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自動車部品の加工ニーズと高精度・高品位加工技術

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自動車部品の加工ニーズと高精度・高品位加工技術
自動車部品の加工ニーズと高精度・高品位加工技術
日産自動車(株) 太田 稔
1.はじめに
現在の自動車の加工技術には,環境・安全・情報等の将来技術への対応と,グローバル競争力の
強化への対応という両局面の技術が求められている.本稿では,パワートレイン系自動車部品を対象
にして,生産ニーズおよび商品ニーズの面から,加工技術にもとめられるものについて述べ,それらの
ニーズに対して,切削加工および研削加工における高精度・高品位加工技術の開発例について紹介
する.
2.自動車部品の加工ニーズ
2.1 生産技術動向と加工ニーズ
現在の製造業には,品質・コスト・納期という生産の基本の上に,環境・省エネルギ・グローバル化対
応という新しい技術が求められている.そのための技術として,省エネ化・高効率化・フレキシブル化・
高精度化に対応した図1に示すような技術が考えられる.さらに,図2に,高効率生産システムの方向
性として,従来のトランスファーマシン・ライン(TML)からフレキシブル・トランスファーマシン・ライン
(FTL)へと主流が移っており,さらにフレキシブル・マシニング・ライン(FML)の発展も望まれている.変
種変量生産システム(ここではバリアブル・プロセシング・システム(VPS)と呼ぶ)は,現状の FML の汎
用性を維持しつつ,TML に迫る生産性を達成できるような究極の生産システムとして考えるべきであ
る.そのためには,超高速加工,高精度加工等の機械加工技術に留まらず,超高精度塑性加工やイ
ンライン焼入れ等の部品製造プロセスを一貫して効率化できる総合的なプロセシング技術の開発が不
大
可欠である.
高効率化
ドライ加工
小型化
機械電動化
・・・
高能率加工
高速加工
知能化
システム化
・・・
フレキシ
ブル化
高精度化
複合加工
工程短縮
工程集約
・・・
高品位加工
超精密加工
微細加工
・・・
Flexible
Transfer Machine
Line
超高速切削/研削
高精度複合加工機
機上計測システム
フレキシブルツーリング
超耐熱低摩耗工具
インライン焼入れ
ワーク認識システム
・・・・・・
小
省エネ化
Transfer Machine
Line
生産量
環境・省エネルギ・グローバル化対応
品質・コスト・納期
〔良いものを,より安く,タイムリーに〕
少
Variable
Processing
System
Flexible
Machining
Line
Flexible
Machining
System
種類数
多
図 2 高効率生産システムの追求
図1 生産ニーズと加工技術
2.2 商品技術動向と加工ニーズ
将来の自動車技術に関する研究開発分野は非常に多義に渡っているが,基本的には,自動車の基
1
本性能の向上を土台として,環境・安全・情報化・高齢化等に対応できる技術の開発が進められて
いる.そのための商品ニーズとして,①内燃機関の改良,②新動力機関の開発,③安全性能の向上,
④軽量化技術の開発,⑤情報技術の拡大,等が考えられる(図3).特にパワートレイン系部品に
対しては,高効率エンジン・ミッション,ハイブリッドおよびモータ駆動燃料電池等の将来ニーズに
対応する加工技術として,新材料加工,高精度加工,高効率加工,高能率加工,高速加工の視点か
ら,図4に示すような加工技術の進展が求められる.
