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小規模校における児童の表現力の向上を目指した取組 -テレビ会議

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小規模校における児童の表現力の向上を目指した取組 -テレビ会議
小規模校における
児童の表現力の向上を目指した取組
-テレビ会議システムによる授業交流を通して-
長期研修員
辻
本
秀
明
Tsujimoto Hideaki
要
旨
小規模校における児童の表現力の向上を目指して、テレビ会議システムによる授
業交流を行った。その結果、児童の言葉による表現に対する意識や言葉による感情
の表現力に向上が見られた。テレビ会議システムによる授業交流を行うことによっ
て、小規模校児童の言葉による表現力を向上させる可能性があることが分かった。
キーワード:
1
小規模校、表現力、テレビ会議システム、授業交流
はじめに
筆者が勤務した小規模校では、児童の「言葉で受けて返す力(相手の話を受け止めて言葉で
表現する力)」を育成するために、話合い活動を行ってきた。しかし、学級担任からは、「児
童の意見の数や種類が少なく、意見がひとつ出ても後が続かないので、話合いになりにくい。」
ことや「誰が、何を、なぜといった説明が不足する一言二言の表現でも、児童間では意味が通
じてしまうので、質問も出にくい。」ため、「話合い活動によって、相手の話を受け止めて、
言葉で表現する力の育成に苦心している。」ことを聞かされていた。この要因は、小規模校の
児童は、幼児期から固定された少人数集団で過ごすことが多く、言葉が少なくても意思疎通が
でき、言葉によって表現された他人の考えを読み取ったり、自分の考えを言葉で他人に表現し
たりすることが少ないためではないかと考えられる。したがって、小規模校の児童が児童数の
多い学校を訪問し交流を行えば、集団の多人数化が図れ、表現力が向上することが期待できる
が、時間や費用等の制約があるので実現は難しい。
そこで着目したのがテレビ会議システムである。
田上・西原・長谷川(2003)は、小学校6年生と大学生間でのテレビ会議システムを利用し
た交流会において、「交流が有意義なものになった」と述べている。また、北尾(2009)は、
「相手意識、目的意識をもって、自分の考えを伝えようとする子どもが増え、少しずつではあ
るが、子どもたちに伝えあう力がついてきた。」と述べている。他にも、テレビ会議システム
による授業交流の効果を述べた事例報告が見られることから、本研究では、テレビ会議システ
ムを用いた授業交流を行うことによって、小規模校児童の表現力を高めることができるのでは
ないかと考えた。
2
研究目的
- 1 -
テレビ会議システムによる授業交流における児童の表現行動の変容を分析・考察することに
より、小規模校の児童の表現力が向上することを明らかにする。
3
研究方法
テレビ会議システムによる授業交流を実施し、児童の表現行動の変容について、映像や音声
の記録、アンケート調査及び聞き取り調査の結果を質的研究の手法を用いて分析し考察する。
4
(1)
調査内容
調査対象校及び調査対象児童
奈良県南部に位置する公立小学校の第5・6学年(複式学級)の7名で、5年生は男子の
み4名、6年生は男子1名と女子2名。
(2)
交流校及び交流校児童
奈良県北西部に位置する公立小学校の第5学年の28名で、男子12名、女子16名。
(3)
調査方法
調査対象校と交流校にテレビ会議システムを設置し、授業交流を実施した。その際、教室
内に設置したビデオカメラによって、授業の映像と音声を記録した。また、毎回の授業交流
の最後にアンケート調査を実施し、調査対象児童の意識を調査した。
(4)
調査実施期間
平成25年6月14日(金)、6月21日(金)、6月28日(金)及び7月5日(金)の計4回。
(5)
授業交流の方法
インターネット回線は光接続(100Mb
ps)によるものであった。また、テレ
調査校:普通教室
ビ会議システム及びソフトウェアは、
交流校:パソコン教室
50V型
テレビ
インターネット上で無料で提供されて
PC
PC
