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日本の地方自治の法的仕組み

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日本の地方自治の法的仕組み
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日本の地方自治の法的仕組み
岡田, 信弘
北大法学論集, 48(6): 169-180
1998-03-31
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/15762
Right
Type
bulletin
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48(6)_p169-180.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
日本の地方自治の法的仕組み
日本の地方自治の法的仕組み
はじめに
(1)
弘
地方分権のありょうの特徴を理解するための材料を提供するために、そして他方において、現在わが国で進行中の地方
てドゥブイ報告と田島報告との聞の橋渡しをしようとするものである。すなわち一方で、フランスにおける地方自治や
本報告は、 わ が 国 の 憲 法 や 法 令 に お い て 、 ﹁ 地 方 自 治 ﹂ が ど の よ う に 定 め ら れ て き た か に つ い て 概 観 し 、 そ れ に よ っ
田
(
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)
分権を推進するための改革の問題状況を認識するための手がかりを与えるために、明治憲法以来のわが国における地方
自治に関する法的制度もしくは仕組みの骨格を示すことが本報告の課題である。
明治憲法における地方自治
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シンポジウム
明治憲法と地方自治
明治憲法下における地方制度の確立
川市制町村制(一八八八(明治一一一)年)
凶府県制(一八九O (明治二一二)年)
では、次に府県制を概観することとする。
(5)
発布に先立って制定された市制町村制の概要である。自治的要素が、
一定程度ではあるが、認められていたといえよう。
三段階の監督が行われるとされた。第一次的な監督として郡長(官選)のそれが加わるのである。以上が、明治憲法の
ち、市の場合は、第一次的には府県知事が、第二次的には内務大臣がそれぞれ監督を行う。これに対して町村の場合は、
る三名の候補者の中から内務大臣が選任するとされた。市町村の行政に対する国の監督は多段階的に行われる。すなわ
に、町村会が選挙する町村長が置かれ、市には、市長を含む合議制の参 4事会が設けられた。なお、市長は市会の推薦す
されまたは将来法律勅令によって委任される事件を議決する権限を有するとされたのである。執行機関としては、町村
で組織される議決機関としての市町村会が設置された。市町村会は、市町村に関する一切の事件、および従来特に委任
これにより、市および町村は基礎的地方団体とされ、またそれぞれに選挙(制限等級選挙)によって選出された議員
(
4
)
の制定前後に整備されたことを忘れてはならない。市制町村制および府県制の制定である。
意見の不一致が存在したことなどが指摘されている。しかしながら、わが国の﹁近代的地方自治制度﹂がこの明治憲法
(
3
)
規定が憲政不可欠の内容事項と考えられなかったこと、また町村制についてはともかく、府県制については政府部内に
明治憲法には、周知の通り、地方自治に関する規定は存在していない。このことの理由としては、地方制度に関する
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府県は、もともと国の行政官庁である府県知事(官選)が所管する国の行政区画であり、それが同時に地方公共団体
の区域とされた。府県会議員は複選制によって選ばれた。また、府県の執行部は、官選の府県知事以下官吏もしくは吏
員によって構成されるが、その本来の機能は国の地方行政区画たる府県を対象とする国の機関であることに存した。な
(6)
お、府県の行政を監督するのは内務大臣である。市制町村制と比べた場合、府県制における地方自治的要素は格段に薄
主な改正点は、市の執行機関が、参事会から、市会が選挙する独任制の市長に改め
められていたといえよう。﹁名ばかりの自治団体﹂と評される所以である。
その後の推移
山自治的要素の拡充
a市制町村制の推移
