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オンライン ISSN 1347-4448
印刷版 ISSN 1348-5504
赤門マネジメント・レビュー 1 巻 7 号 (2002 年 10 月)
〔研 究 会 報 告〕コンピュータ産業研究会
2002 年 9 月 26 日
1
地方の時代の放送コンテンツ流通
高橋
孝之
株式会社サテライトコミュニケーションズネットワーク
E-mail: [email protected]
要約:放送コンテンツのデジタル化、多チャンネル化、多メディア化が時代の趨勢で
ある。これは、コンテンツの一極集中の時代から、コミュニティをもつ地方の時代へ
と変化を促す。株式会社サテライトコミュニケーションズネットワークは、地方の映
像コンテンツを全国流通させる新しい放送コンテンツ流通の仕組み作りに取り組んで
いる。
キーワード:コンテンツ、流通、コミュニティ
1. ローカルならではのコンテンツ制作 ―中海テレビ放送の取り組み―
株 式 会 社 サ テ ラ イ ト コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ ネ ッ ト ワ ー ク ( Satellite Communications
Network:以下 SCN)は、ブロードバンド時代にふさわしい新たな放送コンテンツ流通ビジ
ネスの確立を目指している。会社は平成 5 年に鳥取県米子市に設立され、平成 12 年から本
格的にビジネスが動き出している。本報告では、まず地方のケーブルテレビ(CATV)局に
おける放送コンテンツ制作について述べたあと、SCN の取り組みについて説明する。
私がまず取り組んだ事業は CATV 放送である。昭和 58 年に CATV の勉強会を始め、昭和
59 年に株式会社中海テレビ放送を設立し、平成元年に営業を開始した。当時はスカイパー
フェク TV! はなく、BS が実験放送をしているような状況であった。170 社から出資を募る
にあたって、
「CATV はコストがかかるため、10 年後でも儲からない」と明言した。お金を
配当するのではなく文化を配当するという姿勢で事業を行った。
ローカルのテレビ局が東京キー局と異なるのは何であろうか。ローカルテレビ局の番組の
中で、自主制作しているのは 10%に過ぎない。これは、手間をかけて番組を作るより、東京
1
本稿は 2002 年 9 月 26 日開催のコンピュータ産業研究会での高橋氏の報告をもとに高松朋史(グローバル
ビジネスリサーチセンター 研究員)が作成し、本誌掲載のために講演者の校正を受けたものである。
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©2002 Global Business Research Center
www.gbrc.jp
コンピュータ産業研究会 2002 年 9 月 26 日
キー局からコンテンツを貰う方が手っ取り早いためである。しかし、ローカルのニュースを
東京キー局の視点で編集したものは、ローカルが直接独自に作ったものとは異なってしまう。
実例として、鳥取西部地震のときのニュース放送が分かりやすい。2 年前に鳥取で地震があ
ったとき、震度は大きかったが実際には大きな被害はほとんどなかった。それにもかかわら
ず、東京キー局は地震の被害の部分だけを放送した。その結果、風評被害が発生し、観光客
が激減してしまった。地元で生活している人たちが知りたいのは、ニュースとしての大きさ
ではなく、「本当のところ被害は大丈夫か」ということである。中海テレビ放送では、地震
の全体的な影響を取り上げて、被害が少なかったことも放送したのである。
ローカルはローカルならではのコンテンツがある。中海テレビ放送では、43 チャンネル
のうち 4 チャンネルをコミュニティチャンネルとして放送している。ニュース、総合、文字
情報、そして市民が作成したコンテンツを放送するパブリックアクセスチャンネルである。
ニュースは毎日放送している。中海テレビ放送のビデオジャーナリストはそれぞれ毎日 2
項目のニュースを発信することになっている。ニュースに特化して 10 年以上も放送してい
ると、信頼されるようになる。始めた頃はローカルのニュースはいらないと言われたことも
あった。しかし、地元の環境問題などに関心が高く、視聴率もかなり高い数字が出ている。
去年は市民が出演する環境番組を毎月一本放送した。市民 200 人以上が出演したが、市民
がプロ意識を持つようになるのが目に見えた。また片山鳥取県知事が市民の質問に CATV で
返答する番組も放送した。そこで取り上げられたある交通問題では、放送後にすぐに調査し
て対処策がとられた。このように中海テレビ放送では、CATV を使って 14 年間まちづくり
を支援しながら、ローカルならではのコンテンツを制作してきた。
しかし、全国にあるすべての CATV 局がコミュニティと結びついているわけではない。そ
もそもコミュニティチャンネルをもたない CATV 局もあるし、役所主導でコミュニティチャ
ンネルを立ち上げたが、
3 年で立ち消えになったところもある。各社の体質的な問題もあり、
CATV 局がコミュニティと結びついたコンテンツ制作を実現するのは容易ではない。
2. 地方の時代の新しいコンテンツ流通 ―SCN の取り組み―
現在進んでいるデジタル革命は放送業界に、① 多チャンネル化、② 映像コンテンツ需要
