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拡大するクリーン開発メカニズム(CDM)投資 ∼OECD

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拡大するクリーン開発メカニズム(CDM)投資 ∼OECD
2004 年 8 月 4 日発行
拡大するクリーン開発メカニズム(CDM)投資
∼OECD 報告書より∼
要 旨
京都議定書で、2008∼2012 年(第一約束期間)における温室効果ガスの排出削
減目標が課せられている先進国等では、将来の義務履行に備えて早期に排出権が取
得できるクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism : CDM)
への取り組みが本格化している。
経済協力開発機構(OECD)が 2004 年 6 月に公表した報告書によると、既に世
界 48 か国で 160 以上のプロジェクトが CDM 事業として計画中あるいは進行中
である。それらの事業により、第一約束期間には年間約 3,200 万トンの排出削減
が実現すると試算されている。また、国際機関や各国政府が組成した炭素ファンド
や投資プログラムを通じて、これまでに 8 億ドルを超える資金が CDM 事業から生
み出される排出権の取得のために投じられている。
現在進行中の CDM 事業について、投資受入国(ホスト国)の分布状況を見ると、
ラテンアメリカやアジア地域が大半を占め、なかでもブラジル、インド、中国とい
った数か国に集中している。他方、事業の種類では、①バイオマスや水力等による
再生可能エネルギー発電、②廃棄物埋め立て場や炭鉱で発生するメタンガスの回
収・排出削減、③HFC-23 等のフロンガス破壊の 3 分野の事業から多くの排出権
が獲得される見込みである。最近の傾向としては、削減効果および削減にかかる費
用対効果が高い、フロンガスの回収・破壊やメタンガスの回収・削減事業の案件数
が急速に伸びている。
今後わが国が CDM を活用する際には、第一約束期間における排出権の需給動向や
ホスト国のニーズを踏まえたうえで、出来る限り低コストで排出削減を達成するこ
と、自国産業の競争優位を生かすこと、さらに地球全体の長期的な温暖化抑制効果
の確保などを総合的に勘案して事業を実施していくことが求められよう。
〔政策調査部
江崎美紀子〕
本誌に関するお問い合わせは
みずほ総合研究所株式会社 調査本部 電話(03)3201-0582 まで。
1
1. はじめに
京都議定書で、2008∼2012 年(第一約束期間)における温室効果ガスの排出削減目標が
課せられている先進国等(附属書 I 国1)で削減義務の達成に向けた動きが活発となってい
る。特に、昨年 12 月にミラノで開催された気候変動枠組条約第 9 回締約国会議(COP 92)
で、自国内で実施する削減策に加えて各国に認められている削減手法である「京都メカニ
ズム」に関するルールがほぼ整ったことから、その活用が本格化してきた。「京都メカニ
ズム」とは、他国で行った削減事業で実現した削減量を自国の削減分と見なす制度や、削
減義務以上の削減を達成できる国と排出権取引をする、といった他国と協調して削減する
仕組みで、具体的には①クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism :
CDM)、②共同実施(Joint Implementation : JI)、③排出量取引(Emissions Trading :
ET)の 3 つがある(図表1)。CDM の場合、2000 年以降に開始された事業は、2005 年
末までに条約当局 3 への登録手続きを行えば、2000 年に遡って排出権(Certificated
Emission
Reduction
: CER)が発行されるため、2008 年を待たずに CER を取得する
ことができる。附属書I国は、将来の義務履行に備えて早期に排出権が取得できることか
ら CDM への取り組みを先行させている。本稿では、経済協力開発機構(OECD)が 6 月
に公表した CDM の進捗状況をまとめた報告書4を基に、CDM への投資の現状と今後わが
国が CDM を活用する際に考慮すべき点を整理する。
京都メカニズム
クリーン開 発メカニズム
(CDM:Clean
Development
Mechanism)
・
・
・
共 同 実 施
(JI:Joint
Implementation) ・
排出量取引
・
(ET:Emissions
Trading)
(図表 1)京都メカニズムの概要
概 要
附属書 I 国/企業が非附属書 I 国で実施した排出削減事業や植林など
の吸収源(シンク)事業から得られた排出権(CER ; Certified Emission
Reduction)を自国/自社に移転する制度。
2008 年以前の CER 獲得が可能。取引開始は 2008 年以降。
附属書 I 国が共同で実施した排出削減事業およびシンク事業から得ら
れた排出権(ERU;Emission Reduction Unit)を移転する制度。
