"en 62 valait la peine"を よ り説 明 的 に 訳 出 し て い る 。 こ れ に よ り 、や や 理 解 が 難 しい か も しれ な い 一 文 が 、瞬 時 に 手 元 に 引 き 寄 せ ら れ 、前 後 の 文 脈 に 自 然 に 溶 け 込 む の で あ る 。 こ の よ うに 、 池 澤 は 、 多 く の 簡 潔 化 の 一 方 で 、 必 要 な 付 加 説 明 を 加 え る 、 と い う工 夫 を 施 して い る こ と が わ か る の で あ る 。 3.4構 造 の 改 変 による効 果 池 澤 の 訳 文 の 特徴 と して 、 次 に、 構 造 の 改変 に よ る効 果 を 示 した い 。 言 語 間翻 訳 にお い て は 、 構 造 の変 化 は 多 々 起 こ るが 、池 澤 は 、大 胆 な 改 変 を しな が ら、か つ 、口調 や 文 脈 を損 ね な い た め の 工 夫 を凝 ら して い る。 文 例(9)は 、原 文 にお け る命 令 形 を訳 文 にお い て どの よ うに転 換 す る か で あ る。 (9) [原 典 】 N'oubliez [W訳 Remember, 】 pas cLue j me trouvais瀘ille I had crashed in I was a thousand the milles desert de toute a thousand r馮ion miles habit馥.(p.14) from any inhabited region. (p.12) [c訳1 Remember, [T訳] Do 馳 澤訳】 さ っ き も 言 っ た け れ ど 、 ぼ く は 人 が 住 む と こ ろ か ら1000マ not forget that I was miles a thousand from miles all human away habitation.(p.8) from any inhabited region.(p.14) イ ル も離 れ た と こ ろに 不 時 着 し た の だ 。(p.10) [内藤 訳1 く ど い よ うで す が 、 ぼ く は 、 お よ そ 人 の 住 ん で い る と こ ろ か ら 、 千 マ イ ル も は な れ て い る と こ ろ に い た の で す 。(p.12) [倉橋 訳] [山崎 訳] し つ こ い よ う だ が 、そ こ は 人 の 住 ん で い る 地 域 か ら 千 マ イ ル も 離 れ た と こ ろ だ っ た 。(p,12) わ た し が ひ と の 住 む あ ら ゆ る 地 域 か ら1000マ イ ル も離 れ た と ころ に い た こ とを忘 れ ない で く だ さ い 。(p.10) [藤 田訳] わ す れ ち ゃ い け な い 。 わ た し は ひ と 里 か ら 千 マ イ ル も は な れ た と こ ろ に い た ん だ 。(p,10) [河野 訳] な に し ろ 、 人 の 住 む 地 か ら 千 マ イ ル も の か な た な の だ 。(p,12) 原 文 中 の"N'oubliez pas que"を 直 訳 調 の 英 語 に す る な ら 、"Don't forget that"で あ る 。つ ま り、 「∼ す る こ と を 忘 れ な い で く だ さ い 」 と い う命 令 形 で あ る 。 池 澤 は 、 これ を 「さ っ き も 言 っ た け れ ど 、」 と 、 独 立 した 文 章 と し て 訳 出 し 、 全 体 を 複 文 化 し て い る 。 物 語 の 調 子 やpilotの キ ャラ ク タ ー を 考 え る と き 、 こ の 表 現 は ま た 、極 め て 的 確 か つ 自 然 で あ る と言 え よ う。複 文 化 を して い る 訳 者 は ほ か に も あ る 。 た と え ばW訳 とC訳 は 、"Remember,"と い う命 令 形 へ の 変 形 の 結 果 の 複 文 で あ り、 内 藤 訳 の 「く ど い よ うで す が 、」 と倉 橋 訳 の 「しつ こ い よ うだ が 、」 は 、 述 語 的 に 訳 出 して い る も の の 、 こ の 物 語 の トー ン を 考 え た と き 、 日本 語 表 現 と し て や や 疑 問 が 残 る 。 次 の 文 例 は 、原 文 の 文 頭 に あ る 副 詞 句 を 、 ど の よ う に 訳 文 中 に 移 行 す る か が 問 題 と な る 。原 典 の フ ラ ン ス 語 と構 造 が 類 似 し て い る英 訳 で は 、そ の ま ま 副 詞 句 を 文 頭 に 持 っ て き て い る。しか し 、 邦 訳 で は 、多 く の 訳 者 が こ の 句 の 対 処 に 苦 心 し て い る こ と が 伺 わ れ る 。 あ る い は 、文 意 を 正 確 に 63 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 一 池 澤 夏 樹 の翻 訳 の特 徴- 把 握 して い な い と考 え られ る訳 文 も見 受 け られ る。 (10) L原典 】 Heureusement peuple, [W訳 】 sous Fortunately, law [C訳 】 your that his Fortunately Fortunately や が て mort, under the pain costume upon should Asteroid 612, un dictateur turc imposa灣on change pain a a Turkish to European Thrkish dictator made a costume.(p.20) dictator ordered his dress.(pp.14-16) B-612, under B-612, B612, to European of Asteroid subjects B of Asteroid of death, of de 'europ馥nne.(p.21) reputation to convert his l'ast駻o s'habiller pain reputation however, a Turkish dictator imposed of death.(p.21) トル コ の 独 裁 者 が 、 ヨ ー ロ ッ パ 風 の 服 を 着 な い 者 は 死 刑 に す る と い う 法 律 を 作 っ た の は 、 小 惑 星B612の 【 内藤 訳] de reputation of death, for the de for the subjects, for on European [池澤 訳j de however, subjects, [T訳 】 peine la r駱utation 名 誉 の た め に 幸 運 だ っ た 。(p.20) さ い わ い 、B・612番 の 星 の簿 う 靴 を 蕩 つ け ま い と い うの で 、 トル コ の あ る 王 さ ま が 、 ヨ ー ロ ッ パ 風 の 服 を 着 な い と 死 刑 に す る と い うお ふ れ を く だ し ま し た 。(p.21) [倉橋 訳】 幸 い に もB・612の 星 の 評 判 は よ か っ た 。 トル コ の 独 裁 者 が 、 ヨ ー ロ ッパ 風 の 服 を 着 な い と 死 刑 に す る とい うお ふ れ を 出 し、 … … 。(p.24) [山崎 訳] さ い わ い 、 小 惑 星B612の 評 判 の た め に 、 トル コ の ひ と り の 独 裁 者 が 、 国 民 に た い し て ヨ ー ロ ッ パ ふ うの 服 装 を す る よ う に 強 制 し 、違 反 す れ ば 死 刑 に 処 す る と い うお 触 れ を 出 しま した 。(p。17) 1藤田訳1 で も 小 惑 星B六 一 二 の う わ さ の お か げ で 、 トル コ の 王 さ ま は 、 ヨ ー ロ ッ パ 式 の 服 を き な け れ ば 死 刑 に す る とひ とび と に 命 令 し た 。(p.20) [河野 訳 】 そ の後 、小 惑 星B612に 、署 蕃 號 箇 の 幸運 が響 れ た。 トル コの騒 裁暑 が 、国 民 に ヨー ロ ッ パ 風 の 服 装 をち蚕う 諭'し、従 わ な けれ ば姥 荊 と決 め たの だ。(p,22) 原 典 の"Heureusement"は 、英 語 の"Fortunately"に 胆 に も 、 「(∼た の は … … に と っ て)幸 うな ら、"Heureusement B612の pour 相 当す る副 詞 で あ る。池 澤 は 、これ を大 運 だ っ た 。」 と 、 文 末 の 述 部 に 変 化 させ て い る 。 も っ と 言 la r駱utation de l'ast駻o de B 612,"副 詞 句 部 分 全 体 を 、 「小 惑 星 名 誉 の た め に 幸 運 だ っ た 。」 と 、文 章 の 述 部 と し て 表 現 し て い る。 こ の 一 文 の 訳 文 に は 、 原 義 を 咀 囑 し き れ て い な い も の も 多 く 、 ま た 、 表 現 言 語 の 不 自然 さ も 目 立 つ 。 し か し、 池 澤 は 、 原 文 の 意 味 を 把 握 し て い る こ と は も ち ろ ん 、構 造 的 に は 、原 典 の 単 文 構 造 を 維 持 し つ つ 、 冒 頭 の 副 詞 句 を 述 部 に 転 換 し文 末 に 持 っ て く る と い う技 を 用 い て い る。 次 の 文 例 で は 、池 澤 は 、原 文 の 他 動 詞 構 文 を 自 動 詞 構 文 に 変 え て 訳 文 を 作 る とい う ア ク ロ バ テ ィ ッ ク な 転 換 を お こ な っ て い る。 64 (11) [原典 】 Ilsecouaitau vent des cheveux tout dor駸(p.30) [W訳] He tossed his golden curls in the breeze.(p.32) [C訳1 He was shaking his golden locks in the breeze.(p.26) [T訳 】 He shook his golden locks in the wind(p.32) [池澤 訳1 金 色 の 髪 が 風 に な び い た 。(p.32) [内藤 訳 】 そ し て 、 目 の さ め る よ うな 金 色 の かみ を 、 風 に ゆ す っ て い い ま した 。(p.35) [倉橋 訳] そ して金 色 の巻 き 毛 を風 に な び か せ た (p.39) [山崎 訳l 金 色 の髪 を 風 に な び か せ て い ま した 。(p.27) l藤 田訳】 金 色 の 髪 を 風 に な び か せ な が ら、 こ うい っ た 。(p.35) [河野 訳] 風 に む か っ て 、 金 色 に蓬 き とお る髪 を癌 ら しな が ら.(pp.37-38) 原 典 の"Il golden secouait hair in the au vent win(1"で des cheveux tout dor駸:"は あ る 。 構 造 的 に は 、"Il(=le 、 英 語 化 す る な ら 、"He petit prince)"を shook his 主 語 に 取 る他 動 詞 構 文 で あ る。 さ ら に 直 訳 調 の 日本 語 に す る な らば 、 「 彼 は 金 色 の 髪 を 風 に な び か せ た 。」 と な り 、 倉 橋 訳 、 山 崎 訳 、藤 田 訳 は ほ ぼ 直 訳 と 言 っ て よ い 。 し か し 、"secouer"("secourait"の 原 形)は 、「 激 し く 振 る 」、 「 揺 す ぶ る」 とい っ た ニ ュア ンス を持 つ 語 で あ る。 これ を、物 語 の調 子 を損 な うこ と な く 、他 動 詞 的 に 表 出 し よ う とす る と 、 日本 語 で は 適 当 な 語 彙 を 見 つ け る こ と が 困 難 で あ る 。 な ら ば ど う す る か 。 池 澤 は 、 「金 色 の 髪 が 風 に な び い た 。」 と し 、 「 金 色 の髪 」 を主 体 と した 「自 動 詞 構 文 」 に 転 換 さ せ て い る 。 さ ら に 、 極 限 ま で 短 縮 化 し て い る 。 こ れ に よ り 、le petit princeの 金 色 の 髪 が 風 に 揺 られ る 姿 に 焦 点 が 当 て られ 、 そ の イ メ ー ジ が 鮮 明 に 映 し出 さ れ る 。 さ ら に は 、 こ の 短 文 化 に よ り 、 こ の 前 後 の 文 脈 か ら 自 明 の 、le petit princeの こ と に な る 。 こ の 怒 り と は 、le petit princeが を 投 げ か け る が 、pilotは か し な い(3.2(5)参 度 に 対 す るle に は 、le petit princeは"Tu せ ず 、"Th vraiment confonds parles comme と 言 わ れ たpilotは tout... tr鑚 irrit "と 、 「バ ラ に は な ぜ ト ゲ が あ る の 」 とpilotに 自分 の 飛 行 機 の修 理 の こ とで頭 が い っ ぱ い な た め に 照)態 い な 話 か た を す る!」 「激 し い 怒 り 」 が 描 出 さ れ る tu m駘anges petit princeの les grandes あ る よ う に 、le petit princeは こ の 文 脈 を た ど る と き 、 文 例(11)の personnes!"と 言 う。 「き み は 大 人 み た 続 け る(3.5.(14)参 [W訳] (該 当 す る 訳 文 な し) 6tait 短 い 一 文 が 表 す べ き も の が 明 らか に な る 。 そ して そ れ を 、 (12) mal 手 加 減 「ほ ん と う に 怒 っ て い た 。」 わ け で あ る 。 統 語 構 造 を 変 換 し 、 コ ン パ ク トな 訳 文 に 仕 上 げ て い る も の を 更 に 挙 げ よ う 。 C'est princeは 照)。 そ し て 、"Il 池 澤 は 、 統 語 構 造 を 変 換 し た 短 文 に よ り、 み ご と に 表 して い る の で あ る 。 [原 典] 「 適 当 な返 事 」 し 苛 立 ち に端 を発 して い る。 そ してつ い 恥 ず か し い 気 持 ち に な る が 、le petit tout!"と 疑 問 insta皿6,(P・34) 65 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 池澤 夏 樹 の翻 訳 の 特 徴- 【C訳1 Itlacks conveniences.(p.30) [T訳 】 And rather uncomfortable.(p.37) [池澤 訳 】 造 り が 悪 い の ね 。(p.37) 【 内藤 訳 】 星 の あ り場 が わ る い ん で す わ ね 。(p.41) [倉橋 訳] ま っ た く ひ ど い も ん だ わ 。(p.46) 【 山崎 訳 】 場 所 が 悪 い の ね 。 (p.31) [藤田訳 】 い ち ど りが悪 い ん で す わ ね [河野 訳] (p.40) 設 備 が 悪 い の ね 。(p.43) 原 典 の"C'est mal insta皿,e."は 、 英 語 に 直 訳 す る な ら、"It's badly こ れ を 日本 語 に 直 訳 す る な ら ば 、 「そ れ は 据 え 付 け 方 が(設 installed."で 備 的 に)悪 あ る。 さ らに い 」 で あ ろ う。 しか し 、 こ れ で は 意 味 を 成 さ な い 。 ま た 、 あ ま り に 無 機 質 な 内 容 の 一 文 で あ る た め 、 う ま く語 彙 を 選 択 し な い と物 語 の トー ン を 損 ね る だ ろ う。 こ の 一 文 は 、le petit princeと の 発 話 の 一 つ で あ る 。 会 話 を 交 わ す 中 で 、le petit princeは バ ラ との や り と り 中 の バ ラ 、 こ の バ ラ が 気 位 が 高 く難 し い 性 格 で あ る こ と に 気 づ く。「鋭 い 爪 の トラ が 来 て も 、私 に は と げ が あ る か ら大 丈 夫 」だ と バ ラ は 言 い 、 le petit princeが 「トラ は い な い し 、 トラ は 草 を食 べ な い し」 と 言 う と 、 「私 は 草 で は な い わ 」 と 牽 制 す る 。 ま た 、 「冷 た い 風 に 弱 い か ら 、 つ い た て を 持 っ て き て 」 と い う よ う な リ ク エ ス トを し、lepetit princeを vous me mettrez 驚 か せ る 。そ して バ ラ は 、文 例(12)を sous globe. Il fait tr鑚 froid chez vous. 含 む 次 の よ うな 発 話 を す る 。"Le soir C'est mal insta皿,e.L濺'o jeviens..."、 つ ま り 、「夜 は ガ ラ ス の 鉢 を か ぶ せ て も ら い た い 。あ な た の 星 は と て も 寒 い 。"C'est mal install " わ た し が 前 に い た と こ ろ は......。 」 と い う く だ りで あ る 。 バ ラ の 気 の 強 さ と直 接 的 な も の の 言 い 方 を 表 す よ うな 、そ し て 立 て 板 に 水 の よ うな 発 言 の 流 れ を 壊 さ な い よ う な 表 現 を し な け れ ば な ら な い 。池 澤 は 、 「造 りが 悪 い の ね 。」 と い う訳 文 を あ て て い る 。W訳 C訳 の"It lacks conveniences."、T訳 の"And rather で は 訳 漏 れ が 見 られ る ほ か 、 uncomfortable."で は、 焦 点 が あ て ら れ る の が 「星 の 状 態 」 で は な く 、 む し ろ そ こ か ら人 間 が 受 け る 影 響 に あ る 。 河 野 訳 は 、過 度 に 直 訳 的 で あ る 。 池 澤 の 「造 りが 悪 い の ね 。」 は 、 「星 の 状 態 」 そ の も の に 言 及 して お り 、 も ち ろ ん 直 訳 調 で も な い 。 そ し て 、文 脈 に 沿 い 、バ ラ の 直 接 的 な 物 言 い と 、辛 口 の コ メ ン トが 四 っ 続 く 中 に 簡 潔 性 を 挿 入 し た 訳 文 に な っ て い る と考 え る 。 3.5同-の 、あ るい は 異 な る 二 つ の 記 述 の 対 比 に よる 効 果 さて 、 こ こま で 、 「 独 自 の 符 号 の 多 用 に よ る 効 果 」、 そ して 「語 義 と文 脈 を 反 映 し た 訳 文 」 と し て 「(1)す っ き りま と め る こ と に よ る 効 果 」 と 「(2)説 明 を 付 加 す る こ と に よ る 効 果 」 に つ い て 述 べ た 。 本 項 に お い て は 、 「同 一 の 、 あ る い は 異 な る2つ の 記 述 の対 比 に よ る効 果 」 につ い て言 及 す る 。 表 現 形 態 が 重 層 的 で あ る 場 合 の 、訳 文 に お け る 工 夫 の 仕 方 と そ の 効 果 を 見 極 め た い 。 文 例 (13)で は 、 原 文 中 の 同 一 の 二 つ の 語 を ど の よ うに 訳 出 す る か で あ る 。 66 (13) 原 典1 ≪...Quand la on you've toilet of `When [C訳] 【T訳] termin駸a toilette du matin, il faut faire soigneusement la toilette de plan鑼e...≫(p.26) `When [W訳 】 a finishedyour your you planet, finish own just so, washing our planet...'(p.20) `When you have finished toilet with great care...'(p.20) 「朝 、 自 分 の 顔 を 洗 with and dress [池澤 訳1 toilet the the toilet え を 済 morning greatest dressing your っ て 着 替 in ま せ the た it is time to attend to the care...'(p.26) each in , then morning morning ら 、 す , you , it must is time ぐ に 、 丁 寧 to carefu皿y attend に 惑 星 ぜ to w ash the and planet's ん た い の 手 入 れ を す る 。 … … 」(p.26) 「 … … 。朝 の お け し ょ うが す ん だ ら 、悉 犬 り に 、星 の お け し ょ う し な く ち ゃ い け な い 。… … 」 [内藤 訳 】 (p.28) [倉橋 訳 】 「… … 。 朝 、 顔 を 洗 っ て 着 替 え を す ま せ た ら、 星 の 手 入 れ を し な け れ ば ね 。 … … 」(p.30) [山崎 訳] 「… … 。 朝 の 身 つ く ろ い が 終 わ っ た ら 、 丁 寧 に 星 の 身 つ く ろ い を し て あ げ な く ち ゃ い け な レ、 。 ・ ・ ・ … 」 (P.22) 「朝 起 き て 、 身 じた く が 終 わ っ た ら 、 ね ん 入 り に 星 の 世 話 を し な く ち ゃ い け な い 。 … … 」 [藤田訳] (p.27) 「朝 、自 分 の 身 つ く ろ い が す ん だ ら 、今 度 は 星 の 身 つ く ろ い を て い ね い に し て あ げ る ん だ 。 [河野 訳 】 ・ ・ ・ … 」 (P ,30) 文 例(13)の 原 典 の"sa toilette"と"la toilette"と の の 、 同 一 の 語 を 用 い た 表 現 で あ る 。 前 者 の"sa"は 持 つ 所 有 代 名 詞 で あ る。 後 者 の"la"は は 、 名 詞"toilette"に か か る語 が 異 な る も 、「 彼[彼 女 ・そ れ ・自分1の 」 と い う意 味 を 、 「そ の 」 と い う意 味 を 持 つ 定 冠 詞 で あ る 。 文 例(13)を 含 む 場 面 で は 、こ れ らの 所 有 代 名 詞 あ る い は 定 冠 詞 を加 味 し、あ る い は ま た 文 脈 か ら 、前 者 がle petit princeに つ い て 、 後 者 が 惑 星 に つ い て お こ な う行 為 を 指 す こ と が わ か る 。 ま た 、 そ れ ら の す ぐ 前 に 用 い られ て い る 動 詞 、"termin (原 形 は"terminer")と"faire"(原 形 は"faire": "fa ut"は 原 形 が"falloir"で 不 定 詞 を 伴 う語)の う ち 、 後 者 を 用 い た 表 現 と し て 、"faire sa toilette"が 「化 粧 す る 」、"faire to且ette"が sa toilette"の 動 詞 部 分 を"termin て 、"(terminer)sa 「そ の 化 粧[め princeが toilette"は に 「め か す 」が あ る 。文 例(13)に お い て は 、こ の"faire 差 し替 え た も の が 用 い ら れ て い る わ け で あ る 。し た が っ 「彼 の 化 粧 【 め か す こ と】(を 済 ま せ る)」、"(faire)la toilette"は か す こ と】(を す る)」 を 意 味 す る と 把 握 す れ ば よ い 。 文 脈 か ら言 っ て 、le petit 化 粧 をす る とい う こ と、 あ るい は また 惑 星 に化 粧 をす る とい うこ とは考 え に く く、 こ こ で は"toilette"の ほかの意味、 「 身 じ ま い 」、 「 洗 顔 」、 「着 替 え 」 な ど を 選 択 す る こ と に な る 。 訳 出 の 仕 方 と し て は 、 二 つ の"toilette"を 、 た と え ば 「身 じ ま い 」な ど と し て 同 一 表 現 に す る こ と も 不 可 能 で は な い 。 あ る い は 後 半 を擬 人 化 し 「洗 顔 と 着 替 え 」 な ど と し て 統 一 す る こ と も 可 能 67 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 池澤 夏樹 の翻 訳 の 特 徴- で あ ろ う。 実 際 、 多 く の 訳 者 が そ の 方 法 を 取 っ て い る 。 二 つ の"toilette"を 敢 えて 異 な る語 句 を 用 い て 訳 出 して い る の は 、池 澤 の ほ か 、 倉 橋 訳 と藤 田 訳 で あ る 。 倉 橋 訳 と 藤 田 訳 で は 、前 半 の 「 彼[自 分1の 」 と 後 半 の 「(星)全 体 を 」 が 省 か れ て お り 、藤 田 訳 で は 、 二 つ 目 の"toilette"に 「世 話 」 と い う 訳 語 が あ て ら れ 、 日本 語 的 に や や 不 可 解 な も の と な っ て い る 。 池 澤 は 、"sa to且ette"に は 「自 分 の 顔 を 洗 っ て 着 替 え(を 済 ませ)」、"la 手 入 れ(を す る)」 とい う訳 出 を し、"sa"と"la"と toiette"に は 「惑 星(ぜ ん た い)の の 対 応 関 係 を 示 し つ つ 、 同 じ"toilette"に つ い て は 訳 し分 け を お こ な っ て い る 。 こ の よ うな 訳 し分 け は 、 原 典 の 語 【群 】が 同 一 で あ る と き だ け で な く 、 似 た も の で あ る と き(文 例(14)参 照)や 、文 脈 的 に 対 比 を 見 る 語[群 】同 士(文 例(14)参 照)に つ い て もお こな わ れ て い る。 (14) [原典] (《Tu confonds [W訳1 `You mix everything up together...You confuse everything...'(p.32) [C訳 】 `You are confusing everything...you are mixing up everything!'(p.26) `You [T訳] tout,.. tu are confusing m駘an es everything... tout1》 》(p.30) mixing eve hing up.'(p.32) [池澤 訳 】 「き み は ま ぜ こ ぜ に し て い る … … き み は ま ち が っ て い る1」(p [内藤 訳1 「き み は 、 な に も か も 、 ご ち ゃ ご ち ゃ に し て る よ … … ま ぜ こぜ に し て る よ … … 」(p.35) 槍 橋 訳] 「き み は 何 も か も こ っ ち ゃ に し て い る … … ご ち ゃ 混 ぜ に し て る よ 」(p ,39) 【 山崎 訳 】 「あ な た は な ん で も こ ち ゃ ま ぜ に す る … … な ん で も い っ し ょ く た に す る!」(p [藤田訳1 「き み は い ろ ん な こ と を い っ し ょ く た に し て い る よ … … そ れ じ ゃ 、 な に も か も こ ち ゃ ま ぜ .32) ,27) じ ゃ な い か!」(p.35) [河野 訳] 「き み は ご ち ゃ 混 ぜ に し て る … … 大 事 な こ と も そ う で な い こ と も 、 い っ し ょ く た に して る!」(p.37) 原 典 の"皿lconfbnds tout... 原 形 は そ れ ぞ れ 、"confon tu m駘anges dre"と"m駘an tout!"の ger"で 、"confonds"と"m駘anges"と い う動 詞 の あ る 。 意 味 は そ れ ぞ れ 、 「混 ぜ る 、 混 同 す る 、 と り 違 え る 」、 「混 合 す る 、 と り 混 ぜ る 」 な ど で あ り 、 ほ ぼ 同 じ 意 味 を 持 つ 動 詞 で あ る 。 文 脈 を 見 よ う 。3.4(11)に お い て分 析 ・考 察 し た よ う に 、 こ の 場 面 でle い く 。le petit princeはpil0tに comme Ies grandes princeは 手 加 減 せ ず 、"TU vraiment tr鑚 irrit の で あ る(3.4.(11)参 princeは 怒 り を 募 らせ て 「バ ラ に トゲ が あ る の は な ぜ 」 と 質 問 を す る が 、 pilotは こ に あ ら ず 、 い い か げ ん な 返 事 を す る 。 苛 立 ち を 募 ら せ たle parles petit personnes!"と confbnds Il secouait au 言 い 、 pilotは tout... vent des tu m駘anges cheveux tout petit princeは 心 こ と う と う"Tu 恥 ず か し い 気 持 ち に な る が 、 le petit tout!"と dor駸:"と 照)。 こ の よ う な 文 脈 に お い て 、 文 例(14)に 続 け る 。 そ し て 、"Il騁ait い う くだ りに な だれ 込 む 現 れ る、 意 味 が似 た 二 つ の 動 詞 を ど の よ う に 訳 出 す れ ば よ い の だ ろ う か 。 池 澤 訳 は 、 「き み は ま ぜ こ ぜ に し て い る … … き み 68 は ま ち が っ て い る!」 と 、 異 な る 訳 語 を あ て て い る 。 前 者 は 語 義 どお り 、後 者 は 語 義 か ら解 放 さ れ 、強 い 見 解 と 口調 と を 表 す も の と な っ て い る 。 こ の よ う な 訳 し分 け を お こ な っ て い る の は 池 澤 ひ と り で あ る 。他 の 訳 者 に よ る 訳 文 は 、か ろ う じ て 異 な る 訳 語 を あ て て い る も の の 、差 異 が 不 明 確 で あ る と 同 時 に 、 く ど い 印 象 を 受 け る 。 池 澤 は そ の よ うな デ メ リ ッ トを 回 避 す る た め に 、敢 え て 二 つ 目 を 「ま ち が っ て い る!」 le petit princeの と 変 化 させ た と考 え られ る 。 そ し て 、 文 脈 を 見 て も 、 池 澤 訳 は 文 例(14)同 激 しい 怒 り を 最 も よ く表 し て い る 。 様 、異 な る 二 つ の 記 述 の 対 比 を す る と き 、訳 文 に お い て 強 弱 を つ け て い る も の を 更 に 挙 げ た い。 (15) [原典 】 --Je ne peux pas m'en emp鹹her , r駱ondit le petit p血ce tout confus. J'ai fait un longvoyageetjen'aipas dormi...(p.39) [W訳] [C訳] `Ican't help `Ihave come `Ican't and 匝 訳】 have `Icannot and [池澤 訳 】 help it . on I can't a long myself not help I haven't myself,'replied journey ,'replied slept.' it stop the I have had little prince, little prince, no quite thoroughly embarrassed. sleep...'(pp.43-44) abashed.`I have had a longjourney, (p.35) ,'replied slept , and the the at all...' little prince in confusion.`I have come on a long journey (p.43) 「が ま ん で き な か っ た の で す 」 と 王 子 さ ま は と て も 恐 縮 して 言 っ た 。 「 長 い 旅 を して き て 、 あ ま り 眠 っ て い な か っ た も の で す か ら … … 」(p.44) [内藤 訳 】 「が ま ん で き な い ん で す 」 と 王 子 さ ま は 、 ど ぎ ま ぎ し て 答 え ま し た 。 「ぼ く 、 長 い 旅 を し て き た で し ょ う?そ [倉橋 訳 】 れ に 、 眠 ら な か っ た も の で す か ら … … 」(p,49) 「が ま ん で き な か っ た ん で す 」 と 王 子 さ ま は 困 っ て 答 え た 。 「ぼ く は 長 い 旅 を し て き た し 、 そ れ に 全 然 眠 っ て い な い も の で … … 」(pp.54・55) [山崎 訳 】 「あ く び を せ ず に は い ら れ な い ん で す 」 と 、 小 さ な 王 子 さ ま は あ わ て て 答 え ま し た 。 「長 い 旅 を し て き ま し た し 、 眠 っ て も い な い も の で す か ら … … 」(p,37) [藤田訳] 「が ま ん で き な い ん で す 」 と 、 王 子 さ ま は こ ま っ て い っ た 。 「長 旅 で 、 し か も ね む っ て い な い も の で … … 」(p.49) [河野 訳 】 「が ま ん で き な か っ た ん で す 」 王 子 さ ま は 、 か し こ ま っ て 言 っ た 。 「ず っ と 旅 を 続 け て き て 、 眠 っ て い な か っ た の で … … 」(p.51) 原 典 の"tout confus"と``je n'ai pas dormi_"と は 、一 見 、何 の 対 照 関 係 に も な い か に 見 え る 。 文 脈 か ら 見 よ う 。 こ の 場 面 で は 、 王 さ ま が 住 む 星 を 訪 れ たle petit princeが い あ く び を し て し ま う。 威 厳 の あ る 王 さ ま の 前 で 、le petit princeは"tout 話 を す る 。 そ し て 、 な ぜ あ く び を し て し ま っ た の か 、 そ の 理 由 が"je 眠気 に襲 われ 、 つ confus"な n'ai pas dormi_"の で あ る 。 で は 英 語 の 直 訳 調 に 訳 出 す る と ど う な る か と 言 え ば 、 そ れ ぞ れ 、"quite 69 状 況 で発 部 分 confused"、"1 Le Petit Princeの have 邦 訳 に お け る 誤 訳 と そ の 周 辺-池 n0t slept_"で 澤夏樹の翻訳の特徴 一 あ る 。 つ ま り 「と て も 困 惑 し て 」、 「私 は 睡 眠 を 取 らず こ こ に い る 」 と い う こ と を 言 っ て い る わ け で あ る 。 池 澤 訳 で は 、 「と て も 恐 縮 し て 」、 「あ ま り眠 っ て い な か っ た も の で す か ら… … 」 と な っ て お り 、 前 者 は い か に もle petit princeが 王 さ ま に 対 し畏 ま っ て い る 状 況 が 表 さ れ 、 後 者 は 「あ ま り∼ な い 」 と い う弱 い 否 定 の 意 味 合 い が 込 め られ て い る 。 後 者 に つ い て 、原 文 で は 完 全 否 定 の 形 を 取 っ て い る の に 対 し、池 澤 が 弱 い 否 定 の 形 を 込 め た の は 、 文 脈 か ら の 判 断 で あ る と 考 え られ る 。 つ ま り 、le petit princeは 王 さ ま に 対 し て 「と て も 恐 縮 して 」 い る の で あ り、 そ の 彼 が 「全 然 眠 っ て な い の で す 」 な ど と楯 突 く よ うな 口 調 の 発 話 を す る こ と は 状 況 的 に 不 自 然 で あ る 。原 文 の 否 定 形 を 見 れ ば 明 らか な よ う に 、"n'ai pas dormi"は 音 素 的 に も表 記 的 に も 、 英 語 や 日本 語 の 否 定 形 よ りむ し ろ 目 立 た な い 形 で 表 現 され る。 した が っ て 、 池 澤 は 、 原 文 の 完 全 否 定 で あ っ た も の を 、敢 え て や ん わ り と した 否 定 に 変 え る こ と に よ り 、物 語 の トー ン な ら び にle petit princeの キ ャ ラ ク タ ー を 損 ね ず 訳 出 した こ と に な る 。 同 時 に 、 「と て も 困 惑 し て 」 と い う語 句 が 表 現 す る 強 い 感 情 と 、 「あ ま り 眠 っ て い な か っ た も の で す か ら … … 」 と い う記 述 が 表 す 控 え め な 発 言 と の 対 比 を も 、 実 に 巧 み に 浮 き 立 た せ て い る の で あ る。 4.お わ りに 本 稿 に お い て は 、 筆 者 の 「誤 訳 」 に 関 す る 主 張 と 、 これ を 根 幹 と し た 、 池 澤 夏 樹 に よ る 翻 訳 に つ い て の 特 徴 に つ い て 述 べ た 。 分 析 の 結 果 、 池 澤 の 特 徴 と し て 際 立 つ も の を 、5種 類 に 類 別 し考 察 を 加 え た 。 「ダ ッ シ ュ の 多 用 に よ る 効 果 」、そ し て 「語 義 と文 脈 を 反 映 した 訳 文 」 と し て 「(1)す っ き りま と め る こ と に よ る 効 果 」 と 「(2)説 明 を 付 加 す る こ と に よ る 効 果 」、 「 構 造の変革に よる 効 果 」 「同 一 の 、 あ る い は 異 な る2つ の記 述 の対 比 に よ る効 果 」 を 挙 げ た が 、 池澤 に よ る翻 訳 に 見 られ る特 徴 は これ 以 外 に も あ る 。総 合 的 に 、池 澤 に よ る 翻 訳 に お い て は 、独 自 の 符 号 の 使 用 や 、 語[群 】 や 構 造 の 選 択 が 、 文 学 的 に 極 め て 優 れ た 効 果 を 収 め て い る と い う こ と で あ る。 こ れ は 、 池 澤 が こ の 物 語 の 文 脈 を 読 み 込 ん だ 上 、 多 様 な 工 夫 を 施 した 結 果 で あ る 。 筆 者 は 、 冒 頭 に お い て 、 「誤 訳 」 に つ い て の 主 張 を お こ な っ た 際 、 「誤 訳 と は 何 か 」 と は 「翻 訳 と は 何 か 」、 「 創 作 と は 何 か 」 と い う問 い に 等 しい も の で あ り 、 「誤 訳 の な い 翻 訳 な ど な い 」 し、 「翻 訳 と は 言 語 間 を 彷 復 す る 中 間 地 点 な の で あ る 」 と い う こ と を 述 べ た 。池 澤 に よ る 翻 訳 も ま た (他 の 翻 訳 者 に よ る 訳 文 も)、 そ の 意 味 で 、 フ ラ ン ス 語 と英 語 や 日本 語 と の 間 を さ ま よ う中 間 世 界 に あ る の で あ り、 も っ と言 え ば 、Le Petlt、Princeと 実 態 の な い理 想 の英 訳 あ るい は 邦 訳 との 間 を ゆ らぎ続 け る も の な の で あ る。 【参 考 文 献 】 安 西 徹 雄,他(編)2005.『 別 宮 貞 徳1993.『 Jakobson, R. 翻 訳 を 学 ぶ 人 の た め に 』 世 界 思 想 社. 誤 訳 悪 訳 O.1959."On Cambridge/Mass.:Harvard 北 御 門 二 郎1978.「 欠 陥翻 訳 Linguistic ベ ッ ク剣 士 の激 辛 批 評 』 バ ベ ル Aspects University of Translation."In Press, 心 の 糧 を 与 え よ 」 『翻 訳 の 世 界 』6月 70 号:78, ・プ レ ス, R. Brower(e d.)On 7}・anslation . 鴻 巣 友 季 子2005.『 明治大正 間 島 一 郎(編)2005.『 翻 訳 ワ ンダ ー ラ ン ド』 新 潮 社. だれ が 世界 を翻 訳 す るの か ア ジア ・ア フ リカの 未 来 か ら』 人 文 書 院. 増 田冨 壽1985,『 誤 訳 と誤 解 』 早 稲 田大 学 出版 部. 中村 保 男2001.『 創 造 す る翻 訳一 こ とば の限 界 に挑 む』 研 究 社 出版. 新 村 出1998.『 広 辞 苑 』(第5版)岩 菅 原 久 佳2004a,「 波 書 店, 『移 植 』 と して の 翻 訳 ∼ 多 和 田 葉 子 『犬 婿 入 り』 とそ の 英 訳 版 か らの 例 証 ∼ 」 (未発 表) 2004b.「 翻 訳 ・創 作 にお け る 『移 植 』 概 念 の考 察-リ ジ ェ ク ト2004年 多 和 田葉 子1999.『 度 論 文 集 』慶應 義 塾 大学 湘南 藤 沢 学 会. 文 字 移植 』 河 出文 庫. 2002,『 容 疑 者 の夜 行 列 車』 青 土社. 2003,『 エ ク ソ フ ォ ニー 母語 の 外 へ 出 る旅 』 岩 波 書 店, 2006,『 ア メ リカ ー 非 道 の 大 陸』 青 土社. 71 ー ビ英雄 を 中心 に 一 」 『翻 訳 論 プ ロ Iie Peilt P-111Ceの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の 周 辺一 池澤夏樹の翻訳の特徴 72 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 一 藤 田訳 の 特 徴 一 AStudy of Le Petit」 ㎞oθand Focusing On 葦沢 大 Its Translation Problems: Fujita「S「 翫anSlatiOn Masaru Ashizawa 義塾大学総合政策学部 慶應Faculty of Policy Management, Keio University 1.は じめ に 誤 訳 を研 究 す る こ とに どの よ うな 意 義 が あ るだ ろ うか?始 め に、本 研 究 の 目的 は 単 に翻 訳者 の 誤 訳 を指 摘 す る だ け で完 結 しな い 。誤 訳 と考 え られ る文 章 を 見 つ け 、観 察 す る過 程 を通 じて 、そ れ ぞ れ の翻 訳 者 の文 章 を よ り深 く考 察 ・比 較 し、どの よ うな翻 訳 が 良 くて 、どの よ うな 翻 訳 が 誤 訳 とな るの か 、そ して誤 訳 とは そ もそ も何 か 。この よ うな 問題 意識 を 持 っ て 本稿 に取 り組 む 事 に す る。一 つ 加 え る と、翻 訳 とは 原 典 とな る言 語 か ら言 語 転 換 に よっ て他 言 語 へ と変 換 され る行 為 で あ る。そ こ に は必 ず 原 典 作 品 か ら受 け継 ぎ 、守 られ るべ き点 と、変 換過 程 にお い て そ れ ぞ れ の 言 語 の 特 質 、代 替 で き な い部 分 が 生 ま れ る。矛 盾 す るか と思 え る この 双 方 の バ ラ ンス に よ って 翻 訳 は成 され て お り、意 味 が完 全 に 等価 とな る こ とは 不 可 能 で あ る。言 い 換 えれ ば 各 言 語 内で 存 在 す る言葉 は別 の 言 語 に翻 訳 す る時 、同 じ意 味 の 言葉 と成 りえ な い の で あ る。 しか し、完壁 な る等 価 は 目指せ な い に して も、言 語 間 で イ メ ー ジ ・意 味 を近 似 させ る こ とは 不 可能 で は な い 。完 全 に 重 な る とは 言 わ な くて も、重 な る 面積 を 多 くす る事 に よっ て 意 味 が 等 価 に近 づ く とい うイ メー ジ を考 え て も らい た い 。逆 を言 え ば 、必 ず 違 う部 分 は存 在 す る わ け で 、そ の よ うに解 釈 す れ ば誤 訳 も理 想 の 翻 訳 も紙 一 重 の 関 係 で あ り、そ の違 い も絶 対 的 な もの で な く、時 に微 々た る もの で あ り、 個 々 の 解 釈 に因 る点 も大 き い と言 うこ とを こ こで述 べ てお く。本 稿 で は 藤 田尊 潮 氏 の 訳 を 中心 に 訳 者 の 個 人 的 な 特徴 を捉 えつ つ も 、 翻 訳 に とっ て重 要 な エ ッセ ンス と な る点 につ い て の示 唆 も加 えたい。 2.藤 田 訳 の 分 析 と考 察 研 究 手 法 と して は、藤 田訳 を含 め6つ の 邦 訳 、フ ラ ンス 語 原 典 、3つ の英 文 翻 訳 を用 い て比 較 対 象 を行 った 。筆 者 の都 合 上 、英 訳 と邦 訳 を中 心 に 取 り扱 っ た ので 原 典 へ の言 及 は少 な い か も し れ ない 。 しか し英 語 と フ ラ ンス 語 の言 語 構 造 の類 似 性 を踏 ま え る と、概 念 的 な意 味 な どに 関 して 特 に両 者 に 関 して 大 き な違 い が な い と考 え る。 今 回 はLe petit Princeの 中 か ら6つ の例 文 を取 73 Lv Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 一 藤 田訳の特徴 一 り上 げ て藤 田訳 の 翻 訳 の特 徴 、ま た翻 訳 全 体 を捉 え た 場合 の 重 要 な ポ イ ン トにつ い て触 れ て い き たい。 2.1特 定の言葉の表現 ま ず 、 次 の 例 を 参 照 され た い 。 (1) 原 典】 C'est ainsi que j'ai abandonn '稟e de six ans, une magnifique carri鑽e de peintre. (p.12) [W訳] That is why, at the age of six, I gave up what might have been a magnificent career as apainter.(p.8) [C訳 】 [T訳 】 [藤 田 訳1 So it was Thus that, it was at the that age of six, I gave I g製a ★そ う い う わ け で わ た し は up magni丘cent a wonderful career career as a Dainter as apainter.(p.6) at the age of six.(p.11) 、 六 さい の と き、 しょ うらい せ い の あ る画 家 の仕 事 をや め て し ま っ た と い う わ け な ん だ 。(pp.7・8) [内藤 訳] ほ ん と に 、 す ば ら し い 仕 事 で す け れ ど 、 そ れ で も 、 ふ っ つ り と や め に し ま し た 。(p。8) [倉橋 訳] そ ん な わ け で 、 私 は 六 歳 の と き に 絵 描 き に な る こ と を 諦 め ま し た 。(p,8) [池澤 訳] そ う い う わ け で ぼ く は 、6歳 【山崎 訳] そ の た め に わ た し は 、6歳 [河野 訳] … … とい うわ け で の と き に 偉 大 な 画 家 に な る 道 を あ き ら め た 。(p.8) の と き 、 画 家 と し て の す ば ら し い 将 来 を 諦 め ま し た 。(p.8) 、僕 は 六 歳 に し て 、画 家 と い う す ば ら し い 職 業 を め ざ す の を あ き ら め た 。 (p.S) こ こ で は 二 点 に つ い て 詳 述 した い 。一 つ は 語 義 に 関 す る 点 と 、文 章 表 現 に 関 す る 点 の 二 点 で あ る。 まず は 、 こ こで 「 仕 事 」 と い う語 を 用 い た 点 に 疑 問 を 持 っ た 。 「仕 事 」 と い う言 葉 の 語 意 に は 職 業 や 業 務 が 含 ま れ 、 具 体 的 な 活 動 を 指 す 場 合 が 多 い 。 一 方 で"career"の 語 意 に は職 業 の 他 に 、 生 涯 、 道 、 発 展 な ど多 く の イ メ ー ジ を 付 加 し て い る 。 藤 田 訳 は 「し ょ う ら い せ い の あ る 」 を 用 い る事 に よっ て 「 仕 事 」 を修 飾 した表 現 に な っ て い る が 、た とえ組 み 合 わ さっ た 意 味 で も、原 典 ・英 訳 の 意 図 し て い る 意 味 と そ ぐ わ な い 。 二 点 目は 文 章 表 現 の 微 妙 な 違 和 感 に つ い て で あ る 。 他 の訳 者 が 「諦 め ま し た 」 な ど の 表 現 を 用 い て い る の に 対 し(内 藤 訳 を 除 く)、 藤 田 訳 は 「 やめ て し ま っ た 」 と 訳 して い る 。 確 か に 「や め る 」 と い う表 現 の 中 に は 「諦 め る 」 の よ うな ニ ュ ア ン ス が 含 意 され て い る が 、 「 仕 事 」 と結 び つ く と些 か 妙 な 文 意 に な る 。 「 仕 事 をや め る」で は現 在 就 い て い る職 を や め る と い う よ うに 受 け 取 りか ね な い 。 こ こ で は 、 「画 家 に な る 道 を 諦 め る 」 の よ う に 将 来 の 進 路 に 関 し て 述 べ て い る の で 、将 来 を 見 越 した 判 断 とい う ニ ュ ア ン ス が 含 ま れ て な い こ とか ら不適 当 な 邦 訳 と言 え る。 74 career 仕事 一 r一噛噂 ' 、 、 、 、 、 、 、 、 , ノ ' ' ' 一' 、 、 、 、 ' 、 、 " 、 、 、 ソ 、 、 、 1 尋 ' ノ , '- - - 、 、 、 勤 務 、労 働 、 ': \ 職 業 、業務 ' / ' 、 ︾ヘ ノ ' 、、 ' '' 、 、、 、 ' 馳 ' i ' (2) 原 典] J'avais [W訳] Ihad thus learned [C訳] From this I learned a second [T訳] Thus I had learned a second [藤田 訳】 ainsi appris une seconde a second chose fact fact very tr鑚 of great importante...