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第3章 商標に関する国際的動向と取組

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第3章 商標に関する国際的動向と取組
第3章 商標に関する国際的動向と取組
第3章
商標に関する国際的動向と取組
経済のグローバル化が発展し、国際的な企業競争が激しさを増すなか、高い価値を有する国際的な
ブランドの確立及びそれらの保護を、商標制度を活用して積極的に、かつ、迅速に行うことがますま
す重要になってきている。しかしながら、各国ごとに商標制度が異なる上に商標取得手続は原則各国
ごとに行う必要があるため、出願人にとって大きな負担となっている。
こうした問題に対し、企業の国際展開を支援するためには、世界各国で安定した商標権を速やかに
取得でき、適切に保護されるような環境を整えることが不可欠であることから、中国等との二国間で
の取組、世界知的所有権機関(WIPO)及び日米欧三極(日本国特許庁(JPO)、欧州共同体商標意
匠庁(OHIM)及び米国特許商標庁(USPTO))等の多国間での取組を通じて、各国の商標制度の
調和及び手続の簡素化を推進している。
1.二国間での取組
(1)日中商標長官会合
2009年1月に中国・北京において、JPOと中国商標局(CTMO)との間で第7回日中商標長官会
合が開催された。
日中商標長官会合は、日中両国が互いの商標制度への理解を深め、両国の交流を促進するために、
1996年12月、第1回会合が北京において開催され、その後、日中交互に開催されている。
本会合では、商標出願手続に関するシンポジウム及び模倣品対策のためのセミナーの開催等、様々
なレベルでの協力関係を強化することに合意した。また、我が国の地名、地域ブランド等が中国にお
いて第三者により商標出願・登録されている問題について、公平、適切な審査を実施するように要請
を行った。これに対してCTMOより、日本と中国とは文化的にも近い隣国であることを考慮して、
日本の地名等の出願については法律に基づいて厳格に判断を行い、悪意に基づく出願に対しては厳正
に対処する旨回答を得た。
(2)中国・台湾での我が国地名の第三者による商標出願問題への総合的支援
中国・台湾において我が国の地名や地域ブランド等が第三者によって出願登録される事例が相次い
でおり、これによって我が国の企業等の現地でのビジネス展開に支障が生ずるリスクが増加している。
このような事態に対処するため、JPOでは2008年6月に公表した「中国・台湾での我が国地名の
第三者による商標出願問題への総合的支援策」に基づき、商標検索・法的対応措置に関するマニュア
ルを作成し、都道府県、政令指定都市、農業関連団体等に幅広く配布するとともに、自治体等関係者
を対象とした説明会・セミナーを開催し、幅広く情報提供を実施している。北京・台北における「冒
認商標問題特別相談窓口」を設置して、自治体等関係者の相談に対応している。
また、我が国の地名・地域団体商標等が当該国で適切に保護されるよう、中国政府等と協議を行っ
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第4部
ている。
2009年6月には、総合的支援策の進ちょく状況の報告を公表した。中国及び台湾への継続的な働
の問題に対する姿勢に変化が見られ、実際に中国において、第三者が商標出願していた8つの県名に
ついて、商標当局が拒絶の決定を下しており、取組の効果が確実に現れてきている。
(3)日韓商標専門家会合
2000年11月の第12回日韓特許庁会合において、日本と韓国の両国特許庁が商標審査の制度・
運用の課題について情報交換や意見交換を行うことによってそれぞれの特許庁における商標審査実務
に役立てるとともに、両国の制度・運用についての理解を深めるため、日韓商標審査官会合が設けら
国際的な動向と取組
きかけの結果、中国及び台湾側から外国の地名について厳格に審査していくとの回答があるなど、こ
れた。2001年6月に日本において第1回会合が開催され、これまでに両国交互に5回開催された。
2008年3月の第6回目の会合から、商標審査に関する運用上の問題点のみならず、条約や政策的
事項など、両庁が関心を有する幅広い分野での議論を行うべく、名称を日韓商標審査官会合から日韓
