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に向けた経営改革の現実的な実践

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に向けた経営改革の現実的な実践
日本下水道新聞(平成 28 年 1 月)
掲載記事
「持続」に向けた経営改革の現実的な実践
-「計画」・「予算」を中心に-
国土交通省下水道管理指導室長
横須賀市上下水道局技術部長
旭川市水道局上下水道部長
豊中市上下水道局技術部長
倉敷市環境リサイクル局参与兼下水道部長
青森市環境部理事
藤川
青木
和田
樋上
黒瀨
小松
眞行
孝行
泰昌
利哉
達夫
文雄
■下水道事業の中長期計画
藤川 ご案内のとおり、昨年の下水道法改正を踏まえ、事業計画が大きく見直
されることとなりました。大きく言うと、①これまで建設に関する計画だっ
たものが、維持管理に関する事項を含め総合的な計画になったこと、②建設
についても、これまではどちらかというと個々の施設のスペックを中心と
するものだったのが、機能の向上(新設・改良)と機能の維持(改築更新)
のそれぞれについてその政策目標・指針等も重視するものとなったことが
あります。 また、これも今後の下水道の持続に向けて、非常に重要なこと
であると思いますが、③事業計画の内容を実効性のあるものとするため、建
設だけでなく、維持管理を含め、収支面の見通しをしっかり立ててもらうよ
うにしたことです。
そもそも論になりますが、アセットマネジメント、ストックマネジメント
と言ってさまざまな見通しをつくっても、収支の入った中長期の計画に反
映され、最終的には、個々の年度ごとの予算に結実してこなければ、絵に描
いた餅となってしまいます。他方、そうは言っても、例えば使用料収入の減
少、一般会計繰入金の抑制等という厳しい現実があればあるほど、あるべき
姿を現実の予算までもってくるにはさまざまな困難を伴うわけです。
そこで、この座談会では、中核市等で構成される下水道研究会議の役員都
市の実務責任者の方々をメンバーとして、下水道事業の中長期計画、予算の
姿について現実を見つめることを通じて、今後の経営改善方策を含め「下水
道の持続」について考えていくこととしたいと思います。
まず、最初に、各市において、下水道事業についてどのような中長期計画
を作っておられるのか、主に予算につながってくるような計画系列につい
てお話しください。
青木(横須賀市) まず、上位計画として平成 23~33 年度の 11 年間を期間
とする「水道事業・下水道事業マスタープラン2011~2021」があり、
それを具体の事業計画として落としこんだ平成 26~29 年度の 4 カ年を期間
とする「第2期実行計画」があり、予算もこれに基づいています。例えば昨
年度、使用料を平均 17%値上げしましたが、これは実行計画にも織り込ま
れています。
昨年度は横須賀市全体が公共施設の適正な配置計画の検討を開始しまし
たので、上下水道局もそれに呼応して、既存ストックを今後どういうかたち
でもって行くか、またどれくらいの維持管理費、改築更新のコストがかかる
かという見通しを立てるため、水道・下水道の施設整備計画を昨年6月に策
定しました。これは局独自のものですが、目標年度は 2100 年、約 90 年の長
期のスパンを見通したものです。
和田(旭川市) 旭川市は、4 年ごとに財政計画を策定しながら事業を進めて
おり、現行計画は平成 24 年度から 27 年度までとなっております。この基
本となる考え方として、平成 15 年度に策定しました 12 年間の中長期的な
計画である「水道事業及び下水道事業財政計画策定に向けた基本的な考え
方」があります。12 年間を 4 年ごとに三期に分け、前期・中期・後期とい
う期間ごとに分けて財政計画を設定しており、今年度は後期計画の最終年
度です。 東日本大震災後、施設の強化が非常に重要であり、さらに更新も
課題となっていました。平成 23 年度に今期 4 年間の財政計画を策定した時
に、水道局独自の将来計画として、中長期計画 50 年プランを策定しました。
50 年先を見据えた将来の施設のリニューアルも考えた計画をまとめ、さら
に事業費を把握した上で、今期の財政計画に沿って事業を進めてきたとこ
ろです。
今年度は財政計画期間の最終年度ですから、現在は来年度から始まる新
