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保健室経営と健康教育 健康という花を咲かせる

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保健室経営と健康教育 健康という花を咲かせる
第 28 号
発 行 日
発 行 所
編集責任者
題 字
健康という花を咲かせる
指導主事 廣瀬 敬一
平成25年3月
富山市千歳町1−5−1
富山県中学校教育研究会
山田 恭子
金山 泰仁 先生
保健室経営と健康教育
部長 山田 恭子
今年度ノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸
「養護教諭の活動は、子どもの生活現実に即し
弥教授は、3年前の文部科学時報(H22 年1月
て行われるという点で、近接の学問領域に関わる
発行)の中で、次のように述べています。
「科学は新しい資源を作り出し、無から何かを
作り出す仕事だから、限界のない仕事・職業・技
術だ。また、なかなか成果が出ない難しさもあり
時間がかかるもの。子どもたちを教育する側も成
果をすぐに求めるのではなく、科学とはそういう
ものなのだと考えてほしい。水をやっていたら、
いつか忘れたころにパッと芽が出て、そこからも
のすごい花が咲く。「わあ、びっくりした」と思
う。ちゃんと土に種があると信じて水をやること
が必要。それをしないと、花は咲かない。」
(一部抜粋)
これは保健教育にも通じます。今年度、研究グ
ループが作成した指導案を用いて各学校で授業実
践し、学習形態や資料等、指導に関わる成果や課
題を会員が共有しました。また、生徒が記入した
ワークシートを保護者にも見てもらって生徒の実
践を支えるなど、家庭との連携を生かした取組も
ありました。これらの保健部会の取組は、種をま
いて水をやり続けている状態です。生徒がよりよ
く成長したいと願っていることを信じ、成果が出
るには時間がかかると捉えながら、粘り強く指導
し続けることが大切です。
今年度の研究の課題として、今後は生徒が健康
な生活の実現に向けて具体的な目標をもち、自ら
改善を加えながら実践していけるようにする指導
が望まれます。生徒一人一人が健康という花を咲
かせられるよう、養護教諭の専門性や保健室の機
能を生かしつつ、PDCA サイクルによる研究が
一層充実されていくことを期待します。
総合性とフレキシビリティーにあふれている。」
これは、私の恩師の言葉で、私がこれまでの保健
室経営において拠り所としてきたものです。健康
教育においてもまた、各学校の生徒の実態に即し
て柔軟性をもって実践し、あらゆる教育分野の活
動と関連させることが大切であると考えていま
す。
各校において、養護教諭が長年培ってきた保健
室経営には、健康教育の実践に生かせるものが多
くあります。例えば、生徒の訴える身体症状の背
景は既往歴や家庭環境等一人一人異なるため、そ
の個別性を大切にすること、生徒が心身共によい
方向に向かうために、養護教諭と生徒との 1 対
1 の丁寧な対話を心掛けることなどです。このよ
うな、保健室での生徒との関わりの中で気付いた
ことを、生徒の健康づくりを支援する上で取り入
れていくことが、養護教諭に求められていると思
います。
また、近年生徒の健康課題の対応に当たり、養
護教諭のコーディネーター的役割が重視されてき
ています。このことにおいても、養護教諭ならで
はの特性を生かしながら、健康教育の充実に向け
て学校内や地域の関係機関との連絡・調整を図っ
ていきたいものです。
今年度の保健部会の研究活動においては、生徒
が自分の健康課題についての考えを深める場の工
夫、生徒の実践を支える手立ての工夫、PDCA
サイクルを生かした健康教育推進の在り方等につ
いて、着実に研究の成果を上げることができまし
た。中教研活動が益々活性化するとともに、健康
教育についての研究と実践がさらに進展すること
を願っています。
(西部教育事務所)
― 保 健 ― 1 ―
(高・五位中)
第56回 研究大会報告
第 56 回富山県中学校教育課程研究大会保健部
会が、10 月 10 日(水)に富山市婦中ふれあい
題の焦点化」
「PDCA サイクル」
「3年間の見通し」
「実態に合った指導」について指導していただい
た。また、健康な生活を継続して実践する上で「楽
館で開催され、会員 86 名が集まった。
「生涯にわたって主体的に心身の健康づくりに
しめるか」「短期間でも多少の効果を感じられる
取り組み、健康で安全な生活を営む能力や実践的
か」「習慣にできるか」などのポイントも教えて
な態度を育てる健康教育はどのようにすればよい
いただいた。
か」を研究主題に、砺波地区(発表者 出町中・
指導講話の中で、海外で活躍する 11 歳の日本
