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JP 2011-520435 A 2011.7.21 (57)【要約】 本発明は、食品原材料が

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JP 2011-520435 A 2011.7.21 (57)【要約】 本発明は、食品原材料が
JP 2011-520435 A 2011.7.21
(57)【要約】
本発明は、食品原材料が発酵のためのスターター培養物と合わされる、発酵食品を製造す
る方法であって、ヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造を少なくとも有するBacter
oides属の少なくとも1つの微生物および/または少なくとも1つの微生物が添加さ
れることを特徴とする方法に関する。それぞれの微生物を含む加工助剤および発酵食品が
さらに開示される。好ましい実施形態では、上記発酵製品は、低温殺菌、滅菌および/ま
たは加熱されてもよい。
(2)
JP 2011-520435 A 2011.7.21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品原材料が発酵のためのスターター培養物と合わされる、発酵食品を製造する方法で
あって、ヒト糖鎖構造に相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有する少なくとも1つ
の微生物が添加されることを特徴とする方法。
【請求項2】
食品原材料が発酵のためのスターター培養物と合わされる、発酵食品を製造する方法で
あって、Bacteroides属の少なくとも1つの微生物が添加されることを特徴と
する方法。
【請求項3】
10
前記微生物が、ヒト糖鎖構造に相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有することを
特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
以下の性質:
a.前記微生物が、疾患特異的抗原であるヒト糖鎖構造に相当する少なくとも1つの細
胞表面構造を有すること;および/または
b.前記微生物が、腫瘍関連抗原(TAA)であるヒト糖鎖構造に相当する少なくとも
1つの細胞表面構造を有すること;および/または
c.前記微生物が、TF、コア−1、Tn、シアリル−Tn、シアリル−TF、グロボ
−H、ルイス−Y、シアリル−ルイス−A、シアリル−ルイス−X、ポリシアル酸、ルイ
20
ス−X、GM2、GD2、GD3、9−O−アセチルGD3、GD3L、フコシルGM1
、フコシル−GM1、ルイス−A、ルイス−B、sLac、シアル化1型鎖、CA19−
9抗原、CA72−4抗原およびCA−50抗原の群から選択されるヒト糖鎖構造に相当
する少なくとも1つの細胞表面構造を有すること;および/または
d.前記微生物が、Bacteroides ovatus、Bacteroides
vulgatus、Bacteroides stercoris、Bacteroi
des eggerthii、Bacteroides uniformis、およびB
acteroides thetaiotaomicronの群から選択されること;お
よび/または
e.前記微生物が、コア−1に相当し、かつ
30
Nemod−TF1
Nemod−TF2
A78−G/A7
HB−T1
HH8
を含む群から選択される少なくとも1つ、好ましくは2つの、コア−1特異的抗体によっ
て結合される、少なくとも1つの細胞表面構造を有すること;および/または
f.前記微生物が、NEMOD−TF2またはA78−G/A7およびNEMOD−T
F1によって結合されるが、抗体A68−B/A11によっては結合されないこと;およ
び/または
40
g.前記微生物が、図2の糖鎖構造番号1、2、3、4、および/または5の群から選
択される少なくとも1つの糖鎖構造を有すること;および/または
h.前記微生物が、Bacteroides属に属し、かつ
Nemod−TF1
Nemod−TF2
A78−G/A7
HB−T1
HH8
を含む群から選択される少なくとも2つのコア−1特異的抗体によって結合されることを
特徴とする、AG6(DSM18726)、MU1(DSM18728)および/または
50
(3)
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AG6またはMU1同種微生物を含む群から選択されること
の1つまたはそれより多くを有する少なくとも1つの微生物が添加されることを特徴とす
る、請求項1から3の1項に記載の方法。
【請求項5】
ヒト糖鎖構造に一致する少なくとも1つの細胞表面構造を有する前記少なくとも1つの
微生物がスターター培養物として使用されることを特徴とする、請求項1から4の1項ま
たはそれより多くの項に記載の方法。
【請求項6】
ヒト糖鎖構造に一致する少なくとも1つの細胞表面構造を有する前記微生物および/ま
たはBacteroides属の前記微生物が、単独のスターター培養物としてまたは少
10
なくとも1つのさらなるスターター培養物と組み合わせて使用されることを特徴とする、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも、ヒト糖鎖構造に一致する少なくとも1つの細胞表面構造を有する前記微生
物および/またはBacteroides属の前記微生物が最終食品中に増殖できない形
態で存在することを特徴とする、請求項1から6の1項またはそれより多くの項に記載の
方法。
【請求項8】
前記発酵製品が、低温殺菌、滅菌および/または加熱されることを特徴とする、請求項
1から7の1項またはそれより多くの項に記載の方法。
20
【請求項9】
以下の方法ステップ
前記微生物を濃縮し、前記濃縮および/またはペレット化した微生物を活性化のために
新鮮培地中に添加するステップ;
前記食品原材料に、ヒト糖鎖構造に一致する少なくとも1つの細胞表面構造を有する少
なくとも1つの微生物を含むスターター培養物を接種するステップ;
前記食品原材料に、Bacteroides fragilis、Bacteroid
es ovatus、Bacteroides vulgatus、Bacteroid
es stercoris、Bacteroides eggerthii、Bacte
roides uniformis、およびBacteroides thetaiot
30
aomicronの群から選択される少なくとも1つの微生物を含むスターター培養物を
接種するステップ;
前記食品原材料に、活性化されたスターター培養物を接種するステップ;