計画の策定作業を進めています。前回の計画策定においては、50 年プラン
で推計した料金収入、修繕費も含めたアセットマネジメントを反映し、将来
的な平成 35 年までの財政と事業についても考えながら策定したところです
が,来年度からの計画策定においても同様な手法を活用する考えです。
樋上(豊中市) 公表している財政計画としましては、
「とよなか水未来構想」
の実行計画で、3 年間分を公表しております。
「とよなか水未来構想」とは、
平成 20 年に水道事業と統合した時に策定した本市の上下水道事業ビジョン
で、平成 21~32 年度までの 12 年間の構想となっています。実行計画につ
いては、毎年、年度末に直営で見直しを行っています。使用料、交付金、施
設の維持管理、更新を含め、一応収支の全てを反映したものとなっています。
アセットマネジメントは 50 年先まで見通したものを作成しておりますが、
平成 27~29 年度にかけて、そのアセットマネジメントをもっと実践的なも
のとするために見直しを行い、
「経営戦略」を策定し、平成 30 年度から実行
していきたいと思っています。
黒瀨(倉敷市) 公表している計画は、倉敷市では、4年ごとの中期財政試算
を毎年公表しており、この中で特別会計の収支は、一般会計繰出金として計
上しています。
また、下水道事業のバランスシートも、普通会計と連結したバランスシー
ト及び行政コスト計算書として公表しています。
経営の健全化に対しては、収入の増加、経費の削減に積極的に取り組むと
ともに、資本費平準化債の活用も行っています。
倉敷市の下水道を取り巻く環境は、施設・設備の老朽化に伴い更新投資の
増大や、人口減少に伴う使用料収入の減少が見込まれ、今後、経営環境は厳
しさを増す中で、現在、平成 28 年度から 10 年間の本市の下水道事業の方
向性を示すものとして、『倉敷市下水道事業経営戦略ビジョン』を策定し、
公営企業会計への移行、アセットマネジメントを見据えた事業展開を目指
していくこととしています。
また、倉敷市第六次総合計画(地方創生・業務改革・財政構造改革)を実
現するための個別計画【倉敷市行財政改革プラン 2016】の内、下水道部と
して実施方針「財源の拡充」実施内容「水洗化率の向上」達成目標は「平成
31 年度末の水洗化率が 92・3%を超えることを目指します」等他 8 プラン
を実施項目とし全庁的に平成 28 年度から平成 31 年度までの 4 年間で目標
達成に向けて進捗管理を行うこととしております。
小松(青森市) 下水道事業に関して、対外的に公表している財政計画はござ
いませんが、料金見直しの際に財政計画として 3 年から 5 年のスパンで計
画を立てています。本年、市町村合併に伴う料金改定を行うため、平成 27
年度から 29 年度までの財政計画を策定しました。
現在、アセットマネジメントまではいっていないのですが、ストック的な
マネジメントとして、管の長寿命化計画を昨年度から策定しています。
本市ではまだ新たに整備が必要な地域があるため、全体的な改築予算は
少ないのですが、徐々に老朽管の更生、長寿命化を進めていきたいと考えて
います。また、企業会計化に向けた全体的な資産等の調査が終わったのちに
は、全体的なアセットマネジメントに取り組んでいく必要があると考えて
います。
■中長期計画と単年度予算の関係
藤川 お話を聞いていると、中長期計画については、各市においてさまざまな
バリエーションがありますが、粗々言うと、まず、10 年あるいはそれを超
えるスパンでの計画、ビジョン等が策定され、事業計画、交付金計画、長寿
命化計画等や、市全体の財政計画との整合性を図る形で、最終的には、具体
的な収支計画を含む数年間の実施計画ができ、それが、年度ごとの予算にな
っていくという感じでしょうか。そして、最近は、超長期の改築更新の見通
し等も策定され、今後、具体的な計画へのすりつけが課題となっているとこ
ろもあります。
中長期計画といっても、それが予算となって、具体的なアクションになら
なければ意味がないと思われますが、そこで、さらに踏み込んで、各種計画
と現実の予算との関係について、実態はどのようになっているのか、教えて
いただけますか。
青木(横須賀市) 本市の場合、4カ所の浄化センターのうち、3カ所で包括
的民間委託を行っていますが、現在、委託に係わる人件費が大幅に上がって
きています。他方、節水機器の普及が進んでいる上に、人口も減少しており、
使用料収入は右肩下がりです。
