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第6回運営小委員会 議事要旨 - 公益社団法人 日本監査役協会

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第6回運営小委員会 議事要旨 - 公益社団法人 日本監査役協会
第6回運営小委員会
議事要旨
日 時:平成 20 年6月 12 日(木)18 時 30 分~20 時 30 分
場 所:(社)日本監査役協会 本部 A 会議室
議 事:1.株主・業務執行者の利害対立状況において非業務執行役員が果たすべき役割
と我が国監査役(監査委員会)制度への示唆(3)
【報告者】「フランスの法制について」
早稲田大学大学院法務研究科教授
鳥山 恭一氏
「アメリカにおける非業務執行取締役の役割について」
大阪大学法科大学院准教授
久保田 安彦氏
議事内容
1.フランスの法制について
鳥山教授より、標題について報告があった。
鳥山教授
よろしくお願いいたします。フランスの法制について報告します。「資料
1」です。話の内容としては、大きくは「フランスの株式会社の機関構成」として、監査
体制の位置付けを見ていきます。後半は、レジュメの5頁以下になりますが、会計監査役
に関して話をしていきます。
(1)株式会社の機関構成-監査体制の位置づけ
日本は会社と組合は別物という位置付けですが、ヨーロッパではイギリスのカンパニー
も、ドイツのゲゼルシャフトも、フランスのソシエテでも、みんな契約です。ドイツやフ
ランスだと、ソシエテもゲゼルシャフトも民法の提携契約の一つということで、組合に法
人格が乗っているのが、会社の位置付けになります。ソシエテもゲゼルシャフトも社会で
すが、いつからあったかというと、紀元前の「ローマ法」の時代からありました。
「societas と commenda」と書いていますが、これは言うまでもなく、大塚久雄先生
の「株式会社発生史論」に書かれているように、ソシエタスにコンメンダが結び付いた、
「コンメンダ」は委託関係で、委託する人と委託される人ということで、委託される人が
「ソシエタス」で、実際の経営を行い、委託する人が有限責任者です。
「1807年商法典」にありますが、「ソシエタス」と「コンメンダ」が結び付いたもの
が、そのまま「Societe en commandite」、要するに合資会社です。日本風に言うと、
「無限責任者」と「有限責任者」ですが、フランスだと今でも「委託する人」と「委託さ
れる人」という言い方で社員のことを言っています。「ソシエタス」に「コンメンダ」が
結び付いて、いったん「合資会社」形態になり、特に有限責任社員の地位を株式にするの
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が、「株式合資会社」です。中世はずっと株式合資会社で事業活動が行われていました。
株式会社は、すべての株主の責任を有限にしています。つまり機能資本家の責任まで有
限にしている会社形態になりますが、これがいつごろ出てきたかというと、フランスの会
社法史の書物等によると、1750年~1770年という18世紀の末ぐらいで、フランス革命が
1789年ですから、その直前に株式会社のようなものが出てきたということです。
フランス革命が1789年、バスチーユ陥落から始まって、ロベスピエール、ナポレオン
が出てきて治めて、1804年に「民法典」を作り、1807年に「商法典」を作りました。こ
れは大隅健一郎先生の「株式会社変遷論」にも書かれていますが、この商法典で初めて株
式会社に関する規定が置かれました。株式会社をフランスでは「ソシエテ・アノニム」と
いう言い方をしています。「アノニム」は「無名な」ということで、「合名会社」に対し
て「名前がない会社」ということです。
「合名会社」は、無限責任社員の名前を合わせて会社の名前にするという意味で、
「Societe en nom collectif」、そのまま日本語にして「合名会社」にしました。それに対
して、株式会社は無限責任を負っている者がいないので、社員の名前を会社名にしてはい
けないということで、「societe anonyme」という言い方になりました。「会社の名前に
社員の名前を出してはいけない」という規定自体はずっと残っていて、1966年の法律で
「社員の名前も会社の名称に含めてもいい」という規定が置かれました。それまでも、事
実上は社員の名称が商号に入っているものもありましたが、法律上はそのような扱いにな
っていました。
商法典制定
1807年の段階で法律の規定が置かれましたが、株式会社は「設立許可主義」で、自由
な設立は認められていませんでした。株式会社は無限責任を負う者がいないので、資本の
集中が可能になり、かつ急迫な資本の集中について、無限責任を負う者がいないというこ
とで、「社会にとって危険である」ということで、設立許可主義で「政府の許可を得ない
と設立できない」という制度になりました。
設立許可主義で何が予定されていたかというと、設立の際に、定款を政府が審査するこ
とで、会社の安全を図りましたので、商法典自体の株式会社に関する規定は7カ条程度し
かなくて、極めて簡単なものでした。
株式会社に関しては、設立許可主義が採られたので、「株式会社を設立するには費用が
かかる」ということもあり、「株式合資会社」が広く使われました。これは大隅健一郎先
生の本にも書かれていますが、いわゆる「株式合資会社フィーバー」が19世紀の中ごろ
まで続きました。
株式会社の設立準則主義確立
「設立許可主義」から「設立準則主義」に移るのは、イギリスが最初です。イギリスは
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1844年に自由な設立が認められ、そのあと1855年、1856年ごろ、有限責任が確立しまし
た。フランスの有限責任は1807年に確立していましたが、いずれにしても、イギリスで
すべての社員が有限責任である会社の自由な設立が認められたことがきっかけになり、
英・仏で競争しているので、「フランスでも認めてほしい」という実務家の要望に、政府
がこたえざるを得なくなり、1863年の法律で資本金を制約して、自由な設立を認めたう
えで、1867年の法律で株式会社の設立準則主義が確立しました。
余談ですが、設立許可主義から設立準則主義に移るのはほかの国でも見られて、ドイツ
の場合は、1861年に「普通商法典」ができていますが、そこでは株式会社と株式合資会
社は設立許可主義で、1870年に設立準則主義に移行しています。日本でも、「1890年旧
商法」では株式会社の設立は許可主義でした。1899年の「明治32年新商法」で、株式会
社は設立準則主義になっています。
株式会社の設立準則主義のもとでは、「法律の強行規定を適用することで、会社の安全
性を確保する」という建前で制度はできています。準則主義のもとでは、「会社の組織を
強行規定で定めなければいけない」ということで、準則主義の法制度ができて、会社の組
織に関する規定が置かれることになります。ただ、1807年以降、60年にわたって、許可
主義のもとでの運用があり、一定のルールが形成され、そのルールにのっとって組織がで
きました。
1867年のもとでの、株式会社の組織がレジュメ2頁の上です。これは株主総会を書いて
いますが、一方で受任者を選任し、受任者によって管理されます。その人のことを
「administrateur」(アドミニストラトゥール)と言っていましたが、日本法で言えば
「取締役」を選任することになります。他方で、株主総会はもう1人、「commissaire」
(コミッセール)、日本法で言えば「監査役」を選任します。1867年のフランスの制度
は、株主総会で取締役を選任する。一方で、株主総会で監査役を選任する制度です。
そういう意味では、明治23年あるいは明治32年の商法も、株主総会で取締役を選任す
る。あるいは株主総会で監査役を選任する形ですので、「形としては同じだった」と言え
ると思います。よく「日本法はドイツに倣った」と言われますが、ドイツの場合は取締役
の選任自体は定款で定め、監査役は株主総会で定めます。「取締役の選任は決定的に違っ
ていた」という意味では、むしろ、「形としてはフランスに似ていた」と言えます。
株主総会で、取締役や監査役を選任する形になっていましたが、当時は自由主義の時代
で、一応「強行規定で株式会社の運営の安全を図る」という建前ではあったわけですが、
実際には規定はかなり尐なくて、会社制度としては極めて不完全なものでした。
取締役に関しても、1頁に「22条」を書いていますが、「受任者によって管理され
る」という規定しかなくて、「22条2項」は、意味があまり明確ではなくて、いろんな
解釈がなされた規定です。
2頁の上に「法文」と「実務」と書いてありますが、実際にはどのように行われていた
かというと、取締役を何人か選任すると、実務上は「取締役会」という会議体ができてい
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ました。会議体を作ったうえで、実際に業務執行をだれにさせるかというと、必ずしも取
締役に限らず、取締役以外の者に業務執行を委ねた場合が、「directeur general」(ディ
レクトゥール・ジェネラル)と書いてありますが、要するにゼネラルなディレクションを
する人、企業全体の指揮をする人です。統一して「執行役員」と訳しています。
取締役の中で業務執行を委ねる場合には、「administrateur delegue」(アドミニスト
ラトゥール・デレゲ)、「業務担当取締役」になるかもしれませんが、業務執行を担当す
る取締役という実務になっています。
監査役は、「形は日本と似ていた」と言いましたが、細かい違いはあります。当時の監
査役は、「調査権限の行使は総会前3カ月に限定する」とか、極めて不十分なものでし
た。かつ監査役の役割は、法文上は業務監査の権限がありますが、実際に「監査役の役割
をどのように見るか」ということに関しては、見解が大きく分かれていると言われていま
す。
法律上の監査役の用語は「commissaire」(コミッセール)だったわけですが、これを
「commissaire de surveillance」(コミッセール・デ・シルベイヤンス)、むしろ業務
監査権限を持つ監査役と見るか、「commissaire aux comptes」(コミッセール・オ・コ
ント)、会計監査を中心にした機関と見るかで、二つの見解が対立していると言われてい
ます。
当時の代表的な体系商法を見ると、「commissaire de surveillance」という「業務監
査機関」と言っている学者が多いようです。ただ、実務は必ずしもそうでなく、20世紀
に入ってからは、会計監査を主張する著名な人が出てきて、むしろ会計監査の役割が強調
されるようになってきました。
その後の経緯ですが、1929年のアメリカの大恐慌がヨーロッパに波及し、経済の混乱
期が起きて、そのころに、会社法の不十分な点をどんどん強化する改正がされました。そ