前記食品原材料に、対数増殖期にある微生物を使用して接種するステップ;
接種された前記食品原材料の嫌気的条件下でのインキュベーション;
接種された前記食品原材料の約20∼50℃、好ましくは30∼45℃、好ましくは3
5∼45℃、特に好ましくは38℃でのインキュベーション;
少なくとも3g/l、好ましくは少なくとも5g/lの量の少なくとも1つの糖、好ま
しくはグルコースの添加
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられる、請求項1から8の1項またはそれより
40
多くの項に記載の方法。
【請求項10】
供給段階が発酵の終了時に開始され、前記供給段階が好ましくは以下の特徴:
a.供給培地が3∼10時間の間添加されること;および/または
b.前記供給培地の添加速度が1時間当たり発酵容量の1∼20%、より好ましくは1時
間当たり約10%であること;および/または
c.前記供給培地が5∼15g/lのグルコースおよび5∼15g/lの酵母エキスを含
むこと;および/または
d.前記供給培地が、システイン、グルコース、ピルベート、酵母エキス、メチオニン、
ガラクトースおよびNaClからなる群から選択される1つまたはそれより多くの添加物
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を含むこと
のうちの1つまたはそれより多くを有する、請求項1から9の1項またはそれより多くの
項に記載の方法。
【請求項11】
食品原材料として乳が使用され、該乳には好ましくはグルコースが添加されることを特
徴とする、請求項1から10の1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11に記載の方法によって製造される発酵食品。
【請求項13】
請求項1から4の1項またはそれより多くの項に記載の少なくとも1つの微生物を含む
10
、発酵食品。
【請求項14】
以下の性質:
請求項1から4の1項またはそれより多くの項に記載の少なくとも1つの微生物をスタ
ーター培養物として有すること;および/または
請求項1から4の1項またはそれより多くの項に記載の前記微生物とは異なる少なくと
も1つのさらなる微生物が、スターター培養物として使用されること;および/または
請求項1から4の1項またはそれより多くの項に記載の前記微生物を増殖できない形態
で含むこと;および/または
1日の消費量当たり請求項1から4の1項またはそれより多くの項に記載の微生物を少
20
6
なくとも10
単位含むこと
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられる、請求項13に記載の発酵食品。
【請求項15】
請求項1から4の1項またはそれより多くの項に記載の少なくとも1つの微生物によっ
て特徴付けられる、発酵食品を製造するための加工助剤。
【請求項16】
スターター培養物であることを特徴とする、請求項15に記載の加工助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
30
本発明は、発酵食品を製造する方法ならびに発酵食品の製造を可能にするための適当な
加工助剤に関する。さらに、発酵食品を利用できるようにする。
【背景技術】
【0002】
例えば、ヨーグルト、チーズ、生ソーセージ、および野菜などの酸性発酵された発酵食
品は、我々の栄養の不可欠な構成要素である。発酵食品を製造するために様々な方法が使
用される。伝統的な発酵方法は、例えば、自然発酵に基づく(例えば、カカオ、コーヒー
)か、または微生物の添加によって誘発される(例えば、アルコール発酵、酢酸発酵、お
よび乳酸発酵)。現行の発酵方法は、それぞれの食品原材料(例えばヨーグルトまたはチ
ーズを製造するための乳)へのスターター培養物の添加に基づいている。スターター培養
40
物は、伝統的な製造プロセスとは対照的に様々な利益をもたらす。1つには、製造不良の
減少および製造プロセスの短縮の結果として、経済的損失を抑制する。さらに、原材料は
通常、より良好に反応することができる。様々なスターター培養物の混合物としても利用
することができ、味、安全性、および均一性に関して結果はより良好であることが多い。
製造プロセスにおける標的介入なしでは不可能であろう製品を製造することができる。全
ての微生物は通常、スターター培養物が、例えば低温殺菌によって添加される前に原材料
中で殺菌される。
【0003】
発酵プロセス用の微生物は発酵プロセスに決定的な影響を及ぼすため、公知の発酵プロ
セスの発展および向上にとってきわめて重要な目的は、適切なこれらの微生物の開発およ
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び選択である。使用される微生物の代謝活性は、最終製品の、例えば、芳香、酸性化度お
よび/または色を決定するものである。
【0004】
さらに、微生物は、健康状態または代謝にプラスに作用する場合、栄養の分野における
大きな可能性を有する。消費者の健康にプラスに作用する発酵食品の公知の例は、プロバ
イオティクス食品を含む。プロバイオティクスは、十分な量で摂取されると消費者への健
康促進作用を有する、生存可能な微生物の調製物である。プロバイオティクス乳酸菌が最
も長く使用されているが、酵母および他の種も同様に使用されている。もともと最初のプ
ロバイオティクスヨーグルト製品が売り出された後、プロバイオティクス細菌を含む、例
えば、クワルク、チーズまたはソーセージなどの他の食品がしばらくの間売り出されてい
10
る。例えば、ヨーグルトなどのプロバイオティクス製品は、様々な方法で製造することが
できる。通常、ヨーグルトは、最初、従来の方法で典型的なスターター培養物の添加によ
って製造され、次いでプロバイオティクス細菌株が混合されて発酵製品となる。使用され
る細菌株に応じて、乳の発酵はまた、プロバイオティクス細菌株自体によって実現されて
もよい;この場合製品は、全くプロバイオティクス細菌株のみを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発酵食品の製造用の公知の微生物の代わりにまたはこれと組み合わせて使用することが
できる、さらなる微生物を提供することが大いに必要とされている。
20
【0006】
本発明はしたがって、発酵食品の製造用の適切な微生物を提供するという目的に基づく
。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、食品原材料が発酵のためのスターター培養物と合わされる、発酵食品の製
造のための方法によって達成される。本発明による方法は、ヒト糖鎖構造、とりわけヒト
