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都市型地下空間の避難安全性に関する研究 - DSpace at Waseda

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都市型地下空間の避難安全性に関する研究 - DSpace at Waseda
都市型地下空間の避難安全性に関する研究
Evacuation Safety Planning for Urban Underground Facilities
2010 年 2 月
早稲田大学大学院理工学研究科
建築学専攻
建築防災・設備研究
森山 修治
目 次
第1章 序論
1.1 研究の背景
- 1
1.2 研究の目的
- 2
1.3 既往の研究と本研究の対象範囲
- 5
1.4 地下空間の法規制等と火災事例
- 7
1.4.1 駅舎の法規制と地下鉄駅等の火災事例- 7
1.4.2 地下街の法規制と火災事例
【参考文献】
第2章
-12
-14
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び煙制御の効果に関する実施設実験
2.1 実験の目的
-16
2.2 地下鉄駅舎の分類と実験駅舎の選定
-17
2.2.1 東京都における地下鉄駅舎の状況
-17
2.2.2 地下鉄駅舎の分類
-18
2.2.3 地下鉄駅舎の煙制御システム
-20
2.3 地下鉄駅舎火災実験による煙流動性状把握 -21
2.3.1 実験の全体概要
-21
2.3.2 各実験駅舎の概要
-27
2.4 実験結果
-38
2.4.1 島式ホームA駅の実験結果
-38
2.4.2 島式ホームB駅の実験結果
-48
2.4.3 相対式ホームC駅の実験結果
-61
2.4.4 考察
-72
2.5 まとめ
-75
【参考文献】
-76
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと避難安全計画への応用
3.1 シミュレーションの位置づけ
-77
3.2 各シミュレーションによる実験結果の再現性確認 -78
3.2.1 2層ゾーンモデルによる再現性確認 -78
3.2.2 CFDモデルによる再現性の確認
-83
3.3 シミュレーションによる地下鉄道駅舎の火災時避難安全性向上方策の検討-88
3.3.1 火災安全性検証の手順
-88
3.3.2 避難時間予測
-89
3.3.3 大規模火源に対する地下鉄駅舎の火災安全性の検証-96
3.4 まとめ
-124
【参考文献】
-125
第4章 地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の把握と安全性能向上方策の検討
4.1 研究の背景と目的
126
4.1.1 研究の背景
126
4.1.2 研究の目的と手順
126
4.1.3 地下通路型ターミナル駅舎の特徴
126
4.2 地下型ターミナル駅舎の代表例T駅の特徴131
4.2.1 地下型ターミナル駅舎の代表例T駅の概要131
4.2.2 T駅の歴史
132
4.2.3 T駅の防災設備について
132
4.2.4 まとめ
137
4.3 シミュレーションによる火災時の避難安全性の検証138
4.3.1 火災時の避難安全性検証の手順と検討対象駅舎のモデル化の方針138
4.3.2 避難時間予測
142
4.3.3 煙流動シミュレーションモデル
145
4.4 避難安全性向上方策の効果検証
4.4.1 検討する避難安全性向上方策
155
155
4.4.2 避難安全性向上方策①(排煙設備の設置)156
4.4.3 避難安全性向上方策②(火災規模の縮小)165
4.4.4 避難安全性向上方策③(火災規模の縮小+排煙設備の設置)175
4.5 まとめ
184
【参考文献】
185
第5章 大規模地下街における避難者の行動特性と誘導計画
5.1 研究の背景と目的
186
5.1.1 研究の背景
186
5.1.2 研究の目的
187
5.2 全国における地下街の状況
188
5.3 地下街における避難行動実験
189
5.3.1 実験概要
189
5.3.2 実験条件とその目的
5.3.3 被験者の条件
191
195
5.3.4 調査測定項目と測定解析方法
196
5.3.5 避難時間と避難者軌跡の解析
197
5.4 実験結果と分析
200
5.4.1 各出発点からの避難先と人数の関係 200
5.4.2 交差点における経路選択の傾向
210
5.4.3 避難出口前の素通りと照度の影響
212
5.4.4 出口数や出口位置が避難行動に及ぼす影響214
5.4.5 最終アンケート結果から推測できる避難者の傾向222
5.4.6 健常者と擬似高齢者の避難行動特性の比較224
5.4.7 集団避難者と単独避難者の行動特性の違い(健常者同士の比較)232
5.4.8 避難目標物の避難時間に与える効果 241
5.5 まとめ
242
【参考文献】
244
第6章
地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.1 研究の背景と目的
245
6.1.1 地下道・地下広場の定義
245
6.2 高天井を利用した自然排煙システムの提案247
6.3 FDSによるシミュレーション概要
248
6.3.1 解析方法とFDSモデル
248
6.3.2 火源設定
248
6.3.3 シミュレーション概要
248
6.3.4 安全性の判定方法
249
6.4 シミュレーション結果および考察
250
6.4.1 A施設における計画手法の提案及び安全性の検討 250
6.4.2 B施設における計画手法の提案及び安全性の検討257
6.4.3 C施設における計画手法の提案及び安全性の検討265
6.5 私有地供出に対するインセンティブの検討275
6.5.1 容積率割増の検討
275
6.5.2 容積率割増の有益性・賃料収入の比較 279
6.5.3 私有地供出に対するインセンティブの検討結果 282
6.6 まとめ
283
【参考文献】
284
第7章 結論
7.1 総括
285
7.2 今後の展望
288
資料集
289
謝辞
301
研究業績
302
図番号リスト・写真リスト・表番号リスト
第1章
序論
第1章
第1章
序論
序論
1.1 研究の背景
本研究に着手したきっかけは、2003 年 2 月に韓国大邱広域市の地下鉄中央路駅で発生し
た火災1-1)である。本火災では、客車内で放火されて、計 196 人が犠牲となる大惨事1-2)
3)
であったが、客車自体が著しく燃焼したうえ、ホーム、コンコースから更に接続する地
下街まで煙が流動拡大し、その間、効果的な避難誘導に失敗したことなど、地下鉄道は、
条件によっては、火災に対して著しく脆弱となり得ることを露呈した。これまで、車両や
地下駅の火災安全性や防災対策については、実証的な研究がほとんど行われないまま、設
計基準などが誘導されてきたきらいがあり、治安の低下や地下鉄道のますますの整備を前
に、実証的な調査研究を背景とする安全技術を整備していくことが望まれる。
一方、このような検討を進める中、地下空間の火災危険は地下鉄道だけでなく、地下街、
ビル地階部分、地下道、地下広場でも重要な課題1-4)であること、近年の都心開発では、
これらの各種地下施設が複合的に組み合わされて、結果的に、巨大で管理体制も不明確な
地下空間が形成されていることも、あらためて明らかになってきた。例えば東京駅周辺で
は、丸の内側の開発に引き続き、八重洲側でも大規模な開発が行われ、それに伴い地下空
間の面開発が行われた。東京駅周辺には、もともと、八重洲地下街が地下売場を介して東
京駅地下に接続し、丸の内側でもJRや地下鉄各線を接続する地下道が張り巡らされてい
たが、新しく建てられる高層ビルは例外なく、物販・飲食店に使われる大規模な地階を持ち、
既存の地下街や地下道と接続できるように計画され、最終的には、東京駅本体を含めて 30
万㎡を超える一体の大規模地下空間が形成されると考えられる。このように、近年の地下
空間開発の特徴は、大規模なビルの建設・建替えや市街地のブロック全体の再開発の際、
ビルの地下階と公共道路の直下の地下道、地下街等とほぼ一体化するように接続されるこ
とで巨大な地下空間が形成されることにある。現在、再開発が進む都心地区は、早い時期
に地下街等の整備が進められたこともあって、現在の防災基準を満たしていない地下施設
を多く含んでいると考えられる。また、駅施設も法整備の時点では想定されなかったショッ
ピングモール化が進んでおり、法令基準の内容と実態が大きく乖離している状況である。
これらの地下施設と接続される新築ビルは、最新の防災システムを具備してはいるが、あ
くまでもビル単体の安全のみを担保するものであり、接続する地下施設の安全性は考慮さ
れていない。しかしながら、これらの地下施設の多くは、道路等の地上の土地利用や公道
下に埋設されているインフラ等の空間的な制約により、効果的な防災改修も困難な状況で
ある。大規模な地下空間、特に既設地下施設への接続を伴う開発においては、私有地の供
出等考慮にいれた地下空間の総合的な安全性向上方策が望まれる。
1
第1章
序論
1.2 研究の目的
地下鉄駅などの地下空間は、韓国テグ市での地下鉄火災事件にみられるように、一度、
火災が発生し煙が充満してしまうと、避難はおろか消防活動にも支障をきたしやすい構成
の空間と考えられる。また、煙流動の観点からみても、地上に建設される高層ビルとは異
なり、避難方向に煙が流れることで避難に大きな支障が生じることや、消防隊の進入口が
煙排出口となることなど様々な危険性が考えられる。
Firefighters
EXIT
Concourse
Platform
図 1.2.1 地下鉄駅舎火災のイメージ
公共地下空間には、地下鉄道駅,地下街,地下道・地下広場などがあるが、地表面から
の 深さ と平面的な 広さ という形態から分類すると、深層化する地下鉄道駅と平面
的に広大な地下街が代表といえる。一方、地中構造物ではないものの、大都市中心部のタ
ーミナル駅の通路部分も、その閉鎖性から、地下空間の特徴を持つ形態のものが多い。最
近の大規模開発では、これら駅舎と地下街等が地下道により連結され、巨大で複雑な地下
空間が形成されつつある(図 1.2.2(a))。一方、公共地下空間を 可燃物量 と 人員密度
という利用状況から分類すると、地下街は可燃物量および人員密度がともに多く、駅舎関
連はピーク時の人員密度は多いものの、可燃物量は比較的少ないという特徴があった。し
かし、最近の駅舎の商業化により、特にターミナル駅の地下街化が進んでいる(図 1.2.2(b))。
(a) 形態による分類
(b) 利用状況による分類
図 1.2.2 地下空間の分類
2
第1章
序論
本研究では、これら地下空間の火災安全上の特徴や問題点を個別に把握し、それぞれの
空間に適した避難安全性能向上策を提案することを目的としている。
本研究の第2章では、稼動中の地下鉄駅舎3駅を使った煙流動実験を報告する。最近の
地下鉄駅はより深層化する傾向にあるが、その火災安全性については必ずしも工学的妥当
性が検証されたものではない。地下鉄駅は、空間的には極めて特異な特徴を有するにもか
かわらず、煙流動性状等の実験事例があるわけではなく、火災・煙流動の一般性状の把握
や計算手法の検証の基礎となる実大規模での実験の実施が必要と考えられる。日常、交通
の用に供されている実施設を使っての煙流動・煙制御実験には多くの困難があるが、火源
強度を抑制することで、火災初期における駅舎内の煙流動性状を確認することは可能であ
る。そこで、島式、相対式2種類の代表的なホーム形式の地下鉄駅舎を選定し、実稼動中
の地下鉄駅舎において、火災初期に相当する火源を使用し、防災設備等の作動状況を変化
させ、地下鉄駅舎内、特にホーム階の煙流動性状を測定する。ここで得られた実験結果は、
のちに実施する煙流動性状シミュレーションの再現性確認用データとしても利用する。
第3章では、前章の火災実験結果が2層ゾーンモデルやCFDなどの煙流動シミュレー
ションで再現できることを確認する。さらには、より大規模な火災を想定した煙流動シミ
ュレーションを行い、研究当時の地下鉄駅舎の火災時の避難安全性能上の問題点を明確化
し、避難安全性向上のための具体的な方策を検討・提示する。
第4章では、地下空間に近い空間特性をもつ地上ターミナル駅舎の火災時の避難安全性
を検討する。都心に位置する多くの鉄道路線が集まるターミナル駅ではホーム数が多くな
り、それぞれのホームを連絡する通路網も複雑化、長大化し、その大きさに対して外部へ
の開口が少ない特殊な閉鎖的空間が形成される。こうした形式の駅舎を本研究では
通路型ターミナル駅舎
地下
と呼ぶこととする。こうしたターミナル駅の災害時の問題として
は、窓がないために、煙や汚染物質が籠りやすく、煙や停電で照明が見えなくなった時の
避難にも障害が生じ易いことや、広大な平面に比べて避難口の数が少なく、避難者にとっ
て避難口の位置が認識しにくいという問題が考えられる。規模に差はあるが、全国の大都
市の主要ターミナル駅舎には、地下通路型ターミナル駅舎の特徴を備える例が多い。さら
に最近のターミナル駅は、「駅ナカ」と呼ばれるショッピングモールやレストラン街が
設けられることで、単なる乗換えの通過空間とは言えない状況が発生している。
本章では、地下通路型ターミナル駅舎の代表例として都内T駅を選定し、大型店舗等の
避難安全検証の手法を準用して、地下通路型ターミナ駅舎における火災時の避難安全上の
課題を明確化し、安全性向上のための具体的な方策を検討・提示する。
第5章では、地下鉄駅舎以外の代表的地下空間として地下街を取り上げる。地下街は平
面的に広大であり、可燃物の管理や避難経路の認知について、高層ビルとは異なる問題が
あると考えられる。特に近年、大都市の中心に出現するようになった地下空間には、多数
の建築物の地階が相互に接続あるいは地階が地下道と接続して形成する大規模なものが増
加した点に大きな特色がある。このような都心型の大規模地下空間は、地上への出口位置
3
第1章
序論
が地上の土地利用に制約され、階段の配置は高層ビルに比べて規則性に乏しいため、利用
者が避難路を見つけ難く、避難誘導も困難であることなどの特徴がある。そこで、東京都
内で実際の地下街を使用して群集避難実験を行い、地下街における避難行動特性を分析す
る。特に避難口の位置や館内の照度、誘導灯の状態や出口数に注目し、それらの状態を変
化させ、群集避難行動への影響を把握し、その結果を報告する。
第6章では、一般的な天井高さの地下空間では解決が困難な煙層からの輻射の問題を取り
上げ、多数の地下道が集中し、ビル地階等と接続するターミナル駅周辺の大規模地下空間の
火災時の避難安全性向上のため、排煙塔部やアトリウムを利用した高天井型自然排煙システ
ムを提案し、その効果を検証している。また、スプリンクラー等の効果を検証し、自然排煙
塔の実空間における設計手法を提案すると共に、私有地供出を補完する目的での容積率割増
しによるインセンティブのあり方など、実用化に向けたケーススタディを行っている。
これら研究のフローを図 1.2.3 に示す。
図 1.2.3 本研究のフロー
4
第1章
1.3
序論
既往の研究と本研究の対象範囲
地下空間は、形態からは地下鉄道駅と地下街・地下道の2つに大別できる。地下鉄道駅
はプラットホームとコンコースが断面的に重なる長さ 200m以上のトンネル状の空間であ
り、最近では地表面からホーム面までの深さが 40mを越える地下鉄駅も存在する。地下街
は公共地下道と地下店舗・ビルの地下階が連続して形成された形態のものが多く、地表面
近くに平面的に展開されており、小売店舗面積注1-1)だけでも3万㎡近い地下街も存在する。
日本では、地下街や地下鉄の建設が本格化した 1960 年代以降、営団地下鉄日比谷線火災
(1968),大阪天六ガス爆発(1960),静岡駅前地下街ガス爆発(1980)、名古屋地下鉄栄駅
(1983)などに代表される火災が発生し、通達等による規制が強化されたが、このような地
下空間の火災安全性については、必ずしも実験等で検証されたものではなかった。2003 年
の韓国テグ駅での火災が契機となって、地下鉄駅の煙流動性状に関して、松島ら1--5)6)は
1/5縮尺の模型を用いて、階段の防煙壁の深さを変化させた場合やコンコースに加圧給
気した場合の上階への漏煙阻止効果、ホーム階の機械排煙量を変化させた場合の煙層高さ
への影響について報告している。また、徳永ら1-7)は1/20縮尺の模型実験とCFD解
析を行い、模型実験で行ったソーラーチムニーとドライミスト噴霧の効果がCFD解析で
も再現できることを確認しているが、既往の研究には、実施設の地下鉄駅の実験結果の再
現性を確認したうえで、避難計算結果と比較する形で排煙システム・排煙口位置・風量等
の変化による効果を定量的に示してはいない。第2章では、3つの稼動中の地下鉄駅を使
って得た、火災・煙流動の一般性状や計算手法の検証のための基礎データを報告する。大
規模建築物等では火災時の煙流動性状を工学的に把握するには煙流動シミュレーションに
よるのが一般的であるが、地下鉄駅は一般建築物に比べて長大で特異な空間であるため、
シミュレーションの妥当性を確認するための実大規模の煙流動実験が必要である。ところ
が、地下鉄駅の火災実験については、発煙筒規模の熱・煙源を用いた目視観察注1-2)以外に
実験例がなく、シミュレーションのみを行ったとしても妥当性を判断できない状態であっ
た。本章では地下鉄駅の形態として典型的な島式ホーム2駅、相対式ホーム1駅、合計3
駅のホーム階で火災初期に相当する約 500kWのアルコール火源を用い、火災時に使用され
るホーム・コンコース間の階段シャッターの開閉状態や機械排煙設備の稼動状況等を変化
させて、地下鉄駅内の煙流動性状を報告する。
第3章では、2章の実験結果を用いて、2層ゾーンモデルおよびCFDモデルでの再現
性を確認している。さらには、実験再現性が確認できた煙流動予測モデルを用いて、火災
がより拡大した状況下での地下鉄駅内の煙流動性状を予測し、駅舎混雑時を想定した群集
避難の計算結果を比較することで、地下鉄駅の避難計画、避難誘導方策を検討している。
既往の研究には、地下空間に近い空間特性をもつ地上ターミナル駅舎の火災安全性、特
に煙流動性状を検証している研究は認められない。第4章では、都心に実在する大規模タ
ーミナル駅舎をモデル化し、2層ゾーンモデルによるシミュレーションと指針法1-8)によ
5
第1章
序論
る避難計算を行い、排煙や可燃物抑制の効果など、ターミナル駅一般に成り立つ避難安全
性向上手法の効果について報告している。特に、天井面レベルや床面レベルが場所によっ
て異なる大平面空間での煙拡散状況や安全性の違いなどについて報告している。
大規模地下街などの平面的に広大な地下空間での避難行動については、種々のモデル、
予測手法が研究されている1-9)10)11)。これらの研究では、群集における個々の避難者の
避難行動については、避難出口への最短経路を迷わずに避難することや、歩行速度を一定
とすることを前提とするものがほとんどであるが、個々の避難者の行動の支配要因につい
ては避難事例の調査・実験等、実証的な知見が乏しく、モデルの妥当性も検証されている
とは言い難い。例えば、山田ら1-12)は人工現実感(VR)シミュレータによる疑似体験の実験、
北後1-13)はスライド提示による経路選択等の実験を実施している。また地下鉄駅舎の避難
実験例では佐藤ら1-14)の例、階段上昇実験としては萩原ら1ー15)の例があるが、多数の被
験者を用いた実在地下街での避難実験例はごく少数であり、堀内1ー16)らは地下街従業員を
被験者とした避難誘導員付きの実験を行い、停電や発煙の環境条件別に歩行速度を測定し、
補足的にアンケートをおこなっている。文野1ー17)らは学生を被験者とした避難実験を行い、
照明や出口制限の条件別に避難時間を測定し、補足的にアンケートをおこなっている。第
5章では、実際に使用されている大規模地下街を使用し、避難口の位置や館内の照度、誘
導灯の状態を変化させて、群集避難行動への影響を把握するため、被験者を用いた避難実
験を実施している。また、被験者を、行動能力から健常者・擬似高齢者に分類し、歩行軌
跡を個別に解析しており、さらには、被験者を複数人数で行動する集団避難者と一人で行
動する単独避難者に分類して同様に歩行軌跡を解析している。避難者のタイプ別に、群集
の避難行動特性、特に避難出口や避難経路の選択性について、定量的に分析している。
既往の研究では、若松ら1ー18)が、幅 1.5m×高さ 2m×長さ 70mの廊下状の地下道を模
した実験室にて、煙の水平伝播性状を測定し、煙移動の際の熱損失による煙移動速度の変
化や煙層の降下状況、垂れ壁の効果を測定し、煙の温度低下が煙層の高さに与える影響は
少ないことや、垂れ壁による煙の水平移動に対する遅延効果が大きいことを報告するとと
もに、模型実験による再現性の高さを報告している。熊井ら1ー19)は、実大天井高さ 9mと
3.6mの2種類の天井高さの地下広場を想定し、天井高さが自然排煙の効果に与える影響を
確認する模型実験を行い、天井高さを上げると排煙効果も上がることを報告している。福
田ら1ー20)は、地下広場の1/12縮尺の模型を用いて、機械排煙風量,排煙口位置,防煙
垂れ壁深さなどをパラーメーターとした実験を行い、排煙口位置は火災に近いほうが、ま
た、防煙垂れ壁は深いほうが効果的に排煙できることを報告している。しかしながら、多
数の地下道が集中し、ビル地階等と接続する複雑な形状をしたターミナル駅周辺の大規模
地下空間の火災時の避難安全性能について、煙流動シミュレーションと避難計算結果を比
較することで、具体的に検証している研究は認められない。本研究では、実在のターミナ
ル駅周辺の大規模地下空間をモデル化し、排煙塔部やアトリウムを利用した自然排煙シス
テムを提案し、その効果の検証結果を第6章で報告する。
6
第1章
1.4
序論
地下空間の法規制等と火災事例
1.4.1
駅舎の法規制と地下鉄駅等の火災事例
(1)駅舎の法規制
鉄道駅舎は建築基準法 2 条1号の用語の定義を見ると、建築基準法の適用対象となる「建
築物」の定義から除かれている。その場合、建築基準法で規定されている、各居室から避
難出口までの歩行距離や重複距離、500 ㎡以上の建築物に要求される排煙などが適用除外と
なる。
一方、日本建築行政会議の統一見解によると「ラッチ(改札口)の内側の通路専用の部
分とプラットホームは建築基準法の適用除外とするが、ラッチ外の通路専用部分と(ラッ
チの内外にかかわらず)駅員事務室など通路以外の部分は建築基準法の適用対象とする。」
とのことである。
建築基準法
第1章
第2条(用語の定義)
第1号(建築物)
土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造
のものを含む。)、これに付属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架
の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道
の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上屋、貯蔵槽その他
これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
一方、消防法では、駅舎は政令別表第一(10)項に掲げる用途に供される防火対象物と
して扱われるが、飲食店や物品販売店舗、地下街などの「特定用途防火対象物」の範疇に
入っていないため、駅舎に対する消防法の各種規制はかなり緩やかなものとなっている。
例えば、地下街や物品販売店舗・飲食店であれば設置義務が生じるのに規模の駅舎も、ス
プリンクラー設備等の設置義務は生じないことになる。しかし、近年は「駅ナカ」と呼ば
れる大規模ショッピングモールやレストラン等が駅改札内に設置される例が増え、従来、
想定されている駅舎とは異なる複合用途防火対象物に変貌しつつある。
鉄道営業法では国土交通省鉄道局長による「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等
の解釈基準の一部改正について(2004 年 12 月 27 日)」により、地下駅等に対して建造材・
内装および売店の不燃化(建築基準法第2条第9号の規定)、防災管理室の整備、排煙設備・
消火設備等の防災設備等の整備が規定された。
車両については、昭和 31 年に運輸省(当時)が南海電鉄で発生した列車火災を契機に、
車両の火災対策に関する通達を出した。その後、「普通鉄道構造規則(昭和 62 年運輸省令
第 14 号)にて車両対策基準の強化が図られた。さらに、平成 13 年に「鉄道に関する技術
7
第1章
序論
上の基準を定める省令等の解釈基準(平成 13 年国土交通省令第 151 号)」が定めら、平成
16 年 12 月にその一部が改正され、屋根や客室天井等の不燃性、床や座席の難燃性が定めら
れている。
(2)日本における地下鉄火災事例と規制の歴史
日本における過去の地下鉄火災事例と法規制の歴史を見ていく。これにより、現在の日
本の地下鉄道防火規制がどのような背景のもとに成り立ってきたのかを考える。表 1.4.1 に
2003 年 4 月までに日本で発生した地下鉄火災事例を示す1ー21)。
過去の火災事例の中には、南海電鉄高野線(1956)、国鉄北陸トンネル(1972)、名古屋
地下鉄栄駅(1983)など死傷者を出したケースや日比谷線(1968)のように車両が著しく
燃焼したケースがある。このうち、南海電鉄火災をきっかけとして運輸省は電車の構造の
不燃化を通達(1956 年 5 月)、1957 年 12 月には地下鉄を対象に火災対策を強化した(A-A 様
式)を定めた。更に 1968 年 1 月には日比谷線火災をきっかけとして、電熱機器などの防護、
車両材料の燃焼試験方法等を導入し、A-A 基準を更新した。地下鉄が郊外鉄道と乗り入れ
開始していた時期にあたり、1969 年 8 月には地下に乗り入れ運転する車両は A-A 基準に依
ることと規定し、1975 年 1 月には「トンネル等における列車火災事故の防止に関する具体
的対策について」が通達され、同 2 月には地下鉄道の火災対策基準が導入され駅舎の排煙
が導入された。1987 年 3 月には、普通鉄道構造規則にこれらの基準が導入され、その内容
は 2001 年制定の鉄道に関する技術上の基準を定める省令」にほぼ踏襲されている。日本の
地下鉄道火災には放火の例が少なく、上記のように、防火規制のきっかけとなった火災事
例をはじめ、表 1.4.1 に示す殆どの火災は、電気系統の異常に由来している。放火火災には
京急羽田駅火災(1993),東北新幹線車両火災(2002)等があるが、いずれも小規模で終わって
おり、それらがきっかけとなって防火規制が見直されたことはない。
韓国・大邱中央路駅で発生した地下鉄火災事件を受け、2004 年 12 月 27 日、国土交通省
鉄道局長から「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準」(平成 14 年 3 月 8
日付け国鉄技第 157 号)の一部改正が通達された。改正内容の特徴は、「通常火災」以外に
ガソリン等を想定した「大火源火災」という火災想定を新たに加えて車両の防火性能の向
上や個々の駅毎の避難時間に応じた排煙設備の設置を決定している点である(資料3に排
煙設備の容量決定関連の資料を示す)。
8
第1章
序論
表 1.4.1 過去の火災事例と法規制の歴史1ー21)
年月日
1956.5
発生場所
火災概要
規制
南海電鉄高野線18号 トンネル(延 長1.5km) 内で車両 から出火し、 全車両焼 56年運輸省「電車の火災事故対策につい
て(鉄運39号)」
トンネル
失。死1傷42
57年運輸省「電車の火災事故対策に関す
る処理方について(鉄運5号)」
1968.1.27 日比谷線六本木・神 走行中抵抗器から出火。乗客降車後,回送中に運転不能 69年運輸省「電車の火災事故対策につい
て(鉄運81号)」
谷町駅間
に。車両1台全焼,2台焼損, 傷11
1969.3.20 国鉄大清水新幹線隧 隧道工事中,溶接火花が削岩器に引火,おが屑等に延焼。
道坑内
濃煙で消防隊入坑は11時間後。死16
1972.11.6 国鉄北陸トンネル内 走行中食堂車電気暖房器で漏電出火,トンネル内で非常停
止。消火・車両切離しに失敗。死30, 傷714
1982.2.25 丸の内線荻窪駅構内 停車中の車両下部の発電機で絶縁不良のため出火。車両
小火
1982.3.8 都営三田線春日駅構 停車中の車両座席下部でヒーターケーブル接続部がトラッキ
内
ング現象で短絡。車両小火
1983.2.6 丸の内線四谷三丁目 停車中の車両発電機電動機用コイルが断線・過熱して出
駅構内
火。車両小火
1983.7.11 千代田線湯島駅駅舎 継電気室のケーブルが鼠にかじられ短絡、トランスが過
熱出火。駅舎小火
1983.8.16 名古屋地下鉄栄駅駅 変電室整流器故障で出火、地下街に煙。送電停止で列車
舎
2本トンネル停車。死2傷5
1985.1.25 銀座線上野駅駅舎
地下2階駅舎工事中、切断機の火花がゴミに引火。駅舎
小火
1985.6.19 半蔵門線新渋谷変電 変電室で特高変電設備変圧器が接触不良となり出火。駅
所
舎小火
1985.9.26 半蔵門線渋谷駅構内 停車中の車両(東急)下部軸受けベアリングが破損・発
熱。車両小火、乗客2800人避難
1985.10.2 千代田線根津・千駄 走行中、モーター電圧遮断器内でトラッキング現象で短 「普通鉄道構造規則(昭和62年運輸省令第14
号)」
2
木駅間
絡、出火。車両小火
1988.9.21 近畿鉄道生駒トンネ 送電ケーブルで出火,電車がトンネル内停車。旧トンネルを避難・消
ル内
防進入に使用。死1傷57
1992.8.19 JR横須賀線大船駅構 電車発車時パンタグラフ上昇させた際、発電機起動装置
内
で地絡。車両小火
1992.8.29 都営三田線春日・白 車両下部で地絡、駅変電所の遮断器が作動して停車。乗
山駅間
客は次駅まで避難
1993.3.17 銀座線浅草駅構内
ホームから投げ捨てた煙草のため、停車中の車両下部か
ら出火。車両小火
1993.4.23 京浜急行空港線羽田 停車中の電車に仕掛けた時限発火装置による出火。車両
駅構内
小火
1993.8.27 都営浅草線浅草橋駅 停車中の車両下部電動発電機の抵抗器が発熱、出火。車
構内
両小火
1994.3.22 丸の内線中野新橋駅 車輪駆動用モーターの配線が断線、出火。車両小火
構内
1995.4.14 都営浅草線五反田駅 車両ヒューズ端子の接触不良による発熱、出火。車両小
構内
火
1997.10.1 南北線赤羽岩淵駅構 停車時に車輪とブレーキの摩擦で火花発生、ゴミに引
6
内
火。車両小火
1997.11.1 丸の内線四谷三丁目 停車中の車両変圧器に過電流が流れ短絡、出火。車両小
3
駅構内
火
1998.1.21 有楽町線小竹向井原 走行中、抵抗器端子の接続が緩み、過熱。粉塵に着火。
駅付近
車両小火
「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等
2001.1.15 千代田線霞ヶ関駅構 停車中、車両の座席に放火。車両小火
の 解 釈 基 準 ( 平 成 13 年 国 土 交 通 省 令 第 151
内
号)」
2002.1.24 丸の内線池袋駅構内 電車下部の機器が地絡、出火。車両小火
2002.12.1 東北新幹線トンネル 走行中の車両座席カバーに放火。車両小火
9
内(都内)
2003.2.18 韓国・大邱中央路駅 放火により死者196名,負傷者147名
地下鉄
2003.4.9
有楽町線千川・小竹 連結器のボルト破損で停車。20分後に乗客約2500人が千
向原駅間
川駅に避難
9
国土交通省「鉄道に関する技術上の基準を定
める省令等の解釈基準」(平成14年3月8日付
け国鉄技第157号)の一部改正
第1章
序論
(3) 地下鉄道に関する実大実験
比較的大規模な地下鉄道火災の発生を契機として、実際の車両や鉄道施設を使った火
災・煙流動実験が運輸省、事業者等によって実施された。2003 年 4 月以前の範囲で確認さ
れた事例としては表 1.4.2 のようなものがあげられる。
表 1.4.2 過去の地下鉄関連の実大実験事例1ー21)
実施者・年月
概
要
運輸省
旧基準と新A-A基準の車両の火災性状比較。火源は日比谷線火災に倣い、抵抗
1969 年 2 月
器を異常発熱させたもの。新A-A基準の効果を検証1ー22)。
大阪市交通局
四つ橋線四ツ橋駅ホーム(軌道上)・トンネルでメタノール(2ℓ)を火源として換
1972 年 12 月
気設備を作動させ、排煙の有効性を検証したとしている注1ー2)。
運輸省委託
有楽町線飯田橋駅ホーム・トンネルで自然換気状態・機械排煙時の煙流動性状
日本火災報知器工業会
の把握。火源は小さいが煙流動に対する自然風の影響等を指摘注1ー3)。
1976 年 11 月
日本鉄道技術協会
土木研究所実大トンネル実験施設を使い、抵抗器発熱と持込み可燃物(新聞 80
1992 年 3 月
頁+エタノール 600cc+灯油 400cc)の 2 種類火源想定して実車両の火災実験。火
災拡大はなく自然鎮火。
東京消防庁委託
実車両内で灯油最大 2ℓを火源。燃焼拡大は火源付近に留まったが、有害ガスの
東京防災指導協会
影響は当該及び隣接車両に及ぶ可能性があること、材料実験から条件によって
1993 年 11 月
は車両内装で急速な燃焼拡大が起こり得ることを指摘1ー23)。
運輸省実験(1969)、大阪市実験(1972)は、各々、日比谷線火災、北陸トンネル火災の直後
であり、それらの再発予防に有効と考えられた対策の妥当性を検証しようとする内容とな
っているのに対して、90 年代に実施された実験は、実施の背景になったと考えられる具体
的な火災事例が見あたらず、いずれも、車両内で比較的大きな火源で点火し、明らかに放
火火災を想定している。90 年代の2実験が、放火による火災を想定しながら放火の影響に
ついて方向的にやや異なる結論を出しているが、実験における設定火源の規模の差に由来
すると考える。90 年代の実験では、放火に対する地下鉄道の弱点も指摘されているが、そ
の後の地下鉄道の防火対策に反映された跡はない。
大阪市実験(1972),火報工業会実験(1976)では駅舎、トンネルでの煙流動性状が実験対象と
なっているが、駅舎の排煙規定の導入前後であり、排煙の効果の検証を目的にしたと思わ
れる。これらの実験の詳細は明らかにならなかったが、実駅舎を利用しているため燃焼規
模は小さく、当時、地下駅・トンネル等の煙流動性状の工学的予測手法は未整備だったため、
実験結果から中大規模燃焼時の煙流動性状の予測評価にまでは言及されていないこと、ま
た施設現場等での実験のデータを大量処理する技術も整備されていなかったため、煙流動
性状の定量的把握には制約が大きかったと推測される。
10
第1章
序論
(4)地下鉄駅火災の代表例(韓国・大邱中央路駅地下鉄火災事件概要1ー3))
被害
:死者 196 名
電車内 142 名
駅舎内
54 名(地下 2 階 11 名・地下 3 階 39 名・線路 4 名)
:負傷者 147 名
死因
:窒息死及び焼死
出火日時:2003 年 2 月 18 日(火)9 時 58 分(推定)・鎮火時刻 13 時 38 分
出火場所:大邱広域市中区南一洞 143−1−90・大邱地下鉄一号線、中央駅
出動隊
:1,150 名
資機材
:ヘリコプター1機、消防車両 222 台、その他
中央路駅にて、上り列車の1両目後部に乗車した男性が揮発性燃料(ガソリン約5ℓ)を
床に撒き、着火。火炎は車両座席シートに引火して急激に車両内部から燃焼した。火災発
生直後に隣接駅を発車した下り列車が出火約4分後中央路駅に到着し停車。火災感知シス
テムの作動による構内の通電停止により発車できなくなったため延焼した。この間、車両
のドアは開放されず、乗客は車内に取り残された状態であり、適切な避難誘導も行われな
かったため、多数の焼死者を出した。
韓国の地下鉄駅舎では消防法により換気・防火システムの設置が義務づけられており、
中央路駅にも消防法上の規定をクリアした排煙設備が備わっていた。しかし、排煙能力を
大幅に上回る煙が発生し、1000℃近い高温の煙が浮力による大きな上昇力によって広範囲
に広がったとされる。煙感知器連動の防火シャッターが設けられていたが、早い段階で閉
鎖されたため、駅舎からの避難ルートを塞いだ可能性が高い。
車両は 1997 年に製造されたもので、内壁・天井材は可燃性のFRP(ガラス繊維強化プ
ラスチック)
、床材は煙の発生が大きい塩化ビニール、座席の芯材にはウレタンフォーム
が使われていた。韓国ではじめて地下鉄の内装材に難燃性素材の使用を求めた安全基準が
制定された 1998 年以前に製造された車両であった。
11
第1章
1.4.2
国土交通省
序論
地下街の法規制と火災事例
都市・地域整備局では「地下街」は、道路や駅前広場等の公共用地の地下
に、公共地下歩道を中心として店舗や各種サービス施設等を配置した一体の施設を指して
おり、それに対して、公共用地内の公共地下歩道に面して民有地内に店舗を設ける形態は
「準地下街」と称して区別している1ー24)。
地下街は都市の通路や一段の店舗等が一体的に設けられることから、関連する法規も、
都市計画法、道路法、建築基準法、消防法、ガス事業法にわたっている。
(1)地下街建設と規制(通達)の歴史1ー24)
日本で最初の地下街は。1932 年に東京の地下鉄神田駅で、路線延伸に伴い駅のコンコー
スを利用して建設された「須田町地下鉄ストア」と言われているが、その後、戦争で焼け
野原となった東京銀座一帯の復興に際し、堀の埋立事業に併せて 1952 年に建設された「三
原橋地下街」が戦後初の地下街と言われている。
1950 年代には、公共事業、商業活動が活発化し、地下鉄や地下駐車場、駅前広場の整備
に併せ、道路を占有する形で地下街が整備されていった。1960 年代には、東京駅八重洲地
下街に代表されるような、ショッピングモールとしての性格を持つ大規模な地下街が建設
された。
その後、高度成長のなか、日本各地で地下街の建設が相次いだが、1970 年 4 月に大阪市
天六地下鉄工事現場でガス爆発事故(死者 79 名,負傷者 328 名)、1972 年 5 月に大阪市千
日前デパートで火災事故(死者 118 名,負傷者 81 名)が発生したことがきっかけで、1973
年に4省庁通達(建設省,消防庁,警察庁,運輸省)により「 真にやむを得ないもの
以外の地
下街の新設・増設は今後厳に抑制する」旨の方針が示された。この通達に沿って指導監督
する機関として、中央政府による地下街中央連絡協議会と都道府県および政令指定都市に
よる地下街連絡協議会が設置された。翌 1974 年には「地下街に関する基本方針」が策定さ
れ、地下街の計画・構造・設備に関する具体的な基準が定められたことにより、地下街新
設の動きは低下したが、それでも福岡天神地下街や名古屋セントラルパークが 1970 年代後
半に開設されている。
1980 年 8 月には、静岡駅前地下街においてガス爆発事故(死者 15 名,負傷者 222 名)
が発生し、ガス保安対策の強化策として資源エネルギー庁も加わり、5省庁通達となり「基
本方針」が改正され、より一層地下街に対する規制が強化された。
その後、自治体等からの地下街建設の要望が強いこともあり、1986 年に規制が一部緩和
され、①駅前広場などの拠点区域において、これらと連担性を確保して都市機能の更新を図
る必要がある場合や②積雪寒冷地帯の拠点区域の2つが
真にやむを得ないもの
と認め
られることになり、川崎アゼリア’(1986)やクリスタ長池(1997)など規模の大きな地下街が順
次開設された。図 1.4.1 に地下街の累計延床面積の推移と主な火災事例を示す。1998 年 3
12
第1章
序論
月には、「地下街に関する基本方針」が改正され、延床面積に対する店舗の面積比率や防
火区画制限が緩和された。さらに 2001 年の地方分権推進法の成立とともに地下街中央連絡
協議会は解散し、「基本方針」自体も廃止された。これ以降の地下街の新増設の許認可等に
ついては、建築基準法および消防法等に定める技術的基準の範囲内で、各自治体の判断に
委ねられることになった。参考に、地下街に関する建築基準法と消防法の規定の概要を資
料1に,全国の地下街建設と規制の歴史を資料2に示している。
100
静岡駅前地下街
(1980)
年竣工面積
累積面積
1200
1000
80
800
60
600
40
400
20
200
0
1930 1940 1950 1960
西暦
累積延面積(㎡)
年竣工延面積(㎡)
120
0
1970 1980 1990 2000 2010
大阪天六地下鉄
(1970)
大阪千日前
(1972)
図 1.4.1 地下街の累計床面積の推移と主な火災事例1ー25)
(2) 地下街の火災事例(静岡駅前地下街ガス爆発事故1ー26))
被害
:死 者 15 名,負傷者 223 名
事故日時:1980 年 8 月 16 日(土)
事故場所:静岡県静岡市紺屋町(現・静岡市葵区紺屋町
国鉄(現・JR 東海)静岡駅北口地下街(通称、ゴールデン街)
静岡駅北口駅前地下街は、1970 年頃から周辺ビルの地下階と接続される形で準地下街が
形成され、ゴールデン街と呼ばれていた。1980 年8月16日(土)9時31分にゴールデ
ン街の一角である静岡第一ビルの地下湧水槽に溜まったメタンガスへの引火を契機に都市
ガスのガス管が破損、漏れたガスは地下街に溜まっていき、午前9時56分に2回目の爆
発が起こった。2回目の爆発は大規模なもので、火元となった飲食店の直上にあった雑居
ビルは爆発炎上し、向かいにあった西武百貨店(当時)や周囲に隣接する商店および雑居
ビルなど 163 店舗にガラスや壁面の破損など大きな被害をもたらした。
最近の火災事例としては、1998 年2月に新宿西口地下広場で発生した路上生活者の火災
(死者3名)がある。この火災は居住用に地下通路に持ち込んだダンボールや衣類が急速に
燃え、逃げ遅れた事例である。
13
第1章
序論
【参考文献】
1- 1) 「韓国大邱(テグ)市で発生した地下鉄火災について」、
日本建築学会防火委員会見解(学会ホームページに公開)、2003 年 2 月 19 日(速報)、
20 日(最終版)
1- 2) 山田常圭,鄭 炳表:大邱地下鉄中央路駅火災の概要、火災、Vol.53,No.2,pp.1-8,2003.
1- 3) 森田 武:韓国大邱廣域市地下鉄火災から学ぶ、フェスク、5 月号、pp.11-32,2003.
1- 4) 長谷見雄二、
「都心再開発と地下空間の防災的課題」
、学術の動向,
(財)日本学術協力
財団, 2005.6
1- 5) 松島早苗、渡部勇市「地下鉄火災における駅構内の煙制御に関する研究(その1)
(そ
の2)
」日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿), pp.297-300, 2005.9.
1- 6) 松島早苗、渡部勇市「地下鉄火災における駅構内の煙制御に関する研究(その3)」
日本建築学会大会学術講演梗概集(関東), pp.255-256, 2006.9.
1- 7) 徳永 英、大岩大祐、天野賢志、内山聖士、出口嘉一、水野雅之、大宮喜文、辻本 誠
「模型実験による火災時の駅舎内煙流動性状の把握 ―パッシブセイフティによる地
下鉄駅舎内の気流制御に関する基礎的研究―」日本建築学会環境系論文集 No.616,
pp.9-16, 2007.6
1- 8) (財)日本建築センター「新・建築防災計画指針」, pp.134∼135, 1995.
1- 9) 辻 正矩、柴田利治「避難シミュレーションによる地下街の安全性の検討」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道), pp.731-734, 1986.9.
1-10) 麻生稔彦、佐々野輝敏、朝位孝二「避難者間の情報伝達を考慮した地下街の避難シミ
ュレーション」地下空間シンポジウム論文・報告集第 10 巻, 土木学会, pp.1-10,
2005.1.
1-11) 松田泰治、大久保久哲、樗木 武、大野 勝「地下街における避難開始時間のばらつ
き及び避難誘導者の影響を考慮した避難行動シミュレーションの高度化」地下空間シ
ンポジウム論文・報告集第 10 巻, 土木学会, pp11-20, 2005.1.
1-12) 山田常圭、阿部伸之、須賀昌昭「バーチャルリアリティ技術を用いた火災疑似体験シ
ステムの開発」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東), pp.309-310, 2006.9.
1-13) 北後明彦「避難経路選択に関する実験的研究―スライド提示による一対比較データの
分析を通じて―」日本建築学会論文報告集, 第 339 号, pp.84-89, 1984.5
1-14) 佐藤 歩、西田幸夫、市原 茂、辻本 誠「地下駅舎における出口探索時の行動特性
に関する実験的研究」地下空間シンポジウム論文・報告集 第 13 巻,土木学会,
pp.23-32, 2008.1
1-15) 萩原一郎、北後明彦「地下空間からの避難計画―階段における連続昇降実験」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸), pp.1327-1328, 1992.9.
1-16) 堀内三郎、神 忠久、室崎益輝、淀野誠三「地下街防災対策に関する研究」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸), pp.581-584, 1974.9.
1-17) 文野 洋、西田幸夫、向井希宏、大谷 亮「地下街の照明および出口の制限が避難行
動に与える影響」地下空間シンポジウム論文・報告集 第 7 巻, 土木学会, pp.195-201,
2002.1.
1-18) 若松高志、松下敬幸、山名俊男、桑名秀明、若松孝旺、中山史一、清水成之、小山英
人、中村和人、仲田浩二「地下道における煙の水平伝播性状(その1)(その2)
(そ
の3)
」日本建築学会大会関東支部研究報告集, pp.221-232, 1990.3.
1-19) 熊井 直、山名俊男、桑名秀明、中村和人、若松孝旺「地下街における煙制御に関す
る研究 その5 地下広場における自然排煙の効果」日本建築学会大会学術講演梗概
集(関東), pp.1309-1310, 1993.9.
1-20) 福田晃久、吉澤昭彦、田中哮義、山名俊男、若松孝旺、広田正之「地下広場における
機械排煙の有効性」日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道), pp.127-128, 1995.8.
14
第1章
序論
1-21) 長谷見雄二、森山修治、南 東君「地下鉄火災における煙流動性状(その 1) 日本に
おける地下鉄道火災の事例・研究経緯と地下鉄駅舎の煙流動特性把握の必要性」日本
建築学会大会学術講演梗概集, pp.187-188, 2004.9.
1-22) 運輸省鉄道局 地下鉄道火災事故対策特別研究報告書 1970
1-23) 東京防災指導協会「鉄道車両の実大火災実験調査研究報告書」 1994.
1-24) 渡邊浩司、渡辺剛史、杉森秀司「日本における地下街開発と防災対策の経緯と今後の
取組み」
地下空間シンポジウム論文・報告集 第 15 巻, 土木学会, pp.111-116, 2010.1.
1-25) フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia, http://ja.wikipedia.org/wiki/T, 2010 年 1
月 10 日)の地下街のリストを基に作成し、火災事例を記入した。
1-26) 長田克俊「静岡駅前ゴールデン街ガス爆発事故について」火災, pp.3-8, Vol.30, No.6,
通巻 129, 1980.12.
注1-1) 経済産業省への大規模小売店舗立地法に基づく届出面積
注1-2) 大阪市四ツ橋駅地下鉄駅舎およびトンネル内実験(昭和 47 年 12 月 大阪市消防局)
。
概要は参考文献 1- 23)に紹介されている。
注1-3) 帝都高速度交通営団有楽町線飯田橋駅舎およびトンネル内実験
(昭和 51 年 11 月 (社)
日本火災報知機工業会)。概要は参考文献 1- 23)に紹介されている。
15
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び煙制御の効果
に関する実施設実験
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び煙制御の効果に関する
実施設実験
2.1
実験の目的
日常、交通の用に供されている地下鉄駅を使っての煙流動・煙制御実験には多くの困難
があり、少なくとも運行に影響が生じるおそれのある条件で実験することはできない。こ
のため、実験は運行に影響のない深夜に実施し、火源強度、その他の条件も、施設その他に
影響を残さない範囲とせざるを得ない。一方、地下鉄駅舎のホーム上には火気等、出火危
険の大きい要素は少ない。放火の場合も、個人が駅舎内に持ち込める燃料には限りがあり、
それ自体の火源強度は高々数百 kW程度と考えられる。地下駅ホーム・コンコースでは、区
画のない大規模空間が形成されがちで、燃焼・煙拡大や出火空間避難の負荷が大きくなる
傾向があることを考えると、初期火災を大きく超えない燃焼規模での駅舎内の煙性状の把
握と対策を検討する必要は特に大きい。
本章では実施設を使った煙流動実験を報告するが、実験目的は、以下の2点に絞った。
① 主に火災初期段階の地下鉄駅舎内、特にホーム上の煙性状を確認する。
② 実験と同じ条件で2層ゾーンモデルおよびCFDシミュレーションを実施し、モデルの
チューニングと検証を行うための基礎データを採取する(図2.1.1参照)。
また、実験計画では、地下鉄駅舎の煙流動性状全体に影響を与える可能性のある以下3
点に注視した。
③ 外部風がホーム上の煙流動性状に与える影響。
④ コンコース∼ホーム間階段シャッターがコンコース階,ホーム階の煙流動性状に与え
る影響。
⑤ 排煙がホーム階の煙流動性状に与える影響。
図 2.1.1 実験とシミュレーションの位置づけ
本実験は東京消防庁「地下鉄道火災に対する消防対策検討委員会」2-1)をきっかけに、
東京消防庁の協力を得て、長谷見研究室が中心となって行ったものである。
16
第2章
2.2
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
地下鉄駅舎の分類と実験駅舎の選定
2.2.1
東京都における地下鉄駅舎の状況
東京の地下鉄は、東京都地下鉄株式会社(東京メトロ)による8路線(2008 年から副都心線
が開業し9路線)と東京都交通局による4路線からなる地下鉄ネットワークが形成されてお
り、全国の地下鉄の内、駅数では約 37%(東京 239 駅、全国 650 駅、別路線の同名駅は1駅
としている)、地下鉄道路線の総延長では 40%(東京 304.1km、全国 769.8km)、1 日平均
輸送人員は 59%(東京 7,845 千人、全国 13,402 千人)を占めている(以上、
2005 年度データ)。
地下鉄駅舎は年々、深層化・重層化する傾向にある。平均深さは 1980 年代までに開業し
た地下駅と比べて 1990 年以降に開業した地下駅の地表面からホーム面までの深さは約2倍
(平均深さ、1989 年までに開業した駅:11.4m、1990 年以降に開業した駅:22.1m)とな
っている2-2)3)。図 2.2.1 に東京の地下鉄路線別の地表面から駅ホーム面までの平均深さ注
2-1)
を示すが、開業年につれて駅ホームが深層化していることが見てとれる。新設路線は
地中を走る既存の路線やインフラを避ける必要があるため、必然的に地中深い位置に建設
0
ホーム深さ(m)
5
10
15
20
25
30
図 2.2.1 地下鉄路線別平均ホーム深さ注2-1)
(
)内は開業年を示す
17
副都心線(2008)
大江戸線(2000)
南北線(1991)
半蔵門線(1978)
新宿線(1978)
有楽町線(1974)
千代田線(1969)
三田線(1968)
東西線(1964)
日比谷線(1961)
浅草線(1960)
丸の内線(1954)
銀座線(1927)
されることとなり、避難困難、消防活動困難等が懸念される。
第2章
2.2.2
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
地下鉄駅舎の分類
(1)地下鉄駅舎の構造形態
地下鉄駅舎のホーム形態を車両のホームへの接し方で分類すると、島式・相対式・一線
式・二線式・三線式・四線式の6種類に分類できる。
Platform
Platform
Platform
島式ホーム
相対式ホーム
Platform
Platform
Platform
一線式ホーム
二線式ホーム
Platform
Platform
Platform
Platform
三線式ホーム
四線式ホーム
図 2.2.2 ホーム形態イメージ
18
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
東京には、2009 年時点で地下鉄駅は 284 駅(副都心線の6駅は有楽町線とホームが共有な
ので除く)あるが、そのうちホームが地下にある駅舎は 257 駅あり、島式ホーム駅は 155 駅
で地下駅数の 60%、相対式ホーム駅は 75 駅で 29%となっている。島式・相対式ホーム駅
が東京都内地下駅の約 90%を占め、島式、相対式が地下鉄駅の一般的な形態であると言え
る。地下鉄駅舎の火災安全性を考えるにあたって、この二つの駅舎形態について考えてい
くことが重要となる。
1% 2% 4%
5%
60%
29%
島式
相対式
一線
二線
図 2.2.3 ホーム形態の分類
19
三線
四線
第2章
2.2.3
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
地下鉄駅舎の煙制御システム
地下鉄駅舎の排煙システムとして、ホーム排煙・トンネル排煙・コンコース排煙・コン
コース加圧が上げられる。
ホーム排煙
トンネル排煙
コンコース排煙
コンコース加圧
図 2.2.4 排煙システムイメージ
ホーム排煙
:ホームに侵入した煙を強制的に排気するシステム。ダンパー切り替
えにより常時給気ファンを火災時排煙ファンとして使用する場合も
ある。
トンネル排煙
:トンネル間の換気・排煙運転により煙をトンネル内に吸引し、換気
所で排煙するシステム。特に駅舎下部で火災発生時にトンネルから
の排気により、駅舎出入り口全てが給気側になる場合に有効である。
コンコース排煙
:コンコースに侵入してきた煙を強制的に排気するシステムである。
コンコース加圧給気:遮煙の考え方により、コンコースに給気を行うことでコンコース内
圧力を高め、ホーム階からの煙の侵入を防ぐシステムである。
地下鉄道の排煙容量については、昭和 50 年に運輸省によって通達された「地下鉄道の火
災対策の基準」2-4)5)6)で規定されている。詳細を資料3に示している。
20
第2章
2.3
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
地下鉄駅舎火災実験による煙流動性状把握
2.3.1
実験の全体概要
(1)実験駅舎の選定
地下鉄駅舎は構造形態(図 2.2.2 参照)、煙制御システム(図 2.2.4 参照)、利用形態(単
独、複合用途等)及び管理上の組み合わせで複数のタイプが存在する。今回の実験では以
下の条件を重視し、実験駅舎を選定した。
① 島式・相対式ホーム両者(図 2.2.2 参照)の合計は東京の地下鉄駅舎形態の約9割を占
めているため(図 2.2.3 参照)、島式,相対式ホーム駅をそれぞれ選択する。
② ホーム排煙・トンネル排煙・コンコース排煙、コンコース加圧給気など(図 2.2..4 参
照)複数の煙制御システムが検討できること。
③ モデル化しやすく、実験結果への複合的影響が少ない「単純な駅」であること。
以上の条件から、東京都内の島式駅舎A・島式駅舎B・相対式駅舎Cの3駅舎を選定し、
火災実験を行った(表 2.3.1)。実験対象駅舎の平面概念図を図 2.3.3,図 2.3.7,図 2.3.11 に示す。
表 2.3.1 実験駅舎概要
駅舎名
A駅
B駅
C駅
ホーム
形式
島式
島式
相対式
天井高(m)
2.8
2.5
2.8
煙制御システム
トンネル
ー
排煙
ー
ホーム
排煙
排煙
排煙
コンコース
排煙
給気
排煙
実験日
2003/10/5
2003/10/26
2003/10/12
(2)測定点
火源位置は、ホーム∼コンコース間の階段からの気流の影響を確認するために、階段近
傍に設置した。温度測定点は火源近傍を中心に 50 点(天井面から−50,-300mm,床面から
+1,000,+2,000mm)、風速も温度測定点と同じ平面位置で 20 点(天井面から−50mm,床
面から+1,000mm)測定している。島式ホームA駅の測定点を図 2.3.3、島式ホームB駅の
測定点を図 2.3.7、相対式ホームC駅の測定点を図 2.3.11 に示す
(3)測定スケジュール
実験日は 2003 年の外気や自然風条件の穏やかな中間期(10 月)とした。実験は土曜深夜
から日曜早朝にかけて行い、各駅の終電が通過する午前1時過ぎから実験機器を設置し、
初電が到着する以前の午前5時までに機器を撤去した。
実験はホーム上の階段シャッターの開閉状況やホームおよびコンコースの排煙設備の稼
21
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
動状況をパラメーターにして、火源強度を変化させて実施する。
(4)火源強度
実験火源は正方形(50cm×50cm)鋼製メタノールパンで、1個あたりの平均発熱速度は
開放空間中で 80kW であった。このパンは、実験駅舎の形態や状況にあわせて、2個(160kW),
4個(320kW),6個(480kW)の3種類使用した。複数のアルコールパンを同時に燃焼させ
た場合にも、パンの一辺と同等以上の離隔距離を確保することで火炎合流が起こらず、火
炎片高さやパン単体の発熱量に変化はない。
なお、メタノールパン6個を10分間連続燃焼させると約 22.5 L のメタノールを消費す
る。
図 2.3.1 アルコールパンのレイアウト
表 2.3.2 アルコールパンの1個の発熱量
パンサイズ
燃焼量
比重
cm × cm
cm/秒
g/cm3
KJ/g
KW
50 × 50 0.0025 0.794
16.5
81.9
単位発熱量 パン発熱量
写真 2.3.1 アルコールパン設置の様子
(5)養生計画
厳しい時間的制約のもとで熱気流性状を明確に把握できる火源強度を確保するため
には、火源周辺の駅舎内装・設備類を確実かつ迅速に着脱できる方法で養生することが
重要である。火源上部の天井養生は断熱性が高く扱いが容易なロックウール(厚さ
25mm で熱透過率 1.68W/(㎡・K),製品質量 2.5kg/㎡、900W×3500L 4枚)を L 型アン
グルで補強し、現地で床面から伸縮ポールを用いて天井面に押付け固定した(写真 2.3.2
参照)。天井面機器(行先表示盤等)は事前に寸法を測定し、裁断済みのロックウール
を現地で巻きつけた(写真 2.3.3 参照)。これにより、短時間で十分な天井養生が可能
となった。
22
第2章
写真 2.3.2 天井養生の様子
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
写真 2.3.3 天井機器養生の様子
写真 2.3.4 火源周辺の全体の様子
23
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(6)測定項目、測定機器
主な測定機器を表 2.3.3 に列挙する。
表 2.3.3 測定機器一覧
KANOMAX6621PA 測定範囲:0∼50.0m/s,0∼100℃
トンネル内温度・風速測定
多点風速計
KANOMAX6531
結果をプリントアウト
測定範囲:0∼50.0 m/s
ホーム階温度測定
測定範囲:0∼10.0 m/s
ホーム&コンコース風速測定
高温風速計
データロガーにより記録
測定範囲:0∼30.0 m/s
コンコース階温度測定
Testo452
データロガーにより記録
測定範囲:0∼50.0 m/s,0∼500℃
ホーム階温度測定
データロガーにより記録
KANOMAX6521 測定範囲:0∼30.0 m/s
目視・記録用紙に記録
コンコース階温度測定
24
目視・記録用紙に記録
第2章
超音波風速計測定範囲:0∼60.0m/s,-20∼50℃
外気温度・風速測定
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
微差圧トランスデューサー
データロガーにより記録
ホーム及びコンコース差圧測定
25
データロガーにより記録
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(7)測定機器設置方法
・温度測定機器
K型熱電対(0.32mmΦ)による温度測定点は約 50 点と測定項目の多数を占めるため、
設置方法の簡略化が重要であった。熱電対(高さ方向 4 点)を事前に伸縮ポールに固定
し(写真 2.3.5 参照)、配線(30∼130m)は現地での展開の容易性を考慮し、リール巻き(写
真 2.3.6 参照)とした。測定地点では熱電対付の伸縮ポールを床と天井面に押し付け固定
した。また、熱電対にはソケット型コネクター(写真 2.3.6 参照)を設け、データロガー
接続時間の短縮を図った。
写真 2.3.5 伸縮ポールによる
熱電対・風速計設置の様子
写真 2.3.6 熱電対のリール巻きと
ソケット型コネクターによる
接続の様子
・風速測定機器
熱電対の設置方法と同様に、伸縮ポールへ固定(写真 2.3.5 参照)することや、カメラ用
三脚に設置することで設置時間の短縮を図った。
・差圧測定機器
ホーム階段シャッター閉鎖時のホーム内と階段内の差圧を測定するため、トランスデュ
ーサーの圧力ポートにゴムホースを接続し、一端をホーム階の測定部位に、もう一端を階
段内の測定部位に設置した。
26
第2章
2.3.2
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
各実験駅舎の概要
(1)島式ホームA駅の概要
島式ホームA駅は東京都区部の北に位置しており、周辺は低層建物(2∼5階建)の密集
地域である。A駅の周辺地図を図 2.3.2 に、駅舎平面概念図と各測定点位置を図 2.3.3 に、
断面図を図 2.3.4 に示す。乗降ホーム形式は島式、ホーム長 210m,天井高 2.8m,ホーム排
煙機能力約 130,000m3/hである。この排煙機は常時はホームの換気(給気)に使用されて
おり、火災発生時には、ダンパ開閉によりダクト回路を切り替え排煙ファンとして使用さ
れる構造である(図 2.3.5)。ホーム階の排煙口(700mm×350mm:1個当たりの排煙風量
1,550m3/h)はホーム短辺方向・両線路側に2個ずつ、長辺方向には5mおきに天井面に
計 84 個設置されている。これらの排煙口は常時は給気口として使用されているが、ホーム
火災時には、すべて同時に排煙口として機能する(図 2.3.4)。コンコース階には排煙口
(600mm×300mm:1個当たりの排煙風量 1,115m3/h)が天井面に 21 個設置されている。
トンネル内にも換気ファンが設けられているが、実験の単純化のために実験中は停止させ
た。ホーム上には、コンコースにつながる常用階段が2箇所、非常時の避難専用階段が1
箇所ある。常用階段のコンコース側開口は、改札内に開放されており、そこにはシャッタ
ー等の防火設備は設けられていない。常用階段のホーム側開口(2箇所とも幅 3.4m,高さ
2.8m)には防火シャッターが設けられており、ホーム上で火災が発生した場合には、階段
近傍の火災感知器連動でFL+2.3m(天井高さ−0.5m)まで自動降下する。シャッターを完
全閉鎖するには、現地の手動ボタン操作が必要で、駅係員がホーム上の安全を確認したの
ちに操作することになる。常用階段側面には、常閉の避難扉も併設されている。避難専用
階段は、ホーム側・コンコース側ともに扉は常時閉鎖状態であり、コンコース側の出口は
改札口外に通じる避難専用の階段である。
N
風配図
島式A駅
80
0
60
0
40
0
20
0
0
出入口
屋根上
超音波風速
計設置位置
気象台(大手町) 観測結果 図 2.3.2 島式A駅周辺状況および超音波風速計設置位置
27
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
u
⑬
⑭
⑫
⑪
⑮
コンコース階
シャッター
⑧
ホーム階
出入口
屋根上
⑯
⑨ ⑩
階段からの距離 = 2(m)
シャッター
超音波風速計
設置位置
火源
避難専用階段
①②0③④⑤
⑦
階段からの距離 = 2 7 12 17 22 27(m)
⑥
210m
72 (m)
○内数字は測定点番号を示す。測定高さ:温度 2.75,2.50,2.00,1.00m 風速 2.75,1.00m
図 2.3.3 島式A駅平面概念図および測定点位置図
図 2.3.4 島式A駅断面概念図
(a) 通常時(換気モード)
(b) 火災時(排煙モード)
図 2.3.5 換気兼用排煙システム概念図
28
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
火源設置位置(出火想定場所)は、ホームの常用階段近傍(測定点0,図 2.3.3 参照)で
あり、気温、流速、圧力の分布をホーム階及びコンコース階で測定した。火源位置を階段
近傍としたのは、階段シャッターの遮煙効果を確認するためである。火源としてメタノー
ルを一定時間燃焼(火源強度:実験条件によりアルコールパン4個(320kW),6個(480kW)の
2 種類を選択、図 2.3.1,参照)させ、同時に発煙筒により煙流動も目視観察した。実験概要
とスケジュールを表 2.3.4 に示す。
表 2.3.4 島式A駅実験概要とスケジュール
時間
実験No.