寺島直美養護教諭、石動中・中橋典子養護教諭)
人サッカー少年の例が紹介された。小さい頃から
から、三つの課題別グループの研究について提案
父親がサッカー遊びの中で、多くの具体的な褒め
があった。
「朝食」「睡眠」「メディア利用」に焦
言葉をかけ続けたことで、その少年は自分のプ
点を当て、各グループの指導案を基に、各校の実
レーの何がいいのかを理解し、次第に自分で考え
態に合わせて指導実践を積み重ねた内容であっ
て練習し続けられるようになったというお話だっ
た。PDCA サイクルの一連の流れを意識し、実
た。そして「生徒に限らず人間というものは、分
践と評価を繰り返すことで、より有効な指導につ
かっているけれど継続することが難しい」ことを
ながっていた。
理解しつつ、それを乗り越えられるように、養護
「メディア利用」に関する発表では、会員が生
徒役となり二つの演習を行った。
「言葉だけで絵
教諭として、人として、関わってほしいと助言し
ていただいた。
を描いてみよう」という演習では、言葉の受け取
また、目の錯覚のような現象は、人の心にも起
り方の違いや情報の疑わしさ、コミュニケーショ
こりうる。生徒を理解しようとする際には、「こ
ンの難しさを体験することができた。また、「『大
の生徒の周囲に影響を及ぼしているものがあるの
切』ってどういうこと?考えてみよう」という演
ではないか」「環境によってそう感じているのか
習では、話合い活動を通して「大切」という言葉
もしれない」などと絶えず生徒の心を意識するこ
の中にも様々な解釈や価値観があることに気付く
とが大切であると指導していただいた。
ことができた。この二つの演習から、人により情
提案発表、部会協議、グループ協議では、それ
報の受け取り方に違いがあることを実感できた。
ぞれに活発な意見交換が行われ、これからの実践
部会協議では、6人ごとのグループ協議の時間
につながる有意義な研究大会となった。
が設定された。事前に参加者に協議の視点を知ら
せたことにより、日頃の実践や各地区の研究を基
に多くの意見が出され、協議内容に深まりがみら
れた。協議を通して、生徒は自分の健康課題に気
付き生活の改善について考えてはいるが、実際に
継続して実践している生徒は少ないということが
分かった。また、健康教育は学校全体で取り組ん
でいく必要があり、養護教諭は構造的にどう関
わっていくかを考えていかなくてはいけないとい
うことも明らかになった。
廣瀬敬一指導主事(西部教育事務所)からは、
健康教育を推進する上でのキーワードとして「課
― 保 健 ― 2 ―
土肥 久美子(中・雄山中)
保健指導の充実を目指して
メディアによって崩される生活リズムと心
今年度本校では、ゲストティーチャーによる保
滑川・中新川地区保健部会で、夏休み中にカウ
健指導を取り入れ、よりよい生活実践に結び付け
ンセリングオフィス・ラ・ヴィニールの岡田浩子
たいと考え取り組んでいます。ここでは、1学期
先生に講演していただき、メディアと睡眠の関係
に行った
「丁寧な歯みがきで歯肉炎を予防しよう」
について知識を深めました。本校では、昨年度か
の実践について紹介します。
らメディア機器の利用と睡眠に関する指導に力を
○ 学校歯科医・歯科衛生士による歯の保健指導
6月 19 日(火)6限 第1学年の学級活動で
行いました。学校歯
入れており、講演で学んだことをその後の保健指
導の資料づくりに役立てました。また、10 月に
実施した学校保健委員会へも講師として岡田先生
科医の河村先生と歯
を迎え、「脳科学から見たメディアと睡眠」とい
科衛生士さんに来て
う演題でお話をしていただきました。
いただき、歯肉炎と
講演は、アメリカ
歯周病について学習
では落ち着きがな
しました。染め出し
をして、歯垢チェックも個別にしていただきまし
た。チェックカードで点検し、一人一人がアドバ
イスを受け、みがき残し箇所や、どのようなみが
き方が効率がよいか指導していただきました。
生徒は、自分のみがけていないところの確認が
でき、習ったみがき方をこれからの歯みがきに生
かそうとする意識が高まりました。授業後の感想
には、
「今はむし歯より歯周病の方が歯を失う原
因となると分かりました。いつも1分くらいしか
みがいていないので、先生のアドバイスを基に3
分以上みがきたいです。」「先生に歯並びがきれい
だと言われ、とても嬉しかったです。自分の歯を
きれいに保つようしっかりみがきたいです。」な
ど意識の高まりが見られる感想が多かったので、
これからも実践に結び付く学習を推進したいと思
います。
かったり、集中でき
なかったりする子に
は、スクリーンを見
つめる時間を制限す
るという話から始まりました。メディア機器から
放たれる青白い光には睡眠リズムを崩す作用があ
