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次数制約付き最小生成木問題への 分散協調探索手法の適用
平成 23 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 計算システム分野 次数制約付き最小生成木問題への 分散協調探索手法の適用 学籍番号 22413508 氏名 伊藤 翼 指導教員 松尾啓示 教授 松井俊浩 准教授 1 はじめに 通信網を介する分散協調システムでは, 通信や競合 ている. このフィーダ木の構築に類似した形式化と, DPOP を応用したボトムアップな解法を,より一般的 解決,各ノードの能力を考慮したデータの同期が必 な木の構築問題である d-MST 問題に適用可能である. 要となる.そこで,次数制約付き最小生成木(d-MST: 4 分散 d-MST 問題の形式化 Degree-Constrained Minimum Spanning Tree) が重 d-MST 問題を各エージェントに変数と評価関数が 要な概念として研究されている.d-MST 問題の多く 分散して配置された分散d-MST 問題として形式化す の集中的な解法が提案されているが,近年,非集中 る.その構成要素と制約は以下の通りである. 型システムが増加傾向にあるため,本研究ではマル . 𝑛個のエージェント集合𝐴 = {𝑖|𝑖 = 0,1, … , 𝑛 − 1} チエージェントの分散協調問題の枠組みで d-MST 問 題を形式化し,分散協調探索手法を提案する. 2 次数制約付き最小生成木(d-MST)問題 次数制約付き最小生成木問題では, 入力として重み 付き無向グラフ𝐺 = (𝑉, 𝐸, 𝑐)と,各頂点の次数𝑑(𝑖) に対し,次数の制限数𝑏𝑖 が与えられる.このとき, 各頂点𝑖の次数を𝑑 𝑇 (𝑖)とするとき,𝑑 𝑇 (𝑖) < 𝑏𝑖 を満 たし,閉路を含まず,かつ,∑(𝑖,𝑗)∈𝐸𝑇 𝑐(𝑖, 𝑗)を最小化 各エージェント𝑖の変数𝑥𝑖 (辺の選択を表す) . 各エージェント𝑖の隣接エージェント集合𝑁𝑏𝑟𝑖 . 変数𝑥𝑖 の値域𝐷𝑖 (𝐷𝑖 = 𝑁𝑏𝑟𝑖 ⋃{∅}) . 各エージェント𝑖の評価関数fi (𝑖) 𝑐(𝑖, 𝑥𝑖 ) fi (𝑖) = { 0 ∞ 𝑖 ≠ 𝑥𝑥 𝑖 𝑥𝑖 = ∅ (1) otherwise(制約違反) する連結無向成分が d-MST である. . 木制約: 連結かつ閉路がない生成木である. . 次数制約: ∀𝑖 ∈ 𝐴に対して,𝑑 𝑇 (𝑖) < 𝑏𝑖 を満たす. 3 関連研究 この形式化においては,各エージェント𝑖の変数𝑥𝑖 の 3.1 d-MST 問題の解法 値域𝐷𝑖 は接続すべき近傍エージェント集合と空集 Prim のアルゴリズムを d-MST 問題の解法として拡 合の和𝑁𝑏𝑟𝑖 ⋃{∅}となる.エージェント𝑖がこの変数 張した d-Prim が提案されている.Prim のように任 𝑥𝑖 の値を決定するとき,d-MSTの辺として辺(𝑖, 𝑥𝑖 )を 意の単一頂点のみを含む部分木からから処理を開始 選択することを表す.𝑥𝑖 = ∅のときエージェント𝑖は する.部分木に属する頂点と,属さない頂点を繋ぐ 辺を選択しないことを表す.ある1 つのエージェン 辺のコストが最小で,かつ次数制約を満たす頂点を トが辺を選択せず,それ以外の𝑛 − 1のエージェン 部分木追加していく.最終的に全ての頂点を追加し トが辺を選択するとき,全てのエージェントの変数 たとき,d-MST の近似解を得る. 値の組み合わせは生成木を表す.木制約と次数制約 を満たし,min{∑𝑖∈𝐴𝑇 𝑓𝑖 (𝑖)}を満たす木を目的とする. 3.2 電力網の経路割り当て問題 分散制約最適化問題を電力網の経路割り当て問題 fi (𝑖)は式(1)のように評価される. に適用する手法が提案されている. 電力網において, 5 提案手法 --分散協調探索手法-- 全ての電力消費に対して配電線の最大容量を違反し 5.1 dd-mst(厳密解法) ないように電力を供給するために,電力源を根とす 各エージェントがメッセージ交換を伴う協調探索 る生成木であるフィーダ木を構築する.木は有向辺 を行いd-MST 問題の厳密解を求めるdd-mstを提案す の情報を持つ供給元変数で表現される.また,分散 る.まず,順序木を構築し,各エージェントの計算 制約最適化問題に対する厳密解法である DPOP アル 順序を得る.