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第1章 序論

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第1章 序論
第1章
序論
1
1.1.
はじめに
入 浴 の温 熱 作 用 には、血 液 循 環 の促 進 、血 圧 の上 昇 と下 降 、発 汗 の促 進 、神 経
系 においては交 感 神 経 、副 交 感 神 経 の興 奮 などがある(坂 田 1998)。これらは、皮 膚
温 度 受 容 器 から温 度 情 報 が入 力 され体 温 調 節 中 枢 機 構 が作 動 したために起 きるもの
である。また、約 40℃の湯 温 に10分 入 浴 することで鼓 膜 温 が約 0.5℃程 度 上 昇 すること
が知 られている(美 和 ら 1998)。これらの温 熱 作 用 は、水 温 の違 いによって異 なった血
行 動 態 への影 響 として表 れる。特 に、水 温 37~39℃になると細 動 脈 以 下 の血 管 拡 張 、
心 臓 への 後 負 荷 軽 減 、組 織 代 謝 改 善 などの効 果 をもたらすとされ、入 浴 による心 血
管 機 能 が改 善 されるという報 告 もある(工 藤 ら 2008)。この温 度 帯 での血 圧 低 下 や心
拍 数 や心 拍 出 量 変 化 は軽 度 であるが、水 温 が42℃以 上 になると交 感 神 経 緊 張 作 用
が強 く表 れるため心 拍 数 の増 加 や血 圧 の上 昇 も認 められる(樗 木 ら 2002)。また、入
浴 には、静 水 圧 や浮 力 がかかり、温 熱 作 用 との影 響 の組 み合 わせによって、血 行 動
態 の変 化 が起 こり入 浴 中 の事 故 などの原 因 となっている(樗 木 ら 2002)。
そこで、静 水 圧 の影 響 を受 けず温 熱 作 用 を活 用 したサウナによる温 熱 療 法 が臨 床
において注 目 されている。鄭 ら(2010)が提 唱 している温 熱 療 法 は、15分 間 60℃のサウ
ナ温 室 で保 温 し深 部 体 温 を1.0~1.2℃上 昇 させた後 、温 室 から退 室 し通 常 の室 温 で
さらに30分 間 安 静 保 温 し、終 了 時 に発 汗 に見 合 う水 分 補 給 をする治 療 法 で、和 温 療
法 と称 される。この方 法 は多 くの心 不 全 患 者 に施 行 され、末 梢 循 環 障 害 にともなう心
負 荷 の軽 減 が図 れ、心 不 全 症 状 の改 善 報 告 がなされている(Tei & Tanaka 1995、Tei
& Tanaka 1996、Ikeda et al. 2002、Kihara et al. 2004)。また、この方 法 は心 不 全 以
外 にも閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 、難 治 性 の慢 性 疲 労 症 候 群 や抑 うつへの改 善 など数 多 く
の効 果 を生 みだしている(Akasaski 2006、鄭 2006、Masuda et al. 2006)。
看 護 においては、温 罨 法 や冷 罨 法 といった熱 交 換 を通 しての看 護 援 助 は多 く行 わ
れるが(藤 崎 ら 2009)、サウナの効 果 は未 知 の領 域 である。一 般 的 には、体 温 は高 い
ほど細 胞 の活 発 な活 動 を期 待 されるため(山 蔭 2005)、体 温 を上 昇 させるサウナを使
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用 することによってもたらされる心 身 への効 果 には大 きく期 待 が寄 せられる。治 療 の一
環 においてはサウナの長 期 利 用 によって、患 者 の慢 性 疼 痛 、疲 労 感 が改 善 を示 して
おり(増 田 と鄭 2007)、睡 眠 の改 善 についても報 告 されている(増 田 と鄭 2005)。
一 方 、看 護 の視 点 においても疼 痛 、疲 労 感 、および睡 眠 への評 価 が必 要 な課 題 で
あるが、サウナを使 用 し生 理 ・心 理 反 応 を題 材 にした研 究 はほとんど見 られない。疾 病
構 造 の複 雑 化 や対 象 の高 齢 化 などで看 護 に求 められる技 術 は多 くあるが、対 象 とな
るヒトを積 極 的 に温 めるという看 護 援 助 を検 討 することは新 たな視 点 であり今 後 の看 護
の基 礎 技 術 の発 展 に寄 与 するものと考 える。
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1.2.
