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注目されるデジタルサイネージ(No.11、2010年7月)

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注目されるデジタルサイネージ(No.11、2010年7月)
No.11
注目されるデジタルサイネージ
主幹研究員 藤井 和則
◆デジタルサイネージとは
渋谷や新宿などの繁華街の商業ビルだけでなく、店舗、駅、空港、電車、エレベーターの中で
も広告やニュースを表示するディスプレイが見られようになった。これらのディスプレイを利用した
情報発信の仕組みを「デジタルサイネージ」という。
デジタルサイネージの明確な定義はないものの、一般家庭以外の場所で電子ディスプレイを
使って情報発信するメディアやシステムとみておけばほぼ間違いない。ディスプレイの大きさは、
大型のものだけではなく、名札サイズの小型なものまで多種多様なものがある。これらのディス
プレイは、商品等の販売促進、交通機関や金融機関の情報提供に加え、社内の従業員教育や
情報の共有、地域や商店街の活性化にも利用されている。
◆デジタルサイネージの経緯
デジタルサイネージはまず海外で発展してきた。例えば、米国では、ウォルマートが店内放送
「ウォルマートテレビ」を 1998 年に開始した。現在は SmartNetworks に置き換わり、ニュースや天
気予報なども配信する全米4大ネットワークに次ぐメディアに成長している。また、ニューヨークで
は外壁全面をディスプレイとして広告やニュースを映し出すビルが見られる。欧州の事例として
よく取り上げられるのは、英国のヒースロー空港の事例である。同空港の第5ターミナルは当初
より紙のポスターは置かず、デジタルサイネージしか扱わない設計になっている。
日本の成功事例には、JR 東日本企画の「トレインチャンネル」が取り上げられることが多い。
同サービスは 91 年に山手線の車両のドア上部に液晶モニタを設置することで始まった。02 年 4
月には「トレインチャンネル」と名付けられ、全てのドア上部にモニタを2画面並べる現在の構成
となった。06 年 12 月には中央線快速、07 年 12 月には京浜東北線にも導入されている。
◆工夫を凝らした情報、コンテンツの流し方
デジタルサイネージは、紙やボード等の看板や電車の吊り広告、ポスターに代わる新しい屋
外メディアである。その最大の特徴は、情報やコンテンツの流し方が工夫されていることである。
たとえば、朝の通勤ラッシュ時にはビジネス系のコンテンツや実用情報を流す、昼間は主婦層を
対象にした特売情報を流す、夕方には飲食店の広告を流すというように、時間によって映し出す
内容を区別して、従来では得られなかった訴求力を発揮している。
時間だけでなく、設置場所による工夫も行われている。たとえば、ソニーが提供するスーパー
マーケット向けのデジタルサイネージ専用番組「ミルとくチャンネル」では、生鮮食品の紹介、ニュ
ース、天気予報などの他、夕食の献立に迷う主婦層を狙った様々な献立レシピを流している。ま
た、買い物に付き合う父親向けのニュース、子供向けアニメコンテンツを流している。
また、トレインチャンネルでは、2つのディスプレイをドア上部に配置し、右側に停車駅の情報
や運行情報を、左側にコンテンツや広告を流すことで、乗客が次の停車駅を確認するために目
線をドア上部に移すと、自然に左側のディスプレイも目に入るディスプレイ配置の工夫が行われ
ている。
1
◆デジタルサイネージの国内市場規模
矢野経済研究所は、デジタルサイネージを「屋外や店頭、交通機関など家庭以外の場所にお
いてディスプレイなどの表示機器で情報を発信する媒体」と定義し、小型の電子 POP(液晶でデ
ィスプレイなどを使用した Point of Purchase)から、LED を活用した大型の屋外ビジョンまでも含
む市場を広義のデジタルサイネージ市場としている。また、広義のデジタルサイネージ市場から
電子 POP や大型ビジョンを除いたものを狭義のデジタルサイネージ市場としている。
そして、09 年度の国内デジタルサイネージ市場の規模は 557 億円、販促ツールや広告媒体、
情報共有ツールとして注目を集める狭義のデジタルサイネージ市場規模は 344 億円であったと
している。さらに、10 年度は広義の市場規模が 636 億円に、狭義の市場規模は 387 億円になる。
