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バックボード用光ファイバ配線板

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バックボード用光ファイバ配線板
U.D.C.
[621.315.616.96:539.557]:621.3.049-73:681.7.068.2
バックボード用光ファイバ配線板
Discrete and Flexible Optical-Fiber-Wiring Board for Backplane
有家茂晴*
河添 宏*
Shigeharu Arike
**
高橋 淳
Hiroshi Kawazoe
Atsusi Takahashi
情報通信分野における近年のデータ通信需要の増加により,通信用システムでは電
気信号に代わり,大容量のデータ転送が可能な光信号が用いられ始めた。その中でも,
光部品間またはドーターボード間を接続するバックボードとして,複数の光ファイバ
を平面状に配線したフレキシブル型光ファイバ配線板が北米で使用され始めている。
これに対し,当社では,マルチワイヤ配線板(MWB)製造技術で培ってきたワイ
ヤ配線技術を元に,光ファイバ配線板の配線設計および製法を検討してきた。この配
線は光ファイバを布線機で1本ずつシート状接着剤表面に配線するので,交差配線が
可能である。さらに減衰の小さい光通信用途の石英ファイバを用いているため,伝送
損失は光コネクタ込みで平均0.23dB,最大0.58dBと小さい。また,等長配線化パター
ンによって配線長差を±1mm/600mmに制御でき,市販の多心コネクタ付きファイバ
ーコードと同等レベルの特性を持つことを確認した。
In recent years, to cope with the increasing demand for high speed and large volume
data transfer in the communications system, the optical signal capable of transferring a
much greater volume of data has begun to prevail in place of the electrical signal. In
particular, discrete and flexible optical-fiber-wiring boards are now being introduced in
North America to the backplane which connects between optical devices or daughter
boards.
To meet such demand, Hitachi Chemical has been studying the design and production
of such optical-fiber-wiring boards on the basis of our production technology of the
MultiWire Board (MWB). This discrete wiring board enables cross-wiring since optical
fibers are laid separately on the surface of an adhesive sheet with a special wiring
machine. Using quartz fibers of lower attenuation, the transmission loss including the
optical connector, is as small as 0.23 dB on the average and 0.58 dB at the maximum.
The difference in the wiring length can be controlled within ±1 mm / 600 mm by using
equal-length wiring patterns, which is the same level as that of the commercial multifiber codes with connectors.
102
近年のデータ通信需要の飛躍的な増加に対し,電気信号に
よるこれまでの通信用システムではデータ処理速度に限界が
見え始めている。これらのシステムでは多量のデータが集中
するため,信号の高周波数化によるデータ転送速度の向上が
図られている。ところが,比較的長い距離に多量の信号を伝
送しなければならないドーターボードやバックボードでは,
高周波信号の減衰が大きく,通信用データ処理装置の能力を
制限する状況となっている(図1)
。このため,これらのシ
ステムの能力を向上することを目的に,隘(あい)路となる
配線板の電気信号の一部を,大容量データの転送に有利な光
データ伝送量(Gbit/s・回線)
〔1〕 緒 言
信号の波長≒信号伝送が可能な距離
光信号領域
10
光ファイバ
配線板
チップ
1
光ファイバケーブル
CSP, BGA
ドーター
ボード バック
MCM
ボード
10−1
10−2
電気信号領域
10−3 −3
10
信号に変更したシステムが開発されてきた。
10−2
10−1
1
ユ
ニ
ッ
ト
間
10
102
伝送距離(m)
一方,光信号を伝達する媒体としては光導波路と光ファイ
図1 データ伝送量と伝送距離の関係
膨大なデータを扱う通信システ
バがあるが,光導波路は10cm以上の距離を伝達する場合には
ムやサーバ,ルータなどでは能力アップが必要となり,比較的距離のある部分
減衰が大きく,また交差配線ができず,配線の自由度が少な
に高速データ転送可能な光信号を適用するため,光ファイバ配線板が使用され
い等の欠点がある(表1)
。このため,減衰の小さな光ファ
始めている。
イバを用いて人手による配線方法が採用されているが,光フ
Fig. 1 Relation between data transmission ability and the length of signal line
In the electronic systems such as a telecommunications system, routers, and
servers, which deal with a vast amount of data, discrete optical-fiber-wiring
boards began to be used for relatively long transmission lines to improve the
system performance.
