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分子スピン通信NO.4 - 横山G(分子研・電子構造部門)

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分子スピン通信NO.4 - 横山G(分子研・電子構造部門)
1
目 次
I. 特 集
バイオスピン勉強会
東大院総合
菅原 正….…………………………………………………..…..….…..6
π共役スピン系の光励起スピン整列
阪市大院理
手木 芳男……..…………………………...…………………………..8
II. 「分子スピン」公開シンポジウムプログラム……………………………………..10
III. 「分子スピン」公開シンポジウム発表要旨
【招待講演】生体磁気研究の最近の進歩
東大院医
上野 照剛……...………………………………………………………..14
【招待講演】走査電子顕微鏡でスピンを見る
北大院理
小池 和幸……..…….....…………………………………………..….…16
【特別講演.P13】分子スピン量子演算と量子情報通信-分子スピニクスの最新の応用
阪市大院理
工位 武治
(A02-08)…...…………………………………………….18
【依頼講演】銅蛋白質アズリン活性部位付近の電子状態と機能
金沢大院自然
長尾 秀実…………..…..…………………………………………...20
【O01.P05】スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
(A01-04)…………………………………….…………………22
武田 定
【O02.P07】安定N -アルコキシアミニルラジカルの合成と構造解析および磁化挙動
阪市大院工
三浦 洋三
(A01-05)………………………………………………….24
【O03.P12】単分子磁石の合成
筑波大院数理物質科学
二瓶 雅之
(A02-07)…………………………………….26
【O04.P18】強磁性酸化物ナノギャップ電極の作製とバイオ分子デバイスへの適用の試み
阪大産研
田中 秀和
(A02-11)……………………………….….………………..28
【O05.P17】水中に分散した金ナノクラスターのサイズ特異的な空気酸化触媒作用
分子研
佃 達哉
(A02-10) …….……………………………...…………….…….30
【O06.P11】光化学的なラジカル発生の高効率化と高機能化-NO発生と光誘起電荷分離-
東大院総合
村田 滋
(A02-07) ………...…………….……………………………32
【O07.P25】食道・胃接合部で検出される高濃度NOの挙動
山形県産業技術振興機構
吉村 哲彦
(A03-15) ……………………..…………..34
【O08.P23】PEDRI(プロトン電子二重共鳴画像)による生体内ラジカル反応の画像解析
九大院薬
内海 英雄
(A03-14)…………………………….....……………………36
2
【P01】分子とバルグをつなぐナノ球殻磁性体
名大院理
阿波賀 邦夫
(A01-02) ……………………………………………..…38
【P02】水およびヘモグロビンの近赤外光吸収への磁場効果
千葉大工
岩坂 正和、 東大院医
上野 照剛
(A01-02)……………………40
【P03】基板上のポルフィラジン分子クラスター構造の STM 観察
情報通信研究機構
名大
照井 通文・益子信郎、
鈴木 陽介・藤森 雅人・阿波賀 邦夫
(A01-02)…………………….……..42
【P04】ヘテロ原子置換高対称性フェナレニル類の設計と合成研究
阪大院理
森田 靖
(A01-03)………………………………………….……………44
【P06】π共役スピン系の光励起状態のスピンダイナミックス
阪市大院理
手木 芳男
(A01-05)………………………………………………….46
【P08】光、電気、磁気情報をスイッチするジアリールエテン
九大院工
松田 建児
(A01-06)………………………………………….…………48
【P09】分子スピンのミクロ構造化と機能
東大院総合
菅原 正・松下 未知雄・Yang
Jiao・鈴木 健太郎
(A02-07)……50
【P10】バイオマグネタイトの磁気的挙動の解析
農工大
田中 剛・松永 是、
東大院総合
菅原 正・松下 未知雄(A02-07)……………..…………………….….52
【P14】表面修飾銀クラスター、ナノ粒子の分画
兵庫県立大
清水 悠子・渡部 昌大・八尾 浩史・木村 啓作 (A02-09)…………54
【P15】ナノスケール薄膜の表面化学的磁化制御と評価
分子研
横山 利彦
(A02-10)………………………………………………...……..56
【P16】最小のホスト-ゲスト系分子性磁性体としてのCoC2
分子研
西條 純一・西 信之
(A02-10)………………………….…………………58
【P19】アミノキシルラジカル修飾オリゴヌクレオチドの合成とその分子サイズの
水プロトンの緩和速度への影響
九大院薬
(A03-12)………………………………………60
古賀 登・麻生 真理子
【P20】ビタミンE 同族体に対するユビキノンの相乗効果
愛媛大理
向井 和男・小原 敬士・長岡 伸一
(A03-13)………………….……62
【P21】高速磁場掃引型ストップトフローESR によるフラボン類の抗酸化活性と
分子構造の相関性
京都工繊大
田嶋 邦彦・渡部 るしる・金折 賢二
(A03-13)……………………64
【P22】ナノサイズ細孔構造体中における酸素分子およびNO分子の磁気挙動
九工大工
美藤 正樹
(A03-13) ……………………………………………..……..66
3
【P24】アシル保護ヒドロキシルアミンプローブによる生体内レドックス評価
のための基礎検討
崇城大学薬
竹下 啓蔵、
放医研
東北大未来科学技術共同センター
安西 和紀
斉藤 圭太・小澤 俊彦
(A03-14)………...68
【P26】植物のストレス応答計測と応答機構の解明
山形大工
尾形 健明・伊藤 智博・黒澤 秀宏
(A03-15) …………………….…70
【P27】NO による新しいシグナル伝達機構の解明
熊本大医
赤池 孝章・芥 照夫
(A03-16)…………………………………..………72
【P28】遷移金属錯体超微粒子における磁性制御の理論
産総研
川本 徹…………………………...……………………………….…...……74
【P29】オキサラト架橋錯体ナノ微粒子を前駆体とした GeFe1.4 型合金ナノ微粒子の合成
北陸先端大
山田 真実
(A02-07)…………………………………………………76
IV. 研究組織名簿
【一覧表】..................................................................................................................................78
【プロフィール】....................................…........................................................................... 81
V. 備考....……………...............................................................................................………....96
4
5
バイオスピン勉強会
(東大院総合) 菅原 正、鈴木 健太郎
特定領域研究 「分子スピン―ナノ磁石から生体スピン系まで― 」では、3班の横断的研究が奨励さ
れているが、その中でも生命機能班(A03)が、スピンと分子機能班(A01)とスピンとナノ機能班(A02)の
班員のうちで特に、分子設計・合成を得意とするメンバーとスピンと連携することで、本特定ならの成果
を挙げることが期待されている。そのためには、A03 班のメンバーが、関連分野の研究動向を合成化学
者にも理解しやすいように紹介し、その話を受けて A01
班および A02 班の合成化学者が、現在合成している、ま
たは潜在的に合成することが可能な分子群を提示する機
会をもつことの必要性が検討されてきた。このたび、懸案
であったバイオスピン勉強会が、2005年3月30日(水)
に東京大学総合文化研究科の駒場キャンパスで開催さ
れた(参加者 30 名)。当日は、A03 班からは岩坂、田嶋、
内海、尾形がまた A01 班および A02 班からは、菅原、森
田、佃が話題提供を行った。以下のその概要を述べる。
このバイオスピン勉強会では、各班員からの話題提供に先立ち、菅原が「生体系におけるスピン分子
の可能性」と題して、膜構造の解明や生体反応の追跡に現在利用されているスピン分子の実例、およ
び ESR を用いたイメージングの原理について簡単な解説を行った。
まず「生体系で利用されているスピン分子」の研究例として、①スピンプローブ分子の超微細構造の
異方性を利用して、膜構造や膜ダイナミクスを解明した研究、②虚血再灌流処理した検体において、生
成する活性酸素の局所濃度を、それぞれ、細胞膜、界面、血液中に局在性をもつ脂溶性、弱脂溶性、
水溶性 Proxyl ラジカルの信号の消失速度より比較・検討した研究
(図1) の紹介。③生体内反応追跡に適した複合機能型スピンプ
局在型 Proxyl ラジカルプローブ(図1)
ローブの設計・合成の提案があった。
ついで、「スピン分子の医療への利用」に関して、①癌細胞の放
射線治療の上で、生体内での酸素の局所濃度を正確に評価する
ことの意義と、その目的に有用な ESR と MRI を組み合わせたイメ
ージング技法である Proton Electron Double Resonance Imaging
(PEDRI)の原理の解説があった。造影剤としてのスピン分子を
ESR の共鳴条件に置くと、分子間での Overhauser 効果により、ス
ピン分子近傍にある水のプロトンの NMR シグナル強度が増大す
る(スピン分子濃度のイメージング)。但し、この際、水の周りの酸素濃度に比例して、ラジカルの ESR の
緩和速度が著しく増大するため、高酸素濃度では信号強度が減少する。従って、酸素濃度のイメージ
ングが可能となる。しかしながら、生体試料にとっては、通常のラジカルでは PEDORI 測定に必要なラジ
カル濃度が高すぎるため、造影剤の改良が必要であった。③近年、この手法に目覚しい進歩があり、
PEDORI を in vivo で行うのに適したラジカルとして TAM が開発された。これは高い水溶性を示すと共
6
に、線幅が尖鋭なため、酸素存在下での ESR スペクトルの広幅化を鋭敏に検知できる、また生体内で
の多くの酸化還元反応に対する安定性が高い、などの利点がある。
図2 TEMPOL 水溶液の PEDRI によるイメージング。 a) ESR シグナル ON/OFF による NMR イメ
ージの増強。b) 溶存酸素による NMR イメージの減衰。
Ref.) C. Rizzi et al., Free. Radic. Bio. Med., 35 (2003) 1608-1618
投与された TAM は、血液量の多い所に高濃度で存在するため、TAM を ESR の共鳴条件下におく
と、TAM 周囲の水の NMR シグナルが Overhouser 効果により増強する(スピン濃度のイメージング、図1
a)。しかし、腫瘍部では生体活動が活発なため酸素濃度は低下しており、放射線治療に有効ではない。
そこで、検体を Carbogen (O2:CO2 = 95:5) の雰囲気下におくと、腫瘍部での酸素濃度が上昇し、放射
線治療に効果的な条件が達成されることが確認された(酸素濃度のイメージング、図1a)。④今後の展
望として、i) Overhauser 効果の顕著な造影剤の開発、ii) 酸素による広幅化が鋭敏に検知できるような
尖鋭なシグナルを与えるラジカルの開発、iii) さまざまな生体内物質(活性酸素、一酸化窒素など)と特
異的に応答する造影剤の開発などの必要性が指摘された。なお、 基礎的研究ではあるが、分子間の
Overhauser 効果が定量的に評価できるモデル系の探索は、この分野の発展に不可欠であろう。
このような解説を受け、各班員から具体的提案や、他の班員への要望が出された。
生体機能の中でも特に注目されている脳の活動状況に関しより直接的な情報をうる上で、岩坂は、従来
のオキシヘモグロビンに代わり、これと吸収が重なっているチトクロームオキシダーゼ酸化体の吸収を正
確に測定することの重要性を指摘した。田嶋は磁場掃引ストップトフローESR 装置による抗酸化反応解
析の豊富な実例を示し、この解析に適したラジカルがあれば測定したいとの提案があった。内海は上記
の TAM を用いた計測の他、代謝反応を追跡したい炭素原子を、選択的に同位体ラベルすることが機
構解明に有効であり、その合成法の確立の必要性を指摘した。一方、山形県の県魚であるサクラマスの
卵では、ストレスがかかると胚盤から還元剤の染み出しが起こることが知られており、その際、TEMPO が
還元される。尾形は in vivo 時空間分解 ESR でその計測に成功しているが、この手法を活かす上で、広
い酸化・還元電位をカバーするラジカル類についての情報提供を要望した。
一方、A01 班の森田は、フェナレニルラジカルの周縁を修飾することで、水溶性の獲得、アミノ残基の
導入、ラジカルの安定性の向上を可能にし、新規バイオスピン分子を創出する計画を紹介した。A02 班
の佃は、グルタチオンで保護することで粒径が均一で小さい金ナノ粒子を単離・精製することに成功し
たこと、さらに、それらの微粒子を用いて、生体模倣型酸化触媒を開発する計画について紹介した。
以上双方向の議論や提案があり、大変意義のある勉強会が持てた。今後の各班の連携にこの勉強
会の成果が活かされることを望みたい。
7
π共役スピン系の光励起スピン整列
阪市大院理
手木
芳男
1. はじめに
有機強磁性体が実現した現在、有機磁性の研究は、有機スピンの操作性に着目してスピンを制御し、
複合機能の発現を目指す研究に発展してきている。我々は、これまで有機分子の励起状態でのスピン整
列の解明を目的として、π共役縮合多環芳香族安定ラジカルの光励起状態の研究を行ってきた[1-4]。
その結果、純有機π共役スピン系(有機磁性系)の光励起高スピン状態の検出に成功し、光励起により
側鎖に付加したラジカル間の磁気的相互作用を “反強磁性的”から“強磁性的”に変化させる事ができる
系が見出された[1-3]。励起高スピン状態の形成には、πトポロジーを考慮した分子設計が不可欠である
事を明らかにし、光励起高スピン系の分子設計が可能になった[2]。ここでは、これまで我々が研究してき
た有機π電子系の光誘起分子内スピン整列について述べる。
2.π共役スピン系の光励起状態
今さら述べるまでも無く、π共役系は分子内及び分子間で大きな交換相互作用が期待され、それらの
スピン整列は有機磁性の主要な研究対象である。基底状態に於いては,ポリカルベンの研究等からπト
O
N
O
N
N
1a
1b N
(S = 1/2)
(S = 3/2)
3
(S = 3/2)
CH3
NN
O
NN
CH3
H3C
NN
O
NN
H3C
ON
O
N
N
O
N
N
N
O
N
2a
4
N
CH3
NN
O
NN
CH3
CH3
N O
N
N
(S = 0)
O
CH3
(S = 3/2)
2c
(S = 1, 2 が近似的に縮重)
N
6a
5
(S = 2)
N
N
N
O
2b
NO
(S = 2)
N
(S = 1/2)
O
6b N
(S = 3/2)
図1 光励起高スピン系とそれらのπトポロジー異性体の構造及び最低光励起状態のスピン状態
(a) 実測
ポロジーを通じた分子内スピン整列の概念が確
μ波の吸収
立されている。しかし、光励起状態におけるπ
共役スピン系のπトポロジー則とスピン整列は
明らかになっていなかった。図1には、これまで
我々が研究してきた光励起高スピン系(1a, 2a,
放出
3, 4, 5, 6b)とそれらのトポロジー異性体(1b, 2b,
(b) シミュレーション
S = 2, g = 2.004
-1
D = 0.0130-1cm ,
E = 0.0 cm
2c, 6b)の代表的なものを示した。括弧内には、
それらの分子のこれまで明らかになった最低光
励起状態を示した。これらの最低光励起状態で
は、(ジ)フェニルアントラセン部位が、光励起三
重項状態となり、ラジカルのスピンとの交換相互
作用により分子全体のスピン整列が達成されて
250
300
350
400
磁場強度 / mT
図 2 光励起五重項状態の時間分解 ESR
いる。アントラセン部位とラジカルの付加位置の
関係により励起状態のスピン状態が劇的に変
8
化している事がわかる。これらのスピン状態は、アントラセンの側鎖に付いたフェニル基のπ共役を通じた
スピン分極によるスピン整列機構(πトポロジー則)によりすべて矛盾無く説明できる事が明らかになった。
図2には、分子 2aのアントラセン部位をNd:
S = 1/2
重項(S = 2)状態による信号である事を、ス
O
J2 < 0
off
N
O
N
強磁性相互作用
弱い反強磁性相互作用
平行に揃う事が磁化率と通常のESRの結果
N
N
S = 1/2
O
N
S = 1/2
この部分ではスピンの対形成
が起こっている
磁性的に相互作用し、低温ではスピンが反
N
on
S = 1/2
側鎖の2個のラジカルが弱いながらも反強
N
レーザー光
N
N
O
ができた。この系は、基底状態においては
N
O
N
N
ペクトルシミュレーションにより証明する事
O
T1 (S = 1)
*
S0 (S = 0)
ルを示した。得られたスペクトルは励起五
Photoexcited
Triplet State
光励起三重項状態
(開殻電子配置)
基底状態
(閉殻電子配置)
て励起して観測した時間分解ESRスペクト
J1 > 0
化学結合を通じた交換相互作用
(量子力学的な力)
ラジカル間の有効交換相互作用の光制御
YAGレーザーの三倍高調波(355nm)用い
この部分で不対電子スピンの非局在化
が起こっている(Spin Delocalization)
図3 励起分子場を介した分子内スピン間相互作用の制御
Novel Lowest Photo-Excited Triplet State
からわかっている。この事から、図3に示した様
Radical
に光励起により分子内の磁気的有効交換相
Photoexcited
Triplet State
J1 > 0
Radical
laser
互作用Jeffの符号が負から正へ変化しているこ
J2 < 0
(S = 1)
図4 特異な光励起三重項を与える有機スピン系
とを意味しており、励起分子場を利用した分子
内スピン整列の制御が可能であることを示す
事ができた一例である[1]。また、ジフェニルア
ントラセン自体は、励起三重項状態への系間
項差の効率が極めて低く、時間分解ESRでは通常その三重項状態は観測できない事、及びラジカル種を
変えた系での実験から、この励起高スピン状態の形成は、ラジカル付加によってπ共役を通じて引き起こ
された増強系間項差による事が解った。また、図4の分子ではスピンカップラーであるアントラセンの光励
起三重項状態を介して、2つのラジカルが反強磁性的にスピン整列した結果、4つの不対電子から形成さ
れる、小さな微細構造分裂を持った特異な光励起三重項状態を検出する事に成功した[4]。
3.励起状態のスピンダイナミックス
光励起高スピン状態の寿命は、過渡吸収スペクトル測定から、77Kで数十μ秒程度と決定できた。この
様に光励起高スピン状態は比較的長寿命であるため、これらの状態を介したエネルギー移動や電子移
動により物性の発現が期待できる。また、昨年度にこの特定領
光励起状態の
スピン整列
域の研究費でパルスマイクロ波ユニットを導入し、レーザーと
同期させたパルスESR実験が可能になった。現在、ようやく励
起状態のスピンダイナミックスが詳細に明らかになりつつある。
その一例としてスピンエコーの実験で励起四重項状態のスピ
ン集団の位相記憶時間を測定したところ、予想に反し基底状
態と同程度以上の1μs程度の比較的長いTMを持つことがわ
光誘起電子
移動
励起子移動
図5 光励起状態を利用した磁性の制御
かった。また、この系ではtransient nutationによるスピン多重度の同定やスピンエコー検出ESRにより、ス
ペクトルの分離が可能である事が示された。この事は、スピン間の相互作用の強いπ共役スピン系の励
起状態でも、基底状態同様に種々のパルス技術を用いた実験が可能である事を意味している。
[1] Y. Teki et al., J. Am. Chem. Soc., 122, 984 (2000); ibid, 123, 294 (2001). [2]Y. Teki et al., Mol. Phys.,
100, 1385 (2002). [3]Y. Teki et al., Bull.Chem. Soc.Jpn. (Selected Paper), 71, 95 (2004). [4] Y. Teki and
S.Nakajima, Chem. Lett., 33, 1500 (2004) 他。
9
文部科学省科学研究費補助金特定領域研究
第4回「分子スピン」シンポジウム(公開)
日時:
2005年7月2日(土), 3日(日)
場所:
札幌サンプラザ(札幌市北区北24条西5丁目)
7月2日(土)
(座長:阿波賀 邦夫)
13:00-13:10
13:10-13:40
はじめに
【O01】スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
13:40-14:10
【O02】安定N-アルコキシアミニルラジカルの合成と構造解析および磁化挙動
阪市大院工
14:10-14:40
(A01-04)
武田 定
(A01-05)
三浦 洋三
【O03】単分子磁石の合成
筑波大院数理物質科学
14:40-15:20
二瓶 雅之
(A02-07)
【特別講演】分子スピン量子演算と量子情報通信-分子スピニクスの最新の応用
阪市大院理
15:20-15:40
(A02-08)
工位 武治
Coffee Break
(座長:菅原 正)
15:40-16:10
【O04】強磁性酸化物ナノギャップ電極の作製とバイオ分子デバイスへの
適用の試み
阪大産研
16:10-16:40
佃 達哉
(A02-10)
【招待講演】生体磁気研究の最近の進歩
東大院医
17:40-
(A02-11)
【O05】水中に分散した金ナノクラスターのサイズ特異的な空気酸化触媒作用
分子研
16:40-17:30
田中 秀和
上野 照剛
懇親会
10
7月3日(日)
(座長:古賀 登)
09:00-09:30
【O06】光化学的なラジカル発生の高効率化と高機能化
-NO発生と光誘起電荷分離-
東大院総合
09:30-10:00
(A02-07)
村田 滋
【O07】食道・胃接合部で検出される高濃度NOの挙動
山形県産業技術振興機構
10:00-10:30
12:00-13:10
(A03-15)
【O08】PEDRI(プロトン電子二重共鳴画像)による生体内ラジカル反応の画像解析
九大院薬
10:30-12:00
吉村 哲彦
(A03-14)
内海 英雄
【ポスターセッション】
昼食
(座長:横山 利彦)
13:10-13:40
【依頼講演】銅蛋白質アズリン活性部位付近の電子状態と機能
金沢大院自然
13:40-14:30
【招待講演】走査電子顕微鏡でスピンを見る
北大院理
14:30-15:00
長尾 秀実
小池 和幸
全体討論
ポスターセッション(班員)
【P01】 分子とバルグをつなぐナノ球殻磁性体
名大院理
阿波賀 邦夫
(A01-02)
【P02】 水およびヘモグロビンの近赤外光吸収への磁場効果
千葉大工
岩坂 正和、
東大院医
上野 照剛
(A01-02)
【P03】 基板上のポルフィラジン分子クラスター構造の STM 観察
情報通信研究機構
名大
照井 通文・益子信郎、
鈴木 陽介・藤森 雅人・阿波賀 邦夫
(A01-02)
【P04】 ヘテロ原子置換高対称性フェナレニル類の設計と合成研究
阪大院理
森田 靖
(A01-03)
【P05】 スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
丸田悟朗・武田定
11
(A01-04)
【P06】 π共役スピン系の光励起状態のスピンダイナミックス
阪市大院理
手木 芳男
(A01-05)
【P07】 安定 N-アルコキシアミニルラジカルの合成と構造解析および磁化挙動
阪市大院工
三浦 洋三
(A01-05)
【P08】 光、電気、磁気情報をスイッチするジアリールエテン
九大院工
(A01-06)
松田 建児
【P09】 分子スピンのミクロ構造化と機能
東大院総合
菅原 正・松下 未知雄・Yang
Jiao・鈴木 健太郎
(A02-07)
【P10】 バイオマグネタイトの磁気的挙動の解析
農工大
田中 剛・松永 是、
東大院総合
(A02-07)
菅原 正・松下 未知雄
【P11】 光化学的なラジカル発生の高効率化と高機能化-NO 発生と光誘起電荷分離-
東大院総合
(A02-07)
村田 滋
【P12】 単分子磁石の合成
筑波大院数理物質科学
(A02-07)
二瓶 雅之
【P13】 分子スピン量子演算と量子情報通信-分子スピニクスの最新の応用
阪市大院理
工位 武治
(A02-08)
【P14】 表面修飾銀クラスター、ナノ粒子の分画
兵庫県立大
清水 悠子・渡部 昌大・八尾 浩史・木村 啓作
(A02-09)
【P15】 ナノスケール薄膜の表面化学的磁化制御と評価
分子研
(A02-10)
横山 利彦
【P16】 最小のホスト-ゲスト系分子性磁性体としての CoC2
分子研
西條 純一・西 信之
(A02-10)
【P17】 水中に分散した金ナノクラスターのサイズ特異的な空気酸化触媒作用
分子研
佃 達哉
(A02-10)
【P18】 強磁性酸化物ナノギャップ電極の作製とバイオ分子デバイスへの適用の試み
阪大産研
田中 秀和
(A02-11)
【P19】 アミノキシルラジカル修飾オリゴヌクレオチドの合成とその分子サイズの
水プロトンの緩和速度への影響
九大院薬
古賀 登・麻生 真理子
(A03-12)
【P20】 ビタミン E 同族体に対するユビキノンの相乗効果
愛媛大理
向井 和男・小原 敬士・長岡 伸一
(A03-13)
【P21】 高速磁場掃引型ストップトフローESR によるフラボン類の抗酸化活性と
分子構造の相関性
京都工繊大
田嶋 邦彦・渡部 るしる・金折 賢二
(A03-13)
【P22】 ナノサイズ細孔構造体中における酸素分子および NO 分子の磁気挙動
九工大工
美藤 正樹
(A03-13)
12
【P23】 PEDRI (プロトン電子二重共鳴画像)による生体内ラジカル反応の画像解析
九大院薬
(A03-14)
内海 英雄・市川 和洋
【P24】 アシル保護ヒドロキシルアミンプローブによる生体内レドックス評価
のための基礎検討
崇城大学薬
竹下 啓蔵、
放医研
東北大未来科学技術共同センター
安西 和紀
斉藤 圭太・小澤 俊彦
(A03-14)
【P25】 食道・胃接合部で検出される高濃度 NO の挙動
山形県産業技術振興機構
東北大医
吉村 哲彦、
浅沼 清孝・飯島 克則・下瀬川 徹
(A03-15)
【P26】 植物のストレス応答計測と応答機構の解明
山形大工
尾形 健明・伊藤 智博・黒澤 秀宏
(A03-15)
【P27】 NO による新しいシグナル伝達機構の解明
熊本大医
赤池 孝章、芥 照夫
(A03-16)
【P28】 遷移金属錯体超微粒子における磁性制御の理論
産総研
川本 徹
