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速報 - 日本機械輸出組合

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速報 - 日本機械輸出組合
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米
国
通商関連知的財産権情報
(速報版)
2016 年 1 月
日本機械輸出組合
アップル対サムスン訴訟における
差止の運用の変遷
サムスン製品の差止は認められなかったが、
アップル特許の侵害技術の使用禁止は認められる
ITC 訴訟による輸入差止はアップルに有利な結果
目次
I. 概略 ......................................................................................................................................... 1 A. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅰ ...................................................................... 1 B. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅱ ...................................................................... 1 II. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅰ(1050 億円は 530 億円に)における差止 ......... 3 A. 地裁、サムスン製品の永久差止を否認 ...................................................................... 3 B. CAFC、地裁のサムスン製品の差止否認判決を支持 ............................................... 5 III. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅱ(アップル 120 億円/サムスン 1600 万円
評決) ....................................................................................................................................... 8 A.
地裁、アップル特許侵害技術を使用禁止する差止めは認められないと
判決 .................................................................................................................................. 8 B. CAFC、特許技術の特徴使用禁止の差止は認められると差戻判決 ....................... 8 C. 地裁、差戻審で特許技術の特徴使用禁止の差止命令を出す ................................ 14 IV. アップル対サムスンの ITC 訴訟 ...................................................................................... 16 1. サムスンの ITC 訴訟 ................................................................................................... 16 2. アップルの ITC 訴訟 ................................................................................................... 19 i
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日本機械輸出組合
I. 概略
A. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅰ(1050 億円は 530 億円に減額)
アップルはサムスンのギャラクシー等のスマートフォンはアップルの特許 3
件、意匠特許 4 件、トレードドレス 2 件を侵害していると訴え、陪審員は
2012 年に約 1050 億円の評決を下した。その損害賠償のほとんどは意匠特許
(約 450 億円)とトレードドレス(約 400 億円)に基づくもので、特許(約 200 億
円)は小額であった。
評決の直後、地裁判事は 1050 億円の内、ギャラクシー等の 13 製品の損害賠
償約 410 億円は証拠に誤りがあったとして新しい陪審員による新審理があり、
その分は 290 億円の評決となったので、損害賠償は 930 億円となった。
一方、サムスン製品の差止めについてはアップル特許を侵害することによっ
てサムスン製品の販売が促進されたという関係(nexus,又は connection))が立証
されていないとして認められず、この差し止め否認は CAFC も支持して確定
した(3-7 ページ参照)。
CAFC は更に、アップルのトレードドレス(商標)は機能に係わるものであるの
で、無効であるとしたのでその分の損害賠償約 400 億円は事実上破棄された。
そのため損害賠償の額は 530 億円に減額され、サムスンは 2015 年 12 月に支
払ったが、今後アップルの一部の特許の無効が確定するとその分の損害賠償
を払い戻すという条件付であるといわれている。
またサムスンは、意匠特許侵害の場合、被告のイ号の利益全てが損害賠償の
対象になるという CAFC の 289 条の解釈は不当であるとして最高裁に上告を
申し立てているので、最高裁がこれを受理して 289 条の解釈を変えるかどう
か注目を集めている。
B. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅱ(アップル 120 億円/サムスン 1600 万円)
アップルは、次に 147 特許(リンク)、721 特許(スライドアンロック)、172 特
許(スペルチェック)等で訴訟するとサムスンも自身の特許で反訴した。陪審
員はアップル特許侵害については 120 億円、サムスン特許侵害については
1600 万円の評決を下した。現在、この損害賠償の額は CAFC 控訴で争われて
いる。
アップルはサムスン製品の差止めは諦めて、サムスン製品から特許侵害技術
を削除せよという差止めを要求したところ、地裁判事は特許侵害技術によっ
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てサムスン製品の販売が促進されたという関係が立証されていないことから
拒否した。しかし、CAFC はこのスマートフォン市場は二大マンモス企業で
