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応力腐食割れ(SCC)に関する 現在までの知見の総括

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応力腐食割れ(SCC)に関する 現在までの知見の総括
応力腐食割れ(SCC)に関する
現在までの知見の総括
平成18年7月5日
原子力安全・保安院
独立行政法人原子力安全基盤機構
1
目 次
1 はじめに: SCCとは、保安院の取組み、検討の背景と目的
【従来までの知見の整理】
2 健全性評価小委(平成16年)の検討結果及びNISA指示文書
3 PWR一次冷却材圧力バウンダリのニッケル基使用部位に
係わる検査等について(平成17年6月16日NISA指示文書)
【新たに得られた知見の整理】
4 BWR炉心シュラウドのひび割れに関する知見
5 BWR再循環系配管のひび割れに関する知見
6 PWR事業者によるひび割れ検出実績及び予防保全対策
7 健全性評価小委(平成16年) 課題への対応
【知見の総括】
8 知見のとりまとめ
添付1:健全性評価制度(維持基準)制度概要
添付2:健全性評価制度高度化の取組み
2
1.はじめに(1): 応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)とは?
○SCCは、材料、応力、環境の三因子が重畳し、特定の条件になったときに発生
材料
SCC
発生
応力
(注)SCC発生には、発生までの時間の要素が加わる
ため、三因子のいずれの影響度を明確にできない場
合が多く、さらに複雑になっている
環境
○SCCの一般的な特徴
・合金に発生し、純金属には発生しない。
・引張応力では発生するが、圧縮応力下では生じない。
・割れを生じる環境と材料とで特定の組合せがある。
・三因子のうちの一因子以上を取り除けばSCCは発生しない
○SCCの割れ波面の形態による分類
・粒界型応力腐食割れ(IGSCC: Intergranular Stress Corrosion Cracking)
割れが結晶粒界に沿って優先的に進展
・粒内型応力腐食割れ(TGSCC: Transgranular Stress Corrosion Cracking)
割れが結晶粒内を進展
(注)他に、ステンレス鋼に対する中性子照射の影響による照射誘起応力腐食割れ(IASCC:Irradiation
Assisted Stress Corrosion Cracking)の分類がある。
(出典) 日本機械学会事例規格「発電用原子力設備における『応力腐食割れ発生の抑制に対する考慮』」(平成18年6月)
3
1.(2) SCCに対する保安院の取組み概要
項 目
健
全
性
の
確
認
健全性評価制度(維
持基準)
S
C
C
発
生
の
予
防
概 要
備 考
・定期事業者検査の義務付け
・き裂等の欠陥があった場合の報告義務付け
・健全性評価手法の明確化。
・具体的には、技術基準の改正、また技術評価を行い、日本機
械学会「維持規格」を活用した検査手法及び評価手法の明確
化
・事故トラブル事例に応じて追加的に検査指示
・経緯は次頁参照
・健全性評価制度の概要
は添付1参照
・低炭素鋼ステンレスへの
適用(平成16年9月追加
等)は添付2参照
・追加指示は3(4)も参照
設計建設段階にお
ける耐SCCを考慮し
た材料の選定
<平成18年1月∼>
・技術基準の要求事項として、「使用中の応力等に対する適切な
耐食性」を明確化
・材料選定に当たっての要求事項を満たすための手法について
は、日本機械学会「応力腐食割れ発生の抑制に対する考慮」を
現在技術評価中
平成18年6月末現在
予防保全策
以下の予防保全策を指示
(シュラウド) ピーニング法、磨き加工(Nストリップ)
(再循環系配管) 内面肉盛工法、狭開先溶接、水冷溶接、高周
波誘導加熱応力改善法、固溶化熱処理法
(PWRニッケル基使用部位)炉内計装管台等の応力緩和 等
BWRは2(4)参照、PWRは
3(5)参照
・原子力安全基盤機構が、検査手法やき裂進展速度等に関する
安全研究を実施
・技術的知見を、健全性評価小委員会報告書として平成15年4
月に中間とりまとめ、平成16年11月に検討結果の整理としてと
りまとめ
健全性評価小委とりまとめ
は2.参照
原子力安全基盤機構の安
全研究成果は8.参照
<平成15年10月∼>
<平成15年4月,
平成17年6月等>
技術基盤
4
1.(3) 健全性評価制度の整備・高度化に向けた今までの取組み
技術的知見は
健全性評価小委報告書として、
具体的な検査・評価手法は
原子炉安全小委の審議を経て技術
評価した上で、学協会規格を活用し
たNISA文書で明確化
健全性評価小委
H14.11∼
H15.3
中間とりまとめ
H15.10∼
健全性評価制度の導入
・定期事業者検査の義務付け
・き裂等の欠陥に対する報告義務付け
・検査手法や評価手法の明確化
H16.10
検討結果の整理
(具体的な検査・評価手法を明確化)
・2000維持規格
・2002維持規格
原子炉安全小委
H14.12∼
基準評価WG
H15.5∼
検査技術WG
H15.4 NISA文書
シュラウド・PLRに関する
・点検指示
・補修工事
H15.6
維持規格
評価編
技術評価
H15.9
維持規格
検査編
技術評価
H15.12 NISA文書
き裂等の欠陥の
解釈
H16.9
PLR配管
対応とり
まとめ
H16.9 NISA文書
き裂等の欠陥の
解釈を改正
H18.3 NISA文書
き裂等の欠陥の
解釈を改正
H18.2∼
・PD制度の位置付け
・福島第二3号機事例の
再発防止策の取入れ
5
1(4) 本検討を行う背景及び目的
【背 景】
① 保安院は、学協会規格、安全研究の成果、事故トラブル事例等を適切に考慮し、健全性評価制度の
維持及び向上に努力(保安院の取組みは4ページ参照)
② 平成15年4月のシュラウド及び再循環系配管に対する検査指示文書発出後3年間を経過し、き裂等
の欠陥の検出及び評価に関する知見が蓄積
③ JNES及び事業者による安全研究に基づく知見の蓄積
【本検討の目的: 健全性評価制度の向上・維持に向けて全体を俯瞰】
① 平成15年4月以降のき裂等の欠陥の検出及び評価に関する知見の整理
− BWRシュラウド(部位、運転年数、仕上げと欠陥の関係の知見。き裂進展に関する知見)
− BWR再循環系配管(部位、運転年数)
− PWR(損傷事例の分類、原因と対策、今後の課題)
②JNES及び事業者の安全研究による知見の整理
健全性評価小委とりまとめ(平成16年)で課題となっていた事項(BWR)等への対応状況
− 低炭素ステンレス鋼のSCC感受性上昇のメカニズム
− 低炭素ステンレス鋼のき裂進展メカニズム
− 溶接金属内のき裂発生及び進展メカニズム
進展メカニズムに関しては進展速度に関するJNES安全研究成果も併せて検討
PWRに関しては、溶接金属内(ニッケル基合金)等におけるき裂発生を検証
【本検討結果の活用】
① 日本機械学会維持規格(2004年版)等の技術評価に当たって本知見を活用
② 官民での適切な役割分担に基づく安全研究の実施
6
2 健全性評価小委(平成16年)の検討結果及びNISA指示文書
(BWR関係の技術的知見の整理)
【本章の構成】
平成16年時点での知見を再整理
健全性評価小委
中間とりまとめ
(平成15年3月)
NISA文書
(平成15年4月)
シュラウド及び再循環
系配管の点検指示、
補修工事の指示
健全性評価小委
検討結果の整理
(平成16年10月)
(1)平成13年までの経緯
・低炭素ステンレス鋼の導入
・国内外のトラブル事例
(2)応力腐食割れに関する鋼種
毎の技術的知見
・得られた知見
・シュラウドのひび割れの形態
・材料に対する知見等
(3)原子炉冷却材圧力バウンダリを
構成する配管類の溶接継手に関
する検査の間隔と範囲
(4)応力腐食割れの発生防止策
①シュラウド
②再循環系配管
7
2(1) 平成13年までの経緯
1974∼1984
SUS304における応力腐食割れ(SCC)の発生と低炭素ステンレス鋼(SUS316
(LC)材の導入(1984年2月運転開始の福島第二2号機以降のBWR標準仕様)
SUS304: ニッケルとクロムを含有し耐食性が優れているステンレス鋼
SUS316: SUS304の耐食性を向上させるためにニッケルを更に加え、モリブデンも
添加した鋼材。SUS304、SUS316とも炭素含有量は0.08%以下。
低炭素ステンレス鋼: 炭素含有量を0.02%以下とし耐SCCを改善した鋼材。
さらに、強度低下を防止するために微量な添加物を加えた構材(L系材)あり。
NUPEC信頼性実証試験により耐SCC性を確認
1985∼ 低炭素ステンレス鋼を適用した再循環系配管の損傷事例
1985 米国ピーチボトム2号機: 圧力容器ノズルセーフエンドとサーマルスリーブ溶接部に応力腐食割れ
←配管の突き合わせ溶接構造、炭素含有量の差違から、ピーチボトム2号機固有の事象と判断
1992∼1995 メーカー研究「非鋭敏化ステンレス鋼の応力腐食割れに及ぼす冷間加工の影響」試験
←圧延等の冷間加工の影響に着目したもの。加工部の表面硬化層に着目したものではない。
1995∼ 浜岡3号機における再循環系配管溶接部の線状指示(内部点検の結果)
←材料に鋭敏化がなかったことからSCCとの認識より、高温割れ等の製造欠陥の可能性高いと判断
1998∼2001 実機を模擬した溶接継手による試験の実施
←溶接部配管内面近傍及び溶接部近傍が変形硬化していることの確認
1994∼ 低炭素ステンレス鋼を適用したシュラウドにおける損傷事例
1994∼ 海外事例としてSUS304L材のシュラウド溶接部におけるSCC発生事例の報告
2000∼ 電力共研「低炭素系ステンレス鋼の耐IGSCC(粒界型応力腐食割れ)評価研究
←炉内を模擬した腐食環境下での試験により、SUS316L系材の耐SCC性に優れていることを再確認。
ただし、試験片の硬化層がない状態で実施
2001年7月 福島第二3号機のSUS316L材のシュラウドにおけるSCC割れの発見
← ステンレス鋼表面のごく表層部にHv300を超える硬化層の確認、IGSCCの原因となることの判明
ただし、シュラウド製造時に発生する現象と判断
8
(2) 応力腐食割れに関する鋼種毎の技術的知見
材料
得られた知見
SUS304鋼
低炭素ステンレス鋼
・機械加工等により表面が硬化すると粒内
型応力腐食割れを発生しやすくなる。
