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評価調査結果要約表

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評価調査結果要約表
評価調査結果要約表
評価実施部署:フィリピン事務所
1. 案件の概要
国名:フィリピン
案件名:金型技術向上プロジェクト
分野:工業一般
協力形態:プロジェクト方式技術協力(現:技術協力プロジェクト)
所轄部署:鉱工業開発協力部鉱工業開発協力第一課
協力金額:9.09億円
協力期間:1997年9月1日~2002年8月31日
先方関係機関:科学技術省金属工業開発センター(MIRDC)
日本側協力機関:(財)素形材センター
他の関連協力:プロジェクト方式技術協力「金型鋳造技術センター事業」
1-1 協力の背景と概要
1970年代のフィリピンにおける代表的裾野産業の一つであった金型鋳造業の振興のため、フィリピ
ン政府は日本政府に対して技術協力の要請を行った。これに対して、日本政府は、1980年から1986
年まで、JICAプロジェクト方式技術協力「金型鋳造業技術センター事業」を通じて、金属工業開発セ
ンター(MIRDC)に対する協力を行った。1995年、フィリピン政府は、持続可能な経済成長を達成
するための戦略として工業振興を図るため、裾野産業、特に金属加工業育成の必要性を認識するに
至った。しかしながら、フィリピンのこの分野における技術能力は、他の新興工業国に大きく遅れを
とっている状況にあった。かかる状況の下、フィリピン政府は、MIRDCの金属加工技術、特に金型・
鋳造技術の向上を目指して、日本政府に対して再度技術協力の要請を行った。これに対して、日本政
府は、1980年代に実施した技術協力プロジェクトにより鋳造分野における基礎的技術は移転済みで
あったことから、金型分野に特化した技術協力の実施を提案した。フィリピン政府は、本提案に同意
し、1997年6月、JICAプロジェクト方式技術協力「金型技術向上プロジェクト」に関する協議議事録
に署名した。本プロジェクトは1997年9月から2002年8月まで実施された。本プロジェクトを補完
するため、MIRDCは、2000年1月から2001年12月の間、UNDPの日本信託基金(人的資源開発基
金)から32万ドルの資金を得て、「精密金型センター設立支援」プロジェクトを実施した。同プロ
ジェクトでは、学校を退学した青少年に対する訓練を行ったのに対して、「金型技術向上プロジェク
ト」では、製造業に既に勤務している技能工・技術者に対する訓練を行った。
JICAは、2000年8月本プロジェクトの中間評価を、2002年3月終了時評価を実施した。本事後評価
は、本プロジェクトのインパクトと自立発展性を評価することを目的に実施された。
1-2 協力内容
本プロジェクトでは、MIRDCの研修・技術支援能力を向上させるため、プラスチック金型の1)設
計、2)加工、3)組立、補修、成形品試作の3分野について、MIRDCの職員に技術移転を行った。
(1)上位目標
フィリピン金型産業の技術者・技能工の技術レベルが向上する。
(2)プロジェクト目標
MIRDCがプラスチック金型技術に関する研修と技術支援を提供できるようになる。
(3)アウトプット(成果)
1)プロジェクトの運営管理システムが強化される。
2)機材の運転保守が適切になされる。
3)カウンターパートの技術能力が向上される。
4)プラスチック金型技術に関わる研修が系統的に実施される。
5)MIRDCの技術支援サービスが系統的に提供される。
(4)投入(プロジェクト終了時)
日本側:
長期専門家派遣 10名
短期専門家派遣 32名
研修員受入 19名
機材供与 約3.04億円
ローカルコスト負担 約0.30億円
相手国側:
カウンターパート配置 57名
土地・施設提供 0.06億ペソ(約0.17億円)
ローカルコスト負担 1.01億ペソ(約2.61億円)
2. 評価調査団の概要
調査者
Ms. Rosario Bantayan, Guru Technologies Coorperation
調査期間:
2005年11月8日~2006年1月6日
評価種類:
事後評価
3. 評価結果の概要
3-1 評価結果の要約
(1)インパクト
MIRDCの個々のカウンターパートに対する技術協力のインパクトは、多大であった。技術協力が実施
される以前と比較して、MIRDCのカウンターパートはその能力が大きく向上しており、研修における
講義や工業分野の中小企業に対する技術的コンサルティング・サービスの質は非常に高い。能力向上
の結果、MIRDCの顧客は、中小企業の技術者・技能工から、潜在的技能労働者である職業訓練校の学
生にまで拡大した。しかしながら、これらの正のインパクトを維持するためには、プラスチック金型
の急速な技術進歩に効果的に対処するとともに、市場のニーズに的確に対処するべく、より高度な技
術及び機材を取り入れる必要がある。また、金型産業の多種多様な分野を勘案すると、フィリピンの