ァイバ数が増加すると結線作業が煩雑で,かつ誤配線の可能
性があり,また配線自体が嵩(かさ)高くなる。
その解決策の1つとして,光ファイバをフレキシブル基板
*
当社 総合研究所 **当社 下館事業所
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
19
表1 光ファイバと光導波路の比較 光ファイバは伝送損失が少ないた
表2 光ファイバ配線板の材料 光ファイバ,保護フィルムは用途に応じ
め比較的遠距離を結ぶ配線に適する。
て選択できる。
Table 1 Comparison between optical fibers and planer light wave circuits
The optical fiber is suitable for relatively long distance wiring because of its
low transmission loss.
Table 2 Materials for the discrete optical-fiber-wiring board
Optical fibers and protective films can be selected according to the end application.
項 目
信
号
線
の
特
徴
配
線
の
特
徴
光ファイバ
光導波路
分 類
材質と
断面形状
石英,プラスチック
(円形)
←コア
石英,プラスチック
(矩形)
←コア
伝送損失
石英<0.001dB/m
プラスチック<0.4dB/m
約10dB/m
形成法
接着剤上への配線
フォトリソグラフィー
分岐
困 難
容 易
交差
容 易
困 難
位置精度
101∼102µm
10−1∼100µm
内 容
シングル
モード
光ファイバ
(石英,φ250µm) マルチ
モード
保護フィルム
接着剤
コア径:φ10µm
屈折率分布:Step Index
コア径:φ50µm,62.5µm
屈折率分布:Graded Index
ポリイミド
難燃仕様,厚み:25,50,75µm
PET
厚み:50,75µm
粘着剤
厚み:250µm
非粘着剤
難燃仕様,厚み:200µm
を示す。配線は直線と円弧の組み合わせと交差配線が可能で
上に平面状に配線し,端部に光ファイバ用コネクタを取り付
ある。このため,信号分配用の交差配線が可能となる。また,
けた光ファイバ配線板が提案されている。この基板は,平面
等長配線パターンを追加することと,CAD上で配線長を容易
状で嵩張らず,かつ煩雑な配線結線作業と誤配線を回避でき
に算出できるため,等長配線設計が容易であり,作製した基
る特長を持っており,IT産業の先進地域である北米ではバッ
板は配線長差を実測値ベースで±1mm/600mmに制御できた。
クボードとして使用されつつある 1),2)。本報告では,当社で
さらに,光ファイバ端部では市販の多心用光コネクタの配
20年余り生産してきたマルチワイヤ配線板3),4)の技術を生か
線ピッチ(250µm)に合わせた束線状の配線が可能であり,
し,数値制御
(NC)
方式で動作し,超音波と荷重を併用する布
取り付けが容易となる。
線機を用いて光ファイバを配線した基板を紹介する5)。
〔2〕 光ファイバ配線板の概要
光ファイバ配線板の構造を図2に示す。まず接着剤付きの
ベースフィルムに光ファイバを布線機で固定し,その上にカ
バーフィルムをかぶせる。次に光ファイバ端部を露出させ,
用途に応じた光コネクタを取り付ける。相手側のコネクタと
接続しやすいように,基板は柔軟なフレキシブル型としてい
る。
カバーフィルム
(保護フィルム)
光ファイバ
接着剤
図3 光ファイバ配線板の外観 光ファイバは平面に固定され,端部には
端末部分
無処理または
コネクタ付き
図2 光ファイバ配線板の構造
市販コネクタの取り付けが可能。
ベースフィルム(保護フィルム)
導波路とは異なり交差配線が可能であ
Fig. 3 Appearance of the discrete optical-fiber-wiring board
Optical fibers are fixed on a flat plane, and commercially available connectors
are fitted to the terminals.
る。
Fig. 2 Structure of the discrete optical-fiber-wiring board
Cross-wiring is possible for this board, which is different from the planer light
wave guide.
