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Title 非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源
Title Author(s) 非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源循環高温プロ セスの開発に関する研究 宮林, 良次 Citation Issue Date Text Version ETD URL http://hdl.handle.net/11094/831 DOI Rights Osaka University 非鉄金属製錬技術を利用した 廃棄物の資源循環高温プロセスの開発 に関する研究 2009年 宮 林 良 次 目次 第1章 序論 ・・・ 1 ・・・ 1 1.1. 本研究の背景 1.2. 非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源循環高温プロセスに関する 研究の現状と課題 1.3. ・・・ 本研究の目的および構成と内容 ・ ・ ・ 11 参考文献 第2章 8 ・ ・ ・ 13 亜 鉛 製 錬 に お け る Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 ・・・ 14 2.1. 緒言 ・・・ 14 2.2. 亜鉛製錬プロセスについて ・・・ 16 2.2.1. 亜鉛製造工程の概要 ・・・ 16 2.2.2. 焼結工程の概要 ・・・ 18 2.3. シ ン タ の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る Cd 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発 ・・・ 20 2.3.1. Cd の 揮 発 反 応 の 考 え 方 ・・・ 20 2.3.2. 焼結鉱の塩基度を変化させる実験計画 ・・・ 21 2.3.3. 実験結果 ・・・ 21 2.4. 電 気 集 塵 機 で Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 技 術 開 発 ・・・ 2.4.1. 24 電 気 集 塵 機 で Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 考 え 方 ・・・ 24 2.4.2. 実験計画 ・・・ 31 2.4.3. 実験結果 ・・・ 34 2.4.4. 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 時 の Cd バ ラ ン ス ・・・ 37 ・・・ 39 ・・・ 40 2.5. 結言 参考文献 第3章 ストーカ式焼却炉ならびにガス化溶融炉によるシュレッダー ダストの資源循環プロセスの開発 ・・・ 41 3.1. 緒言 ・・・ 41 3.2. シュレッダーダストの物性 ・・・ 45 i 3.3. ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術・・・ 3.3.1. 46 ストーカ式焼却炉によるシュレッダーダストの再資源化の考え方 ・・・ 46 3.3.2. シュレッダーダストの焼却の実験計画 ・・・ 49 3.3.3. 実験結果 ・・・ 50 3.4. ガス化溶融炉プロセスによるシュレッダーダストの再資源化技術 ・・・ 56 3.4.1.ガ ス 化 溶 融 炉 プ ロ セ ス に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 考 え 方 ・・・ 56 3.4.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 溶 解 プ ロ セ ス 開 発 の た め の 課 題 対 策 と そ の 実 験 結 果 ・・・ 62 3.5. 実操業への適用 ・・・ 70 3.6. 結言 ・・・ 73 ・・・ 75 参考文献 第4章 廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とそ の流動性の解析 ・・・ 77 4.1. 緒言 ・・・ 77 4.2. 廃棄物の溶解温度の測定 ・・・ 80 4.2.1. 試料 ・・・ 80 4.2.2. 測定方法 ・・・ 80 4.2.3. 結果 ・・・ 81 ・・・ 81 4.3. 廃棄物溶融炉のスラグ及び未溶解物の流動性測定 4.3.1. 試料 ・・・ 81 4.3.2. 流動性測定方法 ・・・ 82 4.3.3. 流動性の測定結果 ・・・ 82 ・・・ 84 4.4. 熱力学データベースを利用した相平衡の解析 4.4.1. 溶融炉スラグ ・・・ 84 4.4.2. 未溶解物 ・・・ 88 4.5. 高 融 点 廃 棄 物( 石 綿 含 有 廃 棄 物 )の 溶 解 条 件 の 推 定 ・・・ 92 4.6. 実操業への適応 ・・・ 94 4.7. 結言 ・・・ 97 ・・・ 98 参考文献 ii 第5章 アルカリ酸化物を含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度 推算モデル ・・・ 99 5.1. 緒言 ・・・ 5.2. 溶融アルミノシリケートスラグの粘度モデル ・ ・ ・ 101 99 5.2.1. 粘度推算式 ・ ・ ・ 101 5.2.2. N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 計 算 ・・・ 105 5.3. 結果と考察 ・ ・ ・ 108 5.3.1. 係数の決定 ・ ・ ・ 108 5.3.2. 計算結果 ・ ・ ・ 109 5.4. フッ化カルシウムを含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度推算モ ・・・ 117 デル 5.4.1. Fを含有するアルミノシリケート ・・・ 117 5.4.2. パラメータの決定 ・・・ 118 5.4.3. 計算結果 ・・・ 119 5.5. 廃棄物溶融炉の溶融スラグの粘度予測 ・・・ 124 5.6. 結言 ・・・ 125 参考文献 第6章 ・・・ 126 溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発 (基礎試験) ・・・129 6.1. 緒言 ・ ・ ・ 129 6.2. 粘度測定法の選定とその原理 ・ ・ ・ 130 6.2.1. 粘 度 測 定 法 の 選 定 ・ ・ ・ 130 6.2.2. 原 理 ・ ・ ・ 130 6.2.3. 溶 融 物 の 高 温 下 で の 粘 度 測 定 装 置 の 課 題 と 解 決 案 ・ ・ ・ 131 6.3. ・・・132 直流電源による常温の基礎実験 6.3.1. 実 験 装 置 ・ ・ ・ 132 6.3.2. 測 定 開 始 位 置 の 検 討 ・ ・ ・ 133 6.3.3. 試 料 溶 液 の 作 製 と ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 に よ る 粘 度 測 定 ・ ・ ・ 134 6.3.4. 落 球 法 の 実 験 方 法 ・ ・ ・ 135 6.3.5. 実 験 結 果 ・ ・ ・ 136 6.4. 交流電流を用いた常 温 の 基礎実験 ・・・141 6.4.1. 実験装置 ・ ・ ・ 141 6.4.2. 実験結果 ・ ・ ・ 141 iii 6.5. 高温における基礎実験 ・ ・ ・ 143 6.5.1. 実験装置 ・ ・ ・ 143 6.5.2. 高温における基礎実験結果 ・ ・ ・ 145 6.6. 結言 ・ ・ ・ 147 参考文献 第7章 ・ ・ ・ 148 総括 ・・・149 7.1. 本研究の総括 ・ ・ ・ 149 7.2. 今後の研究課題 ・ ・ ・ 154 本研究に関係する成果 ・・・157 iv 第1章 1.1. 序論 本研究の背景 こ れ ま で の 大 量 生 産・大 量 消 費 型 の 経 済 社 会 活 動 は ,大 量 に 廃 棄 物 を 発 生 す る社会を形成し,環境保全と健全な物質循環を阻害する恐れを有している。 Fig.1 に 世 界 の 廃 棄 物 発 生 量 の 予 測 を 示 す 。 Fig.1 で は , 実 線 が 世 界 の 廃 棄 物 発 生 量 を , 点 線 が ア ジ ア の 廃 棄 物 発 生 量 を 示 す 。 2000 年 時 点 で 世 界 の 廃 棄 物 の 総 排 出 量 は 約 127 億 ト ン で あ っ た が ,ア ジ ア を 中 心 と し た 国 際 的 な 経 済 成 長 と 人 口 増 に 伴 っ て 世 界 的 に 廃 棄 物 発 生 量 が 増 大 し , 2025 年 に は 190 億 ト ン , 2050 年 は 270 億 ト ン と 2000 年 の 2.1 倍 に な る と 予 測 さ れ て い る 。 1 ) 100million tons/year 300 Amount of exhaust of waste 250 270 World 200 190 150 127 100 Asia 50 0 2000 Figure 1 2010 2020 year 2030 2040 2050 Future prospects of world waste generation (2000-2050) 日 本 に お け る 1996 年 以 降 の 産 業 廃 棄 物 の 排 出 量 を Fig.2 に 示 す 。 年 間 4 億 ト ン と い う 膨 大 な 量 の 廃 棄 物 が 排 出 さ れ て お り ,大 き な 変 化 は な く 横 ば い で 推 移 し て い る 。 1 ) こ の 量 は 2000 年 で 世 界 の 廃 棄 物 発 生 量 の 約 3% に あ た る 。 さ ら に , 産 業 廃 棄 物 最 終 処 分 場 の 残 容 量 お よ び 残 余 年 数 の 推 移 を Fig.3 に 示 す 。 産 業 廃 棄 物 最 終 処 分 場 の 残 余 容 量 が 1996 年 の 208 百 万 m 3 か ら 2005 年 に は 186 百 万 m 3 に 減 少 し て い る 。 一 方 , 残 余 年 数 は 1996 年 の 3.1 年 か ら 2005 年 に は 7.7 年 と 増 加 し て い る 。残 容 量 が 減 少 し て い る に も 係 わ ら ず ,残 余 年 数 が 増 え た 要 因 は ,従 来 ,最 終 処 分 場 で 埋 立 処 分 さ れ て い た 産 業 廃 棄 物 が 再 利 用 さ れ た 1 り ,焼 却 に よ り 減 容 化 さ れ た り し ,最 終 処 分 量( 容 量 )が 減 少 し た こ と に よ る と 考 え ら れ て い る 。し か し ,最 終 処 分 場 の 残 余 年 数 は 短 く ,深 刻 な 状 況 が 続 い ていることに変わりはない。 Amount of exhaust of industrial waste ( million ton s) 500 450 426 415 408 400 406 1997 199 8 1999 2000 400 400 393 2 001 2002 412 417 422 2003 2004 2005 350 300 250 200 150 100 50 0 1996 year Figure 2 Amount of exhaust of industrial waste (1996-2005) 208 211 190 200 150 184 176 179 182 184 184 186 8 6 Re main in g ye ar Re main in g c apac ity 100 7 .2 7 .7 4 6 .1 50 Figure 3 3 .1 3 .2 3 .3 3 .7 3 .9 4 .3 1996 1997 1998 1999 2000 2001 4 .5 2002 (ye ar) Remain ing c apac ity 10 Re main in g year (milion m 3 ) 250 2 0 2003 2004 0 2 0 0 5 (year) The remaining capacity and remaining years of landfill sites of industrial waste こ の よ う な 状 況 を 改 善 す る た め に は ,新 た に 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 設 置 す る 必 要 が あ る と 考 え る 。産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 の 設 置 に 係 る 焼 却 施 設 お よ び 最 終 処 2 分 場 の 新 規 の 許 可 件 数 を Fig.4 に 示 す 。1 ) 廃 棄 物 処 理 法 で は 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 設 置 す る 場 合 に は 県 知 事 な ど の 許 可 が 必 要 と な る 。Fig.4 よ り ,焼 却 施 設 に つ い て , 1998 年 の 許 可 件 数 は 139 件 あ っ た が , 1999 年 以 降 , 激 減 し 2005 年 は 31 件 に な っ て い る こ と が わ か る 。同 様 に 最 終 処 分 場 に つ い て も ,1998 年 の 許 可 件 数 は 136 件 あ っ た が , 1999 年 以 降 , 激 減 し 2005 年 は 32 件 と な っ て いる。これは次の要因によると考える。 ① 1997 年 に 廃 棄 物 処 理 法 が 改 正 さ れ て 施 設 を 設 置 す る 場 合 は 環 境 ア セ ス メ ン ト ,住 民 説 明 ,有 識 者 に よ る 審 議 会 な ど が 義 務 づ け ら れ ,計 画 立 案 か ら 施 設 の 設 置 許 可 を 得 る ま で に 2~ 3 年 を 要 す る よ う に な り , そ の 後 の 施 設 の 建 設 期 間を加えると計画から処理施設が運転されるまで 5 年以上の長い期間がかか るようになった。 ② 廃棄物処理施設が近くにあると土地の価値が下がることや環境問題が発生 する恐れがあることに起因して自治体ならびに周辺住民の焼却炉などの中間 処理施設や最終処分場を設置することに対する理解を得ることが困難になっ ている。 こ の よ う に ,新 規 に 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 設 置 す る に は 時 間 が か か り 過 ぎ る こ と か ら ,す で に 設 置 さ れ て い る 焼 却 炉 な ど の 中 間 処 理 施 設 を 種 々 の 産 業 廃 棄 物 を処理するために有効に活用すべきであると考える。 150 139 Ne w n u mbe r of pe rmits Ne w n u mbe r of pe rmits 150 100 81 72 50 40 44 39 31 22 0 136 100 50 41 26 33 28 38 32 24 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (Lan dfill sites of indu strial waste disposal) (Inc in eration fac ilitie s of in du strial waste disposal) Figure 4 New number of permits for incineration facilities and landfill sites 以 上 の よ う な 状 況 下 で ,現 代 の 大 量 生 産 ,大 量 消 費 ,大 量 廃 棄 型 の 社 会 経 済 活 動 の 仕 組 み を 根 本 か ら 見 直 し 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め ,『 循 環 型 社 会 形 成 3 推 進 基 本 法 』が 2000 年( 平 成 12 年 )に 施 行 さ れ た 。こ の 法 で は 施 策 の 基 本 理 念 と し て‘ 排 出 者 責 任 ’と‘ 拡 大 生 産 者 責 任 ’と い う 2 つ の 考 え 方 を 定 め て い る 。‘ 排 出 者 責 任 ’ と は , 廃 棄 物 を 排 出 す る 者 が そ の 適 正 処 理 す る 責 任 を 負 う と の 考 え 方 で あ り ,‘ 拡 大 生 産 者 責 任 ’ と は 生 産 者 が そ の 生 産 し た 製 品 が 使 用 さ れ 廃 棄 さ れ た 後 に も ,そ の 製 品 の 適 切 な 再 利 用 な ら び に 処 分 に 責 任 を 負 う と い う 考 え 方 で あ る 。『 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 』 で は ,『 循 環 型 社 会 』 と は , 天 然 資 源 の 消 費 が 抑 制 さ れ ,環 境 へ の 負 荷 が で き る 限 り 低 減 さ れ る 社 会 と 定 義 し て い る 。 Fig.5 に 『 循 環 型 社 会 』 の 姿 を 示 す 。 1 , 2 ) ま ず , 第 一 に 生 産 , 消 費 に お い て 廃 棄 物 等 の 発 生 を 抑 制 す る ( Reduce)。 第 二 に 消 費 ま た は 使 用 し た 製 品 を 廃 棄 す る 時 は 部 品 等 を 再 使 用 す る (Reuse)。 第 三 に 廃 棄 さ れ た 物 を 処 理 し 原 材 料 と し て 再 生 利 用 す る (Material Recycle)。第 四 に 再 生 利 用 で き ず 廃 棄 さ れ る も の は 熱 回 収 を 行 う (Thermal Recycle)。 こ れ ら 第 一 か ら 四 が で き ず 循 環 利 用 が 行 な え な い も の に つ い て は 第 五 と し て 適 正 な 最 終 処 分( 埋 立 )を 行 な う 。 こ の よ う に Reduce, Reuse, Material Recycle, Thermal Recycle の 優 先 順 位 を考えて『循環型社会』を構築することが目標とされ,非鉄製錬技術は Material Recycle, Thermal Recycle の 部 分 で 貢 献 で き る と 考 え る 。 資源投入 1:Reduce 廃棄物の発生抑制 生産 (製造・流通) 3:Material Recycle 再生利用 消費・使用 処理 (再生,焼却) 5:Land fill 適正処分 最終処分 (埋立) Figure 5 廃棄 4:Thermal Recycle 熱回収 Appearance of recycling society 4 2:Reuse 再利用 また,循環型社会形成の推進のために日本の法体系も整備されてきている。 Fig.6 に 循 環 型 社 会 の 形 成 に 関 わ る 法 体 系 を 示 す 。 1 , 2 ) “ 環 境 基 本 法 ” を も と に “ 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 ” が 制 定 さ れ て い る 。“ 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 ” は ,「 物 質 循 環 の 確 保 」,「 資 源 の 消 費 抑 制 」,「 環 境 負 荷 の 低 減 」 を 目 的 と し て い る 。次 に ,廃 棄 物 を 適 正 に 処 理 す る た め の“ 廃 棄 物 処 理 法 ”な ら び に , 3 R( Reduce,Reuse,Recycle)を 推 進 す る た め の“ 資 源 有 効 利 用 促 進 法 ”が 定 め ら れ て い る 。こ れ ら の 法 を 基 本 と し て 個 別 に 物 品 の 特 性 に 応 じ た 規 制 が 定 め ら れ て お り , ビ ン , ペ ッ ト ボ ト ル に 対 し ,“ 容 器 包 装 リ サ イ ク ル 法 ” が , エ ア コ ン , 冷 蔵 庫 , テ レ ビ , 洗 濯 機 に 対 し ,“ 家 電 リ サ イ ク ル 法 ” が , 自 動 車 に 対 し ,“ 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 ” が , 食 品 残 さ に 対 し ,“ 食 品 リ サ イ ク ル 法 ” が , 木 材 , コ ン ク リ ー ト に 対 し ,“ 建 設 リ サ イ ク ル 法 ” が 定 め ら れ て い る 。 環境基本法 循環型社会形成推進基本法 ・ 物質循環の確保 ・資源の消費の抑制 ・環境負荷の低減 廃棄物処理法 資源有効利用促進法 ・ 廃棄物の適正処理 ・ 3R の推進 個別物品の特性に応じた規制 容器包装リサイクル法 家電リサイクル法 自動車リサイクル法 ビン,ペット ボト ル エア コ ン,冷蔵庫,テ レビ,洗濯機 自動車 Figure 6 食品リサイクル法 建設サイクル法 食品残さ 木材,コ ンク リー ト,アスフ ァルト System for promotion of formation of recycling society 以 上 の 背 景 か ら ,日 本 の 非 鉄 製 錬 所 は『 循 環 型 社 会 』の 構 築 に 貢 献 す る た め , 技 術・イ ン フ ラ・ノ ウ ハ ウ 等 を 応 用 し 廃 棄 物 を 埋 立 処 分 し な い ゼ ロ エ ミ ッ シ ョ 5 ン に 向 け た 取 り 組 み を 行 な っ て い る 。特 に 量 的 に は 少 な い が 付 加 価 値 の 高 い レ ア メ タ ル( 希 少 金 属 )等 の 資 源 を 回 収 し た り ,有 害 廃 棄 物 を 無 害 化 し た り す る な ど ,独 自 の 技 術 を 利 用 し て い る 。例 え ば ,秋 田 県 北 部( 小 坂 町 )を 始 め ,非 鉄 金 属 鉱 山 ,非 鉄 金 属 製 錬 所 に お い て ,製 錬 技 術 を 活 用 し ,廃 電 子 機 器 や 廃 基 板 等 に 含 ま れ る 金 ,銀 等 の 貴 金 属 や 鉛 等 の 重 金 属 の 回 収・リ サ イ ク ル を 行 な っ て い る 。Fig.7 に 日 本 の 非 鉄 製 錬 所 が 行 な っ て い る 廃 棄 物 処 理 と 回 収 物 の 例 を 示 す 。 廃 自 動 車 の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は Cu, Pb, Zn が 含 ま れ て お り , こ れ ら の 金 属 を 小 名 浜 共 同 製 錬 所 ( 福 島 県 ), 日 鉱 三 日 市 リ サ イ ク ル ㈱ ( 富 山 県 ) な ど で 回 収 し て い る 。 廃 鉛 バ ッ テ リ ー の Pb は 神 岡 鉱 業 所 ( 岐 阜 県 ) で 回 収 し て い る 。溶 融 飛 灰 は Zn,Pb,Cu を 含 ん で お り ,三 池 製 錬 所( 山 口 県 ),八 戸 製 錬 所 ( 青 森 県 ) で こ れ ら の 金 属 を 回 収 し て い る 。 廃 基 板 は Au, Ag, Pt 等 の レ ア メ タ ル , Cu, Pb, Zn を 含 ん で お り 非 鉄 製 錬 の 各 製 錬 所 で こ れ ら の 金 属 を 回 収 し て い る 。小 型 バ ッ テ リ ー は Zn,Ni,Cd を 含 み ,東 邦 亜 鉛 ㈱ 小 名 浜 製 錬 所( 福 島県)でこれらの金属を回収している。このように,各非鉄製錬所において, こ れ ま で に 処 理 し て き た 亜 鉛 鉱 石 ,鉛 鉱 石 ,銅 鉱 石 な ど か ら の 金 属 回 収 技 術 と そ の 設 備 を 利 用 し て , 有 害 な 重 金 属 も 含 め 種 々 の 金 属 を 回 収 し て い る 。 3-6) End-of-life lead asid batteries Shuredder residue Cu Pb Zn Figure 7 Cu Zn Pb Pb Pb End-of-life small batteries Scrap circuit boards Rare metals Melting furnace fly ash Zn Zn Ni Cd Example of waste disposal and collected items 6 Cu 特に近年,溶融処理による無害化の要望の高い廃棄物として,シュレ ッダーダスト,石綿含有廃棄物を始め,カドミウム含有廃棄物,鉛含有 ガ ラ ス , 鉛 含 有 ば い じ ん , 低 濃 度 PCB 含 有 廃 棄 物 な ど が あ げ ら れ る 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は ,香 川 県 豊 島( て し ま )で 不 法 投 棄 が 原 因 と 見 ら れ る 有 毒 ガ ス ,土 壌 汚 染 が 発 生 し た た め ,安 全 な 処 分 に は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト か ら Pb 等 の 重 金 属 を 除 去 し , 無 害 化 , 減 容 化 を 図 る こ と が 不 可 欠 で あ る と の 社 会 的要請が高まった。非鉄製錬所では,このシュレッダーダストを焼却処理し, 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu, Pb, Zn を 回 収 す る こ と に 取 り 組 ん で い る 。 使 用 済 自 動 車 の 処 理 フ ロ ー を Fig.8 に 示 す 。1 ) 使 用 済 み 自 動 車 は ,自 動 車 販 売 業 者 等 の 引 取 業 者( デ ィ ー ラ ー ,整 備 事 業 者 )か ら 自 動 車 解 体 事 業 者 に 渡 り , そ こ で エ ン ジ ン ,ボ デ ィ 部 品 等 の 有 用 な 部 品 が 回 収 さ れ る 。さ ら に 残 っ た 廃 車 ガ ラ は 破 砕 事 業 者 に 渡 り , そ こ で Fe, Al, Cu 等 の 有 用 な 金 属 が 回 収 さ れ る 。 金 属 回 収 後 の 残 さ ( シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト , 使 用 済 み 自 動 車 の 処 理 で は ASR ( Automobile shredder residue) と 呼 ば れ る ) が 主 に 廃 棄 物 と し て 処 理 さ れ る 。自 動 車 1 台 当 り の 重 量 比 で ,20~ 30% 程 度 が 解 体 業 者 に よ っ て 有 用 部 品 と し て 回 収 (Reuse) さ れ , 50 ~ 55 % 程 度 が 素 材 と し て リ サ イ ク ル (Material Recycle)さ れ る 。 そ し て , 残 り の 17% 程 度 が シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト と な る 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 が 2005 年( 平 成 17 年 )1 月 よ り 本 格 施 行 さ れ る 前 は ,ほ と ん ど 埋 立 処 分 さ れ て い た の で 使 用 済 み 自 動 車 の リ サ イ ク ル 率 は 83% 程 度 で あ っ た 。 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 施 行 後 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の リ サ イ ク ル に 非 鉄 製 錬 所 を 始 め 各 社 が 取 り 組 み ,現 状 で は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 埋 立 処 分 が 17% か ら 6% に 下 が り リ サ イ ク ル 率 は 94% 程 度 と な っ て い る 。 25% ー 自 動 車 ユ ー ザ 中古車ディーラー 整備事業者等 部品 リサイクル 20~30% 再使用部品 エンジン ボディー部品 電装品等 20~30% 新車ディーラー 素材 リサイクル 50~55% 70% 解 再資源化部品 体 エンジン,触媒 非鉄金属 事 タイヤ等 業 15% 者 5% Figure 8 自動車ガラ エンジンやタイ ヤを取り外した 外枠 55~60% 破 砕 事 業 者 自動車リサイク ル法施行前の リサイクル率 83% シュレッダー ダスト 17% Flow of processing used car 7 現状 94% リサイクル 11~13% さ ら に ,非 鉄 製 錬 所 は 金 属 を 含 ま な い 産 業 廃 棄 物 に 対 し て も 溶 融 技 術 を 用 い て 無 害 化 と 再 資 源 化 に 取 り 組 ん で い る 。そ の 一 例 と し て ,石 綿 含 有 廃 棄 物 が あ る 。石 綿 は 耐 熱 性 等 に す ぐ れ て い る た め ,建 材 な ど 多 く の 製 品 に 使 用 さ れ て き た が ,じ ん 肺 ,肺 が ん ,中 皮 腫 を 引 き 起 こ す 有 害 物 質 と し て ,現 在 は 製 造 ,使 用 が 全 面 禁 止 さ れ て い る 。廃 棄 物 処 理 法 で は ,石 綿 が 建 築 物 に 吹 き 付 け ら れ た も の や 石 綿 保 温 材 な ど ,大 気 中 に 飛 散 す る 恐 れ も あ る も の( 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 ) を「 廃 石 綿 等 」と し て 特 別 管 理 産 業 廃 棄 物 に 指 定 し て い る 。ま た ,石 綿 ス レ ー ト な ど の 石 綿 を 含 む 成 型 板 等 の 廃 棄 物 は「 非 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 」に 分 類 さ れ て い る が , 処 理 時 の 破 壊 に よ っ て は 石 綿 が 飛 散 す る 恐 れ が あ り , 2005 年 に 環 境 省 は こ れ ら の 適 正 な 処 理 を 行 な う た め の 指 針 を 示 し た 。「 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 」 を 最 終 処 分 す る に は ,飛 散 防 止 の た め の 梱 包 ま た は コ ン ク リ ー ト を 用 い た 固 化 に よ る 処 理 を し た 上 で 管 理 型 最 終 処 分 場 に 埋 立 処 分 す る 場 合 と ,溶 融 し 石 綿 の 性 状 を 失 わ せ ,通 常 の 産 業 廃 棄 物 ま た は 資 源 と し て 再 利 用 す る 場 合 が あ る 。石 綿含有廃棄物は埋立処分では石綿の形状を破壊できないことから溶融処理す べきであると考える。特 に , 2004 年 以 降 , 社 会 的 に 石 綿 の 管 理 の 問 題 が 取 り 上 げ ら れ る よ う に な り ,2 0 0 5 年 に 石 綿 障 害 予 防 規 則 が 施 行 さ れ た こ と を 受 け て か ら は ,石 綿 含 有 廃 棄 物 を 無 害 化 で き る 溶 融 処 理 技 術 が 重 要 と な っ て き て い る 。 7-9) 1.2. 非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源循環高温プロセスに関する 研究の現状と課題 国 内 の 非 鉄 製 錬 所 は ,廃 電 子 機 器 ,廃 基 板 ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等 に 含 ま れ る Cu, Au, Ag 等 の 貴 金 属 の 回 収 を 行 っ て い る が , こ れ ら は , Zn, Pb, Cd 等 の 重 金 属 を 含 ん で い る 。廃 電 子 機 器 ,廃 基 板 ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等 を 焼 却 ,ま た は 溶 融 処 理 す る と Cu 等 の 金 属 は 固 体 ま た は 溶 融 物 と し て 回 収 さ れ る が ,Zn,Pb, Cd は 揮 発 し や す く ,飛 灰 と な る 。こ の 飛 灰 は キ レ ー ト 等 を 混 合 し Pb,Cd の 溶 出 を 抑 え 埋 立 処 分 す る こ と は 可 能 で あ る が , 長 い 年 月 が 経 過 す る と Pb, Cd が 溶 出 し 環 境 を 汚 染 す る 恐 れ が あ る 。 よ っ て , 亜 鉛 製 錬 所 で こ れ ら Cd 含 有 廃 棄 物 を 亜 鉛 精 鉱 と 同 様 に 処 理 し , Zn を 回 収 す る 工 程 で Pb, Cd を 効 率 的 に 分 離 , 回収することが適切であると考える。しかし,亜鉛乾式製錬炉のISP炉 (Imperial Smelting Process)な ら び に 電 熱 蒸 留 炉 で は , Pb, Cd が 亜 鉛 原 料 に 含 ま れ て い る と , こ れ ら が 炉 内 で Zn と と も に 揮 発 し 溶 融 亜 鉛 ( 蒸 留 亜 鉛 ) に 含 有 さ れ ,蒸 留 亜 鉛 の 品 質 が 低 下 す る 問 題 が あ る 。そ こ で ,亜 鉛 乾 式 製 錬 炉 の 原 料 を 塊 状 化 す る 前 処 理 工 程 で あ る 焼 結 工 程 で Pb, Cd を 揮 発 さ せ , 揮 発 後 , 8 Pb,Cd が 酸 化 し ,固 化 し た ダ ス ト か ら Pb,Cd を 回 収 す る こ と で 亜 鉛 乾 式 製 錬 炉 へ の Pb,Cd の 混 入 量 を 減 少 さ せ る と と も に Pb,Cd が リ サ イ ク ル で き る と 考 え る 。溶 融 し た Zn と Pb は 溶 融 状 態 で も 溶 離 法 に よ り 容 易 に 分 離 で き る こ と か ら Cd を 亜 鉛 乾 式 製 錬 炉 の 前 工 程 で 回 収 す る こ と が 重 要 で あ る と 考 え る 。 次 に , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は Cu 等 の 貴 金 属 の 他 , 可 燃 物 , 塩 素 を 含 ん で お り ,Cu,Pb お よ び Zn 等 の 非 鉄 金 属 を 効 率 的 に 回 収 し ,環 境 汚 染 の 防 止 と 資 源 リ サ イ ク ル を 図 る こ と を 目 的 と し た 技 術 開 発 が 日 本 の 各 社( 事 業 者 )で 行 わ れ て い る 。 Table 1 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 プ ロ セ ス の 例 を 示 す 。 Table 1 Recycling process of shredder residue 様 式 A 分別処理 概 要 篩別,選別の技術を組み合わせる 実施事業者 拓南商事 豊田メタル B-1 ( 焼却+溶融) 処理 反射炉の熱源として処理し,貴金属をマット 小名浜製錬所 で回収する B-2 ( 焼却+溶融) 処理 ガス化炉で熱分解後,発生したガスを熱源 ジャパンリサイクル に溶融する 水島エコワークス 青森RER 焼却炉又はガス化炉で ,焼却又は熱分解 小坂製錬所 処理し,焼却灰を非鉄製錬炉で 処理する。 日鉱三日市リサイクル 焼却飛灰も非鉄製錬プロセスで処理する。 C 焼却→溶融処理 D ( 焼却+溶融) →溶融処理 E 乾留処理 F 熱媒浴( サーモバス ) 処理 キルンで焼却・ 溶融処理し,発生した残滓 直島製錬所 を非鉄製錬炉で処理する 外熱キルンで乾留し残滓から金属を分離す カネムラ る コールタール浴で有機物と金属を分離する NKK 様式Aはシュレッダーダストを種々の選別を組合せて処理し金属を分離回 収 す る が ,可 燃 物 は 焼 却 炉 等 で 焼 却 し て い る 。様 式 B - 1 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 銅 製 錬 反 射 炉 で 処 理 し 有 機 物 は 熱 源 と し て 燃 焼 し て ,金 属 は マ ッ ト に 回 収 し ガ ラ ス 類 は ス ラ グ 化 す る 。こ の プ ロ セ ス は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 水 分 変 動 に よ り 熱 バ ラ ン ス が 崩 れ や す い こ と と ,銅 原 料 と と も に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 処 理 す る の で シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 起 因 す る ス ラ グ 量 が 増 加 し 銅 原 料 中 の Cu の 一 部 が 新 た な ス ラ グ に 移 行 し Cu の 回 収 率 が 低 下 す る 恐 れ が あ る 。 様 式 B - 2はシュレッダーダストをガス化炉で熱分解処理し金属片とガラス類が焼却 灰 と し , 飛 灰 の 大 部 分 は ガ ス 化 炉 で 発 生 し た ガ ス を 熱 源 と し て 溶 融 す る 。 Zn, Pb の 低 沸 点 金 属 は 飛 灰 と な り キ レ ー ト を 添 加 し 重 金 属 の 溶 出 を 防 止 し た 後 , 埋 立 処 分 さ れ て い る 。様 式 C は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 ま た は ガ ス 化 炉 で 処 理 し , 発 生 し た 焼 却 灰 , 飛 灰 は 隣 接 し た 非 鉄 製 錬 所 で 処 理 し Cu, Pb な ど 9 を 回 収 す る 。様 式 D は 様 式 C の ガ ス 化 炉 を 溶 融 キ ル ン に 置 き 換 え た プ ロ セ ス で あ る 。様 式 E は 様 式 B - 1 の ガ ス 化 炉 の 役 割 を 外 熱 キ ル ン に 置 き 換 え た も の で あ る が ,熱 源 を 必 要 と す る 。様 式 F は タ ー ル に 有 機 物 を 溶 か し 金 属 を 分 離 す る プロセスである。 以 上 の 様 式 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn, Pb は 焼 却 処 理 に よ り 飛 灰 に 含 ま れ る の で , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る た め の 設 備 と し て 非 鉄 製 錬 ダ ス ト か ら Zn, Pb を 回 収 し て い る 非 鉄 製 錬 所 の 設 備 が 利 用 で き る 様 式 C , D が 優 位 で あ る と 考 え る 。 し か し , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る 技 術 は 非 鉄 製 錬 技 術として確立されているが,シュレッダーダストの焼却処理技術を安定させ, 資源リサイクルを推進するには,次の問題点がある。 ① シュレッダーダストは低融点ガラスと塩素を多く含んでおり,焼却時に焼 却炉またはガス化炉内において,ガラスが溶融し炉壁等へ付着する。 ② シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 時 に 揮 発 し た Zn,Cu を 含 む 溶 融 塩 化 物 が 排 ガ ス 道の内壁へ付着する。 ③ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ア ル ミ ニ ウ ム (Al)は 高 温 で 焼 却 す る と 溶 融 し , ス ラグまたは焼却灰に含まれ回収できない。 非鉄製錬技術を利用する廃棄物処理プロセスは高温溶融技術に優れ ており,このプロセスに対して処理ニーズの高い廃棄物として,シュレ ッ ダ ー ダ ス ト ,C d 含 有 廃 棄 物 ,石 綿 含 有 廃 棄 物 が あ げ ら れ る 。こ の よ う に 種 々 の 廃 棄 物 を 安 全 に 無 害 化 ,な ら び に 再 資 源 化 す る 溶 融 処 理 技 術 の 確立が重要と考えている。しかし,廃棄物溶融炉における廃棄物の溶解 お よ び 固 相 析 出 挙 動 に 関 す る 知 見 は 少 な い こ と か ら ,安 定 し た 操 業 を 継 続 す る 指 針 を 得 る た め に は ,溶 融 ス ラ グ に 対 す る 基 礎 的 な 解 析 を 行 い 溶 融 ス ラ グ の 流動性を評価することが重要であると考える。 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 は ,粘 度 測 定 に よ り 主 に 評 価 さ れ て い る が ,モ デ ル に よ る 粘 度 推 算 は ,廃 棄 物 溶 融 炉 に お け る 流 動 性 を 評 価 す る 上 で 大 い に 役 立 つ と 考 え る 。こ れ は ,産 業 廃 棄 物 の 成 分 が 種 々 雑 多 で あ り ,廃 棄 物 溶 融 炉 の あ ら ゆ る 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 測 定 す る こ と は 困 難 で あ る た め で あ る 。例 え ば ,石 綿 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 し た ス ラ グ の 系 は CaO,FeO,Fe 2 O 3 , MgO, K 2 O, Na 2 O 等 を 含 む 多 成 分 系 の ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ で あ る 。ま た ,廃 棄 物 溶 融 炉 は フ ッ 化 物 を 含 む 石 膏 ,工 場 排 水 中 の F を 固 定 し た 中 和 物 ,F を 含 む ガ ラ ス も 溶 融 す る こ と が あ る の で , ス ラ グ 中 に CaF 2 が 含 ま れ て い る 。 相平衡解析ならびに粘度推算モデルを通じて廃棄物溶融炉における 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 に 関 す る 操 業 指 針 を 得 る こ と は 可 能 に な る が ,産 業 10 廃棄物は種々雑多であり,組成,含有量は刻々と変化しており,それに 伴 い 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 が 変 化 す る 。そ の た め 廃 棄 物 溶 融 炉 の オ ン サ イ トに簡易型の粘度測定装置を設置して粘度の値と温度を迅速に計測す ることができれば,操業時に溶融スラグの粘度を管理でき,溶融スラグ の流動性をより安定させることが可能となる。 1.3. 本研究の目的および構成と内容 本 研 究 で は ,資 源 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め ,非 鉄 製 錬 所 が 長 年 培 っ て き た 非 鉄 製 錬 技 術 を 活 用 し ,廃 棄 物 を 無 害 化 す る と と も に ,こ れ ら の 廃 棄 物 に 含 ま れ る Cu 等 の 有 価 金 属 を 資 源 循 環 す る 観 点 か ら , 上 述 の 課 題 に つ い て 検 討 を 行 な い ,『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 に 関 す る 研 究 』を 行 な っ た 。本 論 文 は こ れ ら の 成 果 を ま と め た も の で 7 章 か ら 構 成されている。 第 1 章 で は ,循 環 型 社 会 を 目 指 す 日 本 の 産 業 廃 棄 物 処 理 の 現 状 に つ い て 知 見 をまとめ,本研究の目的および構成と内容について述べた。 第 2 章 で は , 亜 鉛 製 錬 に お け る Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 構 築 に 関 す る 研 究 と し て , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 技 術 を開発するために, ( 1 ) 焼 結 工 程 で Cd の 揮 発 率 を 高 め , 分 離 す る 方 策 ( 2 ) 排 ガ ス 処 理 工 程 で Cd を 含 む ダ ス ト の 回 収 量 を 増 す 方 策 に関して検討を行なった。 第 3 章 で は ,ス ト ー カ 式 焼 却 炉 な ら び に ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 資 源 循 環 プ ロ セ ス の 開 発 に 関 す る 研 究 と し て , Table 1 の 様 式 C に つ い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 物 を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 装 置 と し て( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 ,お よ び( 2 )ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い て ,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し , 発 生 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’ と ‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。ま ず ,ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ り シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 を 行 な い ,そ の 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 を 既 存 の 亜 鉛 製 錬 工 程 に お い て 処 理 す る こ と に よ り ,Cu を Fe- Cu 合 金 と し て ,Pb を 硫 酸 鉛 ま た は 鉛 地 金 と し て , Zn は 亜 鉛 地 金 と し て 回 収 す る 技 術 開 発 を 行 な っ た 。 次 に , ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , 1) ガ ス 化 炉 内 に お け る 溶 融 ガ ラ ス の 炉 壁 等 へ の 付 着 防 止 ,2)揮 発 し た Zn,Cu を 含 む 溶 融 塩 化 物 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 へ の 付 着 防 止 ,3)ガ ス 化 炉 内 で の Al を 溶 融 さ せ な い シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 11 技術の開発を行なった。 第 4 章 で は ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 安 定 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ の 流 動 性 の 解 析 と し て ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 未 溶 解 物 に つ い て ,流 動 性 測 定 と 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 を 行 な い ,廃 棄 物 溶 融 炉 の操業に及ぼす高温酸化物の液相領域の酸素分圧および温度依存性と そ の 流 動 性 に つ い て 解 析 し た 。 さ ら に ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処 理 に つ いて,熱力学データを利用した相平衡解析を行ない,溶融処理条件 につ いて検討した。 第 5 章 で は , 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 は SiO 2 濃 度 が 高 く な る と 液 相 領 域 で も 粘 度 が 高 く な り ,相 平 衡 解 析 で は 流 動 性 を 予 測 で き な い の で ,ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 モ デ ル の 提 案 を 行 な っ た 。特 に , シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 す る た め に ,熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 が 3 種 類 の 結 合 ,す な わ ち , ① Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 , ② 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,③ Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 か ら 成 る と 仮 定 し ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 形 成 す る 酸 素 の 結 合 状 態 を 計 算 す る 手 法 を 導 入 し た 粘 度 推 算 モ デ ル を 導 出 し た 。同 モ デ ル を 用 い て ,ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 (SiO 2 -CaO-MgO-FeO-K 2 O-Na 2 O-Al 2 O 3 系 酸 化 物 )の 粘 度 推 算 を 行 な っ た 。 さ ら に , CaF 2 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 を 行 な う た め に ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 が CaO に よ り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 , CaF 2 の 添 加 に よ っ て O-Ca-F 結 合 を 形 成 す る と 考 え ,CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ ケ ー ト 系 の 粘 度 の 推 算 の た め に 上 記 の モ デ ル の 拡 張を試みた。 第 6 章 で は ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 測 定 を 目 指 し た 落 球 法 に よ る 粘 度 計 の 開 発 と して,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を オ ン サ イ ト で 測 定 す る こ と を 目 指 し た 粘 度 測 定方法を検討した。特に粘度測定方法として落球法に着目し,高温用粘 度 計 の 開 発 の た め の 指 針 を 得 る こ と を 目 的 に ,常 温 と 高 温 に お け る 基 礎 実験を行ない,計測方法,装置の形状・大きさなどに関する検討を行な った。 最後に第7章では,本研究成果の総括と今後の研究課題について論じた。 12 参考文献 1) 環 境 ・ 循 環 型 社 会 白 書 平 成 20 年 度 版 , 環 境 省 編 , ぎ ょ う せ い , (2008) 2) 環 境 ・ 循 環 型 社 会 白 書 平 成 19 年 度 版 , 環 境 省 編 , ぎ ょ う せ い , (2007) 3) Annual Report on the Environment and the Sound Material-Cycle Society in Japan 2008,Ministry of the Environment 4) 森 瀬 崇 史 , 仲 雅 之 , 白 鳥 寿 一 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 194-198 5) 赤 木 進 ,青 木 威 尚 ,米 田 寿 一 ,成 迫 誠 ,日 野 順 三:資 源 と 素 材 ,123(2007)No.12, 199-202 6) 城 戸 繁 光 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 208-211 7) 中 村 崇 , 柴 田 悦 郎 , 白 鳥 寿 一 : 廃 棄 物 学 会 誌 , 17(2006),301-310 8) 由 田 秀 人 , 秦 康 之 : 廃 棄 物 学 会 誌 , 17(2006),255-262 9) 環 境 省 : イ ン ダ ス ト , 22(2007),2-6 13 第2章 亜鉛製錬におけるCd含有廃棄物の資源循環高温プロセスの 開発 2.1. 緒 言 亜鉛製錬所は,亜鉛鉱石を製錬し亜鉛金属(亜鉛地金)を生産しているが, 資 源 循 環 の 観 点 か ら , 銅 製 錬 所 の 自 溶 炉 な ら び に 転 炉 か ら 発 生 し た Cd, Pb, Zn を 含 む ダ ス ト を 湿 式 処 理 し Zn,Cd を 濃 縮 し 回 収 し た Cd 含 有 廃 棄 物( 以 後 , 水 酸 化 亜 鉛 と 記 述 す る ),な ら び に 鉄 鋼 製 錬 所 の 電 気 炉 か ら 発 生 し Pb,Zn を 含 む 製 鋼 ダ ス ト か ら の 亜 鉛 の 回 収 に つ い て も 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。1 - 3 ) た だ し , こ れ ら の Zn を 含 む リ サ イ ク ル 原 料 は , Cd, Pb を 多 く 含 ん で い る た め , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス に お い て , Cd, Pb を 効 率 的 に 分 離 し , 回 収 す る 技 術 開 発 が 重要であると考える。 例 え ば ,筆 者 が 属 し た N 社 は S 製 錬 所 で 銅 製 錬 所 の 転 炉 か ら 発 生 す る ダ ス ト を 湿 式 処 理 し Zn を 濃 縮 さ せ た 水 酸 化 亜 鉛 4) を 製 造 し ,T 工 場 で 水 酸 化 亜 鉛 と 亜 鉛 精 鉱 を 混 合 し て 焙 焼 鉱 と し ,N 製 錬 所( 日 鉱 亜 鉛 ㈱ 三 日 市 製 錬 所( 現 日 鉱 三 日 市 リ サ イ ク ル ㈱ ))で 焙 焼 鉱 を 高 温 還 元 し Zn を 金 属( 地 金 )と し て 回 収 し て い た 。