の爆発的増大、③ 映像コンテンツの二次的利用の増大、④ 既存の TV ネットワークの弱体
化、といった変化をもたらしている。
東京キー局 5 社と多数のプロダクションが支える現在のシステムのままでは、将来の需要
を満たすことができなくなる。ローカルから情報を発信することによって、映像コンテンツ
の需要増大に応えることができるはずである。ところが、その担い手になりうる CATV 局は
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図1
シンジケーションのイメージ
2010 年に向けて経営が厳しくなる。国や民間による約 1,000 億円の投資によって、CATV の
加入者は現在 1300 万世帯に達したが、赤字の CATV 局が多い。現在のような個別のままの
やり方では、時代の流れに対応できない。ローカルならではのコンテンツが、その地方にと
どまらず、全国へ流れる状況を実現するためには、コンテンツ流通を促進する仕組みが必要
不可欠である。
その仕組み作りのために、平成 5 年資本金 3 千万で株式会社サテライトコミュニケーショ
ンズ西日本(平成 12 年現社名に社名変更)を設立した。SCN は通信衛星を利用してネット
ワークを組み、CATV 局にコンテンツを供給する。システム作りには数億円が必要だったが、
通産省が賛同して補助金が交付されたため、JAFCO などの出資も得られた。SCN の設立後、
全国を回って賛同者を募った結果、CATV 加盟局は現在 140 局に達した。また、中四国映像
製作者連盟など、各地のプロダクション団体の参加も進んでいる。
SCN は映像コンテンツのシンジケーションを行う。CATV、ローカル民放局、BS、プロダ
クション、CS、ブロードバンド系各社を結びつけ、コンテンツを流通させる(図 1)。
SCN の具体的な事業は、大別して ① 衛星通信事業、② CATV コンテンツ配信事業、③ コ
ンテンツ制作事業、④ コンテンツ流通事業からなる(図 2)。① 衛星通信事業はコンテン
ツ流通のためのインフラであり、企業がプライベートなコンテンツ流通に利用することも可
能である。② CATV コンテンツ配信事業では、番組配信サービスや、CM 配信サービスだけ
でなく、CATV 業界情報サービスも行っている。③ コンテンツ制作事業ではローカルを重
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図2
コンテンツ流通事業のビジネスモデル
視したコンテンツの制作を行い、④ コンテンツ流通事業が、コンテンツの流通を取り扱っ
ている。
会社は立ち上げてからまだ 2 年半だが、2 年目は初年度の 3 倍の売上増を達成し、今年度
も同様の売上増を達成できる見込みである。ただし、コンテンツ流通自体はまだ収益源にな
っていない。現在大きいのは CM、それも中堅会社のものである。CATV がコミュニティの
知識共有ツールとして認知されるようになれば、宣伝媒体としての存在感が増す。中海テレ
ビ放送でも、市民の信頼を得ることで視聴率 40%といった数字が現れ、スポンサーが付くよ
うになった。
CATV の視聴者はマーケティングの効果が大きい。中海テレビ放送の場合、加入料 6 万円、
工事費 3 万円を支払って視聴者になる。そのような視聴者は、それだけの金銭的余裕と、好
奇心がある客層なのである。商品の良さを訴える番組を作り、丁寧に説明をし、十分な情報
を与えれば、販売に結びつく。実際におもちゃメーカー等とのタイアップで、販売促進の効
果を実証してきた。SCN では、地域を指定して CM を CATV に流すことで、スポンサーは
エリアマーケティングが可能になる。
最後に、ブロードバンド時代の放送コンテンツ流通手段として、注目を集めているインタ
ーネット放送についての見解を述べよう。放送の立場から見ると、インターネットはまだま
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だ現在の放送を代替する存在にはなっていない。技術的にはインターネットにおける放送を
可能とする技術として、たとえば日本では株式会社ビーエスアイ(BSI)が提供する仏 Castify
社のシステムがある。しかし、コンテンツの権利保護がなされないと、プロダクションとし
てもコンテンツを流せない。また消費者にとっても、現在主流のストリーミング放送では所
有意欲を満たせない。現時点では、インターネットを利用した xDSL 版スカイパーフェク
TV!
の実現より、企業内コンテンツ流通など BtoB への応用に商機を見いだすことになる
だろう。
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赤門マネジメント・レビュー編集委員会
編集長
編集委員
編集担当
新宅 純二郎
阿部 誠 粕谷 誠
片平 秀貴
高橋 伸夫
西田 麻希
赤門マネジメント・レビュー 1 巻 7 号 2002 年 10 月 25 日発行
編集
東京大学大学院経済学研究科 ABAS/AMR 編集委員会
発行
特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター
理事長 片平 秀貴
東京都千代田区丸の内
http://www.gbrc.jp
藤本 隆宏
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