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イノシシによる農業被害に生息密度依存性はあるか

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イノシシによる農業被害に生息密度依存性はあるか
慶應義塾大学経済学部研究プロジェクト論文(2007 年度)
イノシシによる農業被害に生息密度依存性はあるか
経済学部3年
遠藤久美子
(指導教員:河田幸視)
2008 年 2 月 29 日
要旨
本稿の目的は、ニホンイノシシによる農業被害の生息密度依存性を明らかにすることであ
る。その為に全国の各県における特定鳥獣保護管理計画の捕獲による有害駆除の効果(農
業被害軽減)の分析による検証と、兵庫県篠山市における実地調査、結果分析を行った。
各県の分析では捕獲数と農業被害金額、推定生息数と農業被害金額の相関係数をそれぞれ
算出し、イノシシの農業被害の生息密度依存性の低さを指摘した。実地調査においてはよ
り正確で細かい分析によって被害の密度生息度依存性について検証を行った。そこでは生
息動向を示す一定の療法である箱ワナによる捕獲数と、ワナ設置場所からイノシシの行動
圏に存在する集落ごとの農業被害程度の申告を計上したものの相関係数を算出した。同時
に出没程度と農業被害程度の相関についても分析を行った。以上の分析から、イノシシの
農業被害には生息密度依存性が必ずしも認められないが、出没が多ければ農業被害が高く
なるという関係が認められた。こうしたことが起きる理由の一つとして、イノシシには農
作物に執着が強い個体と弱い個体が存在することが考えられた。
目次
はじめに
1章
1.1
1.2
1.3
2章
2.1
2.2
2.3
3章
各都道府県のイノシシの個体数管理と農業被害
6県のイノシシ保護管理計画についての捕獲頭数と農業被害額の相関
大阪府、茨城県における推定生息数と農業被害の相関
小括
兵庫県篠山市周辺における生息密度と農業被害
兵庫県篠山市の概略
箱ワナによる捕獲頭数と農業被害申告の分析
小括
考察
引用文献リスト
付録
はじめに
∼問題意識∼
野生動物と人間との軋轢は近年特に深刻化している。特にイノシシは他の野生動物と比
較すると、シカと並び非常に甚大な農業被害をもたらしている。2001 年から 2005 年まで
の全国のイノシシによる農業被害額は年間平均約 50 億円に達し(農林水産省
野生鳥獣に
よる農作物被害状況)その額は日本における鳥獣の農業被害の中では最大である。
特に近畿中国地方の中山間地域での被害が大きく(江口,2001,171 頁)、農業被害は離農や
過疎の大きな原因の一つとなっている。高齢化の進んだ農村では被害対策が不十分である
ために長期的かつ集中的な被害を受けてしまい、離農による耕作放棄地がイノシシの新た
な生息地になってしまうといった悪循環が起きている地域も多く存在し、地方自治体によ
る早急な対策が迫られている。
イノシシの捕獲数は 1950 年代から 60 年代半ばまで 3∼4 万頭のレベルであったが 60 年
代から 70 年代後半にかけて一時 8 万頭まで増加した。それから一時的に減少したが 80 年
代末から再び増加し、90 年代後半以降は 10 万頭を超える状況になっている。90 年代にイ
ノシシの捕獲数が増加したのは、様々な要因によってイノシシの個体数が増加したためと
考えられる(常田,2001,251 頁)。
実際に環境省による調査では、1978 年と 2004 年を比
較すると、生息分布が減少した地域はほとんど無く、全国的に生息分布は変化なし、また
は分布拡大が認められており、捕獲数の大幅な増加が生息数に反映されていない(環境省
生物多様性システム自然環境保全基礎調査:http://www.biodic.go.jp/J-IBIS.html)。個体群
増加の原因として、もともとイノシシが多産であることに加えて、中山間地域の衰退によ
る耕作放棄地の増加、暖冬による寡雪が原因の死亡率の低下、狩猟者数の減少といった原
因が考えられている(常田,2001,250~251 頁)。
野生動物との共存の為に、生息地管理、被害管理、個体数管理の三つの適切な組み合わ
せが重要であると指摘されている。生息地管理とは野生動物が健全に生息できる適切な環
境保全と土地利用のことを指す(坂田,2007,16 頁)。被害管理については、イノシシの被害
は農作物に限られている。そのため農業被害を防ぐためには、生息数管理をすると同時に
農作物を守るためのフェンシング等直接的な対抗策を計画し、実施することが重要である1。
個体数管理については、イノシシの存在の有無のみでなく密度や個体数などの量的な情報
と継続的なモニタリングが必要である(坂田ら,2007,157~159 頁)。しかし野生イノシシの
個体数や密度の推定は直接観察や糞塊調査による方法であると誤差が大きいため困難であ
り、現時点で定量的な指標にするべき項目は存在しない(坂田ら,2007,157~159 頁)。
1999 年の鳥獣保護法改正により鳥獣行政が地方自治体の業務として明確に位置づけられ、
同時に「特定鳥獣保護管理計画」制度が創設された。特定鳥獣保護管理計画はイノシシやシ
1
これに対し、シカは人工林に対する樹皮食い等の被害があるため(梶ら,2006)、林業と農
業の両方に被害をもたらす。
1
カをはじめとする著しい増加によって生態系や農林業に影響をもたらす種、または絶滅の
