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高分解能およびその場電子顕微鏡法を用いた 強誘電体セラミックス

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高分解能およびその場電子顕微鏡法を用いた 強誘電体セラミックス
The Murata Science Foundation
高分解能およびその場電子顕微鏡法を用いた
強誘電体セラミックスに関する研究
High-Resolution and In-Situ Electron Microscopy Study on Ferroelectric Ceramics
A01133
代表研究者 佐 藤 幸 生 東京大学 大学院工学系研究科 総合研究機構 助教
Yukio Sato
Assistant Professor, Institute of Engineering Innovation,
Graduate School of Engineering, The University of Tokyo
Solid solution of lead magnesium niobate (Pb(Mg1/3Nb2/3)O3: PMN) and lead titanate (PbTiO3:
PT) (PMN-PT) shows very high piezoelectric constant. Therefore, it is utilized for medical
imaging devices. It is known that piezoelectricity of PMN-PT increases as the composition
approaches PT content of ~ 30 %. Since position of ions within the crystals plays central
roles in ferroelectric/piezoelectric crystals, crystal structure of PMN-PT has been intensively
investigated. In recent years, new monoclinic crystal phases have been found around this
compositional region. On the contrary, it has been also suggested that miniaturized domain
structure often observed in this compound may mimic the macroscopically obtained diffraction
patterns. Therefore, crystal structure within miniaturized nano-meter scale domains is not
necessarily clearly understood. On the other hand, domain structure, in addition to crystal
structure, also plays important roles in ferroelectrics. As mentioned before, it has been reported
that domain structures miniaturized down to nano-meter scale in PMN-PT with MPB. However,
response of domain structure by applying electric fields has not been clearly observed yet.
In the present study, we aim to understand (i) crystal structure within nano-scale domains
in PMN-PT with the use of atomic-resolution scanning transmission electron microscopy
(STEM) and (ii) response of nano-meter scale domain structure in PMN-PT by applying
electric fields. We are going to use annular dark-field (ADF) and annular bright-field (ABF)
STEM for observing the locations of cations as well as oxygen ions within domains. On the
other hand, we will attempt in-situ electrical biasing transmission electron microscopy (TEM)
observations for direct real-time observation of the response of nano-scale domains in PMNPT. With these experimental approaches, we try to obtain further insights into understanding
of high-piezoelectricity mechanism of this material.
─ 435 ─
Annual Report No.25 2011
を行い、ドメイン構造の電界に対する応答を
研究目的
調べる。得られた結果から、ドメインウォー
Pb
(Mg1/3Nb2/3)O3 とPbTiO3 の固溶体(PMN-
ル移動の速度・方向、ドメインウォール方位