こ の 水 酸 化 亜 鉛 は Zn 以 外 に Cd を 多 く 含 み ,亜 鉛 精 鉱 に 対 す る 水 酸 化 亜 鉛 の 配 合 比 率 が 高 ま る に 連 れ て , 1985 年 以 降 , こ れ ら の 亜 鉛 原 料 を 焙 焼 し た 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 が 上 昇 し , そ れ に 伴 い , 亜 鉛 蒸 留 工 程 の 原 料 と な る 焼 結 工 程 で 製 造 さ れ る 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 も 上 昇 し た 。 Table 1 に 亜 鉛 精 鉱 (Zinc concentration), 水 酸 化 亜 鉛 (Hydroxide zinc)の 分 析 値 の 一 例 を , Fig.1 に 焙 焼 鉱 (Calcine)と 焼 結 鉱 (Sinter)中 の Cd 濃 度 の 推 移 を 示 す 。 同 図 よ り 1982 年 ご ろ か ら ,銅 製 錬 所 か ら 発 生 す る ダ ス ト を 湿 式 処 理 し て 亜 鉛 を 濃 縮 さ せ た 水 酸 化 亜 鉛 の 亜 鉛 精 鉱 に 対 す る 比 率 が 高 ま り , 1985 年 以 降 , こ れ ら の 亜 鉛 原 料 を 焙 焼 し た 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 が 上 昇 し , そ れ に 伴 い , 亜 鉛 蒸 留 工 程 の 原 料 と な る 焼 結 工 程 で 製 造 さ れ る 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 も 上 昇 し た 。1986 年 度 に 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 が 従 来 の 約 0.28% か ら 0.30% に 上 昇 し た た め , 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 は 約 0.06% か ら 0.08% ま で 上 昇 し て い る こ と が わ か る 。 焼 結 鉱 の Cd 濃 度 が 0.1% に な る と 蒸 留 亜 鉛 中 の Cd 濃 度 が JIS の 規 格 値 0.1% を 超 え る 恐 れ が あ る 。 上 記 の プ ロ セ ス で は , 蒸 留 亜 鉛 中 の Cd 濃 度 が 規 格 値 を 超 え な い よ う に , 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 を 約 0.30% 以 下 と す る た め に Cd 濃 度 の 高 い リ サ イ ク ル 原 料 で ある水酸化亜鉛の処理量を下げて他の亜鉛原料を増して原料の配合を調整し た 。 溶 融 亜 鉛 メ ッ キ の 亜 鉛 地 金 と し て 使 用 さ れ る 蒸 留 亜 鉛 中 の Cd 濃 度 が 上 昇 す る と ,溶 融 亜 鉛 メ ッ キ ユ ー ザ ー で の 亜 鉛 メ ッ キ の 品 質 低 下 が 懸 念 さ れ る た め , 14 亜 鉛 プ ロ セ ス で は Cd の 効 率 的 な 除 去 技 術 開 発 が 必 要 と な っ た 。 5 , 6 ) Fig.2 に 代 表 的 な 金 属 の 蒸 気 圧 を 示 す 。7 ) Cd,Zn の 蒸 気 圧 は 900K で log Pa = 4, 3 で あ り ,ど ち ら も 揮 発 し や す い 金 属 で あ る 。Zn を 高 温 で 還 元 揮 発 し て 回 収 す る 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス ( 溶 鉱 炉 ( ISP: Imperial Smelting Process) お よ び 電 熱 蒸 留 炉 )8 ) で は ,Cd が Zn と と も に 揮 発 し ,凝 縮 さ せ た 溶 融 亜 鉛 中 に Cd が 混 入 す る 。 そ こ で , 溶 鉱 炉 お よ び 電 熱 蒸 留 炉 の 前 処 理 工 程 の 原 料 を 塊 状 化 す る 焼 結 工 程 で ,効 率 的 に Cd を 揮 発 さ せ 分 離 さ せ る こ と が Cd を 含 む 廃 棄 物および亜鉛リサイクル原料の処理に有効であると考える。 本 章 で は , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 に つ い て , 次 の 項目を検討した。 ( 1 ) 焼 結 工 程 で Cd の 揮 発 率 を 高 め 分 離 す る 方 策 の 検 討 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る Cd 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発 を 行 な った。 ( 2 ) 焼 結 工 程 か ら 発 生 し た Cd を 含 む ダ ス ト を 排 ガ ス 処 理 設 備 に お い て 効 率 的に回収する方策の検討 焼 結 工 程 で 揮 発 除 去 さ れ た Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率( 集 塵 率 )を 高 め , 亜 鉛 製 錬 工 程 内 の Cd 循 環 量 を 削 減 す る た め の 電 気 集 塵 装 置 の 技 術 開 発 を 行 な った。 Table1 Typical Assay of Zinc concentration and Hydroxide Zinc (u n it : mass% ) Zn Zinc cocentration Hydroxide zinc Cd Fe S SiO 2 Al 2 O 3 1 5 ~3 0 0 .0 5~0 .2 0 .5 ~2 .0 0.5 ~2.0 5 ~1 5 1 5 ~3 0 5~1 0 5 ~1 0 2 5 ~3 5 5 ~1 5 - - - 3 ~5 Pb Cu 0 .1 ~0 .5 1 ~3 0.40 Sinter Calcine Cd Content (mass%) 0.35 0.30 0.25 0.20 Control of Basicity 0.15 0.10 0.05 0.00 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 Business Year Figure 1 Cd contents in calcine and sinter(1980-1989 business year) 15 Figure 2 Vapor pressure of various metals 2.2. 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス に つ い て 2.2.1. 亜 鉛 製 造 工 程 の 概 要 N 製 錬 所 の 亜 鉛 製 造 工 程 に つ い て 述 べ る 。同 亜 鉛 製 造 工 程 は , (1) 「焙焼工 程 」,( 2 )「 焼 結 工 程 」,( 3 )「 電 熱 蒸 留 ( 電 炉 ) 工 程 」,( 4 )「 精 留 工 程 」 の 4 つ に 大 別 さ れ る 。 Fig.3 に N 製 錬 所 の 亜 鉛 製 造 工 程 フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。 「 焙 焼 工 程 」(Roasting)は ,T 工 場 に て ,亜 鉛 精 鉱( 硫 化 亜 鉛 ,硫 化 鉄 等 の 混 合 物 ) (Zinc concentration)と 亜 鉛 を 含 有 す る 水 酸 化 亜 鉛 (Hydroxide Zinc) を 混 合 後 ,硫 黄 を 酸 化 除 去 す る た め 焙 焼 し ,焙 焼 鉱( 酸 化 亜 鉛 ,酸 化 鉄 等 の 混 合 物 ) (Calcine)を 製 造 す る 。 次 に ,「 焼 結 工 程 」 (Sintering)に お い て , 焙 焼 鉱 (Calcine)は 焼 結 し , 塊 状 の 焼 結 鉱 (Sinter)と す る 。 「 電 熱 蒸 留( 電 炉 )工 程 」(Distillation)に お い て ,焼 結 鉱 (Sinter)を 粒 コ ー ク ス (Pea coke)と と も に 約 1073K に 予 熱 し て 電 炉 (Distillation)に 連 続 装 入 す る 。 炉 内 か ら 発 生 す る 亜 鉛 蒸 気 は , コ ン デ ン サ ー で 凝 縮 さ せ 蒸 留 亜 鉛 (PW Zinc: Prime Western Zinc の 略 )と す る 。 電 炉 下 部 か ら は , 未 反 応 コ ー ク ス と Zn が 揮 発 し た 焼 結 鉱 の 揮 発 残 滓 の 混 合 物 (Residue)が 排 出 さ れ る 。残 滓 処 理 工 程 (Residue treatment)に お い て , こ の 混 合 物 を 篩 別 , 風 篩 , 磁 選 処 理 し , 未 16 反応コークスと残留亜鉛を分離,回収する。 蒸 留 亜 鉛 は 蒸 留 型 亜 鉛 (Zn:98.5%)と し て 鋳 造 す る も の も あ る が , 大 部 分 は , 「 精 留 工 程 」 (Refining) に 送 り , さ ら に Pb , Fe , Cd を 除 去 し , 最 純 亜 鉛 (Zn:99.99%)(SHG Zinc: Special High Grade Zinc の 略 )と す る 。 最 純 亜 鉛 は , 最 純 型 亜 鉛 と す る 他 , 合 金 元 素 を 添 加 し , 調 合 亜 鉛 (Tailored zinc), ダ イ カ ス ト 合 金 等 の 亜 鉛 基 合 金 (Zinc based alloy)の 製 造 に あ て て い る 。 Zinc concentration (1) Secondary materials (2) Hydroxide zinc Roasting Off gas Off gas treatment Calcine Breeze coke Sulfuric acid Sintering Off gas Off gas treatment Off gas (to air) Off gas (to air) Pea coke Sinter Dust Waste water Cadmium recovering Waste water treatment Distillation Cadmium metal (3) PW zinc Residue Lead slime Residue Discard water (to Sintering) (to river) Return pea coke Zinc rich residue (to Distillation) (to Sintering) Residue treatment (4) Refining Zinc lean Slag SHG zinc Tailored zinc Figure 3 Zinc based alloy Reduced iron Crude lead Flowsheet of zinc smelting process in N smelter 17 2.2.2. 焼 結 工 程 の 概 要 Fig.4 に 焼 結 工 程 (Sintering process)の フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。焼 結 工 程 は , 原 料 の 塊 状 化 と 原 料 中 に 含 ま れ て い る Pb,Cd,S を 除 去 す る た め の 工 程 で あ る 。 焙 焼 鉱 (Calcine)は , 粉 コ ー ク ス (Breeze coke), 工 程 繰 返 物 ( 含 Zn 残 滓 , 集 塵 ダ ス ト 等 )(Return furnace residue),自 身 繰 返 物( 焼 結 鉱 の 粉 状 物 )(Return fine sinter) 等 と 調 合 し , パ グ ミ ル (Pug mill) と ド ラ ム 式 ペ レ タ イ ザ ー (Pelletizer)を 用 い て , 調 湿 , 造 粒 す る 。 造 粒 後 , ド ワ イ ト ロ イ ド 式 焼 結 機 (Sintering machine)で 焼 結 し ,焼 結 鉱 (Sinter)を 製 造 す る 。焼 結 鉱 は ,破 砕 , 篩 別 に よ る 粒 度 調 整 後 , 電 炉 工 程 (Distillation) に 送 る 。 自 身 繰 返 物 (Fine sinter)と は , 焼 結 鉱 の 粒 度 調 整 時 に 発 生 す る 焼 結 鉱 の 粉 状 物 で あ る 。 焼 結 排 ガ ス は , 電 気 集 塵 機 (Electrostatic precipitator)で Pb, Cd 等 の 揮 発 成 分 を 主 体 と す る 焼 結 ダ ス ト (Dust) を 捕 集 し 分 離 す る 。 次 に 中 和 塔 (Absorbing tower)を 通 し ,亜 硫 酸 ガ ス を 吸 収 除 去 し ,湿 式 電 気 集 塵 機 (Mist Electrostatic precipitator)を 通 し て 大 気 放 出 す る 。 焼 結 ダ ス ト は , ダ ス ト 処 理 工 程 で 処 理 し , Pb は 硫 酸 鉛 (Lead slime)と し て , Cd は Cd 地 金 (Cadmium metal)と し て 回 収 す る 。焙 焼 鉱 中 の Cd は ,焼 結 工 程 に お い て ,80%が 揮 発 し 焼 結 ダ ス ト に 移 行 す る が , 20% は 焼 結 鉱 に 残 留 す る 。 焼 結 鉱 中 の Cd は , 電 炉 工 程 に お い て , 揮 発 し , 一 部 , 蒸 留 亜 鉛 に 入 る 。 こ の Cd は , 蒸 留 亜 鉛 の 鋳 造 工 程 で は 除 去 で き な い の で ,亜 鉛 製 品 の 品 質 維 持 の 面 か ら ,焼 結 鉱 の Cd 濃 度 は 0.10% 以 下 に 管 理 す る 必 要 が あ る 。 そ の た め に も , 焼 結 工 程 に お い て , 極 力 Cd を 揮 発 除 去 す る と と も に , 揮 発 し た Cd を で き る だ け 工 程 内 で 滞 留 , 循 環 さ せ ず , 回 収 す る こ と が Cd を 含 む 廃 棄 物 , 原 料 処 理 に 有 効 で あ る と 考 え る 。 18 Secondary materials Calcine Breeze coke Return furnace residue Return fine sinter Mixing Pug mill Pelletizer Sintering machine Sinter Off gas Crusher Electrostatic precipitator Dust Screen Off gas ☆1 Absorbing tower Crusher Sized sinter Fine sinter (to Distillation) (to Mixing) Off gas Waste water Mist ESP ☆2 Stack Exhaust ☆1 ☆2 Dust Waste water Cadmium recovering Waste water treatment Cadmium metal Lead slime Residue Discard water (to Mixing) Exhaust Figure 4 Flowsheet of sintering process in N smelter 19 2.3. 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る C d 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発 2.3.1. Cd の 揮 発 反 応 の 考 え 方 焼 結 工 程 に お け る Cd の 揮 発 は ,次 の 反 応 に よ る 。下 記 の 反 応 式 で( s)は 固 体 を ,( g) は ガ ス 体 を 示 す 。 ① 焼 結 機 で Cd は 還 元 揮 発 す る 。 水 酸 化 亜 鉛 中 の Cd は 焙 焼 工 程 で 酸 化 さ れ ,亜 鉛 精 鉱 中 の SiO 2 と 結 合 し 焙 焼 鉱 中 で は CdO・SiO 2 の 形 態 で 存 在 し て い る と 考 え る 。CdO・SiO 2 が 分 解 し , CdO が CO で 還 元 さ れ る 。 CdO・ SiO 2 ( s) → CdO( s) + SiO 2 ( s) (1) CdO( s) + CO( g) → Cd( g) + CO 2 ( g) (2) ② 揮 発 後 , 排 ガ ス 中 の 酸 素 で Cd は 酸 化 す る 。 Cd( g) + (1/2)O 2 ( g) → CdO( s) (3) ① の 反 応 は , (1)式 と (2)式 を 合 成 す る と (4)式 と な る 。 CdO・ SiO 2 ( s) + CO( g) → Cd( g) + CO 2 ( g) + SiO 2 ( s) (4) Cd を 揮 発 さ せ る た め に (4)式 の 反 応 を 進 め る に は ,Cd の 平 衡 蒸 気 圧 は 高 い こ と か ら , 焼 結 鉱 の SiO 2 (s)の 活 量 を 下 げ る こ と , CO 2 の 分 圧 を 下 げ る こ と が 考 え ら れ る 。焼 結 工 程 の 操 業 で は CO 2 の 分 圧 の 調 整 は 困 難 で あ る こ と か ら ,焼 結 鉱 の SiO 2 の 活 量 を 下 げ る こ と が 有 効 で あ る と 考 え た 。 こ の 手 段 と し て ,焼 結 の 原 料 に 塩 基 性 酸 化 物 を 添 加 し 安 定 な 化 合 物 を 形 成 さ せ SiO 2 の 活 量 を 下 げ CdO を 分 離 す る こ と に 着 目 し た 。 塩 基 性 酸 化 物 と し て は Na 2 O,K 2 O,BaO,SrO,CaO な ど が あ る が 安 価 な CaO を 使 用 す る こ と に し た 。CaO を 添 加 し ,次 式 に よ り (1)式 の 反 応 で 生 じ る SiO 2 を CaO と 結 合 さ せ て 安 定 な 化 合物を生成させる。 2 CaO+ SiO 2 → 2 CaO・ SiO 2 (5) (4)式 と (5)式 を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り , (6)式 の 反 応 と な る 。 CdO・ SiO 2 ( s) + 2 CaO(s)+ CO( g) → Cd( g) + 2 CaO・ SiO 2 ( s) + CO 2 ( g) (6) 次 の (7)式 に 示 す 焼 結 鉱 の 塩 基 度( CaO/SiO 2 )を 高 め る よ う に 焼 結 鉱 へ の CaO を 添 加 す る こ と で , Cd の 揮 発 率 を 高 め ら れ る こ と が 期 待 で き る 。 焼結鉱の塩基度= 焼結鉱のCaO濃度(mass %) 焼結鉱のSiO 2 濃度(mass %) 20 ( 7) 2.3.2. 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 変 化 さ せ る 実 験 計 画 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 0.35~ 0.45 か ら 0.80~ 1.00 ま で 段 階 を 踏 ん で 変 化 さ せ , 焙 焼 鉱 (Calcine),焼 結 鉱 (Sinter),焼 結 ダ ス ト (Dust)中 の Cd 濃 度 の 変 化 を 調 べ た 。 Table 2 に 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 変 化 さ せ た 際 の 実 験 条 件 を 示 す 。 焙 焼 鉱 , 焼 結 鉱 ,焼 結 ダ ス ト 中 の Cd 濃 度 と そ れ ら の 量 の 動 き か ら ,Cd の 除 去 に 対 す る 焼 結 鉱 の 塩 基 度 の 影 響 を 調 査 し た 。Run 1 は 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 0.35~ 0.45,Run 2 は 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 0.50~ 0.70, Run 3 は 0.80~ 1.00 と し た 。 Table 2 Design of experiment that changes degree of basicity of sinter Composition in sinter Run No. SiO 2 CaO basicity (mass%) (mass%) Run1 7.0~8.0 3.0~3.5 0.35~0.45 Run2 6.0~7.0 3.5~4.5 0.50~0.70 Run3 5.0~6.0 4.0~5.0 0.80~1.00 2.3.3. 実 験 結 果 (1) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と 焙 焼 鉱 と 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 の 比 焼 結 鉱 の 塩 基 度 に 対 す る 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 の 比 の 関 係 を Fig.5 に 示 す 。焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 の 比 は ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.35~ 0.45 の 時 に 0.28~ 0.33, 焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.50~ 0.70 の 時 に 0.15~ 0.28,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.80~ 1.00 の 時 に 0.11~ 0.21 と 減 少 し て い る 。 こ れ は , 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 上 昇 さ せ る こ と に よ り 焼 結 鉱 中 の SiO 2 の 活 量 が 低 下 し , そ の 結 果 , 焼 結 鉱 中 の Cd が 揮 発 し や す く な っ た た め と 考 え る 。 ま た ,Pb は PbO と し て SiO 2 と 結 合 し や す い が ,Cd 同 様 に CaO を 添 加 し 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 高 め る こ と で ( 8) 式 の 反 応 が 期 待 で き る 。 PbO・ SiO 2 ( s) + 2 CaO(s)+ CO( g) → Pb( g) + 2 CaO・ SiO 2 ( s) + CO 2 ( g) (8) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 に 対 す る 焼 結 鉱 中 の Pb 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Pb 濃 度 の 比 の 関 係 を Fig.6 に 示 す 。 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 上 昇 さ せ る と 焼 結 鉱 中 の Pb 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Pb 濃 度 の 比 が 減 少 し て い る 。Cd と 同 じ よ う に ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 上 昇 さ せ る こ と に よ り 焼 結 鉱 中 の SiO 2 の 活 量 が 低 下 し ,そ の 結 果 ,焼 結 鉱 中 の Pb が 揮発しやすくなったためと考える。 21 Cd content in sinter / Cd content in calcine 0.4 0.3 0.2 0.1 Run 1 Run 3 Run 2 0.0 0.2 Figure 5 0.4 0.6 Basicity of sinter 0.8 1.0 Relationship between basicity of sinter and Cd content in sinter / Cd content in calcine Pb content in sinter / Pb content in calcine 1.0 0.8 0.6 0.4 Run 1 Run 2 0.4 0.6 Basicity of sinter Run 3 0.2 0.2 Figure 6 0.8 1.0 Relationship between basicity of sinter and Pb content in sinter / Pb content in calcine 22 (2) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率 焼 結 鉱 の 塩 基 度 に 対 す る Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率 を 検 討 し た 。Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率 は Rcd と し て 次 式 で 定 義 し た 。 R c d = S c d /( S c d + D c d ) ×100 R c d : Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率 ( % ) S c d : 焼 結 鉱 中 の Cd 量 ( t/月 ) D c d : ダ ス ト 中 の Cd 量 ( t /月 ) Fig.7 に R c d と 焼 結 鉱 の 塩 基 度 の 関 係 を 示 す 。 Fig.7 よ り , 焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.5 の 時 ,R c d は 30%程 度 で あ る が ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.9 の 時 ,R c d は 20% 程 度 と な り ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 高 く な る ほ ど R c d は 減 少 し て い る 。Fig.7 か ら も , 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 高 く す る こ と で , 焼 結 鉱 の Cd が 揮 発 し や す く な っ て い ることがわかる。 40 35 (%) 30 Rcd 25 20 15 10 0.2 0.4 0.6 Basicity of sinter Figure 7 0.8 (CaO/SiO 2) Relationship between R Cd and the bacisity of sinter 23 1.0 2.4. 電 気 集 塵 機 で Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 技 術 開 発 2.4.1. 電 気 集 塵 機 の Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 考 え 方 Fig.8 に N 製 錬 所 の Cd バ ラ ン ス を 示 す 。焼 結 工 程 へ 焙 焼 鉱 に 含 ま れ た Cd( ① ) が 38t/月 装 入 さ れ ,焼 結 機 ,排 ガ ス 処 理 ,Cd 回 収 工 程 か ら 繰 返 さ れ る Cd( ② ) の 76t/月 と 混 合 さ れ 焼 結 機 に 装 入 さ れ る 。 焼 結 機 で 焼 結 さ れ る こ と に よ り , 焼 結 機 に 装 入 さ れ た Cd の 114t/月 の 内 , 60%が 揮 発 し , 排 ガ ス ( ⑤ ) に 68t/ 月 が 移 行 し , 残 り 40%の 内 , 11 t/月 が 焼 結 鉱 ( ④ ) に , 35 t/月 が 粉 状 の シ ン タ に 含 ま れ 焼 結 機 へ 繰 り 返 さ れ る 。排 ガ ス に 含 ま れ た Cd の 55%が ダ ス ト( ⑧ ) と し て 38t/月 が 回 収 さ れ る 。 ダ ス ト は Cd 回 収 工 程 で 処 理 さ れ , Cd 地 金 ( ⑬ ) と し て 32t/月 が 回 収 さ れ る 。 し か し , 焼 結 機 , 排 ガ ス 処 理 な ど か ら 焼 結 機 に 繰 り 返 さ れ る Cd 量 (② )が 76t/月 も あ り ,繰 返 率( 繰 返 量( ② )/装 入 量( ① )) が 200% も あ る 。焼 結 機 で は Cd の 68t /月 が 揮 発 し 排 ガ ス 中( ⑤ )に 移 行 し て い る に も 係 ら ず ,排 ガ ス 処 理 設 備 で ダ ス ト と し て 回 収 さ れ ず ,焼 結 工 程 へ の 再 び 繰 返 さ れ る 量( ⑨ )が 30t/月 も あ り ,揮 発 し た Cd の 44%(⑨ /⑤ )が 繰 り 返 さ れ て い る 。 こ の 排 ガ ス 処 理 か ら 繰 り 返 さ れ て い る Cd 量 を 削 減 す れ ば , 焼 結 工 程( ③ )の Cd 装 入 量 が 減 り ,結 果 と し て 焼 結 鉱( ④ )の Cd 量 が 減 少 し ,蒸 留 亜 鉛( ⑦ )の Cd 量 が 減 り ,蒸 留 亜 鉛 の Cd 濃 度 が 下 が る 。よ っ て ,排 ガ ス 中 の Cd を ダ ス ト と し て 回 収 で き る 量( ⑧ )を 増 す こ と で ,蒸 留 亜 鉛 の Cd 濃 度 を 高 め ず , か つ Cd 地 金 の 回 収 量 を 増 す こ と が 期 待 で き る と 考 え た 。 焼 結 工 程 の 排 ガ ス 処 理 設 備 か ら の Cd 繰 返 量 が 多 い 原 因 は , 排 ガ ス 処 理 設 備 の 電 気 集 塵 方 式 に あ る と 考 え た 。Fig.9 に ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 と 電 気 集 塵 機 の 集 塵 効 率 等 ,集 塵 機 の 特 性 を 示 す 。9 ) Fig.9 よ り ,ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 1 Ω・cm を 超 え る と 電 気 集 塵 機 で 逆 電 離 現 象 が 発 生 し ,そ の 結 果 , 荷 電 が 不 安 定 と な り 集 塵 効 率 が 低 下 す る 。逆 電 離 現 象 と は ,集 塵 極 に 付 着 し た ダストの電気抵抗率が高い場合にダスト層を流れる電流が増加すると層内に 著 し い 電 界 を 生 じ ダ ス ト 層 内 で 絶 縁 破 壊 を 引 き 起 こ す 現 象 を い う 。こ の 現 象 が 生 ず る と (ア)ダ ス ト の 負 の 電 荷 の 中 和 ,(イ)電 流 の 異 常 増 加 が 起 こ り ,集 塵 効 率 が低下する。 24 Calcine ① 38 Re turn ② 76 (un it:ton s/month) Sintering ③ 114 Sinter Off gas ④ 11 Return ⑤ 68 Distillation ⑥ 35 Du st ⑦ 11 Return ⑧ 38 Zn -Cd alloy ⑩ 4 Re turn ⑨ 30 Cd recove ring ⑪ 7 ⑫ 38 Cd metal Le ad slime ⑬ 32 Figure 8 Return ⑭ 2 ⑮ 4 Material balance of Cd 集塵効率 電流・電圧 集塵効率 電圧 電流 ダストの見掛け電気抵抗率 (Ω・cm) ジャンピング現象 による機能低下 Figure 9 Apparent 正常領域 荷電不安 定効率低 下 electric resistivity electrostatic precipitator 25 of dust and 逆電離現 象による 機能低下 characteristic of Table 3 に 亜 鉛 製 錬 の 焼 結 ダ ス ト の 化 学 成 分 ,平 均 粒 子 径 ,見 掛 比 重 を 示 す 。 焼 結 ダ ス ト は Zn,Pb,Cd の 酸 化 物 を 主 体 に 形 成 さ れ て い る 。平 均 粒 子 径 は 0.8 μ m , 見 掛 け 比 重 は 0.3 で あ る 。 Fig.10 に 焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 示す。見掛け電気抵抗率は最大値より低い低温側ではダスト表面への水分や SO 3 な ど の 付 着 に よ る 表 面 伝 導 が 主 で あ り , 高 温 側 で は ダ ス ト の 体 積 伝 導 が 主 と な り , 温 度 上 昇 に 従 っ て ダ ス ト 層 の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 減 少 す る 。 Fig.10 においてもガス中の水分を高めるとダストの見掛け電気抵抗率が低下してい る こ と が わ か る 。一 般 的 な ダ ス ト は 423~ 473K 前 後 で 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 は 最 大 値 を 示 す が ,焼 結 ダ ス ト の 場 合 ,370~ 420K で 最 大 値 を 示 し ,一 般 的 な ダ ス ト よ り 最 大 値 を 示 す 温 度 が 約 50K 低 い 。市 販 さ れ て い る 粉 状 の 試 薬 を 用 い て ,焼 結 ダ ス ト の 主 と な る 成 分 で あ る 酸 化 亜 鉛 ,酸 化 鉛 ,酸 化 カ ド ミ ウ ム の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 測 定 し た 。Fig.11 に 酸 化 亜 鉛 ,Fig.12 に 酸 化 鉛 ,Fig.13 に 酸 化 カ ド ミ ウ ム の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 示 す 。Fig.11~ 13 と Fig.10 を 比 較 す る と ,焼 結 ダ ス ト は 酸 化 鉛 と 同 じ 傾 向 を 示 し て お り ,酸 化 鉛 が ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 高 め て い る と 考 え る 。実 際 の 焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 酸 化 鉛 よ り 1~ 2 桁 高 い 理 由 は , 排 ガ ス 中 の 金 属 蒸 気 が 温 度 低 下 と と も に 急 激 に 凝 縮 し て 微 粒 子 と な っ て い る こ と が 影 響 し て い る と 考 え る 。N 製 錬 所 の 排 ガ ス 処 理 設 備 の 入 口 に お け る 通 常 操 業 の 排 ガ ス 温 度 は 453K, 水 分 は 5~ 10vol%で あ る の で , ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 3 Ω ・ cm で あ る 。 1965 年 ご ろ の 電 気 集 塵 技 術 で は 電 気 集 塵 機 で 集 塵 が 可 能 な ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 は 10 1 1 Ω ・ cm 以 下 で あ っ た の で , Fig.10 か ら わ か る よ う に , 焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 10 1 1 Ω・cm 以 下 と す る た め ,ガ ス 温 度 333K,水 分 20vol%と す る 必 要 が あ っ た 。 そ こ で , 排 ガ ス を ガ ス 温 度 333K, 水 分 20vol%と す る た め , 電 気 集 塵 機 の 前 に 調 湿 塔 を 設 置 し ,水 噴 霧 に よ り 排 ガ ス を 冷 却 し ,ほ ぼ 飽 和 水 蒸 気 圧 と な る ま で 調 湿 後 ,電 気 集 塵 機 へ 導 入 し ダ ス ト を 集 塵 し て い た 。調 湿 と は ,ガ ス 中 の 水 分 を飽和水蒸気圧程度まで高めることと定義する。 Fig.14 に 従 来 ( 改 善 前 ) の 電 気 集 塵 方 式 ( 以 下 , 湿 式 型 電 気 集 塵 機 と 記 載 す る 。)の 概 略 図 を 示 す 。Fig.14 の 調 湿 塔 (Spraying tower) は 373K 以 下 で 水 を 多 量 に 噴 霧 し ガ ス 中 の 水 分 を 飽 和 状 態 と す る た め , 排 ガ ス 中 の Cd を 含 む ダ ス ト の 40% が 蒸 発 し な か っ た 水( Drain)に 混 入 し て い た 。こ の ダ ス ト を 含 む 水 は 焼 結 工 程 で 処 理 す る た め , 焼 結 機 へ の Cd 繰 返 量 を 増 大 さ せ る 大 き な 要 因 で あった。 上 記 の 問 題 を 解 決 す る た め , 排 ガ ス を 調 湿 す る 時 に 水 ( Drain) を 発 生 し な い 電 気 集 塵 方 式 ,す な わ ち ,ガ ス 中 の 水 分 を 飽 和 状 態 と せ ず ,極 力 ,高 温 で 集 26 塵 す る 方 式( 以 下 ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 と 記 載 す る 。)に 変 更 し ,Cd 繰 返 量 を 削 減 す る こ と を 考 え た 。乾 式 型 電 気 集 塵 機 で ダ ス ト の 集 塵 効 率 を 高 く 保 つ た め に , 次の項目について,これらを調べる実験を行なった。 ① 乾 式 型 電 気 集 塵 機 に お け る 排 ガ ス は , 温 度 450K, 水 分 10% 程 度 と な り , Fig.10 で ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 3 ~ 10 1 4 Ω ・ cm と な る 。 電 気 集 塵 機 の 極 板 に 付 着 す る ダ ス ト 層 を 薄 く し ,逆 電 離 現 象 の 発 生 を 抑 え る こ と が 可 能 な 乾式型電気集塵機に変更する。 ② ダ ス ト の 集 塵 効 率 を 高 め る た め に は ,Fig.10 よ り 排 ガ ス の 水 分 を 高 め る と ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 下 が る こ と か ら ,適 度 な 排 ガ ス の 水 分 が 必 要 で あ る が ,過 剰 な 水 分 は 水 を 発 生 す る た め ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 導 入 し ,さ ら に 適 度 な 水 分 と な る よ う に 加 湿 し ,ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 下 げ る 。加 湿 と は , ガ ス 中 に 水 を 噴 霧 し ,飽 和 水 蒸 気 以 下 で ガ ス 中 の 水 分 を 少 し 高 め る こ と と 定 義 する。 ③ 高温でダストの粒子径が細かくなり,飛散しやすくなることから,粒子径 を 大 き く し 飛 散 を 抑 え る 。こ の た め ,排 ガ ス を 加 湿 し ダ ス ト の 粒 子 を 凝 集 さ せ 見掛けの粒子径を大きくする。 Table 3 Properties of Flue Dust Chemical composition Moisture (%) (%) Zn Pb Cd S 0.2 10 38 15 5 27 Average Apparent particle specific size (μm) gravity 0.8 0.3 17 Apparent Electrical Resistivity (log/Ω・cm) Numbers in Fig. present moisture in gas (vol%) 0 16 15 5 14 10 13 15 12 11 20 10 300 350 400 450 500 550 Gas Temperature (K) Figure 10 Apparent electrical resistivity of flue dust (ρ- T characteristic) 15 Apparent Electrical Resistivity (log/Ω・cm) Numbers in Fig. present moisture in gas 14 13 (vol%) 12 0 11 10 9 6 8 9 7 300 350 400 450 500 Gas Temperature (K) Figure 11 Apparent electrical resistivity of ZnO 28 550 Apparent Electrical Resistivity (log/Ω・cm) 15 14 Numbers in Fig. present moisture in gas (vol%) 0 13 12 11 6 10 9 9 8 7 300 350 400 450 500 550 Gas Temperature (K) Figure 12 Apparent electrical resistivity of PbO 15 Apparent Electrical Resistivity (log/Ω・cm) Numbers in Fig. present moisture in gas 14 13 12 11 (vol%) 0 6 9 10 9 8 7 300 350 400 450 500 Gas Temperature (K) Figure 13 Apparent electrical resistivity of CdO 29 550 Figure 14 Schematic drawing of conventionally-used ESP system 30 2.4.2. 実 験 計 画 (1)電気集塵方式の変更 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 3 ~ 10 1 4 Ω ・ cm と な る こ と に 対 応 す る た め , 乾式型電気集塵機として石炭火力発電の高電気抵抗率ダスト用に開発された 移動電極形電気集塵装置 9-11) を使用することにした。 Fig.15 に 乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 概 略 図 を 示 す 。 Fig.16 に 入 口 側 の 固 定 電 極 形 と 出 口 側 の 移 動 電 極 形 の 乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 構 造 を 示 す 。9 )入 口 側 は 従 来 と 同 じ 固 定 電 極 形 ,出 口 側 は 移 動 電 極 形 と な っ て い る 。移 動 電 極 形 電 気 集 塵 装 置 は 集 塵 極 に ダ ス ト を 付 着 さ せ た ま ま 集 塵 極 を 垂 直 方 向 に 移 動 し ,集 塵 極 が 電 気 集 塵 機 下 部 へ 移 動 し た 時 に ,ブ ラ シ に よ り 掻 き 落 し 集 塵 極 表 面 を き れ い に す る こ と で 逆 電 離 を 抑 え る 。従 来 は 湿 式 型 電 気 集 塵 機 を 2 基 運 転 し て い た が ,そ の 内 , 1 基を乾式型電気集塵機に変更した。処理ガス量は乾式型電気集塵機側 60,000Nm 3 /h, 湿 式 型 電 気 集 塵 機 側 40,000Nm 3 /h で あ る 。 Fig.17 に 乾 式 型 電 気 集塵機を設置した焼結工程の排ガス処理フローシートを示す。 (2)ダストの見掛け電気抵抗率を下げる実験 焼 結 機 上 を 物 質( 調 合 物 )が 進 行 す る に つ れ て 乾 燥 か ら 焼 成( 焼 結 )に 反 応 が 進 む 。焼 結 機 前 半 は 乾 燥 ,後 半 は 焼 成 が 主 と な る の で ,焼 結 機 の 進 行 方 向 で ダ ス ト の 生 成 機 構 ,生 成 速 度 が 異 な り ,ダ ス ト 性 状 に 差 が あ る と 思 わ れ た 。そ こ で ,焼 結 機 の A:前 側 ,B:中 間 ,C:後 側 で ダ ス ト を 採 取 し ダ ス ト の 電 気 抵 抗 率 を 比 較 し た 。前 述 の Fig.17 に サ ン プ リ ン グ 場 所( A:前 側 ,B:中 間 ,C:後 側)を示す。さらに,排ガス中の水分のダスト性状への影響を確認するため, 排 ガ ス に 加 湿 す る 実 験 を 行 な っ た 。 Fig.18 に 排 ガ ス の 加 湿 実 験 装 置 を 示 す 。 水 を ポ ン プ で 加 圧 し 約 300μ m の 噴 霧 粒 子 径 で 排 ガ ス に 吹 き 込 ん だ 。 (3)ダストの飛散を抑える実験 電気集塵機の集塵率に影響する因子で排ガス温度の他に排ガスの相対湿度 がある。排ガスの相対湿度を高めるとダストの粒子同士が吸着しやすくなり, ダストの粒子が凝集しダストの見掛けの粒子径が大きくなるのでダストの再 飛 散( 電 気 集 塵 機 で 極 板 に 付 着 し た ダ ス ト を 回 収 す る 際 に 再 び ガ ス 中 に 飛 散 す る 現 象 )を 抑 え る こ と が で き る 。排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 調 整 し ,電 気 集 塵 機 の 出 口ダスト濃度の変化を調べた。なお,排ガスの相対湿度は次式で定義される。 排ガスの相対湿度 (%)= 排ガスの水蒸気圧 ( mmHg ) 100 排ガスの飽和水蒸気圧 (mmHg ) 31 Figure 15 Schematic drawing of dry-type ESP system (b) 移動電極形EP (a) 固定電極形EP Figure 16 Structural comparisons of Electrostatic precipitator of fixed electrode and moving electrode 32 Figure 17 Flow sheet of improved off gas treatment process Gas Spray nozzle Water Pump Water tank Figure 18 Experimental apparatus of adding humidity in off gas. 33 2,4,3. 実 験 結 果 Table 4 に 焼 結 機 の A,B,C の サ ン プ リ ン グ 箇 所 に お け る ダ ス ト の 分 析 値 を 示 す 。 Table 4 よ り , A は B,C よ り S 濃 度 が や や 高 め で あ る が , Zn,Pb,Cd 濃 度 に あ ま り 差 は な い こ と か ら , 組 成 に よ る 差 は な い こ と が わ か る 。 次 に , Fig.19 に 焼 結 機 の A,B,C の サ ン プ リ ン グ 箇 所 に お け る ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 の 比 較 を 示 す 。 Fig.19 よ り , ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 は A が 最 も 低 い こ と が わ か る 。こ れ は ,A は 排 ガ ス 温 度 が 低 く ,水 分 が 高 い こ と か ら 相 対 湿 度 も 大 き い の で , Zn, Cd 等 の 揮 発 し た 金 属 蒸 気 が 急 激 に 凝 縮 す る こ と と , 生 成 し た ダ ス ト が 凝 集 し た こ と に よ り ダ ス ト の 比 表 面 積 が 小 さ く な っ た た め ,そ の 結 果 と して電気抵抗率が小さくなったと考える。 Fig.20 に 加 湿 に よ る ダ ス ト 電 気 抵 抗 率 の 変 化 を 示 す 。 加 湿 に よ り , ダ ス ト の 電 気 抵 抗 率 が 約 1 桁 減 少 す る こ と が わ か る 。 Fig.16 の サ ン プ リ ン グ 箇 所 C で 加 湿 す る こ と に よ り ,サ ン プ リ ン グ 箇 所 A と ほ ぼ 同 じ ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗率とすることができた。 ま た , Fig.21 に 光 学 顕 微 鏡 で 観 察 し た 加 湿 前 と 加 湿 後 の ダ ス ト を 示 す 。 ダ ス ト の 粒 子 径 は 加 湿 前 が 0.1mm 以 下 で あ る が , 加 湿 後 は 0.2~ 0.5mm と な っ て いる。これは,加湿によりダスト粒子が凝集しためであると考える。 Fig.22 に 排 ガ ス の 相 対 湿 度 と コ ッ ト レ ル 出 口 ダ ス ト 濃 度 の 関 係 を 示 す 。 排 ガ ス の 相 対 湿 度 が 0.4 の 時 , 出 口 ダ ス ト 濃 度 は 0.5~ 1.5 で あ っ た が , 排 ガ ス の 相 対 湿 度 が 0.5 程 度 か ら 出 口 ダ ス ト 濃 度 が 急 激 に 減 少 す る 。そ し て ,相 対 湿 度 が 1.0 か ら 1.5 の 範 囲 で は 出 口 ダ ス ト 濃 度 が 0.05~ 0.1g/Nm 3 と な っ た 。 以 上 の こ と か ら ,排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 上 昇 さ せ る と ダ ス ト の 電 気 抵 抗 率 の 低 下 と ダ ス ト の 凝 集 性 が 向 上 し ,そ の 結 果 ,ダ ス ト の 集 塵 率 が 向 上 す る こ と が 明 らかになった。 Table4 Chemical composition of flue Dust in A,B,C Position Chemical composition Moisture (%) (%) Zn Pb Cd S A 1.5 12.4 34.3 15.1 6.2 B 0.2 13.2 38.5 15.0 3.5 C 0.2 15.1 38.9 13.1 3.4 34 Apparent Electrical Resistivity (log/Ω・cm) 15 Moisture in gas = 9vol% 14 13 12 A B 11 C 10 300 350 400 450 500 550 Gas Temperature (K) Figure 19 Comparison of apparent electrical resistivity of dust sampled at various positions in sintering machine. Apparent Electrical Resistivity (log/Ω・cm) 15 Moisture in gas = 9 vol% 14 13 12 Conventional Operation 11 Adding Humidity 10 300 350 400 450 500 550 Gas Temperature (K) Figure 20 Change in apparent electrical resistivity of dust by adding humidity in off gas. 35 光学顕微鏡 光学顕微鏡写真 a) Conventional operation Figure 21 b) Adding humidity Particle size of dust by adding humidity in off gas. 2.0 1.8 Dust Content (g/Nm3) 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 Relative Humidity Figure 22 1.0 1.2 1.4 1.6 (%) Relationship between relative humidity in off gas and ESP outlet dust content 36 2.4.4. 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 時 の Cd バ ラ ン ス Fig.23 に N 製 錬 所 の 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 し た 場 合 の Cd バ ラ ン ス を 示 す 。 但 し , 焼 結 機 か ら 発 生 す る 排 ガ ス は , ガ ス 量 の 60% が 乾 式 型 電 気 集 塵 機 , 残 り 40% は 湿 式 型 電 気 集 塵 機 で 処 理 し た 。 焼 結 工 程 へ 焙 焼 鉱 に 含 ま れ た Cd 量 ( ① ) が Fig.8 の 湿 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 し た 場 合 と 同 様 , 38t/月 装 入 さ れ る 。 Fig.8 と Fig.23 を 比 較 し 以 下 の こ と がわかった。 (a) 湿 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 で は 排 ガ ス 処 理 設 備 で ダ ス ト と し て 回 収 さ れ ず , 揮 発 し た Cd の 44%(⑨ /⑤ )が 焼 結 機 に 繰 り 返 さ れ て い た が ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 し た 場 合 ,揮 発 し た Cd の 20%(⑨ /⑤ )に 減 少 し た 。そ の 結 果 ,排 ガ ス 処 理 設 備 か ら 焼 結 工 程 へ の 再 び 繰 返 さ れ る 量( ⑨ )が 30t/月 か ら 10 t/月 に 減 少 できることがわかった。 (b) 焼 結 機 , 排 ガ ス 処 理 な ど か ら 焼 結 機 に 繰 り 返 さ れ る Cd 量 (② )は 湿 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 の 76t/月 か ら , 乾 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 は 45t/月 に 減 少 し , 繰 返 率 ( 繰 返 量 ( ② ) /装 入 量 ( ① )) が 200% か ら 120% に 減 少 で き る こ と が わかった。 (c) 焼 結 工 程 の Cd 装 入 量 ( ③ ) が 湿 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 の 114t/月 か ら 乾 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 は 83t/月 減 り ,焼 結 鉱( ④ )の Cd 量 が 11t/月 か ら 8t/ 月 減 少 し て い る こ と が わ か っ た 。 そ の 結 果 , 蒸 留 亜 鉛 ( ⑦ ) の Cd 量 が 減 り , 蒸 留 亜 鉛 の Cd 濃 度 を 下 げ ら れ る こ と が わ か っ た 。 (d) 焼 結 工 程 の Cd 負 荷 ( ③ ) を 乾 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 も 湿 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 の 114t/月 と す る と , 焙 焼 鉱 に 含 ま れ Cd 量 ( ① ) を 38t/月 か ら 52 t/ 月 ( 38 t/月 ×114t/月 ÷83t/月 ) に 増 す こ と が で き , Cd 地 金 の 回 収 量 を 32t/ 月 か ら 44 t/月 ( 32 t/月 ×114t/月 ÷83t/月 ) に 増 す こ と が で き る 。 こ れ に よ り , Cd を 含 む リ サ イ ク ル 原 料 の 処 理 量 の 増 が 期 待 で き る 。 37 Calcine ① 38 Return ② 45 (u nit:ton s/ mon th) Sintering ③ 83 Sin ter Off gas ④ 8 ⑤ 50 Distillation Dust ⑦ 8 Zn -Cd alloy ⑩ 3 ⑧ 40 Return ⑪ 5 Figure 23 Re turn ⑨ 10 Cd rec overing ⑫ 40 Cd metal ⑬ 33 Re turn ⑥ 25 Lead slime ⑭ 2 Re turn ⑮ 5 Material balance of Cd after improvement of off gas treatment equipment 38 2.5. 結 言 Zn を 高 温 で 還 元 揮 発 し 回 収 す る 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で は ,Cd が Zn と と も に 揮 発 し , 凝 縮 さ せ た 溶 融 亜 鉛 中 に Cd が 混 入 す る 。 そ こ で , 溶 鉱 炉 お よ び 電 熱 蒸 留 炉 の 前 処 理 と し て 原 料 を 塊 状 化 す る 焼 結 工 程 で , 効 率 的 に Cd を 揮 発 さ せ 分 離 さ せ る こ と が Cd 含 有 廃 棄 物 お よ び リ サ イ ク ル 原 料 の 処 理 に 有 効 で あ る と考えた。 本 章 で は , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 に つ い て , 次 の 項目を検討した。 ( 1 )焼 結 工 程 で Cd の 揮 発 率 を 高 め ,分 離 す る 方 策 の 検 討 12) ,す な わ ち ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る Cd 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発 を 行 な っ た 。 ( 2 ) 焼 結 工 程 か ら 発 生 し た Cd を 含 む ダ ス ト を 排 ガ ス 処 理 設 備 に お い て 効 率 的に回収する方策の検討 13) ,具 体 的 に は ,焼 結 工 程 で 揮 発 除 去 さ れ た Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め , 亜 鉛 製 錬 工 程 内 の Cd 循 環 量 を 削 減 す る た め の 電気集塵装置の技術開発を行なった。 その結果, ( 1 ) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と Cd 揮 発 率 に 関 係 が あ り , CaO を 添 加 し 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 高 め る こ と で 焼 結 工 程 の Cd の 揮 発 率 を 高 め る こ と を 明 確 に し , 焼 結 工 程 の Cd 揮 発 技 術 を 確 立 し た 。 ( 2 ) 焼 結 工 程 の 排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 す る た め , 湿 式 型 電 気 集 塵 機 と 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 比 較 し た 。湿 式 型 電 気 集 塵 機 は ガ ス 温 度 を 下 げ , 調 湿 す る の で , 調 湿 時 に 発 生 し た 水 に Cd が 混 入 し 排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 焼 結 機 に 繰 り 返 し て い た が ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 は 水 を 発 生 し な い の で ,排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 で き る こ と が わ か っ た 。 ま た , 乾 式 型電気集塵機は排ガスの相対湿度を高めるほど集塵率がよくなる傾向がある こ と が わ か り ,排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 水 が 発 生 し な い よ う に 加 湿 し て 高 め る こ と に よ り ,焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 下 げ ,か つ ,ダ ス ト の 凝 集 性 を よ く す る こ と で ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 集 塵 率 を 高 め ら れ る こ と を 明 確 に し ,新 た な 集塵技術を開発した。 以 上 の 成 果 を 利 用 す る こ と に よ っ て ,亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd 分 離 技 術 を 向 上 さ せ ,N 社 の Cd 含 有 廃 棄 物 の Cd の 資 源 循 環 量 を 改 善 前 の 約 1.4 倍 に 増 し た 。 39 参考文献 1) 永 井 克 彦 , 松 本 康 弘 , 渡 邊 弘 志 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 162-165 2) 野 田 眞 治 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 166-169 3) 竹 脇 正 広 , 尾 島 康 夫 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 184-189 4) 石 川 峯 生 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 43-48 5) 川 端 輝 満 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 79-84 6) 西 川 昌 輝 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 49-54 7) 金 属 製 錬 工 学 , 日 本 金 属 学 会 編 , 丸 善 , (1999),79-81 8) 金 属 製 錬 工 学 , 日 本 金 属 学 会 編 , 丸 善 , (1999), 159-163 9) 大 浦 忠 , 三 坂 俊 明 : 静 電 気 学 会 誌 , 6(1990),451-458 10) 大 塚 真 : 公 害 と 対 策 , 12(1986)80-84 11) 矢 野 敏 明 , 榊 原 貞 夫 : 配 管 技 術 , 1(1986)13-138 12) K.Sakamoto, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi:Metallurgical Review of MMIJ, 7(1990)108-121 13) K.Torii, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi: Metallurgical Review of MMIJ, 9(1992)112-125 40 第3章 ストーカ式焼却炉ならびにガス化溶融炉によるシュレッダー ダストの資源循環プロセスの開発 3.1. 緒 言 廃 自 動 車 は 解 体 後 ,エ ン ジ ン ,バ ッ テ リ ー ,タ イ ヤ 等 の 部 品 が 回 収 し た の ち , シ ュ レ ッ ダ ー 事 業 者 に 持 ち 込 ま れ 破 砕 処 理 さ れ る 。ま た ,廃 家 電( 廃 電 気 機 械 器 具 )に つ い て も シ ュ レ ッ ダ ー 事 業 者 に 持 ち 込 ま れ た も の は ,同 様 に 破 砕 処 理 さ れ る 。 こ れ ら は , シ ュ レ ッ ダ ー に よ り 破 砕 処 理 さ れ た 後 , Fe な ら び に Cu, Al 等 の 非 鉄 ス ク ラ ッ プ を 選 別 し 回 収 し て い る が , そ の 残 渣 は , 廃 プ ラ ス チ ッ ク 類 ,金 属 屑 ,ガ ラ ス 屑 お よ び 陶 磁 器 屑 の 混 合 状 態 で 排 出 さ れ る 。こ れ が ,一 般にシュレッダーダストと呼ばれるものである。 (廃棄物処理及び清掃法では, 自 動 車 等 破 砕 物 と い う 。) Fig.1 に 廃 自 動 車 , お よ び 廃 家 電 の 処 理 フ ロ ー を 示 す 1) 。 廃自動車 廃電機械器具 解体処理 プレス処理 シュレッダー処理 破砕,金属選別 回収部品 金属スクラップ シュレッダーダスト 燃料類 エンジン 鉄鋼 金属くず オイル類 バッテリー 非鉄金属 廃プラスチック タイヤ 自家消費 処分 Figure 1 ガラスくず 再生利用,処分 処分 Processing flow of abolition car and discarded home electronic appliances 1) 41 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は , Pb 等 の 重 金 属 を 含 有 し て い る た め , 溶 出 試 験 に よ り 有 害 物 質 が 検 出 さ れ る こ と が あ り ,環 境 汚 染 が 懸 念 さ れ る 。ま た ,香 川 県 豊 島( て し ま )で は ,不 法 投 棄 さ れ た シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト が 原 因 と 見 ら れ る 有 毒 ガ ス ,土 壌 汚 染 が 発 生 し た 。こ の よ う な 社 会 問 題 を 背 景 に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は ,従 来 , 「 安 定 型 最 終 処 分 場 」へ 埋 立 処 分 さ れ て い た が , 「廃棄物の処理お よ び 清 掃 に 関 す る 法 律 施 行 令 」 が 改 正 さ れ , 1995 年 4 月 よ り 「 管 理 型 最 終 処 分 場 」( 遮 水 シ ー ト 等 で 浸 出 液 に よ る 地 下 水 へ の 汚 染 を 防 止 し , 廃 水 処 理 設 備 を 完 備 し た も の )に 埋 立 処 分 す る こ と が 義 務 付 け ら れ た 。し か し な が ら ,管 理 型 最 終 処 分 場 の 残 余 容 量 が 少 な い こ と が 社 会 問 題 化 し て お り ,新 た な 処 分 場 を 建 設 す る 場 合 も ,周 辺 住 民 の 理 解 を 得 る 必 要 が あ り ,行 政( 知 事 等 )か ら 管 理 型最終処分場の建設の許可を得ることは困難な状況にある 2) 。そ こ で ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 安 全 な 処 分 に は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト か ら 重 金 属 を 除 去 し ,無 害 化,減容化を図ることが不可欠であるとの社会的要請が高まってきた。 資 源 リ サ イ ク ル の 観 点 か ら も ,廃 自 動 車 か ら の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は ,国 内 で 1995 年 に は , 年 間 約 120 万 ト ン 発 生 し て お り , そ の 大 部 分 が 「 管 理 型 最 終 処 分 場 」に 埋 め 立 て ら れ て い る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に Cu 3.0% ,Zn 0.5% , Pb 0.3% を 含 有 し て い る と す る と , 年 間 で Cu 3.6 万 ト ン , Zn 0.6 万 ト ン , Pb 0.4 万 ト ン が 廃 棄 さ れ て い る こ と に な る 。こ の 量 に 廃 家 電 か ら の 発 生 分 を 加 え る と , Cu は 5.8 万 ト ン に も な る 3) 。 こ の よ う な 社 会 的 要 請 を 背 景 と し て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト か ら 非 鉄 金 属 を 効 率 的 に 回 収 し ,環 境 汚 染 の 防 止 と 資 源 リ サ イ ク ル を 図 る こ と を 目 的 と し て ,筆 者 ら は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術 開 発 に 取 り 組 ん だ 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術 開 発 は 日 本 の 各 社( 事 業 者 )で 行 わ れ て い る 4-15) 。Table 1 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 プ ロ セ ス の 例 を 示 す 。様 式 A 1 2 ) で は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 機 械 選 別・風 力 選 別・比 重 選 別・重 液 選 別・磁 力 選 別・渦 電 流 選 別 な ど ,種 々 の 選 別 を 組 合 せ て 処 理 し 金 属 を 分 離 回 収 す る が ,可 燃 物 は 焼 却 炉 等 で 焼 却 し て い る 。様 式 B - 1 で は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 銅 製 錬 反 射 炉 4) で処 理し有機物は熱源として燃焼して金属はマットに回収しガラス類はスラグ化 す る 。こ の プ ロ セ ス は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 水 分 変 動 に よ り 熱 バ ラ ン ス ,排 ガ ス バ ラ ン ス が 崩 れ や す い こ と と ,銅 原 料 と と も に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 処 理 す る の で シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 起 因 す る ス ラ グ 量 が 増 加 し 銅 原 料 中 の Cu の 一 部 が 新 た な ス ラ グ に 移 行 し 銅 の 回 収 率 が 低 下 す る 恐 れ が あ る 。様 式 B - 2 で は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を ガ ス 化 炉 で 熱 分 解 処 理 し ,金 属 片 と ガ ラ ス 類 を 焼 却 灰 と し , 飛 灰 の 大 部 分 を ガ ス 化 炉 で 発 生 し た ガ ス を 熱 源 と し て 溶 融 す る 。 Zn, Pb 42 の 低 沸 点 金 属 は 溶 融 炉 の 飛 灰 と な り , Pb な ど を 回 収 で き る 非 鉄 製 錬 所 が 隣 接 し て い な い こ と か ら Pb な ど を 回 収 す る と 輸 送 費 , 処 分 費 等 が 掛 か る の で , キ レートを添加し重金属の溶出を防止し埋立処分する場合が多い。様式Cでは, シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 ま た は ガ ス 化 炉 で 処 理 し ,発 生 し た 焼 却 灰 ,飛 灰 は 隣 接 し た 非 鉄 製 錬 所 で 処 理 し Cu, Pb な ど を 回 収 す る 。 様 式 D で は 様 式 C の ガ ス 化 炉 を 溶 融 キ ル ン に 置 き 換 え た プ ロ セ ス で あ る 。様 式 E は 様 式 B - 1 の ガ ス 化 炉 の 役 割 を 外 熱 キ ル ン に 置 き 換 え た も の で あ る が ,熱 源 を 必 要 と す る 。様 式 F 13)は タ ー ル に 有 機 物 を 溶 か し 金 属 を 分 離 す る プ ロ セ ス で あ る 。 以 上 の 様 式 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn, Pb は 焼 却 処 理 に よ り 飛 灰 に 含 ま れ る の で , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る た め の 設 備 と し て 非 鉄 製 錬 ダ ス ト か ら Zn,Pb を 回 収 し て い る 非 鉄 製 錬 所 が 隣 接 し Zn,Pb の 回 収 設 備 を 利 用 で き る 場 所 に あ る 様 式 C , D が 優 位 で あ る と 考 え る 。 し か し , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る 技 術 は 非 鉄 製 錬 技 術 と し て 確 立 さ れ て い る が , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 処 理( 熱 分 解 処 理 を 含 む )に つ い て は 知 見 が 少 な く ,シ ュ レ ッ ダ ー ダストの資源循環を推進するには,焼却処理において,次の問題がある。 ① シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 低 融 点 ガ ラ ス を 10~ 20% 含 ん で お り ,焼 却 時 に 焼 却 炉またはガス化炉内において,ガラスが溶融し炉壁等へ付着する。 ② シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 塩 素 を 1~ 5% 含 ん で お り ,焼 却 時 に 揮 発 し た Zn,Cu を含む溶融塩化物が排ガス道の内壁へ付着する。 ③ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Al は 高 温 で 焼 却 す る と 溶 融 し ,ス ラ グ ま た は 焼 却 灰に含まれ回収できない。 Ta b l e 1 R e c y c l i n g p ro c e s s o f s h re d d e r re s i d u e 様 式 A 分別処理 概 要 篩別,選別の技術を組み合わせる 実施事業者 拓南商事 豊田メタル B-1 ( 焼却+溶融)処理 反射炉の熱源として処理し,貴金属をマ ット 小名浜製錬所 で 回収する B-2 ( 焼却+溶融)処理 ガス化炉で熱分解後,発生したガスを熱源 ジャパンリサイクル に溶融する 水島エコワークス 青森RER 焼却炉又はガス化炉で ,焼却又は熱分解 小坂製錬所 処理し,焼却灰を非鉄製錬炉で 処理する。 日鉱三日市リサイクル 焼却飛灰も非鉄製錬プロセス で処理する。 C 焼却→溶融処理 D ( 焼却+溶融)→溶融処理 E 乾留処理 F 熱媒浴(サーモバス)処理 キルンで 焼却・溶融処理し,発生した残滓 直島製錬所 を非鉄製錬炉で処理する 外熱キルンで 乾留し残滓から金属を分離す カネムラ る コールタール浴で 有機物と金属を分離する N KK 43 本 研 究 で は , Table 1 の 様 式 C に つ い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 物 を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 装 置 と し て( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 , お よ び ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い て ,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し , 発 生 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’と‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。ま ず ,ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ り シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 を 行 な い ,そ の 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 を 既 存 の 亜 鉛 製 錬 工 程 に お い て 処 理 す る こ と に よ り , Cu を Fe- Cu 合 金 と し て , Pb を 硫 酸 鉛 ま た は 鉛 地 金 と し て , Zn は 亜鉛地金として回収する技術開発を行なった。次に,ガス化溶融炉において, 1) ガ ス 化 炉 部 に お け る 溶 融 ガ ラ ス の 炉 壁 等 へ の 付 着 防 止 , 2) 揮 発 し た Zn, Cu を 含 む 溶 融 塩 化 物 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 へ の 付 着 防 止 ,3)ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト で の Al を 溶 融 さ せ な い シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 技 術 の 開 発 を 行なった。具体的な研究課題として以下の項目があり,各項目について以下, 検討を行なった。 ( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ ク 等 を 焼 却 す る 時 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス が 溶 融 す る と ,燃 焼 が 不 安 定 に な る こ と と , 溶 融 固 化 し た 焼 却 灰 が Cu, Fe 等 の 金 属 片 や 金 属 線 に 溶 着 し 金 属 片 や 金 属 線 と 焼 却 灰 の 分 離 が 難 し く な る こ と か ら ,焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い 温 度 範 囲を検討する。 ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Al が 飛 散 し , ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト 部 で 溶 融 す る こ と に よ り ,連 絡 ダ ク ト を 閉 塞 さ せ な い条件を検討する。 ( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 内 の ガ ス 化 炉 部 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ ク 等 を ガ ス 化 す る 時 に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス に 起 因 す る 固 着 物 を 生 成 さ せ な い ,す な わ ち ,炉 内 で ガ ラ ス を 溶 融 さ せ な い 操 業 温 度 な ど の 運 転 条件を検討する。 ( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 道 で ダ ス ト が 溶 融 し 内 壁 に 溶 着 さ せ な い 温度条件などを検討する。 ( 5 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 中 の 塩 化 物 を 多 く 含 む ダ ス ト が 集 塵 設 備 のバグクロスに付着させない条件を検討する。 ( 6 )非 鉄 製 錬 工 程 18-20) で ,焼 却 灰 ,飛 灰 中 の Cu,Pb,Zn を 回 収 で き る こ と を確認する。 44 3.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 物 性 実 験 に 用 い た シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 組 成 分 析 例 を Table 2 に , 外 観 を Fig.2 に 示 す 。シ ュ レ ッ ダ ー 業 者 に は 廃 自 動 車 の 単 独 処 理 業 者 と 廃 家 電 の 混 合 処 理 業 者 が あ り ,廃 家 電 の 混 合 割 合 に よ っ て 成 分 の 含 有 率 は 異 な る 。本 稿 で 述 べ る 技 術 開 発 で は , 廃 自 動 車 主 体 の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト ( Automobile shredder residue) を 対 象 と し た 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 有 機 成 分 が 主 体 で , Fe, Al, Cu, Zn, Pb 等 の 重 金 属 成 分 と SiO 2 等 の ガ ラ ス 成 分 を 含 有 し て お り , 平 均 的 な 金 属 の 含 有 率 は Cu が 約 3% , Zn が 1% , Pb が 0.5% 程 度 で あ っ た 。 ま た , 嵩 密 度 は 0.2~ 0.3g/cm 3 , 低 発 熱 量 は 15~ 20kJ/g で あ っ た 。 ま た , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に は 金 属 粉 が 含 ま れ て い る た め ,空 気 酸 化 に よ る 自 然 発 火 を 防 止 す る た め , 散 水 し て お り , 搬 入 時 に 水 分 が 5~ 25% 程 度 含 ま れ て い る 。 Table 2 The example of the assayed elements of the shredder residue (unit : mass%) C H Cl S Cu Pb Zn Al Fe SiO2 41.9 5.58 1.31 0.39 3.32 0.40 0.97 4.18 6.49 11.5 Bulkiness specific gravity : 0.2-0.3 g/cm3 , Lower calorific value : 15-20kJ/g Figure 2 Appearance of shredder residue 45 CaO 3.9 3.3. ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術 3.3.1. ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 考 え 方 非鉄製錬設備と製錬技術 18,19) を活用して,効率的な廃棄物の無害化と再資 源 化 を 目 指 し た 。ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ り シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 を 行 な い , その焼却灰ならびに焼却飛灰を既存の電熱蒸留炉を用いた亜鉛製錬工程にお い て 処 理 す る こ と に よ り ,Cu を Fe- Cu 合 金 と し て ,Pb を 硫 酸 鉛 ま た は 鉛 地 金 と し て , Zn は 亜 鉛 地 金 と し て 回 収 す る 技 術 開 発 を 行 な っ た 。 特 に , ス ト ー カ 式 焼 却 炉 で 焼 却 灰 を 溶 融 さ せ る と 燃 焼 が 不 安 定 に な る こ と と ,溶 融 固 化 し た 焼 却 灰 が Cu, Fe 等 の 金 属 片 や 金 属 線 に 溶 着 し 後 工 程 で 金 属 片 や 金 属 線 と 焼 却 灰 の分離が難しくなることから,焼却灰を溶融させない温度範囲を検討した。 実験に用いたストーカ式焼却炉は亜鉛製錬の電熱蒸留炉を改造した炉であ る。ストーカ式焼却炉の特徴として以下の点がある。 1 )シ ュ レ ッ ダ ー の 性 状( 水 分 ,可 燃 物 含 有 量 ,な ど )に 応 じ て ,燃 焼 用 空 気 量を調整できる。燃焼速度が遅く,急激な燃焼は起こりにくい。 2 )亜 鉛 製 錬 設 備 と し て 使 用 し て い る 排 ガ ス 処 理 設 備 ,排 水 処 理 設 備 ,ダ ス ト 処理設備を利用できる。 (1)シュレッダーダストの再資源化の実験フローシート Fig.3 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 実 験 フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト (Shredder residue)は ,亜 鉛 製 錬 所 の 遊 休 の 電 熱 蒸 留 亜 鉛 炉 を 改 造 し た ス ト ー カ 炉 (Incineration furnace)で 焼 却 を 行 な っ た 。焼 却 に よ り 発 生 し た 焼 却 灰 (Bottom ash), お よ び 焼 却 飛 灰 (Fly ash)を 既 存 の 亜 鉛 製 錬 工 程 を 用 い て 処 理 す る こ と で , 焼 却 飛 灰 中 の Zn,Pb を 焼 結 機 (Sintering machine)で 再 度 ,揮 発 さ せ 焼 結 ダ ス ト (Dust)に 濃 縮 し た 。こ の 焼 結 ダ ス ト を ダ ス ト 処 理 工 程 (Dust treatment)で 硫 酸 浸 出 し , Zn は 水 酸 化 亜 鉛 (Hydroxide zinc)と し て 回 収 し , Pb は 硫 酸 鉛 (Lead slime)と し て 回 収 し 鉛 製 錬 所 の 鉛 原 料 と し た 。 Zn を 回 収 し た 水 酸 化 亜 鉛 は 焼 結 工 程 で 他 の 亜 鉛 原 料 (Zinc oxide)に 混 合 し て 焼 結 鉱 (Sinter) と す る 。 焼 結 鉱 は 電 熱 蒸 留 炉 (Electrothermic distillation furnace)に 装 入 し ,亜 鉛 を 還 元 揮 発 さ せ 蒸 留 亜 鉛 (Distilled zinc)と し て 回 収 し た 。 焼 却 灰 中 の Cu は 焼 結 工 程 で 亜 鉛 原 料 に 混 合 し 焼 結 鉱 と し 電 熱 蒸 留 炉 に 装 入 し た 。電 熱 蒸 留 炉 は 高 温 の 強 還 元 雰 囲 気 で あ る こ と か ら ,Cu は Fe- Cu 合 金 と な り ,炉 か ら 他 の 滓 と と も に 排 出 さ れ る 。こ の 排 出 さ れ た 滓 を 磁 力 選 別 し , Fe- Cu 合 金 を 回 収 し た 。 こ の 合 金 は 銅 滓 (Cu residue)と し て 銅 製 錬 所 の 銅 原 料とした。 46 Shredder residue ① Incineration Incineration furnace Exhaused gas Bottom ash, Fly ash Exhausted gas tretment Zinc oxide ② Zinc smelting Residue Sintering machine Sinter Dust Distillation furnace Dust treatment Distilled zinc (PW zinc) Lead slime Slag treatment Cu residue (Reduce iron) Hydroxide zinc Lead smelter Zinc lean slag Copper smelter Figure 3 The general chart of the examination process in the stoker type incinerator (2)焼却実験設備 焼 却 実 験 設 備 の フ ロ ー シ ー ト を Fig.4 に , ス ト ー カ 式 焼 却 炉 の 概 念 図 を Fig.5 に 示 す 。焼 却 炉 は 遊 休 の 電 熱 蒸 留 炉 を 改 造 し た 炉 で あ る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト (Shuredder residue)等 の 可 燃 物 (Combustible waste)は ,ホ ッ パ ー (Feed hopper)を 経 て プ ッ シ ャ ー で ス ト ー カ 炉 (Stoker type Incinerator)に 連 続 投 入 さ れ ,重 油 バ ー ナ ー に よ っ て 着 火 し て ,空 気 を 吹 き 込 む こ と に よ り 連 続 し て 焼 却 し た 。 実 験 炉 の 産 業 廃 棄 物 焼 却 能 力 は 50 ト ン / 日 で , 焼 却 灰 は 焼 却 炉 下 部 の 回 転 炉 床 よ り 連 続 排 出 し た 。焼 却 実 験 に お い て ,当 初 ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 単 独 焼 却 を 実 施 し た が ,付 着 水 分 の 変 動 の た め 焼 却 状 態 が 不 安 定 で あ っ た の で ,乾 燥 し た 廃 プ ラ ス チ ッ ク を 混 合 し て 焼 却 す る 方 法 に 変 更 し た 。焼 却 炉 は 一 47 次 燃 焼 室( ス ト ー カ 炉 )と 発 生 し た 一 酸 化 炭 素 ,チ ャ ー を 燃 焼 す る 二 次 燃 焼 室 か ら な る 。二 次 燃 焼 室 で は 燃 焼 熱 の 有 効 活 用 の た め に 廃 液 を 噴 霧 し て 同 時 に 焼 却 し た 。こ の 二 次 燃 焼 室 に は 重 油 バ ー ナ ー が 設 置 し て あ り ,常 時 ,出 口 温 度 を 1123K 以 上 と な る よ う に 重 油 バ ー ナ ー の 燃 焼 量 を 自 動 制 御 し た 。焼 却 炉 の 排 ガ ス は 12~ 16 千 Nm 3 / 時 発 生 し て お り , ダ イ オ キ シ ン 類 の 再 合 成 を 防 止 す る た め ,焼 却 炉 の 上 部 に 設 置 し た 冷 却 室 (Cooling room)に お い て ,水 の 噴 霧 に よ り 463K に 急 冷 後 ,サ イ ク ロ ン (Cyclone)で 飛 灰 (Fly ash)を 除 去 し た 。排 ガ ス は , さ ら に , 洗 浄 塔 (Washing tower), ダ ス ト チ ャ ン バ ー (Dust chamber), 中 和 塔 (Neutralizing tower)お よ び ミ ス ト コ ッ ト レ ル (Mist ESP)を 通 し ,硫 黄 酸 化 物 , 塩化水素を除去し排突から大気放出した。 Shuredder Residue Feed Hopper Conveyer Bucket Elevator Charge Hopper Incineration Furnace Bottom Ash Exhaust gas Zinc Smelter Cooling Room Cyclone Fly Ash Washing Tower Dust Chamber Neutralizing Tower Waste Water Waste Water Treating Plant Mist ESP Stack atomosphere Figure 4 Flow sheet of the incineration plant 48 Exhaust gas Waste fluid Combustible waste Raw material Stoker type incinerator Bottom Ash Air Rotary table Figure 5 The general chart of the stoker type incinerator 3.3.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 の 実 験 計 画 (1)焼却温度 シュレッダーダスト中のプラスチック等を焼却する時にシュレッダーダス ト 中 に 10~ 20% 含 ま れ て い る ガ ラ ス を 炉 内 で 溶 融 さ せ な い 温 度 を 検 討 し た 。 ①試料 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 で 焼 却 し 発 生 し た 焼 却 灰 ( Bottom ash) を 1mm の 篩 で 篩 い 分 け て 金 属 片 を 除 き , 篩 下 を 試 料 と し た 。 Table 3 に 焼 却 灰 の 組 成 の 分 析 値 を 示 す 。C u , Z n , F e の ほ と ん ど は 酸 化 物 と し て 存 在 し ,約 60% が Na2O,CaO の 塩 基 性 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 ス ラグである。 Ta b l e 3 Cu 6.0 Chemical composition of bottom ash Pb Zn Fe S 0.5 2.0 7.6 1.4 CaO SiO 2 Al 2 O 3 9.8 24.2 24.0 (mass%) Na 2 O C 2.8 5.0 ②測定方法 試 料 30g をア ル ミ ナ る つ ぼ に 入 れ , 超 高 速 昇 温 電 気 炉 で 高 温 保 持 し 溶 融 状 況 を 観 察 し た 。 保 持 温 度 は , 1373K か ら 100K 刻 み で , 1473, 1573, 49 1 6 7 3 K と し ,保 持 時 間 は 3 0 分 と し た 。保 持 終 了 後 ,電 気 炉 か ら 取 り 出 し 冷却した。冷却後,垂直方向に切断し,断面を目視観察した。 ( 2 ) 焼 却 灰 , 焼 却 飛 灰 か ら の Zn, Cu, Pb の 回 収 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を ス ト ー カ 式 焼 却 炉 で 焼 却 し ,発 生 し た 焼 却 灰 ,焼 却 飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 設 備 で 処 理 し た 。 焼 却 灰 な ど の 処 理 時 に お け る Zn, Cu, Pb の 回 収率と蒸留亜鉛等の製品品質が維持されていることを確認した。 3.3.3. 実 験 結 果 (1)焼却温度(焼却灰の溶融温度) 高 温 保 持 後 の 焼 却 灰 の 断 面 写 真 を F i g . 6 に 示 す 。1 3 7 3 K で は 溶 融 せ ず , 1 4 7 3 K 並 び に 1 5 7 3 K で は 部 分 的 な 溶 融 が 認 め ら れ ,1 6 7 3 K で 均 一 融 体 が 生 成していることが観察できた。 従って,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 処 理 す る こ と に よ っ て 得 ら れ た 焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い た め に は , 1473K 以 下 で 焼 却 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら か と な り , 焼却実験時の焼却温度(一次燃 焼 室 温 度 ) は 1273~ 1473K と し た 。 1473K 1373K 1573K F i g u re 6 1673K E x p e r i m e n t a l re s u l t s o f d i s s o l u t i o n t h e r m o m e t r y f o r b o t t o m ash 50 ( 2 ) 焼 却 灰 , 焼 却 飛 灰 か ら の Zn, Cu, Pb の 回 収 ①焼却炉の運転状況 焼 却 炉 の 二 次 燃 焼 室 出 口 と 冷 却 室 出 口 の ガ ス 温 度 の 推 移 を Fig.7 に 示 す 。排 ガ ス は 二 次 燃 焼 室 出 口 で 1123K(850℃ )以 上 ,冷 却 室 出 口 で 463K(190℃ )と 安 定 させることができた。また,焼却排ガスの湿式処理によって発生する排水は 120~ 160m 3 / h あ り ,塩 酸 酸 性 の 排 水 で 重 金 属 を 溶 解 し て い る こ と か ら ,排 水 処 理 工 程 に お い て 二 段 中 和 法 に よ り 重 金 属 を 除 い て 放 流 し た 。な お ,排 水 処 理 工 程 で 回 収 さ れ た 水 酸 化 物 は Zn を 含 ん で お り ,亜 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 し ,Zn を 回収させた 21-23) 。 Figure 7 The temperature change of the incinerater ②焼却灰ならびに焼却飛灰の性状 シュレッダーダストの焼却時に発生する焼却灰は焼却炉下部から排出され, 焼 却 飛 灰 は サ イ ク ロ ン で 回 収 さ れ る 。 焼 却 灰 (Bottom ash), お よ び 焼 却 飛 灰 (Fly ash)の 発 生 比 率 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 含 有 成 分 に よ っ て 変 動 す る が , そ れ ぞ れ 35~ 40% , 3~ 5% 程 度 で あ っ た 。 焼 却 灰 , お よ び 焼 却 飛 灰 の 分 析 例 を Table 4 に 示 す 。 焼 却 灰 の 主 成 分 は , SiO 2 , Fe, Al で , Cu は 5~ 8% , Zn は 2~ 5% ,Pb は 1% 前 後 で あ っ た 。一 方 ,焼 却 飛 灰 の 主 成 分 は ,Cl,Zn,Pb,SiO 2 お よ び Fe で ,Cu は 0.3~ 1% ,Zn は 5~ 10% ,Pb は 1~ 3% ,Cl は 10~ 20% で あ っ た 。 焼 却 物 中 の Cu は 主 と し て 焼 却 灰 に 移 行 し , Pb お よ び Zn は そ れ ぞ れ 40% , 30% 程 度 が 飛 灰 に 移 行 し て い た 。 ま た , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト , 焼 却 灰 , お よ び 焼 却 飛 灰 の 溶 出 試 験 結 果 を Table 5 に 示 す 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に は 埋 51 立 基 準 値 を 超 え る も の も あ っ た が ,焼 却 灰 は い ず れ も 埋 立 基 準 を 満 足 し た 。こ れ は , 焼 却 に よ り Pb 等 で 溶 出 し や す い が , 蒸 気 圧 の 低 い 形 態 に あ る も の が 揮 発し焼却飛灰に移行したためである。 Table 4 Bottom ash Fly ash Table 5 Chemical compositions of bottom ash and fly ash Cu Pb Zn Fe Al SiO 2 CaO MgO Na 6.7 0.4 0.8 2.1 2.7 8.2 11.3 4.9 8.1 1.9 28.0 8.2 9.3 6.4 1.8 2.7 1.3 2.9 (mass%) S Cl 1.0 6.4 2.1 16.0 C 6.0 1.6 Leaching test results of shredder residue and incinerated residue As Zn Pb 0.3 - 0.3 0.3 - 1 <0.005 4.47 0 .27 0.038 0.07 2 <0.005 3.97 0 .51 0.002 0.10 3 <0.005 0.75 0 .11 0.002 0.04 1 <0.005 0.04 <0 .00 5 0.002 0.02 2 <0.005 0.03 <0 .00 5 <0.002 < 0.0 1 3 <0.005 0.02 <0 .00 5 <0.002 0.01 1 <0.005 71.7 1 .35 5.46 0.07 2 <0.005 65.5 1 .17 4.11 0.06 standard of landfilling for environmen t Suredder Residue Bottom Ash Fly Ash (un it : mg/l) Cd Cu Leaching condition : Leach ant Leach in g time pH 6 6h Conc entration 100g/l ③焼却灰ならびに焼却飛灰からの金属回収 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 に よ っ て 発 生 す る 焼 却 灰 ,お よ び 焼 却 飛 灰 は 既 存 の亜鉛製造工程 21) に て 処 理 し , Zn を 回 収 す る と 共 に , Pb と Cu を そ れ ぞ れ 鉛 滓 ,銅 滓 と し て 濃 縮 し た 。そ の 後 ,回 収 さ れ た 鉛 滓 お よ び 銅 滓 は 製 錬 所 に 送 り , 既 存 の 銅 ,鉛 製 錬 工 程 に お い て 処 理 し ,Pb お よ び Cu を そ れ ぞ れ 地 金 と し て 回 収した 22,23) 。 a)Zn 回 収 技 術 焼 却 灰 中 の SiO 2 , Fe お よ び Al 等 の 主 成 分 は 亜 鉛 製 錬 に お け る 溶 剤 成 分 で あ る こ と か ら ,亜 鉛 製 錬 原 料 と 混 合 し て 処 理 す る こ と に し た 。焼 却 飛 灰 は 揮 発 成 分 が 主 体 で , Zn, Pb が 濃 縮 し て い る 。 し か し , 飛 灰 中 の SiO 2 含 有 率 が 8~ 12% と 高 く ,Pb が 2% と 低 か っ た た め ,焼 結 工 程 で 鉛 を 再 揮 発 さ せ た 後 に ,焼 52 結 ダ ス ト か ら Pb を 鉛 滓 ( 硫 酸 鉛 ) と し て 回 収 す る こ と に し た 。 Fig.8 に 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 の 処 理 フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。焼 結 工 程 で は ,焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 (Incinerated residue)を 亜 鉛 滓 等 の 二 次 亜 鉛 原 料 (Zinc oxide)お よ び 粉 コ ー ク ス (Breeze coke)と パ グ ミ ル で 混 合 し , ペ レ タ イ ザ ー (Pelletizer)で 造 粒 す る 。 造 粒 後 , ド ワ イ ト ロ イ ド 式 焼 結 機 (Sintering machine)に よ り 焼 結 す る 。 焼 結 鉱 は 還 元 剤 の 粒 コ ー ク ス (Pea coke)と 混 合 し プ レ ヒ ー タ で 予 熱 後 , 電 熱 蒸 留 炉 (Electrothermic distillation furnace)に 連 続 装 入 し ,2500~ 4500 k W の 電 力 に て 還 元 溶 錬 し た 。炉 内 で ,焼 結 鉱 中 の 酸 化 亜 鉛 は 還 元 さ れ 亜 鉛 蒸 気 と な り コ ン デ ン サ ー に 導 か れ る 。亜 鉛 蒸 気 は コ ン デ ン サ ー 内 の 溶 体 亜 鉛 に 接 触 し て 急 冷 ,凝 縮 し ,溶 体 亜 鉛( 蒸 留 亜 鉛 ,Dislilled zinc)と し て 回 収 し た 。 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 は 亜 鉛 精 鉱 の Zn 濃 度 20~ 30% に 対 し て 2~ 8%と 低 い た め , 亜 鉛 原 料 の み の 操 業 に 比 較 す る と 焼 結 鉱 中 の Zn 濃 度 は 数 % 程 度 低 下 し た が ,蒸 留 亜 鉛 の 品 質 に は 問 題 は 生 じ な か っ た 。回 収 さ れ た 蒸 留 亜 鉛 の 分 析 値 を Table 6 に 示 す 。 一 方 , 焼 結 鉱 (Sinter)に 含 有 さ れ る Cu は 一 部 の Fe と 共 に , 電 熱 蒸 留 炉 で 還 元 さ れ , Cu- Fe 合 金 と し て ス ラ グ 中 に 濃 縮 し た 。 こ の ス ラ グ を 粉 砕 し , 磁 選 す る こ と に よ り , Cu- Fe 合 金 を 銅 滓 (Cu residue)と し て 回 収 し た 。回 収 し た 銅 滓 の 分 析 値 を Table 6 に 示 す 。ま た ,亜 鉛 製 錬 工 程 か ら 発 生 す る ス ラ グ は Pb,As ,Cd の 重 金 属 を 含 ん で い る た め ,工 場 敷 地 内 の 管 理 型 最 終 処 分 場 に 埋 立 処 分 し て い た が , こ れ ら 重 金 属 の 溶 出 試 験 を 行 い ,セ メ ン ト 原 料 等 へ 利 用 し た 。 試 験 で 発 生 し た 亜 鉛 製 錬 ス ラ グ の 溶 出 試 験 結 果 を Table 7 に示す。土壌溶出量基準を満足しており,再利用可能なスラグである。 次 に , 焼 結 時 の 排 ガ ス を 集 塵 し 回 収 し た ダ ス ト は , Pb 等 の 揮 発 元 素 が 濃 縮 し て い た こ と か ら ,ダ ス ト 処 理 工 程 に お い て 処 理 し た 。ダ ス ト に 硫 酸 を 添 加 し 浸 出 す る こ と で , Zn 等 の 金 属 元 素 を 溶 解 し , Pb は 硫 酸 鉛 の 形 で 浸 出 残 渣 と し て 沈 降 分 離 し た 。こ の 浸 出 残 渣 を 乾 燥 し ,鉛 滓 (Lead slime)を 得 た 。回 収 さ れ た 鉛 滓 の 分 析 値 を Table 6 に 示 す 。 以 上 の こ と か ら ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 処 理 す る こ と に よ り , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn, Cu, Pb を 回 収 で き る こ と が わ か っ た 。 Table 8 に 実 験 期 間 中 の 物 量 か ら 求 め た 亜 鉛 製 錬 工 程 に お け る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn,Cu,Pb の 分 配 率 を 示 す 。Zn,Cu,Pb の 回 収 率 は ,そ れ ぞ れ , 96%, 93%, 97%で あ っ た 。 b)Cu,Pb 回 収 技 術 亜 鉛 製 錬 で Cu, Pb を 濃 縮 し た 銅 滓 お よ び 鉛 滓 は , 銅 製 錬 工 程 , 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 さ れ , 電 気 銅 , 粗 鉛 と し て 回 収 で き る こ と を 確 認 し た 。 24,25) 53 Incinerated residue Zinc oxide Breeze coke (Bottom ash, Fly ash) (Secondary materials) Pelletizer Pea coke Sintering machine Off gas Electrostatic precipitator Sinter Sulfuric acid Dust Preheater Rotery Kiln Condeser Electrothermic disillation furnace Leaching tank Crude lead Distilled zinc(PW zinc) Furnace slag Lead refinery Usser Slag treating plant Stack Fuilter Dryer Cu residue Lead slime Copper smelter Lead smelter slag Figure 8 Table 6 Flow sheet of incinerated residue treating process Chemical composition of Distilled Zinc,Copper Residue and Lead slime (mass%) Cu Pb Zn Fe Sb Al2O3 SiO2 CaO Distilled Zinc 0.01 0.87 99.1 0.01 0.003 - - - Cu residue 20.2 0.57 3.50 31.1 0.04 15.1 15.6 5.12 Lead slime 2.96 48.2 4.38 0.42 0.004 1.68 1.14 0.47 Table 7 The results of Leaching test for slag in zinc smelting (unit : mg/l) Cd As Pb Enviromental quality standards for soil quality 0.01 0.01 0.01 slag <0.005 <0.01 <0.01 54 Table 8 Distribution ratios of Cu, Pb, Zn in treating incinerated residue (unit : %) Distribution ratio Materials Zn Cu Pb Bottom Ash 70.5 98.4 57.1 Fly Ash 29.5 1.6 42.9 100.0 100.0 100.0 Distilled Zinc 95.3 0.3 3.5 Crude Lead 0.0 0.0 4.5 Copper Residue 0.3 92.0 12.8 Lead Slime 0.5 0.8 75.9 Zinc Slag 3.9 6.9 3.3 100.0 100.0 100.0 input total output total 55 3.4. ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術 3.4.1. ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 考 え 方 ガ ス 化 溶 融 炉 の 代 表 的 な 炉 と し て は ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 と 竪 型 シ ャ フ ト 式 直 接 溶 融 炉 が あ り ,国 内 の ご み 焼 却 炉 で 実 績 が 多 く あ る 。し か し ,シ ュ レ ッ ダーダストに関してはガス化溶融炉で処理する際の知見が十分に得られてい な い の で ,こ の 方 式 を 用 い た 回 収 技 術 開 発 を 試 み ,そ の 問 題 点 を 明 ら か に す る とともに,その対策技術の開発を行なった。 流動床式ガス化溶融炉と竪型シャフト式直接溶融炉の比較 26) を Table9 に 示 す 。流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は 竪 型 シ ャ フ ト 式 直 接 溶 融 炉 よ り も 下 記 の 点 で シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の 金 属 回 収 に 優 位 で あ る と 考 え ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源化に使用することにした。 ① 竪型シャフト式直接溶融炉は熱源としてコークスを必要とするが,流動床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は プ ラ ス チ ッ ク を 熱 源 と す る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は プ ラ ス チ ッ ク と 金 属 の 複 合 し た 廃 棄 物 で あ り ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は こ の プ ラ ス チックを熱源として有効利用できる。 ② シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Cu,Al,Fe,ス テ ン レ ス は ,竪 型 シ ャ フ ト 式 直 接 溶 融 炉 で は 鉄 合 金 と な る が ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は 各 金 属 を 固 体 の 状 態 で 分離,回収できる。 Fig.9 に 流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 ( 以 後 , ガ ス 化 溶 融 炉 と 記 載 す る 。) の 原 理 17) を 示 す 。プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 性 廃 棄 物 を ガ ス 化 炉 で 熱 分 解 し ,可 燃 性 ガ ス を 部 分 燃 焼 さ せ 熱 分 解 の 温 度 を 保 つ 。 Cu, Fe, Al は 固 体 の ま ま 炉 外 に 排 出 さ れる。発生した可燃性ガスとチャーは溶融炉に送られ灰分をスラグ化する。 そこで,ガス化溶融炉 27) を用いてシュレッダーダストを熱分解し再資源化 する実験を実施することにした。また,溶融炉から排出された溶融スラグは Cu を 含 ん で い る の で ,還 元 剤 に て 酸 化 銅 を 金 属 銅 に 還 元 す る 還 元 炉( 電 気 炉 ) を 設 置 し た 。 28,29) 56 Table 9 Comparison between the gasification melting furnace and the direct melting furnace 流動床を低酸素雰囲気で 77 3~8 7 3Kの温 度で運転し廃棄物を部分燃焼させる。 部分燃焼で 得られた熱が,媒体である砂 によって廃棄物に供給され,熱を受けた廃棄 物は熱分解して,可燃性ガス と未燃固形物 (チャー) が得られる。 可燃性ガスの一部はガス 化炉で燃焼し熱 源とな る。 大部分の可燃性ガスとチャーは溶融炉に 送られ,高温燃焼させ灰を溶融しス ラグ化す る。 流動床から廃棄物中のガレキ,メタルを分 離,排出で きる。 ほぼ自燃で あり,燃料をあまり必要としな い。 ① 流 動 床 式 の ガ ス 化 溶 融 炉 高炉の原理を応用したごみの直接溶融技 術で熱源としてコークスを使用する。 竪型シャフト炉の頂部から廃棄物,コーク ス,石灰石を投入する。 廃棄物は炉内を降下中に温度が上昇し熱 分解し可燃性ガス が発生する。 可燃性ガスは炉頂部から排出され燃焼室 で二次燃焼する。 熱分解後,残滓( ガレキ,メタル等)は羽口 から供給される酸素によりコークスが燃焼し 溶融し,スラグとメタルとなる。 銅は鉄合金のメタルとなる。 スラグは強還元雰囲気で 溶融するので, 鉛濃度が低い。 コークス 石灰石 ャ ② 竪 型 シ フ ト 式 の 直 接 溶 融 炉 サーマ ルリサイクル (再資源化) エネルギー利用 (廃熱回収) ガス化炉 (熱分解炉) シュレッダーダスト プラスチック 77 3~97 3K 可燃性ガス ( 熱分解ガス) チャー (固定炭素) 排ガス 溶融炉 147 3~17 23K スラグ化 部分燃焼 不燃物(ガラス,金属) 金属回収 (銅、鉄、アルミ、SUS) マ テリアルリサイクル (再資源化) Figure 9 スラグ 有効利用 (路盤剤等) マ テリアルリサイクル (再資源化) Principle of the gasification melting furnace 57 (1)実験の概要 Fig.10 に ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 再 資 源 化 の フ ロ ー シ ー ト , Fig.11 に ガ ス 化 溶 融 炉 の 概 略 図 , Table 10 に 主 要 設 備 の 仕 様 を 示 す 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等 の 可 燃 性 廃 棄 物 (Shredder residue) と Cu を 含 む 汚 泥 (Cupriferous dirt)を ガ ス 化 炉 (Gasfication & melting furnace)へ 装 入 し , 823~ 873K で 可 燃 性 物 質 を 熱 分 解 し ,可 燃 性 ガ ス と チ ャ ー( 固 定 炭 素 )を 発 生 さ せ た 。汚 泥 は 炉 内 で 乾 燥 ,粉 砕 さ れ 微 粉 と な る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の 金 属 片 は ガ ラ ス 屑 等 の 不 燃 物 (Non-combustible materials)と と も に 排 出 し た 。 こ の 不 燃 物 を 篩 い 分 け し , Cu, Al 等 の 金 属 片 (Copper scrap)を 回 収 し た 。 ガ ス 化 炉 (Fluidized-bed gasifier)で 発 生 し た 可 燃 性 ガ ス , チ ャ ー , Cu を 含 む 微 粉 は 溶 融 炉 (Melting furnace)へ 導 入 し , そ こ で 可 燃 性 ガ ス , チ ャ ー を 燃 焼 さ せ 1573K の 高 温 に よ り 溶 融 ス ラ グ と し た 。溶 融 ス ラ グ は 溶 融 炉 直 下 に 設 け た 電 気 加 熱 式 の 還 元 炉 (Reductin furnace)で コ ー ク ス に よ り 還 元 し ,ス ラ グ と 粗 銅 (Black copper)に 分 離 し た 。 排 ガ ス は 廃 液 分 解 塔 (Waste fluid resolution tower),急 冷 塔 (Quick-cooling tower)で 1273K か ら 453K ま で 急 冷 後 ,バ グ フ ィ ル タ ー (Bag filter)で 除 塵 し , 触 媒 分 解 塔 (Catalyst resolution tower)で ダイオキシンの分解とアンモニア吹き込みによるNOx の分解後,冷却塔 (Cooling tower) , 中 和 塔 (Neutralizing tower) , ミ ス ト コ ッ ト レ ル (Mist electrostatic precipitator)を 経 て 無 害 化 し 大 気 へ 放 出 し た 。 バ グ ダ ス ト は 水 浸 出 し 塩 素 分 を 除 去 し た 後 ,ガ ス 化 炉 へ 繰 り 返 し た 。中 和 塔 ,冷 却 塔 ,ミ ス トコットレルから発生する排ガスの洗浄水は排水処理工程へ送り二段中和法 により重金属を回収した。 58 Shredder residue Cupriferous dirt Gssfication & melting furnace non-combustible materials Exhaust gas Melt Screen Waste fluid resolution tower Reduction furnace Sand Magnetic separator Quick-cooling tower Black copper Iron scrap Screen Bag filter Bag dust Aluminum scrap Mill Catalyst resolution tower Copper scrap Neutralizing tower Mist electrostatic precipitator atmosphere Figure 10 Flow of the gasification melting process 59 Slag Fluidized- bed Gasifier Conecting duct Raw material Me ltin g fu rnac e Primary combustion chamber Exhaust gas Non-combusitibles Air Non-combusitibles Secondary combustion chamber Molten slag Figure 11 The general chart of the gasification melting furnace Table 10 Specification of the main equipments Equipments Specification Gasifier Fluidized-bed type, Bed area 1.33m2 Melting furnace Circular combustor Reduction furnace Electric furnace, 9m3, 900kW Waste fluid resolution tower 59m3 Quick-cooling tower 120m3 Bag filter Filtration area 640m2 Catalyst resolution tower Honeycomb construction, 14m3 60 (2)ガス化溶融炉の課題 20t / d 実 証 プ ラ ン ト 27) ( ㈱ 荏 原 製 作 所 藤 沢 工 場 )を 使 用 し て シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 の 予 備 実 験 を 実 施 し た 。そ の 結 果 ,炉 床 の 流 動 不 良 に 起 因 す る 固 着 物( ク リ ン カ ー )生 成 や ,ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト 内 に ア ル ミ を 主 体とする低融点ダストの融着による連絡ダクトの閉塞等の問題が発生するこ と を 確 認 し た 。 Fig.12 に ガ ス 化 溶 融 炉 で 発 生 し た 問 題 箇 所 を 示 す 。 ① ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト の 閉 塞 ( Al の 溶 解 ) ②溶融炉内壁の付着物の成長 ③炉下部における固着物の生成 ④溶融炉排ガス道の溶融ダストの付着 ⑤バグフィルターのクロスへのダスト付着 ④ ① ② ⑤ ③ Figure 12 Part of occurrence of problem of the gasification melting furnace 上 記 の 課 題 に 対 し て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 50t/日 処 理 可 能 な ガ ス 化 溶 融 炉を用いて,各種実験を行なった。 61 3.4.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 溶 解 プ ロ セ ス 開 発 の た め の 課 題 対 策 と そ の 実 験 結果 ①ガス化炉と溶融炉間の連絡ダクトの閉塞防止 30) ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を Al の 融 点 の 933K 以 下 と な る よ う に , 873K 程 度 で 制 御し,かつ堆積したダストはビンブローで溶融炉へ吹き飛ばすようにした。 ビ ン ブ ロ ー と は 圧 力 容 器 に 溜 め た 高 圧 空 気( 空 気 ,窒 素 等 )を 瞬 間 的 に 噴 出 さ せ る こ と で あ る 。 Fig.13 に 連 絡 ダ ク ト の 閉 塞 防 止 対 策 を 示 す 。 ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を 873K 程 度 で 制 御 し , か つ ビ ン ブ ロ ー を 行 う こ と で 連 絡 ダ ク ト に 堆 積 し た Al を 含 む ダ ス ト の 溶 融 に よ る ダ ク ト の 閉 塞 を 抑 制 で き る こ と が 確 認できた。 F l ui di zed-bed Ga s i f i er F l ui di zed-bed Ga s i f i er Conecti ng duct Conecti ng duct R a w m a teri a l Mel ti ng f urna ce B i n bl ow B i n bl ow Mel ti ng f urna ce D us t N on-combus i ti bl es Air N on-combus i ti bl es Figure 13 Blockage prevention in the connecting duct 62 ②溶融炉の付着物の溶解除去 31) Fig.14 に 溶 融 炉 の 付 着 物 の 溶 解 除 去 対 策 を 示 す 。 溶 融 炉 上 部 の 側 面 は 水 冷 チ ュ ー ブ に よ り 冷 却 し て い る こ と か ら ,溶 融 物 が 凝 固 し 内 壁 よ り 付 着 物 が 成 長 し た 。図 に 付 着 物 の 状 況 を 示 す 。こ の 付 着 物 を 溶 解 す る た め ,溶 融 炉 上 部 に 酸 素 バ ー ナ ー お よ び 重 油 バ ー ナ ー を 設 置 し た 。付 着 物 が 炉 内 に 成 長 し た 時はこれらのバーナーで加熱溶融できることが確認できた。 Oxygen Oil Burner Melting furnace Air Burner Oxygen Ceiling Conecting duct Oil Figure 14 Air Adhered Dissolution removal of the adhered in the melting furnace 63 ③ ガ ス 化 炉 の 炉 下 部 に お け る 固 着 物( 以 下 、ク リ ン カ と 記 述 す る )の 生 成 と 除 去対策 32,33) Fig.15 に ガ ス 化 炉 の 断 面 図 を 示 す 。 ガ ス 化 炉 か ら 流 動 媒 体 で あ る 砂 ( 以 下 , 流 動 砂 と 記 述 す る 。) と シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る 可 燃 物 を ガ ス 化 し た 後 に 残 っ た 不 燃 物( Fe,Cu,ガ ラ ス ,等 )は 炉 下 部 に 設 置 し た シ ュ ー ト か ら 排 出 さ れ る 。こ の シ ュ ー ト 入 口 部 で ガ ラ ス 成 分 を 主 と す る 流 動 砂 が 滞 留 す る と 溶 融 固 化 し シ ュ ー ト の 壁 に 付 着 し ク リ ン カ が 成 長 す る 。 Table 11 に 流 動 砂 と ク リ ン カ の 分 析 値 を , Fig.16 に ク リ ン カ の 写 真 を 示 す 。 流 動 砂 と ク リ ン カ の 分 析 値 が ほ ぼ 一 致 し て い る こ と か ら ,ク リ ン カ は 流 動 砂 が 溶 融 固 化したものであることがわかる。 そこで,流動砂はシュレッダーダスト中のガラスが主体であることから, こ の ガ ラ ス に つ い て 軟 化 ,溶 融 温 度 を 調 べ た 。ア ル ミ ナ ボ ー ト に こ れ ら の ガ ラ ス を 入 れ , 横 型 環 状 炉 で 873K か ら 100K 毎 に 30 分 間 保 持 し 溶 融 状 況 を 目 視 で 確 認 し た 。 Fig.17 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス の 軟 化 , 溶 融 観 察 結 果 の 写 真 を 示 す 。そ の 結 果 ,973~ 1073K( 700~ 800℃ )で 溶 融 を 開 始 す る こ と が 確 認 で き た 。こ れ よ り ,流 動 砂 の 滞 留 部 で 局 部 的 に 高 温 と な り 流 動 砂 が溶融し,クリンカとして成長すると考えた。増子ら 34) は一般廃棄物の流 動 床 式 焼 却 炉 で 同 様 の 現 象 を 検 討 し ,ガ ラ ス 成 分 な ど の 低 融 点 物 質 が 流 動 砂 と と も に 高 温 状 態 の 炉 内 で 流 動 し な が ら ,砂 を 取 り 囲 む よ う に 固 着 生 成 す る 固 着 機 構 が 考 え ら れ る と 報 告 し て い る 。筆 者 の 試 み た シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 処 理 で は 砂 が ガ ラ ス 成 分 で あ り ,こ の 現 象 が 起 こ り や す い 状 態 に あ る と 考 え る 。 上記の固着現象を抑えるためには排出シュート部で砂を滞留させないこ と が 重 要 で あ る と 考 え ,シ ュ ー ト 部 で 蒸 気 吹 き 込 み に よ る 砂 の 撹 拌 を 行 な っ た 。シ ュ ー ト 部 で 空 気 を 吹 き 込 む こ と に よ る 撹 拌 も 考 え ら れ た が ,シ ュ ー ト 上 部 で 可 燃 物 が 急 激 に 燃 焼 す る こ と が 予 想 さ れ た た め ,不 活 性 ガ ス と し て 水 蒸 気 を 吹 き 込 ん だ 。 こ こ で , シ ュ ー ト 側 壁 の 温 度 が 373K 以 下 と 低 い た め , 水 蒸 気 が 水 滴 と な り 砂 の 抜 き 出 し を 悪 く す る 現 象 が 発 生 し た 。こ の 対 応 と し て ,シ ュ ー ト 内 壁 は 373K 以 上 を 保 つ よ う に 強 制 冷 却 か ら 自 然 冷 却( 水 の 蒸 発 分 だ け 水 を 補 給 す る ) に 変 更 し た 。 32) し か し ,シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物( ク リ ン カ )の 生 成 に よ る 付 着 の 現 象 を 無 く す こ と は で き な か っ た 。次 に シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 増 す こ と で 砂 の 滞 留 を 抑 え る , す な わ ち 撹 拌 を 活 発 に す る こ と を 考 え た 。 Fig.15 に示すように炉下部の排出口を半分としシュート断面積当りの砂排出速度 を 増 し , 実 験 を 行 な っ た 。 Table 12 に 砂 排 出 速 度 を 変 化 さ せ た 時 の 実 験 結 64 果 を 示 す 。 ケ ー ス 1 の シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 2000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は ,シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 が 発 生 し 連 続 運 転 は 300h で あ っ た が , ケ ー ス 2 の シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 4000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は , 連 続 運 転 時 間 は 1300h と な り , シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 は 起 こ ら な い こ と が 確 認 で き た 。 33) 炉下部の排出口 (1)対策前 固着物(クリンカ) (2)対策後(試験) 排出口を半分にする Figure 15 Gasification furnace cross section and clinker prevention 65 Table 11 Chemical composition of clinker and flow sand under furnace (mass%) Cu Fe Zn Pb SiO 2 CaO Al 2 O 3 Na K クリンカ 2.3 8.0 0.6 0.0 45.4 10.0 11.7 0.8 0.1 流動砂 2.4 7.4 1.1 0.1 46.2 10.8 10.8 0.7 0.1 10mm Figure 16 Appearance of clinker 66 Figure 17 Experimental results of dissolution thermometry for glass of the shredder residue Table 12 Comparison of operation results when sand exhaust speed is changed 改善前 改善後 可燃物処理量 (kg/h) 1200 ~ 1500 1200 ~ 1500 砂排出速度 (kg/h) 排出シュートの断面積 (m 2 ) 2000 ~ 3000 1.28 2000 ~ 3000 0.64 排出面積当りの砂排出速度 (kg/h・m 2 ) 2000 4000 1562 ~ 2344 3125 ~ 4687 炉内温度(排出シュート上部) (K) 550 ~ 600 550 ~ 600 流動空気量 (Nm 3 /h) 1250 ~ 1500 1250 ~ 1500 多量 300 ほぼ無し 1200 固着物の生成 連続運転時間 (h) 67 ④溶融炉排ガス道の溶融ダストの付着と除去対策 35) 排 ガ ス 温 度 1473K 程 度 の 排 ガ ス 中 に 含 ま れ る ダ ス ト と 揮 発 金 属 は ,溶 融 炉 上 部 の 排 ガ ス 道( 逆 U 字 管 構 造 )の 内 壁 に 溶 着 し ,ガ ス 道 を 閉 塞 さ せ た 。Table 13 に 付 着 し た ダ ス ト の 分 析 値 を 示 す 。 ス ラ グ 成 分 が 約 50% , 残 り は Zn,Pb 等 の 酸 化 物 で あ る 。Zn,Pb は 蒸 気 と し て 排 ガ ス 中 に 含 ま れ て い た も の が ,酸 化 と 温 度 低 下 に よ り ガ ス 状 か ら 液 状 と な る 。ス ラ グ 成 分 が 固 化 を 開 始 す る 温 度 は 1473~ 1573K 程 度 で あ る 。ダ ス ト が 溶 着 す る と こ ろ の 雰 囲 気 温 度 は 1473 ~ 1673K で あ り ,内 壁 表 面 は 外 側 か ら の 冷 却 も あ り 1273K 程 度 で あ る 。こ の こ と か ら ,固 化 し た ス ラ グ 成 分 と 液 状 の Zn,Pb 酸 化 物 が 混 ざ り ,内 壁 へ 溶 着 す る も の と 考 え た 。そ こ で ,液 状 化 し た Zn,Pb ま た は 蒸 気 の Zn,Pb を 1473K か ら 1273K に 雰 囲 気 温 度 を 下 げ る こ と で ,ダ ス ト は 固 体 と な り 溶 着 す る 現 象 を 抑 制 で き る と 考 え た 。 Fig.18 に 溶 融 炉 排 ガ ス 道 の 溶 融 ダ ス ト の 付 着 防 止 対策を示す。排ガス道の側面から水を吹き込み,排ガス道の雰囲気温度は 1273K 程 度 で 調 整 し た 。そ の 結 果 ,ダ ス ト は 粒 状 の 固 体 と な り 内 壁 に 溶 着 す る 現 象 は 抑 え ら れ る こ と が 確 認 で き た 。ま た 粒 状 の 堆 積 し た ダ ス ト は エ ア ブ ローにより吹き飛ばすことが可能であることも確認できた。 ⑤バグフィルターのクロスへのダスト付着と除去対策 36) シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は Zn,Pb,Cu,Cl を 含 む た め ,排 ガ ス を 453K に 冷 却 し た 後 に 発 生 す る ダ ス ト は 酸 化 物 ,塩 化 物 の 形 態 か ら な る 。こ の ダ ス ト は 潮 解 性がありダストを回収するバグクロスに付着し剥離しない現象が発生した。 こ の 対 策 と し て ,バ グ 入 口 に 消 石 灰 を 吹 き 込 む こ と で ダ ス ト の 潮 解 性 を 抑 え バ グ ク ロ ス か ら の 剥 離 性 を よ く で き る こ と を 確 認 し た 。 Table 14 に 消 石 灰 吹き込み後のバグダストの分析値を示す。 68 Table 13 CaO 24.0 33.6 SiO 2 10.0 14.1 sampleA sampleB Chemical composition of melted dust of duct Fe 2 O 3 4.3 4.8 Al 2 O 3 2.3 6.1 Cu 19.0 17.1 Zn 14.0 11.0 Pb 1.2 0.9 Na 0.0 0.1 (mass%) Cl 0.0 0.2 1373~1673K 溶融物が付着 (1)対策前 Water 1223~1323K 粒状の固体 (2)対策後(試験) Figure 18 Table 14 sampleA sampleB SiO 2 10.3 9.5 Prevention from adhesion of melted dust in duct Chemical composition of dust in bag hause CaO 17.9 23.1 Al 2 O 3 8.7 7.3 Cu 8.5 6.0 69 Zn 4.8 4.5 Pb 6.0 4.3 Cl 15.6 19.6 (mass%) SO 4 14.7 12.0 3.5. 実 操 業 へ の 適 用 (1)シュレッダーダスト等処理量,稼働時間の推移 Fig.19 に N 社 の 2001 年 下 期 ~ 2004 年 上 期 の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等( シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト と 廃 プ ラ ス チ ッ ク の 混 合 物 )処 理 量 と 稼 働 時 間 を 示 す 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等 処 理 量 は 2001 年 下 期 の 4000t/期 か ら 2004 年 上 期 は 6000t/期 に 増 加 し た 。 ま た 稼 働 時 間 は 2003 年 下 期 に は 1300 時 間 の 連 続 運 転 を 達 成 し た 。 7,000 5,000 4,000 3,000 シュレッダーダスト等処理量 amount ton/termt/期 1,000 operatinghr/期 time 稼働時間 Figure 19 first half of 2004 2004年上期 2003年下期 second half of 2003 hr/term first half of 2003 2003年上期 2002年下期 second half of 2001 2001年下期 0 second half of 2002 2,000 first half of 2002 2002年上期 ton/term, hr/term t/期 hr/期 6,000 The amount of processed shredder residue and compound of the waste plastic such as the shredder residue and operating time (2)有価物回収量 Table 15 に N 社 の 2004 年 上 期 の 月 平 均 の 可 燃 物 処 理 量 , 有 価 物 回 収 量 , ス ラ グ 発 生 量 を 示 す 。 銅 ス ク ラ ッ プ 60t ( 銅 量 10t ), ア ル ミ ス ク ラ ッ プ 20t ( ア ル ミ 量 10t ) を 回 収 し , 銅 の 回 収 率 は 約 75% で あ っ た 。 Table 15 The amount of the processed such as shredder residue, the amount of valuable metals collected and the amount of slag developed (unit : tons/month) amount Processed such as shredder residue Valuable metals Copper scrap collected Aluminum scrap Slag developed 826 60 20 250 70 (3)運転状況 N 社 の ガ ス 化 溶 融 炉 の 運 転 状 況 の 一 例 と し て 炉 床 温 度 と 炉 床 圧 力 ,排 ガ ス の CO 濃 度 の 経 時 変 化 を Fig.20~ 23 に 示 す 。 炉 床 温 度 は 853~ 873K, 炉 床 圧 力 は 15KPa,溶 融 炉 温 度 は 1473~ 1573K,排 ガ ス の CO 濃 度 は 50ppm 以 下 で 安 定 し た 操 業 を 継 続 し て い る こ と が わ か る 。 Fig.22 の 溶 融 炉 温 度 が 急 激 に 変 化 し て い temperature(K) 炉床温度(℃) るところは温度計の清掃時である。 700 973 600 873 500 773 7:00 5:00 3:00 1:00 23:00 21:00 19:00 The fluidized bed temperature 20 15 10 5 5:00 7:00 7:00 3:00 1:00 23:00 21:00 19:00 5:00 Figure 21 17:00 15:00 13:00 11:00 9:00 0 7:00 pressure(kPa) 炉床圧力(kPa) Figure 20 17:00 15:00 13:00 11:00 9:00 7:00 400 673 The fluidized bed pressure Figure 22 3:00 1:00 23:00 21:00 19:00 17:00 15:00 13:00 11:00 9:00 7:00 temperature(K) 溶融炉温度 (℃) 1500 1773 1400 1673 1300 1573 1200 1473 1100 1373 1000 1273 Temperature of melting furnace 150 100 50 Figure 23 CO concentration in exhaust gas (12%O 2 ) 71 7:00 5:00 3:00 1:00 23:00 21:00 19:00 17:00 15:00 13:00 11:00 9:00 0 7:00 CO (ppm) 200 (4)スラグの溶出試験結果 溶 融 ス ラ グ は FeO-SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 系 で あ り , 重 金 属 は SiO 2 ネ ッ ト ワ ー ク に 取 り 込 ま れ て 溶 出 は し づ ら い 。 Table 16 に ス ラ グ の 溶 出 試 験 結 果 を 示 す 。 全 て 土 壌 汚 染 対 策 法 の 土 壌 溶 出 量 基 準 を 満 足 し て お り ,ス ラ グ は イ ン タ ー ロ ッ キ ン グ ブ ロ ッ ク 材 と し て 有 効 利 用 し て い る 。N 社 の ス ラ グ を 用 い た イ ン タ ー ロ ッ キ ン グ ブ ロ ッ ク は 2003 年 に 富 山 県 リ サ イ ク ル 製 品 の 認 定 を 受 け た 。Fig.24 に インターロッキングブロックの写真を示す。 Table 16 The result of the slag elusion test Environmental quality standards for soil quality Slag Figure 24 As Pb unit : mg/l Cd 0.01 0.01 0.01 <0.005 <0.01 <0.01 The photograph of interlocking block 72 3.6. 結 言 本 研 究 で は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 資 源 循 環 プ ロ セ ス に 関 し て ,シ ュ レ ッ ダ ーダストに含まれるプラスチック等の可燃物を焼却または熱分解する装置と し て ( 1 ) ス ト ー カ 式 焼 却 炉 , お よ び ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い て ,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し , 発 生 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’と‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。さ ら に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 関 し て は ガ ス 化 溶 融 炉 で 処 理 す る 際 の 知 見 が 十 分 に 得 ら れ て い な い の で ,こ の 方 式 を 用 い た 回 収 技 術 開 発 を 試 み ,そ の 問 題 点 を 明 ら か に す る と と も に ,そ の 対 策 技 術 の 開 発 を 行 な っ た 。具 体 的 な 研 究 課 題 と し て 以 下 の 項 目 が あ り ,各 項 目 に ついて検討した。 ( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ ク 等 を 焼 却 す る 時 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス が 溶 融 す る と ,燃 焼 が 不 安 定 に な る こ と と , 溶 融 固 化 し た 焼 却 灰 が Cu, Fe 等 の 金 属 片 や 金 属 線 に 溶 着 し 後 工 程 で 金 属 片 や 金 属 線 と 焼 却 灰 の 分 離 が 難 し く な る こ と か ら ,焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い温度範囲を検討した。 ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー 中 の Al が 飛 散 し , ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト で 溶 融 す る こ と に よ り ,ダ ク ト を 閉 塞 さ せ な い 条 件 を 検 討 した。 ( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 の ガ ス 化 炉 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ ク 等 を ガ ス 化 す る 時 に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス に 起 因 す る 炉 下 部 に お け る 固 着 物( ク リ ン カ )を 生 成 さ せ な い ,す な わ ち ,炉 内 で ガ ラ ス を 溶 融 さ せ ない操業温度などの運転条件を検討した。 ( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 道 で ダ ス ト が 溶 融 し 内 壁 に 溶 着 さ せ な い 温度条件などを検討した。 ( 5 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 中 の 塩 化 物 を 多 く 含 む ダ ス ト が 集 塵 設 備 のバグクロスに付着させない条件を検討した。 ( 6 ) 非 鉄 製 錬 工 程 で , 焼 却 灰 , 飛 灰 中 の Cu, Pb, Zn を 回 収 で き る こ と を 確 認した。 そ し て ,実 験 結 果 か ら シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 に 関 し て ,以 下 の こ と がわかった。 ( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 を 超 高 速 昇 温 炉 で 高 温 保 持 し 溶 融状態を観察した。その結果,1473K な ら び に 1573K で は 部 分 的 な 溶 融 が 認 め ら れ , 1673K で 均 一 融 体 が 生 成 し て い る こ と が 観 察 で き た 。 従 っ て , 73 1473K 以 下 で 焼 却 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を 873K 程 度 で 制 御 し , か つ ビ ン ブ ロ ー を 行 う こ と で ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト に 堆 積 し た Al を 含 むダストの溶融によるダクトの閉塞を抑制できることが確認できた。 ( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,ガ ス 化 炉 か ら 流 動 媒 体 の 砂( 流 動 砂 )と シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る 可 燃 物 を ガ ス 化 し た 後 に 残 っ た 不 燃 物( Fe,Cu,ガ ラ ス ,等 )は 炉 下 部 に 設 置 し た シ ュ ー ト か ら 排 出 さ れ る 。こ の シ ュ ー ト 入 口 部 で ガラス成分を主とする流動砂が滞留すると溶融固化しシュートの壁に付着し 固 着 物 が 成 長 す る 。流 動 砂 と 固 着 物 の 分 析 値 が ほ ぼ 一 致 し 、固 着 物 は 流 動 砂 が 溶 融 固 化 し た も の で あ る こ と が わ か っ た 。ま た ,流 動 砂 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス が 主 体 で あ り 、 こ の ガ ラ ス は 973~ 1073K で 溶 融 を 開 始 す る こ と を 確認した。上記より、流動砂の滞留部で局部的に高温となり流動砂が溶融し、 固 着 物 と し て 成 長 す る た め ,ガ ス 化 炉 で は 砂 を 滞 留 さ せ な い こ と が 重 要 で あ る と 考 え ,シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 増 す 実 験 を 行 な っ た 。シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 2000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 が 発 生 し た が , 砂 排 出 速 度 を 約 4000kg/h・ m 2 と し た 場 合には,シュート部で溶融固着物の生成による付着は起こらなかった。 ( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 温 度 1473K 程 度 の 排 ガ ス 中 に 含 ま れ る ダ ス ト と 揮 発 し た 金 属 が ,溶 融 炉 上 部 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 に 溶 着 し ,ガ ス 道 を 閉 塞 さ せ た 。溶 着 物 は ス ラ グ 成 分 が 約 50% ,残 り は Zn,Pb 等 の 酸 化 物 で あ っ た 。ダ ス ト が 溶 着 す る と こ ろ の 雰 囲 気 温 度 は 1473~ 1673K,内 壁 表 面 は 外 側 か ら の 冷 却 も あ り 1273K 程 度 で あ り ,固 化 し た ス ラ グ 成 分 と 液 状 の Zn,Pb 酸 化 物 が 混 ざ り ,内 壁 へ 溶 着 す る も の と 考 え た 。 そ こ で , 液 状 化 し た Zn,Pb ま た は 蒸 気 の Zn,Pb を 1473K か ら 1273K に 雰 囲 気 温 度 を 下 げ る こ と で ,ダ ス ト は 固 体 と な り 溶 着 す る 現 象 を 抑 制 で き る と 考 え ,排 ガ ス 道 の 側 面 か ら 水 を 吹 き 込 み ,排 ガ ス 道 の 雰 囲 気 温 度 を 1273K 程 度 と し た 。そ の 結 果 ,ダ ス ト は 粒 状 の 固 体 と な り 内 壁に溶着する現象は抑えられることを確認できた。 ( 5 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,発 生 す る ダ ス ト は 酸 化 物 ,塩 化 物 の 形 態 か ら な る 。こ の ダ ス ト は 潮 解 性 が あ り ダ ス ト を 回 収 す る バ グ ク ロ ス に 付 着 し 剥 離 し な い 現 象 が 発 生 し た 。バ グ 入 口 に 消 石 灰 を 吹 き 込 む こ と で ダ ス ト の 潮 解 性 を 抑 え バグクロスからの剥離性をよくできることを確認した。 ( 6 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 ,飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 し , 焼 却 灰 , 飛 灰 中 の Cu, Pb, Zn を 回 収 で き る こ と を 確 認 し た 。 得られた成果を N 社の流動床式ガス化溶融炉の操業に適応させ,連続運転 74 1300 時 間 を 達 成 し ,年 間 12000t の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 再 資 源 化 可 能 と し た 。 参考文献 1) 厚 生 省 生 活 衛 生 局 水 道 環 境 部 廃 棄 物 対 策 室 : シ ュ レ ッ ダ ー 処 理 さ れ る 自 動 車 及 び 電 気 機 械 器 具 の 事 前 選 別 ガ イ ド ラ イ ン , (1995)3. 2)環 境・循 環 型 社 会 白 書 平 成 20 年 度 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登 久 次 , 矢 部 彰 二 : 特 開 2005-282960 34)増 子 知 樹 ,岩 本 聡 浩 ,占 部 武 生:東 京 都 清 掃 研 究 所 研 究 報 告 ,28(1998),138. 35)宮 林 良 次 , 能 登 久 次 : 特 開 2005-273968 36)仲 西 郁 朗 , 高 野 和 夫 , 入 江 正 昭 , 高 沢 洋 一 , 宮 林 良 次 : 特 開 2005-30663 76 第4章 廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とそ の流動性の解析 4.1. 緒 言 非鉄製錬技術を利用した廃棄物処理プロセスは,高温溶融技術に優れ て お り ,こ の 技 術 を 利 用 し た プ ロ セ ス に 対 し て 処 理 ニ ー ズ の 高 い 廃 棄 物 と し て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト ,鉛 含 有 ガ ラ ス ,石 綿 含 有 物 が あ げ ら れ る 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 廃 自 動 車 ,廃 家 電 品 の リ サ イ ク ル 事 業 者 か ら F e , Al, Cu 等 を 回 収 し た 後 に 発 生 す る 残 渣 で あ る 。 こ れ ら は , Cu を 1~ 5% 含 有 し て お り ,C u 等 の 有 価 物 の 再 資 源 化 が 求 め ら れ て い る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 廃 プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 物 を 30~ 70%, 塩 素 を 3~ 5%含 有 し ていることから,第3章では可燃物の予備焼却処理により,これらを除 去した残渣(焼却灰)を溶融処理し銅を効率的に回収する方法を検討し た 結 果 に つ い て 述 べ た 。 1,2) 鉛含有ガラス屑は,廃家電品リサイクル工場から,ブラウン管や液晶 パ ネ ル を リ サ イ ク ル す る 際 に 発 生 す る 。P b を 無 害 化 し 資 源 リ サ イ ク ル す る た め に は , 鉛 回 収 技 術 を 有 す る 溶 融 処 理 が 望 ま し い 。 3) また,石綿(アスベスト)含有廃棄物については,建築物の解体に伴 って,スレート等の石綿含有建材,吹き付け石綿,石綿含有家庭用品等 の 廃 棄 物 が 今 後 , 大 量 に 発 生 す る 。 Fig.1 に 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 処 理 の 流 れ を 示 す 。 こ れ ら は , 国 内 に 今 後 30 年 間 で 4300 万 ト ン を 超 え る 量 が 発 生 し , 毎 年 100 万 ト ン /年 以 上 発 生 す る と 言 わ れ て い る 。 廃 石 綿 含 有 廃 棄 物 は ,飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 と 非 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 に 廃 棄 物 処 理 法 で 区 別 されている。飛散性石綿廃棄物は,建築物の吹き付け石綿および石綿を 含 有 し た 保 温 材 で 除 去 作 業 時 に 飛 散 の 恐 れ が あ る も の で ,廃 棄 物 処 理 法 では特別管理産業廃棄物に指定されている。非飛散性石綿廃棄物は,石 綿がセメント,珪酸カルシウム等と一体化したもので,特別管理産業廃 棄 物 に は 指 定 さ れ て い な い が ,破 壊 ま た は 破 断 時 に 飛 散 の 恐 れ が あ る 廃 棄物である。特に,飛散性石綿廃棄物を溶融処理できる産業廃棄物処理 業 の 許 可 業 者 は 国 内 に 15 社 ( 2005 年 8 月 時 点 ) し か な く , 2004 年 度 に 処 理 さ れ た 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 は 18,334 ト ン , そ の 内 , 溶 融 処 理 は 1315 ト ン で あ っ た と 報 告 さ れ て い る 。4 ) 5 ) 同 年 の A 社 の 溶 融 処 理 量 は 2 4 6 ト ンであった。現在,これらのほとんどは埋立処分されていることから, 石綿含有廃棄物の溶融処理 6- 8) についても社会的ニーズが高い。 77 F i g u re 1 F l o w o f p ro c e s s i n g o f a s b e s t o s こ の よ う に 種 々 の 廃 棄 物 を 安 全 に 無 害 化 ,な ら び に 再 資 源 化 す る 溶 融 処 理 技 術 の 確 立 が 望 ま れ て い る 。 こ こ で , 廃 棄 物 に 含 ま れ る Cu を リ サ イ ク ル す る こ と を 主 目 的 と す る 廃 棄 物 溶 融 炉 と し て ,次 の プ ロ セ ス を 開 発 し た 。 廃 棄 物 溶 融 炉 の 概 略 図 を Fig.2 に 示 す 。 炉 本 体 は , 長 さ 11m, 幅 4 m , 高 さ 4 m の 耐 火 物( レ ン ガ )構 造 で あ り ,廃 棄 物 等 の 原 料 は 天 井 部 に設置した 7 つの原料装入口から投入する。原料は,3 本の重油バーナ ーによる火炎で溶解する。高温の火炎を得るため,燃焼空気には酸素を 富 化 し て い る 。 3),9- 11)廃 棄 物 等 の 原 料 に 含 ま れ る Cu は,金属または酸化 物の形態が主であり,原料と と も に 硫 化 鉄 鉱 ( FeS2) を 投 入 し マ ッ ト に 濃 縮 す る 。こ の と き ,A u お よ び A g 等 も C u に 付 随 し て マ ッ ト に 吸 収 さ れ る 。 一 方 , 主 要 成 分 で あ る 原 料 中 の Fe2O3,SiO2,Al2O3 お よ び CaO 等 は , 安 定 したガラス質のスラグを形成する。マット(硫化物)とスラグは,溶体 の比重差により分離する。代表的な原料ならびにマット,スラグの組成 の 例 を Table 1, 2, 3 に 示 す 。 上記の廃棄物溶融炉では,シュレッダーダストの焼却灰,ガラス屑,汚泥, ばいじん等の種 々 の 廃 棄 物 ( Fe の 多 い も の ,SiO2 の 多 い も の ,Al2O3 の 多 いもの等)を目標のスラグ組成となるように配合し溶解している。スラ グ 温 度 は , 炉 体 構 造 , 加 熱 能 力 か ら 1573K 付 近 で 調 整 す る 。 ス ラ グ 温 度 が鉄鋼製錬プロセスと比べて低いために,スラグの液相領域は狭く,固 相が析出しやすい。そのため,廃棄物の中で低融点組成の部分から溶解 を 開 始 し ,液 相 領 域 の 組 成 に 入 る よ う に 他 の 廃 棄 物 の 表 面 に 接 触 し な が 78 ら溶解が進行する。この過程で安定操業の阻害要因である高融点の「未 溶解物」が生成する。ここで,未溶解物とは,廃棄物の中で融点の高い 部 分 が 溶 け 残 っ た も の や ,一 旦 は 溶 解 し た が 融 体 の 温 度 低 下 に よ り 固 相 と し て 析 出 し た も の と 定 義 す る 。 ま た , 処理プロセスで発生するメタルを 完 全 に 酸 化 す る こ と が で き な い た め , 廃 棄 物 中 の 金 属 成 分 ( F e ,S U S ) は 溶 融スラグとならず,炉底で固体のメタル層を形成しやすい。 しかし,廃棄物溶融炉における廃棄物の溶解過程に関する知見は少な いことから,安定した操業を継続する指針を得るため,廃棄物の溶解お よび固相析出挙動に関する基礎的な解析が望まれている。 そこで本研究では,まず,廃棄物溶融炉の主要な原料であるシュレッ ダーダストの焼却処理残渣(焼却灰)について,溶融炉の操業温度の指 針を得るために,均一融体を生成する温度を測定した。次に,廃棄物溶 融 炉 の ス ラ グ と 未 溶 解 物 に つ い て ,流 動 性 測 定 と 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 を 行 な い ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ の 流 動 性 に つ い て 解 析 し た 。 最 後 に ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処 理について,熱力学データを利用した相平衡解析を行ない,溶融処理条 件について検討した。 4m Charge hoppers Slag Flame Raw material Burners Matte 11m Figure 2 Schematic drawing of the melting furnace 79 Table 1 Chemical Composition of raw materials of the melting furnace Cu 2 0 0 6 0 0 Dirt A Dirt B Dust Ash Glass waste Asbestos Table 2 Cu 1 1 0 1 3 0 Zn 29 Fe 1 1 1 1 0 0 CaO 10 50 0 8 1 2 Fe 1 Table 3 0.4 Zn SiO 2 8 10 15 10 1 1 (mass%) MgO Al2O3 10 2 52 24 70 52 8 2 10 24 5 4 0 0 0 1 0 37 Chemical Composition of matte of the melting furnace Pb Cu Pb 1 S 38 CaO 20 SiO2 0.1 (mass%) Al2O3 MgO 0.1 0.1 0 Chemical Composition of slag of the melting furnace Pb Zn 0.1 Fe 0.5 S 20 CaO 0.5 (mass%) Al2O3 MgO SiO 2 10 29 7 3 4.2. 廃 棄 物 の 溶 解 温 度 の 測 定 先ず最初に廃棄物溶融炉の主原料のひとつであるシュレッダーダス トの焼却灰について溶解温度を測定した。 4.2.1. 