危険性がある種の両方について個体数を長期にわたって安定的に維持する事を目的に策定
されている(常田,2001,248 頁)。
本稿ではイノシシと人間との軋轢である農業被害を減少させる為のイノシシの適切な管
理方法はどういったものであるかを検討する上で、農業被害とイノシシの生息密度の関連
に注目したい。現在は単に有害駆除を行う、という個体数管理のみによって生息数を減少
させることがイノシシの適切な管理であるとしているイノシシの保護管理計画が多く見ら
れる。しかし個体数の減少=農業被害の軽減という考えは非常に危険である。なぜなら計
画実施の前提として野生のイノシシの正確な生息数や密度を調査することは困難であり、
適切な個体数管理が行われているかどうかの判断は難しいからである。また、予算等の規
模も自治体によってまちまちである。さらに、各自治体の特定鳥獣保護管理計画について
調査すると有害駆除が思うような農業被害の軽減に繋がっていない地域も多く見られた。
このため、各自治体で行われているイノシシの保護管理は適切であるのか、つまり有害駆
除で生息数を減少させることが実際に農業被害の減少につながっているのかという論点は
検証の余地がある。特にイノシシの生息と農業被害の関連についてはイノシシの生態につ
いて不明な点が多く残っている、これまで未研究な分野である。さらにイノシシの目撃数
が多くても被害の少ない地域が存在する一方、目撃数が少ないのに大きな被害を出してい
る地域が存在し(坂田,2007,19 頁)、シカのような明らかな密度依存性は認められていない。
そこで、農業被害にイノシシの生息密度依存性はあるかという1点に焦点を絞り、有害駆
除がイノシシの農業被害を減らす上で有効な対策なのか否かを判断する材料となることを
目的に本稿を進めていきたい。本論では兵庫県の篠山町という一地域について既存の資料
と合わせて現地で農業被害と狩猟についての調査、分析を行う。
1章では日本の各自治体で実施されている特定鳥獣保護管理計画の捕獲による個体数管
理(有害駆除や狩猟によるもの)が農業被害額減額に繋がっているか否かについて論じる。
まず1.1 で6県についての捕獲数と農業被害金額の相関についての分析をそれぞれ行い、
保護管理計画の成果を示す。さらに 1.2 では 1.1 で疑問として残る生息数と農業被害の関係
について調べるため、生息数推定を行っている1府1県について生息数と農業被害額の相
関について分析を行う。
2 章では 1 章の結果をもとに、兵庫県篠山のフィールドワークによる聴き取り調査によっ
て調査した生息密度と、既存の村落ごとの農業被害申告データを使用して兵庫県篠山とい
う一部地域についての農業被害の生息密度依存性についての調査・分析、分析の考察を行
う。
2
1章
1.1
各都道府県のイノシシの個体数管理と農業被害
6県のイノシシ保護管理計画についての捕獲頭数と農業被害額の相関
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」の一部改正により、1999 年に特定鳥獣保護
管理計画の制定が法律に記載された。特定鳥獣保護管理計画は地域個体群の長期にわたる
安定的維持を目的に策定される。策定の主体は都道府県であり、策定するかは任意である。
その対象はシカやイノシシ等の地域的に著しく増加している種の個体群、またはクマ等の
地域的に著しく減少している種の個体群であり、 個体数の管理や生息環境の整備等を内容
に持つものである。環境省は計画達成のための手段として、地域の事情に応じた必要な狩
猟制限等の設定、生息環境の保全、生息環境の整備、被害控除対策の実施、その他の 5 点
を挙げている(環境省
インターネット自然研究所:http://www.sizenken.biodic.go.jp/)。
2007 年現在、イノシシの特定鳥獣保護管理計画は 18 県で制定され、16 県でその目的とし
て農業被害軽減が挙げられ、12 県で適正な個体群の管理が挙げられている(坂田ら,2007)。
これらの方法としてほとんどの地域で有害駆除と猟期の延長による個体数管理が行われて
いる。そこで有害駆除を行っていて、過去 5 年間以上農業被害額申告と捕獲頭数について
のデータがある6県について、捕獲数と農業被害金額の相関を調べた。有害駆除が農業被
害軽減に与える効果を示すため、捕獲数と農業被害金額の間に負の相関があるかどうかの
分析を行った。分析を行った地域は、茨城県、和歌山県、岡山県、山口県、香川県、徳島
県の 6 県である。なお捕獲頭数には有害駆除に加えて狩猟捕獲も含んだ数値を県のデータ
から使用し、農業被害額はイノシシの農業被害として申告されたものを農林水産省のデー
タ か ら 使 用 し た 。( 農 林 水 産 省
農林水産統計情報総合データベース
http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/toukei 野生鳥獣による農作物被害状況より)。以下で各県
の捕獲頭数と農業被害金額の相関を示す散布図と相関係数の値を算出し、更に保護管理計
画の目標と個体数管理の方法について簡単に示す。
図1
農業被害金額(万円)
捕獲頭数と農業被害額相関(茨城県)
10,000
8,000
6,000
系列1
4,000
2,000
0
0
200
400
捕獲頭数(頭)
600
3
(茨城県による捕獲頭数データ、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」より
