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ダウンロード - LORC
龍谷大学地域公共人材・
政策開発リサーチセンター(LORC)
LORC ジャーナル
地域協働
vol. 7
2015.9
論文
米国における広域連携
市町村の有機的広域ネット
ワークによる地域イノベー
ション
新たな広域連携のあり方に
ついて
報告
京都府北部地域調査
米国ポートランド調査
ドイツ・ベルギー調査
LORC・環境学会共催シンポ
ジウム
『地域エネルギー政策最前線:地
域社会の構造的再生に挑むイノ
ベーターたち』
研究活動報告
本
『共生の言語学−持続可能な社会をめざして』
『市民の日本語へ−対話のためのコミュニケーションモデルをつくる』
『地域力再生とプロボノ−行政におけるプロボノ活用の最前線』
『縮小都市の挑戦』
『Relational Practice in Meeting Discourse in New Zealand and Japan』
『カーボンマイナスソサエティ−クルベジでつながる、環境、農業、地域社会』
LORC ジャーナル
地域協働
CONTENTS
論 文
広 域 連 携 を テ ー マ に
米国における広域連携 ―広域連携機関の役割と権限―
1
市町村の有機的広域ネットワークによる地域イノベーション
ーイタリア・スロー・シティ協会に見る広域連携と地域再生の可能性ー
5
新たな広域連携のあり方について ー定住自立圏・連携中枢都市圏の課題ー
9
青山 公三 (龍谷大学政策学部 教授)
大石 尚子 (龍谷大学政策学部 准教授)
今里 佳奈子 (龍谷大学政策学部 教授)
報 告
京都府北部地域調査報告
12
並木 洲太朗 (LORCリサーチアシスタント)
米国ポートランド調査報告
14
並木 洲太朗 (LORCリサーチアシスタント)
ドイツ・ベルギー調査報告
18
大石 尚子 (龍谷大学政策学部 准教授)
LORC・環境学会共催シンポジウム報告
『地域エネルギー政策最前線︓地域社会の構造的再生に挑むイノベーターたち』
研究活動報告
21
24
図書紹介
26
LORC ロゴについて
LORC の「O」の部分に、理論・実践・人材開発の3つの輪が
集合する状態を表現しています
2014 ~ 2018 年度 文部科学省私立大学
戦略的研究基盤形成支援事業
62
広 域 連 携 機 関 は 徐 々 に そ の 連 携 機 能 を 拡 大 し︑
まだ機関を持たない都市圏は広域連携機関の設
立を急ぐことになったのである︒
そしてさらに︑ 年には連邦交通法︵ Federal
︶が制定され︑人口5万人
Transportation Act
以 上 を 有 す る 都 市 圏 は︑ 都 市 圏 に お け る 交 通
計画 を 調整す る 都市圏 計 画組織 (Metropolitan
の設立を義務
Planning Organization: MPO)
付けられた︒
このMPOには︑交通計画の広域調整に関わ
る権限が与えられ︑またその費用が提供される
こととなった︒ それにより︑全米の5万人以上
の人口を有する中小都市圏は︑ 年代に続々と
広域連携機関を設立したのである︒
もちろんそれまでに広域計画連携機関を設立
していた都市圏は︑多くの場合︑州が既存の機
関をMPOとして認定し︑具体的にMPOとし
ての役割を担うことになった︒ ただ︑一部の都
市圏では︑交通だけの計画調整を行ったり︑環
境だけの調整を行う機関が設立されたところも
ある︒
青山 公三 ︵龍谷大学政策学部 教授︶ 66
交 通・ 環 境・ 土 地 利 用・ 経 済 開 発 等 の 総 合 的
な広域計画連携︵ISTEAからSAFETE
A L
- U・MAP へ︶
70
米 国における広域 連 携
60
LORC研究員
関 設 立 が 目 立 っ て く る︒ こ れ は 年 に 成 立 し
た連邦補助高速道路法︵ Federal Aid Highway
︶ が︑ 各 都 市 圏 に 対 し 連 邦 補 助 を 受 け る 高
Act
速道路事業の採択を得るには︑地域における広
域 的な交通計画策定を義務付けたこと が一つの
大きな要因となっている︒こうした動きに伴い︑
州境地域の都市圏でも州を越えて広域連携機関
の設立が行われた︒
そしてさらには︑ 年の連邦住宅法修正︑
年の大都市圏開発法制定により︑要件の整った
広域連携機関には︑連邦補助などを受ける諸事
業に関し︑計画調整の法的な位置づけと︑それ
にかかる連邦による資金 的な援助 が行われるこ
とになった︒
ま た そ れ ら に 加 え︑ 年 に は 全 国 環 境 政 策
法︵
National
Environmental Policy Act of
︓ NEPA)
が 成 立 し た︒ こ の 法 律 は 全 額
1969
か一部かを問わず︑連邦資金を使う全てのプロ
ジェクトを対象に︑広域的な環境に関わる様々
な調整や︑環境アセスメントが義務付けられた︒
さらにプロジェクト実施主体に対し︑市民に情
報開示し︑計画プロセスに参加する機会提供を
求めている︒ その検討や調整の実質的役割を広
域連携機関が担うことになった︒
65
それらに伴い︑既に存在していた各都市圏の
1
LORC ジャーナル
73
21
69
︱広域連携機関の役割と権限︱
60
50
はじめに
米国の各都市圏で本格的な広域連携が始まっ
た の は 第 二 次 大 戦 後 で あ っ た︒ そ の 背 景 に は︑
様々な要素があった︒ 戦後の帰還兵による急速
な住宅需要と︑連邦の住宅取得支援による住宅
需要等は︑高速道路の整備とも相俟って︑郊外
に大規模なスプロールを引き起こしてきた︒ そ
れによって広域的な環境︑交通︑土地利用等に
関する広域連携・調整を行う必要が出てきたの
である︒
本稿では︑ 年代から始まった全米各地の広
域連携を概観しつつ︑それらがどのように役割
を 果 た し︑ ど の よ う に 広 域 的 な 連 携 と 調 整 を
行ってきたのかについてみていきたい︒
50
50
広域連携機関設立の経緯
米国の主要都市圏における広域連携機関の多
くはカウンティと自治体による広域行政機構
︑ 年~
(Council of Governments: COGs)
年代に多くの主要な機関が設立された︵ 表1参
照︶
︒ そ れ ら 機 関 の う ち︑ 年 代 と 年 代 初 頭
に設立されたものの多くは︑都市圏のスプロー
ル問題に対応する広域連携機関としての性格を
有していた︒
年代半ば前後から急速に各都市圏での機
60
表1 米国主要都市圏の広域連携機関設立年次
1947 年
アトランタ
Atlanta Regional Commission (ARC) (Atlanta)
1955 年
デンバー
Denver Regional Council of Government (DRCOG) (Denver)
1957年
ワシントン DC
Metropolitan Washington Council of Governments (MWCOG) (Washington DC)
シアトル
Puget Sound Regional Council (PSRC) (Seattle)
シカゴ
Northeastern Illinois Planning Commission (NIPC) (Chicago)
ポートランド
Metropolitan Planning Commission (now METRO) (Portland, OR)
1961 年
サンフランシスコ
Association of Bay Area Governments (ABAG) (San Francisco)
1962 年
ニューオーリンズ
Regional Planning Commission (RPC) (New Orleans)
1963 年
ボストン
Metropolitan Area Planning Council (MAPC)
1964 年
ラレイ
Capital Area Metropolitan Planning Organization (CAMPO) (Raleigh, NC)
オハイオ・ケンタッキー・
インディアナ州境
The Ohio Kentucky Indiana Regional Council of Governments (OKI) (3 州 州境 )
セントルイス
East-West Gateway Coordinating Council (EWGC) (St. Louis, MO)
ロサンジェルス
South California Association of Governments (SCAG) (Los Angeles)
フィラデルフィア
Delaware Valley Regional Planning Commissiion (DVRPC) (NJ/PA 州境 )
ダラス・フォートワース
North Ceentral Texas Council of Governments (NCTCOG) (Dallas, Fort Worth)
サンディエゴ
San Diego Association of Governments (SANDAG) (San Diego)
ヒューストン
Houston-Galveston Area Council (H-GAC) (Houston TX)
ミエアポリス
Metropolitan Council (MC) (Minneapolis, St. Paul)
フェニックス
Maricopa Association of Governments (MAG) (Phoenix, AZ)
デトロイト
Southeast Michigan Council of Governments (SEMCOG) (Detroit)
プリンストン
Regional Planning Partnership (RPP) (Princeton, NJ)
1973 年
オースティン
Capital Area Metropolitan Planning Organization (CAMPO) (Austin, TX)
1977 年
マイアミ
Miami-Dade Metropolitan Planning Organization (MDMPO) (Miami)
オーランド
Orlando Urban Area Metropolitan Planning Organization (OUAMPO) (Orlando, FL)
1965 年
1966 年
1967 年
1968 年
資料:全米広域行政機構協会(National Association of Regional Councils: NARC www.narc.org)のサイトより作成
11
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以上のような経過を経て︑ 年代末までに全
米各地の都市圏においては︑様々な役割を担う
広域計画連携機関が各地で地位を確立しつつ
あった︒ しかし多くの場合︑交通は交通︑環境
は環境というような形で︑相互に総合的な連携
を行うという形では進んでこなかった︒
そ こ に 大 き な 影 響 を 与 え た の が︑ 年 の 清
浄 大 気 法︵ Clean Air Act
︶改正とその改正
内 容 実 現 化 に 向 け た 年 の 時 限 立 法﹁ 陸 上 交
21
通相互の効率化法﹂
︵ Inter-modal Surface
Transportation Efficiency Act of 1991:
︶であった︒
ISTEA
これらの法律は︑簡単に言えば︑悪化した都
市の大気環境に関し︑特に交通問題に起因する
環境問題解決を連邦ガソリン税を使って行おう
としたものであり︑ 年代までの個別の交通手
段の対応策と環境対策を一元化し︑道路︑公共
交通︑土地利用︑環境など総合的な政策を推進
しようとしたものである︒
ISTEAは 年から 年までの時限立法で
あ っ た が︑ そ の 後 年 か ら 年 ま で は︑
﹁ 世
紀 に 向 け て の 交 通 衡 平 化 法﹂
︵
Transportation
︑
Equity Act for the 21st Century: TEA21)
年から 年までは﹁ 安全で責任があり︑柔軟
で効率性の良い交通衡平化法︓道路利用者へ
の遺産﹂
︵ The Safe, Accountable, Flexible,
Efficient Transportation Equity Act: A
︓ SAFETEA-LU が
Legacy for Users
) 施行
さ れ た︒ そ し て︑ 年 に は﹁ 世 紀 に お け る
進歩に向けての前進法﹂
︵ Moving Ahead for
︶が一連の
Progress in 21st Century: MAP21
交通施策を受け継いでいる︒
これら一連の法律において︑重要な役割を果
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67
消防︑都市計画等の様々な行政分野に関する広
域的サービスの見直しを訴えた︒
そ う し た 経 過 を 踏 ま え︑ 年 に 本 格 的
な広域連携機関としてコロンビア地域行
66
政 機 構 (Columbia Region Association of
が 設 立 さ れ た︒ C R A
Governments: CRAG)
Gは 年まで活動を続けるが︑主な役割は圏域
の総合ビジョンを策定することと︑警察や福祉
関連の事業を行っていた︒このCRAG設立後︑
交 通 関 連 広 域 連 携 機 関 ( 年 ︑) 下 水 関 連 機 関
( 年 ︑) 土 地 利 用 関 連 機 関 ( 年 ︑) 多 様 な
行 政 サ ー ビ ス 提 供 機 関 (Metropolitan Service
District: MSD 年 な
) どが相次いで設立され
た︒
し か し M S D な ど は 色 々 な 広 域 サ ービ ス を 提
供できる体制を作りながら︑実際にはゴミ処理
計画と実施を行うのみであった︒ ただ 年から
動物園の運営管理を行うことになった︒
こ の よ う に 今 で こ そ 模 範 生 の ポ ート ラ ン ド も
なかなか体系的な広域連携を行える体制にはな
かった︒ しかし 年になり︑現在の組織の原型
であるMETROがCRAGとMSDを合併さ
せる形で再スタートを切った︒
METROの役割は大きく2つであった︒ 一
つは都市圏の効率的調整と総合計画作り︑そし
てもう一つは広域的行政サービスを提供する
ことであった︒ この2つの役割に関し︑これま
で別々に進められていた様々な広域連携や広域
サービスがその後徐々にMETROに集約さ
れ︑現在ではMETROが環境︑土地利用︑交
通︑福祉︑公園︑コンベンション等々の事業ま
で行うようになってきた︒
年には︑METRO憲章を定め︑広
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70
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76
連携・広域調整が各地で行われるようになって
きたといえよう︒
広域連携機関における役割変遷の具体例
ポートランド︵METRO︶
ポ ート ラ ン ド の M E T R O の 例 は 日 本 で も 既
に数多く取り上げられ︑あまり新鮮味はないが︑
まさに広域連携のモデルとも言うべき機関であ
るので︑ここでは特にその役割の変遷という観
点で概観することにする︒
ポートランドにおける広域連携の歴史は古
く︑ 既 に 戦 前 か ら そ の 動 き は あ っ た が︑ 現 在
のような土地利用や交通を含めた広域連携が
始 ま っ た の が 年 で あ っ た︒ こ の 年 に ポ ー ト
ランドと周辺の3つのカウンティによって
都 市 圏 計 画 委 員 会︵ Metropolitan Planning
︶が設立された︒
Commission: MPC
このMPCは連邦の 年に制定された住宅法
に基づいた地域計画のための連邦補助金を目当
てに設立されたが︑結局設立から約 年間︑計
画というよりも︑地域の情報収集機関として大
き な 役 割 を 果 た し た︒ 後 に 重 要 と な る 地 域 の
ベースマップの整備︑土地利用データの集積な
どを行った︒ また同時期に設立されたポートラ
59
78
70
さらに
3
LORC ジャーナル
57
ン ド・ バ ン ク ーバ ー都 市 圏 交 通 研 究 PortlandVancouver Metropolitan Transportation
︵ PVMTS
︶も同様に交通関係の調査︑情
Study
報集積を進めた (
- ︒)
年代には広域的な行政の問題が大きくク
ローズアップしてきた︒ 一つは圏域内に多くの
行政サービスを提供する特別行政区が設立さ
れ︑行政サービスの非効率化が指摘された︒ さ
らに民間団体はゴミ処理や︑下水︑交通︑警察︑
60
たしているのがMPOである︒ 地域のMPOが
地域の人々や都市圏を構成する地方政府の参画
を得て︑地域にとって望ましい計画立案を行う
か ら で あ る︒ M P O は そ の プ ロ セ ス に お い て︑
﹁ 継続的︵ Continuing
︶
︑協力的 (Cooperative)、
包 括 的︵
︶な交通計画プロセ
Comprehensive
スを推進する︵3 Ⅽ
﹂ことが必要と位置づけ
-︶
られている︒
これらの法律の下で︑MPOが行ってきた広
域連携・広域調整こそが米国における現在の広
域連携・広域調整の基礎をなしている︒ 利便性
の高い市街地を形成しつつ︑周辺の豊かな自然
や 農 地 を 守 っ て い く ス マ ート グ ロ ース の 議 論︒
都心の大気環境改善のため︑都心への車乗り入
れを極力減らし︑その代わりに公共交通機関を
整備すること︒ 公共交通機関の沿線は︑むやみ
な開発を防止し︑最寄り駅中心にコンパクトな
市街地を計画的に配置する︒ 郊外の緑地や農地
は出来るだけ保全し︑都市圏全体の環境向上を
めざす︒ 公共交通機関が乗り入れる都心は︑再
開発を推進し商業・業務・公的施設・住宅など
のバランスの取れた市街地を形成する︒ そして
郊外の最寄り駅周辺に商業 業
・ 務機能を整備
し︑副次的な地域核を形成する︒ これまでのよ
うに︑むやみに機能を幹線道路沿線等に分散さ
せ ず︑ よ り 利 便 性 の 高 い 圏 域 を 形 成 し て い く︒
等々の広域的な連携・調整の役割を果たしてき
たのがMPOである︒
ここに書いた計画課題はあくまでも例示的に
示したものだが︑ 年代になって初めてこれら
の計画課題を一元的に論じることが出来るよ
うになってきたのである︒ こうした総合的なパ
ワーをMPOが身につけてきたからこそ︑広域
90
質的な広域連携の必要性は市民の生活圏の多様
化などとも相まって︑非常に重要となってきて
いる︒
このような観点から︑今後のLORCの研究
事業においても︑我が国における実質的な広域
連携のシステムを形成していくためにはどのよ
うな仕組みが必要かを研究していく必要があ
る︒
︵あおやまこうぞう︶
図1 広域都市圏の交通・土地利用のコンセプトマップ (2014.12 に更新 )
(資料︓METRO VISION 2040)
域圏として全米で唯一︑直接投票により議員を
選ぶ体制を導入した︒ また諸事業を行うための
課税権も有する︒ このようなパワフルな組織と
なった今︑METROは米国の広域連携組織の
模範生となったのである︒
おわりに
米国の都市圏における広域連携は︑地域の自
立的な活動から生まれたものも多くあるが︑実
際に広域連携・広域調整を発展させてきた原動
力は︑ 年代初頭から︑連邦政府が︑連邦資金
を地域に対して提供する場合には︑必ず市民参
加を含めた広域的な調整を行うことを義務付け
たところにあったといえよう︒
特に︑交通関連の予算は︑全米で450地域
にも及ぶ都市圏に︑大都市圏計画組織︵MPO︶
を形成させる大きな原動力となった︒ 交通計画
は交通自体の計画に留まらず︑地域の土地利用
や経済開発計画︑市街地計画︑自然保全計画等々
にも大きな影響を与える︒ そのため︑MPOの
役割は︑単に交通計画をつくるだけでなく︑地
域の総合的なビジョンなどにも影響することと
な っ た︒ し か も︑ 交 通 予 算 の 計 画 配 分 と い う︑
大きな権限も地域団体であるMPOが持ったこ
とが︑MPOの広域調整能力を飛躍的に増大さ
せたと言っても過言ではない︒
一方で我が国における広域連携のシステム
は︑実質的には調整機能を有しない広域連携で
ある︒ 一部事務組合などを形成して︑広域的な
事業に取り組んでいる例は︑個別には見受けら
れるが︑総合的な地域の将来を広域的な調整を
経て考える仕組みにはなっていないのが現状で
ある︒ しかし一方で︑地域の中での総合的で実
70
︻参考文献・資料︼
青山公三﹁ 米国における都市再生と広域調整 ︱
広 域 調 整 機 関 の 役 割﹂ 新 都 市 年 1 月 号 都 市
計画協会
全米広域行政機構協会サイト www.narc.org
ポ ー ト ラ ン ド M E T R O サ イ ト www.
