...

Title 非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

Title 非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源
Title
Author(s)
非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源循環高温プロ
セスの開発に関する研究
宮林, 良次
Citation
Issue Date
Text Version ETD
URL
http://hdl.handle.net/11094/831
DOI
Rights
Osaka University
非鉄金属製錬技術を利用した
廃棄物の資源循環高温プロセスの開発
に関する研究
2009年
宮 林 良 次
目次
第1章
序論
・・・
1
・・・
1
1.1.
本研究の背景
1.2.
非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源循環高温プロセスに関する
研究の現状と課題
1.3.
・・・
本研究の目的および構成と内容
・ ・ ・ 11
参考文献
第2章
8
・ ・ ・ 13
亜 鉛 製 錬 に お け る Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開
発
・・・ 14
2.1.
緒言
・・・
14
2.2.
亜鉛製錬プロセスについて
・・・
16
2.2.1.
亜鉛製造工程の概要
・・・
16
2.2.2.
焼結工程の概要
・・・
18
2.3.
シ ン タ の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る Cd 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発
・・・
20
2.3.1.
Cd の 揮 発 反 応 の 考 え 方
・・・
20
2.3.2.
焼結鉱の塩基度を変化させる実験計画
・・・
21
2.3.3.
実験結果
・・・
21
2.4.
電 気 集 塵 機 で Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 技 術 開 発
・・・
2.4.1.
24
電 気 集 塵 機 で Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 考 え 方
・・・
24
2.4.2.
実験計画
・・・
31
2.4.3.
実験結果
・・・
34
2.4.4.
乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 時 の Cd バ ラ ン ス
・・・
37
・・・
39
・・・
40
2.5.
結言
参考文献
第3章
ストーカ式焼却炉ならびにガス化溶融炉によるシュレッダー
ダストの資源循環プロセスの開発
・・・
41
3.1.
緒言
・・・
41
3.2.
シュレッダーダストの物性
・・・
45
i
3.3.
ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術・・・
3.3.1.
46
ストーカ式焼却炉によるシュレッダーダストの再資源化の考え方
・・・
46
3.3.2.
シュレッダーダストの焼却の実験計画
・・・
49
3.3.3.
実験結果
・・・
50
3.4.
ガス化溶融炉プロセスによるシュレッダーダストの再資源化技術
・・・
56
3.4.1.ガ ス 化 溶 融 炉 プ ロ セ ス に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 考 え 方
・・・
56
3.4.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 溶 解 プ ロ セ ス 開 発 の た め の 課 題 対 策 と そ の 実 験 結
果
・・・
62
3.5.
実操業への適用
・・・
70
3.6.
結言
・・・
73
・・・
75
参考文献
第4章
廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とそ
の流動性の解析
・・・ 77
4.1.
緒言
・・・
77
4.2.
廃棄物の溶解温度の測定
・・・
80
4.2.1.
試料
・・・
80
4.2.2.
測定方法
・・・
80
4.2.3.
結果
・・・
81
・・・
81
4.3.
廃棄物溶融炉のスラグ及び未溶解物の流動性測定
4.3.1.
試料
・・・
81
4.3.2.
流動性測定方法
・・・
82
4.3.3.
流動性の測定結果
・・・
82
・・・
84
4.4.
熱力学データベースを利用した相平衡の解析
4.4.1.
溶融炉スラグ
・・・
84
4.4.2.
未溶解物
・・・
88
4.5.
高 融 点 廃 棄 物( 石 綿 含 有 廃 棄 物 )の 溶 解 条 件 の 推 定
・・・
92
4.6.
実操業への適応
・・・
94
4.7.
結言
・・・
97
・・・
98
参考文献
ii
第5章
アルカリ酸化物を含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度
推算モデル
・・・ 99
5.1.
緒言
・・・
5.2.
溶融アルミノシリケートスラグの粘度モデル
・ ・ ・ 101
99
5.2.1.
粘度推算式
・ ・ ・ 101
5.2.2.
N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 計 算
・・・ 105
5.3.
結果と考察
・ ・ ・ 108
5.3.1.
係数の決定
・ ・ ・ 108
5.3.2.
計算結果
・ ・ ・ 109
5.4.
フッ化カルシウムを含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度推算モ
・・・ 117
デル
5.4.1.
Fを含有するアルミノシリケート
・・・ 117
5.4.2.
パラメータの決定
・・・ 118
5.4.3.
計算結果
・・・ 119
5.5.
廃棄物溶融炉の溶融スラグの粘度予測
・・・ 124
5.6.
結言
・・・ 125
参考文献
第6章
・・・ 126
溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発
(基礎試験)
・・・129
6.1.
緒言
・ ・ ・ 129
6.2.
粘度測定法の選定とその原理
・ ・ ・ 130
6.2.1. 粘 度 測 定 法 の 選 定
・ ・ ・ 130
6.2.2. 原 理
・ ・ ・ 130
6.2.3. 溶 融 物 の 高 温 下 で の 粘 度 測 定 装 置 の 課 題 と 解 決 案
・ ・ ・ 131
6.3.
・・・132
直流電源による常温の基礎実験
6.3.1. 実 験 装 置
・ ・ ・ 132
6.3.2. 測 定 開 始 位 置 の 検 討
・ ・ ・ 133
6.3.3. 試 料 溶 液 の 作 製 と ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 に よ る 粘 度 測 定
・ ・ ・ 134
6.3.4. 落 球 法 の 実 験 方 法
・ ・ ・ 135
6.3.5. 実 験 結 果
・ ・ ・ 136
6.4.
交流電流を用いた常 温 の 基礎実験
・・・141
6.4.1.
実験装置
・ ・ ・ 141
6.4.2.
実験結果
・ ・ ・ 141
iii
6.5.
高温における基礎実験
・ ・ ・ 143
6.5.1.
実験装置
・ ・ ・ 143
6.5.2.
高温における基礎実験結果
・ ・ ・ 145
6.6.
結言
・ ・ ・ 147
参考文献
第7章
・ ・ ・ 148
総括
・・・149
7.1.
本研究の総括
・ ・ ・ 149
7.2.
今後の研究課題
・ ・ ・ 154
本研究に関係する成果
・・・157
iv
第1章
1.1.
序論
本研究の背景
こ れ ま で の 大 量 生 産・大 量 消 費 型 の 経 済 社 会 活 動 は ,大 量 に 廃 棄 物 を 発 生 す
る社会を形成し,環境保全と健全な物質循環を阻害する恐れを有している。
Fig.1 に 世 界 の 廃 棄 物 発 生 量 の 予 測 を 示 す 。 Fig.1 で は , 実 線 が 世 界 の 廃 棄 物
発 生 量 を , 点 線 が ア ジ ア の 廃 棄 物 発 生 量 を 示 す 。 2000 年 時 点 で 世 界 の 廃 棄 物
の 総 排 出 量 は 約 127 億 ト ン で あ っ た が ,ア ジ ア を 中 心 と し た 国 際 的 な 経 済 成 長
と 人 口 増 に 伴 っ て 世 界 的 に 廃 棄 物 発 生 量 が 増 大 し , 2025 年 に は 190 億 ト ン ,
2050 年 は 270 億 ト ン と 2000 年 の 2.1 倍 に な る と 予 測 さ れ て い る 。 1 )
100million tons/year
300
Amount of exhaust of waste
250
270
World
200
190
150
127
100
Asia
50
0
2000
Figure 1
2010
2020
year
2030
2040
2050
Future prospects of world waste generation (2000-2050)
日 本 に お け る 1996 年 以 降 の 産 業 廃 棄 物 の 排 出 量 を Fig.2 に 示 す 。 年 間 4 億
ト ン と い う 膨 大 な 量 の 廃 棄 物 が 排 出 さ れ て お り ,大 き な 変 化 は な く 横 ば い で 推
移 し て い る 。 1 ) こ の 量 は 2000 年 で 世 界 の 廃 棄 物 発 生 量 の 約 3% に あ た る 。 さ
ら に , 産 業 廃 棄 物 最 終 処 分 場 の 残 容 量 お よ び 残 余 年 数 の 推 移 を Fig.3 に 示 す 。
産 業 廃 棄 物 最 終 処 分 場 の 残 余 容 量 が 1996 年 の 208 百 万 m 3 か ら 2005 年 に は 186
百 万 m 3 に 減 少 し て い る 。 一 方 , 残 余 年 数 は 1996 年 の 3.1 年 か ら 2005 年 に は
7.7 年 と 増 加 し て い る 。残 容 量 が 減 少 し て い る に も 係 わ ら ず ,残 余 年 数 が 増 え
た 要 因 は ,従 来 ,最 終 処 分 場 で 埋 立 処 分 さ れ て い た 産 業 廃 棄 物 が 再 利 用 さ れ た
1
り ,焼 却 に よ り 減 容 化 さ れ た り し ,最 終 処 分 量( 容 量 )が 減 少 し た こ と に よ る
と 考 え ら れ て い る 。し か し ,最 終 処 分 場 の 残 余 年 数 は 短 く ,深 刻 な 状 況 が 続 い
ていることに変わりはない。
Amount of exhaust of industrial waste
( million ton s)
500
450
426
415
408
400
406
1997
199 8
1999
2000
400
400
393
2 001
2002
412
417
422
2003
2004
2005
350
300
250
200
150
100
50
0
1996
year
Figure 2
Amount of exhaust of industrial waste (1996-2005)
208
211
190
200
150
184
176
179
182
184
184
186
8
6
Re main in g ye ar
Re main in g c apac ity
100
7 .2
7 .7
4
6 .1
50
Figure 3
3 .1
3 .2
3 .3
3 .7
3 .9
4 .3
1996
1997
1998
1999
2000
2001
4 .5
2002
(ye ar)
Remain ing c apac ity
10
Re main in g year
(milion m 3 )
250
2
0
2003
2004
0
2 0 0 5 (year)
The remaining capacity and remaining years of landfill sites
of industrial waste
こ の よ う な 状 況 を 改 善 す る た め に は ,新 た に 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 設 置 す る
必 要 が あ る と 考 え る 。産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 の 設 置 に 係 る 焼 却 施 設 お よ び 最 終 処
2
分 場 の 新 規 の 許 可 件 数 を Fig.4 に 示 す 。1 ) 廃 棄 物 処 理 法 で は 産 業 廃 棄 物 処 理 施
設 を 設 置 す る 場 合 に は 県 知 事 な ど の 許 可 が 必 要 と な る 。Fig.4 よ り ,焼 却 施 設
に つ い て , 1998 年 の 許 可 件 数 は 139 件 あ っ た が , 1999 年 以 降 , 激 減 し 2005
年 は 31 件 に な っ て い る こ と が わ か る 。同 様 に 最 終 処 分 場 に つ い て も ,1998 年
の 許 可 件 数 は 136 件 あ っ た が , 1999 年 以 降 , 激 減 し 2005 年 は 32 件 と な っ て
いる。これは次の要因によると考える。
① 1997 年 に 廃 棄 物 処 理 法 が 改 正 さ れ て 施 設 を 設 置 す る 場 合 は 環 境 ア セ ス メ
ン ト ,住 民 説 明 ,有 識 者 に よ る 審 議 会 な ど が 義 務 づ け ら れ ,計 画 立 案 か ら 施 設
の 設 置 許 可 を 得 る ま で に 2~ 3 年 を 要 す る よ う に な り , そ の 後 の 施 設 の 建 設 期
間を加えると計画から処理施設が運転されるまで 5 年以上の長い期間がかか
るようになった。
② 廃棄物処理施設が近くにあると土地の価値が下がることや環境問題が発生
する恐れがあることに起因して自治体ならびに周辺住民の焼却炉などの中間
処理施設や最終処分場を設置することに対する理解を得ることが困難になっ
ている。
こ の よ う に ,新 規 に 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 設 置 す る に は 時 間 が か か り 過 ぎ る こ
と か ら ,す で に 設 置 さ れ て い る 焼 却 炉 な ど の 中 間 処 理 施 設 を 種 々 の 産 業 廃 棄 物
を処理するために有効に活用すべきであると考える。
150
139
Ne w n u mbe r of pe rmits
Ne w n u mbe r of pe rmits
150
100
81
72
50
40
44
39
31
22
0
136
100
50
41
26
33
28
38
32
24
0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
(Lan dfill sites of indu strial waste disposal)
(Inc in eration fac ilitie s of in du strial waste disposal)
Figure 4
New number of permits for incineration facilities and landfill
sites
以 上 の よ う な 状 況 下 で ,現 代 の 大 量 生 産 ,大 量 消 費 ,大 量 廃 棄 型 の 社 会 経 済
活 動 の 仕 組 み を 根 本 か ら 見 直 し 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め ,『 循 環 型 社 会 形 成
3
推 進 基 本 法 』が 2000 年( 平 成 12 年 )に 施 行 さ れ た 。こ の 法 で は 施 策 の 基 本 理
念 と し て‘ 排 出 者 責 任 ’と‘ 拡 大 生 産 者 責 任 ’と い う 2 つ の 考 え 方 を 定 め て い
る 。‘ 排 出 者 責 任 ’ と は , 廃 棄 物 を 排 出 す る 者 が そ の 適 正 処 理 す る 責 任 を 負 う
と の 考 え 方 で あ り ,‘ 拡 大 生 産 者 責 任 ’ と は 生 産 者 が そ の 生 産 し た 製 品 が 使 用
さ れ 廃 棄 さ れ た 後 に も ,そ の 製 品 の 適 切 な 再 利 用 な ら び に 処 分 に 責 任 を 負 う と
い う 考 え 方 で あ る 。『 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 』 で は ,『 循 環 型 社 会 』 と は ,
天 然 資 源 の 消 費 が 抑 制 さ れ ,環 境 へ の 負 荷 が で き る 限 り 低 減 さ れ る 社 会 と 定 義
し て い る 。 Fig.5 に 『 循 環 型 社 会 』 の 姿 を 示 す 。 1 , 2 ) ま ず , 第 一 に 生 産 , 消 費
に お い て 廃 棄 物 等 の 発 生 を 抑 制 す る ( Reduce)。 第 二 に 消 費 ま た は 使 用 し た 製
品 を 廃 棄 す る 時 は 部 品 等 を 再 使 用 す る (Reuse)。 第 三 に 廃 棄 さ れ た 物 を 処 理 し
原 材 料 と し て 再 生 利 用 す る (Material Recycle)。第 四 に 再 生 利 用 で き ず 廃 棄 さ
れ る も の は 熱 回 収 を 行 う (Thermal Recycle)。 こ れ ら 第 一 か ら 四 が で き ず 循 環
利 用 が 行 な え な い も の に つ い て は 第 五 と し て 適 正 な 最 終 処 分( 埋 立 )を 行 な う 。
こ の よ う に Reduce, Reuse, Material Recycle, Thermal Recycle の 優 先 順 位
を考えて『循環型社会』を構築することが目標とされ,非鉄製錬技術は
Material Recycle, Thermal Recycle の 部 分 で 貢 献 で き る と 考 え る 。
資源投入
1:Reduce
廃棄物の発生抑制
生産
(製造・流通)
3:Material Recycle
再生利用
消費・使用
処理
(再生,焼却)
5:Land fill
適正処分
最終処分
(埋立)
Figure 5
廃棄
4:Thermal Recycle
熱回収
Appearance of recycling society
4
2:Reuse
再利用
また,循環型社会形成の推進のために日本の法体系も整備されてきている。
Fig.6 に 循 環 型 社 会 の 形 成 に 関 わ る 法 体 系 を 示 す 。 1 , 2 ) “ 環 境 基 本 法 ” を も と
に “ 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 ” が 制 定 さ れ て い る 。“ 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基
本 法 ” は ,「 物 質 循 環 の 確 保 」,「 資 源 の 消 費 抑 制 」,「 環 境 負 荷 の 低 減 」 を 目 的
と し て い る 。次 に ,廃 棄 物 を 適 正 に 処 理 す る た め の“ 廃 棄 物 処 理 法 ”な ら び に ,
3 R( Reduce,Reuse,Recycle)を 推 進 す る た め の“ 資 源 有 効 利 用 促 進 法 ”が
定 め ら れ て い る 。こ れ ら の 法 を 基 本 と し て 個 別 に 物 品 の 特 性 に 応 じ た 規 制 が 定
め ら れ て お り , ビ ン , ペ ッ ト ボ ト ル に 対 し ,“ 容 器 包 装 リ サ イ ク ル 法 ” が , エ
ア コ ン , 冷 蔵 庫 , テ レ ビ , 洗 濯 機 に 対 し ,“ 家 電 リ サ イ ク ル 法 ” が , 自 動 車 に
対 し ,“ 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 ” が , 食 品 残 さ に 対 し ,“ 食 品 リ サ イ ク ル 法 ” が ,
木 材 , コ ン ク リ ー ト に 対 し ,“ 建 設 リ サ イ ク ル 法 ” が 定 め ら れ て い る 。
環境基本法
循環型社会形成推進基本法
・ 物質循環の確保
・資源の消費の抑制
・環境負荷の低減
廃棄物処理法
資源有効利用促進法
・ 廃棄物の適正処理
・ 3R の推進
個別物品の特性に応じた規制
容器包装リサイクル法
家電リサイクル法
自動車リサイクル法
ビン,ペット ボト ル
エア コ ン,冷蔵庫,テ レビ,洗濯機
自動車
Figure 6
食品リサイクル法
建設サイクル法
食品残さ
木材,コ ンク リー ト,アスフ ァルト
System for promotion of formation of recycling society
以 上 の 背 景 か ら ,日 本 の 非 鉄 製 錬 所 は『 循 環 型 社 会 』の 構 築 に 貢 献 す る た め ,
技 術・イ ン フ ラ・ノ ウ ハ ウ 等 を 応 用 し 廃 棄 物 を 埋 立 処 分 し な い ゼ ロ エ ミ ッ シ ョ
5
ン に 向 け た 取 り 組 み を 行 な っ て い る 。特 に 量 的 に は 少 な い が 付 加 価 値 の 高 い レ
ア メ タ ル( 希 少 金 属 )等 の 資 源 を 回 収 し た り ,有 害 廃 棄 物 を 無 害 化 し た り す る
な ど ,独 自 の 技 術 を 利 用 し て い る 。例 え ば ,秋 田 県 北 部( 小 坂 町 )を 始 め ,非
鉄 金 属 鉱 山 ,非 鉄 金 属 製 錬 所 に お い て ,製 錬 技 術 を 活 用 し ,廃 電 子 機 器 や 廃 基
板 等 に 含 ま れ る 金 ,銀 等 の 貴 金 属 や 鉛 等 の 重 金 属 の 回 収・リ サ イ ク ル を 行 な っ
て い る 。Fig.7 に 日 本 の 非 鉄 製 錬 所 が 行 な っ て い る 廃 棄 物 処 理 と 回 収 物 の 例 を
示 す 。 廃 自 動 車 の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は Cu, Pb, Zn が 含 ま れ て お り , こ れ ら
の 金 属 を 小 名 浜 共 同 製 錬 所 ( 福 島 県 ), 日 鉱 三 日 市 リ サ イ ク ル ㈱ ( 富 山 県 ) な
ど で 回 収 し て い る 。 廃 鉛 バ ッ テ リ ー の Pb は 神 岡 鉱 業 所 ( 岐 阜 県 ) で 回 収 し て
い る 。溶 融 飛 灰 は Zn,Pb,Cu を 含 ん で お り ,三 池 製 錬 所( 山 口 県 ),八 戸 製 錬
所 ( 青 森 県 ) で こ れ ら の 金 属 を 回 収 し て い る 。 廃 基 板 は Au, Ag, Pt 等 の レ ア
メ タ ル , Cu, Pb, Zn を 含 ん で お り 非 鉄 製 錬 の 各 製 錬 所 で こ れ ら の 金 属 を 回 収
し て い る 。小 型 バ ッ テ リ ー は Zn,Ni,Cd を 含 み ,東 邦 亜 鉛 ㈱ 小 名 浜 製 錬 所( 福
島県)でこれらの金属を回収している。このように,各非鉄製錬所において,
こ れ ま で に 処 理 し て き た 亜 鉛 鉱 石 ,鉛 鉱 石 ,銅 鉱 石 な ど か ら の 金 属 回 収 技 術 と
そ の 設 備 を 利 用 し て , 有 害 な 重 金 属 も 含 め 種 々 の 金 属 を 回 収 し て い る 。 3-6)
End-of-life lead
asid batteries
Shuredder residue
Cu
Pb
Zn
Figure 7
Cu
Zn
Pb
Pb
Pb
End-of-life small
batteries
Scrap circuit boards
Rare metals
Melting furnace
fly ash
Zn
Zn
Ni
Cd
Example of waste disposal and collected items
6
Cu
特に近年,溶融処理による無害化の要望の高い廃棄物として,シュレ
ッダーダスト,石綿含有廃棄物を始め,カドミウム含有廃棄物,鉛含有
ガ ラ ス , 鉛 含 有 ば い じ ん , 低 濃 度 PCB 含 有 廃 棄 物 な ど が あ げ ら れ る 。
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は ,香 川 県 豊 島( て し ま )で 不 法 投 棄 が 原 因 と 見 ら れ る
有 毒 ガ ス ,土 壌 汚 染 が 発 生 し た た め ,安 全 な 処 分 に は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト か ら
Pb 等 の 重 金 属 を 除 去 し , 無 害 化 , 減 容 化 を 図 る こ と が 不 可 欠 で あ る と の 社 会
的要請が高まった。非鉄製錬所では,このシュレッダーダストを焼却処理し,
焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu, Pb, Zn を 回 収 す る こ と に 取 り 組 ん で い る 。
使 用 済 自 動 車 の 処 理 フ ロ ー を Fig.8 に 示 す 。1 ) 使 用 済 み 自 動 車 は ,自 動 車 販
売 業 者 等 の 引 取 業 者( デ ィ ー ラ ー ,整 備 事 業 者 )か ら 自 動 車 解 体 事 業 者 に 渡 り ,
そ こ で エ ン ジ ン ,ボ デ ィ 部 品 等 の 有 用 な 部 品 が 回 収 さ れ る 。さ ら に 残 っ た 廃 車
ガ ラ は 破 砕 事 業 者 に 渡 り , そ こ で Fe, Al, Cu 等 の 有 用 な 金 属 が 回 収 さ れ る 。
金 属 回 収 後 の 残 さ ( シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト , 使 用 済 み 自 動 車 の 処 理 で は ASR
( Automobile shredder residue) と 呼 ば れ る ) が 主 に 廃 棄 物 と し て 処 理 さ れ
る 。自 動 車 1 台 当 り の 重 量 比 で ,20~ 30% 程 度 が 解 体 業 者 に よ っ て 有 用 部 品 と
し て 回 収 (Reuse) さ れ , 50 ~ 55 % 程 度 が 素 材 と し て リ サ イ ク ル (Material
Recycle)さ れ る 。 そ し て , 残 り の 17% 程 度 が シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト と な る 。 シ
ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 が 2005 年( 平 成 17 年 )1 月 よ り 本 格
施 行 さ れ る 前 は ,ほ と ん ど 埋 立 処 分 さ れ て い た の で 使 用 済 み 自 動 車 の リ サ イ ク
ル 率 は 83% 程 度 で あ っ た 。 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 施 行 後 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト
の リ サ イ ク ル に 非 鉄 製 錬 所 を 始 め 各 社 が 取 り 組 み ,現 状 で は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス
ト の 埋 立 処 分 が 17% か ら 6% に 下 が り リ サ イ ク ル 率 は 94% 程 度 と な っ て い る 。
25%
ー
自
動
車
ユ
ー
ザ
中古車ディーラー
整備事業者等
部品
リサイクル
20~30%
再使用部品
エンジン
ボディー部品
電装品等
20~30%
新車ディーラー
素材
リサイクル
50~55%
70% 解 再資源化部品
体 エンジン,触媒
非鉄金属
事 タイヤ等
業 15%
者
5%
Figure 8
自動車ガラ
エンジンやタイ
ヤを取り外した
外枠
55~60%
破
砕
事
業
者
自動車リサイク
ル法施行前の
リサイクル率
83%
シュレッダー
ダスト
17%
Flow of processing used car
7
現状
94%
リサイクル
11~13%
さ ら に ,非 鉄 製 錬 所 は 金 属 を 含 ま な い 産 業 廃 棄 物 に 対 し て も 溶 融 技 術 を 用 い
て 無 害 化 と 再 資 源 化 に 取 り 組 ん で い る 。そ の 一 例 と し て ,石 綿 含 有 廃 棄 物 が あ
る 。石 綿 は 耐 熱 性 等 に す ぐ れ て い る た め ,建 材 な ど 多 く の 製 品 に 使 用 さ れ て き
た が ,じ ん 肺 ,肺 が ん ,中 皮 腫 を 引 き 起 こ す 有 害 物 質 と し て ,現 在 は 製 造 ,使
用 が 全 面 禁 止 さ れ て い る 。廃 棄 物 処 理 法 で は ,石 綿 が 建 築 物 に 吹 き 付 け ら れ た
も の や 石 綿 保 温 材 な ど ,大 気 中 に 飛 散 す る 恐 れ も あ る も の( 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 )
を「 廃 石 綿 等 」と し て 特 別 管 理 産 業 廃 棄 物 に 指 定 し て い る 。ま た ,石 綿 ス レ ー
ト な ど の 石 綿 を 含 む 成 型 板 等 の 廃 棄 物 は「 非 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 」に 分 類 さ れ て
い る が , 処 理 時 の 破 壊 に よ っ て は 石 綿 が 飛 散 す る 恐 れ が あ り , 2005 年 に 環 境
省 は こ れ ら の 適 正 な 処 理 を 行 な う た め の 指 針 を 示 し た 。「 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 」
を 最 終 処 分 す る に は ,飛 散 防 止 の た め の 梱 包 ま た は コ ン ク リ ー ト を 用 い た 固 化
に よ る 処 理 を し た 上 で 管 理 型 最 終 処 分 場 に 埋 立 処 分 す る 場 合 と ,溶 融 し 石 綿 の
性 状 を 失 わ せ ,通 常 の 産 業 廃 棄 物 ま た は 資 源 と し て 再 利 用 す る 場 合 が あ る 。石
綿含有廃棄物は埋立処分では石綿の形状を破壊できないことから溶融処理す
べきであると考える。特 に , 2004 年 以 降 , 社 会 的 に 石 綿 の 管 理 の 問 題 が
取 り 上 げ ら れ る よ う に な り ,2 0 0 5 年 に 石 綿 障 害 予 防 規 則 が 施 行 さ れ た こ
と を 受 け て か ら は ,石 綿 含 有 廃 棄 物 を 無 害 化 で き る 溶 融 処 理 技 術 が 重 要
と な っ て き て い る 。 7-9)
1.2.
非鉄金属製錬技術を利用した廃棄物の資源循環高温プロセスに関する
研究の現状と課題
国 内 の 非 鉄 製 錬 所 は ,廃 電 子 機 器 ,廃 基 板 ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等 に 含 ま れ る
Cu, Au, Ag 等 の 貴 金 属 の 回 収 を 行 っ て い る が , こ れ ら は , Zn, Pb, Cd 等 の 重
金 属 を 含 ん で い る 。廃 電 子 機 器 ,廃 基 板 ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等 を 焼 却 ,ま た は
溶 融 処 理 す る と Cu 等 の 金 属 は 固 体 ま た は 溶 融 物 と し て 回 収 さ れ る が ,Zn,Pb,
Cd は 揮 発 し や す く ,飛 灰 と な る 。こ の 飛 灰 は キ レ ー ト 等 を 混 合 し Pb,Cd の 溶
出 を 抑 え 埋 立 処 分 す る こ と は 可 能 で あ る が , 長 い 年 月 が 経 過 す る と Pb, Cd が
溶 出 し 環 境 を 汚 染 す る 恐 れ が あ る 。 よ っ て , 亜 鉛 製 錬 所 で こ れ ら Cd 含 有 廃 棄
物 を 亜 鉛 精 鉱 と 同 様 に 処 理 し , Zn を 回 収 す る 工 程 で Pb, Cd を 効 率 的 に 分 離 ,
回収することが適切であると考える。しかし,亜鉛乾式製錬炉のISP炉
(Imperial Smelting Process)な ら び に 電 熱 蒸 留 炉 で は , Pb, Cd が 亜 鉛 原 料 に
含 ま れ て い る と , こ れ ら が 炉 内 で Zn と と も に 揮 発 し 溶 融 亜 鉛 ( 蒸 留 亜 鉛 ) に
含 有 さ れ ,蒸 留 亜 鉛 の 品 質 が 低 下 す る 問 題 が あ る 。そ こ で ,亜 鉛 乾 式 製 錬 炉 の
原 料 を 塊 状 化 す る 前 処 理 工 程 で あ る 焼 結 工 程 で Pb, Cd を 揮 発 さ せ , 揮 発 後 ,
8
Pb,Cd が 酸 化 し ,固 化 し た ダ ス ト か ら Pb,Cd を 回 収 す る こ と で 亜 鉛 乾 式 製 錬
炉 へ の Pb,Cd の 混 入 量 を 減 少 さ せ る と と も に Pb,Cd が リ サ イ ク ル で き る と 考
え る 。溶 融 し た Zn と Pb は 溶 融 状 態 で も 溶 離 法 に よ り 容 易 に 分 離 で き る こ と か
ら Cd を 亜 鉛 乾 式 製 錬 炉 の 前 工 程 で 回 収 す る こ と が 重 要 で あ る と 考 え る 。
次 に , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は Cu 等 の 貴 金 属 の 他 , 可 燃 物 , 塩 素 を 含 ん で お
り ,Cu,Pb お よ び Zn 等 の 非 鉄 金 属 を 効 率 的 に 回 収 し ,環 境 汚 染 の 防 止 と 資 源
リ サ イ ク ル を 図 る こ と を 目 的 と し た 技 術 開 発 が 日 本 の 各 社( 事 業 者 )で 行 わ れ
て い る 。 Table 1 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 プ ロ セ ス の 例 を 示 す 。
Table 1
Recycling process of shredder residue
様 式
A
分別処理
概 要
篩別,選別の技術を組み合わせる
実施事業者
拓南商事
豊田メタル
B-1 ( 焼却+溶融) 処理
反射炉の熱源として処理し,貴金属をマット 小名浜製錬所
で回収する
B-2 ( 焼却+溶融) 処理
ガス化炉で熱分解後,発生したガスを熱源 ジャパンリサイクル
に溶融する
水島エコワークス
青森RER
焼却炉又はガス化炉で ,焼却又は熱分解 小坂製錬所
処理し,焼却灰を非鉄製錬炉で 処理する。 日鉱三日市リサイクル
焼却飛灰も非鉄製錬プロセスで処理する。
C
焼却→溶融処理
D
( 焼却+溶融) →溶融処理
E
乾留処理
F
熱媒浴( サーモバス ) 処理
キルンで焼却・ 溶融処理し,発生した残滓 直島製錬所
を非鉄製錬炉で処理する
外熱キルンで乾留し残滓から金属を分離す カネムラ
る
コールタール浴で有機物と金属を分離する NKK
様式Aはシュレッダーダストを種々の選別を組合せて処理し金属を分離回
収 す る が ,可 燃 物 は 焼 却 炉 等 で 焼 却 し て い る 。様 式 B - 1 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス
ト を 銅 製 錬 反 射 炉 で 処 理 し 有 機 物 は 熱 源 と し て 燃 焼 し て ,金 属 は マ ッ ト に 回 収
し ガ ラ ス 類 は ス ラ グ 化 す る 。こ の プ ロ セ ス は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 水 分 変 動
に よ り 熱 バ ラ ン ス が 崩 れ や す い こ と と ,銅 原 料 と と も に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を
処 理 す る の で シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 起 因 す る ス ラ グ 量 が 増 加 し 銅 原 料 中 の Cu
の 一 部 が 新 た な ス ラ グ に 移 行 し Cu の 回 収 率 が 低 下 す る 恐 れ が あ る 。 様 式 B -
2はシュレッダーダストをガス化炉で熱分解処理し金属片とガラス類が焼却
灰 と し , 飛 灰 の 大 部 分 は ガ ス 化 炉 で 発 生 し た ガ ス を 熱 源 と し て 溶 融 す る 。 Zn,
Pb の 低 沸 点 金 属 は 飛 灰 と な り キ レ ー ト を 添 加 し 重 金 属 の 溶 出 を 防 止 し た 後 ,
埋 立 処 分 さ れ て い る 。様 式 C は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 ま た は ガ ス 化 炉
で 処 理 し , 発 生 し た 焼 却 灰 , 飛 灰 は 隣 接 し た 非 鉄 製 錬 所 で 処 理 し Cu, Pb な ど
9
を 回 収 す る 。様 式 D は 様 式 C の ガ ス 化 炉 を 溶 融 キ ル ン に 置 き 換 え た プ ロ セ ス で
あ る 。様 式 E は 様 式 B - 1 の ガ ス 化 炉 の 役 割 を 外 熱 キ ル ン に 置 き 換 え た も の で
あ る が ,熱 源 を 必 要 と す る 。様 式 F は タ ー ル に 有 機 物 を 溶 か し 金 属 を 分 離 す る
プロセスである。
以 上 の 様 式 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn, Pb は 焼 却 処 理 に よ り 飛
灰 に 含 ま れ る の で , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る た め の 設 備 と し て 非 鉄 製 錬 ダ
ス ト か ら Zn, Pb を 回 収 し て い る 非 鉄 製 錬 所 の 設 備 が 利 用 で き る 様 式 C , D が
優 位 で あ る と 考 え る 。 し か し , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る 技 術 は 非 鉄 製 錬 技
術として確立されているが,シュレッダーダストの焼却処理技術を安定させ,
資源リサイクルを推進するには,次の問題点がある。
① シュレッダーダストは低融点ガラスと塩素を多く含んでおり,焼却時に焼
却炉またはガス化炉内において,ガラスが溶融し炉壁等へ付着する。
② シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 時 に 揮 発 し た Zn,Cu を 含 む 溶 融 塩 化 物 が 排 ガ ス
道の内壁へ付着する。
③ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ア ル ミ ニ ウ ム (Al)は 高 温 で 焼 却 す る と 溶 融 し , ス
ラグまたは焼却灰に含まれ回収できない。
非鉄製錬技術を利用する廃棄物処理プロセスは高温溶融技術に優れ
ており,このプロセスに対して処理ニーズの高い廃棄物として,シュレ
ッ ダ ー ダ ス ト ,C d 含 有 廃 棄 物 ,石 綿 含 有 廃 棄 物 が あ げ ら れ る 。こ の よ う
に 種 々 の 廃 棄 物 を 安 全 に 無 害 化 ,な ら び に 再 資 源 化 す る 溶 融 処 理 技 術 の
確立が重要と考えている。しかし,廃棄物溶融炉における廃棄物の溶解
お よ び 固 相 析 出 挙 動 に 関 す る 知 見 は 少 な い こ と か ら ,安 定 し た 操 業 を 継
続 す る 指 針 を 得 る た め に は ,溶 融 ス ラ グ に 対 す る 基 礎 的 な 解 析 を 行 い 溶
融 ス ラ グ の 流動性を評価することが重要であると考える。
溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 は ,粘 度 測 定 に よ り 主 に 評 価 さ れ て い る が ,モ デ ル に よ
る 粘 度 推 算 は ,廃 棄 物 溶 融 炉 に お け る 流 動 性 を 評 価 す る 上 で 大 い に 役 立 つ と 考
え る 。こ れ は ,産 業 廃 棄 物 の 成 分 が 種 々 雑 多 で あ り ,廃 棄 物 溶 融 炉 の あ ら ゆ る
溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 測 定 す る こ と は 困 難 で あ る た め で あ る 。例 え ば ,石 綿 を 含
む 廃 棄 物 を 溶 融 し た ス ラ グ の 系 は CaO,FeO,Fe 2 O 3 , MgO, K 2 O, Na 2 O 等 を 含
む 多 成 分 系 の ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ で あ る 。ま た ,廃 棄 物 溶 融 炉 は フ ッ 化
物 を 含 む 石 膏 ,工 場 排 水 中 の F を 固 定 し た 中 和 物 ,F を 含 む ガ ラ ス も 溶 融 す る
こ と が あ る の で , ス ラ グ 中 に CaF 2 が 含 ま れ て い る 。
相平衡解析ならびに粘度推算モデルを通じて廃棄物溶融炉における
溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 に 関 す る 操 業 指 針 を 得 る こ と は 可 能 に な る が ,産 業
10
廃棄物は種々雑多であり,組成,含有量は刻々と変化しており,それに
伴 い 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 が 変 化 す る 。そ の た め 廃 棄 物 溶 融 炉 の オ ン サ イ
トに簡易型の粘度測定装置を設置して粘度の値と温度を迅速に計測す
ることができれば,操業時に溶融スラグの粘度を管理でき,溶融スラグ
の流動性をより安定させることが可能となる。
1.3.
本研究の目的および構成と内容
本 研 究 で は ,資 源 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め ,非 鉄 製 錬 所 が 長 年 培 っ て き た
非 鉄 製 錬 技 術 を 活 用 し ,廃 棄 物 を 無 害 化 す る と と も に ,こ れ ら の 廃 棄 物 に 含 ま
れ る Cu 等 の 有 価 金 属 を 資 源 循 環 す る 観 点 か ら , 上 述 の 課 題 に つ い て 検 討 を 行
な い ,『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 に
関 す る 研 究 』を 行 な っ た 。本 論 文 は こ れ ら の 成 果 を ま と め た も の で 7 章 か ら 構
成されている。
第 1 章 で は ,循 環 型 社 会 を 目 指 す 日 本 の 産 業 廃 棄 物 処 理 の 現 状 に つ い て 知 見
をまとめ,本研究の目的および構成と内容について述べた。
第 2 章 で は , 亜 鉛 製 錬 に お け る Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 構
築 に 関 す る 研 究 と し て , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 技 術
を開発するために,
( 1 ) 焼 結 工 程 で Cd の 揮 発 率 を 高 め , 分 離 す る 方 策
( 2 ) 排 ガ ス 処 理 工 程 で Cd を 含 む ダ ス ト の 回 収 量 を 増 す 方 策
に関して検討を行なった。
第 3 章 で は ,ス ト ー カ 式 焼 却 炉 な ら び に ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ
ス ト の 資 源 循 環 プ ロ セ ス の 開 発 に 関 す る 研 究 と し て , Table 1 の 様 式 C に つ い
て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 物 を 焼 却 ま た は 熱 分
解 す る 装 置 と し て( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 ,お よ び( 2 )ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い
て ,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し , 発 生 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却
飛 灰 か ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’ と ‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト
を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。ま ず ,ス ト ー カ 式 焼 却
炉 に よ り シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 を 行 な い ,そ の 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 を 既
存 の 亜 鉛 製 錬 工 程 に お い て 処 理 す る こ と に よ り ,Cu を Fe- Cu 合 金 と し て ,Pb
を 硫 酸 鉛 ま た は 鉛 地 金 と し て , Zn は 亜 鉛 地 金 と し て 回 収 す る 技 術 開 発 を 行 な
っ た 。 次 に , ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , 1) ガ ス 化 炉 内 に お け る 溶 融 ガ ラ ス の 炉
壁 等 へ の 付 着 防 止 ,2)揮 発 し た Zn,Cu を 含 む 溶 融 塩 化 物 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 へ
の 付 着 防 止 ,3)ガ ス 化 炉 内 で の Al を 溶 融 さ せ な い シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却
11
技術の開発を行なった。
第 4 章 で は ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 安 定 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ の
流 動 性 の 解 析 と し て ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 未 溶 解 物 に つ い て ,流
動 性 測 定 と 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 を 行 な い ,廃 棄 物 溶 融 炉
の操業に及ぼす高温酸化物の液相領域の酸素分圧および温度依存性と
そ の 流 動 性 に つ い て 解 析 し た 。 さ ら に ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処 理 に つ
いて,熱力学データを利用した相平衡解析を行ない,溶融処理条件 につ
いて検討した。
第 5 章 で は , 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 は SiO 2 濃 度 が 高 く な る と 液 相 領 域 で も 粘
度 が 高 く な り ,相 平 衡 解 析 で は 流 動 性 を 予 測 で き な い の で ,ア ル カ リ 酸 化 物 を
含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 モ デ ル の 提 案 を 行 な っ た 。特 に ,
シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 す る た め に ,熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ
り に ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 が 3 種 類 の 結 合 ,す な わ ち ,
① Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 , ② 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン
を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,③ Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 か ら 成 る と 仮 定
し ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 形 成 す る 酸 素 の 結 合 状 態 を 計 算 す る
手 法 を 導 入 し た 粘 度 推 算 モ デ ル を 導 出 し た 。同 モ デ ル を 用 い て ,ア ル カ リ 酸 化
物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 (SiO 2 -CaO-MgO-FeO-K 2 O-Na 2 O-Al 2 O 3 系 酸 化
物 )の 粘 度 推 算 を 行 な っ た 。 さ ら に , CaF 2 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ
グ の 粘 度 推 算 を 行 な う た め に ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 が CaO に よ
り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 , CaF 2 の 添 加 に よ っ て O-Ca-F 結 合 を 形 成 す る と 考
え ,CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ ケ ー ト 系 の 粘 度 の 推 算 の た め に 上 記 の モ デ ル の 拡
張を試みた。
第 6 章 で は ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 測 定 を 目 指 し た 落 球 法 に よ る 粘 度 計 の 開 発 と
して,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を オ ン サ イ ト で 測 定 す る こ と を 目 指 し た 粘 度 測
定方法を検討した。特に粘度測定方法として落球法に着目し,高温用粘
度 計 の 開 発 の た め の 指 針 を 得 る こ と を 目 的 に ,常 温 と 高 温 に お け る 基 礎
実験を行ない,計測方法,装置の形状・大きさなどに関する検討を行な
った。
最後に第7章では,本研究成果の総括と今後の研究課題について論じた。
12
参考文献
1) 環 境 ・ 循 環 型 社 会 白 書
平 成 20 年 度 版 , 環 境 省 編 , ぎ ょ う せ い , (2008)
2) 環 境 ・ 循 環 型 社 会 白 書
平 成 19 年 度 版 , 環 境 省 編 , ぎ ょ う せ い , (2007)
3) Annual Report on the Environment and the Sound Material-Cycle Society
in Japan 2008,Ministry of the Environment
4) 森 瀬 崇 史 , 仲 雅 之 , 白 鳥 寿 一 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 194-198
5) 赤 木 進 ,青 木 威 尚 ,米 田 寿 一 ,成 迫 誠 ,日 野 順 三:資 源 と 素 材 ,123(2007)No.12,
199-202
6) 城 戸 繁 光 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 208-211
7) 中 村 崇 , 柴 田 悦 郎 , 白 鳥 寿 一 : 廃 棄 物 学 会 誌 , 17(2006),301-310
8) 由 田 秀 人 , 秦 康 之 : 廃 棄 物 学 会 誌 , 17(2006),255-262
9) 環 境 省 : イ ン ダ ス ト , 22(2007),2-6
13
第2章
亜鉛製錬におけるCd含有廃棄物の資源循環高温プロセスの
開発
2.1. 緒 言
亜鉛製錬所は,亜鉛鉱石を製錬し亜鉛金属(亜鉛地金)を生産しているが,
資 源 循 環 の 観 点 か ら , 銅 製 錬 所 の 自 溶 炉 な ら び に 転 炉 か ら 発 生 し た Cd, Pb,
Zn を 含 む ダ ス ト を 湿 式 処 理 し Zn,Cd を 濃 縮 し 回 収 し た Cd 含 有 廃 棄 物( 以 後 ,
水 酸 化 亜 鉛 と 記 述 す る ),な ら び に 鉄 鋼 製 錬 所 の 電 気 炉 か ら 発 生 し Pb,Zn を 含
む 製 鋼 ダ ス ト か ら の 亜 鉛 の 回 収 に つ い て も 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。1 - 3 ) た
だ し , こ れ ら の Zn を 含 む リ サ イ ク ル 原 料 は , Cd, Pb を 多 く 含 ん で い る た め ,
亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス に お い て , Cd, Pb を 効 率 的 に 分 離 し , 回 収 す る 技 術 開 発 が
重要であると考える。
例 え ば ,筆 者 が 属 し た N 社 は S 製 錬 所 で 銅 製 錬 所 の 転 炉 か ら 発 生 す る ダ ス ト
を 湿 式 処 理 し Zn を 濃 縮 さ せ た 水 酸 化 亜 鉛
4)
を 製 造 し ,T 工 場 で 水 酸 化 亜 鉛 と
亜 鉛 精 鉱 を 混 合 し て 焙 焼 鉱 と し ,N 製 錬 所( 日 鉱 亜 鉛 ㈱ 三 日 市 製 錬 所( 現 日 鉱
三 日 市 リ サ イ ク ル ㈱ ))で 焙 焼 鉱 を 高 温 還 元 し Zn を 金 属( 地 金 )と し て 回 収 し
て い た 。こ の 水 酸 化 亜 鉛 は Zn 以 外 に Cd を 多 く 含 み ,亜 鉛 精 鉱 に 対 す る 水 酸 化
亜 鉛 の 配 合 比 率 が 高 ま る に 連 れ て , 1985 年 以 降 , こ れ ら の 亜 鉛 原 料 を 焙 焼 し
た 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 が 上 昇 し , そ れ に 伴 い , 亜 鉛 蒸 留 工 程 の 原 料 と な る 焼 結
工 程 で 製 造 さ れ る 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 も 上 昇 し た 。 Table 1 に 亜 鉛 精 鉱 (Zinc
concentration), 水 酸 化 亜 鉛 (Hydroxide zinc)の 分 析 値 の 一 例 を , Fig.1 に 焙
焼 鉱 (Calcine)と 焼 結 鉱 (Sinter)中 の Cd 濃 度 の 推 移 を 示 す 。 同 図 よ り 1982 年
ご ろ か ら ,銅 製 錬 所 か ら 発 生 す る ダ ス ト を 湿 式 処 理 し て 亜 鉛 を 濃 縮 さ せ た 水 酸
化 亜 鉛 の 亜 鉛 精 鉱 に 対 す る 比 率 が 高 ま り , 1985 年 以 降 , こ れ ら の 亜 鉛 原 料 を
焙 焼 し た 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 が 上 昇 し , そ れ に 伴 い , 亜 鉛 蒸 留 工 程 の 原 料 と な
る 焼 結 工 程 で 製 造 さ れ る 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 も 上 昇 し た 。1986 年 度 に 焙 焼 鉱 中
の Cd 濃 度 が 従 来 の 約 0.28% か ら 0.30% に 上 昇 し た た め , 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度
は 約 0.06% か ら 0.08% ま で 上 昇 し て い る こ と が わ か る 。 焼 結 鉱 の Cd 濃 度 が
0.1% に な る と 蒸 留 亜 鉛 中 の Cd 濃 度 が JIS の 規 格 値 0.1% を 超 え る 恐 れ が あ る 。
上 記 の プ ロ セ ス で は , 蒸 留 亜 鉛 中 の Cd 濃 度 が 規 格 値 を 超 え な い よ う に , 焙 焼
鉱 中 の Cd 濃 度 を 約 0.30% 以 下 と す る た め に Cd 濃 度 の 高 い リ サ イ ク ル 原 料 で
ある水酸化亜鉛の処理量を下げて他の亜鉛原料を増して原料の配合を調整し
た 。 溶 融 亜 鉛 メ ッ キ の 亜 鉛 地 金 と し て 使 用 さ れ る 蒸 留 亜 鉛 中 の Cd 濃 度 が 上 昇
す る と ,溶 融 亜 鉛 メ ッ キ ユ ー ザ ー で の 亜 鉛 メ ッ キ の 品 質 低 下 が 懸 念 さ れ る た め ,
14
亜 鉛 プ ロ セ ス で は Cd の 効 率 的 な 除 去 技 術 開 発 が 必 要 と な っ た 。 5 , 6 )
Fig.2 に 代 表 的 な 金 属 の 蒸 気 圧 を 示 す 。7 ) Cd,Zn の 蒸 気 圧 は 900K で log Pa
= 4, 3 で あ り ,ど ち ら も 揮 発 し や す い 金 属 で あ る 。Zn を 高 温 で 還 元 揮 発 し て
回 収 す る 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス ( 溶 鉱 炉 ( ISP: Imperial Smelting Process)
お よ び 電 熱 蒸 留 炉 )8 ) で は ,Cd が Zn と と も に 揮 発 し ,凝 縮 さ せ た 溶 融 亜 鉛 中
に Cd が 混 入 す る 。 そ こ で , 溶 鉱 炉 お よ び 電 熱 蒸 留 炉 の 前 処 理 工 程 の 原 料 を 塊
状 化 す る 焼 結 工 程 で ,効 率 的 に Cd を 揮 発 さ せ 分 離 さ せ る こ と が Cd を 含 む 廃 棄
物および亜鉛リサイクル原料の処理に有効であると考える。
本 章 で は , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 に つ い て , 次 の
項目を検討した。
( 1 ) 焼 結 工 程 で Cd の 揮 発 率 を 高 め 分 離 す る 方 策 の 検 討
焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る Cd 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発 を 行 な
った。
( 2 ) 焼 結 工 程 か ら 発 生 し た Cd を 含 む ダ ス ト を 排 ガ ス 処 理 設 備 に お い て 効 率
的に回収する方策の検討
焼 結 工 程 で 揮 発 除 去 さ れ た Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率( 集 塵 率 )を 高 め ,
亜 鉛 製 錬 工 程 内 の Cd 循 環 量 を 削 減 す る た め の 電 気 集 塵 装 置 の 技 術 開 発 を 行 な
った。
Table1
Typical Assay of Zinc concentration and Hydroxide Zinc
(u n it : mass% )
Zn
Zinc cocentration
Hydroxide zinc
Cd
Fe
S
SiO 2
Al 2 O 3
1 5 ~3 0 0 .0 5~0 .2 0 .5 ~2 .0 0.5 ~2.0
5 ~1 5
1 5 ~3 0
5~1 0
5 ~1 0
2 5 ~3 5
5 ~1 5
-
-
-
3 ~5
Pb
Cu
0 .1 ~0 .5
1 ~3
0.40
Sinter
Calcine
Cd Content (mass%)
0.35
0.30
0.25
0.20
Control of Basicity
0.15
0.10
0.05
0.00
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
Business Year
Figure 1
Cd contents in calcine and sinter(1980-1989 business year)
15
Figure 2
Vapor pressure of various metals
2.2. 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス に つ い て
2.2.1. 亜 鉛 製 造 工 程 の 概 要
N 製 錬 所 の 亜 鉛 製 造 工 程 に つ い て 述 べ る 。同 亜 鉛 製 造 工 程 は ,
(1)
「焙焼工
程 」,( 2 )「 焼 結 工 程 」,( 3 )「 電 熱 蒸 留 ( 電 炉 ) 工 程 」,( 4 )「 精 留 工 程 」 の
4 つ に 大 別 さ れ る 。 Fig.3 に N 製 錬 所 の 亜 鉛 製 造 工 程 フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。
「 焙 焼 工 程 」(Roasting)は ,T 工 場 に て ,亜 鉛 精 鉱( 硫 化 亜 鉛 ,硫 化 鉄 等 の
混 合 物 ) (Zinc concentration)と 亜 鉛 を 含 有 す る 水 酸 化 亜 鉛 (Hydroxide Zinc)
を 混 合 後 ,硫 黄 を 酸 化 除 去 す る た め 焙 焼 し ,焙 焼 鉱( 酸 化 亜 鉛 ,酸 化 鉄 等 の 混
合 物 ) (Calcine)を 製 造 す る 。
次 に ,「 焼 結 工 程 」 (Sintering)に お い て , 焙 焼 鉱 (Calcine)は 焼 結 し , 塊 状
の 焼 結 鉱 (Sinter)と す る 。
「 電 熱 蒸 留( 電 炉 )工 程 」(Distillation)に お い て ,焼 結 鉱 (Sinter)を 粒 コ
ー ク ス (Pea coke)と と も に 約 1073K に 予 熱 し て 電 炉 (Distillation)に 連 続 装
入 す る 。 炉 内 か ら 発 生 す る 亜 鉛 蒸 気 は , コ ン デ ン サ ー で 凝 縮 さ せ 蒸 留 亜 鉛 (PW
Zinc: Prime Western Zinc の 略 )と す る 。 電 炉 下 部 か ら は , 未 反 応 コ ー ク ス と
Zn が 揮 発 し た 焼 結 鉱 の 揮 発 残 滓 の 混 合 物 (Residue)が 排 出 さ れ る 。残 滓 処 理 工
程 (Residue treatment)に お い て , こ の 混 合 物 を 篩 別 , 風 篩 , 磁 選 処 理 し , 未
16
反応コークスと残留亜鉛を分離,回収する。
蒸 留 亜 鉛 は 蒸 留 型 亜 鉛 (Zn:98.5%)と し て 鋳 造 す る も の も あ る が , 大 部 分 は ,
「 精 留 工 程 」 (Refining) に 送 り , さ ら に Pb , Fe , Cd を 除 去 し , 最 純 亜 鉛
(Zn:99.99%)(SHG Zinc: Special High Grade Zinc の 略 )と す る 。 最 純 亜 鉛 は ,
最 純 型 亜 鉛 と す る 他 , 合 金 元 素 を 添 加 し , 調 合 亜 鉛 (Tailored zinc), ダ イ カ
ス ト 合 金 等 の 亜 鉛 基 合 金 (Zinc based alloy)の 製 造 に あ て て い る 。
Zinc concentration
(1)
Secondary materials
(2)
Hydroxide zinc
Roasting
Off gas
Off gas treatment
Calcine
Breeze coke
Sulfuric acid
Sintering
Off gas
Off gas treatment
Off gas
(to air)
Off gas
(to air)
Pea coke
Sinter
Dust
Waste water
Cadmium recovering
Waste water treatment
Distillation
Cadmium metal
(3)
PW zinc
Residue
Lead slime
Residue
Discard water
(to Sintering)
(to river)
Return pea coke
Zinc rich residue
(to Distillation)
(to Sintering)
Residue treatment
(4)
Refining
Zinc lean Slag
SHG zinc
Tailored zinc
Figure 3
Zinc based alloy
Reduced iron
Crude lead
Flowsheet of zinc smelting process in N smelter
17
2.2.2. 焼 結 工 程 の 概 要
Fig.4 に 焼 結 工 程 (Sintering process)の フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。焼 結 工 程 は ,
原 料 の 塊 状 化 と 原 料 中 に 含 ま れ て い る Pb,Cd,S を 除 去 す る た め の 工 程 で あ る 。
焙 焼 鉱 (Calcine)は , 粉 コ ー ク ス (Breeze coke), 工 程 繰 返 物 ( 含 Zn 残 滓 , 集
塵 ダ ス ト 等 )(Return furnace residue),自 身 繰 返 物( 焼 結 鉱 の 粉 状 物 )(Return
fine sinter) 等 と 調 合 し , パ グ ミ ル (Pug mill) と ド ラ ム 式 ペ レ タ イ ザ ー
(Pelletizer)を 用 い て , 調 湿 , 造 粒 す る 。 造 粒 後 , ド ワ イ ト ロ イ ド 式 焼 結 機
(Sintering machine)で 焼 結 し ,焼 結 鉱 (Sinter)を 製 造 す る 。焼 結 鉱 は ,破 砕 ,
篩 別 に よ る 粒 度 調 整 後 , 電 炉 工 程 (Distillation) に 送 る 。 自 身 繰 返 物 (Fine
sinter)と は , 焼 結 鉱 の 粒 度 調 整 時 に 発 生 す る 焼 結 鉱 の 粉 状 物 で あ る 。 焼 結 排
ガ ス は , 電 気 集 塵 機 (Electrostatic precipitator)で Pb, Cd 等 の 揮 発 成 分 を
主 体 と す る 焼 結 ダ ス ト (Dust) を 捕 集 し 分 離 す る 。 次 に 中 和 塔 (Absorbing
tower)を 通 し ,亜 硫 酸 ガ ス を 吸 収 除 去 し ,湿 式 電 気 集 塵 機 (Mist Electrostatic
precipitator)を 通 し て 大 気 放 出 す る 。 焼 結 ダ ス ト は , ダ ス ト 処 理 工 程 で 処 理
し , Pb は 硫 酸 鉛 (Lead slime)と し て , Cd は Cd 地 金 (Cadmium metal)と し て 回
収 す る 。焙 焼 鉱 中 の Cd は ,焼 結 工 程 に お い て ,80%が 揮 発 し 焼 結 ダ ス ト に 移 行
す る が , 20% は 焼 結 鉱 に 残 留 す る 。 焼 結 鉱 中 の Cd は , 電 炉 工 程 に お い て , 揮
発 し , 一 部 , 蒸 留 亜 鉛 に 入 る 。 こ の Cd は , 蒸 留 亜 鉛 の 鋳 造 工 程 で は 除 去 で き
な い の で ,亜 鉛 製 品 の 品 質 維 持 の 面 か ら ,焼 結 鉱 の Cd 濃 度 は 0.10% 以 下 に 管
理 す る 必 要 が あ る 。 そ の た め に も , 焼 結 工 程 に お い て , 極 力 Cd を 揮 発 除 去 す
る と と も に , 揮 発 し た Cd を で き る だ け 工 程 内 で 滞 留 , 循 環 さ せ ず , 回 収 す る
こ と が Cd を 含 む 廃 棄 物 , 原 料 処 理 に 有 効 で あ る と 考 え る 。
18
Secondary materials
Calcine
Breeze coke
Return furnace residue
Return fine sinter
Mixing
Pug mill
Pelletizer
Sintering machine
Sinter
Off gas
Crusher
Electrostatic precipitator
Dust
Screen
Off gas
☆1
Absorbing tower
Crusher
Sized sinter
Fine sinter
(to Distillation)
(to Mixing)
Off gas
Waste water
Mist ESP
☆2
Stack
Exhaust
☆1
☆2
Dust
Waste water
Cadmium recovering
Waste water treatment
Cadmium metal
Lead slime
Residue
Discard water
(to Mixing)
Exhaust
Figure 4
Flowsheet of sintering process in N smelter
19
2.3. 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る C d 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発
2.3.1.
Cd の 揮 発 反 応 の 考 え 方
焼 結 工 程 に お け る Cd の 揮 発 は ,次 の 反 応 に よ る 。下 記 の 反 応 式 で( s)は 固
体 を ,( g) は ガ ス 体 を 示 す 。
① 焼 結 機 で Cd は 還 元 揮 発 す る 。
水 酸 化 亜 鉛 中 の Cd は 焙 焼 工 程 で 酸 化 さ れ ,亜 鉛 精 鉱 中 の SiO 2 と 結 合 し 焙
焼 鉱 中 で は CdO・SiO 2 の 形 態 で 存 在 し て い る と 考 え る 。CdO・SiO 2 が 分 解 し ,
CdO が CO で 還 元 さ れ る 。
CdO・ SiO 2 ( s) → CdO( s) + SiO 2 ( s)
(1)
CdO( s) + CO( g) → Cd( g) + CO 2 ( g)
(2)
② 揮 発 後 , 排 ガ ス 中 の 酸 素 で Cd は 酸 化 す る 。
Cd( g) + (1/2)O 2 ( g) → CdO( s)
(3)
① の 反 応 は , (1)式 と (2)式 を 合 成 す る と (4)式 と な る 。
CdO・ SiO 2 ( s) + CO( g) → Cd( g) + CO 2 ( g) + SiO 2 ( s)
(4)