・SUS316L系材は溶接による熱鋭敏化
を生じにくいため、応力腐食割れの発生・
進展には残留応力等力学的因子の影響
が大きい。
(シュラウド)
・シュラウド表面は新規プラント及び新規
取替プラントを除き、機械加工あるいはグ
ラインダ加工が施工されている。
・中性子照射による照射誘起偏析によって
結晶粒界近傍ではクロム欠乏が生じる。
・シュラウドの溶接残留応力は、軸方向の
みならず周方向も高くなるため、応力の影
響により複雑なひび割れ形態を呈する場
合がある。また、製作時のグラインダ加工
等により、同様の傾向を示す場合がある。
(再循環系配管)
・再循環系配管の開先内施加工面におい
て、ごく表層に硬化層が形成される。
シュラウドのひび割れ
の形態
材料に対する知見等
(1)リング部溶接線近傍
の直線的なひび割れ
(材料に対する知見)
SUS304は、炭素の含有量が比較的高いため、溶接を行う際の入
熱により、材料のクロムが炭素と結合して金属結晶の粒(結晶粒)の
外に析出。このクロムは材料の耐食性を高めるために必要な成分で
あるため、これが結晶粒界の近くで欠乏することにより、応力腐食割
れに対する耐性が低下する(感受性が高まる)。
(使用状況:低炭素ステンレス鋼に取替が進められており、現時点で
シュラウドにSUS304を使用しているプラントは浜岡1のみである)
(2)リング部溶接線に
沿った線形のひび割れ
(3)胴部溶接線近傍の
放射線状のひび割れ
(材料に対する知見)
低炭素ステンレス鋼については、クロムと炭素との結合を防止する
ため予め炭素の含有量を減らしており(0.02%以下)、溶接による
入熱があっても、応力腐食割れの感受性は抑えられている。しかし、
部材を溶接した後に形状を整える機械加工等により表面に硬化層
ができた場合には、残留応力の状況や炉内の環境によって、この硬
化層で粒内型の応力腐食割れが発生し、粒界型の応力腐食割れに
進展する可能性がある。
(平成16年6月時にさらなる究明が期待されるとした事項)
①材料表面の硬化による初期応力腐食割れの発生のメカニズム
②粒内応力腐食割れにより発生したひび割れが、その後、粒界割
れを示す応力腐食割れ進展のメカニズム
(使用状況: BWRの再循環系配管及びシュラウドの多くの機器に使
用)
9
(2) 応力腐食割れに関する鋼種毎の技術的知見 (続き)
材料
SUS316L溶接金属
インコネル182溶
接金属
得られた知見
シュラウドのひび割
れの形態
・含有フェライト量が低い場合には、溶接金属で
も応力腐食割れが発生・進展し得る。
・母材で発生した応力腐食割れがフェライト量の
希釈した溶接金属中へ進展する場合がある。
材料に対する知見等
(平成16年6月時にさらなる究明が期待されるとした事項)
③溶接金属における応力腐食割れの発生・進展挙動
(使用状況:シュラウドサポートの下部材を除いて使用)
(4)②シュラウドサ
ポートリング下部H7
bの溶接金属上の
軸方向のひび割れ
(シュラウドサポート
リング部を含めた全
体ではY字型)
ニッケル系の溶接金属であるインコネル182は応力腐食割れ
の感受性があることが知られている。この材料は
シュラウドサポート溶接部(シュラウド下端との接合部、シュラ
ウドサポートシリンダとシュラウドサポートレグの接合部、シュラ
ウドサポートプレートとRPVとの接合部、サポートレグとRPVと
の接合部)、CRDスタブチューブ溶接部等に使われている。
プラントは、福島第一1、2、3、4、5、6号機、福島第二1、2、3、4
号機、柏崎刈羽1号機、浜岡1、2、3号機、島根1号機、敦賀1号
機、東海第二、女川1
その他
(7)アライナーブラ
ケット等の真下に発
生したひび割れ(上
部格子版用ベース、
シュラウドヘッドボ
ルトブラケットの真
下)
(4)①H3外側の溶接金
属(SUS316L)上の放
射状のひび割れ(蛇行
して進展)
(5)胴部溶接線から離
れた位置の蜘蛛の巣
状のひび割れ(溶接線
から離れた浅いひび
割れ)
(6)仮設物除去痕に発
生したひび割れ(溶接
線から離れた浅いひ
び割れ)
福島第二2号機では、炉心シュラウドが酸洗鋼板として納入さ
れ、表面の光沢がない状態であったことから、外観検査不適と
判断して全体を研磨ディスクにて磨いており、このような施工
を行ったのは、当該プラントのみである。
10
(3) 原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する配管類の
溶接継手に関する検査の間隔と範囲(NISA文書)
検査の間隔と範囲
暦年数10年毎に25%
の継手を検査
(平成14年までの供用
期間中検査。日本機械
学会維持規格も同様)
対象範囲
①供用開始後の実効運転年数が5年以上経過していないもの
②既に有効であると実
証された応力腐食割れ
防止対策が施されてい
るもの(右欄参照)
(−溶接時に実施した内面肉盛工法)
(−水冷溶接)
(−高周波誘導加熱応力低減法(IHSI))
(−固溶化熱処理法)
③使用温度が100度以下のもの
運転年数5年毎にすべ
ての継手を検査
上記①から③を除く溶
接継手(5年毎と規定し
た理由は右欄参照)
(超音波探傷試験で十分検出可能な深さ2mmのひび
割れ(周方向長さ20mmと仮定)が、再循環系配管の
標準的な溶接残留応力の分布の下、通常炉水水質環
境内でき裂進展し、維持規格により許容されるひび割
れ長さを満足する期間
呼び径600mm配管
20年以上
〃 500mm配管
12年程度
〃 400mm配管
7年程度
〃 300mm配管
5年程度
(注)溶接境界に達する時の深さを10mmと仮定)
11
(4)-① 応力腐食割れの発生防止対策
∼シュラウドに対する引張残留応力の低減策∼
○ピーニング法
− 表面の残留応力改善を目的として、部材表面にピーニングを施す方法
− ピーニング方法としては、高圧力水(ウォータージェット)によるもの、レーザによるもの等がある
− ピーニング法の結果、応力腐食割れの「応力因子」である引張残留応力の低減が期待できる
○磨き加工(Nストリップ)
− 合成繊維に高分子接着剤で砥石で腐食されたブラシで金属表面を研磨することにより表面層に
微小な塑性変形を与える方法
− ピーニングの施工が困難な狭隘部などに対して有効な方法
− 研磨の結果、応力腐食割れの「応力因子」である引張残留応力の低減が期待できる
12
(4)-② 応力腐食割れの発生防止対策
∼再循環系配管∼
○内面肉盛(バタリング)工法(CRC: Corrosion Resistant Cladding)
− 通常の配管溶接で発生する母材の鋭敏化領域に対し、配管内面の接液部をあらかじめ鋭敏化しな
い溶着金属で覆い、応力腐食割れの感受性を改善する方法
− 溶接部接液部表面に高フェライトを確保することで、応力腐食割れの感受性を低減する。
一般的に、カーボン量の低い領域では、フェライト量の多い範囲(概ね5%以上)で応力腐食割れが
確認されていない。
○狭開先溶接の採用
− 溶接施工に適用される従来開先に対して狭い範囲(開先)を有する形状に変更することで、溶接時の
入熱量を低減できる。その結果、応力腐食割れの「応力因子」である引張残留応力の低減が期待できる
− また、溶接部近傍の熱影響部において硬化されている領域が低減されることが期待される。
○水冷溶接(HSW: Heat Sink Welding)
− 配管溶接時の4層目以降に配管内面に通水やスプレーで冷却しながら施工する方法
− 管板厚内で温度差を生じさせ、これによる熱応力によって応力腐食割れの「応力因子」である溶接部
管内表面付近の引張残留応力を低減できる。
− 水冷溶接では、内表面軸方向の残留応力は低減され、応力改善が期待できる。
○高周波誘導加熱応力改善法(IHSI: Induction Heating Stress Improvement)
− 材料の板厚方向に、所定の温度差が生じるよう、内面を冷却しながら外面側を高周波誘導加熱で
昇温した後加熱を停止して、板厚方向がほぼ均一な室温近くの温度となるまで内面を冷却する方法
− その結果、引張残留応力を低減又は圧縮側とする応力改善が得られる。
○固溶化熱処理法
− 溶接後に1000度以上の高温に熱した後に急冷することにより、結晶粒界に析出していたクロム
炭化物を結晶粒内に拡散する手法
13
3.PWR一次冷却材圧力バウンダリの
ニッケル基使用部位に係る検査等について
検査指示
高ニッケル合金
600合金、
182合金溶
接金属では
SCC発生事
例がある
【本章の構成】
加圧水型軽水炉の一次冷
却材圧力バウンダリにおけ
るニッケル基合金使用部位
に係る検査等について
(平成17年6月16日NISA
指示文書。平成15年12月
NISA文書を改定)
ステンレス鋼
オーステナイト系
オーステナイト系ステンレス
鋼のSCCは、冷却材中の
溶存酸素濃度又は塩素イオ
ン濃度が高い場合に発生す
るので、溶存酸素濃度が低
く管理されるPWRでは、
一般に発生しにくい。
酸素滞留を避ける設計や、
塩素物の管理による対応
が可能
(1)SCCの国内事例
・原子炉容器内計装筒管台
・加圧器逃がしライン管台溶接継手
・原子炉容器上蓋管台取付部
・原子炉容器入口管台内表面
(2)米国主要事例
(3)平成15年までの電力共通研究
からの知見及び大飯3号機漏えい
事象からの知見
(4)定期事業者検査におけるPWR
事業者への指示
(5)PWR事業者におけるPWSCC
発生防止対策の現状
(6)PWR事業者への要請
(PWSCCに関する長期的対策)
14
3(1)一次冷却材圧力バウンダリのNi基合金使用部位における
一次冷却材による応力腐食割れの国内事例
プラント・発生部位
時期
PWSCCの概要及び対応措置
高浜1号機
原子炉容器内計
装筒管台
∼H16
・内表面に予防保全施工前に実施した渦流探傷試験で判定基準以下の微
小な信号指示を確認(判定基準深さ3mmに対して、深さ1mm以下の信号)
・次回定検で、前回定検時と比較して有意な信号指示変化がないことを確認
・手入れにより指示を除去を後、ウォータージェットピーニングを施工
敦賀2号機
加圧器逃がしライ
ン管台溶接継手
H15.9
・加圧器の逃がしライン管台部のホウ酸析出を発見
・制作時の手直し溶接による引張残留応力による600系Ni基合金溶接金属
に発生したPWSCCを原因
・溶接金属材料を耐SCC性に優れた690系Ni系合金に変更
大飯3号機
原子炉容器上蓋
管台取付部
H16.5
・原子炉容器上蓋と管台との溶接部(J溶接部)に用いられる600系Ni基合
