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児童生徒のSOSをキャッチする ~総合的な相談体制の確立

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児童生徒のSOSをキャッチする ~総合的な相談体制の確立
中学校
No.2
児童生徒のSOSをキャッ
チする
∼総合的な相談体制の確立∼
伊丹市立天王寺川中学校
教諭
1
はじめに
本校は,伊丹市の北部に位置している。昭
和45年に開校し,
今年で創立45年目を迎える。
23学級,生徒数は803名。校名の由来となっ
た「天王寺川」は,学校の西に隣接して流れ
ており,朝日に川面が輝き,野鳥が降り立つ
など,都市が近くにありながら自然を身近に
感じることができる。
校訓「自分を育て 自分を生かし 社会を
明るく」のもと,教育目標を「夢と誇りのあ
る生徒の育成」とし,生徒たちの規範意識を
向上させるとともに自尊感情を育むことに重
点を置いている。
▲ 校舎に目標を掲げる
数年前までは,生徒指導上配慮を要する生
徒が多く,職員は問題行動の対応で,日々追
われていた。問題行動を繰り返す生徒の背景
には,家庭崩壊,親の離婚,育児放棄など様々
な生活上の問題があった。そのため,生徒一
人一人の状況を深く理解し,個に応じた指導
が求められていた。そこで,立て直しを図る
ため,
「特別支援教育の視点でとらえた生徒
指導」「授業力向上」
「組織的な生徒指導体制
12
たけうち
ぜんいち
竹内
善一
の確立」
「総合的な相談体制の確立」に重点を
おき,取組を進めてきた。
ここでは,生徒一人一人の状況を深く理解
し,生徒のSOSをいち早くキャッチするため
の「総合的な相談体制」を紹介する。
2
総合的な相談体制の確立
(1)全職員が全生徒を見守る体制
全職員が,全生徒にかかわりがもてる体制
づくりに努めている。休み時間や授業,
行事,
部活動において,
生徒の様子を細かく観察し,
気になる生徒に声をかけるなど,全職員が誰
にでも気軽に声かけができるように心がけて
いる。
(2)朝の声かけ(あいさつ運動)
朝,校門では,全職員があいさつ運動を行
い,登校する生徒への声かけを行っている。
朝一番の表情や人間関係など生徒の様子をつ
ぶさに観察するよう心がけている。普段と様
子が異なる生徒や元気のない生徒,遅刻を繰
り返す生徒等に声をかけ,家庭環境などの背
景を探りながら,生徒の実態把握に努めてい
る。
(3)保健室の利用の約束
原則として,保健室を利用する際には,利
用許可書が必要であり,それを該当生徒が職
員室へ取りに行くようにしている。これは,
従前,直接保健室に行く生徒が多く,その対
応に追われ,生徒の所在把握等に課題が見ら
れたからである。保健室を利用する生徒の中
には,精神的に不安定な生徒や養護教諭に悩
みや不満を打ち明ける生徒もいることから,
保健室を利用する前に,職員室で学年の職員
が生徒の状況を把握できるようにした。
(4)個々の思いを引き出す教育相談
複雑な人間関係から,いじめられているこ
とを誰にも打ち明けられずにいる生徒や,表
面的には楽しく過ごしているが内面では悩み
を抱えている生徒たちの心の叫び(SOS)を
キャッチするため,学期に1回教育相談を実
施している。特に,事前に行うアンケートに
より実態を把握し,知り得たことをもとに職
員で共有し対応している。また,内容によっ
ては専門家等へ繋げている。
ア 教育相談アンケート
各学期に実施している「いじめの実態把
握のためのアンケート調査」に加えて,
「教
育相談用アンケート」を,全校生対象に実
施している。このアンケートをもとに教育
相談を行うため誰もが簡単に回答できるよ
う工夫している。
イ 各学期に1回,教育相談週間
アンケートの内容をもとに,学級担任が
生徒一人一人と面談を行う。各学期ごとに
実施し,期間は1週間,放課後に時間を設
定している。
ウ 相談内容を接続
生徒の相談内容については,担任だけで
なく,会議や教育相談部会などで情報を共
有する。また,深刻な内容についてはス
クールソーシャルワーカー(SSW)やス
クールカウンセラー(SC)につなげ,生徒,
保護者,担任等へのより適切な助言に基づ
き,対応を図っている。
3
関係機関・保護者・地域との連携
(1)SSWの定期派遣
生徒の相談内容は多岐にわたり,いじめ・
暴力行為・不登校などの問題行動から,DV・
虐待など学校だけでは解決が困難な問題が複
雑にからみあうこともあり,これからは,関
係機関との連携がより求められている。この
ようなことから,平成25年度より,伊丹市教
育委員会から本校にSSWの定期的な派遣が
なされている。週1回(火曜日)の来校によ
り,生徒指導関係の会議への出席をはじめ,
以下の取組を実施している。
ア 会議への出席(ミニケース会議)
▲ 教育相談部会
▲ 教育相談アンケート
生徒指導部会や教育相談部会に参加を依
頼し,助言を受けている。精神的に不安定
な生徒や生徒指導上配慮を要する生徒への
対応について具体的な協議がなされ,有意
義なミニケース会議となっている。また,
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必要に応じて関係機関との連携のあり方な