アルコー
階段部
ルパン シャッター
○
機械排煙
ホーム
コンコース
2:21
実験Ⅰ 開始
×
×
終了
2:26
2:36
実験Ⅱ 0
●
×
×
①
320kW
●
×
×
2:38
②
2:41
↓
△
×
×
③
2:44
↓
○
×
×
3:06
実験Ⅲ 0
●
×
×
①
3:08
480kW
●
×
×
②
3:10
↓
●
○
×
③
3:13
↓
△
○
×
④
↓
○
○
×
3:16
3:51
実験Ⅳ 0
●
×
×
①
3:53
480kW
●
×
×
②
3:55
↓
●
○
×
③
3:58
↓
△
○
×
④
4:01
↓
○
○
×
⑤
↓
○
○
○
4:05
終了
消火
4:08
シャッター ○:全開放,△:天井-50cmまで立下げ,●:閉鎖
排煙 ○:稼動 ×:停止
網掛け部はグラフを省略
29
第2章
(2)
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
島式ホームB駅
島式ホームB駅は東京都区部の北西に位置しており、高層マンションや商業施設が立ち
並ぶ地域である。B駅の周辺地図を図 2.3.6 に、駅舎平面概念図と各測定点位置を図 2.3.7、
断面図を図 2.3.8 に示すが、乗降ホーム形式は島式、ホーム長 140m,天井高 2.5m(部分的
に 2.7mの折上天井あり)である。B駅はこの地下鉄路線の終着(始発)駅であり、駅舎西
側の数km先は行き止まり車庫となっている。ホーム・トンネル排煙機の能力は合計約
250,000m3/h(ホーム排煙 96,000m3/h,トンネル排煙 150,000m3/h)である。ホーム
階の排煙口は 2 種類あり、給気口(1,000mm×200mm:1個当たりの排煙風量 800m3/h)
はホーム短辺方向・天井面に2個ずつ、長辺方向には5mおきに天井面に計 47 個設置され
ており、還気口(500mm×250mm:1個当たりの排煙風量 1,070m3/h)はホーム短辺方
向・線路面面に2個ずつ、長辺方向には5mおきに計 54 個設置されており、ホーム火災時
にはダンパ開閉により、すべて排煙口として機能することになる(図 2.3.8, 図 2.3.9)。
Wind Rose
NNW 500
N
NNE
400
NW
NE
300
WNW
200
ENE
100
W
E
0
WSW
ESE
SW
SE
SSW
SSE
S
図 2.3.6 島式B駅周辺状況および超音波風速計設置位置
30
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
○内数字は測定点番号を示す。測定高さ:ホーム温度 2.65,2.45,2.20,2.00,1.00m
コンコース温度 2.45,2.20,2.00,1.00m
図 2.3.7 島式B駅平面概念図および測定点位置図
図 2.3.8 島式B駅断面概念図
31
風速 2.45,1.00m
風速 2.45,1.00m
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
図 2.3.9 換気兼用排煙システム概念図
B駅のコンコース階には、単独の空調機が設けられており、コンコース階空調機の還気ダ
ンパを手動で閉鎖することにより、コンコースを加圧・給気することができる。コンコー
ス階には空調給気口(500mm×250mm:1個当たりの排煙風量 1,070m3/h)が天井面に 29 個
(給気量:約 30,000m3/h)設置されている(図 2.3.8)。コンコース加圧・給気の場合、
ダクト回路上、ホーム排煙を行えず、排煙はトンネル排煙のみとなる。また、この加圧を
おこなった実験Ⅳでは、コンコースの圧力をできるだけ上昇させるために、コンコースか
ら外部への出入口シャッターをすべて閉鎖した。ホーム上には、コンコースにつながる常
用階段が2箇所ある。常用階段のコンコース側開口は、改札内に開放されており、そこに
はシャッター等の防火設備は設けられていない。常用階段のホーム側開口(2箇所とも幅
3.2m,高さ 2.5m)には防火シャッターが設けられており、ホーム上で火災が発生した場合
には、階段近傍の火災感知器連動でFL+2.0m(天井高さ−0.5m)まで自動降下する。シャ
ッターを完全閉鎖するには、現地の手動ボタン操作が必要で、駅係員がホーム上の安全を
確認したのちに操作することになる。常用階段側面には、常閉の避難扉も併設されている。
32
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
表 2.3.5 島式ホームB駅の実験概要とスケジュール
アルコー 階段部
機械排煙
給気
ルパン シャッター ホーム トンネル コンコース
2:30 実験Ⅰ 開始
○
×
×
×
2:33 実験Ⅱ
160kW
○
×
×
×
2:36 実験Ⅲ ①
↓
○
○
○
×
②
2:40
↓
△
○
○
×
③
2:43
↓
●
○
○
終了
2:46
消火
駅舎地上部出入口のシャッターを閉鎖
3:15 実験Ⅳ ①
160kW
○
×
×
×
②
3:17
↓
○
×
×
○
③
3:21
↓
△
×
×
○
④
3:23
↓
●
×
×
○
⑤
3:25
↓
●
×
○
○
⑥
3:29
↓
▲
×
○
○
終了
3:32
消火
シャッター ○:全開放,△:天井-50cmまで立下げ,●:閉鎖
▲:シャッター近傍の階段入口非常扉開放
排煙 ○:稼動 ×:停止
網掛け部はグラフを省略
時間
実験No.
火源設置位置(出火想定場所)は、ホームの常用階段近傍(測定点0)であり、気温、
流速、圧力の分布をホーム階及びコンコース階で測定した。火源位置を階段近傍としたの
は、A駅と同様に階段シャッターの遮煙効果を確認するためである。火源としてメタノー
ルを一定時間燃焼(火源強度:アルコールパン2個(160kW)、図 2.3.1 参照)させ、同時に発
煙筒により煙流動も目視した。実験概要とスケジュールを表 2.3.5 に示す。
33
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(3) 相対式ホームC駅
1)相対式ホームの火災安全上の特徴
相対式ホーム駅舎は、東京都内の地下鉄駅舎形態の 29%を占めており、島式ホーム駅
舎の 60%に次いで多い(図 2.2.3 参照)。相対式ホームは、標準的には上下2本の線路を
挟んで2つのホームが相対している(図 2.2.2 参照)。そのため、火災安全上、島式ホー
ムに関する知見のみでは、以下の点については予測が困難である。
①
対向するホーム上で火災が発生した場合の非火災ホーム側への煙伝播の影響。
②
非火災ホームの避難者の避難行動、特に視認性が火災覚知時間と避難行動開始に及
ぼす影響。
③
島式ホームに比べて、ホーム空間容積が大きいことによる煙伝播への影響と煙制御
システムの有効性。
よって、実験計画では、地下鉄駅舎の煙流動性状全体に影響を与える可能性のある、以
下の3点に注視した。
(ⅰ) 外気のホームへの流入が煙流動性状に及ぼす影響、特に島式ホームに比べて容積が
大きいことの影響。
(ⅱ) コンコース∼ホーム間の階段シャッターがコンコース階,ホーム階の煙流動性状に
与える影響。
(ⅲ) 火災側ホームから対向ホームへの煙伝播状況と煙制御システムの有効性。
2)相対式ホームC駅実験概要
相対式ホームC駅は東京都区部の北に位置しており、周辺は低層建物(2∼5階建)
の密集地域である。C駅の周辺地図を図 2.3.10 に、駅舎平面概念図と各測定点位置を図
2.3.11 に、駅舎断面図を図 2.3.12 に示すが、乗降ホーム形式は上下2本の線路を挟んでホ
ームが2対ある相対式であり、ホーム長 210m,天井高 2.8mである。2つの乗降ホーム
の排煙設備はそれぞれ単独系統になっており、火災側ホームの排煙起動約1分後に対向
ホーム側排煙も自動起動する設定である。ホーム排煙口は両側ホーム天井面に設置され
ており、排煙機能力は両ホーム合計で 160,000m3/hである。この排煙機は常時はホーム
の換気(給気)に使用されており、火災発生時には、ダンパ開閉によりダクト回路を切り
替え排煙ファンとして使用される構造となっている(図 2.3.13)。ホーム階の排煙口
(1,000mm×300mm:1個当たりの排煙風量 1,990m3/h)は両ホーム短辺方向線路側に1個
ずつ、長辺方向には5mおきに片側ホームに 40 個、計 80 個設置されている。これらの
排煙口は常時は給気口として使用されているが、ホーム火災時には、すべて排煙口とし
て機能することになる(図 2.3.12)。コンコース階には排煙口(600mm×300mm:1個当たり
の排煙風量 1,115m3/h)が天井面に 21 個設置されている。トンネル内にも換気ファンが
設けられているが、実験の単純化のために実験中は停止させた。ホーム上には、コンコ
ースにつながる常用階段がホーム片側2箇所ずつ計4箇所、非常時の避難専用階段が片
34
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
側 2 箇所ずつ計4箇所ある。常用階段のコンコース側開口は、改札内に開放されており、
そこにはシャッター等の防火設備は設けられていない。常用階段のホーム側開口(片側2
箇所計4箇所とも幅 3.1m,高さ 2.8m)には防火シャッターが設けられており、ホーム上
で火災が発生した場合には、階段近傍の火災感知器連動でFL+2.3m(天井高さ−0.5m)ま
で自動降下する。シャッターを完全閉鎖するには、現地の手動ボタン操作が必要で、駅
係員がホーム上の安全を確認後したのちに操作することになる。常用階段側面には、常
閉の避難扉も併設されている。避難専用階段は、ホーム側・コンコース側ともに扉は常
時閉鎖状態であり、コンコース側の出口は、北西側2箇所の避難専用階段(図 2.3.11 左側)
が改札内の職員通路に、南東側2箇所の避難専用階段(図 2.3.11 右側)が改札外の職員通路
に通じている。
N
Wind Rose
NNW
400
NNE
300
NW
NE
200
WNW
EN
100
W
E
0
WSW
ES
SW
SE
SSW
SSE
S
図 2.3.10 相対式C駅周辺状況および超音波風速計設置位置
35
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
○内数字は測定点番号を示す。測定高さ:温度 2.75,2.50,2.00,1.00m 風速 2.75,1.00m
図 2.3.11 相対式C駅平面概念図および測定点位置図
図 2.3.12 相対式C駅断面概念図
(a) 通常時(換気モード)
(b) 火災時(排煙モード)
図 2.3.13 換気兼用排煙システム概念図
36
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
火源位置(出火想定場所)はホームの常用階段近傍(測定点0)であり、気温、流速、圧
力の分布をホーム階及びコンコース階で測定した。火源位置を階段近傍としたのは、階
段シャッターの遮煙効果の確認を容易にするためである。ホーム階の測定点①,②は火源
から 5m、③は 10m、④は 15m、⑥は 55m 離れており、⑤,⑦,⑧は階段より遠方である。⑬
は対向ホーム上で火源の正面に位置する(図 2.3.11)。火源はメタノールを一定時間燃焼
(火源強度:実験条件によりアルコールパン4個(320kW),6個(480kW)の 2 種類を選択、
図 2.3.1,参照)させ、同時に発煙筒により煙流動も目視観察した。実験概要とスケジュ
ールを表 2.3.6 に示す。
表 2.3.6 相対式C駅の実験概要とスケジュール
時間
アルコー 階段部
ルパン シャッター
実験Ⅰ 開始
○
実験No.
機械排煙
ホーム
コンコース
1:57
×
終了
2:02
2:14
実験Ⅱ 0
●
×
①
2:16
320kW
●
×
②
2:18
↓
△
×
③
2:21
↓
○
×
終了
2:24
消火
2:43
実験Ⅲ 0
●
×
①
2:45
480kW
●
×
②
2:47
↓
●
○
③
2:50
↓
△
○
④
2:53
↓
○
○
終了
2:57
消火
3:28
実験Ⅳ 0
●
×
①
3:30
480kW
●
×
②
↓
●
○
3:32
③
↓
△
○
3:35
④
3:38
↓
○
○
⑤
↓
○
○
3:42
終了
消火
3:45
シャッター ○:全開放,△:天井-50cmまで立下げ,●:閉鎖
排煙 ○:稼動 ×:停止
網掛け部はグラフを省略
37
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
○
第2章
2.4
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
実験結果
2.4.1 島式ホームA駅の実験結果
(1)外部風向・風速・温度測定結果(図 2.3.2,図 2.4.1)
超音波風速計は地下鉄出入口の屋根上(地表面+約3m)に設置した。外部温度は 17.8℃
(東京管区気象台:東京都千代田区大手町(以下、大手町と略す)で 16.6℃),主風向はN
W∼WNW,平均風速 0.5∼0.7m/s(大手町:測定高さ 74.5mで主風向NNW,平均風速
2.3∼3.0m/s)。外部温度・風向・風速は実験を通じてほぼ一定であり、地表面近くでは道路
に沿って弱風が吹いている状態であった(外部風向は図 2.3.2、外部風速・温度は図 2.4.1 参
18
1.0
17
0.8
16
0.6
15
外部温度
外部風速
14
13
実験Ⅰ
実験Ⅱ
実験Ⅲ
図 2.4.1 外部風速および外部温度測定結果
38
0.4
0.2
0.0
実験Ⅳ
風速(m/s)
温度(℃)
照)。
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(2)風速測定結果(図 2.4.3(a)∼(i))
風速の報告値は状態安定後 1 分間の区間平均である(図 2.4.2 参照)。風速測定点は、コン
コース階 FL+1.0m,ホーム階 FL+2.75m,1.0mである。ホーム階の風速は、燃焼なし・排
煙なし・シャッター閉鎖状態で FL+2.75m,1.0mともに無風状態(測定点②FL+1.0mのみ
0.6m/s :図 2.4.3(a)実験Ⅳ0)であったが、シャッター閉鎖の状態でアルコールを燃焼させ
ると、FL+2.75m,1.0mともに風速が②③⑤点で 1.0m/s 程度に増加した(図 2.4.3(c) 実験Ⅳ
①)。燃焼状態でシャッターを開放すると、FL+2.75mで③点、FL+1.0mで①②⑧点の風速
が 1.0m/s 以上となる(図 2.4.3(b) 実験Ⅱ③)。燃焼かつシャッター閉鎖状態でホーム排煙を
作動させると、測定点⑤の FL+2.75mで風速が 3m/s まで増加するが、他の点はホーム排煙
なしの場合と大きな差異はない(図 2.4.3(d) 実験Ⅳ②)。さらに燃焼・シャッター開放状態
でホーム排煙を作動させると、FL+2.75mの測定点⑤で風速が 5m/s まで増加し、FL+1.0m
の①②点の風速は 6∼9m/s に増加する(図 2.4.3(f) 実験Ⅳ④)。シャッター全開(図 2.4.3(f) 実
験Ⅳ④)と半開(図 2.4.3(e) 実験Ⅳ③:シャッター下端高さ天井面-0.5m)で風速分布に差
異はない。FL+2.75mで⑤点の風速値は他点に比べて相対的に大きくなっているが、この特
徴は実験Ⅳ0 やⅡ③では見られないため、火源強度変化の影響も考えられる。コンコース排
煙を稼動させてもホーム上の風速値はほとんど変化しない(実験Ⅳ④とⅣ⑤の比較)。
区間平均
1.5
1.0
0.5
図 2.4.2
実験Ⅳ
着火前後の風速変化(測定点③)
39
2分00秒
1分30秒
時刻
1分00秒
30秒
着火
0.0
30秒前
風速(m/s)
2.0
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速(m/s)
3.0
FL+2.75m
FL+1.00m
2.0
1.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
測定位置
図 2.4.3(a)
実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
風速(m/s)
3.0
FL+2.75m
FL+1.00m
2.0
1.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
測定位置
図 2.4.3(b) 実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
風速(m/s)
3.0
FL+2.75m
FL+1.00m
2.0
1.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
測定位置
図 2.4.3(c) 実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
40
⑥
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速(m/s)
3.0
FL+2.75m
FL+1.00m
2.0
1.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
測定位置
図 2.4.3(d) 実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
風速(m/s)
9.0
FL+2.75m
FL+1.00m
6.0
3.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
測定位置
図 2.4.3(e) 実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
風速(m/s)
9.0
FL+2.75m
FL+1.00m
6.0
3.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
測定位置
図 2.4.3(f) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
41
⑥
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速(m/s)
9.0
FL+2.75m
FL+1.00m
6.0
3.0
0.0
⑧
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
測定位置
図 2.4.3(g) 実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅰ
実験Ⅱ③
実験Ⅳ0
実験Ⅳ①
実験Ⅳ④
風速(m/s)
1.5
1.0
0.5
0.0
⑭
⑬
⑪
⑨
⑩
⑫
⑮
⑯
測定位置
風速(m/s)
図 2.4.3(h) 実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
実験Ⅱ③
実験Ⅳ0
実験Ⅳ①
実験Ⅳ④
実験Ⅳ⑤
⑭
⑬
⑪
⑨
⑩
⑫
⑮
測定点
図 2.4.3(i) 実験別コンコース階風速(FL+2.75m)
42
⑯
⑧
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
コンコース階 FL+1.0m(図 2.4.3(h))の風速は、ホーム階への階段シャッターを開放する
と改札口近傍(⑨⑩⑪⑫点)で、無風状態(0.3m/s 以下)から 1.0m/s 近くに増加する(実
験Ⅳ0,Ⅳ①と実験Ⅱ③,Ⅳ④の比較)。外部出入口近傍(⑬⑭⑮⑯点)の風速は階段シャッ
ター開閉の影響はなく 0.3∼0.7m/s に分布している。
(2)温度測定結果(図 2.4.5(a)∼(h))
温度の報告値は状態安定後 1 分間の区間平均である(図 2.4.4)。アルコール燃焼前のホー
ム階全体の温度は全体的に約 25℃均一であった(図 2.4.5(a) 実験Ⅳ0)。シャッター閉鎖状態
でアルコールを燃焼させる(図 2.4.5(c) 実験Ⅳ①)と、火源直上部の温度は 140℃まで上昇
する(0 点 FL+2.75m)。火源近傍(①②③④点)の FL+2.75mの温度が 60∼80℃,FL+2.50
mの温度が 55∼70℃,FL+2.0m,1.0mの温度が約 25℃であることから、煙層下端高さは
FL+2.0mと FL+2.5mの間に位置していると考えられる。この状態で⑥⑦⑧点に温度上昇は
認められない。火源からの距離減衰以外に、階段等のホーム上構造体のブロック効果が考
えられる。この温度分布は、シャッター閉鎖状態で排煙を作動させても大きな変化はない
(図 2.4.5(d) 実験Ⅳ②)。排煙作動状態でシャッターを開放すると、火源直上部の温度は約
80℃まで低下するが、③④点 FL+2.0mの温度は 40℃まで上昇し、火源の影響がホーム階の
広い範囲に蔓延する(図 2.4.5(f) 実験Ⅳ④)。シャッター半開と全開とでホーム階の温度分
布にほとんど差異はない(図 2.4.5(e) 実験Ⅳ③と図 2.4.5 (f) 実験Ⅳ④の比較)。発熱量は異
なるが、シャッター開放状態で排煙なし(図 2.4.5(b) 実験Ⅱ③:320kW)と排煙あり(図 2.4.5(f)
実験Ⅳ④:480kW)とで温度分布にあまり差異はない。実験中、コンコースの温度に変化は
見られなかった(図 2.4.5(h))。
100
60
区間平均
40
20
図 2.4.4
実験Ⅳ
着火前後の温度変化(測定点③)
43
2分00秒
1分30秒
時刻
1分00秒
着火
30秒
0
30秒前
温度(℃)
80
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
温度(℃)
40
30
20
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
10
0
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
⑥
測定点
温度(℃)
図 2.4.5(a) 実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
150
120
90
60
30
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
⑥
測定点
図 2.4.5(b) 実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
温度(℃)
150
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
120
90
60
30
0
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
測定点
図 2.4.5(c) 実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
44
⑥
温度(℃)
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
150
120
90
60
30
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
⑥
測定点
図 2.4.5(d) 実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
温度(℃)
150
120
90
60
30
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
⑥
測定点
図 2.4.5(e) 実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
150
120
90
60
30
0
温度(℃)
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
測定点
図 2.4.5(f) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
45
⑥
温度(℃)
第2章
150
120
90
60
30
0
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
①
②
0
③
④
⑤
⑥
測定点
図 2.4.5(g) 実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:480kW)
温度(℃)
40
30
20
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
10
0
Ⅰ
Ⅱ
Ⅳ0
Ⅳ①
Ⅳ②
実験
図 2.4.5(h) 実験別コンコース階温度
46
Ⅳ③
Ⅳ④
Ⅳ⑤
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
写真 2.4.4 ホーム上の煙層高さ
(実験Ⅳ②:人の高さより上部にある)
写真 2.4.1 実験前の火源近傍の様子
写真 2.4.5 ホーム上の煙層高さ
(実験Ⅳ④:人の高さ以下に降下した状態)
写真 2.4.2 実験中の火源近傍の様子
(実験Ⅱ③:階段シャッター開放状態)
写真 2.4.3 実験中の火源近傍の様子
(実験Ⅳ①:階段シャッター閉鎖状態)
写真 2.4.6 ホーム上の煙層高さ
(ほぼ床面まで降下した状態)
47
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
2.4.2 島式ホームB駅の実験結果
(1)外部風向・風速・温度測定結果(図 2.3.6、図 2.4.6)
超音波風速計は地下鉄駅舎直上部の幹線道路中央分離帯上(地表面+約1m)に設置し
た。外部温度は 13.9℃(大手町:14.5℃),主風向はWNW∼W,平均風速 0.4∼0.6m/s(大
手町:測定高さ 74.5mで主風向NNE,平均風速 2.2∼3.5m/s)。外部温度・風向・風速は
実験を通じてほぼ一定であり、地表面近くでは道路に沿って弱風が吹いている状態であっ
た(外部風向は図 2.3.6、外部風速・温度は図 2.4.6 参照)。
17
温度(℃)
1.0
外部風速
外部温度
0.8
16
0.6
15
0.4
14
0.2
13
実験Ⅰ
実験Ⅱ
実験Ⅲ
風速(m/s)
18
0.0
実験Ⅳ
図 2.4.6 外部風速および外部温度測定結果
(2)ホーム・トンネル排煙作動時の実験結果
1)風速測定結果(図 2.4.8(a)∼(g))
風速の報告値は状態安定後 1 分間の区間平均である(図 2.4.7 参照)。
10.0
6.0
区間平均
4.0
2.0
図 2.4.7
実験Ⅱ
着火前後の風速変化(測定点①)
48
2分00秒
1分30秒
時刻
1分00秒
30秒
着火
0.0
30秒前
風速(m/s)
8.0
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速測定点は、コンコース階 FL+1.0m,ホーム階 FL+2.45m,1.0mである。ホーム階
の風速は、燃焼なし・排煙なし・シャッター開放状態では FL+1.0m,2.45mともにほと
んど同じ風速分布を示しており、①②③④点で 1m/s、⑥点で無風状態、⑤点では FL+2.45
mで 1m/s、FL+1.0mで 2m/s である(図 2.4.8(a) 実験Ⅰ)。
アルコールを燃焼させると、FL+2.45m の火源近傍①点の風速が 8m/s に増加したが、
②③④⑤⑥点の風速は FL+2.45m、1.0mともに燃焼前と大きな変化はない(図 2.4.8(b) 実
験Ⅱ)。シャッター開放・燃焼状態で排煙を作動させると、FL+2.45mの②③④⑤点の風
速は 4m/s 程度に増加し、
①点の風速は 6m/s 程度になる。FL+1.0mの風速は、③点で 4m/s,
②点で 7m/s 近く,①④点で 8m/s 以上に増加する(図 2.4.8(c) 実験Ⅲ①)。シャッターを
半開(シャッター下端:天井面-0.5m)にすると、FL+2.45mの風速は、①⑤点で 1.3m/s
まで低下するが、②③④⑥点の風速はシャッター全開時と大きな差異はない。FL+1.0m
の風速は、シャッター全開時に比べて①②⑤点の風速が 1∼2m/s 増加し、①点では 9m/s
まで上昇している(図 2.4.8(d)実験Ⅲ②)。シャッターを閉鎖すると①点の FL+2.45m(風
速 5.3m/s)を除きすべての測定点で 2m/s 以下に減少する(図 2.4.8(e) 実験Ⅲ③)。
コンコース階 FL+1.0m(図 2.4.8(f))の風速は、ホーム階への階段シャッター開放状態で
排煙を作動させると、⑦点の風速が7∼8m/s に増加するが、他点の風速にあまり変化が
ない(実験Ⅲ①②と実験Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ③比較)。
3.0
FL+2.45m
FL+1.00m
風速(m/s)
2.0
1.0
0.0
③
②
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.8(a) 実験Ⅰ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:なし)
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.8(b) 実験Ⅱ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:160kW)
49
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
風速(m/s)
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.8(c) 実験Ⅲ①(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.8(d) 実験Ⅲ②(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.8(e) 実験Ⅲ③(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
50
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
12.0
実験Ⅰ
実験Ⅱ
実験Ⅲ①
実験Ⅲ②
実験Ⅲ③
風速(m/s)
9.0
6.0
3.0
0.0
⑪
⑦
⑧
測定点
⑬
風速(m/s)
図 2.4.8(f) 実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
実験Ⅰ
実験Ⅱ
実験Ⅲ①
実験Ⅲ②
実験Ⅲ③
⑪
⑦
⑧
測定点
⑬
図 2.4.8(g) 実験別コンコース階風速(FL+2.45m)
2)温度測定結果(図 2.4.10(a)∼(g))
温度の報告値は状態安定後 1 分間の区間平均である(図 2.4.9 参照)。
80
区間平均
40
20
図 2.4.9
実験Ⅱ
着火前後の温度変化(測定点①)
51
2分00秒
1分30秒
時刻
1分00秒
30秒
着火
0
30秒前
温度(℃)
60
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
アルコール燃焼前のホーム階の温度は全体的に約 24∼27℃でほぼ均一であった(図
2.4.10(a) 実験Ⅰ)。シャッター開放状態でアルコールを燃焼させると、火源直上部の温度
は 90℃近くまで上昇する(0 点 FL+2.45m)。火源近傍①点 FL+2.45mの温度が約 75℃,
②④点で約 50℃である。①点 FL+2.20mの温度が約 50℃,①②④点 FL+2.0mの温度が 30
∼40℃,FL+1.0mの温度が①点で 28℃、②③④点も約 26℃で約1℃程度上昇しているこ
とから、明確な煙層は形成されず、シャッター開放時にはホーム全体に熱が撹拌されて
いると考えられる(図 2.4.10(b) 実験Ⅱ)。シャッター開放条件でホーム・トンネル排煙を
作動させると、火源直上0点および近傍①④点の温度はほぼ 25℃以下まで下降するが、
②③点の温度は逆に 35∼50℃まで上昇する(図 2.4.10(c) 実験Ⅲ①)。
シャッター全開と半開とでホーム階の温度分布にほとんど差異はない(図 2.4.10(c) 実験
Ⅲ①と図 2.4.10(d) 実験Ⅲ②の比較)。
温度(℃)
40
30
20
FL+2.65m
FL+2.00m
10
FL+2.45m
FL+1.00m
FL+2.20m
0
③
②
0
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.10(a) 実験Ⅰ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:なし)
150
120
90
60
30
0
温度(℃)
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
①
④
⑥
測定点
図 2.4.10(b) 実験Ⅱ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:160kW)
52
⑤
温度(℃)
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
150
120
90
60
30
0
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
①
測定点
④
⑥
⑤
図 2.4.10(c) 実験Ⅲ①(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
150
120
90
60
30
0
温度(℃)
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
測定点
①
④
⑥
⑤
温度(℃)
図 2.4.10(d) 実験Ⅲ②(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
150
120
90
60
30
0
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.10(e) 実験Ⅲ③(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
53
温度(℃)
第2章
40
30
20
10
0
FL+2.45m
FL+2.00m
Ⅰ
Ⅱ
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
FL+2.20m
FL+1.00m
実験
Ⅲ①
Ⅲ②
Ⅲ③
温度(℃)
図 2.4.10(f) 実験別コンコース階温度(測定点⑦)
40
30
20
10
0
FL+2.45m
FL+2.00m
Ⅰ
Ⅱ
FL+2.20m
FL+1.00m
実験
Ⅲ①
Ⅲ②
Ⅲ③
図 2.4.10(g) 実験別コンコース階温度(測定点⑧)
3)圧力測定結果(図 2.4.11)
コンコースの静圧は「シャッター開放及びホーム・トンネル排煙作動時(実験Ⅲ①)」
に外部に対して約−1Pa になり、
「シャッター閉鎖及びホーム・トンネル排煙作動時(実
験Ⅲ③)」にホームに対して約+10Pa となる。
コンコース階-外部
コンコース階-ホーム階
差圧(Pa)
40
30
20
10
0
-10 Ⅰ
-20
Ⅱ
Ⅲ①
Ⅲ②
Ⅲ③
実験
図 2.4.11 実験別 コンコ-ス階-外部/コンコース階-ホーム階 差圧
54
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(3)コンコース加圧作動時の実験結果
島式B駅では、コンコース漏煙防止策の一つとしてコンコース加圧の可能性を検討した。
この実験では、コンコース空調設備のダンパを切替え、コンコースに給気した(給気量
30,000m3/h)が、2.3.2(2)章で記述したように、ダクト回路上、加圧給気する場合にはホ
ーム排煙を行えず、排煙はトンネル排煙(150,000m3/h)のみとなる。また、この実験では、
コンコースの圧力を上昇させるために、コンコースから外部への出入口をすべて閉鎖した。
1)風速測定結果&温度測定結果(図 2.4.12∼図 2.4.18)
階段シャッター開放・アルコール燃焼時のホーム階の風速・温度分布は、実験Ⅱと大
きな差異がない(風速は図 2.4.8(b)と図 2.4.12(a)の比較、温度は図 2.4.10(b)と図 2.4.12(b)の
比較)。シャッター開放・燃焼状態でコンコースに給気してもホーム階の風速・温度分布
に大きな変化はない(図 2.4.13(a)(b)実験Ⅳ②)。シャッター半開状態(シャッター下端:天
井面-0.5m)は、ホーム上の風速・温度分布ともに全開状態と比べて大きな変化はない(図
2.4.14(a)(b)実験Ⅳ③)。コンコース給気・燃焼状態で階段シャッターを閉鎖すると、火源
直上部(0 点 FL+2.45m)の温度は 77℃から 100℃まで上昇し、①点 FL+2.20m,2.0mの温
度は 20K 近く上昇する(FL+2.20m:52℃⇒69℃,FL+2.0m:36℃⇒56℃)(図 2.4.15(b))実
験Ⅳ④)。①点 FL+2.45mの風速は 9.2m/s から 7.0m/s に低下する(図 2.4.15(a)実験Ⅳ④)。
トンネル排煙の有無はホーム温度にほとんど影響を与えない(図 2.4.16(b)実験Ⅳ⑤)。
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
④
⑥
⑤
測定点
温度(℃)
図 2.4.12(a) 実験Ⅳ①(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:停止、火源:160kW)
150
120
90
60
30
0
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
測定点
①
④
⑥
⑤
図 2.4.12(b) 実験Ⅳ①(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:停止、火源:160kW)
55
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
風速(m/s)
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
測定点
④
⑥
⑤
温度(℃)
図 2.4.13(a) 実験Ⅳ②(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
150
120
90
60
30
0
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
測定点
①
④
⑥
⑤
図 2.4.13(b) 実験Ⅳ②(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
測定点
④
⑥
⑤
温度(℃)
図 2.4.14(a) 実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
150
120
90
60
30
0
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
①
④
⑥
⑤
測定点
図 2.4.14(b) 実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
56
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
測定点
④
⑥
⑤
温度(℃)
図 2.4.15(a) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:閉鎖、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
150
120
90
60
30
0
③
②
0
測定点
①
④
⑥
⑤
図 2.4.15(b) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:閉鎖、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
風速(m/s)
12.0
FL+2.45m
FL+1.00m
9.0
6.0
3.0
0.0
③
②
①
測定点
④
⑥
⑤
温度(℃)
図 2.4.16(a) 実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:閉鎖,コンコース加圧:稼動,トンネル排煙:稼動,火源:160kW)
150
120
90
60
30
0
FL+2.65m
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
③
②
0
測定点
①
④
⑥
⑤
図 2.4.16(b) 実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:閉鎖,コンコース加圧:稼動,トンネル排煙:稼動,火源:160kW)
57
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速(m/s)
3.0
実験Ⅳ0
実験Ⅳ①
実験Ⅳ②
実験Ⅳ③
実験Ⅳ④
実験Ⅳ⑤
2.0
1.0
0.0
⑪
⑦
測定点
⑧
⑬
図 2.4.17(a) 実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
風速(m/s)
3.0
実験Ⅳ0
実験Ⅳ①
実験Ⅳ②
実験Ⅳ③
実験Ⅳ④
実験Ⅳ⑤
2.0
1.0
0.0
⑪
⑦
測定点
⑧
⑬
図 2.4.17(b) 実験別コンコース階風速(FL+2.45m)
温度(℃)
40
30
20
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
10
0
Ⅰ
Ⅳ①
Ⅳ②
Ⅳ③
Ⅳ④
Ⅳ⑤
Ⅳ⑥
実験
図 2.4.18(a) 実験別コンコース階温度(測定点⑦)
温度(℃)
40
30
20
FL+2.45m
FL+2.20m
FL+2.00m
FL+1.00m
10
0
Ⅰ
Ⅳ①
Ⅳ②
Ⅳ③
Ⅳ④
Ⅳ⑤
実験
図 2.4.18(b) 実験別コンコース階温度(測定点⑧)
58
Ⅳ⑥
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
コンコース測定点⑦の温度(図 2.4.18(a))は、シャッター開放時に 30℃以上に上昇し(実
験Ⅳ①②③)
、シャッター閉鎖で降下する(実験Ⅳ④⑤⑥)
。
2)圧力測定結果(図 2.4.19)
トンネル排煙を伴わないコンコース加圧のみの場合(実験Ⅳ②∼Ⅳ④)では、コンコー
ス∼ホーム間には差圧が生じない。コンコース∼ホーム間差圧はシャッター閉鎖時にト
ンネル排煙を作動させると、コンコースがホームに対して約+10Pa(実験Ⅳ⑤)になり、
ホーム階段横にある避難扉を開放するとコンコース∼ホーム間差圧は+5Pa(実験Ⅳ⑥)
に低下する。コンコース∼外部間差圧は実験を通じて±0Pa で変化がない。これはコン
コースが加圧されているよりも、トンネル排煙によりホーム階が減圧されていることを
示している。
差圧(Pa)
40
コンコース階-外部
30
コンコース階-ホーム階
20
10
0
Ⅳ③ Ⅳ④ Ⅳ⑤
-10 Ⅳ① Ⅳ②
-20
Ⅳ⑥
実験
図 2.4.19 実験別 コンコ-ス階-外部/コンコース階-ホーム階 差圧
59
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(実験Ⅱ:ホームからコンコース階段室への
上昇気流が発生。煙がコンコースへ流動)
(実験Ⅲ①:コンコース階段室からホームへの
下降気流が発生。煙がホームに押し戻される)
写真 2.4.7 実験中の火源近傍:排煙なし
写真 2.4.8 実験中の火源近傍:ホーム及びトンネル排煙時
(実験Ⅳ③:コンコース階段室からホームへの
下降気流が発生するが、ホーム及びトンネル排煙時
ほどではない。)
写真 2.4.9 実験中の火源近傍:階段シャッター半開及びコンコース給気
60
(階段シャッター閉鎖時)
写真 2.4.10 実験中の火源近傍
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
2.4.3 相対式ホームC駅の実験結果
(1)外部温度・風向・風速測定結果(図 2.3.10,図 2.4.20)
超音波風速計は地下鉄出入口近傍に駐車したトラック屋根上(地表面+約3m)に設置
した。外部温度は 18.5℃,主風向はNNW,平均風速 0.7∼0.8m/s(東京管区気象台(大
手町)で 17.5℃,測定高さ 74.5mで主風向NNW,平均風速 2.5∼4.0m/s)。外部温度・風
向・風速ともに実験を通じてほぼ一定であり、地表面近くでは道路に沿って弱風が吹いて
20
1.0
19
0.8
0.6
18
0.4
外部温度
外部風速
17
16
実験Ⅰ
0.2
実験Ⅱ
実験Ⅲ
外部風速(m/s)
外部温度(℃)
いる状態であった(外部風向は図 2.3.10 参照、外部風速・温度は図 2.4.20)。
0.0
実験Ⅳ
図 2.4.20 外部風速および外部温度測定結果
(2)風速測定結果(図 2.4.22(a)∼(j))
風速の報告値は状態安定後 1 分間の区間平均である(図 2.4.21 参照)。
区間平均
1.0
0.5
図 2.4.21
実験Ⅳ
着火前後の風速変化(測定点②)
61
2分00秒
1分30秒
時刻
1分00秒
30秒
着火
0.0
30秒前
風速(m/s)
1.5
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速測定点は、コンコース階 FL+1.0m,ホーム階 FL+2.75m,1.0mである。ホーム階の
風速は、燃焼なし・排煙なし・シャッター閉鎖状態で FL+2.75m,1.0mともにほぼ無風状
態(図 2.4.22(a) 実験Ⅳ0)であるが、シャッター閉鎖状態でアルコールを燃焼させると、
FL+2.75mでは②③点で 0.8m/s,⑤⑦点で 0.6m/s に風速が増加し、FL+1.0mでは②③点で
0.6m/s に風速が増加する(図 2.4.22(c) 実験Ⅳ①)。燃焼状態でシャッターを開放すると、
FL+2.75mでは②③点で 1.3m/s,④点で 0.8m/s まで風速が増加し、FL+1.0mでは①点で
1.1m/s まで風速が増加する(図 2.4.22(b) 実験Ⅱ③)。燃焼かつシャッター閉鎖状態でホーム
排煙を作動させると、FL+2.75mでは⑤点で 1.1m/s まで風速が増加し、FL+1.0mでは⑥点
で 1.0m/s まで風速が増加するが、他の点はホーム排煙なしの場合と大きな差異はない(図
2.4.22(d) 実験Ⅳ②)。さらに燃焼・シャッター開放状態でホーム排煙を作動させると、
FL+2.75mでは②③点で 1.3m/s 程度まで風速が増加し、FL+1.0mでは①点で 1.5m/s まで風
速が増加するが、②③④点で 0.3m/s まで風速が減少する(図 2.4.22(f) 実験Ⅳ④)。シャッ
ター全開(図 2.4.22(f) 実験Ⅳ④)と半開(図 2.4.22(e) 実験Ⅳ③:シャッター下端高さ天井
面-0.5m)で風速分布にほとんど差異はない。①点 FL+2.75m の風速は、燃焼なしではシャ
ッター開閉に関わらず 0.5m/s 以下(図 2.4.22(a) 実験Ⅳ0, 図 2.4.22(h) 実験Ⅰ)であるが、
燃焼時にはシャッター閉鎖時に 1.5m/s まで増加し(図 2.4.22(c) 実験Ⅳ①)、シャッター開
放とともに 0.5m/s まで減少する(図 2.4.22(b) 実験Ⅱ③)。排煙時にはシャッター状態に関
わらず 1.3m/s 程度である(図 2.4.22(d)実験Ⅳ②, 図 2.4.22 (f) 実験Ⅳ④)
風速(m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(a) 実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
風速(m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(b) 実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
62
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
風速(m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(c) 実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
風速(m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(d) 実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
風速(m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(e) 実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
63
第2章
風速(m/s)
2.0
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(f) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
風速( m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.22(g) 実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:480kW)
風速(m/s)
2.0
FL+2.75m
FL+1.00m
1.5
1.0
0.5
0.0
⑧
⑦
⑤
①
②
③
④
測定点
図 2.4.22(h) 実験Ⅰ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:なし)
64
⑥
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
コンコース階 FL+1.0m(図 2.4.22(i))の風速は、ホーム階への階段シャッターを開放する
と無風状態から 0.5m/s 近くに全体的に増加する(実験Ⅱ③)。ホーム排煙を作動させると、
コンコース階の風速はさらに増加し、0.5∼1.2m/s 程度まで増加する(実験Ⅳ④)
。
風速(m/s)
2.0
実験Ⅰ
実験Ⅳ0
実験Ⅳ④
1.5
実験Ⅱ③
実験Ⅳ①
1.0
0.5
0.0
⑪
⑯
⑩
⑫
⑨
⑰
⑱
測定点
図 2.4.22(i) 実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
風速(m/s)
2.0
実験Ⅰ
実験Ⅱ③
実験Ⅳ0
実験Ⅳ①
実験Ⅳ④
1.5
1.0
0.5
0.0
⑪
⑯
⑩
⑫
⑨
測定点
図 2.4.22(j) 実験別コンコース階風速(FL+2.75m)
65
⑰
⑱
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(3)温度測定結果(図 2.4.24(a)∼(i))
温度の報告値は状態安定後 1 分間の区間平均である(図 2.4.23 参照)。
アルコール燃焼前のホーム階の温度はほぼ全面的に約 25℃であった(図 2.4.24(a) 実験Ⅳ
0)。シャッター閉鎖状態でアルコールを燃焼させると、火源直上部(0 点 FL+2.75m)の温度
は 130℃まで上昇する。火源近傍(①②③⑤点)の FL+2.75mの温度が 40∼80℃,FL+2.50m
の温度が 30∼80℃,FL+2.0mの温度が①点で 60℃,②点で 35℃、③⑤点で 25℃、FL+1.0
mの温度がほぼ全体的に約 25℃であることから、煙層下端高さは FL+2.0m前後に位置して
いたと考えられる。④点および階段に挟まれた⑦点 FL+2.75mの温度は 30℃程度まで上昇
している。対向ホーム側火源正面⑬点 FL+2.75m,2.50mの温度も 30℃近くまで上昇して
いる(図 2.4.24(c) 実験Ⅳ①)。この温度分布は、シャッター閉鎖状態で排煙を作動させても
大きな変化はない(図 2.4.24(d) 実験Ⅳ②)。排煙作動状態でシャッターを開放すると、火源
直上部(0 点 FL+2.75m)温度は約 113℃に、①点 FL+2.75mの温度は 60℃に低下するが、②
点および③点 FL+2.75mの温度はそれぞれ 70℃から 85℃,50℃から 65℃に上昇する。⑤点
FL+2.0mの温度も 35℃から 42℃に上昇する。対向ホーム側(⑬点)FL+2.75mの温度も 35℃
まで上昇している(図 2.4.24(f) 実験Ⅳ④)。シャッター全開(図 2.4.24(f) 実験Ⅳ④)と半開(図
2.4.24(e) 実験Ⅳ③:シャッター下端高さ天井面-0.5m)とではホーム階の温度分布にほとん
ど差異はない。シャッター開放状態で排煙なし(図 2.4.24(b) 実験Ⅱ③:320kW)と排煙あり(図
2.4.24(f) 実験Ⅳ④:480kW)とを比較すると、実験Ⅳ④の方が 20∼30℃程度温度が高いもの
の温度分布にあまり差異はない。また実験中、コンコースの温度に変化は見られなかった
(図 2.4.24(h)(i))。
60
区間平均
40
20
図 2.4.23
実験Ⅳ
着火前後の温度変化(測定点②)
66
2分00秒
1分30秒
時刻
1分00秒
30秒
着火
0
30秒前
温度(℃)
80
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
温度(℃)
40
30
20
10
FL+2.75m
FL+2.00m
FL+2.50m
FL+1.00m
0
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
⑬
測定点
温度(℃)
図 2.4.24(a) 実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
140
120
100
80
60
40
20
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
⑬
測定点
温度(℃)
図 2.4.24(b) 実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
140
120
100
80
60
40
20
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
測定点
図 2.4.24(c) 実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
67
⑬
温度(℃)
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
140
120
100
80
60
40
20
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
⑬
測定点
温度(℃)
図 2.4.24(d) 実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
140
120
100
80
60
40
20
0
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
⑬
測定点
図 2.4.24(e) 実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
140
120
100
80
60
40
20
0
温度(℃)
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
⑬
測定点
図 2.4.24(f) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
68
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
140
120
100
80
60
40
20
0
温度(℃)
FL+2.75m
FL+2.50m
FL+2.00m
FL+1.00m
⑧
⑦
⑤
①
0
②
③
④
⑥
⑬
測定点
図 2.4.24(g) 実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:480kW)
温度(℃)
40
30
20
10
FL+2.75m
FL+2.00m
0
Ⅰ
Ⅱ③
FL+2.50m
FL+1.00m
Ⅳ0
Ⅳ①
Ⅳ②
Ⅳ③
Ⅳ④
Ⅳ⑤
Ⅳ④
Ⅳ⑤
実験
図 2.4.24(h) 実験別コンコース階温度(測定点⑫)
温度(℃)
40
30
20
10
FL+2.75m
FL+2.00m
FL+2.50m
FL+1.00m
0
Ⅰ
Ⅱ③
Ⅳ0
Ⅳ①
Ⅳ②
Ⅳ③
実験
図 2.4.24(i) 実験別コンコース階温度(測定点⑯)
69
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
(4)火源周辺温度上昇と対向ホームへの影響(図 2.4.25)
図 2.4.25 は各測定点天井面近傍(FL+2.75m)の3秒間隔の温度瞬時値を着火直前の温度
を基準にした温度偏差で示しており、着火時点を0秒としている。火源直上0点では瞬時
に温度が上昇しており、着火 15 秒後には初期温度に比べて 50K 上昇している。火源近傍
①②⑤点の天井面近傍では着火約 10 秒後から温度が上昇しており、着火約 30 秒後には初
期温度に比べて 20∼40K 上昇している。③点の天井面近傍では着火約 20 秒後から温度が
上昇しているが、その上昇は①②⑤点に比べると緩やかであり、着火約 60 秒後の上昇値は
20K 未満である(図 2.4.25(a))。火源から少し離れた④⑦点の天井面近傍では着火約 40 秒後
から温度が上昇しているが、その上昇は緩やかであり、着火約 120 秒後の温度上昇は 10K
以下である。対向ホーム側の火源正面⑬点の天井面近傍では着火約 40 秒後から温度が上昇
し始めているが、その上昇はさらに緩やかであり、着火約 120 秒後にも温度上昇は3K 程
温度偏差ΔT (K)
度である(図 2.4.25(b))。
0
測定点①
測定点②
測定点③
測定点⑤
120
100
80
60
40
20
0
0
15
30
45
60
着火後時間 (秒)
図 2.4.25(a) 着火後の温度変化履歴 実験Ⅳ(測定点0,①②③⑤ FL+2.75m:火源近傍)
温度偏差ΔT (K)
10
測定点④
測定点⑦ 測定点⑬
8
6
4
2
0
0
30
60
90
着火後時間 (秒)
図 2.4.25(b) 着火後の温度変化履歴 実験Ⅳ(測定点④⑦⑬FL+2.75m)
70
120
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
写真 2.4.14 ホーム上階段シャッター
(シャッター閉鎖時)
写真 2.4.11 実験中の火源の様子
(実験Ⅱ①シャッター閉鎖時)
写真 2.4.12 実験中の火源の様子
(実験Ⅱ③シャッター開放:排煙なし)
写真 2.4.13 実験中の火源の様子
(実験Ⅳ④シャッター開放:ホーム排煙)
写真 2.4.15 ホーム上階段シャッター
(シャッター閉鎖途中)
写真 2.4.16
階段からの下降流で炎が揺れている。
火源と対向するホーム上の煙伝播
の様子
線路を越えて対向ホームに煙が伝播している。
71
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
2.4.4 考察
(1)島式ホーム駅の実験結果の考察
島式ホームA駅、B駅を使った火災実験結果の考察を以下に示すが、島式ホームA,B
両駅とも実験中は外部温度・風向・風速ともに安定した状態であり、ほぼ同じ条件下での
実験と考えられる。
1)外部風の駅舎内部への影響やコンコース∼ホーム間の階段シャッター開閉の影響は
A駅・B駅ともに、ほぼ同じ傾向が見られた。即ち、
①コンコース∼ホーム間の階段シャッターを閉鎖すると、外部風の影響はコンコース
階の地上出入口近傍に限定される(例えば、島式ホームA駅では図 2.4.3(h)⑨⑩⑪
点の実験Ⅰと実験Ⅳ0 の比較)。
②シャッターを閉鎖した状態では排煙の有無に関わらずホーム階の気流性状は比較
的平穏に保たれており,火源直上にプルームが形成され煙層も安定している(例え
ば、島式ホームA駅では図 2.4.3(d)と図 2.4.3(f)①②点 FL+2.75m の風速値の比較ある
いは、図 2.4.5(d)と図 2.4.5(f) 0 点の温度の比較)。500kW 程度の火源では、シャッタ
ー閉鎖状態には、燃焼の影響による温度上昇は比較的火源近傍に限られており、階
段等のホーム上の構造体が、熱伝播の障壁になると考えられる(例えば、島式ホー
ムA駅では図 2.4.5(c)⑦⑧点の温度および目視による)。
③シャッターを開放するとホーム階にまで外部風の影響が及び、コンコース階および
ホーム階ともに各所で風速が増加した(例えば、島式ホームA駅のホーム階では図
2.4.3(d)および図 2.4.3(e)(f)の①②点の比較、コンコース階では図 2.4.3(h) ⑨⑩⑪点
の実験Ⅰおよび実験Ⅳ0 の比較)。特にホーム階天井面近くの風速のピークはホー
ム上の風下側に移動する。温度分布も、階段近傍の空気が撹拌されることにより、
ホーム階風下側の広範囲に温度上昇が生じる(例えば、島式ホームA駅では図
2.4.5(d)および図 2.4.5(f)の比較)。シャッター開放に伴いプルームが撹拌される状況
は目視でも確認できた。
2)ホームおよびトンネル排煙の影響は島式ホームA駅・B駅ともにほぼ同じ傾向が見ら
れた。即ち、
①シャッター閉鎖状態で排煙を作動させても、ホーム上の風速および温度分布に大
きな変化はみられない(例えば、島式ホームA駅では図 2.4.5(c)および図 2.4.5(d)
の比較)。
②シャッター開放時にホーム排煙を作動させると、コンコースからの空気流入が大
となりホーム階の風速が増加し、火源直上温度も低下する(A駅:140℃から 80℃,
図 2.4.5(d)と図 2.4.5(f)の比較、B駅:120℃から 25.5℃, 図 2.4.10(e)と図 2.4.10(c)
の比較)。A駅に比べてB駅のほうが、排煙稼動による風速増加・温度低下の影
響が大であるのは、A駅よりもB駅の方がホーム容積に比べて排煙容量が大きい
72
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
ためと思われる。シャッター開放時にホーム風下側の温度が上昇する現象は、排
煙作動時でも観測できた。
3)コンコース階への漏煙状況については、A駅・B駅で状況が異なる。即ち、
①A駅では、アルコール燃焼時にホーム排煙稼動状況を変化させ、階段シャッターを
開放しても、コンコース温度は上昇しなかった(図 2.4.5(h))。これは地下鉄駅舎規
模に比べて、火源強度が小さいためと思われる。
②B駅では、アルコール燃焼時にホーム・トンネル排煙を停止すると、コンコース階
の階段近傍の温度が上昇した(図 2.4.10(f)および図 2.4.10(g)の実験Ⅱ)。目視でも火
源から発生した煙が階段を伝わってコンコースへ漏煙する状況が確認できた。これ
は、駅舎規模に比べて火源強度が大きいこと、あるいは、ホーム上の火源設定位置
が、車庫側かつ風上側であったことなどの原因が考えられる。
4)島式ホームB駅独特と思われる現象として、以下があげられる。
①島式ホームB駅でコンコース∼ホーム間階段シャッターを開放し、ホーム・トンネ
ル排煙を起動すると、ホーム階、コンコース階ともに西側(ホーム階④点、コンコ
ース階⑦点)の風速が著しく増加する(図 2.4.8(c)および図 2.4.8(f))。B駅が終着駅
(始発駅)であり、西側が行き止まり車庫であるため、西側ホーム・トンネル排煙
がB駅ホームから多くの空気を吸引することが原因とも考えられる。
②島式ホームB駅で地下出入口をすべて閉鎖し、コンコース加圧実験を試みたが、
階段シャッター開放時には、コンコース∼ホーム間差圧が±0Pa(図 2.4.19 実験
Ⅳ①∼③)となり、コンコースに漏煙した(図 2.4.18(a) 実験Ⅳ①∼③)。本実験の
給気量(30,000m3/h)では、階段シャッター開放時に効果的な煙制御はできな
いと考えられるが、シャッター閉鎖時にトンネル排煙を作動させるとコンコース
∼ホーム間差圧は+10Pa近くまで圧力が上昇した。一方、コンコース∼外部間差
圧は実験を通じて±0Paで変化がない(図 2.4.19 実験Ⅳ⑤)。これはコンコースが
加圧されているのではなく、トンネル排煙によりホーム階が減圧されていること
を示している。
(1)相対式ホーム駅の実験結果の考察
相対式ホームC駅を使った火災実験結果の考察を以下に示す。
1)コンコース∼ホーム間の階段シャッター開閉が駅舎内の気流・煙流動性状に及ぼす
影響は以下である。
①階段シャッターを閉鎖した状態ではホーム階の気流性状は比較的平穏に保たれて
いる(図 2.4.22(a))。 アルコール燃焼とともに発煙筒に着火すると、排煙の有無に
関わらず火源直上にプルームが形成され安定した成層状態が形成されていること
が目視で確認できた。
②階段シャッターを開放すると、ホーム階にまで外部風の影響が及び、ホーム階およ
73
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
びコンコース階とも各所で風速が増加し、同時にホーム階天井面近くで風速が最大
となる位置は風下側に移動する(ホーム階は図 2.4.22(d)と図 2.4.22(f)の比較,コン
コース階は図 2.4.22(i) 実験ⅠとⅣ0 の比較)。島式ホーム駅舎に比べるとシャッタ
ー開放がホーム上の気流性状に与える影響は小さい。
③階段シャッター開放に伴い階段近傍の空気が撹拌され、ホーム階風下側の広範囲に
温度上昇が生じるが、その影響は島式ホーム駅に比べて少ない(相対式ホームC駅
は図 2.4.24(d)と図 2.4.24(f)の比較、島式ホームA駅は図 2.4.5(d)と図 2.4.5(f)の比較)。
この原因は、相対式ホーム駅の空間容積が島式ホーム駅に比較して大きいためと考
えられる。
2)相対式ホームC駅では、対向ホーム側でも温度の上昇が見られた。この火源から上
下2本の線路を経由して対向ホーム側へ煙が伝播する現象は、目視でも確認できた。
ホーム部分に比べて天井面の高い線路部分がホーム階の広範囲に煙を伝播させる流路
の役割を果たしていると考えられる。対向ホームの火源正面の⑬点の温度が上昇を開
始するのは、着火約 40 秒後であり、火源からほぼ等距離にある火災ホーム側④点の温
度上昇開始と時間的にほぼ同じであるが、対向ホーム側の温度上昇は火災ホーム側に
比べて緩やかである(図 2.4.25(a)と図 2.4.25(b)の比較)。これは、上下2本の線路間に
ある構造梁が「たれ壁」
(図 2.3.12 参照)となり、火源から対向ホーム側への煙の伝播
を遅延・緩和させたためと考えられる。
3)シャッター開放時にホーム排煙を作動させると、火源直上温度が低下する(シャッ
ター閉鎖時 130℃(図 2.4.24(d))からシャッター開放時 113℃(図 2.4.24(f))が、その影響
は島式ホーム駅に比べて少ない。島式ホーム駅に比べて相対式ホームC駅のほうが、
排煙稼動による温度低下の影響が小さいのは、外気の通路となるコンコース∼ホーム
階の階段数が島式駅の2倍(島式A・B駅では階段2箇所、相対式C駅では片側ホー
ムに2箇所ずつ計4箇所)であり、階段1箇所あたりの通過風量が少ないうえ、空間
容積が島式ホームに比べて大きいため、ホーム上の気流性状への影響が少なかったこ
とが原因と考えられる。
4)相対式ホームC駅では、アルコール燃焼時にホーム排煙を停止し、階段シャッター
を開放しても、コンコース温度は上昇しなかった(図 2.4.24(h)(i))。これは、既報の島
式ホームA駅と同様に地下鉄駅舎規模に比べて、火源強度が小さかったためと思われ
る。
74
第2章
2.5
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
まとめ
稼動中の地下鉄駅舎3駅を使った火災実験から得られた知見をまとめると以下となる。
1)地下鉄駅舎内の気流性状には外部風の影響が強く作用し、特にホーム火災時には、
ホーム階の煙流動性状にまで影響を及ぼすと考えられる。しかし、コンコース∼ホー
ム間の階段シャッターを閉鎖することで、コンコース階・ホーム階ともにほぼ無風状
態となり、外部風の影響を大きく軽減することができる。一方、シャッター閉鎖状態
でホーム階の排煙を作動させても、ホーム上の風速および温度分布に大きな変化はみ
られない。
2)地下鉄駅舎のホーム階で火災が発生した場合、コンコース∼ホーム間の階段シャッ
ターが開放状態では、外部風の影響により、ホーム階の火源風下側の広範囲に温度上
昇が生じる危険性がある。このことは、開放状態の階段近傍で火災が発生した場合、
階段を開放状態に保つことは、必ずしもホーム上の避難者に有利に働かないことを示
している。ホーム上の煙層を安定させるために火源近傍の階段はできる限り早期に閉
鎖し、避難者を他の階段に誘導することが重要と考えられる。島式ホームA駅および
相対式ホームC駅では、実験シナリオ通りの火災が発生した場合、火災ホーム上右側
(南東)の避難専用階段が避難に有効に機能することが予想される(図 2.3.3 および図
2.3.11)。
3)相対式ホーム駅では、島式ホーム駅に比べて燃焼の影響による温度上昇が広い範囲
に広がる可能性がある。特に火災側ホームばかりでなく対向ホーム側でも火災の影響
による温度上昇の可能性があるが、対向ホーム側から火災ホームへの視認性の高さや
熱伝播の時間的な遅延・量的な緩和を考慮すると、島式ホーム駅舎と比べて、相対式
ホーム駅舎の避難安全性に大きな障害が生じるとは考えにくい。
4)実験に供した地下鉄駅舎の排煙容量は「地下鉄道の排煙対策の基準」に則り設計さ
れており、一般建築に比べても小さいものではないが、ホーム全体を一括排煙するこ
とを目的としていること、地下鉄駅舎空間が非常に長大であることを考慮すると、十
分な容量が確保されているとは言い難い。事実、小規模火災を想定した実験結果、特
に、ホーム上の気流性状、温度変化に関しては、ホーム排煙の稼動よりもコンコース
∼ホーム間の階段シャッター開放による外部風の吹き込みの方が遥かに大きな影響を
与えている。地下鉄駅の排煙システムの煙制御性能については、シミュレーション等
で確認する。
5)地下鉄駅の火災時の煙性状に関して、第3章でシミュレーションを行い検討する課
題は以下である。
①実験と同じ条件で2層ゾーンモデルおよびCFDシミュレーションを実施し、実験
の再現性を確認する。
②大規模な火災を想定したシミュレーションモデルを作成し、実態に近い火災現象の
75
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び
煙制御の効果に関する実施設実験
予測を行う。特に大規模な火災時のコンコースへの漏煙性状や対策について、シミ
ュレーションにて検討する。
③排煙風量・排煙方式の違いによるホーム・コンコースの煙性状の変化や、可燃物
量の差異による安全性の変化等についてもシミュレーションにより検討し、地下
鉄駅舎の火災安全設計のデータベースを作成する。特に加圧風量不足により、実
験では確認できなかったコンコース加圧の有効性についても確認する。
【参考文献】
2- 1) 東京消防庁:地下鉄道火災に関する検討委員会報告書」 2004.
2- 2) 東京メトロホームページ
http//kids.tokyometro.jp/dataContents/
2009.12.27
2- 3) 東京都都営地下鉄ホームページ
http://www.kotsu.metro.tokyo.jp/newsevent/magazine/gurutto/200501/p20b.
html/ 2009.12.27
2- 4) 運輸省「地下鉄道の火災対策の基準について」 1975.
2- 5) 運輸省「地下鉄道の火災対策の基準の取り扱いについて」 1975.
2- 6) 運輸省「地下鉄道の排煙対策の基準」 1982.