ERU の獲得・取引が可能になるのは 2008 年以降。
附属書 I 国間で、初期割当量(AAU;Assigned Amount Unit)やシン
クによる吸収量(RMU;Removal Unit)の一部、および ERU、CER
を移転する制度。取引開始は 2008 年以降。
(資料)各種資料よりみずほ総研作成
2. クリーン開発メカニズム(CDM)とは
(1) 先進国(附属書 I 国)への排出権の移転の仕組み
CDM とは、附属書I国の政府または企業が、排出削減義務のない非附属書 I 国 1 で省エ
ネ設備導入などの排出削減事業を行った場合に、当該事業による削減量を自国/自社の削
減量として換算できる制度である。CDM 事業は、削減義務が課せられていない非附属書I
国で実現された削減量の全部または一部が CER(CO21 トン分の削減が一単位)として附
1
2
3
4
先進国および中東欧諸国など 41 か国で構成され、京都議定書の” ANNEX I”に記載されていることから
附属書 I 国という。他方、排出削減義務が課されていない締約国(主に発展途上国)のことを非附属書 I
国という。
Ninth Conference of the Parties to the U.N. Framework Convention on Climate Change
実質的には CDM 理事会(3 頁参照)。ただし、手続きとしては最終的に COP の承認が必要。
“Taking Stock of Progress Under The Clean Development Mechanism(CDM)”15 Jun, 2004
2
属書I国に移転するため、附属書I国の総排出枠の増加につながる(図表 2)。そのため、
CDM には次項に示す厳格な事業認可および CER の算定・検証制度が定められている。
(2) CER 取得までの流れ
CDM 関連機関の役割
CDM を実質的に管理・
監督するのは、COP の下に
設置された CDM 理事会で
のベースラインおよびモ
論5」の承認である。ベース
投資国(附属書
I 国)の総排出枠
投資国側
参加者へ移転
ホスト国内の
特定のサイト
CER 取得
分が増え
る
CER
排出量
ニタリングに関する「方法
(図表 2)CDM による排出権の移転
削 減量
重要な役割は、CDM 事業
ホスト国内の
特定のサイト
排 出 量 排出 見通 し︶
ある。CDM 理事会の最も
投資受入(ホスト国)
(非附属書 I 国)
には総排出枠がない
(
a.
ホスト国側に分配
ライン排出量の設定やモ
ニタリング方法如何で、
CDM 事業実施者が取得で
プロジェクト実施前
プロジェクト実施後
(資料)環境省「図説 京都メカニズム」より作成
きる CER の量が大きく変
動するため、方法論は厳正に審査される。方法論は個々のプロジェクトに固有のものでは
なく、他の類似のプロジェクトにも適用可能な一般化されたものである。CDM 理事会傘下
の専門パネルで審議・承認された方法論は、CDM 理事会で正式に登録され、その後の事業
実施者が利用できるようになる。CDM 理事会が担うもう一つの重要な役割は、CDM 事業
の有効性の審査や事業による排出削減量を検証する第三者機関である指定運営機関
(Designated Operational Entity: DOE)の信任である6。
b.
CER 獲得までの手続き
次に実際に附属書 I 国の企業が CDM を実施し、CER を取得するまでの流れを見る。
(a) 事業承認の取得
CDM 事業を実施するには、まず自国およびホスト国の承認を受ける必要がある。CDM
事業の承認窓口となる指定国家機関(Designated National Authority: DNA)の設置も京
都メカニズムの参加要件となっており、日本では 2002 年 7 月の地球温暖化対策推進本部の
決定により管轄官庁の代表から成る「京都メカニズム活用連絡会」が DNA に指定された。
日本国内の手続きは、事業の基本的事項を盛り込んだ書類を「京都メカニズム活用連絡会」
へ提出し、承認書の発行を受けることとなっている。2004 年 7 月末までに 8 件の CDM 事
業が日本政府により承認されている(図表 3)。他方、ホスト国の承認はホスト国政府が
5
6
「方法論」とは、CDM 事業から発生する排出権を算定するために、当該事業がなければ排出されていた
であろう排出量(ベースライン排出量)や、同事業の実施に伴う実際の排出量を評価・計測(モニタリン
グ)するための手法で、ある事業が CDM 事業として認定されるためには、CDM 理事会で承認された方
法論を用いることが必要となる。これまでに 35 件の方法論が審査され、うち 11 件が承認された。
これまでに 22 機関(うち日系 6 機関)が信任申請を行っており、うち 2 機関の信任が決定している。
3
定める国内手続きに従って行われるが、当該事業がホスト国の持続可能な開発に寄与する
ものであることの承認を得なければならない。
(図表 3)日本政府が承認済みの CDM 事業(2004 年 7 月末現在)
申
豊
電
イ
ケ
関
請