激しく争っているという特殊性からその関係の立証は少なくてよく、その場
合には証拠があるとして使用禁止の差止めを認めて地裁へ差し戻し、その後、
地裁で差し止め命令が 2016 年 1 月に出された(8-14 ページ参照)。
以上のように、アップル特許はサムスン製品そのものを差し止めるほど強く
はないが、サムスンは侵害特許技術を使用することは出来ない、即ち、サム
スン製品からアップル特許技術を削除せよ、という差し止めは認められたこ
とになった。
C. アップル/サムスン ITC 訴訟
両者はそれぞれの特許で ITC 訴訟を提起した。サムスンは基本特許で勝訴し、
輸入停止命令を得たものの、オバマ大統領はその特許は標準技術であり、サ
ムスンは FRAND(fair, reasonable, and non-discriminatory)でライセンスすべ
き特許であったことから、拒否権を発動した。
従って、アップルはiPhone を継続して輸入できるが、恐らくアップルの新
製品にはこの特許は使われていないので、所定のライセンス料も支払ってい
ないであろう。
一方、アップル方もITC訴訟で勝訴し、輸入停止命令を得たが、標準技術
でもなく、また、公共にも影響がないことから、オバマ大統領は拒否権を出
さなかったので、サムスンはそれらの特許を侵害する製品は輸入できなくな
っている。しかし、これらの特許技術もサムスンの新製品には使われていな
いので、大きな影響は出ていないともいわれている。
いずれにせよ、ITC訴訟でもイメージの上ではアップル有利な結果になっ
ている。
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II. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅰ(1050 億円は 530 億円に)
における差止め
A. 地裁、サムスン製品の永久差止めを否認
(2012 年 12 月 17 日判事命令)
1. eBay 判決による差止の認否のテスト
CAFC は 2006 年頃まで特許有効で特許侵害があるとまず必ず差止めを認めて
いた。これは CAFC が差止めを規定する 283 条の「衡平法原則に従って認否
を決定する」という文言を、「特許が有効で侵害があれば差止めを認める事
が衡平法の原則であると最高裁がそれまでの判決で述べていた」と解釈して
いたからである。
しかし、最高裁は 2006 年の eBay 判決で、「我々はそのように判決した事は
ない、衡平法の原則とは下記の 4 つの観点を考慮して決定すべきである」と
判決した。
(1)
(2)
(3)
(4)
取り返しのつかない被害があるか(irreparable harm)、
法上の救済措置(損害賠償)ではその被害を十分救済できないか、
原告と被告の被害のバランス
差止めは公共の政策に反しないか
この最高裁判決以来、差止めは軽々には認められなくなった。
2. 差止め否認の地裁判事命令(2012 年 12 月 17 日)
アップル事件で陪審員は①3 件の特許、4 件のデザイン特許、2 件のトレード
ドレスは有効であり、②サムスンの 26 の製品は侵害しており損害賠償は
10.4 億ドル(約 1050 億円)、③故意の侵害あり、の評決を下したので差止
めを求めたが地裁判事は下記の理由で差止めを認めなかった。
(1) アップルが主張する取り返しのつかない被害は以下の通り
① サムスン製品のためマーケットシェアを失った、
② 将来の販売を失った、
③ アップルの経済システム(エコシステム:ネット 7-7 効果)に被害が
生じた(トレードドレス侵害による価値希釈化)。
3. 判事の認否
① アップルは被害があったことは立証した。
② しかし、その被害がアップルのどの特許/デザイン特許と「結びついて
いる(nexus)」のか、又はどの特許のどのクレームの侵害によって被
害が生じたかの「結びつき」を立証していない。
③ サムスンは侵害する 23 の品の生産/販売は既にストップし、残りの 3
つは設計を修正したので差止めはあり得ないと主張しているが、サム
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スンが将来いつでも侵害製品を作る事はあり得るのでそれ自体で差止
めがなくなることはない。
マーケットシェアを失った要因は特許侵害以外にも、製品の使い易さ、
価格、宣伝等色々考えられるものである。アップルの消費者調査結果
では消費者がアップルの特許のクレームの特徴のため購入したという
事を立証していない。
アップルは、サムスンが iPhone の外観とデザインを侵害したと主張し
ているが、特許やデザイン特許は製品全体のほんの一部しか構成して
いないので、その点を侵害したからといってそれで消費者がサムスン
を選択したか不明である。
アップルは、二本指で画面を拡大できる等の「使い易さ」を侵害した
と主張しているが、アップル特許にはこの点を明確にクレームしたも
のがない。
アップルは侵害は故意であるから差止めが必要と主張しているが、故
意であることは必ずしも差止めを必要とするわけではない。
トレードドレスの侵害は商標侵害に類似しており、特許侵害と異なっ
てそれだけで取り返しのつかない被害があったと認められる。
(2) 損害賠償の救済で十分か
アップルは特許侵害により消費者や顧客を失っており、これは損害賠償の
救済では不十分であると主張しているが、アップルのライセンス活動を考
慮すると損害賠償の額でも良いといえなくはれない。
(3) 被害のバランス
アップルのバランスに関する唯一の主張は侵害が故意であるからという点
であるが、差止めは制裁のためにあるのではない。一方、サムスンは設計
変更したので差止めの必要はなく、またもし差止めがあると顧客が困ると
主張しているがそれはそもそも特許侵害のリスクである。結局差止めを認
めた場合と認めなかった場合の両者の被害はほぼバランスがとれており、
いずれが強いとはいえない。
(4) 公共の政策
この点については①消費者の困苦、②裁判所のコスト、③当事者のコスト
を考えなければならないが、いずれが強いとはいえない。そして、アップ
ルの特許等は非常に広く用いられている携帯電話製品の全体の設計のわず
かな部分のウェートしかないので差止めることはどちらかというと公共の
政策に反するといえる。
(5) 結論
アップルは特許等と被害の結びつきを立証しておらず、且つ特許等の製品
でのウェートは小さいので差止めは認められない。
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B. CAFC、地裁のサムスン製品の差止め否認判決を支持
CAFC 控訴でアップルはまず①従来の判例によれば永久差し止めを認めるた
めに「因果関係」を必ずしも要求していない、②万が一、要求した判決があ
ったとしてもそれを必要とすることを正当化されるべきではないと争った。
CAFC は同意せず、「因果関係は特許侵害によって生じた取り返しのつかな
い被害を他の合法的な競争によって生じた被害から区別するために必要であ
る要件である」と述べた。
次に、アップルはこれまでのいくつかの CAFC 判決を引用して地裁判事は因
果関係の水準を誤って適用したと主張した。CAFC はやはり同意せず、「そ
