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X線天文衛星すざくを用いた 超新星残骸 Cygnus Loop 西の破れ領域の

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X線天文衛星すざくを用いた 超新星残骸 Cygnus Loop 西の破れ領域の
X 線天文衛星すざくを用いた
超新星残骸 Cygnus Loop 西の破れ領域の観測
大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻
博士前期課程 2 年
米森 愛美
2013 年 2 月 1 日
概要
宇宙には最初軽元素しか存在していなかったが、星が進化する過程で重元素が作られ、
星の一生の終わりに起こす超新星爆発により重元素が宇宙に供給される。この超新星爆発
により放出した重元素の分布の全貌は、超新星爆発の痕跡である超新星残骸の重元素の高
温プラズマを観測することにより明らかにできる。この高温プラズマは X 線で輝いてお
り、また、古い超新星残骸は X 線でその全体像を見ることができる。したがって、古い超
新星残骸である Cygnus Loop を X 線観測することで Cygnus Loop 全体の重元素分布が明
らかになる。
先行研究により、視直径約 3 °の円形をした Cygnus Loop からの X 線放射は高温プラ
ズマからの熱放射であることがわかっている。また、その構造は重元素が豊富な噴出物
成分を ISM 起源のシェル成分が取り囲んでいることが明らかになっている。この Cygnus
Loop に付随する西の破れ領域は表面輝度が極端に低く、シェル成分から突出したような
視直径約 0.5 °の半円形をしている。同様のシェル成分から突出した構造を持つ南の破れ
領域では、噴出物成分がシェル成分を押し出していることが X 線観測から既にわかって
いる。しかし、西の破れ領域の起源はわかっていないため、本研究では西の破れ領域の起
源を探ることを目指し、すざく衛星を用いて西の破れ領域を観測した。
その結果、西の破れ領域の X 線スペクトルは 1 温度成分の光学的に薄い衝突電離非平
衡の熱的プラズマモデルで再現できることがわかった。その酸素に対する各重元素の組成
比においては Ne/O ∼1.7、Mg/O ∼0.4、Si/O = S/O ∼26、Fe/O = Ni/O ∼4 という結
果を得た。これは南の破れ領域での組成比とほぼ同等で、Ne,Mg などの軽元素に比べる
と Si,S などの重元素は高い組成を示している。さらに、西の破れ領域は近傍のシェル領
域よりも Si/O = S/O は約 4 倍高く、Ne/O や Mg/O は西の破れ領域に近いシェル領域と
同程度あるいはより低い。これは、西の破れ領域が Cygnus Loop とは別の天体ではなく、
同じ起源を持っており、Cygnus Loop の構造上、西の破れ領域の高温プラズマは ISM 起
源というよりも噴出物起源であると考えられる。次に、西の破れ領域と近傍のシェル領域
の電子密度から ISM は西の破れ領域付近で強い非一様性を示している。これは、シェル
が幾何学的に薄く、シェルの厚さは非一様で、所々で視線方向にも破れているように見え
るという今までの結果とも矛盾しない。また、西の破れ領域周辺は ISM の密度の濃淡が
激しく、薄い密度の領域から噴出物がシェルを押し出し、外側に広がったものが西の破れ
領域であると考えられる。高温低密度の噴出物がシェルを押し出して外に広がり、断熱膨
張して西の破れ領域が形成されたと考えると、西の破れ領域の温度と密度は今までの観測
と矛盾がない。最後に、西の破れ領域を作るプラズマでは噴出物起源と ISM 起源の物質
がともに見えていると推測できるが、本研究での観測では統計が不十分なために分離でき
ていないと考えられる。以上から、西の破れ領域は Cygnus Loop の噴出物起源の成分が
ISM 起源の成分を押し出したことが起源であると結論付けられる。
目次
第 1 章 超新星残骸と X 線放射過程
1.1 超新星 . . . . . . . . . . . . . . .
1.1.1 Ia 型超新星 . . . . . . . .
1.1.2 II 型超新星 . . . . . . . . .
1.2 超新星残骸とその進化 . . . . . .
1.2.1 自由膨張期 . . . . . . . .
1.2.2 断熱膨張期 . . . . . . . .
1.2.3 放射冷却期 . . . . . . . .
1.3 超新星残骸からの X 線の放射過程
1.3.1 熱制動放射 . . . . . . . .
1.3.2 特性 X 線 . . . . . . . . .
1.4 電離非平衡 . . . . . . . . . . . .
第2章
2.1
2.2
2.3
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11
Cygnus Loop の観測
12
Cygnus Loop . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
南の破れ領域 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
西の破れ領域 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
第 3 章 X 線天文衛星「すざく」
3.1 すざく衛星の概要 . . . . . . .
3.2 本研究に使用した搭載機器 . .
3.2.1 X 線反射望遠鏡:XRT
3.2.2 X 線 CCD カメラ:XIS
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第 4 章 Cygnus Loop 西の破れ領域の観測とデータ解析前処理 (データリダクショ
ン)
28
4.1 すざく衛星による西の破れ領域の観測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
4.2 XIS のデータ解析前処理 (データリダクション) . . . . . . . . . . . . . . . . 29
4.2.1 Good Time Interval (GTI) の決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30
4.2.2 西の破れ領域の全体の X 線画像の作成 . . . . . . . . . . . . . . . . 30
4.2.3 スペクトル抽出のための領域の取り方 . . . . . . . . . . . . . . . . 32
4.2.4 スペクトルの抽出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
第 5 章 スペクトル解析
35
5.1 応答関数の準備 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
5.1.1 rmf . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
5.2
5.3
5.4
5.1.2 arf . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.1.3 レスポンスファイルの足し合わせ . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
バックグラウンドの取り扱い . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.2.1 非 X 線バックグラウンド (NXB) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.2.2 その他のバックグラウンド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
スペクトルの足し合わせ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1 温度成分の光学的に薄い衝突電離非平衡の熱的プラズマモデルによるフィッ
ティング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
35
36
36
36
37
38
39
第 6 章 議論
46
6.1 西の破れ領域の起源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46
6.2 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49
謝辞
51
参考文献
53
第 1 章 超新星残骸と X 線放射過程
1.1
超新星
新星爆発とは天体が数日の間に突然数万倍以上も明るくなり、数ヶ月から数年かけて
ゆっくり暗くなっていく現象である。この新星 (nova) は、激変星の中でガスが白色矮星
表面に降り積もっていき、臨界質量や温度に達したときに起こる水素の熱核暴走反応によ
るものである。これに対して、超新星 (supernova : SN) は、さらに数万倍明るく、通常の
星の数億から数十億倍もの光度に達する。これは超新星残骸が属する銀河 1 個にも相当す
る明るさである。新星は星の表面層での爆発であるのに対し、超新星は恒星進化の最終段
階で起こる、その恒星自身の大部分を吹き飛ばす宇宙最大規模の爆発であり、これにより
重元素が宇宙に供給される。近年の観測により、超新星爆発は 1 個の銀河あたり数十年に
1 回の割合で起こると推定されている。しかし、我々の銀河では太陽系が銀河面にあり、
銀河面物質による吸収のためにこれまで可視光で観測されたことは少なく稀な現象であっ
た。しかしその中には、古い文献にその現象が記録されているものもあり、現在その残骸
が同定されているものは、SN185、SN393、SN1006、SN1054(かに星雲)、SN1181(3C58)、
SN1572(Tycho 超新星残骸)、SN1604(Kepler 超新星残骸) の 7 個である。ここで、数字は
超新星の出現が記録された年度を示している。
超新星はスペクトルの様子によって 2 種類に大別される。可視光の観測において水素の
吸収線 (バルマー線) が観測されないものを I 型超新星、水素の吸収線が目立つものを II 型
超新星と呼ぶ。つまり、I 型超新星は水素の外層に囲まれていない星が爆発したものであ
り、II 型超新星は水素の外層に囲まれている星が爆発したものである。また、それぞれの
光度曲線 (光度の時間変動を示す曲線) にも違いが見られ、超新星はその光度曲線によっ
てさらにいくつかの型に分類され、a、b など小文字を添えて示す。これらの超新星の起
源としては Ia 型超新星は中小質量星の炭素と酸素の核燃焼の暴走による爆発であり、II 型
超新星は大質量星の重力崩壊によって起こる。以下でそれぞれの特徴と起源について詳し
く述べる。[1][3][4]
1.1.1
Ia 型超新星
Ia 型超新星では明るさが最大になったあと、その光度曲線が経過時間の指数関数で表
されるという特徴が見られ、超新星ごとの個性は小さい。Ia 型超新星は、爆発後 20 日程
度で絶対等級-19 等ほどの極大に至り、30 日程度で 3 等ほど減光する。その後は 100 日あ
たり 1.5 等ほどの割合で減光する。
Ia 型超新星に至るシナリオは 2 つある。一つ目のシナリオは白色矮星と普通の星が連
星である場合である (Single Degenerate : SD 説)。恒星はその質量に応じて異なった進化
1
をたどるが、Ia 型超新星を起こす星は太陽質量 (M⊙ と表示する) の 3 ∼ 8 倍の恒星が進化
した形態と考えられている。一般の恒星は、核融合による発熱のために高温になる。その
結果、内部圧力が高くなり、星を押しつぶそうとする重力とバランスを保っている。しか
し、恒星の核融合の燃料がなくなり発熱しなくなると、重力により収縮し、高密度にな
る。すると、電子の縮退圧により重力を支えるようになり、このような星を白色矮星とい
う。Ia 型超新星を起こす恒星では中心部の核融合により炭素や酸素が生成され白色矮星
になる。これが普通の星と連星系をなしている場合、普通の星から物質が降着してくる。
白色矮星の質量が増えると、押しつぶそうとする重力が強くなり、やがて電子の縮退圧で
は支えられなくなる。その限界質量をチャンドラセカール質量と呼ぶ。チャンドラセカー
ル質量を超えると、白色矮星の中心部は収縮する。すると中心の密度と温度が上昇し、炭
素と酸素が爆発的に燃焼する。そのとき生じる核燃焼のエネルギーが重力エネルギーを上
回るため白色矮星全体が吹き飛び、Ia 型超新星になる。もう一つのシナリオは白色矮星
同士の連星である場合である (Double Degenerate : DD 説)。白色矮星同士の連星が合体
し、そのときの質量がチャンドラセカール質量をこえていれば、白色矮星は重力を支えき
れずにつぶれ、温度と密度が上昇して炭素と酸素の核燃焼が爆発的にはじまり、やはり Ia
型超新星になる。観測的に爆発前の白色矮星の伴星が赤色巨星ならば前者の SD 説、超新
星残骸の爆発後に伴星がみつかっていないならば後者の DD 説が支持される。最近は前者
を支持する理論も提唱されている [5]。
どちらのシナリオでも核反応によって星の大部分は 56 Ni へと変わる。この 56 Ni は不安定
原子核なので、その後 56 Ni → 56 Co → 56 Fe という崩壊過程 (56 Ni の半減期は約 5.6 日、56 Co
の半減期は約 77 日) により、安定な 56 Fe へと変化する。Ia 型超新星の爆発は最初は高温
であるが、断熱膨張によりせいぜい数時間程度で温度は下がり、その状態で物質が吹き飛
ぶ。その超新星は数ヶ月ほども輝いているが、超新星が輝くエネルギーはその光度曲線か
ら、爆発直後を除けば爆発時に生成されたこの 56 Ni から 56 Fe へと崩壊する崩壊熱である
ことがわかる。その明るさから他のタイプの典型的な超新星よりも多量の 56 Ni を生成し
ていることもわかる。[1][3][4][6]
1.1.2
II 型超新星
可視光の観測において水素の吸収線が観測されるものを II 型超新星と呼ぶ。その光度
曲線は Ia 型超新星よりも個々のばらつきが大きい。
II 型超新星の起源とされる星は約 10M⊙ 以上の重い星である。このような重い星の恒星
内部での核反応は、最も安定な元素である 56 Fe が生成されるまで進む。その結果、中心
部に 56 Fe の芯を作り、その周囲に順に軽い元素が層状に取り囲む「玉ねぎ構造」を形成
する (図 1.1)。生成された 56 Fe の芯はそれ以上核融合反応が進まないために発熱せず、外
層の圧力により収縮し、密度が上がり光分解反応を起こす。これは吸熱反応のため、中心
部の圧力は減少し、重力崩壊を起こす。さらに中心部が高密度になると中性子の核を形成
するようになり、中性子の縮退圧によって収縮は止まる。
56
Fe + γ → 134 He + 4n − 124.4MeV
(1.1)
He → 2p + 2n − 28.3MeV
(1.2)
4
2
図 1.1: 恒星内部の玉ねぎ構造
その後もさらに落ち込んでくる外層が中心核表面で跳ね返され、外側に向かって強い衝撃
波が生じ外層を吹き飛ばす。その結果、表面に残されていた水素の外層によってバルマー
吸収線が観測される。一方、中性子の縮退圧でも重力を止められない場合、さらに収縮し
てブラックホールになる。[1][4]
1.2
超新星残骸とその進化
超新星爆発によって、星の外層物質が大量に星間空間に放出される (噴出物 : ejecta)。噴
出物と星間物質 (interstellar matter : ISM) との衝突は強い衝撃波により加熱され、107 K
以上に達する高温プラズマになる。爆発により生じた強い衝撃波は、ISM を取り込みな
がら球対称に広がっていく。これが超新星残骸 (supernova remnant : SNR) である。超新
星残骸はその後何万年もの間、可視光、電波、X 線などで輝く。以下順にその膨張の様子
を見ていく。
1.2.1
自由膨張期
超新星爆発の後、吹き飛ばされた星の外層は v ej ∼ 104 km/s の速度で ISM 中に放出さ
れる。放出された物質密度は ISM 密度に比べて高い、つまり膨張の初期段階で掃き集めら
れる ISM の量は放出された質量に比べて非常に少ないので、噴出物は等速で広がってい
く。この段階を自由膨張期という。噴出物は断熱膨張により温度が下がり、冷たい物質が
高速で広がっていることになるのでほとんど見えない。爆発から時間 t が経過したとき、
噴出物は半径 R = v ej t に広がっている。また、爆発による運動エネルギー E0 は
1
2
E0 = Mej vej
2
3
(1.3)
である。ここで、M ej は噴出物の質量である。噴出物は膨張しながら、ISM を掃き集め
る。掃き集められた ISM の質量が噴出物の質量 M ej に等しくなるという条件、
Mej =
4π
ρ1 Rs3
3
(1.4)
が成り立つ半径 Rs に達したとき、自由膨張は終わり、次の段階へと移行するとみなせる。
ここで ρ1 は ISM の密度である。自由膨張期の期間を t = tf ree とすると、式 (1.3) と式 (1.4)
から
( ρ )−1/3 ( M )1/3 (
)−1
vej
1
ej
2
tf ree = 2.1 × 10
year
(1.5)
1cm−3
M⊙
104 km · s−1
となることがわかる。[1][4][6][7]
1.2.2
断熱膨張期
式 (1.4) が成り立つ程度に超新星残骸が進化すると、噴出物と ISM との間に衝撃波が発
生し、噴出物の膨張速度は減衰し始める。それに応じて噴出物の運動エネルギーは、掃き
集められた ISM を熱し、その熱エネルギーに移行していく。この段階ではプラズマ温度
が 107 K を超えており、十分に高いために輻射は制動放射だけである。つまり、輻射によ
る冷却はあまり効かないので、全エネルギーを保存しながら断熱的に膨張する。この時期
における膨張の様子は、点源爆発から生じる衝撃波の伝播であり、解析的に解くことが出
来る。この解は L.I.Sedov、G.I.Taylor、J.von Neumann の 3 人により独立に求められて