【P29】 オキサラト架橋錯体ナノ微粒子を前駆体とした GeFe1.4 型合金ナノ微粒子の合成
北陸先端大
山田 真実
(A02-07)
13
生体磁気研究の最近の進歩
Recent Advances in Biomagnetics and Bioimaging
東京大学大学院医学系研究科
上野
照剛
Shoogo Ueno, University of Tokyo
1
はじめに
生体と磁気とを科学するバイオマグネテイクス (Biomagnetics)は医学・生物学と理学・工学と
の境界領域の新しい研究分野である。生体と磁気との関わり合いは, 何か不思議なものとして, 古
くから人々の興味をひきつけてきたが,科学的な土俵の上で体系的に研究がなされるようになっ
てきたのは最近のことである。近年, 磁気を用いた研究が, 脳機能の解明や治療, 更には細胞組織
工学や再生医療に応用されようとしている。ここでは,特に脳磁気科学と再生医工学に焦点を当
てて,私たちが研究を推進しているいくつかの課題を紹介し、分子スピンと生体磁気との新しい
融合研究の可能性について論じたい。すなわち,
(1) 経頭蓋的磁気刺激 TMS (Transcranial Magnetic Stimulation)
(2) 脳機能ダイナミックスを追求する脳磁図計測 MEG (Magnetoencephalography)
(3) 電気的情報の磁気共鳴イメージング MRI (Magnetic Resonance Imaging)
(4) 磁場による細胞の配向と成長制御
である。
2
経頭蓋的磁気刺激 TMS (Transcranial Magnetic Stimulation)
経頭蓋的磁気刺激 TMS (Transcranial Magnetic Stimulation)とは, 頭の上にコイルを置き,コ
イルに大電流を短時間流して 1T オーダのパルス磁場をつくり,これによって脳内に渦電流を誘起
させ,その渦電流で脳神経細胞を経頭蓋的に刺激するものである。私たちは 8 字コイルを用いた局
所的磁気刺激法を開発し, ヒト大脳皮質の標的のみを 5 ㎜の分解能で経頭蓋的に刺激することを
可能にした。 基本的な原理は, 8 字の筆順に従ってコイルに電流を流すことにより, 頭の中で 2
つの渦状の電流が誘導され, 2 つの渦が 8 字コイルの交点の直下で強めあい, 電流密度が局所的に
増大するというものである。脳の局所的磁気刺激法は脳の機能と構造を頭の外から無傷のまま細
かく調べるのに適しており,脳研究の新しい局面を展開するものとして期待されている。最近は連
続パルス磁気刺激による各種神経系疾患の診断や治療を目指した研究も進められている。磁気刺
激は麻痺筋の制御や神経損傷後の神経再生の磁気刺激による促進, 遺伝子発現調節, 感覚機能の
補償, 更には痛みや情動の制御の可能性まで秘めているものとして一層の発展が期待される。
3
脳磁図計測 MEG (Magnetoencephalography)
SQUID (Superconducting Quantum Interference Device) による生体磁気計測は 30 余年の歴
史があるが, 体表面の多くの場所からの磁場を同時に計測できる多チャネルシステムが本格的に
実用化になったのは最近のことである。
脳磁図 MEG は脳波 EEG と同じように脳内の電気現象を捉えたものであるが, 脳波で測定でき
ない脳内電源が検出できる可能性がある。例えば,極性が互いに逆向きにある 2 つの電源は閉ルー
プ電流を作り電源の近傍だけを短絡的に電流が流れるので, 脳波では検出しにくい。しかし, 脳波
に信号となって現れてこない閉ループ電流はループ面に垂直に磁場を生成するので脳磁図で検出
14
することができる。SQUID による生体磁気計測では生体電気計測で困難な直流信号の計測も可能
である。すなわち, 直流電流はまわりに磁場を発生し, この磁場は, ジョセフソン接合を含む超電
導リングに流れる遮蔽電流として SQUID で検出できるので, 直流電流または超低周波数の電源
が計測できるのである。 認知や記憶に関連する脳電気現象は超低周波信号を含む場合が多く, 磁
気による計測が有効である。また, 高次脳機能に関連して、文字認知や文字照合における情報処
理過程における活動部位の推定にも MEG は有用である。私たちは,心的回転(Mental Rotation)
課題実行中の脳の活動部位の時間的変遷を調べ, 時間の推移とともに心的回転課題中の電源が後
頭葉から頭頂葉に移動していく様子を画像化した。
4
電気的情報の磁気共鳴イメージング MRI (Magnetic Resonance Imaging)
MRI における最近の話題は脳の機能情報を計測する機能的 MRI(functional MRI, fMRI)、と神
経の走行を可視化するファイバートラクトグラフィであろう。
fMRI は血液中のヘモグロビンの磁性の差を MRI 信号に反映させることにより, 脳血流の情報
から間接的に脳機能情報を画像化する手法である。刺激の入力や思考によって脳が賦活されると,
毛細血管中の常磁性のデオキシヘモグロビンと反磁性のオキシヘモグロビンの比が変化し,これ
が局所的スピン・スピン緩和 T2*の変化となり,この変化量を MRI 信号の変化としてとらえる。こ
の効果は BOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果とよばれ, fMRI の基礎的機構となっ
ている。またファイバートラクトグラフィは 3 次元拡散テンソル MRI を用い、神経線維の走行方
向と垂直方向で拡散に異方性があることを利用して、神経のみを抽出する手法である。
現在の MRI, fMRI やトラクトグラフィは生体内の電気的情報を得ることはできない。これに対
して, 私たちは生体内の電気的情報のイメージングを得る新しい原理の MRI を提案している。す
なわち, 電流分布 MRI とインピーダンス MRI である。
電流分布 MRI では, これまでの fMRI が脳賦活に対応する血流の変化をとらえているのとは異
なり, 脳内の神経活動に伴う電流分布を直接観察しようとするものである。電流分布 MRI は神経
の電気活動に伴なう磁場の乱れを MRI 信号の変化としてとらえるものである。指の運動に伴う皮
質運動野の電流分布と末梢神経刺激に対応した体性感覚野の電流分布の MRI を求めた。
インピーダンス MRI は, 生体内の導電率や誘電率, すなわちインピーダンスやアドミタンスの
断層画像を MRI の技術を応用して得ようとするものである。ここでは, 生体内の誘導電界による
MRI 信号の乱れが生体組織の導電率や誘電率を反映するものとなるように工夫して, 生体内のイ
ンピーダンスを求める方法と, 拡散テンソル MRI を用いて脳内の導電率の分布を求める導電率
MRI の方法を提案し, ヒト脳の導電率テンソル MRI を求めた。
5
磁場による細胞の配向と成長制御
最近 5~10T オーダの強磁場の常温での実験空間が得られるようになり, これまで非磁性物質
としてほとんど問題にされなかった生体物質や生体に対する磁場効果が次第に明らかにされよう
としている。磁場による水の二分, 生体物質の磁場配向, 血液凝固溶解への影響である。フィブリ
ンやコラーゲンの配向を外部からの磁場で制御しながら, これらの足場に種々の細胞を成長させ
ることができる。私たちは, コラーゲンと骨芽細胞の混合培養に 8T の磁場を印加しながら骨芽細
胞の生長の様子を調べ, コラーゲンの配向に従って, 骨芽細胞が磁力線と垂直方向に成長するこ
とを観察した。更に, 骨芽細胞, 血管内皮細胞, 神経やシュワン細胞などを磁場配向させながら組
織形成を制御することを示した。
このように, 生体を構成する高分子や水や細胞に対する磁場効果を積極的に細胞組織工学や医
療に応用することで, 再生医工学や分子生物学の新しい展開がなされつつある。
15
走査電子顕微鏡でスピンをみる
北大院理
小池 和幸
はじめに 試料に電子を照射すると、試料内部にある電子がそのスピン状態を保ったまま2次電子とし
て放出される。したがって、走査電子顕微鏡とスピン検出器を組み合わせ、放出された2次電子のスピ
ン状態をスピン検出器で検出して画像化すると、試料のスピン分布をみることができる。この装置は
1984 年に本稿の著者である小池等によって初めて開発され、スピン偏極走査電子顕微鏡(スピンSE
M)と名づけられた。電子スピンは磁性体の磁化の源であり、その意味でスピンSEMは一種の磁区観
察装置ということができる。磁区観察装置としては様々なものが知られているが、これらの装置と比べて
スピンSEMは,表面感度が高い、磁化方向の直接検出ができる、表面の凹凸が大きい試料や厚い試
料でもそのまま観察できる、高分解能である等優れた特徴を有する。本報告ではこれらの特徴を利用し
た研究成果のいくつかについて紹介する。
FeO(111)/Fe(110)の表面強磁性[1,2]
表面では結晶の並進対称性が破れることから,バルクと
異なる磁性が期待される.われわれはFe(110)を 573K に保ち 1×10-6Torr の酸素雰囲気中で 60 分酸
化してFe(110)上にFeO(111)層を得、その磁性を調べた。室温で観察した酸化前のFe(110)清浄
表面、酸化後のFeO(111)表面のスピンSEM像をそれぞれ図1(a)、(b)に示す。図1(a)の白および黒
の領域はそれぞれ上および下向きの磁化を有する磁区である。1(b)のFeOはネール温度が198Kの
反強磁性体であり、室温では常磁性のはずであるが、 (a)のFe(110)と反転した弱いコントラストの磁
区が観察でき、Fe(110)上のFeO(111)表面は強磁性であること、その磁化はFe(110)と逆方向を
向いていることがわかる。また、この試料に
Arイオンを照射して、表面の結晶性を破壊
すると強磁性が消失することから、FeO(11
1)の強磁性は表面に局在していることがわ
かる。FeO(111)は極性表面であり,静電
エネルギーを低下させるために表面再構成
を起こす。表面強磁性はこの再構成によっ
(a)
て発現したものと考えられる.また、FeO(1
(b)
11)表面とFe(110)の磁化が逆方向を向い
図1 (a)Fe(110)清浄表面、およびこれを酸化して
ているのは、常磁性FeOを介した磁性層間
得られた、(b)FeO(111)表面のスピンSEM像
結合のためと考えられる。
強磁性-反強磁性結合[3] 今から半世紀近くも前に Meiklejohn 等によって発見された強磁性-反強
磁性結合[4]は、スピンバルブ磁気ヘッドの出現によって新たな注目を集めることとなった。この結合を
説明するため、Koonは反強磁性体の互いに逆向きのスピン磁気モーメントが両方とも隣接する強磁性
16
層の磁化方向に僅かにキャントし、これと強磁性体のスピン
が交換相互作用によって結合する、いわゆる90°結合モデ
ルを提案した[5]。このモデルを検証するため、我々は反強磁
性 NiO(001)表面上に強磁性Fe超薄膜を積層し、そのスピ
ンSEM像を得た。結果を図2に示す。ここに見られる磁区は
NiO の磁区を転写したものであり、各磁区内の磁化方向は像
中の白および黒の矢印で示した方向をとる。NiO の磁化容易
面が{111}、磁化容易軸が < 112 > であることを考えると、得
られた磁区構造は90°結合モデルでのみ説明することがで
図2 Fe(0.9nm)/NiO(001)のスピ
き、我々の実験結果は Koon のモデルが妥当であることを示
ンSEM像
している。
La1.4Sr1.6Mn2O7.の磁気構造[6]
La1.4Sr1.6Mn2O7 は、強磁性金属的な性質
を有する MnO2 の二重層と、非磁性絶縁
体的な(La,Sr)2O2 層が交互に積層された
構造をとり、磁気的には層状反強磁性構
造をとる。我々はこの物質の磁化の温度
依存性を調べた。図3(a)に60Kで得られ
たスピンSEM像を、(b)に同一場所のSE
M像を示す。(b)にかすかに見える白い
(a)
(b)
図3 La1.4Sr1.6Mn2O7 の(a)スピンSEM像と(b)SEM 像
線(像外に▲で表示)は金属層+絶縁層
の単位ステップである。(a)のスピンSEM像では、薄い灰色と濃い灰色の領域が縞状に現れ、その境
界は(b)の白線の位置と完全に一致する。また、磁化の試料面内成分の方向は、像中の矢印で示した
ように、ステップごとに反転しており、層状反強磁性であることがわかる。磁化は50Kで層面法線方向か
ら15°傾いているが、温度が高くなるとこの傾きが増し、70Kで完全に層面内に寝る。この傾きの変化
は格子歪の温度依存性によって説明することができる。
[1] K. Koike and T. Furukawa, Phys. Rev. Lett. 77, 3921 (1996).
[2] K. Mori, M. Yamazaki, T. Hiraki, H. Matsuyama, and K. Koike, Phys. Rev. B 72 (2005) in press.
[3] H. Matsuyama, C. Haginoya, and K. Koike, Phys. Rev. Lett. 85, 646 (2000).
[4] W. H. Meiklejohn, and C. P. Bean, Phys. Rev.102, 1413 (1956).
[5] N. C. Koon, Phys. Rev. Lett. 78, 4865 (1997).
[6] M. Konoto, T. Kohashi, K. Koike, T. Arima, Y. Kaneko, T. Kimura, and Y. Tokura, Phys. Rev. Lett. 93,
107201(2004).
17
分子スピン量子演算と量子情報通信
-分子スピニクスの最新の応用
大阪市大・院・理
工位
武治
序論
量子コンピュータ(Quantum Computer/Quantum Computing:以下、QC と略す[1])の定義は、
研究者の間でも必ずしも確定しているわけではないが、すでに「狭い意味の」学術的な興味
の範疇を超えて、理論的・実験的にも急速な展開を見せ最新の境界領域を形成し始めている
ことは確かと思われる。量子コンピュータの Implementation の立場からは、分子スピンを演
算デバイスのコア部分と捉えて、DNA コンピュタなど共に分子コンピュータの範疇に入れる
こともできるが、量子化されたスピンの量子力学的な振る舞いそのものを顕に利用する点に
おいて、明確な区別をしておくことが大切である。その意味で、量子化された分子性電子ス
ピン及び分子(スピンバス[2])に関連した核スピンの配向・位相を制御する分子スピン量子
コンピュータは、
「分子スピニクス」の先端的な応用の一つである。分子スピンバスでは、電
子スピンも核スピンも Quantum Bits=Qubits として扱う。実は、分子スピン量子コンピュー
タは、分子スピニクスのローカルな課題にとどまらず、精密合成化学や分子磁気共鳴分光学
が深く関わるべき課題を内在的にもっているが故に優れて、先端化学・物質科学及び分子科
学のテーマであるといっても良い。合成化学的には、
「電子スピンと核スピンの相互作用系分
子フレーム」である開殻系分子を Qubit スピン総数の制御及び個々の Qubit スピンの配向制御
が可能なトポロジカルスピン集積系=Qubit スピンバスとみなす観点から、新たな要素を考慮
した分子設計を行うことになる。分子分光学の発展の視点からは、分子量子スピンコンピュ
ータ=「分子(デバイス)+パルス技術をベースとする分光器総体」と扱う点において、過
去に実例をみない。スピンバス QC は、Qubits としての電子スピン/核スピンの量子位相を
顕に扱う分子科学と言っても良い。
上述の位置づけから、本講演では、アンサンブル系としての分子スピン QC の特徴、閉殻
系分子をデバイスとする NMR QC との対比、分子スピン QC の範疇のうち ENDOR に限って
最近まで我々が行ってきた研究の一端、モデル系分子スピンバス、新しい分子スピンの物質
開発と技術開発の必要性などを述べる。なお、時間の関係上、液相系 QC ENDOR、単分子ス
ピン QC、及び QC ELDOR/ELMR (ELectron-electron-DOuble-Resonance または ElectronElectron-Multiple-Resonance)については、触れないことを予めお断りしておきたい。
QC の概念と QC Implementation の試み
QC の概念は、元々、量子物理から始まったアイディアである。1959 年に Caltech において
開催された第 29 回アメリカ物理学会の席上で Feynman が「量子化されたエネルギー準位やス
ピン」に表れる量子力学的な挙動を利用することを純理論的に提案したことにまで遡ること
ができると言われるが、今日の QC 概念との直接的な関わりは、1982 年 Benioff が発表した代
表的な論文“Quantum Mechanical Models of Turing Machines That Dissipate No Energy”である[3
さらに、1985 年には、QC が並列計算を可能にすることを示した量子チューリングマシンが
Deutsch により提案された[4]。1990 年代に入り、QC がどのような問題の解決の切り札となる
かが積極的に議論されるようになり、Bell 研究所の Shor が従来のコンピュータでは現実的な
時間内で解くことのできない因数分解を解読する QC アルゴリズムを示したことが、QC の
Implementation に関して事態を一変させる[4,5]。今日の暗号システム・RSA 公開鍵暗号技術
の安全性が QC の登場によって崩壊することが現実性をもって認識され、QC が広く注目され
18
ることになった。1990 年代後半から有用なアルゴリズムも提案され[6]、理論的な研究が飛躍
的に発展する一方、QC の Implementation について様々な物理系が提案され、数 Qubits の QC
の動作が実際に証明された。分子 QC としては、
溶液中の閉殻分子の核スピンを利用した NMR
QC が最も有望な QC として登場した[7]。講演では、NMR QC との対比で、分子スピンバス
をベースとする ENDOR QC の特徴を言及する。
QC ENDOR Implementation の条件
分子スピンバス QC の Implementation を実行する場合、これまでの QC 研究において蓄積さ
れた知識にもとづいて、最低限の必要な実験段階を踏む必要がある。以下に、固相(結晶)
系分子スピンバス QC の場合について、具体的に検討すべき段階を概説する。
1. 分子量子スピンコンピュータ=「分子スピンバス(デバイス)+パルス技術をベースと
する分光器総体」を、現在の磁気共鳴パルス技術のもとに現実化するためには、まず、
適当な分子スピンバスを選ぶ必要がある。広範な温度領域にわたって、強いラジオ波及
びマイクロ波照射の曝露下でも化学的に安定であり(過渡的な状態を経由しても最終的
に物質的なロスが発生しないこと)
、かつ選択的な磁気共鳴的な励起が可能な分子内スピ
ンネットワークを有するスピンバスを準備する必要がある。
2. 結晶系における分子スピンの実効濃度を容易に変数化できる系であること。これは、QC
にとって不可欠なデコヒーレンス時間を物質生成の立場からも制御できることを意味す
る。分子スピンバスが本来もつ物質的な均一性を達成することは、位相制御にとってキ
ー因子である。
3. 分子スピンバスの基底あるいは励起電子状態が詳細にわかっており、g テンソルや超微
細相互作用テンソルなどの磁気テンソルについての分子情報の詳細がわかっていること、
あるいは予想されること。超微細結合テンソルは、分子性核スピン Qubit の位相制御に
とって、キー因子になる。
4. 1Qubit の量子力学的な重ね合わせ状態を作り、配向制御できること。
5. 分子性電子スピンを含む2Qubits 系が実現できること。
6. Entangled States の確立を実証すること。
7. 数 Qubits 分子スピンバス系を結晶系で作り、少数 Qubits 系をデバイスとして現実的な
ENDOR 実験条件下で量子演算を実行できること。
8. 分子固有の均一性を保持した上で、分子スピンバスの集積化構造を拡大できること。102-4
オーダーの Qubits を合成し、「実用的な」量子演算アルゴリズムに適用すること。
ENDOR QC は、最も最近登場してきた QC Implementation アプローチであり、研究は初期の
段階にあるとは言え、他のアプローチに対して有利な面も多い。一方的な評価は禁物である
が、QC に必要なマイクロ波技術の進展とパルス系列のプロトコルの開発、及びデコヒーレン
ス時間を制御できる物質・分子スピンバス開発が重要である。
(謝辞)本研究課題の分担者は、大阪市大・院・理、塩見大輔、佐藤和信 両助教授、豊田和男助
手であり、大阪大・院・理、中筋一弘名誉教授、森田靖助教授らとの共同研究である。
引用文献及び注:
[1] 本稿中、QC は、Quantum Computer または Quantum Computing を表す。
[2] M. Mehring, unpublished. Mehring は、S-Bus 概念と名づけている。S-Bus 分子系では、電子スピ
ンと個々の核スピン間には超微細相互作用、核スピン間には磁気的相互作用が働き、磁気的な相
互作用は量子ゲートや Entangled States を形成する量子演算に利用する。分子デバイスとしての分
子スピンバスは ENDOR QC コアを成し、書き込みや読み出しのヘッドの役割は、分子性電子スピ
ンの量子スピン機能を介して行なう。
[3] P. Benioff, Phys. Rev. Lett. 48, 1581-1585 (1982).
[4] D. Deutsch, Proc. Royal Soc. London., A400, 97-177 (1985).
[4] P. W. Shor, Proceedings of the 35th Annual Symposium on the Foundations of Computer Science (Santa
Fe, NM, Nov. 20-22), 124 (1994).
[5] P. W. Shor, Phys. Rev. A52, 2493 (1995).
[6] L. K. Grover, Phys. Rev. Lett., 79, 325 (1997).
[7] M. N. Leuenberger, D. Loss, Nature, 410, 789-793 (2001).
19
銅蛋白質アズリン活性部位付近の電子状態と機能
金沢大院自然
研究目的
長尾
秀実
アズリンは緑膿菌中でCyt-c551 と共に亜
硝酸塩還元酵素への電子ドナーとしての電子伝達
反応機能を有する銅タンパク質であり、古くからそ
の構造や機能に関する研究が盛んに行われてきた
[1]。アズリンは 128 個のアミノ酸残基配列を持つ。
活性部位構造は単核の銅イオンにHis46、Cys112、
His117、Met121 およびGly45 が配位し(図1)[2]、
活性中心のCu2+は 3dx2-y2軌道に不対電子が存在する。
銅タンパク質における強相関電子系という観点か
らアズリンのダイナミックスと活性部位付近の電
子状態と機能に関する理論的一考察を行った。
研究成果
活性部位付近の電子状態
図1
X線構造解析で決定された酸化型アズリン
アズリンの活性部位
(4AZU) の 立 体 構 造 [2] か ら 活 性 部 位 付 近 の ク ラ ス タ モ デ ル を 構 築 し 、 密 度 汎 関 数 法
(B3LYP/6-31G**)により電子状態の解析を行った。その結果、酸化型アズリンのSOMOを解析
すると銅イオンの 3dx2-y2にCys112 のSイオンのpy軌道がπ的に、His46 およびHis117 のNイオ
ンのp軌道がσ的に配位していることが分かった(図2(a))。また、スピン密度分布は銅イオ
ンに 53.2%、Cys112 のイオウイオンに 38.8%を占めスピン分布は少し非局在化していること
が分かった(図2(b))。銅イオンの価数は約 1.2 と評価された。また銅イオンに配位する残基
の変位に対する電荷分布およびスピン分布の変化は、Cys112 の変位に対して敏感に密度変化
することが分かった。一方、Met121 の変位に対するエネルギー変化は他の残基変位に比べる
と緩やかであり、Met121 は銅に弱く配位しているものと考えられる。クラスタモデルの酸化
状態と還元状態との全エネルギー差は約 4.2eVとなりCu2+の 3dx2-y2軌道に関わる強電子相関と
の関連性を示唆する。アズリンは強電子相関に関わる高い酸化還元電位を示すことが予想さ
(a)
れる。
(b)
図2
SOMO(a)とスピン分布(b)
20
(b)
(a)
Met121
Met121
図3
残基のジャンプ運動
スピン密度分布 (a)LT
(b)HT
酸化型アズリン(4AZU)の立体構造[2]を用いて 300K水溶液中の分子動
力学シミュレーションを行った。銅イオンに関する力場は密度汎関数計算により見積もり、
水分子の力場はTIP3P、他の力場はAMBER99 を用いた。シミュレーションの結果から多くの
残基は二重あるいは複数配置を持ち、熱揺らぎによりその配置間をジャンプ運動しているこ
とが見出せた。活性部位付近ではMet121 が二配置を持ち、一つはX線構造解析により決定さ
れた構造とほぼ等しく(Low type(LT))、他方は熱揺らぎによって起るMet121 のジャンプ運動
に伴って変化した構造(High type(HT))である。各平均滞在時間は約 244ps(LT)と 526ps(HT)
でジャンプ運動しているのが見出せた。各配置で活性部位付近の平均構造を見積もり二つの
クラスタモデルを構築し、各クラスタモデルに対する電子状態の解析を行った。全エネルギ
ーはHTの方がLTよりも約 5.9kcal/mol高く、SOMOのエネルギー準位は 0.83kcal/mol低い。銅
イオンの価数はLTおよびHTとも約 1.2 であった。図3に各モデルのスピン密度を示す。LTと
HTのスピン密度分布にはほとんど差は見られないが、熱揺らぎによるLTからHTへのジャン
プ運動によりスピン密度分布はわずかに非局在化することが分かった。次にLTとHTの酸化還
元電位を見積もった結果、HTの酸化還元電位はLTよりも約 35.5mV高くなった。
まとめと今後の計画
銅タンパク質アズリンのシミュレーションによる活性部位付近の構造と電子状態の解析か
ら銅イオンの持つ強電子相関と酸化還元電位の関連性が示唆することができた。酸化型アズ
リン活性部位のスピン密度分布は少し非局在化していることを見い出した。また熱揺らぎに
よる Met121 のジャンプ運動による二つの活性部位構造に対する酸化還元電位変化の解析か
ら溶液中の構造では酸化還元電位が少し高くなる可能性を示せた。また Met121 のジャンプ運
動による電荷分布、スピン密度分布変化は少ないことが示された。
今後の研究では複核銅タンパク質に対する電子状態、スピン状態についての考察を展開し、
熱揺らぎによる残基のジャンプ運動と活性部位の構造と電子状態、タンパク質表面にあるア
ミノ酸残基と溶媒和効果と分子間相互作用について強相関電子系と関連づけながら理論的考
察を進める。
[1] T. Horio, J. Biochem 45 (1958) 195.
[2] H. Nar, A. Messerschmidt, and R. Huber, J. Mol. Biol. 221 (1991) 765.