れらの判決のいくつかの事件は比較的簡単な製品に関する事件で、特許の特
徴も少ない。しかし、本件は非常に複雑で多機能を有するスマートフォンや
タブレットに関するので状況が異なる」と以下のように説明した。
つまり、簡単な製品の場合は特許の特徴と取り返しのつかない被害の因果関
係は特定し易い。これに対し、本件のような複雑な機能を有するスマートフ
ォンやタブレットの場合は特定の特許の特徴のみによって取り返しのつかな
い被害が生じたかは特定し難いものである。アップルが引用した他の判例は
問題の製品のデザインが決定的なものでそれによって市場が形成されたケー
スであるが、本件はそのように単純なケースではなく、技術は複雑多岐で、
且つ非常に多くの異なるモデル(28 のモデル)があり、それらのモデル同士が
競合するという複雑なケースである。
デザイン特許についても、CAFC は地裁判事に同意し、「デザイン特許でカ
バーされるような一般的特徴が重要であるという証拠は、大体において因果
関係を立証するためには十分でないものである」、「いくつかのデザインの
特徴を個々に個別に説明するだけではアップルが主張する広いデザイン特許
が消費者の要求をもたらしているという証拠にはならない」と述べ、地裁判
事がアップルは因果関係を立証していないと結論したことに裁量権の濫用は
ないと述べた。
CAFC は 3 つの特許についても地裁判事がアップルの「使い易さの重要性」
と「コピーした事実」について因果関係を立証していないと結論したことを
同意した。
しかし CAFC は Hansen 博士の市場調査と証言の証拠の取り扱いについては地
裁判事に同意しなかった。この証拠は、消費者はアップルの特許クレームの
特徴を有するスマートフォンについてはかなり高い値段がついても購入する
ことを示していた。
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即ち、Hansen 博士の消費者調査の結果によると、サムスン購入者は 915 特許
の特徴に対してスマートフォンでは 39 ドル高くなっても積極的に購入し、タ
ブレットでは 45 ドル高くなっても購入するという証拠がある。3 つの特許の
特徴の全てを有する場合は、スマートフォンでは 100 ドル、そしてタブレッ
トでは 90 ドル高くなっても購入するという証拠もあった。
地裁判事はこの調査結果について「これらの特許の特徴があればベース価格
に高い値段がついてもサムスン購入者は購入するという証拠は、サムスンの
購入者はその特徴があるからアップルのスマートフォンではなくサムスンの
スマートフォンを喜んで購入したという証拠にはならない」と述べて証拠価
値を否定した。
しかし、CAFC は「因果関係の立証のためには、そのように高いレベルの立
証の必要性はない。ある特徴が購入者の要求をもたらしたという立証の仕方
は色々ある。例えばある特徴があるために製品の好ましさが増加することは
ある」、あるいは「特許の特徴が製品の価格を押し上げたということは、そ
の価格がその製品に対する要求を示す証拠にはなることもある。」、「この
問題は程度の問題であり、地裁判事がその点を分析しなかったことは裁量権
の濫用である。」と述べた。
CAFC はその比較の例として「2 万ドルの自動車に 10 ドルのコーヒーカップ
を取り付けてもコーヒーカップのためにその自動車の購入要求が高まったこ
とにはならないであろうが、本件のようにベース価格と特許の特徴の価格が
近くなれば因果関係が生ずる場合もある。つまり程度の問題を分析しなけれ
ばならない」と説明した。
次に、CAFC は地裁判事がアップルに対する救済は損害賠償で十分であり、
差し止めは必要としないという点を分析した。
地裁判事はその点について①アップルはサムスンに対してスマートフォン特
許のライセンス交渉をした事実がある、②アップルは現実に自社特許を IBM
やノキア等にライセンスしており、ライセンスを拒否する企業ではない、③
サムスンには損害賠償を支払う能力は十分ある等の点は依存していた。しか
し、CAFC はその結論はあまりに一般的で、単純すぎると反対した。
問題はアップルが①スマートフォンのためという特徴を有する 3 つの特許を、
②サムスンという競合会社に果たしてライセンスしたか、であるとした。
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その理由は、アップルは確かに訴訟前にライセンス交渉はしたものの、問題
の 3 つの特許はライセンス対象ではないと明確に告げていたと主張している
点である。サムスンはそのようなことはなかったと否定しているが、地裁判
事はその点を十分事実認定してから決定すべきであった。
最後の公共の利益の点については、地裁判事は「特許を守ることは公共の利
益に資するものである。しかし、本件のように、スマートフォンに本質的で
ない限定的な特許の特徴を侵害するという理由で差し止めを認めて消費者が
スマートフォンを購入できなくなったり、このように複雑で多機能のスマー
トフォンにおいてわずかな特許で差し止めは認めてよいかについて明確な判
例がない状態では差し止めを認めるべきではない」と結論していた。
CAFC はこの点については地裁判事に裁量権の濫用は認められないとした。
最後にサムスンのトレードドレスの侵害についてはサムスンはデザインを変
えてもはや侵害しておらず、且つサムスンが再びこれらのトレードドレスを
用いるという証拠は何もないので、この点で差し止めを認めなった点も裁量
権の濫用はなかったとした。
以上のように CAFC は、地裁判事は①Hansen 博士の市場調査と取り返しのつ
かない被害との因果関係と②アップルへの救済は損害賠償だけで十分である、
という点について裁量権の濫用があり、この点を地裁で再度審議し直すよう
に差し戻した。
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III. アップル対サムスン連邦裁判所訴訟Ⅱ(アップル 120 億円/サムスン
1600 万円評決)
2012 年 2 月 8 日訴訟、2014 年 3 月 31 日審理
A. 地裁、アップル特許侵害技術を使用禁止する差し止めは認められないと判決
差止めについては、やはり判事はギャラクシーの差止めを認めなかったので、アッ
プルはギャラクシーそのものの差止めをあきらめ、ギャラクシーから侵害された特
許技術の特徴(スペルミスの訂正、スライドしてスマートフォンを起動、データのリ
ンク)をギャラクシーから削除する差止めを求めたが、地裁判事はその特徴によって
ギャラクシーの販売があったという因果関係(nexus, connection)が立証されていない
という理由で差止めを認めなかった。
B. CAFC、特許技術の特徴使用禁止の差止めは認められると差し戻し判決
その控訴で、CAFC のパネルは 2 対 1 で、アップルとサムスンのように直接激しく
競合し合う企業の場合は厳密な因果関係(nexus)の立証は必要でなく、「何らかの関
係」があればよく、その証拠は十分にあると逆転判決したのが本事件である。上記 3
つの特許技術は重要なのでこの差止めはアップルにとって大きな勝利といえる。
APPLE INC. v. SAMSUNG ELECTRONICS CO., LTD.
