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天文学習のための自作教具
中学第二分野 天文学習のための自作教具 栃木県鹿沼市立北押原中学校 目 的 中学 3 学年で履修する天体の学習は、指導が難しく、 生徒の理解も十分でないのが実情である。その理由と しては、下記のようなことが考えられる。 ①夜間や長期間の観察が必要なため観察の実施が困難 であり、実体験が少ない。 ②宇宙という 3 次元の空間を 2 次元の平面図で書き表 して学習を進めるため、指導・理解が難しい。 ③視点が地球から見た宇宙、宇宙から見た地球という ように変わるが、視点を変えて考えるのは難しい。 ④学習の補助となる教具が極めて少ない。 これらの問題を解決するためには、生徒が分かりや すく扱いやすい教具を開発して、教具を用いた実験を 通しての学習が望まれると考え、2 教材を開発した。 概 要 天体の学習の中でも「金星の満ち欠け」と「季節に よる太陽の南中高度の違い」は、理解が特に難しい。 「金星の満ち欠け」の教具では、写真 2 のように金 星の満ち欠けの原理を容易に理解できるばかりでな く、大きさの変化や星座の中を金星が移動して見える 原理も学習できるようにした。 杉 本 智* 「季節による太陽の南中高度の違い」の学習では、 図 1 の説明図を用いて理解させていたが、理解は難し かった。この教具では、季節によって ①太陽の南中高度が変わる ②昼と夜の長さが変わる ③日出・日没の方位が変わる 理由を実験によって学習でき、理解を容易にすること ができた。 教材・教具の製作方法と学習指導方法 Ⅰ.金星の満ち欠けや動きを調べる教具 1. 材料と製作方法 ・回転円板(直径 40cm)・卓球ボール・両面テープ ・ 3 × 0.9cm 長さ 23cm の角材・ 40W 電球とソケット ・太さ 8mm の丸棒、直径 8mm 円形磁石とワッシャ ・塩ビパイプ(長さ 6cm、内径 18mm-22mm) ・星座図を書く 18 × 80cm 程度の厚紙 ・軌道図を書く 55cm 角の厚紙・長さ 65cm の角棒 装置は写真 1 のように、回転円板と支持具に付けた 電球と卓球ボールからできている。電球と卓球ボール の指示棒の距離は 19cm とする。支持具は両面テープ で回転円板に付ける。白い卓球ボールを半分黒く塗っ た卓球ボールとすぐに取り替えられるように、支持具 図 1 地軸の傾きと太陽の南中高度や昼間の長さ * 32 すぎもと さとる 栃木県鹿沼市立北押原中学校 教頭 〒 322-0046 栃木県鹿沼市樅山町 297 蕁 (0289) 62-3473 E-mail [email protected] の支持棒の先には円形磁石を付け、卓球ボールには ワッシャを接着させている。 軌道図は、回転円板の外側と半径 26cm の所に円を 描き、金星と地球の各月の位置を示す。写真の教材は 1999 年の位置を記入してある。金星と地球の位置は天 文年鑑などの年表や天文シミュレーションソフトで調 べることができる。 写真 1 「金星の満ち欠け」の自作教具 2.実験の方法と結果 (1)金星の満ち欠けと大きさの変化 ①部屋を暗くし、太陽に見立てた電球を点灯する。 金星に見立てた卓球ボールの位置を変えていき、 写真 2 のように金星の満ち欠けのようすを調べる。 ②実験の結果を記録するためには、部屋を暗くした 状態では不便である。そのため、①で金星の満ち 欠けの原理が理解できたならば、卓球ボールを半 分黒く塗ったものに取り替えて部屋を明るくして 実験を進め、ワークシートに記録をとる。 ③地球と金星の位置関係によって金星がどのような 形に見えるかをワークシートに記入していくが、 この時、写真 1 のような視野を制限するパイプを 通して観察させる。この塩ビ望遠鏡の太さと長さ は金星が最も地球に近づいた時に金星(卓球ボー ル)が視野一杯に見える太さのものを用いる。 ④この実験教具を用いて ・金星がいつどの方向の空に見えるか ・金星が夜中に見ることのできない理由 を考察させる。 (2)星座の中を移動していく金星 ①回転円板の下に軌道図を置く。 ②金星が星座の中を移動するようすがイメージとし て分かるように、装置の背景に星座図を配置する。 ③金星に見立てた卓球ボールは用いず、写真 3 のよ うに、金星と地球の位置を棒で結ぶ。始めに地球 の 7 月の位置と金星の 7 月の位置を棒で結び、星座 図に⑦と記入した円形シールを貼り付ける。 ④③と同様に 8 月∼ 11 月の各月ごとに金星位置を調 べ、⑧∼⑪のシールを貼り付けて記録していく。 実験結果は図 2 のようになる。