21
スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
研究目的
武田
定、丸田
悟朗
磁性金属イオンに結合した配位子へのスピンの染み出しによる電子スピン密度の
特異な空間分布は、分子磁性物質における電子スピン間の相互作用を決定する要因として重
要であるばかりでなく、磁性金属イオンを持ち電子伝達をつかさどる酵素活性中心の特異な
電子状態研究の重要な手がかりになると考えられる。また固体での光照射による金属イオン
の酸化還元の結果引き起こされる強磁性発現などの磁性スイッチ現象では、金属イオン周り
の磁気的局所構造がカギとなるが、この磁気的局所構造を詳細に調べるプローブとして、配
位子の各原子上のこの電子スピン密度分布と双極子相互作用を含めた超微細結合定数(hfcc)
を調べることが機能発現メカニズムを解明し、さらに新たな物質を開発する上で重要な手が
かりとなる。我々は主として固体 NMR の手法を駆使して、研究を進めている。具体的には、
S や N 原子を配位原子とする酵素類似錯体、
原子価互変異性に基づくスピンと電荷の揺らぎ、
シアン化物磁性体の強磁性発現と誘電性、磁性体のナノ粒子化による表面スピンの特徴と物
性への寄与などである。
研究成果
[Mo(CN)8]x-イオンを含む磁性体の局所構造と光誘起強磁性のメカニズム、および強磁性・誘
電性相関の可能性
ディスオーダー構造を持つ Cs2Cu7[MoIV(CN)8]4.6H2O (1)は光照射によ
る MoIV の酸化により強磁性を発現する。このメカニズムを調べるために CN イオンを 13C で
エンリッチし多試料について固体
13C-NMR
スペクトルにより CuII イオンまわりの磁気的局
所構造を調べた。図 1 に Hozumi (JACS 2005)らにより決定されたこの物質の平均構造を示
図 1 Cs2Cu7[MoIV(CN)8]4.6H2O (1)の構造と固体 13C-NMR スペクトル及び CN の超微細結合
カチオンである(tetrenH5)5+
すが、大きく別けて 2 種類の CuII イオンが
ある。一方の
CuII(1)は
disorderしている
5 配位であり、もう
一方の CuII(2)は4配位で平均構造としては
CuII
平面 4 配位に近い構造に見える。固体
13C-NMR
MoV
CuII
スペクトル(図1)を測定した結
CuII
MoV
果、CuII(1)に結合した CN イオンの C 原子
MoV
CuII
CuII
MoV
MoV
図2 (tetrenH5)0.8{Cu4[MoV(CN)8]4}.7.2H2O(2)の構造(Korzeniak 2003)
22
には正の hfcc が、CuII(2)に結合した C 原子には負の hfcc が現れた。この結果、CuII(2)イオ
ンは局所的には平面 4 配位から極めてひずんだ配構造を持ち、これが選択的に MoIV から電子
を受け取り、発生した MoV と残りの CuII(1)との相互作用により強磁性体となると考えられる。
こ の 物 質 1 と 似 た 構 造 ( 図 2 ) を 持 ち か つ 初 め か ら MoV を 含 む
(tetrenH5)0.8{Cu4[MoV(CN)8]4}.7.2H2O(2)は約 40K 以下で強磁性体となる。1と関連してこの
2でも図 1 の Mo と CuII(1)に相当するイオン間で強い強磁性的相互作用が働いていることを
固体
13C-NMR
スペクトルにより決定した。また、この 2 ではディスオーダーした5価のカ
チオンである(tetrenH5)
5+と水分子が強磁性体層に二次元層としてはさまれた構造であり、
強磁性相転移とプロトン伝道あるいは誘電性との関連に興味が持たれ、今後 NMR および誘
電率測定による詳しい研究を進める。
反強磁性体ナノ微粒子の内部および表面スピンの状態解析
ネール温度 70K を示す反強磁性
体 ND4MnF3 のナノ微粒子(~30nm)の中心部分の電子スピン状態と表面近傍の電子スピン状態
とを重水素化したアンモニウムイオンの重水素核をプローブとした NMR スペクトルにより
見分けることに成功した。表面スピンを見ている NMR 信号強度は約7%であり、これは
~30nm のナノ粒子の表面から単位格子1層分の厚さに相当することも見出した。アンモニウ
ムサイトで見たナノ微粒子の中心部分の内部磁場は、4.2K ではバルク試料のそれと一致する
が、ネール温度近傍では、バルクとは異なる臨界現象を引き起こすことも見出した。強磁性
ナノ微粒子への同様の展開も行う。現在 A02 班の木村教授グループとの共同研究で2nm の
金微粒子がメルカプトコハク酸で被覆された系の NMR 測定を進めている。
図3
反強磁性体 ND4MnF3 のナノ微粒子(~30nm)の固体重水素核 NMR
ナノリットルサイズの単結晶 NMR 測定を可能にするマイクロコイル NMR の開発
300μm程
度の大きさ(ナノリットル)の単結晶で NMR
スペクトルの測定が行えれば、単結晶 X 線
回折に用いた試料そのもので固体 NMR スペ
20 nL
クトルの測定ができ、ナノ構造体の超格子結
B0
晶などの研究をはじめ、広くその有用性が期
待される。直径 400μmのコイルシステムを
試作し 20nL の大きさの単結晶 NaNO3 の 23Na-NMR
の回転パターの測定に成功した。図は 7Tの磁場で 40 回積算したス
2
ペクトル。有機物単結晶結晶の H-NMR の測定にも成功した。
23
30
安定 N-アルコキシアミニルラジカルの合成と構造解析
および磁化挙動
大阪市大院工
研究目的
三浦
洋三
単離可能な安定ラジカルは有機磁性材料のみならず、リビングラジカル重合の
mediator あるいは有機ラジカル電池材料の活物質として重要性を増している。特に酸素に対
して安定なラジカルはその取り扱いの容易さより注目を集めている。単離可能な安定ラジカ
ルであるチオアミニルラジカルは酸素に対して安定であり、構造解析や磁化挙動は詳細に検
討されてきた。一方、酸素類似体である N-アルコキシアミニルラジカルはこれまでに ESR に
より検討されてきたが、それらの単離に成功した例はなかった。最近、我々は 2,4,6-トリ置換
アニリンのリチウム塩と過安息香酸 tert-ブチルの反応により生成する N-tert-ブトキシアリー
ルアミニルラジカル(Scheme1)を収率 13-27%で単離することに成功した。これは N-アルコキ
シアリールアミニルラジカルの単離に成功した最初の例である。本興味深いことに、これら
は酸素と反応せず、熱的に非常に安定なラジカルであることが示された[1-5]。本研究会ではこ
れまでに得られた N-tert-ブトキシアリールアミニルラジカルに関する研究成果を合成、構造
解析および磁化挙動を中心に報告する。
研究成果
2,4,6-トリ置換アリールアミンのリチウム塩と過安息香酸エステルの反応による N-アルコキ
シアリールアミニルラジカルの合成
2,4,6-トリ置換アニリンのリチウム塩と過安息香酸 tert-
ブチルを THF 中、–78 ºC で反応させると、反応液は無色からラジカルの生成を示す橙色に変
わった
(Scheme 1)。カラムクロマトグラフィーによりラジカルを単離し、再結晶により精製
した結果、1–3 を 17–25%収率で得た。 1aおよび 3cについてはX線結晶構造解析により構
造を詳細に検討した。これらのラジカルは酸素に対して安定である。また、ラジカルをベン
R1
R2
NHLi
+
R1
O
COO
-78 oC
THF
NO
R2
R3
R3
Ar
Ar
NO
Ar
NO
NO
Ar
Ar
2
1
a: Ar = Ph, b: Ar = 4-FC6H4, c: Ar = 4-ClC6H4
Ar
a: Ar = 4-ClC6H4
Scheme 1
24
Ar
3
a: Ar = Ph, b: Ar = 4-FC6H4, c: Ar = 4-ClC6H4
ゼン中、80 ºC で 10 日間加熱したが
80%のラジカルが生き残り、熱的に非
Ar
N
N
NO
常に安定なラジカルであることを示
Ar
4
した。磁化率は SQUID により測定し、
Ar
θは+0.3– – 1.5 K と決定された。弱い
分子間相互作用は O 原子にかさ高い
NO
NO
N
NO
6a
Ar
tert-ブチル基が置換しているために
6b
5
分子間距離が大きくなったことが原
因だと思われる。単離可能な N-アルコキシアリールアミニルラジカルとして 1–3 以外に 4–6
の合成にも成功している。4 および 6 は良好な結晶を与え、X 線結晶構造解析に成功した。
スピントラッピング法による N-tert-アルキルアリ-ルアミニルラジカルの合成
上記の方法
では官能基をもつ N-アルコキシアリールアミニルラジカルは合成できない。そこで官能基を
もつ N-アルコキシアリ-ルアミニルラジカルの合成法を検討した結果、2,4,6-トリ置換ニトロ
ソベンゼンへの 3 級ラジカルの付加により、単離可能な N-アルコキシアリールアミニルラジ
カルが得られることを見出した[6] (Scheme 2)。 操作はニトロソベンゼンとアゾ化合物をベン
ゼン中、窒素雰囲気下、還流温度で加熱するという極めて単純な方法である。7a を用いた場
合、アゾ化合物の構造に関係なくニトロキシド 10 が優先的に生成し、9 の生成はわずかで
R1
Ph
N O
+
Ph
R2
80 oC
benzene
R1
R1
NO R2
Ph
+
Ph
Ph
8
7
a: R1 = Ph
b: R1 = t-Bu
R2
N N
9
Ph
N R2
O
10
a: R2 = C(Me2)COOMe
b: R2 = C(Me)(CN)CH2C(Me2)OMe
c: R2 = C(Me)(CN)CH2CH(Me2)
Scheme 2
あったが、7b を用いた場合、目的の 9 が優先的に生成した。9 をカラムクロマトグラフィー
により分離し、再結晶すると 9 の赤色結晶が 27-49%の収率で得られた。9 の収率は用いたア
ゾ化合物の構造と 7b/8 の比に大きく依存した。8b と 8c を用いた場合、相当する 9 を 49%の
収率で得た。2 種のラジカルについて X 線結晶構造解析に成功し、9 の構造を確認した。
[1] Y. Miura and T. Tomimura, Chem. Commun., 2001, 627. [2] Y. Miura, T. Tomimura, N. Matsuba, R.
Tanaka, M. Nakatsuji, and Y. Teki, J. Org. Chem., 2001, 66, 7456. [3] Y. Miura, N. Matsuba, R.
Tanaka, Y. Teki, and T. Takui, J. Org. Chem., 2002, 67, 8764. [4] Y. Miura, T. Nishi, and Y. Teki, J.
Org. Chem., 2003, 68, 10158. [5] Y. Miura, T. Nishi, J. Org. Chem., 2005, 70, 4177. [6] Y. Miura, Y.
Muranaka, Chem. Lett., 2005, 480.
25
単分子磁石の合成
筑波大化
【研究目的】
二瓶
雅之
単分子磁石は、量子スピントンネリングな
どのメゾスコピック系に特有な量子物性を示し、かつ単磁
区磁石(ナノマグネット)としての性質を有することから、
量子コンピューター、量子デバイス、分子メモリーなどへ
の応用が期待される物質系である。単分子磁石の基底状態
MeO
OH
N
OH
N
N
O
OH
HO
HO
H3L1
はエネルギー的に縮退した二つの状態(上向きスピンと下
H2L2
向きスピン)からなる二極小ポテンシャルで表され、∆E =
|D|Sz2 の活性化障壁を有する。ここで、S はスピン量子数、
D は一軸性の磁気異方性を示すゼロ磁場分裂定数である。
演者はこれまで複数の金属イオンを架橋することで知られる
アルコキソ基をもつ架橋配位子を用いることにより、多様な
混合原子価単分子磁石や異なる金属イオンからなる異核金属
OH
OH
N
MeO
HO
H3L3
OH
O
H1L4
図 1. 架橋配位子
単分子磁石が得られることを報告してきた。本研究において
は図 1 に示す、より多くの配位座を持つ架橋配位子を用いることにより混合原子価多核錯体及び
3d-3d 及び 3d-4f 異核金属多核錯体を合成し、それらの磁気的挙動について検討した。
【研究成果】
多様な酸化状態をもつ混合原子価多核錯体の合成
複数のアルコキソ基をもつ 5 座シッフ
III
塩基配位子と磁気異方性を有する Mn イオンとの反応により 12 個の MnIII イオンと 1 個の
MnIV イオンからなる混合原子価マンガン 13 核錯体[MnIVMnIII12O6(OH)4(OMe)2(L1)6](NO3)4
(1(NO3)4)を得た(図 2)。14+には Mn1 上に擬 3 回軸が存在し、結晶学的に独立な 7 つの Mn
イオンからなる。中心の Mn1 イオンは 6 つの酸化物イオンが配位した六配位八面体構造をも
ち+4 の酸化数をもつ。Mn2-7 は配位構造及び結合長から MnIII イオンと考えられる。Mn2, 4, 6
は六配位八面体構造を持ち、互いに配位子 L1 のアルコキソ基で架橋されている。一方、Mn3,
5, 7 は七配位五方両錐構造をもち、水酸化物イオン及びメトキソ基で架橋された環状構造を
形成している。その結果、錯体 1 は中心の MnIVMnIII6 環状七核構造錯体の上下を MnIII3 ユニッ
トがキャップすることによる特異な球状コア構造を持つ。1(NO3)4 のアセトニトリル溶液のサ
イクリックボルタモグラム(図 2)においては 4 段の準可逆な酸化還元波が観測され、16+ ⇄ 15+
⇄ 14+ ⇄ 13+ ⇄ 12+で表される 4 段階の 1 電子酸化還元挙動に帰属される。その結果、この Mn13
球状コア構造は電気化学的酸化還元によりに 5 つの酸化還元状態を安定に取りえることがわ
かった。さらに、化学酸化により 1(NO3)5 及び 1(NO3)6 を単離することに成功した。それらの
構造及び磁性について報告する。
26
10 μA
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
E / V vs SCE
図 2 Mn13 核錯体 1(NO3)4 の構造と酸化還元挙動
希土類金属イオンを含む異核金属錯体の合成
これまでに確立した異核金属錯体合成法を
用い、大きな磁気異方性をもつ希土類金属イオンを含む多核錯体の合成を行った。配位子
H2L2、HL4 と MnII イオン及び TbIII イオンとの反応により、3d-4f 異核金属 8 核錯体
[MnIII6TbIII2(µ4-O)2(µ3-O)2 (HL2)2(HL4)2(AcO)8(µ2-OMe)4](2)を得ることに成功した(図 3)。一
方、配位子 H3L3 と MnII イオン及び GdIII イオンとを反応させることにより 3d-4f 異核金属 18
核錯体[MnIII12GdIII6(HL3)8(µ4-O)5(µ3-OH)12(µ2-OH)2(OAc)12(MeOH)2](PF6)2](3)を得た。以上より
配位子と反応条件を変えることにより多様な 3d-4f 異核金属多核錯体が得られることが明ら
かとなった。
(b)
(a)
図 3 3d-4f 異核金属多核錯体 2 (a)及び 3 (b).
【今後の計画】
本研究において得られた多数の酸化状態をもつ混合原子価多核錯体は、酸化還元状態を制
御することによりその磁気的性質を制御することが期待される。今後、非局在化電子系の構
築による新たな磁性分子の構築を目指す。また、本研究において確立した大きな磁気異方性
をもつ希土類金属イオンを含む異核金属多核錯体合成法を用い、より高いブロッキング温度
を持つ単分子磁石の構築を目指す。
27
強磁性酸化物ナノギャップ電極の作製とバイオ分子デバイスへ
の適用の試み
大阪大学
産業科学研究所
田中
秀和
1) はじめに
DNA分子は生命の遺伝情報を担う医学的に重要な分子であるのみならず、4 種類の塩基分
子から構成され 0.4nm間隔のアドレスを持った情報材料でもある。この為DNAをテンプレー
トとして望みの位置に分子やナノ粒子を配列させる事が可能でありナノスケールでの構造制
御が可能となる。これまで、シリコン製ナノギャップ電極中のDNA薄膜の伝導度測定 [1,2]、
マイカ基板上へのDNA/磁性ナノ粒子ネットワークの形成[3]、さらにAl2O3単結晶基板上への
自己組織化によるDNA/ナノ粒子複合体の一次元配線の形成[4]を行ってきた。
DNA 自身が良好な電気伝導性を示すか否かは様々な議論がありこれまで統一を見ていな
いが、伝導度を付与できれば、DNA/強磁性体ナノ粒子複合体等においてナノスケールのスピ
ン素子の創成が期待される。また金属酸化物は大気中/酸化雰囲気中でも極めて安定であり、
原子レベル超平坦表面も作製可能なことからバイオ分子観察用ステージとしても用いられて
いる。完全スピン偏極を示すことか
ら高いスピン注入効率が期待され
る酸化物強磁性ナノギャップ電極
を作製し DNA/ナノ粒子複合に適用
図 1 電極中のナノ粒子/DNA 複合体
する。
2) AFM リソグラフィーによる機能性酸化物ナノギャップ電極の形成
強磁性、超伝導、完全スピン偏極、金属的伝導など多彩な物性を示す遷移金属酸化物薄膜
に対して、走査型プローブ顕微鏡(AFM)を用いたナノリソグラフィーにより数十ナノメート
ルのギャップを持つ“酸化物ナノ電極”を作製することをこれまで試みてきた [4]。レーザ
MBE法を用いSrTiO3(001) 単結晶基板上に、ほぼ 100%スピン偏極率を示す(La,Ba)MnO3薄膜
(厚さ 10nm)を形成し、AFM探針により試料表面へ約 5Vの電界を印加することにより局所的
な表面の改質を行った。その後、HCl溶液でエッチングすることによりリソグラフィーを行っ
た。図 2 示すナノギャップ電極にお
いては、一方の電極の幅を狭く
(100nm)、もう一方の電極幅を広く
(10μm)作製することにより、両者で
保磁力差を付けるように作製した。
電極ギャップ幅はこのナノ電極に
おいては約 250nmである(保磁力差
をつけない簡便なナノギャップ電
極ではギャップ幅は約 100nmであ
図 2:強磁性酸化物(La,Ba)MnO3ナノギャップ電極の光
る[5、6]。ギャップ間のリーク電流
学顕微鏡像(左)および原子間力顕微鏡像(右)
28
は 10-12A以下であった。さらに室温でもより大きなスピン偏極が期待される(Fe,Mn)3O4薄膜[7]
においてもナノ加工を行った(加工幅 50nm)。
3) 強磁性酸化物ナノギャップ電極上への DNA/金ナノ粒子の展開
さらに、図 3 に示すように 3 種類の DNA(N1-DNA および N2-DNA:金ナノ粒子に直接結
合するチオール基で末端を修飾したもの、L-DNA:N1-DNA と N2-DNA に対して相補的な塩
基配列を持ち、両者をつなぐ役割を持つ)を準備しハイブリダイゼーションさせることによ
り、DNA の相補性を利用した金ナノ粒子と DNA を化学的に結合させた系を準備した。光吸
収スペクトル測定により DNA を通じ金ナノ粒子が結合している事を確認している。
DNA/Auナノ粒子複合体を含む溶液(500μg/ml、50μl)を作製した (La,Ba)MnO3強磁性酸化物
ナノギャップ電極(ギャップ間距離 300nm、保磁力 25-30 Oe)上に滴下し、1 時間乾燥処理
を行った。乾燥後にナノ電極上に結晶状のDNA薄膜が得られた[1]。DNA薄膜の原子間力顕微
鏡像を示す。直径約 20nm程度の凝集体より薄膜が形成されている様子が観察された。
5’TAC-GAG-TTG-AGA-ATC-CTG-AAT-GCG3’
Dropping Au/DNA solution
3’S-(CH2)3-ATG-CTC-AAC-TCT TAG-GAC-TTA-CGC-(CH2)6 S5’
(a)
N1-DNA
N2-DNA
(b)
(c)
L
Au
Au
N1
13nm
N2
H
20mer ∼ 6.8nm
図 3 (a) DNA 塩基配列の相補性を利用した金ナノ粒子と DNA 結合系の作製、(b) 酸化物ナノ
ギャップ電極中への展開、(c) ギャップ付近の AFM 像
この強磁性酸化物ナノギャップ電極上のDNA/Auナノ粒子複合体薄膜の電気伝導測定を、減
圧He中、温度 50Kにおいて磁場を-2000Oe→2000Oe→-2000Oeとスイープして行った。薄膜の
抵抗値は約 4GΩ(測定限界近い)である。現在有意な磁気抵抗は観測されていないが、今後電
極間距離の縮小、ナノ粒子径およびDNA塩基配列の検討、スピン偏極のより大きな(Fe,Mn)3O4
電極の作製および分子系への適用を行う。
参考文献
[1] H. Y. Lee, H. Tanaka, Y. Otsuka, K. Yoo, J. Lee, T. Kawai, Appl. Phys. Lett. 80 (2002)1670
[2] M. Taniguchi, H. Y. Lee, H. Tanaka,, T. Kawai, , Jpn. J. Appl. Phys.42(2003)L 215,
[3] H. Y. Lee, H. Tanaka, T. Kawai et al, J. Nanosci. and Nanotechnol. 2 (2002) 613
[4] 田中
秀和
分子スピン通信 Vol.2、3
[5] R. Li, H. Tanaka, T. Kawai et al, , Appl. Phys. Lett., 84( 2004) 260
[6] R. Li, H. Tanaka, T. Kawai et al, , J. Appl. Phys. 95 (2004)7091
[7] M. Ishikawa, H. Tanaka, T. Kawai. Appl. Phys. Lett., 6(2004) 222504
29
水中に分散した金ナノクラスターのサイズ特異的な空気酸化触媒作用
分子研
佃
達哉
【 研 究 目 的 】 バルクの状態では化学的に安定な金をナノ粒子化すると CO 酸化反応に対して高
い触媒活性を示す
1)
ことが発見されて以来,担持系金クラスターの触媒作用に関する研究が活発
に繰り広げられている.これに対して,有機分子によって保護された金クラスターの化学的性質
に関する研究例は皆無に等しい.そこでわれわれは,有機合成反応に対して有効に機能する有機
分子保護金クラスター触媒の創製を目指して,(1)精密かつ系統的な合成法の開発
2-4)
と,(2)溶媒
に分散した金クラスターの触媒作用の探索を平行して進めている.分散状態の金クラスターの基
本的な化学的性質を調べる第一歩として,本研究では,ポリビニルピロリドン (PVP) によって
安定化された金クラスター (Au:PVP クラスター) を対象として取り上げた.PVP は,金クラス
ターに対して多点で配位結合することにより,反応基質の侵入を阻害することなく金クラスター
を安定化するものと考えられる
5)
.Au:PVP クラスターをサイズ選択的に調製し,アルコールな
どの空気酸化反応に対する触媒活性を検討した 6,7).
【 研 究 成 果 】 1.ポリマー保護金ナノクラスターの調製と構造評価 6)
0℃水溶液中 PVP 存在下で AuCl4-を NaBH4 により還元したのち,透析処理を行い,Au:PVP-1
を調製した.TEM 像から,平均サイズ 1.3±0.3 nm の単分散金クラスターが生成していることが
わかる (図 1a, b).紫外可視吸収スペクトル (図 1c) において表面プラズモンバンドがほとんど
観測されないことも,平均サイズが 2 nm 以下に抑えられていることを支持している.XRD (図 1d)
においてブロードな Au(111)ピークが観測され
たことから,金クラスターが fcc 構造を持つ
ことがわかる.また,XPS (図 1f) の結果から,
残留金イオン種は存在せず,金は 0 価まで還
元されていることが確認できる.さらにこれ
を凝集核として成長させることによって、平
均粒径 9.5±1.0 nm のクラスター (Au:PVP-2)
を得た.触媒機能の比較を行う目的で,PVP
保護 Pd クラスター (Pd:PVP-1 [d=1.5±0.3 nm],
Figure 1. (a) TEM image, (b) histogram, (c) optical absorprion spectrum,
(d) XRD profile, (e) FT-EXAFS, and (f) XPS of Au:PVP-1 clusters.
Pd:PVP-2 [d=2.2±0.4 nm]) も併せて調製した.
2.アルコール酸化 7)
金属触媒を用いた酸素 (空気) 酸化によるアルコール酸化反応は,環境調和型プロセスとして
近年活発に研究が行われている 8).そこで,2 atom%の Au:PVP-1 存在水溶液中でベンジルアルコ
ール誘導体 (1a-1d) の空気酸化反応を調べた (表 1).1a を 300K で 6 時間反応させると,安息香
酸と安息香酸ベンジルがそれぞれ収率 85%,10%で得られた.ヒドロキシベンジルアルコール
の場合,オルト体 1c の反応速度が著しく低いものの,1b と 1d においてアルデヒド誘導体が選
択的に生成することを見出した.1b, 1d の系においては,反応前後で Au クラスターのサイズに
30
Table 1. Alcohol Oxidation Catalyzed by Au:PVP -1
ほとんど変化が見られなかった.
次に,触媒活性のサイズ依存性,ならびに
一般に酸素酸化で用いられるパラジウム触媒
との比較を行った (表 2).アルデヒドのみが
生成する 1d を反応基質とし,みかけの反応
速度 k とクラスター表面積で規格化した反応
速度 k’を算出した.k’の比較から Au:PVP-1
substrate
time (h)
1b
2c
3
4c
1a
1b
1c
1d
6
24
8
8
1
0
34
3
3
yield (mol %)a
2
0
54
34
91
3
85
0
52
0
a
Estimated from GC analysis. b Benzyl benzoate was additionally
formed in 10% yield. c Oligomers of 2 were formed in aqueous phase.
は , Au:PVP-2 や 同 程 度 の 粒 子 サ イ ズ の
Pd:PVP に比べてはるかに高い活性を示すこ
entry
Table 2. Catalytic Activity toward Oxidation of 1d
とが明らかとなった.
本反応は,嫌気条件下では進行しないこ
とから,酸素が必須であることがわかった.
次に,ベンジル位の水素を重水素化した基
catalyst
dav (nm)
k (h-1) a
k’a,b
kH/kDc
Au:PVP-1
Au:PVP-2
Pd:PVP-1
Pd:PVP-2
1.3±0.3
9.5±1.0
1.5±0.3
2.2±0.4
2.7×10–1
9.5×10–5
1.8×10–2
6.2×10–2
1.0
2.6×10–3
7.7×10–2
3.8×10–1
74±6
23±3
Ea
(kJ/mol)
20
~25
–
33
a
質(p-HOC6H4CD2OH)を用いて速度論的同
at 300 K. b Ratio of the rate constant normalized by surface area of the
clusters. c at 330 K.
位体効果を測定したところ,330 K において,Au:PVP-1,Pd:PVP-2 の系でそれぞれ 74±6, 23±3
と極めて大きな値が得られた.さらに,アレニウスプロット(273–345 K の範囲)により求めた
活性化エネルギー Ea’は,Au:PVP-1,Pd:PVP-2 の系でそれぞれ 20, 33 (kJ mol-1)であり,顕著な差
が見られた.これらの結果は,Au と Pd の触媒反応はいずれもベンジル位の C-H 結合の切断過
程が律速段階であるものの,反応機構が異なることを示唆している.一般に,Pd クラスターに
よるアルコール酸化では,まずアルコールがパラジウム表面に酸化的付加し,金属アルコキシド
とヒドリドが生成する.次にβ—ヒドリド脱離によってアルデヒドと金属ジヒドリド種が生成し,
最後に分子状酸素によって金属表面が再活性化されて触媒サイクルが進行する
クラスターに対しては酸素が分子状吸着する
10)
9)
.一方,金ナノ
ことから,Au:PVP-1 によるアルコール酸化は以
下のように進行するものと考えられる.まず酸素吸着によって生成する金のカチオンサイトに対
してアルコキシドが求核的に攻撃し,金属アルコキシドが生成する.続いて,ベンジル位の水素
が近傍のスーパーオキシドイオンにより引き抜かれ,結果としてアルデヒドと過酸化水素が生成
するものと考えられる.実際に,ヨウ素デンプン反応によって,過酸化水素の発生が確認された.
【まとめと今後】
ポリマーで保護された金ナノクラスター (Au:PVP) のサイズ選択的調製法
を開発し,水中での空気酸化反応に対する触媒作用を検討した.その結果,1.3 nm 金クラスター
が有効な空気酸化触媒として働くことが明らかになった.また,金クラスターによる酸化機構は
パラジウムクラスターとは異なることを示唆する結果を得た.なお本成果は,角山寛規博士(分
子研)
,櫻井英博助教授(分子研)
,一國伸之講師(千葉大)との共同研究によるものである.
1) M. Haruta et al., J. Catal., 115, 301 (1989). 2) Y. Negishi and T. Tsukuda, J. Am. Chem. Soc. 125, 4046 (2003). 3) Y.
Negishi et al., J. Am. Chem. Soc. 126, 6518 (2004). 4)Y. Negishi et al., J. Am. Chem. Soc. 127, 5261 (2005). 5) T.
Yonezawa and N. Toshima, Advanced functional molecules and polymers, H. S. Nalwa ed. OPA2001, Vol. 2, p. 65. 6) H.
Tsunoyama et al., Langmuir, 20, 11293 (2004). 7) H. Tsunoyama et al., J. Am. Chem. Soc. in press. 8) 例えば,Y.
Uozumi and R. Nakao, Angew. Chem. Int. Ed.42, 194 (2003). 9) K. Mori et al., J. Am. Chem. Soc., 126, 10657 (2004).
10) 例えば,D. Stolcic et al., J. Am. Chem. Soc., 125, 2848 (2003).
31
光化学的なラジカル発生の高効率化と高機能化
-NO 発生と光誘起電荷分離-
東大院総合
研究目的
村田
滋
光化学反応は、ラジカルを発生させるための有用な手段のひとつである。光によ
ってラジカルが発生する機構として、吸収された光エネルギーが弱い共有結合の均一分解を
引き起こす場合、および光励起により電子受容性、あるいは電子供与性が増大して電子移動
が誘起される場合がある。我々は、1) 活発な研究が展開されている一酸化窒素(NO)の光
化学的な発生、2) 水中の不均一場を利用したラジカルイオンの光化学的な発生、について、
ラジカル発生機構の解明と発生効率の向上を目的として、さらに、これらを後続する反応と
組み合わせることによって、機能性をもつ反応系を構築することを視野に入れた研究を行っ
ている。講演では、それぞれのラジカル生成反応について、これまでに得られた研究成果を
述べる。
ON
研究成果
光化学的 NO 発生剤の分解機構と新規発生剤の開発
N
CH3
ON
N
CH3
光化学的
に NO を発生させる化合物は、NO ケージ化合物として生体内に
おける NO の作用に関する研究に用いることができるのみなら
ず、細菌増殖の抑制や腫瘍細胞の破壊など医療への応用が期待で
きる。N-ニトロソアミン類は代表的な光 NO 発生剤であり、すで
ON
N
CH3
BNN3
X
1
に実用的なものとして、並木、藤森らによって開発された N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソ-pフェニレンジアミン(BNN3)が知られている[1]。しかし、N-ニトロソアミン類の光化学反応
については、分解機構の解明、励起光の長波長化、分解副生成物の反応性の制御などの点か
ら、十分な研究がなされているとは言い難い。我々は、基本骨格となる N-ニトロソアニリン
の光分解効率の置換基依存性に注目し、光分解機構の解明と分解の高効率化を目的として研
究を進めている。すでに、新規 NO 発生剤 p-アジド-N-メチル-N-ニトロソアニリン(1, X = N3)
を合成し、その極低温マトリックス中、および室温溶液中の光分解過程を詳細に検討した[2]。
さらに、N-ニトソロアミ
表1.N-ニトロソ-N-メチルアニリンの光分解反応性のp-位置換基依存性
ンの光分解機構に関する知
見 を 得 る た め に 、 p- 位 に
X
ε(366 nm)
MeO
H
Cl
MeCO
NO2
410
170
140
390
1,300
種々の置換基をもつ N-ニト
ソロアミン誘導体(1, X =
OMe, H, Cl, COMe, NO2)を
合成し、室温溶液中におけ
る光分解反応(高圧水銀灯、
366 nm)の相対反応性を求
めた。この研究の過程で、
1)
3)
光分解反応相対量子収率 Φrel
直接光分解1) TEA存在下2) PTIO存在下3)
0.15
0.09
0.92
2.9
1.0
2.1
-4)
3.1
1.9
9.5
0.21
0.40
0.40
0.17
1.0
iPrOH中,2) iPrOH中TEA存在下, TEA不在下のX = NO2 に対する相対値,
ベンゼン中PTIO存在下, ESRにより測定,4) 反応系複雑
32
トリエチルアミン(TEA)の存在下では、1 の光分解反応性が著しく増大することを見出し
た。さらに、1 を 2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-1-オキシル 3-オキシド(PTIO)存在下で
光照射して ESR スペクトルの変化を追跡することにより、NO の発生を確認するとともに、
この反応条件における光分解の相対反応性を調べた。以上の結果を表1にまとめて示す。こ
れらの結果から、N-ニトロソアニリン誘導体の光分解反応性を向上させるためには、p-位へ
の MeCO 基の導入、あるいは光誘起電子移動機構の導入が有効であることが示唆された。
水中の不均一場を利用したラジカルイオンの光化学的発生
光
outer aqueous solution
誘起電子移動反応を経由して溶液中に生成したラジカルイオン
A2+
A+·
対は、逆電子移動過程によって速やかに失活する。この過程を抑
制し、ラジカルイオン対の寿命を延ばすことは、効率のよい光エ
hν
Po
ネルギー変換系を構築するために重要である。我々は、卵黄レシ
チンが水中で形成するベシクルを反応場として、疎水場に取り込
Pi
まれたピレン誘導体を増感剤、ベシクル内水相のアルコルビン酸
イオン(D−)を電子供与体に用いることにより、長寿命のメチル
.