(p.20) importance...(p.18) of great importance...(p.14) important thing.(p.20) ★こ う し て わ た し は 二 番 目 に だ い じ な こ と を 知 っ た ん だ 。(p.19) [内藤 訳] ぼ く は 、 こ う し て 、 も う 一 つ 、 た い そ う だ い じ な こ と を 知 り ま し た 。(p.20) [倉橋 訳] こ う し て 二 つ 目 の 大 事 な こ と が わ か っ た 。(p.23) [池澤 訳] こ う し て ぼ く は2番 [山崎 訳】 こ の よ う に し て 、 わ た し は と て も 重 要 な ふ た つ め の こ と を 知 り ま し た 。(p.16) [河野 訳 】 こ う し て 僕 は 、 と て も 重 要 な ふ た つ 目 の こ と を 知 っ た 。(p.21) 目 の 大 事 な こ と を 知 っ た 。(p.18) こ こ は 四 章 冒 頭 の 文 章 で あ る が 、 藤 田訳 だ け 異 な る 文 意 と して 受 け 取 られ る 。 「二 番 目 に 」 と 表 現 す る事 に よ っ て 訳 の"second 「大 事 な こ と 」 に 順 位 づ け を 行 っ て い る よ う に 読 み 取 る こ と が 出 来 る 。W fact of great importance"に 見 られ る よ う に 、 「 大 変 重 要 な 二 つ 目の事 実 」 とな る の で 英 訳 に お い て も 事 実 を 知 っ た 順 番 の 事 で あ る と解 釈 す る 事 が 出 来 る 。 こ こ で の 問 題 は 、 「大 事 な こ と」 に 関 す る 順 位 よ り も 単 に 知 っ た 順 序 を 示 して い る だ け な の で 、大 事 さ に 関 し て の 優 劣 は 考 慮 し て い な い と 考 え て も 良 い だ ろ う。 2.2表 現 の 簡 易 化 ・抽 象 化 こ こ で 、 次 の 例(3)を 参 照 され た い 。 (3) [原 典] 軋venait tout doucement, au hasard des r驫仔xions.(p.23) 75 Le Petit Princeの [W訳1 邦 訳 に お け る 誤 訳 と そ の 周 辺-藤 The information would come 田訳 の特 徴 very slowly, as 一 it might chance to fall from his thoughts, (p.23) 【C訳 】 The details came very [T訳 】 The information would slowly, in the course come very of conversation.(p.18) slowly, following the course of the little urince's thoughts.(p.24) [藤 田訳】 ★な に か 考 え ご と を し て い る う ち 、 ぐ うぜ ん に ほ ん の 少 し ず つ わ か っ て く る の だ っ た 。 (p.24) [内藤 訳1 ★い き あ た り ば っ た り考 え て い る う ち に [倉橋 訳】 王 子 さ ま の 話 を 聞 い て い る うち に だ ん だ ん と わ か っ て き た の だ 。(p.28) 、 しぜ ん 、 話 が わ か っ て き た の で す 。(p.25) [池澤 訳】 彼 が そ の 時 々 に 考 え て い る こ と か ら 、 少 しず つ よ うす が わ か っ た 。 王 子 さ ま の 話 を 聞 い て い る うち に だ ん だ ん と わ か っ て き た の だ 。(p.23) [山崎 訳】 あ れ や こ れ や 考 え あ わ せ て ゆ く うち に 、 だ ん だ ん わ か っ て き た の で す 。(p.19) [河野 訳】 ★王 子 さ ま が か た わ ら で あ れ こ れ 考 え る に つ れ て 、 自然 と僕 に も わ か っ て き た の だ 。(p.27) こ の文 章 は文 脈 に 関連 す る 問題 で あ る の に伴 っ て 、そ の 語 られ て い る視 点 につ い て も触 れ な け れ ばい け な い。初 め に 、この 文 は単 体 だ けで 文 意 を判 断 出来 る よ うな部 分 で は な い た め 、文 章 に 至 る ま で の文 脈 につ い て先 に述 べ た い と思 う。 池澤 訳 の前 文 を参 照 す る と、 「 一 日ご と に、 ぼ く は 王 子 さま の星 の こ とや 、 そ こを 出 て き た事 情 、 それ に彼 の旅 の こ とを知 る よ うに な っ た 。」 と 書 か れ てい る。王 子 さま と語 り手 が 実 際 に出 会 い 、対 話 を繰 り返す こ とに よ って 語 り手 が 王 子 さ ま の様 々 な側 面 につ い て理 解 し、推 測 で き る よ うに なっ て い る段 階 が こ の場 面 で あ る。そ して こ の 部 分 は、王 子 さま に 関す る情 報 が どの よ うに語 り手 に露 わ に な っ て い くか を表 現 した 文 章 で あ る。 こ こで 藤 田訳 を見 てみ る と、 「 考 え事 の主 体 が誰 か」 とい う部 分 と 「 作 者 は どの よ うに して わ か った の か 」とい う部 分 が他 訳 者 と比 べ て 異 な っ た 表 現 を使 っ て い る と言 え る。前者 につ い て は 主 体 が は っ き り しな い上 に 、 文 章 や 文 脈 上か らも ヒン トが読 み取 りづ らい。後 者 に お い て も 「 な に か 」や 「ぐ うぜ ん に 」な どの言 葉 か らは 曖 昧 さや 偶発 的 な ニ ュ ア ンス が 読 み 取 れ る。 しか し文 脈 に沿 えば 、個 人 的 ・内 面 的 な 思 考 や ひ ら め き に よ って 何 か がわ か って くる とは考 え に くい。原 典 に"r馭lexions"や 英 訳 に"conversations"と 記 述 され て い る こ とか ら、 内省 や 対話 に よっ て 王 子 さ まの 素 性 が 明 らか に な って くる と考 えた ほ うが 自然 で あ る とい う点 も踏 ま え る と、 漠然と して 内 面 か らふ と思 い つ い た とい う表 現 方 法 は適 切 で な い 。 よっ て藤 田訳 を 筆頭 に、内藤 ・河 野 訳 も誤 訳 と主 張 した い 。 一 点補 足 す る と、私 は こ こで の 主 体 が誰 で あ るか を 問題 意識 と して 捉 えて い な い 。どの 言語 で も主 語 を省 略 す る こ とは あ り得 る し、文脈 に 沿 わ な けれ ば判 断 が容 易 で な い部 分 は 必 ず あ る。原 典 で の 主 体や 客 体 が 不 明 確 な場 合 、翻 訳 者 はそ れ を 明 らか にす る か しな い か は翻 訳 者 の ス タ イ ル 、 文 体 、文 脈 に よ っ て左 右 され て も 問題 な い。 しか し、文 脈 に沿 っ て読 み 取 る技 術 とい うの は誰 も が 持 ち合 わせ るべ き能 力 で あ る と こ こで 述 べ た い 。 例 えば 、 「どの よ うに してわ か っ た の か」 と い う部 分 は 前 文 の 文 脈 を しっか り反 映 した 訳 し方 で な けれ ば文 意 は大 分 変 化 して しま い 、間違 っ 76 た 解 釈 が うまれ る こ とに な る。逆 に言 え ぱ 、文脈 を しっ か り と考 慮 した 解 釈 、そ して そ れ を あ る 程 度 反 映 した訳 し方 をす る の で あ れ ば 、そ こか ら先 は作 者 の個 性 や 読 みや す さを 追 求す る工 夫 を 施 して も問題 は な い と筆 者 は 考 え る。 (4) 原 典】 Et il me fallut un grand effort d'intelli egnce pour comprendre瀘oi seul ce probl鑪e. (p.24) 【W訳1 And I was obliged to make a great mental effort to solve this problem, without any assistance.(p.24) [C訳 】 And [T訳] Ihad 【 藤 田訳 】 I had to exert ★け れ ど も た ん だ。 [内藤 訳 】 to make a great considerable mental effort to work out the problem mental effort to work the problem on out my own.(p.20) for myself.(p.25) 、 わ た しが 自分 ひ と りで そ の 問 題 を理 解 す る に は 、 た い へ ん な 知 恵 が 必 要 だ っ (p.26) だ か ら ぼ く は 、 うん と 頭 を ひ ね っ て 、ひ と り で そ の わ け を 考 え な け れ ば な りま せ ん で した 。 (p.26) [倉橋 訳 】 私 は さ ん ざ ん 頭 を 使 っ て 自 分 で そ の わ け を 考 え な け れ ば な ら な か っ た 。(p.30) [池澤 訳] ぼ く は 彼 の 助 け を借 りず に こ の 難 問 を 解 く た め に 頭 を ひ ね ら な け れ ば な ら な か っ た 。 (p.25) [山崎 訳1 そ し て わ た し は 、 こ の 問 題 を 自 分 ひ と り の 力 で 解 く た め に 、 す ご く頭 を 使 わ な け れ ば な ら な か っ た の で す 。(p.20) 【 河 野 訳】 お か げ で僕 は 、 ひ と りで この 問題 を 理解 し よ うと、 い っ し ょ うけ ん め い頭 を使 わ な くて は な ら な く な っ た 。(pp.28-29) こ の部 分 にお い て も藤 田訳 以 外 は ほぼ 同 様 な訳 し方 を して い る。 問題 を理 解 ・説 くた め に は 、 特 別 に頭 をひ ね らな けれ ば な らな い とい う池 澤 訳 が こ こで は 最 も適 訳 か と思 う。だ が藤 田訳 で は ここで 「 知恵 が 必 要 だ っ た 」 とい う表 現 を 用 い る こ とに よっ て 、主 に そ の能 力 に対 して 焦 点 を 当 て た 表 現 に な っ て い る。これ で は あた か も能 力 の不 足 に よ っ て理 解 で き な い と解 釈 す る こ とが で き、 頭 の機 転 に よ る もの と は受 け 取 りづ らい 。(「知 恵 を働 かせ る」 とい う表 現 な ら 自分 が持 ち 合 わ せ て い る能 力 を活 用 す る とい う意 味 が 含 まれ るの で 納 得 で き る が。) こ この ポ イ ン トは 王子 さま と語 り手 が 持 つ バ オ バ ブ と言 う木 に対 して の前 提 認 識 ・ 経 験 の違 い で あ り、絶 対 的 な 知 識 量 が 問 題 視 され て い る わ け で は な い。だ か ら頭 をひ ね り、 自分 の持 っ て い る 固定 観 念 ・前 提 を覆 せ ば理 解 で き る 問題 な の で あ る。よ っ て こ こで の藤 田訳 は本 来 伝 え るべ き 文 意 を捉 え 間違 え て しま っ て い る とい え る。他 の 翻 訳者 の よ うに 「 頭 を使 う」 や 「 頭 をひ ね る 」 とい っ た慣 用 句 的 表 現 を使 う と文全 体 が 捉 えや す くな る の だ が藤 田訳 に は そ の よ うな 工夫 が 見 られ な い。慣 用 句 は そ の 対 象 言 語 独 自の 表現 で あ るの で 、単 純 に 直訳 す る だ け で は発 想 が浮 か び 上 が らな い。よ って 訳 者 の作 品 へ の介 入 は 強 ま るが 、そ の分 読 み 手 に とっ て は わ か りや す い 表 現 77 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る 誤 訳 と そ の 周 辺-藤 田 訳 の 特徴 一 に な っ て い る の で あ る。 2.3文 脈 に 沿 った 文 章 表 現 以 下 の 例(5)を 参 照 され た い 。 (5) [原 典 】 Et un jour i me consei皿a de m'a h uer.a r騏ssir un beau dessin our bien faire entrer軋 dans la t黎e des enfants de chez moi.(p.26) [W訳l And one day he said to me:`You ought to make a beautiful drawing, so that the children where you livecan see exactly how allthis is.'(p.26) [C訳 】 And one day he suggested that I set about marne a beautiful drawine, so as to give children on my planet a clearidea of allthis.(pp.20-22) [T訳1 And this [藤田訳] one day he advised me upon ★あ る 日 the children where to try and make a beautiful drawing so as to impress all I live.(p.26) 、 王 子 さま は 、 が ん ば っ て バ オ バ ブ の りっ ぱ な 絵 を描 い て 、 わ た しの 国 の 子 ど も た ち が し っ か り お ぼ え て お く よ うに さ せ た ほ うが い い と 、わ た し に 助 言 し て く れ た 。(p.27) [内藤 訳] あ る 日 、 王 子 さ ま は 、 フ ラ ン ス の 子 ど も た ち が 、 こ の こ と を よ く頭 に い れ て お く よ う に 、 ふ ん ば つ し て 、 一 つ 、 り っ ぱ な 絵 を か か な い か と ぼ く に す す め ま した 。(p.28) [倉橋 調 あ る 日王子 さま は 、私 の国 の子 供 た ち に教 訓 とな る よ うに 、ひ とつ が ん ば っ て立 派 な絵 を 描 い てみ た ら、 と言 っ て くれ た。(p.31) [池澤 訳] 別 の 日に彼 は ぼ くに 、き み は この 地 球 に 住 ん で い る子供 た ちに も よ くわ か る よ うな上 手 な バ オ バ ブ の 絵 を 描 くべ き だ と言 っ た 。(p.26) 仙 崎訳] そ し て 、 あ る 日彼 は 、 こ の こ と を わ た し の 国 の 子 ど も た ち に し っ か り し み こ ま せ る た め 、 り っ ぱ な 絵 を1枚 [河野 訳] 、 精 を 出 して 描 き あ げ る よ う に す す め ま した 。(p.22) あ る 日、 この こ とを僕 の 星 、 つ ま り地 球 の子 ど もた ち も、 よ く頭 に 入 れ て お け る よ うに、 い い 絵 を一 枚 が ん ば っ て描 い てお い た ほ うが い い と、 王 子 さま は す す め て くれ た 。(p.30) この 文 章 に 関 して は 藤 田訳 のみ 誤 訳 と な って い る よ うに感 じた。一 つ は 全 体 的 に 間接 会 話 文 が 読 み に く く、下線 部 の よ うに 回 りく どい 部 分 が 見 受 け られ た か らだ 。他 の訳 者 で は 「 ∼ た め 、∼ 」、 「∼ よ うに 、∼ 」な ど と 目的 を き ち ん と示 して か ら達 成 す るた めの行 為 を表 す が 、藤 田訳 の み 「 絵 を描 い て 、∼ 」 と伝 え な けれ ば な らな い 大 切 な 部 分 を後 ろ に残 した 表 現 とな って い る。伝 え るべ き点 の イ ンパ ク トが 希薄 で あ る とい え る。よ って 文 意 的 に も藤 田訳 だ け異 な る解 釈 を行 い か ね な い。他 の 邦 訳 と大 き く異 な る点 は 、バ オバ ブ の 絵 を描 く こ と の効 果 ・目的 が 明確 に 示 され て い な い とい う点 だ 。 この 文 章 も文 脈 と関 連 して 述 べ られ な けれ ば い けな い 部 分 で あ っ て 、 前 文 に関 して の ポ イ ン ト に言 及 しな が ら訳す 必 要 が あ る。つ ま り、前 文 ま で の 文脈 で はバ オバ ブ の 危 険性 とそ の 対 処 法 に 78 つ い て 王 子 さまが 語 り手 に 語 りか けて い る場 面 で あ り、 「この こ と」(内藤 、 山崎 、河 野 訳)を 地 球 の 子 供 達 へ 伝 え な けれ ば い けな い の で あ る。 しか し藤 田訳 で は 、 「 バ オ バ ブ の りっぱ な絵 」 を 覚 え させ る とい う読 み 方 が 出 来 て しま い 、子 供 達 へ 伝 え る こ とは何 か とい う点 に ま で言 及 して い な い 。加 え て 、 「 覚 え る」 とい う表 現 も、記 憶 す る ・暗記 す る とい う意 味 合 い が感 じ られ 、 「 教訓 とす る ・わ か る ・しみ こませ る」の よ うな表 現 の方 が バ オ バ ブ の 危 険 性 や 対 処 法 を言 及 す る上 で は 適 当 で あ る とい え る。言 葉 の選 び 方 、そ して 文脈 か ら導 か れ る文 意 につ い て の言 及 とい う両 点 に関 して 、藤 田訳 の 文 章 は 誤 訳 と言 え る。 頭 に 入 れ る 、教 訓 、 他邦訳者 藤 田訳 覚える わ かる o o (6) [原典1 Il commen軋 donc par les visiter pour y chercher une occupation et pour s'instruire. (p.38) [W訳] He began, therefore, [C訳 】 So he started [T訳 】 So he started by by by visiting visiting these, to find some them to look for visiting them, in order to add occupation an occupation to his and and knowledge.(p.43) to educate to add himself.(p.34) to his knowledge. (p.42) [藤田 訳] ★王 子 さ ま は ま ず そ れ ら の 星 を お と ず れ [内藤 訳] 王 子 さ ま は 、 星 の 見 物 を は じ め ま し た 。 な に か 仕 事 を させ て も ら っ て 、 勉 強 し よ う と い う 、仕 事 を さ が し 、な に か 学 ぼ う と 考 え た ん だ 。(p.47) の で し た 。(p.48) 槍 橋 訳] ★そ こ で こ れ ら の 星 の 巡 歴 か ら 始 め た [池澤 訳] そ こ で 彼 は す べ き こ と を 見 つ け た り 見 聞 を 広 め た り す る た め に 、 こ れ ら の 星 を1つ 。 勉 強 に 精 を 出 そ う と い う の だ っ た 。(p。53) ず つ 訪 ね て み る こ と に し た 。(p.43) [山崎 訳1 ★そ こ で [河野 訳] ★そ こ で そ れ ら の 星 を 訪 ね て 、 仕 事 を 探 し た り 見 聞 を ひ ろ め た りす る た め 、 ま ず 、 こ れ ら の 星 を 訪 ね る こ と に し ま し た 。(p.35) 、仕 事 を さ が し た り 、見 聞 を 広 め た り す る こ と に し た 。(p.50) 79 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 上 藤 田 訳 の 特徴 一 (1)の例 と指 摘 す る ポイ ン トが類 似 して い るが 、特 定 の語 の意 味 に 焦 点 を 当て て み よ うと思 う。 この 部 分 は 王 子 さ まが 自分 の星 か ら出発 し、他 の 星 へ旅 立 って い こ うとす る シー ンで あ る。何 の た め に王 子 さま が 星 を転 々 と巡 歴 す る の か とい う理 由 の部 分 は 今 後 の ス トー リー 展 開 に む け て 重 要 な 鍵 を握 るポ イ ン トの一 つ で あ る。こ こで の大 事 な ポ イ ン トとは 星 の 巡 歴 を始 めた 王 子 さま の 目的 とは 見 聞 を広 め る こ と、世 の 中 の 知識 を養 うこ とで あ り、自分 の仕 事 を 探 す こ とが 最 終 目 標 で は な い 。仕 事 自体 は あ くま で そ の 手段 の 一 つ に も過 ぎ な い とい う捉 え方 で あ る。つ ま り、こ こで は 目的 が 並 列 的 な表 現 方 法 で 二 つ 以 上 並 ぶ の で は な く、どち らか を 除 くあ るい は ど ち らか に 強調 をつ けて 述 べ る こ とに よ って 、王 子 さま の 巡歴 の 目的 が 明 確 に な る。藤 田訳 は 並 列 的 に配 置 され て い る こ とに加 え 、仕 事 か ら得 る学 び とい う繋 が りを 意識 して い て 少 し 「 仕 事 」が 中 心 に存 在 して い る とい う印 象 を受 け る。 次 に(1)の例 文 との 違 い を述 べ る と、 日本 語 で は主 に 一 貫 して 用 い られ て い る言 葉 が、英 訳 にお い て 異 な る表 現 を用 い て い る点 で あ る。(1)では"career"、 こで は"㏄cupation"と こ 使 い 方 を 区別 して い る よ うに思 え る。 しか しど ち らも 「 仕 事 」 とい う言 葉 と(特 に この作 品 にお け る文脈 上)同 義 で は ない とい え る。"occupation"に も仕 事 とい う意 味 が 含 意 され るが 、こ こで は よ り広 い 意 味 で の 、物 事 に従 事 す る こ とだ と考 え る が ほ うが 、王 子 さ ま の性 格 を考 慮 した 場 合 に よ り 自然 で あ る と考 え る。他 に池 澤 訳 は こ の点 を的 確 に捉 え て 、注 意 深 く訳 して い る。 3.お わ りに 藤 田訳 の総 評 と誤 訳 に 関す る考 察 につ い て述 べ る。全 体 を 総 括 して藤 田訳 に は主 に三 つ の特 徴 が 見 られ た 。一 つ は 文体 と して は 漢 字 が 少 な く、難 解 な語 彙 が な く、単調 な 文 章 が 多 い とい う傾 向 か ら、子 供 向 け に作 られ た 翻 訳 作 品 とい う印 象 を受 けた 。例 文 に お い て は あ ま り解 説 を行 わ な か っ た が 、(3)の例 文 の よ うに詳 述 を避 け る傾 向 が あ る の は この よ うな 要 因 が あ るか ら と も考 え られ る。 二 点 目に 、語 意 の変 換 に 際 して適 格 で な い 表 現 が 目立 った 事 が 挙 げ られ る。(1)、(2)に 関 して はそ の よ うな指 摘 を 中心 に記 述 した。意 味 を等価 に させ る こ とは 困難 で あ るが 、的 に も う 少 し近 づ か せ る こ とは可 能 で あ る と思 う。三 点 目は 要所 とな る所 で 文 脈 に 沿 っ た 翻 訳 に時 お り難 点 が あ る こ とで あ る。(5)、(6)な どは 文 脈 を掴 む か ど うか で 翻 訳 に大 き な違 い が 生 じて しまい 、 段 落 全 体 の 読 み 取 りに も影 響 を及 ぼす 。翻 訳者 は 作 品 の 第 一 読 者 で あ る とい う こ とは 、読 者 以 上 に 文 脈 に気 をつ け る必 要 が あ り、そ の 技 術 も要 求 され る0文 章 は 連続 して構 成 され て い る も の で あ り、断続 的 に それ ぞれ の 文 章 が成 り立 って い る とい うよ りは互 い が 連 動 しあ っ て い る。そ の 一 貫 して 連 動 す る流 れ を文 脈 と言 うので は ない か と考 え る。よっ て 文脈 と文 章 は 表 裏 一 体 の 関 係 で あ り、 そ の バ ラ ンス を考 慮 しなが ら翻 訳 を行 わ な けれ ば な らな い。 続 い て 誤 訳 の研 究 を行 っ た うえ で の考 察 で あ る が 、誤 訳 と は、単 純 に そ うで あ るか な い か と判 断 で き る もの で は な い と考 え る。なぜ な ら訳者 に よっ て構 文 や 表 出 方 法 が 違 った り、ポ イ ン トを 掴 ん で い て も何 か 抜 けて い た りな ど、そ こに は 様 々 な 判 断 材 料 が 考 え られ るか らだ。最 終 的 な 段 階 で は個 人 の 解 釈 や 価 値 観 に よ っ て誤 訳 か ど うか を判 断 して しま っ た事 は 否 め な い。 しか し、翻 訳 を行 う上 、ひ い て は 作 品 を読 む 上 で 誰 に も共 通 して 重 要 な ポイ ン トは あ る と考 え る。そ れ は 単 80 一 の文章でな く 、全 体 の流 れ を把 握 す る 文脈 力 で あ り、そ れ を文 章 に反 映 させ る能 力 で あ る。文 章 は個 別 で存 在 す る もの で ない か ら、そ の前 後 の 文脈 が揃 わ な けれ ば 全 体 を通 して 概 観 した場 合 、 違 和 感 が 出 る。今 後 は 段 落 な い しは章 の ポ イ ン トとな る文 章 に 着 目 し、そ れ が ど の よ うに訳 され 、 文脈 に反 映 され て い るか を考 察 してみ た い と思 う。今 回 の 誤 訳 研 究 にお い て 様 々 な翻 訳 者 の 立場 に な って 考 え る こ とが で き 、自分 も翻 訳 を行 っ てい る立 場 に な る こ とが 出 来 た よ うに感 じた 。反 省 点 と して は文 章 へ の意 味 に 固執 しす ぎ て しま っ た よ うに感 じる ので 、他 の視 点 に も 立 っ て誤 訳 に対 して考 察 を行 い た い と思 う。 【参 考 文 献 】 村 上 春 樹 ・柴 田元 幸2000.『 長 島要 一2005.『 翻 訳 夜 話 』 文 藝春 秋. 森 鴎 外 文化 の 翻 訳 者 』 岩 波 書 店. 81 Le Petit Princeの 邦 訳 に お ける 誤 訳 とそ の 周 辺 藤 田訳の特徴 82 Le Petit Princeの -河 AStudy of」 乙θ 、 飽 漉 Focusing 邦 訳 に お け る 誤 訳 とそ の 周 辺 野 訳 の 特徴」 舳oθand on 鈴木 陽子 Its Translation Kono's Yoko Problems: Translation Suzuki 義塾大学総合政策学部 慶應Faculty of Policy Management, Keio University 1.は じめ に -Le Petit Princeは 昨今 多 数 の 訳 者 に よ って 日本 語 に翻 訳 され て い る。 こ の よ うに次 々 と新 訳 が発 表 され る とい う事 態 は 、作 品 と して の原 典 の 素 晴 ら し さは さ る こ とな が ら、翻 訳 者 が 原 作 者 と読者 との 間 にお い て重 要 な 役割 で あ る こ と を如 実 に表 して い る よ うに思 われ る。 とい うの も、 翻 訳 とは 、翻 訳者 に よ って な され る主 体 的 か つ創 造 的 な行 為 で あ り、一 人 の訳 者 が 翻 訳 を行 え ば それ で 済 む とい っ た類 の もの で は な い か らで あ る。 『星 の 王 子 様 』 の 中 で 「 大 人 もか つ て は 子 供 だ っ た 」 と語 られ る よ うに 、翻 訳 者 も かつ て は 一 人 の読 者 で あっ た 。 した が っ て 、翻 訳 者 が創 り 出す 翻 訳 は 原 典 テ キ ス トに新 しい解 釈 を 付 与 す る もの で あ る はず で あ り、この 意 味 にお い て 、多 数 の 訳 者 の 翻 訳(=解 釈)が 要 請 され る(平 子2003)。 本 稿 で は 、以 上 の よ うな観 点 か ら、 河 野 万 里 子 訳 に着 目す る。河 野 訳 に お け る誤 訳 ま た は誤 訳 とは 断定 で き な い もの の 表 現 や解 釈 に飛 躍 が み られ る箇 所 を取 り上 げ 、 それ らを原 典 と英訳3点 、 邦 訳5点 と比 較 す る こ と に よ って 、 彼 女 の翻 訳 の 特 徴 を 明 らか に して い き た い 。 2.河 野 訳 の 特 徴 本 稿 で は 、 河 野 訳 にみ られ る特 徴 を ① 主観 的 表 現 へ の 転 換 と ② 訳 文 の表 現 とい う2つ の観 点 か ら整 理 し、 考 察 して い く。 2.1主 観 的 表 現 へ の 転 換 河 野 訳 の 特 徴 の一 つ に主 観 的表 現 へ の転 換 が 挙 げ られ る。これ は 、原 典 に お い て 第 三者 的 な 視 点 ま た は 客 観 的 に表 現 され て い る箇 所 を、 コ ンテ ク ス トの 中で の語 り手(多 くの場 合 パ イ ロ ッ ト)の 視 点 か ら、よ り主 観 的 な感 情 や 評 価 を含 めた 表 現 で 訳 出 しよ うとす る試 み で あ る。ま ず は 、 次 の例 をみ て い きた い 。 83 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺-河 野 万 里 子 の 翻 訳 の特 徴 一 (1> [原典】 Elle a bien besoin d'黎reconsol馥.(p.9) [W訳] He needs cheerine 【C訳】 He needs a lot of consoling.(p.3) [T訳 】 (訳 な し) [河野 訳1 … … な ん と か な ぐ さ め て あ げ た い の だ 。(p.5) [内藤 訳 】 ど う して も な ぐ さ め な け れ ば な ら な い 人 だ か ら で あ る 。(p.5) [倉橋 訳1 … … 慰 め を 必 要 と し て い る 。(p,5) up.(p.6) [山崎 訳 】 慰 め て あ げ る 必 要 が あ る の だ 。(p.5) [池澤 訳 】 慰 め を 必 要 と し て い る か ら。(p.5) [藤田訳] な ぐ さ め て あ げ る ひ つ よ う が あ る 。(p.5) これ は 冒頭 で の謝 辞 の部 分 で あ る。 そ の た め 、『星 の 王子 さま 』 の物 語 そ れ 自体 には あ ま り関 係 が ない と思 わ れ る か も しれ な い。 しな しな が ら、唯 一 この 箇 所 で 物 語 の 中の 登 場 人 物 で はな い 作 者 サ ン=テ グ ジ ュペ リ 自身 が 「 大 人 も か つ て は 子供 だ っ た 」 とい う概 念 を紹 介 す るの で あ り、 作 品 を理 解 す る上 で無 視 す る こ とは で き な い部 分 で あ る。こ こで 注 目 した い の は 、原 文 も含 め ほ とん どの訳 が 著者 の友 人 と して の 「 彼 」の状 況 を第 三者 的 に 、す な わ ち 「 彼 」 を トピ ック と して 表 現 して い る が 、河 野 訳 の み が 「 な ぐ さめ て あ げ た い 」と して 作 者 か らの 視 点 で 訳 出 して い る こ とで あ る。 確 か に 、 「 彼 が慰 めを必 要 と して い る」 こ との裏 の 意 味 と して 、 著者 の 慰 めて あ げ た い とい う願 望 が あ る こ とは想 像 に 難 くな い。 しか し、原 典 にお け る表 現 が 「 彼 」 を トピ ック に し て い る こ とを 考慮 す るな らば 、裏 打 ち され た 著 者 の こ の よ うな願 望 は あ くま で も 間接 的 に表 現 さ れ る べ き で は な か ろ うか 。 (2) [原典 】 Quand [W訳 】 When a mystery is too overpowering, [C訳 】 When a mystery is too overwhelming, [T訳] When a mystery is too overpowering, [河野 訳 】 不 思 議 な こ と で も 、 あ ま り に 心 を 打 た れ る と 、 人 は さ か ら わ な く な る も の だ 。(p.12) [内藤 訳 】 ふ し ぎ な こ と も 、 あ ん ま り ふ し ぎ す ぎ る と 、 と て も い や と は い え な い も の で す 。(p,13) 【 倉 橋 訳1 あ ま り に も 不 思 議 な こ と に 出 会 う と 、 い や だ と い え な く な る も の だ 。(p.14) [山崎 訳] 謎 め い た 印 象 が あ ま り に 強 す ぎ る と 、 言 う こ と を 聞 か ず に は い ら れ な い も の で す 。(p.10) [池澤 訳 】 あ ま り 大 き な 謎 に 出 会 う と 、 人 は あ え て そ れ に 逆 ら わ な い も の だ 。(p.12) 1藤 田訳] あ ま り に い ん し ょ うの 強 い ふ し ぎ な こ と に 出 会 う と 、 ひ と は そ れ に さ か ら え な い も の le myst鑽e est trop imQressionnant, on one you one だ が 、 … …(P・12) 84 dare do dare n'ose not not not pas d駸ob駟r.(p.14) disobey.(p.12) dare to question it.(p.8) disobey.(p.14) (2)で は 、 河 野 訳 は 原 典 の 前 半 部 分 に み られ る 無 生 物 主 語 を 「人 」 を 主 語 に し た 生 物 主 語 へ と 転 換 させ 、 さ ら に は"le myst鑽e"の 属 性 と し て の"impressionnant"と い う形 容 詞 を 「心 を 打 つ 」 と い う感 情 を 伴 っ た 表 現 に よ っ て 訳 出 し て い る 。 こ こ で 、 問 題 に した い の は 後 者 の "impressionnant"の 訳で ある 。 原 典 にお け る無 生物 主語 の構 造 は 、 英訳 に お い て は ほ とん ど対 応 し て い る が 、 邦 訳 で は 河 野 訳 だ け で な く他 の 訳 者 に よ っ て も無 生 物 主 語 の 転 換 は され て い る 。 例 え ば 、 倉 橋 訳 、 池 澤 訳 、 藤 田訳 で は 「謎(ま た は 不 思 議)に 主 語 を 捉 え 直 す こ と に 成 功 して い る 。"impressionnant"の 出 会 う」 と い う表 現 を 使 う こ とで 訳 に つ い て 言 え ば 、 こ の 語 を 「あ ま り に も 」と しか 訳 して い な い 倉 橋 訳 を 除 外 す れ ば 、池 澤 訳 と 藤 田 訳 は 主 語 の 転 換 を 行 い な が ら も 、 "le myst鑽e"を 修 飾 す る もの と して維 持 して い る 。 一 方 で 、 河 野 訳 は 、 主 語 の 転 換 を行 う際 、 意 味 を 動 詞 に組 み 込 も う と した の だ ろ うか 、 「あ ま りに 心 を 打 た れ る と 」 と "impressionnant"の い う表 現 で 訳 して い る 。 し か し な が ら 、 「心 を 打 つ 」 と い う表 現 に は 「感 動 す る 、 感 銘 す る 」 と い っ た 非 常 に プ ラ ス の 意 味 が あ り、実 際 に 人 が 不 思 議 や 謎 に 出 会 っ て す ぐ に 感 動 で き る も の か ど うか は 疑 わ し い 。 む し ろ 、 原 典 に お け る"impressionnant"は"le myst鑽e"が 持つ 「 通 常 の論 理 ・認 識 で は 理 解 で き な い 」 と い う特 性 を 強 調 す る た め に 用 い られ て い る表 現 で は な い か と 筆 者 は 考 え る。 (3) [原典] ‐Oui [W訳 】 `Yes [C訳 】 `Yes [T訳] `Yes , fis-je modestement.(p.17) ,'Ianswered, modestly. ,'Ianswered ,'Ireplie demurely. d modestly. gyp・15) ip.12) ip.17) [河野 訳 】 「 そ うな ん だ 」今 度 は少 し鋪 葛に な っ て 、撰 は 答 えた 。(p.18) [内藤 訳 】 「 そ う だ よ 」 と 、 ぼ く は 、 し お ら し い 顔 を して い い ま した 。(p,16) [倉橋 訳 】 「 そ う だ 」 と私 は 神 妙 に 答 え た 。(p.19) [山崎 訳] 「 そ う だ よ 」 と わ た し は 遠 慮 が ち に 言 い ま した 。(p.14) [池澤 訳] 「 そ うだ よ 」 とぼ くは麹 1藤田 訳】 「ま あ 、 そ うだ 」 と 、 わ た し は ひ か え め に い っ た 。(p,16) ≦ー 答 え た 。(p.15) こ の 例 に お い て も 、河 野 訳 は 、 同 様 に 、原 典 に お け る"modestement"と い う語 を 「 少 し気 弱 に な っ て 」 と して 、 パ イ ロ ッ トの 心 情 を よ り強 調 す る よ う な 表 現 で 訳 して い る 。 原 典 を は じ め 、 英 訳 、そ の 他 の 邦 訳 は パ イ ロ ッ トの 答 え 方 の 態 度 に お け る 「 控 え め さ」に焦 点 を あ て て い る の だ が 、河 野 訳 は パ イ ロ ッ トの 態 度 を そ の ま ま 描 写 す る だ け に と ど ま ら ず 、そ こ か ら想 像 可 能 な パ イ ロ ッ トの 心 模 様 ま で も 表 現 し よ う と試 み て い る 。 (4) 【 原 典] ≪Alors, toi aussi tu viens du ciel!De quelle 85 plan鑼e es-tu?≫J'entrevis aussit t une Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺 一 河 野 万 里 子 の 翻 訳 の 特 徴- lueur, [W訳 】 `So dans you gleam [C訳1 too `So come de from in the , then, sa too in the from from mystery sky!Which impenetrable come come pr駸ence,...(p.18) the of understanding you light [河野 訳] , too, of light `You glimmer [T訳1 le myst鑽e the into the of his sky is your mystery of his sky!Which the of his which that moment I caught a presence;...(pp.15-16) planet mystery . From planet?'At are you presence from?'Suddenly I had a a ray of here,...(pp.12-13) planet?'Iimmediately perceived presence...(p.17) 「じ ゃ あ 、 き み も 空 か ら 来 た ん だ ね!ど の 星 か ら?」 僕 は 、 は っ と した。 なぜ 王 子 さま が こ こ に い る の か と い う謎 に 、 ひ と す じ の 光 が 差 し た よ う だ っ た 。(p.18) [内藤 訳 】 「じ ゃ あ 、 き み も 、 天 か ら や っ て き た ん だ ね!ど の 星 か ら き た の?」 そ の とた ん 、 王 子 さ ま の 霧 の よ うな 饗 が 、 ぼ う っ と光 っ た よ う な 気 が し ま し た 。(p.17) 【 倉 橋 訳] 「じ ゃ あ 、 き み も 天 か らや っ て き た ん だ ね 。 ど の 星 か ら 来 た の?」 王子 さま の不 思議 な 出 現 に つ い て の 最 初 の 手 が か り を 得 た の は こ の と き だ っ た 。(p.19) [山崎 訳] 「じ ゃ あ 、 あ な た も 空 か ら き た ん だ!ど こ の 星 か ら き た の?」 とた ん に わ た しは 、彼 が こ ん な と こ ろ に い る 謎 を 解 く 糸 口 が 見 つ か っ た よ うに 思 い ま した 。(p.14) [池澤 訳 】 「き み も空 か ら 来 た ん だ!き み の 星 は ど れ?」 一 す じ の 光 が 射 し た よ うに 思 っ た [藤田訳 】 そ の 時 、 ぼ く は 彼 が こ こ に い る と い う謎 に 。(p,16) 「そ れ じ ゃ 、 き み も 空 か ら き た ん だ ね!き み は ど の 星 か ら き た の?」 わ た しは 、 王 子 さま と い うひ と の ふ し ぎ の ひ と つ が 明 ら か に な っ た よ う に 思 っ た 。(p.16) こ の 例 は 、河 野 訳 の 「主 観 的 表 現 へ と 転 換 す る 」と い う特 徴 を 最 も 強 く表 し た 例 だ と 思 わ れ る 。 こ こで は、 河 野 訳 のみ が 「 僕 は 、 は っ と し た 。」 と い う一 文 を 説 明 的 に挿 入 して い る の だ が 、 こ の 一 文 は 原 典 に お け る"aussit6t"と い う語 が 河 野 訳 独 自 の 手 法 で 訳 され た も の だ と 考 え られ る 。 原 典 で は 時 に 関 す る 副 詞 で し か な か っ た 表 現 が 、 「は っ と す る 」 と訳 され る こ と に よ り 語 り 手 と し て の パ イ ロ ッ トの 心 情 が 付 加 され 、パ イ ロ ッ トの 立 場 か ら事 態 が よ り 主 観 的 に 捉 え 直 さ れ て い る。 (5) 原 典1 Je m'efforcaidonc d'en savoir plus long...(p.18) [W訳 】 Imade 【C訳] Idid my utmost, therefore,to find out more.(p.13) [T訳] So I tried to find out a little more.(p.18) [河野 訳] な ん と か し て 、 も っ と く わ し く 知 りた か っ た 。(p.19) [内藤 訳] で 、 そ の こ と を 、 も っ と く わ し く 知 ろ う と しま した 。(P・17) [倉橋 訳】 … … も っ と詮 索 し よ う と した [山崎 訳1 そ こ で わ た しは 、 も っ と 詳 し く 知 ろ う と努 力 し ま し た 。(p.14) a great effort,therefore,to find out more on this subject.(p.16) 。(p.20) 86 [池澤 訳1 そ の こ と を も っ と聞 き 出 す た め に ぼ く は い ろ い ろ や っ て み た 。(p.16) [藤 田訳】 だ か ら わ た し は も う ち ょ っ と く わ し く 知 ろ う と して こ う き い て み た ん だ 。(p.18) (5)は 、(1)と 非 常 に 良 く 似 た 例 で あ る 。 原 典 に お け る"s'efforcer"と い う動 詞 が 、 英 訳 で は ほ と ん ど綺 麗 に 対 応 され た 形 で 訳 され て お り 、日本 語 に お い て も ほ と ん ど の 訳 者 が 表 現 に 細 か な 違 い は あ る も の の 、 「よ り多 く を 知 ろ う と し た 」 と い う本 筋 を 一 致 さ せ て い る 。 他 方 、 河 野 訳 は "s'efforcer"を 全 く訳 す こ と な く 、「 知 ろ う と した 」 と い う行 動 の 描 写 を 「 知 り た か っ た 」 と して よ り 主 観 的 な 表 現 へ と転 換 させ て い る 。 以 上 の よ う な 例 を み て く る と 、河 野 訳 で は 他 の 訳 者 と比 較 し て 、主 観 的 な 感 情 や 評 価 を 伴 っ た 表 現 を 多 用 し、訳 の 中 で 前 面 に 出 そ う と す る 傾 向 が 浮 き 彫 りに な っ て く る 。語 り手 の 視 点 に 訳 者 が 立 ち 、 よ り主 観 的 に 訳 出 す る こ と に よ っ て 、河 野 訳 は 語 り手 に リア リテ ィ ー を 持 た せ 、パ イ ロ ッ トの 心 情 の 動 き を 細 か に 描 き 出 そ う と し て い る の か も しれ な い 。た だ し、 こ の よ うな 感 情 や 評 価 は 原 典 か ら推 測 す る こ と は 可 能 で は あ る が 表 現 と して は 存 在 し な い 。 した が っ て 、翻 訳 者 の 解 釈 が 語 り手 の 主 観 的 な 感 情 や 評 価 と い う形 を と っ て 訳 に 反 映 され て い る の だ ろ う。 2.2訳 文 の 表 現 翻 訳 とい う作 業 は 、 原 典 の解 釈(第 一 段 階)と 訳 文 の表 現(第 二段 階)と の 二つ の プ ロセ ス か ら構 成 され る(平 子2003)。 こ こで は 、後者 に注 目 して 河 野 訳 をみ て い く。 河 野 訳 で は 、原 典 の 解 釈 の 上 で は それ 程 大 き な ズ レが な い ま で も、訳 文 の表 現 にお い て原 典 で使 わ れ て い る言 葉 の意 味 を上 手 く 日本 語 に再 現 で きて い な い よ うに感 じ られ る箇 所 が い くつ か 挙 げ られ る。 (6) [原 典] J'ai ainsi eu, au cours de ma vie, des tas de contacts avec des tas de gens s駻ieux. (p.12) 【W訳l In the who [C訳 】 In have the eo [T訳] As course of this been course life I have concerned of my life with had a great matters many encounters with a great many epople of consequences.(p.9) I have therefore been in touch, had many dealings with many important le.(p.7) a result of which I have throughout my life, with all lflnds of serious epople.(p.11) [河野 訳 】 そ ん な ふ う に 生 き て き た な か で 、僕 は い わ ゆ る 査 熊 な ム 左 ち と 、ず い ぶ ん つ き あ っ て き た 。 (p.9) 【 内藤訳】 ぼ くは 、そ ん な こ とで 、そ うこ う してい る うち に 、 た く さん の え らい 人 た ち と 、あ き る ほ ど 近 づ き に な り ま し た 。(p.9) [倉橋 訳 】 こ れ ま で の 人 生 で 多 く の え ら い 人 に 出 会 っ た 。(p.9) [山崎 訳1 こ う し て わ た し は 、 こ れ ま で 、 多 くの ま と もそ う な 人 び と と 多 く の 交 際 を 持 つ こ と に な り 87 Le Petit Princeの 邦 訳 にお け る誤 訳 とそ の周 辺-河 野 万里 子 の翻 訳 の 特徴 一 ま した 。 (p,8) [池澤 訳 】 そ うや って 暮 ら してい く 中 で 、 ぼ くは た く さん の重 要 人 物 に会 うこ とに な っ た。(p.9) [藤田訳 】 わ た しは 、い ま ま で の 人 生 で 、た く さん の ま じめ は ひ とた ち とた く さん の か か わ りを も っ た 。(P.8) "s駻ieux"は こ の 作 品 の 中 で 頻 繁 に 登 場 す る 言 葉 で あ る 。 こ こ で 、 河 野 訳 は"s駻ieux"を 「有 能 な 」 と 訳 し て い る 。確 か に 重 要 な 人 物 の 中 に 有 能 な 人 は 多 い と考 え る こ と も で き る か も しれ な い が 、 そ れ は 論 理 の 飛 躍 で あ る 。 む し ろ 、 河 野 訳 の よ うに"s駻ieux"に 能 力 に よ る基 準 を 付 与 す る こ と は 不 必 要 で あ る し、 こ の 作 品 に お け る キ ー ワ ー ドで あ る"s6rieux"と 混 乱 させ て し ま っ て い る 。 加 藤(2000)は も キ ー ワ ー ドに な る"s6rieux"は 「大 人 」、"grande 本 作 品 に お け る"s駻ieux"を 「子 ど も 」つ ま り"enfant"の personne"の 二 つ で あ る と述 べ て い る 。 例 え ば 、 作 品 の 中 で 星 の 数 ば か り数 え る 実 業 家 は 自 ら の こ と を"Je 大 人 側 か ら の"s駻ieux"を 三 種 類 に分 類 し、 中で 側 か ら発 せ られ る"s駻ieux"と 側 か ら発 せ られ る"s駻ieux"の び 、 王 子 さ ま は ひ つ じ と花 の 戦 い が"s6rieux"で い う概 念 を 逆 に suis un homme s駻ieux!"と 呼 は な い の か とパ イ ロ ッ.