環境・安全・情報化・高齢化対応
基本性能向上
〔走行性・利便性・快適性・・・〕
高効率・クリーン・安全・快適・交通環境・・・
内燃機関 新動力機 安全性能 軽量化技 情報技術
関の開発 の向上
術の開発 の拡大
の改良
直噴エンジン
予防安全システム 超軽量車体
天然ガスエンジン 衝突回避システム 軽量小型ユニット
水素エンジン
衝突安全車体
・・・
・・・
・・・
ハイブリッド車
モータ駆動車
インテリジェント交通システム
燃料電池モータ駆動車 人と車のインターフェース
・・・
・・・
図3
自動車の発展と商品ニーズ
商品ニーズと主要な新商品技術
高効率
エンジン
ミッション
新機構:
高圧燃料噴射装置,連続可変動弁,
無段変速機
軽量化/小型化:
ライナレスブロック,非調質コンロッド,
Tiバルブ,組立カム
低フリクション化:
カム/クランク超仕上げ,真円ボア,
MoS2ショットピストン
ハイブリッド
パワートレイン低コスト化
小型高出力モータ
モータ駆動
燃料電池
燃料改質器
水素貯蔵・供給装置
小型高効率燃料電池
図4
主要な加工技術
新材料加工
高精度加工
高効率加工
高能率加工
高速加工
高硬度工具適用
高エネルギ密度加工
超精密加工
微細加工
省エネルギ化/機械電動化
ドライ加工
フレキシブル化/複合加工
知能化
システム化/ネット化
深切込み加工
高速制御
高送り速度加工
高切削速度加工
新商品ニーズと加工技術
3.高精度・高品位加工技術
部品の価値向上のために,高精度・高品位加工は極めて重要な取組みである.以下では,加
2
工能率を維持・向上しながら,高精度化・高品位化を可能とする切削や研削加工技術の開発例
を紹介する.表1に,高品位加工による部品機能向上の最近の例を示す.フリクション低減,耐摩耗性
向上,高強度化などの部品機能向上のために,各種の高精度加工や高品位加工が行われている.
表 1 高品位加工による部品機能向上の例
部品
加工法と表面特性向上
機能向上の狙い
ブロックボア
ブロックボア
ピストン
クランク・カム
カムフォロワ
ギア
ギア
ハブユニット
ダミーヘッドによるボア真円化
ホーニングによる表面品位向上
WPCによる二硫化MoS2ショット
超仕上げによる表面粗さ向上
TiN,CrNコートによる硬質皮膜
ブラスト加工による表面改質
歯面研削仕上げによる精度向上
超仕上げによる表面粗さ向上
フリクション低減
耐摩耗性向上
フリクション低減
フリクション低減
フリクション低減
高強度化
ノイズ低減
フリクション低減
3.1 精密切削加工
ここでは,焼入れ後の仕上げ加工としての切削加工を取り上げる.ハードカッティングは,一般的に
加工能率に優れ,低コスト化できるというメリットが考えられる.さらに,ドライ加工が容易であるということ
は,極めて大きな優位点と考えられる.現状では,ミッションシャフトの溝やギヤの端面,CVT プーリの
シーブ面の粗加工等,比較的高い精度が要求されない部位の加工に徐々に適用が拡大している.し
かしながら,到達精度や品質安定性の問題,さらには工具寿命の問題からくる加工コストの問題等,適
用拡大のために解決すべき課題は多い.焼入れ鋼のハードターニングにおける,高精度・高品位加
工の例を,図5および図6に示す.従来のハードターニングでは困難なレベルであった表面粗さ Ra
0.03μm の加工を実現している.これらは,静圧流体軸受の主軸を持つ精密旋盤を用い,最適な工具
材種を選択し,工具の切れ刃状態を改善することによって達成された.この例のように,自動車工場の
ような厳しい温度環境下においても,表面粗さを改善することは容易と考えられる.残された重要な問
Tool A (Grinding)
0.01mm
Tool B (Lapping)
0.01mm
図 5 ハードターニング工具の切れ刃の比較
表面粗さ Ra μm
題は,工具寿命の増大および高精度な寸法管理をどのような手段で達成するかということ,である.
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
Tool A
Tool B
切削速度:500m/min
切込み深さ:0.05mm
0
0.01
0.02
0.03
送り量 mm/rev
0.04
0.05
図 6 ハードターニングにおける送り量と表面粗さ
3.2 精密研削加工
ここでは,フレキシブル化および超精密化に対応する技術として,超高速研削を適用したコンタリン
グ研削と鏡面研削について述べる.図7に,コンタリング研削において,砥石周速度を増大したときの
3
表面粗さと研削抵抗の変化を示す.砥石周速度の増大により,表面粗さは向上し,研削抵抗は減少し
ている.また,図8に,研削能率をパラメータとして,工作物周速度を増大したときの表面粗さの変化を
検討した結果を示す.高い研削能率で工作物周速度が大きい場合でも表面粗さが良好に維持される
ことがわかった.また,図9に,残留応力の測定結果,図10に,加工変質層の観察結果を,それぞれ
を示す.工作物周速度の高速化により,良好な研削表面が得られることが判明した.