金部からの漏えいを検出
・ブローホール等の初期欠陥の存在は否定されないものの、当該溶接部表
面の一部のバフ仕上げに起因する引張残留応力によるPWSCCと推定
・当該部を上蓋内側より耐SCC性に優れた690系Ni基合金を補修溶接
伊方1号機
原子炉容器入口
管台内表面
H16.11
・レーザピーニングを施工する前に行った浸透探傷試験により、管台とセー
フエンドとの溶接部付近の内表面に、最大5mmの指示を2箇所確認。
・製造時に600系Ni基合金により手直し溶接されており、その際の引張残留
応力によるPWSCCと推定
・当該部を研削し、耐SCC性に優れた690系Ni基合金を補修溶接
15
(2)一次冷却材圧力バウンダリのNi基合金使用部位における
一次冷却材によるSCCの米国主要事例
典型例
事例の概要(NRC指示を含む)
原子炉容器管台と配
管の溶接継手におけ
る貫通き裂
V.C.Summer原子力発電所(H12.10)
・原子炉容器管台と高温側の一次冷却材配管の溶接継手で軸方向の貫通き裂を検出
・原因は、建設時の補修溶接による高残留応力が600系Ni基合金に付与されたことによる
PWSCC
・溶接金属材料を耐SCC性に優れた690系Ni基合金に変更
制御棒駆動機構の原
子炉容器上蓋管台の
貫通き裂及び原子炉
容器上蓋の腐食
Oconee原子力発電所3号機(H13.1)
・制御棒駆動機構(CRDM)の原子炉容器上蓋管台のJ溶接部で周方向の貫通き裂を検出
Davis-Besse原子力発電所(H14.3)
・き裂のあったCRDMの原子炉容器上蓋管台の補修作業中、原子炉容器上蓋に空洞を発見
・貫通き裂が発生した原因はPWSCCであり、大きな空洞を発生した要因は漏えいした一次冷
却材(ホウ酸水)によるホウ酸腐食
NRCによる指示
・PWR事業者に、有効劣化年数(EDY)に基づく検査を指示(H13.2発出、H14.2改訂)
原子炉容器底部計装
管台の貫通き裂
South Texas Project 原子力発電所1号機(H15.4)
・原子炉容器底部計装管台(Alloy 600)のJ溶接部近傍(溶接金属はAlloy 82/182)で軸方向の
貫通き裂を検出
・被覆アーク溶接時の融合不良で形成された隙間に一次冷却材が流入し、Alloy 600製管台部
の高残留応力と相まってPWSCCが発生したことが原因
・Alloy 600製管台を切除し、原子炉容器外表面にAlloy 52製溶接肉盛座を設け、それに耐
SCC性に優れたAlloy 690製管台を溶接
16
(3)2003年までの電力共通研究からの知見及び大飯3号機漏えい事象からの知見
電
力
共
通
研
究
の
知
見
材
料
部
位
条
件
690系Ni基合金
(母材)
600系Ni基合金(母材)
原子炉容器上蓋管台
600系Ni基合金
(溶接金属)
原子炉容器底部(炉内計装筒管台)
・360度のPWR一次系水質
・実機に作用する最大レベルの引張応力
1万時間程度では
PWSCC未発生
3000∼4000時間程度
でPWSCCが発生
1万時間程度でPW
SCCが発生
原子炉容器上蓋頂部温度
の発生時間換算
6万数時間
(注)NRCでは8EDY
→5暦年以上の期間
原子炉容器底部温
度の発生時間に換
算
18∼19万時間程
度
(注)高浜1号機の運
転時間が18万時間
程度
引張応力とPWSCC
の関係示すデータ
大飯3号機一次冷却材漏えい事象(H16.5)からの知見
①平成15年指示文書発出より1年未満で漏えいが発生(5暦年以上要すると判断していた)
②運転時間による影響よりも、溶接施工時のバフ研磨仕上げの一部未実施によることが起因
③溶接金属内のき裂進展が母材よりも早くなる場合があることが明らかに
17
(4)定期事業者検査におけるPWR事業者への指示
H15
指示
文書
試験部位(母材又は溶接金属が600系Ni基合金で一次冷
却材に接触するもの)
H15指示文書発出以後の定期事業
者検査での取扱い
検査手法
原子炉容器の上蓋若しくは底部表面又は加圧器の管台と
セーフエンドの溶接継手
至近の定期事業者検査で完了
ベアメタル検
査
原子炉容器又は蒸気発生器(一次側)の管台とセーフエンド
の溶接継手
至近2回のいずれかの定期事業者
検査で終了
ベアメタル検
査
加圧器の呼び径100mm以上の管台とセーフエンドの溶接
継手
同上
超音波探傷
試験
原子炉容器又は蒸気発生器(一次側)の呼び径100mm以
上の管台とセーフエンドの溶接継手
至近4回のいずれかの定期事業者
検査で終了
超音波探傷
試験
(注)・直近の定期事業者検査等で検査を行ったものに対して除外規定あり
・至近検査以降の検査手法(部位毎の試験方法、範囲及び程度等)についても具体的に指示
H17
追加
指示
試験部位(600系Ni基合金)
試験方法
上蓋表面(上蓋管台まわり360度含む)
ベアメタル
検査
試験の範囲及び程度
毎定事検時に、試験部位すべての試験可
能範囲を完了
18
(5)PWR事業者におけるPWSCC発生防止対策の現状
(6)PWR事業者への要請(PWSCCに関する長期的対策)
(5)PWR事業者におけるPWSCC発生防止対策の現状
① 原子炉容器上蓋の取替えによる管台材料の変更
(600系Ni基合金から耐SCC性に優れた690系Ni基合金)
② 原子炉容器上蓋頂部温度低減対策
③ 原子炉容器炉内計装管台等の応力緩和
(ウォータージェットピーニング又はレーザーピーニング)
④ 原子炉容器冷却材出口管台内面クラッディングによる一次冷却材溶接部の材料の変更
(600系Ni基合金から耐SCC性に優れた690系Ni基合金)
(6)PWR事業者への要請(PWSCCに関する長期的対策)
① 米国NRCの提案により開始されたPWSCCによるき裂形状及び非破壊検査性に関する調査の国際
協力(PINC:Program for Inspection of Nickel Alloy Components)への参加等を通じて、PWSCCに
関する国内外の知見を収集し、発生時間予測の研究を行うとともに、検査性の向上及び進展速度を含
めた評価手法の確立のための方策を加速すること
② 原子炉容器上蓋管台部については、海外において狭隘な箇所も検査可能な装置の開発がなされて
いることから、これら装置の導入も含め引き続き検査技術の向上を図ること
③ 原子炉容器の上蓋及び底部の管台部については、上記の①及び②の成果を踏まえ、今後、体積
検査も含めた検査計画の立案に向け速やかに検査方法を検討すること。
19
4.BWR炉心シュラウドのひび割れについて
(1) BWR炉心シュラウド
ひび割れ査の実施プラント
BWR32プラントのうち、22プラント
に対するシュラウドひび割れ検査
データが得られている
(検査対象外)
・運転開始後の実効運転年数が
5年以下の4プラント
・シュラウドを取替え、残留応力
改善を行った6プラント
検出実績から得られた知見
【ひび割れ発生に関する事項】
−部位別の検出実績
→(3)
−ひび割れの形態等
→(4)
−実効運転年数との関係 →(5)
−仕上げとの関係
→(6)
【ひび割れ進展予測に関する事項】
健全性評価制度導入後
(平成15年10月以降の
定期事業者検査)の
8事例を含む
=(2)炉心シュラウド
健全性評価実施一覧
− ひび割れ進展に関する予測値
と実績値との比較検討 →(7)
20
4(1) BWR炉心シュラウドひび割れ検査状況
検査対象外
運転開始実効運転年数 5年未満
(4プラント)
・女川3(運開 平成14.1∼)
・浜岡5(運開 平成17.1∼)
・東通1(運開 平成17.12∼)
・志賀2 (運開 平成18.3∼)
シュラウド取替プラント
(6プラント)
・福島第一1(平成13取替、残留応力改善)
・福島第一2(平成11取替、残留応力改善)
・福島第一3(平成10取替、残留応力改善)
・福島第一5(平成13取替、残留応力改善)
・島根1(平成12取替、残留応力改善)
・敦賀1(平成13取替、残留応力改善)
検査実施プラント( ∼H18.4 )
ひび
有り
16
ひび
無し
6
女川1 女川2
福島第一4
福島第二2
福島第二3
福島第二4
柏崎刈羽1 柏崎刈羽2
柏崎刈羽3 柏崎刈羽5
浜岡1 浜岡2 浜岡3 浜岡4
島根2
東海第二
福島第一6
福島第二1
柏崎刈羽4
柏崎刈羽6
柏崎刈羽7
志賀1
21
4(2) 炉心シュラウド 健全性評価実施一覧
評価年月
評価結果
及び対応
①シュラウドサポートリング溶接部のひび割れ
②シュラウド下部リング及び下部胴のひび割れ
17.02
少なくとも今後5年は継続
して利用可能
17.01.06
シュラウド中間部リング及び下部リングのひび
割れ
17.02
少なくとも今後5年は継続
して利用可能
柏崎刈羽3号機
17.04.13
シュラウド中間胴と下部リング溶接線外側近傍
のひび割れ
17.04
少なくとも今後5年は継続
して利用可能
中国電力
島根2号機
17.04.13
シュラウド中間胴溶接線内側 のひび割れ
17.04
少なくとも今後5年は継続
して利用可能
東北電力
女川2号機
17.05.27
シュラウドサポートリング内側のひび割れ
17.06
少なくとも今後5年は継続
して利用可能であったが、
補修後継続して利用
中部電力
浜岡3号機
17.05.24
①シュラウドサポートリングのひび割れ
②シュラウドサポートシリンダ及びサポートレ
グ溶接部のひび割れ
17.10
少なくとも今後5年は継続
して利用可能であったが、
補修後継続して利用
東海第二
17.07.13
シュラウドサポートシリンダ縦溶接線のひび割
れ
17.08
少なくとも今後5年は継続
して利用可能
柏崎刈羽2号機
17.11.04
シュラウド中間胴とシュラウドサポートリング
の溶接線のひび割れ
17.12
少なくとも今後5年は継続
して利用可能
発電所ユニット
報告日
中部電力
浜岡4号機
16.12.21
東北電力
女川1号機
東京電力
事業者
日本原子力発電
東京電力
評価対象部位
22
4(3) 炉心シュラウドのひび割れ検出実績
ひび割れ個所 リング部
胴部
ひび割れ状況の分類
H1
内
原子炉圧力容器
H2
H1
②低炭素ステンレス鋼のリング部
溶接線近傍の直線的なひび割れ
外
1
内
(1つは胴部
にもひび
割れ)
2
H3
H2
H1
外
H2
H3
H4
1
③低炭素ステンレス鋼の胴部溶接
線近傍の放射状のひび割れ
1
④溶接金属部に発生したひび割れ
(溶接線)
シュラウド
H4
シュラウド
サポート
―
8