試 料 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 で 焼 却 し 発 生 し た 焼 却 灰 ( 主 灰 ) を 1mm の 篩 で 篩 い 分 け て 金 属 片 を 除 き , 篩 下 を 試 料 と し た 。 Table 4 に 分 析 値 を 示 す 。 Cu,Zn,Fe の ほ と ん ど は 酸 化 物 と し て 存 在 す る 。 Bottom ash Table 4 Cu Pb 6.0 0.5 Chemical Composition of bottom ash Zn 2.0 Fe S 7.6 1.4 CaO 9.8 SiO2 24.2 Al2O3 24.0 (mass%) Na2O C 2.8 5.0 4.2.2. 測 定 方 法 試 料 30g を ア ル ミ ナ る つ ぼ に 入 れ , 超 高 速 昇 温 電 気 炉 で 高 温 保 持 し 溶 融 状 況 を 観 察 し た 。 保 持 温 度 は , 1373K か ら 100K 刻 み で , 1473, 1573, 80 1 6 7 3 K と し ,保 持 時 間 は 3 0 分 と し た 。保 持 終 了 後 ,電 気 炉 か ら 取 り 出 し 冷却した。冷却後,垂直方向に切断し,断面を目視観察した。 4.2.3. 結 果 高 温 保 持 後 の 焼 却 灰 の 断 面 写 真 を F i g . 3 に 示 す 。1 3 7 3 K で は 溶 融 せ ず , 1 4 7 3 K 並 び に 1 5 7 3 K で は 部 分 的 な 溶 融 が 認 め ら れ ,1 6 7 3 K で 均 一 融 体 が 生 成していることが観察できた。 従って,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 処 理 す る こ と に よ っ て 得 ら れ た 焼 却 灰 を 溶 融 す る た め に は 少 な く と も 1673K 程 度の温度まで加熱する必要があることが明らかになった。なお,3 章 3.3.3. で は 本 実 験 で ス ト ー カ 式 焼 却 炉 の 炉 内 で 焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い 条件を検討した。 1473K 1373K 1573K Figure 3 1673K Experimental results of dissolution thermometry for bottom ash 4.3. 廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 及 び 未 溶 解 物 の 流 動 性 測 定 未 溶 解 物 を 処 理 す る 操 業 温 度 の 指 針 を 得 る た め ,廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グおよび未溶解物の流動性を測定した。 4.3.1 試 料 廃棄物溶融炉のスラグ排出口にて,スラグおよび未溶解物を採取し, 81 こ れ ら を 粉 砕 し た も の を 試 験 試 料 と し た 。未 溶 解 物 は 溶 融 ス ラ グ 上 に 半 溶 融 状 態 で 浮 上 し な が ら 排 出 さ れ る 。 試 料 の 分 析 値 を Table 5 に 示 す 。 Fe は , FeOx ( X=1 ~ 1.33) の 形 態 で 存 在 す る 。 Table 5 Chemical composition of slag and non-dissolved compound (mass%) Cu Pb Zn Fe S CaO SiO2 Al2O3 MgO Na2O K2O Slag 0.3 0 1 20 0 15.4 32.1 13.0 3.2 2.8 2.3 Non-dissolved compound 6.0 1 2 29 3 9.9 18.4 10.4 2.9 1.8 0.7 Non-dissloved compound (半溶融状態) Slag(溶融状態) Matte 4.3.2. 流 動 性 測 定 方 法 溶融スラグの融点,流動性を評価するには,精度のよい回転円筒法等 による粘度測定方法 12) が 用 い ら れ て い る が ,本 研 究 で は 下 記 に 示 す 簡 易 的な方法で流動性を評価した。 試 験 装 置 の 概 略 図 を F i g . 4 に 示 す 。粉 砕 し た 試 料 を 長 さ 約 1 4 c m ,幅 約 1 . 5 c m の ア ル ミ ナ ボ ー ト ( 主 材 質 : Mullite ,化 学 組 成 : SiO 2 66%, Al 2 O 3 28%) に 8 g 装 入 す る 。試 料 は ボ ー ト の 片 側 半 分 に 入 れ ,5 度 の 傾 斜 を 持 た せ て 横 型 管 状 炉 に 配 置 す る 。昇 温 保 持 中 の 試 料 の 過 剰 な 酸 化 を 抑 え る た め ,管 状 炉 内 は 窒 素 雰 囲 気 ( N2 99.99% ) と し , 所 定 温 度 で 15 分 間 保 持 す る 。 そ の 後,冷却し,先端部の流下長さから流動性を評価する。保持温度は,ス ラ グ に つ い て は 1273 か ら 1373K ま で , 未 溶 解 物 は 1398 か ら 1498K ま で と し , 両 者 と も 25K 毎 に 試 験 を 行 な っ た 。 保 持 温 度 の 下 限 は , 目 視 で 溶 融 開 始 が 観 察 さ れ た 温 度 と し た 。予 備 実 験 に 基 づ く と ,流 下 長 さ が 3 . 5 c m 以上になると,試料が均一に溶融しているように見え,廃棄物溶融炉内 の融体としては流動性も良好と判断している。 4.3.3. 流 動 性 の 測 定 結 果 廃 棄 物 溶 融 炉 ス ラ グ の 流 動 性 の 測 定 結 果 を Fig.5 に 示 す 。 1273K 付 近 か ら 溶 融 を 開 始 し , 1348K で 良 好 な 流 動 性 を 示 す こ と が わ か っ た 。 未 溶 解 物 の 流 動 性 の 測 定 結 果 を Fig.6 に 示 す 。 1398K 付 近 か ら 溶 融 を 82 開 始 し , 1498K で 良 好 な 流 動 性 を 示 す こ と が わ か っ た 。 Fig.5,6 に 示 す 流 動 性 の 測 定 結 果 よ り , 未 溶 解 物 に つ い て 1348K に お け る ス ラ グ の 流 動 性 と 同 等 の 流 動 性 を 得 る に は , ス ラ グ よ り 125K 高 い 1473K の 温 度 が 必 要 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 SiC heating elements Sample Thermocouple Gas outlet N2 inlet Alumina boat Figure 4 Schematic diagram of experimental apparatus for fluidity 7.0 cm 7.0 cm 1273K 1298K 1.2 cm 1323K 3.8 cm 1348K 1373K Figure 5 M o r e t h an 7 . 0 cm Experimental results of fluidity of slag 7 . 0 cm 7.0 cm 1 3 9 8K 0.5 cm 1 4 2 3K 1.7 cm 1 4 4 8K 4.2 cm 1 4 7 3K 5.7 cm 1 4 9 8K Figure 6 Experimental results of fluidity of non-dissolved compound 83 4.4. 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 の 解 析 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し て ,廃 棄 物 溶 融 炉 ス ラ グ な ら び に 未 溶 解 物 に つ いての相平衡を解析し,固相析出温度,析出物,完全液相領域の推定を 行なった。 4.4.1 溶 融 炉 ス ラ グ 溶 融 炉 ス ラ グ に つ い て , 酸 素 分 圧 logPo2/atm= -7,-9,-11 の 3 条 件 で 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し て 相 平 衡 を 解 析 し , 1773K か ら 1273K へ の 冷 却 過 程 で 固相 析 出 温 度 , 析 出 物 の 組 成 , 単 一 液 相 温 度 域 を 求 め た 。 溶 融 炉 ス ラグの酸素分圧については酸素センサーを炉の天井からスラグ層に浸 漬 さ せ logPo2/atm= -9~ -11 で あ っ た こ と か ら , logPo2/atm= -7,-9,-11 の 3 条 件 と し た 。 SiO2,CaO,Fe,Al2O3,Na2O,K2O,MgO などの酸化物成分から な る 各 種 化 合 物 相 ,液 相 の 生 成 自 由 エ ネ ル ギ ー な ら び に 液 相 に お け る 活 量 の 情 報 を 含 む デ ー タ フ ァ イ ル を 作 成 し , Fact Sage( バ ー ジ ョ ン 5.4) を 用 い て 相 平衡計算を行なった。入 力 成 分 は , 主 要 含 有 成 分 で あ る SiO2,CaO,Fe, A l 2 O 3 , N a 2 O , K 2 O , M g O と し ,気 相 総 圧 1atm 下 に お い て ,所 定 の 酸 素 分 圧 で 平 衡 状 態 の 計 算 評 価 を 行 な っ た 。な お ,F a c t S a g e を 用 い た 計 算 で は 、上 記 の成分を含む種々の物質系に対して,本研究の温度・圧力の条件におい ては相平衡の実験結果を再現できることを確認している。 Fig.7 に 溶 融 炉 ス ラ グ に つ い て , 各 主 要 化 合 物 相 に 対 す る 酸 素 分 圧 お よび温度と固相の存在領域に関する比較を示す。図中で■は,固相の存 在を示し, は液相領域を示す。酸 素 分 圧 logPo2/atm= -7 で は , 1603K 以 上 で 完 全 液 相 領 域 で あ る が , 1603K で Fe3O4 相 が 析 出 を し 始 め る 。 l o g P o 2 / a t m = - 9 の 条 件 に 対 し て は ,1 4 9 9 K 以 上 で は 完 全 液 相 領 域 で あ る が , 1 4 9 9 K で F e 3 O 4 相 が 析 出 す る 。 計 算 結 果 に お い て FeO が 析 出 し な い 理 由 は , 溶 融 炉 ス ラ グ の SiO 2 濃 度 が 32%で あ り , FeO は SiO 2 と 反 応 し て Fe 2 SiO 4 を 生 成 後 ,CaO と さ ら に 反 応 し て 融 体 と な る た め と 考 え る 。l o g P o 2 / a t m = - 1 1 で は , 1581K 以 上 で は Fe 相 が 存 在 す る が , 1581K で Fe 相 が 一 旦 消 失 し , 完 全 液 相 を 示 す が , 1434K で KAlSi2O6 相 が , 1406K で Fe3O4 相 が 析 出 す る 。 Fig.8 に 溶 融 炉 ス ラ グ に つ い て 酸 素 分 圧 お よ び 温 度 に 対 す る 液 相 の 比 率 と ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 を 示 す 。 固 相 と し て Fe3O4 相 が 析 出 す る こ と か ら Fe3O4 相 の 析 出 量 の 増 加 と と も に ス ラ グ 中 の FeOX の X の 値 が 増 加 し て い る こ と が 考 え ら れ ,こ の X 値 に 対 応 す る 値 と し て ス ラ グ 中 の 酸 素のモル濃度を示している。図中で実線が液相の比率を,点線が酸素の 84 モ ル 濃 度 を 示 す 。 酸 素 分 圧 logPo2/atm= -7 で は , 1603K で Fe3O4 相 が 析 出 を 開 始 し , 液 相 の 比 率 は , 温 度 低 下 に 伴 い 1 4 7 3 K で 78% , 1 3 7 3 K で 4 9 % に 低 下 す る 。 ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 は , 完 全 液 相 領 域 で 58%, 固 相 が 析 出 す る と 59%程度に上昇する。 logPo2/atm= -9 で は , 1499K で Fe3O4 相 が 析 出 を 始 め , 液 相 の 比 率 は , 温 度 低 下 に 伴 い 1473K で 92%, 1373K で 72%に 低 下 す る 。 ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 は , logPo2/atm= -7 と 同 じ 傾 向 で あ る 。 logPo2/atm= -11 で は , 1581K 以 上 で は Fe 相 が 存 在 し , 1 6 7 3 K で 液 相 の 比 率 は 8 5 % で あ る 。1 4 3 4 K か ら 1 5 8 1 K ま で の 範 囲 は 単 一 液 相 を 示 す が , 1434K で KAlSi2O6 が , 1406K で Fe3O4 相 が 析 出 し , 1373K で 液 相 の 比 率 は 87%で あ る 。 ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 は , Fe 相 が 存 在 す る 1581K 以 上 で は 59%程 度 , 1434K か ら 1581K ま で の 範 囲 は 58%, 1434K 以 下 で は 固 相 が 析 出 し , 59%程 度 と な る 。 Fig.7,8 よ り 酸 素 分 圧 と 固 相 析 出 温 度 , 液 相 の 比 率 の 関 係 か ら 次 の こ とがわかった。 ① 酸 素 分 圧 が 小 さ く な る ( 還 元 雰 囲 気 が 強 く な る ) ほ ど , Fe3O4 相 の 析 出 温 度 が 下 が る 。 ち な み に , logPo2/atm = -7 で 1603K か ら logPo2/atm = - 9 で 1 4 9 3 K と な る 。液 相 の 比 率 も 同 様 の 傾 向 で 酸 素 分 圧 が 低 い 方 が 低 温 側 で 大 き な 値 と な っ て い る 。 こ れ よ り , 未 溶 解 物 の 主 成 分 が Fe3O4 と な る よ う な 場 合 , す な わ ち , 廃 棄 物 中 の Fe 含有量が多い場 合 に は , 炉 内 の 酸 素 分 圧 を 下 げ る こ と が Fe3O4 相 の 析 出 を 抑 え る こ と に 有 効 で あ り , 廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 で は ,可 燃 物 配 合 比 の 増 加 や 炭 材 の 添 加 が 有 効 で あ る と考えられる。 ② logPo2/atm= -11 で は , 1583K よ り 高 温 で 固 相 の 鉄 が 存 在 す る 。 logPo2/atm= -7,-9 で は , 固 相 の 鉄 は 存 在 し な い 。 固 相 の 鉄 は 比 重 が ス ラ グ 3.5 に 対 し 8 と 大 き い た め , 液 相 の 下 ( 炉 底 ) に 沈 み 固 化 す る と 考 えられる。 ③ 4 . 3 . 3 節 の 溶 融 炉 ス ラ グ の 流 動 性 測 定 の 結 果 に よ れ ば ,1 3 4 8 K で 良 好 な 流 動 性 を 示 し た 。 同 温 度 は logPo2/atm= -11 の 条 件 で 液 相 の 比 率 が 80 ~ 90%と な っ た と こ ろ と 対 応 し て い る 。 こ の よ う に , 流 動 性 測 定 の 結 果 と 熱 力 学 デ ー タ を利用した 相平衡の 解 析 の 結 果 は 良 い 一 致 を 示 し て お り ,相 平 衡 解 析 は 廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 指 針を得るために流動性測定の代替として利用できることがわかった。 85 :Solid phase log Po2 /atm = -7 1273 :Liquid phase Temperature (K) 1373 1473 1573 1673 Fe3 O4 KAlSi2 O6 1603K CaAl2 Si2 O8 Mg2 Si2 O6 CaMgSi2 O6 Ca2 MgSi2 O7 NaAlSiO4 Ca3 Fe2 Si3 O12 Temperature (K) 1473 log Po2 /atm = -9 1273 1373 1573 1673 1573 1673 Fe3 O4 KAlSi2 O6 1499K Mg2 Si2 O6 CaAl2 Si2 O8 Ca2 MgSi2 O7 CaMgSi2 O6 Temperature (K) 1473 log Po2 /atm = -11 1273 1373 Fe3 O4 KAlSi2 O6 Mg2 Si2 O6 1434K CaAl2 Si2 O8 Ca2 MgSi2 O7 1581K Solid Fe CaMgSi2 O6 Fe Figure 7 Effects of temperature and oxygen potential on the precipitation of solid compounds in molten slag 86 Ratio of liquid phase (%) 80 58 60 56 40 Ratio of liquid phase 54 20 O cocentration in slag 52 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 Temperature (K) 1573 1623 50 1673 (2) log Po 2 /atm = -9 100 60 58 80 56 60 40 Ratio of liquid phase 54 20 O cocentration in slag 52 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 Temperature (K) 1573 1623 50 1673 O concentration in slag(mol%) Ratio of liquid phase (%) 60 O concentration in slag(mol%) (3) log Po 2/atm = -11 100 60 80 58 56 60 40 Ratio of liquid phase 54 20 O concentration in slag 52 0 1273 Figure 8 1323 1373 1423 1473 1523 Temperature (K) 1573 1623 50 1673 O concentration in slag(mol%) Ratio of liquid phase (%) (1) log Po 2 /atm = -7 100 Effects of temperature and oxygen potential on the ratio of liquid phase of slag in melting furnace 87 4.4.2 未 溶 解 物 未 溶 解 物 に つ い て , 酸 素 分 圧 logPo2/atm= -9,-11 の 2 条 件 で , 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 の 解 析 を 行 い ,1 6 7 3 K か ら 1 2 7 3 K へ の 冷 却 過 程 で 固 相 析 出 温 度 ,析 出 物 の 組 成 ,完 全 液 相 温 度 域 を 求 め た 。入 力 成 分 は , 主 要 含 有 成 分 で あ る SiO2,CaO,Fe,Al2O3,Na2O,K2O,MgO と し , 所 定 の 酸 素 分圧で平衡状態となるようにした。ここで,未溶解物組成としては, T a b l e 6 に 示 す 廃 棄 物 溶 融 炉 で 得 ら れ た 代 表 的 な 3 つ の 組 成 と し た 。組 成 A は , 表 記 以 外 に Cu2 S を 約 10%含 有 し て い る 。 ま た , 各 組 成 と も Fe は 酸化物として存在する。 Table 6 Chemical composition of non-dissolved compounds (mass%) Conpound A SiO2 18.4 CaO 9.9 T-Fe 29.0 Al2 O3 10.4 Na2 O 1.8 K2O 0.7 MgO 2.8 Conpound B 27.9 15.4 21.0 15.9 3.2 0.8 2.7 Conpound C 77.1 2.8 4.6 13.8 0.7 0.2 0.5 Fig.9 に 各 未 溶 解 物 に つ い て 酸 素 分 圧 お よ び 温 度 に 対 す る 液 相 の 比 率 を 示 す 。同 図 に お い て ,実 線 は l o g P o 2 = - 9 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を , 破 線 は logPo2/atm= -11 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を 示 す 。 Fig.9 よ り , 次のことがわかった。 ① 組成 A は,酸素分圧 log Po2 = -9 の 条 件 で は 1513K で Fe3O4 相 が 析 出 す る 。logPo2/atm= -11 の 条 件 で は 還 元 性 が 強 い た め ,1553K 以 上 で は 固 相 の 鉄 が 存 在 し ,1 5 5 3 K で 固 相 が 消 失 し ,1 5 1 3 K で F e O 相 が 析 出 す る 。 1513K か ら 1553K の 温 度 域 が 完 全 液 相 領 域 で あ る 。 組 成 A は 4.3.3 節 で 流 動 性 測 定 に 供 与 し た 未 溶 解 物 の 組 成 に 相 当 す る 。流 動 性 の 測 定 結 果 で は 1473K 以 上 で 流 動 性 が よ く な っ た 。 logPo2/atm= -9 の 場 合 , 液 相 の 比 率 は 1473K で 66%, logPo2/atm= -11 の 場 合 , 液 相 の 比 率 は 1473K で 85% で あ る 。F i g . 1 0 に 流 動 性 測 定 結 果 と 液 相 の 比 率 の 関 係 を 示 す 。液 相 の 比 率 が 増 す と 流 動 性 は よ く な っ て い る こ と が わ か る 。F i g . 1 1 に ス ラ グ に 関 し て 温 度 に 対 す る 流 動 性 測 定 結 果 お よ び 液 相 の 比 率 の 関 係 を ,F i g . 1 2 に 未 溶 解 物 に 対 す る 流 動 性 測 定 結 果 お よ び 液 相 の 比 率 の 関 係 を 示 す 。液 相 の 比 率 が 80% 程 度 に な る あ た り で 流 動 性 の 測 定 結 果 ( 流 下 長 さ ) が 4cm 程度となり,良好な流動性を示すことがわかった。以上のように,液相 の比率を計算できる相平衡解析を流動性測定の代替として利用できる ことがわかった。 88 ② 組 成 B は ,酸 素 分 圧 l o g P o 2 / a t m = - 9 の 条 件 で は サ ン プ ル A 同 様 ,1 5 1 3 K で F e 3 O 4 相 が 析 出 す る 。l o g P o 2 / a t m = - 1 1 の 条 件 で は 還 元 性 が 強 く ,1 5 7 3 K 以 上 で は 固 相 の 鉄 が 存 在 し , 1573K で 固 相 が 消 失 後 , 1483K で FeO の 固 体 が 析 出 す る 。 1483K か ら 1573K の 温 度 域 が 完 全 液 相 領 域 で あ る 。 完 全 液 相 領 域 の 温 度 範 囲 が 組 成 A の 1519K か ら 1551K ま で に 比 較 し て , 組 成 B は 1484K か ら 1568K と 広 く な っ て い る 。 こ の 主 な 要 因 と し て 塩 基 性 酸 化 物 の N a 2 O が 組 成 A の 1 . 8 % に 対 し ,組 成 B が 3 . 2 % ,C a O が 9 . 9 % に 対 し 15.4%に 増 加 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。 ③ 組成 C は,ガラス系廃棄物を処理した際の未溶解物である。酸素分 圧 l o g P o 2 / a t m = - 9 , - 1 1 の 条 件 と も 1673K の 高 温 か ら 固 相 が 析 出 し , 酸 素 分 圧 の 影 響 が 認 め ら れ な い 。こ れ は ,こ の 温 度 域 で 酸 化 還 元 反 応 す る F e が 4.6%と 低 い た め で あ る 。 以 上 の こ と か ら , 4.4.1 節 で 述 べ た 溶 融 ス ラ グ の 場 合 よ り も 未 溶 解 物 は完全液相温度域が狭く,液相線温度も高いことがわかった。 89 Conpound A Ratio of liquid phase (%) 100 80 60 40 log Po2 logPo /-9 atm=-9 log Po 22=/atm = -9 log Po2 log Po 22=/atm = -11 logPo /-11 atm=-11 20 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 1573 1623 1673 Temperature (K) Conpound B Ratio of liquid phase (%) 100 80 60 40 log Po2 -9 = -9 logPo /atm=9 log Po 22=/atm log Po2 = -11 log Po 22/atm = -11 logPo /atm=11 20 0 1273 1323 1373 1473 Temperature (K) 1523 1573 1623 1673 1523 1573 1623 1673 Conpound C 100 Ratio of liquid phase (%) 1423 80 log Po2 logPo /-9atm=-9 log Po 2=2/atm = -9 log Po2 = -11 log Po 22/atm = -11 logPo /atm=-1 1 60 40 20 0 1273 1323 1373 1423 1473 Temperature (K) Figure 9 Effects of temperature and oxygen potential of the ratio of liquid phase to non-dissolved compounds in melting furnace 90 100 Ratio of liquid phase (%) Compound A 80 60 40 logPo2 Po 2=/atm log -9 = -9 log = -11 = -11 log Po2 Po 2 /atm 20 0 0 Figure 10 1 2 3 4 Experimental result of fluidity (cm) 5 6 Relation between experimental result of fluidity and ratio of liquid phase of compound A Ratio of liquid phase (%) 10 Slag log Po2 /atm = -11 80 8 60 6 40 4 20 2 Ratio of liquid phase Experimental result of fludity 0 1273 Figure 11 0 1423 1323 1373 Temperature (K) Experimental result of fludity (cm) 100 Relation between experimental result of fluidity and ratio of liquid phase of slag 10 Ratio of liquid phase (%) Ratio of liquid phase Experimental result of fludity 80 8 60 6 40 4 20 Non-dissolved conpound A 2 log Po 2 /atm = -11 0 1323 Figure 12 1373 1423 Temperature (K) 1473 0 1523 Experimental result of fludity (cm) 100 Relation between experimental result of fluidity and ratio of liquid phase of non-dissolved compound A 91 4.5. 高 融 点 廃 棄 物 ( 石 綿 含 有 廃 棄 物 ) の 溶 解 条 件 の 推 定 4.4.節 よ り , 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 よ り , 配 合 組 成 か ら 実操業の指針となるスラグの溶融温度範囲を推定できることがわかっ た 。応 用 例 と し て ,石 綿 含 有 廃 棄 物( 石 綿 を 約 5 0 % 程 度 含 有 し た 廃 棄 物 ) とスラグを任意の比で混合した場合の組成から,同様に,熱力学データ を利用した相平衡解析を行なった。溶融炉スラグへ石綿含有廃棄物を 0,10,30,50% の 割 合 で 混 合 し た 場 合 の 組 成 を Table 7 に 示 す 。 Table 7 Compositions of slag mixed with asbestos (mass%) Mixing ratio of asbestos (%) SiO2 CaO T-Fe Al2 O3 Na2 O K2O MgO 0 10 32.1 32.9 15.4 13.9 20.0 18.2 13.0 12.1 2.8 2.5 1.2 1.1 3.2 6.3 30 50 34.5 36.1 11.0 8.1 14.6 11.0 10.3 8.5 2.0 1.4 0.8 0.6 12.7 19.1 Asbestos 52.0 1.0 2.3 3.8 0.1 0.0 36.5 Fig.13 に 各 混 合 条 件 に つ い て 酸 素 分 圧 及 び 温 度 に 対 す る 液 相 の 比 率 を 示 す 。同 図 に お い て ,実 線 は l o g P o 2 = - 9 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を , 破 線 は logPo2/atm= -11 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を 示 す 。 Fig.13 よ り , logPo2/atm= -9 の 場 合 , 次 の こ と が わ か っ た 。 ① 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が O% の 時 , 1499K で Fe3O4 相 が 析 出 を 開 始 し , 液 相 の 比 率 は 1473K で 92%, 1373K で 72%と な る 。 ② 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が 1O% の 時 , 1475K で Fe3O4 相 が 析 出 を 開 始 し , 液 相 の 比 率 は 1473K で 100%, 1373K で 66%と な る 。 ③ 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が 3 O % の 時 ,1 5 7 6 K で M g 2 S i O 4 相 が 析 出 を 開 始 し , 液 相 の 比 率 は 1473K で 88%, 1373K で 56%と な る 。 ④ 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が 5 O % の 時 ,1 6 9 9 K で M g 2 S i O 4 相 が 析 出 を 開 始 し , 液 相 の 比 率 は 1573K で 82%, 1473K で 71%, 1373K で 47%と な る 。 以 上 の こ と か ら ,logPo2/atm= -9 で は ,石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶 融 炉 ス ラ グ に 対 し て 10% , 30% , 50% 添 加 す る こ と に よ り 液 相 線 温 度 が 上 が り , 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 添 加 率 が 3 0 % の 時 ,液 相 線 温 度 が 1 5 7 6 K と な る 。廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 温 度 を 1573~ 1623K で 操 業 管 理 し て い る 場 合 , ス ラ グ 量 に 対 し て 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 添 加 量 が 30% 程 度 ま で な ら ば 安 定 操 業 が 可 能であると考えられる操業指針が得られた。 92 Addition of 0% asbestos Ratio of liquid phase (%) 100 80 60 40 log Po2/atm log Po2/atm= =-9-9 20 log Po2 = -11 = -11 log Po2/atm 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 1573 1623 1673 Temperature (K) Addition of 10% asbestos Ratio of liquid phase (%) 100 80 60 40 log Po2 -9 = -9 log Po2=/atm log Po2 -11 = -11 log Po2=/atm 20 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 1573 1623 1673 Ratio of liquid phase (%) Temperature (K) Addition of 30% asbestos 100 80 60 log Po2 -9 = -9 log Po2=/atm log Po2 = -11 = -11 log Po2/atm 40 20 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 1573 1623 1673 Ratio of liquid phase (%) Temperature (K) Addition of 50% asbestos 100 80 60 40 log Po2 -9 = -9 log Po2=/atm 20 log Po2 -11 = -11 log Po2=/atm 0 1273 1323 1373 1423 1473 1523 1573 1623 1673 Temperature (K) Figure 13 Effect of temperature and oxygen potential on the ratio of liquid phase of slag mixed with asbestos 93 4.6. 実 操 業 へ の 適 応 前 節 で 廃 棄 物 溶 融 炉 に お い て , logPo2/atm= -9 , ス ラ グ 温 度 を 1573 ~ 1623K の 条 件 で は , 石 綿 含 有 廃 棄 物 の添加量が溶 融 炉 ス ラ グ に 対 し て 30 % ま で な ら ば 安 定 操 業 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ る 操 業 指 針 が 得 ら れ た。 そ こ で ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 溶 融 し た 石 綿 含 有 廃 棄 物 が 混 合 さ れ 均 一 な ス ラ グ を 形 成 さ せ る た め ,F i g . 1 4 に 示 す よ う に 廃 棄 物 溶 融 炉 を 改 造 し た 。1 3 ) 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 炉 の 天 井 部 か ら 直 接 ,溶 融 ス ラ グ 上 に 投 入 し ,投 入 口 ま わ り に 設 置 し た 酸 素 バ ー ナ ー の 高 温 の 火 炎 で 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶 解 し 廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 混 合 で き る よ う に し た 。溶 解 さ れ た 石 綿 含 有 廃 棄 物 は 溶 融 ス ラ グ と 混 合 さ れ ,1 5 7 3 ~ 1 6 2 3 K の ス ラ グ 温 度 で も 流 動 性 の よ い 状 態 を 維 持 で き た 。F i g . 1 5 に 石 綿 含 有 廃 棄 物 を ス ラ グ に 対 し て 30%の 量 を 装 入 し た 時 の 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 解 状 況 を 炉 天井部の装入口から撮影した写真を示す。投入後,数分で溶解している こ と が 目 視 で 確 認 で き た 。 ま た , Table 8 に 排 ガ ス , ス ラ グ の 石 綿 濃 度 測 定 結 果 を 示 す 。測 定 方 法 は 労 働 省 通 達 基 発 第 1 8 8 号 に よ る 。排 ガ ス , スラグとも石綿は検出されず,無害化できていることが確認できた。 Fig.16 に A 社 の 廃 棄 物 溶 融 炉 に お け る 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処 理 量 の 推 移 を 示 す 。2 0 0 4 年 に は 2 4 6 ト ン の 溶 融 処 理 で あ っ た が ,上 記 の 改 造 後 の 2006 年 に は 2066 ト ン に , 2007 年 に は 2587 ト ン に 増 加 さ せ る こ と が で き た 。 こ の 量 は ス ラ グ 量 の 10%で あ り , 前 節 の 結 果 か ら ス ラ グ 量 の 30%ま で 可 能 と す る と , 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 年 間 6000 ト ン 処 理 す る こ と が 期待できる。 94 4m Charge hoppers Slag Oxygen burners Flame Asbestos charge Raw material Burners Matte Asbestos 11m Figure 14 Schematic drawing of the melting furnace with asbestos treatment 投入前 投入直後 Figure 15 5分経過 Dissolution situation of asbestos of which it takes a picture from charging door in furnace ceiling 95 Ta b l e 8 M e a s u re m e n t re s u l t s o f a s b e s t o s o f e x h a u s t g a s a n d s l a g f ro m unit Measurement of results Exhast gas f/l not confirmed Slag Mf/g not confirmed 3000 2500 2004: A principle moratorium of all asbestos in Japan 2005: The enforcement of the rule to prevent an obstacle of asbestos 2006: The revision of the rule of waste disposal ( The institution which melted asbestos was added ) 2000 1500 1000 500 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 0 1995 Amount of the industtrial waste including the (ton/year) asbestos s m e l t i n g f u r n a c e ( M e a s u re m e n t d a y : 2 0 0 7 . 7 . 6 . ) business year Fig.16 The change of amount of processed waste including asbestos in melting furnace of Company A 96 4.7. 結 言 産業廃棄物を無害化し,再資源化する社会的ニーズは高く,その中で 溶融炉の役割が重要となってきている。産業廃棄物は,種々雑多であり 組成,含有量がばらついており,廃棄物溶融炉の操業条件(温度,酸素 分圧)では溶融が困難なものもある。 本 章 で は ,廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ お よ び 未 溶 解 物 に つ い て 流 動 性 の 測 定と熱力学データを用いた相平衡解析を行なった。 その結果,廃棄物溶融炉のスラグの溶解に関して,熱力学データを用 い た 相 平 衡 解 析 を 行 な う こ と に よ り ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の よ う な 粘 度 測 定 や溶解実験が困難な廃棄物に対しても簡単な流動性試験と同等にスラ グの流動性を評価することができた。そして,熱力学データを用いた相 平 衡 解 析 を 用 い て ,良 好 な 溶 融 ス ラ グ を 得 る た め の 安 定 操 業 に 関 す る 有 効な指針が得られることがわかった。 A 社 に お い て ,こ の 指 針 を 適 応 し ,年 間 2600t の 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶 融し再資源化した。 97 参考文献 1) 日 野 順 三 , 宮 林 良 次 : 高 温 学 会 誌 2( 1999) P.59-65 2) 宮 林 良 次 , 能 登 久 次 , 成 迫 誠 : 資 源 と 素 材 121(2005) P.149-153 3) 青 木 威 尚 , 宮 林 良 次 , 柳 田 辰 也 : 資 源 と 素 材 122(2006) P.235-238 4) 日 経 エ コ ロ ジ ー 5) 循 環 経 済 新 聞 2006.3. P.40-41 2006.1.16. 6) 川 崎 靖 人 , 青 木 威 尚 , 宮 本 和 明 : 特 開 2003-181412 7 ) 鈴 木 宏 明 ,眞 保 良 吉 ,鈴 木 眞 夫 ,小 川 修 : 資 源 ・ 素 材 関 係 学 協 会 1 9 9 6 年 度 秋 季 大 会 P.50-53 8) 眞 保 良 吉 , 渡 辺 薫 生 , 鈴 木 眞 夫 , 星 野 重 夫 : 資 源 と 素 材 121(2005) P.72-77 9) 平 林 儁 : 資 源 と 素 材 109( 1993) P.949-952 10) 川 崎 靖 人 , 青 木 威 尚 , 宮 本 和 明 : 資 源 ・素 材 関 係 学 協 会 平 成 13 年 (2001)度 秋 季 大 会 P.285-288 11) 川 崎 靖 人 , 青 木 威 尚 : 特 開 2 0 0 1 - 2 0 1 0 3 2 1 2 ) 飯 田 孝 道 , 喜 多 善 史 , 上 田 滿 , 森 克 己 , 中 島 邦 彦 :“ 溶 融 ス ラ グ ・ ガ ラ ス の 粘 性 ” ア グ ネ 技 術 セ ン タ ー (2003)P.107-109 13) 宮 林 良 次 , 星 光 政 : 特 開 2007-301546 98 第5章 アルカリ酸化物を含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度 推算モデル 5.1. 緒 言 廃 棄 物 溶 融 炉 に お い て ,石 綿 屑 5) 1,2) ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 1,3,4) ,鉛 含 有 ガ ラ ス のような産業廃棄物を無害化し,再資源化する社会的ニーズは高い。し か し ,産 業 廃 棄 物 は 種 々 雑 多 で あ り ,組 成 ,含 有 量 が ば ら つ い て い る の で ,廃 棄 物 溶 融 炉 を 安 定 し て 操 業 す る こ と は 難 し い 。安 定 な 操 業 を 維 持 評 価 す る た め に,筆者ら 1) は溶融スラグの流動性が代表的な操業指針のひとつであること に注目した。溶融スラグの流動性は,粘度測定により主に評価されているが, モ デ ル に よ る 粘 度 推 算 は ,廃 棄 物 溶 融 炉 に お け る 流 動 性 を 評 価 す る こ と に 大 い に 役 立 つ と 考 え る 。こ れ は ,産 業 廃 棄 物 の 成 分 が 種 々 雑 多 で あ り ,廃 棄 物 溶 融 炉 の あ ら ゆ る 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 測 定 す る こ と は 困 難 で あ る た め で あ る 。例 え ば , 石 綿 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 し た ス ラ グ は CaO, FeO, Fe 2 O 3 , MgO, K 2 O, Na 2 O 等 1) を含む多成分系のアルミノシリケートスラグである。また,廃棄物溶融 炉 は フ ッ 化 物 を 含 む 石 膏 ,工 場 排 水 中 の F を 固 定 し た 中 和 物 ,F を 含 む ガ ラ ス も 溶 融 す る こ と も あ る の で , ス ラ グ 中 に CaF 2 が 含 ま れ て い る 。 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 推 算 に 関 し て は ,過 去 に 6-8) 多くの推算式が提案されてき て お り , Riboud ら , 飯 田 ら , Sheetharaman ら , Zhang ら の 推 算 式 が 高 く 評 価 さ れ て い る 。 Table 1 に こ れ ら 粘 度 の 推 算 式 と 問 題 点 を 示 す 。 Table 1 Model for estimating viscosity and the problem 提案者 推算式(特徴) 問題点 ・溶融シリケートの構造は濃度 に対して線形的に変化するとは 限らない Riboud et al. Iida et al. スラグ構成成分の線形関数 Sheetharaman et al. シリケート融体の混合のGibbs ・溶融シリケートの特徴は考慮 エネルギーにより、評価 せず Zhang and Jahanshahi ・架橋酸素濃度、自由酸素濃 ネットワーク構造の架橋酸素、 度に掛けられた係数の物理的 自由酸素イオンの濃度の関数 な意味は不明確 Riboud ら , 飯 田 ら は , 溶 融 ス ラ グ 構 成 成 分 の 濃 度 の 線 形 関 数 と し て 粘 度 を 表 し た が ,溶 融 シ リ ケ ー ト の 構 造 は 濃 度 に 対 し て 線 形 的 に 変 化 す る と は 限 ら な 99 い 。 次 に , Sheetharaman ら は , シ リ ケ ー ト 融 体 の 混 合 の Gibbs エ ネ ル ギ ー を 利 用 し て 粘 度 を 評 価 し た が ,溶 融 シ リ ケ ー ト の 特 徴 は 考 慮 し て い な い 。し か し , 組 成・温 度 に よ る 溶 融 シ リ ケ ー ト の 急 激 か つ 複 雑 な 構 造 変 化 が 粘 度 に 影 響 す る た め ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 の 推 算 は 難 し い 課 題 と し て 認 め ら れ て い る 。こ の 視 点 か ら , 溶 融 ス ラ グ の 構 造 に 基 づ い た 有 効 な モ デ ル が Zhang と Jahanshahi, Kondratiev と Jak 9 - 1 1 ) に よ り 提 案 さ れ て い る 。彼 ら の 粘 度 モ デ ル で は ,溶 融 ス ラ グ の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の 架 橋 酸 素 O0 , 自 由 酸 素 イ オ ン O2 - の 濃 度 の 関 数 と し て 粘 度 モ デ ル を 表 し て い る 。溶 融 ス ラ グ の 3 つ の 酸 素 の 結 合 状 態 ,す な わ ち , ( ⅰ ) 架 橋 酸 素 O 0 , (ⅱ )非 架 橋 酸 素 O - ,( ⅲ ) 自 由 酸 素 O 2 - , が 考 慮 さ れ て い る が ,架 橋 酸 素 濃 度 ,自 由 酸 素 濃 度 に 掛 け ら れ た 係 数 の 物 理 的 な 意 味 は 不 明 確である。 中本,田中ら 16-21) も溶融スラグの酸素の結合状態だけでなく構造に溶融シ リ ケ ー ト の 流 動 機 構 を 考 慮 す る こ と で ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に 基 づ く 粘 度 評 価 モ デ ル を 構 築 し た 。こ の モ デ ル で は 非 架 橋 酸 素 O - と 自 由 酸 素 O 2 - の 濃 度 を IRSID 熱 力 学 ‘ セ ル モ デ ル ’ に よ り 計 算 し て い る 。 22-23) こ の 粘 度 推 算 モ デ ル は , 高 炉 の 溶 融 SiO 2 -CaO-MgO-FeO-Al 2 O 3 系 ス ラ グ に 対 し て 幅 広 い 濃 度 範 囲 で 粘 度 の 値 を 再 現 で き る 。 し か し な が ら , IRSID 熱 力 学 ‘ セ ル モ デ ル ’ は , SiO 2 -TiO 2 -Ti 2 O 3 -Cr 2 O 3 -Al 2 O 3 -Fe 2 O 3 -CrO-FeO-MgO-MnO-CaO-CaF 2 -S 系 に お い て 広 く 適 用 で き る に も 係 ら ず ,廃 棄 物 溶 融 炉 ス ラ グ で は 無 視 で き な い ア ル カ リ 酸 化 物を含むスラグに適応できない。 一 方 ,須 佐 ら 24) は ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 の 屈 折 率 の 予 測 式 を 提 案 し た 。 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 の 構 造 は , 3 種 の 化 学 的 結 合 , す な わ ち Si- BO( Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ),Al - BO( 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ), Si- NBO( NBO: Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 )か ら 成 る と 仮 定 す る と ,熱 力 学 的 デ ー タ を 用 い ず ,ス ラ グ の 化 学 組 成 を 用 いて溶融アルミノシリケートの酸素の結合状態を計算することが可能になる。 この方法は簡単な方法であり,アルカリ酸化物,アルカリ土類酸化物を含む 種 々 の シ リ ケ ー ト 系 に 対 し て 酸 素 の 結 合 状 態 の 評 価 を 行 う こ と が で き る 。須 佐 の 式 は ,そ の 簡 便 さ に も 係 ら ず ,6 成 分 の シ リ ケ ー ト 融 体 で 屈 折 率 の 値 を 予 測 することに成功している。 本 研 究 で は ,ま ず ,シ リ ケ ー ト 融 体 の 酸 素 の 結 合 状 態 の 評 価 に お い て ,熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,須 佐 ら の 手 法 を 適 用 す る こ と に よ り ,中 本 ,田 中 ら の 開 発 し た 先 の 粘 度 推 算 モ デ ル を 修 正 し ,ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 四 元 系 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体( SiO 2 -CaO-MgO-Al 2 O 3 系 な ど )の 粘 度 推 算 を 試 み ,こ の 手 法 の 100 妥当性を検討した。 さ ら に ,廃 棄 物 溶 融 炉 は CaF 2 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 処 理 す る こ と も あ る の で , 溶 融 ス ラ グ は ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 に CaF 2 を 含 む 系 と な る 。こ の 系 に 対 し て は ,前 述 の IRSID 熱 力 学‘ セ ル モ デ ル ’を 適 用 す る こ と は 難 し い の で ,本 研 究 で は ,須 佐 ら の モ デ ル を 用 い て ,CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シリケート系の粘度への推算モデルの拡張を試みた。 5.2. 溶融アルミノシリケートスラグの粘度モデル 5.2.1. 粘 度 推 算 式 本 モ デ ル に お い て 溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 を 表 す 式 は ,シ リ ケ ー ト 融 体 のネットワーク構造における酸素の結合状態と流動機構を考慮することを提 案 し た 中 本 ら の モ デ ル 式 に 基 づ い て い る 。 16-21) シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク構造において,モデルの概念は次の通りである。 ①ネットワークの“切断” 箇所が伝播する。 ② 融 体 で あ り “ 切 断 ” 箇 所 の 伝 播 は Random walk theory に 基 く 。 ③“切断” 箇所の数は,非架橋酸素,自由酸素イオンの数で決定される。 ④ネットワーク構造の“切断” 箇所における陽イオンと酸素イオンの結合 の弱さを表す係数αを導入する。 さ ら に ,流 動 の メ カ ニ ズ ム の 詳 細 を 説 明 す る 。