れまでも、いろいろ実現していましたが、1930年代の経済の混乱をきっかけに、特に
「デクレ・ロワ」という委任立法で、新株引受権が法定されたのもこのころですが、いろ
んな制度ができてきます。その中で、監査役制度も強化されました。
1867年の段階では、1年だった監査役の任期が3年になり、何もなかった監査役の欠
格事由が、監査役の独立性を確保するために、一定の欠格事由ができました。かつ、これ
は注目すべきだと思いますが、1935年の段階で「公開会社」と言っていいと思います
が、フランスでは「資金を公募する会社」と言います。「資金を公募する会社」の1人に
ついては、裁判所が控訴員の管轄ごとに名簿を作り、そこに一定の登録資格を要求する制
度を作りました。登録した監査役は「認可監査役」という言い方をしています。登録した
監査役で団体を作り、職業組織の走りのようなものができました。
「1927年専門会計士免状の創設」とありますが、日本には戦前、「計理士」という制
度がありました。それに当たる制度ができていましたが、それとは別の制度として、監査
役1人について、登録資格を要求したのが1935年の改正です。
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社長PDGへの権限集中
その後の機関構成の変遷として、次の「社長PDGへの権限集中」で、取締役会が構成
されることになります。取締役会は規定がほとんどなくて、事実上取締役会ができて、
「ディレクトゥール・ジェネラル」とか「アドミニストラトゥール・デレゲ」に業務執行
を委ねていましたが、いずれにしても、契約関係で権限関係を定めていたので、権限の所
在が不明確であるということが、当時よく言われていました。
あるいは、取締役が会社と雇用契約を結んで、従業員として多額の報酬を受けていたな
ど、いろんな不正行為もあり、責任の所在を明確にするために取締役会を法定し、法定し
たうえで取締役会が取締役の中からプレジデントを選任します。「プレジデント」には二
つの意味があると言われ、取締役会の会長であると同時に会社のプレジデントでもあると
いうことです。
プレジデントが、会社全体の業務執行権限を持ち、これをフランスでは「PDG」と言
いますが、取締役会を定めたうえで、PDGを定めて、「PDGに権限を集中させることで
責任の所在を明確にする」という改正が行われたのが、1940年から1943年です。これは
ナチスの占領期になり、「ナチスの指導権の影響だ」と言われるのを、フランス人は嫌が
っています。日本が戦後、アメリカ占領下の1950年に取締役会が法定されたちょうど10
年前になります。
取締役会の中からPDGを選出、併せてPDG以外でも業務執行を担当する者を「ディレ
クトゥール・ジェネラル」という言い方をしていますが、これは取締役であっても、なく
てもいいことになっています。これが1940年から1943年にかけてです。
他方で、同時に職業会計人の制度に関しても、ナチス占領下でコーポラティズム、職業
の組織化が進められ、いろんな団体ができますが、その一つが職業会計人制度です。ここ
で、監査を職務とする「専門会計士」と、監査はしないけれども会計業務を行う「認可会
計士」の団体ができます。そのような形で、第二次大戦中に取締役会ができました。
そのあとの動きとして、戦後になり、いろいろ法律の改正を重ねていったので、法律の
規定があちこちに行ったこともあり、「モザイク状になった」と言われます。
二層制機構の導入
1966年の段階で、会社法の規定を集めて、ちょうど今の日本みたいなものですが単行
法を作りました。それが「1966年商事会社法の全面改正」と言われるものです。もちろ
ん、形式的な改正だけではなくて、機関構成についても、業務執行に関しても、監査につ
いても、大きな改正がありました。業務執行に関しては、今までの株主総会で取締役会の
中からPDGを選任する「一層制機構」と、併せて「二層制機構」を定めて、選択制を採
ったのが1966年の改正です。
二層制は、株主総会が監査役会を選任し、監査役会がさらに執行役会を選任します。監
査役会の構成員と執行役会の構成員の兹任は禁止されているという位置付けで、ドイツの
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制度に倣ったと言われています。
このような制度を採用したのは、当時のEECの影響が大きいと言えます。1952年に石
炭・鉄鋼ができて、1958年にEEC(欧州経済共同体)が共同市場を作り、その中で会社
に関しても欧州会議の対象にし、併せて1960年のころから、ポーランドサンダース提案
ということで、ヨーロッパ会社ができました。当時はまだイギリスが入っていないころ
で、EECの会社法のハーモナイゼーションでも、あるいはヨーロッパ会社の制度でも、
「ドイツの二層制が優れている」ということで、EECの作業では「二層制を強制する」
という動きでした。
フランスは、今でもEUのハーモナイゼーションの動きを先取りしていますが、二層制
制度を導入したことが大きいと思います。一層制の場合は、「執行と監督が分離していな
いので、監督が機能しない」という理由も言われますが、そういうことだと思います。
EUの二層制の動きは、そのあとイギリスが加盟したり、二層制の強制は、「加盟国の同
意が取れない」ということで、今は一層制と二層制の選択制になっています。
フランスは、今でも一層制と二層制の選択が認められていますが、「二層制は株式会社
全体の中では5%にすぎない」と言われていて、数としては圧倒的に尐ないです。ただ、
「CAC40」という上位40社の企業で株価指数を作っていますが、「CAC40」の中では
20%が二層制を採っていますので、「上場企業の中ではそれほど尐ないわけじゃない」
と言われていますが、一層制がメインであることに変わりはありません。以上が業務執行
機構です。
監査役に関しては、法文上の名称で「コミッセール」と「コミッセール・オ・コント」
で文言の争いがありましたが、1966年の改正で法律上も「コミッセール・オ・コント」
に改めています。「会計監査役」と訳します。むしろコミッセール・オ・コントの職務自
体は、いろいろ拡大させたので、職務を拡大させながら名称だけはむしろ限定的にしたの
は、「パラドックスである」と言われています。
従来、コミッセール・オ・コントは、資金公募会社の1人についてだけ名簿登録を要求
していましたが、1966年の改正で、すべてのコミッセール・オ・コントについて名簿登
録を要求しました。名簿登録をしていないとコミッセール・オ・コントを名乗ってはいけ
ない、あるいはその職務を行ってはいけないという規定を置き、コミッセール・オ・コン
トである以上、一定の職業資格を要求しました。ただ、いきなりはもちろん無理なので、
8年間の経過措置を置いたうえで、段階的に強制しています。
これを株式会社と株式合資会社だけではなくて、有限会社についても、任意のコミッセ
ール・オ・コントの選任は認め、かつ資本金が30万フランを超える会社に関しては、コ
ミッセール・オ・コントの選任を義務付け、かつ会計監査役の職業組織を法定し、「会計
監査役全国協会」という組織ができて、今でもあります。
フランスで特徴的なのは、会計監査役として一つの職業組織ができていて、「全国協
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会」と「地方協会」ができています。それとは別に、職業会計人制度は専門会計士と認可
会計士ですが、認可会計士は1969年の改正から段階的に解消していき、今は専門会計士
に統合して、「専門会計士団体」になっています。日本風に言うと、公認会計士の職業組
織とは別に、会計監査役の職業組織もあり、この二つの職業組織が併存しています。た
だ、両方の資格を持っている人が80%います。どちらかに受かると、片方にもなれる制
度になっていますが、制度としては別になっています。
コーポレート・ガヴァナンス論
そのあと、1990年ぐらいからコーポレート・ガヴァナンスの議論がなされています。
マリニというのは元老院の議員で、政府の委託を受けた国会議員の報告書が1996年に出
ています。カルパース等のアメリカの年金基金の要求に対応して「ビエノ報告書」が二つ
出ていて、そのあとに、取締役会に委員会を置くべきであるとか、独立取締役を置くべき
であるという「ブルトン報告書」が出ています。
フランスで特徴的なのは、経済界が対応したことです。「メデフ」は、日本の経団連に
当たるところです。ドイツやイギリスは政府側が対応しましたが、フランスの場合は経済
界が対応しました。委員会も独立取締役もそうですが、立法では対応していません。法律
上は、取締役会の中の委員会とか、独立取締役という規定はありません。独立取締役を選
任したほうが望ましいとか、オーディットコミッティーを置いたほうが望ましいとは言わ
れていて、かつ上場会社には置いていますが、法律上の規定ではないと言えます。
一層制機構における執行と監督の分離
そのあとの機関構成の動きについて、レジュメ4頁です。1940年の段階ではPDGに権
限を集中させる。むしろ権限を集中させるところに立法の目的がありましたが、コーポレ
ート・ガヴァナンスの理論では執行と監督は分離させる、権限を分離させるほうがいいと
いう動きです。
フランスの場合は、二層制で執行と監督を分離する制度がありましたが、そのような議
論の中で、PDGはプレジデントであり、取締役会の会長であると同時に業務執行機関で
すが、この「プレジデント」と「ディレクトゥール・ジェネラル」を一層制の中でも分け
る余地を認めたのが、2001年5月15日の「NRE法」という経済の新しい調整に関する法
律です。
一番左の図は、株主総会で選ばれた取締役が取締役会を構成し、社長が会長と同時に執
行役員であるというのは、プレジデントであると同時にディレクトゥール・ジェネラルで
あるということです。ほかに、ディレクトゥール・ジェネラル・デレゲ、「担当執行役
員」と訳しますが、担当執行役員という形で業務を担当する役員がいるのが、従来型で
す。左から2番目は、会長と執行役員を分けることで、取締役会による執行役員に対する
監督を機能させる可能性を認めました。これが2001年の改正です。左から3番目は従来
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型の二層制です。
現在では、一層制の中に二つのパターンがあり、それから二層制ということで、一層制
と二層制の選択は定款で行いますが、一層制の中でプレジデントとディレクトゥール・ジ
ェネラルを分けるかどうかは、取締役会の決議で行います。この三つの機関構成がありま
す。
そのあと、2003年の「金融の安全性に関する法律」を挙げていますが、これはアメリ
カの「エンロン事件」への対応です。エンロン事件の余波がヨーロッパにも及び、それに
対する対応としてできた規定で、会計監査役制度の強化を図っています。従来、「会計監
査役全国協会」がありましたが、それに加えて、「会計監査役高等評議会」という司法大
臣のもとに置かれる行政機関が、会計監査役を監視し、独立性を確保する役割として置か
