...

探究する子どもの育成 - 熊本市教育センター

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

探究する子どもの育成 - 熊本市教育センター
平成24年度 研究論文
団体の 部( 小学校)
研究主題
探究する子どもの育成
~活用力を高める算数科学習を中心に
~
研究の視点① 子どもが問いをもつ問題の工夫
研究の視点② 活用力を高める学習活動・展開の工夫
正しく
強く
おおらかに
熊本市立健軍小学校
Kengun Elementary School
は
じ
め
に
本校は,平成23年度より熊本市教育委員会から「教育課程」を領域として2年間の研
究委嘱を受け,算数の学習を中心にして,基礎的な知識や技能を習得する過程で子どもの
関心・意欲を喚起して活用する力を高めていくことを目標に設定した。学習指導要領では,
「子どもに生きる力をはぐくむことを目指し,基礎的な知識及び技能と思考力・判断力・
表現力その他の能力をバランスよくはぐくむことを重視するとともに,主体的に学習に取
り組む態度を養っていかなければならない」としている。そこで,この学力観をきちんと
受け止め,「探究する子どもの育成~活用力を高める算数科学習を中心に~」を研究テー
マにして実践的研究に取り組んできた。
日々の授業はもちろんだが,特に研究を大きく推進したのは毎週月曜日に行っている「ト
ワイライト研修」なる職員の勤務時間外の自主研修だった。おもしろい教材の紹介や具体
的な授業の修正案を考えたり,教材研究や模擬授業まで行ったりした。時を忘れて議論し
た結果,日々の授業の理論付けができ,徐々に理論と実践がかみ合うようになって研修の
充実に大きく貢献したと思う。
一方,研究を推進していく上で「算数好きの子ども」を育てることも必須条件だった。
そこで,子どもたちが楽しみながら算数の学習のポイントを学べる「算数集会」を考案し
て行っている。これまで,「算数の『あ・い・う・え・お』」や「困ったときは『あ・か・
さ・た・な』」など,クイズや寸劇等のユニークな企画のもとにワンポイントレッスンと
して学ばせた。型にとらわれない職員の登場に,子どもたちは大喜びだった。
これまでの取組の成果が,算数の学習の中で具体的な子どもの姿として少しずつ見られ
るようになってきたことは,私たちにとってたいへんな喜びである。しかし,私たちの研
究はやっと緒に就いたばかりで,まだまだ課題も山積している。そして,私たちは算数の
学習ばかりでなく,他教科・他領域でも「探究する子ども」の姿を見たいと願っており,
確かな学力に豊かな人間性や健やかな身体も加え,これらが大切な基盤となって,子ども
一人一人に「生きる力」がはぐくまれると信じている。今後とも,職員一丸となってさら
なる授業改善に取り組んでいく所存である。
平成25年1月7日
熊本市立健軍小学校
-1-
校長
今坂德昭
目
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅰ研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
1.研究主題
3
2.研究主題設定の理由
3
3.研究主題について
4
4.研究の構想
5
Ⅱ研究の実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
1.1年部の実践
7
2.2年部の実践
10
3.3年部の実践
13
4.4年部の実践
16
5.5年部の実践
19
6.6年部の実践
22
7.難聴学級の実践
25
8.授業改善部会の実践
28
Ⅲ研究 の成果 と 課題・・・・・・・・・・・・・・・ 29
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
-2-
Ⅰ研究の概要
1.研究主題
探究する子どもの育成
~活 用 力 を高 める算 数 科 学 習 を中 心 に~
2.研究主題設定の理由
(1)今日的課題から
文部科学省は,国際学力調査(OECD生徒の学習到達度調査,PISA2009)において,「日
本の生徒の学力は読解力を中心に改善傾向にある。」とした。しかし,読解力について
情報の関係性を理解して解釈したり,自らの知識や経験と結び付けたりすることがやや
苦手なこと,数学的リテラシーについてトップレベルの国々とは差がある等の課題は残
る。その課題対策を表した「PISA2009の課題を受けた今後の取組」では,「知識・技能
の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視する。」として,理数教育
の充実と言語活動の充実を挙げている。
これは,まさに学習指導要領の総則と重なる。この総則には,「基礎的・基本的な知
識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,
判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り組む態度を養う」
とある。これが,今の子どもたちに必要とされている学力であり,これからの社会を生
きていく力となると考えられる。
(2)子どもの実態から
本校では算数科において,一般的な市販の
点
評価テスト(以下,「単元テスト」とする。)
に加え,より深く思考力・表現力を測るため
の市販テスト(以下,「活用力テスト」とす
る。)も使用している。図①のグラフは,昨
年度の単元テストと活用力テストの結果の比
較である。
●:単元 ■:活用 - - - - :期待平均点
単元テストがほぼ期待平均点であるのに
図① 昨年度のテスト結果
比べ,活用力テストは期待平均点よりも10点
ほど低く,単元テストと活用力テストとの結
果の差が大きい。また,昨年度途中の「難し
い問題に挑戦しようとする意欲」についての
アンケートでは,「あまり思わない」や「思
わない」とした子どもが30%近くいた(図②)。
この割合は,活用力テストで無回答のあった
〔4:強く思う→1:思わない〕 の4段階評価
子どもの割合と重なり,学んだことを活用し
図② 難しい問題に挑戦する意欲
て問題を解く力,じっくりと問題に取り組む
-3-
意欲等に課題があると考えられる。
3.研究主題について
(1)研究テーマ「探究する子どもの育成」について
研究テーマ中の「探究する子ども」を次のように定義した。
探究する子ども = 「学ぶ意欲」 と 「活用力」 をもった子ども
研究開始当初,授業中に学びが途切れずに自ら学びを求めるような子どもや,授業終
了のチャイムが鳴っても黒板の前で学んだことについてあれこれ話し合っている子ど
もたち…,つまり,[探究する子ども=「学び続ける」子ども]を育てられるような授
業をつくりたいと考えていた。
研究を進めていく中で,子どもたちに探究する喜びや楽しさを味わわせ「次も探究し
てみたい」という「思い」を抱かせるとともに,探究したいときに探究することができ
るだけの「力」を身に付けさせておく必要があると考えた。言い換えれば,探究してみ
たいという「思い」とは「学ぶ意欲」であり,探究することができる「力」とは「活用
力」である。つまり,「『学ぶ意欲』と『活用力』をもった子ども」を育てることが,
「探究する子ども」を育成することにつながると考えた。
(2)サブテーマ「活用力を高める算数科学習を中心に」について
サブテーマ中の「活用力」を次のように定義した。
活 用 力 = 「学 んだこと」 を 活 かす力
「学んだこと」とは,知識・理解・技能などの「①既習内容」と,話し方・聞き方や
ノートの取り方などの「②学び方」,そして,「③思考・表現のツール」となる言葉・
数・式・表・図・グラフなどである。では,学んだことを活かす力をもった子どもとは
どういう姿だろうか。具体的な例を挙げて考えてみる。
2年生の「かけ算」では,新しく「2位数と1位数の乗法」について学習することに
なっている。「4×12」という問題について考える場合,①既習内容の「4×3」は同数累
加の考えにより「4+4+4」で求められた。その考え方を使えば「4×12」は「4+4+4+
4+4+4+4+4+4+4+4+4」で求めることができる。また,かけ算の導入で使用した
アレイ図などの③思考・表現のツールを用いて求めることもできるし,②学び方を活か
して友だちとの話合いで答えを求めることもできるであろう。