Fig.1 に 溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 構 造 の 概 略 図 を 示 す 。 Fig.1 (a)に 示 す よ う に , 溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ は SiO 44 単 位 構 造( Si 四 面 体 イ オ ン )と し て SiO 44 同 士 が そ れ ぞ れ の 頂 点 の 酸 素 , つ ま り ,架 橋 酸 素 イ オ ン O 0 を 介 し て 結 合 し て い る (b)の よ う な ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 有 す る 。Fig.1 (b)に 示 す よ う に ,溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ に CaO,Na 2 O の よ う な 塩 基 性 酸 化 物 が 添 加 さ れ た 場 合 ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 は 塩 基 性 酸 化 物 か ら 解 離 し た 酸 素 イ オ ン に よ っ て 部 分 的 に 切 断 さ れ , Si と の 結 合 を 一 つ し か 持 た な い 非 架 橋 酸 素 イ オ ン や Si と の 結 合 を 持 た な い 自 由 酸 素 イ オ ン が 生 成 す る 。 こ の よ う に ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の 切 断 に よ り ,融 体 の 重 合 度 が 減 少 す る た め ,そ れ に 対 応 し た 溶 融 ス ラ グ の 粘 性 の 低 下 が 生 ず る と 言 わ れ て い る 。こ の 概 念 に お い て は , シ リ ケ ー ト 融 体 に お け る SiO 44 イ オ ン が 流 動 単 位 と し て 考 え ら れ て い る が ,こ の 大 き さ の 錯 イ オ ン が 流 動 に お い て 移 動 す る と 仮 定 す る と ,こ の 錯 イ オ ン が 落 ち 込 む た め の 空 間 が 必 要 と な り ,流 動 の 単 位 と し て 考 え る の は 困 難 で ある。本モデルでは,シリケートのネットワーク構造中の非架橋酸素イオン, 自 由 酸 素 イ オ ン の 近 傍 に 存 在 す る“ 切 断 ”箇 所 に 着 目 し ,実 際 に 移 動 す る の は こ の 切 断 箇 所 で あ る と 考 え ,そ の 切 断 箇 所 の 数 が 多 い ほ ど 流 動 性 が よ く ,粘 度 101 は低いと考えた。 Fig.2 は ,せ ん 断 力 が 働 い た 際 の 金 属 の 変 形 に 対 し て ,固 体 原 子 の 結 合 に お け る 切 断 箇 所 の 移 動 の 概 念 図 で あ る 。固 体 の 変 形 機 構 に お い て ,原 子 の 結 合 を 一 個 ず つ 切 っ て ゆ く 方 法 で 結 合 の 切 断 箇 所 は 転 位 と 呼 ば れ て い る 。応 力 が 掛 か っ た 黒 の 結 合 が 切 ら れ ,下 側 の 原 子 は 右 隣 り の 灰 色 の 原 子 を 押 す 。灰 色 の 原 子 の 結 合 が 切 れ ,黒 と 灰 色 が 結 合 す る 。こ の よ う に ,切 断 箇 所 が 移 動 す る こ と に よって,せん断力が働いた際に金属は塑性変形する。 (a) SiO44- unit (b) Bridging oxygen Free oxygen ion CaO or Na2O Non-bridging oxygen ion O Figure 1 Si Ca Structure of silicate slag. Shear stress Shear stress “Cutting-off point” (1) Figure 2 (2) (3) Concept chart of movement of “cutting off point” in uniting solid atoms 102 シ リ ケ ー ト の 融 体 に つ い て も ,同 様 に 切 断 箇 所 が 移 動 す る 流 動 機 構 を 考 え た 。 Fig.3 に シ リ ケ ー ト 融 体 の 流 動 機 構 の 概 念 図 を 示 す 。ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の 中 に CaO が 添 加 さ れ ,Ca と ネ ッ ト ワ ー ク を 切 断 さ れ た 非 架 橋 酸 素 イ オ ン が 電 気 的 に 中 性 と な っ て い る 状 態 と す る 。こ の 状 態 で 応 力 が 掛 か り ,1 の 非 架 橋 酸 素 イ オ ン が 2 の 架 橋 酸 素 イ オ ン を 押 す 。2 の 架 橋 酸 素 イ オ ン は 押 し 出 さ れ ,結 合 が 切 断 さ れ 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と な り ,2 の 位 置 に 1 が 収 ま る 。次 に 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と な っ た 2 が 3 の 架 橋 酸 素 イ オ ン を 押 す 。3 の 架 橋 酸 素 イ オ ン は 押 し 出 さ れ , 結 合 が 切 断 さ れ 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と な り ,3 の 位 置 に 2 が 収 ま る 。こ の よ う に 切 断 箇 所 が 伝 播 す る と 考 え た 。 そ れ ゆ え ,‘ 切 断 ’ 箇 所 の 動 き が 粘 性 流 動 を 生 ず る と す る と , 非 架 橋 酸 素 O- と 自 由 酸 素 O2 - の 数 の 増 加 に 伴 い , 粘 性 の 活 性 化エネルギーが減少する。 2 2 (3) 2 1 (2) 1 1 3 3 Non-bridging oxygen ion :O Figure 3 :Si :Ca Flow mechanism for silicate melts. さ ら に ,こ れ ら の‘ 切 断 ’箇 所 が 溶 融 シ リ ケ ー ト の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 で ラ ン ダ ムな方向に動くと仮定する。文献 16-21) では前述の概念から二元シリケート系 の粘度ηは次式で表わされている。 A exp( EV EV ), RT (1) E . 1 ( N O N O 2 ) (2) こ こ で , A (=4.80 10 - 8 )は 定 数 , E V は 粘 性 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー , R は ガ ス 定 数 , T は 温 度 で あ る 。 E (=5.21 10 5 (J)) は , 純 SiO 2 の 粘 性 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー で あ る 。α は 酸 化 物 成 分 に よ る“ 切 断 ”箇 所 に お け る 陽 イ オ ン と 酸 素 イ オ ン と の 間 の 結 合 の 弱 さ を 示 す パ ラ メ ー タ で あ る 。 N O と N O 2 は , そ れ ぞ 103 れ , 非 架 橋 酸 素 O- の 数 , 自 由 酸 素 O2 - の 数 を 示 す 。 こ れ ら の イ オ ン が 多 い ほ ど切断箇所が増え,粘度が低下することを意味する。 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン の モ ル 分 率 は ,こ れ ま で は ,熱 力 学 モ デ ル か ら 計 算 し て き た が ,多 成 分 系 で は 熱 力 学 的 パ ラ メ ー タ が 整 備 さ れ て い な い ので計算できなかった。そこで,化学組成から酸素結合状態を評価するため, 屈折率の推算式で提案された多成分系に展開できる須佐らの簡易な方法を本 モ デ ル に 適 用 す る こ と を 試 み た 。Fig.4 に ,須 佐 ら の 手 法 の 概 要 を 示 す 。酸 素 の化学結合の評価において,須佐らは 24) ,アルミノシリケート融体は次の3 種類の化学結合のみから成ると仮定した。 ① Si- BO ( Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ) ② Al- BO ( 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体 単位の架橋酸素) ③ Si- NBO ( NBO: Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 ) ① ② Si-BO Al-BO O O Si O Si O O O Al O O O O Si O O Ca2+ Si-NBO ③ Three oxygen states in aluminosilicate by Susa et al. 6) Figure 4 BO: bridging oxygen, NBO: non-bridging oxygen . 須 佐 ら の 仮 定 を 用 い る と ,酸 素 の 化 学 結 合 は ス ラ グ 成 分 の み に よ っ て 計 算 で き る 。さ ら に ,彼 ら の 式 で Al - BO( 架 橋 酸 素 )結 合 を 考 慮 す る と ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 が ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 因 子 と し て 働 く 場 合 の 酸 素 の 状 態 ( N ( NBO FO)i , N (Al BO) j )を 推 算 す る こ と が で き る 。 酸 素 の 結 合 状 態 の 評 価 に 須 佐 の 方 法 を 適 用するため,シリケート融体の粘度推算式を次のように修正した。 A exp( EV ) RT (3) 104 EV E 1 i N (NBOFO) j in Al N (AlBO) i i . (4) j j こ こ で , EV は 非 架 橋 酸 素 イ オ ン ( N B O ) と 自 由 酸 素 イ オ ン ( F O ) の モ ル 分 率 の 和 N ( NBO FO)i と Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素( B O )の モ ル 分 率 N (Al BO) j の 関 数 で あ る 。 N ( NBO FO)i は 式 (2)の ( N O N O 2 ) と 同 じ で あ る 。 α i と α j i n A l は そ れ ぞ れ に 対 す る 係 数 で あ る 。 i は SiO 2 以 外 の 成 分 ,CaO,MgO,FeO, K 2 O, Na 2 O, Al 2 O 3 で あ り , j は Al 2 O 3 を 除 く 成 分 i か ら の 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン , す な わ ち , Ca 2 + , Mg 2 + , Fe 2 + , K + , Na + で あ る 。( 1 ),( 2 ) 式 同 様 , A は 4.80 10 - 8 , E は 5.21 10 5 (J)で あ る 。 粘 性 へ の こ れ ら イ オ ン の 影 響 に 関 し て , 非 架 橋 酸 素 O- と 自 由 酸 素 O2 - の 違 い は な い と 仮 定 す る 。 活 性 化 エ ネ ル ギ ー に 対 す る Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 影 響 に つ い て は ,Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 が Si 四 面 体 の 架 橋 酸 素 と 異 な る 易 動 度 を 持 つ と 仮 定 す る こ と で ,非 架 橋 酸 素 の 影 響 と同等に取り扱うことができる。 5.2.2. N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 計 算 2 種 類 の 酸 素 の モ ル 分 率 , N ( NBO FO)i と N (Al BO) j は 須 佐 の 方 法 を 参 考 に し て 次 のように計算される。 (ⅰ ) 二成分系 a SiO 2 - b i (M x O y ) i 系 { a + b i =1 (mol)} (ⅰ -1) ((M x O y ) i =CaO, MgO, FeO, K 2 O 又 は Na 2 O) シ リ ケ ー ト に 塩 基 性 酸 化 物 を 添 加 し , シ リ ケ ー ト の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の Si - O 結 合 を 切 断 す る こ と に よ り , 非 架 橋 酸 素 O- と 自 由 酸 素 O2 - を 供 給 す る 。 す な わ ち , Si と 結 び つ か な い 酸 素 の 結 合 数 が 増 加 す る 。 (M x O y ) i の b i モ ル が シ リ ケ ー ト に 添 加 さ れ た 時 ,(M x O y ) i で Si に 結 び つ か な い 酸 素 の 結 合 数 nO M は , 2 b i モ ル で あ る 。 な ぜ な ら ば , (M x O y ) i 1 モ ル は Si に 結 び つ か な い 酸 素 結 合 2 モ ル と な る 。 a SiO 2 - b i (M x O y ) i 系 の 酸 素 結 合 数 の 計 n T o t a l - O は , 4 a +2 b i モ ル で あ る 。著 者 の モ デ ル で は ,Si に 結 び つ か な い 酸 素 結 合 数 n(O M)i と 総 酸 素 結 合 数 n T o t a l - O の 比 は , 非 架 橋 酸 素 O - と 自 由 酸 素 O 2 - の モ ル 分 率 の 合 計 N ( NBO FO)i と し て 扱 っ て い る 。二 元 系 の 場 合 ,Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 濃 度 N (Al BO) j は ゼ ロ である。 N (NBO FO)i n(O M)i / nTotalO 2bi /( 4a 2bi ) bi /(2a bi ) 105 (5) N (Al BO) j 0 (i -2) (6) a SiO 2 - c Al 2 O 3 系 { a + c = 1 (mol)} 二 元 系 SiO 2 - Al 2 O 3 に お い て ,Al 四 面 体 の 形 成 に 必 要 で あ る ア ル カ リ 酸 化 物 , アルカリ土類酸化物から電荷中性条件を満たす役割を果たす陽イオンはない。 そ の 結 果 ,Al 2 O 3 が 塩 基 性 酸 化 物 の よ う な ネ ッ ト ワ ー ク 修 正 酸 化 物 と し て 働 く 。 (i -1)と 同 様 に ,Si に 結 び つ か な い 酸 素 の 結 合 数 n(O M)i は Al 2 O 3 を c モ ル 添 加 し た 場 合 , 6c モ ル と な る 。 a SiO 2 - c Al 2 O 3 系 の 酸 素 結 合 の 総 数 n T o t a l - O は 4 a +6 c モ ル で あ り , 次 の よ う に 書 け る N ( NBO FO)i nO M / nTotal O 6c /(4a 6c) 3c /( 2a 3c) (7) N (Al BO) j 0 (8) ( ⅱ ) 3 成 分 a SiO 2 - b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 系 { a + b i +c = 1 (mol)} ( (M x O y ) i = CaO, MgO, FeO, K 2 O or Na 2 O ) (ii-1) b i > c ( bi モ ル が c よ り 大 き い 時 ) 塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 b i が ア ル ミ ナ 酸 化 物 の 量 c よ り 多 い 時 ,溶 融 酸 化 物 中 の Al 四 面 体 を 形 成 す る た め に 十 分 な 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す陽イオンjがあるので,アルミナ酸化物はネットワーク形成物として働く ( Al は す べ て ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に 入 る )と 仮 定 す る 。陽 イ オ ン j の Al 四 面 体 の 酸 素 結 合 数 n(O Al in Al) j は 8 c モ ル で あ る 。 Si と 結 び つ か な い 残 さ れ た 酸 素 結 合 数 は n(O M)i は , 2( b i - c ) モ ル と な る 。 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン c モ ル と 同 様 の 酸 素 c モ ル は Al 2 O 3 の c モ ル の 四 面 体 に 使 用 さ れ る 。 a SiO 2 - b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 系 の 総 酸 素 結 合 数 n T o t a l - O は 4 a +2 b i +6 c モ ル と な る 。 本 の モ デ ル に お い て , 総 酸 素 結 合 数 n T o t a l - O に 対 す る Al 四 面 体 の 酸 素 結 合 数 nO Al in Al の 比 は ,Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 含 有 量 N (Al BO) j と し て ,次 の ように書ける。 N (Al-BO) j n(O Al in Al) j / nTotal O 8c /( 4a 2bi 6c) 4c /( 2a bi 3c) N (NBO FO)i n(O M)i / nTotal O 2(bi c) /(4a 2bi 6c) (bi c) /(2a bi 3c) (ii-2) b i < c (9) (10) ( bi モ ル が c よ り 小 さ い 時 ) 塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 b i が ア ル ミ ナ 酸 化 物 の 量 c よ り 少 な い 時 , 塩 基 性 酸 化 物 が Al 四 面 体 に 対 し て 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陰 イ オ ン に 106 の み 使 用 さ れ る ( ア ル カ リ 酸 化 物 で 中 和 さ れ た Al の 分 だ け が ネ ッ ト ワ ー ク に 入 る )と 仮 定 す る 。そ れ ゆ え ,Al 四 面 体 の 酸 素 結 合 数 n(O Al in Al) j は 8 b i mol と なる。なぜならば,本研究で選択した塩基性酸化物の 1 モルは アルミナ酸化 物 四 面 体 の 2 mol ,す な わ ち , Al 四 面 体 に お け る 8 モ ル の 酸 素 結 合 と な る 。 Si に 結 び つ か な い 残 酸 素 結 合 の 数 n(O M)i は 6( c - b i ) モ ル と な る 。 こ れ は , Al 四 面 体 の 酸 素 結 合 以 外 の ア ル ミ ナ 酸 化 物 か ら の 酸 素 結 合 の 数 で あ る 。 そ れ ゆえ,次式となる。 N (Al-BO) j n(O Al in Al) j / nTotal O 8bi /( 4a 2bi 6c) 4bi /( 2a bi 3c) (11) N (NBO FO)i n(O M)i / nTotalO 6(c bi ) /(4a 2bi 6c) 3(c bi ) /(2a bi 3c) (12) (iii) 多 成 分 a SiO 2 - b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 系 { a + i b +c=1 (mol)} i i ( (M x O y ) i = CaO, MgO, FeO, K 2 O 又 は Na 2 O ) (iii-1) b i > c i 塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 の 計 b がアルミナ酸化物の量 c より多い時, i i 先 ほ ど 述 べ た よ う に , 融 体 の Al 四 面 体 を 形 成 す る た め 十 分 な 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン が あ る の で ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 は ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 物 と し て の み 働 く 。こ こ で ,各 塩 基 性 酸 化 物 へ の イ オ ン の 供 給 は 塩 基 性 酸 化 物 の 含 有 量 に 比 例 す る と 仮 定 す る 。電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン j と Al 四 面 体 に お け る 酸 素 結 合 の 数 は 8c(bi / bi ) モ ル ,Si に 結 合 し な い 酸 素 i 結 合 の 数 は 2bi 2c(bi / b ) モルであることを意味する。 i i N (Al-BO) j n(O Al in Al) j / nTotal O 8c(bi / bi ) /( 4a 2 bi 6c) i i 4c(bi / bi ) /(2a bi 3c) i (13) i N (NBO FO)i n(O M)i / nTotal O 2{bi c(bi / bi )} /(4a 2 bi 6c) i i {bi c(bi / bi )} /(2a bi 3c) i 107 i (14) (iii-2) b i < c i 塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 の 合 計 b i はアルミナ酸化物の量 c より少ない i 時,3成分についても同様に次のように書ける。 N (Al-BO) j n(O Al in Al) j / nTotal O 4bi /(2a bi 3c) , (15) N (NBO FO)i n(O M)i / nTotal O 3(c bi ) /(2a bi 3c) (16) i i 5.3. i 結果と考察 5.3.1. 係 数 の 決 定 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 を 表 す( 3 ),( 4 )式 に は ,2 種 類 の 係 数 が 含 ま れ て い る 。前 者 は 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン に 関 す る 係 数 で ,後 者 は Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 を 関 連 す る 係 数 で あ る 。 αi は非架橋酸素イオンの結合の弱さ,αj in Al は Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 結 合の弱さを表す。本モデル式において,αi と αj つとより低い粘度を示すことになる。 αi と αj がより大きな値を持 in Al in Al の値は非架橋酸素イオ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン の 近 傍 の 陽 イ オ ン に 依 存 す る 。陽 イ オ ン は ,塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i を シ リ ケ ー ト に 添 加 す る こ と に よ っ て 生 成 さ れ る 。 そ し て , ま た Al 四 面 体 の 近 く の 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン も ,塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i を シ リ ケ ー ト に 添 加 す る こ と に よ っ て 生 成 さ れ る 。 本研究では,αi と αj ルミナシリケート系 in Al の係数は二元系シリケート系 2 6 ,3 4 - 3 6 ,3 9 - 4 1 ) 25-34) と三元系ア の 実 験 値 を 用 い て 決 定 し た 。係 数 の 決 定 方 法 は次のとおりである。 ( こ こ で ,(M x O y ) i は ① 初 め に ,酸 化 物 i の α i の 値 は ,二 元 SiO 2 -(M x O y ) i 系 , CaO, MgO, FeO, K 2 O, Na 2 O ま た は Al 2 O 3 で あ る ) に お け る 粘 度 の 実 験 値 に 一 致 す る よ う に 前 述 の ( 3 ),( 4 ) 式 に 適 用 し て 決 定 し た 。 ② 次に,電荷中性条件を満たす役割を果たす陽イオン j のαj in Al の値の決 定 は , 三 元 SiO 2 -(M x O y ) i -Al 2 O 3 系 ,( こ こ で (M x O y ) i は CaO, MgO, FeO, K 2 O ま た は Na 2 O で あ る ) に お け る 粘 度 の 実 験 値 と 二 元 系 で 決 定 さ れ た α i 係 数 を 用 いて計算した粘度が一致するように決定した。 これらの係数の決定に使用した実験値 25-41) 数 を Table 3 に 示 す 。 108 の 出 典 を Table 2 に , 導 出 し た 係 Table 2 Experimental data used for determining model parameters. System Binary Ternary Temperature (K) References SiO 2 -CaO 1723 - 2373 25-27 SiO 2 -MgO 1823 - 2273 27,28 SiO 2 -FeO 1473 - 1723 29-32 SiO 2 -K 2 O 1373 - 1973 28,33 SiO 2 -Na 2 O 1373 - 1973 28,33 SiO 2 -Al 2 O 3 1973 - 2373 26,34 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 1423 - 2273 26,35 SiO 2 -MgO-Al 2 O 3 1673 - 2073 36-39 SiO 2 -FeO-Al 2 O 3 1523 - 1573 40 SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 1523 - 1673 39 SiO 2 -Na 2 O-Al 2 O 3 1523 - 1773 41 Table 3 Model parameters. (MxOy)i i j CaO 4.00 Ca MgO 3.43 Mg FeO 6.05 Fe K 2O 6.25 K Na2O 7.35 Na Al2O3 1.14 aj in Al 2+ 1.46 2+ 1.56 2+ 3.15 + -0.69 + 0.27 5.3.2. 計 算 結 果 須 佐 ら の モ デ ル を 用 い て 酸 素 の 結 合 状 態 を 計 算 し た N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 値 を 利 用 し て 得 ら れ た 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 の 値 の 妥 当 性 を 検 討 す る た め に ,文 献 値(係数の決定に使用した値)と計算値を比較した。 109 溶 融 SiO 2 -CaO, SiO 2 -Na 2 O , SiO 2 -Al 2 O 3 二 元 系 ス ラ グ の 粘 度 の 計 算 結 果 を Figs.5-7.に 示 す 。 本 モ デ ル で は , こ れ ら の 二 元 系 の 粘 度 の 組 成 依 存 性 を 再 現 で き て い る こ と が わ か る 。 計 算 値 は , 溶 融 SiO 2 -CaO , SiO 2 -Na 2 O 系 で CaO と Na 2 O 濃 度 が 高 く な る と 実 験 値 よ り や や 下 側 に 外 れ る 傾 向 が あ る 。こ の ず れ は , 粘度に対して非架橋酸素イオンと自由酸素イオンの影響を同等に扱うと仮定 したことによると考えられる。これまでの報告 16-21) では,非架橋酸素イオン 濃 度 と 自 由 酸 素 イ オ ン 濃 度 は IRSID‘ セ ル モ デ ル ’ を 用 い て 個 々 に 計 算 さ れ , これらの酸素濃度の合計の値を用いて幅広い濃度範囲で粘度と組成の関係を 表 す こ と が で き て い る 。例 え ば ,二 元 系 で の 熱 力 学 的 に 計 算 さ れ た ( N O N O 2 ) は ,あ る 濃 度 ま で 増 加 し ,そ れ か ら ,あ ま り 変 化 し な い 。こ の 挙 動 は ,二 元 系 で の 粘 度 と 組 成 の 関 係 と 一 致 す る 。 す な わ ち , 純 粋 な SiO 2 か ら SiO 2 濃 度 を 減 少 さ せ る と ,あ る 濃 度 の 範 囲 で 粘 度 は 明 ら か に 減 少 し ,そ の 後 ,ご く 僅 か な 減 少 と な る 。一 方 ,本 モ デ ル に お い て ,非 架 橋 酸 素 イ オ ン 濃 度 と 自 由 酸 素 イ オ ン 濃 度 の 計 N ( NBO FO)i は ,Al 四 面 体 の 結 合 以 外 で Si と 結 合 し て い な い 総 て の 酸 素 結 合 の 数 か ら の み 計 算 さ れ て い る 。そ の た め ,塩 基 性 酸 化 物 が 増 加 す る と ,す べ て の 濃 度 範 囲 で N ( NBO FO)i が 連 続 的 に 増 加 す る こ と に な り ,塩 基 性 酸 化 物 が 高 い濃度になったとしても粘度が減少し続ける。 6 1873 K Log { viscosity (Pa.s) } Bockris et al. 4 2073 K 25) Kozakevitch 26) Urbain et al. 27) Present calc. 2 0 -2 -4 0 0.2 0.4 0.6 0.8 Mol fraction of CaO (-) Figure 5 Viscosity of SiO 2 -CaO system. 110 1 8 1473 K Log { viscosity (Pa.s) } Bockris et al. 6 1673 K 28) Eipeltauer et al. 33) Present calc. 4 2 0 -2 0 Figure 6 0.2 0.4 0.6 0.8 Mol fraction of Na2O (-) 1 Viscosity of SiO 2 -Na 2 O system. 6 2173 K Log { viscosity (Pa.s) } Kozakevitch 4 2273 K 26) Urbain et al. 34) Present calc. 2 0 -2 0 Figure 7 0.2 0.4 0.6 0.8 Mol fraction of Al2O3 (-) Viscosity of SiO 2 -Al 2 O 3 system. 111 1 Fig.8, 9 に 1973K に お け る 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 三 元 系 と 1673K に お け る 溶 融 SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 三 元 系 の 粘 度 を 示 す 。こ れ ら の 図 に お い て ,実 線 は 本 モ デ ル に よ っ て 計 算 し た 等 粘 度 曲 線 ,○ 印 は 実 験 値 を 示 す 。Fig.8 で 等 粘 度 曲 線 が 1 点 で 折 れ て い る が ,こ れ は ,CaO モ ル 濃 度 が Al 2 O 3 モ ル 濃 度 と 等 し い 点 に 相 当 す る 。CaO 量 が ア ル ミ ナ 酸 化 物 の 量 よ り 高 い 時 ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 が 先 に 述 べ た よ う に 融 体 中 に Al 四 面 体 を 形 成 す る た め に 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン Ca 2 + に よ る ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 物 と し て 働 く 。 一 方 , 上 記 の 組 成 よ り も Al 2 O 3 側 に お い て ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 は ,電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す Ca 2 + イ オ ン が 不 足 す る た め ,ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 酸 化 物 と し て だ け で な く ,ネ ッ ト ワ ー ク 修 正 酸 化 物 と し て 働 く 。本 モ デ ル に お い て ,こ の 観 点 を 考 慮 し て 計 算 し た 等 粘 度 曲 線 は 溶 融 SiO 2 - CaO- Al 2 O 3 三 元 系 に お い て 1973K の 幅 広 い 組 成 範 囲 で 実 験 値 の 粘 度 と 組 成 の 関 係 を 再 現 し て い る 。二 元 系 同 様 ,計 算 結 果 は SiO 2 濃 度 が 低 い 時 , 実 験 値 よ り 若 干 低 く な っ て い る 。 Fig.9 で , 溶 融 SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 三 元 系 の 1673K に お け る 計 算 結 果 は , 組 成 範 囲 は 狭 い け れ ど も 実験値と一致する。 SiO2 Kozakevitch26) Present calc. 0.89 0.26 3.8 0.84 2.23 1.07 0.13 0.22 0.53 0.14 0.24 0.14 3 0.96 0.44 0.5 1 0.24 0.25 0.27 0.08 0.17 0.17 0.15 CaO Figure 8 0.5 0.19 0.05 0.1 0.2 Al2O3 Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 system (mass%) at 1973 K. 112 SiO2 Mizoguchi et al.39) Present calc. 10.1 3.66 4.94 8.33 8.54 1.64 2.07 10.3 0.786 2.97 3.03 2.36 0.3 1 3 10 K2 O Figure 9 Al2O3 Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 system (mass%) at 1673 K. MgO ま た は FeO を 含 む 四 元 系 の 溶 融 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 を Fig.10,11 に 示 す 。Fig.10 は 溶 融 SiO 2 -CaO-MgO-10mass%Al 2 O 3 四 元 系 ス ラ グ の 1723 K に お け る 粘 度 を 示 す 。 等 粘 度 曲 線 の 計 算 結 果 は , Machin ら 42,43) の実測 値 と よ く 一 致 し ,SiO 2 濃 度 が 減 少 す る と 粘 度 が 小 さ く な る 傾 向 を 再 現 し て い る 。 Fig.11 は 溶 融 SiO 2 -CaO-FeO 系 で Gimmelfarb の 実 験 値 44) 20mass%Al 2 O 3 を 含 む ス ラ グ の 粘 度 を と と も に 示 す 。 同 図 に 示 す よ う に , 高 SiO 2 濃 度 域 で CaO,FeO が 増 加 す る と 粘 度 は 下 が る が ,CaO,FeO が 多 い 領 域 で は ,粘 度 が 増 加 す る 傾 向 が 見 ら れ る 。 こ の 図 に “ Fact sage” を 用 い て 得 ら れ た 液 相 線 を 記 入 す る と , 低 SiO 2 濃 度 で 固 液 共 存 領 域 が 存 在 し , こ れ が 粘 度 増 加 の 原 因 で あ る ことがわかる。液相領域での文献値と計算値を比較すると,本モデルは溶融 SiO 2 -CaO-MgO-10mass%Al 2 O 3 系 に お い て も 計 算 値 は 実 験 値 を 再 現 し て い る 。 113 SiO2 Machin et al.42,43) 1.2 0.8 Present calc. 15 15.2 19.3 15.7 13.6 12.5 5.2 5.8 5.0 4.3 3.8 3.5 1.1 1.0 0.9 0.8 0.8 5 1 0.5 0.7 0.7 0.6 0.5 CaO Figure 10 MgO Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -CaO-MgO-10Al 2 O 3 system (mass%) at 1723 K. SiO2 Gimmelfarb44) Liquidus (FactSage) Present calc. 5 2 3.9 2.5 2.4 3.5 1 0.5 0.3 1.5 1.4 1.1 1 1.3 0.6 0.8 1.1 1.8 0.7 0.8 0.3 1.1 0.8 0.3 0.8 0.2 5.1 0.3 0.4 5.2 1.7 0.7 1 7 0.8 CaO Figure 11 0.3 FeO Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -CaO-FeO-20Al 2 O 3 system (mass%) at 1623 K. 114 最 後 に ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O お よ び 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -Na 2 O 四 元 系 に お け る 粘 度 の 推 算 に 本 モ デ ル を 使 用 す る こ と を 試 み た 。ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 溶 融アルミノシリケートの粘度測定結果は中島ら 45) において報告されている。 Fig.12 は ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O お よ び Na 2 O 四 元 系 の 1873K に お け る 粘 度 を 示 す 。 Fig.12 (a) は , 文 献 45 の 粘 度 測 定 値 を , Fig.12 (b)は 本 モ デ ル の 計 算 値 を 示 す 。 さ ら に , Fig.12 (c) 改良した飯田モデル 47) (d)に , (ⅰ )Riboud モ デ ル 46) と (ⅱ ) による計算値を示した。これらのモデルは,アルカリ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 系 に 適 用 で き ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 推 算 す る モ デ ル と し て よ く 用 い ら れ て い る 。 48) Fig.12 (a)に お い て , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O 四 元 系 の 粘 度 は , K 2 O 濃 度 が 増 す に つ れ て 増 加 し , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -Na 2 O 四 元 系 の 粘 度 は , Na 2 O 濃 度 が 増 す に つ れ て 減 少 す る 。 一 方 , Fig.12 (b) に お け る 計 算 値 で は , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 系 に Na 2 O を 添 加 す る と 粘 度 は 低 く な り ,SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 系 に K 2 O を 添 加 す る と わ ず か に 減 少 こ と を 示 し て い る 。 Riboud モ デ ル の 計 算 値 は , Fig.12 (c) に 示 す よ う に ,本 モ デ ル と 傾 向 が 似 て い る が ,本 モ デ ル よ り K 2 O, Na 2 O の 増 加 に よ る 粘 度 の 減 少 傾 向 は 強 い 。 改 良 し た 飯 田 モ デ ル に よ る 計 算 値 は , Fig.12 (d) に 示 す よ う に , K 2 O, Na 2 O の 添 加 に よ っ て 同 じ よ う な 粘 度 の 組成依存性を示している。 こ れ ら の 結 果 か ら , 本 モ デ ル は , 他 の モ デ ル と 比 較 す る と , K2O 添 加 に よ る 粘 度 の 増 加 を 表 現 し て い な い け れ ど も ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 三 元 系 へ の K 2 O 添 加 の 影 響 と Na 2 O 添 加 の 影 響 の 違 い を 明 ら か に 表 し て い る 。 本 モ デ ル で は , ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 系 の 組 成 変 化 に 対 す る 粘 度 の 挙 動 は ,次 の 2 つ の 因 子 か ら 決 定される。 (ⅰ ) 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン j と Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 結合の弱さを表す係数:αj in Al (ⅱ ) Al 四 面 体 を 形 成 す る た め に 供 給 さ れ る 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す イ オ ン の 量 : N (Al BO) j 前 者 に つ い て , K2O の α j in Al は Na 2 O の α j + in Al よ り 小 さ い , こ れ は , Al 四 面 + 体 の 架 橋 酸 素 の 結 合 が Na よ り , K が 強 い こ と を 意 味 す る 。 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O 四 元 系 と 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -Na 2 O 四 元 系 の 計 算 結 果 は 係 数 αj in Al の差を反映している。後者において,おのおの陽イオンは,他のイオ ン と の 相 互 作 用 と い う 固 有 の 性 質 を 持 つ の で ,電 荷 を 中 性 に 保 つ イ オ ン と し て , い く つ か の 陽 イ オ ン は 優 先 的 に 働 く と 考 え ら れ る が ,こ れ ら に 関 す る 情 報 の 不 足 の た め ,本 研 究 で は ,お の お の の 塩 基 性 酸 化 物 か ら 電 荷 を 中 性 に 保 つ イ オ ン 115 の 供 給 は 塩 基 性 酸 化 物 の 濃 度 に 比 例 す る と 仮 定 し て い る 。こ れ が 原 因 で ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O 四 元 系 の 実 験 値 と 組 成 の 関 係 を 適 切 に 再 現 で き て い な い 。 Table 3 に お い て , K + の α j in Al は -0.69 と 負 の 値 を 示 し て お り , 電 荷 を 中 性 に + 満 た す イ オ ン の 量 N (Al BO) ( j j =K )が 本 研 究 で 推 定 し た 量 よ り 大 き い 場 合 に は , 粘 度 の 値 は 本 研 究 で 計 算 し た 粘 度 の 値 よ り 高 く な り , Fig.12(a)の 傾 向 を よ り よく再現することになる。 (a) (b) 1 Log { viscosity (Pa.s) } Log { viscosity (Pa.s) } 1 0 -1 0 -1 0 5 10 K2O, Na2O (mass%) 15 (c) 0 15 (d) 1 1 Log { viscosity (Pa.s) } Log { viscosity (Pa.s) } 5 10 K2O, Na2O (mass%) 0 -1 0 -1 0 5 10 K2O, Na2O (mass%) 15 44CaO-36SiO 2-20Al2O3 (mass%) K2O Na2O 0 5 10 K2O, Na2O (mass%) 15 32CaO-48SiO 2-20Al2O3 (mass%) K2O Na2O 40CaO-40SiO 2-20Al2O3 (mass%) K2O Figure 12 Na2O Viscosity of SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O or Na 2 O system at 1873 K. (a) Experimental data 45) , (b) present calculation, (c) Riboud model 46) and (d) modified Iida model 47) . 116 5.4. フッ化カルシウムを含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度モデル 廃 棄 物 溶 融 炉 は CaF 2 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 処 理 す る こ と も あ る の で , 溶 融 ス ラ グ は ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 に CaF 2 を 含 む 系 と な る 。 CaF 2 を 含 む 系 に 対 し て は , 前 述 の IRSID 熱 力 学 ‘ セ ル モ デ ル ’ を 適 用 す る こ と は 難 し い の で ,本 章 で は ,化 学 組 成 か ら 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 し ,酸 化 物 と フ ッ 化 物 の 混 合 物 を 扱 う こ と が 可 能 な 須 佐 ら の モ デ ル を 用 い て ,CaF 2 を 含 有 す る溶融シリケート系の粘度への推算モデルの拡張を試みた。 5.4.1. F を含有するアルミノシリケート ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に CaF 2 が 添 加 さ れ た 場 合 , 須 佐 ら 49) は , F イ オ ン は Si-F や Al-F の 結 合 を 形 成 し て シ リ ケ ー ト の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 直 接 “ 切 断 ” す る よ う に は 働 か ず , Fig.13 に 示 す よ う に ネ ッ ト ワ ー ク が あ ら か じ め CaO に よ り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 , CaF 2 の 添 加 は 最 終 的 に O-Ca-F 結 合 を 形 成 し , 結 果 と し て ネ ッ ト ワ ー ク を よ り “ 切 断 ” す る 方 向 に 働 き ,粘 度 が 低 下 す る と し て い る。 Si O Si Si O O Ca2+ O Si O Figure 13 Si O CaF+ O CaF+ + CaF2 Si Si O Si Structural change by adding CaF 2 into silicate こ の 考 え 方 は 式 (3),(4)中 の 非 架 橋 酸 素 , 自 由 酸 素 の 項 α i ・ N ( N B O + F O ) I に 対 し て 新 た に O-Ca-F 結 合 に 関 す る α C a F 2 と N ( N B O + F O ) C a F 2 を 考 慮 す る こ と に よ り 本 モ デ ル を CaF 2 を 含 む 系 に 拡 張 で き る 。 こ こ で は N ( N B O + F O ) C a F 2 ( O-Ca-F 結 合 ) の 増 加 に よ り CaO の 存 在 に よ っ て 生 じ た Ca 2 + イ オ ン が “ 切 断 ” し た 箇 所 に お け る 非 架 橋 酸 素 ,自 由 酸 素 濃 度 は 減 少 す る 。た だ し ,適 用 組 成 範 囲 は モ ル 単 位 で CaO 濃 度 が CaF 2 濃 度 よ り 高 い 場 合 に 限 ら れ る 。 こ こ で 多 成 分 a SiO 2 - ∑ b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 - d CaO- e CaF 2 系 { a +∑ b i + c + d + e =1 (mol)} ( (M x O y ) i = MgO, FeO, K 2 O, Na 2 O )に 関 し て ,先 の (4)式 に お け る N ( N B O + F O ) i , N ( A l - B O ) j は次のように表される。 117 N (NBO FO)CaF e /( 2a bi 3c d ) (17) 2 N (Al-BO) j 4c(bi /(bi d )) /( 2a bi 3c d ) ( j = Mg 2 + , Fe 2 + , K + , Na + ) N (Al-BO) Ca 2 4c((d e) /(bi d )) /(2a bi 3c d ) N (NBO FO)i {bi c(bi / bi )} /(2a bi 3c d ) (19) ( i = MgO,FeO,K 2 O,Na 2 O,Al 2 O 3 ) (20) N (NBO FO)CaO {(d e) c((d e) / bi )} /(2a bi 3c d ) 5.4.2. (18) (21) パラメータの決定 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 を 表 す 先 の (3), (4)式 に は , 2 種 類 の 係 数 , αi と αj in Al が含まれている。前者は非架橋酸素イオンと自由酸素イオン に 関 す る 係 数 で , 後 者 は Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 と 関 連 す る 係 数 で あ る 。 本研究では,αi と αj ナシリケート in Al の係数は二元系シリケート 26,34-36,39-41) な ら び に SiO 2 -CaO-CaF 2 系 50-52) 25-34) ,三元系アルミ の粘度の実験値を用い て決定した。係数の決定方法は次のとおりである。 ① 5.3.1.に お い て 述 べ た よ う に , α i の 値 と α j in Al の値は,実験値に計算 した粘度の値が一致するように決定した。 ② 次 に ,上 述 の 5.3.1 で 決 定 し た 値 を 用 い て α Ca F2 を 溶 融 SiO 2 -CaO-CaF 2 系 の 粘度の実験値に合うように導出した。 5.3.1 の Table 3 に 掲 載 し た α i と α j in Al に 上 記 の α CaF2 を 加 え た 結 果 を Table 4 に 示 す 。 Table 4 (MxOy)i CaO MgO FeO K2O Model parameters i 4.00 Fe 6.25 7.35 Al2O3 1.14 CaF2 10.8 1.46 2+ 1.56 2+ 3.15 + -0.69 Mg 6.05 K Na 118 in Al 2+ Ca 3.43 Na2O aj j + 0.27 5.4.3. 計算結果 須 佐 ら の モ デ ル を 応 用 し ,CaF 2 の 添 加 に よ る シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 計 算 し た N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 値 の 変 化 を 計 算 す る こ と に よ る 本 モ デ ル の 粘 度 の 値 の 信 頼 性 を 確 認 す る た め に ,文 献 値( 係 数 の 決 定 に 使 用 し た 各 種 溶 融 酸 素 物 系 の 粘 度 の 値 ) と 本 計 算 値 を 比 較 し た 。 1873 K に お け る 溶 融 SiO 2 -CaO-CaF 2 系 の 粘 度 を Fig.14 に 示 す 。本 モ デ ル に よ る 等 粘 度 線 は CaO モ ル 濃 度 が CaF 2 モ ル 濃 度 よ り 大 き な 値 と な る モ デ ル の 適 用 範 囲 内 で 示 さ れ て い る 。 同図中の■,△印は実験結果 50,51) を 示 し て い る 。 本 計 算 結 果 は CaF 2 の 粘 度 を 低 下 さ せ る 作 用 が CaO よ り 大 き い と い う 一 般 的 な 傾 向 を 示 し て い る 。ま た ,本 モ デ ル で 評 価 し た CaO に 対 す る CaF 2 の 粘 度 へ の 影 響 を 表 す パ ラ メ ー タ の 比 α C a F 2 / α C a O は 2.7 と な り , 白 石 ら 51) の 報 告 に よ る CaF 2 が CaO の 2.2 倍 の 作 用 をもって粘度を低下させるという報告と同程度の値をとっている。 