田 通
源 開
ネ オ
ミ カ
西 電
者
商
発
ス
ル
力
実 施 国
プロジェクトの概要
ブ ラ ジ ル 鉄鋼会社の燃料を石炭からバイオマスに転換
タ
イ ゴム木廃材を利用したバイオマス発電
年間 CER 獲得量
約 113 万トン CO2
約 6 万 t トン CO2
(注2)
韓
国
HCFC22 の副生産物としての HFC23 の破壊 約 140 万トン CO2
ブータン
未電化の村に小規模水力発電所を建設
約 500 トン CO2
王
国
日本ベトナム
油田において当初焼却処分していた随伴ガス
ベトナム
約 68 万トン CO2
石
油
を回収しパイプラインを建設して陸上に供給
(注1)
(注2)
住 友 商 事
イ ン ド HCFC22 の副生産物としての HFC23 の破壊
中 部 電 力
タ
電 源 開 発
チ
約 338 万トン CO2
イ 新規のもみ殻発電プラントの建設・発電
約 8.4 万トン CO2
食品製造工場の燃料を石炭および石油燃料か
リ
約 1.4 万トン CO2
ら天然ガスに転換
(注 1)e7 基金を代表して申請。e 7 とはG7加盟国の電力会社が持続可能なエネルギー開発等
へ貢献する目的で 92 年に設立した非営利組織。
(注2)HCFC22、HFC23 は代替フロン類(図表 6 参照)。
(資料) 経済産業省「CDM プロジェクト政府承認審査結果について」、2004 年 7 月 22 日より作成
(図表 4)CDM 事業の流れ
投資国・ホスト国の DNA による
事業承認
(b) プロジェクト設計書(PDD)の作成
事業承認が得られれば、実施企業は、事業の概要や
ベースライン/モニタリング方法論、CER 獲得期間な
どを記載したプロジェクト設計書(Project Design
事業実施者による PDD 作成
Document: PDD)を作成する。既に登録済みの方法論
が適用できればそれを使用するが、新しい方法論を申
CDM 理事会による新ベース
ライン・モニタリング方法論の承認
請する場合には、CDM 理事会に方法論についての承認
を得る必要がある。現在までに 11 の方法論しか承認さ
れていないため、事実上ほとんどの事業が新方法論の
DOE による事業の有効化
審査(Validation)
承認申請を伴う。
(c) 事業の有効化/排出量の認証
方法論の承認プロセスを経た事業が正式に CDM と
CDM理事会による事業の登録認可
事
業
開
始
DOE による削減量の
検証(Verification)/
認証(Certification)
して認められるためには、指定運営機関(DOE)によ
る「有効化審査」を受けなくてはならない。DOE は、
実施企業が作成した PDD を基に、当該事業が京都議
定書等に定められた CDM の要件(投資国・ホスト国
の DNA が決まっていること、事業がない場合に比べ
て追加的な排出削減が実現することなど)を満たして
CDM 理事会による CER 発行
いるかを審査する。DOE により有効とされた事業は、
を CDM 理事会で登録審査を受ける。
4
CDM 理事会の登録認可を受けて事業を開始した実施企業は、PDD に記載したモニタリ
ング方法に基づいて排出量を計測し、その結果を DOE に報告する。DOE は、実施企業の
モニタリング報告を定期的に検証し、さらに当該事業が一定期間内に実現した削減量を認
証して CDM 理事会に報告する。CDM 理事会は、審査をしたうえで認証された排出削減量
に相当する CER を発行する。発行された CER は、実施企業およびホスト国の要請にした
がって各関係者に移転される。
(3) CDM 実施前にかかる各種手続き費用
CDM 事業の実施には、案件発掘やフィージビリティ・スタディーのためのコストといっ
た、海外プロジェクトの実施に共通して必要となる費用に加えて、前項に示した各種手続
きにかかる費用など、CDM 特有の費用が発生する。事業の種類や規模によって差はあるも
のの、CDM 事業の実施者にとって、ベースライン/モニタリング方法論の構築および PDD
の作成費用、またそのための専門家へのコンサルティング料の支払い、DOE による事業の
有効化審査にかかる費用などの負担が大きい。
図表 5 は、CDM の実施前に必要となる費用について国際機関等が試算したものである。
二機関の算出結果にはかなりの幅があるが、最小に見積もった場合でも 3 万ユーロ(約 400
万円)、最大で 26 万 5,000 ドル(約 2,900 万円)の費用が発生することが見込まれる。
OECD の報告書によると、現在進行中の CDM 事業で既に排出権の購入契約が締結済みの
ものでは、CER の価格は CO2 1 トンあたり 2.47∼5.5 ユーロ(約 333 円∼743 円)の間に
設定されている。CER の価格が仮におよそ 500 円だったとすると、実施前の費用を低く抑
えられた場合でも、1 万トン以上の CER が発生しなくては初期投資分を回収できないこと
になる。
(図表 5)CDM 事業の実施前費用の試算例
費用項目
世銀試算(千ドル)
デンマーク・エネルギー省試算(千ユーロ)