このように,学習課題に対して「学んだこと」を活かすためには,子どもたち自身が
「これまでに学んだことの中で使えるものはないか?」や「これまでに学んだことを
使ってみよう。」と思うことが必要であり,そのためには,教師が「学んだこと」を把
握し,「学んだことを活かせる場」を設定するとともに,「学んだことを活かす力」を
高めるように,意図的・計画的に工夫することが必要である。
-4-
4.研究の構想
(1)研究の仮説・視点
【仮説】 子どもが問いをもつ問題の工夫をし,活用力を高める学習活動・展開の工夫
をすれば,「探究する子ども」を育てることができるであろう。
この仮説から以下の2つの研究の視点を設定した。
【視点①】子どもが問いをもつ問題の工夫
【視点②】活用力を高める学習活動・展開の工夫
■【視点①】子どもが問いをもつ問題の工夫について
例えば,「1桁でわるわり算」の問題で,はじめに108÷9,207÷9,306÷9と問題を
出していく。すると答えは,順に12,23,34となる。ここまできた時,子どもたちは「あ
れ?」と思い,「式と答えに何かきまりがありそうだ」ということに気付く。そして,
自分から条件を変えて答えを確かめてみたくなる。それが問いである。
問いは問題提示後すぐに生まれるとは限らないし,子どもたちに生じた問いが同じと
は限らない。何かが見えた時や逆に見えない時,また,自ら条件を変えて計算してみよ
うとした時,問いが生まれる。また,教師から一方的に与えられただけでは問いは発生
し難い。子どもたちに問いを生み出させるためには,問題が「解いてみたいもの」とし
て子どもたちのものになるようにする必要がある。
そこで,問題そのものや提示の仕方を工夫しなければならない。つまり,視点①の「問
題の工夫」とは,題材・素材の工夫,数値の工夫,提示の工夫などをすることである。
■【視点②】活用力を高める学習活動・展開の工夫について
子どもが問いをもつと,それをノートに表したり誰かに話したりしたくなる。ここか
らが「学び合い」となる。学び合いのはじめでは一人一人の問いを拾い上げ,それぞれ
の問いを関連付けながら子どもたちに共有させることで全体の問いとする。そして,共
有された問いに自ら働きかけていくことで学習目標に迫ることができると考える。
次に,子どもの学び合いを活性化させるには,多様な学び合いができるよう「学び方」
を学年に応じて発展させていかなければならない。例えば,自力解決では「分からない
…」や「できない…」でじっとしている時間を省き,分からないことがあれば「分から
ない。」と自分の立場を明確にさせる。次に「これまでとどこが違うか分からない。」
や「ここまでなら分かる。」や「問題の数値を簡単にすれば分かる。」というように問
題に対するそれぞれの思いを出し合わせる。そして,自然とペアやグループを形成して
問題解決への見通しを交流させ,全体での学びへと発展させていくのである。
また,このことは子どもたちに「既習内容」を確認させ,活用させていくことでもあ
る。問題を解決する過程で,子どもたちが「これまでに学んだことの中で使えるものは
ないかな?」,「これまでとどう違うのかな?」と意識し,問題解決の方法として活用
することができるように,指導者が配慮しておくことが必要である。
さらに,授業の終末に指導者が「広げる発問」をすることで,学びをさらに連続させ
ることも考えられる。子どもが「4桁でも同じようになるのかな?」と新たな問いをも
-5-
てば,学びは授業だけで終わらず休み時間や家庭での学び,あるいは次時の学びへとつ
ながっていく。
(2)探究する子どもを育てる研究の要素と目指す授業イメージ
■研究全体の要素と研究の視点
■目指す算数科学習のイメージと研究の視点
視点① 子どもが問いをもつ問題の工夫
視点②活用力を高める学習活動・展開の工夫
■題材・素材の工夫
■既習内容の活用
■数値の工夫
■学び方の発展
■提示の工夫
■広げる発問の工夫
全体で
自分で
問題との
かかわり
えっ? あれ?
分からないな。
このままではできないよ。
数を簡単にしたらできる。
何かおもしろそうだな。
他者との
かかわり
ペアで
あっ!
そうだ!
できた!
自己との
かかわり
グループで
なんとなく分かってきたぞ。
これを使うといいんだな。
そういう考えもあったのか
-6-
目標
探 究
学習のめあて
やっぱり~だったんだ。
もし~だったら~できるな。
~してみてよかったな。
他の数にしても同じになるかな。
もっと~してみたいな。
Ⅱ研究の実際
1.1年部の実践
単元名「かたちづくり」(色板による形の構成)の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身に付けさせたい「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力など」】
C 図形 - (1) 図形についての理解の基礎
(1) 身の回りにあるものの形についての観察や構成などの活動を通して,図形についての
理解の基礎となる経験を豊かにする。
〔算数的活動〕 (1)
エ身の回りから,いろいろな形を見付けたり具体物を用いて形を作ったり分解したりする活動
⇓
◎色板や棒などを並べて,四角形や三角形を作る活動を通して,図形についての理解の基礎
となる経験をいっそう豊かにするとともに,図形について親しみをもたせたり,生活と関連させ
たりして,図形についての感覚を豊かにしていくことをねらいとしている。
【子どもの実態】
■プレテストの結果は次のとおりである。(28人)
6問
0問~4問正解
5問正解
0人
立体図形の分類
4問(四者択二)
誤答
平面図形につい
ての理解
2人
1人
1問正解
1問誤答
1問正解
2人
1問正解
2問誤答
3人
1人
2問正解
1問誤答
2人
6問正解
27人
2問正解
18人
立体図形の分類については,ほぼできている。平面図形の理解については,3分の2程度
の子どもが捉えることができている。
【研究の視点①②より】
【子どもが問いをもつ問題の工夫】
▶問題提示で,前時に作った子どもの作品を使ったり,物語構成にしたりして意欲を高める。
▶影絵の問題を補助線を使うことで,見通しがもてるようにする。
【活用力を高める学習活動・展開の工夫】
▶見通しをもたせるために,枚数の予想をさせたり,方眼の1マスが色板2枚の正方形であるとい
うことを意識させたりする。
▶4枚以上の影絵については,かくれている正方形や補助線をヒントに考えさせる。
《人権教育の視点から》
▶色板の構成を考える際に,思考が進まない子どもには個別指導を行う。
-7-
(2)本時の実践
①本時の目標
○かげ絵遊びを通して,色板の枚数と形の関係に気付くことができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□三角形や正方形を意識して,影絵の枚数を予想する姿(視点①)
□正方形や補助線をもとに,かげ絵が何枚の色板で構成されているのかを考えようとする姿
(視点②)
②学習の実際
視点①子どもが問いをもつ問題の工夫
子どもの意欲を高めるために,影絵の問題に前時に作った子どもの作品を使ったり,
キャラクターを使って,問題を解くと発展問題が表れるという物語構成にしたりした。
また,問題の影絵の答えを「○枚」と予想しやすいように,正方形が2枚の三角形で構
成されていることをおさえたり,枚数が多くなった影絵の問題は,補助線の上に置いた
りした。
問題の提示
提示の工夫
問題の提示
題材の工夫
提示の工夫
問題の提示
提示の工夫
問題の提示
提示の工夫
T:(正方形を提示しながら)これは,この三角何枚でできて
いますか?
C:2枚。
T:では作れますか?
C:はい,作れます。→一斉に作る。
*正方形が2枚の三角形で構成されていることをおさえる。
T:これは,前の時間に○○さんが作った影絵です。
C:いいなあ。
C:何枚かな
T:三角何枚でできているでしょう。
*子どもの作品を使って,意欲付けをする。
T:(キャラクターからの挑戦ということで)挑戦状がきています。
『この問題を解いていくと一つずつ番号を教える。3つの数字
を並べると・・・』
C:(問題文中に)うわ~っ,パンダからの挑戦だ。
*物語構成による意欲付け
T:(補助線の上に影絵を提示するが,わざとずらしながら)
これは,この三角何枚でできていますか?