oregonmetro.gov/
06
4
市町村の有機的広域ネットワークによる地域イノベーション
LORC研究員
このスロー・フード協会の発展が︑イタリア
農村地域を再生させたといっても過言ではな
い︒ それを端的に表す事象として︑農村ネット
ワ ー ク﹁ ス ロ ー・ シ テ ィ 協 会﹂ の 発 足 が あ る︒
スロー・フードの理念を実践する地方小都市の
ネットワークであるが︑ある小さな農村の村長
の呼びかけによって︑スロー・フード協会発足
年後に設立された︒
宣言﹂を出し︑1989年﹁ スロー・フード協
会﹂を設立した︒ ファースト・フードに対抗し
て生まれたこの運動は︑合理的生産や利潤追求
による大量生産・大量消費︑効率ばかりを求め
る﹁ ファースト﹂な現代の人間の生活様式に疑
問を投げかけ︑食の歴史︑地域性︑文化性︑そ
してそれを食す喜びを残していこうとするもの
であるが︑今や世界150カ国に100万人以
上の会員を持つグローバル民間団体となった︒
大石 尚子 ︵龍谷大学政策学部 准教授︶ ーイタリア・スロー・シティ協会に見る広域連携と地域再生の可能性ー
はじめに
1.小さな村から始まった民間ネットワー ク・
スロー・フード協会
﹁ スロー﹂という言葉が︑
﹁ 遅い︑鈍い﹂とい
う否定的意味ではなく︑グローバル化に対抗す
概念として使われ始めて 年ほどになるだろう
か︒ この新たな﹁ スロー﹂概念を創り上げたの
は︑北イタリアの小さな町で起こった﹁ スロー・
フード運動﹂であろう︒
﹁ アルチ・ゴー
北イタリアのブラという町に︑
ラ﹂という美食の会があった︒ その会長であっ
た カ ル ロ・ ペ ト リ ー ニ と 仲 間 は︑ 1 9 8 6 年︑
ちょうどグローバル経済がヨーロッパにも押
し 寄 せ る 中︑ ロ ー マ の 中 心 地 に マ ク ド ナ ル ド
が で き た こ と を き っ か け に︑
﹁ ス ロ ー・ フ ー ド
図1( 上 ) かたつむりをモチーフにした
スロー・フードのロゴマーク
( 下 ) スロー・シティ協会のロゴマーク
安倍政権肝いり政策として始動する﹁ 地方創
生 政 策﹂
︒ 政府主導の地域再活性化のための施
策が勧められているが︑果たして本当に地方創
生につなげることができるのだろうか︒
﹁ 海 の 京 都﹂ や﹁ 森 の 京
例 え ば 京 都 府 で は︑
都﹂といった政策︑あるいは地域自治体と大学
の連携組織・京都府北部地域・大学連携機構︵C
U A N K A︶ に よ る 京 都 府 北 部 地 域 の 広 域 連 携
を促進する取組が進められているが︑各自治体
が政府の指針に従って地方創生のシナリオ作成
に追われる中で︑物理的にも意識的にも広域連
携 あ る い は ネ ッ ト ワ ーキ ン グ の 機 運 が 薄 れ て は
いないだろうか︒ そもそも日本では広域連携や
ネットワークでどんな利益を得られるのか︑と
いうことがあまり実証されていないと考えられ
る︒
そ こ で 本 稿 で は︑ 民 間 活 動 か ら 市 町 村 間 の
ネットワークを構築し︑農村地域再生に成功し
たイタリアの広域連携の取組事例を考察するこ
とによって︑日本の地域再生に向けた広域連携
の可能性について明らかにしたい︒
スロー・フード協会発展が農村にもたらした
効果は︑農産品のブランド化によって農村地域
へ直接的な経済効果をもたらしたということよ
りも︑戦後︑荒廃していく農村に革新を起こそ
うと各地でバラバラに取り組んできた個々人の
地道な活動を有機的に結び付け︑一つの社会的
な ム ーブ メ ン ト に ま で ス ケ ール ア ッ プ さ せ た と
5
LORC ジャーナル
13
15
受け入れられ浸透していったことにより︑アグ
リ ツ リ ーズ モ が 発 展 し て い っ た と い わ れ て い る
︵ 小磯︑2011年︶
︒ 法律も2006年には改
正され実情に即した形で規制も緩和された︒
法 律 で 定 め ら れ て い る ア グ リ ツ リ ーズ モ の 定
義等を抜粋して表1にまとめた︒
スロー・フード協会では︑地域独特の希少な
農作物や加工品を﹁ 味の箱舟﹂や﹁ プレシーディ
オ﹂に認定して︑当該作物の商品化や販路開拓
のアドバイスを行っているが︑アグリツリーズ
モではこうした農産品の試食会を行うなど︑食
農体験プログラムに組み込まれている︒
宿泊施設の提供(農家あるいはキャンプ場での宿泊)
宿泊客に提供する料理の食材は、運営する農家自家製
の製品またはその農家が所在する指定地域内で生産さ
れたもの、または国の「伝統的食料品リスト」中の製
品であること。
活動 とくにワインであれば DOCG( 統制保証原産地呼称 ) や
内容 DOC(統制原産地呼称)
、PDO( 原産地呼称保護 )、ある
いは PGI( 地理的表示保護 ) や IGT( 地域特性表示 ) の
対象品であること。
自家製農産品の試食・試飲
こ ろ に あ る︒ ロ ゴ マ ー ク の﹁ か た つ む り﹂ は︑
地域の食文化の継承を通じて﹁ 生物多様性の保
護﹂
﹁ 環 境 保 全﹂ を 訴 え る ス ロ ー・ フ ード 協 会
の理念をうまく可視化しているといえ︑一般人
にとってもわかりやすく︑スロー・フードの理
念を浸透させるのに一役買っているといえるだ
ろう︒ こうしたスロー・フードの志向を基盤に
して︑各セクターの実利が結び付いて︑あるサー
ビス産業を発達させることとなった︒ イタリア
発農業観光﹁ アグリツリーズモ﹂である︒ 消費
者の嗜好の上に︑民間活動とEUレベル︑国レ
ベルの様々な制度や政策︑これらが有機的に結
び付いた帰結として捉えることができる︒
農業的活動を担うのは、農業経営者とその家族、およ
び、フルタイム・パートタイムの従業員とする。
)
農業経営者が所有する耕作地以外でのレクリエーショ
ン活動、文化的・教育活動の実施。
3.民間ネットワークから市町村ネットワーク
への発展
アグリツーリズモに関する法律 第 63 号 (2006 年 3 月施行)
( 下協会
先 に 触 れ た ス ロ ー・ シ テ ィ 協 会 以
表1 法律第 63 号によるアグリツリーズモの定義とその活動
アグリツリーズモを最初に提唱したのは︑ト
ス カ ー ナ 州 の 元 サ ン・ ク レ メ ン テ 侯 爵 シ モ ー
ネ・ヴェッルーティ・ザーティである︒ 荒廃し
て い く 村 の 再 生 を か け て 1 9 6 5 年﹁ ア グ リ
ツーリスト協会﹂を立ち上げたのだ︒ 当初︑イ
タリアの多くの農村地域では︑小作農家は貧困
に 苦 し み︑ 工 業 化 す る 大 都 市 へ と 人 口 が 流 出
し︑空き家は増加した︒ 荒廃していく農村を何
とか救いたいという彼の思いから始まったアグ
リ ツ リ ー ズ モ の 理 念 は 当 初︑
﹁ 没落した侯爵家
の 若 旦 那 の 夢 物 語﹂
︵ 宗 田︑ 2 0 1 2︶ と 捉 え
ら れ て い た と い う︒ し か し︑ ア グ リ ツ リ ー ズ
モ は 1 9 7 3 年 に は 北 イ タ リ ア で 条 例 と な り︑
1985年には法律第730号が成立︑世界で
初めて農業観光を定める法律が誕生することと
なっていったのである︒
シモーネが法律化を目指したのは︑他国のも
のと差別化しイタリアならではの農業観光を確
立するためであった︒ そのためには︑各農村が
個々にやっていてもだめ︑ネットワーク化する
ことが必須であった︒ 法律化に向けても︑まず
条例をつくることで︑アグリツリーズモという
言葉をフォーマルに全国に発信させ︑浸透させ
ていったのである︒ 特徴的なのは︑徹底した景
観保護と地域性豊かな食である︒ 例えば建物の
修復の際の壁の色などまで規制されている︒ ま
た︑滞在中には地元ワインの試飲や地元伝統料
理を提供することが定められており︑地理的表
示保護制度を活用して地域食を推進する規定も
多い︒ しかし︑アグリツリーズモが本格的に発
展したのは 世紀になってからで︑これは︑ス
ロー・フード協会の進展の時期とも重なってい
る︒ つまり︑消費者にスロー・フードの理念が
21
2.