れました。
「会計監査役の選任議案決定について、業務執行者の関与の排除」は、取締役会で選任
議案を決定するときに、ディレクトゥール・ジェネラルやディレクトゥール・ジェネラ
ル・デレゲという業務執行を担当している者は、選任議案決定には関与できないという規
定が置かれています。会計監査役の選任・再任の提案に関しては「AMF」、これはアメ
リカの「SEC」に当たる資本市場の監督機関ですが、そこに通知をすることになってい
ます。
会計監査役の報酬を開示するものとされています。また、2003年の法律で、内部統制
に関する規定ができました。内部統制に関しては、取締役会会長や監査役会会長に内部統
制の手続きを報告書に記載することを義務付けると同時に、取締役会会長や監査役会会長
が自分の意見を報告書に記載するという規定が置かれています。そのような形で、エンロ
ン事件の対応が行われました。
そのあとに、「コミッセール・オ・コントの地位の変遷のまとめ」が書いてあります。
日本の場合は、昭和25年の改正で取締役会が置かれたときに、監査役の権限は会計監査
に限定されました。そのときに、公認会計士資格を要求するかどうかという議論がありま
したが、結局、公認会計士はまだ人数が尐ないので、その資格は要求されませんでした。
そのあと、昭和49年の改正で監査役に業務監査の権限が与えられて、公認会計士は、
監査役とは別に会計監査人として入っています。それに比べると、フランスではむしろ監
査役に職業会計人の資格が要求されたことが特徴であると言えます。監査役は、もともと
業務監査権限を持っていましたが、それに加えて職業会計人の資格が要求されました。そ
ういう意味では、「日本の監査役と会計監査人を合わせたようなもの」と言えます。
そうした「会計監査役」の選任が、株式会社以外の会社に認められたのは、1966年の
法律の段階で、各種合資会社、有限会社に強制されました。そのあとの1984年改正で、
有限会社だけではなくて、合名会社、合資会社でも、規模が大きい場合には会計監査役の
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選任が義務付けられます。
さらに会社だけではなくて、日本風に言うと「公益法人」ですが、債券を発行する非営
利団体や、一定のファンド、公企業でも経済活動をするものについては、会計監査役の選
任が義務付けられ、会社から独立した職業資格になっています。もともとは株式会社の機
関でしたが、株式会社にかかわらず、いろんなところで選任が義務付けられるようにな
り、一定の職業資格になっていきました。
今までは、株式会社の監査機関のところに、会計監査役の職業組織や職業上の地位に関
する規定も置かれていましたが、株式会社に関係なく選任されるようになったので、「規
定の位置がおかしい」ということで、2001年、2003年、2005年の三つの法律により段階
的に規定の位置が変わり、今は会社とは別の「第8編 規制職業」の中に、規定が置かれ
る職業組織になっています。以上が前半です。
(2)株式会社の監査制度-会計監査役の地位と権限
株式会社における独立性の確保
後半は、個々の会計監査役の地位を見ていきます。6頁の「株式会社における独立性の
確保」を見てください。株式会社において、会計監査役は株主総会によって選任され、任
期は6年、法人組織も認められています。職業資格も要求され、欠格事由もいろいろ定め
られています。
2003年の「金融の安全性に関する法律」で、会計監査役の候補者の受け付けに関して
は、業務執行者は関与できません。実際は上場会社には監査委員会が置かれ、「監査委員
会が会計監査人の選任については重要な役割を果たし、取締役会に候補者を提案する」と
言われています。大規模な会社では「会計監査人を公募する」という手続きが取られるこ
ともありました。
アメリカの「SEC」に当たる「AMF」が、2003年の改正以降は、資金公募法人の会計
監査役の選任案・再任案について通知を受け、それらの提案についてAMFは必要な意見
を述べることができ、その意見は株主総会その他の選任機関に伝えられるという仕組みに
なっています。つまり、前の証券取引委員会が、資金を公募する会社の会計監査役の選
任・解任について、一定の関与をするという制度になっています。
忌避
「忌避」は、会計監査役が株主総会により選任されたあと30日以内は、監査能力や独
立性がないといった正当な理由がある場合には、会計監査役の「忌避」を申し立てること
ができる制度になっています。忌避の申し立てが認められると、商事裁判所が新たな会計
監査役を選任します。忌避の申し立てができるのは10%の株を持つ株主だけではなく、
労働者の代表である「企業委員会」とか検察官、資金を公募する会社ではAMFが忌避の
申し立てができます。
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解任
「解任」についても同じです。裁判所の決定により会計監査役は解任されます。職務違
反や障害がある場合に解任されます。解任を申し立てることができるのは、取締役会、執
行役会、労働者の代表である企業委員会、10%の株を持つ株主、株主総会だけでなく、
検察官、資金を公募する会社ではAMFが申し立てることができます。
就任前と退任後の資格制限
「就任前と退任後の資格制限」は、会計監査役を辞めて5年間はその会社や、10%の
資本関係にある親会社・子会社の役員になることはできません。今では、役員であった者
は、5年間はその会社の監査役に就くことはできない制度になっています。
会計監査役の報酬にもいろいろ問題がありました。1966年に改正があり、その後1969
年にデクレが「料率表」を作り、そこで報酬を定めていましたがうまく機能せず、今は会
計監査役が就任前に作業計画を文書で作成し、会社との合意により報酬額を定めますが、
合意が成立しない場合には、会計監査役の職業組織が介入することで地方懲戒部長が和解
に努力し、それに成功しなければ地方懲戒部が判断し、さらに会計監査役職高等評議会へ
不服申し立てが認められる制度になっています。
事実上は、報酬額もオーディットコミッティーがかかわっています。2003年の法律
で、会計監査役に支払われた報酬は、会社に限らず被監査法人の所在地で、会社の場合は
株主が閲覧できることで開示されています。「委員会や独立取締役は法律上の制度にはな
っていない」ということになっています。
EUの2006年のディレクティブが、監査委員会についても規定することを義務付けてい
ますが、このディレクティブ自体が「第2項」で例外を認めていて、それに基づいて、
「会社の管理・監督機関が監査委員会の機能を果たしていると判断した場合には、監査委
員会を置かなくてもいい」という規定を使って、オーディットコミッティーについては立
法措置を採っていません。
会計監査役の職務
会計監査役の主たる職務は会計監査ですが、もともと業務監査機関であったので、それ
にとどまらないいろんな業務監査にかかわる職務権限を持っていますが、これは「負担が
重すぎる」と言われています。例えば、「株主間の平等の確保」や「定款変更が適法にな
されること」も、監査役の職務に掲げられています。
フランスの場合は、取締役や監査役は株主でなければいけないわけですが、その株主資
格を確認するのも会計監査役の役割です。定時総会に提出する報告書には会計監査だけで
なく、発見した違法または不正確な事実についても記載することが義務付けられていま
す。
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例えば増資に関しても、フランスもドイツ・イギリスも同じように、株主に新株引受権
がありますが、株主の新株引受権を排除して増資を決定する場合には、会計監査役が株主
総会に報告書を提出し、その報告書に基づいて株主総会が判断するという制度になってい
ます。
「取締役の利益相反取引規制」は、1867年の段階では株主総会の承認が必要でした
が、1943年に取締役会が法定されたときに、取締役会の承認が必要になりました。利益
相反取引は会社と取締役の直接・間接の取引に加えて、一定の兹任関係がある、取締役が
社員になっている企業と会社との取引についても、取締役会の承認が必要です。
そのような利益相反取引については、会計監査役に報告がなされ、会計監査役は株主総
会に報告書を提出し、株主総会がさらに会計監査役の報告書に基づいて判断するという制
度になっています。取締役会の事前の承認、あとで株主総会の判断です。株主総会の承認
が得られなくても取引はなされているので、取引の効力は妨げられませんが、その場合に
は、無過失の損害賠償責任を負うという位置付けです。
コピーを配ったのは、日本に関係のあるところでルノーの報告書の一部です。前半がフ
ランス語で後半は英語です。238頁の「スペシャルリポート」が、ルノー社の利益相反取
引について、去年の総会で下された特別決議です。新しい取引はなかったわけですが、従
来からなされていた取引の遂行の経緯について、報告書が出されています。
1930年の改正で、会計監査役には犯罪事実を検察官に通知する義務が課されていま
す。
9頁の「(2)警告手続き」は、企業の倒産が多かった1984年の法律で、フランスは「倒
産予防のための警告手続き」を作り、一定の経営の継続性を脅かす性質の事実がある場合
には、会計監査役だけでなく、社長や執行役会長にその事実を通知し、十分な回答がない
ときには、「それを議題にするように請求する権利がある」ということは、つまり会計監
査役としては義務もあるという制度が定められています。会計監査役には、単なる適法性
監査だけではなく、経営の継続性を脅かす事実があるかどうかの監査の職務もあります。
内部統制の手続きに関しては、まず取締役会会長か監査役会会長に、内部統制手続きに
ついて報告書に記載することを義務付け、その記載についてさらに会計監査役が自分の報
告書で意見を述べることが義務付けられています。
ルノー社の報告書では、149頁が取締役会会長の内部統制の手続きに関する報告書で
す。それに対して155頁が、内部統制の手続きに関する取締役会会長の報告書に関する、
会計監査役の報告書です。「特に指摘するべき事項はありません」と書いていますが、こ
のような報告書が出されます。
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会計監査役の役割でよく言われるのは、要するに「適法性監査だけではなくて、業務全
般の適法性監査を行う」。先ほどの「倒産予防のための警告手続き」との関係では、一定
の範囲で妥当性まで及ぶような監査を行っています。かつその地位も、検察に対する犯罪
の告発義務を負わされているし、選解任に関しても、単に株主だけでなく、従業員代表も
かかわり、SECに当たるようなAMFにもかかわるので、「会計監査役は公益にかかわる
職務を行う機関である」と言われているのが、フランス制度の特徴です。
名称は「会計監査役」ですが、会計監査役に監督に関しては大きな役割、職務が課せら
れています。以上で報告を終わります。
(3)意見交換