PT)はそのMorphotropic phase boundary(MPB)
の変化、構造変化の可逆・不可逆性などにつ
近傍の組(PTが30%程度の組成)において高
いて検討を行う。
い圧電特性を示すこと、また、物性および構
概 要
造的な観点からも学術的に非常に興味深いこ
とから、熱心に研究が行われている。高い圧
マグネシウムニオブ酸鉛Pb
(Mg1/3 Nb2/3)
O3と
電特性を示すMPB近傍組成のPMN-PTではマ
チタン酸鉛PbTiO3 の固溶体(PMN-PT)はそ
クロスコピックな回折実験からはMonoclinic
の単結晶が高い圧電特性を示し医療用の超音
相の存在が報告されており、高い圧電特性と
波プローブなどに用いられている。P T 量が
関連づけて議論されている。一方で、ミクロ
30~35%程度の組成領域はMorphotropic phase
スコピックな観察からはドメイン構造の微細
boundary(MPB)と呼ばれており、圧電特性
化、またそれに伴うナノメートル/ミクロン
が非常に高くなることが知られている。強誘電
オーダーのドメイン構造による階層構造の形
体(圧電体)の結晶においては、結晶内部の
成などが報告されている。これらマクロスコ
原子位置等を含む結晶構造がその特性発現に
ピックな圧電特性、回折実験およびミクロス
重要な役割を果たすため、PMN-PTにおいても
コピックなドメイン構造観察の結果は統一的
MPB近傍組成での結晶構造については熱心に
に理解されるには至っていない。
研究が行われてきている。しかしながら、この
本研究では、PMN-PT結晶中における原子
材料系においては同時にドメイン構造の微細化
位置の直接観察を高分解能走査透過型電子顕
も起こっているため、単一ドメイン内の結晶構
微鏡法(STEM)により行うことを第一の目的
造の理解が必ずしも容易ではない可能性も指
とする。通常の観察モードである暗視野STEM
摘されている。一方、強誘電体の結晶におい
法に加えて明視野STEM法を併用することによ
ては、結晶構造に加えてドメイン構造も特性
り、陽イオンおよび酸素イオン位置の観察を
発現に重要な役割を果たす。この材料におい
狙う。それにより、PMN-PT中の各ドメイン内
ては、ドメイン構造が数十ナノメートル程度に
の電気分極方向、ナノスケールドメインレベル
微細化されていることが報告されており、高密
での結晶相、ドメインウォールでの原子配列
度のドメインないしドメインウォールが材料中
などについての知見を得ることを目的とする。
に存在することからその影響がより重要になる
また、PMN-PT結晶中でのナノスケール/
可能性が考えられる。ドメイン構造が特性に
ミクロンスケールドメイン構造の電界に対す
与える影響を本質的に良く理解するためには、
る応答についての知見を得るため、透過型電
電界や応力を印加した際のドメイン構造の応
子顕微鏡(TEM)内での電圧印加その場観察
答を理解することが重要となるが、これまでに
を行う。TEM観察用試料、収束イオンビーム
PMN-PT中のナノスケールドメインに関して、
装置(FIB)による加工形状等を最適化して、
ドメイン構造の電界に対する応答をリアルタイ
最適な試料デザインの設計を行う。TEM内で
ムで直接観察した例は報告されていない。
電圧を印加しながら、明視野・暗視野像観察
そこで本研究では、①MPB近傍の組成を有
─ 436 ─
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するPMN-PT中の単一ドメイン内での結晶構
ことが明らかとなった。このドメイン構造の応
造を理解するために高分解能走査透過型電子
答はナノスケールのドメインウォールの方位変
顕微鏡(STEM: Scanning Transmission Elec-
化ならびにそれより大きな階層のマイクロスケー
tron Microscopy)法による原子位置の直接観
ルのドメインウォールの移動ならびに消滅によ
察を行うことならびに②PMN-PT中のナノス
り起こることが明らかとなった。また、この応
ケールドメインが電界に対してどのように応
答は電界の印加および開放に関して可逆的であ
答するかをリアルタイムで直接その場観察す
り、形状記憶効果を示すことも明らかとなった。
ることを目的として研究を行った。以下、結
果について簡単に紹介する。
−以下割愛−
S T E M観察は通常用いる観察のモードであ
る環状暗視野(ADF: annular dark-field)法
に加えて、近年提唱されている環状暗視野
(ABF: annular bright-field)法を併用して行っ
た。ADF STEMでは重元素位置の観察が容易
でなおかつ原子番号に依存したコントラスト
が得られるのに対して、ABF STEMではADF
S T E Mが不得手とする軽元素の観察に適して
いる。両方の手法を相補的に用いることによ
り、結晶中の全ての原子位置を直接観察する
ことができる。この手法を用いてPMN-PT結
晶を観察すると、AサイトイオンのPb、Bサイ
トのMg/Nb/Tiに加えて、Oイオンの位置も観
察可能であることが分かった。観察はペロブ
スカイト基本格子の<100>、
<110>および<
111>方向からの投影で行ったが、いずれの場
合においても立方晶の場合に想定される位置
からの原子変位が観察された。詳細な投影原
子位置の解析を現在行っているところである
が、これまでに得られた原子変位の傾向から
tetragonal相やrhombohedral相との整合性は得
られず、ナノスケールドメインの結晶構造は
より低い対称性の構造(例えば、monoclinic
相など)である可能性が示唆される。
一方で、今回の試料においても既報と同様
のドメイン構造の微細化が認められた。この試
料にTE M内である一定以上の電界を印加する
と、ナノスケールのドメインが瞬時に応答する
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