③低炭素ステンレス鋼の胴部溶接
線近傍の放射状のひび割れ
外
―
3
③低炭素ステンレス鋼の胴部溶接
線近傍の放射状のひび割れ
H4
H3
H6a
H6b
H7a
H7b
内
内
H6a
外
H6a
②低炭素ステンレス鋼のリング部
溶接線近傍の直線的なひび割れ
6
内
外
H6b
9
H6b
H7
鳥瞰図
内
H7
(1つは溶接
線にもひび
割れ、1つ
は胴部にも
ひび割れ)
縦断面図
外
V
②低炭素ステンレス鋼のリング部溶接
線近傍の直線的なひび割れ
③低炭素ステンレス鋼の胴部溶接
線近傍の放射状のひび割れ
④溶接金属部に発生したひび割れ
②低炭素ステンレス鋼のリング部
溶接線近傍の直線的なひび割れ
2
V16外:1
V14内:1
③低炭素ステンレス鋼の胴部溶接
線近傍の放射状のひび割れ
注) 2F2の "⑤ 低炭素ステンレス鋼の胴部溶接線から離れた位置の
蜘蛛の巣状のひび割れ"は除外
23
4(4) ひび割れ部位に関する知見
1. 35件のひび割れが報告された。 主に、
分類 ② : 低炭素ステンレス鋼のリング部溶接線に沿った波型のひび割れ
分類 ③ : 低炭素ステンレス鋼の胴部溶接線近傍の放射状のひび割れ
分類 ④ : 溶接金属部に発生したひび割れ
であり、新たな形態のひび割れは、認められなかった。
胴部の検出時ひび割れ最大長さと運転年数の関係
250
H4内
2. H4継手部に検出された分類③
運転年数に対してプロットした
(右図)。
運転年数が同じ場合、H4継手部
の内・外面で、ひび割れ長さを比較
すると、内面のひび割れ長さは、外
H4外
検出時ひび割れ最大長さ (mm)
に属するひび割れの最大長さを
内側中性子照射量
6.1E+24 n/m2
内側中性子照射量
1.3E+25 n/m2
200
150
(内側中性子照射量)
(6.1E+24 n/m2)
100
50
内側中性子照射量
2.3∼5.2E+24 n/m2
面のそれに比べて長い傾向にある。
0
0
5
10
15
20
運転年数 (年)
24
4(5) 実効運転年数とひび割れ検出実績の関係
実効運転年数6∼8年程度以降にひび割れが確認されている。また、古い
プラントほど多く発生するという傾向は確認されていない。
実効運転年数
6
(年)
実効運転年数
6
ひび割れ検出実績
ひび割れ件数
ひび割れが
検出されたプラント
5
5
内側
外側
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
0
点検実施範囲 (%)
ひび割れが
未検出の プラント
6
(年)
20
40
60
80
1 00
ひび割れ未検出事例の点検範囲
25
4(6) 仕上げとSCC発生の関係
短期間ではあるが、ひび割れ切除後ピーニングの有効性が確認された。
今後さらに、ピーニングの効果について確認することが望ましい。
仕上げ
取替プラント
及び予防保
全としての
ピーニング
(含むみがき)
プラント名
①取替プラントの
シュラウド溶接部
福島第一1、2、3、5,
敦賀1, 島根1
概
要
今後、標準点検等に合せてピーニング等の効果を確認すること
が望ましい。
②予防保全
柏崎刈羽4、5, 浜岡2、3,
志賀1、2
福島第一4
福島第二3、4
柏崎刈羽1、2、3、5
島根2
ひび割れ切除後、次点検までの
運転時間実績を調べた。
最大1.2年経過後もひび切除部
ひび切除後の次点検までの運転時間実績
は健全であった。
5
ひび割れ切除したプラント数
ひび割れ
切除後
ピーニング
(含むみがき)
4
3
2
1
0
10 .1
02.2
03.3
0.4
4
50 .5
06.6
07.7
08
.8
0.9
9
110
.0
1 .1
11
1.2
12
1 .3
13
1 .4
14
1 .5
15
ひ び 切 除 後 の 次 点 検 ま で の 運 転 時 間 (年 )
26
仕上げとSCC発生の関係(続き)
仕上げ
プラント名
不適切な
表面加工
福島第二2
概
要
2F2ではシュラウドが酸洗鋼板として納入され、
表面の光沢がない状態であったことから、外観
検査に不適と判断して全体を研磨ディスクにて
磨いている。このような施工を行ったのは2F2のみ
であり、以下は2F2限定の固有の事象であること
が確認されている。
①SUS316L溶接金属部に発生したひび割れ
2F2のH3外側の溶接金属(SUS316L)に放射状
のひび割れが確認された。発生原因としては、
表面は研磨ディスクによる硬化と組織の変化が
あることから、表面加工層を起点としたひび割れ
であると推定される。
溶接金属部(すみ肉溶接部)
に発生したひび割れ
②胴部溶接線から離れた位置の蜘蛛の巣状のひび割れ
(深さ検出限界以下のごく浅いひび割れ)
2F2のシュラウドでは、製造過程で、研磨ディスクに
よる全面にわたる表面仕上げを行っており、表面硬化
とともに様々な方向の強い残留応力によって、蜘蛛の
巣状のひび割れが発生した。
③仮設物除去痕に発生したひび割れ
(溶接線から離れた比較的深いひび割れ)
シュラウド製作過程で取り付けられた仮設物は、
硬質グラインダーにて溶接部を除去後、研磨ディス
クにより除去痕の表面仕上げが行われている。
この場合には、研磨ディスクによる表面硬化と 高い
残留応力で発生したひび割れが仮設物取付けのため
のすみ肉溶接による残留応力によって内部に進展した
ものと考えられる。
溶接線から離れた位置に
発生したひび割れ
27
リ ン グ 部 年 間 ひ び 深 さ 進 展 量の 実 績 と予 測 の 比 較
4(7) シュラウドのひび割れ進展 実績/予測
ひび割れのうち、次の点検までの進展
量の予測と実績を比較した。検出された
ひび割れの進展量は、予測した値に対
して下回っていた。さらに、まったく進展
しないひび割れも認められた。
ひび深さ進展量 (mm/年)
1. リング部で検出された分類②に属する
7.0
予測
6.0
実績
5.0
最大進展量:1.39 mm/年
最小進展量:0 mm/年
4.0
3.0
2.0
1.0
0
0.0
1
9ケ所のひび割れの進展量は、0∼
女
1.39mm/年であった。
川
1,
2
H
2
外
女
川
1,
H
柏
6a
3
外
羽
刈
崎
2,
H
柏
6a
4
外
羽
刈
崎
3,
H
外
6a
岡
浜
3,
H
6a
5
外
浜
4,
岡
H
0
6a
6
外
女
7
川
2,
H
7
8
内
浜
岡
3,
H
7
9
内
浜
岡
4,
H
7
内
リング部年間ひび深さの進展量に関する実績と予測の比
0.60
2. ひび割れ進展量実績とその予測量と
平均で0.16であった。
ひび割れの進展量は、予測量を十分
下回っていた。
0.50
実績/予測
の比(実績深さ/予測深さ)は、最大0.54、
最大比率 : 0.54
平均比率 : 0.16
0.40
0.30
0.20
0.10
0
0.00
2
1外
2
6a
外
3
6a
外
6a
4外
6a
5
外
0
6a
6外
7
7
内
7
8
内
H
H
,H
H
,H
H
H
H
1,
,H
3
,
2
,
,
,
4,
4
3
3
2
1
川
岡
川
岡
岡
羽
岡
羽
川
女
浜
女
浜
浜
刈
浜
刈
女
崎
崎
柏
柏
9
7
内
28
5.BWR再循環系配管のひび割れについて
【低炭素ステンレス鋼】
以下を除く配管継手に対するひ
び割れ検出結果
・再循環系配管のないABWRプラ
ント(柏崎刈羽6,7,浜岡5,志
賀2)を除く
・供用開始後の実効運転年数が
5年以下の2プラント(女川3,
東通1)を除く
・応力改善等の予防保全対策を
実施した継手を除く
(注)低炭素ステンレス鋼に交換
せず全配管に予防保全対策を
実施したプラント(浜岡2)を除く
【低炭素ステンレス鋼以外の
ステンレス鋼(SUS304等)】
・応力改善等の予防保全対策を
実施した継手を対象
(1)25プラントに関する検査状況
− 点検対象継手数
− 点検済継手数
− ひび割れ検出された継手数
− ひび割れ検出継手への対応
− 配管取替後の断面調査結果
(3)部位と
発生
状況
(注)健全性評価制度に基づく
報告があった4件を含む
→(2)健全性評価報告実績
平成16年以降の重大な知見
→(4)福島第二3号機における
ひび割れ検出の見落とし
(5)
4プラントのひび割れ
発生状況
太字は本章の構成を示す
29
5(1) BWR再循環系配管のひび割れ検査 (低炭素ステンレス鋼)
プラント
点検対象
継ぎ手数(注)
点検済み
継ぎ手数
ひび割れ
継ぎ手数
同左対応
交換後の点検
対象継ぎ手数
女川1
82
82
10
配管取替
72
女川2
77
77
2
同上
75
配管取替後の断面調査
実施継ぎ
手数
ひびが確認され無
かった継ぎ手数
10
1
島根1
92
92
2
同上
90
島根2
118
118
2
同上
116
志賀1
95
95
6
同上
89
浜岡1
浜岡3
浜岡4
福一1
福一2
福一3
福一4
84
80
76
77
94
40
33
84
80
76
77
94
40
33
2
13
6
0
0
0
0
同上
同上
同上
―
―
―
―
82
67
70
77
94
40
33
福一5
91
91
0
―
91
福一6
2
2
0
―
2
福二1
29
29
1
配管取替
28
1
福二2
116
116
6
同上
110
1
福二3
76
76
10
同上
66
5
福二4
99
99
11
同上
88
2
柏崎1
86
86
28
同上
58
24
12
柏崎2
80
80
5
同上
75
5
1
柏崎3
柏崎4
柏崎5
76
92
93
76
92
93
3
9
9
同上
同上
同上
73
83
84
3
9
9
1
1
敦賀1
18
18
0
―
18
東海2
30
30
0
―
30
計
1836
1836
125
78
16
1711
(注1) 総継手数は約100継手/プラント
・供用開始後の実効運転年数が5年以上経過していないプラント(女川3、浜岡5、東通1、志賀2)を除く
・応力改善等の予防保全対策を実施した継ぎ手を除く
1
6
2
30
5(2) 再循環系配管 健全性評価実施一覧
発電所ユニット
報告日
評価対象部位
評価年月
評価結果
及び対応
中国電力
島根2号機
17.02.09
PLR配管のひび割れ
17.03
同一材料の配管に取替
中国電力
島根1号機
17.07.20
PLR配管のひび割れ
17.08
同一材料の配管に取替
東京電力
福島第二3号機
17.08.18
18.04.19
PLR配管のひび割れ
18.04
同一材料の配管に取替
