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光学部品用金型加工向け超精密加工機の高速・高精度

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光学部品用金型加工向け超精密加工機の高速・高精度
博士学位論文
光学部品用金型加工向け超精密加工機の高速・高精度化
に関する研究
Study on improvements of high-speed and high-accuracy
for ultra-precision machine tool in machining mold for optical component
指導教官 森本喜隆 教授
2016 年
3月
金沢工業大学
大学院 機械工学専攻
廣瀬 智博
Tomohiro Hirose
目
次
目次
第1章
1.1
緒論
1
本研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1.1.1 超精密加工の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1.1.2 光学レンズと超精密加工の歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
1.1.3 光学分野における超精密加工用途 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.1.4 光学分野における超精密加工への要求の変化 ・・・・・・・・・・・・10
1.1.5 超精密加工機に求められる性能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
1.2
本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
1.3
加工対象とする金型形状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
1.3.1 軸対称非球面形状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
1.3.2 自由曲面形状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
1.4
第2章
本論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
21
2.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
2.2
案内方式および駆動方式の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
2.2.1 案内方式の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
2.2.2 駆動方式の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2.2.3 除振装置の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
2.3
超精密 5 軸加工機の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
2.4
基本性能の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
2.4.1 除振性能の確認 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
2.4.2 静的性能の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
2.5
NC 内部情報を利用した位置決め性能の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・38
2.5.1 位置決め性能評価法の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
2.5.2 加工動作における位置決め性能評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・40
2.6
第3章
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
機上形状計測装置の高精度化と性能評価
49
3.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
3.2
ピックアップレンズ用金型に求められる形状精度 ・・・・・・・・・・・・52
3.3
形状測定の対象となる金型形状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
3.4
機上形状計測装置の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
3.4.1 機上形状計測装置の設置方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
3.4.2 機上形状計測装置の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
ii
3.4.3 機上形状計測装置の測定原理と解析方法 ・・・・・・・・・・・・・・59
3.4.4 機上形状計測装置の校正方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
3.5
機上形状計測装置の性能評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
3.6
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
第4章
軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
67
4.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
4.2
切削加工による性能評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
4.2.1 工作物形状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
4.2.2 機上形状計測装置を用いた工作物の補正加工 ・・・・・・・・・・・・68
4.2.3 工作物形状の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
4.2.4 測定専用機との工作物形状の比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・74
4.3
研削加工による性能評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
4.3.1 砥石摩耗量を考慮したピックアップレンズ用金型の加工 ・・・・・・・75
4.3.2 切込み量と砥石摩耗量の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77
4.3.3 工作物形状の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
4.4
第5章
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
非回転工具を用いた自由曲面形状加工による超精密加工機の性能評価
85
5.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
5.2
非回転工具による切削加工法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87
5.2.1 非回転工具による自由曲面形状の加工法 ・・・・・・・・・・・・・・87
5.2.2 工作物の形状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88
5.2.3 工作物の加工条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
5.2.4 加工動作における位置偏差の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・90
5.3
工作物加工精度による性能評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
5.3.1 形状精度の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
5.3.2 表面粗さの評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93
5.3.3 加工時間の比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95
5.4
第6章
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96
レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
99
6.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
6.2
レンズアレイ金型の加工方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108
6.2.1 ツールレイアウトの検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108
6.2.2 工具経路の算出方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110
iii
目次
6.2.3 加工動作の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
6.3
工作物加工結果と加工性能評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113
6.3.1 加工形状と加工順序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113
6.3.2 工作物の形状補正方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116
6.3.3 形状精度の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118
6.3.4 表面粗さの評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122
6.3.5 ピッチ精度の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 125
6.3.6 工具刃先の摩耗評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128
6.4
第7章
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129
結論
7.1
133
本研究の結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 134
本学位論文に関する研究論文および国際会議講演論文等一覧
137
謝
143
iv
辞
記号一覧
p-v :設計値に対する誤差の最大差
Ra
:算術平均粗さ nm
f
:送り速度 mm/min
V
:切削速度 mm/min
D
:工作物の直径 mm
SR
:工作物の半球径
m
mm
Rtip :工具刃先半径 mm
dc
:切込み量
m
Pf
:ピックフィード
Pr
:1回転あたりの工具の送り量
m
m/rev
PE :位置偏差の量 nm
Sd
:スポット径 nm
l
:レーザの波長 nm
NA :レンズの開口数
K
:軸対称非球面形状式における円錐係数
C
:軸対称非球面形状式における曲率半径の逆数
Cn :軸対称非球面形状式における非球面係数
KX:自由曲面形状における X 軸方向の円錐係数
KY:自由曲面形状における Y 軸方向の円錐係数
CX:自由曲面形状における X 軸方向の曲率半径の逆数
CY:自由曲面形状における Y 軸方向の曲率半径の逆数
A2i:自由曲面形状における非球面係数
B2i:自由曲面形状における非球面係数
:標準偏差
vi
第1章
緒
論
第 1 章 緒論
1.1 本研究の背景
1.1.1 超精密加工の定義
精密とは,工業的には工作物の持つ寸法の正確さを定義する言葉である.また,精密とは比
較を表す言葉でもあり,一般の加工法に比べて精度の高い加工を高精度加工と呼ぶ.さらに高
い加工精度を有するものを超精密加工と呼ぶが,これらには厳密な領域は無い.
1993 年発行の井川氏の報告 1)では,超精密加工は形状精度数 m 以内,表面粗さ数百 nm と
記述している.この報告から 20 年以上が経過し,その後の工作機械の高精度化によって,こ
の定義は変化している.図 1.1 は各時代における加工限界を示す.縦軸に総合加工精度,横軸
には年代を示している.これより,時代が進むに従い,各加工限界が高精度化していることが
明らかである.言い換えれば,数十年前では超精密加工と呼ばれていた加工精度は,現在では
精密加工レベルで実現できると言える.この考え方から現在の超精密加工は 0.01 m 以下の加
工単位で行なうものと解釈することができる.精密加工は一般的な加工法で実現できるのに対
し,超精密加工は工作機械,測定技術,補正加工などを統合した特別な技術が必要とされてい
る 2).
超精密加工を達成できる手段としては,切削加工,研削加工の他,イオンビームなどの高エ
ネルギを用いた除去加工が挙げられる.本論文での超精密加工とは,切削加工あるいは研削加
工を用いて形状精度 p-v(Peak to Valley)値 0.1 m 以下,表面粗さ 5nm Ra 以下の工作物を得るこ
とを目的とした除去加工と定義する.
この定義に従えば,超精密加工による代表的な工業部品として,光学用レンズ,光学用ミラ
ーなどの光学部品の加工やこれら部品の金型加工が挙げられる.次節では,光学レンズの歴史
と超精密加工機の歴史について述べる.
2
100
Total machining accuracy
m
10
1
0.1
0.01
0.001
0.0001
1900
1920
1940
1960
1980
2000
Year
Fig.1.1 Ultra-precision machining limit3)
3
第 1 章 緒論
1.1.2 光学レンズと超精密加工の歴史
超精密加工部品の一例としては光学レンズ用金型が挙げられる.光学レンズの歴史は古く,
紀元前から存在していたとされており古代ローマ遺跡からはガラス球の結晶が発見されてい
る.また,イタリア・ナポリ近郊にあった古代都市ポンペイの遺跡からは平凸レンズが発掘さ
れている 4).時代が進み中世 17 世紀になると屈折式望遠鏡が発明され,ハーグの国際司法裁判
所の公文書に,その特許の申請がされたことが記載されている.
表 1.1 に米国と日本における光学レンズと超精密加工技術の歴史をまとめた年表を示す 5).
工業製品を作成する試みは 1940 年代の米国から始まったとされている.このときの用途は投
影式テレビの受像用レンズとしての収差の無い広角レンズの開発であり,高精度の旋盤とダイ
ヤモンド工具を組合わせる手法が採用された.ダイヤモンド工具による非鉄金属の鏡面切削の
有効性が認識されると実用化に向けた研究開発が盛んに行なわれるようになった 6).ここで開
発された技術は,レーザ用鏡筒,放物面反射鏡,小型撮像管用電極などに応用されている.
1960 年代からは,実用化に向けて基本的な現象の解析,要素技術開発が実施され,軸受,ス
ピンドル,案内方式,制御方法およびその関連技術が研究対象となった 7) 8).その結果,多孔質
軸受を利用したエアスピンドル,減衰比 1:20 の振動絶縁マウント,高精度室温制御システムが
開発された.
1980 年代からは,航空,宇宙および軍需用途として数多くの研究開発が行われ,工作機械,
機械要素や制御技術の研究,加工現象の研究が行われた 9~15).
一方,1960 年代の日本では自国での開発はなく,海外より輸入した機械要素を工作機械に搭
載する程度であったとされている.1970 年頃になると自国での研究開発の必要性が唱えられる
1980 年代に研究機関にて工作機械の高精度化に関する研究が行われている 16) 17).
ようになり,
さらに,1986 年 12 月に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によるプロジェク
トが開始され,豊田工機(株),(株)不二越,(株)ニコンやキヤノン(株)など国内の民間会社 18 社
が参画し,レーザ加工機用金属ミラー加工装置の開発のために必要な超精密加工機械,超精密
加工機械要素技術,計測技術および超平滑研磨加工技術などの研究が行われた 18).その後,こ
れらの技術はハードディスク,ポリゴンミラーなどの機器部品加工に応用されるように至って
いる.
一般家庭用の機器の代表として,コンパクトディスク用ピックアップレンズの小型化,高精
度化を例に挙げる.コンパクトディスクの歴史は,1965 年にアメリカの発明家が音楽用光学メ
ディアテクノロジーを発明したことに始まる.その後,ソニー(株),Royal Philips で光ディスク
の開発が行われ,1982 年にソニー(株),(株)日立製作所,日本コロムビア(株)から世界初の CD
プレーヤーが発売されている.図 1.2 に,コンパクトディスクに記録された情報を読み取るた
めのピックアップレンズの移り変わりを示す 19).(a)では,半導体レーザをコリメートレンズに
よって平行光とし,この平行光の間に偏光ビームスプリッタを入れることで光路の分離と信号
4
の検出をしている.これに対し(b)では,カップリングレンズと集光用の対物レンズを 1 つの複
合レンズとすることで,光学系を簡略化し調整の容易化を図っている.また,この光学系を採
用することで光学系の長さを短くすることが可能になり,装置全体の小型化を図ることができ
る.しかし,球面レンズには収差があり,光を 1 点に集光することができない.当初のピック
アップレンズは,凹凸レンズを複数枚組合わせて収差による影響を緩和していたが,複数のレ
ンズを用いることから光学系は大型になり,費用がかさむことになった.
そこで,(c)では複合レンズを非球面単レンズとすることで小形化且つ薄形化および費用の抑
制を図っている.球面レンズは球面の創成原理によりカーブジェネレータと呼ばれる装置を用
いて機械的機構のみで高精度な加工が行なえたことから大量生産が可能であった 19).一方,非
球面形状の加工は,機械的な運動機構による加工動作では実現できないため,数値制御による
超精密加工機が必要となった.
後にコンパクトディスクは使用するレーザの波長を変えることに加え,レンズの形状を変更
し高精度化することでレーザスポット径を小さくすることにより記憶密度を高密度化させ,
DVD,Blu-ray と CD とディスクのサイズを同じにしながら記憶容量を増加させている.これら
歴史背景より,光学部品の小型化には超精密加工技術の進化が強く影響していると言える.
超精密加工機を製造する工作機械メーカの歴史として(株)不二越を例に挙げる.(株)不二越
では,1970 年から紡績用の高速回転スピンドルとして空気軸受の研究開発を開始していた.
1975 年には,超精密機械要素として油静圧軸受の研究に着手している.1984 年には超精密加
工機を取り扱う事業部を発足し,1987 年より国家プロジェクトに参画,1989 年から CNC 超精
密旋盤の販売を開始し,現在に至っている 20).この他,1980 年代には国内の工作機械メーカよ
り多くの CNC 超精密旋盤が発売された 21)∼
23).
5
第 1 章 緒論
Table 1.1 History of optical components and ultra-precision machine tool
6
Beam splitter
Optical Disc
Object lens
Semiconductor laser
Collimator lens
(a) Spherical lens module
Cemented lens
(b) Compound lens
Aspheric lens
(c) Aspherical lens
19)
Fig.1.2 Evolution of pickup lens
7
第 1 章 緒論
1.1.3 光学分野における超精密加工用途
現代の光学部品用金型の加工では超精密加工機と呼ばれる高精度な工作機械を用いて切削
加工および研削加工が用いられている.切削加工の場合,単結晶あるいは多結晶のダイヤモン
ド工具を用いて無電解ニッケルめっき層を切削する 24).無電解ニッケルメッキは,めっき皮膜
中に微量の非金属元素を含み,硬度が高く耐食性と耐摩耗性に優れ,ピンホールも発生しにく
いことから切削加工用の金型において最もよく用いられる表面処理である 25).
さらに金型の研削加工では微小なダイヤモンドを砥粒に用いた回転砥石を使い,超硬金型に
対して研削加工を行なうことで目的の形状精度と表面粗さを得る.このように超精密加工機は,
高い形状精度を必要とする光学部品や光学部品用の金型の加工を目的として研究開発が行な
われてきた 26), 27) .
図 1.3∼図 1.5 に超精密加工によって得られた光学部品を組み込んだ製品の一例を示す.一
般家庭用途では,図 1.3 に示すデジタルカメラ用レンズや,図 1.4 に示す DVD をはじめとする
光ディスクのピックアップレンズに代表される軸対称非球面レンズが挙げられる.業務用途で
は,図 1.5 に示すレーザプリンタ内部に設置されたレーザビーム走査用の f-q レンズに代表さ
れる自由曲面レンズの金型加工や Hi-Vision や 4K と呼ばれる超高画質放送用のカメラレンズ
が挙げられる.
現在,主流となっているレンズにはプラスチックレンズとガラスレンズが挙げられる.プレ
スチックレンズは,成型技術の発達により大量生産が可能となったことでその利用が拡大して
いる.プラスチックレンズは,主にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:通称アクリルガラス)
を材料としている.この材料は,軽量であり安価で製造が可能であることから小型のデジタル
カメラ用のレンズモジュールや光ディスクのピックアップレンズに用いられている.ガラスレ
ンズはプラスチックレンズに比べ硬く,環境変化の影響を受けにくいことから高画質用途のカ
メラレンズなどに用いられている.ガラスレンズは,研削・研磨により製作が行われていたが,
加工が難しく大量生産は困難であった.現在では非球面金型を用いたガラスレンズの成形法の
技術開発により,ガラスモールドレンズもプラスチックレンズと同様に飛躍的に普及している
26).
8
Fig.1.3 Example of optical lens application: Camera lens
Fig.1.4 Example of optical lens application: Pickup lens
Fig.1.5 Example of optical lens application: f- lens29) 30)
9
第 1 章 緒論
1.1.4 光学分野における超精密加工への要求の変化
超精密加工機に対する要求は時代とともに変化している.ここではデジタルカメラ用レンズ
を例に挙げてその変遷をたどる.デジタルカメラは 1975 年に世界初のデジタルカメラが開発
された.1994 年にカシオ電算機(株)より発売された QV-10 は,デジタルカメラの存在と利便
性を市場に認知させた.情報化社会の発展に伴いデジタルカメラが広く普及し,撮影画像の高
画素化が進んだ.その後,1999 年から 2000 年にかけて携帯電話にカメラモジュールが搭載さ
れるようになり,筐体の小形化に合わせカメラレンズの小径化が進んだ.当初の携帯電話に搭
載されたカメラモジュールの撮影画素数は縦 120×横 96 ピクセル程度であったが,携帯電話
のモデルチェンジに合わせるように撮影画素数は増加している.
2010 年代に入るとスマートフォンに代表されるタブレット端末の普及により,レンズは小型
化とより一層の高精度化が進み,2014 年頃には 12 メガピクセルの撮影が可能になった.さら
には,スマートフォンの筐体には表裏二面に用途に異なるカメラモジュールがそれぞれ搭載さ
れるなど,レンズモジュールの需要は増えている.
この光学部品用の金型は,p-v 値 0.1 m 以下の高い形状精度と 5nm Ra 以下の良好な表面粗
さが要求されていることに加え,安価で大量生産を可能にする Wafer Level Casting 法によるレ
ンズモジュールの製造の検討が進められている
31), 32)
.スマートフォンやタブレット端末に搭
載されるレンズは一眼レフカメラレンズと比較すると非常に小さく,従来のカメラレンズが
20∼ 80mm 程度であったのに対し, 1.5mm 程度と極めて小さくなっている.また光学系を
構成しているレンズの枚数は 3∼6 枚程度に納められおり,レンズ枚数の少ない光学系を用い
て色収差を除去する必要があるため,良好な形状精度を有するレンズが必要とされる.このレ
ンズは金型による量産が行なわれることから,レンズ金型にも良好な形状精度に加えて,レン
ズウェハの積層時にレンズの芯合わせを行なうための良好なピッチ間隔を保有するレンズア
レイ金型が必要とされている.
次に,ピックアップレンズモジュールの変遷について述べる.ピックアップレンズでは,DVD
と同じ外径寸法でありながら 5 倍以上の記憶容量を持つ Blu-ray ディスクの登場と普及が挙げ
られる.表 1.2 に DVD および Blu-ray の規格,ピックアップレンズの仕様および成形用金型の
仕様について示す. Blu-ray ディスク用のピックアップレンズは,従来のピックアップレンズ
よりも開口数 NA =0.85 と高い開口数を持つため,
この金型には±70°の接触角まで p-v 値 40nm
以下の良好な形状精度が必要とされている 33).
これらの金型は, 1.5∼ 4mm 程度と小径のレンズ金型であることから,これまでのレンズ
製造工程で実施してきた磨き作業が困難になってきている.磨き工程を行なうことで形状精度
が劣化してしまうことから研削加工および切削加工にて形状精度だけでなく 5nm Ra 以下の良
好な表面粗さが求められるようになった.
一方,自由曲面形状の高精度加工の要求も増えてきている.近年では,プロジェクタ用ミラ
10
ーレンズの他,自動車用のヘッドアップディスプレイやヘッドライトの金型加工など,金型の
寸法が 100mm×100mm を超える超精密金型加工としては大型の金型加工が増えてきている.
これらの中には,数年前まではマシニングセンタで加工が行なわれていた金型もあるが,形状
精度と表面粗さの向上に対する要求から,超精密加工機による加工が実施されている.
さらに近年では,鉄系材料の精密加工方法としてダイヤモンドバイトと楕円振動切削法を用
いた精密切削加工の研究が行われている 34) 35).この加工では,工具に楕円振動を付加すること
ですくい面上での摩擦力の方向を反転し,切粉の排出を促進している.この楕円運動を正確に
得るために真直度,位置決め精度および輪郭精度の高い工作機械が必要とされている.
つまり,近年の超精密加工機には 2mm 以下の軸対称非球面金型の加工から,金型の寸法が
100mm×100mm を超える自由曲面形状金型の加工まで実現できることが求められ,さらに工
作物の精度は形状精度 p-v 値 0.1 m 以下,表面粗さ 5nm Ra 以下が求められている.
Table 1.2
Specifications of lens mold, lens and optical disc standard33)
11
第 1 章 緒論
1.1.5 超精密加工機に求められる性能
従来の超精密加工機の一例を図 1.6 に示す.図 1.6 は,(株)不二越製の超精密自由曲面加工
機 NanoAsper ASP01X である.
この工作機械の主な仕様を表 1.3 に示す.
