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詩を通してのコミュニケーション 私立暁星小学校 小山 公一 ここ数年
詩を通してのコミュニケーション 私立暁星小学校 小山 公一 ここ数年、子供たちの絆(きずな)が希薄になり、友達同士のコミュニケー ション力も低下していることを強く感じていました。 自分の気持ちを素直に表現できずに口を閉じてしまったり、友達のことは、 ほとんど何も知らなかったりする子が見られるようになりました。 教員になった当初は、 「子供は自分の気持ちを素直に表現するものだ」と考え ていましたが、今の子供たちを見ているとそのような考えは当てはまりません。 特に高学年になればなるほど、何を考えているのかさえ分からない子供もいま す。そのような状況で、私は子供たちのこれからの学校生活に不安を感じてい ました。 このような不安を一掃するためにも、どうしたら良いか考え、子供たちにコ ミュニケーションの大切さを伝えていくことが良いのではないかとか考えまし た。 そこで、17年度に4年生を担任した4月当初に子供たちのコミュニケーシ ョン力の向上を目標の一つとして掲げました。 国語で詩を学習することになり、「詩を工夫して読む」「表現のおもしろさを 調べる」「詩についてみんなで話し合う」「詩をまねてつくる」などの内容で、 いろいろな工夫を重ねました。そのうちに、子供たちの中から好きな詩を声に 出して暗唱する子も出てきました。また、詩の中の言葉に関心を寄せ、辞書で 調べる場面も多く見られるようになってきました。また、話し合いのなかで、 自分では気がつかなかった詩人の視点を、友達から指摘されびっくりしたり、 感心したりするようなこともありました。 このように詩の学習を通して、子供たちはたくさんのことを学びましたが、 みんなで話し合い、自分の考えを伝える大切さを体験できたことは、何よりも 大きな成果でした。話し合いの中で、友だちの意見や考え方をお互いに認め合 うような場をもつことができたことは、とても良かったです。 詩の授業が終わった後も、子供たちが詩に興味を持ち続け、前向きに取り組 んでいることを幸いに、機会をとらえて少し難しい詩をグループで話し合って みることもありました。 話し合う大切さは、国語の時間だけではなく、学級会でもできるだけ時間を とりました。このようなことを心がけていくうちに、学級が一つにまとまって きました。子供たちにコミュニケーションの大切さが少しずつ分かってきたよ うでした。 2学期を迎えました。 詩の学習で盛り上がっていた子供たちに、 「2学期は、たくさん詩を書いてもらいます。詩を書くと友達の考えが少しで も分かるからです」 と話しました。 最初の題材は、 「夏休みのことで、心に残っていること」にしました。原稿用 紙は2百字詰めです。最初から負担になっては、いけないと思ったからです。 このようにしてスタートしましたが、予想していた以上に、子供たちは自分の 気持ちを素直に書いていました。 うそ ぼくは お兄ちゃんを見た お兄ちゃんは 人のためにうそついた どんなうそかは 言えない お兄ちゃんのうそは たぶん優しい心が 「そうしなさい」 と言った これがお兄ちゃんの優しさなのか これがお兄ちゃんの本当の姿なのか…。 という詩が提出されました。この詩を読んだときには、兄に対するするどい洞 察がとても素直に表現されていることに驚きました。 子供たちが、素直に自分を表現する楽しさを知ってきたので、子供たちの声 を生かせる場はないだろうかと考えていました。 「学校行事を終えて考えたこと」「伝えたいこと」「○○について考えている こと」などという題材で詩を書けば書くほど、子供たちのコミュニケーション の結果を形にしたいという考えが強くなってきました。 更に、一つの詩をめぐって、子供たちと保護者の方とでコミュニケーション がとれるように、学級通信のような形で出してもよいのではないだろうかと考 えました。 「詩の通信」として毎週1回は出すことにしました。 「詩の通信」には、作者名は載せませんでした。 「誰が書いたのか」というこ とよりも、 「このような考え方もあるのだ」ということを優先したかったからで す。 「プラネタリウム見学」という題材で書いたときは、単に星空の美しさを表 現しただけでなく、 「宇宙の広さに感動し、自分の心も、友だちの心も、だれの 心も広ければ・・・」と書いた子がいました。このようなことに気付く子供の 心に感心しました。 いろいろと書いた題材の中では、 「わぁーすごい」は好評でした。満員電車の 込み具合、たくさんのイルミネーション、360度の地球の美しさ、風の力で 葉っぱが葉っぱを追いかけているという自然の不思議さなどに視点が向けられ ていることを知り、子供の頭の柔らかさに感心しました。 また、本を読んで感動した場面を詩で書いてもらったときには、 「ねこは100万回死んで、100万回生きた/ねこは人間がきらい/ で も…/人間と一緒に生きてきた/100万回も…/」 というような書き出しで『百万回生きたねこ』を紹介した詩もありました。 子供たちが書いた作品を通信に載せることによって、友達を見る目が変わっ てきました。以前よりもケンカが少なくなり、じっくりと友達の話を聞くこと が多くなってきました。また、各家庭でも「詩の通信」の詩をめぐって親子で 話し合う機会ができ、次号を楽しみにしているようでした。教室と家庭にも新 しい風が吹いてきたようです。 3学期には、詩の発表会を行いました。 グループで好きな詩を選び、詩を読み、詩をまねして書き、詩人になってそ の詩を説明し、宣伝しあうことにしました。これらのことを学習するためには、 何回ものコミュニケーションが必要なのです。 詩人の詩をまねたものでは、次のような作品もできました。 宅配便 宅配便がこない日でも あなたにとどけられる 贈り物はあるのです 気付かなかった行動 心にしみとおる 優しい言葉 自然が繰り広げる 壮大な景色 人が挑む すごい行動でも みんな贈り物なのです 感じようとさえすれば この詩の元になった詩についてグループで何回も話し合ったからこそ、この ようにすてきな詩ができたのだと思います。 この1年間で詩の授業が、 「詩の通信」の発行というように発展していったこ とは、私にとっても貴重な実践記録となりました。 子供たちの素直な心が大好きです。子供たちが、素直に自分の心を表現した 「詩の通信」を大切にしていきます。そして、子供たちのコミュニケーション 力を育てるために、現在の学年でも「詩の通信」を2学期には出せるように取 り組んでいます。