ビオロゲンラジカルカチオン(A+ )を外水相に生成させること
に成功した(Fig. 1)。さらに、A の生成効率を向上させるために
inner waterpool
は、増感剤に極性置換基をもたせてベシクル界面に固定すること
が有効であることを見出している
[3]
。
.
D·
D-
+.
A+ の生成機構の解明と生成効率のさらなる向上を目的として、
Figure 1. Schematic illustration
of sensitized electron transport
across vesicle bilayers
長鎖連結型ピレン二量体 2a および 2b の合成と増感
剤としての評価、ベシクルに取り込まれたピレン誘
CH2OCO L COOCH2
導体の蛍光測定による光誘起電子移動の初期過程
の検討などを行なった。増感剤として 2a を用いた
.
場合の A+ の生成速度は、1-ヒドロキシメチルピレン
2a; L = (CH2)14
2b; L =
C C
C C
(3)を用いた場合に比べて5倍以上に増大した。一方、剛直な構造をもつ 2b はほとんどベ
.
シクルに取り込まれず、A+ の生成速度は 3 を用いた場合よりも低下した。この結果は、増感
.
剤を架橋することは、光によって誘起される内水相の D−から外水相の A+ への電子移動がア
.
ルキル鎖を通して速やかに進行できるため、A+ の生成効率の向上に有効であるが、架橋部の
設計にはベシクルを形成する脂質分子との親和性も考慮する必要があることを示唆している。
今後の計画
光化学的 NO 発生剤に関しては、NO の発生に伴って生成する分解副生成物の構造と反応性
を明確にして新規 NO 発生剤の分子設計の指針とするとともに、水溶性を付与するなどによ
って生体内で利用できる高効率的 NO 発生剤の開発をめざす。水中不均一場を利用したラジ
.
.
カルイオン A+ の発生に関しては、新規増感剤の設計と反応場の設計の両面から A+ 発生効率
.
の向上をはかり、生成した A+ を後続の還元反応と組み合わせることによって、光-化学エネ
ルギー変換系の構築へと展開する。
[1] Namiki, S.; Arai, T.; Fujimori, K. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 3840. [2] 村田 滋
分子スピン通信
No.2 p.71. [3] Yoshida, A.; Harada, A.; Mizushima, T.; Murata, S. Chem. Lett. 2004, 32, 68.
33
食道・胃接合部で検出される高濃度 NO の挙動
(財)山形県産業技術振興機構・機能性活性種研究開発プロジェクト
東北大学医学部消化器内科
吉村哲彦
飯島克則
研究目的 欧米では、Helicobacter pylori(以下、ピロリ菌)の感染率の低下と共に、噴門部
以外の胃ガン(非噴門部胃ガン)が減少し、食道・胃接合部のガンが増加している。本邦で
も、食生活の欧米化に伴って同様の傾向が観察されている。非噴門部胃ガンは主としてピロ
リ菌感染が原因と考えられているが、食道・胃接合部ガンの原因については現在のところ解
明されていない。
硝酸塩を含む野菜などを摂取すると胃腔内に高濃度の一酸化窒素(NO)が産生される。こ
の NO 産生過程は以下の通りである。小腸で吸収された硝酸塩は唾液中に分泌され、口腔内
細菌によって亜硝酸塩に還元される。亜硝酸塩は、食道・胃接合部の強酸性雰囲気とアスコ
ルビン酸によってさらに還元され
Bacteria
Dietary
nitrate
Salivary Glands
NO に変換される。この過程で産生さ
れる NO の濃度(50 µM)は体内で最
nitrite
大であることが最近明らかにされた
[1]。食道・胃接合部で限局性に産生
される高濃度 NO は、同部位の疾患
-
NO2
(例えばガン)に関与している可能
NO
性があるが、粘膜組織に対する影響
pH 1.5
HCl
ASC
についての知見は報告されていない。
本研究ではこの高濃度 NO の胃粘
25%
NO3-
膜組織に与える影響を明らかにする
ために、NaNO2 水溶液を経口投与し
たラットの食道・胃接合部および胃
NO3-
内の NO の挙動を検討した。
Endogenous NO
研究成果
Wistar ラット雄(約 250g)を自由飲水下に
24 時間絶食した後、urethane 麻酔を施し、胃内に直径 0.6 mm ポリエチレンチューブ
を 、食道にゾンデを留置した。シリコンチューブより HCl にて pH 2.0 に調整したア
スコルビン酸 10 mM を 30 分ごとに 0.5 mL、食道内ゾンデより NaNO2 (0.5 mM~2 mM)
亜硝酸塩投与ラットの胃内の NO 濃度など
+NaSCN (1 mM) を 0.8 mL/h の流量で投与した。ラット胃組織内の NO 濃度を NO トラ
ップ試薬を用いて EPR 法により測定し、胃腔内の NO 濃度を NO 電極を用いて測定した。胃
34
腔内 NO 濃度は、胃噴門部付近で 100 µM と高濃度であるが、胃噴門部付近を離れると急激に
低下し、検出限界以下となった。この結果は、ヒトで得られているものと同等である[1]。ま
た、組織の NO 濃度は食道胃接合部組織では 1.8 nmol/g-tissue/30 min、接合部から離れた組織
では 0.7 nmol/g-tissue/30 min であった。同部位の粘膜層と筋層を分離して測定すると、粘
膜層では平均 4.1µM 、筋層では平均 0.42 µM であった。このように NO 濃度は、食道胃接合
部付近で限局的に高値を示した。次に組織内のグルタチオン濃度を測定した。NaNO2 投与群
では超純水投与群と比べて、食道・胃接合部の粘膜内において還元型グルタチオン濃度は有
意に低かった。
本モデルで食道・胃接合部組織、特にその粘膜内において高濃度の NO を認めた。また NO
は組織中の重要な antioxidant であるグルタチオンを限局性に消費した。食道・胃接合部で発
生した NO は同部位での粘膜障害に関係がある可能性が示唆された。
(Gut, in press)
亜硝酸塩投与ラットの胃組織内の DNIC
NO
RS
生体内で NO は鉄—硫黄クラスタータンパク質と
反応してジニトロシルジチオラト鉄錯体(DNIC,
図1)を生成することが知られている [2]。NaNO2
水溶液投与群の食道胃接合部組織の EPR スペクト
Fe
ル(at 77 K)には、g = 2.04 に DNIC によるシグナ
RS
NO
ルが観測され、シグナル強度は亜硝酸塩濃度に依
存して増加すると共に、時間依存性で増加する傾
図1 ジニトロシルジチオラト鉄錯体
(DNIC)
向が認められた。また、体部・体彎においては DNIC
シグナルは検出されなかった。このシグナルは、
食道・胃接合部で産生された高濃度の NO と組織中の鉄-硫黄クラスターを含む酵素との反応
によって生成された DNIC に起因するものと考えられる。鉄-硫黄酵素の有力候補としてミト
コンドリア中の呼吸鎖に位置するアコニターゼが想定されるので、粘膜内アコニターゼ活性
の測定を行ったところ、亜硝酸塩投与群の食道胃接合部で限局性に低下していた。
これらの結果は、食道・胃接合部で産生された高濃度の NO が同部位での組織障害に関与
することを示唆している。
今後の計画
今回は亜硝酸塩の単回投与であったが、今後、亜硝酸塩の長期投与および他の刺激要因の
共存を考慮した実験およびヒトの生検試料での測定を予定している。
参考文献
[1] K. Iijima et al., Gastroenterology, 122, 1248-1257 (2002).
[2] T. Ueno, T. Yoshimura,, Jpn. J. Pharmacol. 82, 95-101 (2000).
35
PEDRI(プロトン電子二重共鳴画像)による
生体内ラジカル反応の画像解析
九州大院薬
研究目的
市川和洋、内海英雄
最近、糖尿病や高血圧、脳卒中などの生活習慣病に、フリーラジカルが関与して
いることが明らかにされつつある。フリーラジカルの生体内無侵襲解析手法として、我々は
生体計測電子スピン共鳴(in vivo ESR)/スピンプローブ法を提唱してきた。これは、投与し
たニトロキシルラジカルの生体内代謝による ESR 信号強度変化から、フリーラジカル変動を
解析する手法であり、これまでに、フリーラジカルと疾患の発症・進展との関わりを明らか
にしてきた[1]。これら酸化ストレス疾患の、どの部位で、いつ、どの程度フリーラジカルが
産生しているかを明らかにすることが、病態解析・薬効評価において極めて重要である。
近年、核・電子間のオーバーハウザー効果を利用した装置、プロトン・電子2重共鳴画像
化装置(PEDRI)が報告された[2]。PEDRI では、電子スピンを飽和させ、この条件下で NMR 信
号を観察する。このとき適切な飽和条件が達成されていると、励起された電子スピンのエネ
ルギー遷移により NMR 信号が数百倍まで増加することを利用した手法である。我々も、学
内に導入された PEDRI 装置を用いて、腫瘍レドックス計測や、胃潰瘍、大腸炎モデル等の酸
化ストレス疾患における病態画像解析を開始したところである。
本研究では、PEDRI/スピンプローブ法を用いた、酸化ストレス疾患モデルの生体内ラジカ
ル反応画像解析の例として、インドメタシン惹起胃潰瘍モデルの結果について報告する。
インドメタシン惹起胃潰瘍モデ
(a)
(b)
255
ルの酸化ストレス画像解析
インドメタシンやアスピリンなど
(c)
(d)
の非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs)は、重篤な副作用とし
て胃粘膜傷害を誘発することが
(e)
(f)
(i)
0.04
0.02
0.02
0
0
vehicle Indomethacin
(k)
0.04
0
(g)
(j)
0.04
***
vehicle Indomethacin
***
***
0.02
知られている。近年、NSAIDs 誘
発胃粘膜傷害における活性酸
0
画像輝度減衰速度 ( / min)
研究成果
(h)
0
0.1
0
0.1
Indomethacin
mean±S.D. n=3-5 ***p<0.005
DMTU
(mmol/rat)
素・フリーラジカルの関与が報告
されている。しかし、実際に生体
内で活性酸素生成が起こってい
るか否か、の詳細は不明である。
そこで、インドメタシン惹起胃粘
膜損傷モデルにおける活性酸素
Fig.1 インドメタシン処置ラット胃部の PEDRI 画像
a, b は各々hydroxy-TEMPO を vehicle(NaHCO3)群に経口投与した直後と投与 12
分後の PEDRI 画像、c, d は hydroxy-TEMPO をインドメタシン処置群に投与し
た直後と投与 12 分後の PEDRI 画像、e, f は各々trimethylammonium-TEMPO を
インドメタシン処置群に経口投与した直後と投与 12 分後の PEDRI 画像、g, h
は各々DMTU と hydroxy-TEMPO をインドメタシン処置群に投与した直後と投
与 12 分後の PEDRI 画像。i は時系列 PEDRI 画像から求めた hydroxy-TEMPO
の減衰速度、j は時系列 PEDRI 画像から求めた trimethylammonium -TEMPO の
減衰速度、k は hydroxy-TEMPO の減衰速度に及ぼす DMTU の効果を示す。
36
生成を、in vivo ESR/スピンプローブ法、PEDRI/スピンプローブ法を用いて画像解析を行った。
インドメタシン投与群ラットの胃部の In vivo ESR 測定において、膜透過性 hydroxy-TEMPO の
ESR シグナル減衰速度はインドメタシン投与群で約 3 倍であり、有意な亢進が認められた。一方、非
膜透過性 carboxy-TEMPO では変化が見られなかった。PEDRI/スピンプローブ法においても同様に、
膜透過性 hydroxy-TEMPO では画像輝度の減衰速度が約 4.5 倍にまで亢進したが、非膜透過性
carboxy-TEMPO では違いが見られなかった(Fig.1)。そこで、膜透過性 hydroxy-TEMPO を用いた
PEDRI 画像において、胃の組織構造の異なる前胃と腺胃に相当する領域を選択し、それぞれの画
像輝度の減衰速度を比較すると、損傷が見られる腺胃において減衰速度がより亢進していた。
スピンプローブ剤の胃粘膜損傷形成に与える影響
ーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、アロプリノール(キサンチ
ンオキシダーゼ阻害剤)前処置により、抑制されることが報告されて
いる(3)。そこで、ニトロキシルプローブの胃粘膜損傷形成抑制作用
について検討した。PEDRI 画像において減衰速度亢進が見られた
hydroxy-TEMPO を経口投与すると、インドメタシン惹起胃粘膜損
傷が、ほぼ完全に抑制された。一方、carboxy-TEMPO は、損傷形
成に全く影響を与えなかった。以上の通り、膜透過性のスピンプロ
ーブ剤では、ESR 信号強度、及び PEDRI 画像輝度の減衰速度が
亢進し、胃粘膜損傷抑制効果を示した。一方、非膜透過性スピンプ
ローブでは、減衰速度亢進が認められず、胃粘膜損傷抑制効果を
gastric lesion area (mm2)
NSAIDs 処置ラットにおいて、胃粘膜脂質過酸化・損傷形成がス
120
*
90
vehicle
indomethacin
60
30
0
hydroxyTEMPO
trimethyl
ammoniumTEMPO
Fig.2 スピンプローブ剤による胃
粘膜損傷抑制
スピンプローブ剤は、PEDRI 計測
と 同 条 件 で 投 与 し た 。
(n=3-7)*p<0.05
示さないことが示唆された。従って、インドメタシン惹起胃粘膜損傷形成に、腺胃上皮細胞内、あるい
は細胞膜で生成する活性酸素が関与していることが考えられる。
今後の計画
本研究の成果により、インドメタシン惹起胃潰瘍モデル動物において、スピンプローブ分
布を反映した高感度画像が得られ、異なる生体内分布特性を有するスピンプローブで、酸化
ストレス惹起部位の計測が可能であることが示唆された。今後、現在開発中の狭線幅・新規
造影剤と PEDRI 手法を用いることで、病態における生体内投与フリーラジカル分布や変化の
詳細な画像解析を行う予定である。
引用文献
1.
Kasazaki K. et al, Free Radical Res., 37, 757-766 (2003), Utsumi H. et al, Arch. Biochem. Biophys.,
416, 1-8 (2003), Yamato M. et al. Free Radic. 35, 1619-1631 (2003), Yasukawa K. et al. Free Radic.
Res., 38, 147-55 (2004), Yamada, K. et al. Antioxid Redox Signal, 6, 605-611 (2004)
2.
Lurie DJ, et al., Phys Med Biol. 43(7):1877-86. (1998), Krishna, M.C., et al., Proc Natl Acad Sci U S A,
99: 2216-2221., (2002), Lurie DJ, et al., Magn Reson Imaging. 23(2):175-81. (2005)
3.
Vaananen PM, et al., Am. J. Physiol. 261:G470-G475. (1991), Takeuchi K, et al., Digestion. 49,
175-84 (1991)
37
分子とバルクをつなぐナノ球殻磁性体
名大院理
阿波賀 邦夫、大西基聖、小塚康晴、吉川浩史
研究目的
有機物や金属錯体など、磁性素材とは無縁のものと思われていたものに強磁性的性質を付
加しようとする分子磁性研究が独創的な進歩を遂げた。我々のグループは、強磁性的分子間
相互作用の分子論的解釈を提出し、それに基づく分子ならびに結晶設計から世界初の有機強
磁性体を世に送り出した。その後研究対象を、有機ラジカル結晶や有機・無機複合物質から
ナノ磁性体にまで広げ、
「操作性」
「量子性」
「構造設計性」といったこれらの物質群の特長を
生かした新規物性開拓を行っている。
「常に変わらず南北を指す」といった不変性が既存の無機磁石の特性なら、分子磁性体の
特長は、外部刺激によって性質を大きく変え、溶媒に投入すれば磁性とともに消え去ってし
まうという変化に富む特性にある。このような性質は、スピン中心間の長い距離がもたらす
強いスピン-格子相互作用に主に起因すると考えられる。しかしこの磁性体としての希薄性
は、残念ながら多くの場合、分子磁性体における低い強磁性転移温度に帰結してしまう。
動的な特性をより高い温度で実現するためには、ナノあるいはサブミクロンスケールの磁
性体開発が重要である。既存の磁性体を小さくするトップダウンの方法では、強磁性的な交
換相互作用をもつ磁気モーメント間の双極子-双極子相互作用が、モーメントを縦に並べた
配置で最も安定となることから、針状形状をもつナノ磁性体を目指して多くの研究が進めら
れてきた。その一方、分子磁性体のような動的特性を求めるには、磁性体としてより不安定
な形状に追い込むことが興味深く、このような理由から中空球殻形状をもつナノ磁性体の開
拓を着想した。
研究成果
中空球殻ナノ磁性体の合成と磁気特性
中空球殻形状をもつ磁性体構築のため、ポリスチレ
ン・ビーズをテンプレートした合成を試みた。500 nm
程度の直径をもつビーズを水中に分散させ、液性を徐々
にしかも均一に塩基性にすることによってコバルト水
酸化物をビーズ表面に沈殿させた。この有機・無機複合
物質を、水素下あるいは空気中でか焼することによって、
コバルトや酸化コバルト(Co3O4)の中空球殻磁性体を合
成した。図1は得られた Co3O4 試料の TEM 像で、中空構
造がよく分る。一方コバルト金属には、480℃を境に、
高温相としての ccp 相と低温相としての hcp 相が知られ
38
図1 Co3O4 中空球殻磁性体の
TEM 像
ている。作成条件をいろいろと検討したとこ
る、コバルト水酸化物の還元か焼からは ccp
相が、そして酸化コバルトからは hcp 相のみ
が単離されることが分った。磁気測定の結果、
予想通り hcp 相がより大きな保磁力を与え
た。
バルクの Co3O4 は、TN=33 K の反強磁性体
として知られている。しかしこの系の特殊性
として、転移点以下でドメイン境界上にある
と考えられる磁気モーメントが強磁性的に
配列するため、比較的大きな FC 磁化を生じ
図2
ることが知られている。図2は、今回得られ
Co3O4 中空球殻磁性体の FC 磁化。
た3種類の球殻試料の FC 磁化を比較したも
ので、バルクのものより1桁近く大きな FC
磁化が現れることが分った。サイズを小さく
すると、最低温での磁化は大きいが、温度上
昇とともに緩和し、磁化が急減する傾向を見
ることができる。図3は、直径 300 nm の試
料において、FC 直後 10 K で磁化の減衰を調
べたものである。当初急減した後、ゆっくり
と緩和していく様子が観測された。この遅い
図3
Co3O4 中空球殻磁性体(直径 300 nm)
FC 磁化の減衰(10 K)。
成分は球殻試料に特有なものであると考え
ているが、M=M0exp(-kt) という指数関数で
よく記述できる、均一な環境にある磁気モー
メントの緩和であることが示された。
同様な手法を鉄の系に応用することによ
って、Fe、α-Fe2O(ヘマタイト)
そして Fe3O4
3
(マグネタイト)のつくり分けにも成功した。
図4は Fe3O4 試料の磁化曲線の温度依存性を
示している。室温付近の保磁力はほとんどな
いのに対して、100 K 以下で急増し、2 K で
は約 1400 Oe にまで広がる。このような動的
な特性は、既存の磁性体には見られず、単分
子磁石が極低温で見せる現象によく似てい
る。磁性体として最も不安定な構造を実現し
図4
たことにより、動的な特性を引き出すことが
Fe3O4 中空球殻磁性体(直径 550
nm)の磁化曲線。
できた。
39
水およびヘモグロビンの近赤外光吸収への磁場効果
千葉大工
研究目的
岩坂
正和
東大院医
上野
照剛
反磁性分子の集合体に対する強磁場の効果として、分子軸が磁力線に対して平行
または垂直に並ぶ磁場配向効果や、磁束密度の空間勾配による磁気力の効果が知られている。
テスラ級の強磁場中におかれた強磁性体周囲の高勾配磁気力で磁気分離可能な物体のサイズ
はおよそ数 10 ナノメートルと見積もられている。一方、磁場配向の原因となる単一分子レベ
ル反磁性磁気トルクの影響が観測可能となる条件について未解明な面が多いと思われる。す
なわち、室温での生体物質(タンパク質、核酸、水など)の集合体が反磁性磁気トルク作用
で構造変化しうる場合の集合体のサイズ、分子相互作用の大きさについて明確な機構は説明
されていない。現象論として、液体の構造に対するテスラ~10 テスラ級の強磁場効果につい
て、水の屈折率[1]、水の近赤外スペクトル[2]、転移温度[3]に対する磁場効果が報告されてき
た。反磁性液体構造を磁場中で高感度検出することで、反磁性的な分子相互作用に関する新
規な知見を見出せると期待された。特に、可視光に近い 700nm~2000nm の近赤外光は、水分
子の集団構造における高次の振動音の情報も提供するため磁場効果を検証する上で有用と考
えられた。本報告では、水の 1930nm 近傍の近赤外スペクトルを長時間計測し 14 テスラ磁場
効果の分光条件依存性を解析するとともに、
赤血球内ヘモグロビンおよび水の 690nm~830nm
帯域における偏光吸収特性の計測を 5 テスラ磁場中で行った結果について述べる。
研究成果(および今後の計画)
水の 1930nm 近傍の近赤外スペクトル
14T 超伝導磁石ボア内部に設置した外部セル室内に、
図1a に示す光路長 0.1mm の NIR 用石英セル(sandwich 型)に封入したミリポア精製水を収
容し、14T 磁場励磁有り/無しの条件で、同じサンプルについて各数 100 回(~最大 900 回 x 2)
のスペクトル計測を行い加算平均を得た(数時間~約半日の連続曝露計測 at 25℃)
。用いた
磁場中分光システムは日本分光 V-570 の改造型であった。
その結果、
図1b に示す様な 1920nm
~1940nm での水の吸収ピーク(ν2+ν3 モードに対応)が、14T 磁場下で 3nm 赤方偏移した
測定例が得られた(波長取り込み幅 0.1nm)。次に、2つの分光条件(バンド幅、波長取り込
み幅)を変化させ、水の近赤外光吸収測定を長時間行って比較した結果を図2に示す。バン
ド幅=20nm or 40nm、波長取り込み幅=1nm という感度の粗い条件では磁場印加なし/14T で
差は見られなかった。一方、バンド幅が 4nm、8nm の高感度条件では 14T 磁場下でのピーク
が比較的高波長にシフトした。
ただし、バンド幅が 8nm の場合、波長取り込み幅を 0.5nm にした際にはピーク誤差の増大
と 14T 磁場下でのピークが逆に低波長シフトした例が得られた。この測定群ではセルの密封
が弱く蒸発のため励磁なしで最大 574 スペクトル、14T で最大 130 スペクトル得た時点で水
位が光の照射面をはずれていた。今後、この条件での再測定で確認を行うと共に、水のみに
光が照射されている場合と、水―空気境界面に光が照射されている場合で相違が生じるかも
検討したい。
40
690nm~830nm 帯域における偏光吸収特性
近赤外酸素モニタ(光トポグラフィ)で用いら
れる 690nm,780nm, 805nm, 830nm の近赤外光を用いたクロスニコル(偏光)の状態で、うさ
ぎ頭部(図3a)
、ヘモグロビン溶液、水(図3b)の光吸収特性を測定した結果、780nm での
吸収の減少と 830nm での吸収の増加が認められた。当初、ヘモグロビンの酸素化特性への磁
場影響と捉えていたが、水のみでも影響が見られたため、今後は水分子集団構造の高次振動
音への磁場効果の可能性も踏まえて研究を進めていく。
[1] H. Hosoda, H. Mori, N. Sogoshi, A. Nagasawa and S. Nakabayashi, J.Phys.Chem.B 108 (2004)
1461-1464.
[2] M. Iwasaka and S. Ueno, J. Appl. Phys., 83 (1998) 6459-6461.
[3] H. Inaba, K. Tozaki, H. Hayashi, C. Quan, N. Nemoto, and T. Kimura, Physica B 337 (2002) 138-146.
図 1. a. 近赤外計測用セル(光路長
0.1 mm), b. 水のν2 +ν3 モードの
スペクトル例.
図 3.
図 2. 水 の ν 2 + ν 3 モ ー ド の 吸 収 ピ ー ク
(1930nm 近傍)に対する 14 テスラ磁場効果.
(a)うさぎ頭部(脳)、および(b) 水の近赤外光(780nm,830nm 他)のクロスニコ
ル状態での偏光吸収特性に対する磁場変化(0T→5T→0T)の影響.
41
基板上のポルフィラジン分子クラスター構造の STM 観察
情報通信研究機構
名大院理
照井
鈴木 陽介・藤森
通文・益子
信郎
雅人・阿波賀
邦夫
研究目的
半導体産業においては微細加工技術の発展によりサ
ブミクロンオーダーでのデバイス作製が行われている。
しかし、従来の光リソグラフィーによる手法は理論的限
界に近づきつつある。より高速、高機能なデバイス開発
には原子、分子を直接操作して超微細構造を構築するボ
トムアップのアプローチが不可欠である。
一方デバイスに使用できる機能性材料のための有機
材料開発は重要である。有機材料はその多様性によって
幅広く応用が期待され、自己組織化の分野でも有利であ
ると考えられている。しかしながら、有機-無機または
図1. tetrakis(thiadiazole)porphyrazine分子
TTPDzM(M=金属)またはTTPDzH2(金属なし)
有機-有機の界面が与えるデバイス特性への大きな影
響は重要な問題である。それゆえナノ構造と界面の物性
を研究することは重要であり、ナノデバイス構築の基礎
をなすものである。
我々は機能性分子が自己組織化的に高次構造を構築
して機能発現することを目指し研究を進めている。機能
性分子が基板上でその機能を失うことなく存在できる
かどうかはナノ分子デバイス実現のための基本的且つ
重要な問題である。最も基本的な研究として種々の機能
性分子が基板上でどのような構造を持ち、そして分子間
の相互作用がどのように働いているかを STM を用いて
調べている。
フタロシアニン系の分子は電子的、光学的な物性およ
びその安定性によってデバイス応用へ高いポテンシャ
ルを有していると考えられ、数多くの研究が行われてい
る。フタロシアニン誘導体のひとつであるポルフィラジ
図 2. TTPDzH2 の結晶構造
ンは分子間相互作用を制御するよう設計された分子で
ある(図 1)。固体結晶での構造は既に解析されている[1]が、この分子が基板上で形成する構造
についての詳細は不明な部分がある(図 2)。そこで我々は金基板上にポルフィラジンの薄膜を
作製しその分子配列構造を STM を用いて調べた。
42
研究成果
基板には金の単結晶または単結晶薄膜を用いており、基板表面は(111)面である。実験は基
板の清浄表面作製から薄膜蒸着、STM 観察まで全て超高真空中で行っている。STM 観察は室
温で行っている。
サブモノレイヤー薄膜の STM 像を図 3 に示す。ドット状の構造が見えるが直径は 0.25nm
であり TTPDzH2 分子の大きさと一致する。基板のテラス上にはクラスター状態のものがあり
その構造は図 2 の 2D hexagonal 構造とよく一致しており、最近接分子間距離(分子の中心間距
離)と同じ値である。これはクラスター構造形成において分子-基板相互作用よりも分子間相
互作用が支配的であることを示しており、thiadiazole リングが分子間相互作用に大きく寄与し
ていることが分かる。ただ、ダイマー構造では分子間距離が 0.8nm で、バルク結晶のそれよ
りも短く、金(111)表面のへリングボーン構造の影響が考えられる。またこの分子では孤立状
態の分子でさえチップ走査によって分子が動くことがなかったので、分子が吸着した後は基
板との相互作用は比較的強いと思われる。
モノレイヤー薄膜についてもその構造観察を行った。薄膜(as-deposited)の場合一見ランダム
に分子が吸着しているように見えるが、最近接分子は相互作用があると思われる構造が観測
された。この薄膜を加熱処理すると結晶性は著しく改善されたが、バルク結晶での 2D
hexagonal 構造の中心分子が抜けた構造に相当する穴がいくつか観測され、薄膜は c 軸が基板
に垂直な方向に配向していることが分かった。これは図 1 で分かるとおり、分子の構造が平
坦であることから推測されるものと矛盾しない。
今後の計画
ポルフィラジン分子は中心金属を変えることによって結晶構造、物性が変化する。基板上
のクラスター構造を種々のポルフィラジンについて調べ構造に由来する物性のメカニズムを
探る。またバルクとしての性質ではなく分子性の高い物性を調べるために、ナノメートルサ
イズのクラスターの物性を測定する。分子自身の性質を反映した自己組織化構造構築やクラ
スター状態の分子物性を測定するための微小領域測定技術開発をあわせることで分子性ナノ
構造体を構築し、量子状態を反映した機能発現を目指す。
図 3. サブモノレイヤー薄膜の STM 像
[1] M. Fujimori, Y. Suzuki, H. Yoshikawa, K. Awaga, Angew. Chem. Int. Ed. 42 (2003) 5863.