﹁アグリツリーズモ﹂の成功
﹁ イタリ
イ タ リ ア の ア グ リ ツ リ ー ズ モ は︑
ア農業史の大転換点となった﹂
︵ 宗 田︑ p ︑
2012︶といわれる通り︑第2次大戦で敗戦
国となり衰退の一途を辿った農村を﹁ 美しい農
村﹂として再生に導いた主要な要因とされ︑今
後の日本の農村地域再生に少なからず視座を与
えてくれると考えられる︒
現在︑アグリツリーズモの宿泊施設はイタリ
ア全国に1万9000以上あり︑年間270万
人以上が利用する︒アグリツリーズモの特徴は︑
食農体験に主軸が置かれていることである︒ 大
多数は食事つきとなっている︒ 宿泊平均日数は
4 .5日︑年間110億ユーロの経済規模にな
るという︒ 世界で初めて農業観光を規定する法
律を成立させ︑農村にイノベーションをもたら
したアグリツリーズモ︑その発端は︑ある一人
の田舎貴族の農村再生への思いであった︒
農業経営者(個人または会社組織、あるいは組合)が、
土地の耕作や造林、畜産などの農業的活動を通じて提
定義 供するホスピタリティーの活動。
23
6
は︑地方小都市や集落の連携組織として発足し
たが︑加盟自治体は年々増加し続けている︒ 重
要なのは自治体間が連携しているということ
だ︒ 自治体が単独で活動するのではなく︑ある
理念のもとに連携し︑規約を設けて公表するこ
とで理念をいかに実践するかを世間に約束して
いる︒ 組織的活動は社会的インパクトも大きく
消費者へのアピール力も強い︒ また︑国やEU
の助成も受けやすくなる︒ 事実︑共通農業政策
によって︑多くのアグリツリーズモ施設の充実
が図られた︒
2 0 1 5 年 7 月 現 在 協 会 加 盟 自 治 体 は︑
199都市︑ か国に及ぶ︒ 日本では気仙沼市
が唯一認定都市となっている︒ 認定都市の地理
的条件別で見ると︑ %が中山間地域︑ %が
諸島︑ %が沿岸地域となっている︒ 協会に加
盟するには︑5万人以下の都市であることが条
件 と な っ て い る が︑ 多 く の 地 方 都 市 で 人 口 減
少 す る 日 本 と は 違 い︑ イ タ リ ア で は こ う し た
小 規 模 都 市 の 人 口 が 増 え て い る と い う︵ 宗 田︑
2 0 1 2︶
︒ ス ロ ー・ シ テ ィ に は ア グ リ ツ リ ー
ズモの数も多く︑
﹁ 味の箱舟﹂
﹁ プレシーディオ﹂
に指定されている農産品も多く有し︑ スロ ー・
フードとの相互関係が見て取れる︒
30
62
22
﹁ コントロテンポ﹂
︒イ
協会が掲げる理念は︑
タリア語で﹁ バックビート﹂の意味だが︑真っ
向からグローバル化に対抗するのではなく︑少
し考え方をずらして︑より人間的な暮らし・生
き方を実現しようということである︒ 小さな都
市だからこそ質の高い暮らしが可能となる︒ 環
境負荷を抑え︑衣食住の質を追求するまちづく
りを進めている︒
こうした理念の実現のために︑協会では具体
的な認定指標を設けている︒ 環境政策︑社会資
本政策︑都市生活のクオリティ︑地元生産物の
活用他6項目と 指標が定められており︑協会
が認定を行う︒以下にその一部を紹介する︒
︵表
2︶
おわりに
このように見てくると︑イタリアの農村地域
が再生した主な成功要因として︑①自治体間の
ネットワークの構築︑②基盤となる理念が︑ス
ロー・フード協会という民間組織のネットワー
クによって消費 者に浸透していったこと③アグ
リツリーズモという観光市場の発展・確立︑な
どが挙げられるのではないだろうか︒
民間︑自治体間︑あるいは企業間のネットワー
クが︑重層的・有機的に結び付くことによって︑
一つの村の地域再生の成功 事例に終わるのでは
なく︑社会的な波となって農村地域にイノベー
ションをもたらしたと 考えられるのではないだ
ろうか︒
1 大気の質向上と大気の状態についてコントロールするシステムがある
2 水質と水の配送についての規範がある
3 堆肥生産一般、または家庭で堆肥生産についての新しい技術をプロモートし、普及させるための計画があり行われている。
4 公害についてコントロールするシステムや介入する計画がある
5 代替エネルギーへの助成がある
6 電磁波公害への対策をしている
7 騒音を管理するシステムがあり、対策している
8 美観を損ねる看板などの撤去対策がある
9 EMAS、
ISO9001、
ISO14000、
SA8000を導入している
10 アジェンダ21に参加している
環境政策
地元生産物の活用
1 あらゆる種類の特徴的な生産物年間調査
2 地域文化イベントを評価し、保存するプログラム
3 効果的なロケーションにマーケットを開くことで地域の自然生産物のプロモーション
4 食育プログラム
5 地域レストランと学校食堂の質を向上させるための法律を伴う管理
6 有機農法への関心を高めるための教育
7 地元特有の食品の保護
8 有機農法の発展を促すプランと高品質の生産物への認証制度
9 伝統食の見直しプラン
10 その土地の手工芸品とその製品を保護するためのイニシアティブ
55
日本においては︑組織を傘下に収めようとす
る傾向がある︒ しかし︑今後の地方都市の持続
可能性を考えた場合︑ネットワークを構築して
いくことの重要性は明らかであろう︒ 実際︑京
都府北部地域においてはその兆しが見て取れ
る︒ 自治体連携による職員研修システム開発の
取組や︑地元の生涯学習の高度化と大学機能の
移転を目的とした仮想的大学・地域連携拠点づ
くり構想などは︑自治体連携の礎となる可能性
がある︒ 今後は︑そうした広域連携の芽を摘ん
でしまわないように︑地方創生施策を活用して
7
LORC ジャーナル
16
表2 スロー・シティ認定指標
いかなければならない︒ イタリアの地方自治体
が農村再生にEU共通農業政策をうまく活用し
たように︒
参考文献
小 磯 学﹁ イ タ リ ア ア グ リ ト ゥ リ ー ズ モ の 現 状
に つ い て ﹂ 神 戸 夙 川 学 院 観 光 文 化 学 部 紀 要︑
2011年
佐 藤 一 子﹁ イ タ リ ア 文 化 運 動 通 信﹂ 合 同 出 版︑
1984年︒
宗田好史﹁ なぜイタリアの村は美しく元気なの
か﹂学術出版社︑2012年︒
矢 口 芳 生﹁ 現 代 日 本 農 政 論 ﹂ 農 林 統 計 出 版︑
2012年︒
http://www.agriturismo.it/it/extra/legge︵2015年8月
nazionale-agriturismo-45
閲覧︶
h t t p : / / w w w. c i t t a s l o w. o r g / s e c t i o n /
2015年8月閲覧 )
association(
http://www.istat.it /en /archive /
︵2015年8月閲覧︶
annual+report
写真1 (右)調査時の宿泊先とその周辺風景 (左)ワイナリーにて
8
︵龍谷大学政策学部 教授︶ 2015年7月段階で︑中心市宣言団体数は
116市︑協定締結団体は 圏域の443市町
村とな っ ており 4︑ 休 日 夜間診 療所 の運営 や病
児病後児保育などの医療福祉分野や市町村域を
超えたバスの運行などの地域公共交通など︑住
民の利便性の向上︑生活機能の強化の面で一定
の効果をあげていると評価されている 5︒
定 住 自 立 圏 は︑ 広 域 行 政 圏 の よ う に 都 道 府
県 知 事 が 圏 域 を 指 定 す る も の で は な く︑
﹁ 中心
市﹂により宣言が行われ︑周辺市町村との間で
協定が締結されるなかで形成されていくもので
ある︒ また︑事務組合や協議会などの広域行政
機構が計画を策定しマネジメントを行うのでは
なく︑宣言中心市が︑ビジョンを策定し︑圏域
マネジメントで中心的な役割を果たす︒加えて︑
県境を越え協定を結ぶことができたり︑周辺市
町村が複数の宣言中心市と協定を結ぶことがで
きるなど︑中心市の拠点性や柔軟な連携方式に
特徴がある︒
能の確保に向けて︑①生活機能の強化︑②結び
つきやネットワークの強化︑③圏域マネジメン
トの強化などの視点から定住自立圏形成協定を
結び︑定住自立圏共生ビジョンを策定する 3︒
今里 佳奈子
LORC研究員
新たな広域連携のあり方について
ー定住自立圏・連携中枢都市圏の課題ー
はじめに
止され︑新たに定住自立圏構想が推進されるこ
ととなった 1︒それまでの
﹁ 広域行政圏施策﹂が︑
基本的には人口増加やモータリゼーションの進
展 を 背 景 と し た い わ ゆ る﹁ 右 肩 上 が り の 時 代﹂
の地域振興の 考え方を基礎とするものであった
の に 対 し 2︑ 定 住 自 立 圏 構 想 は︑ 三 大 都 市 圏 も
地方圏も人口が減少するという﹁ 過密なき過疎﹂
の時代の到来にあって︑その将来が極めて厳し
いものと予想される地方圏について︑安心して
暮らせる地域を各地に形成し︑地方圏から三大
都市圏への人口流出を食い止めるとともに︑地
方圏への人の流れを創出しようという施策であ
る︒ 具 体 的 に は︑
﹁ 集 約 と ネ ッ ト ワ ー ク﹂ の 考
え方に基づき︑人口が5万人程度以上の一定の
要件を備えた﹁ 中心市﹂において圏域全体の暮
らしに必要な都市機能を集約 的に整備するとと
もに︑周辺市町村において必要な生活機能を確
保し︑農林水産業の振興や豊かな自然環境の保
全等をはかるなど︑互いに連携 協
・ 力すること
に よ り︑
﹁ 定 住﹂ の た め の 暮 ら し に 必 要 な 諸 機
能 を 総 体 と し て 確 保 し︑
﹁ 自 立﹂ の た め の 経 済
基盤や地域の誇りを培い︑全体として魅力あふ
れ る 地 域 を 形 成 し て い こ う と い う も の で あ る︒
そ の た め に﹁ 中 心 市﹂ は︑ 中 心 市 宣 言 を 行 い︑
近隣市町村と人口の定住のために必要な生活機
一方︑地方中枢都市圏は︑政令指定都市や中
94
近 年︑ 本 格 的 な 人 口 減 少 社 会 の 到 来 を 前 に︑
柔軟な連携の仕組みを利用して︑中心となる市
に都市機能を集約するとともに圏域全体での生
活機能を確保することで︑圏域全体の活性化を
はかろうという︑従前とは異なる手法の広域連
携の仕組みが制度化され︑推進されている︒
このようなタイプの広域連携の制度について
は︑地域が主体となって政策ベースで課題に取
り 組 め る ツ ール で あ る と い う 肯 定 的 な 評 価 が あ
る一方で︑中心市でない近隣自治体の自主性や
自律性を損ねるだけでなく︑圏域としての活性
化もはかれないという否定的な評価もある︒ こ
こでは︑このようなタイプの新しい連携の手法
~ 定 住 自 立 圏 構 想 と 連 携 中 枢 都 市 圏 構 想~ の 概
略と特徴について述べるとともに︑広域連携に
当たって留意すべき点について述べることとす
る︒
31
9
LORC ジャーナル
広域行政圏から定住自立圏・連携中枢都市圏へ
1969年以降︑約 年にわたり形を変えな
が ら も 続 い て き た﹁ 広 域 行 政 圏 施 策﹂ は︑
﹁平
成 の 市 町 村 合 併﹂ を 経 て︑
﹁ その役割を終えつ
つある﹂ものとして︑2009年3月 日に廃
40
核市など人口規模の大きな自治体が定住自立圏
の形成に消極的であった中で︑第 次地方制度
調査会の︑今後は地方中枢拠点都市を核に都市
機能︑生活機能を確保するとともに︑集約とネッ
ト ワ ーク 化 を 進 め る こ と が 重 要 で あ る と の 答 申
6
を 受 け︑
﹁ 地 方 中 枢 拠 点 都 市 圏 構 想 推 進 要 綱﹂
︵ 2014年8月 日︶において制度化された
も の で あ る︒ そ の 後︑
﹁ ま ち・ ひ と・ し ご と 創
生総合戦略﹂
︵ 2 0 1 4 年 月 日 に 閣 議 決 定︶
において︑国土交通省の﹁ 高次地方都市圏連合﹂
構想などと統合され︑﹁ 連携中枢都市圏﹂となり︑
定住自立圏とともに︑地域間の連携を推進する
ものとして︑形成が進められることとされた 7︒
こ れ に 合 わ せ て︑
﹁ 地方中枢拠点都市圏構想推
進要綱﹂は改正され﹁ 連携中枢都市圏構想推進
要綱﹂となっている︵2015年1月 日︶
︒
27
30
28
﹁地
同要綱によれば︑連携中枢都市圏構想は︑
域において︑相当の規模と中核性を備える圏域
の中心都市が近隣の市町村と連携し︑コンパク
ト 化 と ネ ッ ト ワ ーク 化 に よ り ① 経 済 成 長 の け ん
引︑②高次都市機能の集積・強化及び③生活関
連機能サービスの向上を行うことにより︑人口
減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口
を有し活力ある社会経済を維持するための拠点
を形成する﹂ことを目的とするものである︒ そ
の た め に︑ 連 携 中 枢 都 市 は︑
﹁ 連携中枢都市宣
言書﹂を公表し︑圏域全体の経済を牽引し圏域
の住民全体のくらしを支えるため上述①から③
の役割を果たす取組などについて近隣市町村と
連 携 協 約 を 締 結 す る︒ ま た︑
﹁ 連携中枢都市ビ
ジョン﹂を策定する︒
ビ ス の 提 供 体 制 を 整 備 す る と い う 点 で︑
﹁ 定住
自 立 圏﹂ 構 想 と 同 様 の も の で あ る 8︒ そ して こ
れらは︑これまでの広域連携に見られたような︑
形式的で﹁ 機構ベース﹂の発想を離れ︑地域が
主体となって﹁ 政策ベース﹂で課題解決に取り
組むスキームであり︑自治体 地
・ 域が創意工夫
をこらして人口減少 超
・ 高齢社会に対処してい
く た め の ツ ール と し て 位 置 づ け ら れ る と 評 価 さ
れ る 9︒ 一 方 で︑ 特 に︑ 連 携 中 枢 都 市 圏 構 想 に
ついては︑中心市と連携市町村の関係が﹁ 形式
的には対等だが︑事実上支配と従属の関係とし
て 機 能 す る こ と に な る﹂
﹁ 政府の政策に追従す
る自治体を選択と集中で創り出していこうと言
う要求である﹂など︑連携市町村の自主性や自
律性を損なうものであるとする評価もある︒ ま
た︑中心となる都市への都市機能の集積や強化︑
行政サービス機能の集中は︑新手の開発型公共
事 業 の 誘 導 政 策 で あ る と と も に︑ 周 辺 部 の 人
口 流 出︑ ひ い て は 圏 域 全 体 の 衰 退 に つ な が り︑
本来の目的であった人口流出のダム効果は期待
できないという評価も示される ︒
広域連携の課題
10
13
これらの新しいタイプの広域連携は︑それぞ
れの自治体が︑住民の生活実態に合わせ︑最も
適した形で柔軟に連携を行っていく点にその特
長があったはずである︒ 中心都市と連携市町村
とが1対1で協定 協
・ 約を結ぶこと︑県境を越
えて協定︑連携協約を締結できることや連携市
町村が複数の中心市と協定を結ぶことができる
ことなどは︑いずれも形式よりも︑実質的に意
味のある連携を行うためのものであった︒
一方︑現実に︑柔軟で実のある連携を行って
いくためには︑それぞれの地域が主体性と自律
性をもち︑連携の内容と形を選択できなければ
ならなく︑一方的に中心都市が内容を決め︑そ
れに連携市町村が従うような形になってはなら
ないのはもちろんのことである︒
そのためには︑連携市町村間に︑社会的経済
的なつながりやある意味での互恵的関係がある
ことなどが必要となろうし︑交流や事務の共同
処理の実績など信頼関係の醸成が期待できるこ
とも必要となろう︒ また︑協定や連携協約の内
容 を 決 め︑ ビ ジ ョ ン を 策 定 し て い く 段 階 で の︑
丁寧な協議と合意形成も欠かせない︒ このよう
なことから︑いずれの要綱も︑一定の通勤通学
割合を示したり︑協定や協約に至る合意形成や
ビジョン策定における協議を重視しているので
ある︒
一方︑現実には︑特に連携中枢都市圏の場合
は︑難しい側面があるのも確かである︒ 連携の
取組のうち︑圏域全体の経済成長の牽引や高次
の都市機能の集積 強
・ 化については︑連携中枢
都市が中心となって実施することが想定されて
いる︒生活関連機能サービスの向上についても︑
連携協約締結やビジョン策定に至る過程で連携
市町村側との協議が十分に行われなければ︑連
携 市 町 村 は︑
﹁ サ ービスを利用させてもらう﹂
だ け の 存 在 に な り か ね な い︒ 実 際︑
﹁ 新たな広
域連携モデル構築事業﹂では︑拠点都市と連携
市町村の協議のあり方は︑ケースによって大き
く異なり︑拠点都市が示した内容に連携市町村
が合意するという形で協議が進んだところも
あったようである ︒ 実のある連携が可能とな
るような圏域を設定するとともに︑協定 協
・約
14
12
このように連携中枢都市圏構想は︑中心都市
と近隣自治体が連携し︑圏域レベルで行政サー
15
11
12
25
10
︵2015年 月 日最終閲覧︶
pdf
5 総務省﹁ 定住自立圏構想の今後の展開に関する調査﹂
6 ﹁ 大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サ ービス提
供体制に関する答申﹂
︵2013年6月 日︶
︑
頁︶
︒
ぐす﹂都市問題2015年2月号︑
頁︒
9 伊藤正次﹁ 自治体間連携の時代︓歴史的文脈を解きほ
5頁
8 伊 藤 正 次﹁ 人 口 減 少 社 会 の 自 治 体 間 連 携 三
: 大都市圏
へ の 展 開 に 向 け て﹂ 都 市 と ガ バ ナ ン ス 2 0 1 5 年 3 月 号︑
とされた︵
2020年までに協定締結圏域数140圏域を目指すもの
努 め る も の と す る﹂ と し︑ ま ず︑ 定 住 自 立 圏 に つ い て は︑
ての対象都市圏において新たな都市圏が形成されるよう
あ る こ と を 尊 重 し つ つ︑ 国 は 一 体 的 な 支 援 策 を 通 じ︑ 全
7 ﹁ 新たな都市圏の形成は地方の自主性に基づくもので
25
2014年︑
頁︒
本多︑前掲論文︑
本多︑前掲論文
頁︒
頁︑岡田︑前掲書 ~
頁︒
56
pdf
水谷利亮﹁ 新たな広域連携モデル構築事業にみる自治
http://www.soumu.go.jp/main_content/000299812.