(明治四四)年改正
) 年改正
(大正一 O
市町村公民の資格要件が緩和されるとともに、市会議員の選挙制度が三等級制から
この改正により、地方議会議員の選挙にも普通選挙が導入され、また自治権も拡張
務大臣や府県知事の関与が廃止されることによって、市町村長の市町村会による自主的選任が確保された。また、市町
された。すなわち、まず男子普通選挙制が実現することによって、等級選挙制が廃止されることとなった。さらに、内
③一九二六(大正一五)年改正
二等級制に改められた。
②一九一一一
いえよう。地方制度の改革をめぐる動きは、しばらくはこの方向で、すなわち自治的要素が強められる方向で推移する。
られたことである。市町村の法人性が明らかにされたことを合わせ考えるならば、自治的要素がより高められた改正と
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村に対する国の監督権が緩和され、各種の許認可事項が整理されたことにも注目しておかなければならないであろう。
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シンポジウム
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④ 一 九 二 九 ( 昭 和 四 ) 年 改 正 議 会 と 執 行 機 関 の 権 限 を 拡 充 す る こ と に よ っ て 、 より一層自治権を強化した。この改
正は、﹁旧地方自治制度史上のピ 1クを形成するものであった﹂とされている。
b府県制の推移
①一八九九(明治三二)年改正主な改正点は、府県会議員の選出方法が直接選挙制に改められたことにあるが、そ
のほかに府県の法人性や府県知事の役割が明確にされたこともあげることができる。
②一九一四(大正一一一)年改正一九一一年の市制町村制の全文改正の趣旨に合わせようとしたもので、この改正によ
って府県の財務その他の事項に関する主務大臣の監督が緩和された。
③一九二二(大正一一)年および一九二六(大正一五)年の改正前者の改正によって、府県会議員の選挙権と被選
挙権が拡大されたが、後者の改正はその流れを決定的なものにした。つまり、府県会議員の選挙にも男子普通選挙制が
導入されたのである。
④一九二九(昭和田)年の改正市町村に比べて自治的要素の稀薄であった府県の自治権を強化しようとしたもので
ある。具体的には、府県に条例や規則の制定権を認め、さらに議会と執行機関の権限の拡充がはかられた。しかし、こ
一九四三(昭和一八)年改正
うした改革の流れは、戦争の深化とともに逆向きへと方向転換を迫られていった。
ω自治的要素の衰退 l
地方自治制度についての広範な改正がなされたが、とくに市町村長の選任方法の変更が注目される。市長は市会の推
薦に基づいて内務大臣が任命し、また町村長は町村会の推薦した者を府県知事が認可して任命することとされた。以前
の制度に戻ったのである。ほかにも、本改正には、固または府県が市町村等に対して新たに事務を委任するときに命令
によってもそれが可能とされたことなど、重要なものが含まれている。かくして、地方自治制度は、戦時体制の確立に
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ともなって、中央政府の強い統制の下に置かれることとなったのである。ただでさえ稀薄であった明治憲法における地
方自治的要素は、この改正で止めを刺されたといえようか。
小括│明治憲法における地方自治の二つの側面
明治憲法における地方自治についての評価に際しては、二つの側面に分けて考察することが必要であるように思われ
る。すなわち一つは、日本国憲法における地方自治との﹁断絶性﹂の側面である。明治憲法における地方自治は、中央
集権的な地方支配の道具としての性格が強い、その意味で限定された自治制度であった。それは、とくに府県の場合に
より明確であった。したがって、結論先取り的に言えば、日本国憲法は、こうした明治憲法における﹁限定的な自治制
度﹂をより徹底したものとするべく改革を行おうとしたものと位置づけることができよう。
しかしながら、もう一つの側面にも目を向けておかなければならない。﹁連続性﹂の側面である。現在の地方自治制
(8)
度には明治以来の伝統を受け継いでいるところがあるのであって、日本国憲法によってまったくの白紙のうえに創設さ
れたわけではないのである。地方自治が現在直面している諸問題の原因のいくつかは、そこに求められなければならな
いように思われる。ともあれ、ここで、 日本国憲法における地方自治の概観のほうへ目を転ずることとしよう。
日本国憲法における地方自治
日本国憲法と地方自治