ること、記憶や集中力、気持ちの安定をつかさ
どる「海馬」は強いストレス下に長時間おかれる
とすかすかになってしまうことなどを聞き、生徒
たちは驚きの連続だったようです。特に、実際に
戦争に行っている人と戦争のゲームをしている人
と、脳に受ける刺激は同じであるという話に、戦
闘ゲームが脳に与える恐ろしさを痛感したようで
した。長時間のメディア機器の利用がなぜ危険な
のか。科学的根拠に基づいた話は、思春期の生徒
たちの脳にもしっかりと届いたようです。
学校保健委員会終了後の3日間、生活チェック
○ 給食後の歯みがき活動
本校では、毎日給食後に歯みがきを実践してい
ます。6月の歯の保健指導の後から、保健委員会
をしました。事前事後の保健だよりに、チェック
項目や講演の内容、感想を掲載するとともに、学
の生徒の要望もあり、
「8020 運動」の音楽を3
校のホームページでも紹介し、より多くの保護者
分間流しています。保健指導後、今までしっかり
に学校での保健活動を知ってもらいました。
みがいていなかった生徒も3分間しっかりみがく
これからも、生徒の健やかな睡眠と心身の成長
ようになってきており、今後もこのような取組を
のために、地域一丸となって保健教育の研究を深
していきたいと思っています。
めていきたいと思います。
山田 明美(黒・宇奈月中)
― 保 健 ― 3 ―
朝倉 由香理(滑・滑川中)
富山市保健部会から
実践への意欲を高めるために
富山市では、中学生の健康課題別に三つのグ
ループを編成し、研究に取り組んでいます。
本年度は、①保健指導(応急処置)②保健指導
(生活習慣)③保健学習(授業づくり)の3テー
マを掲げ研究を進めています。
研究を進めるに当たっては、目標設定・実行・
評価・改善の一連の指導を意識し、どのグルー
プも生徒の実態を把握するために調査と分析を
行い、指導内容の検討を行いました。部員数は 1
グループ 10 人前後で、毎回活発な話合いや情報
交換が行われます。グループ研修後は、全体でグ
ループごとの研究の進行状況等を報告し合ってい
ます。
毎年夏休みには、一日研修を実施しており、本
年度は8月1日に、金沢大学人間社会研究域学
校教育系 准教授 河田史宝先生を講師にお迎えし
て、新学習指導要領の内容について講話をいただ
きました。
今年度、本校では、主体的に健康な生活を実践
することができる生徒の育成を目指し、指導の改
善・工夫に取り組みました。
歯の指導では、歯垢の染め出しや位相差顕微鏡
を用いた保健指導の他、保健委員会の生徒が「か
みかみセンサー」を使って、給食時にかむ回数を
測定したり、アンケート結果をまとめたりしたも
のを、給食時間に放映しました。「健康づくりノー
ト」の集計結果から、よくかんで食べる生徒が前
回調査よりも増加していることが分かりました。
具体的な数字を使って理解させることが、実践意
欲を高めることにつながったのだと思います。
薬物乱用防止教室は学校薬剤師の協力を得て行
いましたが、喫煙防止指導、飲酒防止指導につい
ては養護教諭が行いました。県養護教諭会夏季研
修会で学んだ「行動変容を促すプレゼン術」や実
習を取り入れ、生徒の興味・関心がさらに高まる
本年度から全面実施になった新学習指導要領の
ように工夫しました。そして、指導後には、スクー
中学校保健体育科・保健分野を中心に、改訂の趣
ルカウンセラーと共に各学年の実態に合わせたア
旨や要点ついて解説書を読み進めながら学びまし
サーション・トレーニングを行い、知識の習得だ
た。
けではなく、より実践的な態度の育成につながる
また、小・中・高それぞれの目標や指導学年・
学習内容を比較することによって、系統的で計画
的な指導の重要性を再認識することができまし
た。
さらに、学習状況を明確にする指導と評価の一
体化について具体的なご示唆をいただき、理解を
深めることができました。
ようにしました。
助産師を招いた命の授業では、会場の雰囲気づ
くり、自作メッセージビデオの視聴、お世話になっ
た人への感謝の手紙等、WYSH 教育の研修で学
んできたことを取り入れて実践しました。生徒の
様子や心のこもった手紙等から、自分の命の尊さ
を実感するだけでなく、身近な人の命の尊さにつ
いても気付いていることが分かり、生徒の心に深
く響く授業であったと実感しました。
このような様々な取組を通して、健康について
の課題を自分自身のこととして捉えて「実感」さ
せることが、継続して実践しようとする生徒の意
欲につながるのだと改めて感じています。これか
らもより効果的な指導を目指して、健康教育の推
進に努めていきたいと思います。
若林 仁美(富・大泉中)
― 保 健 ― 4 ―
吉江 真由紀(高・国吉中)
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