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2.10 間伐材の多様な活用と全工程でのコスト評価に関する実証事業
2.10 間伐材の多様な活用と全工程でのコスト評価に関する実証事業 (フルハシEPO株式会社) 2.10. 実証事業のねらいと実施内容 (1)実証事業のねらい 林野庁の「森林・林業再生プラン」では、2020年までに木材自給率を現行の20%から、 50%に引き上げることを掲げている。同プランにおいては、「バイオマス利用の促進」と して、製紙用や燃料用チップとしての国産材利用の促進が期待されているが、木材チップ の流通価格は、建築用材と比較すると極めて低い。さらに、条件の悪い林地では、搬出の コストを鑑みると安価な外国産チップとの競争力をもてないということは明らかである。 フルハシEPO株式会社が拠点を置く愛知県では、森林面積22万haのうち60%以上が人工 林であるが、そのほとんどは建築用材の生産を前提としたスギ・ヒノキ林である。このよ うな状況から、愛知県では原木チップの生産が少なく、年間素材生産量8万8,000㎥に対し て、原木由来の木材チップの年間生産量は約4,000㎥にとどまる。間伐材由来の木材チップ に関しては、ほとんど生産されていないのが現状である(出典『平成19年度 愛知県林業統 計書』愛知県農林水産部農林基盤担当局林務課)。 そこで、本事業では間伐未利用材のチップ化を前提としながら、その一段階前の工程と して、木製パレットへの加工し、都市部の各産業で利活用するステップを組み込むビジネ スモデルを提案する。すなわち、未利用材の一次的利用として木製パレット化、製材時の 端材および木製パレットの利用後のリサイクルといった二次的利用としてチップ化を想定 することで、カスケードモデル全体で収支を合わせようとするものである。 さらに、今年度は末木枝条の活用も含めた全体としての総合的な木質資源利活用モデル を提案する。 図2.10.1 本事業における木質資源利活用のフロー -201- (2)実証事業の内容、規模 本事業では、「間伐の実施」「間伐材の製材効率の改善についての実証事業」「末木・枝条等 の未利用資源の活用についての実証事業」「全工程でのコスト評価」を実施した。 「自力間伐の実施」 愛知県および三重県の12箇所において自力間伐を実施した。事業の規模については以下のとお りである。 表2.10.1 自力間伐の実施と林地未利用材の集材量 間伐実施場所 12箇所、計37.65ha 集材量 2,106.20㎥ 「未利用間伐材の製材効率の改善についての実証事業」 昨年度の実証事業では、未利用間伐材について一次的利用として、木製パレット製造、 端材および木製パレットのリサイクルという二次的利用としてチップ製造を想定するカス ケードモデルを提案した。モデルについては一定の有効性を確認することができたが、コ スト面では課題が残った。特に、昨年度は製材を外部委託していたため、そのコストが全 体の6割以上を占めるという結果になった。 昨年度実証事業の成果を受けて、ビジネス化に向けて平成21年3月、フルハシEPO株 式会社愛知第四工場に製材ラインを設置した。自社工場にて間伐未利用材の荷受け・選別 し、製材からパレット製造、さらには端材を用いたチップ製造を一貫して行うことで、効 率の改善を図った。 「末木・枝条等の未利用資源の活用についての実証事業」 従来、素材生産における収益向上の目的から、伐採木の総体としての利用が求められる なか、造材時に発生する末木・枝条についても活用方法が模索されている。そこで、本事 業では、昨年度は検討対象とすることができなかった末木・枝条について、a.試験的に 末木・枝条を搬出・運搬し、チップとして活用した際のビジネス性の検証、b.より高価 値な利用法としての枝条の炭化実験を実施した。 「全工程でのコスト評価」 実証事業の各工程の費用および、カスケードモデル全体での収支について、具体的に検 討する。 -202- (3)実証事業の実施期間、実施体制、実施場所 実証事業の実施期間、実施体制および実施場所については以下のとおりである。 