案件発掘、フィージビリティ・スタディ
排出権購入契約の交渉
ベースライン/モニタリング方法論、PDD 作成
専門家によるコンサルティング・事業評価
DOE による事業の有効化審査
40
50
40
105
30
20−50
−
見積もりなし
5−40
5−25
合
265
30−115
計
(注)下記資料のデータ源は、World Bank, 2003, Small-scale CDM Projects: An Overview, Carbon
Finance Unit、 DEA(Danish National Authority)2002, Joint Implementation and Clean
Development Mechanism Projects−Manual for Project Developers, version 1, May 2002。
(資料)Table4:Estimates of pre-implementation transaction costs for CDM projects , Taking Stock
of Progress Under The Clean Development Mechanism(CDM) より抜粋
(4) 温室効果ガス削減事業の種類別特徴
京都議定書で削減すべき対象に入れられた温室効果ガスは、CO2 以外にも 5 種類あり(図
表 6 参照)、それらの排出削減事業は、幅広い産業分野で様々な技術を使って実施される。
CDM に適合する主な削減事業としては、バイオマスや水力等による発電を行う再生可能エ
ネルギー事業や省エネ機器導入等によるエネルギー効率改善事業、廃棄物の埋め立て場や
5
炭鉱で発生するメタンガスの回収・排出削減事業、エアコンや冷蔵庫用の冷媒として使わ
れるフロンガスの破壊事業、セメント製造時の石灰石消費により排出される CO2 の削減事
業、植林等の CO2 吸収源事業などがある。
これらの事業はそれぞれ、一事業当たりの削減効果や削減ポテンシャル、ホスト国への
技術移転の可能性、削減にかかるコストなどが異なり、それが CDM 事業に対する投資イ
ンセンティブにも大きな影響を及ぼしている。各事業の特徴を一覧表にしたのが図表 7 で
ある。以下に事業の種類別特徴を詳しく見ていく。
a.
事業当たりの削減効果
まず、削減される温室効果ガスの種類によって、事業一件あたりの削減規模が変わる。
それは、地球温暖化をもたらす効果がガスごとに異なるためである。各ガスの温室効果は、
CO2 の温室効果に対する比(地球温暖化係数という)で表される。例えばメタンの温室効
果は CO2 の 21 倍、フロンガスの温室効果は 150∼11,700 倍となっている(図表 6)。フ
ロンガスのなかでも HFC-23 の温暖化係数は 11,700 であるため、HFC-23 を 1 トン減らす
と、CO2 を 11,700 トン減らしたのと同じ効果が得られることになる。そのため、HFC-23
の破壊事業の事業あたり削減効果は非常に高い。
(図表 6)温室効果ガスの種類と温暖化係数
温室効果ガス
地球温暖化係数
排出源の例
二酸化炭素(CO2)
メタン(CH4)
一酸化二窒素(N2O)
ハ イ ド ロフルオロカ
ーボン類(HFC)(注)
パ ー フ ルオロカーボ
ン類(PFC)(注)
六ふっ化硫黄(SF6)
1
21
310
発電所・工場等での化石燃料の燃焼、自動車の運行
燃料の燃焼、廃棄物処分場、稲作、家畜の腸内発酵
燃料の燃焼、自動車の運行、工業プロセス、廃棄物処分場
150∼11,700
スプレー、エアコンや冷蔵庫用の冷媒等
6,500∼7,400
電子部品等精密機器の洗浄や半導体の製造工程等
23,900
電気の絶縁体等
(注)オゾン層を破壊するフロン類の製造禁止に伴い、使用量が増加している代替フロン類。
(資料)地球温暖化対策の推進に関する法律施行令第4条、その他各種資料より作成
(図表 7)主な CDM 事業の種類別特徴
プロジェクト 再 生 可 能
の
種
類 エネルギー
削 減 ガ ス
主に CO2
一事業当たり 少∼多まで
削減量(効果)
様々
削減ポテンシシャル
20.4
(百万 t)(注)
技 術 移 転
高い
の 可 能 性
CER 獲得
低∼高
コ
ス
ト
ベースライン設定
高
の 難 易 度
メ タ ン
回収・削減
フロンガス
回収・破壊
セ メ ン ト エネルギー
製
造 効率改善
吸 収 源
(シンク)
CH4
HFC-23
主に CO2
主に CO2
CO2
中∼多まで
様々
非常に多い
多い
少ない
少∼多
229.1
18.6
1.4
219.1
7.8
低∼中
低い
中程度
中∼高
n/a
低∼中
非常に低い
低∼高
低∼高
低∼中
低
低
低∼高
中
高
(注)2010 年時点で 1t あたり 5 ドルの場合を想定。
(資料) Table5:Summary characteristic of potentially widespread CDM project types, Taking Stock of
Progress Under The Clean Development Mechanism(CDM) より抜粋。
6
b.