サウナによる温 熱 療 法
1.2.1. サウナの効 果
サウナは北 欧 フィンランドで発 達 し、健 常 人 にとって心 身 のリラックス、疲 労 回 復 に効
果 があるとされる方 法 の一 つである。日 本 の家 庭 に浴 室 があるように、フィンランドでは
一 家 に一 台 サウナがあると言 われる。サウナは日 本 における入 浴 のように、汗 を洗 い流
し、癒 しと爽 快 感 を得 る方 法 として定 着 した入 浴 法 の一 つである。サウナという言 葉 は
フィンランド独 自 の発 汗 風 呂 を指 すものである(沼 尻 1992)。
その伝 統 的 な入 浴 は木 製 の塗 りのない羽 目 板 でできた部 屋 のベンチに座 るもので、
電 気 で 温 め た 石 が 一 段 高 い 場 所 に あ る 。 推 奨 さ れ る 温 度 、 湿 度 は 、 そ れ ぞ れ 80 ~
100℃、10~20%とされる。これまでのサウナ研 究 では、表 1.1.にあるような生 理 的 影 響
があることが示 されている(Hannuksela & Ellahham 2001)。
海 外 におけるサウナに関 する研 究 は、1980年 代 頃 までは、サウナ浴 により排 泄 され
る汗 の成 分 測 定 (Liappis et al. 1980、Verde et al. 1982)などサウナによる身 体 への影
響 を明 確 にする研 究 がフィンランドで行 われていた。その後 も、伝 統 的 なサウナの衛 生
状 況 (Perasalo 1988)、身 体 各 機 能 への影 響 を把 握 するために循 環 器 系 への影 響 を
測 定 し た 実 験 研 究 (Stanghelle & Hansen 1981) 、 サ ウ ナ の 影 響 を 知 る た め に 妊 婦
(Vaha- Eskeli 1988)、スポーツ時 (Rehunen 1988)、男 女 別 (Jazova et al.1994)など対
象 を変 えた実 験 が行 われていた。引 き続 き、サウナの循 環 器 系 への影 響 (Vuori 1988)
や突 然 死 (Penttila 1985)、アルコールとの関 連 (Ylikahri et al. 1988)など、サウナの効
果 ・安 全 性 、リスク検 証 のための研 究 は継 続 しているが、1980年 代 以 降 からは、サウナ
を使 った介 入 研 究 が増 えている。特 に、サウナを治 療 の一 環 として循 環 器 疾 患 患 者 へ
活 用 した研 究 は、わが国 では鄭 らが中 心 となって行 っており(鄭 と木 原 2004)、海 外 に
おいてもうっ血 性 心 不 全 患 者 の心 室 性 駆 出 率 の改 良 (Blum & Blum 2007)などの報 告
がある。通 常 サウナ浴 は高 齢 者 や心 血 管 疾 患 の患 者 には禁 忌 であると考 えられてい
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るが、高 齢 者 や心 血 管 疾 患 患 者 においても安 全 にサウナ浴 が実 施 できるとういう報 告
(Eisalo & Luurila 1988)もあり、サウナの研 究 は健 常 な対 象 を中 心 に行 われてきた従
来 の考 え方 から、視 点 が高 齢 者 や患 者 に移 行 してきていると考 える。
また、わが国 では約 10年 前 より循 環 器 患 者 を対 象 としたサウナの研 究 が進 められて
おり、サウナ浴 による新 たな知 見 も得 られている。その中 で鄭 (2006)は、サウナによる神
経 体 液 性 因 子 (ANP・BNP:心 不 全 になると増 加 するナトリウムペプチド)が有 意 に減 少