トに 尋 ね る が 、 前 者 は 、 後 者 は 子 ど も 側 か ら の"s6rieux"を れ て い る の で あ る 。こ の よ う な 作 品 全 体 を 通 し た"s6rieux"の 意 味 し、二 つ が 上 手 く対 比 さ 意 味 を 考 え れ ば 、"s駻ieux"が 「有 能 で あ る か 、有 能 で な い か 」 と い う基 準 に よ っ て 議 論 され て い る 言 葉 で は な い こ と は 明 ら か で あ る 。 そ の 後 の 訳 を み て み て も 、 多 く の 訳 者 が そ れ ぞ れ の"s駻ieux"を で 統 一 させ て い る 一 方 、 河 野 訳 は 、 子 ど も 側 か ら の"s駻ieux"は 大 人 側 か ら の"s駻ieux"に つい ては 「大 事 な 、 重 要 な 」 な ど 「大 事 な 、 重 要 な 」 と 訳 し、 「 有 能 な 」 と訳 して しま っ て い る。 こ の た め 、原 典 で は 作 品 の キ ー ワ ー ド と し て 意 図 的 に 同 じ語 が 使 用 さ れ て い る の に も 関 わ らず 、河 野 訳 で は こ の 語 の 意 味 が 煩 雑 化 し て し ま っ て い る。 (7) [原 典 】 Un boa c'est tr鑚 dangereux, et un 駱hant c'est tr鑚 encombrant. Chez moi c'est tout petit.(p.16) [W訳 】 Aboa constrictor Where [C訳] Boas I live, everything are everything [T訳 】 Aboa very dangerous is very dangerous and creature, and an elephant is very cumbersome. small.(p.13) elephants are very cumbersome. Where I come from is tiny.(p.10) constrictor Everything [河野 訳 】 is a very is very is a very sma皿where dangerous creature and an elephant is very cumbersome. I hve.(p.14) ボ ア は す ご く危 険 だ し 、 ゾ ウ は ち ょ っ と大 き す ぎ る 。 ぼ く の と こ ろ は 、 と っ て も 小 さ い ん だ 。(P.14) 【 内藤 訳 】 ウ ワバ ミ っ て 、 と て も け ん の ん だ ろ う 、 そ れ に 、 ゾ ウな ん て 、 場 所 ふ さ ぎ で 、 し ょ う が な 88 い じ ゃ な い か 。(p.13) [倉橋 訳1 こ うい う蛇 は 危 険 だ よ 。そ れ に 象 は 場 所 ば か り と る 。ぼ く の 住 ん で い る と こ ろ は 狭 い ん だ 。 (pp.14-15) 【 山崎 訳1 ボ ア は と て も 危 険 だ し 、 ゾ ウ は ひ ど く場 所 ふ さ ぎ な ん だ 。 ぼ く の と こ ろ は 小 さ い ん だ 。 (p.12) [池澤 訳 】 ボ ア っ て 危 な い 動 物 だ し 、 そ れ に ゾ ウ は と て も 場 一 を 取 る で し ょ。 ぼ く の と こ ろ は す ご く 小 さ い ん だ 。(p.13) [藤田訳 】 ボ ア は と て も き け ん な 生 き も の だ し 、 ゾ ウ は 大 き す ぎ る よ 。 ぼ く の と こ ろ は と て も 小 さい ん だ 。(p.13) こ こ で は 、"encombrant"の 訳 に 注 目 し た い 。"encombrant"と は 、第 一 義 に 「場 所 を ふ さ ぐ 、 じ ゃ ま な 」 と い う意 味 が あ り、 第 二 義 に 「足 手 ま と い の 、 う る さ い 、厄 介 な 」 と い う意 味 を 持 つ 形 容 詞 で あ る 。河 野 訳 は こ の 形 容 詞 を 単 に 「大 き い 」 と い う表 現 で 訳 して い る が 、筆 者 に は こ の 訳 は 言 葉 足 らず な よ う に 感 じ られ る 。 と い う の も 、"enc0mbrant"が 持 つ 意 味 か らも 明 らか な よ う に 、 こ こ で 議 論 され て い る 「大 き さ 」 とは あ く ま で も 場 所 な ど空 間 領 域 を 基 準 と し て 明 ら か に さ れ る べ き 概 念 だ か ら で あ る 。 実 際 、 英 訳 で は 原 典 に お け る"encombrant"を うけ て 、 "cumbersome"と い う形 容 詞 が 使 わ れ て い る し 、 ほ と ん ど の 邦 訳 に お い て も 「 場 所 を とる」 な ど場 所 と の 関 連 の 中 で ゾ ウ の 大 き さ が 表 現 され て い る 。 ま た 、"encombrant"と い う語 は 場 所 と い う基 準 を 導 入 す る だ け で な く 、同 時 に 、王 子 さ ま の 星 の 小 さ さ を 暗 に 意 味 す る と い う効 果 も 生 ん で い る 。 す な わ ち 、 「ゾ ウ が 大 き い 」 と い う考 え 自 体 は 地 球 に 住 む パ イ ロ ッ トに と っ て も 不 思 議 で は な い 考 え な の だ が 、"encombrant"と い う語 が 使 わ れ る こ と に よ っ て 、 ま た そ の 後 に く る "Chez moi c'est tout petit ."と い う言 葉 に よ っ て 王 子 さ ま の 星 の 小 さ さ が 強 調 さ れ る の だ 。原 典 にお い て 単純 に 「大 き い 」 を 意 味 す る"grand"な と し て"encombrant"が どが 使 わ れ て い な い こ と を 考 慮 す れ ば 、 翻 訳 持 つ 独 特 の 意 味 を訳 出す る こ とが重 要 にな る。 しか し、河 野 訳 さ らに は 藤 田 訳 も こ の 点 が 大 き く欠 落 し て い る 。 (s> 原 典] Elles se [W訳] They reassure [C訳 】 ]They [T訳 】 They [河野 訳 】 で き る だ け の こ と を し て 、 自 分 を 等 っ て る0(p.36) [内藤 訳】 で き る だ け 心 配 の な い よ うに して る ん だ 。(p.34) rassurent reassure reassure comme themselves themselves themselves elles as as as peuvent.(p.30) best best best they can.(p.31) they they can.(p.25) can.(p.31) [倉橋 訳】 何 と か し て 自 分 を 安 心 さ せ た い 。(p.38) [山崎 訳 】 自分 な りに 身 の 安 全 を守 っ てい る ん だ。(p.26) [池澤 訳 】 で も 、 で き る だ け 自分 は 大 丈 夫 っ て 思 っ て い た い ん だ 。(p.31) 89 LθPb漉 翫hoθ [藤 田 訳] の 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の 周辺 一 河 野 万 里 子 の 翻 訳 の特 徴 一 自分 で 身 を ま も る こ と が で き る と 思 っ て 、 安 心 し て い る 。(p.33) こ の 例 で は 、"rassurer"の 味 を 持 つ"assure"に 解 釈 に つ い て 考 え る 。英 訳 に お い て"rassurer"は ほ とん ど 同 じ意 よ っ て 綺 麗 に 訳 され て い る が 、邦 訳 で は 訳 者 に よ っ て か な り表 現 が 分 か れ て い る 。 こ の 箇 所 で 、河 野 訳 な ら び に 山 崎 訳 は 「守 る 」 と い う動 詞 を使 っ て 訳 出 し て い る 。 し か し、"rassurer"や 英 語 に お け る"assure"が 「 安 心 させ る 」 とい っ た 内 的 な 心 の 動 き を 表 す 語 で あ る の に 対 し 、 「守 る 」 は よ り 具 体 的 で 物 理 的 な 行 為 を 読 者 に 連 想 させ て し ま う よ う に 思 う。 ま た 、 「守 る 」 と い う行 為 は 何 ら か の 相 手 が 想 定 され る が 、 こ こ で は 花 が 何 か ら身 を 守 ろ う と し て い る か は そ れ 程 重 要 で は な い 。 した が っ て 、花 の よ り内 的 な 側 面 が 現 れ る よ う な 表 現 が よ り望 ま しい よ う に 思 う。 (9) C原典1 Ilspeuvent venir,lestires,avecleursgriffes!(p.34) [W訳 】 `Letthe tigerscome with their claws1'(p .36) [C訳 】 【T訳】 `Letthem come , the tigers,with their claws!'(p.29) `Letthem come , those tigerswith their claws!'(p.36) 【 河野調 「トラ た ち が 、 爪 を 光 ら せ て 、 来 る か も しれ な い で し ょ!」(p.43) [内藤 訳】 「 爪 を ひ っ か け に く る か も しれ ま せ ん わ ね 、 トラ た ち が!」(p.40) [倉橋 訳】 「 虎 た ち が あ の 爪 で 襲 って き て も大 丈 夫 よ」(p.45) [山崎 訳】 「トラ た ち が 爪 で 引 っ か き に く る か も しれ な い わ!」(p,43) 【 池 澤 訳】 「 鋭 い 爪 の トラ が 来 て も 大 丈 夫 よ!」(p.37) [藤 田訳】 「トラ が つ め を 立 て て や っ て く る か も しれ な い わ!」(p .40) こ の箇 所 で は 、倉 橋 訳 と池 澤 訳 が花 の挑 発 的 な態 度 を表 して い る 一 方 で 、河 野 訳 は花 が トラた ち に怯 え て い る よ うな 印象 を 与 え る訳 に な っ て お り、解 釈 が 大 き く異 な っ て い る。筆 者 は この 点 につ い て 、二 つ の 理 由 か ら河 野 訳 の解 釈 に は間 違 い が あ る と考 え る。 まず 一 つ に は、 この 花 の発 言 が 紹 介 され る直 前 に は次 の よ うに 書 か れ て い るか らで あ る。 (io> 【 河 野 訳】 こ う し て 花 は す ぐ に 、 や や 気 む ず か しい 見 栄 を は っ て は 、 王 子 さ ま を 困 ら せ る よ う に な っ た 。 た と え ば あ る 日 、 自 分 の 四 つ の トゲ の 話 を し な が ら 、 こ ん な ふ うに 言 っ た 。(pp,42・43) こ の よ うな前 置 き か ら考 え れ ば 、 この後 に続 く花 の発 言 は 「 や や気 む ず か しい 見 栄 」を は っ て い る こ との例 と して ふ さわ しい もの で な けれ ば な らな い だ ろ う。河 野 訳 の よ うにす ぐ さま トラ に怯 え て っ い た て を 要 求 して しま っ て は 、格 好 がつ か な い。ま た 、そ の後 の王 子 様 との 会 話 の 中 で 花 は次 の よ うに 言 っ て 自分 は トラ を怖 が って い な い こ とに念 を押 して い る。 90 (il) [河野 訳] 「トラ な ん か ぜ ん ぜ ん こ わ く な い け ど 、 風 が 吹 き こ む の は 大 き ら い 。 つ い た て は な い の か し ら?」(p,43) こ の よ うに み て く る と、花 の本 心 は ど うで あ れ 、この 箇所 で は 花 が 王 子 さま に対 して見 栄 を は り 強 が っ て い る性 格 の 持 ち主 と して 描 か れ るべ き だ と思 われ る。す な わ ち 、倉 橋 訳 や 池 澤 訳 の よ う な挑 戦 的 な発 言 と して 訳 され る のが 適 当 で は な い だ ろ うか。 3.ま とめ 主 観 的 表 現 へ の 転 換 と訳 文 の表 現 とい う二 つ の 視 点 か ら、 河 野 訳 にみ られ る特 徴 を み て きた 。 2.1で は 、原 典 の 中 で比 較 的客 観 的 な事 態 と して 表 現 され て い る箇 所 を よ り主観 的 な 表 現 を使 っ て 訳 出 し よ うとす る河 野 訳 の特 徴 をみ る こ とが で きた 。必 ず しも表 現 や 言 葉 の選 び 方 が 適 切 とは 言 え な い が 、語 り手 の視 点 を重 視 し、そ こに あ る種 の感 情 や 評 価 を付 与す る姿 勢 を垣 間 み る こ と が で き る。 2.2で は 、訳 文 の 表 現 に着 目 し、原 典 にお け る細 か な意 味 を考 え な が ら河 野 訳 に考 察 を加 えた 。 河 野 訳 に は"s駻ieux"を 始 め と して 、細 か い 語 の 意 味 が 日本 語 に上 手 く表 現 され て い な い ケ ー ス が 目立 つ 。翻 訳 者 が フ ラ ン ス語 を専 門 に して い る こ と もあ り、フ ラ ンス 語 自体 の解 釈 に 問題 は な い の だ ろ うが 、訳 文 の 表 現 を行 う際 に 「 なぜ こ こで こ の語 が 用 い られ て い る の か 」とい う視 点 が 欠 けて い る よ うに 思 われ る。 ま た 、文学 作 品 の場 合 、語 の 意 味 、 と りわ け頻 繁 に繰 り返 され る "s6rieux"の よ うな 言 葉 の 意 味 は作 品全 体 の理 解 を通 して 初 め て 決 ま る も ので あ る 。河 野 訳 で は 、 この よ うな作 品 の鍵 とな る よ うな 概念 の 訳 文 が 上 手 く表 現 され て い な い た め、作 品が 伝 え よ う と す るテ ー マ や メ ッセ ー ジ ぼ や けて しま っ て い る よ うに筆 者 に は感 じ られ る。 【参 考 文 献 】 加 藤 恭 子2000.『 星 の 王子 さま を フ ラ ンス 語 で 読 む 』 筑 摩 書 房 天 羽 均,他(編)1995.『 平 子 義 雄1999.『 クラ ウ ン仏 和 辞 典 』(第4版)三 省 堂. 翻 訳 の原 理 一 異 文 化 を ど う訳 す か』 大 修 館 書 店. 91 Le Petit Princeの 邦 訳 に お け る誤 訳 とそ の周 辺 一 河 野 万 里 子 の翻 訳 の特 徴 92 乙θ1七醒1隔 ηoθとそ の 英 日訳 に お け る「 視 点 」の 考 察 An Exam血atk)n and of「Point Its En磨 ofView'in 血and 菅 原 久佳 Hisaka and Japanese which are translatic)ns. mainly narratjve. former making an important A㎞stu(lied tenses, and various of thought'This not 【キ-ワ been study with the role speeches, iden{茄ed shows third a distinction is the paper of vievゾin T㎞s concerned After plays language. have examines`po血t relationship concludes well the as with School French whether person narratlve-Le or not narrative and what the existing are also is called`groves types chat vie㎡and there are α ⊇and theohes its English 0f`point adaptable to the of vievゾ first person voice,'Icla血that of expression'as the of`representations a proposal Govemanoe, Petit」 肋 of view'and`narrative between`point(f the of Media University between`point in identifying as Sugawara Graduate Keio paper αg Japanese'1㎞sla盛ons 子政 策 ・ メデ ィア 研 究 科 This 1ゑ 飽 漉 肋 use(f the found personal in each pmnoms, of speech'and`representations some types of`po血t of vieW whiCh so far. ー ド】 1.視 点(ipojnt(fview) 2.文 脈(oontexO 3.語 5.話 法(釦eech)6.発 話 の 表 出(representation(f串pe㏄h)7.思 thoughO 93 る 声(narrative voice) 4.観 点 Φer叩 ㏄tive) 考 の 表 出(representation of Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 1.は じめ に 翻訳 を通 し、原 点と翻 訳作 品 とには、様 々 な レベル で の変化/変 形が見 られ る。そ して 、一つの原典 に対す る複数 の翻 訳作 品が存在す る場合 、それ ぞれの翻 訳者 の訳 文 にお いて もまた多様 な相違 点が表れ る。そ の異 言語間/言 語 間にお ける相 違 こそ が、翻訳文/個 々の訳 文 を特徴 づ けるもので ある。で は、 た とえば仏英 日間翻 訳において 、 とくに、 「 視 点」の所在 には どのよ うな もの があ り、それ は文学作品 に おい て どの よ うに表 され てい るのだ ろ うか。 また、それ は翻 訳作 品にお いては どの よ うに再構成 されて い るのだ ろ うか。 そ して、視 点の変容 があ る とすれ ば 、原典 にお け る文脈 と翻訳 作品 にお いて再構 成 さ れ る文脈 との間 には差 異が生 じていないの だろ うか。 翻 訳分析 をお こな う場合 には、無論 、多様 な言語 が対象 とな り得 る。本 稿 にお いて筆者 は 、母 語で あ る 日本語 と国 際語 で ある英語 、そ して英 語の近接 語 と しての フランス語 を対 象言 語 と し、 これ らの言語 が持 つ特徴や 言語 間の差 異 を明確 に したい と考 え る。 ここで研 究の概 要 を記 してお きたい。最初 に、 「 視 点」 とい う概 念 とそれ に関連す る事 項 についての理 論 を概観す る。 そ こで は第 一 に、 「 視 点」 とい う術 語の定義 づけ を試 みる。英 仏語 と日本 語 とでは言語世 界 が異 なるため、視 点にまつわ る事 情も異 なる。 第二 に、 「 語 り」の種類 ・、すなわ ち、 「 一人称語 り」、 「 三 人称 語 り」 な どについて触れ る。既存 の理論 では 、三人称 語 りにお け る分析 に的が絞 られ てい る感 が あるが、筆者 は、 それ が一人称 物語 に応 用可能 で あるのか を探 る。第三 に、視 点を論 じる際 の重 要 な 指標 の一 つ とな る 「 話 法」 と、 これ を決 定す る 「【 非】人称[代 名1詞 」 と 「 時制」 に言及 す る。 これ ら の出現 の仕方 に よ り、英 仏語 な らび に 日本語 にお け る視 点の様態 が類別可能 となる。 第 四に、文体 論か ら見 る 「 視 点」 と 「 文脈 」 につ いて概観す る。 そ して 、文 学作 品にお ける 「 発 話 の表 出」 と 偲 考 の表 出」 の様 式につい て、英 語の場 合の類別 を確認す る。 次 に、 ここまで述 べて きた理論 を土台 に、加1%か 勃㎞oθ に焦 点 を当て例証 す る。 この言語資料 の選 択 理 由につい ては本論 の中で述 べ るこ とにす る。本 稿で は、対象言 語 を仏英 日語 に留 め、対 象分析 を試 み る。 その後 、分析結果 を基 に、原典 にお ける視点 と英 訳 な らび に邦 訳にお け るそれ とが どの よ うな対応 を 成 してい るの か、そ して、そ こに差異や 揺れが見 られ る とす れ ば何 が原 因 とな ってい るのか を考察 した い。 言語 間のみな らず 、同言語 の訳者 間の差異や 揺れ につ いて も注 目したい。 最 後 に、考察 か ら、三 人称物語 を対象 と した既 存 の物語 分析 理論 が、一 人称物語 に どの よ うに貢献す るか を示 した い。 そ して、言語 を特徴づ け るもの、そ して、それ ぞれ の訳者 の訳 文を特徴 づ けるもの と して、文脈 を考 慮 した うえでの視 点か らの アプ ローチが いかに効果的 であ るかを示 し、結論 と したい。 2言 語 資料 本稿 にて取 り上げ る言 語資料 は、、 融、 ぬ漉 乃 血oθ とその英訳 と邦訳で ある。 原典が最初 に 出版 され た のは1946年 で あった。その後 、本書 は世界各 国 で翻 訳 され るこ とにな る。 日本 で初 めての翻訳書 が出版 され た のは1962年 で あった。 日本 にお ける著 作権保護 期間が満 了 となった2005年 以 降、新 た な邦訳が 数 多 く出版 され てい る。 ベス ト ・ロング ・セ ラ・ 一で ある本 書の 、複 数の新 しい邦訳 を リアル タイ ムで手 にで きる現在 は、稀有 のタイ ミングであ ると言 える。現 段階で確認 で きる英訳 と邦訳 の数 は、それ ぞれ4 94 と11、 合 計15種 類 で あ る。 筆者 は 、 この うち英 訳3と 邦 訳6を 選 択 し、 翻 訳 分 析 の 対 象 とす る こ とに した 。 次 に記 す もの が 、原 典 と英 訳 と邦 訳 の 出版1青報 で あ る。 ロ 原 典 Saint-Exup駻y, Antoine de.1946/1999..乙 θ、 勘 漉 舳oa Pahs:Gallimard. ロ 英 訳 1Yans. by (Fukuda, Woods, Kathe血e.1943. Rikutaro, ed 監ans. by Cuf艶, TV. 狂ans. by Testot-Ferry, F The.窃 1966.1乃 1995コ 励.Prince. θ1漉 瀕g舳oa 乃θ1漉 詫 Irene。1995. The New York:H㎜)urt, Brace&Company IIbkyo:Eikosha) 肋oaTrans. Lond0n:Penguin Little.Prince. Books London:Wordsworth Ltd. Editions Limited. ロ 邦訳 内 藤 濯1953.3.15/新 版2000.6.16第8刷2005.9.5『 星 の 王 子 さま 』(岩 波 少 年 文 庫001) 岩波 書店 倉 橋 由 美 子2005.7.11『 新 訳 星 の 王 子 さ ま』 宝 島 社 山崎 庸 一 郎2005.8.12 『星 の 王 子 さま 』 み す ず 書 房 池 澤 夏 樹2006.1.16『 星 の 王 子 さま』(集 英 社 文 庫)集 英社 藤 田尊 潮2005.10.25『 小 さ な王 子 』(新 訳 『星 の 王 子 さま』)八 坂 書 房. 河 野 万 里 子2006.41『 星 の 王 子 さま 』 (新潮 文 庫)新 潮 社. 3.視 点 と関 連 概 念 に つ い て の 理 論 本 項 で は 、 それ ぞ れ の 重 要 概 念 に 関す る理 論 を概 観 す る。 第 一 に、 「 視 点 」 とい う概 念 、 第 二 に 、 「 語 り」 の種 類 、 これ に 関連 して 「 視 点の 主 体 」 と 「 語 りの 主 体 」、 第 三 に、 「 話 法 」 とそ の 決 定 要 素 と して の 「[非】人 称 【 代 名1詞 」 と 「 時 制 」、第 四 に 、文 体 論 か ら見 る 「 視点」 と 「 文 脈 」、 これ に 関 連 して 「 発 話 の表出」 と 「 思 考 の 表 出 」 に つ い て 、順 に 述 べ て い き た い 。 3.1「視 点 」とい う概 念 文 学 理 論 にお け る視 点 とい うと き、 通 常 、 あ る人 物 の 目を想 定す る 。 そ の 人 物 とは 、 三 人 称 語 りで あ れ ば 登 場 人 物 で あ り、 一 人 称 語 りで あれ ば 語 り手 で あ る と考 え られ て き た 。 さ ら に 、 後 者 の場 合 は 、 登 場 人 物 全 員 を知 り尽 くす 全 知 の 語 り手 で あ る か 、 あ る い は 、 限 定 され た 言 質 を持 つ 語 り手 で あ る、 とい う、 や は り二 項 対 立 的 な 定 義 が 主 流 で あ っ た 。 しか し、 文 学 作 品 にお け る視 点 の 表 れ 方 は よ り複 雑 で あ る 。 ま た 、 文 学 作 品 と翻 訳 作 品 と を見 比 べ る とき 、 言 語 間 にお け る視 点の 様 態 に 差 異 が あ る こ と も否 め な い 。 で は 、 な ぜ 、 上 述 の よ うな 短 絡 的 な 誤 認 が され るの か 。 そ して 、 視 点の 出 現 様 式 は 正 確 に は どの よ うに分 類 で き る の で あ ろ うか 。 これ に 関 して は 、 英 語 の 三 人称 語 りの 文 学 に つ い て 、 言 語 学 者 の 間 にお い て 議 論 が な され て き た。 そ の 一 人 、Genette(1980:186)の 主 張 を 引 用 す る。 95 Le Petit・Princeと ...most そ の英 日訳 にお け る of the regret尤able question very oon丘1sion who dj丑駻ent question theoretical is the works on between what character this subject(which I are mainly classifications)suffer ca皿here」///.Ivolte, wha…コe卿t{ofvieワ questic)n勅o畜 who 「視 点 」 の 考 察 「伽 訪 θηaη ヨ如rク ーor, a 吻 お more 訪 θ η㎜ simply, the oon丘lskm 励 between ρ岬 question ㏄ 伽 who クAnd the the speaks? 「 視 点 」(`point(fvieW)の 49)の a the sees?And 上 記 の よ うな 誤 っ た認 識 が され が ち で あ る要 因 の一 つ は 、 「 誰 が 見 て い る のか 」(`who voice)の fi-om 問 題 と、「 誰 が語 っ て い る の か 」(`who speaksry)と sees?')と い う い う「 語 る声 」(na皿ative 問 題 との 鴎1」が 曖 昧 だ っ た 点 に あ る とい う。 ま た 、 これ とは別 の 要 因 と して 、 Fillmore(1981: 主 張 を挙 げ た い 。 ..with be the exception of tenses oontextuahzed丘om the and po血t pronouns, of view deictic of this and character expressive at the elements po血t in in the the time text are hne 0f to the narra伽e. 「 時制 と代名詞 を例外 と して、直示 的要 素 と感 情的要素 は、語 られ る時 間にお け る登場 人物の視 点か ら文脈化 され る」とい う。す なわち、視 点のあ りか を考 え る際、「 過 去時制 と三人称代 名詞 」につい ては、 敢 えて触れ ない のが通常 になっていた。 この ことが、上記 の問題 の要因の一つ である と考 え られ る。 また 、文学 にお いては、 「 発話 」や 「 思考」 の表 出の形態 が複 雑化 してい るにも関わ らず、それ らの類 男1}や 、それぞれ の形態 にお ける 「 視 点」 と 「 語 り」の様 式の弁別 も、体系化 され ていない。 この こ とも、 要因 の一つで あろ う。 視 点の出現様式 について の認識 が不 明瞭 で ある原 因について 、上記3点 が考 え られ る。それ ぞれ の原 因 につ いて、次項以 降におい て さらに詳 しく述 べたい。 まず 、次項 で は、 「 視点」 と 「 語 り」 を鴎llして 考 え るた めに、 「 語 り」の種類 についての前 田(200の の理論 を概観す る。その上 で、 「 視 点」 とい う概 念 の意 味が曖昧 な形 で用い られ て きた要 因の解 消 を試み る山岡(2001)の 理論 を概 観す る。これ に よ り、視 点 とい う概 念 をい ま一度考 え直 し、 さらに 日本 語の文学 にお ける語 りの様 式の特徴 と英語 の文学 にお け るそれ とを参照 してみたい。 3.2「語 り」の種 類 文 学 にお け る 「 語 り」 とは、物語 の叙 述 の仕方 の こ とで ある。 物語世界 を支 えてい るものは、 その 内 容 とい うよ りも形式 的 な要 素、す なわち 「 語 り」 とい う構 造的 な要素 と言 って も よいで あろ う。物語 の 構造 につ いて研究す るた めには、実験科 学 の よ うな帰納 的な方法 で はな く、言語 学的 撫演繹 的 な方法 を 取 らざるを得 ない。 無限 に増 え る文 学の記述 を し、分類 を して い くた めには、仮説 的 な理 論 を立 て、そ れ が物 語 に合致す るか 否か を観 察す る しかない。そ して 、物語 理論 的な手法 を取 るために は、 「 語 り」の タイプ を提示す る必要が あ る。最 も一般的 には、「 一人称 語 り」や 「 三人称 語 り」な どがそれ であ る(「語 96 り」 の翻1」に関 して の 筆 者 の立 場 につ い て は 、 註1を 参 照 い た だ き た い)。 次 項 で は 、 これ ら語 りの タ イ プ を念 頭 に 置 き、 「 視 点」 と 「 語 る 声 」 と の混 同 の 解 消 方 法 を 提 示 す る 山 岡(2001)の 主 張 を概 観 す る。 3.21「 視 点 の 主 体 」と「 語 りの 主 体 」 山 岡(2001)は こ の 問題 に言 及 す るに あ た り、「 物 語 」とい う術 語 につ い て 、次 の よ うに 限 定 して い る。 「 物 語 」 とは 、英 語 の"narrative"に 対 応 す る訳 語 で あ る こ と、 「 物 語 」 と言 うと き 、基 本 的 に 、 三 人 称 物 語 の こ とを 意味 す る こ と 、 で あ る。 後 者 に 関 して は 、 日本 語 の 場 合 、 三 人 称 物 語 と言 っ て も 、 ほ ぼ一 人 称 物 語 と同 じ と言 え るた め 、 とい う点 を理 由 に して い る。 す な わ ち 、 三 人 称 物 語 と呼 ば れ る もの も 、 一 人 称 的 三 人 称 物 語 で あ っ た り、 三 人 称 を仮 装 した 一 人 称 物 語 で あ っ た り、 と、 そ の境 界 線 は 薄 い の だ とい う。 一 方 、英 語 の 場 合 は 、 一 人 称 物 語 は 、 ほ ぼ 三 人 称 物 語 と同 じこ とが 言 え る た め、 とい う点 を 理 由 とす る。す な わ ち 、語 り手"r'と 意 識 の主 体"1"と が認 め られ 、前 者 が 三 人 称 物 語 に お け る語 り手 に 、 後 者 が登 場 人 物 に 相 当す るた め 、 こ こで もそ の 区 別 ヒの 不 要 を前 提 と して い る。 この 主 張 に容 易 に 迎 合 す る か否 掴 ま別 の 問題 で あ るが 、こ こ で は 、山 岡 の 主 張 の うち 、有 用 と考 え られ る点 に つ い て 概 観 す る。 なお 、 筆 者 は 、 前 田(2004:108)に よ る 三 つ の タイ プ の 「 語 り」(註1参 照)と 、 本 項3.2.1の 冒頭 に お いて述べ た、 山岡に よる 「 語 り」 の 括 り と を、 慎 重 に対 比 して い く必 要 が あ る と考 え る。 ま た 、 これ ら二 者 の ほ か の研 究者 の見 解 も参 考 に した い 。 これ に つ い て 、 本 稿 に お い て は 言 及 しな い が 、 くわ しい 議 論 は 場 を変 え て お こ な うこ と に した い 。 さて 、物 語 理 論 に お け る術 語 と して の 「 視 点 」 とい う概 念 の 意 味 の 曖 昧 さは 、複 数 の 研 究者 が 指 摘 す る よ うに 、「 視 点」と 「 語 る声 」との 問題 を 混 同 して き た こ とに あ る とい え る。 この 混 同 の解 消 の た め に 、 新 た な概 念 を 用 い る な どの 試み が な され て き た ・が 、功 を 奏 して い な い 。 山 岡 は 、 「 視 点」 とい う術 語 の 出 所 に 立 ち 戻 る こ とに よ り、 問題 の所 在 を発 見 し、 解 消 方 法 を 提 示 して い る。 元 来 、 「 視 点」 とは 、 絵 画 理 論 の 術 語 で あ っ た 。 つ ま り、 「ど こか ら見 て 」、 「ど こか ら描 い て 」 い る か 、 の 問題 で あ っ た の で あ る。 これ を 、 物 語 理 論 に応 用 して き た わ け で あ る が 、 自明 な が ら、 絵 画 と物 語 とに お い て は 、 前 提 も状 況 も 異 な る。 まず 、 絵 画 に お い て 、 見 て い る 「主 体 」 は作 者 で あ るが 、 物 語 にお い て は 、 見 て い る 「 主体 」 は 、 登 場 人物 と語 り手 との 二 人 で あ る可 能 性 が あ る。 次 に 、 絵 画 に お い て は 、 見 て い る 「 位 置 」 が 問題 に な る だ け な の に対 して 、 物 語 に お い て は 、 物 語 世 界 を伝 達 す る 「 語 る声 」 が 問 題 とな る。 す なわ ち 、 物語 の場合 、 「 見 て い る主 体 」 が 問題 と な る と同 時 に 、 「 語 って い る主 体 」 も 問題 とな っ て く る。 「 誰 の視 点 か ら、誰 が語 っ て い る の か 」 とい う重 層 的 な 問 題 が 存 在 す る の で あ る。 な らば 、 「 視点」 と 「 語 る 声 」 との 混 同 を解 消 す るた め に は 、 「 見 て い る主 体 」 と 「 語 ってい る主体」 と を 区 別 す れ ば よい 。 「 見 る こ と」 と 「 語 る こ と」 とは 、 それ ぞ れ 、 「 視 点 を担 う主 体 」 と 「 語 る 声 を担 う主 体 」 か ら、別 個 に発 生 して い る と考 えれ ば よい の で あ る。 「 視 点」 と い う概 念 の 意 味 を 、 「 語 り手 の 語 っ て い る位 置 」 とい う意 味 で は な く、 「 見 て い る点 」 とい う意 味 と して 考 え る必 要 が あ る3。 で は、 「 語 る 声 」 の ほ うは ど うか 。 定 義 づ け を先 にす る な ら、 「 物 語 世 界 の 出 来 事 ・状 況 を読 者 に伝 達 す る 媒 体 と して の物 語 る声 」 と な る 。 そ して 、 こ の 「 語 る声 の 主 体 」 は 「 語 り手 」 で あ る。 語 り手 は 、 物語 内容 を 「 語 る声 」 を通 して言 語 化す る と同 時 に 、「見 る」 こ と も可 能 で あ る。当 然 な が ら、語 り手 は 、 97 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 にお け る 「視 点 」 の 考 察 物 語 世 界 に は 登 場 で きな い。 す な わ ち 、物 語 世 内(Now2)か ら 「 見 る」 こ とは で き な い の で あ る。 しか し、 語 り手 は 、 登 場 人 物 同様 、 三 つ の意 味 合 い の 「 視 点 」 を担 うこ とは 可 能 で あ る。 す な わ ち 、 物 語 世 界 外(Now 1)か ら、 物 語 世 界 を見 る こ とが で き る。 語 り手 の 「 見 る」 は 、 登 場 人 物 の 「見 る」 と は別 の も の で あ るた め 、 前 者 の 「 見 て い る点 」 を 「 観 点」(perspective')と い う術 語 を あ て る こ と にす る。 以 上 の 概 念 定 義 を イ ラ ス ト化 す る と、次 の よ うに な る ・。 上記 のイ ラ ス トは モ デ ル ・パ ター ン で あ り、 い くつ かの バ リエ ー シ ョンが 考 え られ る。 「 物語世界外 の 発 話 時 点(N1)」 に い る 「 語 り手(S1)」 は 、と きに 「 物 語 世 界 内 の 発 話 時 点(N2)」 に 移 動 し 「 語 り手(S2)」 とな り、「 視 点」もそ こ に移 動 ナる こ とが あ る。 あ る い は ま た 、 「 物 語 世 界 外 の 発 話 時 点(Nl)」 に い る 「 語 り手(S1)」 は、「 登 場 人 物(C)」 の 「 視 点」 に移 動 す る こ とが 可能 で あ る 。 「 視 点」 と 「 物 語 を語 る声 」 の 移 動 パ タ ー ン に つ い て 、 次 項 に お い て 翻llを 試 み る。 3.2.2「視 点 」と「語 る声 」の 峻 別 に よる 伝 達 様 式 の 類 別 「 視 点」 と 「 語 る 声 」 との 峻 別 を 明確 に した と こ ろ で 、 これ を 土 台 に 、 日本 語 な らび に 英 語(仏 語も 同 様 の カ テ ゴ リー と捉 え る)に お け る伝 達 様 式 の類 別 を比 較 す る こ とに す る。 こ こで は 、山 岡(2001)の 理 論 か らそ れ を援 用 す る。 そ して 、 そ の 理 論 が 、 一 人 称 物 語 に どの よ うに応 用 可 能 で あ る の か を探 っ て み た い 。 な お 、 本 稿 に お い て は 、誌 面 の 制 限 に よ り、 伝 達 様 式 の 類 別パ ター ン と そ の 説 明 に 留 め 、例 文 を 付 す こ とは しな い 。 同様 の 理 由 で 、 同 一 テ ク ス トとそ の翻 訳 と して の 、 日本 語 と仏 英 語 との 対 照 も、 場 を 変 え て お こな う こ とに す る。 日本 語 の 場 合 語 り手Slは 、発 話 時 点Now 1か ら、物 語 世 界 の 出来 事 ・状 況 を過 去 の もの と して 語 っ た り、そ れ につ い て 説 明 的 ・評 価 的 に語 っ た りす る こ とが で き る(1)。 次 に 、 語 り手S1は Now2に 移 行 す る こ と が で き る。 そ して 、発 話 時 点Now2に 98 、 発 話 時 点Now 1か ら、 物 語 世 界 の発 話 時 点 移 行 した 語 り手S2は 、物 語 世 界 の現 場 で 目の 当 た りに知覚 してい る出来 事 ・状 況 ・存在物 を、発話時 点Nowtで 語 る ことがで きる(II)。 さ らに、語 り手Slは 語 り手S2を 経 由 して、登場人 物Cの 視 点へ移入す る とともに発 話時点Now2に 、 も移行す るこ とがで きる。この た め、登 場人物Cは 、物語世 界の現場 で 目の 当た りに知覚 してい る出来事 ・状況 ・存在物 を、登場人 物C自 身 が発話時 点Now2で 語 るこ とがで きる(III)。また 、登場 人物Cが 物 語世界で知 覚 ・思 考な どしてい るあ るい は して いた こ とを、語 り手S2が 発 話時 点Now2で 語 る とい う伝 達様式が成 立す る(IV)。 これ らの伝達 様式パ ター ンをイ ラス ト化 す る と、次 の よ うにな る。 〔穫 軸=時 〔護 軸 ・時点 聞 の 纏過 1下掻憩 ・視 点 巳三が 建2に 移 動 1左縦 軸 ・物 語 世 界 内の 発 話時 点 ・ 瀧 上積 顛 ・複 点 §豊 がeに 移 動}〕 右縦 顛 ・物 塾世 界外 の 発謡 時 点;N1}〕 ) ー ︽ (韮 り 《標 準 パ タン 鋤 -. 藤撫 .・ 叢雛 蓼 , 驚i蔭, Ψ-騨" (iif) (1助 《標 準 パ タン2》 ・暴 』 澱 . 』i㌔.. 、 ¶¶. レ '羅.『 轡 ・ , 仏英語 の場合 語 り手が 、物語世界 外の発話 時点Now 点N0w1か 1か ら 「 観 点」を通 して 「 見て いる」出来事 ・状況 を、語 り手が、発 話時 ら態度 ・意見 を交 えなが ら語 った り、あ るい は態度 ・意見 を交 えず単 に客観 的に語 った り、示 した り す る(V)。 物語 文が登場人物 の視 点の支配 す る場 面に生起 し、過 去時制 が出現す る場 合、語 り手 は登場 人物の視 点 に移 入 して一体化す る ことが でき るが 、登場人物 の発 話 点には移動す る ことがで きない。登 場人物 が、物語世 界 内の発話時 点N0w2で 「 視 点」を通 して 「 見 てい る」出来事 ・状況 を、語 り手が、物語 世界外の発 話時点N6w1 から 「 観 点」を通 して 、態 度 ・意見 を交 えな が ら語 った り、あ るい は態度 ・意見 を交えず単 に語 った りす る(VI)。 物 語文が登場 人物 の視 点の支配す る場面 に生起 し、過去時 制が消去 され るか 、出現 しな い場 合、語 り手は登場 人 物 の視 点に移 入 して一体化す る とともに発 話時点 に も移動 ナる ことが でき る。そ して、登 場人物 が、物語世 界内 の発話時 点Now2で Now2で 「 視s」 を通 して 「 見てい る」出来事 ・状 況 を、登場 人物 自身 が、物 語世 界内の発話時 点 語 る(VII)。 これ らの伝達 様式 のパ ターン をイ ラス ト化 す る と、次の よ うにな る0 99 Le Petit Princeと そ の 英 β訳 にお け る 「視 点 」 の 考 察 〔 横 軸 昌時 闇o経 辺 〔縦 顛 ・ 埼 点 1下横 載 旨 概点 ξユが5§ ボ 皇碓軸 ・物 語 世 界内 の発 話 時 点 ・,r, (V) に 移豹 上娯 顛 言視点 説 が{三に 移酌 ナ= 右 縦軸 ・物 譜 士 異 外o発 話 時 点 ・》蔓)〕 (>i;《 標 準 バ タン}; `・ 、--為 剛:_'" 藤 覧拶-讐1: 贈 ` ` {Viり 《稀 ねバ タ冷 磯難 璽---'- r 〆 日本語 と仏 英語 の伝 達様 式の相違 点 二つ の相 違点が明 らかに存在す る。-つ には、語 り手S1が Now2に 、発話時点Now lを 捨 てて、物語世界 の発話 時点 移 行で きるか ど うか とい う点であ る。 日本語 の場 合 は、それ が可能で ある。一方 、英 語の場 合は、語 り 手 は物 語世界 に登場 できない とい う物語上 の規約が存在 す るた め、それが不可能 であ る。 二つには 、語 り手S1 が 、登場 人物Cの 発 話時点Now2に 移 動で きるか ど うか とい う点で ある。 日本語 の場 合は、それ が可能 であ る。 一方 、英語 の場合 は、語 り手S1は 、登場人 物Cの 視 点に移入 してはい けるが、登 場人物Cの 発話時 点Nσw2 へ の移 動はで きず 、それ は不可能 であ り、登 場人物Cが 知覚 してい ることを、語 り手S1が 語 るこ とにな る。な お 、日本 語の物 語文 に典型 的な ものは、伝達様 式(II)、(III)で ある。一方、英 語のそれ は、伝達様式(VI)で あ る。 日本 語 と仏英 語の伝 達様式 の共通 点 三つ の共通 点が明 らか に存 在す る。一つ には、日本語 と仏 英語の物語 文には 、それぞれ 、同 じ伝 達様式(1)が 見 られ るとい うこ とであ る。二つ には、 日本語 の伝 達様 式(IV)(=登 り手S2が 語 るもの)が 、仏英語 の伝 達様式(VI)(=登 場人物Cが 知覚 してい る出来事 ・状況 を、語 場 人物の 「 視削 と語 り手の 「 語 る声 」 とが並存 す るも の)と して現 れる とい うことである。 三つ には、 日本語の伝 達様式(III)(=内 的独 白)が 、英 語の物 語文に度 々 見 られ る とい うことで ある。 以 上、 「 視 点 」 とい う概 念 を明 確 化 す る た め に、 「 視点 」 と 「 語 る声 」 との 醐1」に っ い て 論 じた 。 次 項 以 降では、 「 視 点」 と 「 語 る声 」 の 主 体 を 見 極 め るた め の重 要 要 素 で あ る 「 話 法 」 とそ の 決 定 要 素 に つ い て述 べたい。 100 3.3「話 法 」とそ の 決 定 要 素 物 語 文 に お い て は 、記 述 文 のみ な らず 、様 々 な 「 話 法 」 が 出現 す る。 次 項 以 降 で は ま ず 、 「 話 法」の類 別 を した 上 で 、 それ ぞ れ の 「 話 法 」 を 決 定 づ け る要 素 と して の 「【 非 】人称[代 名 】詞 」 と 「時 制 」 につ い て 言 及 す る。 3.3.1「話 法 」 物 語 にか ぎ らず 、発 話 を伝 達 し、 そ れ を発 話 者 の発 話 と して 文 脈 の 中 に組 み 入 れ る際 、 「 話 法 」 とい う 事 象 に直 面す る こ とに な る 。 これ は 、 統 語 上 の 問題 で あ る と同 時 に修 辞 上 の効 果 も持 つ 。 物 語 に お い て は、 「 直 接 話 法 」 の ほ か に 、 語 り手 に よ る報 告 と して の 「間接 話 法 」 とい う形 式 が あ る。 間接 話 法 は 、登 場 人 物 の発 話 を 、 語 り手 が 選 択 し引 用 す る表 現 形 式 で あ る。 した が っ て 、 間接 話 法 は 、 構 造 上 、 語 り手 の 報 告 の 中 に組 み 込 ま れ る も の とな る。 主文 に従 属 す る従 属 文 、す な わ ち 副 文 と して 表 れ る 。 換 言 す る な ら、 間接 話 法 は 、 独 立 した 機 能 を 持 つ こ と は な い 。 こ の話 法 の重 要 な機 能 は 、 語 り手 の判 断 に よ り、 発 話 を詳 し く再 現 した り、 あ るい は 要約 した りす る こ とが で き る点 で あ る。 話 法 は こ の ほ か 、 「自由 間接 話 法 」な どい くつ か の タイ プ に 翻1」され る。英 語 につ い て の 話 法 の タイ プ を列 挙 し、発 話 と思 考 とを 対 照 させ 、 これ らの表 出 形 態 を論 じた も の に 、Leech&Short(2003)が あ る。 これ につ い て は 、3.4に お い て 概 説 す る。 こ こで は 、本 稿 にお い て 注 目す る話 法 が 、 「自 由 間接 話 法 ・偲 考)」 で あ る こ とを述 べ る に留 め る。 そ して 、 第4節 の例 証 にお い て 、 こ の話 法/思 考 の タイ プ を例 示 し言 及 した い 。 次 項 で は 、話 法 を決 定 づ け る重 要 な 要 素 と して の 「[非】人 称[代 名]詞 」 と 「 時 制 」 につ い て 述 べ る。 3.3.2「[非]人 称[代 名]詞 」と「 時制 」 まず 、多 くの理論 にお いて言及 され て きた、記号 と して の 「 三 人称 代名詞 」な らび に 「 過去 時制」 に つ いて 、筆者 が賛 同す る部 分につ いて触れ てお きたい。少 な くとも英 語の三 人称 物 語にお ける三人称代 名詞 は、登場 人物 を客観 的 に対 象化 して表す とい う記号的意 味を有す る もので ある。また 、過 去時制 は、 語 られ る出来事 が過 去で あ るこ とを知 らせ る とい う記号 的意 味 を有す る。したがって、両者 は、「 語 り手 」 の存在 を示 言語的特徴 であ る と言 うことが でき る。これ らが現 れ る とき、物語 文 にお ける出来事 は、「 語 り手」 に よる語 りで ある ことが 自明 とな るとい うことで ある。三 人称代名 詞 が現れ ない とき、語 り手が 登場 人物(三 人称代名詞 が指示す る人物)を 客観 的に対象化す るこ とを放 棄 し、そ の登場 人物 の視 点に移 動 してい る ことを意味す る。 また 、過去 時制が 出現 しない とき、 「 語 り手」は登場人物 の発 話時点 に移動 し、そ の登場 人物が 、その物 語 におけ る出来事 の 「 語 り手」 になる ことを意味す る。 なお 、この考 え方は 、英語 の三人称物語 につ いての理 論 である。英語の一人 称物語 につ いては、 「 語り 手 」 は登 場人物 の一人 であ り、体験 した ことや 観察 した ことな どを語 ってい くのが通 常で あ る。典 型的 な形 態 の一つは、自伝的 な回想 をつづ る小説 で、「 体験 す る私」と、それ を 「 回想す る私」との二人の 「 私」 が存在す る。 したが って、一人称 物語 におい ては、三人称 物語 にお ける 「 語 り手 」 と 「 三 人称代名 詞 」 が指示す る登場 人物 とが、それ ぞれ 、 「 回想 す る私 」 と 「 体験 す る私 」 に相 当す る と考 え られ る。 「 過去 時制 」につい ては、三 人称物語 と同様 に考 えて よいで あろ う。仏 語 につ いて は、英語 とほぼ同 じ理 論が 援用 可能 であ る と考 えて よい。 101 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点1の 考察 で は、 日本語 の物語 につ いては ど うであ ろ うか。 日本語 にお ける 「 『 主 語』不要論 」・の立場 に立つ筆 者 は 、 とくに 日本 語の物語 にお け る 「 三 人称 代名 詞 」の現れ 方 につ いて は、仏英語 のそれ と同等 の判断 基準 とはな り得 ない こ とを想 定 したい。 また、 日本 語において は、 「 視点 」が容 易 に移動 ずるた め、過 去 を表す 現在形 が頻 出す るな ど、 「 過去 時制」の現 れ方につい て も、や は り仏英 語 と同等 の基 準 とはな り得 ない ことを指 摘 してお きたい。 