東京電力
柏崎刈羽1号機
18.04.19
PLR配管のひび割れ
18.04
継続検査を行いながら継続して利用
事業者
31
5(3) 再循環系配管の超音波探傷試験によるひび割れの発生状況 (A系配管)
,KK1
KK5,S1,島根2
KK4,H3,島根1
32
5(3) 再循環系配管の超音波探傷試験によるひび割れの発生状況 (B系配管)
2F4,H1,H3,
KK1
2F3
島根2
2F2,2F3,KK1
KK2,KK4,島根1
33
5(4)東京電力㈱福島第二3号機のひび割れ検出の見落とし
【再発防止策】
【事案の概要】
・原子炉再循環系配管において、同社が
実施した同配管の切断による断面調査
の結果、平成17年の定期検査期間中
に実施した超音波探傷試験では確認さ
れなかったき裂等の欠陥が確認された
(平成18年2月)
・保安院は、本知見を活用すべく、調査
報告及び再発防止策の提出を求めた
・東京電力からの報告書の提出
(3月23日、4月19日)
・保安院としての見解のとりまとめ
−東京電力報告内容の評価
−再発防止策
保安院文書として、以下の手順等を明確化
(平成18年3月)
①2次クリーピング波法による有意な信号が
あった場合は、原則として、ひび割れからの
エコーと評価すること
②2次クリーピング波法による有意な信号を
ひび割れによるものでないと判断する場合
には、以下のような十分な根拠を示すこと
− 詳細な作図により溶接中心位置を把握し
裏波からか否か判断
− ひび割れが断続的に長いと推測される
場合には、検査機器の感度を原則一定の
ものとすること
− 判定について第3者を加える等客観性を
確保すること 等
(注)本明確化はJEAG4207-2004の改訂にも
反映されるよう、規格策定作業に参画
34
5(5)低炭素ステンレス鋼に取替えていない配管に
対する予防保全状況
プラント名
(運開年)
材 料
実施時期
予防保全(注1)
ひび割れ発生有無
無
有(4継手)(注2)
無
浜岡2
(1978)
SUS304
S53 (1978)
S54 (1979)
H12 (2000)
SHT, IHSI
IHSI
IHSI
福島第一6
(1979)
SUS304
S54 (1979)
SHT, CRC, IHSI
無
東海2
(1978)
SUS304
S53 (1978)
S55 (1980)
IHSI, SHT , HSW
IHSI
無
敦賀1
(1970)
SUS316
S60 (1985)
H1 (1989)
S62∼H10 (1988∼1998)
H12 (2000)
IHSI
IHSI, CRC, HSW
外面バタリング
CRC, HSW
無
(注1)SHT : Solution Heat Treatment
固溶化熱処理
IHSI : Induction Heating Stress Improvement
高周波誘導加熱応力改善法
CRC : Corrosion Resistant Cladding
内面肉盛工法
HSW : Heat Sink Welding
水冷溶接
(注2)第1回定期点検時(S54)にIHSIを実施した箇所に認められたことから、IHSIの有効性を確認することを
目的として、金属サンプルの採取可能な2箇所について調査中。
35
6(1)PWR事業者によるひび割れ検出実績
及び予防保全対策状況
【健全性評価制度に基づく報告実績】
プラント名
報告日
伊方1号機
H17.3.1
伊方2号機
H18.1.6
対象部位
原子炉容器入口管台内表面の微小き裂
〃
対応
き裂を切除し
継続使用
〃
備考
H17指示文書に
おいて考慮
上記と類似事例
【PWR事業者におけるPWSCC発生防止対策の現状】
部位
予防保全措置
適用プラント
原子炉容
器上蓋
材料変更(600系Ni基合金から690系
Ni基合金)
美浜1・2・3号、高浜1・2号、大飯1・2号、伊方1・2号、
玄海1・2・4*1号
*1:建設時より690系合金を使用
頂部温度低減緩和
高浜3・4号、大飯3・4号、泊1・2号、伊方3号、川内1・2号、
玄海3・4号、敦賀2号
原子炉容
器炉内計
装管台
(BMI)
応力緩和( ウオータージェットピーニング[WJP]、 WJP:美浜1・2・3号、高浜1・2号、大飯1・2号、玄海1号、
レーザーピーニング[LP])
川内1 *2号
LP:伊方1・2*2号 *2:J溶接部についても実施済
原子炉容
器冷却材
出口管台
内面クラッドによる一次冷却材溶接部の
材料の変更(690系へ)、
応力緩和(ウオータージェットピーニング[WJP])
クラッド:伊方1・2号
WJP:川内1号
(備考)予防保全措置を行ったプラントで、PWSCCが発生した事例は頂部温度低減を実施した大飯3号機における
原子炉容器上蓋管台J溶接部からの漏洩(H16.5)である。
36
6(2) PWSCCへの取組状況
項 目
事業者及びJNESによる取組み状況
発生時間予測
●定荷重試験により、600系Ni基合金および690系Ni基合金について、PWSCCの発生する応力レベルを明確
化のための研究開発を実施中。(脚注参照)
●600系Ni合金使用部位の応力、温度条件をもとにPWSCCが発生する可能性について評価を実施している。
なお、溶接部については、事故トラブル事例より、(a)表面仕上げ(バフ仕上げ)より表層部は圧縮応力と考
えられていたが、バフ仕上げが行われていない場合には比較的高い引張り残留応力が発生、(b)管台溶接部
は建設時の手直し溶接により、高い引張り残留応力が発生、との知見が得られている。
検査性の向上
(事業者の取組み)
原子炉容器上蓋管台母材部用の検査装置について、超音波探傷技術によるSCC深さサイジング性能、渦流
探傷検査技術によるSCC長さサイジング性能を確認試験を実施中。
(JNESによる取組み)
①Ni基合金溶接部の非破壊検査技術実証(平成14∼20年度)
Ni基合金溶接金属中のPWSCCに対する、検出性及びサイジング精度に関する非破壊検査データの
採取及び評価を実施中。
②容器貫通部狭隘部の非破壊検査技術実証(平成17∼20年度)
容器貫通部母材熱影響部のPWSCCに対する、検出性及びサイジング精度に関する非破壊検査デー
タの採取及び評価を実施中。
評価手法の確立
(JNESによる取組み)
①NiSCC事業(平成12∼17年度)
PWR一次系水質環境下におけるNi基合金母材及び溶接金属の定荷重SCC進展速度データを系統的に
取得した。SCC進展速度線図をまとめて、維持規格に反映中。
②NSC事業(平成17∼21年度)
SCC進展評価技術の高度化を図るため、溶接残留応力場の応力状態を考慮したK値制御条件下の
SCC進展データ、低K値域及び塑性ひずみを受けた材質のSCC進展データの整備拡充を実施中。
(出典:「高浜発電所1号機 高経年化対策に関する報告書 別冊のうち容器の技術評価報告書」 関西電力原子力情報センター)
・600系Ni基合金母材(原子炉容器炉内計装管台の場合):約450MPa
・600系Ni基合金溶接金属:約300MPa
・690系Ni基合金については現在のところPWSCC感受性は認められていない
37
7(1)健全性評価小委(平成16年6月)の課題への対応
課題
課題の概要
対応状況
①溶接金属内、母
材硬化部、照射材
等のき裂進展速度
データの拡充
・溶接金属内のき裂進展速度データ
・母材硬化部の 〃
・照射を受けたシュラウド胴部の〃
・K値依存性、水質依存性等の考慮
JNES事業で、PLR配管とシュラウドを対象にした
き裂進展試験実施中。
・H18年度:PLR配管進展データ取得完了予定
・H19年度:シュラウド進展データ取得完了予定
②SUS316L系材
の応力腐食割れ発
生・進展メカニズム
の究明
・機械加工や溶接に伴う硬化層での応
力腐食割れ発生や進展のメカニズム
・溶接金属における応力腐食割れ進展
のフェライト量依存性 等
電気事業者による取組みとして、東北大、JAEA、
電中研の参画を得て、き裂進展メカニズムについ
て検討中。発生に関しては事業者中心で研究推進
中。
③非破壊検査技術
の改良・開発
・深いものも含めたひび割れ寸法の測
定データ蓄積
・新たな検査技術の開発(ECTのシュラ
ウド欠陥検出への適用、電位差法によ
る再循環系配管の欠陥深さ測定への適
用等)
・非破壊における残留応力測定技術の
開発・導入
・ JNES事業「低炭素ステンレス鋼の非破壊検査
技術実証」にて実施中。フェーズドアレイUTによる深さ
測定精度の信頼性を確認中
・また、ECTによる長さ測定についても、H4溶接部
について、信号消失指示長さが精度も良く、過小
評価が少ないことを確認
④検査員に対する
資質の向上とPD制
度の早期確立
・検査員の教育や実務訓練の充実
・PD制度の確立
・PD制度の一環として、発電技検等のPD研修セ
ンターが発足してUT技術の維持向上が図られて
いる
・SUS材に関するPD制度が確立している
⑤運転管理情報の
共有化
実機での事例や海外の知見が反映でき
るよう、国、事業者、メーカー間で広く知
見の共有が図れる仕組みの構築
SCCのように高経年化対策が必要な分野に対し
ては、産官学の有機的な連携を図る技術情報調
整委員会が17年度、JNESに発足。情報基盤、安
全研究、国際協力WGにより情報共有化を図って
いる。
38
7 健全性小委(H16.6)において課題とされた事項への対応状況
(2)① 表面硬化層でのSCC感受性上昇のメカニズム
¾ 実機事例調査:
− 原子炉再循環系(PLR)配管溶接ルート部近傍の内表面が硬化 (図1)
− 表面硬化層に粒内型応力腐食割れ(TGSCC)が発生
¾事業者を中心とした研究成果:
表面硬化層でのTGSCCの発生要因として、現状以下の知見が得られている。
− PLR配管開先加工で管内表面も研削 ⇒硬化域形成要因
− 表面加工材に応力を付与した場合、極表層部に高残留応力が存在 (図2)
− 表面引張残留応力が高い程、TGSCCが発生しやすい傾向 (図3)
図1 実機PLR配管溶接部近傍の硬さ分布
1)
図2 表面加工後応力付与した材料の残留応
力の深さ方向分布(溶体化材との比較) 2)
図3 高温水中SCC試験結果に基づく表面
引張残留応力とTGSCC発生状況 2)
1) 「原子力発電設備の健全性評価について」ー中間とりまとめー (平成15年3月10日)、 2) 竹田ら 第52回材料と環境討論会 No.B-205(2005)
39
7(2) ②低炭素ステンレス鋼のSCCき裂進展メカニズム
注1)F,TP,T,Eを含む。