いるSkype(ver.6)を使用した。
機材等は図1のように配置した。
教
室
前
方
児童席
児童席
調査対象校での授業は、5・6年生
の普通教室において行い、使用した機
スクリーン
材は、ノートパソコン(Windows XP)、
USB接続の320万画素Webカメラ、マイ
発言者
マイクロフォン
Webカメラ
プロジェクタ
ビデオカメラ
クロフォン、50V型テレビ各1台であっ
た。なお、スピーカーはテレビ内蔵の
図1
機材等の配置図
ものであった。
交流校での授業は、パソコン教室において行い、使用した機材は、デスクトップパソコン
(Windows Vista)、17型ディスプレイ、USB接続の320万画素Webカメラ、マイクロフォン、
アンプ内蔵スピーカー、プロジェクタ及びスクリーン各1台(面)であった。
なお、両校ともWebカメラ以外の機材等は既存のものを使用した。
(6)
授業交流の内容
授業交流の実施については、次のような内容を両校の学級担任に伝え、その他の展開等に
ついては両校の学級担任に委ねた。
- 2 -
◇
授業交流では、調査対象児童に作文を読ませ、それをもとにして交流校児童と意見
交流をさせる。
◇
◇
1単位時間を45分とした授業交流を4回行う。
調査対象児童には、学級担任が示した題の作文を第1回の授業交流が始まるまでに
書かせておく。
◇ 1回の授業交流で2名または3名の児童に作文を読ませ、全4回の授業で全員に1
回ずつ読ませる。
◇ 調査対象児童には、1回の授業で1回以上の発言する機会を与える。
◇ 作文発表を聞いた後、両校児童に「聞きとりカード」へ発表したいこと等を記入さ
せ、その後「聞き取りカード」を参考にして意見交流をさせる(参考資料1参照)。
◇ 作文を読んだ児童に、交流で得られた意見や感想を基にして、次回までに、作文の
こう
推敲をさせる。次回の授業交流では、推敲した作文を読ませた後、意見交流をさせる。
◇ 調査対象児童には、毎回の授業交流の最後にアンケート用紙「授業ふりかえりカー
ド」に質問の回答を記入をさせる(参考資料2参照)。
5
調査結果と分析
(1)
ア
調査結果の整理
逐語録の作成
全4回の授業交流をビデオテープにより記録し、これを逐語録としてテキストデータ化し
分析に用いた。
イ
アンケート調査の結果集計
アンケート調査は、第1回(7人)、第2回(7人)、第4回(7人)で実施した。結果
は、「意見を言ったり、質問に答えたりするのは楽しい」、「発表や質問を、もっと数多くし
たい」、「自分の質問や考えが伝わるように、発表する時の言葉や文章の工夫ができた」及
び「自分の意見や考えが伝わったのでうれしい」の4項目について、
「当てはまる(4点)」、
「どちらかといえば当てはまる(3点)」、「どちらかといえば当てはまらない(2点)」、「当
てはまらない(1点)」の4件法で回答させたものの得点を集計した。
(2)
授業の映像と音声の記録の分析
第2回、第3回及び第4回の授業交流において、調査対象児童全員が、交流校児童が行っ
た発言に対して意見や感想を発表した(以下「交流校児童への意見発表」という。)。この
部分について、調査対象児童の、発言内容の変化と語彙数の変化を分析した。以降の記述に
おいて、個々の調査対象児童を特定する場合には、A児、B児、C児、D児、E児、F児、
G児と表記する。ただし、調査対象児童7名のうち1名は、第4回の授業交流において発言
の機会を与えられたが、事前に準備した発言内容が場面の趣旨と異なり発言することができ
なかったため、分析から除外して6名を分析対象とした。
ア
発言内容の変化
児童の発言を、交流校児童の発言数の多さや、発言人数の多さに対する感想を「発言数
の感想」、交流校児童の発言内容をとらえて、具体的に表現した感想を「発言内容の感想」、
交流校児童の声の大きさに対する感想等の前述の2項目に当てはまらない「その他」の3
つにカテゴリ化した。
- 3 -
授業ごとのカテゴリ別人数を図2に示した。第2回か
ら第4回へと授業の回を追って、「発言数の感想」を発
(人)
5
表した児童数が4から1へと減り、「発言内容の感想」
4
を発表した児童数が2から4へと増加している。
3