体一覧﹂
総務省﹁ 新たな広域連携モデル構築事業 委託予定団
51
岡田知弘﹃
﹁ 自治体消滅﹂ 論を超えて ﹄自治体研究社︑
自治と分権︑2015年4月号︑
頁
本多滝夫﹁﹃ 地方創生 ﹄と連携中枢都市圏構想を問う﹂
56
50
締結︑ビジョン策定に至る過程での︑首長︑広
域連携担当課︑連携事業の担当課のそれぞれに
おける十分な情報交換や協議が必要である︒
http://www.soumu.go.jp/main_content/000345137.
2015年 月 日最終閲覧 )
pdf(
10
10
51
児保育︑地域公共交通など︑住民の利便性の向
上︑生活機能の強化の面での連携は︑中心とな
る市と近接した一部の市町村以外はあまり期待
できないといって良いだろう︒ それ以外の地域
では︑別な形での連携を模索することが必要と
なる︒
8
8
42
もともと定住自立圏推進要綱においては︑高
次の都市機能を有する都市を中心市とする定住
自立圏と基本的な生活機能を有する都市を中心
とする定住自立圏とが︑情報・交通ネットワー
ク等も活用しながら︑より高次の都市機能の確
保や地域の経済基盤の強化へ向けて連携してい
くことを期待しているし︑ 国の﹁ まち・ひと・
しごと創生総合戦略﹂では︑集落連携ともいえ
る︑
﹁ 小 さ な 拠 点﹂ 事 業 を 進 め る こ と と さ れ て
おり︑多層的な広域連携は想定されている︒
必需的な生活機能︑基本的な生活機能︑より
高次の生活機能︵ 都市機能︶を充足する空間が
同心円的に描かれ︑人々の生活を切れ目なく支
えていくような多層的に連なる広域連携をどの
ように構成していくのか︒ それぞれの自治体が
自律性と主体性をもってとりくむガバナンスの
あり方が問われている︒
︻脚注︼
53
65
号︑2015年
体連携の分析 序
: 論~下関市 北
・ 九州市︑ 備後圏域︑ 宮崎
広域圏の事例から﹂関門地域共同研究会編﹃関門地域研究﹄
11
LORC ジャーナル
10
11
14 13 12
15
24
1 定住自立圏構想推進要綱
日︶
2 木村俊介﹃ 広域連携の仕組み~一部事務組合と広域連
合の機動的な運営﹄第一法規︑ 頁︒
3 定住自立圏構想推進要綱︵2008年 月
4 総務省﹁ 全国の定住自立圏構想の取組状況
26
http://www.soumu.go.jp/main_content/000369695.
12
次に︑中心市への都市機能の集約が︑周辺部
の衰退を招くのではないかという点についてで
ある︒ 安心した暮らしを営んでいけるようにす
るためには︑最も基礎的で毎日の生活に必需的
な生活機能︑基本的な生活機能︑より高次の生
活機能︵ 都市機能︶を充足する空間が︑個人を
中心に同心円的に広がっていくことが望まし
い︒ 単独の自治体がフルセット装備してこれを
充足することが困難であることから︑広域連携
によって可能にしようというのが︑新しいタイ
プの広域連携だったはずである︒ 県境を越えた
連携の可能性や︑連携市町村の複数の中心市と
の連携の可能性は︑このような形での生活機能
の充足を実質的に可能にしようとしたものだっ
たといえる︒
一方︑このような多層性と柔軟性を欠いた形
で広域連携が進んでいけば︑危惧されているよ
うに︑周辺部の衰退が中心部の衰退を招き︑さ
らに圏域全体の衰退を招くことになりかねな
い︒ 特に︑連携中枢都市圏においては︑経済の
け ん 引︑ 高 次 都 市 機 能 の 集 積 強
・ 化が目的と
なっており︑その性格上︑圏域が相当程度大き
く設定されていく可能性がある︒ 実際︑前述の
﹁ 新 た な 広 域 連 携 モ デ ル 構 築 事 業﹂ に お い て も
小さな県に匹敵する2000㎢を遙かに超える
圏域となっているところが多い︒ また︑それ以
下でも︑到底日常生活圏内にあるとはいえない
市町村が圏域に含まれているケースがある︒ こ
のような広大な圏域では︑定住自立圏で高い評
価を得てきた休日夜間診療所の運営や病児病後
68
京都北部調査報告
︵
年
月︶
イベント等を通じて︑定住・移住を促進しよう
と考えている︒ また︑遊休施設の活用や利用し
にくい地域交通システムの再編が課題となって
おり︑今後住民の間であるべき地域像を議論す
る場を協議会が設けていく︒
LORCリサーチアシスタント 並木
洲太朗
福知山市役所︑宮津市役所︑京丹後市役所へのヒアリング調査を基に
図1 ヒアリング調査対象地
津市・京丹後市による連携事業について調査を
行った︒
2.福知山市役所三和支所へのヒアリング
3.宮津市役所へのヒアリング
33
対 応 者 ︓ 岡 部 成 幸 氏 地
( 域 振 興 部︑ 三 和 支
所支所長 ︑)芦田直也 氏︵福知山市市長公室企
画課︶
21
1.はじめに
LORCでは﹁ 限界都市化に抗する持続可能
な地方都市の﹁ かたち﹂と地域政策実装化に関
する研究﹂の事例地域の1つとして︑京都府北
部地域を想定している︒ 今回の調査では︑北部
の3自治体へのヒアリングと︑再生可能エネル
ギーや産業新興に関して先進的な取り組みを
行っている地域の視察を通じて︑北部地域にお
ける現状と課題︑自治体の取り組み︑国の地方
創生プログラムの対象として進められている宮
対応者︓ 井上正嗣 市長 他2名
宮津市は︑2014年5月に国の地域活性化
モデルケースの選定︵ 全国 団体︶を受けたこ
とを弾みに︑2015年1月中旬に﹁ 地域再生
計画﹂の認定申請を提出し︑国の第1号認定︵全
国 地域︶を受けた︒ 現在︑宮津市は﹁ みやづ
ビジョン2011︵ 2011年~2020年︶
﹂
が 後 半 期 に 入 っ て い る︒ 宮 津 市 は︑ 人 口 減 少
︵ 2 0 2 5 年 人 口 で 一 万 五 千 人 割 れ を 予 測︶
︑少
子高齢化︵ 高齢化率 %︶に直面している︒ 観
光業は実質年間来訪者数は百五十万人と堅調だ
が︑小売業販売額は︵約三百億円︵1996年︶
↓ 約 二 百 億 円︵ 2 0 0 7 年 ︶︶ 減 少 し て い る︒
税収も減少し︑百億円を切っている︒ 宮津の再
生のためには︑選択と集中で経済力を高める必
要があり︑宮津市の﹁ 地域再生計画﹂では︑
﹁自
立循環型経済社会構造への転換戦略﹂
︑
﹁ 定住促
40
3
はじめに岡部氏より︑2015年度に設立予
定 4
( 月1日に正式発足 の
) 三和地域協議会に
つ い て の 説 明 を 受 け た︒ 同 協 議 会 は︑
﹁ みわま
ち づ く り 協 議 会﹂ 2 0 1 3 年 設 立 ﹁ 三 和 地
(
)
域 協 議 会 設 立 準 備 会﹂ 2
( 014年設立 で
)の
協議をへて︑地元 自治会の同意のもと設立が
決定された︒ 同協議会は︑執行組織である常任
委員会 事
( 務局3名 の
) も と︑ 地 域 活 力 部 会︑
地域基盤部会︑定住促進・情報発信部会の3部
会で構成されている︒ 活動目的は︑既存の住民
組 織 を 議 論 の 場 に 取 り 込 み︑
﹁ 住民自身が地域
の 将 来 像 を 考 え︑ そ の 実 現 に 向 け て 行 動 す る﹂
地域政策課題検討の基盤となることである︒ 三
和地域では︑人口の減少︑高齢化︑少子化が進
んでおり︑地域の担い手の確保が課題となって
いる︒ そこで協議会では︑すでに三和で活動し
ている団体のネットワーク化や情報発信・広報︑
21
2
0
1
5
12
進 戦 略﹂ に よ る 宮 津 の 再 生 を 掲 げ た︒
﹁ 自立循
環型経済社会構造への転換戦略﹂では︑観光振
興を軸に︑①地域資源の活用︵ナマコ︑オリーブ︑
竹 等︶
︑②農山漁村の活性化︵ エコツーリズム︑
自 然 エ ネ ル ギ ー等 ︶
︑③若者のUIターン促進︑
④観光プラットフォームの整備︑⑤平成天橋塾
の設立等に取り組む︒ 今後の宮津市は︑自立を
目指して事業に取り組む︒
13
LORC ジャーナル
意見交換では︑各事業の詳細説明を受けた後︑
宮津市における自立概念に対して自治体間連携
の重要性が問われ︑連携型課題解決モデルとし
てLORCとの今後の連携を確認した︒
12
で 減 少 し︑ 日 本 に お け る 国 産 繭 の シ ェ ア が 0 .