地球と金星の位置 関係が変わっていくことによって、星座の中を金星 が移動して見える速さや方向が変わることが実体験 として理解できる。 写真 2 実験による金星の満ち欠けのようす 写真 3 星座の中を金星が移動していくようすを調べる 33 図 2 実験結果(星座絵はイメージ) Ⅱ.太陽の南中高度や昼夜の長さの変化を調べる 教具 1. 材料と製作方法 ・直径 23cm 地球儀 ・ 2cm 円形磁石とワッシャー ・40W 電球とソケットを高さが 13 ∼ 21cm に変えられ る支持具に付けた物 ・「地面を示す円板」(直径 9cm の円板に 5mm ごとに 同心円を記入し、東西南北の方位線を記入する。中 央に 20mm の棒を立てる) ・「円形分度器」直径 9cm の厚紙に 15 °ごとの線を記 入し、0 から 24 の目盛りを振る。 ・昼と夜を区切る板(高さ 36cm 幅 46cm) (写真 4 参 照) 地球儀を支えるアームの無い地球儀を用い、日本の 位置に円形磁石を取り付ける。地球儀の支持棒を一端 外して北極の所に円形分度器を取り付ける。地球儀の 足の部分には、春分・夏至・秋分・冬至に地球儀が太 陽の方向に向く方向に季節を書いた紙を貼り付ける。 「地面を示す円板」の裏側の中央にはワッシャを接着 し、磁石で取り付けが容易になるようにする。 写真 4 太陽の南中高度や昼夜の長さの変化を調べる教具 34 2.実験の方法と結果 (1)各季節における太陽の南中高度を求める ①南中位置が分かりやすいように、昼と夜を区切る板 の間に地球儀を置く。 ②地球儀の足に表示した春分・夏至・秋分・冬至の何 れかを昼と夜とを区切る板に対して直角になるよう に調整する。 ③日本の位置に「地面を示す円板」を付け、円板に記 入した南北の方位と地球儀の南北の方位を合わせる (写真 5 参照)。 ④太陽に見立てた電球を、地球儀の日本の高さと同じ 高さになるよう調節し、地球儀から約 1m 離し、昼 と夜を区切る板に直角の位置に置く。 潸「地面を示す円板」が南中位置になるように地球儀 を回し、部屋を暗くして電球を点灯させ、棒の影の 長さを 1mm 単位で読み取る。 澁実験で得られた影の長さをもとに、図 3 の分度器を 用いて太陽の高度を求める。 澀各季節について同様に調べる。 実験の結果、冬至の南中高度が 30 °、春分・秋分に は 53 °、夏至には 76 °になることが分かる(精度は 1 ° 程度が可能)。 写真 5 「地面を示す円板」の南北を地球儀に合わせる この教具では、日本の各季節において、日の出から 日没までの時間を直接測定することができ、実験を通 してその理由を理解することができる。 図 3 影の長さから太陽の高度を求める図 写真7 昼と夜の長さを調べる実験の様子 (電球は付けなくて良い) (2)日出・日没の方位が変わることを調べる ①(1)と同様に季節を合わせ、日本の位置を南中の 位置ではなく、日出や日没の位置付近に合わせる。 ②各季節における、日出と日没の頃に影の伸びて いる方向を調べる。 春分・秋分の日の出・日没時の影は、真西・真東 の方向にでき、夏至の日の出時刻の影の方向は、真 西よりも南に寄ったところにでき、日没時には逆に 真東よりも南に寄ったところにできる。 写真8 日本の位置を日の出に合わせ、円形分度器を0に合わせる 実践効果 写真 6 夏至の日の出の時の影のでき方 (3)昼と夜の長さが季節によって異なることを調べる ①写真 8 のように、「地面を示す円板」は取り外し、 昼と夜を区切る板の間に地球儀を置く。 ②地球儀の足に示されている春分・夏至・秋分・冬 至の何れかに地球の位置を合わせる。 ③日本の位置が日の出となるように地球儀を回して合わ せ、円分度器の“0”をその季節の矢印に合わせる。 ④日本の位置が日没の位置となるまで地球儀を回転 させ、円形分度器の数字を読み取る。この数字が 日の出から日没までの時間となる。 ⑤各季節における値を求める。 春分・秋分の時が 12 時間、夏至が 14.5 時間、冬至 が 8.5 時間となる。 黒板を用いた図示では理解が難しかった生徒も容易 に理解することができ、「分からないという生徒の声」 が消え、テストの正答率も非常に上がった。また、塩 ビ望遠鏡を用いた観察では、地球と金星の距離の変化 によって、金星の大きさがすごく変わって見えること に驚いたり、天文学習が面白いという声が聞かれるよ うになった。 その他補遺事項 ・支持金具の無い地球儀は、渡辺教材社(埼玉県草加 市松江 6-3-11 電話 048-936-0399)かケニス教材社で 販売されている。 ・星図の中の金星位置は、本来無限の距離にある天球 (星図)を地球のすぐ外側に配置したため正しい位 置ではない。この星図は、あくまで金星の動きを分 かりやすくするためのイメージ図である。 35