報告後、意見交換が行われた。主な要旨は以下のとおり。
・ 会計監査役という機関が、「適法性」と「妥当性」の両方を見るということだが、こ
の独立性はどのように確保されるのか。
・ 株主総会で選任されていることと、構成メンバーが会社の外部の人間だということで
確保されており、また、職業資格を前提にしているということもある。
・ 二層制の場合の監査役会と会計監査役の関係について、日本の場合は監査役が会計監
査人の相当性を見ることになっているが、フランスの場合には、監査役会と会計監査
役はどういった関係にあるのか。
・ 日本のように監査役が会計監査人の相当性を判断することとはされていない。会計監
査役の選任議案を提出するのは監査役会だが、制度的な連携はない。
・ ルノー社の報告書には監査法人がサインしたリポートがいくつかあるが、フランスの
会計監査役は日本の会計監査人に当たると考えられるのか。
・ 日本で言う、公認会計士が会計監査役になっているという位置付けである。そこで持
っている役割は単に会計監査ではなく、もともと業務監査機関ということになる。も
ともとの業務監査機関に、公認会計士資格が要求されているような状況である。会計
監査役を、会計監査人と監査役に分けたのが日本の制度という印象である。
・ 「経営の継続性を脅かす性質の事実の有無について」監査が求められるとのことだ
が、現実に問題があるという報告が出されたことはあるか。
・ 多くはないが、何件かある。
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2.アメリカにおける非業務執行取締役の役割について
久保田准教授より、標題について報告があった。
(1)はじめに
久保田准教授
「アメリカにおける非業務執行取締役の役割」というテーマをいただき
ましたので、そちらについて報告します。
今回の報告の目的は、第一義的には、アメリカにおける非業務執行取締役がどのような
役割を果たしているのか、それを検討することにあります。ただ、最終的な目的は、それ
を日本の監査役制度の参考にする。場合によっては、監査役にアメリカにおける非業務執
行取締役と同じような役割を果たすことができるかもしれません。ただ、そのためには今
の監査役制度でいいのか、場合によっては加えるべき条件があるのではないか、それを考
えてみようということです。
ただ、テーマには「非業務執行取締役」と掲げましたが、事実上アメリカでは「社外取
締役」、最近では「独立取締役」を意味すると考えてよいと思います。独立取締役以外の
非業務執行取締役に固有の役割が期待されることはなく、法律的にも特別な取り扱いをさ
れることはありません。
以下は、独立社外取締役ないし独立取締役を念頭に話をします。アメリカでは昔は「社
外取締役」、最近は尐し独立性要件を厳しくした「独立取締役」というタームが使われま
すが、これの数が非常に増えていることが、アメリカのガバナンスシステムの特徴だと思
います。
これは大杉謙一先生とゴードン先生のものを挙げていますが、大杉先生のものでは、
1975年は社内・社外、利害関係のない独立取締役がそれぞれ3分の1ずつぐらいいまし
た。ところが、1995年になると社内が21.7%、社外が16.7%、独立取締役が62.2%まで
増えていると言われています。
最近のゴードン先生の論文・調査でも、これは独立取締役だけを取り上げていますが、
1950年は22%だったものが、2005年には73%になっています。また、「スーパー・マジ
ョリティー・インデペンデント・ボード」は、ほとんどが独立取締役で、社内取締役は1
人か2人というボードが普及しています。
独立取締役が増加した要因はどこにあるのか。直接的な要因としては、おおよそ三つの
ものが挙げられます。一つは「自主規制」です。2002年の「企業統治改革法」以前は、
法律によって強制されているわけではなく、ニューヨーク証券取引所自主規制、1977年
に「独立した監査委員会の設置・維持」の規則ができたのが、最初だと言われています。
ただ、これも広く知られているとおり、実はその背景にはSECの影響がありました。
自主規制という形を採りながら、実質的にはルール、ないしレギュレーションと変わらな
い、法的強制と変わらないものだったとも言われます。
そのきっかけになったのは、内部統制システムなどと同根だと思いますが、1970年代
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に企業の政治献金の事件が多発し、SECが差し止めを求めて提訴し、その結果、大体は
会社側が差し止めの判決に同意する、「同意判決」の形で終わっていました。ただ、この
過程で、SECは差し止めを認めてもらうだけではなく、「その後のために社外取締役を
導入させるべきだ」と主張し、これが裁判所に受け入れられ、おおよその場合は、「差し
止めが認められるのと同時に社外取締役を導入する」形で終わっていました。
当初SECは、個別の事件に対応する形を採っていましたが、その後1972年には、「す
べての上場会社に、社外取締役から構成される監査委員会を設置すべきである」という考
え方を表明し、実務に支持を求めたという背景があります。これが、1977年のニューヨ
ーク証券取引所の規則に結び付きました。
もう一つは「社会規範」です。すなわち、「『独立取締役が望ましい、必要である』と
いう社会規範が形成されてきた」と言われています。社会規範がなぜ形成されたのかとい
うと、恐らく「自主規制や裁判規制の相互作用によるもの」と考えられます。
SEC、場合によっては取引所や裁判所が、「独立取締役が必要だ」と言うと、社会は
「そういうもんかな」という感じで、社会でそれが広く受け入れられると、取引所や
SECや裁判所が、「独立取締役・社外取締役を事実上強制しやすい状況が生まれる」と
いう相互作用があります。ただ、社会規範において、「なぜ独立取締役が望ましいのか」
については、時代によって多尐移り変わりがあるとも言われています。
以前は「ステークホルダー論」との関係で、中立的な立場からさまざまなステークホル
ダーの利益に配慮する、「彼らの守護者になるような存在が必要で、それが独立取締役な
いし社外取締役である」というニュアンスだったのが、1990年代以降は、「株主利益最
大化のために独立取締役が望ましい」に変わってきた背景があると言われますが、いずれ
にしても「社会規範」が二つ目の直接的な要因として挙げられます。
三つ目は、今回の報告のメインである「裁判規範」です。すなわち、利害関係のない取
締役を定型化したものが独立取締役と言えると思いますが、彼らに何らかの形で会社経営
に関与させると、あとである会社経営について問題になった場合にも、審査基準が緩やか
なものに緩和される。すなわち、「取締役や役員が責任を問われにくくなる。会社の行
為、取締役会決議などが無効にされにくくなる。差し止めがなされにくくなる」というこ
とです。そこで各企業が、「これらの法的リスクの低減を図って、独立取締役・社外取締
役を自主的に入れていった」と言われています。
(2)利益相反と特別委員会
独立取締役はどういう場面で必要とされるのか。特にここでは、裁判規範に焦点を当て
て話をします。一般に、「経営者は会社の利益、または株主利益の最大化のために尽くす
べき存在」と言われていますが、ただ、累計的にそうした会社利益、もしくは株主利益の
最大化のために経営者が働くことが期待できない場合があります。すなわち、会社の利益
ないし、株主の利益と経営者の個人的な利益が衝突する場合がそれです。
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つまり、経営者が自分の利益を図れば会社の利益が損なわれ、会社の利益を図れば自分
の利益が損なわれる場面があり得ます。このような場面において、独立取締役で特別な委
員会を構成させ、この委員会に関与させると、先ほど言ったような意味で問題になりにく
い。典型的には、独立取締役にある決定権限を与えることが行われます。ただ、なぜ独立
取締役が特別委員会で最終的な決定が出るのか、取締役会に変わって決定ができるのかと
いうのは、自明ではありません。当然のことではないわけです。
ここでは「デラウェア州会社法141条」を挙げていますが、取締役会が決定すべき法定
の決議事項が当然あります。ただ、「141条C項」などにより、取締役会の決議または付
属定款で定められた範囲内において、取締役会の決定権限を特別委員会に委譲することを
認めているので、これを用いて特別委員会が会社の行為に関与する、会社の決定に携わる
ことが行われます。
どのような場面において、会社の経営に関与していくのか、場合によっては最終的な決
定を担うのかというと、ここで挙げているのは、「(1)敵対的買収」、「(2)、(3)尐数株主
の締め出し」、締め出しも合併のケースと、公開買い付けでは、多尐話が違ってくるの
で、別で二つ用意しています。「(4)株主代表訴訟」、「(5)第三者割当増資」、この五つ
について考えます。
敵対的買収
「(1)敵対的買収」は、会社の利益を守る、もしくは株主の利益を守る、公益性がある
と言われる一方で、経営者が自分自身の利益を守る。自分が首にならないために買収する
ということが行われます。まさに利益相反が問題になる場面です。
リーディングケースである「ユノカル事件」の、デラウェア州の最高裁判所判決では、
取締役は二つのことを立証すれば責任を免れることができる。防衛策を講じても責任を問
われないことが言われています。「①会社の経営方針への脅威があると合理的根拠を持っ
て信じていること」、「②対抗措置が脅威との関連で合理的なものであること」、この二
つを立証すれば、責任を問われることはないということです。
「①会社の経営方針への脅威があると合理的根拠を持って信じていること」は、誠実に
考え、審議をするときに誠実な態度を取り、合理的な調査を行ったことを立証すれば、
「①」を立証することになると裁判所は言っています。そのうえで、今回の問題である独
立取締役に関して言えば、この証明は、「社外の独立した取締役が、前述の行為規範に従
って行動し、このような取締役が過半数を占める取締役会の承認を得ていることによっ
て、相当程度高められる」と言っています。
つまり、独立取締役の承認がある場合には、利益相反の問題は完全にクリアにはなりま
せんが、だいぶ小さくなり、あとは経営判断の問題になるという考え方です。
もう一つの有名なリーディングケースが「レブロン事件」です。これも同じ年のデラウ
ェア州の最高裁判所判決です。特に独立取締役について言及しているわけではありません
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が、この判決について、裁判所は対抗措置の相当性の要件は満たしている。すなわち、先
ほどのユノカル事件で挙げた「②」は満たしている。ただ、一方で「①」について、この
レブロン事件のケースでは、レブロン社の売却は避けられない状況にあり、売るしかな
い。そうすると、会社の経営方針への脅威はないので、「①」の要件は満たしようがな
い。だからこの場合は適法にならないと言ったわけです。