することを報 告 し、サウナ使 用 により血 管 内 皮 が刺 激 され血 管 拡 張 作 用 がある一 酸 化
窒 素 (血 管 内 皮 細 胞 の酵 素 eNOS)の分 泌 が増 加 (木 原 ら 2003)することが認 められて
いる。その他 、美 和 ら(1994)、河 原 ら(2002)は、ミストサウナ、ドライサウナを始 めとした
種 々のサウナ浴 がもたらす生 理 的 反 応 に関 する実 験 を行 い、末 梢 循 環 の改 善 効 果 を
はじめとした循 環 動 態 の変 化 などを研 究 している。
表 1.1 サウナによる急 性 生 理 変 化 (Hannuksela & Ellahham 2001)
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1.2.2. サウナの種 類
サウナ浴 の方 法 は、各 国 や各 地 方 によっても少 しずつ異 なる。よく知 られているサウ
ナ浴 室 内 でのサウナは先 に述 べたフィンランドサウナである。全 身 を浴 室 内 に入 れ、坐
位 や臥 位 で行 う乾 式 のサウナである。フィンランドではその中 でリョウリュ(löyly(「ロウリ
ュ 」 と も 読 む )) と い う 方 法 に よ っ て 熱 気 浴 を 行 う の が 特 徴 的 で あ る 。 リ ョ ウ リ ュ は 、 本 来
「命 」や「霊 魂 」といった意 味 合 いを持 っている。熱 した石 に水 をかけることで蒸 気 を発
生 させ、サウナベンチで10~15分 間 その蒸 気 による熱 気 を浴 びる。リョウリュの目 的 の
一 つは温 度 調 節 であるが、その他 の目 的 として、蒸 気 による「熱 の波 」を肌 で感 じその
感 覚 を楽 しむことや、入 浴 者 がサウナ内 で呼 吸 を楽 にできサウナ内 で快 適 に過 ごせる
ことなどがある(沼 尻 1992)。フィンランドは寒 い気 候 で温 泉 が湧 出 していない乾 燥 した
地 域 であるので、熱 した石 に水 を掛 けて蒸 気 を出 すことで湿 度 を保 ち快 適 感 を得 てい
るのではないかと考 える。良 いリョウリュには、室 温 80-90℃の時 に空 気 1kgに含 まれる
水 蒸 気 量 が40-60g必 要 であり、この適 度 な湿 度 が身 体 の抵 抗 力 にも影 響 しているマ
イナスイオンの発 生 を促 すと言 われる(沼 尻 1992)。我 が国 では、蒸 し風 呂 や石 風 呂
がサウナの一 種 であり、京 都 府 八 瀬 の釜 風 呂 や愛 媛 県 今 治 の石 風 呂 などが有 名 で、
西 日 本 には、石 造 りの蒸 し風 呂 である石 風 呂 が各 地 に見 られている。
サウナの種 類 や形 態 はさまざまである。期 待 する効 果 や対 象 者 によってサウナのタ
イプや形 態 は選 択 される。サウナタイプは大 別 すると、大 きく2つに分 けられる(図 1.1.)。
一 方 は乾 式 のもの(狭 義 のサウナ)で、もう一 方 はスチームバス、ミストサウナなど湿 式 の
ものである。一 般 的 にサウナと呼 ばれるものは乾 式 タイプのものである。またサウナへの
入 り方 や姿 勢 によっても種 類 は異 なる。通 常 は温 度 70-120℃、湿 度 5-15%のサウナ室
に入 り、坐 位 で全 身 を 曝 露 することが多 い。設 備 や装 備 としては、サウナ浴 室 、小 型
(箱 形 )浴 室 、ドームタイプ、寝 袋 タイプ、バケツタイプなどがある(図 1.1.)。例 えば、「乾
式 -部 分 曝 露 (首 下 )-臥 位 -ドームタイプ」では、全 身 を曝 露 せず、顔 だけサウナか
