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チリ LNG 市場の登場 (アジア太平洋LNG への影響)
<更新日:2005/08/11> <石油・天然ガス調査グループ:坂本茂樹/舩木弥和子> チリ LNG 市場の登場 (アジア太平洋 LNG への影響) (Platts、Gas Matters 他 業界紙、EIA) チリが 2005 月 8 月 27 日に LNG 輸入の入札実施を決め、2005 年末~2006 年 1 月にかけて、落札者が 決まる予定である。輸入数量は約 210 万トン/年、2008~2009 年に輸入が開始されるものとみられる。 チリは増えつつある天然ガス需要の多くをアルゼンチンからの輸入に頼ってきたが、同国の供給余力 が近年減小し、新たなガス供給源の確保に迫られている。しかしボリビア等近隣諸国からのガス輸入は期 待できない。 LNG の供給先候補の中で、ペルー LNG は既に北米市場を狙って計画を推進しており、アルジェリア等ア フリカの事業は大西洋市場(欧州、北米)を指向して遠距離のチリへの興味は薄い。インドネシア、豪州の アジア太平洋 LNG はともにチリ市場に興味を示しているが、豪州は 2008 年から次々と新規 LNG 事業が 立ち上がり供給力が拡大するため、チリに輸出する可能性が最も高いものと想定される。 1. チリの LNG 輸入計画 (1) LNG の入札 チリ石油公社(ENAP)を中心とするコンソーシアムは、2005 年 8 月 4 日、次の要領にて、8 月 26 日に LNG 輸入・再ガス化の入札を実施すると発表した。 ・ コンソ-シアム:チリ石油公社(ENAP)、Endesa(発電事業者)、Metrogas(ガス供給会社) ・ 受入基地: ・ 購入量: ・ 落札発表: チリ中部のクィンテロ港(Quintero、首都サンチアゴの北方) 8 mcm/d(=約 210 万トン/年) 2005 年 12 月~2006 年 1 月 なお、LNG 受入基地建設の投資額は約 3 億米ドルと見積もられ、建設に 2 年半を要することから、操 業開始は 2008~2009 年頃と想定される。 コンソーシアムは、2005 年はじめに、LNG の受入基地および再ガス化設備を建設することを決めた。 2005 年 4 月にコンソーシアム・メンバーが LNG 輸入プロジェクトに関する協定に署名し、Quintero 湾 に LNG 受け入れ基地を建設する計画を検討してきた。 (2) LNG の輸入先候補 LNG 輸入先に関して、コンソーシアムはペルー、インドネシア、豪州、アルジェリア、ナイジェリアを含 -1Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。 む 7 ヶ国程度を想定しているといわれる。 チリは、2004 年 11 月にインドネシアとの間で締結したエネルギー協力契約の一環として、同国から 200~400 万トン/年の LNG を購入する覚書(MOU)を締結した。また、距離的に近いペルーからの LNG 供給についても検討しているが、ガス価格の高い北米市場を志向する Hunt 社等のペルーLNG コンソーシアムとの方針が合わないために、実現が難しいものとみられる。一方、ENAP の子会社 SIPETROL はアルジェリア国営石油会社 SONATRACH と 2005 年 5 月にエネルギー協力に関する 協定を締結し、これが SONATRACH のチリ国内での LNG プロジェクト参加へのきっかけになると見る 向きもある。オーストラリアに対しては、最近、チリ政府が LNG 購入の希望を伝え、オーストラリア側も将来 の LNG 市場のひとつとして関心を強めつつある。 現時点ではペルーから LNG を購入する可能性は低いものとみられ、アフリカは地理的に遠いことから、 アジア太平洋 LNG がチリの供給元になる可能性が高い。 2. チリの経済、天然ガス需給状況 (1) 経済状況 チリ経済は、2003 年以降、輸出の好調を中心とした回復から内需にも力強さが見られ、高成長を維持 している。輸出(銅を中心とする鉱産物、加工食品等)および工業生産の貢献により、2005 年 4、5 月の 経済成長率はそれぞれ前年同月比6.3%、6.4%の増加となっており、チリ中央銀行は今2005 年の成長 率を 5.25~6.25%と予想している。原油価格の動向、アルゼンチンからの天然ガス削減等の不安定要 因があるものの、一次産品価格が高水準を保っているため、先行きについても堅実な経済成長が維持 できるものと見込まれる。 表 1:チリの経済成長率および外貨準備高の推移 国内総生産(前年比%) 外貨準備(百万ドル) 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 -0.8 4.5 3.4 2.2 3.7 6.1 5.7 14,946 15,110 14,400 15,351 15,851 16,016 17,377 (出所)チリ中央銀行、 (注) 2005 年の国内総生産は第1四半期、外貨準備は5月末 (2) 天然ガス需給 チリの天然ガス消費量は 1990 年半ばから急速な増加を続けているが、その増加の大部分をアルゼン チンからの輸入に依存してきた。