〔3〕 光ファイバの布線技術
図4に光ファイバ配線板用布線機の写真を示す。布線機の
平面方向の動作は数値制御されており,基板を固定するテー
表2に使用材料を示す。光ファイバは外径が250µmのもの
ブルはX方向,ヘッドはY方向に動作する。また,光ファイ
であれば配線が可能であり,損失が小さく,通信分野で一般
バの配線方向に合わせてZ軸を中心にヘッドを回転させるこ
的に使用される仕様の石英製ファイバや,市販の各種光コネ
とで円弧配線が可能となる。
クタを利用できる。保護フィルムとなるベースおよびカバー
図5に布線の原理を示す。光ファイバは,布線ヘッドと配
フィルムは,難燃性を考慮してポリイミドを使用しているが,
線される基板の相対速度に応じて布線機のヘッドから送り出
ポリエステル(PET)も適用可能である。なお,現行品は接
され,ファイバ固定治具で接着剤に固定される。このファイ
着剤に粘着性のものを用いているが,基板端部に粘着剤が残
バ固定治具には荷重と超音波振動が加えられるため,粘着剤
るため,非粘着性で難燃性のものを新たに開発している。
のほかに非粘着性の材料にも光ファイバを固定することが可
図3にモデルパターンで作製した光ファイバ配線板の外観
20
能となる。また,ファイバ固定治具の先端を特殊な形状に加
日立化成テクニカルレポート No.38
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工することで,隙間のない束線状に光ファイバを配線できる。
非粘着性の材料にも光
ファイバを接着可能
超音波振動
と荷重
図6は布線した光ファイバの束線の交差部分であり,隣接し
ている光ファイバには外観上の損傷は見られなかった。
ファイバ固定治具
スタート
地点
進行方向
ファイバカッター
交差点
光ファイバ
接着材
基材
ファイバ固定治具
特殊加工の治具で,ファイバ直径と
ほぼ同じピッチ
(250µm)
に光ファイ
バを配線可能
図4 光ファイバを布線中の専用布線機
布線機の動作は数値制御であ
り,円弧部分において布線機ヘッドは布線の方向に合わせて回転する。
Fig. 4 Specially designed wiring machine head for optical fibers
The wiring machine is numerically controlled. Its wiring head turns at arc
position according to the designed wiring pattern.
〔4〕 光伝送特性
図5 布線の原理と束線配線のための改良点 先端部分を特殊加工した
ファイバ固定治具には超音波振動と荷重がかけられ,光ファイバを接着剤表面
に固定させる。
Fig. 5 Principle of wiring and the refinement for 250µm pitch wiring
Ultrasonic vibration and load are applied to the fiber fixing device having a
special shape. Optical fibers are fixed on the adhesive surface.
図8には各種端末処理の方法と特徴を示す。それぞれに長
次に,光ファイバ配線板の重要な特性の1つである伝送損
所と短所があるが,大量に作製する場合は2番目の端面研磨
失を測定した。図7には2種類の光ファイバについて,曲げ
法が好ましい。この方法を用いて,図3に示したモデルパタ
半径に対する半円あたりの伝送損失を調べた結果を示す。半
ーンの光ファイバ配線板に多心の光コネクタを取り付け,光
径10mm未満では,伝送損失が小さいはずのシングルモード
コネクタを含めた損失(挿入損失)を調べた(図9)
。コネ
の方がマルチモードより伝送損失が大きい。これは,シング
クタは市販の多心MTコネクタであり,250µmピッチで4心お
ルモードはコアと屈折率の異なるクラッドとの界面での全反
よび12心の2種を用いたが,12心コネクタの平均の挿入損失
射でコア内部に光を閉じ込めているが,曲率半径が小さいと
(0.34dB)は4心コネクタ(0.16dB)より大きく,最大値は
全反射せずにクラッドへ光が漏れるためと推定している。な
0.58dBであった。測定した光ファイバ配線板は,曲率半径
お,半径が15mm以上であれば損失はほとんどなく,いずれ
20mmの設定であるため伝送損失は0.1dB程度である。そこで,
の光ファイバも実用上無視できる伝送損失(0.1dB以下)と
図9の測定値のばらつきは光コネクタに起因すると考えら
なることを確認した。
れ,その主な要因は光ファイバの位置決め精度と固定するコ
光ファイバ:外径φ250µm,クラッド径:125µm,シングルモードファイバ(コア径:9.5µm at 1.3µm)
図6 250µmピッチ配線交差部と分岐配線の光ファイバ 束線状に布線された光ファイバの交差点部分においても損傷は見られない。
Fig. 6 Crossing and arc pattern of 250µm pitch as wired
The surface of the optical fibers has no damage at the crossing points of 250µm pitch parallel wiring.