レブロン事件において、取締役会の構成は、「取締役会メンバーは14名、そのうちの
6名は上級オフィサー、2名は大株主、残りの6名のうち4名はビジネス上の関係を有し
ていた」と言われています。つまり、社外の独立した取締役の承認が得られない、そうい
う状況にありました。
尐数株主の締め出し:合併
次いで問題になるのが、「尐数株主の合併を用いた締め出し」です。アメリカではもと
もと尐数株主を締め出す、例えば合併対価として現金を交付して締め出すという「締め出
し合併」については、適正な事業目的がなくてはいけない。それに加えて完全な公正性が
必要という取り扱いがされていました。
ところが、これが変わったのが、1983年の「ワインバーガー事件」の判決です。UOP
社の発行済株式の50%近くを有するS社、親会社に当たるわけですが、これが子会社であ
るUOP社を吸収合併しようとした。このときに、子会社の取締役を兹務する役員に、「1
株当たりいくらぐらいの合併対価にすればいいのだろうか」と聞いてみたところ、「1株
24ドルだと親会社にとってはお得です」という報告を受けたわけです。
その後、2月28日にS社の経営委員会が開催され、子会社との合併について審議されま
した。ここには委員会のメンバーではない子会社の社長も出席しています。委員会では、
先ほど「24ドルであれば親会社にとってはお得だ」という話だったにもかかわらず、そ
れよりも低い、「1株20ドルないし21ドル」の価格で子会社との吸収合併を行い、尐数
株主にはさらに安い対価しか渡さないことを決めたわけです。この結論はその後、親会
社、子会社の取締役会に報告されましたが、それに先立ち、子会社の社長は自社の社外取
締役に対して、電話で「対価がこうなった」と報告したと言われています。
また、子会社の社長の依頼を受けた投資銀行は、子会社の財務書類を調査・検討したう
えで、経営委員会の示した価格、先ほどの安めの価格が適正であると結論付けたと言われ
ています。その後、正式に親会社、子会社の取締役会が開かれ、いずれも子会社の尐数株
主の過半数の賛成が得られることを条件に合併が承認されました。その後、子会社の株主
総会が開かれ、1株当たり21ドルを対価として吸収合併が承認されたという場面です。
ここで、子会社の株主が、「21ドルの対価は不満」として差し止めを掛けますが間に
合わず、損害賠償請求に切り替えますが、いずれにしろ訴訟を起こしました。これに対し
て裁判所は、先ほどの事業目的基準は破棄する。役に立たないからやめて、完全な公正性
の基準だけで行くと言いました。「完全な公正性の基準」とは何なのかというと、一つは
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「締め出される尐数株主がフェアな取り扱いを受けていること」、もう一つは「示される
価格がフェアであること」、この二つです。
尐数株主のフェアな取り扱いについては、取引の時期及び取引がどのように開始、協議
され、取締役や株主がどのように承認したのかが考慮されると言われています。このう
ち、株主の承認については、全体の株主の過半数ではなくて、尐数株主の過半数の承認が
あれば、それはフェアな取り扱いと言えるという取り扱いがなされています。もう一つ、
忘れてはならないのが「情報の開示」です。情報の開示は、「完全に公平無私の形でなさ
れなければならない」と言われています。
このケースがどうなったのかというと、尐数株主の過半数の承認が条件になっています
ので、フェアな取り扱いの要件は満たされそうですが、「情報の開示が不十分だった」と
いう理由で違法とされています。つまり、「24ドルという対価は親会社にとって有利な
価格」という情報が全く開示されず、一方的にその後の低い価格がいい価格、悪い価格で
はないことだけが開示されていました。そういう意味では、公正無私な開示がなされてな
いことが言われました。
この事件はこれで終わりですが、ただ、一般的な要件として、公正な価格については、
どういうものが問題になるのかというと、「子会社の資産、市場価格、損益、将来の可能
性、その他の要素を総合的に考慮する」と言われています。いわゆる「デラウェアブロッ
ク法」に評価方法を限定しなかったことが、実務上大きかったと言われています。
「デラウェアブロック法」は、私も詳しくは知りませんが、日本の税務署の株式評価方
法のように、「いくつかの算定方法を組み合わせて使います」といったもので、限定され
ていないので、合理的な方法であれば別の方法でもいいと言われました。この結果、一般
的に使われている「DCF方式」が使われるようになったと言われています。
ワインバーガー判決が、二つ目に言ったのは「立証責任」です。「完全な公正性」を立
証するのはかなり難しいわけです。逆に、株主側で「完全な公正性がない」ことを立証す
るのも難しい。立証責任の配分が実務上重要になってきますが、この点を裁判所は、「尐
数株主が、詐欺または不実表示、その他の不正の立証をすれば、完全な公正性の立証は取
締役側に移る」という言い方をしています。詐欺の立証は極めて難しく、ほとんどできま
せんが、不実表示の立証は比較的尐数株主もやりやすい。公正な情報開示がないことさえ
言えば、あとは全部取締役が立証しなくてはいけないことになるわけです。
本報告との関係ですが、独立取締役はこういう場合にどういう役割を果たすのか。ワイ
ンバーガー判決はリーディングケースと言われていますが、直接的には独立取締役につい
て言及していません。ただ、傍論としてこういうことを言っています。傍論と言いなが
ら、これが実務上その後に大きな影響を及ぼしたので、傍論ではないという言い方もあり
ます。「100%確実とは言えないとしても、もしUOP社が独立当事者としてS社と取引し
ようとして、社外取締役をメンバーとする、独立した交渉のための委員会を任命していた
ならば、本件の結果は全く違ったものになっていたと予想される」と言ったわけです。
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ここでは、やはり利益相反関係にある。この場合、独立取締役の承認が意味を持つこと
がわかりますが、ここで注目すべきは、「独立取締役の承認」ではなく、「独立した交
渉」という言い方をしたことに注目すべきだと思います。すなわち、独立取締役により積
極的な役割を担わせようとしていると言われています。
その後、1994年にデラウェア州の最高裁判所判決が出ます。ここで独立取締役からな
る特別委員会について、より明確な言及がなされました。どういう事件かというと、「リ
ンチ社」という会社がありました。その43.3%の株式を所有し、過半数取締役を派遣して
いたA社が、事実上親会社になりますが、親会社が子会社であるリンチ社を消滅会社とす
る現金交付合併を行おうとした。そして、子会社の尐数株主を締め出そうとしたケースで
す。
ここで、デラウェア州の最高裁判所は、「適切な特別委員会の承認があれば立証責任は
転換する」と言いました。「適切な特別委員会の承認」とは、どういう場合なのかという
と、二つ要件があります。
「①多数株主が合併条件を主導していないこと」、特別委員会が主導している、もしく
は強く関与しているということだと思います。「②特別委員会が多数派株主と対等な交渉
力を持っていること」、このような場合に、独立取締役の承認があれば、承認よりもう尐
し強いものをイメージしていると思いますが、そうすれば立証責任は転換すると言えま
す。
このように、合併を用いて尐数株主を締め出す場合において、実際上独立取締役が主導
的な役割を今後果たしていくことになります。そうしている限りにおいては、完全な公正
性の立証は株主側がせざるを得ず、その結果取締役の責任が問われる、もしくはあとにな
って無効になる、差し止められる危険が極めて小さくなります。
ただ、一つだけ、締め出しの場合に例外が設けられていました。それが「略式合併のケ
ース」です。略式合併の要件は州によってばらばらですが、一般に一番多いのは90%親
会社と子会社が合併するような場合。子会社の総会決議なく、取締役会決議だけでできる
のが略式合併ですが、このような場合には、締め出される90%子会社の尐数株主にとっ
て、唯一の救済は「株式買い取り請求権」です。仮にアンフェアだったとしても、行為の
無効を求める、もしくは差し止めをすることは認められないという判決が下っています。
尐数株主の締め出し:公開買付
三つ目は、尐数株主の締め出しで公開買い付けが行われるケースです。公開買い付けが
行われるケースは、合併の場合と何が違うのかというと、会社が行為の主体ではない点で
す。合併を行うときには、必ず会社の行為がそこに介在しますが、公開買い付けの場合は
支配株主などが直接的に、もしくは会社以外の者が株主に対して公開買い付けを掛けてく
るので、そこに何ら会社の行為は介在しない。これが一番違う点です。
このケースとの関係で問題になるのは、支配株主が行為するケースです。親会社が直接
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子会社の株主に対して公開買い付けを掛ける、尐数株主に対して公開買い付けを掛けるケ
ースです。このケースは、支配株主が尐数株主の犠牲において自己の利益を図る、安い対
価で締め出す可能性がある点では、合併を用いた締め出しの場合と全く状況は変わりませ
ん。そこで、合併の場合と同じように、適法性の判断基準として、「完全な公正性基準が
適用されるのか」ということが、公開買い付けのケースで問題になります。
「シリコニックス事件」は差し止めのケースですが、ナスダック上場会社であるシリコ
ニックス社の80%の株式を持つV社(親会社)が、自社の株式を対価としてS社の株式の
公開買い付けを行うことを公表したのに対して、締め出されるS社の尐数株主が公開買い
付けの差し止めを求めた事件です。裁判所は、「完全な公正性基準は適用されない」とい
う言い方をしました。
ただ、完全なる公正性基準が適用される場合がないわけではない。それは株主に対する
強圧性、すなわち株主は売りたくないのに売らざるを得ない。TOBに本当は応じたくな
いのに、応じざるを得ない状況に追い込まれるような強圧的なTOBの場合。または重大
な開示義務違反がある場合は別だけれども、それ以外の場合は、完全な公正性基準は適用
されないと言いました。
このシリコニックス事件の差し止めのケースは、大きな意味を持つことになります。ど
ういう意味を持つのかというと、先ほどの「略式合併のケースについては公正性が問題に
ならない」というケースに結び付きます。つまり、この基準を用いて公開買い付けを掛け
ます。公開買い付けを掛けて90%の株式を取得する、そのあとに略式合併を使って締め
出すケースを採れば、公開買い付けのケースも、略式合併のケースも、完全な公正性基準
が適用されない。つまり、一段階の合併で行く場合と比べて、尐数株主の保護が極端に後
退するという問題が起きてきました。
ただ、尐数株主の保護が全く与えられないわけではありません。完全な公正性基準が適
用される場面があるからです。シリコニックス事件判決にあるような、株主に対する強圧