43
ヘテロ原子置換高対称性フェナレニル類の設計と合成研究
阪大院理
森田 靖
1. は じ め に
分子骨格全体にスピンが広く非局在化した安
N
定な開殻有機分子に関する研究は、いまだ未開
N
O
phenalenyl
radical 1
拓の研究分野の一つである。我々は、フェナレ
ニルと総称される縮環型奇交互炭化水素 1 を
2 , 2002 年
O
3 , 2000 年
基盤とした空気中でも安定な一群の開殻有機分子(例えば 2[1]、3[2])の合成研究を行ってきた。
本研究では、(1)三つの酸素原子を置換基として導入した高対称性を有する高スピン型フェナ
レニル類の合成、(2)電子効果によるフェナレニル型中性ラジカルの安定化と集積化を目指し
た研究を行っている。両研究とも標的化合物の合成に向かって着実に進展している。
2. 研 究 成 果
(1) 高スピン型フェナレニル類
オキソフェナレノキシル類 3 が示す
高いスピン非局在性と安定性に触発さ
O
2
(a)
(b)
O
O
O
れ、この分子にさらに酸素官能基を導
入したオキソフェナレンジオキシル 4
を分子設計した。4 は、トポロジー的
対称性により縮重した二つの不対電子
4
O
O
Figure 1. (a) 密 度汎 関 数 法 (UBLYP/6-31G(d,p)//UBLYP/631G(d,p)) により求めたジラジカル 4 の二つの SOMO、(b)
スピン密度分布。tert-ブチル基は省略した。
軌道 (SOMO) を持つ nondisjoint 型ジ
a. 2 equiv
NaOEt
THF–EtOH
OH
ラジカルである。また、骨格は C3h 点群に属
HO
することから二つの SOMO の重なりが大きく、
b. 2 equiv
Bu 4 NCl
基底状態は三重項となることが期待される
O
6
(Figure 1)。これまでに、4 の前駆体として考
5
えられるジヒドロキシ体 5 を 2,7-ジメトキシ
E 1 / 2o x 2 =
–0.169 V
Current
ナフタレンから 15 段階、総収率 12%で合成す
ることに成功した。5 をジアニオン 6 に導き、
O
–
+
B u4 N
Bu 4 N – O
+
O
E 1 / 2o x 1 =
–0.557 V
2 mM in CH 2 Cl 2
with 0.1 M Bu 4 NClO 4
sweep rate: 0.01 V/s
サイクリックボルタモグラムを測定した
(Figure 2)。 6 から酸化側に二段階の可逆な酸
+0.2
化還元波が観測され、4 の生成が示唆された。
0
–0.2
–0.4
–0.6
V vs Ferrocene/Ferrocenium
–0.8
Figure 2. ジアニオン 6 のサイクリック
ボルタモグラム
そこで、5 を化学的に酸化することで 4 の合
成を試みた。過剰量の酸化鉛(IV)を用いて酸化
し、ヘキサン–塩化メチレン混合溶媒から自然濃縮させることで黄色単結晶を得た。X 線結晶構
造解析から得られた結晶は、4 のスピン密度の大きな炭素同士で σ 結合を形成した二量体 7 で
44
あることがわ
3)。結晶はメソ
体のみで構成
S
O
O
R
R
( b)
( a)
O
か っ た (Figure
b
0
S
O
S
R
O
S
3.17 Å
R
され、二量体
間の C…O の接
触により c 軸
方向に一次元
鎖を形成して
O
7
c
Figure 3. (a) X 線結晶構造解析により得られた二量
体 7 の模式図、(b) a 軸投影図。tert-ブチル基は省
略した。
いた。この結晶をジクロロメタン-d2 に溶解させ、1H NMR を測定したところ、7 だけでなく、結
合形成炭素の立体化学がすべて R、またはすべて S である異性体が観測された。このことは、溶
液状態において 7 の σ 結合が開裂し、4 を経て異性化した可能性を示している。つまり、溶液
状態では、3 種類の二量体と 4 との間に平衡が存在する可能性がある。今後は 4 の発生条件や測
定条件を検討し、ESR など各種物理化学的手法による直接的な検出及び物性の解明を目指す。
(2)電子効果型フェナレニル類
tert-ブチル基等を用いた立体的な効果ではなく、導入したヘテロ原子の電子的な効果によるフ
ェナレニル類の安定化を目指し、α位をすべて硫黄原子で置換したヘキサチオ体 8 を設計した。
8 はフェナレニルと同じ D3h 点群に属する高対称性開殻分子である。理論計算から、スピンは分
子全体に広く非局在化し、硫黄
MeO
原子上にも大きなスピン密度が
存在することが示唆されている
O
O
O
MeO
(Figure 4)。固体状態において 8
MeO
–
BPh
S
S
4
OMe OMe
10
の硫黄原子同士の接触が有効に
S
S
OMe
OM e
9
+
OMe
y. 2% in 10 steps
S
S
8
起これば、強い分子間相互作用
が働くと期待されることから、有機磁性体や有機
伝導体の構成成分として興味深い。
8 を合成する上での鍵化合物は、ヘキサメトキ
シフェナレニルカチオン 10 である。我々は、ジ
エステル体 9 を出発物質として用い、10 段階
でこの化合物の合成に成功した。その構造は、
単 結 晶 の X 線 結 晶 構 造解 析 か ら も 確 認 し た
(Figure 5)。現在、10 への硫黄官能基の導入を
Figure 4. 密度汎関数法
(SVWN/6-31G(d)
//SVWN/6-31G(d)) に よ
り求めた 8 のスピン密
度分布
Figure 5. ヘキサメトキ
シフェナレニルカチオ
ン 1 0 の ORTEP 図
基盤にした 8 の合成を検討している。
3. 参 考 文 献
[1] Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 1793–1796. [2] J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 4825–4826; Org. Lett. 2003, 5,
3289–3291.
45
π共役スピン系の光励起状態のスピンダイナミックス
阪市大院理
研究目的
手木
芳男
π共役スピン系は、分子内及び分子間での大きな交換相互作用が期待され、有機
磁性研究の主要な研究対象である。我々は、これまでに純有機π共役スピン系の光励起状態
のスピン整列を主として時間分解 ESR 法を用いて明らかにしてきました。本研究課題では、
それらの光励起状態を利用して、有機磁性系の光による磁性制御を行う事を最終的な目的と
しています。そのためには、これらの有機磁性の主要なスピン源であるπ共役スピン系の光
励起状態の動的性質を明らかにする事が不可欠です。ここでは、最近、我々がパルス ESR 法
を用いて行った励起状態でのスピンダイナミックスの研究を中心に報告する。
研究成果
昨年度の本特定領域の研究費で購入したパルス ESR ユニットを用いて、当研究室
でも光励起状態のパルス ESR 実験が可能になった。図1には、本研究に用いた実験装置のセ
ットアップを示した。これに
GPIB
より、スピン緩和時間につい
ての情報が直接得られるだけ
でなく、緩和時間の違いやス
RS-232C
Pulse Timming
Control Cable
M.W. Pathway
Signal Pathway
Computer
(CPU)
Delay Pulse
Generator
(DG 535)
Pulse Generator
(AWG 510)
AUX
IN
M.W. Source
(Gann Diode M.W.
Generator)
ピ ン エ コ ー 検 出 ESR や
Degital
Osciloscope
Pulse Buffer
ESR Console
CH3
CH2
CH1
O
(φ = 0 )
Reciever Trigger
Transient nutation 法などのパ
IF Amplifier
(φ = 90O)
IF Amplifier
Quadrature
Detecter
Attenuator
ルス ESR 独特の手法を用いて、
Main/slave
Switching Circuit
スピン多重度の直接決定やス
4 Port Phase
Switching Circuit
PIN Diode
Switch
10W M.W.
Amplifier
or
1kW TWTA
Amplifier
Amplifier
Circulater
PIN Diode
Switch
Isolater
ペクトルの分離が可能になる
Microwave Unit
事が期待される。
Nd:YAG Pulse Laser (10 Hz, 355 nm)
本研究では、まず、分子内
Magnet
Pulse ESR Cavity
Microwave Unit
図1 実験装置のブロック図
及び分子間での交換相互作用
の強いπ共役スピン系で、こ
の種の種々のパルス ESR 実験
が可能かどうかを、すでに昨
NN
N
NN
年報告した時間分解 ESR の信
号強度が電子供与基の付加に
1
N
O
O
N
N
O
N
2
図2 本研究のパルスESR実験に用いた分子
より増大した分子1を用いて
調べた。その後、昨年報告した最低励起状態が特異な三重項状態をとり五重項状態が近似的
に縮重している分子2にパルス ESR 法を適用してスペクトルの分離とスピン多重度の直接決
定を試みた。現在、これらの研究は進行途上にあるが、ここではこれまで得られた結果を報
告する。シンポジウム当日は、これまでの時間分解 ESR の実験ではスペクトルの同定が十分
に行えなかった2~3の系に同様の手法を試み、スペクトルの同定を行った結果についても
報告する予定である。
46
図3には、電子スピンエコーをモニターして
検出した分子1の ESR スペクトルを示した。
at 10 K
測定は、剛体溶媒中に希釈した試料を用いて
Laser Off
Signal from Doublet
Ground State
N N
N
10K で行った。パルスレーザーを照射してい
N N
in 2-MTHF
Glass Matrix
ない場合(上段)には、基底状態のラジカル
Q
のエコー信号のみが観測された。パルスレー
Quartet PhotoExcited State
Laser On
ザー照射後、0.8μs 後にマイクロ波のπ/2パ
Q
ルスを照射し、その 900 ns 後にπパルスを照
x 40
射して検出したエコー検出 ESR(下段)には、
Q
Q
基底状態の信号に加え、光励起四重項状態に
260
由来する信号が明瞭に観測された。
280
300 320 340 360
Magnetic Field / mT
380
図3 分子1のエコー検出 ESR
500
図4には、エコー信号をモニターしてスピン
400
系の位相緩和時間を測定した結果を示した。励
I = I0exp(-t/T2)
TM = 637 ns
300
起四重項状態の位相記憶時間は、基底状態のも
のより長く、約1μs 程度である事が明らかに
200
なった。このことは、パルス技術を用いたスピ
ン操作にとって非常に有利である。またこの系
T = 957 ns
100
0
O
M
0
では、transient nutation 法によるスピン多重度の
500
1000
Time / ns
1500
2000
図4 分子1の位相記憶時間測定
直接決定も可能であった。これらの結果は、ス
ピン間の交換相互作用が強いπ共役スピン系
の光励起状態でも、種々のパルス ESR 法を用
いた実験が可能である事を意味している。
図5には、分子2の特異な励起三重項状態に由
T
(a) Obsd.
来する信号をパルス ESR 法により近接五重項状
態の信号から分離して測定した結果を示した。ま
Signal from Doublet
Ground State
T
た、この信号の 298 mT の遷移のスピン多重度を
transient nutation 法により測定したところ、確か
(b) Sim.
T
に三重項状態のΔMs = 0→1 遷移によるもので
ある事が確認できた。
今後の計画
T
パルス ESR 法を、π共役スピン系
を電子ドナーとしてアクセプタ-と組み合わせ
た CT 錯体系及び、分子内ドナー-アクセプタ-
集積型安定ラジカル系に適用し、CT 相互作用と
250
300
350
Magnetic Field /mT
400
図 5 分子 2 のエコー検出 ESR
光励起高スピン状態からの電子移動およびエネルギー移動の関連を研究する。最終的には、
これらの励起状態ダイナミックスに関する情報と、これまで得られた光誘起スピン整列の知
見をもとに、π共役有機スピン系を利用した光誘起磁性の実現を目指します。
47
光、電気、磁気情報をスイッチするジアリールエテン
九大院工
松田
建児
1.はじめに
熱不可逆、高い繰り返し耐久性などの特徴を持つジアリールエテンをはじめとするフォト
クロミック化合物は光の照射によって色、すなわち吸収スペクトルを可逆に変化させる化合
物である。このことはフォトクロミック分子が本質的に双安定性を有していることを意味す
る。双安定な二つの状態の間では、吸収スペクトルだけでなく様々な物性が変化する。この
ことを積極的に利用すれば、光スイッチング分子が実現可能である。物性の変化を情報の変
化としてとらえると、フォトクロミック反応による光スイッチングは、情報の光スイッチン
グを行っている事になる。一方で、フォトクロミック分子は情報の発信源としてだけでなく、
情報伝達の媒体としてもとらえることができる(図1)。この視点に立てば、フォトクロミッ
ク反応により、情報のやり取りをスイッチングすることもできることになる。後者の考え方
はより応用範囲が広く、分子を導電性ワイヤーとみなせば、フォトクロミック分子はスイッ
チに相当することになる。我々はこれまで、この後者の考え方に立脚した分子設計により、
分子内交換相互作用の光スイッチングについて報告してきた[1,2]。
図1.光スイッチング分子としてのフォトクロミック化合物
(a)情報の発信源としてのフォトクロミック化合物
(b)情報伝達の媒体としてのフォトクロミック化合物
2.ジアリールエテンの電気化学スイッチング
ジアリールエテンの光反応性については数多くの研究例があるが、その電気化学的挙動に
ついてはいくつかの例があるに過ぎなかった。最近、我々はある種のジアリールエテンが電
気化学的な酸化により異性化反応することを見出し、その反応機構の検討をすすめている[3]。
48
F2
S
Me
S
F2
oxidation
S
Me
S Me
F2
F2
S
S
Me
S
Me
F2
2a
F2
F2
S
Me
F2
F2
Me
S Me
S
Me
S
N
Me
F2
UV
F2
UV
S
oxidation
Me
F2
3a
S
S Me
F2
F2
S
Me
Vis.
F2
F2
S
S
S
S
F2
Me
Me
S
S Me
S
S
Me
5b
5a
F2
Me
S
S
S Me
F2
oxidation
Me
Me
N
Me
S Me
F2
S
4b
F2
F2
2b
F2
Vis.
S
S
S Me
F2
Me
4a
Me
oxidation
F2
oxidation
Me
1b
1a
F2
S
S Me
S
F2
F2
F2
S
Me
Vis.
F2
F2
F2
S
F2
S S
S
F2
F2
UV
S
oxidation
S
S S
S
F2
S
S
Me
6a
3b
6b
検討した化合物を上に示す。1 では電気化学的酸化により閉環反応が、2,3 では電気化学的
酸化により開環反応が進行することが明らかとなった。また、これらの反応性の違いを明ら
かにする目的で、カチオンラジカル状態の開環体と閉環体のエネルギー差を DFT 計算により
求めたところ(B3LYP/6-31G*)、カチオンラジカル状態で、開環体の方が安定な場合は電気化
学的開環反応が、閉環体の方が安定な場合には電気化学的閉環反応が進行することが明らか
となった(表1)
。また、このことは以前に報告されていた分子 4,5,6 においても成り立つこ
とが明らかとなった。このことは、電気化学開環反応と電気化学的閉環反応が、一般的に起
こり、さらにこの2つが相補的であることを示唆している。
表1.開環体カチオンラジカルと閉環体カチオンラジカルのエネルギー差と反応性
∆E (C+−O+)
Oxidative
Oxidative
(kcal/mol)
cyclization
cycloreversion
1
-10.54
yes
no
2
+7.26
no
yes
3
+14.62
no
yes
4
-3.47
yes
no
5
-2.97
yes
N/A
6
+16.52
N/A
yes
Compound
[1] K. Matsuda, Bull. Chem. Soc. Jpn. 78 (2005) 383.
[2] N. Tanifuji, M. Irie, K. Matsuda, submitted.
[3] Y. Moriyama, K. Matsuda, N. Tanifuji, M. Irie, submitted.
49
分子スピンのミクロ構造化と機能
(東大院総合)菅原 正・松下未知雄・Yang Jiao・鈴木健太郎
分子を分子素子へと利用する上で、最も現実的なアプローチの一つに、分子が自己集合
化・自己組織化して形成する、ナノスケールサイズの内部構造を持つミクロンサイズの高
次構造を利用することが挙げられる。分子スピンの高次構造体の形成と、その構造を反映
した高次機能の発現に関して、この間の成果を報告する。
金ナノ粒子ネットワークに見られる特異な導電挙動
ナノメートルサイズのスピン分極分子ワイヤーと、4 nm の平均粒径を持つ金ナノ粒子か
らなるネットワーク状構造体は、ワイヤー分子上の有機ラジカルのスピンと、分子ワイヤ
ーを通じて金ナノ粒子間を流れる伝導電子との相互作用によって、負性磁気抵抗を示すこ
とが明らかになった。ところで、このネットワークは、ワイヤー分子のスピン分極を除い
ても、非常に興味深い導電特性を示すことがわかったため、以下のようなスピンを持たな
いモデル分子ワイヤーを用いてネットワークを調製し、その導電特性を詳しく検討した。
両端にチオール前駆体であるジスルフィド基を置換したチオフェンオリゴマー(3T 及
び 9T)の溶液を、平均粒径 4 nm のナノ粒子のトルエン溶液に加え、金電極(櫛型、電極
間隔2μm)上でネットワーク化させた。これらの試料について、抵抗の温度依存性を測
定した結果、図1に示したアレニウスプロットから、半導体としての活性化エネルギーは
それぞれ約 20 meV (3T)及び、30 meV (9T)と求められた。一方、低温領域においては、こ
の温度依存性がほとんど無くなり、抵抗値がほぼ一定値に近づく現象が見られた。このネ
ットワークにおける個々のナノ粒子は、量子ドットとして振舞うと考えられるので、高温
-3
S
-4
S
3T
-5
-6
9T
S
n
3T: n = 3
9T: n = 9
I / 10-6 A
Conductance ln R-1 / Ω-1
-2
-7
Decanedithiol
-8
-9
0
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
T-1 / K-1
Fig.1 オリゴチオフェンと金ナノ粒子のネッ
トワークの伝導度の温度依存性。
V/V
Fig.2 金ナノ粒子(平均粒径約 4nm)と 9T からなるネ
ットワークの電流―電圧特性の非線形性。
50
部分における活性化エネルギーは、量子ドット間で電荷が移動し、量子ドット上の電荷が
増減する際のチャージングエネルギーとみなされる。高温領域でみられるキャリヤー生成
のプロセスは、低温領域では起こり得ないので、約30K 以下の温度で抵抗値が一定値に
近づく現象は、コトンネリングと呼ばれる巨視的な量子現象と考えられる。この現象は、
ある注目している粒子に他の粒子から電子がトンネル効果により飛び込んでくるのと、そ
の粒子からもう一つの別の粒子に電子が飛び出すのが同時に起こるプロセスで、ナノ粒子
上での電荷の増減が起こらないため、活性化エネルギーを必要としない。2次元電子系の
量子ドットにおいては、このような伝導プロセスが、数十mKの極低温領域で観測されて
いるものの、数十Kという高温で観察されたことは特筆に価する。また、この解釈を支持
する電流―電圧特性が見出されている(図2)。
コラーゲン内封チューブ状ジャイアントベシクルが磁場中で作る曲線構造
強い静磁場下で、生体細胞が磁場に配向する現象
が知られている。この現象のミクロな機構をスピン
プローブを用いて解明したり、さらには、スピン分
子の添加により、この構造形成に変調を与えること
は興味深い。内部に様々な磁場配向成分を持つ生体
B = 14 T
Fig. 3 コラーゲンを含まない tGV が
磁場配向して形成する直線構造(bar =
20 µm)。
細胞のモデルとして、コラーゲン繊維(CF)を内包し (a)
(b)
たリン脂質からなるチューブ状ジャイアントベシ
クル(tGV)を静磁場下(B = 14 T)、36℃で作成し、
顕微鏡下で観察したところ、tGV 単独の場合には見
られない、特徴的な曲線構造体の形成が認められた
(図4a)。これらの構造は、2つの成分それぞれが磁
場から受けるトルクと、弾性体である tGV-CF の復
元力とを組み合わせた力学的な解析を行った結果、
図4b で示されるエラスティカ曲線で記述されるこ
とが明らかとなった。このような磁場下における構
造体形成機構を解明し、さらに特徴的な構造形成を
B = 14 T
行わせるために、安定ラジカルを置換した膜分子を Fig. 4 (a) tGV-CF が静磁場下で形成す
る曲線構造(bar = 20 µm)。(b)エラスティ
合成している。
カ曲線。
51
バイオマグネタイトの磁気的挙動の解析
東京農工大院
研究目的
田中
剛、松永
是、
東大院総合
松下未知雄、菅原
正
磁性細菌が菌体内に合成するマグネタイト微結晶 (バイオマグネタイト)は高度に
形態制御された 50~100 nm の粒子であり、単磁区構造を持つと考えられている。バイオマグ
ネタイトは菌体内で 10~20 個連なることでチェーンを形成しており、磁性細菌はこのチェー
ン状のバイオマグネタイトを用いて地磁気感知していると考えられている。これまでに磁性
細菌 Magnetospirillum magneticum AMB-1 株の培養菌体からバイオマグネタイトを抽出・精製
し、各サイズのバイオマグネタイトの磁気特性の解析を行ってきた。本報告では、磁性細菌
が菌体内で保持するチェーン状のバイオマグネタイトについて磁気特性を解析し、これまで
の磁気的挙動との違いについて考察する。
研究成果
磁性細菌を用いた磁性フィルムの調製
磁性細菌 M.
(A)
magneticum AMB-1 株の培養菌体 (湿重量 2.85 g)を 2.5%
グルタルアルデヒド (PBS)で Overnight 攪拌し、磁性細菌
の固定化処理を行った。グルタルアルデヒド固定した磁性
細菌を PBS で2回洗浄後、10%エタノール 250 ml、50%エ
タノール 250 ml、70%エタノール 250 ml、100%エタノー
磁性細菌
ル 250 ml で順次洗浄し、脱水処理した。100%エタノール
メンブラン
磁力線
磁石
に再懸濁した菌体 10 ml を PTFE メンブランフィルター(0.2
µm)でフィルター濾過し、約 20 mg の磁性細菌からなる磁
性フィルムを調製した。磁性フィルムは、良く風乾させること
で PTFE メンブランフィルターから剥離させることができる。
(B)
ここで、メンブランに対して平行もしくは垂直に磁力線が通
るように磁石(表面磁束密度:0.5T)を配置し、磁性細菌を
配向させた磁性フィルムを用意した(図1)。また、磁場をか
けないサンプルを用いた磁性フィルムも作製した。図2は外
部磁場を印可せず
に磁性細菌を風乾さ
せた後の透過型電
子顕微鏡写真であ
る。チェーン状のバ
図1 磁性細菌M. magneticum
AMB-1株を用いた磁性フィルムの
調製 (A) 磁場配向条件でのフィ
ルトレーション (B)磁性フィルム.
イオマグネタイトが菌
体内に保持していること、チェーン同士は菌体の存在によっ
図2 グルタルアルデヒド固定
化した後の磁性細菌の透過型
電子顕微鏡写真.
て凝集していないこと、さらに外部磁場を印可しない条件にお
いても風乾後に方向性を持っている様子が確認された。
52
磁性フィルムの磁気的性質
各磁性フィルムの H-M 曲線を図 3 に示す。まず磁場配向無しで作製した磁性フィルム(図
3(C))に注目すると、一度バラバラにしたバイオマグネタイトを樹脂に胞埋して測定した結果
と比較して保持力、残留磁化が大きくなっていることが分かった。これはバイオマグネタイ
トチェーンが菌体に包まれたままでいることによってチェーンがお互いに引き離され、磁力
線の閉ループを形成しづらくなったことによると考えられた。また、(A)と(C)の磁化曲線の温
度依存性は比較的同様の結果が得られているものの、(B): 垂直方向に磁場配向については、
傾きが大きくなっていることが確認された。(A)と(C)に明確な際がみられなかった原因の一つ
として、外部磁場の印可がない条件においても磁性細菌が地磁気に配向していることが考え
られた(図1参照)
。
4
M / emu g
3
M / emu g
(B)
-1
(A)
-1
4
3
300K
2
2
300K
200K
100K
200K
100K
1
50K
1
10K
50K
5K
5K
0
-2500
-2000
-1500
-1000
-500
0
0
500
1000
1500
2500 -2500
2000
-2000
-1500
-1000
-500
0
500
1000
1500
2000
2500
H / Oe
H / Oe
-1
-1
-2
-2
-3
-3
-4
-4
4
M / emu g
-1
(C)
3
2
300K
200K
100K
1
50K
5K
0
-2500
-2000
-1500
-1000
-500
0
500
1000
1500
2000
2500
図3 各磁性フィルムのM-H曲線.