これを児童別に詳しく見ると、B児、F児及びG児の
発表には、「発言数の感想」から「発言内容の感想」へ
と変化したことが見てとれる。
4
4
3
2
2
2
1
1
1
0
B児は、第2回の授業交流では、交流校の児童名を挙
第2回
発言内容の感想
良かったです。」と、交流校の児童が複数回発言したこ
たかについては触れていない。ところが、第4回では、
第4回
発言数の感想
げて「○○さんがいっぱい質問や感想を言っていたのが
とを感想に取り上げたが、どのような内容の発言であっ
第3回
その他
図2
発言内容の変化
「前はこうだったけど、今回はこうだったっていうのを、詳しく感想にして言えていたのが
いいと思いました。」と、交流校児童が発言した内容に触れて評価するものへと、感想の内
容が変化している。
また、F児の発表は、第2回では、「(交流校の)○○さんと、○○さんと○○さんと○
○さんがいっぱい発表していたのでいいと思いました。」と、交流校児童4名の名前を挙げ
てその発言回数を感想に取り上げたが、交流校の児童の発言内容には触れていない。ところ
が、第4回では、「ご飯の食感とか書いていてすごいと思ったって言っていた人がいたんで
すけれど、そういうところに気付けるのはすごいなと思いました。」と、調査対象児童が発
言した内容に対し交流校の児童が感想として発言した内容を、F児が受け止めて感想として
返したものに変化している。
さらに、G児の発表は、第2回では、「(交流校の)○○さんが、よく(複数回)質問し
ていたので、よく聞いていたんだなと思いました。」と、B児やF児の発言と同様に交流校
児童の発言内容をとらえていない発言である。それが第4回では、「スピーチのこととか、
よく聞けていて、私がすごいなと思ったのは、ご飯のこととかカレーライスの種類とか、と
いうことも全部聞けていたのがすごいと思いました。」という感想になり、F児の発言と同
様に、交流校児童の発言をとらえて具体的な表現を用いて伝え合う感想へと内容が変化して
いる。
イ
語彙の変化
テキストデータの内、児童の発言について、次の要領で整理した。児童の発言趣旨が変
化しないよう留意しながら、児童の発言から調査対象児童の自己紹介をした部分と、
「えー」、
「あのー」などを不要語として取扱い、分析対象から除外するとともに、言い直しのある
文は言い直しの無い文に直した。こうした整理の例を表1に示す。
表1
整理前
整理の例
○○(児童名)です。えー、みんな話した、話したこと以外も、詳しく
聞けていたのがいいと思いました。
整理後
みんな話したこと以外も、詳しく聞けていたのがいいと思いました。
整理後、交流校児童への意見発表で表れた語彙を形態素に分類し、その種類と数を確認
- 4 -
した。その際、付属語である助詞と助動詞を除外し、単独
60
で分節を構成できる自立語の語数を集計し分析に用いた。
55
第2回及び第4回授業交流での語彙の変化を図3に示し
50
42
た。6名の児童が使った語彙は、第2回で42であったもの
40
が、第4回では55と増加した。また、自立語の語数は、第2
35
回の26から、第4回の35に増加した。
(3)
30
26
アンケート調査結果の分析
20
図4に、第1回と第4回での調査対象児童に対するアン
第2回
第4回
語彙
自立語の語数
ケート調査の質問項目の内、「意見を言ったり、質問に答え
たりするのは楽しい」、「意見や質問を、もっと数多くした
図3
語彙の変化
い」、「自分の質問や考えが伝わるように、発表する
時の言葉や文章の工夫ができた」の3項目に対する
回答の平均値を示した。いずれの平均値も上昇が見
(点)
4
られ、調査対象児童は、テレビ会議システムによる
授業交流を行うことで、意見を発表することがより
楽しくなり、意見発表をすることの意欲が高まった
3.6
3.5
3.3
可能性がある。また、第1回よりも第4回の授業交
3.4
3.3
3.2
流で、調査対象児童が自分の考えが伝わるようによ
3.1
3
り一層表現の工夫をしたと考えられる。
第1回
第1回で、作文発表と意見交流を行っていないA
児、B児及びD児の3名へのアンケート調査の質問
項目のうち「自分の意見や考えが伝わったのでうれ
第4回
