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医療機器ビジネス参入のメリットとリスク

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医療機器ビジネス参入のメリットとリスク
第5回
ライフサイエンス・ビジネスセミナー
開催:平成 26 年 12 月 5 日(金)
医療機器ビジネス参入のメリットとリスク
公益財団法人医療機器センター 医療機器産業研究所
上級研究員 日吉 和彦 氏
医療機器産業は国を挙げて振興に取り組む重点産業
「医療機器は、製造物責任(PL)が重く、なんだか怖そう」と思い込んでおられる人は、
いませんか? こうした考え方は、世界の中でも日本にだけはびこっている「迷信」です。
医療機器に関する法規制は、世に出る前に厳しくチェックしたり、品質を管理するための
ものであり、また医療機器を使うのは教育訓練された医療者です。つまり最も事故の起き
にくいシステムが確立されているのが医療機器なのです。医療機器の PL リスクについて
も、わが国ではこれまで医療機器メーカーが訴えられた例はありません。材料部品メーカ
ー、医療機器メーカーともやみくもにリスクを恐れず、まず実情を正しく認識していただ
きたいと思います。
では本題に入りましょう。医療はいまや、我が国が力を注ぐ重点領域の一つとなってい
ます。
「医療イノベーション 5 カ年戦略(H24 年 6 月 7 日公表)
」から「日本再興戦略-JAPAN
is BACK-(H25 年 6 月 14 日)
、健康・医療戦略(H26 年 7 月 22 日)までさまざまな政
策が打ち出され、その中でも医療機器は最優先課題に位置づけられます。最近では、医療
機器開発支援ネットワークの構築に国家予算 40 億円が計上されました。2014 年 11 月 4
日には、同ネットワークの WEB サイトがオープン、支援を受けて医療機器産業に参入し
たいとお考えの方は、ぜひこのサイトからエントリーしていただきたいと思います。
「国民医療費・対国内総生産(GDP)及び対国民所得比率の年次推移」のグラフを見る
と、医療費が信じられない勢いで増え続けているのが分かります。GDP はマイナス成長に
なると予測されている中で医療費の増大は留まるところを知りません。医療費の増大と比
例するように、医療機器の国内出荷額も右肩上がりに増えています。現在、医療機器市場
は、国民の全医療費の 6.3%を占めています。今後も医療費の増大に伴って医療機器市場
も増え続けるでしょう。重要なのは、それを成長戦略にできるかどうか。現に現政権は、
医療・ヘルスケア産業を成長戦略に取り込んでいます。
業界別の売上高を見ると、自動車産業の 52 兆円、電機製品の 60 兆円に対し、医療関連
産業は、医薬品で 7 兆円、医療機器に至っては 2.6 兆円と、桁が違うことがわかります。
つまり医療機器は、自動車や電機製品に代わる日本の根幹産業になることはないのです。
まずはそれを踏まえていただきたいと思います。
国が理想とする「健康長寿社会像」の中で、医療機器はかなり広範囲にわたって関わり
ます。他にもヘルスケアの技術やサービスのように、人を健康にするための機器類につい
ても市場は拡大の一途をたどっています。すなわち、こうした健康産業の周辺には、製造
業が力を発揮できるチャンスが山のようにあるということです。
医療機器の規制のかからないヘルスケア関連商品はたくさんある
ヘルスケア産業と一口に言っても、その領域は非常に広く、法で規制された「医療機器」
はその中の限られた一部にすぎません。健康器具や介護福祉器具、病院で使われるさまざ
まな機器装置の中には法律上医療機器ではないものがたくさんあります。それらも含める
と、ヘルスケアの市場は 20 兆~30 兆円にもなり、先の自動車、電機製品に迫る勢いです。
こうした多様なヘルスケア産業の中で、法律で規制されるのは、自社ブランドで医療機
器を製造販売したり、医療機器を受託製造する場合のみ。その他は規制外、普通の工業製
品と同様に位置づけられます。大切なのは、自社の製品が規制の内か外かをきちんと見極
めることです。規制のかかる医療機器ビジネスに焦点を絞るなら、参入のメリットとリス
クをきちんと考える必要があります。まず国策を踏まえてメリットを考えること。