削減ポテンシャルと技術移転の可能性
非附属書 I 国において、今後どの程度、事業が実施される可能性があるかという将来の
削減ポテンシャルの観点では、特にメタン回収およびエネルギー効率改善事業での温室効
果ガス削減の余地が大きい。2010 年時点で、両事業合わせて約 4 億 5,000 万トンの削減が
達成される可能性があると試算されている。また、ホスト国への技術移転の可能性は、エ
ネルギー分野の事業が比較的高くなっている。
c.
CER 獲得にかかるコスト
CER 獲得にかかるコストは、「事業実施にかかる費用」を「得られる CER の量」で割
ることによって求められ、削減にかかる費用対効果の指標となる。メタンガス回収やフロ
ンガス破壊を行う場合、既に操業している工場等で、ガスが排出されている部分に回収・
破壊装置を取り付ける事業(エンド・オブ・パイプ型)となるため、新規に風力発電所を
建設したり、大型の省エネ機器を導入する事業(新技術導入型)となるエネルギー分野の
事業に比べて、投資規模は小さくて済む。そのうえ、メタン/フロンガス類の温暖化係数
は高く、一事業当たりの削減効果も大きいことから、メタンガス回収およびフロンガス破
壊事業は、CO2 削減事業に比べて CER 獲得コストは非常に低い。
d.
ベースライン設定の難易度
CDM としての承認を得るため事業実施者は、当該事業がなかったら排出されていたであ
ろうベースライン排出量を設定して、事業により達成される削減量、すなわち獲得できる
CER を算出し、その根拠を PDD や方法論のなかで論理的に説明する必要がある。
メタンガス回収やフロンガス破壊事業の場合、ホスト国で法令等によりメタン/フロン
ガスの回収・破壊が義務付けられていなければ、現地の工場でわざわざ設備投資をしてメ
タン/フロンガスを回収・破壊するインセンティブは生じないと考えられる。したがって、
ベースライン排出量は、現状のままメタン/フロンガスを放出していた時の排出量とする
のが自然であり、その他のケースを想定する余地があまりない。さらにメタンガス回収、
フロンガス破壊事業はエンド・オブ・パイプ型であることから、工場外に排出されるガス
の部分のみを捉えればよく、その意味でもベースラインの設定がしやすい。
他方、再生可能エネルギーやエネルギー効率改善などの新規のエネルギー技術を導入す
る事業の場合は、ホスト国のエネルギー技術水準やエネルギー利用の慣行等の評価の仕方
によってベースライン排出量が大きく変動するうえ、事業による CO2 削減効果を厳密に把
握するためには、事業の全工程の排出量を捉える必要があることから、ベースライン排出
量の設定に伴う不確実性が高い。
3. CDM 事業の実施状況
(1) CER の需給予測と市場規模
上記2.で示した手続きを経て CDM 事業が正式に登録されるにはまだ至っていないが、
OECD の報告書によると、現在、既に世界 48 か国で 160 以上のプロジェクトが CDM 事
7
業として計画中あるいは進行中である。それらの事業には、CO2、メタン、フロン類、一
酸化二窒素といった温室効果ガスを削減するものが含まれており、削減量が 100 トン以下
の小規模なものから、300 万トン以上の大規模なものまで様々となっている。それらの事
業全体で、2008 年以前には約 5,000 万トン、第一約束期間には年間約 3,200 万トンの削減
が実現し、それに伴い CER の取引市場は、年間 5,000 万トン∼5 億トン規模に拡大すると
予想されている7。
他方、CER に対する需要は、各附属書 I 国の削減目標が、実際の排出量に対してどの程
度厳しい設定となっているか、つまり現行の対策を継続した場合に第一約束期間に見込ま
れる実際の排出量と目標排出量との差(「排出量ギャップ」という)がどの程度の規模に
なるのかによって決まる。報告書では、2010 年の附属書 I 国(米・豪を除く)の排出量ギ
ャップは、2 億 7,500 万∼8 億 8,000 万トンになるとの試算結果が紹介されている8。CER
に対する需要は、そのほか、国内削減策も含む CDM 以外の追加的な削減策の可能性、お
よびそれらの対策コストと CER の価格水準などにも影響を受ける。
(2) 主な CDM 投資ファンド・CER 調達制度
CDM の制度は、事業実施者にとり、温室効果ガスの排出削減を達成するだけでなく、排
出削減分の CER を獲得し、それらを取引することによって金銭収入を得ることもできる魅
力的な仕組みである。ただ、事業承認プロセスの煩雑さや実施前に多大な取引費用がかか
ることに加えて、議定書の発効が不透明な情勢のなかで、CDM 事業実施による削減量が議
定書上、有効な排出権として認められるか、また今後、排出権の価格が一定レベル以上の
