...

グリコールアルデヒドによる小胞体ストレス誘導性

by user

on
Category: Documents
0

views

Report

Comments

Transcript

グリコールアルデヒドによる小胞体ストレス誘導性
グリコールアルデヒドによる小胞体ストレス誘導性
アポトーシスに関する研究
本論文は 2014 年北海道薬科大学における博士(薬学)の
学位取得のために提出し受理されたものである。
平成25年度
北海道薬科大学大学院薬学研究科
生物薬学専攻 博士後期課程
佐
藤
恵
亮
目次
略語・略号表................................................................... 1
緒言 .............................................................................. 3
第1章
グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド( GA)に よ る ア ポ ト ー シ ス の
誘導
第1節
序論................................................................... 8
第2節
実験方法 ............................................................. 9
第3節
実験結果 ............................................................ 12
1.
シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 生 存 率 に 対 す る GA の 影 響 ............................... 12
2.
シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 生 存 率 に 対 す る ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 の 影 響 ...... 14
3.
GA に よ る 細 胞 傷 害 と ア ポ ト ー シ ス と の 関 連 性 ................................ 15
第4節
第2章
考察.................................................................. 19
グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド( GA)に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス
の誘導
第1節
序論.................................................................. 23
第2節
実験方法 ............................................................ 25
第3節
実験結果 ............................................................ 31
1.
ミ ト コ ン ド リ ア に 対 す る GA の 影 響 .................................................. 31
2.
ROS 産 生 量 に 対 す る GA の 影 響 ........................................................ 32
3.
小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー に 対 す る GA の 影 響 ................................... 34
4.
オ ー ト フ ァ ジ ー に 対 す る GA の 影 響 .................................................. 35
ⅰ
5.
小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 促 進 因 子 に 対 す る GA の 影 響 .. 36
6.
膜 受 容 体 に 対 す る GA の 影 響 ............................................................. 37
第4節
第3章
考察.................................................................. 38
グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド( GA)に よ る ス ト レ ス 応 答 機
構の誘導
第1節
序論.................................................................. 43
第2節
実験方法 ............................................................ 45
第3節
実験結果 ............................................................ 49
1.
GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 す る NAC の 影 響 ......................................... 49
2.
細 胞 内 GSH 量 に 対 す る GA の 影 響 .................................................... 51
3.
MRP1 発 現 量 に 対 す る GA の 影 響 ...................................................... 52
4.
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に 対 す る GA の 影 響 .......................................... 54
5.
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お け る GA の 影 響 ...................................... 57
6.
GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 す る Keap1/Nrf2 シ ス テ ム 活 性 化 の 影 響 ...... 58
第4節
考察.................................................................. 59
総括 ............................................................................. 64
謝辞 ............................................................................. 67
参考文献 ....................................................................... 68
ⅱ
略語・略号表
本論文においては以下の略語および略号を用いた(アルファベット順)
AGEs
糖化最終産物
advanced glycation end products
ATF6
活性化転写因子 6
activating transcription factor 6
CDF
カ ル ボ キ シ -2',7'-ジ ク ロ ロ フ ル オ レ セ イ ン
5 (and 6)-carboxy-2',7'-dichlorofluorescein
ジ ア セ テ ー ト ( 5-, 6-混 合 物 )
diacetate
CHOP
C/EBP 類 似 タ ン パ ク 質
C/EBP-homologous protein
3-DG
3-デ オ キ シ グ ル コ ソ ン
3-deoxyglucosone
DMEM
ダルベッコ変法イーグル培地
Dulbecco’s modified Eagle’s medium
DPBS
ダルベッコリン酸緩衝食塩水
Dulbecco’s phosphate-buffered saline
DTNB
5,5’-ジ チ オ ビ ス ( 2-ニ ト ロ 安 息 香 酸 )
5,5’-dithiobis (2-nitrobenzoic acid)
DTPA
ジエチレントリアミン五酢酸
diethylenetriaminepentaacetic acid
EDTA
エチレンジアミン四酢酸
ethylenediaminetetraacetic acid
EPS
エパルレスタット
epalrestat
FBS
ウシ胎児血清
fetal bovine serum
GA
グリコールアルデヒド
glycolaldehyde
GAPDH グ リ セ ル ア ル デ ヒ ド -3-リ ン 酸
glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase
脱水素酵素
γ-GCS
γ-グ ル タ ミ ル シ ス テ イ ン 合 成 酵 素
γ-glutamyl cysteine synthetase
GO
グリオキサール
glyoxal
GSH
還元型グルタチオン
reduced glutathione
GSSG
酸化型グルタチオン
oxidized glutathione
HE
ヒドロエチジン
hydroethidine
HO-1
ヘ ム オ キ シ ゲ ナ ー ゼ -1
heme oxygenase-1
IRE1
イノシトール要求性酵素 1
inositol-requiring ER-to-nucleus signal kinase 1
Keap1
Kelch 様 ECH 結 合 タ ン パ ク 質 1
Kelch-like ECH-associated protein 1
LDH
乳酸脱水素酵素
lactate dehydrogenase
MG
メチルグリオキサール
methylglyoxal
MRP1
多剤耐性関連タンパク質 1
multidrug resistance-associated protein 1
1
MTS
3-(4,5-ジ メ チ ル チ ア ゾ ー ル -2-イ ル )-
3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-
5-(3-カ ル ボ キ シ メ ト キ シ フ ェ ニ ル )-
5-(3-carboxymethoxyphenyl) -
2-(4-ス ル フ ォ フ ェ ニ ル )-
2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium salt
二水素テトラゾリウム塩
NAC
N-ア セ チ ル -L-シ ス テ イ ン
N-acetyl-L-cysteine
NADH
還元型ニコチンアミドアデニン
reduced nicotinamide adenine dinucleotide
ジヌクレオチド
NADPH 還 元 型 ニ コ チ ン ア ミ ド ア デ ニ ン
reduced nicotinamide adenine dinucleotide
ジヌクレオチドリン酸
phosphate
Nrf2
NF-E2 関 連 転 写 因 子 2
nuclear factor erythroid 2-related factor 2
PBS
リン酸緩衝食塩水
phosphate-buffered saline
PERK
RNA 依 存 性 プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼ 様
RNA-dependent protein kinase-like ER kinase
ER キ ナ ー ゼ
PI
ヨウ化プロピジウム
propidium iodide
ROS
活性酸素種
reactive oxygen species
SOD
スーパーオキシドジスムターゼ
superoxide dismutase
TBS
トリス緩衝食塩水
Tris-buffered saline
TNF
腫瘍壊死因子
tumor necrosis factor
2
緒言
2012 年 の 世 界 に お け る 糖 尿 病 人 口 は 3 億 7,100 万 人 と み ら れ て お り 、2030
年 に は 5 億 5,200 万 人 に 急 増 す る と 予 測 さ れ て い る( Fig. 1) 1 ) 。2012 年 の わ
が 国 に お け る 糖 尿 病 人 口 は 710 万 人 と み ら れ 、2030 年 に は 1,000 万 人 を 超 え
る と 予 測 さ れ て い る 。糖 尿 病 自 体 は 死 因 の 上 位 で は な い が 、死 因 の 上 位 を 占
め る 脳 梗 塞 や 心 筋 梗 塞 の リ ス ク フ ァ ク タ ー で あ り 、神 経 障 害 、腎 症 、網 膜 症
と い っ た 糖 尿 病 三 大 合 併 症 を 引 き 起 こ す 。合 併 症 の 中 で も 糖 尿 病 性 神 経 障 害
は 、比 較 的 早 期 か つ 高 頻 度 に 認 め ら れ る が 、自 覚 症 状 に 乏 し く 軽 視 さ れ や す
い 。 し か し 、 痛 み や 異 常 感 覚 な ど の 症 状 が 出 現 す る と 治 療 が 難 し く QOL を
著 し く 損 な う 疾 患 で あ り 、発 症 早 期 か ら の 進 展 阻 止 は 大 き な 課 題 と な っ て い
る。
Fig. 1
世界および日本における糖尿病人口
1)
糖尿病合併症が発症するメカニズムには、ポリオール代謝経路の活性化、
プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼ C の 活 性 化 、酸 化 ス ト レ ス 、糖 化 反 応 の 亢 進 な ど の 関 与
が示唆されている
2)
。なかでも糖化反応の亢進は、糖尿病性神経障害の主要
因であり、シュワン細胞の細胞死を引き起こすことが報告されている
3)
。シ
ュ ワ ン 細 胞 は 、神 経 細 胞 の 跳 躍 伝 導 に 必 須 な 神 経 組 織 構 成 細 胞 で あ り 、神 経
損 傷 時 の 再 生 に 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。シ ュ ワ ン 細 胞 で は 、糖 化 反 応 が 引
3
き 金 と な っ て 生 成 す る 糖 化 最 終 産 物 advanced glycation end products( AGEs)
の蓄積が確認されている
4)
。 そ の た め 、 AGEs に よ る シ ュ ワ ン 細 胞 の 傷 害 が
糖尿病性神経障害に関与していると考えられている
5)
。
糖化反応はグルコースなどの還元糖とタンパク質の非酵素的な結合に基
づ く 反 応 ( メ イ ラ ー ド 反 応 ) で あ る ( Fig. 2)。 還 元 糖 の カ ル ボ ニ ル 基 と タ ン
パ ク 質 の ア ミ ノ 基 が 反 応 し て シ ッ フ 塩 基 を 作 り 、ア マ ド リ 変 換 を 経 て 比 較 的
安 定 な ア マ ド リ 化 合 物 を 作 る 初 期 反 応 、高 反 応 性 の 中 間 体 が 生 じ る 中 期 反 応 、
AGEs が 生 成 す る 後 期 反 応 に 区 別 さ れ る
6)
。糖化反応は、血中グルコース濃
度 に 依 存 し て 起 こ り 、タ ン パ ク 質 の 翻 訳 後 修 飾 と し て 酵 素 タ ン パ ク 質 や 構 造
タンパク質に様々な影響を及ぼし糖尿病の病態に関わっていると考えられ
ている
6)
。 ア マ ド リ 化 合 物 で あ る ヘ モ グ ロ ビ ン A1 c は 、 糖 尿 病 の 診 断 基 準 や
血糖コントロールの指標、評価に利用されている。
Fig. 2
糖化反応の概要
α-ヒ ド ロ キ シ ア ル デ ヒ ド で あ る グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド( GA)は 、糖 化 反 応
か ら AGEs が 生 成 す る 過 程 で 形 成 さ れ る ( Fig. 3)。 こ の 過 程 で は 、 幾 つ か の
反応性に富む中間体が形成される
に分類される
10 - 12 )
7 -9 )
。 AGEs は 生 成 経 路 の 異 な る AGE-1~ 6
。 AGEs の 前 駆 体 と し て メ チ ル グ リ オ キ サ ー ル ( MG)、 グ
リ オ キ サ ー ル( GO)、3-デ オ キ シ グ ル コ ソ ン( 3-DG)な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化
合物が広く知られているが
7 -9 )
、 GA 由 来 の AGE-3 は ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 由
来 の AGEs よ り も 細 胞 傷 害 能 が 強 い こ と が 報 告 さ れ て い る
3)
。さらに、炎症
性 組 織 で は ア ミ ノ 酸 の 酸 化 促 進 に よ っ て GA の 生 成 能 が 上 昇 す る こ と が 知 ら
れている
13)
。 し か し 、 GA が 生 体 に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ し て い る の か は 明
らかにされていない。
4
Fig. 3
糖化反応経路
糖 尿 病 の 根 底 に は 、酸 化 ス ト レ ス が 関 与 し て い る と 考 え ら れ て い る 。1980
年 代 後 半 に グ ル コ ー ス の 自 動 酸 化 や 糖 化 反 応 に 伴 う 活 性 酸 素 種 reactive
oxygen species( ROS)の 産 生 が 明 ら か に さ れ て 以 来 、糖 尿 病 と 酸 化 ス ト レ ス
の関連性を示す多数の知見が報告されている。ジカルボニル化合物である
MG は 、 シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て 酸 化 ス ト レ ス を 誘 導 し 、 ア ポ ト ー シ ス を 惹 起
する
14 )
。MG や AGEs が 、ROS の 産 生 や 抗 酸 化 酵 素 群 の 失 活 に よ り ア ポ ト ー
シスを誘導することが種々の培養細胞系で立証されている
15 -17 )
。ア ポ ト ー シ
ス に は ミ ト コ ン ド リ ア 、小 胞 体 、膜 受 容 体 を 介 す る 経 路 な ど が 存 在 す る こ と
が 知 ら れ て い る が 、 MG や AGEs に よ る ア ポ ト ー シ ス に は ミ ト コ ン ド リ ア を
介する経路の関与が提唱されている
1 8 , 19 )
。即 ち ミ ト コ ン ド リ ア 傷 害 に よ り 、
酸 化 ス ト レ ス が 生 じ て ア ポ ト ー シ ス に 至 る と 考 え ら れ て い る 。一 方 、近 年 に
な っ て 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 経 路 の 分 子 機 構 が 次 々 と 明 ら か に な り 、糖 尿 病 の
病態形成に小胞体ストレスによるアポトーシスが関与していることが報告
されている
2 0, 2 1 )
。し か し 、MG の よ う な ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 や AGEs 等 に よ
る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 へ の 小 胞 体 ス ト レ ス の 関 与 に つ い て は 、現 在 ま で ほ と ん
ど報告がなされていない。
小 胞 体 ス ト レ ス は 、 糖 化 反 応 や SH 基 の 酸 化 な ど を 受 け 、 異 常 立 体 構 造 を
も つ 折 り 畳 み 不 全 タ ン パ ク 質( unfolded proteins)が 小 胞 体 内 腔 に 蓄 積 す る 状
態である
22)
。 小 胞 体 ス ト レ ス に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 を Fig. 4 に 示 す 。
小 胞 体 ス ト レ ス が 生 じ る と 、異 常 タ ン パ ク 質 を 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー が 感
5
知する
23 -2 5)
。 主 な 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー と し て RNA-dependent protein
kinase-like ER kinase( PERK)、 inositol-requiring ER-to-nucleus signal kinase 1
( IRE1)、activating transcription factor 6( ATF6)が 知 ら れ て い る
2 3 -2 5 )
。小 胞
体 ス ト レ ス セ ン サ ー は 、オ ー ト フ ァ ジ ー や 転 写 因 子 で あ る C/EBP-homologous
protein( CHOP) を 介 し た ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る
26 )
。一方で、細胞はスト
レ ス に 対 抗 す る た め の 防 御 機 構 を 構 築 し て お り 、小 胞 体 ス ト レ ス な ど の 多 種
多 様 な ス ト レ ス を 緩 和 す る た め に 、ス ト レ ス 応 答 機 構 を 活 性 化 す る
2 7 -30 )
。ス
ト レ ス 応 答 機 構 と し て 、 Fig. 5 に 示 す よ う な 抗 酸 化 酵 素 群 や 第 Ⅱ 相 解 毒 酵 素
群 の 発 現 誘 導 が 起 こ る 。 な か で も 、 heme oxygenase-1( HO-1) は 、 代 表 的 な
ス ト レ ス 応 答 タ ン パ ク 質 で あ る 。 ま た 、 還 元 型 グ ル タ チ オ ン ( GSH) 生 合 成
の 律 速 酵 素 で あ る γ-glutamyl cysteine synthetase( γ-GCS) の 発 現 も 誘 導 さ れ
る 。 さ ら に 、 薬 物 代 謝 酵 素 で あ る GSH S-ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ 、 薬 物 ト ラ ン
ス ポ ー タ ー で あ る multidrug resistance associated protein -1( MRP1) な ど 多 く
の ス ト レ ス 応 答 タ ン パ ク 質 の 発 現 誘 導 が 起 こ る 。近 年 、こ れ ら ス ト レ ス 応 答
タ ン パ ク 質 の 発 現 制 御 に Kelch-lile ECH-associating protein 1/ nuclear factor
erythroid 2-related factor 2( Keap1/Nrf2)シ ス テ ム が 関 与 し て い る こ と が 示 さ
れている
2 7 -30 )
。
6
前 述 し た よ う に 、 GA が 生 体 に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ し て い る の か は 明 ら
か で は な い 。 GA に 関 す る 研 究 報 告 は ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 に 比 べ て 圧 倒 的 に
少 な く 、健 常 人 や 糖 尿 病 患 者 に お け る 血 中 濃 度 な ど に つ い て は 報 告 さ れ て い
な い 。 ヒ ト の 生 体 濃 度 ( physiological concentration) が 0.1~ 1 mM と 推 測 し
ている報告があり
3 1 -33 )
、こ れ に よ る と 、ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 の 血 中 濃 度( 数
µM〜 数 十 µM) 34 ) と 比 較 し て 高 濃 度 に 存 在 す る と 考 え ら れ る 。 一 方 、 GA の
細胞傷害能やジカルボニル化合物との比較を示した報告はなされていない。
ヒ ト 乳 が ん 細 胞 に お い て GA に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 を 示 す 唯 一 の 報 告 が あ
るものの
35)
、シ ュ ワ ン 細 胞 を は じ め と す る 他 の 細 胞 系 に 対 す る GA の 影 響 は
不明である。
本 研 究 で は 、末 梢 神 経 構 成 細 胞 で あ る シ ュ ワ ン 細 胞 に 及 ぼ す GA の 各 種 影
響 に つ い て 検 討 し た 。 第 1 章 で は 、 GA に よ る 細 胞 傷 害 能 、 ジ カ ル ボ ニ ル 化
合 物 と の 比 較 、ア ポ ト ー シ ス と の 関 連 性 に つ い て 検 討 し た 。第 2 章 で は 、GA
に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 メ カ ニ ズ ム を 探 る 目 的 で 、小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 因 子
に 対 す る 影 響 を 中 心 と し て 検 討 を 行 っ た 。第 3 章 で は 、ス ト レ ス 応 答 タ ン パ
ク 質 に 対 す る 影 響 、並 び に そ の 発 現 を 制 御 す る Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に 着 目 し
て 検 討 し た 。こ れ ら の 結 果 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て GA が 小 胞 体 ス ト レ ス 誘
導 性 ア ポ ト ー シ ス を 引 き 起 こ す と い う 新 規 の 知 見 が 得 ら れ た の で 、以 下 に 詳
述する。
7
第1章
グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド ( GA) に よ る ア ポ ト ー シ ス の 誘 導
第1節
序論
糖 尿 病 性 神 経 障 害 は 、糖 尿 病 三 大 合 併 症 の 1 つ で あ り 、最 も 早 期 か つ 高 頻
度 で 発 症 が 認 め ら れ る 。シ ュ ワ ン 細 胞 は 、末 梢 神 経 の 機 能 維 持 に 重 要 な 役 割
を 果 た し て い る が 、糖 尿 病 性 神 経 障 害 で は シ ュ ワ ン 細 胞 が 傷 害 を 受 け る こ と
が知られている
36)
。血 中 グ ル コ ー ス 濃 度 に 依 存 し て 糖 化 反 応 が 起 こ り 、糖 化
反 応 の 亢 進 が シ ュ ワ ン 細 胞 の 傷 害 を 誘 発 し 、糖 尿 病 性 神 経 障 害 の 病 態 形 成 や
進展に結びつくと考えられている
37, 38)
。
糖 化 反 応 か ら AGEs が 生 成 す る 過 程 で は 、幾 つ か の 反 応 性 に 富 む 中 間 体 が
形成される
7 -9 )
。中 間 体 と し て MG、GO、3-DG な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 が
広く知られている
7 - 9)
。ま た 、GA や グ リ セ ル ア ル デ ヒ ド な ど の α-ヒ ド ロ キ シ
アルデヒドも挙げられる
7 -9 )
。ジカルボニル化合物については、糖尿病合併
症 と の 関 連 性 を 示 す 報 告 が な さ れ て い る 。例 え ば 、細 胞 傷 害 能 は グ ル コ ー ス
や AGEs よ り も ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 の 方 が 強 い こ と や
物 の 中 で も MG の 作 用 が 最 も 強 い こ と
39 )
6)
、ジカルボニル化合
が報告されている。また、健常人
に 比 べ 糖 尿 病 患 者 で は 、血 中 MG 濃 度 が 上 昇 し て い る
34)
。一 方 、α-ヒ ド ロ キ
シ ア ル デ ヒ ド で あ る GA は 、ヒ ト の 生 体 濃 度 が 0.1〜 1 mM と 報 告 さ れ て お り
31-33 )
、 ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 の 血 中 濃 度 ( 数 µM〜 数 十 µM) 34 ) と 比 較 し て 高
濃 度 に 存 在 す る 。 GA は 糖 化 反 応 の み で は な く 、 活 性 化 さ れ た リ ン パ 球 系 細
胞においてミエロペルオキシダーゼを介してセリンから生成され、炎症時
GA 生 成 能 は 上 昇 す る
14 )
。 し か し な が ら 、 GA が 生 体 に ど の よ う な 影 響 を 及
ぼしているのかは明らかではない。
糖尿病性神経障害にはシュワン細胞の傷害が重要であることは既に述べ
た が 、ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て MG が ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る こ と が 実
証されている
15 )
。さ ら に 、MG に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 は 、シ ュ ワ ン 細 胞 だ
け で は な く 、他 の 培 養 細 胞 系 に お い て も 認 め ら れ る 。例 え ば 、ヒ ト 網 膜 周 皮
細胞
40 )
、ヒ ト 単 球 性 白 血 病 細 胞
ウシ大動脈内皮細胞
43)
41 )
、褐 色 細 胞
42)
、ヒ ト 大 動 脈 内 皮 細 胞
38)
や
な ど が あ る 。ま た 、AGEs に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 は 、
8
ラットシュワン細胞をはじめヒト線維芽細胞
ト尿細管細胞
46 )
、ヒトメサンギウム細胞
47 )
44)
、ウシ網膜周皮細胞
、ラット骨芽細胞
48 )
45 )
、ヒ
で起こる。
こ れ ら の 報 告 か ら 、長 期 間 の 高 血 糖 状 態 に よ り 増 加 し た MG や AGEs に よ っ
て 、ア ポ ト ー シ ス が 進 行 し 、糖 尿 病 性 神 経 障 害 を は じ め と す る 糖 尿 病 合 併 症
の 進 展 に 結 び つ く と 考 え ら れ る 。 一 方 、 GA に つ い て は 、 ヒ ト 乳 が ん 細 胞 に
おいてアポトーシス誘導を示す報告が唯一あるものの
35)
、シ ュ ワ ン 細 胞 を 含
め 、ヒ ト 乳 が ん 細 胞 以 外 の 細 胞 に 対 す る GA の 影 響 は 明 ら か に さ れ て い な い 。
本 研 究 で は 、 シ ュ ワ ン 細 胞 を 用 い 、 GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 第 1 章
で は 、 ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 を GA で 処 理 し 、 そ の 細 胞 傷 害 能 を 評 価 し 、 MG
な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 と の 比 較 検 討 を 行 っ た 。 続 い て 、 GA が シ ュ ワ ン
細 胞 の ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る 可 能 性 に つ い て 、ア ポ ト ー シ ス の 形 態 学 的 特
徴 で あ る 細 胞 膜 構 造 の 変 化 、 DNA の 断 片 化 、 ま た 生 化 学 的 特 徴 で あ る カ ス
パーゼの活性化を指標として検討した。
第2節
1.