この こ とは、 日本語 の一人称物語 におけ る、 「 一人称代 名詞 」や 「 過去 時 制 」 の現 れ方 につ いて も当て嵌 まる と考 え られ る。 一人称物語 の場合 、英語 の物 語 につい て述 べた よ う に、 「 体験 する私」 と 「 回想す る私」 とが存在す る。 日本 語 にお いて は、多 くの場 合、 「 主語 」 は出現 し ない上、 「 視 点」は容易 に移 動 をお こな う 「 視 点」 が度 々移 行す るた め、英語 の三人称物語 の よ うな一貫 した 「 過去 時制」 の現 れ方 も望 めない。 このた め、 日本語の 一人称物語 にお け る 「 視 点」 の見 極 めは、 極 めて困難 である ことが予測 され る。 なお 、英語 の一 人称物語 、 日本 語の三 人称 物語 、そ して、 日本 語 の一 人称 物語 につ いての、 「[非】人称[代 名】詞 」と 「 時制 」の出現 の しかた につ いては 、別 の場 におい て詳述 したい と考 え る。本稿 において は、 「 三人称代 名詞」、 「 過 去時制」 を、それぞれ 、 「[非】人称[代 名】詞 」 と 「 時制」 と言 い換 え、 さらに広範 な括 りを用意す るこ とに よ り、 「 視点」 につい ての分 析 な ら び に考察 を試 みた い。 こ こまで は、視 点にまつわ る諸相 について 、統 語論 ・語 用論 ・意味論 の立場 か ら観 察 して きた。次項 にお いては、文体 論か ら見た視 点、そ して 「 文脈」 につ いて述 べる ことにす る。 3.4文 体 論 か ら見 る 「視 点 」と「文 脈 」 文 体 論 的 見 地 か ら英 語 の 物 語 世 界 に言 及 した研 究 者 と して 、 恥 ㏄hとShortの 著Style ln Fiction(1981)(邦 訳 『ノ1・ 説 の 文体 』(2003))か 功 績 は 大 き い。 そ の共 ら、視 点 と文 脈 に つ い て の記 述 を概 観 した い 。 そ して 、 こ の書 物 にお い て著 書 自身 が 力 を 注 い だ項 目で あ り最 も画 期 的 内容 と考 え られ る 「 発 話の表 出」 と 「 、 思考 の表 出 」 に つ い て も言 及 した い 。 .. らは 、 まず 、 文 体 論 に よ る文 体 的 価 値 の 範 疇 を 提 示 し(2003:9-15)、 規 範 とは 、大 別 す る と、次 の よ うな も の で あ る。(1)語 彙 範 疇 、 ② 例 証 を試 み て い る。 そ の 文 法範 疇 、(3)文 彩 、 ④ 結 束性 お よ び 文 脈 、 で あ る。 これ らは 、 それ ぞ れ さ らに細 分化 され 説 明 が 加 え られ て お り、た とえ ば 、 ω の結 束 性 お よ び 文 脈 は 、1)結 束 性 、2)文 脈 、 と二 分 され て い る。 こ こで は と くに 、筆 者 が 視 点を 考 え る際 に加 味 した い と考 え る文 脈 につ い て 垣 間 見 る こ とに す る。 一 般 に 、 文 脈 とい う場 合 、 一 つ の テ ク ス ト、 あ るい は テ クス トの 一 部 分 と外 部 との 関係 が 考 慮 され る。 す な わ ち 、 作 者 と読 者 、 あ るい は ま た 登 場 人 物 ど う しな どの社 会 的 関係 と 、そ れ らの 人 物 の 間 で の知 識 と想 定 の 共 有 を前 提 に した 談 話 状 況 が 扱 わ れ る の で あ る 。 文 脈 を見 る際 の着 目点 を 挙 げ る と、 次 の よ うな も のが あ る。 a)作 者が読者 に直接的 に語 りか けてい る/い ない b)虚 構上 の人物の言葉/思 想 を通 して語 りかけてい る1い ない c)情 報 の発 信者/受 信 者 の関係 につ いて どの よ うな言語 上の 手が か り(一 人称 代 名詞 な ど)が あ るか! ない か d)作 者 は主題につい て どの よ うな態度 を灰 めか してい るカyいない か 102 e)登 場人物 の言 葉1思 想が提示 され る場合 、直接 的な引用(直 接 話 法)に よるのか、他 の方 法(間 接話法 ・ 自由間接 話法な ど)に よるのか O話 す/考 える人物 が誰で あるか によって、文体上 の変化 があるカyない か これ らはす べて話法 の現 れ方 と関連 す るもので あるこ とがわか る。 そ こで 、次項 以降 にお いて、 「 発話 の 表 出」 な らびに 「 思考 の表出」 について見 てい くこ とにす る。 3.4.1英 語 に お ける 「発 話 の 表 出 」 3.3.1の 「 話 法 」の項 に お い て述 べ た よ うに 、話 法 に は 大 別 して 三 種 類 あ る と され る。 「 直接 話 法(djr㏄t speech=DS)」 、「 間接 話 法(indirect speech=IS)」 、 「自 由直 接 話 法(&ee あ る。 リー チ らは 、 これ ら に、 「 発 話 行為 の 語 り手 に よ る伝 達(narrative を加 え る ・。 そ して 、DSか らISへ の統 語 上 の 変 容(2003:236)や につ い て説 明 して い る。FISの 基 本 姿 勢 と して 、DSに indirect speech=FIS)」 で report of speech act=NRSA)」 、FISの 統 語 上 の 特 徴(2003:238) 見 られ る語 り手 の 存 在 を示 す2要 素 のいずれ か、 あ る い は 両 方 を 取 り去 れ ば よい と述 べ て お り、この こ とは 、単 に統 語 上 の変 化 を述 べ る と同 時 に 、FISが 「 視 点」や 「 語 る声 」 の複 雑 さを持 つ 話 法 で あ る こ とを 予想 させ る。 さ らに 、NRSAに つ い て は 、発 話 行 為 が 起 こっ た と伝 達 す るだ け で 、語 り手 が発 話 の 意 味 や 発 話 語 を伝 え る 責任 を負 わ な い 、と して い る。 つ ま り、NRSAは 、 間接 話 法 よ り間接 的 な 形 式 で あ り、 「 視 点」 や 「 語 る声 」 の 峻 別 の 見 極 め が 容 易 な 話 法 で あ る と予 想 し得 る。 さて 、FISと い う話 法 は 、意 味 的 地 位 が 不 明 瞭 で あ る点 が 極 め て 特 徴 的 で あ る。 FISは 、 語 りに よ る 伝 達 とい う文 脈 に お い て 起 こ る の が通 常 で あ る。大 半 の物 語 は 、三 人称 の語 り手 が 過 去 時 制 で 語 る た め 、 FISに よ る語 りは 、 語 りに よ る伝 達 形 式 に 一 致 す る と 同時 に 、 間 接 性 を 示 す 。 さ らに 、 自 由 さを 示 す 特 徴 も持 つ 。FISの 効 果 を軸 に 、話 法 の表 出 の様 式 を 図 式化 す る と、次 の よ うに な る(2003:264マ ーキ ン グ と コ メ ン トは筆 者)。 「 語 り手の伝 達 支配」 完全 ← 話法表出:NRA NRSA -部 ← 基準 IS [亟 DS → 「 語 り手 の伝 達へ の支配」無 國 ←*登 場 人物 が、語 り手 を交 えず 、読者 に直接的 に話 しか ける効果 それ では、 「 発 話 の 表 出 」 に相 対 す る 「 思 考 の 表 出 」 とは どの よ うな も の で あ ろ うか 。 3.4.2英 語 に お ける 「思 考 の 表 出 」 19世 紀 以 降 の イ 稼 た ち は 、「内 的 発 話(internal 「内 的 独 白」(竃 意 識 の 流 れ)」 と同 義 で あ る。 speech)」 の描 写 に 関 心 を抱 い て きた 。内 的 発 話 とは 、 .. らは 、 話 法 と思 考 の 表 出様 式 が 、 形 式 的 に は 似 通 っ た も の で あ る と指 摘 す る。 同 時 に 、 思 考 の描 出 は 、 最 も間接 的 な形 にお い て さえ 、 究 極 的 には 創 作 物 で あ る こ と を忘 れ て は な らな い 、 と も述 べ て い る 。 思 考 の 表 出 は 、 「自由 直接 話 法(fee FDT)」 、「 直 接 思考(direct thoughtニDT)」 direct thought= 、 「自由 間接 思考(free indirect thought=F皿)」 103 、 「間接 思 Le Petit Princeと 考(indhl㏄t NRTA)」 そ の英 日訳 にお け る thought=皿)」 「視 点 」 の 考 察 、 「思 考 行 為 の 語 り手 に よ る伝 達(narrative に 類 別 され る(2003:256)・ 。 そ して 、 リー チ らは 、FDTとDTと report(コf thought act= の相 違 点 、FITとDTと の相 違 点 を述 べ て い る。 「 発 話 の 表 出」で 指 摘 した こ と と同様 、こ こで もや は り、統 語 上 の 相 違 点 に 伴 い 、 「 視 点」や 「 語 る 声 」 の 所 在 の判 断 基 準 とな る もの が 示 唆 され る。 た と えば 、FITとDTと で は、時制 の過 去 へ の移 動 や、一 人 称 代 名 詞 の 三 人称 代 名 詞 へ の変 換(間 接 性)、そ して 、疑 問形 と疑 問符 との 維持(直 接 性)な どで あ る。ま た 、皿 やNRTAに つ い て も それ ぞ れ の 特 徴 を説 明 して い る。思 考 の表 出 の 様 式 は 、 発 話 の 表 出 の様 式 と 同様 に 、 文 法 ・語 彙 形 式 ・書 記 の3つ FITの の レベ ル に お い て 殴1」され る こ とが わ か る。 効 果 を軸 に 、 思 考 の表 出 の 様 式 を 図 式 化 す る と、 次 の よ うに な る(2003:264マ ー キ ン グ とコ メ ン トは 筆 者)。 基準 NRTA 思考 表 出: 皿 → 「 登場人物 の心 中」 へ と向か う動 き 國 DT 國 →*意 識 性/技 巧 的形式 前 項(3.4.1)に お い て 図示 した 「 発 話 の表 出 」 の様 態 と、本 項 にお い て 図 示 した 「 思 考 の表 出 」 の様 態 とが 対 応 関係 を成 して い る こ と は 明 らか で あ る。 ま た 、 これ らの様 式 の 効 果 を 見 る と き、 「 視 点」 の存 在 と移 動 の様 子 が浮 き上 が っ て くる。 発 話 の表 出 と思 考 の 表 出 は 、 上 記 の 図 を縦 割 りに した 位 置 が 相 対 関 係 と考 え られ る。 と くに 、 視 点の あ りか や 移 動 の仕 方 は 、 この 位 置 に 沿 う形 で 、 あ る程 度 、 同様 の 変 容 を 見 せ る と考 え られ る。 す なわ ち 、 上 記 の 図 の左 側 に 寄 る様 式 ほ ど、作 者 の 介 入 が 大 き く な る 。 した が っ て 、視 点の 主 体 と語 る声 の主 体 とは 、物 語 世 界 外 へ 向 か うで あ ろ う。 逆 に 、 右 側 に 寄 る様 式 ほ ど 、作 者 の介 入 か ら解 放 さる。 した が っ て 、 視 点 の 主 体 と語 る声 の 主 体 とは 、 物 語 世 界 内 の登 場 人 物 の 心 の 中 へ と 向 か うで あ ろ う。 上 記 の 図 か らわ か る よ うに 、発 話 の表 出 にお い て は 、DSが 基 準 で あ り、 一 方 、思 考 の表 出 にお い て は 、 皿 が 基 準 で あ る。 発 話 の表 出 と、 思 考 の 表 出 、 そ れ ぞれ にお け る 表 出 の様 態 の 中 の位 置 と して は 、 DTと 皿 と は 中 心 か らそ れ ぞれ 一 つ 右 と左 に 寄 っ て い る。こ の こ とは 、発 話 と思 考 と い う行 為 を想 像 す れ ば 、臆 に 落 ち る も の で あ る。 そ して 、ISとDS、 れFISとFITと ITとDTと い う様 態 が 存 在 す る 。 これ ら は 、ISとDS、 い う比 較 的 明確 な 様 態 の 間 に 、 それ ぞ 皿 た 後 に 、組 み 込 まれ た様 態 の 名 称 で あ る。 それ は 、FDSとFDT、 とDTの 区別 が 成 され る よ うに な っ NRSAとNRTAに つ い て も 同様 の こ とが言 え る で あ ろ う。 これ ら後発 の様 態 の うち 、 発 話 の表 出 と思 考 の 表 出 の 様 態 を 表 す 上記 の 図 中 、 中 心 に位 置 す るFISな らび にF皿 は 、 様 態 と して極 め て興 味 深 い も の で あ る ・。 なぜ な ら、 FISの 特 徴 と して 、「 芸術 的 叙 述 の た めの 話 法 と位 置 づ け 、読 者 の想 像 力に訴 え る」点 や 、「 感 情移 入 」(前 田2004) が 可 能 な 点 を備 え るか らで あ る。FISと は 、 文 法 的 ・文 体 的 形 式 を 見 る と、 直 接 話 法 と 間接 話 法 との 中 間 に位 置 す る話 法 で あ るた め 、 三 人 称 と過 去 時 制 と を用 い 、 間 接 話 法 と の 共 通性 を 見 る こ とが で き る。 ま た 、 語 順 に 関 して は 、 直 接 話 法 と の共 通 性 を 見 る こ とが で き る。 そ して 、 語 り手 の 叙 述 な の か 、 登 場 人 物 の発 話 な の か 、判 断 に迷 わ され る こ とが 多 い 点 も 、 このFISの 登 場 人物 の 「 視 点」 の境 界 を見 極 め に く くす る の が 、FISな 104 特 徴 で あ る。換 言 す れ ば 、語 り手 と の で あ る。 FITに つ い て も、 同 様 の 見 極 め の困難 さを持 つ と想像 し得 る。そ こで、本稿で は、敢 えて、FISな らびにF皿 とい う表出 の様 態に着 眼 し、次項以 降におい て例証 を試 み たい と考 え る。無論 、原 典 におい て、FISやFITが ない テクス トであ って も、翻訳 作 品において 、FISやF皿 いは また、FISやF皿 用 い られ てい が用 い られ てい る場合 も想定 され る。 あ る であ るか否 か、判別 のつ きかね る もの も現 れ るで あろ う。 した がって、厳 密な線 引 きは控 え、FISな らびにFITを 中心 と して例証す る、 とい う表現 に留 め、論 を進 めたい。 なお 、留意 しなけれ ばな らないの は、 これ はす べて英語 の物語 に関す る観 察 であ るとい う点で あ る。 今 後 、異 な る言語 、 と りわ け筆者 の母語 で ある 日本語 に関す る観 察 を試み る必要 があ る。本稿 で は、便 宜上 、 .. らの翻llに 沿い、仏 語の原典 と英 語な らび に 日本 語の翻訳 について検証す るこ とにす る。 上記 の理 論 を基 盤 と し、事項 では、特 定の物語 とそ の翻 訳か ら、視 点のあ りか とその移動 の様 子につ いて例証 してい くこ とにす る。 4.例 証Le Petit Princeと そ の 英 訳 な らび に 邦 訳 か ら 本 項 で は 、 実 際 の 物 語 とそ の 翻 訳 作 品 とか ら例 文 を 引 き 、 視 点 に つ い て 文 体 上 の い くつ か の 側 面 か ら 比 較 分 析 す る。[非】人 称[代 名 】詞 、時 制 、話 法 の 側 面 か ら検 証 した 上 で 、視 点に つ い て考 察 した い ・ ・(な お 、 例 文 につ い て は 、 原 作 者 お よび 翻 訳 者 の イ ニ シ ャル を取 り文 頭 に 示 す 。SE:Saint-Exup駻y、 W60ds、 C:Cu艶 、 TF:Tests)t-Ferry、 N:内 藤 、YK:倉 橋 、Y山 W: 崎 、1:池 澤 、F:藤 田 、MK:河 野、 を そ れ ぞ れ 示 す)。 例 文1.σhapter▽15血paragraph;6血-7th SE:S'il s'agit d'une s'agit d'une brindille mauvaise sentences de radis plante, ou de rosier, on peut il faut arracher la plante or the sprig of a rose-bush, la laisser aussit t, one would pousser d鑚 qu'on comme elle veut. Mais s'il a su la reconna羡re. (pp.24-25) W If it is only a sprout But it is a bad when recognizes C: you TF: to be But must destroy it as soon as possible, the wherever very it might first instant wish that one If it is mere】.y a sprout it should of radish, if it turns or the beginnings out to be a bad plant, of a rose you must bush, you root it up can leave at once, it to the very ・ instant it.(p.20) be torn of radish out or a sprig at once, as soon of rosebush ,it can be left to grow as it wishes. But if it is a as it is recognized.(p.26) 赤 カ ブ や 、 バ ラ の 木 だ っ た ら 、 の び ほ うだ い に 、 の ば して お い て よ ろ しい 。 だ け れ ど 、 わ る い 草 木 だ っ た ら、 そ れ が 、 目に っ き し沿 YK:赤 one a sprig it wishes. recognize weed, N: plant, let it grow it.(p.17) If this happens wherever of radish ・、 す ぐ に 抜 き と っ て し ま わ な け れ ば な り ま せ ん 。(p,34) カ ブ ラや バ ラ の 種 だ っ た ら、 伸 び る に ま か せ て お け ば い い 。 しか し、 も しも悪 い 植 物 の 種 だ っ た ら、見 つ け 次 第 抜 き 取 ら な け れ ば い け な い 。(p.30) Y: カ ブ カyミ ラ の 芽 で し た ら 、そ の ま ま 伸 び 放 題 に し て お い て も か ま い ま せ ん 。で も 、悪 い 植 物 だ っ た 場 合 は 、 見 分 け が つ い た ら す ぐ 、.た だ ち に そ の 植 物 を 引 き 抜 い て し ま う 必要 が あ り ま/O(p.21) 105 . Le Petit Princeと そ の英 日訳 にお け る 「視 点 」 の 考 察 1 それ がカブやバ ラの茎だ った ら、伸 びるまま に放 っておい て もいい。で もも しも悪 い植物 だった ら、それ とわか った とたんにす ぐに蜘 ・ て しまわなけれ ばな らない。(p.29) F: それ が カブや バ ラの茎 だった ら、す きなよ うにのび るまま に してお けばいい。で も、わ るい木だ った ら、 見 つけた らす ぐぬ きとって しまわな けれ ばな らない。(p.26) 0: それ が も し二十 日大根やバ ラの茎な ら、伸 び るまま に しておい て もいいだ ろ う。けれ どもし悪い植物 だっ たな ら、見つ けた とた んに抜 かな くてはいけない。(か.29) [非】人 称[代 名 】詞 4箇 所 の 【 非 】人 称 代 名 詞 を 、何 らか の形 で訳 出 して い るの は 、 英 訳W、C、 お い て は 、1、F、 MKが み で あ る。 邦 訳 に 、第 二 文 の 初 出 の 非 人 称 代 名詞 の み を 訳 出 して い る ほ 羽 ま、[非1人 称 代 名詞 は 訳 出 され て い な い 。4箇 所 と もに 訳 出 して い る英 訳W、C、 (非 人 称 代 名 詞)、"one"(不 FTの 特 定 な 人(々)を 人 称 代 名 詞)に 最 も近 い の が 、wで り、正 確 に は 一致 しな い 。TFは 訳 語 を比 較 す る と、原 文SEの"韮' 差 す 人 称 代 名 詞)、"∬'(非 人 称 代 名 詞)、"丑'(`o㎡'を 受 け る あ ろ う。 cも 近 い が 、 第 一 文 の 初 出 の代名 詞 を"this"と 、4箇 所 とも"if'で 受 動 態 の形 を とっ て お り、原 文SEと Frの して お 統 一 して い る。 そ の た め に そ れ ぞ れ の 文 の主 節 は は ニ ュ ア ンス を異 に して い る。 蜘 SEに おい ては、仮 定法(条 件法)を 含 め、すべて現在 形相 当の時制で ある。英訳 の3名 、邦 訳の6名 の訳文 につ いて も、 同様 であ る。 謙 例 文 の前 後 は 、 一 見 す べ て 叙 述 文 に 見 え るパ ッセ ー ジ で あ る。 しか し、SEを 読 み 込 む と 、 単純 に 叙 述 文 と捉 え られ な い こ とが わ か る。こ の前 後 に お い て は 、pilotが 、情 報 の提 供 者 で あ るle petit p血ceの 話 を 自分 の言 葉 で 語 っ て い る。 そ して 、 例 文1の 箇 所 にお い て は 、pibtが 、 自分 の 思 考 に耽 り、 そ れ を表 出 して い る形 で あ る と考 え られ る。 した が っ て 、 こ この 話 法 は 、 自由 間 接 思 考(F【Dの 表 出 と捉 え る こ とも 可能 とな る の で は な い だ ろ うか 。 英 訳 に お け る話 法 は 、 ど うで あ ろ うか 。WとCに 指 す 人 称 代 名詞 が 使 用 され て お り、SEと で あ る。SEに よ る訳 文 に は 、"one"や"you"と い う、 人 物 を 同 じ く、叙 述 文 とも 自由 間 接 思考 の 表 出 とも捉 え る こ とが 可 能 お い て 述 べ た理 由 か ら、 こ の 二者 に よ る訳 文 も、 FITで あ る と考 え る。 TFの み、三人 称 の 非 人称 代 名詞 のみ を 用 い て お り、人 物 の気 配 を消 し去 っ て い る。 しか しな が ら、話 法 は 、や は り、SE や 他 の英 訳 者 と同 様 の理 由か ら、FITで 邦 訳 の6名 あ る と考 えて よい で あ ろ う。 の 訳 文 は すべ て 、 【 非 】人称 代名 詞 を用 い て い な い。 一 人 称 の物 語 の 場 合 、 「 見 て い る主 体 」 と 「 語 っ て い る主 体 」 とは 、 原 則 上 、 同 一 で あ る わ け だ が 、 これ は影 を潜 め て い る。 しか し、 日本 語 の 性 質 と して 、 これ らを 表 現 しな い こ とは 通 常 の こ とで あ る。 した が っ て 、 文 脈 や 文 の 調 子 か ら判 断 す る こ と とな る。 こ こで は 、 それ ぞ れ の訳 文 に よ って 程 度 の 差 こ そ あ れ 、 「見 て い る主 体 」 あ る い は 「 語つて い る 主体 」 の 存 在 を感 じ得 る。 ま た 、 す べ て現 在 時 制 に よ り記 述 され て い る。 した が って 、 邦 訳 の6名 106 の 訳 文 もす べ て 、FITで あ る とす る。 鯨 一人 称の物語 であ るため、 「 語 っ て い る主 体 」 と 「 経 験 して い る主 体 」 は 、SEに 両 者 は 同 一 人 物 で あ る。 「 見 て い る主 体 」 も同 一 人 物 で あ る。 例 文1の 体」 と して のpilotが そ して 、 例 文1の SEと 、登 場 人 物 で あ るle 箇 所 に お い て は 、pibtが petit p血ceの 前後 において は、 「 語 ってい る主 体 験 談 を 、 pilotの 言 葉 と して 語 って い る。 、 自分 の思 考 に 一 瞬 入 り込 む 形 とな る。 英 訳 な らび に邦 訳 す べ て にお い て 、 「 語 っ て い る 主 体 」、す な わ ち 、SEに 点 は 、 原 則 的 に は 現 在 で あ る。 で は 、SEに お け る`je"で あ り、 お け るpibtの お け るpibtの 発 話時 「 視 点」 と 「 観 点」 の 所 在 は どの よ うに な っ て い るだ ろ うか 。 SEに お い て は 、 第 一 文 と第 二 文 の条 件 節 は"IY'で 導 か れ て お り、 これ らに 関 して は 、 「 視 点」 と 「 観 点 」はいず れ も、 「 語 っ て い る 主 体 」 と して のpilotに あ る と言 え る。 それ ぞ れ の 文 の帰 結 に お い て は 、 "on" 、"建'と い う第 三 者 を 表 す 人 称 代 名 詞 が 用 い られ て い る が 、 これ らに 関 して も、 「 視 点」 と 「 観 点」 は、 「 語 っ て い る 主 体 」 と して のpilotに あ る と考 え られ る。 つ ま り、伝 達 様 式 の翻1」に よれ ば 、(V)の パ タ ー ン とい う こ とに な る。物 語 世 界 外 の 「 語ってい る主体」 で あ るpilotが 語 る様 式 で あ るが 、 同 時 に 、pibtに よ るmで あ る た め 、 現 在 時 制 が 用 い られ て い る 点 、 見極 め が 困 難 で あ る。 話 法 との 重 層 的 な条 件 を加 味 した 、 「 視 点」 と 「 観 点」 の 所 在 の翻1」をす る必 要 が あ る の か も しれ な い 。 英 訳 に お い て は ど うで あ ろ うか 。wに お い て は 、第 一 文 と第 二 文 の 条 件 節 は"iガ'で 導 かれ て お り、 これ らに 関 して は 、 「 視 点 」 と 「1観 点」 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpibtに れ の 文 の帰 結 にお い て は 、"one"と あ る と言 え る 。 そ れ ぞ い う第 三者 を表 す 人 称 代 名詞 が 用 い られ て い る が 、 これ に 関 して も 、 「 視点」 と 「 観 点」 は 、そ れ ぞれ 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpilotに あ る と考 え られ る。 Cに おいて は 、 第 一 文 と第 二 文 の 条 件 節 は 、 そ れ ぞ れ 、"t㎞s"、"if'で 導 か れ て お り、 これ らに 関 して は 、 「 視 点」 と 「 観 点」は 、 「 語 って い る 主 体 」と して のpilotに あ る と言 え る。それ ぞ れ の 文 の 帰 結 にお い て は 、"yo㎡' とい う第 二 者 を 表 す 人 称 代 名 詞 が 用 い られ て い る も の の 、 これ に 関 して も 、 「 視 点」 と 「 観 薫」は 、 そ れ ぞれ、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpilotに 節 は"if'で あ る と考 え られ る。 TFに お い て は 、 第 一 文 と第 二 文 の 条 件 導 か れ て お り、 これ らに 関 して は 、 「 視 点」 と 「 観 点」 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpilot に あ る と言 え る。 そ れ ぞ れ の 文 の 帰 結 に お い て は 、"if'と い う非 人 称 代名 詞 が 用 い られ い るが 、 これ に 関 して も、 「 視 点」 と 「 観 点」は 、そ れ ぞ れ 、 「 語 っ て い る 主 体 」 と して のpilotに ま り、伝 達 様 式 の 翻1」に よれ ば 、SEと あ る と考 え られ る。 つ 同 じ く、(V)で あ る。物 語 世 界 外 の 「 語 っ て い る主 体 」で あ るpilot が 語 る様 式 で あ るが 、 同 時 に 、pilotに よ るFITで あ る た め、 現 在 時 制 が用 い られ て い る点 、 見 極 めが 困 難 で あ る。 仏 語 同 様 、 英 語 に お い て も、 話 法 を加 味 した よ り重 層 的 な 条 件 下 で の 、 「 視 点」 と 「 観 点」 の 所 在 の翻1」をす る必 要 が あ る と考 え る 。 邦 訳 は ど うで あ ろ うか 。6名 の 訳 文 と もに 、[非 】人 称[代 名】詞 は 現 れ な い。 した が っ て 、文 脈 や 文 調 か ら判 断 す る こ と に な る。SE、 W、 Cに お い て 見 られ た よ うに 、 第 一 文 と第 二 文 の 条 件 節 に 関 して は 、 「 視点 」 と 「 観 点」 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpilotに 107 あ る と考 え 得 る。 そ れ ぞれ の文 の 帰 結 に 関 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 して も、 「 視 点」 と 「 観 点」 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpibtに よれ ば 、 ① とい う こ と に な る 。 仏 語 ・英 語 に お け る(V)と 準 パ ター ンで あ る。 しか し、 こ こ は 、pilotに あ る 。 つ ま り、 伝 達 様 式 の翻1」に は 種 類 が 異 な り、 これ は 日本 語 にお け る標 よ るF[Tで あ る た め 、現 在 時 制 が 用 い られ て い る点 、や は り見 極 め が 困 難 で あ る。 日本 語 にお い て も 、仏 語 ・英 語 同 様 、話 法 との重 層 的 な 条 件 を加 味 した 上 で の、 「 視 点」 と 「 観 点」 の所 在 の類 別 をす る必 要 が あ る と考 え る 。 例 文2.σhapter SE: Vbus V 18出paragraph;7血-9出sentenoes vous demanderez gran(五 〇ses que W le dessin r騏ssir: Quandj'ai Perhaps you impressive des dessin駘es wi皿a6k the reply baobabs aセ 旺pas, r6ponse there no oe】jvre, est bien血1ple:」'ai j'ai 6t6 a血駱ar are dans le sentiment other drawings d'autres dessins essay駑ais aussi je n,ai pas pu de l'urgence,(P.26) in thB bo6k as magnificent and of the baobabs?' is simple. drawing n'y baobabs?La me,`Why as this drawing The made peut・黎re:Pourquoi of the Ihave tried. baobabs But I was with carried the others beyond I have myself by not been the sucxessful. insp血g When force I of urgent necessity.(p.20) C: Perhaps the are baobab drew TF: you You drawing? the baobabs may ask of baobabs? success. N: as㎞g The I was answer I drew answer driven yourselves:Why The When yourselves:why is quite baobabs, no simple I was no simple on by a sense are there is quite the are there other I tried drawings with the in this book rest, but as magnificent did not succeed. as When I of urgency.(p.22) other drawings I have tried driven by but in this bodk with a feeling the as impressive others have not as the had the drawing slightest of urgency.(p.28) ど うかす る と、 きみ たちは、<こ の本 た ら、 このバオバ ブの絵 ばか り、へん にす ば ら しくて、 ど うしてほ かの絵 は、 りっぱで ないのか〉とふ しぎに思 うで しょ う。 その答 えは、たいへ んかん たんです。や って はみ たの です が、 うま くゆかなか ったのです。 な に しろ、 バ オバブ をかいた時 は、ぐず ぐず してはい られ ない と、一 生けん めいにな ってい た ものです か ら。(p.38) YK: 「この本 には、ど うしてバオバ ブの絵 以外 には立派な絵が ないのです か」 と訊か れるか も しれ ない。答 は 簡 単芯 がんば ってみ たがほか の絵 は うま く描 けなかった。バオバ ブを撒 ・ た ときは、ぜひ とも必要 だ と い うので必 死になってい たか ら芯 Y' (p.32) お そ らく、あなたが たは疑問に思 うで しょ う。 この本の なかで、バ オバブの絵み たいに りっぱな絵 が ほか に見 当た らないの はなぜ だ ろ う?と 。そ の答 えはい たって簡単 です。 拠 ・ てはみた のです が 、 うま く描 けなか ったのです。バ オバブの絵 を拠 ・ た ときは、急 がな けれ ば とい う気持 ちにせ か されてい たのです。 (p.22) 1: も しか した らあなた は尋 ね るか も しれ ない 一 「 なぜ この本 の中の他の絵 はバ オバ ブの絵 のよ うに堂 々 としていない んだ?」 と。答 えは簡単 、努力 してみた けれ ど、他 のは うま くいかなか ったの芯 を撒 ・ た ときだけば F' な に しろ ことが婁 慧 だ った ので ぼ くにカカ覇 いた とい う械(pp バオバ ブ .32-33) たぶ んみん なはふ しぎに思 うだ ろ う。ど うして この本 の中でバオバ ブの絵だ けが りっぱで 、ほかはそ うじ 1: やない んだ ろ う?っ て。 こたえはか んたん さ。や ろ うと したけ どで きなかったん だ、バ オバ ブを拠 ・ てい た ときは、早 く しな くち ゃ、 とあせ っていたのでね。(p.28) MK:き みたちは も しか した らこ う思 うか も しれ な暁 この本 に は、ど うして このバオバ ブ と同 じぐ らいi垂髪 と した りっぱな絵 が、ほ掴 こないん だろ う、 と。 なんの こ とはない。や ってみた が うま くいか なかったの 芯 バ オバブ を撫 ・ た ときには、それ ぐらい せ っばつ ま った気持 ちに駆 りたて られて いたの芯 (p.31) [非】人 称[代 名1詞 SEで は 、第 一 文 の2つ の 主 語 は い ず れ も``vous"で あ る。第 二 文 の 談 話 中 の 主 語 と、第 三 文 の2つ の 主 語 は、 す べ て`je"(省 略 形 含 む)で あ る。 これ に 対 応 す る訳 語 は ど うな っ て い る の で あ ろ うか。 英 訳 か ら見 よ う。まず 第 一 の2つ 2っ め がSEと は 、そ れ ぞ れ"you"、"me"と は 異 な る 人 称 の も の が 用 い られ て い る。Cと とな っ て い る。 これ は 、SEの もSEに の 主 語 に注 目す る。Wで ㎜ な って お り、 は 同 じで 、そ れ ぞ れ"you"、 yourself' 二 人 称 使 用 を考 え る と、 変 換 と して は近 い も の で あ り、 前 後 の語 彙 選 択 近 い もの に な っ て い る と想 像 され る。 で は 、第 二 文 の 談 話 中 の 主 語 と、第 三 文 の 主 語 は ど うで あ ろ うか。三者 と も基 本 的 に は"r'を 用 い て い る。第 二 文 の 談 話 中 の2っ 一 文 中 の 最 初 の主 語 と同 一 の た め省 略 して い る 。 第 三 文 の2っ 初 の 主語 と 同一 の た め省 略 して い る。概 観 で は 、Wが め の 主 語 につ い て はCとTFは め の 主 語 に つ い て は 、Wは や やSEや 、 一 文中の最 ほ か の二 者 の 訳 語 と異 な る と言 え る。 次 に 邦 訳 を 見 よ う。 人 称 代 名 詞 、 と く に 不 特 定 多 数 を 差 す 人 称 代名 詞 は 訳 出 しな い とい うの が 翻 訳 の ル ー ル で あ るが 、 意 外 に も 、第 一 文 の 主 語 につ い て は 、YKを 除 き 、5名 が 訳 出 して い る。 こ この 人 称 代名 詞 を複 数 の 二 人 称 と して訳 出 して い るの は 、N、 Y、 F、 MKの4名 きみ た ち は(〈 ∼〉 とふ しぎ に 思 うで し ょ う。)」 、Yは ょ う。 ∼?と 。)」 、Fは た ち は(も 、 「(た ぶ ん)み ん な は(ふ で あ る。Nは 、 「(どうか す る と) 、 「(お そ ら く、)あ な た が た は 擬 問 に思 うで し しぎ に 思 うだ ろ う。 ∼?っ て 。)」 、 MKは しか した ら こ う思 うか も しれ な い。 ∼ 、 と。)」 、 「き み とい う具 合 で あ る 。 述 部 を 見 る と、 「 思 う」 とい うよ うな 訳 語 が 用 い られ て お り、 原 文 に あ っ た よ うな 間接 目的 語 と して の 人 称 代 名 詞 を伴 わ な くて も よ い 文 章 を作 っ て い る。 こ こ で0が る点 は 、SEの 人 称 代 名 詞 を伴 う主 節 を文 頭 に 出 し、談 話 を次 に持 っ て き て い 順 序 を 維 持 して い る。 これ は 、 意 識 して の こ とで あ ろ うか。 二 人 称 代 名 詞 を単 数 と して 訳 出 した の は 、1で あ る。 「(も しか した ら)あ な た は(尋 ね る か も しれ な い 一 「 ∼?」 と。)」 とい う 訳 文 で あ る。 人 称 を単 数 形 に した こ とは 、 述 部 の 「 尋 ね る」 と い う訳 語 と も関 連 す る の で は な い だ ろ う か。 す な わ ち 、 上 述 の4名 の 訳 文 の 中 の 述 部 と は異 な り、 間接 目的 語 と して の 人 称 代 名詞 を伴 い た くな る述 部 の訳 語 を選 択 して い るか らで あ る。 も っ と も、 「 尋 ね る」 相 手 ま で 明示 して しま っ て は 、 こ の場 合 は ぎ こ ち な さ を残 す た め 、1は "demandererに 近い そ れ を して い な い が 。 こ の 。そ の ニ ュ ア ン ス を維 持 す る た め に 、1は 敢 えて 単 数 の 二 人 称 代 名詞 を訳 語 と して 選 択 した と考 え られ る。 人 称 代 名詞 を訳 出 しなか っ たYKの い うも の で あ る。YKは 「 尋 ね る」 とい う述 部 の 訳 語 は 、SEの 訳 文 は 、 「∼ と訊 か れ るか も しれ な い 。」 と 、 ほか の 部 分 で も よ く削 除 をす る傾 向 に あ る。 こ こで は 、人 称 代 名詞 を訳 出 し な い こ とで 、 更 に 客 観 的 な 口調 が 際 立 つ よ うで あ る。 109 Le Petit Princeと そ の英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 醐 例 文2に お い て は 、複 数 の時 制 が 現 れ る。SEに は 、2つ の 文 章 が あ り、 そ れ ぞ れ の文 章 内 に 、 コ ロ ン を伴 う文 章 が挿 入 され て い る。1つ めの 文 章 内 に は1つ 、2つ め の 文 章 内 に は2つ 章 を 、現 れ る順 に ① 、 ② 、③ 、 ④ 、⑤ お い て 、 それ ぞ れ の 文 の 時制 は 、単 純 未 来 、現 と しよ う。SEに 在 、現 在 、 複 合 過 去+複 合 過 去(複 文)、 複 合 過 去+複 合 過 去(複 で あ る。 これ らの 文 文)、 とな っ て い る 。 す な わ ち、 原 則 的 に現 在 形 で 語 って お り、 こ こで は 「 語 っ て い る主 体 」 の経 験 談 と して の ④ 、 ⑤ が 過 去 形 で 示 され る 、 とい う、 純 粋 に 時 間 軸 に沿 っ た 形 を取 っ て い る。 英 訳 は ど うな っ て い る で あ ろ うか 。Wは 現 在 形(こ の2つ 過 去 形+過 、未 来 形 、現 在 形(前 文 とは カ ンマ で繋 が れ た 直 接 話 法の 形)、 め の 文 章 は イ ンデ ン トされ て い る)、現 在 完 了 形+現 去 形 、 とい う形 で あ る。Cは 在 完 了 形 触 立 した2つ 、 現 在進 行 形 、 現 在形(コ ロ ンを 伴 うが小 文 字 で始 ま る文 章)、 現 在 形 、過 去 形+過 去 形(コ ロ ン を 伴 うが 小 文 字 相 当で 始 ま る と考 え られ る。 こ こ は"r'で た め 大 文 字)、 過 去 形+過 去 形(複 文)、 とい う形 で あ る。TFは 形 、現 在 形 、現 在 完 了 形+現 の 単 文)、 開 始 して い る 、 現 在 形(可 能 性 の 助 動 詞 を 伴 う)、現 在 在 完 了形(複 文)、 過 去 形+過 去 形(複 文)、 と な っ て い る0 邦訳 は ど うだ ろ うか 。Nは 、① と② とが 一 文 化 され て い る。 ① と② に 相 当す る 一 文 が 現 在形(助 動 詞 的 表 現 を伴 う)、現 在 形 、 過 去 形+過 去 形(複 文)、 過 去 形+過 去 形(複 文)、 で あ る。 な お 、④ と⑤ に つ いては 、それぞれ の文末 が、 「 た の で す 。」、 「 い た も の で す か ら。」 と い う、 「 語 っ て い る主 体 」 の 存 在 を 示 す 末 尾 とな っ て い る。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 が 存 在 す る時 制 は 現 在 で あ る こ とが 示 され る。 YKは 、N同 +過 去 形(複 様 、 ① と② とが 一 文 化 され て い る。 これ が 現 在 形(助 動 詞 的 表 現 を伴 う)、現 在 形 、過 去 形 如 、過 去 形+過 去 形(複 文)、で あ る。 な お 、⑤ に つ い て は 、 そ の 文 末 が 、 「 い た か らだ 。」 とい う、 「 語 っ て い る 主 体 」 の 存 在 を示 す 末 尾 とな っ て い る。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 が 存 在 す る 時 制 は 現 在 で あ る こ とが示 され る。 Yは 、現 在 形(助 動 詞 的 表 現 を伴 う)、現 在 形 、現 在 形 、過 去 形+過 去 形(複 文)、過 去 形+過 去 形(複 文)、 で あ る。 な お 、 ④ と⑤ に つ い て は 、 そ れ ぞ れ の 文 末 が 、 「 た の です 。」、 「 い た の で す 。」 とい う、 「 語 って い る 主 体 」 の存 在 を 示 す 末 尾 とな っ て い る 。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 が 存 在 す る 時 制 は現 在 で あ る こ とが 示 され る。1は 、現 在 形(助 動 詞 的 表 現 を伴 う)、現 在 形(前 文 とは ハ イ フ ンで 繋 が れ 、 引用 符 を 伴 う直 接 話 法 の 形)、現 在 形(読 点を伴 う未 完 全 文)、過 去 形+過 去 形(複 幻 、過 去 形+過 去 形(複 文)、 で あ る。 なお 、 ④ と⑤ にっ い て は 、 それ ぞ れ の 文 末 が 、 「た の だ 。」、 「い た とい うわ け。」 とい う、 「 語 って い る 主 体 」 の存 在 を 示 す 末 尾 と な っ て い る 。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 が 存 在 す る 時 制 は現 在 で あ る こ とが 示 され る。 Fは 、現 在 形(助 動 詞 的 表 現 を伴 う)、現 在 形 、現 在 形 、過 去 形+過 去 形(複 文)、過 去 形+過 去 形(複 文)、 で あ る。 な お 、 ④ と⑤ に つ い て は 、 そ れ ぞれ の 文 末 が 、 「 た ん だ。」、 「 い た の で ね 。」 とい う、 「 語 ってい る 主 体 」 の存 在 を 示 す 末 尾 とな って い る。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 が存 在 す る時 制 は 現 在 で あ る こ とが 示 され る 。MKは 、 現 在 形(助 動 詞 的 表 現 を伴 う)、現 在 形 、 現 在 形 、過 去 形+過 去 形(複 文)、 過 去 形+過 去 形(複 如 、 で あ る。 な お 、④ と⑤ につ い て は 、 それ ぞ れ の 文 末 が 、 「た の だ 。」、 「 い た の だ 。」 とい う、 「 語 っ て い る 主 体 」 の 存 在 を示 す 末 尾 とな っ て い る。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 が存 在 す る時 制 は現 在 で あ る こ とが 示 され る。 110 謙 原文SEの2つ の コロ ンを伴 う節 、すなわ ち、①、③ は、 自由 間接話 法 と捉 え られ る。 また、2つ の コ ロンのあ とに くる節 、そ して 引用部分 の最終文 は、す なわ ち、② 、④ 、⑤ は、 自由間接 話 法 と捉 えて よいで あろ う。① 、③ か らの繋 が りは コロンであ り、 カ ンマや ピ リオ ドの 中間の句読法 が用い られ て い る。 引用符 はな い。1つ めの談話② の文 末は疑 問符で あ る。2っ めの談話④ の文末 は平叙文 の ピ リオ ドで ある。それ に対 して、⑤ は、2つ めの の談話部 分④ を引き継 ぐ 自由間接 話法 であ る。 この部分 を、訳者 は どの よ うな解 釈 を しどの よ うな訳 文 を作 ってい るであろ うか。 英 訳 の三者 を見 よ う。 ①、③ につい ては、 三者 ともに、 自由間接話 法 を維持 して い る。 また、談話 部 分 の② 、④ 、⑤ について は、C、 TFは 、 コロンな らび に文 末の疑 問符 や ピリオ ドも維 持 し、⑤ に至 るま で、 自由間接話 法 の形 を再生 してい る。一方 、Wは 、② にお いて、カ ンマ と引用符 を用 いた直接話 法 に 変 えてい る。③ は三分 割 し、 さ らに 自由度 の高い 自由間接 話法の形 を取 り、⑤で は③ の談話 部分 と同 じ 調子 で 自由間接話 法 を用い てい る。 邦訳 は ど うで あろ うか。 引用符 を用い てい るの は、N、 YK、1の 三者 であ る。そ の うちNの ① と② に 相 当す る部分 、1の ① と② に相 当す る部分 は、 自由間接話 法 と捉 え るこ とがで きよ う。Nの ③ と④ に 相 当す る部分 は句 点に よ り分割 され てい るが、談話部 分 は 自由 間接 話法 を継 続 してい る。⑤ もまた 自由 間接話 法で ある。また、YKは ① と② に相 当す る部分 におい て、直接 話法 とも取れ る形 状な らび に 口調 の 訳 文に してい る。 ③ と④ は句点 で分割 し、 ここで は叙述文 の よ うな 口調 の訳 文 に して いる。⑤ も同 じく 叙述 文の調子 を継 続 してい る。Yは 、① と② に相 当す る部分 を二分割 し、談話部分 を 自由 間接話 法で表 してい る。 疑 問符 も維持 して い る0③ と④ に相 当す る部分 は二分割 され る ものの、談話部 分は 自由間接 話法 の響 きを持 つ。⑤ も同様 で ある。1は ① と② に相 当す る部分 には---と 引用符 を用い 、疑 問符 も維持 した 自由間接話 法 を選 択 してい る。③ と④ は、コロ ンを読 点に変 換 した 自由間接話 法の形 を取 ってい る。 そ して、⑤ も前文 の談話部分④ と同 じ調子 を維持 し自由間接話 法 を用 いてい る。1は 、形 は異 な るが三箇 所 とも工夫 を凝 らし、 自由間接 話法 の維持 に努 めて い る。Fは 、① と② に相 当す る部 分 を二分割 し、談 話部 分 は 自由間接 話法 の形 を とって いる。疑 問符 は維持 されて い る。③ と④ に相 当す る部分 も二分割 さ れ 、コロンを句点 に変 換 した 自由間接 話 法で ある。そ して 、⑤ に も独 自に 自由間接 話法 を使 用 して いる。 MKは 、① と② に相 当す る部分 では コロンを句 点に変換 した 自由間接 話法 を用 いてい る。 前項2.2で も 触 れた が、最初 の文 の談話部分② の読 点の数 と位 置 が原 文 と一致 するのは この訳文 のみで あ る。③ と④ に相 当す る部分 は二分 割 され 、 コロンを句点 に変換 し談話 を 自由間接 話法で記 してい る。⑤ もこの流 れ を引 き継 ぎ 自由間接 話法で ある。 謙 例文2で は、例文1と は異 な り、明確 な 自由間接 話 法が見て取れ る。 この事 実 と、人称代 名詞 の選 択 な どか ら、 「 語 ってい る主体 」、 「 経 験 してい る主 体」、登場 人物 の 「 見て い る主体 」の 間での視 点の移動 があ るか否 か を分析 す る。 