Cd を 揮 発 さ せ る た め に (4)式 の 反 応 を 進 め る に は ,Cd の 平 衡 蒸 気 圧 は 高 い こ
と か ら , 焼 結 鉱 の SiO 2 (s)の 活 量 を 下 げ る こ と , CO 2 の 分 圧 を 下 げ る こ と が 考
え ら れ る 。焼 結 工 程 の 操 業 で は CO 2 の 分 圧 の 調 整 は 困 難 で あ る こ と か ら ,焼 結
鉱 の SiO 2 の 活 量 を 下 げ る こ と が 有 効 で あ る と 考 え た 。
こ の 手 段 と し て ,焼 結 の 原 料 に 塩 基 性 酸 化 物 を 添 加 し 安 定 な 化 合 物 を 形 成 さ
せ SiO 2 の 活 量 を 下 げ CdO を 分 離 す る こ と に 着 目 し た 。 塩 基 性 酸 化 物 と し て は
Na 2 O,K 2 O,BaO,SrO,CaO な ど が あ る が 安 価 な CaO を 使 用 す る こ と に し た 。CaO
を 添 加 し ,次 式 に よ り (1)式 の 反 応 で 生 じ る SiO 2 を CaO と 結 合 さ せ て 安 定 な 化
合物を生成させる。
2 CaO+ SiO 2 → 2 CaO・ SiO 2
(5)
(4)式 と (5)式 を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り , (6)式 の 反 応 と な る 。
CdO・ SiO 2 ( s) + 2 CaO(s)+ CO( g)
→
Cd( g) + 2 CaO・ SiO 2 ( s) + CO 2 ( g)
(6)
次 の (7)式 に 示 す 焼 結 鉱 の 塩 基 度( CaO/SiO 2 )を 高 め る よ う に 焼 結 鉱 へ の CaO
を 添 加 す る こ と で , Cd の 揮 発 率 を 高 め ら れ る こ と が 期 待 で き る 。
焼結鉱の塩基度=
焼結鉱のCaO濃度(mass %)
焼結鉱のSiO 2 濃度(mass %)
20
( 7)
2.3.2. 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 変 化 さ せ る 実 験 計 画
焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 0.35~ 0.45 か ら 0.80~ 1.00 ま で 段 階 を 踏 ん で 変 化 さ せ ,
焙 焼 鉱 (Calcine),焼 結 鉱 (Sinter),焼 結 ダ ス ト (Dust)中 の Cd 濃 度 の 変 化 を 調
べ た 。 Table 2 に 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 変 化 さ せ た 際 の 実 験 条 件 を 示 す 。 焙 焼 鉱 ,
焼 結 鉱 ,焼 結 ダ ス ト 中 の Cd 濃 度 と そ れ ら の 量 の 動 き か ら ,Cd の 除 去 に 対 す る
焼 結 鉱 の 塩 基 度 の 影 響 を 調 査 し た 。Run 1 は 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 0.35~ 0.45,Run
2 は 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 0.50~ 0.70, Run 3 は 0.80~ 1.00 と し た 。
Table 2
Design of experiment that changes degree of basicity of sinter
Composition in sinter
Run No.
SiO 2
CaO
basicity
(mass%)
(mass%)
Run1
7.0~8.0
3.0~3.5
0.35~0.45
Run2
6.0~7.0
3.5~4.5
0.50~0.70
Run3
5.0~6.0
4.0~5.0
0.80~1.00
2.3.3. 実 験 結 果
(1) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と 焙 焼 鉱 と 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 の 比
焼 結 鉱 の 塩 基 度 に 対 す る 焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 の 比 の 関 係
を Fig.5 に 示 す 。焼 結 鉱 中 の Cd 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Cd 濃 度 の 比 は ,焼 結 鉱 の 塩
基 度 が 0.35~ 0.45 の 時 に 0.28~ 0.33, 焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.50~ 0.70 の 時 に
0.15~ 0.28,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.80~ 1.00 の 時 に 0.11~ 0.21 と 減 少 し て い る 。
こ れ は , 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 上 昇 さ せ る こ と に よ り 焼 結 鉱 中 の SiO 2 の 活 量 が 低
下 し , そ の 結 果 , 焼 結 鉱 中 の Cd が 揮 発 し や す く な っ た た め と 考 え る 。
ま た ,Pb は PbO と し て SiO 2 と 結 合 し や す い が ,Cd 同 様 に CaO を 添 加 し 焼 結
鉱 の 塩 基 度 を 高 め る こ と で ( 8) 式 の 反 応 が 期 待 で き る 。
PbO・ SiO 2 ( s) + 2 CaO(s)+ CO( g)
→
Pb( g) + 2 CaO・ SiO 2 ( s) + CO 2 ( g)
(8)
焼 結 鉱 の 塩 基 度 に 対 す る 焼 結 鉱 中 の Pb 濃 度 と 焙 焼 鉱 中 の Pb 濃 度 の 比 の 関 係
を Fig.6 に 示 す 。 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 上 昇 さ せ る と 焼 結 鉱 中 の Pb 濃 度 と 焙 焼 鉱
中 の Pb 濃 度 の 比 が 減 少 し て い る 。Cd と 同 じ よ う に ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 上 昇 さ
せ る こ と に よ り 焼 結 鉱 中 の SiO 2 の 活 量 が 低 下 し ,そ の 結 果 ,焼 結 鉱 中 の Pb が
揮発しやすくなったためと考える。
21
Cd content in sinter / Cd content in calcine
0.4
0.3
0.2
0.1
Run 1
Run 3
Run 2
0.0
0.2
Figure 5
0.4
0.6
Basicity of sinter
0.8
1.0
Relationship between basicity of sinter and Cd content in sinter / Cd
content in calcine
Pb content in sinter / Pb content in calcine
1.0
0.8
0.6
0.4
Run 1
Run 2
0.4
0.6
Basicity of sinter
Run 3
0.2
0.2
Figure 6
0.8
1.0
Relationship between basicity of sinter and Pb content in sinter / Pb
content in calcine
22
(2) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率
焼 結 鉱 の 塩 基 度 に 対 す る Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率 を 検 討 し た 。Cd の 焼 結 鉱 へ
の 残 留 率 は Rcd と し て 次 式 で 定 義 し た 。
R c d = S c d /( S c d + D c d ) ×100
R c d : Cd の 焼 結 鉱 へ の 残 留 率 ( % )
S c d : 焼 結 鉱 中 の Cd 量 ( t/月 )
D c d : ダ ス ト 中 の Cd 量 ( t /月 )
Fig.7 に R c d と 焼 結 鉱 の 塩 基 度 の 関 係 を 示 す 。 Fig.7 よ り , 焼 結 鉱 の 塩 基 度
が 0.5 の 時 ,R c d は 30%程 度 で あ る が ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 0.9 の 時 ,R c d は 20%
程 度 と な り ,焼 結 鉱 の 塩 基 度 が 高 く な る ほ ど R c d は 減 少 し て い る 。Fig.7 か ら
も , 焼 結 鉱 の 塩 基 度 を 高 く す る こ と で , 焼 結 鉱 の Cd が 揮 発 し や す く な っ て い
ることがわかる。
40
35
(%)
30
Rcd
25
20
15
10
0.2
0.4
0.6
Basicity of sinter
Figure 7
0.8
(CaO/SiO 2)
Relationship between R Cd and the bacisity of sinter
23
1.0
2.4. 電 気 集 塵 機 で Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 技 術 開 発
2.4.1. 電 気 集 塵 機 の Cd を 含 有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め る 考 え 方
Fig.8 に N 製 錬 所 の Cd バ ラ ン ス を 示 す 。焼 結 工 程 へ 焙 焼 鉱 に 含 ま れ た Cd( ① )
が 38t/月 装 入 さ れ ,焼 結 機 ,排 ガ ス 処 理 ,Cd 回 収 工 程 か ら 繰 返 さ れ る Cd( ② )
の 76t/月 と 混 合 さ れ 焼 結 機 に 装 入 さ れ る 。 焼 結 機 で 焼 結 さ れ る こ と に よ り ,
焼 結 機 に 装 入 さ れ た Cd の 114t/月 の 内 , 60%が 揮 発 し , 排 ガ ス ( ⑤ ) に 68t/
月 が 移 行 し , 残 り 40%の 内 , 11 t/月 が 焼 結 鉱 ( ④ ) に , 35 t/月 が 粉 状 の シ ン
タ に 含 ま れ 焼 結 機 へ 繰 り 返 さ れ る 。排 ガ ス に 含 ま れ た Cd の 55%が ダ ス ト( ⑧ )
と し て 38t/月 が 回 収 さ れ る 。 ダ ス ト は Cd 回 収 工 程 で 処 理 さ れ , Cd 地 金 ( ⑬ )
と し て 32t/月 が 回 収 さ れ る 。 し か し , 焼 結 機 , 排 ガ ス 処 理 な ど か ら 焼 結 機 に
繰 り 返 さ れ る Cd 量 (② )が 76t/月 も あ り ,繰 返 率( 繰 返 量( ② )/装 入 量( ① ))
が 200% も あ る 。焼 結 機 で は Cd の 68t /月 が 揮 発 し 排 ガ ス 中( ⑤ )に 移 行 し て
い る に も 係 ら ず ,排 ガ ス 処 理 設 備 で ダ ス ト と し て 回 収 さ れ ず ,焼 結 工 程 へ の 再
び 繰 返 さ れ る 量( ⑨ )が 30t/月 も あ り ,揮 発 し た Cd の 44%(⑨ /⑤ )が 繰 り 返 さ
れ て い る 。 こ の 排 ガ ス 処 理 か ら 繰 り 返 さ れ て い る Cd 量 を 削 減 す れ ば , 焼 結 工
程( ③ )の Cd 装 入 量 が 減 り ,結 果 と し て 焼 結 鉱( ④ )の Cd 量 が 減 少 し ,蒸 留
亜 鉛( ⑦ )の Cd 量 が 減 り ,蒸 留 亜 鉛 の Cd 濃 度 が 下 が る 。よ っ て ,排 ガ ス 中 の
Cd を ダ ス ト と し て 回 収 で き る 量( ⑧ )を 増 す こ と で ,蒸 留 亜 鉛 の Cd 濃 度 を 高
め ず , か つ Cd 地 金 の 回 収 量 を 増 す こ と が 期 待 で き る と 考 え た 。
焼 結 工 程 の 排 ガ ス 処 理 設 備 か ら の Cd 繰 返 量 が 多 い 原 因 は , 排 ガ ス 処 理 設 備
の 電 気 集 塵 方 式 に あ る と 考 え た 。Fig.9 に ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 と 電 気 集
塵 機 の 集 塵 効 率 等 ,集 塵 機 の 特 性 を 示 す 。9 ) Fig.9 よ り ,ダ ス ト の 見 掛 け 電 気
抵 抗 率 が 10 1 1 Ω・cm を 超 え る と 電 気 集 塵 機 で 逆 電 離 現 象 が 発 生 し ,そ の 結 果 ,
荷 電 が 不 安 定 と な り 集 塵 効 率 が 低 下 す る 。逆 電 離 現 象 と は ,集 塵 極 に 付 着 し た
ダストの電気抵抗率が高い場合にダスト層を流れる電流が増加すると層内に
著 し い 電 界 を 生 じ ダ ス ト 層 内 で 絶 縁 破 壊 を 引 き 起 こ す 現 象 を い う 。こ の 現 象 が
生 ず る と (ア)ダ ス ト の 負 の 電 荷 の 中 和 ,(イ)電 流 の 異 常 増 加 が 起 こ り ,集 塵 効 率
が低下する。
24
Calcine
① 38
Re turn
② 76
(un it:ton s/month)
Sintering
③ 114
Sinter
Off gas
④ 11
Return
⑤ 68
Distillation
⑥ 35
Du st
⑦ 11
Return
⑧ 38
Zn -Cd alloy
⑩ 4
Re turn
⑨ 30
Cd recove ring
⑪ 7
⑫ 38
Cd metal
Le ad slime
⑬ 32
Figure 8
Return
⑭ 2
⑮ 4
Material balance of Cd
集塵効率
電流・電圧
集塵効率
電圧
電流
ダストの見掛け電気抵抗率 (Ω・cm)
ジャンピング現象
による機能低下
Figure
9
Apparent
正常領域
荷電不安
定効率低
下
electric
resistivity
electrostatic precipitator
25
of
dust
and
逆電離現
象による
機能低下
characteristic
of
Table 3 に 亜 鉛 製 錬 の 焼 結 ダ ス ト の 化 学 成 分 ,平 均 粒 子 径 ,見 掛 比 重 を 示 す 。
焼 結 ダ ス ト は Zn,Pb,Cd の 酸 化 物 を 主 体 に 形 成 さ れ て い る 。平 均 粒 子 径 は 0.8
μ m , 見 掛 け 比 重 は 0.3 で あ る 。 Fig.10 に 焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を
示す。見掛け電気抵抗率は最大値より低い低温側ではダスト表面への水分や
SO 3 な ど の 付 着 に よ る 表 面 伝 導 が 主 で あ り , 高 温 側 で は ダ ス ト の 体 積 伝 導 が 主
と な り , 温 度 上 昇 に 従 っ て ダ ス ト 層 の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 減 少 す る 。 Fig.10
においてもガス中の水分を高めるとダストの見掛け電気抵抗率が低下してい
る こ と が わ か る 。一 般 的 な ダ ス ト は 423~ 473K 前 後 で 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 は 最 大
値 を 示 す が ,焼 結 ダ ス ト の 場 合 ,370~ 420K で 最 大 値 を 示 し ,一 般 的 な ダ ス ト
よ り 最 大 値 を 示 す 温 度 が 約 50K 低 い 。市 販 さ れ て い る 粉 状 の 試 薬 を 用 い て ,焼
結 ダ ス ト の 主 と な る 成 分 で あ る 酸 化 亜 鉛 ,酸 化 鉛 ,酸 化 カ ド ミ ウ ム の 見 掛 け 電
気 抵 抗 率 を 測 定 し た 。Fig.11 に 酸 化 亜 鉛 ,Fig.12 に 酸 化 鉛 ,Fig.13 に 酸 化 カ
ド ミ ウ ム の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 示 す 。Fig.11~ 13 と Fig.10 を 比 較 す る と ,焼
結 ダ ス ト は 酸 化 鉛 と 同 じ 傾 向 を 示 し て お り ,酸 化 鉛 が ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗
率 を 高 め て い る と 考 え る 。実 際 の 焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 酸 化 鉛 よ り
1~ 2 桁 高 い 理 由 は , 排 ガ ス 中 の 金 属 蒸 気 が 温 度 低 下 と と も に 急 激 に 凝 縮 し て
微 粒 子 と な っ て い る こ と が 影 響 し て い る と 考 え る 。N 製 錬 所 の 排 ガ ス 処 理 設 備
の 入 口 に お け る 通 常 操 業 の 排 ガ ス 温 度 は 453K, 水 分 は 5~ 10vol%で あ る の で ,
ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 3 Ω ・ cm で あ る 。 1965 年 ご ろ の 電 気 集 塵 技 術
で は 電 気 集 塵 機 で 集 塵 が 可 能 な ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 は 10 1 1 Ω ・ cm 以 下
で あ っ た の で , Fig.10 か ら わ か る よ う に , 焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を
10 1 1 Ω・cm 以 下 と す る た め ,ガ ス 温 度 333K,水 分 20vol%と す る 必 要 が あ っ た 。
そ こ で , 排 ガ ス を ガ ス 温 度 333K, 水 分 20vol%と す る た め , 電 気 集 塵 機 の 前 に
調 湿 塔 を 設 置 し ,水 噴 霧 に よ り 排 ガ ス を 冷 却 し ,ほ ぼ 飽 和 水 蒸 気 圧 と な る ま で
調 湿 後 ,電 気 集 塵 機 へ 導 入 し ダ ス ト を 集 塵 し て い た 。調 湿 と は ,ガ ス 中 の 水 分
を飽和水蒸気圧程度まで高めることと定義する。
Fig.14 に 従 来 ( 改 善 前 ) の 電 気 集 塵 方 式 ( 以 下 , 湿 式 型 電 気 集 塵 機 と 記 載
す る 。)の 概 略 図 を 示 す 。Fig.14 の 調 湿 塔 (Spraying tower) は 373K 以 下 で 水
を 多 量 に 噴 霧 し ガ ス 中 の 水 分 を 飽 和 状 態 と す る た め , 排 ガ ス 中 の Cd を 含 む ダ ス
ト の 40% が 蒸 発 し な か っ た 水( Drain)に 混 入 し て い た 。こ の ダ ス ト を 含 む 水
は 焼 結 工 程 で 処 理 す る た め , 焼 結 機 へ の Cd 繰 返 量 を 増 大 さ せ る 大 き な 要 因 で
あった。
上 記 の 問 題 を 解 決 す る た め , 排 ガ ス を 調 湿 す る 時 に 水 ( Drain) を 発 生 し な
い 電 気 集 塵 方 式 ,す な わ ち ,ガ ス 中 の 水 分 を 飽 和 状 態 と せ ず ,極 力 ,高 温 で 集
26
塵 す る 方 式( 以 下 ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 と 記 載 す る 。)に 変 更 し ,Cd 繰 返 量 を 削
減 す る こ と を 考 え た 。乾 式 型 電 気 集 塵 機 で ダ ス ト の 集 塵 効 率 を 高 く 保 つ た め に ,
次の項目について,これらを調べる実験を行なった。
① 乾 式 型 電 気 集 塵 機 に お け る 排 ガ ス は , 温 度 450K, 水 分 10% 程 度 と な り ,
Fig.10 で ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 3 ~ 10 1 4 Ω ・ cm と な る 。 電 気 集 塵 機
の 極 板 に 付 着 す る ダ ス ト 層 を 薄 く し ,逆 電 離 現 象 の 発 生 を 抑 え る こ と が 可 能 な
乾式型電気集塵機に変更する。
② ダ ス ト の 集 塵 効 率 を 高 め る た め に は ,Fig.10 よ り 排 ガ ス の 水 分 を 高 め る と
ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 下 が る こ と か ら ,適 度 な 排 ガ ス の 水 分 が 必 要 で あ
る が ,過 剰 な 水 分 は 水 を 発 生 す る た め ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 導 入 し ,さ ら に 適
度 な 水 分 と な る よ う に 加 湿 し ,ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 下 げ る 。加 湿 と は ,
ガ ス 中 に 水 を 噴 霧 し ,飽 和 水 蒸 気 以 下 で ガ ス 中 の 水 分 を 少 し 高 め る こ と と 定 義
する。
③ 高温でダストの粒子径が細かくなり,飛散しやすくなることから,粒子径
を 大 き く し 飛 散 を 抑 え る 。こ の た め ,排 ガ ス を 加 湿 し ダ ス ト の 粒 子 を 凝 集 さ せ
見掛けの粒子径を大きくする。
Table 3
Properties of Flue Dust
Chemical composition
Moisture
(%)
(%)
Zn
Pb
Cd
S
0.2
10
38
15
5
27
Average Apparent
particle
specific
size (μm) gravity
0.8
0.3
17
Apparent Electrical Resistivity
(log/Ω・cm)
Numbers in Fig. present moisture in gas
(vol%)
0
16
15
5
14
10
13
15
12
11
20
10
300
350
400
450
500
550
Gas Temperature (K)
Figure 10
Apparent electrical resistivity of flue dust (ρ- T characteristic)
15
Apparent Electrical Resistivity
(log/Ω・cm)
Numbers in Fig. present moisture in gas
14
13
(vol%)
12
0
11
10
9
6
8
9
7
300
350
400
450
500
Gas Temperature (K)
Figure 11
Apparent electrical resistivity of ZnO
28
550
Apparent Electrical Resistivity
(log/Ω・cm)
15
14
Numbers in Fig. present moisture in gas
(vol%)
0
13
12
11
6
10
9
9
8
7
300
350
400
450
500
550
Gas Temperature (K)
Figure 12
Apparent electrical resistivity of PbO
15
Apparent Electrical Resistivity
(log/Ω・cm)
Numbers in Fig. present moisture in gas
14
13
12
11
(vol%)
0
6
9
10
9
8
7
300
350
400
450
500
Gas Temperature (K)
Figure 13
Apparent electrical resistivity of CdO
29
550
Figure 14
Schematic drawing of conventionally-used ESP system
30
2.4.2. 実 験 計 画
(1)電気集塵方式の変更
ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 が 10 1 3 ~ 10 1 4 Ω ・ cm と な る こ と に 対 応 す る た め ,
乾式型電気集塵機として石炭火力発電の高電気抵抗率ダスト用に開発された
移動電極形電気集塵装置
9-11)
を使用することにした。
Fig.15 に 乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 概 略 図 を 示 す 。 Fig.16 に 入 口 側 の 固 定 電 極 形
と 出 口 側 の 移 動 電 極 形 の 乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 構 造 を 示 す 。9 )入 口 側 は 従 来 と 同
じ 固 定 電 極 形 ,出 口 側 は 移 動 電 極 形 と な っ て い る 。移 動 電 極 形 電 気 集 塵 装 置 は
集 塵 極 に ダ ス ト を 付 着 さ せ た ま ま 集 塵 極 を 垂 直 方 向 に 移 動 し ,集 塵 極 が 電 気 集
塵 機 下 部 へ 移 動 し た 時 に ,ブ ラ シ に よ り 掻 き 落 し 集 塵 極 表 面 を き れ い に す る こ
と で 逆 電 離 を 抑 え る 。従 来 は 湿 式 型 電 気 集 塵 機 を 2 基 運 転 し て い た が ,そ の 内 ,
1 基を乾式型電気集塵機に変更した。処理ガス量は乾式型電気集塵機側
60,000Nm 3 /h, 湿 式 型 電 気 集 塵 機 側 40,000Nm 3 /h で あ る 。 Fig.17 に 乾 式 型 電 気
集塵機を設置した焼結工程の排ガス処理フローシートを示す。
(2)ダストの見掛け電気抵抗率を下げる実験
焼 結 機 上 を 物 質( 調 合 物 )が 進 行 す る に つ れ て 乾 燥 か ら 焼 成( 焼 結 )に 反 応
が 進 む 。焼 結 機 前 半 は 乾 燥 ,後 半 は 焼 成 が 主 と な る の で ,焼 結 機 の 進 行 方 向 で
ダ ス ト の 生 成 機 構 ,生 成 速 度 が 異 な り ,ダ ス ト 性 状 に 差 が あ る と 思 わ れ た 。そ
こ で ,焼 結 機 の A:前 側 ,B:中 間 ,C:後 側 で ダ ス ト を 採 取 し ダ ス ト の 電 気 抵 抗
率 を 比 較 し た 。前 述 の Fig.17 に サ ン プ リ ン グ 場 所( A:前 側 ,B:中 間 ,C:後
側)を示す。さらに,排ガス中の水分のダスト性状への影響を確認するため,
排 ガ ス に 加 湿 す る 実 験 を 行 な っ た 。 Fig.18 に 排 ガ ス の 加 湿 実 験 装 置 を 示 す 。
水 を ポ ン プ で 加 圧 し 約 300μ m の 噴 霧 粒 子 径 で 排 ガ ス に 吹 き 込 ん だ 。
(3)ダストの飛散を抑える実験
電気集塵機の集塵率に影響する因子で排ガス温度の他に排ガスの相対湿度
がある。排ガスの相対湿度を高めるとダストの粒子同士が吸着しやすくなり,
ダストの粒子が凝集しダストの見掛けの粒子径が大きくなるのでダストの再
飛 散( 電 気 集 塵 機 で 極 板 に 付 着 し た ダ ス ト を 回 収 す る 際 に 再 び ガ ス 中 に 飛 散 す
る 現 象 )を 抑 え る こ と が で き る 。排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 調 整 し ,電 気 集 塵 機 の 出
口ダスト濃度の変化を調べた。なお,排ガスの相対湿度は次式で定義される。
排ガスの相対湿度 (%)=
排ガスの水蒸気圧 ( mmHg )
 100
排ガスの飽和水蒸気圧 (mmHg )
31
Figure 15
Schematic drawing of dry-type ESP system
(b) 移動電極形EP
(a) 固定電極形EP
Figure 16
Structural comparisons of Electrostatic precipitator of fixed
electrode and moving electrode
32
Figure 17
Flow sheet of improved off gas treatment process
Gas
Spray nozzle
Water
Pump
Water tank
Figure 18
Experimental apparatus of adding humidity in off gas.
33
2,4,3. 実 験 結 果
Table 4 に 焼 結 機 の A,B,C の サ ン プ リ ン グ 箇 所 に お け る ダ ス ト の 分 析 値 を 示
す 。 Table 4 よ り , A は B,C よ り S 濃 度 が や や 高 め で あ る が , Zn,Pb,Cd 濃 度 に
あ ま り 差 は な い こ と か ら , 組 成 に よ る 差 は な い こ と が わ か る 。 次 に , Fig.19
に 焼 結 機 の A,B,C の サ ン プ リ ン グ 箇 所 に お け る ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 の
比 較 を 示 す 。 Fig.19 よ り , ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 は A が 最 も 低 い こ と が
わ か る 。こ れ は ,A は 排 ガ ス 温 度 が 低 く ,水 分 が 高 い こ と か ら 相 対 湿 度 も 大 き
い の で , Zn, Cd 等 の 揮 発 し た 金 属 蒸 気 が 急 激 に 凝 縮 す る こ と と , 生 成 し た ダ
ス ト が 凝 集 し た こ と に よ り ダ ス ト の 比 表 面 積 が 小 さ く な っ た た め ,そ の 結 果 と
して電気抵抗率が小さくなったと考える。
Fig.20 に 加 湿 に よ る ダ ス ト 電 気 抵 抗 率 の 変 化 を 示 す 。 加 湿 に よ り , ダ ス ト
の 電 気 抵 抗 率 が 約 1 桁 減 少 す る こ と が わ か る 。 Fig.16 の サ ン プ リ ン グ 箇 所 C
で 加 湿 す る こ と に よ り ,サ ン プ リ ン グ 箇 所 A と ほ ぼ 同 じ ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵
抗率とすることができた。
ま た , Fig.21 に 光 学 顕 微 鏡 で 観 察 し た 加 湿 前 と 加 湿 後 の ダ ス ト を 示 す 。 ダ
ス ト の 粒 子 径 は 加 湿 前 が 0.1mm 以 下 で あ る が , 加 湿 後 は 0.2~ 0.5mm と な っ て
いる。これは,加湿によりダスト粒子が凝集しためであると考える。
Fig.22 に 排 ガ ス の 相 対 湿 度 と コ ッ ト レ ル 出 口 ダ ス ト 濃 度 の 関 係 を 示 す 。 排
ガ ス の 相 対 湿 度 が 0.4 の 時 , 出 口 ダ ス ト 濃 度 は 0.5~ 1.5 で あ っ た が , 排 ガ ス
の 相 対 湿 度 が 0.5 程 度 か ら 出 口 ダ ス ト 濃 度 が 急 激 に 減 少 す る 。そ し て ,相 対 湿
度 が 1.0 か ら 1.5 の 範 囲 で は 出 口 ダ ス ト 濃 度 が 0.05~ 0.1g/Nm 3 と な っ た 。
以 上 の こ と か ら ,排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 上 昇 さ せ る と ダ ス ト の 電 気 抵 抗 率 の 低
下 と ダ ス ト の 凝 集 性 が 向 上 し ,そ の 結 果 ,ダ ス ト の 集 塵 率 が 向 上 す る こ と が 明
らかになった。
Table4 Chemical composition of flue Dust in A,B,C
Position
Chemical composition
Moisture
(%)
(%)
Zn
Pb
Cd
S
A
1.5
12.4
34.3
15.1
6.2
B
0.2
13.2
38.5
15.0
3.5
C
0.2
15.1
38.9
13.1
3.4
34
Apparent Electrical Resistivity
(log/Ω・cm)
15
Moisture in gas = 9vol%
14
13
12
A
B
11
C
10
300
350
400
450
500
550
Gas Temperature (K)
Figure 19
Comparison of apparent electrical resistivity of dust sampled at
various positions in sintering machine.
Apparent Electrical Resistivity
(log/Ω・cm)
15
Moisture in gas = 9 vol%
14
13
12
Conventional Operation
11
Adding Humidity
10
300
350
400
450
500
550
Gas Temperature (K)
Figure 20
Change in apparent electrical resistivity of dust by adding humidity
in off gas.
35
光学顕微鏡
光学顕微鏡写真
a) Conventional operation
Figure 21
b) Adding humidity
Particle size of dust by adding humidity in off gas.
2.0
1.8
Dust Content
(g/Nm3)
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
Relative Humidity
Figure 22
1.0
1.2
1.4
1.6
(%)
Relationship between relative humidity in off gas and ESP outlet
dust content
36
2.4.4. 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 時 の Cd バ ラ ン ス
Fig.23 に N 製 錬 所 の 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 使 用 し た 場 合 の Cd バ ラ ン ス を 示 す 。
但 し , 焼 結 機 か ら 発 生 す る 排 ガ ス は , ガ ス 量 の 60% が 乾 式 型 電 気 集 塵 機 ,
残 り 40% は 湿 式 型 電 気 集 塵 機 で 処 理 し た 。
焼 結 工 程 へ 焙 焼 鉱 に 含 ま れ た Cd 量 ( ① ) が Fig.8 の 湿 式 型 電 気 集 塵 機 を 使
用 し た 場 合 と 同 様 , 38t/月 装 入 さ れ る 。 Fig.8 と Fig.23 を 比 較 し 以 下 の こ と
がわかった。
(a) 湿 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 で は 排 ガ ス 処 理 設 備 で ダ ス ト と し て 回 収 さ れ ず ,
揮 発 し た Cd の 44%(⑨ /⑤ )が 焼 結 機 に 繰 り 返 さ れ て い た が ,乾 式 型 電 気 集 塵 機
を 使 用 し た 場 合 ,揮 発 し た Cd の 20%(⑨ /⑤ )に 減 少 し た 。そ の 結 果 ,排 ガ ス 処
理 設 備 か ら 焼 結 工 程 へ の 再 び 繰 返 さ れ る 量( ⑨ )が 30t/月 か ら 10 t/月 に 減 少
できることがわかった。
(b) 焼 結 機 , 排 ガ ス 処 理 な ど か ら 焼 結 機 に 繰 り 返 さ れ る Cd 量 (② )は 湿 式 型 電
気 集 塵 機 使 用 時 の 76t/月 か ら , 乾 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 は 45t/月 に 減 少 し ,
繰 返 率 ( 繰 返 量 ( ② ) /装 入 量 ( ① )) が 200% か ら 120% に 減 少 で き る こ と が
わかった。
(c) 焼 結 工 程 の Cd 装 入 量 ( ③ ) が 湿 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 の 114t/月 か ら 乾
式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 は 83t/月 減 り ,焼 結 鉱( ④ )の Cd 量 が 11t/月 か ら 8t/
月 減 少 し て い る こ と が わ か っ た 。 そ の 結 果 , 蒸 留 亜 鉛 ( ⑦ ) の Cd 量 が 減 り ,
蒸 留 亜 鉛 の Cd 濃 度 を 下 げ ら れ る こ と が わ か っ た 。
(d) 焼 結 工 程 の Cd 負 荷 ( ③ ) を 乾 式 型 電 気 集 塵 機 使 用 時 も 湿 式 型 電 気 集 塵 機
使 用 時 の 114t/月 と す る と , 焙 焼 鉱 に 含 ま れ Cd 量 ( ① ) を 38t/月 か ら 52 t/
月 ( 38 t/月 ×114t/月 ÷83t/月 ) に 増 す こ と が で き , Cd 地 金 の 回 収 量 を 32t/
月 か ら 44 t/月 ( 32 t/月 ×114t/月 ÷83t/月 ) に 増 す こ と が で き る 。 こ れ に よ
り , Cd を 含 む リ サ イ ク ル 原 料 の 処 理 量 の 増 が 期 待 で き る 。
37
Calcine
① 38
Return
② 45
(u nit:ton s/ mon th)
Sintering
③ 83
Sin ter
Off gas
④ 8
⑤ 50
Distillation
Dust
⑦ 8
Zn -Cd alloy
⑩ 3
⑧ 40
Return
⑪ 5
Figure 23
Re turn
⑨ 10
Cd rec overing
⑫ 40
Cd metal
⑬ 33
Re turn
⑥ 25
Lead slime
⑭ 2
Re turn
⑮ 5
Material balance of Cd after improvement of off gas treatment
equipment
38
2.5. 結 言
Zn を 高 温 で 還 元 揮 発 し 回 収 す る 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で は ,Cd が Zn と と も
に 揮 発 し , 凝 縮 さ せ た 溶 融 亜 鉛 中 に Cd が 混 入 す る 。 そ こ で , 溶 鉱 炉 お よ び 電
熱 蒸 留 炉 の 前 処 理 と し て 原 料 を 塊 状 化 す る 焼 結 工 程 で , 効 率 的 に Cd を 揮 発 さ
せ 分 離 さ せ る こ と が Cd 含 有 廃 棄 物 お よ び リ サ イ ク ル 原 料 の 処 理 に 有 効 で あ る
と考えた。
本 章 で は , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る Cd の 分 離 に つ い て , 次 の
項目を検討した。
( 1 )焼 結 工 程 で Cd の 揮 発 率 を 高 め ,分 離 す る 方 策 の 検 討
12)
,す な わ ち ,焼
結 鉱 の 塩 基 度 を 調 整 す る こ と に よ る Cd 揮 発 率 を 制 御 す る 技 術 開 発 を 行 な っ た 。
( 2 ) 焼 結 工 程 か ら 発 生 し た Cd を 含 む ダ ス ト を 排 ガ ス 処 理 設 備 に お い て 効 率
的に回収する方策の検討
13)
,具 体 的 に は ,焼 結 工 程 で 揮 発 除 去 さ れ た Cd を 含
有 す る ダ ス ト の 捕 集 率 を 高 め , 亜 鉛 製 錬 工 程 内 の Cd 循 環 量 を 削 減 す る た め の
電気集塵装置の技術開発を行なった。
その結果,
( 1 ) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と Cd 揮 発 率 に 関 係 が あ り , CaO を 添 加 し 焼 結 鉱 の 塩 基
度 を 高 め る こ と で 焼 結 工 程 の Cd の 揮 発 率 を 高 め る こ と を 明 確 に し , 焼 結 工 程
の Cd 揮 発 技 術 を 確 立 し た 。
( 2 ) 焼 結 工 程 の 排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 す る た め , 湿
式 型 電 気 集 塵 機 と 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 比 較 し た 。湿 式 型 電 気 集 塵 機 は ガ ス 温 度
を 下 げ , 調 湿 す る の で , 調 湿 時 に 発 生 し た 水 に Cd が 混 入 し 排 ガ ス 処 理 工 程 か
ら 焼 結 機 に 繰 り 返 し て い た が ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 は 水 を 発 生 し な い の で ,排 ガ
ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 で き る こ と が わ か っ た 。 ま た , 乾 式
型電気集塵機は排ガスの相対湿度を高めるほど集塵率がよくなる傾向がある
こ と が わ か り ,排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 水 が 発 生 し な い よ う に 加 湿 し て 高 め る こ と
に よ り ,焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 下 げ ,か つ ,ダ ス ト の 凝 集 性 を よ く
す る こ と で ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 集 塵 率 を 高 め ら れ る こ と を 明 確 に し ,新 た な
集塵技術を開発した。
以 上 の 成 果 を 利 用 す る こ と に よ っ て ,亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る
Cd 分 離 技 術 を 向 上 さ せ ,N 社 の Cd 含 有 廃 棄 物 の Cd の 資 源 循 環 量 を 改 善 前 の 約
1.4 倍 に 増 し た 。
39
参考文献
1) 永 井 克 彦 , 松 本 康 弘 , 渡 邊 弘 志 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 162-165
2) 野 田 眞 治 : 資 源 と 素 材 , 123(2007), 166-169
3) 竹 脇 正 広 , 尾 島 康 夫 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 184-189
4) 石 川 峯 生 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 43-48
5) 川 端 輝 満 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 79-84
6) 西 川 昌 輝 : 資 源 と 素 材 , 109(1993)No.12, 49-54
7) 金 属 製 錬 工 学 , 日 本 金 属 学 会 編 , 丸 善 , (1999),79-81
8) 金 属 製 錬 工 学 , 日 本 金 属 学 会 編 , 丸 善 , (1999), 159-163
9) 大 浦 忠 , 三 坂 俊 明 : 静 電 気 学 会 誌 , 6(1990),451-458
10) 大 塚 真 : 公 害 と 対 策 , 12(1986)80-84
11) 矢 野 敏 明 , 榊 原 貞 夫 : 配 管 技 術 , 1(1986)13-138
12) K.Sakamoto, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi:Metallurgical Review of MMIJ,
7(1990)108-121
13) K.Torii, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi: Metallurgical Review of MMIJ,
9(1992)112-125
40
第3章
ストーカ式焼却炉ならびにガス化溶融炉によるシュレッダー
ダストの資源循環プロセスの開発
3.1. 緒 言
廃 自 動 車 は 解 体 後 ,エ ン ジ ン ,バ ッ テ リ ー ,タ イ ヤ 等 の 部 品 が 回 収 し た の ち ,
シ ュ レ ッ ダ ー 事 業 者 に 持 ち 込 ま れ 破 砕 処 理 さ れ る 。ま た ,廃 家 電( 廃 電 気 機 械
器 具 )に つ い て も シ ュ レ ッ ダ ー 事 業 者 に 持 ち 込 ま れ た も の は ,同 様 に 破 砕 処 理
さ れ る 。 こ れ ら は , シ ュ レ ッ ダ ー に よ り 破 砕 処 理 さ れ た 後 , Fe な ら び に Cu,
Al 等 の 非 鉄 ス ク ラ ッ プ を 選 別 し 回 収 し て い る が , そ の 残 渣 は , 廃 プ ラ ス チ ッ
ク 類 ,金 属 屑 ,ガ ラ ス 屑 お よ び 陶 磁 器 屑 の 混 合 状 態 で 排 出 さ れ る 。こ れ が ,一
般にシュレッダーダストと呼ばれるものである。
(廃棄物処理及び清掃法では,
自 動 車 等 破 砕 物 と い う 。) Fig.1 に 廃 自 動 車 , お よ び 廃 家 電 の 処 理 フ ロ ー を 示
す
1)
。
廃自動車
廃電機械器具
解体処理
プレス処理
シュレッダー処理
破砕,金属選別
回収部品
金属スクラップ
シュレッダーダスト
燃料類
エンジン
鉄鋼
金属くず
オイル類
バッテリー
非鉄金属
廃プラスチック
タイヤ
自家消費
処分
Figure 1
ガラスくず
再生利用,処分
処分
Processing flow of abolition car and discarded home electronic
appliances 1)
41
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は , Pb 等 の 重 金 属 を 含 有 し て い る た め , 溶 出 試 験 に よ
り 有 害 物 質 が 検 出 さ れ る こ と が あ り ,環 境 汚 染 が 懸 念 さ れ る 。ま た ,香 川 県 豊
島( て し ま )で は ,不 法 投 棄 さ れ た シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト が 原 因 と 見 ら れ る 有 毒
ガ ス ,土 壌 汚 染 が 発 生 し た 。こ の よ う な 社 会 問 題 を 背 景 に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス
ト は ,従 来 ,
「 安 定 型 最 終 処 分 場 」へ 埋 立 処 分 さ れ て い た が ,
「廃棄物の処理お
よ び 清 掃 に 関 す る 法 律 施 行 令 」 が 改 正 さ れ , 1995 年 4 月 よ り 「 管 理 型 最 終 処
分 場 」( 遮 水 シ ー ト 等 で 浸 出 液 に よ る 地 下 水 へ の 汚 染 を 防 止 し , 廃 水 処 理 設 備
を 完 備 し た も の )に 埋 立 処 分 す る こ と が 義 務 付 け ら れ た 。し か し な が ら ,管 理
型 最 終 処 分 場 の 残 余 容 量 が 少 な い こ と が 社 会 問 題 化 し て お り ,新 た な 処 分 場 を
建 設 す る 場 合 も ,周 辺 住 民 の 理 解 を 得 る 必 要 が あ り ,行 政( 知 事 等 )か ら 管 理
型最終処分場の建設の許可を得ることは困難な状況にある
2)
。そ こ で ,シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト の 安 全 な 処 分 に は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト か ら 重 金 属 を 除 去 し ,無 害
化,減容化を図ることが不可欠であるとの社会的要請が高まってきた。
資 源 リ サ イ ク ル の 観 点 か ら も ,廃 自 動 車 か ら の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は ,国 内
で 1995 年 に は , 年 間 約 120 万 ト ン 発 生 し て お り , そ の 大 部 分 が 「 管 理 型 最 終
処 分 場 」に 埋 め 立 て ら れ て い る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に Cu 3.0% ,Zn 0.5% ,
Pb 0.3% を 含 有 し て い る と す る と , 年 間 で Cu 3.6 万 ト ン , Zn 0.6 万 ト ン , Pb
0.4 万 ト ン が 廃 棄 さ れ て い る こ と に な る 。こ の 量 に 廃 家 電 か ら の 発 生 分 を 加 え
る と , Cu は 5.8 万 ト ン に も な る
3)
。
こ の よ う な 社 会 的 要 請 を 背 景 と し て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト か ら 非 鉄 金 属 を 効
率 的 に 回 収 し ,環 境 汚 染 の 防 止 と 資 源 リ サ イ ク ル を 図 る こ と を 目 的 と し て ,筆
者 ら は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術 開 発 に 取 り 組 ん だ 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ
ス ト の 再 資 源 化 技 術 開 発 は 日 本 の 各 社( 事 業 者 )で 行 わ れ て い る
4-15)
。Table 1
に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 プ ロ セ ス の 例 を 示 す 。様 式 A 1 2 ) で は シ ュ レ ッ
ダ ー ダ ス ト を 機 械 選 別・風 力 選 別・比 重 選 別・重 液 選 別・磁 力 選 別・渦 電 流 選
別 な ど ,種 々 の 選 別 を 組 合 せ て 処 理 し 金 属 を 分 離 回 収 す る が ,可 燃 物 は 焼 却 炉
等 で 焼 却 し て い る 。様 式 B - 1 で は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 銅 製 錬 反 射 炉
4)
で処
理し有機物は熱源として燃焼して金属はマットに回収しガラス類はスラグ化
す る 。こ の プ ロ セ ス は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 水 分 変 動 に よ り 熱 バ ラ ン ス ,排
ガ ス バ ラ ン ス が 崩 れ や す い こ と と ,銅 原 料 と と も に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 処 理
す る の で シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 起 因 す る ス ラ グ 量 が 増 加 し 銅 原 料 中 の Cu の 一
部 が 新 た な ス ラ グ に 移 行 し 銅 の 回 収 率 が 低 下 す る 恐 れ が あ る 。様 式 B - 2 で は
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を ガ ス 化 炉 で 熱 分 解 処 理 し ,金 属 片 と ガ ラ ス 類 を 焼 却 灰 と
し , 飛 灰 の 大 部 分 を ガ ス 化 炉 で 発 生 し た ガ ス を 熱 源 と し て 溶 融 す る 。 Zn, Pb
42
の 低 沸 点 金 属 は 溶 融 炉 の 飛 灰 と な り , Pb な ど を 回 収 で き る 非 鉄 製 錬 所 が 隣 接
し て い な い こ と か ら Pb な ど を 回 収 す る と 輸 送 費 , 処 分 費 等 が 掛 か る の で , キ
レートを添加し重金属の溶出を防止し埋立処分する場合が多い。様式Cでは,
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 ま た は ガ ス 化 炉 で 処 理 し ,発 生 し た 焼 却 灰 ,飛 灰
は 隣 接 し た 非 鉄 製 錬 所 で 処 理 し Cu, Pb な ど を 回 収 す る 。 様 式 D で は 様 式 C の
ガ ス 化 炉 を 溶 融 キ ル ン に 置 き 換 え た プ ロ セ ス で あ る 。様 式 E は 様 式 B - 1 の ガ
ス 化 炉 の 役 割 を 外 熱 キ ル ン に 置 き 換 え た も の で あ る が ,熱 源 を 必 要 と す る 。様
式 F 13)は タ ー ル に 有 機 物 を 溶 か し 金 属 を 分 離 す る プ ロ セ ス で あ る 。
以 上 の 様 式 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn, Pb は 焼 却 処 理 に よ り 飛
灰 に 含 ま れ る の で , 飛 灰 か ら Zn, Pb を 回 収 す る た め の 設 備 と し て 非 鉄 製 錬 ダ
ス ト か ら Zn,Pb を 回 収 し て い る 非 鉄 製 錬 所 が 隣 接 し Zn,Pb の 回 収 設 備 を 利 用
で き る 場 所 に あ る 様 式 C , D が 優 位 で あ る と 考 え る 。 し か し , 飛 灰 か ら Zn,
Pb を 回 収 す る 技 術 は 非 鉄 製 錬 技 術 と し て 確 立 さ れ て い る が , シ ュ レ ッ ダ ー ダ
ス ト の 焼 却 処 理( 熱 分 解 処 理 を 含 む )に つ い て は 知 見 が 少 な く ,シ ュ レ ッ ダ ー
ダストの資源循環を推進するには,焼却処理において,次の問題がある。
① シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 低 融 点 ガ ラ ス を 10~ 20% 含 ん で お り ,焼 却 時 に 焼 却
炉またはガス化炉内において,ガラスが溶融し炉壁等へ付着する。
② シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 塩 素 を 1~ 5% 含 ん で お り ,焼 却 時 に 揮 発 し た Zn,Cu
を含む溶融塩化物が排ガス道の内壁へ付着する。
③ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Al は 高 温 で 焼 却 す る と 溶 融 し ,ス ラ グ ま た は 焼 却
灰に含まれ回収できない。
Ta b l e 1
R e c y c l i n g p ro c e s s o f s h re d d e r re s i d u e
様 式
A
分別処理
概 要
篩別,選別の技術を組み合わせる
実施事業者
拓南商事
豊田メタル
B-1 ( 焼却+溶融)処理
反射炉の熱源として処理し,貴金属をマ ット 小名浜製錬所
で 回収する
B-2 ( 焼却+溶融)処理
ガス化炉で熱分解後,発生したガスを熱源 ジャパンリサイクル
に溶融する
水島エコワークス
青森RER
焼却炉又はガス化炉で ,焼却又は熱分解 小坂製錬所
処理し,焼却灰を非鉄製錬炉で 処理する。 日鉱三日市リサイクル
焼却飛灰も非鉄製錬プロセス で処理する。
C
焼却→溶融処理
D
( 焼却+溶融)→溶融処理
E
乾留処理
F
熱媒浴(サーモバス)処理
キルンで 焼却・溶融処理し,発生した残滓 直島製錬所
を非鉄製錬炉で処理する
外熱キルンで 乾留し残滓から金属を分離す カネムラ
る
コールタール浴で 有機物と金属を分離する N KK
43
本 研 究 で は , Table 1 の 様 式 C に つ い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る プ
ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 物 を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 装 置 と し て( 1 )ス ト ー カ 式 焼
却 炉 , お よ び ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い て ,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た
は 熱 分 解 し , 発 生 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収
す る 技 術 開 発 ’と‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に
つ い て 検 討 し た 。ま ず ,ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ り シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 を
行 な い ,そ の 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 を 既 存 の 亜 鉛 製 錬 工 程 に お い て 処 理 す る こ
と に よ り , Cu を Fe- Cu 合 金 と し て , Pb を 硫 酸 鉛 ま た は 鉛 地 金 と し て , Zn は
亜鉛地金として回収する技術開発を行なった。次に,ガス化溶融炉において,
1) ガ ス 化 炉 部 に お け る 溶 融 ガ ラ ス の 炉 壁 等 へ の 付 着 防 止 , 2) 揮 発 し た Zn,
Cu を 含 む 溶 融 塩 化 物 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 へ の 付 着 防 止 ,3)ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間
の 連 絡 ダ ク ト で の Al を 溶 融 さ せ な い シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 技 術 の 開 発 を
行なった。具体的な研究課題として以下の項目があり,各項目について以下,
検討を行なった。
( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ ク 等 を
焼 却 す る 時 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス が 溶 融 す る と ,燃 焼 が 不 安 定 に な
る こ と と , 溶 融 固 化 し た 焼 却 灰 が Cu, Fe 等 の 金 属 片 や 金 属 線 に 溶 着 し 金 属 片
や 金 属 線 と 焼 却 灰 の 分 離 が 難 し く な る こ と か ら ,焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い 温 度 範
囲を検討する。
( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Al が 飛 散 し , ガ ス 化
炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト 部 で 溶 融 す る こ と に よ り ,連 絡 ダ ク ト を 閉 塞 さ せ な
い条件を検討する。
( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 内 の ガ ス 化 炉 部 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス
チ ッ ク 等 を ガ ス 化 す る 時 に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス に 起 因 す る 固 着 物
を 生 成 さ せ な い ,す な わ ち ,炉 内 で ガ ラ ス を 溶 融 さ せ な い 操 業 温 度 な ど の 運 転
条件を検討する。
( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 道 で ダ ス ト が 溶 融 し 内 壁 に 溶 着 さ せ な い
温度条件などを検討する。
( 5 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 中 の 塩 化 物 を 多 く 含 む ダ ス ト が 集 塵 設 備
のバグクロスに付着させない条件を検討する。
( 6 )非 鉄 製 錬 工 程
18-20)
で ,焼 却 灰 ,飛 灰 中 の Cu,Pb,Zn を 回 収 で き る こ と
を確認する。
44
3.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 物 性
実 験 に 用 い た シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 組 成 分 析 例 を Table 2 に , 外 観 を Fig.2
に 示 す 。シ ュ レ ッ ダ ー 業 者 に は 廃 自 動 車 の 単 独 処 理 業 者 と 廃 家 電 の 混 合 処 理 業
者 が あ り ,廃 家 電 の 混 合 割 合 に よ っ て 成 分 の 含 有 率 は 異 な る 。本 稿 で 述 べ る 技
術 開 発 で は , 廃 自 動 車 主 体 の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト ( Automobile shredder
residue) を 対 象 と し た 。 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 有 機 成 分 が 主 体 で , Fe, Al,
Cu, Zn, Pb 等 の 重 金 属 成 分 と SiO 2 等 の ガ ラ ス 成 分 を 含 有 し て お り , 平 均 的 な
金 属 の 含 有 率 は Cu が 約 3% , Zn が 1% , Pb が 0.5% 程 度 で あ っ た 。 ま た , 嵩
密 度 は 0.2~ 0.3g/cm 3 , 低 発 熱 量 は 15~ 20kJ/g で あ っ た 。 ま た , シ ュ レ ッ ダ
ー ダ ス ト に は 金 属 粉 が 含 ま れ て い る た め ,空 気 酸 化 に よ る 自 然 発 火 を 防 止 す る
た め , 散 水 し て お り , 搬 入 時 に 水 分 が 5~ 25% 程 度 含 ま れ て い る 。
Table 2
The example of the assayed elements of the shredder residue
(unit : mass%)
C
H
Cl
S
Cu
Pb
Zn
Al
Fe
SiO2
41.9
5.58
1.31
0.39
3.32
0.40
0.97
4.18
6.49
11.5
Bulkiness specific gravity : 0.2-0.3 g/cm3 , Lower calorific value : 15-20kJ/g
Figure 2
Appearance of shredder residue
45
CaO
3.9
3.3. ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術
3.3.1. ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 考 え 方
非鉄製錬設備と製錬技術
18,19)
を活用して,効率的な廃棄物の無害化と再資
源 化 を 目 指 し た 。ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に よ り シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 を 行 な い ,
その焼却灰ならびに焼却飛灰を既存の電熱蒸留炉を用いた亜鉛製錬工程にお
い て 処 理 す る こ と に よ り ,Cu を Fe- Cu 合 金 と し て ,Pb を 硫 酸 鉛 ま た は 鉛 地 金
と し て , Zn は 亜 鉛 地 金 と し て 回 収 す る 技 術 開 発 を 行 な っ た 。 特 に , ス ト ー カ
式 焼 却 炉 で 焼 却 灰 を 溶 融 さ せ る と 燃 焼 が 不 安 定 に な る こ と と ,溶 融 固 化 し た 焼
却 灰 が Cu, Fe 等 の 金 属 片 や 金 属 線 に 溶 着 し 後 工 程 で 金 属 片 や 金 属 線 と 焼 却 灰
の分離が難しくなることから,焼却灰を溶融させない温度範囲を検討した。
実験に用いたストーカ式焼却炉は亜鉛製錬の電熱蒸留炉を改造した炉であ
る。ストーカ式焼却炉の特徴として以下の点がある。
1 )シ ュ レ ッ ダ ー の 性 状( 水 分 ,可 燃 物 含 有 量 ,な ど )に 応 じ て ,燃 焼 用 空 気
量を調整できる。燃焼速度が遅く,急激な燃焼は起こりにくい。
2 )亜 鉛 製 錬 設 備 と し て 使 用 し て い る 排 ガ ス 処 理 設 備 ,排 水 処 理 設 備 ,ダ ス ト
処理設備を利用できる。
(1)シュレッダーダストの再資源化の実験フローシート
Fig.3 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 実 験 フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト (Shredder residue)は ,亜 鉛 製 錬 所 の 遊 休 の 電 熱 蒸 留 亜 鉛 炉 を 改
造 し た ス ト ー カ 炉 (Incineration furnace)で 焼 却 を 行 な っ た 。焼 却 に よ り 発 生
し た 焼 却 灰 (Bottom ash), お よ び 焼 却 飛 灰 (Fly ash)を 既 存 の 亜 鉛 製 錬 工 程 を
用 い て 処 理 す る こ と で , 焼 却 飛 灰 中 の Zn,Pb を 焼 結 機 (Sintering machine)で
再 度 ,揮 発 さ せ 焼 結 ダ ス ト (Dust)に 濃 縮 し た 。こ の 焼 結 ダ ス ト を ダ ス ト 処 理 工
程 (Dust treatment)で 硫 酸 浸 出 し , Zn は 水 酸 化 亜 鉛 (Hydroxide zinc)と し て
回 収 し , Pb は 硫 酸 鉛 (Lead slime)と し て 回 収 し 鉛 製 錬 所 の 鉛 原 料 と し た 。 Zn
を 回 収 し た 水 酸 化 亜 鉛 は 焼 結 工 程 で 他 の 亜 鉛 原 料 (Zinc oxide)に 混 合 し て 焼
結 鉱 (Sinter) と す る 。 焼 結 鉱 は 電 熱 蒸 留 炉 (Electrothermic distillation
furnace)に 装 入 し ,亜 鉛 を 還 元 揮 発 さ せ 蒸 留 亜 鉛 (Distilled zinc)と し て 回 収
し た 。 焼 却 灰 中 の Cu は 焼 結 工 程 で 亜 鉛 原 料 に 混 合 し 焼 結 鉱 と し 電 熱 蒸 留 炉 に
装 入 し た 。電 熱 蒸 留 炉 は 高 温 の 強 還 元 雰 囲 気 で あ る こ と か ら ,Cu は Fe- Cu 合
金 と な り ,炉 か ら 他 の 滓 と と も に 排 出 さ れ る 。こ の 排 出 さ れ た 滓 を 磁 力 選 別 し ,
Fe- Cu 合 金 を 回 収 し た 。 こ の 合 金 は 銅 滓 (Cu residue)と し て 銅 製 錬 所 の 銅 原
料とした。
46
Shredder residue
① Incineration
Incineration furnace
Exhaused gas
Bottom ash, Fly ash
Exhausted gas tretment
Zinc oxide
② Zinc smelting
Residue
Sintering machine
Sinter
Dust
Distillation furnace
Dust treatment
Distilled zinc (PW zinc)
Lead slime
Slag treatment
Cu residue (Reduce iron)
Hydroxide zinc
Lead smelter
Zinc lean slag
Copper smelter
Figure 3
The general chart of the examination process in the stoker type
incinerator
(2)焼却実験設備
焼 却 実 験 設 備 の フ ロ ー シ ー ト を Fig.4 に , ス ト ー カ 式 焼 却 炉 の 概 念 図 を
Fig.5 に 示 す 。焼 却 炉 は 遊 休 の 電 熱 蒸 留 炉 を 改 造 し た 炉 で あ る 。シ ュ レ ッ ダ ー
ダ ス ト (Shuredder residue)等 の 可 燃 物 (Combustible waste)は ,ホ ッ パ ー (Feed
hopper)を 経 て プ ッ シ ャ ー で ス ト ー カ 炉 (Stoker type Incinerator)に 連 続 投 入
さ れ ,重 油 バ ー ナ ー に よ っ て 着 火 し て ,空 気 を 吹 き 込 む こ と に よ り 連 続 し て 焼
却 し た 。 実 験 炉 の 産 業 廃 棄 物 焼 却 能 力 は 50 ト ン / 日 で , 焼 却 灰 は 焼 却 炉 下 部
の 回 転 炉 床 よ り 連 続 排 出 し た 。焼 却 実 験 に お い て ,当 初 ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト
の 単 独 焼 却 を 実 施 し た が ,付 着 水 分 の 変 動 の た め 焼 却 状 態 が 不 安 定 で あ っ た の
で ,乾 燥 し た 廃 プ ラ ス チ ッ ク を 混 合 し て 焼 却 す る 方 法 に 変 更 し た 。焼 却 炉 は 一
47
次 燃 焼 室( ス ト ー カ 炉 )と 発 生 し た 一 酸 化 炭 素 ,チ ャ ー を 燃 焼 す る 二 次 燃 焼 室
か ら な る 。二 次 燃 焼 室 で は 燃 焼 熱 の 有 効 活 用 の た め に 廃 液 を 噴 霧 し て 同 時 に 焼
却 し た 。こ の 二 次 燃 焼 室 に は 重 油 バ ー ナ ー が 設 置 し て あ り ,常 時 ,出 口 温 度 を
1123K 以 上 と な る よ う に 重 油 バ ー ナ ー の 燃 焼 量 を 自 動 制 御 し た 。焼 却 炉 の 排 ガ
ス は 12~ 16 千 Nm 3 / 時 発 生 し て お り , ダ イ オ キ シ ン 類 の 再 合 成 を 防 止 す る た
め ,焼 却 炉 の 上 部 に 設 置 し た 冷 却 室 (Cooling room)に お い て ,水 の 噴 霧 に よ り