7%となっていることが背景にある︒ 現在︑日
本 の 着 物 は︑ 原 料 が ほ ぼ 中 国 と な っ て い る が︑
今後の日中関係や原料高を考慮し︑原料を日本
国内・丹後地域で生産しようという発想である︒
2015年からは︑廃校となった旧溝谷小学校
を拠点に︑温度管理・空調管理によって蚕を季
節にとらわれずに育て︑冬場は桑の葉の成分を
含む人工餌を与えることで︑年5回の繭の生産
︵ 通常は年2回︶を可能にするための量産化研
究を行う︒ 現在の課題は︑大量生産時の質の問
題であり︑今後︑信州大学︑京都工芸繊維大学︑
福井大学と連携して共同研究を進める︒ 商品化
の出口戦略に関しては︑コンソーシアムを組ん
で推進する︒
意見交換では︑産業おこしや︑地域で育った
人が地域でコトを起こす仕組み作り︑夢まちづ
くり大学の単位認定︑交流人口と定住人口を分
けて考え︑定住人口にはこだわらない等の議論
がなされた︒夢まちづくり大学の取り組みでは︑
今 後︑ 履 修 証 明 プ ロ グ ラ ム 等 で 大 学 と 連 携 を
図っていくことを確認した︒
写真1 高機能性シルク研究開発利用促進施設の視察
4.京丹後市役所ヒアリング
対応者︓ 川口誠彦 氏 企
( 画総務部企画政策
課 ︑) 高橋尚義 氏 商
( 工新興課長 ︑)澤学爾氏
農
( 林水産環境部環境バイオマス推進課 )
京丹後市は︑2015年3月2日にまち・ひ
と・しごと創生﹁ 人口ビジョン﹂及び﹁ 総合戦
略﹂を全国で最初に策定公表した︒ 早期策定の
背景には︑同市では2014年 月に議会で可
決された第2次総合計画︵ カ年計画︶の取り
纏めを行ってきており︑その前半5年分を目標
値として設定しているからである︒ 地域活性化
モ デ ル ケ ース・ 地 域 再 生 計 画 で の 提 案 内 容 は︑
①新シルク産業の創造︑②新公共交通体系の構
築︑③地域協働大学法人制度の創設︑④再生可
能エネルギーの全面展開︑⑤観光振興︑⑥地域
包括ケアの推進を柱にしている︒ ①のシルク産
業創造は︑日本のシルク産業において養蚕農家
の高齢化・後継者不足により2014年度養蚕
農家数や繭生産量が2007年度の4割水準ま
10
米国ポートランド調査
︵
年
2
0
1
5
月︶
2
LORCリサーチアシスタント 並木
洲太朗
表1 調査日程
2月2日 ( 月 ) ポートランド州立大学 Connie Ozawa 教授、Sy Adler 教授 訪問
2月3日 ( 火 ) City of Beaberton ヒアリング 対応者:Randy Ealy(CAO), Alma Flores
(Economic Development Manager), Cheryl Twete(Community Development
Director), Holly Thompson (Beaverton Community Vision, Program Manager),
Steven A. Sparks( (Principal Planner)
City of Portland ,Bureau of Planning and Sustainability ヒアリング
対応者:Susan Anderson(Director), Kyle Diesner , Andria Jacobs( 共に
Clean Energy Team)
Energy Trust of Oregon ヒアリング 対応者:Chris Dearth(Renewable Energy,
Sr. Project Manager)
2月4日 ( 水 ) Renewable Advisory Council meeting
ポートランド州立大学 Stephan Perce 学部長面会
Sustainable Municipal Operation Project ヒアリング
対応者:Ed Gallagher( 元 Gresham 市職員 ), 西芝雅美 ( ポートランド州立大学
准教授 )
CPS connect Meeting にて京都アライアンスの取り組みを報告
2月5日 ( 木 ) City of Hillsboro, Planning Department ヒアリング
対応者:Colin Cooper(Planning Director), Emily Tritsch, Jeannine Rustad
(Planner)
広域政府 METRO ヒアリング
対応者:Ted Reid(Senior Regional Planner), John Mermin(Senior
Transportation Planner)
2月6日 ( 金 ) 市街地視察
型都市圏構造とそれを支える自治体間連携に基
づく広域ガバナンス実現のための取り組み︑諸
主体の対応︑困難について︑ポートランドの先
行事例から学ぼうとするものである︒ ポートラ
ンド州立大学では︑ Center for Public Service
主 催 の 定 例 ミ ーテ ィ ン グ に て 京 都 ア ラ イ ア ン ス
の紹介を行い︑様々な大学地域連携の取組みを
行っている同校との研究交流の機会をもった︒
1.ポートランド都市圏の広域ガバナンス
・METROへのヒアリング調査
ポートランド都市圏では︑クラカマス郡︑マ
ルトノマ郡︑ワシントン郡の の市域を管轄す
る広域政府メトロ 以
( 下メトロ が
) 設 置 さ れ︑
都市計画や交通計画︑自然環境の保護に関する
権限を有している︒
メ ト ロ は オ レ ゴ ン 州 法 に よ り︑ 広 域 地 域 レ
ベルの土地利用計画を調整する責任を追っ
て い る︒ 広 域 政 府 は 総 合 計 画︵ Regional
以下︑RFP の
Framework Plan
) 作成を義務
づけられており︑その中で広域交通計画や都市
成 長 境 界 線 (Urban Growth Boundary,
以 下︑
UGB の
) 管理と変更︑ UGBの外側の自然環
境の保全︑住宅環境︑都市デザイン︑公園やオー
25
はじめに
LORC第1研究班では︑2015年2月2
日から6日にかけて︑米国オレゴン州ポートラ
ンド地域における広域ガバナンスと︑持続可能
性への取り組みに関する現地調査︑ポートラン
ド州立大での研究交流を行った︒ 本調査はLO
R C 第 4 期 の 研 究 課 題 の ひ と つ で あ る︑ 集 約
図1 調査対象地
14
プンスペース︑レクリエーション︑水資源の保
全と保管︑周辺自治体との調整︑州法によって
定められている計画義務︑について記載されて
いる︒
土地利用計画の策定・運用において︑メトロ
は 主 に U G B の 管 理 を 行 っ て い る︒ U G B は
1972年にオレゴン州法により設定された都
市化地域 (Urban Reserve Area)
とその外側の
農業地域 (Rural Reserve Area)
を区分する境
界 線 で あ る︒ 都 市 化 地 域 で は 住 宅 や オ フ ィ ス︑
工場の建設が可能になるが︑境界線の外側では
一切の開発が制限される︒ UGBの拡張を検討
する際は︑対象地域を管轄する自治体がどのよ
うな土地利用を見込んでいるか︑住宅・産業の
種類︑水道供給計画や交通計画が検討の対象に
なる︒
メトロでは︑州法の定めにより6年ごとに域
内の地域の成長可能性を分析した都市成長レ
ポ ー ト︵ Urban Growth Report
︶を作成して
いる︒合わせて︑GISを用いた空き地や人口︑
雇 用 の 予 測 及 び︑ デ ー タ に 基 づ い た 住 宅 需 要︑
土地需要︑商業需要の予測を行っており︑各自
治体はそれらの情報を参考に開発計画を立案し
ている︒
メトロ管内の交通計画は︑連邦政府および州
政府の交通計画を受け︑関連自治体との協議を
通じて広域交通計画 (Regional Transportation
が策定され︑地域交通システム計画 (Local
Plan)
︑交通投資計
Transportation System Plans)
画 (Transit Investment Plans)
として実装さ
れる︑自治体・メトロのスタッフレベルの会議
と首長レベルの会議が行われており︑交通計画
の策定・実施に当たっての様々な課題や︑実施
中のプロジェクト︑連邦政府予算の配分︑長期
計画の作成︑広域交通計画の策定などが議論さ
れ て い る︒ 広 域 交 通 を 運 営 す る ト ラ イ メ ッ ト
T
( riMet と
) の 関 係 も 緊 密 で︑ 大 量 輸 送
システム バ
( ス・LRT を
) 専門とするメトロ
の計画スタッフが︑トライメットの担当者との
協議を通じて計画を策定している︒
近年では域内での文化的多様性の高まりを受
け︑公正 (Equity)
への取り組みも行われている︒
メトロ議会は将来の都市計画を地域で共有され
た 価 値 観 に 沿 っ た も の に す る た め︑ 2 0 1 0
年 に﹁ 求 め ら れ る 6 つ の 成 果 ﹂ (Six desired
を採択した︒ その中で︑
﹁ 公正は地
outcomes)
域の成長によってもたらされる利益と負担の産
物であり︑変化は公平に分配される﹂としてい
る︒ メトロでは︑土地・公共交通の開発が意図
しない結果をもたらすダイナミックスについて
観察してきており︑地価の上昇による所得者や
少数民族の追い出しが起きかねない事も認識し
ている︒ 低所得者が住む場所を選べるような配
慮や︑機会・交通手段・仕事・教育へのアクセ
ス困難の排除について対策を検討している︒
・ City of Hillsboro
へのヒアリング調査
ヒルズボロ市はUGBの西端に位置し︑イン
テルやサン・マイクロシステムズをはじめとす
る多くのハイテク企業が立地するとともに︑市
の周縁部は肥沃な農地に囲まれており古くから
農 業 が 盛 ん な 地 域 で も あ る︒ 平 均 年 齢 は 3 1 .
7才と若く︑世帯収入や大学進学率はオレゴン
州の他の自治体と比較して高くなっている︒
同市ではハイテク産業の発展とその働き手で
あ る 移 民 の 流 入︑ 人 口 の 急 速 な 増 加 を 背 景 と
し︑度々UGBの拡張が行われてきた︒ 近年で
も市北西の周縁部おいて農業地域から都市化地
域への用途変更を実施したが︑多くの団体から
の反対に遭い2011年に再び農業地域へと戻
さざるをえなかった︒ 裁判の過程にはメトロや
を初めとする約 の
1000 Friends of Oregon
団体が参加し︑UGBの拡張をめぐって議論が
交わされた︒
市の南部では︑比較的農業に適さない地域に
おいて住宅用地として都市化地域が確保され
た︒ ここでは︑企業の幹部クラスの住宅から従
業 員 向 け の ア パ ート ま で 幅 広 い 種 類 の 住 宅 建 設
が 予 定 さ れ て い る︒ ラ イ ト レ ー ル M a x 沿 線
の オ レ ン コ 駅 周 辺 で は︑ 若 年 層 向 け の 住 宅 と
ショッピング施設の建設が進められている︒ 同
駅はインテルの工場に近く︑多くの職があるた
め住宅需要が大きい︒ また︑人々は高い教育レ
ベ ル を 有 し︑ 都 市 的 環 境 を 求 め て い る︒ そ れ
故︑開発手法は一般的な米国の郊外開発とは異
なり︑多くの日用品店やレストラン︑住宅︑ア
パートメント︑コンドミニアムなどを備えてお
り︑どちらかといえば市街地開発の手法に近い︒
UGBによって開発が制限されていることか
ら︑市内での住宅の回転率は高く︑空き住宅へ
の再投資や再開発も活発に行われている︒ 市内
には多くの半導体・ソフトウェア企業が進出し
今後も成長が見込まれているが︑市としてはゆ
るやかな発展を目指しており︑成長と維持のバ
ランスが常に課題となっている︒
15
LORC ジャーナル
90
・ City of Beaberton
へのヒアリング調査
ビ ーバ ート ン 市 は ポ ート ラ ン ド 市 の 西 部 に 位
置している︒ 同市は︑隣のヒルズボロ市が大規
模 な ハ イ テ ク 企 業 を 多 く 抱 え て い る の に 対 し︑
中小規模の企業が多い︒ インキュベーション施
設 の 整 備 や ス タ ート ア ッ プ ス の 誘 致 に も 力 を 入
れており︑経済的に近隣の市町村とは補完関係
にある︒
雇用効果をふくめ補完関係にある︒
2.ポートランドにおける持続可能性への取り
組み
へのヒアリング調査
・ City of Portland,BPS
ポ ート ラ ン ド 市 で は 主 に 都 市 計 画 と 都 市 環 境
問題を管轄する︑計画・サスティナビリティ局
(Bureau of Planning and Sustainability,以
下︑BPS を
) 訪問した︒ 部署名にも表わされ
ている通り︑既存の都市計画部門と︑環境をは
じめとする都市のサスティナビリティに関わる
部門が一体となって政策の立案・実施をしてい
ることが特徴的である︒ この背景には︑ハード
中心の都市デザインから︑都市に住む人々の意
識に影響を与える政策への転換という強い思想
がある︒
たって実施されたソーラライズ・ポートランド
で あ る︒ こ の プ ロ グ ラ ム
(Solarize Portland)
は ポ ート ラ ン ド の 各 地 区 で 組 織 さ れ る 近 隣 組 織
単位で太陽光
(Neighborhood Associations)
パネル設置を推奨し︑予算面での補助を行うこ
とで各地区における人々の太陽光発電への意識
を高めようとしたものである︒ このプロジェク
トには︑BPSの他︑NPOや各種団体が参加
して戦略的・技術的支援を行っており︑最終的
に約千戸が太陽光パネルを設置した︒ 設置した
世帯では︑約4~5年で設置コストが回収でき
る予定である︒さらなる展開への課題としては︑
地元電力会社との競合や︑補助にあたっての規
制強化の必要性などが挙げられている︒
・ Energy Trust of Oregon
へのヒアリング調
査
( 下︑
エナジー・トラスト・オブ・オレゴン 以
エナジー・トラスト は
) ︑ 独立した非営利団体
であり︑エネルギー効率化の実現と再生可能エ
ネ ル ギ ーの 普 及 を 目 的 に 様 々 な 事 業 を 行 っ て い
る︒ 中でも特徴的なのは︑再生可能エネルギー
普 及 の 中 核 に エ ネ ル ギ ー効 率 改 善 事 業 を す え て
おり︑2014年に発表された中期評価におい
ては︑水力発電に次ぐエネルギー源として﹁ エ
ネルギー効率化﹂が %を占めている︒
エネルギ ー効率化事業は︑ 一般家庭︑ 民間・
公共建築︑企業の生産工程それぞれに対しサー
ビスを提供している︒一般家庭向けには︑既存・
新 築 住 宅 及 び 製 品 の エ ネ ル ギ ー効 率 測 定 や 業 者
へ の ト レ ー ニ ン グ︑ 省 エ ネ・ 再 エ ネ 機 器 の 開
発・提供︑エネルギー消費行動の改善提案など
17
ポ ート ラ ン ド 市 の サ ス テ ィ ナ ビ リ テ ィ へ の 取
り 組 み は︑ 2 0 3 5 年 ま で の 市 の 長 期 計 画 を
定 め た 包 括 計 画 (Comprehensive Plan)
及 び︑
2050年までの環境への取り組みに関する環
境行動計画 (Climate Action Plan)
にもとづい
て進められている︒
これまでの取り組みの成果として︑鉄道沿線
沿いの開発による車からのCO2 排出量の削
減や︑化石燃料の使用割合の低減︑リサイクル︑
堆肥化︑嫌気性消化によるゴミの再利用率 %
達成などがあげられる︒ ポートランド市民の環
境への意識は必ずしも高くなく︑移民の増加に
伴 う 価 値 観 の 多 様 化 が 起 き て お り︑ コ ミ ュ ニ
ティを基盤として市民の意識に働きかけるよう
な政策が検討されている︒
その一例が2009年から2012年にわ
70
近 年 ビ ーバ ート ン 市 は 住 民 の 増 加 や そ れ に 伴
う交通量の増大に直面しており︑UGB拡張の
議論が活発化している︒ UGBは自治体からの
提案をもとに︑メトロでの意思決定プロセスを
へて何度か拡張されているが︑メトロは概して
拡張に反対の立場をとることが多く︑オレゴン
州 も ポ ート ラ ン ド 地 域 の 環 境 や 農 地 の 保 護 を 重
視しているため︑自治体の拡張提案がそのまま
認められることは稀である︒
ビーバートン市は︑市内に数ヶ所の非法人化
地域を抱えている︒ 非法人化地域はビーバート
ン市の上位のワシントン郡の管轄下にあり︑消
防 や 警 察 等 の 行 政 サ ービ ス は そ の 地 域 に 立 地 す
る 企 業 が ビ ーバ ート ン 市 と 契 約 を 結 び 市 が サ ー
ビ ス を 供 給 し て い る︒ 多 く は 大 企 業 が 土 地 を
所 有 し て お り︑ 代 表 的 な 企 業 が ナ イ キ (NIKE,
で あ る︒ 市 は︑ 2 0 0 6 年 に ナ イ キ の 立
Inc.)