実験方法
試薬
GA( 二 量 体 )は 、Sigma Chemical Co.( St. Louis, MO, USA)よ り 購 入 し た 。
GO( 40%水 溶 液 )は 、関 東 化 学 株 式 会 社( 東 京 )よ り 、3-DG、Hoechst 33258
は 株 式 会 社 同 仁 化 学 研 究 所 ( 熊 本 ) よ り 、 MG( 40%水 溶 液 ) は 、 ナ カ ラ イ
テ ク ス 株 式 会 社 ( 京 都 ) よ り 購 入 し た 。 CellTiter96 ® AQueous One Solution
Proliferation Assay は 、プ ロ メ ガ 株 式 会 社( 東 京 )よ り 購 入 し た 。パ ラ ホ ル ム
ア ル デ ヒ ド( 4%)リ ン 酸 バ ッ フ ァ ー は 、和 光 純 薬 工 業 株 式 会 社( 大 阪 )よ り
購 入 し た 。 Annexin-V-FLUOS staining kit は 、 Roche( Indianapolis, IN, USA)
よ り 、 ウ サ ギ 由 来 抗 cleaved caspase-3 抗 体 、 Alexa Fluor ® 488 標 識 抗 ウ サ ギ
IgG 抗 体 は Cell Signaling Technology( Beverly, MA, USA) よ り 購 入 し た 。
Dulbecco’s modified Eagle’s medium( DMEM)、 Dulbecco’s phosphate-buffered
saline( DPBS)、 ペ ニ シ リ ン -ス ト レ プ ト マ イ シ ン 溶 液 、 L-グ ル タ ミ ン 溶 液 、
エ チ レ ン ジ ア ミ ン 四 酢 酸 ( EDTA ) / ト リ プ シ ン 溶 液 は Life Technologies
9
Corporation ( Carlsbad, CA, USA ) よ り 購 入 し た 。 ウ シ 胎 児 血 清 ( FBS ) は
Cambrex Co.( East Rutherford, NJ, USA)よ り 、blocking agent は GE Healthcare
UK Ltd.( Little Chalfont, UK) よ り 購 入 し た 。 そ の 他 の 試 薬 は 、 全 て 市 販 の
特級品を使用した。
2.
細 胞 培 養 と GA 処 理
細 胞 は 、大 日 本 住 友 製 薬 株 式 会 社( 大 阪 )か ら 購 入 し た ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細
胞 を 使 用 し た 。 培 地 と し て DMEM に 10% FBS、 2 mM L-グ ル タ ミ ン 、 ペ ニ
シ リ ン( 200 U/mL)、ス ト レ プ ト マ イ シ ン( 200 µg/mL)を 添 加 し た も の を 用
い 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー( 37 ℃ , 5% CO 2 / 95% air)内 で 培 養 し た 。本 研 究
で は 、 3~ 20 継 代 の シ ュ ワ ン 細 胞 を 用 い た 。
GA 処 理 は 、 以 下 の よ う に 行 っ た 。 シ ャ ー レ ( 直 径 6 cm) あ る い は マ ル チ
ウ ェ ル プ レ ー ト に シ ュ ワ ン 細 胞 を 播 種 し 、コ ン フ ル エ ン ト 状 態 ま で 培 養 し た 。
培 地 を 2% FBS を 含 む DMEM に 交 換 後 、 GA( 100~ 500 µM) を 添 加 し た 。
CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン( 0~ 24 時 間 )後 、GA を 含 む
溶 液 を 除 き 、 細 胞 を DPBS で 洗 浄 し て 測 定 に 用 い た 。
3. 細 胞 傷 害
GA に よ る 細 胞 傷 害 能 の 評 価 は 、 生 細 胞 数 と 相 関 性 を 示 す テ ト ラ ゾ リ ウ ム
塩 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl) -2
H-tetrazolium salt( MTS) の 還 元 能 お よ び 死 細 胞 数 と 相 関 す る 乳 酸 脱 水 素 酵
素 ( LDH) の 漏 出 を 指 標 と し て 行 っ た 。
MTS 還 元 能 : 生 細 胞 の NAD(P)H デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ や NAD(P)H に よ っ て
MTS が 還 元 さ れ て 生 成 す る ホ ル マ ザ ン を 指 標 に し た
49)
。96 well plate に て 培
養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に GA を 添 加 し CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で イ ン キ ュ ベ ー
シ ョ ン( 0~ 24 時 間 )後 、GA を 含 む 溶 液 を 除 き 、37℃ に 加 温 し て お い た DMEM
( FBS free) 250 µL/well で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 次 い で 、 DMEM( FBS free) 100
µL を 加 え 、 CellTiter96 ® AQueous One Solution Proliferation Assay 溶 液 を 10
µL/well 添 加 し 、37 ℃ で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。そ の 後 、490 nm の
吸 光 度 を microplate reader ( Labsystems Multiskan Bichromatic 、 大 阪 ) に よ
10
り測定した。
LDH 漏 出 : 12 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に GA を 添 加 し 、 CO 2
イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 後 、 培 地 中 へ 漏 出 し た
LDH の 活 性 ( 細 胞 外 LDH 活 性 ) と 細 胞 内 に 残 存 す る LDH の 活 性 ( 細 胞 内
LDH 活 性 )を 測 定 し た 。培 地 の 一 部 を 細 胞 外 LDH 活 性 の 測 定 用 試 料 と し た 。
細 胞 を 0.1% TritonX-100 含 有 PBS( 1 mL)を 加 え て 十 分 に 攪 拌 し て 可 溶 化 し
た 。 遠 心 後 の 上 清 を 細 胞 内 LDH 活 性 の 測 定 用 試 料 と し た 。 LDH 活 性 は 、 試
料 を 0.62 mM ピ ル ビ ン 酸 ナ ト リ ウ ム 含 有 50 mM リ ン 酸 カ リ ウ ム バ ッ フ ァ ー
( pH 7.5) に 添 加 後 、 0.2 mM NADH を 加 え て 反 応 を 開 始 し 、 340 nm に お け
る 吸 光 度 の 変 化 か ら 求 め た 。LDH の 漏 出 は 次 の 式 か ら 求 め た 。LDH 漏 出( %)
= 細 胞 外 LDH 活 性 /( 細 胞 外 LDH 活 性 + 細 胞 内 LDH 活 性 ) ×100
4.
アポトーシスの生化学的変化
ア ポ ト ー シ ス の 生 化 学 的 特 徴 で あ る カ ス パ ー ゼ 3 の 活 性 化 は 、 抗 cleaved
caspase-3 抗 体 を 用 い て 測 定 し た 。 6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に
500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ
ン し た 。GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。4% パ ラ ホ ル ム
ア ル デ ヒ ド で 細 胞 を 固 定 し 、氷 冷 メ タ ノ ー ル を 用 い て 細 胞 透 過 処 理 を 行 っ た 。
そ の 後 、 0.5% blocking agent で ブ ロ ッ キ ン グ 処 理 を 行 い 、 同 溶 液 で 希 釈 し た
抗 cleaved caspase-3 抗 体( 1:200)と 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し 、次
い で 、Alexa Fluor 488 で 標 識 し た 抗 ウ サ ギ IgG 抗 体( 1:1,000)を 2 次 抗 体 と
し て 、室 温 で 30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。EDTA/ト リ プ シ ン 溶 液 を 添 加 し
て 細 胞 を 剥 離 し 、遠 心 分 離 し て 上 清 を 除 去 し た 。細 胞 沈 渣 を DPBS で 懸 濁 し 、
セ ル ス ト レ ー ナ ー チ ュ ー ブ で ろ 過 し た 。 Alexa Fluor 488 の 蛍 光 は 、 フ ロ ー サ
イ ト メ ー タ ー Gallios( Beckman Coulter Inc., Fullerton, CA, USA )( FL-1 チ ャ
ネ ル : 530 nm) を 用 い て 測 定 し た 。
5.
アポトーシスの形態学的変化
ア ポ ト ー シ ス の 形 態 学 的 特 徴 を 細 胞 膜 構 造 の 変 化 お よ び DNA の 断 片 化 を
指標に解析した。
11
細 胞 膜 構 造 の 変 化:細 胞 膜 構 造 の 変 化 を 示 す ホ ス フ ァ チ ジ ル セ リ ン の 細 胞
膜 表 面 へ の 露 出 に つ い て 解 析 す る た め に Annexin-V-FLUOS staining kit を 使
用 し た 。 6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に GA( 250, 500 µM) を 添 加
し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン( 0~ 24 時 間 )し た 。GA
を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、DPBS で 細 胞 を 洗 浄 後 、Annexin-V-FLUOS 溶 液 を 加 え 、
室 温 で 30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し 、 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 LSM700( Carl
Zeiss, BRD)
( 励 起 波 長:488 nm, 555 nm)お よ び フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー( FL-1
チ ャ ネ ル : 530 nm、 FL-2 チ ャ ネ ル : 585 nm) で 測 定 し た 。
DNA の 断 片 化 : ヘ キ ス ト 染 色 に よ り 評 価 し た 。 12 well plate に て 培 養 し た
シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ
ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。
そ の 後 、 4% パ ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド で 細 胞 を 固 定 し 、 氷 冷 メ タ ノ ー ル を 用 い
て 細 胞 透 過 処 理 し た 。Hochest33258 の DPBS 溶 液 を 加 え 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕
微 鏡 ( 励 起 波 長 : 405 nm) で 測 定 し た 。
6.
統計処理
デ ー タ は 平 均 値 ±標 準 偏 差 で 示 し た 。 F 検 定 に よ る 等 分 散 の 検 定 後 、 t 検 定
を 行 い 、 p<0.05 を 有 意 と し た 。
第3節
1.
実験結果
シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 生 存 率 に 対 す る GA の 影 響
ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 を GA( 100, 250, 500 µM) で 処 理 し 、 経 時 的 に 細 胞 生
存 率 を 測 定 し た ( Fig. 6)。 細 胞 生 存 率 は MTS 還 元 能 を 指 標 に し た 。 MTS は
テ ト ラ ゾ リ ウ ム 塩 で あ り 、生 細 胞 に よ り ホ ル マ ザ ン へ 還 元 さ れ る
49)
。GA 100
µM で は 、細 胞 生 存 率 に 影 響 は 見 ら れ な か っ た 。 GA 250 µM で は 、16 時 間 お
よ び 24 時 間 に お い て 有 意 な 低 下 が 認 め ら れ た 。 GA 500 µM で は 、 16 時 間 以
降 細 胞 生 存 率 は 著 し く 低 下 し た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 GA は 濃 度 お よ び 時 間
依 存 的 に シ ュ ワ ン 細 胞 の 生 存 率 を 減 少 さ せ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 Fig. 7
12
に 、 死 細 胞 の 指 標 で あ る LDH 漏 出 を 測 定 し た 結 果 を 示 す 。 GA 500 µM 処 理
24 時 間 に お い て 、 顕 著 な LDH 漏 出 が 認 め ら れ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 シ ュ
ワ ン 細 胞 は GA に よ り 細 胞 傷 害 を 起 こ す こ と が 明 ら か と な っ た 。
Fig. 6
細 胞 生 存 率 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 100、 250、 500 µM の GA で 0~ 24 時 間 処 理 し た 。 細 胞 生 存 率 は 、
MTS 還 元 能 を 指 標 と し た 。 各 測 定 時 間 に お け る コ ン ト ロ ー ル ( GA 未 処 理 細 胞 ) の 値
を 100%と し て 細 胞 生 存 率 を 表 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=6) で 示 し て い
る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
13
Fig. 7
LDH の 漏 出 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 100、 250、 500 µM の GA で 24 時 間 処 理 し た 。 LDH 漏 出 ( %) = 細
胞 外 LDH 活 性 /( 細 胞 外 LDH 活 性 + 細 胞 内 LDH 活 性 ) ×100 と し て 評 価 し た 。 デ ー
タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3) で 示 し て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
2.
シュワン細胞の細胞生存率に対するジカルボニル化合物の影響
シ ュ ワ ン 細 胞 に 対 す る GA お よ び ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物( MG, GO, 3-DG)の
細 胞 傷 害 能 に つ い て 比 較 検 討 し た 。 シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM の GA お よ び ジ
カ ル ボ ニ ル 化 合 物 で 24 時 間 処 理 後 、 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た ( Fig. 8)。 細 胞
生 存 率 は 、GA 処 理 で は 有 意 に 低 下 す る の に 対 し 、MG、GO、3-DG 処 理 で は
有 意 な 低 下 は 認 め ら れ な か っ た 。 シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て 、 GA は ジ カ ル ボ ニ
ル化合物よりも細胞傷害能が強いと考えられる。
14
Fig. 8
細胞生存率に対するジカルボニル化合物の影響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM の GA ま た は ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 で 24 時 間 処 理 し た 。 細 胞
生 存 率 は 、MTS 還 元 能 を 指 標 と し た 。各 測 定 時 間 に お け る コ ン ト ロ ー ル( 未 処 理 細 胞 )
の 値 を 100%と し て 細 胞 生 存 率 を 表 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=6) で 示 し
て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
3.