意見を言ったり、質問に答えたりするのは
楽しい
発表や質問を、もっと数多くしたい
自分の質問や考えが伝わるように、発表す
る時の言葉や文章の工夫ができた
しい」に対する回答の結果は、3名とも、第1回で
は、「どちらかといえば当てはまる(3点)」と答え
図4
アンケート調査結果
たが、作文発表と意見交流を行った第2回では、「当てはまる(4点)」と答えており、自
分の意見や考えが伝わったことに対する喜びが高まっている。この結果から、児童の意見や
考えが伝わったことへの喜びは、作文発表と意見交流をした第2回の方が、しなかった第1
回よりも強いことが分かる。
(4)
聞き取り調査の結果の分析
調査対象児童7名に対する聞き取り調査を、授業交流における調査結果の分析を補足する
目的で行った。調査対象校の普通教室において、準備した質問項目を基にした個人面接を、
平成25年11月27日(水)に実施した。聞き取り調査で得られた内容を以下に示す。
ア
授業交流と普段の授業との相違
「授業交流で交流校児童の感想や意見を聞くのと、普段の授業で調査対象児童の感想や
意見を聞くのでは違いがあるか。」という質問に対して、D児から、
「こっち(調査対象校)
の子たちは自分のことを知っているから、みんな質問をしてこないけれども、あっち(交
流校)の子はどんどん質問してくるから、対応とかをさらに工夫しようとした。」という回
答を得た。交流校児童への対応に、D児が工夫の必要性を感じていたことが分かる。
イ
授業交流から得られた意識
第4回の授業交流で、E児は、「人に伝えることの意味が分かった。」と発言した。これ
- 5 -
を受けて、「人に伝えることの意味が分かったとはどういうことか。授業交流が終わった今
も、分かったことを生かせているか。その考えは、授業交流がなかったら思いつかなかっ
たのか。」という質問をしたところ、E児から、「人に伝えることの意味とは、人に分かり
やすく説明するだけではなくて、聞いた人が想像できるような話や作文にすることだと分
かった。今、毎日の宿題の日記には自分が感じた気持ちなど入れて、読んだ先生が僕の気
持ちに対して感想をもってほしいと思って書いている。この考えは、授業交流があったか
ら生まれた。」という回答を得た。このように、E児は、授業交流の経験を通して、自分の
感情が読み手に伝わることを願いながら日記を書くようになったことが分かった。
ウ
映像の必要性と映像から得られるもの
全4回の授業交流全体の記録からは、調査対象児童が黒板に絵を書いて見せるような、映
像を通して情報を伝えようとする場面は確認できなかったが、調査対象児童がパソコンの画
面をじっと見つめて交流校児童の表情を読み取ろうとしている様子が観察できた。E児に、
画面を見つめていたことの理由を聞くと、「(交流校の)みんなの状態がどうであるか気に
なったので画面を見ていた。こちらの話を聞いてくれていることが分った。」という回答を
得た。
また、「授業交流では、画面に相手が見えていた方が良いか。また、その理由を教えてほ
しい。」という質問に対して、B児は、「分かりやすいのであった方が良い。」、C児は、「画
面があった方が良い。」、D児は、「あった方が良い。画面がないと相手の表情とかが分から
ないのでちょっと不安になる。相手が言葉が分からなかったら困るから、画面をしっかり見
ていた。」、A児は、「画面がないと話がしにくい。画面があったら、実際に会ったような雰
囲気になるから話す時の自信になる。」、G児は、「画面がないと、相手がどんな人か分から
ず、何を話したらいいか分からなくなって緊張するから、あった方が話しやすい。」と回答
した。E児の回答も合わせて質問に答えた6名全員が、授業交流における映像の必要性を感
じていたことが分かる。
授業交流において、映像は、自分の伝えたいことが伝わったかどうかを確認したり、会話
をスムーズにしたりするためにも必要性の高いものと言える。
6
(1)
考察
表現力の向上
『言語活動の充実に関する指導事例集【小学校版】』
(文部科学省、2010)では、
「単に、
『わ
ぁー、すごい』という言葉だけで感情表現するのではなく、『何が』『どのように』『すばら