水準で推移するかといったリスクが存在することから、民間企業が単独で CDM 事業に投
資することは難しいのが現実である。
実際、これまでに CER の獲得を目的として投入された 8 億ドルを超える資金のほとんど
が、国際機関や各国政府が組成した炭素ファンド9や投資プログラムを通じたものとなって
いる(図表 8)。政府による排出権買取システムの導入や炭素ファンドへの出資など、CDM
を活用するための体制整備は欧州連合(EU)諸国が先行している。EU 諸国のなかにはオ
ランダのように、自国に課せられた必要削減量の半分(約 2,500 万トン/年)を京都メカニ
ズムの活用により達成する方針を早くから打ち出し、そのための排出権調達制度を構築し
ている国もみられる。
今後、CDM の実施環境が整っていくにつれ、公的部門の資金を呼び水として民間部門の
資金の流れが増えていくと考えられることから、第一約束期間を通じた CER への投資金額
は、10 億ドル以上に達すると予想されている。
7
8
9
出典は、Grubb, Michael, 2003, On Carbon Prices and Volumes in the Evolving Carbon Market, in
Greenhouse Gas Emissions Trading and Project-based Mechanisms, OECD, Paris。
脚注 5 に同じ。
炭素ファンドとは、複数の CDM 事業に投資して得られた排出権を配当として投資家へ還元するもの。
8
(図表 8)主要な炭素ファンドおよび CDM/JI 排出権調達制度
ファンド名・実施国名
世 界 銀 行 Prototype
Carbon Fund (PCF)
世界銀行 Community
Development Carbon
Fund (CDCF)
世界銀行 BioCarbon
Fund
Italian Carbon Fund
Japan Carbon
Fund
CERUPT
Netherlands Carbon
Facility (INCaF)
The Netherlands
CDM Facility
(NCDMF)
Denmark
Finland
Sweden(SICLIP)
Austria
Germany
対象事業
CDM/JI
CDM(*1)
CDM/JI(*2)
CDM/JI
CDM/JI
CDM
CDM
CDM
CDM/JI
CDM/JI
CDM/JI
CDM/JI
CDM/JI
出資者・実施者
6 政府(カナダ,フィンランド,オランダ,ノル
ウェー,スウェーデン,日本)と 17 企業
4 政府(オーストリア,カナダ,イタリア,オラン
ダ)と 7 企業(日本、ドイツ、ス
ペイン、スイスほか)
2 政府(カナダ,イタリア)、企業(日
本の電力会社等)
イタリア政府および企業
資金規模
1 億 8,000 万ドル
4,000 万∼7,000 万
ドル
3,000 万∼5,000 万
ドル
2,000 万ドル(目標
額は 8,000 万ドル)
国際協力銀行と政策投資銀行
3,130 万 ユ ー ロ +
2,350 万ユーロ
オランダ政府
3,250 万ユーロ
オランダ政府(CER 買取実施機関 4,400 万ユーロ
は国際金融公社〔IFC〕)
オランダ政府(CER 買取実施機関 1 億 2,000 万∼1 億
は世界銀行)
6,000 万ドル(目標
は 3,200 万 t の調達)
デンマーク政府
1 億 2,000 万ユーロ
フィンランド政府
1,000 万ユーロ
スウェーデン政府
1,500 万ユーロ
オーストリア政府
7,200 万ユーロ
ドイツ開発銀行(KfW)、連邦 2,500 万∼5,000 万
政府等
ユーロ
(*1)CDM 案件のうち、途上国の小規模事業や農村地域のコミュニティ開発事業が対象。
(*2)植林等の吸収源事業が対象。
(注)下記資料のデータ源は、Pointcarbon November 2003, World Bank (undated) and Pinna 2003,
Halich 2003, Sinha 2004, Mulders 2004, Bostrom 2004
(資料)Table3:Selected CER/ERU procurement initiatives, Taking Stock of Progress Under The
Clean Development Mechanism(CDM) とその他資料を参考に作成
(3) CDM 事業の地域別分布状況と種類別割合
既に進行中の CDM 事業について、ホスト国の分布状況を見ると、大半がラテンアメリ
カやアジア地域で実施されており、なかでもブラジル、インド、中国といった数か国に集