GA に よ る 細 胞 傷 害 と ア ポ ト ー シ ス と の 関 連 性
GA に よ る シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 傷 害 に ア ポ ト ー シ ス が 関 与 す る 可 能 性 に つ
い て 検 討 し た 。ア ポ ト ー シ ス の 形 態 学 的 特 徴 で あ る 細 胞 膜 構 造 の 変 化 、DNA
の 断 片 化 、ま た 生 化 学 的 特 徴 で あ る カ ス パ ー ゼ の 活 性 化 を 指 標 と し て 解 析 し
た。
初 め に 、ア ネ キ シ ン V お よ び ヨ ウ 化 プ ロ ピ ジ ウ ム( PI)の 二 重 染 色 を 行 い 、
細 胞 膜 構 造 の 変 化 に つ い て 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 お よ び フ ロ ー サ イ ト メ ー
タ ー を 用 い て 解 析 し た 。 ア ネ キ シ ン V お よ び PI の 二 重 染 色 法 は 、 細 胞 膜 構
造 の 変 化 に 基 づ い て 細 胞 死 様 式 を 判 定 す る 方 法 で あ る 。細 胞 が ア ポ ト ー シ ス
に 向 か う 早 期 の 過 程 で は 、ホ ス フ ァ チ ジ ル セ リ ン が 細 胞 膜 表 面 へ 移 行 し 、こ
れ に ア ネ キ シ ン V が 結 合 し て 蛍 光 強 度 の 上 昇 を 示 す 。一 方 、ア ポ ト ー シ ス が
進 行 す る と 、細 胞 膜 構 造 は 崩 壊 す る た め 、PI が 細 胞 内 へ 侵 入 し て 核 と 結 合 し 、
PI の 蛍 光 強 度 も 増 強 す る 。即 ち 、生 細 胞 で は ア ネ キ シ ン V、PI の 蛍 光 は 共 に
陰 性 で あ る が 、ア ポ ト ー シ ス の 初 期 段 階( 早 期 ア ポ ト ー シ ス )で は ア ネ キ シ
15
ン V の 蛍 光 は 陽 性 、PI の 蛍 光 は 陰 性 を 示 し 、ア ポ ト ー シ ス が 進 ん だ 段 階( 後
期 ア ポ ト ー シ ス )で は ア ネ キ シ ン V、PI の 蛍 光 は 共 に 陽 性 に な る 。シ ュ ワ ン
細 胞 を GA( 100, 250, 500 µM)で 24 時 間 処 理 し 、ア ネ キ シ ン V お よ び PI の
二 重 染 色 を 行 い 、 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 を 用 い て 観 察 し た ( Fig. 9)。 コ ン ト
ロ ー ル 細 胞 、GA 100 µM 処 理 細 胞 、GA 250 µM 処 理 細 胞 で は 、ア ネ キ シ ン V、
PI 共 に 蛍 光 を 示 さ な か っ た 。 一 方 、 細 胞 傷 害 が 顕 著 で あ っ た GA 500 µM 処
理 細 胞 で は 、 ア ネ キ シ ン V の み 蛍 光 を 示 す 細 胞 、 ア ネ キ シ ン V お よ び PI の
両 蛍 光 を 示 す 細 胞 が 観 察 さ れ た 。こ の 結 果 は 、シ ュ ワ ン 細 胞 を GA 500 µM で
24 時 間 処 理 す る と 、早 期 ア ポ ト ー シ ス 細 胞 と 後 期 ア ポ ト ー シ ス 細 胞 が 混 在 し
ていることを示唆している。
Fig. 9
細 胞 膜 構 造 の 変 化 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 100, 250, 500 µM の GA で 24 時 間 処 理 し た 。 ア ネ キ シ ン V お よ び
PI の 二 重 染 色 を 行 い 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 に よ り 評 価 し た 。緑 の 蛍 光 は ア ネ キ シ ン V、
赤 の 蛍 光 は PI の 蛍 光 を 示 す 。
次 に 、 GA 処 理 に よ り 、 生 細 胞 か ら 早 期 ア ポ ト ー シ ス 細 胞 、 後 期 ア ポ ト ー
シ ス 細 胞 へ 至 る 経 時 的 変 化 を 追 跡 す る 目 的 で 、シ ュ ワ ン 細 胞 を GA 500 µM で
4〜 24 時 間 処 理 し 、 フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー を 用 い て 検 討 し た 。 フ ロ ー サ イ ト
メ ト リ ー 解 析 は 細 胞 集 団 の 蛍 光 強 度 の 分 布 を 評 価 す る も の で あ り 、Fig. 10 は
各 パ ネ ル を 分 割 し て 表 し た 。 生 細 胞 は 領 域 A( ア ネ キ シ ン V 陰 性 、 PI 陰 性 )
に 、早 期 ア ポ ト ー シ ス 細 胞 は 領 域 B( ア ネ キ シ ン V 陽 性 、PI 陰 性 )に 、後 期
16
ア ポ ト ー シ ス 細 胞 は 領 域 C( ア ネ キ シ ン V 陽 性 、PI 陽 性 )に 分 布 す る と 考 え
ら れ る 。GA 未 処 理 の コ ン ト ロ ー ル で は 93%の 細 胞 が 領 域 A に 分 布 し た 。GA
( 500 µM)処 理 で は 4〜 16 時 間 に お い て 時 間 依 存 的 に 早 期 ア ポ ト ー シ ス 細 胞
の 増 加 が 認 め ら れ た 。ま た 、16〜 24 時 間 で は 生 細 胞 お よ び 早 期 ア ポ ト ー シ ス
細胞が減少し、後期アポトーシス細胞の増加が確認された。
Fig. 10
細 胞 膜 構 造 の 変 化 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM の GA で 24 時 間 処 理 し た 。 ア ネ キ シ ン V お よ び PI の 二 重
染色を行いフローサイトメーターにより分析した。A 領域は生細胞、B 領域は早期ア
ポトーシス、C 領域は後期アポトーシス細胞として評価した。
DNA の 断 片 化 に つ い て 、 ヘ キ ス ト 染 色 を 行 い 、 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 に
よ り 測 定 し た ( Fig. 11)。GA( 500 µM, 24 時 間 )処 理 細 胞 で は 、DNA の 断 片
化を示す青色蛍光が顕著に観察された。
17
Fig. 11
DNA の 断 片 化 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM の GA で 24 時 間 処 理 し た 。DNA の 断 片 化 は 、Hoechest 33258
を用い、共焦点レーザー顕微鏡により評価した。
次 に 、カ ス パ ー ゼ カ ス ケ ー ド の 下 流 に 位 置 す る ア ポ ト ー シ ス 実 行 酵 素 で あ
る カ ス パ ー ゼ -3 の 活 性 を フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー に よ り 測 定 し た ( Fig. 12)。
コ ン ト ロ ー ル 細 胞 と 比 較 し て GA( 500 µM, 24 時 間 ) 処 理 細 胞 で は 、 カ ス パ
ー ゼ -3 の 活 性 化 を 示 す 領 域 A か ら 領 域 B へ の シ フ ト が 認 め ら れ 、 平 均 蛍 光
強度はコントロールの約 3 倍であった。
以 上 の 結 果 よ り 、 GA に よ る シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 傷 害 に ア ポ ト ー シ ス が 関
与していることが示唆された。
18
Fig. 12
カ ス パ ー ゼ -3 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。 カ ス パ ー ゼ -3 活 性 は 、 抗 カ ス パ ー
ゼ -3 抗 体 を 用 い フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー に よ り 測 定 し た 。グ ラ フ は 、 コ ン ト ロ ー ル の 平
均 蛍 光 強 度 を 1 と し た と き の 相 対 値 で 表 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3) で
示 し て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
第4節
考察
第 1 章 で は 、 GA が ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 死 を 惹 起 し 、 こ の 細 胞 死 に
ア ポ ト ー シ ス が 関 与 し て い る こ と を 示 し た 。ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 死 誘
導 に は 250 µM お よ び 500 µM の GA 処 理 濃 度 を 要 し た( Fig. 6)。本 研 究 で は 、
ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 を 10% FBS 含 有 DMEM で 培 養 後 、 GA 添 加 時 に 培 地 を
2% FBS 含 有 DMEM に 交 換 し 実 験 を 行 っ た 。 こ の 場 合 、 GA 添 加 直 後 、 GA
が 培 地 中 の 血 清 タ ン パ ク 質 と 相 互 作 用 し 、何 ら か の 影 響 を 及 ぼ し て い る 可 能
性 が 考 え ら れ 、 実 験 に 先 立 ち 、 無 血 清 DMEM を 用 い て 検 討 を 行 っ た 。 そ の
結 果 、 GA に よ る 細 胞 傷 害 能 に は 2% FBS 含 有 DMEM お よ び 無 血 清 DMEM
の 条 件 下 で 違 い は 認 め ら れ な か っ た( data not shown)。従 っ て 、GA と 血 清 タ
19
ン パ ク 質 の 相 互 作 用 は 殆 ど な い と 考 え ら れ る 。一 方 、添 加 し た GA が ど の 程
度 細 胞 内 に 取 り 込 ま れ る の か は 明 ら か で は な い が 、 MG を 培 養 細 胞 に 添 加 し
た 場 合 、 細 胞 内 に 取 り 込 ま れ る MG は 僅 か 数 %で あ る
50 )
。 現 在 、 GA の シ ュ
ワ ン 細 胞 内 へ の 取 り 込 み に つ い て は 検 討 中 で あ る が 、 培 地 中 に 残 存 す る GA
を 2,4-ジ ニ ト ロ フ ェ ニ ル ヒ ド ラ ジ ン を 用 い て 測 定 し た と こ ろ 、取 り 込 み の 程
度 は 10%前 後 で あ る と い う 結 果 が 得 ら れ て い る 。こ の こ と か ら 、本 実 験 で は
主 に 500 µM の GA を 用 い た が 、 細 胞 内 に 取 り 込 ま れ る GA は か な り 低 濃 度
で あ る と 予 想 さ れ る 。 ま た 、 GA の 生 体 濃 度 は 0.1〜 1 mM と 推 測 さ れ て い る
31-33 )
。 GA が 細 胞 内 外 で 生 成 す る こ と を 考 慮 す る と 、 本 研 究 で 用 い た GA の
濃度は生体内において存在しうる濃度と考えられる。
GA は 濃 度 お よ び 時 間 依 存 的 に シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 生 存 率 を 減 少 さ せ た
( Fig. 6)。 糖 化 反 応 か ら AGEs が 生 成 す る 過 程 で は 、 α-ヒ ド ロ キ シ ア ル デ ヒ
ド 化 合 物 と し て GA だ け で な く グ リ セ ル ア ル デ ヒ ド も 形 成 さ れ る
7 -9 )
。グリ
セ ル ア ル デ ヒ ド の 影 響 に つ い て 検 討 し た 結 果 、シ ュ ワ ン 細 胞 の 生 存 率 に 対 す
る 影 響 は 認 め ら れ な か っ た ( data not shown)。 さ ら に 、 GA の 細 胞 傷 害 能 は 、
MG、 GO、 3-DG な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 に 比 べ て 強 い こ と が 明 ら か に な
っ た ( Fig. 8)。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 シ ュ ワ ン 細 胞 は 、 糖 化 反 応 の 中 間 体 の な
か で も GA に 対 す る 感 受 性 が 高 い と 示 唆 さ れ る 。 AGEs は 生 成 経 路 に よ り
AGE-1~ AGE-6 の 6 種 類 に 分 類 さ れ る
9)
。そ の 中 で GA 由 来 の AGE は AGE-3
と 示 さ れ る 。 α-ヒ ド ロ キ シ ア ル デ ヒ ド 由 来 の AGEs は 、 ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物
由 来 の AGEs よ り も 細 胞 傷 害 能 が 強 い こ と が 報 告 さ れ て い る
3)
。よ っ て 、GA
由 来 の AGE-3 の 細 胞 傷 害 能 は 強 い と 考 え ら れ る 。本 研 究 に お い て 、GA に よ
る シ ュ ワ ン 細 胞 の 傷 害 が GA に よ り 直 接 起 こ る の か 、あ る い は AGE-3 の 生 成
を 経 て 起 こ る の か に つ い て は 明 ら か で は な い 。 GA( 500 µM) に よ る シ ュ ワ
ン 細 胞 の 細 胞 傷 害 は 16 時 間 お よ び 24 時 間 で 顕 著 に 認 め ら れ た が( Fig. 6, 7)、
ヒ ト 軟 骨 細 胞 に お い て GA( 500 µM) か ら AGE-3 が 生 成 す る ま で に 24〜 48
時間のインキュベーション時間を要することが示されている
51 )
。おそらく
GA に よ る 細 胞 傷 害 に は 、 AGE-3 で は な く 、 GA が 直 接 関 与 し て い る と 推 測
される。
第 1 章 で は 、シ ュ ワ ン 細 胞 の 細 胞 死 が 顕 著 で あ っ た 500 µM GA で 24 時 間
20
処 理 し た 条 件 を 主 に 用 い て 、ア ポ ト ー シ ス の 関 与 の 可 能 性 に つ い て 検 討 し た 。
GA 処 理 24 時 間 に お い て 、細 胞 膜 構 造 の 変 化 を 示 す ホ ス フ ァ チ ジ ル セ リ ン の
細 胞 表 面 へ の 露 出 ( Fig. 9) お よ び DNA の 断 片 化 ( Fig. 11) が 認 め ら れ た 。
併 せ て 、ア ポ ト ー シ ス 実 行 酵 素 と さ れ る カ ス パ ー ゼ -3 が 活 性 化 さ れ る こ と が
明 ら か に な っ た( Fig. 12)。ア ネ キ シ ン V お よ び PI 二 重 染 色 法 に よ る フ ロ ー
サ イ ト メ ト リ ー 解 析 で は 、GA 処 理 24 時 間 ま で に 、生 細 胞 か ら 早 期 ア ポ ト ー
シ ス 、 後 期 ア ポ ト ー シ ス 細 胞 へ 至 る 経 時 的 変 化 が 認 め ら れ た ( Fig. 10)。 こ
の 経 時 的 変 化 は MTS 還 元 能 に よ り 評 価 し た 細 胞 生 存 率 の 結 果 ( Fig. 6)に 一
致 す る 。 さ ら に 、 GA 処 理 24 時 間 で は 細 胞 膜 の 損 傷 に 伴 う LDH 漏 出 が 認 め
ら れ 、GA に よ る 細 胞 死 が 確 認 さ れ た( Fig. 7)。以 上 の 結 果 は 、GA が シ ュ ワ
ン 細 胞 に お い て ア ポ ト ー シ ス を 引 き 起 こ す こ と を 示 唆 し て い る 。本 章 で 得 ら
れ た 結 果 を Fig. 13 に 示 す 。
ヒ ト 乳 が ん 細 胞 を 用 い た 研 究 報 告 で は GA が ROS 産 生 を 増 大 し 、こ の こ と
が ア ポ ト ー シ ス 誘 導 に 関 係 し て い る 可 能 性 を 示 し て い る 。そ の メ カ ニ ズ ム は
次 の 通 り で あ る;GA は 細 胞 内 で GSH を 基 質 と し て glyoxalase に よ り 代 謝 さ
れ 、ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 で あ る GO と superoxide anion radical( O 2 ・ — )に 変 換
さ れ る 。 さ ら に 生 じ た GO は 直 接 ま た は hydrogen peroxide( H 2 O 2 ) の 増 加 を
介 し て 酸 化 ス ト レ ス に よ る ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る 。シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て 、
GO に よ る 生 存 率 の 低 下 は 認 め ら れ ず ( Fig. 8)、 シ ュ ワ ン 細 胞 と ヒ ト 乳 が ん
細 胞 で は GA に よ り 誘 導 さ れ る ア ポ ト ー シ ス の メ カ ニ ズ ム が 異 な る こ と が 考
えられる。
ア ポ ト ー シ ス に は ミ ト コ ン ド リ ア 、小 胞 体 、膜 受 容 体 を 介 す る 経 路 な ど が
知 ら れ て い る 。 MG お よ び AGEs の 場 合 、 多 種 多 様 な 培 養 細 胞 で ア ポ ト ー シ
ス が 認 め ら れ て い る が 、多 く の 報 告 は ミ ト コ ン ド リ ア の 傷 害 が 引 き 金 と な り 、
ROS 生 成 が 増 大 し 、ア ポ ト ー シ ス に 至 る メ カ ニ ズ ム を 示 し て い る 。当 研 究 室
に お い て も 、ヒ ト お よ び ウ シ 血 管 内 皮 細 胞 に お い て MG が ア ポ ト ー シ ス を 誘
導 す る 過 程 で は 、ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 低 下 に 続 き 、ROS 量 が 上 昇 す る こ
とを確認している
42 , 43 )
。一 方 、GA が ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る 過 程 に お け る 、
ミ ト コ ン ド リ ア 、小 胞 体 や 膜 受 容 体 に 対 す る 影 響 に つ い て は 、ヒ ト 乳 が ん 細
胞を含めて全く報告されていない。
21
そ こ で 次 章 で は 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お け る GA の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 に つ
い て 、 GA が ミ ト コ ン ド リ ア 、 小 胞 体 、 膜 受 容 体 に 及 ぼ す 影 響 、 ROS 産 生 に
対する影響について検討した。
Fig. 13
GA に よ る ア ポ ト ー シ ス の 誘 導
22
第2章
グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド ( GA) に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス の 誘
導
第1節
序論
ア ポ ト ー シ ス は 、ミ ト コ ン ド リ ア の 傷 害 に よ り 引 き 起 こ さ れ る ミ ト コ ン ド
リ ア 依 存 性 の 経 路 、小 胞 体 や 膜 受 容 体 を 介 す る ミ ト コ ン ド リ ア 非 依 存 性 の 経
路 に 大 別 さ れ る 。糖 化 反 応 に よ り 生 成 す る MG な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 や
AGEs に よ り 誘 導 さ れ る ア ポ ト ー シ ス に は 、 ミ ト コ ン ド リ ア 依 存 性 経 路 の 関
与 が 報 告 さ れ て い る 。ROS の 産 生 や 抗 酸 化 酵 素 の 失 活 に よ り ミ ト コ ン ド リ ア
が 傷 害 を 受 け 、 傷 害 を 受 け た ミ ト コ ン ド リ ア か ら ROS が 派 生 し 、 酸 化 ス ト
レ ス に 起 因 し た ア ポ ト ー シ ス を 生 じ る と 考 え ら れ て い る 。 MG は 、 タ ン パ ク
質 と の 非 酵 素 的 反 応 に よ り MG ラ ジ カ ル と な り 、こ の ラ ジ カ ル の 自 動 酸 化 に
よ っ て O2・—を 生 成 す る
52 )
。ま た 、Cu,Zn-superoxide dismutase( SOD)や GSH
peroxidase な ど の 抗 酸 化 酵 素 の 活 性 低 下 を 引 き 起 こ す
い た 研 究 報 告 で は 、MG に よ る 細 胞 内 ROS の 増 大
ドリアの傷害が示されている
19 )
14 )
53)
。シ ュ ワ ン 細 胞 を 用
、AGEs に よ る ミ ト コ ン
。 他 の 培 養 細 胞 系 に お い て も ROS の 増 大 や
ミ ト コ ン ド リ ア の 傷 害 を 示 す 報 告 が な さ れ て お り 、こ れ ら の 報 告 は 、い ず れ
も MG や AGEs が 酸 化 ス ト レ ス を 介 し て ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る メ カ ニ ズ ム
を提唱している
1 5 -1 8 )
。
第 1 章 で は 、GA が シ ュ ワ ン 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る こ と を 示 し た 。
ヒ ト 乳 が ん 細 胞 の 場 合 、GA に よ る ア ポ ト ー シ ス に ROS の 関 与 が 示 唆 さ れ て
いる
35 )
。 し か し 、 GA が ミ ト コ ン ド リ ア の 傷 害 を 起 こ し て い る の か 、 あ る い
はミトコンドリア非依存性経路である小胞体や膜受容体を介してアポトー
シスを生じているのかは不明である。
近 年 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 経 路 の 分 子 機 構 が 次 々 と 明 ら か に な り 、糖 尿 病
を は じ め 、が ん 、炎 症 性 疾 患 、パ ー キ ン ソ ン 病 な ど の 神 経 変 性 疾 患 な ど 多 様
な疾患の病態形成への関与が示唆されている
5 4, 55 )
。最 近 で は 、2 型 糖 尿 病 患
者 に お い て 、膵 β 細 胞 の 生 細 胞 数 が 減 少 し て い る こ と が 明 ら か に な っ て き て
おり
56 )
、膵 β 細 胞 の 生 細 胞 数 低 下 の 一 因 と し て 、小 胞 体 ス ト レ ス に よ る ア ポ
23
トーシスが注目されている。
小 胞 体 は 、タ ン パ ク 質 合 成 の 場 で あ り 、合 成 さ れ た タ ン パ ク 質 は ゴ ル ジ 体
へ 輸 送 さ れ る 。し か し 、小 胞 体 は 細 胞 内 外 か ら の ス ト レ ス を 受 け や す く 、合
成 過 程 の タ ン パ ク 質 が 糖 化 反 応 や SH 基 の 酸 化 な ど を 受 け る と 、 異 常 立 体 構
造 を 持 つ タ ン パ ク 質 で あ る unfolded proteins が 蓄 積 す る 結 果 を 招 く 。 そ の た
め 小 胞 体 の 機 能 は 一 時 的 に 低 下 す る が 、一 方 で 小 胞 体 の 機 能 を 改 善 、維 持 す
る た め に unfolded proteins を 分 解 す る オ ー ト フ ァ ジ ー 機 構 や 小 胞 体 ス ト レ ス
応 答 機 構 が 働 く 。し か し 、過 度 の ス ト レ ス が 起 こ り 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構
を 上 回 る と 、ア ポ ト ー シ ス 経 路 が 活 性 化 さ れ て 細 胞 死 に 至 る 。こ の よ う な 小
胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス が 広 範 囲 に 及 ん だ 場 合 、種 々 の 病 態 形 成 を
引き起こすことが近年明らかになってきている。
小 胞 体 内 腔 に unfolded proteins が 蓄 積 し た 状 態 を 小 胞 体 ス ト レ ス と 呼 び で
あ る こ れ を 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー が 感 知 す る ( Fig. 14)。 小 胞 体 ス ト レ ス
セ ン サ ー と し て PERK、 IRE1、 ATF6 が 知 ら れ て お り 、 こ れ ら 3 つ の セ ン サ
ー の い ず れ か が 活 性 化 さ れ る 。PERK お よ び IRE1 は リ ン 酸 化 さ れ る こ と で 、
ATF6 は 断 片 化 さ れ る こ と で 活 性 化 さ れ る 。 こ れ ら の セ ン サ ー が 活 性 化 さ れ
る と 、 unfolded proteins を 分 解 す る オ ー ト フ ァ ジ ー 機 構 が 働 く 。 オ ー ト フ ァ
ゴ ソ ー ム( オ ー ト フ ァ ジ ー 小 胞 )が 形 成 さ れ 、自 食 作 用 に よ り unfolded proteins
が 分 解 排 除 さ れ る 。一 方 、過 度 の 小 胞 体 ス ト レ ス が 生 じ る と 、ス ト レ ス セ ン
サ ー に よ り ア ポ ト ー シ ス 誘 導 因 子 で あ る CHOP が 活 性 化 さ れ 、ア ポ ト ー シ ス
が実行される
26 )
。 現 在 ま で に 、 AGEs が 小 胞 体 ス ト レ ス を 起 こ す こ と を 示 す
いくつかの報告がある
51 , 57 )
。し か し 、MG な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 、あ る
い は GA に つ い て は 、 小 胞 体 ス ト レ ス と の 関 連 性 は 報 告 さ れ て い な い 。
24
Fig. 14 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス の 概 要
第 2 章 で は 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お け る GA の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 に つ い て
検 討 し た 。初 め に 、ROS 生 成 お よ び ミ ト コ ン ド リ ア に 対 す る GA の 影 響 に つ
い て 検 討 し た 。 次 い で 、 GA 誘 導 ア ポ ト ー シ ス と 小 胞 体 ス ト レ ス の 関 連 性 に
つ い て 、小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー 、オ ー ト フ ァ ジ ー お よ び CHOP に 対 す る 影
響 に つ い て 検 討 し た 。ま た 、ア ポ ト ー シ ス 誘 導 に 関 わ る 膜 受 容 体 へ の 影 響 に
ついても検討した。
第2節
1.
実験方法
試薬
ヒ ド ロ エ チ ジ ン( HE)、CellRox ® Green、RNA spin mini、High Capacity cDNA
Reverse Transcription Kit は Life Technologies Corporation よ り 、 MitoLight
apoptosis detection kit は 、 Chemicon International Inc. ( Temecula, CA, USA)
よ り 購 入 し た 。カ ル ボ キ シ -2’,7’-ジ ク ロ ロ フ ル オ レ セ イ ン( CDF)、オ ル ト バ
ナ ジ ン 酸 ナ ト リ ウ ム は Sigma Aldrich よ り 、 ア ガ ロ ー ス S、 Loading Buffer は
25
和 光 純 薬 工 業 株 式 会 社 よ り 、Triton X-100 は 、ICN Biomedicals Inc.( Aurora, OH,
USA)よ り 購 入 し た 。ウ サ ギ 由 来 抗 リ ン 酸 化 PERK 抗 体 、ウ サ ギ 由 来 抗 PERK
抗 体 、ウ サ ギ 由 来 抗 リ ン 酸 化 IRE1 抗 体 、ウ サ ギ 由 来 抗 IRE1 抗 体 、マ ウ ス 由
来 抗 CHOP 抗 体 は Santa Cruz Biotechnology Inc.( Santa Cruz, CA, USA)よ り 、
Laemmli sample buffer、 2-メ ル カ プ ト エ タ ノ ー ル 、 ニ ト ロ セ ル ロ ー ス 膜 、 グ
リ シ ン 、 Tween-20 は Bio-Rad Laboratories Inc.( Hercules, CA, USA) よ り 、
Cyto-ID ® Autophagy detection kit は 、ENZO Life Sciences( Farmingdale, NY, USA)
よ り 購 入 し た 。 TaKaRa EX Taq は 、 タ カ ラ バ イ オ 株 式 会 社 ( 大 阪 ) よ り 、 ウ
サ ギ 由 来 抗 cleaved caspase-8 抗 体 は 、Cell Signaling Technology よ り 購 入 し た 。
その他の試薬は、第1章で使用したもの、あるいは市販特級品を用いた。
2.