どの適確な助言により,早期対応につな
がっている。
イ 職員室,校内の相談体制の充実
▲ SSWと相談
生徒に関する情報の収集や共有を充実す
るため,また職員が気軽に相談しやすくす
るために職員室にSSWの座席を設置して
いる。さらに,SCや特別支援教育コーディ
ネーター,養護教諭とも情報交換を常に行
えるよう座席配置の工夫をしている。
ウ 保護者・生徒への対応
SSWが,保健室や別室を利用する生徒と
直接面談することにより状況把握を行う。
また,必要に応じて学級担任と共に家庭訪
問を行い,保護者・生徒との面談による実
態把握や教育相談に努めている。
(2)関係機関との連携による講演会
昨年度は,兵庫県警察本部サイバー犯罪対策
課に依頼し,生徒にわかりやすく教えていた
だいた。
(3)保護者・地域との連携
学校だけでなく地域の方々からも生徒は見
守られている。地域の声をたくさん聞き,連
携を深めるため以下の取組を行っている。
ア 学校補導連絡会
年2回,学校,PTA,校区内の少年補導
委員,保護司,主任児童委員,少年進路相
談員,少年サポートセンター,少年愛護セ
ンターが一堂に会して,
「学校補導連絡会」
を開催し,学校内外の情報交換を行ってい
る。参加者からは,日頃の校外の生徒の様
子を中心に情報を得ている。また,学校側
からは,校内の状況を報告し,地域との連
携を深めている。
イ 一斉パトロール活動
伊丹市少年愛護センターが年2回実施し
ている市内一斉パトロールに進んで職員が
参加している。PTA愛護部,各小学校区補
導員,
地域の方々と一緒に校区内をパトロー
ルすることで,さらに連携を深めている。
ウ 地域行事への積極的な参加
▲ 天中ふれあいのつどい
▲ サイバー犯罪防犯講演会
兵庫県警察本部,阪神北少年サポートセン
ターなどに依頼し,青少年健全育成講演会を
実施している。近年は携帯電話(スマート
フォン)の内容を中心とした講演を開催した。
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校区内で行われる祭りなどに,職員が積
極的に参加し,地域の方々との交流を深め
ている。毎年,11月には,学校,PTA,地
域が一体となった取組として「ふれあいの
つどい」を開催している。PTA各部と生徒
による模擬店の出店や,吹奏楽部やコーラ
ス部によるコンサート等が行われている。
年々,校区内の子どもたちや地域の方々の
参加人数も増え,学校と地域を繋ぐ大切な
行事になっている。
エ まちなみ緑化事業
▲ まちなみ緑化事業
昨年度11月,保護者,生徒,職員,地域
の方々が集い「まちなみ緑化事業」が行わ
れた。植栽活動の協働作業は,参加者同志
の相互理解の深まりに繋がっている。
オ 土曜スクール
月1回土曜日に「土曜スクール」が本校
で開催されている。保護者と地域,学生ボ
ランティアの協力により運営されており,
生徒が気軽に質問できる充実した学習会が
行われている。
4
成果とまとめ
毎年実施の学校評価アンケートでは,教育
相談の項目「先生は,
生徒の悩みに親身になっ
て相談にのってくれる」で,
「当てはまる」と
答えた生徒が,以前は5割程だったものが,
現在は7割を超えている。また,
「学校へ行
くのが楽しい」という項目では,約9割の生
徒が「当てはまる」と回答している。
SSWの定期派遣では,事例に基づく的確な
助言を受けることで,各職員の果たすべき役
割も明確になってきた。特に,本校において
は,生徒指導担当教員を要に,SSW,SC,生
徒指導ふれあい相談員,特別支援教育コー
ディネーター,同支援員等が密接に連携し,
担任への助言や情報提供,生徒・保護者への
指導支援に取り組んでいる。
毎週火曜日に全員がそろうこと,併せて常
に協議ができるよう工夫し,それぞれの専門
性や異なる視点,アプローチや役割を生徒指
導担当がコーディネートすることで,総合的
な相談体制を構築し,生徒指導上の課題や問
題の解決に大きく寄与していると自負してい
る。
保護者・地域の方々からは,
「登下校の様子」
「休日の様子」など,生徒に関する情報提供や
意見をたくさん伺う機会も増えている。学校
外での「いじめ」につながるような情報提供
もいただくようになり,生徒の問題行動の早
期発見・対応に繋がっている。
また,職員にとっても,生徒の別の一面を
知る機会となっており,生徒を温かく見守り
育む土壌ができつつある。
5
おわりに
生徒に親身に関わる大人が周囲に増えれ
ば,それが大人への信頼感につながり生徒は
安心して学ぶことができる。温かく迎えら
れ,認めてくれる大人が多いほど,生徒は自
信を持って何事にも取り組むことができる。
生徒と身近に接し,共感し,叱咤激励するな
ど,たくさんの大人の導きを増やすことが,
生徒の心の成長に繋がる。
近年,生徒を取り巻く環境は日々変化し,
インターネットやメール,無料アプリなどに
よるトラブルが,大人の見えないところで増
加 し て い る。一 人 で も 多 く の 生 徒 の 悩 み
(SOS)をあらゆる場で迅速にキャッチでき
る体制づくりが,その未然防止となる。今後
も,校内での体制づくりと,校外での地域,
関係機関等との連携を深め,生徒が安心して
生活できるよう対応していきたい。
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