a 実施期間 平成21年9月∼平成22年2月 b 実施体制 実施主体: フルハシEPO株式会社 共同実施者: 【自力間伐の実施】葵林業、新城森林組合、有限会社松井林設 【実証事業】中澤建設株式会社(炭化実験) 事業評価委員会: 委員長 北川勝弘(元名古屋大学教授) 委員 只木良也(名古屋大学名誉教授) 委員 松田敏明(愛知県チップ協会事務局長) 委員 青山正博(豊田森林組合業務課長) 事務局 前田雅之(フルハシEOP株式会社 執行役員 研究開発室室長) 事務局 石山重夫(フルハシEPO株式会社 開発事業部部長) 事務局 岸本 事務局 土屋直美(フルハシEPO株式会社 研究開発室) 聡(フルハシEPO株式会社 環境物流事業部副部長) c 実施場所 自力間伐の実施:愛知県、三重県の計12箇所 ニュービジネス実証事業 製材 : フルハシEPO株式会社愛知第四工場(愛知県知多郡武豊町) パレット製造 : フルハシEPO株式会社愛知第四工場(愛知県知多郡武豊町) チップ製造 : フルハシEPO株式会社愛知第一工場(愛知県春日井市) フルハシEPO株式会社愛知第四工場(愛知県知多郡武豊町) 末木・枝条の収集 : 三重県菰野町、三重県四日市市 末木・枝条の炭化 : 中澤建設株式会社小原製炭工場(愛知県豊田市) 2.10.2 実証事業の実施方法 (1)間伐の実施 愛知県および三重県の民有林計12箇所で間伐を実施した。一連の間伐作業は、一部自社 の林内作業班が実施したが、多くは連携する林業事業体が実施した。自力間伐の実施現場 は表2.10.2のとおりである。 集材した間伐未利用材は、木製パレットおよび各種チップ原料として全量を活用した。 -203- 表 2.10 2 自力間伐の実施現場 No. 現場名 面積 住所 (ha) 主な樹種 施業 1 明見 愛知県岡崎市 5.40 スギ ヒノキ 葵林業 2 高根山① 愛知県新城市 2.45 スギ ヒノキ 葵林業 3 高根山② 愛知県新城市 .10 スギ ヒノキ 葵林業 4 向山 愛知県新城市 .05 スギ ヒノキ 葵林業 5 下山・背戸山 愛知県新城市 4.02 スギ ヒノキ 葵林業 6 守義 愛知県新城市 3.93 スギ ヒノキ 葵林業 7 白鳥 愛知県新城市 7.30 スギ ヒノキ 新城森林組合 8 田代 愛知県新城市 3.35 スギ ヒノキ 新城森林組合 9 岩波 愛知県新城市 2.04 スギ ヒノキ 新城森林組合 10 嵩山 愛知県豊橋市 4.00 スギ ヒノキ 新城森林組合 三重県鈴鹿市 2.08 スギ・ヒノキ 三重県いなべ市 0.93 スギ・ヒノキ 11 12 鈴鹿山本 (ダズ林野) いなべ フルハシEPO 株式会社 有限会社 松井林設 写真2 10 1 燃料用チップ 写真2.10.2 製紙用チップ (2)間伐材の製材効率の改善についての実証事業 フルハシEPO株式会社では、木製パレットの製造および販売を行っている。主力工場 は、愛知第四工場で、年間の製造量は、105千台(約3,700㎡)である(2007年実績)。 パレット部材について、従来はニュージーランドおよびチリ産の植林木ラジアータパイ ン、北海道産のカラマツを使用していたが、物流面でのCO 2 排出量削減および国内森林保 全のための間伐推進の観点から、工場近隣地域より発生する間伐未利用材への置き換えに よる地産地消を進めている。 昨年度の実証事業を受けて、間伐未利用材を活用したパレットを「森林再生パレット」 として製品化、販売を開始している。 -204- 図2.10.2 フルハシEPOの森林再生 パレット 間伐未利用材を活用したカスケードモデル、パレットを利用すると、ユーザー企業が 間 接的に森林保全に貢献できるという点が評価され、愛知県が主催する「循環ビジネス創 出 会議」(平成21年12月21日開催)および、名古屋市が主催する「企業アピール大会」(平 成21年11月5日)等でも取り上げられた。 昨年度実証事業では、木製パレットを一次製品としたカスケード利用モデルの有効性 を 提示したが、本格的なビジネス化に向けて製材コストがボトルネックであることが明ら か になった。 今年度は、自社工場に製材ラインを整備し、製材効率やコストについて昨年度との比 較 を行った。製材機は、フルハシEPO㈱愛知第四工場に設置した。愛知第四工場は、既存設 備としてパレット製造ラインとチップ製造ラインがある。今回の製材ラインの新設によ り、原木の入荷から製材、パレット製造、端材のチップ製造まで一貫して行うことが可 能 となった。 今年度実証事業では、自社製材によるコスト圧縮と、歩留まり率の向上を目指した。 (3)末木・枝条等の未利用資源の活用についての実証事業 昨年度は実施しなかった、間伐に際して発生する末木・枝条について、搬出 運搬コ ス トの把握と活用方法の検討を行った。 a 末木・枝条を含めた搬出・利用 三重県鈴鹿市および四日市市において、試験的に末木・枝条を収集し、チップ原料とし -205- て利用した。