日本国憲法は、﹁地方自治﹂に一章を当て、 四 ヵ 条 の 原 則 的 規 定 を 置 い て い る 。 そ し て こ れ を 具 体 化 す る も の と し て
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シンポジウム
地方自治法が制定され、日本国憲法と同時に施行された。ここでは、それらから導かれる基本的な枠組みなり制度のあ
りようについて概観することとする。
﹁地方自治の本旨﹂
地方公共団体
も果たすことが期待されるだけに、 その意味内容の特定がますます重要となろう。
については、現状を批判する立脚点として機能するだけでなく、おそらく改革の到着点を指し示す光源としての役割を
と、他方においてそれに即した制度の形成と運用を導く﹁積極的な側面﹂とが考えられなければならない。とくに後者
ある。なお、﹁地方自治の本旨﹂については、一方で、地方自治を不当な侵害から守るという意味での﹁消極的な側面﹂
共団体の議会の設置と執行機関の直接公選制を定め、そして次に九四条で地方公共団体の自治権を規定しているからで
の具体化を通して、明治憲法における﹁限定的な自治制度﹂の克服を目指しているといえよう。まず九三条で、地方公
自己の事務を自己の機関により自己の責任において処理すること﹂をいうとされる。日本国憲法は、これら二つの原則
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充足すること﹂を意味し、これに対して団体自治とは、﹁固から独立した団体(地方公共団体等)を設け、この団体が
理解されている。すなわち住民自治とは、﹁地域の住民が地域的な行政需要を自己の意思に基づき自己の責任において
いては、一般に、住民自治と団体自治から構成されると解されている。そしてそれぞれの意味については、次のように
規定し、日本国憲法における地方自治の基本的枠組みもしくは原則を示している。ところで、﹁地方自治の本旨﹂につ
憲法九二条は、﹁地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める﹂と
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日本国憲法は、地方公共団体の具体的な種類について明示的には何も定めていない。フランス第五共和制憲法と違う
点の一つである。それについての明確化は、法律に委ねられることになる。実際に、地方自治法は、﹁普通地方公共団体﹂
として都道府県と市町村を、﹁特別地方公共団体﹂として特別区、地方公共団体の組合、財産区および地方開発事業団
をそれぞれ定めている(自治一の二)。そこに、議論の分かれるいくつかの憲法上の論点が存在している。都道府県と
市町村の二段階制は、憲法上保障されているか、あるいは特別区(東京都一一一一一区)、地方公共団体の組合(事務を共同
で処理するために設けられる複合的な地方公共団体)、財産区(一定の財産を有しまたは公の施設を設け、その管理お
よび処分を行う一の特別地方公共団体)および地方開発事業団(普通地方公共団体が共同して総合事業開発を実施する
ため、事業の実施を委託すべき特別地方公共団体)は憲法上の地方公共団体か、といった問題である。行政単位の広域
化が叫ばれている中にあって、憲法上の地方公共団体は何かについて、より厳密な検討が要請されているといえよう。
地方公共団体の組織
日本国憲法は、地方公共団体に、住民が直接選出した議員によって構成される議決機関としての議会が設けられるこ
九
一
二 I)。なお、地方議会の議員は、衆議院議員または参議院議員、他の地方公共団体の議会の議
とを要請している (
員および地方公共団体の常勤の職員との兼職が禁止されている(自治九二)。地方公共団体の長も住民の直接選挙によ
)。都道府県には知事が、そして市町村には市町村長が置かれる(自治一
って選出されなければならない (憲法九三H
三九)。長についても兼職禁止が定められている(自治一四ニ。複数の公職の間の兼職を認めているフランスとは異な
り、わが国では極めて厳格な兼職禁止が定められている。この違いが、中央と地方の政府間政治のありようにどのよう
な影響を及ぼしているかは、興味深い研究課題の一つであろう。ところで、地方自治法は、長と議会の関係の仕方につ
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いて、 いわゆる首長制(胃巾巴母ロ
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-品目Zg) を基本的に採用しているが、しかし議院内閣制の要素をも加味して、わ