C:う~ん。おかしいです。
C:線の上に乗っていません。(その後,補助線に沿って影絵を
乗せ,予想後に,シートで問題を解かせた。)
*補助線を意識させるための提示
このように,簡単な問題から発展問題へと授業の工夫を行った。
-8-
視点②活用力を高める学習活動・展開の工夫
影絵が何枚の三角形で構成されているかということを考えるためには,1年生の子ど
もたちに,その形だけ提示しても難しい。まず,見通しをもたせるための手立てとして,
正方形が2枚の三角形で構成されていることをもとにして枚数の予想をさせたり,前半
の問題の解き方をもとにして後半の問題を解かせたりした(既習内容の活用)。また,
4枚以上の影絵の問題では, 補助線や正方形を意識して考えさせるようにした(学び方
の発展)。さらに,まとめの場面ではさらに難しい影絵の問題を出題して,意欲付けを
図った。(広げる発問の工夫)
既習内容の
活用
既習内容の
活用
学び方の
発展
広げる発問の
工夫
T:これは,三角何枚でできていますか。
C:4枚
T:どうしてわかりますか?
C:四角が入っているから,三角2枚と合わせて4枚です。
T:この影絵は何枚でできているでしょう。
C:(線を引けば,解けそう)
C:(四角もあるから・・・)
C:三角6枚になるな。
T:(三角9枚の影絵の問題で)どうやったらいいか,ヒントを
くれますか?
C:線を引いたらいいです。
T:どこに引くのですか?
C:線を見つけるといいです。
T:パンダからのプレゼントは何だろう?
C:え~っ,また問題だ。
T:どう,解けそうですか?
C:う~ん・・・,わかった,三角12枚だ。
T:正解は,今度のお楽しみ。
(3)成果と課題
○正方形が2枚の三角形で構成されることをおさえたことで,影絵が複雑になっても,
その中に正方形を見つけて三角形の数を数えることができた子どもが多かった。
○補助線を意識させたことで,ほとんどの子どもが影絵の中に線を引くことができた。
○子どもたちは問題を解くことで,物語が進んでいくような思いで意欲が高まり,集中
して取り組むことができていた。
△今回の授業では,問いを持たせる段階での内発的な動機づけが不足していたようだ。
子どもの解きたい,学習したいという気持ちをもたせる手立てを考えていきたい。
△影絵の問題の初期段階で,方眼の線を利用して正方形を見つける,という方法を徹底
させようとしたが,子どもたちには自分なりの補助線の引き方があったり,線を引か
ないで数えられたりするなど,それぞれに解きやすい方法があった。「いくつかの方
法がある中で方眼の線を利用すると解きやすくなる」という程度に留めるだけでよ
かったと思われる。
-9-
2.2年部の実践
単元名「三角形と四角形」(三角形と四角形の弁別)の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身に付けさせたい「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力など」】
C 図形 - (1) 三角形や四角形などの図形
(1) ものの形についての観察や構成などの活動を通して,図形を構成する要素に着目し,図形
について理解できるようにする。
⇓
◎図形を構成する要素に着目し,三角形や四角形などの図形について理解できるようにする。平面
図形としては,三角形,四角形,正方形,長方形,直角三角形の名称に関する用語とその意味に
ついて理解することをねらいとしている。
【子どもの実態】
■プレテストの結果は,次のとおりである。(30人)
・点と点をつなぐことが楽しかった・・93%
・定規で線をひくことが楽しかった・・70%
・平行四辺形の中に色板を並べることができる・・80%
・直角三角形の中に色板を並べることができる・・80%
・点と点を結んで,同じ図形(台形)を作図することができる・・100%
■本学級の子どもたちは,第1学年で学習した色板並べがとても楽しかったという感想をもってお
り,図形に対する興味・関心は高い。
■子どもたちは図や具体物を使って活動しているときに楽しさを感じていることが多い。しかし,定
規で直線を引いたり自分の考えを友だちに伝えたりすることは個人差が大きく,うまくできかっ
たことで意欲が低下してしまう子どももいる。
【研究の視点①②より】
【子どもが問いをもつ問題の工夫】
▶子どもたちが,図形の一部が隠されたものを観察し,辺や頂点など図形を構成する要素を意識
して三角形や四角形に弁別できる場を設定する。
▶ブラックボックスの中に辺が直線になっている図形や,曲線になっている図形を準備する。
【活用力を高める学習活動・展開の工夫】
▶三角形・四角形当ての活動の時間を十分確保することで,子どもたちが辺や角などの構成要素
に着目できるようにする。
▶子どもたちが自分の言葉で三角形や四角形を弁別し説明するために,図形をさわったり,じっく
り観察したりする場を設定する。
《人権教育の視点から》
▶図形に対して苦手意識をもっている子どもが楽しんで課題に取り組み理解しやすいよう,教材
や資料提示の工夫をする。
- 10 -
(2)本時の実践
①本時の目標
○箱に入った三角形や四角形を手探りで見つける活動を通して,三角形と四角形を弁別
することができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□三角形や四角形の特徴をとらえ,自分の言葉で表現しようとする姿(視点①)
□三角形や四角形の定義をもとに正しく弁別しようとする姿(視点②)
②学習の実際
視点①子どもが問いをもつ問題の工夫
子どもたちが問いをもつためには,学習に対して興味・関心を抱かせる必要がある。
そこで,「図形当てゲーム」「挑戦状」,ブラックボックスの中の「形の名前当てゲー
ム」の3つの活動の場を設定した。「図形当てゲーム」は袋の中に三角形や四角形だけ
でなく,直線で完全に囲まれていないものや辺の一部が曲線になっているものを準備し
ておき,子どもには図形の一部から少しずつ見せていくことで図形は最後まで見ること
で判断できることに気付かせようとした。「挑戦状」は,子どもが学習に意欲をもつて
取り組めるようヒーローからの挑戦状という設定をした。「形の名前当てゲーム」は,
グループ単位で,図形を触っている友だちの説明を聞いて三角形か四角形かどちらでも
ない形かを当てるゲームである。辺や頂点を意識することをねらった。
既習内容の
確認
問いをもつ
問題の工夫
問題の提示
問いをもつ
問題の工夫
問題の提示
提示の工夫
T:この図形は何でしょう?
C:先がとがっているから,三角形かな。隙間があって,動
物が逃げ出してしまうから三角形ではありません。
T:この図形はどうでしょう。
C:四角形です。
C:直線で囲まれていないと,四角形じゃないよ。
C:三角形でも四角形でもない形です。
*一部が隠された図形の名前を当てによる,三角形と四
角形の定義を確かめ
T:ヒーローからの挑戦状です。箱の中の図形は何かな。
C:見ないで当てるのは難しそうだな。
C:中にはどんな形をしたものが入っているのだろう。
T:グループの中で一人だけ触って,触った感じを言葉で伝え
ることができます。
C:どんな形が入っているのだろう。
*ブラックボックスとヒーローからの挑戦状を用いた意欲付け
T:箱の中には,次の4つの図形が入っています。
C:青い図形は三角形だ。
C:直線じゃなくて,グニョグニョになっているのもあるよ。
C:三角形でも四角形でもない形があるね。
T:どうして三角形や四角形と言えないのかな。
C:直線で囲まれていないからです。
*辺や頂点に着目して図形の名前を当てるゲーム
- 11 -
視点②活用力を高める学習活動・展開の工夫
まず,図形を見て三角形か四角形かを考える。(既習内容の活用)次に触って三角形
か四角形か考える。(学び方の発展)という学習活動・展開の工夫をした。
既習内容の活用
定義を生かす
見て弁別
学び方の発展
触って説明
聞いて弁別
どんな形が三角形・四角形かな?