Ft
Ra
0.2
0
60
40
0.1
20
50
0
100
150
200
0.6
80
表面粗さ Ra µm
0.3
Vw =118m/min
f =200mm/min
a =0.3mm
研削抵抗 Ft’ N/mm
表面粗さ Ra μm
0.4
Vs = 240 m/s
a = 0.3 mm
0.5
0.4
Z = 270 mm3/s
203
135
68
0.3
0.2
0.1
0
250 300
0
0
100
砥石周速度 VS m/s
200
300
400
500
工作物周速度 Vw m/min
600
図8 工作物周速度と表面粗さ
図7 砥石周速度が表面粗さと研削抵抗に
及ぼす影響
1500
Vw = 40 m/min
520
残留応力 σ MPa
1000
500
0
-500
Vs = 240 m/s
F = 436 mm/min
a = 0.3 mm
-1000
Z = 270 mm3/s
Vw = 40 m/min
-1500
0
0.1
0.2
0.3
Z = 270mm3/s
Vw =520m/min
20 µm
0.4
表面からの深さ mm
図9 コンタリング研削時の残留応力
図10 工作物周速度と加工変質層
次に,表面粗さの向上を目的とした高能率高精度研削の研究結果の一端を述べる.高能率と良好
な表面粗さを両立させるため,粗粒砥粒の先端を平坦化した砥石を用いて超高速円筒プランジ研削
を行った.砥粒先端の平坦化は,いわゆるトランケート・ドレッシングという名称で知られているが,研削
抵抗が大きくなるため従来では実現は困難であった.筆者らは,トランケート・ドレッシングのデメリットを
超高速研削で補うことを狙った.図11に,ツルーイングリードと工作物表面粗さの関係を示す.ツルー
イングリードの減少に伴って,表面粗さは小さくなり,ツルーイングリードを 0.01mm/rev まで小さくするこ
とによって,表面粗さ Ra0.02μm の鏡面を得ることができた.図12に,ツルーイング速度比が表面粗さ
4
と加工変質層に及ぼす影響を示す.ツルーイングリードが 0.1mm/rev と大きい場合には,ツルーイング
速度比の増大に伴って表面粗さも大きくなったが,ツルーイングリードが 0.01mm/rev と小さい場合に
は,表面粗さはそれほど悪化しなかった.研削品質および研削能率の向上のために,さらなる研究が
必要であるが,超高速研削によりツルーイング条件を最適化することによって,加工変質層の少ない
鏡面を得ることができる可能性を示した.
0.4
Vw= 63m/min
a = Φ2 µm/rev
0.3
表面粗さ Ra µm
表面粗さ Ra µm
0.4
Vs = 200m/s
0.2
Vs = 80m/s
0.1
0
0
0.05
0.10
0.15
ドレッシングリード fd mm/r.o.w
図11
ドレッシングリードと表面粗さ
加工変質層
0.3
20µm
20µm
0.2
Vs= 200 m/s
Vw= 63 m/min
0.1 a = Φ2 µm/rev
0
0.20
白層
0
図12
fd = 0.1 mm/r.o.w
0.2
0.4
ドレッシング速度比
fd = 0.01 mm/r.o.w
0.6
Vd / Vs
0.8
ドレッシング速度比と表面粗さ
4.おわりに
自動車部品の加工技術には,将来の自動車の姿を追求するための超精密加工技術の適用やグロ
ーバル展開のための高効率加工技術等,多くの課題と成長の余地が残されている.本稿が,世界をリ
ードする競争力のある加工技術を開発するための参考になれば幸いである.
〔著者プロフィール〕
太田 稔(おおた みのる)
1976 年新潟大学工学部卒,日産自動車(株)中央研究所(現総合研究所)入社
1997 年東北大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)
2004 年総合研究所第一技術研究所シニアエンジニア,自動車部品の精密加工研究に従事,現在に
至る.専門:新素材の加工,研削加工,自動車部品の精密加工,所属学会:砥粒加工学会,精密工
学会,機械学会,自動車技術会
5
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