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2014/12/26「インド:事業拠点設立留意点(1)」

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2014/12/26「インド:事業拠点設立留意点(1)」
December 26, 2014
1. インド事業拠点設立に際しての留意点 第1回 事業拠点設立総論
2. ベトナム:新出入国法発行後の査証および滞在許可証の発給に関する変更点について
1. インド事業拠点設立に際しての留意点
1.
第1回
事業拠点設立総論
Introduction
2014 年 5 月に行われたインド下院の総選挙後、ナレンドラ・モディ氏が新首相に就任した。モディ首相はグ
ジャラート州首相時代より日本企業の誘致を積極的に行っており、首相就任後も引き続き積極的に日本企業の
誘致を行うことが予想される。従って、今後さらに日本企業のインド進出が増加すると予想されている。そこ
で、今回はインド進出における事業拠点設立に際して日本企業が留意すべき点を 2 回にわたり解説する。
2. 設立が認められる事業拠点の種類
インドの法規上、日系企業を含む外国企業がインドに設立することが許されている事業拠点の形態は、現地法
人(会社)、支店、駐在員事務所、プロジェクト・オフィスの 4 つとされている1 。従って、インド進出時に
おいてまず留意すべきなのは、どのような事業拠点をインドに設立するかという点である。いずれの形態を選
択するか検討する際には、主に以下に述べる観点からの検討が重要となる。
(1) インドで行うビジネス
上記 4 つの事業拠点のうち現地法人以外については、インドの法規上一定の活動のみ行うことが許され
ている。詳細は末尾の表を参照されたい。
例えば支店の場合、製造業、加工業、小売業を行うことは原則として認められていないことから、イン
ドで製造業を行うことを計画している場合は、その事業拠点として支店を選択することはできず、現地
法人の形態で進出しなければならないことになる。
また、駐在員事務所の場合、営利目的の事業活動を行うことが原則として禁止されているため、本格的
なインド進出前の市場調査等のための拠点として利用されるのが通常である。
このように、インドでどのような事業を行うか、その事業計画がどの程度具体化しているかという観点
から、適切な事業形態を選択することが重要となる。
1
正確には有限責任組合(LLP)も認められるが、日本企業がこれを利用する例は少ないため割愛する。
1
(2) インド進出時・進出後の事業資金確保
(a) インド進出時における事業資金の確保
2013 年インド会社法上、現地法人の最低資本金額は、非公開会社が 10 万ルピー以上、公開会社が
50 万ルピー以上と規定されている。しかし、後述のとおり支店等の現地法人以外の事業拠点が、日
本本社からの資金調達を比較的柔軟に行うことが可能であるのと異なり、現地法人の場合は、設立
後の資金調達に時間やコストがかかる等の問題がある。インド進出直後から事業が黒字化するとは
限らないことに鑑みれば、最低資本金額にとらわれず、想定される設立後のコスト(従業員の給与、
事務所家賃等)を踏まえ、十分な備えをした資本金額を設立時に注入することを検討するのが望ま
しい。
また、インド会社法においても、日本の会社法と類似する授権株式資本(Authorized Share Capital)
制度が設けられているが、設立後に授権株式資本を増額する場合には株主総会決議を伴う定款変更
等の手続きが必要となり、これにも時間とコストがかかる。従って、設立時の授権株式資本の設定
に際しても将来の事業資金計画を踏まえた金額を考慮することが望ましい。もっとも、授権株式資
本額が高額になるに比例して印紙税額も高額となるため、これとのバランスも考慮することが必要