おり [8]、Sedov - Taylor 解 (Sedov 解) と呼ばれ、この断熱膨張期を Sedov 期とも呼ぶ。
1962 年、Shkolvskii はこの解を超新星残骸に適用した。ここでは簡単のために、一様密度
のガス中において一点で起こった爆発で生じる衝撃波の伝播について考える。また、ここ
では衝撃波静止系で考える。衝撃波面においてエネルギー発生がなく、衝撃波の伝播が一
次元で断熱的とすると、衝撃波面前後での保存則は
ρ 1 v1 = ρ 2 v2
(1.6)
p1 + ρ1 v12 = p2 + ρ2 v22
(1.7)
1 2
1
v1 + w1 = v22 + w2
(1.8)
2
2
と書かれる。ここで、ρ は密度、v は速度、p は圧力、w は単位質量あたりのエンタルピー
(w = γp/ρ(γ − 1) : ここで γ は比熱比である。) であり、下付きの文字は 1 が衝撃波面の
上流、2 が下流を示す (図 1.2)。式 (1.5) は質量流束保存、式 (1.6) は運動量流束保存、式
(1.7) はエネルギー流束保存の式を表す。
これらの式から
v2
(γ + 1) p1 + (γ − 1) p2
ρ1
=
=
(1.9)
ρ2
v1
(γ − 1) p1 + (γ + 1) p2
となり、Rankine-Hugoniot の関係式が得られる。強い衝撃波では、p2 ≫ p1 となるため、
γ+1
ρ2
∼
ρ1
γ−1
4
(1.10)
図 1.2: 衝撃波静止系で考えたときの衝撃波面の模式図。左が上流、右を下流としている。
ρ は密度、v は速度、p は圧力であり、下付きの文字は 1 が衝撃波面の上流、2 が下流を示
す。青矢印は衝撃波面に対する上流の ISM の粒子の速度、赤矢印は衝撃波面に対する下
流のシェルの粒子の速度を示す。
となる。ISM は主として水素原子だけとみなせるので、単原子分子の非相対論的理想気
体 (γ = 5/3) と考えられるので、
ρ2 /ρ1 ≃ 4
(1.11)
となることがわかる。つまり下流は上流の 4 倍の密度であり、式 (1.6) から下流の粒子の
速度は上流の粒子の速度の 1/4 になる。さらに式 (1.8) から、上流から衝撃波面を通って
下流に流れた粒子の温度が高くなることもわかる。
次に、球状に広がる衝撃波面内部の質量分布を考える。衝撃波の通過する前は一様な密
度 ρ1 であるが、衝撃波に取り込まれると衝撃波面直後は 4ρ1 となり、その内部では密度
が下がる。この密度変化について衝撃波通過前後での質量保存を以下のように考えて求め
てみる。衝撃波通過前の ISM 微小質量 dm は
dm = ρ1 dV
(1.12)
ここで、ISM の密度は衝撃波の上流の密度に対応するため ρ1 とし、体積を V とした。半
径 r における球の表面積 S は
S = 4πr2
(1.13)
となり、球を考える場合の微小体積 dV は
dV = 4πr2 dr
(1.14)
dm = 4πr2 ρ1 dr
(1.15)
と表せる。よって、
5
図 1.3: ISM における爆発前後の密度 ρ と爆発の中心からの距離 r の依存性。
と変形できる。衝撃波通過前の星の中心から半径 R までの球対称の ISM の質量 Mbef ore
は、
∫ Mbef ore
∫ R
dm =
4πr2 ρ1 dr
(1.16)
0
0
4
Mbef ore = πR3 ρ1
(1.17)
3
となる。次に、衝撃波通過後、すなわち下流領域における質量分布について考える。衝撃
波通過前と同様にして
dm = 4πr2 ρdr
(1.18)
と表せる。ここで、ρ は衝撃波面で囲まれる球内部の密度である。ρ は ρ ∼ ra として、
r = R のとき ρ = 4ρ1 となるようなスケーリング則が成立するものと仮定すると、
( r )a
ρ = 4ρ1
(1.19)
R
と表せる。ここで、a は定数で、質量保存則から a を決める。式 (1.18) と式 (1.19) より爆
発の中心から衝撃波までの距離 R での星の質量 Maf ter は
∫
∫
Maf ter
dm =
0
R
16πρ1
0
( r )a
R
r2 dr
(1.20)
R3
(1.21)
a+3
となる。同じ半径 R までの球状の ISM の質量を考えたとき、爆発の前後で質量が保存し
ているため (図 1.3)、
Mbef ore = Maf ter
(1.22)
Maf ter = 16πρ1
6
図 1.4: 半径 R までの ISM の質量が幅 dr の密度一定の球殻構造に含まれるとみなしたと
きの、ISM における爆発後の密度 ρ と爆発の中心からの距離 r の依存性。
となり、これを解くと a = 9 となる。つまり、
( r )9
ρ = 4ρ1
R
(1.23)
と表せることになる。ここで、ρ=ρ1 となるのは、r ∼ 0.86R のときであり、衝撃波面内
の ISM は掃き集められて衝撃波面直後に集まっていることがわかる。
次に、衝撃波面内部の掃き集められた ISM の密度分布は衝撃波面付近で ρ2 /ρ1 ≃ 4 と
仮定し、図 1.4 のように幅 dr の密度一定の球殻構造とみなす。このようにして、衝撃波
面内に含まれていた物質がどのくらいの厚さの領域に掃き集められているかを、簡略化し
て考えてみる。爆発の中心から衝撃波までの距離 R での表面積 SR は
SR = 4πR2
(1.24)
となるので、爆発の中心から衝撃波までの距離 R での幅 dr としたときの体積 dV は
dV = 4πR2 dr
(1.25)
である。したがって、爆発の中心から衝撃波までの距離 R での幅 dr としたときの ISM の
質量 MR は
MR = 4πR2 drρ2
(1.26)
である。これが式 (1.17) の Mbef ore と等しいはずなので、式 (1.11) も用いて、
4 3
πR ρ1 = 4πR2 dr · 4ρ1
3
(1.27)
となる。これを解くと dr = R/12 となり、球殻の厚さは爆発の中心から衝撃波までの距
離 R の 1/12 であることがわかる。
7
最後に、厳密な Sedov 解について考える。p2 ≫ p1 のとき、爆発によって生じるガスの
流れは上流の密度である ISM の密度 ρ1 と爆発によるエネルギー E0 の2つの変数で決ま
る。これらの変数と 2 つの独立変数である中心からの距離 r と爆発からの経過時間 t で無
次元量を作ると
( )1/5
r
ρ1
ξ=
(1.28)
2/5
E0
t
と表され、全ての流れは ξ によって記述される相似流となる。したがって、衝撃波の半径
Rs 、衝撃波面が通った直後の温度 kTs は
(
Rs = 5.0
(
kTs = 4.5
E0
1051 erg
E0
1051 erg
)1/5 (
)2/5 (
ρ1 )−1/5
1cm−3
ρ1 )−2/5
1cm−3
(
(
t
1000yr
t
1000yr
)2/5
pc
(1.29)
keV
(1.30)
)−6/5
となる。また、衝撃波面の進行速度 vs は
vs ≡
dRs
∝ t−3/5
dt
(1.31)
となり、t−3/5 で減衰していくことがわかる。[1][6][7]
1.2.3
放射冷却期
衝撃波の速度は時間とともに減少し、衝撃波面温度も低下する。その結果、膨張が進む
につれて輻射によるエネルギー損失が効き始め、衝撃波面の温度は下がり冷たく薄いシェ
ルを形成する。これは宇宙組成のガスを考えた場合、輝線放射のために、冷却曲線が熱的
不安定を起こす温度領域 (104 – 106 K) に入るからである。冷却曲線の熱的不安定を起こ
す領域に入ると、温度の低下とともに放射率が上がる。その結果、圧力が下がり密度が上
がる。密度が上がると、放射測度が大きくなるので、ますます冷却が効いてくる。こうし
て、冷たくて密度の高い薄いシートが形成され、やがてフィラメント構造が見えるように
なる。放射冷却によって、断熱の仮定は成り立たなくなるが、放射は等方的なので運動量
は保存される。したがって、高密度のシェルは運動量を保存したまま、その前面に ISM
を掃き集めながらさらに膨張を続ける。これを「雪かきモデル」と呼んでいる。進化の
最終段階では膨張速度が減速し、周囲の ISM の固有運動 (∼106 cm/sec) 程度になると、
シェルと ISM の区別がつかなくなる。このとき、シェル内部には密度が薄く (つまり冷
えにくい) 高温の領域が残されるものの、超新星残骸の形状は次第に消滅していく。[1][6]
8
1.3
超新星残骸からの X 線の放射過程
光学的に薄い高温プラズマを持つ超新星残骸からは、一般的に、連続成分として熱制動
放射 (free-free emission)、再結合放射 (free-bound emission)、輝線として特性 X 線 (boundbound emission) が観測される。
1.3.1
熱制動放射
制動放射はプラズマ状態などで原子核のまわりを自由電子が通過するとき、クーロン力
によって電子の軌道が曲げられ、電子に加速度が加わることによりおこる双極子輻射であ
る (図 1.5)。特に熱平衡速度分布を持つ電子からの制動放射を熱制動放射という。
図 1.5: 熱制動放射 [11]
熱平衡状態の電子の速度分布はマクスウェル − ボルツマン (Maxwell-Boltzmann) 分布
)
(
( m )3/2
me v 2
e
P (v) =
(1.32)
exp −
2πkT
2kT
で表すことができる。ここで、P は速度分布関数、v は電子の速度、me は電子質量、k は
ボルツマン定数、T は電子温度である。この速度分布で重みを付けて電子の速度について
平均する。ただし、熱制動放射に寄与する電子の速度の大きさの取りうる範囲については
エネルギー保存則から制限が付き、
1
hν ≤ me v 2
2
(1.33)
という条件を満たす。ここで、h はプランク定数、ν は振動数である。熱制動放射では電
子の運動エネルギーが電磁波のエネルギーとして放射される。量子力学によると、振動数
ν の電磁波はエネルギー hν の光子の集まりである。振動数 ν の電磁波を放射するにはエ
ネルギー hν の光子を 1 個以上放出しなければならない。放射後の電子が自由状態でいる
ためには、放射前の運動エネルギーが hν を越えていなければならないため上記のような
条件となる。
9
放出される電磁波の周波数を固定するとその周波数の電磁波を出しうる電子の速度の下
限 vmin が
√
2hν
vmin =
(1.34)
me
と与えられる。
熱制動放射は制動放射のスペクトル
dW (v, ω)
16πe6
= √
ne ni gf f (v, ω)
dωdV dt
3 3c3 me v
(1.35)
を電子の速度分布について vmin から ∞ まで積分したものになる。ここで、W はエネル
ギー放射量、ω は周波数、V は放射する体積、t は時間、e は素電荷、c は光速、ne と ni
はそれぞれ電子と陽子の数密度、gf f は Gaunt 因子で速度依存性が小さいとき使用可能で
ある。この Gaunt 因子は高々1 のオーダーであり、詳細は量子力学に基づいたプロの計算
結果を用いるのが常である。よって、
(
)
∫ ∞ dW (v,ω) 2
me v 2
v
exp
−
dv
2kT
vmin dωdV dt
dW (T, ν)
( me v2 )
∫∞
= 2π
(1.36)
2 exp −
dνdV dt
v
dv
2kT
0
となり、式 (1.34) と dω = 2πdν と ne = ni 1 より、
dW (T, ν)
25 πe6
=
dνdV dt
3me c3
(
2π
3kme
)1/2
T −1/2 ne 2 e−hν/kT g f f
(1.37)
となる。ここで、g f f は Gaunt 因子を速度について平均した量である。式 (1.37) で与えら
れる単位周波数、単位体積、単位時間あたりの放射強度を制動放射の放射率 ϵfν f と定義す
る。ϵfν f は
ϵfν f
(
)2 ( kT )−1/2
ne
dW (T, ν)
−48
= 6.3 × 10
e−hν/kT g f f
≡
dνdV dt
10−3 cm−3
10keV
(1.38)
となる。単位は erg/s/Hz/cm3 である。[1][9][10]
1.3.2
特性 X 線
原子核に束縛されている電子が超新星爆発の際の衝撃波による光電吸収や大きな運動
エネルギーを持った荷電粒子に衝突されるなどして励起した後、低い準位に移行すると、
そのエネルギー差に相当するエネルギーの光子が放出される (図 1.6)。これを特性 X 線と
いう。
一般に、原子番号の大きい (重い) 原子ほど完全電離させるには多くのエネルギーが必
要で、また同じ元素でも高階電離したイオンの電離にはより大きなエネルギーが必要とな
る。このためプラズマの温度が低い時には軽い元素の輝線が、温度が高くなると重い元素
の輝線が主となり、軽い元素はほぼ完全電離されてしまうので輝線はなくなる。[1]
1
プラズマには電磁力が非常に強いため電荷中性が破れるとただちに復元して電荷分布の中性を保とうと
する性質がある。この性質から ne = ni がよい近似で成り立つ。[9]
10
図 1.6: 特性 X 線の放射 [11]
1.4
電離非平衡
超新星爆発では衝撃波が発生し、吹き飛ばされた噴出物は加熱される。加熱前は全ての
粒子が等速で運動していたために、衝撃波加熱されると質量が大きい粒子ほど温度が高く
なる。つまり、衝撃波によって運動エネルギーが熱エネルギーになるが、電子は低温にな
り、原子核 (イオン) は高温になる。例えば、衝撃波速度が 104 km/s なら電子は 50 eV 程
度であるが、陽子 (水素原子核) は 100 keV、酸素や鉄などの重元素はさらに高い温度にな
り、熱エネルギーのほとんどはイオンが持つことになる。このとき、熱制動放射や特性 X
線を放出し、この電離状態のことを衝突電離非平衡状態と呼ぶ。その後、低温の電子と高
温のイオンとが相互作用し、電子とイオンが衝突を繰り返すことにより次第に熱平衡に近
づくことになる。そして、完全に熱平衡に達し、電離と再結合が同頻度で起こる状態を衝
突電離平衡状態と呼ぶ。
ここで、電子密度を ne 、電子の速度を v とすると単位時間に電子がイオンに衝突する
頻度は衝突断面積を σ として、ne vσ である。σ は一定とみなせるので、時間 t の間に電
子がイオンに衝突する頻度は ne vt に比例する。電子の速度が一定だと仮定すると、電子
がイオンに衝突する頻度は ne t で決まり、この値を電離パラメータと呼び τ で表す。τ が
1012 sec/cm3 程度になると衝突電離平衡になることが知られている。τ が 1012 sec/cm3 よ
りも小さい場合は、熱平衡状態に達していないことになる。
上記のように、超新星残骸の爆発直後は衝突電離非平衡状態にあり、年月が経つととも
に衝突電離平衡状態に近づく。最近は新しく衝突電離平衡を通り越した再結合プラズマが
優勢な超新星残骸も発見されており、一言で超新星残骸と言っても年齢などによってプラ
ズマ状態はかなり異なる。Cygnus Loop は衝突電離非平衡状態であり、熱制動放射や特性
X 線を含んだ希薄なプラズマの輻射モデルとして、Non-equilibrium ionization collisional
plasma model(NEI) が一般的に用いられている。今回は各元素組成の組成を別々に求め
られる vnei モデルを用いた。
11
第 2 章 Cygnus Loop の観測
2.1
Cygnus Loop
Cygnus Loop は 10000 年ほど前に起きた超新星爆発の痕跡で、断熱膨張期から放射冷
却期にさしかかった古い典型的なシェル型の超新星残骸である。超新星爆発により放出し
た重元素の分布の全貌は、超新星残骸の重元素の高温プラズマを観測することにより明ら
かにできる。この高温プラズマは X 線で輝いており、また、古い超新星残骸は X 線でそ
の全体像を見ることができる。したがって、古い超新星残骸である Cygnus Loop を X 線
観測することで Cygnus Loop 全体の重元素分布が明らかになる。さらに、Cygnus Loop
は X 線で非常に明るく、距離が約 540 pc と近傍にあり [12]、視直径が 3 °程度と大きいこ
とから [13]、今までに様々な X 線天文衛星で観測が行われてきた。それにより、Cygnus
Loop からの X 線放射は高温プラズマからの熱放射であることがわかっている。図 2.1 は
図 2.1: ROSAT 衛星で観測した Cygnus Loop の軟 X 線画像。赤色が 0.11 – 0.40 keV、緑
色が 0.40 – 0.90 keV、青色が 0.90 – 2.40 keV を示す。視直径 3 °程度のほぼ点対称に見
える白い領域が Cygnus Loop である。その点対称な構造から突き出た部分の視直径 1 °程
度の構造の南の破れ領域と、視直径 0.5 °程度の半円形に見える西の破れ領域とが見える。
Cygnus Loop の中心から少し下の領域は観測されておらず、データがないため黒くなって
いる。ただし、この画像は Cygnus Loop 周辺の表面輝度の暗い部分が見えるように輝度
調整して表示している。
12
ROSAT 衛星で観測した Cygnus Loop の軟 X 線画像であり、赤色が 0.11 – 0.40 keV、緑色
が 0.40 – 0.90 keV、青色が 0.90 – 2.40 keV を示す。露出補正や vignetting 補正などを行っ
ている (第 4.2.2 章「西の破れ領域の全体の X 線画像の作成」で詳しく述べる)。視直径 3 °
程度のほぼ点対称に見える白い領域が Cygnus Loop である。しかし、その点対称な構造か
ら突き出た部分が二箇所あり、下の視直径 1 °程度の構造を南の破れ領域 (South Blowout
: SB)、右の視直径 0.5 °程度の半円形に見える構造を西の破れ領域 (West Blowout : WB)
と呼ぶ。Cygnus Loop の中心から少し下の領域は観測されておらず、データがないため黒
くなっている。また、外縁部のシェルが低エネルギー帯で明るく、中心部分は暗いことが
わかっている。Cygnus Loop の明るいシェルの厚さは、Sedov モデルで期待される一様媒
質中の衝撃波により形成されるそれよりも薄い。これは、爆発前の星の恒星風により ISM
が吹き飛ばされ、星の周囲が空洞になり、その内部で超新星爆発が起きたことを示唆する