糖鎖抗原に相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有する少なくとも1つの微生物が添
加されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
30
【0008】
【図1】図1は、コア−1抗原が特異的汎癌抗原であることを示す図である。
【図2】図2は、糖鎖構造番号1、2、3、4および5の糖鎖構造を示す。
【図3】図3は、発酵プロセス中の接種した乳の粘度およびpH推移を示すグラフである
。
【図4】図4は、発酵プロセス中の接種した乳の粘度およびpH推移を示すグラフである
。
【発明を実施するための形態】
【0009】
糖は、様々な細胞型および組織によって特徴のある重要な細胞マーカーである。しばし
40
ば、ある特定の糖鎖抗原とも呼ばれる糖鎖構造に、疾患と組み合わせて遭遇する。例えば
、異常なグリコシル化は、癌細胞の典型的な特徴である。これらの異常な糖鎖構造は、健
康なヒト細胞上にほとんど存在しないか、または全く存在しないが、細胞が病理学的変化
を受けるときにのみ存在する。したがってこれらの糖鎖構造は、病理学的に変化した細胞
に特徴的なマーカー(抗原)である。したがって、当技術分野の技術水準において、糖鎖
抗原に基づくワクチンを製造するための努力がなされている。しかしながら、糖鎖構造は
わずかに免疫原性であるのみで、したがって十分な免疫応答を誘発するのに必ずしも適当
ではない。しかしながら、有効な免疫応答は、例えば、それぞれの糖鎖構造抗原に対する
保護的作用を確立するために不可欠である。免疫系がそれぞれの糖鎖抗原に初めて接触し
て免疫応答を形成すれば、生物は免疫化の結果として、それぞれの糖鎖構造(例えば癌細
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胞において)が再度存在してそのために免疫防御を誘発するときにより反応しやすいであ
ろう。したがって、糖鎖構造に特異的である有効な免疫応答を誘発させることができれば
、有利である。本発明による微生物は十分に免疫原性であり、ヒト糖鎖構造に相当する少
なくとも1つの細胞表面構造を有するため、本発明による微生物を用いて対応する健康促
進作用を実現させることができる。さらに、これらの微生物は、加工助剤、すなわち、例
えば、スターター培養物として、または例えば発酵食品の製造中に発酵後使用可能な添加
物として有利に使用することができる。
【0010】
一実施形態によると、ヒト糖鎖構造は疾患特異的抗原、とりわけ腫瘍関連抗原である。
微生物の細胞表面構造は、所望のヒト糖鎖構造を有して、一実施形態によればそれぞれ保
10
有してもよい。しかしながら、細胞表面構造がヒト糖鎖構造に相当するが同一ではなくて
も、十分である。微生物におけるグリコシル化は、ヒトまたは動物におけるグリコシル化
とは基本的に異なる。驚くべきことに、微生物は、細胞表面構造として「ヒト」糖鎖抗原
を発現することができることが見出されている。これらの細胞表面構造は、しばしば、実
際のヒト糖鎖構造とはその構造が異なるが、しかしながら、その構造/コンフォメーショ
ンにおいて対応するヒト糖鎖構造に相当するか、または少なくとも非常に類似している基
本構造を有する。このような「対応する」細胞表面構造は、このようにもともとのヒト糖
鎖構造によく似ており、「ヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造」という用語に包含され
る。このようなヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造はまた、糖鎖構造だけでなく、ポリ
ペプチド、ペプチド、脂質、またはこれらの組合せのいずれかであってもよい。重要なこ
20
とは、これらの細胞表面構造が、対応するヒト糖鎖構造に相当するコンフォメーションを
有するということである。このような細胞表面構造の存在は、例えば、特異的にヒト糖鎖
構造を認識し、したがってそれらに結合する抗体の使用によって容易に試験することがで
きる。微生物が所望のヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造を有する場合、この微生物は
また、ヒト糖鎖構造に特異的に結合する抗体によっても認識され、それぞれ結合される。
このように、微生物がヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造を有するかどうかを調査/分
析することができる。さらに、それぞれの試験を使用して、所望のヒト糖鎖構造を有する
、またはそれらによく似ている適切な微生物を特定または選択することができる。抗体の
ほかに、十分な特異性を有する糖鎖構造に結合することができる別の結合分子もまた使用
することができる。非限定的な例は、レクチンおよびセレクチンを含む。
【0011】
以下の表1および2は、重要なヒト疾患特異的糖鎖構造についての概要を示し、例えば
、表に記載されたヒト糖鎖構造に相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有する微生物
の選択および特定を可能にする抗体などの適切な結合剤を開示する。
【0012】
30
(7)
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【表1】
10
20
【0013】
(8)
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【表2】
10
20
30
40
【0014】
ヒト糖鎖構造に一致する細胞表面構造を有する適切な微生物の選択のためのさらなる方
法は、その全体が本開示に組み込まれる、国際出願番号PCT/EP07/009765
およびPCT/EP2007/009766において開示されている。
【0015】
一実施形態によると、微生物は、TF、コア−1、Tn、シアリル−Tn、シアリル−
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TF、グロボ−H、ルイス−Y、シアリル−ルイス−A、シアリル−ルイス−X、ポリシ
アル酸、ルイス−X、GM2、GD2、GD3、9−O−アセチルGD3、GD3L、フ
コシルGM1、フコシル−GM1、ルイス−A、ルイス−B、sLac、シアル化1型鎖
、CA19∼9抗原、CA72∼4抗原およびCA50抗原の群から選択されるヒト糖鎖
構造に相当する細胞表面構造を有する。したがって微生物は、好ましくは、表2に示され
るように、少なくとも1つの結合剤によって認識および結合される。このような試験は、
微生物がそれぞれの細胞表面構造を保有するという簡単な証拠として役立ち得る。
【0016】