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/14-1802.Opinion.915-2015.1.PDF
1. アップルの 3 つの特許
アップルは 2007 年に画期的 iPhone を市場に販売し始めた。
この iPhone を開発するためアップルは何年間も数 1000 億円の危険な投資を行った。
証拠 J.A.10424-26, 10585-98. 実際、アップルの重役は iPhone のことを「これは会社の
賭けとなる商品だ」と述べていたほど新しい市場において新商品が果して受け入れら
れるかの危険性があった。証拠 J.A. 10425-36, 10451-52.
アップルはその投資を守るため、米国特許第 5,946,647 号(647 特許)、同第 8,046,721
号(721 特許)、同第 8.074,172 号(172 特許)を取得し、これらがこの控訴で問題となっ
ている。721 特許のクレーム 8 はタッチスクリーンの表面を指をスライドさせてア
ンロックさせる技術に係わるものである。647 特許のクレーム 9 はテキストの中か
らデータ・ストラクチャーを検出し、例えばテキストメッセージから電話番号を検
出し、それをアドレスブックにリンクさせる技術である。172 特許は入力のスペル
ミスを訂正するソフトである。
iPhone が非常に成功した商品であることは争いの余地はない。サムスンを含む他社
もこれに追従した。サムスンの内部証拠によるとサムスンはアップルの特許技術に
「十分な注意を払い、その内いくつかを取り入れてきた」。今日ではアップルとサム
スンはスマートフォンとタブレットの分野で熾烈な競争相手になっている。
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2. 地裁訴訟
アップルはサムスンを 172 特許、647 特許、そして 721 特許を侵害しているとして提
訴した。地裁判事は、スペルの誤りを修正する 172 特許の侵害の争いの余地はない
としてサマリージャッジメントで特許侵害有りの判決を下した。647 特許と 721 特
許は陪審審理となり、陪審員は両方とも侵害しており、侵害は故意であると評決し、
3 つの特許の侵害の損害賠償は約 1 億 2 千万ドル(約 144 億円)の評決を下した。
そこでアップルはギャラクシーの差止めを要求した。判事はサムスンのギャラクシ
ーの機能は数千と多く、その販売は特許技術の特徴を利用することによって促進さ
れたという因果関係を立証していないとしてギャラクシーそのものの差止めは認め
なかった。
そこでアップルはサムスンのギャラクシーから特許侵害をしている技術を削除せよ
という差止めを要求した。しかし、地裁判事は、やはり差止めを認めないと取り返
しのつかない被害が生じるということをアップルは立証していないということから
その差止めも認めなかった。
3. CAFC 控訴
それを不服としてアップルは CAFC へ控訴した。CAFC の担当パネルは 2 対 1 で地
裁判事の判断は誤りであり、裁量権の濫用があると地裁判決を逆転させて差止めを
認めたのが本事件である。
a. eBay 判決の 4 つのファクター
米国特許法第 154 条(a)(1)は、特許は特許権者に「他者が発明を作ったり使用…する
ことを排除する権利(a right to exclude)」を与えていると規定している。米国憲法も
「発見に対して排除する」権利があると定義している。その為第 283 条は「地裁は、衡
平法の原理に基づいて差止めを認めてもよい(may grant)」と規定している。歴史的に
は裁判所は特許訴訟の大多数のケースにおいて差止めを認めてきた。eBay Inc. v.
MercExchange, L.L.C., 547 U.S. 388, 395 (2006).
eBay 判決によると差止めは下記の 4 つのファクターを満足しなければならない。
①特許権者は取り返しのつかない被害を受けたこと、
②法に基づく救済、即ち金銭的救済では不充分なこと、
③差止めの認否から特許権者と侵害者に生じる困苦のバランス、そして
④差止めは公共の利益に反さないこと。
差止めを認めるか否かは地裁判事の裁量で決定されるので、事実認定については明
白な誤りがあったか否かでレヴューし、認否の最終判断は裁量権の濫用があったか
否かでレヴューする。
b. 取り返しがつかない被害
第 1 のファクターの取り返しがつかない被害があったか否かは、まず、その被害が
特許侵害によって生じたという因果関係がなければならない。アップルは地裁でサ
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ムスンの特許侵害のために、技術革新者としての名声が希釈化され、マーケットシ
ェアを失い、下流販売も失ったと主張した。
しかし、地裁は、サムスンのギャラクシーには何百、何千という機能があり、消費
者が特許侵害があった 3 つの機能(スペルミス修正、スライドアンロック、データリ
ンク)があったためにギャラクシーを購入したという因果関係は立証されていないと
認定した。
そこでアップルはこの CAFC 控訴でアップルはサムスンのギャラクシーそのものの
差止めを要求しているのではなく、特許技術を使用しないこと、つまりギャラクシ
ーからそれらの特許技術を削除することと、削除するための 30 日の猶予期間を与え
るという限定的差止めを要求しているので、因果関係を立証する必要はないと争っ
ている。
また、地裁がアップルは販売の損失や技術改革者としての名声の減少から取り返し
のつかない被害があったことの立証はなかったと認定した点も誤りであると争って
いる。
如何にそれらの争点を分析する。
1) 因果関係
アップルは、同社が要求している差止めは特許技術のみを削除すべきであるという
ことから特許技術を越えた価値までも差止めを求めていないため(スマートフォンそ
のものの差止め要求すると特許技術以外の何千という機能の価値を差止め要求する
ことになる)因果関係の立証は満足しているはずだと主張している。