性がある場合、または重大な監視義務違反がある場合は、尐数株主が救済を受けることが
できます。問題は、株主に対する強圧性がある場合というのは、どういう場合を指すの
か。この中身が広いのであれば、尐数株主保護はそんなに悪くない。狭いのであれば、尐
数株主保護は合併の場合に比べてかなり务ることになります。
強圧性の意味が問題になりますが、この点を明らかにしたのが、「ピュアケース」と言
われるものです。これは、最高裁ではなくて衡平法裁判所の判決です。ピュアリソース社
の60%の株式を持つユノカル社が、自社の株式を対価として、ピュアリソース社株式の
公開買い付けを行うことを公表したことに対して、ピュアリソース社の株主が公開買い付
けの差し止めを求めました。
差し止めを求めるにあたり、株主の理由としては、強圧性があるTOBである、または
重大な開示義務違反があることを主張します。そこで、この強圧性の中身が問題になり、
裁判所はこのように判示しました。すなわち、裁判所は、支配株主による公開買い付けが
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強圧的でないとされるための要件として、「①尐数株主の過半数の応募を撤回不可能な条
件としていること」、「②もし支配株主が90%以上の株式を取得した場合には、公開買
い付けと同じ条件で略式合併をすぐに行うよう約束すること」、「③支配株主が報復の脅
しをしないこと」、この三つを要件として掲げました。
TOBの価格が安い、本当は売りたくない、でも売らないとあとで大変なことになる。
こういう場合が強圧的なケースですが、ところが、今回はTOBに応じなかったとして
も、あとでもう1回TOBと同じ価格で売却するチャンスが与えられることがあれば、あと
でもっと大変なことになるかもしれない、もっと境遇が悪くなるかもしれない。こういう
ことを恐れて、本当は応じたくないのに、第一段階のTOBに応じるという基本線が排除
されます。完全に排除されることはないと思いますが、だいぶ軽減されます。
同時に、裁判所は独立取締役についても言及しました。すなわち裁判所は、「独立取締
役は、誠実かつ勤勉に尐数株主のための情報提供や意見表明をする義務があり、支配株主
はそうした独立取締役による義務の履行を妨げてはならない」と判示しました。
注目すべきは、このケースは会社の損害が発生しないケースです。会社の損害が発生し
ないにもかかわらず、会社のためではなくて尐数株主のために独立取締役は行動すべきで
す。もちろん、ここでの行動の中身は積極的なものではありません。情報提供、意見表明
にとどまるわけですが、いずれにせよ、支配株主に対する盾に近いものとして行動する、
積極的な役割が期待されています。
このように、尐数株主の締め出しは公開買い付けと合併で行うことができ、公開買い付
けのほうが比較的要件としては緩い感じがします。そして独立取締役の役割は、公開買い
付けの場合と合併の場合で違います。合併の場合は、積極的に条件交渉に乗り出すことま
で期待されています。それに対して、公開買い付けの場合は、会社のためではなく尐数株
主のために働く。ここは積極的ですが、ただ、行為すべきは意見表明や情報提供でとどま
っている。そういう意味では、介入の度合いとしては当然合併のほうが多くなります。
合併の場合も公開買い付けの場合も、尐数株主にとって締め出されるという結果は同じ
ですが、どちらが彼らの保護のためになっているのか。この点は興味深い実証研究があり
ます。方法として、合併の場合と公開買い付けの場合だと、「合併が用いられるほうが、
尐数株主は高い対価、高いプレミアムをもらっている」という実証研究があります。
一つ目は、最初にオファーした価格から最終的な価格がどれだけ増加したか。公開買い
付けは平均で7.2%しか増加していませんが、合併は18.1%増加しています。ただ、これ
だけだと、公開買い付けのほうが最初から高い条件を出していただけで、合併の場合は、
出し惜しみをして最初は安い対価しか示していなかったからではないかと言われそうで
す。
二つ目は、取引が公表される1日前、1週間前、4週間前の市場価格に対するプレミア
ムの数値を見ると、やはり合併のほうが優位に高いわけです。なぜ、合併のほうが尐数株
主にとって得なのか。一つ考えられるのは、合併の場合は独立取締役がより積極的に関与
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している可能性があります。本当のところはわかりませんが、独立取締役としての交渉を
合併の場合はやるから、「合併の場合のほうが株主は保護されている」と言えるかもしれ
ません。
株主代表訴訟
「(4)株主代表訴訟」は、株主が会社に代わって、もしくは株主を代表して取締役もし
くは役員、オフィサーの責任を追及する訴訟を起こす。こういう代表訴訟が起きた場合で
も、一つの経営判断として、代表訴訟の継続が会社の最善の利益に合致しない。例えば評
判が悪くなる、取締役が訴訟にエネルギーを取られてしまってちゃんと会社経営ができな
い、もしくは士気が落ちるなど、さまざまな考慮から、代表訴訟を継続することは最善の
利益に合致しない場合もあり得るとされています。
ただ、取締役がこういう判断をした場合に、この判断が信頼できるかというと、当然信
頼できないわけです。もしかしたら、確かに代表訴訟を継続しないほうが会社のためにな
るかもしれません。ただ、一方でそれは言いわけであり、自分の責任を追及されたくない
からかもしれません。利益が相反する場面ですので、会社のために誠実に行動することが
期待できない場面になります。
こういう場合にも、利害関係なき独立した取締役が出てきます。彼らが特別訴訟委員会
を作り、このような判断をします。そして、裁判所に対して訴訟の終了を申し立てます。
この場合、裁判所がどのような基準で訴訟を終了すべきかどうかを判断するべきなのか。
このリーディングケースが「ザパタ事件」の判決です。まず特別訴訟委員会が三つのこ
とを立証しなくてはいけません。「①委員会のメンバーが独立性を備えているか」、「②
誠実に行動したか」、「③自らの判断について合理的な根拠を有しているか」、これを立
証した場合には、第二段階に進みます。第二段階として、裁判所が独自の経営判断を行う
という二段階の方式を採っています。
尐なくとも、デラウェア州はこれで定着していると言われています。ところが、最近注
目すべき事件が起きました。大杉先生の報告でも最初に取り上げていましたが、「オラク
ルのケース」です。なぜ注目すべきなのかというと、ザパタの判断枠組みは二段階アプロ
ーチを採っていますが、独立性の審査をより厳格に行った点が特徴的です。従前は、独立
性について中心的なのは、直接的に経済的、金銭的関係があるかということが問題にされ
ていました。
ところが、このケースでは直接的な経済的、金銭的関係はありませんでした。どのよう
な関係があったかというと、2名のスタンフォード大学の教授が訴訟委員会のメンバーで
した、1人は学部長です。彼らが直接的に金銭的利益を受けていたのではなく、スタンフ
ォード大学に対して、被告取締役らが多額の寄付を行っていたという関係です。ところ
が、オラクルのケースにおいて、デラウェア州の裁判所は、「これは独立性を欠いてい
る」という厳格な審査をした結論を下しました。これが注目すべきものだと言われるもの
21
です。
この背景にあるものは、2002年の「企業統治改革法」で、独立性の要件が厳格なもの
とされたことが影響を与えていることに疑いはありません。
第三者割当増資
「(5)第三者割当増資」で取り上げるのは、敵対的買収防衛策として第三者割当増資が
なされる以外のケースです。敵対的買収防衛策のケースで、第三者割当増資が使われるこ
とはあまりないと思いますが、この場合にはユノカル判決やレブロン判決の基準に基づい
て審査されますので、ここで取り上げるのはそれ以外のケースです。
それ以外のケースについては、経営判断原則が適用されます。裁判所は判断内容につい
て、基本的に審査しません。こういう対応を採っています。新しいものですが、2006年
デラウェア州最高裁判所の判決があります。「ベニハナ事件」と呼ばれるものです。これ
はナスダックの上場会社であるY1社が、老朽化したレストランの改修費を調達するため
に、取締役会決議に基づいてY2に対して優先株を発行しました。
ところが、このY1社にはX社という親会社がいて、この親会社はY2に対する優先株、
第三者割当増資が行われる結果、持ち株比率が過半数を割り36.5%まで低下することにな
りました。そこで、親会社であるX社は、優先株発行はY1社取締役の自らの地位保身が目
的であるとして、株式発行の無効と補助的な損害賠償を求めたケースです。
デラウェア州最高裁判所は、今回のケースは、「利害関係なき独立取締役の過半数によ
る承認がある。確かに自己保身の可能性もあるけれども、ただ利害関係なき独立取締役の
過半数による承認がある。本件取締役も本件優先株が最善の資金調達方法であると誠実に
信じて、十分な証拠を集めて行為している。だから、これは経営判断原則が適用され、問
題はない」という言い方をしました。
そうすると、「第三者割当増資のケースについては、経営判断の問題で、独立取締役の
OKがあれば基本的に問題にならない」となりそうですが、ただ、原審、衡平法裁判所も
結論は一緒ですが、最高裁とは違って、X社に資金提供の機会が与えられていたことを重
視しました。実は親会社には資金提供の機会が与えられていたので、彼らが出資、あるい
は貸し出しの方法で資金を提供していれば、優先株発行にはなりませんでした。しかも、
支配権争奪紛争が起きていたわけではないということを認定しています。
そうすると、この原審の判断枠組みで行くと、「これは主要目的ルールを適用してい
る。ただ、主要な目的が資金調達にあるから、経営判断の問題になる」とも見えます。最
高裁判所は主要目的の話をしていないので、どうなるかはわかりません。可能性としては
二つあります。「主要目的ルールが適用された」というのが一つ。もう一つは、「主要目
的ルールは適用されない。ただ昔の名残のようなものがある。それを衡平法裁判所の判決
の中で採っているに過ぎない」という見方の二つで、どちらかはよくわかりません。
第三者割当増資について重要なのは、ニューヨーク証券取引所の「取引所規則」です。
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大杉先生のレジュメをそのまま持ってきましたが、この取引所規則が適用される場合に、
独立取締役はどのように関与するのか。一つは監査委員会の話です。大杉先生のレジュメ
の例外です。
株主総会決議が必要ではない場合、20%以上に当たる新株、新株予約権を発行する場
合であっても、例外的に株主総会決議が不要である場合として、「①現金対価による公募
発行の場合」、「②現金対価による公正な第三者割り当ての場合」、「③株主総会の承認
を得ようとすると時間がかかり、その間に企業の財務状況が著しく悪化する恐れがある場