輸入した天然ガスの主な消費地は、全人口 1,500 万人のうち 32%が集 中する首都サンチアゴ周辺(用途は電力および都市ガス用)、および首都の南方 400km の工業都市コ -2Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。 ンセプシオン・北方の工業都市アントファガスタ(電力および産業用)である。 しかしアルゼンチンは、2004 年 4 月、国内のガス不足を理由に、チリへのガス供給を制限した。6 月 に一旦供給をほぼ正常に戻したが、2005 年に入って再び供給量を 20~40%削減している。アルゼン チンのガス供給余力が回復する明確な見通しは無く、また一方で、アルゼンチンの閣僚が、国内でエネ ルギー不足が続いた場合、チリへの天然ガス輸出をその調整材料とするとの発言をしている。 こうした状況から、チリ政府はアルゼンチンのみにガス供給を依存するのではなく、供給先の多様化を 図る必要があるとして、LNG 輸入を含むさまざまな天然ガスの調達可能性を検討しようとしている。 図 1:チリおよび周辺諸国の天然ガスパイプライン(JOGMEC 作成) 表 2:チリのガス消費量とアルゼンチンからのガス輸入量推移 (単位:Bcm) チリのガス消費量 アルゼンチンからの輸入量 1996 1997 1998 1999 2000 2001 1.7 2.8 3.3 4.6 5.2 6.3 0.5 1.6 2.0 4.07 4.6 2002 2003 2004 6.5 7.1 8.2 5.34 5.75 7.2 (出所) BP 統計 -3Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。 図 2:チリのガス消費量とアルゼンチンからのガス輸入量推移 (BP 統計) チリのガス消費量とアルゼンチンからの輸入量推移 Bcm 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 チリのガス消費量 アルゼンチンからの輸入量 3. チリへの天然ガス輸出の可能性:近隣諸国 まず、近隣諸国からガスを安定的に追加購入できるかどうかを検証する。結論としては、ボリビア等近隣 諸国からチリに天然ガスを安定的に供給できる可能性は非常に低いと考えられる。 図 3:チリとその近隣諸国、およびインドネシア、オーストラリアの天然ガス可採埋蔵量(参考、BP 統計) 天然ガス埋蔵量( 20 04 年末、BP統計) tcf 100 80 60 40 20 0 アルゼンチン ボリビア ペルー チリ オーストラリア インドネシア (1) アルゼンチン アルゼンチンは南米最大の天然ガス生産国であるが(2004 年の生産量45Bcm、BP 統計)、一方で南 米最大のガス消費国でもあり(2004 年の消費量 38Bcm、BP 統計)、生産量の約 85%を国内で消費し -4Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。 ている。先述したように、近年は国内消費量の伸びが大きく、今後はチリのガス需要増加に対する供給余 力は乏しい。 (2) ボリビア 南米でベネズエラに次ぐ天然ガスの埋蔵量を有する(31tcf、2005BP 統計)。2000 年以降、輸出用の 天然ガスの生産が急速に拡大し、生産量の 85%はパイプラインでブラジルに輸出され、一部はアルゼン チン向けに輸出されている。しかし、チリへのガス・パイプラインは無く、ガス輸出実績も無い。 一方、ボリビア社会は貧富の差が大きく、政治的に極めて不安定な状態である。LNG 事業化を含む天 然ガス輸出がボリビア経済発展のカギとして期待されていたが、天然資源の恩恵に浴していないとガス の輸出に不満を募らせる低所得層による暴動がしばしば発生し、ガス輸出事業は順調には進展してい ない。2004年7月、メサ前政権は天然ガス輸出の可否に関する国民投票を実施し、天然ガス資源による 収入を開発・福祉等に振り向ける政策を打ち出して、やっと賛同を得た。しかし同投票結果を踏まえた炭 化水素法の改正に向けては、強硬な国有化を求める勢力等の反発があり、可決は 2005年4月まで遅延 された。新法公布後も、国内社会運動の高まりによる政変があり、天然ガス政策の方向性は依然として不 透明である。2005 年 5 月の新炭化水素法によってロイヤリティー料率が 18%から 50%にアップする等 投資環境が悪化する中で、外資の警戒心が高まっており、天然ガス産業への投資は縮小する傾向にあ る。 さらにボリビアは、かつて戦争でチリに沿岸の領土を奪われた経緯もあってチリとの関係が良好でな い。 このように、豊富な天然ガス埋蔵量を持つボリビアはガス輸出国としてのポテンシャルはあるものの、現 在の不安定な社会・政治情勢と劣悪な投資環境の下では、チリに対する安定的なガス供給国になる可能 性は非常に低いものと考えられる。 (3) ペルー ペルーLNG コンソーシアム(Hunt(50%、オペレーター)、SK Corp.