筆者が作成)相関係数
0.0812
平成 19 年に改訂された「茨城県イノシシ保護管理計画」によると、被害が県北地域から
県央地域の中山間地域と筑波山周辺の地域を中心に拡大しており,農業被害額を平成 12 年
度の水準まで戻すことを目標に計画を策定している(以下、茨城県生活環境部, 2007)。農
業被害金額の変動は被害が発生した農作物の種類(特にイネ)による増減によっても起こ
っていると考えられる。地域個体群としての管理を行うことが目標で、地域ごとの生息状
況が調査されているが、実施されるには至っていない。具体的な個体数管理の方法として
狩猟期間の延長、有害鳥獣捕獲の実施、 狩猟免許取得の推進、禁止する猟法の解除、休猟
区による狩猟、県によるイノシシ捕獲(調査捕獲)の実施を行っている。
図2
農業被害金額(千円)
捕獲数と農業被害額相関(和歌山県)
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
系列1
0
20,000
40,000
捕獲数合計
60,000
(和歌山県による捕獲頭数データ、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」よ
り筆者が作成)相関係数
-0.5968
「和歌山県イノシシ保護管理計画」によると被害金額が急増に転じる平成13年度の水
準まで抑えることを目標として計画を策定している。(以下、和歌山県自然環境室, 策定年
不明)農林業被害を軽減させながら、イノシシ個体群の安定的な維持を図る。狩猟による
捕獲数が有害捕獲の 3 倍程度と多く、地域個体群ごとの生息調査や個体数管理は行われて
いない。個体数管理の方法として狩猟期間前後15日間の捕獲、鳥獣保護区等の狩猟禁止
場所での捕獲がされている(和歌山県イノシシ保護管理計画)。
4
図3
農業被害金額(千円)
捕獲頭数と農業被害額相関(岡山県)
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
系列1
50,000
0
0
2,000
4,000 6,000
捕獲頭数(頭)
8,000 10,000
(岡山県による捕獲頭数データ、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」より
筆者が作成)相関係数
0.6436
平成 19 年改定の「第2期岡山県イノシシ保護管理計画書」によれば農業被害額を増加前
のレベルの1億円以下にすることを目標にしている。地域個体群ごとの生息調査や個体数
管理は行われていない。個体数管理の方法として猟期延長、有害鳥獣捕獲の推進、狩猟者
の確保がされている(岡山県イノシシ保護管理計画書)。
図4
農業被害金額(百万円)
捕獲頭数と農業被害額相関(山口県)
400
300
200
系列1
100
0
0
5,000
10,000
15,000
捕獲頭数(頭)
20,000
(山口県による捕獲頭数データ、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」より
筆者が作成)
相関係数
0.6178
平成19年改定の「第2期特定鳥獣(イノシシ)保護管理計画」によると被害額が過去最高
となった平成16年の3億7千万円の半分以下となることを目標にする。個体数管理の方
法は狩猟期間の延長と有害捕獲の実施、 捕獲檻による効果的な捕獲の実施(設置基数の拡
大による捕獲強化)、狩猟免許取得推進によって行われる(山口県 「第2期特定鳥獣(イ
5
ノシシ)保護管理計画」)。
図5
農業被害金額(万円)
農業被害額と捕獲頭数相関(香川県)
20,000
15,000
10,000
系列1
5,000
0
0
1000
2000
3000
捕獲頭数(頭)
4000
(香川県による捕獲頭数データ、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」より
筆者が作成)
相関係数
0.7951
平成 17 年策定の「香川県イノシシ適正管理計画」によると香川県では狩猟による捕獲頭
数が多いのでそれを活かしつつ効果的な捕獲を実施し、併せて被害防除対策を推進するこ
とによって農林業被害を軽減させながら、イノシシ個体群の健全な維持を図ることを目標
とする。地域個体群ごとの生息調査や個体数管理は行われていない。 個体数管理は狩猟期
間の延長、有害捕獲の実施 、狩猟免許取得の推進によって行われる(香川県イノシシ適正
管理計画)。
図6
農業被害金額(万円)
捕獲数と農業被害額相関(徳島県)
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
系列1
0
2,000
4,000
捕獲頭数(頭)
6,000
(徳島県による捕獲頭数データ、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」より
筆者が作成)相関係数
0.8374
平成 19 年策定の「徳島県イノシシ保護管理計画書」によると徳島県ではこれまでの捕獲
6
状況、被害状況に基づき、捕獲頭数を調整するとともに、被害防除の推進を図ることと、
個体群を安定的に維持するための生息環境の改善等の管理を行い、人間とイノシシの軋轢
を軽減することを目標とする。個体数管理の方法として狩猟期間の延長、特別捕獲の実施
(被害の発生状況に応じて実施)、 捕獲檻による効果的な捕獲の実施、 狩猟免許所持者の
確保が行われている(徳島県イノシシ保護管理計画書)。
