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VOL.06 茶話 日本茶 WEB マガジン編集長 中村孝則 × 占星術研究家

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VOL.06 茶話 日本茶 WEB マガジン編集長 中村孝則 × 占星術研究家
VOL.06 茶話
日本茶 WEB マガジン編集長 中村孝則
×
占星術研究家・翻訳家 鏡リュウジ
現代の数寄者・中村編集長が各界の第一線で活躍するゲストを迎えて語りあう、
ティーニスタ茶話。
第 6 回目のゲストは、心理学的なアプローチで霊的な世界に迫る占星術界の貴公子、鏡リュウジさ
ん。獅子座の編集長と、魚座の若きベテラン研究者が、お茶と占星術の深くて意外な繋がりを考察
します。
陰陽五行で繋がる「茶の湯」と占星術
中村:鏡さんが研究される占星術と、僕のライフワークである茶道、今日はこの意外な繋がりを語
り合いましょう。
鏡 :考えてみれば、茶道と占いは、案外関係が深いんですね。茶道の御道具や茶室は「陰陽」や
「五行」の原理で構成されているでしょう? 陰陽五行は、東洋の占いの根本でもあるんで
す。
中村:お茶道具に八卦の図象が描かれていることもありますね。
鏡 :八卦とはお相撲の「八卦よい」にもでてきます。これは森羅万象ということ。そもそも日本
文化の根本にある礼儀や人間関係の基本は、儒教文化に由来しています。そして占いの書で
ある「易経」は儒教の根本経典ですから。しかし時代の変遷もあります。洋の東西を問わず
「近代」は、占い的なもの、聖なるものを社会の周縁に追いやってきました。代わりに個人
主義が萌芽し、自由意志が尊重されるようになった。本来、そこで占いは終焉を迎えると考
えられ、また、人間関係の根本に宇宙の原理が反映されている、とする不自由なマナーなど
は消滅するかと思われていました。お茶の作法なんて面倒なことはなくなり、みんなが自由
になるかと。しかし、そんなことはなかった。断絶し、揺り戻され、また発展する、伝統文
化はその繰り返しなんですね。
中村:確かにお茶のあり方も大きく変遷してきました。桃山時代のお茶は武将たちの破天荒なもの
だった。茶室では刀を置き、この空間ではせめて無礼講でいこうと。茶の湯は千利休の時代
に一気に花開き、価値観の転覆もありました。明治維新では松永耳庵という茶人が登場し、
大日本茶道学会を創立した田中仙樵が秘伝開放を掲げ、厳禁だったお茶の書物化を行い茶道
が復興された。伝統はなくなるようでなくならないんですね。
茶室もタロットも、宇宙を体現する場
鏡 :茶道も含め伝統文化の儀礼や所作の基本は、相手を心地よくさせること。でもそのメカニズ
ムは案外、複雑です。その根本には笑顔を見ると、こちらも笑顔になる、という生物学的な
ものがありますが、その一方、素人には意味がわからない所作もある。どこまでが生得的な
もので、どこからが恣意的、文化的な「お約束」なのか。考えてみると結構ややこしい問題
なんですね。伝統的な文化では人間関係や社会の構造は、この世界そのもの、宇宙そのもの
の構造が反映されていると考えます。たとえば東洋なら陰陽。西洋なら惑星の軌道。おそら
く御茶室は、小さな宇宙と考えられるわけですよね。それは都市や神殿と同じです。作法の
背景にはコスモロジーがあり、それを知っていて実現できる人が作法の根拠になっている。
タロットも占星術も、占いを、宇宙を小さな机上で表現できると信じているからこそ実践で
きるわけです。ただ、近代はそんなコスモロジーが社会的なフィクションだと看破してしま
った。しかし、そこですべてを否定すると、今度は、人は秩序や意味のない世界で生きなけ
ればならなくなり、ニヒリズムに陥りかねない。
中村:世界の道理を知った上で壊すから意味がある。茶室は宇宙である、という共通認識があって
こそできることです。お茶もあまり形式張っていると醍醐味がない。秀吉が開催した北野大
茶会は、釜ひとつ、茶碗ひとつ持って誰でも参加できた画期的な出来事でした。一方、道具
では朝鮮の茶碗を崇めたり、和物の楽焼茶碗を作らせたりとトレンドの変転もあった。釜と
茶碗だけあればいいと言う破壊者もいれば、器にも目を奪われる美もないといけない、と言