地する区画を併合しようとして裁判になり︑最
終的には 年間合併を行わないという調停を結
んだことから︑当面の間は同地区を併合するこ
とは不可能の状況である︒ 近年では︑ナイキの
立地する非法人化地域を拡張 ビ
( ーバ ート ン 市
の一部を売却 す
) ることも検討されていて︑市
と ナ イ キ は 行 政 サ ービ ス の 提 供 や ナ イ キ に よ る
40
16
を行っており︑これまでに 万世帯を対象とし
てきた︒ 民間・公共建築向けには︑エネルギー
供給のモデリング︑デザイン及び技術的支援や︑
省エネ機器やソーラーパネル設置の仲介︑戦略
的なエネルギー経営の提案︑ゼロ・エミッショ
ン達成へのサポートが主な事業である︒ 生産過
程の効率化については︑新たな設備の導入提案
や技術支援︑戦略的なエネルギー管理と資本投
資のアドバイス︑生産過程のエネルギー効率診
断サービスなどを提供しており︑3千7百箇所
でサービスを提供してきた︒
再生可能エネルギーの導入支援では︑太陽光︑
バイオ 木
( 質バイオマスと下水処理場がからガ
ス を 利 用 し た バ イ オ ガ ス 発 電 ︑) 風 力︑ 水 力︑
地熱発電を取り扱っている︒ MW以下の発電
施設を対象としているが︑主な対象は住宅の太
陽光発電である︒ 設置の際の政府の補助プログ
ラムの紹介や︑設置の際のプロジェクト支援を
行う︒ これまでにエナジー・トラストの支援や
奨 励 金 を 利 用 し て 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ーを 導 入 し
た世帯・施設は6千百箇所に上る︒
効率化の検討にはベスト・プラクティス・モデ
ルを採用し︑2人の大学院生の協力をへて︑複
数 の 自 治 体 に エ ネ ル ギ ー効 率 向 上 の 実 践 例 に 関
するヒアリング調査を行った︒ その後︑設備管
理︑自動車利用︑備品購入︑就労環境などいく
つかのカテゴリに分類して分析が行われた︒ パ
イロット・プロジェクトではオレゴン州内の3
つの異なる地域を選択し︑5万人規模の大都市
︑ 郡 政 府 (Yamhill)
︑ 1万人規模の都
(Albany)
市 (Independence)
を 対 象 と し た︒ 2 0 1 2
年のプロジェクト完了時には︑各都市の分析と
推奨されるアクション︑実施にあたっての優先
付けや推奨される政策が記載された報告書が発
行された︒
3.ポートランド州立大学における研究交流
ポートランド州立大学の公共政策学部
(Center for Public Service)主 催 の
CPS
に お い て︑ 白 石 セ ン タ ー 長
Connect Meeting
よ り 京 都 ア ラ イ ア ン ス の 取 り 組 み 紹 介 を 行 い︑
その後︑参加者とディスカッションを行った︒
ディスカッションの中では︑冒頭に州立大学
側から日本の地方自治制度や自治体の財政︑自
治体の合併︑分権化の実態についての質問が出
された︒ また︑大学同士の連携のきっかけ︑中
央・地方政府との関係︑アライアンスの設立を
可能にした制度的環境の変化についても議論が
なされ︑地域連携の活動を研究や教育につなげ
ていくことの難しさと意義についても双方から
意見が出された︒ LORCからは︑地域との協
働のなかで研究の幅が広がったという研究者と
しての意見や︑地域での実習科目では特定の専
門分野からのアプローチが弱いため︑学生の専
門性を深めることの難しさについても言及が
あ っ た︒ ま た︑ 学 部 長 Stephen Percy
氏との
懇談のなかで︑京都アライアンスを実現するま
での成功と失敗の経験と︑ポートランド州立大
学の大学地域連携の取り組みに関して︑情報や
知見を両大学で共有する場を設けていくことを
確認した︒
17
LORC ジャーナル
・サスティナブルな自治体運営プロジェクトへ
のヒアリング調査
サスティナブルな自治体運営プロジェクト
(Sustainable Municipal Operation Project)
は︑ 自 治 体 が 如 何 に し て エ ネ ル ギ ー 利 用 効 率
を 改 善 で き る か を︑ 市 政 府 と 郡 政 府 を 対 象 に
検討した大学と民間の共同プロジェクトであ
る︒ エネルギーは制御可能なコストであるとい
う考え方のもと︑自治体業務の明確化とエネル
ギー消費の削減が主な目標となっている︒ 業務
写真1 メトロへのヒアリング調査
54
20
ドイツ︑ベルギー調査報告
︵
年2月︶
Verena Schneider (Basic Issues of Internationalisation/Monitoring
1.はじめに
表1 調査日程
2 月 23 日(月) BIBB (Bundesinstitut für Berufsbildung、英名 Federal Institute for
Vocational Education and Training) ヒアリング
対応者:Ute Hippach-Schneider (Basic Issues of Internationalisation/
Monitoring of Vocational Education and Training Systems),
of Vocational Education and Training Systems)
2 月 24 日(火) ベルギー、リエージュ大学HEC経営学研究科社会経済センター(Center
ヒアリング
対応者:Jacques Defourny(センター長、教授)
、Benjamin Huybrechts
(助教授)
ドイツでは︑職業教育訓練と普通教育を同時
に行うデュアルシステムが確立されており︑若
者の失業率低下に実績を上げていると言われて
きた︒ 昨今は新たな動きとして︑グローバル競
争の中で打ち勝つ人材を育成するために︑高等
教育レベルの職業教育訓練︵ Higher V
ET︶が盛んになってきている︒ 2012年度
に視察したバーデン・ヴュルテンベルクのデュ
ア ル 大 学 の よ う に︑ H i g h e r V E T の
ニ ー ズ が 高 ま っ て き て い る︒ し か し︑ 一 方 で︑
Higher VETの概念やレベルについて
の定義付けはこれまでなされておらず︑実施状
況の分析によりHigher VETの実態解
明の必要性がでてきた︒ このため︑BIBBで
は︑Higher VET調査研究プロジェク
トを進めている︒ 今回の訪問調査では︑事前に
BIBBは職業教育・訓練を推進するドイツ
の連邦政府機関である︒ Cedefopと連携
し て E Q F や そ の 他 の ヨ ーロ ッ パ 共 通 の 資 格 教
育システムの施行や普及︑サポートを担ってい
る︒ また︑国内外の職能教育に係る調査分析を
行い︑職業教育訓練のシステムやプログラムの
改善・促進のための業務を担っている︒
2.ドイツ︑BIBBへのヒアリング
LORC研究員 大石
尚子 ︵龍谷大学政策学部 准教授︶
for Social Economy, HEC-Management School, University of Liège)
ドイツ連邦政府機関BIBBとリエージュ大学の研究教育機関CSE HEC -Ulgへのヒアリング調査より
2
0
1
5
職業教育・訓練を推進するドイツの連邦政府
機関であるBIBBとベルギー第5の都市リ
エ ージ ュ に あ る リ エ ージ ュ 大 学 の 研 究 教 育 機 関
であるCSE HEC -Ulgを訪問し︑両機
関の教育プログラムを把握し︑第2研究班﹁ ソー
シャルスキル育成﹂研究ユニットがキーワード
に掲げている﹁ ソーシャルスキル﹂の定義付け
への見解と助言を得ることとした︒
図1 調査対象地
18
送った質問事項に基づいてこうした背景につい
てHigher VET研究担当責任者にヒア
リングを行い︑Higher VETのメリッ
ト・デメリット︑今後の研究の方向性について
明らかにすることを目標とした︒ また︑本研究
の実装化の一貫として進められているプロジェ
クト︑複数大学と複数地域ステークホルダーが
連携し地域課題解決に取組む事業﹁ 京都アライ
アンス﹂についての説明を行い︑本ユニットが
キーワードに掲げている﹁ ソーシャル・スキル﹂
の定義付けへの見解と助言を得ることとした︒
Higher VET調査研究プロジェクト
Higher VETの分野では︑国によっ
て違った専門用語が使われている︒ また︑EQ
Fという欧州共通資格フレームワークによる
と︑全く違った質の資格教育プログラムが同じ
レベルに位置づけられている︒ 大学で実施され
ているプログラムであれば︑すべてレベル6に
なっているが︑プログラムによって大きな差が
あ る︒ そ う し た こ と か ら︑ 本 プ ロ ジ ェ ク ト で
は︑Higher VETが実施されている背
景や︑実態を明らかにすることを目的として進
められていた︒ 特に︑デュアル大学のように大
学と企業との強い連携が職業教育に重要な意味
を持つ中で︑企業の職業教育訓練に対して果た
す役割について注目している︒ また︑欧州諸国
だけでなく︑日本のようにアジア諸国やカナダ︑
オ ース ト ラ リ ア の よ う な ア ン グ ロ サ ク ソ ン 系 の
国にも注目し︑企業との連携のあり方の相違に
ついても研究を進めている︒
こ れ ま で︑ B I B B で フ ォ ー カ ス し て き た
のは︑第2段階教育レベルのVETについてで
あり︑第2段階教育レベルにおけるデュアルシ
ステムについては︑ドイツの特徴的なシステム
として知られている︒ 第3段階教育レベルにお
いて2種類のデュアル教育が展開されるように
なったのは︑ここ数年の話である︒
ヨーロッパでは︑EQFを開発し︑各国の多
様 な 資 格 フ レ ーム ワ ーク の 透 明 性 を 確 保 し よ う
としたが︑それは人工的なものであり︑返って
不 透 明 に な っ て い る︒ 同 じ レ ベ ル の 資 格 で も︑
実践的プログラムで獲得したか︑レクチャーで
獲得したかによって全く違った知識となる︒ 同
じレベルの資格でもどのような内容のプログラ
ムで獲得したかが重要となり︑現在プロジェク
トでは︑Higher VETプログラムをタ
イプ分けし︑体系的な整理を進めている︒ そし
て違いはどこにあるのかを明らかにすることを
目的としている︒ また︑第3段階教育における
企業の役割についても明らかにしようとしてい
る︒
﹁ ソ ーシ ャ ル・ ス キ ル﹂ の 定 義 付 け へ の 見 解 と
助言
ドイツにおけるソーシャル・スキルとは︑職
業 に 求 め ら れ る 基 本 的 な 能 力 で あ り︑ 例 え ば︑
様 々 な ク ラ イ ア ン ト と コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン を 取
る 能 力︑ チ ー ム ビ ル デ ィ ン グ 能 力 な ど で あ る︒
ソーシャル・スキルというのは︑職業教育の中
で付随的に備わってくるもので︑職業教育が目
的とするのはあくまで職業スキルであり︑社会
課題に焦点をあてたソーシャル・スキルという
のは特になく︑ドイツにおいては比較できる能
力体系はない︒
3.ベルギー︑リエージュ大学HEC経営学研
究科社会経済センター︵CSE HEC U
-l
g︶へのヒアリング
CSE HEC -Ulgはベルギー第5の都
市リエージュにあるリエージュ大学の研究教
育機関である︒ 1992年に Deforuny
教授に
よって設立された︒ 設立の背景として︑リエー
ジュ大学には︑組合と公共セクターに関する研
究 セ ク タ ー が 以 前 か ら 存 在 し て お り︑ ま た リ
エージュに限ったことではないが︑ベルギーに
は 非 常 に 多 く の 組 合 や N P O が 存 在 し て お り︑
密接なネットワークが形成されていた︒
CES HEC -Ulgは︑ 社会的起業と社
会 的 経 済 の 研 究 機 関 と し て フ ロ ン ト ラ ン ナ ーで
あ り︑ 学 士︑ 修 士︑ 博 士 レ ベ ル コ ー ス を 設 け
て い る︒ 昨 今 は 社 会 的 起 業 家 育 成 の た め の 教
育 プ ロ グ ラ ム を 開 発 し︑ Academy for Social
を設立してマスターレベルのコース
Enterprise
を実施している︒
教育プログラムについて
○ミッション
・社会的企業および社会的経済についての研究︒
経済︑経営・組織理論︑社会学︑法学的視点から︒
・学生や実務家に対する社会的企業や社会的経
済についての教育︒
・ コ ミ ュ ニ テ ィ や 公 共 セ ク タ ーの 政 策 立 案 者 や
リ ーダ ーに 対 す る 専 門 知 識 に 基 づ い た サ ービ ス
の提供︒
19
LORC ジャーナル
○教育・人材育成
・ 人の研究員が世界中から来ている︵ 中国や
日本からも参加している︶
︒
る た め に ビ ジ ネ ス ベ ース の 実 践 的 プ ロ グ ラ ム を
提供している︒
いる︒
・3つの社会的起業家育成のための教育プログ
ラムが実施されている︒
①経営学修士レベルの 名の学生に向けた2年
間 の 学 修 プ ロ グ ラ ム︵ 2 0 1 0 年 に 開 始 ︶
︒学
部 レ ベ ル の 社 会 的 企 業 マ ネ ージ メ ン ト コ ース 修
了者︵ 3年間︶が︑6つの専門分野︵ 社会的経
済︑ソーシャルイノベーションと組織︑ファイ
ナンス︑マーケティング︑ガバナンスと人材育
成︑持続可能な発展の応用︶から選択する︒ ベ
ル ギ ーで 唯 一 の 社 会 的 企 業 マ ネ ージ メ ン ト の 修
士レベルプログラムである︒
・ 本 セ ン タ ー は ビ ジ ネ ス ス ク ー ル で あ る た め︑
より学生にとって魅力的なプログラムを提供す
③
Academy of Social Entrepreneure
︵ 2014年開始︶
︒ 全てのレベルの社会的起
業に関心がある人材が集まるところとなってい
る︒ 通常講義から︑実務家の講義︑社会的企業
家が実際の課題を提示しその解決について受講
生 と と も に 考 え る と い っ た 実 践 的 ワ ーク シ ョ ッ
プ な ど︑ 多 様 な セ ミ ナ ー や 講 義 を 行 っ て お り︑
受講生は自由に選択することができる︒
② Life Long Learning
プログラムとして実施
されている︑社会的企業実務家︑管理経営者の
た め の プ ロ グ ラ ム︵ 2 0 1 2 年 よ り 開 始 ︶
︒受
講生は公務員や一般企業人など多様である︒ プ
ログラム内容は︑修士レベルプログラムと同等
だが︑双方向授業が主︒ 受講生からは︑多様な
セクターの考え方に触れることができ︑他セク
タ ーと の 協 働 が で き る よ う に な っ た と 高 評 価 を
得ている︒
20
ベルギー︑フランス︑イタリア︑東ヨーロッ
パの研究者たちと社会的起業家に必要なスキル
について研究をした︒ 社会的起業家に求められ
る能力は︑非常に範囲が広く多様である︒ 一方
で︑知識や技術︑能力については︑コミュニティ
でシェアすることができる︒ つまり︑社会的起
業 に お い て コ ミ ュ ニ テ ィ や チ ーム の 関 係 性 と い
うものの重要性に着目している︒ 学生のスキル
として重要なのは︑様々なステークホルダーと
対話することができ︑問題の背景をグローバル
な 視 点 か ら 理 解 す る 能 力 が 必 要 と 考 え て い る︒
また︑忍耐力も必要である︒
社会的起業家に必要なソーシャル・スキル
15
○研究活動内容
・ リ エ ージ ュ 大 学 の マ ネ ージ メ ン ト ス ク ール の
社会的企業にかかる研究プロジェクトのコー
デ ィ ネ ー ト・ 推 進 を 行 っ て い る︒ 4 名 の 教 授︑
名の博士課程学生︑4名の研究員によって運