463K に 急 冷 後 ,サ イ ク ロ ン (Cyclone)で 飛 灰 (Fly ash)を 除 去 し た 。排 ガ ス は ,
さ ら に , 洗 浄 塔 (Washing tower), ダ ス ト チ ャ ン バ ー (Dust chamber), 中 和 塔
(Neutralizing tower)お よ び ミ ス ト コ ッ ト レ ル (Mist ESP)を 通 し ,硫 黄 酸 化 物 ,
塩化水素を除去し排突から大気放出した。
Shuredder Residue
Feed Hopper
Conveyer
Bucket Elevator
Charge Hopper
Incineration Furnace
Bottom Ash
Exhaust gas
Zinc Smelter
Cooling Room
Cyclone
Fly Ash
Washing Tower
Dust Chamber
Neutralizing Tower
Waste Water
Waste Water
Treating Plant
Mist ESP
Stack
atomosphere
Figure 4
Flow sheet of the incineration plant
48
Exhaust gas
Waste fluid
Combustible waste
Raw material
Stoker type incinerator
Bottom Ash
Air
Rotary table
Figure 5
The general chart of the stoker type incinerator
3.3.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 の 実 験 計 画
(1)焼却温度
シュレッダーダスト中のプラスチック等を焼却する時にシュレッダーダス
ト 中 に 10~ 20% 含 ま れ て い る ガ ラ ス を 炉 内 で 溶 融 さ せ な い 温 度 を 検 討 し た 。
①試料
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 で 焼 却 し 発 生 し た 焼 却 灰 ( Bottom ash)
を 1mm の 篩 で 篩 い 分 け て 金 属 片 を 除 き , 篩 下 を 試 料 と し た 。 Table 3 に
焼 却 灰 の 組 成 の 分 析 値 を 示 す 。C u , Z n , F e の ほ と ん ど は 酸 化 物 と し て 存 在
し ,約 60% が Na2O,CaO の 塩 基 性 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 ス
ラグである。
Ta b l e 3
Cu
6.0
Chemical composition of bottom ash
Pb
Zn
Fe
S
0.5
2.0
7.6
1.4
CaO
SiO 2
Al 2 O 3
9.8
24.2
24.0
(mass%)
Na 2 O
C
2.8
5.0
②測定方法
試 料 30g をア ル ミ ナ る つ ぼ に 入 れ , 超 高 速 昇 温 電 気 炉 で 高 温 保 持 し 溶
融 状 況 を 観 察 し た 。 保 持 温 度 は , 1373K か ら 100K 刻 み で , 1473, 1573,
49
1 6 7 3 K と し ,保 持 時 間 は 3 0 分 と し た 。保 持 終 了 後 ,電 気 炉 か ら 取 り 出 し
冷却した。冷却後,垂直方向に切断し,断面を目視観察した。
( 2 ) 焼 却 灰 , 焼 却 飛 灰 か ら の Zn, Cu, Pb の 回 収
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を ス ト ー カ 式 焼 却 炉 で 焼 却 し ,発 生 し た 焼 却 灰 ,焼 却 飛
灰 を 亜 鉛 製 錬 設 備 で 処 理 し た 。 焼 却 灰 な ど の 処 理 時 に お け る Zn, Cu, Pb の 回
収率と蒸留亜鉛等の製品品質が維持されていることを確認した。
3.3.3. 実 験 結 果
(1)焼却温度(焼却灰の溶融温度)
高 温 保 持 後 の 焼 却 灰 の 断 面 写 真 を F i g . 6 に 示 す 。1 3 7 3 K で は 溶 融 せ ず ,
1 4 7 3 K 並 び に 1 5 7 3 K で は 部 分 的 な 溶 融 が 認 め ら れ ,1 6 7 3 K で 均 一 融 体 が 生
成していることが観察できた。 従って,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 処 理 す
る こ と に よ っ て 得 ら れ た 焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い た め に は , 1473K 以 下 で
焼 却 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら か と な り , 焼却実験時の焼却温度(一次燃
焼 室 温 度 ) は 1273~ 1473K と し た 。
1473K
1373K
1573K
F i g u re 6
1673K
E x p e r i m e n t a l re s u l t s o f d i s s o l u t i o n t h e r m o m e t r y f o r b o t t o m
ash
50
( 2 ) 焼 却 灰 , 焼 却 飛 灰 か ら の Zn, Cu, Pb の 回 収
①焼却炉の運転状況
焼 却 炉 の 二 次 燃 焼 室 出 口 と 冷 却 室 出 口 の ガ ス 温 度 の 推 移 を Fig.7 に 示 す 。排
ガ ス は 二 次 燃 焼 室 出 口 で 1123K(850℃ )以 上 ,冷 却 室 出 口 で 463K(190℃ )と 安 定
させることができた。また,焼却排ガスの湿式処理によって発生する排水は
120~ 160m 3 / h あ り ,塩 酸 酸 性 の 排 水 で 重 金 属 を 溶 解 し て い る こ と か ら ,排 水
処 理 工 程 に お い て 二 段 中 和 法 に よ り 重 金 属 を 除 い て 放 流 し た 。な お ,排 水 処 理
工 程 で 回 収 さ れ た 水 酸 化 物 は Zn を 含 ん で お り ,亜 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 し ,Zn を
回収させた
21-23)
。
Figure 7
The temperature change of the incinerater
②焼却灰ならびに焼却飛灰の性状
シュレッダーダストの焼却時に発生する焼却灰は焼却炉下部から排出され,
焼 却 飛 灰 は サ イ ク ロ ン で 回 収 さ れ る 。 焼 却 灰 (Bottom ash), お よ び 焼 却 飛 灰
(Fly ash)の 発 生 比 率 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 含 有 成 分 に よ っ て 変 動 す る が ,
そ れ ぞ れ 35~ 40% , 3~ 5% 程 度 で あ っ た 。 焼 却 灰 , お よ び 焼 却 飛 灰 の 分 析 例
を Table 4 に 示 す 。 焼 却 灰 の 主 成 分 は , SiO 2 , Fe, Al で , Cu は 5~ 8% , Zn は
2~ 5% ,Pb は 1% 前 後 で あ っ た 。一 方 ,焼 却 飛 灰 の 主 成 分 は ,Cl,Zn,Pb,SiO 2
お よ び Fe で ,Cu は 0.3~ 1% ,Zn は 5~ 10% ,Pb は 1~ 3% ,Cl は 10~ 20% で
あ っ た 。 焼 却 物 中 の Cu は 主 と し て 焼 却 灰 に 移 行 し , Pb お よ び Zn は そ れ ぞ れ
40% , 30% 程 度 が 飛 灰 に 移 行 し て い た 。 ま た , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト , 焼 却 灰 ,
お よ び 焼 却 飛 灰 の 溶 出 試 験 結 果 を Table 5 に 示 す 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に は 埋
51
立 基 準 値 を 超 え る も の も あ っ た が ,焼 却 灰 は い ず れ も 埋 立 基 準 を 満 足 し た 。こ
れ は , 焼 却 に よ り Pb 等 で 溶 出 し や す い が , 蒸 気 圧 の 低 い 形 態 に あ る も の が 揮
発し焼却飛灰に移行したためである。
Table 4
Bottom ash
Fly ash
Table 5
Chemical compositions of bottom ash and fly ash
Cu
Pb
Zn
Fe
Al
SiO 2
CaO
MgO
Na
6.7
0.4
0.8
2.1
2.7
8.2
11.3
4.9
8.1
1.9
28.0
8.2
9.3
6.4
1.8
2.7
1.3
2.9
(mass%)
S
Cl
1.0
6.4
2.1
16.0
C
6.0
1.6
Leaching test results of shredder residue and incinerated residue
As
Zn
Pb
0.3
-
0.3
0.3
-
1
<0.005
4.47
0 .27
0.038
0.07
2
<0.005
3.97
0 .51
0.002
0.10
3
<0.005
0.75
0 .11
0.002
0.04
1
<0.005
0.04
<0 .00 5
0.002
0.02
2
<0.005
0.03
<0 .00 5
<0.002
< 0.0 1
3
<0.005
0.02
<0 .00 5
<0.002
0.01
1
<0.005
71.7
1 .35
5.46
0.07
2
<0.005
65.5
1 .17
4.11
0.06
standard of landfilling
for environmen t
Suredder Residue
Bottom Ash
Fly Ash
(un it : mg/l)
Cd
Cu
Leaching condition : Leach ant
Leach in g time
pH 6
6h
Conc entration 100g/l
③焼却灰ならびに焼却飛灰からの金属回収
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 に よ っ て 発 生 す る 焼 却 灰 ,お よ び 焼 却 飛 灰 は 既 存
の亜鉛製造工程
21)
に て 処 理 し , Zn を 回 収 す る と 共 に , Pb と Cu を そ れ ぞ れ 鉛
滓 ,銅 滓 と し て 濃 縮 し た 。そ の 後 ,回 収 さ れ た 鉛 滓 お よ び 銅 滓 は 製 錬 所 に 送 り ,
既 存 の 銅 ,鉛 製 錬 工 程 に お い て 処 理 し ,Pb お よ び Cu を そ れ ぞ れ 地 金 と し て 回
収した
22,23)
。
a)Zn 回 収 技 術
焼 却 灰 中 の SiO 2 , Fe お よ び Al 等 の 主 成 分 は 亜 鉛 製 錬 に お け る 溶 剤 成 分 で
あ る こ と か ら ,亜 鉛 製 錬 原 料 と 混 合 し て 処 理 す る こ と に し た 。焼 却 飛 灰 は 揮 発
成 分 が 主 体 で , Zn, Pb が 濃 縮 し て い る 。 し か し , 飛 灰 中 の SiO 2 含 有 率 が 8~
12% と 高 く ,Pb が 2% と 低 か っ た た め ,焼 結 工 程 で 鉛 を 再 揮 発 さ せ た 後 に ,焼
52
結 ダ ス ト か ら Pb を 鉛 滓 ( 硫 酸 鉛 ) と し て 回 収 す る こ と に し た 。 Fig.8 に 焼 却
灰 お よ び 焼 却 飛 灰 の 処 理 フ ロ ー シ ー ト を 示 す 。焼 結 工 程 で は ,焼 却 灰 お よ び 焼
却 飛 灰 (Incinerated residue)を 亜 鉛 滓 等 の 二 次 亜 鉛 原 料 (Zinc oxide)お よ び
粉 コ ー ク ス (Breeze coke)と パ グ ミ ル で 混 合 し , ペ レ タ イ ザ ー (Pelletizer)で
造 粒 す る 。 造 粒 後 , ド ワ イ ト ロ イ ド 式 焼 結 機 (Sintering machine)に よ り 焼 結
す る 。 焼 結 鉱 は 還 元 剤 の 粒 コ ー ク ス (Pea coke)と 混 合 し プ レ ヒ ー タ で 予 熱 後 ,
電 熱 蒸 留 炉 (Electrothermic distillation furnace)に 連 続 装 入 し ,2500~ 4500
k W の 電 力 に て 還 元 溶 錬 し た 。炉 内 で ,焼 結 鉱 中 の 酸 化 亜 鉛 は 還 元 さ れ 亜 鉛 蒸
気 と な り コ ン デ ン サ ー に 導 か れ る 。亜 鉛 蒸 気 は コ ン デ ン サ ー 内 の 溶 体 亜 鉛 に 接
触 し て 急 冷 ,凝 縮 し ,溶 体 亜 鉛( 蒸 留 亜 鉛 ,Dislilled zinc)と し て 回 収 し た 。
焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 は 亜 鉛 精 鉱 の Zn 濃 度 20~ 30% に 対 し て 2~ 8%と 低 い た
め , 亜 鉛 原 料 の み の 操 業 に 比 較 す る と 焼 結 鉱 中 の Zn 濃 度 は 数 % 程 度 低 下 し た
が ,蒸 留 亜 鉛 の 品 質 に は 問 題 は 生 じ な か っ た 。回 収 さ れ た 蒸 留 亜 鉛 の 分 析 値 を
Table 6 に 示 す 。 一 方 , 焼 結 鉱 (Sinter)に 含 有 さ れ る Cu は 一 部 の Fe と 共 に ,
電 熱 蒸 留 炉 で 還 元 さ れ , Cu- Fe 合 金 と し て ス ラ グ 中 に 濃 縮 し た 。 こ の ス ラ グ
を 粉 砕 し , 磁 選 す る こ と に よ り , Cu- Fe 合 金 を 銅 滓 (Cu residue)と し て 回 収
し た 。回 収 し た 銅 滓 の 分 析 値 を Table 6 に 示 す 。ま た ,亜 鉛 製 錬 工 程 か ら 発 生
す る ス ラ グ は Pb,As ,Cd の 重 金 属 を 含 ん で い る た め ,工 場 敷 地 内 の 管 理 型 最
終 処 分 場 に 埋 立 処 分 し て い た が , こ れ ら 重 金 属 の 溶 出 試 験 を 行 い ,セ メ ン ト 原
料 等 へ 利 用 し た 。 試 験 で 発 生 し た 亜 鉛 製 錬 ス ラ グ の 溶 出 試 験 結 果 を Table 7
に示す。土壌溶出量基準を満足しており,再利用可能なスラグである。
次 に , 焼 結 時 の 排 ガ ス を 集 塵 し 回 収 し た ダ ス ト は , Pb 等 の 揮 発 元 素 が 濃 縮
し て い た こ と か ら ,ダ ス ト 処 理 工 程 に お い て 処 理 し た 。ダ ス ト に 硫 酸 を 添 加 し
浸 出 す る こ と で , Zn 等 の 金 属 元 素 を 溶 解 し , Pb は 硫 酸 鉛 の 形 で 浸 出 残 渣 と し
て 沈 降 分 離 し た 。こ の 浸 出 残 渣 を 乾 燥 し ,鉛 滓 (Lead slime)を 得 た 。回 収 さ れ
た 鉛 滓 の 分 析 値 を Table 6 に 示 す 。
以 上 の こ と か ら ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 処
理 す る こ と に よ り , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn, Cu, Pb を 回 収 で き る こ と が
わ か っ た 。 Table 8 に 実 験 期 間 中 の 物 量 か ら 求 め た 亜 鉛 製 錬 工 程 に お け る シ ュ
レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Zn,Cu,Pb の 分 配 率 を 示 す 。Zn,Cu,Pb の 回 収 率 は ,そ
れ ぞ れ , 96%, 93%, 97%で あ っ た 。
b)Cu,Pb 回 収 技 術
亜 鉛 製 錬 で Cu, Pb を 濃 縮 し た 銅 滓 お よ び 鉛 滓 は , 銅 製 錬 工 程 , 鉛 製 錬 工 程
で 処 理 さ れ , 電 気 銅 , 粗 鉛 と し て 回 収 で き る こ と を 確 認 し た 。 24,25)
53
Incinerated residue
Zinc oxide
Breeze coke
(Bottom ash, Fly ash) (Secondary materials)
Pelletizer
Pea coke
Sintering machine
Off gas
Electrostatic
precipitator
Sinter
Sulfuric acid
Dust
Preheater
Rotery Kiln
Condeser
Electrothermic
disillation furnace
Leaching tank
Crude lead
Distilled zinc(PW zinc)
Furnace slag
Lead refinery
Usser
Slag treating plant
Stack
Fuilter
Dryer
Cu residue
Lead slime
Copper smelter
Lead smelter
slag
Figure 8
Table 6
Flow sheet of incinerated residue treating process
Chemical composition of Distilled Zinc,Copper Residue and Lead
slime
(mass%)
Cu
Pb
Zn
Fe
Sb
Al2O3
SiO2
CaO
Distilled Zinc
0.01
0.87
99.1
0.01
0.003
-
-
-
Cu residue
20.2
0.57
3.50
31.1
0.04
15.1
15.6
5.12
Lead slime
2.96
48.2
4.38
0.42
0.004
1.68
1.14
0.47
Table 7
The results of Leaching test for slag in zinc smelting
(unit : mg/l)
Cd
As
Pb
Enviromental quality standards
for soil quality
0.01
0.01
0.01
slag
<0.005
<0.01
<0.01
54
Table 8
Distribution ratios of Cu, Pb, Zn in treating incinerated residue
(unit : %)
Distribution ratio
Materials
Zn
Cu
Pb
Bottom Ash
70.5
98.4
57.1
Fly Ash
29.5
1.6
42.9
100.0
100.0
100.0
Distilled Zinc
95.3
0.3
3.5
Crude Lead
0.0
0.0
4.5
Copper Residue
0.3
92.0
12.8
Lead Slime
0.5
0.8
75.9
Zinc Slag
3.9
6.9
3.3
100.0
100.0
100.0
input total
output total
55
3.4. ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 技 術
3.4.1. ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 の 考 え 方
ガ ス 化 溶 融 炉 の 代 表 的 な 炉 と し て は ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 と 竪 型 シ ャ フ ト
式 直 接 溶 融 炉 が あ り ,国 内 の ご み 焼 却 炉 で 実 績 が 多 く あ る 。し か し ,シ ュ レ ッ
ダーダストに関してはガス化溶融炉で処理する際の知見が十分に得られてい
な い の で ,こ の 方 式 を 用 い た 回 収 技 術 開 発 を 試 み ,そ の 問 題 点 を 明 ら か に す る
とともに,その対策技術の開発を行なった。
流動床式ガス化溶融炉と竪型シャフト式直接溶融炉の比較
26)
を Table9 に 示
す 。流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は 竪 型 シ ャ フ ト 式 直 接 溶 融 炉 よ り も 下 記 の 点 で シ ュ
レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の 金 属 回 収 に 優 位 で あ る と 考 え ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資
源化に使用することにした。
① 竪型シャフト式直接溶融炉は熱源としてコークスを必要とするが,流動床
式 ガ ス 化 溶 融 炉 は プ ラ ス チ ッ ク を 熱 源 と す る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は プ ラ ス
チ ッ ク と 金 属 の 複 合 し た 廃 棄 物 で あ り ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は こ の プ ラ ス
チックを熱源として有効利用できる。
② シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Cu,Al,Fe,ス テ ン レ ス は ,竪 型 シ ャ フ ト 式 直 接
溶 融 炉 で は 鉄 合 金 と な る が ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 は 各 金 属 を 固 体 の 状 態 で
分離,回収できる。
Fig.9 に 流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 ( 以 後 , ガ ス 化 溶 融 炉 と 記 載 す る 。) の 原 理
17)
を 示 す 。プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 性 廃 棄 物 を ガ ス 化 炉 で 熱 分 解 し ,可 燃 性 ガ ス
を 部 分 燃 焼 さ せ 熱 分 解 の 温 度 を 保 つ 。 Cu, Fe, Al は 固 体 の ま ま 炉 外 に 排 出 さ
れる。発生した可燃性ガスとチャーは溶融炉に送られ灰分をスラグ化する。
そこで,ガス化溶融炉
27)
を用いてシュレッダーダストを熱分解し再資源化
する実験を実施することにした。また,溶融炉から排出された溶融スラグは
Cu を 含 ん で い る の で ,還 元 剤 に て 酸 化 銅 を 金 属 銅 に 還 元 す る 還 元 炉( 電 気 炉 )
を 設 置 し た 。 28,29)
56
Table 9
Comparison between the gasification melting furnace and the direct
melting furnace
流動床を低酸素雰囲気で 77 3~8 7 3Kの温
度で運転し廃棄物を部分燃焼させる。
部分燃焼で 得られた熱が,媒体である砂
によって廃棄物に供給され,熱を受けた廃棄
物は熱分解して,可燃性ガス と未燃固形物
(チャー) が得られる。
可燃性ガスの一部はガス 化炉で燃焼し熱
源とな る。
大部分の可燃性ガスとチャーは溶融炉に
送られ,高温燃焼させ灰を溶融しス ラグ化す
る。
流動床から廃棄物中のガレキ,メタルを分
離,排出で きる。
ほぼ自燃で あり,燃料をあまり必要としな
い。
①
流
動
床
式
の
ガ
ス
化
溶
融
炉
高炉の原理を応用したごみの直接溶融技
術で熱源としてコークスを使用する。
竪型シャフト炉の頂部から廃棄物,コーク
ス,石灰石を投入する。
廃棄物は炉内を降下中に温度が上昇し熱
分解し可燃性ガス が発生する。
可燃性ガスは炉頂部から排出され燃焼室
で二次燃焼する。
熱分解後,残滓( ガレキ,メタル等)は羽口
から供給される酸素によりコークスが燃焼し
溶融し,スラグとメタルとなる。
銅は鉄合金のメタルとなる。
スラグは強還元雰囲気で 溶融するので,
鉛濃度が低い。
コークス
石灰石
ャ
②
竪
型
シ
フ
ト
式
の
直
接
溶
融
炉
サーマ ルリサイクル
(再資源化)
エネルギー利用
(廃熱回収)
ガス化炉
(熱分解炉)
シュレッダーダスト
プラスチック
77 3~97 3K
可燃性ガス
( 熱分解ガス)
チャー
(固定炭素)
排ガス
溶融炉
147 3~17 23K
スラグ化
部分燃焼
不燃物(ガラス,金属)
金属回収
(銅、鉄、アルミ、SUS)
マ テリアルリサイクル
(再資源化)
Figure 9
スラグ
有効利用
(路盤剤等)
マ テリアルリサイクル
(再資源化)
Principle of the gasification melting furnace
57
(1)実験の概要
Fig.10 に ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 再 資 源 化 の フ ロ ー シ ー ト ,
Fig.11 に ガ ス 化 溶 融 炉 の 概 略 図 , Table 10 に 主 要 設 備 の 仕 様 を 示 す 。 シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト 等 の 可 燃 性 廃 棄 物 (Shredder residue) と Cu を 含 む 汚 泥
(Cupriferous dirt)を ガ ス 化 炉 (Gasfication & melting furnace)へ 装 入 し ,
823~ 873K で 可 燃 性 物 質 を 熱 分 解 し ,可 燃 性 ガ ス と チ ャ ー( 固 定 炭 素 )を 発 生
さ せ た 。汚 泥 は 炉 内 で 乾 燥 ,粉 砕 さ れ 微 粉 と な る 。シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の 金
属 片 は ガ ラ ス 屑 等 の 不 燃 物 (Non-combustible materials)と と も に 排 出 し た 。
こ の 不 燃 物 を 篩 い 分 け し , Cu, Al 等 の 金 属 片 (Copper scrap)を 回 収 し た 。 ガ
ス 化 炉 (Fluidized-bed gasifier)で 発 生 し た 可 燃 性 ガ ス , チ ャ ー , Cu を 含 む
微 粉 は 溶 融 炉 (Melting furnace)へ 導 入 し , そ こ で 可 燃 性 ガ ス , チ ャ ー を 燃 焼
さ せ 1573K の 高 温 に よ り 溶 融 ス ラ グ と し た 。溶 融 ス ラ グ は 溶 融 炉 直 下 に 設 け た
電 気 加 熱 式 の 還 元 炉 (Reductin furnace)で コ ー ク ス に よ り 還 元 し ,ス ラ グ と 粗
銅 (Black copper)に 分 離 し た 。 排 ガ ス は 廃 液 分 解 塔 (Waste fluid resolution
tower),急 冷 塔 (Quick-cooling tower)で 1273K か ら 453K ま で 急 冷 後 ,バ グ フ
ィ ル タ ー (Bag filter)で 除 塵 し , 触 媒 分 解 塔 (Catalyst resolution tower)で
ダイオキシンの分解とアンモニア吹き込みによるNOx の分解後,冷却塔
(Cooling tower) , 中 和 塔 (Neutralizing tower) , ミ ス ト コ ッ ト レ ル (Mist
electrostatic precipitator)を 経 て 無 害 化 し 大 気 へ 放 出 し た 。 バ グ ダ ス ト は
水 浸 出 し 塩 素 分 を 除 去 し た 後 ,ガ ス 化 炉 へ 繰 り 返 し た 。中 和 塔 ,冷 却 塔 ,ミ ス
トコットレルから発生する排ガスの洗浄水は排水処理工程へ送り二段中和法
により重金属を回収した。
58
Shredder residue
Cupriferous dirt
Gssfication & melting furnace
non-combustible materials
Exhaust gas
Melt
Screen
Waste fluid resolution tower
Reduction furnace
Sand
Magnetic separator
Quick-cooling tower
Black copper
Iron scrap
Screen
Bag filter
Bag dust
Aluminum scrap
Mill
Catalyst resolution tower
Copper scrap
Neutralizing tower
Mist electrostatic precipitator
atmosphere
Figure 10
Flow of the gasification melting process
59
Slag
Fluidized- bed Gasifier
Conecting duct
Raw material
Me ltin g fu rnac e
Primary combustion chamber
Exhaust gas
Non-combusitibles
Air
Non-combusitibles
Secondary combustion chamber
Molten slag
Figure 11
The general chart of the gasification melting furnace
Table 10
Specification of the main equipments
Equipments
Specification
Gasifier
Fluidized-bed type, Bed area 1.33m2
Melting furnace
Circular combustor
Reduction furnace
Electric furnace, 9m3, 900kW
Waste fluid resolution tower
59m3
Quick-cooling tower
120m3
Bag filter
Filtration area 640m2
Catalyst resolution tower
Honeycomb construction, 14m3
60
(2)ガス化溶融炉の課題
20t / d 実 証 プ ラ ン ト
27)
( ㈱ 荏 原 製 作 所 藤 沢 工 場 )を 使 用 し て シ ュ レ ッ ダ ー
ダ ス ト の 焼 却 の 予 備 実 験 を 実 施 し た 。そ の 結 果 ,炉 床 の 流 動 不 良 に 起 因 す る 固
着 物( ク リ ン カ ー )生 成 や ,ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト 内 に ア ル ミ を 主
体とする低融点ダストの融着による連絡ダクトの閉塞等の問題が発生するこ
と を 確 認 し た 。 Fig.12 に ガ ス 化 溶 融 炉 で 発 生 し た 問 題 箇 所 を 示 す 。
① ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト の 閉 塞 ( Al の 溶 解 )
②溶融炉内壁の付着物の成長
③炉下部における固着物の生成
④溶融炉排ガス道の溶融ダストの付着
⑤バグフィルターのクロスへのダスト付着
④
①
②
⑤
③
Figure 12
Part of occurrence of problem of the gasification melting furnace
上 記 の 課 題 に 対 し て , シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 50t/日 処 理 可 能 な ガ ス 化 溶 融
炉を用いて,各種実験を行なった。
61
3.4.2. シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 溶 解 プ ロ セ ス 開 発 の た め の 課 題 対 策 と そ の 実 験
結果
①ガス化炉と溶融炉間の連絡ダクトの閉塞防止
30)
ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を Al の 融 点 の 933K 以 下 と な る よ う に , 873K 程 度 で 制
御し,かつ堆積したダストはビンブローで溶融炉へ吹き飛ばすようにした。
ビ ン ブ ロ ー と は 圧 力 容 器 に 溜 め た 高 圧 空 気( 空 気 ,窒 素 等 )を 瞬 間 的 に 噴 出
さ せ る こ と で あ る 。 Fig.13 に 連 絡 ダ ク ト の 閉 塞 防 止 対 策 を 示 す 。 ガ ス 化 炉
出 口 温 度 を 873K 程 度 で 制 御 し , か つ ビ ン ブ ロ ー を 行 う こ と で 連 絡 ダ ク ト に
堆 積 し た Al を 含 む ダ ス ト の 溶 融 に よ る ダ ク ト の 閉 塞 を 抑 制 で き る こ と が 確
認できた。
F l ui di zed-bed Ga s i f i er
F l ui di zed-bed Ga s i f i er
Conecti ng duct
Conecti ng duct
R a w m a teri a l
Mel ti ng f urna ce
B i n bl ow
B i n bl ow
Mel ti ng f urna ce
D us t
N on-combus i ti bl es
Air
N on-combus i ti bl es
Figure 13
Blockage prevention in the connecting duct
62
②溶融炉の付着物の溶解除去
31)
Fig.14 に 溶 融 炉 の 付 着 物 の 溶 解 除 去 対 策 を 示 す 。 溶 融 炉 上 部 の 側 面 は 水
冷 チ ュ ー ブ に よ り 冷 却 し て い る こ と か ら ,溶 融 物 が 凝 固 し 内 壁 よ り 付 着 物 が
成 長 し た 。図 に 付 着 物 の 状 況 を 示 す 。こ の 付 着 物 を 溶 解 す る た め ,溶 融 炉 上
部 に 酸 素 バ ー ナ ー お よ び 重 油 バ ー ナ ー を 設 置 し た 。付 着 物 が 炉 内 に 成 長 し た
時はこれらのバーナーで加熱溶融できることが確認できた。
Oxygen
Oil
Burner
Melting furnace
Air
Burner
Oxygen
Ceiling
Conecting
duct
Oil
Figure 14
Air
Adhered
Dissolution removal of the adhered in the melting furnace
63
③ ガ ス 化 炉 の 炉 下 部 に お け る 固 着 物( 以 下 、ク リ ン カ と 記 述 す る )の 生 成 と 除
去対策
32,33)
Fig.15 に ガ ス 化 炉 の 断 面 図 を 示 す 。 ガ ス 化 炉 か ら 流 動 媒 体 で あ る 砂 ( 以
下 , 流 動 砂 と 記 述 す る 。) と シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る 可 燃 物 を ガ ス 化
し た 後 に 残 っ た 不 燃 物( Fe,Cu,ガ ラ ス ,等 )は 炉 下 部 に 設 置 し た シ ュ ー ト
か ら 排 出 さ れ る 。こ の シ ュ ー ト 入 口 部 で ガ ラ ス 成 分 を 主 と す る 流 動 砂 が 滞 留
す る と 溶 融 固 化 し シ ュ ー ト の 壁 に 付 着 し ク リ ン カ が 成 長 す る 。 Table 11 に
流 動 砂 と ク リ ン カ の 分 析 値 を , Fig.16 に ク リ ン カ の 写 真 を 示 す 。 流 動 砂 と
ク リ ン カ の 分 析 値 が ほ ぼ 一 致 し て い る こ と か ら ,ク リ ン カ は 流 動 砂 が 溶 融 固
化したものであることがわかる。
そこで,流動砂はシュレッダーダスト中のガラスが主体であることから,
こ の ガ ラ ス に つ い て 軟 化 ,溶 融 温 度 を 調 べ た 。ア ル ミ ナ ボ ー ト に こ れ ら の ガ
ラ ス を 入 れ , 横 型 環 状 炉 で 873K か ら 100K 毎 に 30 分 間 保 持 し 溶 融 状 況 を 目
視 で 確 認 し た 。 Fig.17 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス の 軟 化 , 溶 融 観 察
結 果 の 写 真 を 示 す 。そ の 結 果 ,973~ 1073K( 700~ 800℃ )で 溶 融 を 開 始 す る
こ と が 確 認 で き た 。こ れ よ り ,流 動 砂 の 滞 留 部 で 局 部 的 に 高 温 と な り 流 動 砂
が溶融し,クリンカとして成長すると考えた。増子ら
34)
は一般廃棄物の流
動 床 式 焼 却 炉 で 同 様 の 現 象 を 検 討 し ,ガ ラ ス 成 分 な ど の 低 融 点 物 質 が 流 動 砂
と と も に 高 温 状 態 の 炉 内 で 流 動 し な が ら ,砂 を 取 り 囲 む よ う に 固 着 生 成 す る
固 着 機 構 が 考 え ら れ る と 報 告 し て い る 。筆 者 の 試 み た シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 処
理 で は 砂 が ガ ラ ス 成 分 で あ り ,こ の 現 象 が 起 こ り や す い 状 態 に あ る と 考 え る 。
上記の固着現象を抑えるためには排出シュート部で砂を滞留させないこ
と が 重 要 で あ る と 考 え ,シ ュ ー ト 部 で 蒸 気 吹 き 込 み に よ る 砂 の 撹 拌 を 行 な っ
た 。シ ュ ー ト 部 で 空 気 を 吹 き 込 む こ と に よ る 撹 拌 も 考 え ら れ た が ,シ ュ ー ト
上 部 で 可 燃 物 が 急 激 に 燃 焼 す る こ と が 予 想 さ れ た た め ,不 活 性 ガ ス と し て 水
蒸 気 を 吹 き 込 ん だ 。 こ こ で , シ ュ ー ト 側 壁 の 温 度 が 373K 以 下 と 低 い た め ,
水 蒸 気 が 水 滴 と な り 砂 の 抜 き 出 し を 悪 く す る 現 象 が 発 生 し た 。こ の 対 応 と し
て ,シ ュ ー ト 内 壁 は 373K 以 上 を 保 つ よ う に 強 制 冷 却 か ら 自 然 冷 却( 水 の 蒸
発 分 だ け 水 を 補 給 す る ) に 変 更 し た 。 32)
し か し ,シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物( ク リ ン カ )の 生 成 に よ る 付 着 の 現 象 を
無 く す こ と は で き な か っ た 。次 に シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 増 す こ
と で 砂 の 滞 留 を 抑 え る , す な わ ち 撹 拌 を 活 発 に す る こ と を 考 え た 。 Fig.15
に示すように炉下部の排出口を半分としシュート断面積当りの砂排出速度
を 増 し , 実 験 を 行 な っ た 。 Table 12 に 砂 排 出 速 度 を 変 化 さ せ た 時 の 実 験 結
64
果 を 示 す 。 ケ ー ス 1 の シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 2000kg/h・ m 2
と し た 場 合 に は ,シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 が 発 生 し 連 続 運
転 は 300h で あ っ た が , ケ ー ス 2 の シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約
4000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は , 連 続 運 転 時 間 は 1300h と な り , シ ュ ー ト 部
で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 は 起 こ ら な い こ と が 確 認 で き た 。 33)
炉下部の排出口
(1)対策前
固着物(クリンカ)
(2)対策後(試験)
排出口を半分にする
Figure 15
Gasification furnace cross section and clinker prevention
65
Table 11
Chemical composition of clinker and flow sand under furnace
(mass%)
Cu
Fe
Zn
Pb
SiO 2
CaO
Al 2 O 3
Na
K
クリンカ
2.3
8.0
0.6
0.0
45.4
10.0
11.7
0.8
0.1
流動砂
2.4
7.4
1.1
0.1
46.2
10.8
10.8
0.7
0.1
10mm
Figure 16
Appearance of clinker
66
Figure 17
Experimental results of dissolution thermometry for glass of the
shredder residue
Table 12
Comparison of operation results when sand exhaust speed is changed
改善前
改善後
可燃物処理量
(kg/h)
1200 ~ 1500
1200 ~ 1500
砂排出速度
(kg/h)
排出シュートの断面積
(m 2 )
2000 ~ 3000
1.28
2000 ~ 3000
0.64
排出面積当りの砂排出速度
(kg/h・m 2 )
2000
4000
1562 ~ 2344
3125 ~ 4687
炉内温度(排出シュート上部)
(K)
550 ~ 600
550 ~ 600
流動空気量
(Nm 3 /h)
1250 ~ 1500
1250 ~ 1500
多量
300
ほぼ無し
1200
固着物の生成
連続運転時間
(h)
67
④溶融炉排ガス道の溶融ダストの付着と除去対策
35)
排 ガ ス 温 度 1473K 程 度 の 排 ガ ス 中 に 含 ま れ る ダ ス ト と 揮 発 金 属 は ,溶 融 炉
上 部 の 排 ガ ス 道( 逆 U 字 管 構 造 )の 内 壁 に 溶 着 し ,ガ ス 道 を 閉 塞 さ せ た 。Table
13 に 付 着 し た ダ ス ト の 分 析 値 を 示 す 。 ス ラ グ 成 分 が 約 50% , 残 り は Zn,Pb
等 の 酸 化 物 で あ る 。Zn,Pb は 蒸 気 と し て 排 ガ ス 中 に 含 ま れ て い た も の が ,酸
化 と 温 度 低 下 に よ り ガ ス 状 か ら 液 状 と な る 。ス ラ グ 成 分 が 固 化 を 開 始 す る 温
度 は 1473~ 1573K 程 度 で あ る 。ダ ス ト が 溶 着 す る と こ ろ の 雰 囲 気 温 度 は 1473
~ 1673K で あ り ,内 壁 表 面 は 外 側 か ら の 冷 却 も あ り 1273K 程 度 で あ る 。こ の
こ と か ら ,固 化 し た ス ラ グ 成 分 と 液 状 の Zn,Pb 酸 化 物 が 混 ざ り ,内 壁 へ 溶 着
す る も の と 考 え た 。そ こ で ,液 状 化 し た Zn,Pb ま た は 蒸 気 の Zn,Pb を 1473K
か ら 1273K に 雰 囲 気 温 度 を 下 げ る こ と で ,ダ ス ト は 固 体 と な り 溶 着 す る 現 象
を 抑 制 で き る と 考 え た 。 Fig.18 に 溶 融 炉 排 ガ ス 道 の 溶 融 ダ ス ト の 付 着 防 止
対策を示す。排ガス道の側面から水を吹き込み,排ガス道の雰囲気温度は
1273K 程 度 で 調 整 し た 。そ の 結 果 ,ダ ス ト は 粒 状 の 固 体 と な り 内 壁 に 溶 着 す
る 現 象 は 抑 え ら れ る こ と が 確 認 で き た 。ま た 粒 状 の 堆 積 し た ダ ス ト は エ ア ブ
ローにより吹き飛ばすことが可能であることも確認できた。
⑤バグフィルターのクロスへのダスト付着と除去対策
36)
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は Zn,Pb,Cu,Cl を 含 む た め ,排 ガ ス を 453K に 冷 却 し
た 後 に 発 生 す る ダ ス ト は 酸 化 物 ,塩 化 物 の 形 態 か ら な る 。こ の ダ ス ト は 潮 解
性がありダストを回収するバグクロスに付着し剥離しない現象が発生した。
こ の 対 策 と し て ,バ グ 入 口 に 消 石 灰 を 吹 き 込 む こ と で ダ ス ト の 潮 解 性 を 抑 え
バ グ ク ロ ス か ら の 剥 離 性 を よ く で き る こ と を 確 認 し た 。 Table 14 に 消 石 灰
吹き込み後のバグダストの分析値を示す。
68
Table 13
CaO
24.0
33.6
SiO 2
10.0
14.1
sampleA
sampleB
Chemical composition of melted dust of duct
Fe 2 O 3
4.3
4.8
Al 2 O 3
2.3
6.1
Cu
19.0
17.1
Zn
14.0
11.0
Pb
1.2
0.9
Na
0.0
0.1
(mass%)
Cl
0.0
0.2
1373~1673K
溶融物が付着
(1)対策前
Water
1223~1323K
粒状の固体
(2)対策後(試験)
Figure 18
Table 14
sampleA
sampleB
SiO 2
10.3
9.5
Prevention from adhesion of melted dust in duct
Chemical composition of dust in bag hause
CaO
17.9
23.1
Al 2 O 3
8.7
7.3
Cu
8.5
6.0
69
Zn
4.8
4.5
Pb
6.0
4.3
Cl
15.6
19.6
(mass%)
SO 4
14.7
12.0
3.5. 実 操 業 へ の 適 用
(1)シュレッダーダスト等処理量,稼働時間の推移
Fig.19 に N 社 の 2001 年 下 期 ~ 2004 年 上 期 の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 等( シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト と 廃 プ ラ ス チ ッ ク の 混 合 物 )処 理 量 と 稼 働 時 間 を 示 す 。シ ュ レ ッ
ダ ー ダ ス ト 等 処 理 量 は 2001 年 下 期 の 4000t/期 か ら 2004 年 上 期 は 6000t/期 に
増 加 し た 。 ま た 稼 働 時 間 は 2003 年 下 期 に は 1300 時 間 の 連 続 運 転 を 達 成 し た 。
7,000
5,000
4,000
3,000
シュレッダーダスト等処理量
amount
ton/termt/期
1,000
operatinghr/期
time
稼働時間
Figure 19
first
half of 2004
2004年上期
2003年下期
second half of 2003
hr/term
first
half of 2003
2003年上期
2002年下期
second
half of 2001
2001年下期
0
second half of 2002
2,000
first
half of 2002
2002年上期
ton/term,
hr/term
t/期 hr/期
6,000
The amount of processed shredder residue and compound of the
waste plastic such as the shredder residue and operating time
(2)有価物回収量
Table 15 に N 社 の 2004 年 上 期 の 月 平 均 の 可 燃 物 処 理 量 , 有 価 物 回 収 量 , ス
ラ グ 発 生 量 を 示 す 。 銅 ス ク ラ ッ プ 60t ( 銅 量 10t ), ア ル ミ ス ク ラ ッ プ 20t
( ア ル ミ 量 10t ) を 回 収 し , 銅 の 回 収 率 は 約 75% で あ っ た 。
Table 15
The amount of the processed such as shredder residue, the amount of
valuable metals collected and the amount of slag developed
(unit : tons/month)
amount
Processed such as shredder residue
Valuable metals Copper scrap
collected
Aluminum scrap
Slag developed
826
60
20
250
70
(3)運転状況
N 社 の ガ ス 化 溶 融 炉 の 運 転 状 況 の 一 例 と し て 炉 床 温 度 と 炉 床 圧 力 ,排 ガ ス の
CO 濃 度 の 経 時 変 化 を Fig.20~ 23 に 示 す 。 炉 床 温 度 は 853~ 873K, 炉 床 圧 力 は
15KPa,溶 融 炉 温 度 は 1473~ 1573K,排 ガ ス の CO 濃 度 は 50ppm 以 下 で 安 定 し た
操 業 を 継 続 し て い る こ と が わ か る 。 Fig.22 の 溶 融 炉 温 度 が 急 激 に 変 化 し て い
temperature(K)
炉床温度(℃)
るところは温度計の清掃時である。
700
973
600
873
500
773
7:00
5:00
3:00
1:00
23:00
21:00
19:00
The fluidized bed temperature
20
15
10
5
5:00
7:00
7:00
3:00
1:00
23:00
21:00
19:00
5:00
Figure 21
17:00
15:00
13:00
11:00
9:00
0
7:00
pressure(kPa)
炉床圧力(kPa)
Figure 20
17:00
15:00
13:00
11:00
9:00
7:00
400
673
The fluidized bed pressure
Figure 22
3:00
1:00
23:00
21:00
19:00
17:00
15:00
13:00
11:00
9:00
7:00
temperature(K)
溶融炉温度 (℃)
1500
1773
1400
1673
1300
1573
1200
1473
1100
1373
1000
1273
Temperature of melting furnace
150
100
50
Figure 23
CO concentration in exhaust gas (12%O 2 )
71
7:00
5:00
3:00
1:00
23:00
21:00
19:00
17:00
15:00
13:00
11:00
9:00
0
7:00
CO (ppm)
200
(4)スラグの溶出試験結果
溶 融 ス ラ グ は FeO-SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 系 で あ り , 重 金 属 は SiO 2 ネ ッ ト ワ ー ク に
取 り 込 ま れ て 溶 出 は し づ ら い 。 Table 16 に ス ラ グ の 溶 出 試 験 結 果 を 示 す 。 全
て 土 壌 汚 染 対 策 法 の 土 壌 溶 出 量 基 準 を 満 足 し て お り ,ス ラ グ は イ ン タ ー ロ ッ キ
ン グ ブ ロ ッ ク 材 と し て 有 効 利 用 し て い る 。N 社 の ス ラ グ を 用 い た イ ン タ ー ロ ッ
キ ン グ ブ ロ ッ ク は 2003 年 に 富 山 県 リ サ イ ク ル 製 品 の 認 定 を 受 け た 。Fig.24 に
インターロッキングブロックの写真を示す。
Table 16
The result of the slag elusion test
Environmental quality
standards for soil quality
Slag
Figure 24
As
Pb
unit : mg/l
Cd
0.01
0.01
0.01
<0.005
<0.01
<0.01
The photograph of interlocking block
72
3.6. 結 言
本 研 究 で は ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 資 源 循 環 プ ロ セ ス に 関 し て ,シ ュ レ ッ ダ
ーダストに含まれるプラスチック等の可燃物を焼却または熱分解する装置と
し て ( 1 ) ス ト ー カ 式 焼 却 炉 , お よ び ( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 を 用 い て ,‘ シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し , 発 生 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Cu
等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’と‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は
熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。さ ら に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト に 関 し
て は ガ ス 化 溶 融 炉 で 処 理 す る 際 の 知 見 が 十 分 に 得 ら れ て い な い の で ,こ の 方 式
を 用 い た 回 収 技 術 開 発 を 試 み ,そ の 問 題 点 を 明 ら か に す る と と も に ,そ の 対 策
技 術 の 開 発 を 行 な っ た 。具 体 的 な 研 究 課 題 と し て 以 下 の 項 目 が あ り ,各 項 目 に
ついて検討した。
( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ ク 等 を
焼 却 す る 時 に シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス が 溶 融 す る と ,燃 焼 が 不 安 定 に な
る こ と と , 溶 融 固 化 し た 焼 却 灰 が Cu, Fe 等 の 金 属 片 や 金 属 線 に 溶 着 し 後 工 程
で 金 属 片 や 金 属 線 と 焼 却 灰 の 分 離 が 難 し く な る こ と か ら ,焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な
い温度範囲を検討した。
( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , シ ュ レ ッ ダ ー 中 の Al が 飛 散 し , ガ ス 化 炉 と 溶
融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト で 溶 融 す る こ と に よ り ,ダ ク ト を 閉 塞 さ せ な い 条 件 を 検 討
した。
( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 の ガ ス 化 炉 に お い て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の プ ラ ス チ ッ
ク 等 を ガ ス 化 す る 時 に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の ガ ラ ス に 起 因 す る 炉 下 部 に お
け る 固 着 物( ク リ ン カ )を 生 成 さ せ な い ,す な わ ち ,炉 内 で ガ ラ ス を 溶 融 さ せ
ない操業温度などの運転条件を検討した。
( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 道 で ダ ス ト が 溶 融 し 内 壁 に 溶 着 さ せ な い
温度条件などを検討した。
( 5 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 中 の 塩 化 物 を 多 く 含 む ダ ス ト が 集 塵 設 備
のバグクロスに付着させない条件を検討した。
( 6 ) 非 鉄 製 錬 工 程 で , 焼 却 灰 , 飛 灰 中 の Cu, Pb, Zn を 回 収 で き る こ と を 確
認した。
そ し て ,実 験 結 果 か ら シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再 資 源 化 に 関 し て ,以 下 の こ と
がわかった。
( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 を 超 高 速 昇 温 炉 で 高 温 保 持 し 溶
融状態を観察した。その結果,1473K な ら び に 1573K で は 部 分 的 な 溶 融 が
認 め ら れ , 1673K で 均 一 融 体 が 生 成 し て い る こ と が 観 察 で き た 。 従 っ て ,
73
1473K 以 下 で 焼 却 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を 873K 程 度 で 制 御 し , か つ
ビ ン ブ ロ ー を 行 う こ と で ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト に 堆 積 し た Al を 含
むダストの溶融によるダクトの閉塞を抑制できることが確認できた。
( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,ガ ス 化 炉 か ら 流 動 媒 体 の 砂( 流 動 砂 )と シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る 可 燃 物 を ガ ス 化 し た 後 に 残 っ た 不 燃 物( Fe,Cu,ガ ラ
ス ,等 )は 炉 下 部 に 設 置 し た シ ュ ー ト か ら 排 出 さ れ る 。こ の シ ュ ー ト 入 口 部 で
ガラス成分を主とする流動砂が滞留すると溶融固化しシュートの壁に付着し
固 着 物 が 成 長 す る 。流 動 砂 と 固 着 物 の 分 析 値 が ほ ぼ 一 致 し 、固 着 物 は 流 動 砂 が
溶 融 固 化 し た も の で あ る こ と が わ か っ た 。ま た ,流 動 砂 は シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト
中 の ガ ラ ス が 主 体 で あ り 、 こ の ガ ラ ス は 973~ 1073K で 溶 融 を 開 始 す る こ と を
確認した。上記より、流動砂の滞留部で局部的に高温となり流動砂が溶融し、
固 着 物 と し て 成 長 す る た め ,ガ ス 化 炉 で は 砂 を 滞 留 さ せ な い こ と が 重 要 で あ る
と 考 え ,シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 増 す 実 験 を 行 な っ た 。シ ュ ー ト 断
面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 2000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固
着 物 の 生 成 に よ る 付 着 が 発 生 し た が , 砂 排 出 速 度 を 約 4000kg/h・ m 2 と し た 場
合には,シュート部で溶融固着物の生成による付着は起こらなかった。
( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 温 度 1473K 程 度 の 排 ガ ス 中 に 含 ま れ る ダ
ス ト と 揮 発 し た 金 属 が ,溶 融 炉 上 部 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 に 溶 着 し ,ガ ス 道 を 閉 塞
さ せ た 。溶 着 物 は ス ラ グ 成 分 が 約 50% ,残 り は Zn,Pb 等 の 酸 化 物 で あ っ た 。ダ
ス ト が 溶 着 す る と こ ろ の 雰 囲 気 温 度 は 1473~ 1673K,内 壁 表 面 は 外 側 か ら の 冷
却 も あ り 1273K 程 度 で あ り ,固 化 し た ス ラ グ 成 分 と 液 状 の Zn,Pb 酸 化 物 が 混 ざ
り ,内 壁 へ 溶 着 す る も の と 考 え た 。 そ こ で , 液 状 化 し た Zn,Pb ま た は 蒸 気 の
Zn,Pb を 1473K か ら 1273K に 雰 囲 気 温 度 を 下 げ る こ と で ,ダ ス ト は 固 体 と な り
溶 着 す る 現 象 を 抑 制 で き る と 考 え ,排 ガ ス 道 の 側 面 か ら 水 を 吹 き 込 み ,排 ガ ス
道 の 雰 囲 気 温 度 を 1273K 程 度 と し た 。そ の 結 果 ,ダ ス ト は 粒 状 の 固 体 と な り 内
壁に溶着する現象は抑えられることを確認できた。
( 5 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,発 生 す る ダ ス ト は 酸 化 物 ,塩 化 物 の 形 態 か ら な
る 。こ の ダ ス ト は 潮 解 性 が あ り ダ ス ト を 回 収 す る バ グ ク ロ ス に 付 着 し 剥 離 し な
い 現 象 が 発 生 し た 。バ グ 入 口 に 消 石 灰 を 吹 き 込 む こ と で ダ ス ト の 潮 解 性 を 抑 え
バグクロスからの剥離性をよくできることを確認した。
( 6 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 ,飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 し ,
焼 却 灰 , 飛 灰 中 の Cu, Pb, Zn を 回 収 で き る こ と を 確 認 し た 。
得られた成果を N 社の流動床式ガス化溶融炉の操業に適応させ,連続運転
74
1300 時 間 を 達 成 し ,年 間 12000t の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 再 資 源 化 可 能 と し た 。
参考文献
1) 厚 生 省 生 活 衛 生 局 水 道 環 境 部 廃 棄 物 対 策 室 : シ ュ レ ッ ダ ー 処 理 さ れ る 自 動
車 及 び 電 気 機 械 器 具 の 事 前 選 別 ガ イ ド ラ イ ン , (1995)3.
2)環 境・循 環 型 社 会 白 書
平 成 20 年 度 版 ,環 境 省 編 ,ぎ ょ う せ い ,(2008)200.
3) 西 山 孝 :資 源 と 素 材 , 113(1997)1022.
4) 林 床 作 : Journal of MMIJ,123(2007),602.
5) 清 水 隆 : Journal of MMIJ,123(2007),614.
6) 森 瀬 崇 史 , 仲 雅 之 , 白 鳥 寿 一 : Journal of MMIJ,123(2007),758.
7) 赤 木 進 , 青 木 威 尚 , 米 田 寿 一 , 成 迫 誠 , 日 野 順 三 : Journal of
MMIJ,123(2007),762.
8) 日 野 順 三 : 資 源 と 素 材 , 113(1997),1032.
9) 日 野 順 三 , 片 桐 知 己 : 資 源 と 素 材 , 113(1997),1043.
10)芝 池 秀 治 : 大 阪 冶 金 会 誌 , 46(2006),13.
11)西 脇 道 雄 , 林 床 作 : 資 源 と 素 材 , 121(2005),357.
12)和 田 英 二 : 社 会 鉄 鋼 工 学 部 会 フ ォ ー ラ ム B 鉄 鋼 資 源 循 環 シ ス テ ム と 環 境 技
術 2002 年 秋 季 講 演 大 会 シ ン ポ ジ ウ ム 予 稿 集 , 31.
13)岡 田 敏 彦 : 社 会 鉄 鋼 工 学 部 会 フ ォ ー ラ ム B 鉄 鋼 資 源 循 環 シ ス テ ム と 環 境 技
術 2002 年 秋 季 講 演 大 会 シ ン ポ ジ ウ ム 予 稿 集 , 43.
14)富 樫 林 太 郎 , 佐 藤 孝 之 , 渥 美 貴 弘 : 資 源 と 素 材 , 120(2004),288.
15)日 野 順 三 , 宮 林 良 次 : 高 温 学 会 誌 2 ( 1 9 9 9 ) , 5 9 .
1 6 ) タ ク マ 環 境 技 術 研 究 会 :“ ご み 焼 却 技 術 ”, オ ー ム 社 ( 2 0 0 3 ) , 2 4 5 .
1 7 ) 石 川 禎 昭 :“ ご み 処 理 溶 融 技 術 ”, 日 報 ( 2 0 0 1 ) , 3 2 .
18)川 端 輝 満 , 資 源 と 素 材 , 109(1993)79.
19)木 村 隆 : Journal of MMIJ,123(2007),626.
20)星 川 嘉 彦 : Journal of MMIJ,123(2007),597.
21) K.Sakamoto, Y.Miyabayashi and J.Hino, Metallurgical Review of
MMIJ,12(1995)63.
22) 日 野 順 三 ,宮 林 良 次 ,資 源・素 材 関 係 学 協 会 合 同 秋 季 大 会 素 材 プ ロ セ ッ シ
ン グ , (1997)29-32
23) 日 野 順 三 , 宮 林 良 次 , 第 9 回 廃 棄 物 学 会 研 究 発 表 会 論 文 集 , (1998)468.
75
24) Y.Miyabayashi, J.Hino and T.Nagato, Metallurgical Review of
MMIJ,15(1998)63-74
25) Y.Miyabayashi and J.Hino, 第 5 回 東 ア ジ ア リ サ ク ル 技 術 シ ン ポ ジ ウ ム ,
(1999)78-81
26)石 川 禎 昭 :“ ダ イ オ キ シ ン 類 の 法 規 制 と 対 策 ”, オ ー ム 社 ( 2 0 0 1 ) , 6 6 .
27)廣 勢 哲 久 , 牧 野 安 男 , 入 江 正 昭 , 折 原 俊 哉 , 福 岡 大 作 , 高 野 和 夫 , 今 泉 隆
司 , 吉 岡 学 , 原 田 憲 一 , 原 田 秀 明 : エ バ ラ 時 報 , 180( 1998) 26.
28)高 沢 洋 一 , 河 合 志 郎 : 特 開 平 11-302748
29)高 沢 洋 一 , 川 崎 靖 人 , 浅 井 和 宏 , 河 合 志 郎 : 特 開 2001-41436
30)仲 西 郁 朗 , 高 野 和 夫 , 入 江 正 昭 , 高 沢 洋 一 , 宮 林 良 次 : 特 開 2005-30664
31)仲 西 郁 朗 , 高 野 和 夫 , 入 江 正 昭 , 高 沢 洋 一 , 宮 林 良 次 : 特 開 2005-30662
32)仲 西 郁 朗 , 高 野 和 夫 , 入 江 正 昭 , 高 沢 洋 一 , 宮 林 良 次 : 特 開 2005-30665
33)宮 林 良 次 , 能 登 久 次 , 矢 部 彰 二 : 特 開 2005-282960
34)増 子 知 樹 ,岩 本 聡 浩 ,占 部 武 生:東 京 都 清 掃 研 究 所 研 究 報 告 ,28(1998),138.
35)宮 林 良 次 , 能 登 久 次 : 特 開 2005-273968
36)仲 西 郁 朗 , 高 野 和 夫 , 入 江 正 昭 , 高 沢 洋 一 , 宮 林 良 次 : 特 開 2005-30663
76
第4章
廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とそ
の流動性の解析
4.1. 緒 言
非鉄製錬技術を利用した廃棄物処理プロセスは,高温溶融技術に優れ
て お り ,こ の 技 術 を 利 用 し た プ ロ セ ス に 対 し て 処 理 ニ ー ズ の 高 い 廃 棄 物
と し て ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト ,鉛 含 有 ガ ラ ス ,石 綿 含 有 物 が あ げ ら れ る 。
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト は 廃 自 動 車 ,廃 家 電 品 の リ サ イ ク ル 事 業 者 か ら F e ,
Al, Cu 等 を 回 収 し た 後 に 発 生 す る 残 渣 で あ る 。 こ れ ら は , Cu を 1~ 5%
含 有 し て お り ,C u 等 の 有 価 物 の 再 資 源 化 が 求 め ら れ て い る 。シ ュ レ ッ ダ
ー ダ ス ト は 廃 プ ラ ス チ ッ ク 等 の 可 燃 物 を 30~ 70%, 塩 素 を 3~ 5%含 有 し
ていることから,第3章では可燃物の予備焼却処理により,これらを除
去した残渣(焼却灰)を溶融処理し銅を効率的に回収する方法を検討し
た 結 果 に つ い て 述 べ た 。 1,2)
鉛含有ガラス屑は,廃家電品リサイクル工場から,ブラウン管や液晶
パ ネ ル を リ サ イ ク ル す る 際 に 発 生 す る 。P b を 無 害 化 し 資 源 リ サ イ ク ル す
る た め に は , 鉛 回 収 技 術 を 有 す る 溶 融 処 理 が 望 ま し い 。 3)
また,石綿(アスベスト)含有廃棄物については,建築物の解体に伴
って,スレート等の石綿含有建材,吹き付け石綿,石綿含有家庭用品等
の 廃 棄 物 が 今 後 , 大 量 に 発 生 す る 。 Fig.1 に 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 処 理 の 流
れ を 示 す 。 こ れ ら は , 国 内 に 今 後 30 年 間 で 4300 万 ト ン を 超 え る 量 が 発
生 し , 毎 年 100 万 ト ン /年 以 上 発 生 す る と 言 わ れ て い る 。 廃 石 綿 含 有 廃
棄 物 は ,飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 と 非 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 に 廃 棄 物 処 理 法 で 区 別
されている。飛散性石綿廃棄物は,建築物の吹き付け石綿および石綿を
含 有 し た 保 温 材 で 除 去 作 業 時 に 飛 散 の 恐 れ が あ る も の で ,廃 棄 物 処 理 法
では特別管理産業廃棄物に指定されている。非飛散性石綿廃棄物は,石
綿がセメント,珪酸カルシウム等と一体化したもので,特別管理産業廃
棄 物 に は 指 定 さ れ て い な い が ,破 壊 ま た は 破 断 時 に 飛 散 の 恐 れ が あ る 廃
棄物である。特に,飛散性石綿廃棄物を溶融処理できる産業廃棄物処理
業 の 許 可 業 者 は 国 内 に 15 社 ( 2005 年 8 月 時 点 ) し か な く , 2004 年 度 に
処 理 さ れ た 飛 散 性 石 綿 廃 棄 物 は 18,334 ト ン , そ の 内 , 溶 融 処 理 は 1315
ト ン で あ っ た と 報 告 さ れ て い る 。4 ) 5 ) 同 年 の A 社 の 溶 融 処 理 量 は 2 4 6 ト
ンであった。現在,これらのほとんどは埋立処分されていることから,
石綿含有廃棄物の溶融処理
6- 8)
についても社会的ニーズが高い。
77
F i g u re 1