[14]。ここ 1000 年ほどの間に、吹き飛ばされた ISM によって形成された壁まで衝撃波が
達し、衝撃波が壁物質を加熱して薄いシェルを形成したと考えられる [15][16]。また、重
力崩壊型の超新星残骸であることがわかっており [17]、南の破れ領域ではパルサー候補星
の発見もされている [18]。
一方、図 2.2 は McDonald Observatory の 0.8 m 望遠鏡にある Prime Focus Corrector
(PFC) による Cygnus Loop の可視光画像である [19]。黄色は Hα か SII どちらかが存在、
赤色は OIII と SII がどちらも存在、青色は Hα と OIII がどちらも存在することを示す。図
2.2 より南の破れ領域に対応する部分は可視光で明瞭にフィラメント構造が見えており、
西の破れ領域に対応する部分でもフィラメント構造がかすかに認められる。
X 線観測の先行研究より、あすか衛星の観測ではシェルは常に ISM を取り込むために、
古い超新星残骸にもかかわらず常に衝突電離非平衡状態にある ISM であることが知られて
いる [20][21][22]。また、中心部分は、重元素が多く超新星爆発の化石ともいえる噴出物で満
図 2.2: McDonald Observatory の 0.8 m 望遠鏡にある Prime Focus Corrector (PFC) によ
る Cygnus Loop の可視光画像 [19]。黄色は Hα か SII どちらかが存在、赤色は OIII と SII
がどちらも存在、青色は Hα と OIII がどちらも存在することを示す。
13
たされていることが明らかになった [23]。さらに、北東端から南西端までを XMM–Newton
衛星で観測した結果、X 線放射が 2 成分の光学的に薄い衝突電離非平衡の熱的プラズマモ
デルでよく再現できることがわかった。一方のプラズマは、電子温度約 200 万度 (0.2 keV)
程度で重元素が欠乏しており、強度分布は外縁で明るい。もう一方のプラズマは、電子温
度約 600 – 900 万度 (0.5 – 0.8 keV) で重元素が豊富であり、強度分布はほぼ一様である。
これらより、前者はシェルすなわち加熱された ISM、後者は噴出物と解釈でき、重元素
豊富な高温の噴出物を重元素が欠乏している低温のシェルが囲んでいることがわかった
[24][25]。図 2.3 は X 線 CCD カメラで観測した Cygnus Loop の軟 X 線画像である。カラー
表示した部分は 2005 – 2011 年にすざく衛星で、2002 年に XMM–Newton 衛星で観測した
データによる画像であり、すざく衛星や XMM–Newton 衛星で観測できていない白黒表示
の部分は ROSAT 衛星による画像である。露出補正や vignetting 補正などを行っている。
カラー表示では赤色、緑色、青色はそれぞれ 0.2 – 0.6 keV、0.6 – 1.2 keV、1.2 – 2.0 keV
を示す。白黒表示では 0.1 – 2.4 keV を示す。図 2.4 はすざく衛星による Cygnus Loop 全
領域からの X 線スペクトルである。黒色の十字マークは生のデータ点、赤色の十字マー
クは NXB(第 5.2.1 章「非 X 線バックグラウンド (NXB)」で詳しく述べる) を示す。黒色
の縦線は S 以下の高階電離したイオンからの輝線を含むエネルギーバンドを区別する線
である。その区切られたエネルギーバンドのうち、OVII、Mg、Si のエネルギーバンドか
ら作成した輝線等価幅マップが図 2.5 であり、左上図が OVII、右上図が Mg、下図が Si の
輝線等価幅マップである。緑色の等高線は ROSAT 衛星の Position Sensitive Proportional
Counters (PSPC) での 0.08 – 0.41 keV の表面輝度を示す。OVII がシェル領域に、Mg は
Cygnus Loop 全体に、Si は中心領域から南の方に大きく分布していることがわかる。Mg の
輝線等価幅マップに顕著に見られる北部にある三カ所の穴はすざく衛星と XMM–Newton
衛星で観測されておらず、データがないため黒くなっている。
さらに、主にすざく衛星の観測では以下のようなことがわかった。
• シェルは低温の中性物質を取り込み続け、常に衝突電離非平衡状態にある [22]
• シェルは幾何学的に薄く、低温 (∼ 0.2 keV) で組成は 0.2 太陽組成と低い [26]
• シェル最外層の X 線放射には電荷交換反応が寄与している可能性が高い [27]
• シェルの厚さは非一様で、所々で視線方向にも破れているように見える [28]
• 内部を占める噴出物は、高温 (0.5 – 0.8 keV) で Si, S, Fe の組成が高い [24]
• 中心には Si,S 輝線の極めて強い領域があり、温度は 1.5 keV 以上になる [23]
• 噴出物の重元素分布は層構造をなし、Si,Fe の広がりは南西に偏っている [29]
• 偏った Si の分布の先には南の破れ領域があり、その外縁でも Si の組成が高い [30]
• Cygnus Loop から Ar の輝線を初めて検出し、噴出物起源であることがわかった [31]
• 得られた噴出物組成などからは、元の星の質量は 12 – 15 M⊙ と推定できる [32]
14
図 2.3: Cygnus Loop の軟 X 線画像。カラー表示した部分は 2005 – 2011 年にすざく衛
星で、2002 年に XMM–Newton 衛星で観測したデータによる画像であり、すざく衛星や
XMM–Newton 衛星で観測できていない白黒表示の部分は ROSAT 衛星による画像である。
カラー表示では赤色、緑色、青色はそれぞれ 0.2 – 0.6 keV、0.6 – 1.2 keV、1.2 – 2 keV
を示す。白黒表示では 0.1 – 2.4 keV を示す。
100
Counts sec−1 keV−1
10
1
0.1
0.01
10−3
1
Energy (keV)
10
図 2.4: すざく衛星による Cygnus Loop 全領域からの X 線スペクトル。黒色の十字マーク
は生のデータ点、赤色の十字マークは NXB を示す。黒色の縦線は S 以下の高階電離した
イオンからの輝線を含むエネルギーバンドを区別する線である。
15
図 2.5: 図 2.4 から作成した OVII(左上図)、Mg(右上図)、Si(下図) の輝線等価幅マップ。緑
色の等高線は ROSAT 衛星の PSPC で 0.08 – 0.41 keV の表面輝度を示す。Mg の輝線等価
幅マップに顕著に見られる北部にある三カ所の穴はすざく衛星と XMM–Newton 衛星で観
測されておらず、データがないため黒くなっている。
16
2.2
南の破れ領域
図 2.1 の点対称な構造の Cgnus Loop から大きく突出した視直径 1 °程度の構造を南の破
れ領域と呼ぶ。南の破れ領域は X 線の他、可視光、電波でも明瞭に見えている。しかし、
この領域は、Cygnus Loop がその形状を崩した部分か、あるいは視直径が1 °程度の別の
天体がたまたま同じ方向に見えているものかはっきりしなかった。X 線観測により、南の
破れ領域は Si,Fe の多い 2 成分の衝突電離非平衡プラズマモデルで表せ、X 線の強度分布、
組成比分布や温度分布の Cygnus Loop の中心部からの距離依存性は極めてなめらかに続
いていること、X 線で見られる星間吸収量が Cygnus Loop の他の部分と矛盾しないこと
から、南の破れ領域は Cygnus Loop がその形状を崩した部分であり、噴出物成分が大き
く南に突出していることがわかった。つまり、超新星爆発の衝撃波によって掃き集められ
た ISM 起源のシェルを噴出物が押し出していることが明らかになった。また、シェル成分
のフラックスの寄与が他の Cygnus Loop の場所に比べて 1 桁小さく、爆発前の星の周囲
に存在した壁の南西部分の薄さが突出構造の起源であることがわかっている。[17][28][30]
Uchida et al.(2008)[17] によって明らかになった南の破れ領域の X 線画像とスペクトル
を図 2.6 と図 2.7 に示す。図 2.6 の左図は ROSAT 衛星の High Resolution Imager (HRI)
による Cygnus Loop の強度マップと南の破れ領域の場所を示す。白い実線の丸で囲まれ
た領域が XMM–Newton 衛星で観測された南の破れ領域である。そのうち、北にある領域
を Position-8(Pos-8)、南にある領域を Position-9(Pos-9) と呼ぶ。白い点線の丸で囲まれた
領域は XMM–Newton 衛星を用いて Tsunemi et al.(2007)[24] で観測された領域、白い点
線の四角で囲まれた領域はすざく衛星を用いて Katsuda et al.(2008a)[26] で観測された領
域であり、Uchida et al.(2008)[17] で組成の比較をするため画像上に領域を示している。
図 2.6 の右図は南の破れ領域の露出補正と vignetting 補正を行った X 線の三色合成画像
であり、XMM–Newton 衛星の EPIC MOS 1 と MOS 2 を用いて作られた。赤色、緑色、
青色はそれぞれ 0.3 – 0.5 keV、0.5 – 0.7 keV、0.7 – 3.0 keV を示す。図 2.7 は Uchida et
al.(2008)[17] の観測で得られた XMM–Newton 衛星による Pos-8 の一部分の X 線スペク
トルである。黒色が MOS 1、赤色が MOS 2 を示す。十字マークがデータ点、実線が最
適モデル、ほぼデータ点とかぶっている黒色と赤色の点線が噴出物を表す成分、下方の
黒色と赤色の点線がシェルを表す成分、下のパネルはデータとモデルの残差を示す。図
2.7 を見ると、O-Heα (0.57 keV)、O-Lyα (0.65 kEV)、Fe-L complex (0.7 – 1.2 keV)、
Ne-Heα (0.91 keV)、Mg-Heα (1.34 keV)、Si-Heα (1.85 keV) が見える。一方、S の輝線
は統計が悪いため見えないことがわかる。
2.3
西の破れ領域
西の破れ領域は ROSAT 衛星の長時間観測でようやく見えた表面輝度が低い領域であ
り、Cygnus Loop から突き出たような視直径 0.5 °程度の半円形をしている。形だけをみ
れば南の破れ領域と同じように見えるが、詳しいスペクトル解析はされておらず、起源は
わかっていない。本研究では、西の破れ領域がどのようなプラズマ状態なのか、どのよう
な起源なのかを探ることを目指し、すざく衛星を用いて西の破れ領域を観測した。
17
図 2.6: 左:ROSAT 衛星の HRI による Cygnus Loop の強度マップと南の破れ領域の場所
[17]。白い実線の丸で囲まれた領域が南の破れ領域 (Pos-8、Pos-9)、白い点線の丸で囲ま
れた領域は Tsunemi et al.(2007)[24] で観測された領域、白い点線の四角で囲まれた領域は
Katsuda et al.(2008a)[26] で観測された領域である。右:XMM–Newton 衛星の EPIC MOS 1
と MOS 2 を用いて作られた南の破れ領域 (Pos-8、Pos-9) の X 線の三色合成画像 [17]。赤
色、緑色、青色はそれぞれ 0.3 – 0.5 keV、0.5 – 0.7 keV、0.7 – 3.0 keV を示す。
図 2.7: XMM–Newton 衛星による Pos-8 の一部分の X 線スペクトル [17]。黒色が MOS 1、
赤色が MOS 2 を示す。十字マークがデータ点、実線が最適モデル、ほぼデータ点とかぶっ
ている黒色と赤色の点線が噴出物を表す成分、下方の黒色と赤色の点線がシェルを表す成
分を示す。下のパネルはデータとモデルの残差を示す。
18
第 3 章 X 線天文衛星「すざく」
すざく衛星は、ISAS/JAXA の M-V-6 号ロケットにより、2005 年 7 月 10 日に内之浦宇
宙空間観測所から打ち上げられた。当初は、近地点高度 250 km、遠地点高度 550 km、軌
道傾斜角 31 °の楕円軌道に投入され、その後、搭載二次推進系により高度約 570 km の
ほぼ円軌道へ最終投入された。この章では大阪大学の修士論文の小杉修論 [1] と木村修論
[34] を参考にし、すざく衛星の概要と搭載機器について述べる。
3.1
すざく衛星の概要
すざく衛星 (図 3.1) は、2000 年 2 月に打ち上げロケットの不具合により軌道投入できな
かった Astro - E 衛星の再挑戦をかけたミッションで、「はくちょう(1979 年)」「てんま
(1983 年)」
「ぎんが(1987 年)」
「あすか(1993 年)」に続く日本で 5 番目の X 線天文衛星と
なった。衛星は直径 2.1 m の八角柱の構造を基本とし、全長は 6.5 m(軌道上で鏡筒伸展後)、
太陽パネルを広げた幅は 5.4 m である。衛星の重量は 1680 kg で、日本の科学衛星では類
をみない大型衛星である。観測に必要な電力を確保するために、太陽電池パネルの法線が
太陽から 30 °以内の方向に向ける必要がある。科学観測機器の観測視野方向は太陽電池パ
ネルの法線に垂直なので、観測できる範囲は太陽から 60 – 120 °の角度範囲に限定される。
また、すざく衛星は 1 日に地球を 15 周する。そのうち鹿
児島県内之浦の地上局の可視範囲を通過するのは 5 周で
あり、それぞれ約 10 分程度交信できる。以上のような理
由で、追跡オペレーションは 1 日 5 回のそれぞれ約 10 分
行われる。
すざく衛星には、前回のあすか衛星の性能をさらに向
上させた X 線反射望遠鏡(X-Ray Telescope:XRT)が 5
台搭載されており、それらのうち 4 台の焦点面には X 線
CCD カメラ(X-ray Imaging Spectrometer:XIS)が、1
台の焦点面には X 線マイクロカロリメータ(X-Ray Spectrometer:XRS)が置かれている。XIS は軟 X 線検出器
で、0.2 – 12 keV のエネルギー帯域をカバーし、典型的
なエネルギー分解能は 130 eV@ 6 keV である。XRS も同
様に軟 X 線検出器で、0.2 – 12 keV のエネルギー帯域を
カバーし、6 eV というかつてないエネルギー分解能を特
徴としていた。しかし、XRS は実際に軌道上でその性能
図 3.1: すざく衛星
を発揮することまで確認できたが、軌道に乗って一ヶ月
ほど経過した 2005 年 8 月 8 日に冷却用液体ヘリウムが消
19
失する事故が発生し、天体観測はできなかった。XIS と XRS よりさらに高いエネルギーで
ある 10 – 600 keV の X 線を観測するために開発されたのが、硬 X 線検出器(Hard X-ray
Detector:HXD)である。すざく衛星に搭載されているこれらの観測装置の開発は、ISAS
を中心に、大阪大学、東京大学、首都大学東京、理化学研究所、名古屋大学、京都大学等
の国内関係機関・大学及び NASA ゴダード宇宙飛行センター、マサチューセッツ工科大
学等の米国の機関・大学と協力して進められた。
すざく衛星はこれまでにない広いエネルギー帯域(0.3 – 600 keV)にわたってすぐれ
た分光性能を持ち、超新星残骸や銀河団などの高温で光学的に薄いガスの観測、ブラック
ホール流入物質の運動と時空構造、非常に遠方にある暗い原始天体の探索等その他さまざ
まな事柄を研究目的としている。[1][33]
3.2
3.2.1
本研究に使用した搭載機器
X 線反射望遠鏡:XRT
すざく XRT は、あすか XRT をひとまわり大きくした口径 40 cm の多重薄板望遠鏡であ
る (図 3.2)。塔載されている 5 台のうち、4 台は XRT-I と呼ばれ、そのそれぞれの焦点面
には XIS が搭載されている。もう 1 台は XRT-S と呼ばれ、その焦点面には XRS が塔載さ
れている。焦点距離は XRT-I で 4.75 m、XRT-S で 4.5 m である。XRT は厚さ 178 µm の
アルミニウムの薄板に金を覆ったものを同心円状に約 170 枚並べることで、小型超軽量だ
が高い効率の X 線望遠鏡を実現している。この望遠鏡は光学系として Wolter I 型とよば
れる構造で、その双曲面と放物面とをそれぞれ円錐で近似した構造である。あすか XRT
に比べ焦点距離が長くなったので、エネルギーの高い側で反射率が 2 倍 (@ 6 keV) 程度、
X 線に対する有効面積も 2 倍 (XRT-I @ 6 keV) 程度向上した [36]。アルミニウムの薄板は
レプリカミラー (replica mirror) と呼ばれ、レプリカ (replica) 法で表面粗さを抑えた鏡面
が実現し、あすか衛星で問題になった散乱を大幅に押さえ込むことができ、結像性能を改
善した。
図 3.2: すざく衛星搭載 XRT の外観 [35]
20
図 3.3 に黒色の実線で示すのが XRT-I/XIS の有効面積である。XRT だけの有効面積は
低エネルギー側で大きく、高エネルギー側で小さい。とりわけエネルギーが高くなると全
反射の臨界角が小さくなるので、結果として高エネルギー側では急激に有効面積が減少す
る。これとは別に、XIS の検出効率は空乏層の厚さで高エネルギー側の感度が抑えられ、
可視光遮断膜や表面不感層の影響で低エネルギー側の感度が下がる (第 3.2.2 章の「XIS
の応答関数」で詳しく述べる)。これらの有効面積のエネルギー依存性を実測したエネル
ギー値が 1.49 keV(Al-Kα)、4.51 keV(Ti-Kα)、8.04 keV(Cu-Kα) である。図 3.3 に示した
カーブは XRT の視野中心に対する有効面積であることに注意されたい。これに対して、
視野中心からずれた方向から入射する X 線は薄板面への入射角度が平均的に大きくなるた
め、XRT の有効面積は減少し、XIS の視野周辺部では視野中心に比べて半分以下になる。
この効果を vignetting 効果と呼ぶ。XRT-I ではあすか衛星に比べ、1.49 keV、4.51 keV、
8.04 keV で、それぞれ約 1.5 倍、2 倍、2.5 倍有効面積が増加していることを確認した。