C:3本の直線で囲まれた形なので三角形
です。
C:直線で囲まれていないので三角形では
ありません。
C:一部が直線になっていないので三角形
ではありません。
C:とがっているところが3つあります。
C:直線が3本あります。
T:箱の中の形は三角形ですね。
C:角がとがっているところが4つあります。
C:直線が2つと,曲がっている線が2つあ
ります。
T:箱 の 中 の 形 は ど ち らで も ない 形 で す
板書
(3)成果と課題
○三角形と四角形の弁別をする際,見た感じだけでなく子どもたちが平面図形に触りな
がら言葉で説明することで,より具体的になり理解を深めることができた。
○箱に入れておく図形を子どもに予め知らせておくことで,箱の中身を見なくても触っ
た感じでどの図形か把握することができ,直線の意味や囲まれていることを子どもた
ちが体感することができた。また,次時の辺や頂点の意味を理解しやすくなった。
△ブラックボックスの中の図形を当てる際,辺の数と辺が直線かどうかということだけ
であったので,活用力を高めるという観点において深まりがなかった。
- 12 -
3.3年部の実践
単元名 「分数」の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身に付けさせたい「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力など」】
A数と計算- (6) 分数の意味や表し方
(6) 分数の意味や表し方について理解できるようにする。
〔算数的活動〕 (1)
イ 小数や分数を具体物,図,数直線を用いて表し,大きさを比べる活動
⇓
◎分数を具体物,図,数直線を用いて表し,大きさを比べる活動を通して,分数の意味や表し方
について確実に身に付けられるようにする。また,分数についても,加法及び減法が考えられる
ことを知り,それらの計算ができるようにすることをねらいとしている。
【子どもの実態】
■レディネステストの結果は次のとおりである。(34人)
半分の大きさの判別
「2つに分け
レディネス
た1つ分」の 1/2色ぬり 1/4色ぬり
テスト結果
表記
正解者数
21人
33人
31人
28人
23人
7人
6人
日常生活の中で,「半分にする」や「リンゴを4つに切る」など,分数を考える素地的活動は体
験している。学級には算数の授業は楽しいと答える子どもが29人(85%)おり,課題には意欲的
に取り組んでいる。また,自信がある時にしか発表しない(20人・59%),分かっていても手を挙げ
ない(2人・6%)といった子どももいるが,ペアやグループでの話合いをすると,「友だちと一緒に
解いてうれしかった。」という声も聞かれる。ノートに絵や図で自分の考えをかくことに抵抗のある
子どもも9人(26%)おり,個別の支援が必要である。
【研究の視点①②より】
【子どもが問いをもつ問題の工夫】
▶長さの新しい単位を提示して興味・関心を高め,楽しく問題に取り組む雰囲気をつくる。
▶2年生の学習を活かせば解けそうだという見通しをもたせる。
【活用力を高める学習活動・展開の工夫】
▶折る,切る,重ねるなど操作活動を通しての思考を重ねる活動を段階的に用意する。
▶ペアで友だちの考えを聞く場を設定し,そのよさに気づき自分の考えを深めるようにする。
▶発表は途中で止めリレー形式で行い,解き方を全員で共有化できるようにする。
《人権教育の視点から》
▶ペアでの対話やリレー形式の発表などを行い,学び合いの学習ができるようにする。
- 13 -
(2)本時の実践
①本時の目標
○テープを折る・切る・重ねる等の活動を通して,分数の意味を知り,分数を用いた表
し方が分かる。
【本時でめざす子どもの姿】
□「1/2が分かったから,それを使えば解けそうだな。」と学びを活かそうとする姿(視点①)
□紙テープを使った操作活動に取り組みながら,友だちと見通しや考えを話し合う姿(視点②)
②学習の実際
視点①
子どもが問いをもつ問題の工夫
分数に関しては,2年生で1/2や1/4の大きさを作る活動を通して,分数の理解のため
の基盤となる素地的な学習活動を行ってきている。しかし,レディネステストの結果か
ら,分数の表現が定着していないので1/2は「2等分した1つ分」という定義を確認した
上で1/3を導き出すようにしたい。
子どもたちの大好きなくまモンとおそろいのパンツを提示し,「1モン」という架空
の単位を用いることで,楽しく問題に取り組めるようにした。そこから,2年生の学習
を活かせば解けそうだという見通しをもたせ1/2より小さくて1/4より大きい「ミニー
ちゃんのおなか周りはくまモンの1/3でいいかな?」という問いを生み出すようにした。
T:くまモンとおそろいのパンツを作ってもらい
たいけれど何と言えばいいのかな?
問いをもつ
C:くまモンのおなか周りが1モンだから・・・
問題の工夫
C:紙テープを重ねてみたいな。
提示の工夫
C:伸子先生のおなか周りはちょうど半分位かな。
T:「半分」の他に言い方がなかったかな?
C:1/2って習った!
*実物や紙テープで関心をもたせる。
既習内容の
確認
T:もとの大きさを2つに分けたうちの1つ分が1/2?
(リンゴをわざと違う大きさに分けて揺さぶる)
C:それじゃ1/2じゃない!
C:同じ大きさじゃないとダメです。
T:同じように2つに分けることを「2等分」と言います。
*もとの大きさを同じように2つに分けたうちの1つ分 を1/2ということを確認する。
提示の工夫
T:ミニーちゃんは何と言えばいいのかな?
C:1/2だった伸子先生より短いね。
C:くまモンのテープにはミニーちゃんが3つ位入りそうだけどな。
C:2つに分けた1つ分が1/2だから,1/3じゃないのかな?
T:「ミニーちゃんはくまモンの1/3でいいのかな」これを紙テープ
で確かめてみましょう。
*子どもたちが取り組む「問い」が生まれた。
- 14 -
視点②
活用力を高める学習活動・展開の工夫
ノートに自分の考えを書いて見通しをもった後,実際に紙テープを折る,重ねる,並
べるなどの操作活動に入り,確かめさせた。自分の見通しを友だちと交流させることで,
友だちの考えのよさに気付き,新しい発見も生まれ,自分の考えを深めることができた。
また,全体での発表は途中で止め,その先を他の子どもに問いかけながらリレー形式
でつなげることで,解き方を全員で共有化できるようにした。
ミニーちゃんのおなか周りはくまモンの1/3でいいのかな?
ペアでの操作活動
(主体は話し手)
・ノートに考えを書き
見通しをもつ。
・紙テープを操 作し
ながら考える。
最 初 がずれないよう
に,しっかり持って…
目印もつけよう。
くまモンのテープにミ
ニーちゃんを重ねて
みようよ。
きち んと 重 ねて 印 を
つけました。
みんなで確認
(主体は聞き手)
・発表はリレー形式
・ 操 作し ながら 説 明
する。
ぴったり重ねて
3つにおりました。
3つ並べてみたら,
ちょうどくまモンと同じ
になりました。
これは くまモンの何分の1かな?