細 胞 培 養 と GA 処 理
細 胞 培 養 と GA 処 理 は 、 第 1 章 と 同 様 の 方 法 で 行 っ た 。
3.
ミトコンドリア膜電位
ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 低 下 は 、 特 異 的 プ ロ ー ブ MitoLight を 用 い て 検 討
し た 。 直 径 6 cm の シ ャ ー レ に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加
し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 そ の 後 、
GA を 含 む 培 地 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 次 い で 、 MitoLight を 含
む バ ッ フ ァ ー を 添 加 し 、室 温 で 30 分 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。EDTA/ト リ
プ シ ン 溶 液 を 添 加 し て 細 胞 を 剥 離 し 、遠 心 分 離 し て 上 清 を 除 去 し た 。細 胞 沈
渣 に DPBS を 加 え 、得 ら れ た 細 胞 懸 濁 液 を セ ル ス ト レ ー ナ ー チ ュ ー ブ で ろ 過
し た 。 MitoLight 蛍 光 は 、 フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー ( FL-1 チ ャ ネ ル : 530 nm)
により測定した。
4.
ROS 産 生
ROS の 産 生 は 、特 異 的 プ ロ ー ブ を 利 用 し た 蛍 光 法 お よ び ア コ ニ タ ー ゼ 活 性
を指標に評価した。
蛍 光 法 : 6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、
CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。次 い で 、GA を
26
含 む 反 応 液 を 除 去 し 、1.5 mL/well の DMEM( FBS free)を 加 え 、蛍 光 プ ロ ー
ブ( HE、CDF、CellRox ® Green)を 添 加 し CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 20 分 間
イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。各 プ ロ ー ブ の 蛍 光 は 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡( 励
起 波 長 : 488 nm, 555 nm) で 測 定 し た 。
ア コ ニ タ ー ゼ 活 性:直 径 6 cm の シ ャ ー レ に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500
µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し
た 。 GA を 含 む 反 応 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 後 、 細 胞 を 回 収 し 、 遠
心 分 離 し て 上 清 を 除 去 し た 。 得 ら れ た 細 胞 沈 渣 を 可 溶 化 剤 ( 100 mM DTPA、
0.2% TritonX-100、5 mM ク エ ン 酸 )で 可 溶 化 し た 。10 分 間 氷 上 に 保 持 後 、10,000
rpm で 10 分 間 遠 心 分 離 し 、得 ら れ た 上 清 を 測 定 試 料 と し た 。37 ℃ の 条 件 下 、
100 mM Tris-HCl バ ッ フ ァ ー ( pH 8.0) に 測 定 試 料 、 基 質 と し て 200 mM イ
ソ ク エ ン 酸 を 加 え て 、 生 成 す る シ ス ア コ ニ チ ン 酸 の 240 nm の 吸 光 度 を 測 定
した。
5.
小胞体ストレスセンサー
PERK、 IRE1、 ATF6 の 3 つ の 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー の mRNA 発 現 量 お
よびタンパク質発現量を測定した。
mRNA 発 現 量:mRNA 発 現 量 は 、real time- RT- PCR 法 に よ り 測 定 し た 。6 well
plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー
タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を 含 む 反 応 液 を 除 去 し 、DPBS
で 細 胞 を 洗 浄 後 、RNA spin Mini を 用 い て 、製 品 マ ニ ュ ア ル に 従 っ て RNA の
抽 出 を 行 っ た 。 次 い で 、 High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit を 使 用
し て 逆 転 写 を 行 い 、cDNA を 作 成 し た 。mRNA 発 現 量 は 、7500 Fast Real-Time
PCR System ( Life Technologies Corporation ) を 使 用 し て 、 標 準 物 質 と し て
GAPDH を 用 い 、⊿ ⊿ Ct 法 に よ り 算 出 し た 。プ ラ イ マ ー に は 、Life Technologies
Corporation よ り 購 入 し た Rn00581002_m1 (PERK)、 Rn01471008_m1 (IRE1)、
Rn01490844_m1 (ATF6)、 Rn01775763_g1 (GAPDH) を 使 用 し た 。
タ ン パ ク 質 発 現 量 : PERK タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 を
用 い た 免 疫 染 色 法 に よ り 評 価 し た 。 12 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞
に 500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ
27
ョ ン し た 。GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。次 い で 、4% パ
ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド を 用 い 細 胞 を 固 定 し た 。 DPBS で 洗 浄 後 、 氷 冷 メ タ ノ ー
ル を 用 い 、 細 胞 透 過 処 理 し た 。 0.5% blocking agent で ブ ロ ッ キ ン グ し 、 ブ ロ
ッ キ ン グ 溶 液 で 希 釈 し た PERK 抗 体 、ま た は リ ン 酸 化 PERK 抗 体( 1:200)に
よ り 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し 、 Alexa Fluor 488 で 標 識 し た 抗 ウ サ
ギ IgG 抗 体 ( 1:1,000) を 2 次 抗 体 と し て 、 室 温 で 30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン
し た 。Alexa Fluor 488 の 蛍 光 は 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡( 励 起 波 長:488 nm)
を用い測定した。
IRE1 タ ン パ ク 質 発 現 量 の 測 定 は 、 以 下 の よ う に 行 っ た 。 直 径 6 cm の シ ャ
ー レ に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ
ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で
細 胞 を 洗 浄 し た 。 次 い で 、 RIPA バ ッ フ ァ ー ( 含 1 mM オ ル ト バ ナ ジ ン 酸 、
プ ロ テ ア ー ゼ 阻 害 剤 )を 加 え て シ ュ ワ ン 細 胞 を 可 溶 化 し た 。タ ン パ ク 質 定 量
後 、同 量 の Laemmli sample buffer( 含 0.5 mM 2-メ ル カ プ ト エ タ ノ ー ル )と 混
合し、煮沸したものを試料とした。試料をゲルにローディングして、
SDS-PAGE ( 12%, 20 µg protein/lane ) を 行 っ た 。 な お 、 タ ン パ ク 定 量 に は
Bradford 法 を 用 い た 。ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト は 、Towbin ら の 方 法 に 準 じ て 行 っ
た
59)
。 先 ず 、 転 写 バ ッ フ ァ ー と し て 25 mM ト リ ス 、 192 mM グ リ シ ン 溶 液
を 用 い 、ニ ト ロ セ ル ロ ー ス 膜 に 0.8 mA/cm 2 の 条 件 で 通 電 し て 転 写 し た 。転 写
終 了 後 、 ニ ト ロ セ ル ロ ー ス 膜 を TBST( TBS に 0.1% Tween-20 を 添 加 し た 溶
液 、 TBS: 20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, pH 7.5) で 洗 浄 し 、 ブ ロ ッ キ ン グ 溶 液
( 5% non-fat dry milk を 含 む TBST 溶 液 ) で 室 温 に て 2 時 間 振 と う し た 。 次
い で 、 ニ ト ロ セ ル ロ ー ス 膜 を ブ ロ ッ キ ン グ 溶 液 で 希 釈 し た 抗 IRE1 抗 体 、 ま
た は 抗 リ ン 酸 化 IRE1 抗 体( 1:1,000)に よ り 室 温 で 1 時 間 振 と う し た 。TBST
で 5 分 間 の 洗 浄 を 3 回 行 い 、続 い て horseradish peroxidase 標 識 ロ バ 抗 ウ サ ギ
IgG 抗 体( 1:1,000)を 2 次 抗 体 と し て 、室 温 で 1 時 間 振 と う し た 。TBST で 5
分 間 3 回 洗 浄 し た 後 、 バ ン ド の 検 出 は ECL Plus を 用 い 落 射 式 ゲ ル 撮 影 装 置
(アトー株式会社、東京)で行った。
28
6.
オートファジー
オ ー ト フ ァ ジ ー の 評 価 は 、Cyto-ID ® Autophagy detection kit を 用 い 、オ ー ト
フ ァ ジ ー の 過 程 で 形 成 さ れ る オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム を 指 標 に し た 。12 well plate
に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内
で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞
を 洗 浄 し た 。 次 い で 、 Cyto-ID と Hochest33258 を 含 む バ ッ フ ァ ー を 加 え て 、
CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 Hochest33258 と
Cyto-ID の 蛍 光 は 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡( 励 起 波 長: 405 nm, 488 nm)を 用
い測定した。
7.
CHOP 発 現 量
mRNA 発 現 量:CHOP mRNA 発 現 量 は 、RT-PCR 法 を 用 い て 測 定 し た 。6 well
plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー
タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS
で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 RNA spin Mini を 用 い て 、 製 品 マ ニ ュ ア ル に 従 っ て RNA
の 抽 出 を 行 っ た 。 次 い で 、 High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit を 使
用 し 逆 転 写 を 行 い 、 cDNA を 作 成 し た 。 CHOP の プ ラ イ マ ー ( Fw, 5’-ACCAC
ACCTGAAAGCAGAAAC-3’; Rv,5’-TCAGTCAGCCAAGCTAGG GA-3’)は 、グ
ラ イ ナ ー ・ ジ ャ パ ン ( 東 京 ) に 依 頼 し 合 成 し た 。 RT-PCR は 、 TaKaRa Ex Taq
の 製 品 マ ニ ュ ア ル に 従 っ た 。 得 ら れ た PCR 産 物 を Loading buffer で 希 釈 し
( 2:1)、2% ア ガ ロ ー ス ゲ ル を 用 い 電 気 泳 動 を 行 っ た 。そ の 後 、落 射 式 ゲ ル
撮 影 装 置 を 用 い mRNA 発 現 量 を 測 定 し た 。 標 準 物 質 と し て 、 GAPDH の プ ラ
イ マ ー ( Fw, 5’-CCTGCTTCACCACCTTCT-3’;Rv, 5’-AGTCCATGCCATCAC
TGC-3’) を 使 用 し た 。
タ ン パ ク 質 発 現 量 : CHOP の タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡
を 用 い た 免 疫 染 色 法 に よ り 評 価 し た 。 12 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細
胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー
シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 次 い で 、
4% パ ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド で 細 胞 を 固 定 し た 。 DPBS で 洗 浄 後 、 氷 冷 メ タ ノ
ー ル を 用 い 、 細 胞 透 過 処 理 し た 。 そ の 後 、 0.5% blocking agent で ブ ロ ッ キ ン
29
グ し 、 同 溶 液 で 希 釈 し た 抗 CHOP 抗 体 ( 1:200) と 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ
ー シ ョ ン し た 。次 い で 、Alexa Fluor 488 で 標 識 し た 抗 マ ウ ス IgG 抗 体( 1:1,000)
と Hochest33258( 1:1,000)と と も に 、室 温 で 30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。
Hochest33258 と Alexa Fluor 488 の 蛍 光 は 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡( 励 起 波 長:
405 nm, 488 nm) を 用 い 測 定 し た 。
8.
Fas 受 容 体 発 現 量
Fas 受 容 体 mRNA の 発 現 量 は 、 RT-PCR 法 を 用 い て 評 価 し た 。 6 well plate
に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内
で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞
を 洗 浄 し た 。次 い で 、RNA spin Mini を 使 用 し て 、製 品 マ ニ ュ ア ル に 従 い RNA
を 抽 出 し た 。 High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit を 使 用 し 逆 転 写 を
行 い 、cDNA を 作 成 し た 。Fas の プ ラ イ マ ー( Fw, 5’-TCAGCCTGGT GAACGAA
AAGT-3’; Rv, 5’-GTT CGTGTGTGCAAGGCTCAAG-3’)は 、グ ラ イ ナ ー・ジ ャ
パ ン( 東 京 )に 依 頼 し 合 成 し た 。RT-PCR は 、TaKaRa Ex Taq の 製 品 マ ニ ュ ア
ル に 従 い 行 っ た 。得 ら れ た PCR 産 物 を Loading buffer で 希 釈 し( 2:1)、2% ア
ガ ロ ー ス ゲ ル を 用 い 電 気 泳 動 を 行 っ た 。そ の 後 、落 射 式 ゲ ル 撮 影 装 置 を 用 い
mRNA 発 現 量 を 評 価 し た 。 標 準 物 質 と し て 、 GAPDH の プ ラ イ マ ー ( Fw,
5’-CCTGCTTCACCAC CTTCT-3’; Rv, 5’-AGTCCATGCCATCACTGC-3’)を 使 用
した。
9.
カ ス パ ー ゼ -8 活 性
カ ス パ ー ゼ -8 活 性 は 、フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー を 用 い た 免 疫 染 色 法 に よ り 評
価 し た 。6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、CO 2
イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を 含 む 溶 液 を 除
去 し 、DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。4% パ ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド で 細 胞 を 固 定 後 、
氷 冷 メ タ ノ ー ル を 用 い て 細 胞 透 過 処 理 を 行 っ た 。そ の 後 、0.5% blocking agent
で ブ ロ ッ キ ン グ 処 理 を 行 い 、 同 溶 液 で 希 釈 し た 抗 cleaved caspase-8 抗 体
( 1:200) と 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し 、 次 い で 、 Alexa Fluor 488
で 標 識 し た 抗 ウ サ ギ IgG 抗 体 ( 1:1,000) を 2 次 抗 体 と し て 、 室 温 で 30 分 イ
30
ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 Alexa Fluor 488 の 蛍 光 は 、 フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー
( FL-1 チ ャ ネ ル : 530 nm) を 用 い て 測 定 し た 。
10.
タンパク質定量
タ ン パ ク 質 定 量 は Bradford 法 で 行 な っ た 。マ イ ク ロ チ ュ ー ブ 内 で 、超 純 水
495 µL と 試 料 5 µL を 混 合 し 、そ の 後 、Bradford 試 薬( Sigma Aldrich)500 µL
を 加 え 、595 nm の 吸 光 度 を 測 定 し た 。検 量 線 は 、ウ シ 血 清 ア ル ブ ミ ン を 用 い
て作成した。
11.
統計処理
デ ー タ は 平 均 値 ±標 準 偏 差 で 示 し た 。 F 検 定 に よ る 等 分 散 の 検 定 後 、 t 検 定
を 行 い 、 p<0.05 を 有 意 と し た 。
第3節
1.
実験結果
ミ ト コ ン ド リ ア に 対 す る GA の 影 響
初 め に 、ミ ト コ ン ド リ ア に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 、ミ ト コ ン ド リ ア 膜
電 位 の 変 化 を 指 標 と し て 検 討 し た 。 蛍 光 プ ロ ー ブ MitoLight は 、 正 常 な 細 胞
で は 二 量 体 と し て ミ ト コ ン ド リ ア に 集 積 す る が 、ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 が 低
下 し た 細 胞 で は 単 量 体 と し て 細 胞 質 に 局 在 し 、緑 色 蛍 光 を 発 す る 。シ ュ ワ ン
細 胞 を GA( 500 µM) で 24 時 間 処 理 し 、 MitoLight の 蛍 光 を フ ロ ー サ イ ト メ
ー タ ー で 測 定 し た ( Fig. 15)。 コ ン ト ロ ー ル 細 胞 で は 、 正 常 な ミ ト コ ン ド リ
ア 膜 電 位 を 示 す 領 域 A に 92.7%の 細 胞 が 分 布 し た 。 GA 処 理 細 胞 で は 、 領 域
A に 90.7%の 細 胞 が 分 布 し 、 コ ン ト ロ ー ル 細 胞 と 同 様 で あ っ た 。 こ の 結 果 か
ら 、 GA は ミ ト コ ン ド リ ア に 傷 害 を 与 え ず に 、 ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し て い る
と考えられる。
31
Fig. 15
ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM の GA で 24 時 間 処 理 し た 。 ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 変 化 を
特 異 的 プ ロ ー ブ で あ る MitoLight を 用 い て フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー に よ り 測 定 し た 。
2.
ROS 産 生 量 に 対 す る GA の 影 響
ヒ ト 乳 が ん 細 胞 に お い て 、GA は O 2 ・ — 産 生 を 増 加 さ せ る こ と が 示 さ れ て い
る
35)
。 シ ュ ワ ン 細 胞 を GA( 500 µM) で 24 時 間 処 理 し 、 細 胞 内 ROS 産 生 に
つ い て 3 種 の 蛍 光 プ ロ ー ブ を 用 い 測 定 し た ( Fig. 16)。 蛍 光 プ ロ ー ブ は HE、
CDF、 CellRox ® Green を 用 い 、 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 で 評 価 し た 。 HE は O 2 ・
—
に対して特異性が高いプローブである
59)
。しかし、いずれの蛍光プローブ
を 用 い た 場 合 も 、コ ン ト ロ ー ル 細 胞 と GA 処 理 細 胞 に 違 い は 認 め ら れ な か っ
た 。ROS は 不 安 定 で あ り 、ROS が 産 生 さ れ る と 速 や か に 細 胞 成 分 と 反 応 す る
た め 、細 胞 内 に 長 時 間 蓄 積 し な い 。そ の た め 、Fig. 16 の 蛍 光 プ ロ ー ブ を 用 い
た 実 験 で は 、 GA 処 理 24 時 間 時 に お け る ROS 量 を 断 片 的 に 捉 え て い る 可 能
性 が 考 え ら れ た 。 そ こ で 、 細 胞 内 ROS 量 を 累 積 し て 評 価 す る た め に 、 ア コ
ニ タ ー ゼ 活 性 に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。ア コ ニ タ ー ゼ は 、鉄 硫
黄 ク ラ ス タ ー [4Fe-4S] 2+ を 有 す る 酵 素 で あ り 、 O 2 ・ — に よ っ て 容 易 に 酸 化 さ れ
[3Fe-4S] 1+ と な り 失 活 す る
6 0 , 61 )
。アコニターゼの活性低下の程度は、細胞内
O 2 ・ — 産 生 の 累 積 量 と 相 関 性 を 示 す た め 、O 2 ・ — の 生 成 を 感 度 良 く 反 映 す る
6 0, 6 1)
シ ュ ワ ン 細 胞 を 1 mM の GA で 4 時 間 処 理 し 、 ア コ ニ タ ー ゼ 活 性 を 測 定 し た
( Fig. 17)。し か し 、ア コ ニ タ ー ゼ 活 性 に 対 す る GA の 影 響 は 確 認 で き な か っ
32
。
た 。 な お 、 ポ ジ テ ィ ブ コ ン ト ロ ー ル と し て 細 胞 内 ROS 誘 導 剤 で あ る メ ナ ジ
オンを用いた。
以 上 の 結 果 よ り 、GA は シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て は ROS 産 生 を 増 加 し な い と
推 定 さ れ る 。 従 っ て 、 GA に よ る シ ュ ワ ン 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 は 、
ヒト乳がん細胞
35)
と は 異 な る と 考 え ら れ る 。ま た 、 MG お よ び AGEs に よ る
ア ポ ト ー シ ス に は 、 ミ ト コ ン ド リ ア 傷 害 に 起 因 し た ROS 産 生 の 関 与 が 報 告
されているが
1 5 -19 )
、 GA に よ る シ ュ ワ ン 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス に は 両 者 と は 異
なる別のメカニズムが関与していると推察される。
Fig. 16
ROS 産 生 量 に 対 す る GA の 影 響 ( 蛍 光 法 )
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。 ROS 産 生 量 を 蛍 光 プ ロ ー ブ で あ る
HE、 CDF、 CellRox ® Green を 用 い 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 を 用 い て 測 定 し た 。
33
Fig. 17
ROS 産 生 量 に 対 す る GA の 影 響 ( ア コ ニ タ ー ゼ 活 性 )
シ ュ ワ ン 細 胞 を 1 mM の GA で 4 時 間 処 理 し た 。 ア コ ニ タ ー ゼ 活 性 は イ ソ ク エ ン 酸
を 基 質 と し て 分 光 学 的 手 法 で 測 定 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3) で 示 し て
い る 。 ポ ジ テ ィ ブ コ ン ト ロ ー ル と し て 10 µM メ ナ ジ オ ン ( MQ) を 用 い た 。 *p<0.05:
コントロールと比較。
3.
小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー に 対 す る GA の 影 響
次 に 小 胞 体 ス ト レ ス に 着 目 し て 検 討 し た 。初 め に 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー
で あ る PERK、IRE1、ATF6 に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た( Fig. 18)。
シ ュ ワ ン 細 胞 を GA( 500 µM)で 24 時 間 処 理 し 、3 つ の 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン
サ ー の mRNA 量 を 測 定 し た 。PERK お よ び ATF6 の mRNA に 対 す る GA の 影
響 は 認 め ら れ な か っ た が 、IRE1 mRNA 量 は 3 倍 に 増 加 し た 。ま た 、PERK お
よ び IRE1 に つ い て は 、活 性 化 を 示 す リ ン 酸 化 タ ン パ ク 質 が 増 大 し 、特 に IRE1
の リ ン 酸 化 が 顕 著 に 認 め ら れ た 。な お 、ATF6 に つ い て は 、活 性 化 を 示 す ATF6
断 片 化 の 検 討 は 行 わ な か っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 GA は 少 な く と も 2 つ の
小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー PERK お よ び IRE1 を 活 性 化 す る こ と が 明 ら か に な
った。
34
( A)
( B)
Fig. 18
( C)
小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM の GA で 24 時 間 処 理 し た 。( A) PERK、 IRE1、 ATF6 mRNA
は real time RT-PCR に よ り 評 価 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3) で 示 し て い
る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。( B) p-PERK、 PERK タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 共 焦
点レーザー顕微鏡を用い免疫染色により評価した。
( C)p-IRE1、IRE1 タ ン パ ク 質 発 現
量は、免疫染色(ウエスタンブロット法)により評価した。
4.