注2)3点曲げを含む。
SCC進展速度 (m/s)
08
1.E-05
288℃、
ECP≧150mVSHE
09
1.E-06
HAZデータ(CT&3PB)
□ 狭開先(2B)HAZ(HV≧200)
□
狭開先HAZ(HV≧200)
■ 狭開先(2B)HAZ(HV<200)
■
狭開先HAZ(HV<200)
△ 通常開先TIG(1B,2A)HAZ(HV≧200)
△ 通常開先TIGHAZ(HV≧200)
▲ 通常開先TIG(1B,2A)HAZ(HV<200)
▲ 通常開先TIGHAZ(HV<200)
◇ 通常開先TIG+SMAW(1A)HAZ(HV≧200)
JNESにおける安全研究
¾ 原子炉再循環系配管模擬供試体の溶接熱影響から加工した試
験片を用いてSCCき裂進展速度データを取得中。
¾ SCCき裂進展部近傍の硬さが高い場合、そのSCCき裂進展速
度の多くは、JSME維持規格線図(低炭素ステンレス鋼)より大き
いが、鋭敏化SUS304鋼の線図を上回るものはない (図1)
◇ 通常開先TIG+SMAWHAZ(HV≧200)
JSME維持規格(鋭敏化SUS304)
(ECP≧150 mVSHE)
10
1.E-07
JSME維持規格
(低炭素ステンレス鋼)
(ECP≧150 mVSHE)
11
1.E-08
⇒ 現在、構造物のき裂進展評価は、JSME維持規格線図(鋭敏化
SUS304鋼)を用いて実施。
⇒ その技術的根拠を明確にするため、低炭素ステンレス鋼のSCC
進展メカニズム検討を実施中。
12
1.E-09
1
10
100
応力拡大係数 K (MPa√m)
図1 低炭素ステンレス鋼配管溶接熱影響部のSCCき裂進展速度と
維持規格線図の比較
20
-11
SCC進展速度 (×10 ), m/s
18
16
14
12
10
き裂進展方向
直管(F)
直管ティー(T)
エルボ(E)
直管(TP)
Type316L *1)
深さ0.4mm
0.2mmピッチ
: 硬さ測定点
試験K値範囲:
20∼25 MPa√m
200 µm
8
6
4
図4 SCCき裂近傍の塑性ひずみ
分布例
熱処理材
(620℃×24h)
2
0
120
140
160
180
200
ビッカース硬さ, HV0.1
220
*2)
240
260
図3 EBSP法によるき裂周囲の
結晶粒のmisorientation測定例
EBSP:Electron Back Scattering Pattern
図5 き裂先端の原子間力顕微鏡観察結果例
図2 SCCき裂進展速度とき裂近傍の硬さの相関
(試験K値範囲:20∼25MP√a)
*1) M. Itow et al., “SCC Growth Rates and Reference Curves for Low Carbon stainless Steels in BWR Environment”, in: PVP-Vol. 479, Residual Stress, Fracture, and Stress
40
Corrosion Cracking, Ed. Y.-Y. Wang, ASME, New York, NY (2004) p.167. 、*2) き裂進展部直下のビッカース硬さ測定値の平均値
7(2)③ 低炭素ステンレス鋼のSCCき裂進展メカニズム(つづき)
¾ 事業者を中心とした研究成果例:
− 冷間加工により粒界すべり感受性上昇を示唆(20%と30%、HV236とHV319の間)
− 結晶粒界でき裂の進展促進を示唆
⇒ 冷間加工率の増加により結晶粒界が滑りやすくなる
材料:SUS316L (受領まま、冷間加工20%、30%、40%、60%)
試験方法:定ひずみ速度引張試験
(試験条件; ひずみ速度 1.25×10-4 /s、温度 288℃ )
出典: 西本ら 第52回材料と環境討論会 No.B-207(2005)
41
7(2)④ 低炭素ステンレス鋼溶接金属のSCCき裂進展
JNESにおける安全研究
¾ 溶接金属のSCCき裂進展速度は、溶接熱影響部に比べ遅い
¾溶接金属のSCC進展経路は柱状晶境界
¾ 溶接部のSCCき裂進展機構について検討中
SCC進展速度 (m/s)
1.E-08
HAZデータ
溶接金属データ
1.E-09
JSME維持規格
(鋭敏化SUS304)
(ECP≧150mVSHE)
1.E-10
JSME維持規格
(低炭素ステンレス鋼)
(ECP≧150mVSHE)
1.E-11
溶接金属破面観察結果例
1.E-12
1
10
100
応力拡大係数 K (MPa√m)
図
低炭素ステンレス鋼熱影響部(HAZ)
及び溶接金属のSCC進展速度データ
熱影響部破面観察結果例
42
8 知見のとりまとめ(1)
1.事業者によるひび割れに関する検出実績に基づく知見(平成14年∼平成18年4月)
(1)BWR炉心シュラウド
①検査対象となる22プラントのうち、16プラントよりひび割れが検出された。
②ひび割れはH4、H7に多く発生しているが、いずれも健全性評価小委で分類した、胴部溶接線近傍・
リング部溶接線近傍に発生するひび割れ、に分類されるものであった。
③なお、照射量が高いH4については、内外面を比較すると内面が比較的深いひび割れであった。
④実運転年数との関係では、検出までの年数であるが、実運転年数8年程度以降にひび割れが検出
されていることが確認された。
⑤ピーニングによる発生防止効果については、ひび割れ切除部位の8プラント継続検査により、短期間
(1.2年)のデータであるが、その有効性が確認されている。ピーニング等を施した12プラントの今後の
信頼性確認が望ましい。
⑥なお、福島第二2号機で溶接線から離れた位置でのひび割れが検出されたが、これは福島第二2号機
において研磨ディスクによる表面加工を行ったことによる固有の事象であることを確認している。
⑦ひび割れ進展量については、9箇所で、ひび割れ進展のないものから最大1.39mm/年であった。
⑧ひび割れ進展実績とその予測値の比は、最大0.54、平均で0.16で、保守的な評価であることが確認
された。
43
知見のとりまとめ(2)
(2)BWR原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する配管(再循環系配管)
①検査対象となる25プラントのうち、17プラントより、合計125箇所のひび割れが検出された。
②ひび割れが検出された継手は、健全性評価制度に基づき継続使用の問題がないことを確認した柏崎刈羽1号機
の2継手(平成18年4月)を除き、すべて取替が行われ、狭開先による水冷溶接又は高周波誘導加熱応力低減
法(IHSI)が施されている。
③低炭素ステンレス鋼に取替えず、予防保全を行ったプラントは、4プラントである。なお、ひび割れがあった浜岡2
号機の4継手は低炭素ステンレス鋼に取り替えられている。
④平成18年4月までにひび割れの交換した継手78に断面調査を実施したところ、16の継手で実際にはひび割れ
がなかったことが確認された。(なお、福島第二3号機においてひび割れ検出見落としの事例(平成18年2月)が
あったが、事業者からの報告を受けて、保安院は再発防止策を明確化している。)
(3)PWR原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する配管
①PWRの一次冷却材圧力バウンダリのニッケル基合金使用部位における一次冷却材による応力腐食割れに対し
ては、国内外の損傷事例を踏まえ、保安院として平成17年6月付けで検査指示文書を発出している。
(平成15年12月発出文書を、平成16年5月の大飯3号機原子炉上蓋管台溶接部損傷事例の知見を反映し改
定) 同指示文書以降の損傷事例としては1件の健全性評価制度に基づく報告があるのみで、改定を要する知
見は得られていない。
なお、事業者においては、平成18年4月までに以下のPWSCC発生防止対策が行われている。
− 原子炉容器上蓋の取替(材料変更): 運転時間の比較的長いプラントについて取替済。頂部温度低減策を
実施し、取替えずに運転中のプラントについても基本的に取替えの方向で計画中。
− 原子炉容器炉内計装管台等の応力緩和:運転時間の比較的長いプラントについて、管台母材部の応力緩和
策を施工済み。J溶接部についても応力緩和策の実施を実施中。
− 原子炉容器冷却材出口管台の接液部の材料変更:伊方1・2号で実施済み。その他のプラントについては応力
緩和策による対応を実施中。
これらの対策がとられた部位においては損傷事例は報告されていない。
②海外で損傷事例が報告されている照射誘起型SCC(IASCC)については、高経年化対策として、IASCCの発生
時間を推定する予測式が学協会規格として検討されている。
③上記のほか、酸素の滞留や塩化物の付着を要因とする応力腐食割れ事例も過去に報告されているが、これらは、
設計面又は管理面での対応がなされており、これらの対策が引き続き措置されることが重要である。
44
知見のとりまとめ(3)
2.JNES安全研究からの知見
主としてき裂進展速度に関する安全研究が進められており、規制として活用している維持規格のき裂進展
速度に最新知見として反映する。
(1)ニッケル合金応力腐食割れ進展評価
①平成12年∼平成17年において定荷重試験を終了し、平成17年より定変位試験を実施予定
②以下の主要な知見が得られており、規格に反映すべく、評価線のあり方について検討されている。
− BWR溶接金属内・母材(熱影響部)において、腐食電位≧ -100 mVSHEでは、SCC進展速度は同等と
なる。
− BWR環境下で、600合金母材(熱影響部)のき裂進展速度は、低K値域において維持規格の溶接金
属182合金のき裂進展速度を上回っている。
− PWR管台では、82合金及び132合金とも、溶接金属のき裂進展速度は、維持規格事例規格(母材)
のき裂進展速度を上回っている。
(2)原子力用ステンレス鋼の耐応力腐食割れ評価(IGSCC)
①平成15年∼平成19年までの計画でき裂進展を試験中
②現在までに以下を確認している
− 熱影響部のき裂進展速度は母材より大きくなるが、鋭敏化SUS304(規制に適用)を上回らないこと
− 熱影響部のき裂進展速度が硬さとの相関があること
(3)照射誘起応力腐食割れ評価(IASCC)
①現在、JMTRでのBWR環境下での中性子照射継続中で、平成20年までにき裂進展速度データ取得予
定である。
②現在まで、SUS316L材について、破面補正後の確定データでは、鋭敏化SUS304鋼の上限値を超え