F l o w o f p ro c e s s i n g o f a s b e s t o s
こ の よ う に 種 々 の 廃 棄 物 を 安 全 に 無 害 化 ,な ら び に 再 資 源 化 す る 溶 融
処 理 技 術 の 確 立 が 望 ま れ て い る 。 こ こ で , 廃 棄 物 に 含 ま れ る Cu を リ サ
イ ク ル す る こ と を 主 目 的 と す る 廃 棄 物 溶 融 炉 と し て ,次 の プ ロ セ ス を 開
発 し た 。 廃 棄 物 溶 融 炉 の 概 略 図 を Fig.2 に 示 す 。 炉 本 体 は , 長 さ 11m,
幅 4 m , 高 さ 4 m の 耐 火 物( レ ン ガ )構 造 で あ り ,廃 棄 物 等 の 原 料 は 天 井 部
に設置した 7 つの原料装入口から投入する。原料は,3 本の重油バーナ
ーによる火炎で溶解する。高温の火炎を得るため,燃焼空気には酸素を
富 化 し て い る 。 3),9- 11)廃 棄 物 等 の 原 料 に 含 ま れ る Cu は,金属または酸化
物の形態が主であり,原料と と も に 硫 化 鉄 鉱 ( FeS2) を 投 入 し マ ッ ト に 濃
縮 す る 。こ の と き ,A u お よ び A g 等 も C u に 付 随 し て マ ッ ト に 吸 収 さ れ る 。
一 方 , 主 要 成 分 で あ る 原 料 中 の Fe2O3,SiO2,Al2O3 お よ び CaO 等 は , 安 定
したガラス質のスラグを形成する。マット(硫化物)とスラグは,溶体
の比重差により分離する。代表的な原料ならびにマット,スラグの組成
の 例 を Table 1, 2, 3 に 示 す 。
上記の廃棄物溶融炉では,シュレッダーダストの焼却灰,ガラス屑,汚泥,
ばいじん等の種 々 の 廃 棄 物 ( Fe の 多 い も の ,SiO2 の 多 い も の ,Al2O3 の 多
いもの等)を目標のスラグ組成となるように配合し溶解している。スラ
グ 温 度 は , 炉 体 構 造 , 加 熱 能 力 か ら 1573K 付 近 で 調 整 す る 。 ス ラ グ 温 度
が鉄鋼製錬プロセスと比べて低いために,スラグの液相領域は狭く,固
相が析出しやすい。そのため,廃棄物の中で低融点組成の部分から溶解
を 開 始 し ,液 相 領 域 の 組 成 に 入 る よ う に 他 の 廃 棄 物 の 表 面 に 接 触 し な が
78
ら溶解が進行する。この過程で安定操業の阻害要因である高融点の「未
溶解物」が生成する。ここで,未溶解物とは,廃棄物の中で融点の高い
部 分 が 溶 け 残 っ た も の や ,一 旦 は 溶 解 し た が 融 体 の 温 度 低 下 に よ り 固 相
と し て 析 出 し た も の と 定 義 す る 。 ま た , 処理プロセスで発生するメタルを
完 全 に 酸 化 す る こ と が で き な い た め , 廃 棄 物 中 の 金 属 成 分 ( F e ,S U S ) は 溶
融スラグとならず,炉底で固体のメタル層を形成しやすい。
しかし,廃棄物溶融炉における廃棄物の溶解過程に関する知見は少な
いことから,安定した操業を継続する指針を得るため,廃棄物の溶解お
よび固相析出挙動に関する基礎的な解析が望まれている。
そこで本研究では,まず,廃棄物溶融炉の主要な原料であるシュレッ
ダーダストの焼却処理残渣(焼却灰)について,溶融炉の操業温度の指
針を得るために,均一融体を生成する温度を測定した。次に,廃棄物溶
融 炉 の ス ラ グ と 未 溶 解 物 に つ い て ,流 動 性 測 定 と 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し
た 相 平 衡 解 析 を 行 な い ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相
領 域 と そ の 流 動 性 に つ い て 解 析 し た 。 最 後 に ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処
理について,熱力学データを利用した相平衡解析を行ない,溶融処理条
件について検討した。
4m
Charge hoppers
Slag
Flame
Raw material
Burners
Matte
11m
Figure 2
Schematic drawing of the melting furnace
79
Table 1
Chemical Composition of raw materials of the melting furnace
Cu
2
0
0
6
0
0
Dirt A
Dirt B
Dust
Ash
Glass waste
Asbestos
Table 2
Cu
1
1
0
1
3
0
Zn
29
Fe
1
1
1
1
0
0
CaO
10
50
0
8
1
2
Fe
1
Table 3
0.4
Zn
SiO 2
8
10
15
10
1
1
(mass%)
MgO
Al2O3
10
2
52
24
70
52
8
2
10
24
5
4
0
0
0
1
0
37
Chemical Composition of matte of the melting furnace
Pb
Cu
Pb
1
S
38
CaO
20
SiO2
0.1
(mass%)
Al2O3
MgO
0.1
0.1
0
Chemical Composition of slag of the melting furnace
Pb
Zn
0.1
Fe
0.5
S
20
CaO
0.5
(mass%)
Al2O3
MgO
SiO 2
10
29
7
3
4.2. 廃 棄 物 の 溶 解 温 度 の 測 定
先ず最初に廃棄物溶融炉の主原料のひとつであるシュレッダーダス
トの焼却灰について溶解温度を測定した。
4.2.1. 試 料
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 炉 で 焼 却 し 発 生 し た 焼 却 灰 ( 主 灰 ) を 1mm
の 篩 で 篩 い 分 け て 金 属 片 を 除 き , 篩 下 を 試 料 と し た 。 Table 4 に 分 析 値
を 示 す 。 Cu,Zn,Fe の ほ と ん ど は 酸 化 物 と し て 存 在 す る 。
Bottom ash
Table
4
Cu
Pb
6.0
0.5
Chemical Composition of bottom ash
Zn
2.0
Fe
S
7.6
1.4
CaO
9.8
SiO2
24.2
Al2O3
24.0
(mass%)
Na2O
C
2.8
5.0
4.2.2. 測 定 方 法
試 料 30g を ア ル ミ ナ る つ ぼ に 入 れ , 超 高 速 昇 温 電 気 炉 で 高 温 保 持 し 溶
融 状 況 を 観 察 し た 。 保 持 温 度 は , 1373K か ら 100K 刻 み で , 1473, 1573,
80
1 6 7 3 K と し ,保 持 時 間 は 3 0 分 と し た 。保 持 終 了 後 ,電 気 炉 か ら 取 り 出 し
冷却した。冷却後,垂直方向に切断し,断面を目視観察した。
4.2.3. 結 果
高 温 保 持 後 の 焼 却 灰 の 断 面 写 真 を F i g . 3 に 示 す 。1 3 7 3 K で は 溶 融 せ ず ,
1 4 7 3 K 並 び に 1 5 7 3 K で は 部 分 的 な 溶 融 が 認 め ら れ ,1 6 7 3 K で 均 一 融 体 が 生
成していることが観察できた。 従って,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 処 理 す
る こ と に よ っ て 得 ら れ た 焼 却 灰 を 溶 融 す る た め に は 少 な く と も 1673K 程
度の温度まで加熱する必要があることが明らかになった。なお,3 章
3.3.3. で は 本 実 験 で ス ト ー カ 式 焼 却 炉 の 炉 内 で 焼 却 灰 を 溶 融 さ せ な い
条件を検討した。
1473K
1373K
1573K
Figure 3
1673K
Experimental results of dissolution thermometry for bottom ash
4.3. 廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 及 び 未 溶 解 物 の 流 動 性 測 定
未 溶 解 物 を 処 理 す る 操 業 温 度 の 指 針 を 得 る た め ,廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ
グおよび未溶解物の流動性を測定した。
4.3.1 試 料
廃棄物溶融炉のスラグ排出口にて,スラグおよび未溶解物を採取し,
81
こ れ ら を 粉 砕 し た も の を 試 験 試 料 と し た 。未 溶 解 物 は 溶 融 ス ラ グ 上 に 半
溶 融 状 態 で 浮 上 し な が ら 排 出 さ れ る 。 試 料 の 分 析 値 を Table 5 に 示 す 。
Fe は , FeOx ( X=1 ~ 1.33) の 形 態 で 存 在 す る 。
Table 5
Chemical composition of slag and non-dissolved compound
(mass%)
Cu
Pb
Zn
Fe
S
CaO
SiO2
Al2O3
MgO
Na2O
K2O
Slag
0.3
0
1
20
0
15.4
32.1
13.0
3.2
2.8
2.3
Non-dissolved
compound
6.0
1
2
29
3
9.9
18.4
10.4
2.9
1.8
0.7
Non-dissloved compound (半溶融状態)
Slag(溶融状態)
Matte
4.3.2. 流 動 性 測 定 方 法
溶融スラグの融点,流動性を評価するには,精度のよい回転円筒法等
による粘度測定方法
12)
が 用 い ら れ て い る が ,本 研 究 で は 下 記 に 示 す 簡 易
的な方法で流動性を評価した。
試 験 装 置 の 概 略 図 を F i g . 4 に 示 す 。粉 砕 し た 試 料 を 長 さ 約 1 4 c m ,幅 約
1 . 5 c m の ア ル ミ ナ ボ ー ト ( 主 材 質 : Mullite ,化 学 組 成 : SiO 2 66%, Al 2 O 3 28%)
に 8 g 装 入 す る 。試 料 は ボ ー ト の 片 側 半 分 に 入 れ ,5 度 の 傾 斜 を 持 た せ て 横 型
管 状 炉 に 配 置 す る 。昇 温 保 持 中 の 試 料 の 過 剰 な 酸 化 を 抑 え る た め ,管 状 炉 内
は 窒 素 雰 囲 気 ( N2
99.99% ) と し , 所 定 温 度 で 15 分 間 保 持 す る 。 そ の
後,冷却し,先端部の流下長さから流動性を評価する。保持温度は,ス
ラ グ に つ い て は 1273 か ら 1373K ま で , 未 溶 解 物 は 1398 か ら 1498K ま で
と し , 両 者 と も 25K 毎 に 試 験 を 行 な っ た 。 保 持 温 度 の 下 限 は , 目 視 で 溶
融 開 始 が 観 察 さ れ た 温 度 と し た 。予 備 実 験 に 基 づ く と ,流 下 長 さ が 3 . 5 c m
以上になると,試料が均一に溶融しているように見え,廃棄物溶融炉内
の融体としては流動性も良好と判断している。
4.3.3. 流 動 性 の 測 定 結 果
廃 棄 物 溶 融 炉 ス ラ グ の 流 動 性 の 測 定 結 果 を Fig.5 に 示 す 。 1273K 付 近
か ら 溶 融 を 開 始 し , 1348K で 良 好 な 流 動 性 を 示 す こ と が わ か っ た 。
未 溶 解 物 の 流 動 性 の 測 定 結 果 を Fig.6 に 示 す 。 1398K 付 近 か ら 溶 融 を
82
開 始 し , 1498K で 良 好 な 流 動 性 を 示 す こ と が わ か っ た 。
Fig.5,6 に 示 す 流 動 性 の 測 定 結 果 よ り , 未 溶 解 物 に つ い て 1348K に お
け る ス ラ グ の 流 動 性 と 同 等 の 流 動 性 を 得 る に は , ス ラ グ よ り 125K 高 い
1473K の 温 度 が 必 要 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
SiC heating elements
Sample
Thermocouple
Gas outlet
N2 inlet
Alumina boat
Figure 4
Schematic diagram of experimental apparatus for fluidity
7.0 cm
7.0 cm
1273K
1298K
1.2 cm
1323K
3.8 cm
1348K
1373K
Figure 5
M o r e t h an 7 . 0 cm
Experimental results of fluidity of slag
7 . 0 cm
7.0 cm
1 3 9 8K
0.5 cm
1 4 2 3K
1.7 cm
1 4 4 8K
4.2 cm
1 4 7 3K
5.7 cm
1 4 9 8K
Figure 6
Experimental results of fluidity of non-dissolved compound
83
4.4. 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 の 解 析
熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し て ,廃 棄 物 溶 融 炉 ス ラ グ な ら び に 未 溶 解 物 に つ
いての相平衡を解析し,固相析出温度,析出物,完全液相領域の推定を
行なった。
4.4.1 溶 融 炉 ス ラ グ
溶 融 炉 ス ラ グ に つ い て , 酸 素 分 圧 logPo2/atm= -7,-9,-11 の 3 条 件 で
熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し て 相 平 衡 を 解 析 し , 1773K か ら 1273K へ の 冷 却 過
程 で 固相 析 出 温 度 , 析 出 物 の 組 成 , 単 一 液 相 温 度 域 を 求 め た 。 溶 融 炉 ス
ラグの酸素分圧については酸素センサーを炉の天井からスラグ層に浸
漬 さ せ logPo2/atm= -9~ -11 で あ っ た こ と か ら , logPo2/atm= -7,-9,-11
の 3 条 件 と し た 。 SiO2,CaO,Fe,Al2O3,Na2O,K2O,MgO などの酸化物成分から
な る 各 種 化 合 物 相 ,液 相 の 生 成 自 由 エ ネ ル ギ ー な ら び に 液 相 に お け る 活 量 の 情
報 を 含 む デ ー タ フ ァ イ ル を 作 成 し , Fact Sage( バ ー ジ ョ ン 5.4) を 用 い て 相
平衡計算を行なった。入 力 成 分 は , 主 要 含 有 成 分 で あ る SiO2,CaO,Fe,
A l 2 O 3 , N a 2 O , K 2 O , M g O と し ,気 相 総 圧 1atm 下 に お い て ,所 定 の 酸 素 分 圧 で 平
衡 状 態 の 計 算 評 価 を 行 な っ た 。な お ,F a c t S a g e を 用 い た 計 算 で は 、上 記
の成分を含む種々の物質系に対して,本研究の温度・圧力の条件におい
ては相平衡の実験結果を再現できることを確認している。
Fig.7 に 溶 融 炉 ス ラ グ に つ い て , 各 主 要 化 合 物 相 に 対 す る 酸 素 分 圧 お
よび温度と固相の存在領域に関する比較を示す。図中で■は,固相の存
在を示し,
は液相領域を示す。酸 素 分 圧 logPo2/atm= -7 で は , 1603K 以
上 で 完 全 液 相 領 域 で あ る が , 1603K で Fe3O4 相 が 析 出 を し 始 め る 。
l o g P o 2 / a t m = - 9 の 条 件 に 対 し て は ,1 4 9 9 K 以 上 で は 完 全 液 相 領 域 で あ る が ,
1 4 9 9 K で F e 3 O 4 相 が 析 出 す る 。 計 算 結 果 に お い て FeO が 析 出 し な い 理 由 は ,
溶 融 炉 ス ラ グ の SiO 2 濃 度 が 32%で あ り , FeO は SiO 2 と 反 応 し て Fe 2 SiO 4 を 生 成
後 ,CaO と さ ら に 反 応 し て 融 体 と な る た め と 考 え る 。l o g P o 2 / a t m = - 1 1 で は ,
1581K 以 上 で は Fe 相 が 存 在 す る が , 1581K で Fe 相 が 一 旦 消 失 し , 完 全
液 相 を 示 す が , 1434K で KAlSi2O6 相 が , 1406K で Fe3O4 相 が 析 出 す る 。
Fig.8 に 溶 融 炉 ス ラ グ に つ い て 酸 素 分 圧 お よ び 温 度 に 対 す る 液 相 の 比
率 と ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 を 示 す 。 固 相 と し て Fe3O4 相 が 析 出 す る
こ と か ら Fe3O4 相 の 析 出 量 の 増 加 と と も に ス ラ グ 中 の FeOX の X の 値 が 増
加 し て い る こ と が 考 え ら れ ,こ の X 値 に 対 応 す る 値 と し て ス ラ グ 中 の 酸
素のモル濃度を示している。図中で実線が液相の比率を,点線が酸素の
84
モ ル 濃 度 を 示 す 。 酸 素 分 圧 logPo2/atm= -7 で は , 1603K で Fe3O4 相 が 析
出 を 開 始 し , 液 相 の 比 率 は , 温 度 低 下 に 伴 い 1 4 7 3 K で 78% , 1 3 7 3 K で 4 9 %
に 低 下 す る 。 ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 は , 完 全 液 相 領 域 で 58%, 固 相
が 析 出 す る と 59%程度に上昇する。 logPo2/atm= -9 で は , 1499K で Fe3O4
相 が 析 出 を 始 め , 液 相 の 比 率 は , 温 度 低 下 に 伴 い 1473K で 92%, 1373K
で 72%に 低 下 す る 。 ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 は , logPo2/atm= -7 と 同
じ 傾 向 で あ る 。 logPo2/atm= -11 で は , 1581K 以 上 で は Fe 相 が 存 在 し ,
1 6 7 3 K で 液 相 の 比 率 は 8 5 % で あ る 。1 4 3 4 K か ら 1 5 8 1 K ま で の 範 囲 は 単 一 液
相 を 示 す が , 1434K で KAlSi2O6 が , 1406K で Fe3O4 相 が 析 出 し , 1373K で
液 相 の 比 率 は 87%で あ る 。 ス ラ グ 中 の 酸 素 の モ ル 濃 度 は , Fe 相 が 存 在 す
る 1581K 以 上 で は 59%程 度 , 1434K か ら 1581K ま で の 範 囲 は 58%, 1434K
以 下 で は 固 相 が 析 出 し , 59%程 度 と な る 。
Fig.7,8 よ り 酸 素 分 圧 と 固 相 析 出 温 度 , 液 相 の 比 率 の 関 係 か ら 次 の こ
とがわかった。
① 酸 素 分 圧 が 小 さ く な る ( 還 元 雰 囲 気 が 強 く な る ) ほ ど , Fe3O4 相 の 析
出 温 度 が 下 が る 。 ち な み に , logPo2/atm = -7 で 1603K か ら logPo2/atm =
- 9 で 1 4 9 3 K と な る 。液 相 の 比 率 も 同 様 の 傾 向 で 酸 素 分 圧 が 低 い 方 が 低 温
側 で 大 き な 値 と な っ て い る 。 こ れ よ り , 未 溶 解 物 の 主 成 分 が Fe3O4 と な
る よ う な 場 合 , す な わ ち , 廃 棄 物 中 の Fe 含有量が多い場 合 に は , 炉 内 の
酸 素 分 圧 を 下 げ る こ と が Fe3O4 相 の 析 出 を 抑 え る こ と に 有 効 で あ り , 廃
棄 物 溶 融 炉 の 操 業 で は ,可 燃 物 配 合 比 の 増 加 や 炭 材 の 添 加 が 有 効 で あ る
と考えられる。
②
logPo2/atm= -11 で は , 1583K よ り 高 温 で 固 相 の 鉄 が 存 在 す る 。
logPo2/atm= -7,-9 で は , 固 相 の 鉄 は 存 在 し な い 。 固 相 の 鉄 は 比 重 が ス
ラ グ 3.5 に 対 し 8 と 大 き い た め , 液 相 の 下 ( 炉 底 ) に 沈 み 固 化 す る と 考
えられる。
③ 4 . 3 . 3 節 の 溶 融 炉 ス ラ グ の 流 動 性 測 定 の 結 果 に よ れ ば ,1 3 4 8 K で 良 好
な 流 動 性 を 示 し た 。 同 温 度 は logPo2/atm= -11 の 条 件 で 液 相 の 比 率 が 80
~ 90%と な っ た と こ ろ と 対 応 し て い る 。
こ の よ う に , 流 動 性 測 定 の 結 果 と 熱 力 学 デ ー タ を利用した 相平衡の 解
析 の 結 果 は 良 い 一 致 を 示 し て お り ,相 平 衡 解 析 は 廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 指
針を得るために流動性測定の代替として利用できることがわかった。
85
:Solid phase
log Po2 /atm = -7
1273
:Liquid phase
Temperature (K)
1373
1473
1573
1673
Fe3 O4
KAlSi2 O6
1603K
CaAl2 Si2 O8
Mg2 Si2 O6
CaMgSi2 O6
Ca2 MgSi2 O7
NaAlSiO4
Ca3 Fe2 Si3 O12
Temperature (K)
1473
log Po2 /atm = -9
1273
1373
1573
1673
1573
1673
Fe3 O4
KAlSi2 O6
1499K
Mg2 Si2 O6
CaAl2 Si2 O8
Ca2 MgSi2 O7
CaMgSi2 O6
Temperature (K)
1473
log Po2 /atm = -11
1273
1373
Fe3 O4
KAlSi2 O6
Mg2 Si2 O6
1434K
CaAl2 Si2 O8
Ca2 MgSi2 O7
1581K
Solid Fe
CaMgSi2 O6
Fe
Figure 7
Effects of temperature and oxygen potential on the precipitation of
solid compounds in molten slag
86
Ratio of liquid phase (%)
80
58
60
56
40
Ratio of liquid phase
54
20
O cocentration in slag
52
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
Temperature (K)
1573
1623
50
1673
(2) log Po 2 /atm = -9
100
60
58
80
56
60
40
Ratio of liquid phase
54
20
O cocentration in slag
52
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
Temperature (K)
1573
1623
50
1673
O concentration in
slag(mol%)
Ratio of liquid phase (%)
60
O concentration in
slag(mol%)
(3) log Po 2/atm = -11
100
60
80
58
56
60
40
Ratio of liquid phase
54
20
O concentration in slag
52
0
1273
Figure 8
1323
1373
1423
1473
1523
Temperature (K)
1573
1623
50
1673
O concentration in
slag(mol%)
Ratio of liquid phase (%)
(1) log Po 2 /atm = -7
100
Effects of temperature and oxygen potential on the ratio of liquid
phase of slag in melting furnace
87
4.4.2 未 溶 解 物
未 溶 解 物 に つ い て , 酸 素 分 圧 logPo2/atm= -9,-11 の 2 条 件 で , 熱 力
学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 の 解 析 を 行 い ,1 6 7 3 K か ら 1 2 7 3 K へ の 冷 却 過 程
で 固 相 析 出 温 度 ,析 出 物 の 組 成 ,完 全 液 相 温 度 域 を 求 め た 。入 力 成 分 は ,
主 要 含 有 成 分 で あ る SiO2,CaO,Fe,Al2O3,Na2O,K2O,MgO と し , 所 定 の 酸 素
分圧で平衡状態となるようにした。ここで,未溶解物組成としては,
T a b l e 6 に 示 す 廃 棄 物 溶 融 炉 で 得 ら れ た 代 表 的 な 3 つ の 組 成 と し た 。組 成
A は , 表 記 以 外 に Cu2 S を 約 10%含 有 し て い る 。 ま た , 各 組 成 と も Fe は
酸化物として存在する。
Table 6
Chemical composition of non-dissolved compounds
(mass%)
Conpound A
SiO2
18.4
CaO
9.9
T-Fe
29.0
Al2 O3
10.4
Na2 O
1.8
K2O
0.7
MgO
2.8
Conpound B
27.9
15.4
21.0
15.9
3.2
0.8
2.7
Conpound C
77.1
2.8
4.6
13.8
0.7
0.2
0.5
Fig.9 に 各 未 溶 解 物 に つ い て 酸 素 分 圧 お よ び 温 度 に 対 す る 液 相 の 比 率
を 示 す 。同 図 に お い て ,実 線 は l o g P o 2 = - 9 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を ,
破 線 は logPo2/atm= -11 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を 示 す 。 Fig.9 よ り ,
次のことがわかった。
① 組成 A は,酸素分圧
log Po2 = -9 の 条 件 で は 1513K で Fe3O4 相 が 析
出 す る 。logPo2/atm= -11 の 条 件 で は 還 元 性 が 強 い た め ,1553K 以 上 で は
固 相 の 鉄 が 存 在 し ,1 5 5 3 K で 固 相 が 消 失 し ,1 5 1 3 K で F e O 相 が 析 出 す る 。
1513K か ら 1553K の 温 度 域 が 完 全 液 相 領 域 で あ る 。 組 成 A は 4.3.3 節 で
流 動 性 測 定 に 供 与 し た 未 溶 解 物 の 組 成 に 相 当 す る 。流 動 性 の 測 定 結 果 で
は 1473K 以 上 で 流 動 性 が よ く な っ た 。 logPo2/atm= -9 の 場 合 , 液 相 の 比
率 は 1473K で 66%, logPo2/atm= -11 の 場 合 , 液 相 の 比 率 は 1473K で 85%
で あ る 。F i g . 1 0 に 流 動 性 測 定 結 果 と 液 相 の 比 率 の 関 係 を 示 す 。液 相 の 比
率 が 増 す と 流 動 性 は よ く な っ て い る こ と が わ か る 。F i g . 1 1 に ス ラ グ に 関
し て 温 度 に 対 す る 流 動 性 測 定 結 果 お よ び 液 相 の 比 率 の 関 係 を ,F i g . 1 2 に
未 溶 解 物 に 対 す る 流 動 性 測 定 結 果 お よ び 液 相 の 比 率 の 関 係 を 示 す 。液 相
の 比 率 が 80% 程 度 に な る あ た り で 流 動 性 の 測 定 結 果 ( 流 下 長 さ ) が 4cm
程度となり,良好な流動性を示すことがわかった。以上のように,液相
の比率を計算できる相平衡解析を流動性測定の代替として利用できる
ことがわかった。
88
② 組 成 B は ,酸 素 分 圧 l o g P o 2 / a t m = - 9 の 条 件 で は サ ン プ ル A 同 様 ,1 5 1 3 K
で F e 3 O 4 相 が 析 出 す る 。l o g P o 2 / a t m = - 1 1 の 条 件 で は 還 元 性 が 強 く ,1 5 7 3 K
以 上 で は 固 相 の 鉄 が 存 在 し , 1573K で 固 相 が 消 失 後 , 1483K で FeO の 固
体 が 析 出 す る 。 1483K か ら 1573K の 温 度 域 が 完 全 液 相 領 域 で あ る 。 完 全
液 相 領 域 の 温 度 範 囲 が 組 成 A の 1519K か ら 1551K ま で に 比 較 し て , 組 成
B は 1484K か ら 1568K と 広 く な っ て い る 。 こ の 主 な 要 因 と し て 塩 基 性 酸
化 物 の N a 2 O が 組 成 A の 1 . 8 % に 対 し ,組 成 B が 3 . 2 % ,C a O が 9 . 9 % に 対 し
15.4%に 増 加 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。
③ 組成 C は,ガラス系廃棄物を処理した際の未溶解物である。酸素分
圧 l o g P o 2 / a t m = - 9 , - 1 1 の 条 件 と も 1673K の 高 温 か ら 固 相 が 析 出 し , 酸 素
分 圧 の 影 響 が 認 め ら れ な い 。こ れ は ,こ の 温 度 域 で 酸 化 還 元 反 応 す る F e
が 4.6%と 低 い た め で あ る 。
以 上 の こ と か ら , 4.4.1 節 で 述 べ た 溶 融 ス ラ グ の 場 合 よ り も 未 溶 解 物
は完全液相温度域が狭く,液相線温度も高いことがわかった。
89
Conpound A
Ratio of liquid phase (%)
100
80
60
40
log
Po2
logPo
/-9
atm=-9
log
Po 22=/atm
= -9
log
Po2
log
Po 22=/atm
= -11
logPo
/-11
atm=-11
20
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
1573
1623
1673
Temperature (K)
Conpound B
Ratio of liquid phase (%)
100
80
60
40
log
Po2
-9 = -9
logPo
/atm=9
log
Po 22=/atm
log
Po2
=
-11
log
Po 22/atm
= -11
logPo
/atm=11
20
0
1273
1323
1373
1473
Temperature (K)
1523
1573
1623
1673
1523
1573
1623
1673
Conpound C
100
Ratio of liquid phase (%)
1423
80
log
Po2
logPo
/-9atm=-9
log
Po 2=2/atm
= -9
log
Po2
=
-11
log
Po 22/atm
= -11
logPo
/atm=-1
1
60
40
20
0
1273
1323
1373
1423
1473
Temperature (K)
Figure 9
Effects of temperature and oxygen potential of the ratio of liquid
phase to non-dissolved compounds in melting furnace
90
100
Ratio of liquid phase (%)
Compound A
80
60
40
logPo2
Po 2=/atm
log
-9 = -9
log
= -11 = -11
log Po2
Po 2 /atm
20
0
0
Figure 10
1
2
3
4
Experimental result of fluidity (cm)
5
6
Relation between experimental result of fluidity and ratio of liquid
phase of compound A
Ratio of liquid phase (%)
10
Slag
log Po2 /atm = -11
80
8
60
6
40
4
20
2
Ratio of liquid phase
Experimental result of fludity
0
1273
Figure 11
0
1423
1323
1373
Temperature (K)
Experimental result of fludity (cm)
100
Relation between experimental result of fluidity and ratio of liquid
phase of slag
10
Ratio of liquid phase (%)
Ratio of liquid phase
Experimental result of fludity
80
8
60
6
40
4
20
Non-dissolved conpound A
2
log Po 2 /atm = -11
0
1323
Figure 12
1373
1423
Temperature (K)
1473
0
1523
Experimental result of fludity (cm)
100
Relation between experimental result of fluidity and ratio of liquid
phase of non-dissolved compound A
91
4.5. 高 融 点 廃 棄 物 ( 石 綿 含 有 廃 棄 物 ) の 溶 解 条 件 の 推 定
4.4.節 よ り , 熱 力 学 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 よ り , 配 合 組 成 か ら
実操業の指針となるスラグの溶融温度範囲を推定できることがわかっ
た 。応 用 例 と し て ,石 綿 含 有 廃 棄 物( 石 綿 を 約 5 0 % 程 度 含 有 し た 廃 棄 物 )
とスラグを任意の比で混合した場合の組成から,同様に,熱力学データ
を利用した相平衡解析を行なった。溶融炉スラグへ石綿含有廃棄物を
0,10,30,50% の 割 合 で 混 合 し た 場 合 の 組 成 を Table 7 に 示 す 。
Table 7 Compositions of slag mixed with asbestos
(mass%)
Mixing ratio of
asbestos (%)
SiO2
CaO
T-Fe
Al2 O3
Na2 O
K2O
MgO
0
10
32.1
32.9
15.4
13.9
20.0
18.2
13.0
12.1
2.8
2.5
1.2
1.1
3.2
6.3
30
50
34.5
36.1
11.0
8.1
14.6
11.0
10.3
8.5
2.0
1.4
0.8
0.6
12.7
19.1
Asbestos
52.0
1.0
2.3
3.8
0.1
0.0
36.5
Fig.13 に 各 混 合 条 件 に つ い て 酸 素 分 圧 及 び 温 度 に 対 す る 液 相 の 比 率
を 示 す 。同 図 に お い て ,実 線 は l o g P o 2 = - 9 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を ,
破 線 は logPo2/atm= -11 の 場 合 の 液 相 領 域 の 比 率 を 示 す 。 Fig.13 よ り ,
logPo2/atm= -9 の 場 合 , 次 の こ と が わ か っ た 。
① 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が O% の 時 , 1499K で Fe3O4 相 が 析 出 を 開 始 し ,
液 相 の 比 率 は 1473K で 92%, 1373K で 72%と な る 。
② 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が 1O% の 時 , 1475K で Fe3O4 相 が 析 出 を 開 始 し ,
液 相 の 比 率 は 1473K で 100%, 1373K で 66%と な る 。
③ 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が 3 O % の 時 ,1 5 7 6 K で M g 2 S i O 4 相 が 析 出 を 開 始 し ,
液 相 の 比 率 は 1473K で 88%, 1373K で 56%と な る 。
④ 石 綿 含 有 物 の 混 合 率 が 5 O % の 時 ,1 6 9 9 K で M g 2 S i O 4 相 が 析 出 を 開 始 し ,
液 相 の 比 率 は 1573K で 82%, 1473K で 71%, 1373K で 47%と な る 。
以 上 の こ と か ら ,logPo2/atm= -9 で は ,石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶 融 炉 ス ラ
グ に 対 し て 10% , 30% , 50% 添 加 す る こ と に よ り 液 相 線 温 度 が 上 が り ,
石 綿 含 有 廃 棄 物 の 添 加 率 が 3 0 % の 時 ,液 相 線 温 度 が 1 5 7 6 K と な る 。廃 棄
物 溶 融 炉 の ス ラ グ 温 度 を 1573~ 1623K で 操 業 管 理 し て い る 場 合 , ス ラ グ
量 に 対 し て 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 添 加 量 が 30% 程 度 ま で な ら ば 安 定 操 業 が 可
能であると考えられる操業指針が得られた。
92
Addition of 0% asbestos
Ratio of liquid phase (%)
100
80
60
40
log Po2/atm
log
Po2/atm= =-9-9
20
log Po2
= -11 = -11
log
Po2/atm
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
1573
1623
1673
Temperature (K)
Addition of 10% asbestos
Ratio of liquid phase (%)
100
80
60
40
log Po2
-9 = -9
log
Po2=/atm
log Po2
-11 = -11
log
Po2=/atm
20
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
1573
1623
1673
Ratio of liquid phase (%)
Temperature (K)
Addition of 30% asbestos
100
80
60
log Po2
-9 = -9
log
Po2=/atm
log
Po2
=
-11 = -11
log Po2/atm
40
20
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
1573
1623
1673
Ratio of liquid phase (%)
Temperature (K)
Addition of 50% asbestos
100
80
60
40
log Po2
-9 = -9
log
Po2=/atm
20
log Po2
-11 = -11
log
Po2=/atm
0
1273
1323
1373
1423
1473
1523
1573
1623
1673
Temperature (K)
Figure 13
Effect of temperature and oxygen potential on the ratio of liquid
phase of slag mixed with asbestos
93
4.6. 実 操 業 へ の 適 応
前 節 で 廃 棄 物 溶 融 炉 に お い て , logPo2/atm= -9 , ス ラ グ 温 度 を 1573
~ 1623K の 条 件 で は , 石 綿 含 有 廃 棄 物 の添加量が溶 融 炉 ス ラ グ に 対 し て
30 % ま で な ら ば 安 定 操 業 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ る 操 業 指 針 が 得 ら れ
た。
そ こ で ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 溶 融 し た 石 綿 含 有 廃 棄 物 が 混 合
さ れ 均 一 な ス ラ グ を 形 成 さ せ る た め ,F i g . 1 4 に 示 す よ う に 廃 棄 物 溶 融 炉
を 改 造 し た 。1 3 ) 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 炉 の 天 井 部 か ら 直 接 ,溶 融 ス ラ グ 上 に
投 入 し ,投 入 口 ま わ り に 設 置 し た 酸 素 バ ー ナ ー の 高 温 の 火 炎 で 石 綿 含 有
廃 棄 物 を 溶 解 し 廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 混 合 で き る よ う に し た 。溶
解 さ れ た 石 綿 含 有 廃 棄 物 は 溶 融 ス ラ グ と 混 合 さ れ ,1 5 7 3 ~ 1 6 2 3 K の ス ラ
グ 温 度 で も 流 動 性 の よ い 状 態 を 維 持 で き た 。F i g . 1 5 に 石 綿 含 有 廃 棄 物 を
ス ラ グ に 対 し て 30%の 量 を 装 入 し た 時 の 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 解 状 況 を 炉
天井部の装入口から撮影した写真を示す。投入後,数分で溶解している
こ と が 目 視 で 確 認 で き た 。 ま た , Table 8 に 排 ガ ス , ス ラ グ の 石 綿 濃 度
測 定 結 果 を 示 す 。測 定 方 法 は 労 働 省 通 達 基 発 第 1 8 8 号 に よ る 。排 ガ ス ,
スラグとも石綿は検出されず,無害化できていることが確認できた。
Fig.16 に A 社 の 廃 棄 物 溶 融 炉 に お け る 石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融 処 理 量
の 推 移 を 示 す 。2 0 0 4 年 に は 2 4 6 ト ン の 溶 融 処 理 で あ っ た が ,上 記 の 改 造
後 の 2006 年 に は 2066 ト ン に , 2007 年 に は 2587 ト ン に 増 加 さ せ る こ と
が で き た 。 こ の 量 は ス ラ グ 量 の 10%で あ り , 前 節 の 結 果 か ら ス ラ グ 量 の
30%ま で 可 能 と す る と , 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 年 間 6000 ト ン 処 理 す る こ と が
期待できる。
94
4m
Charge hoppers
Slag
Oxygen burners
Flame
Asbestos charge
Raw material
Burners
Matte
Asbestos
11m
Figure 14
Schematic drawing of the melting furnace with asbestos treatment
投入前
投入直後
Figure 15
5分経過
Dissolution situation of asbestos of which it takes a picture from
charging door in furnace ceiling
95
Ta b l e 8
M e a s u re m e n t re s u l t s o f a s b e s t o s o f e x h a u s t g a s a n d s l a g f ro m
unit
Measurement of results
Exhast gas
f/l
not confirmed
Slag
Mf/g
not confirmed
3000
2500
2004: A principle moratorium of all asbestos in Japan
2005: The enforcement of the rule to prevent an obstacle of asbestos
2006: The revision of the rule of waste disposal
( The institution which melted asbestos was added )
2000
1500
1000
500
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
0
1995
Amount of the industtrial waste including the
(ton/year)
asbestos s m e l t i n g f u r n a c e ( M e a s u re m e n t d a y : 2 0 0 7 . 7 . 6 . )
business year
Fig.16 The change of amount of processed waste including asbestos in melting
furnace of Company A
96
4.7. 結 言
産業廃棄物を無害化し,再資源化する社会的ニーズは高く,その中で
溶融炉の役割が重要となってきている。産業廃棄物は,種々雑多であり
組成,含有量がばらついており,廃棄物溶融炉の操業条件(温度,酸素
分圧)では溶融が困難なものもある。
本 章 で は ,廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ お よ び 未 溶 解 物 に つ い て 流 動 性 の 測
定と熱力学データを用いた相平衡解析を行なった。
その結果,廃棄物溶融炉のスラグの溶解に関して,熱力学データを用
い た 相 平 衡 解 析 を 行 な う こ と に よ り ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の よ う な 粘 度 測 定
や溶解実験が困難な廃棄物に対しても簡単な流動性試験と同等にスラ
グの流動性を評価することができた。そして,熱力学データを用いた相
平 衡 解 析 を 用 い て ,良 好 な 溶 融 ス ラ グ を 得 る た め の 安 定 操 業 に 関 す る 有
効な指針が得られることがわかった。
A 社 に お い て ,こ の 指 針 を 適 応 し ,年 間 2600t の 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶
融し再資源化した。
97
参考文献
1) 日 野 順 三 , 宮 林 良 次 : 高 温 学 会 誌 2( 1999) P.59-65
2) 宮 林 良 次 , 能 登 久 次 , 成 迫 誠 : 資 源 と 素 材 121(2005) P.149-153
3) 青 木 威 尚 , 宮 林 良 次 , 柳 田 辰 也 : 資 源 と 素 材 122(2006) P.235-238
4) 日 経 エ コ ロ ジ ー
5) 循 環 経 済 新 聞
2006.3. P.40-41
2006.1.16.
6) 川 崎 靖 人 , 青 木 威 尚 , 宮 本 和 明 : 特 開 2003-181412
7 ) 鈴 木 宏 明 ,眞 保 良 吉 ,鈴 木 眞 夫 ,小 川 修 : 資 源 ・ 素 材 関 係 学 協 会 1 9 9 6
年 度 秋 季 大 会 P.50-53
8) 眞 保 良 吉 , 渡 辺 薫 生 , 鈴 木 眞 夫 , 星 野 重 夫 : 資 源 と 素 材 121(2005)
P.72-77
9) 平 林 儁 : 資 源 と 素 材 109( 1993) P.949-952
10) 川 崎 靖 人 , 青 木 威 尚 , 宮 本 和 明 : 資 源 ・素 材 関 係 学 協 会 平 成 13 年
(2001)度 秋 季 大 会 P.285-288
11) 川 崎 靖 人 , 青 木 威 尚 : 特 開 2 0 0 1 - 2 0 1 0 3 2
1 2 ) 飯 田 孝 道 , 喜 多 善 史 , 上 田 滿 , 森 克 己 , 中 島 邦 彦 :“ 溶 融 ス ラ グ ・
ガ ラ ス の 粘 性 ” ア グ ネ 技 術 セ ン タ ー (2003)P.107-109
13) 宮 林 良 次 , 星 光 政 : 特 開 2007-301546
98
第5章
アルカリ酸化物を含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度
推算モデル
5.1. 緒 言
廃 棄 物 溶 融 炉 に お い て ,石 綿
屑
5)
1,2)
,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト
1,3,4)
,鉛 含 有 ガ ラ ス
のような産業廃棄物を無害化し,再資源化する社会的ニーズは高い。し
か し ,産 業 廃 棄 物 は 種 々 雑 多 で あ り ,組 成 ,含 有 量 が ば ら つ い て い る の で ,廃
棄 物 溶 融 炉 を 安 定 し て 操 業 す る こ と は 難 し い 。安 定 な 操 業 を 維 持 評 価 す る た め
に,筆者ら
1)
は溶融スラグの流動性が代表的な操業指針のひとつであること
に注目した。溶融スラグの流動性は,粘度測定により主に評価されているが,
モ デ ル に よ る 粘 度 推 算 は ,廃 棄 物 溶 融 炉 に お け る 流 動 性 を 評 価 す る こ と に 大 い
に 役 立 つ と 考 え る 。こ れ は ,産 業 廃 棄 物 の 成 分 が 種 々 雑 多 で あ り ,廃 棄 物 溶 融
炉 の あ ら ゆ る 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 測 定 す る こ と は 困 難 で あ る た め で あ る 。例 え
ば , 石 綿 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 し た ス ラ グ は CaO, FeO, Fe 2 O 3 , MgO, K 2 O, Na 2 O
等
1)
を含む多成分系のアルミノシリケートスラグである。また,廃棄物溶融
炉 は フ ッ 化 物 を 含 む 石 膏 ,工 場 排 水 中 の F を 固 定 し た 中 和 物 ,F を 含 む ガ ラ ス
も 溶 融 す る こ と も あ る の で , ス ラ グ 中 に CaF 2 が 含 ま れ て い る 。
溶 融 ス ラ グ の 粘 度 推 算 に 関 し て は ,過 去 に
6-8)
多くの推算式が提案されてき
て お り , Riboud ら , 飯 田 ら , Sheetharaman ら , Zhang ら の 推 算 式 が 高 く 評 価
さ れ て い る 。 Table 1 に こ れ ら 粘 度 の 推 算 式 と 問 題 点 を 示 す 。
Table 1 Model for estimating viscosity and the problem
提案者
推算式(特徴)
問題点
・溶融シリケートの構造は濃度
に対して線形的に変化するとは
限らない
Riboud et al. Iida et al.
スラグ構成成分の線形関数
Sheetharaman et al.
シリケート融体の混合のGibbs ・溶融シリケートの特徴は考慮
エネルギーにより、評価
せず
Zhang and Jahanshahi
・架橋酸素濃度、自由酸素濃
ネットワーク構造の架橋酸素、
度に掛けられた係数の物理的
自由酸素イオンの濃度の関数
な意味は不明確
Riboud ら , 飯 田 ら は , 溶 融 ス ラ グ 構 成 成 分 の 濃 度 の 線 形 関 数 と し て 粘 度 を
表 し た が ,溶 融 シ リ ケ ー ト の 構 造 は 濃 度 に 対 し て 線 形 的 に 変 化 す る と は 限 ら な
99
い 。 次 に , Sheetharaman ら は , シ リ ケ ー ト 融 体 の 混 合 の Gibbs エ ネ ル ギ ー を
利 用 し て 粘 度 を 評 価 し た が ,溶 融 シ リ ケ ー ト の 特 徴 は 考 慮 し て い な い 。し か し ,
組 成・温 度 に よ る 溶 融 シ リ ケ ー ト の 急 激 か つ 複 雑 な 構 造 変 化 が 粘 度 に 影 響 す る
た め ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 の 推 算 は 難 し い 課 題 と し て 認 め ら れ て い る 。こ の 視 点
か ら , 溶 融 ス ラ グ の 構 造 に 基 づ い た 有 効 な モ デ ル が Zhang と Jahanshahi,
Kondratiev と Jak 9 - 1 1 ) に よ り 提 案 さ れ て い る 。彼 ら の 粘 度 モ デ ル で は ,溶 融 ス
ラ グ の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の 架 橋 酸 素 O0 , 自 由 酸 素 イ オ ン O2 - の 濃 度 の 関 数 と
し て 粘 度 モ デ ル を 表 し て い る 。溶 融 ス ラ グ の 3 つ の 酸 素 の 結 合 状 態 ,す な わ ち ,
( ⅰ ) 架 橋 酸 素 O 0 , (ⅱ )非 架 橋 酸 素 O - ,( ⅲ ) 自 由 酸 素 O 2 - , が 考 慮 さ れ て
い る が ,架 橋 酸 素 濃 度 ,自 由 酸 素 濃 度 に 掛 け ら れ た 係 数 の 物 理 的 な 意 味 は 不 明
確である。
中本,田中ら
16-21)
も溶融スラグの酸素の結合状態だけでなく構造に溶融シ
リ ケ ー ト の 流 動 機 構 を 考 慮 す る こ と で ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に 基 づ く 粘 度 評 価 モ
デ ル を 構 築 し た 。こ の モ デ ル で は 非 架 橋 酸 素 O - と 自 由 酸 素 O 2 - の 濃 度 を IRSID
熱 力 学 ‘ セ ル モ デ ル ’ に よ り 計 算 し て い る 。 22-23) こ の 粘 度 推 算 モ デ ル は , 高
炉 の 溶 融 SiO 2 -CaO-MgO-FeO-Al 2 O 3 系 ス ラ グ に 対 し て 幅 広 い 濃 度 範 囲 で 粘 度 の
値 を 再 現 で き る 。 し か し な が ら , IRSID 熱 力 学 ‘ セ ル モ デ ル ’ は ,
SiO 2 -TiO 2 -Ti 2 O 3 -Cr 2 O 3 -Al 2 O 3 -Fe 2 O 3 -CrO-FeO-MgO-MnO-CaO-CaF 2 -S 系 に お い て 広
く 適 用 で き る に も 係 ら ず ,廃 棄 物 溶 融 炉 ス ラ グ で は 無 視 で き な い ア ル カ リ 酸 化
物を含むスラグに適応できない。
一 方 ,須 佐 ら
24)
は ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 の 屈 折 率 の 予 測 式 を 提 案 し た 。
ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 の 構 造 は , 3 種 の 化 学 的 結 合 , す な わ ち Si- BO( Si
四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ),Al - BO( 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ
ン を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ), Si- NBO( NBO: Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸
素 )か ら 成 る と 仮 定 す る と ,熱 力 学 的 デ ー タ を 用 い ず ,ス ラ グ の 化 学 組 成 を 用
いて溶融アルミノシリケートの酸素の結合状態を計算することが可能になる。
この方法は簡単な方法であり,アルカリ酸化物,アルカリ土類酸化物を含む
種 々 の シ リ ケ ー ト 系 に 対 し て 酸 素 の 結 合 状 態 の 評 価 を 行 う こ と が で き る 。須 佐
の 式 は ,そ の 簡 便 さ に も 係 ら ず ,6 成 分 の シ リ ケ ー ト 融 体 で 屈 折 率 の 値 を 予 測
することに成功している。
本 研 究 で は ,ま ず ,シ リ ケ ー ト 融 体 の 酸 素 の 結 合 状 態 の 評 価 に お い て ,熱 力
学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,須 佐 ら の 手 法 を 適 用 す る こ と に よ り ,中 本 ,田 中 ら の
開 発 し た 先 の 粘 度 推 算 モ デ ル を 修 正 し ,ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 四 元 系 ア ル ミ ノ
シ リ ケ ー ト 融 体( SiO 2 -CaO-MgO-Al 2 O 3 系 な ど )の 粘 度 推 算 を 試 み ,こ の 手 法 の
100
妥当性を検討した。
さ ら に ,廃 棄 物 溶 融 炉 は CaF 2 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 処 理 す る こ と も あ る の で ,
溶 融 ス ラ グ は ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 に CaF 2 を 含 む 系
と な る 。こ の 系 に 対 し て は ,前 述 の IRSID 熱 力 学‘ セ ル モ デ ル ’を 適 用 す る こ
と は 難 し い の で ,本 研 究 で は ,須 佐 ら の モ デ ル を 用 い て ,CaF 2 を 含 有 す る 溶 融
シリケート系の粘度への推算モデルの拡張を試みた。
5.2.
溶融アルミノシリケートスラグの粘度モデル
5.2.1. 粘 度 推 算 式
本 モ デ ル に お い て 溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 を 表 す 式 は ,シ リ ケ ー ト 融 体
のネットワーク構造における酸素の結合状態と流動機構を考慮することを提
案 し た 中 本 ら の モ デ ル 式 に 基 づ い て い る 。 16-21) シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー
ク構造において,モデルの概念は次の通りである。
①ネットワークの“切断” 箇所が伝播する。
② 融 体 で あ り “ 切 断 ” 箇 所 の 伝 播 は Random walk theory に 基 く 。
③“切断” 箇所の数は,非架橋酸素,自由酸素イオンの数で決定される。
④ネットワーク構造の“切断” 箇所における陽イオンと酸素イオンの結合
の弱さを表す係数αを導入する。
さ ら に ,流 動 の メ カ ニ ズ ム の 詳 細 を 説 明 す る 。Fig.1 に 溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ
グ の 構 造 の 概 略 図 を 示 す 。 Fig.1 (a)に 示 す よ う に , 溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ は
SiO 44  単 位 構 造( Si 四 面 体 イ オ ン )と し て SiO 44  同 士 が そ れ ぞ れ の 頂 点 の 酸 素 ,
つ ま り ,架 橋 酸 素 イ オ ン O 0 を 介 し て 結 合 し て い る (b)の よ う な ネ ッ ト ワ ー ク 構
造 を 有 す る 。Fig.1 (b)に 示 す よ う に ,溶 融 シ リ ケ ー ト ス ラ グ に CaO,Na 2 O の よ
う な 塩 基 性 酸 化 物 が 添 加 さ れ た 場 合 ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 は 塩 基 性 酸 化 物 か ら 解
離 し た 酸 素 イ オ ン に よ っ て 部 分 的 に 切 断 さ れ , Si と の 結 合 を 一 つ し か 持 た な
い 非 架 橋 酸 素 イ オ ン や Si と の 結 合 を 持 た な い 自 由 酸 素 イ オ ン が 生 成 す る 。 こ
の よ う に ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の 切 断 に よ り ,融 体 の 重 合 度 が 減 少 す る た め ,そ
れ に 対 応 し た 溶 融 ス ラ グ の 粘 性 の 低 下 が 生 ず る と 言 わ れ て い る 。こ の 概 念 に お
い て は , シ リ ケ ー ト 融 体 に お け る SiO 44  イ オ ン が 流 動 単 位 と し て 考 え ら れ て い
る が ,こ の 大 き さ の 錯 イ オ ン が 流 動 に お い て 移 動 す る と 仮 定 す る と ,こ の 錯 イ
オ ン が 落 ち 込 む た め の 空 間 が 必 要 と な り ,流 動 の 単 位 と し て 考 え る の は 困 難 で
ある。本モデルでは,シリケートのネットワーク構造中の非架橋酸素イオン,
自 由 酸 素 イ オ ン の 近 傍 に 存 在 す る“ 切 断 ”箇 所 に 着 目 し ,実 際 に 移 動 す る の は
こ の 切 断 箇 所 で あ る と 考 え ,そ の 切 断 箇 所 の 数 が 多 い ほ ど 流 動 性 が よ く ,粘 度
101
は低いと考えた。
Fig.2 は ,せ ん 断 力 が 働 い た 際 の 金 属 の 変 形 に 対 し て ,固 体 原 子 の 結 合 に お
け る 切 断 箇 所 の 移 動 の 概 念 図 で あ る 。固 体 の 変 形 機 構 に お い て ,原 子 の 結 合 を
一 個 ず つ 切 っ て ゆ く 方 法 で 結 合 の 切 断 箇 所 は 転 位 と 呼 ば れ て い る 。応 力 が 掛 か
っ た 黒 の 結 合 が 切 ら れ ,下 側 の 原 子 は 右 隣 り の 灰 色 の 原 子 を 押 す 。灰 色 の 原 子
の 結 合 が 切 れ ,黒 と 灰 色 が 結 合 す る 。こ の よ う に ,切 断 箇 所 が 移 動 す る こ と に
よって,せん断力が働いた際に金属は塑性変形する。
(a)
SiO44- unit
(b)
Bridging oxygen
Free oxygen ion
CaO or Na2O
Non-bridging oxygen ion
O
Figure 1
Si
Ca
Structure of silicate slag.
Shear stress
Shear stress
“Cutting-off point”
(1)
Figure 2
(2)
(3)
Concept chart of movement of “cutting off point” in uniting solid
atoms
102
シ リ ケ ー ト の 融 体 に つ い て も ,同 様 に 切 断 箇 所 が 移 動 す る 流 動 機 構 を 考 え た 。
Fig.3 に シ リ ケ ー ト 融 体 の 流 動 機 構 の 概 念 図 を 示 す 。ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の 中 に
CaO が 添 加 さ れ ,Ca と ネ ッ ト ワ ー ク を 切 断 さ れ た 非 架 橋 酸 素 イ オ ン が 電 気 的 に
中 性 と な っ て い る 状 態 と す る 。こ の 状 態 で 応 力 が 掛 か り ,1 の 非 架 橋 酸 素 イ オ
ン が 2 の 架 橋 酸 素 イ オ ン を 押 す 。2 の 架 橋 酸 素 イ オ ン は 押 し 出 さ れ ,結 合 が 切
断 さ れ 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と な り ,2 の 位 置 に 1 が 収 ま る 。次 に 非 架 橋 酸 素 イ オ
ン と な っ た 2 が 3 の 架 橋 酸 素 イ オ ン を 押 す 。3 の 架 橋 酸 素 イ オ ン は 押 し 出 さ れ ,
結 合 が 切 断 さ れ 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と な り ,3 の 位 置 に 2 が 収 ま る 。こ の よ う に
切 断 箇 所 が 伝 播 す る と 考 え た 。 そ れ ゆ え ,‘ 切 断 ’ 箇 所 の 動 き が 粘 性 流 動 を 生
ず る と す る と , 非 架 橋 酸 素 O- と 自 由 酸 素 O2 - の 数 の 増 加 に 伴 い , 粘 性 の 活 性
化エネルギーが減少する。
2
2
(3)
2
1
(2)
1
1
3
3
Non-bridging oxygen ion
:O
Figure 3
:Si
:Ca
Flow mechanism for silicate melts.
さ ら に ,こ れ ら の‘ 切 断 ’箇 所 が 溶 融 シ リ ケ ー ト の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 で ラ ン ダ
ムな方向に動くと仮定する。文献
16-21)
では前述の概念から二元シリケート系
の粘度ηは次式で表わされている。
  A  exp(
EV 
EV
),
RT
(1)
E
.
1    ( N O   N O 2 )
(2)
こ こ で , A (=4.80  10 - 8 )は 定 数 , E V は 粘 性 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー , R は ガ ス
定 数 , T は 温 度 で あ る 。 E (=5.21  10 5 (J)) は , 純 SiO 2 の 粘 性 の 活 性 化 エ ネ
ル ギ ー で あ る 。α は 酸 化 物 成 分 に よ る“ 切 断 ”箇 所 に お け る 陽 イ オ ン と 酸 素 イ
オ ン と の 間 の 結 合 の 弱 さ を 示 す パ ラ メ ー タ で あ る 。 N O  と N O 2 は , そ れ ぞ
103
れ , 非 架 橋 酸 素 O- の 数 , 自 由 酸 素 O2 - の 数 を 示 す 。 こ れ ら の イ オ ン が 多 い ほ
ど切断箇所が増え,粘度が低下することを意味する。
非 架 橋 酸 素 イ オ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン の モ ル 分 率 は ,こ れ ま で は ,熱 力 学 モ デ
ル か ら 計 算 し て き た が ,多 成 分 系 で は 熱 力 学 的 パ ラ メ ー タ が 整 備 さ れ て い な い
ので計算できなかった。そこで,化学組成から酸素結合状態を評価するため,
屈折率の推算式で提案された多成分系に展開できる須佐らの簡易な方法を本
モ デ ル に 適 用 す る こ と を 試 み た 。Fig.4 に ,須 佐 ら の 手 法 の 概 要 を 示 す 。酸 素
の化学結合の評価において,須佐らは
24)
,アルミノシリケート融体は次の3
種類の化学結合のみから成ると仮定した。
① Si- BO
( Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 )
② Al- BO ( 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体
単位の架橋酸素)
③ Si- NBO ( NBO: Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 )
①
②
Si-BO
Al-BO
O
O
Si
O
Si
O
O
O
Al
O
O
O
O
Si
O
O
Ca2+
Si-NBO
③
Three oxygen states in aluminosilicate by Susa et al. 6)
Figure 4
BO: bridging oxygen, NBO: non-bridging oxygen .
須 佐 ら の 仮 定 を 用 い る と ,酸 素 の 化 学 結 合 は ス ラ グ 成 分 の み に よ っ て 計 算 で
き る 。さ ら に ,彼 ら の 式 で Al - BO( 架 橋 酸 素 )結 合 を 考 慮 す る と ,ア ル ミ ナ
酸 化 物 が ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 因 子 と し て 働 く 場 合 の 酸 素 の 状 態 ( N ( NBO  FO)i ,
N (Al BO) j )を 推 算 す る こ と が で き る 。 酸 素 の 結 合 状 態 の 評 価 に 須 佐 の 方 法 を 適
用するため,シリケート融体の粘度推算式を次のように修正した。
  A  exp(
EV
)
RT
(3)
104
EV 
E
1
  i  N (NBOFO)    j in Al  N (AlBO)
i
i
.
(4)
j
j
こ こ で , EV は 非 架 橋 酸 素 イ オ ン ( N B O ) と 自 由 酸 素 イ オ ン ( F O ) の モ ル
分 率 の 和 N ( NBO  FO)i と Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素( B O )の モ ル 分 率 N (Al BO) j の 関 数 で
あ る 。 N ( NBO  FO)i は 式 (2)の ( N O   N O 2 ) と 同 じ で あ る 。 α i と α j i n A l は そ れ ぞ
れ に 対 す る 係 数 で あ る 。 i は SiO 2 以 外 の 成 分 ,CaO,MgO,FeO, K 2 O, Na 2 O, Al 2 O 3
で あ り , j は Al 2 O 3 を 除 く 成 分 i か ら の 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ
ン , す な わ ち , Ca 2 + , Mg 2 + , Fe 2 + , K + , Na + で あ る 。( 1 ),( 2 ) 式 同 様 , A は
4.80  10 - 8 , E は 5.21  10 5 (J)で あ る 。 粘 性 へ の こ れ ら イ オ ン の 影 響 に 関 し
て , 非 架 橋 酸 素 O- と 自 由 酸 素 O2 - の 違 い は な い と 仮 定 す る 。 活 性 化 エ ネ ル ギ
ー に 対 す る Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 影 響 に つ い て は ,Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 が Si
四 面 体 の 架 橋 酸 素 と 異 な る 易 動 度 を 持 つ と 仮 定 す る こ と で ,非 架 橋 酸 素 の 影 響
と同等に取り扱うことができる。