いだす人も出てくる。破壊と刷新の連続で継続してきたんですね。
茶の一期一会、ユングのシンクロニシティ
鏡 :利休と信長・秀吉、つまりアーティストとクライアントの関係を考えると、茶室はどこか教
会の懺悔室にも似ていると思えます。懺悔室では王様も浮浪者もみな同等、こうした空間は
昔の社会構造の中では他にありえなかった。現代、その役割を果たすのは精神科医のセラピ
ールームで、どちらも語らせて治癒する トーキング・キュア の場です。茶室もまたそう
いった役割を担っていたのかもしれません。
中村 :今の茶室では清談、
つまり風雅で世俗を離れたことを語るという暗黙の約束事がありますが、
秀吉時代の茶室では、やれ九州征伐だ、伊達をどうする、利休よ…と、荒々しいことを豪放
に語っていたかもしれません。
鏡 :そこで語られたことが残っていれば面白いですね。当時、普通の人はお茶は飲めなかったわ
けですから、お茶を飲んだりしたら、変性意識に入ったかもしれない。さらにお茶ってもの
すごく高価だったはずでしょう? ですからポトラッチというか、放蕩を尽くしてエネルギ
ーを解放するという効果もあったのでは、と勝手に推測します。
中村:当時の茶室はかなりの異空間で、今より野性味にあふれたお茶はそれを媒介するものだった
はず。武士の時代、明日は死ぬかもしれないから、今ともにいるこの時を大事にしようとい
う「一期一会」の場でもありました。
鏡 :一期一会の概念をどんなふうに訳せばいいのか。西洋に当てはめれば、ユングによる「シン
クロニシティ=意味のある偶然の一致」になるでしょう。ある状態にいるある人とある人が
この場で一度だけ会い、素晴らしい何かがスパークする。そこで何かが変わる。けれど、そ
れには再現性がない。一度だけしか起こらない、そこに意味があるんですね。
西のお茶、東のハーブ。
すべてに繋がるお茶の世界。
中村:茶道にはどこかマジカルなところがあります。おいしくなるよう念じて点てますし、真摯に
人をもてなすことは、うまくいけば相当な快感です。
鏡 :おそらく身体的なレベルでマジカルな仕草は人間にインストールされていて、お茶のさまざ
まな所作もそこに通じているのかもしれません。
中村:剣道にもマジカルなところがあり、稽古では気配を感じる訓練をします。我々は気配を「色」
と呼びますが、相手の色をどう見て、いかに自分の色を消すかが肝心なんです。色のない強
い人には強烈なバリアがあって立ち向かえないほどです。色や気の先には高次元の別世界が
あるんでしょうね。
鏡 :有能なセラピストによれば、セラピーという仕事はほとんど武道だそうです。いかに黙って
話を聞くかという「言葉の武道」
。ところで「色」ってイミシンな言葉ですね。色恋の色。半
分は精神で半分は物質のような。セラピストも色を出すといけないのかも。
中村:剣道も精神の武道。お茶も、心を尽くしてもてなし、もてなされる心の道です。道具の洗練
から所作に至るまで無限の高みがあり、人生を賭けるほどの意義や恍惚感があるんですね。
鏡 :お茶の世界は深く、あらゆるものがお茶に繋がっていますね。中国のお茶も西洋のハーブも
最初は薬用で、中国では陰陽五行、西洋では四大要素に基づき、どちらも同じコスモロジー
の異なる表現で、季節や星の巡りを基に処方し、人間の身体をつかさどるわけです。さて最
後に、中村さんは獅子座で「人はパンのみにて生きるにあらず」を標榜する「自己表現」の
星座ですね。
中村:茶道と剣道があり、一方に旅やお酒がある。ストイシズムと快楽、両極端の幅を広げている
だけですが、僕の場合、表現しすぎかもしれません(笑)。
Profile
鏡リュウジ
Ryuji kagami
1968 年 3 月 2 日生まれ。国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了(比較文化)
。雑誌、テレビ、
ラジオなど幅広いメデイアで活躍。占星術、占いへの心理学的アプローチを日本に紹介し、幅広い
層から圧倒的な支持を受け、従来の『占い』のイメージを一新する。英国占星術協会、英国職業占
星術協会会員。日本トランスパーソナル学会理事。平安女学院大学客員教授。
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