そのような状況ですので、具体的な予算の段階で非常に苦労するわけで
すが、やはり何を削るかというと、裁量的に変更できる維持管理費くらいに
ならざるを得ないわけです。現場の方からみますと、非常に厳しい状況です。
黒瀨(倉敷市) 本市の人口は、現在、微増傾向となっているものの、今後の
人口推計において、平成 31 年をピークに減少に転ずるとされており、節水
型社会の進展に伴う水需要の減少も重なり、下水道使用料収入は、減少傾向
にあります。 施設が増えているにもかかわらず維持管理費は横ばいです
が、毎年 11~12 月ぐらいに年度の収入見込みが分かりますので、収支のバ
ランスに問題があれば修繕費などを抑制して、なんとかやっているのが実
態です。
樋上(豊中市) 本市では、起債の償還がだんだん減っているところであり、
今取り立てて苦しいということはなく、何とか利益が出ている状況です。
他方、老朽化への対応については、管きょの長寿命化事業に着手しておりま
すが、管路に起因する道路陥没の事故もあり、市長からのトップダウンの指
示で、陥没の多い地域で重点的に対応を図るため、それに対応した予算措置
も講じていこうと考えています。
また、処理場については、大規模な施設の更新が出てくる時期が見えてい
ますので、現在、そこに向けて、どのように資金手当てをするか、そのあた
りが一番重要な課題と考えています。広域化、共同化といったところも、今
後、計画の中で考えていくべきではないかと思っています。
和田(旭川市) 4 年間の財政計画に基づき事業を進めているところですが、
計画策定時の予測よりも現状はかなり厳しい状況になっています。今後は
起債償還金が減少していくという好材料はありますが、他方、人件費、電力
費、維持補修・修繕費が上昇しています。また、市全体の財政状況から一般
会計からの繰入金も抑制していかざるを得ない状況もあります。近年は収
支決算でわずかながら収益が上回り黒字でしたが、平成 26 年度の決算は引
当金の計上等の必要経費の増加により、赤字となってしまいました。
施設の老朽化が進む中でますます危機感を持っているところですが、メ
ンテナンスが中心となっている現在、維持管理費を単純に抑制することは
困難であり、どのようにマネジメントしていくかが大きな課題です。中長期
的には、収入・支出の両面で踏み込んだ対策を取っていかざるを得ないと考
えています。
小松(青森市) 他の地方都市と同じであると思いますが、人口減少が進む中
で下水道使用料収入の減は避けられず、逆に老朽化した分の支出が増える
というギャップがあります。また、発注する際の建設費が約 1・5 倍になっ
ていることで、足元では、人件費や電力費が上昇していることなどから、財
政面で非常に厳しい状況となっています。
このため、市の二つの処理場のうち、一つは消化ガス発電で約 4 分の 1 程
度の電気代を賄うこととしており、また、もう一つの処理場は固定価格買取
制度を利用したガス発電事業を民間が実施しており、ガス売却で年間 4000
万円程度の収入を見込んでいるところです。
しかしながら、このような経営努力をしていても、例えば、破砕機が壊れ
るなど、突発的な維持修繕費が発生することも結構ありますので、そうする
と、本来予定していた修繕工事を後ろ回しにせざるを得ない状況です。それ
がまた、突発的な故障を生む要因となり、イタチごっこになっています。努
力はしているのですが、なかなか全体的な修繕等が進まないのが実態です。
■持続に向けた政策対応
藤川 財政事情は、各市によってさまざまでしょうが、総じて皆さん、厳しい
状況の中にあって、非常にご苦労されていることが、ひしひしと伝ってきま
す。
しかし、そもそも論になりますが、計画は理想論できれいにつくって、現
実は、その場しのぎ、付け焼刃で対応するだけでは意味がないのであり、計
画と現実との乖離を含め、現実の問題を直視し、しっかり現実とつながり、
かつ、必要なメンテナンス対応が図られるよう、中長期計画等の練り直しを
通じて、道筋をつけていくことは非常に大切なことだと思います。
下水道の持続に向けた今後の政策対応について、きれいごとでなく、現実
的な話で結構ですので、お考えをお聞かせいただければと思います。
青木(横須賀市) 横須賀市は上下水道局になり 12 年目です。基本的には財
政計画は水道と下水道は変わりませんが、下水道は交付金に依存している