(30%)、REPSOL YPF (20%))は、2009 年後半に操業を開始する予定で(生産能力 420 万トン/年)、メキシコと米国西岸に LNG を輸出する計画を進めている。 チリは、距離的に近いペルーからの LNG 輸入を検討しているが、ペルーLNG はガス価格の高い北 米市場を志向している他に、チリが提案している輸入量が少ない(約 210 万トン/年)、供給開始の時期 が合わない等、双方が求める条件の食い違いが多い。ペルー側からは、チリへの LNG 輸出を意識する 発言は聞かれていない。 -5Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。 なお、ボリビアでの政情不安から、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ウルグアイの4カ国はペルーのカミ セアガス田からパイプラインでガスを供給する南米ガスパイプライン構想を検討している。ペルー南部の Pisco からチリの Tocopilla 間の全長 1750km にパイプラインを敷設し、これと既存のパイプラインをつ なぎアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイへもガスを輸送するという計画である。総工費は25億ドルで、4 カ国併せて 12 億cf/d の供給を受けることを考えている。しかし、このパイプライン計画は LNG に比べて 計画が遅れているため、具体的な実現目処が立っていない。 4. チリへの LNG 輸出の可能性:アジア太平洋 LNG 他 (1) インドネシア インドネシアのエネルギー鉱物資源省によると、インドネシアは 2005年10月にサンチアゴで開催され る第 2 回 2 ヶ国間フォーラムにおいて、チリヘの LNG 輸出に関する協議を行う。これは、2004 年 11 月 にジャカルタで締結された両国間のエネルギー協力契約の一環として検討するものである。2004 年に チリへの LNG 輸出を打診された時、インドネシア政府はタングーLNG の第 3 トレーン建設を想定して いたものといわれる。 しかし、タングーLNG(2 トレーン体制)は 2005 年 5 月に最終投資決定を行い、2008 年末に生産開 始する計画であり、販売先は既に決定済である。現時点では第 3 トレーン建設の計画がまだ具体化して いないため、インドネシアの供給可能性は未詳である。 (2) オーストラリア チリ政府は LNG 輸入を検討する過程で、豪州 NWS、Gorgon 等の LNG 事業者と接触して、LNG 輸 出を打診した。豪州側事業者は総じて興味を示したと伝えられるが、当時は受け入れ条件等はまだ明確 にされていなかった。2005 年7 月に豪州マクファーレン資源相がチリのデュラント鉱物相とい会談した際 に、マクファーレン資源相からチリ鉱物相に対して、豪州事業者はチリへの輸出に興味を持っていること および LNG 輸出には長期契約が必要であることなどが伝えられた。 豪州マクファーレン資源相は、8 月にメキシコ、米国加州を訪問するが、その際にチリにも立ち寄る予 定であり、LNG 輸出に関して協議するものと見られる。 豪州の LNG は、下表のとおり、2008 年頃から次々と新規事業が立ち上がっていく計画であり、十分な 供給力を持つと考えられる。これらの LNG 事業の輸出先はアジアおよび北米を想定しているが、販売交 渉状況は厳しく、具体的な販売計画は未定である。豪州の LNG 事業者は、当然ながら新規 LNG 市場の 登場を歓迎しており、適切な売買条件が合意されれば、豪州の LNG がチリに輸出される可能性が最も高 いと考えられる。 -6Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。 表 3:豪州の新規 LNG 事業計画 事業名 LNG 生産能力(万 t/年) 操業開始時期 オペレーター NWS 第 5 トレーン 420 2008 年 ウッドサイド Greater Gorgon 1,000 2009~10 年 シェブロン Greater Sunrise 530 2010 年? ウッドサイド Browse ? 2011~14 年? ウッドサイド (出所)各種情報から JOGMEC 作成 (3) その他(アフリカ、トリニダード・トバゴ) トリニダード LNG は米国南東部を市場向けに生産されており、アフリカの各 LNG 事業は基本的には 大西洋市場(欧州、北米)を指向している。アフリカには、アンゴラ、ナイジェリア等の新規事業計画が多い が、チリへの興味は聞かれず、相対的にチリへの輸出可能性は低いものと考えられる。 図 4:アジア太平洋 LNG 事業のチリ新市場への輸出可能性 (JOGMEC 作成) -7Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結 果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申 し上げます。