SEに お いて、自由間接 話 法 と二人称代名詞 な らび に一人称代 名詞 を使用 してい る ことによ り、語 り手 が読み 手 に語 りかけ る調子 が作 られ る。① の最初 で、主語 と直接 目的語 に二人称代 名詞 を用 いる ことで 、 111 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 読 者 は 語 りか け と語 りか け の 問 い の 内容 とが 、 自身 に 向 け られ る こ とを感 じ る。 さ ら に は 、 二 人 称 代名 詞 を 二 度 、 一 人 称 代 名詞 を 四度 用 い る こ とに よ り、 リズ ム感 が 生 まれ る。 「 視 点」 と 「 観 点」 に つ い て 分 析 し よ う。 ① に お い て は 、 「 視 点」 も 「 観 点」 も、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpilotに いては、 「 視 点 」 は"vous"に 「 観 点」もpilotに あ る。 ② にお 移 る。 「 観 点」 は移 動 しない 。 ③ 以 降 は 、再 び 、 「 視 点」がpilotに あ る。した が っ て 、伝 達 様 式 の 類 別 と して は 、② の み ㈲ で あ る と言 え る。 また 、例 文1同 様 、 この 例 文2は 戻 る。 で あ り、ほ か の部 分 は(∼ り 、「 語 っ て い る 主 体 」 に よ るFITで あ る と考 え ら れ る。 時 制 が め ま ぐ る し く変 化 す る こ とが 理 由 で あ る。 す る と、 「 語 っ て い る主 体 」 で あ るpibtに FITの よる 中 で 、 さ らに 、 自 由 間接 話 法 が 施 され て い る こ と に な り、 純 粋 な伝 達 様 式 の翻llに 当 て は め る こ とが や や た め らわ れ る。 この よ うな伝 達 様 式 を 、新 た に 翻1北 す る必 要 が あ る可 能 性 が あ る。 英 訳 か ら見 よ う。Wは 、 ① に相 当す る部 分 にお い て 、 主 語 に二 人 称 、 直 接 目的 語 に 一 人 称 を 用 い て い る 。こ のた め 、語 り手 の 語 りは読 者 に 向 け られ て い る も の の 、そ の 問 い は 読 者 が 自問す る とい うよ りも、 語 り手 に 回 答 す る こ と を求 め られ る よ うに感 じる。 ま た 、 そ の 直 後 の談 話 部 分 ② は 、 引用 符 を用 い た 直 接 話 法 が用 い られ る。 この た め 、 文 字 通 り、 直接 的 な 調 子 と な る。 続 く③ と④ 、 そ して⑤ で は 、 対 照 的 に 自 由間 接 話 法 を 取 り入 れ て い る。 と くに ③ と④ に お い て は 、句 点 を2つ とに4つ の 一 人 称 代 名詞 を使 用す る。数 の 上 で はSEの4つ も付 加 し、 ③ と④ 、 そ して ⑤ と一 致 す る が 、 コ ロ ン の消 滅 、句 点 の 付 加 に よ り、 明 らか に調 子 は異 な る も の とな っ て い る。 さ ら に、 ① と② に相 当す る部 分 で の直 接 話 法 との 落 差 が 大 き く、視 点 に関 して も何 か 不 統 一感 す ら感 じ させ られ る。CとFrは 略 箇 所 も含 め)が 似 通 っ て い る。 自由 間 接 話 法 に つ い て も 、SEの っ て 、2者 の 訳 文 は 、SEの 、 選 択 した 人 称 代 名 詞(省 そ れ の形 式 を維 持 して い る 。 した が トー ン の移 行 、少 な く と も形 式 上 の そ れ とい う面 で 、そ して 少 な く と も この 箇 所 につ い て は うま く対 応 させ て い る。 それ に伴 い 、視 点の移 行 もSEに 近 い形 で お こな われ て い る。 こ こ ま で の 分析 を 、 「 語 っ て い る 主 体 」、 「 経 験 して い る主 体 」、 登 場 人 物 の 「 見 て い る主 体 」 の 問 で の 視 点 の移 動 が あ る か 否 か とい う点 に つ い て整 理 して み よ う。3名 の訳 文 す べ て にお い て 、SEの ② に 相 当す る 箇 所 にお い て は 、 「 見 て い る主 体 」 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 か ら 「 一般 の不特定 の人 【 々]」 に移 動 す る。 そ れ を指 す 人 称 詞 は 、SEの ① に 相 当す る箇 所 に現 れ る。 W、 C、 TFと も に"y0u"で あ る。 そ して 、 この 直 後 の邦 訳 に つ い て の 箇 所 で 述 べ る よ うな 、一 種 の 談 話 部 分 で あ る④ と⑤ に お け る、 「 語 ってい る主 体 」や 「 体 験 して い る主 体 」 の視 点の 移 動 は 見 られ な い 。 これ は 、 英 語 には 、 日本 語 にお け る 文 末 の述 部 に 付 加 す る末 尾 辞 が な い こ と に よ る。 した が っ て 、④ と⑤ にお い て は 、 「 視点」と 「 観 点」は い ず れ も 、 「 語 っ て い る主 体 」か ら移 動 して しま うこ とは な い 。伝 達 様 式 の翻llと して は 、 SEと (VDで あ り、 ほ か の 部 分 は(V)で 換 され て い る た め 、SEや あ る と言 え る。 た だ し、 Wに 、英 訳 のCやTFと 同 じ く、② のみ お い て は 、 ② の部 分 が 直 接 話 法 に変 は 、同 列 で は な い 。 ま た 、SEの 分 析 にお い て も述 べ た が 、英 訳 につ い て も、例 文1同 様 、こ の例 文2に お い て は 、時 制 が め ま ぐる し く変 化 す る こ と か ら、「 語 っ て い る主 体 」 に よ るFITで あ る と考 え られ る。す る と、 「 語 っ て い る主 体 」 で あ るpilotに よ るFIT の 中 で 、 さ ら に 、 自 由 間接 話 法 が施 され て い る こ とに な り、 純 粋 な 伝 達 様 式 の翻llに 当 て は め る こ とが や や た め らわ れ る 。 英 語 に お い て も 、 こ の よ うな 伝 達様 式 を 、新 た に類 別 ヒす る 必 要 が あ るか も しれ な い。 邦 訳 につ い て は 、 例 文2の[非 】人称[代 名1詞 につ い て の 箇 所 で 述 べ た よ うに 、YKを 112 除き、第一 文 の1つ めの人称代名 詞 の訳 出があ るほか は、人称代名 詞 の訳 出は見 られ ない。唯一 の例外 が、第 三文の2 つ め にお ける1の 一人称代渚 詞 の使用 であ る。た だ し、 これ も主語 と して の位 置づ けで はない。 これ ら の こ とか ら、邦訳 にお いては、お おむね語 り手が読 み手 に語 りか けてい る とい う感覚 は、第 一文 におい て見 られ 、第 二文以降 において は薄 ま る可能 性が高い と想像 で きる。個 々 に見 てい こ う。 Nは 、第 一文 は引用 符 を用 いた 自由間接話 法 を とってい るが 、第 二文 は句 点に よ り分割 しな が ら談話 部 分 を 自由間接 話法 で表 してい る。 この部分 において は 「 語 ってい る主体 の視 点は、 「 きみ たち」へ と移 動 す る。第三 文は、前 文 を継 続 して 自由間接話 法 によ り表 してい る。 これ に よ り、 この部分 にお け る視 点 は一貫 して語 り手 にあ る感覚 が保 たれ る。YKは 第 一文 において 、直接 話 法 と捉 え られ る訳 文に して い る。 この部 分 にお いては 、語 ってい る主体 の視 点 は、明示 され ない対象(不 特定 の人[々Dへ と移動す る。第二 文は句点で分割 し、叙述文 の よ うな 口調 の訳文 に、そ して第三文 も同 じく叙述 文で ある。結果 、 N同 様 、第二文以 降は、語 り手 に よる語 りとその視 点とが維 持 され る。Yは 、第一 文を二分割 し、談話 部分 に疑問符 を残 した形 の 自由間接話法 で表 してい る。この部 分 にお いては、語 って いる主体 の視 点は、 「 あ なた がた」へ と移 動 する。第 二文 は二分 割 され 、談話部 分か ら第 三文 にか けて も自由間接 話 法 とな ってい る。YKと 同 じく、第二 文以降 も、語 り手の視 点が保 たれ る。1は第 一文 には … と引用符 を用 い、 疑 問符 も付 したま まの 自由間接話 法 を取 ってい る。 この部分 において は、語 ってい る主体 の視 点は、 「 あ なた」 へ と移動 ずる。第 二文 は、 コロン を読点 に変換 した 自由間接 話法 の形 を、 そ して 、第 三文 も 自由 間接 話 法を用 いて いる。1は 、それ ぞれ形 は異な るが三箇所 とも工夫 を凝 らし、自由間接 話法の維持 に努 めて い る。 第一文 の1つ めの人称代 名詞 が単数 形で ある ことと、第三 文の2つ めの人称代 名詞 が一人称 単数 で ある ことか らも、語 り手 と読み 手 との吸引力が 強 く、第 二文以 降、視 点は語 り手 に委ね られ る。 邦訳 の中で は、視 点が最 も安定 してい る感 が ある。Fは 、第一文 を二分割 し、談話部分 は疑 問符 を付 し た ままの 自由間接話 法の形 であ る。 この部 分におい ては、 「 語 ってい る主体 」の 「 視 点」 は、 「 きみ たち」 へ と移 動す る。第二 文 も二分 割 され 、 コロン を句点 に変換 した 自由間接 話法 であ り、第 三文 に も自由間 接話 法 を用い てい る。ただ、第一 文 にお ける、2つ の読 煮には さまれた節 は、会話 文その ものであ り、や や唐 突 な感 じを受 け る。視 点は語 り手 にあ るが、第 三文 に至 って語 り手が一 人語 りを加 速 させ てい る よ うな妙 な不安感 に さいなまれ る。MKは 、第一 文では コロ ンを句点 に変換 した 自由間接話 法 を用 い、第 二 文 は二分割 され 、 コロン を句点 に変換 し談話 を 自由 間接話 法 で表 してい る。第三 文 もこの流 れ を引き 継 ぎ 自由間接話法 で ある。 第二 文以降 、視 点は語 り手 にある。無駄 のな い語 彙選択 と客観 的な記述 に よ り、視 点は一 定 してい る。 邦訳 にお いては、 「 語 ってい る主体 」 と 「 経験 してい る主体 」 との 間での視 点 の移 動 ではな く、例証 した箇 所 にお いては、 「 語 ってい る主体 」 と 「 不特 定の人[々hと 観 察 でき為 の間で の移動 が また、視 点が語 り手 にある と言 って も、 その安 定度 は様 々であ るこ とも読み 取 るこ とがで きる。 ここまで述べ た ことを整理 しよ う。6つ の邦 訳すべて にお いて、SEの ② に相 当す る箇所 において は、 「 見 てい る主体」 は、 「 語 ってい る主体 」か ら 「 一般 の不特 定の人[々1」 に移 動す る。 それ を指 す人 称 詞 は、SEの ① に相 当す る箇所 に現れ る(YKを 除 く)。 Nは (明記 してい ないが、 文脈か らその よ うに考 え られ る)、Yは 、「 きみた ち」、YKは 「 あな たがた」、1は 「 不特 定の人[々 】 」 「 あなた」、Fは 「 み ん な」、MKは 「 きみた ち」、で ある。 さ らに、例文2の 話 法 につ いての箇所 で述 べた よ うに、④ と⑤ に つ いては(YKは ⑤ のみ)、文末 が、 「 語 ってい る主体」 の存在 を示す 末尾 とな ってい る。そ して、 これ に 113 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 よ り、 文 章 の 時 制 は 、 「 体 験 す る 主体 ← ・ 一 人 称 物 語 で あ る か ら、 「 語 っ て い る主 体 」 と 同 一 人 物)」 が 存 在 す る過 去 を表 す 過 去 形 で あ っ て も 、 「 語 って い る 主 体 」 が 存 在 して い る時 制 が 現 在 で あ る こ と が 明 らか とな る。 す な わ ち 、 「 視 点」 と 「 観 点」 は い ず れ も、 「 語 っ て い る 主 体 」 か ら移 行 して は い な い とい うこ とが わ か る。 つ ま り、伝 達 様 式 の類 別 と して は 、② に お い て の み 、 「 視 点」 は 、 「あ な た 【 が た]」 な ど一 般 の 人 々 へ と移 動 し、 「 観 点」 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して のpilotに け る(VDで あ る形 とな る 。 仏 語 ・英 語 に お あ るが 、 これ と同 等 の形 は 、 日本 語 にお け る伝 達 様 式 の 翻1」と して は確 立 して い な い が 、確 か に 存 在 す る こ とが わ か る。 そ して 、 ほ か の 部 分 は ① で あ る。 と言 え る。 こ の伝 達 様 鵡 ま、 仏 語 ・英 語 に お け る(V)と 同等 の も の で あ る。ま た 、例 文1同 様 、この 例 文2は 、「 語 っ て い る 主 体 」に よ るFIT で あ る と考 え られ る。 時 制 が め ま ぐる し く変 化 す る こ とが 理 由 で あ る。 す る と、 「 語 っ て い る主 体 」 で あ るpibtに よ るFITの 中で 、 さ らに 、 自由 間 接 話 法 が施 され て い る こ とに な り、純 粋 な伝 達 様 式 の 類 別 に 当て は め る こ とが や や た め らわれ る。 この よ うな伝 達 様 式 を、 新 た に 類 別化 す る必 要 が あ る と考 え ら れ る。 例 文3.Chapter sE二 En VI;8山paragraph;1創 effet. 11suf舳t W Just If you C: Just TF' Yes could indeed. One would midi pouvoir a皿er aux en Everybody-ows could so. If you Quand且est de so. ト3叱entences as get in one to France minute, when in a twinkling, it is midday have to en when everyone-ows, When just France that fly to France For Etats-Unis travel in in the one le soleil, une minute it is noon you it is noon you pour in could to le monde assister United straight in the watch States, minute the go could United tout the France su into to the right as everyone able sun sunset, States be se du the the a sunset sait, coucher States United sun, le to couche la soleil.1 .29) is setting wer right sun sur firom France, France. noon.(p.21) is setting over France. now.(p.24) bows, watch is setting the sun in setting France. there. (p.30) N: がっしゆうこく ひる そ れ に ち が い あ りま せ ん。 ア メ リカ 合 衆 国 で 昼 の 十 二 時 の と き は 、 だ れ も知 って い る よ うに 、 フ ラ ン ス で は 、 日 没 で す0で す か ら、 一 分 間 で 、 フ ラ ン ス に い け さえ した ら、 日の 入 りが 、 ち ゃ 一 ん と見 られ るわ け で すOΦ.40) YK: な る ほ ど。 誰 で も知 っ て い る とお り、ア メ リカ で 昼 の 十 二 時 の とき に フ ラ ン ス で は 日没 蔑 で フ ラ ン ス に 行 けれ ば 、 日没 が 見 られ るわ け 芯 Y そ うな ん で 免 だ か ら一 分 間 Φ.35) 合 衆 国 で正 午 の と き 、だ れ もが知 っ て い る よ うに 、フ ラ ン ス で は 日没 で す0そ の 日没 に立 ち合 うに は 、1分 間 で フ ラ ン ス にい けれ ば い い ん で す』(b.25) 1 そ うな の 芯 誰 で も知 っ て い る こ とだ け ど、ア メ リカ 合 衆 国 が 正 午 を迎 え る とき 、フ ラ ンス で は 日が 沈 む 。 1分 間 で フ ラ ン ス に 行 く こ とが で きれ ば 、 夕 日が 見 られ る。 Φ.34) F' じっ さい 、 ア メ リカ で 正 午 の 時 間 、み ん な知 っ て い る と思 うけれ ど も、 同 じ太 陽 は 、 フ ラ ン ス で は 夕 日な ん芯 MKIそ だ か ら一 分 間 で フ ラ ン ス に行 く こ とが で き た ら、 夕 日 を な が め る こ とが で き る。(p.31) うだね ア メ リカで正午 の とき、フランスでは 、み んな も知 って の とお り、 日が沈 んでい くわ け芯 か らも し「分 でフラ ンス まで行 け るな ら、それ で 夕陽 が見 られ る。(p.34) 114 だ [非1人 称[代 名 】詞 SEで は 、 第 二 文 に"丑'、"le monde"が 、第 三 文 に"H'が 用 い られ て い る 。 この うち 、 一 つ 目の"置' につ い て は 、い わ ゆ る 「 時 間 を示 す 非 人 称 代 名詞 」で あ り、英 訳 の 三 者 も"lt"を 用 い て い る。邦 訳 で は 、 い ず れ の 訳 者 も訳 出 して い な い 。 この こ と は ご く 自然 な こ と で あ ろ う。 ま た 、"le monde"に Wが"everyb戯 ゾ 、 CとTFが"everyone"と い て も、Nが 「 だ れ も」、 YKが MKが つ いては、 して お り、 ほぼ 同 一 の 訳 語 で あ る と言 え る 。 邦 訳 にお 「 誰 で も」、 Yが 「 だ れ も が 」、1が 「 誰 で も」、 Fが 「 み ん な」、 「 み ん な も」 と して お り、 これ も ま た 大 差 な い と考 え て よい で あ ろ う。 した が っ て 、 こ こで は 、 第 三 文 の"皿'に つ い て 考 え る こ と にす る。 英 訳 か ら見 よ う。WとCは"yo㎡'を 二 度 用 い 、 複 文 化 して い る。 TFは"one"を け る単 文 構 造 を維 持 して い る。SEの"iY'は 的 な 面 で の 近 さか ら、TFが 用 い 、 SEに お 非 人 称 代名 詞 と考 え られ る。 した が っ て 、 こ こで は 、構 造 最 も原 典 に近 い と言 え る。 邦 訳 は ど うで あ ろ うか 。 いず れ の訳 者 も、[非1人 称 【 代名 】詞 は 用 い て い な い 。 た とえ ば 、Nは 「 です か ら 、一 分 間 で 、 フ ラ ン ス に い け さえ した ら、 日の入 りが 、 ち ゃ 一 ん と見 られ る わ け で す0」 と い う訳 文 を あ て て お り、 「 行 く」 や 「 見 る」 の 主 体 と して は 不 特 定 の 人 【 々】を想 定 して い る と考 え られ る。 構 造 的 に は 、 「(もし)∼ な ら、 ∼ だ ろ う」 と い う条 件 節 を伴 う複 文 で あ る。 た だ し、Yは 「そ の 日没 に立 ち 合 う に は 、1分 間 で フ ラ ン ス に い け れ ば い い ん で す 。」と して お り、これ は 条 件 と帰 結 の 形 で は な く、む しろSE の 構 文 に 近 い 形 で あ る。 見方 に よ っ て は 、Yの み が 単 文 構 造 を 取 っ て い る と言 え な くも な い 。 賄 SEで は、英語 の時制 を援 用す るな ら、第二 文が現在時 制、第 三文が仮 定法過 去形 と言って よいで あろ う。 つま り、 いず れ の文 も基本 とな る時制 は現在 で ある。 英訳 の三者 、SEの 時制 を踏襲 して いる。 邦訳 の六者 の訳 文 も概 ね、第 二文が現在 時制 、第三 文が条件 節を伴 う現在 時制 の文章で ある。ただ し、 [非1人 称 【 代渚]詞 の項 において述 べた よ うに、Yの み が、第三文 にお いて条件 と帰結 とい う形 を取 ら ず、「 ∼(た め)に は、∼(す れば)いい 」 とい う構 造を取 ってい る。 ..' 引 用 箇 所 の み か ら は 、 こ れ が 純 粋 な 叙 述 文 か 、 そ れ と も 語 り手 に よ るFITか 、峻 別 が つ き に く い か も しれ な い 。 し か し、 こ の 直 後 の 一 文 を 挟 む 二 文 に 亘 り、 語 り手 は 王 子 さ ま を 指 す"tゴ'、"te"、"ta"、"tu"、 "tu"を 立 て続 け に用 い 、 叙 述 を 続 け て い る。 こ の こ と か ら、 SEで は 、 Frrが 用 い られ て い る こ と が わ かる。 英 訳 は ど うか 。SEと さ ま を 指 す"you"が you need whenever "But do you on your is mave 同 じ く 、 叙 述 文 かFITか 見 極 め に 迷 う が 、 直 後 の 箇 所 を 見 る と 、 明 らか に 王 子 用 い ら れ て い る 。 た と え ばWは"But your like..."を tiny planet chair a few steps. You on can your see the tiny day 見 れ ば 朋 ら か で あ ろ う。 こ の こ と か ら、 FITで , little prince, you had only 115 to mwe your chair planet, end and my little prince, the twilight a皿 falling あ る と 言 え る 。 た だ し 、 TFは a few steps. You could watch Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る might fallwhenever 「視 点 」 の 考 察 you liked."と して お り、や や 叙 述 文 の色 合 い が 濃 い。パ ラ グ ラ フ の 最 終 の 二 文 で 過 去 形 を用 い 、 あた か も物 語 世 界 の 外 か ら、 過 去 の 時 点 を 回 顧 して 語 っ て い るか の よ うな感 さ え受 け る。 これ は 、 次 に述 べ る邦 訳 の うち のYと で は 、 邦訳 を見 よ う。SEや 共 通 す る部 分 で あ る。 英 訳 同様 、叙 述 文 と もFITと の語 りか けが あ り、 六者 と もFITを も取 れ る が 、や は り直 後 に は 、 王子 さ まへ 維 持 して い る と言 え よ う。 た と え ばNは 「 だ けれ ど、 あ な た の ち っ ぽ け な 星 だ った ら、 す わ っ て い る い す を 、 ほ ん の ち ょ っ と動 か す だ け で 、 見 た い と思 うた び ご と に 、 夕や け の空 が 見 られ る わ け です 。」と して い る。た だ し、Yは 、 「とこ ろ が き み の小 さな 星 の うえ で な ら、 数 歩 だ け椅 子 をひ けば よ か っ た の で す 。 そ うや っ て き み は、 見 た い と思 うた び に 夕 日を 見 て い た の で し た … …」 と して お り、英 訳 のTFと 同 じ く、や や 叙 述 文 の色 合 い が 濃 い。 や は りパ ラ グ ラ フ の最 終 の二 文 で 過 去 形 を 用 い 、 物 語 世 界 の 外 か ら、過 去 の 時 点 を 回 顧 して 語 って い る か の よ うな感 が あ る。 襟 一 人 称 語 りの物 語 で あ る た め 、 「 語 ってい る主体」 と 「 経 験 して い る主 体 」 と は 、pilotで あ り、 両者 が 同 一 人物 で あ る こ とは 、例 文1に っ て い る 主 体 」 と して のpilotが て い る。 同 時 に 、F皿 後 述 す る が 、例 文3を お い て述 べ た とお りで あ る。例 文3に 、 登 場 人 物 で あ るle の 手 法 の 使用 に よ り、pibtの 含 むVIは 対 して 、pilotの 言 葉 と して語 っ 思 考 内 容 が表 現 され て い る。 た だ し、 くわ し くは 、その 「 語 り」の 様 態 が 極 め て 特 徴 的 で あ る ー-。 つ ま り、語 り手pilot が そ の 思考 の 中で 、登 場 人 物le petit p血ceに princeに petit p血ceに 引用 した 箇 所 に お い て も 、「 語 対 す る距 離 感 を 取 り払 って い るの で あ る。それ は 、le petit 直 接 語 りか け て い る よ うで あ り、 あ るい は語 り手`je"の 「 内 的 独 白」 の よ うで も あ る。 で は 、原 典 と翻 訳 にお け る 「 視 点 」 の 所 在 に つ い て 見 て い こ う。 まず 、[非 】人 称[代 名1詞 に 注 目 し分 析 す る。 同 項 で述 べ た よ うに 、SEに いて は、いわ ゆる 「 時 間 を示 す 非 人 称 代 名 詞 」 で あ り、英 訳 の 三 者 も"lt"を お け る 一 つ 目の"∬'に ず れ の 訳者 も訳 出 して い な い。視 点は 、SEな は 「 経 験 して い る主 体 」 で あ るpilotに つ 用 い て い る。 邦 訳 で は 、 い らび に 英 訳 の三 者 に お い て は 、 「 語 っ て い る主 体 」あ るい あ る と考 え られ る。 これ に、 用 い られ て い る時 制 が 現 在 時 制 で あ る こ とを考 え合 わ せ る と、 「 視 点」 と 「 観 点」 は い ず れ も 、 「 経 験 して い る主 体 」 に あ る と考 え るの が 妥 当 で あ ろ う。 た だ し、 上 述 した よ うに 、 同 じパ ラ グ ラ フ の 後 半 部 分 で は 、英 訳 のTFと 邦訳 のYと が 過 去 時 制 を用 い て い る。こ の こ とは 、視 点が 「 語 っ て い る主 体 」に あ る こ とを 意 味 す る。つ ま り、TFと Yと は 、 こ こ で意 図 的 あ るい は意 図せ ず に 「 視 点 」 の移 動 を お こな っ た と考 え られ る。 あ るい は ま た 、 例 文3に 引 用 した 箇 所 を 含 む この パ ラ グ ラ フ 全 体 の叙 述 部 分(会 話 以 外 の 部 分)は 、 す べ て 「 語 ってい る主 体 」 の 「 視 点」 と 「 観 点」 か ら語 られ て い る が 、 引 用 箇 所 前 後 の 全4文(例 とそ の 直 後 の1文:全 て現 在時 制)は 文3に 引用 した3文 「 歴 史 的現 在」 と して の 現 在 形 が 用 い られ た と考 え る こ と も可 能 で あ る。 した が っ て 、伝 達 様 式 の翻1」と して は 、前 者 の 捉 え方 を す れ ば(こ れ が よ り妥 当か と考 え るが)、 仏 語 ・英 語 に お け る(V① の稀 な パ タ ー ンで あ る 。 す な わ ち 、 日本 語 にお け る(皿)の あ る 。あ る い は 、後 者 の捉 え方 をす るな らば 、仏 語 ・英 語 に お け る(V)で あ る。 た だ し、純 粋 な(V)、 伝 達 様 式 のパ ター ン を翻1北 標 準 パ タ ー ンで あ ろ う。 日本 語 にお け る ① で あ る い は 、 ① で は な く、 「 歴 史 的 現 在 」 と して の 語 りを加 味 した 新 しい す る必 要 が あ ろ う。 116 2つ めの 【 非 】人 称 【 代 名 】詞"le monde"に と して い る。 邦 訳 に お い て も、Nが Fが 「 み ん な」、MKが つ い て は 、Wが"everybodゾ 「だれ も」、 YKが 、CとTFが"everyone' 「 誰 で も」、 Yが 「 だ れ もが 」、1が 「 誰 で も」、 「 み ん な も」 と して い る。 「 視 点」 は 、 や は り 「 語 ってい る主体」 あるいは 「 経 験 して い る主 体 」 に あ る と考 え 得 る。 上 述 の1つ め の"丑'に 関 す る分 析 同様 、 こ の 直 後 に 用 い られ て い る時 制 が現 在 時 制 で あ る こ とを考 え る と 、 「 経 験 して い る主 体 」 に あ る と判 断 す る の が 妥 当で あ る と考 え る。 た だ し、 これ も 上 述 の"建'の 分 析 に お い て 述 べ た よ うに 、TFとYと が こ の 箇 所 に続 く文 章 に お い て過 去 形 を用 い て い る こ とは 、 この 二者 が 「 視 点」 の移 動 をお こ な っ た か 、 あ るい は 、 引 用 箇 所 を 含 む こ のパ ラグ ラ フ の叙 述 部 分 は全 て 「 語 っ て い る 主 体 」の視 点か ら語 られ て お り、引用 箇 所 前 後 の4文 に 「 歴 史 的 現 在 」 と して の 現 在 形 が 用 い られ た と も考 え得 る。 した が っ て 、 伝 達 様 式 の類 別 と して は 、 前 者 の捉 え 方 をす れ ば(こ れ が よ り妥 当か と考 え るが)、 仏 語 ・英 語 にお け る(Vn)の る 。す な わ ち 、 日本 語 に お け る(皿Dの な らば 、仏 語 ・英 語 にお け る(V)で 稀 な パ ター ンで あ 標 準 パ ター ン とい う こ と に な る。 あ るい は 、後 者 の 捉 え 方 を す る あ ろ う。 日本 語 にお け る ① で あ る。 た だ し、純 粋 な(V)、 あ るい は 、 ① で は な く、 「 歴 史 的 現 在 」 と して の語 りを加 味 した 新 しい 伝 達 様 式 の パ タ ー ン を翻lj化 す る必 要 が あ る と考 え る。 ま た これ に続 く2つ め の"Irに つ い て は 、英 訳 のWとCは"you"を 二 度 用い 、複 文 化 して い る。 TFは"one"を 用 い 、 SEに お け る単 文 構 造 を維 持 して い る。 SEの"ll"は こ こ で はTFの 訳 語 が 最 も原 典 に近 い感 が あ る。視 点の 所 在 は 、 「 語 っ て い る主 体 」 あ る い は 「 経 験 して い る 主体 」 で あ る と考 え られ る 。 そ して 、 上 述 の1つ めの"∬'と"le 非 人 称 代名 詞 と考 え られ 、 monde"に 関す る分 析 同様 、 用 い られ る時 制 が 現 在 時 制 で あ る こ とか ら、 「 経 験 して い る主 体 」 に視 点が あ る と判 断 し得 る。 た だ し、 これ も上 述 の2つ の[非 】人 称 【 代 名1詞 の 分 析 にお い て 述 べ た よ うに、TFとYが 直後の箇所 において過 去 形 を 用 い て い る こ とか ら、 この 二 者 が 「 視 点 」 を移 動 させ た と考 え る こ と も 可 能 で あ る 一 方 、 引 用 箇 所 を含 む この パ ラ グ ラ フ の叙 述 部 分 全 体 が 「語 っ て い る主 体 」 の 視 点 か ら語 られ な が ら も、 引用 箇 所 前 後 の4文 には 「 歴 史 的現 在 」 と して の 現 在 形 が用 い られ た と考 え る こ と もで き る。 っ ま り、伝 達 様 式 の 類 別 と して は 、 前者 の捉 え 方 をす るな らば 、 仏 語 ・英 語 にお け る(V田 ち、 日本 語 にお け る(皿)の 英 語 に お け る(V)で の稀 な パ タ ー ンで あ る 。 す な わ 標 準 パ ター ン とい う こ とに な る。あ るい は 、後 者 の捉 え 方 をす る な ら、仏 語 ・ あ ろ う。 日本 語 にお け る ① で あ る。 た だ し、 こ こか らもや は り、 純 粋 な(V)、 あ る い は 、 ① で は な く、 「 歴 史 的 現 在 」 と して の 語 りを加 味 した新 しい伝 達 様 式 の パ タ ー ン を類 別化 す る 必 要 が あ る こ とが わ か る。 また、 「 時 制 」 の項 で 述 べ た よ うに 、SEと 験 して い る主 体 」、 す な わ ち 、SEに 英 訳 な らび に 邦 訳 す べ て に お い て 、 「 語 っ て い る 主体 」、 「 経 お け る`je"の 発 話 時 点は 、 仮 定 法表 現 を伴 うこ とを含 め 、原 則 的 に現 在 で あ る。た だ し、「 話 法 」の項 で 言 及 す る よ うに 、同 じパ ラ グ ラ フ内 の後 半 にお い て 、英 訳 のTFと 邦 訳 のYは 、 過 去 時 制 を使 用 して い る。 こ の こ とは 、 「 語 っ て い る主 体 」 へ の 視 点 の移 動 を意 味 す る も の と考 え る こ とが 可 能 で あ る。 あ る い は ま た 、 上 述 の[非 】人 称 【 代名 】詞 に 関す る 分 析 にお い て す で に 述 べ た よ うに 、 同 じパ ラ グ ラ フ の 後 半部 分 で は 、 英 訳 のTFと 邦 訳 のYと とか ら、 視 点が 「 語 っ て い る 主 体 」 に あ る こ とが わ か る。 っ ま り、TFとYと 移 動 をお こ な っ て い る と考 え られ る。 あ る い は 、例 文3に 117 が過 去 時 制 を 用 い て い る こ は 、 こ こで 「 視 点」 の 引 用 した 箇 所 を含 む この パ ラ グ ラ フ全 体 の 叙 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 述部分(会 話以外 の部分)は 、す べて 「 語 って いる主体」の視 点か ら語 られて い るもの の、引用箇所 前後 の全4文(例 文3に 引用 した3文 とその直後 の1文:全 て現在 時制)は 「 歴 史的現在 」 と しての現在 形が用 い られ た と考 え るこ とも可能で あ る。つ ま り、伝達 様式 の翻 りと しては、前者 の捉 え方 をす るな ら、仏語 ・英語 にお け る(Vmの 稀 なパ ター ンで あ る。 す なわ ち、 日本語 におけ る(皿)の 標準 パ ター ンとい うことになる。 あ るい は、後者 の捉 え方をす るな らば、仏語 ・英 語 にお ける(V)で 語 にお いて は、 ① で ある0た だ し、上述 した こ とと同様 に、純 粋な(V)、 あろ う。 日本 あるい は、 ① では な く、 「 歴史 的現 在」 と して の語 りを加 味 した新 しい伝 達様式 のパ ター ン を翻1比 す る必 要が ある と考 え られ る。 本稿 にお いては、以 上、三つ の例証 に留 め、次 項におい て考 察 をま とめたい。 5.考 察 3.2.2の 「【 非 】人 称 【 代 名1詞 」 と 「時 制 」 の 項 にお い て 、 一 人 称 物 語 の 場 合 、 「 体 験 す る私 」 と 「 回 想 す る私 」とが 存 在 す る と述 べ た 。第4節 ち 不 特 定 の 人[々]を にお い て 見 た3つ の例 文 中 の 「[非】人 称 【 代 名]詞 」の 総 数(う 指 す もの)を 整 理 す る と、次 の とお りで あ る。例 文1に つ い て は 、SE:4② 、W:4② 、 C二4(2)、TF:4(0)、 N:0(0)、 YK:0(0)、 Y O(0)、1:1(0)、F:1(0)、 MK:1(0)、 例 文2に W:6(1)、C:5② 、TF:5② SE:3(1)、 W:4(3)、 、N:1(1)、 YK:0(0)、 Y C:4(3)、 TF:3② つ い て は 、SE:6(2)、 1(1)、1:2(1)、F:1(1)、 MK:1(1)、 例 文3に 、 N:1(1)、 YK:1(1)、 つい ては、 Y 1(1)、1:1(1)、 F:1(1)、 MK:1(1)、 で あ る。 す な わ ち 、仏 語 と英 語 に お い て は 、 「【 非1人 称[代 名]詞 」 は 明 示 され 、 内容 的 に は 、原 典 の仏 語 に あ る も の を 、 英 訳 に お い て は 、 お お む ね そ の ま ま 英 語 に置 き 換 え て い る こ とに な る。 た だ し、 第4節 お い て 指 摘 した よ うに 、例 文1に る。 原 典 な らび にWとCに お い て 、TFは の分 析 に 「人 称 代 名 詞 」で は な く 「 非 人 称 代 名詞 」 に 変 換 して い お いて、 「 見 て い る主 体 」の 「 視 点」 は 、 「 語 っ て い る(回 想 して い る)主 体 」 と して の私 か ら、 一 時 的 に 、 これ ら不特 定 の人[々 】 へ と移 動 す る 。 一 方 、 ㎜ られ な い 。邦 訳 に お い て は 、1、F、 MKに において は、その移動 は見 おいてそれ ぞれ一箇所ず つ出現す る 「 非 人 称 代 名詞 」 を 除 き 、 「【 非1人 称[代名 】 詞 」 は 出 現 して い な い。 した が って 、 文 脈 か ら判 断 す る ほ か な い が 、 「見 て い る主 体 」 の視 点 」 は 、 「 語 っ て い る(回 想 して い る)主 体 」 と して の 私 か ら、 これ ら不 特 定 の 人 【々】へ と移 動 して い る と考 え られ る。同様 に 、例 文2に 邦 訳 は 、 例 文1同 名 詞 」 は 、YKが0、 お い て は 、英 訳 はす べ て 、原 典 同様 、 「 人 称 代 名詞 」を 用 い て い る。 様、 「 主体 」 は 明示 され な い箇 所 の ほ うが 多 く、 うち不 特 定 の 人[々 】を 指 す 「 人称 代 ほ か5名 は1と い う数 で あ る。 これ もま た 、文 脈 か ら判 断 せ ざ るえ を得 な い。 例 文 2に お い て は 、 す べ て の 英 訳 、 邦 訳 につ い て(邦 訳 につ い て は 程 度 の差 が 見 られ る が)、 「見 て い る主 体 」 の 「 視 点」 は 、 「 語 って い る(回 想 して い る)主 体 」 と して の私 か ら、 一 時 的 に 、不 特 定 の 人[々 】 へ と移 動 して い る と考 え られ る。 例 文3に お い て は 、 や や 異 例 的 で あ る。 原 典 に お け る 「[非】人 称[代 名 】詞 」 の総 数 と、うち不特 定 の 人[々1を 指 す もの の 数 が 、英 訳 で は 両者 と も に増 加 傾 向が 高 く、邦 訳 に お い て は 、 6者 とも に 大 き く減 少 し、 全 員 が 同数 の1(1)と な っ て い る。 まず 、英 訳 につ い て は 、原 典 にお い て 「 非 人 称 代 名詞 」 で あ る もの を 、 「 不 特 定 の人 【々】 に変 換 して い る箇 所 が多 い こ とが特 徴 的 で あ る。 分 析 の 中 で 述 べ た よ うに、 文 例(3)の1つ 目の"11"に つ い て は 、少 な く と も 、TF訳 とY訳(Y訳 訳 で あ る が)に お い て 、 「 視 点」 の 移 動 が され て い る と考 え得 る。 さ らに 、"le monde"に 118 は 無 論 、邦 つ い て は 、英 訳 に お い て 人 を指 す 名 詞 へ の転 換 が 顕 著 で あ る。2つ め の"11"に つ い て も、W訳 とC訳 で は 、人 称 代 名詞 に 転 換 され て お り、 同 様 の傾 向 が 見 られ る。 これ はす な わ ち 、 仏 語 よ り英 語 の ほ うが 、 人 を 主 語 に据 え る傾 向 が あ る と考 え て よい の か も しれ な い 。 本 稿 に お い て は 、 事 例 を3つ 挙 げ た の み で あ るが 、作 品 全 体 か ら、 こ の傾 向 を垣 間 見 る こ とが で き る。 一 方 、 邦 訳 につ い て は 、 統 語 上 の 主 語 の 大 半 が訳 出 され て い な い た め、 上 述 の よ うな数 値 と な る。 「 視 点 」 に つ い て は 、 分 析 に お い て 述 べ た よ うに 、TF訳 とY訳 では、 「 語 っ て い る主 体 」 に移 動 した と も考 え られ る し、 あ る い は ま た 、 引 用 箇 所 全 体 の 「 視 点」 が 「 語 っ て い る主 体 」 に あ り移 動 して い な い と も考 え得 る。 以 上 、 「俳]人 称 【 代 名 】詞 」 と 「 時 制 」、 そ して 「 話 法 」 の 観 点か ら分 析 した と こ ろ 、 次 の よ うな こ とが 言 え る。 まず 、 「[非】人 称[代渚1詞 」 を 辿 っ て い く と、仏 語 の 一 人 称 物 語 に お け る 「 見 て い る 主体 」 の 「 視 点」は 、 「 語 っ て い る主 体 」 と して の 私 か ら、不 特 定 の人 【々】へ と移 動 す る場 合 が 多 く見 られ る。 同 作 品 の 英 訳 にお い て は 、そ の 「 視 点」の 移 動 の様 態 が維持 され る場 合 と され な い 場 合 とに 二 文 され た 。 邦 訳 にお い て は 、 そ の 「 視 点」 の維持 度 は か な り高 い。 ま た 、 「 時 制 」 を分 析 した と ころ 、 仏 語 の 一 人 称 物 語 にお け る 「 語 っ て い る主 体 」 の発 話 時 点 は 、例 文1と 例 文2に 例 文3に お い て は 、原 則 的 に 不 動 で あ るが 、 お い て は移 動 が 見 られ る。 同作 品 の 英 訳 に お い て は 、例 文1に お い て は 維 持 され 、 仏 語 の複 合 過 去 形 に対 応 す る形 と して 、 現 在 完 了 形 と過 去 形 とい う異 な る形 が 出 現 し、発 話 時 点 は移 動 して い る と 考 え られ る。邦 訳 にお い て は 、一 見 、す べ て仏 語 と 同 じ過 去 時制 の よ うに見 え るが 、例 文2に お いては、 厳密 には、文 末に、 「 語 っ て い る主 体 」 の存 在 とそ の発 話 時 点 が 現 在 で あ る こ と を示 す 末 尾 辞 を伴 っ て い る。 これ に よ り、 「 語 っ て い る主 体 」 の発 話 時 点は 、大 胆 に移 動 を な して い る こ とが わ か る。 そ して 、 「 話 法 」 の 様 態 か らは 、仏 語 の一 人 称 物 語 に お い て は 、 「自由 間接 話 法(FIS)」 の 語 り手 に よ る伝 達(NRSA)」 か 、 あ るい は ま た 「 発話 行為 か 、 見 極 めが 困難 な も の が 多 か っ た 。 した が っ て 、 本 稿 に お い て は 、 こ れ ら二 つ の様 態 を併 記 す る 形 を取 っ た 。 英 訳 な らび に 邦 訳 の 大 半 が 、 同 様 に 二 つ の様 態 の性 質 を備 え て い た 。 た だ し、例 文1に お い て は 、英 訳 の 冊 る様 態 を 取 っ て い た 。 また 、例 文2に は 、 明 らか に 「 発 話 行 為 の語 り手 に よ る伝 達 」 と見 られ お い て は 、英 訳 のWが 「 直 接 話 法 」 を 、 邦 訳 のYKが 「 発話 行為 の 語 り手 に よ る伝 達 」 と 「 直 接 話 法 」 とを選 択 して い た 。3.4.1の 英 語 にお け る 「 発 話 の表 出 」 の 項 で 見 た よ うに 、 「 発 話 行 為 の語 り手 に よ る伝 達 」 は 、基 準 よ り三 段 階左 側 、す な わ ち、 語 り手 に よ る支 配 が 高 い 。 一 方 、 「自由 間 接 思考 」 は 、 基 準 よ り一 段 階 左側 、 す な わ ち 、 語 り手 に よ る支 配 が よ り低 い もの で あ る。 さ らに 、 「直接 話 法 」 は 、 基 準 で あ り、 よ り語 り手 に よ る 支 配 が 減 少 す る もの で あ る。 した が っ て 、 一部 の英訳 には 、語 り手 の 支 配 に委 ね る 「 発 話 表 出 」 の様 態 を選 択 す る傾 向 が あ り、 一 部 の 邦 訳 に は 、 語 り手 の 支 配 を逃 れ 、 読 者 に 直 接 的 に話 しか け る 「 発 話 表 出 」 の様 態 を選 択 す る傾 向 が あ る と考 え られ る。例 文3に お い て は 、基 本 的 に は 、原 典 と英 訳 な らび に 邦 訳 に お い て 、 「 視 点」 は 「 体 験 して い る主 体 」 に 固 定 され て い る と考 えれ ば よい 。 た だ し、TFとYと 体」 への は、 「 体 験 して い る主 体 」 か ら 「 語 って い る主 「 視 点 」 の移 動 を お こ な っ て い る と考 え得 る。 あ る い は ま た 、 す べ て 「 語 っ て い る主 体 」 の 視 点 か ら語 られ て い る も の の 、 引用 箇 所 前 後 の 全4文 は 「 歴 史 的 現 在 」 と して の 現 在 形 が用 い られ た と考 え る こ と も可 能 で あ る。 ま た 、 話 法 は 、 原 典 と英 訳 な らび に 邦 訳 にお い て 、F皿 え て よい で あ ろ う。 た だ し、や は り、TFとYと が 用 い られ て い る と考 は 、叙 述 文 で あ る色 合 い が 濃 い 。 例 文3に つい ては、 総 合 的 に判 断 す る に 、 原 典 に お け る 「 視 点 」 の 移 動 が な い状 態 が 、 翻 訳 にお い て 維 持 され 、 話 法 も維 持 119 五θ」%漉 乃 盟oθ とそ の英 日訳 にお け る 「 視点」 の考察 され てい る と考 え るのが妥 当で あろ う。 6.お わ りに 本稿 では、原 点 と翻 訳作 品 にお ける 「 視 点」の所在 とその移動 の しかた につ いて、 「 視 点」 とい う概 念 の検分 か ら始め、 「 視 点」の周辺 にあ るい くつ かの概 念 につ いて概観 した。 そ して、特定 の物 語 とその翻 訳作 品か ら例証 し、分析 、考察 した0同 時に、英語 の三人称 物語 を対 象 とした理 論 が多 く存在す るが、 これ らは、一人称 物語 に どの よ うに適応 でき るの か、 さ らには、 日本 語の三人称 物語 や一人称物 語 につ いて はいかな る貢 献 をな し得 るのかを考 えた。適 応 し得ない と考 え られ る事象 につい ては、筆者 な りの 主 張 を打 ち出 したつ も りであ る。これ はまだ 理論 としては脆 弱であ るた め、今後の課題 としたい。また、 本稿 にお いては、 スペ ー スの関係 もあ り、例証 は二つ に留めた が、 さらに数 を増や し論証 を してい きた い。 これ も今後 の課 題で ある。 最後 に、無 論、訳 文 を特 徴づけ る要 因はほか にも多様に ある。語彙や 語句の選 択、文化 的背景 の理 解、 原作 の完成度 、原 作へ の愛着 、 トー ンの一貫性 、な ど表層 的な部分 か らよ り深層的 な部分 に至 るまで、 多岐 に亘 るで あろ う。 しか し、翻訳作業 の どの段 階にお いて も、文脈 を軽 ん じるこ とな く、語 り手 の視 点 を読み 取 り、それ を訳 文 に移行 す るこ とは肝要 であ る と考 え る。 それ は、容 易 な作業 で はないで あろ う。 なぜ な ら、文脈 を加 味 し、視 点を把握す るた めには、原典 を文学作 品 と して分析す る文学力 が要 さ れ るか らであ る。そ して 、皮 肉な ことに、そ の分析 は、必ず しも数値や 言語で 明示 され るものではない。 この ことが、文学 作品 の言 語学的分析 を偏 った ものに して きた理由 の一 つで あろ う。 さらに言 えば、そ れ を した ところで、あ る一 つの文学 作品 につ いて のみ有 用な事 実で あった り、一 人の翻駅者 につ いての み 該 当す るテーゼ であ った りす るか もしれ ない。 だが 同時に、 その蓄積 は何 らか の画期的 な発 見や 普遍 的 な結論 を生み 出す か も しれ ない。翻 訳作 業が、一語ずつ の吟 味か ら部分 や全体 の リズ ムの調 整 に至 る まで膨 大な時間 とエネル ギー を要す るの と同様 に、翻 訳分析 もま た、際限 のない もので ある。本研究 は、 翻訳実 践 と翻訳理論 を研 究す るために、有用 な もので ある と考 える。 120 【註 】 1.筆 者 は 、「 語 り」の タ イ プ に つ い て 、前 田(2004:108)に よ り普 及 した類 別 で あ る 「 一 人 称 語 り」 や ω よ る 以 下 の 類 別 を念 頭 に 置 く。た だ し、本 稿 に お い て は 、 「 三 人称 語 り」 とい う名 称 を暫 定的 に使 用す る。 「 語 り手 」 の 語 りに よ る物 語:三 人 称 小 説 (B)「 私 」の 語 りに よ る物 語:一 (C)「 映 し手 」 に よ る物 語:語 2.Morisette(1985:84)に 人 称 小説 り手 不 在 の 三 聯 」 ・ 説 よれ ば 、 「 視 点」 とい う術 語 を 最 初 に 定 義 づ け した人 物 は 、Henry 義 とは 、"post ofobservation"で あ る とい う。James自 身 も、"the analogy between Jamesで あ り、 そ の 定 the art ofthe painter andthe art of the n(Mehst is, so far as I am able to see,00mplete."