注 2- 1) 参考文献 2- 2)および 2- 3)よりグラフを作成
76
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと避難安全計画へ
の応用
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと避難安全計画への応用
3.1
シミュレーションの位置づけ
第2章で、初期火災程度の火源を使った地下鉄駅舎の煙流動実験を報告したが、火災が
更に成長した後の煙流動性状の予測は、シミュレーションに依存せざるを得ない。こうし
たモデルとしては、煙層の形成を前提とするゾーンモデルと、より普遍的な数値流体(CF
D)解析が代表的であるが、いずれのモデルも地下鉄駅舎での実験的検証例に乏しく、要素
過程のモデル化の程度や空間分割の精粗をどう選別すべきか不明確である。一方、2章の
実験結果は、実際に稼動中の駅舎の煙性状データとして意味があるが、実験の安全面から
火源強度を制限したことにより、実験結果のみから実験対象駅舎の火災安全性を判断する
ことは困難である。今回の実験結果をもとに2層ゾーンおよびCFD等のモデリングを行
い、実験結果との整合性を確認したのちに、より実態に近い火源強度でのシミュレーショ
ンを行うことで、はじめて地下鉄駅舎の火災安全性を検証できるものと考えられる。本章
では、火災シミュレーションモデルとして2層ゾーンモデルおよびCFD(Computational
Fluid Dynamics)を選択し、それぞれ実験結果の再現性を検討したのちに、火源の発熱速
度を増加させ、実験対象駅舎の煙性状と火災時の避難安全性を検証した。
77
第3章
3.2
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
各シミュレーションによる実験結果の再現性確認
3.2.1
2層ゾーンモデルによる再現性の確認
建築物の火災時の煙流動の予測に最も頻繁に用いられる煙流動予測シミュレーションモ
デルは、2層ゾーンモデルである。2層ゾーンモデルとは火災時の建物内空間の上部は温
度の高い高温層、下部は相対的に温度の低い低温層が存在すると仮定し、それぞれの層を
対象として火災に伴う物理現象を予測していくゾーンモデルである。
本章では「BRI2002・二層ゾーン建物内煙流動モデルと予測計算プログラム」3-1)を利用
し、地下鉄駅舎における火災時の煙流動性状を検討した。
(1)計算モデル
モデル化対象駅舎は、2層ゾーンモデルが従来適用されてきた空間に比べて長大であり、
かつ、線路∼ホームにかけての断面が複雑である。そのため、ホーム部分を長辺方向に十
数分割、短辺方向に 3 分割して、仮想空間を設定し、個々の空間要素を室と同様に扱って、
温度分布等を計算した。このモデル化は、実験結果の再現性確認が主な目的であり、実験
値とシミュレーションの詳細な比較を行うため、火源周辺は実験測定点にあわせて、特に
細かく分割(4.5m×5.0m)した。結果として、仮想室数は島式ホームA駅では、ホーム階
41 室、コンコース階 12 室、島式ホームB駅ではホーム階 40 室、コンコース階 13 室、相
対式ホームC駅では、ホーム階 44 室、コンコース階 10 室となった。島式ホームA駅と相
プラット
ホーム
ゾーン
480
kW
線路ゾーン
5,500
1,500
線路ゾーン
4,500
2,800
5,500
700
対式ホームC駅のモデル化の一部(火源周辺)を、図 3.2.1 と図 3.2.2 に示す。
4,000
1,500
4,500
1,500
4,000
16,000
5,000
短辺方向の分割
5,000
5,000
5,000
5,000
5,000
15,000
長辺方向の分割(平面:火源周辺)
7,500
ホームゾーン
480
kw
4,500
7,500
16,000
4,500
5,000
5,000
4,500
線路ゾーン
1,500
ホームゾーン
2,800
4,500
700
図 3.2.1 島式ホームA駅のモデル化
5,000
5,000
5,000
14,000
長辺方向の分割(平面:火源周辺)
短辺方向の分割
図 3.2.2 相対式ホームC駅のモデル化
78
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(2)島式ホームA駅の再現性
⑬
⑭
⑯
⑨ ⑩
⑫
⑪
⑮
コンコース階
シャッター
⑧
ホーム階
階段からの距離 = 2(m)
火源:480 kW
シャッター
①② 0③④⑤
⑦
階段からの距離 = 2 7 12 17 22 27(m)
⑥
210m
72 (m)
図 3.2.3 島式ホームA駅の測定点
200
平均温度(℃)
平均温度(℃)
200
150
100
50
150
100
50
0
0
⑧ ⑦ ① ②
0
⑧ ⑦ ① ② 0 ③ ④ ⑤ ⑥
測定点
③ ④ ⑤ ⑥
測定点
(a) シャッター:閉鎖,ホーム排煙:停止
(b) シャッター:閉鎖,ホーム排煙:稼動
200
平均温度(℃)
平均温度(℃)
200
150
100
50
0
⑧ ⑦ ① ② 0 ③ ④ ⑤ ⑥
測定点
(c) シャッター:半分開放,ホーム排煙:稼動
実験値 (FL+2.75m)
150
100
50
0
⑧ ⑦ ① ② 0 ③ ④ ⑤ ⑥
測定点
(d) シャッター:開放,ホーム排煙:稼動
2層ゾーンモデルによる煙層温度
図 3.2.4 ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(島式ホームA駅)
79
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(3)島式ホームB駅の再現性
120
100
80
60
40
20
0
平均温度(℃)
平均温度(℃)
図 3.2.5 島式ホームB駅の測定点
⑤ ⑥ ④ ①
0
120
100
80
60
40
20
0
② ③ ⑦ ⑧
⑤ ⑥ ④ ①
(a) シャッター:閉鎖,ホーム排煙:稼動
(b) シャッター:開放,ホーム排煙:停止
平均温度 (℃)
平均温度(℃)
120
100
80
60
40
20
0
④ ①
0
②
② ③ ⑦ ⑧
測定点
測定点
⑤ ⑥
0
③ ⑦ ⑧
測定点
(c) シャッター:半分開放,ホーム排煙:稼動
120
100
80
60
40
20
0
⑤ ⑥ ④ ① 0 ② ③ ⑦ ⑧
測定点
(d) シャッター:開放,ホーム排煙:稼動
図 3.2.6 ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(島式ホームB駅)
定点
80
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(4)相対式ホームC駅の再現性
160
140
120
100
80
60
40
20
0
平均温度(℃)
平均温度(℃)
図 3.2.7 相対式ホームC駅の測定点
160
140
120
100
80
60
40
20
0
⑧ ⑦ ⑤ ① 0 ② ③ ④ ⑥ ⑬ ⑩ ⑫ ⑪ ⑯
測定点
測定点
(a) シャッター:閉鎖,ホーム排煙:停止
(b) シャッター:閉鎖,ホーム排煙:稼動
160
140
120
100
80
60
40
20
0
平均温度(℃)
平均温度(℃)
⑧ ⑦ ⑤ ① 0 ② ③ ④ ⑥ ⑬ ⑩ ⑫ ⑪ ⑯
⑧ ⑦ ⑤ ① 0 ② ③ ④ ⑥ ⑬ ⑩ ⑫ ⑪ ⑯
測定点
160
140
120
100
80
60
40
20
0
⑧ ⑦ ⑤ ① 0 ② ③ ④ ⑥ ⑬ ⑩ ⑫ ⑪ ⑯
測定点
(c) シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動
(d) シャッター:開放、ホーム排煙:稼動
図 3.2.8 ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(相対式ホームC駅)
定点
81
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(5)考察
図 3.2.4 に島式ホームA駅、図 3.2.6 に島式ホームB駅、図 3.2.8 に相対式ホームC駅の計
算結果を示す。火源は実験条件と同じ(島式ホームA駅:480kW,島式ホームB駅:160kW,
対式ホームC駅:480kW)である。シャッター閉鎖時の条件では、どの実験駅舎においても
上部層平均温度は実験結果の天井面近傍温度とよく一致している(図 3.2.4(a)(b),図 3.2.6(a)
および図 3.2.8(a)(b))。しかしながら、シャッター開放時の条件、特にホーム排煙併用時に
は計算結果と実験結果はあまり一致せず、火源直上温度では計算値が実験値を大きく上回
っている(図 3.2.4(c)(d),図 3.2.6(c)(d),図 3.2.8(c)(d))。これは、実験駅舎では、シャッタ
ー開放時に階段を通じてホーム階に流入した風が煙層を崩壊させ、火源近傍の上下温度差
を小さくしているのに対し、2層ゾーンモデルは静穏環境下のプルームがモデル化されて
いるため、プルーム自体が横風を受けるような階段シャッター開放状態の現象は反映しに
くいことが原因と考えられる。しかしながら、他の地点・グラフでは概して高い再現性を
表しており、特に、階段近傍で大規模な火災が発生した場合、コンコース階への漏煙や延
焼を防止するため、階段シャッターを早期に閉鎖せざるを得ないと考えられ、今後の検証
において火災近傍の階段シャッターが閉鎖される条件で2層ゾーンモデルでの検証を行う。
82
第3章
3.2.2
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
CFDモデルによる再現性の確認
2章の実験結果で得られた知見の中で、ホーム上の避難者への影響が最も大きいと思わ
れるのは、ホーム・コンコース間の階段シャッターの開閉に伴うホーム上の気流性状の変
化である。即ち、シャッター閉鎖時にはホーム上の気流は安定していたが、シャッターを
開放すると外気が流入して煙層が不安定化したり、火源上のプルームが撹拌されたりする
傾向が見られた。こうした傾向は島式ホームの駅舎で特に顕著で、ホーム階の避難安全上、
大きな脅威になり得るが、ゾーンモデルでは基本的に再現困難な現象である。
本章では、まず、現在、実用化されているレベルの数値流体解析により、階段シャッタ
ー開閉に伴うホーム上の煙流動性状の変化の再現可能性を検討する。
(1)解析方法とCFDモデル概要
1)基本的な解析方式(表 3.2.1)
解析方法は、科学技術用のワークステーション、パソコン上で実施できることを考慮
して設定した。即ち、乱流についてはk−ε高レイノルズモデル注3-1)、検討の簡略化の
ため環境圧力は一定とし、密度は温度のみで決定される簡易圧縮モデル、エネルギー方
程式では放射を無視した。STAR-CD ver3.15 を使用して、気流性状がほぼ定常状態に達す
るまで非定常計算を行った。基本メッシュサイズは 1000mm×1000mm×1000mmとしたが、
計算精度を高めるために階段部周辺は 500mm×500mm×500mm、火源周辺は 500mm×500mm
×250mmとやや細かく分割した。また、基準となる床上高さ 1.8m地点の温度を求めるため、
ホームとコンコースの床上高さ 1∼2m分のメッシュサイズを 1000mm×1000mm×500mmと
した。
表3.2.1 CFDによる計算条件
基本条件
乱流モデル
計算精度
計算機
メッシュ数
メッシュサイズ
簡易圧縮、非定常計算
k−ε高レイノルズモデル
倍精度
Visual Technology社製 VT-ALPHA6 500
55,458個
最大1000mm×1000mm×1000mm(一般空間)
1000mm×1000mm×500mm(ホーム高さ1∼2m)
500mm×500mm×500mm(階段部)
最小500mm×500mm×250mm(火源付近)
2)境界条件
壁面
:全ての壁面を断熱壁とした。
地上出入口
:地上の出入口(4 箇所)に圧力境界を設定した。実験で測定された地上
出入口部の風速を動圧換算した圧力値を与え、駅舎内への外気流入
を再現した。
83
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
トンネル出口 :上下線ともホーム端から 100m ずつ遠方までモデル化し、端部は外気
と圧力が一致するものとして圧力境界を設定した。
排煙口・給気口:所定位置に流出境界を設定し、能力を満たすよう一定の流出速度を
与えた。
シャッター
:バッフル境界(セル間に配置、厚みは 0)を設定し、バッフルの透過・
非透過によりシャッターの開閉を再現した。
トンネル出口:圧力境界
トンネル出口:圧力境界
8000
16000
Railway CH=4500
Platform CH=3000
Railway CH=4500
48000
17000
18000
109000
17000
100000
209000
100000
420000
地下2階
地上出入口:圧力境界
差圧を与えて外気流入を再現
地上出入口:圧力境界
差圧を与えて外気流入を再現
Concourse CH=3000
58000
22000
164000
244000
地下1階
1000 3000 900
図 3.2.9 CFDモデル概要図
算出点
線路
ホーム
4000
8000
1.8m
線路
4000
図 3.2.10 CFDモデル地下1階・短辺方向断面図
3)火源の設定
階段近傍のホーム床面に 500mm×500mm の壁面境界を 6 ヵ所設定し、発熱速度を与える
ことで再現した。実験ではメタノールを火源としており、放射成分は小さいため、簡単
のために、発熱は全て対流で散逸すると仮定した。
84
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(2)CFDモデルによる地下鉄駅舎火災実験の再現結果
実験を行なった以下の3条件について CFD モデルでの再現を試みた。
・シャッター閉鎖、ホーム排煙停止
・シャッター閉鎖、ホーム排煙起動
・シャッター開放、ホーム排煙起動
・発熱量:480kW(500mm×500mm:80kW の火源6箇所)
・ ホーム排煙機能力:132,552 ㎥/h
図 3.2.12∼図 3.2.14 に、CFD解析結果を実験結果とともに示す。参考のために2層ゾ
ーンモデルによる計算結果(図 3.2.4(c)参照)も図 3.2.14 に示した。CFD による計算値はシ
ャッターの開閉、排煙起動・停止のどの条件でも実験結果と概ね一致しているのに対し
て、2層ゾーンモデルではプルーム自体が大きく乱されるシャッター開放時の温度分布
が再現できていないことがわかる。特に階段から火源にかけてのホーム断面温度分布(図
3.2.16)を見ると、CFD では、階段シャッター開放時にプルームが希釈され温度低下する
現象も再現されている。以上のように、計算条件を適切に設定すれば、比較的単純な CFD
モデルで地下鉄駅舎火災時の煙流動性状を有効に予測できることが確認された。
ホーム排煙口:流出境界1000mm×1000mmの開口84ヵ所 計132,552m3/h
トンネル出口:圧力境界
トンネル出口:圧力境界
シャッター:閉鎖状態は断熱壁により再現
8000
16000
Railway CH=4900
Platform CH=3000
⑧
⑦
① ②火 ③ ④ ⑤
⑥
Railway CH=4900
48000
17000
18000
17000
100000
109000
209000
100000
420000
火源:壁面境界に圧力面を設定
地下2階
注)○内数字は算出点を示す
地上出入口:圧力境界
差圧を与えて外気流入を再現
Concourse CH=3000
164000
58000
地上出入口:圧力境界
差圧を与えて外気流入を再現
22000
244000
図 3.2.11 島式ホーム駅舎モデル概要図およびホーム階算出点位置
85
地下1階
温度(℃)
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
⑧ ⑦ ① ② 火 ③ ④ ⑤ ⑥
算出点
温度(℃)
図 3.2.12 島式駅舎 [シャッター閉鎖・ホーム排煙停止モデル]
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
⑧ ⑦ ① ② 火 ③ ④ ⑤ ⑥
算出点
温度(℃)
図 3.2.13 島式駅舎 [シャッター閉鎖・ホーム排煙起動モデル]
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
⑧ ⑦ ① ② 火 ③ ④ ⑤ ⑥
算出点
図 3.2.14 島式駅舎 [シャッター開放・ホーム排煙起動モデル]
<凡例>
実験値
CFD計算値
86
2層ゾーンモデル計算値
第3章
階段
シャッター
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
火源
図 3.2.15 シャッター閉鎖時、温度・風速分布
温度分布
高
階段
火源
図 3.2.16 シャッター開放時、温度・風速分布
87
低
第3章
3.3
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
シミュレーションによる地下鉄道駅舎の火災時避難安全性向上方策の
検討
3.3.1
火災安全性検証の手順
判定は避難安全性能に関する性能評価機関の業務方法書3-2)を参考に、図 3.3.1 のフロー
チャートの手順で行う。また、CFDモデルの場合、二層ゾーンモデルとは異なり、煙層
と下部層の境界が明確ではないため、安全側として、居住域の温度が 40℃に達した時点で
「安全が確認できない」として「危険」と判定する3-3)。
図3.3.1 避難安全性検証フローチャート
88
第3章
3.3.2
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
避難時間予測
(1)避難計算手法
避難計算は平成 12 年建設省告示第 1441 号,1442 号の避難安全検証法をもとに行ったが、
建築基準法対象とならない駅舎の特徴を踏まえ、以下の点で告示の規定と異なる条件を設
けた。
① 地下鉄駅舎ホームは幅 6∼8m、長辺が 200m 超の線状空間である。混雑時には避難者は
ホーム上に比較的均等に分布していると考えられ、結果的に歩行時間および滞留時間は、
ともに一般居室に比べて大きな値となる。そのため避難開始後の避難行動に要する時間
も告示避難安全検証法の「歩行時間と滞留時間の和」ではなく、「歩行時間と滞留時間
の大なる値」を採用した。
② 地下鉄駅舎の避難経路は、ホーム→コンコース(改札内)→コンコース(改札外)とそ
れぞれ少なからぬ避難者が存在する空間を経由し地上出口に至る直列の流れとなる。一
方、告示避難安全検証法は並列の複数居室を想定した避難計算となっており、非火災室
の避難開始時間は「火災階面積の平方根に係数を掛け 3 分を加算」しているが、この前
提ではホームからの避難群衆がコンコースを通過中もコンコース避難者は避難を開始
しないことになる。本論文の避難計算では、ホーム避難者がコンコース各空間の避難者
を巻き込みながら(引き連れて)避難すると想定し、コンコース各空間の避難開始時間
はホームからの先頭避難者が計算対象室の出口に到達する時間とした(図 3.3.2)。
図3.3.2 避難開始時間の想定
89
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(2)避難計算条件
ホーム上の避難者数はNFPA1303-4)を参考に「(車両定員×車両数+1便当りの乗降人数)
×混雑率」とした(表 3.3.1 *1)。火災時に、上下便のうち、一方は火災駅を停車せずに通
過すると考え、乗客を駅の避難者として見込むのは、1便分のみとした。また、コンコー
ス改札内、改札外の避難者数はそれぞれ「1便当りの乗降人数の半分」と仮定した。
上記以外の歩行速度、流動係数は告示値を採用した。
表3.3.1 避難計算条件
項目
記号(単位)
歩行速度(平面)
v (m/分)
歩行速度(階段・上昇) vs (m/分)
Np (人/(分・m))
避難口の流動係数
1便あたりの乗降人数 Pt (人/便)
1車両あたりの乗客数 Pc (人/車両)
Nc (車両)
1便あたりの車両数
Rp (%)
1車両の乗車率
*1 東京メトロホームページ2005年12月
*2 平成12年建設省告示第1441号
90
値
備考
60
27
90
108
153
10
158
*2
*2
*2
*1
*1
*1
*1
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(3) 避難計算結果
1)島式ホーム駅避難計算結果
図3.3.3 島式ホーム駅避難計算モデル
地下鉄駅舎避難計算結果に大きな影響を与えるパラメータとして、ホーム→コンコー
ス間の階段入口扉条件に注目し、Case1(階段シャッター2箇所開放)、Case2(階段シャ
ッター1箇所開放,非常扉1箇所開放)、Case3(階段シャッター2箇所閉鎖,非常扉2箇
所開放)の3条件で計算を行った(表 3.3.2 *3)。避難計算結果を表 3.3.2 に示すが、地下鉄
駅舎の避難時間は歩行時間よりも滞留時間の影響が大きいことが明らかである。特にホ
ーム避難時間は Case1で 5 分(滞留時間 4 分),Case2で 7 分(滞留時間 6 分),Case3で
15 分(滞留時間 14 分)と階段シャッターの開閉条件の影響が大きい。コンコース改札口内
の避難が終了するのは Case1,Case2で 13 分,Case3で 16 分、改札外から外部への避
難が終了するのは Case1,Case2で 16 分,Case3で 19 分である。Case1と Case2 でコ
ンコース以降の避難計算結果が同じとなるのは、改札口での滞留時間が大きく(10.5 分)、
Case1,2の地下鉄駅舎の避難時間が改札口の大きさ(表 3.3.2*5)で決定されるためで
ある。
91
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
表3.3.2 島式ホーム駅避難計算結果
項目
場所
ホーム階
(B2F level)
ホーム面積
ホーム避難対象人数
ホーム階段入口幅の合計
ホーム階段入口通過時間
ホーム階段入口までの歩行距離
ホーム階段歩行時間
ホーム階∼コンコー ホーム階段歩行距離
ス階階段
ホーム階段歩行時間
コンコース(改札内)避難対象人数
避難計算の計算式
Ah
Ph
ΣWh
thq
Lh
tht
(㎡)
(人) (Pc×Nc+Pt)×Rp/100
(m)
(分) Ph/(Np×ΣWh)
(m)
(分) Lh/v
Lhs
tst
(m)
(分) Lhs/vs
Pci
(人)
(人)
(m)
(分)
(m)
(分)
合計避難対象人数(ホーム+コンコース改札内) Ph+ci
コンコース(改札内) 改札口の有効幅合計
ΣWci
(Concourse, B1F level) 改札口通過時間
tciq
ホーム階段出口から改札までの歩行距離 Lci
ホーム階段出口から改札までの歩行時間 tcit
コンコース(改札外)避難対象人数
Pco
合計避難対象人数(ホーム+コンコース全体) Ph+ci+co
ΣWco
コンコース(改札外) 外部階段幅の合計
(Concourse, B1F level) 外部階段入り口通過時間
tcoq
外部階段入口までの歩行距離
Lco
外部階段入口から外部までの距離
Lcos
改札口から外部までの歩行時間
tcot
避難計算結果
(出火後)
火災側ホーム避難開始時間
火災側ホーム避難終了時間
コンコース(改札内)避難開始時間
コンコース(改札内)避難終了時間
コンコース(改札外)避難開始時間
コンコース(改札外)避難終了時間
Tsh
Teh
Tsci
Teci
Tsco
Teco
16
0.6
Pt×0.5
Ph+Pci
Ph+ci/(Np×ΣWci)
Lci/v
(人)
(人)
(m)
(分)
(m)
(m)
(分)
Pt×0.5
Ph+Pci+Pco
(分)
(分)
(分)
(分)
(分)
(分)
√Ah/30
Tsh+max(thq,tht)
Tsh+tst+tcit
MAX(Tsci+tciq,Teh+tst+tcit)
Tsh+tst+tcit+tcot
MAX(Tsco+tcoq,Teci+tcot)
Ph+ci+co/(Np×ΣWco)
Lco/v+Lcos/vs
(m/分)
歩行速度(平面)
v
(m/分)
歩行速度(階段・上昇)
vs
Np
(人/(分・m))
避難口の流動係数
計算条件
Pt
(人/便)
1便あたりの乗降人数
Pc
(人/車両)
1車両あたりの乗客数
Nc
(車両)
1便あたりの車両数
Rp
(%)
1車両の乗車率
*1 東京メトロホームページ2005年12月
*2 平成12年建設省告示第1441号
*3 Case1: 2 ホーム∼コンコース階段入口シャッター (それぞれの幅=4m) 全開放
Case2: 1 1 ホーム∼コンコース階段入口シャッター (幅=4m) 開放, 1避難扉 (幅=1.05m)開放
Case3: ホーム∼コンコース階段入口シャッター (幅=4m) 全閉鎖,2避難扉 (幅=1.05m)全開放
*4 次の電車に乗車予定の乗客の半分が改札内にいると仮定。
*5 改札口の合計幅幅(幅0.7m×4箇所)
*6 直前の電車に乗車していた乗客の半分が改札内にいると仮定。
*7 ホーム階の先頭の避難者が改札口に到達する時間
*8 ホーム階の先頭の避難者が外部階段入口に到達する時間
*9 日本建築センター「新・建築防災計画指針」
92
Case1 Case2 Case3 備考
1,352
2,588
*1
8.00
5.05
2.10 *3
3.6
5.7
13.7
113
1.9
1.2
4.8
2.2
12.7
5.5
16.0
54
2,642
2.80
10.5
21
0.4
*4
54
2,696
15
2.0
139
28
3.4
*6
1.2
6.9
2.2
12.7
5.5
16.0
60
27
90
108
153
10
158
*5
1.2
14.9
2.2
15.9
5.5
19.2
*2
*7
*8
*2
*2
*2
*1
*1
*1
*1
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
2)相対式ホーム駅避難計算結果
外部階段出口
改札口
凡例
外部階段
出口
4.5m 7.5m
4.5m
ホーム階避難経路
コンコース階避難経路(改札内)
コンコース階避難経路(改札外)
15m
10m 10m
10m 10m 14m
100m
45m
22m
17m
12m 10m
16m
15m
24m
9m
35m
100m
階段入口
図3.3.4 相対式ホーム駅避難計算モデル
地下鉄駅舎避難計算結果に大きな影響を与えるパラメータとして、島式ホーム駅と同
様にホーム→コンコース間の階段入口扉条件に注目し、Case1(火災側ホームの階段シャ
ッター2箇所開放)、Case2(火災側ホームの階段シャッター1箇所開放,非常扉1箇所開
放)、Case3(火災側ホームの階段シャッター2箇所閉鎖,非常扉2箇所開放)の3条件で
計算を行った(表 3.3.3 *3)。非火災側ホームの階段シャッターは2箇所とも全開放とした。
避難計算結果を表 3.3.3 に示すが、相対式ホーム駅舎も島式ホーム駅舎と同様に、避難時
間は歩行時間よりも滞留時間の影響が大きいことが明らかである。特にホーム避難時間
は Case1で 6 分(滞留時間 5 分),Case2で 8 分(滞留時間 7 分),Case3で 15 分(滞留時
間 14 分)と階段シャッターの開閉条件の影響が大きい。コンコース改札口内の避難が終
了するのは Case1,Case2で 11 分,Case3で 16 分、改札外から外部への避難が終了す
るのは Case1,Case2で 14 分,Case3で 19 分である。Case1と Case2 でコンコース以
降の避難計算結果が同じであり、島式ホーム駅舎の結果と同様に、改札口での滞留時間
で Case1,2の地下鉄駅舎の避難時間が決定されることになる。
93
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
表3.3.3 相対式ホーム駅避難計算結果
場所
ホーム階
(火災側)
項目
避難計算の計算式
ホーム面積
ホーム避難対象人数
ホーム階段入口幅の合計
ホーム階段入口通過時間
ホーム階段入口までの歩行距離
ホーム階段歩行時間
Ah①(㎡)
Ph①(人) (Pc×Nc+Pt)×Rp/100
ΣWh①(m)
thq①(分) Ph①/(Np×ΣWh①)
Lh①(m)
tht①(分) Lh①/v
ホーム階(火災側)∼ ホーム階段歩行距離
コンコース階階段 ホーム階段歩行時間
ホーム階
(非火災側)
Lhs①(m)
Ths①(分) Lhs①/vs
ホーム面積
ホーム避難対象人数
ホーム階段入口幅の合計
ホーム階段入口通過時間
ホーム階段入口までの歩行距離
ホーム階段歩行時間
Ah②(㎡)
Ph②(人) (Pc×Nc+Pt)×Rp/100
ΣWh②(m)
thq②(分) Ph②/(Np×ΣWh)
Lh②(m)
tht②(分) Lh/v
ホーム階(非火災側) ホーム階段歩行距離
∼コンコース階階段 ホーム階段歩行時間
Lhs②(m)
vs(m/分)
コンコース(改札内)面積
コンコース(改札内)避難対象人数
コンコース
(改札内)
合計避難対象人数(ホーム+コンコース改札内)
改札口の有効幅合計
改札口通過時間
ホーム階段出口から改札までの歩行距離
ホーム階段出口から改札までの歩行時間
コンコース(改札外)面積
コンコース(改札外)避難対象人数
合計避難対象人数(ホーム+コンコース全体)
コンコース
(改札外)
避難計算結果
(出火後)
外部階段幅の合計
外部階段入り口通過時間
外部階段入口までの歩行距離
外部階段入口から外部までの距離
改札口から外部までの歩行時間
火災側ホーム避難開始時間
火災側ホーム避難終了時間
非火災側ホーム避難開始時間
非火災側ホーム避難終了時間
コンコース(改札内)避難開始時間
コンコース(改札内)避難終了時間
コンコース(改札外)避難開始時間
コンコース(改札外)避難終了時間
Aci(㎡)
Pci(人)
Ph+ci(人)
ΣWci(m)
tciq(分)
Lci(m)
tcit(分)
Aco(㎡)
Pco(人)
Ph+ci+co(人)
ΣWco(m)
tcoq(sec)
Lco(m)
Lcos(m)
tcot(分 )
Tsh①(分)
Teh①(分)
Tsh②(分)
Teh②(分)
Tsci(sec)
Teci(sec)
Tsco(sec)
Teco(sec)
Pt×0.5
Ph+Pci
Ph+ci/(Np×ΣWci)
Lci/v
Pt×0.5
Ph+Pci+Pco
Ph+ci+co/(1.5×ΣWco)
Lco/v+Lcos/vs
√Ah①/30
Tsh①+Th①(分)
②×Tsh①
Tsh②+Th②(分)
Th①+Ths①+Tcit(sec)
MAX(Tsci+Tci,Teh①+Ths①+tcit,Teh②+Tsh②+tcit)
0Th+Ths+tciw+tcow(sec)
MAX(Tsco+Tco,Tsci+tcot)
(m/分)
歩行速度(平面)
v
(m/分)
歩行速度(階段・上昇)
vs
Np
(人/(分・m))
避難口の流動係数
Pt
(人/便)
1便あたりの乗降人数
計算条件
Pc
(人/車両)
1車両あたりの乗客数
Nc
(車両)
1便あたりの車両数
Rp
(%)
1車両の乗車率
*1 東京メトロホームページ2005年12月
*2 平成12年建設省告示第1441号
*3 Case1: 2 ホーム∼コンコース階段入口シャッター (それぞれの幅=3m) 全開放
Case2: 1 1 ホーム∼コンコース階段入口シャッター (幅=3m) 開放, 1避難扉 (幅=1.05m)開放
Case3: ホーム∼コンコース階段入口シャッター (幅=3m) 全閉鎖,2避難扉 (幅=1.05m)全開放
*4 次の電車に乗車予定の乗客の半分が非火災側ホームにいると仮定。
*5 次の電車に乗車予定の乗客の半分が改札内にいると仮定。
*6 改札口の合計幅幅(幅0.7m×5箇所)
*7 直前の電車に乗車していた乗客の半分が改札内にいると仮定。
*8 ホーム階の先頭の避難者が改札口に到達する時間
*9 ホーム階の先頭の避難者が外部階段入口に到達する時間
*10 日本建築センター「新・建築防災計画指針」
94
Case1
Case2
Case3
837
2,588
6.00
4.79
110
1.83
837
2,588
4.05
7.10
110
1.83
837
2,588
2.10
13.69
110
1.83
15
0.56
15
0.56
15
0.56
837
108
6.00
0.20
110
1.83
837
108
6.00
0.20
110
1.83
837
108
6.00
0.20
110
1.83
15
27
15
27
15
27
194
54
2,750
3.50
8.73
15
0.25
194
54
2,750
3.50
8.73
15
0.25
194
54
2,750
3.50
8.73
15
0.25
984
54
2,804
15
2.08
150
10
2.87
984
54
2,804
15
2.08
150
10
2.87
984
54
2,804
15
2.08
150
10
2.87
0.96
5.76
1.93
3.76
1.77
10.50
4.64
13.37
0.96
8.06
1.93
3.76
1.77
10.50
4.64
13.37
60
27
90
108
153
10
158
0.96
14.66
1.93
3.76
1.77
15.46
4.64
18.33
備考
*1
*3
*4
*5
*6
*7
*2
*10
*8
*9
*2
*2
*2
*1
*1
*1
*1
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(4) 考察
混雑時の地下鉄駅舎からの避難時間を短縮する方策としては、以下が考えられる。
① ホームからコンコース階への避難階段を追加する。特に改札外への直通階段を設置す
ることがコンコース階の改札口での混雑緩和にも大きく寄与する。具体的には、図
2.3.3 の島式ホームA駅や図 2.3.11 の相対式ホーム駅舎にあるように、ホームからコン
コース階の改札外へ通じる非常階段を設置することが考えられる。
② 改札口の幅あるいは数を増加する。具体的には 0.7m幅の改札口を1箇所増すことが
考えられる。
例えば、①②の方策を同時に採用すると、表 3.3.2 の Case2の避難時間はホーム階で
1.6 分(6.9 分→5.3 分)、コンコース階改札内で 4.5 分(12.7 分→8.2 分)、外部までは 4.5
分(16.0 分→11.5 分)短縮可能である。その他、多くの地下鉄駅舎に設置されているエス
カレータを避難に利用することも考えられる。
95
第3章
3.3.3
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
大規模火源に対する地下鉄駅舎の火災安全性の検証
(1)2層ゾーンモデルによる地下鉄駅舎内煙流動性状と防災システム効果検証
3.2.1 章で2層ゾーンモデルにおいて、空間分割を工夫すれば、階段シャッターを閉鎖し
た状態での煙流動性状を良好に再現できることを確認した。また、シャッター開放状態で
は、階段下降気流による火源近傍の煙層の不安定化は再現できなかったものの、火源近傍
以外では実験結果を再現できることも確認した。このことから、2層ゾーンモデルでは、
ホーム階・コンコース階の煙流動性状を概括的に予測することが可能と考えられる。よっ
て島式ホーム駅、相対式ホーム駅をモデル化し、大規模火源での両ホーム形式の煙流動性
状の予測、特にホーム排煙・コンコース排煙および階段シャッター等がホーム階およびコ
ンコース階の煙流動性状に及ぼす影響を2層ゾーンモデルにより検証する。
1)計算モデル
従来の実験例等3-5)から店舗・車両の単独出火時の燃焼規模として 10MWが一つの目
安となる。このため島式、相対式の各ホーム形式モデルにおいて、火源規模を 10MWと
して煙流動性状を予測する。本モデルは火源位置と短辺方向の空間分割は 3.2.1 章のモ
デルに基づいているが、発熱速度(10MW)を増加させる都合上、長辺方向は 3.2.1 章
よりも大きく設定した(4.5m×15.0m)。結果として仮想室数は、島式ホーム駅モデル
ではホーム階 31 室、コンコース階 10 室の計 41 室、相対式ホーム駅モデルではホーム階
36 室、コンコース階 8 室の計 44 室となった。下に島式ホーム駅および相対式ホーム駅の
モデル化の一部(火源周辺)をそれぞれ図 3.3.5、図 3.3.6 に示す。
短辺方向の分割
長辺方向の分割(平面:火源周辺)
図 3.3.5 島式ホーム駅のモデル化(10MW)
長辺方向の分割(平面:火源周辺)
短辺方向の分割
図 3.3.6 相対式ホーム駅のモデル化(10MW)
96
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
2)島式ホーム駅の大規模火源における煙流動特性
図 3.3.7 島式ホーム駅の算出点位置
島式ホームA駅の平面プランと算出点を図3.3.7に、シミュレーション結果を図3.3.8∼
3.3.11に示す。図3.3.8(b)を見ると、ホーム階の煙層温度は、排煙の有無・シャッターの開
閉等の状態変化に関わらず、火源近傍(図3.3.7中の算出点16,19,22)で最高500∼600℃、
やや離れた部分でも200℃程度まで上昇している。一方、火源から中央階段で隔てられた
部分(図3.3.7中の算出点3,6,11)の煙層温度は、ほとんど上昇せず、階段が障壁となって
いると推測できる。図3.3.8(a)を見ると、ホーム階の煙層高さは、ホーム排煙作動時には火
源近傍を除き、ほぼ床面から2m以上の高さに維持されるため、避難者等が直接、煙に
暴露されることはないが、排煙が機能しない場合、煙層は階段で挟まれた範囲(図3.3.7
中の算出点16,19,22)では床面から1.2m程度の高さに滞留する。コンコースへの煙の
侵入は、図3.3.9に示されるように、シャッターが全開放された場合に顕著に現れており、
シャッター半開の場合もコンコース階の通路一面に床面から1.5∼2.0m程度の高
さに低温の煙が滞留する結果となっている。3.2.1章で検討した実験と計算の比較では、
シャッターが半開または全開の場合、シミュレーションではホーム階の煙層の崩壊が十
分再現できないことが確認された。本シミュレーションでシャッター半開の場合に、コ
ンコースに煙がさほど侵入していないのは、図3.3.8(a)に見られるように、ホーム階の煙層
が階段シャッター半開時の開口部上端位置(FL+2.3m)よりも高い位置で安定維持されて
いることが原因と考えられるが、実験結果に見られるような煙層の攪拌が生じた場合に
は、ホーム階全体の温度が上昇する可能性が高いため、この試算よりも大量の煙がコン
コースに侵入する恐れがある。この問題については、CFD等にて検証する。
97
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
煙層高さ(m)
煙層高さ(m)
第3章
3
6
11
16 19
算出点
22
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
36
27
700
600
500
400
300
200
100
0
35
37
120
3
6
11
16
19
22
100
80
60
40
20
0
27
36
34
算出点
32
33
35
37
35
37
算出点
(b) ホームでの煙層温度
(b) コンコースでの煙層温度
下部層温度(℃)
60
下部層温度(℃)
32
33
算出点
(a) コンコースでの煙層高さ
煙層温度(℃)
煙層温度(℃)
(a) ホームでの煙層高さ
34
50
40
30
20
10
60
50
40
30
20
10
0
0
3
6
11
16 19
算出点
22
(c) ホームでの下部層温度
図 3.3.8
36
27
34
32
33
算出点
(c) コンコースでの下部層温度
ホーム排煙による
ホーム煙性状の変化(島式ホーム駅)
98
図 3.3.9
ホーム排煙による
コンコース煙性状の変化(島式ホーム駅)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
煙層高さ(m)
煙層高さ(m)
第3章
3
6
11
16 19
算出点
22
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
27
36
35
37
120
700
600
500
400
300
200
100
0
100
80
60
40
20
0
算出点
32
33
算出点
(b) ホームでの煙層温度
(b) コンコースでの煙層温度
3
6
11
16
19
22
36
27
下部層温度(℃)
60
下部層温度(℃)
32
33
算出点
(a) コンコースでの煙層高さ
煙層温度(℃)
煙層温度(℃)
(a) ホームでの煙層高さ
34
50
40
30
20
10
0
34
35
37
35
37
60
50
40
30
20
10
0
3
6
11
16 19
算出点
22
27
34
32
33
算出点
(c) ホームでの下部層温度
図 3.3.10
36
(c) コンコースでの下部層温度
図 3.3.11 ホーム及びコンコース排煙による
ホーム及びコンコース排煙による
コンコース煙性状の変化(島式ホーム駅)
ホーム煙性状の変化(島式ホーム駅)
99
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3)相対式ホーム駅の大規模火源における煙流動特性
39 40
37 38
Concourse Floor
35
41
42
36
20
4
Platform Floor
7
10
13
16
Shutter
19 22
Shutter
25
28
31
Fire Source 10 MW
図 3.3.12 相対式ホーム駅の算出点位置
相対式ホーム駅の平面プランと算出点を図3.3.12に、シミュレーション結果を図3.3.13
∼図3.3.16に示す。ホーム階の煙層温度は、排煙の有無・シャッター開閉の状態変化に関
わらず、火源直近(図3.3.12中の算出点22)で最高500℃程度、やや離れた部分(算出点25)
でも200℃程度まで上昇している。また、煙は、出火ホーム全長の約半分、火源から中央
階段で隔てられた地域(図3.3.12中の算出点7,10,16)まで達し、煙層温度をわずかに上昇
させている。また、非出火ホーム(図3.3.12中の算出点20)にも煙は達し、低温の煙層が
床まで降下している(図3.3.13(a))。排煙の有無はホーム階の煙層高さに影響し、排煙が
機能しない場合、出火ホームのうち主要な階段周辺全体にわたって煙層が床面から1.5∼2
mの高さに降下するに対して、排煙作動時には煙層がその高さまで降下する範囲は半減
する(図3.3.13(a))。コンコース階の煙層温度が上昇するのは、シャッター開放時であり、
改札口内側全体に80℃以上の煙が2mの高さに滞留し、改札口外側でも低温の煙が床面付
近まで降下している(図3.3.14(a))。シャッター開放状態でコンコース階の排煙を作動さ
せても、コンコース階の煙性状には大きな影響を及ぼさない(図3.3.16)。シャッター半
開の場合、改札口内側で低温の煙が1.7m程度まで降下している(図3.3.14)。
100
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
煙層高さ(m)
煙層高さ(m)
第3章
4
7
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
37
10 16 22 25 31 20
算出点
600
41
42
41
42
41
42
120
500
400
300
200
100
0
4
7
10
16 22
算出点
25
31
100
80
60
40
20
0
20
37
(b) ホームでの煙層温度
38
39
40
算出点
(b) コンコースでの煙層温度
60
下部層温度(℃)
下部層温度(℃)
39
40
算出点
(a) コンコースでの煙層高さ
煙層温度(℃)
煙層温度(℃)
(a) ホームでの煙層高さ
38
50
40
30
20
10
0
60
50
40
30
20
10
0
4
7
10
16 22
算出点
25
31
20
(c) ホームでの下部層温度
図 3.3.13
37
38
39
40
算出点
(c) コンコースでの下部層温度
ホーム排煙による
ホーム煙性状の変化(相対式ホーム駅)
101
図 3.3.14
ホーム排煙による
コンコース煙性状の変化(相対式ホーム駅)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
煙層高さ(m)
煙層高さ(m)
第3章
4
7
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
10 16 22 25 31 20
37
38
算出点
600
500
400
42
120
300
200
100
0
100
80
60
40
20
0
4
7
10
16
22
25 31
20
37
38
算出点
(b) ホームでの煙層温度
39
40
算出点
41
42
41
42
(b) コンコースでの煙層温度
下部層温度(℃)
50
下部層温度(℃)
41
(a) コンコースでの煙層高さ
煙層温度(℃)
煙層温度(℃)
(a) ホームでの煙層高さ
39
40
算出点
40
30
20
10
0
60
50
40
30
20
10
0
4
7
10
16 22 25
算出点
31
20
37
38
39
40
算出点
(c) ホームでの下部層温度
(c) コンコースでの下部層温度
図 3.3.16 ホーム及びコンコース排煙による
図 3.3.15 ホーム及びコンコース排煙による
コンコース煙性状の変化(相対式ホーム駅)
ホーム煙性状の変化(相対式ホーム駅)
102
第3章
4)
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
考察
島式ホーム駅、相対式ホーム駅をモデル化し、ホーム上で大規模火源が発生した場合
の両ホーム形式の煙流動性状の予測、特にホーム排煙・コンコース排煙および階段シャ
ッター等がホーム階およびコンコース階の煙流動性状に及ぼす影響を2層ゾーンモデル
により検証した結果、以下の結果を得た。
① 火源強度10MWでは、島式ホーム駅、相対式ホーム駅ともに火源近傍の煙層温
度は500℃以上となる。ホーム排煙の作動により煙層を2m以上の高さに維持で
きるが、高温での排煙設備の作動性を確認する必要がある(図3.3.8(a)(b),図
3.3.13(a),(b))。
② コンコース∼ホーム間の階段シャッターが全開放されている場合、コンコース
へ煙の侵入が顕著であり、コンコース排煙を稼動させても効果はほとんど見ら
れない(図3.3.11,図3.3.16)。
③ 島式ホームでは、煙層の影響が及ぶ範囲は、階段室等の障害物で囲まれた部分
にほぼ限定できるため、火源から離れた位置なら、ホーム上でも比較的安全な
一時滞留場所となりやすい(図3.3.8)。ホーム中央部の階段に加えて両端部に避
難専用階段を設けることも、一時滞留や2方向避難に有効と考えられる。
④ 相対式ホームでは、煙の影響範囲が広範囲に及ぶ可能性があり(図3.3.13)、駅
の条件ごとに煙制御計画や避難計画を検討することが必要と思われる。
103
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(2)2層ゾーンモデルによる地下鉄駅舎内の大規模火災時の避難安全性の検証
ホーム上に10MW3-5)の定常火源を設定し、大規模火災時の排煙や階段シャッター等
の防災設備の効果を検討した結果、ホーム階の排煙設備には、ホーム上の煙層高さを居住
域以上に維持できる性能があること、コンコースへの漏煙量はコンコース∼ホーム間の階
段シャッターの状態が大きく影響し、コンコース排煙はコンコースの環境維持にはほとん
ど寄与しないことが確認できた。
ここでは、成長火源の速度を設定し,階段シャッター閉鎖,ホーム排煙起動等のシナリ
オを想定した2層ゾーンモデルと 3.3.2 章の避難計算モデルを用いて、ホーム上に大規模
火災が発生した場合の島式ホーム駅舎、相対式ホーム駅舎の避難安全性能を検証する。
なお、この検証では、島式ホームA駅、
相対式ホームC駅をもとに、図 3.3.21 および図 3.3.24
のように形状を簡略化し、島式ホーム駅はホーム階を長辺方向に 20mずつ、相対式ホーム
駅は 17mずつ均等に分割しモデル化している。
1)避難時間に基づく階段シャッター・排煙等のスケジュールおよび成長火源の設定
(ⅰ) 階段シャッターおよび排煙等のスケジュール
0
30
60
90 120 150 180 210 240 270 300 330 360 390 420 450 480 510 540 570 600
90
閉鎖
階段シャッター
(火源近傍1箇所)
450
140
半開(垂れ壁降下)
階段シャッター
閉鎖
(非火災側1箇所)
140
ホーム排煙
起動
74
ホーム階避難時間
416
避難開始
避難終了
注) ・火災近傍の階段シャッターは、コンコース階への漏煙防止とホーム階の煙層攪拌防止の目的で、避難開始直後に閉鎖とした。
・非火災側階段シャッターは、排煙起動と同時に半開(垂れ壁=50cm降下)、ホーム階の避難終了後全閉とした。
・ホーム排煙は避難開始時に起動信号が入力され、システム切替と起動に約60秒要すると想定した。
・ホーム階避難時間は表3.3.2のCase2を採用した。
図 3.3.17 島式ホーム駅の避難時間と防災設備の想定スケジュール
104
第3章
0
30
60
階段シャッター
90
70
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
120 150 180 210 240 270 300 330 360 390 420 450 480 510 540 570 600
閉鎖
(火源近傍1箇所)
階段シャッター
120
510
半開(垂れ壁降下)
閉鎖
(上記以外3箇所)
120
ホーム排煙
起動
(火災側)
180
ホーム排煙
起動
(非火災側)
56
ホーム階避難時間
484
避難開始
避難終了
(火災側)
116
ホーム階避難時間
226
避難開始
避難終了
(非火災側)
注) ・火災近傍の階段シャッターは、コンコース階への漏煙防止とホーム階の煙層攪拌防止の目的で、避難開始直後に閉鎖とした。
・非火災側階段シャッターは、排煙起動と同時に半開(垂れ壁=50cm降下)、ホーム階の避難終了後全閉とした。
・ホーム排煙(火災側)は避難開始時に起動信号が入力され、システム切替と起動に約60秒要すると想定した。
・ホーム排煙(非火災側)は火災側ホーム排煙起動の60秒後に自動起動するシステムとなっている。
・ホーム階避難時間は表3.3.3のCase2を採用した。
図 3.3.18 相対式ホーム駅の避難時間と防災設備の想定スケジュール
(ⅱ) 成長火源の設定
島式、相対式の各ホーム形式モデルの避難安全性能を検証するうえで、最大火源規
模を10MWとし、以下のように時系列的に同心円状に拡大する成長火源を想定した。
・火源の設定
火源面積:Af=πr2
式(3.1)
2
=π(vt)
火源強度:Q =kAf
=k・π(vt)2
=(k・π・v2)t2
=α・t2
式(3.2)
火源の半径の
成長速度:v(m/s)
図 3.3.19 成長火源のイメージ
以下、「避難安全検証法の解説及び計算例とその解説」3-6)を参考に、成長火源Q
を算出する。
105
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
Q =α・t2
式(3.3)
α =αf+αm
式(3.4)
αf=0.0125(ql≦170)
=2.6×10-6ql5/3(ql>170)
ここで
Q
:火源の発熱速度(kw)
式(3.5)
ql
t
α
αf
αm
:積載可燃物量(MJ/㎡)
:時間(s)
:火災成長率(kw/s2)
:積載可燃物による火災成長率(kw/s2)
:内装材による火災成長率(kw/s2)
以上の式に、αm=0.0035(不燃),ql=960(物販店舗相当)を代入して
α=0.246(kw/s2)を得る。
図 3.3.20 成長火源の発熱速度の変化
106
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
2)島式ホーム駅の大規模火源における避難安全性能
平面図
断面図
図 3.3.21 島式ホーム駅のシミュレーションモデル
火源位置(算出点 24)では、煙層高さは避難開始(74 秒)以前の出火後 40 秒で床上 1.16
mまで降下している(図 3.3.22(a))。その時点の煙層温度は 94℃であり、避難者にとってか
なり危険な状態といえる。火源位置の煙層高さは、排煙起動(140 秒)後も床上1m程度に
留まり、煙層温度はホーム階避難終了時点(415 秒)では 560℃に達している。階段近傍に
大規模な火災が発生した場合、図 3.3.21 のような避難階段がホーム中央にしかない駅舎で
は、火災側のホーム上にいる乗客は、階段に近寄ることが困難となり、ホーム上に取り
残される危険性が高いと考えられる。火源から少し離れた算出点 27 では、煙層高さは排
煙起動寸前には床上 1.5mまで降下し煙層温度も 84℃まで上昇するが、排煙起動ととも
に煙層高さは床上 2.6m以上に維持される。ホーム階避難終了時には、算出点 27 の煙層
温度は約 120℃に達する。算出点 27 の下部層温度も徐々に上昇し、ホーム階避難終了時
点では 30℃に達している。算出点 30 では、煙層高さは避難終了後の約 450 秒まで床上
2.6mに維持できているが、450 秒以降、煙層は降下し、900 秒時点で煙層高さは床上 1.1
mまで降下している。900 秒時点の算出点 30 の煙層温度は 33℃、下部層の温度は 27℃で
あるため、ホーム階の火源から離れた位置では、煙が希釈され下部の空気層と一層化す
る結果となっている。
火源位置と階段等のホーム上の構造物によって隔てられている算出点 9,12 では、避難
終了時点まで、煙層高さが床上 2.6m以上、煙層温度が 30℃以下に維持できている。下
部層にも温度上昇は見られず、煙の拡散が階段等のホーム上構造物により妨げられてい
ると考えられる。
107
煙層高さ (m)
第3章
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
避難開始
74秒
0
排煙起動
140秒
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
避難終了
415秒
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間(秒)
煙層温度 (℃)
(a) ホーム火災側の煙層高さ
700
600
500
400
300
200
100
0
避難開始
74秒
避難終了
415秒
排煙起動
140秒
0
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間(秒)
下部層温度 (℃)
(b) ホーム火災側の煙層温度
避難開始
74秒
60
50
40
30
20
10
0
避難終了
415秒
排煙起動
140秒
0
60
120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間(秒)
(c) ホーム火災側の下部層温度
図 3.3.22 島式ホーム駅のシミュレーション結果(ホーム火災側)
108
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
煙層高さ (m)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
避難開始
74秒
0.5
0.0
0
60
排煙起動
140秒
避難終了
415秒
120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間(秒)
(a) ホーム非火災側の煙層高さ
煙層温度 (℃)
40
避難開始
74秒
30
20
10
避難終了
415秒
排煙起動
140秒
0
0
60
120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間(秒)
(b) ホーム非火災側の煙層温度
下部層温度 (℃)
40
避難開始
74秒
30
20
10
排煙起動
140秒
0
0
60
避難終了
415秒
120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間(秒)
(c) ホーム非火災側の下部層温度
図 3.3.23 島式ホーム駅のシミュレーション結果(ホーム非火災側)
109
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3)相対式ホーム駅の大規模火源における避難安全性能
平面図
断面図
図 3.3.24 相対式ホーム駅のシミュレーションモデル
火源位置(算出点 28)では、煙層高さは避難開始(56 秒)以前の出火後 40 秒で床上 1.09
mまで降下している(図 3.3.25(a))。その時点の煙層温度は 98℃であり、避難者にとってか
なり危険な状態といえる。火源位置の煙層高さは、排煙起動(120 秒)後も床上1m程度に
留まり、煙層温度はホーム階避難終了時点(484 秒)では約 600℃に達している。階段近傍
に大規模な火災が発生した場合、図 3.3.24 のように避難階段がホーム中央にしかない駅舎
では、火災側のホーム上にいる乗客は、階段に近寄ることが困難となり、ホーム上に取
り残される危険性が高いと考えられる。火源から少し離れた算出点 31 では、煙層高さは
排煙起動寸前には床上 1.1mまで降下し煙層温度も約 120℃まで上昇するが、排煙起動と
ともに煙層高さは床上 1.6m程度に維持される。ホーム階避難終了時には、算出点 31 の
煙層温度は 225℃に達する。算出点 31 の下部層温度も徐々に上昇し、ホーム階避難終了
時点では 33℃に達している。階段に挟まれた算出点 22 では、煙層高さは 300 秒程度まで
床上 2.6m以上に維持できているが、その後徐々に下がり始め、ホーム階避難終了時点で
は床上 2.2mまで降下している。900 秒時点の算出点 22 の煙層温度は 32℃、下部層の温度
は 27℃である。
対向するホーム上の火源と正対する位置の算出点 26 の煙層高さは、130 秒までは床上
2.6m以上に維持できているが、150 秒以降、煙層は急激に降下し、ホーム階の避難完了
時点で 35℃の薄い煙が床面まで降下している。その後、対向ホームの算出点 29 が 230 秒
後に、算出点 20 が 460 秒後に薄い煙が床面まで降下する結果となっている。
110
第3章
煙層高さ(m)
3.0
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
避難開始
56秒
2.5
2.0
1.5
1.0
避難終了
484秒
排煙起動
120秒
0.5
0.0
0
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間 (秒)
煙層温度(℃)
(a) 火災側ホームの煙層高さ
700
600
500
400
300
200
100
0
避難開始
56秒
避難終了
484秒
排煙起動
120秒
0
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間 (秒)
(b) 火災側ホームの煙層温度
下部層温度(℃)
60
避難開始
56秒
50
40
30
20
10
排煙起動
120秒
0
0
避難終了
484秒
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間 (秒)
(c) 火災側ホームの下部層温度
図 3.3.25 相対式ホーム駅のシミュレーション結果(火災側ホーム)
111
煙層高さ (m)
第3章
3.0
2.5
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
避難開始
226秒
2.0
1.5
1.0
避難開始
0.5 116秒
排煙起動
180秒
0.0
0
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間 (秒)
(a) 非火災側ホームの煙層高さ
煙層温度 (℃)
40
避難開始
116秒
30
20
10
0
避難開始
226秒
排煙起動
180秒
0
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間 (秒)
下部層温度 (℃)
(b) 非火災側ホームの煙層温度
40
避難開始
116秒
30
20
10
排煙起動
180秒
0
0
避難開始
226秒
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660 720 780 840 900
時間 (秒)
(c) 非火災側ホームの下部層温度
図 3.3.26 相対式ホーム駅のシミュレーション結果(非火災側ホーム)
112
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
4)考察
成長火源の速度を設定し,階段シャッター閉鎖,ホーム排煙起動等のシナリオを想定し
た2層ゾーンモデルと 3.3.2 章の避難計算モデルを用いて、ホーム上に大規模火災が発
生した場合の島式ホーム駅舎、相対式ホーム駅舎の避難安全性能を検証した結果、以下
のことが判明した。
① 島式ホーム駅、相対式ホーム駅共通で、ホーム中央にのみ階段がある場合、階段近
傍で大規模な火災が発生すると、火災が発生したホームの半分近くが避難困難とな
る(図 3.3.22,図 3.3.25)。二方向避難を確保するという原則からも、実験で使用した島
式ホームA駅の図面上右側(図 2.3.3 参照)のような避難専用階段がホーム両端に
設置することが望ましい。
② 島式ホーム駅では,ホーム中央部に位置する階段等を境として火災と反対側のホー
ム上の煙層高さの降下や煙層温度の上昇はほとんどみられない(図 3.3.23)。この原
因は階段等のホーム上の構造体が遮蔽物となり、ホームに沿って広がってくる高温
の空気を線路上の折り上がった天井(ホーム天井高 FL+2.8mに対して、線路天井高
FL+3.5m)に押しやった結果と考えられる。この現象は、島式ホームの実験でも目
視確認できた。図 3.3.27 に島式ホーム駅の階段を挟んだ火災と反対側ホームの「線
路上部層温度」と「ホーム上部層温度」の比較を示す。ホームの上部層温度が火源
からの距離に関わらず 25℃と出火以前の温度と変わらず、ほぼ一定なのに対して、
線路の上部層温度が火源より 10mの位置で 176℃となり距離が遠くなるにつれて温
上部層温度(℃)
度が降下している。
200
150
線路上の温度
ホーム上の温度
100
50
0
130
110
90
70
50
火源からの距離(m)
30
10
図 3.3.27 島式ホーム駅での非火災側の線路上部層温度とホーム上部層温度の比較
(避難終了時:出火後 484 秒)
③ 相対式ホーム駅では、島式ホーム駅に比べて煙の攪拌が比較的広い範囲に広がる傾
向にある。対向ホーム側では比較低温の薄い煙が床面まで降下する結果となってい
る(図 3.3.26)。この原因は、ホーム部分に比べて天井面の高い線路部分がホーム階
の広範囲、特に対向ホーム側に煙を伝播させる流路の役割を果たしているためと考
えられる。この現象は、相対式ホームC駅の実験でも目視確認できた。
113
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(3)CFDモデルによる避難安全性の検証
3.2.2 章では、計算条件を適切に設定すれば、比較的単純なCFDモデルで地下鉄駅舎火
災時の煙流動性状を有効に予測できることが確認された。ここでは、成長火源の速度を設
定し,階段シャッター閉鎖,ホーム排煙起動等のシナリオを想定したCFDモデルと 3.3.2
章の避難計算モデルを用いて、ホーム上に大規模火災が発生した場合の島式ホーム駅舎の
避難安全性能を検証する。
1)火源の設定と計算対象時間
3.3.2 章の避難計算結果をもとに、「ホーム避
難終了時間」におけるホーム温度、
「コンコース
(改札内)避難終了時間」におけるコンコース
改札内温度、
「コンコース(改札外)避難終了時
60sec
約
1MW
120sec
約
4MW
240sec
約
10MW
間」におけるコンコース改札外温度分布をCFD
シミュレーションにより求めた。
火源規模を最大 10MW3-5)(図 3.3.20 参照)とし
て煙流動性状を予測する。火源の発熱速度につい
ては、火源成長率αを、告示避難安全検証法にあ
る書籍・家具物販程度の 0.246kW/s2とし、全て対
流で散逸するものとした。建物火災における有炎
燃焼では、一般に発熱速度の 30%以上が放射で散
逸するとされているから、この仮定は、煙の温度
についてはやや危険側の予測値を与えると考えら
れる。
図 3.3.28 火源成長の様子
114
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
2)現状の煙制御システムでの避難安全性
10MWの火災発生時を想定し、現状の煙制御システム(ホーム排煙・コンコース排
煙)を利用した場合の火災安全性を検証した。モデル化した島式ホーム駅舎の既存のホ
ーム排煙機能力は 132,552 ㎥/h、コンコース排煙機能力は 144,316 ㎥/h である。排煙口
は、ホーム天井面(84 箇所)、コンコース天井(41 箇所)の排煙口位置に 1000mm×1000mm
の流出境界を設定して再現した。ホーム排煙、コンコース排煙の起動は避難開始と同時
(出火後 1 分)とし、そこから所定の能力に達するまでにかかる時間を 1 分とした。階
段シャッターは火源近傍、遠方とも全開とした。
安全性の判断基準として、FL+2.5mで 200℃(煙層からの輻射熱に関する許容条件)3-7),
注3-2)
とFL+1.8mで 40℃(曝露環境の許容最高気温、「ISO/DIS12894 温熱環境の人間工学
−著しい暑熱・寒冷環境に曝される者への事前健康審査」3-3))の2種類の尺度を採用し
た。これらの閾値は、空気温度のみから火災安全性を判断する場合、いずれも後述する
階避難時間と同程度またはそれ以上の時間の曝露に対して避難等の行動上の支障を生じ
る条件と解されるので、階避難完了時の解析結果がこれらの基準を満足しない場合は、
避難安全性について更に詳しい検討を行う必要があると考える。
図 3.3.29 にH1∼H7、C1∼C5のモデル各断面におけるホーム排煙機停止、ホーム
排煙機起動、ホーム・コンコース排煙機起動の各条件での温度分布を色コンター図によ
り示す。図 3.3.30 に床上 2.5m、1.8m 高さでの各条件の温度比較結果を示す。図 3.3.29 よ
り、線路上部の空間が蓄煙空間として重要な役割を果たしていることがわかる。この空
間を経由して 200℃∼350℃程度の高温の煙がホーム階全体に運ばれている。図 3.3.30(c)
より、ホーム床上 1.8m 高さにおいて火源遠くほど高温となる傾向が認められるが、火源
近傍では天井面を薄い舌状に流れていた高温の煙が、線路上部を経由して遠く運ばれて
行く間に対流により攪拌され、下方に拡がった結果だと考えられる。図 3.3.29 において、
40℃以上の空気層下端高さが、火源から遠い位置(H1、H7)において下降している
ことからも明らかである。
図 3.3.30(a)によると、ホーム排煙停止時、火源近傍は 200℃以上の高温となり、前述の
許容条件を超える。H4前の階段を避難に利用することができないと、H6、H7にい
る避難者は避難路を絶たれ、ホームに閉じ込められる可能性がある。
ホーム排煙起動時には、ホーム排煙停止時と比較して、ホーム、コンコースの全域に
おいて温度低下が見られた。しかし、ホーム、コンコースのほぼ全域が、床上 1.8m 高さ
において 40℃以上の高温となっている。また、図 3.3.30(b),(d)によると、コンコース排煙
停止時には、C4,C5と比較してC1、C2、C3の温度上昇が目立っている。これ
は、火源近傍の階段(図 3.3.29 各階右側)からコンコース階改札口内(C3)に流れ込んだ
煙が、階段上昇時の慣性力により、そのまま図 3.3.29 のコンコース階を左側、即ち、C1、
C2方向へ流れるためと考えられる。
115
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
Fire source
※
※
火
30m
30m
H2
H1
30m
H3
25m
H4
45m
H5
30m
40m
H6 H7
C1
40m
C2
40m
C3
25m
C4
C5
(a) 排煙停止
(c) ホーム&コンコース排煙稼動
(℃)
図 3.3.29 温度分布コンタ(10MW)
C3:出火後 13 分,
C1, C5:出火後 16 分)
280
240
200
160
120
80
40
0
Temperature(℃)
Temperature(℃)
(H1, H4, H7:出火後 5 分,
H1
H2
H3
H4
H5
H6
100
80
60
40
20
0
H7
C1
Temperature(℃)
Temperature(℃)
100
80
60
40
20
0
H3
H4
H5
H6
H7
C3
C4
C5
120
100
80
60
40
20
0
C1
(c) ホーム階温度(FL+1.8m)
排煙停止 (case 1)
C2
(b) コンコース階温度(FL+2.5m)
120
H2
color-temperature range
120
(a) ホーム階温度(FL+2.5m)
H1
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
(b) ホーム排煙稼動
C2
C3
C4
C5
(d) コンコース階温度(FL+1.8m)
ホーム排煙起動 (case 2)
ホーム&コンコース排煙起動 (case 3)
図 3.3.30 ホーム及びコンコース温度 (H1-H7:出火後 5 分,C3:出火後 13 分,C1, C2, C4, C5: 出火後 16 分)
116
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
コンコース排煙起動時、C1、C2、C3ではほとんど温度に変化がないが、C4、
C5では 10K程度の温度上昇が見られた。これは、コンコース排煙起動によりC4、C
5方向にも煙が引き込まれたためだと考えられる。結果として床上 1.8m 高さにおいてコ
ンコース全体が 40℃以上の高温となっている。コンコース排煙の起動は、必ずしもコン
コース温度を低下させるわけではなく、逆に煙をコンコースに流入させてコンコースの
温度上昇を招く可能性があることがわかった。
10MWの火災が発生した場合、既存のホーム排煙、コンコース排煙による煙制御シス
テムでは駅舎内は前述の許容条件を満足できないため、地下鉄駅舎の避難安全について、
更に詳しい検討を行うべきであることがわかる。
117
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3)避難安全性向上手法の検討
表 3.3.4 に現状の駅舎の避難安全性能を検討した条件と改善案のシミュレーションケー
スの条件一覧表を示す。また、図 3.3.31 及び図 3.3.33∼図 3.3.36 に火災安全性向上の各手
法の温度比較結果を示す。排煙、加圧給気を利用する場合、起動は避難開始と同時(出火
後 1 分)とし、所定の能力に達するまでにかかる時間を 1 分とした。また、シャッター
は図 3.3.35 以外、火源近傍、遠方ともに全開とした。
表3.3.4 CFDシミュレーションCase一覧表
現
状
火源規模
10MW
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
5MW
3MW
2MW
シャッター
全開放
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
半開(両方)
閉鎖(火源近傍)
全閉鎖
全開放
〃
〃
ホーム排煙 コンコース排煙 コンコース加圧
備考
−
−
−
○
−
−
○
○
−
○2倍
−
−
○*
−
−
*排煙口位置変更
○2倍*
−
−
*排煙口位置変更
○
○2倍
○
−
○
○
−
○2倍
○
−
−
○
−
−
片方開放
○
−
−
○
−
−
○
−
−
○
−
−
○:稼動, 2倍:風量を2倍に強化
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
Temperature(℃)
Temperature(℃)
改
善
案
Case1
Case2
Case3
Case4
Case5
Case6
Case7
Case8
Case9
Case10
Case11
Case12
Case13
Case14
Case15
H1
H2
H3
H4
H5
H6
120
100
80
60
40
20
0
C1
H7
Temperature(℃)
Temperature(℃)
120
100
80
60
40
20
0
H2
H3
H4
H5
H6
C4
C5
120
100
80
60
40
20
0
C1
H7
C2
C3
C4
C5
(d) コンコース階温度(FL+1.8m)
(c) ホーム階温度(FL+1.8m)
ホーム排煙:稼動 (Case2)
ホーム排煙:2倍 (Case4)
ホーム排煙:折上天井位置 (Case5)
図 3.3.31
C3
(b) コンコース階温度(FL+2.5m)
(a) ホーム階温度(FL+2.5m)
H1
C2
×
ホーム排煙:折上天井位置&2倍 (Case 6)
排煙向上策の効果 (H1-H7:出火 5 分後, C3:出火 13 分後, C1, C2, C4, C5:出火 16 分後)
118
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
(ⅰ) ホーム排煙能力増強(図 3.3.31, Case4)
ホーム排煙能力を、既存の2倍である 265,104 ㎥/h とした場合、既存ホーム排煙(Case
2)起動時と比較して、ホームの床上 2.5m 高さで 15∼50Kの温度低下が見られた。特
に火源近傍のH5における温度低下が顕著であり、輻射熱が避難者の許容範囲内である
200℃以下まで低下している。床上 1.8m 高さにおいては、5∼15Kの温度低下が見られ
たが依然としてホーム居住域は 40℃を超えている。コンコースでは、床上 2.5m 高さで
はC4、C5において 10K程度、床上 1.8m 高さではC3において 10K程度の温度低下
が見られるが、ホームと同様に居住域部分が 40℃を超えている。
(ⅱ)ホーム排煙口位置変更(図 3.3.31, Case5)
ホーム天井面に設置されている既存のホーム排煙口位置を図 3.3.32 のように線路上
部側面に変更した場合の効果を検証した。排煙口は線路上部側面(84 箇所)に、1000mm
×900mm の流出境界を設定して再現した。ホーム排煙機能力は、既存ホーム排煙機能力
と同じ 132,552 ㎥/h とした。
既存ホーム天井排煙(Case2)起動時と比較して、特に火源遠方での温度低下が顕
著である。H1、H2、H6、H7において、床上 2.5m 高さでは 30∼40K、床上 1.8m
高さでは 10∼20K程度低下している。これは、線路上部側面に設けた排煙口が、線路
上部からホームへ高温の煙が再混入するのを防止するためと考えられるが依然として
ホーム居住域は 40℃を超えている。コンコースでの温度低下はほとんど見られない。
ホーム排煙口位置の変更
(線路折上天井側面)
Case5
現状の排煙口位置
(ホーム天井面)
Case2
Railway
Railway
Railway
Railway
Platform
Platform
図 3.3.32 ホーム排煙口の現状位置と変更位置(ホーム断面図)
(ⅲ)ホーム排煙能力増強、ホーム排煙口位置変更(図 3.3.31, Case6)
ホーム排煙能力を既存(Case2)の2倍である 265,104 ㎥/h、排煙口位置を線路上部
側面とした。既存ホーム排煙起動時と比較して、ホームでは床上 2.5m 高さで 30∼70
K、床上 1.8m 高さで 5∼50K程度の温度低下が見られた。ホーム階全域において、床
上 1.8m 高さで 40℃以下に低下している。コンコースでは、10K前後の温度低下が見ら
れるものの、C1、C2、C3の床上 1.8m 位置での温度は依然として 40℃以上の高温
となる。
119
100
Temperature(℃)
Temperature(℃)
第3章
80
60
40
20
0
C1
C2
C3
C4
C5
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
100
80
60
40
20
0
C1
コンコース階温度(FL+1.8m)
C2
C3
C4
C5
コンコース階温度(FL+1.8m)
コンコース排煙:停止 (Case2)
コンコース給気:停止 (Case 2)
コンコース排煙:稼動 (Case3)
コンコース給気:稼動 (Case 8)
コンコース排煙×2倍:稼動 (Case7)
コンコース給気×2倍:稼動 (Case9)
図 3.3.33 コンコース排煙の効果
図 3.3.34 コンコース給気の効果
(C3:出火 13 分後、C1, C2, C4, C5:出火 16 分後)
(C3:出火 13 分後、C1, C2, C4, C5:出火 16 分後)
(ⅳ)コンコース排煙能力増強(図 3.3.33, Case7)
コンコース排煙能力を、既存の2倍である 288,632 ㎥/h とした。コンコース排煙停
止時(Case2)と比較して、コンコース全域の床上 1.8m 高さにおいて温度低下が見ら
れた。既存の2倍程度(288,632 ㎥/h)のコンコース排煙機能力があれば、コンコース
温度を低下させる効果があるが依然として居住域は 40℃を超えている。
(ⅴ)コンコース加圧給気(図 3.3.34, Case8,9)
コンコース加圧給気システムをホーム排煙と併用させた場合の効果を検証した。コ
ンコース給気能力は 144,316 ㎥/h とした(Case8)。既存のコンコース天井(41 箇所)
の給気口位置に 1000mm×1000mmの流出境界を設定して再現した。床上 1.8m 高さで
のコンコース温度はC1、C2、C3では 10∼20K程度低下しているが、C4、C5
では 15K程度上昇している。これは、加圧給気すると安定した煙層が形成されにくく
なるためと考えられる。コンコース加圧給気能力を2倍の 288,632 ㎥/h(Case9)に
しても、C4、C5では依然として 10K程度の温度上昇が見られる。
288,632 ㎥/h 以下のコンコース加圧給気能力では、必ずしもコンコース温度を低下
させる効果があるわけではなく、逆にコンコースの温度上昇を招く恐れがあることが
わかった。
120
280
240
200
160
120
80
40
0
Temperature(℃)
Temperature(℃)
第3章
H1
H2
H3
H4
H5
H6
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
120
100
80
60
40
20
0
C1
H7
(a) ホーム温度(FL+2.5m)
C2
C3
C4
C5
(b) コンコース温度(FL+1.8m)
シャッター:開放 (Case2)
シャッター:半開 (Case 10)
火源近傍シャッター:閉鎖,遠方シャッター:開放 (Case11)
×
シャッター:閉鎖 (Case 12)
図 3.3.35 シャッター開閉操作の影響
(H1-H7:出火後 5 分,C3: 出火後 13 分,C1, C2, C4, C5:出火後 16 分)
シャッター開放 & シャッター半開
火源近傍シャッター:閉鎖,その他シャッター:開放 (H1-H7:出火後 7 分,C3:出火後 13 分、C1, C2, C4, C5: 出火後 16 分)
シャッター閉鎖
(H1-H7:出火後 15 分,C3:出火後 16 分,C1, C2, C4, C5:出火後 19 分)
(ⅵ)シャッターの開閉操作(図 3.3.35, Case10, 11, 12)
ホーム・コンコース間階段(火源近傍と火源遠方の2つ)前に設置されたシャッター
について、既存のホーム排煙起動時に、以下の3種類の開閉操作を行った。出火時、
両シャッターは全開しているものとし、シャッターの操作は避難開始と同時(出火後 1
分)とした。
・シャッター半開(Case10)
天井から上部 1m だけ閉鎖し、半開状態とした。シャッター下部を避難者が通り抜け
られるものとして、避難時間は階段シャッター2 箇所開放時と同様とした。
シャッター全開時と比較して、コンコースのC1、C2、C3の床上 1.8m 高さにお
いて 10K程度の温度低下が見られたが、依然として 40℃以上の高温となっている。ホ
ームでは特にシャッター前のH4における温度上昇が著しく、煙層が 200℃以上の高温
となって前述の許容条件を越える。
シャッター半開は、コンコースの温度上昇を防ぐ効果がある一方で、シャッター前
(H4)の温度を著しく上昇させる可能性があることがわかった。
・火源近傍シャッターのみ閉鎖(Case11)
半開時と比較して、さらにコンコースの温度上昇を防ぐ効果がある。特に床上 1.8
m高さのC1、C2ではほとんど温度上昇が見られず、C3を除きほぼ全域で 40℃以
下に保たれている。ホームではシャッター前のH4だけでなく、ホーム全域で温度上
昇が見られる。特にホーム端部のH1、H7で温度上昇が顕著であり、全開時と比較
して 30K程度上昇している。閉鎖されたシャッターによりコンコースへの侵入を遮ら
れた煙が、ホームの広範囲に広がったものと考えられる。
火源近傍シャッターのみ閉鎖すると、コンコースの温度上昇を防ぐ効果がある一方
で、ホーム全体の温度を上昇させる可能性があることがわかった。
121
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
・火源近傍、火源遠方の両シャッター閉鎖(Case12)
コンコースの温度上昇は全く見られない。ホームにおいては火源近傍シャッターの
み閉鎖時と比較して、さらに温度上昇が見られる。コンコースへの侵入を完全に遮ら
れた煙が、ホームの広範囲に広がったものと考えられる。
シャッターの閉鎖は、コンコースの温度上昇を防ぐ効果がある一方で、ホーム全体
280
240
200
160
120
80
40
0
Temperature(℃)
Temperature(℃)
の温度を上昇させる可能性があることがわかった。
H1
H2
H3
H4
H5
H6
120
100
80
60
40
20
0
C1
H7
Temperature(℃)
Temperature(℃)
120
100
80
60
40
20
0
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
C3
C4
C5
120
100
80
60
40
20
0
C1
C2
C3
C4
C5
(d) コンコース階温度(FL+1.8m)
(c) ホーム階温度(FL+1.8m)
10MW (Case 2)
C2
(b) コンコース階温度(FL+2.5m)
(a) ホーム階温度(FL+2.5m)
5MW (Case 13)
3MW (Case 14)
×
2MW (Case 15)
図 3.3.36 火源強度の影響 (H1-H7:出火後 5 分,C3:出火後 13 分,C1, C2, C4, C5s:出火後 16 分)
(ⅶ)火源強度の抑制(図 3.3.36, Case 13, 14, 15)
既存のホーム排煙を前提として、火源強度を10MW,5MW,3MW,2MWの4
種類に変化させ、地下鉄駅舎内の温度変化を比較した。火源強度5MW以下の場合、
床上 2.5m高さで 200℃以上になることはない(最大値:5MW時にH4で 130℃)。床
上 1.8m高さでは、5MW時にホーム上のH1,H2,H3,H7、コンコース上のC
1,C2,C3で 40℃以上となっている。3MW時にホーム上のH7で 40℃を超えて
いるが、ホーム、コンコースのそれ以外の場所で 40℃以上に達することはない。2M
W時にはホーム、コンコース上で 40℃以上となる場所はない。
122
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
3)考察
地下鉄駅舎内の煙流動性状のCFD解析を、乱流については k-ε高レイノルズモデル、
密度変化については簡易圧縮モデルを採用し、対象空間を一辺数百 mm から 1mの格子に
分割し実施した結果、以下の結論を得た。
①ホーム階の排煙能力増加や排煙口設置位置の工夫等により、ある程度のホーム階の安
全性向上が図れる(図 3.3.31)が、煙層温度を居住域での輻射許容値(2kW/㎡,ここ
では 200℃で代表)以下に抑制することが困難であり、煙層温度を下げるには、不燃
化対策等による火源抑制がもっとも効果がある(図 3.3.36)。
②シャッターを半開、閉鎖することによりコンコース階への漏煙量を削減し、コンコー
ス階の環境を改善できる(図 3.3.35)。しかし、ホーム階では、シャッター付近の温度
上昇が顕著になるなど、環境が悪化する可能性がある。上記①と同様に、ホーム階の
不燃化がコンコースの温度を下げる最も効果的な方策である(図 3.3.36)。
123
第3章
3.4
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
まとめ
地下鉄駅舎の安全性、特に煙制御上の問題点を確認し、避難上の最適解を見出すための
基礎データの収集を目的として、実際に稼動中の地下鉄駅舎を使用して火災実験をおこな
い、その後、ゾーンモデルとCFD(Computational Fluid Dynamics)を用いて実験再現
性について検討した結果、2層ゾーンモデルはシャッター閉鎖時の実験再現性は高いもの
の、横風等の煙層の形成を乱す要因がある条件での再現性は低いことが判明した。一方、
CFDでは、初期火災を想定した火災実験で認められた煙流動性状を、2 層ゾーンモデルで
は再現困難な特徴を含めて良く再現することができることが確認できた。
このように、2層ゾーンモデルは煙層の安定を阻む条件がある場合に不向きであるが、
複層階に及ぶ複雑な建物構造物モデルを簡便に作成できることや計算時間が短いなど多く
の長所を有している。一方、CFDは横風等の影響を盛り込むなど、より詳細な煙流動性
状の再現が可能であるが、地下駅のように平面が著しく異なる階が連続するような場合、
モデル作成が煩雑となり、かつ、計算にも長時間を要するなど実用的な計算が困難になる。
今後、この両者の計算を状況に応じて使い分けることが望ましいと考えられる。
2層ゾーンモデルおよびCFDを用いて、10MWの大規模火災が地下鉄駅舎のホーム階
で発生した場合の避難安全性を検証した結果、以下のことが判明した。
① 初期火災を想定した火災実験で認められた煙流動性状を、2層ゾーンモデルでは再現
困難な特徴を含めて、CFD解析では良く再現することができた(図 3.2.14)。
② ホーム階の排煙能力増加や排煙口設置位置の工夫等により、ある程度のホーム階の安
全性向上が図れる(図 3.3.31)が、煙層温度を居住域での輻射許容値(2kW/㎡,ここで
は 200℃で代表)以下に抑制することが困難であり、煙層温度を下げるには、不燃化
対策等による火源抑制がもっとも効果があること(図 3.3.36)。
③ シャッターを半開、閉鎖することによりコンコース階への漏煙量を削減し、コンコー
ス階の環境を改善できるが、ホーム階では、シャッター付近の温度上昇が顕著になり、
環境が悪化する可能性がある。上記②と同様に、ホーム階の不燃化がコンコースの温
度を下げる最も効果的な方策であること(図 3.3.35)。
④ 相対式ホーム駅では、2つのホーム間にある線路が煙の伝播経路となるため、島式ホ
ーム駅に比べて煙の拡散が比較的広範囲に広がる傾向にあること(図 3.3.13,図 3.3.26)。
⑤ 島式ホーム駅、相対式ホーム駅共通で、ホーム中央にのみ階段がある場合、階段近傍
で大規模な火災が発生すると、火災が発生したホームの半分近くが避難困難となるこ
と(図 3.3.22,図 3.3.25)。
⑥ 2方向避難の原則からも、避難専用階段をホーム両端に設置することが望ましいこと。
この避難階段を追加すれば、2 方向避難を容易にするとともに、ホーム階からの避難
時間の大幅な短縮が可能であること。
124
第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと
避難安全計画への応用
【参考文献】
3- 1) 建築研究振興協会「二層ゾーン建物内煙流動モデルと予測計算プログラム」2003.2
3- 2) 日本建築センター「避難安全性能評価業務方法書」2000.