Fig.15,16 は 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 4 成 分 系 の 粘 度 の 計 算 結 果 を 実 験 値 53) と と も に 示 し て い る 。 実 験 値 は CaF 2 濃 度 の 増 加 に よ り 粘 度 が 低 下 す る 傾 向 を 示 し て い る 。 本 モ デ ル は 僅 か に 実 験 値 と の ず れ は あ る が CaF 2 の 粘 度 に 対 す る 影 響 を 良 く 再 現 し て い る 。 Fig.17 は 溶 融 SiO 2 -CaO-Na 2 O-CaF 2 4 成 分 系 の 粘 度の計算結果を実験値 54) と と も に 示 し て い る 。 実 験 値 は CaF 2 濃 度 の 増 加 に よ り 粘 度 が 低 下 す る 傾 向 を 示 し て い る 。 溶 融 SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 6 成 分 系 の 粘 度 を Fig.18 に 示 す 55) 。 Fig.18 で 引 用 し た 文 献 値 で は 一 部 の 組 成 に Li 2 O が 含 ま れ て い る が ,本 計 算 で は Li 2 O を 考 慮 せ ず に 計 算 を 行 っ て い る 。D2, D3,D4,D12 の 順 に 実 験 値 は 粘 度 が 小 さ く な っ て い る が ,本 計 算 結 果 は そ の 傾 向 を再現している。 119 SiO2 3 1 0.3 3.1 1.6 0.9 1.1 0.62 0.73 0.61 0.39 0.29 0.5 0.28 0.38 0.29 0.26 0.28 0.43 0.2 0.235 0.205 0.29 0.4 0.165 0.1 0.155 0.15 0.235 0.15 0.02 0.2 0.05 Shiraishi et al. Hetry et al. 0.1 0.03 0.01 0.02 CaF2 CaO Figure 14 Viscosity (Pa . s) of molten SiO 2 -CaO-CaF 2 (mass%) at 1873K 50,51) 120 15 Viscosity (Pa.s) Michel et 10 Present calc. Slag 1 Slag 2 Slag 3 Slag 1 SiO2 CaO Al2O3 42 38 20 CaF2 Slag 2 40.3 36.5 19.2 4 Slag 3 37.8 34.2 18 10 (mass%) 5 0 1500 1600 Temperature (K) Figure 15 1700 Viscosity of molten SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 53) 8 Riboud et al. Viscosity (Pa.s) 6 Present calc. LB B5F B10F B15F 4 SiO2 CaO Al2O3 CaF2 LB 42.1 45.9 11.9 0 B5F 39.6 44.7 11.3 4.3 B10F 38.6 43.3 11 7.1 B15F 37.2 40.5 10.5 11.7 (mass%) 2 0 1500 1600 1700 Temperature (K) Figure 16 1800 Viscosity for molten SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 . 54) 121 (a) SiO2 Present calc. SiO2 CaO Na2O CaF 2 A 40.6 32.7 18.4 8.3 C 48.3 25.2 18.3 8.2 E 56.2 18 18.6 7.1 G 40.5 40.8 10 8.7 I 47.9 34.3 9.1 8.7 K 53.3 27.2 10.7 9.1 Riboud et al. 1 0.3 0.1 0.323 0.115 0.357 0.113 0.065 0.048 0.03 0.01 (mass%) CaO Na2O (b) SiO2 Present calc. Riboud et al. 1 0.3 0.1 0.106 0.047 0.03 0.376 0.23 0.108 0.04 0.01 CaO Figure 17 SiO2 CaO Na2O CaF2 B 40.8 23.8 18.4 17 D 49 16.6 18.2 16.2 F 56.1 7.6 18.8 17.5 H 40.6 32.8 8.9 17.7 J 48.1 26.4 9.1 16.4 L 56.2 19.4 8.8 15.7 (mass%) Na2O Viscosity (Pa . s) in SiO 2 -CaO-Na 2 O-CaF 2 system at 1773 K. 54) Present calculations are conducted at (a) 8 mass%CaF 2 and (b) 17 mass%CaF 2 . 122 1 Nakajima et al. Present calc. D2 D3 D4 D12 Viscosity (Pa.s) 0.8 0.6 0.4 0.2 0 1500 1600 1700 Temperature (K) 1800 SiO2 Al2O3 CaO CaF2 Na2O MgO Li2O D2 41.76 7.67 24.07 14.63 9.23 2.65 0 D3 40.62 6.97 25.21 14.25 9.19 2.5 1.26 D4 39.04 7.65 24.53 15.29 8.8 2.83 1.85 D12 35.87 7.88 21.4 16.05 9.58 9.22 0 (mass%) Figure 18 Viscosity of molten SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 123 55) 5.5. 廃棄物溶融炉の溶融スラグの粘度予測 本 モ デ ル を 用 い て , 前 章 の 4.5.高 融 点 廃 棄 物 ( 石 綿 含 有 廃 棄 物 ) の 溶 解 条 件 の 推 定 で 検 討 し た ス ラ グ 組 成 に つ い て 粘 度 を 予 測 し た 。 Table 5 に 溶 融 炉 ス ラ グ へ 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 0,30,50% の 割 合 で 混 合 し た 場 合 の 組 成 を 示 す 。 Fe は FeOx( X=1~ 1.33)の 形 態 で 存 在 す る が ,す べ て FeO と す る 。こ れ ら の 組 成 に つ い て , 1473K~ 1673K の 範 囲 で 本 モ デ ル を 用 い て 粘 度 を 計 算 し た 。 Fig.19 に 溶 融 炉 ス ラ グ へ 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 0,30,50% の 割 合 で 混 合 し た 場 合 の 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 の 計 算 値 を 示 す 。廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 温 度 を 1573~ 1623K で 操 業 管 理 し て い る 場 合 に ,安 定 操 業 の 目 安 と し て 流 動 性 の よ い 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 高 炉 ス ラ グ 同 様 0.6Pa・s 以 下 20) と す る と ,ス ラ グ 量 に 対 し て 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 添 加 量 が 30%程 度 ま で な ら ば 石 綿 含 有 廃 棄 物 が 処 理 可 能 で あ る と 考 え ら れる操業指針が得られた。 Table 5 Compositions of slag mixed with asbestos (mass%) Addition of asbestos (%) 0 30 50 Asbestos SiO 2 CaO FeO Al 2 O 3 Na 2 O K2O MgO CaF 32.1 34.5 36.1 15.4 11.0 8.1 25.7 18.8 14.2 13.0 10.3 8.5 2.8 2.0 1.4 1.2 0.8 0.6 3.2 12.7 19.1 2.0 1.4 1.0 52.0 1.0 2.3 3.8 0.1 0.0 36.5 0.0 5 Addition of 0% asbestos Viscosity (Pa・s) 4 Addition of 30% asbestos Addition of 50% asbestos 3 2 1 0 1473 Figure 19 1523 1573 Temperature (K) 1623 1673 Viscosity of molten slag mixed with asbestos in melting furnace 124 5.6. 結言 アルカリ酸化物を含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度推算モデルの 提 案 を 行 な っ た 。シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 に つ い て は ,非 架 橋 酸 素 イ オ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン の モ ル 分 率 を ,こ れ ま で は 熱 力 学 モ デ ル か ら 計 算 し て き た が ,多 成 分 系 で は 熱 力 学 的 パ ラ メ ー タ が 整 備 さ れ て い な い の で 計 算 で き な か っ た 。そ こ で ,シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 す る た め に , 熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 が 3 種 類 の 結 合 ,す な わ ち ,① Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,② 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,③ Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 か ら 成 る と 仮 定 し ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 形 成 す る 酸 素の結合状態を計算する手法を導入した粘度推算モデルを導出した。 同モデルを用いて,アルカリ酸化物を含む四元系アルミノシリケート融体 ( SiO 2 -CaO-MgO-Al 2 O 3 系 な ど )の 粘 度 推 算 を 行 な っ た 。ま ず ,非 架 橋 酸 素 イ オ ン , 自 由 酸 素 イ オ ン , Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 イ オ ン の 濃 度 を 熱 力 学 パ ラ メ ー タ を 用 い ず ,ス ラ グ 成 分 か ら 計 算 し た 。次 に ,二 元 シ リ ケ ー ト 系 と 三 元 ア ル ミ ナ シリケート系の粘度と濃度の関係の実験値から溶融アルミノシリケートの粘 度 推 算 モ デ ル で 使 用 す る 係 数 を 決 定 し た 。さ ら に ,こ の 係 数 を 用 い て 導 出 し た 溶融アルミノシリケートの粘度推算モデルの三元アルミナシリケート系の粘 度 と 濃 度 の 関 係 と MgO,FeO を 含 む 四 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 の 粘 度 と 組 成 の 関 係 を 求 め ,実 験 値 と 比 較 し た 。そ の 結 果 ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の粘度推算モデルが組成に対する粘度の関係を再現できることが明らかとな った。 さ ら に ,CaF 2 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 を 行 な う た め に ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 が CaO に よ り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 , CaF 2 の 添 加 で O-Ca-F 結 合 を 形 成 す る と 考 え , CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ ケ ー ト 系 の 粘 度 の 推 算 の た め に 上 記 の モ デ ル の 拡 張 を 試 み た 。CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ ケ ー ト 系 に 拡 張 し た 粘 度 推 算 モ デ ル の 計 算 結 果 は , 溶 融 SiO 2 -CaO-CaF 2 , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 系 の 粘 度 に 対 す る CaF 2 濃 度 の 影 響 な ら び に 溶 融 SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 系 の 組 成 依 存 性 を 再 現 し た 。 最 後 に ,本 モ デ ル を 用 い て 廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ に 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 添 加 し た 場 合 の 粘 度 予 測 を 行 な っ た 。4 章 の 熱 力 学 デ ー タ を 用 い た 相 平 衡 解 析 と 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推 算 モ デ ル を 用 い て ,廃 棄 物 溶 融 炉 で 流 動 性 の 良 好 な溶融スラグを得るための有効な操業指針を得ることが可能となった。 125 参考文献 1) Y. Miyabayashi, T. Yoshikawa and T. Tanaka: J. High Temp. Soc., 32 (2006), 281. 2) T. Aoki, K. Miyamoto and Y. Kawasaki: Patent, JP, 2003-181412, A. 3) J. Hino and Y. Miyabayashi: J. High Temp. Soc., 25 (1999), 59. 4) Y. Miyabayashi, H. Noto and M. Narisako: J. Min. Mater. Process. Int. Jpn., 121 (2005), 149. 5) T Aoki, Y. Miayabayashi and T. Yanagida: J. Min. Mater. Process. Int. Jpn., 122 (2006), 235. 6) K. C. Mills, L. Chapman, A. B. Fox and S. Sridhar: Scand. J. Metall., 30 (2001), 396. 7) A. Kondratiev, E. Jak and P. C. Hayes: JOM, 54 (2002), 41. 8) S. Seetharaman, K. Mukai and Du Sichen: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags, Fluxes and Salts, SAIMM, Johannesburg, (2004), 31. 9) L. Zhang and S. Jahanshahi: Metall. Mater. Trans. B, 29B (1998), 177. 10) L. Zhang and S. Jahanshahi: Metall. Mater. Trans. B, 29B (1998), 187. 11) L. Zhang and S. Jahanshahi: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags, Fluxes and Salts, SAIMM, Johannesburg, (2004), 51. 12) A. Kondratiev and E. Jak: Proc. 7th Int. 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Lee and T. Tanaka: ISIJ Int., 45 (2005), 651. 126 22) H. Gaye and J. Welfringer: Proc. 2nd Int. Symp. Metall. Slags and Fluxes, Met. Soc. of AIME, Warrendale, PA, (1984), 357. 23) H. Gaye and J. Lehmann: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags, Fluxes and Salts, SAIMM, Johannesburg, (2004), 619. 24) M. Susa, Y. Kamijo, K. Kusano and R. Kojima: Glass Technol., 46 (2005), 55. 25) J. O’M. Bockris and D. C. Lowe: Proc. R. Soc. A, 226A (1954), 423. 26) P. Kozakevitch: Rev. Metall., 57 (1960), 149. 27) G. Urbain: Rev. Int. Hautes Temp. Refract, 11 (1974), 133. 28) J. O’M Bockris, J. D. Mackenzie and J. A. Kitchener: Trans. Faraday Soc., 57 (1955), 1734. 29) P. Kozakevitch: Rev. Metall., 46 (1949), 505. 30) P. Roentgen, H. Winterhager and L. Kammel: Z. Erz. Metall., 9 (1956), 207. 31) T. Myslivec, J. Wozniak and V. Cerny: Sb. Ved. Pr. Vys. Sk. Banaske Ostrave, 20 (1974), 57. 32) G. Urbain, Y. Bottinga, and P. Richet: Geochim. Cosmochim. Acta, 46 (1982), 1061. 33) E. Eipeltauer and G. 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Morita: Tetsu-to-Hagane, 80 (1994), 509. 128 第6章 6.1. 溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発 緒言 廃棄物溶融処理炉において溶融処理する産業廃棄物は種々雑多であ り,組成,含有量がばらついているため,流動性が刻々と変化するなど 廃棄物溶融炉を安定して操業することは容易ではない。この点から,著 者らはスラグの流動性が代表的な操業指針のひとつであることに注目 し,前の第 4 章,5 章で次の検討を行なった。 1) 廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 未 溶 解 物 に つ い て , 流 動 性 測 定 と 熱 力 学 的 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 を 行 な い ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ の 流 動 性 を 解 析 し ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処理について溶融条件を検討した 1) 。 2) 廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 系 は CaO, FeO, Fe2O3, MgO, K2O, Na2O 等 を 含 む 多 元 系 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ で あ り ,同 ス ラ グ 系 に 対 す る 粘 度 推 算モデルを検討した 2) 。 こ の よ う に ,相 平 衡 解 析 な ら び に 粘 度 推 算 モ デ ル を 通 じ て 廃 棄 物 溶 融 炉における溶融スラグの流動性に関する操業指針を得ることは可能に なったが,産業廃棄物は種々雑多であり,組成,含有量は刻々と変化し ており,それに伴いスラグの流動性が変化する。そのため廃棄物溶融炉 のオンサイトに簡易型の粘度測定装置を設置して粘度の値と温度を迅 速 に 計 測 す る こ と が で き れ ば , SiO2 ま た は CaO の 成 分 を 含 む 溶 剤 の 添 加 量を調整し,スラグの流動性を安定させることが可能となる。しかしな が ら ,高 温 融 体 の 粘 度 測 定 装 置 は 一 般 に ,1) 測 定 に 必 要 な 時 間 が 膨 大 で あ る ,2) 測 定 に 必 要 な 機 器 が 巨 大 で あ る ,な ど の 欠 点 を 有 し て い る た め , オ ン サ イ ト で 粘 度 測 定 が で き る 簡 易 な 粘 度 計 の 開 発 が 望 ま れ る 。そ こ で 本 研 究 で は ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を オ ン サ イ ト で 測 定 す る こ と を 目 指 し た 粘度測定方法を検討した。特に粘度測定方法として落球法に着目し,高 温 用 粘 度 計 の 開 発 の た め の 指 針 を 得 る こ と を 目 的 に ,常 温 と 高 温 に お け る基礎試験を行ない,計測方法,装置の形状・大きさなどに関する検討 を行なった。 129 6.2. 粘度測定法の選定とその原理 6.2.1. 粘度測定法の選定 溶 融 酸 化 物 の 粘 度 測 定 法 と し て は , a)円 筒 回 転 法 ( 同 一 の 回 転 軸 を 有 す る 外 筒 と 内 筒 の 間 に 融 体 を 入 れ ,一 方 の 円 筒 を 一 定 の 回 転 速 度 で 回 転 させて融体の粘性抵抗によって内筒に生ずるトルクから粘度を算出す る 方 法 ), b ) 回 転 振 動 法 ( 融 体 に 周 期 的 な 振 動 を 与 え た 際 の 対 数 減 衰 率 か ら 粘 度 を 算 出 す る 方 法 ), c ) 振 動 片 法 ( 融 体 に 浸 漬 さ せ た 振 動 片 を 一 定の駆動力で振動させ,振幅の変化から粘度を算出する方法)が主とし 3,4) て用いられている 。上記の方法においてはいずれも装置が大きく, 計測のための調整時間も含めて測定全般の時間が長いなどの欠点があ り,オンサイトでの測定に適していない。一方,これまで高温融体に対 しては余り試みられなかったが,落球法(融体中に球を落下させ,一定 距離を落下する時間から粘度を算出する方法)が,測定時間が短く装置 が 簡 易 で あ る こ と か ら オ ン サ イ ト で の 測 定 に 適 し て い る と 考 え ら れ ,本 手法を高温測定に適用するための基礎的検討を行なった。 6.2.2. 原理 落 球 粘 度 測 定 法 と は ,前 述 の よ う に 測 定 対 象 の 流 体 中 を 球 体 が 落 下 す る速度を計測することによって粘度を測定する方法である。但し,計測 地点に到達するまでに球の落下速度が十分に終末一定速度に到達して い な け れ ば な ら な い 。 Fig.1 に 測 定 方 法 の 概 略 図 を 示 す 。 ス ト ー ク ス の 抵 抗 法 則 に よ り , 式 (1)の 関 係 式 が 得 ら れ る 。 D 3 dv 6 dt D 3 6 g 3 Dv ・ ・ ・ (1) こ こ で , D は 落 下 球 の 直 径 ( m ), は 落 下 球 の 密 度 ( k g / m 3 ), v は 落 下 球 の 速 度 ( m / s ) , μ は 試 料 液 の 粘 度 ( P a ・ s ), Δ ρ は 落 下 球 と 試 料 液 と の 密 度 差 ( k g / m 3 ), g は 重 力 加 速 度 ( m / s 2 ) で あ る 。 但 し , 式 ( 1 ) が 成 立 す る た め に は , 式 (2)の 条 件 を 満 た す 必 要 が あ る 。 Re vD f 1 ・ ・ ・ (2) こ こ で , Re は レ イ ノ ズ ル 数 , f は 試 料 液 の 密 度 ( kg/m3) で あ る 。 落下球が終末一定速度に到達後,測定を開始すると加速度は0となり, (1)式 は 次 の (3)式 の よ う に な る 。 130 3 Dv D 3g 6 ・ ・ ・ (3 ) こ こ で 速 度 v は (4)式 で 求 ま る 。 v L t ・ ・ ・ (4 ) 上 式 に お い て , L は 2 点 の 測 定 間 の 距 離( m ), t は 2 点 の 測 定 間 を 通 過 す る 時 間( s )で あ る 。( 3 ) ( 4 ) 式 よ り 粘 度 は ( 5 ) 式 で 表 す こ と が で き る 。 D 2g t 18 L ・ ・ ・ (5) す な わ ち ,融 体 中 で の 比 重 が 既 知 の 直 径 D の 球 が あ る 距 離 L を 通 過 す る 時間 t を計測すれば融体の粘度を測定することができる。 Ball L t Melt (Sample Liquid) Figure 1 Schematic illustration of the falling ball method for viscosity measurement. 6.2.3. 溶融物の高温下での粘度測定装置の課題と解決案 落 球 粘 度 計 で は ,球 が 一 定 距 離 を 落 下 す る 時 間 を 計 測 し な け れ ば な ら な い 。計 測 手 段 と し て は ,1 ) 目 視 に よ る 測 定 ,2 ) 映 像 解 析 に よ る 測 定 , 3) 静 電 容 量 の 変 化 に よ る 測 定 な ど が あ る 。 高 温 の 赤 熱 し て い る 融 体 に 対 し て , 1), 2) は 光 を 媒 体 と し て お り , 測 定 容 器 を 横 か ら 見 る こ と は 困 難 で あ る 。ま た ,3 ) は 装 置 が 複 雑 に な り ,オ ン サ イ ト に は 適 さ な い 。 そ こ で 溶 融 ス ラ グ 中 に 上 下 2 箇 所 に 電 極 を 相 対 す る よ う に 設 置 し ,上 部 から落とした球が上下 2 つの電極間を通過する際の電気抵抗変化から上 下 の 電 極 間 の 一 定 距 離 を 通 過 す る 時 間 を 計 測 す る こ と を 試 み た 。本 章 で は溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発を目指 し て ,落 球 法 に よ る 粘 度 計 測 方 法 の 妥 当 性 の 検 討 を 常 温 下 で の 液 体 と 高 温下の融体を対象として行なった基礎実験について述べる。 131 6.3. 直流電源による常温の基礎実験 6.3.1. 実験装置 Fig.2 に 落 球 実 験 装 置 の 概 略 を 示 す 。 落 球 管 (容 器 )と し て 内 径 15mm, 長 さ 200mm の ア ク リ ル 製 パ イ プ を 用 い , 管 内 壁 面 に 直 径 5mm の 銅 製 の 丸 棒 を 端 面 が 相 対 す る よ う に 電 極 と し て 取 り 付 け ,上 中 下 3 箇 所 に 電 極 を 配置した。試料溶液の液面から上部電極までの距離,および上下の電極 間 の 距 離 は 各 々 5 0 m m と し た 。落 下 さ せ る 試 料 球 と し て は ,直 径 3 . 2 m m の テ フ ロ ン 球 , 直 径 1.6, 2.4, 3.2mm の ス テ ン レ ス 球 を 用 い た 。 試 料 溶 液 に は 増 粘 剤 で あ る 水 溶 性 セ ル ロ ー ス エ ー テ ル (メ ト ロ ー ズ )を 使 用 し , 導 電 性 を 得 る た め に 硫 酸 銅 を 試 料 溶 液 に 1%添 加 し た 。 試 料 溶 液 の 粘 度 は 400~ 8000 mPa・s の 範 囲 で 調 整 し た 。 ま た , 本 試 験 で は , D=3.2mm, f = 1 0 2 0 k g / m 3 , μ = 0 . 4( P a・ s ) の 時 , R e は 最 大 値 0 . 8 3 , vt = 0 . 0 9 6 ( m / s ) と な り , Re が 1 未 満 を 満 足 す る 範 囲 で 粘 度 測 定 を 行 な っ た 。 Fig.3 に 実 験装置の構成を示す。粘度は温度によって大きく変化するため,温度を 一定に保つように落球管全体を恒温槽内に保持した。また,恒温槽の水 温 を 293~ 313K ま で 変 化 さ せ て 同 じ 溶 液 を 使 用 し て 異 な る 粘 度 の 測 定 を 行 な っ た 。 Fig.3 に 示 す よ う に , 各 電 極 を 銅 線 で 並 列 に 繋 ぎ 直 流 電 源 の 抵抗測定器に接続し直流電流を流した。各球を試料溶液中に落下させ, 球 が 各 電 極 を 通 過 す る と き の 抵 抗 変 化 を 計 測 し ,パ ソ コ ン に リ ア ル タ イ ム で デ ー タ を 取 り 込 み ,球 が 電 極 間 を 通 過 す る 時 間 か ら 落 下 速 度 を 算 出 して溶液の粘度を求めた。 Acrylic pipe 50m Ball Copper electrode φ5mm 50m 50m Sample solution φ15mm Figure 2 Schematic illustration of the experimental device of the falling ball method for viscosity measurement. 132 Agitator Pe r so n al c o m pu t e r Digit al m u lt i m e t e r C o ppe r e le c t r o de T e m pe r at u r e c o n t r o l bat h W at e r t e m pe r at u r e 2 9 3 ~3 1 3 K W at e r Expe r im e n t al appar at u s o f t h e dr o ppin g ball m e t h o d Figure 3 6.3.2. The experimental setup for viscosity measurement. 測定開始位置の検討 本手法は落下する球が最上部の電極位置に達するまでに終末一定速 度に到達していることが必要である。そこで,粘性融体内を落下する球 が終末一定速度に到達するまでの距離とその時の速度について検討を 行なった。ストークスの抵抗法則式を落球の落下速度 vとその時の移動 距 離 L に 関 し て 解 く と 次 の 式 (6), (7)が 得 ら れ る 。 D 2 g v 18 L t 0 vdt 1 exp 18 t D 2 p p D 2 g D2 t 18 18 18 t 1 exp 2 D ・ ・ (6) ・ ・ (7) 先ず,本実験で用いた落球管の試料溶液液面から上部電極までの距離, すなわち加速区間距離に関して検討を行なった。試料溶液粘度を 4 0 0 m P a ・ s と し ,ス テ ン レ ス 球 を 落 下 球 と し て 用 い た 場 合 の 落 下 開 始 か ら の 時 間 に 対 す る 落 下 速 度 , 落 下 距 離 の 計 算 結 果 を Fig.4 に 示 す 。 同 図 に おいて,落下開始からの時間 t を横軸に,落下速度,落下距離を縦軸に 示 し て い る 。球 径 は 1 . 6 , 2 . 4 , 3 . 2 m m と し た 。球 径 3 . 2 m m の 場 合 に は 10 m m 133 の 加 速 区 間 距 離 が あ れ ば 終 末 一 定 速 度 に 到 達 す る こ と が わ か っ た 。し た が っ て ,本 実 験 装 置 で は 落 球 管 の 試 料 溶 液 液 面 に お け る 球 の 落 下 位 置 か ら 上 部 電 極 ま で の 距 離 を 50mm と し た 。 Fall ing speed (m/sec) 0.12 Viscosty:400mPa・s 0.10 SUS ball φ3.2mm SUS ball φ2.4mm SUS ball φ1.6mm 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 0.01 0.1 1 10 Time (se c) Fal ling dist ance (m) 10 Viscosty:400mPa・s 1 0.1 0.01 SUS ball φ3.2mm SUS ball φ2.4mm SUS ball φ1.6mm 0.001 0.0001 0.01 0.1 1 Time (sec ) Figure 4 Calculated results on change in the falling speed and the falling distance with time for various ball sizes. 6.3.3. 試料溶液の作製とウベローデ粘度計による粘度測定 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 と 同 等 の 値 を 常 温 で 再 現 す る た め ,試 験 溶 液 に 添 加 する増粘剤濃度,温度を変化させ,ウベローデ粘度計を用いて,試料溶 液の粘度測定を行なった。増粘剤としては,メトローズ(水溶性セルロ ースエーテル)を使用し,後述の落球法による粘度測定時に試験溶液に 導 電 性 を 与 え る た め ,硫 酸 銅 を 1 % 添 加 し た 条 件 の 溶 液 を 作 製 し た 。ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 に よ る 粘 度 測 定 の 実 験 は 次 の よ う な 手 順 で 行 な っ た 。ま ず 純 水 に 所 定 量 の メ ト ロ ー ズ を 溶 解 後 ,硫 酸 銅 を 1 % 添 加 し 試 料 溶 液 を 調 製 する。次に,試料溶液をウベローデ粘度計に入れ,同粘度計を恒温槽内 134 10 の所定の位置に設置する。所定の温度に到達後,ウベローデ粘度計で粘 度 を 測 定 す る 。ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 を 用 い た 粘 度 測 定 で は 液 溜 め に 一 定 量 溜まった試料液が毛細管を通って落下する時間を測定することにより, 粘度が求まる。 C 1t ・ ・ (8) こ こ で , μ は 試 料 液 の 粘 度 ( P a ・ s ), ρ は 試 料 液 の 密 度 ( k g / m 3 ), C 1 は ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 の 粘 度 測 定 係数,tは落 下 時 間 (s)で あ る 。 粘 度 測 定 に 使 用 し た ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 の 粘 度 測 定 係 数 C 1 は 3.05 で あ る 。 F i g . 5 に ウ ベローデ粘度計による試験溶液の粘度測定値の温度変化を各メトロー ズ 濃 度 に 対 し て 示 す 。メ ト ロ ー ズ 濃 度 な ら び に 温 度 を 変 化 さ せ る こ と に よ っ て 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 と 同 等 の 値 が 得 ら れ ,上 述 の 試 料 溶 液 を 用 い れ ば常温において落球法を利用した模擬実験が可能であることを確認で きた。 viscosity / mPa・s 10000 2.0% metorose 2.5% metorose 1.4% metorose 1000 100 288 293 298 303 308 313 318 Temperature (K) Figure 5 Change in the viscosity of Metororz aqueous solutions with temperature by capillary tube method. 6.3.4. 落球法の実験方法 前 項 6.3.3 と 同 様 に , 試 料 溶 液 を 作 製 し , 試 料 溶 液 を ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 , 落 球 試 験 装 置 に 入 れ , Fig.5 に 示 す よ う に 恒 温 槽 内 の 所 定 の 位 置 に 設置する。所定の温度に達した後,ウベローデ粘度計を用いて試料液の 粘度を測定する。次に,落球試験装置の電極間に直流電流を流し,試験 135 溶液の抵抗を測定する。試験球を落球管に落下させ,試験溶液の電気抵 抗 変 化 を 0.025 秒 間 隔 で パ ソ コ ン に 記 録 す る 。 6.3.5. 実験結果 Fig.6 に , 前 述 の Fig.2 の 実 験 装 置 を 用 い て 得 ら れ た 代 表 的 な 電 気 抵 抗 の 経 時 変 化 の 模 式 図 を 示 す 。電 気 抵 抗 変 化 は 大 き く 2 種 類 に 分 別 す る こ と が で き た 。 す な わ ち 数 百 mPa・s の 低 粘 度 領 域 で は , 電 気 抵 抗 値 が ピ ー ク を 有 す る 変 化 を 示 し た 。 一 方 , 数 千 mPa・s の 高 粘 度 領 域 で は 電 気 抵 Electrical resistance Electrical resistance 抗値が階段状に低下する変化を示した。 (a) Low viscosity (b) high viscosity Time Time Figure 6 Schematic examples of the change in electric resistance with time Metororz aqueous solutions with (a) low and (b) high viscosity. Fig.7(a)に 低 粘 度 領 域 で の 電 気 抵 抗 測 定 結 果 の 一 例 を 示 す 。溶 液 粘 度 は 400mPa・s に 調 整 し , 落 下 球 は 直 径 3.2mm の ス テ ン レ ス 球 で あ る 。 横 軸 に 時 間 を 縦 軸 に 電 気 抵 抗 値 を 表 示 し た 。 Fig.7(a)で は , 3 回 の 繰 り 返 し 試 験 に つ い て , 試 験 球 の 落 下 開 始 時 ( t(秒 )=0) の 電 気 抵 抗 値 を ゼ ロ と し て 落 下 後 の 抵 抗 変 化 を 示 し て い る 。 Fig.7(a)に 示 す よ う に , 相 対 す る上下 3 箇所の電極間を通過する際に電気抵抗が急激に大きくなるピー ク が 得 ら れ た 。 こ れ ら の 一 つ 目 の ピ ー ク と 二 つ 目 の ピ ー ク 間 を 時 間 t1 と し ,同 様 に 二 つ 目 の ピ ー ク と 三 つ 目 の ピ ー ク 間 を t 2 と し た 。こ の t 1 , t 2 な ら び に 両 者 の 和 で あ る t1+t2 を Fig.7(b)に 示 す 。 横 軸 N は 試 行 回 数 を 表 し て お り , 繰 り 返 し 実 験 を 行 な っ て も t1,t2 の ば ら つ き は 5%以 内 に あ り再現性のあることを確認した。 136 Viscosity of solution : 400mPa・s Fall ball : sus φ3.2mm Electrical resistance (Ω) Run 1 t1 t2 t1+t2 1.8 1.6 0 Time (sec) 1.4 Run 2 0 Run 3 Peak 0 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 2 t 1 0.2 t 2 0.0 1.0 1.5 (a) Figure 7 2.0 2.5 3.0 3.5 Time (sec) 4.0 4.5 1 5.0 (b) 2 3 Run No. Change in the electric resistance with time for falling a ball in Metororz aqueous solutions with low viscosity. Fig.8(a) に 高 粘 度 領 域 で の 測 定 結 果 の 一 例 を 示 す 。 溶 液 粘 度 は 3700mPa・s と し , 落 下 球 は 直 径 2.4mm の ス テ ン レ ス 球 で あ る 。 Fig.8(a) も ,3 回 の 繰 り 返 し 試 験 に つ い て ,F i g . 7 ( a ) と 同 様 に 表 示 し た 。F i g . 8 ( a ) に 示 す よ う に ,相 対 す る 上 下 3 つ の 電 極 間 を 通 過 す る 際 に 抵 抗 が 大 き く 減少する変化が得られた。高粘度領域の粘度測定では,各々の電気抵抗 変化の経時変化曲線上で電気抵抗が大きく減少する曲線上の変曲点を 求 め ,一 つ 目 の 変 曲 点 と 二 つ 目 の 変 曲 点 間 の 時 間 を t 1 と し ,二 つ 目 の 変 曲 点 と 三 つ 目 の 変 曲 点 間 の 時 間 を t 2 と し た 。変 曲 点 は 次 の よ う に し て 求 め た 。 す な わ ち , 1 秒 間 に 40 個 の 電 気 抵 抗 の 値 が 測 定 で き る の で , 0.025 秒 毎 に 得 ら れ る t(秒 )=0,0.025,0.05,・ ・ ・ ・ の デ ー タ を p=1,2,3,・ ・ ・ ・ n と し , p=1~ Z を 区 間 I(1)と す る 。同 様 に P=2~ (Z+1)を I(2)と し ,P=n ~ (n+Z)を I(n) と す る 。 本 研 究 で は Z=40 と し (す な わ ち 1 秒 間 )一 区 間 と し た 。 各 々 の 区 間 の 電 気 抵 抗 の 測 定 値 の 最 大 値 と 最 小 値 の 差 を ΔR と し ,I(1)か ら I(n)に お け る ΔR を Fig.9(b)に 示 す 。変 曲 点 は ,1 秒 間 あ た り の 電 気 抵 抗 の 変 化 が 最 も 大 き い 時 , つ ま り ΔR が 最 大 値 を 示 す 時 点 に 相 当 す る の で , ΔR が ピ ー ク を 示 す 位 置 を 変 曲点とした。ま た , こ の t1,t2 な ら び に 両 者 の 和 で あ る t1+t2 を Fig.8(c) に示す。前述の低粘度領域の場合と同様に,繰り返し実験を行なっても t1,t2 の ば ら つ き は 5%以 内 に あ り 再 現 性 の あ る こ と を 確 認 し た 。 な お , 本 実 験 で 得 ら れ た 階 段 状 の 電 気 抵 抗 の 経 時 変 化 は ,本 実 験 で 用 い た 有 機 性増粘剤の特有の現象であることが考えられる。 137 Viscosity of solution : 3700mPa・s Fall ball : sus φ2.4mm Rapid change point 25 Run 2 0 Time (sec) Electrical resistance (Ω) Run 1 0 t1 t2 t1+t2 30 Run 3 0 2 20 15 10 5 t 1 t 2 0 0 5 10 15 20 25 30 35 Time (s) (a) 1 40 (c) 2 Run No. 3 ⊿R (MAX-MIN) (Ω) Run 1 0 Run 2 0 Run 3 0 1 0 (b) t 1 5 10 15 t 2 20 25 30 35 40 Time (s) Figure 8 Change in the electric resistance with time for falling a ball in Metororz aqueous solutions with high viscosity. 本 実 験 結 果 か ら ,球 が 相 対 し て 設 置 し た 電 極 間 を 通 過 す る 際 に 変 化 す る 電 気 抵 抗 を 微 少 時 間 内 に 計 測 す る こ と が で き れ ば ,上 下 の 電 極 間 を 球 が通過する時間を計測できることが明らかとなった。本実験装置では, 電 極 間 を 通 過 す る 球 の 時 間 が 上 下 2 つ ( す な わ ち t 1 と t 2 ) 得 ら れ る が ,終 末 一 定 速 度 に な る 条 件 を よ り 満 た し て い る こ と を 考 慮 し て ,下 側 の 電 極 間 の 通 過 時 間 で あ る t 2 を 式 (5 ) に 代 入 し て , 4 0 0 ~ 8 0 0 0 m P a ・ s 全 領 域 に お いて粘度μを求めた。 Fig.9 に 落 球 法 で 測 定 し た 粘 度 と ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 で 測 定 し た 粘 度 の 測定結果の比較を示す。同図に示すように,落球粘度法の測定値がウベ ロ ー デ 粘 度 計 に よ る 値 よ り 大 き く な る こ と が わ か っ た 。こ の 測 定 値 の ず れ は ,管 内 を 球 が 落 下 す る 際 に 管 壁 か ら の 影 響 を 受 け る た め で あ る と 考 え た 。そ こ で ,管 壁 の 影 響 を 補 正 す る こ と を 検 討 し た 。J I S Z 8 8 0 1 で は , 落 球 粘 度 計 に よ る 粘 度 測 定 に お け る 管 壁 の 影 響 を Faxen の 式 を 用 い て 補 138 正 し て い る こ と か ら , 同様に次の式 (9)の Faxen の 式 を 用 い て , 式 (10)の ように粘度を補正した。 3 d d d fw 1 2.104 2.09 0.95 D D D ' fw 5 ・ ・ (9) ・ ・ (10) こ こ で ,μ ’は 補 正 後 の 粘 度 ,fw は Faxen の 補 正 係 数 ,d は 落 下 球 の 直 径 ,D は 落 球 管 内 径 を 示 す 。F i g . 1 0 に f w と d / D の 関 係 を 示 す 。本 実 験 で 使 用 し た 実 験 装 置 で は , fw は 0.6~ 0.8 の 領 域 に 該 当 す る 。 Fig.11 に ウベローデ粘度計を用いて測定した粘度と落球法によって計測した粘 度 を Faxen の 式 で 補 正 し た 値 の 関 係 を 示 す 。 補 正 後 は , 400~ 8000mPa・s の 広 範 囲 に わ た り , 球 種 , 球 径 を 問 わ ず , ほ ぼ 15%の 誤 差 範 囲 内 で 両 者 は 一 致 す る こ と が わ か っ た 。こ れ よ り 上 下 に 配 置 し た 電 極 間 を 球 体 が 落 下 す る 際 の 電 気 抵 抗 を 測 定 す る こ と に よ っ て 400~ 8000mPa・s 域 の 粘 度 を有する融体の粘度を計測できることを確認できた。 Viscosity by falling ball method (mPa・s) 10000 ±15% 8000 6000 4000 PTFE ball (φ3.155mm) SUS ball (φ1.598mm) 2000 SUS ball (φ2.380mm) SUS ball (φ3.185mm) 0 0 2000 4000 6000 Viscosity by capillary tube method Figure 9 8000 10000 (mPa・s) Comparison of the viscosity measured by falling ball method and that by capillary tube method. 139 1.0 0.8 fw 0.6 0.4 Experimental appratus 0.2 0.0 0.0 Figure 10 0.2 0.4 d/D 0.6 0.8 Change in the Faxen's factor fw with the ratio of a ball' diameter to the diameter of cylindrical vessel (d/D ). Viscosity by falling ball method (mPa・s) 10000 PTFE ball(φ3.155mm) SUS ball (φ1.598mm) 8000 SUS ball (φ2.380mm) ±15% SUS ball (φ3.185mm) 6000 4000 2000 0 0 Figure 11 2000 4000 6000 8000 Viscosity by capillary tube method (mPa・s) 10000 Comparison of the viscosity measured by falling ball method revised with Faxen's factor considering the effect of the wall of cylindrical vessel with the viscosity measured by capillary tube method. 140 6.4. 交流電流を用いた常温の基礎実験 前 述 の 落 球 実 験 装 置 で ,直 流 電 流 を 使 用 し た 場 合 の 電 極 間 の 電 気 抵 抗 変化から,常温(低温)の融体の粘度を測定できることがわかった。し かし,電流が流れると電極の表面では酸化還元反応が起こり,電極界面 の電気抵抗が変化する。本実験装置では,電極界面の抵抗値と融体の電 気 抵 抗 変 化 の 合 計 を 計 測 し て い る の で ,酸 化 還 元 反 応 に よ る 電 極 界 面 の 抵 抗 値 が 大 き く な っ た 場 合 に は ,融 体 の 電 気 抵 抗 値 の 変 化 量 よ り も 電 極 界 面 の 抵 抗 値 の 変 化 量 が 大 き く な り ,真 の 融 体 の 電 気 抵 抗 値 の 変 化 量 を 測定できない恐れがある。特に,直流電源を用いると一方の電極で反応 が生ずる。そこで,交流電源を用いると電極電位が周期的に変化するの で,反応が一方の電極で片寄って生ずることを抑えられ,かつ交流電源 の周波数,および電圧を変更することにより,電極界面の酸化還元反応 による電気抵抗変化量を小さくすることが可能であると考えた。 6.4.1.実 験 装 置 6.3.1 の Fig.3 の 実 験 装 置 を 使 用 し , 電 気 抵 抗 測 定 器 を 直 流 電 流 用 か ら 交 流 電 流 用 , す な わ ち , デ ジ タ ル マ ル チ メ ー タ ー か ら LCR ハ イ テ ス タ に 切 り 替 え た 。 ま た , 電 極 は Fig.2 の 中 , 下 の 2 箇 所 と し た 。 6.4.2.実 験 結 果 Fig.12 に 交 流 電 源 に お け る 測 定 結 果 の 一 例 を 示 す 。 溶 液 粘 度 は 2 3 5 0 m P a・ s で あ り ,落 下 球 は 直 径 3 . 2 m m の ス テ ン レ ス 球 で あ る 。直 流 電 源 で 行 な っ た Fig.7 の 結 果 よ り も Fig.12 に 示 す 抵 抗 値 の 変 化 で は ピ ー クを示す位置がはっきりと現われた。また,実験に適した周波数,電圧 に つ い て 予 備 実 験 を 行 い , 本 研 究 で は 周 波 数 1kHz, 電 圧 3V を 使 用 す る ことにした。 ウベローデ粘度計を用いて測定した粘度と直流電源を用いた落球法 に よ る 粘 度 の 測 定 値 を Faxen の 式 で 補 正 し た 値 と の 関 係 を 示 す Fig.11 に , 交 流 電 源 を 用 い て 計 測 し た 粘 度 を Faxen の 式 で 補 正 し た 値 を 追 記 し た 結 果 を Fig.13 に 示 す 。 Fig.13 よ り , 交 流 電 源 を 用 い た 測 定 値 も 直 流 を 用 い た 場 合 の ほ ぼ 15%の 誤 差 範 囲 内 に あ る こ と が わ か っ た 。 こ れ に よ り,交流電源を用いて,上下に配置した電極間を球体が落下する際の電 気 抵 抗 を 測 定 す る こ と に よ っ て 400~ 8000 mPa・s 域 の 粘 度 を 有 す る 融 体 の粘度を計測できることを確認できた。 141 Electrical resistance Z (Ω) 13300 Viscosity of solution : 2350mPa・s Fall ball : sus φ3.2mm Frequency : 1KHz Voltage : 3V 13250 13200 13150 t 13100 0 2 4 6 8 10 Time (sec) 12 14 16 18 20 Figure 12 Change in the electric resistance with time for falling a ball by alternating current in Metororz aqueous solutions with high viscosity. 10000 Viscosity by falling ball method (mPa・s) PTFE ball(φ3.155mm):Direct current SUS ball (φ1.598mm):Direct current SUS ball (φ2.380mm):Direct current SUS ball (φ3.185mm):Direct current 8000 SUS ball (φ3.185mm):Alternating current ±15% 6000 4000 2000 0 0 Figure 13 2000 4000 6000 8000 Viscosity by capillary tube method (mPa・s) 10000 Comparison of the viscosity measured by falling ball method (Direct current and alternating current) with the viscosity measured by capillary tube method. 142 6.5. 6.5.1. 高温における基礎実験 実験装置 (1)高温装置の落球の材質と大きさ 上 述 の よ う に ,上 下 に 配 置 し た 電 極 間 を 球 体 が 落 下 す る 際 の 電 気 抵 抗 を 測 定 す る こ と に よ っ て 融 体 の 粘 度 を 計 測 で き る こ と が わ か っ た 。