となる。
(b) インド進出後の事業資金の確保
近年、インドに現地法人を設立した日本企業の中には、インド事業の収益がなかなか上がらず、そ
の赤字を補填するために日本本社から毎年増資を受けている会社や、会社を清算して日本本社から
の資金調達に比較的制限の少ない支店の設立を検討している会社もある。
赤字の補填に関しては、製造業を営む現地法人にとってはより深刻な問題である。すなわち、製造
業者については、法律で規定された一定の要件を充たす財政不健全会社(Sick Company)に該当
すれば、法律に定められる手続きに従って会社の再生・再建、もしくは清算を強制されることとな
るため2である。
現地法人の場合、増資には取締役会決議に加え、場合によっては株主総会の特別決議が必要となる
ため、支店等の他の事業拠点と比べ、時間とコストがかかるという問題が生じる。会社設立後の資
金調達の手段としては、日本本社からの借入れ(対外商業借入・ECB)も考えられるが、ECB によ
って調達した資金を運転資金に利用する要件が厳格なため、利用を検討している企業は多いが、利
用実績は少ないのが現状である3 。そして、本稿作成時(平成 26 年 11 月)のインド政策金利(レ
ポ金利)は 8%であり、市中金利は当然にこれを上回っており、現地銀行ローン等による資金調達
に際しては、日本と比較して相当なコストを覚悟する必要がある。
2 2013 年インド会社法により、製造業のみならずすべての業種の会社が規制対象となったが、該当する条項は本稿作成の時点で未だ施行され
ていないため、従来どおり Sick Industrial Companies (Special Provisions) Act, 1985(SICA 1985)が効力を有している。
3 ECB によって調達した資金を運転資金を含む General Corporate Purpose に利用することは、2013 年 9 月 4 日付通達により一定の要件を充たし
た場合には認められることとなり、さらに 2014 年 5 月 16 日付通達でその要件が緩和された。しかし、その要件が厳格なため、運転資金調達
目的にはあまり利用されていないのが現状である。
2
このように、現地法人を設立する場合には、設立後どの程度の期間でインド事業の収益が期待でき
るかどうか、また現地法人が黒字化するまで日本の親会社がより時間とコストのかかる増資の引受
けによる資金提供を継続できるのか、という見地からの検討が必要であろう。
(3) 法人税
現地法人に対する法人税(Income Tax)の実効税率は、累進課税に基づき 30.90%から 33.90%である。
これに対し支店及びプロジェクト・オフィスは、41.20%~43.26%とされている。なお、駐在員事務所の
場合は、営利活動が禁止されていることから法人税課税の対象とされていない。
このような法人税率の差異についても、事業拠点選択の一つの視点となるであろう。
(4) 撤退の容易性
現地法人を閉鎖してインドから撤退する場合、原則として、①裁判所による清算(Winding-up by the
court)もしくは、②自主清算(Voluntary winding-up)によって会社を清算する必要がある。いずれ
の清算においても、管轄の高等裁判所における手続きが必要であるため、時間も費用もかかってしまう。
これに対して、支店や駐在員事務所を閉鎖する場合は、一定の必要書類をインド準備銀行が認定する
AD Category-I Bank を通じてインド準備銀行に提出すれば足りるため、現地法人の閉鎖と比較して時間
も費用も少なくて済む。
このように、将来的なインド撤退の可能性も視野に入れ、撤退に必要な時間とコストの観点からも進出
形態を選択する必要があると考えられる。
事業拠点
現地法人
活動範囲
基本定款記載の目的の範囲内で原則として自由に事業活動が可能