ASP01X の軸構成は,
直交する三軸の直動軸と工作物を保持する主軸に加え,Y 軸周りの旋回軸の B 軸テーブルを備
えている.また,X 軸テーブル上には,機上にて工作物形状を測定し,補正加工を行なうため
の機上形状計測装置が取付けられている. X 軸,Y 軸および Z 軸には油静圧案内構造に油静
圧ねじ駆動機構 36)が用いられており,軸対称非球面形状金型の旋削加工が可能である他,工具
スピンドルを追加することで軸対称非球面形状の研削加工が可能である.さらに X 軸テーブル
上に主軸と直交する工具スピンドルを追加することにより f- レンズ等の自由曲面形状金型の
フライカットが可能である.
この超精密加工機の最大送り速度は f=300mm/min であるが,最大送り速度におけるテーブル
の輪郭制御の誤差は 30∼50nm 程度であり,最大送り速度において良好な加工結果を得ること
はできない.また,フライカットでは回転刃による断続切削のため, 回転刃の一回転あたりの
送り量が大きくなると光学レンズ用金型に求められる形状精度と表面粗さを確保することが
できない.このため,光学用途の加工では実質的に f=100mm/min 以下に抑え,輪郭制御の誤差
を 10nm 以下とした良好な輪郭制御を確保した上で加工を行なう必要がある.このため,この
超精密加工機を用いた工作物の超精密加工では,工作物の加工時間が長時間におよぶ問題が挙
げられる.近年の大型化が進む自由曲面形状の工作物の加工では,加工時間が数日から数週間
におよぶため,工作機械が設置された雰囲気の室温の変化や床面の振動等の外乱が工作物の形
状精度に影響を与える.一般的には,フライカット工具の回転数を高めることにより加工時間
の短縮を狙うが,スピンドルの発熱による姿勢変化や振動が加工に影響を与える.また,フラ
イカットは断続切削であることから工具摩耗が発生し,形状精度や表面粗さの確保が難しい問
題が挙げられる.このため,工具スピンドルの回転数向上に頼らない新しい高速加工方法が必
要となる.
この問題を解決するため,本研究では非回転工具を用いた自由曲面形状のシェーパ加工によ
る高速切削加工を提案する.シェーパ加工はフライカット法とは異なり回転工具を用いないこ
とから送り速度は工具の旋回速度に制限を受けない.シェーパ加工では送り速度を高くするこ
とで金型の生産性を高くすることができる.しかし,超精密加工では工具の輪郭精度が工作物
に転写されるため,超精密加工機には高速送りにおいて高い輪郭精度を維持することが求めら
れるが,従来の超精密加工では高速送りにおいて輪郭精度を得ることができない.
さらに Blu-ray ディスク用ピックアップレンズ金型では形状精度 p-v 値(peak to valley:設計
形状からの最大誤差)40nm 以下の高い形状精度が求められる.一般的な工作機械の位置決め精
度は,スケール分解能の 10 倍程度と言われている.この工作機械の直動軸用スケール分解能
は 1.4nm と一般的な工作機械と比較すると高分解能であるが,Blu-ray 用の金型加工では分解
12
能は不足している.
また,Blu-ray 用の金型加工において,要求された形状精度を達成するには,
工作機械上にて工作物の形状を測定し,補正加工を行なう工作物形状の補完システムが必要で
ある.これまでの超精密加工機では機上形状計測装置を搭載し工作物形状を補完するシステム
を搭載していたが,形状測定範囲および測定再現性が Blu-ray 用の金型の仕様に対して不足し
ている問題があった.
これより,光学部品用金型の高速高精度加工を実現する超精密加工機には,少なくとも
f=1000mm/min 以上において金型の加工が可能な状態である輪郭制御誤差 10nm 以下の高い輪
郭精度を確保する必要があり,輪郭精度の確保のため位置決め精度は数ナノメートル程度が必
要と考えられる.また,超精密加工では工具軌跡が工作物に転写されることから,工具―工作
物間の振動を抑制するためのシステムが必要である.
さらに,良好な形状精度を持つ工作物を得るために工作物形状の高精度な測定と補正加工を
1800
実現するための高精度かつ広範囲の測定が可能な機上形状計測装置の設置が求められる.
Fig.1.6 Conventional ultra-precision machine tool
13
第 1 章 緒論
Table 1.3 Main specifications of conventional ultra-precision machine tool
Item
Max. workpiece size
X axis
Z axis
Y axis
B axis
Workspindle
14
Specifications
00mm
Bearing
Oil-rubricated Hydrostatic slide
Drive
Oil-rubricated Hydrostatic screw
Stroke
250mm
Resolution
1.4nm
Max. Feed
300mm/min
Bearing
Oil-rubricated Hydrostatic slide
Drive
Oil-rubricated Hydrostatic screw
Stroke
200mm
Resolution
1.4nm
Max. Feed
300mm/min
Bearing
Oil-rubricated Hydrostatic slide
Drive
Oil-rubricated Hydrostatic screw
Stroke
70mm
Resolution
1.4nm
Max. Feed
180mm/min
Conterweight
Air cylinder
Bearing
Oil-rubricated Hydrostatic slide
Drive
Direct drive motor
Max. Speed
2min
Bearing
Aerostatic bearing
Drive
Direct drive motor
Max. Speed
1500min
-1
-1
1.2 本研究の目的
本研究では,小型高精度化および大型化が進む光学部品用金型の加工要求に対し,従来の超
精密加工機と同等の形状精度 p-v 値 0.1 m 以下,表面粗さ 5nm Ra 以下を有する工作物を従来
の半分以下の加工時間で得ることを実現するため,f=2000mm/min,スケール分解能 0.01nm 以
下の高速・高精度位置決めが可能な超精密加工機の開発を行なう.また,補正加工に必要な機
上形状計測装置についても測定範囲±75°において測定再現性 40nm 以下を実現する高精度化
を試みる.
本研究の進め方として,開発した超精密加工機の基本性能評価と高精度化した機上形状計測
装置の測定性能の評価により開発した超精密加工機の有効性を検証する.さらに従来の超精密
加工では困難であった工作物形状の中から,大型の自由曲面形状金型と小径のレンズが規則的
に整列したレンズアレイ金型の高精度加工について新たに提案する加工法を用いた工作物の
加工を実施し,形状測定および表面粗さの測定結果から開発した超精密加工機について評価を
行なう.
15
第 1 章 緒論
1.3 加工対象とする金型形状
1.3.1 軸対称非球面形状
光学レンズは収差の影響を少なくするため,図 1.7 はレンズの断面形状を示している.図 1.
7 のようにレンズの断面は非球面形状をしており,軸対称非球面形状式により形状を定義する
ことができる.レンズ金型の形状は次式にて表される.
Z
CX
1
1
1
2
2
K C X
2
C2 X 2
C4 X 4
Cn X n
(1.1)
ここで,Z:光軸方向の座標[mm],X:光軸と垂直方向の座標[mm], K:円錐係数,C:曲率半
径の逆数[mm-1],Cn:非球面係数,n:非球面係数の次数を表している.軸対称非球面形状の加
工では, X 軸の座標における Z 軸の座標を求めることで加工に必要な NC プログラムを作成
することができる.超精密加工における非球面形状の加工は,NC 制御装置の直線補間機能に
よる微小線分を連結した軌跡を指令値とした加工を採用している.
Z
X
Fig.1.7 Example of axisymmetric aspherical lens; sectional form
16
1.3.2 自由曲面形状
自由曲面とは次の自由曲面多項式で表され,図 1.8 のように主断面方向と副断面方向の曲率
が異なる非球面形状である.
Z
CX X 2
1
1
CY Y 2
2
1 K X CX X 2
(1.2)
2
1 K Y CY Y 2
A2 i 1 B2 i X 2
1 B2 i Y 2
i
ここで,Z:光軸方向の座標[mm],X:走査方向の座標[mm],Y:副断面方向の座標[mm], KX,
KY:円錐係数,CX,CY:曲率半径の逆数,A2i,B2i:非球面係数,i:非球面係数の次数を表してい
る.
Y
X
Z
Fig.1.8 Example of free-form surface lens
17
第 1 章 緒論
1.4 本論文の構成
本論文は,第 1 章に緒論として超精密加工の定義を示した.また光学部品の用途および工作
機械の歴史として米国および日本における光学部品の用途と超精密加工機の研究事例につい
て示した.さらに,近年における超精密加工および超精密加工機の課題を示し,高速高精度な
位置決めが可能な超精密 5 軸加工機の開発を試みることを本研究の目的として示した.
第 2 章では,開発した超精密 5 軸加工機の概要と主な仕様を示し,基本性能の評価として真
直度と位置決め精度の評価を行なう.また,性能評価方法として NC 内部情報を用いた評価方
法を示す.この評価方法を用いて,テーブルの送り速度と輪郭精度の関係を示し,従来の超精
密加工機の送り機構である油静圧ねじ駆動との比較を行う.
第 3 章では,超精密加工に必要な補正加工において,工作機械の機上にて工作物の形状測定
が可能な機上形状計測装置について測定範囲の拡大と測定精度の向上を試みる.本章では,改
良した機上形状計測装置を用いて基準球の連続測定における測定再現性の確認による機上形
状計測装置の性能評価を行なう.
第 4 章では,開発した超精密 5 軸加工機と機上形状計測装置の基本的な性能を,軸対称非球
面形状の工作物の切削加工および研削加工を実施し,工作物形状を評価することで工作物形状
の補完システムを含めて行なう.さらには,研削加工時における砥石摩耗に起因した形状誤差
を解決するため,機上形状計測装置を用いた砥石摩耗量の解析と砥石摩耗量の予測による補正
加工を実施し,高精度な工作物の形状を得ることを試みる.
第 5 章では,開発した超精密 5 軸加工機の評価を,非回転工具による自由曲面形状の高速切
削加工方法の提案とそれに基づく工作物加工結果により行なう.
さらに第 6 章では,高速多軸同期加工の機能を用いた新しい切削加工の提案を行なう.この
加工方法を用いてレンズアレイ金型の切削加工と工作物の形状および表面粗さの評価により
超精密 5 軸加工機の総合的な評価を行なう.
最後に第 7 章では,本研究の結論を示し,今後の本研究の展望について述べる.
18
参考文献
1) 井川直哉,最近の超精密機械加工技術,精密工学会誌,59,1(1993) 19.
2) 櫻井好正,津和秀夫,徳丸英勝,舟久保熙康,宮澤清人,精密工学序説,コロナ社,初版
第 4 刷,1993.
3) 丸井悦男,超精密加工学,コロナ社,初版第 6 刷,2012.
4) Eugene Hecht 著,尾崎義治・朝倉利光訳,ヘクト光学Ⅰ―基礎と幾何光学―,丸善株式会
社,第 1 版第 4 刷,2002.
5) 庄司克雄,吉田隆,超精密加工と非球面加工,エヌ・ティー・エス,初版,2004.
6) Baruch A. Fuchs,P. Paul Hed,and Phillip C. Baker,Fine diamond turning of KDP crystals,
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Journal Bearing,Journal of Lubrication Technology,October (1976)629.
9) R.R. Donaldson,D.C. Thompson , Design and Performance of a Small Precision CNC Turing
Machine,Annals of the CIRP,35,1(1986) 373.
10)M. Weck,M. Schmidt,A new method for determining geometric accuracy in the axis of movement
of machine tools,Precision Engineering,8,2(1986) 97.
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Production Research,24,4(1986) 825.
12)O. Masory,Improving Contouring Accuracy of NC/CNC Systems With Additional Velocity Feed
Forward Loop,Journal of Engineering for Industry,108,August (1986)227.
13)R. A. Jones and R. L. Plante,Rapid fabrication of large aspheric optics,Precision Engineering,
9,2(1987)65.
14)P. B. Leadbeater,M. Clarke,W. J. Wills-Moren and T. J. Wilson,A unique machine for grinding
large, off-axis optical components: the OAGM 2500,PRECISION ENGINEERING,11,4(1989)191.
15)Robert A. Jones,Fabrication of a large, thin, off-axis aspheric mirror,OPTICAL ENGINEERING,
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16)吉川勇二,半浮上空気静圧すべり面の開発とその特性,高精度,9,1(1979) 1.
17)木下博雄,金井宗統,出口公吉,斉藤忠男,空気浮上式高速 XY ステージの試作,精密工
学会誌,52,10(1986) 47.
18)超先端加工システム技術研究組合,超先端加工システム技術研究組合の歩み,平成 7 年 3
月.
19
第 1 章 緒論
19)岡崎之則,特集:光ディスクのピックアップ・最新動向 3.部品点数を減らした光ピック
アップ,O plus E,アドコムメディア株式会社,1986 年 3 月.
20)株式会社不二越,プレシジョン部門における超精密へのとり組み概要,PGS-C01-004F,2007
年 5 月.
21)鈴木 弘,非球面の超精密加工,日刊工業新聞社,機械技術,第 35 巻,第 9 号.
22)新潟順治,非球面加工機用 CNC 超精密旋盤,日刊工業新聞社,機械設計,29,14(1985) 73.
23)大園和美,超精密 NC 旋盤の開発,日刊工業新聞社,機械技術,第 35 巻,第 9 号.
24)山形 豊,超精密切削加工とそのアプリケーション,精密工学会誌,74,12(2008),1278.
25)氷上克之,カニゼン法,金属表面技術,5,5(1958),pp13-17.
26)河合知彦,蛯原健三,山本明,リニアモータ駆動の超精密 5 軸ナノ加工機,精密工学会誌,
72, 4 (2006) 435.
27)田中克敏,福田将彦,覚張勝治,鈴木清,植松哲太郎,超精密加工機の高精度化の研究,
砥粒加工学会誌,51, 9 (2007) 482.
28)次世代の超精密加工技術編集委員会,次世代の超精密加工技術(下巻),産業技術サービス
センター,1994.
29)メレスグリオ株式会社 HP,URL:http://www.cvimgkk.com/,2014.10.閲覧.
30)スマホ向け量産技術,日経産業新聞,2013-7-19,朝刊,p.1.
31)大阪教育大学 HP,http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~takayuki/,2015.10. 閲覧.
32)中條博則,リフロー対応カメラモジュール最新動向,電子ジャーナル,2009.
33)小川博司,田中伸一,図解 ブルーレイディスク読本,オーム社,第 1 版第 3 刷,2007.
34)社本英二,鈴木教和,森脇俊道,直井嘉和,楕円振動切削加工法(第 4 報)-工具振動制御シ
ステムの開発と超精密切削への適用-,精密工学会誌,67, 11(2001), pp1871-1877.
35)Yilong Wang and Eiji Shamoto,Elliptical Vibration Cutting of Hardened Steel with Large Nose
Radius Single Crystal Diamond Tool,International Journal of Automation Technology,8,6(2014),
pp820-826.
36)水本洋,超精密工作機械の位置決め技術について,Nachi-Fujikoshi Technical Report,4,
A1(2004).
20
第2章
超精密 5 軸加工機の開発
と基本性能評価
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
2.1 緒言
静圧ねじ駆動方式を用いた従来の超精密加工機による自由曲面形状金型の超精密加工法と
してフライカットが挙げられる.フライカットは,回転刃による断続切削であるため送り速度
f=100mm/min 程度に限定され,要求精度を達成するためには多くの加工時間を要する.例えば,
幅 100mm,高さ 5 mm 程度の f- レンズ用金型を Pf=20 m,Rtip=5mm にてフライカットで加工
すると,4 時間以上要することになる.この加工法では,工作物の大型化に伴う加工時間の長
時間化により,室温の変化による工作機械や冶工具類の熱変形が金型の形状精度に与える影響
が懸念される.
さらに,平面金型上にレンズ形状が規則的に整列したレンズアレイ金型の加工など複雑な金
型形状の加工の需要が高まっていることから,超精密加工の高速化が必要とされている.そこ
で,f=2000mm/min を持つ高速・高精度な位置決め性能を有し,金型の形状精度が p-v 値(peak
to valley)0.1 m 以下となる加工を実現する超精密加工機の開発を行なう.
本章では,開発した超精密 5 軸加工機の構造を示し,加工点近傍における静的な機械精度の
評価を行なう.また,動作時における位置決め性能の評価方法の提案と,提案に基づく評価結
果を用いて従来の超精密加工機との比較評価を行なう.
22
2.2 案内方式および駆動方式の検討
2.2.1 案内方式の検討
単結晶ダイヤモンドを切削工具に用いる超精密切削加工では,工作機械の運動軌跡が工作物
表面に転写される.このため光学レンズ金型を含む超精密加工を要する部品加工では,工作機
械の案内面を良好に保ち真直度の劣化による形状精度の悪化を防ぐ必要がある.これまでの超
精密加工機では,高い真直度や位置決め精度を得るために空気静圧軸受や平行に並べた 2 本の
V 型の案内溝と転がり案内とを組み合わせた V-V 転がり案内などテーブルの案内機構に特長
を持つ機械が多い 1).表 2.1 に工作機械に用いられる案内方式の種類を示す 2).
一般的な工作機械に用いられる案内方式として転がり案内,滑り案内が挙げられる.転がり
案内は,直動テーブルもしくは主軸や回転テーブルと支持面の間を玉,ころ,ニードルと呼ば
れる転動体が接触しながら支持する形式であり,もっとも安価な支持方式である.この支持方
式によって得られる真直度は 0.5 m/100mm 程度である.図 2.1(a)に転がり案内で得られる真
直度の例を示す.真直度には転動体の出入りにともなう微小なうねりが発生することから工作
物には微小なうねりが転写されてしまう.さらに,転動体の出入りに伴う摩擦の変動の影響も
あり,スティックスリップと呼ばれる滑りと固着の連続運動が発生する.また,ロストモーシ
ョンが発生するため位置決め精度は 0.2 m 程度が限界であり光学金型加工用の超精密加工機
の案内方式として不適である.
滑り案内方式は,V 字状または平状に加工されたレールの上をテーブルが摺動する.レール
とテーブルの間は粘度の高い潤滑油を供給し,案内面とテーブルのかじりを防止する.この滑
り案内の真直度の例を図 2.1(b)に示す.滑り案内では転がり案内とは異なり図 2.1(a)に示した
転動体の出入りに伴う微小なうねりの発生はなく,得られる真直度は 0.3 m/100mm 程度と転
がり案内よりも良好な真直度が得られるが,転がり案内と同様にスティックスリップが発生す
るため位置決め精度は 0.1 m 程度が限界であり,開発する超精密加工機の案内方式としては適
切とは言えない.さらに転がり案内および滑り案内方式では,摩耗による案内面の真直度の低
下が起こるため定期的な保守が必要である.
このため,直動軸の案内には流体軸受の案内方式を採用することにした.流体軸受では金属
接触が無いことから摩擦も少なく,スティックスリップが発生しないことから,1nm 単位の位
置決めが可能になる.さらに流体軸受の案内方式では真直度は,平均化効果により案内面以上
の真直度を得ることができることから 0.1 m/100mm 以下の真直度を得ることができる.図
2.1(c)に示すように真直度を示す曲線は例として挙げた 3 種類の案内方式の中で最も緩やかな
曲線を描く.
流体軸受には気体や油を用いた軸受があり,動圧方式と静圧方式に分けることができる.図
2.2(a)∼(d)に動圧軸受と静圧軸受の概略について示す.図 2.2(a)および(c)に示す動圧軸受は,
運動中のテーブルまたは回転体と案内面の微小隙間に流体が入り込み発生する力によって物
23
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
体を支持する方式である.圧力源が不要である一方で,運動速度によって発生する力が異なる
ため移動と停止を繰り返す直動軸では,テーブルの姿勢変化につながることから,直動軸の支
持方式としては適切とは言えない.図 2.2(b)および(d)に示す静圧案内は,軸受外部の圧力源か
ら供給された流体によりテーブルを支持する方式であることからテーブルの姿勢も安定する.
軸受には空気を用いた気体軸受と油を用いた油軸受が挙げられる.気体軸受では高速運転が
可能であるが剛性が低く負荷容量も小さい.気体軸受において剛性を確保するために気体供給
圧を上げるとニューマチックハンマと呼ばれる振動が発生するため,得られる剛性には限度が
ある.