(3)成果と課題
○教師からの問題提示後,子どもたちとのやりとりで問いが生まれた。くまモンのパン
ツの実物を提示し紙テープもあったため,意欲的に活動できた。
○紙テープで一人一人が何分の1なのかを確認できた。リレー形式の発表も,受け身で
ただ聞くだけにならず,共同思考の方法として効果的だった。
○板書を,問題提示と既習事項の確認,子どもたちの問いと解決方法,まとめという3
分割したので,学習の振り返りがしやすかった。
△力を合わせて学ぶペア学習のよさもあるが,学級の実態を考えると一人で操作できる
紙テープを与えた方が一層意欲をもって取り組めたかもしれない。
- 15 -
4.4年部の実践
単元名「概数とその計算」の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身につけたい知識・技能及び思考力・判断力・表現力など】
〔A 数と計算〕 A(2) 概数と四捨五入
(2)概数について理解し,目的に応じて用いることができるようにする。
〔算数的活動〕(1)
ア 目的に応じて計算の結果を見積もりし,計算の仕方や結果について適切に判断する
活動
↓
○概数の意味を理解し,切り捨て・切り上げ・四捨五入などの数をまるめる活動を通し,概数を求
めることができる。また,見積もりの必要性に気づき,和,差,積,商について,それぞれの概数
で見積もることができる。
【子どもの実態】
■本学級のプレテストの結果は以下のとおりである。(実施28人/29人)
・概数が分かる(mL)(19/28),概数が分かる(g)(28/28)
・概算できる(和)(24/28),概算できる(差)(21/28)
・見積もって計算できる(積)(24/28),見積もって計算できる(商)(24/28)
⇒生活経験より,「だいたいどのくらい」という言い方・見方はクラスの多くができている。概算等,
計算が入ると,間違いが増える。
【研究の視点①②より】
①子どもが問いをもつ問題の工夫
▶四捨五入を使い,概数にすると1300になる数を洗い出していく。
▶概数にすると1300になる数を並べ,具体物操作をすることで,範囲理解の補助とし,念頭操
作で範囲を限定させていき,「以上・以下・未満」の言い方につなげる。
②活用力を育む学習活動・展開の工夫
▶任意の数を四捨五入し,1300になるかどうか確かめることができるようにする。
▶数の並びより,概数にして1300なる数の範囲を自分なりに表現できるようにする。
《人権教育の視点から》
▶四捨五入を忘れている子には,個別指導を行う。
- 16 -
(2)本時の実践
①本時の目標
○1300に近い数を四捨五入し並べる活動を通し,約1300の範囲を考えることができる。
○以上,未満,以下の意味を知り,それらを使って数の範囲を表すことができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□既習事項である四捨五入をつかい,約1300になる数を洗い出す姿(視点①)
□数直線を見ながら,約1300の範囲を考えることができる姿(視点②)
②学習の実際
視点①
子どもが問いをもつ問題の工夫
子どもが問いをもつように2段階の工夫を行った。一つは,不十分な問題を提示した
こと。もう一つは,ゲームを通して「約1300」という概数には範囲があることを意識さ
せたことである。まずは,不十分な提示の場面。「奈良の平城京に都がうつされたのは,
今から約1300年前のことです。この約1300という数について調べましょう。」問題を全
員で読んだ後,あえて,子どもに不完全な問いを提示し,問いをもたせていった。
本時の前半の授業記録
授業分析
T:はい。では調べてください。
※教科書では,「四捨五入で百の位ま
C:えっ?
での概数にしたとき,1300になる整
C:これだけだと,何していいか,分かんないよ。
数のうち,いちばん小さい数といちば
T:「調べましょう」って,問題に書いてあるでしょう。何
ん 大 き い 数 は 何 で す か 。 1200 か ら
1300 ま で の 概 数 で 調 べ て み ま し ょ
して欲しいんだと思う?
C:約1300になる数を探すんじゃないかな。
う。」となっている。この部分を教科書
C:何かの数を四捨五入して1300になるようにする。
を見ず,自分たちで考えることで,本
C:でも,概数にする位が分からない。
時にやるべき活動を明確にさせた。
C:約1300だから,100の位までの概数にしたときに,
約1300になればいいんじゃない。
やるべきことが分かり,子どもたちは,
「約1300になる数」をノートに書いていった。
その数を発表してもらうとき,もう一つの工夫をした。「他の人と同じでない数を選ぶ
方いい」という設定にした。(「一緒は駄目よゲーム」)「約1300になる数で他の子と
同じにならないもの」を考えることで,子どもは「範囲」に着目し始めた。
視点②
活用力を高める学習活動・展開の工夫
「一緒は駄目よゲーム」では,二人で1枚のカードを渡した。そのカードには,「約
1300になる数」をかく。しかし,「他のペアがかいていないだろう数」を予想しながら
かくことになる。どうしても,結果,1299や1304といった「比較的1300に近い数」を選
ぶペアがいたり,1345等,「1300から離れた数」を選ぶ子が出てきたりした。以下が,
カードを並べ終わった板書である。
- 17 -
1260 1261
1297 1299 1300 1304 1322 1330
1342 1345
1297 1299
1299
本時は「約1300の範囲」を調べるだけでなく,「以上・以下・未満」の言葉の学習も
あった。言葉の意味を学習後,「以上・以下・未満」が使われている生活場面を紹介し
「広げる発問」を行った。「幼年は,0歳以上5歳以。少年は,何歳以上何歳以下?」
このことで,学びを続ける子が多くいた。
③成果と課題
○「どうしたら,自然に約1300の範囲を子どもたちが考えるだろうか」が,本時の展開
を考えるうえで,一番悩んだところだった。そして,授業で行ったのが,「カードの
使用と一緒はだめよゲーム」だった。このおかげで,子どもたちの思考は「範囲」を
意識し,選んだ数が,数直線の上に並ぶことになった。
○ペアの学習を取り入れたことで,子どもの意識は更に「約1300の範囲」に向かった。
「広げる発問」を入れたことで,家庭でもいろいろな形で「学び続ける」姿があった。
下は,家庭で行ってきた自主学習ノートの一部である。左の写真は,薬の箱に「○才
以上○才未満」とあったものを発見している。右のノートは,「少年は,何歳から何
歳までか」を調べてきている。
▲市販テストで,「四捨五入して千の位までの概数にしたとき,35000になる整数の範
囲を以上,以下を使ってあらわしましょう。」という問題があった。28人中,22人が
正解したが,6人は間違っていた。(誤答例:34500以上35500以下,34500以上34999
以下等)数直線を使った考え方の習得が不十分であったと考えている。
- 18 -
5.5年部の実践
単元名「分 数」(分数÷整数),少人数コース別学習の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身に付けさせたい「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力など」】
A 数と計算 - (4) 分 数
(4) 分数についての理解を深めるとともに,異分母の分数の加法及び減法の意味について
理解し,それを用いることができるようにする。
⇓
◎分数の意味や表し方についての理解を深めるとともに,異分母の加法及び減法の計算の仕方
を考え,それらの計算ができるようにする。また,乗数や除数が整数である場合の分数の乗法
及び除法についても計算ができるようにする。
【子どもの実態】
■プレテストの結果・・・・学年全体(118人)の正答率
・かさや長さを分数で表すことができる・・ 45%
・分数の意味を理解している・・・・・・・ 46%
・分数と小数の関係が理解できている・・ 86%
・同分母分数の加法減法ができる・・ 87%
■計算や処理については約8割以上が正解できているが,面積図やテープ図を分数で表したり
分数の意味を言葉で表現したりすることについては,約半数が理解できていない。
■情意面では,8割以上が算数を楽しみにしており,特に分からなかった問題が解けたときや友
だちと共同して問題を解いたとき,図や具体物を使って活動しているときに楽しさを感じることが
多い。しかし,よりよい答えの出し方を求めようとしたり,発展的な問題に挑戦しようとしたりする
子どもは4割ほどと少ない。
【研究の視点①②より】
【子どもが問いをもつ問題の工夫】
▶各小単元の導入で「問題づくり」を行い,できた問題の数字を変化させたり
にしたりして新
たな問題とする。
▶個人の問いを全体で共有しやすくするために,ICTを活用したり具体物を用いたりする。
【活用力を高める学習活動・展開の工夫】
▶プレテストの結果を考慮した「探究型」の〈たけみやコース〉と「習得型」の〈けんぐんコース〉を設
定し,子どもたちの選択によるコース別学習を行う。
▶各単元の導入場面だけでなく,終末や振り返りの場面でも数直線や面積図などを用いた図表現
の場を設定し,既習内容を活かして計算の仕方を考えたり表現したりできるようにする。
《人権教育の視点から》
▶コース選択が成績とは関係なく,子どもたちの序列化や優劣感を生じないようにコース分けの
意義を徹底する。また,コース選択に迷った子どもには担任や指導者が助言し,途中のコー
ス変更もできるように配慮しておく。
- 19 -
(2)本時の実践
①本時の目標
○分数を整数でわる計算の意味をつかみ,計算の仕方を考えるとともに,分数÷整数の
計算ができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□分数÷整数の意味を面積図に表し,自分の解釈を表現しようとする姿 (視点①)
□自分の考えとは違う考えに出会い,計算や算数のおもしろさを味わう姿 (視点②)
②学習の実際
視点①子どもが問いをもつ問題の工夫
かけ算(分数×整数)の場合には,同数塁化の考え方で分子×整数をすればよいこと
を学ぶことになっている。その後,分子÷整数で計算できる4÷2をあえて取り上げ
ることで面積図を活用しやすくし,計算の仕方を理解するだけでなく分数をわること
の意味を深く考えさせることをねらった。
たけみや(探究型)コース
問題の提示
数値の工夫
提示の工夫
けんぐん(習得型)コース
T:÷□はどのように計算すればいいだろう?