日本本社又はグループ会社のインドにおける代表行為

インドとの間の輸出入の促進

日本本社又はグループ会社とインド企業間の技術的・財務的提携関係の促進

日本本社とインド企業間の連絡窓口としての活動

物品の輸出入

専門サービス又はコンサルティングサービスの提供

日本本社が行っている事業分野の調査活動

日本本社又は海外グループ会社とインド企業間の技術的・財務的提携関係の促進

インドにおける日本本社の代表行為、及び購入・販売代理としての活動

インドにおける情報技術及びソフトウェア開発分野におけるサービス提供

日本本社又はグル―プ会社によって供給された製品に対する技術的サポート提供

外国の航空及び船舶会社
法人税の実効税率
30.90% ~ 33.90%
営利活動が認められて
駐在員事務所
いないため、法人税の
課税なし
支店
41.20% ~ 43.26%
プロジェクト・
41.20% ~ 43.26%
当該プロジェクトに関する活動
オフィス
3
記事提供:弁護士法人マーキュリー・ジェネラル
弁護士 坂元 英峰 / 弁護士 山下 昌彦(インド・デリー駐在)
弁護士法人マーキュリー・ジェネラル:平成 15 年 3 月 1 日開設、平成 19 年
12 月 19 日法人化。国内の日系法律事務所としては唯一インド共和国法外国法
事務弁護士が所属、日印両国において、インドに進出する日本企業をサポート。
(2014 年 11 月 30 日作成)
4
2.
ベトナム:新出入国法発行後の査証および滞在許可証の発給に関する変更点について
2015
概要年 1 月 1 日に有効となるベトナムにおける外国人の入国・出国・通過・滞在に関する法律(2014 年 6 月
162015
日発行)により、査証発給条件および査証の種類などが変更された。本稿では、査証および滞在許可証の
年 1 月 1 日に有効となるベトナムにおける外国人の入国・出国・通過・滞在に関する法律(2014 年 6 月
発給に関する法改正後の変更点を踏まえて、今後必要な企業側の対応について説明する。
16 日発行)により、査証発給条件および査証の種類などが変更された。本稿では、査証および滞在許可証の
発給に関する法改正後の変更点を踏まえて、今後必要な企業側の対応について説明する。
Q:
新出入国法の発行による査証および滞在許可証の発給に関する変更点について教えてほしい。
A:
日本人の場合、現時点では、観光目的であっても商用目的であってもベトナム滞在期間が 15 日未満であれば
査証取得が免除されている。日系企業の駐在員は、就労目的であっても、いったん観光または商用目的で 3
カ月査証を取得し、ベトナム入国後に労働許可証(Work Permit)を取得してから滞在許可証(Residence Card)
に切り替えることが多い。その理由は、日本において査証取得が容易であり、さらにベトナム出入国に関する
現行規定が労働法、投資法などにあまりリンクしていないため、実務上、ベトナム入国後でも一定の条件を満
たせば在留目的の切り替えまたは査証の新規取得が可能であるためと考えられる。
しかしながら、2014 年 6 月 16 日に、ベトナム国会はベトナムにおける外国人の入国・出国・通過・滞在に関
する法律第 47/2014/QH13 号(以下、新出入国法)を発行し、外国人の査証発給などをより厳しく取り締
まる方向となった。本法令は 2015 年 1 月 1 日より有効となる。
本稿では、査証および滞在許可証の発給に関する法改正後の変更点を踏まえて、今後必要な企業側の対応につ
いて説明する。
1. 法改正後の査証発給申請
1.1
査証免除
新出入国法においては査証免除の対象者は下記の通り規定されている。
• ベトナムが加盟している国際条約の内容により免除される者
• ベトナム滞在許可証の所有者
• 特別な経済地域に入国する場合
• その他ベトナム政府より認められる場合
上記の通り、日本国籍の入国者であれば今後もパスポートの種類を問わず、15 日未満の滞在で以下の条件を
満たす場合、査証は免除される。
5
・日本の権限機関により発行されたパスポートを持ち、パスポートの有効期限はベトナムの入国日から 3 カ
月以上であること
・往復航空券、または、他国への航空券を有していること
・ベトナム入国禁止対象者ではないこと 1
15 日以上滞在する場合(不可避な理由での滞在延長を除く)、査証を申請しなければならない。
1.2
査証発給申請
1.2.1 査証の種類の変更および有効期間の引き上げ
新出入国法により、査証の種類は現行法令の 10 種類から 27 種類に変更される。査証の種類およびそれぞれの
有効期間を下記の表にてまとめる。
1.2.2 査証発給