5.2.2. N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 計 算
2 種 類 の 酸 素 の モ ル 分 率 , N ( NBO  FO)i と N (Al BO) j は 須 佐 の 方 法 を 参 考 に し て 次
のように計算される。
(ⅰ )
二成分系
a SiO 2 - b i (M x O y ) i 系 { a + b i =1 (mol)}
(ⅰ -1)
((M x O y ) i =CaO, MgO, FeO, K 2 O 又 は Na 2 O)
シ リ ケ ー ト に 塩 基 性 酸 化 物 を 添 加 し , シ リ ケ ー ト の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 の Si
- O 結 合 を 切 断 す る こ と に よ り , 非 架 橋 酸 素 O- と 自 由 酸 素 O2 - を 供 給 す る 。
す な わ ち , Si と 結 び つ か な い 酸 素 の 結 合 数 が 増 加 す る 。 (M x O y ) i の b i モ ル が
シ リ ケ ー ト に 添 加 さ れ た 時 ,(M x O y ) i で Si に 結 び つ か な い 酸 素 の 結 合 数 nO M は ,
2 b i モ ル で あ る 。 な ぜ な ら ば , (M x O y ) i 1 モ ル は Si に 結 び つ か な い 酸 素 結 合 2
モ ル と な る 。 a SiO 2 - b i (M x O y ) i
系 の 酸 素 結 合 数 の 計 n T o t a l - O は , 4 a +2 b i
モ
ル で あ る 。著 者 の モ デ ル で は ,Si に 結 び つ か な い 酸 素 結 合 数 n(O M)i と 総 酸 素 結
合 数 n T o t a l - O の 比 は , 非 架 橋 酸 素 O - と 自 由 酸 素 O 2 - の モ ル 分 率 の 合 計 N ( NBO  FO)i
と し て 扱 っ て い る 。二 元 系 の 場 合 ,Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 濃 度 N (Al BO) j は ゼ ロ
である。
N (NBO FO)i  n(O M)i / nTotalO  2bi /( 4a  2bi )  bi /(2a  bi )
105
(5)
N (Al BO) j  0
(i -2)
(6)
a SiO 2 - c Al 2 O 3 系 { a + c = 1 (mol)}
二 元 系 SiO 2 - Al 2 O 3 に お い て ,Al 四 面 体 の 形 成 に 必 要 で あ る ア ル カ リ 酸 化 物 ,
アルカリ土類酸化物から電荷中性条件を満たす役割を果たす陽イオンはない。
そ の 結 果 ,Al 2 O 3 が 塩 基 性 酸 化 物 の よ う な ネ ッ ト ワ ー ク 修 正 酸 化 物 と し て 働 く 。
(i -1)と 同 様 に ,Si に 結 び つ か な い 酸 素 の 結 合 数 n(O M)i は Al 2 O 3 を c モ ル 添 加
し た 場 合 , 6c モ ル と な る 。 a SiO 2 - c Al 2 O 3 系 の 酸 素 結 合 の 総 数 n T o t a l - O は
4 a +6 c モ ル で あ り , 次 の よ う に 書 け る
N ( NBO FO)i  nO  M / nTotal O  6c /(4a  6c)  3c /( 2a  3c)
(7)
N (Al BO) j  0
(8)
( ⅱ ) 3 成 分 a SiO 2 - b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 系 { a + b i +c = 1 (mol)}
( (M x O y ) i = CaO, MgO, FeO, K 2 O or Na 2 O )
(ii-1) b i > c ( bi モ ル が c よ り 大 き い 時 )
塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 b i が ア ル ミ ナ 酸 化 物 の 量 c よ り 多 い 時 ,溶 融 酸
化 物 中 の Al 四 面 体 を 形 成 す る た め に 十 分 な 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た
す陽イオンjがあるので,アルミナ酸化物はネットワーク形成物として働く
( Al は す べ て ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に 入 る )と 仮 定 す る 。陽 イ オ ン j の Al 四 面 体
の 酸 素 結 合 数 n(O Al in Al) j は 8 c モ ル で あ る 。 Si と 結 び つ か な い 残 さ れ た 酸 素
結 合 数 は n(O M)i は , 2( b i - c ) モ ル と な る 。 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果
た す 陽 イ オ ン c モ ル と 同 様 の 酸 素 c モ ル は Al 2 O 3 の c モ ル の 四 面 体 に 使 用 さ れ
る 。 a SiO 2 - b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 系 の 総 酸 素 結 合 数 n T o t a l - O は 4 a +2 b i +6 c モ ル
と な る 。 本 の モ デ ル に お い て , 総 酸 素 結 合 数 n T o t a l - O に 対 す る Al 四 面 体 の 酸
素 結 合 数 nO  Al in Al の 比 は ,Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 含 有 量
N (Al BO) j と し て ,次 の
ように書ける。
N (Al-BO) j  n(O  Al in Al) j / nTotal O  8c /( 4a  2bi  6c)  4c /( 2a  bi  3c)
N (NBO FO)i  n(O  M)i / nTotal O  2(bi  c) /(4a  2bi  6c)  (bi  c) /(2a  bi  3c)
(ii-2) b i < c
(9)
(10)
( bi モ ル が c よ り 小 さ い 時 )
塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 b i が ア ル ミ ナ 酸 化 物 の 量 c よ り 少 な い 時 , 塩 基
性 酸 化 物 が Al 四 面 体 に 対 し て 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陰 イ オ ン に
106
の み 使 用 さ れ る ( ア ル カ リ 酸 化 物 で 中 和 さ れ た Al の 分 だ け が ネ ッ ト ワ ー ク に
入 る )と 仮 定 す る 。そ れ ゆ え ,Al 四 面 体 の 酸 素 結 合 数 n(O Al in Al) j は 8 b i mol と
なる。なぜならば,本研究で選択した塩基性酸化物の 1 モルは アルミナ酸化
物 四 面 体 の 2 mol ,す な わ ち , Al 四 面 体 に お け る 8 モ ル の 酸 素 結 合 と な る 。
Si に 結 び つ か な い 残 酸 素 結 合 の 数 n(O M)i は 6( c - b i ) モ ル と な る 。 こ れ は ,
Al 四 面 体 の 酸 素 結 合 以 外 の ア ル ミ ナ 酸 化 物 か ら の 酸 素 結 合 の 数 で あ る 。 そ れ
ゆえ,次式となる。
N (Al-BO) j  n(O  Al in Al) j / nTotal O  8bi /( 4a  2bi  6c)  4bi /( 2a  bi  3c)
(11)
N (NBO FO)i  n(O M)i / nTotalO  6(c  bi ) /(4a  2bi  6c)  3(c  bi ) /(2a  bi  3c) (12)
(iii) 多 成 分 a SiO 2 -
b
i
(M x O y ) i - c Al 2 O 3 系 { a +
i
b
+c=1 (mol)}
i
i
( (M x O y ) i = CaO, MgO, FeO, K 2 O 又 は Na 2 O )
(iii-1)
b
i
> c
i
塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 の 計
b
がアルミナ酸化物の量 c より多い時,
i
i
先 ほ ど 述 べ た よ う に , 融 体 の Al 四 面 体 を 形 成 す る た め 十 分 な 電 荷 中 性 条 件 を
満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン が あ る の で ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 は ネ ッ ト ワ ー ク 形 成
物 と し て の み 働 く 。こ こ で ,各 塩 基 性 酸 化 物 へ の イ オ ン の 供 給 は 塩 基 性 酸 化 物
の 含 有 量 に 比 例 す る と 仮 定 す る 。電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン
j と Al 四 面 体 に お け る 酸 素 結 合 の 数 は 8c(bi /  bi ) モ ル ,Si に 結 合 し な い 酸 素
i
結 合 の 数 は 2bi  2c(bi /
b ) モルであることを意味する。
i
i
N (Al-BO) j  n(O  Al in Al) j / nTotal O  8c(bi /  bi ) /( 4a  2 bi  6c)
i
i
 4c(bi /  bi ) /(2a   bi  3c)
i
(13)
i
N (NBO FO)i  n(O  M)i / nTotal O  2{bi  c(bi /  bi )} /(4a  2 bi  6c)
i
i
 {bi  c(bi /  bi )} /(2a   bi  3c)
i
107
i
(14)
(iii-2)
b
i
< c
i
塩 基 性 酸 化 物 (M x O y ) i の 量 の 合 計
b
i
はアルミナ酸化物の量 c より少ない
i
時,3成分についても同様に次のように書ける。
N (Al-BO) j  n(O  Al in Al) j / nTotal O  4bi /(2a   bi  3c) ,
(15)
N (NBO  FO)i  n(O  M)i / nTotal O  3(c   bi ) /(2a   bi  3c)
(16)
i
i
5.3.
i
結果と考察
5.3.1. 係 数 の 決 定
溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 を 表 す( 3 ),( 4 )式 に は ,2 種 類 の 係 数 が
含 ま れ て い る 。前 者 は 非 架 橋 酸 素 イ オ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン に 関 す る 係 数 で ,後
者 は Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 を 関 連 す る 係 数 で あ る 。
αi は非架橋酸素イオンの結合の弱さ,αj
in Al
は Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の 結
合の弱さを表す。本モデル式において,αi と αj
つとより低い粘度を示すことになる。 αi と αj
がより大きな値を持
in Al
in Al
の値は非架橋酸素イオ
ン と 自 由 酸 素 イ オ ン の 近 傍 の 陽 イ オ ン に 依 存 す る 。陽 イ オ ン は ,塩 基 性 酸 化 物
(M x O y ) i を シ リ ケ ー ト に 添 加 す る こ と に よ っ て 生 成 さ れ る 。 そ し て , ま た Al
四 面 体 の 近 く の 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン も ,塩 基 性 酸 化 物
(M x O y ) i を シ リ ケ ー ト に 添 加 す る こ と に よ っ て 生 成 さ れ る 。
本研究では,αi と αj
ルミナシリケート系
in Al
の係数は二元系シリケート系
2 6 ,3 4 - 3 6 ,3 9 - 4 1 )
25-34)
と三元系ア
の 実 験 値 を 用 い て 決 定 し た 。係 数 の 決 定 方 法
は次のとおりである。
( こ こ で ,(M x O y ) i は
① 初 め に ,酸 化 物 i の α i の 値 は ,二 元 SiO 2 -(M x O y ) i 系 ,
CaO, MgO, FeO, K 2 O, Na 2 O ま た は Al 2 O 3 で あ る ) に お け る 粘 度 の 実 験 値 に 一 致
す る よ う に 前 述 の ( 3 ),( 4 ) 式 に 適 用 し て 決 定 し た 。
② 次に,電荷中性条件を満たす役割を果たす陽イオン j のαj
in Al
の値の決
定 は , 三 元 SiO 2 -(M x O y ) i -Al 2 O 3 系 ,( こ こ で (M x O y ) i は CaO, MgO, FeO, K 2 O ま
た は Na 2 O で あ る ) に お け る 粘 度 の 実 験 値 と 二 元 系 で 決 定 さ れ た α i 係 数 を 用
いて計算した粘度が一致するように決定した。
これらの係数の決定に使用した実験値
25-41)
数 を Table 3 に 示 す 。
108
の 出 典 を Table 2 に , 導 出 し た 係
Table 2
Experimental data used for determining model parameters.
System
Binary
Ternary
Temperature
(K)
References
SiO 2 -CaO
1723 - 2373
25-27
SiO 2 -MgO
1823 - 2273
27,28
SiO 2 -FeO
1473 - 1723
29-32
SiO 2 -K 2 O
1373 - 1973
28,33
SiO 2 -Na 2 O
1373 - 1973
28,33
SiO 2 -Al 2 O 3
1973 - 2373
26,34
SiO 2 -CaO-Al 2 O 3
1423 - 2273
26,35
SiO 2 -MgO-Al 2 O 3
1673 - 2073
36-39
SiO 2 -FeO-Al 2 O 3
1523 - 1573
40
SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3
1523 - 1673
39
SiO 2 -Na 2 O-Al 2 O 3
1523 - 1773
41
Table 3
Model parameters.
(MxOy)i
i
j
CaO
4.00
Ca
MgO
3.43
Mg
FeO
6.05
Fe
K 2O
6.25
K
Na2O
7.35
Na
Al2O3
1.14
aj
in Al
2+
1.46
2+
1.56
2+
3.15
+
-0.69
+
0.27
5.3.2. 計 算 結 果
須 佐 ら の モ デ ル を 用 い て 酸 素 の 結 合 状 態 を 計 算 し た N ( NBO  FO)i と N (Al BO) j の
値 を 利 用 し て 得 ら れ た 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 の 値 の 妥 当 性 を 検 討 す る た め に ,文 献
値(係数の決定に使用した値)と計算値を比較した。
109
溶 融 SiO 2 -CaO, SiO 2 -Na 2 O , SiO 2 -Al 2 O 3 二 元 系 ス ラ グ の 粘 度 の 計 算 結 果 を
Figs.5-7.に 示 す 。 本 モ デ ル で は , こ れ ら の 二 元 系 の 粘 度 の 組 成 依 存 性 を 再 現
で き て い る こ と が わ か る 。 計 算 値 は , 溶 融 SiO 2 -CaO , SiO 2 -Na 2 O 系 で CaO と
Na 2 O 濃 度 が 高 く な る と 実 験 値 よ り や や 下 側 に 外 れ る 傾 向 が あ る 。こ の ず れ は ,
粘度に対して非架橋酸素イオンと自由酸素イオンの影響を同等に扱うと仮定
したことによると考えられる。これまでの報告
16-21)
では,非架橋酸素イオン
濃 度 と 自 由 酸 素 イ オ ン 濃 度 は IRSID‘ セ ル モ デ ル ’ を 用 い て 個 々 に 計 算 さ れ ,
これらの酸素濃度の合計の値を用いて幅広い濃度範囲で粘度と組成の関係を
表 す こ と が で き て い る 。例 え ば ,二 元 系 で の 熱 力 学 的 に 計 算 さ れ た ( N O   N O 2 )
は ,あ る 濃 度 ま で 増 加 し ,そ れ か ら ,あ ま り 変 化 し な い 。こ の 挙 動 は ,二 元 系
で の 粘 度 と 組 成 の 関 係 と 一 致 す る 。 す な わ ち , 純 粋 な SiO 2 か ら SiO 2 濃 度 を 減
少 さ せ る と ,あ る 濃 度 の 範 囲 で 粘 度 は 明 ら か に 減 少 し ,そ の 後 ,ご く 僅 か な 減
少 と な る 。一 方 ,本 モ デ ル に お い て ,非 架 橋 酸 素 イ オ ン 濃 度 と 自 由 酸 素 イ オ ン
濃 度 の 計 N ( NBO  FO)i は ,Al 四 面 体 の 結 合 以 外 で Si と 結 合 し て い な い 総 て の 酸 素
結 合 の 数 か ら の み 計 算 さ れ て い る 。そ の た め ,塩 基 性 酸 化 物 が 増 加 す る と ,す
べ て の 濃 度 範 囲 で N ( NBO FO)i が 連 続 的 に 増 加 す る こ と に な り ,塩 基 性 酸 化 物 が 高
い濃度になったとしても粘度が減少し続ける。
6
1873 K
Log { viscosity (Pa.s) }
Bockris et al.
4
2073 K
25)
Kozakevitch 26)
Urbain et al. 27)
Present calc.
2
0
-2
-4
0
0.2
0.4
0.6
0.8
Mol fraction of CaO (-)
Figure 5
Viscosity of SiO 2 -CaO system.
110
1
8
1473 K
Log { viscosity (Pa.s) }
Bockris et al.
6
1673 K
28)
Eipeltauer et al. 33)
Present calc.
4
2
0
-2
0
Figure 6
0.2
0.4
0.6
0.8
Mol fraction of Na2O (-)
1
Viscosity of SiO 2 -Na 2 O system.
6
2173 K
Log { viscosity (Pa.s) }
Kozakevitch
4
2273 K
26)
Urbain et al. 34)
Present calc.
2
0
-2
0
Figure 7
0.2
0.4
0.6
0.8
Mol fraction of Al2O3 (-)
Viscosity of SiO 2 -Al 2 O 3 system.
111
1
Fig.8, 9 に 1973K に お け る 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 三 元 系 と 1673K に お け る 溶
融 SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 三 元 系 の 粘 度 を 示 す 。こ れ ら の 図 に お い て ,実 線 は 本 モ デ ル
に よ っ て 計 算 し た 等 粘 度 曲 線 ,○ 印 は 実 験 値 を 示 す 。Fig.8 で 等 粘 度 曲 線 が 1
点 で 折 れ て い る が ,こ れ は ,CaO モ ル 濃 度 が Al 2 O 3 モ ル 濃 度 と 等 し い 点 に 相 当
す る 。CaO 量 が ア ル ミ ナ 酸 化 物 の 量 よ り 高 い 時 ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 が 先 に 述 べ た
よ う に 融 体 中 に Al 四 面 体 を 形 成 す る た め に 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た
す 陽 イ オ ン Ca 2 + に よ る ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 物 と し て 働 く 。 一 方 , 上 記 の 組 成 よ
り も Al 2 O 3 側 に お い て ,ア ル ミ ナ 酸 化 物 は ,電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た
す Ca 2 + イ オ ン が 不 足 す る た め ,ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 酸 化 物 と し て だ け で な く ,ネ
ッ ト ワ ー ク 修 正 酸 化 物 と し て 働 く 。本 モ デ ル に お い て ,こ の 観 点 を 考 慮 し て 計
算 し た 等 粘 度 曲 線 は 溶 融 SiO 2 - CaO- Al 2 O 3 三 元 系 に お い て 1973K の 幅 広 い
組 成 範 囲 で 実 験 値 の 粘 度 と 組 成 の 関 係 を 再 現 し て い る 。二 元 系 同 様 ,計 算 結 果
は SiO 2 濃 度 が 低 い 時 , 実 験 値 よ り 若 干 低 く な っ て い る 。 Fig.9 で , 溶 融
SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 三 元 系 の 1673K に お け る 計 算 結 果 は , 組 成 範 囲 は 狭 い け れ ど も
実験値と一致する。
SiO2
Kozakevitch26)
Present calc.
0.89
0.26
3.8
0.84 2.23
1.07
0.13 0.22 0.53
0.14 0.24
0.14
3
0.96
0.44
0.5
1
0.24 0.25
0.27
0.08
0.17
0.17
0.15
CaO
Figure 8
0.5
0.19
0.05
0.1
0.2
Al2O3
Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 system (mass%) at 1973 K.
112
SiO2
Mizoguchi et al.39)
Present calc.
10.1
3.66 4.94
8.33
8.54
1.64
2.07
10.3
0.786
2.97 3.03
2.36
0.3 1 3 10
K2 O
Figure 9
Al2O3
Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -K 2 O-Al 2 O 3 system (mass%) at 1673 K.
MgO ま た は FeO を 含 む 四 元 系 の 溶 融 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 を
Fig.10,11 に 示 す 。Fig.10 は 溶 融 SiO 2 -CaO-MgO-10mass%Al 2 O 3 四 元 系 ス ラ グ の
1723 K に お け る 粘 度 を 示 す 。 等 粘 度 曲 線 の 計 算 結 果 は , Machin ら
42,43)
の実測
値 と よ く 一 致 し ,SiO 2 濃 度 が 減 少 す る と 粘 度 が 小 さ く な る 傾 向 を 再 現 し て い る 。
Fig.11 は 溶 融 SiO 2 -CaO-FeO 系 で
Gimmelfarb の 実 験 値
44)
20mass%Al 2 O 3 を 含 む ス ラ グ の 粘 度 を
と と も に 示 す 。 同 図 に 示 す よ う に , 高 SiO 2 濃 度 域 で
CaO,FeO が 増 加 す る と 粘 度 は 下 が る が ,CaO,FeO が 多 い 領 域 で は ,粘 度 が 増 加
す る 傾 向 が 見 ら れ る 。 こ の 図 に “ Fact sage” を 用 い て 得 ら れ た 液 相 線 を 記 入
す る と , 低 SiO 2 濃 度 で 固 液 共 存 領 域 が 存 在 し , こ れ が 粘 度 増 加 の 原 因 で あ る
ことがわかる。液相領域での文献値と計算値を比較すると,本モデルは溶融
SiO 2 -CaO-MgO-10mass%Al 2 O 3 系 に お い て も 計 算 値 は 実 験 値 を 再 現 し て い る 。
113
SiO2
Machin et al.42,43)
1.2
0.8
Present calc.
15
15.2 19.3 15.7
13.6 12.5
5.2 5.8 5.0 4.3 3.8 3.5
1.1 1.0 0.9 0.8 0.8
5
1
0.5
0.7 0.7 0.6 0.5
CaO
Figure 10
MgO
Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -CaO-MgO-10Al 2 O 3 system (mass%) at 1723 K.
SiO2
Gimmelfarb44)
Liquidus
(FactSage)
Present calc.
5
2
3.9
2.5
2.4
3.5
1
0.5
0.3
1.5
1.4
1.1
1 1.3
0.6
0.8
1.1
1.8
0.7 0.8 0.3
1.1 0.8
0.3
0.8
0.2
5.1
0.3
0.4
5.2 1.7 0.7
1
7
0.8
CaO
Figure 11
0.3
FeO
Viscosity (Pa . s) of SiO 2 -CaO-FeO-20Al 2 O 3 system (mass%) at 1623 K.
114
最 後 に ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O お よ び 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -Na 2 O 四 元 系 に お
け る 粘 度 の 推 算 に 本 モ デ ル を 使 用 す る こ と を 試 み た 。ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 溶
融アルミノシリケートの粘度測定結果は中島ら
45)
において報告されている。
Fig.12 は ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O お よ び Na 2 O 四 元 系 の 1873K に お け る 粘 度
を 示 す 。 Fig.12 (a) は , 文 献 45 の 粘 度 測 定 値 を , Fig.12 (b)は 本 モ デ ル の
計 算 値 を 示 す 。 さ ら に , Fig.12 (c)
改良した飯田モデル
47)
(d)に , (ⅰ )Riboud モ デ ル
46)
と (ⅱ )
による計算値を示した。これらのモデルは,アルカリ
酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 系 に 適 用 で き ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を 推 算 す る
モ デ ル と し て よ く 用 い ら れ て い る 。 48)
Fig.12 (a)に お い て , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O 四 元 系 の 粘 度 は , K 2 O 濃 度 が
増 す に つ れ て 増 加 し , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -Na 2 O 四 元 系 の 粘 度 は , Na 2 O 濃 度 が
増 す に つ れ て 減 少 す る 。 一 方 , Fig.12 (b) に お け る 計 算 値 で は , 溶 融
SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 系 に Na 2 O を 添 加 す る と 粘 度 は 低 く な り ,SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 系 に K 2 O
を 添 加 す る と わ ず か に 減 少 こ と を 示 し て い る 。 Riboud モ デ ル の 計 算 値 は ,
Fig.12 (c) に 示 す よ う に ,本 モ デ ル と 傾 向 が 似 て い る が ,本 モ デ ル よ り K 2 O,
Na 2 O の 増 加 に よ る 粘 度 の 減 少 傾 向 は 強 い 。 改 良 し た 飯 田 モ デ ル に よ る 計 算 値
は , Fig.12 (d) に 示 す よ う に , K 2 O, Na 2 O の 添 加 に よ っ て 同 じ よ う な 粘 度 の
組成依存性を示している。
こ れ ら の 結 果 か ら , 本 モ デ ル は , 他 の モ デ ル と 比 較 す る と , K2O 添 加 に よ る
粘 度 の 増 加 を 表 現 し て い な い け れ ど も ,溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 三 元 系 へ の K 2 O 添
加 の 影 響 と Na 2 O 添 加 の 影 響 の 違 い を 明 ら か に 表 し て い る 。 本 モ デ ル で は , ア
ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 系 の 組 成 変 化 に 対 す る 粘 度 の 挙 動 は ,次 の 2 つ の 因 子 か ら 決
定される。
(ⅰ ) 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン j と Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 の
結合の弱さを表す係数:αj
in Al
(ⅱ ) Al 四 面 体 を 形 成 す る た め に 供 給 さ れ る 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す イ オ ン の
量 : N (Al BO) j
前 者 に つ い て , K2O の α j
in Al
は Na 2 O の α j
+
in Al
よ り 小 さ い , こ れ は , Al 四 面
+
体 の 架 橋 酸 素 の 結 合 が Na よ り , K が 強 い こ と を 意 味 す る 。 溶 融
SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O 四 元 系 と 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -Na 2 O 四 元 系 の 計 算 結 果 は 係 数
αj
in Al
の差を反映している。後者において,おのおの陽イオンは,他のイオ
ン と の 相 互 作 用 と い う 固 有 の 性 質 を 持 つ の で ,電 荷 を 中 性 に 保 つ イ オ ン と し て ,
い く つ か の 陽 イ オ ン は 優 先 的 に 働 く と 考 え ら れ る が ,こ れ ら に 関 す る 情 報 の 不
足 の た め ,本 研 究 で は ,お の お の の 塩 基 性 酸 化 物 か ら 電 荷 を 中 性 に 保 つ イ オ ン
115
の 供 給 は 塩 基 性 酸 化 物 の 濃 度 に 比 例 す る と 仮 定 し て い る 。こ れ が 原 因 で ,溶 融
SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O 四 元 系 の 実 験 値 と 組 成 の 関 係 を 適 切 に 再 現 で き て い な い 。
Table 3 に お い て , K + の α j
in Al
は -0.69 と 負 の 値 を 示 し て お り , 電 荷 を 中 性 に
+
満 た す イ オ ン の 量 N (Al BO) (
j j =K )が 本 研 究 で 推 定 し た 量 よ り 大 き い 場 合 に は ,
粘 度 の 値 は 本 研 究 で 計 算 し た 粘 度 の 値 よ り 高 く な り , Fig.12(a)の 傾 向 を よ り
よく再現することになる。
(a)
(b)
1
Log { viscosity (Pa.s) }
Log { viscosity (Pa.s) }
1
0
-1
0
-1
0
5
10
K2O, Na2O (mass%)
15
(c)
0
15
(d)
1
1
Log { viscosity (Pa.s) }
Log { viscosity (Pa.s) }
5
10
K2O, Na2O (mass%)
0
-1
0
-1
0
5
10
K2O, Na2O (mass%)
15
44CaO-36SiO 2-20Al2O3 (mass%)
K2O
Na2O
0
5
10
K2O, Na2O (mass%)
15
32CaO-48SiO 2-20Al2O3 (mass%)
K2O
Na2O
40CaO-40SiO 2-20Al2O3 (mass%)
K2O
Figure 12
Na2O
Viscosity of SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -K 2 O or Na 2 O system at 1873 K. (a)
Experimental data 45) , (b) present calculation, (c) Riboud model 46) and (d)
modified Iida model 47) .
116
5.4.
フッ化カルシウムを含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度モデル
廃 棄 物 溶 融 炉 は CaF 2 を 含 む 廃 棄 物 を 溶 融 処 理 す る こ と も あ る の で , 溶 融 ス
ラ グ は ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 に CaF 2 を 含 む 系 と な る 。
CaF 2 を 含 む 系 に 対 し て は , 前 述 の IRSID 熱 力 学 ‘ セ ル モ デ ル ’ を 適 用 す る こ
と は 難 し い の で ,本 章 で は ,化 学 組 成 か ら 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 し ,酸 化 物 と
フ ッ 化 物 の 混 合 物 を 扱 う こ と が 可 能 な 須 佐 ら の モ デ ル を 用 い て ,CaF 2 を 含 有 す
る溶融シリケート系の粘度への推算モデルの拡張を試みた。
5.4.1.
F を含有するアルミノシリケート
ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に CaF 2 が 添 加 さ れ た 場 合 , 須 佐 ら
49)
は , F イ オ ン は Si-F
や Al-F の 結 合 を 形 成 し て シ リ ケ ー ト の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 直 接 “ 切 断 ” す る
よ う に は 働 か ず , Fig.13 に 示 す よ う に ネ ッ ト ワ ー ク が あ ら か じ め CaO に よ り
“ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 , CaF 2 の 添 加 は 最 終 的 に O-Ca-F 結 合 を 形 成 し , 結 果
と し て ネ ッ ト ワ ー ク を よ り “ 切 断 ” す る 方 向 に 働 き ,粘 度 が 低 下 す る と し て い
る。
Si
O
Si
Si
O
O
Ca2+
O
Si
O
Figure 13
Si
O
CaF+
O
CaF+
+ CaF2
Si
Si
O
Si
Structural change by adding CaF 2 into silicate
こ の 考 え 方 は 式 (3),(4)中 の 非 架 橋 酸 素 , 自 由 酸 素 の 項 α i ・ N ( N B O + F O ) I に 対 し て
新 た に O-Ca-F 結 合 に 関 す る α C a F 2 と N ( N B O + F O ) C a F 2 を 考 慮 す る こ と に よ り 本 モ デ ル
を CaF 2 を 含 む 系 に 拡 張 で き る 。 こ こ で は N ( N B O + F O ) C a F 2 ( O-Ca-F 結 合 ) の 増 加 に
よ り CaO の 存 在 に よ っ て 生 じ た Ca 2 + イ オ ン が “ 切 断 ” し た 箇 所 に お け る 非 架 橋
酸 素 ,自 由 酸 素 濃 度 は 減 少 す る 。た だ し ,適 用 組 成 範 囲 は モ ル 単 位 で CaO 濃 度
が CaF 2 濃 度 よ り 高 い 場 合 に 限 ら れ る 。
こ こ で 多 成 分 a SiO 2 - ∑ b i (M x O y ) i - c Al 2 O 3 - d CaO- e CaF 2 系 { a +∑ b i + c + d + e =1 (mol)}
( (M x O y ) i = MgO, FeO, K 2 O, Na 2 O )に 関 し て ,先 の (4)式 に お け る N ( N B O + F O ) i , N ( A l - B O ) j
は次のように表される。
117
N (NBO  FO)CaF  e /( 2a  bi  3c  d )
(17)
2
N (Al-BO) j  4c(bi /(bi  d )) /( 2a  bi  3c  d ) ( j = Mg 2 + , Fe 2 + , K + , Na + )
N (Al-BO)
Ca 2
 4c((d  e) /(bi  d )) /(2a  bi  3c  d )
N (NBO FO)i  {bi  c(bi / bi )} /(2a  bi  3c  d )
(19)
( i = MgO,FeO,K 2 O,Na 2 O,Al 2 O 3 ) (20)
N (NBO FO)CaO  {(d  e)  c((d  e) / bi )} /(2a  bi  3c  d )
5.4.2.
(18)
(21)
パラメータの決定
溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 を 表 す 先 の (3), (4)式 に は , 2 種 類 の 係 数 ,
αi と αj
in Al
が含まれている。前者は非架橋酸素イオンと自由酸素イオン
に 関 す る 係 数 で , 後 者 は Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 と 関 連 す る 係 数 で あ る 。
本研究では,αi と αj
ナシリケート
in Al
の係数は二元系シリケート
26,34-36,39-41)
な ら び に SiO 2 -CaO-CaF 2 系
50-52)
25-34)
,三元系アルミ
の粘度の実験値を用い
て決定した。係数の決定方法は次のとおりである。
① 5.3.1.に お い て 述 べ た よ う に , α i の 値 と α j
in Al
の値は,実験値に計算
した粘度の値が一致するように決定した。
② 次 に ,上 述 の 5.3.1 で 決 定 し た 値 を 用 い て α Ca F2 を 溶 融 SiO 2 -CaO-CaF 2 系 の
粘度の実験値に合うように導出した。
5.3.1 の Table 3 に 掲 載 し た α i と α j
in Al
に 上 記 の α CaF2 を 加 え た 結 果 を
Table 4 に 示 す 。
Table 4
(MxOy)i
CaO
MgO
FeO
K2O
Model parameters
i
4.00
Fe
6.25
7.35
Al2O3
1.14
CaF2
10.8
1.46
2+
1.56
2+
3.15
+
-0.69
Mg
6.05
K
Na
118
in Al
2+
Ca
3.43
Na2O
aj
j
+
0.27
5.4.3.
計算結果
須 佐 ら の モ デ ル を 応 用 し ,CaF 2 の 添 加 に よ る シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合
状 態 を 計 算 し た N ( NBO FO)i と N (Al BO) j の 値 の 変 化 を 計 算 す る こ と に よ る 本 モ デ
ル の 粘 度 の 値 の 信 頼 性 を 確 認 す る た め に ,文 献 値( 係 数 の 決 定 に 使 用 し た 各 種
溶 融 酸 素 物 系 の 粘 度 の 値 ) と 本 計 算 値 を 比 較 し た 。 1873 K に お け る 溶 融
SiO 2 -CaO-CaF 2 系 の 粘 度 を Fig.14 に 示 す 。本 モ デ ル に よ る 等 粘 度 線 は CaO モ ル
濃 度 が CaF 2 モ ル 濃 度 よ り 大 き な 値 と な る モ デ ル の 適 用 範 囲 内 で 示 さ れ て い る 。
同図中の■,△印は実験結果
50,51)
を 示 し て い る 。 本 計 算 結 果 は CaF 2 の 粘 度 を
低 下 さ せ る 作 用 が CaO よ り 大 き い と い う 一 般 的 な 傾 向 を 示 し て い る 。ま た ,本
モ デ ル で 評 価 し た CaO に 対 す る CaF 2 の 粘 度 へ の 影 響 を 表 す パ ラ メ ー タ の 比
α C a F 2 / α C a O は 2.7 と な り , 白 石 ら
51)
の 報 告 に よ る CaF 2 が CaO の 2.2 倍 の 作 用
をもって粘度を低下させるという報告と同程度の値をとっている。
Fig.15,16 は 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 4 成 分 系 の 粘 度 の 計 算 結 果 を 実 験 値
53)
と と も に 示 し て い る 。 実 験 値 は CaF 2 濃 度 の 増 加 に よ り 粘 度 が 低 下 す る 傾 向
を 示 し て い る 。 本 モ デ ル は 僅 か に 実 験 値 と の ず れ は あ る が CaF 2 の 粘 度 に 対 す
る 影 響 を 良 く 再 現 し て い る 。 Fig.17 は 溶 融 SiO 2 -CaO-Na 2 O-CaF 2 4 成 分 系 の 粘
度の計算結果を実験値
54)
と と も に 示 し て い る 。 実 験 値 は CaF 2 濃 度 の 増 加 に よ
り 粘 度 が 低 下 す る 傾 向 を 示 し て い る 。 溶 融 SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 6 成
分 系 の 粘 度 を Fig.18 に 示 す
55)
。 Fig.18 で 引 用 し た 文 献 値 で は 一 部 の 組 成 に
Li 2 O が 含 ま れ て い る が ,本 計 算 で は Li 2 O を 考 慮 せ ず に 計 算 を 行 っ て い る 。D2,
D3,D4,D12 の 順 に 実 験 値 は 粘 度 が 小 さ く な っ て い る が ,本 計 算 結 果 は そ の 傾 向
を再現している。
119
SiO2
3
1
0.3
3.1
1.6
0.9
1.1
0.62 0.73
0.61
0.39 0.29 0.5
0.28
0.38 0.29
0.26
0.28
0.43
0.2
0.235
0.205
0.29 0.4
0.165
0.1
0.155
0.15 0.235
0.15
0.02 0.2
0.05
Shiraishi et al.
Hetry et al.
0.1
0.03
0.01
0.02
CaF2
CaO
Figure 14
Viscosity (Pa . s) of molten SiO 2 -CaO-CaF 2 (mass%) at 1873K 50,51)
120
15
Viscosity (Pa.s)
Michel et
10
Present calc.
Slag 1
Slag 2
Slag 3
Slag 1
SiO2
CaO
Al2O3
42
38
20
CaF2
Slag 2
40.3
36.5
19.2
4
Slag 3
37.8
34.2
18
10
(mass%)
5
0
1500
1600
Temperature (K)
Figure 15
1700
Viscosity of molten SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2
53)
8
Riboud et al.
Viscosity (Pa.s)
6
Present calc.
LB
B5F
B10F
B15F
4
SiO2
CaO
Al2O3
CaF2
LB
42.1
45.9
11.9
0
B5F
39.6
44.7
11.3
4.3
B10F
38.6
43.3
11
7.1
B15F
37.2
40.5
10.5
11.7
(mass%)
2
0
1500
1600
1700
Temperature (K)
Figure 16
1800
Viscosity for molten SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 . 54)
121
(a)
SiO2
Present calc.
SiO2
CaO
Na2O
CaF 2
A
40.6
32.7
18.4
8.3
C
48.3
25.2
18.3
8.2
E
56.2
18
18.6
7.1
G
40.5
40.8
10
8.7
I
47.9
34.3
9.1
8.7
K
53.3
27.2
10.7
9.1
Riboud et al.
1
0.3
0.1
0.323
0.115
0.357
0.113
0.065
0.048
0.03
0.01
(mass%)
CaO
Na2O
(b)
SiO2
Present calc.
Riboud et al.
1
0.3
0.1
0.106
0.047
0.03
0.376 0.23
0.108
0.04
0.01
CaO
Figure 17
SiO2
CaO
Na2O
CaF2
B
40.8
23.8
18.4
17
D
49
16.6
18.2
16.2
F
56.1
7.6
18.8
17.5
H
40.6
32.8
8.9
17.7
J
48.1
26.4
9.1
16.4
L
56.2
19.4
8.8
15.7
(mass%)
Na2O
Viscosity (Pa . s) in SiO 2 -CaO-Na 2 O-CaF 2 system at 1773 K. 54)
Present calculations are conducted at (a) 8 mass%CaF 2 and (b) 17 mass%CaF 2 .
122
1
Nakajima et al. Present calc.
D2
D3
D4
D12
Viscosity (Pa.s)
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1500
1600
1700
Temperature (K)
1800
SiO2
Al2O3
CaO
CaF2
Na2O
MgO
Li2O
D2
41.76
7.67
24.07
14.63
9.23
2.65
0
D3
40.62
6.97
25.21
14.25
9.19
2.5
1.26
D4
39.04
7.65
24.53
15.29
8.8
2.83
1.85
D12
35.87
7.88
21.4
16.05
9.58
9.22
0
(mass%)
Figure 18
Viscosity of molten SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO
123
55)
5.5.
廃棄物溶融炉の溶融スラグの粘度予測
本 モ デ ル を 用 い て , 前 章 の 4.5.高 融 点 廃 棄 物 ( 石 綿 含 有 廃 棄 物 ) の 溶 解 条
件 の 推 定 で 検 討 し た ス ラ グ 組 成 に つ い て 粘 度 を 予 測 し た 。 Table 5 に 溶 融 炉 ス
ラ グ へ 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 0,30,50% の 割 合 で 混 合 し た 場 合 の 組 成 を 示 す 。 Fe
は FeOx( X=1~ 1.33)の 形 態 で 存 在 す る が ,す べ て FeO と す る 。こ れ ら の 組 成
に つ い て , 1473K~ 1673K の 範 囲 で 本 モ デ ル を 用 い て 粘 度 を 計 算 し た 。 Fig.19
に 溶 融 炉 ス ラ グ へ 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 0,30,50% の 割 合 で 混 合 し た 場 合 の 溶 融
ス ラ グ の 粘 度 の 計 算 値 を 示 す 。廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 温 度 を 1573~ 1623K で 操
業 管 理 し て い る 場 合 に ,安 定 操 業 の 目 安 と し て 流 動 性 の よ い 溶 融 ス ラ グ の 粘 度
を 高 炉 ス ラ グ 同 様 0.6Pa・s 以 下
20)
と す る と ,ス ラ グ 量 に 対 し て 石 綿 含 有 廃 棄
物 の 添 加 量 が 30%程 度 ま で な ら ば 石 綿 含 有 廃 棄 物 が 処 理 可 能 で あ る と 考 え ら
れる操業指針が得られた。
Table 5 Compositions of slag mixed with asbestos
(mass%)
Addition of
asbestos (%)
0
30
50
Asbestos
SiO 2
CaO
FeO
Al 2 O 3
Na 2 O
K2O
MgO
CaF
32.1
34.5
36.1
15.4
11.0
8.1
25.7
18.8
14.2
13.0
10.3
8.5
2.8
2.0
1.4
1.2
0.8
0.6
3.2
12.7
19.1
2.0
1.4
1.0
52.0
1.0
2.3
3.8
0.1
0.0
36.5
0.0
5
Addition of 0% asbestos
Viscosity (Pa・s)
4
Addition of 30% asbestos
Addition of 50% asbestos
3
2
1
0
1473
Figure 19
1523
1573
Temperature (K)
1623
1673
Viscosity of molten slag mixed with asbestos in melting furnace
124
5.6.
結言
アルカリ酸化物を含む溶融アルミノシリケートスラグの粘度推算モデルの
提 案 を 行 な っ た 。シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 に つ い て は ,非 架
橋 酸 素 イ オ ン と 自 由 酸 素 イ オ ン の モ ル 分 率 を ,こ れ ま で は 熱 力 学 モ デ ル か ら 計
算 し て き た が ,多 成 分 系 で は 熱 力 学 的 パ ラ メ ー タ が 整 備 さ れ て い な い の で 計 算
で き な か っ た 。そ こ で ,シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 す る た め に ,
熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 が 3
種 類 の 結 合 ,す な わ ち ,① Si 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,② 電 荷 中 性 条 件 を 満 た
す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,③ Si と 結 び つ く 非
架 橋 酸 素 か ら 成 る と 仮 定 し ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を 形 成 す る 酸
素の結合状態を計算する手法を導入した粘度推算モデルを導出した。
同モデルを用いて,アルカリ酸化物を含む四元系アルミノシリケート融体
( SiO 2 -CaO-MgO-Al 2 O 3 系 な ど )の 粘 度 推 算 を 行 な っ た 。ま ず ,非 架 橋 酸 素 イ オ
ン , 自 由 酸 素 イ オ ン , Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 イ オ ン の 濃 度 を 熱 力 学 パ ラ メ ー タ
を 用 い ず ,ス ラ グ 成 分 か ら 計 算 し た 。次 に ,二 元 シ リ ケ ー ト 系 と 三 元 ア ル ミ ナ
シリケート系の粘度と濃度の関係の実験値から溶融アルミノシリケートの粘
度 推 算 モ デ ル で 使 用 す る 係 数 を 決 定 し た 。さ ら に ,こ の 係 数 を 用 い て 導 出 し た
溶融アルミノシリケートの粘度推算モデルの三元アルミナシリケート系の粘
度 と 濃 度 の 関 係 と MgO,FeO を 含 む 四 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 の 粘 度 と 組 成 の
関 係 を 求 め ,実 験 値 と 比 較 し た 。そ の 結 果 ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト
の粘度推算モデルが組成に対する粘度の関係を再現できることが明らかとな
った。
さ ら に ,CaF 2 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 を 行 な う た め
に ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 が CaO に よ り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 ,
CaF 2 の 添 加 で O-Ca-F 結 合 を 形 成 す る と 考 え , CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ ケ ー ト
系 の 粘 度 の 推 算 の た め に 上 記 の モ デ ル の 拡 張 を 試 み た 。CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ
リ ケ ー ト 系 に 拡 張 し た 粘 度 推 算 モ デ ル の 計 算 結 果 は , 溶 融 SiO 2 -CaO-CaF 2 , 溶
融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 系 の 粘 度 に 対 す る CaF 2 濃 度 の 影 響 な ら び に 溶 融
SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 系 の 組 成 依 存 性 を 再 現 し た 。
最 後 に ,本 モ デ ル を 用 い て 廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ に 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 添 加 し
た 場 合 の 粘 度 予 測 を 行 な っ た 。4 章 の 熱 力 学 デ ー タ を 用 い た 相 平 衡 解 析 と 溶 融
ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推 算 モ デ ル を 用 い て ,廃 棄 物 溶 融 炉 で 流 動 性 の 良 好
な溶融スラグを得るための有効な操業指針を得ることが可能となった。
125
参考文献
1) Y. Miyabayashi, T. Yoshikawa and T. Tanaka: J. High Temp. Soc., 32 (2006), 281.
2) T. Aoki, K. Miyamoto and Y. Kawasaki: Patent, JP, 2003-181412, A.
3) J. Hino and Y. Miyabayashi: J. High Temp. Soc., 25 (1999), 59.
4) Y. Miyabayashi, H. Noto and M. Narisako: J. Min. Mater. Process. Int. Jpn., 121
(2005), 149.
5) T Aoki, Y. Miayabayashi and T. Yanagida: J. Min. Mater. Process. Int. Jpn., 122
(2006), 235.
6) K. C. Mills, L. Chapman, A. B. Fox and S. Sridhar: Scand. J. Metall., 30 (2001),
396.
7) A. Kondratiev, E. Jak and P. C. Hayes: JOM, 54 (2002), 41.
8) S. Seetharaman, K. Mukai and Du Sichen: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags,
Fluxes and Salts, SAIMM, Johannesburg, (2004), 31.
9) L. Zhang and S. Jahanshahi: Metall. Mater. Trans. B, 29B (1998), 177.
10) L. Zhang and S. Jahanshahi: Metall. Mater. Trans. B, 29B (1998), 187.
11) L. Zhang and S. Jahanshahi: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags, Fluxes and
Salts, SAIMM, Johannesburg, (2004), 51.
12) A. Kondratiev and E. Jak: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags, Fluxes and Salts,
SAIMM, Johannesburg, (2004), 141.
13) A. Kondratiev, P. C. Hayes and E. Jak: ISIJ Int., 46 (2006), 359.
14) A. Kondratiev, P. C. Hayes and E. Jak: ISIJ Int., 46 (2006), 368.
15) A. Kondratiev, P. C. Hayes and E. Jak: ISIJ Int., 46 (2006), 375.
16) T. Tanaka, M. Nakamoto and T. Usui: Proc. of Japan-Korea Workshop on
Science and Technology in Ironmaking and Steelmaking, ISIJ, Tokyo, (2003), 56.
17) T. Tanaka, M. Nakamoto, J. Lee and T. Usui: Proc. of Science and Technology of
Innovative Ironmaking for aiming at Energy Half Consumption, MEXT, Tokyo,
(2003), 161.
18) T. Tanaka, M. Nakamoto and J. Lee: Proc. of Metal Separation Technologies III,
symposium in Honor of Professor Lauri E. Holappa, HUT, Espoo, (2004), 135.
19) T. Tanaka, M. Nakamoto, K. Nakashima and N. Saito: Proc. of Australia-Japan
Iron & Steelmaking Symposium, UNSW, Sydney, (2004), 1.
20) M. Nakamoto, T. Tanaka, J. Lee and T. Usui: ISIJ Int., 44 (2004), 2115.
21) M. Nakamoto, J. Lee and T. Tanaka: ISIJ Int., 45 (2005), 651.
126
22) H. Gaye and J. Welfringer: Proc. 2nd Int. Symp. Metall. Slags and Fluxes, Met.
Soc. of AIME, Warrendale, PA, (1984), 357.
23) H. Gaye and J. Lehmann: Proc. 7th Int. Conf. on Molten Slags, Fluxes and Salts,
SAIMM, Johannesburg, (2004), 619.
24) M. Susa, Y. Kamijo, K. Kusano and R. Kojima: Glass Technol., 46 (2005), 55.
25) J. O’M. Bockris and D. C. Lowe: Proc. R. Soc. A, 226A (1954), 423.
26) P. Kozakevitch: Rev. Metall., 57 (1960), 149.
27) G. Urbain: Rev. Int. Hautes Temp. Refract, 11 (1974), 133.
28) J. O’M Bockris, J. D. Mackenzie and J. A. Kitchener: Trans. Faraday Soc., 57
(1955), 1734.
29)
P. Kozakevitch: Rev. Metall., 46 (1949), 505.
30)
P. Roentgen, H. Winterhager and L. Kammel: Z. Erz. Metall., 9 (1956), 207.
31)
T. Myslivec, J. Wozniak and V. Cerny: Sb. Ved. Pr. Vys. Sk. Banaske Ostrave,
20 (1974), 57.
32)
G. Urbain, Y. Bottinga, and P. Richet: Geochim. Cosmochim. Acta, 46 (1982),
1061.
33)
E. Eipeltauer and G. Jangg: Kolloid Z., 142 (1955), 77.
34) G. Urbain: Rev. Int. Hautes Temp. Reflect, 20 (1983), 135.
35) J. S. Machin, Tin Boo Yee and D. L. Hanna: J. Am. Ceram. Soc., 35 (1952), 322.
36) R. A. Lyutikov and L. M. Tsylev: Izv. Akad. Nauk SSSR, Otd. Tekh. Nauk, Metall.
Gorn. Delo, (1963), 41.
37) E. F. Riebling: Can. J. Chem., 42 (1964), 2811.
38) G. Hofmaier: Berg-Huttenman. Monatsh., 113 (1968), 269.
39) K. Mizoguchi, K. Okamoto and Y. Suginohara: J. Jpn. Inst. Metals, 46 (1982),
1055.
40) P. Rontgen, H. Winterhager and R. Kammel: Erzmetall, 9 (1956), 207.
41) T. Kou, T. Mizoguchi and Y. Suginohara: J. Jpn. Inst. Metals, 42 (1978), 775.
42) J. S. Machin, Tin Boo Yee and D. L. Hanna: J. Am. Ceram. Soc., 35 (1952), 322.
43) J. S. Machin and Tin Boo Yee: J. Am. Ceram. Soc., 37 (1954), 177.
44) A. A. Gimmelfarb: Izv. Akad. Nauk SSSR Metally, (1968), 59.
45) S. Sukenaga, N. Saito, K. Kawakami and K. Nakashima: ISIJ Int., 46 (2006),
352.
46) P. V. Riboud, Y. Roux, L.-D. Lucas and H. Gaye: Fachber. Httenprax.
Metallweiterverab., 19 (1981), 859.
127
47) T. Iida, H. Sakai, Y. Kita and K.Murakami: High Temp. Mater. and Proc., 19
(2000), 153.
48) K. C. Mills, A. B. Fox, L. Chapman and S. Sridhar: Scand. J. Metallurgy, 30
(2001), 396
49) S. H. Firoz, R. endo and M. Susa: Ironmaking Steelmaking, 34 (2007), 437.
50) Herty C. H., Hartgren F., Frear G., Boyer M.: US Bur. Mines Rept. RI 3232
(1934).
51) Shiraishi Y., Saito T.: Nippon Kinzoku Gakkai Kaiho 29 (1965) 614.
52) F. Shahbazian, Du Sichen, K. C. Mills and Seetharaman: Ironmaking
Steelmaking, 26 (1999), 193.
53) J. R. Michel and A. Mitchell: Can. Metall. Q, 14 (1975), 153.
54) P. V. Riboud, Y. Roux, L.D. Lucas and H. Gaye: Fachber. Huttenprax.
Metallweiterverarb., 19 (1981), 861.
55) K. Nakajima, H. Mizukami, M. Kawamoto and Z. Morita: Tetsu-to-Hagane, 80
(1994), 509.
128
第6章
6.1.
溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発
緒言
廃棄物溶融処理炉において溶融処理する産業廃棄物は種々雑多であ
り,組成,含有量がばらついているため,流動性が刻々と変化するなど
廃棄物溶融炉を安定して操業することは容易ではない。この点から,著
者らはスラグの流動性が代表的な操業指針のひとつであることに注目
し,前の第 4 章,5 章で次の検討を行なった。
1) 廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ と 未 溶 解 物 に つ い て , 流 動 性 測 定 と 熱 力
学 的 デ ー タ を 利 用 し た 相 平 衡 解 析 を 行 な い ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 操 業 に 及 ぼ
す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ の 流 動 性 を 解 析 し ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の 溶 融
処理について溶融条件を検討した
1)
。
2) 廃 棄 物 溶 融 炉 の ス ラ グ 系 は CaO, FeO, Fe2O3, MgO, K2O, Na2O 等 を 含
む 多 元 系 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ で あ り ,同 ス ラ グ 系 に 対 す る 粘 度 推
算モデルを検討した
2)
。
こ の よ う に ,相 平 衡 解 析 な ら び に 粘 度 推 算 モ デ ル を 通 じ て 廃 棄 物 溶 融
炉における溶融スラグの流動性に関する操業指針を得ることは可能に
なったが,産業廃棄物は種々雑多であり,組成,含有量は刻々と変化し
ており,それに伴いスラグの流動性が変化する。そのため廃棄物溶融炉
のオンサイトに簡易型の粘度測定装置を設置して粘度の値と温度を迅
速 に 計 測 す る こ と が で き れ ば , SiO2 ま た は CaO の 成 分 を 含 む 溶 剤 の 添 加
量を調整し,スラグの流動性を安定させることが可能となる。しかしな
が ら ,高 温 融 体 の 粘 度 測 定 装 置 は 一 般 に ,1) 測 定 に 必 要 な 時 間 が 膨 大 で
あ る ,2) 測 定 に 必 要 な 機 器 が 巨 大 で あ る ,な ど の 欠 点 を 有 し て い る た め ,
オ ン サ イ ト で 粘 度 測 定 が で き る 簡 易 な 粘 度 計 の 開 発 が 望 ま れ る 。そ こ で
本 研 究 で は ,溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を オ ン サ イ ト で 測 定 す る こ と を 目 指 し た
粘度測定方法を検討した。特に粘度測定方法として落球法に着目し,高
温 用 粘 度 計 の 開 発 の た め の 指 針 を 得 る こ と を 目 的 に ,常 温 と 高 温 に お け
る基礎試験を行ない,計測方法,装置の形状・大きさなどに関する検討
を行なった。
129
6.2.
粘度測定法の選定とその原理
6.2.1.
粘度測定法の選定
溶 融 酸 化 物 の 粘 度 測 定 法 と し て は , a)円 筒 回 転 法 ( 同 一 の 回 転 軸 を 有
す る 外 筒 と 内 筒 の 間 に 融 体 を 入 れ ,一 方 の 円 筒 を 一 定 の 回 転 速 度 で 回 転
させて融体の粘性抵抗によって内筒に生ずるトルクから粘度を算出す
る 方 法 ), b ) 回 転 振 動 法 ( 融 体 に 周 期 的 な 振 動 を 与 え た 際 の 対 数 減 衰 率
か ら 粘 度 を 算 出 す る 方 法 ), c ) 振 動 片 法 ( 融 体 に 浸 漬 さ せ た 振 動 片 を 一
定の駆動力で振動させ,振幅の変化から粘度を算出する方法)が主とし
3,4)
て用いられている
。上記の方法においてはいずれも装置が大きく,
計測のための調整時間も含めて測定全般の時間が長いなどの欠点があ
り,オンサイトでの測定に適していない。一方,これまで高温融体に対
しては余り試みられなかったが,落球法(融体中に球を落下させ,一定
距離を落下する時間から粘度を算出する方法)が,測定時間が短く装置
が 簡 易 で あ る こ と か ら オ ン サ イ ト で の 測 定 に 適 し て い る と 考 え ら れ ,本
手法を高温測定に適用するための基礎的検討を行なった。
6.2.2.
原理
落 球 粘 度 測 定 法 と は ,前 述 の よ う に 測 定 対 象 の 流 体 中 を 球 体 が 落 下 す
る速度を計測することによって粘度を測定する方法である。但し,計測
地点に到達するまでに球の落下速度が十分に終末一定速度に到達して
い な け れ ば な ら な い 。 Fig.1 に 測 定 方 法 の 概 略 図 を 示 す 。 ス ト ー ク ス の
抵 抗 法 則 に よ り , 式 (1)の 関 係 式 が 得 ら れ る 。
 D 3  dv
6