※分数を整数でわることの意味理解
T:÷3はどう計算すればいいだろう?※2
T:÷2はどう計算すればいいだろう?
の発展問題として設定
C:3÷2=1.5でも考えられた。
C:3÷2ができないのでかけ算のようなやり
子どもの反応 C:4÷3はわりきれないのでかけ算のような かたはできない。
やり方はできない。
問いの共有
C:小数にしたらできるかもしれない。
T:前回のやり方では計算できないね。それはどうしてかな?
※子どもの発言や質問から,個人の問いを全体で共有させる。
子どもの問い C:分子が整数で割り切れないときは,どのような方法で計算すればいいのだろう?
既習内容の
確認
T:分子÷整数が割り切れないとき,どのように考えると計算できるだろう?
※既習内容を活用して,計算する。
子どもの考え
C:①分数を小数にしてもわりきれない。
C:②分数を倍分してわりきれる数にする。
C:③整数÷整数の形にして計算できる。
C:④図に表して計算できる。
①
板
書
C:⑤分数を倍分してわりきれる数にする。
C:⑥整数÷整数の形にして計算できる。
C:⑦分数を小数にすれば計算できる。
C:⑧図に表して計算できる。
⑦
②
⑤
- 20 -
視点②活用力を高める学習活動・展開の工夫
分数の計算をする場合,分数や計算の意味を理解するためには,面積図などを使って
「△を□に分けたうちのひとつ分が△/□になる」と説明できるようにしておく必要があ
る。また,単に計算ができるようになるだけでなく,面積図と関連させてことばで説明
したり確認したりできるようにするため,検索用のノートパソコンを準備してデジタル
コンテンツも使えるような多様な学びの場を設定した。
問い 分子が整数で割り切れないときは,どのような方法で計算すればいいのだろう?
【個人で】…既習内容が使えないか?
できると思う
〜すればできそう
ノートから
どうしたらいいか
わからない
途中までなら
わかる
指導者に
質問して
友だちと
相談しながら
【複数 で】
【個人 で】
検索用パソコンで
デジタルコンテンツ
できない
わりきれない
図で求められる
計算で求められる
【全体で 】
・分数を小数にしてもわりきれない
・分数を倍分してわりきれる数にする
・整数÷整数の形にして計算できる
・図に表して計算できる
わかる
△
△
一般式 ―÷○=――――
□
□×○
できる
③成果と課題
○どちらのコースでも既習内容を活かしやすくするために,前時に分子÷整数が割りき
れる場合の計算を設定した。また,単元を通してデジタルコンテンツを子どもたちが
活用できるようにしたり,面積図を使って説明する場面を設定したりした。そのため,
子どもたちの多様な学び合いが自然に生まれ,図や言葉による説明をともなった理解
へとつながった。
△どちらのコースも一般式までたどり着くことができなかった。特に〈けんぐんコース〉
では,式の一般化に向かうところで既習内容を活かしきれなかった。
- 21 -
6.6年部の実践
単元名 「円の面積」の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身に付けさせたい「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力など」】
B 量と測定 - (2) 円の面積
(2) 図形の面積を計算によって求めることができるようにする。
ア 円の面積の求め方を考えること。
⇓
◎今までに学習した等積変形や式を変形する考え方を使って,円の面積を求める公式を導き
出したり,円形の求積をしたりする活動を通して,算数的な活動をする力や論理的思考を培う
ことをねらいとしている。
【自力解決活用型コースの実態】(17人)
【基礎・基本習得型コースの実態】(15人)
■円に関する用語は,17人が理解している。ま
■円に関する用語は,11人が理解している。ま
た,長方形と等積な他の図形を求める問題で
た,長方形と等積な他の図形を求める問題で
は,等積な三角形を見つけることもできる。三
は,等積な三角形を全部見つけることのできた
角形の公式の適用や意味理解はできている。
子どもは5人である。
■さらに,円周を求める問題では,直径からは全
■さらに,円周を求める問題では,8人は直径か
員が求めることができるが,円周からは15人が
らが求めることができるが,円周から半径を求
求めることができ,無答はいなかった。円周の
めることができる子どもは4人であった。
公式の意味もほぼ全員が理解できている。
■円周を計算で求められない子どもも7人おり,
■一問一答式の問題には答える子どもは多い
円周の公式の意味や定着度は十分でない。
が,円周を求める問題や等積変形を考えさせ
■曲線図形を変形しようとするとき,自分なりに理
る問題など,理由を問われる問題では何も答
由を考え「細かく切れば何とかなるのでは」と考
えない子どもが多くなる。
えている子どもが9人はいる。
(2)基礎・基本習得型コースの実践から
【研究の視点①について】
①子どもが問いをもつ問題の工夫
▶長さを示していない円と長方形の大きさ比べを提示することから,円から長方形へ等積変形を
する必要感と計算で求める意欲につなげる。
《人権教育の視点から》
▶少人数の特性を活かし,一人一人の思考や流れに沿った支援や助言を行うとともに,友だち
の発想を認め合うことを通して学び合うことの楽しさを実感させたい。
①本時の目標
○既有内容と関連付けながら,円の面積の求め方を公式にまとめることができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□曲線のある円を長方形に変形し,求積しようとする姿(視点①)
- 22 -
②学習の実際
視点①子どもが問いをもつ問題の工夫
前時までの学習を意識ながら,長さを示していない円形のピザと長方形のピザを使い,
大きさ比べをすることを提示した。大きさ比べに必要な長さを話し合う中で,前時との
関連で円のピザと長方形のピザの面積が等しいことに気付き,それなら円をどうすれば
長方形に変形できるかについて全体で見通しを持った上で,操作活動に入らせた。
本時の前半の授業記録
授業分析
T:実は,この円の面積と長方形の面積は同じです。だからこの円 ※子どもたちは本気に,「曲
は,形を変えればこの長方形とぴったり重なりますよね。
線図形を直線図形に変形
C:曲線と直線だからならない。無理な気がする。
できるの?」という問 いが
T:じゃあ,皆さんは円のような丸いものが長方形みたいな形に
生まれた。
なったというのを生活の中でみたことがありませんか。
C:丸が四角にねぇ~,う~ん,粘土はないなぁ~
※円が長方形に変形するこ
とへの生活経 験は出 ないと
T:ないねぇ,みなさんは5年生の時三角形や台形の面積を求め 思われたので,5年時の等積
るために,もとの形をどうしましたか。
変 形 を想 起 させ,その際 の
C:分解して分りやすい形にした。切って四角形にしました。
やり方と関連させ,まず切り
T:同じように円も切ってみましょう。どう切ったらよいかな?