搬出現場は表2.10.3のとおりである。 収集した末木・枝条は、フルハシEPO株式会社愛知第一工場にて破砕し、燃料用チップ として活用した。 表2.10.3 末木・枝条の搬出実証現場 面積 No. 現場名 住所 1 水沢市有林 三重県四日市市 3.3 2 鈴鹿山本 三重県鈴鹿市 0.45 B 末木・枝条の炭化実験 主な樹種 (ha) 施業 スギ、 フルハシEPO ヒノキ 株式会社 スギ、 フルハシEPO ヒノキ 株式会社 施業方法 間伐 皆伐 このほか、末木・枝条について、炭化実験を実施した。炭化する末木・枝条は、間伐後 1年が経過した枯れた状態のもの、間伐後まもない生木のものを用い、炭化時間や炭化物 の成分分析を行った。 炭化は、中澤建設株式会社小原製炭工場にて実施した。中澤建設株式会社小原製炭工場 の炭製造プラントの規格等は以下のとおりである。 表2.10.4 炭化実験に用いたプラントの概要 名称 KST型 炭製造プラント 種別等 自然式製炭炉(消煙装置装備) 寸法 生産量 外枠 W2540×D2540×H1900 内枠 W2300×D2300×H1500 120t/月(炭化炉6ユニット、留窯6ユニット) 中澤建設株式会社は、未利用バイオマスを炭化し、製鋼業で使用するコークスや重油の 代替燃料とするモデルで、大同エコメット株式会社と合同で2009年度愛知環境賞優秀賞を 受賞している。小原製炭工場では、従来、木くずを主な原料としてきたが、塗料や化学薬 品の付着している可能性があるため、生産した木炭の用途は燃料利用に限られていた。今 回、安全な原料である間伐未利用材を利用することにより、より高価値な製品へ活用でき る木炭を製造する、新たなビジネスモデルの構築可能性を検討する。 なお、本施設は平成20年度愛知県循環型社会形成事業費補助金交付により整備されたも のである。本実験では、企業連携と地域資源(プラント)の有効活用による地域新ビジネ スの創出を図った。 -206- 2.10.3 実証事業の実施結果 (1)間伐の実施と間伐材の木製パレットおよび各種木質チップへの利用実証 自力間伐現場12箇所における集材量は、以下の通りである。 表 2.10.5 自力間伐による集材量と用途区分 所在地 面積 (ha) 本事業の うち 助成対象 パレット原料 チップ原料 (㎥) うち (㎥) 明見 5.40 422.92 422.92 高根山① 2.45 246.37 246.37 高根山② 1.10 47.39 47.39 向山 1.05 49.79 49.79 下山・背戸山 4.02 97.28 97.28 守義 3.93 620.98 559.75 白鳥 7.30 86.74 86.74 田代 3.35 17.76 17.76 岩波 2.04 12.77 12.77 嵩山 4.00 79.39 79.39 鈴鹿山本(ダズ林野) 2.08 363.82 8.51 いなべ 0.93 60.93 60.93 37.65 2106.20 1709.72 合計 (㎥)* 61.24 335.24 396.48 *重量検収。1t=1.2㎥にて換算した。 昨年度実証事業では、建築用材の生産時に副次的に発生する根曲がり材を対象とした。 この方法には、副産物としての根曲がり材を利用するため、伐倒等にかかるコストを主産物 である建築用材産出の経費とみなすことで、根曲がり材自体は材価を抑えることができると いうメリットがあったが、一方で対象となる材の量が極めて限られるという問題があった。 事実、昨年度の実績では根曲がり材の発生量は出材量全体の7%程度にとどまった。 愛知県内では、年間で4,000haほどの間伐を実施しており、立木材積で11万㎥ほどの伐 採がなされているが、そのうちの6割はいわゆる「切り捨て間伐材」として未利用となっ ており、搬出・利用されている間伐材は年間で4万㎥程度である(表2.10.6参照)。 仮に、利用間伐のすべての現場から根曲がり材を集材することができても、集材量は 3,000㎥程度にとどまる(*46,109㎥×7%=3,227.63㎥)。間伐材利用をビジネス化するにあ たっては、規模の拡大が必要である。 そこで、今年度は根曲がり材の集材に加え、市場価格の低い低質スギ材や害虫被害木に ついては建築用材とすることを優先せず、すべてパレット用材とした。 