という体質があります。水道は毎年の資金残は下水道に比べ余裕がありま
す。下水道は資金ショートを何年後にするから値上げしなければというこ
とで平成 26 年 10 月に平均 17%、平成 8 年以来 18 年ぶりに値上げをしまし
た。これには議会などでも値上げすべきだという追い風ムードもありまし
た。この 18 年間、一生懸命経営努力をしてきたというのがありましたので。
まず首長の意向としてオール横須賀市の起債の残高の目標があります。
このうち下水道事業は平成 26 年度実績で起債残高が約 930 億円で、かなり
大きなウエイトを占めています。結局、4 条予算(資本的収支)で建設改良
費が制約を受けてくるわけです。そうなると当然、改築更新も工夫しながら
やらなければなりません。
改築更新のストックマネジメントに当たっては、いわゆる下水道事業の
手引きに載っている標準耐用年数でやったのでは相当なボリュームになり
ますので、これまでの経験を踏まえつつ、機械、電気設備などは、それぞれ
2 倍、1・5倍の耐用年数をもたせて、ギリギリの部分で盛り込まざるを得
ない状況です。
また、使用料の値上げを行っても、一般会計からの汚水資本費に対する繰
入金の引き下げにあてられる部分と、維持修繕等にあてられる部分の両方
がありますので、そのあたりの調整も非常に悩ましい状況になっています。
和田(旭川市) 本市は、改築更新の中長期的な見通しをいろいろと検討して
いますが、相当厳しい状況です。耐用年数通りに改築更新した場合、推計で
年間 72 億円くらいの建設改良費が必要です。また、耐用年数を 1・5 倍に延
長しても、年間 39 億円くらいかかることから、収支的には厳しい状況とな
ります。
しかしながら、事業費が増え経営が厳しくなるからと言って、すぐに下水
道使用料を上げられるかと言えば、社会情勢的にも相当難しいと考えていま
す。当市では水道料金より下水道使用料が高いため、「道内の他都市と比べ
ても高い上に、さらにまた上げるのか」という議論になってしまいます。
そのため、事業費を抑えるとともに、なるべく負債を増やさないで、起債
償還額を縮小するなど、極力支出を抑制することにより財源を確保してい
かなければなりません。少なくともここ 10 年くらいは、費用の削減を徹底
的に進め、後世代の負担を増やさないよう努力していかなければいけない
と思います。
樋上(豊中市) 豊中市は上下水道事業を統合し、公営企業法も全部適用にな
っています。そのような中で、とよなか水未来構想や実行計画も水道部門さ
んと一緒につくりました。水道と異なるのは、下水道は交付金が入ってくる、
また雨水等で一般会計からの繰入金が入ってくる、ということで、その調整
をしなければいけないことです。
今後の収支見通しについては、現在は、基準外繰入はない状態ですが、さ
まざまな点で今後厳しさが増してくると、基準内だけで回していくことは
相当難しくなってくることも想定されます。そういうことを想定して、早め
早めに、議員の皆様や、市民の皆様に、下水道の意義や、現状の厳しさにつ
いて、しっかり説明を行い、ご理解を得ていかなければならないと考えてい
ます。
黒瀨(倉敷市) 本市は使用料を平成 18 年 7 月に改定しておりますが、現状
では汚水処理の全体の 6 割しか下水道使用料で賄えていないという状況で
す。今後、下水道使用料の推移を検証して、収支面で様々な対策を講じてい
く必要があると考えています。
平成以降の、下水道を望む市民の声に応えるため、多額の市債を発行して
下水道の整備を強力に進めたことによって、下水道普及率は向上したもの
の、市債残高は平成 26 年度末で、約 1770 億円に、元利償還金が年間 150 億
円計上しておりまして、今後 10 年間、こういう状況が続きます。そのすべ
てを利用者である市民の皆様に下水道使用料としてご負担いただくことは
困難であると考え、やむを得ず一般会計からの繰入金として年間 100 億円
を超える額を下水道事業会計へ繰り出しております。今後は、新規投資を縮
小し、維持管理費、改築更新費の中長期計画を明確にした上で、下水道事業
の健全経営と下水道使用料の適正化を図る必要があると思います。
このためには、まず今後どの程度の改築更新、維持管理費用がかかるのか
把握することが必要です。来年度中にはストックマネジメント計画の策定
を予定しています。今後は、本計画を活用し、新設建設改良費を下げて、減
価償却費や起債利息を抑制するとともに、例えば、農業集落排水の公共下水
