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光学リモートセンシングによる成層圏 エアロゾルおよびオゾンの研究

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光学リモートセンシングによる成層圏 エアロゾルおよびオゾンの研究
印字データ名:TENK6-8(0415)
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:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
〔解
作成日時:03.07.07 16:54
説〕
:
(エアロゾル(エーロゾル);オゾン I
LAS;リモートセンシング)
光学リモートセンシングによる成層圏
エアロゾルおよびオゾンの研究
―200
2年度堀内賞受賞記念講演―
林
田
佐智子
1.はじめに
ると共に周囲に硫酸が凝結成長して球形に戻ってゆく
この度気象学会から栄誉ある堀内賞をいただきあり
過程がみてとれます.
がとうございます.この受賞は私にとって大きな励ま
今でこそライダーの偏光解消度観測はポピュラーに
しとなりました.ここまでやってこられましたのも多
なっていますが,当時は観測例もまだ少ない時代でし
くの人たちの支えがあったからで,気象学会のみなさ
た.指導教官の岩坂泰信先生(現:名古屋大学太陽地
まには心から感謝致します.本日は私の研究内容をお
球環境研究所)の発案で偏光解消度の観測を始めた私
話する時間を与えていただきましたので,簡単にこれ
達は,このように火山噴火の前後における偏光解消度
までの私の研究について紹介します.
の時間変化を,世界で初めて系統的に明らかにするこ
とができました.ところが当時私はまだ博士課程の学
2.ライダーで得られた火山性エアロゾルの質的変
動
生で,岩坂先生は南極で越冬中でおられ,今と違って
電子メールもない時代でしたから全く議論もできない
受賞理由に挙げられた論文リストの最初の論文に掲
状況でした.1
9
8
4
年国際地球物理学・測地学連合学会
載されたこの図をまず紹介します
(第1図)
.この図は
(I
UGG)の会議がハンブルグ(ドイツ)で開催され,
当時大学院生として在学中の名古屋大学水圏科学研究
エルチチョン噴火に関するスペシャルセッションでこ
所のライダーで得られた観測結果で,後方散乱係数と
の結果を発表し,好評を得ました.ところがその成果
偏光解消度の時間変化を示したものです.19
82
年にメ
をプロシーディングスに投稿したところ出版されたの
キシコで大噴火を起こしたエルチチョン火山の噴火後
はメキシコの気象学会誌で,印刷技術がたいそう未熟
の成層圏エアロゾルの変化を示しています.よく知ら
でこの図表はゆがんでかすれて印刷されてしまい,以
れていますように,火山性の成層圏エアロゾルがエル
来この論文が日の目をみることはありませんでした 1.
チチョン火山噴火直後に急激に増大し,やがて次第に
それはともかくとして,ここで申し上げたいのは,
減少してゆくという過程が見て取れます.この図のプ
この図が成層圏エアロゾルの量的な変化だけでなく質
ロファイルに陰をつけて示しましたのは偏光解消度で
的な変化も示していることです.その意味で,私は今
す.偏光解消度とはライダーで
もってこの図には自
用されるレーザー光
の原点があると思っています.
の偏光の性質が散乱によって解消される割合で,散乱
岩坂先生の教えを受けた大学院時代以来,私が一貫し
体の非球形性を示す指標としてしばしば
て求めてきたものはエアロゾルにしろ,微量成 にし
用されま
す.この図で示されているように,噴火直後には火山
ろ,
単に量的な変化や輸送による 布の変化ではなく,
から噴出された鉱物粒子が混じっていたために偏光解
質的な変化・化学的な変質,化学的生成・消滅の過程
消度が高くなり,その後それらが重力沈降で除去され
です.これから紹介します一連の研究における問題意
奈良女子大学理学部情報科学科.
識もまさにそこにあります.
―20
03
年1月6日受領―
―20
03
年4月21日受理―
2
003 日本気象学会
2
003年 6月
1
第1図は「天気」解説からの再掲(林田,198
8)
.
3
印字データ名:TENK6-8(0416)
コメント
:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
416
作成日時:03.07.07 16:54
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
3.成層圏エアロゾル長期
変動の衛星データの解
析
名古屋大学で大学院時代を
過ごした後,国立環境研究所
に就職し,そこでもライダー
で成層圏エアロゾルの観測を
続 け て き ま し た が( e.
g.