3- 3) ISO/DIS12894「温熱環境の人間工学−著しい暑熱・寒冷環境に曝される者への事前健
康審査」
3- 4) NFPA 130 Standard for Fixed Guideway Transit and Passenger Rail Systems 2000
Edition
3- 5) 武居 泰、山田聖治、上川大輔、長谷見雄二「駅構内に設置される大型売店の火災性
状」
日本建築学会技術報告集 第 22 巻 pp237-242, 2005.12.
3- 6) (財)日本建築センター「避難安全検証法の解説及び計算例とその解説」
pp.279-281,2001.
3- 7) 長谷見雄二、重川希志依「火災時における人間の耐放射限界について」
日本火災学会論文集, Vol.31, No.1,pp1 ‒ 6, 1981.
注 3-1) STAR-CD ver3.15 では、低レイノルズモデルと高レイノルズモデルで、壁面境界層領
域での速度分布や乱流モデルが異なる。また、本検討対象の地下鉄駅舎のホーム長さ
は約 200mであり、ホーム階段からの外部風の吹き込みを想定すると、レイノルズ数
の代表長さ L はホーム長の半分の 100m,風速は実験結果から 1∼10m/s 程度と考え
られ、レイノルズ数としては、6,000,000∼60,000,000 となり、高レイノルズ数の領
域に当てはまると考えられる。
注 3-2) 天井面下に煙層が拡がって、その温度が 200℃,輻射率 1.0 になると、直下の避難者が
受ける輻射熱は最大で 2.84kW/m2となり、避難等の行動上の許容曝露時間は高々、数
分である3-7)。また、煙層がこの程度の温度に達すると照明器具等の溶解・落下の危
険もある。
125
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の把握と
安全性能向上方策の検討
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の把握と安全性能向上
方策の検討
4.1
研究の背景と目的
4.1.1
研究の背景
複数の路線が集まるターミナル駅は鉄道網の中心として、また、駅が立地する地域の中
心として機能している。路線と路線の接点であるため乗換駅として多くの乗降客が利用す
るほか、都市化した周辺地域への玄関口として利用されることも多い。最近では駅舎内部
に「駅ナカ」と呼ばれるショッピングモールやレストラン街が設けられ、そこで買い物や
飲食をおこなうことができるようになり、駅の機能や利用方法は多様化している。
ターミナル駅は複数の路線が存在するため、ホーム数もそれに応じて一般の駅よりも多
い。ホームが複数存在する駅ではホーム間の連絡のために通路が設けられることが多いが、
都心のターミナル駅では特に多くのホームが存在するため、それぞれのホ−ムを連絡する
通路が設けられ、さらに通路同士の連絡も行われるため,通路網が複線化、長大化する傾
向にある。こうした通路網はターミナル駅においてはホームの下部に設けられることが多
く、このような形式の駅舎をここでは「地下通路型ターミナル駅」と呼ぶことにする。
4.1.2 研究の目的と手順
本研究では、実在する駅の中から地下通路型ターミナル駅の代表例を選定し、火災時に
おける安全性の検証をおこない、地下通路型ターミナル駅における火災安全対策の課題、
特に駅舎内の煙流動性状の問題を明確化し、避難安全性能向上のための方策を提示するこ
とを目的としている。
次に研究の手順を述べる.4.2 章では代表例の防火設備や避難誘導設備などの調査を行い、
現状を把握する。4.3 章では 4.2 章の調査をもとにして代表例のモデルを作成し、2層ゾー
ン煙流動予測プログラムを用いて、火災時における煙性状の把握を行うとともに避難計算
を行い、避難の際の問題点について考察をおこなう。
4.4 章では 4.3 章で判明した火災時の避難安全上の問題点に対し改善方策の提案を行い、
避難安全性に対する改善効果を定量的に把握する。
4.1.3 地下通路型ターミナル駅の特徴
本章のタイトルに含まれる「地下通路型ターミナル駅」は造語であり、一般に定義され
ているわけではないので、以下に一般的な駅舎の形態を記述し、その後、地下通路型ター
ミナル駅舎の特徴を記述する。
126
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
駅の主な構成要素として、ホーム、駅舎、通路の三つを挙げることができるが、鉄道駅
の構造は、ホームのある位置によって大きく地上駅、高架駅、地下駅と3つのタイプに分
類できる。それぞれの特徴を以下に記述する。
・地上駅の特徴
ホームは地上にあり、ホームが二つ以上存在する場合や、駅舎とホームの間に線路が
ある場合には乗客が線路を渡る必要があり、このとき改札内の跨線橋あるいは地下道に
よる上下連結が生じる(図 4.1.1 参照)。地上駅は、一般的にホームおよび通路ともに外気
への開放性が高い場合が多い。地上タイプのターミナル駅の代表例には JR 上野駅があげ
られる。
図 4.1.1 地上駅の概念イメージ
・高架駅の特徴
ホームが高架上にある場合の駅構造である。高架線の特徴として高架下にスペース
が存在し、それを有効に使用できるということもあり、駅舎が高架下に設置される場
合が多い(図 4.1.2 参照)。高架タイプの駅でホームが多数になると地下通路型駅となる。
図 4.1.2 高架駅の概念イメージ
127
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
・地下駅の特徴
地下鉄のような地下路線や、地下化によって連続立体交差工事が行われた路線の駅構
造であり、ホームは地下に存在する。駅舎は地上に存在することもあるが、用地取得の
問題がある都心部などでは地上には出入ロのみを設け、駅舎全体を地下に設ける場合が
多い(図 4.1.3 参照)。
図 4.1.3 地下駅の概念イメージ
・地下通路型ターミナル駅の特徴
大都市の主要駅では、複数の鉄道路線が集中するため、ホームの数が多くなる。この
ようなターミナル駅の場合、 駅舎とホーム
あるいは
ホームとホーム
を結ぶ連絡通
路が一体化することで駅舎の空間が広大となる傾向がある。特に高架タイプのターミナ
ル駅では通路空間と屋外との接続はホームヘの階段が主であり、通路網全体の大きさに
対し外部との開口が少ない特殊な地下通路型空間が形成される(図 4.1.4 参照)。こういっ
た駅舎を本研究では「地下通路型ターミナル駅」と呼ぶ。
図 4.1.4 地下通路型ターミナル駅の概念イメージ
128
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
地下通路型を含むターミナル駅は、その内部にコンビニエンスストアや、ショッピン
グモールやレストラン街などの、いわゆる「駅ナカ」を有することが多い。ターミナル
駅は、買い物や食事などに関しての利便性が高い一方で、見通しのきかない通路状の無
窓空間の連続によってもたらされる避難の困難さや、上記の店舗からの出火等の火災危
険要因もある。特に始発・終着駅とする多くの鉄道路線や列車などが集まるターミナル
駅では、ホーム移動の利便性のために駅舎と通路を一体化された構造のものが多く、規
模も大きく乗換客などにより利用者も多いため、避難困難性の問題がより深刻になるも
のと考えられる。また、このようなターミナル駅は駅ビルや地下街等の周辺施設と連続
している場合が多く、駅舎の外にも地下通路が連続し、駅を中心とした大きな地下空間
を構成することもある。
地下空間の一般的な火災時の危険要因として、方向性がとらえがたいこと、出火する
と内部に煙が充満しやすいことなどが挙げられるが、このほとんどが地下通路型ターミ
ナル駅舎にもあてはまる。
このような地下通路型ターミナル駅は鉄道網の中心、地域の中心として国内の主要都
市に多く存在しており、東京都内ではJR東京駅,JR新宿駅,JR池袋駅、地方主要
都市では、JR名古屋駅,JR大阪駅などがそれに該当する。図 4.1.5 にJR名古屋駅の
構内通路の平面イメージを、図 4.1.6 にJR大阪駅の構内通路平面イメージを示す。この
イメージ図から複数のホームあるいは線路下に地下型の通路が広く展開している状況が
確認できる。
図 4.1.5 JR名古屋駅の構内通路平面イメージ
(JR東海HP上の名古屋駅案内図を参考に作成)
129
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
図 4.1.6 JR大阪駅の構内通路平面イメージ
(JR西日本HP上の大阪駅案内図を参考に作成)
130
第4章
4.2
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
地下型ターミナル駅舎の代表例T駅の特徴
4.2.1 地下型ターミナル駅舎の代表例T駅の概要
東京都心にあるT駅は、JR2社・東京地下鉄(東京メトロ)の駅であり、国内主要幹
線の起点である。2008 年度の一日平均乗車人数は約 40 万人である。
以下、第4章で述べるT駅の状況は 2005 年時点のものである。
地上のホームは高架式であり、また地下にもホームが存在する。先に述べた分類から言
えば高架駅と地下駅の複合型と言える。駅舎は高架下と地下に存在しており、それぞれの
ホームを連絡する通路は駅舎と一体化している。地上の高架式ホームは島式 10 面の 20 線
があり、地下のホームは4面8線がある。地上・地下併せて 14 面 28 線のホームを持ち、
JR の駅ではもっとも多い。そのため駅舎は広大なものとなっている。加えて駅ビルや隣接
するビルの地下階、地下鉄、地下街とも通路によってつながっているため、駅を中心とし
て大きな地下空間が広がっている。本研究では主にメインの連絡通路網となっているT駅
の1階を扱っているが、先に述べたように高架下駅舎であり、その規模も大きいため外見
的な特徴は地下駅舎と変わらない。
線路が南北に走るため、ホームも南北に伸びている。出ロは東西にあり、西側をM側出
口.東側をY側出口と呼ぶ、東西の改札口を連絡する通路は、北・中央・南の3本があり、
それぞれの通路に対応して、M側の地上に3ヵ所、Y側にも3ヵ所の改札が存在し、北口
のさらに北側に新幹線専用の出口が設けられている。構内通路の他、北口通路に隣接して
M 側と Y 側を繋ぐ自由通路がある。
中央通路のM側から続く階段の先には、東京地下鉄M線との乗り換えに使用する地下出
口がある。
また、M側新斡線乗り換え口側から南に数百メートルの所に、JRのK線が発着する地
下ホームがある。距離があることから
動く歩道
が設置されている。
T駅では各ホームの複数の出入ロすべてが、今回扱うホーム下の1階通路網につながっ
ている。そのためT駅のホーム下部は多くの地下通路が通り、さらにそれらが互いに連絡
することで、広大な閉鎖空間が広がっている。
131
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4.2.2 T駅の歴史
T駅は 1914 年に開業。開業当初は3階建ての本屋と第1∼第4までのホ−ムがあった。
1929 年Y側出口開設。1942 年に第 5 ホームが完成。1945 年には空襲により罹災するが、1947
年に駅本屋修復完成。3 階建てが 2 階建てとなる。1948 年に落成したY側新駅舎は翌年、
火災により消失し、現在のM側新駅舎が完成したのは 1954 年になる。その前年の 1953 年
に第 6 ホーム、第7ホームが完成している。その約 10 年後に東海道新幹線が開業し、そのホ
ームとなる第 8 ホーム.第 9 ホームが完成した。1972 年には地下駅が完成し、地下通路に
よってM側と連絡するようになる。1980 年には地下自由通路が完成し、Y地下街との連絡
がより強固になった。
近年.この地下通路とM側に新築されたビルなどの施設が連絡するようになり、T駅周
辺の地下空間はより拡大した。
4.2.3 T駅の防災設備について
(1)T駅の法規制について
現在、T駅は停車場として消防法により規制を受けている。また駅舎全体も建築基準法
の規制対象とのことであるが、建築基準法で要求されている排煙設備は目視では確認でき
なかった。これらの法規制が行われる前に竣工した防火対象物であるため、2005 年現在、
東京駅は既存不適格建築物となっていると考えられる。
(2)T駅の防災上の特性について
T駅の1階は平面的に広大な空間であるが、天井高さが約3m程度と、さほど天井の高
い空間ではないため、火災時には短時間のうちに煙が広範囲に拡散する可能性がある。一
方、避難の観点から見ると、平面的に広大な空間は、火災発生に気づきにくく避難開始時
間が遅くなるとともに、避難出口までの距離が遠いために歩行時間が長くなり、避難時間
が長大化する可能性が高い。また、駅舎であるため、不特定多数者の往来があり、放火や
テロの発生も否定できない空間でもある。このような空間で避難安全性を確保するために
は、放火時の被害拡大防止のためにも可燃物の管理が重要である。火災発生時には、避難時
間の短縮のために、駅従業員等による効果的な避難誘導が不可欠であり、火災から発生し
た煙の拡散防止も重要である。
図 4.2.1 にT駅1階における防火シャッター、垂れ壁の設置位置を示す。先に述べたように
各ホームからの階段がすべて同一フロア(1階)に通じている。そのためホームとホーム
を繋ぐ通路が東西に 3 本通っており,さらにそれらを繋ぐ通路が南北方向に 2 本通っている。
改札内に設けられている新幹線改札付近の通路は、在来線改札内の他の通路部分より一
段高い所に位置している。これらの一段高い区域は改札内部で島状に存在している。この
132
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
ようにT駅のホーム下部では、通路同士が連絡し連続した大規模な空間が形成され、さら
に改札内部において床面の高さが均一ではなく、段差が存在し、また区域によって天井の
高さが異なるなど複雑な空間を形成している(図 4.3.2(b)(c)参照)。
以下に、これら防災設備の設置状況、使用状況について述べる。なお、本章で述べる状
況は、2005 年時点のT駅を目視確認した状況であり、図面等やヒアリングによるものでは
ない。
図 4.2.1 T駅の防火シャッター・防煙垂れ壁位置(2005 年時点)
133
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
1)防火シャッターの設置状況(2005 年時点)
T駅1階構内において防火シャッターは駅舎内の飲食店やコンビニエンスストア、書
店といった店舗の入り口や地下通路や地下ホ−ムヘ続く階段の前に設置されている。店
舗等からの出火を想定し、出火区画(店舗)に炎と煙を閉じ込めることを目的として、
防火シャッターが設置されていると考えられる。一方、防火シャッターは通路を区画す
るようには設けられておらず、面積区画(建築基準法施行令第 112 条第 1 項)が存在しな
い。面積区画は建物内の延焼防止を目的とした法規であるため、T駅構内は、可燃物の
多い広大な空間でありながら、延焼防止へのハード対策が十分とは言い難い状況である。
また、多数の不特定者が見込まれる大規模店舗や自力避難困難者のいる病院等で採用さ
れる水平避難区画注4-1)も存在せず、混雑時の避難や要介護者の安全確保に不安が残る。
写真 4.2.1 防火シャッターのない店舗(1)
134
写真 4.2.2 防火シャッターのない店舗(2)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
2)垂れ壁(2005 年時点)
T駅構内では、各通路内やホームヘの階段前など駅構内全体に垂れ壁が設置され、防
煙区画がなされている。垂れ壁は、集煙による排煙効率のアップと煙の拡散速度を遅ら
せる効果があるが、T駅には排煙が確認できないことから、垂れ壁設置の目的は、煙の
拡散速度の遅延と考えられる。しかしながら、垂れ壁で囲まれた区画の大きさは不規則
であり、細かく区画している区域もあれば、ホール伏の大規模な空間でありながら垂れ
壁のない区域もみられる。
中央通路では通路幅が広いためか、通路に直角方向に設けられた垂れ壁の他、通路の
真ん中に通路と平行方向に延びる垂れ壁も設置されている。垂れ壁により区画される面
積は他の通路と比べて大きいが、中央通路と南北通路を結ぶ通路との交差点となる大空
間では不規則な区画がみられる(写真 4.2.3)。中央通路に面して設置されているホーム階
段を火災時には自然排煙の経路として利用することも、中央通路の安全確保には効果が
あると思われるが、階段入口部分に垂れ壁が設けられている(写真 4.2.4)ことから、T
駅ではホーム方向へは煙排出を行わない計画と判断できる。
北通路は周囲より一段高くなった通路であるが、通路は垂れ壁で2つに区画されてい
る。南通路は北通路に比べて通路幅が広く、東部(Y側)から西部(M側)に向かって
下り勾配となっている。周囲より高い位置にある通路東部(Y側)は天井が低くなって
いるために垂れ壁は可動式となっている(写真 4.2.5)。
南北通路と中央通路を結ぶ通路は新幹線改札口に面しており、大きなホール状の空間
になっている。一段高くなるフロアとの境目に位置しているため、床高さの異なる空間
が一体となってホールを形成している(写真 4.2.6)。
3)その他(2005 年時点)
中央通路では通路中央に移動式仮設店舗が設けられているほか、通路に面するように
飲食店が並んでいる。移動式仮設店舗付近では物品の搬入のために使われるボール箱な
どが通路に放置されていることがある。中央通路以外でも通路内のいくつかの箇所に移
動式仮設店舗が設けられているが、その周辺でも通路上に可燃物を放置しているケース
が見られた。
北通路と中央通路をむすぶ新幹線中央乗り換えロ前のスペースにはキオスクや書店が
設置されているが、他のキオスクの多くに防火シャッターが設けられている一方、この
区域の店舗にはシャッターが設けられていない。
南通路Y側では南通路からK線に至る通路が分かれているが、ここでは他の通路でみ
られたホーム階段がないため、より地下的(閉鎖的)な空間ということができる。通路
に面するように設けられた扉は通常時は従業員専用通路として用いられるが、
「非常時に
は避難経路として用いることかできる」と書かれた紙が貼ってあるが、誘導灯は設置さ
れていない。
新幹線改札内と一般通路の間には垂れ壁が設けられておらず、一般通路で火災が起こ
った際には新幹線改札内でも強く影響を受けると考えられる。
135
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
改札内には避難誘導灯がほとんど見当たらず、災害時における避難は通常の出入ロで
ある改札や、階段を上りホームに出ることによって行われるものと考えられる。ホーム
階段入口部分に設置されている垂れ壁からして、火災時にはホームヘの避難も選択肢の
―つとして考えられているように思われるが、T駅のホームに設置されている階段は、
そのほとんどが同一フロア(1階)のみに通じており、ホームへ避難した際には、鎮火
までホーム上に留まる必要がある。
写真 4.2.3
不規則な防煙区画
写真 4.2.4
階段前に設置された垂れ壁
写真 4.2.5
天井に格納された垂れ壁(稼動式)
写真 4.2.6
新幹線改札口近くの通路の床段差
136
第4章
4.2.4
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
まとめ
排煙設備の設置は確認されず、通路を区画するようなシャッタ一も存在しないため、火
災時には通路に広範囲にわたり煙が広がる可能性がある。
火災室と想定される店舗の多くには防火シャッターが設けられていたが、一部に設置さ
れていない店舗も見受けられた。
店舗の中には、ダンボール等の可燃物を放置する店舗も存在し、火気や可燃物の管理をよ
り徹底する必要がある。特に移動式仮設店舗については、管理や初期消火のあり方につい
て、根本的に検討する必要があると考えられる。
一方、煙の広がりを妨げるために各所に垂れ壁が設置されていたが、区画の形、大きさ
等が不規則であり、大規模な区画されていない空間も存在する。これらの排煙が伴わない
垂れ壁の効果については、性能的に検証の必要がある。
137
第4章
4.3
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
シミュレーションによる火災時の避難安全性の検証
4.3.1
火災時の避難安全性検証の手順と検討対象駅舎のモデル化の方針
(1)火災時の避難安全検証の手順
判定は避難安全性能に関する性能評価機関の業務方法書4-1)を参考に、図 4.3.1 のフロー
チャートの手順で行う。
図4.3.1 避難安全性検証フローチャート
(2)検討対象駅舎のモデル化の方針
再現するT駅1階は 4.2 章で述べたように、多くの垂れ壁により防煙区画されている。
検討モデルを作成する際には、原則的にこのたれ壁によって囲まれた一区画をひとつの室
として扱っていく。室同士をつなげる際に、接続開ロ部の高さを室の天丼高さより低くす
ることによって、垂れ壁を再現することができる。ただし、垂れ壁によって囲まれた、す
べての区画をそれぞれひとつの室とすると、計算が煩雑になり、シミュレーションの計算
安定性に大きな阻害を生じさせる原因となるため、いくつかの室では複数の区画によって
構成された空間をひとつにまとめて扱っている。
また、垂れ壁による区画以外にも床高さの違いや天井高さの違いも、室を区切る際の境界
として扱っている。室自体の天井高さや、床高さを変えることにより、これらの特性を再
138
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
現している。各室の範囲を図 4.3.2(a)に、各室の基本情報と室同士の接続開口部の大きさを
表 4.3.1,表 4.3.2 に示す。
検討モデルを作成する際にその対象として、改札の内部のみを扱った。実際には改札の
外にも屋根のある空間が広がっている。そのため、改札の外側の空間はひとつの大きな空
間として扱い、その室と外部を接続させている。
T駅1階のフロアと外部ホームは、階段を介して接続しているが、検討モデルの簡略化
のため開口部は省略した。
検討モデルを作成する際に、店舗は再現しなかった。特に小規模店舗を再現すると、シ
ミュレーションにおいて空間相互の空気の流出入が複雑となるため、解析上の煩雑さも考
慮して簡略化した。よって小規模店舗出火の想定は、比較的大きな空間(火災室)内に店舗
自体を火源と設定した。
図 4.3.2(a) 検討モデル各室の範囲
139
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
図 4.3.2(b) 検討モデル各室の床レベル
図 4.3.2(c) 検討モデル各室の天井レベル
140
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
表 4.3.1 検討モデル各室の基本情報
室
番号
間口
(m)
奥行
(m)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
12.3
24.3
24.3
24.3
24.3
42
18.8
90
14.4
14.4
45.6
21.3
10
7.8
11.1
15.3
15.3
59.5
59.5
22
24.8
34.8
20
20.8
31.1
59.2
49.2
13
26.4
23.6
25.2
14.7
14.7
14.7
18.5
12.4
12.4
26
15.5
48.1
14.4
12
15
15.9
34.8
17.8
16.7
28.2
27.8
90
12.5
9.7
13.8
13.8
15
53
49.6
16.6
16.6
16.5
17.3
25.2
35.6
15.4
11
24.5
5
16.9
15
9.3
9.3
9.3
17.3
18.5
14.5
16.9
39.5
30
20
17
17
27
35.2
12
面積
(㎡)
185
386
846
433
406
1,184
523
8,100
180
140
629
294
150
413
551
254
254
982
1,029
554
883
536
220
510
156
1,000
738
121
246
219
436
272
213
248
731
372
248
442
264
1,299
507
144
表 4.3.2 検討モデル各室間の接続開口情報
天井高(m)
床高さ(m)
有効高さ 基準レベル 基準レベル
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
3.0
3.0
3.0
3.0
4.0
2.5
2.5
3.0
4.0
4.0
2.5
2.5
2.5
2.5
3.0
3.0
3.0
4.0
2.5
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
2.5
2.5
3.0
2.5
2.5
2.5
2.5
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
4.0
3.0
3.0
3.0
3.0
4.0
3.7
3.7
3.0
4.0
4.0
3.7
3.7
3.7
3.7
3.0
3.0
3.0
4.0
3.7
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.7
3.7
3.0
3.7
3.7
3.7
3.7
4.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
1.2
1.2
0.0
0.0
0.0
1.2
1.2
1.2
1.2
0.0
0.0
0.0
0.0
1.2
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
1.2
1.2
0.0
1.2
1.2
1.2
1.2
0.0
注)基準レベル:GL からの高さを示す
141
接続室
1
2
2
2
3
4
5
5
5
5
6
6
6
7
7
8
8
8
9
9
11
12
12
14
16
18
15
15
16
17
18
19
19
20
21
23
22
22
26
26
27
27
28
29
30
31
31
32
33
34
35
35
37
36
38
39
40
2
3
9
28
4
5
6
18
19
26
7
20
27
8
23
25
37
40
10
11
12
13
14
15
15
15
19
21
17
22
19
20
21
22
22
22
24
25
27
34
35
41
29
30
31
32
42
33
34
35
40
36
36
38
39
43
41
開口幅 開口部上幅高さ 開口部下幅高さ
(m) 基準レベル(m) 基準レベル(m)
12
24
12
9
24
24
24
6
10
10
18
24
15
18
10
5
10
5
14
12
12
9.5
7.5
7.5
10
5
7.8
10
13.8
10
59
21
20
10
10
10
20
4.5
40
10
14.5
14
9
9
9
14
14
14
14
14
14
14
12
14
14
12
14
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
3.2
2.5
2.5
3.2
3.2
2.5
2.5
3.2
3
3.2
2.5
2.5
2.5
2.5
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
2.5
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
2.5
3.2
3.2
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.2
3.7
0
0
0
0
0
0
0
0
1.2
0
0
1.2
1.2
0
0
1.2
0
1.2
0
0
0
0
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
0
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
0
1.2
1.2
0
0
0
0
0
0
0
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
第4章
4.3.2
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
避難時間予測
(1) 避難計算手法
検討モデルでは連続した通路をいくつかに区切り、それを室として扱っているが、避難
計算をする際もその室をひとつの単位として扱い、室ごとに安全性を検証していく。その
ため、各避難経路における避難時間を室ごとに算出する。すべての室で同時に避難を開始
するとは考えず、火災室から避難した人間がある室を通過することにより、その室の避難が
開始すると考える。
そのため避難時間(tescape)は
火災室およびそれに直接接続している室では
tescape = tstart + max(ttravel,tqueue)
tstart
式(4.1)
:避難開始時間(s)
ttravel :歩行時間(s)
tqueue
:滞留時間(s)
火災室以外の室では
tescape =
t'start +
tqueue
式(4.2)
t'start :避難開始時問(s)
tqueue :滞留時間(s)
より求めている.
ただし、各室における t'start は、その室へ人が流入してくる際の流入元である隣室の
避難開始時間とその室の歩行時間の和としている(t'start2=t'start+ttravel)。これ
は隣室からの最初の避難者がその室を歩行することにより在室者に避難の必要性を知らせ
ると考えているためであり、室の出口までくることにより、はじめて室内の全員に避難の
必要性が伝達され、室の避難が開始するという仮定により、上の式から避難時間を計算し
ている(図 3.3.2 参照)。
それ以外の計算上必要となる各条件は、告示避難安全検証法4-2)を参考に、以下のように
定めた。
・tstart
・歩行速度
:2√Afloor+120(s)Afloor:当該プロックの床面積(㎡)
:1.0(m/s)
・有効流動係数:1.5(人/(s・m))
在館者は、通路部分にのみ存在するとし、在館者密度は O、75(人/㎡)とした。
142
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
(2)避難計算結果
1)15室における火災
図 4.3.3 に避難経路を、表 4.3.3 に各避難経路における室毎の避難終了時刻を示す。
表4.3.3 経由室ごとの避難終了時間
経路
A
B
C
C'
D
経由 各室避難
室 終了時間
番号
(s)
15
199
14
278
12
299
15
202
16
228
15
173
19
243
15
173
19
220
20
250
15
197
18
306
M側南口改札
M側中央口改札
M側北口改札
15
Y側南口改札
Y側中央口改札
Y側北口改札
図4.3.3 15室火災時の避難経路
・避難経路の設定
経路A :15 室から避難を開始し、14 室、12 室を経由してM側方向に避難する。
経路B :15 室から避難を開始し、16 室を経由してY側方向に避難する。
経路C :15 室から避難を問始し,19 室を経由して 5 室から避難する。
経路C :15 室から避難を開始し、19 室、20 室を経由して 6 室から避難する。
経路D :15 室から避難を開始し、18 室を経由して 6 室から避難する。
2)18室における火災
図 4.3.4 に避難経路を、表 4.3.4 に各避難経路における室毎の避難終了時刻を示す。
表4.3.4 経由室ごとの避難終了時間
経路
A
B
C
D
E
経由室 各室避難
番号 終了時間(s)
18
15
14
12
18
19
15
16
18
5
18
19
5
18
19
20
6
195
232
309
327
190
238
260
325
195
252
206
274
263
190
259
290
299
図4.3.4 18室火災時の避難経路
・避難経路の設定
経路A:18 室から避難を開始し、15 室、14 室、12 室を経由してM側方向に避難する。
経路B:l8 室から避難を開始し、19 室,15 室、16 室を経由してY側方向に避難する。
経路C:18 室から避難を開始し、5 室から避難する。
経路C:18 室から避難を開始し、19 室、5 室を経由して 5 室から避難する。
経略E:18 室から避難を開始し、19 室、20 室を経由して 6 室から避難する。
143
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
3)26室における火災
図 4.3.5 に避難経路を、表 4.3.5 に各避難経路における室毎の避難終了時刻を示す。
表4.3.5 経由室ごとの避難終了時間
経路
A
B
C
D
D
経由 各室避難
室 終了時間
(s)
番号
26
205.8
34
215.4
35
287.2
36
373.6
37
409.3
26
205.8
34
215.4
33
237.5
26
240.8
5
243.3
4
272
26
240.8
5
243.3
6
330.4
26
215
27
258
図4.3.5 26室火災時の避難経路
・避難経路の設定
経路A :26 室から避難を開始し、34 室、35 室、36 室、37 室を経由してY側方向に避難する。
経路B :26 室から避難を開始し、34 室、33 室を経由してM側方向に避難する。
経路C :26 室から避難を開始し,5 室、4 室を経由してM側方向に避難する。
経路D :26 室から避難を開始し、5 室、6 室を経由してY側方向に避難する。
経路D ;26 室から避難を開始し、27 室,6 室を経由してY側方向に避難する。
4)37室における火災
図 4.3.6 に避難経路を、表 4.3.6 に各避難経路における室毎の避難終了時刻を示す。
表4.3.6 経由室ごとの避難終了時間
経路
A
B
C
経由 各室避難
室 終了時間
番号
(s)
37
182.3
36
231.2
35
272.2
34
272.3
33
294.4
37
182.3
36
231.2
35
272.7
34
270.6
26
391.4
37
182.3
36
231.2
35
258.2
27
320.5
図4.3.6 37室火災時の避難経路
・避難経路の設定
経路A:37 室から避難を開始し、36 室、35 室、34 室、33 室を経由してM側方向に避難する。
経路B:37 室から避難を開始し,36 室、36 室、34 室、26 室を経由して 5 室方向に遊離する。
経路B:37 室から避難を開始し、36 室、35 室、27 室を経由して 6 室方向に避難する。
144
第4章
4.3.3
(1)
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙流動シミュレーションモデル
検討対象地下通路型ターミナル駅舎のモデル化
本章では2層ゾーン煙流動予測プログラム4-3)を用いて火災時の煙性状についてシミュ
レーションを行い、計算結果をもとにT駅1階の煙流動特性について考察する。
(2) 火源の設定
地下型ターミナル駅舎の避難安全性能を検証するうえで、
最大火災規模を 10MW4-4)の
成長火源を設定した。具体的には 3.3.3(2)章参照(図 3.3.20 参照)。
145
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
(3)計算結果
1)15室における火災
15 室は床面が1階の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5m(基準レベル+3.7
m)と低い室である。同様の室が 14 室,19 室,20 室,21 室と連なっている。
表 4.3.7 に 15 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。避難開始室(火災室)
である 15 室は、避難終了時刻以前に煙層温度と煙層高さが限界値に達している。15 室は、
床面が1階の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5mと低いため、火災発生時に
煙層の降下が早く、煙層温度も高くなる傾向にある。
経路Aは 14 室,12 室を通過する避難経路である。14 室は室の床・天井レベルが 16 室
と同一であるため、15 室からの煙の流入が多く見られ、室避難終了以前に煙層高さが限
界値に達している。12 室は 14 室に比較すると床面が低く(基準レベル±0)、1階基準レ
ベルの天井高さも 14,15 室よりも低いため(基準レベル+3.0m)、14 室から煙が流入しに
くい状況である。また、室の有効天井高さも 3.0mと高いため、煙層高さ、煙層温度とも
に室避難終了まで限界値に達していない。
経路Bは 16 室方向へ避難し、そのままY側北口の改札から避難を行う経路である。16
室は 15 室に比較すると床面レベルが低く(基準レベル±0)、1階基準レベルの天井高さ
も 15 室よりも低いため(基準レベル+3.0m)、14 室から煙が流入しにくい状況である。ま
た、室の有効天井高さも 3.0mと高いため、煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限
界値に達していない。
経路Cは 19 室,5 室へと避難する経路である。19 室は床・天井レベルが 16 室と同一で
あるため、15 室からの煙の流入が見られるが、煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了ま
で限界値に達していない。この原因は、19 室に流入した煙が、より天井が高く(基準レベ
ル+4.0m)、空間容積も大きな 18 室に流出するためと考えられる。
経路C'は 19 室,20 室を経由して 6 室へ避難する経路である。19 室から 20 室への煙の
流入量は少なく、煙層高さ,煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していない。
経路Dは 18 室,6 室へ避難する経路である。18 室へは周辺の 14、15,19 室から煙が流入
するが、18 室は周辺室より天井が高く(基準レベル+4.0m)、空間容積も大きいため、煙
層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していない。
表 4.3.7 15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
C'
D
経由
室
番号
15
14
12
15
16
15
19
15
19
20
15
18
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
>10,000
>200℃
(人) >1.8m
(s)
551 83
134
136
118
199
413 393
190
191
278
294 613
299
551 165
134
136
118
202
234 330
228
551 83
134
136
118
173
1029 427
430
243
551 83
134
136
118
173
1029 427
430
220
554 843
328
250
551 83
134
136
118
197
982 819
306
数字 は限界値の最小値を示す。
146
(全体図は図4.3.3参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4 室 5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.3.7(a) 15室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.3.7(b) 15室10MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.3.7(c) 15室10MW火災時の各室下部層温度
147
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
2)18室における火災
18 室は床面が1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0mと高く、平面的にも
1,000 ㎡近い室容積が大きな室である。床面(1 階基準レベル+1.2m)が高く、天井高さ(有
効天井高さ 2.5m)が低い 15,19 室と比較的大きな開口で接続されている。
表 4.3.8 に 18 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
避難開始室(火災室)である 18 室は、避難終了直前に煙層温度が限界値に達している。
経路Aは 15 室,14 室,12 室を通過する避難経路である。15 室でも室避難終了以前に煙
層高さが限界値に達している。15 室床面は1階基準レベル+1.2mであり、天井高さも
2.5m(基準レベル+3.7m)と低い室であるため、18 室からの煙流入により早期に危険な状
態になると考えられる。14 室も床天井レベルは 15 室と同様であるため、煙層高さは比較
的早期に限界高さまで降下するが、14 室ではそれ以前に避難を完了することが出来てい
る。12 室は 14 室に比較すると床面が低く(基準レベル±0)、1階基準レベルの天井高さ
も 14 室よりも低いため(基準レベル+3.0m)、14 室から煙が流入しにくい状況である。
経路Bは 19 室,15 室,16 室を通過する避難経路である。19 室は、火災室である 18 室が
限界値を越える以前に煙層高さが限界値に達している。この原因は、19 室の床面が1階
の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5m(基準レベル+3.7m)と低い室であり、
かつ、18 室と大きな開口で接続されているため、18 室からの煙流入が多く、より早期に
危険な状態になると考えられる。
経路Cは 18 室から 5 室への避難経路である。5 室は 18 室との開口高さが低く(床レベ
ル+2.5m)天井が部分的に折上っており、平均天井高さも約 3.5mと高いため、18 室か
らの煙の流入はあるが、煙層高さ,煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していない。
経路Dは 19 室,5 室へと避難する経路である。19 室は 18 室以前に煙層高さが限界値に
達している。5 室は煙層高さ,煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していない。
経路Eは 19 室まで経路Dと同じ室を通過し、20 室を経由して 6 室から避難を行う経路
であるが、18 室,19 室に加え 20 室でも室避難終了以前に煙層高さが限界値に達している。
表 4.3.8 18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
E
経由
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
室
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
番号
>10,000
>200℃
(人) >1.8m
(s)
18 982 147
186
195
15 551 250
221
223
232
14 413 561
317
309
12 294 781
327
18 982 442
186
190
19 1029 405
163
164
238
15 551 714
221
223
260
16 254 905
325
18 982 147
186
195
5 406 856
252
18 982 442
186
206
19 406 405
163
164
274
5 406 856
263
18 982 442
186
190
19 982 405
163
164
259
20 982 821
219
222
290
6 982 1709
299
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.4参照)
148
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室
5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.3.8(a) 18室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室 5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.3.8(b)
下部層温度(℃)
50
18室10MW火災時の各室煙層温度
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.3.8(c) 18室10MW火災時の各室下部層温度
149
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
3)26室における火災
26 室は床面が1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0m(基準レベル+4.0m)
と高く、平面的にも 1,000 ㎡の大きな室である。床レベル(基準レベル+1.2m)が高く、
天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 27 室と比較的大きな開口で接続されている。
表 4.3.9 に 26 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
避難開始室(火災室)である 26 室は、避難終了直前に煙層温度が限界値に達している。
経路Aは 34 室,35 室,36 室を通過する避難経路である。34 室は 26 室と床レベルが同じ
であり、天井高さも 26 室より低いため、26 室からの煙流入量は少なく、室避難終了まで
煙層高さが限界値に達していない。
一方、避難者が 34 室の次に通過する 35 室,36 室では、
避難終了時刻以前に煙層高さが限界値に達している。
34 室は 26 室と床レベルが同じであり、天井高さも 26 室より低いため、室避難終了ま
で煙層高さが限界値に達していない。
経路Bは 34 室,33 室を通過しM側出口に到達する経路である。前述のように、34 室へ
の煙の流入が少ないため、34 室、33 室では、室避難終了まで煙層高さが限界値に達してい
ない。
経路Cは 26 室,5 室を経由して 4 室方向へ向かい、経路Dは 5 室を経由して 6 室に向か
う経路である。5 室,4 室,6 室は 26 室と床が同レベルであり、天井高さも 26 室より低い
ため、26 室からの煙流入量は少なく室避難終了まで煙層高さが限界値に達していない。
経路D'は 27 室を経由して 6 室へ向かう経路である。26 室に加え、27 室でも室避難終
了以前に煙層高さが限界値に達している。27 室は床面が1階基準レベルよりも 1.2m高
く、天井高さも 2.5m(基準レベル+3.7m)と低く、かつ、26 室と比較的大きな開口で接
続されているため、26 室からの煙流入により早期に危険な状態になると考えられる。
表 4.3.9 26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
D
経由
室
番号
26
34
35
36
37
26
34
33
26
5
4
26
5
6
26
27
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
>10,000
>200℃
(人) >1.8m
(s)
1,000 188
188
205.8
248 187
215.4
731 1012
230
232
287.2
372 1622
305
313
373.6
248 1808
409.3
1,000 188
188
205.8
248 187
215.4
213 347
237.5
1,000 163
188
240.8
406 234
243.3
433 558
272
1,000 163
188
240.8
406 234
243.3
433 1799
330.4
1,000 400
188
215
738 677
156
157
258
数字 は限界値の最小値を示す。
150
(全体図は図4.3.5参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.3.9(a) 26室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
300
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
200
100
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.3.9(b) 26室1MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
40
30
20
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
10
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.3.9(c) 26室10MW火災時の各室下部層温度
151
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4)37室における火災
37 室は、床面が1階の基準レベルと同じであり、天井高さは 3.0m、床面積は約 250
㎡と比較的小さな室である。また、M南側の改札口があり、反対側は床レベル(基準レベ
ル+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 36 室と開口で接続されている。
表 4.3.10 に 37 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
火災を改札位置に設定すると、避難は必ず 37 室から 36 室,35 室を経由することになる。
避難開始室(火災室)である 37 室は、避難開始(120 秒)以前の 99 秒に煙層温度が限界値
に達している。
36 室と 35 室では室避難終了以前に煙層高さが限界値を超えている。36,35 室は床面が
1階の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5m(基準レベル+3.7m)と低い室であ
るため、18 室からの煙流入により早期に危険な状態になると考えられる。
経路Aは 35 室から 34 室,33 室方向へ避難していく経路である。34 室,33 室は室避難終
了時点で煙層高さが限界値に達していない。34 室,33 室は 35 室に比較すると床面が低く
(基準レベル±0)、1階基準レベルから見た天井高さも 35 室よりも低いため(基準レベル
+3.0m)、35 室から煙が流入しにくい状況である。
経路Bは 35 室,34 室,26 室,5 室へと避難する経路である。経路Aと同様、34 室,26 室
に 35 室や 27 室からの煙の流入が少ないため、室避難終了時点で煙層高さが限界値に達
していない。
経路Cは 35 室,27 室方向へ避難を行う経路である。35 室と床面,天井高さともに同じ
レベルであるため、35 室から煙が流入するが、流入量はわずかであり、室避難終了時点
で煙層高さが限界値に達していない。
表 4.3.10 37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
経由
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
室
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
番号
>10,000
>200℃
(人) >1.8m
(s)
37 248 186
99
182.3
36 372 994
126
127
161
231.2
35 731 1028
177
179
272.2
34 248 607
272.3
33 213 767
294.4
37 248 186
99
182.3
36 372 994
126
127
161
231.2
35 731 1038
177
179
272.7
34 248 607
270.6
26 1,000 1358
391.4
37 248 185
99
182.3
36 372 994
126
127
161
231.2
35 731 514
177
179
258.2
27 738 1058
535
320.5
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.6参照)
152
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
5 室 6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.3.10(a) 37室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
5 室 6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.3.10(b) 37室10MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.3.10(c) 37室10MW火災時の各室下部層温度
153
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
(4)考察
10MW火災時には多くのケースにおいて.避難開始室(火災室)では室避難終了以前に
煙層温度が限界値に達しており、避難者が煙層からの高い輻射熱に晒される状況が生じる。
また、避難経路により安全性が異なることが明らかとなった。特に、1階基準レベルから
みた天井が高い室には火災室から煙が流入し易く、煙の上昇過程での空気巻込みの影響も
あり、煙層高さが室避難終了以前に限界値に達する場合が多い。そのなかでも、特に、床
面レベルが火災室より高い室は、結果的に有効天井高さが低いため、早期に危険な状態に
なり易い(イメージは図 4.3.11 でH2<H1+hとなる)。具体的には室 14,15,19,20,21 およ
び室 27,35,36,38,39,40,41(図 4.3.2 参照)が該当する。火災室の避難安全性を向上させる
ためには、火災規模を小さくするなどして煙層温度を下げる他に、避難終了時刻を早めるこ
とが考えられる。また、避難経路の避難安全性を向上させるためには火災室等に機械排煙
設備を設置し、火災室からの煙流出量を削減することが考えられる。
これらの状況を改善するために、機械排煙設備の設置や火災規模の縮小などの避難安全
h
H1
H2
性向上の方策を提案し、同様のシミュレーションにてその改善効果を検討する。
図 4.3.11 床面レベルと天井レベルの違いが火災安全性に与える影響
154
第4章
4.4
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
避難安全性向上方策の効果検証
4.4.1
検討する避難安全性向上方策
4.3 章にて、10MW火災時には多くのケースにおいて.避難開始室(火災室)では室避難
終了以前に煙層温度が限界値に達しており、避難者が煙層からの高い輻射熱に晒される状
況が生じることを報告した。また、避難経路により安全性が異なることが明らかとなった。
本章では、排煙設備の設置や火災規模の縮小などの避難安全性向上方策を検証する。
155
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4.4.2 避難安全性向上方策①(排煙設備の設置)
検証する方策としては、火災発生室への排煙設備の設置である。排煙設備を設置するこ
とで火災室の煙層高さの維持と避難経路への漏煙量の削減が期待できる。排煙風量として
は、建築基準法施行令第126条の3第2項にある1㎥/(㎡・分)とする。
避難計算は 4.3.2 章、火源の設定は 4.3.3 章参照とする。
(1)避難安全性向上方策①(排煙設備の設置)の効果
1)15室における火災
15 室は床面レベルが1階の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5m(基準レベ
ル+3.7m)と低い室である。同様の室が 14 室,19 室,20 室,21 室と連なっている。
表 4.4.1 に 15 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。避難開始室(火災室)
である 15 室は、避難終了時刻以前に煙層温度と煙層高さが限界値に達しており、排煙設
備設置による改善効果は見られない。
経路Aは 14 室,12 室を通過する避難経路である。14 室は室の床・天井レベルが 16 室
と同一であるため、15 室からの煙の流入が多く、室避難終了以前に煙層高さが限界値に
達しているが、排煙未設置に比べると、限界に達する時間が 36 秒ほど遅くなっている。
経路Bは 16 室方向へ避難し、そのままY側北口の改札から避難を行う経路である。16
室で煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していないのは排煙未設置の
場合と同じである。
経路Cは 19 室から 5 室へと避難する経路である。煙層高さ、煙層温度ともに室避難終
了まで限界値に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路C'は 19 室から 20 室を経由して 6 室へ避難する経路である。19 室から 20 室への
煙の流入量は比較的少なく、煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達して
いないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路Dは 18 室から 6 室へと避難する経路である。煙層高さ、煙層温度ともに室避難終
了まで限界値に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
表 4.4.1 15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
C'
D
経由
室
番号
15
14
12
15
16
15
19
15
19
20
15
18
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
積算煙暴露量 煙層温度
人口 煙層高さ
終了時間
(㎡)
>10,000
>200℃
(人) >1.8m
(s)
551 83
156
156
117
199
413 393
226
227
278
294 613
299
551 165
156
156
117
202
234 330
228
551 83
156
156
117
173
1029 427
243
551 83
156
156
117
173
1029 427
220
554 843
346
250
551 83
156
156
117
197
982 819
306
(全体図は図4.3.3参照)
数字 は限界値の最小値を示す。
156
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4 室 5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.1(a) 15室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.1(b) 15室10MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
4室
5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.1(c) 15室10MW火災時の各室下部層温度
157
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
2)18室における火災
18 室は床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0mと高く、平面
的にも 1,000 ㎡近い室容積が大きな室である。床レベル(1 階基準レベル+1.2m)が高く、
天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 15,19 室と比較的大きな開口で接続されている。
表 4.4.2 に 18 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
避難開始室(火災室)である 18 室は、避難終了時刻直前に煙層温度が限界値に達してお
り、排煙設備設置による改善効果は見られない。
経路Aは 15 室,14 室,12 室を通過する避難経路である。15 室で煙層高さ、煙層温度と
もに室避難終了まで限界値に達しておらず、排煙設備設置の効果が見られる。
経路Bは 19 室,15 室,16 室を通過する避難経路である。19 室は、火災室である 18 室が
限界値を越える以前に煙層高さが限界値に達しており、排煙設備設置による改善効果は
見られない。
経路Cは 18 室から 5 室へと避難する経路である。煙層高さ、煙層温度ともに室避難終
了まで限界値に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路Dは 19 室を経由して 5 室へ避難する経路である。19 室は、18 室(火災室)以前に
煙層高さが限界値に達している。5 室は煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値
に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路Eは 19 室まで経路Dと同じ室を通過し、19 室から 20 室を経由して 6 室から避難
を行う経路である。18 室、19 室に加え、20 室でも室避難終了以前に煙層高さが限界値に
達しているが、排煙未設置に比べると、限界に達する時間が 68 秒ほど遅くなっている。
表 4.4.2 18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
E
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
経由
面積
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
室
(㎡)
(人) >1.8m
(s)
番号
>10,000
>200℃
18 982 147
184
195
15 551 250
294
232
14 413 561
375
309
12 294 781
327
18 982 442
184
190
19 1029 405
163
164
238
15 551 714
294
260
16 254 905
325
18 982 147
184
195
5 406 856
294
252
18 982 442
184
206
19 406 405
163
164
274
5 406 856
263
18 982 442
184
190
19 982 405
163
164
259
20 982 821
285
290
290
6 982 1709
299
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.4参照)
158
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4 室 5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.2(a) 18室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室 5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.2(b) 18室10MW火災時の各室煙層温度
下部層温度 (℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.2(c) 18室10MW火災時の各室下部層温度
159
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
3)26室における火災
26 室は床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0m(基準レベル
+4.0m)と高く、平面的にも 1,000 ㎡の室容積が大きな室である。床レベル(基準レベル
+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 27 室と比較的大きな開口で接続さ
れている。
表.4.4.3 に 26 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
避難開始室(火災室)である 26 室は、避難終了時刻直前に煙層温度が限界値に達してお
り、排煙設備設置による改善効果は見られない。
経路Aは 34 室,35 室,36 室を通過する避難経路である。34 室と同様に 35 室,36 室でも、
煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達しておらず、排煙設備設置の効果
が見られる。
経路Bは 34 室,33 室を通過しM側出口に到達する経路である。34 室、33 室では、室避
難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路Cは 26 室から 5 室を経由して4室方向へ向かい、経路Dは 5 室を経由して 6 室に
向かう経路である。避難開始室(火災室)である 26 室以外に、室避難終了まで煙層高さが
限界値に達している室がないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路D'は 27 室を経由して 6 室へ向かう経路である。26 室に加え、27 室においても室
避難終了以前に煙層高さが限界値に達しているが、排煙未設置に比べると、限界に達す
る時間が 34 秒ほど遅くなっている。
表 4.4.3 26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
D
経由
室
番号
26
34
35
36
37
26
34
33
26
5
4
26
5
6
26
27
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
(人) >1.8m
(s)
>10,000
>200℃
1,000 188
186
205.8
248 187
215.4
731 1012
566
287.2
372 1622
514
373.6
248 1808
409.3
1,000 188
186
205.8
248 187
215.4
213 347
237.5
1,000 163
186
240.8
406 234
243.3
433 558
272
1,000 163
186
240.8
406 234
243.3
433 1799
330.4
1,000 400
186
215
738 677
190
191
258
数字 は限界値の最小値を示す。
160
(全体図は図4.3.5参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.3(a) 26室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
300
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
200
100
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.3(b) 26室10MW火災時の各室煙層高さ
下部層温度(℃)
40
30
20
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
10
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.3(c) 26室10MW火災時の各室下部層温度
161
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4)37室における火災
37 室は、床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さは 3.0m、床面積は
約 250 ㎡と比較的小さな室である。また、Y側の南口改札があり、反対側は床レベル(基
準レベル+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 36 室と開口で接続されて
いる。
表 4.4.4 に 37 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
火源は改札位置に設定すると、避難は必ず 37 室から 36 室,35 室を経由することになる。
避難開始室(火災室)である 37 室は、避難開始(120 秒)以前の 99 秒に煙層温度が限界値
に達しており、排煙設備設置による改善効果は見られない。
36 室と 35 室では室避難終了以前に煙層高さが限界値に達しており、排煙設備設置によ
る改善効果は見られない。
経路Aは 35 室から 34 室、33 室方向へ避難していく経路である。34 室,33 室とも室避
難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
経路Bは 35 室から 34 室を経由して 26 室、5 室へと避難を行う経路である。経路Aと
同様、34 室、26 室とも室避難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは排煙未設置
の場合と同じである。
経路Cは 35 室から 27 室方向へ避難を行う経路である。室避難終了まで煙層高さが限
界値に達していないのは排煙未設置の場合と同じである。
表 4.4.4 37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
経由
面積
積算煙暴露量 煙層温度 終了時間
人口 煙層高さ
室
(㎡)
>10,000
>200℃
(s)
(人) >1.8m
番号
37 248 186
99
182.3
36 372 994
127
127
167
231.2
35 731 1028
185
187
272.2
34 248 607
272.3
33 213 767
294.4
37 248 186
99
182.3
36 372 994
127
127
167
231.2
35 731 1038
185
187
272.7
34 248 607
270.6
26 1,000 1358
391.4
37 248 185
99
182.3
36 372 994
127
127
167
231.2
35 731 514
185
187
258.2
27 738 1058
563
320.5
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.6参照)
162
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.4(a) 37室10MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.4(b) 37室10MW火災時の各室煙層温度
下部層温度 (℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.4(c) 37室10MW火災時の各室下部層温度
163
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
5)考察
避難開始室(火災室)で室避難終了以前に煙層温度が限界値に達しているのは、排煙未
設置の場合と同様であり、火災室では排煙設置の効果は認められないが、避難経路中の
数室で改善効果が見られる。
例えば、15 室火災の場合、経路Aの 14 室で室避難終了以前に煙層高さが限界値に達し
ているが、排煙未設置に比べると、限界に達する時間が 36 秒ほど遅くなっている(表 4.3.7
と表 4.4.1 の比較)。
18 室火災の場合、経路Aの 15 室で煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に
達しておらず、排煙設備設置の効果が見られる。経路Eでは 20 室で室避難終了以前に煙
層高さが限界値に達しているが、排煙未設置に比べると、限界に達する時間が 68 秒ほど
遅くなっている(表 4.3.8 と表 4.4.2 の比較)。
26 室火災の場合、経路Aの 35 室,36 室で、煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで
限界値に達しておらず、排煙設備設置の効果が見られる。経路D'の 27 室で室避難終了
以前に煙層高さが限界値に達しているが、排煙未設置に比べると、限界に達する時間が
34 秒ほど遅くなっている(表 4.3.9 と表 4.4.3 の比較)。
37 室火災の場合には、排煙設備設置の効果は認められない(表 4.3.10 と表 4.4.4 の比較)。
排煙設備には、煙層をある程度の高さに維持する効果があるが、火災室に排煙設備を
設置するだけでは、避難安全性能を確保するのは困難であり、更なる改善方策の検討が
必要である。
164
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4.4.3 避難安全性向上方策②(火災規模の縮小)
次に、検証する方策としては、火災規模の縮小である。積載可燃物の量を制限すること
であり、具体的には、家具・備品類の不燃化、スプリンクラー等の自動消火設備を設置す
ることで火災室の煙発生量を減少させるとともに、店舗の界壁を防火防煙区画し避難通路
への漏煙を削減することなどが考えられる。これらの対策が実施されたと想定し、最大発
熱速度2MW注4-2)で2層ゾーンモデルの計算をおこなう。
発熱速度(kW)
火源の設定は図 4.4.5、避難計算は 4.3.2 章参照とする。
図 4.4.5 成長火源の発熱速度の変化(2MW)
165
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
(1)避難安全性向上方策②(火災規模縮小)の効果
1)15室における火災
15 室は床面レベルが1階の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5m(基準レベ
ル+3.7m)と低い室である。同様の室が 14 室,19 室,20 室,21 室と連なっている。
表 4.4.5 に 15 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。火災規模縮小によ
り、煙避難開始室(火災室)の煙層温度は限界値である 200℃を下回る結果となったが、依
然として避難終了時刻以前に煙層高さが限界値に達している。
経路Aは 14 室、12 室を通過する避難経路である。14 室、12 室ともに室避難終了時刻
まで煙層高さが限界値に達しておらず、火災規模縮小の効果が見られる。
経路Bは 16 室方向へ避難し、そのままY側北口改札から避難を行う経路である。16 室
で煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していないのは火災規模10M
W時と同様である。
経路Cは 19 室から 5 室へと避難する経路である。煙層高さ、煙層温度ともに室避難終
了まで限界値に達していないのは火災規模10MW時と同様である。
経路C'は 19 室から 20 室を経由して 6 室へ避難する経路である。19 室から 20 室への
煙の流入量は比較的少なく、煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達して
いないのは火災規模10MW時と同様である。
経路Dは 18 室から 6 室へと避難する経路である。煙層高さ、煙層温度ともに室避難終
了まで限界値に達していないのは火災規模10MW時と同様である。
表 4.4.5 15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
C'
D
経由
室
番号
15
14
12
15
16
15
19
15
19
20
15
18
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
(人) >1.8m
(s)
>10,000
>200℃
551
83
158
158
199
413 393
304
278
294 613
299
551 165
158
158
202
234 330
228
551
83
158
158
173
1029 427
243
551
83
158
158
173
1029 427
220
554 843
525
250
551
83
158
158
197
982 819
306
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.3参照)
166
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4.0
煙層高さ(m)
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室 5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.6(a) 15室2MW火災時の各室煙層高さ
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
煙層温度(℃)
300
200
100
0
4 室 5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.6(b) 15室2MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.6(c) 15室2MW火災時の各室下部層温度
167
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
2)18室における火災
18 室は床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0mと高く、平面
的にも 1,000 ㎡近い室容積が大きな室である。床レベル(1 階基準レベル+1.2m)が高く、
天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 15,19 室と比較的大きな開口で接続されている。
表 4.4.6 に 18 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
避難開始室(火災室)である 18 室は、避難終了時刻まで煙層温度、煙層高さともに限界
値に達しておらず、火災規模縮小の効果が見られる。
経路Aは 15 室,14 室,12 室を通過する避難経路である。すべての室で室避難終了まで
煙層高さ、煙層温度ともに限界値に達しておらず、火災規模縮小の効果が見られる。
経路Bは 19 室,15 室,16 室を通過する避難経路である。19 室は室避難終了以前に煙層
高さが限界値に達しているが、限界値に達する時間が火災規模10MW時に比べて 69 秒
遅くなっており、ある程度の火災規模縮小の効果が見られる。
経路Cは 18 室から 5 室へと避難する経路である。煙層高さ、煙層温度ともに室避難終
了まで限界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
経路Dは 19 室を経由して 5 室へ避難する経路である。19 室は室避難終了以前に煙層高
さが限界値に達しているが、限界値に達する時間が火災規模10MW時に比べて 69 秒延
びており、ある程度の火災規模縮小の効果が見られる。5 室は煙層高さ、煙層温度ともに
室避難終了まで限界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
経路Eは 19 室まで経路Dと同じ室を通過し、19 室から 20 室を経由して 6 室から避難
を行う経路である。20 室は、避難終了時刻まで煙層温度、煙層高さともに限界値に達し
ておらず、火災規模縮小の効果が見られる。
表 4.4.6 18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
E
経由
室
番号
18
15
14
12
18
19
15
16
18
5
18
19
5
18
19
20
6
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
終了時間
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
(㎡)
(s)
(人) >1.8m
>10,000
>200℃
982 147
195
551 250
232
413 561
490
309
294 781
327
982 442
190
1029 405
227
233
238
551 714
260
254 905
325
982 147
195
406 856
252
982 442
206
1029 405
227
233
274
406 856
263
982 442
190
982 405
227
233
259
982 821
290
982 1709
299
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.4参照)
168
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4 室 5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.7(a)
18室2MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室 5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.7(b) 18室2MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.7(c) 18室2MW火災時の各室下部層温度
169
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
3)26室における火災
26 室は床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0m(基準レベル
+4.0m)と高く、平面的にも 1,000 ㎡の室容積が大きな室である。床レベル(基準レベル
