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南中国揚子地塊におけるエディアカラ紀の化学層序, 古海洋, および化石

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南中国揚子地塊におけるエディアカラ紀の化学層序, 古海洋, および化石
氏
名
:
古山 精史朗
論文題名
:
Ediacaran chemostratigraphy, paleoceanography, and fossil discovery in the Yangtze block,
South China
(南中国揚子地塊におけるエディアカラ紀の化学層序,古海洋,および化石の発見)
区
分
:
甲
論
文
内
容
の
要
旨
マリノアン氷期 (6.35 億年前) やガスキエス氷期 (5.8 億年前) はエディアカラ紀 (6.35〜5.42 億
年前) における大規模な気候変動としてよく知られている.これらの氷期に象徴される気候変動と
多細胞動物の多様化が時期的に重なることから,動物進化と古海洋環境変化の関連が指摘されてい
る.これを明らかする上で,南中国に分布する揚子プラットフォームは格好のフィールドである.
しかし,ここから報告されているデータは浅海相を扱ったものが多く,比較的深い環境にあった陸棚斜
面や海盆環境のデータは少なく,動物進化が起こった古海洋の全容は明らかにされていない.この背景
ドシャント
をふまえ,本研究では,揚子プラットフォームの陸棚斜面〜海盆相を含むエディアカラ系(特に 陡山沱
層:6.35〜5.51 億年前)についての堆積学的・地球科学的・古生物学的研究を行った.
本研究で対象としたのは,揚子プラットフォーム上の異なる環境で堆積した3つのセクション;
湖南省 Fengtan セクション(海盆相)・貴州省 Wenghui セクション(陸棚斜面)・湖南省 Yangjiaping
セクション(浅海相)である.全てのセクションにおいて陡山沱層はマリノアン氷期の氷礫岩層で
ナントゥ
ある南沱 層を整合的に覆う.海盆・陸棚斜面のセクションでの本層は,炭酸塩岩・黒色頁岩で主に
構成され,その層厚は 70m 程度と薄い.一方,浅海セクションの本層は炭酸塩岩が卓越し,層厚は
約 350m に達する.その堆積深度は模式地の三峡地域浅海相より浅かったと考えられる.
岩相層序と無機炭素・ストロンチウムの安定同位体による化学層序の結果, 陡山沱層内で対比可能な
3 つの層準を見いだした.まず,Wenghui および Fengtan セクションの本層下部に認められる負の無機炭
素同位体異常は,三峡地域の同レベルのものと対比できる.次に,Yangjiaping セクションの本層上部に
認められる無機炭素同位体比の変動幅が大きいインターバルは三峡地域の本層中部に対比できる.2つ
に共通する高いストロンチウム同位体はこの対比を支持するとともに,ガスキエス氷期での高い大陸フ
ラックスを反映したものと考えられる.最後に,Fengtan セクションの 陡山沱 層上部と Wenghui セクシ
ョンの本層中部に見られる著しい負の無機炭素同位体異常は,三峡地域の本層上部に対比できる.この
インターバルはグローバルな変動とされるシュラムエクスカーションに対応する.
これらの対比結果を考慮し,エディアカラ紀における揚子プラットフォームの古海洋環境が復元され
た.まず,マリノアン氷期後の強烈な温暖化による海洋の層状化と,栄養塩供給とともに増大した海洋
での光合成により,大量の有機物が中〜底層水で滞留した.これは,DOC(溶存有機炭素)リザーバー
と呼ばれ,その上面は少なくとも三峡地域の深度までは及んでいた.DOC リザーバーは深い水塊で低い
無機炭素を生成し, 陡山沱層下部で見られる無機炭素同位体比の深度勾配を作り上げた.
DOC リザーバーはガスキエス氷期の開始により次第に縮小した.氷床発達とともに再開した熱塩循
環は深層へと酸素を供給し,強化された大陸の浸食作用は硫酸イオンなどの酸化剤と同位体比の高いス
トロンチウムを海洋に供給したと考えられる.マイクロドリリングにより抽出したセメント成分が低い
酸素・炭素同位体比を示すことから,この時期,Yangjiaping セクションは陸上に露出し,淡水による続
成作用を受けた.海洋の酸化はガスキエス氷期後も継続した.深層に残存していた DOC リザーバーの分
解により,シュラムエクスカーションが記録される.
本研究の重要な成果として,Fengtan および Wenghui セクションからの化石の発見が挙げられる.2
つの化石はいずれもガスキエス氷期以前に堆積した地層から産出し,還元的な条件下で保存された.
Fengtan セクションの化石はアクリターク(おそらく藻類の胞子嚢殻)がアパタイトにより交代されたも
のである.一方,Wenghui セクションの化石は骨針を持つ海綿動物であり,骨針はシリカと黄鉄鉱によ
り交代されている.浅海域からの運搬も考えられるが,Wenghui の海綿動物がこの場所で生息していた
ならば,初期の海綿動物は酸素の乏しい環境に適応し,おそらく DOC リザーバーを糧としていたと考え
られる.マリノアン氷期後の海洋層状化が海綿動物の進化に働いた可能性も指摘される.
(比甲様式6)
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