一実施形態によると、微生物は、TFまたはコア−1のいずれかであるヒト糖鎖構造に
相当する細胞表面構造を有する。Thomsen−Friedenreich抗原(TF
10
)は、当技術分野の技術水準において腫瘍抗原として知られている公知の糖鎖構造である
。TFは、2つの形態、すなわち、タンパク質または糖脂質のいずれかにおいて結合され
得るTFαおよびTFβで存在する。
【0017】
コア−1は、癌細胞においてタンパク質のヒドロキシアミノ酸セリンまたはトレオニン
上のαアノマー配置中のO−グリコシドとして結合される二糖Galβ1−3GalNA
cである。コア−1は、Thomsen−FriedenreichのTFα構造に相当
し、腫瘍のタンパク質において独占的に結合される。したがって、コア−1はThoms
en Friedenreichの下位構造に相当するため、コア−1およびThoms
en−Friedenreichという用語は同じではない。コア−1抗原は通常、健常
20
組織において別の糖鎖構造によって覆われている;しかしながら、大多数の癌においてお
よび一部の非上皮性癌においては解放され、したがって暴露される。コア−1抗原はこの
ように、特異的汎癌抗原である(例証のため図1も参照されたい)。
【0018】
コア−1は、したがって重要な腫瘍抗原である。コア−1は、60%を超える原発性腸
癌および90%を超える腸癌の肝転移、ならびに乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、および
例えば、胃癌や膵臓癌などの他の胃腸癌型を含む他の癌型の大部分の癌において発現され
る。この抗原の広範な分布の結果として、コア−1に相当する細胞表面構造を有する微生
物を提供することは有利である。したがって、本発明の一実施形態によると、コア−1に
相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有する少なくとも1つの微生物が、発酵食品を
30
製造するために使用される。発酵食品はそれぞれのコア−1陽性微生物を有するため、発
酵食品が摂取されるときにある特定の保護的な、したがって健康を促進する作用を実現す
るようにコア−1に対する免疫応答を誘発することができる。このことはまた、他の疾患
関連ヒト糖鎖構造に一致する細胞表面構造を有する微生物についても当てはまる。
【0019】
一実施形態によると、コア−1に相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有する微生
物は、
Nemod−TF1
Nemod−TF2
A78−G/A7
40
HB−T1
HH8
を含む群から選択される少なくとも1つ、好ましくは2つのコア−1特異的抗体によって
認識および結合される。
【0020】
好ましくは、コア−1特異的抗体の結合は過ヨウ素酸塩に対して感受性であり、すなわ
ちこの結合は過ヨウ素酸塩処理によって還元される。好ましくは、微生物は、NEMOD
−TF2またはA78−G/A7およびNEMOD−TF1によって結合されるが、抗体
A68−B/A11によっては結合されない。このような結合プロファイルは、ヒト癌関
連コア−1構造の結合プロファイルに相当するため特に有利である。
50
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【0021】
一実施形態によると、図2の糖鎖構造番号1、2、3、4および/または5の群から選
択される少なくとも1つの糖鎖構造を保有する少なくとも1つの微生物が、発酵食品の製
造のために使用される。
【0022】
本発明はさらに、食品原材料が発酵のためのスターター培養物と合わされる、発酵食品
を製造する方法であって、Bacteroides属の少なくとも1つの微生物を添加す
ることによって特徴付けられる方法を提供する。Bacteroides属の微生物は、
発酵食品の製造および特性にプラスに作用することが見出されている。この属は発酵食品
の製造にこれまで利用されてこなかったため、これは驚くべきことであった。Bacte
10
roides属の微生物を発酵食品のための加工助剤としておよび特にスターター培養物
として使用することができるという事実は、したがって非常に驚くべきことであった。B
acteroides属は、腸管内粘膜の正常細菌叢に存在する嫌気性、多形性グラム陰
性桿菌を含む。大腸において糞便1グラム当たり1011を超える検体を見出すことがで
きる。好ましくは、微生物は、Bacteroides fragilis、Bacte
roides ovatus、Bacteroides vulgatus、Bacte
roides stercoris、Bacteroides eggerthii、B
acteroides uniformis、およびBacteroides thet
aiotaomicronの群から選択される。これらの微生物も、ヒト糖鎖構造に相当
する細胞表面構造を有することができる。
20
【0023】
一実施形態によると、微生物は、AG6(DSM18726)、MU1(DSM187
28)およびLH2(DSM18727)株から選択される。これらは、Glycoto
pe GmbH、Robert−Roessle−Strasse10、D−13125
Berlinによって2006年10月20日に、DSMZ、Inhoffenstr
asse 7b、D−38124 Braunschweigに寄託された。微生物AG
6およびMU1は、ヒトコア−1に相当する細胞表面構造を有することが見出されている
。さらに、AG6および/またはMU1と同種の本発明による微生物を使用することがで
きる。AG6またはMU1と同種の微生物は、Bacteroides属に属し、少なく
とも2つのコア−1特異的抗体によって結合されることを特徴とする。コア−1特異的抗
30
体は、例えば、Nemod−TF1、Nemod−TF2、A78−G/A7、HB−T
1、およびHH8を含む。好ましくは、コア−1特異的抗体の結合が過ヨウ素酸塩に対し
て感受性である同種微生物が使用される。言い換えれば、結合は過ヨウ素酸塩処理によっ
て還元される。詳細な実験を含むAG6およびMU1ならびにそれらの作用についての詳
細は、これによりその全体が本開示に組み込まれる、国際出願番号PCT/EP2007
/009765およびPCT/EP2007/009766において開示されている。
【0024】
本発明による微生物は、発酵プロセスを開始するために、その最中に、またはその終結
後に添加することができる。微生物がすでに発酵した製品に発酵後混合される場合、発酵
プロセスを開始するために加えてスターター培養物を使用することが好ましい。スタータ
ー培養物は、増殖可能であり、純粋培養または混合培養中に存在し、外観、香り、味およ