このため,剛性の確保が必要な直動軸には油を軸受流体に用いた油静圧案内を採用し,支持
質量の少ない主軸軸受には空気静圧案内を採用した.油静圧案内は,油温の変化による超精密
加工機の変形問題が挙げられるが,近年は±0.001℃以下の油温制御が可能になってきており,
この問題を回避できることから油静圧案内が開発する超精密加工機の直動軸の案内方式とし
て最適であると判断した 3) 4).
Table.2.2 Structure of the oil rubricated hydrostatic slide
Rolling
Sliding
guideway guideway
Hydro bearing
Air bearing
dynamic
static
dynamic
Static
Magnetic
bearing
Accuracy
○
○
○
◎
〇
◎
〇
Load capacity
◎
◎
〇
◎
×
〇
△
Static stiffness
◎
◎
〇
◎
×
〇
△
Damping
×
○
◎
◎
△
△
△
High-speed rotation
△
△
×
△
〇
◎
◎
Thermal stability
〇
△
×
△
◎
◎
◎
Serviceability
◎
×
〇
△
〇
△
○
Machine life
△
△
△
◎
△
◎
◎
Machine cost
◎
△
〇
×
△
×
×
◎:Excellent ○:fine △:good ×:bad
24
0.5 m/100mm
(a) Ball bearing guideway
0.3 m/100mm
(b) Sliding guideway
0.1 m/100mm
(c) Oil-rubricated hydrostatic guideway
Fig. 2.1 Schematic view of straightness
25
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
Spindle
Spindle
V
V
Small gap
Pressure
(a) Dynamic spindle
P
(b) Static spindle
P
V
Table
Table
Small gap
Slide base
Slide base
Puressure
(c) Dynamic slide
(d) Static slide
Fig.2.2 Structure of dynamic slide and static slide
26
2.2.2 駆動方式の検討
従来の超精密加工機では,旋削加工を想定した f=1~10mm/min 程度での輪郭精度を重視し,
駆動源にボールねじ駆動や油静圧ねじ駆動を用いた研究開発が行われてきた 1) 5)~10).
一般的な工作機械の駆動方式として,ボールねじ駆動が挙げられる.ボールねじ駆動と転が
り案内を組み合わせることで低コストかつ高性能の位置決めシステムを容易に構成すること
ができる.ボールねじ駆動は現在では f=60m/min を達成しており,高速送りを実現することが
できる.一方でボールねじ駆動では,転がり案内同様にスティックスリップが発生するため位
置決め精度は 0.1 m 程度が限界であるとされている.
次に,油静圧ねじの構造を図 2.3 に示す.油静圧ねじは油静圧案内と同様に,おねじとめね
じの微小隙間に高圧の潤滑膜が介在する構造であり,金属接触が無いことから,高精度な位置
決めが可能である.ねじのリードを調整することにより 0.2nm 程度の位置決めを達成している
報告がある一方で,高速送りが困難であることが指摘されている 11).
近年の工作機械では,制御装置の処理速度の高速化により,高い輪郭精度を維持しながら高
速送りが可能なリニアモータを採用する工作機械が増えてきている 12),13).そこで,本研究にお
いて,新規に開発する超精密加工機の駆動源には高速駆動が望めるリニアモータ駆動を採用す
ることとした.図 2.4 にリニアモータ駆動を採用した直動軸の概要を示す.直動軸では,リニ
アモータを油静圧案内の中央に配置している.リニアモータの種類には大きな推力を得ること
ができるコア付型と滑らかな運動が期待できるコアレス型が挙げられる.高速化のためには大
きな推力を得たいが,コギングトルクによる送りムラの発生を抑えるためにコアレス型のリニ
アモータを採用した.油静圧案内とリニアモータ駆動を位置決めシステムに採用することによ
り,低速送りから高速送りまで幅広い速度域において精密な位置決めが期待できる.
また,回転軸の駆動方式では,カップリングなどのばね構造体を介すことなくモータの駆動
力を直接主軸に伝えることができるダイレクトドライブモータを採用することとした.ダイレ
クトドライブモータの採用により,回転軸の角度制御時において高精度な角度制御が期待でき
る.
27
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
Screw
Nut
Fig.2.3 Structure of oil rubricated hydrostatic screw
Slide table
Hydrostatic source
Guide
Drain
Linear motor
Fig.2.4 Structure of oil rubricated hydrostatic slide with linear motor
28
2.2.3 除振装置の検討
超精密加工では,工具と工作物間に伝達される変位量が工作物表面に転写される.光学金型
では,成形により金型の形状と模様がレンズ表面に転写されるため,光学性能に影響を及ぼす
ことから,超精密加工機ではあらゆる振動を取除くことが求められる.その振動の一つとして
床面から伝達する振動が挙げられる.幹線道路や鉄道等に隣接する工場では往来する車両の振
動が床面を通して工作機械の加工点に伝達される.このため,光学部品を扱う工場は,幹線道
路や鉄道から離れた山奥などの岩盤上に建設し,工場の柱などの構造物から絶縁された専用の
床面に工作機械を設置することが望ましい.しかしながら,現在の日本やアジア諸国では埋立
地など地盤の弱いところや幹線道路沿いに立地せざるをえない場合もあり,超精密加工機の設
置に最適な条件が整うとは限らない.また,工場設備から発生する振動が工場の床面を通して
工作機械に伝達される場合も考えられる.そこで,超精密加工では除振装置を用いることで工
作機械に伝わる外乱振動を除去している.
多くの超精密加工機および精密用途の装置には,空気ばねを用いて機械本体を支持し,伝達
される振動の低減を行なうパッシブ型の除振装置が用いられる.しかし,パッシブ型除振装置
では除振性能から除去できる振動に限界がある.例えば,テーブルの移動に伴い工作機械に姿
勢変化が生じ,姿勢変化による振動が加工点に伝達されると考えられる.この内的な振動を取
除くためには,振動発生の要因であるテーブルの送り速度を低速とし,加工を低速で行なうが,
高速加工を実現するためにこの内的な振動の除去が必要となる 14).
そこで,この超精密 5 軸加工機にはアクティブ型の除振装置を採用することとした.アクテ
ィブ型の除振装置は,床振動や機械本体の揺れをセンサにて検出し,空気ばねに送り込まれる
空気量をサーボバルブにて制御することで振動抑制を行っている.これにより,効果的に振動
を低減することができることから高精度な加工が期待できる.さらに除振台の構造を懸垂型の
構造とし,機械の低重心化を図り重心位置と除振装置の支持位置を近づけ,振動に強い構造と
することとした.
29
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
2.3 超精密 5 軸加工機の概要
図 2.5(a)に開発した超精密 5 軸加工機の外観を示し,図 2.5(b)にその軸構成を示す.また,
この超精密 5 軸加工機の主な仕様を表 2.2 に示す.軸構成は,主軸と直交する三軸の直動軸を
構造の基本としている.B 軸テーブルは,バイトホルダを設置し軸対称非球面金型の切削加工
を行なう際に工具旋回軸として使用する他,研削砥石やドリルといった回転工具を使用する際
には工具スピンドルを設置することができる.工作物を保持する主軸は,無限回転機能に加え,
角度割出し制御が可能な C 軸として使用できる.さらに X 軸テーブル上には,機上形状計測
装置を設置し,前章にて示した式(1.1)および式(1.2)に従い,工作物の形状測定,形状誤差解析
および補正加工用の NC プログラムの作成といった一連の工程を工作物の着脱なく機上にて
行うことが可能である.また,X-Z 平面における工具の刃先位置調整や Y 方向における工具の
位置調整に使用できる顕微鏡を 2 台設置している.これらを石定盤上に設置し,アクティブ型
の除振装置上に設置している.
X 軸,Y 軸および Z 軸の直動軸には油静圧案内とリニアモータ駆動とし,垂直方向に運動す
る Y 軸にはテーブル質量を支持するための空気圧式のバランスシリンダを付加している.工具
旋回軸の B 軸には,直動軸と同様に油静圧軸受を用い,ダイレクトドライブ型 AC サーボモー
タを組み合わせた.
主軸には空気静圧軸受とダイレクトドライブ型 AC サーボモータを採用し,
これら二軸とも金属摩耗による精度劣化の無い構造としている.
30
(a) Outline of Nano Aspher ASP01UPX
Balance cylinder
Y axis table
Main spindle
(C-axis)
Microscopes
Z axis table
B axis unit
X axis table
On-machine
measurement
unit
Active vibration
isolation unit
Y
Z
X
Granite base
(b) Structure of Nano Aspher ASP01UPX
Fig. 2.5 Developed ultra-precision 5-axis machine tool
31
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
Table 2.2 Main specifications of ultra precision 5-axis machine tool
Specifications
Item
Max. workpiece size
X axis
Z axis
Y axis
B axis
C axis
(Workspindle)
Bearing
Oil-rubricated hydrostatic slide
Drive
Linear motor drive
Stroke
350mm
Min. reference
1nm
Resolution
0.034nm
Max. feed
2000mm/min
Bearing
Oil-rubricated hydrostatic slide
Drive
Linear motor drive
Stroke
300mm
Min. reference
1nm
Resolution
0.034nm
Max. feed
2000mm/min
Bearing
Oil-rubricated hydrostatic slide
Drive
Linear motor drive
Stroke
170mm
Min. reference
1nm
Resolution
0.034nm
Max. feed
2000mm/min
Conterweight
Air cylinder
Bearing
Oil-rubricated hydrostatic slide
Drive
Direct drive motor
Min. reference
0.0001degree
Resolution
0.000018degree
Max. speed
Bearing
30min
Aerostatic bearing
Drive
Direct drive motor
Min. reference
0.0001degree
Resolution
0.000018degree
Max. speed
1500min
Machine size
Mahine weight
32
200mm
-1
-1
W
D
H
2335 ×1830 ×2000 mm
6000kg
2.4 基本性能の評価
2.4.1 除振性能の確認
アクティブ型除振装置の効果を確認するため,特許機器(株)製の微振動計測器 MRA-06X を用い
て工作機械を設置した床面の振動を入力とし,B 軸テーブル上を応答とする Y 軸方向の伝達特性の
測定を行った.事前評価として,アクティブ制御を行わないパッシブ状態において除振装置の固有
振動数の測定を行ない 5.5Hz という結果を得ている.図 2.6 にアクティブ状態の伝達特性を示す.
伝達関数の 40∼90Hz の範囲に見られる A∼C で示したピークのうち,A および B は,コヒーレ
ンス値が高いことから床面の振動が影響していると思われる.一方, C は A および B と比較
してコヒーレンスが低いことから,機械と同一床面に設置された機械付属の装置から発生する
振動が空気配管や油静圧案内の配管を介して B 軸テーブル上に伝わっていると考えられる.図
よりアクティブ制御状態において,2Hz から 100Hz の周波数帯域では伝達関数は 0dB 以下に抑えら
れており,アクティブ除振装置の効果が得られていると言える.
図 2.7 に工作機械の床面と B 軸テーブル上における Y 軸方向の振動を比較したトリパタイトグラ
フを示す.トリパタイトグラフは,各周波数に対する変位,速度および加速度を一つのグラフで表し
ている.パッシブ状態における B 軸テーブル上の変位は,固有振動数である 5.5Hz 以降の周波数に
おいて,床面の変位に対し低減していることから除振されていることがわかる.しかし固有振動数
付近の 2~8Hz の範囲では,床面の変位よりも B 軸上の変位が大きく,除振装置によって加振されて
いる.このことから従来の工作機械に用いられてきたパッシブ型除振装置では振動を十分に除去で
きていないことがわかる.一方,アクティブ制御の状態では,測定を行った 2Hz 以降のすべての周
波数において床面の変位よりも B 軸上の変位が抑えられている.この時の B 軸上の振動は,微細
加工の振動環境指針として利用される振動評価曲線(VC)において,電子顕微鏡や半導体露光装
置など精密な装置に求められる環境基準である VC-E 基準に抑えられている 15).
このことから,アクティブ型除振装置により加工点に伝わる外部振動を抑制できていること
が分かり,床振動の除去に有効な手段であることが分かる.
33
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
Fig.2.6 Transfer function with active control by vibration isolation unit
34
10
10
m
10μ
-41
m
Displacement [ nm∼μm ]
1μ
nm
Floor 床上
100
装置上(除振台:パッシブ状態)
B-Axis : Non-Active Control (Passive)
B-Axis装置上(除振台:アクティブ状態)
: Active Control
10
10
-52
10
10
-63
10
10
-74
10
10
-85
1e
-2
m
10n
1e
-3
1nm
1e
-4
Acceleration [ m/s2 ] ( = 100 [ Gal ] )
Velocity mm/s
Velocity [ m/s ] ( = 100 [ cm/s ] )
VC-E
pm
100
1e
-5
pm
10
-8
-96
RMWF0004.6cf
RMWF0002.6cf
RMWF0004.3cf
10
10
1Hz
1
1e
-8
1e
-6
1
e10Hz
10
Frequency [ Hz ] 7
Frequency Hz
100Hz
100
AVG MODE=PKH OVER LAP=75%
Fig.2.7 Comparison of table vibration and floor vibration
35
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
2.4.2 静的性能の評価
開発した超精密加工機の静的性能評価として油静圧案内の真直度の測定を実施し,測定結果を図
2.8 に示す.測定はテーブル上にガラス製の直定規を設置し,静電容量型変位計を対向させて距離の
変化を測定している.図 2.8 は,加工点近傍における X 軸の X-Z 平面におけるテーブル変位測定結
果を示している.測定ではテーブルを案内面の前端より一定の速度で移動させ,ストローク端にて
反転動作を行なっている.この結果,真直度は 0.05 m/100mm となった.転がり案内の場合の真直度
は 0.5 m/100mm 程度であることから,油静圧案内の有効性が検証された.さらに転がり案内では,
案内面の摩耗による真直度の劣化が発生するが,油静圧案内は金属接触がないことから摩耗による
真直度の劣化はない.図 2.8 では,テーブルの送り方向を反転させても往路と同様の挙動を示すこと
から,反転動作時においても姿勢変化が少ないことを示している.このことからこの超精密加工機
では,工具−工作物間の距離変化が少ないことが期待できる.
次に,X,Y,Z 軸の各軸におけるステップ送りの挙動測定結果を図 2.9,図 2.10 および図
2.11 に示す.ステップ送りの測定は,B 軸テーブル上に設置したガラス製の直定規を測定目標
に対して,C 軸上に固定した静電容量型変位計を用い距離の変化を測定することで,各軸の移
動量を測定している.図 2.9,図 2.10 および図 2.11 に示したステップ送りの結果には,静電容
量型変位計特有の変動が見られるが 2nm の階段状の動作が確認できる.リニアモータを駆動
源に用いた場合においても,油静圧ねじを使用した場合と同様に指令に対して概ね正確に動作
していることが分かる.
Displacement
m
1.6
0
Straightness 50nm/100mm
Reversal motion
0
350
X axis position mm
Fig. 2.8 Straightness of X-axis with a reversal operation
36
0
25
Position nm
20
15
10
5
0
-5
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
Time s
Fig.2.9 Measured X-axis position with 2nm step feeds
25
Position nm
20
15
10
5
0
-5
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
Time s
Fig.2.10 Measured Y-axis position with 2nm step feeds
25
Position nm
20
15
10
5
0
-5
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
Time s
Fig.2.11 Measured Z-axis position with 2nm step feeds
37
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
2.5 NC 内部情報を利用した位置決め性能の評価
2.5.1 位置決め性能評価法の概要
真直度の測定とステップ送りの測定結果から,開発した超精密加工機は指令に対して,十分
な位置決め性能を有していることが確認されたので,超精密加工機における各軸に対する位置
決め性能および動作性能評価は,テーブルの位置偏差量の測定により行なう.図 2.12 に位置
決めと動作性能評価システムを行う直動軸の構造を示し,直動軸,リニアスケールおよび制御
装置の関係を示す.ここでスライドベースは,構造を説明するために部分断面図としている.
テーブルの位置検出にはレーザスケールを採用し,油静圧軸受近傍にてテーブル位置を検出
している.このレーザスケールの格子ピッチは 0.55 m で信号波長は 0.14 m である.これを
4096 逓倍することで最終的な分解能を 34pm と設定している.この信号を制御装置(NACHI
Nucleus PNC-XP)に取込み,位置制御を行なっている.
この制御装置では,NC 内部情報である各軸の指令座標,検出座標および指令速度を CSV フ
ァイルとして記録できるほか,指令座標と検出座標の差を位置偏差として表示,記録すること
ができる.この機能により,テーブル上に位置偏差を評価するための位置測定装置を新たに設
置する必要が無く,加工中においても動作の評価が可能である.この超精密加工機の最小指令
単位が 1nm であるのに対し,位置検出分解能が 34pm であることから,位置偏差を利用した位
置決めの評価法は十分な分解能を持っていると判断できる.
次に,リニアモータ駆動を採用した超精密 5 軸加工機の比較対象として,従来の送り機構で
ある油静圧ねじ駆動における位置偏差の取得も行なう.油静圧ねじ駆動の装置は直動軸に油静
圧案内を用いており,開発した超精密加工機と同じ分解能を持つレーザスケールを用いたフル
クローズ制御の機構を用いている.従来の装置も図 2.12 と同様に,各軸の指令座標,検出座標,
指令速度,位置偏差を CSV ファイルとして記録することができるシステムを保有することか
ら,CSV ファイルに保存されたデータを比較することで,従来の超精密加工機との比較評価を
行なう.
38
Hydrostatic bearing
Laser scale
Linear motor magnet
Slide base
Scale head
Signal pitch 0.14 m
Servo amplifier
Linear motor coil
File saved
Interpolator
Resolution 34pm
Divided into 4096
CSV
Fig.2.12 Position control system with logging function of position
39
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
2.5.2 加工動作における位置決め性能評価
1)等速送りおける位置偏差の評価
位置偏差の評価は,旋削による軸対称非球面形状の加工を想定した低速送り時の挙動と非回
転工具によるプレーナ加工を想定した高速送り時の挙動との二種類の送り動作測定結果を用
いて行なう.図 2.13 は旋削加工を想定し,X 軸に f =5mm/min を与えた時の位置偏差の測定結
果である.このときの位置偏差は,全振幅で 6nm となっている.一方,油静圧ねじ駆動におけ
る位置偏差を図 2.14 に示す.静圧ねじ駆動における f =5mm/min の位置偏差は全振幅で 3nm と
なり,リニアモータ駆動の偏差の半分の結果が得られた.この結果から低速における輪郭制御
は静圧ねじが優れているということが言える.
次に図 2.15 に非回転工具による加工を想定した f =2000mm/min の位置偏差を示す.これは
開発した超精密 5 軸加工機を最大送り速度で動作させた結果である.このときの位置偏差は全
振幅で 11nm となった.静圧ねじ駆動の場合,装置の制限から送り速度は最大で f =1500mm/min
であり,この送り速度における測定結果を図 2.16 に示す.図より静圧ねじ駆動の場合,偏差
は全振幅で 80nm に増大していることが分かる.
図 2.17 にリニアモータ駆動および静圧ねじ駆動における送り速度と位置偏差の関係を測定
した結果を示す.静圧ねじ駆動の場合,送り速度が増加するに従い位置偏差も増加している.
一方リニアモータ駆動の場合,送り速度が増加しても位置偏差はほぼ一定で推移している.図
2.18 に図 2.17 の f =0∼200mm/min の範囲を拡大した結果を示す.この結果より,低速領域を
使用する旋削加工などでは静圧ねじ駆動がリニアモータ駆動よりも輪郭制御に優れる結果が
得られた.また,f =100mm/min 以上を必要とする加工ではリニアモータ駆動が優れる結果とな
っていることが分かる.今回開発した超精密 5 軸加工機は,高速送りを必要とする工作物の加
工を目的としているため,リニアモータ駆動の採用は適切であると言える.