,
Hayas
hi
da e
t al
.
, 1991,
Hayas
hi
da and Sas
ano,
19
9
3
),
それらの内容は省略し
て最近の研究成果に話を移し
たいと思います.19
94
年に奈
良女子大学へ移って最初に手
が け た の が SA G E Ⅱ
(St
r
at
os
phe
r
i
cAe
r
os
oland
GasExpe
r
i
me
ntⅡ)のデー
第1図
タを った成層圏エアロゾル
の長期変動の解析です.これ
名古屋大学水圏科学研究所のライダーでとらえられたエルチチョン火山
噴火後の成層圏エアロゾルの散乱比プロファイルと偏光解消度の時間変
化.横軸は散乱比,陰影は偏光解消度の大きさを表す(オリジナルは
84;林田 19
88より抜粋)
.
Hayas
hi
dae
ta
l
.
,19
は本音をいうと他にやれるこ
とがなかったからなのですが,そう言ってしまっては
3
8
0nm(=1
0 m)の4波長で消散係数の観測を行っ
おしまいですので,一応の研究の動機をお話しします.
ていますから,消散係数(σ )の波長依存性を調べる
気球観測で有名なワイオミング大学(米)の Hof
-
ことができます.波長依存性を示すオングストローム
(Hof
199
0)が,成層圏エアロゾルのバッ
mann
mann,
クグラウンドレベルが増加しつつあることを指摘して
以来,多くの関心が持たれてきました.
彼はエルチチョ
指数(α)は
=σ
σ (λ)
λ-α
ン火山噴火前の198
0年頃とピナツボ火山噴火直前の
のように定義され(ここで σ
19
9
0
年頃の気球観測データを比較解析し,バックグラ
す)
,大粒子が多ければオングストローム指数は小さ
ウンド時期の値が増加しているという傾向を指摘しま
く,小粒子が多ければオングストローム指数は大きい
した.Hof
(1
99
1)ではこの原因を航空機からの
mann
という関係があります.この研究では実際には誤差の
排ガスであろうと問題提起しました.
大きい3
8
0nm の消散係数は わず,他の3波長の消散
一方,Hi
(199
4)などを見ると,そ
t
chman e
ta
l
.
もそも成層圏エアロゾルは火山噴火の擾乱のみによっ
は定数,λは波長を示
係数からオングストローム指数を求めました.また,
データは月毎・緯度5度毎に平 しています.
て維持されていて,バックグラウンドレベルなどとい
第2図は1
9
8
5
年から9
9年までの,高度2
0km におけ
うものはないという見方もされています.そこで衛星
る消散係数(黒)とオングストローム指数(灰色)の
データから成層圏エアロゾルの長期変動を調べようと
時間変化を緯度帯毎に示しています(Hayas
hi
daand
えました.しかし,量的な変化だけではおもしろく
0
0
1
)
.一見して明らかなように,消散係
Hor
i
kawa,2
ないので,多波長の消散係数を併せて解析することに
数とオングストローム係数の間に負相関の関係,すな
よって粒径情報も得ようと解析を始めました.
わち,エアロゾル量が増えれば粒径が大きくなる,と
SAGEⅡは太陽掩
太陽掩
法を用いた衛星センサーです.
いう関係をみてとることができます.それぞれの図の
法とは太陽を地球の大気を通して見ることで
下には NASA の研究者の方式(Yue
1
9
9
9
)を って
,
光路中の吸収物質や散乱体による光の減衰を測定し,
求めた有効半径(e
)を比較のために示
f
f
e
c
t
i
ver
adi
us
それらの量を導出する手法で,それらの高度
布がわ
していますが,オングストローム指数とよく対応して
かることが利点です.SAGEⅡでは1
02
0,52
5,4
3
0
,
おり,オングストローム指数が粒径のよい指標である
4
〝天気"50.6
.
印字データ名:TENK6-8(0417)
コメント
:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
作成日時:03.07.07 16:54
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
第2図
417
SAGEⅡで観測された消散係数(黒)の時間変化.緯度毎に示す.灰色でオングストローム係数を併せ
て示す.下のパネルは Yue
(1
999
)の方法で求めた粒径 布から決めた有効半径(Hayas
hi
da and
01)
.