dt
D 3  
6
 g  3 Dv
・ ・ ・ (1)
こ こ で , D は 落 下 球 の 直 径 ( m ),  は 落 下 球 の 密 度 ( k g / m 3 ), v は 落 下
球 の 速 度 ( m / s ) , μ は 試 料 液 の 粘 度 ( P a ・ s ), Δ ρ は 落 下 球 と 試 料 液 と
の 密 度 差 ( k g / m 3 ), g は 重 力 加 速 度 ( m / s 2 ) で あ る 。 但 し , 式 ( 1 ) が 成 立
す る た め に は , 式 (2)の 条 件 を 満 た す 必 要 が あ る 。
Re 
vD 

f
 1 ・ ・ ・ (2)
こ こ で , Re は レ イ ノ ズ ル 数 ,  f は 試 料 液 の 密 度 ( kg/m3) で あ る 。
落下球が終末一定速度に到達後,測定を開始すると加速度は0となり,
(1)式 は 次 の (3)式 の よ う に な る 。
130
3  Dv 
D 3g
6
・ ・ ・ (3 )
こ こ で 速 度 v は (4)式 で 求 ま る 。
v
L
t
・ ・ ・ (4 )
上 式 に お い て , L は 2 点 の 測 定 間 の 距 離( m ), t は 2 点 の 測 定 間 を 通 過
す る 時 間( s )で あ る 。( 3 ) ( 4 ) 式 よ り 粘 度 は ( 5 ) 式 で 表 す こ と が で き る 。
 