オ ー ト フ ァ ジ ー に 対 す る GA の 影 響
小胞体ストレスを生じ、小胞体ストレスセンサーが活性化されると、
unfolded proteins を 分 解 す る オ ー ト フ ァ ジ ー 機 構 が 働 く 。 オ ー ト フ ァ ジ ー に
対 す る GA の 影 響 に つ い て 、オ ー ト フ ァ ジ ー 誘 導 時 に 増 大 す る オ ー ト フ ァ ゴ
ソ ー ム を 指 標 と し て 解 析 し た 。測 定 に は オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム を 緑 色 蛍 光 に 染
色 す る Cyto-ID™ Autophagy detection kit を 用 い た 。 GA( 500 µM) 24 時 間 処
理 細 胞 に お い て 、 Cyto-ID の 蛍 光 が 増 大 し 、 オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム の 形 成 が 認
め ら れ た( Fig. 19)。オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム 形 成 細 胞 は ヘ キ ス ト 染 色 に よ り DNA
の 断 片 化 が 確 認 さ れ た 細 胞( ア ポ ト ー シ ス 細 胞 )と 一 致 し 、ア ポ ト ー シ ス 細
胞においてオートファジーが起きていることが明らかになった。
35
Fig. 19
オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。 オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム は 、 共 焦 点 レ
ーザー顕微鏡により評価した。緑の蛍光はオートファゴソーム、青の蛍光は核を示し
ている。
5.
小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 促 進 因 子 に 対 す る GA の 影 響
CHOP は 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 促 進 因 子 で あ り 、 核 へ 移 行 す
る こ と で 活 性 化 さ れ る 。 シ ュ ワ ン 細 胞 を GA( 500 µM) で 24 時 間 処 理 し 、
CHOP に 対 す る 影 響 を 検 討 し た( Fig. 20)。GA 処 理 に よ り CHOP mRNA 量 は
約 4 倍 に 増 加 し 、併 せ て CHOP タ ン パ ク 質 発 現 量 の 増 加 も 認 め ら れ た 。ヘ キ
ス ト 染 色 を 行 い 、 ア ポ ト ー シ ス 細 胞 と そ の DNA 断 片 化 に よ る 核 の 局 在 位 置
を 確 認 し た 。 CHOP タ ン パ ク 質 発 現 量 の 増 加 が 認 め ら れ た 細 胞 は ア ポ ト ー シ
ス 細 胞 と 一 致 し 、ま た CHOP が 核 に 局 在 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。こ
れ ら の 結 果 は 、 GA は CHOP の 発 現 を 誘 導 す る と 共 に 、 CHOP を 活 性 化 す る
ことを示している。
以 上 の 結 果 よ り 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て GA は 小 胞 体 ス ト レ ス に よ る ア ポ
トーシスを誘導していると示唆される。
36
( A)
( B)
Fig. 20
CHOP 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。
( A)CHOP mRNA レ ベ ル は RT-PCR
法 に よ り 評 価 し た 。 標 準 物 質 と し て GAPDH を 用 い た 。 グ ラ フ は コ ン ト ロ ー ル 細 胞 の
平 均 蛍 光 強 度 を 1 と し た と き の 相 対 値 で 表 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3)
で 示 し て い る 。*p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。( B)CHOP タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、共 焦
点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 に よ り 評 価 し た 。 緑 の 蛍 光 は CHOP、 青 の 蛍 光 は 核 を 示 し て い る 。
6.
膜 受 容 体 に 対 す る GA の 影 響
ア ポ ト ー シ ス 誘 導 に 関 わ る 膜 受 容 体 に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。
Fas 受 容 体 は 、 デ ス レ セ プ タ ー の 1 つ で あ り 、 誘 導 さ れ る と 下 流 に 位 置 す る
カ ス パ ー ゼ -8 が 活 性 化 さ れ 、次 い で カ ス パ ー ゼ -3 の 活 性 化 を 介 し て ア ポ ト ー
シ ス を 誘 導 す る 。シ ュ ワ ン 細 胞 を GA( 500 µM)で 24 時 間 処 理 し 、 Fas 受 容
体 お よ び カ ス パ ー ゼ -8 に 対 す る 影 響 に つ い て 検 討 し た ( Fig. 21)。 GA は Fas
受 容 体 mRNA 量 を 約 2 倍 に 増 加 さ せ 、 さ ら に カ ス パ ー ゼ -8 の 活 性 化 を 引 き
起 こ し た 。 こ の こ と か ら 、 GA に よ る ア ポ ト ー シ ス に は 小 胞 体 ス ト レ ス と 共
に、膜受容体を介したアポトーシス経路も関与していることが推察される。
37
( B)
( A)
Fig. 21
膜 受 容 体 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。( A) Fas mRNA レ ベ ル は 、 RT-PCR
法 に よ り 評 価 し た 。 標 準 物 質 と し て GAPDH を 用 い た 。 平 均 蛍 光 強 度 は 、 コ ン ト ロ ー
ル 細 胞 の 平 均 蛍 光 強 度 を 1 と し た と き の 相 対 値 で 表 し た ( 下 図 )。( B) カ ス パ ー ゼ -8
活 性 は 、 フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー に よ り 評 価 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3)
で 示 し て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
第4節
考察
第 2 章 で は 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お け る GA の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 を 明 ら か
に す る 目 的 で 、ROS 生 成 お よ び ミ ト コ ン ド リ ア へ の 影 響 、小 胞 体 ス ト レ ス と
の 関 連 性 、膜 受 容 体 に 対 す る 影 響 に つ い て 検 討 し た 。そ の 結 果 、小 胞 体 ス ト
レ ス セ ン サ ー の 活 性 化 、さ ら に 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス を 決 定 づ
け る CHOP が 誘 導 活 性 化 さ れ て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。
初 め に 、ROS 生 成 お よ び ミ ト コ ン ド リ ア に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討
38
し た 。 3 種 の 蛍 光 プ ロ ー ブ HE、 CDF、 CellRox ® Green を 用 い 細 胞 内 ROS 量
を 測 定 し た 結 果 、 い ず れ の 場 合 も GA の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た ( Fig. 16)。
さ ら に 、ROS の 存 在 を 鋭 敏 に 感 知 し て 失 活 す る こ と が 知 ら れ て い る ア コ ニ タ
ーゼ
60 , 61 )
の 活 性 を 測 定 し た が 、細 胞 内 ROS 量 の 増 加 を 確 認 す る こ と は で き
な か っ た ( Fig. 17)。 ヒ ト 乳 が ん 細 胞 に お い て 、 GA は glyoxalase の 存 在 下 ジ
カ ル ボ ニ ル 化 合 物 で あ る GO と O 2 ・ — に 変 換 さ れ 、GO に よ る 毒 性 お よ び ROS
産生の両作用によりアポトーシスを誘導する
35)
。 こ の 報 告 で は 、 GA に よ る
HE 蛍 光 強 度 の 増 加 お よ び ア コ ニ タ ー ゼ 活 性 低 下 に 基 づ き 、 ROS の 関 与 を 述
べ て い る 。し か し 、シ ュ ワ ン 細 胞 を 用 い た 本 研 究 で は 、ROS 量 の 増 加 を 確 認
で き ず 、ヒ ト 乳 が ん 細 胞 を 用 い た 結 果 と 一 致 し な か っ た 。ま た 、第 1 章 で 示
し た よ う に 、シ ュ ワ ン 細 胞 で は GO に よ る 細 胞 傷 害 は 認 め ら れ な か っ た( Fig.
8)。従 っ て 、ヒ ト 乳 が ん 細 胞 と ラ ッ ト シ ュ ワ ン 細 胞 で は GA に よ り 誘 導 さ れ
る ア ポ ト ー シ ス の メ カ ニ ズ ム が 異 な る と 考 え ら れ る 。お そ ら く glyoxalase 発
現量の違いがそのメカニズムに影響を及ぼしていると考えられる。一方、
MG や AGEs に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 に は 、 ミ ト コ ン ド リ ア 傷 害 に 続 く
酸化ストレスの関与が示唆されているが
18 , 19 )
、GA に よ る ミ ト コ ン ド リ ア の
傷 害 は 認 め ら れ な か っ た ( Fig. 15)。 以 上 よ り 、 シ ュ ワ ン 細 胞 に お け る GA
誘 導 ア ポ ト ー シ ス に は 、 従 来 ま で 報 告 さ れ て き た ROS 生 成 や ミ ト コ ン ド リ
ア傷害とは異なる主要メカニズムが関与していると推察される。
小 胞 体 は 、細 胞 内 外 か ら の ス ト レ ス を い ち 早 く 感 知 し 、小 胞 体 ス ト レ ス 応
答 機 構 を 活 性 化 さ せ る が 、過 剰 な ス ト レ ス が 生 じ て 細 胞 機 能 を 維 持 で き な い
場合はアポトーシスを誘導することが知られている。小胞体ストレスは、
unfolded proteins が 小 胞 体 に 蓄 積 す る 状 態 で あ る 。 こ れ を 感 知 す る 小 胞 体 ス
ト レ ス セ ン サ ー に は PERK、 IRE1、 ATF6 の 3 つ が あ り 、 PERK お よ び IRE1
は リ ン 酸 化 に よ り 、 ATF6 は 断 片 化 に よ り 活 性 化 さ れ る 。 し か し 、 重 度 の 小
胞 体 ス ト レ ス の 下 で は 、小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー の 下 流 に 位 置 す る 転 写 因 子
CHOP が 高 発 現 し 、 核 へ 移 行 す る こ と で 活 性 化 さ れ 、 ア ポ ト ー シ ス が 誘 導 さ
れ る 。 ま ず 、 3 種 の 小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検
討 し た 。PERK mRNA 発 現 量 に 対 す る GA の 影 響 は 見 ら れ な か っ た が 、PERK
の 活 性 化 を 示 す リ ン 酸 化 が 認 め ら れ た ( Fig. 18)。 さ ら に 、 IRE1 mRNA 発 現
39
量 の 増 大 と IRE1 の リ ン 酸 化 が 顕 著 に 認 め ら れ た ( Fig. 18)。 ATF6 の 場 合 、
mRNA 発 現 量 に 変 化 は 見 ら れ ず( Fig. 18)、活 性 化 を 示 す ATF6 の 断 片 化 を 検
討 す る ま で に は 至 ら な か っ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、少 な く と も 2 つ の 小 胞 体
ス ト レ ス セ ン サ ー PERK お よ び IRE1 が GA に よ り 活 性 化 さ れ て い る こ と が 明
ら か に な っ た 。 ま た 、 小 胞 体 内 腔 の unfolded proteins の 蓄 積 を 示 す オ ー ト フ
ァ ゴ ソ ー ム 形 成 が 観 察 さ れ た( Fig. 19)。CHOP は 、小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 ア ポ
ト ー シ ス を 決 定 づ け る 転 写 因 子 で あ る 。 GA は 、 CHOP の mRNA お よ び タ ン
パ ク 質 の 両 発 現 量 を 増 加 し 、さ ら に 活 性 化 を 示 す CHOP の 核 へ の 移 行 も 確 認
さ れ た( Fig. 20)。以 上 の 結 果 よ り 、GA は 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ
ス を 引 き 起 こ す こ と が 示 唆 さ れ る 。 近 年 、 AGEs が ヒ ト 軟 骨 細 胞 お よ び ヒ ト
大 動 脈 内 皮 細 胞 に お い て CHOP を 誘 導 す る こ と が 明 ら か と な り 、小 胞 体 ス ト
レスの関与が示唆されている
5 1, 5 7 )
。一 方 、糖 化 反 応 か ら AGEs が 生 成 す る 過
程 で は 、 GA や MG を は じ め と す る 様 々 な 中 間 体 が 形 成 さ れ る が 、 現 在 ま で
に こ れ ら 中 間 体 が 小 胞 体 ス ト レ ス に 関 与 す る こ と を 示 す 報 告 は な い 。本 研 究
は 、糖 化 反 応 中 間 体 に よ り 小 胞 体 ス ト レ ス が 生 じ る こ と を 示 す 初 め て の 報 告
である。
ア ポ ト ー シ ス は 複 雑 な プ ロ セ ス を 経 て 、最 終 的 に は カ ス パ ー ゼ -3 等 の 活 性
化 が 起 こ り 、 DNA が 断 片 化 さ れ る 。 カ ス パ ー ゼ -3 の 活 性 化 を 引 き 起 こ す 主
な 経 路 と し て 、① ミ ト コ ン ド リ ア 経 由 、② 小 胞 体 経 由 、③ 膜 受 容 体 経 由 が 挙
げられる。それぞれの大まかな特徴をまとめると、①ミトコンドリア経由:
ミ ト コ ン ド リ ア の 傷 害 に よ り 内 膜 か ら 細 胞 質 へ シ ト ク ロ ム c が 遊 離 し 、主 に
カ ス パ ー ゼ -9 の 活 性 化 を 経 て カ ス パ ー ゼ -3 が 活 性 化 さ れ 、 一 般 に ROS 産 生
を 伴 う 。② 小 胞 体 経 由: 小 胞 体 内 腔 に 異 常 タ ン パ ク 質 が 蓄 積 し 、小 胞 体 ス ト
レ ス セ ン サ ー が 活 性 化 さ れ る 。次 い で 転 写 因 子 で あ る CHOP の 活 性 化 が 起 こ
り 、 主 に x カ ス パ ー ゼ -12 の 活 性 化 を 経 て カ ス パ ー ゼ -3 が 活 性 化 さ れ る 。 ③
膜 受 容 体 経 由:サ イ ト カ イ ン で あ る TNF や Fas リ ガ ン ド が 細 胞 表 面 の デ ス レ
セ プ タ ー に 結 合 し 、主 に カ ス パ ー ゼ -8 の 活 性 化 を 経 て カ ス パ ー ゼ -3 が 活 性 化
さ れ る 。こ れ ま で の 結 果 か ら 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お け る GA 誘 導 ア ポ ト ー シ ス
の 経 路 に は 、① が 関 与 す る 可 能 性 は 低 い 。② に つ い て は 、今 回 カ ス パ ー ゼ -12
活 性 は 調 べ て い な い が 、小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー お よ び CHOP の 誘 導 、活 性
40
化 が 明 ら か に な っ た 。 ③ に つ い て は 、デ ス レ セ プ タ ー の 1 つ で あ る Fas 受 容
体 の mRNA 発 現 量 の 増 加 と 、カ ス パ ー ゼ -8 の 活 性 化 が 認 め ら れ た( Fig. 21)。
さ ら に 、 TNF-α mRNA 量 の 増 加 を 確 認 し た ( data not shown)。 以 上 の 結 果 か
ら 、 GA 誘 導 ア ポ ト ー シ ス に は 、 小 胞 体 ス ト レ ス と デ ス レ セ プ タ ー を 介 し た
経路が関与していると考えられる。近年、小胞体ストレスセンサーである
IRE1 が 活 性 化 さ れ る と デ ス レ セ プ タ ー を 介 し た ア ポ ト ー シ ス 経 路 が 活 性 化
されることが報告されている
62)
。従 っ て 、② と ③ の 経 路 が 別 々 に 、あ る い は
小胞体ストレスが基になり 2 つの経路がリンクしてアポトーシスが誘導され
て い る と 推 察 さ れ る 。本 章 で 得 ら れ た GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ
ト ー シ ス の 推 定 機 構 を Fig. 22 に 示 す 。
第 2 章 で は 、シ ュ ワ ン 細 胞 に お け る GA の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 メ カ ニ ズ ム に
小 胞 体 ス ト レ ス が 関 与 し て い る こ と を 示 し た 。近 年 、小 胞 体 ス ト レ ス は 糖 尿
病 、ア ル ツ ハ イ マ ー 病 、が ん 、炎 症 性 疾 患 な ど 多 様 な 疾 患 の 発 症 要 因 で あ る
ことが報告されている
抗性が増強し
65 )
63 , 64 )
。小胞体ストレスが惹起されるとインスリン抵
、ご く 最 近 で は 小 胞 体 ス ト レ ス が 糖 尿 病 性 神 経 障 害 に 関 与 し
ている可能性が示唆されている
66 )
。 GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス と 糖 尿 病 性 神
経 障 害 と の 関 連 性 は 明 ら か で は な い が 、糖 化 反 応 か ら AGEs 形 成 過 程 で 生 じ
る GA を は じ め と す る 種 々 な 中 間 体 が 小 胞 体 ス ト レ ス を 介 し て 糖 尿 病 合 併 症
の発症や進展に影響を及ぼしている可能性が考えられる。
小 胞 体 ス ト レ ス が 生 じ る と 、細 胞 は そ の ス ト レ ス か ら 回 避 す る た め に 小 胞
体 ス ト レ ス 応 答 機 構 と 呼 ば れ る 防 御 シ ス テ ム を 活 性 化 し 、細 胞 機 能 を 回 復 さ
せる
27 -30 )
。 小 胞 体 内 に 蓄 積 し た unfolded proteins を 小 胞 体 ご と 分 解 排 除 す る
た め 、オ ー ト フ ァ ジ ー の 機 構 が 働 き 、オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム が 形 成 さ れ る 。ス
ト レ ス が 強 く 十 分 適 応 で き な い 場 合 は 、ア ポ ト ー シ ス 、あ る い は バ ル ク 分 解
亢 進 に よ る オ ー ト フ ァ ジ ー 細 胞 死 が 起 こ り 、最 終 的 に 異 常 な 細 胞 は 駆 除 さ れ
る
67)
。 GA 処 理 シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て 、 オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム の 形 成 が 認 め ら
れ た ( Fig. 19)。 オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム の 形 成 は 細 胞 死 抑 制 に 寄 与 し て い る こ
と か ら 、シ ュ ワ ン 細 胞 は GA に よ る ス ト レ ス を 回 避 す る た め 、オ ー ト フ ァ ジ
ー 機 構 を 活 性 化 す る こ と で 細 胞 機 能 の 回 復 、維 持 を 図 る が 、そ の ス ト レ ス が
強 い た め に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し て 死 に 至 る と 推 測 さ れ る 。一 方 、小 胞 体 ス
41
ト レ ス や オ ー ト フ ァ ジ ー 時 に は 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 が 活 発 に 働 い て い
る と 考 え ら れ る 。Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 の 中 心 的 役
割 を 果 た し て お り 、GSH 生 合 成 の 律 速 酵 素 で あ る γ-GCS や HO-1 を は じ め と
する様々なストレス応答タンパク質の発現制御に関わっている
2 7 -30 )
。そ こ で
第 3 章 で は 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。
Fig. 22
GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス の 誘 導
42
第3章
グ リ コ ー ル ア ル デ ヒ ド ( GA) に よ る ス ト レ ス 応 答 機 構 の
誘導
第1節
序論
細 胞 は ス ト レ ス に 対 す る 応 答 機 構 、即 ち 防 御 機 構 を 構 築 し て い る 。小 胞 体
は 細 胞 内 外 か ら の ス ト レ ス を 感 知 す る と 、そ の ス ト レ ス を 回 避 す る た め に 小
胞 体 ス ト レ ス 応 答 unfolded protein response と 呼 ば れ る 防 御 機 構 を 活 性 化 さ
せる
27 -30 )
。小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 が 活 性 化 さ れ る と 、抗 酸 化 酵 素 群 や 第 Ⅱ
相解毒酵素群をはじめとする様々なストレス応答タンパク質の発現誘導が
起 こ る ( Fig. 5)。 第 2 章 で は 、 GA が 小 胞 体 ス ト レ ス を 誘 導 す る こ と を 示 し
た 。 こ の こ と か ら 、 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 に 対 し て 、 GA は 何 ら か の 影 響
を 与 え て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。そ こ で 第 3 章 で は 、ス ト レ ス 応 答 機 構 に
対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 、 ス ト レ ス 応 答 機 構 の 中 心 的 役 割 を 担 っ て い る 。
2000 年 以 降 、Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に 関 す る 研 究 が 急 速 に 進 み 、糖 尿 病 を は じ
めとする多くの疾患に関与する報告がなされている
68)
。 Fig. 23 に 示 す よ う
に 、 転 写 因 子 Nrf2 は 、 正 常 な 状 態 で は 細 胞 質 で Keap1 と 結 合 し て 不 活 化 し
ている
27 -30 )
。 一 方 、 細 胞 が 何 ら か の ス ト レ ス を 受 け る と 、 Nrf2 は Keap1 か
ら 解 離 し 核 内 へ 移 行 し て 活 性 化 し 、様 々 な ス ト レ ス 応 答 遺 伝 子 の 発 現 を 誘 導
す る 。Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に よ っ て 制 御 さ れ て い る 代 表 的 タ ン パ ク 質 と し て
HO-1 が あ る
2 7 -30 )
。ま た 、Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は GSH 生 合 成 の 律 速 酵 素 で あ
る γ-GCS、抗 酸 化 酵 素 で あ る SOD や catalase、薬 物 代 謝 酵 素 GSH S-ト ラ ン ス
フ ェ ラ ー ゼ 、薬 物 ト ラ ン ス ポ ー タ ー で あ る MRP1 な ど 多 く の ス ト レ ス 応 答 タ
ン パ ク 質 の 発 現 を 制 御 す る こ と で 、細 胞 機 能 の 維 持 、回 復 に 重 要 な 役 割 を 担
っている
2 7 -30 )
。
43
Fig. 23
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム
GSH は ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 抑 制 因 子 の 1 つ で あ る 。小 胞 体 ス ト レ
ス が 起 こ る と 、 γ-GCS が 誘 導 さ れ GSH が 増 大 し 、 GSH は 小 胞 体 内 腔 に 蓄 積
し た unfolded proteins を 修 復 す る こ と で 防 御 作 用 を 示 す
69)
。GSH の ス ト レ ス
誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 抑 制 作 用 は 多 様 で あ る が 、酸 化 ス ト レ ス や 異 物 代 謝 に お
い て 主 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 GSH は ROS の 捕 捉 や 、 グ ル タ チ オ ン ペ ル
オ キ シ ダ ー ゼ お よ び グ ル タ レ ド キ シ ン の 補 因 子 と し て 作 用 す る こ と で 、酸 化
ス ト レ ス を 抑 制 す る 。 ま た 、 GSH S-ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ の 介 在 に よ り GSH
抱 合 体 を 形 成 す る こ と で 、薬 物 ト ラ ン ス ポ ー タ ー で あ る MRP1 と 共 に 異 物 代
謝 に 寄 与 す る 。 し か し 、 GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス お よ び ア ポ ト ー シ ス に 対
し 、GSH が 防 御 作 用 を 示 し て い る か ど う か は 不 明 で あ る 。一 方 、MG お よ び
AGEs 誘 導 細 胞 傷 害 に 酸 化 ス ト レ ス が 関 与 す る こ と は 既 に 述 べ た が 、 こ れ ら
の 細 胞 傷 害 が GSH の 前 駆 体 で あ る N-acetyl-L-cysteine( NAC) の 添 加 に よ り
抑 制 さ れ る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。例 え ば 、NAC の 添 加 は 、MG に よ る
ラットシュワン細胞の細胞傷害
害を抑制する
71 )
70 )
、 AGEs に よ る ヒ ト 角 膜 上 皮 細 胞 の 細 胞 傷
。 当 研 究 室 に お い て も 、 NAC の 添 加 に よ り MG に よ る 血 管
内 皮 細 胞 の 細 胞 傷 害 が 抑 制 さ れ る こ と を 確 認 し て い る ( data not shown)。 こ
れ ら の 報 告 で は 、 NAC の 抑 制 作 用 は 、 細 胞 内 GSH の 上 昇 に 伴 う 酸 化 ス ト レ
ス の 抑 制 に 基 づ く と 示 さ れ て い る 。し か し 、GA に よ る 細 胞 傷 害 に ROS の 関
与 は 認 め ら れ ず ( 第 2 章 )、 GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 対 し NAC が ど の よ う な 影 響
44
を与えるのか興味が持たれる。
第 3 章 で は 、 初 め に GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 す る NAC の 影 響 に つ い て 検
討 し た 。 続 い て 、 細 胞 内 GSH 量 、 Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に よ っ て 発 現 が 制 御
さ れ て い る γ-GCS、MRP1、HO-1 の 発 現 量 を 測 定 し 、ス ト レ ス 応 答 機 構 に 対
す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。
第2節
1.