しかしながらアップルのこの主張は eBay 判決における因果関係の解釈を誤っている
といえる。因果関係の要求の意味は差止めは侵害者の違法行為から生じる被害に対
してのみ認めることであり、侵害者の合法的競争に対して認められるものではない
ために必要なのである。
特許権者の取り返しのつかない被害が、特許侵害から生じたか否かは、差止めの範
囲とは別の問題である。CAFC は今までの判例において製品ベースの差止めについ
ては因果関係の立証が必要であると要求してきたことは確かであるが、本件のよう
に狭い差止めについては因果関係の立証は必要ではないと述べたことはない。差止
めの範囲を狭め、且つ差止めの実施までに 30 日の猶予期間を置くことは侵害に特許
技術を削除する時間が与えられるためによいとはいえるものの、取り返しのつかな
い被害がサムスンの被害によって生じたことを立証したことにはならない。両者の
間には「何らかの関係(some connection)」がなければならない。
2) 販売による被害
地裁がアップルは販売の損失と名声の希釈化によって取り返しができない被害が生
じたことを立証できなかったと認定したことは誤りであるとアップルは争っている。
地裁での証拠によるとアップルが販売の損失があり、それにより損失のエコシステ
ム(損失の波及)の影響があったことについては両者は争っていない。
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しかも、証拠によると両社は競争は「熾烈(fierce)」なもので、両社はこのマーケット
において最大の競合者であったことを示している。「2 つの会社が競合する場合は、
特許権者の会社の特許技術を侵害者が取り入れて競争することが多いので、取り返
しのつかない被害がよく生じるものである。」Douglas Dynamics, LLC v. Buyers Prods.
Co., 717 F.3d 1336, 1345 (Fed. Cir. 2013).
同様にアップルとサムスンはスマートフォンマーケットにおける直接的競争会社で
あるため取り返しのつかない被害を認定し易いといえる。にもかかわらず、地裁は
アップルが特許侵害と販売の損失の間に因果関係があったことの立証ができなかっ
たために取り返しのつかない被害があったことを立証していないとした。この点で
地裁は誤っている。
被告のスマートフォンが何千もの機能を有する場合、特許技術のみで因果関係があ
ったと立証することは他の何千もの機能は関係ないことを立証しなければならない
ので不可能に近い。その場合にはよりフレキシブルなアプローチが必要である。
CAFC は特許権者は特許技術と侵害製品に対する需要に「何らかの関係」がなければ
ならないと判示してきた。従って、何千もの機能のある製品の場合に特許侵害が販
売損失の唯一の原因であることの立証を求めることは法的誤り(legal error)であると
認定する。
そして他者を排除する権利は侵害者が熾烈な競合者の場合は特に重要になる。アッ
プルのような技術革新者から憲法に規定されたこの基本的権利を奪うことは最高裁
の eBay 判決の趣旨に反する。従って地裁がアップルは特許侵害がサムスンのスマー
トフォンを購入した者の唯一又は根本的理由であったことを取り返しのつかない被
害の立証として要求したことは誤りである。
地裁は、特許技術はサムスンのギャラクシーを消費者が購入した意思決定にインパ
クトを与えたか、又は、それを決定させたいくつかの特徴の 1 つであったことをア
ップルに立証させるべきであった。
そして地裁での証拠をレヴューするとそれは立証されていたといえる。サムスンは
「iPhone の特徴を十分注視しており、それに取り入れようとしていた」証拠があり、
これはサムスンが iPhone をコピーした証拠といえる。サムスンのエンジニアが「ス
ライド式アンロックは重要である」事を述べた証拠もある。
サムスンは「特許侵害をしないサークル式アンロックを開発したが、サムスンの email にはサークル式アンロックはよくない」と述べた証拠がある。このためか陪審員
はサムスンは 721 特許を故意侵害したと評決した。サムスンの社内証拠には 647 特
許の図面をコピーしたものもある。172 特許のスペル修正については、サムスンの
社内証拠には特許侵害しない代替技術は問題が生じたので 172 特許の方法に修正し
た記録がある。にもかかわらず地裁は、コピーしたことは因果関係の立証には不十
分であると認定した。
その理論自体は正しいが、だからといってそれらの証拠を取り返しのつかない被害
の証拠から関係なくするわけではない。これらの証拠をカテゴリー的に篩い分ける
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ことをしてはならない。証拠の強さとウェートはケースバイケースである。アップ
ルがサムスンがアップルの特許技術をコピーしたという事実は、アップル/サムスン
が主観的に考えていたことと、消費者の印象との間のリンクを強化するもので、そ
れにより因果関係を取り返しのつかない被害を強く示すことになる。
サムスンがコピーしたという証拠の強さと、サムスンの特許技術は販売にとって重
要という自認と、ユーザーたちも特許技術を評価していたという証拠を考慮すると
地裁がこれらの証拠を無視したことは明らかな誤りであり、因果関係を立証してい
たといえる。
更に専門家証人の Hansen 博士の分析によると消費者はサムスンのギャラクシーに特
許技術が存在しなければ購入しなかったであろうということや、サムスンに特許技
術が入っていれば値段が高くなっても購入すると証言している。
これらの証拠と取り返しのつかない被害についての正しい法的基準を考慮すると、
アップルは取り返しのつかない被害があったことを立証していたといえる。
地裁がアップルは最大のライバルであり、熾烈な競合者のサムスンの侵害品と特許
技術の間に「何らかの関係」を見い出さなかったことは明白な誤りといえる。
アップルは特許技術がサムスンの消費者の購入の唯一で、重要な動機をもたらした
