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深刻化する中国と米国・EUの繊維摩擦

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深刻化する中国と米国・EUの繊維摩擦
中国ビジネスレポート
No. 28
調査レポート 05/27
2005 年 6 月 2 日
深刻化する中国と米国・EUの繊維摩擦
調査部
野田麻里子([email protected])
1. 米国が中国に対してセーフガード(緊急輸入制限措置)を発動
・ 米国は、5 月 23 日に綿ニットシャツなど 3 品目、27 日に合繊シャツなど 4 品目の合計7品目
の繊維製品について、中国からの輸入を前年実績の 7.5%増以内に抑制するセーフガードを発
動した。
・ また、EUも 5 月 27 日に中国に対してTシャツと亜麻糸の輸入抑制について正式に協議を申
し入れた。同日から 15 日以内に両者の間で輸入抑制について合意できない場合、EUも米国
同様、上記 2 品目についてセーフガードを発動することになる。
・ 一方、中国は 5 月 20 日に繊維製品 74 品目について 6 月 1 日以降、輸出関税を大幅に引き上
げると発表し、一旦は繊維輸出を自主規制する姿勢を示した。しかし、その後、米国がセー
フガードを発動し、EUもセーフガード発動の可能性が高くなる中で、5 月 30 日、今度は一
転、6 月 1 日以降、78 品目について輸出関税を撤廃することを決定した。中国政府は「今回
の措置は米欧の保護主義への対抗措置である」と明言している。
2. 急増する中国の繊維輸出
・ 事の発端は、貿易自由化の例外措置として 1995 年のWTO協定発効後、10 年間に限り認めら
れた繊維製品に対する輸入数量規制が 2005 年 1 月に撤廃されたことにある。同規制撤廃を受
け、中国の繊維製品輸出は大幅に拡大した(図表1)。
図表1.中国の米国およびEU向けの輸出動向
(前年比、%)
(前年比、%)
250
160
140
120
対米輸出合計
100
うち ニット製品
200
対EU輸出合計
うち ニット製品
150
80
100
60
40
50
20
0
0
-20
-50
01
02
03
04
05
01
(出所)CEIC (注)05年第2四半期は4月の前年同月比の値。
02
03
04
05
(出所)CIEC (注)05年第2四半期は4月の前年同月比の値。
・ 中国からの繊維製品輸入の急増によって、米国の繊維産業のみならず、メキシコ、カナダな
ど米国の近隣諸国の繊維産業も対米輸出の鈍化により打撃を受けている(次頁図表2)。
1
中国ビジネスレポート
No. 28
調査レポート 05/27
図表2.米国の繊維・衣料品輸入上位 25 カ国からの輸入動向
伸び率変化
04年
輸入数量
前年比(B) (A)−(B)=(C)
規制撤廃
7.8%
3.7%pt の影響
8.8%
5.5%pt
05年1-3月期
前年比(A)
11.5%
14.3%
繊維・衣料品輸入合計
上位25カ国合計
54.0%
22.2%
31.8%pt
中国
20.6%
6.7%
13.8%pt
バングラデシュ
26.9%
13.1%
13.8%pt
インド
19.1%
7.1%
12.0%pt
スリランカ
31.5%
23.0%
8.5%pt
ニカラグア
14.8%
7.1%
7.7%pt
タイ
2.6%
-3.5%
6.0%pt
ドミニカ共和国
12.5%
9.1%
3.3%pt
ベトナム
12.7%
11.6%
1.1%pt
インドネシア
0.7%
0.0%
0.7%pt
エルサルバドル
10.6%
10.2%
0.4%pt
グアテマラ
7.1%
6.9%
0.3%pt
ホンジュラス
-3.7%
-3.9%
0.3%pt
フィリピン
0.5%
0.9%
-0.4%pt
トルコ
14.7%
15.3%
-0.5%pt
カンボジア
0.8%
3.4%
-2.6%pt
イタリア
11.4%
14.5%
-3.1%pt
パキスタン
29.8%
33.8%
-4.0%pt
ペルー
-5.1%
-0.2%
-4.9%pt
カナダ
-7.3%
-2.3%
-5.0%pt
メキシコ
-12.4%
-3.5%
-8.9%pt
台湾
-14.1%
1.1%
-15.2%pt
韓国
-18.7%
3.6%
-22.3%pt
香港
-17.6%
12.0%
-29.7%pt
澳門
ヨルダン