(1884:149,)と 指 摘 して い る。Walesも とは 、 絵 画 理 論 か らの 類 推 に よ る と し、 物 語 世 界 の で き ご とが語 られ る とき な どの"angle 、「 視軸 ofvision"(1989:362)を 3.σhatman(1978:151.152)の figurative through from someone's な ら、 ① 4.三 述 べ 、 芸 術 家 と小 説 家 の 方 法 の 類 似 性 を 示 す と して い る。 分 類 は 更 に 厳 密 で あ る。 ①hteral:through someone's worldview(ideology, interest-vantage(characterizing 「 人 の 目」、 ② 「 人 間 の 精 神 」、 ③ conceptual someone's system, Weltanschauung, eyes(perception)、 ② etc.),3Q transferred his general interest, profit,welfare, we皿 ・being,etc.)。換 言 す る 「 人 の 関 心 の あ る 立 場 」、 とい うこ とに な る。 人 称 物 語 の場 合 。 一 人称 物 語 の 場 合 は 、 「 視 点 を担 う主 体 」 と 「 物 語 る声 を発 す る主 体 」 とが 同一 。 ま た 、い ず れ の 語 りの タ イ プ に お い て も 、 「 視 点 を担 う主 体 」 と 「 物 語 る声 を発 す る主 体 」 と は 、 イ ラス トに示 した 時 点 か ら 他 方 へ と移 動 可 能 で あ る。 5.ド イ ツ語 で は 「 体 験 話 法(erlebte in曲 ㏄t direkte 6,こ speech)」)、 Rede)」 こで 言 う に よる の 7.発 Rede)」 、英 語 で は 「 描 出話 法(represented フ ラ ン ス語 で は 「自 由 間 接 話 法(style と 呼 ぶ の が 通 例 で あ る(:: indirect speech)」 あ る い は 「 自 由 間 接 話(free libre)」 、 「 擬 似 直 接 話 法(Uneigengliche :316-359)。 「主 語 」 と は 、 統 語 上 の そ れ を 指 す 。 ご く 簡 潔 に 述 べ る と 、 三 上 章 に よ る 「主 語 論 理 批 判 」、 柳 父 章 に よ る 「主 語 懐 疑 論 」、 そ し て 、 金 谷 武 洋 に よ る 「主 語 不 要 論 」 の う ち 、 筆 者 は こ 「 主 語 不 要論 」 に 賛 同す る も の で あ る。 話 の 表 出 」 の4種 類 を 例 文 に よ り変 換 す る と 、 次 の よ うに な る 。 一 つ のDSに 数 の 形 に 変 換 さ れ る こ と が 可 能 で あ り、 逆 に 、 一 つ のIS、 FIS、 NRSAに 対 し て 、 IS、 FIS、 対 し て 、 複 数 のDSの こ と も可 能 で あ る。 DS:He said,皿come back here to see you again IS 1:He said that he would return there IS2:He said that he would return to the hospital FIS 1:He said I'llcome FIS2:`1'll come FIS3:r皿oome 8.「 「 主 語 不 要 論 」、 西 田 幾 多 郎 back back here ba(:k here N圏A1:He promisedto NRSA2:He promised 思 考 の 表 出 」 の4種 here tomorrow.' to see her the to see you to see you again to see you again again following to see her the day. following tomorrow. tomorrow.' tomorrow. return. to visit her again. 類 を例 文 に よ り変 換 す る と、 次 の よ うに な る。 121 day. NRSAは 複 形 に 変 換 され る 掬 」 施 漉 ・Princeと そ の英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 FDT Does DT she stilllove me? He wondered,`Does FIT she stilllove me?' Did she sti皿love him? IT He wondered NRTA:He if she sbmoved wondered 9.FISlF皿 him. about her love for him. の特 徴 や そ れ ら と 「 視 点」の 所 在 との 関 連 性 につ い て 、本 稿 に お い て は 、誌 面 の 都 合 上 、詳 述 しな い が 、 筆 者 に よ る修 士 論 文(2007)を 10.本 稿 に お い て 記 述す る3つ 11.例 文3を 含 むchapter (2007)を 参 照 され た い 。 の例 文 な らび に分 析 に つ い て は 、 筆 者 に よ る修 士 論 文(2007)も VIが 参 照 され た い。 、 「 語 り」 の様 態 にお い て 特徴 的 で あ る こ と につ い て の 詳 述 は 、 筆 者 に よ る 修 士 論 文 参 照 され た い。 【参 考 文 献 】 :: , 】M曲ai1 ]Mikhailovich. Mimleapo】 Chatman, お:University S.1978. Story University Fj皿more, 1984. and .Pm,blems of Minnesota of 1〕厳)狸 ワ噸5 伽 血s. Fiction and Ed. by Caryl Emerson・ Press. Discourse:Narrative Structures m Film. New York Cornell Press. C. J.1981."Pragmatics and the description of Discs)urne.:AChapter in Stylistics."English Studies 20: 97-107. Freeman, D G 1970.加 Genette, Gerard.1980. 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Harlow Longman. 123 Le Petit Princeと そ の 英 日訳 に お け る 「視 点 」 の 考 察 124 日本語 における無生物 主語を伴う他動詞 表現 一 An Analysis 『ヰ タ ・セ クス ア リス 』を 中 心 に-- of Jap anese Transitive ACase E琴pressions Study of 松 本 裕介 Vta with Inanimate Agents: Sexualis Yusuke Matsumoto 義塾大学政策 ・ メディア研究科 慶應 Graduate School of Media and Governance, Keio University The expressions purpose are linguistics. which inanimate with animate created 【キ-ワ 1.無 4.メ paper is inanimate data I have nearly a results I have agents by consideration;and(3)it was this to find agents examined thousand in out the conditions Japanese include examples Mori of under within Ogai's Japanese the Vita which transitive framework Sexualis of and transitive cognitive my corpus expressions with agents. The with used The contains of under 0bta血ed metaphor is not the influence are or the followi皿g:(1)inanimate metonymy;(2)levels necessarily of European the case of transitivity that hterature the construction translated血to agents must under are be associated taken into consideration Japanese. ー ド】 生 物 主 語(inanimate ト ニ ミ ー-(metonymy)5.名 agents)2.他 動 詞(transitive 詞 句 階 層(Silverstein 125 verbs)3。 hierarchy)6.構 メ タ フ ァ ー一(metaphor) 文(construction) 日本 語 に お け る 無 生 物 主 語 を 伴 う他 動 詞 表 現一 『ヰ タ ・ セ ク スア リ ス』 を 中心 に一 1.は じめに 無 生 物 主 語 とい う文 法 用 語 は 、今 や 頻繁 に使 われ て い る。こ の一 方 、特 に 日本 語他 動 詞 表 現 に お け る無 生 物 主 語 につ い て は未 だ 研 究 途 上 で あ る。本稿 は 、これ に 関 して 、森 鴎外 に よ る 『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス 』 を言 語 資 料 と し、そ の 使 用 状 況 を分 析 す る こ とを 主 た る 目的 と して い る。 2.理 論 的 基盤 無 生 物 主 語 の 最 も典 型 的 な捉 え方 は 、Lakoff(1980)の よ うに擬 人化 メ タ フ ァー の 一 貫 とす る も の で あ る と思 わ れ るが 、決 して それ だ け で 割 り切れ る もの で は な い 。ひ とた び 実 際 の 使 用 例 に 目を 向 けれ ば 、様 々 なバ リエ ー シ ョン が あ る こ とに気 付 か され る。以 下で は 、それ ら を概 観 しつ つ 、 理 論 的 基盤 を 簡 単 に検 討 した い 。 2.1無 生 物 主語 の 諸 相 例 え ば 、 以 下 の 場 合 は ど うだ ろ うか 。 (1)東 京 を直 撃 した 地 震 が会 場 を襲 い 、一 時騒 然 とな りま した。 (2)彼 女 の 言 葉 は国 民 全 体 の不 安 感 を代 弁 して い る。 (3)漂 白剤 の塩 素 が た ん ぱ く質 を溶 か した。 これ らはTVに お い て ナ レー シ ョン の形 で 発 話 され た もの で あ る。無 生物 主語 と聞 い て 多 く の人 が連 想 す るの は 、(1)の類 で は な い か と思 わ れ る。確 か に(1)な らば地 震 を 生物 化 して い る と捉 え る の が 自然 だ ろ う。 だ が 、(2)の場 合 に は 、 「 言 葉 」 よ りもむ しろ 「 彼女」が 「 代 弁 して い る」 い る は ず で あ る。 これ は 、(1)の よ うに 自然 現 象 で あ る地 震 を生 物 の領 域 へ と写 像 す る も の とは 異 な り、 同 一領 域 内 で の 焦 点 の移 動 で あ る。 つ ま り、 「 言葉」 は 「 彼 女 」 に対 して の メ トニ ミー と 捉 え られ る。(3)は 生物 化 メ タ フ ァー とも メ トニ ミー と も異 な り、 よ り抽 象 的 な因 果 関係 を 表 現 して い る もの で あ る。 無 生 物 主 語 を伴 う他 動 詞 表 現 は、 大 まか に この3種 へ と分 類 す る こ とが で き る(後 に扱 うが 、 も ち ろん この3種 以 外 の もの も あ る)。 こ こで 三 点補 足 した い 。第 一 に、何 の 断 りも無 い場 合 、本 稿 にお け る 「 無 生物 主 語 」 は動 詞 の 動 作 主 の こ とを 、「 他 動 詞 」は ヲ格 を伴 う動詞 を指 して い る。 よ り抽 象 的 に言 えば 、 「XガYヲV スル 」、 「YヲVス ルX」(名 詞 句)と い う形 式 にお いて 、Xが 無 生物 で あ る場 合 を 取 り扱 う とい う こ とで あ る。厳 密 な主 語 論 、他 動 詞 論 の構 築 を 目的 と して はい な い た め 、これ らの領 域 には 徒 に 立 ち 入 らな い 。第 二 に、筆 者 は 基 本 的 には 作 例 で は な く、実 際 の使 用 例 を用 い て議 論 を進 め る。 これ は 、 この種 の表 現 が広 範 に用 い られ て い る とい う事 実 を重 視 す るた め で あ る。 しか し、現 状 で は 、 この よ うな研 究 の 助 け とな る 日本 語 コー パ ス が 十 分 に準 備 され て い る とは言 い難 い た め 、 TVやWEB、 書 籍 や 会 話 な どか ら筆 者 自身 が集 め た例 文 をデ ー タベ ー ス化 した ミニ コー パ ス を 分 析 に 用 い て い る。 この た め、デ ー タが 偏 っ て い る こ とは 否 定 で き ない 。 とは い え、本稿 執 筆 時 点 で844例(46例 の 古 典 語 を含 む)に 達 してお り、 あ る程 度 の 客観 性 は確 保 で きて い る ので は 126 な い か と思 わ れ る。 これ らの点 を 付 け加 え て お く。 2.2メ トニ ミー に つ い て の よ り詳 細 な 検 討 メ トニ ミー と い う語 は 色 々 な 文 脈 で 用 い ら れ て い る 。混 乱 を 避 け る た め 、 こ こ で メ トニ ミー に つ い て 整 理 を行 い た い 。 ま ず 、 佐 藤(1992)は 以 下 の よ う に 述 べ て い る。 お お ざ っ ぱ に単 純 化 して 言 うな ら、隠 喩 が 類 似 性 に も とつ く比 喩 で あ っ た の に 対 して 、《換 喩》 とは 、 ふ た つ の も の ご との 隣接 性 に も とつ く比 喩 で あ る。換 喩 に該 当 す る ヨー ロ ッパ 語 は メ トニ ミー(メ トニ ミー)一 か た か な で は仏 語 ・英語 同 形 とな る一 。(佐 藤1992:140) 加 え て 、 隣 接 性 に 対 して 、 以 下 の よ うに も 述 べ て い る。 た だ し、 隣 接 性 とい う概 念 は 、 か な り広 い 意 味 に 、 ほ とん ど縁 故 とい う程 度 に 広 い 意 味 あい に理 解 しな け れ ば な らな い 。(佐 藤1992:155) こ の 隣接 性 は 近接 性 と も言 わ れ る概 念 で あ る。こ こで 注 意 しな けれ ば な らな い の は 、広 い意 味 で の 隣接 性 に 基 づ く もの を全 て メ トニ ミー と称 して しま うこ とに は 問題 が あ る とい う こ とで あ る。 例 え ば 、谷 口(1993)の よ うに 、 因 果 関係 や 種 と類 を含 む 部 分 ・ 全 体 関係 を近 接 性 と捉 え る見 方 も あ る が 、 これ で は メ トニ ミー で な い もの を探 す 方 が 困難 に な っ て しま う(種と類 を近 接 関係 と 見倣 す こ とに は 無 理 が あ ろ う)。これ を避 け るた め、本 稿 にお い て は 大 堀(2002)に 倣い、 「 単一 の概 念 領 域 の 中 で 、プ ロ フ ァイル が移 行 す る こ と に よ って 成 り立 つ 捉 え方 」が 反 映 して い る表 現 を メ トニ ミー と呼 ぶ こ と にす る。な お 、メ トニ ミー の作 用 領 域 に 関 して は 、他 動 詞 の動 作 主 と し て の 主 語 のみ に 限 定す る。 これ は 、 例 え ば 、 「 彼 女 の言 葉 は 国 民全 体 の 不 安感 を代 弁 して い る」 とい う一 文 全 体 で どの よ うな 意 味 を表 してい るか とな る と、い か よ うに で も理 解 で き る こ とに な っ て しまい 、 際 限 が 無 くな るた めで あ る。 2.3無 生 物 主 語 を め ぐる 先 行 研 究 "Silverstein Silversteinに Hierarchy"に 関 連 した 角 田(1991)の 考 察 に つ い て 述 べ た い 。 角 田(1991)は よ る 、 動 作 者 へ の な りや す さ 、 対 象 へ の な りや す さ の 度 合 い に 関 す る 階 層 を 用 い て無 生 物 主 語 他 動 詞 表 現 を分 析 して い る。 以 下 が そ の 階 層 で あ る。 (代名詞) 1人 称 2人 称 (名詞) 3人 称 親族名詞 人間名詞 動物名詞 無生物名詞 左 に あ る も の ほ ど動 作 者 に な りや す く、右 に あ る ほ ど対 象 とな りや す い とい う。なお 、無 生 物 127 日本 語 にお け る 無 生物 主語 を 伴 う他 動詞 表 現一 『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス 』 を 中心 に- 名 詞 を 角 田(1991)は 、 自然 の 力 の 名 詞 と抽 象 名 詞 、地 名 へ と分 類 し て い る(自 然 の 力 の 名 詞 の ほ うが 階 層 上 は 左 側 と し て 分 類 し て い る)。 角 田(1991:48)は 、 日本 語 に お け る 無 生 物 主 語 他 動 詞 表 現 の 全 て が 不 自然 、 翻 訳 調 で あ る わ け で は な く 、 階 層 上 の 概 念 に お い て 動 作 が 下 位(右 側)か ら 上 位(左 側)へ と向 か っ た 場 合 に は 不 自 然 と な り う る が 、 上 位 か ら 下 位 へ と 向 か っ た 場 合 に は そ うで は な い 、 と 述 べ て い る 。 角 田 (1991)に よ れ ば 、 以 下 の(4)、(5)の よ うな 表 現 は 自 然 、(6)、(7)の と に な る(便 よ うな 表 現 は 不 自 然 と い う こ 宜 上 、?マ ー ク を 付 与 した)。 (4)台 風 が 家 屋 を壊 した 。(角 田1991:48) (5)雷 が 携 帯 電 話 の 電 子 回 路 を 壊 して し ま っ た よ う で す 。 (6)?風 が 私 の 心 を 悲 し ま せ る 。(金 田 一1981:209) (7)?何 が 彼 女 を そ う さ せ た か?(金 田 一1981:209) こ こ で 「自然 で あ る」 とは い か な る こ とか検 討 して お き た い 。 これ は 、換 言 す れ ば 、 ど の レベ ル の容 認 性 に 問題 が生 じ るの か とい うこ とで あ る。(4)∼(7)を 比 較検 討 した と き、 文 法 的 に も意 味 的 に も全 て適 格 で容 認 可能 で あ る。 とな る と、談 話 、場 面 、文 体 とい った コ ンテ ク ス トが 関連 す る解 釈 可能 性 の 問題 とい うこ とに な る。確 か に 、何 の意 図 も持 た な い無 生 物 が 生物 に影 響 を及 ぼす よ うな 動 作 を す る こ とは 通 常 あ りえ ない 。無 生物 を動 作 主 と して捉 え るの が 日常 的 、一般 的 で な い こ とは 事 実 で あ ろ う。余 程 特殊 な コ ンテ クス トで な い 限 り、 日常 会 話 に お い て無 生物 主 語 が 生 物 主 語 よ り好 まれ る とい うこ とも無 い。 これ は 、小 説 等 にお い て も同 様 で あ る。 しか し、先 に も述 べ た よ うに 、(6)や(7)が意 味 的 に理 解 不 可 能 だ とい う こ とは決 して な い。 事 実 、 以 下 の よ うに角 田(1991)の 基 準 に照 らせ ば不 自然 とな る も の も広 く用 い られ て い る。 (8)バ ラの 香 りが多 くの 人 を 引 きつ け る。 (9)こ の不 運 が こ の後 ロバ ー トを追 い詰 め る。 (10)利 章 の密 書 は た だ 忠之 主従 を驚 き あ きれ させ た ば か りで は な い。(森 鴎 外 『栗 山 大膳 』 よ り) そ もそ も 、実 際 に何 の 問題 もな く使 用 され て い る表 現 を(そ れ も活 字 媒 体 のみ な らず 、ナ レー シ ョン な どの形 に お い て さ え も)、不 自然 で あ る と認 定 す る こ と に どれ ほ どの価 値 が あ るの だ ろ うか 。筆 者 は 、 この よ うな こ と に は価 値 が 無 い と考 え る。そ うで は な く 、他 動 詞 が 無 生 物 主 語 を 取 る場 合 に は どの よ うな 見 方 が反 映 され て い るの か を考 え る こ との 方 が 、 よ り生 産 的 で あ ろ う。 3.『ヰ タ・ セクスア リス』にお ける使 用 これ まで の 議 論 を踏 ま えた 上 で 、実 際 に表 現 を 分析 して み た い 。言 語 資 料 と して は 、先 に も述 べ た よ うに、 森 鴎 外 の 『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス』 を用 い る。 これ は 、森 鴎外 の 文体 が 現 代 日本 語 に 与 え た影 響 の大 き さを鑑 み て の こ とで あ る。ま た 、青 空 文 庫 に て公 開 され て お り、誰 で も再 検 証 128 可 能 で あ る とい う利 便性 も考 慮 に入 れ て い る。な お 、本 稿 は 文 学 論や 文 体 論 を打 ち立 て る こ とを 目的 と して は い な い た め 、 この 点 に 関 して の詳 述 は避 け る とい うこ とを 予 め 断 っ て お く。 『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス 』 で は、 合 計 で29例 の無 生物 主語 を伴 う他 動 詞 表 現 を含 ん だ文 が 用 い られ て い た 。 これ を 多 い と見 るか 少 な い と見 る か で は意 見 が分 かれ る と思 われ るが 、 『徒 然 草 』 で は6例 、『お くの ほ そ道 』 で は俳 句 を含 めて8例 で あ る こ と、 『好 色 一 代 男 』 な どで は全 く使 われ て い な い こ とな ど を考 え る と、多 い と見 る のが 妥 当で あ ろ う。文 語 体 と口語 体 の端 境 期 にお い て 、人 々 に広 く受 け入 れ られ て い た森 鴎 外 の 作 品 で これ だ け用 い られ てお り、な お か つ 、そ れ が 現 代 に も伝 わ っ て い る こ とは興 味深 い。た だ し、古 典 で 全 く使 わ れ て い な い とい うこ とは な く、 漢 文 脈 の 文 章 や 和 歌 、俳 句 にお い て は多 くの使 用 例 が あ る 点 に は 注 意す べ きで あ る(確 証 は無 い が 、こ こに は 、か つ て教 養 と され て い た 漢詩 で 度 々使 用 され て いた 山 な どの 自然 物 を主 語 と した 生 物化 メ タ フ ァー の 影 響 が 潜 ん で い る の で は な い か と思 われ る)。 3.1生 物 化 メタファ以 下 で は 、明 らか に 生 物化 メ タ フ ァー と解 す る こ とので き る も の を取 り扱 う。な お 、 ここ で の 生 物 化 メ タ フ ァー とは、一 般 に言 う擬i人化 とほ ぼ 同等 で あ る。本 稿 にお い て生 物 化 とい う術 語 を 用 い る の は理 由が あ る。端 的 に言 え ば 、意 図 を持 っ て他 者 に影 響 を及 ぼ す とい う、他 動 詞 の プ ロ トタイ プ的 な行 為 者 に は 人 間 の み な らず 動 物 な ど もな り うるか らで あ る。 とは い え 、 「 生 物 とは 何 か?」 と問 い 始 め る と、そ の定 義 に は極 め て 大 き な 困難 が あ る こ と に気 付 か され る。 これ は 、 生 物 と無 生 物 の 中 間領 域 に 隔 た る 「 遺 体 」な どに つ い て 考 えて み て も分 か る。確 か に科 学 的 に は 死 ん でお り、現 実 的 には 動 作 主 に な りえ な い無 生 物 だ と して も、無 生 物 と簡 単 に割 り切 る こ とは で き な い。 む しろ、 我 々 は 、 どち らか とい え ば 生 物 に近 い もの と して 扱 って い る。 こ の 「 遺体」 は こ こ で の分 析 と は 直接 的 に は 関係 しな い が 、筆 者 が主 張 した い の は 、つ ま る と こ ろ、生 物 か無 生 物 か の判 断 に は様 々 な複 合 的 な 要 因 が 関連 して お り、絶 対 的 な基 準 を設 け る こ とは 不 可能 だ と い う こ とで あ る。 この た め、生 物 性 にか か る 問題 は 、い き お い 、筆者 自身 と身 近 な 協 力 者 達(日 本 語 を母 語 とす る大 学 生)の 主観 に基 づ くこ とに な らざ る を得 な い。 この 点 に関 して 、予 め 断 っ て お く。 明 らか な生 物 化 メ タ フ ァ ー は2例 用 い られ て い た。 (11)そ の縁 の 、杉 菜 の 生 えて い る砂 地 に、 植 込 の高 い 木 が 、少 し西 へ い ざ っ た影 を落 と して い る。 (12)そ うして 見 る と、 月 経 の 血 が 戸 惑 を して 鼻 か ら 出 る こ と もあ る よ うに 、 性 欲 が絵 画 に な っ た り、 彫 刻 に な っ た り、音 楽 に な った り、小 説 脚 本 に な っ た りす る とい うこ と に な る。 (11)の 「 木 」 は 生物 か 無 生 物 か分 類 しづ らい も の で あ るが 、 「 木 が い る」 とは通 常 で は 言 わ な い こ と を踏 ま え(こ の判 定 基 準 に は 異 論 も あ るか も しれ な い)、無 生 物 と見倣 した。(12)は決 して 典 型 的 な他 動 詞 的 な表 現 とは言 え な い。形 式 的 には ヲ格 を伴 っ て い る他 動 詞 表 現 と見 る こ と もで き るが 、 こ こで の 「 月経 の 血 」 は 「 戸 惑」 に対 して 何 ら影 響 を及 ぼ して お らず 、極 め て他 動 性 が低 129 日本 語 に お け る無 生 物 主 語 を伴 う他 動 詞 表 現-『 ヰ タ ・ セ ク ス ア リス』 を 中 心 に一 い 。 も し、 「 戸 惑 った 月 経 の血 が 鼻 か ら飛 び 出 して辺 りを汚 した 」 の よ うな もの で あれ ば 他 動 性 も高 い が 、通 常 の現 代 日本 語 で は 「 月 経 の 血 が 戸 惑 って 鼻 か ら出 る」 と 自動 詞 的 に表 現 す る こ と に な ろ う。 しか し、 「 戸 惑 をす る」 と 「 飛 び 出す 」 い う表 現 が あ る ゆ え に 「 月経の血」が生物化 され て い る と捉 え られ る とい うこ とは 注 目 に値 す る(特 に 、 「 戸 惑 をす る」 の は通 常 な らば 意 図 を持 っ た 生物 の み で あ る)。 これ と関連 して 、 以 下 の よ うな も の あ る。 (13)児 島 の 性 欲 の 獣 は眠 って い る。 古賀 の獣 は縛 っ て あ る が 、 お りお り縛 を解 い て暴 れ る の で あ る。 これ は無 生 物 主語 を伴 う表 現 で は な い。 しか し、こ こで 用 い られ て い る 「 性 欲 は 動 物(=生 物)で あ る」 とい う概 念 メ タ フ ァー を応 用 し、 「 古賀 の性 欲 は縛 って あ るが … …」 と続 け た場 合 は ど う だ ろ うか。 「 縛 っ て あ る」 と生物 性 を暗 示 す る修 飾 語 が あ る こ とには 注 意 す べ き だ が 、 この 場 合 には、 「 性 欲 」 とい う概 念 を 表す 無 生物 主 語 が 完 全 に 生 物 と して の 価 値 を持 ち、 い か な る他 動 詞 を も許 容 す る はず で あ る。 つ ま り、(4)にお け る 「 台 風 」 の よ うに予 め慣 習 的 に 生 物 に準 ず る扱 い が 周 知 され て い る わ け で は な い無 生 物 で も 、一 度 メ タ フ ァー で 生 物 化 して しま え ば 、自 由 に他 動 詞 と結 び つ く こ とが で き る とい う こ とで あ る。 先 に述 べ た よ うに角 田(1991)は(6)を 不 自然 だ と判 定 して い た が 、 こ と に よ る と、 「 冬 風 は郷 愁 を歌 う詩 人 だ。 この風 も私 の 心 を悲 しませ る」 な ど とメ タ フ ァー を組 み 合 わ せ た 表 現 な らば 、不 自然 と判 定 しなか った ので は な いか と思 われ る。無 生 物 主 語 を考 え る 上 で は 、 コ ンテ ク ス トを十 分 に考 慮 す る必 要 が あ るの で あ る。 他 には 、以 下 の よ うな も の もあ っ た。 (14)御 殿 のお 庭 の植 込 の 間 か ら、 お池 の 水 が 小 さい堰 塞 を喩 して 流 れ 出 る溝 が あ る。 もち ろん 、 「 お 池 の 水 」 が 意 図 を持 ち うる生 物 の よ うに 「 堰 塞 を喩 す 」 と捉 え る こ と も可 能 で あ る一 方 、この 場 合 は 単 な る静 的 な情 景 描 写 の域 を 出 ない も の で あ る とも筆 者 に は 思 われ る(生 物 化 して い るか 否 か 判 断 しか ね る も の も しば しば あ る のが 実 状 で あ る)。この よ うに捉 え る と、(14) は 生物 化 メ タ フ ァー で も生 物 へ の メ トニ ミー で も な く、そ の 上 、因 果 関係 も表 さな い こ と に な り、 いわば 「 例 外 」 とな る。 現 状 で は 、 水 に 自分 自身 の視 点 を投 影 し、心 的 に 「自分 が堰 塞 を喩 す 」 こ とを 表 して い る と捉 え る のが 妥 当だ と筆 者 は考 えて い る が 、この よ うな 表 現 の 扱 い は 今 後 の課 題 で あ る。 3.2生 物 へ の メトニ ミー 以 下 で は 、 明 ら か に 生 物 へ の メ トニ ミー と解 す る こ と の で き る も の を 取 り扱 う。 な お 、 こ こ で の 生 物 へ の メ トニ ミー と は 、主 語 と な る名 詞 そ の も の で は 無 生 物 と しか 見 倣 せ な い も の の 、背 後 に 人 間 な どの 生 物 が 想 定 で き る も の を指 す 。 130 明 らか な 生 物 へ の メ トニ ミー は10例 用 い られ て い た 。全 て を 引用 す る こ とは紙 幅 の都 合 上 許 され な い た め 、3例 ほ どか いつ まん で 引用 す る。 (15)し か しそ の 問答 の意 味 よ りは 、 浬 麻 の 自在 に東 京 詞 を使 うのが 、僕 の注 意 を 引 い た。 (16)そ して彼 の飽 くま で 冷 静 な る眼 光 は 、蛇 の蛙 を覗 うよ うに 女 を覗 っ てい て 、巧 に乗 ず べ き機 会 に 乗 ず る の で あ る。 (17)僕 の書 い た もの は 多 少 の 注 意 を引 い た 。 どれ も人 間 が 明 示 され て い る こ とか ら も分 か る よ うに、 人 間 の 行 為 全 体 や そ の 一 部 を 表 す 名 詞 (名詞 句)が 他 動 詞 の 動 作 主 と して の 役 割 を果 た して い る。 角 田(1991)は 言 及 して い な い が 、 この よ うに生 物 へ の メ トニ ミー とな っ て い る場 合 に は 、そ の 生 物 が 真 の 動 作 主 で あ る と考 え る の が 妥 当で あ ろ う。 「 詞(言 葉)」 にせ よ、 「眼光 」 にせ よ、 「 書 い た もの(書 物)」 にせ よ、人 間 を離 れ て 存 在 で き る もの で は な い 。つ ま り、 無 生 物 で あ る よ うに見 え て も、生物 が 関 与 して い る以 上 、 そ の 無 生 物 が 生物 と変 わ らな い 価 値 を持 って い る の で は な い か 、 とい うこ とで あ る。 こ の種 の メ トニ ミー とな っ てい る も の は筆 者 の ミニ コー パ ス に も多 くあ る。実 際 、日常 で多 く 接 す る の も これ らで あ る。 スー パ ー マ ー ケ ッ トな どに書 かれ た 「 カ メ ラは あな た を見 て い ます 」 の ご とき 万 引 き防 止 のた め の記 述 な どは最 た る例 で あ る。メ タ フ ァー の場 合 と同様 、この メ トニ ミー も 人 間 の 基本 的 な認 知 能 力 に基 づ い た も の で あ り、至 る所 で 発 現 して い る。無 生 物 主語 を伴 う他 動 詞 表 現 を見 る際 に は 、文 脈 とい う談 話 上 の コ ンテ ク ス トのみ な らず 、認 知 的 な コ ンテ クス トも ま た 同様 に 考 慮 す べ き な の で あ る。 3.3抽 象 的 な 因 果 関 係 を 表 現 す る もの 以 下 で は 、生 物 化 メ タ フ ァ ー と も 生 物 へ の メ トニ ミ ー で も な く 、抽 象 的 な 因 果 関 係 を 表 現 して い る 事 例 を 扱 う。 これ は 、 典 型 的 に は(3)の よ うな 表 現 で あ り 、 「XガYヲVス に お い て 、 「X」 が 原 因 、 「YヲVス ル 」 と い う形 式 ル 」 が結 果 を表 して い る もの の こ とを指 す 。 抽 象 的 な 因 果 関 係 を 表 現 し て い る も の は6例 用 い られ て い た 。4例 ほ ど か い つ ま ん で 引 用 す る 。 (18)そ こで 自然 が これ に愉 快 を伴 わ せ る。 (19)僕 の物 を知 りた が る欲 は 、僕 の 目 を、た だ 真 黒 な 格 子 の 奥 の 、蝋 燭 の 光 の 覚 束 ない 辺 に注 がせ る。 (20)自 分 は少 年 の 時 か ら、 余 りに 自分 を知 り抜 い て い たの で 、そ の 悟性 が 情 熱 を萌 芽 の うち に枯 ら し て しま っ た の で あ る。 (21)女 は彼 の た め に 、 た だ 性 欲 に満 足 を 与 え る器 械 に過 ぎ な い。 これ らに共 通 して い るの は 、用 い られ る他 動 詞 の 多 くが 「 ∼ させ る」を初 め と した使 役 動詞 や 「 変 え る」 の よ うな変 化 動詞 、 そ して 、 「 与 え る」 の よ うな授 受 動 詞 な どだ とい うこ とで あ る。 これ は あ る意 味 で は 当然 の こ とで あ る。なぜ な ら、因果 関係 とは 状 態 の 変 化 を示 す も の だ か らで あ る。 131 日本 語 に お け る 無 生物 主 語 を伴 う他 動 詞 表 現 上 『ヰ タ ・ セ ク スア リ ス』 を 中心 に- な お 、(19)と(20)は 生 物 化 メ タ フ ァー や 生 物 へ の メ トニ ミー と捉 え る こ とも 不 可能 で は な い が 、 ど ち らも明 らか にそ うだ とは言 え な い。(21)の 「 器 械 」 は 生物 化 メ タ フ ァー と捉 え られ る よ うに 思 わ れ るが 、この場 合 、む しろ生 物性 を 剥 奪 して い る。よ って 、これ らを 本節 で扱 うこ と と した 。 た だ し、抽 象 的 とは い え、 こ こで の 「 欲 」も 「 悟 性 」 も人 間 を 離 れ て 存在 す る こ とが で き ない も の で あ る。 「 器 械 」 が完 全 に無 生 物 か とい うと、 そ うで は な く、 人 間 が意 図 を持 っ て 作 り出 した 以 上 、 あ る程 度 は 人 間性 が 反 映 され て い る。 これ らの扱 い に は再 考 の余 地 が あ るだ ろ う。 注 目に値 す る の は 、用 い られ て い る動 詞 で は な く、概 念 な どの 無 生 物 名詞 が 他 動 詞 の動 作 主 に な る とい うこ とで あ る。一 見 す る と、何 の実 態 も持 た な い観 念 や 動 作 を及 ぼ しえな い もの が 何 か に影 響 を及 ぼ す とい うこ とは 、普 通 で は な い。 ま た 、 日本 語 は 他 動 詞 を用 い ず とも 、「X(のせ い) でYと な る」 な どの形 式 で 因果 関係 を表 す こ とが で き る。 そ れ に も関 わ らず 、 こ の よ うな形 式 が 選 択 され て い る の で あ る。自動詞 に よ る表 現 と他 動詞 に よ る表 現 に はい か な る意 味 の差 、事 態 認 知 の差 が あ るか とい うの は興 味 深 い 問題 で あ る。これ らの解 明 に は 実験 等 を含 めた 心 理 学 的 な ア プ ロー チ も必 要 に な る た め本 稿 で は扱 い きれ な い が 、重 要 な今 後 の課 題 の 一 つ だ と思 われ る。 3.4そ の 他 『ヰ タ ・セ ク ス ア リ ス 』全 体 で 無 生 物 主 語 を 伴 う他 動 詞 表 現 が 用 い られ た の は29例 こ れ ま で に 扱 っ た の が22例 で あ る か ら 、残 り の10例 で あ った 。 は 「そ の 他 」 とい う こ と に な る 。(14)は 既 に 検 討 した た め 、 そ れ 以 外 を こ こ で は 扱 う。 こ れ ら の う ち 、7例 は 「有 す る 」 を 用 い た も の で あ っ た(こ れ ほ ど の 頻 度 で 繰 り返 し用 い られ て い る も の は 他 に 無 い)。 (22)こ の 問題 はLombrosoな ん ぞ の説 い て い る天 才 問 題 と も関係 を有 して い る。 (23)し か し恋 愛 は 、 よ しや 性 欲 と密 接 な 関 繋 を 有 して い る と して も、性 欲 と同 一 で は な い 。 (24)詞 が二 様 の意 義 を有 して い る。 ま た 、1例 は 「含 む 」 を 用 い た も の で あ っ た 。 (25)そ して こ の 瓦斯 を含 ん で い る もの を知 っ て い る か と問 うた。 「 有 す る」 も 「 含 む 」 も主 た る意 味 合 い は近 い。『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス』 で は無 生 物 主 語 と伴 っ て 用 い られ て は い な か っ た が 、 「 持 つ 」 も ほ ぼ 同様 で あ る。 どれ も 、包 含 関係(所 有 関係 と言 っ て も よか ろ う)を 表 して い る と言 え る。 通 常 、 この よ うな場 合 、 日本 語 で は 「あ る」 と 自動詞 で 表 現 す る こ と も可 能 で あ る に も 関わ らず 、 敢 えて 他 動 詞 を用 い てい る点 は面 白い。 この うち 、 「 有 す る」は 、古 典 にお い て 「 有 る」 と表 現 され て い た こ とを考 慮 す る と、 これ は翻 訳 に よっ て 生 ま れ た 動 詞 を用 い た 、 自動 詞 表 現 と他 動 詞 表 現 の箋 界 に位 置 す る事 例 と言 え る か も しれ な い。 残 りの2例 は 以 下 の通 りで あ る。 132 (26)子 供 の 時 にHydrocephalusで で もあ っ た か とい うよ うな 頭 の 娘 で 、髪 がや や 薄 く、色 が蒼 くて 、 下 瞼 が 紫 色 を帯 び て い る。 (27)傭 向い てそ の 目で僕 を 見 る と、 滑稽 を 帯 び た 愛 嬌 が あ る。 「 帯 び る」 の 意 味 合 い は、 「 有 す る」 や 「 含 む 」 と近 い包 含 関 係 で あ る。 「 有 す る」 とは異 な り、 「 梨 花 一 枝 、春 、 雨 を お び た り」(『枕 草 子 』)と い う事 例 が あ る こ とか ら、 「 帯 び る」 を無 生 物 と共 に用 い る の は、 か な り以前 か ら定着 して い た の で は な い か と思 わ れ る。 これ らの包 含 関係 を表 す 動 詞 群 に お い て 注 意 しな けれ ば な らない の は 、(12)もそ うで あ っ た が 、 形 式 的 には ヲ格 を取 っ て い て も、よ ほ ど特殊 な 文脈 で な い 限 りは 、受 身 の形 に転 換 で き な い もの も多 くあ る とい うこ とで あ る。 「 有 す る」 に対 して 「 有 され る」(尊敬 の意 味合 い で は な い)、 「 含 む 」 に対 して 「 含 ま れ る」、 「 帯 び る」 に対 して 「 帯 び られ る」(尊敬 や 可 能 の 意 味 合 い で は な い) は 存 在 し、Google検 索 で も事 例 を確 認 す る こ とが で き る も の の 、 こ こで扱 っ た 用 例 を 強 引 に 受 身 へ と転 換 し よ う とす る と、全 く意 味 合 い が 異 な って しま うか 、意 味 不 明 に な って しま う(「 紫 色 が 下 瞼 に よ っ て 帯 び られ た 」は 、筆 者 の 言 語感 覚 で は 、多 くの 日本 語 話 者 に は許 容 され ない よ うに思 え る)。そ の 要 因 は他 動性 に あ る と思 われ る0他 動 性 が 著 しく低 い動 詞 は 、仮 に ヲ格 を 取 っ て い る と して も、他 動 詞 と して扱 わ な い 方 が適 切 な の か も しれ な い 。 とな る と、本 稿 で は これ 以 上深 く立 ち入 らな い が 、 「XガYヲVス ル 」や 「YヲVス ルX」 が 持 つ構 文 的 意 味 の 解 明 な ど も 、今 後 は 必 要 に な る。 「 無生物」 も 「 他 動 詞 」 も複 雑 で多 岐 に渡 っ て い るの で あ る。 3.5ま とめ 『ヰ タ ・ セ クス ア リス 』1作 品 だ け を 分析 して も、 無 生物 主 語 を伴 う他 動 詞 表 現 の 多様 性 が 見 て 取れ る。名 詞 単 体 で は無 生物 で あ る よ うに 見 え て も メ タ フ ァー に よ って 生 物 化 され て い る も の が あ る こ と、 生 物 へ の メ トニ ミー とな る こ とで 生 物 と同 等 の扱 い を 受 けて い る も の が あ る こ と、 形 式 的 には 他 動 詞 で あ っ て も 自動 詞 に近 い もの が あ る こ とな どは 、従 来 は 見 過 ご され て き た の で は な い か と思 わ れ る。 こ こで 注 意 す べ き こ とが あ る。それ は 、無 生 物 主 語 を伴 う他 動 詞 表 現 とい う言 語 現 象 の原 因 を 、 金 田一(1981)の よ うに明 治 期 の翻 訳 へ と求 め る だ け で は 不 十 分 だ とい うこ とで あ る。事 実 、 こ れ ま で も述 べ た よ うに、 明治 以前 の 古典 作 品 に お い て も用 い られ て い る。 例 え ば、 「 嘆 け とて 月 や は 物 を思 はす る か こ ち顔 な る我 が涙 か な 」(百 人 一 首)や 「 遙 々の お もひ 胸 を い た ま しめて … ・ ・ 」(お くの ほ そ 道)な どは そ の最 た る もの で あ る。 この表 現 形 式 が 、 生 物 化 メ タ フ ァー と同様 に 漢 詩 にお い て度 々使 用 され て い る(そ の よ うに書 き下 され て い る 、 とい うこ とで あ る)こ と、 筆 者 が 見 る限 りで は 、万葉 集 を 初 め と した 現 存 す る うちで 最 古 に近 い も の にお い て は ほ とん ど用 い られ て い な い こ とを併 せ る と、も しか す る と、元 来 の 日本 語 で は 、あ る種 の言 語 の よ うに無 生 物 主 語 を許 容 しなか った か 、そ こまで 行 かず と も、極 めて 無 生 物 主 語 を伴 う他 動 詞 表現 が 稀 で あ っ た と ころ に 、そ れ が 漢 詩 な どを通 じて も た ら され 、そ の 土台 が あ っ た ゆ え に 西洋 語 か らの翻 訳 を通 して更 に爆 発 的 に広 が っ た と考 え る こ と もで き るの か も しれ な い。この よ うな こ とは 検 証 不 133 日本 語 に お け る 無 生物 主語 を 伴 う他 動 詞 表 現一 『ヰ タ ・ セ ク ス ア リス』 を 中心 に一 可 能 で あ るた め妄 想 の領 域 を 出 ない が、 「 西 洋 語 の翻 訳 に よ っ て もた ら され た 形 式 で あ る」 と断 言 で きな い の は確 か で あ る。 4.お わ りに 何 度 も繰 り返 し述 べ て きた よ うに 、 無 生 物 主 語 を伴 う他 動 詞 表 現 は 多 くの バ リエ ー シ ョン に 富 ん で い る。ま た 、不 自然 で あ る とす る先行 研 究 が あ る一 方 、古 典 か ら現 代 に至 る まで 幅 広 く用 い られ て い る とい う見過 ごせ な い 事 実 も あ る。試 み に、 日常 的 に接 す るTVや 広 告 や 雑 誌 、会 話 な どを注 意 深 く聞 い て みれ ば 、想 像 以 上 に頻 繁 に用 い られ て い る こ とに気 付 か され るは ず で あ る。 と ころ で 、本 稿 で は 『ヰタ・ セ クス ア リス』を扱 った が 、森 鴎 外 は 『舞 姫 』、『うた か た の記 』、『文 つ か い』の 雅 文 体 に よ る ドイ ツ 三部 作 に お い て も、無 生 物 主語 を伴 う他 動詞 表 現 を多 く用 いて い る。恐 らく、 日本 語 と無 生物 主語 を伴 う他 動 詞表 現 の関 係 は水 と油 で は な い の で あ る。何 の コ ン テ ク ス トもな く切 り出 され た 一 文 を見 た ら不 自然 で 許 容 で き ない か も しれ な い が 、どの よ うな 表 現 で あれ 、実 際 の使 用 状 況 を剥 ぎ取 って しま え ば 当然 で あ る。言 語 研 究 を行 う上 で は 、様 々 な コ ンテ ク ス トも加 味す る必 要 が あ る。 本 稿 で は 、抽 象 的 な 因果 関係 を表 す も の とそ の他 に つ い て は 、あ ま り立 ち 入 る こ とが で きな か っ た。 メ タ フ ァー や メ トニ ミー の観 点 か ら説 明 で き る も の とは異 な り、これ らに は 、構 文 的 な性 格 が よ り強 く反 映 され て い る よ うに思 わ れ る。も しかす る と、具 体 的 な意 味 を表 す 語 彙 が 希 薄 化 され 機 能 語 へ と変 わ っ て い く文 法化 の よ うに 、具 体 的 な意 味 を表 す 表 現 形 式 が頻 繁 な使 用 や 翻 訳 の 影 響 を受 け て抽 象 的 な構 文 へ と変化 した もの な のか も しれ ない 。 しか し現 状 で は デ ー タの 質 、 量 とも に決 して十 分 とは言 えず 、この よ うに通 時 的 な 問題 とな る と、妥 当 な議 論 を積 み 重 ね る こ とが 極 め て難 しい。今 後 は 、更 にデ ー タを 充 実 させ 、多 角 的 な検 証 が行 え る よ うな 土 台 を 作 っ て い く こ とが 不 可欠 だ ろ う。 【言 語 資 料 】 森 鴎 外1995.『 舞 姫 ヰ タ ・セ ク ス ア リス 森 鴎 外全 集1』 筑 摩 書 房. 【参 考 文 献 】 Goldberg, A.1995. Constructions:AConstruction Chicago The 池 上 嘉 彦1995.『 vecses, Z.2000. George Approach to Argument Structure. Press. く ま 学 芸 文 庫)筑 摩 書 房. 日 本 語 の 特 質 』 日 本 放 送 出 版 協 会. Cambridge Lakoff, of Chicago 〈 英 文 法 〉 を 考 え る 』(ち 金 田 一 春 彦1981.『 K University Grammar Metaph Cambridge and Mark or an d Emotion:Language, University Johnson.1980. Culture, and Body in Human Feeling Press. Metaphors We Live by. Chicago The University of Chicago Press. LKオ ブ ラー ・Kジ ュ ァ ロ ー2002,『 言 語 と脳 神 経 言 語 学 入 門 』(若 134 林茂 則 ・割 田 杏 子 訳)新 曜 社 . . 松 本 曜(編)2003,『 シ リー ズ 認 知 言語 学 入 門 松 本 裕 介2004.「 日本 語 に お け る 無 生 物 主 語 文 の 性 質 に つ い て の 研 究 」(未 発 表) 中 村 芳 久(編)2004.『 認 知 文 法 論II』 Silverstein, 高 橋 潔 レ ト リ ッ ク 感 覚 』(講 談 社 学 術 文 庫)講 in A ustralian ・根 岸 雅 史1987.『 谷 ロ ー 美2003.『 Tomasello, 認 知 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 論 』 大 修 館 書 店. Michael.1976."Hierarchy Categories M.1999. チ ャー of Features Languages. 