D 2g
t

18
L
・ ・ ・ (5)
す な わ ち ,融 体 中 で の 比 重 が 既 知 の 直 径 D の 球 が あ る 距 離 L を 通 過 す る
時間 t を計測すれば融体の粘度を測定することができる。
Ball
L
t
Melt
(Sample Liquid)
Figure 1
Schematic illustration of the falling ball method for viscosity
measurement.
6.2.3.
溶融物の高温下での粘度測定装置の課題と解決案
落 球 粘 度 計 で は ,球 が 一 定 距 離 を 落 下 す る 時 間 を 計 測 し な け れ ば な ら
な い 。計 測 手 段 と し て は ,1 ) 目 視 に よ る 測 定 ,2 ) 映 像 解 析 に よ る 測 定 ,
3) 静 電 容 量 の 変 化 に よ る 測 定 な ど が あ る 。 高 温 の 赤 熱 し て い る 融 体 に
対 し て , 1), 2) は 光 を 媒 体 と し て お り , 測 定 容 器 を 横 か ら 見 る こ と は
困 難 で あ る 。ま た ,3 ) は 装 置 が 複 雑 に な り ,オ ン サ イ ト に は 適 さ な い 。
そ こ で 溶 融 ス ラ グ 中 に 上 下 2 箇 所 に 電 極 を 相 対 す る よ う に 設 置 し ,上 部
から落とした球が上下 2 つの電極間を通過する際の電気抵抗変化から上
下 の 電 極 間 の 一 定 距 離 を 通 過 す る 時 間 を 計 測 す る こ と を 試 み た 。本 章 で
は溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発を目指
し て ,落 球 法 に よ る 粘 度 計 測 方 法 の 妥 当 性 の 検 討 を 常 温 下 で の 液 体 と 高
温下の融体を対象として行なった基礎実験について述べる。
131
6.3.
直流電源による常温の基礎実験
6.3.1.
実験装置
Fig.2 に 落 球 実 験 装 置 の 概 略 を 示 す 。 落 球 管 (容 器 )と し て 内 径 15mm,
長 さ 200mm の ア ク リ ル 製 パ イ プ を 用 い , 管 内 壁 面 に 直 径 5mm の 銅 製 の 丸
棒 を 端 面 が 相 対 す る よ う に 電 極 と し て 取 り 付 け ,上 中 下 3 箇 所 に 電 極 を
配置した。試料溶液の液面から上部電極までの距離,および上下の電極
間 の 距 離 は 各 々 5 0 m m と し た 。落 下 さ せ る 試 料 球 と し て は ,直 径 3 . 2 m m の
テ フ ロ ン 球 , 直 径 1.6, 2.4, 3.2mm の ス テ ン レ ス 球 を 用 い た 。 試 料 溶 液
に は 増 粘 剤 で あ る 水 溶 性 セ ル ロ ー ス エ ー テ ル (メ ト ロ ー ズ )を 使 用 し , 導
電 性 を 得 る た め に 硫 酸 銅 を 試 料 溶 液 に 1%添 加 し た 。 試 料 溶 液 の 粘 度 は
400~ 8000 mPa・s の 範 囲 で 調 整 し た 。 ま た , 本 試 験 で は , D=3.2mm,  f
= 1 0 2 0 k g / m 3 , μ = 0 . 4( P a・ s ) の 時 , R e は 最 大 値 0 . 8 3 , vt = 0 . 0 9 6 ( m / s )
と な り , Re が 1 未 満 を 満 足 す る 範 囲 で 粘 度 測 定 を 行 な っ た 。 Fig.3 に 実
験装置の構成を示す。粘度は温度によって大きく変化するため,温度を
一定に保つように落球管全体を恒温槽内に保持した。また,恒温槽の水
温 を 293~ 313K ま で 変 化 さ せ て 同 じ 溶 液 を 使 用 し て 異 な る 粘 度 の 測 定 を
行 な っ た 。 Fig.3 に 示 す よ う に , 各 電 極 を 銅 線 で 並 列 に 繋 ぎ 直 流 電 源 の
抵抗測定器に接続し直流電流を流した。各球を試料溶液中に落下させ,
球 が 各 電 極 を 通 過 す る と き の 抵 抗 変 化 を 計 測 し ,パ ソ コ ン に リ ア ル タ イ
ム で デ ー タ を 取 り 込 み ,球 が 電 極 間 を 通 過 す る 時 間 か ら 落 下 速 度 を 算 出
して溶液の粘度を求めた。
Acrylic pipe
50m
Ball
Copper electrode
φ5mm
50m
50m
Sample solution
φ15mm
Figure 2
Schematic illustration of the experimental device of the falling ball
method for viscosity measurement.
132
Agitator
Pe r so n al c o m pu t e r
Digit al m u lt i m e t e r
C o ppe r e le c t r o de
T e m pe r at u r e c o n t r o l bat h
W at e r t e m pe r at u r e
2 9 3 ~3 1 3 K
W at e r
Expe r im e n t al appar at u s o f t h e dr o ppin g ball m e t h o d
Figure 3
6.3.2.
The experimental setup for viscosity measurement.
測定開始位置の検討
本手法は落下する球が最上部の電極位置に達するまでに終末一定速
度に到達していることが必要である。そこで,粘性融体内を落下する球
が終末一定速度に到達するまでの距離とその時の速度について検討を
行なった。ストークスの抵抗法則式を落球の落下速度 vとその時の移動
距 離 L に 関 し て 解 く と 次 の 式 (6), (7)が 得 ら れ る 。
D 2 g
v
18 
L

t
0
vdt 


 1  exp   18  t

 D 2
 p p





D 2   g 
D2

t

18  
18 

  18  t   
 1  exp 
  
2

D


  