ことは立証できなかったかもしれないが、証拠のウェートによれば差し止めて認め
てもよいケースであったといえる。
c. 法上の救済(損害賠償)では不十分
eBay 判決の 2 つ目のファクターは損害賠償の救済のみでは不適切であるか否かとい
う点である。地裁はアップルの販売の損失を量的に算出することは困難であると認
定した。これはそのエコシステム効果、即ち、スマートフォンのアクセサリー、コ
ンピュータ、ソフトウェア、将来のスマートフォンやタブレットを考慮すると算出
は不可能に近い。
更に、個々のユーザーが友達や家族に勧めるというネットワーク効果もある。よっ
て、アップルのスマートフォンには考えられない波及効果があり得る。地裁は、こ
の点についてアップルは取り直しのつかない被害の額を立証できなかったので差し
止めを認め難いとした。
アップルはこの控訴で、この結論が誤っていると逆転できれば差し止め認可にも有
利に判断されるはずであると主張した。CAFC はアップルに同意する。地裁がアッ
プルには取り直しのつかない被害を立証できなかったとしたことは法的誤りである
と認定したので、スマートフォンの下流の損害額の算出ができないほど多大である
ことこそこの点で差し止めを認めるべきとなる。
d. 差し止めに係わる困苦
eBay 判決の 3 つ目のファクターは、差し止めを認めなかった場合のアップルの被害
の困苦は、認めた場合のサムスンの被害の困苦より大きいか、という点である。地
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裁はこの点については、差し止めは特許技術のみに絞られており、且つ 30 日後に施
行するというサンセット規定もあり、且つサムスンは法廷で 3 つの特許をデザイ
ン・アラウンド(設計変更による侵害回避)することは問題ないと主張していたの
で、たとえアップルの差し止めを認めてもサムスンには困苦は生じないだろうと認
定した。
これに対して、アップルは差し止めが認められなければ、サムスンの搭載された自
身の特許技術と争わなければならないので大変な困苦が生じる、と主張した。
これに対してサムスンは特許技術はギャラクシー中のわずかな技術でしかないので
アップルに困苦はないものの、サムスンのユーザーには大変な困苦が生じると主張
している。
地裁判事はその点では差し止めを認めてもよいと認定したが、その判断は正しいと
いえる。サムスンの侵害によってアップルに販売の損失が生じ、下流の販売にも被
害が生じ、且つアップルにはサムスンに搭載された自らの特許技術と争わなければ
ならないので、その困苦は大きい。特に 2 社競合の場合はそうである。その上、サ
ムスンは設計変更が十分にできるので困苦は少ないといえる。よって、この点では
地裁はアップルに有利と認めたがその地裁判断は正しいといえる。
e. 公共の利益
地裁は、差し止めの範囲は狭いのでたとえ差し止めを認めてもサムスンの被害は少
なく、それにそもそも排他権の特許に差し止めを認めることは特許制度の公共の利
益に則するといえる。
これに対してサムスンは、この差し止めは一見狭く見えるものの、実際には非常に
広く、サムスンのギャラクシーは販売できなくなる恐れがあり、競争原理にも反し、
更に差し止めの管理には多大のコストがかかると反論している。しかし、地裁が特
許権について差し止めを認めることは公共の利益に反しないとしたことは正しい。
特に、本件のようにアップルが多大の投資を行って開発した内容はそうである。
Sanofi-Synthelabo v. Apotex, Inc., 470 F.3d 1368, 1383 (Fed. Cir. 2006).
本件は差し止めを認めてもサムスンのスマートフォンが市場からなくなるわけでは
ない。アップルは人間の命を救う万能薬を差し止めようとしているのではなく、ギ
ャラクシーやタブレットで特許を不当に使用することを阻止しようとしているだけ
である。アップルには特許独占を不当に拡大しようとしているのではない。
f. 結論
地裁は eBay 判決の 4 つのファクターの内、最初の 2 つのファクターをアップルは立
証していないと認定したが、アップルは因果関係と取返しのつかない被害を立証し
たといえる。よって地裁判決を逆転させ、差し止めを認めて地裁へ差し戻す。
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g. 考察
この判決の冒頭では、アップルが iPhone という画期的な新製品を何千億円という研
究開発費を投じて開発してきたという点から起草し始めている。おり、技術革新者
を守るべきことを示唆している。そして、特許技術との侵害と被害の因果関係につ
いては、この iPhone には何千という機能があるので特許侵害があったわずか 3 つの
機能でサムスンのギャラクシーの販売があったということを立証することは不可能
に近いことをまず認めている。
しかし、CAFC パネルの多数判事は、①アップルとサムスンは熾烈な競合 2 社であ
るという市場の特殊性があること、②サムスンが特許機能をコピーしたことは明ら
かであること等から eBay 判決の 4 つのファクターの内、特に立証が困難である取り
直しのつかない被害があり、且つそれは特許侵害から生じたことの証拠は、「何ら
かの証拠」という低い基準でもよいと判断した。
しかも、そのための差し止めは、①サムスンのギャラクシーそのものでなく、特許
機能を削除するだけで、且つ、③差し止め実施には 30 日の猶予期間があり、サム
スンが設計変更し易くしている、という実利的な点も考慮している。
アメリカは何といっても技術革新国であり、この種のパイオニア発明を守るために
は、このようなフレキシブルなアプローチが当然必要になるのでよい判決といえる。
C. 地裁、差戻審で特許技術の特徴使用禁止の差止命令を出す
CAFC の逆転判決による差し戻し審で、地裁は 2016 年 1 月 18 日にサムスンはアッ
プルの特許侵害の特徴(features)を用いてはならないという判決を下した。判決の要
点は以下である。
