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(独)海上技術安全研究所 国際会議報告
海上の安全と海洋環境保護に貢献する海上技術安全研究所 (独)海上技術安全研究所 会 議:国際海事機関(IMO)第88回 国際会議報告 海上安全委員会(MSC 88) 開催場所:国際海事機関(IMO)、英国、ロンドン 会議期間:2010 年 11 月 24 日~12 月 3 日 参 加 国:日本をはじめ、120 ヶ国、59 機関 海技研からの参加者:吉田公一(国際連携センター長) 、太田 進(運航・物流系上席研究員) 概要 国際海事機関(IMO)は、その海上安全委員会(MSC)において、船舶の安全と保安に係る検討 を進めている。 今回の MSC 88 会議は、海上人命安全条約及び関連する義務コードの改正、コンテナ安全条約の 改正、海賊対策及び保安強化、安全に関する人的要因、目標指向型基準、公的安全評価方法、並び 各小委員会からの報告を審議し、以下の成果を得た。 ・ 海上人命安全条約(SOLAS)及び関連する義務コード(火災試験方法コード及び火災安全設備 コード)の改正を採択した。また、コンテナ安全条約の改正を採択した。さらに、アスベスト含 有材料・設備の搭載禁止違反に対する措置に関する MSC サーキュラの回章に合意した。 ・ 救命艇の事故防止に係る SOLAS 改正案及び安全評価方法案に関しては採択せず、次回船舶設計 設備小委員会 55 回会議(2011 年 3 月 21 日-25 日)の前週に中間作業部会を開催して(同 3 月 16 日-18 日)、検討を継続することとなった。 ・ 一般貨物船の公的安全評価(FSA)報告に関しては、FSA 専門家会議(吉田が議長)を、次回 MSC 89 の直前に開催して(2011 年 5 月 10 日-11 日)、当 FSA 報告を審査することとなった。 ・ リスクベースの目標指向型基準に関して MSC 88 は、ドイツの提案に基本合意し、MSC 89 期 間中に作業部会を開催して、詳細な検討を進めることとなった。またこの作業部会において、FSA に関する指針の見直しも進めることとなった。 主な貢献: 吉田は、条約等の義務要件の採択のための起草部会の議長を務め、SOLAS 条約の改正案、コンテ ナ安全条約の改正案、2010 年火災試験方法コード、火災安全設備コードの改正案を仕上げ、これら の採択に貢献した。また、SOLAS 条約の統一解釈に関する MSC サーキュラ、及びアスベストの搭 載禁止違反に対する措置に関する MSC サーキュラを起草し、これらの合意に貢献した。さらに、2012 年の MSC90 で4採択する予定の SOLAS 条約改正案を仕上げた。 太田は、条約等の義務要件の採択に係る審議を担当し、起草部会に出席した。また、船舶設計設 備(DE)小委員会、危険物・固体貨物・コンテナ(DSC)小委員会の報告に係る審議を担当した。 さらに、現存船の離脱フックの評価・交換方法に関する指針が合意されず、これに伴って SOLAS 条 約第 III 章及び国際救命設備コードの改正案の採択が延期となったことから、本件に関する非公式な 打合せが行われ、太田はこれに参加し、情報収集に努めた。 1 海上の安全と海洋環境保護に貢献する海上技術安全研究所 海上技術安全研究所からの会議出席者の様子 条約採択起草部会の様子 る閉囲場所での火災時の迅速な消火を可能と するため、固定式火災探知警報装置の設置を 義務付け。 ・第Ⅴ章(航行の安全) :承認された検査員又は 施設による船舶自動識別装置(AIS)の年次試 験の義務化、及び水先人用昇降機の禁止等の 水先人用移乗設備の要件の改正。なお、この 移乗装置の設置日と規則の適用に関する共通 解釈の MSC サーキュラを承認した。 主な審議結果 1.義務要件の採択 (1) SOLAS 条約の改正 以下を主な内容とする SOLAS 条約の改正を 採択した。発効予定日は、2012 年 7 月 1 日であ る。 ・第 II-1 章(構造、復原性、機関及び電気) :旅 客船の船室に設置する出口表示の補助照明に 関する要件。 ・第 II-2 章(防火) :II-2 章の規則の新造船及び 現存船への適用の明確化、及び焼却炉を有す (2) 2010 年火災試験方法コード(FTP コード) 最新の ISO 規格を利用して試験方法の詳細を 2 海上の安全と海洋環境保護に貢献する海上技術安全研究所 ・現存船の離脱フックの評価方法に関するガイ ドライン案 審議では、今回会議での採択及び承認を支持 する国及び救命設備製造業界団体と、これらの 案では根本的な解決とならず検討が不十分で あるとの懸念を表明する国及び海運業界団体 の意見が拮抗した。従って、採択に必要な加盟 国の 2/3 の賛成をえることは困難となり、採択 及び承認を次回 MSC 89 会議に先送りし、来年 3 月に開催予定の第 55 回船舶設計設備小委員 会(DE 55:3 月 21 日~25 日)で改めて審議す ることとなった。また、同小委員会の直前に中 間作業部会会議(3 月 16 日~18 日)を開催し、 本件を集中的に審議することとなった。 なお、適用日に関しては、新規則への適合の ために、現存船に搭載されている離脱装置の安 全性の検証など、十分な準備期間を設けるべき との我が国の主張を受け入れ、2014 年 7 月 1 日とすることに、MSC は合意した。 コード自身に記述し(現状の FTP コードでは試 験方法の総会決議等を引用しているのみ) 、新技 術に基づく防火システム等に対応した試験基準 を整備した、新しい 2010 FTP コードを採択した。 (3) 火災安全設備コード 火災安全設備コードの第9章の改正:固定式 火災探知装置の技術基準を全面改正し、他の火 災安全システムとの接続方法、CCTV など最新 の技術の利用を取り入れたもの、を採択した。 (4) 1972 年コンテナ安全条約 コンテナの安全承認板の標示事項を変更し、 コンテナの型式承認時における新たな試験方法 (積み重ね試験など)を追加し、損傷が見受け られるコンテナの検査の強化などを内容とする 新附属書 III(コンテナの維持と評価)を新設す る条約の改正を採択した。 (5) SOLAS 条約 II-2 章改正案の承認 防火小委員会(FP)が上程した本件改正案につ いて、新造船及び現存船への適用を明確にする修 正案を付して、MSC 90 会議での採択を目指して、 締約国に回章することに合意した。なお、この修 正案については、FP 55 会議(2011 年 7 月)にお いて確認・検討することとなった。 2.目標指向型新造船構造基準(GBS) MSC 前回会議(MSC 87)は、タンカー及び バルクキャリアの構造を対象とした仕様的アプ ローチによる GBS の実施のための SOLAS 条約 第 II-1 章改正案を採択し、関連ガイドラインを 承認した。 一方、リスク解析に基づいて達成すべき安全 レベルを定量的に設定するセーフティ・レベ ル・アプローチ(SLA)による GBS、及び GBS を IMO の規則作成に利用するための指針に関し ても、検討を進めることに合意している。 今回会議では、ドイツ及び韓国が SLA-GBS の検討の方向を提示し、大方の支持を得た。そ こで、次回 MSC89 で作業部会(WG)を設置し て検討を再開することに、MSC は合意した。 (6) アスベスト含有材料・設備の搭載禁止に関す る情報 2002 年 7 月 1 日から、例外的な場合を除き、 アスベストを含有する材料・設備の船舶への新 規搭載が禁止されている。また、2011 年 1 月 1 日からは、アスベストを含有する材料・設備の 新規搭載が、例外なく全面禁止される。一方で、 従来から「アスベストフリー」と宣言しながら もアスベストを含んでいる材料・装置の船舶へ の搭載が散見されるため、新規搭載禁止の情報 周知の徹底と、意図せずアスベスト含有材料・ 設備を搭載した場合の措置に関する MSC サー キュラに合意した。 3.総合的安全評価(フォーマル・セーフティ・ アセスメント:FSA) MSC が設置した FSA 専門家会議(吉田が議 長)は、欧州のリスクベースの船舶設計と承認 に関するプロジェクト(SAFEDOR)が実施し デンマークが報告書を提出した旅客船、コンテ ナ船等に関する総合的安全評価(FSA)の報告 を、前回 MSC 87 会議までに検証した。