間伐材を建築用材として市場に搬出することを想定した場合、建築用材となる良木を中心 に伐採するが、木製パレット原料であれば、小径木や多少の曲がりのある材等、低質木を 優先的に伐採することができ、「間伐」の本来的な意味である「低質木を伐採し、良木を -207- 表2.10.6 愛知県における間伐の実施と間伐材利用の状況 間伐実施面積 (ha) 間伐の立木材積伐 採量(素材換算) うち利用量 うち未利用量 利用率 (㎥) (㎥) (%) (㎥) 平成15年 3,377 79,110 36,115 42,995 46 平成16年 3,050 74,612 33,845 40,767 45 平成17年 3,418 87,117 39,792 47,325 46 平成18年 4,059 109 810 47 179 62,634 43 平成19年 4,147 110 219 46,109 64,110 42 『平成19年度愛知県林業統計書』(愛知県農林水産部農林基盤担当局林務課)より作成 残して成長を促すこと」を実践することができる。 パレット原料は、2.3mを規格とし、造材した。現場の声として、建築用材の造材に際して 必要である、曲がりの有無の確認、最適な造材方法の検討を省略することができ、結果、生 産効率が向上したという効果があった。自力間伐現場のうち、守義(愛知県新城市)の事例 を以下に示す。 表2.10.7 現場名 面積 施業 守義 3.93ha *1 葵林業 自力間伐現場(守義、愛知県新城市)の実施事例 所在地 愛知県新城市大字作手守義字三田武朗 樹種 スギ、ヒノキ 作業期間 22日 559.75㎥ 総人工 搬出内容 パレット用材 チップ用材 使用機材 チェーンソー、ザウルスロボ、グラップル 64人工 *2 61.24t 間伐前 -208- 間伐後 作業の様子 *1 森林簿による *2 作業道開設 土場整備 林道の雪かきを含む -209- 建築用材の生産の際に副次的に生じる根曲がり材と異なり、主産物をパレット用材とす る場合は、伐採費等を材価に反映させる必要がある。今回は、実地試験ということもあ り、伐採業者との協議により市場価格とほぼ同等とした。価格については、今後システム 化や作業効率の改善により圧縮に努めるが、依然として何らかの補助の活用がなければ困 難であるというのが現状である。 表2.10 8 現場名 守義 材の形状 パレット原料 2.3m定尺 パレット生産のコスト評価 材価 運賃 補助 工場着価格 (円/㎥) (円/㎥) (円/㎥) (円/㎥) 10,000 3,000 6,500 6,500 (2)間伐材の製材効率の改善についての実証事業 今年度、新たに自社工場に製材ラインを整備し、製材効率やコストについて昨年度との 比較を行った。 導入した製材ラインは次のとおりである。 図2.10.3 導入した低質間伐材用の製材ライン -210- 写真2.10.3 低質間伐材からのパレット用材の製材 製材実績および製材コスト、パレット製造工程における製材費の占める割合は次のとお りである。 -211- 表2 10 9 年度 平成21年度 製材寸法及び歩留まり 製材 フルハシ EPO㈱ 愛知第四工場 (参考) 岡崎森林組合 平成20年度 表2 10.10 年度 平成 21 年度 (参考) 平成20年度 製材 原木規格 製材品規格 歩留まり 2.3m、1.1m 1.1m 51% 1.1m、2.3m 1.1m 47.3% 製材コスト 原木の形状 フルハシEPO㈱ 2.3m、1.1m 愛知第四工場 岡崎森林組合 根曲がり、短尺 単価 (原木ベース) 7,270 円/㎥ 21,000 円/㎥ 表 2 10.11 製材コストの分析 年度 平成21年 項目 割合 原料費 23% 運賃 14% 製材費 37% 製造費 26% ※原料は、根曲がり材 (単価:4,500円/㎥) とした。 (参考) 平成20年度 原料費 12% 運賃 8% 製材費 66% 製造費 14% ※原料は、根曲がり材 (単価:4,000円/㎥) とした。 -212- 単価 (製品ベ ス)* 14,254 円/㎥ 44,680 円/㎥ 改善点として、素材生産業者の協力の下、原木の規格を1.1m、2 3mの2 つのサイズに統 一する等、規格を整備することで効率の改善を図った。また、製材端材(背板)について も、できる限りパレット部材として利用することで、歩留まり率が51%に向上した。 また、製材時に生じた端材については、愛知第四工場においてチップ原料とした。針葉 樹のバージンチップは、製紙用等マテリアル原料としての利用が可能である。今回は樹皮 含めた状態での端材の活用を検討するため、ボード用ピンチップに加工した。 