道への接続、処理場・ポンプ場等の統廃合、消化ガス発電事業、新電力、下
水熱等の取組により、コストの削減を図っていきたいと思っています。
小松(青森市) 本市では、下水道事業の管理運営費のうち、6 割を起債の元
利償還費として使っているなど、非常に厳しい状況です。現在、公営企業会
計への移行を考えていますが、はたして公営企業として成り立っていくか、
危惧もあります。今後、さまざまな経営の合理化を検討していきたいと思い
ますが、使用料の見直しについては、なかなか困難な状況にあります。
■下水道の持続に向けた決意
藤川 素直なお話をいただき、ありがとうございました。最後に、各市で下水
道行政の事務的な責任者である皆さま方から、大所高所の話で結構ですの
で、下水道の持続に向けた、決意、意気込み、もしあれば国への提案等につ
いて、お話しいただければと思います。
樋上(豊中市) 非常に地道な話になってしまいますが、豊中市は取付管に起
因する陥没が多いので、取付管更新事業として位置づけ、10 年計画で、年
間 350 カ所くらいを積極的に予防保全していく計画をつくりました。議会
にも、実態を説明し、
「維持管理の時代到来」、
「予防保全は必要」というこ
とを分かっていただけるよう、積極的にアピールしていくことが重要であ
ると思っています。
青木(横須賀市) 横須賀市でも取付管に起因する陥没事故が発生していま
す。このような事案があれば、なおさら、実態について市民の皆さんにご説
明し、予防保全の取組が必要であることをアピールしていくことが非常に
重要であると思っています。
樋上(豊中市) 道路部局などでも路面の空洞調査を積極的にやってもらっ
て、それと下水道部局が一緒に連携してやっている姿を示していくことも
必要だと思います。
青木(横須賀市) これは提案になりますが、下水道研究会議で、経営改善の
取組みを一生懸命やっているところには、交付金を優先的に採択するとい
う取扱いもあってもいいのでは、という議論がありました。つくる時代は、
一定の基準に合致すれば補助金を出せばよかったのでしょうが、維持管理
の時代は、その取組みに地域格差が生じるものです。
さらに一歩進んで、例えば、新たな事業計画が軌道に乗ってくれば、最低
限の維持管理の具体的な基準をつくって、最低限のことをやらなければ、交
付金を出さないということもありえるかも知れません。もちろん、維持管理
の内容は地域特性を踏まえることが必要ですが、どうしてもこれだけはと
いうことがあることを国の方々にも頭の隅に置いておいてほしいと思いま
す。私たちも、一生懸命対応いたしますので。
和田(旭川) やはり将来のビジョンをしっかりと持たないと、間違った方向
へどんどんいってしまうのではないかと危惧しています。人口減少社会の
中で、下水道システムをどのように構築していくかを一番に考えなければ
いけません。
それには、拡大の時代ではない、縮小の時代において、改めるべきことを
改めていく考えができる人材、すなわち経営と技術の両方が分かる人材を
より多く育てていかなければなりません。
例えば、設備が耐用年数を超えて老朽化した際に、単に全部更新するので
はなく、将来はこの設備は使わなくなるけれど、当面 15 年間は必要である
ということを見極め、その機能を維持するために必要な代用設備の確保や
部分的な更新・修繕の手法を選択するとともに、さらに新たな投資が可能か
どうか判断できるような人材を育てることです。
旭川市は道内 2 位、道北地区1位の人口を有している都市ですので、圏
域全体の下水道の持続のためにも、将来的に技術者が減少していく中でそ
のような人材を育成していく責務があると考えています。
樋上(豊中市) これからは、広域化や共同化等も真剣に検討して、できる限
りのコスト縮減を考えていかねばなりません。旭川市さんのご指摘のとお
り、経営と技術が分かる人材を育てていくことは一番大切なことだと思い
ます。
黒瀨(倉敷市) まずは、予防保全による陥没事故防止といったような足元の
とからしっかり対応していくことが重要であると思っております。まずは
点検調査、ストックの現状把握をして、地道に維持管理を実施・蓄積し計画
に反映していく。要は、
「すべきところ!」
「できることから!」やっていく
ということかなと思っています。
本市では、アセットマネジメントの第一歩であります公営企業会計の導
入に全力をあげて取り組んでおり、そして、現場の声を大切にしていきたい