・ ・ (6)
・ ・ (7)
先ず,本実験で用いた落球管の試料溶液液面から上部電極までの距離,
すなわち加速区間距離に関して検討を行なった。試料溶液粘度を
4 0 0 m P a ・ s と し ,ス テ ン レ ス 球 を 落 下 球 と し て 用 い た 場 合 の 落 下 開 始 か ら
の 時 間 に 対 す る 落 下 速 度 , 落 下 距 離 の 計 算 結 果 を Fig.4 に 示 す 。 同 図 に
おいて,落下開始からの時間 t を横軸に,落下速度,落下距離を縦軸に
示 し て い る 。球 径 は 1 . 6 , 2 . 4 , 3 . 2 m m と し た 。球 径 3 . 2 m m の 場 合 に は 10 m m
133
の 加 速 区 間 距 離 が あ れ ば 終 末 一 定 速 度 に 到 達 す る こ と が わ か っ た 。し た
が っ て ,本 実 験 装 置 で は 落 球 管 の 試 料 溶 液 液 面 に お け る 球 の 落 下 位 置 か
ら 上 部 電 極 ま で の 距 離 を 50mm と し た 。
Fall ing speed (m/sec)
0.12
Viscosty:400mPa・s
0.10
SUS ball φ3.2mm
SUS ball φ2.4mm
SUS ball φ1.6mm
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
0.01
0.1
1
10
Time (se c)
Fal ling dist ance (m)
10
Viscosty:400mPa・s
1
0.1
0.01
SUS ball φ3.2mm
SUS ball φ2.4mm
SUS ball φ1.6mm
0.001
0.0001
0.01
0.1
1
Time (sec )
Figure 4
Calculated results on change in the falling speed and the falling
distance with time for various ball sizes.
6.3.3.
試料溶液の作製とウベローデ粘度計による粘度測定
溶 融 ス ラ グ の 粘 度 と 同 等 の 値 を 常 温 で 再 現 す る た め ,試 験 溶 液 に 添 加
する増粘剤濃度,温度を変化させ,ウベローデ粘度計を用いて,試料溶
液の粘度測定を行なった。増粘剤としては,メトローズ(水溶性セルロ
ースエーテル)を使用し,後述の落球法による粘度測定時に試験溶液に
導 電 性 を 与 え る た め ,硫 酸 銅 を 1 % 添 加 し た 条 件 の 溶 液 を 作 製 し た 。ウ ベ
ロ ー デ 粘 度 計 に よ る 粘 度 測 定 の 実 験 は 次 の よ う な 手 順 で 行 な っ た 。ま ず
純 水 に 所 定 量 の メ ト ロ ー ズ を 溶 解 後 ,硫 酸 銅 を 1 % 添 加 し 試 料 溶 液 を 調 製
する。次に,試料溶液をウベローデ粘度計に入れ,同粘度計を恒温槽内
134
10
の所定の位置に設置する。所定の温度に到達後,ウベローデ粘度計で粘
度 を 測 定 す る 。ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 を 用 い た 粘 度 測 定 で は 液 溜 め に 一 定 量
溜まった試料液が毛細管を通って落下する時間を測定することにより,
粘度が求まる。
   C 1t
・ ・ (8)
こ こ で , μ は 試 料 液 の 粘 度 ( P a ・ s ), ρ は 試 料 液 の 密 度 ( k g / m 3 ), C 1 は
ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 の 粘 度 測 定 係数,tは落 下 時 間 (s)で あ る 。 粘 度 測 定 に
使 用 し た ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 の 粘 度 測 定 係 数 C 1 は 3.05 で あ る 。 F i g . 5 に ウ
ベローデ粘度計による試験溶液の粘度測定値の温度変化を各メトロー
ズ 濃 度 に 対 し て 示 す 。メ ト ロ ー ズ 濃 度 な ら び に 温 度 を 変 化 さ せ る こ と に
よ っ て 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 と 同 等 の 値 が 得 ら れ ,上 述 の 試 料 溶 液 を 用 い れ
ば常温において落球法を利用した模擬実験が可能であることを確認で
きた。
viscosity / mPa・s
10000
2.0% metorose
2.5% metorose
1.4% metorose
1000
100
288
293
298
303
308
313
318
Temperature (K)
Figure 5
Change in the viscosity of Metororz aqueous solutions with
temperature by capillary tube method.
6.3.4.
落球法の実験方法
前 項 6.3.3 と 同 様 に , 試 料 溶 液 を 作 製 し , 試 料 溶 液 を ウ ベ ロ ー デ 粘 度
計 , 落 球 試 験 装 置 に 入 れ , Fig.5 に 示 す よ う に 恒 温 槽 内 の 所 定 の 位 置 に
設置する。所定の温度に達した後,ウベローデ粘度計を用いて試料液の
粘度を測定する。次に,落球試験装置の電極間に直流電流を流し,試験
135
溶液の抵抗を測定する。試験球を落球管に落下させ,試験溶液の電気抵
抗 変 化 を 0.025 秒 間 隔 で パ ソ コ ン に 記 録 す る 。
6.3.5.
実験結果
Fig.6 に , 前 述 の Fig.2 の 実 験 装 置 を 用 い て 得 ら れ た 代 表 的 な 電 気 抵
抗 の 経 時 変 化 の 模 式 図 を 示 す 。電 気 抵 抗 変 化 は 大 き く 2 種 類 に 分 別 す る
こ と が で き た 。 す な わ ち 数 百 mPa・s の 低 粘 度 領 域 で は , 電 気 抵 抗 値 が ピ
ー ク を 有 す る 変 化 を 示 し た 。 一 方 , 数 千 mPa・s の 高 粘 度 領 域 で は 電 気 抵
Electrical resistance
Electrical resistance
抗値が階段状に低下する変化を示した。
(a) Low viscosity
(b) high viscosity
Time
Time
Figure 6 Schematic examples of the change in electric resistance with time
Metororz aqueous solutions with (a) low and (b) high viscosity.
Fig.7(a)に 低 粘 度 領 域 で の 電 気 抵 抗 測 定 結 果 の 一 例 を 示 す 。溶 液 粘 度
は 400mPa・s に 調 整 し , 落 下 球 は 直 径 3.2mm の ス テ ン レ ス 球 で あ る 。 横
軸 に 時 間 を 縦 軸 に 電 気 抵 抗 値 を 表 示 し た 。 Fig.7(a)で は , 3 回 の 繰 り 返
し 試 験 に つ い て , 試 験 球 の 落 下 開 始 時 ( t(秒 )=0) の 電 気 抵 抗 値 を ゼ ロ
と し て 落 下 後 の 抵 抗 変 化 を 示 し て い る 。 Fig.7(a)に 示 す よ う に , 相 対 す
る上下 3 箇所の電極間を通過する際に電気抵抗が急激に大きくなるピー
ク が 得 ら れ た 。 こ れ ら の 一 つ 目 の ピ ー ク と 二 つ 目 の ピ ー ク 間 を 時 間 t1
と し ,同 様 に 二 つ 目 の ピ ー ク と 三 つ 目 の ピ ー ク 間 を t 2 と し た 。こ の t 1 , t 2
な ら び に 両 者 の 和 で あ る t1+t2 を Fig.7(b)に 示 す 。 横 軸 N は 試 行 回 数 を
表 し て お り , 繰 り 返 し 実 験 を 行 な っ て も t1,t2 の ば ら つ き は 5%以 内 に あ
り再現性のあることを確認した。
136
Viscosity of solution : 400mPa・s
Fall ball : sus φ3.2mm
Electrical resistance (Ω)
Run 1
t1
t2
t1+t2
1.8
1.6
0
Time (sec)
1.4
Run 2
0
Run 3
Peak
0
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
2
t 1
0.2
t 2
0.0
1.0
1.5
(a)
Figure 7
2.0
2.5
3.0
3.5
Time (sec)
4.0
4.5
1
5.0
(b)
2
3
Run No.
Change in the electric resistance with time for falling a ball in
Metororz aqueous solutions with low viscosity.
Fig.8(a) に 高 粘 度 領 域 で の 測 定 結 果 の 一 例 を 示 す 。 溶 液 粘 度 は
3700mPa・s と し , 落 下 球 は 直 径 2.4mm の ス テ ン レ ス 球 で あ る 。 Fig.8(a)
も ,3 回 の 繰 り 返 し 試 験 に つ い て ,F i g . 7 ( a ) と 同 様 に 表 示 し た 。F i g . 8 ( a )
に 示 す よ う に ,相 対 す る 上 下 3 つ の 電 極 間 を 通 過 す る 際 に 抵 抗 が 大 き く
減少する変化が得られた。高粘度領域の粘度測定では,各々の電気抵抗
変化の経時変化曲線上で電気抵抗が大きく減少する曲線上の変曲点を
求 め ,一 つ 目 の 変 曲 点 と 二 つ 目 の 変 曲 点 間 の 時 間 を t 1 と し ,二 つ 目 の 変
曲 点 と 三 つ 目 の 変 曲 点 間 の 時 間 を t 2 と し た 。変 曲 点 は 次 の よ う に し て 求 め
た 。 す な わ ち , 1 秒 間 に 40 個 の 電 気 抵 抗 の 値 が 測 定 で き る の で , 0.025 秒 毎
に 得 ら れ る t(秒 )=0,0.025,0.05,・ ・ ・ ・ の デ ー タ を p=1,2,3,・ ・ ・ ・ n と し ,
p=1~ Z を 区 間 I(1)と す る 。同 様 に P=2~ (Z+1)を I(2)と し ,P=n ~ (n+Z)を I(n)
と す る 。 本 研 究 で は Z=40 と し (す な わ ち 1 秒 間 )一 区 間 と し た 。 各 々 の 区 間 の
電 気 抵 抗 の 測 定 値 の 最 大 値 と 最 小 値 の 差 を ΔR と し ,I(1)か ら I(n)に お け る ΔR
を Fig.9(b)に 示 す 。変 曲 点 は ,1 秒 間 あ た り の 電 気 抵 抗 の 変 化 が 最 も 大 き い 時 ,
つ ま り ΔR が 最 大 値 を 示 す 時 点 に 相 当 す る の で , ΔR が ピ ー ク を 示 す 位 置 を 変
曲点とした。ま た , こ の t1,t2 な ら び に 両 者 の 和 で あ る t1+t2 を Fig.8(c)
に示す。前述の低粘度領域の場合と同様に,繰り返し実験を行なっても
t1,t2 の ば ら つ き は 5%以 内 に あ り 再 現 性 の あ る こ と を 確 認 し た 。 な お ,
本 実 験 で 得 ら れ た 階 段 状 の 電 気 抵 抗 の 経 時 変 化 は ,本 実 験 で 用 い た 有 機
性増粘剤の特有の現象であることが考えられる。
137
Viscosity of solution : 3700mPa・s
Fall ball : sus φ2.4mm
Rapid change point
25
Run 2
0
Time (sec)
Electrical resistance (Ω)
Run 1
0
t1
t2
t1+t2
30
Run 3
0
2
20
15
10
5
t 1
t 2
0
0
5
10
15
20
25
30
35
Time (s)
(a)
1
40
(c)
2
Run No.
3
⊿R (MAX-MIN) (Ω)
Run 1
0
Run 2
0
Run 3
0
1
0
(b)
t 1
5
10
15
t 2
20
25
30
35
40
Time (s)
Figure 8 Change in the electric resistance with time for falling a ball in
Metororz aqueous solutions with high viscosity.
本 実 験 結 果 か ら ,球 が 相 対 し て 設 置 し た 電 極 間 を 通 過 す る 際 に 変 化 す
る 電 気 抵 抗 を 微 少 時 間 内 に 計 測 す る こ と が で き れ ば ,上 下 の 電 極 間 を 球
が通過する時間を計測できることが明らかとなった。本実験装置では,
電 極 間 を 通 過 す る 球 の 時 間 が 上 下 2 つ ( す な わ ち t 1 と t 2 ) 得 ら れ る が ,終
末 一 定 速 度 に な る 条 件 を よ り 満 た し て い る こ と を 考 慮 し て ,下 側 の 電 極
間 の 通 過 時 間 で あ る t 2 を 式 (5 ) に 代 入 し て , 4 0 0 ~ 8 0 0 0 m P a ・ s 全 領 域 に お
いて粘度μを求めた。
Fig.9 に 落 球 法 で 測 定 し た 粘 度 と ウ ベ ロ ー デ 粘 度 計 で 測 定 し た 粘 度 の
測定結果の比較を示す。同図に示すように,落球粘度法の測定値がウベ
ロ ー デ 粘 度 計 に よ る 値 よ り 大 き く な る こ と が わ か っ た 。こ の 測 定 値 の ず
れ は ,管 内 を 球 が 落 下 す る 際 に 管 壁 か ら の 影 響 を 受 け る た め で あ る と 考
え た 。そ こ で ,管 壁 の 影 響 を 補 正 す る こ と を 検 討 し た 。J I S Z 8 8 0 1 で は ,
落 球 粘 度 計 に よ る 粘 度 測 定 に お け る 管 壁 の 影 響 を Faxen の 式 を 用 い て 補
138
正 し て い る こ と か ら , 同様に次の式 (9)の Faxen の 式 を 用 い て , 式 (10)の
ように粘度を補正した。
3
d
d
d
fw  1  2.104   2.09   0.95 
D
D
D
 '    fw
5
・ ・ (9)
・ ・ (10)
こ こ で ,μ ’は 補 正 後 の 粘 度 ,fw は Faxen の 補 正 係 数 ,d は 落 下 球 の 直
径 ,D は 落 球 管 内 径 を 示 す 。F i g . 1 0 に f w と d / D の 関 係 を 示 す 。本 実 験
で 使 用 し た 実 験 装 置 で は , fw は 0.6~ 0.8 の 領 域 に 該 当 す る 。 Fig.11 に
ウベローデ粘度計を用いて測定した粘度と落球法によって計測した粘
度 を Faxen の 式 で 補 正 し た 値 の 関 係 を 示 す 。 補 正 後 は , 400~ 8000mPa・s
の 広 範 囲 に わ た り , 球 種 , 球 径 を 問 わ ず , ほ ぼ 15%の 誤 差 範 囲 内 で 両 者
は 一 致 す る こ と が わ か っ た 。こ れ よ り 上 下 に 配 置 し た 電 極 間 を 球 体 が 落
下 す る 際 の 電 気 抵 抗 を 測 定 す る こ と に よ っ て 400~ 8000mPa・s 域 の 粘 度
を有する融体の粘度を計測できることを確認できた。
Viscosity by falling ball method
(mPa・s)
10000
±15%
8000
6000
4000
PTFE ball (φ3.155mm)
SUS ball (φ1.598mm)
2000
SUS ball (φ2.380mm)
SUS ball (φ3.185mm)
0
0
2000
4000
6000
Viscosity by capillary tube method
Figure 9
8000
10000
(mPa・s)
Comparison of the viscosity measured by falling ball method and that
by capillary tube method.
139
1.0
0.8
fw
0.6
0.4
Experimental appratus
0.2
0.0
0.0
Figure 10
0.2
0.4
d/D
0.6
0.8
Change in the Faxen's factor fw with the ratio of a ball' diameter to
the diameter of cylindrical vessel (d/D ).
Viscosity by falling ball method (mPa・s)
10000
PTFE ball(φ3.155mm)
SUS ball (φ1.598mm)
8000
SUS ball (φ2.380mm)
±15%
SUS ball (φ3.185mm)
6000
4000
2000
0
0
Figure 11
2000
4000
6000
8000
Viscosity by capillary tube method (mPa・s)
10000
Comparison of the viscosity measured by falling ball method revised
with Faxen's factor considering the effect of the wall of cylindrical vessel with
the viscosity measured by capillary tube method.
140
6.4.
交流電流を用いた常温の基礎実験
前 述 の 落 球 実 験 装 置 で ,直 流 電 流 を 使 用 し た 場 合 の 電 極 間 の 電 気 抵 抗
変化から,常温(低温)の融体の粘度を測定できることがわかった。し
かし,電流が流れると電極の表面では酸化還元反応が起こり,電極界面
の電気抵抗が変化する。本実験装置では,電極界面の抵抗値と融体の電
気 抵 抗 変 化 の 合 計 を 計 測 し て い る の で ,酸 化 還 元 反 応 に よ る 電 極 界 面 の
抵 抗 値 が 大 き く な っ た 場 合 に は ,融 体 の 電 気 抵 抗 値 の 変 化 量 よ り も 電 極
界 面 の 抵 抗 値 の 変 化 量 が 大 き く な り ,真 の 融 体 の 電 気 抵 抗 値 の 変 化 量 を
測定できない恐れがある。特に,直流電源を用いると一方の電極で反応
が生ずる。そこで,交流電源を用いると電極電位が周期的に変化するの
で,反応が一方の電極で片寄って生ずることを抑えられ,かつ交流電源
の周波数,および電圧を変更することにより,電極界面の酸化還元反応
による電気抵抗変化量を小さくすることが可能であると考えた。
6.4.1.実 験 装 置
6.3.1 の Fig.3 の 実 験 装 置 を 使 用 し , 電 気 抵 抗 測 定 器 を 直 流 電 流 用 か
ら 交 流 電 流 用 , す な わ ち , デ ジ タ ル マ ル チ メ ー タ ー か ら LCR ハ イ テ ス タ
に 切 り 替 え た 。 ま た , 電 極 は Fig.2 の 中 , 下 の 2 箇 所 と し た 。
6.4.2.実 験 結 果
Fig.12 に 交 流 電 源 に お け る 測 定 結 果 の 一 例 を 示 す 。 溶 液 粘 度 は
2 3 5 0 m P a・ s で あ り ,落 下 球 は 直 径 3 . 2 m m の ス テ ン レ ス 球 で あ る 。直 流 電
源 で 行 な っ た Fig.7 の 結 果 よ り も Fig.12 に 示 す 抵 抗 値 の 変 化 で は ピ ー
クを示す位置がはっきりと現われた。また,実験に適した周波数,電圧
に つ い て 予 備 実 験 を 行 い , 本 研 究 で は 周 波 数 1kHz, 電 圧 3V を 使 用 す る
ことにした。
ウベローデ粘度計を用いて測定した粘度と直流電源を用いた落球法
に よ る 粘 度 の 測 定 値 を Faxen の 式 で 補 正 し た 値 と の 関 係 を 示 す Fig.11
に , 交 流 電 源 を 用 い て 計 測 し た 粘 度 を Faxen の 式 で 補 正 し た 値 を 追 記 し
た 結 果 を Fig.13 に 示 す 。 Fig.13 よ り , 交 流 電 源 を 用 い た 測 定 値 も 直 流
を 用 い た 場 合 の ほ ぼ 15%の 誤 差 範 囲 内 に あ る こ と が わ か っ た 。 こ れ に よ
り,交流電源を用いて,上下に配置した電極間を球体が落下する際の電
気 抵 抗 を 測 定 す る こ と に よ っ て 400~ 8000 mPa・s 域 の 粘 度 を 有 す る 融 体
の粘度を計測できることを確認できた。
141
Electrical resistance
Z (Ω)
13300
Viscosity of solution : 2350mPa・s
Fall ball : sus φ3.2mm
Frequency : 1KHz
Voltage
: 3V
13250
13200
13150
t
13100
0
2
4
6
8
10
Time (sec)
12
14
16
18
20
Figure 12 Change in the electric resistance with time for falling a ball by
alternating current in Metororz aqueous solutions with high viscosity.
10000
Viscosity by falling ball method (mPa・s)
PTFE ball(φ3.155mm):Direct current
SUS ball (φ1.598mm):Direct current
SUS ball (φ2.380mm):Direct current
SUS ball (φ3.185mm):Direct current
8000
SUS ball (φ3.185mm):Alternating current
±15%
6000
4000
2000
0
0
Figure 13
2000
4000
6000
8000
Viscosity by capillary tube method (mPa・s)
10000
Comparison of the viscosity measured by falling ball method (Direct
current and alternating current)
with the viscosity measured by capillary tube
method.
142
6.5.
6.5.1.
高温における基礎実験
実験装置
(1)高温装置の落球の材質と大きさ
上 述 の よ う に ,上 下 に 配 置 し た 電 極 間 を 球 体 が 落 下 す る 際 の 電 気 抵 抗
を 測 定 す る こ と に よ っ て 融 体 の 粘 度 を 計 測 で き る こ と が わ か っ た 。そ こ
で次に高温融体への適用条件について検討を行なった。先ず,落球につ
いて溶融スラグと反応しないことを考慮して落下球には白金球を用い
ることとした。ここで,試料溶液の比重を廃棄物溶融炉の溶融スラグを
想 定 し て 3700kg/m3 と し , Re が 0.5 と 1.0 の 場 合 に つ い て 白 金 球 の 径 を
検 討 し た 。F i g . 1 4 に 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 と 白 金 球 の 径 の 関 係 を 示 す 。溶 融
ス ラ グ の 粘 度 が 500mPa・s の 時 , 白 金 球 の 径 は 2mm 以 下 と す る 必 要 が あ
る こ と が わ か っ た 。 Fig.15 に 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 が 500mPa・s, 白 金 球 の
径 1.8mm の 場 合 に つ い て 落 下 時 間 と 落 下 速 度 , 落 下 距 離 の 関 係 を 計 算 し
た 結 果 を 示 す 。同 図 に 示 す よ う に ,球 径 1 . 8 m m 程 度 の 白 金 球 を 用 い て 1 0 m m
の加速区間距離を設ければ上部の電極位置に球が達するまでに終末一
定速度に到達することがわかった。
Diameter of ball (mm)
6
5
Re=1
4
Re=0.5
3
2
1
0
0
500
1000
1500
2000
2500
Viscosity (mPa・s)
Figure 14 Relationship between the diameter of a Pt ball and the viscosity of
molten slag at high temperature for several Reynolds' number melt.
143
Fall ing speed ( m/sec)
Viscosty:500mPa・s
0.10
Pt ball φ1.8mm
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
Fa lling dista nce
(m)
0.01
0.1
Time (sec )
1
10
1
0.1
0.01
Pt ball φ1.8mm
0.001
0.0001
0.01
0.1
1
10
Time (sec)
Figure 15 Calculated results on change in the falling speed and the falling
distance of Pt ball with time in molten slag with 500mPa・s.
(2)高温における基礎実験装置の構成と実験方法
Fig.16 に 実 験 装 置 の 構 成 を 示 す 。 落 球 管 (容 器 )と し て 内 径 17mm, 長
さ 200mm の ア ル ミ ナ タ ン マ ン 管 を 用 い , 管 内 壁 面 に 直 径 5mm の 銅 製 の 丸
棒 を 端 面 が 相 対 す る よ う に 電 極 と し て 取 り 付 け ,上 下 2 箇 所 に 電 極 を 配
置 し た 。 試 料 溶 液 の 液 面 か ら 上 部 電 極 ま で の 距 離 , および上下の電極間の
距 離 は 3 0 m m と し た 。落 下 さ せ る 試 料 球 と し て は ,直 径 2 m m の 白 金 球 を 用
い た 。 試 料 融 体 に は 溶 融 ス ラ グ の 粘 度 に 近 い 値 を 低 温 ( 1273K 以 下 ) で
得 ら れ る ホ ウ 酸 ソ ー ダ (Na2B4O7)を 使 用 し た 。 ホ ウ 酸 ソ ー ダ を 所 定 の 温 度
で溶融,保持し,電極間に交流電流を流し,試験球を試料溶液中に落下
さ せ , 球 が 上下の電 極 を 通 過 す る と き の 抵 抗 変 化 を 計 測 し , パ ソ コ ン に
リ ア ル タ イ ム で デ ー タ を 取 り 込 み ,球 が 電 極 間 を 通 過 す る 時 間 か ら 落 下
速度を算出し融体の粘度を求めた。
144
落球ガイド
試験球
LCRハイテスタ
パーソナルコンピューター
0226Ω
50mm
白金線
融体
発熱帯(シリコニット炉)
20mm 30mm
100mm
DMM
タンマン管壁
内径
17mm
電極(白金)
シール剤
アルミナタンマン管
Figure 16 The experimental setup for viscosity measurement
in high temperature .
6.5.2
高温における基礎実験結果
F i g . 1 7 に ホ ウ 酸 ソ ー ダ 融 体 の 1 1 2 3 K に お い て ,白 金 球 を 落 下 し た 時 の
電 気 抵 抗 変 化 の 測 定 結 果 を 示 す 。 交 流 電 流 は 周 波 数 1kHz, 電 圧 3V で 流
し た 。白 金 球 が 上 下 の 電 極 を 通 過 す る 時 に 電 気 抵 抗 が 急 激 に 変 化 し て い
ることがわかる。
F i g . 1 8 に ホ ウ 酸 ソ ー ダ に つ い て ,既 知 の 粘 度
5)
と温度の関係に本研究
で 測 定 し た 粘 度 の 値 を 示 す 。実 線 は 既 知 の 粘 度 ,点 線 は 2 5 % の 誤 差 範 囲 ,
○ 印 は 本 研 究 の 測 定 値 を 示 す 。溶 融 ス ラ グ の よ う な 高 温 の 溶 融 酸 化 物 に
対 す る 粘 度 測 定 値 の 誤 差 は 一 般 に ±25%程 度 あ る
6)
と 言 わ れ て お り ,本 研
究 の 測 定 値 は ほ ぼ 25%の 誤 差 範 囲 内 に あ る 。 こ の こ と か ら , 融 体 の 電 気
抵抗を測定することによって落球が通過する時間を計測することによ
り,高温融体の粘度を計測できる可能性があることがわかった。
145
Elctrical resistance Z (Ω)
2.150
2.148
2.146
2.144
Fall ball : Pt φ2.0mm
Te mpe rature : 1 123 K
Solution : Na 2 B 4 O 7
Fre qu enc y: 1 kHz
Voltage : 3V
2.142
t
2.140
0
2
4
6
8
10
12
14
16
time (sec)
Figure 17 Change in the electric resistance with time for falling a ball by
alternating current in Na 2 B 4 O 7 at 1123K.
5 00 0
○: Measu re me n ts by fallin g ball meth od
Viscosity
(mPa・s)
4 00 0
3 00 0
±25%
2 00 0
1 00 0
0
10 2 3
1 07 3
11 2 3
Temperature
1 17 3
(K)
F i g u re 1 8 Comparison of the viscosity measured by falling ball method with the
viscosity by already-known data in Na 2 B 4 O 7 .
146
6.6.
結言
本 研 究 で は ,上 下 に 配 置 し た 電 極 間 を 球 体 が 落 下 す る 際 の 電 気 抵 抗 を
測 定 し , さ ら に 管 壁 の 影 響 を 補 正 す る こ と に よ っ て 400~ 8000 mPa・s 域
の 粘 度 を 有 す る 融 体 の 粘 度 を 落 球 法 に よ っ て 15% の 不 確 か さ の 範 囲 内
で計測できることを明らかにした。球の種類と直径を適切に選べば,電
極間を球が通過する際に終末一定速度を得るための加速区間の長さが
高 温 測 定 時 に お い て も 1 0 m m 程 度 で あ れ ば 良 い こ と が わ か り ,オ ン サ イ
ト小型高温粘度測定装置の設計のための指針を得ることができた。
常 温 の 基 礎 実 験 は 直 流 電 源 を 用 い て 行 な っ た が ,電 極 界 面 の 酸 化 還 元
反 応 に よ る 電 気 抵 抗 の 変 化 量 を 小 さ く で き る と 考 え ,高 温 で の 測 定 は 交
流電源を用いることにした。ホウ酸ソーダ融体について,本研究で検討
し た 落 球 法 に よ る 粘 度 測 定 装 置 を 用 い て 粘 度 測 定 を 試 み た 結 果 ,融 体 の
電気抵抗を計測することによって落球が上下に配置した電極位置を通
過 す る 時 間 を 決 定 す る こ と に よ り ,高 温 融 体 の 粘 度 を 計 測 で き る 可 能 性
があることがわかった。
147
参考文献
1) 宮 林 良 次 , 吉 川 健 , 田 中 敏 宏 : 高 温 学 会 誌 ,
32 (2006), 281.
2) M. Nakamoto, Y. Miyabayashi, L.Holappa, and T. Tanaka : ISIJ Int. , 47
(2007), 1409.
3) 中 島 邦 彦 , 齊 藤 敬 高 , 助 永 壮 平 : 高 温 学 会 誌 , 32 (2006), 252.
4) 佐 藤 讓 : 高 温 学 会 誌 , 32 (2006), 260.
5) NIST Molten Salt database National Institute of standards and
Technology,(1987)
6) 飯 田 孝 道 , 喜 多 善 史 , 上 田 滿 , 森 克 己 , 中 島 邦 彦 :“ 溶 融 ス ラ グ ・ ガ
ラ ス の 粘 性 ” ア グ ネ 技 術 セ ン タ ー (2003)P.60
148
第7章
総括
7.1. 本 研 究 の 総 括
『 循 環 型 社 会 』と は ,天 然 資 源 の 消 費 が 抑 制 さ れ ,環 境 へ の 負 荷 が で き る 限
り 低 減 さ れ る 社 会 と 定 義 し て い る 。ま ず ,第 一 に 生 産 ,消 費 に お い て 廃 棄 物 等
の 発 生 を 抑 制 す る ( Reduce)。 第 二 に 消 費 ま た は 使 用 し た 製 品 を 廃 棄 す る 時 は
部 品 等 を 再 使 用 す る (Reuse)。 第 三 に 廃 棄 さ れ た 物 を 処 理 し 原 材 料 と し て 再 生
利 用 す る (Material Recycle)。第 四 に 再 生 利 用 で き ず 廃 棄 さ れ る も の は 熱 回 収
を 行 う (Thermal Recycle)。 こ れ ら 第 一 か ら 四 が で き ず 循 環 利 用 が 行 な え な い
も の に つ い て は 第 五 と し て 適 正 な 最 終 処 分( 埋 立 )を 行 な う 。こ の よ う に 優 先
順位を考えて『循環型社会』を構築することが目標とされ,非鉄製錬技術は
Material Recycle, Thermal Recycle の 部 分 で 貢 献 で き る と 考 え る 。
本 研 究 は ,資 源 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め ,非 鉄 製 錬 所 が 長 年 培 っ て き た 非
鉄 金 属 製 錬 技 術 を 活 用 し ,廃 棄 物 を 無 害 化 す る と と も に ,こ れ ら の 廃 棄 物 に 含
ま れ る Cu 等 の 有 価 金 属 を 資 源 循 環 す る 観 点 か ら 『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し
た廃棄物の資源循環高温プロセスの開発に関する研究』を行なった。
本 論 文 は こ れ ら の 成 果 を ま と め た も の で 7 章 か ら 構 成 さ れ て お り ,以 下 の よ
うに総括される。
第 1 章 で は ,序 論 と し て 本 研 究 の 背 景 を 述 べ た 。廃 棄 物 発 生 量 は 世 界 的 に は
大 幅 な 増 加 傾 向 に あ り ,そ の 中 で 日 本 の 産 業 廃 棄 物 の 発 生 量 は 年 間 4 億 ト ン の
横 ば い で 推 移 し 減 少 し て い な い こ と と ,国 内 の 最 終 処 分 場 の 残 余 容 量 が 減 少 し
て お り ,新 た な 産 業 廃 棄 物 の 最 終 処 分 場 や 焼 却 施 設 の 設 置 が 困 難 な 状 況 に あ る
こ と か ら , 産 業 廃 棄 物 に 含 ま れ て い る 有 価 金 属 ( Cu, Pb, Zn, Al, Fe 等 ) を
国 内 で 循 環 す る た め に は ,す で に 設 置 さ れ て い る 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 を 有 効 に
活 用 す べ き で あ る こ と を 述 べ た 。 ま た , 国 内 で は ,『 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本
法 』 が 2000 年 に 施 行 さ れ , 3 R ( Reduce, Reuse, Recycle) を 基 本 と す る 循
環 型 社 会 の 構 築 を 推 進 す る 法 体 系 が 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 ,家 電 リ サ イ ク ル 法 な
ど を 含 め て 整 備 さ れ た 。こ の よ う な 背 景 の も と ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト ,石 綿 含
有 廃 棄 物 , Cd 含 有 廃 棄 物 な ど の 産 業 廃 棄 物 を 溶 融 処 理 し 無 害 化 と 資 源 循 環 を
進 め る 上 で 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 と 非 鉄 製 錬 所 が 繋 が っ た プ ロ セ ス が , Cd, Cu,
Zn, Pb 等 の 非 鉄 金 属 を 資 源 循 環 す る た め に 重 要 な プ ロ セ ス に 成 り 得 る こ と を
述 べ た 。そ こ で ,本 研 究 で は ,
‘ 廃 棄 物 に 含 ま れ て い る Cd を 亜 鉛 乾 式 製 錬 設 備
で 資 源 と し て 循 環 す る 技 術 開 発 ’,‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト 中 の Cu 等 の 金 属 を 資
源として循環するためのシュレッダーダストの産業廃棄物焼却施設の操業技
149
術 開 発 ’,
‘産業廃棄物溶融炉で種々の廃棄物を溶融する操業指針としてスラグ
の 流 動 性 を 評 価 ,予 測 す る 技 術 開 発 ’,
‘溶融スラグのオンサイトでの粘度測定
技術開発’について研究を行なうことにした。
第2章では,
‘ 亜 鉛 製 錬 に お け る Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開
発 ’ に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 に つ い て 述 べ た 。 Zn を 高 温 で 還 元 揮 発 し 回
収 す る 乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で は ,Cd が Zn と と も に 揮 発 し ,凝 縮 さ せ た 溶 融
亜 鉛 中 に Cd が 混 入 す る 。 そ こ で , 溶 鉱 炉 お よ び 電 熱 蒸 留 炉 の 前 処 理 と し て 原
料 を 塊 状 化 す る 焼 結 工 程 で ,効 率 的 に Cd を 揮 発 さ せ 分 離 さ せ る こ と が Cd を 含
む 亜 鉛 リ サ ク ル 原 料 の 処 理 に 有 効 で あ る と 考 え ,亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程
に お け る Cd の 分 離 に つ い て 検 討 し た 。そ の 結 果 ,次 の こ と が 明 ら か と な っ た 。
( 1 ) 焼 結 鉱 の 塩 基 度 と Cd 揮 発 率 に 関 係 が あ り , CaO を 添 加 し 焼 結 鉱 の 塩 基
度 を 高 め る こ と で 焼 結 工 程 の Cd 揮 発 率 を 高 め る こ と が で き る こ と が 明 ら か と
なった。
( 2 ) 焼 結 工 程 の 排 ガ ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 す る た め , 湿
式 型 電 気 集 塵 機 と 乾 式 型 電 気 集 塵 機 を 比 較 し た 。湿 式 型 電 気 集 塵 機 は ガ ス 温 度
を 下 げ , 調 湿 す る の で , 調 湿 時 に 発 生 し た 水 に Cd が 混 入 し 排 ガ ス 処 理 工 程 か
ら 焼 結 機 に 繰 り 返 し て い た が ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 は 水 を 発 生 し な い の で ,排 ガ
ス 処 理 工 程 か ら 繰 り 返 さ れ る Cd 量 を 削 減 で き る こ と が 明 ら か に な っ た 。ま た ,
乾式型電気集塵機は排ガスの相対湿度を高めるほど集塵率がよくなる傾向が
あ る こ と が わ か り ,排 ガ ス の 相 対 湿 度 を 水 が 発 生 し な い よ う に 加 湿 し て 高 め る
こ と に よ り ,焼 結 ダ ス ト の 見 掛 け 電 気 抵 抗 率 を 下 げ ,か つ ,ダ ス ト の 凝 集 性 を
よ く す る こ と で ,乾 式 型 電 気 集 塵 機 の 集 塵 率 を 高 め ら れ る こ と が 明 ら か と な っ
た。
以 上 の 成 果 を 利 用 す る こ と に よ っ て ,亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス の 焼 結 工 程 に お け る
Cd 分 離 技 術 を 向 上 さ せ ,N 社 の Cd 含 有 廃 棄 物 の Cd の 資 源 循 環 量 を 改 善 前 の 約
1.4 倍 に 増 し た 。
第 3 章 で は ,‘ ス ト ー カ 式 焼 却 炉 な ら び に ガ ス 化 溶 融 炉 に よ る シ ュ レ ッ ダ ー
ダ ス ト の 資 源 循 環 プ ロ セ ス の 開 発 ’に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 を 述 べ た 。シ
ュレッダーダストに含まれるプラスチック等の可燃物を焼却または熱分解す
る装置として(1)ストーカ式焼却炉,および(2)ガス化溶融炉を用いて,
‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却 ま た は 熱 分 解 し ,発 生 し た 焼 却 灰 及 び 焼 却 飛 灰 か
ら Cu 等 の 金 属 を 効 率 的 に 回 収 す る 技 術 開 発 ’ と ‘ シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 焼 却
ま た は 熱 分 解 す る 技 術 開 発 ’に つ い て 検 討 し た 。さ ら に ,シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト
に 関 し て は ガ ス 化 溶 融 炉 で 処 理 す る 際 の 知 見 が 十 分 に 得 ら れ て い な い の で ,こ
150
の 方 式 を 用 い た 回 収 技 術 開 発 を 試 み ,そ の 問 題 点 を 明 ら か に す る と と も に ,そ
の 対 策 技 術 の 開 発 を 行 な っ た 。そ し て ,実 験 結 果 か ら シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 再
資源化に関して,以下のことがわかった。
( 1 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 に お い て ,同 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 を 高 温 保 持
し溶融状態を観察した結果, 1473K 以 下 で 焼 却 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら
かとなった。
( 2 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , ガ ス 化 炉 出 口 温 度 を 873K 程 度 で 制 御 し , か つ
ビ ン ブ ロ ー を 行 う こ と で ガ ス 化 炉 と 溶 融 炉 間 の 連 絡 ダ ク ト に 堆 積 し た Al を 含
むダストの溶融によるダクトの閉塞を抑制できることが確認できた。
( 3 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,ガ ス 化 炉 か ら 流 動 媒 体 の 砂( 流 動 砂 )と シ ュ レ
ッ ダ ー ダ ス ト に 含 ま れ る 可 燃 物 を ガ ス 化 し た 後 に 残 っ た 不 燃 物( Fe,Cu,ガ ラ
ス ,等 )は 炉 下 部 に 設 置 し た シ ュ ー ト か ら 排 出 さ れ る 。こ の シ ュ ー ト 入 口 部 で
ガラス成分を主とする流動砂が滞留すると溶融固化しシュートの壁に付着し
固 着 物 が 成 長 す る 。流 動 砂 の 滞 留 部 で 局 部 的 に 高 温 と な り 流 動 砂 が 溶 融 し 、固
着 物 と し て 成 長 す る た め ,ガ ス 化 炉 で は 砂 を 滞 留 さ せ な い こ と が 重 要 で あ る と
考 え ,シ ュ ー ト 断 面 積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 増 す 実 験 を 行 な っ た 。シ ュ ー ト 断 面
積 当 り の 砂 排 出 速 度 を 約 2000kg/h・ m 2 と し た 場 合 に は シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着
物 の 生 成 に よ る 付 着 が 発 生 し た が , 砂 排 出 速 度 を 約 4000kg/h・ m 2 と し た 場 合
に は ,シ ュ ー ト 部 で 溶 融 固 着 物 の 生 成 に よ る 付 着 は 起 こ ら な い こ と が 確 認 で き
た。
( 4 )ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て ,排 ガ ス 温 度 1473K 程 度 の 排 ガ ス 中 に 含 ま れ る ダ
ス ト と 揮 発 し た 金 属 が 、溶 融 炉 上 部 の 排 ガ ス 道 の 内 壁 に 溶 着 し 、ガ ス 道 を 閉 塞
さ せ た 。ダ ス ト が 溶 着 す る と こ ろ の 雰 囲 気 温 度 は 1473~ 1673K、内 壁 表 面 は 外
側 か ら の 冷 却 も あ り 1273K 程 度 で あ り , 固 化 し た ス ラ グ 成 分 と 液 状 の Zn,Pb
酸 化 物 が 混 ざ り 、 内 壁 へ 溶 着 す る も の と 考 え た 。 そ こ で , 液 状 化 し た Zn,Pb
ま た は 蒸 気 の Zn,Pb を 1473K か ら 1273K に 雰 囲 気 温 度 を 下 げ る こ と で 、ダ ス ト
は 固 体 と な り 溶 着 す る 現 象 を 抑 制 で き る と 考 え ,排 ガ ス 道 の 側 面 か ら 水 を 吹 き
込 み ,排 ガ ス 道 の 雰 囲 気 温 度 を 1273K 程 度 と し た 。そ の 結 果 ,ダ ス ト は 粒 状 の
固体となり内壁に溶着する現象は抑えられることを確認した。
( 5 ) ガ ス 化 溶 融 炉 に お い て , 排 ガ ス を 453K に 冷 却 し た 後 に 発 生 す る ダ ス ト
は 酸 化 物 ,塩 化 物 の 形 態 か ら な る 。こ の ダ ス ト は 潮 解 性 が あ り ダ ス ト を 回 収 す
る バ グ ク ロ ス に 付 着 し 剥 離 し な い 現 象 が 発 生 し た 。バ グ 入 口 に 消 石 灰 を 吹 き 込
むことでダストの潮解性を抑えバグクロスからの剥離性をよくできることを
確認した。
151
( 6 )ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 焼 却 灰 ,飛 灰 を 亜 鉛 製 錬 工 程 で 処 理 し ,
焼 却 灰 , 飛 灰 中 の Cu, Pb, Zn を 回 収 で き る こ と を 確 認 し た 。
以 上 の 得 ら れ た 成 果 を N 社 の 流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 の 操 業 に 適 応 さ せ ,連 続
運 転 1300 時 間 を 達 成 し , 年 間 12000t の シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト を 再 資 源 化 可 能
とした。
第 4 章 で は ,‘ 廃 棄 物 溶 融 炉 の 安 定 操 業 に 及 ぼ す 高 温 酸 化 物 の 液 相 領 域 と そ
の 流 動 性 の 解 析 ’に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 を 述 べ た 。非 鉄 製 錬 技 術 を 利
用する廃棄物処理プロセスにおいて石綿含有物などの廃棄物を安全に
無 害 化 ,か つ 再 資 源 化 す る 溶 融 処 理 技 術 に つ い て ,ス ラ グ の 流 動 性 が 代 表
的な操業指針のひとつであることに注目し,基 礎 的 な 解 析 を 行 な っ た 。 ま
ず ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 主 要 な 原 料 で あ る シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 焼 却 処 理 残
渣(焼却灰)について,溶融炉の操業温度の指針を得るために,均一融
体を生成する温度を測定した。次に,廃棄物溶融炉のスラグと未溶解物
について,流動性測定と熱力学データを利用した相平衡解析を行ない,
廃棄物溶融炉の操業に及ぼす高温酸化物の液相領域の酸素分圧および
温 度 依 存 性 と そ の 流 動 性 に つ い て 解 析 し た 。 最 後 に ,石 綿 含 有 廃 棄 物 の
溶融処理について,熱力学データを利用した相平衡解析を行い,溶融処
理条件について検討した。その結果,廃棄物溶融炉のスラグの溶解に関
して,熱力学データを用いた相平衡解析を行うことにより,石綿含有廃
棄物のような実験が困難な廃棄物に対しても簡単な流動性試験と同等
な 評 価 が 可 能 で あ る こ と が 明 ら か と な り ,良 好 な 溶 融 ス ラ グ を 得 る た め
の安定操業に関する有効な指針が得られることがわかった。例えば,廃
棄 物 溶 融 炉 に お い て ,logPo2/atm= -9 ,ス ラ グ 温 度 を 1573~ 1623K の 条
件 で は , 石 綿 含 有 廃 棄 物 の添加量が溶 融 炉 ス ラ グ に 対 し て 30% ま で な ら
ば安定操業が可能であると考えられる操業指針が得られた。A 社におい
て ,こ の 指 針 を 適 応 し ,年 間 2 6 0 0 t の 石 綿 含 有 廃 棄 物 を 溶 融 し 再 資 源 化
した。
第 5 章 で は ,‘ ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度
推 算 モ デ ル ’に つ い て 研 究 を 行 な っ た 結 果 を 記 述 し た 。ア ル カ リ 酸 化 物 を 含 む
溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 モ デ ル を 提 案 し た 。特 に ,シ リ ケ ー
ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 を 評 価 す る た め に ,熱 力 学 的 な 手 法 の 代 わ り に ,ア
ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 中 の 酸 素 の 結 合 状 態 が 3 種 類 の 結 合 , す な わ ち , ① Si
四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 ,② 電 荷 中 性 条 件 を 満 た す 役 割 を 果 た す 陽 イ オ ン を 持 つ
Al 四 面 体 単 位 の 架 橋 酸 素 , ③ Si と 結 び つ く 非 架 橋 酸 素 か ら 成 る と 仮 定 し , シ
152
リケート融体のネットワーク構造を形成する酸素の結合状態を計算する手法
を 導 入 し た 粘 度 推 算 モ デ ル を 導 出 し た 。同 モ デ ル を 用 い て ,ア ル カ リ 酸 化 物 を
含 む ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト 融 体 の 粘 度 推 算 を 行 な っ た 。ま ず ,非 架 橋 酸 素 イ オ ン ,
自 由 酸 素 イ オ ン , Al 四 面 体 の 架 橋 酸 素 イ オ ン の 濃 度 を ス ラ グ 成 分 か ら 計 算 し
た 。次 に ,二 元 シ リ ケ ー ト 融 体 系 と 三 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 融 体 の 粘 度 と 濃
度の関係の実験値から溶融アルミノシリケートの粘度推算モデルで使用する
係 数 を 決 定 し た 。さ ら に ,こ の 係 数 を 用 い て ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー
ト の 粘 度 推 算 モ デ ル の 三 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 融 体 の 粘 度 と 濃 度 ,な ら び に
MgO,FeO を 含 む 四 元 ア ル ミ ナ シ リ ケ ー ト 系 融 体 の 粘 度 と 組 成 の 関 係 を 求 め ,実
験 値 と 比 較 し た 。そ の 結 果 ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推 算 モ デ
ルが組成に対する粘度の関係を再現できることが明らかとなった。
さ ら に ,CaF 2 を 含 む 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト ス ラ グ の 粘 度 推 算 を 行 な う た め
に ,シ リ ケ ー ト 融 体 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 が CaO に よ り “ 切 断 ” さ れ て い る 場 合 ,
CaF 2 の 添 加 に よ っ て O-Ca-F 結 合 を 形 成 す る と 考 え , CaF 2 を 含 有 す る 溶 融 シ リ
ケ ー ト 系 の 粘 度 の 推 算 の た め に 上 記 の モ デ ル の 拡 張 を 試 み た 。計 算 結 果 は ,溶
融 SiO 2 -CaO-CaF 2 , 溶 融 SiO 2 -CaO-Al 2 O 3 -CaF 2 系 の 粘 度 に 対 す る CaF 2 濃 度 の 影 響
な ら び に 溶 融 SiO 2 -Al 2 O 3 -CaO-CaF 2 -Na 2 O-MgO 系 の 組 成 依 存 性 を 再 現 で き る こ と
を 明 ら か に し た 。以 上 の こ と か ら ,導 出 し た 溶 融 ア ル ミ ノ シ リ ケ ー ト の 粘 度 推
算 モ デ ル を 用 い て ,廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ に つ い て 粘 度 を 予 測 す る こ と が
可能となった。
第6章では,
‘溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発’
について研究した結果を述べた。溶 融 ス ラ グ の 粘 度 を オ ン サ イ ト で 測 定 す
る こ と を 目 指 し た 粘 度 測 定 方 法 を 検 討 し た 。特 に 粘 度 測 定 方 法 と し て 落
球法に着目し,高温用粘度計の開発のための指針を得ることを目的に,
常温における基礎試験を行ない,計測方法,装置の形状・大きさなどに
関する検討を行なった。その結果,上下に配置した電極間を球体が落下
す る 際 の 電 気 抵 抗 を 測 定 し ,さ ら に 管 壁 の 影 響 を 補 正 す る こ と に よ っ て
400~ 8000 mPa・s 域 の 粘 度 を 有 す る 融 体 の 粘 度 を 落 球 法 に よ っ て 15% の
不 確 か さ の 範 囲 内 で 計 測 で き る こ と を 明 ら か に し た 。球 の 種 類 と 直 径 を
適 切 に 選 べ ば ,電 極 間 を 球 が 通 過 す る 際 に 終 末 一 定 速 度 を 得 る た め の 加
速 区 間 の 長 さ が 高 温 測 定 時 に お い て も 10m m 程 度 で あ れ ば 良 い こ と が
わ か り ,オ ン サ イ ト 小 型 高 温 粘 度 測 定 装 置 の 設 計 の た め の 測 定 条 件 を 決
定することができた。さらに,ホウ酸ソーダ融体を用いて高温粘度測定
を 実 施 し ,落 球 法 に よ る 粘 度 測 定 が 高 温 の 融 体 に 適 用 で き る 指 針 を 得 る
153
ことができた。
以 上 の よ う に ,『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ
ス の 開 発 す る 研 究 』で 得 ら れ た 種 々 の 成 果 は ,非 鉄 金 属 製 錬 の プ ロ セ ス を 活 用
し た 廃 棄 物 の 無 害 化 処 理 な ら び に 有 価 金 属 の 回 収 に 適 応 し ,廃 棄 物 の 資 源 循 環
に 大 い に 寄 与 し て お り ,今 後 ,廃 棄 物 溶 融 炉 な ど で 廃 棄 物 を 処 理 す る 場 合 の 操
業指針を得る手段として役立つと考える。
7.2. 今 後 の 研 究 課 題
本 研 究 で は ,非 鉄 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物( C d 含 有 廃 棄 物 ,シ ュ レ
ッダーダスト,石綿含有廃棄物)の資源循環高温プロセスの開発につい
て基礎的な検討と実操業での実験を行なった。
Cd 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 に つ い て , 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス を 利 用 し た Cd
の 回 収 に つ い て 技 術 開 発 を 行 な っ た が ,乾 式 製 錬 プ ロ セ ス で 水 酸 化 亜 鉛
の よ う な 高 濃 度 の Cd を 含 有 す る 廃 棄 物 を 扱 う こ と は , 廃 棄 物 が 飛 散 し
作 業 環 境 の 空 気 中 の Cd 濃 度 が 高 く な る 恐 れ が あ る こ と か ら , 湿 式 製 錬
プ ロ セ ス で Cd を 効 率 的 に 回 収 す る こ と が 望 ま し い 。
シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト の 資 源 循 環 に つ い て ,流 動 床 式 ガ ス 化 溶 融 炉 を 用
い た 資 源 循 環 プ ロ セ ス に つ い て 技 術 開 発 を 行 な っ た 。流 動 床 式 ガ ス 化 溶
融 炉 は 還 元 雰 囲 気 が 弱 い た め , ス ラ グ 中 の Pb 濃 度 が 0.1%程 度 と 高 く ,
土 壌 汚 染 対 策 法 の Pb の 溶 出 量 基 準 0.01mg/l 以 下 は 満 た し て い る が ,Pb
含 有 量 基 準 0.015% 以 下 を 必 ず し も 満 足 し て い な い 。 流 動 床 式 ガ ス 化 溶
融 炉 の ス ラ グ の 用 途 を 拡 大 す る た め に は , ス ラ グ 中 の Pb 濃 度 が 0.015%
以 下 と な る 操 業 条 件 , す な わ ち 還 元 雰 囲 気 を 高 め Pb を ス ラ グ か ら 揮 発
させる操業技術を確立しなければならない。
石 綿 含 有 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発 に つ い て は ,溶 融 処 理
時 の 指 針 を‘ 熱 力 学 デ ー タ を 用 い た 相 平 衡 解 析 ’か ら 得 て ,廃 棄 物 溶 融 炉
の 実 操 業 に 適 応 さ せ た 。溶 融 処 理 し た 石 綿 含 有 廃 棄 物 は 吹 付 材 ,保 温 材 ,
お よ び 断 熱 材 で 比 較 的 も ろ い も の で あ っ た が ,ス レ ー ト 材 な ど の 堅 い も
の は ス ラ グ へ の 溶 融 速 度 は 表 面 の 撹 拌 が 律 速 と な る の で ,溶 融 ス ラ グ の
撹拌をガス吹き込みなどにより強制的に行う工夫が必要である。
廃 棄 物 溶 融 炉 の 溶 融 ス ラ グ の 流 動 性 の 予 測 に つ い て ,熱 力 学 デ ー タ を 用 い た
相平衡解析とさらに,溶融スラグの粘度推算モデルについて検討し,操
業指針を得る手法として役立つことを確認した。しかし,溶融スラグ中
の SiO2 濃 度 が 高 い 場 合 , 液 相 領 域 で あ っ て も 粘 度 が 高 く な る こ と か ら ,
154
種 々 雑 多 の 廃 棄 物 を 溶 融 す る 時 の 操 業 指 針 と し て 、実 操 業 の 溶 融 ス ラ グ
の 流 動 性 評 価 に 適 応 で き る よ う に ,こ れ ら の 手 法 を さ ら に 改 良 す る こ と
が課題である。
溶融スラグの粘度をオンサイトで測定できる技術が確立されると,非
鉄 製 錬 お よ び 鉄 鋼 製 錬 プ ロ セ ス に お い て ,新 た な 操 業 管 理 手 法 が 生 ま れ ,
スラグの流動性をよい状態に保つために過剰に溶融スラグの温度を高
めることがなくなる。その結果,資源循環だけでなく,低炭素社会に向
けたエネルギー消費量の削減にも貢献できるものと考えている。測定装
置 と し て ,溶 融 ス ラ グ を 測 定 部 へ 導 く 方 法 ,溶 融 ス ラ グ へ の 測 定 部 の 浸 漬 方 法
などの検討課題がある。
最後に,非鉄金属の資源循環社会を構築する中で,非鉄金属製錬メー
カ ー は 非 鉄 金 属 を 安 定 し て ユ ー ザ ー に 供 給 す る 使 命 が あ り ,廃 棄 物 な ら
びにリサイクル原料,すなわち,都市鉱山(製品,廃棄物などに含有し
ている金属)から希少金属(レアメタル)を資源循環する技術開発が期
待 さ れ る 。1 )
Fig.1 に 日 本 の 都 市 鉱 山 に 蓄 積 さ れ て い る 比 率 の 高 い 希 少
金属について,世界の埋蔵量に対する日本(都市鉱山)の蓄積量の比率
を ,2 ) F i g . 2 に 中 国 か ら の 輸 入 比 率 の 高 い 希 少 金 属 に つ い て ,日 本 の 全 輸
入 量 に 対 す る 中 国 か ら の 輸 入 量 の 比 率 を 示 す 。 3)中 国 の 輸 入 比 率 が 高 い
金属は政情不安などが発生した場合に安定供給が難しくなる。特に
Sb,In は 中 国 か ら 輸 入 比 率 が 高 く , 都 市 鉱 山 へ の 蓄 積 比 率 が 高 い の で ,
これら金属の都市鉱山からの資源循環技術を開発することが日本の資
源の安定供給につながる。
I n は , 主 要 な 用 途 の I T O( 酸 化 イ ン ジ ウ ム 錫 ) タ ー ゲ ッ ト 材 に 含 ま れ
る も の は 70%近 く が 工 場 内 の 製 造 工 程 で 発 生 し た 工 程 く ず と し て 回 収 さ
れ て い る が ,市 場 に 出 た フ ラ ッ ト パ ネ ル デ ィ ス プ レ イ な ど 製 品 に 含 ま れ
る も の は 10%程 度 の 回 収 率 し か な い 。 4-7)In の 資 源 循 環 プ ロ セ ス と し て ,
乾 式 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で は In が Pb の 副 産 物 ( 硫 酸 鉛 , 粗 鉛 ) に 濃 縮 す
る こ と か ら , In 含 有 す る 製 品 廃 棄 物 を 亜 鉛 製 錬 プ ロ セ ス で 処 理 し , Pb
副 産 物 中 に In を 濃 縮 さ せ る こ と が 有 効 で あ る と 考 え る 。
ま た , Sb に つ い て は , 蓄 電 池 の Pb-Sb 合 金 は 資 源 循 環 さ れ て い る が ,
主 要 な 用 途 で あ る 樹 脂 難 燃 剤 か ら は 回 収 さ れ て い な い 。4 , 6 ) こ れ ら 樹 脂 を
含 む 廃 棄 物 を 焼 却 処 理 し た 焼 却 灰 お よ び 焼 却 飛 灰 か ら Sb を 濃 縮 す る プ
ロ セ ス と し て Cu, Pb の 融 体 を 利 用 し て マ ッ ト , ス パ イ ス へ Sb を 濃 縮 す
ることが有効であると考える。
155
以 上 ,『 非 鉄 金 属 製 錬 技 術 を 利 用 し た 廃 棄 物 の 資 源 循 環 高 温 プ ロ セ ス の 開 発
す る 研 究 』に つ い て 総 括 を 述 べ た 。本 研 究 に お け る 知 見 が ,今 後 構 築 さ れ て い
く廃棄物の資源循環高温プロセスにおけるアプローチの指針となることを期
日本の蓄積量/世界の埋蔵量(%)
待する。
70
60
50
40
30
20
10
0
Sb
In
W
Mo
Au
Pb
Pt
Ag
Sn
中国からの輸入量/全輸入量(%)
Figure 1 希 少 金 属 の 世 界 の 埋 蔵 量 に 対 す る 日 本 の 蓄 積 量 の 比 率
100
80
60
40
20
0
Sb
In
W
Mo
Ge
Bi
Sr
Ba
Mn
Figure 2 希 少 金 属 の 日 本 の 全 輸 入 量 に 対 す る 中 国 か ら の 輸 入 量 の 比 率
参考文献
1) 村 田 徳 治 :月 間 廃 棄 物 ,7(2007)74-79
2) 独 立 行 政 法 人 物 質 ・材 料 機 構 ,1(2008)1-9
3) 福 田 一 徳 :資 源 と素 材 ,124(2008)426-434
4) 資 源 エネルギー庁 鉱 物 資 源 課 :‘レアメタル 17 鉱 種 のマテリアル・フローと課 題 に
ついて’,4(2007)
5) 廃 棄 物 学 会 :‘レアメタルの現 状 とリサイクルの最 新 の話 題 ’,11(2007)2,3-12
6) 金 属 資 源 情 報 センター:金 属 資 源 レポート,7(2006)129-132
7) 金 属 資 源 情 報 センター:金 属 資 源 レポート,9(2007)171-176
156
本研究に関する成果
本論文に関係する投稿論文
第2章:
( 1 ) K.Sakamoto, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi
Removal of Impurities from Sintering Process
Metallurgical Review of MMIJ, 7(1990)108-121
( 2 ) K.Torii, M.Ogasawara, Y.Miyabayashi
Application of Moving-Electrode Type Electrostatic Precipitator to
Zinc Sintering Process
Metallurgical Review of MMIJ, 9(1992)112-125
( 3 ) K.Sakamoto, Y.Miyabayashi , J.Hino
Zinc Smelting and Refining at Nikko Zinc
Metallurgical Review of MMIJ, 12(1995)63-76
第3章:
( 4 ) J.Hino, Y.Miyabayashi , T.Nagato
Recovery of Nonferrous Metals from Shredder Residue by Incinerating
and Smelting
Metallurgical Review of MMIJ, 15(1998)63-74
( 5 ) Y.Miyabayashi
Development of Technologies for Recycling Shredder Residue
Metallurgical Review of MMIJ 18(2007)43-54
第4章:
(6) 宮林良次 ,吉川健,田中敏宏
廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とその流動性
の解析
高 温 学 会 誌 Vol.32,No.5(2006)281-288
第5章:
( 7 ) M.Nakamoto, Y.Miyabayashi , L.Holappa, T.Tanaka
A Model for Estimating Viscosity of Molten Aluminosilicate
Containig Alkali Oxides
ISIJ international,vol.47,No.10(2007),1409-1415
( 8 ) Y.Miyabayashi , M.Nakamoto, T.Tanaka,
T.Yamamoto
A Model for Estimating Viscosity of Molten Aluminosilicate
Containig CaF
157
ISIJ international,vol.49,No.3(2009)
(掲 載 予 定 )
第6章
(9) 宮林良次 ,乾崇,山下諒,丹羽康之,吉川健,田中敏宏
溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発
鉄 と 鋼 ,( 投 稿 予 定 )
学会発表(国際会議)
第3章:
( 1 ) Y.Miyabayashi ,
J.Hino
Recovery of Nonferrous Metals from Shredder Residue
Fifth International Symposium on East Asian Recycling Technology,
Tsukuba, Japan, (June 15-17,1999)
学会発表(国内会議)
第2章:
(1)坂本和平,小笠原正俊, 宮林良次
焼結工程における不純物除去について
日本鉱業協会
現場担当者会議,東京
機 械 振 興 会 館 , 1990 年 5 月
(2)鳥居堅,小笠原正俊, 宮林良次
亜鉛焼結工程への移動電極形電気集塵装置の導入
日本鉱業協会
現場担当者会議,東京
機 械 振 興 会 館 , 1992 年 5 月
第3章:
(3)日野順三, 宮林良次
非鉄製錬技術を活用したシュレッダーダストからの金属回収試験
第 9 回 廃 棄 物 学 会 , 名 古 屋 国 際 会 議 場 , 1998 年 10 月
(4) 宮林良次 ,能登久次,成迫誠
シュレッダーダストの再資源化技術の開発について
日本鉱業協会
現場担当者会議,東京
機 械 振 興 会 館 , 2005 年 5 月
第4章:
(5) 宮林良次 ,吉川健,田中敏宏
廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とその流動性
の解析
高温学会
平 成 19 年 度 春 季 総 合 学 術 講 演 会 , 大 阪 大 学 , 2007 年 5 月
158
第5章:
( 6 ) 中 本 将 嗣 , 宮 林 良 次 , Lauri HOLAPPA, 田 中 敏 宏
溶融アルミナシリケートの粘度推算モデル
第 154 回 日 本 鉄 鋼 協 会 秋 季 講 演 大 会 , 岐 阜 大 学 , 2007 年 9 月
第6章:
(7)乾崇,丹羽康之,吉川健,田中敏宏, 宮林良次
溶融スラグの粘度測定を目指した落球法による粘度計の開発
第 155 回 日 本 鉄 鋼 協 会 春 季 講 演 大 会 , 武 蔵 工 業 大 学 , 2008 年 3 月
他の報告書
第2章:
(1)坂本和平,小笠原正俊, 宮林良次
焼結工程における不純物除去について
資 源 ・ 素 材 学 会 誌 , vol.106,No.5(1990)271-275
(2)鳥居堅,小笠原正俊, 宮林良次
亜鉛焼結工程への移動電極形電気集塵装置の導入
資 源 ・ 素 材 学 会 誌 , vol.108,No.4(1992)291-296
第3章:
(3)日野順三, 宮林良次
非鉄製錬技術を活用したシュレッダーダストの再資源化
高 温 学 会 誌 , vol.25,No.2(1999),59-65
(4) 宮林良次 ,能登久次,成迫誠
シュレッダーダストの再資源化技術の開発について
資 源 と 素 材 , vol.121,No.4,5(2005)149-153
第4章:
(5)青木威尚, 宮林良次 ,柳田辰也
最近のリサイクル炉操業について
資 源 と 素 材 , vol.122,No.4,5(2006)235-238
159
学協会からの受賞
(1)坂本和平,小笠原正俊, 宮林良次
焼結工程における不純物除去について
日本鉱業協会
協 会 賞 , 1991 年 3 月
(2) 宮林良次
非鉄製錬技術を活用したシュレッダーダストの再資源化
資源・素材学会
技 術 賞 , 2001 年 3 月
(3) 宮林良次 ,能登久次,成迫誠
シュレッダーダストの再資源化技術の開発について
日本鉱業協会
協 会 賞 , 2006 年 3 月
(4) 宮林良次 ,吉川健,田中敏宏
廃棄物溶融炉の安定操業に及ぼす高温酸化物の液相領域とその流動性
の解析
高 温 学 会 2007 年 論 文 賞 , 2007 年 5 月
160
謝辞
本 研 究 お よ び 研 究 論 文 の 作 成 に あ た り ,終 始 懇 切 な る ご 指 導 ご 鞭 撻 を 賜 り ま
した大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻教授
田中敏宏博士
に謹んで感謝の意を表します。
ま た ,有 益 な ご 教 示 を 賜 り ま し た 大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 マ テ リ ア ル 生 産
科学専攻教授
碓 井 建 夫 博 士 ,同 教 授
松 尾 伸 也 博 士 ,同 准 教 授
中里英樹博
士に厚く御礼申し上げます。
本 研 究 の い く つ か は ,日 鉱 金 属 株 式 会 社 グ ル ー プ の 日 鉱 三 日 市 リ サ イ ク ル 株
式 会 社 ( 旧 日 鉱 亜 鉛 株 式 会 社 ), な ら び に 日 鉱 環 境 株 式 会 社 で 行 わ れ た も の で
あ り ,研 究 の 機 会 と ご 助 言 ,ご 指 導 を 頂 き ま し た 船 津 雅 司 氏 ,中 田 弘 章 氏 ,坂
本 和 平 氏 ,日 野 順 三 博 士 ,福 田 和 人 氏 ,川 崎 靖 人 氏 ,高 澤 洋 一 氏 ,小 笠 原 正 俊
氏に対し,深く感謝の意を表します。
ま た ,大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 講 師
研究科助教
平 井 信 充 博 士 ,大 阪 大 学 大 学 院 工 学
吉 川 健 博 士 ,大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 特 任 助 教
ヘ レ ウ ス・エ レ ク ト ロ ナ イ ト 株 式 会 社
中本将嗣博士,
乾 崇 氏 に は ,研 究 の 実 施 に あ た り ,絶
大なるご助言とご協力を頂きましたことを厚く御礼申し上げます。
本研究の第 6 章における実験を実施し貴重なデータを提供して頂きました
丹羽康之氏,山下諒氏に深く感謝の意を表します。
昭 和 56 年 に 大 阪 大 学 工 学 部 冶 金 工 学 科 を 卒 業 後 , し ば ら く 大 学 な ら び に 学
業 か ら 離 れ て い ま し た が , 平 成 18 年 4 月 に 博 士 後 期 課 程 へ 入 学 し 田 中 研 究 室
の皆様は私を温かく迎えてくれました。田中研究室の皆様には,在籍 3 年間,
本研究の遂行にあたり,御協力を賜りましたことに深く感謝の意を表します。
最 後 に ,私 事 で は あ り ま す が ,陰 な が ら 協 力 し て く れ ま し た 妻 の 由 香 に 感 謝
します。
161
Fly UP