上記の通り、新出入国法では、入国目的によって査証種類が詳細に決められている。本稿ではビジネスおよび
就学を目的としてベトナムに入国する場合の査証のみ取り上げて説明するが、全般的に査証を取得する際には
入国目的の証明が必要となる。
(1) 就労査証(コード:LD)
現行法では就労査証という種類はないが、新出入国法では新たに追加された。また、就労査証の取得申請
には労働許可証が必要である。
1 2014 年 6 月 16 日付法律第 47/2014/QH13 号第 13 条第 1 項
2 駐在員事務所以外に支店、非政府組織(NGO)事務所なども含まれる。
3 駐在員事務所以外に支店、NGO 事務所なども含まれる。実際に NN1 は、NGO 事務所関係、NN2 は駐在員事務所の所長、NN3 は、駐在員
事務所の駐在員と規定される。
6
(2) 投資査証(コード:DT)
新出入国法では詳細な説明がないが、個人の出資者の場合に限り発行されると解釈されている。また、投
資法の規定に基づき、ベトナムで投資していることを証明する書類(投資ライセンスなど)の提出が必要
となる。
(3) 駐在員事務所所長のための査証(コード:NN2)または駐在員事務所に勤務する駐在員のための査証(コ
ード:NN3)
現行労働法では、上記二つの対象者は労働許可証が必要である。従って上記(1)と同様、査証申請の際に労
働許可証の提出が必要になると解釈されている。
(4) ベトナム企業との商用がある入国者のための査証(コード:DN)
新出入国法では新たに追加されたが、査証申請の際に具体的にどのような証明書類が必要となるかについ
てはまだ詳細案内がない。
1.3
入国目的の変更による査証の種類の切り替え
新出入国法第 7 条では「入国目的の変更ができない」という記載があり、一般的に以下の通り解釈されている
が、実務上まだ不明点が残っている。
(1) 申請した入国目的で入国し、入国後に査証の変更ができない。
(2) ベトナム入国後、ベトナムに在留したままで入国目的の変更および査証の新規申請ができず、一度出国し
てから新たに査証を申請する。例えば観光目的で入国した場合は、一度出国してから労働許可証を取得し、
その後、就労査証を取得し、再度ベトナムに入国する。
現行法令では上記の規定に関する詳細なガイダンスがないが、今後は特別なケースを除き、ベトナムに在留し
ながらの在留資格の変更申請が難しくなると予想されている。
2. 滞在許可証
2.1 滞在許可証の適用範囲
滞在許可証も査証も、ベトナムの出入国・滞在を許可する証明書であるが、査証と異なり、滞在許可証は、ベ
トナムに 1 年以上滞在する外国人に対して発給されるものである4。また、滞在許可証は、入国後しか取得申
請ができない。新出入国法では、1 年以上滞在の条件が削除されており、入国目的および査証の種類などに合
わせて有効期限を柔軟に定めることができる。
なお、現行と同様に、滞在許可証を所有している外国人は、有効期間中、査証なしでベトナムの出入国が可能
である。
4 滞在許可証の発給条件はパスポートの残存有効期限が 1 年以上である
7
2.2 滞在許可証の有効期間の変更
現行法では滞在許可証の有効期間は 1~3 年間であるが、新出入国法では、在留資格によるが、滞在許可証の
有効期間は以前と比べて多少引き延ばされた。
例:
• 投資家の場合は最長 5 年間
• 駐在員事務所の所長の場合は最長 3 年間
• 就労査証の場合は、現行法と同様、労働許可証の有効期間に合わせて発給され、最長で 2 年間
終わりに
上記の通り、2015 年より発効する新出入国法により、ベトナム入国前に入国目的の証明が必要となり、また
労働許可証および査証の取得順序も変更される。そのため、企業内人事異動計画、採用計画などを予定通り実
行できるよう、企業は事前に十分な確認をし、また余裕を持って書類の準備を行うことをお勧めする。
なお、現時点では新出入国法においてまだ不明点が残っており、今後も当局よりの詳細ガイダンスをフォロー
する必要がある。
記事提供:I-GLOCAL CO.,LTD
本コラムは、I-GLOCAL(アイ グローカル 旧 SCS(VIETNAM)CO.,LTD. 日系資本初
のベトナムにおける監査法人をグループに擁し、ハノイとホーチミン、ブノンペンに事務
所を有する会計事務所系コンサルファーム)において作成されています。
(2014 年 9 月 12 日作成)
8
(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部
(照会先) 北村 広明
(e-mail): [email protected]
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