金型産業の技術者・技能工の技術レベルを向上させるという上位目標を達成するためには、長い時間
を要する。しかしながら、本プロジェクトは、プラスチック金型分野に限定して考えれば既に上位目
標を達成しているといえる。
本プロジェクトの実施による負のインパクトの発生は無く、将来発生する可能性も認められない。
(2)自立発展性
[組織]
本プロジェクトの組織的な自立発展性は見込まれる。MIRDCは、依然として、専門的なマネジメン
ト・技術サービス(技術者・技能工の研修、技術情報提供、貿易に関する認証サービス、品質管理と
金属製品試験、ビジネスに関する助言等)の提供を通じて、金属機械産業を直接支援するフィリピン
唯一の政府機関である。また、MIRDCは、裾野産業の育成に取り組むフィリピンにとって、重要な機
関の一つである。組織的な自立発展性を更に確実なものにしているものとして、MIRDCによるISO/IEC
Guide25、ISO9002、ISO9001、NATA(豪)、ISO14001等の取得がある。MIRDCには、平均で毎
年101百万ペソの予算が中央政府から配分されており、290人以上の常勤職員(内79%が技術職員)
が配置されている。フィリピン政府は、フィリピンの工業化達成に貢献しうる高度な技術を身に付け
た人材を育成することを依然として重点課題に位置付けている。これらの課題は、現行の中期フィリ
ピン開発計画(2004~2010年)の中でも強調されている。従って、金型産業の技術者・技能工の技
術レベルを向上させるMIRDCの業務の継続は、必要不可欠と考えられる。この延長線上で考えれ
ば、MIRDCに対する中央政府からの政策的支援は継続し、本プロジェクトの組織的な自立発展性の強
化に寄与するものと考えられる。
本プロジェクトの活動継続に資するため、MIRDCは、フィリピン金型協会、フィリピン金属加工業協
会、フィリピン鋳造産業協会等との密接な関係を維持している。それに加えて、MIRDCは、技術教育
技能開発庁(TESDA)とのパートナーシップを維持している。MIRDCは、技能・能力査定に係る実施
方針の策定、認定を申請する職業訓練校のカリキュラムの評価等に際してのTESDAに対する支援に加
えて、プラスチック金型分野のTESDA講師の研修を継続的に行っている。
[技術]
技術的な自立発展性は同様に見込まれる。57名の本プロジェクトの元カウンターパートの内、48名
は現在もMIRDCに勤務しており、プラスチック金型関連業務に従事している。2000年以来、8名の元
カウンターパートだけが政府機関を去り、その大部分は企業経営、あるいは金属産業関連の企業に勤
務している。評価時点では、本邦研修を受講した19名の元カウンターパートの内13名はMIRDCに属
し、プラスチック金型技術関連業務に従事している。MIRDC職員は、研修、セミナー、会議における
講義の実施や、より高度な技術及び機材を備えた大中企業に対するコンサルティング・サービスの継
続的な提供を通じて、本プロジェクトで得たプラスチック金型に関する知識や技能を実践することが
できる。MIRDCは、2002年の本プロジェクトの終了以来プラスチック金型関連で少なくとも22回の
研修を実施しており、様々な製造業から700名以上の参加者を得ている。MIRDCの元カウンターパー
トは、金型設計、製造、組立、加工についてのコンサルティング・サービスを中小企業に対して実施
している。また、元カウンターパートは、本プロジェクトで獲得した知識や技能をMIRDCの他の研修
コースにも応用している。MIRDCは、フィリピン金型協会の事務局であり、内外の関連機関との関係
強化に努めてきた。現在まで、MIRDCは、アジア金型協会連盟の中で活発に活動しており、同連盟を
通じて、MIRDCの元カウンターパートは、時に開催される国際会議等の場で他のアジア諸国の関係者
とともに、技術向上活動に参加する機会を得てきた。本プロジェクトにより供与された機材は依然と
して良好な状態にある。これら全ての機材は、研修、コンサルティング・サービス、試験、様々な職
業訓練校や大学からの訪問学生に対する技術実演等の場で、継続的に使用されている。しかしなが
ら、プラスチック金型技術は急速に変化しており、MIRDC職員が、急速な技術革新に遅れをとらない
ため、新製品の設計や金型技術の最新の傾向等に触れる機会を与える必要がある。
[財務]
財務的な自立発展性も見込まれる。MIRDCは、2002年以来中央政府から毎年100~110百万ペソの
予算を得ている。この予算割当は、プロジェクト協力期間の年間92~96百万ペソよりも多い。但
し、フィリピン政府が現在直面している莫大な財政赤字により、中央政府からのMIRDCへの予算割当
は、2002年の110.5百万ペソから2005年の101.9百万ペソと減少傾向にある。しかしながら、プラ
スチック金型技術の高度化に必要と思われる最新機材をすぐに購入できないという点を除いては、こ
の予算の減少は、これまでのところMIRDCの運営・活動に大きな影響を与えていない。中央政府から