次に順序木に沿って,部分木集合をボ ゴリズムに,資源制約の評価を追加した解法を用い トムアップに集計していく.各エージェントは全て 平成 23 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 計算システム分野 表1: 解の質とサイクル数 の子のエージェントから受信する部分木集合の部分 木と自身の変数値より決定する辺の候補との組み合 わせを計算し,新たな部分木集合を生成して,親の エージェントに送信する.根のエージェントは集計 された部分木集合から最適解を計算し,全てのエー ジェントに最適解を伝播させる. 5.2 dd-mst の探索空間を削減する近似解法 dd-mstは制約による解候補の除去が不十分であれ ば,最悪の場合,探索すべき組み合わせは。∏𝑖∈𝐴 |𝐷𝑖 | 表2: 異なる部分木の制限数による探索 となる.従って,各エージェントの記憶容量や計算 量を考慮し,部分解の容量を制限することが望まし い.そこで,dd-mstの部分木の数に制限数𝑘を設け, 部分木の特徴に基づく優先探索を用いて組み合わせ の切り捨てを行う近似解法を提案する. 5.2.1 総コスト値に基づく優先探索 各エージェントの計算する部分木の総コストに基 セージを受信し,処理,送信する一連の動作の単位 づく優先探索による組み合わせ削減手法である.あ である.組み合わせ数とは各エージェントの保持す る部分木𝑇𝐴 が,別の部分木𝑇𝐵 よりも優先されるとき, る部分木の平均数である. 総コスト𝑄𝑇𝐴 ,𝑄𝑇𝐵 と辺数|𝐸𝑇𝐴 |,|𝐸𝑇𝐵 | に対し, 表1から, 厳密解法であるdd-mstの誤差は常に0とな 𝑄𝑇𝐴 /𝐸𝑇𝐴 < 𝑄𝑇𝐵 /𝐸𝑇𝐵 のように比較される. るため,最も解の質が高いことがわかる.しかしな 5.2.2 次数に基づく優先探索 がら,計算量が多いため「-」で示されるように現実 各エージェントの計算する部分木の次数の余剰数 的な時間で解が得られない場合がある.dd-mst-tc の最小値に基づく優先探索による組み合わせ削減手 と dd-mst-tcmdeg は , い ず れ の𝑛 に お い て も , 法である.次数の余剰数とは,頂点𝑖の次数制約𝑏𝑖 と dd-primよりも小さい誤差を実現できた.従って,探 次数𝑑(𝑖)の差𝑏𝑖 − 𝑑(𝑖)である.ある部分木𝑇𝐴 が,別 索空間の規模を小さく抑えつつ,ある程度の解の質 の部分木𝑇𝐵 よりも優先されるとき,次数の余剰数の を保つ手法の適用の有効性を示すことができた.そ 集 合 𝑅(𝑇𝐴 ),𝑅(𝑇𝐵 ) に 対 し , 𝑚𝑖𝑛{𝑅(𝑇𝐴 )} > 𝑚𝑖𝑛{𝑅(𝑇𝐵 )}のように比較される. の一方で,表2から,𝑘の値を減少させると,誤差と 6 実験・評価 せると,最適値に近付けることが可能である.従っ 各手法を実験により比較、評価した.グラフの辺に 割り当てるコスト値の種類は,一様分布に従う10か ら100の整数値とする.エージェント数𝑛は10から30, 実行不可能解の数が増加し,反対に𝑘の値を増加さ て,解く問題の規模や各エージェントの能力に見合 った𝑘の値の設定が非常に重要であると考える. また,表1から,サイクル数はdd-mstに関する2手法 次数制約は全て3とし, 10個の問題を解いた解に関す がdd-primよりも常に少ない. これは順序木に沿った る各評価指標の平均値を評価する.評価対象は 1往復のメッセージ伝播のみを行うためである. ただ d-Primを分散処理化したdd-prim,5.1で述べた し、なるべく小さいk を用いなければ、1 メッセー dd-mst,5.2.1で述べたdd-mst-tc,5.2.1と5.2.2の ジあたりの通信時間は大きくなる. 優先探索を組み合わせたdd-mst-tcmdegである. 解の 7 まとめ 質とサイクル数に関する結果を表1に示す.制限数𝑘 本研究では,分散協調問題の枠組みで,d-MST問題 は実行不可能解の数が0となる30,000に設定する. ま を形式化し,分散協調探索手法を提案した.部分木 た,異なる制限数𝑘を用いたときの結果を表2に示す. の辺の総コストと次数の余剰数に基づく優先探索を 誤差とは, 各手法で得たd-MSTの辺の総コストと最適 用いて部分木の切り捨てる近似解法では,探索空間 値との差である.サイクルとはエージェントがメッ を削減しつつ,一定の解の質を得ることができた.