方の共有化をさせた上で作
C:細かく切る。半径を使ってきる。こう!(切り方を動作で表す)
業に入らせた。
T:ピザだから切り方は? (切ったピザを電子黒板に映し出す。)
C:あぁ~,そうそう。
(3)自力解決活用型コースの実践から
【研究の視点②について】
②活用力を高める学習活動・展開の工夫
▶技能や既習内容の定着度の個人差に対応するために,子どもによるコース選択制の学習
をする。
▶既習の等積変形を想起しやすいように,板書にていつも確認できるように提示する。
《人権教育の視点から》
▶迷っている子どもには,8又は16分割した円の紙を渡し,既習の形との関連を考えさせる。
①本時の目標
○既有内容と関連付けながら,円の面積の求め方を公式にまとめることができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□長方形や平行四辺形に変えたり,三角形や台形に変えたりしても,公式は同じになることに
気づく姿(視点②)
□今までに習ったことを工夫して使えば,円の面積も求めることができることに感動する姿(視
点②)
- 23 -
②学習の実際
視点②活用力を高める学習活動・展開の工夫
本時で大きな疑問となってくるであろう「曲線を直線と考えて計算してよいのか」と
いうことについて全員が十分に理解するためには,一様な手立てでは十分ではない。そ
こで,疑問に思っている子どもに何度も「本当に直線に考えていいのか?」と教師から
問い返し,子どもたちに揺さぶりをかける。そのことにより,もっと他の説明の方法は
ないか,と子どもたちが考えだし,複数の理由で説明させることができる。
実物投影機を活用して,作図したものを示したり動かしたりしながら,円の分割方法
と式との関連を説明させることで,全員で考えを共有することができる。
紙でできた円を全員に用意することにより,切ったり折ったり自由に発想しながら,
学んだことを活かして円の面積の求め方を考えさせることができる。
授業後半の手立て
<発問>曲線があるのに,面積
形態
個人
が求められるの?
<発問>本当に分割を増やして
いけば,正確な面積を求め
ることができるの?
ペア
子どもの発話・反応
【発表】正確には求められな
いけど,おおよその面積
が求められると思います。
【発 言 】でも,8分 割 より32
分割は,ほとんど直線に
なってきてるんだよなあ。
【発言】もっと分割した円を
作ってみたいなあ。
<手立て>子どもが必要として
いた,64分割をデジタルで
提示
【発言】おー,すごい!やっ
ぱり直線になっている!
一斉
【発言】ちょっとは曲線がま
だ残るかも・・・。
<発問>本当に曲線を直線と考
えて三角形の面積から円の
面 積 を 求 め る こと が で き る
の?
【発表】私は実際に円を切ってみ
たんですけど・・・
(4)成果と課題
○操作活動をしながら,グループでの気づきをデジタルコンテンツで共有化し,全体で
「円の面積の言葉の式」を作り上げることにより,活用力につながる新たな視点や発
想の必要性をしっかり味わうことができた。(基礎・基本習得型コース)
○実物投影機や紙でできた円を媒介として,子どもたち同士や教師との対話が生まれ,
「曲線を直線と考えても計算してもよい」という考えを,みんなが納得する形で理解
することができた。(自力解決活用型コース)
△指導計画の段階で,円の公式を見つける活動と公式の適用は各1時間ずつとるべきで
ある。(基礎・基本習得型コース)
△事前に子どもの思考を十分に把握しておく必要がある。(自力解決活用型コース)
- 24 -
7.難聴学級の実践
単元名 「三角形」の実践より
(1)単元の構想
【本単元で身に付けさせたい「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力など」】
C 図形 - (1) 二等辺三角形,正三角形などの図形
(1) 図形についての観察や構成などの活動を通して,図形を構成する要素に着目し,図
形について理解できるようにする。
ア 二等辺三角形,正三角形について知ること。
イ 角について知ること。
〔算数的活動〕 (1)
エ 二等辺三角形や正三角形を定規とコンパスを用いて作図する活動
⇓
◎ストローを使って,三角形を作ったり分けたりしながらどのように分類するかを話し合う活動を
通して,二等辺三角形や正三角形について知ることができる。
【子どもの実態】
■2人の子どもたちは算数の授業をとても楽しいと感じている。また,授業中には互いに手話や
指文字を使ったり,ホワイトボードやノートを活用したりしながら互いの考えを知ることができ
る。友だちの考えを聞いて「なるほど」「分かった」と感じていることも多い。
■図形について「三角形」や「直角三角形」の用語は理解できているが,「辺」や「頂点」の用語
は定着していない。また,いくつかの三角形の中から直角三角形を選ぶこと,コンパスを使っ
て線の長さを比べることはできる。
【研究の視点①②より】
【子どもが問いをもつ問題の工夫】
▶はてなボックスを用いてクイズ形式の導入を行うことで,図形を想起しながら関心がもてるよ
うにする。
▶児童が「やってみたい!」「作ってみたい!」と思うような教材の工夫をすることによって,三
角形を作ったり分けたりする意欲を高め,目的意識をもたせるようにする。
【活用力を高める学習活動・展開の工夫】
▶いくつかの条件の中で三角形を作る活動を通して,分類する視点を自ら考えるようにする。
▶考えを表現する方法や場を工夫して,互いの考えから学び合うことができるようにする。
《人権教育の視点から》
▶難聴学級においては,話しことばだけでなく,書きことばや絵などの視覚的支援を
行うとともに,必要に応じて簡単な手話や指文字を取り入れて,子どもがわかりや
すい授業に努める。
- 25 -
(2)本時の実践
①本時の目標
○ストローを使って三角形を作ったり分けたりしながら,どのように分類したか話し合
う活動を通して,二等辺三角形・正三角形の意味を理解することができる。
【本時でめざす子どもの姿】
□具体物を操作しながら,どのような三角形ができるか考え,分類しようとする姿(視点①)
□三角形を分類したわけを,具体物や言葉で説明したり,話したりする姿(視点②)
②学習の実際
視点①子どもが問いをもつ問題の工夫
三角形をただ作ろうとしても,子どもの意欲を高めたり持続させたりすることは難し
い。そこで今回は,子どもが「色々な三角形を作ってみたい。」「分けてみたい。」とよ
り意欲的に取り組むことができるように,教材として4色のストローとモールを使用す
ることにした。ストローとモールは子どもにとって短時間に容易に三角形を作ることが
できる。また,辺の長さによってストローの色を変えたことで,様々な三角形を作りた
いという意欲を高めることができるようにした。また,導入では,ストーリー性をもた
せ,目的意識をもつて取り組めるようにした。
本時の授業記録
授業分析
T:三角形をたくさん作ることができましたね。あら,もう一つ宇 ※三角形を作る活動を十分にし
宙人から手紙がきているよ。
た後で分類をしたことで,それ
ぞれ一 つの 活 動 に集 中 して
三角形は3つに分けられている。
思考を整理することができた。
その分け方も教えてほしい。
T:これを3つの種類に分けないといけません。できるかな?
C:えー!!できるかなぁ・・・。
C:難しいな・・・。
※自分の考えたことや分類の仕
C:これとこれかな?
方をホワイトボードに記入した
C:(三角形を見ながら)あ,できるかもしれない!
ことで,互いの考えを知ること
C:これは,全部同じ色だから・・・。
ができた。
T:これは,どんな三角形?
C:二つが同じ色で,もう一つは違う色の三角形 。(ホワイト
ボード)
T:これは,どんな三角形かな?
C:小さい三角形。こっちは大きい三角形かなあ・・・。
視点②活用力を高める学習活動・展開の工夫
ただ,
「三角形を作りましょう。分類しましょう。」と指示するだけでは分かりにくく,
分類の仕方が5つ6つと出てきたり,分類の根拠の説明が難しかったりすることが考え
られる。そこで,いくつかの条件の中で三角形を作ったり分類したりする活動をするこ
とで,より意欲的に取り組み,自ら分類する視点を考えることができるようにする。
難聴の子どもは音声だけでは互いの考えが伝わらない。そこで,自分の考えを表現す
る方法や場を工夫して,互いの考えから学び合うことができるようにする。それは,考
えたことをホワイトボードに言葉として表すことや,相手の言ったことをもう一度復唱
- 26 -
する場を与えたりすることで学び合うことができる。
教師の発話・手立て
子どもの発話・反応
課題の提示
三角星の宇宙人だ。地球に三角形
を落としてしまった。二人に三角形
を作ってほしい。
できるよ!
どうやって,作るの?
作ってみたい!