合」に限られます。この三つ目のところに、「監査委員会の明示の承認を得て」とありま
すので、ここで独立取締役が関与します。
ほかに独立取締役が関与するケースがあり得るのかというと、あり得なくはないと思い
ます。第三者割り当てのケースでは、先ほどのように利害関係があることが問題にされ
て、経営判断原則が適用されないかもしれません。場合によっては主要目的ルールの適用
もあるかもしれません。そのために、例外的要件を満たしていれば、あまり問題にはなら
ないと思いますが、一応独立取締役の承認を取っておくという実務が、多分無難なところ
だと思います。実際の実務がどうなっているのか、調べてもよくわかりませんでした。た
だ、取っておいたほうが無難ですので、取っていると思います。
(3)監査委員会と独立取締役
専門性と独立性
6頁の「3」は、独立取締役が一定の役割を果たすもう一つの委員会は監査委員会で
す。ただ、監査委員会については、監査役協会で既にさまざまな研究がなされ、私が付け
加えることはほとんどありません。
監査委員会のメンバーについては、専門性と独立性が要求されます。専門性について
は、2002年「企業統治改革法」が注目を集めました。これに基づいて、「SECレギュレ
ーションS-K」を出しましたが、ここで「財務専門家を1人入れておいたらいかがでしょ
うか。入れてない場合にはその理由を開示しましょう」と規定されました。また、財務専
門家の定義もなされています。
財務専門家の定義は、「SECレギュレーション」と「企業統治改革法」を比べると、
SECのレギュレーションのほうが緩い、広いということは注目すべきです。
もう一つ注目すべきは、財務専門家の責任です。SECのレギュレーションは財務専門
家がいるか、いないかによって、ほかの取締役の責任は変わりません。また、財務専門家
もほかの取締役と比べて責任が重いわけではないという規定を持っています。これはかな
り興味深い、奇妙な規定だと思います。これが実際どのように運用されるのか、非常に興
味深いのですが、なぜこういう規定が掛かったのかというと、「財務専門家導入のインセ
ンティブを持たせるためだろう」と、一般には説明しています。
このようにしていれば、財務専門家は強制されませんが、任意に自主的に入れようとい
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うインセンティブが働くのではないか。尐なくとも、入れまいとするインセンティブは働
かないだろうというわけです。
ただ、他方で財務専門家の責任は重くない。本来であれば重くなりそうですが、重たく
ないとなると、職務遂行のインセンティブはその意味ではマイナスではないか。「責任が
軽くなる分、インセンティブが小さくなるのではないか」という危険がありますが、まず
は導入させることを先に持ってきたのでしょう。
資格要件の二つ目は「独立性」です。2002年「企業統治改革法」が、独立した取締役
を要求し、それに基づいてSECルールが作られ、それをさらにニューヨーク証券取引所
などが「取引所規則」の形で作っています。ニューヨーク証券取引所のルールを見ていく
と、規定は大きく二つに分かれます。一つは「取締役会が独立性を判断する」という基本
方針が示されている点です。これは「独立性の実質が重要」ということを強調したもの
で、これは裁判所により、「独立性の有無が自主的に審査される」こととも整合的です。
一方で、取締役会が「独立性があると判断した場合」に、その判断の根拠を開示するこ
とになっていますが、これは株主による訴訟提起を容易にするものですから、この意味で
も裁判所による実質審査につながる、整合的なものと言えます。
ニューヨーク証券取引所の規定の二つ目は、「独立性を欠く場合」です。かなり細かい
規定がありますが、大雑把に言うとこの四つになります。「現在及び過去3年間、会社と
の雇用関係がないこと」、「現在及び過去3年間、本人または家族が会社から10万ドル
以上の報酬等を受け取っていないこと」、「本人及び家族が会社の監査関係者ではないこ
と」、「会社の売り上げの2%または100万ドル以上の大口取引先の従業員ではないこ
と」になっています。さらに「レギュレーションS-K」で独立性に関する開示を要求され
ています。
監査委員会については、職務内容も重要です。一般によく挙げられるのが、「ALIコー
ポレートガバナンスの原理」です。なぜ独立した監査委員会が必要なのかというと、「経
営者と外部監査人または内部監査部門には利害対立がある」、チェックを受ける側とする
側です。ところが、特に外部監査人、また内部監査部門についても、選ぶのは経営者で
す。そういう意味では利益相反の関係があります。その問題を回避する、もしくは敬遠す
るために独立した人間、独立した監査委員会に関与させるほうがいいという発想です。
具体的な役割としては大きく二つあります。一つは「外部監査人の独立性の確保」、よ
り具体的に外部監査人の選任・解任議案を審査する。外部監査人の報酬・任用条件・独立
性を審査する。もう一つは、「内部監査部門の活動の客観性を担保」、上級内部監査役員
を置く場合には、彼らの選任・解任についての審査。上級内部監査役員、外部監査人と取
締役会との意思疎通の促進を言っています。
これに対して、2002年の「企業統治改革法」と、それに基づく「SEC規則」では、監
査委員会の役割として、大雑把に言うと三つになります。「①外部監査人の選任・報酬・
監督に対する直接的な責任」、これに対応する形で、外部監査人も監査委員会に対して直
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接的な報告義務を負います。「②内部告発手続きなどの整理」、「③アドバイザーの雇用
権限とその財源」です。
SECのレギュレーションでは、「監査委員会への出席状況などの開示」、「監査委員
会の業務規定に関する開示」になっています。さらに、2004年の監査基準では、外部監
査人が、内部統制に関する監査委員会の監督の有効性を評価することも入っています。
「監査委員会は監査させる委員会」という言い方をしますが、監督者です。監督者とし
ての側面をより強調しています。昔は、「仲を取り持つ」みたいなニュアンスもありまし
たが、より監督者としての側面が出ています。ただ、監督をさせるときにはインセンティ
ブが問題になります。なぜ監査委員会が監督をしなくてはいけないのか。責任も軽いわけ
です。そこで、「どういうことをやっているかを開示させ、外部監査人によって評価させ
る」というアイディアが出てきたのではないかと思います。
(4)結びに代えて
最後の「結びに代えて」は、日本の監査役制度にどういう示唆が得られるのか。この点
について、特に特別委員会の話を中心にしたいと思います。ここで問われるべきは、アメ
リカは独立取締役を重視していますが、なぜ独立取締役が重視されるのか。この点は、ア
メリカの最近の特徴を見ていくと二つの顕著な特徴が認められます。
一つは、「取締役の独立性に関する審査がより厳格に行われる」傾向にあります。もう
一つは、「独立取締役の関与として、より積極的なものが求められる」傾向にあります。
いずれも、「利益相反問題の回避をより強く求めているもの」と言えます。
なぜ、利益相反問題を回避しなければいけないのか。この点は一般に、「よいガバナン
スは三つある」と言われています。「①経営の効率性のチェック」、「②経営の適法性の
チェック」、「③利益相反のチェック」です。なぜ利益相反のチェックが三つ目なのか、
効率性や適法性と並んで掲げられるのかというと、利益相反問題の存在は、経営の効率性
や適法性の直接的な阻害要因になります。
経営者が、会社の経営の適法性ないし効率性ではなく、自分自身の利益を図るという意
味で、直接的な阻害要因になることが一つ。もう一つは、効率性・適法性のチェックの阻
害要因にもなるということです。そこで、利益相反問題の回避が強く求められます。
なぜ、それが独立取締役なのか。裁判所が大きな役割を果たしています。裁判所は独立
取締役を導入する、独立性を重視するというインセンティブがあるように思います。なぜ
なら、独立取締役の判断を重視する形で、経営判断に対する審査をできる限り回避できる
からです。買収や締め出しは、一方で経営判断の要素を十分に持っています。裁判所は、
買収や締め出しのような難しい経営判断はやりたくないに違いありません。独立取締役の
判断を重視すれば、これが回避できます。
もう一つあると思うのは、訴訟があまりに多いことです。いちいち判断するのは大変で
す。一個一個が難しいのに、それがたくさんある。「これをちゃんとやってたら大変で、
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やってられません」というのがあると思います。
ただ、独立取締役の判断を尊重することになると、すなわち株主側、もしくは投資家側
からすると、訴訟を起こして、是正を求めることが難しくなることを意味します。なぜな
ら、まずは「独立取締役の判断が間違っている」、もしくは「独立取締役に独立性がな
い」と言って初めて、本質的な部分である取締役の行為、会社の行為について争うことが
できる。そういう意味で株主の訴訟は格段に難しくなります。
しかし、アメリカを見ると、それでもなお、訴訟はそんなに減っていません。なお、独
立取締役の判断の当否が争われるケースが尐なくない。だからこそ、裁判所は「とりあえ
ず独立取締役の判断を重視し、株主はおかしいと思えば訴訟を起こすから、そこでチェッ
クすれば効率的である」という考え方が働いていると推測されます。これは、日本とは決
定的に違う状況です。
二つ目の問題は、独立取締役を重視します。ところが、彼らのインセンティブはどこに
あるのか。独立取締役にインセンティブがない限り、独立取締役に大きな期待を抱くこと
はできないはずです。責任が大きなインセンティブで、「責任を負わされると嫌だ、それ
を回避したい、だから頑張ろう」というのが大きなインセンティブになりそうですが、実
証研究を見ると、「責任を負わされることはまれだ」と言われます。
もちろん、和解になり、一定のお金を払うことはありますが、その場合は、大体保険会
社の保険金で賄うことができるので、自分の懐は痛みません。「自分の懐が痛むような責
任を負わされることはほとんどない」と言われます。そうすると、独立取締役のインセン
ティブは何なのか。よく言われるは「評判」です。「きちんとやらなければ自分の評判が
低下する、それが嫌だ、だから頑張る」ということです。
監査役が、独立取締役と同じような役割を果たすのであれば、やはり同じような評判と
か、そういう要素がないといけないことになりそうですが、この点はどうでしょうか。教
えていただきたいと思います。
もう一つ重要なのは、独立取締役の機能発揮の前提条件です。「経営者や支配株主と、
独立取締役が対等な交渉力を持っていない限り、彼らの機能は発揮されません」と裁判所
は言います。交渉力の源泉は何でしょうか。一つ考えられるのは、経営者の選解任権だと
思います。もう一つは個人的な属性もあるかもしれません。特に独立していれば交渉はで
きるかもしれません。もう一つは、支配株主との関係では、支配株主の責任法理が大きい