図 3.3: X 線衛星の有効面積 (検出器の検出効率も考慮している) のエネルギー依存性。黒
色の実線がすざく XRT-I/XIS、赤色の実線がすざく XRT-S/XRS、緑色の点線が XMM–
Newton/MOS+PN、青色の点線が Chandra/ACIS-1、水色の点線が Chandra/ACIS-2 を
示す。[35]
空間分解能
望遠鏡の性能は、それによって結像した天体像がどれだけ鮮明に見えるかで決まる。そ
こで、その結像性能の指標として、点源を撮像したときに定量的にどのくらい小さく見え
るかを使う。具体的には、点源からの X 線光子を受け取る焦点面の点のうち最大強度とな
る点の半分の光子数を含む最小の円の直径 (Harf Power Diameter : HPD) で示す。ここで
点源に対する焦点面像の面輝度の分布で最大強度を示す点を中心に円内で積分した X 線強
度を、焦点面検出器の全面で検出した強度で規格化する。これを EEF(Encircled Energy
Function) と呼び、これは円の直径の関数である。また、この値が 0.5 になる直径が HPD
であり、HPD の値が小さいほど結像性能が優れているということになる。すざく XRT の
HPD は 1.9’ であり、あすかの 3.6’ よりも向
21
すざく XRT の詳細については、
「すざく」ファーストステップガイド第 4.0.3 版 (Process
Version 2.1-2.3)[33] の第 2 章も参照のこと。
3.2.2
X 線 CCD カメラ:XIS
XIS は X 線スペクトルと広い領域の X 線画像の取得を目的とし、大阪大学が中心とな
り、京都大学、ISAS、マサチューセッツ工科大学、立教大学、愛媛大学、工学院大学などの
研究者や、三菱重工業株式会社 (MHI)、日本電気株式会社 (NEC) をはじめとするメーカー
の協力で開発された。図 3.4 は全部で 4 台ある XIS のうち 1 台の X 線 CCD カメラである。
前章で示したように、すざく衛星の 4 台の XRT の焦点面にそれぞれ 1 台ずつの X 線 CCD
カメラが設置されている。すざく衛星搭載の XIS は、これら 4 台の X 線 CCD カメラ本体
に加えて、CCD のドライブや出力信号の A/D 変換、CCD 温度制御のための回路系であ
る XIS-AE/TCE (Analog Electronics / Thermal Controller Electronics)、XIS-AE/TCE
から出力される信号から X 線イベントを抽出処理し、テレメータ用のデータに編集する
XIS-DE (Digital Electronics) から構成される。
この章では XIS のハードウェア、機上と地上のデータ処理、性能に関して大阪大学の
修士論文の宮内修論 [37] と蓮池修論 [38] を参考に解析に用いたことのみ簡単にまとめる。
XIS の概要は宮内修論 [37]、蓮池修論 [38]、Koyama et al.(2007)[40] に記述されている他、
最新の情報がすざく技術文書として http://www.astro.isas.ac.jp/suzaku/doc/suzaku td/
にまとめられているので、そちらも参照のこと。
図 3.4: すざく衛星搭載の 4 台の XIS のうち 1 台の X 線 CCD カメラ [41]
22
X 線 CCD カメラ
• CCD
CCD とは Charge Coupled Device (電荷結合素子) の略であり、小型化した半導体
検出器の電極を格子状に多数分割して画素 (ピクセル) 化したものである。図 3.5 は
XIS の CCD を X 線入射方向から見た写真である。X 線 CCD は空乏層内で X 線が光
電吸収されることで発生したキャリアを読み出す。生じるキャリアの数は、入射 X
線エネルギー E に比例して、およそ (E/WSi ) 個となる。ここで、WSi は Si の平均電
離エネルギー約 3.65 eV を表す。すざく衛星ではあすか衛星に搭載された CCD カメ
ラ (SIS) に比べて空乏層の厚さが 2 倍以上になったので、7 keV 以上の高エネルギー
の X 線に対する感度が大きく向上している。XIS 4 台のうち XIS0、XIS2、XIS3 の 3
台が表面照射型 CCD (Front side Illuminated CCD : FI-CCD) であり、XIS1 が裏面
照射型 CCD (Back side Illuminated CCD : BI-CCD) である。FI-CCD は X 線が電極
側 (表面) から入射するため、電極が低エネルギー X 線の吸収層になってしまう。一
方、BI-CCD は空乏層以外を除去し、全面空乏化している。よって、X 線が電極のな
い面 (裏面) から入射するため、低エネルギー X 線に対しても高い検出効率を発揮す
る。XIS の CCD は、FI-CCD、BI-CCD のいずれも MIT Lincoln Laboratory で開発
された CCD である。これら 2 種類の CCD により、0.2 – 12 keV の X 線帯域で観測
が可能となる。撮像領域の 1 画素の大きさは 24×24 µm、有効画素数は 1024×1024、
つまり有効面積は 25×25 mm の四角形となる。これに対応する観測可能な視野は
17.8’×17.8’ である [33]。各 CCD の受光部分は 4 分割され、それぞれをセグメント
A、B、C、D と呼ぶ。各セグメントはそれぞれ独立の読みだしノードをもち、各ノー
ドで読み出される領域は水平方向 256 画素、垂直方向 1024 画素の長方形の領域にな
る (図 3.6)。これら 4 つのセグメントは同じウエハー上に作られており、セグメント
間に物理的な隙間 (ギャップ) は無いが、CCD に内蔵された読みだし回路は独立でゲ
インも異なる。
図 3.5: XIS の CCD を上からみた写真。
中央の正方形部分が受光部分であり、そ
の左に見える二つの長方形は蓄積部分
である。蓄積部分の左端頂点 (4 カ所) に
読み出しノードがある。
図 3.6: XIS の CCD の構造概念図。左
側が蓄積領域、右側が受光領域である。
23
CCD 駆動モード、ノード、電荷転送法などについては大阪大学の修士論文の小杉修
論 [1]、蓮池修論 [38]、上田修論 [39] や「すざく」ファーストステップガイド第 4.0.3
版 (Process Version 2.1-2.3)[33] などを参照のこと。
• 較正線源
XIS カメラボンネットの内部には 55 Fe 較正線源 (放射線源で半減期 2.7 年) が 2 個装
着されている。それぞれの較正線源にはコリメータがついており、XIS の CCD のセ
グメント A と D の読み出し口に遠い側のコーナー (3×104 画素程度) に X 線が照射
される。これにより、Mn-Kα (5.9 keV) と Mn-Kβ (6.5 keV) の特性 X 線によるエネ
ルギーの絶対較正を軌道上で行うことが出来る。しかし、取得した画像のコーナー
部分には 55 Fe によるイベントも含まれているため、画像解析やスペクトル解析で較
正線源を抜いて解析をする必要がある。
XIS のデータ処理
XIS の CCD で取得し、XIS-AE/TCE で A/D 変換された各画素の信号値は XIS-DE で
処理され、衛星データ処理装置を経由して地上に送られる。地上に送られたデータは、さ
らにいくつかの処理を施された上で観測者に配布される。前者を機上でのデータ処理、後
者を地上でのデータ処理と呼ぶ。一般に X 線 CCD の観測データの質は、ハードウェアの
性能と同時にこれらのデータ処理の方法に強く依存する。より詳しい説明は、大阪大学の
修士論文の宮内修論 [37]、東海林修論 [43] や科学衛星 ASTRO-E2 衛星実験計画書 2005
[42] を参照のこと。
ここで、注意しなければならないのは、地上での XIS データ処理についてである。CCD
上では、各画素に含まれる電荷量を読み出しノードに向かって画素間を順次転送してい
く。このときの電荷転送による電荷損失の確率である電荷転送非効率 (Charge Transfer
Inefficiency : CTI) の補正、観測したイベントを X 線と電荷粒子などの雑音に分類するグ
レード判定、信号電荷が複数の画素にスプリットする場合に補正するパルスハイト (Pulse
Hight : PH) 合成、検出器間のゲインなどを補正した PI (Pulse Invariant) 決定の一連の
データ処理は xispi という FTOOL ソフトウェアで行われる。ここで、XIS の場合、入射
X 線のエネルギーに対しておよそ 3.65eV/ch となるように PI は定義されている。観測者
に配布されるデータには xispi を用いた処理は施されているが、新たな Calibration Data
Base が更新された場合などには観測者が再度 xispi を適応する必要のある場合もある。
XIS の応答関数
一般的に検出器で、天体からのスペクトルを得る場合、そのスペクトルは検出器固有の
変換を受ける事になる。すなわち、X 線エネルギーを E としたとき、天体からのスペク
トル S(E) と、検出器を通して得るスペクトル情報 D(P H) の間には、
⊗
D(P H) = R(E, P H)
S(E)
(3.1)
24
図 3.7: 左:55 Fe からの X 線を XIS で取得したデータ (D(P H))。黒色の十字が 55 Fe からの
X 線を XIS で取得したデータ点で、赤色の実線はデータを最も良く表す関数形である。こ
こで 180 ADU 付近に見えるピークは検出器周辺にある酸化物の酸素から出る輝線であり、
380 ADU 付近に見えるピークは検出器周辺にある Al から出る輝線である。これらはい
ずれも較正線源によって励起された結果出ているものであり、Mn-K に対する応答ではな
い。右: 55 Fe(Mn-Kα,Mn-Kβ) からの X 線 (S(E))。[41]
つまり
∫
D(P H) =
R(E, P H) S(E) dE
(3.2)
の関係がある。R はエネルギー E が入ったときに出力としてどんな P H を出すかを表す
応答 (レスポンス) 関数である。
図 3.7 左は、55 Fe からの X 線を、XIS により測定したスペクトルである (地上実験)。55 Fe
の放射する X 線は Mn-Kα、Mn-Kβ のみであるので、元のスペクトルは図 3.7 右のように
なっている。S(E) が十分単色な X 線であれば、検出器を通して得るスペクトル D(P H)
が、あるエネルギーの X 線に対する応答を示すことになる。 様々なエネルギーに対する
応答関数 R(E, P H) は、そのようなスペクトル (=ベクトル) を並べた行列で表現できる
ことになる。
このような応答関数を構築する場合、必要な要素は大きく 3 つに分けることができる。
• エネルギー (E) とパルスハイト (P H) の関係 (エネルギースケール)
XIS のエネルギースケールは地上データ処理によって大きく影響される。エネルギー
スケールの基準となっているのは、55 Fe 較正線源から放射される Mn-Kα、Mn-Kβ
である。ただし、較正線源の照射域はセグメント A、D の読み出し口から遠いコー
ナーに限られているので、較正目的のために他の天体例えば、ペルセウス銀河団、
超新星残骸 E0102-72、Cygnus Loop などの観測も行い、受光面内での不均一を補正
している。エネルギースケールの精度は、初期の観測に関して 6 keV 付近で 10 eV
程度と評価されているが [40]、観測時期、観測モード、受光面領域の場所、あるい
は使用した Calibration Data Base に依存し、解析目的によっては精度の検討が必要
になる場合もある。
25
図 3.8: XIS の検出効率。実線が FI-CCD (XIS0)、点線が BI-CCD (XIS1) の検出効率を示
す。[40]
• 応答のプロファイル (エネルギー分解能)
エネルギー分解能も基本的には 55 Fe 較正線源で較正されている。応答プロファイル
は地上での較正試験で調べられており、その結果を使用している。
• 検出効率 (量子効率)
XIS の検出効率は、XIS 可視光遮断膜 (Optical Blocking Filter : OBF) の透過率、
XIS CCD の表面不感層 (ゲート構造や保護膜) の厚み、空乏層の厚みなどで決定さ
れる。ここで、CCD は X 線以外にも可視光や、紫外線に対しても感度があるため、
素子の上面に可視光遮断用のフィルターが取り付けられており、 これを OBF とい
う。地上実験で測定された結果をもとにモデル化された XIS の検出効率を図 3.8 に
示す [40]。ただし、後述するように、軌道上では低エネルギー側の検出効率が時間
とともに低下する現象が生じており、これに対応するための較正観測が定期的に行
われている。
XIS の応答関数に必要な情報は、大阪大学、京都大学、マサチューセッツ工科大学、ISAS
で行われた地上較正試験をもとに作成された。しかし軌道上で全ての性能が時間的に変
化しないわけではない。例えば、放射線損傷による電荷転送効率の低下、それによって
引き起こされる性能の変化は避けられない事項である。また、X線望遠鏡と組み合わせ
た状態での検出効率も実際に天体を観測して確認する必要がある。そのため、大阪大学、
京都大学、ISAS、宮崎大学、立教大学、マサチューセッツ工科大学をはじめとする機関
の XIS チームメンバーが軌道上での較正を継続しており、応答関数の更新もすすめられ
ている。その結果は、すざく web page に随時掲載されるとともに、解析用の Calibration
Data Base やソフトウェアとして一般観測者向けに公開されている。
26
XIS の軌道上での状態および特筆すべき事項
• OBF への付着物質による低エネルギー検出効率の低下
2005 年 8 月のファーストライト以降、数ヶ月の間に低エネルギー側の検出効率が低
下している現象が発見された。観測データをもとにした様々な検討の結果、XIS の
OBF に付着した汚染物質が低エネルギー側の X 線を吸収していることがわかった。
汚染物質の同定には至っていないが、炭素を主成分として酸素を含む有機物である。
超新星残骸 E0102-72、中性子星 RXJ1856 などを繰り返し観測することで 4 台の XIS
カメラに関して、CCD の受光面に対応した場所ごとに付着物質の厚みとその長期変
化が求められており、Calibration Data Base に取り入れられている。
• 電荷注入 (Spaced-row Charge Injection : SCI) の導入
衛星軌道上では放射線損傷による CCD の性能劣化は避けられない。XIS に関して
も、例えば、較正線源から放射される Mn-Kα に対するエネルギー分解能は打ち上
げ直後には 140 eV (FWHM) 程度であったが、1 年後には 200 eV 弱にまで悪化して
いる。この点は、打ち上げ以前から懸念されており、そのために XIS には電荷注入
機構を装備している。打ち上げ当初は、CTI のコラム依存性を測定する目的であっ
たが、CTI の増大により SCI を軌道上で使用することになった。そこで、SCI は地
上でのバックアップモデルでの試験の後、2006 年 8 月に軌道上で動作させた。2006
年 10 – 11 月以降のほとんどの観測は 2 keV 相当の電荷量の SCI の導入により XIS
のエネルギー分解能は 160 eV (FWHM) 程度まで回復した。SCI を使用しない従来
の XIS の観測モードは SCI-OFF と呼ばれているが、両者の較正情報の多くには互
換性がなく、Calibration Data Base でも区別されている。さらに XIS1 では 2011 年
6 月以降に 6 keV 相当の電荷量の SCI に変更された。
• XIS2 の異常
XIS4 台の内の 1 つ XIS2 が 2006 年 11 月 9 日 01:03 に、突如出力されるイベント数が
激しく変化する異常を起こした。異常発生以降、XIS2 での観測を停止、時折、各種
診断モードでデータを取得して原因追及を行った。その結果、XIS2 の Imaging Area
かその上流で電荷漏れが起きていること、読み出し口及びその下流の AE/TCE に
異常が見られないことが分かっている。これは、マイクロメテオライトと呼ばれる
微小な隕石が CCD に衝突したことによって起きた現象と考えられている。同様の
現象は、XMM–Newton 衛星の CCD においても複数回起こっており、X 線入射面に
電極が露出した FI-CCD では避けることが難しい。本研究では、2006 年以降に観測
したデータを用いているため、XIS0, 1, 3 のデータを使っている。
• XIS0 のセグメント A 異常
2009 年 6 月には XIS0 のセグメント A の一部で電荷の漏れ出しが生じ、この領域が
使用不能となった。XIS2 で起こったのと同様の現象が起こったものの影響がより軽
微であったものと理解している。
27
第 4 章 Cygnus Loop 西の破れ領域の観
測とデータ解析前処理 (データリ
ダクション)
4.1
すざく衛星による西の破れ領域の観測
すざく衛星により Cygnus Loop の西の破れ (West Blowout) 領域の北領域 (West Blowout
- North : W-B-N) と南領域 (West Blowout - South : W-B-S) を観測した。また、比較の
ため、Cygnus Loop 本体で西の破れ領域近傍のシェル領域 P10、RIM5 のアーカイブデー
タも解析に用いた。各観測領域を図 4.1 に示し、観測の詳細を表 4.1 にまとめた。
図 4.1: ROSAT 衛星 PSPC を用いた Cygnus Loop 全体の 0.1 – 0.4 keV の X 線強度マッ
プ。本研究で使用したすざく衛星の観測領域を図中に四角で示した。黄色が西の破れ領域
W-B-N、W-B-S、ピンク色が西の破れ領域近傍のシェル領域 P10、RIM5 である。
28
表 4.1: 解析に使用したデータ
Name
Obs. ID
Coordinate (R.A., DEC.)