び/または賞味期限を向上させることを意図して食品に添加される微生物を含む。以下の
表は、当技術分野の技術水準において公知であり、製造される発酵食品に応じて使用する
ことができるスターター培養物についての概要を示す。当然ながら、これは選択肢に過ぎ
ず、他の公知のスターター培養物もまた使用することができる。他もここに記載した。
【0025】
40
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【表3】
10
【0026】
特に、微生物streptococcus thermophilusおよびlact
obacillus bulgaricusは、ヨーグルト製品を製造するために使用す
20
ることができる。しかしながら、当技術分野の技術水準において公知の別のスターター培
養物を使用することにより発酵を開始することもできる。本発明による微生物は、一実施
形態によれば、プロバイオティクス製品と同様に発酵プロセスの終了時に添加されてもよ
い。しかしながらプロバイオティクス製品とは対照的に、本発明による微生物は、好まし
くは(使用される微生物に応じて)増殖不能な形態で、発酵した最終食品中に存在する。
これは、例えば、微生物の照射または加熱によって実現することができる。好ましくは、
微生物は殺菌される。これは、製品へ添加される前の微生物の処理、または微生物が添加
され、したがって処理された発酵食品のいずれかを含んでもよい。微生物は、増殖または
殺菌不能であるかどうかにかかわらず、ヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造をなお保持
しているため、本発明による微生物は最終食品製品においてもなお健康促進作用を提供す
30
ることができる。
【0027】
本発明に従って使用される微生物はさらに、驚いたことに発酵プロセスを開始する能力
を有するため、スターター培養物として使用されてもよい。このことは、発酵食品の製造
のためのスターター培養物としてこれまで使用されていないため、Bacteroide
s属の微生物(上記参照)、特にAG6およびMU1ならびにこれらの類似体について特
に驚くべきことである。本発明による微生物はここで、単一のスターター培養物を意味し
てもよい。しかしながら、本発明による微生物を、別のスターター培養物と組み合わせて
使用することもまた可能である。これは、発酵製品の味、酸性化度および/または粘稠性
に影響を及ぼすため、および発酵製品を要求通りに改変するために有益であり得る。細菌
40
培養物の代謝活性は、例えば、酢酸、ジアセチルアルデヒドおよびアセタールアルデヒド
などの、酸味とともに製品の独特の酸っぱい、または酸味の強い芳香の特徴に寄与する揮
発性の芳香族化合物を発生させる。様々なスターター培養物を混合することにより、所望
の特徴のそれぞれの調節が可能になる。当然ながら、本発明は、スターター培養物として
の(任意選択で別のスターター培養物と組み合わせて)本発明による微生物に加えて発酵
製品への添加物を使用する変形形態もまた包含する。このような実施形態は、例えば発酵
製品中に存在する微生物の量を調節するまたは増加させるために有利であり得る。
【0028】
本発明による微生物がスターター培養物として使用される場合、発酵産物は、さらに好
ましくは、微生物を増殖不能にする形態で発酵した最終食品中に含むように処理される。
50
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これは、例えば、低温殺菌、超加熱処理、または滅菌による微生物の殺菌を含む。
【0029】
本発明による方法は、きわめて多様な食品の製造を可能にする。食品は、例えば、ビー
ル、ワイン、サワードウまたはイーストドウまたは大豆製品など、植物源に基づいていて
もよい。これらはまた、動物源のもの、とりわけ乳および/または肉製品であってもよい
。本発明による方法によって製造可能な製品の非限定的な例示リストは、サワーホエイ、
凝乳/酸乳、ゼラチン、クリームチーズ、ソフトチーズ、カットチーズ、ハードチーズ、
プロセスチーズ、クワルク、凝乳チーズ、加熱チーズ、ケフィア、イメール、アブラン、
糖蜜、ヨーグルト、フルーツヨーグルト、スイートホエイ、ホエイバター、フレッシュチ
ーズ、モッツァレラ、フェタチーズ、ホエイパウダー、サワークリーム、クレームフレッ
10
シュ、マスカルポーネ、スメタナ、サワークリーム、サワークリームバター、バター、バ
ターオイル、セミファットバター、弱発酵バターなどの発酵乳製品、例えば、サラミまた
は塩漬け肉などの生ソーセージ、カカオ、コーヒー、サワードウおよび例えばザウエルク
ラウトなどの発酵野菜を含む。食品原材料は、製造しようとする発酵食品製品に従って選
択される。
【0030】
本発明による微生物は、単独でまたは発酵肉製品を製造するための一般的なスターター
培養物と組み合わせて、スターター培養物として使用することができる。通常、とりわけ
生ソーセージの熟成を伴う場合に、スターター培養物が使用される。スターター培養物は
pH値の低下を引き起こし、肉に本来含まれる糖および添加された糖成分を有機酸に変換
20
する。さらに、肉タンパク質の凝固を引き起こす。pH値を低下させることにより、吸水
能の減少をもたらす。pH値の低下はまた、保存効果も有する。とりわけ、本発明による
微生物の代わりにまたはこれと組み合わせてスターター培養物として使用することができ
る、例えば、ホモ発酵の代表的なlactobacillus属およびpediococ
cus属などの乳酸菌が適切である。この場合もまた、本発明による微生物を、1種のプ
ロバイオティクス添加として発酵後に添加することがやはり可能である。しかしながら、
微生物は、最終製品中に(使用される微生物に応じて)好ましくは増殖不能な形態、およ
び好ましくは殺菌される形態で(上記参照)存在する。これはとりわけ、含まれる微生物
がBacteroidesである場合に当てはまる。熟成時間を短縮するため、および特
定の芳香を実現するために、乳酸生産量の高い乳酸菌株が使用されてもよい。芳香に影響
30
を及ぼすため、例えば、特定のプロテアーゼおよびリパーゼ活性を有する微生物、とりわ
けStaphylococcus、Micrococcus、さらにカビなどを使用する
ことができる。
【0031】
本方法は、以下の方法ステップの少なくとも1つを含み得る:
食品原材料に、ヒト糖鎖構造に一致する少なくとも1つの細胞表面構造を有する少なく
とも1つの微生物を含むスターター培養物を接種するステップ。原材料は、例えば、原材
料1ml当たり少なくとも約1×106、好ましくは約1∼7×109の微生物を接種さ
れてもよい。対応する量は、乳に、特に、Bacteroides fragilis、