その結 果、IMO の FSA に関する指針の改正が必要で あることに合意した。 (7) 救命艇の事故防止 救命艇の訓練や整備・点検時の予期せぬ落下 による人身事故防止のため、以下を審議した。 ・救命艇離脱フックの技術基準に関する国際救 命設備コード(LSA コード)の改正案及び LSA コードの規定に適合しない現存救命艇 の離脱フックの交換を義務付ける SOLAS 条 約第 III 章の改正案 3 海上の安全と海洋環境保護に貢献する海上技術安全研究所 の第 54 回防火小委員会(FP 54)は、この規定 の適用に関し、具体的な傾斜状態等を規定した 統一解釈案を策定した。 MSC は、船舶の設計変更に要する期間を考 慮し、統一解釈を 2012 年 1 月 1 日以降の新造 船から適用するという我が国提案に合意した。 海洋環境保護委員会(MEPC)は、同じく SAFEDOR が実施したタンカーに関する FSA の結果を検討中である。 MSC は今回会議で、FSA 指針の改正の検討 を、次回 MSC 89 会議において設置する GBS 作業部会で検討することに合意した。 7.新規作業計画 4.一般貨物船の安全性 MSC は、傘下の小委員会の新規議題として、 以下を承認した。 (1) 引船、アンカーハンドリング船等の曳航作業 時の復原性及び運航ガイダンスに係る 2008 年の非損傷時復原性基準の改正(2012 年よ り SLF 小委員会にて審議予定) (2) 非常脱出用呼吸具の備え付け場所の明確化 のための SOLAS 条約附属書第 II-2 章の改正 (2012 年より FP 小委員会にて審議予定) (3) 船舶の傾斜計の性能基準の制定(2011 年よ り NAV 小委員会にて審議予定) (4) 車両区域等の通風要件に関する代替措置(環 境自動調節装置)の導入のための SOLAS 条 約附属書第 II-2 章の改正(2012 年より FP 小 委員会にて審議予定) (5) 船舶に使用するプラスチック製パイプに係 る防火試験基準の策定(2012 年より FP 小委 員会にて審議予定) (6) 航路標識 AIS の使用に関する基本方針の策 定(我が国と米国の共同提案)(2011 年よ り NAV 小委員会にて審議予定) (7) 表面効果翼船(WIG)に関する暫定指針の見 直し(2012 年より DE 小委員会にて審議予 定) 国際船級協会連合(IACS)、一般貨物船の安 全性向上策として、検査強化、ばら積み貨物及 び重量貨物の積み付け方法改善などを含む 9 つ の新たな規制案に費用対効果があるとする FSA の結果を報告した。 イランは、MSC 87 で要請された非 IACS 船を 含む海難データの提供に関し、同国が実施した 500~1500GT の一般貨物船(非 IACS 船)の FSA ステップ 2 の検討結果を報告した。 MSC はこれらの報告を検討し、次回 MSC 89 の直前(5 月 9 日及び 10 日) に FSA 専門家グルー プ会議(吉田が議長)を開催し、検証すること に合意した。 5.バラストタンク及び油タンカーの貨物油タン クの防食塗装基準 バラストタンク及び油タンカーの貨物油タン ク等に関する防食塗装基準に関連した塗装の下 地処理で要求される塩分濃度計測の手法は、従 来はブレッスルパッチ及び注射器を用いた計測 方法(ISO 8502-9)に限定されていた。 MSC は、自動塩分濃度計測機器を用いた効率 的な計測手法(NACE SP0508-2010)も、2011 年 1 月 1 日から使用できることに合意した。 6.固定式非常用消火ポンプの揚程及び設置位置 に関する統一解釈 次回会議 FSS コード第 12 章は、船舶に備え付ける非 常用消火ポンプの吸込揚程の性能要件は、船舶 の就航中に起こり得る全ての傾斜及び揺れを 考慮して決定することを定めている。本年 4 月 次回の MSC 89 会議は 2011 年 5 月 11 日~20 日にロンドン IMO 本部で開催される予定である。 本文書に関するお問い合わせは 海上技術安全研究所 国際連携センター 吉田 公一 [email protected] まで 4