+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 27 室と比較的大きな開口で接続さ
れている。
表 4.4.7 に 26 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
避難開始室(火災室)である 26 室は、避難終了時刻まで煙層温度、煙層高さともに限界
値に達しておらず、火災規模縮小の効果が見られる。
経路Aは 34 室,35 室,36 室を通過する避難経路である。34 室,35 室,36 室は煙層高さ、
煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達しておらず、火災規模縮小の効果が見られる。
経路Bは 34 室,33 室を通過しM側出口に到達する経路である。34 室、33 室では、室避
難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
経路Cは 26 室から 5 室を経由して 4 室方向へ向かい、経路Dは 5 室を経由して 6 室に
向かう経路である。室避難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは火災規模10
MW時と同じである。
経路D'は 27 室を経由して 6 室へ向かう経路である。26 室に加え、27 室においても室
避難終了以前に煙層高さが限界値に達しているが、火災規模10MW時に比べると、限
界に達する時間が 47 秒ほど遅くなっている。
表 4.4.7 26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
D
経由
室
番号
26
34
35
36
37
26
34
33
26
5
4
26
5
6
26
27
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
終了時間
人口 煙層高さ 積算煙暴露量> 煙層温度
(㎡)
(s)
(人) >1.8m
10,000
>200℃
1,000 188
205.8
248 187
215.4
731 1012
287.2
372 1622
373.6
248 1808
409.3
1,000 188
205.8
248 187
215.4
213 347
237.5
1,000 163
240.8
406 234
243.3
433 558
272
1,000 163
240.8
406 234
243.3
433 1799
330.4
1,000 400
215
738 677
200
204
258
数字 は限界値の最小値を示す。
170
(全体図は図4.3.5参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4.0
煙層高さ(m)
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.8(a) 26室2MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
300
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
200
100
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.8(b) 26室2MW火災時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
40
30
20
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
10
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.8(c) 26室2MW火災時の各室下部層温度
171
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4)37室における火災
37 室は、床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さは 3.0m、床面積は
約 250 ㎡と比較的小さな室である。また、Y側南口改札があり、反対側は床レベル(基準
レベル+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 36 室と開口で接続されてい
る。
表 4.4.8 に 37 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
火源は改札位置に設定すると、避難は必ず 37 室から 36 室,35 室を経由することになる。
避難開始室(火災室)である 37 室は、室避難終了以前に煙層温度が限界値に達している
が、火災規模10MW時に比べて限界値に達する時間が 70 秒遅くなっており、ある程度
の火災規模縮小の効果が見られる。36 室と 35 室は、依然として室避難終了以前に煙層高
さが限界値に達しているが、火災規模10MW時に比べて限界値に達する時間がそれぞ
れ 99 秒,59 秒遅くなっており、ある程度の火災規模縮小の効果が見られる。
経路Aは 35 室から 34 室、33 室方向へ避難していく経路である。34 室,33 室とも室避
難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
経路Bは 35 室から 34 室を経由して 26 室、5 室へと避難を行う経路である。経路Aと
同様、34 室、26 室とも室避難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは火災規模1
0MW時と同じである。
経路Cは 35 室から 27 室方向へ避難を行う経路である。室避難終了まで煙層高さが限
界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
表 4.4.8
経路
A
B
C
37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
経由
面積
終了時間
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
室
(㎡)
(s)
(人) >1.8m
番号
>10,000
>200℃
37 248 186
169
182.3
36 372 994
133
133
231.2
35 731 1028
247
254
272.2
34 248 607
272.3
33 213 767
294.4
37 248 186
169
182.3
36 372 994
133
133
231.2
35 731 1038
247
254
272.7
34 248 607
270.6
26 1,000 1358
391.4
37 248 185
169
182.3
36 372 994
133
133
231.2
35 731 514
247
254
258.2
27 738 1058
320.5
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.6参照)
172
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.9(a) 37室2MW火災時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.9(b)
下部層温度 (℃)
50
37室2MW火災時の各室煙層温度
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
40
30
20
10
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.9(c) 37室2MW火災時の各室下部層温度
173
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
5)考察
火災規模10MW時には、すべての避難開始室(火災室)で室避難終了以前に煙層温度
が限界値に達していたが、火災規模を2MWに縮小した場合、室避難終了以前に煙層温
度が限界値に達しているのは 37 室のみと、ある程度の効果が見られるものの、15 室では
室避難終了以前に煙層温度が限界値に達している。
また、避難経路中の多くの室で改善効果が見られる。
例えば、15 室火災の場合、火災室以外のすべての室で煙層高さ、煙層温度ともに室避
難終了時点で限界値に達していない(表 4.4.5)。
18 室火災の場合、経路B,C,Dの 19 室で室避難終了以前に煙層温度が限界値に達して
いるが、他の室では煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していない(表
4.4.6)。
26 室火災の場合、経路D'の 27 室で室避難終了以前に煙層高さが限界値に達している
が、他の室では煙層高さ、煙層温度ともに室避難終了まで限界値に達していない(表 4.4.7)。
37 室火災の場合には、36 室と 35 室は、依然として室避難終了以前に煙層高さが限界
値に達しているが、火災規模10MW時に比べて限界値に達する時間がそれぞれ 99 秒,59
秒遅くなっており、ある程度の火災規模縮小の効果が見られる(表 4.3.10 と表 4.4.8 の比
較)。
排煙設備の設置に比べて火災規模縮小の効果は大きい。特に煙層高さの維持ばかりで
なく、煙層温度の抑制効果もあるが、これだけで十分とは言えない。火災規模縮小に加
えて、更なる避難安全性能向上方策が必要である。
174
第4章
4.4.4
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
避難安全性向上方策③(火災規模の縮小+排煙設備の設置)
次に、検証する方策としては、火災規模の縮小に加えて火災室に排煙設備を設置する案
である。具体的には、①「家具・備品類の不燃化、スプリンクラー等の自動消火設備を設
置することで火災室の煙発生量を減少させるとともに、店舗の界壁を防火防煙区画し避難
通路への漏煙を削減すること」に加えて②「排煙設備を設置することで火災室の煙層高さ
を維持し、避難経路への漏煙量を削減すること」である。これらの対策が実施されたと想
定し、最大発熱速度2MWで2層ゾーンモデルの計算をおこなう。
火源の設定は図 4.4.5、避難計算は 4.3.2 章参照とする。
(1)避難安全性向上方策③(火源規模縮小+排煙設備の設置)の効果
1)15室における火災
15 室は床面レベルが1階の基準レベルよりも 1.2m高く、天井高さも 2.5m(1 階基準
レベル+3.7m)と低い室である。同様の室が 14 室,19 室,20 室,21 室と連なっている。
表 4.4.9 に 15 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
火災室を含む避難経路上のすべての室で室避難終了まで煙層高さ、煙層温度ともに限
界値に達していない。
表 4.4.9 15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経由
経路 室
番号
A
15
14
12
B
15
16
C
15
19
C'
15
19
20
D
15
18
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
>10,000
>200℃
(人) >1.8m
(s)
551 83
199
413 393
498
278
294 613
299
551 165
202
234 330
228
551 83
173
1029 427
243
551 83
173
1029 427
220
554 843
250
551 83
197
982 819
306
数字 は限界値の最小値を示す。
(全体図は図4.3.3参照)
175
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.10(a) 15室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.10(b) 15室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
下部層温度 (℃)
50
40
30
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
20
10
0
4室 5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 21 室
室名
図 4.4.10(c) 15室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
176
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
2)18室における火災
18 室は床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0mと高く、平面
的にも 1,000 ㎡近い室容積が大きな室である。床レベル(1 階基準レベル+1.2m)が高く、
天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 15,19 室と比較的大きな開口で接続されている。
表 4.4.10 に 18 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
火災室を含む避難経路上のすべての室で室避難終了まで煙層高さ、煙層温度ともに限
界値に達していない。
表 4.4.10 18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
E
経由
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
室
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
>10,000
>200℃
番号
(人) >1.8m
(s)
18 982 147
195
15 551 250
232
14 413 561
309
12 294 781
327
18 982 442
190
19 1029 405
336
238
15 551 714
260
16 254 905
325
18 982 147
195
5 406 856
252
18 982 442
206
19 406 405
336
274
5 406 856
263
18 982 442
190
19 982 405
336
259
20 982 821
290
6 982 1709
299
数字 は限界値の最小値を示す。
177
(全体図は図4.3.4参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4 室 5 室 6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.11(a) 18室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.11(b) 18室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
煙層温度(℃)
40
30
20
10
0
4室
5室
6 室 12 室 14 室 15 室 16 室 18 室 19 室 20 室 22 室
室名
図 4.4.11(c) 18室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
178
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
3)26室における火災
26 室は床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さも 4.0m(基準レベル
+4.0m)と高く、平面的にも 1,000 ㎡の室容積が大きな室である。床レベル(基準レベル
+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 27 室と比較的大きな開口で接続さ
れている。
表 4.4.11 に 26 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
経路D'は 27 室を経由して 6 室へ向かう経路である。26 室に加え、27 室においても室
避難終了以前に煙層高さが限界値に達しているが、火災規模10MW時に比べると、限
界に達する時間が 47 秒ほど遅くなっている。
火災室を含む避難経路上の 27 室以外の室では、室避難終了まで煙層高さ、煙層温度と
もに限界値に達していない。
表 4.4.11 26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
D
D
経由
室
番号
26
34
35
36
37
26
34
33
26
5
4
26
5
6
26
27
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
終了時間
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
(㎡)
(s)
(人) >1.8m
>10,000
>200℃
1,000 188
205.8
248 187
215.4
731 1012
287.2
372 1622
373.6
248 1808
409.3
1,000 188
205.8
248 187
215.4
213 347
237.5
1,000 163
240.8
406 234
243.3
433 558
272
1,000 163
240.8
406 234
243.3
433 1799
330.4
1,000 400
215
738 677
156
157
258
数字 は限界値の最小値を示す。
179
(全体図は図4.3.5参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4.0
煙層高さ(m)
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.12(a) 26室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
300
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
200
100
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.12(b) 26室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
下部層温度(℃)
40
30
20
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
10
0
4室
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 40 室 41 室
室名
図 4.4.12(c) 26室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
180
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
4)37室における火災
37 室は、床面レベルが1階の基準レベルと同じであり、天井高さは 3.0m、床面積は
約 250 ㎡と比較的小さな室である。また、Y南側の改札口があり、反対側は床レベル(基
準レベル+1.2m)が高く、天井高さ(有効天井高さ 2.5m)が低い 36 室と開口で接続されて
いる。
表 4.4.12 に 37 室火災時の避難経路ごとの避難安全性判定を示した。
火源は改札位置に設定すると、避難は必ず 37 室から 36 室,35 室を経由することになる。
避難開始室(火災室)である 37 室は、
室避難終了以前に煙層温度が限界値に達している。
火災規模10MW時に比べて限界値に達する時間が 60 秒遅くなっているが、火災規模2
MW排煙なしの場合に比べて避難安全性に向上は見られない。35 室は室避難終了まで煙
層高さが限界値に達しておらず、排煙設置による改善効果が見られるが、36 室では依然
として室避難終了以前に煙層高さが限界値に達している。
経路Aは 35 室から 34 室、33 室方向へ避難していく経路である。34 室,33 室とも室避
難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
経路Bは 35 室から 34 室を経由して 26 室、5 室へと避難を行う経路である。経路Aと
同様、34 室、26 室とも室避難終了まで煙層高さが限界値に達していないのは火災規模1
0MW時と同じである。
経路Cは 35 室から 27 室方向へ避難を行う経路である。室避難終了まで煙層高さが限
界値に達していないのは火災規模10MW時と同じである。
表 4.4.12 37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
経路
A
B
C
経由
流入 避難安全性の各判断項目が限界値に達する時間 各室避難
面積
室
人口 煙層高さ 積算煙暴露量 煙層温度
終了時間
(㎡)
>10,000
>200℃
番号
(人) >1.8m
(s)
37 248 186
159
182.3
36 372 994
137
137
231.2
35 731 1028
272.2
34 248 607
272.3
33 213 767
294.4
37 248 186
159
182.3
36 372 994
137
137
231.2
35 731 1038
272.7
34 248 607
270.6
26 1,000 1358
391.4
37 248 185
159
182.3
36 372 994
137
137
231.2
35 731 514
258.2
27 738 1058
320.5
数字 は限界値の最小値を示す。
181
(全体図は図4.3.6参照)
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
煙層高さ(m)
4.0
3.0
2.0
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
1.0
0.0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.13(a) 37室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
煙層温度(℃)
400
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
300
200
100
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.13(b) 37室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
50
0秒
120 秒
240 秒
360 秒
下部温度(℃)
40
30
20
10
0
5室
6 室 26 室 27 室 33 室 34 室 35 室 36 室 37 室 38 室 39 室
室名
図 4.4.13(c) 37室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
182
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
5)考察
火災規模10MW時には、すべての避難開始室(火災室)で室避難終了以前に煙層温度
が限界値に達していたが、火災規模を2MWに縮小し火災室に排煙設備を設置した場合、
15 室,18 室,26 室で室避難終了まで煙層温度が限界値に達しない。しかし、37 室では室
避難終了以前に煙層温度が限界値に達している(表 4.4.12)。
避難経路中の多くの室で改善効果が見られものの、以下のように、すべての室で避難
安全性が確保されたわけではない。
26 室火災の場合、経路D'の 27 室で室避難終了以前に煙層高さが限界値に達している
(表 4.4.11)
。
37 室火災の場合には、36 室で室避難終了以前に煙層高さが限界値に達している(表
4.4.12)。
183
第4章
4.5
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
まとめ
地下通路型ターミナル駅舎T駅をモデル化し、火災時の避難安全性を検証した結果、2005
年の状態では避難者全員の安全を確保するには不十分と考えられ、以下の3案の改善策の
効果を検証した。
① 排煙設備を設置することで火災室の煙層高さを維持し、避難経路への漏煙量を削減す
る。
② 火災規模を縮小させること。具体的には、家具・備品類の不燃化、スプリンクラー等
の自動消火設備を設置することで火災室の煙発生量を減少させるとともに店舗の界
壁を防火防煙区画し避難通路への漏煙を削減する。
③ 上記の①②を同時に採用。
改善策①は煙層をある程度の高さに維持する効果があり(表 4.4.1∼表 4.4.4)、改善策②は
煙層高さの維持および煙層温度の抑制に効果が見られたが、避難安全性の確保は十分では
なかった(表 4.4.5∼表 4.4.8)。改善策③については比較的大きな効果が認められたが、「26
室火災時」の 27 室、「37 室火災時」の 37 室と 36 室で避難安全性が確保できなかった(表 4.4.9
∼表 4.4.12)
。37 室は室面積が 200 ㎡以下の小部屋であり、火災規模が小さくても早期に煙
層が降下している。27 室,36 室は火災室に比べて、1階基準レベルでの天井高さが火災室
より高いため煙が流入しやすく、床面レベルが1階基準レベルより 1.2m高く有効天井高さ
が低いため、早期に煙層高さが降下する。
検討対象の地下通路型ターミナル駅舎T駅は、床面レベル、天井面レベルが場所によっ
て大きく異なるため、火災時の煙流動性状が複雑となり、煙拡散領域の予想が困難である。
排煙設備を設置するとともに、スプリンクラー等の自動消火設備の設置、店舗の区画化、
可燃物の管理を徹底させることが必要である。さらには、天井高さや床面高さ等の駅舎構
造を把握し、それによる煙の拡散状況の特性を理解した駅員による避難誘導が不可欠であ
る。
184
第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の
把握と安全性能向上方策の検討
【参考文献】
4444-
1)
2)
3)
4)
日本建築センター「避難安全性能評価業務方法書」2000.
平成 12 年建設省告示第 1441 号
建築研究振興協会「二層ゾーン建物内煙流動モデルと予測計算プログラム」2002.
武居 泰、山田聖治、上川大輔、長谷見雄二「駅構内に設置される大型売店の火災性
状」日本建築学会技術報告集 第 22 巻 pp237-242, 2005.12.
4- 5) (財)日本建築センター「新・建築防災計画指針」, pp.122, 1995
注 4- 1) 水平避難区画とは、「大規模店舗等で短期間に階段に収容できない多数の避難者や,病
院の病室棟で避難に階段を利用できない自力避難困難者を、一時的に収容し安全を確
保する目的でフロアを複数の防火防煙区画で分割すること」である。下記に病床階の
水平避難区画の例を示す。
図 4.4.14 病室棟の水平避難区画の例4−5)
注4- 2)「防火対象物の総合防火安全評価基準のあり方検討会報告書(平成 15 年度)平成 16
年3月,総務省消防庁, pp51-53」には、 クリプ火災におけるスプリンクラーヘッド
作動実験 の結果一覧表が記載されており、その要約が「消防活動支援性能のあり方
検討会報告書(平成 19 年度)平成 20 年2月」中の附属資料「加圧防排煙設備に係る
消防活動支援性能評価手法(加圧防排煙設備ガイドライン), pp12」に紹介されてい
る。それによると、スプリンクラーヘッド放水開始時の発熱速度にはばらつきがある
が、平均して 1,276kWであり、ほとんどが2MW以下であった。この実験時、多くの
場合、放水開始後5分程度で消火に成功する結果が得られている。
185
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と誘導計画
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と誘導計画
5.1
研究の背景と目的
5.1.1
研究の背景
近年、都心業務地区やターミナル駅周辺の再開発に伴い、大規模な地下空間の利用が進
んでいる。市街地の地下空間は、1960∼70 年代にかけて、ターミナル駅周辺で、地下街を
中心とする開発が盛んに進められた後、1980 年の静岡駅前ゴールデン街爆発火災を契機と
して規制が強化されたが、店舗等を内包しない地下道は地下鉄道の整備とともに増加した。
また、都心業務地区等で街区を一単位とする大規模開発が行われる場合は、敷地のほぼ
全体に広がる地階空間が形成される例も少なくない。近年、大都市の中心に出現するよう
になった地下空間には、多数の建築物の地階が相互に接続あるいは地階が地下道と接続し
て形成する大規模なものが増加した点に大きな特色がある5-1)。このような都心型の大規
模空間には、空間構成上、以下のように、災害発生時の影響を顕著化させ易い特徴がある。
(1) 地下道は閉鎖的で通路が換気経路となる場合が多く、火災・煙・有害物質・爆発の影響
範囲拡大や避難路の危険を招き易い。
(2) 地上に避難するほぼ唯一の経路である階段が、煙・有害物質・浸水等の流路となり易い。
(3) 地下空間は水平に大規模に展開するが、地上への階段の配置は、高層ビルに比べて規則
性に乏しいため、利用者が避難路を見つけ難く、避難誘導も困難である。
(4) 窓がないため、煙や停電で照明が見えなくなった時の避難に障害が起き易く、外部から
中の状態を把握するのも難しい。
(5) 地上に避難するためには階段を上がらなければならないため、地下空間の深さによって
は避難自体の負担が大きくなる。
(6) 出火点、被災範囲等の把握・確認が外部からは困難で、消防等がアクセスしにくい。消
防等の災害対応活動自体も困難である。
地下空間で階段等の避難経路を規則的に配置し難いのは、地上への出口位置が地上の土
地利用に制約されるためで、全体として大きな平面を構成する場合は、利用者が自分の位
置を把握し難くなり、火災等の災害時には、円滑な避難が困難になることが危惧される。
地下空間については、このような特徴と制約の下で機能する避難経路の計画手法や避難
誘導設備・器具の開発と、避難誘導方法の確立が望まれるが、従来、避難計画や煙制御・
避難設備は、一般的な建築物で使われているものが援用されるという程度で、その有効性
については、一般建築物ほどには検証されているとは言い難い。
このように、平面的に広大で、かつ、窓の少ない類似空間としては、最近、郊外に急増
しているアウトレットモール等の大規模物販店舗にも共通する問題と考えられる。
186
第5章
5.1.2
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
研究の目的
地下空間のような平面的特質の下での避難行動については、種々のモデル、予測手法が
研究されているが5-2)3)4)、既往の研究では、群集における個々の避難者の避難行動につ
いては、避難出口への最短経路を迷わずに避難することや、歩行速度を一定とすることを
前提とするものがほとんどである。また、個々の避難者の行動の支配要因については避難
事例の調査・実験等、実証的な知見が乏しく、モデルの妥当性も検証されているとは言い
難い。そこで、東京都内で実際に使われている地下街を使用し、現在の一般的な地下空間
に避難上どのような課題があり得るか、また、群集避難行動がどのような要因に影響され
るかを把握するための避難実験を計画した。
187
第5章
5.2
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
全国における地下街の状況
2006 年現在、全国には 80 の地下街(総面積で約 1,100 千㎡)、が存在し、その多くが都
市部に混在した形で集中的に設けられている(図 5.2.1 参照)。延床面積で最大の地下街は、
大阪府のクリスタ長堀で約 81,000 ㎡(2位は東京都の八重洲地下街で約 73,000 ㎡)であ
るが、延床面積には、駐車場等の面積も含まれるため、小売店舗面積注5-1)に限れば、東京
都の八重洲地下街の約 29,000 ㎡が最大となる。全国の地下街建設と規制の歴史を資料2に
示している。
合計延床面積(千㎡)
250
200
150
100
50
0
東京都
大阪府
愛知県
神奈川県
北海道
兵庫県
福岡県
図 5.2.1 都道府県別の地下街の合計延床面積注5-2)
188
その他
第5章
5.3
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
地下街における避難行動実験
5.3.1
実験概要
実験を実施した地下街は都心ターミナル駅に接する大規模地下街である。店舗階全体平
面を図 5.3.1 に、実験領域を図 5.3.2(a),(b)に示す。実験は、地下街の営業時間終了後であり、
2006 年 8 月 21 日午後 11 時から 22 日午前 1 時の間に設営し、22 日午前 1 時から 4 時まで
の間に実施した。被験者は学生 80 名を公募し、うち 79 名が参加した。実験では被験者を
通路 4 箇所(図 5.3.2(a),(b)の出発点)に約 20 名ずつ整列させ、一斉に避難開始させ自分で
見つけた出口から外に出るまでの行動を一回の実験として、空間全体の照明の状態、誘導
灯の点灯の有無を変化させて合計 5 回実施した。被験者が避難経路等を覚える影響を軽減
するために、避難開始箇所は実験ごとに移動させるとともに、一部の通路を閉鎖して、同
じ避難経路を選ぶことがないようにした。各実験では、17 箇所にビデオカメラを設置(図
5.3.3)し、全体の避難の様子と各出口における避難完了者の推移を撮影した。被験者はスト
ップウォッチにより各自の避難時間を計測し、各回の避難終了時に記録させた。
0
図 5.3.1 地下街の店舗階全体平面(実験領域を示す)
189
100m
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
図 5.3.2(a) 実験領域平面図及び出発点&出口(配置パターン a)
進行
方向
出口3
1
4
出口4
2
↓ ↓
3
う
↑ ↑
え
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
あ ∼ く :照度測定点
凡例
0
50m
出発点 3
↑ ↑
お↑↑
↑↑
↓ ↓
↓ ↓
↓↓
か
↓ ↓
↑ ↑
い
↓ ↓
く
↑ ↑
↓ ↓
出発点 5
↓ ↓
き
出口1
あ
出発点6
↑ ↑
↓ ↓
出発点 1
出口8
図 5.3.2(b) 実験領域平面図及び出発点&出口(配置パターンb)
190
第5章
③
④
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
凡例
:通路設置カメラ
:出口設置カメラ
① ∼⑧
A
0
∼
E
:交差点
50m
②
⑤
A
C
B
く
D
E
⑥
①
⑦
⑧
図 5.3.3 カメラ設置位置と分析対象交差点
5.3.2
実験条件とその目的
本実験では、「出発点及び避難出口(以降
配置パターン
と称す)」「明るさの条件」
を変化させ、実験ケースを計画した(表 5.3.1, 表 5.3.2)。
(1)配置パターン(出発点及び避難出口)
本実験では、出発点及び避難出口は、被験者の避難軌跡が把握しやすく、実際に選択
した避難軌跡から避難行動特性が分析しやすい場所を選定した。特に出発点は、以下の
条件を満たす場所を選定した。①避難開始時に他グループの姿が直接視野に入らない。
②避難行動開始後も他グループからの影響を最少限にするため、距離を保って均等に配
置する。③避難開始後、被験者が早期に 2 方向あるいは 3 方向の経路選択が必要となる。
避難出口は、その配置や形状が被験者に与える影響をより明確化するために、実際の地
下街避難出口の一部を閉鎖し実験に使用する避難出口を限定した。また実験条件では避
難口の配置や数の影響を確認するため、配置パターンをa,b2種類に変化させ実験を
おこなった。実験中、使用しない避難出口は付属する避難口誘導灯とともにボール紙で
隠蔽した(写真 5.3.2,写真 5.3.4)。
191
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
写真 5.3.1 実験風景(ナンバープレート付帽子とサングラス)
写真 5.3.2 隠蔽された誘導灯
写真 5.3.3 照度計
写真 5.3.4 隠蔽された出口の例
192
写真 5.3.5 擬似高齢者
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
(2)明るさの条件
避難に対する明るさの影響を把握する為に、表 5.3.1 に示す 3 通りの明るさの条件を設
定した。パラメーターとしては「一般照明」「通路誘導灯・避難口誘導灯」「店舗広告灯」
の3つを操作し、以下のような災害時の避難状況を再現した。
・ 条件Ⅰ:煙が充満し誘導灯が認識しにくい状況(火災時を想定)
・ 条件Ⅱ:停電が発生する状況(火災時あるいは地震時を想定)
・ 条件Ⅲ:通常営業時(火災初期あるいは火災発生場所から離れた区画で煙がほとんど
ない状況を想定)
条件Ⅲの目的は、地下街の通常営業時には、誘導灯が多くの一般照明や店舗広告灯に
紛れて認識しにくく、誘導灯本来の目的が発揮を発揮できない可能性を確認することに
ある。(写真 5.3.6 参照)。なお、実験は営業時間外に実施したため、店舗シャッターは閉
鎖されているが、条件Ⅲの通路部分の平均照度は 1,012[lx]と十分な照度が確保されてい
るため、店舗シャッターや店舗内照明の状態変化が避難行動に与える影響は少ないと考
えられる。
店舗広告灯
避難口誘導灯
写真 5.3.6 避難口誘導灯及び店舗広告灯
(広告灯や照明により誘導灯が目立たない)
193
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
表 5.3.1 実験条件(誘導灯&照明の状態)
明るさの
平均値
測定場所(*)と測定値(単位:lx)
条件
あ い う え お
か
き
く (単位:lx)
Ⅰ
15 17 13 23 51
12
15
4
19
Ⅱ
15 16 16 24 51
12
15
5
19
Ⅲ
808 815 835 830 754 1510 1726 815
1,012
*:図 5.3.2(a),(b)参照
条件Ⅰ:平均19[lx]
条件Ⅱ:平均19[lx]
条件Ⅲ:平均1016[lx]
写真 5.3.7 条件毎の実験場の状態
194
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
表 5.3.2 実験ケース及びスケジュール
時刻
1:10
1:15
1:40
1:45
2:10
2:15
明るさの条件
実験No.
Ⅰa
Ⅱa
Ⅱb
配置パターン
(表3.3.1参照) (図3.2.1.2a,b参照)
実験開始
終了
実験開始
終了
実験開始
終了
Ⅰ
a (出口6箇所)
Ⅱ
a (出口6箇所)
Ⅱ
b (出口4箇所)
店舗広告灯&一般照明・点灯作業
3:20
3:25
3:50
3:55
5.3.3
Ⅲa
Ⅲb
実験開始
終了
実験開始
終了
Ⅲ
a (出口6箇所)
Ⅲ
b (出口4箇所)
被験者の条件
学生 79 名(男 58 名,女 21 名,平均年齢 21 歳)を4グループ(各グループ約 20 人)に分割
し集団で避難を開始させた。被験者のうち 12 名(各グループ 3 人)には、インスタントシ
ニア注5-3)4)を装着させ(写真 5.3.5 参照)、地下街における高齢者の避難上の特質の把握
を試みた。インスタントシニア装着者(以後,「シニア」と略す)は、過去に本用具による擬
似高齢者体験者を選定した。また、地下街等の利用者の群集は一般的には相互に面識が
ないと考えられるので、被験者には「周囲と会話しないこと」、一般的な避難誘導ではパ
ニック防止のために避難者に走らないように注意することを考慮して「走らないこと」を、
予め、注意した。また、被験者には、偶然、災害に遭遇した状態に近づけるために、実
験場所に集合するまで実験内容を知らせなかった。
避難実験前におこなったアンケートによれば、被験者の 52%が「当該地下街の利用経
験がない」、46%が「ほとんど利用しない」と答えており、被験者は、当該地下街につい
ては偶然、通りかかった利用者以上の予備知識はないと判断できる。
なお、前述のように、実験は合計 5 回実施したが、実験回数を重ねる毎に、出口場所
や実験領域全体の構成等に関する被験者の記憶が定着していく可能性がある。そのため、
実験ケース毎に各グループの出発点を変更するとともに、出口も2パターン用意し、被
験者の記憶定着防止を図った。また実験ケース間の待機時間中は被験者を実験場所とは
別階の控室に隔離し、実験場所(出発点)への移動時には目隠眼鏡(ガムテープで目隠しさ
れたメガネ:写真 5.3.1)を着用させ、移動経路や新しい出発点の位置が被験者に認識され
にくいようにした。
195
第5章
5.3.4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
調査測定項目と測定解析方法
実験に使用した器具を表 5.3.3 に示す。
表 5.3.3 実験器具一覧表
使用器具等
帽子
ナンバープレート
サングラス
ストップウォッチ
個数
備考
80個 被 験 者 は ナ ン バ ー プ レ ー ト つ き の 色 付 帽 子 を 着 用 ( * 1 ) 。
80個 色(4色)はグループ,番号は被験者個人の識別用。
被験者の実験区画の把握防止用に実験時以外(出発点の移動等)
80個 では、被験者はサングラスを着用(*1)。
80個 各被験者が携帯し、避難時間を測定
インスタントシニア 12セット 写真(*2)参照
ビデオカメラ
照度計
17台 出口8箇所,通路9箇所に設置(*3)
3台 実験パターン毎に、実験区画8箇所にて照度を測定(*4,*5)
*1:写真 5.3.1
*2:写真 5.3.5
*3:図 5.3.3
*4:図 5.3.2(a),(b)
*5:写真 5.3.7
196
第5章
5.3.5
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
避難時間と避難者軌跡の解析
(1) 避難時間
各被験者がストップウォッチを携帯し、避難行動開始から出口に入るまでの時間を測
定し、各実験終了直後に配布した用紙に避難に要した時間を記入させた(図 5.3.4)。
(2) 避難者軌跡の解析
被験者識別の為、被験者はナンバープレートつきの色付帽子を着用(写真 5.3.1)。帽子
の色は避難グループ,番号は被験者個人の識別用である。各交差点および出口に設置し
たビデオカメラにより、各被験者の避難軌跡を解析した。また各実験ケース後に模式化
した図面に各被験者の避難経路を自己申告方式にて記入させ即座に回収した(図 5.3.4)。
中間アンケート
タイム:
分
出口番号
秒
↑測定に失敗した場合は絶対にタイムを書かないで下さい!!
出
出 が出発点です。
○
その続きの経路をお書き下さい
① 覚えている範囲で、避難経路を上図中に書き込んで下さい
容易
② 今回の避難は容易でしたか
どちらとも言えない
やや容易
③ 出口のある方向が即座に分かって避難を開始しましたか
④
やや困難
困難
あまり焦らなかった
焦らなかった
YES ・ NO
焦った
やや焦った
どちらとも言えない
避難中に出口のある方向が分からず焦ることはありましたか
⑤ 避難中に経路を戻ることはありましたか
YES ・ NO
⑥ 避難中に迷うことはありましたか
⑦ 視野の悪さ(暗さ)による避難のしづらさを感じましたか
迷った
やや迷った
どちらとも言えない
あまり迷わなかった
迷わなかった
感じた
やや感じた
どちらとも言えない
あまり感じなかった
感じなかった
どちらとも言えない
あまり
影響されなかった
影響された
⑧ 周囲の人の行動に影響されましたか
やや
影響された
⑨ その他何か気づいた点があれば記述して下さい
図 5.3.4 中間アンケート用紙
197
影響されなかった
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
(3)アンケートの実施
本実験では、各実験遂行直後に行う中間アンケート(図 5.3.4)以外に、全実験終了後に
行う最終アンケート(図 5.3.5(1)(2))も実施した。
No,
① 右上の記入欄にご自身の No,(帽子のプレート番号)をお書き下さい
② およそ上図の実験区画全体像を把握していましたか
把握していた
大体把握していた
どちらとも言えない
あまり把握していない
把握していない
③ 実験区画において、自分の中で目印となっていた場所,印象に残った場所等があれば、上図に印
(マーク)をつけて下さい
図 5.3.5(1) 最終アンケート用紙(その1)
198
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
④ 緑 の誘 導灯は 「出 口 」を示 し、白い 誘導灯は 「避難方 向」を示す役 割であ ると知って い ました か
知 っていた
実 験の 最中に気 付 いた
知らな かった
⑤ 実 験1∼ 5(各回の出発 点は 左図中 に示 してい ます)を、避難し易 かった順に並べて下 さい
避 難 し易 い
(
)⇒ (
) ⇒(
)⇒ (
) ⇒(
)避 難 しに くい
⑥ 出 口,出発 点などの 移動中に、実験区 画の全体像 や出口の場 所 を覚えてしまい ましたか
覚 えた
大 体覚 えた
ど ち らとも 言え ない
あま り覚えてない
覚 えてない
あま り変わ ら ない
変 わ らない
⑦ 明 るさの違いに より、避難のし易 さは 変 わりました か
変 わ った
や や 変 わっ た
ど ちら とも言 えない
⑧ 主 に何を 頼りに 避難 ,行動 したの か 、影響の大きか った順に 並べ て下さい
影 響 が 大 き い(
) ⇒(
)⇒ (
) ⇒(
) ⇒(
) ⇒(
) ⇒(
)影 響 が 小 さ い
ア . 一 番 初 めに 目 に 入 っ た目 印 (出 口 )に 突 き 進 ん だ
イ . 何 とな くまっ す ぐ 進 ん だ
ウ . 前 を歩 く人 , 周 りの 人 に つ ら れ て 避 難 した
エ . 開 放 感 を 感 じ る方 向 ,空 間 に 向 か っ た
オ . 以 前 の (実 験 パ ター ンの )記 憶 を頼り に 、出 口 の あ る方 向 を目 指 し た
カ . 自 分 の 中 で 目 印 とな っ てい る場 所 ,記 憶 に 残っ た 場 所 (メイ ンア ベ ニ ュー 等 )に 向 か っ た
キ . 誘 導 灯 の 指 示 を 探 しな が ら(従 いな が ら )避 難 し た
ク . その他 1 (
)
ケ . その他 2 (
)
⑨ 実 験の 準備 ,操作の 面で、避難に支 障を来した ものがあ ればお 書き下さい
(どこが 実 験上の 出口な のか 分かりづらかった等 )
⑩ 何 かお気づきの 点な どあ れ ばお 書き下 さい
図 5.3.5(2) 最終アンケート用紙(その2)
199
第5章
5.4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
実験結果と分析
5.4.1
各出発点からの避難先と人数の関係
どの実験でも、被験者が最終的に到達した出口や到達時間・人数に予想外の大きなばらつ
きが見られた(図 5.4.1∼5.4.5)。実験Ⅰa,Ⅱa,Ⅲa に共通で出口⑤を選択した被験者が最も多
く、Ⅰa,Ⅱa では出口⑥がそれに続いている。実験Ⅲa ではⅠa,Ⅱa では殆どいなかった出口
②,①を選択する被験者が急増した(実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa の順に出口②で 0⇒1⇒14 人,出口①
で 1⇒0⇒8 人)。実験Ⅱb とⅢb を比較すると、Ⅲb で出口③を選択した被験者が急増(実験Ⅱ
b⇒Ⅲb で 13⇒28 人)している。特に出発点1の被験者の9割(18 人)が出口③を選択した。
図 5.4.1(a)∼5.4.5(a)に各実験の避難時間測定値のヒストグラムとともに防災計画指針によ
る避難時間計算値(計算方法は図中*2参照,計算結果は図 5.4.1∼5.4.5 中
部分)5-6)を
示す。また、平均値,最大値,最小値,歩行速度等も併記した。避難時間の測定値は計算値の
範囲から時間の大なる方にはみ出している。実験Ⅰaで避難時間の最大値はシニアであり、
健常者からの隔たりが大きいが、その他の実験では必ずしもシニアが最大値を示しているわ
けではない。特に実験Ⅱbにおいて生じた避難未了者(制限時間(3分)以内に避難出口に到達
できなかった被験者)は健常者である。また全実験での被験者の歩行速度平均値は
1.40m/s(健常者 1.55m/s,シニア 1.24m/s),最小値は健常者 0.86m/s,シニア 0.88m/sである。
この結果は、「避難者全員が最も近い出口を選択し一定の歩行速度で避難する」という従来の
避難計算や避難行動シミュレーション等の一般的な前提とは大きく異なっている。
このような避難時間の長大化と ばらつき が生じる原因は、避難者個々の交差点での経
路選択及び、避難出口を正しく選択できたかどうかにあると考えられる。避難計画の前提に
関わる重要な結果であり、以下、この特質を中心に実験結果の分析を進める。図 5.4.6,図 5.4.7
に被験者の出発点からの主な軌跡を示した。
200
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
25
100%
実験結果
平均値
58.4
避難時間*1 最大値
161.0
(s) 最小値
23.0
標準偏差
23.6
平均歩行速 健常者
1.50
度(m/s) (シニア)
1.14
人数
20
15
10
計算値*2
63.1
38.8
1.0
−
80%
60%
40%
5
20%
0
0%
200<
190
170
150
130
110
健常者
90
70
50
30
10
シニア
避難時間(秒)
累積 %
*1:シニアを含む 79 人全員
*2:指針計算法5-6)に基づき、各出発点から最短出口までの歩行時間を算出。最小値は歩行時
間のみとし、最大値は各グループの人数(20 人)と最短出口の扉幅から算出した滞留時間を
加算した。
(a) 避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
48
50
45
35
18
30
1
12
8
13
1
12
合計
5
出発6
出発4
出口⑦
出口⑧
出発2
出口⑥
出口⑤
(b) 各出発点からの
(1)実験Ⅰa
避難先と人数
4
11
9
出口②
25
20
15
10
5
0
16
出口①
到達人数(人)
40
出発1
図 5.4.1 避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅰa)
201
第5章
25
実験結果
平均値
60.3
避難時間*1 最大値
117.0
(s) 最小値
28.0
標準偏差
24.5
平均歩行速 健常者
1.60
度(m/s) (シニア)
1.25
20
人数
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
15
10
100%
計算値*2
63.1
38.8
1.0
−
80%
60%
40%
5
20%
0
0%
200<
190
170
150
130
110
健常者
90
70
50
30
10
シニア
避難時間(秒)
累積 %
*1:シニアを含む 79 人全員
*2:指針計算法5-6)に基づき、各出発点から最短出口までの歩行時間を算出。最小値は歩行時
間のみとし、最大値は各グループの人数(20 人)と最短出口の扉幅から算出した滞留時間を
加算した。
(a) 避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
44
50
45
35
19
30
1
17
8
13
1
11
6
6
4
6
3
4
1
7
4
出発6
出
口
⑦
出
口
⑧
出発2
出
口
⑥
(b)
各出発点からの
(2)実験Ⅱa
避難先と人数
合計
出発4
3
出
口
⑤
出
口
②
25
20
15
10
5
0
出
口
①
到
達
人
数
(人
)
40
出発1
図 5.4.2 避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅱa)
202
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
25
100%
実験結果
平均値
51.7
避難時間*1 最大値
137.0
(s) 最小値
29.0
標準偏差
15.8
平均歩行速 健常者
1.47
度(m/s) (シニア)
1.20
20
人数
15
10
計算値*2
63.1
38.8
1.0
−
80%
60%
40%
5
20%
0
0%
避難時間(秒)
累積 %
200<
190
170
150
130
110
健常者
90
70
50
30
10
シニア
*1:シニアを含む 79 人全員
*2:指針計算法5-6)に基づき、各出発点から最短出口までの歩行時間を算出。最小値は歩行時
間のみとし、最大値は各グループの人数(20 人)と最短出口の扉幅から算出した滞留時間を
加算した。
(a) 避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
41
50
14
8
20
10
11
12
6
1
8
2
1
4
出発6
出発4
出発2
出
口
⑦
(b)
各出発点からの
(3)実験Ⅲa
避難先と人数
合計
6
5
出
口
⑥
出
口
⑤
2
1
出
口
⑧
6
出
口
②
40
35
30
25
20
15
10
5
0
出
口
①
到
達
人
数
(人
)
45
出発1
図 5.4.3 避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅲa)
203
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
25
100%
実験結果
平均値
72.4
避難時間*1 最大値
180.0
(s) 最小値
32.0
標準偏差
32.4
平均歩行速 健常者
1.57
度(m/s) (シニア)
1.30
人数
20
15
10
計算値*2
74.5
41.6
1.0
−
80%
60%
40%
5
20%
0
0%
200<
190
170
150
130
110
健常者
90
70
50
30
10
シニア
避難時間(秒)
累積 %
*1:シニアを含む 79 人全員
*2:指針計算法5-6)に基づき、各出発点から最短出口までの歩行時間を算出。最小値は歩行時
間のみとし、最大値は各グループの人数(20 人)と最短出口の扉幅から算出した滞留時間を
加算した。
到
達
人
数
(人
)
(a) 避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
28
22
21
6
8
18
8
10
7
1
2
7
10
出発6
1
1
出発5
5
1
出口①
出発3
出口③
(5)実験Ⅲb
合計
2
出発1
出口④
出口⑧
(b) 各出発点からの
避難先と人数
図 5.4.4 避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅱb)
204
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
25
100%
実験結果
平均値
66.5
避難時間*1 最大値
108.0
(s) 最小値
28.0
標準偏差
18.7
平均歩行速 健常者
1.51
度(m/s) (シニア)
1.31
人数
20
15
10
計算値*2
74.5
41.6
1.0
−
80%
60%
40%
5
20%
0
0%
避難時間(秒)
累積 %
200<
190
170
150
130
110
健常者
90
70
50
30
10
シニア
*1:シニアを含む 79 人全員
*2:指針計算法5-6)に基づき、各出発点から最短出口までの歩行時間を算出。最小値は歩行時
間のみとし、最大値は各グループの人数(20 人)と最短出口の扉幅から算出した滞留時間を
加算した。
到
達
人
数
(人
)
(a) 避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
28
22
21
6
8
18
8
10
7
1
2
7
10
出発6
1
1
出発5
5
1
出口①
出発3
出口③
(5)実験Ⅲb
(b) 各出発点からの
避難先と人数
合計
2
出発1
出口④
出口⑧
図 5.4.5 避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅲb)
205
第5章
凡例
2
↑↑
出口2
Ⅰa:9人
Ⅱa:1人
A
Ⅲa:
11人
B
D
↓↓
出口8
出発点1の被験者の主な軌跡
↓ ↓
凡例
出発点2
:避難口誘導灯
50m
0
3
↑↑
A
↓↓
Ⅰa:11人
Ⅱa:13人
Ⅲa:8人
出口2
↓↓
↓↓
出口1
被験者の
主な軌跡
出口5
C
Ⅰa:3人
Ⅱa:5人
Ⅲa:2人
B
Ⅲa:6人
出口7
実験Ⅰa
実験Ⅱa
実験Ⅲa
配置パターンa
E
↓↓
出口6
被験者の
主な軌跡
図 5.4.6(1)
2
出口5
Ⅰa:9人
Ⅱa:3人
Ⅲa:4人
出口1
方向 1
4
50m
C
↓↓
出発点1
:避難口誘導灯
0
Ⅰa:2人
Ⅱa:16人
↓↓
3
↓ ↓
方向 1
4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
D
出口6
実験Ⅰa
実験Ⅱa
実験Ⅲa
図 5.4.6(2) 配置パターンa
出発点2の被験者の主な軌跡
206
E
↓↓
出口7
出口8
第5章
凡例
2
0
3
↑↑
↓↓
出口2
↓ ↓
方向 1
4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
出発点4
Ⅰa:12人
Ⅱa: 7人
Ⅲa: 6人
Ⅱa: 4人
Ⅲa: 1人
出口1
↓↓
実験Ⅰa
実験Ⅱa
実験Ⅲa
図 5.4.6(3) 配置パターンa
出口8
出発点4の被験者の主な軌跡
2
↓ ↓
凡例
:避難口誘導灯
50m
0
3
↑↑
↓↓
出口2
A
出口5
Ⅰa:
3人
C
Ⅰa: 13人
Ⅱa: 6人
Ⅲa: 19人
B
E
出口7
出口6
被験者の
主な軌跡
方向 1
4
D
↓↓
↓↓
50m
Ⅰa:8人
Ⅱa:4人
出口5 Ⅲa:11人
C
A
B
:避難口誘導灯
↓↓
出口1
Ⅰa: 4人 ↓ ↓
Ⅱa: 6人
出口6
E
D
↓↓
Ⅱa:3人
出口7
Ⅱa:
4人
出発点6
被験者の
主な軌跡
実験Ⅰa
実験Ⅱa
実験Ⅲa
図 5.4.6(4) 配置パターンa
207
出口8
出発点6の被験者の主な軌跡
第5章
出口4
2
↓↓
3
凡例
Ⅱb:9人
Ⅲb:18人
:避難口誘導灯
0
Ⅲb:
1人
A
↓ ↓
出口3
↓↓
方向 1
4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
50m
C
↑
B
↓↓
出口1
出発点1
被験者の
主な軌跡
Ⅱb:
2人
実験Ⅱb
実験Ⅲb
図 5.4.7(1) 配置パターンb
2
凡例
:避難口誘導灯
0
↓↓
3
出発点1の被験者の主な軌跡
出口4
Ⅱb:1人
Ⅲb:7人
↓↓
4
出口3
出口8
↓ ↓
方向 1
E
D
Ⅱb:5人
Ⅲb:1人
50m
出発点3
C
A
Ⅲb:
5人
B
D
E
↑
↓↓
Ⅲb:
4人 出口1
Ⅱb:
3人
被験者の
主な軌跡
Ⅱb:
10人
実験Ⅱb
実験Ⅲb
図 5.4.7(2) 配置パターンb
208
出口8
出発点3の被験者の主な軌跡
第5章
出口4
凡例
2
:避難口誘導灯
0
↓↓
↓↓
3
↓ ↓
出口3
方向 1
4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
50m
Ⅱb:
4人
A
Ⅱb: 4人
Ⅲb:10人
C
E
B
↓↓
出口1
出発点5
D
Ⅱb:5人
Ⅲb:7人
Ⅱb:
4人
被験者の
主な軌跡
図 5.4.7(3)
配置パターンb
4
出口8
出発点5の被験者の主な軌跡
出口4
凡例
2
:避難口誘導灯
0
↓↓
↓↓
3
↓ ↓
出口3
方向 1
実験Ⅱb
実験Ⅲb
50m
Ⅱb: 5人
Ⅲb:10人
A
B
Ⅲb:3人
C
D
E
↑
↓↓
Ⅱb:11人
Ⅲb:3人
Ⅱb:2人
Ⅲb:1人
出口1
出発点6
被験者の
主な軌跡
図 5.4.7(4)
実験Ⅱb
実験Ⅲb
配置パターンb
出口8
出発点6の被験者の主な軌跡
209
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
5.4.2 交差点における経路選択の傾向
交差点で経路選択を誤ると、避難時間が長大化する。本報では、交差点における被験者
の経路選択の傾向を実験ケース毎に「人の進行方向」と「誘導灯の位置」の関係で整理・分析
した(表 5.4.1)。
(1)避難出口自体の認識(表 5.4.1)
実験Ⅰa では、誘導灯に目張りをして非常照明のみ点灯している低い照度で避難を行うた
め、交差点での避難出口自体の認識の有無が経路選択に影響を及ぼすと考えられる。表 5.4.1
をみると傾向1,3の交差点Cでは被験者は避難出口⑤を認識し全員正しい経路選択を行っ
ている(図 5.4.6(1)(3)(4)参照)。傾向2を見ると、交差点Dでは必ずしも避難出口⑤を認識し
ておらず、35%(7 人)が直進せず進路変更している。内 4 人は避難出口⑥に到達し、残り 3
人は交差点Eへ進み、避難出口⑧を認識できずに経路選択を誤り(傾向5参照)、結果的に避
難出口⑤に到達している(図 5.4.6(4)参照)。これは傾向1,3の交差点Cからの距離 15mに比
べて、傾向2では交差点Dから避難出口⑤までの距離が 35mと遠くなっていることが影響し
ていると考えられる。また、傾向5,10のⅠa とⅡa を比較するとⅡa で傾向とおりの行動
確率が上昇しており、誘導灯の効果が認められる。
(2)誘導灯の認識(表 5.4.1)
実験Ⅱ、Ⅲでは、誘導灯を点灯させているため、被験者が交差点で誘導灯、特に避難口誘
導灯を正しく認識することができれば、避難時間の短縮に繋がるはずである。
1)出口位置や距離の差異による誘導灯認識への影響
傾向 1 を見ると、誘導灯方向への直進率は配置パターン a では 90%以上であるが、配
置パターン b では約 65%となっている。パターン b では交差点Cで被験者 8 人が避難出
口④の誘導灯を見落として進路変更していることが主な原因で、配置パターンの違いに
よる出口⑤と④の位置の違い、特に距離の差(パターンaでは交差点Cから出口⑤まで 15
mであるのに対して、パターンbでは交差点Cから出口④まで 30m)が大きく影響してい
るものと考えられる(図 5.4.7(1)(4)参照)。また、交差点Dから避難出口①まで 40mと距
離があることもパターンbの直進率を下げる原因と考えられる。
傾向3の交差点C,Dでも傾向1と同様の傾向が見受けられる。
2)避難者の誘導灯認知による最短経路選択の可能性
傾向2をみると実験Ⅱa で交差点Dを 70%が直進せず進路変更している。出発点 6 か
ら最短出口である避難出口⑥を選択することができた 6 人のうち 2 人が「最初から避難
口誘導灯を認知していた」、1 人が「実験途中に避難口誘導灯を認知した」と答えており、4
人が「即座に出口がわかった」とアンケートに回答していることから、交差点Dに進入後
すぐに出口⑥に気づいたと考えられる。避難者が正しく誘導灯を認知することで最短経
210
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
路での避難が可能になると考えられる(図 5.4.6(4)参照)。
傾向1∼4を十字路での直進性の確率で比較すると、傾向1(76%)>傾向2(65%)>傾
向4(34%)≧傾向3(31%)となり、進行方向に誘導灯や出口等の避難目標物があると直進
する傾向が強いが、避難目標物がない場合には進路方向を変更する傾向が強いと考えら
れる。
3)三叉路での誘導灯認識と直進性
傾向5∼12は三叉路での経路選択の傾向である。傾向6,7をみると、正面に誘導
灯のある場合の直進率はほぼ 100%であるが、傾向10,12はそれぞれ 84%、63%と
低い値を示しており、広い直進通路では柱やその他障害物により避難出口や誘導灯が目
立たない状況であったと考えられる。傾向5と傾向8を比較してみても誘導灯方向への
経路選択はそれぞれ 71%、40%となっている。しかし、広い直進通路のある三叉路での
直進性をみると、傾向10(84%)>傾向9(77%)>傾向12(63%)>傾向11(46%)となり、
傾向11でも半分近くの被験者が直進していることから、広い通路では誘導灯の認識の
有無に限らず被験者は直進傾向が強いと考えられる。
表 5.4.1 交差点における経路選択の傾向(交差点記号については図 5.3.3 参照)
形状
傾向
傾向1
傾向2
交差点(*3)
C
D
D
C,D合計
実験(*4) 確率 母数 確率 母数 確率 母数 確率 母数
Ia(*5)
100% 13人
0人
100%
13人
65%
20人
IIa
100%
8人
0人 100%
8人 30% 20人
IIIa
95% 22人
0%
1人 91% 23人 95% 22人
IIb
80% 15人 45% 11人 65% 26人
0人
IIIb
79% 28人 39% 18人 63% 46人
0人
全体
88% 86人 40% 30人 76% 116人 65% 62人
誘導灯の方向と距離
Ⅱ,Ⅲa Ⅱ,Ⅲb
1
1
距離 出口方向 15m
(*8) その他
方向 進入方向
(*7) 出口方向
1
1
30m
-
Ⅲa
Ⅱ,Ⅲb
Ⅱ,Ⅲa
2
2
38m
-
4
4
40m
-
1
1
35m
十字路
傾向3
D
C
確率
100%
71%
92%
71%
0%
86%
Ⅱ,Ⅲa
2
1
母数
22人
7人
12人
7人
2人
50人
Ⅱ,Ⅲb
4
1
4
1
15m 15m 30m
10m(4),40m(2) -
-
-
確率
100%
100%
64%
26%
54%
Ⅱ,Ⅲa
3
4
10m
-
傾向4
D
C
C,D合計
C,D合計
母数
母数 確率 母数 確率
確率 母数 確率
0人
0人 100% 22人
0人
0人 86%
6人 85% 13人 86%
7人
0人 33%
3人 93% 15人 33%
3人
25人 66% 32人 18%
17人 95% 19人 58%
14人 100%
23人 24% 25人 79%
2人 81%
41人 95% 21人 66%
57人 69% 107人 51%
Ⅱ,Ⅲb
Ⅱ,Ⅲb
Ⅱ,Ⅲa Ⅱ,Ⅲb
1
4
3
4
4
3
-
40m 40m
-
-
2
3
-
3
2
-
3
4
-
3
2
-
2
1
-
母数
0人
7人
3人
36人
16人
62人
1
2
-
概念図
形状
傾向
傾向5
交差点(*3)
E
実験(*4) 確率 母数
Ia(*5)
0%
3人
IIa
100%
4人
IIIa
0人
IIb
76% 25人
IIIb
67%
3人
全体
71% 35人
Ⅱa
方向 進入方向 2
(*7) 出口方向
3
距離 出口方向 35m
(*8) その他
-
誘導灯の方向と距離
三叉路
傾向6
E
傾向7
E
母数 確率 母数
0人 100% 12人
0人 88%
8人
0人 100%
6人
0人
100%
5人
100%
6人
0人
100% 11人 96% 26人
Ⅱ,Ⅲb
Ⅱ,Ⅲa
Ⅱ,Ⅲb
2
3
35m
-
傾向8
A
確率
確率
-
-
3
3
35m
-
3
3
35m
10m(4)
100%
50%
100%
20%
40%
Ⅱ,Ⅲa
4
1
10m
-
傾向9
A
三叉路(大通り接続)
傾向10
傾向11
A
B
傾向12
B
人の「進行方向」と
「誘導灯」位置の
整理方針
母数
確率
母数
母数 確率 母数 確率 母数 確率
11人 33%
22人
75%
0人
8人 18%
6人 50%
21人
18人 17%
2人 100%
6人 94%
6人 86%
12人
20人
2人 100%
8人 100%
0%
9人 55%
0%
10人 53% 19人
0人
1人
4人 90%
18人 64% 28人
0人
10人
0人 100%
77%
69人
63人
15人
26人 84%
46% 68人 63%
Ⅱ,Ⅲa
Ⅱ,Ⅲb Ⅱ,Ⅲa Ⅱb Ⅱ,Ⅲa Ⅱ,Ⅲb Ⅱ,Ⅲa Ⅱ,Ⅲb
4
1
30m
-
3
3
-
3
3
-
1
1
10m
-
1
1
30m
3
3
-
1
1
-
15m(2) 15m(2)
1
1
30m
15m(2)
概念図
*3:交差点記号は図5.3.3参照
*4:「母数×確率」=「傾向とおり行動した人数」となる。
*5:実験Ⅰaは誘導灯に目張りをしているため、避難出口自体が避難目標物となる。
*6:表中「 - 」は計算不能あるいは該当なしの場合を示す。
211
*7:交差点毎に被験者の主な進入方向・出口方向を示す。
「方向」は図5,6(1)∼(4)の左上に凡例を示す。
*8:「出口方向」の誘導灯と「その他」方向の誘導灯までの概略距離を示す。
ただし( )内は「その他」の誘導灯の方向を示す。
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
5.4.3 避難出口前の素通りと照度の影響
出口の選択において、 ばらつき
の原因の一つが「被験者が避難出口前を素通りする」
ことにある(写真 5.4.4)。出口別に見ると、実験Ⅰa,Ⅱa,Ⅲa において出口①,⑥,⑦は、同一
の通路に面する平面計画上類似の出口であるが、出口⑥だけが被験者による見落としが少
なかった(出口①,⑦の素通り率:79%,67%、出口⑥:6%、表 5.4.2(a))。出口①,⑥,⑦の
外観上の特徴を比較すると、扉幅,出口前の空間等、出口⑥が最も「出口らしい」印象を受
ける(写真 5.4.1∼5.4.3)。照度や誘導灯の影響を確認するため、実験Ⅰa,Ⅱa とⅢa を比較す
ると、実験Ⅰa,Ⅱa で 100%近い被験者が出口①,②を素通りしているが、実験Ⅲa では出
口①,②を素通りする被験者は 60%以下に減少している。具体的には、出発点1の被験者の
多くが実験Ⅱa では出口②を素通りして出口⑤に到達しているが、実験Ⅲa では多くの被験
者が出口②を選択し(図 5.4.6(1)参照)、出発点2の被験者も出口①を選択している(図 5.4.6(2)
参照)。同様の傾向は実験Ⅱb とⅢb 間で出口③,④でも見受けられる(表 5.4.2(b))。この結果
から、照度が低い状況では見落とされがちな避難出口も、照度を上げることで避難者に認
識され易くなると考えられる。
また、避難出口前の素通りには、被験者の多くが「避難口誘導灯」と「通路誘導灯」の違い
を認識していないことが影響を与えていると考えられる。実験後のアンケートから、被験
者の 69%は避難口誘導灯と通路誘導灯の違いを知らなかったことが判明した、一方、被験
者の 22%が避難口誘導灯と通路誘導灯の違いに「実験中に気づいた」と答えている(図 5.4.8
参照)。実験Ⅲa の時点で出口①,②あるいはⅢb で出口③,④の避難口誘導灯を認識した被
験者も少なくないと考えられる。実験Ⅲa で出発点1⇒出口②の軌跡を辿った 11 人中 3 人、
出発点2⇒出口①の軌跡を辿った 6 人中 4 人が「実験中に避難口誘導灯と通路誘導灯の違い
に気づいた」と答えている。
表 5.4.2(a) 出口前を素通りする確率(実験Ⅰ,Ⅱ,Ⅲa)
出口①
出口②
出口⑤
出口⑥
出口⑦
出口⑧
照度
(lx) 確率 母数 確率 母数 確率 母数 確率 母数 確率 母数 確率 母数
扉2枚 幅1.6m 扉4枚 幅3.2m 扉4枚 幅3.2m 扉4枚 幅1.6m 扉2枚 幅1.6m 扉8枚 幅6.4m
Ⅰa
19
Ⅱa
19
Ⅲa 1019
全体
94%
100%
58%
79%
16人
8人
19人
43人
100%
97%
52%
79%
18人
31人
33人
82人
0%
2%
5%
2%
48人 0%
45人 0%
43人 23%
136人
6%
18人 100% 3人
19人 56% 9人
13人
50人 67% 12人
表 5.4.2(b) 出口前を素通りする確率(実験Ⅱ,Ⅲb)
出口①
出口③
出口④
照度
(lx) 通過 母数 通過 母数 通過
母数
出口⑧
通過 母数
幅1.6m 扉8枚 幅6.4m
Ⅱb
19 17% 30人 28% 18人 20% 20人 0% 24人
Ⅲb 1019 4% 23人 0% 28人 0% 21人 0% 8人
全体
11% 53人 11% 46人 10% 41人 0% 32人
扉2枚 幅1.6m 扉2枚 幅1.6m 扉2枚
212
0%
0%
0%
0%
12人
11人
6人
29人
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
図 5.4.8 誘導灯の違い認識に関するアンケート結果
写真 5.4.1
写真 5.4.2 出口⑥
出口①
避難口
避難口誘導灯
誘導灯
写真 5.4.3 出口⑦
写真 5.4.4
213
出口前を素通りする被験者
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
5.4.4 出口数や出口位置が避難行動に及ぼす影響
(1)出口数減少による避難ロスの発生(図 5.4.9)
避難者は出口を見落とすと次の出口を探さなければならなくなるため避難時間が長く
なるが、出口数が少ないと直近の出口から次の出口までの間隔が長くなるため、
「避難出
口を見落とす」あるいは「経路選択を誤る」等の影響が大きく現れると考えられる。出
口数が避難歩行距離に及ぼす影響を被験者の出発点から出口までの最短距離と実際の避
難歩行距離の偏差で表し、これを「避難ロス」と定義する。出口数の異なる配置パター
ン a(出口 6 箇所:図 5.3.2(a))と配置パターン b(出口 4 箇所:図 5.3.2(b))における避難
ロスを比べると、図 5.4.9(a),(b)のように、出口の多いパターン a の方が、より多くの被験
者が最短経路に近い避難経路を辿って出口に到達したことが分かる。
60
パターンa(出口6箇所)
50
人数
40
30
20
10
0
10
30
50
70
90
110
130
150
170
190
距離偏差(m)
図 5.4.9(a) 最短経路との避難距離偏差(パターン a)
60
パターンb(出口4箇所)
50
人数
40
30
20
10
0
10
30
50
70
90
110
130
150
170
距離偏差(m)
図 5.4.9(b) 最短経路との避難距離偏差(パターンb)
214
190
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
(2)出口数減少による避難時間の増加と避難時間のばらつきの発生(図 5.4.10)
出口パターンaとパターンbの避難時間を比較すると、照明条件Ⅱ(非常照明:点灯,
誘導灯:点灯,店舗広告灯・一般照明:消灯、表 5.3.1 参照)では、パターンaで 60.3
秒(標準偏差 24.5)、パターンbで 72.4 秒(標準偏差 32.4)となっている。パターンbの
ほうが平均避難時間で 12.1 秒、標準偏差で 7.9 大きな結果となっている。平均避難時間
の差は避難距離の増加の影響が大きいと思われるが、標準偏差の増加は避難距離の増加
に伴い、経路の選択肢が増えたことによるものと考えられる。照明条件Ⅲ(非常照明:
消灯,誘導灯:点灯,店舗広告灯・一般照明:点灯、表 5.3.1 参照)ではパターンaで 51.7
秒(標準偏差 15.8)、パターンbで 66.5 秒(標準偏差 18.7)となっている。パターンa,
bともに平均避難時間が 6∼8 秒,標準偏差が 9∼14 程度小さくなっている。実験場の照
度があがる(19→1,012 lx)ことによって、避難時間が短縮され、ばらつきも少なくなる
200
200
150
150
:平均値
実験Ⅲb
実験Ⅱb
ことが明らかである。
Ⅱa:60.3秒
(24.5)
Ⅱb:72.4秒
(32.4)
100
( ):標準偏差
50
:平均値
Ⅱa:51.7秒
(15.8)
Ⅱb:66.5秒
(18.7)
100
( ):標準偏差
50
健常者
シニア
0
健常者
シニア
0
0
50
100
実験Ⅱa
150
200
0
50
100
150
実験Ⅲa
200
(2) 実験Ⅲaと実験Ⅲbの避難時間の比較
(1) 実験Ⅱaと実験Ⅱbの避難時間の比較
図 5.4.10 実験パターンaとパターンbの避難時間の比較
215
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
(3)出口位置・形状と避難人数の関係
図 5.4.11 出口パターン a の出口位置および出発点
85
100
60
15
8
29
26
40
3
5
1
13
合計
4
出発6
8
出発4
出発2
出口⑧
出口②
0
10
出口⑦
12
1
17
4
6
21
3 19
出口⑥
6
19
1
出口⑤
20
出口①
到達人数(人)
80
出発1
図 5.4.12 出発点から避難先と被験者人数(実験Ⅱa,Ⅲa)
216
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
写真 5.4.5 出口①
写真 5.4.6 出口②
写真 5.4.7 出口⑤
写真 5.4.8 出口⑥
写真 5.4.10 出口⑧
写真 5.4.9 出口⑦
217
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
出口パターンaでは出口⑤に到達した被験者が一番多い。特に出発点6の被験者は出
口⑤が出発点から目標とし易い進行方向にあるため、3分の2の被験者(39 人中 26 人)
が出口⑤を選択している(図 5.4.12,図 5.4.6(4)参照)。
出発点1の被験者は出口②を 30%(40 人中 12 人)が選択し、出口②を見落とした被験
者の多数(19 人)が出口⑤に到達している(図 5.4.12,図 5.4.6(1)参照)。
出発点2の被験者は 53%(40 人中 21 人)が出口⑤、25%(10 人)が出口⑥、15%が出口
①を選択しており、被験者は避難開始時に大きく二手に分かれて行動を開始し、方向2
(図 5.4.6(2)参照)へ向かった被験者の全員が出口⑤に、残りの被験者の多数が出口⑥また
は出口①に到達している(図 5.4.6(2)参照)。
出発点4の被験者は 49%(39 人中 19 人)が出口⑤、33%(13 人)が出口⑧を選択してお
り、被験者は避難開始時に大きく二手に分かれて行動を開始し、方向4(図 5.4.6(3)参照)
へ向かった被験者の多数が出口⑤に、方向3に向かった全員が出口⑧に到達している(図
5.4.6(3)参照)。
このように、出口⑤はすべての出発点から到達しやすい位置にあるとともに、 く
の
字の形状をした広場状の通路に面しており(図 5.4.6 参照)、かつ、間口が広く出口への階
段がガラス扉越しに見えるため(写真 5.4.7)、被験者が選択しやすかったと考えられる。
一方、出口①⑦を選択した被験者は少数である。間口が狭くガラス扉越しに地上出口
も認識しにくいため、被験者に避難出口として認識されにくかったと思われる。
218
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
図 5.4.13 出口パターンbの出口位置および出発点
47
100
41
37
到達人数(人)
80
32
17
60
12
40
12
19
3
27
20
16
2
9
6
18
出発6
6
出発5
0
出発3
2
出口①
合計
4
4
出口③
出発1
出口④
出口⑧
図 5.4.14 出発点から避難先と被験者人数(実験Ⅱb,Ⅲb)
219
第5章
写真 5.4.11
出口①
写真 5.4.13
出口④
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
写真 5.4.12 出口③
写真 5.4.14 出口⑧
出口パターンbはパターンaと異なり、出口別の到達避難者数に大きな差異はないが、
出発点別に出口との関係が読み取れる。例えば、出発点1の被験者の3分の2以上(39 人
中 27 人)が出口③を選択しており、多くの被験者がメインアベニューを直進し出口③に
到達している(図 5.4.14,図 5.4.7(1)参照)。
出発点3の被験者は 46%(39 人中 18 人)が出口⑧、30%(12 人)が出口①を選択してお
り、被験者は避難開始時に大きく二手に分かれて行動を開始し、方向4(図 5.4.7(2)参照)
へ向かった被験者の多数が出口①に、方向3(図 5.4.7(2)参照)に向かった被験者の多数が
出口⑧に到達している。出発点3の被験者で最寄の出口④を選択した被験者は皆無であ
り、次に近い出口③を選択した被験者は 23%(9%)である(図 5.4.14,図 5.4.7(2)参照)。
出発点5の被験者の多数が避難開始直後に方向4に進行し、そのうち交差点Dで方向
1に曲った被験者の多数(全体の 48%,19 人)が出口④に、直進した被験者の多数(全体の
30%,12 人)が出口①に到達している(図 5.4.14,図 5.4.7(3)参照)。
出発点6の被験者全員が方向1に進行し、そのうち直進した被験者の多数(全体の
41%,16 人)が出口④に、交差点CまたはDで方向4に曲った被験者の多数(全体の
220
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
44%,17 人)が出口①に到達している(図 5.4.14,図 5.4.7(4)参照)。
写真 5.4.11∼写真 5.4.14 に出口パターンbの出口の写真を示す。間口が広く出口への階
段がガラス扉越しに見える出口は出口⑧のみ(写真 5.4.14)であるが、出口⑧は実験場の突
き当たり(袋小路)部分にあり、多くの被験者に利用されにくい位置にあると思われる。
そのため、被験者が選択する出口が分散したと考えられる。
221
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
5.4.5 最終アンケート結果から推測できる被験者の傾向
被験者は視聴覚・行動能力から、健常者(67 人)とシニア(12 人)に分類できる。また、実
験時の避難軌跡を分析すると「複数で行動する」被験者と「単独で行動する」被験者に分類で
きる。そこで、被験者をシニアと健常者,集団避難者(健常者)と単独避難者(健常者)に分
類し、避難時間等を比較した。ここで集団避難者とは、出発点から2人以上の複数で同一
軌跡を避難した被験者グループを示す。
本実験では、各実験遂行直後に行う中間アンケート(用紙は図 5.3.4 参照)と全実験終了後
に行う最終アンケート(用紙は図 5.3.5(1)(2)参照)の2種類を実施した。最終アンケート項目
内容の抜粋を図 5.4.15 に示す。実験場所の平面図を示しての最終アンケートの質問1「実験
区画全体像を把握していたか?」に対して、「把握していない・あまり把握していない」が 41
人(シニアが 6 人)、「どちらでもない」が 11 人(シニアが 3 人)と答えており、被験者の記憶
定着防止策は効果があったと考えられる(図 5.4.16)。
1. 実験区画全体を把握していましたか?(添付の平面図を参照してください)
2. 目印あるいは印象に残っている場所がありますか?