6 県中 5 県の捕獲頭数と農業被害金額の間に負の相関は見られず、正の相関が見られる。
以下で図 1∼6 で算出された相関係数について、2変数に有意な相関があるといえるかどう
か有意水準 10%,5%,および 1%で両側検定を行い、表 1 にまとめた。表中では有意である
=○、有意でない=×とした。
表 1 捕獲頭数と農業被害金額の相関係数の検定
相関係数
サンプル数
自由度
0.0812
7
−0.5968
岡山県
有意水準
10%
5%
1%
5
×
×
×
6
4
×
×
×
0.6436
17
15
○
○
○
山口県
0.6178
10
8
○
×
×
香川県
0.7951
7
5
○
○
×
徳島県
0.8374
8
6
○
○
○
茨城県
和歌山県
1.2
大阪府、茨城県における推定生息数と農業被害の相関
特定鳥獣保護管理計画が制定されている 18 の府県においてその全てで個体数調整の方法
として有害駆除が挙げられているにも関わらず、捕獲数の増加が農業被害軽減に繋がらな
いのは何故であろうか。考えられる原因として、(1)農業被害が生息数に依存していない
(以下これを農業被害にイノシシの生息密度依存性が無いと記す)、
(2)イノシシの生息分
布拡大が進み捕獲頭数が自然増加に対して小さすぎる(生息数の過小評価)、
(3)農業被害
のデータが直接被害を受けている農業従事者による自己申告制であるため、過大申告の可
能性が存在する、等の3つがあげられる。
以下ではこれらの原因のうち、
(1)に着目して検証し、
(2)、
(3)については 1 章の最後
に簡単に触れるのみとする。農業被害金額とイノシシの生息数に正の相関が見られるかど
うか調べるため、特定鳥獣保護管理計画の中で生息数推定を行っている大阪府と茨城県に
ついて、2.1 と同様に推定生息数と農業被害金額についての散布図作成と相関係数の算出を
行った。
まず大阪府における推定生息数と農業被害金額の相関を示す。
7
図7
農林業被害額(円)
生息数と農業被害金額の相関(H12 17)大阪府
70000000
60000000
50000000
40000000
30000000
20000000
10000000
0
農林業被害額(円)
0
2000
4000
6000
8000 10000
推定生息数(頭)
(「大阪府イノシシ保護管理計画」より筆者が作成)
相関係数
-0.9497
平成 19 年策定の「大阪府イノシシ保護管理計画」によると推定生息数を 4,000∼9,000
頭に設定し、年増加率を 1.178(環境省自然環境局特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル(イ
ノシシ編)による)とし、各年度の実際の捕獲数を当てはめて生息数の増減をシミュレー
ションする。その結果得られた増減傾向が、実際の捕獲数の増減傾向に近いものを採用し
ている。その結果傾向として近いものが平成 12 年度の推定生息数 7000 頭とした場合のグ
ラフであり、平成 18 年度の推定生息数は、9,545 頭となる。
推定生息数の算出方法として
〔推定生息数(繁殖前)〕×〔年増加率 1.178〕−〔捕獲数〕=〔推定生息数(繁殖・捕獲後)〕
を採用している(大阪府イノシシ保護管理計画より)。
平成 12 年度から 17 年度までの推定生息数と農業被害金額の相関係数は-0.949734093 で
ある。
次に茨城県における推定生息数と農業被害金額の相関を示す(以下茨城県生活環境
部,2007 による)。
茨城県においても大阪府と同様に平成 12 年度の推定生息数を①100,000 頭、②8,500 頭、
③7,000 頭に設定し、それぞれの平成 17 年度までのシミュレーションを行っている。
8
図8
茨城県における推定生息数
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
推定生息数①
推定生息数②
推定生息数③
H12
H13
H14
H15 H116 H17
(「茨城県イノシシ保護管理計画」推定生息数グラフを筆者が改訂)
図9
農業被害額
農業被害額と推定生息数相関関(H12∼17)(茨城県)
推定生息①
90,000,000
80,000,000
70,000,000
60,000,000
50,000,000
40,000,000
30,000,000
20,000,000
10,000,000
0
農業被害額
0
5000
10000
15000
推定生息数
(「茨城県イノシシ保護管理計画」より筆者が作成)
相関係数
0.3855
9
図 10
農業被害額
農業被害額と推定生息数相関(H12 17)(茨城県)②
90,000,000
80,000,000
70,000,000
60,000,000
50,000,000
40,000,000
30,000,000
20,000,000
10,000,000
0
農業被害額
0
5000
10000
15000
推定生息数
(「茨城県イノシシ保護管理計画」より筆者が作成)
相関係数
0.4341
図 11
農業被害額
農業被害額と推定生息数相関(H12 17)(茨城県)③
90,000,000
80,000,000
70,000,000
60,000,000
50,000,000
40,000,000
30,000,000
20,000,000
10,000,000
0
6900 7000 7100 7200 7300 7400 7500