Bacteroides ovatus、Bacteroides vulgatus、
40
Bacteroides stercoris、Bacteroides eggert
hii、Bacteroides uniformis、およびBacteroides
thetaiotaomicronならびにとりわけAG6またはMU1の群から選択
されるBacteroidesの培養物を接種する場合に有益であることが証明されてい
る。しかしながら、この量は、原材料および所望の最終製品に応じて変動し得る。
【0032】
接種した食品原材料の嫌気的条件下でのインキュベーション。この手順は、例えば、B
acteroides(使用される群に関して上記参照および特にAG6およびMU1)
などの嫌気性細菌をスターター培養物として使用する場合に、特に有益である。インキュ
ベーションは、例えば、N2、CO2および/またはH2雰囲気下で行ってもよい。
50
(13)
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【0033】
約30∼50℃での接種した食品原材料のインキュベーション。温度もまた、スタータ
ー培養物として使用される微生物、原材料、および所望の最終製品に応じて変動し得る。
35∼40℃の温度は、Bacteroidesの培養物のインキュベーションに、とり
わけ、例えば、ヨーグルトなどの発酵乳製品を製造するための乳の発酵中に、特に有益で
あると証明されている。
【0034】
一実施形態によると、糖、好ましくはグルコースは、好ましくは、少なくとも3g/l
、好ましくは少なくとも5g/lの濃度で乳に添加される。
【0035】
10
一実施形態によると、発酵食品は乳製品を含む。これは、ヨーグルトおよびとりわけヨ
ーグルト飲料であってもよい。原材料は、全乳もしくは低脂肪乳、脱脂乳、加糖練乳、低
脂肪乾燥乳、ラクトース、またはクリームなどの任意の乳製品または乳様製品を含んでも
よい。乳はここで、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウ、またはラクダなどの任意
の動物の搾乳によって得られる乳様分泌物のことをいうと理解されるべきである。加えて
、本発明は、水性媒体における低脂肪粉乳および/または全脂粉乳の懸濁によって乳また
は乳様製品を製造する可能性を含む。発酵乳製品という用語は、上記のような、任意の発
酵型を受ける乳原材料を含む任意の乳製品のことをいうと理解されるべきである。本発明
による方法によって製造することができる発酵乳製品の例は、上記に列挙されている。発
酵乳製品の製造のために、上記に定義した乳原材料を利用できるようにする。乳原材料は
20
、可能性のある病原菌を殺菌するために、低温殺菌、滅菌、熱処理、または任意の他の適
当な方法によって前処理されてもよい。低温殺菌および滅菌方法は、当技術分野の技術水
準において公知であり、記述の必要はない。乳原材料を、本発明による微生物を含み得る
スターター培養物と発酵のために合わせる。本発明による微生物が、後で添加物としての
みまたは発酵のための別のスターター培養物と組み合わせて添加される場合、適切なスタ
ーター培養物は、製造される製品に応じて選択される。適切なスターター培養物は、当技
術分野の技術水準において公知である。
【0036】
添加されるスターター培養物の用量およびインキュベーション温度は、例えば、使用さ
れるスターター培養物および乳原材料ならびに所望の最終製品に応じて変動する。スター
30
ター培養物および任意選択でさらなる添加物を含む乳原材料は、当技術分野において一般
的に公知の条件下で発酵させる。スターター培養物として使用される微生物に応じて変動
し得る発酵条件の例は、20∼50°、好ましくは35∼46°の温度、少なくとも3時
間を含む。インキュベーションは、好ましくは、所望のpH値に達するまで十分な時間実
施される。pH値は、酸性領域、好ましくはpH6またはpH5以下であることが好まし
い。ラクトースが少ない製品を製造する場合、ラクトースを加水分解するためにラクター
ゼが原材料に添加されてもよい。
【0037】
本発明による方法は、特に、例えば、ヨーグルト、特にヨーグルト飲料などの発酵乳製
品の製造を可能にする。好ましくは、製造は、好ましくはBacteroides fr
40
agilis、Bacteroides ovatus、Bacteroides vu
lgatus、Bacteroides stercoris、Bacteroides
eggerthii、Bacteroides uniformis、およびBact
eroides thetaiotaomicronの群から選択されるBactero
ides微生物の使用により実現される。これらは、上記のようにヒト糖鎖構造を有して
いてもよく、または有していなくてもよい。
【0038】
乳の増粘は約5.5のpH値で始まり、培養物および製品に応じて、例えばヨーグルト
などの発酵乳製品については例えば、3.8∼4.6のpH値(乳のpH:約6.5)で
、終了する。細菌株AG6および/またはMU1を使用する場合、5より低いpH値に達
50
(14)
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する。しかしながら、5.5のpH値を有する製品は、ヨーグルト飲料としてすでに使用
されている可能性がある。特定のpH値に達すると、発酵を停止する可能性もある。pH
値はしたがって、添加されるスターター培養物および発酵プロセスの長さによって変動す
る可能性がある。
【0039】
乳の粘度は、約1mps−1である。半固形ヨーグルトは、100mps−1を超える
、例えば、150mps−1の粘度を有する。ヨーグルト飲料は典型的に、120mps
−1より低い粘度を有する。本発明に従って微生物AG6および/またはMU1を含むヨ
ーグルト飲料は、例えば、少なくとも5∼10mps−1の粘度を有していてもよい。粘
度はまた、フルーツの存在にも依存する。
10
【0040】
述べたように、酸含量および酸の種類は、様々なスターター培養物の使用により変動す
る可能性がある。以下の表4に記載されている細菌株は、ヨーグルトの製造のために使用
することができ、例えば、これらは以下に記載の酸を生成する。
【0041】
【表4】
20
30
40
【0042】
発酵中に2種類の乳酸:右旋性のL(+)乳酸および左旋性のD(−)乳酸が得られる
。2つの種類の乳酸は化学的に実質的に同じであり、しかしながら、物理的特性に関して
異なる。乳酸に偏光を照射すると、右旋性の乳酸は右側に、左旋性はしたがって左側に光
を「回転させる」。どちらの乳酸が発酵食品中に含まれるかは、製造のために使用される