2015 年には、広義の市場が 1,281 億円に、狭義の市場が 946 億円になると予測している。
デジタル・サイネージ市場規模の推移
(単位:億円)
1,400
1,281
狭義
広義
1,200
予測値
1,000
835
553
600
344
328
636
557
946
769
730
800
400
1,094
950
634
530
387
449
200
0
2008
9
10
11
12
13
14
2015
(年度)
資料出所:矢野経済研究所資料を基に作成
◆デジタルサイネージ業界(プレイヤーは誰か)
デジタルサイネージを、①配信・運営、②ハードウェア、③SI(System Integrator)、④保守・サ
ポート、⑤コンテンツ制作・広告収入の5つの分けて、日本市場における主要企業を挙げてみる
と、次表の通りとなる。
日本のデジタルサイネージ業界の主な企業
分類
①配信・運営
②ハードウェア
③SI、ソフトウェア
④保守・サポート
⑤コンテンツ制
作・広告収入
主な企業
日本カーライフアシスト(JACLA VISION)、COMMEL(福岡街メディア)、ソニー(ミルとくチ
ャンネル)、JR東日本企画、クロスオーシャンメディア(東京メディア)、メディアコンテンツフ
ァクトリー(メディキャスター)、寒山(フィットネスクラブメディアEXIT)、アンペリアル(美容
室内広告事業・SDビジョン)、モシカ(レストルームチャンネル、羽田空港)、ディメンション
ズ(Touch ACT!、不動産)
日本電気、シャープ、ソニー、日本サムスン、パナソニック、日立製作所、富士通、三菱電
機、トッパンフォームズ、インテル
NEC ネッツ SI、パナソニック、NTT、マイクロソフト
日立アドバンストデジタル、ソニービジネスソリューション、
電通、博報堂、アサツーDK、
資料出所:各種データを基に旭リサーチセンター作成
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◆デジタルサイネージの可能性
デジタルサイネージは「いつでも、どこでも、だれにでも」情報を伝え、かつ、「特定の時間、場
所、個人」に情報伝えることのできるメディアである。これらの特性から、明確な目的と効果を伴う
情報の提供手段として注目されている。
すでに、広告を流す手段としてだけでなく、ホテルでの案内や相談用ツール、駅や空港での案
内板として使用されている。金融機関の店内では株価情報を、スーパーに設置されたディスプレ
イは食品の値段やお勧め品を知らせている。さらに、学校や病院での情報共有ツール、企業内
の連絡ツールとしても利用が始まっている。街の空間アートとして景観を向上させる工夫も見ら
れる。公共空間で緊急情報を流すなど、公的な利用も進んでいる。今後、さらに用途が広がり、
利便性が向上していくであろう。
◆デジタルサイネージの今後
今後、デジタルサイネージは通信と結合したネットワークメディアとなる。すでに通信回線を利
用したコンテンツや番組の配信が始まり、時間帯別、停車する駅別に提供者の要望にかなうコン
テンツが配信されている。将来はメディア側からも情報を送り出す双方向性のサービスが登場し、
利便性が高まるであろう。また、今後、超薄型化や曲面対応などの様々な形態の機器が登場し
てくる。すでに、英国風パブ「HUB」では名札型のデジタルサイネージ「Audience.tag」を導入して
CM やキャンペーン情報を放映している。物珍しさから、視認率が高いことが注目されている。今
後は小型の機器にも注目が集まってくるであろう。効果については、測定や分析の手法も発展し
てくる。すでに、センサーや画像認識の技術を組み合わせて、視聴者を分析、集計するシステム
が登場している。将来は、より効果を測定しやすいシステムが登場してくるであろう。
さらに、技術的な発展の可能性として、通常の知覚にコンピュータで生成した情報を重ねて現
実を強調、拡張する技術である拡張現実(AR、Augmented Reality)との融合が考えられる。すで
に、携帯電話やデジタルサイネージ用の機器と連動して、現実空間を仮想的に透視する技術が
開発され、販促ツールとして利用されている。この AR の技術を取り込み、デジタルサイネージは
将来、行動を誘発するメディアに変化していく可能性がある。
(2010.7.29)
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