(A) 水平方向に磁場配向
(B) 垂直方向に磁場配向
(C) 磁場配向無し
H / Oe
-1
-2
-3
-4
次に、5K, 5T の印加後、磁場を切り残留磁化の温度上昇による変化を解析した。その結果、
室温付近まで大きな磁化が残ることが分かり、200K 以上でも磁場印加無し条件下で磁化が増
大する様子が確認された。このことから、室温付近ではそれぞれのバイオマグネタイトが独
立した磁性を示していることが考えられた。
今後の計画
各粒径のバイオマグネタイト、バイオマグネタイトチェーンの磁気的性質を解析し、量子
サイズ効果による磁気特性を示すバイオマグネタイトの調製条件を検討していく。
53
表面修飾銀クラスター、ナノ粒子の分画
兵庫県立大 物質理学研究科
研究目的
清水悠子、渡部昌大、八尾浩史、木村啓作
粒子内部はÅの周期を持ち、結晶としては nm を周期とする2重周期構造を与え
る金属ナノ粒子から成る超格子物質、粒子結晶が注目を集めている。現在、溶液中で自己組
織的にナノ粒子を2次元或いは3次元的に組み上げる方法が完成さ
れ、これによって各種金属の粒子結晶が実現されている。これらの
超格子は通常の分子結晶と異なり、① 粒子の大きさの関数である量
子サイズ効果によって結晶の電子状態が系統的に設計できる、② 成
長過程を制御する事により超格子モルフォロジーのコントロールが
可能である、③ 粒子間の相互作用を粒子間距離により変調できる、
図 1. 設計された金
属(M)ナノ粒子、
表面有機分子層:
0.4~2 nm 、粒子径:
1~20 nm がコントロ
ールされる。
という特徴を持つ。粒子の集合過程において融合しないように粒子
表面を1分子層の有機物で覆うが(図 1)
、この分子の選択により、
粒子間距離、障壁エネルギーの高さ、粒子間相互作用の調節を通し
て結晶の電子状態、スピン状態の設計が可能になると信じられてい
る。
我々はこれまでジカルボン酸を用いた水溶性の金ナノ粒子を対象として水素結合からなる
粒子結晶の作製を試みてきた[1]。またナノ粒子より更に小さなクラスターを対象としてそ
の分別を検討してきた[2]。今回光学的特性から、また電子デバイスの観点から興味の持た
れている銀を対象に魔法数による分画が可能かどうかを電気泳動法により検討した[3]
。
研究成果
銀 ナ ノ 粒 子 の PAGE 法 に よ る 分 画
これまで、表面を GTR で修
飾した金ナノクラスターが、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法
により分画することを報告してきた。今回、メルカプトコハク酸
(MSA)を修飾子として銀ナノ粒子を分画することを試みた。MSA
大
き
な
粒
子
ナ
ノ
粒
子
}9
と Ag の比を 0.1, 2.0 としたときの PAGE パターンを図 2 に示す。0.1
87
6
5
4
のものはこれまでの研究でサイズの大きい粒子であり、2.0 はクラス
ターを含む 2nm までのサイズの銀ナノ粒子である。フラクション 1
から 3(図には示していない)までは金クラスターパターンとの比較
2 ク
で銀クラスター由来のもの、4 から上はナノ粒子領域に渡る分画であ
ラ
ス
1 タ
|
ることが分かった。
更に発光、吸収スペクトルを測定するために大量の試料を処理した。
図3にその電気泳動パターンと図4にゲル分画を切り出し純水に溶
出したときの写真を示す。吸収スペクトルの違いが明瞭に色彩の違
図2
いとなっている。また各フラクションが必ずしも安定でなく、魔法
の PAGE パターン
54
銀ナノ粒子
数に代表される安定さが相対的なものである事が示された。
∞
7
6
5
4
3
1,2
図3
図4
図3の各フラクションの純水への溶
出直後の写真
量産を目指した、25% a アクリルア
ミドゲルからの分画パターン
吸収ピーク位置
440
430
各分画の吸収及び発光スペクトルを測定し
420
た。フラクション 1 のみが有意な発光を示し
400
系列1
390
系列2
410
他のフラクションからの発光は観測されなか
380
370
った。吸収のピーク波長を図5に示す。表面
360
350
プラズモンの吸収と思われるフラクション4
340
0
以上の分画ではサイズが大きくなるに従い発
図5
光ピークが短波長へシフトするという特徴的
2 フラクション 4
6
8
フラクションの吸収極大位置
な挙動を示した。
今後の計画
ナノ粒子超格子系の目標の一つは、構成粒子のサイズや並び方(translational ordering、
orientational ordering)をコントロールしてその電子状態、スピン状態を制御することにある。
特に、粒子の重心位置だけではなく粒子内の原子配向も結晶全体にわたって整列している完
全結晶の作成はその光学特性において重要である。また、原子数で十数個以下のクラスター
領域の超格子化は、例えば金属系で言えば量子効果が著しく発現しうる領域であり、極めて
興味深い。現在サイズを揃えて結晶化する事が確認されたナノ粒子を用いて磁性研究を遂行
中である。これまで報告があり追試がされていない金ナノ粒子の強磁性などがこれから明ら
かになると予想している。またこの様な新規な結晶を母胎にして磁性イオンをドープして新
しい種類の磁性体を構成することも本研究グループにおいて計画している。
[1] K.Kimura, S.Sato, H.Yao, Chem.Lett. (2001) 372-373; H. Yao, H. Kojima, S. Sato, K. Kimura,
Langmuir 20 (2004) 10317.
[2] Y.Negishi, Y.Takasugi, S.Sato, H.Yao, K.Kimura and T.Tsukuda, J.Amer.Chem.Soc.126(1)
(2004)6518-6519
[3] 渡部昌大・佐藤井一・八尾浩史・木村啓作, 第3回ナノ学会(2005)
55
ナノスケール薄膜の表面化学的磁化制御と評価
分子研
横山利彦
[序論] 我々は、超高真空中で作成した磁性超薄膜の表面を化学修飾することにより、薄膜の磁化
を制御するということを目標に研究を行ってきている。今回は、極めて高い表面敏感性を有する磁
化誘起第二高調波発生(Magnetization induced second harmonic generation, MSHG)測定装置の製作と簡
単な応用例について紹介する。
[MSHG測定装置の製作]
大強度レーザーにより発生する第二高調波は反転対称のある系では禁
制である。このため反転対称を有する物質においては、表面の存在によってのみ第二高調波発生
(SHG)が観測される。したがってこの手法は極めて表面敏感な測定手法である。単結晶基板上に
成長した磁性金属薄膜の場合、磁化誘起SHGも通常のSHGと同様、表面や界面でのみ生じる現象
となる。磁場を掃引しながらMSHG強度を観測すると、表面の磁化曲線が抽出できる。また、偏
光特性により、磁化の向きを知ることも可能である。我々は、既存の超高真空仕様磁気光学Kerr
効果(MOKE)測定・磁性薄膜作成装置に、新たにMSHG測定系を導入し、その評価を行った。
図1に測定系概要を示す。レーザーは Spectra Physics 社製 Ti:sapphire レーザーMaiTai を用いた。
チョッパーは尖頭値を落とさずに照射光量を減らすため必要に応じて挿入する。入射側フィルタ
ーは 1/2 波長板等により発生した SHG のカット用である。検出側は偏光子の後、一次光をカット
するフィルターが入る。磁場掃引は超高真空中に導入された電磁石で行い、最大±0.3 T である。
図2にMSHGの例として清浄なNi(110)表面とさらに 0.5 ML(monolayer)の硫黄を吸着させた表面
からのMSHG強度の磁場依存性を示した。後で示す薄膜系の結果に比べてS/N比が良くないが、硫
黄が吸着することにより、MSHG強度、即ち表面磁化が 1/4 程度にまで激減している。これは表面
のSがNiと化学結合(実際には表面第 1,2 層のそれぞれ 4, 1 個のNiと結合する 5 配位構造)すること
により、スピン磁気モーメント(元来 0.6 µB程度)が大部分消失したというものである。
[MSHG 測定例] 前回報告した Ag/Co (5 ML)/Cu(1 1 17)薄膜系の MSHG 測定結果を示す。基板はス
テップ表面(テラス幅 Cu 8.5 原子)で、Co も層状に階段状に成長する。この系の縦 MOKE (図3上)
によると、磁場がステップ平行な場合通常の1段ヒステリシス(赤線)となるが、ステップ垂直では
残留磁化のない2段ヒステリシス(青線)が得られる。これから磁化容易軸はステップに平行である
と結論でき、ステップ垂直方向に磁場を掃引中の零磁場状態では残留磁化がないように見える。
また、図3下は 0.2 ML 程度のわずかな Ag 吸着後の縦 MOKE であるが、磁化容易軸が 90°回転し、
ステップ垂直が磁化容易軸となっていることがわかる。この結果は既にある報告[W. Weber et al.,
Rhys. Rev. B52 (1995) R14400]と基本的に一致するものであった。ほぼ同じ試料の MSHG による磁
化曲線測定結果を図4に示す。いずれも磁場は面内の磁化困難軸方向(清浄面でステップ垂直、Ag
吸着面でステップ平行)で掃引している。それぞれ測定結果が4種あるが、例えば Sin-Pout とは S
偏光入射 P 偏光出射である。Sin-Sout では実質何も観測されず、Sin-Pout や Pin-Pout では複雑な曲
56
線を描きながら、飽和磁化状態では正負でほと
んど差がない。一方、Pin-Sout では飽和磁化で
の正負差が観測されている。MOKE では困難
軸方向で残留磁化が観測されないが、MSHG
ではこれが観測されている。なお、シフト磁場
(磁化が急激に変わる磁場)が MOKE と MSHG
図1 MSHG 測定系セットアップ。
入射出射角は 45°である。
で異なるのは試料を作成しなおしたためで、
Co の厚みや表面の汚れの相違に由来する。
MOKE と MSHG で全く異なる磁化曲線が得られたこと
は矛盾ではなく、両者の選択則から以下のような磁化
過程であることがわかる。困難軸方向では、負(左方向
と呼ぶ)の飽和磁場下(<-160 Oe)で薄膜は左向きに磁化
される。-120 Oe 程度で磁気異方性が勝り、容易軸方向
に磁化される。容易軸は磁場と直交しているので縦
MOKE では磁化が観測されない。しかしながら、MSHG
の Sin-Pout や Pin-Pout 配置では磁場垂直方向の寄与が
むしろ大きく、-120 Oe あたりで上方向に磁化されるこ
とを示している(上下は便宜上そう呼んだ)。さらに+60
図2 清浄および c(2×2)S 吸着 Ni(110)表面
からの MSHG による磁化曲線。
Oe 程度で今度はいったん下方向に磁化が向き、その後に+160 Oe 程度で磁場に従って右方向に磁
化される。縦 MOKE だけでは直交方向の磁化が観測できなかったので、両者を併せて磁化過程が
確定できたという例である。
図3 清浄および Ag(1 ML)/Co(5 ML)/Cu(1 1 17)薄
膜の縦 MOKE による面内 2 方向の磁化曲線。
図4 清浄および Ag(1 ML)/Co(5 ML)/Cu(1 1 17)薄
膜の MSHG による縦 MOKE 配置の磁化曲線。
57
最小のホスト-ゲスト系分子性磁性体としての CoC2
分子研
序
西條純一,西信之
酸化物系磁性体などの硬く不変な構造を持つ無機磁性体に対し,遷移金属錯体をベース
とする分子性磁性体ではその配位結合における回転や配位子そのものの柔軟性により,外場
や分子の吸着-脱着などによりしばしばその構造が大きく変わることが知られている.このよ
うな構造変化はスピン源である遷移金属イオン間の相互作用に大きな影響を及ぼし,その磁
気転移温度や磁気モーメントの大きさの変化などの物性上の変化として表れるため,化学セ
ンサー等への応用なども見据えた研究が進められている.
前回のシンポジウムにおいて,我々は新規分子性磁性体 CoC2 が水分子の吸着に伴い構造変
化を起こし,強磁性を発現することを報告した.CoC2 は Co2+と C22−が NaCl 的に配列したイ
オン結晶である.合成直後の無水物では C22−の配向が disorder しており,これにより Co2+間
の磁気相互作用が場所によって強い強磁性相互作用から弱い反強磁性相互作用の間まで幅広
い値をとっている.このため強磁性ドメインは相互作用の弱い部位で小さな単位に分割され
ており,超常磁性体として振舞う.ここに水分子を導入すると,水が入る間隙を作るため C22−
分子は整列し,強磁性ドメインが大きくなることにより低温でスピン反転がブロックする.
今回この結果をさらに進め,水および同程度のサイズを持つ分子であるアンモニアの吸着・
脱着による磁性変化について研究を行った.
研究成果
【水の吸着・脱着による磁性変化】前回報告した通り,水分子を吸着させることにより C22−
の配向がそろい,2 K 以下であったブロッキング温度(TB)も 15 K へと増加,1.8 K での保磁
力(Hc)および残留磁化(MREM)もそれぞれ 1 kOe および 0.29 µB へと変化した.この含水
CoC2 を,含有する水とコバルトが反応しない程度の温度(80 oC)に加熱し,10-5 Pa の真空
中で 1 週間保持することで吸着された水分子の脱着を試みた.加熱後のサンプルは Hc = 0.8
kOe,MREM = 2.6 µB および TB = 9 K と若干の変化を示したが,残留磁化の大きさから考えるに
水は強固に吸着しており,長時間の加熱にもかかわらずかなりの部分は含水物として残存し
ていることが示唆される.また,このサンプルを再度水雰囲気に曝したものは Hc = 0.9 kOe,
MREM = 2.8 µB および TB = 10 K と若干回復するものの,その変化は余り大きくない.このこと
から,加熱による Hc および TB の変化は脱水によるものというよりも,加熱により構造が崩
れた効果が大きいものであると考えられ,水分子が非常に強固に吸着していることがわかる.
【アンモニアの吸着・脱着による磁性変化】CoC2 への水分子の吸着では,分子の Co2+への配位
および C22−との間の水素結合の両者が影響を与えていると思われる.水分子の代わりに NH3 分子
を用いることで,配位結合を強く,水素結合を弱くした場合の吸着・脱着についての実験を行う
ことが出来る.
Figure 1 に無水 CoC2 に NH3 を吸着,常温真空下 1 時間脱着させたもの,そこにさらに再度
NH3 を吸着させたものの 1.8 K での磁化過程,および磁場中冷却・ゼロ磁場冷却での磁化率の温
58
度変化を示す.NH3 を無水物に吸着させると,水を吸着させたとき同様強磁性が出現した.この
時の Hc と MREM は 2.4 kOe と 0.34 µB であり,特に保磁力の値は水を吸着させた場合の 2.4 倍と
非常に大きな値となっている.これは配位子場の強さが NH3 の方が水よりも強いため Co2+がより
大きな異方性を持つことによると考えられる.この結果は吸着分子は単に構造を変え強磁性を発
現させているだけではなく,磁性にも直接大きな影響を与えていることを示している.また TB
は 18 K であり若干の向上が見られるが,これも主に異方性の増加によるものである.
(a)
(b)
0.6
T = 1.8 K
χ / emu mol-1
M / µB
0.3
0
-0.3
-0.6
-5
0
H / kOe
無水
NH3
脱着
再NH3
5
20
H = 10 Oe
15
NH3
脱着
再NH3
10
5
0
0
10
20
30
T/K
Figure 1. (a)CoC2 への NH3 の吸脱着による 1.8 K での磁化過程の変化および(b)磁場中
冷却(10 Oe)とゼロ磁場冷却での磁化率の温度依存性(無水物のデータは省略してある).
この NH3 を吸着させた CoC2 は水を吸着させたものと異なり,真空に引くことで容易に吸着分
子を脱離させることが出来る.真空下で 1 時間保持した後のサンプルは Hc = 0.5 kOe,MREM =
0.16 µB,TB = 6 K といずれの値も大きく減少しており,NH3 が脱着していることが確認でき
た.これらの値は初期の無水物の値よりは大きいが,これは NH3 が抜けた後も一部の CoC2
が吸着時の C22−の配向が揃った強磁性を示す構造を保持しているためだと考えている.また
本物質は脱着後に再度 NH3 を導入することで,(構造が崩れたことによると思われる若干の
Hc,MREM の低下はあるものの)Hc = 1.2 kOe,MREM = 0.33 µB,TB = 8 K まで強磁性が回復し,
以後複数回の吸脱着においてもこの真空引き後・再吸着後の 2 サンプルの示す磁性の間で可
逆的な変化を示す.このような NH3 吸着物の示す非常に容易な脱着と水分子で観察された非
常に強固な吸着との比較から,本物質系において吸着物質は主に C22−との間の水素結合によ
って吸着していることが示唆される.
上記の結果で示されたように,CoC2 は原子 1 つ分ほどの空隙をもち,そこに吸着される分
子により磁性が変化するという,いわば最小クラスのホスト-ゲスト系である.その特性はま
さに分子性物質の柔軟性が顕著に現れたものであるといえる.
今後の展開
分子の吸脱着による構造変化を粉末 X 線で確認するとともに,H2,CH4,PH3
などの他の小さな分子の吸脱着が可能なのか否か,また可能であるならばその磁性への影響
を検討する.
59
アミノキシルラジカル修飾オリゴヌクレオチドの合成と
その分子サイズの水プロトンの緩和速度への影響
九大院薬
研究目的
麻生真理子、古賀
登
分子磁性研究の展開の一つとして、MRI 造影剤への利用が考えられる。まず手始
めに水溶性有機化合物からなるスピン多重項種の水プロトン緩和時間に及ぼす影響について
調べた。その結果、例えば二重項種 m-NN と三重項種 m-DNN の比較において緩和時間に大
きな差は見られなかった。今回は、有機ラジカルをオリゴヌクレオチドへ導入することによ
る電子スピンの集積化、分子サイズの増加が水プロトンの緩和速度に及ぼす影響を検討した。
常磁性イオン存在下、水プロトン緩和時間に影響を与える因子として、回転相関時間 (τR) が
あり、τR が大きい程、緩和能は高い。τR は分子サイズ(球状分子の場合、半径の3乗に比
例)に影響を受ける。そこで、m-ニトロニルニトロキシド安息香酸を核酸塩基に持つ UNN
を 1 個、または複数個オリゴヌクレオチドへ導入したランダムな一本鎖(T23-1; (T)11UNN (T)11
や T23-m; (T)lUNNm(T)n)の緩和能を調べる。更に、π-スタッキング構造を持つ二重鎖(T23-1:A23
や T23-m:A23)形成時での緩和能を一本鎖の値と比較する。
60
研究結果
アミノキシルラジカル修飾オリゴヌクレオチド T23-1 の合成
5 位にトリフルオロアセチル基で保護したアミノ基をリンカーを介して導入したウリジン
誘導体 (2)を 2'-デオキシ 5-ヨードウリジンから合成した。これをホスホロアミダイト(3) ヘ
変換し、T23-1 の配列のオリゴヌクレオチドに導入し、4を合成した。これを、0.1M ホウ酸ナ
トリウム(pH 9)、DMSO 中、 m-ニトロニルニトロキシド安息香酸と N-ヒドロキシスクシン
イミドから合成した活性エステルと一昼夜反応させ4のアミノ基と縮合した。HPLC による
精製を行い、T23-1 を得た。T23-1 の構造は MALDI-TOF MASS で 7295、7279、7257(理論値;
7288 (M+)、7272 ([M-16]+)、7256 ([M-32]+) にピークを示したこと、ESR スペクトルで五重線
が観測されたこと、また UV スペクトルでオリゴヌクレオチドの 260 nm と 560 nm の吸光度
が T23-1 の構造から予測される数値とほぼ一致したことから決定した。 (Scheme 1)
Scheme 1
O
I
HO
NH
N
a) -c)
O
H
N
F3C
N
H
O
O
O
NH
N
HO
O
O
O
O
N
H
DMTrO
NH
N
3
2
2'-deoxy-5-iodouridine
4; (T)11 X (T)11
O
O
O
OH
X = H2N
O
O
OH
f) , g)
d) , e)
H
N
F3 C
N
P
O
CN
T23-1 ; (T)11 UNN(T)11
O
O
NH
N
H
N
O
O
O
O
Reagents and conditions; a) Pd(OAc)2, Ph3P, methyl acrylate, dioxane, reflux. b) NaOH, MeOH.
c) N-trifluoroacetylethylenediamine, EDC, HOBt, NEt3, DMF. d) DMTrCl, pyridine, DMAP. e)
2-cyanoethyltetraisopropylphosphordiamidite, 1H tetrazole, CH2Cl2, CH3CN. f) DNA synthesizer. g)
NH4OH, 55 °C.
更に、πースタッキング構造を持つ二重鎖(T23-1:A23)については、常法に従って合成した。
また、UNN を複数個オリゴヌクレオチドへ導入した一本鎖(T23-m; (T)lUNNm(T)n)や二本鎖
(T23-m:A23)についても同様な方法で合成を行っている。
T23-1 及び T23-1 を含む二重鎖の緩和時間測定及び緩和能の算出
化合物 UNN、T23-1 (一本鎖)、T23-1-A23 (二重鎖)の T1、T2値を測定し(25 ℃、0.59 T)、
緩和能 R1、R2 を算出した。得られた結果について、現在比較検討中である。
61
ビタミン E 同族体に対するユビキノンの相乗効果
愛媛大理
向井 和男、小原 敬士、長岡
伸一
1) 研究目的
活性酸素・フリーラジカル (LOO·, HO·, 1O2 etc) は反応性に富み、生体組織に種々の障害をもたらす
ことが知られている。生体内では活性酸素類を捕捉消去する抗酸化系が存在している。天然ビタミン E
(α-, β-, γ-, δ-Tocopherol (TocH), Fig. 1)は生体膜や LDL 内に存在し、脂質の過酸化を抑制する役割を果
たしている。TocH が脂質過酸化ラジカル(LOO・)を捕捉消去する際、ビタミン E ラジカル(Toc・)
が生じる(反応式 (1), Fig. 2)。この Toc・ は脂質(LH)を酸化して脂質ラジカル (L・) を生成する。
L・は速やかに酸素と結合し LOO・になり、更に脂質過酸化を進行させる。Toc・を TocH に速やかに再生
ks1
し、Toc・による脂質過酸化を防ぐ物質のひ
とつにユビキノール (UQ10H2) (ユビキノ
ンの還元型構造)がある(反応式 (2), Fig.
1)
2)。 この再生反応により TocH の抗酸化
LOO・ + TocH →
kr
Toc・ + UQ10H2 →
反応に UQ10H2 との相乗効果が現れると考
えられている。2) また、UQ10H2 はミトコン
LOO・ + UQ10H2
ks2
→
LOOH + Toc・
(1)
TocH + UQ10H・
(2)
LOOH + UQ10H・ (3)
ドリア膜内や血漿中に存在し、TocH と同
様に、直接 LOO・を捕捉・消去する働きも持っている(反応(3))。3) この様な働きを示すユビキノール
は、アンチエージング因子として、最近注目されている。
そこで本研究においては、
反応式 (2) に示した、(i) UQ10H2 による α-, β-, γ-, δ-Toc・の再生反応速度 (kr)
の測定、および、(ii) UQ10H2 と α-TocH の共存下における、Aroxyl (ArO·) ラジカルの消去作用の相乗
効果について検討を行なった。
HO
R
O
脂質 LH
α-TocH
ユビキノール
UQH2 UQH ・
HO
R
L・
速やかに
酸化される
O
LOOH
LOO・
HO
ビタミンE TocH
β-TocH
R
Toc・
O
UQH2
UQH・
γ-TocH
HO
R
O
Fig. 2. ビタミン E とユビキノール-10 の抗酸化反応
δ-TocH
R = C16H33
Fig. 1. ビタミン E の構造
2) 実験
Double Mixing Stopped-Flow 分光光度計を用いて、EtOH : H2O (5 : 1, v/v) 混合溶媒中、ArO· との反応
62
によって生じた Toc・と、UQ10H2 の反応を行い、kr を求めた (Fig. 3 参照)。また、温度変化 (15℃~37℃)
を行い、反応 (2) の活性化エネルギー(EAct)を求めた。同様にして、Triton X-100 ミセル溶液中 (pH =
7.4) で反応を行ない、kr の値を求めた。
α-Toc・ + UQ10H2 →α-TocH + UQ10H・
ArO・ + α-TocH → ArOH + α-Toc・
0.5
0.3
376 nm
Temp. : 25℃
Interval : 21 ms
Solvent : EtOH / H2O = 5 / 1, v / v
↓
Temp. : 25℃
Interval : 120 ms
Solvent : EtOH / H2O = 5 / 1, v / v
0.4
Absorbance
0.25
1.5 秒後に
0.3
0.2
UQ10H2と反応
337 nm
↓
0.1
0
320
360
400
440
427 nm
↓
0.15
0.1
580 nm
427nm
↑
0.2
↓
376 nm
0.05
480
520
560
↓
0
320
600
360
400
440
480
520
Wavelength / nm
Wavelength / nm
560
600
UQ10H2 によるα-Toc・の
α-TocHによるArO・(337、376、580 nm)の消
Fig. 3.
去によりα-Toc・(427 nm)が生成される。
再生反応速度 (kr) の測定
3) 結果と考察
Table 1 に示したように、これまでは Toc・が不安定であるため求める事が出来なかった、UQ10H2 によ
る Toc・の再生速度定数 (kr) の測定に成功した。kr の値は 25oC では α-Toc・(2.35×105 M-1s-1)、β-Toc・
(6.87×105 M-1s-1)、γ-Toc・(6.27×105 M-1s-1)となり、α-Toc・<β-Toc・~γ-Toc・と言う結果を得た。この
結果は、α-Toc・に比べメチル置換基の数が少ない β-Toc・、γ-Toc・の電子受容性が大きいことによる
と思われる。また、kr の値はビタミンCに比べると約 1 桁小さいが、カテキン類やコーヒー酸類に比
べると 2 ~ 3 桁大きい値を示す事が明らかとなった。この事は、UQ10H2 が生体系でビタミン E の再
生に寄与していることを示唆している。EAct と log A の値は Table 1 に示した通りである。
また、TocH と UQ10H2 共存下での ArO· ラジカルの消去反応速度 (ks) は、それぞれの単独の反応速
度(8.13×103 M-1s-1、7.32×103 M-1s-1)よりも約 1.4 倍大きいという結果が得られた。この事は TocH と
UQ10H2 の間の相乗効果によるものと考えられるが、その理由は現在の所明らかではない。
Table 1 再生反応速度 (kr),活性化エネルギー (EAct), および頻度因子 (A)
kr / 105 M-1s-1
o
o
EAct
o
o
-1
15 C
20 C
25 C
30 C
37 C
/ kJ mol
1.97
2.33
2.35
2.51
2.84
11.1 ± 1.0
log (A / M-1s-1)
7.32
β-Toc・
4.94
5.50
6.87
7.73
8.45
19.2 ± 0.9
9.19
γ-Toc・
5.14
5.48
6.27
6.93
8.44
16.9 ± 0.6
8.77
δ-Toc・
測定困難
References
1) K. Mukai, S. Itoh, and H. Morimoto, J. Biol. Chem., 267, 22277 (1992).
2) Y. Yamamoto, E. Komuro, and E. Niki, J. Nutr. Sci. Vitaminol., 36, 505 (1990).
3) V. V. Naumov and N. G. Khrapova, Biophysics (Engl. Trans. Biofizika), 28, 730 (1983).