と思います。
つまり、管路も処理場も、現場の声等を、計画に反映し現場に戻していく、
その PDCA サイクルの徹底をすることが重要なことだと考えています。その
ため本市では、今後長期的視点に立ち下水道施設を計画的・効率的に管理し、
また、必要となる人材と財源を適切にマネジメントするための「新しい下水
道事業計画」の策定を進めています。これは本市が有する経営資源であるヒ
ト・モノ・カネの状態を正しく把握した上で市民のニーズを踏まえたサービ
ス水準を定め、その実現に必要な事業や費用、財源などの「見える化」を行
うことで「市民のための計画」を目指すものです。
それから、私たちの下水道部局の責任者が、トップである市長や市民の皆
さんにしっかり現場の状況が分かるように適切に説明していくことが、非
常に大切ですね。私たちの責任は非常に重いでしょう。
藤川 どちらかというと地道な取組みである維持管理について、首長に問題
意識を持ってもらうかどうかということは、非常に大きい話ですね。
小松(青森市) 人材育成については、すでに話が出ましたが、包括的民間委
託が進んでいく時代において、しっかりとした技術力を持った技術系職員
を確保・育成していくかということも重要です。
しかしながら、現在、市町村で技術系職員を募集にかけても、なかなか人
が集まらない状況があります。これでは、本当に事業の持続が危ぶまれます。
私たちも一生懸命やりますので、国においても、ぜひ、地方で優秀な人材を
確保・育成できる施策を強力に打ち出していただきたいです。
黒瀨(倉敷市) 下水道は水循環の大きなリサイクルの一つとして役割を果た
しており、下水道への理解を深めることは地球規模での環境を考えること
の一歩として環境学習に大いに役立つものと思っています。そのため、20 年
度から昨年度までに小学四年生を対象に下水道出前授業を実施し、約 1 万
人の児童に受講していただいております。
やはり、
「下水道は、借金ばかりで財政の負担となっており、何をしとる
かわからん」と言われるのではなくて、これからは、下水道を利用いただい
ている市民の皆様にとって身近でかつ、自分の生活に必要不可欠な存在と
感じていただけるよう、各イベントの開催やメディアの活用などあらゆる
機会を通じて、下水道への理解を深めることが大切であると考えます。
日頃は目に留まりにくい下水道をわかりやすく説明していくことで、市
民の皆様が「下水道を支える応援団」となっていただけますよう努めていき
ます。
今後も、
「下水道が快適な生活を送るため、役にたっていること!」、
「昔
に比べて海や川をきれいになったこと!」、「莫大な建設事業費が掛かった
こと!」、「海や川を安全できれいにし続けることは多額の維持管理費が掛
かること!」、これらを、我々が一丸となって市民の皆様に積極的に訴え理
解していただくことが何よりも重要だと思います。
青木(横須賀市) 三浦半島 4 市 1 町で下水道連絡協議会を組織し、年に 2
回、研修会と総会をやっています。情報交換、情報共有の場ですが、職員の
方がごく数名でやられているところもありますから、非常に厳しい状況で
あることを実感しています。
和田(旭川市) 包括的民間委託にするにしても、しっかり事業者を選定し、
履行確認、評価を行えることが不可欠です。周辺市町村が連携して、技術力
を確保し、共同で委託に出し、共同で契約管理ができるような体制を構築す
ることも真剣に検討していく必要があるでしょう。
藤川 議論は尽きているようにも思いますので、あえて繰り返すことは言い
ませんが、皆さんのお話を聞いていて、
「人口減少時代・維持管理時代にお
ける思考方法の転換」、
「計画と現実の調整」、
「経営と技術の融合」、
「人材育
成」、
「現場重視」、
「身の丈」、
「地道に」、
「説明責任」といったキーワードが
頭に浮かびました。
これはお世辞ではないのですが、どのような厳しい時代が到来するとし
ても、各市の下水道行政の責任者である皆様方が、話に出た問題意識をもっ
て、しっかり次世代を育てていっていただければ、今後の下水道の持続にと
って大きな切り札になるのではないでしょうか。
最後に、下水道研究会議の今後のますますのご発展を祈念して、座談会の
締めとさせていただきます。ありがとうございました。
(以上)
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