また、フルハシEPO 株式会社では、ユーザー元で不要となった木製パレットの引き取り およびチップへのリサイクルを行っている。無垢材のパレットについては製紙用・ボード 用といったマテリアルチップへ、また、ベニヤや集成材が利用されているもの、腐りのあ るものはバイオマス燃料用チップへ加工する。今回の実証事業で製造した木質パレットに ついても、長期的スパンでは概念上、マテリアルチップ(製紙、ボード等)の原料として 評価することができる。 (3)末木・枝条等の未利用資源の活用についての実証事業 a 末木・枝条の搬出・活用 試験地のうち、鈴鹿山本では、末木・枝条のほか根株を含めてすべての資材を搬出 利 用した。これに対し、水沢市有林では、幹材を中心とし、試験的に一部の末木・枝条を搬 出した。 写真2 10.4 末木・枝条の積み込み状況 -213- 表2.10.12 末木・枝条の搬出現場別の出材量 現場名 水沢市有林 出材量(t) (うち末木・枝条)(t) 運搬回数(回) (うち末木・枝条)(回) 鈴鹿山本 210.65 162.29 (3.74) (83.35) 45 47 (1) (30) 集材した幹材は切削加工し、ボード用チップとした。しかし、末木・枝条部分は、切削 機にかけることができず、また樹皮含有率が高くなるため、現状では用途はバイオマス燃 料用チップに限られる。また、燃料としての適正についても、含水の高さからエネルギー 効率が悪いという問題がある。 一方で、事業評価委員からは、枝条・葉の部分は山に還す(留め置く)ことで、次世代 の育林に活かすべきであるという意見があった。この点に関しては森林総合研究所 戸田浩 人氏の研究がある。戸田氏は、森林生態系の物質循環の観点から、伐採後の枝葉の林地に 与える影響について述べている(戸田浩人「林地残材の収穫や全木集材が森林生態系の物 質循環に与える影響」『森林科学』40:33-38,2004年)。 戸田氏は、「森林から産出されるバイオマス資源は大いに活用されるべきである」とし ながらも、①伐採木の枝葉を収集しても、乾物量=炭素量としては、全木中わずか20%程 度であること、②枝葉をバイオマス燃料として使用すると灰が多く残るため、エネルギー 効率が悪くボイラー等施設の維持管理費がかさむと思われること、③枝葉はかさばり含水 率も高いため山から運搬する効率が悪く、破砕や圧縮して運搬するためには特別な機械が 必要であるなどコストがかかること、といったデメリットを挙げている。 一方で、④森林生態系にとって灰分の多い枝葉は物質循環の主要構成要素であり、自己 施肥系の循環を断つ皆伐では、次代の森林を成立させるための養分として林地に残す必要 がある、⑤土壌養分や土壌そのものを流亡させないために、枝葉を利用した地ごしらえは 特に急傾地では効果的であると考えられる、といった枝葉を林地に残すことの効果を指摘 し、「伐採木の枝葉は林地から収穫せず、伐採地における養分や土壌の保持に利用するこ とが、森林の重視すべき機能としての水土保全にとって有益であろう」と結論付けてい る。 特に③についてはコスト管理上重要であり、形状が不定形な末木・枝条を収集・運搬す る場合、効率よく積載するためのバンドリング・マシンや、あるいは現地でチップ化する ための移動式破砕機の導入が考えられるが、収集した結果としての利用法が燃料用チップ に限られる現状では、効果的な集材・搬出および運搬方法の開発という課題に対して、得 られる製品の価値が低く、現状ではビジネスとして魅力がないと言わざるを得ない。 ビジネスとしての末木・枝条の活用には、より高価な用途の開発が必須であると言えよ う。 -214- b 末木・枝条の炭化実験 末木 枝条のより高価値な活用方法として、間伐材木炭の製造実験を実施した。実験 は、下記の日程で行った。 表2 10 13 間伐材による木炭の製造実験 項目 担当 下準備、収集 フルハシEPO株式会社 運搬 炭化実験 炭化物確認、試料採集 集材 株式会社松居建運 平成21年1月30日(2車分) 有限会社渋江運送 平成21年2月1日(1車分) 中澤建設株式会社 平成21年2月3日 中澤建設株式会社 フルハシEPO株式会社 枝条 平成21年2月5日 搬出および運搬 今回、原料としての適正、特徴を把握するため 木 平成21年1月28∼29日 フルハシEPO株式会社 積み込み、 ① 実施日 間伐後1年経過した枯れた状態の末 及び間伐直後で緑色の葉がついている状態の末木・枝条を原料として収集し た。搬出現場は 三重県三重郡菰野町である。 