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Univ Press 日本 語 に お け る 無 生物 主 語 を 伴 う他 動 詞 表 現-『 ヰ タ ・ セ ク ス ア リ ス』 を 中心 に一 136 『星 の 王 子 さま』にお ける発 話 表 出方 法 一 邦 訳 と日本 語 の関 係 一 Representations The Relation between of Speech血.乙 Jap anese 佐伯 祥 太 θ、 飽 が`肋 Translations Shota and αg: Jap anese Saiki 義塾大学総合政 策学部 慶應 Faculty of Policy Management, Keio University This paper examines the representationsof speech in Le Petit Prince and its English and Japanese translations.Ihave analyzedthe data based on the theoryproposed by Leech and Short,focusingon the use ofNRSA(narrative reportof speech act),DS(direct speech),FDS(fee translations DS and prefer the use of NRSA FDS more characteristics 【キ-ワ 1.発 directspeech),and IS(indirectspeech). It isfound that the English frequently. of English and and IS, whereas It is claimed Japanese, the Japanese that the differences translations are deeply tend to use rooted in the respectively. ー ド】 話 表 出 方 法(meth0d 接 話 法 (narrative 価ee direct report of speech speech)4.間 of speech representation)2.直 接 話 法(indirect acts) 137 接 話 法(direct speech)5。 speech)3.自 由 直 発 話 行 為 の 語 り手 に よ る 伝 達 『星 の王 子 さ ま』 にお け る発 話 表 出 方法-邦 訳 と 日本 語 の 関係- 1.は じめ に 本 稿 の 目的 は 、 フ ラ ンス 語 を原 典 とす る 『星 の 王 子 さま 』 の3つ の 英 訳 と3つ の 邦 訳 を比 較 す る こ とに よっ て 、 邦訳 の 特 徴 につ い て 考 察 す る こ とで あ る。 『星 の王 子 さま』 の 大 半 を構 成 し て い る の は 、登 場 人物 の発 話 で あ る。今 回 は 、 リー チ とシ ョー トの発 話 表 出 理 論 に基 づ い て 、発 話 の分 析 を行 い 、邦 訳 の特 徴 に つ い て深 め た い 。ま た 、分 析 にお い て 、英 語 と 日本 語 とい うそ れ ぞ れ の言 語 の 特徴 に も留 意 した い 。 第 二 節 で は 、 リー チ とシ ョー トの発 話 表 出 理 論 につ い て 概 説 す る。 第 三 節 で は 、『星 の 王 子 さ ま』に お け る発 話 表 出 方 法 をそ の使 用 頻 度 か らア プ ロー チす る。第 四 節 で は 、邦訳 の 特徴 的 な発 話 を 引用 し、 英訳 との比 較 を行 う。 ま た 、 そ こか ら得 られ た 邦 訳 の 特 徴 につ い て考 察 す る。 2.リ-チ とショー トの 発 話 表 出 理 論 本 節 に お い て は 、リー チ とシ ョー トの発 話 表 出選 択 理論 に つ い て 、言 語 資料 の 具 体例 を参 照 し な が ら概 観 した い。発 話 表 出 とは 、小 説 中 に 出て く る登 場 人 物 の発 話 を作 者 が い か に表 現 す るか で あ る。 リー チ と シ ョー トは 、発 話 表 出 方 法 を 大 き く5種 類 に分 類 して い る。そ の5種 類 とは 、 NRSA(発 話行 為 の 語 り手 に よ る伝 達)、IS(間 接 話 法)、FIS(自 由間 接 話 法)、DS(直 接 話 法)、FDS (自由 直 接 話 法)で あ る。 それ ぞれ の発 話 表 出 方法 は 、異 な る特 徴 を有 して い る。 ま た 、 この 分 類 は 、作者 が 登 場 人 物 に よ る発 話 伝 達 の支 配 度 に影 響 を及 ぼ す 点 も非 常 に重 要 で あ る。今 回 の 分 析 の 焦 点 は 、 個 々 の発 話 表 出 が5種 類 のい ず れ に属 す る か で は な い。 英 訳 と邦 訳 の発 話 表 出 方 法 の特 徴 を 見 出す こ とが 本稿 の 重 要 な観 点 で あ る。 よっ て 、今 回 は紙 幅 の都 合 もあ り、IS(間 接 話 法)とDS(直 接 話 法)の 中 間 に位 置 す るFIS(自 由 間接 話 法)の 詳 細説 明 は割 愛 した 。 IS(間 接 話 法)とDS(直 接 話 法)の 中間 に位 置 す る発 話 表 出 に関 して は、 今 回 は形 式 に よっ て 、IS(間 接 話 法)とDS(直 接 話 法)の い ず れ か に分 類 を行 っ た。 2.1DS(直 DS(直 DS(直 接 話 法) 接 話 法)の 接 話 法)た 最 大 の 特 徴 は 、 会 話 に使 わ れ た 言 葉 を そ の ま ま 引 用 して い る こ とで あ る。 る 条 件 は 、(i)引 用 符 と 伍)導 る こ と で あ る。以 下 に そ の 例 を 示 す(以 そ れ ぞ れ 、[W訳 】、[C訳1、 (1)[T訳II國t・him・ 下 、英 訳 の[Woods訳 DS(直 】 口It 日But is a question 接 話 法)は 】、【Cuffe訳 】、[Testot-Ferry訳]を 【T訳 】 と表 記 す る)。 what_are y・u (2)[T訳lHe巨nswere司me:[垂)h!come, (3)[T訳 入 の 働 き を す る 伝 達 節 が 両 方 と も 存 在 して い d0ing come![]as of disciphne,□ here?日(P.14) if this the was self-evident.(p.25) little prince to me 、言 語 資 料 に も 多 用 さ れ て い た 。(1)、(2)、(3)の 満 た し て い る 。 伝 達 動 詞 は 、(1)、(3)で に も 、"reply"、"add"、"exclaim"な は"say"、(2)で は"answer"が later on.(p.26) 文 は す べ て 条 件(i)、(ll)を 使 わ れ て い る。 そ の ほ か ど 様 々 な 伝 達 動 詞 が 言 語 資 料 中 で 使 用 さ れ て い る 。 ま た 、(3) 138 の 文 の よ う に 、伝 達 動 詞 が 引 用 部 分 の 後 に 置 か れ た り 、主 語 と の 倒 置 が 起 こ っ た りす る こ と も し ば し ば あ る 。DS(直 接 話 法)は 、登 場 人 物 の 発 話 を 忠 実 に 再 現 す る こ と が 特 徴 で あ る。そ の た め 、 声 の 質 や 調 子 、強 勢 を 表 す た め に 独 特 の 表 現 が な され る 。(1)の文 で は"_"が 、(2)の文 で は 、"!" が 用 い ら れ 、 登 場 人 物 の 発 話 の 特 徴 が 表 現 され て い る。 2.2FDS(自 由 直 接 話 法) FDS(自 FDS(自 由 直 接 話 法)は 由 直 接 話 法)は 引 用 符(ll)導 、 DS(直 、DS(直 接 話 法)よ 接 話 法)よ り も 、 さ ら に 作 者 の 発 話 へ の 介 入 が 少 な く な る。 り も 制 限 が 少 な く 、DS(直 接 話 法)の 条 件 で あ る(i) 入 の 働 き を す る 伝 達 節 の 一 方 、 あ る い は 両 方 を 取 り去 っ て で き る 話 法 で あ る 。 以 下 にそ の例 を 示す 。 (4)[丁 訳]`But we must `Wait for what?' `Wait for the (5)[T訳1`Asheep sun eats `Even flowers `Yes, even `Then (6)【T訳]`lf the Your You to set.'(p.29) anything with flowers for are with wishes example, across.' thorns.' use are to be order they?'(p.31) promptly me obeyed, to be gone you in less should than give a minute. me a reasonable It seems to me order. that favourable...'(p.47) 由 直接 話 法)もDS(直 れ の場 合 も、(i)導 it comes thorns?' thorns‐what Majesty could, conditions FDS(自 wait-..' 接 話 法)同 様 、 言 語 資 料 に多 用 され て い た。(4)、(5)、(6)いず 入 の働 き をす る伝 達 節 が 取 り去 られ て い る。 こ う した 話 法 に よっ て 、仲 介 者 で あ る作 者 を 交 え る こ とな く、登 場 人 物 が 直 接 話 しか けて い る よ うに感 じ られ る。DS(直 接 話 法)同 様 に、声 の 質 や 調 子 、強 勢 を表 す 表 現 が 用 い られ る こ とが多 い。言 語 資 料 の 中 で は 、(4)、 (5)に見 られ る よ うに短 い 文 が 連続 して い る場 面 、 あ る い は(6)の よ うに一 人 の登 場 人物 が 長 い 文 章 を 話 す 場 面 のい ず れ か でFDS(自 由直 接 話 法)が 用 い られ て い た 。 2.3LS(間 接 話 法) IS(間 接 話 法)は 、DS(直 接 話 法)の 形 か ら引用 符 が 取 り除 か れ 、 伝 達 され た 発 話 が伝 達 動 詞 に 従 属 させ られ る の が 特徴 で あ る。従 属 部 は 、従 属 接 続 詞"that"の 導入 に よっ て 明 白 に示 され る。IS(間 接 話 法)の 効 果 は、 話 し相 手 と話 しをす る人 の 間 に作 者 が 解 釈 者 と して介 入 で き る こ とで あ る。IS(間 接 話 法)は 、 述 べ られ た 内容 だ け に関 わ り、 そ れ を話 す の に使 われ た 語 の そ の 139 『星 の王 子 さ ま』 にお け る発 話 表 出方 法-邦 訳 と 日本 語 の 関係- ま ま の形 に は 関 わ っ て い な い。 以 下 に そ の例 を 示す 。 (7)[T訳]..-and asked (8)[T訳1_,so (9)[T訳 I told 】And I was them the proud IS(間 接 話 法)は 、DS(直 if my httle drawing frightened chap(ahttle to be able them.(p.10) cmssly)ha to tell him hat I did 接 話 法)やFDS(自 I could not know how to draw.(p.14) fly.(p.17) 由 直接 話 法)に 比 べ て 、 言 語 資 料 中 で用 い られ る回 数 は少 な か っ た。今 回 の分 析 範 囲 にお いて 、T訳 では 上 の3箇 所 だ けで あ る。(7)の例 で は、 従 属 接 続 詞thatが 省 略 され て い るが 、(8)、(9)の 例 で は明 白に用 い られ て い る。ま た 、本 来IS(間 接 話 法)に お い て は 、従 属 節 中 の1人 称 は3人 称 に 変 わ るが 、言 語 資 料 の場 合 、主 人 公 が作 者 と 一 致 してい る 「 私 小 説 」 な ので 、IS(間 接 話 法)に お い て も1人 称 は1人 称 の ま まで あ った と考 え られ る。T訳 に3箇 所 用 い られ たIS(間 接 話 法)の 日本 語 訳相 当箇 所 は 、非 常 に特 徴 的 な もの とな っ て い る。 これ につ い て は後 で言 及 す る。 2.4NRSA(発 話 行 為 の語 り手 に よる伝 達) NRSA(発 話 行 為 の語 り手 に よ る伝 達)の 特徴 は 、言 われ た こ との 最 小 限 だ けが 述 べ られ て い る こ とで あ る。発 話 行 為 が 起 こっ た と伝 達 す るだ けで 、作 者 は言 われ た こ との意 味や 、そ れ を話 す の に使 わ れ た語 につ い て は責 任 を負 わ な い。 よっ て 、IS(間 接 話 法)よ りも、 さ らに 間接 的 な 表 現 で あ る と言 え る。 以 下 に そ の例 を示 す 。 (10)[T訳The grown・ups then dvise me to give up my drawings of boa constrictors, whether... (p.10) (11)【T訳110inted ou churches, (12)[T訳 】And this NRSA(発 one upon to the little prince that baobabs are day the he dvise children me where to try and make a beautiful but trees as tall as drawing so as to血press all I live.(p.26) 、 DS(直 接 話 法)やFDS(自 言 語 資 料 中 で 用 い られ た 回 数 は 少 な か っ た 。分 析 範 囲 のT訳 out"な 伝 達 して い る 。 こ の 他 、 言 語 資 料 中 で はNRSA(発 "talk about" 、"r〔オect"、"hear about"、"warn"な 話 行 為 の 語 り手 に よ る 伝 達)の 由 直 接 話 法)に の 中 でNRSA(発 所 確 認 す る こ と が で き た 。(10)、(11)、(12)の よ うに は 見 え な い 。 し か し 、"advise"、"point たNRSA(発 little bushes and...(p.24) 話 行 為 の 語 り手 に よ る 伝 達)も よ る 伝 達)は8箇 not 比べて 、 話 行 為 の 語 り手 に 例 は 、 一 見会 話 が行 わ れ て い る どの 動 詞 に よ っ て会 話 が 起 こっ た こ と を 話 行 為 の 語 り手 に よ る 伝 達)の ど が 用 い ら れ て い る 。 T訳 に8箇 動 詞 と して 、 所 用 い られ 日本 語 訳 相 当 箇 所 に つ い て も い く つ か 特 徴 的 な も の が 見 られ る 。 これ に つ い て も 後 で 言 及 す る 。 140 2.5伝 達 にお ける作 者 に よる干 渉 の 漸 次 運 続 的 な変 化 以 上 、4種 類 の発 話 表 出 方 法 に つ い て概 観 して き た 。 こ う した 発 話 表 出方 法 は 、作 者 が登 場 人 物 の 発 話 の 伝 達 に大 き な意 味 を持 つ。 ' 、 、 ' NRSA " IS DS '、 FDS '" , ' 陰 , 、 、 亀 、 、 、 、 、 、 , ' ' ' ' ' ' 、作 者 が 表 面 上 作者が表面上 作 者 が表 面 上 " ,' 完 全 に伝 達 を支 配 ノ 、 部分的に伝達を支配 / \ま っ た く伝 達 を支 配 しな い \ 、 ," 3.『星 の 王 子さま』にお ける発 話 表 出 の 使 用 頻 度 本 節 で は 、前 節 で概 観 した リー チ と シ ョー トの 発 話 表 出 理 論 に基 づ いて 、言 語 資 料 で あ る 『星 の 王 子 さま 』(第一 章 ∼ 第 十 章)に お け る発 話 表 出 方 法 に つ い て 分 析 す る。 今 回 は 、『星 の王 子 さ ま 』 の 英 訳3点 、 邦訳3点 を分 析 の対 象 と した。 3.1発 話 表 出方 法 の 使 用頻 度 『星 の王 子 さま』(第 一 章 ∼ 第 十 章)に お い て 、 それ ぞれ の 言 語 資 料 に登 場 す る発 話 表 出方 法 を分 類 し、 そ の使 用 頻 度 を数 値 化 した 。 それ が 次 の 表 で あ る。 表1.発 話 表 出方 法 の 分 類 と頻 度 [T訳] [W訳] [C訳] [内藤 訳] [池澤 訳] [河野 訳] DS 86 85 96 79 89 85 FDS 73 74 64 87 76 80 IS 3 3 3 0 2 0 NRSA 8 8 7 4 3 5 分 析 範 囲 に お け る発 話 表 出 は 、 計170箇 NRSAに 所 あ っ た 。170箇 所 の 発 話 表 出 をDS、 FDS、 IS、 分 類 した の が 上 の 表 で あ る 。 3.1-1全 体 の 特 徴 全 体 の 特 徴 と して 挙 げ られ る の は 、6人 の 訳 者 全 員 に 共 通 し て い る こ と だ が 、発 話 表 出 方 法 に 占 め るDS、 で は94.1%、 FDSの 割 合 が 圧 倒 的 に 高 い こ とで あ る。 T訳 内 藤 訳 で は97.6%、 池 澤 訳 で は97%、 141 で は93.5%、 河 野 訳 で も97%をDS、 C訳 で も93.5%、 FDSが W訳 占 め てい る 『星 の 王 子 さま 』 に お け る 発 話表 出 方 法 一 邦 訳 と 日本 語 の 関 係 一 こ と が 分 か る。 こ の 特 徴 は 、『星 の 王 子 さ ま 』 と い う小 説 の 特 徴 に よ る も の で あ る 。 こ の 小 説 は 、 主 人 公 で あ る パ イ ロ ッ ト(一 人 称)と 王 子 さ ま の 会 話 が 中 心 とな っ て い る の で 、 ど の 訳 も原 典 に 即 して 訳 され て い る と言 え る。 3⊥2英 訳 ・邦 訳 間 の 特 徴 英 訳3点 と邦 訳3点 3箇 所 あ っ たISが 間 の 特 徴 と して 挙 げ られ る の は 、IS、 NRSAの 、 邦 訳 で は0ま て い る。 ま た 、 英 訳 で は 、7ま た は2箇 た は8箇 数 の 差 で あ る。 英 訳 で は 所 に 減 っ て い る。 これ は 、 明 ら か な 差 と な っ て 現 れ 所 あ っ たNRSAが 、 邦 訳 で は3ま に 減 っ て い る の も 明 ら か な 差 で あ る 。 英 訳 で 、IS・NRSAだ た は4ま た は5箇 っ た 箇 所 は 、 邦 訳 で はDSやFDS に置 き 換 え られ て い る箇 所 が 多 い 。 「 相 対 的 に 作 者 が 発 話 伝 達 を 支 配 す るIS・NRSA」 的 に 作 者 が 発 話 伝 達 を 支 配 しな いDS・FDS」 所 が 「相 対 に 置 き 換 え られ て い る 。 こ う した こ と も 英 訳 と 邦 訳 間 の 特 徴 と して は 非 常 に 重 要 で あ る 。 3」.3英 訳3点 英 訳3点 間の特徴 に お い て 、DS、 FDS、 と 比 べ て 、FDSが IS、 NRSAの 少 な く 、DSが て い る の を 除 け ば 、 英 訳3点 数 は ほ ぼ 等 し く な っ て い る 。 W訳 多 い 傾 向 が あ る 。 ま た 、 W訳 間で 者 され が 「相 対 に 置 き 換 え られ て い る と い う現 象 は 認 め られ な い 。 数 値 の 微 妙 な 差 異 は 、 あ く ま で も 、DSとFDS間 邦 訳3点 所 、 NRSAがDSと 「相 対 的 に 作 者 が 発 話 伝 達 を 支 配 す るIS・NRSA」 的 に 作 者 が 発 話 伝 達 を 支 配 し な いDS・FDS」 3.1.4邦 訳3点 で1箇 は 他 の2訳 で の置 き換 えで あ る と考 えて よ い。 間の特徴 に お い て も 、DS、 め ら れ た も の の 、 邦 訳3点 FDS、 間で IS、 NRSAの 数 は ほ ぼ 等 し く な っ て い る 。3点 「相 対 的 に 作 者 が 発 話 伝 達 を 支 配 す るIS・NRSA」 に 作 者 が 発 話 伝 達 を 支 配 し な いDS・FDS」 の例 外 は認 が 「相 対 的 に 置 き 換 え られ て い る と い う現 象 は 顕 著 に は 見 られ な い 。 数 値 の 微 妙 な 差 異 は 、 あ く ま で も 、DSとFDS間 で の 置 き 換 え で あ る と考 え て よ い 。 3.1.5使 用 頻 度 か ら読 み 取 れ る こと 表1の 数 値 か ら 読 み 取 れ る こ と は 、 英 訳 ・邦 訳 間 の 差 異 で あ る。 つ ま り、6人 の翻 訳 者 個 々 の 特 徴 よ り も 、使 用 す る 言 語 に よ る 特 徴 が 現 れ て い る こ と で あ る 。 そ れ が 、最 も 顕 著 に 現 れ て い る の は 、IS・NRSAの 使 用 頻 度 で あ る 。 次 節 で は 、 こ う し たIS・NRSAの 英 訳 ・邦 訳 間 の 対 応 を 具 体 的 な 文 を 引 用 し て 考 察 し て い き た い 。 ま た 、 こ の 他 に も 、英 訳 ・邦 訳 間 の 発 話 表 出 方 法 の 差 異 に つ い て も 、 分 析 ・考 察 を 行 っ て い き た い 。 4.『星 の 王 子 さま』の 発 話 表 出方 法 一 英 訳 ・ 邦訳比較 本 節 で は 、言 語 資 料 中 の 具体 的 な 文 の 引 用 を行 うこ とに よ り 『星 の 王子 さま 』の 英訳 ・邦訳 比 較 を行 う。 特 に 、 邦訳 の発 話 表 出 に お け る特徴 へ の ア プ ロー チ を試 み た い。 142 4。1NRSA(英 訳)→FDS、 ま ず は 、NRSA(英 DS(邦 訳)に 対 応 して い るFDS、 DS(邦 訳)の 具体 例 を検 討 す る。 T訳 C訳 W訳 内藤訳 池澤訳・ 河野訳 NRSA NRSA NRSA FDS FDS DS (13)[T訳] The grown・ups whether (14)[C訳l The the boa now or me or the to give up outside, and to my drawings devote of boa myself instead boa constrictors constrictors, to geography, grammar.(pp.10-11) advise the me to outside, give and up devote drawing myself instead to altogether, geography, history, grammar.(p.6) grown・ups'response, constrictors, to geography, 藤 訳]す and inside and advise inside arithmetic arithmetic The the grown-ups from (15)[W訳] then from history, (16)[内 訳) whether history, this time, from the arithmetic, was to inside and dvise or the me to lay outside, and aside my devote drawings myself of instead grammar.(p.8) る と、 お とな の 人 た ち は 、 外 が わ を か こ うと、 内 が わ を か こ うと、 ウ ワバ ミの 絵 な ん か は や め に し て 、 地 理 と 歴 史 と 算 数 と 文 法 に 精 を だ し な さ い 、 と い い ま し た 。(p.8) (17)[池 澤 訳1大 人 た ち は 、 ボ ア の 絵 を 描 く の は 外 側 も 内 側 も ぜ ん ぶ や め て 、 地 理 と歴 史 と 算 数 と 文 法 を し っ か り勉 強 し な さ い 、 と 言 っ た (18)[河 野 訳]と (p.8) こ ろ がお とな た ち は 、 四 なか が見 え よ うが 見 え ま い が 、ボ ア の絵 は も う置 い とき な さ い 口 と 言 っ た 口 そ れ よ りも っ と雌 英 訳 に お け るNRSAが す べ てFDSま 野 訳 】の 中 で の 他 のDSと た はDSに や 、鱗 や 文 法 をや りな さい.口(P.8) 移 行 し て い る 。(18)は 、 DSの 同 じ用 い 方 が され て い る0こ で あ る 引 用 符 が 取 り去 られ て い る た めFDSの 訳 に お け る"advise"を や巌 れ に 対 し て 、(16)、(17)で 形 だ と 言 え る 。 邦 訳3点 は 、 DSの 邦 訳 と な るで こ の 場 面 に 則 さ な い と 判 断 した た め 、 「 言 う」 を 用 い て 、DS、 FDSへ 用 い たNRSAの 使 用 に よ っ て 、 小 説 の 印 象 が 硬 く な る の を 恐 れ た の で は な い だ ろ うか 。 (19)【T訳] の 移 行 が 行 わ れ た と考 え ら れ る 。 「 助言す る」 「 忠 告 す る 」 と い う単 語 を T訳 C訳 W訳 内藤訳 池澤訳 河野訳 NRSA NRSA NRSA FDS FDS FDS Iointed as the out churches, herd 条件 に 共通 して い る点 は 、英 い ず れ の 邦 訳 も 訳 出 して い な い と い う点 で あ る。"advise"の あ ろ う 「助 言 す る 」 「忠 告 す る 」 を 用 い たNRSAが 形 を 取 り 、[河 would to the and little prince that not be that even if he were able to eat up 143 baobabs to take one single are not a whole little bushes herd baobab.(p.24) but of elephants trees with as ta■ him, 『星 の 王 子 さま 』 に お け る発 話 表 出 方 法 一 邦 訳 と 日本 語 の 関 係 一 (20)[C訳 】 Ieminde the churches;and would (21)[W訳 】 that even succeedin Ipointed _ou contrary, trees away (22)【 内 藤 訳]バ not little prince with him, if he baobabs took dispatching to the as herd are a whole a single little prince as big the that that castles;and would オ バ ブ は 小 さ い 木 じゃ な い 、 教 herd but of elephants baobabs eat sma■bushes trees home the with size him, of they baobab.(pp.18-19) that not not were even if he one single up not took httle bushes, a whole but herd on the of elephants baobab.(p.23) 会 堂 の よ うに 大 き な 木 だ 、王 子 さ ま が ゾ ウ の 一 部 隊 をつ れ て い っ て も、 た っ た一 本 の バ オ バ ブ の 木 も たべ き れ な い 、 と 、 ぼ くは 王 子 さ ま に い い ま した (23)[池 (pp,25・26) 澤 訳 】 ぼ く はそ こで彼 に 、 バ オ バ ブ は 小 さな 木 じ ゃ な くて 教 会 み た い に大 き な 木 だ し、 ゾ ウ の 一 群 を 連 れ て き た と こ ろ で 、 ゾ ウ た ち は た っ た1本 の バ オ バ ブ も食 べ きれ な い はず だ と匿至墨(P.24) (24)【 河野訳1僕 は王子 さま に匿≡恩 バ オバ ブは小 さな木なんか じゃな くて、教 会の建物の建物 み た い に 巨大 だ か ら、ゾ ウの 群 れ を引 きつ れ て い った って 食 べ きれ や しな い 、と。(p.28) 英 訳 に お け るNRSAが す べ て 邦 訳 で はFDSへ と移 行 して い る 。 邦 訳3点 は す べ て 、 「言 う」 と い う伝 達 動 詞 を 用 い て お り、 引 用 符 が 取 り除 か れ た 形 な の で 典 型 的 なFDSの 形 で あ る と言 え る 。 英 訳 で 用 い られ て い る"point 移行 す る こ とに out"、"remind"と い う動 詞 を 用 い ず 、FDSに よ っ て よ り臨 場 感 が 表 現 さ れ て い る 。 こ の 場 合 も 、"point out"、"remind"の 邦 訳 とな り うる 「 指 摘 す る 」、 「気 づ か せ る 」 は 邦 訳 に 必 要 以 上 に 硬 い 印 象 を 与 え か ね な い の で 、FDSへ 移 行 し、全 体 の や わ ら か い 雰 囲 気 を 保 っ た も の と 考 え られ る 。 4.21S(英 訳)→FDS、 次 に 、IS(英 (25)[T訳] (26)[C訳] 訳)に DS(邦 訳) 対 応 して い るFDS、 DS(邦 訳)の 具 体 例 を検 討 す る。 T訳 C訳 W訳 内藤訳 池澤訳 河野訳 IS IS IS DS FDS DS Ishowed my frightened them.(p.10) Ishowed masterpiece my masterpiece my masterpiece to to the the grown-ups grown・ups, and國them and團 my 図my drawing drawing fhghtened them.(p.6) (27)[W訳] Ish0wed frightened to the grown-ups, and ske them hethe the drawing them.(p.8) (28)[内 藤 訳 】 ぼ く は 、鼻 た か だ か と、 そ の 絵 を お とな の 人 た ち に見 せ て 、[ヨこれ 、 こわ くな い?[ヨ と1きき ま したL(p,8) 144 (29)[池 澤訳]ぼ くは この 傑 作 を 大 人 た ちに 見 せ て 、 この 絵 、 怖 くない?と 國(p.8) (30)[河 野訳 】 この 傑 作 を 、僕 は お とな た ち に見 せ て 、 口 この 絵 こわ い?口 英 訳 は 、3点 は、 「 僕(ぼ と も 、`asked them if(whether)_'と い う形 のISで と1聞い て み た』(p.8) あ る 。 これ に 対 し て 、 邦 訳 く)」 の 発 話 を 直 接 示 し 、 「聞 く 」 と い う動 詞 を 用 い たDSま い る 。 引 用 符 の 有 無 の 差 は あ る が 、3者 て は 、3.2.4で た はFDSへ と も 似 通 っ た 訳 と な っ て い る((28)の と 移 行 して 〈 〉 の用 法 につ い 言 及 す る)。 英 訳 を 直 接 邦 訳 に 移 行 さ せ る と 、 「∼ か ど うか 尋 ね た 」 と い うISが 然 で あ る 。 し か し 、 邦 訳 の 中 で こ う い っ た 硬 い 訳 は 馴 染 ま な い の で 、FDS、 DSへ 自 と発 話 表 出 方 法 の 変 化 が 起 こ っ た と考 え られ る。 4.3DS(英 訳)→FDS(邦 次 に 、DS(英 (31)[T訳 訳) 訳)に 対 応 して い るFDS(邦 T訳 内藤訳 DS FDS 】 `Then you of all...' `As far as shall I am concerned,'Said the `1,`elied (32)[内 藤 訳] yourself,'answered the king」.`That is the most difficult thing (p.46) `Hum!Hum!'aid `No,'said judge 訳)の 具 体 例 を 検 討 す る 。 the the little the kin.`I believe rince,`do not little prince,`I that Iike can somewhere to condemn judge myself on planet,...'(p.46) my anything to death anywhere...' and...'(p.46) king.(p.46) 「で は 、 お ま え 自 身 の 裁 判 を しな さ い 。 … … 。」(p.53) 「じ ぶ ん を 裁 判 す る ん だ っ た ら、 ど こ で で も で き ま す 。 … … 。」(p.53) 「え 一 と ね 、 わ し の 星 に は 、 年 と っ た ネ ズ ミ が ど こ か に い る よ う じ ゃ 。 … … 。」(p.53) 「ぼ く 、 死 刑 に な ん か す る の い や で す 。 ぼ く は 、 も う 出 か け ま す 」(p.53) 「い や 、 い か ん 」 と 、 王 さ ま が い い ま し た 。(p.54) (31)の 英 訳 例 に は 、DSを 特 徴 づ け る伝 達 動 詞 が 、"answer"、"say"、"reply"の3種 類 、4箇 所 に 認 め られ る。し か し 、こ れ ら の 伝 達 動 詞 は 、(32)の 邦 訳 例 に お い て 、"replied the littleprince" が 「と、王 さ ま が い い ま した 。」 と 訳 さ れ て い る 以 外 の 部 分 で は省 略 され て い る 。 こ れ に よ っ て 、 英 訳 で のDSが 邦 訳 に お い てFDSで 対 応 し て い る 。 こ う し たDS→FDSと い う移 行 は 、 発 話 が 連 続 し て い る と き に 起 こ る 現 象 で あ る 。 こ う し た 現 象 が 起 こ る の は 、英 語 ・日本 語 間 に お け る 言 語 の 特 徴 の 違 い に 起 因 し て い る と推 測 され る 。 そ の 具 体 的 特 徴 を 以 下 に 整 理 し た 。 145 『星 の 王 子 さま 』 に お け る発 話 表 出 方 法 一 邦 訳 と 日本 語 の 関係- ① 日本 語 は 英 語 に比 べ て 、 立 場 に よ る発 話 の特 徴(終 助 詞 、 敬 語 な ど)が明 確 な の で発 話 が連 続 して も 、 登 場 人 物 を混 同す る こ とは な い。 ② 英 語 は 主語 を必 ず 明示 す る が 、 日本 語 で は 主語 の連 続 した 明 示 は避 け る傾 向が あ る。 ③ 英 語 に比 べ 、 日本 語 に お け る伝 達動 詞 「∼ と言 っ た 」 な どの 多 用 は避 け る傾 向が あ る。 こ の こ と に 関 して 、 金 田一 は次 の よ うに述 べ てい る。 日本 語 とい う もの は 、 そ の よ うな わ け で 、 言 葉 の バ ラエ テ ィー 一 文 体 の違 い 、 い ろ い ろな 地 域 に よ る方 言 の違 い とか 、 身 分 ・職 業 に よ る違 い とか 、 あ るい は 、性 に よ る違 い とか 、 そ うい っ た 違 い が た く さん あ る言 語 です 。 これ は 小説 家 の か た な どに は大 きな 便 宜 を 与 え て い る と思 い ま す 。 一 つ 一 つ の セ リフ をい うだ け で 、発 言 者 が ど うい う人 で あ るか とい うこ とが よ くわ か るか らで す 。 (金 田一1991:35) 以 上 の英 語 ・日本 語 間 の言 語 の特 徴 が 、DS→FDSを 4.4邦 訳 の 特 徴 的な発 話 表 出方 法 本 節 で は 、NRSA(英 FDS(邦 引 き起 こ して い る の で は な い だ ろ うか。 訳)以 訳)→FDS、 DS(邦 訳)、 IS(英 訳)→FDS、 DS(邦 訳)、 DS(英 訳)→ 外 の 邦 訳 に 見 られ る 特 徴 的 な 発 話 表 出 の 具 体 例 を 検 討 した い 。 (33)[内 藤 訳1と こ ろ が 、 そ の 人 の 返 事 は 、 い つ も 、 図 そ い つ あ 、 ぽ う し だ 日 で し たっ(p.9) (34)[内 藤 訳1す る と 、 そ の お と な は 、[ヨ こ い つ あ 、 も の わ か り の よ い 人 間 だ[iヨと い っ て 、 た い そ う 満 足 す るの で した。(p.9) (33)、(34)の 邦 訳 は 、 「 」 の代 わ りに 〈 〉 が使 用 され てい る の が特 徴 で あ る。 内藤 訳 に お い て 〈 〉が 多 用 され てお り、 「 」 とは 区別 され て い る0特 定 され た 登 場 人 物 の発 話 以 外 の一 般 の 人 の会 話(例 え ば 、不 特 定 の大 人)な どに使 われ て い る。 こ う した 記 号 に よ る発 話 表 出 の 区別 も 効 果 的 で、 英 訳 で は 見 られ な か っ た差 別 化 の 方 法 で あ る。 (35)【内藤 訳1 「そ うだ ね 。 そ れ に 、 あ ん た が い い 子 な ら、 ぼ く、 綱 もあ げ る よ。 ひ る ま 、 そ れ で ヒ ツ ジ を つ な い で お くの さ。 そ れ か ら、 棒 ぐい もね 」」 こ うい わ れ て1、王 子 さま は 、ひ ど く気 に さわ っ た よ うで した。(p,18) (35)の 邦 訳 にお い て は 、 「こ うい われ て 」 が伝 達 動 詞 の役 割 を果 た し、発 話 表 出 方 法 はDS で あ る と言 え る。 「 ∼ と言 っ た 」 とは 表 現せ ず 、 主 語 を省 略 してス ムー ズ に発 話 を つ な ぐ こ とが で き る の も 日本 語 の 特徴 だ と言 え る。 146 (36)【T訳]`lt is contrary `Iforbid to etiquette to yawn in the presence of a king,'aid the monarch. it.'(p.43) (37)【 内 藤 訳 】 す る と 王 さ ま が1い い ま し た 』 「王 さ ま の 前 で 、 あ く び す る と は 、 エ チ ケ ッ トに 反 し て お る 。 あ く びi駐 じ ゃ 」(p.49) (37)の 邦訳 は 、(36)の英 訳 に対 応 した箇 所 で あ る。こ こで 注 目 した い の は伝 達動 詞 の位 置 で あ る。 英 訳 にお い て は発 話 の 間 に挟 ま る よ うな 形 で 挿 入 され て い る が 、邦訳 は伝 達 動詞 を発 話 の前 に移 動 させ 、発 話 を 一続 き に して い る。 日本 語 にお い て は も と も と(36)の よ うな 形 は 少 な い の で 、 日 本 語 の形 式 に発 話 表 出 が 変 換 され た 形 だ と言 え る。 (39)[池 澤 訳]す る と彼 は そ れ をつ くづ く見 て か ら言 っ たE≡] 「だ め だ よ。 この ヒ ツ ジ は は じめ か ら病 気 み た い だ。 別 の を描 い て 」(p.13) (40)[池 澤 訳]4日 目の朝 、 きみ が こ う言 っ た とき 、 ぼ くは この 新 しい 秘 密 を知 っ たE≡] 「ぼ く は 日が 沈 む の が好 き な ん だ。 これ か ら夕 日を 見 に 行 こ うよ」(p.29) (39)、(40)の 池 澤訳 に お い て 特 徴 的 な の は 、発 話 の直 前 に用 い られ て い る一(ダ ッシ ュ)で あ る。 こ の表 現 は 、池 澤 訳 にお い て多 用 され て い る。 こ う した 表 現 の特 徴 も英 訳 に は 見 られ ない 特 徴 で あ った 。 こ う した 表 現 も 、発 話 と地 の 文 をス ム ー ズ につ な ぐ上 で非 常 に効 果 的 で あ る。 (41)[T訳 (42)[池 】 澤 訳] `Of course, I love you,'the且ower國to him.(p.41) 「そ う よ 、 わ た し は あ な た を 愛 し て い る わ 」 と 花 は 言 た (p.42) (42)の 邦 訳 例 は 、(41)の 英 訳 に 対 応 し て い る 箇 所 で あ る。 一 見 同 じ よ う に 対 応 して い る よ うに 見 え る が 、(41)の"to him"に 該 当 す る 部 分 が(42)の 例 で は 省 略 され て い る 。主 語 だ け で は な く 、 目 的 語 の 省 略 も 自 由 に 行 え る の が 日本 語 の 特 徴 で あ る 。こ の よ うな 省 略 を 適 宜 行 う こ と に よ っ て 、 発 話 表 出 が ス ム ー ズ に行 わ れ る 。 (43)【T訳 】 ...when It國 (44)[河 野 訳]聞 an odd little voice ・`Pl・ase_・h・w woke me up. m・a・heep.'(P.12) こ え て き た の は 、 に ん な 声 … … 。1 「お ね が い … … ヒ ツ ジ の 絵 を 描 い て!」(p,11) (44)は 、非 常 に独 創 的 な表 現 が 用 い られ て い る。 こ う した 自由 な表 現 も 日本 語 の 特 徴 な の で は な い だ ろ うか 。(44)に お い て は 、 伝 達 動 詞 が省 略 され て い る こ とが分 か る。 日本 語 に お い て は 、 伝 達 動 詞 の 主 語 、目的 語 、また 伝 達 動 詞 それ 自体 と もす べ て 省 略 が 可 能 な の で あ る。英 語 と比 べ 147 『星 の王 子 さ ま』 にお け る発 話 表 出方 法 一 邦 訳 と 日本 語 の 関係 一 て 、 自 由 な(曖 (45)[T訳 昧 な)日 】 本 語 が こ う した 発 話 表 出 方 法 を 生 ん で い る の で あ る。 `As far not have (46)[河 野 訳] as I am concerned,'aid to live here.' the little princ,`Ican judge myself anywhere. I do (p.46) 「ぼ くは 」[互玉 至 亟L「 ど こ にい て も 自分 を裁 けま す。 な に も こ こに住 む こ とは あ り ませ ん 」(p.58) (46)に お い て も 、伝 達 動 詞 が省 略 され て い る の が特 徴 的 で あ る。 伝 達 動 詞 の挿 入 箇 所 は(45)と 同 じだ が 、伝 達 動詞 自体 は省 略 され 、主語 の体 言 止 め の形 に な っ て い る。こ う した表 現 も 日本 語 にお け るDSの 一種 で あ る と言 え る。 5.お わ りに-邦 訳 を特 徴 づ ける 日本 語 第 四節 で邦 訳 の特 徴 に つ い て 、個 々 の 引用 箇 所 を も とに考 察 を行 っ て き た。発 話 表 出方 法 の分 析 を行 っ た結 果 、邦 訳 の特 徴 が 明 確 に現 れ てい た 。そ の 特徴 と して 挙 げ られ るの は 、大 き く分 け る と次 の二 つ の項 目で あ る。そ れ は 、 「NRSA、 ISに 比 べ てDS、 FDSが 好 ん で 用 い られ る こ と」 と4.4に 挙 げ た 「 邦 訳 の特 徴 的 な発 話表 出 」 の2点 に集 約 す る こ とが で き る。 一 つ 目の 「NRSA、 ISに 比 べ てDS、 FDSが 好 ん で 用 い られ る こ と」 は 日本 語 が よ り分 か り や す い表 現 を 好 む こ とが原 因 な の で は な い だ ろ うか。 英 訳 に お い て 好 ま れ るNRSA、 ISは 、作 者 の解 釈 に よっ て介 入 が 起 こ り、 よ り抽 象 的 な 表 現 にな る こ とが 多 い 。 これ に 対 して 、 邦 訳 は 、 DS、 FDSが FDSな 多 用 され 、発 話 の 内容 が 非 常 に具 体 的 で 分 か りや す い 。 日本 語 とい う言 語 は 、DS、 どの 直接 的 な発 話 か ら状 況 を把 握 して い く言 語 で あ る と言 え るか も しれ な い。 ま た 、二 つ 目の 「 邦 訳 の 特徴 的 な 発 話 表 出 」は 、 日本 語 の 自 由奔 放 さ、悪 く言 え ば曖 昧 さに 起 因 した特 徴 で あ る の で は な い だ ろ うか。最 も特 徴 的 な の は 、これ らの特 徴 的 な邦 訳 の ほ とん どが 省 略 に基 づ い て起 こる とい う点 だ 。も とも と主 語 を必 ず しも 明示 しな くて も良 い 日本 語 は 、伝 達 動 詞 、目的 語 な ど様 々 な単 語 が 省 略 可 能 で あ る。省 略 を好 む 日本 語 の 特徴 は 、一 つ 目の 「NRSA、 ISに 比 べ てDS、 FDSが 好 ん で 用 い られ る」 とい う邦 訳 の 特 徴 に も通 じる とこ ろ が あ る か も し れ な い。 翻 訳 を行 う際 、 必ず 元 に な る原 文(text)が あ る。 つ ま り、 翻 訳 を行 う翻 訳 者 も最 初 の段 階 で は原 文 に対 す る 一 人 の読 者 で あ る。翻 訳 は 、そ の原 文 に則 した形 で な け れ ば な らな い 。翻 訳 され た 文 章 にお い て 、翻 訳 者 の 介 入 が 目立 っ て はな らない 。 しか し、翻 訳 とい う作 業 にお いて 原 文 を そ の ま ま の形 で他 言 語 に復 元す る こ とは 不 可能 で あ る。そ れ は、原 文 に用 い られ て い る言 語 と翻 訳 に用 い られ る言 語 が異 な るか らで あ る。こ う した事 実 故 に 、日本 語 が 邦 訳 を特 徴 づ け て い る の だ。 翻 訳 者 の地 位 に つ い て 、 平 子 は 次 の よ うに述 べ て い る。 翻 訳 者 は 第 一 段 階 にお い て言 語 をテ ク ス トと して 「 解 釈 」 し、 第 二段 階 で テ クス トを言 語 で 「 表現」 す る。 そ の い ず れ も が主 体 的 な行 為 で あ る。 翻 訳 者 は と くに訳 文 の創 造 に よっ て 読 み 手 を支 配 す る と .・ い う点 で 、 大 き な 権 限 を も っ て い る。(平 子1999:25) 今 回 の分 析 で は、 英 訳3点 、 邦 訳3点 を扱 った が 、 そ れ ぞ れ の翻 訳 者 に よ っ て 多様 な翻 訳 が な され てい る こ とが 分 か っ た。筆 者 が 特 に注 目 した い の は 、同 じ言 語 の 中で 行 わ れ る翻 訳 の多 様 性 で あ る0つ ま り、 平 子(1999:25)の 述 べ て い る よ うに、 翻 訳 者 は大 き な権 限 を持 っ て い る た め 、翻 訳 され た テ クス トに も、個 々 の翻 訳 者 の創 造 性 が 読 み 取れ る とい うこ とで あ る。今 後 、研 究 して い きた い の は 、個 々 の 翻 訳者 が ど の よ うな立 場 、ス タ ンス で 起 点言 語 を解 釈 し、 目標 言 語 へ の 表 現 を行 って い る のか とい うこ とで あ る。 ま た 、そ う した 立 場 、ス タ ン スが どの よ うにテ ク ス トに表 現 され て い るか 、に も 関 心 が あ る。こ う した 観 点 を忘 れ ず に今 後 の研 究 に取 り組 み た い。 【言 語 資 料 】 Saint-Exup駻y, Antoine Trans. by Testot-Ferry, Trans. by Cuffe, moans. by Woods, de.194611999, Irene.1995. T.V.F.1995. The Katherine.1945. 内 藤 濯(訳)2000,『 Le The Little The Petit Prince, Little Prince. Prince. London Little Prince. Paris:Ga皿imard, London Wordsworth Penguin London Books William Editions Limited. Ltd. Heinemann Ltd. 星 の 王 子 さ ま 』 岩 波 書 店. 池 澤 夏 樹(訳)2005,『 星 の 王 子 さ ま 』 集 英 社. 河 野 万 里 子(訳)2006.『 星 の 王 子 さ ま 』 新 潮 社. 【参 考 文 献 】 ジ ェ フ リー ・N・リ ・ 一チ!マ 平 子 義 雄1999,『 小 説 の 文 』(覧 壽 雄 監 修)研 翻 訳 の 原 理 一異 文 化 を ど う訳 す か 』 大 修 館 書 店. 村 上 春 樹 ・柴 田 元 幸2000.『 金 田一 春 彦1991.『 イ ケ ル ・H・シ ョ・ 一 ト2003.『 翻 訳 夜 話 』 文 藝 春 秋, 日本 語 の 特 質 』 日本 放 送 出 版 協 会. 149 究 社. 『星 の 王 子 さま 』 にお け る発 話 表 出方 法 邦 訳 と 日本 語 の 関係 150 『星 の 王 子 さ ま 』の AStudy in Jap anese and 日 英 訳 に お け る 会 話 表 現 の 研 究 of Speech Enghsh Representations Tmnslations 葦沢 大 Masaru 義塾大学総合政 策学部 慶應 Faculty of 1冶 、Rg漉 」P乞 血oθ Ashizawa of Policy Management, Keio University This and its paper Japanese speech. I represent examines and started speech Enghsh out in the ways in translations, my research different ways, which focusi皿g based and speech on this the on is the represented use assumption of assumption direct that has in Le Petit speech and血direct Japanese been Prince and substantiated English by the presentstudy. More specifically, I selecteda few examples and discussedhow the differences in therepresentation ofspeechaffect therestof thesentences.Ialsopointed out that the use contributes 【キ ー ワ-ド 1.