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アスベスト問題を再考する

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アスベスト問題を再考する
不動産経済
FAX-LINE No.855 2012.2.15
CURRENT
アスベスト問題を再考する
株式会社アーキネット
代表
織山和久
被害者予測は 30~40 万人
件 、それに対 して計 画 届 (耐 火 建 築 物 におけ
アスベスト問 題 は、“静 かな時 限 爆 弾 ”と言
る吹 付 材 の除 去 )5316 件 、作 業 届 (保 温 材 、
われるように極 めて深 刻 だ。中 皮 腫 は、ごく少
耐火被覆材の除去等)4227 件に過ぎない。そ
量 であってもアスベスト繊 維 を吸 入 することで
して届 出 に対 しての監 督 指 導 、個 別 指 導 、実
数十年後に発症するが、このままでは 2040 年
地調査の件数は 3232 件(平成 22 年度)だ。
までに 10 万人が死亡することも予測されてい
けれども、解 体 される建 物 でアスベストを含 ま
る。肺 がん死 亡 者 はその2~3倍 だから、合 計
ないのは珍 しく、これまで耐 火 造 で は消 防 法
30~40 万人が犠牲という、史上最悪の公害に
で耐 火 被 覆 に石 綿 吹 付 けが義 務 付 けられて
なりかねない。放 射 能 被 害 も心 配 だが、このア
いた。
スベスト被 害 は尋 常 ではない。この危 険 なアス
ビルには、耐火・吸 音 のために、最も危険 な
ベストの8~9割は建材に利用され、515 万トン
青 石 綿 が機 械 室 、電 気 室 、ボイラー室 、給 湯
がストック されている。 これらは解 体 時 に万 全
室 に使 用 されている。エレベーターシャフト内
の除 去 作 業 をしなければ、周 辺 にも大 量 に飛
や設 備 配 管 にも吹 付 け石 綿 は多 用 され、エレ
散 させることになってしまう。被 災 地 でもサンル
ベ ー タ ーに 乗 る た び に 相 当 量 の ア ス ベ ス トを
ー ト 仙 台 の 解 体 現 場 で 130 ~ 360 本 / L
吸い込まされもしているのだ。
(WHO の基準では1~10 本/L)ものアスベス
住 宅 の場 合 、屋 根 材 では、スレート波 板 、
トが検 出 された。将 来 世 代 への被 害 は深 刻 だ。
化 粧 スレート、瓦 材 。壁 にはスレートボード、セ
不 動 産 業 界 も、多 くの案 件 で解 体 にかかわる
メント板、ケイ酸カルシウム板。吸音・断熱材に
だけにその社 会 的 な責 任 も 問 われることにな
アスベスト入 りロックウールや同 板 、とアスベス
る。
ト含 有 建 材 は使 用 されている。にもかかわらず
残念 ながら、現行の法 制度 は罰 則 規定もな
30 万 件 の解 体 に1万 件 の届 出 というこのカバ
く穴だらけだ。解体件数は1年当たり約 30 万
ー率では、ザルの方がましなくらいだ。
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不動産経済
FAX-LINE No.855 2012.2.15
また届 出 を 提 出 し てあ っ ても 、 現 場 で は 手
権 の消 滅 時 効 を待 とう、といったことなのであ
抜 きやごまかしが横 行 している。労 基 署 から立
ろうか。狂 牛 病 の死 亡 者 予 測 が日 本 全 体 で
入 検 査 を受 ける1~3階 だけは規 定 通 りに覆 う
0.1~0.9 人であった平成 13~14 年、国は対
が、その上 階 はガムテープ止 め、本 当 は凝 固
策予算に年 2000 億円を充てた。今回の放射
剤 が必 要 なのに水 の湿 潤 で済 ます(乾 燥 した
能汚染には計 2800 億円の補正予算が組まれ
ら飛 散 )、防 塵 器 のフィルターの先 からは漏 れ
た。 これらに比 べると 、 被 災 地 の アスベスト 対
っぱなし、といった具 合 だ。良 心 的 なアスベス
策は大気濃度モニタリング調査に1億 4300 万
ト処 理 業 者 がいても、解 体 業 者 の下 請 けにな
円、といかにも手薄だ。B 型肝炎では、注射器
ると、代 金 は極 端 に 叩 かれ、支 払 われないケ
の使い回 しのリスクを黙認した挙 句 、最大で感
ースもあり事 業 継 続 も大 変 だ。検 査 機 関 も玉
染者 47 万人・損害賠償額 3.2 兆円という重荷
石混交で、厳しい US 基準のレーザー顕微鏡
を将来世代に負わせた。アスベストの場合、死
で見 ないと分 からないのに、ほとんどの場 合
亡者 30~40 万人、一人当たり 5000 万円を損
JIS 規格の器械を使用、アスベスト除去の資格
害賠償額とすると総額 15~20 兆円にもなりか
も、作 業 主 任 者 で講 習 2日 、作 業 員 は半 日 で
ねない。心 ある官僚 や政治 家にもアスベスト対
誰でも認定されるのが実態なのだ。
策の本格的な検討を期待したい。
一 方 、判 決 では、ずさんなアスベスト管 理 に