この位置決め性能評価試験においてリニアモータ駆動を採用した新しい超精密加工機は,低
速および高速送りにおいても加工に影響が出ると予想される突起状の偏差量の乱れが無いこ
とを確認した.
また,
超精密加工では目標とする形状精度は p-v 値 0.1 m 以下であることから,
いずれの結果においても加工結果に影響の及ぼすことのない位置偏差であることを確認した.
40
10
8
Position error nm
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
0.0
0.5
1.0
1.5
Time s
2.0
2.5
3.0
Fig.2.13 Position error of slow speed feed using linear motor drive (f=5mm/min)
10
8
Position error nm
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
0.0
0.5
1.0
1.5
Time s
2.0
2.5
3.0
Fig.2.14 Position error of slow speed feed using hydrostatic screw drive (f=5mm/min)
41
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
10
8
Position error nm
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Time s
Fig.2.15 Position error of high speed feed using linear motor drive (f=2000mm/min)
50
40
Position error nm
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Time s
Fig.2.16 Position error of high speed feed using hydrostatic screw drive (f=1500mm/min)
42
600
Hydrostatic Screw
Linear motor
Position error PE nm
500
400
300
200
100
0
0
500
1000
1500
2000
Feed rate f mm/min
Fig.2.17 Comparison of position error
20
Hydrostatic Screw
18
Linear motor
Position error PE nm
16
14
12
10
8
6
4
2
0
0
50
100
150
200
Feed rate f mm/min
Fig.2.18 Comparison of position error under 200 mm/min feed
43
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
2)オシレーション動作における位置偏差の評価
次に非回転工具による工作物の加工において,凹凸形状を持つ自由曲面形状の加工動作を想
定した輪郭制御の評価を行なう.評価では直動軸の加減速を伴う動作の評価として,オシレー
ション動作時における位置偏差の変動を確認する.
図 2.19 には,Z 軸に対して全振幅 100mm,周期約 19 秒の正弦波状の位置指令を与えた時の
Z 軸の位置指令,速度指令と位置偏差の関係を示す.これは,X-Z 平面において,半径 50mm
の円運動が f =1000mm/min となる条件である.図より位置偏差には全振幅が約 40nm の周期的
なうねりが確認されるが,突起状の偏差は確認されない.加工において全振幅 40nm の位置偏
差は,工作物の許容形状精度 0.1 m 以下に影響を与えると考えられるが,位置偏差に再現性が
あることから,補正加工による形状の修正が可能であると推測できる.
以上のことより,旋削による軸対称非球面加工と非回転工具による自由曲面形状の加工の両
方において必要とされる動作性能が得られていることが確認された.
Fig.2.19 Position error during oscillation motion
44
2.6 結言
本章では超精密 5 軸加工機を開発し,その基本的な軸構成と構造について示した.また,基
本性能の評価として位置偏差を用いた評価法を示し,従来の超精密加工機との比較評価を行な
った.さらに非回転工具による工作物の加工を想定したオシレーション動作について位置決め
性能の評価を行ない以下の結論を得た.
(1) 往復動作時における真直度を測定し,反転動作時においても直定規と静電容量型変位計の
検出距離に変化が少なく,テーブルの姿勢変化が少ないことを確認した.
(2) 直動軸のステップ送り測定を実施し,ナノメートルオーダでの位置決めが可能であること
を確認した.
(3) アクティブ除振装置の性能評価を行い,2Hz から 100Hz の範囲において除振装置の効果を
確認した.
(4) 油静圧案内を使用した超精密加工機において,位置偏差を利用した輪郭制御の性能評価が
可能であることを確認した.
(5) 油静圧ねじ駆動の直動軸との比較を行ない,f =100mm/min 以上では,油静圧ねじよりも高
い輪郭制御が可能であることを示した.
(6) 旋削加工および非回転工具による加工を想定した 2 種類の送り速度において,ともに輪郭
制御の位置偏差は実加工に影響をおよぼさない範囲であることを確認した.
(7) 非回転工具による高速加工を想定した反転動作を伴うオシレーション動作において,位置
偏差のうねりはあるが突起状の位置偏差が発生しないことをから高精度な加工が可能で
あること確認した.
45
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
参考文献
1) 田中克敏,福田将彦,覚張勝治,鈴木清,植松哲太郎,超精密加工機の高精度化の研究,
砥粒加工学会誌,51, 9 (2007) 482.
2) 社団法人 精密工学会,新版 精密工作便覧,コロナ社,1992 年 2 月,初版,pp1261-1262
3) 鈴木秀幸,浦野好市,久米原宏之,超精密工作機械向け高精度液温制御装置の開発,精密
工学会誌, 75, 5 (2009) 639.
4) 鈴木秀幸,浦野好市,久米原宏之,楠本一臣,静圧作動油に起因する超精密工作機械の熱
変形抑制,精密工学会誌, 75, 9 (2009) 1106.
5) 薮谷誠,超精密加工機およびその要素技術の今後について,精密工学会誌,75, 1(2009) 126.
6) 薄木雅雄,薮谷誠,超精密非球面加工機について,精密工学会誌,55, 6 (1989) 967.
7) 越後敬介,薮谷誠,上芳啓:超精密加工機による光学部品・光学部品用金型の加工,2001
年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集.
8) H. Mizumoto et al.,An Angstrom-positioning System Using a Twist-roller Friction Drive, Precision
Engineering, 17, 1,(1995)57.
9) H. Mizumoto,T. Matsubara,N. Hata and M. Usuki,Zero-compliance aerostatic bearing for an
ultra-precision machine,Precision Engineering,12,3(2009)75.
10) Kaiji Sato and Guilherme Jorge Maeda,Fast Precision Positioning of a Ball Screw Mechanism Based
on Practical NCTF Control,Int. J. of Automation Technology,3,3(2009)233.
11) 水本 洋,薮谷 誠,清水龍人,上 芳啓,超精密工作機械用位置決め装置の分解能に関
する比較研究,精密工学会誌,62,3(1996)458.
12) Jiro Otsuka,Toshiharu Tanaka,and Ikuro Masuda,Sub-Nanometer Positioning Combining New
Linear Motor with Linear Motion Ball Guide Way,Int. J. of Automation Technology,3,3(2009)241.
13) 河合知彦,蛯原健三,山本明,リニアモータ駆動の超精密 5 軸ナノ加工機,精密工学会誌,
72, 4 (2006) 435.
14) 櫻井好正,津和秀夫,徳丸英勝,舟久保熙康,宮澤清人,精密工学序説,コロナ社,初版
第 4 刷,1993.
15) 横田明則,環境振動評価に関する国際規格,騒音制御,24,6(2007),370.
46
関連論文
i.
廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発―基本性能の評価と工作物加工結果の評価―,精密工学会誌,80,2(2014),
pp177-182.
47
第 2 章 超精密 5 軸加工機の開発と基本性能評価
48
第3章
機上形状計測装置の高精度化
と性能評価
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
3.1 緒言
超精密加工が行なわれる最も高精度な形状精度と表面粗さが必要な部品の代表として,光デ
ィスクのピックアップレンズの金型が挙げられる.光ディスクのピックアップレンズは,ディ
スク表面のピットと呼ばれる微小な溝にレーザ光を集束させ,反射してくる光を信号として二
値化する.ピックアップレンズはレーザ光を 1 点に集束させる必要があるため,高い形状精度
を必要としており,金型にも非常に高い形状精度が求められる.さらに日本では,地上波デジ
タル放送への移行によりハイビジョン映像のコンテンツの普及が進んでいる.これにより,記
録・配布媒体として多くの情報を保存できる Blu-ray ディスクが普及しつつある.Blu-ray ディ
スクのピックアップレンズは,従来のピックアップレンズよりも小径でありながら形状が深く,
傾斜角の大きな面まで高精度な形状が求められており,金型においても同様にこれに対応した
面まで形状精度を確保することが必要とされる 1).
高い形状精度を得るために超精密加工機は,良好な真直度や繰返し再現性と言った運動精度
を維持するほか,輪郭制御の精度を高めるため分解能の高いスケールや制御周期の短い NC 制
御装置が必要となる.さらには,所定の形状精度を得るために工作物の形状を測定し,形状の
補正を行なう補正加工も考慮する必要がある.光学部品用の金型の加工では,与えられた形状
式から NC プログラムを作成し,切削加工または研削加工の後,形状測定を行ない設計値に対
する誤差を解析し,補正加工を行なう.この形状測定と補正加工を繰り返すことで目標の形状
を得る.そのため,超精密加工では,測定精度が十分確保された測定機を用いる必要がある.
実際の金型製造工程では,工作機械と測定機の間で工作物の受け渡しが発生する.形状測定
のために工作物の脱着が行なわれると,このときのアライメント誤差が測定誤差や加工誤差,
形状誤差に繋がる.このため,超精密加工機には工作物を専用の測定装置に移すことなく工作
機械上で形状測定と解析が可能な機上形状計測装置を設置するものが多い
2)~6).工作物の形状
を接触子にて測定する装置では,測定可能な傾斜角の範囲が±60°程度に制限されている.この
ため,開口数の大きなレンズ用の金型において形状を正確に測定することができなかった.大
きな接触角を持つ工作物を測定するために,機上形状計測装置を旋回させながら測定する方法
や斜軸を使った測定方法が提案されているが,測定する工作物の表面形状が凹形状の場合,測
定装置と工作物が干渉するだけでなく,工作物形状の算出時に機上形状計測装置の設置角度の
誤差が解析結果に影響を与える
7),8).また,レーザ光などにより,工作物の形状を非接触にて
測定する装置では,工作物の傾斜角によっては形状を正確に測定できない問題が挙げられる
9),10).
そこで,工作物表面を接触子が走査し,測定に測定装置の旋回制御を用いない形状計測方法
によって傾斜角±75°までの測定範囲を持ち,測定再現性が 40nm 以下を可能とする機上形状計
測装置の開発を行なった.ここでは,光学レンズ用の金型製造現場において形状測定の標準機
50
として使用されている Panasonic 社製の三次元形状測定装置 UA3P との形状解析結果の比較を
により,機上形状計測装置の妥当性を検証する 11).測定再現性は,真球度が既知であるセラミ
ックス球(窒化珪素,Si3N4)の連続した形状測定とその解析に基づく性能評価により,機上形状
計測装置の妥当性を検証する.
51
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
3.2 ピックアップレンズ用金型に求められる形状精度
光ディスクでは,ピックアップレンズで集束したレーザ光を用いてデータの記録と再生を行なう.
Blu-ray ディスクの規格とピックアップレンズ用金型に求められる要求精度を表 3.1 に示す.また,比
従来の DVD
較として映像などの大容量記憶媒体として用いられてきた DVD の規格をあわせて示す 1).
は,記録容量が 4.7 ギガバイトであるのに対して, Blu-ray ではディスク直径が DVD と同じながら 25
ギガバイト以上と 5 倍以上の記録容量を持つ.このため,記録密度を従来よりも高くする必要があり,
ピットと呼ばれる情報を記録する溝長が DVD よりも短く,トラックピッチと呼ばれる円周方向の幅
も DVD の半分以下の幅で設けられている.この高密度に配置されたデータの中から正確に情報を読
み出すために,波長の短い光と開口数の高いピックアップレンズが必要となる.光スポットの直径は,
次の式で表すことができる.
Sd
1.22
NA
(3.1)
ここで Sd:スポット径[nm], NA:レンズの開口数,l:レーザ光の波長[nm]を表している.
DVD では波長 650nm のレーザ光が用いられるが,Blu-ray では l=405nm のレーザ光が用いら
れる.さらに開口数を大きく取る手段として,Blu-ray では, 半径 2mm 以下の微小な非球面形
状でありながら,外周部の傾斜角が 70 度程度の極端な凸型レンズを採用している.このレン
ズは NA=0.85 であり,l=405nm のレーザ光と組み合わせると,光スポットの径は面積で従来の
DVD の 1/5 以下になる.
Blu-ray のピックアップレンズ用金型は,レンズを反転した形状であることから,傾斜角が 70
度程度の極端な凹面形状となる.金型の形状がレンズに転写されることから,金型には傾斜角
70 度の範囲において形状精度が p-v 値(peak to vallery)40nm 以下であることが求められる.した
がって機上形状計測装置には傾斜角 70 度を越える範囲の非球面形状の測定が求められる.
52
Table 3.1 Specifications of lens mold, lens and optical disc standard1)
53
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
3.3 形状測定の対象となる金型形状
球面のみで構成されたレンズによって集束された光束は,収差により一点に集束しない.顕
微鏡の対物レンズであれば,収差の影響を小さくするために凹凸レンズと屈折率の異なる材料
を組み合わせたレンズモジュールが用いられる.しかし,ピックアップレンズでは,駆動部に
光学系を組み込むことから,1 枚のレンズであることが望ましく複数のレンズを組み合わせた
光学系の使用は避けたい.そのためピックアップレンズの断面形状を図 3.1 に示す非球面形状
にすることで収差の影響が低減する.金型形状が軸対称形状の場合,工作物の加工面は次の軸
対称非球面形状式 12)で表すことができる.
Z
CX
1
1
1
2
2
K C X
2
C2 X 2
C4 X 4
Cn X n
(3.2)
ここで,Z:光軸方向の座標[mm],X:光軸と垂直方向の座標[mm], K:円錐係数,C:曲率
半径の逆数[mm-1],Cn:非球面係数,n:非球面係数の次数を表している.軸対称非球面加工で
は, X 軸の座標における Z 軸の座標を求め工具径を加味することで加工に必要な NC プログ
ラムを作成する.また,非球面形状をはじめとする超精密加工では,NC プログラムの円弧補
間の機能を用いるのではなく,直線補間機能による 0.5 m∼2 m 間隔の微小線分を用いた非球
面形状を加工する.
Z
X
Fig.3.1 Example of axisymmetric aspherical lens; sectional form
54
3.4 機上形状計測装置の概要
3.4.1 機上形状計測装置の設置方法
図 3.2 に超精密加工機の加工室内に設置された機上形状計測装置を示す.機上形状計測装置
は,装置を旋回させて収納できる保持台に固定し,X 軸テーブル上に設置することで工作物を
主軸に取付けた状態で形状測定が可能である.図では,工作物の代わりに真空チャック上にセ
ラミックス球を取付けている.
加工動作中は機上形状計測装置と B 軸上に取付けられた刃物台との干渉を防ぐため保持台
を旋回させて機上形状計測装置を工具および工作物から退避させる.工作物の形状測定時には,
図のように保持台を旋回させ測定用プローブを刃物台と平行に設置する.これにより,工作物
を主軸に取付けたまま加工時の配置と同様の状態で形状測定を可能にしている.
Vacuum chuck
Ceramic ball
Touch probe
On-machine profile
measurement unit
C axis unit
Y
X
50mm
B axis unit
Swivel table
Z
Fig.3.2 Installation of on-machine profile measurement unit
55
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
3.4.2 機上形状計測装置の構成
機上形状計測装置の構造を図 3.3 に示す.機上形状計測装置は,真球度が 0.1 m 以内に保証
されたルビー球の測定プローブ,エアスライド,精密ばねおよびプローブ位置検出用のレーザ
スケールで構成されている.測定時の摩擦による誤差を極力低減させるために主軸にはエアス
ライドを採用し,エアスライドの先端に取付けられた測定プローブは工作物の曲率半径に応じ
て最適なプローブ径に交換できる.
従来の機上形状計測装置では,測定時の予加重が高く,接触子を変形させている恐れがあっ
た.新しく開発した機上形状計測装置では,エアスライドの主軸はセラミックス素材(SiAlON)
とし,スーパーインバを用いた従来の主軸よりも軽量化を図った.表 3.2 に開発した機上形状
計測装置の仕様を示す.あわせて,従来の計測装置の仕様を示す.開発した機上形状計測装置
では,従来の計測装置と比較し主軸の質量を約 40%とした.また縦弾性係数と約 2 倍となるこ
とで変形量を抑制した.これらにより,低熱膨張性を維持しつつ,慣性の低減によるプローブ
の応答性を高められることが期待できる.測定中の測定プローブには,精密ばねを使い一定の
負荷を与える.この精密ばねのばね乗数の見直しを行い,測定予加重が 2N 以下になるように
調整を行なった.
上記の変更に加え,測定プローブの突出し量の変更を行った.図 3.4 に従来の測定プローブ
と新しい測定プローブの比較を示す.従来の測定プローブは,工作物と接触するルビー球の取
付け位置が底面より 25mm であったが,Blu-ray などの小型の金型ではプローブの突出し量は
従来のデジタルカメラレンズ用金型に比べると必要が無いことから,新しい測定プローブは
15mm と従来よりも 10mm 短くした.また,従来の測定プローブのルビー球を針に接着剤にて
固定していたが,新しい測定プローブは微細な穴をあけたルビー球に針に挿入し,接着剤にて
固定している.このルビー球の固定方法を変更することで,針の太さを細くすることができた.
従来の測定プローブはルビー球径よりも針が太く,深い角度を測定すると針と工作物が接触し
測定が行えなかったが,新しい接触プローブは,ルビー球径よりも針が細くなり,接触角±75
度までの測定が可能になった.
測定プローブの位置検出は,主軸上に取付けたレーザスケールにて行なう.このレーザスケ
ールの格子ピッチは 0.55 m で,信号ピッチは 0.14 m である.これを 4096 逓倍することで
34pm の分解能を持つ.このほかに,エアスライドのストロークを制限するストッパと,スト
ローク端に近接センサを設けることでストローク量を制限し,機上形状計測装置を保護する機
構を設けた.これらの部品は切粉と切削液から保護するため,金属製のカバー内に収められて
いる.
56
Glass scale
Scale mount
Scale head
Air inlet
Main shaft
Touch probe
Extension shaft
Coil spring
Air Bearing
Over travel sensor
Stopper
Base plate
20mm
Fig. 3.3 Structure of on-machine profile measurement unit
Table 3.2 Comparison of on-machine profile measurement unit
Item
Shaft
Developed unit
Conventional unit
Material
SiAlON
Stainless inver
Coefficient of
thermal expansion
2.6×10
Young's modulus
275GPa
136GPa
Specific gravity
3.22
8.12
Weight
25.7g
65.0g
-6
-6
1.2×10
Pre-load
2N
Scale resolution
0.034nm
1.4nm
Touch probe size
0.3, 0.5, 1.0
0.5, 1.0, 2.0
Probe length
15mm
25mm
57
15mm
25mm
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
Conventional type
Propose type
Fig. 3.4 Comparison of touch probe
58
3.4.3 機上形状計測装置の測定原理と解析方法
工作物の形状測定は,測定プローブを工作物表面に接触させた後,形状測定用の NC プログ
ラムを実行し測定を開始する.形状測定では,工作物の中心を確実に走査するため Y 軸方向の
事前形状測定により測定開始位置の微調整を行なう.これにより,工作物の中心にて形状解析
と評価を行なうことができる.工作機械は,X 軸による工作物表面の走査を開始し,機上形状
計測装置主軸に取付けられたレーザスケールの検出座標が変化しないよう工作物の凹凸形状
に合わせて工作機械の Z 軸が追従する.形状測定は,走査方向の X 軸,形状に倣い前後する Z
軸の検出位置を NC 制御装置に取込む.この測定は,工作機械の X,Z 軸ストロークを利用し
た測定のため,測定可能な工作物の形状は機上形状計測装置のストロークに制限を受けない.
機上形状計測装置主軸の Z 軸運動線に対する傾きは余弦誤差として測定結果に影響する.こ
のため工作物の形状に合わせて機上形状計測装置主軸がストロークする非倣い方式では,装置
の設置角度から測定結果を補正する必要がある.一方,Z 軸が工作物形状に合わせて制御され
る倣い方式では,主軸の移動量は 10nm 程度になり,主軸の移動量に対する余弦誤差は,1nm
以下になることから設置角度による誤差を無視することが可能である.