農業被害額
推定生息数
(「茨城県イノシシ保護管理計画」より筆者が作成)
相関係数
0.3896
推定生息数の算出方法は大阪府と同様、年増加率を 1.178(環境省自然環境局特定鳥獣保
護管理計画技術マニュアル(イノシシ編)による)とし、
〔推定生息数(繁殖前)〕×〔年増加率 1.178〕−〔捕獲数〕=〔推定生息数(繁殖・捕獲後)〕
を採用している(茨城県イノシシ保護管理計画より)。茨城県による特定鳥獣保護管理計画
では推定生息数を3つの中から特定することはしていないが、大阪府と同様に増減傾向が、
10
実際の捕獲数の増減傾向に近い①を採用すると、平成18年度の推定生息数は14,306頭とな
り、平成12年度から17年度までの推定生息数と農業被害金額の相関係数は0.3855である。
以下で大阪府と茨城県について算出した推定生息数と農業被害金額という 2 変数の相関
係数について、有意な相関があるといえるかどうか有意水準 10%,5%,および 1%で両側検
定を行い、表 2 にまとめた。表中では有意である=○、有意でない=×とした。
表 2 推定生息数と農業被害金額の相関係数の検定
有意水準
相関係数
サンプル数
自由度
大阪府
−0.9497
6
4
○
○
○
茨城県
0.3855
6
4
×
×
×
10%
5%
1%
捕獲数の増加が農業被害軽減に繋がらない 2 つ目の原因として、イノシシの生息数の過
小評価という可能性は、シカと同様に存在している。例えば、エゾシカ保護管理計画の場
合、個体数推定に基づいた計画的な捕獲をおこなったにも関わらず農業被害軽減が見られ
ないことから北海道東部地域における個体数指数のモニタリング結果や捕獲数資料及び個
体群動態モデルを用いた検討の結果、エゾシカの個体数を過小評価していたことが明らか
になった(宇野ら,2007)。しかし、イノシシにおいては現時点で定量的な指標にするべき
個体数調査の項目は存在しない(坂田ら,2007)。その他、農業被害額データの適切性につ
いての正確性を検証することは、ここでは不可能である為、可能性を指摘するだけにとど
める。
1.3
小括
1.1 では、捕獲数の増加が農業被害軽減に繋がらないことを、イノシシ保護管理計画で提
供されているデータを用いて示した。1.2 では、大阪府においては推定生息数と農業被害額
には強い負の相関が見られることを示した。これらは、イノシシによる農業被害には、生
息密度依存性がない可能性を示唆している。
上記の分析に加え、坂田(2007)によれば「イノシシは少ないところでも被害が大きい
集落が相当あり、多いところでも被害がないところがある」という、イノシシによる農業
被害では生息密度依存性が明確ではないことが指摘されている。
そこで、2 章では、兵庫県篠山市を事例として、イノシシによる農業被害の生息密度依存
性について、実地調査に基づく分析をおこなう。
11
2章
2.1
兵庫県篠山市周辺における分析
兵庫県篠山市の概略
イノシシによる農業被害の生息密度依存性についてのさらに詳細な分析を行うため、兵
庫県篠山市篠山町で篠山猟友会の方に対する聴き取り調査とアンケート配布を行った。兵
庫県においてイノシシ保護管理計画は、2007 年 12 月現在策定されていないが、関西地方
の他県と同じく 1970 年代と比較すると県全域にイノシシの生息拡大が確認され(生物多様
性システム
自然環境保全基礎調査:http://www.biodic.go.jp/J-IBIS.html)、シカ、サルに
次ぐ深刻な農業被害を生み出している。実地調査地として篠山市篠山町を選んだ理由は、
古くから食用にイノシシの狩猟がされて来たという理由で長く狩猟を行っている猟師が多
く、イノシシの生息分布や生態について聴き取りをした際に信憑性の高いデータが得られ
ると考えたからである。さらに農業被害軽減の為に狩猟を行っている猟師の方も多くおり、
被害の生息密度依存性や効果的な対策について詳しく聞くことが出来ると予想した。
まず篠山市の概略を記す。篠山市、特に篠山町では多くのイノシシが生息し、イノシシ
は郷土料理として名物となっている。市外からの需要が多く、価格も約 1500 円/kg(聴き
取り調査による)と高い。篠山においてイノシシ肉を食べる習慣は、明治期の軍都となっ
た篠山での「歩兵第七十連隊」の駐屯により訓練でイノシシの狩猟と捕食が行われるように
なったことをきっかけにしており(赤星 2001,304 頁)、その歴史は古い。その後は交通網
の発達と、イノシシ肉の大手問屋の成立により流通が盛んになり、需要が現在になっても
高い。篠山の人々にとってイノシシは食用としての利用価値は非常に高い反面、農業従事
者にとっては害獣になっているという二面性を持つ動物である。
具体的には篠山猟友会支部長の高田さん(御名前記載の許可を頂いています)、メンバー
の H さん、T さんの 3 人に対する 2 日間の聴き取り調査と猟友会メンバーの 10 人の方に対
するアンケート調査を行った。2007 年 11 月 21 日∼23 日の 3 日間、聴き取り調査とアン
ケート配布を行い、後日アンケートの回収を行った。2.2 では聴き取り調査によって明らか
になった篠山市内5ヵ所の箱ワナによる捕獲頭数データと、兵庫県による農業集落ごとの
農業被害についての調査結果を用いて、捕獲頭数と農業被害の相関の分析を行う。
聴き取り調査とアンケート調査結果の他の詳細については 3 章の考察と付録において示
す。
2.2
箱ワナによる捕獲頭数と農業被害申告の分析