早急な対策が望まれる
対 して監 督 責 任 者 も巨 額 の賠 償 責 任 を負 う。
こんなありさまだが、関 係 官 庁も法 改 正には
文 具 店 の賃 貸 倉 庫 の吹 き付 けアスベストが原
腰 が 重 い。 専 門 業 者 の 話 で は、 国 土 交 通 省
因 で店 長 が中 皮 腫 で死 亡 した事 件 では、建
は、 石 綿 吹 付 けを 消 防 法 で義 務 付 けた経 緯
物所有会社に無過失責任でも約 6000 万円の
から、自 分 から規 制 を言 い出 すと責 任 を問 わ
支 払 いが命 じられた。文 京 区 のさしがや保 育
れかねないので後 ろ向 き。経 済 産 業 省 は、傘
園 での解 体 を巡 る訴 訟 では、区 ・施 工 会 社 側
下 の石 綿 協 会 を 通 じてその普 及 促 進 に 努 め
が児童一人当たり 30 万円の見舞金と将来発
た経 緯 もあ り、業 界 ごと 製 造 物 責 任 を問 われ
症 の際 の治 療 費 全 額 支 払 い等 が和 解 条 件 と
そうなので思 考 停 止 。厚 生 労 働 省 は薬 害 エイ
なっ た。 不 動 産 会 社 に と っ ても 、 アスベ スト が
ズや B 型肝炎と同様に、健康被害の情報隠し
飛 散 するような解 体 現 場 やビルがあれば、無
が露わにされるのは困る。政治家 も得にはなら
過 失 責 任 でも未 発 症 でも巨 額 の賠 償 責 任 を
ないから見 て見 ぬふり。揃 って損 害 賠 償 請 求
負 うことが判 例 になっていることが注 目 される。
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不動産経済
FAX-LINE No.855 2012.2.15
そもそも社 会 的 責 任 も問 われるであろうし、や
会 社 がその保 険 に加 入 していると、解 体 時 な
はりこのアスベスト問 題 には正 面 から対 処 せざ
どに保 険 会 社 で優 良 な検 査 ・処 理 業 者 を手
るを得ないと思われる。
配 し、損 害 賠 償 を求 められた際 には保 険 金 で
カバーされる、という構 成 だ。無 闇 に保 険 料 が
現実的な解決策「アスベスト保険」
高 い場 合 は、不 動 産 各 社 は保 険 に加 入 せず
それでは、 不 動 産 会 社 と して解 体 を 行 うに
に自前で対処するので、保険料もバランスのと
は場 合 はどうすればよいのか。まずは解 体 時
れた水 準 になるし、保 険 会 社 でも賠 償 責 任 が
には、優良 なアスベスト検査・処理 業者を見つ
発生しないように業者を選び監視 するインセン
け、解 体 工 事 とは別 に直 接 、検 査 ・処 理 を発
ティブが働くであろう。政府が立案すると、おそ
注 することであろう。一 般 住 宅 の規 模 なら、ア
らくは資 格 制 度 や監 視 業 務 などにいくつも外
スベスト関 連 の 追 加 費 用 は一 棟 数 十 万 円 程
郭 団 体 ができて、非 常 に割 高 で時 間 もかかる
度 、あらかじめ予 算 に組 み込 んでおけない額
制 度 になりそうだが、業 界 で自 主 的 に保 険 制
ではない。不 動 産 の売 買 契 約 の前 に、あらか
度 を確 立 できればそのような事 態 も避 けられる
じめ調査して代金を調整する方法もある。後で
だろう。立 法 措 置 として求 めるのは、罰 則 規 定
何 億 、何 十 億 円 もの賠 償 責 任 を問 われるより
の明 示 ・強 化 とこうした保 険 制 度 の加 入 義 務
もまず“ 予 防 ”だ。 ビルオーナーの 場 合 も、 速
に絞られる。
やかにアスベストの検 査 ・処 理 をすべきことに
子 供 たちの世 代 を、中 皮 腫 や肺 がんで苦 し
変 わりはない。あるメーカー系 カーディーラー
めたくはない。とりわけいまは、被 災 地 の解 体
の内 規 では、建 物 から飛 散 したアスベスト4本
作 業 などでアスベストを 飛 散 させないようにし
/L 以 上 では店 舗 ・修 理 工 場 を閉 鎖 ・解 体 し
てほしいものだ。中皮腫・肺がんを患うのは、ア
ているそうだ。テナントビル・倉庫の場合でも同
スベストを吸引すると肺組織に含鉄たんぱく小
様 な対 処 が望 まれる。ただ、エレベーターシャ
体が形 成され、そこに放 射性 の重 金 属が高 濃
フトの除 染 などは困 難 な作 業 だけに期 間 も金
度で吸着 して内部 被 爆 するためとされている。
額 も 嵩 む の で、 利 益 の 出 た 期 に 引 当 金 処 理
それだけに被 災 地 でアスベスト飛 散 と放 射 能
するなどが必要かもしれない。
汚染を複 合 させてはならない。そのためにも不
無 過 失 責 任 も問 われるのだから、損 害 保 険
動 産 業 界 がアスベスト対 策 を率 先 することを、
会 社 なり不 動 産 業 界 の共 済 組 合 なりでアスベ
祈る次第だ。
スト 保 険 を 用 意 す る こ と が 理 想 的 だ 。 不 動 産
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