中している(図表 9)。CDM 事業への投資が行われているのは、多少の例外を除き、海外
直接投資が大量に流入する国となっており、アフリカ諸国や中東諸国など直接投資の流入
量が少ない途上国では、指定国家機関(DNA)を設置したとしても、CDM 事業はあまり
実施されていないのが実状である。ブラジル、インド、中国、インドネシアの4か国で実
施される事業で、第一約束期間に発行が見込まれる CER 全体の約 56%を占め、年間 1,780
万トン分の CER が生み出されると試算されている。
また、ラテンアメリカ諸国では事業数が多いものの、年間に獲得できる排出権が少ない
ことから、一件当たりの排出削減量が少ないことが分かる。他方、アジア諸国の事業は、
数の割合に比べて獲得できる排出権の割合が多い。その背景には、一件当たりの排出削減
9
量が多いフロンガス破壊事業がインド、韓国で、またメタンガス回収事業が中国、ベトナ
ムで最近、着手されたことがある。
(図表 9)CDM 事業の国別割合
〔事業数および全体に占める割合〕
アフリカ, 9
7%
中東, 0
0%
欧州, 2
2%
〔年間獲得排出権の割合〕
中東
アフリカ 0%
5%
ブラジル,
15
11%
その他
アジア, 27
20%
インド, 23
17%
欧州
1% ブラジル
13%
その他
ラ米諸国
15%
その他
アジア
32%
その他
ラ米諸国,
52
40%
中国
11%
中国, 4
3%
インド
23%
(出所)図表 9,10 ともに“Taking Stock of Progress Under The Clean Development Mechanism(CDM)”15 Jun,
他方、事業の種類別では、①バイオマスや水力等による再生可能エネルギー発電、②廃
棄物埋め立て場や炭鉱で発生するメタンガスの回収・排出削減、③フロンガス破壊の 3 分
野の事業から多くの排出権が獲得される見込みである(図表 10)。再生可能エネルギー分
野は、事業数では全体の 6 割を占めているものの、見込まれる CER は全体の約 37%とな
っている。それに対して、フロンガス破壊事業はわずか 2 件で CER 全体の約 17%を発生
させる。また最近、事業数が伸びてきた廃棄物埋め立て場等のメタンガス回収事業も、多
くの CER(全体の約 23%)を生み出すことが見込まれている。
(図表 10)CDM 事業の種類別割合
〔年間獲得排出権の割合〕
〔事業数および全体に占める割合〕
セメント, 3 その他, 11交通, 4 植林, 5
2%
3%
3%
7%
燃料転換, 2
1%
バイオマス発電
等, 29
フロンガス破壊,
19%
2
1%
その他CH4削
減, 5
3%
埋め立て場メ
タンガス回収,
16
10%
熱・エネルギー その他再生
効率改善, 17 可能エネルギー,
21
11%
14%
水力発電, 39
26%
その他
4%
セメント
7%
燃料転換
3%
交通植林
2% 4%
バイオマス発電
等
13%
水力発電
12%
その他再生可
能エネルギー
12%
フロンガス破
壊
17%
その他CH4削
減
11%
熱・エネルギー
効率改善
埋め立て場メ 3%
タンガス回収
12%
メタンガス削減事業
10
再生可能
エネルギー事
業
(4) 最近の投資傾向
現在、進行中の CDM 事業のポートフォリオのなかで、数のうえで大半を占めているの
は、バイオマスや水力などを利用した再生可能エネルギー事業であり、必ずしも削減効果
が高い、あるいは将来的な削減ポテンシャルが高い事業とはなっていない。それは、CDM
市場において早期に着手された事業に、再生可能エネルギー分野のものが多く含まれてい
たことに起因する。ただ最近の傾向としては、エネルギー分野の CO2 削減事業は、新規の
エネルギー技術導入を伴い、資金集約的でかつ事業開始までのリードタイムも長いことか
ら、事業数が減少している。
エネルギー分野の事業に替わって急速に増加しているのが、削減効果および削減にかか
る費用対効果が高い、HFC-23 等のフロンガスの回収・破壊や廃棄物埋め立て場および炭
鉱におけるメタンガスの回収・削減事業であり、今後は、当該分野の案件数の伸びが見込
まれる。
4. 今後の展望
以上見てきた CDM の仕組みと実施状況から、今後わが国が CDM を活用する際に考慮
すべき点を整理する。
(1) 第一約束期間における CER 需給動向
2010 年の附属書 I 国(米・豪を除く)の排出量ギャップが、2 億 7,500 万∼8 億 8,000
万トンになるとの試算結果に対して、現在計画中あるいは進行中の CDM 事業により、第
一約束期間に見込まれる削減量は約 3,200 万トン/年である。したがって第一約束期間に