正確な生息数や生息分布を調査することは実地調査においても不可能なので、篠山の各
地域の個体数を知る方法として一定期間一定の猟法で行われる猟による捕獲数を利用する。
12
特定の猟法による努力量あたりの捕獲効率や目撃効率は、個体数の動向を示す指標として
一定の成果を挙げる方法として個体数推定に用いられる(Boitani et al.,1995)。篠山市に
おいては聴き取り調査によって明らかになった篠山市内5ヵ所の箱ワナ(畑の近くや山中
に面積約20平方メートルの鉄の檻を設置し、撒き餌をすることでイノシシを捕獲するワ
ナのこと)の年間捕獲数2と、兵庫県立人と自然の博物館による農業集落アンケートを使用
した分析を行うことにした。農業集落アンケートは各集落の農会長や区長に農業被害の程
度を[ほとんどない/ 軽微/ 大きい(生産量の 30%未満)/ 深刻(生産量の 30%以上)]という 4
つの選択肢から聴き取りを行ったものである。
(兵庫県立人と自然の博物館,2007,7 頁)
分析方法
ニホンイノシシの 1 年間の行動範囲は 209ha であるとされており(農林業における野生
獣類の被害対策基礎知識:http://ss.ffpri.affrc.go.jp/labs/wildlife/14/4765.pdf)、篠山のイノ
シシもこれに当てはまるものと設定した。そこで①西紀
②福住
③奥畑
④今福
⑤小
多田の5ヶ所に設置している箱ワナを中心に 209ha の行動範囲の中に含まれる集落の農業
被害程度をそれぞれカウントした。農業被害程度のカウント方法は[ほとんどない/軽微/大き
い(生産量の 30%未満)/深刻(生産量の 30%以上)]を数値化し、ほとんどない=1, 軽微=2,
大きい=3, 深刻=4 と設定する。その上で行動範囲内に存在する集落の農業被害程度を平
均した数値を取る。5ヶ所それぞれについて算出した農業被害と、生息数の動向を示す箱
ワナによる捕獲頭数の相関係数の算出と散布図の作成を行った。さらに参考として農業集
落アンケートの出没程度についても同様の分析を行った。出没程度は[ほとんど見ない=1,
たまに見る=2,よく見る=3]という数値を設定した。箱ワナの捕獲頭数、農業被害程度、
出没程度それぞれ全て 2005 年度のデータを使用した(但し農業被害程度と出没程度につい
ては 2005 年度まで継続的に調査が行われていない地点が存在するので、その場合は前年ま
たは 2 年前のデータを使用することとする)。
まず、それぞれの地点について捕獲頭数、農業被害程度を以下の表 3∼7 にまとめる。
表 3 西紀
捕獲頭数
(頭)
農業被害程
度
度
栗
7
柄
3
2
坂
2本来なら
出没程
本
5 箇所の狩猟努力量 CPUE(単位努力量あたりの捕獲数=捕獲数÷(捕獲ワナ設
置日数×設置台数))を算出するべきであるが、設置日数と設置台数は5つの地点で共通し
ている為、CPUE をそれぞれ算出することは不必要なのでここでは捕獲数のデータのみを
使用する
13
1
1
高
坂
3
2
平
均
2.3
表 4 福住
捕獲頭数
(頭)
農業被害程
度
度
福
13
出没程
住
上
2
1
中
3
1
下
2
1
野
尻
0
0
黒
田
0
0
高
屋
0
0
西
阪
本
0
0
平
均
1
表 5 奥畑
捕獲頭数
(頭)
農業被害程
度
度
奥
9
出没程
畑
3
1
今
谷
2
1
畑
不
明
不
明
丸
山
3
2
城北
不
不
14
明
明
均
平
2.7
表 6 今福
捕獲頭数
(頭)
農業被害程
度
度
今
5
出没程
福
2
2
岡野
不
明
不
明
野
尻
0
0
岡
屋
0
0
高
屋
0
0
平
均
0.5
表 7 小多田
捕獲頭数
農業被害程度
(頭)
度
小
7
出没程
多
田
2
2
小
枕
3
2
野
中
0
0
襦
ヶ
坪
0
0
平
均
1.2
(表 3∼7
篠山町における聴き取り調査、兵庫県立人と自然の博物館「兵庫県における
大・中型野生動物の生息状況と人との軋轢の現状」より)
箱ワナによる捕獲頭数と行動圏の中の農業被害申告の各地点での平均値の相関を表すと
以下図 12 の様になる。
15
図 12
農業被害申告平均
箱ワナ捕獲頭数と農業被害申告平均
3
2.5
2
1.5
1
系列1
0.5
0
0
相関係数
5
10
捕獲頭数(頭)
15
0.1035
以下で篠山町周辺について算出した箱ワナ捕獲頭数(生息密度指標となる)と農業被害
申告という 2 変数の相関係数について、有意な相関があるといえるかどうか有意水準
10%,5%,および 1%で両側検定を行い、表 8 にまとめた。表中では有意である=○、有意
でない=×とした。
表 8 箱ワナ捕獲頭数と農業被害申告の相関係数の検定
篠山町
周辺
相関係数
サンプル数
自由度
0.1035
5
3
有意水準
10%
5%
1%
×
×
×
さらに全ての地区における出没程度と農業被害程度の値の相関は以下図 13 の様になる。
図 13
16
出没程度と農業被害程度
3.5
系列1
系列2
系列3
系列4
系列5
系列6
系列7
系列8
系列9
系列10
系列11
系列12
系列13
系列14
系列15
3
出没程度
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0
相関係数
1
2
農業被害程度
3
0.8763
以下で篠山町周辺について算出した出没程度と農業被害申告という 2 変数の相関係数に
ついて、有意な相関があるといえるかどうか有意水準 10%,5%,および 1%で両側検定を行