実験方法
試薬
NAC 、 GSH 、 酸 化 型 グ ル タ チ オ ン ( GSSG ) は Sigma Aldrich よ り 、
5,5’-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)( DTNB) は 、 和 光 純 薬 工 業 株 式 会 社 よ り 、
グ ル タ チ オ ン レ ダ ク タ ー ゼ ( yeast 由 来 ) は 、 Oriental Yeast Co., Ltd. ( 東 京 )
よ り 購 入 し た 。 ウ サ ギ 由 来 抗 HO-1 抗 体 は 、 Cell Signaling Technology Inc. よ
り 、 ウ サ ギ 由 来 抗 Nrf2 抗 体 は 、 Santa Cruz Biotechnology Inc.よ り 購 入 し た 。
TransAM ® Nrf2、Nuclear Extract Kit は Active Motif( 東 京 )よ り 、Lipofectamine ®
RNAiMAX Reagent、 Opti-MEM は Life Technologies Corporation よ り 、 ヒ ト 由
来 抗 MRP1-phycoerythrin 抗 体 は 、R& D Systems Inc.( Minneapolis, MN, USA)
よ り 購 入 し た 。そ の 他 の 試 薬 は 、第 1 章 お よ び 第 2 章 で 使 用 し た も の 、あ る
いは市販特級品を用いた。
2.
細 胞 培 養 、 GA お よ び SH 化 合 物 処 理
細 胞 培 養 と GA 処 理 は 、第 1 章 と 同 様 の 方 法 で 行 っ た 。NAC、GSH、GSSG
の 添 加 実 験 の 場 合 は 、 GA 処 理 時 に 同 時 添 加 し た 。 な お 、 細 胞 生 存 率 、 細 胞
膜 構 造 の 変 化 、 CHOP タ ン パ ク 質 発 現 量 の 評 価 は 、 第 1 章 お よ び 第 2 章 の 実
験方法に準じて行った。
3.
細 胞 内 GSH 量 と γ-GCS mRNA 発 現 量
細 胞 内 GSH 量 : 細 胞 内 GSH 量 は 、 DTNB 酵 素 リ サ イ ク リ ン グ 法 に よ り 測
定した
72)
。12 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に GA( 100~ 500 µM)を
45
添 加 し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を
含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 次 い で 0.1% の Triton X-100
を 含 む PBS を 加 え て 可 溶 化 し て 遠 心 分 離 し 、得 ら れ た 上 清 を 測 定 試 料 と し た 。
0.1 M リ ン 酸 バ ッ フ ァ ー ( pH7.5、 含 5 mM EDTA) に 試 料 、 0.6 mM DTNB、
0.2 mM NADPH を 添 加 し て 30 ℃ で プ レ イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 後 、 1.3 U/mL の
グ ル タ チ オ ン レ ダ ク タ ー ゼ を 加 え 反 応 開 始 し た 。生 成 し た 2-ニ ト ロ -5-チ オ 安
息 香 酸 の 412 nm に お け る 吸 光 度 変 化 を 測 定 し た 。 な お 、 タ ン パ ク 定 量 に は
Bradford 法 を 用 い た 。
γ-GCS mRNA 発 現 量:γ-GCS mRNA 発 現 量 は 、real time- RT- PCR 法 に よ り
測 定 し た 。 6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に GA( 100~ 500 µM) を
添 加 し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を
含 む 反 応 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 後 、 RNA spin Mini を 用 い て RNA
の 抽 出 を 行 っ た 。High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit を 使 用 し て 逆
転 写 を 行 い 、 cDNA を 作 成 し た 。 mRNA 発 現 量 は 、 7500 Fast Real-Time PCR
System を 使 用 し て 、標 準 物 質 と し て GAPDH を 用 い 、⊿ ⊿ Ct 法 に よ り 算 出 し
た 。な お 、γ-GCS の プ ラ イ マ ー に は Life Technologies Corporation よ り 購 入 し
た Rn00689046_g1 を 使 用 し た 。
4.
MRP1 発 現 量
MRP1 タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー を 用 い た 免 疫 染 色 法 に
よ り 測 定 し た 。 6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加
し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を 含 む
溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 4% パ ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド で 細 胞
を 固 定 し 、 抗 MRP1-phycoerythrin 抗 体 を 含 む SAP バ ッ フ ァ ー ( 0.1% サ ポ
ニ ン 、 0.05% ア ジ 化 ナ ト リ ウ ム を 含 む Hanks' Balanced Salt Solution ) を 加 え
て 、 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー ( FL-2
チ ャ ネ ル : 585 nm) を 用 い て 測 定 し た 。
5.
HO-1 発 現 量
タ ン パ ク 質 発 現 量 : 12 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA
46
を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA
を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し た 。 次 い で 、 4% パ ラ ホ ル ム ア
ル デ ヒ ド で 細 胞 を 固 定 し た 。 DPBS で 洗 浄 後 、 氷 冷 メ タ ノ ー ル を 用 い 、 細 胞
透 過 処 理 し た 。 そ の 後 、 0.5% blocking agent で ブ ロ ッ キ ン グ し 、 同 溶 液 で 希
釈 し た 抗 HO-1 抗 体 ( 1:200) に よ り 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。
次 い で 、Alexa Fluor 488 で 標 識 し た 抗 マ ウ ス IgG 抗 体( 1:1,000)に よ り 、室
温 で 30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 Alexa Fluor 488 の 蛍 光 は 、 共 焦 点 レ ー
ザ ー 顕 微 鏡 ( 励 起 波 長 : 488 nm) を 用 い 測 定 し た 。
mRNA 発 現 量 : HO-1 mRNA 発 現 量 は 、 real time-RT- PCR 法 に よ り 測 定 し
た 。6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、CO 2 イ ン
キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を 含 む 反 応 液 を 除 去
し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 後 、 RNA spin Mini を 用 い て RNA の 抽 出 を 行 っ た 。
High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit を 使 用 し て 逆 転 写 を 行 い 、cDNA
を 作 成 し た 。 mRNA 発 現 量 は 、 7500 Fast Real-Time PCR System を 使 用 し て 、
標 準 物 質 と し て GAPDH を 用 い 、 ⊿ ⊿ Ct 法 に よ り 算 出 し た 。 な お 、 HO-1 の
プ ラ イ マ ー に は Life Technologies Corporation よ り 購 入 し た Rn01536933_m1
を使用した。
6.
Nrf2 発 現 量
タ ン パ ク 質 発 現 量:Nrf2 タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、ELIZA キ ッ ト 、共 焦 点 レ ー
ザー顕微鏡を用い免疫染色法により求めた。
ELIZA 法 に よ る 測 定 は 、 以 下 の よ う に 行 っ た 。 直 径 10cm シ ャ ー レ に て 培
養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に GA( 250~ 500 µM)を 添 加 し 、CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー
内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細
胞 を 洗 浄 後 、細 胞 を 回 収 し た 。遠 心 分 離 後 、上 清 を 除 去 し Nuclear Extract Kit
の 製 品 マ ニ ュ ア ル に 従 い 、 核 タ ン パ ク を 抽 出 し た 。 次 い で 、 ELIZA キ ッ ト
TransAM ® Nrf2 を 使 用 し て 核 内 に 移 行 し た Nrf2 タ ン パ ク 質 を 測 定 し た 。
免 疫 染 色 法 に よ る 測 定 は 、 以 下 の よ う に 行 っ た 。 12 well plate に て 培 養 し
た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、 CO 2 イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間
イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 GA を 含 む 溶 液 を 除 去 し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 し
47
た 。 次 い で 、 4% パ ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド を 用 い 細 胞 を 固 定 し た 。 DPBS で 洗
浄 後 、氷 冷 メ タ ノ ー ル を 用 い 、細 胞 透 過 処 理 し た 。そ の 後 、0.5% blocking agent
で ブ ロ ッ キ ン グ し 、 ブ ロ ッ キ ン グ 溶 液 で 希 釈 し た 抗 Nrf2 抗 体 ( 1:200) に よ
り 室 温 で 1 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 次 い で 、 Alexa Fluor 488 で 標 識 し
た 抗 マ ウ ス IgG 抗 体 ( 1:1,000) と Hochest33258( 1:1,000) に よ り 、 室 温 で
30 分 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。 Hochest33258 と Alexa Fluor 488 の 蛍 光 は 、
共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 ( 励 起 波 長 : 405 nm, 488 nm) を 用 い 測 定 し た
mRNA 発 現 量 : Nrf2 mRNA 発 現 量 は 、 real time- RT- PCR 法 に よ り 測 定 し
た 。6 well plate に て 培 養 し た シ ュ ワ ン 細 胞 に 500 µM GA を 添 加 し 、CO 2 イ ン
キ ュ ベ ー タ ー 内 で 24 時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。GA を 含 む 反 応 液 を 除 去
し 、 DPBS で 細 胞 を 洗 浄 後 、 RNA spin Mini を 用 い て RNA の 抽 出 を 行 っ た 。
High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit を 使 用 し て 逆 転 写 を 行 い 、cDNA
を 作 成 し た 。 mRNA 発 現 量 は 、 7500 Fast Real-Time PCR System を 使 用 し て 、
標 準 物 質 と し て GAPDH を 用 い 、⊿ ⊿ Ct 法 に よ り 算 出 し た 。な お 、Nrf2 の プ
ラ イ マ ー に は Life Technologies Corporation よ り 購 入 し た Rn00477784_m1 を
使用した。
7. ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 の 作 製
Lipofectamine ® RNAiMAX Reagent を Opti-MEM で 希 釈 し た 。同 様 に Ambion
よ り 購 入 し た Negative control siRNA と siRNA( MRP1 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 の 場
合 MRP1 siRNA、Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 の 場 合 Nrf2 siRNA)を Opti-MEM で
希 釈 し た 。 こ れ ら を 混 合 し 、 室 温 で 20 分 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 後 、 細 胞 に
添 加 し た 。 16 時 間 後 、 培 地 を 交 換 し て 、 24 時 間 後 に 実 験 に 使 用 し た 。 ノ ッ
ク ダ ウ ン 効 率 は 70%以 上 で あ っ た 。
8.
統計処理
デ ー タ は 平 均 値 ±標 準 偏 差 で 示 し た 。 F 検 定 に よ る 等 分 散 の 検 定 後 、 t 検 定
を 行 い 、 p<0.05 を 有 意 と し た 。
48
第3節
1.
実験結果
GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 す る NAC の 影 響
GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 対 す る GSH の 影 響 に つ い て 、GSH の 前 駆 体 で あ る NAC
を 用 い て 検 討 し た 。NAC( 1 mM)は 細 胞 に GA( 500 µM)を 添 加 す る 際 に 同
時 添 加 し 、 24 時 間 後 MTS 試 験 に よ り 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た ( Fig. 24)。 GA
に よ る 細 胞 生 存 率 の 低 下 は 、NAC の 共 存 に よ り ほ ぼ 完 全 に 抑 制 さ れ た 。GSH
を 共 存 さ せ た 場 合 も 抑 制 作 用 が 見 ら れ た 。 GSH の 抑 制 効 果 は NAC よ り や や
劣 っ て い る が 、こ れ は NAC に 比 べ 、添 加 し た GSH が 細 胞 内 へ 取 り 込 ま れ に
く い こ と に 起 因 す る と 考 え ら れ る 。一 方 、GSSG は 抑 制 作 用 を 示 さ な か っ た 。
次 に 、GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス お よ び ア ポ ト ー シ ス に 対 す る NAC の 影 響 に
つ い て 、 CHOP 発 現 量 お よ び 細 胞 膜 構 造 の 変 化 を 指 標 と し て 検 討 し た 。 GA
に よ る CHOP の 誘 導 は 、 NAC の 共 存 に よ り 抑 制 さ れ た ( Fig. 25A)。 細 胞 膜
構 造 の 変 化 に つ い て ア ネ キ シ ン V お よ び PI の 二 重 染 色 に よ る フ ロ ー サ イ ト
メ ト リ ー 解 析 を 行 っ た 結 果 、NAC は GA に よ り 誘 導 さ れ る 早 期 お よ び 後 期 ア
ポ ト ー シ ス 細 胞 の 増 加 を ほ ぼ 完 全 に 抑 制 し た( Fig. 25B)。こ れ ら の 結 果 か ら 、
GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 し 、 GSH は 防 御 因 子 と し て 作 用 し て い る こ と が 示 唆
される。
49
Fig. 24
GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 す る NAC の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し 、同 時 添 加 し た NAC、GSH、GSSG( 各
1 mM) 存 在 下 に お け る 細 胞 生 存 率 を MTS 試 験 に よ り 測 定 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±
標 準 偏 差 ( n=6) で 示 し て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
50
( A)
Fig. 25
( B)
GA に よ る CHOP の 活 性 化 お よ び 細 胞 膜 構 造 の 変 化 に 対 す
る NAC の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し 、 1 mM NAC 存 在 下 に お け る CHOP 発
現 量 、 細 胞 膜 構 造 の 変 化 に 対 す る GA の 影 響 を 調 べ た 。( A) CHOP タ ン パ ク 質 発 現 量
は 、免 疫 染 色 に よ り 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 を 用 い て 評 価 し た 。( B)細 胞 膜 構 造 の 変 化
は 、 ア ネ キ シ ン V/PI の 二 重 染 色 法 に よ り フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー を 用 い て 評 価 し た 。
2.
細 胞 内 GSH 量 に 対 す る GA の 影 響
次 に 、 シ ュ ワ ン 細 胞 を GA( 100, 250, 500 µM) で 24 時 間 処 理 し 、 細 胞 内
GSH 量 に 及 ぼ す GA の 影 響 に つ い て 測 定 し た 。Fig. 26A に 示 す よ う に 、細 胞
傷 害 が 認 め ら れ る 250 µM お よ び 500 µM GA 処 理 に お い て ( Fig. 6)、 細 胞 内
GSH 量 は い ず れ も 約 4 倍 ま で 有 意 に 増 加 し た 。 GSH 合 成 の 律 速 酵 素 で あ る
γ-GCS の mRNA 発 現 量 を 測 定 し た 結 果 、 GA 500 µM 処 理 で は 有 意 に 上 昇 し 、
GA 250 µM 処 理 で は 有 意 で は な い も の の 2〜 3 倍 の 上 昇 傾 向 を 示 し た ( Fig.
26B)。
51
( A)
Fig. 26
( B)
細 胞 内 GSH 量 お よ び γ-GCS に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 100, 250, 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。( A) 細 胞 内 GSH 量 は 、
DTNB 酵 素 リ サ イ ク リ ン グ 法 に よ り 測 定 し た 。( B)γ-GCS mRNA は 、real time RT-PCR
に よ り 測 定 し た 。デ ー タ は 、平 均 値 ±標 準 偏 差( n=3)で 示 し て い る 。*p<0.05: コ ン ト
ロールと比較。
3.
MRP1 発 現 量 に 対 す る GA の 影 響
MRP1 は GSH や GSSG、GSH 複 合 体 の 輸 送 に 関 わ る 薬 物 ト ラ ン ス ポ ー タ ー
として知られている
73)
。シ ュ ワ ン 細 胞 の MRP1 タ ン パ ク 質 発 現 量 を フ ロ ー サ
イ ト メ ー タ ー に よ り 測 定 し た( Fig. 27)。GA 500 µM 処 理 細 胞 に お い て 、MRP1
タンパク質発現量を示す領域 A から領域 B への細胞集団のシフトが認めら
れ た 。 平 均 蛍 光 強 度 は 、 GA 500 µM 処 理 で は 3.4 倍 に 上 昇 し 、 GA 250 µM で
は 有 意 で は な い が 約 2 倍 の 上 昇 傾 向 を 示 し た 。 次 に 、 MRP1 ノ ッ ク ダ ウ ン 細
胞 を 用 い 、GA 誘 導 細 胞 傷 害 に お け る MRP1 の 役 割 に つ い て 検 討 し た 。MRP1
mRNA 発 現 量 で 評 価 し た ノ ッ ク ダ ウ ン 効 率 は 90%で あ っ た 。Fig. 28 に 示 す よ
う に 、 MRP1 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 で は 、 GA に よ る 細 胞 傷 害 の 増 強 が 有 意 に 認
められた。
以 上 1〜 3 の 結 果 よ り 、 GA が γ-GCS お よ び MRP1 の 発 現 量 を 増 加 さ せ る
52
こ と 、GSH お よ び MRP1 は GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 防 御 作 用 を 示 す こ と が 明 ら か
に な っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 GSH は unfolded proteins の 修 復 に 寄 与 す る と
共 に 、 MRP1 と 連 携 し て GA 誘 導 細 胞 傷 害 を 防 御 し て い る と 考 え ら れ る 。
Fig. 27
GA に よ る MRP1 発 現 量 に 対 す る 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。 MRP1 タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 抗
MRP1-PE 抗 体 を 用 い て フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー に よ り 測 定 し た 。グ ラ フ は コ ン ト ロ ー ル
細 胞 の 平 均 蛍 光 強 度 を 1 と し た と き の 相 対 値 で 表 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差
( n=3) で 示 し て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
53
Fig. 28
MRP1 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お け る GA の 細 胞 生 存 率 に 対 す
る影響
MRP1 ノ ッ ク ダ ウ ン シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。 細 胞 生 存 率 は
MTS 試 験 に よ り 測 定 し た 。デ ー タ は 、平 均 値 ±標 準 偏 差( n=6)で 示 し て い る 。*p<0.05
4.
