世界の水処理見学記 - 日本大学理工学部

アイセル湖
★
アムステルダム
デルフト
2
.7
010
世界の水処理見学記
土木工学科
専任講師
吉田征史
ロッテルダム
オランダ
ドイツ
ベルギー
平成 22 年 3 月 3 日から 3 月 24 日までの 3
方式）に関する研究・教育をしており、多くの
週間、海外派遣研究員（短期 B）としてオラン
発展途上国からの留学生が勉強・研究していま
ダ（アムステルダムに約 2 週間）およびオース
した。ここで学び修了した学生の約 9 割は自国
トラリア（パースに約 1 週間）に滞在しました。
に戻り、自国における衛生的な水環境（飲料水
オランダは国土の約 4 分の 1 が海面下の土地
の確保や汚水処理）のために貢献しているとの
であるため、古くから高潮、洪水による被害を
防ぐため風車の動力により水を排出するなど、
水と密接にかかわってきた国であり、現在も防
写真上から：
ア ム ス テ ル ダ ム 駅、 デ ル
フト工科大学土木工学科
棟、Henri 准 教 授（ デ ル フ
ト工科大学にて）、ロッテ
ル ダ ム ANAMMOX プ ラ ン
ト、UNESCO-IHE 、Perth
Seawater Desalination
Plant 全景と Christie 氏
オーストラリア
パース
クイナナ
ことでした。
一方、オーストラリア（パース）では海水淡
水化技術について Water Corporation の技術
災技術および水処理技術において、世界トップ
者（Christie 氏）と対談し、実際に稼働中のプ
レベルの研究がなされています。オランダで
ラント施設の見学もさせていただきました。パ
は、アムステルダムから電車で約 50 分のデル
ースは西オーストラリア州の州都であり、旅行
フトにある、デルフト工科大学で多くの時間を
作家の兼高かおるさんが
「世界で一番美しい街」
過ごしました。デルフト工科大学には多くの日
と称した街ですが、近年は異常気象により降水
本人研究者も在籍したり留学で訪れたりして
量が年々減少しており、10 年以内に水資源の
おり、そうした日本人との交流もできました。
枯渇が懸念されています。このため、住宅街は
また、私の研究分野である水処理・水環境保全
どの家庭もキレイな芝生の庭がありますが、家
を研究されている講師・准教授・教授の先生方
庭でのスプリンクラーの使用制限も行われて
と対談し、彼らの実験室の見学もさせていただ
います。そこで、2006 年からクイナナの近く
けました。さらに、このときお話しした Henri
で Perth Seawater Desalination Plant が稼
准教授のご協力もあり、最新の廃水処理技術
働され、約 200m 沖合に設置された取水塔の水
の実用プラントも見学させていただけました。
面下 6 m の位置から、異物が混入しないよう
こちらはデルフトからさらに約 20 分のロッテ
にスクリーンを通して海水を取り込み、砂ろ過
ルダムに位置し、ANAMMOX（アナモックス）
や膜ろ過を経て飲料水を得ています。このプラ
反応と名付けられた、近年新たに発見された微
ントは南半球最大規模の海水淡水化施設であ
生物反応を応用したものです。この微生物反応
り、浸透圧に対して逆方向に圧力をかける RO
は現在、日本でも研究がなされていますが、デ
膜（逆浸透膜）により、ほぼ純粋な H2O（水）
ルフト工科大学が先駆的に研究、実用可能とし
を取り出すことができます。この水はそのまま
たものであり、ANAMMOX 反応を担う微生
ではお腹をこわすため、最終的にはミネラル添
物に最適な水温や pH の管理をすることで、従
加して水道水として配水されています。
来のアンモニア廃水処理反応の反応工程を短
これらの技術は日本でも実現可能な技術で
縮し、高濃度なアンモニア廃水を短時間で処
はありますが、各国における地域特性および費
理できます。また、CO2 の約 310 倍の温室効
用対効果の面からなかなか実物を目にする機
果を持つ温暖化ガスである N2O（亜酸化窒素）
会がありません。今回、短期間でしたが最新技
の排出量も、従来法より大幅に低減することの
術に触れることができ、今後の自身の研究の糧
できる画期的な処理方式です。
となりました。余談ではありますが、普段学生
なお、オランダでは 1 日だけ、デルフト駅か
と対面している立場として、オランダで会った
ら徒歩 5 分の場所にある UNESCO-IHE の見
学生たちの自主性および探究心の強さには圧
学もさせていただきました。こちらは発展途上
倒されました。また、自身の英会話力を見直す
国で実用可能な水処理技術（安価で良質な処理
良い機会にもなりました。
キャンベラ
シドニ
★
メルボルン
24
Circular 理工サーキュラー
VOL.40 2010. SUMMER No.145