商標専門家会合へ変更した。
第1回日韓商標専門家会合においては、商標制度に関する課題からマドリッド協定議定書の審査運
第1章
用、中国商標法改正等、様々な議題について情報・意見交換が行われた。
第2章
第3章
第4章
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第3章 商標に関する国際的動向と取組
2.国際的動向と多国間での取組
(1)マドリッドシステムの法的発展に関する作業部会
標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書には2010年3月現在、日本を含む81か国(主
要締約国・地域:欧州各国、米国、中国、韓国、欧州連合(EU))が加盟している。
標章の国際登録に関するマドリッド協定並びに議定書(マドリッドシステム)については、制度の
見直しを行うため、2005年よりWIPOマドリッドシステムの法的展開に関するアドホック作業部会
(以下「作業部会」という。なお、第5回の会合より会議名称から“アドホック”の文字が取れ、
「マ
ドリッドシステムの法的発展に関する作業部会」となった。)が、これまで7回開催されている。
2009年7月に開催された第7回作業部会においては、出願言語の追加やスイス提案(国際登録の
分割)に関する議論が行われた。出願言語の追加については、2009年9月に行われたマドリッド同
盟総会でパイロットプロジェクトの実施について採択された。
(2)商標・意匠・地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT)
① 概要
WIPOに設置された商標、意匠、地理的表示の法律に関する議論を行うための常設委員会であ
るSCTでは、第1回会合から第6回会合にかけて、周知商標、商標ライセンス、インターネット
上における商標及びその他の標識に係る産業財産権の保護等についての検討がなされ、1999年
のWIPO一般総会及びパリ同盟総会において「周知商標の保護に関する規則」、2000年に「商
標ライセンスに関する規則」、2001年に「インターネット上における商標及びその他の標識に
係る工業所有権の保護に関する規則」がそれぞれ共同勧告として採択された。
② 商標制度の調和及び手続面の簡素化へ向けた動き
その後のSCTにおいては、1996年に発効した商標法条約(TLT)の改正が議論された。
TLTは利用者の利便性の向上の観点から、各国における商標制度の手続面の簡素化及び調和を図
ることを目的とするものであり、我が国は1997年に加入している。改正の目的は、電子出願の
普及等技術の急速な発展への対応を図ること、手続面の更なる簡素化・調和を促進すること、規
則レベルの修正については外交会議を招集することなく総会で修正できるよう一連の管理・最終
規定を整備することである。主な改正項目は、総会の設立、電子出願、手続期間の救済措置、商
標ライセンスである。
2005年4月の第14回会合においては、後述する2006年3月に開催された改正TLT採択の
ための外交会議へ向け最後の議論が行われ、基本提案について合意された。
2006年11月から、2008年7月までの会合において、「非伝統的商標(動き、音等の新しい
タイプの商標)の表示方法」「商標異議申立手続」等について議論が行われ、2008年12月の
第20回会合において、
「非伝統的商標の表示方法」及び「商標異議申立手続」に関する収束の範
囲(「収束の範囲」とは、各国の法制度やその運用に関して共通する考え方等を取りまとめたもの。)
がそれぞれ採択された。
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第4部
「非伝統的商標の表示方法」及び「商標異議申立手続」に関する収束の範囲の概要は以下のと
おりである。
①立体商標、②色彩商標、③ホログラム商標、④動く商標、⑤位置商標、⑥ジェスチャー商
標、⑦音響商標、の類型ごとに、官庁が出願人に要求できる願書における商標の表示・記述の
方法及び公表の方法等について、各国に共通する考え方等を取りまとめたもの。
b.「商標異議申立手続」に関する収束の範囲
①異議申立手続の有用性、②審査との関係、③異議申立理由、④異議申立資格、⑤異議期間、