る進展速度は得られていない(今後超えるデータが得られる可能性がある)。
45
知見のとりまとめ(4)
(4)検査技術の信頼性の向上
①原子力発電施設検査技術実証事業(SGF/UTS:平成7∼16年度)にてSUS304配管のSCCに対する、検出
性及びサイジング精度を確認した。
②SUS316系の配管及びシュラウドのSCC、Ni基合金溶接金属中のSCC及び、容器貫通部母材熱影響部の
SCCに対する検出性及びサイジング精度に関する非破壊検査データの採取及び評価を実施中。
3.事業者等における安全研究からの知見
事業者においては、学識経験者と協力したSCC発生やSCCの進展メカニズムに関する研究、新材料・検
査技術・補修技術・予防保全技術の開発等が行われている。
健全性評価小委(平成16年6月)において技術的課題とされていた事項である低炭素ステンレス鋼の
SCC発生及び進展メカニズムに得られた知見のうち興味深い事項は以下の通りである。なお、これらは
実験データに基づくものであるが、今後実機データとの関係等についてさらなる研究が進められることが
期待される。
(1)SCC発生メカニズム
【実機調査で明らかになっていた事項: 原子炉再循環系配管の溶接熱影響部の表面が硬化(300HV
以上)し、硬化域から粒内型応力腐食割れが発生】
− 表面加工材に応力を付与した場合、極表層部に高残留応力(800 MPa超)が存在(実験結果)。
− 冷間加工材のTGSCC発生しきい応力の研究が進められている。
(2)熱影響による硬化部のSCCき裂進展速度
【実機調査等で明らかになった事項: 低炭素ステンレス鋼の熱影響による硬化部のき裂進展速度は、
鋭敏化していないにもかかわらず、硬化していない母材よりも大きくなる(鋭敏化SUS304よりは小さい)】
− 冷間加工により粒界すべり感受性上昇を示唆するデータが得られている
46
知見のとりまとめ(5)
4.健全性評価制度等への知見の反映
(1)健全性評価制度
事業者からのひび割れ検出に関する事項の報告、JNES安全研究の成果等については、従来から、学協
会規格の技術評価、また早急な対応を要する場合にはNISA文書の発出(福島第二2号機の事例)等を通じ
て対応してきたところである。
今回得られた知見としては、き裂進展速度に関して一部最新知見の反映について検討する必要があると
考えられるが、このような知見は学協会規格の技術評価を通じて行うこととする。
具体的には、計画とおり、以下の学協会規格の技術評価を行う。
− 許容欠陥角度制限の代替規定(維持規格の事例規格)(JSME S NA1-2002)(CC-002)
− 維持規格(2004年版)(JSME S NA1-2004)
(2)設計建設段階でのSCCの考慮
①材料選定
設計建設段階でのSCCを考慮した材料選定については、保安院の要請を受けて、日本機械学会が
事例規格「応力腐食割れ発生抑制に対する考慮」を策定されており、当該事例規格を早急に技術評価した
上で規制に適用するとともに、学協会規格活動に参画し最新の知見が図られるようにする。
②LBBの適用(内部発生飛来物として破断配管の影響を考慮しないこと)
オーステナイト系ステンレス鋼を採用した配管については、SCC等の損傷が生じる可能性が極めて小さい
(対策材である低炭素ステンレス鋼の採用)を条件に、疲労破壊による漏えい・配管破断をLBB適用の前提
条件とし、LBB成立の要件を規定している。
近年のBWRにおけるSCC発生事例は、低炭素ステンレス鋼の採用によってもSCCが発生することを示し
ているが、IHSI等の応力改善が施された配管では生じた事例はなく、LBB概念を適用するに当たっては応
力改善等の予防保全対策が求められる。 なお、再循環系配管に対してパイプホィップレストレイントを設置し
ていないBWRプラントは3プラントあるが、2プラント(女川3、東通1)は実運転年数が5年以下であり、また、残
りの1プラント(敦賀1)は、応力改善のための措置を講じていることを確認している。
47
知見のとりまとめ(6)
5.今後の課題
原子炉安全小委(平成18年4月)に示した下記の短期的課題及び長期的課題に取り組む。
【短期的課題への取組み】
(1)最新知見の反映
①事業者による切断配管のき裂等の欠陥に関する調査結果の活用
②き裂等の欠陥検出及びき裂等の欠陥進展評価に関する知見の総括(継続的に実施)
(2)規格基準の整備
日本機械学会「維持規格(2004年版)」等の活用、WOL工法導入に向けて基準整備
(3)PD認証制度の活用
(4)対外的説明
【長期的課題への取組み】
①保安院、民間による安全研究の実施
②OECD/NEAを通じた国際的な情報交換
③日本電気協会規格(超音波探傷試験指針)の見直し
④健全性評価制度の対象機器の拡大
48
添付1 健全性評価制度(維持基準)概要
平成15年10月の抜本改正
A.定期事業
者検査の義
務付け
・従来、定期検査以外の検査は事業者が自主検査として
行っていたが、これを定期事業者検査として義務付け、
検査範囲を明確化
平成16年9月
・国が指定した設備については、定
期事業者検査毎に、ひびがあった
場合に、深さ、成長状況などについ
て国への報告を義務付け
C.健全性評
価手法の明
確化
・指定した設備について、検査の方
法や、ひび等の成長評価手法、判
断基準を明確化
・具体的には、技術基準を改正す
るとともに、日本機械学会規格を
仕様として活用
・クラス1機器に
属する容器及び
管(注1)
︹対象設備︺
B.き裂等の
欠陥があっ
た場合の報
告の義務付
け
・炉内構造物で
ある炉心シュラ
ウド及びシュラウ
ドサポートリング
(注2)
(注1)原子力用低炭素ステ
ンレス鋼を除く
(注2)平成17年12月に明
確化のため「シュラウドサ
ポート」に変更
平成18年3月
・低炭素ステンレ
ス鋼を追加
・改良試験方法
の信頼性確認
・ただし、試験員
等の技能確認
制度が改正する
までは制限追加
(4.4mm上乗
せ)
・PD制度整
備を受けた
対応
・福島第二3
号機事例の
反映
49
健全性評価制度の基本的考え方
=ひびの進展量を予測し、健全性を確認
機器にひびが見つかった場合、毎年、その大きさと進む速さを測り、機器の強度が
必要な安全水準を満たしているかどうか確認しています。
その評価には、日本機械学会の「維持規格(発電用原子力設備規格)」を活用して
います。
ひびの進展が遅い場合
設計時の
構造強度
構
造
強
度
一定期間後のひびの進展量を予測
ひびの進展が早い場合
ひびの進展予測を行った結果、安全水準を上
回っているため継続使用が可能と判断
現在の構造強度
安全水準
ひびの進展予測を行った結果、安全水準を下
回っているため補修・取替えが必要と判断
破壊限界
(安全水準は破壊限界に余裕(安全率=約1.5∼3)を見込
んで決めています。安全水準を超えても構造物は直ちに破
壊しませんが、やがて破壊に至るおそれがあるため、安全
水準を超えた場合には、補修・取替が必要と判断します。)
時 間
50
健全性評価制度の報告対象機器①
シュラウド及びシュラウドサポート
シュラウドの機能
上部リング
・炉心の支持
原子炉容器
・炉心内の仕切板
中 間 部 リ ン グ
(上部格子板を
支えている)
炉心シュラウド
上部格子板
燃料集合体
制御棒
材料
炉心シュラウド
中間部胴
下部リング
シュラウド
サ ポ ー ト
リング
高
さ
7
~
炉心支持板
制御棒案内管
中性子束計測案内管
H1
H2
H3
H4
H6a
H6b
H7a
H7b
8
m
オーステナイト系ステンレス鋼
(非常に粘りのある材料
SUS304、SUS316LC等)
シュラウド
サポート
直径4~5m
原子炉圧力容器鳥瞰及び炉心シュラウドの構造図
51
健全性評価制度の報告対象機器②
クラス1機器(原子炉圧力容器、給水管・主蒸気管、再循環配管等)
主蒸気
隔離弁 主蒸気系 →
原子炉
圧力容器
給水系 ←
主蒸気隔離
弁までが
クラス1機
器となる
ヘッダー管
↑原子炉再循環系配管
←
→
ポンプ
ライザー管
母管
原子炉再循環ポンプ
再循環配管の機能
・原子炉冷却材の圧力バウンダリ(耐圧機能)
・冷却材流量の調整
材料
オーステナイト系ステンレス鋼(主として、SUS316LC)
52
構造物の健全性評価の流れ
○事業者に対し、定期事業者検査時に健全性評価を実施し、その結果を国へ報告することを義務付けました。
対象設備にひびが発見された場合に、その設備の健全性を評価する方法をルールとして明確化しました。
○対象設備 :原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器、炉心シュラウド
○評価の方法 :日本機械学会の「維持規格2000年版(同2002年版)」について、国として技術的妥当性の
評価を行い、追加要件を課した上で健全性評価に係る審査基準として活用しています。
健全性評価
不適合となる前に
ひびの補修
許容基準との比較
一定期間後に
不適合
第2段階
ひびの進展予測
基準寸法以上
評価不要欠陥寸法との比較
ひびのモデル化
ひび有り
ひびを点検
一定期間内は適合
継続検査の実施
基準寸法以下
ひび無し
継続使用が可能
定期事業者検査時に
プラントを停止して点検実施
第1段階
日本機械学会の
「維持規格2000年版(同
2002年版)」を活用。
53
健全性評価の例
∼ シュラウドにおける健全性評価手法の一例(健全性評価小委) ∼
溶接残留応力
解析結果
①超音波探傷検査結果
(ひびの長さ、深さ)
ひびの進展予測
②残存面積の評価
③必要残存面積の算定
現在の健全性評価
5年後の残存面積の算定
5年後の健全性評価
・ひびの発生部位の現在の残存面積が必要残存
面積以上であることにより健全性を評価
・ひびの進展評価により求めた5年後の残存面積が必要
残存面積以上であることにより健全性を評価
① 実際にひびが発生している部分
② 平均的な深さのひびが、シュラウドの全周に
あるものと仮定した部分
③ 強度を確保するために必要な面積(必要残存面積)
54
日本機械学会「維持規格」の活用
経 緯
策定の基本的考え方
検
査
編
2002年10月
に策定(2000
年版に追加)
我が国の運用実績や米国機
械学会規格(ASME)を基礎
評
価
編
2000年5月に
策定
米国機械学会規格(ASME)
を基礎
(注) ASMEの維持規格は、米国における数多く
の研究成果を基に、海外からの技術者も含めて
公開の場で議論されて策定されており、米国原子
力規制委員会(NRC)もこの規格を規制基準とし