が国独自の二元的代表制をとっていることにも注意が必要である(例えば、自治一七八などを参照)。いずれにしても、
この地方公共団体の組織のあり方に、現在のわが国の地方自治制度と、フランスそして明治憲法のそれとの大きな違い
を見出す、﹂とができよう。
地方公共団体の権能
ては、最高裁判所が﹁地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障
憲法九四条は、地方公共団体に対し、法律の範囲内で条例を制定することを認めている。この条例の法的性格につい
凶条例制定権
域社会の自立性が損なわれ、憲法制度上の地方自治は空洞化せざるをえないのである。
(凶)
については、自治事務と異なり、国の指揮監督を受けることになる。したがって、この事務が増えれば増えるほど、地
事務﹂の問題である。機関委任事務とは、地方公共団体の長その他の機関に委任された国の事務のことであるが、これ
に問題がないわけではない。むしろ地方自治の空洞化を招いている問題がそこには存在しているのである。﹁機関委任
憲法下のそれと比べた場合飛躍的に拡充されているといえよう。しかしながら、地方公共団体の事務とされてきた事項
地方公共団体の事務として、﹁公共事務 L、﹁委任事務﹂、﹁行政事務﹂の三種類のものを定めているが(自治二 E)、明治
内で条例を制定することができる﹂と規定し、地方公共団体の権能を定めている。これを、つけて、地方自治法は、普通
憲法九四条は、﹁地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲
川地方公共団体の事務
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する地方自治の本旨に基づき(同九二条)、直接憲法九四条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自
治立法に外ならない﹂(最大判昭和三七年五月三O 日刑集一六巻五号五七七頁)と述べているのが注目される。条例制
定権の範囲や限界をめぐっては、従来様々なことが議論されてきた。この最高裁の考え方は、それらに対して解答を見
出すための基本的なスタンスを提供しているように思われる。
住民の権利
明治憲法における地方自治のありようと日本国憲法におけるそれとを比較した場合、最大の違いは、住民の権利の位
置づけもしくはそれの具体的なあり方にあるのかもしれない。まず、日本国憲法は、地方公共団体の長および議会の議
員の住民による直接選挙(九一一一)と地方自治特別法に対する住民投票(九五)について直接規定している。これらだけ
でも大きな変化であるが、地方自治法は、さらに住民の直接請求として、①条例の制定改廃の請求(七四│七四の四)、
②監査の請求(七五)、③議会の解散請求(七六│七九)、④議員・長・役員の解職請求(八O l八八)に関わる諸権利
を認めている。これら直接民主制的諸制度は、地方自治の本旨に含まれる住民自治の原則に適合するものと考えられる。
そしてこの地方における直接民主制との関わりで最近注目を集めている問題が、住民投票条例、つまり条例による住民
投票の制度化の問題である。これについては、賛否両論の存するところであるが、要は、憲法や地方自治法が今まで定
めてきたものの延長線上に位置づけることのできるものであるのか、それともそれらとは断絶しているものなのかが判
断の分かれ目となろう。ともあれ、フランスでは、諮問型ではあるが、地方住民投票の制度が法律で定められており、
その実際の運用が注目されよう。
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シンポジウム
小括!地方自治の憲法的保障の意義と限界
(U)
突き合わせて、そこから具体的な制度改革の提案を導き出してくるというものである。現実のプロセスは、もう既に議
範的な意味内容を憲法の全体的な構造の中で明らかにしなければならない。そしてさらに、これら二つの作業の成果を
の正確な貸借対照表を描き出すのと同時に、他方で日本国憲法の地方自治に関わる諸原則、とくに地方自治の本旨の規
ように思われる。一方でわが国の地方自治をめぐる歴史を今まで以上に厳密に検討し、そこからメリット・デメリット
たがって、当面この動きの成り行きを見守るしかないのであるが、そうした中にあって次のような作業が不可欠である
現在進行中の地方分権をめぐる改革の動きが最終的にどういう形で終了するのかは、今の段階では不透明である。し
おわりに
が現状であろう。
うに思う。しかし、こうした法制上のありようと実態との聞のズレが放置しておけないところまできている、というの