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に 対 す る GA の 影 響
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 、 ス ト レ ス 応 答 機 構 の 中 心 的 役 割 を 担 っ て い る 。
γ-GCS や MRP1 の 発 現 誘 導 に 関 与 す る だ け で な く 、様 々 な ス ト レ ス 応 答 タ ン
パク質の発現を制御していることが知られている
2 7 -30 )
。 な か で も HO-1 は 、
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に よ っ て 制 御 さ れ て い る 代 表 的 な タ ン パ ク 質 で あ る
27-30 )
。 HO-1 に 対 す る GA( 500 µM) の 影 響 に つ い て 解 析 し た ( Fig. 29)。 そ
の 結 果 、 HO-1 mRNA お よ び タ ン パ ク 質 の 両 発 現 量 の 著 し い 増 加 が 認 め ら れ
た。
そ こ で 次 に 、GA に よ る ス ト レ ス 応 答 機 構 に Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が 関 与 し
て い る 可 能 性 に つ い て 、Nrf2 に 着 目 し て 検 討 し た 。GA 500 µM 処 理 細 胞 で は 、
Nrf2 mRNA 発 現 量 は 約 3 倍 に 上 昇 し ( Fig. 30A)、 ELIZA 法 で 測 定 し た 核 内
Nrf2 タ ン パ ク 質 量 の 増 加 も 認 め ら れ た ( Fig. 30B)。 GA 250 µM で は 、 Nrf2
に 対 す る 有 意 な 影 響 は 見 ら れ な か っ た が 、mRNA お よ び タ ン パ ク 質 の 両 発 現
量 と も 僅 か な が ら 上 昇 傾 向 を 示 し た 。 GA 500 µM 処 理 細 胞 に お け る Nrf2 タ
ン パ ク 質 発 現 量 の 増 加 を 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 に よ り 確 認 し た ( Fig. 30C)。
54
さ ら に ヘ キ ス ト 染 色 を 行 っ た 結 果 、 Nrf2 の 活 性 化 を 示 す Nrf2 タ ン パ ク 質 の
核 へ の 移 行 が 認 め ら れ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、GA が Nrf2 を 活 性 化 す る こ と
が 明 ら か と な り 、 Nrf2 の 活 性 化 が 細 胞 内 GSH の 上 昇 、 γ-GCS お よ び MRP1
の発現誘導に結びついていることが示唆された。
( A)
( B)
Fig. 29
HO-1 に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。HO-1 mRNA 発 現 量 (A)は 、real time
RT-PCR 法 に よ り 、HO-1 タ ン パ ク 質 発 現 量 (B)は 、共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 に よ り 評 価 し
た 。デ ー タ は 、平 均 値 ±標 準 偏 差( n=3)で 示 し て い る 。*p<0.05:コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
55
( B)
( A)
( C)
Fig. 30
Nrf2 mRNA に 対 す る GA の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 処 理 し た 。( A) GA 処 理 24 時 間 後 、 Nrf2 mRNA は 、
real time RT-PCR に よ り 評 価 し た 。
( B)GA 処 理 24 時 間 後 、Nrf2 タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、
免 疫 染 色 法 に よ り 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 を 用 い て 評 価 し た 。( C) GA 処 理 8 時 間 後 、
核 内 Nrf2 タ ン パ ク 質 量 は 、ELIZA 法 に よ り 測 定 し た 。デ ー タ は 、平 均 値 ±標 準 偏 差( n=3)
で 示 し て い る 。 *p<0.05: コ ン ト ロ ー ル と 比 較 。
56
5.
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お け る GA の 影 響
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 を 用 い て GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。Nrf2 mRNA
発 現 量 で 評 価 し た ノ ッ ク ダ ウ ン 効 率 は 70%で あ っ た 。
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お い て 、 GA( 500 µM) に よ り 誘 導 さ れ る γ-GCS
mRNA 発 現 量 お よ び 細 胞 内 GSH 量 の 増 大 は 顕 著 に 抑 制 さ れ た ( Fig. 31)。 さ
ら に Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 で は 、GA に よ る 細 胞 生 存 率 の 低 下 が 僅 か な が ら
有 意 に 亢 進 さ れ る こ と が 明 ら か に な っ た ( Fig. 32)。
以 上 の こ と か ら 、GA は 小 胞 体 ス ト レ ス お よ び ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る が 、
こ の 過 程 に お い て ス ト レ ス 応 答 機 構 で あ る Keap1/Nrf2 シ ス テ ム の 活 性 化 が
起 こ っ て い る こ と が 示 唆 さ れ る 。シ ュ ワ ン 細 胞 は Keap1/Nrf2 シ ス テ ム を
活
性 化 し 、 GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス の 回 避 を 図 る が 、 そ の ス ト レ ス が 過 度 な
ためにアポトーシスに至ると推察される。
( A)
Fig. 31
( B)
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お け る GA の 細 胞 内 GSH に 対
する影響
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。
( A)γ-GCS mRNA
は real time RT-PCR 法 に よ り 、
( B)細 胞 内 GSH 量 は DTNB 酵 素 リ サ イ ク リ ン グ 法 に よ
り 測 定 し た 。 デ ー タ は 、 平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=3) で 示 し て い る 。 *p<0.05
57
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お け る GA の 細 胞 生 存 率 に 対 す
Fig. 32
る影響
Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し た 。 細 胞 生 存 率 は
MTS 試 験 に よ り 測 定 し た 。デ ー タ は 、平 均 値 ±標 準 偏 差( n=6)で 示 し て い る 。*p<0.05
6.
GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 す る Keap1/Nrf2 シ ス テ ム 活 性 化 の 影 響
当 研 究 室 で は 、シ ュ ワ ン 細 胞 を 糖 尿 病 性 神 経 障 害 治 療 薬 で あ る エ パ ル レ ス
タ ッ ト ( EPS) で 処 理 す る と 、 Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が 活 性 化 す る こ と を 報 告
している
74)
。Fig. 33 に 示 す よ う に 、GA に よ り 誘 導 さ れ る 細 胞 傷 害 は EPS( 50
µM)を 共 存 さ せ る と 有 意 に 抑 制 さ れ た 。こ の 結 果 は 、GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 対
し て Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が 防 御 作 用 を 果 た し て い る こ と を 示 唆 す る も の で
ある。
58
Fig. 33
GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 対 す る EPS の 影 響
シ ュ ワ ン 細 胞 を 500 µM GA で 24 時 間 処 理 し 、 同 時 添 加 し た 50 µM EPS 存 在 下 に お
け る 細 胞 生 存 率 の 測 定 を 行 っ た 。細 胞 生 存 率 は 、MTS 試 験 に よ り 測 定 し た 。デ ー タ は 、
平 均 値 ±標 準 偏 差 ( n=6) で 示 し て い る 。 *p<0.05
第4節
考察
小 胞 体 ス ト レ ス や オ ー ト フ ァ ジ ー 誘 導 時 に は 、ス ト レ ス 応 答 機 構 が 活 発 に
働 い て い る と 考 え ら れ る 。Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構
の 中 心 的 役 割 を 果 た し て お り 、GSH 生 合 成 の 律 速 酵 素 で あ る γ-GCS や 、HO-1
をはじめとする様々なストレス応答タンパク質の発現を制御する
2 7 -30 )
。従 っ
て 、 GA に よ り 小 胞 体 ス ト レ ス や ア ポ ト ー シ ス が 誘 導 さ れ る 過 程 で は 、 こ れ
に対抗するためにストレス応答機構が活性化されている可能性が考えられ
る 。 第 3 章 で は 、 シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て GA は γ-GCS お よ び HO-1 の 発 現 量
を 増 加 す る こ と 、 Nrf2 を 活 性 化 す る こ と を 示 し た 。 ま た 、 細 胞 内 GSH 量 お
よ び MRP1 発 現 量 を 増 加 さ せ る こ と が 明 ら か に な っ た
75)
。
初 め に 、GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 対 す る GSH の 影 響 を 調 べ る た め 、GSH の 前 駆
体 で あ る NAC を 用 い 検 討 し た 。NAC( 1 mM)を 添 加 す る と 、GA( 500 µM)
に よ る 細 胞 生 存 率 の 低 下 、小 胞 体 ス ト レ ス を 示 す CHOP の 誘 導 、ア ポ ト ー シ
59
ス を 示 す 細 胞 膜 構 造 の 変 化 は 、い ず れ も 顕 著 に 抑 制 さ れ た( Fig. 24, 25)。MG
お よ び AGEs 誘 導 細 胞 傷 害 に お け る NAC の 抑 制 作 用 は 抗 酸 化 作 用 に 起 因 し
ていると報告されている
69 , 7 0 )
。 し か し 、 GA 誘 導 細 胞 傷 害 の 過 程 で は ROS
の 増 大 は 認 め ら れ な か っ た ( 第 2 章 )。 デ ー タ に は 示 さ な か っ た が 、 膜 透 過
性 の polyethylene glycol-SOD や polyethylene glycol-catalase 、 SOD/catalase
mimetic の MnTMPyP を 添 加 し て も GA 誘 導 細 胞 傷 害 が 抑 制 さ れ な い こ と を
確 認 し た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、 GA 誘 導 細 胞 傷 害 に お い て 、 NAC の 抑 制 作 用
が 抗 酸 化 作 用 に 基 づ く と は 考 え に く い 。 一 方 、 抑 制 作 用 は GSH( 1 mM) を
添 加 し た 場 合 も 認 め ら れ た ( Fig. 24)。 GSH は 一 般 に 細 胞 内 に 数 mM の 濃 度
で 存 在 し 、添 加 し た GSH は 細 胞 内 へ 取 り 込 ま れ に く い 。こ の こ と か ら 、GSH
を 添 加 し て も 、細 胞 内 GSH 濃 度 は 大 き く 上 昇 し な い と 推 測 さ れ る 。従 っ て 、
添 加 し た GSH や NAC は 細 胞 外 に お い て 抑 制 効 果 を 発 揮 し て い る と 考 え ら れ
る 。 GSH お よ び NAC が 細 胞 外 ( 培 地 中 ) で GA と 非 酵 素 的 に 複 合 体 を 形 成
し 、 GA の 細 胞 内 へ の 取 り 込 み が 阻 害 さ れ て い る 可 能 性 に つ い て 検 討 し た 。
試 験 管 内 で GSH あ る い は NAC と GA を 共 存 さ せ て も 、 そ れ ら の SH 基 は 保
た れ て い た ( data not shown)。 こ の こ と か ら 、 GSH と GA と の 複 合 体 は 非 酵
素 的 に は 生 成 し な い と 考 え ら れ る 。 以 上 よ り 、 本 研 究 で は GSH お よ び NAC
添 加 に よ る 抑 制 機 構 を 明 ら か に す る こ と は 出 来 な か っ た が 、 SH 化 合 物 が 細
胞 外 に 多 く 存 在 す る こ と が GA 誘 導 細 胞 傷 害 の 抑 制 に 重 要 で あ る こ と を 明 ら
かにした。
シ ュ ワ ン 細 胞 を MG で 処 理 す る と 、 細 胞 内 GSH 量 は 減 少 す る こ と が 報 告
されている
70 )
。 シ ュ ワ ン 細 胞 を GA で 処 理 し 、 細 胞 内 GSH 量 、 γ-GCS お よ
び MRP1 発 現 量 に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。GA 500 µM 処 理 細 胞
で は 、 細 胞 内 GSH 量 は 顕 著 に 増 加 し 、 併 せ て γ-GCS mRNA 発 現 量 の 上 昇 が
認 め ら れ た( Fig. 26)。さ ら に MRP1 の 発 現 誘 導 が 認 め ら れ( Fig. 27)、MRP1
ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 を 用 い て 検 討 し た と こ ろ 、 GA 誘 導 細 胞 傷 害 に 対 し MRP1
が 防 御 作 用 を 示 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た ( Fig. 28)。 こ れ ら の 結 果 か
ら 、 GA は 細 胞 内 GSH の 生 合 成 を 誘 導 し 、 増 加 し た 細 胞 内 GSH は 、 小 胞 体
ス ト レ ス に よ り 蓄 積 し た unfolded proteins の 修 復 に 関 わ る と 共 に 、 MRP1 と
連 携 し て GA 誘 導 細 胞 傷 害 を 防 御 し て い る と 考 え ら れ る 。そ の 機 構 と し て 以
60
下 の 2 つ の 可 能 性 を 考 え て い る 。 ① 前 述 し た よ う に 、 細 胞 外 に お い て SH 化
合 物 は 抑 制 作 用 を 示 す 。 MRP1 は GSH や GSH 複 合 体 の 輸 送 す る ト ラ ン ス ポ
ーターである
73 )
。 こ の こ と か ら 、 細 胞 内 GSH が MRP1 を 介 し て 輸 送 さ れ 、
輸 送 さ れ た 細 胞 外 GSH が 防 御 機 能 を 果 た す 。② 前 述 し た よ う に 、GSH と GA
と の 複 合 体 は 非 酵 素 的 に は 生 成 し な い 。し か し 、細 胞 内 で は 酵 素 反 応 に よ り
複 合 体 を 生 じ る 可 能 性 が あ る 。例 え ば 、細 胞 内 に 取 り 込 ま れ た GA は GSH Sト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ の 触 媒 に よ り GS-GA 複 合 体 と な り 、こ の GSH 複 合 体 が
MRP1 を 介 し て 輸 送 さ れ る 。 そ の 結 果 、 細 胞 内 GA 濃 度 が 減 少 し 、 細 胞 傷 害
が 抑 制 さ れ る 。な お 、本 研 究 で は 測 定 し て い な い が 、GSH S-ト ラ ン ス フ ェ ラ
ー ゼ は Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に 制 御 さ れ て い る こ と か ら
2 7 -30 )
、GA に よ る 発 現
誘 導 が 起 こ っ て い る と 推 測 さ れ る 。 以 上 よ り 、 細 胞 内 GSH と MRP1 は 連 携
し て GA に よ る 細 胞 傷 害 を 防 御 し て い る こ と が 考 え ら れ る が 、 現 段 階 で
GS-GA 複 合 体 が 形 成 す る の か 、あ る い は MRP1 の 基 質 に な り 得 る の か は 解 明
で き な か っ た 。 ま た 、 GSH や GSH 複 合 体 の 輸 送 に 他 の ト ラ ン ス ポ ー タ ー が
関 与 し て い る 可 能 性 も 否 定 で き な い 。一 方 、GA の 代 謝 に つ い て は 、glyoxalase
を 除 き 、 他 の 報 告 は な さ れ て い な い 。 Glyoxalase は 、 GSH を 基 質 と し て GA
を ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 の GO お よ び O 2 ・ — へ 変 換 す る が 、 シ ュ ワ ン 細 胞 で は
GA に よ る ROS の 増 加 は 認 め ら れ ず 、 glyoxalase に よ る GA の 代 謝 の 影 響 は
低いと推測される。
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 に お い て 重 要 な 役 割 を 果
た し て い る 。 通 常 、 転 写 因 子 Nrf2 は 、 細 胞 質 に 存 在 す る Keap1 に 結 合 し 不
活性状態にある
2 7 -3 0 )
。し か し 、ス ト レ ス 存 在 下 で は Keap1 か ら 解 離 し 、核 に
移 行 す る こ と で 活 性 化 さ れ る 。 核 に 移 行 し た Nrf2 は 、 抗 酸 化 酵 素 や 第 Ⅱ 相
解 毒 酵 素 な ど の 遺 伝 子 の 上 流 に 位 置 す る 抗 酸 化 剤 応 答 配 列 antioxidant
response element に 結 合 し 、こ れ ら 遺 伝 子 の 発 現 を 調 節 し て い る 。Keap1/Nrf2
シ ス テ ム は 、γ-GCS や MRP1 だ け で な く 、多 く の ス ト レ ス 応 答 タ ン パ ク 質 の
発現制御に関わっている
2 7 -3 0 )
。な か で も HO-1 は 、Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に よ
って制御されている代表的なストレス応答タンパク質である
2 7 -30 )
。 HO-1 に
対 す る GA( 500 µM) の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 HO-1 mRNA お
よ び タ ン パ ク 質 の 両 発 現 量 は 著 し く 増 大 し( Fig. 29)、GA 処 理 細 胞 で は ス ト
61
レ ス 応 答 機 構 が 誘 導 さ れ て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 そ こ で 次 に 、 GA に
よ る ス ト レ ス 応 答 機 構 の 誘 導 に 、Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が 関 与 し て い る か ど う
か 検 討 し た 。GA 500 µM 処 理 細 胞 で は 、Nrf2 mRNA お よ び タ ン パ ク 質 発 現 量
の 増 大 、 Nrf2 活 性 化 を 示 す 核 へ 移 行 が 認 め ら れ た ( Fig. 30)。 さ ら に 、 Nrf2
ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お い て 、GA に よ る γ-GCS お よ び 細 胞 内 GSH の 両 方 の 増
加 が 顕 著 に 抑 制 さ れ た( Fig. 31)。こ の こ と か ら 、GA に よ る γ-GCS の 発 現 誘
導 と 、 そ れ に 続 く 細 胞 内 GSH の 増 大 は 、 Nrf2 の 活 性 化 を 介 し て 起 こ っ て い
る と 示 唆 さ れ る 。今 回 の 研 究 で は 、MRP1 発 現 誘 導 と Nrf2 の 関 連 性 に つ い て
検 討 を 行 っ て い な い が 、MRP1 も γ-GCS 同 様 Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に 制 御 さ れ
て い る こ と か ら 、MRP1 発 現 誘 導 に も Nrf2 活 性 化 の 関 与 が 考 え ら れ る 。な お 、
GA 250 µM 処 理 細 胞 で は 、 細 胞 内 GSH 量 は 増 加 し 、 γ-GCS や MRP1、 Nrf2
発 現 量 も 有 意 で は な い が 上 昇 傾 向 を 示 し た ( Fig. 26, 27, 30)。 お そ ら く 、 GA
250 µM 処 理 細 胞 に お い て も Nrf2 活 性 化 を 介 し て γ-GCS や MRP1 の 発 現 が 誘
導 さ れ 、GSH 量 が 増 加 し て い る と 推 測 さ れ る 。一 方 、GSH 量 の 増 加 は GA 250
µM お よ び 500 µM で 同 程 度 ( 約 4 倍 ) で あ っ た 。 こ の 場 合 、 測 定 上 GSH 濃
度 が 飽 和 に 達 し て い な い こ と は 確 認 し て い る 。GSH 量 が 同 程 度 で あ っ た 理 由
は 明 ら か で は な い が 、GA 500 µM 処 理 細 胞 で は 小 胞 体 ス ト レ ス が 強 い た め に
GSH が unfolded proteins の 修 復 に 多 く 使 わ れ て い る こ と 、 MRP1 発 現 増 大 の
た め に GSH の 細 胞 外 へ 輸 送 が 促 進 さ れ て い る こ と 、膜 傷 害 に よ り GSH 漏 出
が起こっている可能性が考えられる。
以 上 の こ と か ら 、GA に よ る ス ト レ ス 応 答 機 構 の 誘 導 に Keap1/Nrf2 シ ス テ
ム の 関 与 が 示 唆 さ れ る 。Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 で は GA に よ る 細 胞 傷 害 の 亢
進 が 認 め ら れ ( Fig. 32)、 Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が 防 御 的 に 作 用 し て い る こ と
が 明 ら か に な っ た 。Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 種 々 ス ト レ ス に よ り 活 性 化 さ れ る
が 、小 胞 体 ス ト レ ス に よ り 活 性 化 す る メ カ ニ ズ ム に つ い て は 小 胞 体 ス ト レ ス
セ ン サ ー で あ る PERK の リ ン 酸 化 に よ り Keap1 が リ ン 酸 化 さ れ Nrf2 が 活 性
化されることが報告されている
76 )
。
第 2 章 で 示 し た よ う に 、GA 処 理 細 胞 で は PERK の リ ン 酸 化 が 認 め ら れ た 。
こ の こ と か ら 、PERK の リ ン 酸 化 が GA に よ る Nrf2 活 性 化 に 関 与 し て い る と
考 え ら れ る 。 本 章 で 得 ら れ た 結 果 の 推 定 機 構 を Fig. 34 に 示 す 。
62
Fig. 34
GA に よ る ス ト レ ス 応 答 機 構 の 誘 導
著 者 ら は 、糖 尿 病 性 神 経 障 害 治 療 薬 EPS の ド ラ ッ グ リ プ ロ フ ァ イ リ ン グ に
関 す る 研 究 を 行 い 、EPS が Keap1/Nrf2 シ ス テ ム を 活 性 化 す る こ と を 明 ら か に
している
74)
。GA に よ り 誘 導 さ れ る 細 胞 傷 害 は 、EPS に よ り 抑 制 さ れ た( Fig.