ら出 しているため、顔 に温 風 がかからず、常 温 で呼 吸 をすることができる。また、「乾 式
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-部 分 曝 露 (足 部 )-坐 位 -バケツタイプ」では、下 肢 のみ部 分 的 に温 熱 曝 露 され、上
半 身 の動 きを制 限 することがない。それぞれの組 み合 わせによって、サウナがもたらす
温 熱 効 果 は変 化 すると考 えられる。
図 1.1. サウナの種 類
太 線 は、今 回 使 用 するサウナの種 類 を示 す。
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1.2.3. 臨 床 におけるサウナを使 用 した温 熱 療 法
鄭 ら(1989)は、全 身 を均 等 に 60 ℃ の乾 式 遠 赤 外 線 サウナ浴 で心 身 を和 ませる
ぬくもり療 法 を行 い「和 温 療 法 」と命 名 した。この命 名 によって癌 に対 する高 温 での局
所 療 法 (腫 瘍 部 分 の細 胞 を42℃にすることによって酸 性 に傾 いたがん細 胞 を修 復 不
可 能 に死 滅 させる温 熱 療 法 )との区 別 ができるようになった。「和 温 :Waon」は造 語 であ
り、「和 温 」の二 文 字 は訓 読 みで「なごむ・ぬくもり」のことで、「心 地 よく心 身 をリフレッシ
ュさせるぬくもり」の意 味 を含 んでいる。この方 法 は、重 症 の心 不 全 患 者 にも施 行 可 能
な応 用 範 囲 の広 い治 療 法 であり、血 管 内 皮 機 能 を改 善 させ、神 経 体 液 性 因 子 、交 感
神 経 系 の異 常 亢 進 など、心 臓 を取 り巻 くさまざまな悪 循 環 を是 正 し、心 不 全 を改 善 さ
せる。軽 症 から重 症 心 不 全 患 者 まで幅 広 くかつ安 全 に施 行 でき、かつ医 療 費 効 率 の
良 い包 括 的 な心 不 全 治 療 の治 療 手 段 であるとされる(窪 園 ら 2007)。
和 温 療 法 は、サウナによって血 管 機 能 が促 進 され末 梢 血 管 の抵 抗 性 が少 なくなる
ことで心 臓 への負 担 が少 なくなる「減 負 荷 療 法 」であり、患 者 にやさしい治 療 である。こ
れらのサウナを使 用 した治 療 は、慢 性 疼 痛 や情 動 、睡 眠 にも効 果 があると言 われてい
る。サウナの疼 痛 や疲 労 に対 する効 果 については、慢 性 疼 痛 患 者 に対 して温 熱 療 法
を実 施 し、コントロール群 と比 較 すると、①痛 み行 動 が有 意 に減 少 した、②情 動 面 では、
怒 りスコアが有 意 に改 善 した、③治 療 への満 足 度 が高 かった、④退 院 して18ヵ月 後 、
仕 事 に復 帰 した割 合 が30%以 上 高 かった(増 田 ・鄭 2006)、という報 告 もあり慢 性 疼 痛
の治 療 として温 熱 療 法 を併 用 することの有 効 性 が示 されている。また、痛 みとともに睡
眠 のスコアも改 善 されている。予 後 においても、退 院 して2年 後 の経 過 比 較 によっても、
温 熱 療 法 を実 施 した群 は予 後 が良 好 であったという報 告 (増 田 ・鄭 2007)もある。
以 上 のことからもわかるように、サウナを使 用 した温 熱 療 法 の効 果 は、臨 床 において
多 岐 に確 認 されている。これらの先 行 研 究 の結 果 は、サウナによる温 熱 効 果 を看 護 の
領 域 への応 用 の可 能 性 を示 唆 していると考 える。
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1.3.