い、表 9 にまとめた。表中では有意である=○、有意でない=×とした。
表 9 出没程度と農業被害申告の相関係数の検定
篠山町
周辺
2.3
相関係数
サンプル数
自由度
0.8763
15
13
有意水準
10%
5%
1%
○
○
○
小括
2.2 において箱ワナによる捕獲頭数と行動圏の中における農業被害申告の各地点での平
均値の相関には弱い正の相関が見られた。このため農業被害が生息密度に依存するという
因果関係は見出されなかった。しかし一方で 18 の集落における出没程度と農業被害程度に
は強い正の相関があることから、イノシシの出没が増えるにつれて農業被害が増えるとい
う関係があることも分析によって明らかになった。
3章
考察
17
3.1
分析結果より分かること
1 章において県毎という広い範囲で特定鳥獣保護管理計画の有害駆除による個体数管理
の農業被害軽減効果を分析によって明らかにした。その結果イノシシによる農業被害には
生息密度依存性は無いという仮説を立て、その実証の為に 2 章で兵庫県篠山市という狭い
範囲の中で、一定の猟法による捕獲数と農業被害申告の相関を調べた。2 章における分析に
よって農業被害には生息密度は無相関であるが、一方で出没の有無と農業被害には強い相
関が存在するということが明らかになった。
これらの結果からイノシシの農業被害は、生息頭数を減らすことのみで軽減する可能性
は低いことが明らかになった。さらに被害の生息密度依存性が高い地域と低い地域の差が
非常に大きく、このことから大まかであっても集落単位等小さな範囲(イノシシの行動圏も
参考に出来ると思われる)のイノシシの生息状況を把握することは非常に重要であり、地域
にあった対策を講じることが重要であると考えられる。
3.2 農業被害軽減の有効な対策とは
農業被害軽減に有効な対策を篠山猟友会の農業従事者の方へのアンケート調査と聴き取
り調査を参考に検討を行う。
篠山市ではイノシシの対抗策として金網や電気策が使われてきた。対抗策をしっかりす
れば被害にあうことは無いが、イノシシの場合一度畑に入られると作物は壊滅させられて
しまうのでその場合の被害額は大きなものになる。さらに畑周辺をうろつく少数のイノシ
シは餌の豊富さから里に下りて来る事を習慣にしてしまうものがいるのでそうした個体は
少数であっても取り除かなければならない。駆除しないと少数個体であっても大きな農業
被害を出すことがある。金網、電気柵共に不完全であるとイノシシは隙間から入ってくる
ので高齢の農業従事者にとっては対策が大変な作業である。爆音機等はすぐに慣れてしま
うのでやはり直接的に畑への侵入を防ぐ対抗策が有効であると見られる (アンケート調査
の分析と農業従事者の T さんに対する聴き取り調査による) 。
これらの結果からイノシシにおいては捕獲数を増やすことより、金網や電気柵といった
畑への侵入を防ぐ対抗策を地方自治体の指導の下で正確な方法で行いつつ、畑周辺に現れ
る個体のみ駆除していくという方法が有効であると考えられる。
イノシシの捕獲圧に対する耐性はシカやカモシカ、ツキノワグマと比較して強いという
指摘(常田,2001,253 頁)があり、一回の産仔数も平均 4.5 頭程度(常田,2001,253 頁)と多いた
め、特定保護管理計画では最初に一定数の駆除を行い、個体数が減少してから個体数動向
等の調査を行う予定という形式が多くの県で取られている。ただし、その中で実際に生息
数、生息密度、個体数動向について独自調査を行っている県は少数である。今回の篠山で
の聴き取り調査では、育つのはせいぜい一頭(聴き取り調査による)というイノシシの子供の
弱さが明らかになった。さらに箱ワナに子供が多くかかることや(8 割方子供)、銃器による
18
猟が 2 歳未満の未繁殖の個体に限定されてきていることから、狩猟対象の低年齢化を感じ
た。この様な現状を見るとイノシシの生息状況は不安定であり、やみくもな有害駆除は農
業被害軽減に繋がらないばかりかイノシシの種の存続すら危険にさらす可能性がある。
野生動物の保護管理には適切なフィードバック管理が必要(坂田,2007,20 頁)であるが、イ
ノシシにおいてはそれがなされておらず、集落単位の出没程度や農業被害程度といった詳
細なデータが存在するのも兵庫県のみ(兵庫県立大学、坂田宏志氏(御名前記載の許可を頂い
ています)との私信による)という状況である。農業被害の軽減を有効な対策によって図りつ
つ、地域ごとに生息状況について継続的な調査と分析を行うことがイノシシ保護管理計画
の策定に関しても重要である。
引用文献リスト
19
原著論文
宇野裕之,梶光一,車田利夫,2007,「エゾシカ個体群の個体数管理とモニタリング」
『哺乳類科学』47(1),133−138 頁
坂田宏志,2007,「野生動物の保全と管理に向けた地理情報システムの活用」
『森林科学』50,16−20 頁
坂田宏志,鮫島弘光,2007,「兵庫県におけるイノシシの個体数と狩猟の管理」
『哺乳類科学』47(1),157−159 頁
Boitani, L., P. Trapanese and L. Mattei. 1995. Methods of population estimates
of a hunted wild boar (Sus scrofa L.) population in Tuscany (Italy). Ibex Journal
of Mountain Ecology, 3: 204-208.