Hor
i
kawa,20
ことを裏付けています.有効半径の計算方法には粒径
がすでに報告していますが,我々の解析は単に消散係
布型(mono-modalか)の仮定が必要で
modalか bi
数が低い(エアロゾル量が少なくなっている)という
すが,オングストローム指数はもっと直接的な指標で
だけではなく,粒径も1
99
9
年のほうが小さいことを明
す 2.
らかにすることができました.これによって,1
9
9
0
年
第2図をみると19
90
年頃にはそれまでの火山の擾乱
時点がバックグラウンドと呼べる状況になく,それ以
がある程度おさまっているようにみえます.19
9
1
年の
前の火山噴火の影響下にあったことを重ねて明らかに
ピナツボ火山噴火で再び成層圏は大きな擾乱期とな
しました.また,バックグラウンド時期においても消
り,その回復に7年くらいを要しています.再びバッ
散係数
(エアロゾル量)
はゼロではなく,何らかのソー
クグラウンドと呼べる時期がきたのは1999
年頃です.
スによってバックグラウンドレベルが維持されている
ただし,その時にはバックグラウンドレベルは1
9
9
0
年
と見るのが妥当であると思います.
時期よりも下がっています.この2つの時期の比較か
一方,緯度高度 布から消散係数とオングストロー
ら Hof
(199
0)の指摘したバックグラウンドレベ
mann
ム指数の相関関係をみてみますと,時系列のみならず
ルの増加傾向は明瞭に否定できます.1990
年頃はネバ
空間 布にも同様の負相関関係がみられるということ
ドデルルイツ火山などの影響が残っており,実際には
がわかりました.ピナツボ火山で成層圏に発生した粒
バックグラウンド状態と呼べる状態になかったと え
子は熱帯で大きく成長し,中高緯度にむかって輸送さ
られます.このこと自体は Thomas
(1
9
9
7
)
one
ta
l
.
れるにつれてどんどん小さくなる(やせてゆく)とい
2
-modalのいずれ
Yueの方法では mono-modalと bi
かの仮定が必要なので,mono-modal
modalと bi
う変化をしています.この傾向は火山噴火直後の擾乱
期には顕著に見られ,第2図で示したように,ある緯
の両者の場合が描いてあるため線が2重に見えてい
度帯だけを取り出したときの時系列の負相関として現
る.
れます.しかし緯度高度 布からは,火山噴火の擾乱
2
003年 6月
5
印字データ名:TENK6-8(0418)
コメント
:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
作成日時:03.07.07 16:54
418
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
ています.しかし,冬季極域では Pol
arSt
r
at
os
phe
r
i
c
(PSC)と呼ばれる雲が発生し,重力落下するこ
Cl
oud
とが知られており,エアロゾルの下向き輸送は大きく
なります.PSCの重力落下によって成層圏が冬季後半
か ら 春 季 に か け て き れ い に な る 効 果 は“c
l
e
ans
i
ng
”
として知られています.PSCの中に含まれる硝
e
f
f
e
c
t
酸や水が大気中から失われることは脱窒・脱水として
知られていますが,
同時に硫酸も失われているわけで,
PSCの落下は物質循環という立場から見て,これらの
微量成 すべてにとって大きな下向きのポンプである
第3図
成層圏エアロゾルのライフサイクル.
(199
7)を元に作成.
Hami
l
l
といえます.一方,オゾン破壊という観点からみれば,
脱窒は活性塩素の不活性化を抑え 5オゾン破壊を促進
する大きな要素です.
が収まった期間についても,空間的な両者の負相関を
現在 PSCの組成として
えられているのは Super
-
みることができます.このことはバックグラウンドエ
c
ool
e
dTe
r
nar
ySol
ut
i
on(STS)と呼ばれる硝酸・硫
アロゾルの一生を
酸・水の3成 の液滴粒子や,硝酸三水和物(あるい
えるとき,輸送と粒子成長の関係
を示しているものとして注目できます 3.
は二水和物)
の NAT/
NAD 6です.さらに低温になる
第3図は米国サンノゼ大学の Hami
(1
99
7)のレ
l
l
といわゆるタイプ2と呼ばれる氷粒子が成長します.
ビューを基に作成したものですが,成層圏エアロゾル
STSは硫酸エアロゾルの連続的な熱力学成長から生
は熱帯圏界面から成層圏に流入したエアロゾルの起源
成されるので粒径は比較的小さく,重力沈降するまで
となる気体(カルボニルサルファイドやジメチルサル
に至るとは えられません.一方,飛行機観測ではか
ファイドなど)と核になるエイトケン粒子(半径0
.