かもしれません。
もう一つ大きいのが株主による訴訟提起の可能性で、「株主からの訴訟を回避するため
には、独立取締役の言うことを聞いておいたほうがいいですよ」というのは、独立取締役
にとって、恐らく大きな交渉力になると思います。
ところが、日本はどうでしょうか。「支配株主の責任法理」は、アメリカに比べると不
十分かもしれません。「株主の訴訟提起の可能性」も、アメリカに比べると小さい気がし
ます。「個人的な属性」は、何とかなるかもしれません。ただ、これだけだと弱いのでは
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ないでしょうか。監査役に関しては、経営者の選解任権を持てないかもしれません。もう
一つ問題になるのは、特に「尐数株主の締め出し」のケースです。このケースは会社に損
害は発生しません。監査役は差し止めることができるのでしょうか。差し止めることがで
きないとなれば、やはり交渉力の点で問題かもしれません。
アメリカはどうなのかというと、調べましたが、実際はよくわかりませんでした。独立
取締役は差し止められるのかというのは、わかりませんでした。ただ、恐らく差し止める
必要はないと思います。なぜなら、株主がすぐに差し止めるからです。「アメリカとは状
況が違うのではないか」というのが、私の感想です。以上です。
(5)意見交換
報告後、意見交換が行われた。主な要旨は以下のとおり。
・ 「特別委員会」は、すべて取締役で構成されているのか。日本の場合は、会社と関係
のない外部者で構成されているものも多いが。
・ すべて取締役であり、監査委員会などと同じく、取締役会の中の内部委員会である。
また、アメリカの場合には、特別委員会の権限の根拠規定があるが、日本の場合には
ない点も異なる。
・ デラウェア州の話が中心だが、デラウェア州が、今やアメリカの代表例になっている
と考えていいのか。
・ 実態は正確には分からないが、恐らくデラウェア州が中心であると思われる。デラウ
ェア州に法律の専門家が豊富におり、人的資源があるのも、裁判所の独立性の審査が
うまく機能する一つの条件かもしれない。
・ 外部監査人の選任・報酬・監督の責任と権限を、監査委員会が持っている一方で、監
査委員会の有効性の評価を外部監査人が行うという点について、ねじれがあるという
ような議論は起きていないのか。
・ 実は大きな問題であり、「利益相反がある」ということになるのではないか。もう一
つ、独立した何かを作り、屋上屋を架すというのもあまり現実的ではなく、「監査委
員会以外に与えるよりは、監査委員会に与えたほうが、まだましだろう」という判断
ではないか。
・ 「支配株主の責任行為」とはどのようなものか。
・ 支配株主も一定の場合に取締役やオフィサーなどと同じような義務を課される。例え
ばTOBの場合、尐数株主締め出しのケースだと、彼らは全く会社や経営にも何もな
い。株主に対して忠実義務を、信任義務を負っているわけでもない、会社との契約関
係があるわけでもない。なのに、完全な役員と同じように、会社がやる場合と同じよ
うに、完全な公正性の基準が適用されるという形である。その結果、取締役がやるの
と同じぐらい慎重にやらないと、差し止められてしまうという問題がある。また、尐
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数株主を犠牲にして自分の利益を図ることがあると、損害賠償請求もある。そうする
と、支配株主は尐数株主を害する、自分の支配権を使って利益を図ることができにく
くなり、これが支配株主の責任法理ということである。
・ 日本では大株主やメインバンクの代表者が、社外取締役とか社外監査役になっている
場合もよくあるが、アメリカでは独立性が認められるか。
・ アメリカの場合、大株主は「経営者からの独立性」という点では一般的に問題視され
ていないが、独立性はケース・バイ・ケースで審査されるため、ケースによっては裁
判所の審査において問題になることはあり得る。例えば合併によって尐数株主の締め
出しがある場合に、独立取締役が相手側に立って交渉することになるが、彼がもし大
株主の場合には独立性がないとみなされるのではないか。また、銀行などは「重要な
取引先」に当たる可能性はあるのではないか。
・ 独立取締役というのは、企業と株主には利益相反というものが必ず起こり得るのであ
り、その場合に対する一つの判断、あるいは公正な判断といったものが必要だという
ことに基づいてその機能が裏付けられているということではないか。
・ 指摘のとおりであり、利益相反の問題さえなければ、あとは経営者に任せておけばい
いということではないか。ただ、利益相反といっても、いろいろな類型があり、何を
もって「独立性」と言うかは当然厳格になっていくことはあるのではないか。
・ どういう点で利益相反があり、問題になっているのかという議論がまずあり、その上
で、「だから独立取締役が必要であり、こういう要件を満たしておく必要がある」、
という順で議論の整理ができるのではないか。
・ 対処する方法としては、利益相反的なことについては、事前規制を厳しくする、もし
くは禁止する方法もあるが、アメリカはそうではなく、「やっていいですよ。ただ
し、あとで承認を取ってないと問題になりますよ」という形が採られている。
・ 日本の場合、会社イコール経営者(CEO)という認識が強いが、アメリカの場合に
は、経営者がよく交替し、経営者自らが短期的な業績を上げることに走りがちであ
る。また、株主を意識する余り、株価上昇を強く念頭におく。従って、アメリカでは
そのようなCEOを牽制するために、独立取締役の意味が非常に強くなるということ
か。
・ そう考えられるのではないか。また、日本の場合は、銀行による規律付けであった
り、持ち合いのグループによる規律付けであったり、あとは内部的な人事システムに
よる規律付けがあったり、そういう規律付けがあることから、経営者がモラルハザー
ドを起こしたり、自分自身の利益を追求することはあまりないということも言われて
いる。
・ なぜ日本においても社外要件や独立性を厳格にする必要があるのかということを、ど
のように整理すべきか。
・ 非常に難しい問題だが、トータルの制度設計が重要だということではないか。アメリ
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カの場合には、訴訟が多いということも独立取締役の強化が図られた重要な外部要因
なのではないか。日本の場合にも独立取締役はいた方が良いとは思われるが、アメリ
カのような大きな役割を果たす存在にはならないのではないか。
・ 日本の場合には社外監査役もいるため、役割を果たす切り口もいろいろあるのではな
いか。業務執行する部分と監視する部分との切り分けをどのように図ればよいか。
・ 独立取締役はいたほうが良いが、訴訟を減らすような大きな役割を期待するというこ
とではないのではないか。場合によっては、監査役で内部者と社外者の穏健なバラン
スで経営を牽制するといったいろいろな方法はあると思われ、アメリカのように極端
な方法が必ずしも最適であるとはいえないのではないか。
・ 訴訟には至らないまでも、不祥事は極めて多く発生しているという状況をどう考える
べきか。
・ もう尐し訴訟が増えてくると状況は変わるのではないか。平成5年に代表訴訟の手数
料引き下げがされた際、経営者のあるべき姿を改めて考えようという動きが起こり、
経営者は襟を正す必要があるといった社会規範が生まれたということもあるのではな
いか。アメリカのような訴訟社会になることは望ましいことではないが、訴訟がもう
尐し増えてくると牽制効果が上がったり、社会規範ができるといった変化もあるので
はないか。
3.第三者割当増資の実施状況について
㈱東京証券取引所上場部長河野秀喜氏より、標題について報告があった。
河野氏
「資料3-1」と「資料3-2」の二つを用意しました。前回の有識者懇談会
で、大規模第三者割当増資について、実際にそのようなケースがどれほどあるのかという
データを知りたいという要望がありました。「資料3-1」はワークシート的なものです
が、会社法が施行された時期から今年の3月31日まで、東証の上場会社について簡単に
調べてきました。
1番目の表が総括表です。左上が合計で「株式+CB+予約権」です。それぞれ種類ご
とに、「公募」の場合、「第三者割当増資」の場合、「株主割り当て」の場合です。「公
募」についてと、「第三者割当増資」については、それぞれ増資前の発行株式数に対する
発行株式数の比率をそれぞれ分けて、どれぐらいあるかという形で調べています。
「第三者割当増資」を見ると、30%以上は件数で59件、「株式+CB+予約権」の合計
に対する比率では13.3%、金額ベースで見ると8.7%です。20%以上と足し合わせても、
件数では約2割ちょっと、金額ベースでは約12%です。「公募増資」を見ると、30%以
上は件数で2件、金額的には5%です。これが総括表です。
その下がそれぞれ種類別に、株式の発行も「公募」、「第三者」、「株主割り当て」、
その下が「CB」、一番下が「新株予約権」です。時間がないので表の見方だけの説明で
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す。
「資料3-2」は、特に30%以上のものを種類別、比率の高い順に個別の会社名を出
して整理しました。公募については、第一回有識者懇談会で飛山が説明した1番の例は、
「発行のプロセスで問題があった」という形で紹介した、株主総会近くに発行したケース
です。それ以降、第三者割当増資の大きなものをピックアップすると、大体2頁ちょっと
になるような件数になっています。
これはすべて大規模増資ですので、非常に大きな問題ですが、さらに大きな問題とし
て、第三者割当増資をする前に、10対1の株式併合で、約8割の株主が株主の権利を失
ったという例があります。ですから、増資前の上場株式数は非常に小さくして、そのあと
第三者割当増資をして、比率で見ると2,979.3%、約30倍という、分割と第三者割り当て
の二つを合わせて、株主の権利が損なわれる最も顕著な例です。
割り当て先が不明瞭というケースで、よく金融庁とか監視委員会が問題視する、「バー
ジン諸島私書箱X」というファンドの会社が多いのですが、横文字の会社、横文字でなく
てもファンドのケースなどの場合は、不透明な割り当て先で問題になることがあります。
これは、東証上場会社だけを調べましたが、2月にジャスダック証券取引所のある会社
が、1対100の株式併合をしてから第三者割当増資をしたというケースがありました。
「流通市場と株主の権利に与える影響が非常に大きかったので慎むように」という通知
を、私どもが出しました。簡単ですが、表の見方と用意したデータについては以上です。
次回以降、第三者割当増資について、検討する場合は、「こういったケースがあるから検
討する」ということでご理解いただければと思います。
以上
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