看 護 場 面 における温 熱 効 果 の活 用
1.3.1. 温 罨 法 の活 用
看 護 場 面 では、湯 たんぽや温 湿 布 などの局 所 的 な温 罨 法 (あんぽう)という援 助 をよく
実 施 する。温 罨 法 を使 用 する際 の看 護 の代 表 的 な知 見 としては、「加 温 した局 所 のみ
ではなく、より末 梢 の皮 膚 温 や皮 膚 血 流 量 にも影 響 」すること、「加 温 した部 位 はさまざ
まであっても腸 蠕 動 が亢 進 」すること、そして腰 背 部 への温 罨 法 は「自 律 神 経 のバラン
スを整 える」ことが示 されている(江 上 2008)。中 でも最 も温 罨 法 における温 熱 の活 用
に関 する先 行 研 究 の代 表 的 なものは、便 秘 に対 するものである。前 述 の知 見 にもある
ように、温 罨 法 は腸 蠕 動 促 進 を促 し便 秘 への効 果 が認 められている。床 上 安 静 などの
理 由 で腸 蠕 動 運 動 が緩 慢 な患 者 などにはよく活 用 される方 法 であり、温 罨 法 による腸
蠕 動 運 動 の促 進 効 果 については多 数 の先 行 研 究 がある(細 野 ら 2007a、江 上 2008、
菱 沼 2008)。
次 に多 く活 用 される温 罨 法 は、痛 みに対 するものである。痛 みに関 しては、採 血 時
の疼 痛 を軽 減 させる効 果 (丸 山 2007)、月 経 痛 への効 果 (細 野 ら 2007b)などがある。
リラクゼーションにおいても、温 罨 法 は足 浴 と同 様 にリラクゼーション効 果 を得 られる(岩
崎 と野 村 2005)ことが示 唆 されている。温 罨 法 から得 られる生 理 効 果 は自 律 神 経 作
用 と深 くかかわりがあると言 われる(井 垣 ら 2009)。
これらの先 行 研 究 から、心 地 よい温 熱 の適 用 では副 交 感 神 経 が優 位 な状 態 になり、
末 梢 血 管 拡 張 、心 拍 の緩 和 変 動 、瞳 孔 の収 縮 、消 化 管 運 動 の活 発 化 などが期 待 さ
れると考 える。
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1.3.2. 足 浴 と睡 眠
温 熱 効 果 を活 用 する最 も代 表 的 なものとして、湯 温 を使 用 した入 浴 や部 分 浴 の援
助 があげられる。部 分 浴 としては、半 身 浴 や、足 浴 、手 浴 、などの方 法 が広 く活 用 され
ている。入 浴 には温 熱 効 果 に加 え静 水 圧 効 果 ・浮 力 効 果 があり、血 行 促 進 や腰 痛 や
関 節 痛 に効 果 があるとされる。日 本 人 においては、季 節 を問 わず毎 日 入 浴 していると
いう高 齢 者 が多 く、その入 浴 好 きが知 られている(栃 原 2003)。入 院 の場 面 においても、
入 浴 が許 可 されると患 者 は入 浴 ができるほど良 くなったという思 いで、ゆったりと入 浴 し
てリラックスし思 いに耽 り「自 分 を取 り戻 したような感 じ」になるという。しかし、入 浴 には
その反 面 、その入 浴 スタイルに起 因 して入 浴 中 突 然 死 が増 加 しているのも事 実 である
(栃 原 2003)。現 在 では半 身 浴 のすすめが多 くなされてきてはいるものの、日 本 には肩
まで湯 船 につかるという習 慣 が多 く残 っている。入 浴 における浸 水 は、心 血 管 系 や自
律 神 経 系 への影 響 が大 きく、浸 水 中 における期 外 収 縮 の出 現 や悪 化 は高 齢 者 群 で
特 に危 険 性 が高 い(伊 藤 ら 2007)と言 われている。また浸 水 以 外 にも、日 本 の家 屋 の
構 造 上 、冬 季 の脱 衣 所 と浴 室 の低 温 と高 温 浴 による温 度 差 が身 体 に大 きな影 響 を与
え冬 季 の入 浴 死 と関 連 が深 いと言 われている(大 中 ら 2006)。
そのため看 護 師 は適 切 な方 法 で安 楽 安 全 に湯 温 浴 を活 用 するための入 浴 方 法 や