63
OH
CH3O
CH3O
OH
0
1
α-Toc・
o
ユビキノール-10
(UQ10H2)
H
高速磁場掃引型ストップトフローESRによるフラボン類の
抗酸化活性と分子構造の相関性
京都工繊大
研究目的
田嶋邦彦、渡部るしる、金折賢二
フラボン類は主に植物界を中心に極めて多数の誘導体およびそれらの類縁化合物が
存在し、それぞれが酸化還元反応を中心とする抗酸化反応と密接に関連する生理機能を有してい
る。また、体内に摂取したフラボン類は、優れた活性酸素ラジカル、一重項酸素あるいは脂質ラ
ジカルに対する消去物質として有益な作用を発揮することが知られている。フラボン類の抗酸化
反応では、分子内に多数含まれるフェノール性水酸基がフェノキシルあるいはセミキノンラジカ
ルに酸化される過程が最も重要な反応段階として考えられている。しかし、フラボン類由来のラ
ジカル種は一般的に短寿命で、良好な ESR 微細分裂を観測することが難しく、その詳細な電子状
態に関する知見が充分には蓄積されていないのが現状である。したがって、フラボン類の抗酸化
反応における構造活性相関の解釈はバイオスピン領域における重要な研究課題であり、その詳細
には不明な点が多く残されている。
本研究では、フラボン類由来のラジカル種の ESR 信号を高速かつ高感度で記録するための装置
開発と並行して、これらラジカルの生成と消失過程を速度論的に研究するための反応系を探索し
ている。今回は、高速磁場掃引機能を備えたストップトフローESR 装置を新規に制作して、フラ
ボン類由来の短寿命ラジカル種の検出について検討した。図1に示したような、フラボン類およ
びコーヒー酸誘導体を測定対象として、水溶性ニトロキシドラジカルであるフレミー塩との酸化
で生成する不安定ラジカル種の検出を試みた。さらに、本装置を使用してフレミー塩の減衰過程
を測定することで、これら生体関連物質の抗酸化反応についてもあわせて検討した。
OH
OH
HO
O
OH
OH
HO
O
OH
O
OH
①kaempferol
OH
O
HO
O
OH
OH
②quercetin
OH
O
OH
OH
HO
OH
OH
O
④myricetin
OH
OH
OH
O
OH
⑤catechin
HO
OH
OH
O
O
OH
③morin
OH
HO
OH
HO
OH
OH
RO
O
⑥epicatechin
図1;フラボン類およびコーヒー酸誘導体の分子構造
64
⑦chrologenic acid
研究成果
今回試作したストップトフロー装置のデッドタイムは約 50ms であり、フラボン類由
来ラジカルが生成する磁場領域を、送液の停止から 20 秒以内に少なくとも 14 回磁場送引して不
安定ラジカル種の ESR を記録できる。たとえば、②のエタノールー水混合溶液(25%,pH 9.8)
にフレミー塩の水溶液(pH9.8)を混合して、高速磁場掃引を繰り返すと図 2-1 に示す ESR 信号
の時間変化が観測された。まず、酸化剤であるフレミー塩の ESR 信号は、混合から 1 秒以内の早
い段階で完全に消失し、それに代わって複雑な微細分裂を有するラジカル種が認められた。混合
から 2 秒後の ESR 信号を拡大すると、8 本線分裂が特徴的な微細分裂が見られた。本ラジカルは
②の B 環カテコール骨格のセミキノンラジカルで、3 個の非等価な水素核による8本線分裂とし
て解析できる。さらに、混合から 18 秒後でも同様の ESR 信号は観測されたことから、本反応の
初期過程では本ラジカル種が主なラジカル種であり、その半減期はおおよそ 3 秒と評価された。
本研究で開発した高速磁場掃引型ストップトフロー装置は、半減期が数秒以内の不安定ラジカル
種の ESR 信号を分解能よく記録できる機能を備えていることが支持された。
同様の ESR 測定を①~⑦の分子種について行うと、②、④および⑦についてはセミキノンラジ
カルに帰属できるラジカル種の ESR 信号が得られ、半減期はそれぞれ 3、2 および 5 秒であった。
しかし、①、③、⑤および⑥については、これらのラジカル種は検出できなかった。同様の装置
でフレミー塩の ESR 信号の減衰過程を記録したところ、その定性的な減衰速度は⑦>④>②≫⑥
>⑤=①≫③の順に遅くなる傾向が認められた。目下、2次反応速度定数の解析を進めているが、
フレミー塩の消失速度の速いフラボン類はラジカル種の ESR 信号が認められた。また、ラジカル
が観測された分子には例外なく、カテコールあるいはガレート骨格が含まれている。しかし、B
環にカテコール基を有する②はラジカルが検出されたのに対して⑤では全く検出されず、そのフ
レミー塩消失速度も顕著に遅かった。この結果は C 環の 2 重結合の有無がフラボン類の反応性に
著しい影響を及ぼす可能性を示唆している。
O
O
HO
混合から
2 秒後
O
OH
O
OH
quercetin
quercetin 2.5 mM
Fremy’s salt 0.5 mM
pH 10
18 秒後
τ
3 sec
80msec
0
5
10
15
20
time (s)
0.2 mT
図2;ケルセチンラジカルの高速磁場掃引ストップトフローESR スペクトル
65
ナノサイズ細孔構造体中における酸素分子および
NO分子の磁気挙動
九州工業大学工学部
美藤正樹
研究目的 酸素分子は、磁気的に活性であるという気体分子の中では特異な性質をもつ。酸素分
子の制限された空間内での磁性は、すでにいくつかの系において詳しく調べられている。まず、
通常のバルク系では、90.2 K と 54.4 K においてそれぞれ気体―液体転移、液体―固体転移が起
こることは有名であり、23.9K以下では反強磁性的な長距離秩序が出現する[1]。また、グラファ
イト上での吸着実験(二次元系)[1,2]や金属錯体化合物への吸着実験(一次元系)[3]、そして
カーボンナノチューブへの吸着実験(一次元系)という多彩な研究が行われている。しかし、一
断面あたり数十の分子が円状に並ぶチューブ的な空間次元系における酸素分子の磁気特性はいま
だ調べられておらず、そこでの量子的磁気特性には興味深いものがある。また、一酸化窒素(N
O)は、不対電子を含むフリーラジカルであり(磁気的に活性)、121.2 K と 109.4K で気体―液
体転移、液体―固体転移が起こることが知られている。本研究は、メソ多孔質構造体 MCM-41
と SBA –15への酸素分子(スピン量子数 S = 1)ならびにNO分子(S = 1/2)吸着実験を通じて、
チューブ的空間次元系における新奇量子スピン磁気特性を観測することを目的とする。
研究成果 メソ多孔質構造体 MCM-41と SBA-15の主成分は
SiO2 であり、そこでは数十Åの均一な円筒状細孔が六方細密的
に形成されている(図 1)。Lennard-Jones ポテンシャルより求め
た酸素分子の実質的な直径は 4Åであり、細孔径が約 30Åの MCM
-41 中には最大 41 個の酸素分子による 4 層の階層構造が、そして
細孔径が約76Åの SBA-15 中では 255 個の酸素分子による 9 層
構造が形成されることが予想される。NO分子の場合も上記の
多孔質構造体中では同様の階層構造をすると思われる。
実際の磁気測定では、分子間力による気体-液体-固体の状態変化
図 1 メソ多孔質構造体
MCM-41 の細孔構造
による磁気信号と反強磁性的分子間相互作用による磁気信号が検出される。そのスピン系は吸着
分子数によって、乱れた一次元系、チューブ次元系(円筒状二次元シート構造)、バルク(三次元)
系と変化し、吸着分子数を変化させた時の磁気特性の変化には興味深いものがある。
図 2 に MCM-41に S =1 の酸素分子を充填率 47.5%まで吸着させたときの磁化率の温度依存
性を示す。充填率 27.4 %は第一層目がほぼ約半分ほど詰まった状態に対応する。このときは、分
子間力による相転移は明確には現れず、S = 1 の酸素分子スピン間に反強磁性的な短距離秩序が発
達していることを示唆するブロードピークが見えるだけである。しかし、充填率 35 %付近からは
分子間力の影響が磁気異常の形で見え始め、46.4 %の第一層目がほぼ詰まった状態では、気体液体、液体-固体、固体(γ相)-固体(β相)の分子間力相転移が明確に見て取れる。また、バルク的
と判断できるより高充填率領域では反強磁性的磁気秩序相の存在を確認できている。
図 3 に第一層目が約半分の充填状態である MCM-41 の 24.4%での結果と SBA-15 の 10.2%
66
図 2. MCM-41 に吸着された酸素分子の磁気特性
(充填率 50%の状態は第一層目が詰まった状態に対応。)
での結果を比較したものを示す。短距離秩序による磁気異常は、孔径がその約 2.5 倍の SBA-15
においても同様に見えているが、後者の方がブロードピークの発達は顕著であり、ネットワーク
に参加する酸素分子数の違い(相関長の違い)、つまりサイズ効果が観測されたものと考えている。
図 4 に MCM-41に S =1/2 のNO分子を充填率 75%までの吸着させたときの磁化率の温度依
存性を示す。どの充填率でも 140K 付近に磁気短距離秩序による異常が見られ、低温では非磁性
状態が実現していることが観測できている。また、15%(一層目の約 3 割)以上の充填率で分子
間力による磁気異常が観測される。分子一個あたりのシグナルを比較すると、第二層目以上の充
填状態ではほとんどシグナルの大きさに変化が見られていない(磁気相関のサイズ効果)。
図 3. 酸素分子が MCM-41 と SBA-15 の第一層
目に約半分ほど吸着した状態の特性比較
図4.MCM-41 に吸着したNO分子の
磁気特性
今後の計画
制限されたナノ空間での量子スピンの磁気挙動を観測した上記の結果を、低次元スピン系の理
論解と比較させることでチューブ的空間次元に由来する磁気挙動の存在を明らかにしたい。
[1] U. Kobler and R. Marx, Phys. Rev. B 35 (1987) 9809, [2] Y. Murakami and H. Suematsu, Phys. Rev. B 54
(1996) 4146. [3] R. Kitaura et al. Science 298 (2002) 2358.
67
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68
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[1] K. Saito, K. Takeshita, K. Anzai, and T. Ozawa, Free Radic. Biol. Med. 36, 517-525, 2004.
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69
植物のストレス応答計測とその応答機構解明
A03
計画研究 15
尾形健明・伊藤智博・黒澤秀宏・大矢博昭
[email protected]
研究目的 我々はこれまで、傷、光、温度、気体曝露などのストレス負荷に対する植物の応答特
性を知る目的で、in vivo ESR 法による研究を行っている。本研究では、in vivo スピンプローブ
ESR 法を用いて、植物のストレス応答を計測し、その応答機構解明を目標とした。具体的には、
700 MHz ESR 装置を用いて、大気汚染物質を意図した気体(二酸化窒素とオゾン)を使用し、
これらに曝露された植物の酸化還元状態の測定を行い、植物内のシグナル伝達に関わる成分への
阻害物質の影響を調べることによって、ストレス応答機構についての情報を得た。また、植物の
ストレス応答機構を解明するためには、植物が生息している環境の中での計測を行う必要がある
との考えのもと、移動可搬な永久磁石1個と表面コイル型共振器を一体化した ESR プローブヘッ
ドを開発し、より大きな葉のストレス応答計測を可能にした。
研究成果
気体曝露植物の応答特性と阻害物質の影響
植物試料として市販のカイワレダイコン、スピン
プローブ剤としてcarbamoyl-PROXYL、曝露用気体として二酸化窒素とオゾンを用いた。また、
細胞内Ca2+キレート剤としてBAPTA-AM、細胞外キレート剤としてEGTAあるいは EDTA-2Na、
カルモジュリン阻害剤としてW-7、スーパーオキシド消去剤としてCu、Zn-SOD、NADPH酸化
酵素(EFハンド部位)阻害剤としてDPIを用いた。25 mM carbamoyl-PROXYLおよび阻害剤の
水溶液に植物の茎の部分を浸し吸水させたあと、投与プローブ剤がヒドキシルアミン体(ESR非
検出)に十分還元されたところでESR測定を開始し、測定中に気体曝露を行った。ESR測定条件
は、共鳴周波数 720 MHz、 磁場 24.2±1 mT、100kHz磁場変調 0.17 mT、測定温度 25 ℃であ
る。一方、ESR画像計測法を用いて、大気汚染ガスが暴露されたときの植物内酸化還元状態およ
び応答伝達の様子について、二次元画像情報を得ることを試みた。200 mM carbamoyl-PROXYL
を吸わせたカイワレダイコンをループギャップ共振器内に置き、二次元ESR画像を取得した。さ
らに、二酸化窒素を曝露して二次元ESR画像を測定し、スピンプローブ剤の濃度の変化を測定し
た。測定条件は、共鳴周波数 720 MHz、 磁場 26.0±7.5 mT、100kHz磁場変調 0.2 mT、磁場勾
配強度 1 mT/cm、温度 25 ℃である。
阻害剤としてEGTA、EDTA-2Na、W-7 およびDPIを取り込ませた場合、NO2曝露とO3曝露の
どちらも、carbamoyl-PROXYLの信号強度の増加に影響を与えなかったが、BAPTA-AMの場合、
信号強度の増加が抑制された。図 1 にBAPTA-AMを取り込ませたときのNO2曝露応答の様子を示
す。また、SODを投与したときも応答が抑制された。したがって、これら気体曝露によって植物
内が酸化的雰囲気になり、プローブ剤が再酸化されるまでの機構には、細胞内に存在するCa2+お
よびスーパーオキシドの発生が示唆される。表 1 に各阻害物質の機能と気体曝露を行ったときの
応答の効果を示す。
葉中に取り込まれたスピンプローブ剤の ESR 時系列画像を図2に示す。葉に取り込まれたプ
70
18000
また、二酸化窒素を曝露することで、カイワ
16000
ESR Signal Intensity
ローブ剤が葉状に分布しているのがわかる。
レダイコン葉内のスピンプローブ剤の濃度が
増加する様子が観測された。さらに、2枚の
葉の一方をフィルムで覆い、NO2で直接暴露
されないようにした場合、スピンプローブ剤
14000
12000
10000
8000
6000
4000
対照群
BAPTA-AM群
2000
の再酸化は見られなかった。シグナル伝達は
0
必ずしも植物全体へ波及するとは言えないか
0
10
20
Time/min
もしれない。
磁石一体型 ESR プローブヘッド
図 1.BAPTA-AM を取り込ませたときの
NO2(200 ppm)曝露応答
(点線で囲まれた他部分は曝露区間)
前回報告
したように、永久磁石、磁場掃引コイル、磁
マーカー(0.2 mM)
場変調コイルそれぞれ1個ずつと、表面コイ
0.4 mM
ル型共振器1個からなる ESR プローブヘッ
ドを試作し、これを用いて、より大きな植物
0 mM
(菊の葉)のストレス応答を測定した。菊葉
1cm
の柄に近い方からろ紙に浸み込ませた 250
mM carbamoyl-PROXYL 水溶液を暗所で 30
3.5 min
10.5 min
17.5 min
24.5min
31.5 min
38.5 min
45.5 min
52.5min
59.5 min
66.5 min
73.5 min
80.5 min
分間吸わせた後に、25 mM methyl viologen
(MV)水溶液を 30 分間取り込ませた。ストレ
スとして、ハロゲンランプ光を 10 分毎に照
射、遮断を繰り返した。
図 3 に、測定の様子を示す。また、図 4 に、
:NO2曝露区間
光照射によるスピンプローブ剤の酸化還元の
様子を示す。大型植物の測定のみならず、屋
87.5 min
図 2.葉中のスピンプローブ剤の時系列画像
2 枚の葉のうち、左の葉が強調されている。
これは、スピンプローブ剤の吸収量の差であ
ると考えられる。
外での測定が可能になった。
今後の計画
94.5 min
ストレス応答機構の解明に向
けて、種々の実験を進めると同時に、屋外で
の測定を試みる。
光照射
光照射
4000
3500
ESR signal int
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
time/min
図 3.磁石一体型 ESR プローブヘッドによる
菊の葉の測定の様子
図 4.MV を投与した菊の葉における光照射応答
71
NO による新しいシグナル伝達機構の解明
熊本大学大学院医学薬学研究部
研究目的
微生物学分野
赤池
孝章、芥
照夫
我々は、
これまで nitronyl nitroxide 誘導体、2-phenyl-4,4,5,5-tetramethyl-1-oxyl 3-oxide
(PTIO)を用いて、NO の多彩な生物効果を解明してきた。PTIO は現在、NO 消去剤として、
NO の薬理活性や生化学的特性の解析に国内外で広く応用されている。また、我々は、NO に
よって核酸分子であるグアノシンが修飾され、8-ニトログアノシンが生体内で生成されるこ
とを免疫組織化学的に明らかにしてきた。特に、8-ニトログアノシンは、ヒト hepatoblastoma
(HepG2)細胞株のグルコース飢餓による細胞死をヘムオキシゲナーゼ(HO-1)の発現誘導
を介して抑制することもわかってきた。この NO の生存シグナルの伝達機構の分子メカニズ
ムを解析することを目的として、8-ニトログアノシン関連化合物である 8-ニトロサイクリッ
クグアノシン 3’, 5’リン酸(8-ニトロ cGMP)を介したシグナル伝達を想定し、8-ニトロ cGMP
の有機合成法の確立と本分子に対する特異的抗体の調製を検討した。
研究成果
8- ニトロ cGMP の有機合成法の確立とそのシグナル伝達機構の解析(図 1)
生体内の 8- ニトロ cGMP の生成を同定するため、まず、本化合物の有機合成を確立した。
具体的には、cGMP を出発材料として、ブロミンを添加し 8-Br-cGMP を合成した。続いて亜
硝酸ナトリウムを添加し、ニトロ化反応により 8-ニトロ cGMP を合成し、逆相クロマトグラ
フィーにより精製し、質量分析および NMR を用いて本化合物を同定した。また、in vitro に
おいて、HepG2 細胞の飢餓による HO-1 の発現誘導を、8-ニトロ cGMP は、さらに上昇させ
たが、既知アナログである 8-Br-cGMP は、逆にこれを抑制することもわかった。また、初代
培養であるヒト子宮平滑筋細胞に添加したところ、8-ニトロ cGMP は、既知 cGMP と同様に
プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼ G を 活 性 化 し 、 そ の 基 質 で あ る VASP ( vasodilator stimulated
phosphoprotein)の 157 番目の Ser をリン酸化していた。すなわち、8-ニトロ cGMP が、プロ
テインキナーゼ G を介した細胞内情報伝達に関与することが示唆された。
抗 8-ニトロ cGMP 抗体の作製:
有機合成した 8-ニトロ cGMP のリボースの 2 位にサクシニル基を導入し、架橋剤 WSC に
よりウシ血清アルブミン(BSA)のアミノ基と架橋させることにより 8-ニトロ cGMP-BSA 結
合体を調製した。これを免疫原として、常法どおり、ウサギおよびマウスに接種し、ウサギ
ポリクローナル抗体およびマウスモノクローナル抗体を作製した。精製抗体のドットブロッ
ティングや enzyme immunoassay (EIA)により、8-ニトロ cGMP 特異的抗体を取得した。また、
HepG2 細胞を NO により処理し、細胞内の 8-ニトロ cGMP の生成をマウスモノクローナル抗
72
体を用いて免疫細胞化学的に検討したところ、細胞質が染色されることがわかった。従って、
8- ニトロ cGMP が生体内に産生される可能性が強く示唆された。
NO
Nitrative stress and signaling
O
CH2
O
O
-
O
P
NO2
N
H2N
Heme oxygenase-1 (HO-1)
CO, bilirubin
N
HN
8-nitro-cGMP
O
N
O
OH
8-nitro-cyclic GMP
Cell survival
図1. NOによる8-ニトロ-cGMP生成を介する細胞の生存シグナル
今後の計画
NOシグナル制御機能の分子メカニズムを明らかにするため、8-ニトロcGMP生成に焦点を
あて研究を展開する。特に、抗8-ニトロcGMP抗体を用いた各種組織や培養細胞の免疫組織
化学的解析や細胞抽出物のEIAをおこない、8-ニトロcGMPが生体内で存在することを定性お
よび定量的に明らかにする。さらに、PTIOの誘導体を合成し、生体親和性、特に、細胞内移
行性と安定性などを改善させることにより、nitronyl nitroxideを用いたNO / 8-ニトロcGMPの
分子機能制御の解明に向けた研究を推進する。
【発表論文】
Akaike T, et al. 8-Nitroguanosine formation in viral pneumonia and its implication for pathogenesis.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 685-690, 2003.
Sawa T, Akaike T, et al. Superoxide generation mediated by 8-nitroguanosine, a highly redox-active
nucleic acid derivative. Biochem. Biophys. Res. Commun. 311: 300-306, 2003.
Yoshitake J, Akaike T, et al. Nitric oxide as an endogenous mutagen for Sendai virus without antiviral
activity. J. Virol. 78: 8709-8719, 2004.
Fang J, Akaike T, Maeda H. Antiapoptotic role of heme oxygenase (HO) and the potential of HO as a
target in anticancer treatment. Apoptosis 9: 27-35, 2004.
Yasuhara R, Miyamoto Y, Akaike T, et al. Interleukin-1 beta induces death in chondrocyte-like
ATDC5 cells through mitochondrial dysfunction and energy depletion in a reactive nitrogen and
oxygen species-dependent manner. Biochem J., in press, 2005.
Zaki MH, Akuta T, Akaike T. Nitric oxide-induced nitrative stress involved in microbial pathogenesis.
J. Pharm. Sci. in press, 2005.
73
遷移金属錯体超微粒子における磁性制御の理論
産総研ナノテク
川本 徹、 阿部 修治
研究目的
金属、半導体、酸化物など様々な材料を用いた、ナノメートルスケールの超微粒子の合成が
近年盛んに行われている。分子スピン研究の一翼を担う遷移金属錯体に関しても、例に漏れ
ず、合成例が報告されてきた。分子スピンである遷移金属錯体の魅力の一つに、外部刺激に
よるスピン状態制御があり、超微粒子を合成する材料としても、バルク体で外部刺激応答性
を持つものが利用されている。Létard らは、Fe(II)スピンクロスオーバー錯体の超微粒子にお
ける温度変化による低スピン-高スピン転移を報告している[1]。また、コバルト鉄シアノ錯
体超微粒子とシリカのナノ構造体や、高分子保護された Mo(CN)8Cu2 超微粒子における光誘起
磁性も報告されている[2,3]。我々は理論的なアプローチにより、超微粒子における磁性制御
機構を明らかにし、制御特性の向上の指針を得ることを目的としている。今回は、スピンク
ロスオーバー錯体及び遷移金属シアノ錯体のバルク体における磁性制御の理解において、大
きな成功を収めているイジング型模型のモンテカルロシミュレーションを用いて研究を行い、
バルク体にはない、超微粒子特有の性質に関する知見を報告する。
研究成果
錯体超微粒子の温度誘起相転移[4]
イジング型模型のモンテカルロシミュレーションは、実際のスピンを担う材料中の各遷
移金属のスピン状態を擬スピンとして考え、その変化によりスイッチング現象を議論する手
法である。バルク体に対しては定量的な解
1.0
析を含め多くの成功を収めている。まず、
に及ぼす影響を調べた。図 1 に、擬スピン
を含む立方体擬スピン格子の転移挙動を
示した。ここで N は一辺に含まれる擬スピ
ンの数である。N=3 の場合、高スピン比率
ρH は温度 T の変化に対して緩やかであり、
一次相転移挙動は見られない。また、温度
0.8
高スピン比率 ρH
微粒子の粒径及び形状が温度誘起相転移
N= 3
N= 6
N=12
N=24
0.6
0.4
0.2
の上昇と降下で挙動に違いはなく、ヒステ
0.0
リシスは存在しない。N の増大に伴い一次
相転移的な急激な変化が現れ、ヒステリシ
スも現れる。さらに N を大きくするとヒス
180
190
T (K)
200
210
テリシス幅が増大するが、やがて飽和する。
図 1:一辺 N の立方体擬スピン格子の
この飽和挙動は形状に依存し、球状の場合
温度転移挙動。
74
は異なる挙動が現れる。
0.10
錯体超微粒子の光誘起相転移[5]
光照射によるスピン制御についても超微
0.08
状微粒子における、光誘起スピンスイッ
チングに必要な励起強度閾値 Wc の、粒
径 N の依存性である。粒径 N は、粒子直
Wc (/MCS)
粒子特有の効果が得られた。図2は、球
径に含まれる擬スピン数を表している。
0.06
0.04
0.02
N>10 の場合、Wc は大きく減少し、より
弱い励起強度でもスイッチングが実現す
0.00
ることがわかった。
Mo(CN)8Cu2 における光誘起磁性は、
0
5
10
15
N
20
25
30
図 2: 粒径 N の球状擬スピン粒子にお
バルク体よりもナノ微粒子において、磁
ける、相転移に必要な励起強度閾値 Wc
化の変化がより大きいことが報告されて
の粒径依存性。
いる[3]。その発現機構として、本計算で
得られた微粒子における励起強度閾値の低下の可能性を指摘する。
参考文献
[1] J.F. Létard, Top. Curr. Chem. 235 (1994) 221.
[2] J. G. Moore, E. J. Lochner, Chris R., Naresh S. Dalal, and A. E. Stiegman, Ang. Chem. Int. Ed. 42
(2003) 2741.
[3] L. Catala, C. Mathonière, A. Gloter, O. Stephan,c T. Gacoin, J. P. Boilotd and T. Mallah, Chem. Comm.
2005 (2005) 746.
[4] T. Kawamoto and S. Abe, Chem. Comm., submitted.
[5] T. Kawamoto and S. Abe, J. Phys. Conf. Ser., submitted.
75
オキサラト架橋錯体ナノ微粒子を前駆体とした
GeFe1.4 型合金ナノ微粒子の合成
北陸先端大・材料
山田
真実
[email protected]
はじめに
金属錯体結晶は、異種金属元素が有機
o
4.2 nm
架橋配位により結合され、配位子を通じて特異な
電子授受を行うことで多彩な物性が発現される。
それらを微小化した金属錯体ナノ微粒子は、バル
o
ク錯体結晶には見られない特異的なナノ物性が期
待され、さらに、種々の複合金属ナノ材料へ展開
Stearylamine
o
を用い、プルシアンブルー型(Fe/Cr-CN-Co)錯体
ナノ微粒子
1)
の合成とアルキル配位子による単離
を報告した。今回、Fe と Ge をオキサラト配位子
により架橋した 3 次元錯体のナノ微粒子化をター
ゲ ッ ト と し ( 図 1) 、 得 ら れ た 錯 体 ナ ノ 微 粒 子
oo
Fe o
o
o
o
o
する有用な前駆体となる。現在まで、逆ミセル法
o
oo
o Fe o
o
o
o
o
o
o Ge o
oo
o
o
o o
o Fe
o oo
o
o
o
o
H2, ∆
GeFe1.4 nanoparticle
図 1. Stearylamine で保護した Ge-ox-Fe 微
粒子の模式図および加熱水素還元による
GeFe1.4 合金微粒子化.
(Ge-ox-Fe)を水素雰囲気下による加熱気相還元により GeFe 型合金微粒子へ変換反応を行った。
合成
0.4 M polyethylene glycol mono 4-nonylphenyl ether (NP-5: HO(CH2CH2O)nC6H4C9H19, n≒5)
/cyclohexane 溶液 2 mL に対し 0.1 M K2[Ge(C2O4)3]・H2O 水溶液 70 µL 、0.1 M FeCl2・4H2O 水溶
液 70 µL を加え、逆ミセル溶液を精製した。作製した 2 種の逆ミセル溶液を混合、反応させ、ア
ルキル配位子 (ステアリルアミン:SA) により安定化し、Ge-ox-Fe を単離した。また、Ge-ox-Fe を
SiO2 へ担持したサンプル(Ge と Fe の合計量が 5 wt.%)を、管状還元炉 (H2: N2 = 1: 10, 330 mL/min)
により種々の還元温度(400 (1), 600 (2) 800 (3), および 1000 (4) ºC)で 2 時間保持にて、GeFe 型合
金微粒子への変換反応を行った。Ge-ox-Fe 及び合成物 1-4 の IR、XRD、XPS スペクトル測定及
び TEM 観察を行った。
結果および考察
Ge-ox-Fe は、TEM 像から平均粒
子径 4.2 nm を有することがわかった (図 2 左) 。
Ge-ox-Fe の IR スペクトルは、1650 cm-1 および 1350
cm-1 付近に、オキサラト基の CO 伸縮に由来する吸
収を示し、原料錯体 K2[Ge(C2O4)3]・H2O の CO 伸縮
よりも低エネルギー側にシフトしていることから、
オキサラト基の Fe への錯形成を支持した 2)。EDX
図 2. Ge-ox-Fe 微粒子(左)および合成物 3
(右)の TEM 像.
により、Fe/Ge は約 1.3 であった。Ge-ox-Fe の TGA 測定から、オキサラト基は 300 ºC から 400 ºC
76
の 間 で 分 解 す る こ と が わ か っ た 。 そ こ で 、 SiO2 担 持
Ge-ox-Fe を水素雰囲気下、400 度以上の所定温度にて保持
した際の、金属イオンの還元状態を XPS により検討した。
4
Ge-ox-Fe の Ge3d に由来するピーク(32.6 eV)は、還元温
度が上昇するにつれて、低エネルギー側にシフトし(31.8
3
eV)、更に新しいピーク(29.4 eV)が出現した(図 3)。前
c/s
者は微粒子表面、後者は微粒子内面の金属原子に由来する
2
と考えられ、元のピークと新しいピークとの強度比が、合
成物 3 および 4 で同じであることから、還元反応は 800 ºC
以上で完全に進行すると考えられる。このピークシフトは、
1
Fe2p のピークに関しても同様の傾向が現れた。XRD パタ
G e -o x -F e
ーンを見ると、還元による変換反応前後で回折パターンが
大きく異なり、物理構造の変化が支持された。更に、合成
38
物 3 の回折ピーク位置が、データベースの GeFe1.4 合金の
粒子径が縮小したと考えられる。
Ge-ox-Fe は、変換反応前後で磁性挙動も大きく異なっ
た。還元前(Ge-ox-Fe)は反磁性を示すのに対し、合成
物 1 では常磁性、合成物 3 では強磁性を示すことがわか
Magnetization / emu g-1
れることがわかった。合成物 3 の平均粒子径は 2-3 nm と
イオンの間に架橋されていたオキサラト基の脱離により、
った(図 4)。GeFe 型合金は、その金属組成により磁性挙
動が大きく異なることが知られているが
3)
, GeFe1.4 型合
金は、 B82 型 (η 相) の強磁性を示すと報告されており、
本結果と一致した
4)
26
図 3. Ge-ox-Fe 微粒子および合成
物 1-4 の Ge3d XPS スペクトル.