NC 制御装置に取込む検出位置は,図 3.5 に示すように測定プローブのルビー球中心の軌跡
であり工作物の表面形状とは異なる.実際の金型形状は,測定データから工作物の傾斜角を求
め,法線方向にプローブの半径をシフトすることで,工作物表面の形状を算出する.この解析
結果と式(3.2)で示した軸対称非球面形状式から形状誤差を求め,工具径等の加工条件を入力す
ることで補正加工用の NC プログラムを作成することが可能となる.
解析では,1)形状精度を表す p-v 値の算出,2)工具−工作物回転軸中心間の芯ずれ解析, 3)工
具径の誤差解析が可能である.
1)の形状精度の場合は機上形状計測装置による 任意の X 軸座標における Z 軸の測定値と式
(3.2)で算出される Z 軸の設計値を比較することで形状精度を求めることができる.
2)では,工具−工作物回転軸中心間に芯ずれがある場合,機上形状計測装置で測定される Z
軸の値は設計値に対して X 軸方向にずれが生じる.解析では,測定値を X 軸方向にシフトさ
せながら設計値との比較計算を繰り返すことで芯ずれ量を算出することができる.
3)の工具径の誤差解析は,工具径に誤差があると工作物の曲率半径に影響を及ぼすため,最
小二乗法にて曲率を求め,工具径の誤差を算出することができる.
59
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
Touch probe
Measured position
Center path
of touch probe
Workpiece profile
Contact position
Normal line
Contact angle
Tilt angle
Fig. 3.5 Measurement principle
60
3.4.4 機上形状計測装置の校正方法
図 3.6 に機上形状計測装置の校正方法を示す.機上形状計測装置は,真球度の高いセラミッ
クス(窒化珪素,Si3N4)の球を測定基準として測定し,校正を行うことで形状測定の精度を高
める.測定基準の球にセラミックスを用いるのは,熱膨張係数が小さいことから温度変化によ
る球形状の変形が少ないことが挙げられる.図では凸型の測定再現性を行なうが,凹型の測定
においても凸型と同様の測定再現性を持つと考えてよい.
図 3.7 に, 0.5mm の測定プローブを用いて測定した球径 25.5mm,真球度 20nm のセラミッ
クス球の解析結果を示す.形状精度は p-v 値 0.169 m であるが,真球度が 20nm であることか
ら,解析結果は測定プローブの形状精度とみなすことができる.そこで,この測定結果を用い
て機上形状計測装置の測定プローブの校正を行なう.校正値の算出は,セラミックス球の測定
データから測定プローブの各接触角度における半径を求め,極座標系の校正値としている.改
めてセラミックス球の形状測定と解析を行なった結果を図 3.8 に示す.図 3.7 で現れていた形
状のうねりが無くなり p-v 値も 0.024 m と校正と形状測定が 20nm 程度の精度にて正確に行わ
れていることが分かる.
25.4
Master Ball
Z
X
Touch probe
Fig. 3.6 Calibration method of on-machine profile measurement unit
61
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
Profile accuracy
m
0.10
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
X axis position mm
Fig. 3.7 Result of form analysis of ceramic ball by using un-calibrated probe
Profile accuracy
m
0.10
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
X axis position mm
Fig. 3.8 Result of form analysis of ceramic ball by using calibrated probe
62
3.5 機上形状計測装置の性能評価
機上形状計測装置は,その装置構造と校正方法から測定再現性が良好であることが求められ,
この再現性が形状測定の精度と直結する.そこで,セラミックス球(窒化珪素,Si3N4)の連続し
た形状測定と解析により測定再現性の確認を行なう.評価試験では先端に球径 0.5mm のルビ
ー球を取付けた測定プローブを用いて,球径 2mm のセラミックス球の形状測定と解析を連続
して 5 回行ない,形状測定 5 回分の解析結果から各角度における標準偏差を求め,3 を測定
再現性として評価する.
図 3.9 に 5 回連続した形状測定における 1 回目の測定の解析結果を示す.セラミックス球や
工作物と測定プローブの接触角が大きくなると,測定プローブは横からの力によりプローブが
変形し,形状を正確に測定することができなくなり解析によって得られる形状精度も大きく変
動する.しかし,図 3.9 において,形状精度は大きく変動することなく測定が可能であること
が確認できる.この図 3.9 を含む 5 回分の測定結果から,各角度における 3 を求めた結果を図
3.10 に示す.また,比較として図 3.11 に従来の機上形状計測装置での測定再現性を示す.従
来の機上形状計測装置では,±50°において 3 は 60nm を超える結果であったが,開発した機上
形状計測装置での測定再現性は±75°の範囲において 3 は最大 23nm となり,高い測定再現性
であることからこの計測装置は十分な形状測定精度を持つと言える.
Profile accuracy
m
0.10
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-75 -60 -45 -30 -15
0
15
30
45
60
75
Contact angle degree
Fig.3.9 Surface profile
63
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
Master Ball
Z
X
m
0.04
Repeatability
0.05
0.03
0.02
0.01
0.00
-75 -60 -45 -30 -15
0
15
30
45
60
75
Contact angle degree
Fig. 3.10 Profile repeatability
Master Ball
Z
X
0.10
Repeatability
m
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
-75 -60 -45 -30 -15
0
15
30
45
60
75
Contact angle degree
Fig. 3.11 Profile repeatability of conventional on-machine profile measurement unit
64
3.6 結言
本章では,高い開口数(NA =0.85)をもつ非球面レンズの金型形状測定用で超精密 5 軸加工機
に搭載が可能な機上形状計測装置を開発し,その構造と測定方法と校正方法について示した.
基本性能の評価として真球度の高いセラミックス球(窒化珪素,Si3N4)の連続測定を行ない以下
の結論を得た.
(1) 形状精度の高いセラミックス球(真球度 20nm)を測定基準として用い,測定プローブおよび
機上形状計測装置の校正が可能であることを示した.
(2) セラミックス球の連続した形状測定と解析を行ない,従来の±50°の範囲で 60nm 以上の
測定再現性に対し,開発した機上形状計測装置は±75°の範囲において 3s で 23nm の測定
再現性を持つことを確認した.
以上より,開発した機上形状計測装置の有効性が確認された.
65
第 3 章 機上形状計測装置の高精度化と性能評価
参考文献
1) 小川博司,田中伸一,図解ブルーレイディスク読本,(株)オーム社,2006.12.
2) 薮谷 誠,超精密加工機およびその要素技術の今後について,精密工学会誌,75,1(2009),126.
3) 薄木雅雄,薮谷誠,超精密非球面加工機について,精密工学会誌,55,6(1989),967.
4) 越後敬介,薮谷誠,上芳啓,超精密加工機による光学部品・光学部品用金型の加工,2001 年度
精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集.
5) 渡邉 裕ほか,低圧触針式機上形状測定システムの開発-低圧接触式プローブの改善-,2005 年
度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集.
6) So ITO,Takayuki MEGURO,Daiki MATSUURA,Yuki SHIMIZU,Wei GAO,Shigeru ADACHI,
and Kyohei OMIYA,On-Machine Form Mea urement of Preci ion Ceramic Part ,The 15th International
Conference on Preci ion Engineering(2014).
7) 洪 榮杓,超精密加工機の現状と加工事例,精密工学会誌,78,9(2012),744.
8) Hirofumi Suzuki, “Multi-Axi Controlled Ultrapreci ion Machining and Mea urement”, Int. J. of
Automation Technology,3,3(2009).
9) 小池雄介,河野大輔,松原 厚,山地伊和夫,計測融合型加工システムによる機上計測,精密
工学会誌,76, 8(2010).
10) R. Kudo,K. Okuda,K. U uki,M. Nakano,K. Yamamura,and K. Endo,Three-dimen ional
urface figure mea urement of high-accuracy pherical mirror with nanoprofiler u ing normal vector
tracing method,Review of cientific in trument ,85,045101(2014),9
11) 吉住恵一,久保圭司,竹内博之,半田宏治,葛西孝昭,ナノメートルを測る原子力間プローブ搭
載超高精度三次元測定機,精密工学会誌,68, 3 (2002).
12) 河合滋,レンズ辞典&辞典,(株)オプトロニクス社,2009.6.
関連論文
i.
Tomohiro Hiro e,Yo hihiro Kami,Tat uhito Shimizu,Makoto Yabuya and Yo hitaka Morimoto,
Development of On-Machine Mea urement Unit for Correction Proce ing of A pheric Len Mold
with High Numerical Aperture,International Journal of Automation Technology,8,1(2014),
pp34-42.
ii.
廣瀬智博,上 芳啓,薮谷
誠,超精密加工機用機上形状計測装置の高精度化,2013 年度
精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集.
66
第4章
軸対称非球面形状の切削・研削加工
による超精密加工機の性能評価
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
4.1 緒言
本章では,開発した超精密 5 軸加工機の性能評価として軸対称非球面形状の切削加工および
研削加工による性能評価を行なう.基本的な加工性能評価として,デジタルカメラ用の金型の
切削加工を行なう.ここでは,第 3 章にて示した機上形状計測装置を用いた工作物の形状測定
と解析に基づく補正加工を行ない,形状精度 p-v 値(peak to valley)0.1 m 以下の形状を得ること
を試みる 1).
次に, Blu-ray ディスク用ピックアップレンズ金型の研削加工を行なう.ここでは,研削加
工にて発生する砥石摩耗による形状誤差を,機上形状計測装置を用いて切込み量と砥石摩耗の
関係を明らかにし,砥石摩耗量の予測に基づく補正加工により形状精度 p-v 値 50nm 以下の工
作物を得ることを試みた 2).
4.2 切削加工による性能評価
4.2.1 工作物形状
超精密 5 軸加工機の性能評価として表 4.1 に示す直径 D=30mm,半球形 SR=110mm の凹型の
非球面形状の切削加工を行なう.ここでは,工具刃先半径 Rtip=0.5mm のアライドマテリアル
(株)製の単結晶ダイヤモンドバイト(UPC)を工具に用いて共和産業(株)にて無電解ニッケルメ
ッキ(ハイノップメッキ)処理を施した金型の切削加工を行なう 3).
図 4.1 に切削加工の工具配置を示す.切込み軸の Z 軸と送り軸の X 軸および主軸を使用し
た加工では,工作物の形状が平面でない限り,加工精度は工具刃先半径の輪郭誤差の影響を受
ける.今回の加工評価では,図 4.1 に示した工具配置において,工具の刃先と B 軸の旋回中心
を一致させる.工作物の形状に合わせて B 軸を旋回させることで工具の 1 点のみを使用した加
工になり,工具の輪郭誤差の影響を取り除くことができる.この加工では,切削液として霧状
のパレス化学製の放電加工油 PS-FM-A を用いる.
4.2.2 機上形状計測装置を用いた工作物の補正加工
工作物の補正加工の工程を図 4.2 に示す.まず, NC プログラムを作成する専用ソフトウェ
アに加工条件等の設定し,NC プログラムを自動生成する.この NC プログラムを用いて切削
加工を実施後,機上形状計測装置による工作物の形状測定を行なう.形状解析後,設計形状と
解析結果の差を基に補正用の NC プログラムを作成することができる.
68
Table 4.1 Workpiece condition and cutting tool pecification
Item
Condition
Material
C3604
Plating
Non-electrolytic nikel plating
Workpiece
Diameter
30mm
Form
SR110mm,Concavity
Material
Single-cry tal diamond
Radiu
0.5mm
Tool
Vacuum chuck
Workpiece
Cutting tool
Main spindle
Tool holder
Y
B axi table
X
Z
Po ition adju ting table
Fig. 4.1 Tool layout
69
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
Input of cutting
condition
Generation of NC program
Cutting or grinding
Ready of on-machine profile
mea urement unit
Cutting with compen ation
Mea urement of profile
Generation NC program
for cutting with compen ation
Profile analy i
Alignment adju tment of tool radiu
and workpiece coordinate origin
NG
0.1 > Measured p-v
OK
End of machining
Fig. 4.2 Flowchart of machining with compen ation
70
4.2.3 工作物形状の評価
機上形状計測装置を用いた切削加工前の形状測定結果を図 4.3 に示す.図 4.3 に示す形状精
度は p-v 値 1.5 m であり,金型中央部に 1 m 程度の形状誤差を持っていることがわかる.
1 回目の切削加工後の形状測定の結果を図 4.4 に示す.形状測定と解析の結果,形状精度は
p-v 値 0.13 m となり,形状誤差は金型中央部に M 字形として現れている.この解析結果より,
工具−工作物回転軸中心間の芯ずれと NC プログラムの作成時に使用した工具径と実際の工具
径に差があることが予測された.そのため,ここで工具−工作物間の芯ずれ解析と工具径の誤
差解析を行なう.芯ずれ解析の結果,工具−工作物回転軸中心間に 0.7 m の芯ずれが生じてい
ることが分かり,さらに加工プログラムの作成に使用した工具径と実際の測定結果から得られ
た工具径にも 18.0 m の差が発生していることが分かった.
この解析結果より加工原点を移動させ,工具径を修正した NC プログラムを作成し補正加工
を実施した後,機上形状計測装置による形状測定を行った結果を図 4.5 に示す.図 4.4 に表れ
ていた M 字形の形状誤差は確認できなくなり p-v 値は 0.07 m となったが,中央部に凹型の形
状誤差が確認された.残った形状誤差を修正するために,解析結果を基に補正加工プログラム
を作成し,再び補正加工を行なった.
この補正加工実施後の測定結果を図 4.6 に示す.p-v 値は 0.04 m となり,目標の p-v 値 0.1 m
を達成していることを確認した.この結果より,機上形状計測装置を用いた補正加工を行なう
ことで切削加工による高精度な金型を得ることができることを確認した.
71
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
Profile accuracy
m
1.50
1.00
p-v:1.5 m
0.50
0.00
-0.50
-1.00
-1.50
-15
-10
-5
0
5
10
15
X axi po ition mm
Fig. 4.3 Re ult of profile analy i before cutting
Profile accuracy
m
0.10
p-v:0.13 m
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-15
-10
-5
0
5
10
X axi po ition mm
Fig. 4.4 Re ult of profile analy i after cutting
72
15
Profile accuracy
m
0.10
p-v:0.07 m
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-15
-10
-5
0
5
10
15
X axi po ition mm
Fig. 4.5 Re ult of profile analy i after cutting with tool radiu compen ation
and hift of origin of workpiece coordinate origin
Profile accuracy
m
0.10
p-v:0.04 m
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-15
-10
-5
0
5
10
15
X axi po ition mm
Fig. 4.6 Re ult of profile analy i after cutting with compen ation of NC program
73
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
4.2.4 測定専用機との工作物形状の比較
開発した超精密 5 軸加工機にて切削加工を行なった工作物を Pana onic 社製三次元測定機
UA3P にて測定し,機上形状計測装置による測定結果の有効性を検証する.UA3P は,光学金
型の製造現場において形状測定の標準機として用いられている三次元形状測定機であり,傾斜
角±75°の測定範囲における測定精度は 0.01 m である.
図 4.7 に UA3P を用いて形状測定と解析を行なった結果を示す.測定結果は,形状精度 p-v
値 0.05 m となった.図 4.7 の結果では図 4.6 に示す機上形状計測装置による測定結果では見ら
れなかった W 字形のうねりが確認された.測定結果の 0.01 m の差異及び W 字形の形状が確
認できる原因として,工作物設置時のアライメント誤差や測定温度環境の影響が考えられるも
のの機上形状計測装置と UA3P は,ほぼ同一の性能を示している.
Profile accuracy
m
0.10
p-v:0.05 m
0.05
0.00
-0.05
-0.10
-15
-10
-5
0
5
10
X axi po ition mm
Fig. 4.7 Re ult of profile analy i by UA3P
74
15
4.3 研削加工による性能評価
4.3.1 砥石摩耗量考慮したピックアップレンズ用金型の加工
工作物の切削加工による性能評価に続き,工作物の研削加工による性能評価を行なう.この
研削加工では,D=3mm,SR=1.2mm,形状精度 p-v 値 50nm 以下の Blu-ray 金型の加工を試みる.
この金型の最大傾斜角は直径±1.5mm の位置で±65 度である.ここでは,アライドダイヤモン
ド製の粒度#2400,直径 1.5mm の軸付き砥石を用いて,富士ダイス製の超硬合金金型を加工す
る.この時の主軸回転数は 200min-1 で工具スピンドルの回転数は 40000min-1 とし,Pr=0.5 m と
した.研削加工では回転する円筒形状の砥石のエッジを使用した加工を行なうため,切削加工
評価の時と同様に B 軸の回転中心に円筒砥石のエッジを一致させ,工作物形状に合わせて B 軸
の旋回を行なう.
回転砥石を用いた研削加工では,砥粒の脱落による摩耗が発生する.図 4.8 に砥石が摩耗し
た場合の加工例を示す.砥石のエッジを利用して設計形状に沿った輪郭制御を行なうが,砥石
摩耗により実際に得られる形状との間に誤差が生じる.このため機上形状計測装置を用いた補
正加工を繰返しても,設計形状を得ることができない.
この問題を解決するために,開発した機上形状計測装置を用いて砥石の切込み量と摩耗量の
関係を明らかにし,図 4.9 に示す砥石摩耗を加味した輪郭制御を行なうことで要求精度を満た
す工作物を得ることを試みる.
75
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
Designed profile
Wheel wear
Grinding wheel
Machined profile
Fig. 4.8 Model of workpiece profile by conventional grinding operation
Contour control
Grinding wheel
Machined and designed profile
Fig. 4.9 Model of workpiece profile by grinding operation
in considered with wheel wear
76
4.3.2 切込み量と砥石摩耗量の関係
砥石摩耗量の測定方法を図 4.10 に示す.砥石摩耗量の算出は,研削加工と機上形状計測装
置による形状測定を繰返し行い,切込み量に対する差から求める.そして切込み量と砥石摩耗
量の関係を求め,砥石摩耗量を考慮した NC プログラムを作成する.なお,砥石摩耗量の算出
は,機上形状計測装置により測定した工作物の形状を解析するソフトウェアに砥石摩耗量を算
出することができる機能を付加している.
この方法を用いて求めた総切込み量に対する砥石摩耗量の関係を図 4.11 に示す.図より,
約 2 m の切込みを与えた初回の加工では,約 0.7 m の砥石摩耗が発生していることがわかる.
以降の摩耗量は,初回よりも少ないことから砥石には初期摩耗が発生していることが推測でき
る.今回は,制御性を考慮するために初期摩耗を除外し,切込み量と摩耗量の関係を線形の関
係とみなした.近似直線より,次の加工で発生する砥石摩耗量を考慮した NC プログラムを作
成するができ,この NC プログラムにて補正加工を行なうことが可能になる.
77
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
Input machining conditions
Generation NC program
Grinding
Compensation of wheel wear
of wheel depth of cut
Measurement of profile
Wheel wear analysis
Generation of NC program
in consideration
of wheel wear
Grinding
Measurement of profile
50nm > Measured p-v
OK
End of machining
Fig. 4.10 Flowchart of grinding method considering amount of wheel wear
78
NG
2.0
Total wheel wear
m_
y = 0.0582x + 0.7796
1.5
1.0
0.5
0.0
0
5
10
Total grinding depth
15
m
Fig. 4.11 Relationship between total grinding depth and total wheel wear
79
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
4.3.3 工作物形状の評価
砥石摩耗を考慮して補正加工を実施した工作物を図 4.12 に示す.この工作物の補正加工前
の形状精度を図 4.13 に示す.補正加工前の形状精度は p-v 値 136nm であった.この工作物の
加工では外周部から中央部に向かって送りを与え研削加工を行なう.図 4.13 では外周部から中
央に向かうに従い形状誤差が大きくなっていることが分かり,研削距離に応じた砥石摩耗によ
る影響が確認できる.