スタイルを提 案 する必 要 がある。全 身 を温 湯 に浸 す入 浴 が不 可 能 な場 合 に、よく看 護
場 面 で行 われる行 為 に足 浴 がある。足 部 のみを温 湯 に浸 す部 分 浴 であるが、自 律 神
経 への働 きかけ(豊 田 2007)や、入 眠 促 進 効 果 (Sung & Tochihara 2000)があるという
報 告 は多 い。吉 永 と田 中 (2007)は、わが国 において足 浴 技 術 は睡 眠 を促 す技 術 へと
進 展 したと述 べている。またその要 因 を、①看 護 師 が患 者 の身 体 面 の世 話 全 般 を担
当 したことにより、足 の熱 布 清 拭 に睡 眠 効 果 があることを発 見 し、②熱 布 清 拭 や入 浴
の睡 眠 効 果 から類 推 して、湯 を用 いた足 浴 の睡 眠 効 果 を発 見 し、③体 の深 部 の体 温
を意 図 的 に上 昇 させる足 浴 方 法 を実 験 により特 定 し、④睡 眠 と深 部 体 温 低 下 相 との
関 係 について基 礎 医 学 分 野 で実 証 されたことであると述 べている。手 軽 に実 施 でき、
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保 清 ができる上 に、温 熱 効 果 が得 られて、入 眠 促 進 効 果 やリラクゼーション促 進 が得
られるという点 から、看 護 援 助 の中 でも足 浴 は最 もよく温 熱 効 果 を活 用 した援 助 方 法
の一 つであると言 える。
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1.4.
本 研 究 の目 的
以 上 のように、温 熱 療 法 には多 くの効 果 が認 められつつある。また、看 護 においても
足 浴 を使 った睡 眠 への援 助 は多 く行 われているが、看 護 へのサウナの応 用 を考 えた
先 行 研 究 は国 内 ではほとんど見 当 たらない。
そこで本 研 究 では、サウナを使 用 した際 の対 象 の生 理 ・心 理 反 応 を明 らかにし、サウ
ナによる温 熱 効 果 が看 護 場 面 においてどのようなケアに寄 与 するのか、看 護 への応 用
を考 えることとした。
1.2.2.で述 べたようにサウナタイプや形 態 にはいろいろなものがあるが、今 回 は自 宅
に持 ち帰 り使 用 できる、病 院 内 で持 ち運 びができ実 施 できるなどの条 件 を考 え、首 か
ら下 が高 温 には曝 露 でき、臥 床 したまま適 用 できるサウナ(以 下 、頸 部 下 ドーム型 サウ
ナ)を使 用 することとした。
まず、頸 部 下 ドーム型 サウナを使 用 した時 の健 常 若 年 者 の生 理 ・心 理 反 応 はどのよ
うであるか、基 礎 的 なデータを把 握 することを目 的 とした実 験 を行 った。
次 に、同 様 に頸 部 下 ドーム型 サウナを使 用 した際 の高 齢 者 の生 理 ・心 理 反 応 はど
のようであるか、基 礎 的 データを把 握 することを目 的 とした実 験 を行 った。その後 、対
象 を臨 床 の患 者 等 に拡 大 する際 の注 意 点 など、その応 用 について考 察 した。
頸 部 下 ドーム型 サウナによってサウナによる健 常 者 の反 応 とサウナの限 界 を明 らかに
した上 で、最 後 に、臨 床 においてサウナ浴 の看 護 としての活 用 を評 価 するために、入
院 患 者 を対 象 にサウナがもたらす睡 眠 への影 響 について検 討 した。なお、この場 合 は、
対 象 への侵 襲 が少 ない方 法 であること、また簡 便 であり患 者 が持 ち帰 ることが可 能 で
あること、足 浴 (足 部 のみの温 熱 療 法 )で睡 眠 導 入 の効 果 が認 められていることなども
理 由 に、フットサウナを選 択 して実 施 した。
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1.5.
