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古文書解読チャレンジ講座 第11回 教材(PDF形式)

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古文書解読チャレンジ講座 第11回 教材(PDF形式)
古文書解読チャレンジ講座 第十一回
東京都公文書館
江戸の人相書「日 本 左 衛 門 指 名 手 配 」
平成二十三年二月
出典:
『撰要永久録 御触事之部』第十五
今回は、江戸時代の指名手配書である「人相書」を取り上げます。現代
の指名手配書は本人の写真が添付されるのはもちろん、
変装パターンや
「ふ
け顔」の予測まで画像化して示されていますが、江戸時代には、どのよう
な内容が書かれていたのでしょうか。
【史料】人相書之事(延享三年十月)
(中略)
-1-
【史料の解読】
(解読文)
人相書之事
十右衛門事
濱嶋庄兵衛
一 せひ五尺八九寸程 小袖鯨さし三尺九寸程
一 歳弐拾九歳
見掛三拾壱弐歳ニ相見候
一 月額濃引疵壱寸五分程
一 色白歯並常之通
一 鼻筋通り
一 目中細ク
一 皃おも長なる方
一 ゑり右之方江常かたき罷在候
一 ひん中ひん 中少しそり元ゆひ十ヲ程まき
一 逃去り候節着用之品
こはくひんろうしわた入小袖
但紋所丸之内橘
下ニ単物萌黄紬 紋所同断
同白郡内ちばん
中(略 )
一 鼻紙袋萌黄羅紗うら金入り
一 印籠
但鳥のまき絵
右之通悪党仲間ニ而者異名日本左衛門与申候其身ハ曽而
名乗不申候
右之通之もの於有之者其所々ニ留置御料者御代官私領ハ
領主地頭江申出夫より江戸京大坂向寄奉行所へ可申達候尤
見及聞及候ハヽ其段可申出候若隠置後日脇より相知候ハヽ可為
曲事候
寅十月
右之趣可被相触候
之 事
十右衛門事
小 袖 鯨さ し
書
五 尺 八九 寸 程
見 掛 三 拾壱弐 歳ニ相 見 候
相
せ ひ
拾九歳
人
弐
常
お も 長 な る 方
之通
皃
少 し
そり
元 ゆひ 十ヲ程
か た き 罷 在 候
中
之 品
わ た 入小袖
庄 兵衛
ま き
濱 嶋
一
歳
濃
三尺 九寸 程
一
額
並
疵 壱 寸 五分程
月
引
一
白
一
用
ひん ろ う し
通 り
色
細 ク
ん
着
筋
一
目 中
右 之 方 江 常
ひ
去り候 節
一 鼻
一
ゑ り
中
歯
一
ひ ん
逃
一
一
こ は く
ば ん
萌 黄 紬 紋 所 同 断
内 ち
物
但 紋 所 丸 之 内 橘
白 郡
下ニ 単
同
-2-
鼻 紙
(中略)
一
印
籠
一
袋
右 之通 悪
名 乗 不 申候
う
の
ら
金 入
き 絵
御 料 者 御 代 官 私 領ハ
異 名 日 本 左 衛 門 与 申 候 其 身 ハ曾 而
其 所々 ニ 留 置
ま
仲 間 ニ而 者
但 鳥
萌 黄 羅 紗
党
右 之通 之 も の 於 有 之 者
候 寅 十 月
聞 及 候ハヽ 其 段 可 申 出 候 若 隠
置 後 日 脇より 相 知 候ハヽ可 為
領 主 地 頭江 申 出 夫 より江 戸 京 大 坂 向 寄 奉 行 所 へ 可 申 達 候 尤
見 及
曲 事
右 之 趣 可被相触候
【読み下し文】
人相書きの事
十右衛門事
浜嶋庄兵衛
一、せひ(背)五尺八九寸程 小袖鯨さし三尺九寸程
一、歳弐拾九歳
見掛け三拾壱弐歳に相見え候
一、月額(さかやき)濃、引疵壱寸五分程
一、色白、歯並び常の通り
一、鼻筋通り
一、目中細ク
一、皃おも長(面長)なる方
一、えり右の方え常かたき(傾き)罷りあり候
一、ひん(鬢)中ひん 中少しそり、元結十ヲ程まき
一、逃去り候節着用の品
こはく(琥珀)ひんろうし(檳榔子)わた(綿)入小袖
但紋所丸の内橘
下に単物萌黄紬、紋所同断
同白郡内ちばん(襦袢)
(中略)
一、鼻紙袋、萌黄羅紗うら金入り
一、印籠
但鳥のまき(蒔)絵
右の通り悪党仲間にては異名日本左衛門と申し候、其の身は曾て
名乗り申さず候
右の通りのものこれ有るに於いては其の所々に留め置き、御料は御代官、
私領は