32.1%
64.1%
-32.1%pt
(出所)米商務省
(注)右欄の影響評価はUFJ総研調査部。
◎
◎
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
△
△
△
△
△
△
△
△
×
×
×
×
・ また、EUについては、ポルトガルの繊維産業の低迷に一段と拍車がかかっているほか(図表
3)、スリランカやパキスタンなどからの輸入が中国製品の流入急増の煽りで低迷していると
指摘されている(図表4)。
図表3.ポルトガルの生産の推移
図表4.スリランカ、パキスタンの品目別輸出動向
(前年比、%)
(2000年=100)
(前年比、%)
(スリランカ)
110
50
60
105
40
50
100
30
95
20
90
10
85
0
(パキスタン)
40
30
20
10
0
-10
80
-10
製造業生産全般
-20
うち 衣料品製造部門
-20
75
-30
-40
-30
70
00
01
(出所)Datastream
02
03
04
05
01
02
03
輸出合計
皮革ゴム木製品
04
05
01
繊維・衣料品
(出所)CEIC
2
(出所)CEIC
02
03
輸出合計
繊維製品
04
05
一次産品
その他製品
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調査レポート 05/27
3. セーフガード発動の影響
・ 繊維産業が占めるウェイトは、輸入国(米欧)にとっても輸出国(中国)にとってもマクロ
的に見れば小さく(図表5)、今回のセーフガード発動によって実体経済に深刻な影響が出る
とは考えにくい。
図表5.各国経済に占める繊維産業のウェイト
米国
EU
(参考)日本
輸入総額に占める割合
7.3% (2004年)
5.4% (ドイツ、2003年)
6.0% (2004年)
GDPに占める割合
0.4% (2003年)
0.4% (ドイツ、2001年)
0.2% (2003年)
3.3% (2003年)
1.9% (ドイツ、2001年)
0.9% (2003年)
0.7% (ドイツ、2002年)
0.4% (2003年)
3.1% (ドイツ、2002年)
1.6% (2003年)
(うち 製造業付加価値
に占める割合)
雇用に占める割合
(うち 製造業雇用に占
める割合)
0.5%
(非農業雇用に占める
割合、2004年)
4.8% (2004年)
中国
輸出総額に占める割合
EU
16.1% (2004年)
16.4% (ポルトガル、2003年)
(工業部門の付加価値
GDPに占める割合
雇用に占める割合
6.7% 総額に占める割合、
7.6%
2003年)
(総賃金労働者に占め
る割合、2003年)
2.9% (ポルトガル、2001年)
4.8% (ポルトガル、2002年)
(出所)米商務省、OECD、ILO、中国統計年鑑他
・ ただし、主要市場での保護主義的措置の発動は需給動向を読みづらくし、繊維業界に混乱を
与えるものと言えよう。また、小売業者など繊維製品の買い手にとって保護主義的な措置の
対象になり易い中国はもはや安定的な供給先と言えなくなるといった弊害も出てこよう。
・ しかし、実際には中国から米欧への直接輸出は減るものの、第三国を迂回して中国製品が米
欧市場に出回る可能性は高いと見られる。2頁の図表2は輸入割当規制の撤廃によって中国
からの輸入が急増する一方、澳門や香港からの繊維輸入が大幅に減少していることを示して
いる。これは規制によって中国から直接輸入できなかった間は澳門や香港などを通じて中国
の工場で生産された繊維製品が米国市場に入ってきていたことを示唆していると考えられる。
4. 懸念される中国を巻き込んだ貿易摩擦の拡大
・ 米国が大幅な貿易赤字を計上していること、さらに来年に中間選挙を控えていること、一方、
EUは内需の不振から景気の低迷が続いていること、などを考えると、今後も米欧の保護主
的な姿勢は続く可能性が高いと考えられる。
・ 一方、中国は、豊富な労働力と潤沢な外貨を背景に今後も自動車など様々な分野で生産能力
を拡大していくと見られる。結果として、世界経済におけるウェイトを増す中国と米欧との
間で貿易摩擦が起こる可能性は高まっていくと見られる。これは中国を主要な生産拠点とす
る日本企業の戦略にとっても新たなリスク要因となろう。
以上
3
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