3. 緑の誘導灯は「出口」を白い誘導灯は「避難方向」を示すことを知っていましたか?
4. 明るさの違いにより避難のしやすさはかわりましたか?
変わると答えた場合はその理由を書いてください。
・明るい場合 ・暗い場合 理由[ ]
5. 主に何を頼りに避難、行動したのか、影響の大きかった順に並べてください
ア. 前を歩く人、周りの人につられて避難した
イ. 誘導灯の指示を探しながら(従いながら)避難した
ウ. 何となくまっすぐ進んだ
エ. 一番初めに目に入った目印(出口)突き進んだ
オ. 開放感を感じる方向、空間に向かった
カ. 以前の(実験パターン)記憶を頼りに、出口のある方向を目指した
キ. 自分の中で目印となっている場所、記憶に残った場所(メインアベニュー等)に
向かった
ク. その他
図 5.4.15 最終アンケート項目の内容(抜粋)
実験区画の全体像を把握していたか?
把握して
いない
14人
把握して
いた
11人
大体把握
していた
16人
あまり把
握してい
ない
27人
どちらとい
えない
11人
図 5.4.16 最終アンケート:質問1
「実験区画全体像を把握していたか?」の回答
222
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
質問4「明るさの違いにより避難のし易さは変わったか?」に対して、健常者 67 人中 31
が「変わらない・あまり変わらない」
、24 人が「明るい方」、12 人が「暗い方」が避難し易いと
回答している。「暗い方」と答えた 12 人全員が理由として「誘導灯が目立つ」と回答している。
一方、シニアは 12 人中 10 人が「明るい方」が避難し易いと回答している(表 5.4.3)。
表 5.4.3 最終アンケート:質問4
「明るさの違いにより避難のし易さは変わったか?」の回答と理由
避難の
し易さ
理由
人数
健常者 シニア
周囲が良く見渡る
15
人の動きが良く見える 1
明るい方 不安が解消される
6 24
文字や看板が見え易い 1
その他
1
誘導灯が目立つ
12
暗い方
12
その他・不明
0
変わらない・あまり変わらない
31
合計
67
2
4
0 10
4
0
0
1
1
1
12
質問5「主に何を頼りに避難したか?」に対して1番目に「ア.周りの人」を挙げた被験者は
28 人(9 人はシニア),「イ.誘導灯」が 16 人(シニアが 1 人),「ウ.何となく真直ぐ」が 13 人(シ
ニアが 1 人),「エ.最初に気づいた目印」が 8 人(シニア 0 人)の順となっている(図 5.4.17)。
最終アンケート結果から、シニアは健常者に比べて暗さに障害を感じており、自分から避
難目標物を探すのではなく、周囲に頼って避難していたと考えられる。
ク
カ キ
2人 4人
オ 4人
4人
エ
8人
何を頼りに避難したか?
ア.周りの人に従った
ア
28人
イ.誘導灯に従った
ウ.何となく真直ぐ進んだ
エ.最初に気づいた目印に進んだ
ウ
13人
オ.開放感のある方向に進んだ
イ
16人
カ.以前の出口を探した
キ.記憶にある目印に向かった
ク.その他
図 5.4.17 最終アンケート:質問5
「何を頼りに避難したか?」の回答(1 番目)
223
第5章
5.4.6
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
健常者と擬似高齢者の避難行動特性の比較
(1)歩行速度,避難時間等の比較
全実験での被験者の歩行速度平均値は 1.40m/s(健常者 1.55m/s,シニア 1.24m/s),最小
値は健常者 0.86m/s,シニア 0.88m/s である。図 5.4.18 によると、健常者・シニアともに
照度や誘導灯の状態が変化しても平均歩行速度は大きく変化しないことがわかる。一方、
図 5.4.19 を見ると、照度や誘導灯の点灯状態の変化に対して、健常者の平均避難時間はほ
とんど変化しない(CaseⅠa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 53.9⇒59.1⇒51.1 秒)のに対して、シニアの避
難時間は急激に短縮されている(実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 83.3⇒67.3⇒54.7 秒)。これは、
照度や誘導灯の状態改善により、シニアが適切な避難経路や避難出口を選択することが
可能になったためと考えられ、図 5.4.20 に見られるように、シニアの平均歩行距離が大幅
に短縮されている(実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 89.5⇒78.5⇒61.4m)。一方、健常者の平均歩
行距離は照度や誘導灯の状態変化の影響をあまり受けておらず(実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で
76.4⇒86.6⇒70.6m)、特に実験Ⅲa では健常者の平均歩行距離がシニアより長くなり、
結果的に両者の平均避難時間に差異がなくなっている。照度改善がシニアに与える効果
は、Ⅱa⇒Ⅲa でシニアの出口素通り率(5.4.3 章参照)が 29%⇒14%に低下することにも
表れている(図 5.4.21)。
実験条件一覧
歩行速度(m/s)
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
1.8
1.6
1.4
健常者
シニア
1.2
1.0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
図 5.4.18 歩行速度の比較(健常者とシニア)
224
Ⅲb
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
実験条件一覧
避難時間(秒)
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
90
80
70
60
50
40
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
健常者
シニア
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
歩行距離(m)
図 5.4.19 避難時間の比較(健常者とシニア)
110
100
90
80
70
60
50
健常者
シニア
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.20 歩行距離の比較(健常者とシニア)
素通り率(%)
40%
30%
20%
健常者
シニア
10%
0%
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
図5.4.21 出口素通り率の比較(健常者とシニア)
225
Ⅲb
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
(2)中間アンケートの分析
次に、各実験直後に行った中間アンケート(用紙は図 5.3.4 参照)の項目内容の抜粋を表
5.4.4 に示す。
表 5.4.4 中間アンケート項目の内容(抜粋)
質問内容
① 今回の避難は容易でしたか
避難中に出口のある方向が分か
申告値(5件法)
1
困難
② らずに焦ることはありましたか
焦った
③ 避難中に迷うことはありましたか
迷った
視野の悪さ(暗さ)による避難のし
④ づらさを感じましたか
周囲の人の行動に影響されました
⑤ か
感じた
影響
された
出口のある方向が即座に分かって
⑥ 避難を開始しましたか
避難中に経路を戻ることはありま
⑦ したか
2
3
やや
困難
やや
焦った
どちらとも
言えない
4
5
やや
迷った
やや
感じた
あまり
どちらとも
言えない 迷わなかった
迷わなかった
あまり
どちらとも
言えない 感じなかった
感じなかった
やや
容易
容易
あまり
どちらとも
言えない 焦らなかった 焦らなかった
影響
やや
どちらとも あまり影響
影響された 言えない されなかった されなかった
「YES」の回答率を表示
「YES」の回答率を表示
実験条件一覧
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
中間アンケート結果を図 5.4.22∼5.4.26 に示す。実験はⅠ,Ⅱ,Ⅲの順に照度あるいは
誘導灯の状態が改善され、避難出口の数はa(6箇所)>b(4箇所)となっているため、
一般的に出口到達の容易度はⅠa<Ⅱa<Ⅲa,Ⅱb<Ⅲb かつⅡb<Ⅱa,Ⅲb<Ⅲa の順に高
いと予想できる。
226
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
質問①「今回の避難は容易だったか」に対して、健常者の回答はⅠa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 4.7⇒
3.8⇒4.1,Ⅱb⇒Ⅲb で 3.3⇒3.7(図 5.4.22(a))であり、予想される難易度の通りの結果と
はなっていない。
シニアのアンケート申告値の平均はⅠa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 3.1⇒3.5⇒3.8,Ⅱb⇒Ⅲb で 2.7
⇒3.3 であり、予想通り、容易度はⅠa<Ⅱa<Ⅲa,Ⅱb<Ⅲb かつⅡb<Ⅱa,Ⅲb<Ⅲa の順
70
60
50
40
30
20
10
0
5
4.7
4.1
3.8
3.7 4
3.3
3
2
1
申告値の平均
(困難⇔容易)
人数
となっている(図 5.4.22(b))。
0
Ⅰa
Ⅱa
実験No.
Ⅲa
Ⅱb
Ⅲb
5
14
12
10
8
6
4
2
0
3.1
4
3.8
3.5
3.3 3
2.7
2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
(b)
シニアの回答
Ⅱb
70
Ⅲb
5
困難
4.7
60
4.1
4
やや困難
3.8
50
実験条件一覧
3
どちらでもない
40
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
Ⅲa
○
×
○
6
3.7
3.3
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
30
やや容易
2
20
容易
10
0
Ⅰa
平均値
Ⅱa
Ⅲa
1
0
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.22 中間アンケート:質問①
「今回の避難は容易だったか?」への回答
227
申告値の平均
(困難⇔容易)
人数
(a) 健常者の回答
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
質問②「出口の方向が分からず焦ることはあったか?」に対して、健常者のアンケート
申告値の平均はⅡa⇒Ⅱb で 3.6⇒3.3,Ⅲa⇒Ⅲb で 3.9⇒3.7(図 5.4.23(a))、シニアは 3.0
⇒2.5,3.9⇒3.3(図 5.4.23(b))と、容易度の傾向は予想通りである。出口数減少(6 箇所⇒
70
60
50
40
30
20
10
0
5
3.6
3.9
3.6
3.7
3.3
4
3
2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
実験No. Ⅱb
Ⅲa
申告値の平均
(焦った⇔焦らず)
人数
4 箇所)の影響は健常者よりもシニアの方が大きな結果となっている。
Ⅲb
5
14
12
10
8
6
4
2
0
4
3.9
3.0
3.3 3
2.5
2.4
2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
申告値の平均
(焦った⇔焦らず)
人数
(a) 健常者の回答
Ⅲb
(b) シニアの回答
70
5
焦った
5
60
やや焦った
3.9
3.6
50
実験条件一覧
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
Ⅲa
○
×
○
6
3.6
3.3
Ⅲb
○
×
○
4
4
どちらでもない
3
40
Ⅱb
×
○
○
4
4
3.7
3
30
あまり焦らず
2
2
20
焦らず
10
1
1
0
Ⅰa
平均値
Ⅱa
Ⅲa 実験No.
0
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.23 中間アンケート:質問②
「避難中に出口の方向が分からず焦ることはあったか?」への回答
228
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
5
70
60
50
40
30
20
10
0
4.0
3.8 4
4.0
3.8
3.3
3
2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
Ⅱb
実験No.
申告値の平均
(迷った⇔迷わず)
人数
第5章
Ⅲb
14
12
10
8
6
4
2
0
3.6
3.3
3.6
3.6
4
3
2.5
2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
Ⅱb
実験No.
Ⅲb
(b) シニアの回答
14
実験条件一覧
Ⅲa
○
×
○
6
5
4
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
やや迷った
3.6
10
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
5
迷った
12
3.3
3.6
3.6
4
3
8
どちらでもない
2.5
6
3
2
あまり迷わず
4
2
1
2
迷わず
1
0
0
Ⅰa
平均値
Ⅱa
Ⅲa
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.24 中間アンケート:質問③
「避難中に迷うことはあったか?」への回答
229
(迷った⇔迷わず)
5
申告値の平均
人数
(a) 健常者の回答
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
質問④「視野の悪さ(暗さ)による避難のしづらさを感じましたか?」に対して、健常者
のアンケート申告値の平均はⅠa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 3.8⇒4.1⇒4.8,Ⅱb⇒Ⅲb で 4.1⇒4.9(図
5.4.25(a))であるのに対し、シニアは 1.4⇒1.9⇒3.1,1.8⇒3.3(図 5.4.25(b))であり、健常
者,シニアともに誘導灯や照度変化の影響を受けており、特にシニアは照度変化の影響
70
60
50
40
30
20
10
0
4.1
3.8
4.9 5
4.8
4.1
4
3
2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa 実験No.
Ⅱb
申告値の平均
(し難い⇔し易い)
人数
が強いことが明確である。
Ⅲb
14
12
10
8
6
4
2
0
5
4
3.3 3
3.1
1.8
1.4
2
1.8
1
申告値の平均
(し難い⇔し易い)
人数
(a) 健常者の回答
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
(b) シニアの回答
14
5
感じた
12
少し感じた
10
実験条件一覧
3.3
3.1
図 5.4.25
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
3
どちらでもない
8
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
4
6
あまり感じず
2
1.8
4
1 .4
2
感じず
0
Ⅰa
1.8
1
平均値
Ⅱa
Ⅲa
Ⅱb
0
Ⅲb
中間アンケート:質問④
「視野の悪さ(暗さ)による避難のしづらさを感じたか?」への回答
230
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
質問⑤「周囲の人の行動に影響されたか?」に対して、健常者のアンケート申告値の平
均はⅠa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 1.9⇒2.9⇒3.0,Ⅱb⇒Ⅲb で 3.1⇒2.9(図 5.4.26(a))とⅠa 以外 3.0
前後であるのに対して、シニアは 1.4⇒1.8⇒1.2,2⇒2.2(図 5.4.26(b))とⅠa 以外 2.0 前
後となっている。Ⅰa とⅡa を比較することで誘導灯の影響が確認できるが、健常者に誘
導灯の影響がより強く現れており、健常者は誘導灯を点灯させると周囲の人からの影響
が少なくなると考えられる。照度や出入口数の変化の影響は健常者,シニアともに明確
70
60
50
40
30
20
10
0
5
4
3.1
3.0
2.9
2.9 3
2
1.9
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa 実験No.
Ⅱb
申告値の平均
(影響大⇔影響小)
人数
ではない。
Ⅲb
(a) 健常者の回答
14
12
10
8
6
4
2
0
4
人数
3
1.8
1.4
2.2
1.8
2.2 2
1
0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa 実験No.
Ⅱb
Ⅲb
(b) シニアの回答
14
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
Ⅲa
○
×
○
6
5
影響された
実験条件一覧
12
4
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
少し影響された
10
どちらでもない
8
2.2
6
あまり影響されず
1.8
1.8
4
1.4
2
影響されず
0
Ⅰa
平均値
Ⅱa
Ⅲa
1
0
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.26 中間アンケート:質問⑤
「周囲の人の行動に影響されたか?」への回答
231
3
2.2
2
申告値の平均
(影響大⇔影響小)
5
第5章
5.4.7
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
集団避難者と単独避難者の行動特性の違い(健常者同士の比較)
中間アンケートの質問①「今回の避難は容易だったか」に対して、健常者の申告値の平均
は、実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 4.7⇒3.8⇒4.1,実験Ⅱb⇒Ⅲb で 3.3⇒3.7(図 5.4.22(a))とシニ
アの結果と異なり、実験Ⅰa が最も避難が容易という結果となっている。実験Ⅰa で視野の
悪さを感じつつ(図 5.4.25(a) の表示平均値でⅠa が最低の 3.8)、避難が容易と感じた要因は、
平均避難時間と歩行距離の短さにあると考えられ、ともにⅠa がⅢa に次いで2番目に短い
(図 5.4.19,図 5.4.20)。
実験Ⅰa とⅡa は照度が同じあるが、誘導灯が目張りされ目視できない状態のⅠa の平均
避難時間,平均歩行距離が、誘導灯が点灯している状態のⅡa (表 5.3.1, 表 5.3.2 参照)より
も短くなった原因は、実験Ⅰa での単独で行動した避難者の少なさとの関連性が考えられる。
実験毎の群集避難者の集団数と単独避難者(ここで単独避難者とは「各出発点からの避難軌
跡が他の被検者と異なり、単独で行動したと考えられる被験者」と定義)数を図 5.4.27 に示す。
集団避難者の集団数は実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 12⇒12⇒10,実験Ⅱb⇒Ⅲb で 13⇒9 となって
いる。単独避難者数は実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 1⇒6⇒8 人,実験Ⅱb⇒Ⅲb で 13⇒12 人である。
実験Ⅰa では単独避難者が一人であり、残り 78 人の被験者はお互いの様子を窺いながら 12
の集団に分かれて行動していたと考えられる。Ⅱa,Ⅲa に比べてⅡb,Ⅲb の単独避難者数が
多いのは、配置パターンbの出口数が配置パターンaに比べて少なく、結果的に避難距離
が長くなるため、出発時に属していた集団から逸れる被験者が増加したためと考えられる。
また、全実験を通じて単独で避難したシニアは2名であり(図 5.4.27,図 5.4.28)、それぞれ
別被験者である。
実験条件一覧
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
30
25
集団数
20
15
10
5
単独避難者(シニア)
単独避難者(健常者)
集団避難-集団数
1
避難未了者
1名を含む
1
1
12
6
12
7
12
12
10
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
13
9
0
Ⅱb
図 5.4.27 被験者の避難行動中の集団数
232
Ⅲb
Ⅲb
○
×
○
4
第5章
80
12
1
人数
60
40
66
12
6
1
1
11
7
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
11
12
12
12
シニア
(集団避難)
61
60
55
55
20
0
Ⅰa
シニア
(単独避難)
Ⅱa
Ⅲa
Ⅱb
Ⅲb
健常者
(単独避難)
健常者
(集団避難)
実験No.
図 5.4.28 集団避難者と単独避難者の構成
以下、健常者のみを対象として、集団避難者と単独避難者の行動特性を比較する。集団避
難者の延べ人数は 297 人、単独避難者は述べ 38 人(全実験を通じて単独避難者に 3 回なっ
た被験者が 1 人、2回が 8 人)であり、単独避難者のうちの1名は実験Ⅱb で生じた避難未了
者である。平均歩行距離を比較すると、集団避難者が 81.2mに対して単独避難者は 122.0
mと単独避難者の避難距離が5割ほど集団避難者より長い結果である。両者の平均歩行速
度には大きな差異がない(集団避難者:1.42m/s,単独避難者:1.54m/s)。出口前素通り率(表
5.4.2(a)(b)参照)が集団避難者の 22%に比べて 41%,一人の被験者が1実験内で曲がる回
数も集団避難者の 0.76 回/人に比べて 2.22 回/人と増加している(表 5.4.5)。Uターン回数を
調べると、全実験を通じて、単独避難者が延べ 15 回・人ターンであるのに対して、集団避
難者は1グループ 2 人が1回(2 回・人)ターンしているのにすぎない(シニアのUターンはパ
ターンⅡb で 1 人のみ)。
表 5.4.5 集団避難者及び単独避難者の歩行特性の比較(健常者のみ)
延べ 歩行距 避難時 歩行速 出口前素通 曲った回数
人数 離(m) 間(S) 度(m/s) り確率(%) (回/人)
集団避難者
297
81.2
57.1
1.42
22%
0.76
単独避難者
37 122.0
79.4
1.54
41%
2.22
避難未了者(*1)
1 237.3
1.32 2箇所(*2)
6
*1:避難未了者とは制限時間(3分)以内に避難出口に到達できなかった 被験者
を指し、実験Ⅱb で一人生じた。参考として分けて表記する。
*2:避難未了者は最終的に出口に未到達のため、素通りした出口数を示す。
233
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
実験毎に比較すると、単独避難者の平均歩行速度は 1.5∼1.6m/s,集団避難者は約 1.4m/
s前後とほぼ一定である(図 5.4.29)。実験Ⅲa で集団避難者の平均歩行速度が最低の 1.34m/
sまで低下しているが、平均歩行距離も最短の 63.8mに短縮されており(図 5.4.30)、平均
避難時間は最短の 47.5 秒となった(図 5.4.31)。実験Ⅲa で集団避難者の平均避難時間が最短
となったのは、照度が全実験中最大の 1,012 lx となり。実験場全体の見通しが良くなった
ことがあげられる。その結果、避難出口の発見が容易となり、歩行距離と避難時間の短縮、
さらには曲る回数の減少(図 5.4.32)につながったと考えられる。実際に中間アンケート質問
④「視野の悪さ」に対して集団避難者の申告値平均が実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 3.8⇒4.1⇒4.8 と
aパターン中、実験Ⅲa が”最も視野が良好"という結果であり、質問②「出口の方向が分か
らず焦ったか」に対しても、集団避難者の申告値平均が実験Ⅰa⇒Ⅱa⇒Ⅲa で 3.6⇒3.6⇒4.1
とⅢa が”最も焦ることなく出口を発見した”という結果である(表 5.4.6)。
中間アンケート回答から、単独避難者の特徴は以下と考えられる。視野の状態は単独避
難者と集団避難者とで差異はない(共に質問④の申告値平均が 4.3)が、単独避難者は集団
避難者に比べて周囲の行動に影響されにくく(質問⑤の申告値平均が単独避難者:3.8,集団避
難者:2.6)、避難中に迷うことが多い(質問③の申告値平均が単独避難者:3.9,集団避難者:3.0)、
また、避難中に出口を発見するのに手間取り(質問②の申告値平均が単独避難者:2.8,集団避
難者:3.7)、結果的に避難に困難さを感じている(質問①の申告値平均が単独避難者:2.9,集団
避難者:4.1)(表 5.4.6)。特に、実験Ⅲa とⅡb 時に質問①の申告値平均が全実験中最低の 2.4
となっている。
表 5.4.6 集団避難者及び単独避難者の中間アンケート平均申告値(健常者)
実験 人数 質問① 質問② 質問③ 質問④ 質問⑤
Ⅰa
66
4.7
3.6
4.0
3.8
1.9
Ⅱa
61
3.9
3.6
3.9
4.1
2.9
Ⅲa
60
4.3
4.1
4.2
4.8
2.9
集団避難者
Ⅱb
55
3.6
3.5
3.4
4.3
3.0
Ⅲb
55
3.8
3.9
3.9
4.9
2.7
全体 297
4.1
3.7
3.9
4.3
2.6
単独避難者 全体
37
2.9
2.8
3.0
4.3
3.8
注)質問①∼質問⑤の内容は表 5.4.4 参照
234
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
実験条件一覧
歩行速度(m/s)
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
1.8
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
単独避難者1人
1.6
1.4
集団避難者
単独避難者
1.2
1.0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
歩行距離(m)
図 5.4.29 集団避難者と単独避難者の平均歩行速度の比較(健常者のみ)
160
140
120
100
80
60
単独避難者1人
集団避難者
単独避難者
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
避難時間(秒)
図 5.4.30 集団避難者と単独避難者の歩行距離の比較(健常者のみ)
100
90
80
70
60
50
40
単独避難者1人
集団避難者
単独避難者
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.31 集団避難者と単独避難者の平均避難時間の比較(健常者のみ)
235
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
実験条件一覧
Ⅰa Ⅱa
通常照明 × ×
非常照明 ○ ○
誘導灯 × ○
出口数
6
6
○:点灯×:消灯
回数(回)
3.0
Ⅲa
○
×
○
6
Ⅱb
×
○
○
4
Ⅲb
○
×
○
4
単独避難者1人
2.0
1.0
集団避難者
単独避難者
0.0
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.32 集団避難者と単独避難者の曲がった回数の比較(健常者のみ)
素通り率(%)
80%
単独避難者1人
60%
40%
集団避難者
単独避難者
20%
0%
Ⅰa
Ⅱa
Ⅲa
実験No.
Ⅱb
Ⅲb
図 5.4.33 集団避難者と単独避難者の出口素通り率の比較(健常者のみ)
236
第5章
進行
方向
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
凡例
1
4
出発点 2
2
↓
13人(41秒)
↑
↓
↑
↓
↓
3
:単独避難者(避難時間)
:群集避難者 人数(避難時間)
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
出口2
↑ ↑
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
↓ ↓
↑ ↑
↑ ↑
↑ ↑
↓ ↓
出口5
↑↑
↓↓
↓ ↓
1人(73秒)
1人(66秒)
↑ ↑
↓ ↓
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
出口1
出口6
↓ ↓
↓ ↓
出口7
↑ ↑
↓ ↓
50m
0
出口8
図 5.4.34(1) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱa出発点2(黒G)
進行
方向
1
2
↓
4
凡例
↑
↓
↑
↓
↓
3
:単独避難者(避難時間)
:集団避難者 人数(避難時間)
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
↑ ↑
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
↓ ↓
↑ ↑
出口5
↑ ↑
↑ ↑
↓ ↓
出口2
↑↑
↓↓
↓ ↓
11人(52秒)
↑ ↑
1人(97秒)
↓ ↓
出口1
↓ ↓
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
↓ ↓
出口7
出口6
↑ ↑
↓ ↓
出発点 1
50m
0
出口8
図 5.4.34(2) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲa出発点1(黒G)
237
第5章
進行
方向
凡例
1
4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
2
↓
↓
↑
↑
↓
↓
3
:単独避難者(避難時間)
:集団避難者 人数(避難時間)
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
↑ ↑
↓ ↓
出口2
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
出発点
4
↑↑
↓ ↓
↑ ↑
1人(93秒)
↑ ↑
↑ ↑
出口5
11人(39秒)
↓↓
↓ ↓
1人(61秒)
↑ ↑
↓ ↓
↑ ↑
↓ ↓
出口1
↓ ↓
↓ ↓
↓ ↓
出口7
出口6
↑ ↑
↓ ↓
50m
0
出口8
図 5.4.34(3) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲa出発点4(黄G)
図 5.4.34(4) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲa出発点6(緑G)
238
第5章
進行
方向
出口3
1
凡例
2
↓
4
出口4
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
↑
↓
↑
↓
↓
↓ ↓
↓ ↓
3
:単独避難者(避難時間)
:集団避難者 人数(避難時間)
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
↓ ↓
1人(143秒)
↑ ↑
↑ ↑
↑ ↑
9人(55秒)
↑↑
↓↓
↓ ↓
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
↑ ↑
1人(85秒)
↓ ↓
出口1
↑ ↑
↓ ↓
出発点 1
0
50m
出口8
図 5.4.35(1) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱb出発点1(黄G)
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
↑ ↑
↑ ↑
:単独避難者(避難時間)
:群集避難者 人数(避難時間)
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
↓ ↓
↓ ↓
出発点 3
↓
↓
↓ ↓
3
↓
1人(54秒)
2
↑ ↑
凡例
↓
4
出口4
↑
出口3
1
↑
進行
方向
↑↑
↓↓
↓ ↓
1人(未到達)
↑ ↑
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
10人(91秒)
↓ ↓
出口1
↑ ↑
↓ ↓
0
50m
出口8
図 5.4.35(2) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱb出発点3(緑G)
239
出口3
凡例
↓
2
↓ ↓
↑ ↑
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
:単独避難者(避難時間)
:集団避難者 人数(避難時間)
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
↑ ↑
↑ ↑
↓
↓ ↓
3
↓
↓
4
出口4
↑
1
↑
進行
方向
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
↓ ↓
第5章
↑↑
↓↓
↓ ↓
1人(100秒)
↑ ↑
11人(50秒)
↓ ↓
1人(112秒)
↑ ↑
↓ ↓
↓ ↓
出口1
↑ ↑
出発点6
0
↓ ↓
50m
出口8
図 5.4.35(3) 集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱb出発点6(赤G)
進行
方向
出口3
1
4
出口4
凡例
:単独避難者(避難時間)
:集団避難者 人数(避難時間)
2
↓ ↓
3
↑ ↑
↑ ↑
↑ ↑
1人(80秒)
↓ ↓
:避難口誘導灯
:通路誘導灯
10人(62秒)
1人(98秒)
↑↑
↓↓
↓ ↓
↓ ↓
↑ ↑
↑ ↑
出発点 5
↓ ↓
↓ ↓
↓ ↓
出口1
↑ ↑
↓ ↓
0
図 5.4.35(4)
50m
出口8
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲb出発点5(赤G)
240
第5章
5.4.8
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
避難目標物の避難時間に与える効果
出発点の4グループは、帽子の色により赤,緑,黒,黄グループ(以下、赤G,緑G,黒G,黄
Gと略す)と称された。全実験を通じての単独避難者数は赤G:8 人,緑G:9 人,黒G:14 人,
黄G:9 人であり、黒G以外の単独避難数はほほ一定である。集団避難者の1集団当りの人
数は、赤G:5.4 人,緑G:10.1 人,黒G:6.1 人,黄G:5.3 人であり、緑Gの人数が多い。図
5.4.36 に帽子G毎の平均避難時間を示すが、緑Gの平均避難時間(70.9 秒)は他帽子Gに比べ
て大きな値を示している。図 5.4.36 に最終アンケート質問⑤「何を頼りに避難したか?」に
対しての被験者の1番目の答えを示すが、緑Gの特徴は「ア.人に従った」が多い(20 人中 11
人)こと、「イ.誘導灯を目標」との回答数が 1 人と極端に少ないことが上げられる。対照的に
赤G,黄Gは「ア.人に従った」がそれぞれ 7 人,3 人と比較的少なく、「イ.誘導灯を目標」がそれ
ぞれ 7 人,4 人(2番目に「誘導灯」との回答者を加えると赤Gが 10 人,黄Gが 9 人)である。
平均避難時間は赤Gが 59.0 秒,黄Gが 56.2 秒と短い結果となっている。図 5.4.37 に最終ア
ンケート質問5に対する1番目の回答数と平均避難時間を示している。「イ.誘導灯を目標」
(16 人,全体の 20%)との回答者の平均避難時間は 53.1 秒(健常者のみ)と一番短い。一方「ア.
人に従う」(28 人,全体の 35%)との回答者の平均避難時間は 61.3 秒(健常者のみ,シニアを含
めると 65.9 秒)となる。
2
3
4
61.2秒
2
7
10
7
3
1
2
56.2秒
3
3
11
1
6
5
4
3
4
7
0
その他
60
40
20
59.0秒
61.2秒
56.2秒
エ.最初の目印
60
20
1
2
3
4
ウ.何となく真直
3
2
2
10
3
6
3
1
40
1
7
イ.誘導灯目標
4
5
20
11
4
ア.人に従う
7
7
3
0
0
赤G
緑G
黒G
黄G
平均避難時間
0
30
図 5.4.37 最終アンケート質問5回答者と平均避難時間
241
他
の
そ
直
く真
初
の
と
な
.最
エ
う
目
従
目
印
ぐ
70
65 .9 秒
62 .5 秒
シニア(人数)
67 .0
6 1.3 秒
6 0秒
53 .1 秒
5 4.1 秒
50
健常者(人数)
40
15
12
13
8
30
健常者の避難時間
全員の避難時間
標
19
灯
40
.人
に
13
9
20
10
0
.何
8
50
40
30
ウ
12
60
ア
15
1
54.1秒 1
エ.最初の目印
0
19
1
67.0秒
ウ.何となく真直ぐ
10
53.1秒
イ.誘導灯目標
20
9
ア.人に従う
人数
30
70
62.5秒
イ.