細菌培養物に主に依存する。Streptococcus菌およびビフィズス菌は、ほと
んど例外なく右旋性の、Lactobacillus bulgaricusはほとんど
50
(15)
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例外なく左旋性の乳酸を生成し、Lactobacillus acidophilus
は両方の種類の乳酸をほぼそれぞれ半分ずつ生成する。バターミルク、サワー乳、および
サワークリームの細菌は右旋性の乳酸を約90パーセント生成するが、典型的なヨーグル
トは両方の種類を種々の比率で含む。まろやかなヨーグルトは主に右旋性の乳酸を含む。
【0043】
右旋性の乳酸はヒトの体内で産生され、したがって生体によって容易にかつ迅速に分解
される。左旋性の乳酸は体にとって異物であり、したがって少しゆっくりと代謝される。
このことは通常、健常なヒトの健康に悪影響を与えない。乳児だけは、代謝がまだ完全に
成熟していないため、最初の数カ月の間は左旋性の乳酸を摂取するべきではない。
【0044】
10
一実施形態において、Bacteroides培養物は、バイオリアクターを使用して
製造される。例えば、培地に0.2∼10%、好ましくは約2%の量で前培養物を接種す
る。Bacteriodes培養物を用いた発酵は、35∼42℃、好ましくは約37℃
の温度で、5∼9、好ましくは約7のpH値で、嫌気的条件下で一晩進行し得る。
【0045】
好ましくは、発酵の終了時に、グルコースが完全にまたはほぼ完全に使い果たされたら
、供給段階を開始する。このために、例えば、3∼10時間、好ましくは4時間の間、さ
らなる培地(供給培地)を連続的に添加する。添加速度は、好ましくは1時間当たり発酵
量の1∼20%、より好ましくは1時間当たり約10%である。供給培地は、好ましくは
以下の通り構成する:
20
10g/lのグルコースおよび10g/lの酵母エキスに加えて任意選択で、以下のリ
スト:
システイン
グルコース
ピルベート
酵母エキス
メチオニン
ガラクトース
NaCl
から選択される1つまたはそれより多くの添加物。
30
【0046】
残りのプロセスは、本明細書にも記述されているように、乳発酵の終了時まで進行する
。
【0047】
製品は、低温殺菌の後に濃縮されてもよい。このために、種々の一般的な方法を使用す
ることができる。例えば、限外濾過によって濃縮を実施することができる。
【0048】
濃縮されることが好ましい製品は、噴霧乾燥して微粉末にしてもよい。プロバイオティ
クス細菌培養物または他の添加物を、好ましくはカプセルを提供するためにカプセル化さ
れる前に、得られた粉末に添加してもよい。
40
【0049】
本発明は、記載した方法に従って製造することができる発酵食品をさらに提供する。
【0050】
さらに、少なくとも1つのBacteroides微生物を有する発酵食品が提供され
る。好ましくは、微生物は、Bacteroides fragilis、Bacter
oides ovatus、Bacteroides vulgatus、Bacter
oides stercoris、Bacteroides eggerthii、Ba
cteroides uniformis、およびBacteroides theta
iotaomicronの群から選択される。
【0051】
50
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さらに、少なくともヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造を有する少なくとも1つの微
生物を含む発酵食品が提供される。適切な微生物は、上記および特許請求の範囲において
詳細に記述されている。上記の説明を参照する。好ましくは、微生物は、コア−1陽性微
生物、特にAG6、MU1または同種微生物である。使用される微生物は、好ましくは、
図2の糖鎖構造番号1、2、3、4、および/または5の群から選択される糖鎖構造を保
有する。
【0052】
本発明による食品は、本発明による微生物に加えて1つまたはそれより多くの一般的な
スターター培養物を含んでもよい。しかしながら、一実施形態によると本発明による微生
物は、スターター培養物としてのみ使用される。
10
【0053】
一実施形態によると、発酵食品は、少なくとも106単位の本発明による微生物を有す
る。
【0054】
一実施形態によると、発酵食品は、増殖できない形態で、例えば、殺菌された状態で本
発明による微生物を含む。この実施形態は、Bacteroides微生物を使用する場
合、特に有利である。
【0055】
方法に関連して詳細を上述してきたが、それぞれの開示について言及する。
【0056】
20
本発明に従って、ヒト糖鎖構造に相当する少なくとも1つの細胞表面構造を有する少な
くとも1つの微生物によって特徴付けられる、発酵食品の製造のための加工助剤がさらに
提供される。加工助剤は、それ自体は食品として摂取される成分ではないが、技術的理由
のために食品の処理および加工中に使用される、特定の食品の消費者の健康の観点から無
害な、この食品(加工助剤)に対して技術的影響を与えない量の、意図しない技術的に不
可避の残留物または残留物の分解もしく反応産物を残してもよい材料のことをいうと理解
されるべきである。好ましくは、加工助剤はスターター培養物である。適切な微生物は、
上記および特許請求の範囲において詳細に記述されている。それぞれの開示を参照する。
同じことが、Bacteroidesの使用についても当てはまる。
【実施例】
30
【0057】
本発明による方法を、実施例を参照して以下に詳細に記述する。
【0058】
(1.実施例1)
ヨーグルトの製造のための例示的な方法を以下に記述する。ヨーグルトの製造のために
、乳を「増粘する」、すなわち、いわゆるゼラチンを生成する。これはまた、半固形ヨー
グルトとも呼ばれる。ヨーグルトの製造のために必要な乳を所望の脂肪含量に調節し、生
じ得る余分量の乳脂肪を、必要に応じて遠心分離によって分離してもよい。乾燥質量の含
量はこのように増加させることができるため、ヨーグルトの粘稠性は、例えば、粉乳の添
加によって変化させてもよい。次いで調節した乳は、原材料中に含まれる全ての不要な細
40
菌が死滅するように、加熱操作、例えば、低温殺菌または超加熱処理を受ける。乳は、好
ましくはさらに均質化される(クリーム分離を防止するように乳中に含まれる脂肪球を粉
砕)。次いで、乳を約30∼50°、好ましくは35∼41°まで冷却し、貯蔵タンクに
移す。スターター培養物をこの貯蔵タンクに添加する;撹拌装置を使用して十分な混合を
行い、次いで撹拌機を止めている間に乳を貯蔵タンク中で休ませる。結果として、いわゆ