配分される予算に加えて、MIRDCは、研修やコンサルティング・サービスから毎年平均30百万ペソの
収入を得ている。さらに、MIRDCは、機材の修理、メンテナンス、付属品・模造部品の購入のため科
学技術省より年平均10百万ペソの助成金を受けている。MIRDCは、これまで35年以上、中央政府か
ら運営予算の配分を継続的に受けており、この予算的な支援は、将来も継続するものと思われる。
よって、本プロジェクトの財務的自立発展性は、確保されているといえる。
3-2 プロジェクトの促進要因
(1)インパクト発現を促進した要因
フィリピン金属加工業協会、フィリピン金型協会との結びつき及びMIRDCに対する継続的な支援が本
プロジェクトによる正のインパクト発現に寄与した。これらの2つの協会は、関係者の本プロジェク
トに対する支援と認識を醸成する上で重要な役割を果たし、他の研修・学術機関のみならず他の産業
からもMIRDCの研修プログラムの受講者を継続的に呼び込むことになった。フィリピン金型協会と
MIRDCとの継続的なパートナーシップを通じて、2003年、ビジネス・ネットワーク及び製品・サー
ビスの拡大を目的として、国内及びアジア地域の金型及び関連産業の関係者を一堂に会した初の国際
展示会、国際会議が開催された。
(2)自立発展性強化を促進した要因
本プロジェクトの自立発展性を促進した要因として次のものがある。1)MIRDCが重要な役割を果た
した工業セクターにおける生産性の向上及び国際競争力強化に対して、政府が政策上の優先度を与え
たこと、2)MIRDCにおける低い離職率、3)フィリピンの金属加工業に対する研修、技術サービスを
提供する使命を帯びた唯一の政府機関としてMIRDCが継続的に存在していること。
3-3 プロジェクトの阻害要因
プラスチック金型技術の急速な進歩は、MIRDCが財政的に容易に対処できない知識・技術・機材の継
続的な更新を要求するため、本プロジェクトのインパクト発現や自立発展性強化を阻害している。さ
らに、工業の技術革新のペースに歩調を合わせる方法を見付けなければならないという点で、MIRDC
は厳しい課題を課せられている。また、研修を受けた技能工、技術者は、国外の金型企業からのより
魅力的な働き口のオファーに応じて、海外就労のためフィリピンを離れる可能性が常にある。フィリ
ピンのプラスチック金型企業の側に機能するメカニズムや動機になりうるインセンティブを備えない
限り、このことは、MIRDCが新規顧客を拡大するためのもう1つの課題となる。
3-4 結論
製造業ばかりでなく職業訓練校や大学の学生、学校を退学した青少年に対する継続的なプラスチック
金型技術関連の研修や技術的支援の実施によって証明されるとおり、本プロジェクトは、MIRDCの能
力向上に正のインパクトをもたらした。本プロジェクトの文字通りの上位目標(フィリピン金型産業
の技術者・技能工の技術レベルの向上)から見れば、プラスチック金型技術は金型産業の極一部に過
ぎないため、上位目標達成にはまだ時間がかかることにより、金型産業全体に対する技術協力のイン
パクトは小さいと考えられるかもしれない。しかしながら、プラスチック金型分野におけるフィリピ
ンの能力向上との観点から見れば、技術協力のインパクトは非常に重要である。本プロジェクトの自
立発展性は同様に見込まれる。本プロジェクトによる正の効果の創出は今後も継続すると思われる。
3-5 提言
[MIRDC]
本プロジェクトの活動の自立発展性を確保するため、設備・機材の運用維持管理、老朽機材の更新、
急速な技術革新に対処するためのMIRDC自身のプラスチック金型技術の向上等に必要な資金確保の可
能性を模索する必要がある。
[日本政府/JICA]
本プロジェクトによりもたらされた正の成果を強化するため、JICAは、機材の更新、MIRDCの技術職
員の技能向上のためのフォローアップ的な支援の可能性を検討すべきである。
3-6 教訓
政府と民間セクター、特にプロジェクトのステークホルダーや他の受益者との強力なパートナーシッ
プは、プロジェクト効果の自立発展性強化に必要不可欠である。このパートナーシップは、民間セク
ターの関与や支援と合わせて、プロジェクト目標や上位目標の達成に寄与する。
プロジェクトの計画段階においてプロジェクト目標と上位目標の直接的かつ論理的な関係を整理して
おくことは、プロジェクト目標の上位目標に対する貢献を明確にし、プロジェクトの効果的な実施・
評価を促進する一助となる。プラスチック金型は多様な分野からなる金型産業全体の中の一分野に過
ぎないことを考慮すると、本プロジェクトの上位目標(金型産業の技術者・技能工の技術レベルの向
上)は、本プロジェクトだけで達成するには高すぎたといえる。上位目標を「プラスチック金型分野
における能力の向上」とすることも可能であったといえ、そうであれば、プロジェクト目標(プラス
チック金型技術に関する研修と技術支援の提供)とも容易に関連付けることができる。
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