領主地頭え申し出、それより江戸京大坂向寄(もより)奉行所へ申し達すべ
く候、尤
見及び聞き及び候わば其の段申し出づべく候、若し隠し置き、後日脇より
相知れ候わば
曲事たるべく候
寅十月
右の趣相触れらるべく候
-3-
【語句解説】
日本左衛門指名手配
* 月額=さかやき
通常月代と書く。江戸時代、成人の男性が額か
ら頭上にかけて髪を剃ること。またその剃った部分のこと。
* ひん=鬢=びん
頭の左右側面、耳際の髪。
* こはく=琥珀
絹織物の一種である琥珀織のこと。緯糸(よこい
と)の方向に低い畦がある平織物で、帯・袴地等に多く用いられた。
* ひんろうし=檳榔子=びんろうじ
ヤシ科の植物檳榔樹の果実。
薬用・染色用とする。ここでは檳榔子染めで染めた赤みを帯びた暗
黒色のこと。
* ちばん=襦袢=じゅばん
* 羅紗=らしゃ
紡毛を密に織って起毛させた厚地の毛織物。
【解説】
江戸の人相書
■江戸時代の指名手配
今回の解読用文書は、犯罪者の全国指名手配書です。江戸時代には
「人相書」と称されていました。最近の指名手配書は本人の写真が添
付されるのはもちろん、変装パターンや「ふけ顔」の予測まで画像化
して示されています。しかし写真すらなかった江戸時代には、氏名・
年齢・生国に続いて背格好や容貌、着物・所有品、しゃべり方の特徴
などを言葉で列挙していく形式でした。
■浜島庄兵衛の容貌
は た して そ ん な 人 相 書 の 記 述 から 具 体 的 な イ メ ー ジ が 浮 か び 上 が
ってくるものでしょうか。例文の浜島庄兵衛について考えてみましょ
う。
まず「せい」すなわち身長は五尺八・九寸といいますから一七五セ
ンチメートルを超える大男です。顔はというと色白で面長、鼻筋は通
り、
「目中細く」といいますから切れ長であったということでしょう。
濃い月代に五セ ン チメートル程の引き 傷を見せて いたといいますか
ら な か な か 凄 み の あ る い い 男で す 。 さ ら に 琥 珀織 りと い う 絹 織 物 を 、
ビ ン ロ ウ ジュ の 果 実 を 利 用 し た 染 色 法で 赤 みを 帯 び た 暗黒 色 に し た
小袖を着て、丸の内に橘の紋所も見せていたというのですから、人目
を忍ぶ盗賊のスタイルではありません。持ち物の鼻紙袋は萌黄色の羅
紗 ポ(ルトガル由来の厚地の毛織物 、)印籠には鳥の蒔絵が施されてい
ました。相当に目立つ伊達男のイメージです。
■白浪五人男・日本駄右衛門のモデル
さ す が に こ れ だ け 特 徴 的 な 人 物で あ れ ば 江 戸 時 代 の 人相 書 で も 相
当の有効性をもったでしょう。大勢の手下を率いて東海道筋を荒らし
まわった強盗の首領、浜島庄兵衛は指名手配された翌年の延享四年 一(
七四七 正)月、京都町奉行所に自首し、江戸へ護送された後、三月一一
日、江戸市中引き廻しの上打ち首となりました。
ところでこの人相書によれば浜島庄兵衛は仲間内で「日本左衛門」
との異名をとっていたといいます。大きな名前です。すでにお気づき
の方もいらっしゃると思いますが、彼、浜島庄兵衛こそ、幕末の河竹
黙阿弥作「白浪五人男」 正(式名「青砥稿花紅彩画」 に)登場する賊徒
の首領、日本駄右衛門のモデルとなった大盗賊なのでした。
もとより「盗みはすれど非道はせず」という義賊イメージは虚像に
ほかなりません。幕末に編集された町触集「撰要永久録」の中で、私
たちは大盗賊の在りし日の実像と出会うことになりました。これもま
た古文書学習の楽しさといえるでしょう。
【参考文献】
)
竹内誠『元禄人間模様―変動の時代を生きる』 二(〇〇〇年、角川書店 )
東京都公文書館編・刊『都史紀要四〇 続レファレンスの杜』 二(〇〇八
年
* 出 典 史 料 で あ る 「 撰 要 永 久 録 」 に つ いて は 古 文 書 解 読 チ ャ レ ン ジ 講
座第一回「生類憐み政策と都市江戸」をご参照ください。
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