しい』のかについて、具体的な表現を用いて相互に伝え合うことにより、より細やかな感性
・情緒を実感できるようになる。」とあり、表現力を向上させることがより豊かな感性・情
緒を育むことを指摘している。
交流校児童への意見発表の中で、3つのカテゴリのうち「発言数の感想」から「発言内容
の感想」への変化が見られた。「発言数の感想」は、相手の行動に対する一方的な感想であ
るが、「発言内容の感想」は、相手の発言内容を受け止めて返したもので、「相互に伝え合
う」感情表現に該当し、言葉による表現力の向上であると言える。
まず、「発言内容の感想」を発表した人数の変化を見ると、授業交流の第2回では2名で
あったが、第3回では3名、第4回では4名と増加しており、テレビ会議システムによる授
- 6 -
業交流を行うことによって、言葉による表現力が向上した児童数が増えたと言える。この中
で、交流校児童への意見発表において、「発言数の感想」から「発言内容の感想」へと表現
が変化したことから、B児、F児及びG児の3名に着目した。この3名は、テレビ会議シス
テムによる授業交流を行うことによって、言葉による表現力の向上が見られた児童であると
言える。また、E児が、聞き取り調査で、自分の感情が相手に伝わってほしいと願いながら
日記を書くようになったと述べたことは、表現時に感情を相互に伝え合うことを意識するよ
うになったと言え、E児の表現力の向上が見て取れる。
次に、D児が、聞き取り調査で、交流校児童との対応での工夫の必要性を述べたことや、
アンケート調査の「自分の質問や考えが伝わるように、発表する時の言葉や文章の工夫がで
きた」という項目に対する平均値が上昇したことに着目した。調査対象児童が書いた作文を、
調査対象校内で発表した場合、児童全員が同じ行事を経験しているために、言葉で表現しな
くとも意味が通じる部分がある。ところが、同じ作文を行動を共にしていない交流校児童に
発表すれば、交流校児童はその内容に対する疑問をもち、疑問解決のための質問を返してく
る。D児は、質問に答えるために、調査対象校内では言葉で表現する必要がなかった事柄に
ついて表現する必要に迫られ、言葉による表現を工夫した。さらに、そのことによって、言
葉による表現の工夫の必要性を感じたものと考えられる。また、アンケート調査の「自分の
質問や考えが伝わるように、発表する時の言葉や文章の工夫ができた」という項目に対する
平均値が上昇したのは、調査対象児童が、作文発表での意見交流をしたり、他の児童が意見
交流をする様子を観察したりすることで、言葉で表現することの必要性をより強く感じるよ
うになり、「交流校児童への意見発表」の場面において、言葉で表現することを更に意識し
たためであると考えられる。児童が表現に使用した語彙が増えたことは、表現した内容が複
雑になったためであると考えられ、児童が言葉で表現することを工夫したことが見て取れる。
これらのことから、小規模校の児童は、テレビ会議システムによる授業交流を行うことで、
言葉で表現することの必要性に気付き、言葉で表現しなければならない場を得たことで、言
葉による表現力を向上させると考えられる。
また、調査対象児童が、映像によって交流校児童が話の内容を理解できたかどうかを確認
しているということは、交流校児童の「理解できた」、あるいは、「理解できなかった」と
いう表情や仕草を映像によって読み取っているということである。交流校児童の表情には、
調査対象児童が話した内容を受け止めることでの感情も表れていると考えられ、調査対象児
童は、交流校児童の感情を映像を通して受け止めているものと考えられる。このことから、
テレビ会議システムによる授業交流を行うことは、音声のみの授業交流を行うよりも、調査
対象児童が、映像によって相手の感情を受け止め、受け止めたその感情に対する自らの感情
を言葉で伝えることができるため、言葉による表現力の向上に寄与するものと考えられる。
(2)
表現に対する意欲
下田(2005)は、「授業が楽しくなれば、児童生徒も楽しくなっていく。そうすれば児童
生徒の学習意欲も喚起し、そこから学力の向上へとつながっていくのである。
」と述べている。
調査対象児童に対するアンケート調査で、「意見を言ったり、質問に答えたりするのは楽