末木(樹幹部)(間伐後1年) 枝条 枝条(間伐後1年) 間伐後1年) 写真 10.5 枝条(間伐直後) 木炭製造用に収集した原料の形状 -215- 運搬には、脱着式ボディシステム車および平ボディ車を用いた。それぞれの積載量は以 下のとおりである。 表2.10.14 日付 末木・枝条の運搬方法別の積載量 運搬 車種 間伐材の形状 積載量(kg) 間伐後1年が経過した 末木・枝条 1,000 間伐直後の 末木 枝条 1,340 H.21 1/30 松居建運 H.21 1/30 松居建運 脱着式ボディ シ ステム車(8t) H.21/2/1 有限会社渋江運送 平ボディ車(4t) 900 写真2.10.6 ② 末木・枝条の搬入の様子 炭化 設置炉は6基あり、その内の3基にて炭化を実施した。それぞれの内容は以下のとおりで ある。 表2.10.15 3基の炭化炉による炭化実験の内容 No. 内容 【1】 【2】 【3】 上部:間伐直後の枝条 下部:間伐後1年が経過した末木・枝条 上部:間伐直後の枝条 下部:間伐後1年が経過した末木・枝条 全体:間伐後1年が経過した末木・枝条 表 2.10 16 炭化に要した時間 No. 開始時間 終了時間 【1】 7:20 15:40 【2】 6:50 17:30 10:40 【3】 6:40 13:30 6:50 -216- 炭化時間 8 20 【1】 設置時 完了 【2】 設置時 完了 【3】 設置時 完了 写真2 10.7 【1】と【2】は 炭化実験の様子 内籠に設置した原料の性状は同等であるが、炭化時は【2】の方が炭化時 間が掛かった分【1】よりやや減容が大きい。【3】は、間伐直後の原料が含まれないので、 【1】、【2】と比べて速く炭化を終えた(含水の高い原料は、炭化に時間を要すため)。 ③ 炭化物の評価 3基の炭化炉のうち【2】と【3】より、試料採取し、炭化物の収量および成分調査を行っ た。炭化物の収量は、歩留まり13.2%(表2.10.17)であった。また、製造した間伐材木炭の成 分については、財団法人東海技術センターに分析を依頼した(表2.10.18)。 -217- 【2】間伐直後の枝条と、間伐後1年が経過した末木・枝条の混合 上部 下部 【3】間伐後1年が経過した末木・枝条のみ 上部 下部 写真2.10.8 炭化物の形状 表2.10.17 炭化物の収量 原料 3.240t 100% 炭化物 0.427t 13.2% ※ 歩留りは、原料と炭化時間の影響を受けるので参考値である。 表2 10.18 炭化物の成分検査 検体A 内容 含水率 間伐後1年が経過した 末木・枝条 検体B 間伐後1年が経過した 末木 枝条と 間伐直後の 末木・枝条の混合 2.9wt% -218- 1.7wt% 灰分 1.7 wt% 5.2 wt% 揮発分 5.7 wt% 13.8 wt% 炭素 92 wt% 83 wt% PH 8.4 ― 8.3 ― 電気伝導率 68 mS/m 90 mS/m 陽イオン交換量 1.3 cmol(+)/kg 2.2 cmol(+)/kg 含有する無機質 (蛍光X線による 定性分析) カルシウム、塩素、 マグネシウム、カリウム、 けい素、硫黄、リン、 アルミニウム、亜鉛 ④ カルシウム、カリウム、 けい素、リン、マグネシウム、 鉄、硫黄、アルミニウム、 亜鉛、塩素、マンガン、 ナトリウム 用途、展開 木炭は、従来の燃料利用のほか、その多孔性、含有成分等の特長を活かした新たな利用 方法が検討されている。 表2.10.19 A.物理的利用法 1. 木炭の利用例【参考】 多孔性を利用する方法 活性炭、水処理材、空気清浄材、排気処理材、土壌改良材、ろ過材、 各種構造用材、漁礁、微生物培養器材、住宅露点防止材など 2. 研磨性を利用する方法 漆器研磨、印刷用銅版・亜鉛版研磨、七宝磨化粧、器具清浄用など 3. 吸光性を利用する方法 温水器、融雪材、地温上昇材など 4. 電気特性を利用する方法 電流アース用、電磁波遮蔽用材、カーボンフィラメント、空気電池用 5. その他の利用法 断熱材、防音材など B.科学的利用法 1. 反応性を利用する方法 金属精錬、着火材、黒色火薬、二硫化炭素その他化学薬品の製造、 木炭ガス化 2. エネルギー的利用 家庭用、業務用、動力用 3. 無機成分を利用する方法 無機質肥料、微量要素の補給、釉薬その他セラミック利用 C.