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ネクタの穴加工精度であると推定している。なお,市販の多
25
4心MTコネクタ
(11個で平均0.16dB,最大0.40dB)
心コネクタ付きファイバコードの保証値(0.7dB以内)を満
足しているため,実用上は問題のないレベルであることを確
20
12心MTコネクタ
(3個で平均0.34dB,
最大0.58dB)
度 数
認できた。
10
10
半円当たりの伝送損失(dB/turn)
15
測定波長:1.31µm
光ファイバは
シングルモード
曲げ半径
シングルモード
5
半円パターン
1
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
12心MTコネクタ
挿入損失(dB)
マルチモード
図9 多心コネクタ付き光ファイバ配線板の挿入損失
0.1
0.01
光ファイバの
接続部の損失
(0.04−0.08dB)
5
10
15
20
25
光ファイバの曲げ半径(mm)
多心MTコネク
タを取り付けた光ファイバ配線板(配線数:80本)の挿入損失は平均で
0.23dB,最大で0.58dBと小さい。
Fig. 9 Insertion loss of optical fiber boards with multiconductor connectors
The insertion loss of optical fiber boards (number of wirings : 80) fitted with
14 MT connectors is as small as 0.23 dB on the average and 0.58dB at the
maximum.
図7 配線パターンと伝送損失の関係 半径が15mm以上では約0.1dBと
実用上無視できるレベルである。
Fig. 7 Relationship between the radius of semicircle fiber pattern and the
transmission loss
Transmission loss is negligible for the practical use when the curvature
radius of the optical fiber is 15mm or more.
〔5〕 結 言
電気信号に代わり大容量データ転送が可能な光信号を対象
として,光ファイバを伝送路とする配線板を開発した。この
基板は,柔軟性のあるフィルムベースの構造で,伝送損失の
1. パッチコード融着法:品質保証済みのパッチコードコネクタを融着機で溶接
アーク放電
OFB
コネクタ付き
パッチコード
コネクタ
○コネクタ部は品質保証済み
○熟練技術が不要
×接続部分に別途補強材が必要
小ロットプロトタイプ
への適用
小さな光通信用光ファイバをNC駆動の布線機で平面状に配線
し,ファイバ端部には市販の光コネクタの取り付けが可能で
ある。従来の複数の光ファイバによる接続と比較して,結線
作業が容易で,誤配線を防ぐことができ,組み込まれる装置
の高密度化が可能となる。今後,進展が期待される情報通信
関連でのインフラ向けの装置用途への適用が期待できる。
2. 端面研磨法:ファイバをフェルール(帯金)に接着固定し,端面を研磨
○研磨治具の最適化により多数
個の一括作業が可能
×研磨用の専用治具と熟練技術
が必要
OFB
コネクタ
大ロット品への適用
参考文献
1)Jeff Montgomery : Optical backplanes show dynamic growth potential, Integrated Communications Design, Vol.1, pp. 27-28(1999)
2)Jennifer Sorosiak : Flexible Optical Circuits, Fiberoptic Product
News,10, pp. 45-47(1999)
3. その他:メカニカルスプライサなども可能
○取り付けが容易
×高価で嵩高い
3)
:日立化成テクニカルレポート,18,pp. 11-16(1992)
4)生井:絶縁被覆銅線を用いた高密度多層配線板における信号伝播
図8 光ファイバ配線板
(OFB)
の各種端末処理法と特徴
一般的な方
法でコネクタの接合が可能である。
Vol. 4,No.6,pp. 523-527(2001)
Fig. 8 Different types of terminal treatment and their features
Connectors can be fitted to fiber terminals by the conventional methods.
22
遅延時間の高精度制御技術設計,エレクトロニクス実装学会誌,
5)有家:光インターコネクション用光ファイバ配線板,PWBEXPO
専門技術セミナーテキストPWB-9,pp. 21-41(2001)
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(2002-1)
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