しい」及び「意見や質問をもっと多くしたい」に対する回答の平均値が上昇したことは、テ
レビ会議システムによる授業交流によって、言葉で表現をすることの楽しさや意欲が向上し
た結果と捉えることができる。このことから、小規模校の児童が、テレビ会議システムによ
- 7 -
る授業交流を行うことによって、児童が更に楽しく言葉での表現の授業に参加することがで
きるようになり、言葉での表現に対する意欲が一層高められ、言葉による表現力が向上する
ことが期待できる。
A児、B児及びD児の3名が、アンケート調査の「自分の考えが伝わったのでうれしい」
に対する回答の得点を上昇させている。これは、授業交流による意見交流を行ったことによ
って、意見が伝わったことの喜びを上昇させたと考えられ、この喜びが意見交流を行うこと
への意欲を更に向上させる可能性があると考えられる。このことから、小規模校の児童が、
テレビ会議システムによる授業交流を行うことによって、言葉で表現することの意欲が向上
し、それが児童の言葉による表現力を向上させることが期待できる。
7
機材やシステムについての課題
本研究において、テレビ会議システムによる授業交流を通して、テレビ会議システムによる
授業交流は、小規模校の児童の表現力を向上させる可能性があるということが確認できた。た
だ、機材やシステムの改善をすることで、児童の学習効果を更に高めたり、テレビ会議システ
ムの活用範囲を拡大したりできると考えられることから、以下に機材やシステムの改善に関す
る報告と提案をする。ただし、これらの導入や改善にあたっては、高性能な機材やシステムで
あるほど良いとは考えていない。なぜなら、高性能な機材やシステムであれば、毎回の準備や
操作に熟練者の存在が必要となるため、システムの利用頻度が高まらず、児童の能力向上が望
めないことは容易に想像できるからである。したがって、導入された機材やシステムの準備及
び操作方法の習得が容易で、誰にでも手軽に使える機材やシステムが重要であると考える。
(1)
授業中の児童の動きと機材配置等
今回の授業交流では、カメラやマイクロフォンの性能と特性から、発言者はそれぞれの児
童席からカメラやマイクロフォンのある場所に移動する必要があり、発言者の交代ごとに不
要な間が生じた。また、発言者以外の児童が見る画面を教室の正面に設置することができず、
教室の斜め前方もしくは後方に設置したために、児童の視線や体勢の変化をもたらすことに
なった。この解決のためには、教室内の児童の姿を1画面に収め、かつ、児童の表情を観察
するために十分な性能を備えたカメラとプロジェクタを導入し、カメラは教室の正面に設置
し、プロジェクタは教室の正面に向けて設置するとともに、教室全体の児童の音声を捉える
ことができるマイクロフォンを使用することが有効であると考える。これによって、児童は、
通常の授業と同様に正面を向いたまま、交流校児童を見ながら発言することができ、自然で
落ち着いた雰囲気の授業交流を実施することが可能になるであろう。
(2)
映像や音声および通信の品質
第3回と第4回の授業交流において、テレビ会議システムが不意に切断される、あるいは
映像のみが送信されないという不調が数回あり、その都度授業者は回線の再接続をしなけれ
ばならなかった。その原因は、インターネット回線とテレビ会議システムの品質によるもの
であろう。
映像は、1人ずつ映された交流校児童の表情を観察するには十分なものであったが、画質
を向上させることで、細かな図表や文字等の提示や、図工や家庭科等での作品の繊細な色や
細工の鑑賞も可能になる。また、被写体やカメラに動きがあると、「コマ落ち」したような
不自然な動きの映像になったが、スムーズに表示されれば、体育の授業で動きのある演技等
- 8 -
を鑑賞しあうことが可能になる。
映像や音声情報から、信号の伝達や処理のために発生する時間的なずれは感じたものの、
会話を中心とした今回の授業交流では、時間のずれによって意見交流等が不能になることは
なかった。しかし、情報の発信と受信にかかる時間が短くなれば、授業交流で両校児童が合
同で行う合唱、合奏、朗読及びダンス等も実施可能であろう。
(3)
交流相手探索のためのシステム