Obs. Date
Effective Exposure
Cygnus Loop West Blowout region
W-B-N 506007010
311.1498, 30.6623
2011.5.11-2011.5.12
45.9 ks
W-B-S 506008010
311.1967, 30.3719
2011.5.12-2011.5.13
55.6 ks
Cygnus Loop Shell region
P10
501020010
311.5744, 30.3992
2007.11.13
16.8 ks
RIM5
504009010
311.5286, 30.6813
2009.11.20
15.9 ks
図 4.1 は ROSAT 衛星 PSPC を用いた Cygnus Loop 全体の 0.1 – 0.4 keV の X 線強度
マップである。本研究で使用したすざく衛星の観測領域を図中に四角で示した。黄色が西
の破れ領域 W-B-N、W-B-S、ピンク色が西の破れ領域近傍のシェル領域 P10、RIM5 で
ある。表 4.1 には解析で使用したデータ W-B-N、W-B-S、P10、RIM5 の合計 4 観測分の
ID、赤経と赤緯 (R.A., DEC.)、観測年月日、正味の露光時間をまとめた。
また、本研究の解析前処理では、すざくデータプロセシング Ver.2.5 の Cleaned event
data を使用した。Cleaned event data は、地球を見ている時間帯、南大西洋異常帯 (South
Atlantic Anomaly : SAA) 等観測の質が悪い時間帯のデータや、(天体からの X 線ではな
く) 宇宙線由来のイベントなど、天体解析に不要なデータを取り除いたものである。
4.2
XIS のデータ解析前処理 (データリダクション)
XIS のイベントデータから、解析に用いるスペクトルデータ、画像データ (イメージ)、ラ
イトカーブを抽出するために、データ解析前処理 (データリダクション) を実施する必要が
ある。それぞれデータ解析に用いる FTOOLS(すざく衛星のデータ解析用ソフトウェアパッ
ケージ) の詳細情報は FTOOLS の fhelp コマンドより得られる。同様に CIAO(Chandra
衛星のデータ解析用ソフトウェアパッケージ) や SAS(XMM–Newton 衛星のデータ解析用
ソフトウェアパッケージ) のツールの詳細情報は各マニュアル [47][48] を参照のこと。
検出したイベント数を時間の関数としたライトカーブを作成し、観測条件の悪い時間帯
を除外した時間を Good Time Interval (GTI) として定義する。その後、X 線画像を作成
し、解析したい領域を必要に応じて細かい領域に区切る。GTI で定義した観測条件の悪
い時間帯を除外し、区切った領域ごとにスペクトルを抽出し、そのスペクトルに対し、区
切った領域に応じたバックグラウンドや応答関数を作成することになる。以下にそれぞれ
の詳細な流れを説明する。
29
4.2.1
Good Time Interval (GTI) の決定
Cygnus Loop は変動天体を含まない超新星残骸であるため、XIS で検出されるイベント
数が増加する (大きく変動する) 時間帯を荷電粒子フレアが起きている時間とする。本研
究では、XSELECT を用いて、XIS0、XIS3 は 0.5 – 3.0 keV、XIS1 は 0.4 – 3.0 keV のエネ
ルギーバンドで、解析したい領域に検出したイベント数を時間の関数としたライトカーブ
を作成した。W-B-N、W-B-S それぞれの XIS0、XIS1、XIS3 において、それぞれの平均
値から 3σ 以上離れるビンがあるかどうかで荷電粒子フレアが起きているか判断し、GTI
を決める。
本研究で使用したデータでは、W-B-S の XIS1 のみビンの総数 37 ビンのうち平均値か
ら 3σ 以上離れたビンが 1 ビンあった。しかし、データに与える影響が小さく、表面輝度
が低い西の破れ領域の光子数を少しでも増やして統計を上げるため、すべての観測時間の
データを用いて以降の解析を行う。また、西の破れ領域近傍のシェル領域は Katsuda et
al.(2011)[27] と同様である。
4.2.2
西の破れ領域の全体の X 線画像の作成
Cleaned Event Data から X 線画像を作成するためには、XSELECT を用いる。西の破
れ領域の Cleaned Event Data は 3 keV 以上のイベントがほとんどなく、また X 線画像か
ら較正線源に起因するイベントを除去したかったので、0.3 – 3.0 keV での X 線強度マッ
プを作成した。XSELECT で作成した X 線画像は、vignetting の影響は考慮されず、また
観測ごとの有効露光時間も違う。したがって、vignetting と有効露光時間の補正を行い、
その後、全センサー、全観測の画像を重ね合わせて西の破れ領域の X 線強度マップを作
成した。
1. mkphlist を用いてイベントリストを作成し、xissim を用いて vignetting 補正を行
うための画像と、xisexpmapgen を用いて有効露光時間の補正を行うための画像を
作成する。xissim はモンテカルロシミュレーションを行い、XIS 上に天体輝度分布
が一様なフォトンを降らせたときにどのような画像が得られるかを計算する。統計
的に意味のある個数のフォトンを降らせてやらなければいけないが、あまりに多す
ぎると計算するのに非常に時間がかかってしまうため、注意が必要である。本研究
ではフォトン 1x108 個のシミュレーションを行い exposure map を作成した。また、
ここで最新の CALDB を読み込むことにより、コンタミの補正も行った。
2. vignetting 補正用の画像や有効露出時間補正用の画像のビンまとめの数を Cleaned
Event Data から XSELECT で作成した画像のビンまとめの数と合わせる必要があ
り、fimgbin を用いてビンまとめの数を合わせる。本研究では 8 ビンまとめである。
3. Cleaned Event Data から XSELECT で作成した画像からビンまとめの数を合わせた
vignetting 補正用の画像や有効露出時間補正用の画像を dmimgthresh や dmimgtcalc
を用いて、分母が大きくなりすぎないように調整して、画素ごとのカウント数を割
る。すると、vignetting 補正や露出補正を施した強度マップになる。
30
図 4.2: 露出補正と vignetting 補正を施したすざく XIS0+1+3 の強度マップ。ただし、NXB
は引いていない。 左: 0.3 – 3.0 keV band 右: 三色合成画像。(赤:0.30 – 0.52 keV 、緑:
0.52 – 1.07 keV 、青:1.07 – 3.00 keV)。
4. farith または fcarith を用いて XIS0、XIS1、XIS3 それぞれの画像の画素ごとの
カウント数を足し合わせる。
5. emosaic を用いて W-B-N と W-B-S の画像を並べる。
上記のようにして作成した vignetting と有効露出時間の補正を行った西の破れ領域の強度
マップを図 4.2 左図に示す。
三色合成画像
観測データをいくつか (ふつうは 3 個) のエネルギーバンドに分け、その強度分布を見る
には三色合成画像がよく使われる。作り方は、上記の強度マップと同様の補正を行って、
さらに XSELECT で任意のエネルギーバンドを指定して 3 種類のバンドイメージを作り
合成すればよい。図 4.2 右は赤:0.30 – 0.52 keV band、緑:0.52 – 1.07 keV band 、青:
1.07 – 3.00 keV band で区切った西の破れ領域の三色合成画像である。西の破れ領域は各
バンドで不規則に分布していることがわかる。
31
4.2.3
スペクトル抽出のための領域の取り方
次に Cygnus Loop の着目する各領域ごとの X 線スペクトルを指定するために、領域を指
定する領域ファイルを DS9 により作成する。西の破れ領域のスペクトルの抽出には W-B-N
と W-B-S の観測データを両方用いた。また、西の破れ領域近傍のシェル領域は Katsuda
et al.(2011)[27] で使用されたスペクトルを用いた。領域はそれぞれ以下のように切り分
けた。
西の破れ領域
西の破れ領域の最外縁はすざく衛星の X 線画像では鮮明ではないため、ROSAT 衛星
PSPC を用いた Cygnus Loop の 0.1 – 0.4 keV の X 線強度マップをもとに西の破れ領域
の最外縁を決定し、楕円領域とした (図 4.3 の緑色の楕円領域)。この楕円領域とすざく
衛星の西の破れ領域の観測領域 (図 4.3 の黄色の四角) の両方ともに囲まれている部分が
西の破れ領域のスペクトルの抽出領域である。ただし、XIS0 で原因不明の不具合がある
領域 (図 4.3 の赤色斜線入りの水色の四角の領域 3 つ) は、XIS0 に対してのみ除去した。
また、Cygnus Loop と関係のないと考えられる点源状の X 線源 (図 4.3 の赤色斜線入り
の緑色の円領域 3 つ) もすべての XIS で除去した。この点源状の X 線源はすざく衛星の
0.3 – 3.0 keV の西の破れ領域の強度マップを参考にして除去した (図 4.4 )。図 4.4 の領域
を区切る線の色分けは図 4.3 と同様である。また、表 4.2 に西の破れ領域のスペクトル抽
出領域をまとめた。
表 4.2: 西の破れ領域のスペクトル抽出領域
Region
最外縁
除去領域
(XIS0 不具合)
除去領域
(X 線点源)
Shape
Ellipse
Box
Box
Box
Circle
Circle
Circle
Center (R.A., DEC.)