誘
導
65.9秒
61.3秒
避難時間(秒)
黒G
黄G
グループ名
図 5.4.36 グループ別の最終アンケート質問⑤の回答数と平均避難時間
40
緑G
その他
赤G
80
30
70.9秒
1
人数
20
80
70.9秒
59.0秒
平均避難時間(秒)
30
第5章
5.5
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
まとめ
都内大規模地下街にて被験者 79 人による避難実験を行った結果、地下街における群集の
避難行動、特に避難出口や避難経路の選択性について、以下のような知見が得られた。
① 避難者は必ずしも誘導灯を正しく理解しているとは限らない(図 5.4.8)。そのため実験に
おいて被験者が避難出口前を素通りする現象が見られた(表 5.4.2,写真 5.4.4)。避難出口
を計画する場合には、間口を大きくすること(写真 5.4.2)や避難口誘導灯と通路誘導灯の
デザインや設置高さを大きく変化させるなどの避難出口をより強く強調する工夫が必
要である。建物管理者も目立ちにくい避難出口前には誘導員を配置するなどの運用上の
努力も不可欠である。
② 特に、避難者に出口と認識させるためには、地下街全体から人が集まりやすい広場状の
通路に、間口が広く出口への階段がガラス扉越しに見える避難出口を設置することが有
効である(写真 5.4.2)。
③ ほぼ同じ広さの通路が交差する十字路では、避難者は直進先に誘導灯などの避難目標物
がある場合は直進傾向が強い(表 5.4.1,傾向 1,2)が、直進先に避難誘導物がない場合は
進路変更先の避難目標物の有無に関わらず進路変更する傾向が高い(表 5.4.1,傾向 3,4)。
④ T字型三叉路に突き当たる場合、避難者は避難目標物方向に曲る傾向が強い(表 5.4.1,
傾向 5)が、進入通路に比べて突き当たり通路が広い場合には、避難目標物方向に向かう
傾向は必ずしも強くない(表 5.4.1,傾向 8)。
⑤ T字型三叉路の直進通路先に避難目標物がある場合、避難者はそのまま直進する傾向が
強い(表 5.4.1,傾向 6,7)。特に直進通路側が路地(横道)に比べて広い場合、直進通路
先に避難目標物がない場合でも直進傾向が強く、路地側の避難目標物を見落とす傾向が
高い(表 5.4.1,傾向 9∼12)。
⑥ 避難領域において出口数が少ない場合、直近の出口から次の出口までの間隔が長くなる
為、避難者が一度避難口を見落とす,あるいは経路選択を誤ると避難時間が大きく増加
する(図 5.4.9)。
これらは、総じて、「避難者が最も近い出口を選択し一定の歩行速度で避難する」という
避難行動に関する従来の一般的な予想に比べて、避難を長時間化する方向に働くと考えら
れる。この特質を避難シミュレーションに反映させるには、経路選択における確率的要因
の導入等が必要であろう。
また、照明条件や避難出口位置等が歩行速度・避難時間に与える影響について、アンケー
ト結果を参考にしながら、被験者の特性を考慮に入れた分析を行った結果、以下の知見を
得た。
⑦ 健常者の避難行動は 20∼1,000lx(参考:地下街の非常照明は 10 lx 以上、昭和 44 年
242
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
建設省告示第 1835 号)程度では、歩行速度や歩行距離など、照度変化の影響をあまり
受けていない(図 5.4.18∼図 5.4.21)。
⑧ インスタントシニア装着者の避難行動は照度変化に大きく影響される。視力注5-5)の問
題から、照度が低いと避難目標物を認識しにくく、避難距離が延びる傾向にある(図
5.4.18∼図 5.4.21)。また、インスタントシニア装着者は自分で誘導灯を探すのではなく、
周囲の人に従う傾向が強い(図 5.4.26)。これらの結果は、実際の高齢者の避難行動を検
討するうえで、参考となると考えられる。
⑨ 単独避難者(ここで単独避難者とは「各出発点からの避難軌跡が他の被検者と異なり、
単独で行動したと考えられる被験者」と定義している)は集団避難者(ここで集団避難者
とは「出発点から2人以上の複数で同一軌跡を避難した被験者」と定義)に比べて、誘
導灯や避難出口を見落とし易く、結果的に歩行距離が長くなり交差点を曲る回数も増え、
避難時間が延びる傾向が強い(表 5.4.5)。集団で避難する方が情報量やその収集能力に優
れるため、避難時間の短縮が図れる。
⑩ 誘導灯に従って行動した人の避難時間は、周囲の人に従って行動した人よりも 15%ほ
ど避難時間が短い(図 5.4.37)。集団で避難しても、行動が人任せでは結果的に避難時間
が長くなる。集団の一人一人が誘導灯など避難目標物を探す努力が重要である。
⑪ 人に従って避難した被験者が多いというアンケート結果(図 5.4.37)から、人による避難
誘導の重要性が確認できる。地下街管理者は、有事には在館者の自力避難のみに期待せ
ず、誘導員により積極的に避難方向へ誘導することが重要である。同時に日常からの店
舗店員への避難誘導教育も不可欠と考えられる。
これらの知見は、地下街ばかりでなく、最近急増している郊外型のアウトレットモールに
共通の問題も多いと考えられ、地下街や物販店舗の避難計画および避難誘導教育に反映さ
せることで、より安全な地下街の構築に役立つものと考えられる。
243
第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と
誘導計画
【参考文献】
5- 1) 長谷見雄二「都心再開発と地下空間の防災的課題」学術の動向 pp.58∼62, 2005.6
5- 2) 辻 正矩、柴田利治「避難シミュレーションによる地下街の安全性の検討」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道), pp.731-734, 1986.9
5- 3) 麻生稔彦、佐々野輝敏、朝位孝二「避難者間の情報伝達を考慮した地下街の避難シミュ
レーション」地下空間シンポジウム論文・報告集第 10 巻, 土木学会, pp.1-10, 2005.1
5- 4) 松田泰治、大久保久哲、樗木 武、大野 勝「地下街における避難開始時間のばらつき
及び避難誘導者の影響を考慮した避難行動シミュレーションの高度化」
地下空間シンポジウム論文・報告集第 10 巻, 土木学会, pp11-20, 2005.1
5- 5) 古川容子,土屋伸一,稲原攝雄,長谷見雄二「高齢者擬似体験用具による高齢者の群集時
歩行行動の再現可能性 高齢者が混在する群集の避難行動モデル化に関する研究」
日本建築学会環境系論文集 No.581, pp.9-14, 2004.7
5- 6) (財)日本建築センター「新・建築防災計画指針」, pp.134∼135, 1995
5- 7) 市川一夫 「眼内レンズと水晶体の分光透過性(色)の違い−1.水晶体について」
あたらしい眼科, Vol.9, No.6, pp.1159∼1160, 1992
注 5-1) 経済産業省への大規模小売店舗立地法に基づく届出面積
注 5-2)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/T)
(2010 年 1 月 10 日)をもとに集計した結果である。
注 5-2) カナダのオンタリオ州政府が開発した高齢者疑似体験のためのプログラムであり、高齢
化した際の身体的能力の低下や心理的変化を経験するもので、日本では日本ウエルエー
ジング協会のみがこのプログラムの実施を認められている。
注 5-3) 古川ら5-5)は、インスタントシニア装着者と高齢者の歩行速度を測定し、その再現性に
ついて検討している。
注 5-4) 眼球の水晶体は加齢とともに黄色化することは良く知られるところであり、インスタン
トシニアのゴーグルは74歳の正常水晶体の分光透過性5-7)を模したものである。
244
第6章
地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の
提案
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
第6章
地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.1
研究の背景と目的
近年、大都市、特に東京の都心部では、駅周辺を中心に地下開発が盛んになっている。その
典型は多数の地下道が集中し、ビル地階等と接続するターミナル駅周辺の大規模地下空間であ
る。地下道は基本的に閉鎖的な空間であるため、火災時に煙・熱が排出しにくいこと、避難・
消防経路に煙が流入しやすく、避難・消防活動も困難になりがちなことなど、防災的にも多く
の弱点があるが、上部が公道、下部には電力や下水道等のインフラが敷設されているなど、地
上・地下の土地利用に制約されているため、断面の基本的な改造が困難である。第2章および
第3章では、排煙設備等を適切に設置することで、煙層を居住域より高く維持でき、避難者を
煙暴露から守る見通しが得られた。しかし、地下鉄駅やターミナル駅のように人員密度が高く、
避難経路が長大で避難に長時間を要する空間では、避難完了以前に煙層の温度上昇による輻射
熱が 2kW/㎡を超え、避難者が受忍の限界6-1)を超える可能性があるため、積載可燃物を制限す
る必要性が示された。
このような背景を踏まえ、本章では、実在の地下道および地下道と一体化した地下広場を対
象に、大規模な自然排煙塔やアトリウムを利用した自然排煙システムの設計手法を提案すると
共に、実用化に向けた課題を抽出することを目的とする。
6.1.1
地下道・地下広場の定義
本章で扱う地下道とは、公道の地下を利用して作られ,主に歩行専用に利用される公共地下
歩道としている。この地下道は道路法上の道路管理者によって管理されており、そのため通行
の妨げとなるような店舗や設置物は原則として認められていない。主な地下道としては、東京
丸の内地下道(日比谷公園∼大手町間)、名古屋駅ルーセントアベニュー(名古屋駅∼名古屋
ルーセントタワー間)、北梅田地下道(大阪駅∼新梅田シティ間)、神戸三宮・元町地下連絡通
路(三宮∼外国人旧居留地間)があげられる。また、公共地下道と一体化した公共駅前広場等
の地下に位置する地下空間を、本章では地下広場と称している。日本で最も有名な地下広場は
新宿駅西口地下広場であろうが、この地下広場は 1969 年 7 月のいわゆる 反戦フォークゲリ
ラ事件(広場に集まった約 4 千人近い学生・通行人等とこれを排除しようとした機動隊とが激
突した) 以降、公式名称は「西口地下通路」とされている。また、この広場では、1998 年2
月に路上生活者が居住用に持ち込んだダンボール等が出火源となる火災(死者3名)が発生し
ている。最近では、2007 年4月に東京駅丸の内北口駅前の地下に丸ビルと新丸ビルを繋ぐ地下
広場が出現するなど、今後もターミナル駅周辺の大規模開発時には、ターミナル駅と開発地区
を結ぶ地下道や駅前公共地下広場が建設されると考えられる。
一方、公共地下歩道に面して民有地内に店舗を設ける形態は、消防法上「準地下街」
(消防法
施行令別表第 1 第 16 の 3 項)とされており、
「地下街」
(消防法施行令別表第 1 第 16 の 2 項)
と区別されているが、日本の地下道でいわゆる地下街と称されているものの中には準地下街も
245
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
含まれている。平成 21 年版消防白書(総務省消防庁)によると 2009 年 3 月 31 日現在、全国に
準地下街は7ヶ所(地下街は 65 ヶ所)存在している。資料4に地下街と準地下街の具備すべき
消防設備の差異をまとめている。
246
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.2
高天井を利用した自然排煙システムの提案6-2)3)
第3章において、地下鉄駅舎空間に対して様々な機械排煙方式の効果を確認したが、可燃物
制限による火災規模の縮小以外に避難者全員の安全を担保する方策を見出すことが困難であ
った。これは主に天井高さが高々3m程度の空間では、比較的早期に煙層からの輻射熱が限界
値(2kW/㎡、煙層温度 200℃に簡略化)を超えることに原因があった。本章では、地下道等の
地下空間に自然排煙システムを具備した高天井空間を併設することの火災安全性能向上、特に、
煙層温度抑制効果について検討する。
従来、地下街などの排煙手法は機械排煙を用いることが一般的である。しかし、機械排煙で
は想定以上の火源規模には対応できないことや予備電源確保の負担が発生する。一方、高天井
を利用した大規模空間の自然排煙システムには以下の長所がある。
① 火炎プルームの空気巻き込み量が増え、煙層温度が低下する。
② 蓄煙空間の増大により煙層下端高さが居住域まで降下する時間が延びる。
③ 排煙口を天井の高い位置に設置することで排煙能力が増す。
④ 煙層が壁と接する面積が増え煙層の温度降下が期待できる。
これらの長所については、資料5にて具体的に試算している。
また、自然排煙型アトリウム空間は火災時だけでなく、平常時でもメリットがある。それは、
機械動力を用いることなく空間を換気できるだけでなく、人工照明に依存せず暗い地下空間に
自然光を採りこむことができ、施設を維持するためのエネルギーを節約するとともに、開放的
で快適な空間となる。
自然排煙型アトリウム空間は、単に地下道に隣接ビルの地下階を接続するのではなく、地域
の象徴的な施設となり近隣地区の活性化につながるものと考えられる。イメージを図 6.2.1 に
示す。
図 6.2.1 排煙塔を兼ねた吹き抜けイメージ
247
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.3
FDSによるシミュレーション概要
6.3.1
解析方法とFDSモデル概要
本研究では、対象空間内の安全性を詳細に検討するために細かいメッシュ毎の温度分布・気
流速度等が把握できるFDS(Fire Dynamics Simulator)6-4)を用いる。
FDSでは、乱流モデルにLESの標準スマゴリンスキーモデル、燃焼モデルに混合分率モ
デルを使用している。また、CO2やH2O、 すす
などの放射吸収率を計算した上で、放射
熱伝達率も考慮している。FDSで使用される支配方程式は、連続の式、Navier-Stokes方程
式、エネルギー保存式、化学種の質量分率保存式、状態方程式から構成されている。
境界条件としては、壁面をコンクリート壁厚み 1.0mとし、内壁表面では火災気流からの対
流伝熱と火災からの放射伝熱を考慮した。地上の出入口や排煙口に圧力境界を設定し、施設内
部と外部の圧力差の初期値は0とした。今回の検討において、計算メッシュサイズは共通で 500
mm×500 mm×500mmとした。
6.3.2
火源設定
想定火源は成長火源Q=αt2とし、最大発熱量を10MWとする。これは施設をイベントスペ
ースに使用した際の火源強度で、物品販売店舗や駅構内の小型店舗キオスクでの出火6-5)と同
程度と仮定した。なお、本章でスプリンクラーの安全性向上効果を検討するが、その効果は、F
DSに含まれる煙層温度抑制効果のみとし、火源強度は変化させない。
6.3.3
シミュレーション概要
地下空間が多く存在するのは、大都市であり、土地利用上の制約から、自然排煙塔を設ける
地上スペースの確保が難しい。そこで、都心のモデル地区を 3 つ選んで、以下 2 つの設計手法
の有効性を確認する。
① 地上部に有効な敷地を確保できる空間に、占有面積の大きい吹抜タイプの排煙塔を設置
② 地上建物の敷地境界線からの後退で得た用地に排煙塔を設置(供出された私有地を利用)
本章では異なる空間特性を持つ 3 つのモデル地下空間、A施設、B施設、C施設を検討対象
とする。A施設は JR や地下鉄各線を接続する地下道と複数のビルの地階を一体に計画された大
規模地下空間であり、今後も水平方向を中心に拡大する傾向がある。B施設は JR3 路線、地下
鉄 3 路線、その他私鉄 3 路線の 9 路線が集中するターミナル駅に隣接し、断面的に複雑な中規
模駅前地下広場である。C施設は公道下の地下道であり、デパートの地下売場を介してターミ
ナル駅の地下に接続する。空間構成は比較的安全性が高いと考えられるが、積載可燃物が大量
に設置される飲食、衣料品店舗等が連なる。A施設、B施設は地上に駅前広場が存在し、空地
を確保できるため、①の手法を、C施設は地上に道路があり、十分な空地の確保が困難である
ため、②の手法を用い、自然排煙の有効な設置方法を提案する。
248
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.3.4 安全性の判定方法
FDSにより、各モデルの各セルで安全性が保障されなくなる時間を求める。地下空間の避
難安全性は避難安全性能に関する性能評価機関の業務方法書6-6)を参考に、シミュレーション
結果をもとに図 6.3.1 のフローチャートより判定する。なお、煙層高さは、初期温度から 5K上
昇した点を煙層と下部層の境界とする6-7)。また、積算煙曝露量は床面から 1.8mの高さ、煙層
温度は天井面から 0.5m下方の高さで算出する。
各モデルは開放的に計画されているため、在館者は比較的に均一に分布し、避難時には出口
で順次に外部に避難すると仮定し、避難時間 tescape は下式で計算した。
tescape = tstart + MAX (ttravel, tqueue)
式(6.1)
tstart :避難開始時間(秒) ttravel :歩行時間(秒)
tqueue :滞留時間(秒)
有効流動係数=1.5(人/s·m)
歩行速度=1.0(m/s)
階段歩行速度=0.45(m/s)]
また、在館者密度を用途と対応し、0.5(人/㎡)とする。
安全性判定のフローチャートを図 6.3.1 に示す。判定の流れとしては、避難完了以前に煙層
下端高さが 1.8m以上か未満かで判断する。避難完了の判断は在館者が地上階に避難したかによ
る。そのため、すべての判断基準は出口付近のセルにて行う。セルとは、シミュレーション上、
地下広場平面を複数の仮想の領域に分割されたものである。煙層下端高さが 1.8m未満の場合、
煙層からの積算煙曝露量が 10000K2・s以上か、未満かが判断基準となる。また、煙層下端高さ
が 1.8m以上である場合には、煙層からの輻射熱を考慮する。煙層からの輻射熱が 2kW/m²を超
えた場合、避難上支障があると判断する。また、二層ゾーンモデルとは異なり、FDSでは煙層
と下部層を明確に分離していないため、初期温度より 5K上昇した位置を境界6-7)とし、煙層
と下部層を区別する。また、本シミュレーションでは、天井から 0.5m下方の温度を煙層温度と
して扱う。積算煙曝露量は床面から 1.8mの高さの温度を用いて算出する。
START
※初期温度から 5K上昇した位置
避難完了以前に
煙層下端高さ>1.8m
NO
YES
を煙層と下部層との境界とする
避難完了以前に出口に隣接したセルの
積算煙暴露量が10000K2・sを超えない
∆T 2dt
NO
避難完了以前に出口に隣接したセルの
煙層からの輻射熱が2kW/㎡を超えない
→煙層温度が200℃未満に簡略化
YES
NO
YES
安全
避難達成率(%):安全と判定された人数の全体に対する割合
図 6.3.1 避難安全性検証フローチャート
249
危険
10000 K 2s
危険
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.4
シミュレーション結果及び考察
6.4.1
A施設における計画手法の提案及び安全性の検討
A施設は、地上に十分な空地の確保が可能なため、吹き抜け状の自然排煙塔の設計手法を検
討する。
(1)シミュレーション概要
A施設の地下階高は 3.0m であり、各シミュレーション条件を表 6.4.1 に示す。
シミュレーション条件まとめ
①
⑦
140000
⑥
②
③
⑥
⑦
140000
自然排煙塔
出口1:3.0m 出口2:6.0m 出口3:4.0m 出口4:2.0m 出口5:計4.0m(2.0m,2.0m) 出口6:3.0m 出口7:3.0m
なし
各出口、計5設置
自然排煙塔
間口140m×幅20m×高さ9m
なし
図 6.4.1 A 施設
250
②
208000
208000
自然排煙塔
出口
排煙
設備
垂壁
⑤
①
①
208000
④
73000
③
⑤
73000
④
130000
100000
②
100000
100000
③
改善策B
130000
⑤
73000
④
130000
平
面
図
改善策A
20000
現状
60000
表 6.4.1 A施設
改善案Bのイメージ
自然排煙塔
間口140m×幅60m×高さ9m
なし
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(2)シミュレーション結果
安全に避難できる確率(以下、避難達成率とする)の算出結果を設定条件毎に表 6.4.2,表 6.4.3,
表 6.4.4 に示す。
表 6.4.2 A施設 「現状」 避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
tstart
ttravel
tqueue tescape
147.6
107.7
116.6
67.8
191.8
125.0
149.2
169.2
99.2
115.0
302.8
483.3
566.7
95.8
1022.2
450.4
591.0
683.3
167.0
1214.1
出口
1
2
3
4
5
煙層下端高さ
≦1.8m
341.0
OK
OK
OK
217.0
煙層温度
≧200℃
OK
OK
OK
OK
OK
安全に避難 安全に避難
可能(人)
不可(人)
1875
850
1450
0
1700
0
575
0
0
4600
TOTAL
5600
5450
積算煙曝露量 判定
≧10000K2・s
356.0
×
○
○
○
253.0
×
避難達成率
(%)
68.8
100.0
100.0
100.0
0.0
50.7
表 6.4.3 A施設 「改善策 A」 避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
tstart
ttravel
92.2
66.3
70.7
67.8
134.2
115.0
85.0
109.2
109.2
174.2
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
tqueue tescape
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
236.1
328.3
OK
OK
○
61.1
151.3
OK
OK
○
208.3
279.0
OK
OK
○
191.7
259.5
OK
OK
○
375.0
509.2
204.0
OK
245.3 ×
安全に避難 安全に避難 避難達成率
出口
(%)
可能(人)
不可(人)
1
2725
0
100.0
2
1450
0
100.0
3
1700
0
100.0
4
575
0
100.0
5
0
4600
0.0
TOTAL
6450
251
4600
58.4
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.4.4 A施設 「改善策 B」 避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
tstart
ttravel
92.2
66.3
70.7
67.8
134.2
115.0
85.0
109.2
109.2
174.2
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
tqueue tescape
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
236.1
328.3
OK
OK
○
61.1
151.3
OK
OK
○
208.3
279.0
OK
OK
○
191.7
259.5
OK
OK
○
375.0
509.2
OK
OK
○
避難達成率
安全に避難 安全に避難
出口
(%)
可能(人)
不可(人)
1
2725
0
100.0
2
1450
0
100.0
3
1700
0
100.0
4
575
0
100.0
5
4600
0
100.0
TOTAL
11050
0
100.0
「現状」の排煙なしでは避難達成率は 50.7%となる(表 6.4.2)。特に出口 5 では避難達成率が
0%となる。危険と判定されるのは積算煙曝露量が危険値(=10000K²s)を超えるためである。こ
れは出口 5 周辺には出口が他になく、避難に長時間を要するためである。A施設は大空間であ
るにも関わらず、地上につながる出口が少ないため、図 6.3.1 に示す避難安全許容条件を満た
すことは極めて困難であるといえる。
そこで表 6.4.1 中の改善策 A,B のように吹抜を設け、そこに地上につながるエスカレーターを
設置し、エスカレーターを避難経路とすることで、避難時間の短縮を図った(表 6.4.3,表 6.4.4)。
これにより改善策 A では、地上に突出する排煙塔を設置することで安全に避難できる人数は 850
人増加した。しかし、蓄煙空間が不十分なため、出口 5 の避難達成率は改善されていない。改
善策 B のように吹抜状の大規模な自然排煙塔を設置することにより、出口 5 の避難達成率は
100%となり、在館者全員は安全避難が可能になる。
252
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(3)考察
避難に長時間を要する大空間では避難完了以前に積算煙曝露量が危険値に達するため、避難安
全性が確保できない。そのため、吹抜状の自然排煙塔により蓄煙効果と排煙効果を向上させ、吹
抜部に出口を新設する等の対策が有効である。
A施設は地上に広場状の空地があり、吹抜状の排煙塔を設置することが可能である。大規模
な吹抜を設けることで火災時の安全性を向上させることができ、現状では有効利用がされてい
ない地下空間をさまざまな用途で利用することができる。また、空間を広く確保することで、
自然採光の効果が大となり、吹抜部にエスカレーター設置も可能となるため、A施設の来館者
が増加することが期待できる。
また、吹抜状の排煙塔設置は排煙・遮煙だけでなく、避難時間の短縮・都市環境の改善・用
途の拡大等が期待できる。
253
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 200 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 300 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 400 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 500 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 600 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 700 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 800 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 900 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 1000 秒
図 6.4.2 A施設「現状」シミュレーション結果
254
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 200 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 300 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 400 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 500 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 600 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 700 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 800 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 900 秒
改善案 A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 1000 秒
図 6.4.3 A施設「改善案A」シミュレーション結果
255
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 200 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 300 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 400 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 500 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 600 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 700 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 800 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 900 秒
改善案 B 床面から 1.8mの温度分布
出火後 1000 秒
図 6.4.4 A施設「改善案B」シミュレーション結果
256
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.4.2
B施設における計画手法の提案及び安全性の検討
A施設同様に、地上に十分な空地の確保が可能なB施設における、自然排煙塔の設計手法を
検討する。
1)シミュレーション概要
B施設の地下階高は 3mであり、各シミュレーション条件を表 6.4.4 に示す。なお、その他の
条件は前検討と同じである。B施設はJR3 路線、私鉄 3 路線、地下鉄 3 路線が集中するター
ミナル駅に隣接している。その全 9 路線が地上 2 階以上、もしくは地下にホーム階をもつ。
そこで、対象地下空間の天井を地上 2 階まで高くすることで、地下空間の安全性を向上させ
る(図 6.4.5,図 6.4.6)。なお、
「法規の設計」の機械排煙能力は消防法第 30 条(排煙設備に関す
る項目)6-8)より想定し算出している。
表 6.4.5 B施設
法規の設計
シミュレーション条件まとめ
排煙なし
スプリンクラーなし
改善策A
ュ ー
シ
ミ
レ
ョ
シ
ン
平
面
図
自然排煙塔
出口幅 出口1:4.0m 出口2:4.0m 出口3:5.0m 出口4:3.0m 出口5:3.0m 出口6:3.0m 出口7:12.0m
機械排煙
排煙
自然排煙塔
なし
風量2㎥/s
設備
間口45m×幅25m×高さ9m
計5個設置
垂壁
なし
各出口等 計6設置
スプリンクラー3mピッチ
その他
なし
なし
計90出火74秒後作動
法規の設計に則った
対象地下空間の天井を地上2階
備考
地下空間を再現
(ホーム階)まで高くする。
257
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
図 6.4.5 B施設
改善策 A イメージ(1)
9m
3m
図 6.4.6 B施設
改善策 A イメージ(2)
258
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(2)シミュレーション結果
避難達成率の算出結果を設定条件毎に表 6.4.6,表 6.4.7,表 6.4.8 に示す。B施設では「排煙あ
り・スプリンクラーあり」の場合、避難達成率は全体の 38.0%となる(表 6.4.6)。これは積算煙
曝露量が限界値(=10000K²s)を超えるためである。特に出口 1,2,3 では避難達成率が 0%となる。
これは最も開口の大きい出口 6 から外気が流入し、火源を通過し出口 1,2,3 へ煙層が進行する
ためである。また、「排煙なし・スプリンクラーなし」では出口 6 も避難達成率が 0%となり、
全体の避難達成率も 13.5%まで低下する(表 6.4.7)。改善策 A のように吹き抜け状の自然排煙塔
を設けることで、全在館者の安全な避難が可能になる(表 6.4.8)。
表 6.4.6 B施設
「排煙あり・スプリンクラーあり」
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
6
tstart
ttravel
36.3
36.3
58.5
25.7
25.7
49.0
73.7
73.7
72.7
50.6
50.6
76.1
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
tqueue tescape
27.5
27.5
14.3
18.3
18.3
40.0
避難達成率
110.1
110.1
131.1
76.3
76.3
125.1
出口
1
2
3
4
5
6
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
60.3
OK
69.6
×
60.9
OK
64.4
×
66.0
OK
115.4
×
OK
OK
○
OK
OK
○
119.5
OK
126.3
○
安全に避難 安全に避難 避難達成率
(%)
可能(人)
不可(人)
0
165
0.0
0
165
0.0
0
428
0.0
83
0
100.0
83
0
100.0
300
0
100.0
TOTAL
465
259
758
38.0
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.4.7 B施設
「排煙なし・スプリンクラーなし」
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
6
tstart
ttravel
36.3
36.3
58.5
25.7
25.7
49.0
73.7
73.7
72.7
50.6
50.6
76.1
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
tqueue tescape
27.5
27.5
14.3
18.3
18.3
40.0
110.1
110.1
131.1
76.3
76.3
125.1
出口
1
2
3
4
5
6
煙層下端高さ
≦1.8m
59.3
58.4
65.3
OK
OK
117.1
表 6.4.8 B施設
避難時間(s)
1
2
3
4
5
6
tstart
ttravel
36.3
36.3
58.5
25.7
25.7
49.0
73.7
73.7
72.7
50.6
50.6
76.1
166
1057
「改善策 A」
避難達成率
積算煙曝露量 判定
≧10000K2・s
69.0
×
62.9
×
114.1
×
○
○
121.8
×
避難達成率
(%)
0.0
0.0
0.0
100.0
100.0
0.0
13.6
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
tqueue tescape
27.5
27.5
14.3
18.3
18.3
40.0
煙層温度
≧200℃
OK
OK
OK
OK
OK
OK
安全に避難 安全に避難
可能(人)
不可(人)
0
165
0
165
0
427
83
0
83
0
0
300
TOTAL
出口
避難達成率
110.1
110.1
131.1
76.3
76.3
125.1
出口
1
2
3
4
5
6
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
OK
OK
○
OK
OK
○
OK
OK
○
OK
OK
○
OK
OK
○
OK
OK
○
安全に避難 安全に避難 避難達成率
(%)
可能(人)
不可(人)
165
0
100.0
165
0
100.0
428
0
100.0
83
0
100.0
83
0
100.0
300
0
100.0
TOTAL
1223
260
0
100.0
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(3)考察
「排煙あり・スプリンクラーあり」と「排煙なし・スプリンクラーなし」の避難達成率を比
較すると、スプリンクラーの煙層温度抑制効果や、機械排煙の煙層降下時間の遅延効果はある
程度確認できるが、本検討の範囲内では十分な安全性は確認できなかった。改善策 A のように
大規模な自然排煙塔を設置することが、地下空間の火災時安全性向上に大きく寄与する。また、
これは周辺一帯を含めた動線を計画する上でも有利となり、地下街の来館者が増え、地下街や
周辺の魅力・価値の向上にもつながると考えられる。
261
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 30 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 60 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 90 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 120 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 150 秒
現状 床面から 1.8mの温度分布
出火後 180 秒
図 6.4.7 B施設「現状」シミュレーション結果
262
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
排煙・SP 無 床面から 1.8mの温度分布
出火後 30 秒
排煙・SP 無 床面から 1.8mの温度分布
出火後 60 秒
排煙・SP 無 床面から 1.8mの温度分布
出火後 90 秒
排煙・SP 無 床面から 1.8mの温度分布
出火後 120 秒
排煙・SP 無 床面から 1.8mの温度分布
出火後 150 秒
排煙・SP 無 床面から 1.8mの温度分布
出火後 180 秒
図 6.4.8 B施設「排煙・SP 無」シミュレーション結果
263
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
改善案A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 30 秒
改善案A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 60 秒
改善案A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 90 秒
改善案A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 120 秒
改善案A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 150 秒
改善案A 床面から 1.8mの温度分布
出火後 180 秒
図 6.4.9 B施設「改善案A」シミュレーション結果
264
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.4.3
C施設における計画手法の提案及び安全性の検討
A施設やB施設とは異なり、地上に十分な空地の確保が難しい地下空間における自然排煙塔
の設計手法を検討する。
(1)シミュレーション概要
C施設の地下階高は 3m であり、各シミュレーション条件を表 6.4.9 に示す。改善策Aでは周
辺建物を 6m セットバックさせた敷地に自然排煙塔を設置する。なお、その他条件はB施設の検
討と同じである。
C施設
排煙なし
8000 13200 4400
5600
5600 ⑭
⑦
⑥
⑬
⑤
⑫
シ
④
⑪
ン
平
面
図
③
⑩
②
⑨
①
⑧
ュ ー
シ
ミ
レ
改善策A
スプリンクラー有 スプリンクラーなし
8000 13200 4400
5600
5600 ⑭
⑦
⑬
⑤
⑫
④
⑪
6000
6000
6800
ョ
⑥
③
⑩
②
⑨
①
⑧
5600
5600
5600
65600
58000
49600
排煙なし
5600
5600
5600
65600
58000
49600
法規の設計
シミュレーション条件まとめ
6800
表 6.4.9 C施設
自然排煙塔
全出口幅:3.0m
出口幅
排煙
設備
機械排煙
風量0.5㎥/s
計20個設置
なし
各出口,計14設置
スプリンクラー基本3.2mピッチ
その他
計86出火74秒後作動
法規の設計に
備考
則った地下空
自然排煙塔
間口100m×幅6m×高さ9m 2か所
間口60m×幅6m×高さ9m 2か所
なし
なし
垂壁
なし
なし
-
地上の建物を6mセットバックさせて
できた敷地に排煙塔を設ける
265
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
図 6.4.10 C施設
改善策 A イメージ
表 6.4.10 C施設「排煙あり・スプリンクラーあり」避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
tstart
ttravel
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
tqueue tescape
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
19.4
50.0
OK
OK
○
65.6
134.4
80.6
OK
110.2
○
65.6
134.4
91.5
OK
133.1
×
53.5
115.5
58.6
OK
86.5
×
53.5
115.5
64.1
OK
81.0
×
75.1
154.5
OK
OK
○
75.1
154.5
OK
OK
○
19.4
50.0
OK
OK
○
65.6
134.4
104.8
OK
106.1
×
65.6
134.4
102.0
OK
126.7
×
53.5
115.5
132.1
OK
154.2
○
53.5
115.5
88.8
OK
103.8
×
75.1
154.5
OK
OK
○
75.1
154.5
OK
OK
○
安全に避難 安全に避難 避難達成率
出口
(%)
可能(人)
不可(人)
1
88
0
100.0
2
0
591
0.0
3
579
11
98.1
4
0
481
0.0
5
0
481
0.0
6
676
0
100.0
7
676
0
100.0
8
88
0
100.0
9
0
591
0.0
10
522
69
88.3
11
481
0
100.0
12
376
105
78.2
13
676
0
100.0
14
676
0
100.0
TOTAL
4836
266
2329
67.5
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.4.11 C施設「排煙なし・スプリンクラーあり」避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
tstart
ttravel
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
煙層下端高さ
tqueue tescape
≦1.8m
19.4
50.0
OK
65.6
134.4
84.7
65.6
134.4
92.0
53.5
115.5
59.6
53.5
115.5
66.9
75.1
154.5
OK
75.1
154.5
OK
19.4
50.0
OK
65.6
134.4
109.3
65.6
134.4
116.6
53.5
115.5
92.0
53.5
115.5
93.9
75.1
154.5
OK
75.1
154.5
OK
出口
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
煙層温度
≧200℃
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
OK
安全に避難 安全に避難
可能(人)
不可(人)
88
0
0
591
591
0
0
481
0
481
676
0
676
0
88
0
0
591
493
98
384
97
376
105
676
0
676
0
TOTAL
4721
267
2444
積算煙曝露量 判定
≧10000K2・s
○
97.0
×
138.1
○
94.7
×
83.8
×
○
○
○
113.4
×
123.5
×
104.7
×
103.8
×
○
○
避難達成率
(%)
100.0
0.0
100.0
0.0
0.0
100.0
100.0
100.0
0.0
83.4
79.8
78.1
100.0
100.0
65.9
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.4.12 C施設「排煙なし・スプリンクラーなし」避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
tstart
ttravel
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
tqueue tescape
19.4
65.6
65.6
53.5
53.5
75.1
75.1
19.4
65.6
65.6
53.5
53.5
75.1
75.1
50.0
134.4
134.4
115.5
115.5
154.5
154.5
50.0
134.4
134.4
115.5
115.5
154.5
154.5
出口
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
OK
OK
○
78.7
OK
104.3
×
75.5
OK
141.3
○
58.2
OK
86.0
×
63.7
OK
81.0
×
OK
OK
○
OK
OK
○
OK
OK
○
103.8
OK
105.2
×
101.1
OK
122.1
×
84.2
OK
104.7
×
87.5
OK
104.7
×
OK
OK
○
OK
OK
○
安全に避難 安全に避難 避難達成率
(%)
可能(人)
不可(人)
88
0
100.0
0
591
0.0
591
0
100.0
0
481
0.0
0
481
0.0
676
0
100.0
676
0
100.0
88
0
100.0
0
591
0.0
480
110
81.3
384
97
79.8
384
97
79.8
676
0
100.0
676
0
100.0
TOTAL
4716
268
2449
65.8
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.4.13 C施設「改善策 A」避難達成率
避難時間(s)
出口
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
tstart
ttravel
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
26.5
68.7
68.7
62.0
62.0
73.5
73.5
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
23.5
47.3
47.3
41.0
41.0
81.0
81.0
安全性を決定する各因子の限界値を超える時間(秒)
煙層下端高さ 煙層温度 積算煙曝露量 判定
tqueue tescape
≦1.8m
≧200℃
≧10000K2・s
19.4
50.0
OK
OK
○
65.6
134.4
OK
OK
○
65.6
134.4
OK
OK
○
53.5
115.5
OK
OK
○
53.5
115.5
OK
OK
○
75.1
154.5
OK
OK
○
75.1
154.5
OK
OK
○
19.4
50.0
OK
OK
○
65.6
134.4
OK
OK
○
65.6
134.4
OK
OK
○
53.5
115.5
OK
OK
○
53.5
115.5
OK
OK
○
75.1
154.5
OK
OK
○
75.1
154.5
OK
OK
○
安全に避難 安全に避難 避難達成率
出口
(%)
可能(人)
不可(人)
1
88
0
100.0
2
591
0
100.0
3
591
0
100.0
4
481
0
100.0
5
481
0
100.0
6
676
0
100.0
7
676
0
100.0
8
88
0
100.0
9
591
0
100.0
10
591
0
100.0
11
481
0
100.0
12
481
0
100.0
13
676
0
100.0
14
676
0
100.0
TOTAL
7165
269
0
100.0
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(2)シミュレーション結果
避難達成率の算出結果を設定条件毎に表 6.4.10,表 6.4.11,表 6.4.12,表 6.4.13 に示す。C施設で
は「排煙あり・スプリンクラーあり」の場合、避難達成率は全体の 67.5%となる(表 6.4.10)。ま
た、「排煙なし・スプリンクラーあり」では避難達成率は 65.9%となり(表 6.4.11)、「排煙なし・
スプリンクラーなし」では避難達成率が 65.8%(表 6.4.12)となる。C施設は比較的均等に複数の
地上出口があるため、空間規模に対して避難完了時間が短いものの、避難完了以前に積算煙曝
露量が危険値に達する。
「改善策 A」のように周辺建物を 6mセットバックさせる私有地負担に
より自然排煙塔を設けることで、全在館者の安全な避難が可能になる(表 6.4.13)。
(3)考察
表 6.4.10,表 6.4.11 より、機械排煙口を 20 個(合計排煙風量は 600m3/分)設置することで、安全
に避難できる人数が 115 人増加し、避難達成率は 1.6%上昇するものの、この程度の機械排煙は
あまり効果がない。また、表 6.4.11,表 6.4.12 より、スプリンクラーを設置することで、避難達
成率は 0.1%上昇するが、スプリンクラーによる煙層温度の抑制効果はきわめて少ない。C施設
の検討では改善策Aのように周辺建物を 6mセットバックさせることで、避難許容条件を満足す
る(表 6.4.13)。自然排煙塔設置に伴う、周辺一帯の環境整備により、都市環境が改善され、周辺
建物の価値向上にもつながるであろう。
270
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
出火後 20 秒
出火後 40 秒
出火後 60 秒
出火後 80 秒
「排煙あり・スプリンクラーあり」床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
出火後 120 秒
出火後 140 秒
出火後 160 秒
「排煙あり・スプリンクラーあり」床面から 1.8mの温度分布
図 6.4.11 C施設「排煙あり・スプリンクラーあり」シミュレーション結果
271
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
0
出火後 20 秒
出火後 40 秒
出火後 60 秒
出火後 80 秒
「排煙なし・スプリンクラーあり」床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
出火後 120 秒
出火後 140 秒
出火後 160 秒
「排煙なし・スプリンクラーあり」床面から 1.8mの温度分布
図 6.4.12 C施設「排煙なし・スプリンクラーあり」シミュレーション結果
272
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
出火後 20 秒
出火後 40 秒
出火後 60 秒
出火後 80 秒
「排煙なし・スプリンクラーなし」床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
出火後 120 秒
出火後 140 秒
出火後 160 秒
「排煙なし・スプリンクラーなし」 床面から 1.8mの温度分布
図 6.4.13 C施設「排煙なし・スプリンクラーなし」シミュレーション結果
273
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
出火後 20 秒
出火後 40 秒
出火後 60 秒
出火後 80 秒
「改善策 A」床面から 1.8mの温度分布
出火後 100 秒
出火後 120 秒
出火後 140 秒
出火後 160 秒
「改善策 A」床面から 1.8mの温度分布
図 6.4.14 C施設「改善案A」シミュレーション結果
274
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.5
私有地供出に対するインセンティブの検討
自然排煙システム設置には地上に大きな空間が必要とされる。しかし、都心などでは地上に
空地を確保することは難しい。本検討の対象の中でも、A 施設と B 施設では地下空間の地上部
に広場状の大空間が存在し、吹抜状の自然排煙システムを設置することが可能である。しかし、
C 施設ではそのような空間が存在しないため、周辺建物を 6m セットバックさせてできた空地
を用いる。しかし、この計画は周辺建物等の協力と私有地供出に対する合意が不可欠である。
自然排煙システム設置により、地下空間の価値向上につながるため、周辺建物にも有益である。
しかし、より明確な有益性を提示できない限り、周辺建物の合意・協力を得ることは難しいと
考えられる。
6.5.1
容積率割増の検討
私有地供出に対するインセンティブとしては、容積率の割り増しが有効な手法の一つであろ
う。その他にも、助成金の支給等も考えられる。本検討では私有地供出に対するインセンティ
ブとして、容積率割増を検討する。
容積率割増を東京都都市整備局の東京都特定街区運用基準6-9)を参考にする。C施設周辺は
商業地域であるものの、特定街区の指定を受けてはいない。しかし、東京駅周辺では近年の再
開発により、特定街区の指定をうける地域も増えている。C施設周辺も周辺街区の地下空間に
寄与する自然排煙システム設置にともない、特定街区の指定をうけると想定し、東京都都市整
備局の東京都特定街区運用基準を参考に容積割り増し率を算定する。特定街区運用目的として
は、特定街区は、良好な環境と健全な形態を有する建築物を建築し、併せて有効な空地を確保
すること等により都市機能の更新と魅力的な都市空間の保全・形成をし、もって市街地の整備
改善を図ることを目的としている。
一般的な公開空地の割増容積率⊿Vaは
⊿Va=⊿V0+⊿V1+⊿V2+⊿V3
で示すことができる。ここで、
⊿V0:有効空地による割増容積率
⊿V1:地域の整備改善寄与度による割増容積率
⊿V2:街並み景観の形成への寄与による割増容積率
⊿V3:歴史的建造物等の保存・修復による割増容積率
次に、⊿V0, ⊿V1, ⊿V2,⊿V3の概要を以下に示す。
275
式(6.2)
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(1)⊿V0:有効空地による割増容積率の算定
有効空地による割増容積率(⊿V0)基準容積率に応じ次表に定める式により算定した数値と
する。
表 6.5.1 割増容積率の算出表
基準容積率 V0 (%)
150 ≦V0≦ 500
200 ≦V0≦ 400
400 ≦V0≦ 700
700 ≦V0
用途地域
その他の用途地域
商業系用途地域
商業系用途地域
商業系用途地域
割増容積率 (%)
(P−40)×5
(P−30)×5
(P−20)×5
(P−10)×5
P:有効空地率
基準容積率 150%未満の区域は、原則として特定街区を指定しないものとするが、住環境等
の特段の向上に資すると判断される場合は、下記の式により算定した数値を割増容積率として、
特定街区を指定することができる。
〔P−{ 100−( α−5)}〕×5
式(6.3)
α:基準建ぺい率
表 6.5.2 有効空地率の算出
基準容積率 Vo (%)
150 ≦Vo≦ 500 (そ)
200 <Vo≦ 400 (商)
400 <Vo≦ 700 (商)
700 <Vo (商)
有効空地率の最低限度(%)
50
40
35
30
C施設周辺は商業地域であり、容積率は800%であるため、有効空地率は30とする。これを、
表6.5.1に代入した結果、(30-10)×5=100となる。よって、有効空地による割増容積率(⊿V0)
は100%となる。
(2)⊿V1:地域の整備改善寄与度による割増容積率の算定
地域の整備改善寄与度による割増容積率(⊿V1)は次のいずれかに該当する場合は、建設の
難易度、地域への寄与度を勘案し、割増容積率を加えることができる。
1) 道路、公園、広場及びその他の公共空地を整備する場合、道路等の公共空地の用地を無償譲
渡又は無償貸付するもので、かつ、都市計画決定され、又は地方公共団体により管理される
ものについての割増容積率は、当該空地部分に相当する容積を建築敷地部分に配分するもの
とする。
2) 公共駐車場、地下鉄出入口、地域冷暖房施設、中水道施設及び雨水貯留槽等の地域の環境改
善等に寄与する施設を設ける場合、割増容積率=施設面積の敷地面積に対する割合
3) 備蓄倉庫、防火貯水槽及びその他の防災施設等の災害に強いまちづくりに寄与する施設を設
ける場合割増容積率=施設面積の敷地面積に対する割合
276
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
4) 都市景観上特に重要な地区において壁面の位置及び仕様を定めることにより連続的な街並み
を確保する場合割増容積率=計画内容により定める
5) 福祉の向上に貢献する施設を設ける場合
割増容積率=施設面積の敷地面積に対する割合×0.6
6) コミュニティ施設及びその他の公共公益施設を設ける場合
割増容積率=施設面積の敷地面積に対する割合×0.5
7) 区域外において公共施設を特許事業により整備する場合
区域外において都市基盤の機能強化・向上に寄与する公共施設を整備する場合で、次に掲げる
要件に適合するもの。(以下、省略)
上記 1)∼7)にすべてに該当すると考え、地域の整備改善寄与度による割増容積率(⊿V1)は最
大値の200%と仮定する。
(3)⊿V2:街並み景観の形成への寄与による割増容積率
街並み景観の形成への寄与による割増容積率 (⊿V2)は街並み景観重点地区において、街並
み景観の形成に寄与する計画とした場合は、割増容積率を加えることができる。
割増容積率は、次の1)又は2)の要件を満たす場合50%、1)かつ2)の要件を満たす場合100%
とする。
1) 建築物等の計画を、街並み景観ガイドラインに沿ったものとした場合
2) 景観形成に配慮した壁面の位置の制限及び建築物の高さの最高限度等が地区整備計画に定め
られていて、周辺市街地との調和を図る必要性が特に高い場合
自然排煙システムは、街並み景観ガイドラインに沿ったものであり、周辺市街地との調和を
図る必要性が特に高く、それを実現できるものと想定して、街並み景観の形成への寄与による
割増容積率 (⊿V2)は100%と仮定する。
(4)⊿V3:歴史的建造物等の保存・修復による割増容積率
歴史的建造物等の保存・修復・復元による割増容積率(⊿V3)は歴史的建造物等の保存、修復、
復元を行う場合は、その重要性、必要性、規模及び地域への寄与度を勘案し、割増容積率を加
えることができる。
1) 建築物全体を文化財等として保存、復元をする場合には、その床面積相当分を割増しするも
のとする。
2) 建築物の全体の外観又は建築的な価値のあるファサード等を保存、復元する場合には、保存
の困難性に応じ一定の床面積相当分を割増しするものとする。
本検討ではそのどちらにも該当しないと考えられるため、歴史的建造物等の保存・修復・復
元による割増容積率(⊿V3)は0%とする。
277
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
(5)公開空地の割増容積率⊿Vaの算出
以上より、公開空地の割増容積率⊿Vaは
⊿Va=⊿V0+⊿V1+⊿V2+⊿V3
式(6.4)
⊿Va=100+200+100+0
となり、自然排煙システム設置に伴う割増容積率⊿Vaは400%となる。この容積率割増がど
れ程に有益なものであるか、次に検討する。
278
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.5.2
容積率割増の有益性・賃料収入の比較
C施設周辺では自然排煙システム設置のために、私有地供出をすることで、そのインセンテ
ィブとして容積率が400%割増とする。これが周辺建物にとって、どれだけ有益なものである
かを、C施設周辺の建物について具体的に検討する。ここでは周辺建物のうち4棟のビルを抽
出し、その賃料収入を比較する。
対象ビルは T ビル、D ビル、S ビル、C ビルとして、「私有地を供出しない条件」下と「私
有地を供出する条件」下の賃料収入を比較する。また改築により、賃料は増加することを前提
としている。その他の項目を以下のように決定した
・ビル建て替えにかかる年数:2(年)
・ビル建て替えにかかる工事費:70(万円/坪)
・ 賃料:改築前 18,575(円/月坪)6-10)
・
;改築後 36,519(円/月坪)6-11)
・ 共用部の保安警備費,清掃費,設備保守費,エレベータ運転費,電気料,水道料,ガス代等は共益
費に含むとして計算には含めない。
・ 貸室内の電気料,水道料,ガス代,窓ガラス清掃費,空調料金等は別途徴収金に含むとして計算
には含めない。
T ビル、D ビル、S ビル、C ビルとして、私有地負担しない条件下と私有地負担する条件下
の賃料収入を表 6.5.3, 表 6.5.4, 表 6.5.5, 表 6.5.6 に示す。
279
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.5.3 Tビル
私有地供出に対するインセンティブの有益性
Tビル
設置しない
竣工
用途
割増容積率(%)
敷地面積(㎡)
建ぺい率
床面積(1階あたり)(㎡)
容積率(%)
延べ床面積(㎡)
1坪あたり(円/月)
1㎡あたり(円/月)
賃料(万円/月)
純収益(万円/月)
1坪あたりの工事費(万円)
1㎡あたりの工事費(万円)
工事費(億円)
純収益(億円/年)
設置する場合≧設置しない場合
になるまでの時間(年)
表 6.5.4 Dビル
設置する
1929 年
オフィスビル
1000
400
700
8/10
800
900
9000
18575
5620.3
5058
5058
6.1
560
1300
9100
36519
11049.6
10055
10055
70
21.2
19.3
12.1
排煙塔設置後、7.2年
私有地供出に対するインセンティブの有益性
Dビル
設置しない
竣工
用途
割増容積率(%)
敷地面積(㎡)
建ぺい率
床面積(1階あたり)(㎡)
容積率(%)
延べ床面積(㎡)
1坪あたり(円/月)
1㎡あたり(円/月)
賃料(万円/月)
純収益(万円/月)
1坪あたりの工事費(万円)
1㎡あたりの工事費(万円)
工事費(億円)
純収益(億円/年)
設置する場合≧設置しない場合
になるまでの時間(年)
設置する
1968 年
オフィスビル
1440
400
1152
8/10
1152
900
12960
40000
12102.9
15685
15685
18.8
922
1300
14976
60000
18154.3
27188
27188
70
21.2
31.7
32.6
排煙塔設置後、6.4年
280
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
表 6.5.5 S ビル
私有地供出に対するインセンティブの有益性
Sビル
設置しない
竣工
用途
割増容積率(%)
敷地面積(㎡)
建ぺい率
床面積(1階あたり)(㎡)
容積率(%)
延べ床面積(㎡)
1坪あたり(円/月)
1㎡あたり(円/月)
賃料(万円/月)
純収益(万円/月)
1坪あたりの工事費(万円)
1㎡あたりの工事費(万円)
工事費(億円)
純収益(億円/年)
設置する場合≧設置しない場合
になるまでの時間(年)
表 6.5.6 Cビル
設置する
1952 年
オフィスビル
500
400
350
8/10
400
900
4500
40000
12102.9
5446
5446
6.5
280
1300
4550
60000
18154.3
8260
8260
70
21.2
9.6
9.9
排煙塔設置後、7.2年
私有地供出に対するインセンティブの有益性
Cビル
設置しない
竣工
用途
割増容積率(%)
敷地面積(㎡)
建ぺい率
床面積(1階あたり)(㎡)
容積率(%)
延べ床面積(㎡)
1坪あたり(円/月)
1㎡あたり(円/月)
賃料(万円/月)
純収益(万円/月)
1坪あたりの工事費(万円)
1㎡あたりの工事費(万円)
工事費(億円)
純収益(億円/年)
設置する場合≧設置しない場合
になるまでの時間(年)
設置する
1978 年
オフィスビル
450
400
360
8/10
360
900
4050
40000
12102.9
4902
4902
5.9
288
1300
4680
60000
18154.3
8496
8496
70
21.2
9.9
10.2
排煙塔設置後、6.4年
281
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.5.3
私有地供出に対するインセンティブの検討結果
表 6.5.3, 表 6.5.4, 表 6.5.5, 表 6.5.6 の純収益を比較すると、比較的敷地面積の小さい S ビル
では 3.4(億円/年)増益となる。C 施設周辺で敷地面積の最も大きい D ビルでは 13.8(億円/年)増
益となる。改築費と改築期間中の賃料収入減を考慮しても、T ビル・S ビルでは排煙塔設置後
7.2 年、D ビル・C ビルでは排煙塔設置後 6.4 年で、改築後の賃料収入の方が大きくなる。
私有地負担に対する報酬により、自然排煙システムの設置が安全面だけでなく、私有地供出
者側にも有益なものになる。報酬を行うことで、自然排煙システムの設置を促すことになると
考える。
160
140
300
私有地負担あり
80
60
40
20
-40
150
100
50
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
-50
時間(年)
図 6.5.2 Dビル
80
私有地負担なし
私有地負担あり
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
収益比較
私有地負担なし
私有地負担あり
積算賃料収入( 億円)
積算賃料収入( 億円)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
時間(年)
図 6.5.1 Tビル 収益比較
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
私有地負担あり
200
0
-20
私有地負担なし
250
100
積算賃料収入( 億円)
積算賃料収入( 億円)
120
350
私有地負担なし
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
時間(年)
時間(年)
図 6.5.3 Sビル 収益比較
図 6.5.4 Cビル 収益比較
282
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.6
まとめ
異なる形状の 3 つのモデル地下空間での検討から最も有効な排煙・遮煙手法は自然排煙塔設
置であった。本検討の範囲ではスプリンクラーによる煙層温度抑制効果は微小であり、十分な
効果は得られない。垂れ壁については、煙層が垂れ壁伝いに降下するため、積算煙曝露量の算
出点の温度が上昇するため、避難達成率低下の原因となった。また、今回検討の範囲では機械
排煙もあまり効果なく、避難許容条件を満たす有効な排煙手法とはいえない。
本検討により得られた知見を以下にまとめる。
① 今回の検討範囲で、法規に則った防災対策のみでは、比較的大規模な火災時に、避難達成
率が 100%にはならなかった。スプリンクラーによる煙層温度抑制効果、垂れ壁の遅煙効果
及び機械排煙の有効性が十分とはいえない。
② 大規模な自然排煙塔や高天井アトリウムを設けることは、煙層温度の抑制や居住域から見
た高温空気部分の形態係数の低下になり、人体への輻射熱低減効果があり、避難安全性の
向上に大きく寄与する。
③ 避難に長時間を要する地下空間は、排煙塔を兼ねた吹抜状の高天井空間を創出するととも
に、地上につながるエスカレーターなど避難経路・地上出口数を増やすことが可能となり、
避難時間を短縮させることができる。
④ 大規模な自然排煙塔の設置には地上に広場状のまとまった空間が必要である。地上スペー
スの確保が難しい都心等では周辺建物のセットバック等の私有地供出が求められるが、吹
抜の設置により、地下空間用途の拡大が期待できる。また、自然光を取り入れ、吹抜部に
エスカレーターを設置することで、地下空間の来館者が増加し、地下空間や周辺の魅力・
価値の向上につながることが期待できる。
⑤ 検証対象のC施設周辺から4建物を選定し、自然排煙塔設置に必要な道路周辺の用地を確
保する政策として、私有地を活用した場合の容積率割増しによるインセンティブを試算し
たところ、制度・コストの双方について実現可能性が十分にあることが確認できた。
本検討により、排煙塔部やアトリウムを利用した自然排煙システムを設置することで、大規
模な地下空間の火災時の安全性確保の見通しが得られた。地上スペースの確保が困難な都心部
等では、周辺建物のセットバック等、私有地供出が伴うため、周辺建物の協力が不可欠である。
排煙塔部やアトリウムを利用した自然排煙システムの設置は安全面だけでなく、周辺建物にも
有益な計画になる。また、私有地供出者に建築容積率の割増し等、インセンティブを与えるな
どの自然排煙システムの設置を促す施策が求められる(図 6.6.1)。
283
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
私有地 道路・広場等
私有地 道路・広場等
建物の
高機能化
公道
公道
光
庭
西早稲田
西早稲田
地下道
地下道
図 6.6.1 私有地負担者による建築容積率の割増と高機能化
【参考文献】
6- 1) 長谷見雄二、重川希志依「火災時における人間の耐放射限界について」
日本火災学会論文集, Vol.31, No.1,pp1 ‒ 6, 1981.
6- 2) 田中哮義:建築火災安全工学入門, pp.147-154
6- 3) 田中哮義:建築火災安全工学入門, pp.231-240
6- 4) NIST :Fire Dynamics Simulator User`s Guide (Ver.4)
6- 5) 武居 泰、山田聖治、上川大輔、長谷見雄二「駅構内に設置される大型売店の火災性状」
日本建築学会技術報告集 第 22 巻 pp237-242, 2005.12.
6- 6) 日本建築センター:避難安全性能評価業務方法書 2000 年
6- 7) 上原茂男「3 次元フィールドモデルによる煙流動予測 −実験結果との比較による上部高
温層の温度分布と降下状況に関する予測結果の検討」
日本建築学会学術講演梗概集(東北), pp235-238, 2000.9
6- 8) 消防法第 30 条 排煙設備に関する項目
6- 9) 東京都都市整備局:東京都特定街区運用基準,pp6-18,2009.1
6-10) (社)日本ビルヂング協会連合会・(社)東京ビルヂング協会:ビル調査のまとめ
(CD-ROM 版)2006
東京都中央区の大規模物件(昭和 51 年-昭和 60 年竣工)の賃料月額
6-11) (社)日本ビルヂング協会連合会・(社)東京ビルヂング協会:ビル調査のまとめ
(CD-ROM 版)2006
東京都の竣工5年以内の大規模物件の賃料月額
284
第7章
結論
第7章
第7章
結論
7.1
総括
結論
大都市の中心部では、地下鉄道駅や地下街等、大規模で複雑な地下空間開発が進んでい
るが、地下空間は、火災時に煙が充満し易いこと、空間構成が不規則になり易いうえに避
難方向と煙流動が一致して、避難上の支障を生じ易いことなど、防災上の諸条件には、一
般的な建築物と異なる大きな特徴がある。この危険性は、2003 年に韓国テグ広域市で発生
した地下鉄火災で多数の犠牲者を出し、駅に接続する地下街まで全焼させたことにより、
広く認識されるようになった。日本でも、地下鉄道駅や地下街等の大規模地下空間の火災
安全性については、実証的な研究が乏しいまま、設計基準が整備されてきた傾向があり、
実証された技術的根拠に基づく安全対策の整備が望まれている。また、多くの鉄道路線が
集まる大都市の地上ターミナル駅でも、多数のホーム下に位置する通路網が複雑化、長大
化することで、外部への開口が少ない地下型の通路空間が形成されていることから、地下
鉄道駅と同様の問題があると考えられる。一方、近年の地下空間開発の特徴は、ビルの地
下階と公共道路直下の地下道、地下街等と一体化するように接続されることで巨大な地下
空間が形成されることにある。このような都心型の大規模地下空間は、道路等の土地利用
に制約されるため、避難階段の配置が規則性に乏しく、排煙も十分に確保できないなどの
特徴がある。このような背景のもとに、本論文では、地下鉄駅で火災実験を行い、実験デ
ータをもとに既成の煙流動シミュレーションプログラムにより地下鉄駅をモデル化し、実
験結果の再現性を確認している。さらに地下鉄道駅や地上ターミナル駅、地下広場を対象
とした煙流動シミュレーションにより、地下型の駅舎の防災計画指針に対して新たな知見
を提示した。避難に関しても、大規模地下街での避難実験結果より、地下街における群集
の避難行動について避難誘導計画の基礎となるデータを報告している。
(1)第1章
序論
第1章「序論」では、本研究に至った背景や目的および既往の研究を述べるとともに、
本論文の各章の概略を述べている。
(2)第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び煙制御の効果に関する実施設実験
第2章では、稼動中の地下鉄駅3駅を使った煙流動実験を報告している。現在、大規模
建築空間の避難安全検証は煙流動シミュレーションによるのが一般的であり、地下鉄道駅
にも一般建築物と同様の煙流動予測モデルが適用されてきた。地下鉄道駅は一般建築物に
比べて長大で特異な空間であり、シミュレーション手法の妥当性を確認するには実大規模
の煙流動実験が必要であるが、従来、そのような実験は行われていなかった。本章では、
地下鉄駅の形態として典型的な島式ホーム2駅、相対式ホーム1駅、合計3駅のホーム階
285
第7章
結論
で、火災初期に相当する約 500kWのアルコール火源を用い、火災時に操作されるホーム・
コンコース間の階段シャッターの開閉状態や機械排煙設備の稼動状況等をパラメータとし
て、地下鉄駅内の煙流動性状を把握している。ここで得られた実験結果は、3章で述べる
煙流動性状シミュレーションの再現性確認用データとしても利用している。
(3)第3章
地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと避難安全計画への応用
3章では、前章の実験結果を用いて、各種煙流動予測モデルの妥当性を検討している。
火災時の煙流動予測モデルとしては、煙層の形成を前提として、構成が複雑な建築物内
の煙流動を実用的に計算するゾーンモデルと、個々の空間内の煙流動についてはより普遍
性が高い数値流体(CFD)解析の 2 種類が一般的である。両者について実験と比較し、ゾ
ーンモデルは機械排煙等で階段室に強い流れが生じる場合等、煙層の安定を阻む条件があ
る場合に不向きであるが、それ以外の条件では実験結果を再現できること、CFDは地下
駅の平面・断面を簡略化したモデルでも、2層ゾーンモデルでは再現困難であった現象を
含めて、実験結果をよく再現できることを報告しており、CFD解析適用時の空間のモデ
ル化や空間分割の精粗の条件を明確にしている。次に、これらの煙流動予測モデルを用い
て、火災がより拡大した状況下での煙性状を予測し、駅舎混雑時を想定した群集避難の計
算結果と比較して、地下鉄駅の避難計画、避難誘導方策を検討している。分析の結果、地
下鉄駅の従来型の煙制御方式や避難安全性能の限界が明らかになり、ホーム階出火時の避
難安全性という観点から、排煙のシステム・排煙口位置・風量等及び避難経路の設定指針
を提示している。
(4)第4章
地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の把握と安全性能向上方策
の検討
4章では、実在の駅をモデル化し、地下駅に近い空間特性をもつ地下通路型ターミナル
駅の火災時の煙流動性状をゾーンモデルで予測し、群集避難計算と比較して、その避難安
全性を検討している。この分析では、地下型通路のうち、天井が高い部分には煙が流入し
易く、床面レベルが高い場合には有効天井高さが低くなり、早期に危険な状態になり易い
ことを指摘している。さらに、排煙設備や可燃物削減の効果を定量的に評価するとともに、
その限界も明らかにし、駅舎構造の特性による煙の拡散状況を把握した駅員による避難誘
導の重要性を示した。平面的に広大なターミナル駅の通路・コンコースなどターミナル駅
に関して、一般に成り立つ避難安全性向上方策を提案している。
(5)第5章
大規模地下街における避難者の行動特性と誘導計画
5章では、地下鉄駅舎以外の代表的な大規模地下空間として地下街を取り上げている。
本章では、実際に使用されている大規模地下街を使用し、避難口の位置や館内の照度、
誘導灯の状態を変化させて、群集避難行動への影響を把握するため、被験者を用いた避難
286
第7章
結論
実験を実施している。本章では被験者を、避難行動能力から、健常者・擬似高齢者ごとに
歩行軌跡を個別に解析しており、さらには、被験者を複数人数で行動する集団避難者と一
人で行動する単独避難者に分類して同様に歩行軌跡を解析している。避難者のタイプ別に、
地下街における群集の避難行動特性、特に避難出口や避難経路の選択性について、定量的
に分析している。この成果は、地下街を始めとする平面的に広大で見通しを得難い空間で
の避難誘導計画において、避難者の経路選択性や出口の認知度に確率論を導入するための
工学的な根拠を示している。また、実験に伴うアンケートから得られた被験者の対人追随
性や誘導灯の認知度から、施設管理者による避難誘導方策を検討するための知見を報告し
ている。
(6)第6章
地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6章では、ターミナル駅周辺に多く見られる、地下道が集中しビル地階等と接続する大
規模地下空間に対する防災計画の方法論を検討している。本章では、このような公共性の
高い大規模地下空間で火災危険を低減する手法として、排煙塔やアトリウムを利用した高
天井型自然排煙システムを考案している。この手法の効果を確認するために、東京都内タ
ーミナル駅周辺の3地区を選定し、煙流動及び避難行動を予測して、その避難安全性能向
上効果を分析し、その計画手法を提示している。この検討は、上部が公道、下部には電力
や下水道等のインフラが敷設されているため、断面の基本的な改造が困難で排煙や避難出
口の設置も困難な公共地下道に対して基本的な防災計画指針を与えている。また、検証対
象の施設周辺から4建物を選定し、自然排煙塔設置に必要な道路周辺の用地を確保する政
策として、私有地を活用した場合の容積率割増しによるインセンティブを試算し、制度・
コストの双方について実現性を示している。今後、公共地下広場や地下道を開発整備する
場合の実現可能な防災計画の方向性を示す知見を報告している。
(7)第7章
結論
7章では、各章から得られた知見から本研究を総括している。
287
第7章
結論
7.2 今後の展望
本研究に着手したきっかけは、2003 年 2 月に韓国大邱広域市の地下鉄中央路駅で発生し
た火災である。本火災では、客車内で放火されて、計 196 人が犠牲となる大惨事であった。
本研究では、まず、2003 年 10 月に、実際に使われている地下鉄駅舎を使用し、火災初期
に相当する火源を用いて、煙流動性状と現在の煙制御システムの有効性を把握するための
実験を3回実施した。この実験結果と大規模の火災を想定して実施した避難および煙流動
性状のシミュレーション等の検討より、各種の煙制御方式の有効性を評価するとともに、
ホーム上の2方向避難を確保することの重要性、駅舎や車両の不燃化・可燃物管理の必要
性、スプリンクラーなどの自動消火設備の促進など地下鉄駅の防災計画に関する指針を誘
導し、一部が地下鉄駅の基準や条例に採用された。また、この検討の延長から、地下道状
の連絡通路を設けた複数の鉄道路線が乗り入れるターミナル駅と呼ばれる一般的な鉄道駅
でも、地下鉄駅とほぼ同様の特質を有する可能性を明確にし、地下型通路のうち、天井が
高い部分には煙が流入し易く、床面レベルが高い場合には有効天井高さが低くなり、早期
に危険な状態になり易いことを指摘している。今後、本研究の成果が、ハード面ばかりで
なく、地下鉄駅や地下通路型ターミナル駅の可燃物管理や利用者の避難誘導など、駅職員
の防災意識の向上に貢献することが期待できる。
近年の都心開発では、地下街、ビル地階部分、地下道、地下広場など、各種地下施設が複
合的に組み合わされて、結果的に、巨大で管理体制も不明確な地下空間が形成されている。
街区単位で形成される大規模地下空間は、地上への出口位置が地上の土地利用に制約され
るため、階段の配置が高層ビルに比べて規則性に乏しく、利用者が避難路を見つけ難く、
避難誘導も困難であることなどの特徴がある。このような迷路状の地下複合空間では、利
用者が方向を見失いがちで避難上、重大な支障となる可能性がある。本研究では、大規模
地下空間の避難上の問題点の把握と対策の誘導を進めるべく、実際の地下街を使用し、群
集を被験者とする実験を実施し、地下空間における群衆の避難行動特性とその支配要因の
分析を行い、複数の交差点が混在する地下街の避難行動の検討には、経路選択における確
率的要因を導入することが必要であることを示した。また、避難者が誘導灯を正確には把
握していないことや避難者に避難出口を正しく認知させるには、間口を大きくするなど避
難出口をより強調する工夫や誘導員を配置するなどの運用上の努力も不可欠であること等、
大規模地下街の避難計画のハード/ソフト両面に関わる知見を得た。今後、本研究の成果
が、経路選択の確率的要因を導入した避難行動シミュレーション開発の一助となることや、
地下街や大規模物販店舗の避難出口や誘導灯のあり方などのハード面や、日常からの店舗
店員への避難誘導教育に貢献することが期待できる。一方、本研究では、街区単位で形成
される大規模地下空間に吹抜状自然排煙塔を設けることの有効性を確認した。大規模な吹
抜状の自然排煙塔は、地下空間の避難者の煙暴露を防ぐばかりでなく、煙層温度も抑制し、
煙層からの輻射熱も低減する効果がある。今後の大規模地下開発への採用が期待される。
288
資料集
資料集
資料1
地下街の法規制
地下街に関しては建築基準法、消防法において、それぞれ以下の規定が定められている。
(1)建築基準法による規定
表1 地下街に関する建築基準法の規定
法=建築基準法 令=建築基準法施行令 項 目
内 容
歩行距離
居室から地下道までの距離≦30m (令128の3条)
耐火性能 − 耐火構造
巾 員
− ≧ 5m
天 井 高 避難
施設
内 装
避難階段等
(地下道)
− ≧ 3m
− 下地、仕上共不燃材料
地上に通ずる直通階段までの距離≦30m末端の巾員の合計
は地下道の巾員以上
直通階段の幅員≧140cm
非常用の照明設備 : 有 (10ルックス)
非煙設備 : 有
排水設備 : 有 (以上令128の3条1項)
非煙設備
居室の床面積>200㎡の場合設置 非常用の照明装置
居室には設置要 (令126の4条)
内装制限
準不燃材料 (令129の3項)
(令126の2条)
100㎡以内毎の面積区画
(令128の3条5項、令112条5、6、7項)
防火区画
各構えと地下道との防火区画(令128の3条3項)
各構えと各構えとの防火区画(令128の3条2項)
(2)消防法による規定(消防法別表第1における第(16 の 2)項)
表2 地下街に関する消防法の規定
法=消防法 令=消防法施行令 内 容
項 目
防
火
管
理
消
防
用
設
備
等
の
設
置
防火管理
(防火管理者の設定等)
共同防火管理
収容人員が30人以上(法8条、令1条3項)
防炎規制
対象
消防庁又は消防署長が指定するものは必要
(法8条の2)
違反設置義務
対象
消火器具
屋内消火栓設備
スプリンクラー設備
自動火災報知設備
非常放送設備等
避難器具
誘導灯
非煙設備
連結散水設備
連結送水管
非常コンセント設備
無線通信補助設備
全て必要
延べ面積が 150㎡以上
〃 1,000㎡以上
〃 300㎡以上
全て必要
不要 不要 延べ面積が 1,000㎡以上
〃 700㎡以上
〃 1,000㎡以上
〃 1,000㎡以上
〃 1,000㎡以上
289
(令10条)
(令11条)
(令12条)
(令21条)
(令24条)
(令25条)
(令26条)
(令28条)
(令28条の2)
(令29条)
(令29条の2)
(令29条の3)
資料集
資料2
全国の地下街の建設の歴史と法規制1)
表3(1) 地下街建設と規制の歴史(∼1969 年)1)
地下街名称
須田町池下鉄ストアー
三原橋地下街
浅草地下街
名古屋地下街
新名フード地下街
佐世保駅前地下商店街
名駅地下街サンロード
伏見地下街
地下鉄栄地下街
NAMBAなんなん
地下鉄銀座駅地下店舗
しぶちか
名店街
三番街
地下鉄千種地下街
地下鉄今池地下街
大名古屋ビル地下街
地下鉄覚王山駅構内店舗
地下鉄東山公園駅構内店舗
ミヤコ地下街
金沢駅前広場地下街
ホワイティうめだ
新宿駅東口地下街
池袋ショッピングパーク
博多駅地下街
博多駅地下街
ザ・ダイヤモンド
八重洲地下街
地下鉄栄南地下街
さんちか
中之島地下街
地下鉄市役所駅構内店舗
Apia
札幌駅前名店街(三者統合→Apia)
ドーチカ
中部近鉄百貨店
小田急エース
地下鉄金山地下街
蒲郡北駅前地下街
船橋パール地下街
ぴおシティ
メトロこうべ
あべちか
東武ホープセンター
地下鉄栄東地下街
盛岡ステーションデパート
サカエチカ
都道府県
東京都
東京都
東京都
愛知県
愛知県
区市
千代田区
中央区
台東区
名古屋市
名古屋市
長崎県
佐世保市
愛知県
愛知県
愛知県
大阪府
東京都
東京都
兵庫県
岡山県
愛知県
愛知県
愛知県
愛知県
愛知県
愛知県
名古屋市
名古屋市
名古屋市
大阪市
中央区
石川県
大阪府
渋谷区
姫路市
岡山市
名古屋市
名古屋市
名古屋市
名古屋市
名古屋市
名古屋市
金沢市
大阪市
新宿区
豊島区
東京都
東京都
福岡県 福岡市
福岡県 福岡市
神奈川県 横浜市
東京都
中央区
愛知県
名古屋市
兵庫県
神戸市
大阪府
愛知県
北海道
北海道
大阪府
愛知県
東京都
愛知県
大阪市
名古屋市
札幌市
札幌市
大阪市
名古屋市
新宿区
名古屋市
愛知県
千葉県
蒲郡市
船橋市
神奈川県
兵庫県
大阪府
東京都
愛知県
横浜市
神戸市
大阪市
豊島区
名古屋市
岩手県
盛岡市
愛知県
名古屋市
竣工年月 延面積(㎡)
1932/4/1
144
1952/12/1
1,429
1955/1/1
1,277
1957/3/1
11,347
1957/7/1
712
1957/10/1
1,233
1957/11/1
1,967
1957/11/1
2,712
1957/11/1
837
1957/12/1
7,158
1957/12/1
138
1957/12/1
4,676
1959/11/1
4,587
1959/12/1
2,343
1960/6/1
531
1960/6/1
745
1963/3/1
896
1963/4/1
173
1963/4/1
24
1963/9/1
3,600
1963/10/1
973
1963/11/1
27,715
1964/5/1
18,675
1964/9/1
15,357
1964/11/1
2,061
1964/11/1
3,362
1964/12/1
38,816
1965/6/1
73,253
1965/9/1
2,643
1965/10/1
17,998
1965/10/1
3,512
1966/1/1
22
1966/3/1
20,090
1966/3/1
10,259
1966/7/1
7,964
1966/11/1
68
1966/11/1
29,650
1967/3/1
706
1967/6/1
385
1967/10/1
6,353
1968/5/1
4,195
1968/9/1
10,198
1968/11/1
9,245
1969/4/1
14,709
1969/9/1
3,410
1969/11/1
1,486
1969/11/1
14,251
290
火災時例と規制等
資料集
表3(2) 地下街建設と規制の歴史(1970 年∼2006 年)1)
地下街名称
なんばウォーク
高岡駅前地下街
ユニモール
まつちかタウン
さっぽろ地下街オーロラタウン
さっぽろ地下街ポールタウン
新幹線地下街エスカ
ウィング新橋
新宿サブナード
天地下タウン・中地下タウン
都道府県 区市
大阪府 大阪市
富山県
愛知県
愛媛県
北海道
北海道
愛知県
東京都
東京都
岡山県
新相鉄ビルDブロック
神奈川県
プチシャンゼリゼ
大阪府
岡山一番街
岡山県
デュオこうべ山の手
兵庫県
駅東ビル地下ゴールド街
兵庫県
京王モール
東京都
天神地下街
福岡県
西堀ローサ
新潟県
テルミナ地下街
愛知県
マリナード
神奈川県
地下鉄上前津地下街
愛知県
ステーションデパート(三者統合→Ap 北海道
エスタ二番街(三者統合→Apia)
北海道
セントラルパーク地下街
愛知県
地下鉄栄北地下街
愛知県
横浜市
大阪市
名古屋市
横浜市
名古屋市
札幌市
札幌市
名古屋市
名古屋市
1974/3/1
1974/8/1
1974/8/1
1974/10/1
1974/12/1
1976/3/1
1976/9/1
1976/10/1
1976/11/1
1977/10/1
1977/12/1
1978/9/1
1978/9/1
1978/11/1
1978/11/1
京都市
1980/11/1
岡山市
神戸市
姫路市
新宿区
福岡市
新潟市
地下街中央連絡協議会(国)、地下街連絡協議会(都道府県等)の
設立
2,680 1974年「地下街に関する基本方針」
3,737
23,201
6,221
1,552
17,079
35,250
17,359
6,986
4,809
705
3,458
6,373
56,370
4,115
静岡駅前ゴールデン街爆発火災(1980年8月)
1980年「5省庁通達(建設省,消防庁,警察庁,運輸省,資源エネルギー
横浜ポルタ
神奈川県 横浜市
1980/11/1
24,339 庁)」
39,133 1980年「地下街の取り扱いについて」
川崎アゼリア
神奈川県 川崎市
1986/10/1
56,704 1986年「地下街の取り扱いについて」の改正
デュオこうべ浜の手
ディアモール大阪
クリスタ長堀
ゼスト御池
兵庫県
大阪府
大阪府
京都府
神戸市
大阪市
大阪市
京都市
1992/9/1
1995/10/1
1997/5/1
1997/10/1
10,863
42,977
81,765
32,120
紙屋町シャレオ
広島県
広島市
2001/4/1
25,210 2001年「地方分権推進法」の成立&「地下街中央連絡協議会」の解散
京都駅前地下街ポルタ
京都府
竣工年月 延面積(㎡)
火災時例と規制等
36,475
4,144 大阪市天六地下鉄工事現場ガス爆発(1970年4月)
27,364
4,596
33,646
14,139
29,180
11,849 大阪市千日前デパート火災(1972年5月)
38,364 1973年4省庁通達(建設省,消防庁,警察庁,運輸省)
452 1973年「地下街の取り扱いについて」
1970/3/1
高岡市
1970/7/1
名古屋市 1970/11/1
松山市 1971/4/1
札幌市
1971/11/1
札幌市 1971/11/1
名古屋市 1971/12/1
港区
1972/6/1
新宿区 1973/9/1
岡山市 1973/11/1
1988年「地下街に関する基本方針」の改正
1998年「地下街に関する基本方針」の改正(緩和)
2001年「地下街の取り扱いについて」の廃止&「地下街に関する基本
方針」の廃止
大曽根地下街オズガーデン
愛知県
名古屋市 2006/12/1
1,120
赤字:地下街の規制に関連した主な火災事例
青字:規制強化関連の通達等
緑字:規制緩和関連の動き
291
資料集
資料3
地下鉄道の排煙対策基準2)
地下鉄道の排煙対策については、昭和 50 年に運輸省によって通達された「地下鉄道の火
災対策の基準」の中に以下の記述がある。
・ 駅及び駅間には、排煙を有効に行える設備を設けること。ただし、既設の地下鉄道にお
いては、可能な限り設けること。
・ 駅には、乗降場と線路との間、階段、エスカレーター等の部分に、必要に応じて垂れ壁
等の煙の流動を妨げるものを設けること。
また、「地下鉄道の火災対策の基準の取り扱いについて」で、この火災対策基準の取り扱
いが示されている。その内容は、
・ 排煙設備は、機械換気設備を兼用しても良い。
・ トンネルの縦断線形によっては、自然換気口によってもトンネルの排煙効果が十分期待
できる場合は、排煙機を設けなくても良い。
・ 電源を必要とする排煙設備には、非常電源を附置するものとする。
・ 排煙を有効に行える設備とは「地下鉄道の排煙対策の基準」に規定するものを言う。
昭和 57 年に「地下鉄道の排煙対策の基準」が追加されているが、
この排煙対策の設備規模、
内容を決定するために想定した火災は、通常火災とガソリンによるを想定した大火源火災
があり、それぞれ車両と売店からの出火を想定している。列車火災では、旅客全員が安全
に避難するための煙許容濃度をCs=0.1m−1として第 1 次避難場所であるコンコース階に達
するまでに要する時間 7 分からホームの換気量を定めている。売店火災では、煙はコンコ
ースに拡散し薄まるため 1000 人程度が地上出口まで避難するまでに要する時間を余裕を見
て 10 分としても、Cs=0.1m−1を下回るため、コンコースの大きさはある一定の大きさ(煙
拡散容積:1050 ㎥以上)を確保するようになっている。以下に、その主な内容を記す。
(1)地下鉄道の排煙対策の基準
地下鉄道を設計する場合の必要排煙量は以下のように定められている。
1)火点ブロックの定義
火点ブロックとは、列車火災が発生した場合に、乗降場において煙が拡散する空間のう
ち、煙濃度が最も濃いと推定される一定の空間をいう。火点ブロック容積は次式により計
算する。また、線路方向長さは 20m とされている。
V = ( A0 − AV ) × 20
式(1)
Va − Vm
L
式(2)
A0 =
ここで、A0:線路直角方向断面積(㎡)
AV :車両断面積(床下部分を含む)(㎡)V :火点ブロック容積(m3)
292
資料集
L :ホーム有効長(m)
Va:乗降場部の火点ブロック設定断面で、ホーム有効長部分の全容積(m3)
Vm:Va内の柱、階段等煙の拡散しない部分の容積(m3)
ここで求められた火点ブロック容積により、1時間あたりの必要換気回数が決定される。
2)火点ブロック設定のための線路直角方向断面範囲
線路直角方向の有効断面(式(1)中A0―AV)は、図1,図2の灰色部分であり、煙の
拡散する範囲の断面積から車両断面積(床下部分を含む)を減じたものである。
(ⅰ)島式ホーム
煙は、熱による上昇気流により隣接ホーム上及び反対側軌道部に拡散するものと想
定している。図1に島式ホームで想定されている煙拡散部分について示す。
(ⅱ)相対式ホーム
火災列車と反対側のホームは、軌道部分より天井が低いため煙は拡散せず、隣接ホ
ーム上及び軌道部にのみ拡散するものと想定している。
対向ホーム
図 図1
2.2.4 島式ホーム煙拡散部分
島式ホーム煙拡散部分
図2 相対式ホーム煙拡散部分
2.3.2章に示す地下鉄駅舎火災実験で実験を行
った島式ホームA駅を例にとり、図1及び
式(1)、式(2)からホーム部分の必要排煙量
を計算すると表3のようになる。島式ホームA駅
の排煙量は130,740m3/hであり、ここで示した
「地下鉄道の排煙対策の基準値」を満たしている
ことが確認できた。また島式ホームA駅では常時
使用している換気ファンを火災時排煙ファンとし
て使用している(図2.3.5参照)。
(2)居室の排煙設備
建築基準法の規定に順ずるものとしている。
293
表4 島式ホームA駅排煙量計算結果
項目
A V (㎡)
Va (m3)
Vm (m3)
L (m)
A 0 (㎡)
V (m3)
数値
14.16
12,810
555
210
58
884
換気回数(回/時)
9
3
換気風量(m /h) 110,295
資料集
資料4
消防法における「地下街」と「準地下街」の規制の差異
消防法上、消防法施行令別表第 1 の上で地下街は第 16 の 2 項、準地下街は第 16 の 3 項
に該当し、消防設備上、表5に比較する差異が生じている。最も大きな差異は、準地下街
には排煙設備等が要求されていないことにある(表5赤枠部分)。準地下街は「公共地下歩
道に面して民有地内に店舗を設ける形態」であるので、店舗部分は建築物の地下階に位置す
ると考えられ、建築基準法の規制により排煙設備、消防法により散水設備が具備されている
ことになり、排煙設備等の要求がないのは、公共地下道部分と解釈できる。
表5 地下街と準地下街に必要な消防設備の比較
設備等
消火器具
根拠
令10条
屋内消火栓設備
令11条
地下街
全部
1. 延面積150㎡以上
準地下街
全部
内装材が難燃材以上は450㎡以上、可燃材
の場合300㎡以上
1. 延面積1,000㎡以上
スプリンクラー設備
令12条
動力消防ポンプ設備 令20条
自動火災報知設備
令21条
延面積1,000㎡以上で特定用途部分の床面積の
2. (6)項ロに掲げる防火対象物の用途に供さ 合計500㎡以上
れるもの(総務省令で定める構造を有するもの
を除く)
屋外消火栓設備が該当するもの
(屋内消火栓設備、屋外消火栓設備、動力ポン
プは相互に選択設置)
(スプリンクラー設備、水噴霧消火設備等で緩
和)
1. 延面積300㎡以上
1. 延面積300㎡以上で、特定用途部分の床面
積の合計300㎡以上
2. 地階(総務省令で定める避難上有効な開口
部を有しない壁で区画された部分が存ずる場
合にあっては、その区画された部分とする)に
(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)
項イの用途に供される部分を有する防火対象
物で、当該地階から避難階又は地上に直通す
る階段が2(当該階段が屋外に設けられている
場合等にあっては1)以上設けられていないも
の
2. 地階(総務省令で定める避難上有効な開口
部を有しない壁で区画された部分が存ずる場
合にあっては、その区画された部分とする)に
(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)
項イの用途に供される部分を有する防火対象
物で、当該地階から避難階又は地上に直通す
る階段が2(当該階段が屋外に設けられている
場合等にあっては1)以上設けられていないも
の
3. (6)項ロに掲げる防火対象物の用途に供さ
れるもの
ガス漏れ火災警報設
令21条の2 延面積1,000㎡以上
備
漏電火災警報器
令22条
消防機関へ通報する
令23条
火災報知設備
延面積1,000㎡以上で、特定用途部分の床面積
の合計500㎡以上
延面積300㎡以上
全部(常時通報できる電話で緩和)
全部(常時通報できる電話で緩和)
非常ベルと放送設備
又は自動式サイレンと 令24条
放送設備
全部
全部
誘導灯
令26条
全部(避難口誘導灯、通路誘導灯)(客席誘導
灯((1)項の部分)
全部(避難口誘導灯、通路誘導灯)
排煙設備
連結散水設備
連結送水管
非常コンセント設備
無線通信補助設備
令28条
令28条の2
令29条
令29条の2
令29条の3
延面積1,000㎡以上
延面積700㎡以上
延面積1,000㎡以上
延面積1,000㎡以上
延面積1,000㎡以上
294
資料集
資料5
高天井を利用した自然排煙システムの効果試算3)
高天井を利用した大規模空間の自然排煙システムには以下の長所がある。
① 火炎プルームの空気巻き込み量が増え、煙層温度が低下する。
② 蓄煙空間の増大により煙層下端高さが居住域まで降下する時間が延びる。
③ 排煙口を天井の高い位置に設置することで排煙能力が増す。
④ 煙層が壁と接する面積が増え煙層の温度降下が期待できる。
上記①∼④について、以下に説明する。
(1)火炎プルームの空気巻き込み量の増加(上記①)
火炎は可燃物の熱分解で生じた可燃性のガスが周囲の空気と混合して燃焼反応を起こし
ている位置に形成される。この可燃物と火炎の組み合わせを火源という。火炎における燃
焼で発生した熱の一部は可燃物自体にフィードバックされて熱分解の気化エネルギーに変
わり、一部は輻射で周りに伝達されて周囲の物体の温度を上昇させる。また、残りは燃焼
で生成したガスの温度を高めて浮力を生じさせるので、火源の上には上昇気流が形成され
る。この上昇気流は火炎プルームと呼ばれる。
火炎プリュームは上昇しながら周囲から空気を呼び込むが、これを
空気巻き込み
と
いう。この空気巻き込みのため、火炎プルームは上に行くほど希釈されて温度が低下する
と同時に流量が増加する(図3参照)。
図3 火炎プルームの概念図
295
資料集
火源に近い高さでは、火炎プルームの性状は火源の形状に影響される。しかし、火源か
らの距離が大きくなるに従って、火源形状の影響は次第に弱くなり、燃焼の発熱が一点に
集中した熱源から立ち上がる上昇気流と見なしても支障がないようになる。これを
源上の火炎プルーム
点熱
と呼ばれ、火炎プルームを理論的に考える場合の最も基本的なモデ
ルとなる(図4参照)。
図4 点熱源上の浮力乱流プルームの概念図
図4に示されるような発熱が一点に集中した火源の上に形成される火炎プルームについ
て考えると、火炎プルームの対流で運ばれる熱と、火源での発熱速度 Q に関して
式(3)
ρ,⊿T,ω,Cp 及び A(z)は図4の凡例参照
火炎プリュームの幅,温度,流速に関する上記の式の比例定数は理論的には得られない
ので実験的に測定するしかないが、静穏な周囲環境での実験結果によれば、
式(4)
とされる。
任意の高さにおける火炎プルームの流量は、または、実験的によく使われる次元をもった
形では、
296
資料集
式(5)
プルーム流量(kg/s)
と表される。式(5)から明らかなように、
0
20
40
60
80
100 120 140
20
火炎プルームの流量は発熱速度の増加に対して
はそれほどでもないが、高さの増加に対しては
18
著しく影響される。
16
式(4)および式(5)を用いて、発熱速度
Q=1,000kW、周囲温度 T=300K 時の火源軸
14
上の温度上昇値⊿Tおよびプルーム流量mZを
算出すると、図5のように、高さ Z が大きく
12
なるにつれて、プルーム流量が増加し、温度
10
上昇値が急激に小さくなることが明確である。
高さ Z(m)
8
6
4
2
0
0
200
400
600
800
1,000
上昇温度⊿T(K)
図5 点熱源上のプリューム流量mz
と温度上昇値⊿T(Q=1,000kW)
(2) 蓄煙空間増大による煙層降下時間の延長,排煙能力の向上、煙層温度の抑制
煙層の降下には,理論的には熱エネルギーの保存も関係するが,火災発生後の初期の段
階では煙層の温度上昇は小さいので,温度(従って密度ρ)を一定と見なし,質量保存の関
係のみを用いても概略の予測はできる。
図6に示すように、天井あるいは周壁の上部に排煙口および周壁の下部に給気口を有す
る空間内部に、発熱速度が一定の火源が存在する場合を考える。火災発生直後の煙層位置
が高い段階では、火炎プリュームによる煙層への流入量が多い反面、煙層の温度上昇も煙
層の厚さも小さいので排煙口部分での圧力差が小さく、従って排煙量も小さい。しかし、煙
層が発達するのに従い、火炎プリュームによる煙流入量が減少する一方、排煙量は増加す
るので、ある段階で煙層への流入量と煙層からの流出量が等しくなって、煙層の降下は止
まることになる。
297
資料集
L
L
me
⊿P=
−⊿Pd+(ρ∞ーρ)g(Heーzc)
αAe
H
(=He)
m
室内 室外
Zc
Q
Aw :煙層が接する壁の面積 [㎡]
Cp :空気比熱 [=1.0 kJ/kg]
H :天井高さ [m]
He :排煙口高さ [m]
L :正方形を想定したアトリウムの一辺 [m]
T :高さzにおける火災プルーム温度 [K]
T∞ :初期温度 [K]
Q :発熱速度 [kW]
Zc :煙層下端高さ [m]
g :重力加速度 [m/s2]
h :総合熱伝達率 [kW/㎡K]
m :煙層下端高さZcにおけるプルーム流量 [kg/s]
me :排煙口流量 [kg/s]
⊿Pd :給気口位置の圧力差 [Pa]
α :流量係数 [-]
αAd :有効給気口面積 [㎡]
αAe :有効排煙口面積 [㎡]
ρ :高さzにおける火炎プルーム密度 [kg/m3]
ρ∞ :初期空気密度 [kg/m3]
⊿Pd
αAd
室内外圧力
図6 自然排煙による煙層降下の制御
温度一様の煙層が高さZ C の位置まで降下した状態で定常状態を保っていると仮定する
と、ZCより高い位置では煙層と外気の温度差のために高さ方向に圧力分布が生じることに
なる。一方、ZCより下方では内外温度差が無いため、圧力差は高さによらず一定に保たれ
る。また、煙層についての熱収支を考えると、火炎プリュームを通じて燃焼熱および連行さ
れた空気の持つ熱が持ち込まれる一方、温度上昇したガスの排出および周壁への熱伝達に
よる失熱がある。
これらの質量保存、熱量保存の関係をまとめると、以下の式の関係となる。
式(6)
式(7)
式(8)
式(9)
式(10)
298
資料集
火源発熱速度Q=10,000kW,煙層高さZc=1.8m,壁面の総合熱伝達率h=0.01kW/㎡K,
空間は平面の一辺L=60mとした正方形,高さHを3∼15mまで変化させた場合の煙層
,換気駆動力の変化を図7(a)
温度,煙降下時間(煙層がさZc=1.8mまで降下する時間)
∼(d)に示す。なお、給気口面積は出入口を想定し床面位置に2㎡、排煙口は天井面(He
=H)に設けるものとした。
15
15
14
14
14
14
13
13
13
12
12
12
11
11
11
10
10
10
10
9
9
9
9
8
8
8
8
13
輻射熱により
危険
と判断される
領域
12
11
天井高(m)
天井高(m)
7
6
7
6
天井高(m)
15
天井高(m)
15
7
6
7
6
5
5
5
5
4
4
4
4
3
3
3
3
2
2
2
2
1
1
1
1
0
0
0
50 100 150 200 250 300 350
煙層温度(℃)
(a)煙層温度
0
0
0
10
20
30
40
50
換気駆動力(Pa)
(b)換気駆動力
0
1
2
必要排煙口面積(㎡)
(c)必要排煙口面積
3
0
10
20
(d)煙層が居住域に降下する時間
図7 天井高さの変化に伴う煙層温度,換気駆動力,排煙口面積,煙層下端が居住域に達する時間の変化
図7(a)を見ると、天井高さが 10mを超えると、煙層温度が 200℃を下回ることが分か
る。さらには天井高さ(=排煙口高さ)が増すに従い換気駆動力が増大すること(図7(b))、
必要排煙口面積が減少すること(図7(c))、煙層下端が居住域に降下する時間が延びるこ
と(図7(d))が明らかである。このように、地下空間に排煙筒を兼ねた高天井吹抜け等を
設置することは、火災時の避難安全性の向上、特に煙層からの輻射熱を軽減させる効果が
大きいことが明らかである。
299
30
煙層下端が居住域に降下する
時間(min)
資料集
【参考文献】
1)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia, http://ja.wikipedia.org/wiki/,
2010 年 1 月 10 日)の地下街のリストに通達を併記した。
2)運輸省「地下鉄道の排煙対策の基準」 1982.