いろいろな三角形を作っていいです
条件の提示
4色のストローとモールで作ります。
いろいろな三角形を作ります。
同じ色は同じ長さですか?
条件の提示
3つのなかまに分けられている。そ
の分け方も教えてほしい。
分けられそうだ!
これは,同じ色だか
教師の手立て
ホワイトボードに3つに分類しながら
分け方を書き込むことができるように
する。
できそう!
大きい三角形と小さい
三角形。あとは,普通
の三角形かな・・・。
教師の手立て
互いの考えを視覚的に見ながら発
表できるような形をとる。
これは,全部同じ色だ
か ら,長 さが 同 じ三 角
形で,これは2つと1つ
の色になっている三角
形で・・・。
【板書】(視覚的支援)
(3)成果と課題
○視点①では,教材を工夫したことにより,最後まで課題に意欲的に取り組んだ。その
過程で,「どうすれば3つに分けることができるか。」という問いに向かってそれぞ
れの方法で解決しようとする姿が見られた。
○視点②では,ホワイトボードを使用したり,互いの考えを確かめる場を設定したりし
て表現の方法を工夫したことにより,互いの考えを視覚的に確かめたり,自分の考え
と比較したりしながら,思考を深めることができた。
△視点②において,条件を与えた中で三角形を作ったことで自ら視点をもつて分類する
ことはできたが,どちらの分類の仕方が正しいかについて,互いの意見を主張する場
面が少なかった。考えが出たところで,もっと教師が待つ姿勢で児童の発言を引き出
すことができるとよかった。
- 27 -
8.授業改善部会の実践
(1)子どもの興味・関心を高める算数集会
子どもたちに算数好きになってもらうために,授業改善部を組織し,算数集会を行っ
た。( 図③ )算数の嫌いな子どもの役を設定し,いろんな問題を解きながら,算数博士
からアドバイスを受けながら成長していく過程を劇に仕立てていった。算数集会で学ん
だポイント(図④)は算数コーナーに掲示するとともに,子どもたちが授業で活用しや
すいように教室にも掲示した。授業改善部のメンバーでリハーサルを行う時も,子ども
たちが算数に興味・関心をもってもらうためにどうすればいいのかアイディアを出すこ
とによって,子どもとの話合いが重要であるということが分かってきた。
図③:子どもの意見を聞く様子
図④:算数の感動詞「あいうえお」
子どもの感想 「算数集会があるから健軍小学校でよかった。」(2年男子)
「今まで授業中に言いにくかったことも,言ってもいいことが分かった。」(3年女子)
(2)授業改善を目指した研修
月曜日の放課後(17:30~19:00)に先生方
のための授業改善を目指した研修を行うよう
にした。3部構成で計画し,第1部では,提
案授業として授業改善部のメンバーが筑波大
学附属小学校の授業を参考にしながら,模擬
授業を行った。第2部では中研の授業を検討
していき,健軍小学校の授業の形を模索した。
第3部では,研究発表会の授業を何度も検討
し,意見交換を行っていき( 図⑤ )教材や板
図⑤:板書を検討する様子
書などを工夫し,よりよい授業を作り上げる努力を重ねていった。
職員の感想・「問い」をもたせるための提示のタイミングや板書の仕方を学ぶことができた。(20代)
・学年や年齢や単元などの制約や垣根を越えて意見を交わすことができて,授業の質
の向上につながった。(50代)
- 28 -
Ⅲ研究の成果と課題
1.学習の変化
研究を通して,80%の教師が「授業中に『問
い』が生まれるようになった」と感じている。
その結果,子どもの意識も高くなり,94%もの
子どもが「『そうか!』や『なるほど!』と思う
〔4:活かした→1:活かしてない〕 の4段階評価
場面が学習中にあった」と感じている。また「既
図⑥ 既習内容を活かせたか
習内容を活かせた」という子どもは,昨年度の
76%から83%へ増えた。(図⑥)。
子どもが問いをもち,活用力を高める展開の
学習がしっかり浸透してきたといえる。
2.市販テスト結果と意欲
図⑦のグラフは上が単元テスト,下が活用力
H23.1学期
H24.1学期
H24.2学期
H23.1学期
H24.1学期
H24.2学期
83.5
85.1
86.4
54.5
61.6
61.0
テストの結果で,昨年度との比較である。本年
点
度1学期・2学期と昨年度の1学期と比較する。
単元テストの点数は,やや上がっているのに比
図⑦ 昨年度からのテスト結果
べ,思考・表現のテスト結果は,6~7点上がっ
ている。また「難しい問題に挑戦しようとする
気持ちは高まったか?」のアンケートでは,
「あ
まり思わない」や「思わない」とした子どもの
割合が30%から12%に下がった。(図⑧)
ただ,市販テストの平均点も十分に高いとは
いえず,今後,実態に合わせ,習得を中心に進
〔4:思う→1:思わない〕 の4段階評価
図⑧ 問題に挑戦する意欲
める学習と活用力を高める学習のバランスを考
えていかなければならないと考える。
3.授業づくりにおける課題
図⑨は,「算数は楽しかったか?」について
子どもが答えたものである。90%以上の子ども
たちが,算数の学習を楽しんでいることが分か
る。また,教師のアンケートでも「授業するの
が楽しくなってきた。」との感想も多い。
〔4:楽しかった→1:楽しくない〕 の4段階評価
図⑨ 算数は楽しかったか
ただ,子どもたちが活用力を高める学習が少
しずつできるようになった一方,教師が授業をする難しさも感じるようになってきた。
問いをもたせようとねらった場面で,子どもからうまく言葉を引き出すことができな
かったり,学習の目標が曖昧になったりしたこともあった。問いを引き出すにはその時
間の学習だけでなく,前単元や前時との系統を踏まえて意図的・計画的に展開を構成す
る必要があると感じている。長いスパンで計画をしたより質の高い学習となるように工
夫していくことがこれからの課題である。
- 29 -
おわりに
「すべての子どもに確かな学力を!」との願いから研究をスタートさせた。学力を付けるには支持
的風土が必要ではないか。算数をもっと好きにするにはどうすればよいだろうか。次第に,探究す
る職員の姿がいたるところで見られるようになった。
助言者の先生のアドバイスで職員室にはすべての教科書会社の算数の教科書を揃え,最近では,
教科書を見比べて問題の工夫をする職員も珍しくないようになった。もっと算数が好きになるよう
にと算数集会も行った。「まちがってもいいんだよ。」,「ノートを使って考えてみよう。」など,
寸劇を交えた楽しい集会は子どもたちに大好評だった。また,職員の自発的な意志からトワイライ
ト研修も始まった。放課後に希望する職員が集まり,10回以上の模擬授業を繰り返した。時間も気
にせず多くの職員が参加し,率直な意見を出し合った。
その結果,子どもたちも図を使って粘り強く考える力が身に付き,以前と比べると問題に挑戦す
る意欲も高まってきた。しかしながら,本校の取組はまだまだ微力な取組だ。この論文を機に多く
の先生方のご意見を参考にし,今後も実践をさらに深める所存である。
これまで,本校教育に対しご支援いただいた熊本市教育委員会をはじめ諸先生方,保護者の皆様
に心より感謝申し上げたい。
【参考文献】
✧文部科学省「小学校学習指導要領」2008年
✧文部科学省「小学校学習指導要領解説算数編」2008年
✧文部科学省「学力向上に関するこれまでの施策とPISA2009の結果」2010年
✧文部科学省「PISA2009の課題を受けた今後の取組」2010年
✧山本良和著「新学力! 習得・活用・探究を支える算数の授業づくり」明治図書,2008年
✧片桐重男監修・廣田敬一編「子どもの意欲を倍増させる算数導入問題アイディア集2」明治図書,2000年
✧田中博史・土居英一・宮本博規・柳瀬泰著「学校を元気にする33の熟議」東洋館出版社,2011年
30
Fly UP