311.436, 30.486
311.000, 30.450
311.010, 30.404
311.014, 30.470
311.099, 30.338
311.161, 30.233
311.216, 30.392
Radius (arcmin)
24.50, 19.75
2.00
2.00
2.00
Angle (degrees)
0.2
70
70
160
-
Size (arcmin)
1.20, 1.14
2.22, 0.51
3.12, 0.60
-
SKY 座標で表示している。
西の破れ領域近傍のシェル領域
西の破れ領域近傍のシェル領域は Katsuda et al.(2011)[27] で記述されているように、
Cygnus Loop 本体の最外縁から幅 2’ 角ずつ動径方向に 5 つの領域に切り分ける (図 4.3 の
赤色の短冊状の領域 )。この 5 つの領域とすざく衛星の西の破れ領域近傍のシェル領域の
観測領域 (図 4.3 のピンク色の四角) の両方ともに囲まれている部分が西の破れ領域近傍の
シェル領域のスペクトル抽出領域である。また、それぞれ右から Region{A,B,C,D,E} と
する。詳細は Katsuda et al.(2011)[27] を参照のこと。
32
図 4.3: ROSAT 衛星 PSPC を用いた Cygnus Loop の 0.1 – 0.4 keV の X 線強度マップと
西の破れ領域と西の破れ領域近傍のシェル領域のスペクトルを抽出する領域。緑色の楕円
領域と黄色の四角の両方ともに囲まれている部分が西の破れ領域のスペクトルの抽出領
域である。ただし、赤色斜線入りの水色の四角で囲まれた部分は XIS0 に対してのみ除去
し、赤色斜線入りの緑色の円領域で囲まれた部分はすべての XIS で除去した。赤色の領
域とピンク色の四角の両方ともに囲まれている部分が西の破れ領域近傍のシェル領域のス
ペクトル抽出領域であり、それぞれ右から Region{A,B,C,D,E} とする。
33
図 4.4: すざく衛星の 0.3 – 3.0 keV の西の破れ領域の強度マップと西の破れ領域のスペク
トルを抽出する領域。領域を区切る線の色分けは図 4.3 と同様である。
4.2.4
スペクトルの抽出
Cygnus Loop の各領域のソーススペクトルは上記の領域ファイルから抽出した。
X 線スペクトルを解析する XSPEC では、通常 χ2 検定を用いてフィッティングの妥当
性を判断する。そのためには、正規分布に従うようにカウント数がある程度必要である。
そこで、以下で用いるスペクトルデータは西の破れ領域のスペクトルの 1 エネルギービン
当たりのカウント数が最小でも 20 カウントあるように grppha でエネルギービンのビン
まとめを行い、それらは正規分布に従うものとして扱った。西の破れ領域近傍のシェル領
域は Katsuda et al.(2011)[27] で使用されたスペクトルを用いた。
これは、以下のような理由がある。スペクトル解析のときスペクトルの 1 エネルギービ
ンあたりのイベント数が N の場合、イベント数はポアソン統計に基づくので、その統計
√
誤差は N となる。ここで、一般にポアソン分布に従う変数の平均値が十分に大きけれ
ば、各エネルギービンの統計誤差が正規分布に近似できる。
34
第 5 章 スペクトル解析
5.1
応答関数の準備
XSPEC でのスペクトルフィットに必要な応答関数 (式 (3.1) にある R のこと) は、rmf (Redistribution Matrix File) と arf (Ancillary Response File) である。ここでは西の破れ領域
の応答関数について述べる。Cygnus Loop の西の破れ領域近傍のシェル領域については
Katsuda et al.(2011)[27] を参照のこと。
5.1.1
rmf
xisrmfgen を用いて、領域ごとにスペクトルファイルから rmf を作成した。ここで、rmf
は行列として記述されているため、エネルギーや領域を区切ったスペクトルファイルか
ら rmf を作成することが出来ないことに注意する。その理由は、以下の通りである。一
般に、式 (3.1) に表れる R は全エネルギー範囲 (0 – ∞) を対象とする行列である。実際に
は、低エネルギー端 (約 0.2 keV) と高エネルギー端 (約 15 keV) は望遠鏡や検出器の制限
で検出効率は非常に低い。したがって、実質的に R の対象とするエネルギー範囲は有限
で、0.2 – 15 keV となっている (XIS の有効なエネルギー帯域は 0.2 – 12 keV であるが、
rmf は 15 keV まで作成が出来る)。つまり、0.2 – 15 keV のエネルギー範囲に対しては、
そのエネルギー範囲外からの寄与はないので、実質上 rmf 作成上の問題はない。一方、例
えば、1 – 2 keV などとエネルギー範囲を区切った場合、そのエネルギー範囲外に対する
望遠鏡や検出器で決まる検出効率が 0 ではないので、そのエネルギー範囲外からの寄与が
無視できなくなる。これは視野領域についても同様で、視野全体にわたる領域を作った場
合には実質上問題ないが、1’ 角などの狭い領域に区切った場合には、その領域外からの寄
与が無視できない。
5.1.2
arf
本研究では、xissimarfgen を用いて、解析領域、観測日時、衛星の観測方向を決め、半
径 20’ 角の円から空間的に一様に 1 × 106 個のフォトンを降らせるモンテカルロシミュレー
ションを行うことで arf を作成した。Cygnus Loop は広がった天体なので、xissimarfgen
のモードは UNIFORM に設定して arf を作成した。arf はある任意の領域からフォトンを
降らし、どれだけのフォトンが解析領域に降るかを計算している。本研究では、上記のよ
うなシミュレーションを行っているが、西の破れ領域は半径 20’ 角よりも小さく、そのま
までは有効面積が小さく見積もられてしまう。そのため、解析領域の面積をフォトンを降
らした面積で割った値を arf にかけて補正する必要がある。具体的には、addarf を用い
35
て、同じ arf に対して 1 つの arf は重み付けを 0、もう一つの arf は解析領域の面積をフォ
トンを降らした面積で割った値で重み付けを行うことにより、正しい有効面積になるよう
に補正した。
5.1.3
レスポンスファイルの足し合わせ
レスポンスファイルを足し合わせるときは先に検出器間ごとに marfrmf を用いて arf x
rmf を行ったのち、addrmf でレスポンスファイルを足し合わせる。西の破れ領域の手順と
しては、まず addrmf を用いて XIS0 と XIS3 の検出器間のレスポンスファイルの足し合わ
せを行い、その後同様に addrmf を用いて W-B-N と W-B-S の XIS0+3 と XIS1 のレスポ
ンスファイルをそれぞれ足し合わせた。足し合わせる際は addrmf の中でスペクトルファ
イルに含まれるイベント数で重み付けを行う必要がある。
5.2
バックグラウンドの取り扱い
XIS で X 線天体を観測した際のバックグラウンドには大きく分けて二種類ある。一つ
は望遠鏡の視野方向から入ってくる X 線放射のうち目標の天体以外の成分 (X 線バックグ
ランド) と、もう一方は荷電粒子やガンマ線などによって作られた X 線イベントである。
後者は一般に非 X 線バックグランド (Non X-ray Background: NXB) と呼ばれている。
Cygnus Loop のような、XIS の視野一面に広がった天体に対する解析では、バックグラ
ウンドスペクトルを推定するために視野内にバックグラウンドを測定するための領域を取
ることができない。そこで Cygnus Loop の解析では一般的には Lockman Hole のデータ
を用いることが多かった。しかし、西の破れ領域は表面輝度がたいへん低い領域であり、
バックグラウンドの評価が非常に重要になってくる。以下にバックグラウンドについて詳
しく述べる。
5.2.1
非 X 線バックグラウンド (NXB)
NXB は荷電粒子やガンマ線などが CCD 周辺を構成する物質入射した結果、発生する制
動放射や特性 X 線であり、CCD はこれを X 線として検出してしまう。しかし、XIS の視
野が夜地球に覆われるときの XIS の観測データを蓄積すれば、NXB は精度よく求めるこ
とが出来る。また、これはいろいろな地球の宇宙線に対する地磁気シールド能力 Cut Off
Rigidity(COR) の関数として精度よく調べられている。図 5.1 は XIS における NXB と較
正線源のスペクトルである。ここには連続成分としての制動放射の他に様々な元素から
の輝線が検出されている。較正線源に起因する Mn-K 線の強度はセンサーごとに異なる。
その他の輝線強度は FI-CCD(XIS0,2,3) と BI-CCD(XIS1) とで比較的似ている。一方、連
続成分のスペクトルが大きく異なっている。これは FI-CCD と BI-CCD との空乏層の厚
さや構造の違いに起因する。
36
図 5.1: NXB スペクトル [50]。
第 3.2.2 章で述べたが、西の破れ領域観測直後に XIS1 で SCI で注入する電荷量が変更さ
れた。普通 xisnxbgen ではオプションで指定しない限り、観測日時の-150 日から+150 日
までの夜地球のデータを用いて NXB スペクトルファイルが自動作成される。しかし、西
の破れ領域は+150 日までの間に XIS1 で SCI で注入する電荷量が変更されているため、デ
フォルトだと XIS1 では観測日時の-150 日から SCI で注入される電荷量が変更される前ま
でのデータしか使用せずに NXB スペクトルファイルが作成される。これに対して、XIS0
と XIS3 では観測日時の-150 日から+150 日までのデータを用いて NXB スペクトルファ
イルが作成される。つまり、オプションで使用する夜地球のデータの観測期間を XIS1 の
SCI の電荷量が変更される前までの期間に指定しないと、XIS0、XIS3 と XIS1 とで NXB
スペクトルファイルを作成する際に使用する夜地球のデータの期間が異なってしまう。そ
のため、西の破れ領域の解析ではオプションで西の破れ領域の観測日時の-300 日から 0 日
までの夜地球のデータを用いると指定し、xisnxbgen で NXB スペクトルファイルを作成
した。それを XSPEC でバックグラウンドファイルとして読み込ませた。
Cygnus Loop の西の破れ領域近傍のシェル領域については Katsuda et al.(2011)[27] を
参照のこと。
5.2.2
その他のバックグラウンド
X 線バックグランドには、銀河系外の全天にわたってほぼ一様な宇宙 X 線背景放射 (Cosmic X-ray Background: CXB)、銀河系を取りまくハロー (Milky Way Halo: MWH) から
の X 線放射、太陽系を包み込む高温ガス (Local Hot Bubble: LHB) から来る X 線放射が
含まれる。本研究では、Katsuda et al.(2011)[27] で使用されている NXB 以外のバックグ
ラウンドと同様にモデルとして入れた。
西の破れ領域の解析では、CXB として bknpower(ベキ乗則モデル) を 2 つ用いて再現し
た。同様に MWH としては apec(電離平衡プラズマモデル)、LHB としても apec を用い
て再現した。それぞれのモデルのパラメータの値は Katsuda et al.(2011)[27] で用いられ
37
た値で固定した。ただし、normalization は Katsuda et al.(2011)[27] から有効面積を考慮
した値を入れて固定した。また、CXB と MWH には銀河系内に含まれる全星間吸収量に
対応する星間吸収モデルの tbabs をかけてあり、そのパラメータの水素の柱密度 NH の値
は HEARSARC Tools の nH Column Density [51] から西の破れ領域近傍の領域の値を用
いて固定した。
また、Cygnus Loop の西の破れ領域近傍のシェル領域の解析でも CXB、MWH、LHB
は西の破れ領域の解析で用いたモデルで再現し、それぞれのモデルのパラメータは normalization も含め、Katsuda et al.(2011)[27] で用いられた値で固定した。CXB と MWH
にかかる銀河系内に含まれる全星間吸収量に対応するモデルのパラメータの水素の柱密
度 NH の値は西の破れ領域と同様の値を用いて固定した。
したがって、今回の解析では NXB は NXB スペクトルファイルを作成し、XSPEC 内で
バックグラウンドファイルとして読み込ませ、その他のバックグラウンドはモデルとして
入れて、全てのバックグラウンドを評価した。
5.3
スペクトルの足し合わせ
西の破れ領域では、mathpha を用いて W-B-N と W-B-S それぞれの XIS0 と XIS3 のス
ペクトルを足し合わせ、XIS0+3 のスペクトルを作成した。その後、同様に XIS0+3 と
XIS1 それぞれの W-B-N と W-B-S のスペクトルを足し合わせた。NXB スペクトルも同様
である。
BACKSCAL は足し合わせた際は 1 にリセットされるので、ソーススペクトルと NXB
スペクトルのスペクトルを抽出する領域が違う場合は fkeyprint を用いてソーススペクト
ルと NXB スペクトルの BACKSCAL を正しい値に書き直す必要がある。しかし、ソース
スペクトルと NXB スペクトルのスペクトルを抽出する領域が同じ場合は書き直す必要は
ない。EXPOSURE は、XIS0 と XIS3 のスペクトルを足し合わせる場合はそのまま XIS0
の EXPOSURE と XIS3 の EXPOSURE を足し合わせるが、W-B-N と W-B-S のスペクト
ルを足し合わせる場合は W-B-N の EXPOSURE と W-B-S の EXPOSURE の平均をとる
(重み付き平均ではないので注意する)。これは、足し合わせた後のスペクトルのカウント
レートが正しくなるようにするためである。W-B-N と W-B-S はほぼ同じ観測時間である
ため、EXPOSURE の平均をとると、W-B-N と W-B-S を足し合わせた後のスペクトルの
カウントレートがほぼ正しくなる。
Cygnus Loop の西の破れ領域近傍のシェル領域では、mathpha を用いて P10 と RIM5
それぞれの XIS0 と XIS3 のスペクトルを足し合わせ、XIS0+3 のスペクトルを作成した。
NXB スペクトルも同様である。しかし、XIS0+3 と XIS1 それぞれの P10 と RIM5 のスペ
クトルは足し合わさず、同時フィットを行った。
38
5.4
1 温度成分の光学的に薄い衝突電離非平衡の熱的プラズ
マモデルによるフィッティング
西の破れ領域と Cygnus Loop の西の破れ領域近傍のシェル領域のスペクトルを抽出し
た領域は第 4.2.3 章の通りである。
フィッティングには constant ( apec + tbabs ( apec + bknpower + bknpower ) +
tbabs * vnei) というバックグラウンドを考慮した 1 温度成分の光学的に薄い衝突電離非
平衡の熱的プラズマモデルを用いた。ここで、constant は検出器間の有効面積の相対的
な差を補正をするために用いており、XIS1 を基準にした。つまり、XIS1 の constant の値
は 1 に固定し、XIS0+3 の constant の値はフリーにした。ただし、XIS0+3 の constant
の値は有効面積の差の許容範囲とされている 0.9 – 1.1 に範囲を制限した。つまり、フリー
にしたとき 0.9 以下になる場合は 0.9 で固定し、1.1 以上になる場合は 1.1 で固定される。
0.9 – 1.1 の間の値が最適値ならば、その値を採用する。一つ目の apec は第 5.2.2 章で述
べたように LHB を再現するモデルである。同様にして、二つ目の apec は MWH を、二
つの bknpower は CXB を再現し、一つ目の tbabs は MWH と CXB にかかる銀河系内に
含まれる全星間吸収量に対応するモデルである。バックグラウンドモデルのパラメータ
はこれも第 5.2.2 章で述べたように Katsuda et al.(2011)[27] を参考にして全て固定した。
vnei は対象とする天体 (ここでは Cygnus Loop の西の破れ領域と西の破れ領域近傍のシェ
ル領域) からの放射に対応し、二つ目の tbabs は対象とする天体からの放射にかかる星間
吸収のモデルである。vnei は第 1.4 章で述べた通り、光学的に薄い衝突電離非平衡の熱
的プラズマモデルであり、NEI ver. 2.0 plus を用いた。天体からの放射のモデルとそれに
かかる星間吸収モデルでフリーにしたパラメータは、水素の柱密度 NH (/cm2 )、電子温
度 kTe (keV)、電離パラメータ τ (s/cm3 )、emission measure: EM (/cm5 ) または volume
emission measure: VEM (/cm3 )、そして輝線の突出している O、Ne、Mg、Si、Fe の組成
である。ここで、組成は太陽組成を 1 としたときの組成比である。ただし、水素の柱密度
NH は西の破れ領域近傍のシェル領域では値が決まらないため、Kimura et al.(2009)[32]
の Table2 の SW(P10) に記載されている水素の柱密度の値で固定した。C と N の組成は O
と同じ、S の組成は Si と同じ、Ar と Ca と Ni の組成は Fe と同じにした。その他の元素は
1、つまり太陽組成と同じとして固定した。τ はプラズマの電子密度 ne と電離経過時間 t
∫
の積であることは第 1.4 章で述べた。EM は ne nH dl である。ここで、ne と nH は電子と
水素イオンの密度で、EM は両者の積を視線方向に積分したものとなる。また、VEM は
∫
ne nH dV である。ここで、ne と nH は EM と同様に電子と水素イオンの密度で、VEM は
両者の積を放射領域で体積積分したものである。
行ったフィットは西の破れ領域では XIS0+3 と XIS1 の 2 つのスペクトルの同時フィット
である。西の破れ領域近傍のシェル領域では P10 の XIS0+3、XIS1、RIM5 の XIS0+3、
XIS1 の 4 つのスペクトルの同時フィットである。
バックグラウンドを考慮すると、3.0 keV 以上に Cygnus Loop 西の破れ領域や西の破れ
領域近傍のシェル領域からの放射は有意には見られなかった。また、XIS0、XIS3 は 0.5 keV
以下で、XIS1 では 0.4 keV 以下で XIS の OBF に付着した汚染物質の影響が大きく、検
出器の較正が十分ではない。よって、解析では XIS0+3 は 0.5 – 3.0 keV、XIS1 は 0.4 –
3.0 keV でモデルフィットを行った。
39
フィッティングの結果、全ての領域のスペクトルで reduced-χ2 は 1.28 – 2.63 となった。図
5.2 はそれぞれの領域でのベストフィット時のスペクトルである。西の破れ領域は WB(West
Blowout) と表示している。西の破れ領域については黒色が XIS0+3、赤色が XIS1 を示す。
西の破れ領域近傍のシェル領域についてはピンク色が P10 の XIS0+3、赤色が P10 の XIS1、
緑色が RIM5 の XIS0+3、青色が RIM5 の XIS1 を示す。それぞれ十字マークがデータ点
で、実線は最適モデルである。モデルに含まれる各成分は西の破れ領域では XIS1 に対応
する成分、西の破れ領域近傍のシェル領域では P10 の XIS1 に対応する成分のみ示した。
モデルに含まれる成分は LHB がピンク色、MWH が緑色、CXB が橙色、VNEI が水色の
点線で示してある。バックグラウンドに対応する成分の強度が西の破れ領域と近傍のシェ
ル領域で一見違うように見える。これは西の破れ領域の方が近傍のシェル領域よりも領域
の大きさが大きいことに起因している。スペクトルの下のウィンドウにはデータとモデル
の残差 χ を表示しており、色はスペクトルの色と対応している。定性的には、図 5.2 から
西の破れ領域も近傍のシェル領域も 1 温度成分の光学的に薄い衝突電離非平衡の熱的プラ
ズマモデルで表せていることがわかる。また、このフィットのベストフィットパラメータ
を表 5.1 に示す。ただし、各元素の組成について C=N=O は絶対値で記載しているが、そ
れ以外は O との相対比を記載している。また、西の破れ領域のみ VEM を記載する。
40
10
WB
normalized counts s−1 keV−1
normalized counts s−1 keV−1
10
1
0.1
0.01
1
0.1
0.01
10−3
2
10−34
2
χ
χ
Shell RegionA
0
0
−2
−2
−4
0.5
1
Energy (keV)
0.5
1
Energy (keV)
10
1
0.1
0.01
normalized counts s−1 keV−1
Shell RegionB
10−35
χ
normalized counts s−1 keV−1
10
2
0
2
Shell RegionC
1
0.1
0.01
10−3
χ
2
0
−2
−5
0.5
1
Energy (keV)
0.5
1
0.1
0.01
2
Shell RegionE
1
0.1
0.01
10−34
10−3
2
χ
2
χ
1
Energy (keV)
10
Shell RegionD
normalized counts s−1 keV−1
normalized counts s−1 keV−1
10
2
0
0
−2
−2
−4
0.5
1
Energy (keV)
2
0.5
1
Energy (keV)
2
図 5.2: 西の破れ領域と近傍のシェル領域のスペクトル。西の破れ領域については黒色が
XIS0+3、赤色が XIS1 を示す。近傍のシェル領域についてはピンク色が P10 の XIS0+3、
赤色が P10 の XIS1、緑色が RIM5 の XIS0+3、青色が RIM5 の XIS1 を示す。
41
表 5.1: 西の破れ領域とシェル領域のベストフィットパラメータ
region
NH [1022 /cm2 ]
kTe [keV]
C=N=O
Ne/O
Mg/O
Si/O=S/O
Ar/O=Ca/O=Fe/O=Ni/O
τ (ne t)[1010 s/cm3 ]
EM [1019 /cm5 ]
WB
0.020+0.026
−0.015
0.266+0.011
−0.034
0.047+0.010
−0.006
1.65+0.43
−0.30
0.44+0.83
−0.44
25.69+11.99
−9.70
4.03+1.73
−1.39
+0.67
3.00−0.33
0.076+0.020
−0.007
8.34+2.17
−0.82
1.28 (239/187)
VEM [1055 /cm3 ]
χ2 /d.o.f.