書籍
高橋春成編,2001,『イノシシと人間
共に生きる』株式会社古今書院
第 6 章「イノシシの行動と能力を知る
−現代の攻防最前線−」江
口裕輔,171−199 頁
第 9 章「鳥獣保護制度とイノシシ管理」常田邦彦,244−257 頁
第 11 章「イノシシのまち
–丹波篠山−」赤星心,290−313 頁
梶光一・宮木雅美・宇野裕之編著,2006,『エゾシカの保全と管理』北海道大学出版会
兵庫県立人と自然の博物館
自然・環境マネジメント研究部編集,2007,『兵庫県におけ
る大・中型野生動物の生息状況と軋轢の現状』兵庫県立人と自然の博物館
白砂堤津耶,1998,『例題で学ぶ
初歩からの計量経済学』株式会社日本書院
インターネットサイト
環境省
インターネット自然研究所
環境省
自然環境局
環境省
生物多様性情報システム
農林水産省
「特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル」
「野生鳥獣による農作物被害状況」
兵庫県篠山市ホームページ
特定鳥獣保護管理計画
「茨城県イノシシ保護管理計画」(茨城県)
「和歌山県イノシシ保護管理計画」
(和歌山県)
「大阪府イノシシ保護管理計画」(大阪府)
「第2期岡山県イノシシ保護管理計画書」(岡山県)
「第2期特定鳥獣(イノシシ)保護管理計画」(山口県)
「香川県イノシシ適正管理計画」(香川県)
「徳島県イノシシ保護管理計画書」
(徳島県)
資料提供等ご協力いただいた方(御名前記載の許可を頂いています)
篠山猟友会支部長高田さん他篠山猟友会メンバーの皆さん
20
兵庫県立人と自然の博物館
主任研究員
坂田宏志さん
付録
本論との関連性は薄いが、貴重な資料として兵庫県篠山市でのアンケート調査、聴き取
り調査によって明らかになったことを以下に示す。
<猟友会の方への聴き取り調査より>
猟の現状
さつき会のイノシシの猟期は 1 シーズンが 11 月 15 日∼2 月 15 日までで、シカの害獣駆
除としての捕獲と合わせ(シカは 2 月末まで)篠山町を中心に行われる。現在は犬を使っ
た銃器による猟と箱ワナ猟が行われている。銃器による猟は 5∼10 人のグループで行い、
犬にイノシシを発見させ、(数日をかけてサツマイモの粉末などの撒き餌をし、出没確率を
高めることもある)無線によって連絡を取り合いながら猟師複数人で追い込んだ所を撃つ
という形で行われ、主に山に入って行う。箱ワナ猟の箱ワナとは8畳程の鉄の檻の中に餌
を撒き、奥の餌を食べようとすると檻の扉が閉まる仕組みになっている。箱ワナは農作物
を狙ってやってくるイノシシを狙い、畑の近くに仕掛けるものもあれば、周辺の撒き餌を
しつつ山奥に仕掛けるものもある。出猟の頻度は平均で週に 3.8 日程度で一日平均 4.1 時間
程度行う。捕獲したイノシシは問屋に売ることもあれば仲間内で分けて食べることもある。
箱ワナで群れがかかり、中にウリ坊がいた場合はイノシシの飼育施設に売ってしまう。
イノシシの生態
イノシシがいるかどうか猟友会の方たちは土を掘り返した独特の跡で判断する。篠山の
イノシシは農作物意外も山の土の中の昆虫やクリ等のどんぐり、自然薯等を餌にしており
掘り返して食べるのでその跡の新しさで追跡を行いワナや撒き餌の場所を決める。生息数
が減っていなくても気候によって山の状態が変わり、山に餌が豊富にあると人里に全く降
りてこない年がある。発見率が高いのはやはり餌が多いところで、農作物の近く(畑の脇)
や山の中であれば広葉樹(天然林)が多くある所を狙ってワナを仕掛ける。
猟の通時的変化(1980年代と比較して)
年間の捕獲数 1980 年代は約 20∼25 頭。現在と比較すると少なかった。猟法はくくりワ
ナと銃器であった。
捕獲数が増加した理由として考えられるものが4つある。第一にくくりワナは実際にか
かる様にするには熟練した技が必要の為、捕獲率が低かった。第二に当時は無線が無く、
一日一山を全員で狩りしていたため、日によって生息密度が低い山に出猟してしまうと全
く捕れなかったりするなど捕獲数が不安定だった。第三に現在は撒き餌を行い、イノシシ
を意図的に出没させているが以前はイノシシが土を掘り返した跡のみで判断していた。最
21
後の理由として箱ワナの出現がある。警戒心の強いイノシシが檻の中に自ら入ることは無
い、という思い込みから以前は行われていなかったが 10 数年前から箱ワナでもイノシシが
かかることが分かり、猟に取り入れるようになった。箱ワナは他の猟法と違い、群れでい
る複数のイノシシを一気に取ることができるので猟の効率は非常に良い。
捕れるイノシシの体重が減った。以前は 45kg を越えるものが捕れることがあったが現在
大物はほとんどない。まだ若いイノシシを捕獲している傾向があるのかもしれない。
生息分布の違いは 30 年間で大きく変わったとは考えられない。強いてあげるならシカが
里に下りてこないために金網が張られている範囲だけイノシシも畑に出て来られなくなっ
た。
イノシシ生息の現状
最近一頭の行動範囲が広がってきたという印象がある。土を掘った跡自体がここ数年減
少したのでイノシシの数は減少傾向にあるよう。その為一頭もしくはひとつの群れの縄張
り範囲が広がっているのかもしれないと猟師の間では考えている。捕獲数はここ∼年減少
傾向にあり、猟法は発達したのに捕りづらいという状態。
篠山町で 30cm 以上の積雪があることは滅多に無いので生息分布に与える影響は不明。イ
ノシシは広葉樹林(天然林)が多いところに生息し針葉樹林では発見できない。10 人の聴
き取り調査の結果篠山市のイノシシの生息密度が特に高い地域は図 A の 3c,4e,4g,5f,6f のよ
うになった。
22
図A
篠山におけるイノシシの生息状況
(兵庫県篠山市ホームページ:http://www.city.sasayama.hyogo.jp/index.html より筆者作
成)
23
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