営されている︒
・1996年よりEMES︵欧州研究ネットワー
ク︶に共同出資︑コーディネーションを担って
写真1 ブリュッセル駅舎
・2014年~2017年にはベルギーの科
学 政 策 の フ ァ ン ド に よ る “Inter-University
Attraction Pole (IAP)”という大学国際ネット
ワ ーク の リ サ ーチ プ ロ グ ラ ム を コ ーデ ィ ネ ート
している︒
12
20
21
LORC ジャーナル
龍
/ 谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター︵LORC︶共催シンポジウム
会 場
龍谷大学深草キャンパス 和顔館 B - 201
参 加
約 130 人
主 催
日本環境学会
龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)
2. プログラム
プログラム
時 刻
14:45~14:55 開会挨拶、趣旨・進め方説明
14:55~15:05 白石氏によるキーワード提起①: 地域再生可能エネルギー基本条例
15:05~15:20 報告1: 西村仁志氏(新城市環境部地域エネルギー推進課長)
15:20~15:30 トークセッション1: 白石氏+西村氏
15:30~15:40 白石氏によるキーワード提起②: 地域エネルギー政策
15:40~15:55 報告2: 上山隆浩氏(西粟倉村産業観光課長)
15:55~16:05 トークセッション2: 白石氏+上山氏
16:05~16:15 休憩
16:15~16:25 白石氏によるキーワード提起③: 再生可能エネルギー事業の担い手
16:25~16:40 報告3: 豊岡和美氏(一般社団法人徳島地域エネルギー理事)
16:40~16:55 報告4: 深尾昌峰氏(株式会社 PLUS SOCIAL 代表取締役)
16:55~17:10 トークセッション3: 白石氏+豊岡氏+深尾氏
17:10~17:20 休憩
トークセッション4:白石氏+登壇者全員
17:20~17:40
(FIT や電力自由化など全体まとめの議論)
17:40~17:55 会場との質疑応答
17:55~18:00 閉会挨拶
日本環境学会
2015 年 6 月 20 日(土)14:45 ~ 18:00
地域エネルギー政策最前線︓地域社会の構造的再生に挑むイノベーターたち
1. 概要
日 時
はじめに
F
I
T
地球温暖化の深刻化や福島第一原発事故以降
の社会状況の変化は︑日本における再生可能エ
ネ ル ギ ー導 入 の 議 論 や 実 践 を 一 気 に 活 発 化 さ せ
た︒ 固 定 価 格 買 取 制 度 (
の
) 改変や自治
体レベルでの再生可能エネルギー基本条例と
いった制度の整備︑エネルギー政策を地域運営
の本流に据える自治体の出現︑市民や民間企業
の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー導 入 事 業 へ の 出 資 意 欲 の
向 上 な ど︑
﹁ エ ネ ル ギ ー シ フ ト﹂ を 実 現 す る し
くみや担い手は︑フクシマ後の4年で急速に整
備されてきた︒ 一方で︑一般電力事業者による
再生可能エネルギーの受け入れ保留の問題︑再
生 可 能 エ ネ ル ギ ー基 本 条 例 の 更 な る 普 及 と 理 念
の具現化の方策︑担い手の多様化と持続性の確
保など︑今後の再生可能エネルギーの普及を左
右 す る 重 要 な 課 題 も 山 積 し て い る︒
の
改正も相まって︑日本の再生可能エネルギー政
策はまさに岐路にある︒ これらの仕組みや担い
手の中で︑何が機能して何が機能しなかったの
か︑その理由は何なのかを冷静に分析し︑今後
の展開につなげていく必要がある︒ 尚︑本シン
ポジウムでは︑フクシマ後のエネルギー政策に
ついて総括し︑今後の展望を導き出すべく︑そ
れぞれの立場から問題提起し︑議論した︒
F
I
T
開会挨拶︑趣旨・進め方説明
龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセ
ンター︵
︶長白石克孝氏が︑開会の挨
拶を行うとともに︑本シンポジウムの趣旨であ
り︑
第二研究班
﹁ 政策実装化﹂研究班
﹁地
域還元型再エネ﹂研究ユニットの推し進める再
生可能エネルギーに関する調査研究の概要およ
び︑
﹃ 地 域 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー基 本 条 例︑ 地 域
エネルギー政策︑再生可能エネルギー事業の担
い手﹄という本シンポジウムの三つのキーワー
ドが示された︒ そして︑進め方の説明を行った
後︑各登段者の紹介があった︒
L
O
R
C
﹁地
ま ず︑ 最 初 の 報 告 と し て 西 村 氏 に よ り︑
域再生可能エネルギー基本条例制定による効果
と 課 題 に つ い て﹂ と い う 題 目 で 発 表 が あ っ た︒
この中で愛知県新 城市を 事例に地域における風
力発電事業新規参入や︑固定価格買取制度の問
題 点 が 紹 介 さ れ た︒ さ ら に︑ 新 城 市 省 エ ネ ル
ギー及び再生可能エネルギー推進条例制定の背
景や︑制定に伴う条例の施行による調整状況や︑
事業調整の内容が紹介された︒ さらに︑各事業
の推進において︑キーとなる主体の出現と︑事
業の見える化の重要性が述べられた︒そして最
後に︑地域主導型再エネ事業へ向けての提言が
なされた︒
報告1︓西村仁志氏︵ 新城市環境部地域エネル
ギー推進課長︶
白 石 氏 に よ る キ ー ワ ー ド 提 起 ①︓ 地 域 再 生 可
能エネルギー基本条例について
L
O
R
C
トークセッション1︓ 白石氏+西村氏
まず白石氏より︑地域再生可能エネルギー基
本条例の基本的な性格と機能についての質問が
あった︒ これに対して西村氏より︑本条例は罰
則の理念条例だが︑いかにこれを守るようにし
て い け る か と い う ル ール 作 り が 必 要 で あ る と い
う説明がなされた︒ その上で︑白石氏は︑全国
で 程ある条例のうち︑罰則を設けた自治体は
ないが︑今後は環境基本計画だけではなく︑本
条例のような仕組みをうまく使ってコントロ ー
ルするには条例を改定するのがよいのか︑また︑
経産省に届け出る際に明文化するのがよいのか
など︑自治体も巻き込んだ形で研究を進めてい
きたいとしてまとめた︒
まず︑白石氏より自治体における再生可能エ
ネルギーの事業モデルが成立した要素はなん
トークセッション2︓ 白石氏+上山氏
二 つ 目 の 報 告 と し て 上 山 氏 よ り﹁﹁ 百 年 の 森
林づくり﹂から始まる地域づくり﹂の題目で発
表 が あ っ た︒ ま ず︑ 鳥 取 県 西 粟 倉 村 に お け る
100年の森構想を事例に︑地域の林業とエネ
ル ギ ーに 関 す る 事 業 モ デ ル と 木 材 バ イ オ マ ス へ
の活用システムの紹介があった︒ そして︑小水
力発電や太陽光発電の事例紹介も伴いながら西
粟倉村が目指す﹁ 上質な田舎﹂についての説明
がなされた︒
報告2︓上山隆浩氏︵西粟倉村産業観光課長︶
白 石 氏 に よ る キ ー ワ ー ド 提 起 ②︓ 地 域 エ ネ ル
ギー政策について
20
だ っ た の か︑ な ぜ こ の 事 業 を 担 い た い と い う
人々が集まってきたのかについての質問があっ
た︒ これについて︑上山氏より︑地域のもつ課
題に対して自身が持っているスキルや能力を実
践していきたいという人々がいる中で︑まだ誰
も取り組んだことがないという点で躊躇すると
ころもあったが︑役場もバックアップしながら
自由に実践してもらうという手法をとったこと
が有効に働いたのではないかという説明がなさ
れた︒ そして︑白石氏により︑やはり地元の事
業 者 に 働 き か け な が ら︑ 役 場 の 丁 寧 な 説 明 と︑
ともに推進していくという意思表示があること
が重要であるとまとめた︒
白石氏によるキーワード提起③︓ 再生可能エネ
ルギー事業の担い手について
報告3︓豊岡和美氏︵ 一般社団法人徳島地域エ
ネルギー理事︶
PLUS SOCIAL
三つ目の報告として︑豊岡氏より﹁ 徳島地域
における低炭素化の推進について︵ 自然エネル
ギ ーの恵みで地域づくり︶
﹂ との題目で発表が
あった︒ この中で︑徳島の地域主導型再エネ事
業の事例として︑村風車による風力発電︑地域
還元型ソーラーによる太陽光発電などのプロ
ジェクトが紹介された︒ そして︑再エネが地域
の問題解決の決定打となるにはどのような取り
組みを行っていくかを考える必要があるという
提言がなされた︒
報告4︓深尾昌峰氏︵ 株式会社
代表取締役︶
最後の報告として︑深尾氏より﹁ 社会的投資
22
トークセッション3︓白石氏+豊岡氏+深尾氏
まず︑白石氏より︑事業規模や出資︑資金運
用についての質問があり︑これについて豊岡氏
は自身の経験から︑規模に見合った事業展開の
重要性について述べた︒ また︑このとき地域の
再生可能エネルギー事業の展開において︑地銀
金融の役割の重要性を指摘した︒ さらに深尾氏は︑自身のプロジェクトを進めた
経験から︑地元の人々の関係性と︑理解を深め︑
周知していくことの重要性について述べた︒
これらを受け︑白石氏は︑市民性や市民活動
性と︑プロの技術や知識を結び付けながら︑自
治体や大学といった社会的に責任のあるセク
ターが関わり︑組み合わせていくことで︑事業
実績を上げ︑地域住民からの信頼を深めていく
ことが重要であるとまとめた︒
トークセッション4︓ 白石氏+登壇者全員︵F
ITや電力自由化など全体まとめの議論︶
まず︑白石氏より︑どのように再生可能エネ
ルギー事業を実現しているのか︑また今後︑系
統連携が実施された際︑どのように事業を推進
してくのかについての質問があった︒ これにつ
いて豊岡氏は︑仮に規制がかかっても事業がま
わ っ て い く よ う な キ ャ ッ シ ュ フ ロ ーを 試 算 し て
おり︑今後系統連系が行われても十分に利益が
出る仕組みを構築しているとした︒ また︑上山
氏は︑林業で採算の取れない部分を木質バイオ
マスで補てんするといった補完的な事業への
バックアップを自治体も協力する形で回してい
くことは可能であるとした︒さらに白石氏から︑
電力会社の推進する大規大規模事業がある中
で︑電力自由化と系統接続が始まった際︑地域
に お い て ど の よ う な ス ケ ール 感 で 事 業 を 実 施 し
ているのかについての質問があった︒ これにつ
いて西村氏は︑何かに取り組みたいたいという
思いがある人々がいれば︑接続する仕組みさえ
あ れ ば 事 業 と し て 回 す こ と は 可 能 な の で あ り︑
これは大都市でなければできないということは
ない︒ その都市のスケールに合った事業形態が
あるはずであると述べた︒ そしてそこに︑自身
の街の課題をどのように載せていくのかという
視 点 が 重 要 で あ る と 述 べ た︒ 最 後 に 白 石 氏 は︑
このような領域に地域信用金庫の役割もあるだ
ろと提起し︑まとめた︒
閉会挨拶
最後に︑白石氏は︑これまでの議論や質疑応
答を受け︑様々な形で実施される事業において︑
各 主 体 間 の パ ート ナ ーシ ッ プ が 行 わ れ る 中 で︑
大学の一つのミッションとしての社会貢献を実
践していく中で︑果たす役割や︑どのように連
携していけるかについて︑今回のような機会を
通 じ て 考 え︑ 意 見 交 換 し て い き た い と 述 べ た︒
そして白石氏より閉会の挨拶があり︑本シンポ
ジウムは終了した︒
23
LORC ジャーナル
を 用 い た 地 域 貢 献 型 発 電 所 ~ 市 民 性 を ベ ース に
し た 社 会 変 革 へ ~﹂ と の 題 目 で 発 表 が あ っ た︒
ここでは︑龍谷大学の推進する地域貢献型メガ
ソーラーである﹁ 龍谷ソーラーパーク﹂の概要
および事業のスキームと特徴の紹介︑非営利型
株式会社で事業を推進することの意義について
述べられた︒ さらに︑産・官・学・民の協働に
よる社会的投資の可能性と普及モデルについて
述べられた︒
写真1 トークセッション
研究活動報告
第2研究班・ユニット1
2015年度前期の各班・ユニットの研究活動報告
第1研究班
﹁ 空間
第 1 研 究 班﹁ 限 界 都 市 論﹂ 研 究 班 は︑
計画・機能﹂研究ユニットと﹁ 地方政府・ガバ
ニング﹂研究ユニットによって構成されている︒
昨年度に引き続き︑両ユニットは一体となって
活動し︑研究会を開催した︒
国 内 外 の 学 会 で 研 究 成 果 を 報 告 し た︒
2015年7月にアントワープ大学で開催され
た 国 際 語 用 論 学 会 の パ ネ ル で 報 告︵
﹁ まちづく
り の 話 し 合 い に つ い て の 実 証 研 究 ﹂︶ を 行 い︑
パネルメンバーやオーディエンスと活発な議論
を通して︑海外研究者との新たなつながりもで
きた︒ また︑2015年9月6日に京都教育大
学 で 開 催 の 社 会 言 語 科 学 会 研 究 大 会 に お い て︑
ワークショップ﹁ まちづくりの話し合い学︱言
語 学・ 社 会 学 か ら の ア プ ロ ー チ ︱﹂
︵ 企 画・ 進
行 村田和代︶を実施した︒ 同日の報告は次の
通りである︒
①﹁ 話し合い学﹂の構築に向けた研究プロジェ
クト
第2研究班﹁ 政策実装化﹂研究班﹁ コミュニ
ケーションデザイン﹂研究ユニットでは︑①﹁ 話
し合い学﹂の構築に向けた研究と︑②話し合い
のデザインや︑コミュニケーションの観点から
のソーシャルスキル析出につながるフィールド
調査を進めている︒
第1研究班では︑月に2回の頻度で研究会を
重ね︑研究員による各専門分野からのレジリエ
ンス論に関する報告と︑OECDレポートの検
討︑ GIS 地
( 理情報システム の
) 活用等につ
いて議論した︒
(沢
2015年7月 日には︑内山愉太氏 金
大学博士研究員 を
) 招いて︑GISによるデー
タの可視化︑分析と京都北部での活用可能性に
ついて話を聞いた︒
30
・ 森 篤 嗣︵ 帝 塚 山 大 学 ︶
﹁ テキストマイニング
によるまちづくりの話し合いの傾向分析﹂
・ 増 田 将 伸︵ 京 都 産 業 大 学 ︶
﹁ 話し合いの場の
円滑化に寄与する要素の探索的分析﹂
・ 岡 本 雅 史︵ 立 命 館 大 学 ︶
﹁ ファシリテ ーショ
ンにおける響鳴の諸相﹂
・ 井 関 崇 博︵ 兵 庫 県 立 大 学 ︶
﹁ まちづくりの話
し合いをデザインする運営事務局の機能﹂
② フィールド調査
2015年7月9日︑京都府北部地域・大学
連携機構を訪問し︑今年度事業について意見交
換を行うとともに︑京都移動コンシェルジュの
川渕一清氏に︑京都府北部地域へのU・Iター
ンの状況や︑京丹後市を中心とした若者のネッ
ト ワ ーク 構 築 に 関 す る 取 り 組 み に つ い て ヒ ア リ
ングを実施した︒ また︑福知山市大江町で大江
元気プロジェクト・伊田さなえ代表︑河口珠輝
氏 に︑ 参 道 マ ル シ ェ の 展 望 や 地 元 住 民 と の コ
ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン に つ い て ヒ ア リ ン グ を 実 施 し
た︒ これらのフィールド調査をもとに︑今後の
研究の具体的プランを構築中である︒
第2研究班・ユニット2
第2研究班﹁ 政策実装化﹂研究班﹁ ソーシャ
ルスキル育成﹂研究ユニットは︑現代地域社会
変 革 に 必 要 な ソ ーシ ャ ル ス キ ル の 育 成 と 普 及 に
おけるシステムを研究する︒ LORCの第4ス
テージでは︑限界都市化に抗する持続可能な地
24
なされた︒
第2研究班・ユニット3
研 究 班﹁ 政 策 実 装 化﹂ 研 究 班﹁ 地 域 還
第
元 型 再 エ ネ﹂ 研 究 ユ ニ ッ ト の 今 年 度 の 活 動 は︑
