Comments
Description
Transcript
連体修飾が長い文は分かりにくいPDF 2015年11月1日
放送用語委員会(松山) 第 1392 回放送用語委員会が平成 27 年 7月10日 に松山放送局で開かれた。委員は作家・エッセイス トの青木奈緒氏と大分大学名誉教授の日高貢一郎 氏が出席し,松山・高知・徳島・高松各局のニュー ス・リポート・中継を検討した。 【長い連体修飾を避ける】① 松山市萩原では,住民から,雨が降ると裏のが けが崩れそうだという相談が寄せられた住宅を 訪れ,土砂災害の注意点が書かれたパンフレッ トを配って,避難経路を確認しておくよう呼びか けました。 「住民から,雨が降ると裏のがけが崩れそうだと いう相談が寄せられた住宅」という文は,「住宅」 にかかる連体修飾が長いので,分かりにくい。放 送は書いた文を読むのと違い,1 回聞いただけで分 かるようにする必要がある。また,「住民」は,こ の住宅に住む人のことだが,前の文からの流れで は,はじめて聞いた視聴者は地区住民のことだと 受けとるおそれがある。 (言いかえ案) ⇒松山市萩 原で訪れた家は, 住んでいる人から, 雨が降ると裏のがけが崩れそうだという相談が寄 せられていました。 ここでは,土砂災害の注意点 が書かれたパンフレットを配って,避難経路を確認 しておくよう呼びかけました。 【長い連体修飾を避ける】② 伊方原発を訪れたのは,全国の 11 の電力会社 などが共同で出資する電力中央研究所の原子力 リスク研究センターのジョージ・アポストラキス 所長など,16 人です。 この文も「ジョージ・アポストラキス所長」にかか る連体修飾が長いため,聞き取りにくい。しかも, 所長という肩書きが,「電力中央 研究 所」の所長 88 OCTOBER 2015 なのか,「原子力リスク研究センター」の長なのか, はっきりしない。実際には「原子力リスク研究セン ター」のセンター長である。連体修飾を短くすると ともに,文を組み替えることで,意味を取り違えら れずにすむ。また,地域では,「電力中央研究所」 はなじみのない研究所だと思うので,「東京にある」 を付け加えたほうが分かりやすい。 (言いかえ案) ⇒ 伊 方 原 発を訪 れ たのは, 電 力中 央 研 究 所 に ある原子力リスク研 究センターのトップを務める ジョージ・アポストラキス所長など,16 人です。電 力中央研究所は,全国の 11 の電力会社などが共 同で出資する研究所で,本部は東京にあります。 【明確に伝わることばの選択を】 松山市によりますと,市内でがけ崩れのおそれ がある場所は 541 か所あり,このうち 357 か所 の斜面を,コンクリートで固めるなどの対策を 取っているということです。 「ている」は,継続の状態や結果の状態など,さ まざまな意味を表す。このケースでは,対策が,進 行中なのか,完了したのか,判断できない。実際に は,357の斜面について対策が取られ,工事は終わっ ている。 「すでにコンクリートで固めるなどの対策を終 えたということです」とすれば意味がはっきりする。 【船主の助数詞】 ◯◯さんのように,今治に拠点を構える船主は, 日本で最も多いおよそ 280。今治は,船主のま ちでもあります。 会社と個人が混在していて,船主に助数詞が付 けにくかったようだが,助数詞なしで伝えられると戸 惑う。次のようにことばを補えば,疑問を抱かない。 「今治に拠点を構える船主は,個人,会社合わ せて,日本で最も多いおよそ 280」 【漢語は和語に言いかえる】 その一人,伯方島の○○△△さん,88 歳です。 明治時代から代々,船主を家業としています。 同音の熟語に「 稼業 」ということばもあるので, 混同する可能性がある。漢語は聞き取りにくいこと があるので,「家の仕事としてやっています」などと かみ砕いて言ったほうがよい。 【ことばの選択が適切か】 観音水です。ちょっと触ってみましょうね。あっ, こうして触りますとね, すごく冷たいですね。 そして, ちょっとヌルッとした,やわらかい感じがします。 中継のコメントである。 「ヌルッとした」は,よど んだ水が温まってヌルヌルした状態を想像させる。 清らかな名水を表現することばとしてはあまり適切 でない,という指摘があった。ミネラル分がとけて いるので,温泉のようなやわらかさがあるそうだが, 「やわらかい感じがします」だけで十分だろう。 【視聴者が自然に受け入れられる表現を】 今では,このバラを目当てに,年間およそ 1,000 人が訪れるまでになりました。遠くは,県外から 来る人もいるということです。 交通が不便な山奥にあることから,ここでは,隣 の県に「遠くは」を使っている。伝え手は,時間が かかると知っているので「遠い」と考えるのかもしれ ないが,視聴者の中には距離が比較的近ければ「遠 い」と思わない人もいる。多くの人が自然に受け入れ られる表現になっているか,点検することも大切だ。 【「で」は文を分かりにくくすることがある】 「 6 次産業 」とは,農業などの 1 次産業,加工 などの 2 次産業,販売などの 3 次産業の,3 つ の産業を一元化して取り組むことで ,それぞれ の数字を掛け合わせて「 6 次産業 」と呼びます。 「で」には,手段を表す助詞や断定の助動詞「だ」 の連用形などさまざまな用法があるので文の途中で は, 「で」の意味が分かりにくいことがある。この例 では, 「であり」とすれば,その時点で意味が確定 する。あるいは, 「一元化して取り組むことです」と いったん文を切っても,次の文に意味がつながる。 「一元化」は,いくつかに分かれた組織・機構な どを1つにまとめることなので,ここでは「一元化」 より, 「一連のものとして」などとしたほうが分かり やすい。 【工房】 みまからを作っている工房を訪ね,地域の人か ら直接,2 次産業の加工を学びます。 「工房」は,本来,画家,彫刻家などの仕事場を 示すことばである。近年は,音楽のスタジオ,建築 事務所,食品加工場などで,固有名詞として「~工 房」と名前を付ける例も増えている。しかし,一般 名詞として使うことについては慎重でありたい。 【病気の「知名度」】 まだまだ知名度が低い病気ですが,国内で 100 人以上の患者がいるとされています。 「知名度」は,よいことに使われることが多い。 病気に知名度を使うことについては,抵抗感をもつ 人もいるので,「あまり知られていない病気」などと したほうがよい。 【~するなか】 ○○さんは,6 歳で瀬川病を発症。ちょっとし た段差でも,つまずいて,毎日,転んで帰って くるようになりました。症状は悪化するなか,原 因も病名も分かりませんでした。 「~するなか」は,便利なことばだが,意味がぼ やけることがある。特に「~するなか」の後に,「分 からない」という状 態を示すことばは続きにくい。 「症状は悪化していくのに,原因も病名も分かりま せんでした」,あるいは「症状は悪化していく一方, 原因も病名も分かりませんでした」とすれば,意味 がはっきりする。 吉沢 信(よしざわ まこと) 第 1392 回放送用語委員会(松山) 【開催日】平成 27 年 7 月 10 日(金) 【出席者】青木奈緒 氏 日高貢一郎 氏 泉谷八千代 松山放送局長 長田恭明 放送文化研究所副所長 OCTOBER 2015 89