この工作物を用いて切込み量と砥石摩耗の関係を求め,砥石摩耗量を考慮して作成した NC
プログラムを用いた補正加工により得た工作物の形状精度を図 4.14 に示す.図 4.13 にて現れ
ていた山形の形状誤差はなくなり,外周部と中央部においてほぼ一定の形状誤差となっている
ことが分かる.形状誤差解析結果から高周波成分を取り除いた後の形状精度は p-v 値 44nm と
なり,目標としていた形状精度 p-v 値 50nm 以下を達成していることが分かる.
5mm
Fig. 4.12 Example of mold for Blu-ray
80
Contact angle degree
Profile accuracy
m
136nm
X axis position
mm
Fig. 4.13 Result of profile analysis without compensation
Contact angle degree
Profile accuracy
m
44nm
X axis position
mm
Fig. 4.14 Result of profile analysis with compensation
81
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
4.4 結言
本章では,開発した超精密 5 軸加工機と機上形状計測装置の性能評価を工作物の切削加工結
果および研削加工結果に基づき実施し,以下の結果を得た.
(1) 超精密 5 軸加工機と機上形状計測装置を用いた補正加工により,形状精度 p-v 値 0.1 m 以
下の高精度な切削加工を実現できることを確認した.
(2) 光学金型の製造現場において形状測定の標準機である三次元形状測定装置 UA3P による工
作物の形状測定の結果,機上形状計測装置は三次元形状測定装置 UA3P と同等の測定結果
が得られることを確認した.
(3) 工作物の研削加工において,機上形状計測装置を用いた砥石摩耗量の解析と摩耗量の予測
に基づく補正加工を行なうことで,p-v 値 50nm 以下の形状精度を得ることが可能である
ことを示した.
82
参考文献
1) 次世代の超精密加工技術編集委員会,次世代の超精密加工技術(下巻),産業技術サービスセ
ンター,1994.
2) 小川博司,田中伸一,図解ブルーレイディスク読本,(株)オーム社,2006.12.
3) 氷上克之,カニゼン法,金属表面技術,5,5(1958),pp13-17.
関連論文
i.
Tomohiro Hirose,Yoshihiro Kami,Tatsuhito Shimizu,Makoto Yabuya and Yoshitaka Morimoto,
Development of On-Machine Measurement Unit for Correction Processing of Aspheric Lens Mold
with High Numerical Aperture,International Journal of Automation Technology,8,1(2014) pp3442.
ii.
廣瀬智博,上 芳啓,薮谷
誠,超精密加工機用機上形状計測装置の高精度化,2013 年度
精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集.
83
第 4 章 軸対称非球面形状の切削・研削加工による超精密加工機の性能評価
84
第5章 非回転工具を用いた自由曲面形状加工
による超精密加工機の性能評価
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
5.1 緒言
本研究では多軸同期制御と送り速度 f =1000mm/min を超える高速・高精度な位置決め性能を有し,
金型の形状精度が p-v 値(peak to valley)0.1 m 以下となる加工を実現する超精密 5 軸加工機の開発を行
なった.第 2 章にて,その運動性能を行ない高速かつ高精度な輪郭制御が可能であることを示した.
第 4 では軸対称非球面形状の切削および研削加工により開発した超精密 5 軸加工機と機上形状計測装
置の性能評価を実施した.
本章では,フライカットに代わる自由曲面形状の加工方法として新たに非回転工具による高速加工
を提案する.加工動作における運動性能の評価と工作物の形状精度および表面粗さの評価から超精密
5 軸加工機の性能評価を行なう 1),2).
86
5.2 非回転工具による切削加工法
5.2.1 非回転工具による自由曲面形状の加工法
フライカット法は回転工具による断続切削のため,光学部品用金型の品質を満たすため送り速度
に制限があった.この断続切削を連続切削とすることで送り速度は制限を受けなくなることから,
非回転工具による自由曲面形状の切削方法を提案する.
新たに提案する加工法の工具配置と加工動作を図 5.1 に示す.工作物は,C 軸に設置された冶具
に固定され,X 軸にて工具に切削送りを与える.このとき工具すくい面は拡大図に示すように X 軸
方向に向けて設置してあり,工作物の凸形状に合わせて Z 軸の位置を制御し切込みを与える.また,
加工時に工具のすくい角が工作物に対して一定となるように B 軸により工具台の旋回・割出し動作
を行ない,Y 軸にてピックフィードを行なう.この加工法では,X,Z,B 軸の同期制御を使用し,
C 軸の回転機能は使用しない.フライカットは断続切削のため工具にかかる負荷が変動するのに対
し,本加工法は連続加工であることから工具に掛かる負荷は安定すると考えられ,工具の摩耗が抑
えられることにより工具寿命の向上が期待できる.
この非回転工具による加工法では,X 軸と B 軸は一定方向への送りとなるのに対し,Z 軸は加工
形状に合わせて送り方向が反転する.この反転動作時に Z 軸の姿勢が変化すると,輪郭制御に誤差
が生じ,工作物に段差や傷が生じる.このことから非回転工具による自由曲面形状の工作物を加工
し,形状測定を行うことで超精密加工機の性能評価を間接的に行なうことができる.
Workpiece
B axis motion
Tool holder
Workpiece
Rake face
X
Chuck
Y
Z
Enlarged figure
X
Z
B axis table
Fig.5.1 Tool layout of spherical surface with non-rotational cutting tool
87
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
5.2.2 工作物の形状
工作物形状は図 5.2 に示す幅 W=50mm,高さ H=25mm,半球形 SR=50mm の球面形状である.こ
こでは,非接触型の形状測定機にて形状精度を測定するため球面形状としている.工作物形状は,式
(1.2)に示した自由曲面形状式に CX=CY=1/50,KX=KY=1,An=Bn=0 として算出することができる.工作
物には快削黄銅を用い,SR=50mm 表面には共和産業(株)の無電解ニッケルメッキを施している.工
作物は,メッキ処理前に母材である快削黄銅を超精密加工機にて旋削加工を行ない形状精度 p-v 値
1.0 m 以下に仕上げている.
Rapid feed
Cutting feed
Z
X
Measured area:A
Measured area:B
26
Y
X
Fig.5.2 Tool path for spherical surface with non-rotational cutting tool
88
5.2.3 工作物の加工条件
表 5.1 に加工条件を示す.非回転工具による加工では,図 5.2 に示す工具経路にて送り速度
f=1000mm/min,切込み深さ dc=5 m,ピックフィード Pf=50 m にて粗加工を 2 回行ない,dc=2 m,
Pf=5 m で仕上げ加工を 1 回行なう.粗加工及び仕上げ加工には,工具刃先半径 Rtip=3mm の(株)アラ
イドダイヤモンド製単結晶ダイヤモンドバイト(UPC)を使用する.
また,図 5.1 に示す本加工方法では,刃先半径を持つ工具を Y 軸方向に動かした際,工作物との
接触点が加工位置により異なる問題がある.工具の輪郭誤差が工作物の形状誤差に繋がるため,輪
郭精度を確保した工具を使用する必要がある.しかし,高い輪郭精度の工具を使用する場合は工具
費用の高騰が課題となる.そこで,第 3 章にて示した機上形状計測装置を用いて工具の輪郭誤差を
補正する.補正方法は,粗加工実施後に機上形状計測装置にて X 軸方向および Y 軸方向の形状の測
定と解析を行ない,形状補正を考慮した NC プログラムにて仕上げ加工を行なうことで工具の輪郭
誤差を除去することができる.
Table 5.1 Cutting conditions
Rough cutting
Finish cutting
1000
1000
Pick feed[mm]
50
5
Depth of cut[mm]
5
2
2
1
Cutting speed
[mm/min]
Cutting times
89
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
5.2.4 加工動作における位置偏差の評価
工作物の加工評価において,事前に 2 章にて示した位置偏差を用いた運動性能の評価を行なう.
運動性能の評価は,加工動作に用いる X 軸,Z 軸および B 軸についてそれぞれ行ない非回転工具に
よる切削加工動作の性能を評価する.
このときの X,Z,B 軸の位置,送り速度,位置偏差の測定結果をそれぞれ図 5.3∼図 5.5 に示す.
図 5.3 は,X 軸,Z 軸および B 軸の位置を示している.工作物の幅が 50mm であることから,X 軸の
位置が-25mm∼25mm の 1.3 秒∼4.7 秒の範囲において加工を行なっていることを示す.1.3 秒以前と
4.7 秒以降は,それぞれ助走区間と停止区間である.
図 5.4 に示す送り速度では,
Z 軸の送り速度が工作物の凸形状に合わせて変化しており,
f =0mm/min
になった 3 秒付近にて Z 軸の送り方向が反転する.このときの図 5.5 の位置偏差の値に変化は見ら
れない.さらに,図 5.5 に示す位置偏差は,動作開始直後及び停止時に X 軸および Z 軸において変
動が発生しているが,ここは助走区間であるため問題にはならない.また,位置偏差は幅 50mm の
実加工範囲にて PE =10nm 以下に抑えられている.
これらの結果より,開発した超精密加工機は,非回転工具による自由曲面形状を高精度に行なう
性能を有すると推測される.
90
30
20
80
X axis
Z axis
B axis
60
B axis position deg
X,Z
X, Zaxis
axisposition
positionmm
nm
40
40
10
20
0
0
-10
-20
-20
-40
-30
-60
-40
-80
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5
Time s
Fig.5.3 Measured position of 3-axis behavior during spherical surface with non-rotational cutting
2400
2000
1600
1200
800
400
0
-400
-800
-1200
-1600
B axis feed rate deg/min
X, Z axis feed rate mm/min
1200
1000
800
600
400
200
0
-200
-400
-600
-800
X axis
Z axis
B axis
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5
Time s
Fig.5.4 Measured feed rate during spherical surface with non-rotational cutting
Retraction area
25
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
-20
-25
0.05
Cutting area
0.00
-0.05
-0.10
X axis
B axis
Z axis
-0.15
B axis potion error deg
X,Z axis position error nm
Approach area
-0.20
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5
Time s
Fig.5.5 Measured position error during spherical surface with non-rotational cutting
91
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
5.3 工作物加工精度による性能評価
5.3.1 形状精度の評価
工作物の形状精度評価は Panasonic 社製三次元測定機 UA3P 及び ZYGO 社製レーザ干渉計 GPI に
より行なう.図 5.6 に UA3P にて測定した工作物の形状測定結果を示す.切削送り方向である X 軸
が滑らかな曲線を描くのに対し,ピックフィード方向の Y 軸は,波状の測定結果が得られた.仕上
げ加工では 13.5 時間にわたる加工を行なうため,特にピックフィード方向の Y 軸には工具刃先半径
とピックフィードから求められる理論表面粗さは 4nm RZ を考慮すると,環境の変化による姿勢変化
が測定結果に含まれているものと推測される.UA3P による形状精度の測定結果は,設計値に対して
p-v 値 0.08 m であった.
次に ZYGO GPI による形状精度の評価を図 5.7 に示す.工作物が凸形状である場合,測定装置の
性能により評価範囲は頭頂部の 13mm の領域に限定されるため,工作物の加工範囲全域を評価する
ことはできない.そこで,ゴニオステージを用いて工作物を 0°,17°の 2 段階に設定して測定を行
なった.これにより,図 5.1 に示す工作物中央部の A 部と外周部の B 部の 2 ヵ所を測定できる.
2 つの測定結果には,形状に同様の傾向が見られた.これには参照レンズの形状誤差が含まれてい
るためと推測されるが,中央部および外周部の形状精度は A 部が p-v 値 0.08 m,外周部を測定した
B 部が 0.06 m となり,形状精度 p-v 値 0.1 m 以下の工作物を得た.
0.30
0.20
X Axis
(Feed direction)
Y Axis
(Pick feed direction)
Profile accuracy
m
0.10
0.00
-0.10
-0.20
-0.30
-12.0 -9.0 -6.0 -3.0
0.0
3.0
6.0
9.0
12.0
X and Y axis position mm
Fig.5.6 Cross-sectional profile of workpiece (Panasonic UA3P)
92
0.1
Height
m
5mm
Measured area: A
p-v:0.08 m
5mm
-0.1
Measured area: B
p-v:0.06 m
Fig.5.7 Surface profile(ZYGO GPI)
5.3.2 表面粗さの評価
次に工作物の表面粗さ測定を ZYGO 社製表面粗さ測定機 New View にて行った.図 5.8 に観察し
た工作物の表面状態を示す.ピックフィード方向の Y 軸方向にカッターマークが規則的に整列して
いることが分かる.この図におけるピックフィード方向の表面粗さの測定結果を図 5.9 に示す.表
面粗さは 1.9nm Ra となり,光学部品用金型に求められる表面粗さを満たしていることを確認した.
93
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
A
0.05
Roughness
m
Y
X
-0.05
A
(a) Surface roughness
0.050
Roughness
m
0.025
0.000
-0.025
-0.050
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
Distance mm
(b) Sectional roughness (A-A)
Fig.5.8 Measured result of machined workpiece (ZYGO New View)
94
5.3.3 加工時間の比較
表 5.2 に本評価試験の加工時間を示す.合わせて従来の超精密加工機においてフライカットにて
加工を行なった際の加工時間の試算を示す.図 5.1 に示した工作物の非回転工具による切削加工時間
は,粗加工が 9 時間,仕上げ加工が 13.5 時間,総加工時間が 22.5 時間であった.
同寸法の工作物を従来の工作機械を使用したフライカット法にて加工した場合,回転切れ刃によ
る断続切削であるため,f =100mm/min 程度に制限され,戻り動作も f =300mm/min に制限される.ピ
ックフィード量,粗加工および仕上げ加工の回数を同一にした場合,粗加工に 13.6 時間,仕上げ加
工には 34 時間を要し,合計で 47.6 時間を要することになる.
この結果,自由曲面加工における加工時間の短縮には,非回転工具による本加工方法が有効であ
ることが明らかである.
Table 5.2 Comparison of machining time
Developed
machine tool
Conventional
machine tool
Drive system
Linear motor drive
Hydrostatic screw
Machining method
Non-rotational cutting
method
Fly-cut method
Feed rate
[mm/min]
1000
100
Rough cutting
[hour]
9
13.6
Finish cutting
[hour]
13.5
34.0
Total machining
[hour]
22.5
47.6
Items
Machine tool
Machining time
95
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
5.4 結言
本章では,開発した超精密 5 軸加工機を用いて,自由曲面形状の工作物の加工評価を行なっ
た.ここでは,新たに提案した非回転工具による切削加工方法を示し,工作物加工結果の形状
測定と表面粗さ測定を行ない,以下の結論を得た.
(1) 工作物の加工精度評価により形状精度 p-v 値 0.08 m が得られ,目標とした 0.1 m 以下の
要求精度を満たすことを確認した.
(2) 表面粗さは 1.9nm Ra の結果が得られ,光学部品用金型として求められる品質を満足するこ
とを確認した.
(3) 自由曲面形状を持つ光学部品用金型の加工方法として,従来のフライカットに対して半分
以下の加工時間となることを示した.
96
参考文献
1)
河合知彦,蛯原健三,山本明:リニアモータ駆動の超精密 5 軸ナノ加工機,精密工学会誌,
72, 4 (2006) 435.
2)
田中克敏,福田将彦,覚張勝治,鈴木清,植松哲太郎:超精密加工機の高精度化の研究,
砥粒加工学会誌,51, 9 (2007) 482, Technology Vol.55, 1,(2006)381.
関連論文
i.
廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発,精密工学会,80, 2(2014),pp177-182.
97
第 5 章 非回転工具を用いた自由曲面形状の加工による超精密加工機の性能評価
98
第 6 章 レンズアレイ金型加工による
超精密加工機の性能評価
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.1 緒言
近年の超精密加工機に要求される加工精度と加工対象となる金型形状は,スマートフォンを
代表とする携帯端末の普及により変化している.これらの端末には 1 つ以上のカメラ機能が搭
載されている.このカメラ用のレンズモジュールも従来のデジタルカメラ用レンズモジュール
に比べ小型化が進んでおり,カメラは撮影用途に応じて,
(1) メインカメラ用レンズモジュール
(2) サブカメラ用レンズモジュール
の 2 種類に大別される.(1)のメインカメラ用レンズモジュールは,800∼1200 万画素以上の高
画素での撮影に対応した高い解像度が要求される.光学系は,プラスチックレンズとガラスレ
ンズを組合わせた 2 枚から 6 枚程度のレンズで構成されている.これらを成形するレンズ金型
には p-v 値(peak to valley)0.1 m 以下の形状精度と数ナノメートル程度の表面粗さが求められ,
金型加工を行う超精密加工機には,高精度な輪郭制御が要求される. (2)のサブカメラ用レン
ズモジュールは,200∼300 万画素程度と(1)に比べ撮影画素数が少なく,光学系は 2 枚から 3 枚
のプラスチックレンズで構成されている.このレンズモジュールのレンズに求められる形状精
度は,p-v 値 0.2 m 以下とメインカメラモジュールに比べて抑えられている.このため,レン
ズ成形やモジュール組立と言った製造コストをできるだけ抑えながら大量に生産できる方法
が求められている.
図 6.1 にレンズ材料に樹脂を用いた一般的なプラスチックレンズモジュールの製造方法を示
す.このレンズモジュールの製造方法は,超精密非球面加工機にて加工した金型と射出成型機
を用いてレンズを成形する.この成形工程では,一度に 8 個から 16 個程度のレンズを成形す
ることができる.成形されたレンズは,光学性能の向上のため成膜工程にて反射防止膜の表面
処理を行う.撮像用レンズモジュールは解像度に応じて 2∼6 枚の複数のレンズを組合わせて
いることから,成膜処理後の組立工程にてレンズモジュールとして組上げられる.この組立工
程では,各レンズの光軸が一致するように調芯作業を行いながら組立を行うため,レンズモジ
ュールの組立てには時間がかかることが問題となる.
これに対して,レンズアレイウェハを用いた Wafer Level Casting 法による製造方法の検討が
進んでいる 1)~3).
図 6.2 に Wafer Level Casting 法におけるレンズモジュールの製造方法を示す.
この Wafer Level Casting 法において用いられるレンズアレイウェハは,直径 100∼200mm のウ
ェハ上に直径 1∼5mm のレンズ形状を数十個から数百個単位で規則的に配置したものである.
このウェハは図 6.3 および図 6.4 に示すレンズアレイウェハ用の成形装置と成形工程を用いて
成形を行うことで得ることができる.この成形装置にて成形されたレンズアレイウェハを図
6.2 に示す工程により複数のレンズアレイウェハと貼合せ,積層後に切断することで一度に数
百個単位のレンズモジュールを生産することができることから,画期的なレンズモジュールの
100
製造技術として注目されている.図 6.3 に示す成形装置は,この Wafer Level Casting 法を実現
するために必要なレンズアレイウェハを成形することを目的に(株)不二越にて開発した成形装
置である.この成形装置は,熱硬化樹脂が硬化する際に発生するゲル化反応をヒータの熱膨張
とロードセルの関係から検出し,加圧開始条件とすることで低圧ながらもレンズ形状の転写性
とレンズ厚みの再現性に優れる装置である 4),5).この成形装置は,熱硬化性樹脂を用いて図 6.4
に示す工程において隣り合うレンズ間のピッチ精度,各レンズの偏芯精度,各レンズの形状再
現性およびレンズの厚み均一性に優れるレンズアレイウェハを量産することができる.この成
形装置によって得られたウェハは成膜,積層の工程を経て,回転工具により切断することで図
6.2 に示す工程を実現することができる.
