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現代若者文化の位相と地域性(8)ファッションによる自己表現の規定要因
子ども・青年・中高年(2) 現代若者文化の位相と地域性(8)ファッションによる自己表現の規定要因 日本女子大学 木村絵里子 1 目的 本報告は,青少年研究会 2014 年調査にもとづき,現代における「ファッションは自分らしさを表現するアイ テムだ」という意識の規定要因を検証することを目的とする.1980 年代の消費社会論では,「ファッション」は 自己イメージを演出するための記号であり,自分の考え方やライフスタイルを表現するための重要な要素で あると捉えられてきた.同時に「見る/見られる」場として機能する都市空間は,このような自己演出との親和 性を高めた.セグメント化された都市や街は,特定のコードに従いつつ自分が何者であるかをファッションな どの商品(モノ)を用いて操作し,パフォーマンスが行われる「舞台」であったのである.しかし 2000 年代以降, 都市や消費空間の変容が指摘されるとともに,ファッションに対する見方も変わりつつある.都市は,情報や ショップが多く集まる「情報アーカイブ」となって「脱舞台化」し(北田 2002),さらに巨大ショッピングモールの ような「均一化された多様性」を有する消費環境が,郊外だけでなく都市部に,そして全国にも広がりつつあ る(若林 2013).こうしたなかで消費は,もはや切実なアイデンティティが掛けられる対象ではなくなったとの 指摘もなされている(近森 2014).ファストファッションの興隆もそれを裏付けるものであるだろう. 青少年研究会による 1992 年および 2012 年本調査における「ファッションは自分らしさを表現するアイテム だ」の肯定率は,81.2%(92 年)から 62.0%(12 年)に減じており(調査概要は http://jysg.jp/research.html), 先の舞台喪失,あるいは消費空間の変容などと何らかの関連があるものと思われる.ただ,この 20 年間で大 幅に減少しているとはいえ,その肯定率は6割を超えているのであり(2014 年調査も 2012 年調査と同程度の割 合),ファッションを通しての「自分らしさ」の呈示というものが完全になくなったわけではない.では,現代にお いてそれを規定するものとは,いったいなにか.時系列データがないため比較することはできないが,本報告 では,おおよその手掛かりをつかむ試みとして,ファッションによる自己表現の規定要因について考察する. 2 方法 青少年研究会 2014 年調査データを用いて(調査概要は第一報告を参照),まず「ファッションは自分らしさ を表現するアイテムだ」という意識と基本属性との関連,その他のファンションに関する意識・行動項目の割 合を確認する.次に「ファッションは自分らしさを表現するアイテムだ」を従属変数とする重回帰分析を行う. そのさい,説明変数として用いるのは,属性,都市度(DID 人口比率),ファッションに関する消費行動,趣味 項目,記号消費に関連するファッション意識・行動項目,友人関係に密接するファッション項目である. 3 結果 結果の一部,とくに「ファッションは自分らしさを表現するアイテムだ」の規定要因として効果のみられなかっ た項目を示しておくと,都市度(DID 人口比率),都市の繁華街へ出向くこと,近くのショッピングモールに遊 びに行くこと,そしてファッションの消費金額であった.つまり,現代的なファッションを通しての自己表現は, 必ずしも都市的経験に依拠するのではなく,また「ショッピングモール」という空間がそれを代替するのでもな いということが分かる.そして消費金額との関連がみられないように,ファッションに対するコミットメントに深み はなく,ある種のフラットな態度でもってなされていることが推察されるのである.当日は,関連のみられた項 目に加え,これらの詳細な考察について報告する予定である. 文献 近森高明, 2014, 「都市文化としての現代文化」『全訂新版 現代文化を学ぶ人のために』世界思想社:18-32 . 北田暁大, 2002, 『広告都市・東京』廣済堂出版(→2011『増補 広告都市・東京』筑摩書房). 若林幹夫, 2013, 「多様性・均質性・巨大性・透過性」『モール化する都市と社会』NTT 出版:193‐235. 319