⑥オブザベーション(第三者が官庁に情報提供できる制度)の有用性、⑦クーリングオフ期間
(当事者の和解のための中止期間)の有用性について、各国に共通する考え方等を取りまとめ
国際的な動向と取組
a.「非伝統的商標の表示方法」に関する収束の範囲
たもの。
③ 今後SCTが取り扱う課題
2008年12月の第20回会合において、今後SCTが取り扱うべき商標の課題について、各国
からの提案に基づき議論が行われた。その結果、①あらゆるタイプの商標に関する拒絶の理由、
章等の保護)、④コンセント制度等が取り上げられることとなった。
2009年6月に第21回会合及び11月に第22回会合が開催され、上記に関する議論が行われた。
改正TLTを採択するための外交会議が、2006年3月シンガポールにおいて開催され、新条約は、
「商
2009年3月16日に発効した。
シンガポール条約は、基本的にTLTの内容を取り込んだ上で、現行のTLTから独立したものとなり、
願手続の更なる簡素化及び調和(商標ライセンス(使用権)等の登録手続の共通化)、③商標出願に
関連する手続の期間を守れなかった場合の救済措置などが加えられた。
第4章
①出願手法の多様化への対応(書面による出願に加え、電子的手段による出願にも対応)、②商標出
第3章
標法に関するシンガポール条約」
(以下「シンガポール条約」という。)として、同月27日に採択され、
第2章
(3)商標法に関するシンガポール条約
第1章
②証明商標1及び団体商標の登録に関する技術的及び手続的側面、③パリ条約第6条の3(国の紋
(4)三極商標協力
商標登録制度及びその運用について、日米欧三極(JPO、OHIM 及びUSPTO)が情報及び意見
交換を行い、制度及び運用の改善につなげることを目的として、2001年5月に第1回商標三極会合
が米国・アーリントンで開催され、以来、ほぼ毎年1回開催されている。2007年10月の東京会合
より、CTMOがオブザーバーとして参加している。
1 証明商標とは、ある商品若しくはサービスに対して監督能力を有する組織が使用する商品名やマークを指し、当
該組織に属する者が商品若しくはサービスにおいてその商標を利用する際、その商品若しくはサービスの原産地、原
料、製造方法、品質又はその他の特徴を証明するために使用されるものをいう。
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第3章 商標に関する国際的動向と取組
2009年12月にスペイン・アリカンテで開催された第8回会合では、「三極の進ちょくについてレ
ビュー」、「他の知財庁及びユーザーとの関係」、「共通統計指標」、「優先権書類の電子的交換」、「商標
分類」等について議論がなされた。また、CTMOを含めた各庁より、過去1年間の進展に関する報告
と意見交換が行われた。
「三極の進ちょくについてレビュー」における議論では、USPTOからの提案により、三極として
のミッションステートメント(今後、第三国の参加や、三極の拡大の議論を進めるに当たって、三極
としての枠組み、目的が記載されたステートメント)を作成することが合意され、共同声明に盛り込
まれた。
「他の知財庁及びユーザーとの関係」における議論では、今回会合に引き続き、次回会合への
CTMO及びWIPOのオブザーバー参加について合意した。また、韓国特許庁(KIPO)の次回会合へ
のオブサーバー参加について承認された。
さらに、次回会合より、ホスト国の主催でユーザー会合を開催することについて合意された。
「共通統計指標」における議論では、三極で共通した統計の作成を今後も維持していくことで合意
した。
「優先権書類の電子的交換」における議論では、優先権書類の電子的交換に係る三極間の比較調査
及び検討に関するJPOからの報告に対し、USPTO、OHIMは、優先権情報の三極間での電子的交換
に関する各庁の意見をJPOに報告することで合意した。
「商標分類」における議論では、「商品役務表示の三庁リスト1」について、第三国の参加を含め、
どのくらいの規模にするのか等、将来の方向性について引き続き検討していくことで合意した。
1 商標出願で指定する商品・役務の表示として三庁間において相互に認めることができる商品・役務表示をリスト
化したもの。
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