直 of indirect to the creation in the discourse of a particular where direct speech is predominant rhythm. 】 接 会 話 文(曲 (communicative speech act)4.感 ㏄tspeech) 情 表 現 2.間 接 会 話 文(in(血 (emotional expression) 151 ㏄t speech) 3.伝 達 行 為 『星 の 王子 さ ま』 の 日英 訳 にお け る 会話 表 現 の研 究 1.は じめ に 本 稿 は 英 ・日 『星 の 王 子 さ ま』翻 訳 にお け る会 話 文 を 中心 に取 り扱 う。 まず 、直接 話 法 と間接 話 法 の 一般 的 特徴 を挙 げ 、話 法 の 違 い に よ って ど の よ うな 変 化 が現 れ てい る か を考 え る。次 に 『星 の 王 子 さま』 か ら具体 的 に 文 章 を 取 り上 げ 、間接 会 話 文 に お け る 日 ・英 両言 語 の 特徴 を探 る。そ の後 、 同様 に言 語 資 料 か ら直接 会 話 文 を抜 き出 し、 両 言 語 の特 異 性 を探 し出す こ とを試 み る。 2.直 接 会 話 文 と間接 会 話 文 小説 にお け る発 話 の 表 出 様 式 は 、大 き くわ け て 二 つ あ る。誰 か が言 っ た こ とを伝 え る の に 直接 話 法 を用 い る と き は、使 われ た言 語 を そ の ま ま用 い る の に対 して 、間 接 伝 達 にお い て は 、言 われ た こ と を 自分(作 者)の 言 葉 に 言 い換 えて 表現 す る。つ ま り、直接 会 話 文 ほ ど登場 人物 に焦 点 が 合 わ され 、間接 会 話 文 ほ ど作 者 の 視 点 か ら語 られ てい る とい う こ とで あ る。当然 言 え る こ とだ が 、 発 話 の 表 出様 式 は 作 者 自身 が 決 定 す る も ので あ り、両者 を 自 由に使 い 分 け る こ とが 出 来 る。 しか し、使 い 分 け る とい うこ とは双 方 の 間 に違 いが あ り、及 ぼす 効 果 が異 な る と考 え て もい い だ ろ う。 だ か ら以 下 で は 次 の 疑 問 を解 くよ うに 『星 の 王 子様 』か ら具体 的 な事 例 を 取 り上 げ な が ら発 話 の 表 出様 式 に つ い て 考 察 す る。 ① そ れ ぞ れ の 発 話 様 式 が 作 品 中 で どの よ うな効 果 ・影 響 を及 ぼ して い る だ ろ うか? ② 使 い 分 け の頻 度 や 形 式 は言 語 に よ っ て異 な る だ ろ うか? 2.1星 の 王 子 さま の 作 者 と語 り手 発 話 の表 出様 式 につ いて 詳 し く入 る前 に本 稿 で取 り上 げ た文 献 、『星 の 王子 さま』 に つ い て ま ず説 明 した い と思 う。なぜ な ら発 話 表 出 に関 して 取 り上 げ る場 合 、そ の作 品 の 作者 が 語 る視 点 と い うも のが 大 事 に な って くるか らだ。この 作 品 で 取 り上 げ るべ き特 徴 の 一 つ と して 、作 者 が 物 語 の 登 場 人 物 の一 人 で あ る とい う点 だ。 しか し、こ こで 注意 した い の は 作者 と想 定 作 者 の 区別 を明 確 にす る こ とだ。 上 記 の 特 徴 は厳 密 に言 うと、想 定 作 者(語 り手)が 登 場 人 物 とな る の で あ る。 も ち ろん こ の物 語 は フ ィ ク シ ョン で あ る か らに は実 体 験 と一致 しな い。とい うこ とは 、作 者 は 「 語 り手=自 分 」 とい う登 場 人 物 を作 り上 げ て物 語 を展 開 して い る の で あ る。 ここ で は 「 語 り手 」が 中 心 と なっ て 、物 語 の場 面 に実 際 登 場 して 会 話 した り、他 の 登 場 人物 同 士 の 会 話 を傍 観 した りす る立 場 にい る こ とを理 解 す る必 要 が あ る。 2.2直 接 会 話 文 と間 接 会 話 文 の 形 成 要 素.関 連 性 次 に直 接 会 話 文 と間接 会 話 文 の 間 の 関連 性 に つ い て触 れ て み た い。っ ま り、互 い が も う一 方 の 形 に変 形 す る時 に 、どの程 度 代 替 可 能 で あ るか 、何 が含 まれ 何 が 除 かれ る か を考 察 す る。直 接 会 話 文 か ら間接 会 話 文 へ と変 形 す る例 を取 り上 げ る と、直接 会 話 文 の 特 徴 は 引 用 符 に よ って 登 場 人 物 が話 した 伝 達 情 報 を そ の ま ま の 形 で 忠 実 に 表 現 で き る こ とで あ る(他 に も伝 達 動 詞 が含 まれ る な ども あ る が 、これ は 間 接 会 話 文 に も共 通 す る し、直接 会 話 文 で は 省 略 す る場 合 が 多 い こ とか 152 ら特 に論 じな い)。この 特徴 を裏 返 せ ば 、間接 会 話 文 に は 引用 符 が使 われ な い とい うこ とが 言 え 、 同 時 に発 言 者 の伝 達 情 報 が あ りの ま ま に示 され ない 。つ ま り間接 話 法 で は 話者 の 忠 実性 は 失 い つ つ も 、 話 の 内容 は 同 様 に伝 達 され な けれ ば な らな い とい うこ とだ(真 偽 値 の 一 致)。 この真 偽 値 を替 え な い で 間接 会 話 文 に変 形 す る とい う点 が重 要 で あ り、言葉 を変 えれ ば 真 偽 値 が 変 わ らな い 範 囲 な らば 直 接 会 話 文 か ら様 々 な類 似 文 が形 成 可能 で あ る とい うこ とだ 。この 事 実 か ら二 点 の発 見 が 出 来 る。まず 一 つ は 、間 接 会 話 文 とは あ る程 度 直接 会 話 した 内 容 を 要 約 し、簡 潔 化 した発 話 形 式 だ と言 え る。二 点 目は 、間接 会話 文 か ら直 接 会 話 文 へ の 変 換 の場 合 に は そ の正 確 性 が 失 われ るケ ー スが あ る とい うこ とだ。直 接 話 法 と間接 話 法 が一 致 しな い とい うこ とは 、発 話 表 出 の さま ざ ま な型 を 、単 に 同 じ命 題 の 統 語 的 異 形 とはみ な しえ な い とい う意 味 は以 上 の よ うな こ と を表 し て い る と考 え られ る。こ こで は 両者 の 間 に は 相 互 に 関連 性 が あ るが 、比 較 的緩 い 意 味 で の 関 連性 と定義 づ け るべ き で あろ う。 2.3間 接 会 話 文 にお ける特 徴 『小 説 の文 体 』 で は 間接 会 話 文 の形 成 方 法 と して 、伝 達 動詞 の位 置 づ けが 重 要 と論 じて い る。 これ は ど うい うこ とか とい うと、 英 語 の 間接 会 話 文 にお い て は伝 達 節(主 節)と 被 伝 達 節(従 属 節)と 明確 に分 かれ る(自 由間 接 話 法 の場 合 を 除 く)。下 記 の 例(1)の英 語 訳 文 で は 、"Itold"が 主 節 で 、that節 が 従 属 節 とな る。 要す るに 「 誰 々 か ら誰 々 に言 った 」 とい う伝 達 行 為 自体 が 文 の 主 部 に あ っ て 、そ の 内容 は そ の 伝 達 行 為 に従 属 して説 明 され る伝 達 内容 とい うよ うに区 別 され る の で あ る。実 際 伝 達 され た 発 話 内容 は 、一 次 的 発 話 状 況 で あ る伝 達 動 詞 に従 属 され(二 次 的 な も の にす る)、背 景 化 す る とい う こ とが 『小 説 の 文体 』 で定 義 され て い る。 しか し例(1)の 日本 語 訳 文 を 見 て み る と ど うだ ろ うか 。引用 符 が示 され て い な い他 は 特 に 日本 語 の 直 接 会 話 文 と変 わ りな い とい う印 象 を受 け る(も ち ろ ん1.2で 言 っ た よ うに実 際 の発 言 内容 は 異 な り うる)。英 語 で は 主節 に従 属 節 の 内容 が組 み 込 まれ た(あ る い は含 意 され た)発 話 様 式 が イ メー ジ で き る一 方 で 、 日本 語 で は 直 接 会 話 表 現 と の 差 異 が 見 え に く い(以 下 、 英 訳 の[Woods訳1、 [Test0t-Ferry訳1を そ れ ぞ れ 、[W訳1、[C訳1、[T訳1と 【Cuffe訳 】 、 表 記 す る)。 (1) [原 典] .et睡au petit bonhomme(avec un peu de mauvaise humeur)queje ne savais pas dessiner.(p.14) [W訳] .and I told [T訳] .so I told [C訳] .so I told the the the little chap(a little chap(a little crossly, too)that little crossly)that little fellow(with a touch I did I did not not know of irritation)that know how how to draw.(p.12) to draw.(p.14) I didn'_t_know how to draw. (P.io) [内藤 訳] そ こ で 、そ の ぼ っ ち ゃ ん に(す こ し 、む っ と し な が ら)絵 [倉橋 訳】 … そ こ で そ の 子 に(少 し む っ と し な が ら)描 [山崎 訳】 … 坊 や に 向 か っ て(ち ょ っ と 不 機 嫌 そ う に)絵 153 は か け な い 、 と い い ま し た 。(p.13) き 方 が わ か ら な い と い っ た 。(p.14) は 描 け な い と 言 い ま し た 。(p.10) 『星 の 王 子 さま 』 の 日英 訳 に お け る会 話 表 現 の研 究 【 池 澤 訳] … … 絵 の 描 き か た は 知 ら な い の だ と(ち [藤 田訳 】 … … そ こ で 男 の 子 に は こ うい っ た ょ っ と 不 機 嫌 に な っ て)そ の子に言 。(ち ょ っ とふ き げ ん そ う な よ うす で)こ っ た 。(p.12) う 、わ た し に は 絵 は 描 け な い ん だ よ 、 と 。(p.12) [河野 訳】 … … そ の 男 の 子 に(少 し む っ と し な が ら)絵 は描 けな い 、 と告 げ た 。(p.14) だ が 、 例(1)を よ り突 っ込 ん で分 析 して み る と新 た な発 見 も出 来 る。 まず 始 め に 英 日訳 文 の違 い か ら見 る と、英 語 の 三 つ の 訳 文 は ほ ぼ 定 型 化 して い るの に比 べ 、 日本 語 訳 文 で は 形 式 が 少 々異 な っ て い る。 この 要 因 と して は 、 日本 語 で はSVOの それ ぞれ の部 分 が 並 び 変 わ っ て も不 自然 さ が な い とい うこ とだ と思 う。日本 語 で は 、特 に小 説 の会 話 文 中 な どで は 特 定 の 文 法 規則 が 緩 い と い うこ とが 言 え る。二点 目は言 語 を 問 わず 間接 会 話 文 に 言 え る こ とだ が 、前 の 文 章 と結 合 した 文 章 構 成 が 可能 とい う点 だ 。これ よ り前 に は 自分 は絵 が 描 け な い理 由 とな る根 拠 が 述 べ られ て い る。 つ ま りこれ は 思考 の 中 の 動 きで あ り、登 場 人 物 が 直接 会 話 を行 わ な い が ゆ えに 、会 話 伝 達 文 との 結 合 が 可能 に な る の だ。登 場 人 物 の 思 考 回 路 と伝 達 が 一 つ の文 に両 立 で き る とい う点 は 間接 会 話 文 の特 徴 の一 つ に挙 げ る こ とが 出来 る の で は な い か 。 2.4伝 達 内容 の 両 義 性 次 に例(2)の 間接 会 話 文 を 見 て も らい た い 。 (2) C原典1 Je fis remarquer arbres grands '鳬 [W訳] t au petit prince comme des馮lises que les baobabs ne sont pas et que, si m麥e'emDOrtait des arbustes , mais des avec lui tout un t ounea ,cetroupeaune viendrait pas瀉out d'unseulbaobab.(p.24) Ipointed out to the littleprince that baobabs were not littlebushes , but, on the contrary, trees as big as castles and that even ifhe took a whole herd of elevhants away with him, the herd would not eat up one singlebaobab .(p.23) [C訳 】 Ireminded the littleprince that baobabs are not small bushes but trees the size of churches;andthateven ifhewould [T訳 】 not Ipointed out churches, herd succeed would to in and not the that be , they dispatching little prince even if able to eat a that he were up one [内藤 訳 】 バ オバ ブ は 小 さい 木 じゃ な い 、 籔 難 single baobab.(pp.18-19) baobabs to take single are a not whole little herd bushes of PIPnhants but trees with as tall him as , the baobab.(p.24) の よ うに 大 きな 木 だ 、 王 子 さま が ゾ ウの_轍 を つ れ て い っ て も 、た った 一 本 の バ オバ ブの 木 も たべ きれ ない 、 と、 ぼ くは 王 子 さま にい い ま した 。(pp.25・26) [倉橋 訳 】 私 は 、バ オバ ブ は 小 さい 木 で は な くて 教 会 ほ ど も あ る大 木 だか ら、王 子 さま が 象 の 群 を連 れ て 帰 った と して もバ オ バ ブ ー 本 も食 べ きれ な い 、 と教 え て あ げ た。(p ,29) 154 [山崎 訳 】 わ た しは小 さな 王子 さま に 、 バ オ バ ブ は灌 木 で は な く、 教 会 堂 ほ ど あ る大 き な木 で 、た と え ゾ ウの群 を そ っ く り連 墨 と して も 、そ の群 は 一 本 の バ オ バ ブ さ え食 べ つ くす こ と は で き な い は ず だ と教 えて や りま した。(p.20) [池澤 訳 】 ぼ くは そ こで 彼 に 、バ オ バ ブ は 小 さ な木 じゃ な く て教 会 み た い に 大 き な 木 だ し、ゾ ウの 一 群 を連 墨 とこ ろ で 、ゾ ウ た ち は た っ た1本 の バ オバ ブ も食 べ きれ な い はず だ と言 っ た 。(p.24) 1藤 田訳 】 わ た しは 王子 さま に 、バ オバ ブ っ て い る の は ち っ ち ゃ な 木 じゃ な く て 、教 会 く らい も あ る 大 き な 木 で 、 た とえ ゾ ウの群 れ を そ っ く りそ の ま ま つ れ て きた と して も、一 本 のバ オバ ブ の 木 を 食 べ きれ な い く らい な んだ とお しえ て あ げ た。(p.25) [河野 訳1 僕 は 王 子 さま に言 っ た。 バ オ バ ブ は 小 さ な木 な ん か じゃ な くて 、教 会 の建 物 み た い に 巨 大 だ か ら、 ゾ ウの群 れ を一 っ て 食 べ きれ や しな い 、 と。(p.28) 例(1)よ りも伝 達 内 容 の説 明部 分 が 長 い こ とが 一 見 す るだ けで 理 解 で き るだ ろ う。 ま ず 英 語 か ら見 る と、伝 達節 と被 伝 達 節 に分 かれ て い る こ とに加 え 、被 伝 達 節 の 中 も二 つ の 事 象 に対 して 説 明 して い る。 しか し、 この 二 つ の事 象 は 並 列 に位 置 され て い るの で 、関 連 性 とい うの は見 え づ ら く な る。 一 方 日本 語 の 訳 文 を見 る と、そ れ ぞれ の訳 文 に 多様 性 が 見 られ る。 個 別 に見 て い く と、 池 澤 ・山 崎 訳 は 英 語 訳 と類 似 して い る面 が あ るが 、内 藤 訳 は 要 点 を さ らっ と述 べ るだ け に 留 ま り、 倉 橋 ・河 野 訳 は 「 だ か ら」 を組 み 込 む こ とで 二 つ の伝 達 内容 に 因果 関係 を 出 して い る。伝 達 内 容 が 二 つ と固 定 され て い る の で は な く、バ オ バ ブ の木 を 中心 に論 じる な ど伸 縮 性 が あ る こ とが 伺 え る。 そ し て こ の 例 文 の 中 に も う一 つ 興 味 深 い 点 が あ る。英 ・日両 訳 文 と も に 二 重 線 を 引 い た 箇 所 に 注 目す る と 、 作 者(語 り手)の 語 る視 点 とい うもの が 見 え て く る。 まず この文 は前 の例 文 と同 じ く作 者 か ら 王 子 さ ま へ の 伝 達 文 で 、一 字 一 句 は 異 な る と い え ど も 、伝 え る 内 容 の 真 偽 値 が 同 じだ と仮 定 す る と 、 下 線 部 の 動 作 主 は 王 子 さ ま で あ る 。 下 線 部 を ま と め る と 、 英 語 は"take_with him"、"took...home with him"、"took...away with h血"で どれ も 日 本 語 の 「連 れ て 行 く 」、 「連 れ て 帰 る 」 と ほ ぼ 同 義 だ と い え る 。 一 方 の 日本 語 で は 半 分 の 訳 文 が 「 連 れ て く る 」 と 訳 した 。 そ こ で ど ち ら の 訳 が 適 切 か と 考 え る と、 ど ち らで も 当 て は ま る と い え る 。 「連 れ て 行 く」 だ とバ オ バ ブ の あ る 所 を 目 指 して と い う形 に な る し 、 「 連 れ て く る」 だ と象 を率 い る点 に フ ォー カ ス す る 形 に な る。た だ こ の 文 中 が 書 か れ て い る ペ ー ジ に 添 え て あ る 絵 は 王 子 さ ま の 星 を イ メ ー ジ した 図 で あ る の で 、 作 者 が 王 子 様 の 星 へ 象 を 連 れ る と 表 現 した か っ た な ら ば 、 「連 れ て 行 く 」 が 適 当 だ と 思 う。た だ こ こ で 重 要 な の は 、間 接 会 話 文 で は 詳 細 ま で の 内 容 が 不 明 確 に な る と い う性 格 が あ る の で 、 こ の部 分 を 直接 会 話 文 に 直 した 場 合 に この詳 細 が理 解 可 能 に な る とい うこ とで あ る。 155 『星 の 王 子 さま』 の 日英訳 に お け る 会話 表 現 の研 究 2.4登 場 人物 としての 場 面 の 解 釈 以 下 の例(3)を参 照 され た い 。 (3) 原 典1 Et un jour 軋dans [W訳 】And [C訳 】 consei皿a de la t黎e des enfants one day where [T訳 】 il me you li de chez he said to me:`You live can see exactly were to travel some And one day he advised upon the children And one children m'a day he on my uer灑騏ssir ou how where su planet to t beau dessin , pour bien faire entrer moi.(p.26) ht to make a beautiful all this is. That day. Sometimes,'he me un and would drawin,so be very that the ch丑dren useful to them if they added,`...'(p.26) make a beautiful drawin so as to impress a皿this I live.(p.26) ested that I set about makin a beautiful drawin ,so as to give a clear idea of all this.(pp.20-22) [内 藤 訳 】あ る 日 、 王 子 さ ま は 、 フ ラ ン ス の 子 ど も た ち が 、 こ の こ と を よ く頭 に い れ て お く よ う に 、 ふ ん ば つ して 、 一 つ 、 り っ ぱ な 絵 を か か な い か と ぼ く に す す め ま した 。(p.28) [倉橋 訳]あ る 日 王 子 さ ま は 、私 の 国 の 子 供 た ち に 教 訓 と な る よ うに 、 ひ とつ が ん ば っ て 立 派 な 絵 を 描 い て み た ら 、 と い っ て く れ た 。(p,31) [山崎 訳 】そ し て 、あ る 日彼 は 、 こ の こ と を わ た し の 国 の 子 ど も た ち の 頭 に し っ か り し み こ ま せ る た め 、 り っ ぱ な 絵 を1枚 、 精 を 出 し て 描 き 上 げ る よ う に す す め ま し た 。(p.22) [池澤 訳]別 の 日 に 彼 は ぼ く に 、 き み は こ の 地 球 に 住 ん で い る 子 供 た ち に も よ く わ か る よ うな 上 手 な バ オ バ ブ の 絵 を 描 く竺 1藤 田 訳]あ だ と言 っ た 。(p.26) る 日 、 王 子 さ ま は 、 が ん ば っ て バ オ バ ブ の り っ ぱ な 絵 を 描 い て 、 わ た しの 国 の 子 ど も た ち が し っ か りお ぼ え て お く よ う に させ た ほ う が い い と 、 わ た し に じ ょ げ ん し て くれ た 。(p.27) [河 野 訳 】あ る 日 、 こ の こ と を 僕 の 星 、 つ ま り地 球 の 子 供 た ち も 、 よ く 頭 に 入 れ て お け る よ うに 、 い い 絵 を 一 枚 が ん ば っ て 描 い て お い た ほ う が い い と 、 王 子 さ ま は す す め て くれ た 。(p,30) この例 文 に 関 して は 例(1)、(2)と は発 話 状 況 が異 な る。 まず 一 つ は 、 王 子 さま か ら語 り手 へ の 伝 達 文 で あ る こ と((1)、(2)は 両 方 と も作者 → 王 子 さま へ)、も う一 つ は 、そ のす ぐ後 に く る会 話 も続 け て王 子 さま が発 す る直接 会 話 文 で あ る とい うこ とだ。 ここ で は 、王 子 さ ま か ら語 り手 へ の 伝 達 文 で あ る に も 関 わ らず 、 作 者 が どの よ うに この状 況 を 間接 会 話 文 で 表 現 して い るか につ いて 考 察 して み た い。簡 略 して い えば 、語 り手 と して の作 者 と登 場 人物 と して の 作 者 の どち らの視 点 よ りな のか を ここ の文 章 か ら考 え る。 まず 英 訳 で の 特徴 は 一 人 の 訳 者(Woods)が この 間接 会 話 文 を 直接 会 話 文 へ と変 換 して い る 点 だ 。 この理 由 と して は 、続 く文 が 再 び 王 子 さま の直接 会 話 文 とな っ て い るた め 、長 文 一 っ にま と めた もの だ と考 え られ る。逆 に 間接 会 話 文 と直接 会 話 文 を ま と め ない原 因 と して は、提案 した 内容 とそ の 補 足 内 容 の双 方 を 区別 させ る働 き を して い る の で は な い か と考 え る。ま た英 訳 の 直接 156 会 話 文 の 下線 部 が"ought"と 表 現 され て い る よ うに 、 義 務 ・忠 告 の意 味 合 い が他 の 英訳 よ り強 め られ て い るの が 印 象 的 だ 。日本 語 訳 に移 る と、多 くが 下線 部 で 引 い た よ うな修 辞 疑 問 形 式 で 書 かれ て い る訳 文 が 目立 つ 。 視 点 に 関 して言 及 す る と、 英 文訳 で は"me"が 客 体 化 して い る こ と か ら ど の英 訳 者 に も共 通 して 語 り手 視 点 か ら表 現 して い る こ とが わか る。 一 方 の 日本 語 訳 で は 「 す す めて くれ た 」、「 助 言 して くれ た 」な どか ら語 り手 か ら登 場 人 物 と して の作 者 の視 点 へ と移 動 が 見 られ る。 「くれ た」 とい う言 葉 が付 属す る事 に よ り、 自分 の た めに他 人 が そ の動 作 を し、 そ れ に よ って 恩 恵 ・利 益 を受 け る意 を表 す た め 、登 場 人 物 と して の作 者 が よ り前 面 に現 れ る効 果 が あ る と考 え る。英 訳 に お い て この 表 現 方 法 が 用 い られ て な い とい うよ りは この よ うな 効 果 を 表 す 言 葉 が な く、相 手 と話 し手 の 間 の 関係(損 得 の感 情 な ど)が 明確 に 区別 され る こ とが 日本 語 の 特 徴 と して挙 げ られ る と思 う。 3.直 接会 話 文 か ら見 る英 日翻 訳 の 特 徴 次 に 今 度 は 作 品 中の 直 接 会 話 文 に 目を 向 け て み る。直 接 会 話 文 はそ の名 の通 り、登 場 人 物 が 作 者 を 通 さず に登 場 人 物 同 士 で 直 接 会 話 を行 うこ とで 慣 用 句 や 文 脈 的 要 素 な どが 直 接 表 れ るの で 言 語 的 な特 徴 が 見 出 しや す い と考 え られ る。 例(4)は王 子 さま が 自分 の 星 に突 如 芽 生 え た 「 花」 と会 話 をす る場 面 で あ る。バ ラが 登場 す る事 で 語 り手 は 登 場 人 物 た ち に対 して初 め て客 観 的 な立 場 か ら語 る よ うに な る。 (4) [原典] [W訳] [C訳] [T訳] ≪Ils peuvent venir, `Let the tiers `Let them come `Let them come les tigres, come , the , those with avec their tigers, tigers leurs griffes!≫ claws!'(p with with their (p.34) .36) claws!'(p.29) their claws!'(p.36) [内藤 訳 】 「爪 を ひ っ か け に く る か も し れ ま せ ん わ ね 、 ト ラ た ち が!」(p.40) [倉橋 訳 】 「虎 た ち が あ の 爪 で 襲 っ て き て も 大 丈 夫 よ 」(p.45) [山崎 訳 】 「ト ラ た ち が 爪 で 引 っ か き に く る か も し れ な い わ!」(p.30) 【 池 澤 訳l 「鋭 い 爪 の ト ラ が 来 て も 大 丈 夫 よ!」(p.37) l藤 田訳】 「ト ラ た ち が つ め を 立 て て や っ て く る か も し れ な い わ!」(p.40) 【 河 野 訳1 「ト ラ た ち が 、 爪 を 光 ら せ て 、 来 る か も し れ な い で し ょ!」(p,43) こ こは花 が 自分 自身 の トゲ を示 しな が ら、 私 に は トゲ が あ る か ら トラ が来 て も大 丈 夫 だ とい う よ うに 自分 を誇 示 して い る文 章 で あ る。 よっ て藤 田 ・山崎 ・河 野訳 は トラ が 来襲 す る こ と を心 配 した発 言 で あ る の で 不適 切 な 訳 文 と取 れ る。バ ラ の虚 栄 心 が 王 子 さま を 当 惑 させ る こ と にな るの が 両者 の 関係 性 を考 え た 場 合 正 しい と考 え る。この よ うな 訳 文 が 複 数 表 れ た 要 因 と して 、一 つ は 文脈 上 十 分繋 が る こ とだ 。後 の 文 章 で 「 そ れ に トラ は草 な ん て食 べ や しな い 」と返 答 して い る こ とか ら、一 見バ ラ が 不安 で あ るの で慰 め と して 王 子 さまが 発 した の で は な い か と考 え られ る。 し 157 『星 の 王 子 さ ま』 の 日英 訳 にお け る 会話 表 現 の研 究 か し 、よ り根 本 的 な 理 由 は 仏 ・英 語 に お い て 自 然 と 考 え ら れ る 表 現 が 、日本 語 で は 表 現 で き な い 、 ま た は し づ ら い ケ ー ス が 生 じ る と い う こ と だ(こ them come"つ の 逆 も 同 じ こ と が 言 え る)。 英 語 で は"Let ま り、 「トラ を 望 み どお り に 来 させ ろ 」 と訳 せ る が 、 こ の よ うに な ら な い の は 日 本 語 で 表 現 し た 場 合 に 不 自然 と 捉 え られ る か ら だ(も ち ろ ん フ ラ ン ス 語 原 典 か らの 訳 文 で は あ る が 〉。 不 自然 と な る 背 景 と して 考 え られ る の は 、 両 言 語 間 に お い て 相 手 に 「命 令 す る 」 こ と と 「 委 ね る ・頼 る 」 こ と へ の 考 え 方 に 違 い が あ る こ と だ 。 これ は ど ち ら が よ り適 切 か と い う議 論 で は な く 、言 語 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ス タ イ ル に 違 い が あ る が ゆ え に 生 じ る 差 異 と い う こ とで と ど め る 。要 す る に 、上 記 の 翻 訳 例 文 は 日本 語 に お い て 直 接 訳 し に く い 表 現 で あ る が ゆ え に 、二 つ の 解 釈 が 邦 訳 者 間 に お い て 生 じて し ま っ た とい う こ とで あ る 。 よ っ て 、 「トラ が 襲 っ て き て も 大 丈 夫 」 程 度 の 一 歩 く 踏 み 込 ん だ 訳 〉 を 日本 語 に お い て せ ざ る を 得 な い の で あ る 。 (5) L原典 】 Horreur petit 【W訳1 des courants d'air... ce n'est pas bad luck, de chance, pour une plante, avait remarqu駘e prince.(p.34) `Ahorror of draughts ‐that is for a plant,'remarked the little prince,`...' (p.37) [T訳] `Ahorror of draughts ...that's really bad luck for a plant,'remarked the little prince,`...' (p.37) [C訳 】 `Ahorror of draughts?That is bad luck , for a plant,'the little prince remarked,`...' (p.30) [内藤 訳 】 〈風 の 嵌 い て くる の が こわ い な ん て … …植 物 だ の に ど うして だ ろ う。 こ の花 っ た ら、ず い ぶ ん 気 む ず か しい な あ … … 〉 と王 子 さ ま は 考 え ま し た 。(p.41) [池澤 訳 】 冷 た い 風 に 弱 い な ん て … … 植 物 な の に 困 っ た こ と だ 、 と 王 子 さ ま は 考 え た 。(p.37) [藤田訳] 「 植 物 な の に 風 が き らい な ん て … … こ の 花 は 、 そ う と うふ く ざ つ だ な … … 」 と 、 王 子 さ ま は 思 っ た 。(p.40) [山崎 訳] 「そ と の 風 が 嫌 い だ な ん て … … 。 植 物 の くせ に 運 が 悪 い な 」 と 小 さ な 王 子 さ ま は 思 い ま し たQ(p.31) 【 倉橋訳】 「 風 が 恐 い な ん て … … 植 物 な の に 困 っ た も の だ 。 な ん と も気 む ず か し い 花 だ 」 と王 子 さ ま は 思 っ た 。(p.46) [河野 訳] 〈風 が 吹 き こむ の は 大 き らい って … …植 物 な の に 、困 っ た もの だ な 〉王 子 さま は 、ま た気 が つ い た 。(p.43) 例(5)で は 英 日翻 訳 文 間 に お い て 文 構 造 が 異 な り 、 両 者 の 対 応 関 係 が 見 え に く い 状 態 に な っ て い る 。 下 線 部 の"bad luck"は 名 詞 形 な の で 直 訳 す れ ば"悪 い 運"だ が 、 邦 訳 の 中 に は 「 運 が悪 い 」 の よ うに 単 語 が 組 み 合 わ さ っ て 句 と して 表 さ れ て い る。 そ の 他 に も 「困 っ た も の だ 」、 「ふ く ざ つ だ な 」、 「ど う して だ ろ う」 な ど 単 な る名 詞 で は な く 、 そ こ か ら派 生 し て 表 現 して い る と い う こ と 158 が わ か る。だ が 様 々 な表 現 方法 が 異 な る中 で 、それ らの表 す 意 味 内 容 の方 向性 は あ る程 度 同 じで あ る よ うに 思 う。全 体 的 に 日本 語 訳 は 王 子 様 が 花 に対 して否 定 的 に 見 た り、花 の キ ャ ラ クタ ー性 を 強 く表 した りす る作 用 が 見 渡せ る。 「 な ん て 」 とい う表 現 も発 言 や 思 考 の 内容 を 軽 ん じ る気 持 ち を こ めて 示 す 場 合 が多 い 事 か ら同 じよ うな 効 果 を表 して い る とい うこ とが い え る。一 方 の 英 語 訳 で は あ る程 度 の キ ャ ラ ク ター性 を 出す も の の 、日本 訳 ほ ど強 く表 す 表 現 は 見 られ な い 。そ も そ も この"bad luck"も 日本 語 で 訳 せ ぱ 「 お 気 の 毒 に」、 「 運 が悪 い のね 」 とい うよ うな 同情 の 気持 ち の 面 が 多 分 に存 在 す る。この よ うに会 話 文 中 で の感 情 表 現 は 強 い 印象 を生 み 出す の だ が 、そ の 印 象 も 日 ・英 に よ っ て は 王子 さま や花 に 対 して違 っ た 方 向 性 で示 され て い る と感 じた(も ち ろ ん、 翻 訳 者 の影 響 も忘れ て は な らな い が)。 そ の他 の 特徴 と して は 、 日本 語 訳 に 限 っ て 、 「 だ な 」 な どの 表 現 が 会 話 中 に頻 繁 に使 用 され て い る こ とか ら、登 場 人 物 の 心情 に入 り込 む場 合 が 多 い 。 こ こで も 「 」 を用 いず に 、感 情 表 現 を描 写 す るた め に 〈 〉 を用 い る こ と を して い る0一 方 、英 語 で は こ こは発 話表 現 と も感 情 表 現 とも読 み 取 れ る が後 の 文脈 上 を考 え る と、発 話 を行 っ て い る と考 え られ 、 日本 語 ほ ど心情 描 写 へ の変 換 が 少 な い とい え る。 (6) 源 典】 ≪Le d'o soir 【W訳1 vous je `At me mettrez viens...≫ night l want sous globe. Il fait tr鑚 froid chez vous. C'est mal install L (p.34) you to put me under you to put me a glass globe . lt is very cold where you live....' (p.37) [T訳 】 In the live.And 【C訳] `ln the lacks [内藤 訳 】 evening rather evening I want under a glass dome. It is very cold here where you uncomfortable...'(p.37) you may conveniences...' place a glass dome over me. lt is very cold on your planet. lt (p.30) 「夕 方 に な っ た ら 、 穫 い ガ ラ ス を か け て く だ さ い ね 。 こ こ 、 と て も 寒 い わ 。 星 の あ り 場 が わ る い ん で す わ ね 。 … … 」(p.41) [池澤 訳 】 「 夜 は ガ ラ ス の蘇 を か ぶせ て い た だ きた い の 。 あ な た の 星 って 、 ず い ぶ ん 寒 い わ 。 造 りが 悪 い の ね 。 … … 」(p。37) [藤田訳] 「 夜 に は 、 ガ ラ ス の お お い をか け て 下 さい ま せ ね.あ な た の 星 は とて も熟 ・の よ.位 遜 り が 悪 い ん で す わ ね 。 … … 」(p.40) [山崎 調 「 夜 は ガ ラ スの 覆 い の な か に 入れ て くだ さい ね。 あ な た の と ころ 、 とて も寒 い わ。 場 所 が 悪 い の ね 。 … … 」(p.31) [倉橋 訳] 「日 が 暮 れ た ら ガ ラ ス の 覆 い を か け て く れ る わ ね 。 あ な た の 星 は な ん て 寒 い ん で し ょ っ一 ま っ た く ひ ど い も ん だ わ 。 … … 」(p.46) 【 河 野 訳】 「夕 方 に な っ た ら 、 ガ ラ ス の お お い を か ぶ せ て ね 。 あ な た の と こ ろ 、 と て も寒 い わ 。 置 備 が 悪 い の ね 。 … … 」(p.43) 159 『星 の 王 子 さま 』 の 日英 訳 に お け る会 話 表 現 の 研 究 こ の 訳 文 で の 注 目す る 点 は 語 彙 的 構 造 の 変 化 とモ ダ リテ ィ 表 現 で あ る 。こ こ で も 語 彙 的 構 造 の 変 化 が 見 られ 、 英 語 の"uncomfortable"や"lack of conveniences"と 訳 され て い る の に 対 し、 日本 語 で は 「位 置 取 り 、造 り 、場 所 、設 備 が 悪 い 」 な ど ま た も 一 歩 く 踏 み 込 ん だ 訳 〉 文 が 見 ら れ る 。英 語 で は 暮 ら して い る 星 自 体 が 不 便 だ と 述 べ て い る の に 対 し、 日本 語 は 寒 い と い う こ と に 関 して の 理 由 を 説 明 し た 訳 文 と な っ て い る 。 モ ダ リテ ィ 表 現 と は"must"、"can"、"may"な 可 能 性 、 許 可 、 意 図 を 意 味 す る助 動 詞 類 の こ と で あ る が 、Cuffeの どの 訳 文 で は 命 令 し て い る よ うな 働 き を して い る 。 一 方 の 日本 語 訳 文 で は 、倉 橋 訳 が 英 訳 と相 対 的 に 近 い ほ か は 、お 願 い の 意 志 を 込 め た 表 現 に な っ て い る と い う こ と が い え る 。(4)の 例 文 で も 述 べ た 点 と 同 様 に 、 命 令 と お 願 い 表 現 の 間 に 価 値 観 の 差 異 が 生 じ る 結 果 で あ る と考 え る 。 4.ま とめ 本稿 は、 「 星 の王 子 さま」 の作 品 に お け る会 話 表 現 を 直接 ・間接 会 話 文 に分 け な が ら、 そ の発 話 様 式 が 持 つ 効 果 ・影 響 に つ い て 考 察 しつ つ 、 日 ・英 両翻 訳 文 の 特徴 を見 出 す事 を 主 な 目的 と し た 。 ま ず 、小 説 作 品 に お い て会 話 文 の性 質(直 接 ・間接)を 使 い 分 け る こ とは 、作 品 に お い て独 自 の リズ ム 、緩 急 を 与 え る効 果 が あ るの で は な い か と考 え る。具 体 的 に言 う と、直接 会話 文 が 会 話 表 現 の多 くの割 合 を 占 め る段 落 にお い て 間接 会 話 文 が登 場 す る こ とに よっ て 、文 中 の 時 空 を一 時 超 越 した り、会 話 ・伝 達 内容 が 一段 階抽 象 度 を増 した りす る効 果 が あ る。 そ の結 果 読 む 際 に 、 独 特 の リズ ム が加 わ り、新 鮮 さが 生 ま れ る。伝 達 内容 にお い て抽 象 度 が 増 す こ とは 、簡 潔 に ま と め る こ とで 短 く、内 容 をわ か りや す く把 握 す る効 果 が あ る反 面 、詳細 が把 握 出来 な い た めに 不 明 確 に な る 、あ るい は 推 測 しな けれ ばい け な くな る場 合 が あ る とい うこ と も発 見 で きた 。間接 会 話 文 が 表 れ る部 分 の前 後 に は ほ とん どの場 合 直 接 会 話 文 が 関連 して い る こ とを考 え る と、表 出 され る こ とに よ る リズ ム の変 化 と同 時 に 、 英 訳 文 に お い て 見 られ た 直接 会 話 文 との 融 合 文 な ど も翻 訳 作 品 にお い て は行 われ る場 合 が あ る。 続 い て 日 ・英 翻 訳 を比 較 した 上 で の両 言 語 の 特 徴 につ い て 述 べ る。英 訳 文 で は 間接 会 話 文 か ら 直 接 会 話 文 の変 形 が見 られ た り、間接 会 話 文 に お い て は あ る程 度 の 共 通性 を訳 文 同 士 が 持 って い た り して 、類 似 した 文 章 が 多 か っ た とい うこ とが わ か っ た 。 日本 語 訳 文 で は 訳 文 の パ ター ンの 豊 富 さか ら様 々 な言 語 的特 徴 に よ っ て視 点 の変 換 、訳 文 の ニ ュア ンス の変 化 が 感 じ取 れ た。ま た 会 話 文 中 にお い て 、そ の 言語 な らで は の 表 現 方 法 ・慣 用 句 な どが多 く見 られ た。そ れ を異 な る言 語 に翻 訳 した 際 に、直 訳 で は 違 和感 が あ る表 現 を如何 に訳 して い るか 、ま た それ を他 言 語 と比 較 す る と両 言 語 間 の違 い か ら双 方 の特 徴 が 発 見 で き た。この場 合 の 翻 訳 は 必ず し も誤 訳 とは 判 断 しが た く、 言 語 固 有 の 解 釈 に よ っ て特 徴 が 表 れ て い る と考 え る 方 が正 しい の で は な い か と思 う。 【言 語 資 料 】 Saint-Exupery, Antoine Trans. by Cuffe, T.V. Trans. by Testot・Ferry, de.1946/1999. F.1995. The Irene.1995. Le Little The Petit Prince. Prince. London Kittle Prince. 160 Paris Gallimard. Penguin Books London Wordsworth Ltd . Editions Limited . moans. by Woods, Katherine.1945. 内 藤 濯(訳)2000.『 London William Heinemann Ltd. 星 の 王 子 さ ま 』 岩 波 書 店. 倉 橋 由 美 子(訳) 2005,『 新 訳 山 崎 庸 一 郎(訳)2005.『 池 澤 夏 樹(訳) The Little Prince. 2005.『 藤 田尊 潮(訳)2005.『 星 の 王 子 さ ま 』 宝 島 社. 星 の 王 子 さ ま 』 み す ず 書 房, 星 の 王 子 さ ま 』 集 英 社小 さ な 王 子 』(新 訳 『星 の 王 子 さ ま 』)八 坂 書 房. 河 野 万 里 子(訳)2006.『 星 の 王 子 さ ま 』(新 潮 文 庫)新 潮 社. 【参 考 文 献 】 池 上 嘉 彦1995.『 〈 英 文 法 〉 を 考 え る 』 筑 摩 書 房. ジ ェ フ リー ・N・リ ー チ ノマ イ ケ ル ・H・シ ョー一 ト2003.『 村 上 春 樹 ・柴 田 元 幸2000.『 長 島 要 一2005.『 翻 訳 夜 話 』 文 藝 春 秋. 森 鴎 外 文 化 の 翻 訳 者 』 岩 波 書 店. 161 小 説 の 文 体 』(箆 壽 雄 監 修)研 究 社. Contents Forward Table (i) of Contents Part I (il) Collaborative Research A Study of Lc Petit Prince • Introductory and Its Translation Problems Remarks • Focusing on Naito's Translation • Focusing on Kurahashi's • Focusing on Yamazaki's Translation Translation • Focusing on Ikezawa's on Fujita's • Focusing on Kono's Translation Part II Shimozaki 1 Minoru Shimozaki 5 Yusuke Matsumoto Shota Translation • Focusing Minoru Translation Saiki 35 43 Hisaka Sugawara 55 Masaru Ashizawa 73 Yoko Suzuki 83 Hisaka Sugawara 93 Yusuke Matsumoto Individual Research • An Examination and Its English • An Analysis Inanimate of `Point of View' in Lc Petit Prince and Japanese of Japanese Translations Transitive with 125 Agents: A Case Study of Vita Sexualis • Representations of Speech in Lc Petit Prince: The Relation between Japanese Translations • A Study of Speech Representations English Expressions Translations Shots Saiki 137 and Japanese in Japanese and Masaru Ashizawa 151 of Lc Petit Prince Table of Contents (English) 162 Afterword 163 162 あ とが き ヒ ト固 有 の認 知 能 力 とは 、同 種 の 他 者 を、自分 と同 じ く意 図 を持 つ 存 在 で あ る と理解 で き る こ とだ と言 い ま す 。そ して 、そ の 能 力 は 、言 語 の 利 用 に よ り顕 現 す る の だ と。人 類 の存 在 そ の もの に 関 わ る言 語 とは、実 践 的 な道 具 で あ りなが ら、実 に捉 え ど ころ の な い魅 力 的 な もの で も あ りま す。 私 た ち は 、翻 訳 分 析 とい う手 法 を用 い 、言 語 とい うもの につ い て考 え て き ま した。言 語 を利 用 し、文 学 作 品 や 翻 訳 作 品 を紡 ぎ 出す 創 作 者 た ち に も、思 い を馳 せ て き ま した 。発 見 や 疑 問や 問題 をぶ つ け合 い 、考 え込 み 、納 得 し、ま た 考 え る、 とい う一 年 間 で した。 本 論 文集 が 、そ の成 果 で す。 論 文集 の 出 版 は2005年 度 に続 き4度 目に な りま した。今 後 の課 題 は 多 々 あ ります が 、来年 度 以 降 も、 よ り充 実 した 研 究 が な され て い く こ とを 強 く希 望 して い ま す 。 最 後 に な りま した が 、こ こ まで 導 いて くだ さっ た霜 崎 實教 授 、お よび 本 論 文集 出版 の機 会 を 与 え て くだ さ っ た湘 南 藤 沢 学 会 に 心 よ り感 謝 申 し上 げ ま す 。 2007年2月 菅原 久佳 163 執筆者 霜崎 實 慶應義 塾大学環境情報学部教授 菅原 久佳 政策 ・メデ ィア研究科修士課程2年 松本 裕介 政策 ・メデ ィア研究科修 士課程2年 佐伯 祥太 総 合政策 学部4年 鈴木 陽子 総合 政策 学部4年 葦沢 大 総合政策 学部2年 翻 訳 論 プ ロ ジ ェ ク ト2006年 A Search into Language 度 論文 集 and Beyond-Challenges in Translatlon Studies- 発行 日 2007年3月22日 編集 霜 崎 實 ・菅 原 久 佳 ・松 本 裕 介 著者 霜 崎 實 ・菅 原 久 佳 ・松 本 裕 介 ・佐 伯 祥 太 ・鈴 木 陽 子 ・葦 沢 大 発行所 慶応 義 塾 大学湘 南藤 沢学 会 〒252-0816神 初版 発行 奈 川 県藤 沢 市遠 藤5322 義 塾 大 学 湘 南 藤 沢 キ ャ ンパ慶應 ス 印刷所 株 式 会 社 ワキ プ リン トピア ISBN:978-4-87762-173-5 SFC-RM 164 2006-010