る発酵がここで始まり、すなわち培養物が発酵し始める。乳中に含まれる乳糖が、発酵に
よって乳酸に変換される。この乳酸が次に、乳タンパク質を凝集させ、ゼラチンを生成す
る。この期間中、主に使用されるスターター培養物の代謝産物を含む芳香もまた生成され
、したがって、異なるスターター培養物の組合せによって芳香を変化させることができる
。一般的な代謝産物の例は、ジアセチル、アセトアルデヒド、および様々な酸を含む。典
50
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型的には5より低い所望のpH値に達した後、さらなる酸性化が遮断されるように再度撹
拌する。ヨーグルト塊を冷却して製造に利用できるようにする。発酵は通常、使用される
細菌培養物および発酵温度に応じて3時間超、典型的には6∼25時間かかる。プロセス
はまた、それより長く運転されてもよい。
【0059】
フルーツヨーグルトを製造する場合には、それぞれのフルーツ成分もまた添加されても
よい。次いで、それぞれ完成したヨーグルトは、カップに注ぐことができる。
【0060】
本発明に従って、ヒト糖鎖構造に相当する細胞表面構造を有する微生物および/または
Bacteroides属の微生物を、加工助剤として、例えばスターター培養物として
10
使用することができる。
【0061】
(2.実施例2)
微生物AG6を使用した。
【0062】
乳の酸化還元電位は、嫌気的条件下で一晩のインキュベーションによって、または95
℃の高温への加熱によって+10mV未満まで低下する。2.5∼20g/l、好ましく
は5g/lの量のグルコースを乳に添加する。乳に、2.5×109∼7×109細菌/
ml乳(好ましくは5×109細菌/ml乳)を接種する。接種した乳を、嫌気的条件下
またはCO2雰囲気下で37∼41℃で(好ましくは約38∼39℃で)インキュベート
20
する。接種した乳は、約1.5∼2.5mps−1の粘度を有する。
【0063】
約10∼20時間のインキュベーション時間後、乳は約5∼50mps−1の粘度を有
する。より高い粘度は、例えば、デンプン(例えば粉乳)の添加によっておよび/または
さらなるスターター培養物の接種によって変化させることができる。このようにして、半
固形ヨーグルト製品もまた製造することができる。
【0064】
(3.実施例3)
この実施例では、前日にWC(Wilkings Chalgren)培地において5
%を接種し、嫌気的条件下、37℃で一晩インキュベートしたBacteroides培
30
養物を使用した。細菌を遠心分離によって濃縮し、その後活性化した。活性化は、嫌気性
バッグおよび嫌気的条件下、37℃で2時間のインキュベーションによって脱気した新鮮
培地中にペレットを受け入れることによって実現された。活性化段階の後、細菌を再度濃
縮し、乳に吸収させた。この手順は、Bacteroides培養物を使用する場合に有
益であることが証明されている。
【0065】
発酵しようとする乳を、嫌気性バッグを用いて一晩脱気した。実験の開始時に、脱気し
た乳に、4.0*109c/mlの細菌量を接種した。加えて、実験の開始時に乳を、グ
ルコース溶液の添加によって5g/Lのグルコース濃度に調節した。
【0066】
40
図3は、発酵プロセス中の接種した乳の粘度およびpH推移を示す。pHは4.85の
値に達し、粘度は25mps−1を超える値に達して、粘性のある、濃厚なクリーム状の
製品の発生をもたらした。
【0067】
これらの条件は、Bacteroidesスターター培養物を単独のスターター培養物
として使用した場合、粘性のある発酵乳製品の発生をもたらした。
【0068】
(4.実施例4)
この実施例では、前日にWC培地において2.5%を接種し、嫌気的条件下、37℃で
一晩インキュベートしたBacteroides培養物を使用した。細菌を遠心分離によ
50
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って濃縮した。ペレットを直接、脱気した乳中に吸収させた。
【0069】
発酵しようとする乳もまた、嫌気性バッグを用いて一晩脱気した。実験の開始時に、脱
気した乳に、6.0*109c/mlの細菌量を接種した。加えて、実験の開始時に乳を
、グルコース溶液の添加によって5g/lのグルコース濃度に調節した。
【0070】
図4は、発酵プロセス中の接種した乳の粘度およびpH推移を示す。pHは4.75の
値に達し、粘度は10mps−1の値に達した。実験終了時には、製品は粘性があり濃厚
なクリーム状であった。
10
【0071】
記述した条件下で、Bacteroides培養物の使用は、粘性のある乳製品をもた
らす。
【0072】
好結果の発酵のために重要な条件は、基本的に強い細菌の代謝活性である。このため、
細菌は対数増殖期にあることが好ましい。別の方法として、新鮮培地中でのインキュベー
ションによって細菌を再活性化することができる。
【0073】
酸性化動態は、好結果の乳発酵のために最も重要な因子であると特定された。
【図1】
【図2】
(19)
【図3】
【図4】
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(20)
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【国際調査報告】
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フロントページの続き
(81)指定国 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),
EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,S
K,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,
BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,K
E,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL
,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW
(72)発明者 ウルセマー, フィリッペ
ドイツ国 16552 シルドウ, モーツァルトシュトラーセ 25
Fターム(参考) 4B001 AC02 AC30 BC14 EC05
4B035 LC06 LG19 LG50 LP42
4B065 AA01X AA93Y AB01 AC20 BB03 BB12 BB15 BB29
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