1
ミ
な り 大 き な NAT 粒 子 の 存 在 が 報 告 さ れ て お り
クロン以下の微小粒子)から生成され,中緯度で凝結
(Fahe
2
0
0
1
)
,何らかのメカニズムで選択的な
ye
ta
l
.
,
成長しながら極向きに輸送され,最後は極に到達して
粒子成長が引き起こされて巨大 NAT ができ,重力落
沈降し対流圏に戻るように描かれています.ここでは
下によって脱窒を起こすと えられています.このよ
子午面輸送につれて粒子成長が進むように
えられて
うに PSCの組成を明らかにすることは脱窒を起こす
いますが,我々の解析結果では粒子は熱帯で成長し,
かどうかを決める重要な要素であり,現在多くの研究
中・高緯度に進むにつれて,成長すると言うよりはむ
者の関心を集めています.
しろ小さくなってゆくように見えています.現在私の
私は ADEOS(Advanc
e
d Ear
t
h Obs
e
r
vi
ng Sat
e
l
-
研究グループでは卒業研究生が SAGEⅡの最新バー
)に搭載されたセンサーの1つである I
l
i
t
e
LAS(I
m-
ジョン(ver
s
i
on6)を
って再解析を行っているとこ
)のサイエ
pr
ove
dLi
mbAt
mos
phe
r
i
cSpe
c
t
r
ome
t
er
ろです ので,近いうちにこの結果をもう少し定量的
ンスチームに参加し,エアロゾルの検証解析チーフと
にまとめることができると思います.成層圏エアロゾ
して7
8
0
nm の消散係数データの検証(Bur
t
one
ta
l
.
,
ルのライフサイクルは私のライフワークとも言える仕
1
9
9
9
;Hayas
0
0
0
hi
dae
ta
l
.
,2
b)とその科学的利用を
事で,これからも地道に取り組んでゆきたいと思って
中心に活動をしてきました
(Hayas
2
0
0
0
.
hi
dae
ta
l
.
,
a)
います.
この活動を通して PSCの発生頻度とその組成推定,
気
4
相中の硝酸量との対応などを調べることができまし
4.衛星からみた極成層圏雲の発生とその組成推定
た.この一連の研究は国立環境研究所の I
LASプロ
第3図で示されるように,成層圏エアロゾルは最終
ジェクトチーム並びにサイエンスチームメンバーとの
的には極域で沈降して対流圏へ輸送されることになっ
5
3
緯度高度 布の図表は未投稿につき割愛しました.
6
4
古谷望,2
002
年度卒業論文,奈良女子大学. 野政則
7
氏(京都大学学振特別研究員)の協力による.
6
Cl
O+NO → Cl
ONO の反応が抑えられる.
Ni
t
r
i
cAci
dTr
i
hydr
at
e/Ni
t
r
i
cAci
dDi
hydr
at
e
1)に詳しい解説が
I
LASの成果については笹野(200
ある.
〝天気"50.6
.
印字データ名:TENK6-8(0419)
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:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
作成日時:03.07.07 16:54
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
第4図
419
19
97年1月から3月に I
LASで観測さ
れた北極上空の PSCの発生頻度(Haya000
.
s
hi
dae
tal
.
,2
a)
共同研究であり,ここにあらためて謝意を表します 7.
I
LASは SAGEⅡ と 同 様 太 陽 掩
法の観測セン
サーで19
9
6年1
1月から19
97
年6月まで観測を行い,
7
8
0
nm 消散係数のほか,オゾン,硝酸,水蒸気など主要微
量成 を観測することに成功しました(e.
g.
, Sas
ano
1
99
8)
.ADEOSは極軌道衛星ですので観測点は
e
ta
l
.
,
両半球の高緯度に限られますが,極域の継続的な観測
が可能でした.1
997
年冬季には北極上空でオゾン破壊
が顕著におこっていましたので,私たちはオゾン破壊
と の 関 連 に 注 目 し て199
7年 1 月 か ら 3 月 の 北 極 の
PSC解析を行いました.