そ こ で次に高温融体への適用条件について検討を行なった。先ず,落球につ いて溶融スラグと反応しないことを考慮して落下球には白金球を用い ることとした。ここで,試料溶液の比重を廃棄物溶融炉の溶融スラグを 想 定 し て 3700kg/m3 と し , Re が 0.5 と 1.0 の 場 合 に つ い て 白 金 球 の 径 を 検 討 し た 。F i g . 1 4 に 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 と 白 金 球 の 径 の 関 係 を 示 す 。溶 融 ス ラ グ の 粘 度 が 500mPa・s の 時 , 白 金 球 の 径 は 2mm 以 下 と す る 必 要 が あ る こ と が わ か っ た 。 Fig.15 に 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 が 500mPa・s, 白 金 球 の 径 1.8mm の 場 合 に つ い て 落 下 時 間 と 落 下 速 度 , 落 下 距 離 の 関 係 を 計 算 し た 結 果 を 示 す 。同 図 に 示 す よ う に ,球 径 1 . 8 m m 程 度 の 白 金 球 を 用 い て 1 0 m m の加速区間距離を設ければ上部の電極位置に球が達するまでに終末一 定速度に到達することがわかった。 Diameter of ball (mm) 6 5 Re=1 4 Re=0.5 3 2 1 0 0 500 1000 1500 2000 2500 Viscosity (mPa・s) Figure 14 Relationship between the diameter of a Pt ball and the viscosity of molten slag at high temperature for several Reynolds' number melt. 143 Fall ing speed ( m/sec) Viscosty:500mPa・s 0.10 Pt ball φ1.8mm 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 Fa lling dista nce (m) 0.01 0.1 Time (sec ) 1 10 1 0.1 0.01 Pt ball φ1.8mm 0.001 0.0001 0.01 0.1 1 10 Time (sec) Figure 15 Calculated results on change in the falling speed and the falling distance of Pt ball with time in molten slag with 500mPa・s. (2)高温における基礎実験装置の構成と実験方法 Fig.16 に 実 験 装 置 の 構 成 を 示 す 。 落 球 管 (容 器 )と し て 内 径 17mm, 長 さ 200mm の ア ル ミ ナ タ ン マ ン 管 を 用 い , 管 内 壁 面 に 直 径 5mm の 銅 製 の 丸 棒 を 端 面 が 相 対 す る よ う に 電 極 と し て 取 り 付 け ,上 下 2 箇 所 に 電 極 を 配 置 し た 。 試 料 溶 液 の 液 面 か ら 上 部 電 極 ま で の 距 離 , および上下の電極間の 距 離 は 3 0 m m と し た 。落 下 さ せ る 試 料 球 と し て は ,直 径 2 m m の 白 金 球 を 用 い た 。 試 料 融 体 に は 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 に 近 い 値 を 低 温 ( 1273K 以 下 ) で 得 ら れ る ホ ウ 酸 ソ ー ダ (Na2B4O7)を 使 用 し た 。 ホ ウ 酸 ソ ー ダ を 所 定 の 温 度 で溶融,保持し,電極間に交流電流を流し,試験球を試料溶液中に落下 さ せ , 球 が 上下の電 極 を 通 過 す る と き の 抵 抗 変 化 を 計 測 し , パ ソ コ ン に リ ア ル タ イ ム で デ ー タ を 取 り 込 み ,球 が 電 極 間 を 通 過 す る 時 間 か ら 落 下 速度を算出し融体の粘度を求めた。 144 落球ガイド 試験球 LCRハイテスタ パーソナルコンピューター 0226Ω 50mm 白金線 融体 発熱帯(シリコニット炉) 20mm 30mm 100mm DMM タンマン管壁 内径 17mm 電極(白金) シール剤 アルミナタンマン管 Figure 16 The experimental setup for viscosity measurement in high temperature . 6.5.2 高温における基礎実験結果 F i g . 1 7 に ホ ウ 酸 ソ ー ダ 融 体 の 1 1 2 3 K に お い て ,白 金 球 を 落 下 し た 時 の 電 気 抵 抗 変 化 の 測 定 結 果 を 示 す 。 交 流 電 流 は 周 波 数 1kHz, 電 圧 3V で 流 し た 。白 金 球 が 上 下 の 電 極 を 通 過 す る 時 に 電 気 抵 抗 が 急 激 に 変 化 し て い ることがわかる。 F i g . 1 8 に ホ ウ 酸 ソ ー ダ に つ い て ,既 知 の 粘 度 5) と温度の関係に本研究 で 測 定 し た 粘 度 の 値 を 示 す 。実 線 は 既 知 の 粘 度 ,点 線 は 2 5 % の 誤 差 範 囲 , ○ 印 は 本 研 究 の 測 定 値 を 示 す 。溶 融 ス ラ グ の よ う な 高 温 の 溶 融 酸 化 物 に 対 す る 粘 度 測 定 値 の 誤 差 は 一 般 に ±25%程 度 あ る 6) と 言 わ れ て お り ,本 研 究 の 測 定 値 は ほ ぼ 25%の 誤 差 範 囲 内 に あ る 。 こ の こ と か ら , 融 体 の 電 気 抵抗を測定することによって落球が通過する時間を計測することによ り,高温融体の粘度を計測できる可能性があることがわかった。 145 Elctrical resistance Z (Ω) 2.150 2.148 2.146 2.144 Fall ball : Pt φ2.0mm Te mpe rature : 1 123 K Solution : Na 2 B 4 O 7 Fre qu enc y: 1 kHz Voltage : 3V 2.142 t 2.140 0 2 4 6 8 10 12 14 16 time (sec) Figure 17 Change in the electric resistance with time for falling a ball by alternating current in Na 2 B 4 O 7 at 1123K. 5 00 0 ○: Measu re me n ts by fallin g ball meth od Viscosity (mPa・s) 4 00 0 3 00 0 ±25% 2 00 0 1 00 0 0 10 2 3 1 07 3 11 2 3 Temperature 1 17 3 (K) F i g u re 1 8 Comparison of the viscosity measured by falling ball method with the viscosity by already-known data in Na 2 B 4 O 7 . 146 6.6. 結言 本 研 究 で は ,上 下 に 配 置 し た 電 極 間 を 球 体 が 落 下 す る 際 の 電 気 抵 抗 を 測 定 し , さ ら に 管 壁 の 影 響 を 補 正 す る こ と に よ っ て 400~ 8000 mPa・s 域 の 粘 度 を 有 す る 融 体 の 粘 度 を 落 球 法 に よ っ て 15% の 不 確 か さ の 範 囲 内 で計測できることを明らかにした。球の種類と直径を適切に選べば,電 極間を球が通過する際に終末一定速度を得るための加速区間の長さが 高 温 測 定 時 に お い て も 1 0 m m 程 度 で あ れ ば 良 い こ と が わ か り ,オ ン サ イ ト小型高温粘度測定装置の設計のための指針を得ることができた。 常 温 の 基 礎 実 験 は 直 流 電 源 を 用 い て 行 な っ た が ,電 極 界 面 の 酸 化 還 元 反 応 に よ る 電 気 抵 抗 の 変 化 量 を 小 さ く で き る と 考 え ,高 温 で の 測 定 は 交 流電源を用いることにした。ホウ酸ソーダ融体について,本研究で検討 し た 落 球 法 に よ る 粘 度 測 定 装 置 を 用 い て 粘 度 測 定 を 試 み た 結 果 ,融 体 の 電気抵抗を計測することによって落球が上下に配置した電極位置を通 過 す る 時 間 を 決 定 す る こ と に よ り ,高 温 融 体 の 粘 度 を 計 測 で き る 可 能 性 があることがわかった。 147 参考文献 1) 宮 林 良 次 , 吉 川 健 , 田 中 敏 宏 : 高 温 学 会 誌 , 32 (2006), 281. 2) M. Nakamoto, Y. Miyabayashi, L.Holappa, and T. Tanaka : ISIJ Int. , 47 (2007), 1409. 3) 中 島 邦 彦 , 齊 藤 敬 高 , 助 永 壮 平 : 高 温 学 会 誌 , 32 (2006), 252. 4) 佐 藤 讓 : 高 温 学 会 誌 , 32 (2006), 260. 5) NIST Molten Salt database National Institute of standards and Technology,(1987) 6) 飯 田 孝 道 , 喜 多 善 史 , 上 田 滿 , 森 克 己 , 中 島 邦 彦 :“ 溶 融 ス ラ グ ・ ガ ラ ス の 粘 性 ” ア グ ネ 技 術 セ ン タ ー (2003)P.60 148 第7章 総括 7.1. 本 研 究 の 総 括 『 循 環 型 社 会 』と は ,天 然 資 源 の 消 費 が 抑 制 さ れ ,環 境 へ の 負 荷 が で き る 限 り 低 減 さ れ る 社 会 と 定 義 し て い る 。ま ず ,第 一 に 生 産 ,消 費 に お い て 廃 棄 物 等 の 発 生 を 抑 制 す る ( Reduce)。 第 二 に 消 費 ま た は 使 用 し た 製 品 を 廃 棄 す る 時 は 部 品 等 を 再 使 用 す る (Reuse)。 第 三 に 廃 棄 さ れ た 物 を 処 理 し 原 材 料 と し て 再 生 利 用 す る (Material Recycle)。第 四 に 再 生 利 用 で き ず 廃 棄 さ れ る も の は 熱 回 収 を 行 う (Thermal Recycle)。 こ れ ら 第 一 か ら 四 が で き ず 循 環 利 用 が 行 な え な い も の に つ い て は 第 五 と し て 適 正 な 最 終 処 分( 埋 立 )を 行 な う 。こ の よ う に 優 先 順位を考えて『循環型社会』を構築することが目標とされ,非鉄製錬技術は Material Recycle, Thermal Recycle の 部 分 で 貢 献 で き る と 考 え る 。 本 研 究 は ,資 源 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め ,非 鉄 製 錬 所 が 長 年 培 っ て き た 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 活 用 し ,廃 棄 物 を 無 害 化 す る と と も に ,こ れ ら の 廃 棄 物 に 含 ま れ る Cu 等 の 有 価 金 属 を 資 源 循 環 す る 観 点 か ら 『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た廃棄物の資源循環高温プロセスの開発に関する研究』を行なった。 本 論 文 は こ れ ら の 成 果 を ま と め た も の で 7 章 か ら 構 成 さ れ て お り ,以 下 の よ うに総括される。 第 1 章 で は ,序 論 と し て 本 研 究 の 背 景 を 述 べ た 。廃 棄 物 発 生 量 は 世 界 的 に は 大 幅 な 増 加 傾 向 に あ り ,そ の 中 で 日 本 の 産 業 廃 棄 物 の 発 生 量 は 年 間 4 億 ト ン の 横 ば い で 推 移 し 減 少 し て い な い こ と と ,国 内 の 最 終 処 分 場 の 残 余 容 量 が 減 少 し て お り ,新 た な 産 業 廃 棄 物 の 最 終 処 分 場 や 焼 却 施 設 の 設 置 が 困 難 な 状 況 に あ る こ と か ら , 産 業 廃 棄 物 に 含 ま れ て い る 有 価 金 属 ( Cu, Pb, Zn, Al, Fe 等 ) を 国 内 で 循 環 す る た め に は ,す で に 設 置 さ れ て い る 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 有 効 に 活 用 す べ き で あ る こ と を 述 べ た 。 ま た , 国 内 で は ,『 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 』 が 2000 年 に 施 行 さ れ , 3 R ( Reduce, Reuse, Recycle) を 基 本 と す る 循 環 型 社 会 の 構 築 を 推 進 す る 法 体 系 が 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 ,家 電 リ サ イ ク ル 法 な ど を 含 め て 整 備 さ れ た 。こ の よ う な 背 景 の も と ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト ,石 綿 含 有 廃 棄 物 , Cd 含 有 廃 棄 物 な ど の 産 業 廃 棄 物 を 溶 融 処 理 し 無 害 化 と 資 源 循 環 を 進 め る 上 で 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 と 非 鉄 製 錬 所 が 繋 が っ た プ ロ セ ス が , Cd, Cu, Zn, Pb 等 の 非 鉄 金 属 を 資 源 循 環 す る た め に 重 要 な プ ロ セ ス に 成 り 得 る こ と を 述 べ た 。そ こ で ,本 研 究 で は , ‘ 廃 棄 物 に 含 ま れ て い る Cd を 亜 鉛 乾 式 製 錬 設 備 で 資 源 と し て 循 環 す る 技 術 開 発 ’,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Cu 等 の 金 属 を 資 源として循環するためのシュレッダーダストの産業廃棄物焼却施設の操業技 149 術 開 発 ’, ‘産業廃棄物溶融炉で種々の廃棄物を溶融する操業指針としてスラグ の 流 動 性 を 評 価 ,予 測 す る 技 術 開 発 ’, ‘溶融スラグのオンサイトでの粘度測定 技術開発’について研究を行なうことにした。 第2章では, ‘ 亜 鉛 製 錬 に お け る Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 ’ に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 に つ い て 述 べ た 。 Zn を 高 温 で 還 元 揮 発 し 回 収 す る 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で は ,Cd が Zn と と も に 揮 発 し ,凝 縮 さ せ た 溶 融 亜 鉛 中 に Cd が 混 入 す る 。 そ こ で , 溶 鉱 炉 お よ び 電 熱 蒸 留 炉 の 前 処 理 と し て 原 料 を 塊 状 化 す る 焼 結 工 程 で ,効 率 的 に Cd を 揮 発 さ せ 分 離 さ せ る こ と が Cd を 含 む 亜 鉛 リ サ ク ル 原 料 の 処 理 に 有 効 で あ る と 考 え ,亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 に つ い て 検 討 し た 。そ の 結 果 ,次 の こ と が 明 ら か と な っ た 。 ( 1 ) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と Cd 揮 発 率 に 関 係 が あ り , CaO を 添 加 し 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 高 め る こ と で 焼 結 工 程 の Cd 揮 発 率 を 高 め る こ と が で き る こ と が 明 ら か と なった。 ( 2 ) 焼 結 工 程 の 排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 す る た め , 湿 式 型 電 気 集 塵 機 と 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 比 較 し た 。湿 式 型 電 気 集 塵 機 は ガ ス 温 度 を 下 げ , 調 湿 す る の で , 調 湿 時 に 発 生 し た 水 に Cd が 混 入 し 排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 焼 結 機 に 繰 り 返 し て い た が ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 は 水 を 発 生 し な い の で ,排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 で き る こ と が 明 ら か に な っ た 。ま た , 乾式型電気集塵機は排ガスの相対湿度を高めるほど集塵率がよくなる傾向が あ る こ と が わ か り ,排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 水 が 発 生 し な い よ う に 加 湿 し て 高 め る こ と に よ り ,焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 下 げ ,か つ ,ダ ス ト の 凝 集 性 を よ く す る こ と で ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 集 塵 率 を 高 め ら れ る こ と が 明 ら か と な っ た。 以 上 の 成 果 を 利 用 す る こ と に よ っ て ,亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd 分 離 技 術 を 向 上 さ せ ,N 社 の Cd 含 有 廃 棄 物 の Cd の 資 源 循 環 量 を 改 善 前 の 約 1.4 倍 に 増 し た 。 第 3 章 で は ,‘ ス ト ー カ 式 焼 却 炉 な ら び に ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 資 源 循 環 プ ロ セ ス の 開 発 ’に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 を 述 べ た 。シ ュレッダーダストに含まれるプラスチック等の可燃物を焼却または熱分解す る装置として(1)ストーカ式焼却炉,および(2)ガス化溶融炉を用いて, ‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し ,発 生 し た 焼 却 灰 及 び 焼 却 飛 灰 か ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’ と ‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。さ ら に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 関 し て は ガ ス 化 溶 融 炉 で 処 理 す る 際 の 知 見 が 十 分 に 得 ら れ て い な い の で ,こ 150 の 方 式 を 用 い た 回 収 技 術 開 発 を 試 み ,そ の 問 題 点 を 明 ら か に す る と と も に ,そ の 対 策 技 術 の 開 発 を 行 な っ た 。そ し て ,実 験 結 果 か ら シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資源化に関して,以下のことがわかった。 ( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に お い て ,同 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 を 高 温 保 持 し溶融状態を観察した結果, 1473K 以 下 で 焼 却 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら かとなった。 ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を 873K 程 度 で 制 御 し , か つ ビ ン ブ ロ ー を 行 う こ と で ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト に 堆 積 し た Al を 含 むダストの溶融によるダクトの閉塞を抑制できることが確認できた。 ( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,ガ ス 化 炉 か ら 流 動 媒 体 の 砂( 流 動 砂 )と シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る 可 燃 物 を ガ ス 化 し た 後 に 残 っ た 不 燃 物( Fe,Cu,ガ ラ ス ,等 )は 炉 下 部 に 設 置 し た シ ュ ー ト か ら 排 出 さ れ る 。こ の シ ュ ー ト 入 口 部 で ガラス成分を主とする流動砂が滞留すると溶融固化しシュートの壁に付着し 固 着 物 が 成 長 す る 。流 動 砂 の 滞 留 部 で 局 部 的 に 高 温 と な り 流 動 砂 が 溶 融 し 、固 着 物 と し て 成 長 す る た め ,ガ ス 化 炉 で は 砂 を 滞 留 さ せ な い こ と が 重 要 で あ る と 考 え ,シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 増 す 実 験 を 行 な っ た 。シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 2000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 が 発 生 し た が , 砂 排 出 速 度 を 約 4000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は ,シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 は 起 こ ら な い こ と が 確 認 で き た。 ( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 温 度 1473K 程 度 の 排 ガ ス 中 に 含 ま れ る ダ ス ト と 揮 発 し た 金 属 が 、溶 融 炉 上 部 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 に 溶 着 し 、ガ ス 道 を 閉 塞 さ せ た 。ダ ス ト が 溶 着 す る と こ ろ の 雰 囲 気 温 度 は 1473~ 1673K、内 壁 表 面 は 外 側 か ら の 冷 却 も あ り 1273K 程 度 で あ り , 固 化 し た ス ラ グ 成 分 と 液 状 の Zn,Pb 酸 化 物 が 混 ざ り 、 内 壁 へ 溶 着 す る も の と 考 え た 。 そ こ で , 液 状 化 し た Zn,Pb ま た は 蒸 気 の Zn,Pb を 1473K か ら 1273K に 雰 囲 気 温 度 を 下 げ る こ と で 、ダ ス ト は 固 体 と な り 溶 着 す る 現 象 を 抑 制 で き る と 考 え ,排 ガ ス 道 の 側 面 か ら 水 を 吹 き 込 み ,排 ガ ス 道 の 雰 囲 気 温 度 を 1273K 程 度 と し た 。そ の 結 果 ,ダ ス ト は 粒 状 の 固体となり内壁に溶着する現象は抑えられることを確認した。 ( 5 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , 排 ガ ス を 453K に 冷 却 し た 後 に 発 生 す る ダ ス ト は 酸 化 物 ,塩 化 物 の 形 態 か ら な る 。こ の ダ ス ト は 潮 解 性 が あ り ダ ス ト を 回 収 す る バ グ ク ロ ス に 付 着 し 剥 離 し な い 現 象 が 発 生 し た 。バ グ 入 口 に 消 石 灰 を 吹 き 込 むことでダストの潮解性を抑えバグクロスからの剥離性をよくできることを 確認した。 151 ( 6 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 ,飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 し , 焼 却 灰 , 飛 灰 中 の Cu, Pb, Zn を 回 収 で き る こ と を 確 認 し た 。 以 上 の 得 ら れ た 成 果 を N 社 の 流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 の 操 業 に 適 応 さ せ ,連 続 運 転 1300 時 間 を 達 成 し , 年 間 12000t の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 再 資 源 化 可 能 とした。 第 4 章 で は ,‘ 廃 棄 物 溶 融 炉 の 安 定 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ の 流 動 性 の 解 析 ’に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 を 述 べ た 。非 鉄 製 錬 技 術 を 利 用する廃棄物処理プロセスにおいて石綿含有物などの廃棄物を安全に 無 害 化 ,か つ 再 資 源 化 す る 溶 融 処 理 技 術 に つ い て ,ス ラ グ の 流 動 性 が 代 表 的な操業指針のひとつであることに注目し,基 礎 的 な 解 析 を 行 な っ た 。 ま ず ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 主 要 な 原 料 で あ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 処 理 残 渣(焼却灰)について,溶融炉の操業温度の指針を得るために,均一融 体を生成する温度を測定した。次に,廃棄物溶融炉のスラグと未溶解物 について,流動性測定と熱力学データを利用した相平衡解析を行ない, 廃棄物溶融炉の操業に及ぼす高温酸化物の液相領域の酸素分圧および 温 度 依 存 性 と そ の 流 動 性 に つ い て 解 析 し た 。 最 後 に ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶融処理について,熱力学データを利用した相平衡解析を行い,溶融処 理条件について検討した。その結果,廃棄物溶融炉のスラグの溶解に関 して,熱力学データを用いた相平衡解析を行うことにより,石綿含有廃 棄物のような実験が困難な廃棄物に対しても簡単な流動性試験と同等 な 評 価 が 可 能 で あ る こ と が 明 ら か と な り ,良 好 な 溶 融 ス ラ グ を 得 る た め の安定操業に関する有効な指針が得られることがわかった。例えば,廃 棄 物 溶 融 炉 に お い て ,logPo2/atm= -9 ,ス ラ グ 温 度 を 1573~ 1623K の 条 件 で は , 石 綿 含 有 廃 棄 物 の添加量が溶 融 炉 ス ラ グ に 対 し て 30% ま で な ら ば安定操業が可能であると考えられる操業指針が得られた。A 社におい て ,こ の 指 針 を 適 応 し ,年 間 2 6 0 0 t の 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶 融 し 再 資 源 化 した。 第 5 章 で は ,‘ ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 モ デ ル ’に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 を 記 述 し た 。ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 モ デ ル を 提 案 し た 。特 に ,シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 す る た め に ,熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 が 3 種 類 の 結 合 , す な わ ち , ① Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,② 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 , ③ Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 か ら 成 る と 仮 定 し , シ 152 リケート融体のネットワーク構造を形成する酸素の結合状態を計算する手法 を 導 入 し た 粘 度 推 算 モ デ ル を 導 出 し た 。同 モ デ ル を 用 い て ,ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 の 粘 度 推 算 を 行 な っ た 。ま ず ,非 架 橋 酸 素 イ オ ン , 自 由 酸 素 イ オ ン , Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 イ オ ン の 濃 度 を ス ラ グ 成 分 か ら 計 算 し た 。次 に ,二 元 シ リ ケ ー ト 融 体 系 と 三 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 融 体 の 粘 度 と 濃 度の関係の実験値から溶融アルミノシリケートの粘度推算モデルで使用する 係 数 を 決 定 し た 。さ ら に ,こ の 係 数 を 用 い て ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推 算 モ デ ル の 三 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 融 体 の 粘 度 と 濃 度 ,な ら び に MgO,FeO を 含 む 四 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 融 体 の 粘 度 と 組 成 の 関 係 を 求 め ,実 験 値 と 比 較 し た 。そ の 結 果 ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推 算 モ デ ルが組成に対する粘度の関係を再現できることが明らかとなった。 さ ら に ,CaF 2 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 を 行 な う た め に ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 が CaO に よ り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 , CaF 2 の 添 加 に よ っ て O-Ca-F 結 合 を 形 成 す る と 考 え , CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ ケ ー ト 系 の 粘 度 の 推 算 の た め に 上 記 の モ デ ル の 拡 張 を 試 み た 。計 算 結 果 は ,溶 融 SiO 2 -CaO-CaF 2 , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 系 の 粘 度 に 対 す る CaF 2 濃 度 の 影 響 な ら び に 溶 融 SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 系 の 組 成 依 存 性 を 再 現 で き る こ と を 明 ら か に し た 。以 上 の こ と か ら ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推 算 モ デ ル を 用 い て ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ に つ い て 粘 度 を 予 測 す る こ と が 可能となった。 第6章では, ‘溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発’ について研究した結果を述べた。溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を オ ン サ イ ト で 測 定 す る こ と を 目 指 し た 粘 度 測 定 方 法 を 検 討 し た 。特 に 粘 度 測 定 方 法 と し て 落 球法に着目し,高温用粘度計の開発のための指針を得ることを目的に, 常温における基礎試験を行ない,計測方法,装置の形状・大きさなどに 関する検討を行なった。その結果,上下に配置した電極間を球体が落下 す る 際 の 電 気 抵 抗 を 測 定 し ,さ ら に 管 壁 の 影 響 を 補 正 す る こ と に よ っ て 400~ 8000 mPa・s 域 の 粘 度 を 有 す る 融 体 の 粘 度 を 落 球 法 に よ っ て 15% の 不 確 か さ の 範 囲 内 で 計 測 で き る こ と を 明 ら か に し た 。球 の 種 類 と 直 径 を 適 切 に 選 べ ば ,電 極 間 を 球 が 通 過 す る 際 に 終 末 一 定 速 度 を 得 る た め の 加 速 区 間 の 長 さ が 高 温 測 定 時 に お い て も 10m m 程 度 で あ れ ば 良 い こ と が わ か り ,オ ン サ イ ト 小 型 高 温 粘 度 測 定 装 置 の 設 計 の た め の 測 定 条 件 を 決 定することができた。さらに,ホウ酸ソーダ融体を用いて高温粘度測定 を 実 施 し ,落 球 法 に よ る 粘 度 測 定 が 高 温 の 融 体 に 適 用 で き る 指 針 を 得 る 153 ことができた。 以 上 の よ う に ,『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 す る 研 究 』で 得 ら れ た 種 々 の 成 果 は ,非 鉄 金 属 製 錬 の プ ロ セ ス を 活 用 し た 廃 棄 物 の 無 害 化 処 理 な ら び に 有 価 金 属 の 回 収 に 適 応 し ,廃 棄 物 の 資 源 循 環 に 大 い に 寄 与 し て お り ,今 後 ,廃 棄 物 溶 融 炉 な ど で 廃 棄 物 を 処 理 す る 場 合 の 操 業指針を得る手段として役立つと考える。 7.2. 今 後 の 研 究 課 題 本 研 究 で は ,非 鉄 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物( C d 含 有 廃 棄 物 ,シ ュ レ ッダーダスト,石綿含有廃棄物)の資源循環高温プロセスの開発につい て基礎的な検討と実操業での実験を行なった。 Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 に つ い て , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス を 利 用 し た Cd の 回 収 に つ い て 技 術 開 発 を 行 な っ た が ,乾 式 製 錬 プ ロ セ ス で 水 酸 化 亜 鉛 の よ う な 高 濃 度 の Cd を 含 有 す る 廃 棄 物 を 扱 う こ と は , 廃 棄 物 が 飛 散 し 作 業 環 境 の 空 気 中 の Cd 濃 度 が 高 く な る 恐 れ が あ る こ と か ら , 湿 式 製 錬 プ ロ セ ス で Cd を 効 率 的 に 回 収 す る こ と が 望 ま し い 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 資 源 循 環 に つ い て ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い た 資 源 循 環 プ ロ セ ス に つ い て 技 術 開 発 を 行 な っ た 。流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は 還 元 雰 囲 気 が 弱 い た め , ス ラ グ 中 の Pb 濃 度 が 0.1%程 度 と 高 く , 土 壌 汚 染 対 策 法 の Pb の 溶 出 量 基 準 0.01mg/l 以 下 は 満 た し て い る が ,Pb 含 有 量 基 準 0.015% 以 下 を 必 ず し も 満 足 し て い な い 。 流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 の ス ラ グ の 用 途 を 拡 大 す る た め に は , ス ラ グ 中 の Pb 濃 度 が 0.015% 以 下 と な る 操 業 条 件 , す な わ ち 還 元 雰 囲 気 を 高 め Pb を ス ラ グ か ら 揮 発 させる操業技術を確立しなければならない。 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 に つ い て は ,溶 融 処 理 時 の 指 針 を‘ 熱 力 学 デ ー タ を 用 い た 相 平 衡 解 析 ’か ら 得 て ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 実 操 業 に 適 応 さ せ た 。溶 融 処 理 し た 石 綿 含 有 廃 棄 物 は 吹 付 材 ,保 温 材 , お よ び 断 熱 材 で 比 較 的 も ろ い も の で あ っ た が ,ス レ ー ト 材 な ど の 堅 い も の は ス ラ グ へ の 溶 融 速 度 は 表 面 の 撹 拌 が 律 速 と な る の で ,溶 融 ス ラ グ の 撹拌をガス吹き込みなどにより強制的に行う工夫が必要である。 廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 の 予 測 に つ い て ,熱 力 学 デ ー タ を 用 い た 相平衡解析とさらに,溶融スラグの粘度推算モデルについて検討し,操 業指針を得る手法として役立つことを確認した。しかし,溶融スラグ中 の SiO2 濃 度 が 高 い 場 合 , 液 相 領 域 で あ っ て も 粘 度 が 高 く な る こ と か ら , 154 種 々 雑 多 の 廃 棄 物 を 溶 融 す る 時 の 操 業 指 針 と し て 、実 操 業 の 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 評 価 に 適 応 で き る よ う に ,こ れ ら の 手 法 を さ ら に 改 良 す る こ と が課題である。 溶融スラグの粘度をオンサイトで測定できる技術が確立されると,非 鉄 製 錬 お よ び 鉄 鋼 製 錬 プ ロ セ ス に お い て ,新 た な 操 業 管 理 手 法 が 生 ま れ , スラグの流動性をよい状態に保つために過剰に溶融スラグの温度を高 めることがなくなる。その結果,資源循環だけでなく,低炭素社会に向 けたエネルギー消費量の削減にも貢献できるものと考えている。測定装 置 と し て ,溶 融 ス ラ グ を 測 定 部 へ 導 く 方 法 ,溶 融 ス ラ グ へ の 測 定 部 の 浸 漬 方 法 などの検討課題がある。 最後に,非鉄金属の資源循環社会を構築する中で,非鉄金属製錬メー カ ー は 非 鉄 金 属 を 安 定 し て ユ ー ザ ー に 供 給 す る 使 命 が あ り ,廃 棄 物 な ら びにリサイクル原料,すなわち,都市鉱山(製品,廃棄物などに含有し ている金属)から希少金属(レアメタル)を資源循環する技術開発が期 待 さ れ る 。1 ) Fig.1 に 日 本 の 都 市 鉱 山 に 蓄 積 さ れ て い る 比 率 の 高 い 希 少 金属について,世界の埋蔵量に対する日本(都市鉱山)の蓄積量の比率 を ,2 ) F i g . 2 に 中 国 か ら の 輸 入 比 率 の 高 い 希 少 金 属 に つ い て ,日 本 の 全 輸 入 量 に 対 す る 中 国 か ら の 輸 入 量 の 比 率 を 示 す 。 3)中 国 の 輸 入 比 率 が 高 い 金属は政情不安などが発生した場合に安定供給が難しくなる。特に Sb,In は 中 国 か ら 輸 入 比 率 が 高 く , 都 市 鉱 山 へ の 蓄 積 比 率 が 高 い の で , これら金属の都市鉱山からの資源循環技術を開発することが日本の資 源の安定供給につながる。 I n は , 主 要 な 用 途 の I T O( 酸 化 イ ン ジ ウ ム 錫 ) タ ー ゲ ッ ト 材 に 含 ま れ る も の は 70%近 く が 工 場 内 の 製 造 工 程 で 発 生 し た 工 程 く ず と し て 回 収 さ れ て い る が ,市 場 に 出 た フ ラ ッ ト パ ネ ル デ ィ ス プ レ イ な ど 製 品 に 含 ま れ る も の は 10%程 度 の 回 収 率 し か な い 。 4-7)In の 資 源 循 環 プ ロ セ ス と し て , 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で は In が Pb の 副 産 物 ( 硫 酸 鉛 , 粗 鉛 ) に 濃 縮 す る こ と か ら , In 含 有 す る 製 品 廃 棄 物 を 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で 処 理 し , Pb 副 産 物 中 に In を 濃 縮 さ せ る こ と が 有 効 で あ る と 考 え る 。 ま た , Sb に つ い て は , 蓄 電 池 の Pb-Sb 合 金 は 資 源 循 環 さ れ て い る が , 主 要 な 用 途 で あ る 樹 脂 難 燃 剤 か ら は 回 収 さ れ て い な い 。4 , 6 ) こ れ ら 樹 脂 を 含 む 廃 棄 物 を 焼 却 処 理 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Sb を 濃 縮 す る プ ロ セ ス と し て Cu, Pb の 融 体 を 利 用 し て マ ッ ト , ス パ イ ス へ Sb を 濃 縮 す ることが有効であると考える。 155 以 上 ,『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 す る 研 究 』に つ い て 総 括 を 述 べ た 。本 研 究 に お け る 知 見 が ,今 後 構 築 さ れ て い く廃棄物の資源循環高温プロセスにおけるアプローチの指針となることを期 日本の蓄積量/世界の埋蔵量(%) 待する。 70 60 50 40 30 20 10 0 Sb In W Mo Au Pb Pt Ag Sn 中国からの輸入量/全輸入量(%) Figure 1 希 少 金 属 の 世 界 の 埋 蔵 量 に 対 す る 日 本 の 蓄 積 量 の 比 率 100 80 60 40 20 0 Sb In W Mo Ge Bi Sr Ba Mn Figure 2 希 少 金 属 の 日 本 の 全 輸 入 量 に 対 す る 中 国 か ら の 輸 入 量 の 比 率 参考文献 1) 村 田 徳 治 :月 間 廃 棄 物 ,7(2007)74-79 2) 独 立 行 政 法 人 物 質 ・材 料 機 構 ,1(2008)1-9 3) 福 田 一 徳 :資 源 と素 材 ,124(2008)426-434 4) 資 源 エネルギー庁 鉱 物 資 源 課 :‘レアメタル 17 鉱 種 のマテリアル・フローと課 題 に ついて’,4(2007) 5) 廃 棄 物 学 会 :‘レアメタルの現 状 とリサイクルの最 新 の話 題 ’,11(2007)2,3-12 6) 金 属 資 源 情 報 センター:金 属 資 源 レポート,7(2006)129-132 7) 金 属 資 源 情 報 センター:金 属 資 源 レポート,9(2007)171-176 156 本研究に関する成果 本論文に関係する投稿論文 第2章: ( 1 ) K.Sakamoto, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi Removal of Impurities from Sintering Process Metallurgical Review of MMIJ, 7(1990)108-121 ( 2 ) K.Torii, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi Application of Moving-Electrode Type Electrostatic Precipitator to Zinc Sintering Process Metallurgical Review of MMIJ, 9(1992)112-125 ( 3 ) K.Sakamoto, Y.Miyabayashi , J.Hino Zinc Smelting and Refining at Nikko Zinc Metallurgical Review of MMIJ, 12(1995)63-76 第3章: ( 4 ) J.Hino, Y.Miyabayashi , T.Nagato Recovery of Nonferrous Metals from Shredder Residue by Incinerating and Smelting Metallurgical Review of MMIJ, 15(1998)63-74 ( 5 ) Y.Miyabayashi Development of Technologies for Recycling Shredder Residue Metallurgical Review of MMIJ 18(2007)43-54 第4章: (6) 宮林良次 ,吉川健,田中敏宏 廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とその流動性 の解析 高 温 学 会 誌 Vol.32,No.5(2006)281-288 第5章: ( 7 ) M.Nakamoto, Y.Miyabayashi , L.Holappa, T.Tanaka A Model for Estimating Viscosity of Molten Aluminosilicate Containig Alkali Oxides ISIJ international,vol.47,No.10(2007),1409-1415 ( 8 ) Y.Miyabayashi , M.Nakamoto, T.Tanaka, T.Yamamoto A Model for Estimating Viscosity of Molten Aluminosilicate Containig CaF 157 ISIJ international,vol.49,No.3(2009) (掲 載 予 定 ) 第6章 (9) 宮林良次 ,乾崇,山下諒,丹羽康之,吉川健,田中敏宏 溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発 鉄 と 鋼 ,( 投 稿 予 定 ) 学会発表(国際会議) 第3章: ( 1 ) Y.Miyabayashi , J.Hino Recovery of Nonferrous Metals from Shredder Residue Fifth International Symposium on East Asian Recycling Technology, Tsukuba, Japan, (June 15-17,1999) 学会発表(国内会議) 第2章: (1)坂本和平,小笠原正俊, 宮林良次 焼結工程における不純物除去について 日本鉱業協会 現場担当者会議,東京 機 械 振 興 会 館 , 1990 年 5 月 (2)鳥居堅,小笠原正俊, 宮林良次 亜鉛焼結工程への移動電極形電気集塵装置の導入 日本鉱業協会 現場担当者会議,東京 機 械 振 興 会 館 , 1992 年 5 月 第3章: (3)日野順三, 宮林良次 非鉄製錬技術を活用したシュレッダーダストからの金属回収試験 第 9 回 廃 棄 物 学 会 , 名 古 屋 国 際 会 議 場 , 1998 年 10 月 (4) 宮林良次 ,能登久次,成迫誠 シュレッダーダストの再資源化技術の開発について 日本鉱業協会 現場担当者会議,東京 機 械 振 興 会 館 , 2005 年 5 月 第4章: (5) 宮林良次 ,吉川健,田中敏宏 廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とその流動性 の解析 高温学会 平 成 19 年 度 春 季 総 合 学 術 講 演 会 , 大 阪 大 学 , 2007 年 5 月 158 第5章: ( 6 ) 中 本 将 嗣 , 宮 林 良 次 , Lauri HOLAPPA, 田 中 敏 宏 溶融アルミナシリケートの粘度推算モデル 第 154 回 日 本 鉄 鋼 協 会 秋 季 講 演 大 会 , 岐 阜 大 学 , 2007 年 9 月 第6章: (7)乾崇,丹羽康之,吉川健,田中敏宏, 宮林良次 溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発 第 155 回 日 本 鉄 鋼 協 会 春 季 講 演 大 会 , 武 蔵 工 業 大 学 , 2008 年 3 月 他の報告書 第2章: (1)坂本和平,小笠原正俊, 宮林良次 焼結工程における不純物除去について 資 源 ・ 素 材 学 会 誌 , vol.106,No.5(1990)271-275 (2)鳥居堅,小笠原正俊, 宮林良次 亜鉛焼結工程への移動電極形電気集塵装置の導入 資 源 ・ 素 材 学 会 誌 , vol.108,No.4(1992)291-296 第3章: (3)日野順三, 宮林良次 非鉄製錬技術を活用したシュレッダーダストの再資源化 高 温 学 会 誌 , vol.25,No.2(1999),59-65 (4) 宮林良次 ,能登久次,成迫誠 シュレッダーダストの再資源化技術の開発について 資 源 と 素 材 , vol.121,No.4,5(2005)149-153 第4章: (5)青木威尚, 宮林良次 ,柳田辰也 最近のリサイクル炉操業について 資 源 と 素 材 , vol.122,No.4,5(2006)235-238 159 学協会からの受賞 (1)坂本和平,小笠原正俊, 宮林良次 焼結工程における不純物除去について 日本鉱業協会 協 会 賞 , 1991 年 3 月 (2) 宮林良次 非鉄製錬技術を活用したシュレッダーダストの再資源化 資源・素材学会 技 術 賞 , 2001 年 3 月 (3) 宮林良次 ,能登久次,成迫誠 シュレッダーダストの再資源化技術の開発について 日本鉱業協会 協 会 賞 , 2006 年 3 月 (4) 宮林良次 ,吉川健,田中敏宏 廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とその流動性 の解析 高 温 学 会 2007 年 論 文 賞 , 2007 年 5 月 160 謝辞 本 研 究 お よ び 研 究 論 文 の 作 成 に あ た り ,終 始 懇 切 な る ご 指 導 ご 鞭 撻 を 賜 り ま した大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻教授 田中敏宏博士 に謹んで感謝の意を表します。 ま た ,有 益 な ご 教 示 を 賜 り ま し た 大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 マ テ リ ア ル 生 産 科学専攻教授 碓 井 建 夫 博 士 ,同 教 授 松 尾 伸 也 博 士 ,同 准 教 授 中里英樹博 士に厚く御礼申し上げます。 本 研 究 の い く つ か は ,日 鉱 金 属 株 式 会 社 グ ル ー プ の 日 鉱 三 日 市 リ サ イ ク ル 株 式 会 社 ( 旧 日 鉱 亜 鉛 株 式 会 社 ), な ら び に 日 鉱 環 境 株 式 会 社 で 行 わ れ た も の で あ り ,研 究 の 機 会 と ご 助 言 ,ご 指 導 を 頂 き ま し た 船 津 雅 司 氏 ,中 田 弘 章 氏 ,坂 本 和 平 氏 ,日 野 順 三 博 士 ,福 田 和 人 氏 ,川 崎 靖 人 氏 ,高 澤 洋 一 氏 ,小 笠 原 正 俊 氏に対し,深く感謝の意を表します。 ま た ,大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 講 師 研究科助教 平 井 信 充 博 士 ,大 阪 大 学 大 学 院 工 学 吉 川 健 博 士 ,大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 特 任 助 教 ヘ レ ウ ス・エ レ ク ト ロ ナ イ ト 株 式 会 社 中本将嗣博士, 乾 崇 氏 に は ,研 究 の 実 施 に あ た り ,絶 大なるご助言とご協力を頂きましたことを厚く御礼申し上げます。 本研究の第 6 章における実験を実施し貴重なデータを提供して頂きました 丹羽康之氏,山下諒氏に深く感謝の意を表します。 昭 和 56 年 に 大 阪 大 学 工 学 部 冶 金 工 学 科 を 卒 業 後 , し ば ら く 大 学 な ら び に 学 業 か ら 離 れ て い ま し た が , 平 成 18 年 4 月 に 博 士 後 期 課 程 へ 入 学 し 田 中 研 究 室 の皆様は私を温かく迎えてくれました。田中研究室の皆様には,在籍 3 年間, 本研究の遂行にあたり,御協力を賜りましたことに深く感謝の意を表します。 最 後 に ,私 事 で は あ り ま す が ,陰 な が ら 協 力 し て く れ ま し た 妻 の 由 香 に 感 謝 します。 161