趣味的利用法 お花炭、各種植物各部の炭化物、装飾炭、華道用、木炭のオブジェなど ※岸本定吉『農業富民』富民協会、1988年より作成 -219- 間伐材を利用した木炭は、バージン材を利用することによる安全性に加え、森林保全に 間接的に貢献する環境的価値がその特長であり、この点を活かした製品化を検討する必要 がある。 フルハシEPO株式会社では、平成20年度より、試験的に農業事業を展開している。今回 の実験で製造した間伐材木炭は、農業事業において土壌改良剤として試験を開始した。 木炭の多孔性は通気性・保水性の向上のほか、土壌を豊かにする有用微生物の棲家とし て適していることから、土壌改良材として利用されている。その他、前述の成分分析によ れば、カルシウム、カリウム、マグネシウム等の無機質を含むことから、肥料としての効 果も期待できる。 フルハシEPO株式会社の実験農場は、間伐施業を展開している三重県菰野町に位置す る。菰野実験農場では、林業と農業の連携による山と里の循環環境モデルの構築をひとつ の目的としており、林地残材を農業資材として利用することは、上記モデルにおける重要 なプロジェクトと位置づけられている。 以上の例のように、末木・枝条の活用は、「地域の環境保全に貢献する間伐材」という 付加価値を活かし、社内事業と連携させて展開することをさらなる検討課題とした。 (4)全工程とおしてのコスト評価 ① 実証事業のコスト評価 代表的な4箇所について、各工程における経費は以下のとおりである。 表2.10.20 現場名 製品 実証事業の現場別のコスト評価 守義 嵩山 パレット パレット ・低質スギ材 備考等 ・主産物として のパレット用材 原料費 鈴鹿山本 チップ ( ボ ー ド用) 鈴鹿山本 チップ(燃料用) ・根曲がり材 ・建築用材の 副産物としての ・小径木等 ・末木・枝条・ 根株を含む パレット用材 10,000 円/㎥ 4,500 円/㎥ * 2,400 円/t * 1,000 円/t 運賃 3,000 円/㎥ 2,666 円/㎥ * 2,584 円/t * 5,098 円/t 製造費①パレット 9,800 円/㎥ 9,800 円/㎥ ― 製造費②チップ * 5,900 円/t * 5,900 円/t * 5,900 円/t ― * 5,900 円/t * 参考価格 ② 一連のカスケードモデルとしてのコストおよび収支評価 本実証事業では、根曲がり材のパレット加工に加え、製材端材およびパレット使用後の リサイクルとしてのチップ化までを一連のカスケードとしたビジネスモデルを想定してい る。そこで、このカスケードモデル全体での収支評価を行った。 比較は次のa及びbの2種類で行い、原木100㎥当たりで計算した。 -220- a. 原木を製材し木製パレットへ加工、および端材をチップ化した場合の収支モデル。 b. aにて製造された木製パレットをリサイクル、製紙用チップとした場合の収支モデル。 表2.10.21 想定されるビジネスモデルの収支評価 a.木質パレット + 端材チップ 項目 数量 単価(円) 材料費 100㎥ 10,000 1,000,000 運賃 100㎥ 3,000 300,000 原料調達 小計 パレット 製造費 チップ a 金額(円) 1,300,000 製材費 100㎥ *1) 7,270 727,000 製造費 51㎥ 9,810 500,310 *3) 5,900 342,200 製造費 *2) 58t 小計 1,569,510 合計【A】 2,869,510 補助金収入 100㎥ 合計【B】 6,500 650,000 650,000 パレット 売価(円) チップ 51㎥ *5)20BDT *4)47,000 2,397,000 *4)15,000 300,000 2,697,000 合計【C】 差引き(円) 【B+C−A】 477,490 項目 b b.リサイクルチップ 処理費【a】 *6) 25t *4) 3,500 87,500 製造費【b】 *6) 25t *4) 5,900 147,500 売価(円)【c】 *5) 8BDT *4)15,000 120,000 小計【a+c−b】=【D】 60,000 差引き(円)【B+C+D−A】 537,490 *1) 単価は原木ベース。 *2) 原木㎥からtへの換算は、事務局規定より1㎥=0.833tとした。 *3) 単価は参考値。 *4) 単価は業界の一般的価格を元にした参考値。 *5) 原木tからBDTへの換算は、スギ全乾比重0.35から、1t=0.35bdtとした。 *6) パレット㎥からtへの換算は、当社実績より1㎥=0.5tとした。 -221- 2.10.4 考察、その他 (1)得られた成果のまとめ ① 事業規模の拡大とビジネス化検討 今年度は試験的に市場価格の低い低質スギ材や害虫被害木については、建築用材とすることを 優先せず、すべてパレット用材とした。 昨年度の「副産物の有効活用方法としてのパレット用材の収集」に対して、「主産物としての パレット用材の生産」とするより積極的な発想であり、複数の現場を集約したより大きな単位で 採算性を捉えるものである。 結果、自力間伐実施による間伐材の集材量は、昨年度の462㎥から、2,106.20㎥へと拡大するこ とができた。 建築用材の造材に際して必要である、曲がりの有無の確認、最適な造材の検討を省略すること ができ、結果、生産効率は向上した。 また、低質木を優先的に伐採することができ、間伐の本来 的な意味である「低質木を伐採し、良木を残して成長を促す」に合致する。 ただし、根曲がり等の未利用材に比べ材価が高く、現状では、なんらかの補助を前提とした上 でのシステムとならざるを得ない。 ② 製材コストの圧縮 昨年度の実証事業により、間伐未利用材(B、C材)をパレット用材として用いること、およ びその際に発生する端材を含めたカスケードモデルの構築が、ニュービジネスとして成立しうる ことを明らかにした。 一方で、実段階にいたるには、全体としてのコスト、とりわけ製材コストの圧縮が不可欠で あった。 昨年度の結果を受け、今年度より自社で製材機能を整備し、製材の効率化に取り組んだ。 結果として、製材費は昨年度に比較し、大幅に圧縮することができた。また、背板をパレット 部材として用いる等の対策を施したことで、製材歩留まりが47%から51%へ向上した。 今年度の実証事業を経て、ビジネスとしてのシステムを整えることができたといえる。 ③ 枝条の利用に関する検討 昨年度は検討対象としなかった枝条、根株等について、「全木活用の実現」の観点から、今後 ビジネスのターゲットとすることができるか否か、検討した。 実証事業の結果、当社の現状では、ビジネスとして枝条の積極的な利用は困難であると判断し た。ただし、「環境保全に貢献する間伐材」という付加価値、ブランドを活かした、社内事業と の連携については今後も引き続き検討していく。 新規事業である農業事業との連携については、間伐材木炭を農地の土壌改良剤として試験使用 している段階である。 一方で、事業評価委員からは、枝条・葉の部分は山に還す(留め置く)ことで、次世代林の育 成に活かすべきであるという意見があった。国の重点政策として間伐の実施が注目を集める一 方、国内森林の高齢化が進んでいるという現状がある。今後は人工林の世代交代も視野に入れた 上で森林ビジネスのビジョンを構築していく必要がある。 -222- (2)今後の課題 ① 規模の拡大 今年度は2,000㎥超の出材量に対して事業評価を行ったが、これを本格的に事業化するに は約10倍程度の規模を想定している。その場合、森林組合等との従来関係の他に、たとえ ば地域の小規模林業事業体を組織化した上での連携や、自社で山林を保有する等、規模を 拡大するための別要因の検討が必要である。 ② カスケード利用の一貫設備の構築 2年間の事業で、根曲がり材ならびに末木枝条を中心とした林地残材の活用、低質材ス ギ材の活用を通し、「製材→端材チップ化+リサイクルチップ」というカスケード利用を 検討した。 比較的都市近郊に位置する当社既存工場では、山林地域との距離の問題から、山林資源 を積極的に利用するには不利な条件であることは否めない。愛知県下三河山間地域にほど 近い圏内でのカスケード利用一貫設備の構築により、さらなるコスト競争力を得ることが 出来る。 本年度は、愛知県の調査事業「愛知県循環型社会形成推進事業費補助金(循環ビジネス 事業化検討事業)」で、都市部における間伐材パレットの需要調査とバイオマス利用の技 術調査およびカスケード利用一貫設備の構築の試算などを行ったため、その事業化検討を 進めている。 ③ 行政・地域との連携 愛知県では森林保全の推進のため「あいち森と緑づくり税」(いわゆる森林環境税)の 導入を開始したこともあり、より一層の間伐の推進に取り組んでいる。しかし、間伐によ り発生した資源については、そのほとんどが低質材であり、有効な活用方法がいまだ見出 されていない状況である。 このような状況に対して、当社では本事業での経験を活かし、貢献することが可能であ り、また求められていると考える。継続的に地域との協議・検討を進めるとともに、本事 業で構築した成果を地域にアピールして行きたい。 -223-