第4図は北極上空の19
96
・9
7年の冬季について PSC
の出現頻度の高度
布を描いたものです.また第5図
は1
9
97
年の1月から3月の各月の PSC発現の全イベ
ントの経度高度
布を赤丸で示したものです(Haya-
0
0a)
.この図においては,各月の最低
s
hi
dae
ta
l
.
,20
気温 布がカラーで示してあります.この年の極渦,
第5図
低温領域の発達は始まりはやや遅めですが比較的長く
持続したことで知られています.低温の出現領域で
PSCが顕著に発生していることがわかります.
このように PSCがいつどれだけどこに発生してい
たかについてはある程度の情報が得られた訳ですが,
1
99
7年1月,2月,3月の I
LASで観測
された PSCイベントの緯度高度断面図.
赤は全 PSCイベントを示す.
背景は各月
の最低気温を UKMO
(Uni
t
e
dKi
ngdom
Me
t
eor
ol
ogi
calOf
f
i
c
e)データを元に描
いたもの(Hayas
0a).
hi
dae
tal
.
,200
これらの PSCの組成については消散係数の大小だけ
からはわかりません.そこで I
LASで観測された消散
をできるだけ I
LASの観測値を用いて現実的に与えま
係数と硝酸のデータを気温ごとに整理し,熱力学平衡
した 8.NAT/
NADについては同様に熱力学平衡の式
の理論と比較しました(Hayas
00
.
hi
da e
tal
.
,20
b)
STSについては熱力学平衡モデル(Car
s
l
aw e
ta
l
.
,
8
推定に必要な硝酸全量,
硫酸量全量などをできるだけ
19
9
5
)から理論的に気温に対する粒子体積の計算を行
I
LASの観測値を用いて現実的に推定する工夫をし
ている.詳細は Hayas
(2
hi
dae
tal
. 000
a,b)や Sai
t
oh
いました.詳細は省略しますが,与える環境条件など
(2
002
)などを参照されたい.
e
ta
l
.
2
003年 6月
7
印字データ名:TENK6-8(0420)
コメント
:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
420
第6図
作成日時:03.07.07 16:54
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
1
99
7年1月中旬に観測された78
0-nm 消散係数(左)と気相中硝酸(右)の高度の20km での散布図.赤
線は STS,緑は NAD,青は NAT の粒子成長の理論的予測曲線を気温に対して描いたもの.赤線には
実線と破線が描いてあるが,体積を消散係数に換算する際の粒径 布の仮定の違いである.低温では実
線,高温(バックグラウンド条件下)では破線で解釈されるべきである(詳細は Hayas
000
hi
dae
tal
.
,2
bを参照).黒丸は PSCイベント,白丸はバックグラウンドエアロゾルに対応している.
を与え(Hans
)て理論的
onandMauer
s
ber
ge
r
,1988
な値を求めました.細かいところで STSの場合とや
や手法が異なりますが,基本的な
えは同じです.こ
のようにして各高度における気温と粒子成長の関係お
よび気相中の硫酸濃度との関係を,第6図のように組
成ごとに線で表すことができます.図中,赤は STS,
緑は NAD,青は NAT をそれぞれ示しています.観測
データをこの理論曲線と比較することで,観測された
0
0
0
PSCの組成を推定できます(Hayas
hi
dae
ta
l
.
,2
02
).
a,b;Sai
t
ohe
tal
.
,20
1
9
97
年の1月に観測された PSCの多くは,
このよう
な解析によってその組成が STSであったであろうと
推定できました.
そのような PSCプロファイルを見て
みると第7図のように消散係数の増大している高度で
気相中の硝酸濃度が減少するという明瞭な対応がしば
しばみられ,気相中の硝酸が粒子中に取り込まれてい
ることが示されました.
このように PSCの組成解析を進めていくうち,
一方
で1月の結果の中には STSではなく氷粒子があった
と指摘する研究が I
LASサイエンスチームのメンバー
である米国大気科学研究センター(NCAR)の Pan博
士から出されました(Pane
20
01
).彼女は I
ta
l
.
,
LAS
の水蒸気データは北極の1月後半から顕著な脱水を示
しており,脱水の契機になったのは1月後半に発生し
た氷粒子であろうという推論を導きました.しかし,
I
LASの水蒸気データには,PSCイベントの時には大
きなバイアスが含まれることが知られており(Yokot
a
8
第7図 PSCイベントの高度プロファイルの事
例.78
0-nm 消散係数と硝酸濃度を併せ
て描いた.T:気温,N:硝酸,E:消散
係数,
(a)19
97
年1月19日
(6
5.