このレンズアレイウェハの製造方法には,図 6.3 および図 6.4 で示した成形工程や組立工程
において,ウェハ上のすべてのレンズの光軸を一致させるためにウェハには良好なレンズ間の
ピッチ精度が求められる.さらに.成形用金型は上記のピッチ精度だけでなく,良好な形状精
度と表面粗さが求められる.
この成形方法に使用するレンズアレイ金型の製造方法として,ボールエンドミルやダイヤモ
ンドミルを用いた回転工具による加工が挙げられるが,これらの加工方法は断続切削であるた
め,工具スピンドルの回転速度により送り速度 f =10mm/min 程度に制限される
6),7)
.さらに,
回転工具を用いた断続切削は,加工負荷の変動による工具の摩耗が進み加工開始付近と加工終
了付近での形状に差が発生する恐れがある.図 6.5 にエンドミルを用いた工作物表面の顕微鏡
写真を示す.図に示すように回転工具を用いた加工では,カッターマークが重畳し,工作物表
面が荒らされていることが分かる.成形工程では,金型の表面粗さが転写されるため,成型さ
れるレンズの光学性能は金型の精度に依存する.図 6.6 に示す研削による製造方法では,工作
物を取付けた主軸と主軸に対して直交あるいは一定の傾きを持たせた砥石軸を用い,工作物の
回転と砥石軸を搭載した直動軸を同期させる方法が挙げられる 8)∼10).しかし,この加工方法で
は金型上の配置位置に依存して,加工動作が異なるため,加工に用いる NC プログラムは,加
工するレンズ形状の個数に応じて準備する必要があり,加工点数の増加に比例して NC プログ
ラムの容量が大きくなることから NC プログラムの受け渡しに煩雑さが生じる.また,工作物
上のレンズの位置により軸の加工動作が異なることで金型形状に差異が発生する恐れがあり,
同一品質のレンズウェハを生産する上で非常に大きな問題となる.マイクロレンズアレイの代
表的な加工方法には,図 6.7(a),(b)に示すファストツールサーボによる加工やボイスコイルモ
ータを駆動機構に用いた装置などが挙げられるが,レンズ形状は図に示すファストツールサー
ボやボイスコイルモータのストロークの制限を受ける 11)~14).また,工作物の形状によっては,
工具の逃げ面と工作物が干渉する恐れがある.これらの問題から,レンズ形状間のピッチ精度
に優れ,旋削加工と同等の形状精度と表面粗さが得られるレンズアレイ金型の高速加工の実現
が要求されている.
本章では,開発した超精密 5 軸加工機を用いて,Wafer Level Casting 法に対応したレンズア
レイ金型の高速かつ高精度な加工を実現するための新しい加工法を提案する.本章ではレンズ
101
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
アレイ金型の加工動作における運動性能の評価と工作物の加工試験を行い,レンズアレイ金型
のレンズ形状部の形状精度,表面粗さの評価およびレンズ形状間のピッチ精度について評価を
行ない,超精密 5 軸加工機の有効性を検証する.
AR coating
Machined mold
Injected lens
Fig.6.1
102
Assembling
Conventional method of fabricating lens module
Lens module
st
1 Lens
Stacking
nd
2 Lens
rd
3 Lens
Lens array wafer
Dicing blade
Dicing
Layered wafer
Picking up
Lens modules
Fig.6.2
Wafer level casting method
103
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
NC control unit
Heater and mold
Computer
Thermal
controller
Alignment table
Z
500mm
X
Y
Fig.6.3 Imprint molding machine for lens array wafer
104
Mold
Material
Material insert
Mold
Heating and molding
Cooling
Lens array wafer
Mold release
Fig.6.4 Molding process using lens array mold
105
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
10 m
Fig.6.5 Microscopic view of lens mold machined by milling process
C-Axis
Workpiece
Tool spindle
Y
X
Z
Grinding wheel
Lens profile
Fig.6.6 Machining method by grinding process
106
Tool holder
Housing
20mm
(a) Overview of fast tool servo
Workpiece
Y
Cutting Tool
Oscillation
X
Z
(b) Tool layout
Fig.6.7(a) Machining method by fast tool servo
107
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.2 レンズアレイ金型の加工方法
6.2.1 ツールレイアウトの検討
レンズアレイ金型加工の工具配置を図 6.8(a)に示す.一般的な軸対称旋削加工は,主軸に工
作物と工作物取付冶具を保持し,X 軸テーブル上に工具を固定する.回転する工作物に対し X,
Z 軸にて送り動作と切込みを制御する.これに対して,今回提案する加工では, X 軸テーブル
上に工作物を固定し,主軸に工具を固定する 15),16).この加工方法では,主軸の回転軸と工具の
刃先を一致させ,主軸を角度割出し制御が可能な C 軸として使用する.工具先端と C 軸の回
転軸を一致させるために工具の保持具には位置調整用のボルトが取付けられている.工具の刃
先位置は,事前に顕微鏡と位置調整用ボルトを用いて調整を行う.
加工動作は,X 軸と Y 軸の往復位置決め運動を同期させ,円運動の軌跡を得る.この円運動
の接線方向に C 軸を用いて工具のすくい面を向けることで,工具は図 6.8(b)の①∼⑧で示した
順序に動き,螺旋状に連続した切削加工が可能になる.この連続したシェーパ加工の動作に,
切込み深さを制御する Z 軸を同期させることで,金型上の任意の位置に軸対称形状の加工が可
能になる.ここでは,本加工方法を“円弧シェーパ加工”と呼ぶ.
本加工方法では,各レンズ形状部への位置決めとその場所における加工動作の繰返しである
ため,金型上のいずれの位置においても加工の動作は同一になり,レンズ形状は均一な形状と
なることが期待できる.本加工法では工具の割出し位置の情報を変更することで,加工位置の
変更や追加が可能である.また,レンズ形状のみ変更の場合は,割出しの位置は変更する必要
がない.つまり NC プログラムでは,加工動作と割出し位置の情報を独立して管理することが
できるため,レンズ形状の変更や加工位置の変更および加工個数の変更が容易になる.NC プ
ログラムのファイル容量は図 6.6 で示した加工方法に比べて少なくなることから NC プログラ
ムの受け渡しも行いやすい.本加工法では,図 6.8(b)中の(c)に示すレンズ形状部を囲む平面部
の加工も可能であり,この加工を組合わせることで,凹形状の金型だけでなく凸形状の金型の
製作も可能である.さらに,平面部にレンズ形状とは異なる凹凸形状の加工が可能である.
エンドミル等を用いた回転工具による加工では,回転する工具の周速が切削速度であるのに
対して,本加工法では送り速度が切削速度になる.また,回転工具による加工では,回転する
切れ刃による断続加工であるのに対し,本加工法は連続加工であることから工具に作用する負
荷変動が少なく,工具の長寿命化が期待できる.さらに,シャンク形状を旋削加工用のシャン
クと同一形状にすることで,加工に用いる工具に旋削用のダイヤモンドバイトを用いることが
可能になる.これにより,専用の工具を用意する必要はなく,工具の入手も容易となる.
一方で,本加工法を実現するために加工機には,高速かつ高精度な輪郭制御が求められる.
本加工機では,空気軸受を工具の旋回軸として用いることから滑らかな回転運動が可能である
他,油静圧軸受とリニアモータ駆動を用い,Z 軸と比較して軽量な X 軸と Y 軸を往復位置決め
運動に使用することから,高速かつ高精度な輪郭制御が期待できる.また,開発した超精密加
108
工機の懸垂型のアクティブ除振装置は高速で駆動するテーブルが発する加工機の揺れを抑制
することから高精度な加工結果が期待できる.
C-axis
Cutting Tool
Oscillation
Rotation
Oscillation
Y
X
Tool holder
Workpiece
Z
(a) Tool layout
(c)
⑤ ④
③
Rake face
⑥
②
⑦
Y
⑧ ①
X
Workpiece
Z
(b) Cutting motion
Fig. 6.8 Arc shaper cutting method
109
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.2.2 工具経路の算出方法
図 6.9 は円弧シェーパ加工における工具の軌跡を示している.レンズ形状の中心点から
XT[mm]離れた位置から移動を開始した工具が点 T (XA,ZA,YA,CA)にある.このとき工具軌跡
は螺旋状に動作するため, 1 回転する間に x[mm]内側に移動する.この間の加工点 T からレ
ンズの中心までの距離 LA[mm]は次式にて求めることができる.
LA XT
360
(6.1)
x
ここでは, は点 T における X 軸からの角度を示す.
次に,加工点 T における X,Y 軸の座標および工具のすくい面を制御する C 軸の角度を求め
ることで,円弧シェーパに必要な X,Y および C 軸の座標を次式にて求めることができる.
XA
YA
LA cos
LA sin
XT
XT
360
360
x cos
(6.2)
x sin
A
また,Z 軸方向の切込み量 ZA[mm]は次式にて算出することができる.
Z
CX 2
1
1
2
1 KC X
2
C2 X 2
C4 X 4
Cn X n
(6.3)
ここで,Z:光軸方向の座標[mm],X:光軸と垂直方向の座標[mm], K:円錐係数,C:曲率
半径の逆数[mm-1],Cn:非球面係数を表している.
実際の加工では, X 軸と Y 軸によるらせん状の運動になるため,NC 制御装置の円弧補間を
用いた微小線分による輪郭制御を採用している.
110
Y
YA
T
LA
Cutting start
XA
X
XT
x
Cutting end
Fig. 6.9 Tool path of arc shaper cutting
111
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.2.3 加工動作の検証
実際の工作物を加工する前段階として加工動作による運動性能の評価を行なう.超精密加工機の
運動性能の評価は,2 章にて示した位置偏差を用いた評価を行った.
図 6.10 に,直径 1mm 付近の X 軸,Y 軸および Z 軸の指令値と指令値と実測した座標との偏差を
示す.本加工方法では,旋削加工と同様の加工結果を得るために,1回転あたりの送り量を一定に保
つように各軸の制御を行う.一方で,軸の急激な加減速を避け,良好な工作物形状を得るため,レン
ズ形状の中央部に近づくにつれて加工速度を減少させている.図 6.10 では,直径 1mm 付近において
V=300mm/min となる条件を採用した.図 6.10 では,時間の経過とともに X 軸及び Y 軸の振幅が減
少しているが,振幅の周期は一定になっている.また,Z 軸の位置指令は,工作物の形状に合わせて
緩やかに変化している.この時の X 軸および Y 軸の位置偏差の最大値は全振幅で 20nm となり,Z
軸の位置偏差の最大値は全振幅で 6nm となった.目標とする工作物の形状精度はサブカメラ用レン
ズモジュールの要求精度である p-v 値 0.2 m であることから,これらの位置偏差量は,加工結果に
影響を与えない量と考えられる.
これより開発した超精密 5 軸加工機には,本加工方法に必要な位置決め性能を満足していること
X axis
Y axis
Z axis
0.2
0.1
0
-0.1
-0.2
25
X axis
Y axis
25
Z axis
15
15
5
5
-5
-5
-15
-15
-25
-25
140
142
144
146
Time s
148
150
Fig. 6.10 Position error during oscillation motion
112
Z axis position command mm
0.3
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1.0
Z axis position error nm
X, Y axis position error nm
X, Y axis position command mm
が確認された.
6.3 工作物加工結果と加工性能評価
6.3.1 加工形状と加工順序
超精密 5 軸加工機の評価は,円弧シェーパ加工によるレンズアレイ金型の加工を実施し,形状精
度,表面粗さ及びレンズ形状のピッチ精度測定により行なう.図 6.11(a)に工作物の形状を示す. 幅
20×高さ 20mm,厚み 15mm の C3604 材に無電解ニッケルメッキ処理を行い, 25 個のレンズ形状
を規則的に配置したレンズアレイ金型の加工により性能評価を行う.図 6.11(b)にレンズ部の形状を
示す.形状は折り返し形状を持つ軸対称非球面形状であるが,レーザ干渉計による形状評価を行な
うため,レンズ形状の中心から直径 1mm の範囲は非球面形状ではなく球面形状としている.本加工
方法にて粗加工と仕上げ加工を行い,形状精度 p-v 値 0.2 m 以下,表面粗さ 2nm Ra 以下およびピッ
チ精度 1 m 以下を目標精度とするレンズアレイ金型を作製する.
レンズ部の加工順序は,図 6.11(a)の左上(A-1)のレンズ形状より加工を開始し,X 軸方向に順次加
工を行なう.1 段目の加工完了後,2 段目の左端(B-1)より加工を開始し,順次 X 軸方向へ 1 段ずつ加
工を行う.レンズ形状部の加工完了後,レンズ形状部を囲む平面部についても本加工方法を用いた
加工を行ない,平面部とレンズ形状部の高さ調整を行なう.目標とする形状精度から X 軸と Y 軸の
同期制御の遅延時間は,2ms 以下であることが求められる.図 6.12 に実際の加工の様子を示し,こ
の時の加工条件を表 6.1 に示す.ここで,図 6.12 の工作物と冶具は 2 本のボルトにて固定している.
超精密加工では,無電解ニッケル処理前の母材の形状精度によって必要な粗加工の回数が異なる.
今回の加工評価では事前に工作物の形状測定を行ない,粗加工の回数を 4 回と決定した.C 軸に工
具を設置するための取付け冶具は,回転軸と重心の不一致による振動を防止するための重心位置調
整用のタップ穴にて動バランス修正を行ない,回転軸上に重心位置を一致させている.
使用する工具は,Rtip=0.2mm のアライドマテリアル製の超精密切削加工用単結晶ダイヤモンド工
具(UPC)を用い,切削液としてミスト状の放電加工油 PS-FM-A(パレス化学)を用いる.このときの仕
上げ加工における理論表面粗さは 2.5nm RZ である.
113
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
20
4
4
4
4
4
A
4
B
4
20
C
4
D
E
Y
1
X
2
3
4
5
(a) Workpiece designed
3.47
2.54
1.70
Z
Measured area
X
1.00
(b) Profile of axisymmetric aspheric surface
Fig. 6.11 Lens array mold
114
Dummy workpiece
Mist nozzle
Workpiece
Cutting tool
Y
50mm
X
Z
Fig. 6.12 Setup for arc shaper cutting
Table 6.1 Cutting conditions
Rough cutting
Finish cutting
Cutting speed
[mm/min]
300
300
feed
[ m/rev]
20
2
Depth of cut
[ m]
10
3
Cuting times
4
1
115
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.3.2 工作物の形状補正方法
光学金型は,その要求精度から設計値に対する誤差を除去するための補正加工が必要になる.
そのため,一般的な軸対称非球面形状の切削・旋削加工では,加工後に高精度な機上形状計測
装置や三次元形状測定機を用いて形状測定と解析および補正加工を行なう 17).しかし,レンズ
アレイ金型の場合は加工するレンズの個数が数十個から数百個と多く,加工と補正加工を繰り
返すと非常に多くの時間を必要とする.さらに,機外の三次元形状測定装置を使用してレンズ
形状を測定する場合,工作物の取付け,取外しによるアライメント誤差による測定誤差および
加工誤差が発生する恐れがあるほか,レンズ間のピッチ精度の誤差の原因となる.
このため,本研究で開発した超精密加工機を用いたレンズアレイ金型の加工では,図 6.13 に
示す手順で補正加工を行なう. NC プログラムを作成後,事前に形状確認用の工作物の加工を
行い機上形状計測装置や三次元形状測定機 UA3P を用いた形状測定と解析を行なう.解析結果
から C 軸回転中心と工具中心のずれ量を算出し,加工開始の X,Y 軸の位置を修正すること
で,中央部が未加工となることを防ぐ.また,設計形状と測定結果を比較することで形状誤差
を算出し,
この結果からレンズアレイ金型の加工用 NC プログラムを修正することができる 17).
形状確認用の工作物の形状精度が p-v 値 0.1 m 以下であることを確認後,実際のレンズアレイ
金型の加工を行なう.レンズアレイ金型の加工終了後,再び形状確認用の工作物の加工と UA3P
による形状測定を実施する.この測定と解析において形状精度を確認し,必要に応じて補正加
工を実施する.
116
Input of cutting condition
Machined
dummy workpiece
Measurement of profile
Generation NC program
for cutting with compensation
NG
Profile analysis
0.1 > Measured p-v
OK
Machined lens array mold
Machined
dummy workpiece
Measurement of profiles
Profiles analysis
NG
0.1 > Measured p-v
OK
Machining end
Fig. 6.13 Flowchart of machining method for lens array mold
117
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.3.3 形状精度の評価
図 6.14 に本加工方法にて加工したレンズアレイ金型を示す.この工作物の仕上げ加工時間
は,レンズ形状部 25 個の加工に 10.6 時間,平面部の加工に 4.6 時間,合計 15.2 時間を要した.
ミーリング加工の場合,f =10mm/min として,他の加工条件を本加工法と同条件にした場合で
は,レンズ 1 個あたりの加工時間は計算上 10.5 時間となることから総加工時間は 260 時間以
上に及ぶ.
この金型を用いて,各レンズの形状精度と表面粗さの評価を行う.レンズ形状部の形状測定
には,三次元形状測定機(Panasonic UA3P)とレーザ干渉計(ZYGO GPI)を用いる.工作物上の加
工位置による影響や加工の進行に応じた工具の摩耗による形状誤差を評価するため,図 6.15
に示す三次元形状測定機を用いて図 6.14 の 1 個目(A-1),13 個目(C-3),25 個目(E-5)に加工を行
なったレンズ形状について形状測定を行う.これらのレンズ形状部の X 軸方向および Y 軸方
向の測定結果を図 6.16(a)~(c)に示す.図 6.16(a)∼(c)のいずれの結果においても形状精度を表す
p-v 値は 0.1 m 以下となり, X 軸方向と Y 軸方向の形状がほぼ同一であることが分かる.こ
れは開発した超精密加工機では運動方向による輪郭制御の性能に差が少ないことを示してい
る.
図 6.17 にレーザ干渉計を用いて測定した全てのレンズ形状の形状精度を示す.p-v 値は全て
0.1 m 以下となり,形状精度はほぼ一定の値で推移していることが分かる.本加工方法では,
工作物上の加工位置に関係なく加工動作は全て同一の運動となるため,本加工方法を用いるこ
とで再現性を確保した高精度な形状が得られることを示している.
118
Y
10mm
X
Fig. 6.14 Example of lens array mold
Touch probe
Stage
Workpiece
Z
Y
X
20mm
Fig. 6.15 Form profiler (Panasonic UA3P)
119
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
0.10
Y axis
Profile accuracy m
Form accuracy mm
X axis
0.05
0.00
-0.05
p-v 0.06 m
-0.10
-0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Distance mm
(a) 1st aspheric surface (A-1)
0.10
Y axis
Profile accuracy m
Form accuracy mm
X axis
0.05
0.00
-0.05
p-v 0.04 m
-0.10
-0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Distance mm
(b) 13th spheric surface (C-3)
0.10
Profile accuracy m
Form accuracy mm
X axis
Y axis
0.05
0.00
-0.05
p-v 0.05 m
-0.10
-0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Distance mm
(c) 25th spheric surface (E-5)
Fig. 6.16 Surface profile
120
Fig. 6.17 P-v values of all lens by ZYGO GPI
121
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.3.4 表面粗さの評価
図 6.18 に示す非接触表面形状測定機(ZYGO NewView)を用いて 13 個目(C-3)に加工したレ
ンズ形状部中央部付近の解析結果を図 6.19 に示す.この時の表面粗さは 1.7nm Ra であった.
また,図 6.8(b)における(c)で示した平面部について微分干渉顕微鏡にて撮影した写真を図
6.20 に示す.この平面部の加工はレンズ形状部と同様に円弧シェーパ加工を用い,Pr =3 m/rev
として切削加工を行なっている.この図より,切削加工にて得られるカッターマークが円周状
に整列していることが確認できる.これは,一般的な超精密旋削加工で得られる加工面と同様
の結果であることから,円弧シェーパ加工を用いることで,旋削加工と同様の加工結果が得ら
れることを示している.これは光学金型の製造現場において,形状精度や表面粗さの定量的な
評価だけでなく,作業者の目で見た定性的な評価を行なう場合においても,これまでに用いて
きた判断基準を適用できることを示している.