て取り込んでいる。また、米国以外の国において
も、規制基準として採用されたり、規制要求を満
足する規格として適用が認められており(例えば、
韓国、ベルギー、スウェーデン)、国際的に評価さ
れている規格である。
内 容
(1) 対象設備
(2) 検査プログラム
(3) 試験の方法(非破壊試験等)
(4) 試験の対象部位及び程度
(5) 追加試験(欠陥があった場合、試験
範囲を拡大)
(6) 継続試験(継続運転が可能となった欠
陥を対象)
(7) 個別検査(経年変化が想定される機器
に特別な試験)
(1) 対象設備及び対象欠陥
(2) 第1段階の欠陥評価
(評価不要欠陥であるか否かの評価)
(3) 第2段階の欠陥評価
(4) 進展予測の方法
(5) 破壊評価の方法
55
日本機械学会規格策定の手続き:
公平性・公正性・公開性の重視
○
○ 委員会の構成:特定業種から最低5業種含まれ、かつ同一業種からの委員
委員会の構成:特定業種から最低5業種含まれ、かつ同一業種からの委員
が委員総数の3分の1以下(委員長等は除く)
が委員総数の3分の1以下(委員長等は除く)
決議の手順
決議の手順
1次投票
2次投票
YES
成立
意見付反対票がなく
z反対意見取下げ又は
投票数の2/3以上の賛成票
z挙手による出席者2/3以上の
承認で、かつ2/3以上の賛成
No
YES
投票成立
=委員総数の4/5
以上の投票
投票期限
=原則30日以内
No
z公開性 ① 委員会の開催日時はあらかじめ公表(傍聴可能)
② 議事録は公表
③ 2ヶ月間の公衆審査の実施
承認
承認
承認
承認
承認
承認
(参考)
(参考) 規格策定フロー
規格策定フロー 分科会
分科会 →
→ 原子力専門委員会
原子力専門委員会 →
→ 発電用設備規格委員会
発電用設備規格委員会 →
→ 規格の発行
規格の発行
56
保安院としての維持規格の適用
維持規格に対する技術評価手続き
検査編
〔プロセス〕
保安院として、維持規格の
評価書(技術評価書)案の
作成
パブリック
コメント
表
公
専門家による審議
専門家審議
保安院として、維持規格
の規制への適用について
評価
評価編
平成15年6月
∼平成15年9月
基準評価WGで2回、
原子炉安全小委で3回
に渡り審議
平成14年12月
∼平成15年6月
基準評価WGで4回、
原子炉安全小委で4回
に渡り審議
平成15年8月6日
∼9月3日
平成15年4月25日
∼5月23日
平成15年9月
平成15年6月
パブリックコメントの募集
保安院は、技術評価に基づき、追加要件を課している
保安院としての追加的要
件を課す(明確化)
57
(3) 炉心シュラウドの検査・評価・補修に関するNISA文書(平成16年9月)の概要
検査編
評価編
補修編(H15.4指示文書)
維持規格によらず、平成15年4月NISA
指示文書によること
(1)ひび割れのない箇所
①点検の対象
シュラウド全ての溶接周線及びその近
傍。ただし、供用開始後5年未満のもの、
残留応力対策を行ったもの等を除く。
②点検の時期
至近2回定期検査のいずれか
③点検方法
目視試験、超音波探傷試験
(2)ひび割れのある箇所
①継続使用する場合
原則として毎回の定期検査で実施。3
回点検の結果進展していないもの、将
来は進展停止と予測評価され、点検さ
れたものは隔年毎で可
②ひび割れ切除を行った上で使用
知見蓄積の観点から、切除痕につい
て次回定期検査及び適切な頻度で点検
(3)点検結果の記録及び報告
2002年版維持規格に、シュラウド
の欠陥評価手法がないため、維
持規格を引用しつつ、手法を規定
1.評価方法
(1)き裂のモデル化
(2)進展予測
オーステナイト系ステンレス鋼に関する
維持規格を適用。ただし、高照射
域のき裂進展速度は30mm/年を
適用。全周き裂の応力拡大係数
にはAPI579を適用。
(3)破壊評価
①負荷条件
②破壊評価手法
極限荷重評価手法又は崩壊荷
重に基づく最小必要断面積の評
価によること。検証のため、一次
一般膜応力の許容応力の考え方
に基づく評価も実施
③高照射域での線形破壊力学評
価法
2.許容基準 1.に応じて規定
ひび割れの切削除去工事に
当たっては、以下に示す応
力緩和措置及び同等以上の
効果が実証された応力緩和
措置を実施すること
・ピーニング
・磨き加工(Nストリップ)
58
添付2 健全性評価制度高度化の取組み
(1)再循環系配管のひびの深さの誤差の課題
○再循環系配管の従来の超音波探傷試験のデータのうち、ひびの有無、長さについては
信頼性があるものの、ひびの深さについては誤差が大きい場合があることがわかりました。
○誤差は、応力腐食割れに強い材料として従来のステンレス(SUS304)に替えて、再循環
系配管に新たに導入されたステンレス(SUS316L系)のひびを測定する際に生じていま
す。その主な要因は、ひびの入り方がSUS304に発生するひび割れと異なっていたことに
よるものでした。
○また、SUS304であっても、深いひびに対しては従来の方法で精度が得られないことが
明らかになりました。
○溶接金属に向かって
ひびが進展する。
(深さの測定に大きな誤差)
母材
溶接部
溶接金属 母材
溶接部
の詳細
ひび
SUS304配管溶接部
溶接金属 母材
ひび
SUS316L系配管溶接部
59
(2)改良UT(縦波を用いた超音波探傷法の組合せ)とは?
溶接金属
配管溶接部
W
θ超音波探触子
θ
2
配管母材
W
1
従来のUT
母材
d
横波による斜角法
改良UT手法
ひび先端部形状の識別性の向上(先端形状の正確な把握)
焦点型探触子
振動子
ひび深さのおおまかな把握
アレイ探触
子
電子走査
散乱波
縦波(約70∼80度)
超音波の
モード変換
超音波
ひび割れ
横波(30∼35度)
フェーズドアレイ法
縦波(70∼80度)
モード変換波法
端部エコー法
60
(3)改良UTによる深さ測定の信頼性の確認
○SUS316L系材に対するひび深さの測定は、従来の超音波探傷試験(UT)に比べて、溶接金属
部でも透過性に優れた縦波を用い、端部エコー法、フェーズドアレイ法等を組み合わせた手法(改
良UT)の採用等により、従来のUTによるSUS304材に対する精度(精度の下限として4.4mm)と
同等の精度が得られことを確認
○深いひびについては、SUS304及びSUS316L系材のいずれであっても、複数の測定手法を
組み合わせることにより精度が確保できることを確認
改良UTによる深さ測定精度
対象材料
低炭素SUS316鋼
SUS304鋼
進展機構
溶接金属部への進展あり
鋭敏化領域に沿って進展(溶接金属部なし)
試験名
事業者による「確性試験(発電技研委)」、 JNES「超音波探傷試験による欠陥検出及
びサイジング精度に関する確証試験」(UTS)
「プラント個別試験(第3者立会い)」
試験方法
改良UT(縦波UTの組合せ)
サンプル数
誤差平均
279
横波端部エコー法
182
−0.46mm
0.5 mm
標準偏差σ
1.99mm
1.96mm
RMSE
2.04mm
2.01mm
−3.50mm
−4.38mm
平均−2σ
→ 低炭素SUS316鋼に関する改良UTのデータは、全体としてSUS304鋼に関する横波端部
エコー法(UTS)によるひび割れ深さの測定精度とほぼ同様であることを確認
(出典)原子炉安全小委「原子炉再循環系配管等の検査への改良超音波探傷試験の適用につ
いて(平成16年9月)」
61
(4)低炭素ステンレス鋼のき裂進展評価手法
∼「溶接金属近傍の硬化部」と「溶接金属内」の2段階評価。
保守的な評価期間・継続検査∼
SCC
配管外表面
溶接金属
○「硬化部分のき裂進展速度を適用する範囲」として、
右図のように、き裂発生位置Lから、溶接境界に達する
時の深さdcを求める。
dc[mm]=1.0L+5.7
母材
dc
配管内表面
L
1.0E-08
○評価期間・継続検査
学協会規格化されるまでの暫定的なもので
あることから、
− 評価期間を最大5年間に限定
− 評価の保守性を確認するため、原則として
毎定期検査毎に継続検査を行う
316NG HAZ (CT試験)
316NG 溶接金属 (CT試験)
316NG 溶接金属 (WOL試験)
SCC進展速度 da/dt (m/s)
○き裂進展速度
低炭素ステンレス鋼のき裂の特徴を考慮し、
硬化部分については、「鋭敏化SUS304の
き裂進展速度線図」を適用(右図参照)
1.0E-09
NUREG-0313 Rev.2[10]
鋭敏化SUS304
JSME S NA1-2002 [5]
1.0E-10
低炭素ステンレス鋼
JSME S NA1-2002 [5]
1.0E-11
1.0E-12
1
10
100
応力拡大係数 K (MPa√m)
62
(5)測定値の信頼性とPD制度
低炭素ステンレス鋼のひび割れの深さを
所定の精度で測定するためには、複数の
測定手法を組み合わせるなど高度な測定
技術が必要
PD制度=パフォーマンス・
デモンストレーション制度
検査員の技能のみなら
ず、測定機器と手順書と
あわせて認定
超音波探傷試験によるひび割れ
深さの測定能力に関する認定制
度(PD制度)の認定を受けていな
い検査には、測定値に4.4mm
付加することを要求
(平成16年9月NISA文書。
平成18年3月改訂)
【PD制度整備に向けた取組み】
日本非破壊検査協
会による取組み
保安院としての取組み
・PD制度の全体概要を提示
・PD制度の認定を受けない
場合に4.4mm付加(PD制度
整備の慫慂)<16年9月>
PD認証制度に関す
る規格策定
<17年5月>
PD認証制度に関する規格
の技術評価<17年11月>
PD認証制度の発足
(PD資格試験機関
の認定)
<18年1月>
PD諮問委員会への参画を
通じて本制度の適切性を確
認<18年3月PD諮問委とり
まとめ>
PD制度の認定を受けた場合には測定値への
上乗せを不要とする解釈(NISA文書)を発出
<平成18年3月改訂>
63
(6)PD認証制度の担当機関と機能
PD認証運営委員会
PD諮問委員会
(管理主体)
PD認証機関
((社)日本非破壊検査協会)
事務局
PD問題管理委員会
(財団法人 電力中央研究所)
PD資格試験機関
(財団法人 電力中央研究所)
PD試験センター
PD認証審査委員会
PD研修センター
(財団法人 発電設備技術検査協会、
財団法人 電子科学研究所)
64
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