発生すると考えられる排出権に対する需要と比べて、CER の供給はわずかと言える。また、
2010 年時点でメタン回収およびエネルギー効率改善事業を合わせて約 4 億 5,000 万トンの
削減が達成される可能性があるものの、それらが実現するかどうかは、今後、CER の価格
が CDM 事業への投資インセンティブが維持される程度に高い水準で推移するか、また実
施者にとっての手続き上の負担やリスクが軽減される仕組みが構築されるかによって大き
く左右されるだろう。各附属書 I 国の国内対策で削減される量が限られることになれば、
CER への需要が高まり、さらに需給が逼迫することが見込まれる。このような状況下、わ
が国も EU 諸国にならって積極的に企業の CDM 事業への投資を促し、安価な CER 獲得の
手段を確保しておくことが重要となる。
(2) ホスト国の体制整備状況
3.(3)で見たように、CDM 取組実績は世界各国に広がっているとはいえ、その多くは対
象が限られた数か国に集中している。ホスト国となる非附属書I国の CDM に対する体制
整備状況は国によって相当の格差がみられる。なかには DNA を設置したうえ、事業を承
認する際に、自国の持続可能な開発に寄与するものであるか否かの判断基準を明確に打ち
出して、CDM 事業を誘致している国もある。例えば、中国政府は、温室効果ガスの排出削
減とそれに伴う追加的な資金源の確保、さらに自国産業への技術移転が実現する可能性の
11
高い、エネルギー分野およびメタン回収事業を優先的に採択する方針を公表している。
他方、多くの国では、当局の人材および資金不足により、CDM 事業に対する方針・組織
が未決定となっている。既に着手されている CDM 事業のなかにはホスト国の承認待ちの
ものもあることから、ホスト国における承認体制の整備、CDM に関する人材育成等が求め
られる。企業の CDM 実施を推進するためには、ホスト国との交渉が容易となるように、
途上国の DNA の整備状況に関する情報を提供したり、有望なホスト国候補であるアジア
諸国等と CER 移転に関する覚書を締結することも有効となろう。
(3) 様々な事業オプションと長期的な温暖化抑制効果への影響
前述のとおり、今後 CDM として実施される事業の多くは、排出削減の費用対効果が高
いメタンガス回収、フロンガス破壊事業となることが見込まれている。それらの事業によ
り、低コストで大量の排出権が生み出されれば、CER 市場は低価格の CER で占められる
ことになる。その結果、削減にかかる費用対効果の低い、つまり CER の獲得コストが高い
再生可能エネルギーやエネルギー効率改善事業の実施が妨げられることが懸念される。
世界エネルギー機関(IEA)のエネルギーアウトルック(2002)によると、世界のエネ
ルギー利用に伴う CO2 排出量のうち、OECD 非加盟国からの排出が 2000 年時点は全体の
45%だったのが、2030 年には 57%に拡大することが見込まれている。特に、同期間の中
国における CO2 排出量が 31 億から 67 億トンに倍増するとの試算結果を鑑みると、中国へ
の省エネルギーや再生可能エネルギー技術の移転は地球全体の温暖化抑制のために不可欠
と考えられる。
エネルギー分野の事業は、削減コストは高い一方で、技術移転や持続可能な発展への貢
献といった観点からは、長期的に高い効果をもたらすうえ、省エネ技術という日本企業の
強みを生かせる分野でもある。したがって、今後わが国が CDM に取組むにあたっては、
京都議定書の義務達成コストを出来る限り抑制すること、自国産業の競争優位を生かすこ
と、さらには地球全体の長期的な温暖化抑制効果を確保すること、などを総合的に勘案し
て事業を実施していくことが望まれる。
[参考文献]
Organization for Economic Co-operation and Development,“Taking Stock of Progress
Under
The
Clean
Development
Mechanism(CDM)”
,
By
Jane
Ellis,
Jan
Corfee-Morlot(OECD) and Harald Winkler (Energy Research Centre, University of
Cape Town) , 15 Jun, 2004
産業構造審議会環境部会地球環境小委員会(第 21 回)資料「今後の京都メカニズム活用
策の考え方」2004 年 6 月
経済産業省「CDM プロジェクト政府承認審査結果について」、2004 年 7 月
環境省「図説 京都メカニズム」
12
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