一方で、
産業政策や法規制に関わるリスク、製造物責任上の民事リスク、医産連携の際の開発リス
クなどを考える必要があります。
中でも医療機器への参入に挑んで、最初に陥る落とし穴が、「開発リスク」です。「こん
なものを作ったら売れるだろう」というメーカーの発想だけで医療機器を世に出すことは
できません。開発には医療の専門家との連携が不可欠です。こうした産と医工の連携をお
手伝いするのが私たちの仕事ですが、最近増えている失敗例は次のようなものです。
医療機器産業振興がブームの今、全国でさまざまなセミナーが開催されています。そこ
へ行って、
「こんなものを作れば、こうした患者が救われる」などといった大学の研究者の
話に感動し、
「そんなものならわが社で簡単に作れる」と安易に手を挙げてしまう企業があ
ります。偉い学者の先生に感謝され、勢いで始めてしまうのが、失敗の始まり。研究者の
言うとおりに作っても、改良ばかりでいつまでたっても完成したと言ってもらえない。見
切りをつけて販売しても、まったく売れない。といって引き返すこともできない。私たち
は日頃、そんな相談を実にたくさん受けます。問題の一つは、自分たちが作っている製品
が医療機器か否か、規制の内か外かもわからないままに取り組んでいることにあります。
法令で規制された医療機器は、規制に沿った手順が求められます。法規制に対応するのは
あくまで製造・販売する企業です。大学の先生に頼り切っていたのでは、売れるものがで
きるわけがありません。そもそも医者は患者のためになることを考えており、それが売れ
るかどうかは考えていない。つまり開発パートナーとしては不向きなのです。また論文や
実績のことばかり考えている研究者と組むのも危険です。
医療機器の法律を無視して勝手に作ってしまうのはもちろん違法行為ですが、一方で、
病院にある器具や道具がすべて規制対象となる医療機器だと思い込み、しり込みしている
人もいます。しかし実は法規制の対象外の非医療機器もたくさんあり、そこには企業の実
力次第で自由に切り込むことのできるビジネスチャンスが大きく広がっています。問題は、
規制対象の医療機器か否かを判断するのがかなり難しいこと。最終的には厚生労働省の監
視指導・麻薬対策課が判断しますが、そこに尋ねる前に、私たちや PMDA など相談先が
いくつもあるので、必ず相談してください。京都府の場合は、まず京都産業 21 に相談し
ていただくのがいいでしょう。
B to C のビジネスへと基本形が変わるという自覚と覚悟が必要
医療機器への一番の参入障壁は、
「ビジネスの基本形が変わること」です。異業種から医
療への新規参入を考える企業の多くは、自動車・家電メーカーに部品を供給するなど B to
B ビジネスを専業にしています。医療機器の製造・販売に参入しようとしても、B to C ビ
ジネスの経験がないために、製品はできたがさっぱり売れない、あるいは売り方がわから
ない企業がたくさんあります。
「医療機器産業は難しいから」と考えるのではなく、まずは
「売る力がなかった」ことを自覚することから始めてください。すなわち医療機器へのチ
ャレンジは、単なる新たなものづくりへの挑戦ではなく、製品を製造・販売するビジネス
への挑戦なのです。それには、これまでとは使用する言葉も異なる新世界の人たちと付き
合う覚悟と意欲が必要です。
医療機器関連産業へ参入するには、
「自社ブランド医療機器」
「医療機器 OEM」
「医療機
器用部品」
「病院用非医療機器」
「介護・福祉機器」
「健康器具」「理化学研究装置」など 7
つのルートがあります。ここ京都の地の利を生かすなら、理化学研究装置に着目するのも
いいかもしれません。いずれにしても規制に対応するためには、勉強が不可欠です。はじ
めから無謀なことに挑むのではなく、知識やスキルに応じたフィールドでチャレンジする
ことが重要です。
日本の製造業のモノづくりの力はすばらしいものがあります。製品を作るだけならきっ
と簡単にできるでしょう。しかしそれが医療の現場に届くかどうかは別問題です。そのこ
とをよく理解した上で、ぜひ皆さんがお持ちのすばらしい技術を世界の命のために生かし、
世界中にマーケットを広げてほしいと願っています。
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