さらに円弧シェーパ加工における軌跡の終了箇所である図 6.20 の中央部には,突起状の未加
工部や工作物のむしれなどの異常は観察されない.これは工具先端を C 軸中心に一致させるの
に加えて,NC プログラムの修正により軌跡の修正を行うことで,レンズ中央部まで正確に加
工できることを示している.
本加工方法により得られた工作物の形状測定と表面粗さ測定の結果,旋削加工と同等の工具
軌跡となる円弧シェーパ加工方法によればレンズ形状の高精度加工が可能であることを示し
た.
122
Microscope
Workpiece
Goniometer stage
X-Y axis stage
Z
Y
20mm
X
Fig. 6.18 ZYGO New View
123
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
Roughness
Fig. 6.19 Microscopic view obtained by ZYGO New View
Fig. 6.20 Microscopic view obtained by ZYGO New View
124
6.3.5 ピッチ精度の評価
次に本加工によって得られるレンズ形状間の間隔の精度をピッチ精度として評価する.この
測定は,図 6.21 に示す画像寸法測定器(Keyence IM-6500)を用いる.図 6.11(b)に示す工作物形
状の場合,リング照明から入射した光は,鏡面に仕上げられた工作物表面にて反射し,レンズ
形状部は凹凸形状に応じて円周状に明暗を持った図 6.22 として表示される.この明暗の外周
のエッジ部から最小二乗法を用いてレンズ形状の中心位置を求めることができる.事前の測定
によりこの測定器は,撮影範囲φ25mm において測定精度±0.7 m,繰り返し再現性は 2σにお
いて±0.5 m および最小表示単位 0.1 m であることから測定に必要な測定精度を有する.
図 6.23 および図 6.24 に X 方向および Y 方向の隣り合うレンズ形状のピッチ精度の測定結
果のヒストグラム示し,各軸方向におけるレンズ間ピッチの平均値と 3σを表 6.2 に示す.測
定結果より Y 軸方向のピッチの測定結果が正規分布であるのに対し,X 軸方向は分散している
ことが確認された.これは図 6.12 に示した工作物と冶具を固定した際に,工作物に歪が生じた
ことでピッチ精度に影響が表れたものと推測できる.しかしながらピッチの平均は,X 軸方向
は 3.9994mm,Y 軸方向は 3.9992mm であった.ピッチ精度は 3σにおいて X 軸方向は,0.9 m,
Y 軸方向は 0.6 m であり,要求されるピッチ精度 1 m 以下を満足することを確認した.
これより,本加工方法によってレンズ形状を規則的に整列させることができることを示し,
レンズアレイ金型の加工には,本加工方法が有効であることを示した.
125
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
Microscopic view
Control unit
Workpiece
Focus stage
50mm
Fig. 6.21 Image measurement instrument (Keyence IM-6500)
X
A
Y
B
Y
C
D
X
E
10mm
1
2
3
4
5
Fig. 6.22 Microscopic view obtained with Keyence IM-6500
126
10
9
8
Frequency
7
6
5
4
3
2
1
4.0000
3.9998
3.9996
3.9994
3.9992
3.9990
3.9988
3.9986
3.9984
3.9982
3.9980
0
X axis pitch mm
Fig. 6.23 Pitch accuracy in X-axis direction
10
9
8
Frequency
7
6
5
4
3
2
1
4.0000
3.9998
3.9996
3.9994
3.9992
3.9990
3.9988
3.9986
3.9984
3.9982
3.9980
0
Y axis pitch mm
Fig. 6.24 Pitch accuracy in Y-axis direction
Table 6.2 Measurement result of pitch accuracy
Average
Pitch accuracy(3 )
X axis
Y axis
3.9994mm
3.9992mm
0.9 m
0.6 m
127
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
6.3.6 工具刃先の摩耗評価
図 6.24 および図 6.25 にレンズ部および平面部の加工に用いたダイヤモンドバイトの加工前
後における微分干渉顕微鏡の画像を示す.図 6.14 に示す工作物のレンズ部と平面部の加工後の
写真において,チッピングや摩耗は確認されていない.このことから,より多くのレンズ形状
部を持つレンズアレイ金型の加工においても高精度な加工が期待できる.
10 m
Fig. 6.24 Microscopic view of tool cutting edge before cutting
10 m
Fig. 6.25 Microscopic view of tool cutting edge after cutting
128
6.4 結言
本章では開発した超精密 5 軸加工機を用いたレンズアレイ金型の新しい加工方法として円弧シェ
ーパ加工の提案を行なった.加工動作における位置偏差を用いた運動性能の評価と工作物の形状精
度,表面粗さおよびピッチ精度の評価から,以下の結論を得た.
(1) 円弧シェーパ加工の加工時の位置指令に対する直動軸の位置偏差が 20nm 以下であること
を確認した.
(2) 金型上に 25 個のレンズ形状を有する金型の加工面評価を行い,形状精度 p-v 値 0.1 m 以下,
表面粗さ 2nm Ra 以下の工作物が得られることを示した.
(3) 画像寸法測定器における各レンズ間のピッチ精度の評価を行い,ピッチ精度が 3σにおいて
1.0 m 以下であることを示した.
(4) 加工評価に用いた 25 個のレンズアレイ金型の加工時間は 15.2 時間であり,ミーリング加工
の 260 時間以上と比較して短時間で加工が可能であることを示した.
以上より,開発した超精密 5 軸加工機は,形状精度,表面粗さおよびピッチ精度を必要とす
るレンズアレイ金型の加工において高速かつ高精度な加工を実現できる加工機であることを
示した.
129
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
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International Journal of Automation Technology,8,1(2014),pp34-42
130
関連論文
i.
廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発 ―レンズアレイ金型加工による性能評価―,精密工学会誌,80,10(2014),
pp944-949.
ii.
廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発 ―レンズアレイ金型加工による性能評価―,2014 年度精密工学会春季大
会学術講演会講演集.
iii.
Tomohiro Hirose,Yoshihiro Kami,Tatsuhito Shimizu,Makoto Yabuya,Yoshitaka Morimoto,
Development of Ultra Precision 5-axis Machine Tool –Evaluation of lens array mold machining for
optical lens-,International conference on Precision Engineering(ICPE2014).
iv.
廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発
レンズアレイ金型加工による性能評価 ,2014 年度精密工学会春季大
会学術講演会,2014 年 3 月,東京大学.
関連特許
i.
廣瀬智博,インプリント成形法,特許第 5724156 号(2015.4.10).
131
第 6 章 レンズアレイ金型加工による超精密加工機の性能評価
132
第7章
結
論
第 7 章 結論
7.1 本研究の結論
本研究の第 1 章では,超精密加工の定義と用途を示し,超精密加工の用途である光学レンズ
の歴史と超精密加工機の歴史を示した.現在の光学部品の用途と要求の変化を示すとともに,
これまでの超精密加工機が抱える課題を示し,この課題に対する本研究の目的を明確にした.
従来の超精密加工の用途は,軸対称非球面形状ではデジタルカメラレンズや CD・DVD 等の
ピックアップレンズ用の金型加工が主目的であったのに対して,近年の超精密加工は Blu-ray
ディスクや,スマートフォンを代表とする携帯端末搭載向けの小型高性能カメラの普及により
変化していることを述べた.そして,従来の金型に比べ小型でありながら高い形状精度と良好
な表面粗さを求めるものや,スマートフォン用のサブカメラ用途のレンズモジュール製造用の
レンズアレイ金型の加工など複雑な金型加工の要求が増えてきていることを述べた.
また,自由曲面形状の加工では,f- レンズ金型等の比較的小型の金型加工が主であったが,
プロジェクタ用ミラーレンズ金型や自動車用ヘッドライト金型の加工など大型でかつ複雑な
形状の加工要求が高まり,従来のフライカット法にでは加工の長時間化や,これに伴う外乱に
よる形状精度の低下の問題を挙げ,現状の課題を示した.
そこで,この課題を解決するために高速送りを用いた新たな加工方法を示した.新たな加工
方法を実現するには,高速送りにおいて高い輪郭精度が求められることから従来の超精密加工
機では実現不可能な加工法であった.提案する加工法を実現するための新しい超精密加工機に
求められる性能を示し,この要求性能を満たす超精密 5 軸加工機の開発,補正加工に使用する
機上形状計測装置の高精度化を行なった.超精密加工機および機上形状計測装置の評価は,機
械の運動性能の評価だけでなく工作物の形状精度および表面粗さの測定により総合的な評価
を行なうことを本研究の目的とした.
第 2 章では,開発した超精密 5 軸加工機の構造と主な仕様を示した.本章では,超精密 5 軸
加工機の案内方式と駆動方式を検討し,直動軸には油静圧案内とリニアモータ駆動の構造を採
用し,回転軸には空気静圧案内とダイレクトドライブモータを採用した.さらに,外部振動を
低減する目的から懸垂型アクティブ除振装置を採用した.
まず,除振装置の性能評価を行ない,機械の振動や床振動を効果的に除去できることを確認
した.例えば超精密加工機と床面の振動を床振動計にて測定を行ない,10Hz における床面の
振幅が 0.1 m であるのに対し,機上では 3nm と振動を大きく抑制できることを示した.
次に真直度は,50nm/100mm であり,テーブルの反転動作時においても姿勢変化が少ないこ
とを示した.ステップ送りによる評価では 2nm 単位の移動と位置決めの指令に対し,おおむね
指令どおりに X 軸,Y 軸および Z 軸がそれぞれ動作していることを確認した.
次に各直動軸が指令に対して正確に動作していることから,超精密加工機の輪郭制御の性能
134
評価方法として位置偏差を用いた評価方法を提案した.この評価方法を用いて,油静圧ねじを
送り機構に用いた従来の超精密加工機と開発した超精密 5 軸加工機の比較評価を行なった.こ
の結果,超低速位置決めでは油静圧ねじが優位であったが,f =100mm/min 以上では,リニアモ
ータ駆動の位置決め性能が優れることを示した.本研究の目的である高速送りによる加工を達
成するために,リニアモータ駆動の採用が適切であることを確認した.さらに,自由曲面形状
の高速加工を想定したオシレーション動作では,f =1000mm/min において突起状の偏差が発生
しないことを確認し,機上形状計測装置を用いた補正加工と組合わせることで工作物の高速・
高精度な加工の可能性を示した.
第 3 章では,超精密 5 軸加工機に搭載が可能な機上形状計測装置の高精度化について述べ
た.近年普及している Blu-ray のピックアップレンズ用の金型は,高い開口数を確保するため
に,小径のレンズながら傾斜角±70 度までの範囲において形状精度が求められた.従来の機上
形状計測装置では,測定範囲が工作物の傾斜角±60 度までであることから,この工作物の測定
は不可能であった.本章では,機上形状計測装置の主軸材質の見直しと測定予加重の低減およ
び測定用のプローブの形状変更を行なった.
この結果,従来の機上形状計測装置では測定再現性が±50 度の範囲において 3 が 60nm を
超える結果であったのに対し,開発した機上形状計測装置の測定再現性は測定範囲±75 度にお
いて 23nm であった.これにより,機上形状計測装置の高精度化を実現した.
第 4 章では,工作物の切削および研削加工を実施し,工作物の測定結果から開発した超精密
5 軸加工機の性能評価を行なった.この工作物の加工評価では,機上形状計測装置を用いた補
正加工を実施し,機上形状計測装置の性能評価も併せて実施した.
本章では,補正加工方法について提案し,加工前,補正加工前,補正加工後の工作物の形状
測定結果を基に,工作物の補正加工の効果を確認した.この結果,超精密 5 軸加工機および機
上形状計測装置を用い,形状精度 p-v 値 0.1 m 以下の目標を上回る 0.04 m の工作物形状が得
られた.さらに光学部品用金型の製造現場において形状測定の標準機である Panasonic 社製三
次元形状測定機 UA3P の測定結果が形状精度 p-v 値 0.05 m であることから,高精度な形状測
定を工作機械上にて実施できることを確認した.
次に回転砥石を用いた工作物の研削加工では,研削加工における砥石摩耗と工作物形状の関
係から,機上形状計測装置を用いた砥石摩耗量の算出を行ない,砥石摩耗量を補正した加工に
より形状精度 p-v 値 50nm 以下の金型を得ることができることを示した.
第 5 章では,新たに提案した非回転工具による自由曲面形状の切削加工評価を行なった.従
来の自由曲面形状の加工は,フライカット法が用いられてきたが,回転工具による断続切削で
あるため,光学部品用金型に使用できる工作物形状と表面粗さを得るためには,f =100mm/min
程度が限界とされていた.一方,開発した超精密 5 軸加工機では,非回転工具による自由曲面
135
第 7 章 結論
形状の切削加工を行なった.この結果,f =1000mm/min にて工作物の加工を実現し,工作物の
測定結果は形状精度 p-v 値 0.08 m,表面粗さ 1.9nm Ra を得た.また,加工時間についても提案
した加工法はフライカット法に対して約 50%の時間短縮の効果を得た.これらの結果より,提
案した加工法は光学部品用の金型に求められる形状精度,表面粗さおよび生産性を満足するこ
とを示した.
第 6 章では,より複雑な工作物としてレンズアレイ金型の加工評価を行った.従来の金型加
工では,一つの金型に対してひとつのレンズ面を作っており,レンズモジュールの生産性に課
題があることを述べた.レンズアレイ金型は,複数個のレンズモジュールを同時に組立て,切
断することで数多くのレンズを同時に生産することができる.このためレンズアレイ金型には
複数のレンズ形状が規則的に整列することと,全てのレンズ形状で高い形状精度と良好な表面
粗さが求められることを述べた.
本章では,開発した超精密 5 軸加工機を用いた円弧シェーパ加工の提案を行なった.通常の
旋削加工では工作物が主軸に取付けられるのに対し,円弧シェーパ加工では工具が主軸に取付
けられており,この工具が旋回することで非球面形状の加工ができる.従来のミーリング加工
が回転工具による断続切削加工であるのに対し,本加工法はバイトによる連続加工であること
から加工時間を 1/17 に短縮することができた.提案手法により 25 個のレンズが規則的に並ん
だ工作物の加工を行なった結果,形状精度 p-v 値 0.1 m 以下,表面粗さ 2nm Ra 以下,ピッチ精
度 1 m 以下の良好なレンズアレイ金型を得ることができた.
以上より,本研究にて示した超精密 5 軸加工機の開発および機上形状計測装置の高精度化に
より第 5 章にて提案した非回転工具による自由曲面形状の加工および第 6 章にて提案したレ
ンズアレイ金型の加工法を実現することができた.さらに,これらの加工方法は,光学部品の
生産性を著しく改善することができた.本研究の成果は,既に一部の光学機器メーカで実用化
されており,その評価も良好であることから,今後の光学分野の発展に大きく寄与することが
期待できる.
また,提案した非回転工具による自由曲面形状の切削加工およびレンズアレイ金型の加工方
法は,本研究にて提案したアクティブ型除振装置,油静圧案内,リニアモータ駆動の組合わせ
た機械構造によって実現することができた.この構造を持つ超精密加工機では,加工方法が高
速化に適していることから,今後も生産性向上のためにより一層の高速化が必要となる.
136
本学位論文に関する研究論文および
国際会議講演論文等一覧
研究関連論文等一覧
【研究論文】
(1) 廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発―基本性能の評価と工作物加工結果の評価―,精密工学会誌,80, 2(2014),
pp177-182.
(2) Tomohiro Hirose,Yoshihiro Kami,Tatsuhito Shimizu,Makoto Yabuya and Yoshitaka Morimoto,
Development of On-Machine Measurement Unit for Correction Processing of Aspheric Lens Mold
with High Numerical Aperture,International Journal of Automation Technology,8,1(2014),
pp34-42.
(3) 廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発 ―レンズアレイ金型加工による性能評価―,精密工学会誌,80,10(2014),
pp944-949.
【国際会議】
(1) Tomohiro Hirose,Yoshihiro Kami,Tatsuhito Shimizu,Makoto Yabuya,Yoshitaka Morimoto,
Development of Ultra Precision 5-axis Machine Tool –Evaluation of lens array mold machining for
optical lens-,International conference on Precision Engineering(ICPE2014),7(2014)*.
*Best Paper Award 受賞
【その他研究論文】
(1) Hiroshi Mizumoto, Yoichi Tazoe, Tomohiro Hirose, Katsuhiko Atoji, Performance of
High-Speed Precision Air-Bearing Spindle with Active Aerodynamic Bearing,
International Journal of Automation Technology, 9, 3(2015),pp297-302.
【研究発表】
(1) 廣瀬智博,上 芳啓,薮谷
誠,超精密加工機用機上計測装置の高精度化,2013 年度精密
工学会秋季大会学術講演会,2013 年 9 月,関西大学.
(2) 廣瀬智博,上 芳啓,清水龍人,薮谷 誠,森本喜隆,光学部品用金型加工向け超精密 5
軸加工機の開発
レンズアレイ金型加工による性能評価 ,2014 年度精密工学会春季大
会学術講演会,2014 年 3 月,東京大学.
138
(3) 廣瀬智博,石山祐太,薮谷 誠,森本喜隆,Wafer Level Casting 法向けレンズアレイウェハ
用精密成形装置の開発,2015 年度精密工学会春季大会学術講演会,2015 年 3 月,東洋大
学.
【受賞歴】
(1) Best paper award,15th International Conference on Precision Engineering(ICPE2014),
Tomohiro Hirose,Yoshihiro Kami,Tatsuhito Shimizu,Makoto Yabuya, Yoshitaka Morimoto,
Development of Ultra Precision 5-axis Machine Tool -Evaluation of lens array mold machining
for optical lens,廣瀬智博,高速高精度位置決めが可能な光学金
(2) 2014 年度日本機械学会奨励賞(技術)
型加工用超精密加工機の開発,2014.4.17.
139
研究関連論文等一覧
140
謝
辞
謝辞
本論文の執筆にあたり,指導教官,主査としてご指導をいただきました金沢工業大学 森本
喜隆教授,副査としてご指導をいただきました金沢工業大学 新谷一博教授,加藤秀治教授,
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 岡崎祐一先生,金沢大学 浅川直紀教授に御礼申し上
げます.また,論文の執筆にあたりご指導をいただきました金沢工業大学大学院 機械工学専
攻主任 高野則之教授,高杉敬吾講師に御礼申し上げます.さらに,長年にわたり共同研究を
通して超精密加工機の開発に助言をいただきました鳥取大学 水本 洋名誉教授に深く御礼申
し上げます.
本研究に取り上げました超精密 5 軸加工機の開発と性能評価にあたり,共同開発者として多
くの助言や指導をいただきました株式会社 不二越 薮谷 誠様,上 芳啓様,清水龍人様,レ
ンズアレイ金型の加工に際しプログラム作成等で多くの助言をいただきました株式会社 不二
越 越後敬介様に感謝を申し上げます.特に入社時より長年にわたり超精密加工機および超精
密加工に関して多くの指導をいただきました上 芳啓様ならびに大学院博士後期課程進学にあ
たり尽力いただいた薮谷 誠様に特別の感謝を申し上げます.
超精密加工機の設計・製作は,直接開発にかかわった人員だけでできるものでなく株式会社
不二越社内の多くの技術者,実際の組立を担当された技能者,部品加工を担当された協力工場
ならびに多くの人々の協力があってはじめて完成することができた超精密加工機であります.
この超精密 5 軸加工機の開発だけでなく超精密分野に携われたことを誇りに思い,超精密にか
かわる全ての皆様に深く感謝を申し上げ,謝辞といたします.
2016 年 3 月
廣瀬
142
智博
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