本 論 文 の構 成
第 1章 「序 論 」では 、サウナの効 果 や温 熱 療 法 として活 用 され始 めた根 拠 、サウナ
の種 類 やサウナ活 用 の背 景 、サウナに関 する先 行 研 究 などについて述 べた。次 に、看
護 場 面 での温 熱 効 果 の活 用 について、対 象 の持 つ温 度 (体 温 )と周 辺 環 境 の温 度 (室
温 、湯 温 など)の関 係 性 を考 慮 して実 施 されていることについて述 べた。看 護 の多 くの
場 面 では罨 法 や温 浴 の技 術 が活 用 される。また、ここでは、治 療 の一 環 として適 応 さ
れる罨 法 や日 常 生 活 援 助 として行 わる入 浴 、足 浴 、手 浴 などの温 浴 の適 応 と効 果 に
ついても述 べた。最 後 に、サウナを適 用 した本 研 究 の目 的 や背 景 を示 した。
第 2章 「頸 部 下 ドーム型 サウナ使 用 時 の若 年 者 の生 理 ・心 理 反 応 」では、サウナの
適 用 方 法 や可 能 性 を検 討 することを目 的 に、若 年 者 を対 象 にした頸 部 下 ドーム型 サ
ウナ浴 使 用 時 の生 理 心 理 反 応 について、被 験 者 実 験 を行 い検 討 した。また、得 られ
たデータより高 齢 者 や入 院 患 者 を対 象 としたサウナ実 施 のための条 件 や方 法 を検 討
した。
第 3章 「頸 部 下 ドーム型 サウナ使 用 時 の高 齢 者 の生 理 ・心 理 反 応 」では、第 2章 の結
果 を基 にして、より安 全 な方 法 で高 齢 者 や入 院 患 者 へのサウナ適 応 を検 討 するため
に、健 康 な高 齢 者 を対 象 にサウナを使 用 した際 の生 理 心 理 反 応 について被 験 者 実
験 を行 い検 討 した。
第 4章 「フットサウナ使 用 時 の入 院 患 者 の生 理 ・心 理 反 応 ~睡 眠 導 入 へ焦 点 を当
てて~ 」では、入 院 患 者 を対 象 にフットサウナを実 施 した際 の生 理 心 理 反 応 について
臨 床 において測 定 を行 い、中 でもサウナの看 護 への応 用 という視 点 で睡 眠 導 入 に焦
点 を当 てて検 討 した。
第 5章 「総 括 」では、本 研 究 の総 括 として、サウナを看 護 に適 用 するための各 実 験 結
果 および考 察 をまとめ、本 研 究 の課 題 と今 後 の展 望 について述 べた。
なお、第 2章 は、「人 間 と生 活 環 境 第 17巻 1号 (2010)」に掲 載 された『頸 部 下 ドーム
型 サウナ使 用 時 の生 理 ・心 理 反 応 』(宮 園 真 美 、前 野 有 佳 里 、橋 口 暢 子 、川 本 利 恵
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子 、中 尾 久 子 、中 尾 富 士 子 、木 下 由 美 子 、金 岡 麻 希 、樗 木 晶 子 、栃 原 裕 ) に基 づき
再 構 成 したものである。
第 3章 は、「日 本 循 環 器 看 護 学 会 第 5巻 1号 (2009)」に掲 載 された『頸 部 下 ドーム
型 サウナ使 用 時 の高 齢 者 の生 理 ・心 理 反 応 』(宮 園 真 美 、前 野 有 佳 里 、樗 木 晶 子 、
橋 口 暢 子 、金 岡 麻 希 、木 下 由 美 子 、中 尾 富 士 子 、中 尾 久 子 、川 本 利 恵 子 、栃 原 裕 )
に基 づき再 構 成 したものである。
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