ものと一致し、Ge-ox-Fe が GeFe1.4 型合金微粒子に変換さ
明らかに Ge-ox-Fe の粒子径よりも小さく(図 2 右)、金属
36 34 32 30 28
B in d in g E n e r g y / e V
。バルク体との比較を現在検討中で
3
2
1
0
0
FC
ZFC
50
0.03
0.02
0.01
0
0
10
20
30
Temperture / K
100 150 200 250 300
Temperture / K
図 4. Ge-ox-Fe 微粒子(cross)、合成
物 1(triangle)および 3(circle)
の磁気-温度曲線. (Inset)0-30 K
の温度領域における測定曲線の
拡大図.
ある。
今後の予定
錯体ナノ微粒子を前駆体として、気相加熱還元により合金微粒子へ変換できること
が示された。今後は、錯体ナノ微粒子の金属組成制御を行い、合金微粒子へ変換後も金属組成が
保たれるか調べる。また、金属組成の違いによる物性挙動変化を合わせて評価する。
Reference
1. Yamada, M.; Arai, M.; Kurihara, M.; Sakamoto, M.; Miyake, M. J. Am. Chem. Soc, 2004, 126, 9482.
2.
Bailar, J. C. Comprehensive Inorganic Chemistry, Pergamon Press Pub; U. K.; 1973.
3. Kanematsu, K.; Ohoyama, T, J. Phys. Soc. Japan 1965, 20, 236.
4. Kanematsu, K. J. Phys. Soc. Japan 1965, 20, 36.
77
研究組織名簿
領域代表者
阿波賀
邦夫 名古屋大学・大学院理学研究科・教授
総括班
評価グループ
岩村
秀
日本大学大学院・総合科学研究科・教授
研究協力者(評価助言)
三谷
忠興
北陸先端科学技術大院・材料科学研究科・教授
研究協力者(評価助言)
山口
兆
大阪大学・大学院理学研究科化学専攻・教授
研究協力者(評価助言)
上野
照剛
東京大学・大学院医学系研究科医科学専攻・教授
研究協力者(評価助言)
山下
一郎
松下電器・先端技術研究所・主幹研究員
研究協力者(評価助言)
松本 和子
早稲田大学・理工学部化学科・教授
研究協力者(評価助言)
中筋
福井工業大学・教授
研究協力者(評価助言)
大矢 博昭
キーコム(株)京都事業所
研究協力者(評価助言)
下田
セイコーエプソン(株) 研究開発本部
テクノロジープラットフォーム研究所、
副本部長・所長
研究協力者(評価助言)
名古屋大学・大学院理学研究科・教授
領域代表(領域の総括)
東京大学・大学院総合文化研究科・教授
領域研究方針の策定、
一弘
達也
実施グループ
阿波賀
菅原
邦夫
正
各研究項目企画調整担当
横山
利彦
自然科学研究機構・分子科学研究所・教授
領域の広報担当
古賀
登
九州大学・大学院薬学研究院・教授
領域の連絡担当
内海
英雄
九州大学・大学院薬学研究院・教授
領域の連絡担当
研究班
A01
スピンと分子機能
阿波賀
邦夫
名古屋大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 2 代表者
藤田
渉
名古屋大学・物質科学国際研究センター・助手
同分担者
岩坂
正和
千葉大学・工学部・助教授
同分担者
情報通信研究機構・基礎先端部門・主任研究員
同分担者
大阪大学・大学院理学研究科・助教授
計画研究 3 代表者
大阪大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
北海道大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 4 代表者
北海道大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
照井 通文
森田
靖
久保
武田
丸田
孝史
定
悟朗
78
手木
芳男
三浦
洋三
松田
建児
入江
A02
正浩
大阪市立大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 5 代表者
大阪市立大学・大学院工学研究科・教授
同分担者
九州大学・大学院工学研究院・助教授
計画研究 6 代表者
九州大学・大学院工学研究院・教授
同分担者
スピンとナノ機能
菅原
正
東京大学・大学院総合文化研究科・教授
計画研究 7 代表者
松下未知雄
東京大学・大学院総合文化研究科・助手
同分担者
川田
勇三
茨城大学・理学部・教授
同分担者
田中
剛
東京農工大学・大学院共生科学技術研究院・講師
同分担者
村田
滋
東京大学・大学院総合文化研究科・助教授
同分担者
二瓶
雅之
筑波大学・大学院数理物質科学研究科・講師
同分担者
山田
真実
北陸先端科学技術大学院大学・材料科学研究科・助手
同分担者
大阪市立大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 8 代表者
塩見 大輔
大阪市立大学・大学院理学研究科・助教授
同分担者
佐藤 和信
大阪市立大学・大学院理学研究科・助教授
同分担者
豊田 和男
大阪市立大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
兵庫県立大学・大学院物質理学研究科・教授
計画研究 9 代表者
八尾 浩史
兵庫県立大学・大学院物質理学研究科・助教授
同分担者
佐藤 井一
兵庫県立大学・大学院物質理学研究科・助手
同分担者
横山 利彦
自然科学研究機構・分子科学研究所・教授
計画研究 10 代表者
西 信之
自然科学研究機構・分子科学研究所・教授
同分担者
佃 達哉
自然科学研究機構・分子科学研究所・助教授
同分担者
大阪大学・産業科学研究所・助教授
計画研究 11 代表者
大阪大学・産業科学研究所・助教授
同分担者
工位 武治
木村 啓作
田中 秀和
松本 卓也
A03
スピンと生命機能
古賀 登
九州大学・大学院薬学研究院・教授
計画研究 12 代表者
秋田 健行
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
唐沢 悟
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
麻生真理子
九州大学・大学院薬学研究院・助手
向井 和男
同分担者
愛媛大学・理学部・教授
計画研究 13 代表者
長岡 伸一
愛媛大学・理学部・助教授
同分担者
小原 敬士
愛媛大学・理学部・助手
同分担者
田嶋 邦彦
京都工芸繊維大学・繊維学部・教授
同分担者
美藤
九州工業大学・工学部・助教授
同分担者
正樹
79
内海 英雄
九州大学・大学院薬学研究院・教授
計画研究 14 代表者
日本薬科大学・薬品物理化学分野・教授
同分担者
山田 健一
九州大学・大学院薬学研究院・助教授
同分担者
竹下
啓蔵
崇城大学・薬学部・教授
同分担者
市川
和洋
九州大学・大学院薬学研究院・助教授
同分担者
安川
圭司
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
山形県産業技術振興機構研究開発部・部長
計画研究 15 代表者
尾形 健明
山形大学・工学部・教授
同分担者
横山
産業技術総合研究所・主任研究員
同分担者
熊本大学・大学院医学薬学研究部・助教授
計画研究 16 代表者
熊本大学・大学院医学薬学研究部・助手
同分担者
輿石
一郎
吉村 哲彦
秀克
赤池 孝章
芥 照夫
80
研究者プロフィール
*A01 スピンと分子機能(12 名)*
阿波賀
邦夫
Awaga, Kunio
あわがくにお
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
464-8602 愛知県名古屋市千種区不老町
教授
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
[email protected]
電話:052-789-2487
FAX:052-789-2484
生年月日:昭和 34 年 7 月 14 日
所属班等:項目 A01 計画 2 代表、総括班(領域代表)
藤田
渉
Fujita, Wataru
ふじたわたる
名古屋大学大学院物質科学国際研究センター
464-8602 愛知県名古屋市千種区不老町
助手
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
[email protected]
電話:052-789-4552
FAX:052-789-2484
生年月日:昭和 43 年 12 月 18 日
所属班等:項目 A01 計画 2 分担
岩坂
正和
Iwasaka, Masakazu
いわさかまさかず
千葉大学工学部
助教授
263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33 千葉大学工学部メディカルシステム工学科
[email protected]
電話:043-290-3499
FAX:043-290-3499
生年月日:昭和 40 年 4 月 3 日
所属班等:項目 A01 計画 2 分担
照井
通文
てるいとしふみ
Terui,Toshifumi
独)情報通信研究機構基礎先端部門ナノ機構グループ
主任研究員
651-2492 神戸市西区岩岡町岩岡 588-2
独)情報通信研究機構関西先端研究センターナノ機構グループ
[email protected]
電話:078-969-2252
FAX:078-969-2259
生年月日:昭和 38 年 11 月 12 日
所属班等:項目 A01 計画 2 分担
81
森田
靖
Morita, Yasushi
もりたやすし
大阪大学大学院理学研究科
助教授
560-0043 豊中市待兼山町 1-1 大阪大学大学院理学研究科
[email protected]
FAX:06-6850-5395
電話:06-6850-5393
生年月日:昭和 35 年 9 月 20 日
所属班等:項目 A01 計画 3 代表
久保
孝史
Kubo, Takashi
くぼたかし
大阪大学大学院理学研究科
助手
560-0043 豊中市待兼山町 1-1 大阪大学大学院理学研究科
[email protected]
電話:06-6850-5394
FAX:06-6850-5395
生年月日:昭和 43 年 5 月 12 日
所属班等:項目 A01 計画 3 分担
武田
定
Takeda, Sadamu
たけださだむ
北海道大学大学院理学研究科
教授
060-0810 札幌市北区北 10 条西 8 丁目
北海道大学大学院理学研究科化学専攻
[email protected]
電話:011-706-3505
FAX:011-706-4841
生年月日:昭和 29 年 9 月 17 日
所属班等:項目 A01 計画 4 代表
丸田
悟朗
まるたごろう
北海道大学大学院理学研究科
Maruta, Goro
助手
060-0810 札幌市北区北 10 条西 8 丁目
北海道大学大学院理学研究科化学専攻
[email protected]
電話:011-706-3504
FAX:011-706-4841
生年月日:昭和 45 年 9 月 18 日
所属班等:項目 A01 計画 4 分担
82
手木
芳男
Teki, Yoshio
てきよしお
大阪市立大学大学院理学研究科
教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻
[email protected]
電話:06-6605-2559
FAX:06-6605-2559
生年月日:昭和 32 年 1 月 17 日
所属班等:項目 A01 計画 5 代表
三浦
洋三
Miura, Yozo
みうらようぞう
大阪市立大学大学院工学研究科
教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院工学研究科化学生物系専攻
[email protected]
電話:06-6605-2798
FAX:06-6605-2769
生年月日:昭和 18 年 8 月 5 日
所属班等:項目 A01 計画 5 分担
松田
建児
まつだけんじ
九州大学大学院工学研究院
Matsuda, Kenji
助教授
812-8581 福岡市東区箱崎 6-10-1 九州大学大学院工学研究院応用化学部門(機能)
[email protected]
電話:092-642-4132
FAX:092-642-3568
生年月日:昭和 44 年 7 月 30 日
所属班等:項目 A01 計画 6 代表
入江
正浩
Irie, Masahiro
いりえまさひろ
九州大学大学院工学研究院
教授
812-8581 福岡市東区箱崎 6-10-1 九州大学大学院工学研究院応用化学部門(機能)
[email protected]
電話:092-642-3556
FAX:092-642-3568
生年月日:昭和 19 年 2 月 14 日
所属班等:項目 A01 計画 6 分担
83
*A02 スピンとナノ機能(19 名)*
菅原
正
Sugawara, Tadashi
すがわらただし
東京大学大学院総合文化研究科
教授
153-8902 目黒区駒場 3-8-1 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
[email protected]
電話:03-5454-6742
FAX:03-5454-6997
生年月日:昭和 21 年 11 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 7 代表、総括班(領域研究方針策定、各研究項目企画調整)
松下
未知雄
Matsushita, Michio
まつしたみちお
東京大学大学院総合文化研究科
助手
153-8902 目黒区駒場 3-8-1 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
[email protected]
電話:03-5454-6765
FAX:03-5454-6997
生年月日:昭和 44 年 11 月 14 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
川田
勇三
Kawada, Yuzo
かわだゆうぞう
茨城大学理学部自然機能科学科
教授
310-8512 茨城県水戸市文京 2-1-1 茨城大学理学部自然機能科学科
kwdyz@mx.ibaraki.ac.jp
電話:029-228-8369
FAX:029-228-8369
生年月日:昭和 22 年 7 月 28 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
田中
剛
たなかつよし
Tanaka, Tsuyoshi
国立大学法人東京農工大学大学院共生科学技術研究院
講師
184-8588 小金井市中町 2-24-16 国立大学法人東京農工大学大学院共生科学技術研究院
[email protected]
電話:042-388-7021
FAX:042-385-7713
生年月日:昭和 47 年 9 月 27 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
84
村田
滋
Murata, Shigeru
むらたしげる
東京大学大学院総合文化研究科
助教授
153-8902 目黒区駒場 3-8-1 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
[email protected]
電話:03-5454-6596
FAX:03-5454-6998
生年月日:昭和 31 年 8 月 1 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
二瓶
雅之
Nihei, Masayuki
にへいまさゆき
筑波大学大学院数理物質科学研究科
講師
305-8571 茨城県つくば市天王台 1-1-1
筑波大学大学院数理物質科学研究科
[email protected]
電話:029-853-5923
FAX:029-853-4426
生年月日:昭和 49 年 12 月 4 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担者
山田
真実
Yamada, Mami
やまだまみ
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
923-1292 石川県能美郡辰口町旭台 1-1
助手
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
[email protected]
電話:0761-51-1542
FAX:0761-51-1116
生年月日:昭和 49 年 4 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
工位
武治
たくいたけじ
Takui, Takeji
大阪市立大学大学院理学研究科
教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻化学科
[email protected]
電話:06-6605-2605
FAX:06-6605-2522
生年月日:昭和 17 年 10 月 19 日
所属班等:項目 A02 計画 8 代表
85
塩見
大輔
Shiomi, Daisuke
しおみだいすけ
大阪市立大学大学院理学研究科
助教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻物質科学科
[email protected]
電話:06-6605-3149
FAX:06-6605-3137
生年月日:昭和 40 年 11 月 16 日
所属班等:項目 A02 計画 8 分担
佐藤
和信
Sato, Kazunobu
さとうかずのぶ
大阪市立大学大学院理学研究科
助教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻化学科
[email protected]
電話:06-6605-3134
FAX:06-6605-3137
生年月日:昭和 40 年 9 月 29 日
所属班等:項目 A02 計画 8 分担
豊田
和男
とよたかずお
Toyota, Kazuo
大阪市立大学大学院理学研究科
助手
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻化学科
[email protected]
電話:06-6605-2555
FAX:06-6605-3137
生年月日:昭和 46 年 4 月 3 日
所属班等:項目 A02 計画 8 分担
木村
啓作
きむらけいさく
Kimura, Keisaku
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
教授
678-1297 赤穂郡上郡町光都 3-2-1 兵庫県立大学大学院物質理学研究科
[email protected]
電話:0791-58-0159
FAX:0791-58-0161
生年月日:昭和 20 年 7 月 29 日
所属班等:項目 A02 計画 9 代表
86
八尾
浩史
Yao, Hiroshi
やおひろし
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
助教授
678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町光都 3-2-1
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
[email protected]
電話:0791-58-0160
FAX:0791-58-0161
生年月日:昭和 37 年 9 月 16 日
所属班等:項目 A02 計画 9 分担
佐藤
井一
Sato, Seiichi
さとうせいいち
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
助手
678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町光都 3-2-1
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
[email protected]
電話:0791-58-0161
FAX:0791-58-0161
生年月日:昭和 46 年 11 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 9 分担
横山
利彦
よこやまとしひこ
自然科学研究機構分子科学研究所
444-8585
Yokoyama, Toshihiko
教授
愛知県岡崎市明大寺町字西郷中 38 分子科学研究所分子構造研究系
[email protected]
電話:0564-55-7345
FAX:0564-55-4639
生年月日:昭和 35 年 8 月 10 日
所属班等:項目 A02 計画 10 代表、総括班(事務局)
西
信之
にしのぶゆき
Nishi, Nobuyuki
自然科学研究機構分子科学研究所
444-8585
教授
愛知県岡崎市明大寺町字西郷中 38 分子科学研究所電子構造研究系
[email protected]
電話:0564-55-7350
FAX:0564-54-2254
生年月日:昭和年月日
所属班等:項目 A02 計画 10 分担
87
佃
達哉
Tsukuda, Tatsuya
つくだたつや
自然科学研究機構分子科学研究所
助教授
444-8585 岡崎市明大寺町字西郷中 38 分子科学研究所分子スケールナノサイエンスセンター
[email protected]
電話:0564-55-7351
FAX:0564-55-7351
生年月日:昭和 39 年 5 月 2 日
所属班等:項目 A02 計画 10 独立分担者
田中
秀和
Tanaka, Hidekazu
たなかひでかず
大阪大学産業科学研究所
助教授
567-0047 茨木市美穂ヶ丘 8-1 大阪大学産業科学研究所極微プロセス研究分野
[email protected]
電話:06-6879-8446
FAX:06-6875-2440
生年月日:昭和 45 年 5 月 28 日
所属班等:項目 A02 計画 11 代表
松本
卓也
Matsumoto,Takuya
まつもとたくや
大阪大学産業科学研究所
助教授
567-0047 茨木市美穂ヶ丘 8-1 大阪大学産業科学研究所
産業科学ナノテクノロジーセンター
単分子集積デバイス分野
[email protected]
電話:06-6879-4288
FAX:06-6875-2440
生年月日:昭和 35 年 7 月 14 日
所属班等:項目 A02 計画 10 独立分担者
*A03 スピンと生命機能(20 名)*
古賀
登
こがのぼる
Koga, Noboru
九州大学大学院薬学研究院
教授
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子合成化学分野
[email protected]
電話:092-642-6590
FAX:092-642-6590
生年月日:昭和 25 年 11 月 9 日
所属班等:項目 A03 計画 12 代表、総括班(連絡担当)
88
唐沢
悟
からさわさとる
九州大学大学院薬学研究院
Karasawa, Satoru
助手
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子合成化学分野
[email protected]
電話:092-642-6590
FAX:092-642-6590
生年月日:昭和 47 年 10 月 22 日
所属班等:項目 A03 計画 12 分担
秋田
健行
Akita, Takeyuki
あきたたけゆき
九州大学大学院薬学研究院
助手
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子合成化学分野
[email protected]
電話:092-642-6592
FAX:092-642-6590
生年月日:昭和 44 年 7 月 30 日
所属班等:項目 A03 計画 12 分担
麻生
真理子
Aso, Mariko
あそうまりこ
九州大学大学院薬学研究院
助手
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬物分子設計学分野
[email protected]
電話:092-642-6607
FAX:092-642-6603
生年月日:昭和 36 年 12 月 21 日
所属班等:項目 A03 計画 12 分担
向井
和男
むかいかずお
愛媛大学理学部
Mukai, Kazuo
教授
790-8577 松山市文京町 2-5
愛媛大学理学部物質理学科化学系
mukai@chem.sci.ehime-u.ac.jp
電話:089-927-9588
FAX:089-927-9590
生年月日:昭和 15 年 1 月 21 日
所属班:項目 A03 計画 13 代表
89
長岡
伸一
Nagaoka, Shin-ichi
ながおかしんいち
愛媛大学理学部
助教授
790-8577 松山市文京町 2-5
愛媛大学理学部物質理学科化学系
nagaoka@dpc.ehime-u.ac.jp
FAX:089-927-9590
電話:089-927-9592
生年月日:昭和 31 年 1 月 1 日
所属班:項目 A03 計画 13 分担
小原
敬士
おはらけいし
愛媛大学理学部
Ohara, Keishi
助手
790-8577 松山市文京町 2-5
愛媛大学理学部物質理学科化学系
ohara@chem.sci.ehime-u.ac.jp
FAX:089-927-9590
電話:089-927-9596
生年月日:昭和 39 年 11 月 9 日
所属班:項目 A03 計画 13 分担
田嶋
邦彦
Tajima, Kunihiko
たじまくにひこ
京都工芸繊維大学繊維学部
教授
606-8585 京都市左京区松ヶ崎御所海道町
京都工芸繊維大学繊維学部応用生物学科
[email protected]
電話:075-724-7807
FAX:075-724-7807
生年月日:昭和 31 年 12 月 19 日
所属班等:項目 A03 計画 13 分担
美藤
正樹
みとうまさき
九州工業大学工学部
Mito, Masaki
助教授
804-8550 北九州市戸畑区仙水町 1-1 九州工業大学工学部電気工学科電子工学教室
[email protected]
電話:093-884-3286
FAX:093-884-3286
生年月日:昭和 45 年 3 月 11 日
所属班等:項目 A03 計画 13 分担
90
内海
英雄
Utsumi, Hideo
うつみひでお
九州大学大学院薬学研究院
教授
812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
電話:092-642-6621
FAX:092-642-6626
生年月日:昭和 22 年 2 月 5 日
所属班等:項目 A03 計画 14 代表
輿石
一郎
Koshiishi, Ichiro
こしいしいちろう
日本薬科大学薬品物理化学分野
教授
362-0806 埼玉県北足立郡伊奈町小室 10281
[email protected]
電話:048-721-6374
FAX:048-721-7044
生年月日:昭和 33 年 9 月 8 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担者
山田
健一
Yamada, Ken-ichi
やまだけんいち
九州大学大学院薬学研究院
助教授
812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
電話:092-642-6624
FAX:092-642-6625
生年月日:昭和 45 年 8 月 13 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担者
竹下
啓蔵
たけしたけいぞう
崇城大学薬学部
Takeshita, Keizo
教授
860-0082 熊本市池田 4-22-1 崇城大学薬学部
[email protected]
電話:096-326-4147
FAX:096-326-5048
生年月日:昭和 31 年 8 月 6 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担
91
市川
和洋
Ichikawa, Kazuhiro
いちかわかずひろ
九州大学大学院薬学研究院
助教授
812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1
九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
FAX:092-642-6625
電話:092-642-6622
生年月日:昭和 43 年 2 月 8 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担者
安川
圭司
Yasukawa,Keiji
やすかわけいじ
九州大学大学院薬学研究院
助手
812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
電話:092-642-6625
FAX:092-642-6625
生年月日:昭和 52 年 1 月 26 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担者
吉村
哲彦
Yosimura, Tetsuhiko
よしむらてつひこ
山形県産業技術振興機構研究開発部
990-2473
山形市松栄 2-2-1
部長
山形県産業技術振興機構
[email protected]
電話:023-647-3133
FAX:023-647-3138
生年月日:昭和 19 年 5 月 13 日
所属班等:項目 A03 計画 15 代表
尾形
健明
おがたたてあき
山形大学工学部
Ogata, Tateaki
教授
992-8510 米沢市城南 4-3-16 山形大学工学部物質化学工学科
[email protected]
電話:0238-26-3135
FAX:0238-26-3135
生年月日:昭和 23 年 1 月 18 日
所属班等:項目 A03 計画 15 分担
92
横山
秀克
Yokoyama, Hidekatsu
よこやまひでかつ
産業技術総合研究所
主任研究員
463-8586 名古屋市守山区下志段味穴ケ洞 2266-98 産業技術総合研究所
[email protected]
電話:052-736-7327
FAX:052-736-7304
生年月日:昭和 37 年 7 月 11 日
所属班等:項目 A03 計画 15 分担
赤池
孝章
Akaike, Takaaki
あかいけたかあき
熊本大学大学院医学薬学研究部
860-8556 熊本市本荘 1-1-1
助教授
熊本大学医学薬学研究部感染免疫学講座微生物学分野
[email protected]
電話:096-373-5100
FAX:096-362-8362
生年月日:昭和 34 年 9 月 16 日
所属班等:項目 A03 計画 16 代表
芥
照夫
Akuta, Teruo
あくたてるお
熊本大学大学院医学薬学研究部
860-8556 熊本市本荘 1-1-1
助手
熊本大学医学薬学研究部感染免疫学講座微生物学分野
[email protected]
電話:096-373-5320
FAX:096-362-8362
生年月日:昭和 39 年 3 月 8 日
所属班等:項目 A03 計画 16 分担
93
*評価グループ(9 名)*
岩村
秀
いわむらひいず
Iwamura, Hiizu
日本大学大学院総合科学研究科
教授
102-0073 千代田区九段北 4-2-1 市ヶ谷東急ビル 6F
日本大学大学院総合科学研究科環境科学専攻
[email protected]
電話: 03-5275-7946
所属班等:総括班
三谷
忠興
研究協力者(評価助言担当)
みたにただおき
Mitani, Tadaoki
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
923-1292
教授
能美郡辰口町旭台 1-1 北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
[email protected]
電話: 0761-51-1530 or 1297
所属班等:総括班
山口
兆
FAX: 0761-51-1149
研究協力者(評価助言担当)
やまぐちきざし
Yamaguchi, Kizashi
大阪大学大学院理学研究科化学専攻
教授
560-0043 豊中市待兼山町 1-1 大阪大学大学院理学研究科化学専攻
[email protected]
電話: 06-6850-5405
所属班等:総括班
上野
照剛
FAX: 06-6850-5550
研究協力者(評価助言担当)
うえのしょうごう
Ueno, Shogo
東京大学大学院医学系研究科医科学専攻
教授
113-8654 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院医学系研究科医科学専攻
[email protected]
電話: 03-5841-3563
所属班等:総括班
FAX: 03-5689-7215
研究協力者(評価助言担当)
94
山下
一郎
松下電器
Yamashita, Ichiro
やましたいちろう
先端技術研究所
主幹研究員
619-0237 相楽郡精華町光台 3-4
[email protected]
電話: 0774-98-2516(Lab.) 0774-98-2526(dial-in)
所属班等:総括班
松本
和子
FAX: 0774-98-2515
研究協力者(評価助言担当)
Kazuko, Matsumoto
まつもとかずこ
早稲田大学理工学部化学科
教授
113-8654 新宿区大久保 3-4-1
55S-5-09
[email protected]
電話: 03-5286-3108
所属班等:総括班
中筋
一弘
FAX: 03-5273-3489
研究協力者(評価助言担当)
Nakasuji, Kazuhiro
なかすじかずひろ
福井工業大学
教授
910-8505 福井市学園 3-6-1
[email protected]
FAX:0776-29-7891(庶務課)
電話:0776-22-8111 (ex. 2566)
所属班等:総括班
大矢
博昭
研究協力者(評価助言担当)
Ohaya,Hiroaki
おおやひろあき
キーコム(株)京都事業所 所長
603-8101 京都市北区紫竹上堀川町 2 ルモン上堀川 602
[email protected]
電話:075-495-9141
所属班等:総括班
下田
達也
FAX:075-495-9141
研究協力者(評価助言担当)
しもだたつや
Shimoda, Tatsuya
セイコーエプソン(株) 研究開発本部
テクノロジープラットフォーム研究所、副本部長・所長
所属班等:総括班
研究協力者(評価助言担当)
95
備考
名称等
名称:
分子スピン:ナノ磁石から生体スピン系まで
(略称:分子スピン)
英文名称: Application of Molecular Spins: from Nanomagnets to Biological Spin Systems
領域番号: 769
審査系:
理工
領域代表: 阿波賀邦夫(名古屋大学・大学院理学研究科・教授)
研究期間: 平成 15 年度から 18 年度
研究成果の新聞・機関公式ホームページ掲載にあたって
この科研費による研究成果が新聞に掲載された場合又は研究機関の公式ホームページに掲載さ
れた場合、その都度速やかに「科学研究費補助金による研究成果の新聞掲載等報告書」を電子
メール添付または郵送で事務局・横山利彦宛提出して下さい。事務局から文部科学省研究振興
局学術研究助成課に連絡いたします。この報告書は
http://msmd.ims.ac.jp/molspin/besshiyoushiki22.pdf
からダウンロードできます。
また新聞等の発表においては「○○大学の×××教授らのグループでは、文部科学省科研費の
成果として△△△△であることを明らかにした。」などのように、科研費の成果であることを明
らかにして下さい。
論文中での謝辞
本研究は文部科学省科学研究補助金特定領域研究「分子スピン」(領域番号 769)の計画
和文
研究(課題番号 xxxxxxxx)の助成を得て行われた。
This work was supported by Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas “Application
英文
of Molecular Spins” (Area No. 769, Proposal No. xxxxxxxx) from Ministry of Education,
Culture, Sports, Science and Technology (MEXT).
を参考に、適宜簡略化してお書きください。課題番号は各計画研究ごとの 8 桁の番号です。
ホームページアドレス
http://msmd.ims.ac.jp/molspin/
随時,情報を掲載してまいりますので、ご協力よろしくお願い申し上げます。ご意見ご要望は、
事務局:
または
横山利彦
([email protected])
領域代表:阿波賀邦夫([email protected])
までお願いします。
96
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