担において総合的かつ自主的に処理する権能をもっ、﹃地方政府﹄というにふさわしい存在となっている﹂といえるよ
(
ロ
)
かくして、法的仕組みの上においては、﹁今日の地方公共団体は、地域住民の意思に即して地域的事務をその責任と負
権利の拡大(長や議員の直接選挙および直接請求等)などが、憲法とそれを受けて制定された法律で定められている。
力的な取締権能)、②地方公共団体の権限の拡大(自治立法権、自治行政権、自治財政権などの諸権能)、③地域住民の
的に見ても、①地方公共団体の事務の範聞の拡大(非権力的なサービス業務のほかに、住民の権利や自由を規制する権
日本国憲法は、明治憲法とは違って、地方自治を直接的に定め、それに対して憲法的保障を与えている。そして内容
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論の段階は過ぎて決断の段階に入っているのかもしれない。しかし、この決断を批判的な視点で的確に把握するために
も以上に指摘をした作業は最低限必要なことのように思われる。
注
(1) ﹁地方分権﹂と﹁地方自治﹂の定義的な関係が問題となろうが、ここでは厳密な考察に踏み込まずに日本国憲法が採用し
ている﹁地方自治﹂を用いて議論を進めていくこととする。因みに、原田尚彦氏は、国家のなかで営まれる地方行政のや
り方を﹁中央集権﹂と﹁地方分権﹂とに大別し、そして後者の﹁地方分権﹂の一つのあり方として﹁地方自治﹂を位置づ
けている。すなわち、それによれば、﹁地方分権﹂とは﹁同家の権力の一部を地方に分与し、地方の住民に自主的に地方行
政を処理させる方式﹂のことをいい、これに対して﹁地方自治﹂とは﹁とくに地方の政治や行政を地域の住民に委ねて住
民の意思と責任で処理させること﹂をいうとされる(以上、原田尚彦﹃地方自治の法としくみ全訂二版﹄学陽書房、一九
九五年、四頁)。
(2) 本稿は、シンポジウムの際の報告原稿に若干の加筆を行い、そして最低限の注を付したものである。
(3) 野中俊彦ほか﹃憲法E [新版]﹄(有斐閣・一九九七年)三二五頁︹中村陸男執筆︺。
(4) 市では三級選挙制が、そして町村では二級選挙制が用いられた。なお、明治憲法下における地方自治制度については、
主として、地方自治百年史編集委員会編﹃地方自治百年史第一巻﹄(地方財務協会・一九九二年)、演回一成/秋本敏文編﹃実
務地方自治法講座 1総則﹄(ぎょうせい・一九九O年)一八│四O頁︹太田和紀執筆︺を参照した。
(5) 府県制と同時に郡制も制定されたが、ここでは郡制については扱わない。
(6) 新藤宗幸司地方分権を考える﹄(日本放送出版協会・一九九六年)二人頁。
(7) 漬回/秋本編・前掲書三五頁。
(
8
) その意味で、次のような指摘は興味深い。﹁旧地方自治制度は、明治政府が中央集権的な近代国家体制を整備する一環と
して、その基礎を閉めるために創設したものである。その内容は、プロシアの制度に範をとった団体自治に重点を置く大
陸型の地方自治制度を基本とし、そこに我が国固有の伝統的な制度を加味したものであるが、全体として中央政府による
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シンポジウム
統制が強く、官治的色彩の濃いものであった。特に、市町村が地方自治体としての機能を比較的備えていたのに対し、府
県は、国の官更である府県知事が所轄する国の行政区画としての性格が強調され、地方公共団体としての府県の機能は二
践の中から生み出された地方自治運営の技術は、議会に関する規定や執行機関に関する規定をはじめとして現在の地方自
次的なものとされていた。(中略)しかしながら、明治から昭和にかけて六O年余の旧地方自治制度下において各地方の実
治制度に受け継がれているものが多い﹂(演回/秋本編・前掲書四O頁)。ところで、旧地方自治制度に対するフランスの
影響については、加藤一明﹁府県制の成立過程﹂法と政治三一巻一号一頁以下を参照。
(9) 野中ほか・前掲誓三二人頁。
事務、補助金、必置規制をはじめとした中央政府の関与の網の目を拡充してきた。それが一方での中央政府の﹃制度疲労﹄
(叩)新藤氏は次のように指摘している。﹁直接公選の首長の存在にもかかわらず、戦後日本の中央 l自治体関係は、機関委任
的介入を防止する意義をもっている﹂(新藤・前掲書二九頁)。
をもたらし、他方で地域社会の自立の気概を損なってきたとされる﹂(前掲書一七頁)。
(日)﹁自治体の組織や権能が、たんに法律ではなく憲法に規定されたことは、先進国の例にみられるように、 中央政府の恋意
(ロ)原田・前掲書二五頁。
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