①研究会及び国内調査といった研究活動と︑②
日本環境学会第 回研究発表会に併せて開催さ
れた﹁ 再生可能エネルギーシンポジウム﹂の実
施に大別される︒
①研究会及び国内調査
年
月 日および 日の 日間に
わたって︑用瀨町別府小水力発電見学︑上紙進
氏︵ 別 府 電 化 農 協 ︶
︑ 上 山 隆 浩 氏︵ 西 粟 倉 村 役
場産業観光課長︶
︑ 井 筒 耕 平 氏︵ 村 楽 エ ナ ジ ー
株 式 会 社 代 表 取 締 役︶ へ の ヒ ア リ ン グ 調 査 を 行
い︑地域還元型再エネの諸事例を把握した︒
27
年 月 日 に︑ 立 命 館 大 学 経
また
営学部ラウパッハ・スミヤ ヨーク教授を招聘
し︑
﹃ 再生可能エネルギ ーが日本の地域にもた
らす経済効果﹄という題目でパワーポイントに
2
41
4
6
29
②再生可能エネルギーシンポジウム
よる口頭発表が行われた︒ その後︑発表に対す
る質疑応答が行われた︒
2
0
1
5
2015年6月 日および 日の二日間にわ
たって﹃ 地域エネルギー政策最前線︓地域社会
の構造的再生に挑むイノベーターたち﹄の題目
で白石克孝氏︵ 龍谷大学政策学部教授︑地域公
共人材・政策開発リサーチセンター長︶をメイ
20
21
ンスピーカーに龍谷大 学深草学舎にてシンポ
ジウムを開催した︒
○発表内容
﹁・ 再 エ ネ を 地 域 資 源 と し て 活 用 可 能 に す る た
めの固定価格買取制度のあり方﹂︓西村仁志氏
︵新城市環境部地域エネルギー推進課長︶
﹁・ エ ネ ル ギ ー政 策 を 地 域 の 総 合 的 な 戦 略 に 組
み入れる自治体のあり方﹂︓上山隆浩氏︵ 西粟
倉村産業観光課長︶
﹁﹃
・ 再生可能エネルギー基本条例﹄の効果と課
題︑具現化のための要素﹂︓豊岡和美氏︵ 一般
社団法人徳島地域エネルギー理事︶
﹁ 再エネ実装の担い手の多様化と持続性の確
・
保﹂︓深尾昌峰氏︵株式会社 PLUS SOCIAL
代
表取締役︑龍谷大学政策学部准教授︶
25
LORC ジャーナル
28
2
2
0
1
5
方都市行政の﹁ かたち﹂とそれを実現するため
の地域政策実装化への道筋を研究しており︑政
策実装化を担う地域公共人材が身につけるべき
能力をソーシャルスキルと呼ぶ︒
今年度は︑6月 日︵水︶に︑教育方法学︵能
力論・評価論など︶を専門とされ︑ <
新しい能
力 >
と大学教育との関係に関して積極的かつ
批判的に論じておられる松下佳代氏︵京都大学・
高 等 教 育 研 究 開 発 推 進 セ ン タ ー︶ を お 招 き し︑
﹁ <
新しい能力 >
の形成と評価 —
地域公共人材
の育成のために﹂と題して︑研究会を開催した︒
本ユニットで研究するソーシャルスキルは︑地
域において住民と連携し︑公的セクター︑民間
営利セクター︑民間非営利セクターといったセ
ク タ ー間 の 垣 根 を 越 え た 関 係 性 を 構 築 す る こ と
ができる能力と言える︒そうした能力は︑ <
新
しい能力 >
と同等あるいはそれに含まれるも
のと考えられる︒松下氏からは︑ <
新しい能力
への注目︑講義からアクティブラーニングへ
>
の教育変化とディープ・アクティブラーニング
による能力形成︑ルーブリックを含むパフォー
マンス評価モデルの提示が新潟大学歯学部の事
例とともに紹介がなされた︒ この上で︑松下氏
より地域公共政策士制度について︑地域公共人
材の学問的・職業的なプロフィールを定義する
こと︑使える資源を確認してプログラムデザイ
ン︵ 一般的能力と分野固有の能力に関する学習
成果/コンピテンスの定義︶をすること︑プロ
グ ラ ム の 質 保 証 の た め に コ ー ス ツ リ ー︵ カ リ
キュラムマップ︶と履修支援が必要なこと︑評
価タイプ︵ パフォーマンス評価︑ポートフォリ
オ︶と教授・学習アプローチ︵ディープ・アクティ
ブラーニング︶を互いに選択することの提言が
24
共生の言語学
市民の日本語へ
村田和代︑松本功︑深尾昌峰︑三上直之︑
重信幸彦著 ひつじ書房 二〇一五年
︱対話のためのコミュニケーションモデルを作る︱
村田和代編著 ひつじ書房 二〇一五年 山 希 美 枝 を 含 む︑ 医 療︑ 福 祉︑ 環 境︑ 政 策 等 の 分 野 か ら 5 名 の 論
文が掲載されている︒ 第3部では︑司会者︵ ひつじ書房 松本氏︶
究 員 龍 谷 大 学 政 策 学
部准教授︶
深 尾 昌 峰︵ L O R C 研
究 員 龍 谷 大 学 政 策 学
部教授︶
村 田 和 代︵ L O R C 研
る一冊︒
た異なる視点から考え
ていくかについて︑社会言語学やNPO論︑民俗学︑社会学といっ
い る︒ 民 主 主 義 の 基 盤 と な る 対 話 や 話 し 合 い を ど う 生 み 出 し 育 て
組 み︑ そ れ を 可 能 に す る よ う な 日 本 語の あ り 方 に つ い て 議 論 し て
域 社 会 の ロ ール モ デ ル を 共 有 で き る よ う な 市 民 の 記 憶 の 構 築 の 仕
何 か に つ い て 具 体 案 を 提 示 し て い る︒ 重 信 幸 彦︵ 民 俗 学︶ は︑ 地
の 社 会 実 践 活 動 を も と に コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン か ら み る 市 民 性 と は
可 能 性 に つ い て 述 べ て い る︒ 深 尾 昌 峰︵ 非 営 利 組 織 論︶ は︑ 自 身
技術社会論 は
) ︑現代社会における市民意識の変容と︑ミニパブリッ
ク ス と い う 新 し い コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン の 方 法 を 通 し た 市 民 参 加 の
研 究 の 可 能 性 に つ い て 論 じ て い る︒ 三 上 直 之 環
( 境 社 会 学・ 科 学
コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン の エ ッ セ ン ス と 市 民 の 日 本 語に む け て の 言 語
合いにみられる特徴をあげながら参加型の話し合いを可能にする
い う 構 成 で あ る︒ 村 田 和 代︵ 社 会 言 語 学︶ は︑ 市 民 参 加 型 の 話 し
には﹂をもとに出版された︒まず︑松本功︵ひつじ書房 房主︶が﹁ 市
民 の 日 本 語﹂ と い う 課 題 を 投 げ か け︑ そ れ ぞ れ の 筆 者 が答 え る と
本 書 は︑ L O R C フ ェ ーズ 3 で 開 催 し た 公 開 研 究 会﹁ 市 民 の た
め の コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン ︓ 地 域 社 会 の 主 体 的な 担 い 手に な る た め
︱持続可能な社会をめざして︱
言 語・ コ ミ ュ ニ ケ︱ シ ョ ン 研 究 は︑ 持 続 可 能 な 社 会 の 構 築 に ど
の よ う に 貢 献 で き る の か︒ 本 書 は︑ こ の 課 題 に 取 り 組 む 実 践 的 な
言 語・ コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン 研 究 の 報 告 に︑ 医 療・ 福 祉・ 政 策・ 環
境分野からの視点を加えた論文集である︒ 分 野 を 超 え た 対 話 を 通
し て︑ 持 続 可 能 な 社 会 や 共 生 と 言 語・ コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン 研 究 を
考 え る た め の 一 冊︒ L O R C フ ェ ー ズ 3 で 開 催 さ れ た ラ ウ ン ド・
部 は︑ 言
テ ーブ ル﹁ ウ ェ ル フ ェ ア・ リ ン グ イ ス テ ィ ク ス を 考 え る ︓ 持 続 可
能 な 地 域 社 会 形 成 に む け て﹂ を も と に 出 版 さ れ た︒ 第
部で
2
は︑ さ ま ざ ま な 領 域 の 研 究 者の 報 告 と し て︑ L O R C 研 究 員 の 土
ている言 語学研究 者6名による論文 が掲 載 さ れ て い る︒ 第
司 法・ ま ち づ く り・ 多 文 化 共 生 と い っ た 現 場 で 実 践 的 研 究 を 行 っ
語・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 研 究 者 か ら の 報 告 と し て︑ 医 療・ 福 祉・
1
と参加者 名︵LORC研究員 深尾昌峰ほか︶が﹁ 共生の言語学﹂
というテーマをめぐる座談会が掲載されている︒
C研究員 龍谷大
学政策学部教授︶
村田和代︵ LOR
3
介
紹
書
図
LORCではさまざまな分野の研究員が活動に参加しています。ここではその一端をご紹介します。
26
公共的な目的のために︑ 自らの職業を通じて培ったスキルや知識を提供す
途とし︑そのための調査研究事業であった︒プロボノという言葉は﹁ 社会的・
振興の看板事業でもある地域力再生事業にプロボノ導入を目指すことを目
する調査研究﹂ の成果報告を出版用に編集したものである︒ 京都府は地域
本 書 は︑ 京 都 府 立 大 学 の 学 内 シ ン ク タ ン ク 京 都 政 策 研 究 セ ン タ ー が︑
2013年度に京都府との協働研究として実施した﹁ プロボノの実態に関
ないだろうか︑ という逆転の発想を利用した縮小都市政策が︑ 縮小し破綻
都 市 の 縮 小 力 を 望 ま し い﹁ 都 市 の﹁ か た ち﹂﹂ を 達 成 す る 方 向 で 活 用 で き
挑戦も存在している︒都市の縮小が常態化し︑反転する気配がないとすれば︑
た不良資産化した﹁ 空き﹂を再活用し︑
﹁ 小さく︑賢く︑成長する﹂ための
小﹂し︑時に破綻している︒しかしそこには︑空き家や荒廃地︑廃校といっ
て出版された︒急激な人口減少と産業の衰退のために︑世界中の都市が︑﹁ 縮
本書は︑破綻からの再生を目指すデトロイトとトリノの試みを取り上げ︑
そこからその具体策を学び︑ 日本が進むべき道を導き出すことを目的とし
縮小都市の挑戦
るボランティア活動﹂ を意味している︒ これまで日本のプロボノは無料法
している都市の再生の鍵となる︒ そこで︑ 自動車産業の拠点都市として共
地域力再生とプロボノ
律相談や︑無料経営診断のような形で成長してきたが︑本書では︑行政︵公共︶
に
がプロボノをいかに活用して地域再生に取り組むかという視点で国内外の
トリノを対象に︑ 両都市の縮小都市政策を取り上げる︒ また人口減少と高
︱行政におけるプロボノ活用の最前線︱
事例を紹介している︒ 国内では︑ 東京で新しい取り組みが始まっている具
齢化の最先端を走る日本においても︑都市間協働
矢作弘著 岩波新書 二〇一四年 体的な動きを報告し︑ 海外では︑ 米国の最大のプロボノ団体の紹介を行っ
杉岡秀紀編 公人の友社 二〇一五年 ている︒ また︑ 米国では連邦政府が企業にプロボノを促す運動もあること
ワードに︑都市が縮小していくことを好意的に捉えることを提唱している︒
……No.3
[企画]
[編著]
[著]
杉岡秀紀
青山公三・鈴木康久・山本伶奈
連携や広域連合をキ ー
世紀史を奔走してきた一方で︑ 縮小都市になって久しいデトロイトと
が報告されている︒ そして最後に京都府での取り組みを紹介しつつ︑ 今後
の行政におけるプロボノ活動の方向性について述べている︒
ブックレット
矢 作 弘︵ L O R C 研 究 員
の示唆を与える一冊である︒
﹁ 大きくなることはいいことだ﹂という成長神話からのパラダイムの転換へ
/
20
龍谷大学政策学部教授︶
27
LORC ジャーナル
杉 岡 秀 紀︵ L O R C 研 究
員 京 都 府 立 大 学 公 共 政
策学部講師︶
行政におけるプロボノ活用の最前線
京都政策研究センター
地域力再生とプロボノ
公人の友社
Relational Practice in Meeting Discourse in New Zealand and
Japan (Hituzi Language Studies No.1)
Kazuyo Murata, Hitsuji Shobo, 2015
While transactional talk is highly valuable in the workplace, relational talk plays an equally significant
role by contributing to good workplace relations. This book is the first empirical cross-cultural study on
relational talk in English and Japanese based on authentic business discourse. It investigates aspects of
Relational Practice in workplace meetings in New Zealand and Japan, focussing on small talk and humour
which can be considered exemplary relational strategies. The research takes a qualitative approach to
the data analysis and involves a contrastive study using interactional
sociolinguistic analytic techniques. It examines how humour and small
talk are not only perceived and evaluated but also enacted in meetings
in Japan and New Zealand. The book is a well-organised investigation
of an area of academic research that has so far received very little
attention, i.e. a cross-cultural comparison of small talk and humour.
Kazuyo Murata (LORC Resercher, Professor, Ryukoku University
Faculty of Policy Science)
28
ブックレット「地域ガバナンスシステム・シリーズ」最新刊
カーボンマイナス
ソサエティ
……編著
龍谷大学地域公共人材・
政策開発リサーチセンター ……企画
定松 功
クルベジでつながる、
環境、
農業、
地域社会
地域ガバナンスシステム・シリーズ……No.18
公人の友社
カーボンマイナスソサエティ―クルベジでつながる、環境、農業、地域社会
(地域ガバナンスシステム・シリーズ No. 18)
・編著 定松功
・出版 公人の友社 2015年
・定価 本体1,
400円+税
・目次
第1章 カーボンマイナスプロジェクトの全体像
第2章 地域のバイオマスを活用した炭づくりと農業
第3章 クルベジの流通と地域ブランディング
第4章 地域との連携で広がる大学発︕プロジェクト
第5章 カーボンマイナスソサエティと持続可能な社会の構築
LORC ジャーナル 地域協働 第7号
発行日
2015年9月 2 0日
編集・発行
龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)
〒 612-8577 京都市伏見区深草塚本町 67
発行人 / 白石 克孝
編集人 / 佐倉 弘祐
LORC ジャーナル
29
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