サムスンはアップルの 647 特許(リンク)、721 特許(スライドロック解除)、172 特
許(スペルチェック)について下記の行為で侵害したり、寄与侵害したり、誘導侵
害したりしてはならない。
(1) いかなる特許侵害の特徴、そして/又は、それと僅かにしか異ならない
(colorably different)特徴を米国で生産、販売、輸入…すること、そして/又
は (2) 上記特徴を開発、デザイン…すること、但し、アップルの上記特徴の侵害
を回避するためのデザインアラウンドは除く、そして/又は (3) 上記特徴を宣伝、マーケット…すること (4) 上記(1)~(3)の行為を第三者に対し、直接的、又は間接的に要求、補助…
すること。 アップルはサムスンがこの差止めを実施する(上記特徴をサムスンのスマート
フォンから削除すること)ために 30 日間の猶予期間を与えることについて、
その猶予期間を削除することを求めたが、その削除についてはヒアリングで
議論しなかったので、それは認めない。
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以上の命令は CAFC の逆転判決に即するものであるため、サムスンは再度 CAFC に
控訴して争うことはないであろう。
これらの特許技術はサムスンの新製品からは既に削除されているのであまり効果は
ないという識者もいる。一方、アップルにとっては差止めを得たという事実その者
が世の中の消費者に対してサムスンはアップルの特許技術を盗んだという印象を与
えて、今後のサムスンの販売にプレッシャーを与えることが重要なのであろう。
しかも、本来であるならこの事実は何年も前にあり、サムスンはアップルの特許技
術を利用していなければ今日のサムスンはなかったはずであるというイメージを植
えつけるためにも重要ともいえる。
いずれにせよ、あれほど市場を独占していたサムスンは今はアップルの方がはるか
に上である。これはアップルの技術をコピーしていたうちは開発投資をしていない
分、値段で市場を確保できたのかもしれないが、真の競争になった時、新技術を開
発できない企業の姿を示しているのかもしれない。
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IV. アップル対サムスンの ITC 訴訟
1. サムスンの ITC 訴訟
(1) 2011 年 8 月 1 日:サムスン、アップルを ITC 提訴
米国特許第 7,706,348; 7,486,644; 7,450,114; 6,771,980; 6,879,843
(2) 2012 年 9 月 14 日:行政判事、以下のようにアップルはサムスンの全ての特許を
侵害していないと仮決定(ID)発表
348 特許, 644 特許, 980 特許: 有効、侵害なし
114 特許
: 無効、侵害なし
(3) 2012 年 11 月 19 日、2013 年 3 月 13 日:委員会、FRAND 問題等について両者と
公共に意見を求める
a. ITC 委員会の事前質問
1. FRAND が存在するという事実だけで ITC は排除命令や停止命令を出す権
限はなくなるか?
2. 特許権者が侵害被疑者にライセンスを申し出た時、それが FRAND に適合
する申し出であるかを決定する時にどのようなフレームワークを用いるべ
きか?
3. 348 特許及び 644 特許の侵害を回避するためには実質的なコストと時間が
かかるか?そのような設計変更は ETSI 基準に適合するか?
4. アップル製品のどの部分が 348 特許及び 644 特許を侵害しているのか?そ
の部分はその製品のマイナーな特徴の部分であるか?
b. FRAND
FRAND とはフェアでリーズナブルで差別的でない(Fair, reasonable and nondiscriminatory)ライセンスを与えるという意味である。一般に米国で新しい
標準的技術開発を行う時には、標準組織を作り、参加企業が技術や特許を供
与して共同開発をしていく。するとメンバー企業は統一した標準技術を用い
ることになる。その時に特許の使い方についてはオープン、クローズそして
ハイブリッドの使い方がある。オープンとは参加企業は自社の特許を解放せ
ず、お互いに特許訴訟は自由に行えるシステムである。
しかし、これでは完成した標準技術を用いると特許訴訟合戦となるので、あまり
良くない。そこで参加企業の特許については全てをお互いにライセンスし、自由
に使えるようにしようというのがクローズシステムである。ところが特許を多数
有している企業には不満が残る。
ハイブリッドは両システムの中間で、基本的標準技術の特許については FRAND で
適正な価格、条件でお互いにライセンスし合い、付属的技術の特許については参
加企業が独自に保有し、特許訴訟も自由に行える(下記のピンカート委員の反対
意見④参照)というシステムで、最も広く使われているシステムである。
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(4) 2013 年 6 月 4 日:委員会最終決定
 348 特許クレーム 75, 76, 82-84 をアップルは侵害していると認定、国内産業あ
り
 644 特許, 980 特許, 114 特許の侵害なし、国内産業もなし
 行政判事の仮決定と委員会の最終決定を比較すると下記の表のようになる
サムスン特許
US7,706,348
US7,486,644
US7,450,114
US6,771,980
表 7: ITC 決定
行政裁判官仮決定
2012 年 9 月 14 日
国内産業
侵害
経済的 技術的 有効性
要因
要因
○
×
○
×
○
×
○
×
○
×
×
×
○
×
○
×
ITC 委員会最終決定
2013 年 6 月 4 日
国内産業
有効性
侵害
○
×
×
×
○
○
×
○
○
×
×
×
ITC 委員会の輸入停止命令の発動については、6 人の委員の内の 1 つのピンカー
ト委員は下記の理由で反対していた。
① 348 特許は標準技術の特許であるが、全体技術の内の極く僅かな部分の特