授業交流の実施を望む教員が、知り合いの教員に授業交流の実施を打診しても、両者が求
める、学年、教科、単元等が合致するとは限らず、交流相手を見つけ出すことは容易である
とは言えない。そこで、「交流相手探索のためのシステム」を構築することを提案したい。
授業交流を求める学年、教科、単元及び時間帯等の情報をWeb上で共有し、教員間でつなが
りを求めるのである。そうすることによって、本研究では交流時間を授業の開始から終了ま
でと限定したが、授業途中の10分間だけの交流といった、多様な時間帯を設定することも可
能になり、多様な授業形態が可能になることが予想できる。また、海外にも交流相手を求め
ることができ、授業交流の更なる広がりが期待できる。
8
おわりに
調査対象校の学級担任からは、授業交流を始めてすぐに、児童たちが、交流校児童に会いた
いという声や、交流校に行ってみたいという声を上げたということを聞いた。両校の児童が直
接会って交流することで、小規模校の児童は、多様な考えをもった他者との接し方を学ぶこと
ができる。この経験は、将来、小規模校の児童が、他者と出会って生活する上での自信となる
であろう。コンピュータとインターネット回線があれば、Webカメラを設置するだけで、テレ
ビ会議システムによる授業交流は容易に行うことができる。実施が容易であるのに、得られる
ものは大きく、テレビ会議システムによる授業交流の実施価値は高いと考える。
また、調査対象校の学級担任から、児童の授業交流実施の希望は強いので、授業交流を再び
実施したいとの意向を聞いた。その際の授業は、域内の調べ学習の成果を伝え合うことを目的
としており、写真や絵の提示が予想される。今後も授業交流が継続されることで、両校の児童
が映像も活用し、様々な表現力を向上させることを願う。
参考・引用文献
(1)
田上哲、西原明、長谷川順一(2003)「テレビ会議システムを用いた小学校6年生の児童と
学生との意見交流」『香川大学教育実践総合研究』第7巻
p.1
http://shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/metadata/317
(2)
北尾浩之(2009)「小規模校における伝え合う力の育成~ICTを活用した交流活動や学習を
通して~」『平成20年度成果報告集』パナソニック教育財団
p.71
http://www.pef.or.jp/activity/download/2008_20.pdf
(3)
仲間正浩、米盛徳市、藤木卓、森田裕介、寺嶋浩介、園屋高志、関山徹(2007)「沖縄小
浜島-長崎対馬-鹿児島奄美大島の3つの複式学級をテレビ会議で結ぶ遠隔共同学習―沖縄
県竹富町小浜小中学校での支援―」『琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要』第14号
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/123456789/5632
(4)
大野敬一郎(2011)「離島における高速回線を利用したICTの有効活用の実践研究~児童・
- 9 -
生徒の学び合う力を高めるための指導方法の研究~」『平成22年度成果報告集』パナソニッ
ク教育財団
http://www.pef.or.jp/db/pdf/2010/2010_29.pdf
(5)
文部科学省(2010)『言語活動の充実に関する指導事例集【小学校版】~思考力,判断力,
表現力等の育成に向けて~』
(6)
p.9
下田好行(2005)「学習することの意味と児童生徒の学習意欲の喚起」『平成16年度文部
科学省委嘱研究報告書
学習内容と日常生活との関連性の研究-学習内容と日常生活、産業
・社会・人間とに関連した題材の開発-』
内)研究代表者 小田豊
日常生活教材作成研究会(国立教育政策研究所
p.16
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/siryo/05070801.htm
- 10 -
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