33)。 こ の 結 果 は 、 Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 し 防 御 作
用を示すことに一致する。
63
総括
糖尿病の合併症の中でも神経障害は比較的早期かつ高頻度に発症する合
併 症 で あ り 、そ の 発 症 メ カ ニ ズ ム は プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼ C の 活 性 化 、ポ リ オ
ー ル 経 路 、糖 化 反 応 な ど が 考 え ら れ て い る 。糖 化 反 応 は 血 中 グ ル コ ー ス と タ
ン パ ク 質 の 非 酵 素 的 な 反 応 に よ り 始 ま り 、HbA1 C の よ う な ア マ ド リ 化 合 物 の
形 成 を 経 由 し て 、 GA な ど の α-ヒ ド ロ キ シ ア ル デ ヒ ド や MG な ど の ジ カ ル ボ
ニ ル 化 合 物 を 生 成 す る 。 糖 化 反 応 は 最 終 的 に AGEs が 生 成 す る 反 応 で あ り 、
AGEs の 蓄 積 が 糖 尿 病 合 併 症 に 関 与 し て い る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 な か で
も GA 由 来 の AGE-3 は 、生 物 作 用 が 強 い こ と が 報 告 さ れ て い る 。現 在 ま で に 、
MG や AGEs は ミ ト コ ン ド リ ア を 傷 害 し 、 酸 化 ス ト レ ス を 介 し て ア ポ ト ー シ
ス を 起 こ す こ と が 報 告 さ れ て い る 。 一 方 、 GA の 影 響 に つ い て は 明 ら か に さ
れ て い な い 。そ こ で 本 研 究 で は 、末 梢 神 経 構 成 細 胞 で あ る シ ュ ワ ン 細 胞 を 用
い 、 GA の 影 響 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。
第 1 章 で は 、 GA が シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て 細 胞 傷 害 を 引 き 起 こ す こ と が 明
ら か に な っ た 。 GA の 細 胞 傷 害 能 は 、 MG な ど の ジ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 に 比 べ
て 強 か っ た 。 GA の 細 胞 傷 害 の 過 程 で は 、 ア ポ ト ー シ ス の 形 態 学 的 特 徴 で あ
る 細 胞 膜 構 造 の 変 化 、 DNA の 断 片 化 が 認 め ら れ た 。 さ ら に 、 生 化 学 的 特 徴
で あ る カ ス パ ー ゼ -3 の 活 性 化 が 認 め ら れ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 GA は シ ュ
ワン細胞のアポトーシスを誘導すると示唆される。
第 2 章 で は 、 GA に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 に つ い て 検 討 し た 。 ア ポ ト
ーシスは一般にミトコンドリア、小胞体、膜受容体を経由して誘導される。
GA に よ る ミ ト コ ン ド リ ア の 傷 害 お よ び ROS 産 生 の 増 加 は 認 め ら れ ず 、 MG
お よ び AGEs と は 異 な る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 が 存 在 す る と 考 え ら れ る 。一
方 、小 胞 体 ス ト レ ス セ ン サ ー で あ る PERK お よ び IRE1 の 活 性 化 と 、unfolded
proteins の 蓄 積 を 示 す オ ー ト フ ァ ゴ ソ ー ム の 形 成 が 認 め ら れ た 。 さ ら に 、 小
胞 体 ス ト レ ス 誘 導 ア ポ ト ー シ ス を 決 定 づ け る CHOP の 活 性 化 が 明 ら か と な
っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 GA は 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス を 惹 起
す る と 示 唆 さ れ る 。ま た 、Fas 受 容 体 mRNA の 増 大 や そ の 下 流 に 位 置 す る カ
ス パ ー ゼ -8 の 活 性 化 が 認 め ら れ 、 GA に よ る ア ポ ト ー シ ス に は 膜 受 容 体 を 介
64
する経路も関与していることが考えられる。
第 3 章 で は 、ス ト レ ス 応 答 機 構 に 対 す る GA の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。GA
に よ る 細 胞 傷 害 は 、GSH の 前 駆 体 で あ る NAC の 添 加 に よ り 抑 制 さ れ た 。NAC
の抑制作用は、小胞体ストレスおよびアポトーシスに対しても認められた。
GA 処 理 細 胞 で は 、 GSH 生 合 成 の 律 速 酵 素 で あ る γ-GCS の 発 現 誘 導 と 共 に 、
細 胞 内 GSH 量 は 上 昇 し た 。 ま た 、 GSH や GSH 複 合 体 の 輸 送 に 関 わ る MRP1
発 現 量 の 増 大 が 観 察 さ れ た 。さ ら に 、MRP1 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お い て 、GA
に よ る 細 胞 傷 害 の 増 強 が 認 め ら れ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 GSH は unfolded
proteins の 修 復 に 関 わ る と 共 に 、MRP1 と 連 携 し て GA に よ る 細 胞 傷 害 に 対 し
て防御的役割を担っていると考えられる。
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム は 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 の 中 心 的 役 割 を 担 っ て い
る 。γ-GCS や MRP1 の 発 現 誘 導 に 関 与 す る だ け で は な く 、様 々 な ス ト レ ス 応
答 タ ン パ ク 質 の 発 現 を 制 御 し て い る こ と が 知 ら れ て い る 。な か で も HO-1 は 、
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム に よ っ て 制 御 さ れ て い る 代 表 的 な ス ト レ ス 応 答 タ ン パ
ク 質 で あ る 。GA 処 理 細 胞 で は 、HO-1 の 発 現 量 は 顕 著 に 増 大 し 、ス ト レ ス 応
答 機 構 の 誘 導 を 示 し た 。そ こ で 次 に 、GA に よ る ス ト レ ス 応 答 機 構 の 誘 導 に 、
Keap1/Nrf2 シ ス テ ム が 関 与 し て い る 可 能 性 に つ い て 検 討 し た 。 GA 処 理 細 胞
で は Nrf2 の 活 性 化 が 認 め ら れ た 。 Nrf2 ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 に お い て 、 γ-GCS
の 発 現 誘 導 や GSH 量 の 増 大 が 抑 制 さ れ た 。こ の こ と か ら 、GA に よ る ス ト レ
ス 応 答 機 構 の 誘 導 に Keap1/Nrf2 シ ス テ ム の 関 与 が 示 唆 さ れ る 。さ ら に 、Nrf2
ノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 で は 、 GA に よ る 細 胞 傷 害 が 亢 進 さ れ 、 Keap1/Nrf2 シ ス テ
ムが防御的に作用していることが明らかになった。
以 上 よ り 、本 研 究 で は シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て GA は 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性
ア ポ ト ー シ ス を 惹 起 す る こ と 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 機 構 を 活 性 化 す る こ と を
明 ら か に し 、 こ の 推 定 機 構 を Fig. 35 に ま と め た 。
シ ュ ワ ン 細 胞 に お い て 、 GA は ① ア ポ ト ー シ ス を 引 き 起 こ す 。 こ の 過 程 で
は ② 小 胞 体 ス ト レ ス が 起 こ り 、小 胞 体 ス ト レ ス を 感 知 し た PERK、IRE1 の セ
ン サ ー が 活 性 化 さ れ 、 小 胞 体 内 腔 の unfolded proteins を 除 去 す る た め の オ ー
ト フ ァ ジ ー 機 構 が 働 く 。一 方 で 、③ ス ト レ ス 応 答 機 構 で あ る Keap1/Nrf2 シ ス
テ ム の 活 性 化 に 伴 い γ-GCS、 MRP1、 HO-1 が 誘 導 さ れ 、 GA に よ る ス ト レ ス
65
の 回 避 を 図 る 。 し か し 、 GA に よ る ス ト レ ス が ス ト レ ス 応 答 機 構 を 上 回 る た
め に CHOP の 活 性 化 が 起 こ り 、 ア ポ ト ー シ ス に 至 る と 推 察 さ れ る 。
糖 尿 病 性 神 経 障 害 の 発 症 メ カ ニ ズ ム に は 、シ ュ ワ ン 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス の
関与が示唆されている
36 )
。最 近 で は 、2 型 糖 尿 病 患 者 に お い て 膵 β 細 胞 の 生
細胞数が減少していることが明らかになってきている
5 6)
。この一因として、
小 胞 体 ス ト レ ス に よ る ア ポ ト ー シ ス が 注 目 さ れ て い る 。 GA に よ る 小 胞 体 ス
ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 、そ の ス ト レ ス 応 答 機 構 に 関 す る 本 研 究 の 成 果 は 、
GA を は じ め と す る 種 々 の 糖 化 反 応 生 成 物 が 小 胞 体 ス ト レ ス を 介 し て 糖 尿 病
合併症の発症や進展に影響を及ぼしている可能性を示すものである。
Fig. 35
GA に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 ア ポ ト ー シ ス 推 定 機 構
66
謝辞
本 研 究 を 行 う に あ た り 、終 始 親 身 に 御 指 導 、御 鞭 撻 を 賜 り ま し た 北 海 道 薬
科 大 学 公 衆・環 境 衛 生 学 分 野 丹 保 好 子 教 授 に 心 よ り 厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す 。
本 研 究 に 御 協 力 、御 助 言 を 頂 き ま し た 北 海 道 薬 科 大 学 公 衆・環 境 衛 生 学 分
野 立浪良介講師に深く感謝申し上げます。
さ ら に 、本 研 究 に あ た り 御 協 力 頂 き ま し た 北 海 道 薬 科 大 学 大 学 院 博 士 課 程
2年 山佳織氏、1年 村尾優氏に感謝いたします。
67
参考文献
1)
Diabetes Atlas 2012 update.
2)
Obrosova I. G., Curr. Diab. Rep., 3, 439-445 (2003).
3)
竹 内 正 義 , 北 陸 大 学 紀 要 , 28, 33-48 (2004).
4)
Sugimoto K., Nishizawa Y., Horiuchi S., Yagihashi S., Diabetologia, 40,
1380-1387 (1997).
5)
鈴 木 猛 志 , 岐 阜 薬 科 大 学 紀 要 , 57, 55-64 (2008).
6)
Jack M., Wright D., Transl. Res., 159, 355-365 (2012).
7)
Glomb. M. A., Monnier V. M., J. Biol. Chem., 270, 10017-10026 (1995).
8)
Wells-Knecht K. J., Zyzak. D. V., Litchfield J. E., Thorpe S. R., Baynes. J.
W., Biochemistry, 34, 3702-3709 (1995).
9)
Thornalley P. J., Langborg A., Minhas H. S., Biochem. J., 344, 109-116
(1999).
10)
Takeuchi M., Makita Z., Yanagisawa K., Kameda Y., Koike T. Mol. Med., 5,
393-405 (1999).
11)
Takeuchi M., Makita Z., Bucala R., Suzuki T., Koike T., Kameda Y., Mol.
Med., 6, 114-125 (2000).
12)
Takeuchi M., Yanase Y., Matsuura N., Yamagishi S., Kameda Y., Bucala R.,
Makita Z., Mol. Med., 7, 783-791 (2001).
13)
Anderson M. M., Hazen S. L., Hsu F. F., Heinecke J. W., J. Clin. Invest., 99,
424–432 (1997).
14)
Ota K., Nakamura J., Li W., Kozakae M., Watarai A., Nakamura N.,
Yasuda Y., Nakashima E., Naruse K., Watabe K., Kato K., Oiso Y.,
Hamada Y., Biochem. Biophys. Res. Commun., 357, 270-275 (2007).
15)
Li S. Y., Sigmon V. K., Babcock S. A., Ren J., Life Sci., 80, 1051-1056
(2007).
16)
Hsuuw Y. D., Chang C. K., Chan W. H., Yu J. S., J. Cell Physiol., 205,
379-386 (2005).
17)
Weinberg E., Maymon T., Weinreb M., J. Mol. Endocrinol., 52, 67-76
68
(2014).
18)
Du J., Suzuki H., Nagase F., Akhand A . A., Yokoyama T., Miyata T.,
Kurosawa K., Nakashima I., J. Cell Biochem., 77, 333-344 (2000).
19)
Sekido H., Suzuki T., Jomori T., Takeuchi M., Yabe -Nishimura C., Yagihashi
S., Biochem. Biophys. Res. Commun ., 320, 241-248 (2004).
20)
Eizirik D. L., Cardozo A. K., Cnop M., Endocr. Rev., 29, 42-61 (2008).
21)
Laybutt D. R., Preston A. M., Akerfeldt M. C., Kench J. G., Busch A. K.,
Biankin A. V., Biden T. J, Diabetologia, 50, 752-763 (2007).
22)
Kaufman R. J., Genes Dev., 13, 1211-1233 (1999).
23)
Gardner B. M., Pincus D., Gotthardt K., Gallagher C. M., Walter P., Cold
Spring Harb. Perspect. Biol., 5 (2013).
24)
Rutkowski D. T., Kaufman R. J., Trends Cell Biol., 14, 20-28 (2004).
25)
Logue S. E., Cleary P., Saveljeva S., Samali A., Apoptosis, 18, 537-546
(2013).
26)
Wang X. Z., Lawson B., Brewer J. W., Zinszner H., Sanjay A., Mi L. J.,
Boorstein R., Kreibich G., Hendershot L. M., Ron D., Mol. Cell Biol., 16,
4273-4280 (1996).
27)
Kensler T. W., Wakabayashi N., Biswal S., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol.,
47, 89-116 (2007).
28)
Kalyanaraman B., Redox Biol., 1, 244-257 (2013).
29)
Kansanen E., Kuosmanen S. M., Leinonen H., Levonen A. L., Redox Biol., 1,
45-49 (2013).
30)
Okita Y., Kamoshida A., Suzuki H., Itoh K., Motohashi H., Igarashi K.,
Yamamoto M., Ogami T., Koinuma D., Kato M., J. Biol. Chem., 288,
20658-20667 (2013).
31)
Brown B. E., Dean R. T., Davies M. J., Diabetologia, 48, 361-369 (2005).
32)
Morgan P. E., Dean R. T., Davies M. J., Arch. Biochem. Biophys., 403,
259-269 (2002).
33)
Ukeda H., Hasegawa Y., Ishi T., Sawamura M., Biosci. Biotechnol. Biochem.,
61, 2039-2042, (1997).
69
34) Odani H., Shinzato T., Matsumoto Y., Usami J., Maeda K., Biochem. Biophys.
Res. Commun., 256, 89-93 (1999).
35)
Al-Enezi K. S., Alkhalaf M., Benov L. T., Free Radic. Biol. Med., 40,
1144-1151 (2006).
36)
Sango K., Yanagisawa H., Takaku S., Kawakami E., Watabe K., Exp.
Diabetes Res., 2011, (2011).
37)
Dyck P. J., Giannini C., J. Neuropathol. Exp. Neurol. , 55, 1181-1193 (1996).
38)
Eckersley L., Int. Rev. Neurobiol., 50, 293-321 (2002).
39)
Oba T., Tatsunami R., Sato K., Takahashi K., Hao Z., Tampo Y., Environ.
Toxicol. Pharmacol., 34, 117-126 (2012).
40)
Miller A. G., Smith D. G., Bhat M., Nagaraj R. H., J. Biol. Chem., 281,
11864-11871 (2006).
41)
Okado A., Kawasaki Y., Hasuike Y., Takahashi M., Teshima T., Fujii J.,
Taniguchi N., Biochem. Biophys. Res. Commun., 225, 219-224 (1996).
42)
Kimura R., Okouchi M., Fujioka H., Ichiyanagi A., Ryuge F., Mizuno T.,
Imaeda K., Okayama N., Kamiya Y., Asai K., Joh T., Neuroscience, 162,
1212-1219 (2009).
43)
高 橋 恭 兵 , 立 浪 良 介 , 丹 保 好 子 , 薬 学 雑 誌 , 128, 1443-1448 (2008).
44)
Alikhani M., Maclellan C. M., Raptis M., Vora S., Trackman P. C., Graves D.
T., Am. J. Physiol. Cell Physiol., 292, C850-856 (2007).
45)
Chen B. H., Jiang D. Y., Tang L. S., Life Sci., 79, 1040-1048 (2006).
46)
Ishibashi Y., Yamagishi S., Matsui T., Ohta K., Tanoue R., Takeuchi M.,
Ueda S., Nakamura K., Okuda S., Metabolism, 61, 1067-1072 (2012).
47)
Yamagishi S., Inagaki Y., Okamoto T., Amano S., Koga K., Takeuchi M.,
Makita Z., J. Biol. Chem., 277, 20309-20315 (2002).
48)
Mercer N., Ahmed H., Etcheverry S. B., Vasta G. R., Cortizo A. M., Mol.
Cell Biochem., 306, 87-94 (2007).
49)
Berridge M. V., Tan A. S., Arch. Biochem. Biophys., 303, 474-482 (1993).
50)
Che W., Asahi M., Takahashi M., Kaneto H., Okado A., Higashiyama S.,
Taniguchi N., J. Biol. Chem., 272, 18453-18459 (1997).
70
51) Yamabe S., Hirose J., Uehara Y., Okada T., Okamoto N., Oka K., Taniwaki T.,
Mizuta H., FEBS J., 280, 1617-1629 (2013).
52)
Yim H-S., Kang S-O., Hah Y-C., Chock P. B., Yim M. B., J. Biol. Chem.,
270, 28228-28233 (1995).
53)
Kang J. H., Mol. Cells, 15, 194-199 (2003).
54)
Lee A. S., Trends Biochem. Sci., 26, 504-510 (2001).
55)
Kaufman R. J., J. Clin. Invest., 110, 1389-1398 (2002).
56)
Butler A. E., Janson J., Bonner-Weir S., Ritzel R., Rizza R. A., Butler P. C.,
Diabetes, 52, 102-110 (2003).
57)
Adamopoulos C., Farmaki E., Spilioti E., Kiaris H., Piperi C., Papavassiliou
A. G., Clin. Chem. Lab. Med., 52, 151-160 (2014).
58)
Towbin H., Staehelin T., Gordon J., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76,
4350-4354 (1979).
59)
Zhao H., Joseph J., Fales H. M., Sokoloski E. A., Levine R. L.,
Vásquez-Vivar J., Kalyanaraman B., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102,
5727-5732 (2005).
60) Kennedy M. C., Emptage M. H., Dreyer J. L., Beinert H., J. Biol. Chem., 258,
11098-11105 (1983).
61)
Plank D.W., Kennedy M.C., Beinert H., Howard J.B., J. Biol. Chem., 264,
20385-20393 (1989).
62)
Urano F., Wang X., Bertolotti A., Zhang Y., Chung P., Harding H. P., Ron
D., Science, 287, 664-666 (2000).
63)
Yanagitani K., Imagawa Y., Iwawaki T., Hosoda A., Saito M., Kimata Y.,
Kohono K., Mol. Cell, 34, 191-200 (2009).
64)
Gotoh T., Endo M., Oike Y., Int. J. Inflam., 2011 (2011).
65) Otoda T., Takamura T., Misu H., Ota T., Murata S., Hayashi H., Takayama H.,
Kikuchi A., Kanamori T., Shima K. R., Lan F., Takeda T., Kurita S., Ishikura
K., Kita Y., Iwayama K., Kato K., Uno M., Takeshita Y., Yamamoto M.,
Tokuyama K., Iseki S., Tanaka K., Kaneko S., Diabetes, 62, 811-824 (2013).
66)
Wu Y. B., Li H. Q., Ren M. S., Li W. T., Lv X. Y., Wang L., Cell Physiol.
71
Biochem., 32, 367-379 (2013).
67)
Lockshin R. A., Zakeri Z., Int. J. Biochem. Cell Biol., 36, 2405-2419 (2004).
68)
Xu X., Luo P., Wang Y., Cui Y., Miao L., J. Int. Med. Res., 41, 13-19 (2013).
69)
Malhotra J. D., Kaufman R. J., Antioxid. Redox signal., 9, 2277-2293 (2007).
70)
Fukunaga M., Miyata S., Liu B. F., Miyazaki H., Hirota Y., Higo S., Hamada
Y., Ueyama S., Kasuga M., Biochem. Biophys. Res. Commun. , 320, 689-695
(2004).
71)
Shi L., Yu X., Yang H., Wu X., PLoS One, 8 (2013).
72)
Griffith O. W., Anal. Biochem., 106, 207-212 (1980).
73)
Cole S. P., Deeley R. G., Trends Pharmacol. Sci., 27, 438-446 (2006).
74)
Sato K., Kaori Y., Murao Y., Tatsunami R., Tampo Y., Redox Biol., 2, 15-21
(2014).
75)
Sato K., Tatsunami R., Yama K., Tampo Y., Biol. Pharm. Bull., 36,
1111-1117 (2013).
76)
Cullinan S. B., Zhang D., Hannink M., Arvisais E., Kaufman R . J., Diehl J.
A., Mol. Cell Biol., 23, 7198-7209 (2003).
72
Fly UP