許で、しかもサムスンは FRAND でライセンスすると認めていた
② しかし、サムスンはアップルに対してライセンスを認める努力を行ってい
なかった
③ サムスンはアップルとの交渉で一度だけライセンスの可能性を示したが、
それはアップルの特許のライセンスを要求するものであった
④ このように FRAND 特許に対して FRAND でない特許のライセンスを強要
することはフェアではない
⑤ 以上のことから本件では輸入停止命令を認めるべきでない
しかし、ITC委員会は、大多数の委員の意見により、限定的排除命令、輸入停
止命令を出した。
(5) オバマ大統領の拒否権発動
ITC 委員会の命令は大統領のレビューの後に最終的な命令となるが、果たしてオバ
マ大統領は、ピンカート委員の反対意見を取り入れ、サムスンの問題特許はスマー
トフォンの基本技術に係わる標準的本質的特許であり、FRAND(公正でリーズナブ
ルなローヤルティでライセンスしなければならない)の対象となるので輸入停止命
令は不当であると拒否権を発動した。このような大統領の拒否権の発動は 1987 年以
来 26 年ぶりという珍しいものである。
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ITC は行政機関の行政裁判所であり、連邦裁判所のような憲法第 章の正式な裁判所
でないので、その結論は決定(determination)であり、判決(judgment)ではなく、
既判力もない。よって、ITC の決定は今回のように大統領が米国消費者、社会、経
済、産業に不当な弊害をもたらすか否かの観点からレビューを行ってから最終決定
される。
(6) 内外の賛否
ともあれ、この米国政府の拒否権発動に対しては韓国では猛反発があるが、米国企
業の中でも賛否が分かれている。この拒否権を支持しているのは独占問題に厳しい
態度を取る司法省に加えて、AT&T、インテル、マイクロソフト等の特許訴訟やト
ロール訴訟に悩む会社である。
この拒否権発動に反対する企業は、クォルコム、モトローラ、インターデジタル等
のように特許を軸として活動する企業である。
この拒否権は今後の ITC 訴訟のあり方を変えるかもしれないとみられている。それ
は基本技術、標準技術に関する特許は ITC 訴訟には用いられなくなる可能性がある
ということである。
また、更に連邦地裁における差止めのあり方にも影響を及ぼすことも、当然考えら
れる。
eBay 最高裁判決以来、差止めは軽々には認められず、 損害賠償では十分な救済が
得られない場合、 特許侵害をしているイ号製品が特許の特徴によって消費者に好
まれた、販売されたという「関係(nexus)」があった場合に限定されつつある。し
かし、この標準技術特許への輸入停止命令の否認は、連邦地裁での差止めは更に制
限されてくる可能性があるといえる。
(7) CAFC 控訴
サムスンは ITC 決定を CAFC へ控訴したが、348 特許に基づく輸入停止命令を棄却
した大統領政府の命令については控訴できないのでサムスンは 644 特許の非侵害の
みについて争った。
CAFC は、2014 年 5 月にそのヒアリングを行ったが、サムスンの Verhoeven 弁護士
は、「644 特許侵害は、地裁がクレーム解釈を誤り、専門家証人の証言を誤解した典
型的ケースであると主張した。」これに対して CAFC の Hughes 判事は「サムスンの専
門家証人の Min 博士の証言には矛盾があり、少なくともこれは ITC 及びアップルの
主張の非侵害の実質的証拠になるようにみえる」と述べた。
ITC の中立弁護士の Cheney 弁護士も「Min 博士の証言には矛盾がある。ITC はアップ
ルは 644 特許を侵害していないと決定したが、サムスンはそれが誤っているという
明白且つ説得力のある証拠を示してない。サムスンの主張は理解できない」と述べた。
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2. アップルの ITC 訴訟
(1) 2011 年 8 月 5 日:アップル、サムスンを ITC 提訴
米 国 特 許 第 7,479,949; RE41,922; 7,863,533; 7,789,697; 7,912,501; D558,757;
D618,678
(2) 2012 年 10 月 24 日:行政判事、以下の仮決定(ID)
表 8: 行政判事仮決定
アップル特許
侵害
CL. 1-4, 8
581 特許
CL. 1
D678 特許
Cl. 1, 4-6, 10-20
949 特許
Cl. 29, 30, 33-35
RE922 特許
D757 特許
697 特許
非侵害
Cl. 31, 32
D757
Cl. 13, 14
(3) 2012 年 12 月 3 日:アップルとサムスン、グーグルに公共の利益のコメント提出
(4) 2013 年 1 月 23 日:委員会、922 特許と 501 特許に関して差戻し命令(RID)
(5) 2013 年 3 月 26 日:行政判事、サムスンは 922 特許を侵害していたと仮決定
922 特許のクレーム 34, 35 侵害
501 特許のクレーム 3 侵害なし
(6) 2013 年 8 月 9 日:委員会、行政判事の 949 特許と 501 特許に侵害有りの仮決定を
認めサムスンに限定的排除命令、輸入停止命令を出す(オバマ大統領がサムスン
が得た輸入停止命令を否認した直後)
(7) 2014 年 1 月 17 日:行政判事はサムスンの保証金の返還要求のモーションとアッ
プルの保証金放棄のモーションの両方とも否認。その後、両者の控訴はない。
以上のように ITC 訴訟は終了し、サムスンは 949 特許と 501 特許を侵害する製品を
輸入できなくなったが、新製品には用いられていないような技術であるので大きな
影響はないと考えられている。それでも特許侵害による輸入差止めがあったという
イメージによるダメージはかなりあるであろう。
服部 健一
米国特許弁護士
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