3)田中哮義:建築火災安全工学入門, pp.147-154, 231-240
300
謝辞
謝辞
早稲田大学理工学術院建築専攻教授の長谷見雄二博士には、論文作成に関してのみなら
ず、日ごろから終始懇切丁寧なご指導とご鞭撻を賜りました。心より感謝の意を表します。
本論文の審査にあたっては、貴重なご指導・ご助言を賜りました早稲田大学理工学術院
建設工学専攻教授 浅野光行博士、建築学専攻教授 田邉新一博士、及び准教授 高口洋人博
士に謹んで感謝の意を表します。
第2章の実験は東京消防庁に設置された「地下鉄道火災に対する消防対策検討委員会」
をきっかけに行われたものであり、委員会委員および事務局、東京消防庁,帝都高速度交
通営団(現、東京地下鉄(株)),東京都交通局の皆様には多大なご尽力をいただきました。
実験実施にあたっては、学外・防火専門家・多くの方々のご協力をいただきました。また、
この章の研究全般にわたって、当時、早稲田大学長谷見研究室に在籍した丁 文婷博士、
南
東君博士、田中
聡氏、岡澤尚美氏、米澤元彦氏を始めとする長谷見研究室の皆様に
協力していただきました。厚く御礼申し上げます。
第3章のCFDシミュレーションにあたっては、岡澤尚美氏にご尽力いただきました。
厚く御礼申し上げます。
第4章のT駅の避難計算・煙シミュレーションを行うための現地測定とマップ作成にあ
たっては、当時、早稲田大学長谷見研究室に在籍した鈴木祐輔氏を始めとする長谷見研究
室の皆様に協力していただきました。厚く御礼申し上げます。
第5章の避難実験にあたっては実験準備に際して東京消防庁よりご協力を頂きました。
実験実施にあたっては地下街の方々、並びに早稲田大学建築学科長谷見研究室の皆様に多
大なご尽力を頂きました。また、早稲田大学理工学総合研究センター客員教授(当時)の
神
忠久博士
、早稲田大学人間科学学術院准教授の佐野友紀博士には数々の貴重なご助
言を賜りました。特にこの章の研究全般にわたって、当時、早稲田大学長谷見研究室に在
籍した小川純子氏、横山
亘氏に多大な尽力をいただきました。厚く御礼申し上げます。
第6章の自然排煙筒のシミュレーションにあたっては、この章の研究全般にわたって、
当時、早稲田大学長谷見研究室に在籍した武盛功太氏にご尽力いただきました。厚く御礼
申し上げます。
㈱明野設備研究所の土屋伸一博士には、研究はもとより、仕事上のご助言・激励を賜り
ました。心より感謝いたします。
本論文執筆中に、笑顔で励ましてくれた、岡田尚子氏、カクロ氏、岡本衣未氏、藤原
海
氏に感謝します。
社会人学生として、早稲田大学入学後、終始、暖かく見守ってくださった㈱日建設計の
皆様に感謝します。
最後に、長期間にわたり研究活動を支援してくれた妻 博子、励まし続けてくれた母 桂
子、息子の博士取得を心待ちにしながら逝去した父 康弘に、心より感謝します。
なお、本研究はセコム科学技術振興財団の助成金により実施しました。
301
研究業績
研究業績
種類別
論文
(査読あり)
題名、発表・発行掲載誌名、発表・発行年月、連名者(申請者含む)
1. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状 ―島式ホーム駅舎の火災初期における煙流動性状―
日本火災学会論文集 第 56(2)巻,pp1-14,2006 年
○森山修治、長谷見雄二、岡澤尚美、南東君、丁文婷
2.. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状 ―相対式ホーム駅舎の火災初期における煙流動性状―
日本火災学会論文集 第 56(3)巻,pp21-28,2006 年
○森山修治、長谷見雄二、岡澤尚美、南東君、丁文婷
3. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状 −数値流体解析による島式ホーム駅舎の煙流動性状の
再現と安全対策の検討−
日本火災学会論文集 第 57(1)巻,pp17-28, 2007 年
岡澤尚美、長谷見雄二、森山修治、丁文婷、南東君
4. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究 ―実験概要と避難経路・避難出口の選
択性― 日本建築学会論文報告集, 第 74 巻,第 637 号 pp.233∼240, 2009.3
○森山修治、長谷見雄二、小川純子、佐野友紀、神 忠久、蛇石貴宏
5. 既存建物のコンバージョンにおける避難安全性能の変化とその制御 ―事務所から非就寝施
設への用途変更事例検証―
日本建築学会技術報告集 第 23 号,2006 年, pp.193-196,
○森山修治、長谷見雄二、藤村卓矢、木船麻里恵
6. 既存建物のコンバージョンにおける避難安全性能の変化とその制御 ―事務所から就寝施設へ
の用途変更事例検証―
日本建築学会技術報告集 第 24 号,2006 年,pp. 181-186,
○森山修治、長谷見雄二、藤村卓矢、木船麻里恵
7. Smoke movement characteristics and fire safety in subway stations, Proceediings of the
Eighth International Symposium on Fire Safety Science, Beijing, China, 2005.9,
pp.1461-1472
○S. Moriyama, Y. Hasemi, D. Nam, W. Ding, N. Okazawa
国 際 会 議 発 8. Research Needs on the Fire Safety of Subway Station -Fire disasters, regulations, research
表
efforts and recent smoke movement tests in subway stations in Japan, Fire Science and
Technology , Proceedings of the 6th Asia-Oceania Symposium for Fire Science and
Technology, Daegue, Korea ,2004.1, pp.797-808
Yuji Hasemi, Shuji Moriyama, Donggun Nam, Satoshi Tanaka, Naomi Okazawa, Wenting Ding
9. The Fire Safety Performance of Converted buildings −The Study on Conversion of Offices
to Residences, Welfare, Dining, Commercial and Amusement facilities−, 6th
International Conference on Performance-Based Codes and Fire Safety Design Methods
○Shuji Moriyama, Yuji Hasemi, Takuya Fujimura、Marie Kifune
10. AFFORDABLE APPROACH TO THE PREDICTION OF SMOKE MOVEMENT AND
EVACUATION SAFETY IN SUBWAY STATIONS, th Asia-Oceania Symposium on Fire
Science and Technology, 2007.7
○Shuji Moriyama, Naomi Okazawa, Wenting Ding, Dong’gun Nam and Yuji Hasemi
302
研究業績
種類別
学会発表
題名、発表・発行掲載誌名、発表・発行年月、連名者(申請者含む)
11. 地下鉄火災における煙流動性状(その 1) 日本における地下鉄道火災の事例・研究経緯と地
下鉄駅舎の煙流動特性把握の必要性
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp187-188,2004 年
長谷見雄二、森山修治、南東君
12. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状 (その2) 地下鉄火災実験の位置付けと全体概要
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp189-190,2004 年
岡澤尚美、長谷見雄二、森山修治、田中聡、丁文亭、南東君
13. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状(その3) 地下鉄駅舎火災実験結果
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp217-220,2004 年
田中聡、長谷見雄二、森山修治、岡澤尚美、丁文亭、南東君
14. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状(その 4) 二層ゾーンモデルによる検討
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp221-224,2004 年
森山修治、長谷見雄二、田中聡、岡澤尚美、丁文亭、南東君
15. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状(その5) CFDによる煙流動シミュレーション
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp321-324,2005 年
岡澤尚美、長谷見雄二、森山修治、田中聡、丁文婷、南東君
16. 地下鉄駅舎火災における煙流動性状(その6) 二層ゾーンモデルと避難計算による避難安
全性の検証
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp325-328,2005 年
田中聡、長谷見雄二、森山修治、岡澤尚美、丁文婷、南東君
17. 火災時における地下街の避難安全計画手法
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp305-306,2005 年
小川純子、長谷見雄二、森山修治、田中聡
18. 津波避難ビルにおける階段歩行特性に関する実験研究 その 1:実験概要及び階段上昇時の単
独歩行特性
日本建築学会学術講演梗概集,E-1 分冊,pp905-906,2006 年
土屋伸一、森山修治、浜暁也、渡邊大地、長田悠平、小川純子、神忠久、長谷見雄二
19. 津波避難を想定した階段上昇実験 −その2 群集歩行実験日本建築学会学術講演梗概集,E-1 分冊,pp907-908,2006 年
森山修治、土屋伸一、浜真也、渡邊大地・神忠久、長谷見雄二、長田悠平、小川純子
20. 地下鉄駅舎の火災安全性に関する研究
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp185-186,2006 年
平川和孝、
・森山修治、岡澤尚美、小川純子、長谷見雄二
21. 地下型ターミナル駅舎における火災時の安全性に関する研究
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp245-246, 2006 年
鈴木祐輔、長谷見雄二、森山修治、小川純子、岡澤尚美
303
研究業績
種類別
学会発表
題名、発表・発行掲載誌名、発表・発行年月、連名者(申請者含む)
22. 火災時における地下街の避難安全計画手法
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp247-248,2006 年
小川純子、長谷見雄二、森山修治
23. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究
日本火災学会 2007 年
森山修治、小川純子、長谷見雄二、佐野友紀
24. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究−その1 実験概要−
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp303-304,2007 年
森山修治、小川純子、長谷見雄二、佐野友紀
25. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究−その2 実験結果及び分析−
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp303-304,2007 年
小川純子、森山修治、長谷見雄二、佐野友紀
26. 地下広場の自然排煙による火災安全計画
日本建築学会学術講演梗概集,A-2 分冊,pp267-268,2007 年
武盛功太、森山修治、長谷見雄二
27. エスカレーターを用いた避難行動特性に関する実験的研究
日本建築学会関東支部研究報告書Ⅰ,pp345-348,2007 年度
岡田尚子、長谷見雄二、森山修治、武盛功太、蛇石貴宏、廬 韻琴
28. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究 : その 1 実験概要
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp303-304 ,2007
森山修治 , 小川 純子 , 佐野 友紀 , 長谷見 雄二
29. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究 : その 2 実験結果及び分析
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp305-306 ,2007
小川 純子 , 森山修治 , 佐野 友紀 , 長谷見 雄二
30. エスカレーターを用いた避難行動特性に関する実験研究 : その 1 実験概要
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp67-68 ,2008
岡田 尚子 , 森山修治 , 長谷見 雄二 , 武盛 功太 , 蛇石 貴宏 , 盧 韻琴
31. エスカレーターを用いた避難行動特性に関する実験研究 : その 2 実験結果及び分析
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp69-70 ,2008
森山修治 , 岡田 尚子 , 長谷見 雄二 , 武盛 功太 , 蛇石 貴宏 , 盧 韻琴
32. 地下広場の自然排煙による火災安全計画 : (その 2)二層ゾーンモデルと FDS による検討・比
較
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp131-132 ,2008
武盛 功太 , 長谷見 雄二 , 森山修治
304
研究業績
種類別
学会発表
題名、発表・発行掲載誌名、発表・発行年月、連名者(申請者含む)
33. 大規模地下街における避難行動特性に関する実験研究 : その 3 実験結果及び分析
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 49-50 ,2008
蛇石 貴宏 , 森山修治 , 佐野 友紀 , 長谷見 雄二
34. エスカレーター避難利用時の安全な停止・再起動に関する実験−その1 実験概要−
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 23-24 ,2009.8
岡田 尚子 , 岡本衣未, 長谷見 雄二,森山修治
35. エスカレーター避難利用時の安全な停止・再起動に関する実験−その2 実験結果および分
析−
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 25-26 ,2009.8
岡本衣未, 森山修治, 長谷見 雄二,岡田 尚子
36. 地下鉄火災時における斜路空間の煙流動性状とその制御に関する研究
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 77-80 ,2009.8
蛇石 貴宏 , 森山修治 , 長谷見 雄二
37. 地下空間の煙制御計画−排煙設計法の開発とそれに基づく都心地下空間モデルの提案−
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 81-84 ,2009.8
カクロ, 森山修治, 武盛 功太 , 蛇石 貴宏 , 長谷見 雄二
38. 水害時の地下空間からの避難に関する研究
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 125-128 ,2009.8
藤原 海, 長谷見雄二, 森山修治
39. 既存建物のコンバージョン計画における防災性能に関する研究(その 1) : 全体概要と就寝系
施設の事例検証
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 255-256, 2005
藤村 卓矢 , 長谷見 雄二 , 森山修治 , 木船 麻里恵
40. 既存建物のコンバージョン計画における防災性能に関する研究(その 2) : 事務所から非就寝
施設へのコンバージョン事例の防災性能の検証
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 257-258, 2005
木船 麻里恵 , 藤村 卓矢 , 森山修治 , 長谷見 雄二
41. 排煙設備の耐熱性に関する実験的研究 : その 1 遠心ファンの耐熱性
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 211-212 ,2004
阿部 伸之 , 森山修治 , 山田 常圭 , 長谷見 雄二
42. 排煙設備の耐熱性に関する実験的研究
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 317-320 ,2005
森山修治 , 山田 常圭 , 阿部 伸之 , 長谷見 雄二 , 山田 茂 , 白岩 昌幸
305
研究業績
種類別
学会発表
題名、発表・発行掲載誌名、発表・発行年月、連名者(申請者含む)
43. 乾式工法を用いた防火区画遮煙性能に関する調査研究 : その 1:調査研究概要
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 113-114 ,2008
中村 和孝 , 森山修治 , 松本 知大 , 緑川 信
44. 乾式工法を用いた防火区画遮煙性能に関する調査研究 : その 2:遮煙性能検証実験について
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 115-116 ,2008
松本 知大 , 緑川 信 , 中村 和孝 , 森山修治
45. 乾式工法を用いた防火区画遮煙性能に関する調査研究 : その 3:シミュレーション結果
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 117-118 ,2008
緑川 信 , 森山修治 , 中村 和孝 , 松本 知大
46. 防耐火ガラスを用いた消防活動拠点等のあり方に関する調査研究 その1:調査研究概要
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 143-144, 2009.8
関 信生, 森山修治, 久田隆司, 池内清治
46. 防耐火ガラスを用いた消防活動拠点等のあり方に関する調査研究 その2:実験結果
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 145-146, 2009.8
久田隆司, 池内清治, 関 信生, 森山修治
47. 防耐火ガラスを用いた消防活動拠点等のあり方に関する調査研究 その3:実験結果の解析
日本建築学会学術講演梗概集. A-2 分冊, pp 147-148, 2009.8
森山修治, 関 信生, 池内清治,久田隆司
306
図番号リスト・写真リスト・表番号リスト
章
1
1.2
2
1.4
2.1
2.2
2.3
2.4
図番号
図1.2.1
図1.2.2
(a)
(b)
図1.2.3
図1.4.1
図2.1.1
図2.2.1
図2.2.2
図2.2.3
図2.2.4
図2.3.1
図2.3.2
図2.3.3
図2.3.4
図2.3.5
図2.3.6
図2.3.7
図2.3.8
図2.3.9
図2.3.10
図2.3.11
図2.3.12
図2.3.13
図2.4.1
図2.4.2
図2.4.3(a)
図2.4.3(b)
図2.4.3(c)
図2.4.3(d)
図2.4.3(e)
図2.4.3(f)
図2.4.3(g)
図2.4.3(h)
図2.4.3(i)
図2.4.4
図2.4.5(a)
図2.4.5(b)
図2.4.5(c)
図2.4.5(d)
図2.4.5(e)
図2.4.5(f)
図2.4.5(g)
2
図2.4.5(h)
2.4 図2.4.6
図2.4.7
図番号リスト(1)
タイトル
地下鉄駅舎火災のイメージ
地下空間の分類
形態による分類
利用状況による分類
本研究のフロー
地下街の累積床面積の推移と主な火災事例
実験とシミュレーションの位置づけ
地下鉄路線別平均ホーム深さ
ホーム形態イメージ
ホーム形態の分類
排煙システムイメージ
アルコールパンのレイアウト
島式A駅周辺状況および超音波風速計設置位置
島式A駅平面概念図および測定点位置図
島式A駅断面概念図
換気兼用排煙システム概念図
島式B駅周辺状況および超音波風速計設置位置
島式B駅平面概念図および測定点位置図
島式B駅断面概念図
換気兼用排煙システム概念図
相対式C駅周辺状況および超音波風速計設置位置
相対式C駅平面概念図および測定点位置図
相対式C駅断面概念図
換気兼用排煙システム概念図
外部風速および外部温度測定結果
実験Ⅳ 着火前後の風速変化(測定点③)
実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480k
W)
実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:480
kW)
実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
実験別コンコース階風速(FL+2.75m)
実験Ⅳ 着火前後の温度変化(測定点③)
実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480k
W)
実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:480
kW)
実験別コンコース階温度
外部風速および外部温度測定結果
実験Ⅱ 着火前後の風速変化(測定点①)
頁
2
2
2
2
4
13
16
17
18
19
20
22
27
28
28
28
29
30
30
32
35
36
36
36
38
39
40
40
40
41
41
41
42
42
42
43
44
44
44
45
45
45
46
46
48
48
章
2
図番号
2.4 図2.4.8(a)
図2.4.8(b)
図2.4.8(c)
図2.4.8(d)
図2.4.8(e)
図2.4.8(f)
図2.4.8(g)
図2.4.9
図2.4.10(a)
図2.4.10(b)
図2.4.10(c)
図2.4.10(d)
図2.4.10(e)
図2.4.10(f)
図2.4.10(g)
図2.4.11
図2.4.12(a)
図2.4.12(b)
図2.4.13(a)
図2.4.13(b)
図2.4.14(a)
図番号リスト(2)
タイトル
実験Ⅰ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:なし)
実験Ⅱ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:160kW)
実験Ⅲ①(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
実験Ⅲ②(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:160k
W)
実験Ⅲ③(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
実験別コンコース階風速(FL+2.45m)
着火前後の温度変化(測定点①)
実験Ⅰ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:なし)
実験Ⅱ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:160kW)
実験Ⅲ①(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
実験Ⅲ②(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:160k
W)
実験Ⅲ③(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:160kW)
実験別コンコース階温度(測定点⑦)
実験別コンコース階温度(測定点⑧)
実験別 コンコ-ス階-外部/コンコース階-ホーム階 差圧
実験Ⅳ①(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:停止、火源:160kW)
実験Ⅳ①(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:停止、火源:160kW)
実験Ⅳ②(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
実験Ⅳ②(階段部シャッター:開放、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、コンコース加圧:稼動、火源:
160kW)
実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、コンコース加圧:稼動、火源:
160kW)
図2.4.15(a) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:閉鎖、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
図2.4.15(b) 実験Ⅳ④(階段部シャッター:閉鎖、コンコース加圧:稼動、火源:160kW)
実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:閉鎖,コンコース加圧:稼動,トンネル排煙:稼動,火
図2.4.16(a)
源:160kW)
図2.4.14(b)
頁
49
49
50
50
50
51
51
51
52
52
53
53
53
54
54
54
55
55
56
56
56
56
57
57
57
図2.4.17(a)
図2.4.17(b)
図2.4.18(a)
図2.4.18(b)
図2.4.19
図2.4.20
図2.4.21
図2.4.22(a)
図2.4.22(b)
図2.4.22(c)
図2.4.22(d)
実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:閉鎖,コンコース加圧:稼動,トンネル排煙:稼動,火
源:160kW)
実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
実験別コンコース階風速(FL+2.45m)
実験別コンコース階温度(測定点⑦)
実験別コンコース階温度(測定点⑧)
実験別 コンコ-ス階-外部/コンコース階-ホーム階 差圧
外部風速および外部温度測定結果
実験Ⅳ 着火前後の風速変化(測定点②)
実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
図2.4.22(e)
実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
63
図2.4.22(f)
実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:
480kW)
実験Ⅰ(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:なし)
実験別コンコース階風速(FL+1.0m)
実験別コンコース階風速(FL+2.75m)
64
図2.4.16(b)
図2.4.22(g)
図2.4.22(h)
図2.4.22(i)
図2.4.22(j)
57
58
58
58
58
59
61
61
62
62
63
63
64
64
65
65
章
2
図番号
2.4 図2.4.23
図2.4.24(a)
図2.4.24(b)
図2.4.24(c)
図2.4.24(d)
図2.4.24(e)
図2.4.24(f)
図2.4.24(g)
図2.4.24(h)
図2.4.24(i)
図2.4.25(a)
3
3
図2.4.25(b)
3.2 図3.2.1
図3.2.2
図3.2.3
図3.2.4
(a)
(b)
(c)
(d)
図3.2.5
図3.2.6
(a)
(b)
(c)
(d)
図3.2.7
図3.2.8
(a)
(b)
(c)
(d)
図3.2.9
図3.2.10
図3.2.11
図3.2.12
図3.2.13
図3.2.14
図3.2.15
図3.2.16
3.3 図3.3.1
図3.3.2
図3.3.3
図3.3.4
図3.3.5
図3.3.6
図3.3.7
図3.3.8
(a)
(b)
(c)
図番号リスト(3)
タイトル
実験Ⅳ 着火前後の温度変化(測定点②)
実験Ⅳ0(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:なし)
実験Ⅱ③(階段部シャッター:開放、排煙:停止、火源:320kW)
実験Ⅳ①(階段部シャッター:閉鎖、排煙:停止、火源:480kW)
実験Ⅳ②(階段部シャッター:閉鎖、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ③(階段部シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ④(階段部シャッター:開放、ホーム排煙:稼動、火源:480kW)
実験Ⅳ⑤(階段部シャッター:開放、ホーム及びコンコース排煙:稼動、火源:
480kW)
実験別コンコース階温度風速(測定点⑫)
実験別コンコース階温度風速(測定点⑯)
着火後の温度変化履歴 実験Ⅳ(測定点0,①②③⑤ FL+2.75m:火源
近傍)
着火後の温度変化履歴 実験Ⅳ(測定点④⑦⑬FL+2.75m)
島式ホームA駅のモデル化
相対式ホームC駅のモデル化
島式ホームA駅の測定点
ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(島式ホームA駅)
シャッター:閉鎖,ホーム排煙:停止
シャッター:閉鎖,ホーム排煙:稼動
シャッター:半分開放,ホーム排煙:稼動
ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(島式ホームA駅)
島式ホームB駅の測定点
ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(島式ホームB駅)
シャッター:閉鎖,ホーム排煙:稼動
シャッター:開放,ホーム排煙:停止
シャッター:半分開放,ホーム排煙:稼動
シャッター:開放,ホーム排煙:稼動
相対式ホームC駅の測定点
ゾーンモデルによる煙流動性状再現性(相対式ホームC駅)
シャッター:閉鎖,ホーム排煙:停止
シャッター:閉鎖,ホーム排煙:稼動
シャッター:半分開放、ホーム排煙:稼動
シャッター:開放、ホーム排煙:稼動
CFDモデル概要図
CFDモデル地下1階・短辺方向断面図
島式ホーム駅舎モデル概要図およびホーム階算出点位置
島式駅舎 [シャッター閉鎖・ホーム排煙停止モデル]
島式駅舎 [シャッター閉鎖・ホーム排煙起動モデル]
島式駅舎 [シャッター開放・ホーム排煙起動モデル]
シャッター閉鎖時、温度・風速分布
シャッター開放時、温度・風速分布
避難安全性検証フローチャート
避難開始時間の想定
島式ホーム駅避難計算モデル
相対式ホーム駅避難計算モデル
島式ホーム駅のモデル化(10MW)
相対式ホーム駅のモデル化(10MW)
島式ホーム駅の算出点位置
ホーム排煙によるホーム煙性状の変化(島式ホーム駅)
ホームでの煙層高さ
ホームでの煙層温度
ホームでの下部層温度
頁
66
67
67
67
68
68
68
69
69
69
70
70
78
78
79
79
79
79
79
79
80
80
80
80
80
81
81
81
81
81
81
84
84
85
86
86
86
87
87
88
89
91
93
96
96
97
98
98
98
98
章
3
図番号
3.3 図3.3.9
(a)
(b)
(c)
図3.3.10
(a)
(b)
(c)
図3.3.11
(a)
(b)
(c)
図3.3.12
図3.3.13
(a)
(b)
(c)
図3.3.14
(a)
(b)
(c)
図3.3.15
(a)
(b)
(c)
図3.3.16
(a)
(b)
(c)
図3.3.17
図3.3.18
図3.3.19
図3.3.20
図3.3.21
図3.3.22
(a)
(b)
(c)
図3.3.23
(a)
(b)
(c)
図3.3.24
図3.3.25
(a)
(b)
(c)
図番号リスト(4)
タイトル
ホーム排煙によるコンコース煙性状の変化(島式ホーム駅)
コンコースでの煙層高さ
コンコースでの煙層温度
コンコースでの下部層温度
ホーム及びコンコース排煙によるホーム煙性状の変化(島式ホーム
駅)
ホームでの煙層高さ
ホームでの煙層温度
ホームでの下部層温度
ホーム及びコンコース排煙によるコンコース煙性状の変化(島式ホー
ム駅)
コンコースでの煙層高さ
コンコースでの煙層温度
コンコースでの下部層温度
相対式ホーム駅の算出点位置
ホーム排煙によるホーム煙性状の変化(相対式ホーム駅)
ホームでの煙層高さ
ホームでの煙層温度
ホームでの下部層温度
ホーム排煙によるコンコース煙性状の変化(相対式ホーム駅)
コンコースでの煙層高さ
コンコースでの煙層温度
コンコースでの下部層温度
ホーム&コンコース排煙によるホーム煙性状の変化(相対式ホーム
駅)
ホームでの煙層高さ
ホームでの煙層温度
ホームでの下部層温度
ホーム&コンコース排煙によるコンコース煙性状の変化(相対式ホー
ム駅)
コンコースでの煙層高さ
コンコースでの煙層温度
コンコースでの下部層温度
島式ホーム駅の避難時間と防災設備の想定スケジュール
相対式ホーム駅の避難時間と防災設備の想定スケジュール
成長火源のイメージ
成長火源の発熱速度の変化
島式ホーム駅のシミュレーションモデル
島式ホーム駅のシミュレーション結果(ホーム火災側)
ホーム火災側の煙層高さ
ホーム火災側の煙層温度
ホーム火災側の下部層温度
島式ホーム駅のシミュレーション結果(ホーム非火災側)
ホーム非火災側の煙層高さ
ホーム非火災側の煙層温度
ホーム非火災側の下部層温度
相対式ホーム駅のシミュレーションモデル
相対式ホーム駅のシミュレーション結果(火災側ホーム)
火災側ホームの煙層高さ
火災側ホームの煙層温度
火災側ホームの下部層温度
頁
98
98
98
98
99
99
99
99
99
99
99
99
100
101
101
101
101
101
101
101
10
102
102
102
102
102
102
102
102
104
105
105
106
107
108
108
108
108
109
109
109
109
110
111
111
111
111
章
3
図番号
3.3 図3.3.26
相対式ホーム駅のシミュレーション結果(非火災側ホーム)
(a) 非火災側ホームの煙層高さ
(b) 非火災側ホームの煙層温度
(c) 非火災側ホームの下部層温度
島式ホーム駅での非火災側の線路上部層温度とホーム上部層温度の比
図3.3.27
較(避難終了時:出火後484秒)
図3.3.28
火源成長の様子
温度分布コンタ(10MW)(H1, H4, H7:出火後5分,
図3.3.29
C3:出火後13 分, C1, C5:出火後16 分)
ホーム及びコンコース温度 (H1-H7:出火後5 分,C3:出火後13 分,
C1, C2, C4, C5: 出火後16 分)
図3.3.30
図3.3.31
(a)
(b)
(c)
(d)
図3.3.32
図3.3.33
図3.3.34
図3.3.35
(a)
(b)
図3.3.36
(a)
(b)
(c)
(d)
4
図番号リスト(5)
タイトル
4.1 図4.1.1
図4.1.2
図4.1.3
図4.1.4
図4.1.5
図4.1.6
4.2 図4.2.1
4.3 図4.3.1
図4.3.2(a)
図4.3.2(b)
図4.3.2(c)
図4.3.3
図4.3.4
図4.3.5
図4.3.6
図4.3.7(a)
図4.3.7(b)
図4.3.7(c)
図4.3.8(a)
図4.3.8(b)
図4.3.8(c)
排煙向上策の効果 (H1-H7:出火5 分後, C3:出火13 分後, C1,
C2, C4, C5:出火16 分後)
ホーム階温度(FL+2.5m)
コンコース階温度(FL+2.5m)
ホーム階温度(FL+1.8m)
コンコース階温度(FL+1.8m)
ホーム排煙口の現状位置と変更位置(ホーム断面図)
コンコース排煙の効果
(C3:出火13 分後、C1, C2, C4, C5:出火16 分後)
コンコース給気の効果
(C3:出火13 分後、C1, C2, C4, C5:出火16 分後)
シャッター開閉操作の影響
ホーム温度(FL+2.5m)
コンコース温度(FL+1.8m)
火源強度の影響 (H1-H7:出火後5 分,C3:出火後13 分,C1, C2,
C4, C5s:出火後16 分)
ホーム階温度(FL+2.5m)
コンコース階温度(FL+2.5m)
ホーム階温度(FL+1.8m)
コンコース階温度(FL+1.8m)
地上駅の概念イメージ
高架駅の概念イメージ
地下駅の概念イメージ
地下通路型ターミナル駅の概念イメージ
JR名古屋駅の構内通路平面イメージ
JR大阪駅の構内通路平面イメージ
T駅の防火シャッター・防煙垂れ壁位置(2005年時点)
避難安全性検証フローチャート
モデル各室の範囲
モデル各室の床レベル
モデル各室の天井レベル
15室火災時の避難経路
18室火災時の避難経路
26室火災時の避難経路
37室火災時の避難経路
15室10MW火災時の各室煙層高さ
15室10MW火災時の各室煙層温度
15室10MW火災時の各室下部層温度
18室10MW火災時の各室煙層高さ
18室10MW火災時の各室煙層温度
18室10MW火災時の各室下部層温度
頁
112
112
112
112
113
114
116
116
118
118
118
118
118
119
120
120
121
121
121
122
122
122
122
122
127
127
128
128
129
130
133
138
139
140
140
143
143
144
144
147
147
147
149
149
149
章
4
5
図番号
4.3 図4.3.9(a)
図4.3.9(b)
図4.3.9(c)
図4.3.10(a)
図4.3.10(b)
図4.3.10(c)
図4.3.11
図4.4.1(a)
図4.4.1(b)
図4.4.1(c)
図4.4.2(a)
図4.4.2(b)
図4.4.2(c)
図4.4.3(a)
図4.4.3(b)
図4.4.3(c)
図4.4.4(a)
図4.4.4(b)
図4.4.4(c)
図4.4.5
図4.4.6(a)
図4.4.6(b)
図4.4.6(c)
図4.4.7(a)
図4.4.7(b)
図4.4.7(c)
図4.4.8(a)
図4.4.8(b)
図4.4.8(c)
図4.4.9(a)
図4.4.9(b)
図4.4.9(c)
図4.4.10(a)
図4.4.10(b)
図4.4.10(c)
図4.4.11(a)
図4.4.11(b)
図4.4.11(c)
図4.4.12(a)
図4.4.12(b)
図4.4.12(c)
図4.4.13(a)
図4.4.13(b)
図4.4.13(c)
図4.4.14
5.2 図5.2.1
5.3 図5.3.1
図5.3.2(a)
図5.3.2(b)
図5.3.3
図5.3.4
図番号リスト(6)
タイトル
26室10MW火災時の各室煙層高さ
26室1MW火災時の各室煙層温度
26室10MW火災時の各室下部層温度
37室10MW火災時の各室煙層高さ
37室10MW火災時の各室煙層温度
37室10MW火災時の各室下部層温度
床面レベルと天井レベルの違いが火災安全性に与える影響
15室10MW火災時の各室煙層高さ
15室10MW火災時の各室煙層温度
15室10MW火災時の各室下部層温度
18室10MW火災時の各室煙層高さ
18室10MW火災時の各室煙層温度
18室10MW火災時の各室下部層温度
26室10MW火災時の各室煙層高さ
26室10MW火災時の各室煙層高さ
26室10MW火災時の各室下部層温度
37室10MW火災時の各室煙層高さ
37室10MW火災時の各室煙層温度
37室10MW火災時の各室下部層温度
成長火源の発熱速度の変化(2MW)
15室2MW火災時の各室煙層高さ
15室2MW火災時の各室煙層温度
15室2MW火災時の各室下部層温度
18室2MW火災時の各室煙層高さ
18室2MW火災時の各室煙層温度
18室2MW火災時の各室下部層温度
26室2MW火災時の各室煙層高さ
26室2MW火災時の各室煙層温度
26室2MW火災時の各室下部層温度
37室2MW火災時の各室煙層高さ
37室2MW火災時の各室煙層温度
37室2MW火災時の各室下部層温度
15室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
15室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
15室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
18室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
18室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
18室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
26室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
26室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
26室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
37室2MW火災+排煙設置時の各室煙層高さ
37室2MW火災+排煙設置時の各室煙層温度
37室2MW火災+排煙設置時の各室下部層温度
病室棟の水平避難区画の例
都道府県別の地下街の合計延床面積
地下街の店舗階全体平面(実験領域を示す)
実験領域平面図及び出発点&出口(配置パターンa)
実験領域平面図及び出発点&出口(配置パターンb)
カメラ設置位置と分析対象交差点
中間アンケート用紙
頁
151
151
151
153
153
153
154
157
157
157
159
159
159
161
161
161
163
163
163
165
167
167
167
169
169
169
171
171
171
173
173
173
176
176
176
178
178
178
180
180
180
182
182
182
185
188
189
190
190
191
197
章
5
図番号
5.3 図5.3.5(1)
図5.3.5(2)
5.4 図5.4.1
(a)
(b)
図5.4.2
(a)
(b)
図5.4.3
(a)
(b)
図5.4.4
(a)
(b)
図5.4.5
(a)
(b)
図5.4.6(1)
図5.4.6(2)
図5.4.6(3)
図5.4.6(4)
図5.4.7(1)
図5.4.7(2)
図5.4.7(3)
図5.4.7(4)
図5.4.8
図5.4.9(a)
図5.4.9(b)
図5.4.10
(1)
(2)
図5.4.11
図5.4.12
図5.4.13
図5.4.14
図5.4.15
図番号リスト(7)
タイトル
頁
最終アンケート用紙(その1)
最終アンケート用紙(その2)
避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅰa)
避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
各出発点からの避難先と人数
避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅱa)
避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
各出発点からの避難先と人数
避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅲa)
避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
各出発点からの避難先と人数
避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅱb)
避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
各出発点からの避難先と人数
避難時間の測定値及び各出発点からの避難先と人数(実験Ⅲb)
避難時間の測定値ヒストグラムと予測値の比較
各出発点からの避難先と人数
配置パターンa 出発点1の被験者の主な軌跡
配置パターンa 出発点2の被験者の主な軌跡
配置パターンa 出発点4の被験者の主な軌跡
配置パターンa 出発点6の被験者の主な軌跡
配置パターンb 出発点1の被験者の主な軌跡
配置パターンb 出発点3の被験者の主な軌跡
配置パターンb 出発点5の被験者の主な軌跡
配置パターンb 出発点6の被験者の主な軌跡
誘導灯の違い認識に関するアンケート結果
最短経路との避難距離偏差(パターンa)
最短経路との避難距離偏差(パターンb)
実験パターンaとパターンbの避難時間の比較
実験Ⅱaと実験Ⅱbの避難時間の比較
実験Ⅲaと実験Ⅲbの避難時間の比較
出口パターンaの出口位置および出発点
出発点から避難先と被験者人数(実験Ⅱa,Ⅲa)
出口パターンbの出口位置および出発点
出発点から避難先と被験者人数(実験Ⅱb,Ⅲb)
最終アンケート項目の内容(抜粋)
198
199
201
201
201
202
202
202
203
203
203
204
204
204
205
205
205
206
206
207
207
208
208
209
209
213
214
214
215
215
215
216
216
219
219
222
図5.4.16
最終アンケート:質問1「実験区画全体像を把握していたか?」の回答
222
図5.4.17
最終アンケート:質問5「何を頼りに避難したか?」の回答(1番目)
223
歩行速度の比較(健常者とシニア)
避難時間の比較(健常者とシニア)
歩行距離の比較(健常者とシニア)
出口素通り率の比較(健常者とシニア)
中間アンケート:質問①「今回の避難は容易だったか?」への回答
(a) 健常者の回答
(b) シニアの回答
中間アンケート:質問②「避難中に出口の方向が分からず焦ることは
図5.4.23
あったか?」への回答
(a) 健常者の回答
224
225
225
225
227
227
227
図5.4.18
図5.4.19
図5.4.20
図5.4.21
図5.4.22
228
228
章
5
図番号
5.4 図5.4.17
図5.4.18
図5.4.19
図5.4.20
図5.4.21
図5.4.22
(a)
(b)
図5.4.23
(a)
(b)
図5.4.24
(a)
(b)
図5.4.25
(a)
(b)
図5.4.26
(a)
(b)
6
図5.4.27
図5.4.28
図5.4.29
図5.4.30
図5.4.31
図5.4.32
図5.4.33
図5.4.34(1)
図5.4.34(2)
図5.4.34(3)
図5.4.34(4)
図5.4.35(1)
図5.4.35(2)
図5.4.35(3)
図5.4.35(4)
図5.4.36
図5.4.37
6.1 図6.2.1
6.3 図6.3.1
6.4 図6.4.1
図6.4.2
図6.4.3
図6.4.4
図6.4.5
図6.4.6
図6.4.7
図6.4.8
図番号リスト(8)
タイトル
頁
最終アンケート:質問5「何を頼りに避難したか?」の回答(1番目)
223
歩行速度の比較(健常者とシニア)
避難時間の比較(健常者とシニア)
歩行距離の比較(健常者とシニア)
出口素通り率の比較(健常者とシニア)
中間アンケート:質問①「今回の避難は容易だったか?」への回答
健常者の回答
シニアの回答
中間アンケート:質問②「避難中に出口の方向が分からず焦ることは
あったか?」への回答
健常者の回答
シニアの回答
中間アンケート:質問③「避難中に迷うことはあったか?」への回答
健常者の回答
シニアの回答
中間アンケート:質問④「視野の悪さ(暗さ)による避難のしづらさを
感じたか?」への回答
健常者の回答
シニアの回答
中間アンケート:質問⑤「周囲の人の行動に影響されたか?」への回答
健常者の回答
シニアの回答
被験者の避難行動中の集団数
集団避難者と単独避難者の構成
集団避難者と単独避難者の平均歩行速度の比較(健常者のみ)
集団避難者と単独避難者の歩行距離の比較(健常者のみ)
集団避難者と単独避難者の平均避難時間の比較(健常者のみ)
集団避難者と単独避難者の曲がった回数の比較(健常者のみ)
集団避難者と単独避難者の出口素通り率の比較(健常者のみ)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱa出発点2(黒G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲa出発点1(黒G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲa出発点4(黄G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲa出発点6(緑G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱb出発点1(黄G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱb出発点3(緑G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅱb出発点6(赤G)
集団避難者と単独避難者の主な軌跡 実験Ⅲb出発点5(赤G)
グループ別の最終アンケート質問⑤の回答数と平均避難時間
最終アンケート質問5回答者と平均避難時間
排煙塔を兼ねた吹き抜けイメージ
避難安全性検証フローチャート
A 施設 改善案Bのイメージ
A施設「現状」シミュレーション結果
A施設「改善案A」シミュレーション結果
A施設「改善案B」シミュレーション結果
B施設 改善策Aイメージ(1)
B施設 改善策Aイメージ(2)
B施設「現状」シミュレーション結果
B施設「排煙・SP無」シミュレーション結果
224
225
225
225
227
227
227
228
228
228
229
229
229
230
230
230
231
231
231
232
233
235
235
235
236
236
237
237
238
238
239
239
240
240
241
241
247
249
250
254
255
256
258
258
262
263
章
図番号
6
6.4 図6.4.9
図6.4.10
図6.4.11
図6.4.12
図6.4.13
図6.4.14
6.5 図6.5.1
図6.5.2
図6.5.3
図6.5.4
6.6 図6.6.1
資料集
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
(a)
(b)
(c)
(d)
図番号リスト(9)
タイトル
頁
B施設「改善案A」シミュレーション結果
C施設 改善策Aイメージ
C施設「排煙あり・スプリンクラーあり」シミュレーション結果
C施設「排煙なし・スプリンクラーあり」シミュレーション結果
C施設「排煙なし・スプリンクラーなし」シミュレーション結果
C施設「改善案A」シミュレーション結果
Tビル 収益比較
Dビル 収益比較
Sビル 収益比較
Cビル 収益比較
私有地負担者による建築容積率の割増と高機能化
264
266
271
272
273
274
282
282
282
282
284
島式ホーム煙拡散部分
相対式ホーム煙拡散部分
火炎プリュームの概念図
点熱源上の浮力乱流プルームの概念図
点熱源上のプリューム流量mzと温度上昇値⊿T(Q=1,000kW)
自然排煙による煙層降下の制御
天井高さの変化に伴う煙層温度,換気駆動力,排煙口面積,煙層下端
が居住域に達する時間の変化
煙層温度
換気駆動力
必要排煙口面積
煙層が居住域に降下する時間
293
293
295
296
297
298
299
299
299
299
299
表番号リスト(1)
章
1
2
3
4
5
表番号
1.4 表1.4.1
表1.4.2
2.3 表2.3.1
表2.3.2
表2.3.3
表2.3.4
表2.3.5
表2.3.6
3.2 表3.2.1
3.3 表3.3.1
表3.3.2
表3.3.3
表3.3.4
4.3 表4.3.1
表4.3.2
表4.3.3
表4.3.4
表4.3.5
表4.3.6
表4.3.7
表4.3.8
表4.3.9
表4.3.10
4.4 表4.4.1
表4.4.2
表4.4.3
表4.4.4
表4.4.5
表4.4.6
表4.4.7
表4.4.8
表4.4.9
表4.4.10
表4.4.11
表4.4.12
5.3 表5.3.1
表5.3.2
表5.3.3
5.4 表5.4.1
表5.4.2(a)
表5.4.2(b)
表5.4.3
表5.4.4
表5.4.5
表5.4.6
6
6.4 表6.4.1
表6.4.2
表6.4.3
表6.4.4
表6.4.5
タイトル
過去の火災事例と法規制の歴史
過去の地下鉄関連の実大実験事例
実験駅舎概要
アルコールパンの1個の発熱量
測定機器一覧
島式ホームA駅の実験概要とスケジュール
島式ホームB駅の実験概要とスケジュール
相対式ホームC駅の実験概要とスケジュール
CFDによる計算条件
避難計算条件
島式ホーム駅避難計算結果
相対式ホーム駅避難計算結果
CFDシミュレーションCase一覧表
モデル各室の基本情報
モデル各室間の接続開口情報
経由室ごとの避難終了時間
経由室ごとの避難終了時間
経由室ごとの避難終了時間
経由室ごとの避難終了時間
15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
15室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
18室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
26室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
37室火災時の避難経路ごとの避難安全性判表定表
実験条件(誘導灯&照明の状態)
実験ケース及びスケジュール
実験器具一覧表
交差点における経路選択の傾向
出口前を素通りする確率(実験Ⅰ,Ⅱ,Ⅲa)
出口前を素通りする確率(実験Ⅱ,Ⅲb)
最終アンケート:質問4「明るさの違いにより避難のし易さは変
わったか?」の回答と理由回
中間アンケート項目の内容(抜粋)
集団避難者及び単独避難者の歩行特性の比較(健常者のみ)
集団避難者及び単独避難者の中間アンケート平均申告値(健常
者)
A施設 シミュレーション条件まとめ
A施設 「現状」 避難達成率
A施設 「改善策A」 避難達成率
A施設 「改善策B」 避難達成率
B施設 シミュレーション条件まとめ
頁
9
10
21
22
24
29
33
37
83
90
92
94
118
141
141
143
143
144
144
146
148
150
152
156
158
160
162
166
168
170
172
175
177
179
181
194
195
196
211
212
212
223
226
233
234
250
251
251
252
257
表番号リスト(2)
章
6
資料集
表番号
6.4 表6.4.6
表6.4.7
表6.4.8
表6.4.9
表6.4.10
表6.4.11
表6.4.12
表6.4.13
6.5 表6.5.1
表6.5.2
表6.5.3
表6.5.4
表6.5.5
表6.5.6
表1
表2
表3(1)
表3(2)
表4
表5
頁
タイトル
「排煙あり・スプリンクラーあり」 避難達成率
B施設 「排煙なし・スプリンクラーなし」 避難達成率
B施設 「改善策A」 避難達成率
C施設 シミュレーション条件まとめ
C施設「排煙あり・スプリンクラーあり」避難達成率
C施設「排煙なし・スプリンクラーあり」避難達成率
C施設「排煙なし・スプリンクラーなし」避難達成率
C施設「改善策A」避難達成率
割増容積率の算出表
有効空地率の算出
Tビル 私有地負担に対する報酬の有益性
Dビル 私有地負担に対する報酬の有益性
Sビル 私有地負担に対する報酬の有益性
Cビル 私有地負担に対する報酬の有益性
259
260
260
265
266
267
268
269
276
276
280
280
281
281
地下街に関する建築基準法の規定
地下街に関する消防法の規定
地下街建設と規制の歴史(∼1960年)
地下街建設と規制の歴史(1970年∼2006年)
島式ホームA駅排煙量計算結果
地下街と準地下街に必要な消防設備の比較
289
289
290
291
293
294
0
2
写真番号
2.3 写真2.3.1
写真2.3.2
写真2.3.3
写真2.3.4
写真2.3.5
写真2.3.6
2.4 写真2.4.1
写真2.4.2
写真2.4.3
写真2.4.4
写真2.4.5
写真2.4.6
写真2.4.7
写真2.4.8
写真2.4.9
写真2.4.10
写真2.4.11
写真2.4.12
写真2.4.13
写真2.4.14
写真2.4.15
写真2.4.16
4
5
4.2 写真4.2.1
写真4.2.2
写真4.2.3
写真4.2.4
写真4.2.5
写真4.2.6
5.3 写真5.3.1
写真5.3.2
写真5.3.3
写真5.3.4
写真5.3.5
写真5.3.5
写真5.3.6
5.4 写真5.4.1
写真5.4.2
写真5.4.3
写真5.4.4
写真5.4.5
写真5.4.6
写真5.4.7
写真5.4.8
写真5.4.9
写真5.4.10
写真5.4.11
写真5.4.12
写真5.4.13
写真5.4.14
写真番号リスト
タイトル
アルコールパン設置の様子
天井養生の様子
天井機器養生の様子
火源周辺の全体の様子
伸縮ポールによる熱電対・風速計設置の様子
熱電対のリール巻きとソケット型コネクターによる接続の様子
実験前の火源近傍の様子
実験中の火源近傍の様子(実験Ⅱ③:階段シャッター開放状態)
実験中の火源近傍の様子(実験Ⅳ①:階段シャッター閉鎖状態)
ホーム上の煙層高さ(実験Ⅳ②:人の高さより上部にある)
ホーム上の煙層高さ(実験Ⅳ④:人の高さ以下に降下した状態)
ホーム上の煙層高さ(ほぼ床面まで降下した状態)
実験中の火源近傍:排煙なし(ホームからコンコース階段室への上昇
気流が発生。煙がコンコースへ流動)
頁
22
23
23
23
26
26
47
47
47
47
47
47
60
実験中の火源近傍:ホーム&トンネル排煙時(コンコース階段室からホームへ
60
の下降気流が発生。煙がホームに押し戻される)
実験中の火源近傍:トンネル排煙&コンコース給気(コンコース階段室からホー
ムへの下降気流が発生するが、ホーム&トンネル排煙時ほどではない。)
実験中の火源近傍(階段シャッター閉鎖時)
実験中の火源の様子(実験Ⅱ①シャッター閉鎖時)
実験中の火源の様子(実験Ⅱ③シャッター開放:排煙なし)
実験中の火源の様子(実験Ⅳ④シャッター開放:ホーム排煙)階段か
らの下降流で炎が揺れている。
ホーム上階段シャッター(シャッター閉鎖時)
ホーム上階段シャッター(シャッター閉鎖途中)
火源と対向するホーム上の煙伝播の様子線路を越えて対向ホームに煙
が伝播している。
防火シャッターのない店舗(1)
防火シャッターのない店舗(2)
不規則な防煙区画
階段前に設置された垂れ壁
天井に格納された垂れ壁(稼動式)
新幹線改札口近くの通路の床段差
実験風景(ナンバープレート付帽子とサングラス)
隠蔽された誘導灯
照度計
隠蔽された出口の例
擬似高齢者
避難口誘導灯及び店舗広告灯
条件毎の実験場の状態
出口①
出口⑥
出口⑦
出口前を素通りする被験者
出口①
出口②
出口⑤
出口⑥
出口⑦
出口⑧
出口①
出口③
出口④
出口⑧
60
60
71
71
71
71
71
71
134
134
135
135
135
192
192
192
192
192
193
194
213
213
213
213
217
217
217
217
217
217
220
220
220
220
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