region
NH [1022 /cm2 ]
kTe [keV]
C=N=O
Ne/O
Mg/O
Si/O=S/O
Ar/O=Ca/O=Fe/O=Ni/O
τ (ne t)[1010 s/cm3 ]
EM [1019 /cm5 ]
VEM [1055 /cm3 ]
χ2 /d.o.f.
RegionC
0.032 fix
0.188+0.002
−0.000
0.049+0.002
−0.001
2.26+0.12
−0.10
1.76+0.29
−0.30
5.35+1.25
−1.24
3.40+0.20
−0.16
100.94+11.85
−11.17
(P10)7.01+0.08
−0.14
(RIM5)8.43+0.09
−0.24
–
2.63 (933/355)
RegionA
0.032 fix
0.183+0.003
−0.001
0.054±0.002
2.20±0.15
0.59+0.46
−0.47
12.33+2.58
−2.94
3.00+0.35
−0.26
17.91+1.97
−1.45
(P10)3.42+0.05
−0.07
(RIM5)1.96+0.04
−0.06
–
1.65 (588/356)
RegionD
0.032 fix
0.210±0.006
0.050±0.001
2.28+0.08
−0.09
2.16+0.23
−0.25
4.99+0.92
−0.94
2.86+0.11
−0.16
59.48+4.87
−3.17
(P10)5.91+0.10
−0.15
(RIM5)7.61+0.14
−0.08
–
2.07 (734/355)
RegionB
0.032 fix
0.170+0.000
−0.002
0.050+0.002
−0.001
2.54+0.15
−0.13
2.02+0.51
−0.54
10.87+2.36
−2.15
5.77+0.36
−0.41
128.40+37.00
−21.40
(P10)6.94+0.09
−0.08
(RIM5)4.94±0.08
–
1.77 (629/356)
RegionE
0.032 fix
0.221+0.000
−0.002
0.054±0.001
2.29+0.08
−0.09
2.54+0.24
−0.25
7.46+1.03
−0.93
2.90±0.11
54.60+4.46
−4.45
(P10)5.26+0.07
−0.06
(RIM5)5.94±0.08
–
1.99 (706/355)
Errors are 90% confidence level.
図 5.3 は表 5.1 の西の破れ領域と近傍のシェル領域のベストフィットパラメータのうち
NH 、kTe 、C = N = O、Ne/O、Mg/O、Si/O = S/O、Ar/O = Ca/O = Fe/O = Ni/O
、τ についてそれぞれの領域の位置の関数としてプロットしたものである。左が Cygnus
Loop の中心に向かう方向で、右が Cygnus Loop の外側へ向かう方向である。ただし、表
5.1 と同様に、各元素の組成について C = N = O は絶対値をプロットしているが、それ以
外は O との相対比をプロットしている。また、近傍のシェル領域の RegionA と RegionB
は放射が弱く、強度が小さいため、RegionC、RegionD、RegionE よりも誤差が大きくな
る。そこで、RegionC、RegionD、RegionE と比較するために RegionA と RegionB は足し
合わせた。先と同様に西の破れ領域は WB と表示している。
42
0.3
kTe
0.2
kTe (keV)
0.03
0
0
0.01
0.1
0.02
NH (1022/cm2)
0.04
NH
E D C A+B
Region
WB
E D C A+B
WB
Region
C=N=O
0
1
2
Ne/O
0.04
0.02
0
C = N = O (solar abundance)
3
0.06
Ne/O
E D C A+B
Region
E D C A+B
WB
Region
WB
Si/O = S/O
20
Si/O = S/O
10
2
0
0
1
Mg/O
3
30
Mg/O
E D C A+B
Region
E D C A+B
WB
Region
WB
τ
1011
τ (s/cm3)
4
2
0
Ar/O = Ca/O = Fe/O = Ni/O
6
1012
Ar/O = Ca/O = Fe/O = Ni/O
E D C A+B
Region
E D C A+B
WB
Region
WB
図 5.3: 西の破れ領域と近傍のシェル領域のベストフィットパラメータのうち NH 、kTe 、C
= N = O、Ne/O、Mg/O、Si/O = S/O、Ar/O = Ca/O = Fe/O = Ni/O 、τ について
の分布。左が Cygnus Loop の中心に向かう方向で、右が Cygnus Loop の外側へ向かう方
向である。
43
図 5.3 から以下のことがわかる。
• NH は西の破れ領域と近傍のシェル領域で大きな差はなく、西の破れ領域は Cygnus
Loop 全体で知られている値と精度の範囲で一致する。
• kTe は西の破れ領域近傍のシェル領域では内部にいくほど温度が高く、衝撃波加熱
の構造を示す。一方、西の破れ領域はシェル内部の温度に相当し、単純なシェル成
分の延長上にはない。
• 西の破れ領域の C = N = O の組成、および Ne/O, Mg/O, Ar/O = Ca/O = Fe/O
= Ni/O は近傍のシェル領域と同程度あるいはより低い。
• 西の破れ領域の Si/O = S/O は近傍のシェル領域の単純な延長上にはなく、統計的
に有意に高い (90%の信頼区間が重なっていない) 値を示す。
• τ は西の破れ領域が近傍のシェル領域よりも一桁以上小さい。
次に、西の破れ領域と近傍のシェル領域の視線方向の奥行きや放射領域の体積は測定で
きないため、以下では必要な仮定をすることにより電子密度 ne と電離経過時間 t を求め
る。ここで、西の破れ領域は視線方向の奥行きが場所によって大きく異なると推測でき
るので、放射領域の体積を仮定して電子密度 ne を導出する。近傍のシェル領域は Cygnus
Loop がほぼ球形であることを仮定し、視線方向の奥行きを求めて電子密度 ne を導出する。
西の破れ領域の放射領域の体積は視直径 0.77 °の半球状と仮定する。西の破れ領域は視直
径約 0.5°と言われているが、本研究の解析範囲は ROSAT 衛星の X 線画像からこのように決
∫
めた。すると放射領域の体積は約 100 (pc3 ) となり、放射領域の体積と VEM (= ne nH dV )
から ne = 1.2nH 1 として電子密度 ne を、電子密度 ne と τ (= ne t) から電離経過時間 t が求
まる。近傍のシェル領域では視線方向の奥行きを約 7 – 12 (pc) と仮定し、視線方向の奥行
∫
きと EM (= ne nH dl) から電子密度 ne を、電子密度 ne と τ (= ne t) から電離経過時間 t を
求めた。図 5.4 は表 5.1 の西の破れ領域と近傍のシェル領域のベストフィットパラメータの
うち EM と上記のようにして求めた ne や t についてそれぞれの領域の位置の関数としてプ
ロットしたものである。橙色が西の破れ領域、赤色が近傍のシェル領域の P10、青色が近
傍のシェル領域の RIM5 を示す。左が Cygnus Loop の中心に向かう方向で、右が Cygnus
Loop の外側へ向かう方向である。ただし、図 5.3 と同様に近傍のシェル領域の RegionA
と RegionB は放射が弱く、強度が小さいため、RegionC、RegionD、RegionE よりも誤差
が大きくなる。そこで、RegionC、RegionD、RegionE と比較をするために RegionA と
RegionB は足し合わせた。西の破れ領域も WB と表示している。
1
ほぼ電離したプラズマを考えた時、
ne
∼ nH + (2 × nHe )
∼ nH + (2 × 0.1nH )
∼ 1.2nH
と考えてよい。ここで、nHe はヘリウムイオンの密度である。
44
ne
P10
RIM5
WB
1
0.5
1019
ne (/cm3)
1.5
P10
RIM5
WB
0
1018
Emission Measure (/cm5)
1020
Emission Measure
E D C A+B
E D C A+B
WB
Region
WB
Region
t
1.5×104
104
0
5000
t (year)
2×104
P10
RIM5
WB
E D C A+B
Region
WB
図 5.4: 西の破れ領域と近傍のシェル領域の EM、ne 、t についての分布。橙色が西の破
れ領域、赤色が近傍のシェル領域の P10、青色が近傍のシェル領域の RIM5 を示す。左が
Cygnus Loop の中心に向かう方向で、右が Cygnus Loop の外側へ向かう方向である。
図 5.4 から以下のことがわかる。
• ne は近傍のシェル領域の RegionC あたりで最大になるような放物線のように分布
し、強い衝撃波による構造を示している。西の破れ領域は電子密度が近傍のシェル
領域の 10 分の 1 以下の約 0.2 (/cm3 ) である。
• t は Cygnus Loop の中心方向から外側にいくにつれて小さくなる傾向にあり、強い
衝撃波による構造を示している。西の破れ領域の t が約 5000 年と近傍のシェル領域
の半分ほどになることから若いプラズマであることがわかった。
また、西の破れ領域について、Sedov 解を用いて衝撃波による薄い球殻のような放射領
域の体積としたときの ne や t も調べた。すると、そのときの ne は放射領域の体積を半球状
と仮定したときの ne のほぼ 2 倍の 0.4 (/cm3 ) 程度になった。また t も半分ほどになった。
45
第 6 章 議論
6.1
西の破れ領域の起源
Cygnus Loop は図 2.1 に示すように、視直径が約 3 °のほぼ点対称な構造をしているが、
南側には大きくその点対称な構造から突き出た部分があり、それを南の破れ領域と呼ぶ。
この領域は、Cygnus Loop がその形状を崩した部分か、あるいは視直径が1 °程度の別の
天体がたまたま同じ方向に見えているものかはっきりしなかった。Uchida et al.(2008)[17]
はその領域の X 線観測を行い、X 線の強度分布、組成比分布や温度分布の Cygnus Loop
の中心部からの距離依存性は極めてなめらかに続いていること、X 線で見られる星間吸収
量が Cygnus Loop の他の部分と矛盾しないことから、南の破れ領域は Cygnus Loop がそ
の形状を崩した部分であり、噴出物成分が大きく南に突出していることを明らかにした。
南の破れ領域に対して西の破れ領域を比較すると、南の破れ領域は X 線で視直径 1 °程
度の突出した構造として見えており、西の破れ領域も X 線で視直径 0.5 °程度の半円形の
突出した構造をしている。また、可視光の画像である図 2.2 を南の破れ領域で拡大した図
6.1 と西の破れ領域で拡大した図 6.2 では、南の破れ領域、西の破れ領域に対応する部分
にともにフィラメント構造が認められる。これらのことを考え、西の破れ領域は Cygnus
Loop がその形状を崩したものか、あるいはまったく別の天体が偶然同じ方向に見えてい
るのか、以下で検討する。
Uchida et al.(2008)[17] によれば、XMM–Newton 衛星を用いて観測した南の破れ領域
の酸素に対する各重元素の組成比 Ne/O、Mg/O、Si/O = S/O、Fe/O = Ni/O は角距離
R にほとんど依存せず、Ne/O ∼2、Mg/O <1、Si/O = S/O ∼20、Fe/O = Ni/O ∼10 と
一様に分布している。図 6.3 左図に南の破れ領域の酸素に対する各重元素の組成比の中心
図 6.1: 図 2.2 を南の破れ領域で拡大した
可視光画像
図 6.2: 図 2.2 を西の破れ領域で拡大した
可視光画像
46
からの角距離 R における分布を示す。Ne/O、Mg/O、Si/O = S/O、Fe/O = Ni/O はそ
れぞれ黒色、赤色、緑色、青色で表されている。一方、表 5.1 からすざく衛星を用いて観
測した西の破れ領域の酸素に対する各重元素の組成比は Ne/O ∼1.7、Mg/O ∼0.4、Si/O
= S/O ∼26、Fe/O = Ni/O ∼4 という結果を得た。図 6.3 右図に西の破れ領域の酸素に対
する各重元素の組成比の分布を示す。色分けや縦軸は南の破れ領域と同様である。図 6.3
から南の破れ領域の観測と西の破れ領域の観測は組成比が同じ傾向であることがわかる。
また、フィッティングの結果 (表 5.1) より西の破れ領域に対する星間吸収量は 0.02 × 1022 (/cm2 )
であり、典型的な Cygnus Loop に対する星間吸収量となっている。つまり、星間吸収量や
組成比分布から西の破れ領域は別の天体がたまたまその方向に見えているというよりも、
南の破れ領域と同様に Cygnus Loop がその形状を崩したものと言える。
さらに、表 5.1 から西の破れ領域は西の破れ領域近傍のシェル領域よりも Si/O = S/O
は約 4 倍高いことが明らかになった。これに対して、Ne/O や Mg/O は西の破れ領域近傍
のシェル領域と同程度あるいはより低い。Cygnus Loop においては、Si、S、Fe などの重
元素は中心に偏在し、噴出物起源である [24]。一方、O、Ne、Mg などの軽元素はシェル
に多く存在するので、ISM を掃き集めた結果であると考えられている [24]。つまり、西の
破れ領域の高温プラズマは ISM 起源というよりも噴出物起源が見えていると言える。し
たがって、西の破れ領域は南の破れ領域のようにシェルを噴出物が押し出していることに
なる。図 6.4 に Cygnus Loop の模式図を示す。ここで、噴出物起源だとすると、もともと
その近傍にあった O、Ne、Mg などの ISM 起源のシェルの厚さは他のシェル部分に比べて
十分に薄かったと考えられる。
図 6.3: 左:南の破れ領域の酸素に対する各重元素の組成比の中心からの角距離 R におけ
る分布 [17]。Ne/O、Mg/O、Si/O = S/O、Fe/O = Ni/O はそれぞれ黒色、赤色、緑色、
青色で表されている。右:西の破れ領域の酸素に対する各重元素の組成比の分布。左図同
様、Ne/O、Mg/O、Si/O = S/O、Fe/O = Ni/O はそれぞれ黒色、赤色、緑色、青色で表
されている。
47
次に形状と電子密度について考える。ROSAT 衛星による Cygnus Loop を X 線で観測
したときの西の破れ領域の形状は、Cygnus Loop のシェル部分から外に明確な半円形に広
がっている。これはまさに一点から外に広がる波紋を連想させる。これに対して、西の破
れ領域が別の天体だと仮定すると、偶然ちょうど半分だけが Cygnus Loop から飛び出し
て見えていることになる。それよりも、西の破れ領域はシェルの一点が極めて薄くなり、
噴出物がシェルを押し出し一点から外に広がるように半円形になったと考えられる。そ
のような形成過程なら、シェル領域の外では密度が極端に低いことになる。Cygnus Loop
のシェルが強い衝撃波で形成されたと考えると、図 5.4 からシェルの電子密度の最大値は