8°
.6°
N,21
97年1月20日(6
5.9
.9°
E),(b)19
°
N,28
02)
.
E),(Sai
t
ohe
tal
.
,20
〝天気"50.6
.
印字データ名:TENK6-8(0421)
コメント
:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
作成日時:03.07.07 16:54
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
第8図
421
1
99
7年3月上旬に高度18km で観測された図6と同様の図で,左は780
-nm 消散係数,右は気相中硝酸を
示す.
2
00
2)
,取り扱いには十
e
ta
l
.
,
な注意が必要です.私
は2
0
01
年9月に NCARを訪問し,彼女と
々の議論
ようにみられます.ただし我々の解析後,Tabaz
ade
h
(2
0
0
1
)
e
ta
l
.
一核生成理論に反論(Knopfe
ta
l
.
,
を展開したのですが,結局1月にみられた PSCイベン
2
0
0
2
)が出され,これに対する新たな理論も提唱され
トのいくつかは STSと氷との mi
xt
ur
eであったであ
るなど(Tabaz
0
0
2
)
,NAT/
ade
he
ta
l
.2
NAD生成
ろう,という結論に落ち着きました.彼女が発表した
過程は未解決の問題として現在も論議をよんでいま
論文(Pane
01
)は北極で脱窒に先だって脱水
ta
l
.
,20
す.
が観測されたという論議を呼ぶ結果を導いています.
PSCの組成は特に脱窒の進行状況と関連して重要
ここで内容の詳細を議論することはできませんが,こ
であり,NAT の生成は結果としてオゾン破壊量を左
れに関する一連の討議の中で,我々は観測データの見
右します.I
LASのオゾンデータから Sas
ano e
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も開始しています 9.今後は化学反応モデルと衛星
うな脱窒が引き起こされたのは,NAT などの固体粒
データ解析を 合的に進めることで,PSCの発生と脱
子が成長し,重力落下によって大気中から除かれたた
窒,それらの化学的オゾン破壊過程への影響評価を行
めではないかと
うことができると えています.
えられます.第8図は2月中旬に得
られた先ほどと同様の気温と消散係数の散布図,およ
び気温と気相中の硝酸濃度の散布図です.この図をみ
5.おわりに
ると明らかにさきほどの1月中旬とは様相が異なり,
以上が私がこれまで行ってきた主な研究成果です.
NAD/
NAT の形成が示されています.これらの気温
奈良女子大学での研究は,研究室の学生達と共同して
履歴を調べてみますと,いわゆる氷の飽和温度(Ti
)
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行ったものです.今春(2
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2年)化学モデルの研究で
より低温にはなっておらず,氷を核とした不
一核生
博士号をとった香川晶子さん,PSCの解析研究をして
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いる博士後期課程の斎藤尚子さん,雨宮百合子さん,
す.さらに調べてみますと NAT 飽和温度をやや下回
博士前期課程の河瀬祥子さん,蒲生京香さん,芝田由
るあたりの低温を比較的長時間にわたって経験してい
香里さん,池田奈生さんや卒業研究生,SAGEⅡの解
たことがわかりました.Tabazadehe
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NAT が液滴粒子から
一核生成(homogeneous nu-
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on)で NAT に成長するという理論を示してい
ます.この解析で得られた結果はこの理論と整合して
おり,
一核生成による NAT の成長を支持している
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003年 6月
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印字データ名:TENK6-8(0422)
コメント
:
出力形式
:カラー出力(ブラック版)
作成日時:03.07.07 16:54
422
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
析を手がけた堀川真理子さんら卒業生の多くがこれら
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と一緒に受けた賞であることを申し添えたいと思いま
す.
また私がここまでやってこれましたのは大学院の指
導教官である岩坂泰信先生,気象学会会長の廣田 勇
先生,笹野泰弘さんをはじめとする国立環境研究所の
ライダーグループ,I
LASプロジェクトチーム,そして
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あってのことです.心から感謝いたします.ありがと
うございました.
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印字データ名:TENK6-8(0423)
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作成日時:03.07.07 16:54
光学リモートセンシングによる成層圏エアロゾルおよびオゾンの研究
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