2 (/cm3 ) 程度になる。つまり、式 (1.11) より西の破れ領域周辺の ISM の密度は 0.5 (/cm3 )
程度である。一方、西の破れ領域内での密度は、西の破れ領域の放射領域の体積が半球状
と考えた場合は 0.2 (/cm3 )、球殻と考えた場合には 0.4 (/cm3 ) 程度である。球殻とすれば
強い衝撃波と推測でき、周辺の ISM の密度は 0.1 (/cm3 ) となる。つまり、どちらの場合
とも Cygnus Loop のシェルから類推される ISM の密度よりも低い。これは、ISM がこの
付近でかなり強い非一様性を示していることになる。以上のことは、シェルは幾何学的に
薄く [26]、シェルの厚さは非一様で、所々で視線方向にも破れているように見える [28] と
いう今までの結果とも矛盾しない。
また、Tsunemi et al.(2007)[24] によれば、Cygnus Loop の内部を占める噴出物起源の
高温成分は 0.48 keV で平均密度は 0.17 (/cm3 ) 程度、シェルを形成する ISM 起源の低温
成分は 0.2 keV で平均密度は 1.5 (/cm3 ) 程度と計算できる。本研究で明らかになった西の
破れ領域の温度は約 0.27 keV と噴出物成分の典型的な温度よりもシェル成分の典型的な
温度に近く、密度は噴出物成分とほぼ同等の約 0.2 (/cm3 ) である。一方、西の破れ領域近
傍のシェル領域の温度も密度もシェル成分の平均温度や密度と同等であり矛盾はない。し
図 6.4: Cygnus Loop の模式図。西の破れ領域は噴出物成分がシェル成分を押し出してい
ると考えられる。
48
かし、図 4.1 にあるように、西の破れ領域周辺の Cygnus Loop のシェルの形状を見ると、
西の破れ領域のすぐ北を中心にシェルの形状がくぼんでおり、この周辺での衝撃波進行速
度が小さかったことを示している。これは、周辺の ISM の密度が高く、星間雲のような
ものと衝突しているところだと推測できる。つまり、西の破れ領域周辺は ISM の密度の
濃淡が激しく、薄い密度の領域から噴出物がシェルを押し出し、外側に広がったものが西
の破れ領域であると考えられる。
ここで、高温低密度の噴出物がシェルを押し出して外に広がることにより西の破れ領域が
形成されたとし、これが断熱膨張であると考える。そうすると、噴出物の温度が 0.48 keV か
ら 0.27 keV に下がったことになる。この場合、噴出物の密度も下がり、その結果 0.2 (/cm3 )
になったことになる。この値は Tsunemi et al.(2007)[24] とは相容れないが、Cygnus Loop
の内部を占める噴出物の温度は一様ではなく、内部が高温で、外縁部は低温であると考え
られる。そうすると、西の破れ領域を作ったと推測される噴出物の温度と密度は、Cygnus
Loop 内部を占める噴出物の平均温度よりも低く、平均密度よりも高いと推測できる。
最後に、西の破れ領域を作るプラズマ組成は、Si、S が多いために噴出物起源であるこ
とを示唆し、O、Ne、Mg などはシェル領域と同程度あるいはより低いので、これらは ISM
起源であることは上記で述べた。つまり、西の破れ領域を作るプラズマでは噴出物起源と
ISM 起源の物質がともに見えていると推測できる。これらについては、やはり強い衝撃
波ができていると推測されるが、本研究での観測では統計が不十分なために分離できてい
ない。これ以上の詳細な検討については、本研究以上の詳しい観測が必要である。
6.2
まとめ
• 本研究ではすざく衛星を用いて超新星残骸 Cygnus Loop 西の破れ領域を観測した。
また、西の破れ領域との比較のために西の破れ領域近傍の Cygnus Loop のシェル領
域である P10、RIM5 も合わせて解析した。
• スペクトルフィットの結果、西の破れ領域も西の破れ領域近傍のシェル領域も 1 温度
成分の光学的に薄い衝突電離非平衡の熱的プラズマモデルで表せることがわかった。
• 西の破れ領域の酸素に対する各重元素の組成比は Ne/O ∼1.7、Mg/O ∼0.4、Si/O =
S/O ∼26、Fe/O = Ni/O ∼4 であり、XMM–Newton 衛星を用いた南の破れ領域の
観測と同じ傾向であることがわかった。また、西の破れ領域に対する星間吸収量は、
典型的な Cygnus Loop に対する星間吸収量となっている。さらに、西の破れ領域は
西の破れ領域近傍のシェル領域よりも Si/O = S/O は約 4 倍高い。これに対して、
Ne/O や Mg/O は西の破れ領域に近いシェル領域と同程度あるいはより低い。これ
は、西の破れ領域が Cygnus Loop とは別の天体ではなく、同じ起源を持っており、
Cygnus Loop の構造上、西の破れ領域の高温プラズマは ISM 起源というよりも噴出
物起源であると考えられる。つまり、西の破れ領域は南の破れ領域と同様に Cygnus
Loop がその形状を崩したものであることを示唆する。
49
• 西の破れ領域と西の破れ領域近傍のシェル領域の電子密度から ISM は西の破れ領域
付近で強い非一様性を示している。これは、シェルが幾何学的に薄く、シェルの厚
さは非一様で、所々で視線方向にも破れているように見えるという今までの結果と
も矛盾しない。
• 西の破れ領域周辺は ISM の密度の濃淡が激しく、薄い密度の領域から噴出物がシェ
ルを押し出し、外側に広がったものが西の破れ領域であると考えられる。
• 高温低密度の噴出物がシェルを押し出して外に広がり、断熱膨張して西の破れ領域
が形成されたと考えると、西の破れ領域の温度と密度は今までの観測と矛盾がない。
• 西の破れ領域を作るプラズマでは噴出物起源と ISM 起源の物質がともに見えている
と推測できる。しかし、本研究での観測では統計が不十分なために分離できていな
い。これ以上の詳細な検討については、本研究以上の詳しい観測が必要である。
50
謝辞
本論文を作成するにあたり、様々な方にお世話になりました。この場を借りてお礼を申
し上げます。まず、本研究に用いたすざく衛星のすばらしいデータを提供して下さいまし
たすざく衛星運用関係者の皆様に、解析ソフトウェアなどの整備をして下さった X 線天
文学関係者の皆様にお礼を申し上げます。
また、私が所属していました大阪大学常深研究室の皆様にはとてもお世話になりました。
常深先生には、厳しく、そしてとても優しくご指導して頂きました。「頑張らなくてい
いから、結果を出せ」というお言葉は特に印象に残っています。頑張っても要領が悪いの
はどうしようもないと思っていた私に喝を入れたお言葉です。これからの生活でも心が
けていこうと思います。また、マンツーマンで丁寧に物理を教えて頂いたこと、クリーン
ルームでの普通はできないような体験をさせて頂いたことなど、本当にありがとうござい
ました。
林田先生には、M1M2 セミナーや解析ミーティングなどでとてもお世話になりました。
セミナーでは、物わかりが悪くて理解できない私に根気よく誤差伝播などを教えて頂きま
した。また、解析ミーティングでのするどいご指摘はとても参考になりました。
中嶋さんには、実験でお忙しい中でも、嫌な顔をひとつもせずに解析についていろいろ
アドバイスを頂きました。解析結果と天体物理がよく結びつけられず、どのように解析を
進めて行くか悩んだときには、質問しやすい中嶋さんのところへたくさん押し掛けてしま
いました。実験の邪魔をしてしまいすみませんでした。優しいところが、やはり常深研の
「結婚するなら中嶋さん」ですね。
穴吹さんは、困っているときにさっと助けてくれて、常深研のおしゃれ T シャツ王子
で、おしゃれなお店もいっぱい知っていて、まさにモテる男だと思います。Mac のことも
いろいろ教えて頂きました。恋話はまだいろいろ隠していらっしゃいそうなので、また飲
みながらでも教えて下さい。
薙野さんとは、途中から席が隣になって、阪大に来られた当初よりさらにたくさん話を
するようになりました。修論でしんどかった時期、いろいろ愚痴を言い合ったり、マラソ
ンやダイビングのこと、婚活のことなど話せてとてもいい気分転換になりました。また、
婚活の状況を教えて下さい。
木村さんは、席が隣ということで、解析で困っているときによく助けて頂いたのはもち
ろんのこと、よく雑談した覚えがあります。アメリカの話やお兄さんのお話など、おもし
ろい話が尽きないきむ兄の話をきいていてとても楽しかったです。また、和歌山の実家に
遊びに行ったり、きむ兄の家で飲んだりとたくさん遊びました。また軽井沢にもお邪魔さ
せて頂きます。
橋本さんと澤本さんは私の癒しでした。M2 になって女子学生一人になってしまいまし
たが、橋本さんや澤本さんがいて下さったおかげでなんとか男だらけの研究室でやって
いけました。旅費の手続き等でも大変お世話になりました。女子会が結局出来ず、無念で
51
す。常深研を卒業してからでも女子会を開きたいと思っているので、そのときはぜひつき
あって下さい。
高橋さんには、私が常深研に入りたてで何もわからないときいろいろと PC が使いやす
いように設定をして頂きました。また、解析のいろはも教えて頂きました。
上田さんは、私が M1 で解析をし始めたころ、私の解析がうまくいかなくて、よく夜遅
くまで一緒に残って下さいました。何か問題が起こると、一人で対処できない私にわかり
やすく教えて頂きました。とても心強かったです。
北山さん、小松さん、藤川さん、森さんには、M1 のときにお世話になりました。他大
学からきた私や菅くんが研究室になじめるようにいろいろ飲み会を開いて頂き、ありがと
うございました。この方々には大人の世界を教えて頂いた気がします。
菅くんは、同期が二人だけということもあり、一番話しやすかったです。一緒に授業に
行ったり、レポートをしたり、雑談したりと一番一緒にいたかもしれません。同期が菅く
んでよかったです。
大江くん、佐々木くん、定本くんは、みんなそれぞれ個性のある後輩で楽しかったで
す。大江くんは当初どうなるかと思いましたが、少しずつ成長しているようでよかったで
す。佐々木くんは適当にしているようで、かなり仕事ができるすごい人だと思いました。
定本くんとは常深研水泳部でよく (?) 泳ぎに行きました。
B4 の井上くん、ジュヨンくん、谷間くん、横路くんもいろいろとお世話になりました。
何かと雑談できて楽しかったです。
また、阪大以外にもたくさんの方々にお世話になりました。
小山先生には解析ミーティングでたくさんのご指摘を頂きました。B4 のときに所属し
ていた研究室でお世話になった山内先生の先生ということで、とても緊張しましたが、そ
のようなすごい方に毎週解析のアドバイスを頂けるなんて、夢のようでした。
理化学研究所の勝田さん、京都大学の内田さんには、阪大のスタッフではないのに解析
についてたくさんのアドバイスを頂き、とても感謝しております。お二人のメールやスカ
イプでのアドバイス (ときどき実際に会って、アドバイスも頂きましたが。) がなければ、
西の破れ領域の解析は出来ませんでした。お忙しい中、説明が下手なメールにも対応して
下さり本当にありがとうございました。
最後に研究生活を支えてくれた家族に感謝致します。特におばあちゃんは毎日お弁当を
作ってもらったりと、おばあちゃんがいなければこのような研究生活はできませんでし
た。ありがとうございます。
ここには書ききれませんが、他にもたくさんの方々のおかげでこうして修士論文ができ
ました。心から感謝致します。
52
参考文献
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[29] Uchida, H., Tsunemi, H., Katsuda, S., Kimura, M. & Kosugi, H., 2009a, PASJ, 61,
301
[30] Uchida, H., Tsunemi, H., Katsuda, S., Mori, K., Nakajima, H. & Kimura, M., in
prep
[31] Uchida, H., Tsunemi, H., Tominaga, N., Katsuda, S., Kimura, M., Kosugi, H., Takahashi, H. & Takakura S., 2011, PASJ, 63, 199
[32] Kimura, M., Tsunemi, H., Katsuda, S. & Uchida, H., 2009, PASJ, 61, S137
[33] 「すざく」ファーストステップガイド第 4.0.3 版 (Process Version 2.1-2.3)
[34] 木村公 修士論文「X 線天文衛星すざくを用いた Cygnus Loop 北東端から南西端の観
測」(大阪大学、2008)
[35] Serlemitsos, P. J., et al., 2007, PASJ, 59, S9
[36] 名古屋大学 U 研 X 線グループ HP
http://www.u.phys.nagoya-u.ac.jp/r t/r t suzaku2.html
[37] 宮内智知 修士論文 「SUZAKU 衛星搭載 XIS の軌道上較正」(大阪大学、2006)
[38] 蓮池和人 修士論文 「すざく衛星を用いたペルセウス座銀河団高温ガスのバルクモー
ションの探索」(大阪大学、2007)
54
[39] 上田周太朗 修士論文 「次期 X 線天文衛星 ASTRO-H 搭載軟 X 線 CCD カメラ (SXI)
に向けた CCD 素子の開発-低エネルギー応答の改善と電荷注入法の確立-」(大阪大学、
2010)
[40] Koyama K., Uchiyama, H., Hyodo, Y., Matsumoto, H. & Tsuru, T. G., PASJ, 2007,
59, S23
[41] 片山晴善 修士論文 「ASTRO-E 衛星搭載 XIS の低エネルギー側の応答関数」(大阪
大学、2000)
[42] 科学衛星 ASTRO-E2 衛星実験計画書 2005 宇宙科学研究本部
[43] 東海林雅幸 修士論文 「Astro-E2 衛星搭載 XIS のデータ処理方法の最適化」(大阪大
学、2004)
[44] Nakajima, H., Yamaguchi, H., Matsumoto, H., Tsuru, T. G. & Koyama, K., 2008,
PASJ, 60, S1
[45] すざく技術文書 2009 宇宙科学研究本部
[46] すざく DARTS の HP
http://www.darts.isas.jaxa.jp/astro/suzaku-dynamic/public seq5.html
[47] Chandra 衛星のマニュアル HP ahelp
http://cxc.harvard.edu/ciao/ahelp/ahelp.html
[48] XMM–Newton 衛星のマニュアル HP emosaic
http://xmm.esac.esa.int/sas/current/doc/emosaic/index.html
[49] Yoshino, T., et al., 2009, PASJ, 61, 805
[50] Tawa, N., Hayashida, K., Nagai, M., Nakamoto, H. & Tsunemi, H., PASJ, 2008, 60,
S11
[51] HEASARC Tools の nH Column Density の HP
http://heasarc.gsfc.nasa.gov/cgi-bin/Tools/w3nh/w3nh.pl
55
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